特表2018-536417(P2018-536417A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2018-536417マイクロバクテリウム属菌株およびこれを用いたプシコース生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-536417(P2018-536417A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(54)【発明の名称】マイクロバクテリウム属菌株およびこれを用いたプシコース生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/02 20060101AFI20181116BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20181116BHJP
   C12N 9/90 20060101ALN20181116BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20181116BHJP
【FI】
   C12P19/02ZNA
   C12N1/20 A
   C12N9/90
   C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-529300(P2018-529300)
(86)(22)【出願日】2016年12月1日
(85)【翻訳文提出日】2018年7月31日
(86)【国際出願番号】KR2016014030
(87)【国際公開番号】WO2017099418
(87)【国際公開日】20170615
(31)【優先権主張番号】10-2015-0173489
(32)【優先日】2015年12月7日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG
(71)【出願人】
【識別番号】500578515
【氏名又は名称】サムヤン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ハン・ユンジン
(72)【発明者】
【氏名】イ・サンヒ
(72)【発明者】
【氏名】クォン・スンギュ
(72)【発明者】
【氏名】パク・プス
(72)【発明者】
【氏名】アン・シネ
(72)【発明者】
【氏名】パク・チョンジン
(72)【発明者】
【氏名】イ・カンピョ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050DD02
4B050EE03
4B050KK08
4B050LL02
4B064AF02
4B064CA02
4B064CC06
4B064CC07
4B064CD01
4B064CD09
4B064CE08
4B064DA10
4B065AA36X
4B065BC02
4B065BC03
4B065BD01
4B065BD08
4B065BD22
4B065BD36
4B065CA20
4B065CA41
(57)【要約】
本発明は、新規に分離されたマイクロバクテリウム属菌株、前記菌株を含むプシコース生産用組成物およびこれを用いたプシコース生産方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果糖からプシコースを生産するプシコース転換活性を有するマイクロバクテリウム属菌株を用いて果糖−含有基質からプシコースを生産する方法。
【請求項2】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、前記菌株の菌体、前記菌株の培養物、菌株の培養物の上清、菌株の培養物の抽出物、および前記菌株の破砕物からなる群より選択された1種以上である、請求項1に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項3】
前記マイクロバクテリウム属菌株を果糖が含まれている培地で培養する段階を含む、請求項1に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項4】
前記マイクロバクテリウム属菌株を果糖と反応させる段階は、前記マイクロバクテリウム属菌株の菌体、前記菌株の培養物および前記菌株の破砕物からなる群より選択された1種以上を果糖と混合して行われる、請求項1に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項5】
前記マイクロバクテリウム属菌株を果糖と反応させる段階は、前記マイクロバクテリウム属菌株の菌体、前記菌株の培養物および前記菌株の破砕物からなる群より選択された1種以上が固定化された担体に果糖を接触させる段階である、請求項4に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項6】
