【実施例】
【0136】
1. 本開示において例示される組換えRSV株は、D46と呼ばれるwt A2株の組換えバージョンに由来した(Collins, et al. 1995. Proc Natl Acad Sci USA 92:11563-11567)。D46の完全なヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 1として示される。RSV MEDI/ΔM2-2ウイルスはD46由来ではない。
【0137】
2. 以下の実施例において、ウイルス名に「LID」または「6120」という用語が含まれる場合、それは、その骨格が
図3に示される「6120」変異を含むことを示している。
【0138】
3. 本明細書において、ウイルスは、その中に存在する突然変異の組み合わせを表示することによって命名される。ウイルス名(例えば、突然変異cpおよびΔM2-2を含むRSV D46を示すRSV D46/cp/ΔM2-2)における記号「/」の使用は、特に本文中に存在する場合、そのウイルス名を読みやすくするために存在すること以外に何の意味もない。それゆえに、RSV D46/cp/ΔM2-2は、RSV D46cpΔM2-2と同じである。また、RSV D46/cp/ΔM2-2は、RSV D46cpΔM2-2またはRSV D46 cpΔM2-2などとも同じである。また、ウイルス名は通常、RSV D46/cp/ΔM2-2のようにRSVで始まる。
【0139】
4. 前述のように、「ΔM2-2」変異は、
図1に示すとおり、3つの点突然変異を伴う241ヌクレオチドの欠失を指す。M2-2 ORFをサイレンシングする他の突然変異は、異なる名称、例えば
図10に示すΔM2-2-AclIおよびΔM2-2-HindIII、により明記される。本開示において、ウイルス名中の「ΔM2-2」の存在は、「ΔM2-2」変異の存在を示す。
【0140】
5. インビボでのウイルス複製の程度(magnitude)は、ウイルス弱毒化の指標として使用される:特に、インビボでの複製の減少は、増加した弱毒化の指標として使用され、その逆も言える。これは、RSV複製の増加が、wt RSV感染(例えば、El Saleeby, et al. 2011. J Infect Dis 204:996-1002; DeVincenzo, et al. 2010. Am J Respir Crit Care Med 182:1305-1314)と臨床研究における弱毒化RSV候補(例えば、Karron, et al. 1997. J Infect Dis 176:1428-1436; Karron, et al. 2005. J Infect Dis 191:1093-1104)の両方に関して、疾患の増悪に関連する、という一般的な観察を反映している。これらの用語は、限定的な定義としてではなく、説明目的で使用される。
【0141】
実施例1
この実施例では、M2-2 ORFの欠失(ΔM2-2)を、単独でおよび追加の突然変異との組み合わせで、含む新規なRSV変異体の設計および構築を記載する。
【0142】
代表的なウイルスを構築して、臨床前に評価した。このパネルの1つの代表的なウイルス、および別の供給源からの第2のM2-2 ORF変異型ウイルスを、一次小児RSVワクチン標的集団を構成する血清反応陰性乳幼児における第1相臨床試験で評価した。この実施例は、最も関連性のあるヒト集団における代表的な例の臨床的ベンチマークと共に、新しいワクチン株を提供する。
【0143】
RSV rA2-K5ウイルス:
RSV rA2-K5と呼ばれるRSV株は、(親wt D46 cDNA由来のウイルスから)以前に構築されたものであり、このRSV株では、M2-2 ORFの発現が3種類の突然変異の組み合わせによってサイレンシングされた:(i) M2-2 ORFの途中でフレームシフトを導入すること、(ii) M2-2 ORFの3つの潜在的ATG翻訳開始コドン(RSVゲノムならびに重複するM2-1およびM2-2-ORFの略図については
図1Aを参照)をACGコドンに変更すること、および(iii) M2-1 ORFの末端の直後のM2-2配列の3つ全てのレジスタに停止コドンを導入すること(Bermingham and Collins. 1999. Proc Natl Acad Sci USA 96:11259-11264)。このrA2-K5ウイルス(本開示には示されていない)を、血清反応陰性チンパンジーの気道での複製について評価したところ、それは上気道で少なくとも2800倍に制限され、下気道では検出されなかった(少なくとも55,000倍の減少を表す)ことが示された(Teng, et al. 2000. J Virol 74:9317-9321)。
【0144】
RSV D46/ΔM2-2およびRSV LID/ΔM2-2の作製:
M2-2 ORFの大部分が欠失された、さらなる組換えウイルスを構築した。M2-2 ORFの3つの潜在的翻訳ATG開始コドンのそれぞれをACGに変更し、かつヌクレオチド8188〜8428を欠失させて(全部で241ntの欠失)、M2-2 ORFの大部分を除去するように、wt D46 cDNAを改変した(
図1)。したがって、既知の潜在的ATG翻訳開始部位の全てが突然変異され、かつ該ORFの大部分が欠失されると、完全なM2-2タンパク質の発現は可能ではないはずであり、トランケート型M2-2断片の発現もほとんどまたは全くないはずである。得られたRSV D46/ΔM2-2ウイルスの遺伝子マップを
図2に示す。
【0145】
さまざまな弱毒化表現型を有する、さらなるΔM2-2変異体を構築した。上記のように、原型RSV rA2-K5ウイルスはチンパンジーで非常に弱毒化されていたので(Teng, et al. 2000. J Virol 74:9317-9321)、M2-2が発現されないウイルスは過度に弱毒化される可能性があった。他方では、特に血清反応陰性の乳幼児において、それが十分に弱毒化されていない可能性もあった。そのため、複製の減少だけでなく増加を示す誘導体を同定するために、さらなるウイルス変異体を構築した。
【0146】
RSV株、特にΔM2-2変異体、の複製を増加させるための確立された方法はなかった。以前の報告によれば、G遺伝子とF遺伝子を、遺伝子順序が6位および7位の遺伝子(これはSH遺伝子が欠失されたウイルスで行われたため、GおよびFは、7位および8位のそれらの天然の位置ではなく、6位および7位の遺伝子であった)からそれぞれ1位および2位の遺伝子になるように移動させると、インビトロで約10倍の複製増加が生じたが、マウス(Krempl, et al. 2002. J Virol 76:11931-11942)またはAGMでは統計的に有意な複製の増加は認められなかった。1つの制限は、RSVの複製および弱毒化(例えば、細胞株、げっ歯類、およびチンパンジー以外の非ヒト霊長類における複製)を評価するための確立された前臨床アッセイが、比較的半許容性で低感度であり、複製効率の統計的に有意な変化を実証することを困難にしている点であり、したがって、全てのアッセイで検出されなくても、複製の変化はどれも注目に値すると考えられる。かくして、G遺伝子とF遺伝子をプロモーター近位の位置に移動するようにΔM2-2/ΔSHウイルスを改変しようと試みた。(ΔSH欠失は、細菌でのプラスミド増幅中のこの配列の不安定性を回避するために、野生型骨格での初期研究[Krempl, et al. 2002. J Virol 76:11931-11942]に含まれていたことであり、付随的に起こったと考えられた;ΔSH欠失はΔM2-2骨格でも用いられた。)G遺伝子とF遺伝子を、それぞれ第1および第2の遺伝子として、またはそれぞれ第2および第1の遺伝子として配置するなど、いくつかの並べ替えを評価した。ところが、これらの改変は、ウイルス複製を100〜1000倍減少させて、これらの特定の変化が感染性ウイルスにおいて良好な耐容性を示さなかったことが分かった。ΔM2-2変異に関連するタンパク質発現の増加と組み合わせた、プロモーター近位の位置へのG遺伝子とF遺伝子の移動に関連することが知られたGおよびFの発現の増加(Krempl, et al. 2002. J Virol 76:11931-11942)は、少なくともこのΔM2-2/ΔSH骨格では、RSVによって受け入れられなかったのかもしれない。
【0147】
さらに、ゲノムの長さの変化が複製効率に影響を与えることも知られている。具体的には、パラミクソウイルスゲノムの長さを増加させることは、その複製効率を低下させ得ることが示されている。例えば、遺伝子発現を混乱させない方法でRSVゲノムの長さを140または160ヌクレオチド増加させると、マウス内での複製が5〜25倍制限された(Bukreyev, Murphy, Collins. 2000. J Virol 74:11017-11026)。関連ウイルス、すなわちヒトパラインフルエンザウイルス3型(PIV3)を用いた別の研究では、さらなる遺伝子を追加することによって、または非翻訳領域に挿入する(したがって、遺伝子番号を変化させなかった)ことによって、ゲノムの長さを増加させると、インビトロで効率的な複製が保持されたが、ハムスターにおいて弱毒性であった(Skiadopoulos, et al. 2000. Virology 272:225-234)。ゲノムの長さの増加に伴う弱毒化は、より長いゲノムを複製することの負担がより大きいために起こると推定される。ゲノムの長さを増加させると複製効率が低下するという観察は、逆の考え、すなわち、ゲノムの長さを短くすると複製効率が増加する可能性があるということを示唆した。この目的のために、RSV D46/ΔM2-2ウイルスを、「6120」と呼ばれる突然変異を含むように改変して、RSV LID/ΔM2-2(
図2の下の略図に示されるゲノム図)と呼ばれるウイルスを生じさせた。この文書において、ウイルス名中の「LID」は6120変異の存在を示している。
【0148】
「6120」変異(
図3)は、SH遺伝子の下流非翻訳領域の112ヌクレオチドの欠失と、SH遺伝子の最後の3つのコドンおよび終止コドンへの翻訳上サイレントな5つの点突然変異の導入を含む(Bukreyev, et al. 2001. J Virol 75:12128-12140)。この突然変異の元の設計の主な目的は、アンチゲノムcDNAを細菌内で安定化させて、より容易に操作し調製することができるようにすることであり、実際にそうであった。wt RSVにおいて、この突然変異は、インビトロで複製効率を5倍増加させることが以前に見出されたが(Bukreyev, et al. 2001. J Virol 75:12128-12140)、マウスでは複製効率を増加させないようであった。RSV LID/ΔM2-2を6120変異に関連したインビトロでの複製増加の可能性について評価したとき、いくつかの実験では若干の増殖効率の増加が観察されたものの、他の実験では認められなかった。
【0149】
RSV D46/ΔM2-2およびRSV LID/ΔM2-2へのさらなる突然変異の組み入れ:
ある範囲のさらなる弱毒化ウイルスを達成することを目標として、RSV D46/ΔM2-2およびRSV LID/ΔM2-2ウイルスの一方または両方に1つまたは複数の追加の突然変異がさまざまに挿入された、該ウイルスの一連のさらなる誘導体を構築した。
