(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
聴覚系の神経障害の治療に用いられる装置であって、刺激発生部および体性感覚刺激部を備え、刺激発生部は、広帯域またはホワイトノイズ成分を含む第1成分と複数の複合トーンバーストを含む第2成分とを含む音声信号を分析し、音声信号の第1成分および第2成分のうちの少なくとも1つを表す複数の作動信号を生成し、更に音声信号をスペクトル的に修正してバイノーラル修正音声信号を生成して被験者に伝え、体性感覚刺激部は、それぞれが修正音声信号で被験者に体性感覚刺激を与えるように個々に駆動される刺激装置のアレイと、刺激発生部から複数の作動信号を受信し、所定のパターンの個々の作動信号をアレイ内の個々の刺激装置に向ける入力部とを含み、刺激発生部は更に音声信号を表す複数の作動信号とバイノーラル修正音声信号との間に遅れを導入するように構成される、装置を提供する。
請求項1に記載の装置において、前記遅れは−50ms〜+50msの範囲の固定された遅れ、または前記修正音声信号と前記複数の作動信号との間のランダムな遅れであり、前記ランダムな遅れは最大+/−50msの制限を有する矩形確率密度関数または最大20msの標準偏差を有するガウス確率密度関数である装置。
請求項1または2に記載の装置において、前記刺激発生部は所定期間にわたって前記複数の作動信号をスケジュールするように動作可能であり、前記所定期間にわたってスケジュールされる前記複数の作動信号の数は、複数の臨界帯域周波数および前記所定期間内の前記バイノーラル修正音声信号の振幅に比例する装置。
請求項3に記載の装置において、前記所定期間は23.2msである、または前記所定期間は、前記複数の作動信号が、各々の該作動信号の間に少なくとも1つの体性感覚神経線維不応期間を有して生じるように設定される装置。
請求項5に記載の装置において、前記振幅制御部は、前記被験者の治療セッション中のインターバルのために前記修正音声信号の前記振幅を調節するように更に動作可能な装置。
請求項6に記載の装置において、前記被験者の前記治療セッションが終了する前の1〜5分の間、前記振幅制御部は前記修正音声信号の振幅を公称レベルから前記被験者の聴力レベルに合ったレベルまで徐々に下げるように動作可能な装置。
請求項1〜7の何れか一項に記載の装置において、前記刺激発生部は前記被験者のオージオグラムに合わせて較正されたブーストフィルタを更に含み、前記刺激発生部は、前記音声信号を、該音声信号をバンドブーストフィルタに通すことによってスペクトル的に修正し、修正された前記音声信号を生成するように動作可能な装置。
請求項8に記載の装置において、前記ブーストフィルタは、中心周波数が患者の前記オージオグラムの最も鋭いロールオフと一致するように設定されたバンドブーストフィルタであり、該バンドブーストフィルタのハーフパワー帯域幅は前記中心周波数に対して0.5〜1.5オクターブで正規化され、ブースト強度は少なくとも12dBである装置。
請求項8に記載の装置において、前記ブーストフィルタは前記被験者の同側耳におけるオージオグラムの逆数を表し、前記フィルタは少なくとも30dBの不足を補償し、500Hz〜16kHzの範囲で動作可能なように構成される装置。
請求項1〜10の何れか一項に記載の装置において、前記刺激装置のアレイは、該刺激装置のアレイと対称的に配置され、前記被験者に擬似刺激を伝達するように構成される、少なくとも2つの刺激装置を含む追加アレイを含む装置。
請求項1〜10の何れか一項に記載の装置において、前記刺激装置のアレイは、治療刺激および擬似刺激の両方を、これらが擬似刺激と治療刺激の空間比率0.1以下のマークで時間多重化されるように伝達するように配置される装置。
請求項1〜12の何れか一項に記載の装置において、前記体性感覚刺激部は、前記被験者の神経線維に経皮的または経粘膜的に適用される大きさの本体部に構成される装置。
請求項13または14に記載の装置において、前記体性感覚刺激部は、三叉神経の下顎枝、舌枝、上顎枝もしくは眼枝、または副神経もしくは頚髄神経C1およびC2に適用される大きさの本体部に構成される装置。
請求項1〜15の何れか一項に記載の装置において、前記体性感覚刺激部は舌上に位置する大きさの本体部に構成され、前記刺激装置のアレイは前記舌の正中線に沿って分配されるものと等しい数の刺激装置を有する分割アレイを含み、前記所定のパターンは、デッドバンドが前記正中線に沿って配置された個々の作動信号の同側マッピングを含む装置。
請求項1〜16の何れか一項に記載の装置において、前記刺激装置のアレイはラスターパターンに該ラスターパターン内の各刺激装置が最低周波数ビンから最高周波数ビンまで配置されるように配置される、または、前記刺激装置のアレイはスパイラルパターンに最低周波数マッピングが前記スパイラルの内部に、最高周波数が前記スパイラルの外部にあるように配置される、装置。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上述の技術の態様および他の態様を以下に詳述する。この点において技術は限定されないので、これらの態様は個別に、一緒に、または2つ以上の任意の組み合わせで使用することができる。本発明では聴覚と体性感覚とのバイモーダルな刺激を組み合わせて、聴覚系の神経障害の症状を改善させる。聴覚系の神経障害には例えば、耳鳴り、聴覚過敏、音嫌悪症候群または音声恐怖症がある。便宜上、以下の実施例では耳鳴りについて言及するが、記載するシステムはいかなる障害にも拡大することができると理解されよう。本発明による
図1に示す例示的システムは、刺激発生部101またはコントローラと、体性感覚刺激部102とを備える。コントローラは入力として音声信号を受信し、この音声信号を表す複数の作動信号を生成する。この複数の作動信号は体性感覚刺激部102に伝達される。コントローラ101はまた、治療される被験者に伝達される、対応するバイノーラル修正音声信号を生成する。修正音声信号の伝達は
図1に示すヘッドホンまたは音声トランスデューサ103を用いて行われる。
図1にシステムの一部として示すが、これは単なる例であり、システムにはヘッドホンなしで供給され得る。これらのヘッドホンはイヤホンとして示されているが、任意の他の音声伝達メカニズムを使用してもよいと理解されよう。これには例えば、患者の近くに設置される拡声器、骨伝導トランスデューサ、人工内耳、インイヤー式ヘッドホンまたは補聴器などのインイヤー式音声トランスデューサ、パラメトリックスピーカー技術またはオーバーイヤー音声トランスデューサがある。
図1に示す一実施形態によるヘッドホンは、−3dB、周波数応答20Hz〜20kHz、および90dB超のダイナミックレンジを有するステレオ音声を伝達するように配置される。聴覚刺激および体性感覚刺激は実質的に同時に患者へ伝達される。この同時伝達によって音声感覚と体性感覚との間に固定された遅れ(最大+/−50ms)が導入される。あるいは、音声刺激と体性感覚刺激との間の遅れのランダムな変化(矩形確率密度関数に関しては最大+/−50ms、またはガウス確率密度関数に関しては最大20msの標準偏差)を導入して、治療セッション中、広範囲のレイテンシ(latency)をカバーすることができる。
【0034】
<体性感覚刺激部>
好適な実施形態において、体性感覚刺激部は口腔内装置(IOD:intra oral device)である。
図1のIODは治療を受けている被験者の舌の先端(背側前方領域)に配置されるように構成することができる。しかしながら本装置は、神経障害の治療に関係する神経を刺激することのできる、以下に示す被験者の任意の部分に配置するように構成することもできると理解されよう。
・経皮的、例えば、
i.頬(三叉神経の上顎枝)
ii.顎(三叉神経の下顎枝)
iii.額(三叉神経の眼枝)
iv.首(三叉神経の顎下枝)
v.耳/耳介(迷走神経)
vi.唇(三叉神経の下顎枝)
vii.肩と首(副神経、頚髄神経C1,C2)
・経粘膜的、例えば、
i.舌の背側前方領域(三叉神経の舌下顎枝)
ii.舌の腹部前方領域(舌下神経)
iii.歯茎(三叉神経の上顎枝)
・以下の非接触部、しかしこれは電磁気の刺激(例えば、反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS:Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)のみに適用される。
・上述と同様(経皮的および経粘膜的)または
・三叉神経核
・蝸牛神経核
・聴覚皮質
・移植可能な以下のもの
・上述と同様(経皮的および経粘膜的)または
・蝸牛/聴覚神経
・蝸牛神経核
・三叉神経核
・聴覚皮質
・迷走神経
【0035】
図1に示す実施形態において、体性感覚刺激部は口腔内装置(IOD)である。
図1に示す構成は第1実施形態に関するものであり、刺激発生部はIODから離れた制御部101に位置する。以下の例において、この構成をMB1と称する。代替構成はMB2と称され、刺激発生部はIOD(102)の近傍に位置させることができ、例えばマイクロコントローラまたは他のプログラム可能な装置を用いて刺激を生成する。
【0036】
IODまたは体性感覚刺激部は刺激装置1022のアレイを含み、その各々は独立して作動され、体性感覚刺激を修正音声信号と同期して被験者に加えることができる。IODがコントローラ101によって制御されるMB1構成において、アレイの各刺激装置には、この各刺激装置または電極を駆動するコンパレータが必要であると理解されよう。これらのコンパレータはコントローラ101内の回路基板上に配置させることができる。MB2構成において、マイクロコントローラは電極または刺激装置を直接駆動するように構成可能であり、このマイクロコントローラおよび支持コンポーネントはプリント基板1021上に配置させることができる。この構成によってコンポーネントの数およびコストを最小限に抑えることができる。
図2に示すPCB1021およびアレイ1022は成型ユニット1023内に収容される。一実施形態において、成型ユニットはオーバーモールドされる。このような成型工程は射出成形工程に適しており、IODのコストが最小限に抑えられる。IODをシールには、例えばパリレンCコーティングをオーバーモールド前にPCBに塗布してシールすることができると理解されよう。パリレンは化学蒸着によって塗布される疎水性ポリマーマイクロフィルムである。パリレン二量体は蒸発され、690℃で単量体に変換される。それから真空チャンバに導入され、そこでポリマーコーティングを室温で形成する。12〜15μmのパリレンC層を塗布してIODをシールすることにより、PCBAへの唾液侵入、毒素の浸出、放出(egressing back out)、および被験者による摂取に関連するリスクを軽減することができる。
【0037】
MB2構成でIODアレイ刺激装置を用いて強い知覚または感覚を生成するには、少なくとも5Vのピーク駆動電圧が必要とされ得る。例示的なマイクロコントローラの配置を
図3に示す。マイクロコントローラ301は16bitマイクロコントローラであるが、8bitまたは32bitマイクロコントローラ、FPGA、カスタムチップなどであってもよい。マイクロコントローラは刺激装置アレイ内の個々の電極を駆動するように配置された複数の入力部および複数の出力部302を含む。電極を駆動する各ライン上には容量性素子303が設けられ、直流が被験者に流れないようになっている。
【0038】
MB1構成において、IODへ電圧を入力するために設けられる電源は、アレイから離れたところに設置されるコントローラまたは刺激発生部によって提供される。代替的なMB2構成において、IODがコントローラによって電力供給されると、IOD内に調整回路を更に設ける必要がなくなるため、コンポーネントコストとIODへの要求事項が低減される。局部減結合キャパシタンス(図示せず)をMCU供給レールに設け、電極駆動切替えによって最悪の場合の過度電流(worst cast transients)を供給することができる。提案する構成において、MCU301はCPIOから電極までの駆動ライン上の直列コンデンサ303によって各電極を駆動させる。この構成によって任意の所定の時点で電極の一部がアクティブになり、そのためその他の電極は全て刺激電流戻り経路として機能できるようになる。