前記方法は、マンガンおよびコバルトからなる群より選択された1種以上の金属イオンを添加する段階を追加的に含む、請求項4に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項7】
前記方法は、緩衝溶液を使用しないことを特徴とする、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項8】
前記果糖−含有基質は、40〜75%(w/w)の濃度の果糖を含有する、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項9】
前記方法は、pH6.5〜9.0および40〜80℃の条件下で行われる、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項10】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、Microbacterium foliorum、Microbacterium oxydans、Microbacterium maritypicum、Microbacterium liquefaciens、Microbacterium luteolum、Microbacterium ginsengiterrae、Microbacterium keratanolyticum、Microbacterium natoriense、Microbacterium lacticum、Microbacterium xylanilyticum、Microbacterium koreense、Microbacterium imperialまたはMicrobacterium phyllosphaeraeである、請求項1に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項11】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、寄託番号KCCM11774Pを有するMicrobacterium foliorum菌株である、請求項1に記載のプシコースを生産する方法。
【請求項12】
果糖からプシコースを生産するプシコース転換活性を有するマイクロバクテリウム属菌株を含む、果糖からプシコースを生産するプシコース生産用組成物。
【請求項13】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、40〜80℃でプシコース転換能を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、pH6.5〜9.0でプシコース転換能を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、マンガンおよびコバルトからなる群より選択された1種以上の金属イオンが存在時にプシコース転換活性が金属イオンがない場合に比べて1.2〜2.3倍増加する、請求項12に記載のプシコース生産用組成物。
【請求項16】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、Microbacterium foliorum、Microbacterium oxydans、Microbacterium maritypicum、Microbacterium liquefaciens、Microbacterium luteolum、Microbacterium ginsengiterrae、Microbacterium keratanolyticum、Microbacterium natoriense、Microbacterium lacticum、Microbacterium xylanilyticum、Microbacterium koreense、Microbacterium imperialまたはMicrobacterium phyllosphaeraeである、請求項12に記載のプシコース生産用組成物。
【請求項17】
前記菌株は、寄託番号KCCM11774Pを有するMicrobacterium foliorum菌株である、請求項12に記載のプシコース生産用組成物。
【請求項18】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、前記菌株の菌体、前記菌株の培養物および前記菌株の破砕物からなる群より選択された1種以上である、請求項12〜17のうちのいずれか一項に記載のプシコース生産用組成物。
【請求項19】