【0150】
RSV D46/ΔM2-2の誘導体の例を
図4に示す。例えば、誘導体RSV D46/cp/ΔM2-2ウイルス(
図4、上の略図)は、ΔM2-2変異(
図1)と「cp」変異とを組み合わせたものであり、このcp変異は、3種のタンパク質における5つのアミノ酸置換のセット(N (V267I)、F (E218AおよびT523I)、L (C319YおよびH1690Y))であり、それらは一緒になって(それらだけで)血清反応陰性チンパンジーにおいて複製の約10倍の減少および疾患の軽減をもたらす(Whitehead, et al. 1998. J Virol 72:4467-4471)。チンパンジーからの表現型データの有効性は、この実験動物がRSV複製および疾患に対するその許容性の点でヒトに似ているため、注目に値する。ここで留意すべきは、D46/cp/ΔM2-2構築物が、DNAレベルで、D46骨格に単一の偶発的なヌクレオチド変化を有したことである:具体的には、M ORF中にサイレントなヌクレオチド変化G3878Aが存在していた。
【0151】
別の誘導体であるRSV D46/ΔM2-2/1030sウイルス(
図4、上から2番目の略図)は、ΔM2-2変異を、1321K(AAA)/S1313(TCA)からなる遺伝的に安定化された1030変異(「1030s」)との組み合わせで含む(Luongo, et al. 2012. J Virol 86:10792-10804)。1030s変異は、マウスの上気道および下気道におけるRSV複製を、それぞれ0.6および1.5平均log
10に減少させた。それはまた、血清反応陰性チンパンジーにおいても評価されているが、いくつかの追加の弱毒突然変異との組み合わせでのみ評価された(Luongo, et al. 2012. J Virol 86:10792-10804)。
【0152】
別の誘導体であるRSV D46/cp/ΔM2-2/HEKウイルス(
図4、下の略図)は、cpおよびΔM2-2変異を「HEK」変異と組み合わせたものである。HEK変異は、RSV Fタンパク質の2つのアミノ酸置換K66EおよびQ101Pからなり、該アミノ酸置換は、該配列を、HEK-7と呼ばれる同じ株(A2)の初期継代にアミノ酸レベルで一致させる。このHEK-7株は、元のA2臨床分離株をヒト胚性腎(HEK)細胞で7回継代することによって誘導されたものであり(Connors, et al. 1995. Virology 208:478-484; Whitehead, et al. 1998. J Virol 72:4467-4471)、元のA2臨床分離株と最もよく似ている(そしておそらく同一である)と考えられる(Liang, et al. 2014. J Virol 88:4237-4250; Liang, et al. 2015. J Virol 89:9499-9510)。HEK変異はFタンパク質3量体を安定化させ、かつ元の臨床分離株のそれに似ていると考えられる低融合性(hypofusogenic)表現型をもたらしたことが以前に示された(Liang, et al. 2014. J Virol 88:4237-4250; Liang, et al. 2015. J Virol 89:9499-9510)。元のA2臨床分離株に見出されそうなことに加えて、HEK割り当ては、GenBankに存在するRSVサブグループAのほぼ全ての臨床分離株において見出される(Liang, et al. 2015. J Virol 89:9499-9510)。したがって、HEK変異は、おそらく高い免疫原性を示す融合前コンホメーションに富んだ、RSV Fタンパク質のより真正で免疫原性のある形態を提供することができる(McLellan et al. Science 2013 340(6136):1113-7; Science 2013 342(6158):592-8)。したがって、必然的に弱毒化とそれ自体関連するのではなく、HEK変異は、元のA2臨床分離株ならびに他のRSV臨床分離株をより正確に反映する、ある型のFタンパク質を提供する。
【0153】
RSV LID/ΔM2-2の誘導体の例を
図5に示す。誘導体RSV LID/cp/ΔM2-2ウイルス(
図5、上の略図)は、ΔM2-2変異とcp変異を組み合わせたものである。別の誘導体RSV LID/ΔM2-2/1030sウイルス(
図5、上から2番目の略図)は、ΔM2-2変異と1030s変異を組み合わせたものである。別の誘導体RSV ΔSH/ΔM2-2ウイルス(
図5、上から3番目の略図)は、ΔM2-2変異をSH遺伝子の欠失と組み合わせたものである(SH欠失の構築の詳細については
図6参照)。SH遺伝子の欠失は、血清反応陰性チンパンジーにおいてRSV複製の40倍の減少、および疾患の軽減をもたらすことが以前に示された(Whitehead, et al. 1999. J Virol 73:3438-3442)。別の誘導体RSV cp/ΔSH/ΔM2-2ウイルス(
図5、下の略図)は、ΔM2-2およびcp変異をSH遺伝子の欠失と組み合わせたものである。SH遺伝子の欠失は6120変異を除去するので、SH遺伝子全体が欠失されたウイルスは「LID」と呼ばれないことに留意されたい。
【0154】
図2、4および5に示した変異体の全ては、標準的な方法を用いて逆遺伝学により容易に回収された。しかし、以前の研究に基づいた予想に反して(例えば、Bukreyev et al., J Virol 1997 71:8973-8982; Whitehead et al. J Virol 73:3438-3442 1999)、ΔM2-2変異の状況下にあってΔSH変異を含むウイルスは、他のΔM2-2変異体よりも約10倍低い効率で複製した。この知見は、ウイルスが実際に作製されて評価されるときに、どれほど予想外の、しかし重要な、影響が現れ得るかを示している。
【0155】
図4および5に示した弱毒突然変異に関して、cp、ΔSH、1030(1030sの親)およびΔM2-2変異のチンパンジーでの以前の研究は、それらの増加する弱毒化の順序が次のようになることを示した。
したがって、cp、ΔSHおよび1030sの突然変異は、単独でまたはΔM2-2変異と一緒に組み合わせた場合に、広範囲のレベルの追加の弱毒化を提供する。これらは、関連するワクチン標的集団(血清反応陰性の乳幼児)における臨床研究で評価され得る。
【0156】
実施例2
この実施例では、LIDおよびD46 ΔM2-2ウイルスの臨床前評価を記載する。
【0157】
本開示の代表的なウイルスを、BALB/cマウスの気道での複製について評価した:すなわち、RSV D46 wt、RSV LID/ΔM2-2、RSV ΔSH/ΔM2-2、RSV LID/ΔM2-2/1030s、およびRSV cp/ΔSH/ΔM2-2 (
図7)。動物に5.8 log
10の表示したウイルスを鼻腔内接種し、接種後4および5日目に犠牲にし、鼻甲介および肺を採取し、ホモジナイズして、RT-qPCRにより評価した。RT-qPCRは、感染性粒子をアッセイすることよりも感度の高い検出を提供するので、この半許容性の実験動物に有用である。これは、弱毒突然変異を含む全てのウイルスがwt D46ウイルスよりも制限されることを示した。かくして、この半許容性げっ歯類モデルにおける複製のレベルは、詳細な比較ができないほど制限されたが(
図7)、様々な弱毒突然変異のさらなる付加はさらに弱毒性であった。
【0158】
同じ4つのΔM2-2含有ウイルスを、AGMの気道での複製について調査した:すなわち、RSV LID/ΔM2-2、RSV ΔSH/ΔM2-2、RSV LID/ΔM2-2/1030s、およびRSV cp/ΔSH/ΔM2-2 (
図8Aおよび8B、表1〜3)。AGMは、RSVの天然のヒト宿主とのより近い系統発生学的および解剖学的関連性のため、げっ歯動物よりも信頼のおけるRSV複製モデルである。さらに、AGMは、アカゲザルおよびカニクイザルと比較して、やや高いレベルのRSV複製を支持するため、最も適切で有用なサルモデルであるようだ。しかしながら、AGMは、それにもかかわらず、RSV複製に対して半許容性であるにすぎず、AGMでのRSV複製のレベルは、チンパンジーまたはヒトでのレベルよりもかなり低い。4グループのAGMに、2つの部位(INおよびIT)につき6 log
10 PFU/mlをIN経路とIT経路の組み合わせで接種した。NPスワブを1日目〜10日目および12日目に毎日採取し、気管洗浄を2、4、6、8、10および12日目に採取した(表1および2)。これは、1つまたは複数の追加の弱毒突然変異を含む3つのウイルス全てが、RSV LID/ΔM2-2よりも弱毒化されたことを示した。特に、RSVΔM2-2/1030sウイルスは最も弱毒化されたようであった。これらのウイルスの3つ全ては、RSV LID/ΔM2-2よりも約2倍(RSV ΔSH/ΔM2-2およびRSV cpΔSH/ΔM2-2)または4倍(RSV LID/ΔM2-2/Δ1030s)低いRSV中和血清抗体の力価を誘導し(表3)、複製レベルの低下および結果として生じる抗原負荷の減少が免疫原性の低下と関連し得るという一般的な予想と一致した。したがって、耐容性良好であるが十分に免疫原性であるRSVワクチン候補を同定するように注意を払うべきである。
【0159】
(表1)RSV LID/ΔM2-2、RSV ΔSH/ΔM2-2、RSV LID/ΔM2-2/1030s、またはRSV cp/ΔSH/ΔM2-2を接種したAGMからの鼻咽頭スワブサンプルのウイルス力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.0 log
10 PFUの表示ウイルスを鼻腔内および気管内経路の組み合わせで接種した(全用量:動物あたり6.3 log
10 PFU)。
b 組み合わせたNPスワブを、安定化剤としてスクロースリン酸緩衝液を含む2mLのL-15培地に入れた。ウイルス力価測定を37℃でVero細胞にて行った。検出の下限は0.7 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。
c ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間、その間の(もしあれば)不検出日を含む。
d 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.35の値を用いた。
【0160】
(表2)RSV LID/ΔM2-2、RSV ΔSH/ΔM2-2、RSV LID/ΔM2-2/1030s、またはRSV cp/ΔSH/ΔM2-2を接種したAGMからの気管洗浄サンプルのウイルス力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.0 log
10 PFUの表示ウイルスを鼻腔内および気管内経路の組み合わせで接種した(全用量:動物あたり6.3 log
10 PFU)。AGM試験は、NIHのNIAID動物実験委員会によって承認された。
b 2、4、6、8、10および12日目に、3mLのPBSで気管洗浄を行った。ウイルス力価測定を37℃でVero細胞にて行った。検出の下限は1.0 log
