(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-534118(P2018-534118A)
(43)【公表日】2018年11月22日
(54)【発明の名称】生理学的データの獲得および解析のための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20181026BHJP
A61B 5/0404 20060101ALI20181026BHJP
A61B 5/0452 20060101ALI20181026BHJP
【FI】
A61B5/00 102C
A61B5/04 310H
A61B5/04 312A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-545697(P2018-545697)
(86)(22)【出願日】2016年11月16日
(85)【翻訳文提出日】2018年7月17日
(86)【国際出願番号】FR2016052973
(87)【国際公開番号】WO2017085403
(87)【国際公開日】20170526
(31)【優先権主張番号】1502422
(32)【優先日】2015年11月19日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
(71)【出願人】
【識別番号】518175603
【氏名又は名称】アットヘルス
【氏名又は名称原語表記】AT HEALTH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】クロン,ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】タルレ,ジャン−ミシェル
【テーマコード(参考)】
4C117
4C127
【Fターム(参考)】
4C117XB04
4C117XC15
4C117XE15
4C117XE17
4C117XE23
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4C127LL13
(57)【要約】
本発明は、生理学的信号の監視方法において、ユーザが装用する機器(DPR、E1、E2)を用いて少なくとも1つのデジタル化された生理学的信号のサンプルを獲得するステップと、デジタル化された生理学的信号内の事象を機器により検出し、検出された事象の特性を機器により抽出するステップと、事象および抽出された事象の特性中の異常を機器によりサーチするステップと、1つの異常が検出された場合に、移動体端末(MP)を介してサーバーに対して機器によりデジタル化された生理学的信号を、暗号化された形で無線リンクを介して伝送するステップであって、さもなければ、デジタル化された生理学的信号は機器によって消去されるステップと、を含む、生理学的信号の監視方法に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的信号の監視方法であって、
ユーザが装用する機器(DPR、E1、E2)を用いて少なくとも1つのデジタル化された生理学的信号(SGL)のサンプルを獲得するステップと、
デジタル化された生理学的信号内の事象を機器により検出し、検出された事象の特性を機器により抽出するステップと、
事象および抽出された事象の特性中の異常を機器によりサーチするステップと、
1つの異常が検出された場合または強化監視モードが起動された場合に、移動体端末(MP)を介してサーバー(SRV)に対して機器によりデジタル化された生理学的信号を、暗号化された形で無線リンクを介して伝送するステップであって、さもなければ、デジタル化された生理学的信号は機器によって消去されるステップと、
を含む、生理学的信号の監視方法。
【請求項2】
ユーザの皮膚と接触状態の電極(E1、E2)間のインピーダンス変動信号(IS)を獲得するステップと、
インピーダンス変動信号を閾値と比較するステップと、
インピーダンス変動信号が閾値を超えない場合に、電極がユーザの皮膚と接触状態でないことをユーザに知らせるために、移動体端末(MP)を介してユーザに宛てて通知を伝送するステップと、
インピーダンス変動信号が閾値を超えた場合に、インピーダンス変動信号からユーザの呼吸リズム(BR)を抽出するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
呼吸リズムを上下閾値(BRT1、BRT2)と比較するステップと、呼吸リズムが上下閾値間に含まれていない場合、異常を検出するステップとを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
デジタル化された生理学的信号(SGL)内で検出された事象の特性がデジタル化された生理学的信号から抽出されたパラメータを含み、抽出されたパラメータのうちの1つが、基準のデジタル化された信号(REF)から抽出された対応するパラメータの平均値に中心を置くウィンドウに属していない場合、異常が検出される、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
2つの優先レベル(AL1、AL2)の中から、検出された異常の処理優先レベルを決定するステップを含み、上位優先レベルの異常は下位優先レベルの異常よりも前に、サーバー(SRV)に接続されたオペレータ端末上に提示される(OT)、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
デジタル化された生理学的信号(SGL)が心電図信号を含み、検出される事象がパルスR、P、Q、SおよびTであり、事象から抽出される特性は、これらのパルスのそれぞれの振幅および/またはこれらのパルス間の時間的間隔の持続時間に関するものであり、パルスRは、心電図信号を閾値と比較することによってデジタル化された生理学的信号(SGL)内で検出され、パルスP、Q、SおよびTは、パルスRの検出の瞬間から決定されるウィンドウ内でサーチされる、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
単位時間あたりのパルスRの数を計数することにより心臓リズム(R−R)を決定するステップであって、測定された心臓リズムが、第1の不安定性閾値よりも高い不安定性を呈する場合、または測定された心臓リズムが、第1および第2の心臓リズム閾値(RT1、RT2)の間に含まれていない場合に、異常が検出されるステップ、および/または、
パルスQとSとの間の接続時間を決定するステップと、
パルスQとSとの間の持続時間を、パルスQとSとの間の持続時間閾値(QT2)と比較するステップであって、パルスQとSとの間の持続時間がパルスQとSとの間の持続時間閾値よりも長い場合に異常が検出されるステップ、および/または、
パルスPとRとの間の持続時間を決定するステップと、
パルスPとRとの間の持続時間の不安定性を第2の不安定性閾値と比較するステップと、
パルスPとRとの間の持続時間を、パルスPとRとの間の2つの持続時間閾値(PRT1、PRT2)と比較するステップと、
パルスPとRとの間の持続時間の不安定性が第2の不安定性閾値よりも高い場合、またはパルスPとRとの間の持続時間がパルスPとRとの間の持続時間の2つの閾値の間に含まれていない場合、異常を検出するステップと、
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
デジタル化された生理学的信号(SGL)が心電図信号を含み、検出される事象がパルスR、P、Q、SおよびTであり、デジタル化された生理学的信号(SGL)内で検出された事象から抽出される特性がこれらのパルスのそれぞれの振幅および/またはこれらのパルス間の時間的間隔の持続時間および/またはこれらのパルスのピークとベースとの間の勾配に関するものであり、方法が、
基準信号(REF)を獲得するステップと、
基準信号内のパルスR、P、Q、SおよびTの特性を決定するステップと、
基準信号のパルスR、P、Q、SおよびTから抽出された特性各々について、基準ウィンドウを決定するステップと、
デジタル化された生理学的信号から抽出された特性が、基準信号から決定された複数の基準ウィンドウ内の対応する基準ウィンドウ内にない場合に、警報信号を生成するステップと、
を含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
受信したデジタル化された生理学的信号(SGL)内の事象をサーバー(SRV)が検出し、検出された事象の特性をサーバーが抽出するステップと、
事象および抽出された事象の特性内の異常をサーバーがサーチするステップと、
サーバーが異常を検出した場合に、受信されたデジタル化された生理学的信号をサーバーがオペレータ端末(OT)に対して伝送するステップと、
を含む、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
サーバー(SRV)が受信したデジタル化された生理学的信号からオペレータ端末(OT)が生理学的信号を復元し表示するステップと、
