特表2018-537125(P2018-537125A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2018-5371251型糖尿病治療用Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-537125(P2018-537125A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(54)【発明の名称】1型糖尿病治療用Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20181122BHJP
   A61K 35/39 20150101ALI20181122BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20181122BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20181122BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20181122BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20181122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20181122BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20181122BHJP
   A61K 35/407 20150101ALN20181122BHJP
   A61K 35/35 20150101ALN20181122BHJP
【FI】
   C12N5/071
   A61K35/39
   A61K45/00
   A61K9/48
   A61K47/38
   A61P3/10
   A61P43/00 111
   A61P43/00 121
   A61K35/545
   A61K35/407
   A61K35/35
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2018-543451(P2018-543451)
(86)(22)【出願日】2016年11月10日
(85)【翻訳文提出日】2018年7月6日
(86)【国際出願番号】EP2016077193
(87)【国際公開番号】WO2017081112
(87)【国際公開日】20170518
(31)【優先権主張番号】15193861.0
(32)【優先日】2015年11月10日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
(71)【出願人】
【識別番号】518160816
【氏名又は名称】エコール ナショナル ヴェテリネア
(71)【出願人】
【識別番号】510184715
【氏名又は名称】シュ、ナント
【氏名又は名称原語表記】CHU NANTES
(71)【出願人】
【識別番号】505028222
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ナント
(71)【出願人】
【識別番号】507042442
【氏名又は名称】インサーム (インスティテュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシェ メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202577
【弁理士】
【氏名又は名称】林 浩
(72)【発明者】
【氏名】バシュ ジャン−マリー
(72)【発明者】
【氏名】モッサー マチルド
(72)【発明者】
【氏名】サラマ アポリン
(72)【発明者】
【氏名】ムーレ アン
(72)【発明者】
【氏名】レヴェク グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイス ピエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ギーシュー ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ボワイエ セシル
(72)【発明者】
【氏名】リオシェ ダヴィド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BD06
4B065CA44
4C076AA11
4C076AA29
4C076AA53
4C076AA61
4C076BB11
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB32
4C076CC21
4C076EE32
4C076EE32H
4C076FF16
4C076FF21
4C076FF43
4C076FF61
4C076FF63
4C084AA19
4C084MA17
4C084MA37
4C084MA38
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4C084MA66
4C084MA67
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZC351
4C084ZC352
4C084ZC751
4C084ZC752
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB51