10 PFU/mL(洗浄液)であった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。
c ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間、その間の(もしあれば)不検出日を含む。
d 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.7の値を用いた。
【0161】
(表3)RSV LID/ΔM2-2、RSV ΔSH/ΔM2-2、RSV LID/ΔM2-2/1030s、またはRSV cp/ΔSH/ΔM2-2を接種したAGMからの中和抗体力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.0 log
10の表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.3 log
10 PFU/動物)。
b 接種後(p.i.) 0、21および28日目に、血清を取得した。中和抗体力価を60%プラーク減少中和アッセイで測定した。検出の下限は3.3 (1:10)であった。
【0162】
RSV LID/ΔM2-2を次の3つのウイルス:D46/ΔM2-2、RSV D46/cp/ΔM2-2、D46/cp/ΔM2-2/HEKと比較する別の実験をAGMにおいて行った(表4〜6)。これは、RSV LID/ΔM2-2ウイルスが、RSV D46/ΔM2-2よりも上気道(表4)および下気道(表5)においてかなり効率的に複製したことを示した。重要なこととして、これらのウイルスの唯一の違いは、6120変異がRSV LID/ΔM2-2に存在することであったので、これは、6120変異が霊長類宿主において複製の増加をもたらすことを示した。したがって、それは、ウイルスの制限および弱毒化のレベルを徐々に低下させる手段を提供する。かくして、LID骨格およびD46骨格は複製効率の大きな違いをもたらし、その結果、いずれかの骨格への追加の突然変異の組み入れは、さまざまな弱毒化表現型を提供することができる。追加の突然変異を有するRSV D46ウイルス、すなわちRSV D46/cp/ΔM2-2/HEKおよびRSV D46/cp/ΔM2-2は、かなり減少した複製を有し、これは弱毒化の増加を示している。全てのウイルスは、RSV中和血清抗体の十分な力価を誘導した(表6)。RSV LID/ΔM2-2は最高の力価を誘導した;RSV D46/ΔM2-2およびRSV D46/cp/ΔM2-2によって誘導された力価は2倍未満低く、RSV D46/cp/ΔM2-2/HEKによって誘導された力価はほぼ6倍低かった。このことは、様々な程度の弱毒化を特定する突然変異の組み入れが、ある範囲の弱毒化表現型をもたらすことを示した。それはまた、複製の減少が免疫原性の低下をもたらし得るというさらなる示唆を提供した。
【0163】
(表4)D46/cp/ΔM2-2/HEK、D46/cp/ΔM2-2、D46/ΔM2-2、またはRSV LID/ΔM2-2を接種したAGMからの鼻咽頭スワブサンプルのウイルス力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.7 log
10 PFUの表示ウイルスを鼻腔内および気管内経路の組み合わせで接種した(全用量:動物あたり7.0 log
10 PFU)。AGM試験は、NIHのNIAID動物実験委員会によって承認された。
b 組み合わせたNPスワブを、安定化剤としてスクロースリン酸緩衝液を含むL-15培地2mL中に入れた。ウイルス力価測定を32℃でVero細胞にて行った。検出の下限は0.7 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。
c ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間、その間の(もしあれば)不検出日を含む。
d 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.35の値を用いた。
【0164】
(表5)D46/cp/ΔM2-2/HEK、D46/cp/ΔM2-2、D46/ΔM2-2、またはRSV LID/ΔM2-2を接種したAGMからの気管洗浄サンプルのウイルス力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.7 log
10 PFUの表示ウイルスを鼻腔内および気管内経路の組み合わせで接種した(全用量:動物あたり7.0 log
10 PFU)。
b 2、4、6、8、10および12日目に、3mLのPBSで気管洗浄を行った。ウイルス力価測定を32℃でVero細胞にて行った。検出の下限は1.0 log
10 PFU/mL(洗浄液)であった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。
c ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間、その間の(もしあれば)不検出日を含む。
d 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.7の値を用いた。
【0165】
(表6)D46/cp/ΔM2-2/HEK、D46/cp/ΔM2-2、D46/ΔM2-2、またはRSV LID/ΔM2-2を接種したAGMの中和抗体力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.7 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=7.0 log
10 PFU/動物)。
b 接種後0、21および28日目に、血清を取得した。中和抗体力価を60%プラーク減少中和アッセイで測定した。検出の下限は3.3 (1:10)であった。
【0166】
実施例3
この実施例では、RSV MEDI/ΔM2-2ウイルスの臨床評価を記載する。
【0167】
RSV MEDI/ΔM2-2と命名された、改変M2-2を含む別のRSV変異体は、以前に記載されたものである(Jin, et al. 2000. J Virol 74:74-82)。RSV MEDI/ΔM2-2ウイルスは、アンチゲノムcDNAにヌクレオチド位置8197〜8201および8431〜8436でHindIII部位を導入し、続いてHindIII制限消化およびライゲーションを行って、介在する234ヌクレオチドをM2-2 ORFから欠失させることによって作製した(Jin, et al. 2000. J Virol 74:74-82)。したがって、RSV MEDI/ΔM2-2ウイルスは、本明細書に記載の「ΔM2-2」変異を含まない(例えば、
図1参照)。このウイルスは、CollinsらがRSV A2株の調製物から開発したD46由来ではなかった(Collins et al. Proc Natl Acad Sci USA 1995 92:11563-11567);代わりに、それはRSV A2株の異なる調製物に由来した(下記の実施例5はこれらの骨格の違いを記載する)。弱毒生鼻腔内ワクチンとしてのヒト評価に適したRSV MEDI/ΔM2-2の臨床試験材料(CTM)を製造した。RSV MEDI/ΔM2-2 CTMのヌクレオチド配列を決定したところ、3つの配列位置での2型性(dimorphism)(2つの異なるヌクレオチド割り当ての混合物)を除いて、その起源のcDNAクローンのものと同一であることが判明した:(i) NS1遺伝子中のヌクレオチド285は、cDNAでのAと比べてCTMではA/Gの混合物であり、cDNAでのSと比べてCTMではアミノ酸割り当てS/Gの混合物を生じた;(ii) NS2遺伝子中のヌクレオチド900は、cDNAでのCと比べて、C/Tの混合物であり、アミノ酸コードへの影響はなかった;および(iii) SH遺伝子中のヌクレオチド4311は、cDNAでのTと比べてCTMではT/Gの混合物であり、cDNAでのNと比べてCTMではアミノ酸割り当てN/Kの混合物を生じた。RNAウイルスに多型を見出すことはよくあることである;このCTMは高レベルの感染性(プラークアッセイで測定)を有し、プラーク表現型に2型性を示さず、インビトロで効率的に複製したので、これらは重要ではなさそうと見なした。実験動物および臨床的対象から排出されたウイルスの配列評価を行って、これらの配列の違いのどれがインビボで支持されるかを判定することができ、それは、これらのどれが重要であるかを示すであろう。ある臨床ワクチン分離株からの配列を取得したところ、示された位置の全てに2型性の痕跡がまだ存在した;このことは、これらの変化のどれも重要ではなかったことを示している。
【0168】
RSV MEDI/ΔM2-2は、鼻腔内ワクチン候補として、第1相臨床試験で逐次的に成人、RSV血清反応陽性幼児、ならびに6〜24ヶ月齢のRSV血清反応陰性乳幼児において評価された(ClinicalTrials.gov NCT01459198; Karron, et al. 2015. Science Transl Med 2015 7(312):312ra175)。成人での試験はオープンラベルであり、血清反応陽性および血清反応陰性の乳幼児での試験は、二重盲検、無作為化、プラセボ対照であった。この試験は、Johns Hopkins University Bloomberg School of Public Health (JHU)のCenter for Immunization Research (CIR)で行われた。
【0169】
成人およびRSV血清反応陽性幼児で評価すると、この実験用ワクチンは、RSVの弱毒化株について予想されるように、感染力が非常に弱く、免疫原性が非常に低く、耐容性が良好であった。RSV血清反応陰性乳幼児では、ワクチン接種対象20名が5.0 log
10 PFUのRSV MEDI/ΔM2-2ワクチンの単回投与を受け、対象10名がプラセボを受け取った。発熱と咳の発生率は、ワクチン接種対象とプラセボとで似ていたのに対して、上気道疾患は、プラセボに対してワクチン接種対象では2倍の頻度(44%に対して85%)で発生したが、これは統計的な差がなかった。両グループから様々な外来性の呼吸器ウイルスが高頻度で分離された;おそらく、これらが疾患の多くを引き起こし、この特定の試験でのワクチン耐容性の判定を混乱させたと推定される。外来性ウイルスによる感染および疾患の発生率は、異なる試験間で予想外に変動することがあり、この場合には発生率が異常に高かったので、RSV MEDI/ΔM2-2の耐容性を評価するためのさらなる試験が必要となるだろう。鼻洗浄液中のワクチンウイルスの排出は、プラークアッセイでは20名中12名のレシピエントにおいて、また、RT-qPCRでは20名中17名のレシピエントにおいて検出された。感染性ウイルスを排出した幼児での排出ウイルスの平均力価は、1.5 log
10 PFU/mlであった(
図9、左側)。これらの知見が提起した可能性は、研究が一般的に、プラークアッセイに基づいて>90%の排出、および約2.5 log
10 PFU/mlの感染性排出ウイルスの平均力価を目標としているため、このワクチンは複製が過度に制限されている可能性があるということであった。抗体応答に関しては、20名中19名の血清反応陰性幼児がRSV中和血清抗体力価の≧4倍の増加を有し、平均力価は6.6 log