表示スクリーン上に視覚化された生理学的信号に関する、オペレータ端末により発出された通知を、移動体端末(MP)に伝送し、移動体端末を用いてユーザにこの通知を伝送するステップと、
を含む、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
移動体端末(MP)に対してオペレータ端末(OT)が発出する通知が、
移動体端末から機器(DPR)に伝送される強化監視モードの起動命令であって、起動命令を受信した時点で、かつ強化監視モードが起動されているかぎり、機器が、デジタル化された生理学的信号(SGL)を伝送する起動命令、
ユーザが担当医の診察を受けるべきであることをユーザに知らせるために、移動体端末(MP)からユーザに伝送すべき通知、
ユーザが救護を待つかまたは緊急に病院に行くべきであることをユーザに知らせるために、移動体端末(MP)からユーザに伝送すべき通知、および、
移動体端末から機器に対して伝送される、事象および抽出された事象特性内の異常検出パラメータであって、機器が異常を検出するために受信した検出パラメータを使用するものであり、検出パラメータが、閾値および/または基準ウィンドウの幅、および/または基準ゾーンの寸法および位置を含む異常検出パラメータ、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ユーザにより装用され、デジタル化された生理学的信号(SGL)を実時間で獲得し、移動体端末を介してサーバー(SRV)にデジタル化された生理学的信号を伝送するように構成された、生理学的信号の監視用機器(DPR)において、
請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法を実施するために構成されていることを特徴とする機器。
【請求項13】
衣服(1)に内蔵された電極(E1、E2)および/またはセンサー、衣服に内蔵された導電性リンク(2、3)を介して電極および/またはセンサーに接続されたアナログ処理回路(AP、APC)、アナログ処理回路に接続されたデジタル処理回路(PRC)、デジタル処理回路に接続された発信/受信回路(TM)を含み、発信/受信回路が、移動体端末(MP)と通信するために構成されている、請求項12に記載の機器。
【請求項14】
電極(E1、E2)は、肩甲骨または胸骨レベルの肋骨の領域上でユーザの皮膚と接触状態であるような形で衣服(1)内に設置されており、電極が衣服上に印刷によって形成され、導電性リンク(2、3)は、絶縁層で被覆され衣服を形成する織地の中に挿入された導線によって形成されている、請求項13に記載の機器。
【請求項15】
サーバー(SRV)と、
サーバーとの通信を確立するための通信用回路を含むユーザの移動体端末(MP)と、
ユーザが装用し、デジタル化された生理学的信号(SGL)を実時間で獲得しデジタル化された生理学的信号を移動体端末を介してサーバーに伝送するように構成されている、機器(DPR)と、
を含む生理学的信号の監視システムにおいて、
請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法を実施するように構成されていることを特徴とする、生理学的信号の監視用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓および肺の活動に関する信号、および体温に関する信号などの生理学的信号の獲得および監視用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
概して、心臓活動の監視は、患者の皮膚上に電極を設置し、電極が提供する電気信号を増幅し記録することによって行なわれる。これらの電気信号を記録することによって、患者の心臓の電気的活動を表わす心電図(ECG)を構成することができる。今日、ECGは、心臓に悪影響を及ぼし得る一定数の病理学的状態を検出するために、一般的に使用されている。
【0003】
ECGデータの発生順の監視および記録用の携帯式デバイスが存在する。これらのデバイスのいくつかは、患者が装用するように、例えばそのベルトに取付けるように構想されたホルタータイプのケース内に配設され、このケースは、導線を介して患者の皮膚上に配置された電極に接続されている。こうして、これらのデバイスは、患者の通常の活動を混乱させることなく日中の心臓活動の記録を可能にする。記録されたデータは次に、患者の医学的診断を確立するため、バッチ処理で解析され得る。したがって、これらのデバイスは、患者の状態の実時間監視を可能にするものでないという大きな欠点を有する。実際、心臓の障害に結び付けられる多くの病理学的状態は、心臓の異常が適時に検出され処置されていたならば回避できるはずである。これらのデバイスは同様に、比較的重量および嵩の大きなものであり、電極は偶発的に剥ぎ取られ易い可能性があり、このため、特に患者の睡眠時には装用されないかもしれない。
【0004】
同様に、特にスポーツ活動の間常時装用されるように構想された、腕時計の形を呈するデバイスも存在する。しかしながら、これらのデバイスは概して、心臓リズムの獲得および表示に限定されており、この情報は心臓のいくつかの病理学的状態を検出するためには不充分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ECGデータまたはECGデータから抽出されたデータ、例えば心臓リズムデータを小型の獲得用ケースからインテリジェント電話機などの移動体端末に向かって例えばBluetooth(登録商標)タイプの無線リンクを用いて伝送することは、すでに提案されてきた。これらのデータを医療監視センタに向かって伝送するために、移動体端末の遠隔通信機能を運用することができる。しかしながら、獲得用デバイスおよび特に移動体端末のバッテリを節約するために、このように伝送されるデータの量を制限することが所望される。この制約は同様に、監視センタ内における膨大なデータの伝送および記憶用手段を必要とすることなく、同じ監視センタに多くの患者がECGデータを伝送できるようにすることも目指すものである。こうして、ECGデータが、正常なECG信号に対応すること、または過度の擾乱を受けていることを理由として、ECGデータがいかなる病理学的状態の検出もできない場合、これらのデータを監視センタに伝送する必要はない。しかしながら、ECGデータを監視センタに伝送することが一時的に不可能となった場合に、ECGデータが誤って退けられ、したがって監視センタに伝送されないかまたは患者が装用するデバイスによって局所的に記録されない、いわゆる「偽陰性」の場合を回避することが適切である。同様に、解析すべきECGデータの量を制限し、こうしてECGデータを手作業で解析することを担当する作業者の必要数を制限することを目的として、作業者による解析のために監視センタに伝送されるECGデータの量を制限することも所望される。
【0006】
したがって、一人の患者の健康状態についての信頼性の高い診断の確立を可能にするのに充分優れた品質の生理学的信号を獲得できるようにすることが所望される。同様に、この生理学的信号の獲得を一日超の長期間にわたり、好ましくは数日間にわたり実施でき、こうして患者の健康状態を常時監視できるようにすることも所望される。同様に、生理学的信号の獲得を担当するデバイスを、特に睡眠期間中の患者の安静を混乱させることなく数日間患者に容易に設置できること、そしてこのデバイスが全ての一般的な活動、特にスポーツ活動の実践と相容れるものであることも所望される。
【0007】
同様に、生理学的信号を実時間で処理して、そこに1つの病理学的状態を明らかにすることのできる異常を発見し、このような異常が検出され得る場合にのみこれらの信号を監視センタに伝送することも所望され得る。同様に、偽陰性の場合を回避し偽陽性の場合を制限しながら、この異常検出を実施することも所望され得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態は、生理学的信号の監視方法において、ユーザが装用する機器を用いて少なくとも1つのデジタル化された生理学的信号のサンプルを獲得するステップと、デジタル化された生理学的信号内の事象を機器により検出し、検出された事象の特性を機器により抽出するステップと、事象および抽出された事象の特性中の異常を機器によりサーチするステップと、1つの異常が検出された場合または強化監視モードが起動された場合に、移動体端末を介してサーバーに対して機器によりデジタル化された生理学的信号を、暗号化された形で無線リンクを介して伝送するステップであって、さもなければ、デジタル化された生理学的信号は機器によって消去されるステップと、を含む、生理学的信号の監視方法に関する。
【0009】
一実施形態によると、方法は、ユーザの皮膚と接触状態の電極間のインピーダンス変動信号を獲得するステップと、インピーダンス変動信号を閾値と比較するステップと、インピーダンス変動信号が閾値を超えない場合に、電極がユーザの皮膚と接触状態ではないことをユーザに知らせるために、移動体端末を介してユーザに宛てて通知を伝送するステップと、インピーダンス変動信号が閾値を超えた場合に、インピーダンス変動信号からユーザの呼吸リズムを抽出するステップと、を含む。