果糖をプシコースに転換する活性を有するMicrobacterium foliorum、Microbacterium oxydans、Microbacterium maritypicum、Microbacterium liquefaciens、Microbacterium luteolum、Microbacterium ginsengiterrae、Microbacterium keratanolyticum、Microbacterium natoriense、Microbacterium lacticum、Microbacterium xylanilyticum、Microbacterium koreense、Microbacterium imperialまたはMicrobacterium phyllosphaerae菌株。
【請求項20】
前記菌株は、寄託番号KCCM11774Pを有するMicrobacterium foliorumである、請求項17に記載の菌株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規に分離されたマイクロバクテリウム属菌株、前記菌株を含むプシコース生産用組成物およびこれを用いたプシコース生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プシコース(psicose)は、果糖(D−fructose)の3番炭素のエピマー(epimer)である。果糖と比較する時、果糖の70%に該当する甘味度を有しているが、果糖と異なり体内吸収時にほとんど代謝されず、グルコースの吸収を抑制して血糖抑制作用を行う機能がある。したがって、糖尿病患者用食品または水腎用食品などに用いることができ、肝臓での脂質合成に関与する酵素活性を抑制する機能があって腹部脂肪蓄積抑制ができるなど血糖調節、虫歯予防および肝臓での脂肪合成を阻害する機能を有しているので、健康食品など様々な機能性食品などに使用することができる。
【0003】
砂糖代替甘味料として多く使用されている糖アルコール類は、一定量以上摂取時、下痢を誘発するなどの副作用があるが、プシコースは知られている副作用がない。よって、プシコースはダイエット甘味料として関心が高まっているが、自然界に極めてめずらしく存在する単糖類の希少糖に属するため、食品産業に適用するためにはプシコースを効率的に製造する技術の開発が必要である。
【0004】
従来のプシコース製造方法は、モリブデン酸イオンの触媒作用を用いて果糖からプシコースを生産する化学的方法のような主に化学的合成過程を経て製造することであった。しかし、化学的合成による場合、糖蜜処理過程またはグルコース異性化反応過程中にプシコースが非常に少量存在し、費用が多く消耗され、副産物が発生する短所がある。
【0005】
このような問題点を解決するために、アグロバクテリウムツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のプシコースエピマー化酵素によって果糖からプシコースを生産することのような、果糖を基質にして酵素反応によってプシコースを製造する生物学的方法が研究されている。
【0006】
しかし、既存の機能が明らかになった酵素的方法によれば、プシコースを生産する酵素がアルカリ条件のpH下で最適を示す場合が多く、アルカリ条件下での反応は非特異的反応と糖の褐変化を誘導するため産業化に適当でない。また、既存の酵素は高い温度で安定性が劣るか、遅い反応速度によって産業化に適用されるプシコース生産の収率が低く製造原価が上昇する問題があった。したがって、副産物を生成せず、産業化に適した温度およびpH条件下で高い収率でプシコースを生産することができる方法が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一例は、果糖からプシコースを生産するプシコース転換活性を有する新規なマイクロバクテリウム(Microbacterium)属菌株を提供する。
【0008】
本発明のまた他の例は、前記マイクロバクテリウム(Microbacterium)属菌株、前記菌株の培養物、菌株の培養物の上清、菌株の培養物の抽出物、および/または前記菌株の破砕物を含むプシコース生産用組成物を提供する。
【0009】
本発明のまた他の例は、前記マイクロバクテリウム(Microbacterium)属菌株を用いて果糖からプシコースを生産する方法を提供する。
【0010】
本発明のまた他の例は、果糖をプシコースに転換する酵素を生産するマイクロバクテリウム(Microbacterium)属菌株を食品から分離する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