【0039】
IODはコントローラから取り外し可能としてもよいし、コントローラと統合可能としてもよい。任意選択で、カスタムオーバーモールドのユニバーサル・シリアル・バス(USB:Universal Serial Bus)またはその他のコネクタを、コントローラへの接続のために設けることができる。この別のコネクタは非医療機器への接続を防止し得る。粘膜と接触するカプセル1023内の電極アレイの上面は、電極と膜との界面がコーティング工程による影響を受けないようにマスクされている。マスキングの材料は生体適合性がなければならないことを理解されよう。上述のパリレンCは化学的に不活性で生体適合性がある。
【0040】
本明細書では口腔内と記載しているが、適切なアレイは2つ以上のアレイであり得ると理解されよう。これらのアレイは別個の装置に配置させることができ、例えば首の後ろに配置させてもよく、または顔の片側(顎)ともう片方とに分けて配置させてもよい。他の実施形態において、体性感覚刺激部は少なくとも2つの刺激装置(図示せず)を含む第2アレイも含む。これらの刺激装置は刺激装置のアレイに対して配置され、擬似刺激を被験者に伝達するように構成される。この擬似刺激は効果の感覚を患者に提供するように構成可能であるが、治療的な刺激の一部ではない他の刺激経路を含んでいる。これらは、第1アレイによって伝達された主要刺激が感知できない、または弱くしか感知できない場合のために設けられる。擬似刺激は患者が知覚する感覚を改善または増大させるために活性化させることができる。更に、これによって「偽りの」治療が必要とされる臨床試験の補助が容易になる。この擬似刺激は1つまたは2つの刺激経路によって実行できるが、任意の数の刺激経路を促進することができる。一構成において、擬似刺激は任意の聴覚刺激に対して非同期である。また、それは治療刺激に対して低いデューティサイクルを有し得る。更に、擬似刺激は実際にブロックされ得る。
【0041】
代替実施形態において、上述の擬似刺激は刺激装置を追加せず、IOD102を通して生じさせることができる。これは擬似刺激を治療刺激で時間多重化することによって達成される。この場合、治療セッション中の少なくとも90%の間、治療刺激を伝えながら被験者に有意な刺激知覚を与えるために、最大10%のマーク・スペース比が必要とされる。被験者の聴覚刺激に適した音声信号の設計における主な制約は、下記の表1に示す通りである。
【0042】
第1の例(MB1)において、2つの音声トラック、すなわち、前景、広帯域サウンドとしてRelax With Natureの“Forest Raindrops”と、作曲エリック・サティ、演奏ラインベルト・デ・レーウによる“グノシエンヌ”および“ジムノペディ”とが選ばれた。ミキシングは以下のように行われた。双方の音声トラックを16bit、44.1kHzのwavファイルに抽出し、−0.1dBに正規化した。Waves L3コンプレッサは、閾値設定−12dB、ディザなし、その他デフォルト設定で双方に使用することができる。Satieの振幅を18dB下げ、(遠くからの音楽の幻想を高めるために)余分なリバーブをかけ、全体のゲインを−1dBとしてForest Raindropsとミキシングし、ミキシング中の飽和を回避した。結果得られたものを、16bit、44.1kHzのwavファイルとしてエクスポートする前に、短いリードイン領域をクレッシェンド、リードアウト領域をデクレッシェンドとして30分に切り詰めた。
【0043】
代替実施例(MB2)において、選択された2つのサウンドトラックは、前景、広帯域サウンドとしてのRelax With Natureの“Forest Raindrops”と、作曲エリック・サティ、演奏Therese Fahy(出願人はTherese Fahyにこれらの作品の演奏を依頼し、2015年1月7日、8日、RTEラジオスタジオ1にてスタインウェイグランドピアノでの演奏を記録した)による“グノシエンヌ”および“ジムノペディ”とを含むものだった。ミキシングは以下の様に行われた。(最初の構成の音声ミキシングで適用される、−1dBの全体的なゲイン減少を予め補償するために、)双方の音声トラックを16bit、44.1kHzのWAVファイルに抽出し、−1dBに正規化した。Waves L3コンプレッサを閾値設定−12dB,ディザなし、その他デフォルト設定で双方に使用した。
【0045】
以下の4つのバージョンのサウンドトラックを作成した。
・Satieを振幅−12dBでミキシングしたもの
・サティを振幅−15dBでミキシングしたもの
・サティを振幅−18dBでミキシングしたもの
・ミキシングに楽音要素がないもの
【0046】
得られたミキシングは16bit、44.1kHzのWAVファイルとしてエクスポートする前に、短いリードイン領域をクレッシェンド、リードアウト領域をデクレッシェンドとして31.5分に切り詰められた。
【0047】
上述のファイルは単なる例であり、上述の設計基準を満たす限りその他の聴覚刺激の組み合わせも実行することができると理解されよう。上述のシステムもまた、複数のファイルのうちの1つを選択する機能を有することができる。これらのファイルは被験者によって選択可能であり得る。
【0048】
音声入力の決定に続き、追加の聴覚刺激のフィルタリングが実行される。ほとんどの耳鳴り患者は1つまたは複数の周波数の難聴を患うが、耳鳴りは、難聴と同側に最も一般的に関連している。最も高い周波数の難聴および/またはその耳鳴りと一致する周波数で追加の聴覚刺激を確実に生じさせるためには、ブーストフィルタを実装して関連する周波数帯域の補償を促進させる。
【0049】
フィルタリングの制限には以下のものがある。
・装置が患者に装着される際、中心周波数は臨床医によって設定可能。その場合、使用可能な構成周波数(250,500,750,1000,1500,2000,3000,4000,6000,8000,10000,12500Hzなど)も標準高周波音声メータでカバーされる。
・(標準的なバイカッドフィルタを使用することができるように)中心周波数の音声ゲインを12dB上げる。
・中心周波数の半分の、(中心周波数に比例した)固定ブースト帯域を持つ。
【0050】
従って1組のフィルタを構成することが可能である。上述の1セットの制限を満たすために、フィルタを以下の表2(本例はMB2の構成を表す)に示すように構成することができる。MB1構成における聴覚刺激フィルタリングも同様であるが、10kHzおよび12.5kHzの帯域は使用されなかった、というのもその際には標準音声メータのみが使用されたからである(聴覚に関する評価は8kHz以下に関して行われた)。フィルタはほんの一例であり、この場合、実行を容易にし、低処理能力で実行するために設計されたものである。これらのフィルタはスペクトル的に音声入力を修正し、聴力プロファイルの不足を補償する。例えば、患者のオージオグラムによって決定されるように、中心周波数を減衰周波数(fall-off frequency)と相関させてバンドブーストフィルタを適用して不足を補償する。バンドブーストフィルタは、0.5〜1.5オクターブのバンドブーストフィルタの電力半値帯域を中心周波数に正規化し、そしてブースト振幅が少なくとも12dBで、患者のオージオグラムの最も急峻なロールオフに従って較正され得る。
【0052】
あるいは、フィルタは同側耳における被験者のオージオグラムの逆数に基づいて較正されたブーストフィルタであってもよく、フィルタは少なくとも30dBの不足を補償し、500Hz〜16kHzの範囲で動作可能であるように構成することができる。被験者の難聴を補償する上でより良好な他のフィルタを実装することも可能であることを理解されよう。
【0053】
<聴覚刺激の方法>
高忠実度のオーバーイヤーヘッドホンは、必要な信号処理とあいまって、ユーザ/患者のそれらに対する広範囲な許容性およびそれらが患者に与える高度の快適さにより、本発明による聴覚刺激伝達にとって適切な方法であることが理解されよう。
【0054】
特別な状況においては、補聴器、近位拡声器および人口内耳を含むその他のトランスデューサを使用するのが好適である。例えば、患者が中程度の耳疾患、またはその他の重大な伝導性難聴を引き起こすその他の疾患を患っている場合、骨伝導トランスデューサを許容可能な代替物とすることができる。この状況において、(蝸牛機能を含む)内耳メカニズムは比較的影響を受けにくいので、骨伝導トランスデューサを介した聴覚刺激によって、そのような患者は治療の恩恵を受けることができる。別の状況において、例えば、患者が電磁波過敏症(EHS)を患っている場合、ワイヤレスヘッドホンは適切でなく、近位拡声器または有線ヘッドホンを使用することができる。電磁波過敏症(EHS)の患者は、彼らがRF源にごく接近しているということを知ることによる影響を特に受けがちである。別の状況において、例えば患者が適当に静かな場所を見つけるのが難しい場合、Shure(登録商標) SE215などの内耳遮音イヤホンまたはオーバーイヤーノイズキャンセリングヘッドホンを使用することができる。中には10dB HL未満の耳鳴りレベルによって大きな影響を受ける患者もおり、彼らの耳鳴りは治療中マスクされない(not over masked)という要求がある場合、背景ノイズレベルは20dBA以下でなければならないことを理解されよう。多くの患者はこのレベルをはるかに上回る一貫したノイズレベルを有する環境に住んでいる。別の状況において、例えば、耳鳴りによる影響を受けた深刻なSNHLを患う患者の場合、蝸牛インプラントという代替手段がある。先天性難聴の場合のように難聴が感覚神経的で深刻な場合、音声または振動トランスデューサでは聴覚経路に刺激が与えられない場合がある。そのような場合、蝸牛インプラントはVIII神経の聴覚枝を刺激する唯一の手段を提供し得る。あるいは、患者がヘッドホン装着恐怖症、または耳や頭と接触する装置の使用を拒む皮膚科学的な状態である場合、耳近位拡声器を使用してもよい。
【0055】
V頭蓋(三叉)神経に体性感覚刺激を伝達する数ある方法の中で、以下の理由により、電気刺激(通常、電子触覚刺激、ETSと称される)が本発明に従って実行される。
・高汎用性である。
・電気刺激のタイミング、振幅、トポグラフィおよび伝達モード(電圧対電流モード)を制御することにより、神経脱分極を高度に制御することができる。
・体性感覚刺激を電気的に伝達する装置を(例えば、電気機械的伝達方法と比較して)高い費用対効果で製造することができる。
【0056】
例えば下記のその他の体性感覚刺激方法も使用することができる。
・(例えば振動ピンのアレイを介した)振動変換
・(例えば、電子点字ディスプレイに似た力制御ピンのアレイを介した)力変換
【0057】
このような方法は、例えば下記の電気的刺激が実行できない状況において使用することができる。
・刺激の効果をfMRIと同時に評価する必要がある場合の研究調査中
・電気的刺激レベルが高過ぎ(過剰な刺激)か、または低過ぎ(閾値以下の刺激)かを確かめることができない場合。これは、(知覚は皮質レベルで起こるので、)作用機序(MOA:mechanical of action)が電気刺激の最適レベルを知覚することができるものよりも実際に低い、主に副皮質レベルである場合、特に適切である。また、電気刺激周波数がターゲット神経線維を常に脱分極状態に保ち、更に麻酔効果による知覚を生じさせるほど高い場合、または電気刺激振幅がターゲット神経線維ではない活性電極に隣接する電極下の電界強度が脱分極されるほど非常に高い場合にも適切である。
【0058】
患者の報告による知覚の質的レベルは副皮質構造を通過する神経インパルスレベルと等しいので、機械的な刺激は高過ぎも低過ぎもしないレベルに容易に設定することができる。
【0059】