【0010】
一実施形態によると、方法は、呼吸リズムを上下閾値と比較するステップと、呼吸リズムが上下閾値間に含まれていない場合、異常を検出するステップとを含む。
【0011】
一実施形態によると、デジタル化された生理学的信号内で検出された事象の特性がデジタル化された生理学的信号から抽出されたパラメータを含み、抽出されたパラメータのうちの1つが、基準のデジタル化された信号から抽出された対応するパラメータの平均値に中心を置くウィンドウに属していない場合、異常が検出される。
【0012】
一実施形態によると、方法は、2つの優先レベルの中から、検出された異常の処理優先レベルを決定するステップを含み、上位優先レベルの異常は下位優先レベルの異常よりも前に、オペレータ端末上に提示される。
【0013】
一実施形態によると、デジタル化された生理学的信号は心電図信号を含み、検出される事象はパルスR、P、Q、SおよびTであり、事象から抽出される特性は、これらのパルスのそれぞれの振幅および/またはこれらのパルス間の時間的間隔の持続時間に関するものである。
【0014】
一実施形態によると、パルスRは、心電図信号を閾値と比較することによってデジタル化された生理学的信号内で検出され、パルスP、Q、SおよびTは、パルスRの検出の瞬間から決定されるウィンドウ内でサーチされる。
【0015】
一実施形態によると、方法は、単位時間あたりのパルスRの数を計数することにより心臓リズムを決定するステップであって、測定された心臓リズムが、第1の不安定性閾値よりも高い不安定性を呈する場合、または測定された心臓リズムが、第1および第2の心臓リズム閾値の間に含まれていない場合に、異常が検出されるステップ、および/または、パルスQとSとの間の持続時間を決定するステップと、パルスQとSとの間の持続時間を、パルスQとSとの間の持続時間閾値と比較するステップであって、パルスQとSとの間の持続時間がパルスQとSとの間の持続時間閾値よりも長い場合に異常が検出されるステップ、および/または、パルスPとRとの間の持続時間を決定するステップと、パルスPとRとの間の持続時間の不安定性を第2の不安定性閾値と比較するステップと、パルスPとRとの間の持続時間を、パルスPとRとの間の2つの持続時間閾値と比較するステップと、パルスPとRとの間の持続時間の不安定性が第2の不安定性閾値よりも高い場合、またはパルスPとRとの間の持続時間がパルスPとRとの間の持続時間の2つの閾値の間に含まれていない場合、異常を検出するステップと、を含む。
【0016】
一実施形態によると、方法は、受信したデジタル化された生理学的信号内の事象をサーバーが検出し、検出された事象の特性をサーバーが抽出するステップと、事象および抽出された事象の特性内の異常をサーバーがサーチするステップと、サーバーが異常を検出した場合に、受信されたデジタル化された生理学的信号をサーバーがオペレータ端末に対して伝送するステップと、を含む。
【0017】
一実施形態によると、方法は、サーバーが受信したデジタル化された生理学的信号からオペレータ端末が生理学的信号を復元(reconstitution)し表示するステップと、表示スクリーン上に視覚化された生理学的信号に関する、オペレータ端末により発出された通知を、移動体端末に伝送し、移動体端末を用いてユーザにこの通知を伝送するステップと、を含む。
【0018】
一実施形態によると、移動体端末に対してオペレータ端末が発出する通知が、移動体端末から機器に伝送される強化監視モードの起動命令であって、この起動命令を受信した時点で、かつ強化監視モードが起動されているかぎり、機器が、デジタル化された生理学的信号を伝送する起動命令;ユーザが担当医の診察を受けるべきであることをユーザに知らせるために、移動体端末からユーザに伝送すべき通知;ユーザが救護を待つかまたは緊急に病院に行くべきであることをユーザに知らせるために、移動体端末からユーザに伝送すべき通知、および移動体端末から機器に対して伝送される、事象および抽出された事象特性内の異常検出パラメータを含む通知であって、機器が異常を検出するために受信した異常検出パラメータを使用する通知;のうちの少なくとも1つを含む。
【0019】
実施形態は同様に、ユーザにより装用され、デジタル化された生理学的信号を実時間で獲得し、移動体端末を介してサーバーにデジタル化された生理学的信号を伝送するように構成された、生理学的信号の監視用機器において、先に定義した方法を実施するために構成されている機器に関するものでもあり得る。
【0020】
一実施形態によると、機器は、衣服に内蔵された電極および/またはセンサー、衣服に内蔵された導電性リンクを介して電極および/またはセンサーに接続されたアナログ処理回路、アナログ処理回路に接続されたデジタル処理回路、デジタル処理回路に接続された発信/受信回路を含み、発信/受信回路は、移動体端末と通信するために構成されている。
【0021】
一実施形態によると、電極は、肩甲骨または胸骨レベルの肋骨の領域上でユーザの皮膚と接触状態であるような形で衣服内に設置されており、電極が衣服上に印刷によって形成され、導電性リンクは、絶縁層で被覆され衣服を形成する織地の中に挿入された導線によって形成されている。
【0022】
実施形態は同様に、サーバーと、サーバーとの通信を確立するための通信用回路を含むユーザの移動体端末と、ユーザが装用し、デジタル化された生理学的信号を実時間で獲得しデジタル化された生理学的信号を移動体端末を介してサーバーに伝送するように構成されている機器と、を含む生理学的信号の監視システムにおいて、先に定義した方法を実施するように構成されている生理学的信号の監視用システムにも関し得る。
【0023】
以下では、本発明の実施例が、添付図面と関連づけて、非限定的なものとして説明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態に係る、患者について得られた生理学的信号の獲得および監視用システムを概略的に表わす。
【
図2】一実施形態に係る、患者が装用するための生理学的信号の獲得および処理用デバイスを概略的に表わす。
【
図3A.3B.3C】各種の実施形態に係る、獲得および処理用デバイスの要素が内蔵されている衣服を概略的に表わす。
【
図4】一実施形態に係る、獲得および処理用デバイスにおいて実施される手順ステップを表わす。
【
図5A.5B】一実施形態に係る、ECG信号の解析方法を例示するECG信号の概略的波形を表わす。
【
図6.7.8.9.10】各種の実施形態に係る、獲得および処理用デバイスにおいて実施される手順ステップを表わす。
【
図11】別の実施形態に係る、ECG信号の解析方法を例示するECG信号の概略的波形を表わす。
【
図12】獲得用システムのハードウェアアーキテクチャの一実施例を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、医療監視サービスの実施を目的とした、一実施形態に係る一患者について得られた生理学的信号の獲得および監視用システムを表わす。獲得および監視用システムは、センサーおよび/または電極E1、E2を含む患者により装用される生理学的信号の獲得用デバイス、センサーおよび/または電極E1、E2によって提供される信号の処理用回路DPR、インテリジェント電話機(「スマートホン」)などの移動体端末MP、およびサーバーSRVを含む。端末MPおよび回路DPRは、例えばBLE(Bluetooth Low Energy)タイプの無線リンクWLを介して互いに通信する。端末MPおよびサーバーSRVは、インターネットネットワークおよび1つ以上の移動体電話ネットワークなどのネットワークNTを介して互いに通信する。センサーおよび電極E1、E2は、特に、心臓リズムおよび/または心電図および/または皮膚コンダクタンス(Galvanic Skin Response)および/または呼吸リズムを収集するための電極、体のpH測定用センサー、体温測定用センサー、血圧センサー、グルコース、腫瘍マーカー、妊娠マーカーなどの化学元素濃度の検出および/または測定用の1つ以上のセンサーのうちの1つ以上の要素を含むことができる。
【0026】
端末MPは、リンクWLを介してウェイクアップ信号を処理用回路DPRに送り、リンクWLにより接続された処理用回路DPRの存在を検出し、リンクWLにより接続された処理用回路DPRの存在に関する情報をそのスクリーン上に表示するように構成された専用アプリケーションを実行することができる。この専用アプリケーションは同様に、処理用回路DPRが獲得した信号に関するデータを受信しこれらのデータをサーバーSRVに再伝送するように構成されている。この専用アプリケーションは同様に、例えばサーバーSRVから指令を受信しそれを処理用回路DPRに再伝送するように構成されている。回路DPR向けの指令は、回路DPR内にインストールされたソフトウェアのアップデート指令、回路DPRの機能パラメータのアップデート指令、さらには例えば12時間毎または24時間毎に、獲得された信号またはこれらの信号の特性をパケット式で例えば記憶および伝送することを開始させる指令、を含むことができる。この専用アプリケーションは同様に、端末MPの表示スクリーンに患者のために提示すべき通知をサーバーSRVから受信するように構成されている。こうして、複数の通知が想定され得る。これらの通知は、患者が緊急では無くまたは緊急に医者の診察を受けるべきであること、または緊急に病院に行くかまたは救護の到着を待つべきであることを患者に知らせるメッセージの、端末MPのスクリーンでの表示を、サーバーSRVから開始できるようにすることができる。このために、端末MPは、GPS(Global Positioning System)などの地理的定位回路を含むことができ、専用アプリケーションは、端末の定位回路が提供した地理的位置をサーバーSRVの要求に基づいて伝送するように構成されている。