果糖をプシコースに転換する活性に優れた新規マイクロバクテリウム(Microbacterium)属菌株(例えば、Microbacterium foliorum)を食品から分離および同定し、前記菌株の菌体を用いて果糖からプシコースへの転換能を確認し、高いプシコース転換能を得るための菌体反応の最適温度、最適pHおよび金属イオン要求性有無を確認し、プシコースを効率的に大量生産するための条件を確立して本発明を完成した。
【0012】
本発明の一例は、果糖をプシコースに転換する新規マイクロバクテリウム(Microbacterium)属菌株を提供する。
【0013】
他の例は、前記マイクロバクテリウム属菌株を用いて果糖からプシコースを生産する方法を提供する。前記製造方法において、高いプシコース転換能を得るための菌体の最適反応条件およびプシコースの大量生産のための条件を提案する。
【0014】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0015】
まず、新規なマイクロバクテリウム(Microbacterium)属菌株が提供される。前記マイクロバクテリウム属菌株は果糖をプシコースに転換する活性に優れた菌株であって、Microbacterium foliorum、Microbacterium oxydans、Microbacterium maritypicum、Microbacterium liquefaciens、Microbacterium luteolum、Microbacterium ginsengiterrae、Microbacterium keratanolyticum、Microbacterium natoriense、Microbacterium lacticum、Microbacterium xylanilyticum、Microbacterium koreense、Microbacterium imperialまたはMicrobacterium phyllosphaeraeであってもよく、好ましくはMicrobacterium foliorum、Microbacterium oxydans、およびMicrobacterium phyllosphaeraeからなる群より選択された1種以上であってもよく、例えば、Microbacterium foliorum菌株であってもよい。
【0016】
一実施形態で、前記マイクロバクテリウム属菌株は、寄託番号KCCM11774PのMicrobacterium foliorum SYG27B菌株であってもよい。
【0017】
前記マイクロバクテリウム属菌株は、果糖をプシコースに転換させるプシコース転換能に優れることを特徴とする。
【0018】
前記プシコース転換能は前記マイクロバクテリウム属菌株が果糖をプシコースに転換させる酵素を生産することによって得られるものであって、前記マイクロバクテリウム属菌株はプシコース転換能の高い酵素を生産するか、プシコース転換酵素を大量で生産して優れたプシコース転換能を示すことができる。したがって、前記マイクロバクテリウム属菌株はプシコース製造に有用に適用され、プシコース生産収率をより増進させることができる。
【0019】
前記プシコース転換能は40℃以上の温度条件下で活性を有するものであってもよく、40〜80℃、例えば、50〜80℃、60〜80℃、または70〜80℃、例えば、75℃の温度条件で最大活性を示すものであってもよい。
【0020】
また、前記プシコース転換能はpH6.5〜9.0、例えば、pH7.0〜9.0、pH7.5〜9.0、pH8.0〜9.0または8.5〜9.0の条件下で高い活性を有し得る。特に、pH7.0〜8.0の中性pH範囲でもプシコースの効率的な生産が可能である。
【0021】
したがって、前記マイクロバクテリウム属菌株の菌体、前記菌株の培養物、菌株の培養物の上清、菌株の培養物の抽出物および前記菌株の破砕物からなる群より選択された1種以上を含むプシコース生産用組成物が提供される。
【0022】
前記培養物は前記マイクロバクテリウム属菌株から生産された酵素を含むものであって、前記菌株を含むか、菌株を含まない無細胞(cell−free)形態であってもよい。
【0023】
前記破砕物は前記マイクロバクテリウム属菌株を破砕した破砕物または前記破砕物を遠心分離して得られた上清を意味するものであって、前記マイクロバクテリウム属菌株から生産された酵素を含む。
【0024】
本明細書において、別途の言及がない限り、プシコースの製造に使用されるマイクロバクテリウム属菌株は前記菌株の菌体、前記菌株の培養物および前記菌株の破砕物からなる群より選択された1種以上を意味するものとして使用される。
【0025】
また、前記マイクロバクテリウム属菌株を使用するプシコース生産方法が提供される。前記プシコース生産方法は、前記マイクロバクテリウム属菌株を果糖と反応させる段階を含む。
【0026】