本発明の実施形態によれば、体性感覚刺激は舌の背面前方に加えられる。舌は経皮的電気刺激を高める、補充電解液(唾液)で被覆された粘膜表面であることが理解されよう。更に、舌の背面前方面は人体のなかでも体性神経密度の高い箇所であるため、体性感覚ホムンクルスにおいて不均衡に大きな部分(large representation)を有する。神経学的疾患(例えば、耳鳴りを治療するための迷走神経の刺激(De Ridder, Dirk, et al. "Safety and efficacy of vagus nerve stimulation paired with tones for the treatment of tinnitus: a case series."Neuromodulation: Technology at the Neural Interface 17.2” (2014): 170-179)を治療する現在の多くの神経調節技術とは異なり、舌は外科的介入なく刺激することができる。
【0060】
三叉神経の舌枝は舌の前面を神経支配している。三叉神経と蝸牛神経核などの中央聴覚構造との間には重要な解剖学的、機能的リンクがあることが研究によって実証されている。しかしながら、舌の背面前方を参照して本明細書に説明するように、他の刺激場所、特に三叉神経、迷走神経またはC1/C2神経の様々な分枝の経皮刺激を可能にする場所を使用することができる。
【0061】
バイモーダル神経調節システムの実行に関する主要パラメーターのうちの1つは、信号帯域幅である。例えば、人の聴覚装置は非常に複雑な音を復号することができるので、聴覚刺激の情報速度を非常に高く設定することができる。
【0062】
複雑な聴覚信号の知覚的符号化は、最先端の知覚符号化アルゴリズム(例えば、AAC,Vorbis/OGG)を使用する場合でさえ、16bitダイナミックレンジ、12kHz帯域幅(24.050kHzサンプルレートおよび約50Hz〜12kHzの8オクターブ範囲をカバー)に対して64kbit/s以上の高忠実度しか達成できない。
【0063】
後述の通り、舌上の電気刺激を介する振幅の知覚符号化ダイナミックレンジはゼロを含めて約9レベル(デジタル的に4bitの情報で表示可能)であり、動作の周波数範囲は500Hz〜8kHz(4オクターブに亘る範囲)に制限される。
【0064】
従って、最小8kBits/s(==64kBits
*(4/16)bit
*(4/8)オクターブ)の等価情報は、高情報刺激のために体性感覚領域に符号化されなければならない。
【0065】
<音声から体性感覚へのマッピング>
音声と体性感覚刺激との間ではいくつかのタイプのマッピングが可能であり、そのうちのいくつかを表3ならびに
図17および
図18に示す。
【0066】
必要とされる周波数分解能が制限され(バーク尺度による臨界帯域のため、下記参照)、その結果としての実行効率のため、MB1およびMB2では時間分解能が高く、周波数分解能が低いスペクトル変換を用いる。
【0067】
音声から体性感覚刺激への時間的およびスペクトル的マッピングのどちらも、高い有効性の可能性を最大限に高めることが理解されよう。
【0068】
<スペクトルマッピング>
スペクトル情報は下記を含むいくつかの方法で体性感覚情報にマッピングすることができる。
・ETS信号のパルス位置符号化
・ETS信号のパルス振幅符号化
・周波数特定マッピング‐各周波数領域に1つの電極を割り当てる。
【0069】
MB1およびMB2は、蝸牛(異なる周波数が有毛細胞刺激の周波数特定性の広がり(tonotopic spread)を生じさせる)の場合と同様に、周波数特定マッピングを用いる。
【0070】
これに関して、聴覚刺激は周波数ビンの離散数として分析され、各周波数ビンは、年齢に関連し、ノイズに誘発される難聴に典型的に影響される周波数範囲をカバーする、アレイ内の複数の電極の中の1つに割り当てられる(というのも、調査によれば、ほとんどの場合、自覚的音声耳鳴り(subjective tonal tinnitus)は、患者のディップ周波数(ノイズ誘発難聴)またはロールオフ周波数(年齢関連または耳毒性関連の感覚神経的難聴)に近い周波数帯域で生じるからである。
【0071】
<電極の空間的配置>
2つの別個の電極空間配置が考えられる。これらの空間配置はそれぞれ
図4に概略を示すような長所、短所がある。MB1に関しては、2012年の臨床調査で用いられたように、シングルアレイアプローチが用いられる。シングルアレイアプローチはMB2構成にも使用可能であるが、MB2は分割アレイ構成を使用するように構成することもできる。
【0074】
<体性感覚刺激−スペクトル符号化>
ハードウェア設計において有限数の電極が可能であると仮定すると、スペクトル符号化は各電極の特定の周波数ビンへのマッピングである。適切な分割とこれらの周波数ビンがカバーする範囲の選択は、システムの設計にとって非常に重要である。
【0075】
周波数ビンの間隔には以下の4つの選択が考えられる。
・線形
・対数(底2)
・知覚(メル尺度など)
・バーク尺度(臨界帯域に基づく)
【0076】
[線形スペクトル符号化]
線形尺度を用いるスペクトル符号化は最適ではない、というのも、人の聴覚系のどの部分も、音高あるいは振幅において、線形尺度で動作しないからである(我々の知覚では、音高も大きさもどちらも対数尺度である)。線形尺度は我々の聴力の広い範囲にわたる音高を表すには非常に非効率的であるため、その結果、我々の聴力範囲において低い周波数よりも高い周波数に対する非常に不均衡な重み付けが生じる。
【0077】
[対数(底2)スペクトル符号化]
対数(底2)尺度は、特に聴覚刺激が調和的な音楽を含んでいる場合、線形尺度よりも適している。しかしながら、(知覚尺度がより適切な)特に高い周波数において、それは蝸牛の生理学とあまり一致していない(聴覚場所説による)。しかしながら1つの利点は、任意の音声成分のコードまたは高調波が電極パターンと一致する一方で、(メル尺度やバーク尺度のような)知覚尺度では、ディソナントコードのみが電極パターンと一致することである。
【0078】
[知覚(メル尺度)スペクトル符号化]
人の周波数範囲を表す最も一般的な知覚尺度の1つにメル尺度(音高が知覚的に相互に等距離にある尺度)がある(Stevens, Stanley S. "On the psychophysical law." Psychological review 64.3 (1957): 153; Stevens, Stanley S., and John Volkmann. "The relation of pitch to frequency: A revised scale."The American Journal of Psychology (1940): 329-353)。これは人間の心理音声実験に基づくものであり、尺度で得られるステップは音高において等距離であると判断される。対数(底2)に対して線形でないため、単一または複合トーン内の高調波は、特により高い周波数でメル尺度に従って間隔のあけられた周波数ビンと整合しない。
【0079】
[バーク尺度(心理音声的臨界帯域)]
人の周波数範囲を表すあまり一般的ではない知覚尺度にバーク尺度がある(音高が知覚的に相互に等距離にある尺度)(Zwicker, Eberhard. "Subdivision of the audible frequency range into critical bands (Frequenzgruppen)."The Journal of the Acoustical Society of America33 (2) (1961): 248.)。メル尺度と同様に、これは人間の心理音声実験に基づくものであり、この場合、尺度で得られるステップは音高において等距離であると判断される。しかしながらメル尺度とは異なり、それは人間の聴覚の臨界帯域にきちんと分割される(臨界帯域は、第2トーンが聴覚マスキングによって第1トーンの知覚に干渉する可聴周波数の帯域である)。
【0080】
本明細書に記載する実施形態によれば、MB1およびMB2の実施形態は、(分割アレイ設計のように)限られた電極しか利用できない場合には、バーク尺度臨界帯域上の周波数ビニング(binning) を基準とし、(単一アレイ設計のように)電極の数の制限が少ない場合には、対数(底2)を基準とする。
【0081】
<体性感覚刺激スペクトルビン制限>
(システムの複雑性、利用可能な電極の数などに関する)利用可能な資源を最も効率よく利用するために、周波数ビンが広がる範囲や限界を考慮する必要がある。
【0082】
一番高い周波数から始めて、8kHzを超えて試験が行われる場合、耳鳴りがあって難聴のない個人のケースは極めて稀である(Salvi, R. J., Lobarinas, E. & Sun, W., (2009), “Pharmacological Treatments for Tinnitus: New and Old”, Drugs of the Future, 34, 381-400)。これによってMB1およびMB2の双方の構成に関して、上限は8kHzに制限された。低周波数は、感覚神経的難聴(先天性、NIHL、老人性難聴、耳毒性誘発難聴など)を患う母集団の1パーセンタイルコーナー周波数として選択され、約500Hzである(Congenital cytomegalovirus (CMV) infection & hearing deficit (Fowler, Boppana) 2005, Fowler ; CMV A Major Cause of Hearing Loss in Children (2008), http://www.cdc.gov/nchs/data/series/sr_11/sr11_011acc.pdf (page 7 , fig 5))。
【0083】
<周波数ビンの配置>
(舌の正中線を分割する)分割アレイ刺激装置に対して、そして本明細書に記載する実施形態において、最低で16×2(32)の電極が必要とされる。(500Hz〜8kHzの範囲の臨界帯域を全てカバーする)上述の制約では、以下の周波数ビン、すなわち、[Hz]:570、700、840、1000、1170、1370、1600、1850、2150、2500、2900、3400、4000、4800、5800および7000が必要とされる(バーク尺度による)。
【0084】
分割アレイ設計に対応できるように、MB1設計に対してサイズ32の電極の電極アレイが選択された。右側の刺激装置と左側の刺激装置との間には不感帯が含まれ得る。これを
図4に示す。
【0085】
空間分解能と感度とが最も高い舌の背面前方領域は、2mmの格子間隔で32の電極を容易に収容することができる。
【0086】
単一アレイ設計に関して、32電極全てを使用するために、1オクターブにつき8帯域となるように周波数ビンの間隔が低減され、必要とされる周波数範囲を対象の全周波数範囲(500Hz〜8kHz)に亘って32の対数的に等しい間隔の帯域に分けられる。周波数ビンは、周波数ビン間の協調的調和関係を維持するために、対数(底2)尺度で等距離に分離可能である。これらの制約(最大周波数8kHz、1オクターブにつき8ビン、最低周波数ビンに約500Hz)内において、以下の周波数ビン、すなわち、[Hz]:545、595、648、707、771、841、917、1000、1091、1189、1297、1414、1542、1682、1834、2000、2181、2378、2594、2828、3084、3364、3668、4000、4362、4757、5187、5657、6169、6727、7336および8000が必要とされる。
【0087】
これらの周波数は(IODの電極側から見て)
図5に示すようにマッピングされ、MB1およびMB2の構成のどちらにおいても使用することのできる適切なマッピングである。図に示すように、難聴に関連する耳鳴り(最高周波数)を患う患者において、最も典型的に影響される周波数は一番下の2つの行であり、これは舌の先端に最も近い領域に対応し、体性感覚神経線維神経支配密度の最も高い領域である。
【0088】
ビンが間隔をあけて配置される代替配置は、
図4に示す装置の代替実施形態で使用され得る。
【0089】
<神経調節、知覚および感覚異常>
体性感覚刺激は経粘膜または経皮の電子触覚刺激(ETS:electro-tactile stimulus)であってもよい。神経調節の観点から、そして作用機序(MOA)が脳の副皮質領域に基づく場合、体性感覚神経線維を脱分極する作用は装置を有効にするには十分であり得る、というのも、神経線維の脱分極は、脳の副皮質構造のうちの1つまたは複数に到達する神経スパイクを生じさせるからである。しかしながら、体性感覚神経線維の脱分極は知覚を不正なものにする(to illicit a percept)には必ずしも十分ではないので、刺激を有効にするために知覚が不可欠であるとは推測できない。