2 (1:97)であった。これは、RSV MEDI/ΔM2-2ウイルスが実質的に免疫原性であることを示唆した。しかしながら、20名中12名の対象のみが感染性ウイルスを排出したにすぎないという観察は、排出ワクチンウイルスの低い力価と併せて、RSV MEDI/ΔM2-2ウイルスが準最適な複製を有し、多少より効率的に複製したM2-2変異型ウイルスがより効果的であるかもしれない、という可能性を提起した。これは、RSVが複製して疾患を引き起こす気道の表層上皮の免疫防御が非効率的であり、したがって可能な限り免疫原性であることがRSVワクチンにとって望ましいので、当該の関心事である。
【0170】
実施例4
この実施例では、RSV LID/ΔM2-2の臨床評価を記載する。
【0171】
上述したように、AGMでのRSV D46/ΔM2-2とRSV LID/ΔM2-2の比較は、RSV LID/ΔM2-2における「6120」変異の存在が複製の増加に関連することを示した(表4および5)。RSV MEDI/ΔM2-2のCTMに対するRSV LID/ΔM2-2のAGMにおける複製を、wt RSVと並行して、さらに比較した(表7〜9)。NPスワブ(表7)または気管洗浄検体(表8)における感染性ウイルスの排出の分析は、両方のウイルスが並行して評価されたwt RSVよりも弱毒化されていることを示した。しかし、RSV LID/ΔM2-2とRSV MEDI/ΔM2-2の間には、排出の、それゆえに複製の、明らかな違いはなかった。3つ全てのウイルス(RSV LID/ΔM2-2、RSV MEDI/ΔM2-2、およびwt RSV)は、RSV中和血清抗体の同様の力価を誘導した(表9)。
【0172】
RSV LID/ΔM2-2ウイルスは、それがRSV MEDI/ΔM2-2よりもヒトでより効率的に複製して、より免疫原性であり得るかを判定するために、臨床研究において評価した。実験用の鼻腔内RSVワクチンとしてヒトに投与するのに適したRSV LID/ΔM2-2のCTMのロットを製造した。ヌクレオチド配列分析は、このCTMがそのcDNAクローンと同じ配列を有し、検出可能な偶発的な突然変異が製造中に存在しないことを示した。Vero細胞(ワクチン製造に使用される)におけるその複製効率は、RSV MEDI/ΔM2-2と本質的に同じであった。AGMにおける複製および免疫原性について、RSV LID/ΔM2-2 CTMをwt RSVと並行して評価した(表10〜12)。NPスワブ(表10)および気管洗浄検体(表11)からの感染性ウイルスの力価測定により、RSV LID/ΔM2-2 CTMの弱毒化表現型が確認された。それにもかかわらず、このCTMによって誘導されたRSV中和血清抗体の力価は、wt RSVによって誘導された力価とほぼ同じであり(表12)、この実験用ワクチンはそのwt親の免疫原性の多くを保持していたことを示している。
【0173】
RSV LID/ΔM2-2 CTMは、CIR/JHU (ClinicalTrials.gov NCT02040831)およびInternational Maternal Pediatric Adolescent AIDS Clinical Trials Network (IMPAACT, ClinicalTrials.gov NCT02237209)からの7か所の臨床現場で実施された二重盲検プラセボ対照研究で6〜24ヶ月齢のRSV血清反応陰性乳幼児において評価した。合計で、20名の対象が5.0 log
10 PFUのワクチンの単回用量を受け取り、9名がプラセボを受け取った。ワクチン接種後の呼吸器疾患に関しては、ワクチン接種対象とプラセボ投与対象の両方で呼吸器疾患が頻繁に発生した。発熱、中耳炎、上気道疾患、下気道疾患、咳、または呼吸器疾患もしくは発熱性疾患の発生率は、2つのグループ間で本質的に同じであった。ライノウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザおよびコロナウイルスを含めて、外来性ウイルスがワクチン接種対象とプラセボ投与対象の両方で頻繁に検出された。1名のワクチン接種対象は9日目に発症して11日目に消散した軽度の下気道疾患(低調性連続性副雑音(rhonchi))の短いエピソードを経験し、これは外来性感染物質としてのライノウイルスおよびエンテロウイルスに加えて、ワクチンウイルスの排出と一致した。したがって、この臨床疾患の因果関係は不明なままである。感染性排出ワクチンウイルスは20名中19名のワクチン接種対象から回収され、3.4 log
10 PFU/mlの平均ピーク力価を示した(
図9B)。
【0174】
したがって、RSV LID/ΔM2-2ウイルスは、感染性ウイルスを排出する人数(19/20対12/20)に基づいて、および平均ピーク力価(3.4 log
10 PFU/ml対1.5 log
10 PFU/ml、これは有意差があった)に基づいて、ヒト宿主においてRSV MEDI/ΔM2-2よりも感染力が高かった。RSV LID/ΔM2-2ウイルスはまた、以前の臨床研究で評価されていたrA2cp248/404/1030ΔSHと呼ばれる以前のリード候補よりも効率的に複製した(Karron, et al. 2005. J Infect Dis 191:1093-1104):この以前の研究からのいくつかの検体をMEDI/ΔM2-2研究からの検体と比較して分析したところ、rA2cp248/404/1030ΔSHは2.5 log
10の平均ピーク力価を有することが示された(
図9A、右のパネル)。RSV LID/ΔM2-2ウイルスはまた、並行して分析したRSV MEDI/ΔM2-2 (1:97)およびrA2cp248/404/1030ΔSH (1:34)と比較して、RSV中和血清抗体のより高い平均力価(1:137)を誘導した(Karron, et al. 2015. Science Transl Med 2015 7(312):312ra175)。
【0175】
上記の臨床研究は、RSV LID/ΔM2-2ウイルスがヒト宿主においてRSV MEDI/ΔM2-2よりも感染力が高く、より効率的に複製したことを示した。それは免疫原性も高かった。上記のように、これらの2つのウイルス間のウイルス複製の効率の差は、細胞株またはAGMにおいて再現可能に実証されていなかった;また、MEDI/ΔM2-2に対するLID/ΔM2-2のより高い免疫原性もAGMにおいて実証されていなかった。したがって、前臨床研究に反して、RSV LID/ΔM2-2は、より複製能があり、より免疫原性が高いRSV MEDI/ΔM2-2の代替物を提供する。
【0176】
1つまたは複数の追加の弱毒突然変異を有するRSV LID/ΔM2-2のさらなる誘導体を設計して構築した。こうした株の例としては、以下が挙げられる:RSV LID/cp/ΔM2-2 (実施例8参照)、RSV LID/ΔSH/ΔM2-2、RSV LID/cp/ΔSH/ΔM2-2、およびRSV LID/ΔM2-2/1030s。血清反応陰性チンパンジーにおけるcp、ΔSH、1030sおよびΔM2-2変異の以前の評価に基づいて、これらのウイルス株の増加する弱毒化の順序は次のようになると予想される。
実施例5〜8に記載の突然変異を含む株などの、さらなる株も提供される。
【0177】
(表7)RSV LID/ΔM2-2またはwt RSV rA2を接種したAGMからの鼻咽頭スワブサンプル中のウイルスの力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.0 log
10 PFUの表示ウイルスを鼻腔内および気管内経路の組み合わせで接種した(全用量:動物あたり6.3 log
10 PFU)。AGM研究は、NIHのNIAID動物実験委員会によって承認された。
b 組み合わせたNPスワブを、安定化剤としてスクロースリン酸緩衝液を含む2mLのL-15培地に入れた。ウイルス力価測定を37℃でVero細胞にて行った。検出の下限は0.7 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。
c ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間、その間の(もしあれば)不検出日を含む。
d 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.35の値を用いた。
【0178】
(表8)RSV LID/ΔM2-2またはwt RSV rA2を接種したAGMからの気管洗浄サンプル中のウイルスの力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.0 log
10の表示ウイルスを鼻腔内および気管内経路の組み合わせで接種した(全用量:動物あたり6.3 log
10 PFU)。
b 2、4、6、8、10および12日目に、3mLのPBSで気管洗浄を行った。ウイルス力価測定を37℃でVero細胞にて行った。検出の下限は1.0 log
10 PFU/mL(洗浄液)であった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。
c ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間、その間の(もしあれば)不検出日を含む。
d 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.7の値を用いた。
【0179】
(表9)RSV LID/ΔM2-2またはWT RSV rA2を接種したAGMの中和抗体力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.0 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.3 log
10 PFU/動物)。
b 接種後0、21および28日目に、血清を取得した。中和抗体力価を60%プラーク減少中和アッセイで測定した。検出の下限は3.3 (1:10)であった。
【0180】
(表10)CTM RSV LID/ΔM2-2または組換えwt RSV rA2を接種したAGMからの鼻咽頭スワブサンプル中のウイルス力価
a サルに、部位あたり1mLの接種材料中の5.9 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.2 log
10 PFU/AGM)。
b ウイルス力価測定を37℃でVero細胞にて行った。検出の下限は0.7 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。結果は、RSV LID ΔM2-2が、RSV rA2と比較して、AGMのURTにおいて強く制限されることを示す。
c 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.35の値を用いた。
【0181】
(表11)CTM RSV LID/ΔM2-2または組換えwt RSV rA2を接種したAGMからの気管洗浄サンプル中のウイルスの力価