4C087BB52
4C087BB63
4C087CA04
4C087MA02
4C087MA17
4C087MA37
4C087MA38
4C087MA44
4C087MA66
4C087MA67
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZC35
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は1型糖尿病治療のためのシラン化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Si−HPMC)にカプセル化したインスリン産生細胞の使用に関する。また、方法及びキットは1型糖尿病患者及び1型前糖尿病患者において正常血糖値を回復及び/又は維持するために提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1型糖尿病治療における使用のため、特に1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持するためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項2】
Si−HPMCが以下の簡易式:
(HPMC)−O−CH−CH(OH)−CH−O−(CH−Si(ONa (I)
を有する、請求項1に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項3】
前記インスリン産生細胞が単離された同種膵島又は単離された異種膵島である、請求項1又は2に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項4】
前記インスリン産生細胞が膵β細胞、膵β様細胞、及びその任意の組合わせからなる群から選択される単離細胞である、請求項1又は2に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項5】
膵β様細胞が胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、多能性間葉系間質細胞、導管細胞、肝細胞又はα細胞の分化により得られる、請求項4に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項6】
前記インスリン産生細胞がSi−HPMCマイクロビーズ、Si−HPMCマイクロスフェア又はSi−HPMCマイクロカプセルにマイクロカプセル化される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項7】
前記インスリン産生細胞がSi−HPMCヒドロゲルにマクロカプセル化される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項8】
前記インスリン産生細胞が少なくとも1つの治療化合物とSi−HPMCにカプセル化される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項9】
前記1型糖尿病患者がブリットル型糖尿病を患う、請求項1〜8のいずれか一項に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項10】
前記1型糖尿病治療が、前記Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の皮下注射、前記Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の筋肉内注射、前記Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の腹膜腔、腸間膜、網又は腎被膜への埋込、のうちの1つを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の前記使用のためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞。
【請求項11】
1型糖尿病治療における使用のため、特に1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持するためのキットであって、請求項1〜10のいずれか一項に記載のSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞を含むキット。
【請求項12】
1型糖尿病治療における使用のため、特に1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持するためのキットであって、
・ Si−HPMC;
・ インスリン産生細胞;及び
・ 前記インスリン産生細胞をSi−HPMCにカプセル化するための使用説明書、
を含む、キット。
【請求項13】
Si−HPMCが以下の簡易式:
(HPMC)−O−CH−CH(OH)−CH−O−(CH−Si(ONa (I)
を有する、請求項12に記載の前記使用のためのキット。
【請求項14】
前記インスリン産生細胞が同種膵島、異種膵島、同種膵β細胞、異種膵β細胞、膵β様細胞、およびそれらの任意の組合わせからなる群から選択される単離細胞であり、前記膵β様細胞が胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、多能性間葉系間質細胞、導管細胞、肝細胞又はα細胞の分化により得られる、請求項12又は13に記載の前記使用のためのキット。