【0027】
サーバーSRVは、生理学的信号の獲得用デバイスを装用する患者に関するデータおよびこれらのデバイスによって伝送された生理学的信号に関するデータが中に記憶されているデータベースDBに接続されている。
【0028】
図2は、一実施形態に係る処理用回路DPRを表わす。回路DPRは、センサーおよび/または電極E1、E2に接続されたアナログ処理用回路AP、アナログ/デジタル変換用回路ADC、プロセッサPRCおよび伝送用インタフェース回路TMを含む。アナログ回路APは、処理すべき信号1つあたり1本の信号処理用アナログチャネルを含む。各々の信号処理用チャネルは、特に1つ以上のフィルタおよび1つの信号増幅器を含む。回路ADCは、回路APにより処理された信号を受信し、それらをデジタル化し、デジタル化された信号をプロセッサPRCに提供する。信号のデジタル化は、処理すべき信号のタイプに応じて、25〜800Hzに定められたサンプリング周波数で12または16ビットにわたり実施され得る。ECG信号については、サンプリング周波数は、例えば500Hzに定められ得る。プロセッサPRCは、インタフェース回路TMにより伝送すべき生理学的データを作成するために、変換用回路ADCが提供したデジタル化された信号を処理する。プロセッサPRCは、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラを含むことができ、特に回路ADCから受信した信号からプロセッサが作成した生理学的データを記憶する目的で揮発性および/または不揮発性タイプの1つ以上のメモリMEMに接続され得る。
【0029】
回路DPRは同様に、伝送用インタフェース回路TMによる伝送前にプロセッサPRCにより作成された生理学的データを暗号化するための暗号化回路DENCをも含むことができる。このために、暗号化用回路DENCは、この回路とサーバーSRVのみが知る対称暗号化鍵またはサーバーSRVのみが知る秘密鍵に対応する非対称暗号化用公開鍵を使用することができる。一実施形態によると、回路DENCは、256ビットまたは512ビットの暗号化用鍵を使用してアルゴリズムAES(Advanced Encryption Standard)を実施する。
【0030】
プロセッサPRCは、メモリに記憶されたプログラムによって、回路ADCにより提供されたデジタル化された信号を処理し、そこに事象を検出し、回路DENCによるその暗号化を指令し、端末MPに伝送し、端末MPから受信した指令に基づき記録するように構成されていてよい。
【0031】
当然のことながら、システムは、電極またはセンサーに接続された別の獲得用チャネルを含むことができ、各々の獲得用チャネルは、1つ以上のフィルタ、1つ以上の信号増幅器および場合によってアナログ/デジタル変換器を含むアナログ回路を含む。
【0032】
図3A、3B、3Cは、処理用回路DPR、電極E1、E2、電極E1、E2間の電気的接続用リンク2、3、および回路DPRが内部に内蔵されている下着(Tシャツ)などの衣服1を表わす。電極E1、E2は、例えば
図3A、3B、3C上に表わされているような肩甲骨の領域内かまたは胸骨レベルで肋骨の前方領域内など、患者の皮膚と接触状態にとどまることが保証されている場所で衣服1上に配置される(医療ECGにおける誘導DI)。例えば回路DPRは、例えば衣服1の裏張りまたは折返し縁の中さらには衣服上に形成されたポケットの中に、充電式バッテリと共に収納され得る。バッテリとバッテリの外部充電用回路との間の接続は、誘導結合によって保証されることができる。衣服1は同様に、レオタード、ブラシエール、ブラジャーまたは、胸郭固定帯でもあり得る。
【0033】
一実施形態によると、電極E1、E2は乾性電極である。これらの電極は、例えばPEDOT:PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフエン:ポリ(スチレンスルフオネート)ナトリウム)系の導電性インキを用いて、衣服1の織地上(または織地上に被着したPDMS−ポリジメチルシロキサンのコーティング上)に、塗料を塗布するかまたは印刷する技術によって実現可能である。皮膚との良好な電気的接触を保証するために、電極を、塗料の塗布または印刷技術によって同じく被着され得るイオン性ゲル(ポリマーマトリクス内に閉じ込められたイオン性導電性液体)で被覆することができる。電極E1、E2は同様に、INOXまたは金などの金属材料で製作され、あらゆる手段で衣服上に固定されてよく、皮膚との接触にはこれらの電極の位置付け(肩甲骨、肋骨)が有利に作用する。
【0034】
電気リンク2、3は、電気絶縁層で被覆され衣服1の織地を形成する糸と共に編組または製織された、または衣服上に貼着されるかさらには衣服上に形成された織物製ポケット内に収納された導線(Al、Au、Ag、Cu)を用いて実現可能である。こうして、電気リンク2、3を形成する導線は、PET(ポリエチレンテレフタラート)などの樹脂中に浸漬することによって絶縁することができる。
【0035】
回路DPRは、可撓性支持体上に形成させ、防水性および可撓性を有する材料中に埋込まれることができる。こうして回路DPRは、例えばPDMS、PETまたはポリイミド製の基板上に形成され、これらの材料の1つの中またはアルミナ中に封入されてよい。回路DPRを形成する構成要素は、薄化して、「ピックアンドプレース(pick and place)」プロセスによって基板上に封入されることなく被着されてよい。回路DPRを形成するさまざまな構成要素としては、アナログ回路APおよび変換器ADC、暗号化機能ENCを含むマイクロコントローラPRC、通信モジュールIM(BluetoothまたはBLE)、剛性、変形性または可撓性のある大容量バッテリまたはコンデンサ、Bluetooth/BLEアンテナおよび誘導式バッテリ充電用のアンテナコイルが含まれ得る。回路DPRの封入は、原子層プロセスALD(Atomic Layer Deposition)によって実施可能である。電極E1、E2、導線2、3および回路DPRの間の接続は、リフローはんだづけ(「reflow soldering」)によって、またはより一般的にはワイヤーボンディング技術(wire−bonding)によって、および/またはフリップチップ(flip−chip)を用いて実現可能である。
【0036】
一実施形態によると、アナログ処理用回路APは、回路DPR内ではなく、電極E1、E2の一方および/または他方に結び付けられた状態で実現可能である。こうして回路APは、過度の劣化なく導線2、3により回路DPRに伝送され得るアナログ信号を生成するように構成され得る。
【0037】
図4は、一実施形態に係るプロセッサPRCによる信号解析手順P1のステップS1〜S9を表わしている。解析される信号は、変換用回路ADCによって提供される。ステップS1およびS2が最初に実行される。ステップS1において、プロセッサPRCは、例えば10数秒〜1分の持続時間を有するデジタル化された信号SGLの1タイムスロットのサンプルを受信する。ステップS2では、プロセッサPRCは、獲得した信号SGLが一人の人間の生理学的信号を表わすものであるか、または換言すると、電極E1、E2が患者の皮膚と正しい接触状態であるか、あるいはセンサーが生理学的信号を正しく受信しているかを決定する。獲得した信号が一人の人間の生理学的信号を表わすものでない場合、プロセッサPRCはステップS7を実行し、正しく表している場合、プロセッサはステップS3およびS4を実行する。ステップS3において、プロセッサは、受信したデジタル化された信号SGLを解析して、測定すべき特徴的要素をそこでサーチする。ステップS4において、受信された信号SGL内にサーチ対象の特徴的要素が検出された場合、プロセッサPRCはステップS5およびS6を実行し、検出されない場合ステップS8を実行する。ステップS5において、プロセッサPRCは、信号SGLおよび検出された信号の特徴的要素を処理して、そこで異常を検出する。ステップS6では、いかなる異常も検出されなかった場合、このように解析されたデジタル化された信号SGLのタイムスロットは消去され、手順P1は、デジタル化された信号SGLの新しいタイムスロットを獲得し解析するためステップS1から新たに実行される。反対に、ステップS6において異常が検出された場合、プロセッサPRCはステップS9を実行し、ここでプロセッサは、異常の重大性に応じて、一定の時間中に受信された信号SGLの伝送および/または記録、および/またはサーバーSRVに対する警報信号ALの伝送などの監視用オペレーションを開始または続行する。ステップS7において、電極および/またはセンサーが正しく位置付けされていないことを患者に警告する通知の表示を端末のスクリーンにおいて開始するために、端末MPに対して警報メッセージが伝送される。端末MPは、警報メッセージをサーバーSRVに再伝送することもできる。