【0090】
一方、(例えば知覚的な観点から)MOAが主に皮質レベルである場合、患者が治療を効果的にするために刺激を感知することはほぼ確実に不可欠である。
【0091】
MOAが副皮質レベルのみであっても、例えば患者が装置が作動していることを認識するように、患者が刺激を知覚することは重要であることが理解されよう。知覚がないと、患者が治療に従う可能性は低い。(MB1装置を使用した)2012年の試験に参加した患者からのフィードバックによれば、患者が「治療が効いていることを感じる」には強い知覚が重要であることがわかった。別の例では、電極が患者の舌と必要な接触を行っていることを確認するためにフィードバックは重要である。知覚された刺激の強さや場所に関する患者のフィードバックは、電極が正しく位置決めされているかどうかを知る唯一の方法であり、よって治療法に従っていることを確かめる唯一の方法である。別の例において、このフィードバックはプラシーボ効果を高めるために使用される。プラシーボ効果は装置の主な作用機序ではないが、一部の患者にとって装置の有効性を高める可能性がある。
【0092】
電子触覚刺激の知覚における2つの主なメカニズムは以下の通りである。
1.振動、圧力または痛覚の何れかを誘発する侵害受容器および機械受容体を神経支配する神経線維の直接的刺激
2.神経線維を過剰に刺激し、それによってそれらを一定、またはほぼ一定の脱分極状態に保ち、感覚異常効果(一般に「ピンと針」として知られる、基底神経パルス列の阻害に起因する感覚)をもたらす
【0093】
知覚刺激強度を理論のみから推定することは非常に困難である、というのも、ETSの知覚メカニズムは非常に多くのパラメータ(振幅、パルス幅、パルス繰り返し率など、詳細は下記を参照のこと)によって変化するからである。文献において既に利用可能な重要なデータがあるが、知覚刺激強度レベルに関するパラメータの値が生体内試験に基づいていることは必須である。
【0094】
本発明の実施形態を実行するにあたり、2012年の臨床調査で使用する前に、MB1構成を用いて生体内試験を行い、その間データを電子的に収集した。更にMB2構成に関する生体内試験も、設計、臨床検証プロセスの一部として行った。
【0095】
<体性感覚刺激振幅制御>
包括的振幅制御は、以下を含む患者母集団の感度、伝導率および知覚特性に影響を及ぼす生理学的、物理的および遺伝的要因における自然変動に対応するために不可欠である。
・被験者の年齢
・電極と接触する粘膜表面の乾燥
・粘膜表面液のイオン濃度
・上皮層の相対厚さなどの遺伝的および物理的変動
・中期的および長期的適応
【0096】
感度の変動を補償するために、刺激強度を患者ごとに調節できるよう、刺激振幅制御方法を設けることが必要である。振幅は、例えば制御装置101の制御を調整することによって強度を快適なレベルに調整することができるように、患者の直接制御下としてもよい。
【0097】
好適な実施形態において、本明細書に記載するシステムも刺激振幅制御を含み、刺激強度を患者ごとに調整できるようにすることができる。以下を含む刺激パラメータの値を制御することによって知覚的刺激強度を変動させることのできる方法がいくつかある:
1.以下のいずれかを変動させることによる個々の刺激パルスのエネルギー
・パルスの電圧/電流振幅
・パルス幅
・パルス極性(陽極と陰極)
2.同時性のマルチ感覚窓(the multisensory window of simultaneity)内の連続パルス数(聴覚体性感覚に対しては典型的に50ms未満)。
【0098】
強度制御(パルス幅/パルス振幅および連続パルス数)の残りの方法のうち、刺激の有効帯域幅を増加させるために、高時間分解能で刺激振幅を変化させるために使用されるのはパルスの数である。
【0099】
<MB1構成における振幅制御>
現在のMB1構成において、この包括的刺激振幅制御を実行する設計上の決定事項は、電子触覚パルスの電圧を変えることだった。これによってETS駆動回路に対する供給電圧の制御のみが必要となるため、装置のコストと複雑さとを制限することができる。
【0100】
包括的刺激振幅制御に必要とされる最小ステップ数は以下の2つのパラメータによって決定される。
・人の舌の背面前方における電気的刺激の振幅を弁別するための丁度可知差異(just-noticeable difference)
・患者の母集団における舌の背面前方の電気的刺激による知覚的強度の標準偏差
【0101】
舌の背面前方領域の電子触覚刺激の全体的なダイナミックレンジは17.39dB(SD=2.3dB)であることがわかった。ここで、ダイナミックレンジは、不快感の閾値における強度と知覚の閾値における強度との差であると定義される。この範囲内において対応するJNDは、平均でダイナミックレンジの12.5%であり、知覚の閾値と不快感の閾値(1ステップあたり〜2.4dB)との間で8つの異なる振幅レベルを弁別することができたが、知覚範囲の特定の部分に関しては1ステップあたり1.5dBと低かった。
【0102】
更に、知覚閾値の範囲は、実験における8人の被験者全員にわたって10dBの差があった。低いステップサイズの1.5dBをとり、これを全体で必要とされる範囲(17.39dB+10dB)に分割すると、必要なステップは最低で18ステップだった。
【0103】
従って、MB1設計においては、エネルギー伝達に関してほぼ直線的に間隔のあいた18の包括的な刺激振幅レベルがあるが、最も低い非ゼロレベルは隆起したペデスタル(raised pedestal)にある(というのも低いエネルギーレベルは、MB1装置に関するインハウス精神物理学実験中、試験した5人の被験者全てが知覚の閾値未満だった。)
【0104】
MB1上のパルスは一定の帯域幅(17.7us)であり、電圧は振幅設定(患者の制御下)に応じて変動した、すなわち、電圧モード制御の刺激駆動回路に基づいて変動した。使用する電圧レベルを、得られるボルトと秒との積(脱分極の可能性)と共に以下に詳述する。
【0105】
<MB2構成における振幅制御>
現在のMB2構成において、電子設計および経済的制約は包括的振幅を調整する方法の要であり、この場合、包括的振幅は主にパルス幅を変化させる(およびパルス電圧振幅をより限られた範囲にわたって維持する)ことによって制御される。
【0106】
体性感覚電極駆動回路へのこのような変化は、電極駆動回路を制御装置から口腔内装置へ移動させる必要があるためである。この必要性は、MB1内のパッシブなIODに、このIODから制御装置への32芯ケーブルが必要であるという事実から生じる。このケーブルと関連するコネクタとのコストは非常に高く、配置の信頼性と柔軟性はあまり最適ではない。MB2設計において電子駆動回路を制御装置からIODに移動させると、低コストで高信頼性の製品となる。
【0107】
実用上の制約により、MB2は、その容量性出力が電極と直接接続された、低コストのマイクロコントローラユニット(MCU:mictocontroller unit)に基づいている。この電子装置回路の変更では、MB2の駆動電圧レベルが4.35V(低コストのブーストコンバータが4.2Vリチウムポリマー電池で使用できるように)〜5.85V(MCUの絶対最大供給電圧制限を少し下回る)の間に制限される必要があり、一方でMB1において、それは3Vから11Vに調整可能である。これにはMB2設計において、パルス幅の範囲をパルス電圧の範囲の変化を補償するくらい増やす必要がある。特に、MB2における刺激とMB1における刺激との間の等価性を維持するには、最大刺激振幅設定においてパルスエネルギーレベルが少なくとも同じ知覚強度を主観的に生じさせ、より低い刺激レベルが少なくともより低い知覚強度を主観的に生じさせることが保証される必要がある。
【0108】
<MB2構成に対するETS刺激パターンの設計>
上述の制約を考慮すると、ETSパルスプロファイルには下記の2つの候補がある。
1)1フレーム1電極あたり1パルススロットを使用し、包括的刺激振幅および動的振幅レベルの関数としてのパルスのパルス幅を変化させる。
2)MB1構成と同様に、1フレーム1電極あたり8パルススロットを使用し、包括的パルス幅設定に従ってパルス幅を変化させる。
【0109】
オプション1)の場合、最大パルス幅は23.2196ms/32電極=725.6usとなる。
【0110】
これは現在のハードウェアを支持するにはあまりにも長すぎる、というのも電極直列DC阻止コンデンサのサイズには物理的制限があるからである(現在の制限は約100nF)。100usよりも長いパルス幅は、パルスの終わりまでに20%超が放電される100nF直列コンデンサとなるので、100usはパルス幅にとって現実的な上限である。また、パルスが長くなると、電極下における電解副産物による粘膜表面への刺激や感作のリスクが高まる、というのも、パルスの第1相が長くなればなるほど、電解反応副産物の極性が第2相(逆極性相)によって逆転することが少なくなるからである。
【0111】
更にエネルギーの観点から、100usパルスはMB1構成で使用される17.6usパルスよりも大幅により多くのエネルギーを(DC阻止コンデンサの影響を無視して)伝達しなければならない。
【0112】
上述のオプション2)の場合、32の電極の各々の8つのパルススロットをフレーム周期に絞る必要がある。
【0113】
MB1の最低振幅設定と同じ電荷注入を達成するために、最低(非ゼロ)パルス幅を設定する必要がある。
【0114】
MB1に関して、ボルト・秒の積は17.7us
*3V=53.1Vusだった。
【0115】
MB2に関して、ボルトを4.35Vに設定すると、必要とされる最低パルス幅は、従って、PW
min=53.1Vus/4.35V〜=12usである。
【0116】
上述の注記に示すように、MB2の最大パルス電荷はMB1の最大パルス電荷よりも高いものであることが要求され、66%高いものが使用される。これは以下のようになる。
PW
max=V
max(MB1)*PW
MB1*1.66/V
MB2=10.9V
*17.7us
*1.4/4.35V〜=78us
【0117】
実際、非常に高い感度を持つ患者に対応するために、12usレベル未満に2つのステップを追加し、残りのステップ数(15)を僅かな指数関数的曲線で78usに拡張した。
【0118】
下記の表に示すように、ETSパルス幅はいくつかの離散的設定(18ステップのMB1範囲をカバーする全部で18)のうちの1つに変更することができる。MB2装置(n=120)を使用する患者からのフィードバックによると、3件の例で、レベルを最大に設定しても体性感覚刺激を弱くしか感知できない状況があった。そのような患者に対応するために、上端に3ステップを追加して範囲を拡大した。これらの追加ステップはパルス幅を最大78usに維持しながらパルス電圧を(4.35Vから4.85V,5.35V,5.85Vへと)増やしていくことによって対応される。これらの追加ステップを下記の表5において強調して示す。
【0119】
パルス幅は患者の直接制御下にある。例えば、パルス幅は制御装置101上の刺激振幅制御ボタン(例えば一対の上下ボタン)を押すことによって調整することができる。
【0120】
MB2およびMB1の包括的刺激レベルの関数としての電気パルスパラメータ
【表5】
【0121】
<体性感覚刺激の動的振幅制御>
体性感覚刺激の動的振幅制御は、体性感覚刺激を導くことが可能な聴覚刺激の相対振幅を符号化する手段として使用可能である。これによって体性感覚刺激の情報速度の大幅な増加が促進され、それが得られる聴覚刺激の情報速度により一層近づくことができると理解されよう。
【0122】
達成され得る情報速度の増加は、人間の舌の体性感覚的な知覚的ダイナミックレンジによって本質的に制限される。
【0123】