【請求項15】
1型糖尿病治療を行うための使用説明書をさらに含む、請求項12〜14のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は2016年11月10日に出願された欧州特許出願第EP15 193 861.0号に対する優先権を主張するものであり、この出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
1型糖尿病(1型真性糖尿病としても知られる)は一般的に小児に発症する原因不明の深刻な慢性疾患である。膵臓のインスリン産生(ベータ)β細胞の自己免疫破壊により特徴付けられる。続いて起こるインスリンの欠乏は血中及び尿中グルコースの増加を引き起こす。地球規模で、世界中の1500万から3000万人が1型糖尿病に罹患している(世界保健機関)。小児期発症糖尿病の発生率は多くの国で増加しており(非特許文献1;非特許文献2)、毎年この疾患を発症する小児は80,000人と推定される。インスリン療法は1型糖尿病患者の生存に必須であり、無期限に継続しなければならず、毎日の複数回注射を含む。インスリン療法に加えて、食事の管理が重要である。未治療又は管理不十分な糖尿病は心臓疾患、卒中、腎不全、足部潰瘍、眼球損傷、及び昏睡を含む重篤な長期合併症など、多くの合併症を引き起こすことがある。一部の1型糖尿病患者(血中グルコース値の深刻な不安定さを有し、生活の混乱を招き、繰り返す及び/又は長期の入院をもたらすことが多いブリットル型1型糖尿病の患者など)において、合併症は過剰治療による低血糖に起因する場合がある。
【0003】
インスリン注射に代わる治療法の一つはインスリンポンプの皮下埋め込みである。リアルタイム持続血糖測定器と組み合わせたインスリンポンプ療法はセンサ付きポンプ(SAP)療法として知られ、毎日の複数回注射又は標準的な継続的インスリン皮下注入と比較して、代謝調節を改善し、1型糖尿病の成人における低血糖率を低減することを示している(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。大規模な糖尿病センターでの頻繁な使用にも関わらず、持続血糖測定器児科の患者には通常使用されない(非特許文献7;非特許文献8)。この理由の一つは、構造基盤、及び患者やその家族にこの技術の効果的な使用を教える資格のある人材の欠如である(非特許文献9;非特許文献10)。患者やその家族に対する1型糖尿病の負担を軽減するため、いわゆる「人工膵臓」の開発に向けて確実な進展がある。結局は、この人工膵臓はインスリン注入ポンプ(又はパッチ式インスリンポンプ)と持続血糖センサを組み合わせた完全自動化閉ループインスリン送達システムでよく(例えばメドトロニック、アボット、デクスコムなどにより開発されたシステム)、持続インスリン注入を作動するための有効な数学アルゴリズムを用いている。
【0004】
外因性インスリンに代わる別の手段は膵島の同種間移植である。エドモントンプロトコールは患者の正常血糖値を回復するための膵島移植の実行可能性及び成功を証明している(非特許文献11)。しかし、この手順は欠失したβ細胞蓄積を補給することを試みており、質の良いヒトの臓器の不足、患者一人につき複数のドナーの必要性、一貫性のない膵島の生産力、免疫抑制療法の必要性、及び結果として生じる有害な副作用により限定される。免疫抑制を伴わないカプセル化ブタ又は同種膵島の低侵襲皮下移植は今日では、慎重な治療法であると思われる(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21)。カプセル化において、細胞は生体適合性マトリックスに完全に包まれる。その主要な役割は、細胞外マトリックスに加えて、免疫細胞及び細胞毒性分子に対するバリアを作ることであるため、さらに酸素、微量及び主要栄養素、並びにホルモンを活性拡散させながら拒絶を回避する。しかし、最後の障害のいくつかはこの細胞療法における最適で恒久的な有効性を妨げ続ける。特に、膵島カプセル化用の標準的なポリマーであるアルギン酸塩は、精製及び滅菌が困難である、免疫原性であり得る、不安定で可逆的であり、解離することがあり、侵襲性の埋込を必要とするヒドロゲルを形成する、といういくつかの欠点を有する。侵襲性の埋込は外科作用を含み、通常の外科的合併症に加えて、炎症反応及び拒絶リスクを増加させる。
【0005】
従って、当技術分野では、容易、安全及び成功する1型糖尿病療法として、膵島移植を確立する見込みを実現することができる新しい手段の必要性が依然として存在している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Patterson et al.,Diabetes Res.Clin.Pract.,2014,103:161−175
【非特許文献2】Tamayo et al.,Diabetes Res.Clin.Pract.,2014,103:206−217
【非特許文献3】Deiss et al.,Diabetes Care,2006,29:2730−2732
【非特許文献4】O’Connell et al.,Diabetologia,2009,52:1250−1257
【非特許文献5】Raccah et al.,Diabetes Diabetes Care,2009,32:2245−2250
【非特許文献6】Battelino et al,Diabetologia,2012,55:3155−3162)
【非特許文献7】Klonoff et al.,J.Clin.Endocrinol.Metab.,2011,96:2968−2979