【0038】
ステップS8において、プロセッサPRCにより受信された信号SGLが期待される形状から過度にかけ離れた形状を有する場合、そのとき、移動体端末MPおよび/またはサーバーSRVに対し警報信号ALが伝送され得る。信号の性質に応じて、移動体端末MPを介してサーバーSRVに信号SGLを伝送するかまたは記録することを決断することも同様に可能である。ステップS6、S7、S8およびS9のうちの1つを実行した後、デジタル化された信号SGLの新しいタイムスロットを獲得し解析するために、ステップS1から手順P1が新たに実行される。
【0039】
端末MPとのリンクが不在である場合、プロセッサPRCは、リンクの再開を待つ間、伝送すべきデータ、すなわち受信された信号SGLおよび/または受信信号から抽出された特徴的要素ならびに警報メッセージを記録することができる。
【0040】
異常検出は、デジタル化された信号SGLを基準のデジタル化された信号と比較すること、または信号SGLから抽出された特性を基準信号から抽出された対応する特性と比較することからなり得る。基準信号は、例えば異なる状況下で、患者が健康な時に患者自身について獲得された1つ以上の信号から決定されたものであり得る。
【0041】
図5A、5Bは、アナログ処理用回路APにより提供され得るような、2回の心臓の鼓動を含む通常の信号ECGの特徴的波形を表わす。この波形は、後続する心臓の鼓動のパルスPとパルスTまたはUとの間で概して検出される「等電位ライン」と呼ばれる基本電圧Iから延びるパルスP、Q、R、S、TおよびUを含む。パルスRは、瞬間t0、t1、...で発生し(
図5A)、正の電圧に向かってとがった形状を呈する。パルスRは、他の全てのパルスP、Q、S、T、Uに比べて高い振幅と比較的短い持続時間を有することから、心臓リズムを決定するために、パルスが概して使用される。パルスPは、瞬間tj−tP(j=0、1、...)において、つまりパルスRより一定時間tPだけ前に発生する。パルスPは、正の電圧に向かって、パルスRの持続時間を上回る比較的長い持続時間DP(
図5B)および比較的小さい振幅の丸味のある形状を有する。パルスQは、瞬間tj−tQ(j=0、1...)において、つまりパルスRよりも一定時間tQだけ前に発生する。パルスQは、負の電圧に向かって、比較的短い持続時間および小さい振幅のとがった形状を有する。パルスSは、パルスRより一定時間tS後である瞬間tj+tS(j=0、1、...)においてパルスRに後続し、負の電圧に向かってとがった形状を有する。パルスQおよびSは、ほぼ同じ持続時間および同じ振幅を有する。パルスTは、パルスRより一定時間tT後である瞬間tj+tT(j=0、1、...)において発生する。パルスTは、正の電圧に向かって丸味のある形状、パルスPとRの振幅の間に位置する比較的高い振幅、およびパルスPの持続時間よりも大きい持続時間DTを有する。パルスUは、パルスTの直後に続く正の電圧に向かって丸味のある形状の小さいパルスを有する。パルスUは、25〜50%の場合において信号ECGに不在である。
【0042】
信号ECGのいくつかの特性を解析して、病理学的状態を検出することができる。こうして、パルスPの振幅および持続時間、パルスPの終期とパルスQの始期との間のセグメントPRの持続時間、パルスPの始期とパルスQの始期との間の間隔PRの持続時間、パルスQの始期とパルスSの終期との間のQRS群の持続時間、パルスSの終期とパルスTの始期との間のセグメントSTの形状および持続時間、パルスTの形状、パルスQの始期とパルスTの終期との間のセグメントQTの持続時間、ならびに場合によってはパルスUの形状を解析することが公知である。
【0043】
信号が信号ECGである場合には、
図4上のステップS2は、信号SGL内のパルスRの存在のサーチを含み得る。ステップS3は、信号SGL内のパルスP、Q、SおよびTの存在のサーチを含み得る。ステップS5は、少なくともこれらのパルスのうちの1つが信号SGL内で検出された場合に実行可能である。ステップS8は、信号SGL内でパルスP、Q、SおよびTのいずれも検出され得ない場合に実行される。パルスRが検出されない場合に実行されるステップS7においては、電極E1、E2が患者の皮膚と接触状態にあるか否かを決定するために別の信号を解析することができる。ステップS7で実施される処理はこの検出によって左右される。したがって、電極E1、E2が皮膚と接触状態にあると検出されない場合、プロセッサPRCは、衣服1を身につけるべきであることを患者に知らせるため、端末のスクリーンに表示すべき通知を端末MPに対して送る。電極が患者の皮膚と接触状態であると検出された場合、プロセッサPRCは、警報信号ALを端末MPを介してサーバーSRVに送る。
【0044】
信号ECGの場合、ステップS2は、デジタル化された信号のサンプルを、例えばI+0.3mVに定められた電圧閾値RTと比較することからなり得(
図5)、信号ECGの電圧が閾値RTを超えた場合、パルスRは検出されたものとみなされる。信号ECGの比較から心臓リズムを抽出できる場合、プロセッサPRCはステップS3において他のパルスP、Q、SおよびTの検出を試みる。これらのパルスは、瞬間tj(j=0、1、...)において検出された各パルスRから検出され得る。こうして、パルスPのピークは、時間的間隔[tj−tP−DP/2、tj−tP+DP/2](j=0、1、...)内で最大値を求めることにより検出可能である。パルスQのピークは、時間的間隔[tj−tQ−DQ/2、tj−tQ+DQ/2](j=0、1、...)内の最小値を求めることによって検出可能である。パルスSのピークは、時間的間隔[tj+tS−DS/2、tj+tS+DS/2)](j=0、1、...)内の最小値を求めることによって検出可能である。パルスTのピークは、時間的間隔[tj+tT−DT/2、tj+tT+DT/2](j=0、1、...)内の最大値を求めることによって検出可能である。健康な人については、値tPおよびDPを例えばそれぞれ145msおよび130msに定めることができ、値tQおよびDQを例えばそれぞれ60msおよび20msに定めることができ、値tSおよびDSを例えばそれぞれ60msおよび20msに定めることができ、値tTおよびDTを例えばそれぞれ300msおよび200msに定めることができる。
【0045】
一実施形態によると、プロセッサPRCは、ステップS5において、パルスP、Q、SおよびTのそれぞれの振幅が特定の範囲内に位置することを確認する。それが該当しない場合(ステップS6)、異常が検出されたとみなされ、ステップS9が実行される。こうして、プロセッサPRCは、パルスPの最大値が間隔[0、DVP]内に位置すること、パルスQの最小値が間隔[−DVQ、0]内に位置すること、パルスSの最小値が間隔[−DVS、0]内に位置すること、およびパルスTの最大値が間隔[mT、mT+DVT]内に位置することを確認する。健康な人については、値DVPおよびDVQ、DVS、DVTおよびmTは例えば、それぞれI+0.25mV、I+0.3mV、I+0.5mV、I+0.25mVおよびI+0.05mVに定められる。
【0046】
ステップS5、S6において、パルスP、QおよびTのピークが以上で定義されたウィンドウ内にない場合、プロセッサPRCは、インタフェースTMによりサーバーSRVに対して、信号SGLおよび信号ECGの監視を開始できるようにする警報信号AL1を送る(ステップS9)。パルスRが検出されない場合(閾値RTの超過)、およびパルスSのピークが以上で定義されたウィンドウ内にない場合、プロセッサPRCは、インタフェースTMによりサーバーSRVに対して、信号SGLおよび警報信号AL1より高い重大性レベルの警報信号AL2を送る(ステップS9)。警報信号AL1およびAL2は、サーバーSRVに接続されたオペレータの端末OTに伝送される。警報信号AL1、AL2は、結び付けられた信号SGLの処理のための異なる優先レベルを定義することを可能にし、警報信号AL2に結び付けられた信号SGLは、サーバーSRVに接続されたオペレータにより優先的に処理される。
【0047】
ステップS5において、プロセッサPRCは同様に、パルスSの終期とパルスTの始期との間のセグメントSTの持続時間および形状を確認することもできる。信号SGLのこれらの要素が適合していない場合、プロセッサPRCは、インタフェースTMによりサーバーSRVに対して、信号SGLおよび警報信号を送る。例えば、セグメントSTの適合性は、瞬間tj+100ms(j=0、1、...)において、信号SGLの電圧がI−0.02を超えるかまたはこの値とI+0.02mVとの間に含まれていること(電圧IにおけるセグメントSTの存在)、および瞬間tj+200msとtj+400msとの間で、信号SGLが、パルスTの存在を示す電圧I(例えば0mV)を超える1つ以上の値を有すること、を確認することからなり得る。電圧IにおけるセグメントSTが不在である場合、プロセッサPRCは、インタフェースTMによりサーバーSRVに対し、信号SGLおよび警報信号AL2を送ることができる。パルスTが不在である場合、プロセッサPRCは、インタフェースTMによりサーバーSRVに対して、信号SGLおよび警報信号AL1を送ることができる。