人間の舌のETSに関するこれまでの研究によれば、典型的な知覚的ダイナミックレンジが、最小知覚閾値から不快感のない最大レベルまでの17.39dB+/−2.3dBのオーダーであることが示されている。また、振幅弁別の丁度可知差異(JND:Just-Noticeable Difference)は約2.4dBであることがわかった(Lozano, Cecil A., Kurt A. Kaczmarek, and Marco Santello. "Electrotactile stimulation on the tongue: Intensity perception, discrimination, and cross-modality estimation. "Somatosensory & motor research” 26.2-3 (2009): 50-63)。従って、全体の知覚ダイナミックレンジを表すために必要とされるのは約8つの離散振幅ステップ(ゼロを含まない)のみである。
【0124】
触覚刺激の知覚振幅を調節することのできる3つの方法をそれぞれ下記の表に詳述する。
【0126】
<パルス計数制御方法>
パルス計数制御は、任意の所定のフレームにおける任意の所定の電極の電気パルス数を単に変化させることによって実際に達成可能である。これは、バーストが分析フレーム長よりも短いバースト内のパルスの離散数または計数に対応する。フレームの持続時間が間隔統合期間(触覚同時性期間)以下である限り、パルスは神経線維を脱分極させるのに十分広く、パルス間には十分な間隔が設けられ(すなわち、ニューロンは次のパルスの前に再分極することができる)、刺激の知覚された振幅は、6または7パルス以下のパルス数に比例する(Kaczmarek, Kurt, John G. Webster, and Robert G. Radwin. "Maximal dynamic range electrotactile stimulation waveforms."Biomedical Engineering, IEEE Transactions” on 39.7 (1992): 701-715)。
【0127】
<可聴周波数成分の体性感覚刺激への時間変換>
図8〜
図14は音声と体性感覚刺激との間の変換を説明するものであるが、周波数ビン数(n)および量子化振幅レベル数(q)に関して一般化される。
【0128】
これらの図はバイノーラルチャネルのうちの1つが分割アレイ刺激装置トポロジーで使用されるためにどのように変換されるのかを示している。MB1およびMB2で使用される統一アレイ刺激装置トポロジーに関して、左右の音声チャネルを変換前に混合させる(音声はステレオに維持したまま患者にヘッドホンで伝える)。
【0129】
一例として、パルスパターンを1つの電極のみに関して説明する(ここでは電極#3、これは周波数ビン#3に対応する)。
【0130】
上述の要件に従って、MB1およびMB2の双方に対して実行可能な音声から体性感覚への変換プロセスの概要を以下に説明する。
・治療セッション全体(典型的に音声30分)のステレオ音声信号を先ず、
・左右のチャンネルを合わせ、次に単一アレイ実施形態に正規化してモノラルに変換する、または、
・分割アレイ実施形態に関しては、モノラルに変換せずに音声を正規化する。
・次に得られた音声を、フレーム持続時間t
pの2倍に相当する持続時間t
wの重複部に分割する。
・次に音声セクションの各々にブラックマンテーパリング(窓)関数を適用する。
・次に時間から周波数への変換を、窓関数をかけた(windowed)音声セクションの各々について計算し、周波数領域信号を生成する。
・MB1およびMB2に関しては離散フーリエ変換の利用が可能であるが、代替実施形態ではガンマトーンフィルタまたはウェーブレット変換を使用することができる。
・得られた周波数領域信号を予め定めた周波数ビン(例えば上述のバーク尺度臨界帯域による)に従って更に分析し、各強度値が各周波数ビンの周波数領域信号の振幅に対応するように強度値nのアレイを生成する。
・強度値のアレイは、治療セッション全体の一組の信号全体に亘るピーク値に従って正規化されるので、各周波数ビンに関して、強度値を最大レベルに正規化する。
・得られた正規化強度値をq離散レベルに更に量子化する。
・得られた量子化信号は、各フレーム周期t
p内で(個々の電極にマッピングされた)各周波数ビンに対するパルス数の制御のために使用できるように保存する。
【0131】
この変換を実際に実行するために、MB2およびMB1で使用するいくつかのパラメータ値は以下のものから選択しなくてはならない。
・フレーム周期t
p
・最大ETSパルス幅t
pwを決定するパルススロット周期t
ps
・音声サンプルレートF
s
【0132】
以下のセクションではこれらのパラメータ値がMB1およびMB2装置に対して定められる根拠、制約および計算について詳述する。
【0133】
<最適時間分解能の計算>
音声から触覚刺激への変換の最適な時間分解能を計算する上で考慮すべきいくつかの要因がある。これらの要因の多くは上述のセクションですでに解明されたが、下記の表7および表8において概要を説明する。
【0134】
【表7】
*Geffen, Gina, Virginia Rosa, and Michelle Luciano. "Sex differences in the perception of tactile simultaneity." Cortex 36.3 (2000): 323-335.
**Burgess, PR T., and E. R. Perl. "Cutaneous mechanoreceptors and nociceptors." Somatosensory system. Springer Berlin Heidelberg, 1973. 29-78.
【0136】
更に、聴覚から体性感覚へのマッピング設計を制約する以下の要因がある。
・電子触覚刺激電子機器(IOD電子機器)の本質と設計
・ファラデー作用の代わりのガルバニック作用によって著しい腐食が生じる前の、電極が許容することのできる最大パルスエネルギーレベル
・1パルスあたりの利用可能な電圧またはエネルギー(電子設計トポロジーの関数)
・体性感覚刺激が導かれるオリジナル聴覚刺激の音声サンプルレート
【0137】
<電極トポロジー>
MB1構成およびMB2構成の双方において、電極トポロジーは多くの考察に従って構成される。電極の総数を減らすため、そして駆動電子機器の複雑性を低減させるために、MB2およびMB1は同じ電極が復路電極としても作用するように設計される。換言すれば、専用の復路電極は必要なく、特定の時点で活性電極を除く全ての電極が共同で復路電極として作用するように構成される。このことによる1つの結果は、重複(同時)パルスの範囲が小さくなることであり、理想的な刺激パラダイムは重複パルスを持たないことであり、すなわち、特定の時点で常に1つの電極がアクティブなことである。これによって他の全ての電極を刺激電流の復路として構成することができ、全部で32の電極のうちの31の電極が復路用となる。このため、活性電極の直下で最も高い電界強度が得られ、隣接する(復路)電極下でその電界強度の一部が得られることとなる。刺激エネルギーレベルが正しく設定されると、活性電極を取り囲む小さな広がり領域内の神経線維のみが活性化される。しかしながら、刺激エネルギーレベルが過大に設定されると、隣接する電極下で神経線維が刺激される可能性がある。
【0138】
<時間分解能の計算>
[パルススロット]
音声データとの同期を維持するためには、体性感覚パルスが音声サンプルと同じタイミング分解能、すなわち1/44100s(22.6uS)の分解能で発生することが1つの考察事項である。これに対応するために、時間軸は周期t
psの「パルススロット」に分割される。
【0139】
検証実験により、パルス幅22.6usは低駆動電圧であっても舌の先端の知覚神経を刺激するのに十分であると判断された。しかしながら検証中、得られた電子触覚パルスが非常に強く、時には不快な感覚を与えることもわかった。パルススロット間隔に下限を定める別の制約または考察事項は、神経再分極周期(2ms)に関連するものである。25%のヘッドルームを許容し、使用する電極は32であるので、関連するパルススロットを広げて2.5msの再分極周期全体をカバーすることができる。従って、最小パルススロット周期は2.5ms/32=78usとなる。音声サンプルレートの倍数でもある次の最大周期の値は90.7usであり、これは4音声サンプル毎のパルススロットとなる。よってパルススロット周期はt
ps=4/44100=90.7usである。実際、パルススロット間にはいくらかのデッドタイムが必要である、というのも、パルスを生成するマイクロコントローラはいくらかのオーバーヘッドを有するからである。パルススロット周期t
ps=90.7usであっても、最大78usのパルス幅は0.5MIPSで作動する低コストの16bitのMCUで実現できることが実験で検証された。従って、このt
psの選択は、IODにおいてMCUが低コストかつエネルギー効率に優れていることが求められるMB2での使用に適している。
【0140】
[フレーム周期の計算]
最小フレーム周期を計算する際には、下記の制約または考察事項を考慮する。各フレームは8パルス(動的振幅)×32電極×パルススロット周期(90.7us)に対応することができなければならない。従ってフレーム周期は以下のようになる:
t
p=n
*q
*t
ps=32
*8
*90.7us=23.219ms
ここで、t
p=フレーム周期、nは電極数(32)、qは振幅が量子化される振幅ビン数(8)である。
【0141】
32パルスは所定のフレーム周期内で各パルススロットに対して発生し得るので、任意の所定の電極のインターパルス周期は最小で以下のようになる。
t
ipp=t
ps*n=90.703us
*32=2.9ms
【0142】
これは公称再分極周期である2msよりも長いので、任意の所定の電極における次のパルスは、神経線維が前の脱分極の後に再分極するのに十分な時間の後に発生するという重大な要求事項を満たす。
【0143】
[パルススロットタイミング]
触覚パルスの時間パターンはパラメータ値に基づいて生成される。1フレームあたり全部で256のパルススロットがある。各電極には
図6に示すような時間スロットのサブセットが割り当てられる。この図は単一のフレーム(フレーム0)と後続するフレーム(フレーム1)とのパターンの概要を示している。
【0144】
任意の所定のフレームにおいて電極がアクティブに設定されるスロットの総数は、フレーム内のその周波数ビンの振幅によって決定される。例えば、振幅レベルが2の場合、電極の最初の2つのスロットはアクティブに設定され、残りは非アクティブのままである。
図6に示す例において、フレーム0の電極#1,#2および#32のそれぞれは8パルスある。
【0145】
<ETSパルス形態論>
MB1およびMB2の構成は、
図14の「パルス詳細B」に示すように、擬似二相性、陽極(正の立ち上がり(positive leading))パルスを用いることが理解されよう。
【0146】
擬似二相性パルスは、活性電極に直列コンデンサをつなげた状態で、矩形波電圧源を用いて生成される。コンデンサにわたる正味電荷は常にゼロ(理想的なコンデンサは直流に対して無限大のインピーダンスを持つ)なので、パルスは実質的には二相性である。このため電極/粘膜表面の界面で生成される電解生成物は最小限に抑えられ、それによって電極の完全性が維持され、患者に対する感作または反復のリスクが最小限に抑えられる。
【0147】
陽極パルスによる生体内実験の結果は、陰極パルスよりも陽極パルスに対する知覚の閾値の大幅な低下を示した。従って、陽極パルスは本明細書に記載する実施形態に従って実施されるが、これに限定されない。
【0148】
<ETSパルスモード制御>
電子刺激に関しては、2つの主要な制御方法、すなわち、電圧モード制御および電流モード制御がある。それぞれの長所と短所を表9に示す。
【0150】
多くの場合、電流モード制御が好適であるが、舌の粘膜表面を刺激する必要性のため、以下の理由によって電圧モード制御が好適であることを理解されよう。
・例えば、電極の粘膜表面への接触が一次的に切断された場合、補償するために電圧は跳上がり、「跳上がる」危険が減少し、電極が再度接触すると、より高い電圧により、電流モード制御ループが再度安定する前に最初の「ショック」が生じる。