【非特許文献8】Phillip et al.,Pediatr.Diabetes,2012,13:215−228
【非特許文献9】Tumminia et al.,Patient Prefer Adherence,2015,9:1263−1270
【非特許文献10】Joshi et al.,Curr.Diab.Rep.,2015,15:81
【非特許文献11】Shapiro et al.,N.Engl.J.Med.,2000,343:230−238
【非特許文献12】Dufrane et al.,Transplantation,2006,81:1345−1353
【非特許文献13】Elliott et al.,Xenotransplantation,2007,14:157−161
【非特許文献14】Zimmermann et al.,Curr.Diab.Rep.,2007,7:314−320
【非特許文献15】Dufrane et al,World J.Gastroenterol.,2012,18:6885−6893
【非特許文献16】Sakata et al.,World J.Gastroenterol.,2012,3:19−26
【非特許文献17】O’Sullivan et al.,Endocr.Rev.,2011,32:827−844
【非特許文献18】Ramesh et al.,Curr.Diabetes Rev.,2013,9:294−311
【非特許文献19】Sharp et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.,2014,67−68:35−73
【非特許文献20】Zhu et al.,Front Surg.,2014,1:7
【非特許文献21】Zhu et al.,J.Zhejiang Univ.Sci.B,2015,16:329−343
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はシラン化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Si−HPMC)が、新生仔ブタ膵島及びマウスβ細胞など、インスリン産生細胞のカプセル化に便利なポリマーであることを見出している。実際に、Si−HPMCは、生体適合性で、滅菌が容易であり、その自己網状化が共有結合性の安定した結合を形成する、という複数の利点を示す。さらに、生理的pH及び温度で自己架橋(又は自己網状化)し、これは自己架橋前にSi−HPMCを皮下注射することによりカプセル化膵島の非侵襲性投与を可能にする。本発明者はカプセル化マウス偽膵島が免疫不全NODマウス(高用量のストレプトゾトシン)及び免疫応答性C57Bl/6マウス(低用量のストレプトゾトシン)におけるストレプトゾトシン誘発糖尿病を調節することができることを示している。Si−HPMCヒドロゲルはマウス偽膵島及びブタ膵島がそれぞれin vitroで250日及び70日以上生存し、インスリンを分泌し続けることが見出された。また、本発明者はSi−HPMCヒドロゲルがin vitroでヒトマクロファージ及びNOD脾細胞によるIL−6のブタ膵島誘発分泌を防止することができることを観察した。これらの結果は1型糖尿病の現実的で見込みのある細胞療法に道を開いている。
【0008】
従って、本発明は1型糖尿病治療における使用のため、特に1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持するためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞を提供する。例えば、1型糖尿病患者はブリットル型糖尿病を患う場合がある。
【0009】
特定の実施形態において、本発明の実施に用いられるSi−HPMCは以下の簡易式:
(HPMC)−O−CH−CH(OH)−CH−O−(CH−Si(ONa (I)
を有する。
【0010】
特定の実施形態において、本発明の実施に用いられるインスリン産生細胞は単離された同種膵島又は単離された異種膵島である。
【0011】
特定の実施形態において、本発明の実施に用いられるインスリン産生細胞は、膵β細胞、膵β様細胞、及びその任意の組合せからなる群から選択される単離細胞である。膵β細胞は胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、多能性間葉系間質細胞、導管細胞、肝細胞、又はα細胞の分化により得ることができる。
【0012】
本発明の特定の実施形態において、インスリン産生細胞はSi−HPMCマイクロビーズ、Si−HPMCマイクロカプセル又はSi−HPMCマイクロスフェアにマイクロカプセル化される。
【0013】
他の実施形態において、インスリン産生細胞はSi−HPMCヒドロゲルにマクロカプセル化される。
【0014】
本発明の特定の実施形態において、インスリン産生細胞は少なくとも一つの治療化合物とSi−HPMCにカプセル化される。
【0015】
特定の実施形態において、1型糖尿病治療は、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の皮下注射、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の筋肉内注射、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の腹膜腔、腸間膜、網(omentum)又は腎被膜への埋込のうちの一つを含む。
【0016】