a サルに、部位あたり1mLの接種材料中の5.9 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.2 log
10 PFU/AGM)。
b ウイルス力価測定を32℃でVero細胞にて行った。検出の下限は1.0 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。下線付きの値は各動物の最大力価を示す。予想通り、高度に温度感受性のウイルスRSV LID ΔM2-2は、AGMのLRT(体温39℃)において複製しなかった。TL,気管洗浄。
c 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.7の値を用いる。
【0182】
(表12)CTM RSV LID/ΔM2-2または組換えwt RSV rA2を接種したAGMにおける血清PRNT
60抗体力価
a サルに、部位あたり1mLの接種材料中の5.9 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.2 log
10 PFU/AGM)。
b 60%プラーク減少アッセイの検出の下限は3.3 (希釈逆数のLog
2)である。検出下限以下のサンプルは「-」として記録される。
【0183】
実施例5
この実施例では、インビボでの複製効率に影響を及ぼす可能性のあるRSV LID/ΔM2-2、RSV D46/ΔM2-2、およびRSV MEDI/ΔM2-2の違いを記載する。
【0184】
上記のように、RSV D46/ΔM2-2ウイルスとRSV LID/ΔM2-2ウイルスは、RSV LID/ΔM2-2のSH遺伝子における6120変異を除いて、配列が同一である;6120変異は、下流の非翻訳領域から112ヌクレオチドを除去し、かつSH ORFの最後の3つのコドンおよび停止コドンのサイレントヌクレオチド変化をもたらす(
図3)。RSV LID/ΔM2-2は、AGMの上気道(表4)および下気道(表5)において、RSV D46/ΔM2-2よりもかなり効率的に複製した。これらのウイルスは他の点では同一であるので、これは、6120変異が霊長類における複製の増加と関連しており、その影響がAGMにおいて疑いの余地なく明確に検出するのに十分なほど大きいことを示した。
【0185】
上記のように、RSV LID/ΔM2-2ウイルスとRSV MEDI/ΔM2-2ウイルスは、細胞培養およびAGMにおける複製効率に関して区別することができなかったが、前者は血清反応陰性乳幼児における複製がより著しく効率的であり、免疫原性がより高かった。したがって、これらのウイルスは複製効率の点で相違するものの、それは十分に許容性のヒト宿主において明らかにされたにすぎなかった。RSV LID/ΔM2-2は6210変異を有し、RSV MEDI/ΔM2-2は該変異を有しない。しかし、この場合、6120変異は、半許容性AGMにおける複製の増加と関連していなかったが、許容性の天然宿主である血清反応陰性乳幼児における複製の増加と関連していた。これらの観察は、RSV LID/ΔM2-2がRSV MEDI/ΔM2-2よりも高い複製効率を明らかに有するが、これはLIDウイルスとMEDIウイルスとの間の他の何らかの相違によって若干減少しうることを示唆する。6120変異に加えて、そのような相違点が2つある:
【0186】
相違点の1つは、M2-2 ORFをサイレンシングする突然変異の詳細が、RSV LID/ΔM2-2とRSV MEDI/ΔM2-2の間で異なることである。RSV LID/ΔM2-2(およびRSV D46/ΔM2-2)において、該欠失は241ntの長さであり、ヌクレオチド8187の後で開始し、さらに、3つのATG翻訳開始コドンがすべてACGに変更されている;その結果、M2-2由来ペプチドの翻訳はほとんどまたは全くなくなるはずである(
図1)。これに対して、RSV MEDI/ΔM2-2では、該欠失変異は、ヌクレオチド8196で始まる外来のHindIII制限部位の挿入を含み、234ntの欠失を含み、かつM2-2タンパク質の最長バージョンのN末端を表す12アミノ酸ペプチドをコードするであろう(Jin, et al. 2000. J Virol 74:74-82)。
【0187】
相違点の2つ目は、RSV MEDI/ΔM2-2とRSV LID/ΔM2-2のcDNAが、2つの骨格にわたって散在する21の追加のヌクレオチド配列位置で異なることである(表13)。これらのうち、6つのヌクレオチドの相違(RSV LID/ΔM2-2の1099位での1-ヌクレオチド挿入を含む)は、D46 cDNAクローンの構築中に加えられた制限部位に起因する(Collins, et al. 1995. Proc Natl Acad Sci USA 92:11563-11567)。これらの6つの変化は、生物学的wt RSVと組換えwt D46 RSVがチンパンジーにおいて同様の効率で複製し、かつ同様のレベルの疾患を引き起こすので、表現型的にサイレントであると考えられる(例えば、Whitehead, et al. 1998. J Virol 72:4467-4471)。これらの変化はまた、ヒトにおいてこれまでに評価された、いくつかのワクチン候補にも存在している。したがって、これらの6個のヌクレオチドおよびそれらの関連する制限部位が複製に影響を及ぼす可能性は低いようであるが、これは明確には決定されていない。RSV MEDIΔM2-2とRSV LID/ΔM2-2との間の残りの15個のヌクレオチドの相違は点突然変異であり、これらの点突然変異は、2つの独立した逆遺伝学系が誘導された、A2株の2つの異なる親生物学的ウイルスストックに存在する偶発的な相違を反映していると考えられる。異なる継代履歴を有する同じRSV株の2つの調製物の間に多数のヌクレオチドの相違を見つけることは珍しいことではない。これらの15のヌクレオチドの相違のうち2つは、アミノ酸の相違、すなわちNS2タンパク質に1つ(K51R)とNタンパク質にもう1つ(T24A)のアミノ酸相違をもたらす(アミノ酸割り当ては、最初にLIDで、その後にMEDIで示される)。最近の研究から、これらの2つのアミノ酸相違のいずれもインビトロでの複製効率に影響を及ぼさないことが示された(Lawlor, Schickli, and Tang. 2013. J Gen Virol 94:2627-2635)。
【0188】
(表13)6120およびΔM2-2変異に加えて、RSV MEDI/ΔM2-2とRSV LID/ΔM2-2の間のゲノム配列(ポジティブセンス)の相違
1 WT RSV A2株(Genbankアクセッション番号M74568)に対して番号付けされたゲノム位置。全ての配列はポジティブセンスである。
2 ncr、非コード領域
4 ig、遺伝子間利用域
* 元のLIDアンチゲノムcDNAクローンにマーカーとして操作された変化(Collins et al. PNAS 92:11563-7 1995 PMID 8524804)。これらの変化は、ヒトで評価された組換えRSVワクチン候補の大部分に存在する。
【0189】
したがって、以下のことを示す新しい試薬および情報が提供される:
1. RSV LID/ΔM2-2は、AGMにおいてRSV D46/ΔM2-2よりもかなり効率的に複製する。これらのウイルスは、RSV LID/ΔM2-2中の6120変異の存在のみで異なるので、この変異は、半許容性AGMモデルでさえも検出可能な差異として、霊長類における複製の増加という表現型を与える、と結論づけられる。RSV LID/ΔM2-2とRSV D46/ΔM2-2との間の複製効率のこの大きな相違は、弱毒化の点でかなり異なる2つの骨格を提供する。したがって、共通の弱毒突然変異のセット(例えば、cp、ΔSH、1030s)を各骨格に導入して、ヒトのベンチマークデータ(すなわち、RSV LID/ΔM2-2の臨床研究)に直接結び付く広範囲の弱毒化表現型を得ることができる。
【0190】
2. RSV LID/ΔM2-2は、AGMにおいてRSV MEDI/ΔM2-2よりも効率的に複製することはなかったが、より許容性の高い天然の宿主、すなわち血清反応陰性の乳幼児においてはそのようにした。これは、RSV LID/ΔM2-2がRSV MEDI/ΔM2-2に対する複製利点を有するが、それがRSV D46/ΔM2-2に対して有するよりも小さいことを示唆する。したがって、RSV LID/ΔM2-2およびRSV MEDI/ΔM2-2についてのヒトにおける複製効率の順序は、RSV LID/ΔM2-2>RSV MEDI/ΔM2-2であり、AGMからのデータは、RSV D46/ΔM2-2がさらにいっそう弱毒化されて、RSV LID/ΔM2-2>RSV MEDI/ΔM2-2>D46/ΔM2-2の弱毒化の順序を与える、というさらなる結論を支持する。これは、D46/LID骨格に対するRSV MEDI/ΔM2-2の1つまたは複数の相違がその中間表現型に関与していることを示唆する。NS2およびNにおける、それぞれ、K51RおよびT24A変異は、表現型的にサイレントであることを上記の公表されたデータが示唆しているにもかかわらず、最も可能性のある候補はこれらのアミノ酸置換である(Lawlor, Schickli, and Tang. 2013. J Gen Virol 94:2627-2635)。アミノ酸の変化は、シス作用シグナルに含まれないサイレントヌクレオチドシグナルよりも(タンパク質の構造および機能への影響を介して)表現型に影響を及ぼす可能性がより高いため、これらの2つのアミノ酸置換は最も有望な候補であると考えられる。代わりになる別の可能性または追加の可能性は、ΔM2-2変異の構築の細部の違いが影響を及ぼすことである。さらなる可能性は、19のうちの1つまたは複数の他の翻訳上サイレントなヌクレオチドの相違が影響を及ぼすことである。これらの可能性は、以下に記載するパネルから選択された株を用いて、区別することができる。
【0191】
実施例6
この実施例では、RSV LID/ΔM2-2、RSV D46/ΔM2-2、およびRSV MEDI/ΔM2-2の特徴の組み合わせを有する追加のΔM2-2構築物を記載する。
【0192】
追加のΔM2-2ベースのウイルスは、いくつかのΔM2-2変異の1つ、6120変異、K51R/T24A変異、およびMEDIとD46/LID骨格の間の他の偶然的な差異を含む、様々な組み合わせを得るためのガイダンスとして上記の結果を用いて、構築した。
【0193】
さらなるM2-2欠失を生じさせたが、それは、M2-2 ORFの234ヌクレオチド(ヌクレオチド8202〜8435)を欠失させ、かつT8197AおよびC8199G点突然変異(AclI部位を生じさせ、M2-2 ORFのコドン13に終止コドンを導入した)を導入する部位特異的突然変異誘発に基づいている(
図10)。この改変をRSV D46骨格とRSV LID骨格の両方に対して行って、RSV D46/ΔM2-2-AclIおよびRSV LID/ΔM2-2-AclIを生じさせた(
図11)。これらのウイルスは、D46骨格またはLID骨格(すなわち、それぞれ6120変異なしおよび6120変異ありであるが、それ以外は同一)を、M2-2の12個のN末端アミノ酸を表すペプチドの発現の可能性を含めて、RSV MEDI/ΔM2-2のものに類似するΔM2-2変異(ΔM2-2-AclI)と組み合わせたものである(
図11)。
【0194】