一実施形態で、前記マイクロバクテリウム属菌株を果糖と反応させる段階は、前記マイクロバクテリウム属菌株の菌体を果糖が含まれている培養培地で培養する段階によって遂行されてもよい。
【0027】
他の実施形態で、前記マイクロバクテリウム属菌株を果糖と反応させる段階は、前記菌株(菌体、菌株の培養物、および/または菌株の破砕物)を果糖と接触させる段階、例えば、前記菌株を果糖と混合する段階または前記菌株が固定化された担体に果糖を接触させる段階によって遂行されてもよい。このようにマイクロバクテリウム属菌株を果糖と反応させることによって果糖をプシコースに転換して果糖からプシコースを生産することができる。
【0028】
前記プシコース生産方法において、効率的なプシコース生産のために、基質として使用される果糖の濃度は全体反応物基準に40〜75%(w/v)、45〜75%(w/v)、例えば、50〜75%(w/v)であってもよい。果糖の濃度が前記範囲より低ければ経済性が低くなり、前記範囲より高ければ果糖がよく溶解されないので、果糖の濃度は上記範囲にすることがよい。前記果糖は緩衝溶液または水(例えば、蒸留水)に溶解された溶液状態で使用されてもよい。
【0029】
前記プシコース生産方法において、前記反応は30℃以上、例えば40℃以上の温度条件下で遂行されてもよい。温度が80℃以上になれば基質の果糖の褐変現象が起こることがあるので、前記反応は40〜80℃、例えば、50〜80℃、60〜80℃、または70〜80℃、例えば、75℃の条件下で遂行されてもよい。
【0030】
また、前記反応はpH6.5〜9.0、例えば、pH7.0〜9.0、pH7.5〜9.0、pH8.0〜9.0または8.5〜9.0の条件下で遂行されてもよい。特に、pH7.0〜8.0の中性pH範囲でもプシコースの効率的な生産が可能である。
【0031】
また、前記プシコース生産方法において、前記反応時間は長いほどプシコース転換率が高まる。例えば、前記反応時間は1時間以上、例えば2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上または6時間以上にすることがよい。また、反応時間が48時間を超せばプシコース転換率の増加率が微小であるか、むしろ減少するので、反応時間は48時間を超さないことが良い。したがって前記反応時間は1〜48時間、2〜48時間、3〜48時間、4〜48時間、5〜48時間、または6〜48時間にしてもよく、産業的および経済的側面を考慮して、1〜48時間、2〜36時間、3〜24時間、3〜12時間、または3〜6時間程度にしてもよいが、これに制限されるものではない。
【0032】
前記条件は、果糖からプシコースへの転換効率が最大化される条件として選定される。
【0033】
また、前記プシコース生産方法において、使用されるマイクロバクテリウム属菌株の菌体濃度は全体反応物基準に、5mg(dcw:乾燥細胞重量)/ml以上、例えば、5〜100mg(dcw)/ml、10〜90mg(dcw)/ml、20〜80mg(dcw)/ml、30〜70mg(dcw)/ml、40〜60mg(dcw)/ml、または45〜55mg(dcw)/mlであってもよい。菌体濃度が前記範囲未満である場合にはプシコース転換活性が低いか殆どなく、前記範囲を超過すれば菌体が過度に多くなってプシコース転換反応の全体的な効率が低くなるので、菌体濃度は上記範囲にすることがよい。
【0034】
前記マイクロバクテリウム属菌株が生産する果糖をプシコースに転換させる酵素(例えば、エピメラーゼ)は金属イオンによって活性化が調節され得るので、前記マイクロバクテリウム属菌株を用いたプシコース生産において、金属イオンを添加すれば果糖からプシコースへの転換効率、即ち、プシコース生産率が増加され得る。
【0035】
したがって、前記マイクロバクテリウム属菌株を含むプシコース生産用組成物は、金属イオンを追加的に含むものであってもよい。また、前記マイクロバクテリウム属菌株を用いたプシコース生産方法は、金属イオンを添加する段階を追加的に含んでもよい。
【0036】
一実施形態で、前記金属イオンは前記培養段階の培養培地に添加されるか、前記培養段階が前記金属イオンが添加された培養培地で行われるものであってもよい。他の実施形態で、前記金属イオンは果糖に添加されるか、前記マイクロバクテリウム属菌株と果糖との混合物に添加されてもよい。また他の実施形態で、前記マイクロバクテリウム属菌株が固定化された担体に添加されるか(果糖添加前)、前記マイクロバクテリウム属菌株が固定化された担体と果糖との混合物に添加されるか(果糖添加後)、または果糖添加時に果糖と混合物の形態に、またはそれぞれ添加されてもよい。
【0037】