・一定の電解液(唾液)の使用によって電気的インターフェースが安定し、電流モード制御に対する必要性の一部が相殺される。
・電圧モード制御回路と比べ、32チャネル電流モード制御回路のコストと複雑性は意義深い。
【0151】
<刺激パルスの電流モード制御>
本明細書に記載するMB1およびMB2の構成において、刺激は電圧モード制御であると想定するが、電流モード制御も用いることができると理解されよう。生体内試験に基づき、50usパルス幅において、47nF直列阻止コンデンサの電圧は、全ユーザにわたって平均0V〜1.35Vの間で増減した(dropped from increased from 0V to 1.35V)。従って必要とされる電流は下記の通りである。
I=CdV/T,dV〜=1.35V
*47nF/50us=1.27mA
【0152】
従って、電圧モード制御の代わりに一定の電流モード制御が使用される場合、1.27mAの定電流が使用され、電圧は6V〜12Vに制限される。
【0153】
この場合、伝達される電荷の範囲は、Q(min)=I
*Tmin=1.27mA
*5uS=6.35nCから、Q(max)=I
*Tmax=1.27mA
*78uS=99nCである。
【0154】
MB2およびMB1に対して提案される構成に関連する上述の音声から体性感覚へのマッピングの潜在的欠点は、特に高い周波数で体性感覚に変換する場合、以下の理由によって聴覚事象の著しい一時的なスミアリング(smearing)の生じる可能性があることである。
・全ての周波数帯域に対して、分析窓は23.2msに固定される。
・(フーリエ変換を計算する前に窓関数の適用に応じるため、)分析窓内に50%の重複がある。
・聴覚事象の振幅は単一のパルスではなく一連のパルスにマッピングされるため、聴覚事象から生じる体性感覚事象は、最大2.9msで最大8パルス周期にわたって広げることができる(すなわち、最大20.5msの期間、時間窓に広げる)。
【0155】
実際、これは対応する体性感覚事象の第1パルスに対して時間的に最大で+/−11msシフトする高周波数聴覚事象の相関をもたらし、この場合、時間シフトは短縮された正規分布を有する。
【0156】
代替変換の概要を以下に説明するが、これは、各周波数帯域をその帯域の中心周波数に適した速度で分析することにより、すなわち、結果の時間的スミアリングを減らすために異なる速度で各周波数帯域を分析することにより、標準フーリエ解析の時間、周波数分解能のトレードオフ限界から抜け出すものである。
【0157】
下記の
図18および
図19は代替的変換のハイレベルブロック図およびタイミング波形を示す。
【0158】
概略図は、分割アレイ構成の片側のみに関する、変換周波数チャネルn個のうちの2つのみを示している。この点に関して、左側の音声チャネルのみを示す。聴覚刺激コンポーネント(スペクトル修正および振幅調整に関するメカニズムを含む)はこの図に示していない、というのも、それは先に詳述したMB1およびMB2の構成と同じだからである。
【0159】
タイミングチャートはn個のチャネルのうちの1つの典型的なタイミングを示す。2つの分析フレームを例として示す。第1フレームには関連する周波数帯域に体性感覚パルスが生成されるための十分なエネルギーがあり、一方で第2フレームには不十分なエネルギーしかないため、体性感覚パルスは生成されないことを示している。
【0160】
バンドパスフィルタは、バーク尺度臨界帯域幅に応じた中心周波数および帯域幅を有するように設計される。この点ではガンマトーンフィルタが適している、というのも、フィルタ応答は蝸牛内の基底膜の応答と密接に一致するからである。
【0161】
アルゴリズムは下記のように動作する:
・変換される音声信号は、体性感覚チャネル(周波数ビン)の各々に対してn個の異なるブランチに分けられる。
・信号は、中心周波数を好適にはバーク尺度臨界帯域中心周波数として、バンドパスフィルタを通る。
・その後信号は整流される(すなわち絶対値が計算される)。
・次に周期内の信号エネルギーを計算するために、整流された信号は周期t
f[x]で積分される。
・積分信号(Iout[x])をコンパレータで閾値レベル、Threshold[x]と比較する、この場合、積分信号の大きさが閾値よりも一旦高くなるとコンパレータの出力は「高」となり、逆もまた同様である。
・Dタイプフリップフロップを使用し、コンパレータ出力(Cout[x])ならびに2つのパルススロットタイミング信号PulseSet[x]およびPulseReset[x]に基づいて体性感覚パルスを生成する、この際、パルススロット開始の時点(すなわち、PulseSet[x]信号が「高」になる時点)でコンパレータ出力が「高」の場合のみ、適切なパルス幅でパルスが生成される。
【0162】
タイミング信号IntReset[x], PulseSet[x]およびPulseReset[x]は以下のように配置される。
・トポグラフィ的に相互に隣接する電極に関連するパルススロットの重なりがない(これは、電極に伝えられる全てのパルスが、前述の電極に対する全ての隣接電極を電流復路として利用できることを保証するため)。
・この実施の1つのバージョンにおいて、(MB1およびMB2の場合のように)パルススロットに重なりはなく、その場合、1つを除く全ての電極が電流復路の役割を果たすことができる。
・この実施のもう1つのバージョンにおいて、パルススロットに重なりがあるが、トポグラフィ的に相互に隣接していない電極に伝えられたパルスに関してのみがそうである。実際、この非隣接要件に背くことなく、最大で2〜4の同時パルスをサポートすることができる。
・分析期間(フレーム周期t
f[x])は体性感覚不応期間(1ms〜2.5msのオーダーであってもよいが、実際の値は生体内実験によって解明されなければならない)よりも長くなくてはならない。これは、前のパルスに続いてターゲットの神経線維が再分極する前に次のパルスが発生するのを防ぐためである。
・また、分析期間(フレーム周期t
f[x])は聴覚フィルタのインパルス応答よりも長くなくてはならない。例えば、ガンマトーンフィルタを使用する場合、インパルス応答はフィルタ中心周波数の約10サイクルで表すことができるので、分析期間はこれよりも長くなくてはならない。
・また、分析期間(フレーム周期t
f[x])は聴覚フィルタのインパルス応答よりも実質的に長くすべきではない、というのもこのため、変換の時間分解能が不必要に犠牲になるからである。しかしながらより高い周波数帯域に関しては、不応期がこの制限要因となることが予想される。
・特定の分析窓内の積分周期を最大にするには、PulseSet[x]信号は分析窓の端にできる限り近いところで発生しなければならない(例えば、パルスは次の分析窓周期まで続くことも可能だが、次の分析窓が始まるまでにパルスQ[x]が終了するのに十分な時間が残っている)。
・分析窓は時間的に連続してもよいし、重複してもよい。分析期間t
f[x]が不応期間の2倍よりも大きな低い周波数帯域に関しては、窓が重複することは好適である、というのも、これによってこれらの帯域の時間分解能が高まるからである。分析期間が不応期間の2倍よりも小さな、より高い周波数帯域において、分析窓は時間的に連続していることが好適である。下記のタイミングチャートは分析窓が時間的に連続している例のみを示す。
【0163】
聴覚刺激と体性感覚刺激との間の包括的な遅れは、(体性感覚刺激が聴覚刺激を導くことが要求される場合)、患者に対する音声信号の遅れを設定することにより、または聴覚刺激が体性感覚刺激を導くことが要求される場合、体性感覚信号線(Q[x])内に遅れ線を含めることによって構成することができる。
【0164】
変換はアナログ領域またはデジタル領域のいずれかにおいて実行することができる、というのも、デジタル信号プロセッサを必要とするシステムの要素がないからである。しかしながら、関連する電子機器コストを削減するために、デジタル領域で変換を行うことが好適であると理解されよう。
【0165】
タイミング信号IntReset[x], PulseSet[x] およびPulseReset[x](x ∈ {0:n-1})は、低ジッタで生成されなければならないので、このような実行はデジタル実装により適している。
【0166】
この変換はMB2構成のようにオフラインでも実行することができるし、オフラインでも実行することができる。オフラインの場合の利点は、より低い電力で実行され、システムの可搬式実施形態において電池の寿命を延ばすことである。システムのMB2構成はソフトウェアを変更するだけでこの変換を実行するようにプログラムすることができる。
【0167】
この代替構成の例示的配置において、上述の制約を満たし、かつ列挙された各周波数ビン(フィルタ)に最適な分析窓長さを表10に示す。この例示的配置において、
・再分極期間は2.5msと想定されるため、得られた変換は、この時間が経過するまでは同じ電極上に次のパルスを出力しない。
・選択されたフィルタは、中心周波数がMB2分割アレイ構成で使用されるバーク尺度臨界帯域と同じガンマトーンフィルタである。この場合、ガンマトーンフィルタは関連するフィルタ中心周波数の10周期の長さに切りつめられる。
・分析窓長さはフィルタ周波数によって変化するが、これらは最小再分極期間の整数倍に設定される。これはパルスの時間的配置がパルスの重複要件を満たしていることを保証するためである(上記参照)。
・分析窓シフト(すなわち、分析窓が各分析ステップに対してシフトする期間)は、不応期間以上となるように、そしてフィルタ中心周波数の2.5周期よりも大きくなるように設定される。
【0168】
この例からわかるように、変換の時間分解能は音声周波数が増加するに従って増加する。時間分解能は利用される体性感覚モダリティの最小再分極期間によってのみ制限される、またはより低い周波数の場合、フィルタのインパルス応答の長さによって制限される。特定の状況において、この再分極期間は1ms以下とすることができ、これによって上述の例において達成されたものよりも高い周波数帯域のより高い時間分解能が促進される。
【0170】
<システムの概要>
本発明によるシステムの概要を
図7に示す。上述のデュアル音声入力は中央処理装置CPU705によってサンプリングされ、上述の音声入力はデジタル的に混合され、更に聴覚刺激ユニットへ出力するためにスペクトル的に修正され、音声入力の中の1つまたは複数を上述の様に体性感覚刺激に変換させることができる。このCPUは内蔵マイクロコントローラ、FPGA、パーソナルコンピューティングデバイス(電話、タブレット、PCなど)のような任意のコンピューティングデバイスであってもよいと理解されよう。変換が一旦終わると、得られたデータを例えばマイクロSDカード、706などのローカルメモリに保存して、音声をその後の治療セッションのために再変換させるエネルギーを取っておくことができる。その他のメモリ装置も使用することができると理解されよう。CPUは必要とされる体性感覚刺激に音声を変換し、この刺激は音声709と同期して体性感覚刺激アレイ708上に表示され、ヘッドホンを通して伝達される(骨伝導トランスデューサ、拡声器、補聴器もしくは蝸牛インプラントまたはその他の音声トランスデューサも上述のように使用することができる)。患者への刺激の伝達に関連する主要パラメータはファイルに記録され、カード706などのメモリに保存される。これらのパラメータには以下のものが含まれるが、それらに限定されない。
・使用期間
・使用日時
・特定の患者の結果を追跡するためのIDデータ(ハードウェアシリアル番号、ソフトウェアバージョン)
・刺激パラメータ
・刺激のエネルギー測定
・聴覚刺激レベル設定
・体性感覚刺激レベル設定
・(マルチトラックシステム用)音声トラック選択
【0171】
また、キーボード、タッチスクリーンインターフェース、モバイルコンピューティングデバイスインターフェース、コンピュータアプリケーションなどの、患者へのフィードバックを提供するユーザインターフェース704が提供され、これによって臨床医はシステムと対話して、以下の主要パラメータを容易に構成することができるようになるだろう。
・患者のオージオグラムまたは耳鳴りと一致する周波数によるフィルタ設定
・患者のオージオグラムによる音声音量パン制御.