RSV D46/ΔM2-2-AclIおよびRSV LID/ΔM2-2-AclIのcDNAは、NS2タンパク質にK51R変異を、Nタンパク質にT24A変異を組み入れることによって、さらに改変した(
図12A)。したがって、これは、D46/ΔM2-2およびLID/ΔM2-2骨格に、MEDI骨格に対する最も顕著な2つの差異を組み込んだ。
【0195】
さらなる例として、NS2タンパク質中のK51R変異およびNタンパク質中のT24A変異はまた、D46/ΔM2-2骨格に個別に(
図12B、上から1番目と2番目の構築物)および一緒に(3番目の構築物)導入した。これらの突然変異はまた、LID/ΔM2-2骨格(
図12C)に個別に(4番目(構築中)と5番目の構築物)および一緒に(下の構築物)導入した。
【0196】
さらに、ΔM2-2-HindIII変異(
図10に記載)をD46に導入して、D46/ΔM2-2-HindIIIおよびLID/ΔM2-2-HindIII骨格(
図13、上から1番目と3番目の構築物)を生じさせた。さらなる誘導体は、NS2およびNタンパク質におけるK51RおよびT24Aアミノ酸置換のさらなる追加を含んでいた(
図13、上から2番目と第4番目の構築物)。
【0197】
実施例7
この実施例では、Fおよび/またはG遺伝子に対するさらなる改変を有する追加のΔM2-2構築物を記載する。
【0198】
RSV LID/ΔM2-2 (
図2)は、Fおよび/またはG遺伝子をさらに変更することによって改変した。一般的に、これらの改変は、主として弱毒化に影響を及ぼすのではなく、むしろ抗原発現の効率または別の株由来の遺伝子の組み入れといった他のパラメータに影響を及ぼすように設計された。これらの株は、6120変異の存在を示すために、「LID」ではなく「6120」という用語を使用することに留意されたい。これらの構築物は以下のとおりである:
RSV 6120/G001BB/FBB/ΔM2-2 (
図14A):最近(2011年)の低継代臨床分離株A/Maryland/001/11由来のコドン最適化G遺伝子(G001BB)を含む。この構築物はコドン最適化A2株F遺伝子(FBB)をも含む。G001配列の天然配列は、細菌へのクローニング中に不安定であると分かったことに留意されたい。G001BBをもたらすコドンの最適化は、安定性を付与する効果があった。
【0199】
RSV 6120/FBB/G001BB/ΔM2-2 (
図14A):コドン最適化A2 F遺伝子(FBB)および最近の臨床分離株由来のコドン最適化G遺伝子(G001BB)を含むが、主要なRSV中和および防御抗原であるFタンパク質の発現の増加を得るために、遺伝子マップにおけるそれらの順序がG-FからF-Gに入れ替わっている。
【0200】
RSV 6120/G001BB/F/ΔM2-2 (
図14A):G001BBおよび天然のA2 F遺伝子を含む。
【0201】
RSV 6120/G/FBB/ΔM2-2 (
図14A、上から4番目の構築物):天然のA2 G遺伝子およびコドン最適化A2 F遺伝子(FBB)を含む。
【0202】
RSV 6120/G/FBBHEK/ΔM2-2 (
図14B):天然のA2 G遺伝子と、2つのHEK変異(K66EおよびQ101P)をも有するコドン最適化A2 F遺伝子(FBB)とを含む。
【0203】
RSV 6120/G/FBBcpHEK/ΔM2-2 (
図14C):天然のA2 G遺伝子と、2つのHEK変異(K66EおよびQ101P)およびF遺伝子に含まれる2つのcp変異(すなわち、E218AおよびT523I)をも有するコドン最適化A2 F遺伝子(FBB)とを含む。
【0204】
RSV 6120/FBB/G/ΔM2-2 (
図14C):コドン最適化A2 F (FBB)および天然のA2 G遺伝子を含むが、遺伝子マップにおけるそれらの順序がG-FからF-Gに入れ替わっている。
【0205】
RSV 6120/G001BB/F001BB/ΔM2-2 (
図14C):コドン最適化されたG001BB遺伝子およびF001遺伝子(G001BB、F001BB)を含む。
【0206】
簡単に述べると、A/Maryland/001/11と呼ばれる最近の臨床分離株(かなり重症の呼吸器疾患を有する医療従事者から2011年に分離された)由来のGおよび/またはF遺伝子の使用は、これらの組み合わせが改善された複製および/または免疫原性をもたらすかどうかを調べることであった。それはまた、生RSVワクチンが、より最近の株からの表面タンパク質を含むように容易に更新され得ることを示すことになろう。コドン最適化(BB)の使用は、主要な防御抗原の一方または両方の発現を増加させるためであった。GおよびFの遺伝子順序のG-FからF-Gへの変更は、抗原発現を増加させるように設計され、また、ΔM2-2変異の状況下で遺伝子マップ内のプロモーター近位の位置にまでFおよびGを移動させると、実施例1に記載したように、意外にもインビトロで複製レベルの低下を示すウイルスが生じる、ということを知って行われた。2つのF cp変異を含むまたは含まない、HEK変異の使用は、中和エピトープの保存ゆえに優れた免疫原性を示す可能性がある、より安定したFタンパク質を得るために行われた。これは、RSV Fタンパク質の準安定性が変性抗原を提示することによって免疫回避に寄与するかもしれず(Sakurai, et al. 1999. J Virol 73:2956-2962; Collins and Graham, 2008. J Virol 82:2040-2055)、それゆえ、より安定した形態を提供することは、質的に優れた免疫応答を誘導できる可能性がある、という考えに基づいている。
【0207】
図14Aおよび14Bに示されるウイルスのそれぞれは、cDNAから容易に回収された。継代P1は、トランスフェクション後の最初の継代であり、接種材料の力価測定なしに行われる(盲継代)。得られた
図14Aおよび14Bの構築物のP1収量を、6120変異を含むwt RSV (wt LID)、および該構築物の親であるRSV LID/ΔM2-2と比較した(
図15)。これは、全てのウイルスのP1力価が2つの対照に比べて勝るとも劣らなかったことを示したが、RSV 6120/G001BB/F001BB/ΔM2-2のP1力価が約3.0 log
10減少したことを唯一の例外とした。しかしながら、この力価は、P2継代中に他の構築物と一致するレベルにまで回復した(
図15)。総じて、これは、新規遺伝子、遺伝子順序の変化、コドン最適化、ならびにHEKおよび/またはcp変異の導入を含めて、全ての改変が耐容性良好であることを示した。
【0208】
実施例8
この実施例では、追加のRSV ΔM2-2構築物の評価を記載する。
【0209】
上述したように、RSV D46/cp/ΔM2-2 (
図4、上のゲノム)は、ワクチン製造に必要なVero細胞において効率的に複製すること、および高度に弱毒化されているもののAGMにおいて高度に免疫原性であることが見出された(表4〜6)。そのため、ワクチンの種ウイルスを調製して、D46/cp/ΔM2-2の臨床試験材料(CTM)を製造するために使用した。上記のように、この構築物は、D46骨格にDNAレベルで単一の偶発的なヌクレオチド変化を有していた:具体的には、M ORF内に存在し、アミノ酸レベルでサイレントであるG3878A。自動配列分析から、このCTMの配列はcDNAの配列と同一であることが示された。AGMにおけるこのCTMの複製および免疫原性の分析から、それは高度に弱毒化されている(表14および15)ものの高度に免疫原性である(表16)ことが確認された。このワクチン候補は、CIR/JHU (ClinicalTrials.gov識別番号NCT02601612)で実施された、12〜59ヶ月齢の15名のRSV血清反応陽性幼児(ワクチン接種対象10名、プラセボ投与対象5名)における二重盲検プラセボ対照研究で評価した。10
6 PFUの用量で鼻腔内投与した後、ワクチンのウイルス排出は検出されず、D46/cp/ΔM2-2は血清反応陽性幼児では免疫原性が低かった。これは、該ワクチンが高度に制限されて弱毒化されていることを示し、血清反応陰性乳幼児での評価にとってそれは安全かつ妥当であることを予測している。6〜24ヶ月齢のRSV血清反応陰性乳幼児における評価は現在進行中である。これは、有望なワクチン候補に関する情報を提供して、それが広範な研究に適するかどうかを示すであろう。この情報はまた、前臨床および臨床研究に結び付くさらなるベンチマークを提供するであろう。
【0210】
さらに、このウイルスのLID対応物であるLID/cp/ΔM2-2(
図5、上のゲノム)を構築した。これはVero細胞において効率的に複製することが見出され、AGMにおけるこのウイルスの複製および免疫原性の分析は、それが高度に弱毒化されている(表17および18)ものの高度に免疫原性である(表19)ことを示した。これは、LID/cp/ΔM2-2を作製するための、LID/ΔM2-2 (血清反応陰性乳幼児では不完全な弱毒化であった(
図9B))へのcp変異の追加が、AGMにおいて弱毒化の増加をもたらしたことを示した(すなわち、LID/ΔM2-2のデータ、表1および2、表4および5、表7および8、ならびに表10および11を、LID/cp/ΔM2-2のデータ、表17および18と比較されたい)。これは、LID/cp/ΔM2-2が血清反応陰性ヒトにおいて弱毒化の増加を示すはずであることを示唆するが、これを確認し、弱毒化の増加の程度を決定し、安全性を確認するためには、臨床的評価が必要である。
【0211】
その後、LID/cp/ΔM2-2の臨床試験材料をアンチゲノムcDNA(その配列をSEQ ID NO:17に示す)を用いて製造した。臨床試験材料(LIDcpΔM2-2、Lot RSV#009B)の配列は、ヌクレオチド位置9,972のCからTへの点突然変異を除いて、この組換えウイルスが誘導されたcDNAの配列と一致することが、コンセンサス配列分析によって確認された(全ての配列はポジティブセンスまたはアンチゲノムセンスで報告されることに留意されたい)。この突然変異は、アミノ酸レベルでサイレントであり、LIDcpΔM2-2、Lot RSV#009Bを作製するために使用された種ウイルスにも存在していた。偶発的な突然変異は、RNA依存性RNAポリメラーゼの高いエラー率のために、ほとんどのRNAウイルスと同様に、RSVの継代中に現れることがある。このような変化が既知のシス作用シグナルを含まないかまたはアミノ酸コードを変化させない場合、また、それらが該ウイルスのインビトロ複製およびプラークサイズに測定可能な影響を与えないならば、それらは生物学的に重要ではなさそうであると見なされる。LIDcpΔM2-2臨床試験材料中のサイレントC9972T点突然変異は重要ではなさそうであるが、モニタリングされるであろう。
【0212】
LID/cp/ΔM2-2ワクチンウイルスは、二重盲検プラセボ対照臨床試験で6〜24ヶ月齢の血清反応陰性幼児において評価されている。少なくとも5名の対象が該ワクチンを投与されており、ワクチンウイルスが排出されると予測される期間中に反応原性の証拠はなく、このワクチンが耐容性良好であることを示唆している。
【0213】
既に述べたように、LID/ΔM2-2/1030sウイルス(