前記金属イオンは、銅イオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、アルミニウムイオンなどからなる群より選択された1種以上であってもよい。例えば、前記金属イオンはマンガンイオン、マグネシウムイオン、ニッケルイオン、コバルトイオンなどからなる群より選択された1種以上であってもよく、一例で前記金属イオンはマンガンイオン、コバルトイオン、またはこれらの混合物であってもよい。
【0038】
金属イオンとしてマンガンイオン、コバルトイオン、またはこれらの混合物が存在する場合にはプシコース転換活性が、金属イオンがない場合に比べて1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2.0倍、2.1倍、2.2倍、または2.3倍以上増加し、例えば、1.2〜2.3倍増加し得る。
【0039】
また、前記金属イオンの添加量が0.5mM未満である場合にはプシコース生産収率増進効果が微小であるので、前記金属イオンの添加量は0.5mM以上にしてもよい。一方、前記金属イオンの添加量が5mMを超過すればその超過量に比べて効果が微小であるので、前記金属イオンの添加量は5mM以下にしてもよい。例えば、前記金属イオンの添加量は0.5mM〜5mM、0.5mM〜4mM、0.5mM〜3mM、例えば、0.5mM〜2mM範囲にしてもよい。
【0040】
前記担体は固定された菌株、または前記菌株から生産される酵素の活性が長期間維持され得る環境を造成することができるものであって、酵素固定化用途に使用できる公知の全ての担体であってもよい。
【0041】
例えば、前記担体としてアルギン酸ナトリウム(soduim alginate)を使用してもよい。アルギン酸ナトリウムは海藻類の細胞壁に豊富に存在する天然コロイド性多糖類であって、マンヌロン酸(β−D−mannuronic acid)とグルロン酸(α−L−gluronic acid)が組成されており、含量面では無作為にベータ−1,4結合を成して形成され、菌株または酵素が安定的に固定されて優れたプシコース収率を示すのに有利であり得る。
【0042】
一実施形態で、プシコースの収率をより増進させるために、1.5〜4.0%(w/v)濃度のアルギン酸ナトリウム溶液(例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液)、例えば、約2.5%の(w/v)濃度のアルギン酸ナトリウム溶液を菌株の固定化に使用してもよい。例えば、菌株の菌体、前記菌株が生産した酵素を含む培養液、または前記菌株の破砕物の1〜2体積倍のアルギン酸ナトリウム水溶液に前記菌株の菌体、前記菌株が生産した酵素を含む培養物、または前記菌株の破砕物を添加して混合した後、前記得られた混合液をシリンジポンプと真空ポンプを用いて約0.2Mカルシウムイオン溶液に落としてビードが生成されるようにすることによって、アルギン酸ナトリウム担体に菌株の菌体、前記菌株が生産した酵素を含む培養物、または前記菌株の破砕物を固定化させることができる。前記酵素は、前記菌株、菌株培養物または前記菌株の破砕物から通常の方法、例えば透析、沈殿、吸着、電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどの方法によって精製されたものであってもよい。
【0043】
本発明で提案されるプシコースを生産する方法は緩衝溶液を使用せず菌体を用いて果糖をプシコースに転換することが可能であるので、より簡便な方法でプシコースを高い収率で生産することができるという長所がある。
【発明の効果】
【0044】
本発明は新規に分離されたマイクロバクテリウム属菌株、前記菌株を含むプシコース生産用組成物およびこれを用いたプシコース生産方法に関するものであって、本発明のマイクロバクテリウム属菌株は産業的に有用な範囲のpH、温度で安定性を有し、果糖から高い収率でプシコースを生産する活性を有するので、機能性糖関連健康食品および医薬産業で幅広く使用されると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の一実施例で高濃度果糖からプシコースが生産されたことを高性能液体クロマトグラフィー(High−Performance Liquid Chromatography、HPLC)で確認したクロマトグラムを示すグラフである。
図2】本発明の一実施例で分離されたMicrobacterium foliorum菌株の温度によるプシコース生産相対活性を示すグラフである。
図3】本発明の一実施例で分離されたMicrobacterium foliorum菌株のpHによるプシコース生産相対活性を示すグラフである。
図4】本発明の一実施例で分離されたMicrobacterium foliorum菌株の金属イオン種類によるプシコース生産相対活性を示すグラフである。