【0172】
この臨床医インターフェースに加え、患者インターフェース703も提供され、患者は刺激レベルおよび治療セッションの開始と終了を調節できるようになる。低電力または低電池などの事象も患者に報告することができる。ここでもこれは任意の視覚的または触覚的表示であってもよく、これには視覚的表示部、モバイルコンピューティング装置およびそれで動作するアプリケーションなどが含まれる。
【0173】
本明細書に記載するシステムにおいて、電極装置回路は、上述のMB2およびMB1の構成に概要を示すように、口腔内装置から離れて、またはこの近くに配置することができる。MB1とMB2間の移行(migration)における主な変更は、MB2構成では包括的な刺激レベル制御が好適には刺激のパルス幅を変化させることによって制御されるが、MB1構成ではパルスピーク電圧レベルを変化させることによって制御される点である。MB2構成において、駆動電圧はMB1構成における駆動電圧より低い場合がある。例えば、ローカルまたはMB2構成において、駆動電圧レベルは4.2V〜5.8Vに固定され得るが、遠隔またはMB1構成において、駆動電圧は3Vから11Vに調整可能であり得る。これによって、ローカルな実行におけるパルス幅の範囲を刺激電圧の範囲の変化を補償するために増やすことが必要となる。
【0174】
制御装置が刺激装置アレイの近くに配置されるMB2構成では、より信頼性の高い効率的なハードウェア設計が提供されることが理解されよう。例えば、そのような構成では、刺激がアレイから離れて生成される32極コネクタではなく、4極コネクタ(例えばマイクロUSBコネクタ)を使って信号処理コントローラに接続することができる。低コストのマイクロコントローラを使用して、リモート構成における高電圧駆動回路に必要なコストと複雑性とを回避することもできる。
【0175】
任意の構成において、刺激発生部、聴覚刺激部および刺激アレイは有線ではなく無線で相互に通信することができると理解されよう。MB1構成において、全てのコンポーネントは配線接続され、MB2構成において、聴覚刺激装置は刺激発生部と無線通信する。
【0176】
<臨床研究 感覚刺激による耳鳴りの緩和>
以下の資料では、耳鳴り治療装置のMB1構成における実践調査(臨床試験)の削減について記載する。2012年6月から9月にかけて、耳鳴りを患う参加者の臨床の場で試験が行われた。
【0177】
<資料および方法>
[被験者]
この予測的単群パイロットスタディは、アイルランド国立大学メイヌース校研究倫理委員会(the Research Ethics Committee of the National University of Ireland Maynooth)およびダブリンのエルミタージュメディカルクリニック(The Hermitage Medical Clinic)の承認を得て行われた。試験対象者/除外者基準(下記参照)を満たす自己紹介型(Self-referred)患者をクリニックに訪れた順に採用した。何れにしても事前に選ばなかった。64人の参加者を適性についてスクリーニングし、主観的な慢性耳鳴りを患う54人の適格な参加者(女性19人、平均年齢45歳、年齢範囲28〜64歳。男性35人、平均年齢47歳、年齢範囲21〜64歳、)から書面によるインフォームド・コンセントを得た。慢性耳鳴りの正確な定義は文献によって異なるが、一般には短期から中期、すなわち6ヶ月にわたって自己解決されない耳鳴りのことを指しており、持続性耳鳴りは毎日症状のでる耳鳴りのことを指す。参加者へは、研究への参加は全く自発的なものであり、特別な理由なくいつでも研究から抜けることができると説明した。採用プロセスでは、参加者には参加について十分考えることのできるような時間が与えられた。参加は匿名で行われた。研究参加者の適性は下記の試験対象者/除外者基準に沿って判断した。
【0178】
<試験対象者基準>
・年齢65歳未満
・少なくともここ6ヶ月の間、持続的、自覚的な耳鳴りがある
・年齢またはノイズに関連する感覚神経的難聴(少なくとも片方の耳で>25dBHL)
・英語の読解力、理解力、文章力がある
・14週間続けて研究に参加する意思がある
・インフォームド・コンセント
【0179】
<試験除外者基準>
・口腔もしくは舌の潰瘍、口腔粘膜または重大な口腔内疾患−これらの症状が悪化するリスクを避けるため
・メニエール病‐この疾患が通常伴う難聴の変動のため
・耳鳴りまたは聴覚に関する現在の医療訴訟事件‐利害の衝突を避けるため
・現在耳鳴りの薬理学的または電気的刺激的治療を受けている‐研究の独立した効果を正確に測定するため
・ペースメーカー‐潜在的な電磁的干渉のため
この特定の研究に参加するための事前スクリーニングで適格と認められなかった参加者は、彼らの一般の開業医(すなわちプライマリケア医師)に戻され、そこで正式な断り状を受け取った。
【0180】
<設計の研究>
これは、聴覚および体性感覚のバイモーダル刺激の実現可能性およびその耳鳴り結果判定法への効果を評価する、14週間にわたる単群パイロットスタディだった。研究母集団は、これが観察研究であったため、重視しなかった(not powered for significance)。参加者は調査期間中、すなわち14週間(0週目をV0、2週目をV1とする)、クリニックを2週間毎に訪問した。参加者は、耳鳴りの症状に対する基準臨床測定値を確立するために(前処理)、最初の3回のスクリーニング訪問(スクリーニングとスクリーニングの間にそれぞれ2週間をあける)の際、臨床の場で介入なしでスクリーニングを受けた。これらの訪問と訪問の間、参加者に課題は与えられなかった。参加者は、最小マスキングレベル(MML:Minimum Masking Level)、耳鳴りラウドネスマッチング(TLM:Tinnitus Loudness Matching)および耳鳴り苦痛度 (THI:Tinnitus Handicap Inventory)などの最も一般的に使用される心理音響学的および精神測定的耳鳴り測定を用いることによって評価された。期間中、スクリーニングの評価は装置からの刺激なしで行われた。
【0181】
耳鳴りの任意の治療からの恩恵に影響を与え得る、疾患の治療以外の要因がいくつかある。Hesserら(The effect of waiting: A meta-analysis of wait-list control groups in trials for 耳鳴り distress. J Psychosom Res. 2011 Apr;70(4):378-84)は、耳鳴り治療のウエイティングリストの参加者の反応率をレビューしたところ、参加者の苦痛は短い待ち時間で低減させることができることを発見した。この改善は、耳鳴り症状の緩和に寄与すると知られている要因である、調査者および/または知識豊富な専門家から参加者が受ける心遣いおよび安心感に起因する可能性がある。この研究におけるスクリーニング段階は、研究参加者からの予想される効果によって達成される症状の改善に取り組むために用いられた。3度目のスクリーニング訪問の評価スコアを基準値として設定した。研究参加者の治療効果の改善は、3度の訪問によって緩和されると予想した。
【0182】
3度目の訪問時、参加者に、研究の残りの期間家に持ち帰ってもらう神経調節装置を提供し、今後10週間、1日30〜60分それを毎日使用するように依頼した。参加者には装置の使用方法を教え、音声と舌の刺激を彼らの最も快適なレベルに設定するように指示した。参加者は2週間毎にクリニックに戻り、スクリーニング期間に行われる評価を繰り返すように依頼した。参加者がクリニックに戻ることができない場合、彼らはTHI用紙に遠隔記入し、そのコピーを調査者のところへ送った。副作用や有害事象がみられた場合、装置の使用を止めて調査者に連絡するよう参加者に指示した。また、装置の不具合の場合には調査メンバーに連絡するよう指示した。
【0183】
調査は、耳鼻咽喉学研究協会(Association for Research in Otolaryngology)、欧州耳神経学協会(European Academy of Otology and Neurotology)、王立医学協会: 耳科学、咽頭科学&鼻科学(Otology, Laryngology & Rhinology)、プロスパーメニエール協会(Prosper Meniere Society)、アイルランド耳鼻咽喉学協会(Irish Otolaryngology Society)およびアメリカ聴覚協会(American Auditory Society)の会員である、シニアコンサルタント耳鼻咽喉頭頚外科医の臨床指導のもと、アイルランド補聴器聴覚学者協会およびアイルランド聴覚学会に登録している臨床聴覚学者によって行われた。同じ聴覚学者が全ての評価を行った。評価スコアは紙ベースのシステムに記録された、つまり、聴覚学者は以前の結果も知ることができた。しかしながら聴覚学者は評価中、以前の評価スコアを参照しなかった。
【0184】
<準拠モニタリングおよびデータ包含基準>
参加者の投与治療への準拠は、装置のデータロギング機能を使って技術的に判断した。下記の事象をそれらの日付と共に不揮発性メモリに記録した。
・電源オン/オフおよび治療開始/休止/再開の事象
・音声音量および体性感覚刺激強度の設定
・(参加者への接触を判断するために用いられる)電極を介して伝達される電流強度
・電池電圧レベル
・エラー事象
【0185】
参加者の安全性はクリニックの各訪問時に評価した。
【0186】
治療期間について特に規定はないが、本調査で用いた10週間の治療は、Tylerら(Tyler, R., Haskell, G., Preece, J. and Bergan, C.(2001)“Nurturing patient expectations to enhance” the treatment of tinnitus. Seminars in Hearing, 22, 15-21)による類似の神経調節の研究に基づくものである。参加者が最終評価を記入しなかった場合、最後から2番目の評価スコアを用いた。
【0187】
プロトコルは参加者には装置を1日30〜60分、1週間毎日使用することを要求した。この文脈における準拠とは、セッション期間、すなわち装置が連続して使用された時間が少なくとも30分であった、治療中の日数のことを言う。医薬品の臨床研究において、参加者の順守が80%超であれば準拠しているとみなされる。この治療の正確な持続的特性はまだ調査中なので、準拠にはいくらか寛容なカットオフ、すなわち66%が用いられた。この閾値に従い、参加者群を「準拠している」と考えられるものと「準拠していない」と考えられるものに分けた。
【0188】
<分析>
この研究のためのデータセットは、44人の参加者の10週間にわたる治療によるTHI、TLMおよびMMLデータによって構成された。研究プロトコルへの準拠ならびに参加者によって10週間にわたって使用される音声および体性感覚刺激設定に関するデータも収集された。耳鳴り症状スコアが基準(V2)および少なくとも最後から2番目の訪問に利用できる場合、および彼らが少なくとも8週間装置にアクセスした場合、すなわち、装置を早めに返却しなかった場合、参加者データを分析に含めた。この論文における分析では、装置を使用した治療の10週間後に、耳鳴り症状の3つの評価において統計学的な改善が見られるかどうかを調べる。
【0189】
THIスコアは正規的に分布されないので、ウィルコクソン符号順位検定を用いて基準(V2)と最終訪問との間の統計的有意性をテストした。TLMおよびMMLのデータセットは正規的に分布されていることがわかり、一対のtテストを使って基準(V2)とV7との間の統計的有意性の差異をテストした。統計学的差異の分析に加え、臨床的に有意な差を達成した参加者の割合を評価した。Jastraboffら(Jastreboff PJ, Hazell JW, Graham RL. Neurophysiological model of tinnitus: dependence of the minimal masking level on treatment outcome. Hear Res. 1994 Nov;80(2):216-32)は、MML尺度の5.3dBの減少は、耳鳴りの改善を報告する患者と有意に相関すると報告した。Zemanら(Zeman F, Koller M, Figueiredo R, Aazevedo A, Rates M, Coelho C, Kleinjung T, de Ridder D, Langguth B, Landgrebe M. tinnitus handicap inventory for evaluating treatment effects: which changes are clinically relevant? Otolaryngol Head Neck Surg. 2011 Aug;145(2):282-7)は、THIスコアの7ポイント低下も臨床的に有意な改善を反映していることを実証した。文献ではTLMの臨床的に有意な減少は認められなかったので、MMLの5.3dBを採用した。基準(V2)からV7までの症状スコアの差に基づき、臨床的意義のこれらの値を参照して、参加者を改善者または非改善者に分類した。