図5、上から2番目のゲノム)の非臨床実験ロットが調製され、これはVero細胞において効率的に複製することが見出された。これはAGMにおいて評価され、高度に弱毒化されており(表1および2)、しかも高度に免疫原性である(表3)ことが示された。
【0214】
SEQ ID NO:16に示されるアンチゲノムcDNAを用いて、LID/ΔM2-2/1030sのCTMを調製した;自動配列分析は、この臨床試験材料(CTM)の配列がcDNAの配列と同一であることを示した。このワクチンを二重盲検プラセボ対照試験で6〜24ヶ月齢の血清反応陰性乳幼児において評価した。全部で33名の対象が登録され、予定されたワクチン接種:プラセボ比は2:1であった。30名の参加者からの鼻洗浄液を、プラークアッセイ(ウイルス培養)によって、ならびにワクチンウイルスLID/ΔM2-2/1030sの排出についての定量的RT-PCR (qPCR)によって、弱毒化の尺度として評価した。これは、対象のうち17名に明らかなワクチンウイルスの排出があったことを示した(合計20名の対象がワクチン接種を受けたと予測される)。LID/ΔM2-2/1030s試験において30名中15名の対象はプラークアッセイで陽性であり、また、これらの全15名に加えて2名の追加の対象は、より感度の高いアッセイであるqPCRで陽性であった。ワクチン接種後14〜18日の間にウイルスを排出した対象はワクチン接種を受けた者であることが見出され、したがって、これらのデータはワクチンウイルス排出、それゆえに弱毒化、の推定上の評価として使用することができると予想される。比較すると、6〜24ヶ月齢の血清反応陰性乳幼児の比較コホートにおけるRSV LID/ΔM2-2の同様のウイルス排出分析(ClinicalTrials.gov NCT02040831)から、プラークアッセイおよびqRT-PCRによって20名中19名の被接種者におけるウイルス排出が見出された。LID/ΔM2-2/1030s試験では、推定上の平均ピーク力価は、PCRにより5.1 log
10コピー/mlで、培養により2.9 log
10 PFU/mlであったが、LID/ΔM2-2試験の場合には、平均ピーク力価がPCRにより5.9 log
10コピー/mlで、培養により3.4 log
10 PFU/mlであった。したがって、LID/ΔM2-2/1030sウイルスは、排出ウイルスの感染率および力価に基づいてLID/ΔM2-2ウイルスよりも弱毒化されているようであった。LID/ΔM2-2/1030sウイルスでは、3つの最も高い個々のピーク力価が4.7、4.5および4.1 log
10 PFU/mlであったのに対して、LID/ΔM2-2については5.4、5.3および5.1 log
10 PFU/mlであった。さらに、LID/ΔM2-2/1030sウイルスについては、6名の対象が感染性ウイルスを1日だけ排出させたのに対して、LID/ΔM2-2ウイルスでは2日であった。したがって、これらの尺度のそれぞれによって、LID/ΔM2-2への1030s変異の挿入は、ワクチンの標的である血清反応陰性乳幼児において、ウイルス排出の測定可能で一貫した減少をもたらした。
【0215】
1030s変異は温度感受性変異であるため、RSV LID/ΔM2-2/1030sウイルスを温度感受性表現型について評価した(表20)。この分析は、RSV LID/ΔM2-2/1030sが40℃のシャットオフ温度(T
SH)および38℃のスモールプラーク温度(T
SP)を有することを示したが、野生型RSV、LID/ΔM2-2、MEDI/ΔM2-2、LID/cp/ΔM2-2、およびD46/cp/ΔM2-2は、T
SHおよびT
SPが>40℃である。したがって、これらの他の野生型およびΔM2-2ベースのウイルスが温度感受性でないのに、RSV LID/ΔM2-2/1030sは温度感受性表現型を有する。他の2つの既知の温度感受性ウイルスであるRSV ΔNS2/Δ1313/I1314LおよびRSV cps2を陽性対照として加えて、このアッセイが正確であることを確認した。したがって、RSV LID/ΔM2-2への1030s変異の導入は温度感受性表現型を与えた。このことは重要である。というのは、温度感受性表現型が、温度のより低い上気道と比較して、温度のより高い下気道における複製を選択的に制限すると考えられ、それゆえに反応原性に対するさらなる安全性を付与するからである。これは、T
SHおよび/またはT
SPが生理学的温度より高い場合であってもそうであると考えられる。
【0216】
したがって、これは、弱毒化と免疫原性の様々なバランスを有する、次第に減少した複製:LID/ΔM2-2>LID/cp/ΔM2-2>LID/ΔM2-2/1030sを示す、さまざまな弱毒化ウイルスを提供する。
【0217】
(表14)D46/cp/ΔM2-2を接種したAGMからの鼻咽頭スワブサンプルのウイルス力価
a サルに、部位あたり1mLの接種材料中の6 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.3 log
10 PFU/AGM)。
b 組み合わせたNPスワブを、安定化剤としてスクロースリン酸緩衝液を含むL-15培地2mL中に入れた。ウイルス力価測定を32℃でVero細胞にて行った。検出の下限は0.7 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.35の値を用いた。結果は、D46/cp/ΔM2-2がAGMのURTにおいて強く制限されることを示している。
【0218】
(表15)D46/cp/ΔM2-2を接種したAGMからの気管洗浄サンプルのウイルス力価
a サルに、部位あたり1mLの接種材料中の6 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.3 log
10 PFU/AGM)。
b 2、4、6、8、10および14日目に、3mLのPBSで気管洗浄(TL)を行った。ウイルス力価測定を32℃でVero細胞にて行った。検出の下限は1.0 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.7の値を用いた。D46/cp/ΔM2-2はAGMのLRTにおいて強く制限される。
【0219】
(表16)D46/cp/ΔM2-2を接種したAGMからの血清PRNT
60力価
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6.0 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.3 log
10 PFU/動物)。
b 接種後0、21および29日目に、血清を取得した。中和抗体力価を60%プラーク減少中和アッセイで測定した。検出の下限は3.3 (1:10)であった。
【0220】
(表17)LID/cp/ΔM2-2を接種したAGMからの鼻咽頭スワブサンプルのウイルス力価
a サルに、部位あたり1mLの接種材料中の6 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.3 log
10 PFU/AGM)。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.35の値を用いた。
b 組み合わせたNPスワブを、安定化剤としてスクロースリン酸緩衝液を含むL-15培地2mL中に入れた。ウイルス力価測定を32℃でVero細胞にて行った。検出の下限は0.7 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.35の値を用いた。結果は、LID/cp/ΔM2-2がAGMのURTにおいて強く制限されることを示している。
【0221】
(表18)LID/cp/ΔM2-2を接種したAGMからの気管洗浄サンプルのウイルス力価
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6 log
10 PFUの表示ウイルスを鼻腔内および気管内経路の組み合わせで接種した(全用量:6.3 log
10 PFU/動物)。
b 2、4、6、8、10および12日目に、3mLのPBSで気管洗浄を行った。ウイルス力価測定を32℃でVero細胞にて行った。検出の下限は1.0 log
10 PFU/mL(洗浄液)であった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.7の値を用いた。LID/cp/ΔM2-2はAGMのLRTにおいて強く制限される。
【0222】
(表19)LID/cp/ΔM2-2を接種したAGMからの血清PRNT
60力価
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の6 log
10 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=6.3 log
10 PFU/動物)。
b 接種後0、21および29日目に、血清を取得した。中和抗体力価を60%プラーク減少中和アッセイで測定した。検出の下限は3.3 (1:10)であった。
【0223】
(表20)RSV LID/ΔM2-2/1030sおよび関連ウイルスの温度感受性
a 各ウイルスのts表現型を、表示温度でのVero細胞のプラークアッセイにより評価した。ts表現型を有するウイルスについては、シャットオフ温度(T
SH)での力価を示す(太字、下線)。T
SHの定義については、脚注bを参照のこと。
b T
SH(太字、下線)は最低の制限温度として定義され、この制限温度では、32℃と比較した制限が、これら2つの温度でwt RSVについて観察されるものよりも100倍以上である。ts表現型は、40℃以下のT
SHを有すると定義される。
c T
SP、スモールプラーク温度は、スモールプラーク表現型が観察される最低の制限温度として定義される。最低制限温度での力価をアスタリスクでマークする。
d イタリック体:マイクロプラーク温度は、スモールプラーク表現型が観察される最低の制限温度として定義される。マイクロプラーク表現型が観察される最低制限温度での力価をアスタリスクでマークする。
XX 対照tsウイルス
【0224】
実施例9
この実施例では、RSV D46/276/ΔM2-2-AclIの構築、ならびにアフリカミドリザルにおけるRSV D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIIIおよび所定の対照ウイルスとのその比較を記載する。
【0225】
追加のM2-2変異型ウイルスを、D46/ΔM2-2およびMEDI/ΔM2-2骨格からの特徴のさらなる組み合わせを表すように構築して、RSV D46/276/ΔM2-2-AclIと呼ばれるウイルスを生じさせた;このウイルスは本明細書では「RSV 276」または「276」とも称される。
【0226】
RSV 276の構造は