図5】本発明の一実施例で分離されたMicrobacterium foliorum菌株の50℃での温度安定性分析結果を示すグラフである。
図6】本発明の一実施例で分離されたMicrobacterium foliorum菌株の高濃度基質反応時プシコース生産性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を下記の実施例によってさらに詳しく説明する。しかし、これら実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれら実施例によって限定されるのではない。
【0047】
実施例
実施例1.果糖をプシコースに転換する食品由来微生物の分離
果糖をプシコースに転換する菌株を分離するために1%(w/v)プシコースが添加された無機塩ブロス(Mineral salt broth)(KHPO2.4g/L、KHPO5.6g/L、(NHSO2.6g/L、MgSO7HO 0.1g/L、酵母エキス(yeast extract)1g/L)を使用した。
【0048】
食品(例えば、ブロッコリー、人参、食用花など)を選定して、それぞれの食品を1gを採取してMSPブロス(MSP broth)に添加した後、30℃で24時間培養して増菌を実施した。その後、培養液100μL(microliter)を取って寒天培地に塗抹した後、30℃でコロニーが確認されるまで培養した。前記寒天培地で形成されたコロニーのうちの形態と大きさが異なるコロニーを選別してMSPブロスに接種した後、30℃で24時間振盪培養し遠心分離して菌体のみ回収した。回収した菌体は50mM PIPES(piperazine−N,N’−bis(2−ethanesulfonic acid))緩衝溶液(pH7.0)100μLに入れて浮遊させ、音波振動機(Ultrasonic processor.ColepParmer)を用いて破砕して破砕液を収得した。前記破砕液を12,000rpmで4℃で10分間遠心分離した後、上清を回収して酵素液(粗酵素)として使用し、前記酵素液を10mM果糖およびプシコースを基質にして30℃で12時間反応させた。
【0049】
薄層クロマトグラフィー(Thin Layer Chromatography、TLC)分析を通じて前記反応液でプシコースが果糖に転換されたか確認した。前記薄層クロマトグラフィー分析は、横20cm、縦10cmのシリカゲル(Silica gel 60F254(Merck、Germany))固定相とアセトニトリル(acetonitrile)と水を85:15体積比で混合した移動相展開溶媒を用いて10分間3回ずつ展開して行った。
【0050】
前記TLC分析を通じてプシコースから果糖への転換が確認された菌株を選別して、0.1%(w/v)プシコースが添加されたMSブロス(MS broth)に接種して30℃で24時間振盪培養し、遠心分離後に菌体のみ回収した。回収した菌体は0.85%(w/v)NaClで洗浄した後、400g/L果糖と1mMマンガンイオンを添加した50mM PIPES緩衝溶液(pH7.0)を入れて浮遊させ、70℃で1時間反応した。
【0051】
その後、前記反応結果物を遠心分離して上清を回収した後、高性能液体クロマトグラフィー(High−Performance Liquid Chromatography、HPLC)分析を実施した。前記液体クロマトグラフィー分析は、Aminex HPX−87Cカラム(BIO−RAD)が装着されたHPLC(Agilent、USA)のRID(Refractive Index Detector、Agilent 1260 RID)を用いて行った。移動相溶媒は水を使用し、温度は80℃、流速は0.6mL/minにした。前記得られた結果を図1に示し、1500種の菌株の中でプシコースを最も多く生産した菌株1種を最終選定した。
【0052】
実施例2.プシコース転換菌株の同定
2−1.菌株同定
実施例1で分離された菌株を同定するために16SリボソームRNAの塩基配列を確認した。分離菌株の16SリボソームRNAの塩基配列(5’→3’)は配列番号1と同一であり、Microbacterium foliorum DSM12966と99.5%同一であるのを確認し、Microbacterium foliorum SYG27Bと命名した。前記菌株は2015年9月24日付で韓国微生物保存センターに寄託して受託番号KCCM11774Pを付与された。
【0053】
2−2.同一属菌株のプシコース転換活性
実施例1でプシコース転換活性を示す分離菌株のうち、16SリボソームRNAの塩基配列を通じてマイクロバクテリウム(Microbacterium)属に同定された菌株は3種(M.foliorum、M.oxydans、M.phyllosphaerae)であった。この中でブロッコリーと人参から分離されると知られていて安定性面で優れていると思われるマイクロバクテリウムフォリオラム(M.foliorum)を選定して以下の実験を実施した。