【0048】
パルスRが検出された場合、プロセッサPRCは同様に、ステップS3において、10数秒〜1分の各周期中の心臓リズムの平均値および標準偏差を計算して記録し、例えば12時間または24時間毎にサーバーSRVに対してこれらのデータをパケット式で送信することもできる。
【0049】
図6〜9は、手順P1のステップS2またはS5の間に同じく実行可能である、信号ECGの特徴的要素の解析および異常の処理の手順の他のステップを提示している。
【0050】
図6は、手順P1のステップS1、S2、S3およびS7の間にそれぞれ実行可能なステップS11〜S14を表わす。ステップS11において、回路AP、ADCにより獲得された別の信号ISが、処理用回路DPRによって処理される。信号ISの獲得周期は、信号SGLのものと同一であって、信号ISおよびSGLが交互に獲得されるようになっていてよい。信号ISは、患者の呼吸活動を表わすものであり得る。この信号は、例えば電極E1とE2との間のインピーダンスを連続的に測定することによって獲得することができる(
図3A)。このために例えば、1〜40kHzの周波数において5〜100μAの強さの電流を、電極E1、E2間に送ることができる。このとき、電極間の電圧測定値から、インピーダンス測定値を得ることができる。典型的に、こうして測定され得るインピーダンスは、0.1〜1kOhmの間に位置する中央値を中心にして、−0.1〜+0.1Ohmの間で変動する。
【0051】
ステップS12において、信号ISは、電極E1、E2が皮膚と接触状態にあるか、およびこの信号が呼吸リズムを表わすものであるか、を決定するために解析される。信号ISが例えば2kOhmの第1のインピーダンス閾値より低いものにとどまる場合、電極E1、E2は皮膚と接触状態にあると決定することができる。電極E1、E2が患者の皮膚と接触状態であると検出されない場合、プロセッサはステップS14(またはS7)を実行し、ここでプロセッサは移動体端末MPに対し、電極が患者の皮膚と接触状態にないことを患者に警告するための通知を伝送する。この通知は、サーバーSRVに対しても同様に伝送され得る。ステップS12において、インピーダンス信号が正しく検出された場合、それは、電極E1、E2が患者の皮膚と正しく接触状態であること、および信号SGLが患者上で正しく測定されていることを意味する。このとき、プロセッサはステップS13を実行し、ここでプロセッサは呼吸リズムBRを検出しようとする。呼吸リズムBRは、信号ISを第2のインピーダンス閾値と比較し、例えば500Ohmに定められた閾値を信号ISが超過する単位時間あたりの回数を計数することによって、得ることができる。ステップS13およびS14の終了時点で、プロセッサPRCは、新たにステップS11を実行する。
【0052】
図3Bに例示されているように、基準電極として役立つ第3の電極E0を想定することができる。一方では電極E1と基準電極との間、他方では電極E2と基準電極との間(医療ECGにおける誘導DIIおよびDII)の経胸郭インピーダンスを決定するために、電極E1、E2の各々と基準電極E0との間で、経胸郭インピーダンス値が測定される。電極E0は同様に、電極E1と電極E0との間および電極E2と電極E0との間の電圧の変動に対応する信号SGLを測定するためにも使用可能である。当然のことながら、これらのインピーダンスおよび電圧測定を実施するために、各電極E1、E2を個別の基準電極に結び付けることができる。こうして、
図3Cに例示されているように、電極E1は第1の基準電極E3に結び付けられ、電極E2は第2の基準電極E4に結び付けられる。電極E1と電極E3との間および電極E2と電極E4との間の経胸郭インピーダンスを決定するために、電極E1と基準電極E3との間および電極E2と電極E4との間の経胸郭インピーダンス値が測定される。
【0053】
図7は、信号SGL内で心臓リズムが検出された場合に実行される心臓リズムの解析ステップS20〜S26を表わす。これらのステップは、手順P1のステップS5で実行され得る。ステップS20において、プロセッサPRCは、信号ECGのパルスRが発生する瞬間を検出する。ステップS21において、プロセッサPRCは、例えば10数秒〜1分の間の一定の時間、例えば平均値を中心にして−15%〜+15%の間の間隔内にとどまっているか否かを決定することによって、心臓リズムR−Rの安定性を評価する。ステップS21において、心臓リズムが安定している場合、プロセッサPRCはステップS22を実行し、安定していない場合ステップS26を実行する。ステップS22において、プロセッサPRCは、平均心臓リズムR−Rを上閾値RT2と比較する。パルスRの検出から演繹された平均心臓リズムR−Rが閾値RT2を上回る場合、プロセッサPRCはステップS26を実行し、そうでなければステップS23を実行する。ステップS23において、プロセッサPRCは、平均心臓リズムR−Rを下閾値RT1と比較する。平均心臓リズムR−Rが閾値RT1を下回る場合、プロセッサPRCはステップS25を実行し、そうでなければ(心臓リズムR−Rは閾値RT1とRT2との間に含まれる)、心臓リズムの監視は、新たにステップS20およびS21を実行することによって続行される。閾値RT1、RT2は、患者のプロフィールによって左右される。健康な人については、閾値RT1およびRT2は例えば、それぞれ連続する2つのパルスRの間の持続時間について400msおよび1600ms、つまりそれぞれ毎分50回および150回の鼓動に定められる。ステップS25において、プロセッサPRCは、インタフェースTMによりサーバーSRVに対して、信号SGLおよび、サーバーSRVに接続された端末を利用できる作業者による信号ECGの監視を開始させることのできる警報信号AL1を送る。ステップS26において、プロセッサPRCはサーバーSRVに対し、信号SGLおよび警報信号AL2を伝送する。
【0054】
その上、サーバーSRVによる警報信号AL1、AL2の受信は、オペレータから患者への、例えばその端末MPへの、医者の診察を受けるよう患者に要求するメッセージの伝送を開始し得る。警報信号AL1、AL2を受信したオペレータは緊急手順を開始することができ、患者の端末MPに伝送されたメッセージは、緊急に医者の診察を受けるべきであることを患者に警告できる。警報信号AL1、AL2は同様に、これらの信号がサーバーSRVに伝送される前に、患者の端末MP上でのメッセージの表示を開始することもできる。ステップS25およびS26終了時に、プロセッサPRCは、心臓リズムR−Rを新たに獲得し解析するため、ステップS20から
図7のステップを新たに実行する。
【0055】
図8は、信号ECGのQRS群の解析ステップS30〜S35を表わす。これらのステップは、パルスQおよびSがパルスRの前後にそれぞれ検出される場合、手順P1のステップS5で実行され得る。ステップS30において、プロセッサPRCは、信号ECGのQRS群を解析して、特にその持続時間を決定する。ステップS31において、プロセッサPRCはこの持続時間を上閾値QT2と比較する。QRS群の持続時間が閾値QT2を上回る場合、プロセッサPRCはステップS33を実行し、そうでなければ手順は、QRS群の新たな発生を獲得し解析するために、新たにステップS30から実行する。ステップS33において、プロセッサPRCは、心臓リズムR−Rを閾値RT3と比較する。健康な人については、閾値QT2およびRT3は例えば、それぞれ毎分120回の鼓動の心臓リズムに対応する120msおよび500msに定められる。心臓リズムR−Rが閾値RT3を上回る場合、プロセッサはステップS34を実行し、そうでなければステップS35を実行する。ステップS34およびS35において、プロセッサPRCはサーバーSRVに対して信号SGL、およびそれぞれ警報信号AL1およびAL2を伝送する。ステップS34およびS35の終了時に、手順は新たにステップS30から実行される。
【0056】