図16および表21に要約され、SEQ ID NO:19に提供される。D46(すなわち、完全な野生型アンチゲノムcDNA、SEQ ID NO:1)と比較して、RSV 276は、合計21個のヌクレオチドの相違(1099位での単一ntの欠失を含む)とヌクレオチド8202〜8435の欠失(234ヌクレオチドの欠失を生じる)によって異なっていた。これらのヌクレオチド変化は、D46にその元の構築中に意図的に挿入されていた4つの非天然の制限部位(AflII、NcoI、StuIおよびSphI)を除去し(Collins, et al. 1995 Proc Natl Acad Sci USA 92:11563-11567)、さらにM2-2欠失にまたがるAclI部位を挿入した(したがって、ΔM2-2-AclI欠失は、
図10に記載したものと同じである)。制限部位のこれらの変化には8個のヌクレオチドが関与した。その他の13の変化のほとんどは、RSV MEDI/ΔM2-2からの所定の割り当てを、新しいRSV 276ウイルスのD46由来の骨格に導入した。
【0227】
(表21)wt RSV D46 (cDNA, SEQ ID NO:1)とRSV 276 (cDNAおよびCTM Lot RSV#014A, SEQ ID NO:19)のゲノム配列(ポジティブセンス)の比較
1 表21において、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列のナンバリングは、RSV A2株の最初の完全な配列である生物学的wt RSV A2株(GenBankアクセッション番号M74568)に関係する。そのゲノムの長さは15,222ntである。したがって、ウイルスにおける欠失または挿入は、残りのヌクレオチド(またはアミノ酸)の配列ナンバリングを変えない。ヌクレオチドおよびアミノ酸の配列割り当ては、他に指示がない限り、RSV D46 WT (SEQ ID NO:1)に関係する。D46は、A2株の組換えで誘導された2番目のバージョンであり、(示されるように)1099位での単一ヌクレオチド挿入のためにヌクレオチドの長さの点で相違しており、ゲノムヌクレオチド長が15,223になる。この挿入はRSV 276では取り除かれ、その位置での割り当てはTになった。
2 ncr, 非コード領域
3 RSV D46と異なるRSV 276のアミノ酸は灰色で陰影付けされる。
4 ig, 遺伝子間領域
* 4つの制限部位マーカーを作製するためにD46に導入された変化(Collins et al PNAS 92:11563-7 1995 PMID 8524804)。これらはRSV 276では取り除かれた。
** RSV 276においてAclI部位を生じるヌクレオチド変化。
【0228】
276ウイルスは、合成cDNA断片と組み合わせてD46アンチゲノムcDNA (SEQ ID NO:1)を用いて構築した。具体的には、リーダー領域の上流のプラスミドベクター中のユニークなNotI部位から、D46のN遺伝子中の2129〜2134位のユニークなAvrII部位にわたるcDNAを合成した。D46のユニークなXhoI部位(4481〜4486位)からユニークなBamHI部位(8499〜8505位)にわたる第2のcDNAを合成した。この後者のピースはまた、所望のAclI部位がHindIII (2つのヌクレオチドの順序の逆位によって異なる制限部位;示されていない)であったことを除いて、ΔM2-2-AclI変異を含んでいた。これらの2つのピースを従来の分子クローニング技術によってD46に代わりに入れて、それによって
図16および表21に示される所望のヌクレオチド変化の大部分を達成した。次いで、3つの部位特異的突然変異誘発工程を行った:HindIII部位を所望のAclI部位に変更し(隣接する2つのヌクレオチドを変えることを含む)、LにおけるC10514TおよびC13633A置換を行った。これにより、RSV 276のアンチゲノムcDNA (SEQ ID NO:19)が得られた。
【0229】
RSV 276ウイルスは実験用のロットとして容易に回収され、Vero細胞内で効率的に複製することが確認された。さらに、RSV 276ウイルス臨床試験材料のロットを回収し、臨床試験に備えて、ヒト使用に適する条件下で製造した。その配列は、偶発的な突然変異がないことが確認された。
【0230】
さらに、ウイルスD46/NS2/N/ΔM2-2-HindIII (
図13の上から2番目のウイルスを参照)の臨床試験材料のロットを作製した。D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIIIアンチゲノムcDNAの配列はSEQ ID NO:18に示される。D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIII (Lot RSV#011B)の臨床試験材料の配列は、3つの多型を除いて、その組換えウイルスが誘導されたcDNAプラスミドの配列と一致した:(1) G2485A (約20〜40%A);コドン:GATからAAT;アミノ酸:P ORF中のD47N;(2) SH遺伝子の3'非翻訳領域中のポリチミジンストレッチ(nt 4537-39)における単一ヌクレオチドチミジン挿入(+1 nt;約30%の亜集団に存在);(3) L遺伝子終止シグナルのポリアデノシンストレッチ(nt 14,830-35)における2ヌクレオチドアデノシン挿入(集団の約30%が+1A、集団の約70%が+2A)。これらの多型は、生物学的に重要ではないと考えられる。
【0231】
一連の研究では、実験用ロットのRSV 276および3つの異なるロットのRSV D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIIIをアフリカミドリザルで複製および免疫原性についてアッセイした。各製剤は、タイミングおよび動物の入手可能性の制約のために別々に評価した。結果は、表1から得られた2つの比較材料(LID/ΔM2-2およびLID/ΔM2-2/1030s)のデータと並行して、表22、23および24において一緒に比較される。ウイルスの複製は、プラークアッセイで定量化される、NPスワブ(表22)および気管洗浄(表23)によってサンプリングしたウイルス排出の定量によって評価した。これは、上気道(NPスワブによる)において、D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIIIの3つのロットのうちの2つ(研究2および3)が5.5〜7.3日間にわたって検出可能に排出した(平均ピーク力価1.1〜1.6 log
10 PFU/ml)のに対して、第3のロット(研究1)の排出は最小限であったことを示した。下気道(気管洗浄)では、3つのロットの結果は非常に類似しており、7.8〜9.2日間にわたる中程度のレベルの排出(2.2〜2.6 log
10 PFU/ml)を示した。比較すると、RSV 276の排出は、上気道ではD46/NS2/N/ΔM2-2-HindIIIの研究2および3の排出と非常に似ており、また、下気道での排出については3つ全ての研究と非常に類似していた。これに対して、両方の解剖学的区画におけるLID/ΔM2-2による排出はかなり多かったが、LID/ΔM2-2/1030sによる排出はかなり少なかった。28日目のこれらのウイルスの60%PRNT力価は、D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIIIのロットのうちの2つについて8.3および8.5逆log2、第3のロットについて6.3逆log2であり、そしてRSV 276について8.5逆log2であった。これらの力価は、LID/ΔM2-2およびLID/ΔM2-2/1030sについて示した力価とほぼ同等であったか、またはそれを上回った(表24)。したがって、これらのウイルスは、ΔM2-2骨格に基づくさらなる範囲の弱毒化表現型を提供する。
【0232】
(表22)LID ΔM2-2、LID ΔM2-2 1030s、D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIII、またはRSV 276を接種したAGMからの鼻咽頭スワブサンプルのウイルス力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の10
6 PFUの表示ウイルスを鼻咽頭および気管内経路の組み合わせで接種した(全用量:2×10
6 PFU/動物)。AGM研究は、NIHのNIAID動物実験委員会によって承認された。LID ΔM2-2およびLID ΔM2-2 1030sの以前の研究からの結果を比較のために示す。
b 組み合わせたNPスワブを、安定化剤としてスクロースリン酸緩衝液を含むL-15培地2mL中に入れた。ウイルス力価測定を37℃でVero細胞にて行った。検出の下限は0.7 log
10 PFU/mLであった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。
c ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間、その間の(もしあれば)不検出日を含む。
d 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.35の値を用いた。
【0233】
(表23)LID ΔM2-2、LID ΔM2-2 1030s、D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIII、またはRSV 276を接種したAGMからの気管洗浄サンプルのウイルス力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の10
6 PFUの表示ウイルスを鼻咽頭およびIT経路の組み合わせで接種した(全用量:2×10
6 PFU/動物)。LID ΔM2-2およびLID ΔM2-2 1030sの以前の研究からの結果を比較のために示す。
b 2、4、6、8、10および12日目に、3mLのPBSで気管洗浄を行った。ウイルス力価測定を37℃でVero細胞にて行った。検出の下限は1.0 log
10 PFU/mL(洗浄液)であった。検出可能なウイルスを含まないサンプルを「-」として表す。各動物のピーク力価には下線が引かれている。
c ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間、その間の(もしあれば)不検出日を含む。
d 1日あたりの力価の合計を、ウイルス排出の大きさ(曲線下面積)の推定値として用いる。検出可能なウイルスを含まないサンプルについては0.7の値を用いた。
【0234】
(表24)LID ΔM2-2、LID ΔM2-2 1030s、D46/NS2/N/ΔM2-2-HindIII、またはRSV 276を接種したAGMの中和抗体力価
a
a AGMに、部位あたり1mLの接種材料中の10
6 PFUの表示ウイルスをi.n.およびi.t.接種した(全用量=10
6.3 PFU/動物)。LID ΔM2-2およびLID ΔM2-2 1030sの以前の研究からの結果を比較のために示す。
b 接種後0、21および28日目に、血清を取得した。中和抗体力価を60%プラーク減少中和アッセイで測定した。検出の下限は3.3 (1:10)であった。
【0235】
記載された方法または組成物の正確な詳細は、記載された実施態様の精神から逸脱することなく、変更または改変され得ることが明らかであろう。本発明者らは、以下の特許請求の範囲の精神および範囲に含まれる全てのそのような改変および変形を請求するものである。