【0054】
実施例3.前記菌株の菌体反応を用いた最適条件確立
前記で分離された菌株を多様なpH、温度および金属イオン条件下で菌体と基質を反応させ、それによるプシコース転換活性を比較した。
【0055】
3−1.温度による活性分析
プシコース生産最適温度を確認するために、400g/L果糖と1mMマンガン金属イオンを添加した50mM PIPES緩衝溶液(pH7.0)に前記実施例1で分離された菌株の菌体濃度を5mg(dcw)/mLにして、55〜80℃範囲で温度を変化させながら1時間反応させ、反応終了後に前記実施例1と同様な方法でHPLC分析を通じてプシコース生産量を測定し、得られた結果を図2および表1に示した。
【表1】
【0056】
図2および表1に示されているように、Microbacterium foliorum SYG27Bは、75℃まで反応温度が高まるほど相対的活性が増加し、80℃で減少するのを確認した。また、前記分離菌株は75℃温度で最大活性を示すことが分かった。
【0057】
3−2.pHによる活性分析
転換反応でpH効果を調査するために、前記実施例1で分離された菌株の菌体濃度5mg/mLおよび果糖濃度400g/Lの1mMマンガンイオンを添加した緩衝溶液McIlvaine(0.1Mクエン酸と0.2Mリン酸水素二にトリウム溶液をpH別に量を異にして添加して製造する緩衝溶液)pH5.0〜9.0範囲をそれぞれ使用し、各pH条件で70℃で1時間反応させ、反応終了後に前記実施例1と同様な方法でHPLC分析を通じてプシコース生産量を測定し、得られた結果を図3および表2に示した。
【表2】
【0058】
図3および表2に示されているように、実施例1で得られた分離菌株のMicrobacterium foliorum SYG27Bは、pH6.5〜9.0範囲で高い活性を示し、特に、pH7.0〜8.0の中性pH範囲でもプシコースの効率的な生産が可能であるのを確認した。
【0059】
3−3.金属イオンによる活性分析
金属イオン要求性を確認するために、400g/L果糖を基質として使用し、前記実施例1で分離された菌株の菌体濃度5mg/mL、70℃、および50mM PIPES緩衝溶液(pH7.0)に溶かした1mM金属イオン(CaCl、CoCl、CuCl、FeSO、MnCl、NiSO、ZnSO)溶液をそれぞれ使用して1時間反応させ、反応終了後、前記実施例1と同様な方法でHPLC分析を通じてプシコース生産量を測定し、得られた結果を図4および表3に示した。
【表3】
【0060】
図4および表3に示したように、金属イオンは添加しない対照群(Non)と比較した時、実施例1で得られたMicrobacterium foliorum SYG27Bは、マンガン(Mn)イオンとコバルト(Co)イオンを添加した場合に対照群に比べてさらに高いプシコース転換活性を示した。
【0061】
実施例4.プシコース大量生産のための条件
4−1.菌体の温度安定性分析
前記分離された菌株の温度安定性を確認するために、前記実施例1で分離された菌体を1mMマンガンイオンを添加した50mM PIPES緩衝溶液(pH7.0)で浮遊させ、36時間50℃の熱衝撃を加えた。その後、最終果糖濃度400g/L、菌体濃度5mg/mLにして、70℃で1時間反応させた後、熱衝撃が加えられた時間別プシコース生産量をHPLC分析を通じて測定して得られた結果を図5および表4に示した。
【表4】
【0062】
図5および表4に示されているように、実施例1で得られたMicrobacterium foliorum SYG27Bに対して50℃で熱衝撃を加えた場合、熱衝撃を加えない場合のプシコース転換活性を比較した時、半減期(half−life)は約28時間であった。
【0063】
4−2.プシコース生産性
前記で確立されたプシコース大量生産条件下で、反応時間による最大生産性を確認した。前記実施例1で分離された菌株の菌体濃度20mg/mL、果糖濃度400g/L、温度70℃およびpH7.0条件下で反応時間別活性を確認した。前記反応は12時間行い、2時間間隔でプシコース生産性をHPLC分析を通じて確認した。その結果を図6および表5に示した。
【表5】
【0064】
図6および表5に示されているように、Microbacterium foliorum SYG27Bは反応時間が経つほどプシコース転換率が増加し、特に70℃で12時間反応後にプシコース転換率が約27%であって最大であり、この時、プシコース生産量は約75g/Lと確認された。
【0065】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2018536417000001.app
【国際調査報告】