図9は、信号ECGのセグメントPRの持続時間の解析ステップS40〜S46を表わす。パルスPがパルスRの前に検出された場合、これらのステップは手順P1のステップS5で実行され得る。ステップS40において、プロセッサPRCは、セグメントPRを解析して、特にその持続時間を決定する。ステップS41において、例えば10数秒〜1分の間の一定の時間、セグメントPRの持続時間が、例えば平均値を中心として−15%〜+15%の間の間隔内にとどまっているか否かを決定することによって、この持続時間の安定性が解析される。セグメントPRの持続時間が安定している場合、プロセッサPRCはステップS42を実行し、安定していない場合ステップS46を実行する。ステップS42において、プロセッサPRCは、セグメントPRの持続時間を下閾値PRT1と比較する。セグメントPRの持続時間が閾値PRT1を上回る場合、プロセッサはステップS43を実行し、そうでなければステップS44を実行する。ステップS43において、セグメントPRの持続時間が上閾値PRT2を上回る場合、プロセッサPRCはステップS45を実行し、そうでなければ(セグメントPRの持続時間は閾値PRT1とPRT2との間に含まれる)、手順は、セグメントPRの新たな発生を獲得し解析するため、ステップS40から新たに実行される。健康な人については、閾値PRT1およびPRT2は例えば、それぞれ80msおよび250msに定められる。ステップS44において、プロセッサPRCは、心臓リズムR−Rを閾値RT2と比較する。心臓リズムR−Rが閾値RT2を上回る場合、プロセッサはステップS46を実行し、そうでなければステップS45を実行する。ステップS45およびS46において、プロセッサPRCはサーバーSRVに対して信号SGL、およびそれぞれに警報信号AL1および警報信号AL2を伝送する。ステップS45およびS46の終了時に、手順は新たにステップS40から実行される。
【0057】
図10は、ステップS2で獲得した信号ISから抽出された呼吸リズムBRの解析ステップS50〜S54を表わす。これらのステップは、手順P1のステップS5中にプロセッサPRCにより実行され得る。ステップS50において、呼吸リズムは、アナログ回路APおよび回路ADCによって提供されるインピーダンス信号から抽出される。ステップS51において、プロセッサPRCは呼吸リズムBRを下閾値BRT1と比較する。呼吸リズムBRが閾値BRT1を下回る場合、プロセッサPRCはステップS52を実行し、そうでなければステップS53を実行する。ステップS53において、プロセッサPRCは呼吸リズムBRを上閾値BRT2と比較する。呼吸リズムBRが閾値RT2を上回る場合、プロセッサPRCはステップS54を実行し、そうでなければ(呼吸リズムは閾値BRT1とBRT2との間に含まれる)、新たにステップS50およびS51を実行することによって呼吸リズムの監視を続行する。閾値BRT1、BRT2は患者のプロフィールによって左右される。健康な人については、閾値BRT1およびBRT2は例えば、それぞれに毎分10および25回の拍動に定められる。ステップS52およびS54において、プロセッサPRCは、信号SGLとそれぞれ警報信号AL1およびAL2とをサーバーSRVに対し伝送する。ステップS52およびS54の終了時において、手順は新たにステップS50から実行される。ステップS52およびS54において、プロセッサPRCは同様に、呼吸リズムBRの値も伝送することができる。
【0058】
プロセッサPRCは、警報信号AL1またはAL2を伝送する毎に、同様にこの警報信号の発出を導いた信号SGL/ISのサンプルならびに検出された異常の性質についての情報もサーバーSRVに対し伝送することができる。
【0059】
当然のことながら、
図6〜10を参考にして説明されているもの以外の信号ECGの解析方法を実施することも可能である。こうして、信号SGLを基準信号と比較することを想定することができる。基準信号は、休息(例えば座位)中の患者についての信号ECGの獲得を開始すること、次に活動中の患者についての信号ECGの獲得を開始することによって、処理用回路DPRの初期化段階中に得ることができる。各信号ECGは、数分間、例えば2分間獲得可能である。このようにして獲得された各信号は、次にプロセッサPRCにより基準信号として記憶される。基準信号は同様に、サーバーSRVによって処理用回路DPRに提供されてもよい。この基準信号はこのように、患者とは無関係であり得る。
【0060】
基準REF信号ECGの一例が
図11に表わされている。回路DPRにより獲得された信号SGLの処理には、基準信号REFと信号SGLの比較処理が含まれ得る。このために、信号REFは、以下のような一定数のパラメータを抽出する目的で処理される:
− 信号REF内のパルスP、Q、R、SおよびTの位置および振幅、そのパルスPおよびQの位置は、後続するパルスRの位置との関係において定義され、そのパルスSおよびTの位置は、先行するパルスRとの関係において定義される、
− 信号REFの等電位Iの電圧(例えば−yと+yの間でサーチされ、yは0.025〜0.5mVの値に等しく選択される)、
− パルスQおよびRのピーク間の信号REFの勾配、
− パルスRおよびSのピーク間の信号REFの勾配、
− パルスSのピークと終期S1との間の信号REFの勾配、
− パルスTの始期T0とピークとの間の信号REFの勾配TS1、
− パルスTのピークと終期T1との間の信号REFの勾配TS2、
− パルスPの始期P0とピークとの間の基準信号の勾配PS1、
− パルスPのピークと終期P1との間の信号REFの勾配PS2、
− 信号REF内のパルスRのピーク間の持続時間、
− 信号REF内のパルスP、Q、SおよびTのピークの電圧yP、yQ、ySおよびyT、ならびに
− 信号REF内のパルスQおよびTのピーク間の持続時間。
【0061】
基準信号REFの獲得の持続時間にわたるこれらのパラメータの平均値を計算することができる。
【0062】
基準信号REFのパルスP、Q、SおよびTのピークそれぞれの平均的位置により、回路DPRにより獲得された信号SGLのパルスP、Q、SおよびTのピークの基準ゾーンを定義することが可能である。パルスPの基準ゾーンは、tjが後続するパルスRのピークの瞬間である、瞬間tj−210msとtj−80msとの間、および電圧yP+/−x%の間で定義可能である。パルスQの基準ゾーンは、瞬間tj−70msとtj−50msとの間、および電圧yQ+/−x%の間で定義され得る。瞬間tjにおけるパルスRに後続するパルスSの基準ゾーンは、瞬間tjとtj+80msとの間、および電圧yS+/−x%の間で定義され得る。瞬間tjにおけるパルスRに後続するパルスTの基準ゾーンは、瞬間tj+200とtj+400msとの間、および電圧yT+/−x%の間で定義され得る。数量x%は、オペレータによって5〜15%で定義され得る。勾配PS1、PS2、Q−R、R−S、TS1、TS2は同様に、基準信号REFから抽出されたそれぞれの平均勾配の5〜15%の許容可能な基準ウィンドウを定義することも可能にする。こうして他のパラメータを基準信号REFから抽出することができ、これらのパラメータは、これらのパラメータのうちの1つの平均値に中心を置く基準ウィンドウを定義するために使用される。対応するパラメータは、獲得された信号SGLから抽出され、これらのパラメータが対応するウィンドウ内にない場合、警報信号AL1/AL2が生成されサーバーSRVに伝送される。
【0063】
回路DPRにより獲得された信号SGLと基準信号REFの比較処理は、プロセッサPRCにとって、パルスRのピークを例えば閾値電圧との比較によってサーチすること(ステップS3)、等電位Iの電圧の値を決定し、この値が間隔[−y、+y](yは0.025と0.5mVとの間に含まれ、例えば1mVに等しく選択される)内に含まれるか否かを決定すること、信号SGL内の1つの(または各々の)パルスRのピークとの関係におけるパルスP、Q、SおよびTのピークをサーチし、信号SGL内の勾配PS1、PS2、Q−R、R−S、TS1、TS2を決定すること(ステップS5)、そして最後に信号SGLのパルスP、Q、SおよびTのピークが、基準信号REFから以上で定義された基準ゾーンの中に位置するか、および勾配が基準信号REFから以上で定義された基準ウィンドウ内に位置するかを決定すること(ステップS6)からなり得る。パルスRが信号SGL内に検出されない場合、または等電位Iの電圧が間隔[−y、+y]内に位置していない場合、さらには信号SGLのパルスSが異常(基準ゾーン外のパルスのピーク、または基準ウィンドウ(単複)外の勾配(単複))を呈する場合、プロセッサPRCは、警報信号AL2に結び付けられたデジタル化された信号SGLを伝送する(ステップS9)。信号SGLのパルスP、QまたはTが異常(基準ゾーン外のパルスのピークまたは基準ウィンドウ(単複)外の勾配(単複))を呈する場合、プロセッサPRCは、警報信号AL1に結び付けられたデジタル化された信号SGLを伝送する(ステップS9)。
【0064】
オペレータは、端末OTを用いて、指定された患者の回路DPRのプロセッサPRCにより使用される、さまざまな閾値、基準ゾーンのさまざまな寸法および位置、および上述の基準ウィンドウの幅のアップデートを指令することができる。オペレータは同様に、プロセッサPRCにより実行されるプログラムの全てまたは一部分のアップデートを開始することもできる。こうして、先に説明した処理において使用されるさまざまな信号値および閾値は、患者の移動体端末MPを介してサーバーSRVが処理用回路DPRに対して伝送する要請に基づいて、修正可能である。この措置により、異常の検出を各患者の現在の生理学的条件に適応させることが可能となる。同様に、プロセッサPRCにより実行されるプログラムは、移動体端末MPを介してサーバーSRVが処理用回路DPRに対して伝送する要請に基づいて、修正されるかまたは新しいプログラムにより置換され得る。