【0190】
ログファイルは、聴覚刺激および体性感覚刺激の治療過程にわたる装置の使用ならびに刺激レベルに関する情報を提供した。二次分析では聴覚刺激および体性感覚刺激のパターンを分析して、参加者の装置使用に関する洞察を調査した。
【0191】
<登録の検討>
アイルランド国立大学メイヌース校研究倫理委員会またはエルミタージュメディカルクリニックは、承認前に臨床試験台帳への登録を要求しなかった。この研究はフィージビリティスタディとみなされたため、FDAAA801の登録を免除された。
【0192】
<結果>
上に詳述したように、聴覚および体性感覚のマルチモーダル刺激の慢性耳鳴り結果測定への影響を、THI,MMLおよびTLMの経時的変化を測定することによって決定した。この試験の一環として54名の参加者群を採用し、各参加者は、介入なしの3つのスクリーニング評価とこの後、装置を使用する5つの評価を完了させるように要求された。
【0193】
2人の参加者が自らの意思で脱落した。更に6人の参加者の装置からのログファイルによれば、調査期間中装置をほとんど使用していなかったことがわかり、10%未満の準拠だった。更に2人の参加者を分析から除いた。彼らのログファイルは装置の活発な使用を示したが、V3評価後彼らは評価に戻ってこなかった。全部で10人の参加者を最終分析から除いた。
【0194】
V0,V1およびV2において介入なしで評価された症状スコアは、非介入による影響に寄与し得る症状の変動性および改善をよりよく理解するために用いる。THI,TLMおよびMMLスコアの3回のスクリーニング訪問、すなわち非介入モニタリングに関する平均的被験者内変動計数(COV:coefficient of variance)は、それぞれ21%、16%および13%だった。分析のための基準値を3回目のスクリーニング訪問、すなわちV2からとった。平均および標準変化を表13に示す。群全体の経時的な平均THI,TLMおよびMMLスコアの変化を
図15に示す。
【0196】
表12は、準拠および非準拠と見なされるものに関して、症状毎に分析セクションで述べられているように、臨床的に有意な改善を達成した参加者の数を示している。改善者の割合が最も高いのはMML尺度であり、30人の参加者のうちの73%がMMLにおいて臨床的に有意な改善を示している。
【0198】
表13は全群と、群を準拠および非準拠の2つのクラスに分けた場合との基準(V2)およびV7のTHI、TLMおよびMMLの平均スコアを示す。
【0200】
装置のログファイルにより、参加者によって使用された刺激パラメータの使用パターンに関する情報が提供された。電子ロギングシステムのエラーのため、3人の参加者のデータをこの分析から除いた。装置が使用された日に関して、参加者全員の平均セッション期間は47分(SD=20分)であった。表14は使用統計を示す。
【0201】
【表14】
*全群(N=44)**に亘る平均治療期間は67日だった。従って66%の準拠閾値は44日に相当する。
**全被験者数54のうち、分析から除外した者(10)、装置不使用者(3)、介入前脱落者(3)、評価スケジュール未記入者(4)
【0202】
使用1週間後の平均体性感覚および聴覚刺激の設定は、それぞれ6pt(SD=4.2)(最小0、最大17)および−8.5dB(SD=8.1dB)だった。ログファイルから抽出した最終週の平均体性感覚および聴覚刺激設定は、それぞれ7.4pts(S=5.4)および−16dB(SD=6.6dB)だった。治療開始時の刺激と終了時の刺激との間に統計学的差異はなかった。参加者は10週間の治療に亘って音声の音量と体性感覚刺激の強度とを変更することができた。ログデータより、参加者は体性感覚刺激を聴覚刺激よりもかなり多く変更したことがわかった。変動係数(COV)を各参加者に関して10週間の介入に亘って計算したところ、全群にわたるCOVは、体性感覚および聴覚刺激の設定に関してそれぞれ35%および15%だった。改善者または非改善者に関する刺激設定と症状スコアの変動との間に有意な関係はなかった。使いやすさと耐容性に関して特定の評価は行っていないが、調査者サイトにおいて評価の期間中著しい不快感を報告した参加者はいなかった。
【0203】
<他の実施形態>
本技術における上述の実施形態は、種々の方法のなかの任意の方法で実行することができる。例えば、実施形態はハードウェア、ソフトウェアまたはこれらを組み合わせたもので実行することができる。ソフトウェアで実行する場合、ソフトウェアコードは、単一のコンピュータに設けられても複数のコンピュータに分散されても、任意の適切なプロセッサまたはプロセッサの集合体で実行することができる。上述の機能を実行する任意のコンポーネントまたはコンポーネントの集合体は、上述の機能を制御する1つまたは複数のコントローラであると一般的に見なすことができると理解されよう。1つまたは複数のコントローラは、専用のハードウェア、または上述の機能を実行するマイクロコードまたはソフトウェアを使ってプログラムされた汎用ハードウェア(例えば1つまたは複数のプロセッサ)などの種々の方法で実行することができる。この点において、本技術の実施形態の一実行は、プロセッサで実行されると上述の本技術の実施形態における機能を実行する、コンピュータプログラム(すなわち複数の命令)で符号化された、少なくとも1つのコンピュータ可読記憶媒体(例えば、コンピュータメモリ、フロッピーディスク、コンパクトディスク、テープ、フラッシュドライブなど)を含むと理解されよう。コンピュータ可読記憶媒体は可搬であり、それに記憶されたプログラムが任意のコンピュータリソースにロードされて、本明細書に記載する本技術の態様を実行することができる。更に、実行されると上述の機能を行うコンピュータプログラムに関して、これはホストコンピュータで動作するアプリケーションプログラムに限られないと理解されよう。むしろコンピュータプログラムという用語は、本明細書においては一般的な意味で、本技術の上述の態様を実行するようにプロセッサをプログラムするために用いることのできる任意のタイプのコンピュータコード(例えばソフトウェアまたはマイクロコード)を言及するために使用される。
【0204】
様々な発明の実施形態を本明細書に記載し、説明してきたが、当業者であれば、本明細書に記載する機能を果たす、ならびに/または結果および/もしくは利点のうちの1つもしくは複数を得るための、種々の他の手段および/または構造を容易に思い付くことができるだろう、そしてそのような変形物および/または変更物のそれぞれは、本明細書に記載する発明の実施形態の範囲内であると判断される。当業者であれば、本明細書に記載する具体的な実施形態の多くの均等物を認識しているか、または日常の実験のみを用いて確認することができるであろう。従って、上述の実施形態は例として提示されるに過ぎず、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、本発明の実施形態は具体的に記載され、請求項に記載された以外の方法で実施され得ることが理解できるであろう。本技術の発明の実施形態は、本明細書に記載する個々の特徴、システム、品物、材料、キットおよび/または方法に関するものである。更に、そのような特徴、システム、品物、材料、キットおよび/または方法が相互に矛盾していない場合、そのような特徴、システム、品物、材料、キットおよび/または方法の2つ以上の任意の組み合わせは、本開示の発明の範囲に含まれる。本明細書で定められ、使用される全ての定義は、辞書による定義、参照により援用された文献中の定義、および/または定義された用語の通常の意味よりも優先されると理解されたい。本明細書および請求項で使用される不定冠詞の「a」および「an」は、反することが明確に示されていない限り、「少なくとも1つの」を意味するものと理解されたい。
【0205】
本明細書および特許請求項の範囲で使用される「および/または」という語句は、この語句によって結合された要素の「片方または両方」、すなわち、場合によっては連言的に存在し、また場合によっては選言的に存在する要素を意味するものと理解されたい。「および/または」と共に記載される複数の要素も同様に解釈されるべきである、すなわち、そのように結合される要素のうちの「1つまたは複数」と解釈されるべきである。「および/または」節によって具体的に特定された要素以外の他の要素が、具体的に特定されたそれらの要素に関連していてもいなくても、任意選択的に存在することができる。従って、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」に対する言及は、「含む」などのオープンエンドな言語と併用される場合、一実施形態ではAのみ(任意選択でB以外の要素を含む);別の実施形態ではBのみ(任意選択でA以外の要素を含む);更に別の実施形態ではAおよびBの両方(任意選択で他の要素を含む)などのことを言及し得る。本明細書および特許請求の範囲で使用される「または」は、上に定義した「および/または」と同じ意味を有すると理解されたい。例えば、リスト内の項目を分ける場合、「または」または「および/または」は包括的、すなわち、多数の要素のうちの少なくとも1つを含むだけでなく、1超も含み、任意選択で他の列挙されていない項目も含むと解釈されたい。明らかに逆の意味を表す用語、例えば「〜の中の1つのみ」もしくは「〜の中の正確に1つ」、または請求項で用いられる場合の「〜からなる」は、多くの列挙された要素のうちの正確に1つの要素を含むことを言及する。一般に、本明細書で使用される「または」という用語は、「いずれか」、「〜の中の1つ」、「〜の中の1つのみ」または「〜の中の正確に1つ」などの排他的な用語が先行する場合、排他的代替(すなわち、「一方または他方だが両方ではない」)を示すとのみ解釈されたい。本明細書で使用する「本質的に〜からなる」という用語は、特許法の分野で使用される通常の意味を有する。本明細書および特許請求の範囲で使用される、1つまたは複数の要素のリストに関する「少なくとも1つの」という語句は、要素のリストのうちの1つまたは複数から選択された少なくとも1つの要素を意味するものと理解されたいが、要素のリスト内に具体的に列挙された全ての要素のうちの少なくとも1つを必ずしも含むわけではなく、要素のリスト内の要素の任意の組み合わせを排除するものでもないと理解されたい。またこの定義は、「少なくとも1つの」という語句が指す要素のリスト内で具体的に特定された要素以外の要素が、それらの具体的に特定された要素に関係していても関係していなくても任意選択で存在し得ることを許容するものである。従って、非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または均等的に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」または均等的に、「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態において、少なくとも1つのA、任意選択で2つ以上のAを含み、Bは存在しない(および任意選択でB以外の要素を含む)ことを指し、別の実施形態において、少なくとも1つのB、任意選択で2つ以上のBを含み、Aは存在しない(および任意選択でA以外の要素を含む)ことを指し、更に別の実施形態において、少なくとも1つのA、任意選択で2つ以上のA、および少なくとも1つのB、任意選択で2つ以上のB(および任意選択で他の要素)を含むことなどを指し得る。また、反することが明確に記載されていない限り、本明細書に記載する2つ以上のステップまたは行為を含む任意の方法において、この方法のステップまたは行為の順序は、当該方法のステップまたは行為が記載されている順序に必ずしも制限されないことを理解されたい。特許請求の範囲および上述の明細書において、「備える(comprising)」、「含む(including)」、「担持する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」、「保持する(holding)」、「〜から構成される(composed of)」などの全ての移行句は、オープンエンド、すなわち、「〜を含むがそれに限定されない」ことを意味すると理解されたい。
【0206】
本発明に関して本明細書で使用する「備える(comprises/comprising)」および「有する(having/including)という用語は、記載した特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を特定するために使用されるが、1つまたは複数のその他の特徴、整数、ステップ、構成要素またはその群の存在または追加を排除するものではない。明確にするために別の実施形態で記載された発明における特定の特徴は、単一の実施形態と組み合わせて提供することができると理解されよう。反対に、1つの実施形態に短く記載された発明の種々の特徴は、別々に、または任意の適切な組み合わせで提供することができる。