【0065】
こうして、サーバーSRVは、複数の患者処理用回路DPRから、信号SGLのサンプルに各々結び付けられた警報信号AL1、AL2、ならびに端末MP内にインストールされた専用アプリケーションによってかまたはプロセッサPRCによって提供される患者の識別子を受信する。これらのデータは、場合によって解読され、その後データベースDB内、例えば警報レベルAL1、AL2に応じて2つのテーブル内に記憶される。オペレータは、サンプル(各サンプルまたはサンプルシーケンスはタイムレコーディングされている)の周期が分かっているため、プロセッサPRCにより発出された信号SGLのサンプルから再構築される伝送された信号SGLのクロノグラムの形で、サーバーSRVに接続された端末OTを用いて、データベースDB内に記憶されたデータを視覚化することができる。サーバーSRVは、特に端末OTがすでにそのような信号を視覚化していない場合、警報信号AL2に結び付けられた信号SGLの端末OTによる表示を開始することができる。警報信号AL2に結び付けられた信号SGLは、優先的に端末OTによって表示され、警報信号AL1に結び付けられた信号SGLは、警報信号AL2に結び付けられた全ての信号SGLが処理された時点で、表示される。
【0066】
オペレータによる信号SGLの処理は、伝送された信号サンプルから再構築された曲線の形で信号SGLを視覚化し解析してそこに異常を検出すること、および確認された異常に応じて対応するユーザの端末MPに対し通知を伝送することからなり得る。このために、信号SGLデータと共に伝送されたユーザの識別子から、データベースDB内に記録されたユーザに関するデータを捜し出し、端末OTのスクリーンに表示することができる。
【0067】
オペレータの指令に基づき伝送され得る通知には、信号SGLの例えば12時間または24時間の記録時間のパケット式でまたは実時間で、端末MPを介して回路DPRがサーバーSRVに対し体系的に信号SGLを伝送する強化監視モードを起動するために想定された第1の通知が含まれる可能性がある。第2の通知は、例えば医者の診察を予約することを助言するための患者に宛てたメッセージの端末MPによる表示を開始することができる。第3の通知は、できるだけ早急に医者の診察を予約することを求めるための患者に宛てたメッセージの端末MPによる表示を開始することができる。第4の通知は、患者に最寄りの病院の救急部門に行くかまたは動かずに救護を待つことを求めるための患者宛てのメッセージの端末MPによる表示を開始することができる。このために、警報信号AL2と共に伝送されるデータには、端末MPの地理的位置が含まれる。端末MPの地理的位置は、オペレータ端末OTから要請を受信した時点でしか伝送され得ないという点に留意すべきである。サーバーSRVに接続されたオペレータは、患者の地理的位置の近くの救急部門を呼出すことができる。サーバーSRVは同様に、場合によっては、異常が確認された信号SGLの一部分と共に、確認された異常に関するメッセージを患者の担当医に伝送することもできる。当然のことながら、第2ないしは第4の通知のいずれかが発出された場合、強化監視モードを起動させることができる。
【0068】
このようにデータベースDBは、いわゆる「ホット」データベースおよびいわゆる「コールド」データベースを含むことができる。ホットデータベースは、患者の処理用回路DPRにより過去数週間(6〜12週間)に伝送された最新データ、特にアイデンティティデータ、数週間にわたり毎日連続して記録された心臓リズムに関して伝送されたデータ、伝送された信号SGLおよびオペレータが着手したアクション(発出された通知)の説明に結び付けられた、オペレータが検出し認証した異常を記録する。コールドデータベースは、各患者について、医療データ、および持続時間の制限なく全ての信号および伝送された信号に結び付けられた警報、ならびに特に回路DPR内にインストールされたソフトウェアのバージョン、および/または患者の回路DPRにより使用される機能および異常検出パラメータ値を、前述のさまざまな閾値および回路DPRにより使用されるパルスP、Q、SおよびTの検出ウィンドウのさまざまな定義値と同様に記憶する。
【0069】
図12は、獲得システムのハードウェアアーキテクチャの一実施例を表わす。獲得システムは、患者の移動体端末MPにより発出される生理学的信号のデータおよび警報信号を受信し記録する少なくとも2つの冗長データセンタDC、データセンタDC内に記憶されたデータにアクセスするオペレータ端末OTをまとめる少なくとも1つの監視センタSCを含む。データは、インターネットネットワークを含む1つ以上のネットワークNTを介して、端末MP、監視センタSC、およびデータセンタDCの間で伝送される。データセンタDC内に記憶されたデータには、患者の担当医または医療監視サービスに参加する医者のネットワークNTに接続された端末MTがアクセスできる。
【0070】
オペレータ端末OTは、1つ以上のルーターまたはモデムMRを介してネットワークNTに接続されたローカルネットワークにおいて相互接続され得る。
【0071】
データセンタDCは、負荷分散デバイスLBを介してネットワークNTに接続され得、端末MPにより発出されるデータ伝送の処理要請または端末OT、MTにより要求されるデータの送信の処理要請は、各瞬間において使用度の最も低いデータセンタDCにより保証される。データセンタDCのうちの1つがネットワークNTを介して端末MPからデータを受信する度毎に、このデータセンタは直ちに(典型的には5ms未満の非常に短い待ち時間で)、専用のプライベートリンクを介して別のデータセンタDCにこれらのデータを伝送する。このようにして、2つのデータセンタによって記憶されたデータは同一である。
【0072】
各データセンタDCは、端末MP、OTから受信した全てのデータを取りまとめるデータベースシステム、およびクラスタ状に組織され各サーバーの負荷に応じてデータの処理要請またはデータ記憶の処理要請に動的に割り振られた複数のサーバーSRVを含むことができる。各データセンタのサーバーSRVは、受信したデータを記憶し端末OT、MTにより要求されたデータを読出すために、データセンタのデータベースDBシステムにアクセスすることができる。
【0073】
当業者にとっては、本発明が、各種の変形形態および各種の利用分野の対象となることが明確に明らかであろう。詳細には本発明は、ECG信号の捕捉および処理にも、生理学的信号の獲得を目的とする患者の皮膚と接触状態にある電極の使用にも限定されない。本発明は同様に、電極が患者の皮膚と接触状態にあるか否かを決定することを目的とするインピーダンス測定の使用に限定されるものではない。当業者の知識範囲内に入る他の方法も容易に使用することができる。同様にして、衣服以外の接着剤などの手段も、患者の皮膚上の精確な場所に電極またはセンサーを維持するために利用できる。
【0074】
同様に当然のことながら、生理学的信号の獲得用デバイスのハードウェア構造は、添付のクレーム中で定義されているものとは別の監視方法を実施できる正真正銘の発明を構成する。
【0075】
その上、
図5〜11を参照して説明されているECG信号の処理用アルゴリズムは、正真正銘の発明を構成し、こうして、先に説明したこれらの信号の捕捉方法とは無関係に、先に説明したものとは別のECG信号の獲得用デバイスから実施できる。
【0076】
同様に、オペレータの解析作業の負荷を削減する目的で、「偽陽性」ケースをより一層無くすることのできるフィルタリング処理などの、機器DPRから受信した信号SGLに対する別の処理をサーバーSRVが適用することも想定され得る。実際、信号は、例えばデータベースDB内で利用可能な患者に関する情報を運用することによっては実際の異常を示さないことから、オペレータによる解析を回避するために、機器DPRから受信した信号SGLの解析テストを、プロセッサPRCよりも能力の高い計算手段を有するサーバーSRVによって実行させることが有利であり得る。当然のことながら、これらの処理は、「偽陰性」ケースの出現のリスクを増大させてはならない。受信された信号SGLの中にオペレータが処理すべき場合をサーバーSRVが検出した場合、サーバーSRVが受信した信号に適用する処理は、機器DPRにより伝送される警報信号AL1/AL2を修正するように導くか、または他の優先レベルを導入することによってこの警報信号を絞り込むように導くことになる可能性がある。
【0077】
その上、移動体端末MPおよび処理用回路DPRは同じ信号処理および発信/受信用ユニットの中に組み込まれることができる。このために、処理用回路DPRは、移動体電話ネットワークを用いる伝送用回路を組み込むことができる。
【符号の説明】
【0078】
AP アナログ処理用回路
DB データベース
DC データセンタ
E0 電極
E1 電極
E2 電極
MP 移動体端末
NT ネットワーク
OT オペレータ端末
SC 監視センタ
TM 伝送用インタフェース回路
WL 無線リンク
ADC アナログ/デジタル変換用回路
DPR 信号処理用回路
MEM メモリ
PRC プロセッサ
SRV サーバー
DENC 暗号化回路
【国際調査報告】