特定の実施形態において、1型糖尿病治療は患者へのインスリン療法の適用をさらに含む。
【0017】
別の態様において、本発明は1型糖尿病治療における使用のため、特に1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持するためのキットであって、本明細書に記載するSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞を含むキットを提供する。
【0018】
また、本発明は1型糖尿病治療における使用のため、特に1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持するためのキットであって、Si−HPMC;インスリン産生細胞;及び本明細書に記載するインスリン産生細胞をSi−HPMCにカプセル化する使用説明書を含むキットを提供する。
【0019】
関連態様において、本発明は1型糖尿病治療方法、特に1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持する方法であって、本明細書に記載するSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の治療有効量を該患者に投与する工程を含む方法を提供する。
【0020】
本発明のこれらの及び他の目的、利点及び特徴は以下の好ましい実施形態の詳細な説明を理解する当業者に明らかとなるであろう。
【0021】
定義
本明細書を通して、以下の段落で定義されるいくつかの用語が用いられる。
【0022】
本明細書では、「生体材料」という語は生体液又は生体組織と接触すること(対象者への埋込又は移植によるなど)が意図される材料を指す。生体材料は生理環境との最小限の反応を誘導することが望ましい。生体材料が生理環境に置かれた後、炎症反応が最小限で、アナフィラキシー反応の兆候が無く、生体材料表面の細胞増殖が最小限であれば、「生体適合性」であるとみなされる。宿主ほ乳類への埋込/移植において、ヒドロゲルなど生体適合性材料はヒドロゲルの機能に不利に作用するのに十分な宿主応答を引き起こさない。このような宿主応答としては、ヒドロゲルに接触する又はヒドロゲル周囲の繊維性構造の形成、ヒドロゲルの免疫学的拒絶、あるいはヒドロゲルから取り囲む宿主組織及び/又は体液への毒性又は発熱性化合物の放出が挙げられる。
【0023】
本明細書では、「ヒドロゲル」という語は架橋親水性ポリマーの三次元網状組織を指す。この網状組織は実質的に水から構成されるゲル状、好ましくはこれに限定されないが、90%より多い水のゲル状である。架橋ヒドロゲルはかなりの印加せん断応力が無ければ流動せず、又は変形しないため、固体であるとみなすこともできる。
【0024】
本明細書では、「カプセル化」という語はその技術分野で理解される意味を有し、物質的バリア(すなわち、構造の透過性を低減又は制御するバリア)により示される三次元構造(例えば、カプセル、ヒドロゲルなど)内に一つ又は複数の細胞を包含、固定及び/又は捕捉することを指す。本発明の実施において、カプセル化はマイクロカプセル化又はマクロカプセル化により実施されてよい。当技術分野で公知のように、マイクロカプセル化法においては、より小さい細胞集団はそれ自体の球形ポリマーカプセル(例えば直径約0.3mm〜約2mm)又はポリマー層に個別に捕捉される。マクロカプセル化法においては、細胞は2枚又はそれ以上の選択的透過性平膜間、又は半透過性中空糸内腔内、さらに又はヒドロゲル内に封入される。マクロカプセル化は大量の細胞の捕捉を伴い、細胞を容易に埋め込み、除去する。反対に、マイクロカプセル化細胞は移植後に回収できない。当業者は細胞マイクロカプセル化及び細胞マクロカプセル化が何を意味するか認識している(Uludag et al.,Advanced Drug Delivery Reviews,2000、42:29−64)。特に、細胞マイクロカプセル化デバイスとしては、これに限定されないが、直径約0.3mm〜約2mmの球状カプセル(従来、マイクロカプセルともいう)、マイクロビーズ、及び細胞集団表面を膜で取り囲んだコンフォーマルコーティングが挙げられることを当業者は認識している。当業者はマイクロカプセルと比べて、マクロカプセルははるかに大きいデバイスであり、通常は平面又は円筒形状、及びより小さい表面積対体積比を有することを認識している。従って、マクロカプセル化デバイスとしてはこれに限定されないが、平膜(スペーサ要素の両側に取り付けられて内部区画又はカプセル化チャンバを作製する2枚の平面膜からなる)及び中空繊維膜(細胞が内腔に注入され、次に末端が密封されるあらかじめ形成された中空繊維膜を利用する)が挙げられることを当業者は認識している。
【0025】
本明細書では、「細胞」という語は組織に保持される細胞、細胞塊(膵島又はその一部など)、及び個別に単離された細胞を含むがこれらに限定されない様々な形状を指す。
【0026】
細胞を指すために本明細書で用いられる場合の「単離された」という語は、自然に会合した、又は最初に得られた、もしくは調製された時に会合した少なくとも一部の成分から、その起源又は操作により分離される細胞を意味する。
【0027】
本明細書では、「対象」という語は1型糖尿病を発症し得るが、この疾患に罹患するかはわからないヒト又は他の哺乳動物(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、ネズミ、ラット、ウサギなど)を指す。非ヒトの対象はトランスジェニック、又はそうでなければ遺伝子組み換え動物でよい。本発明の多くの実施形態において、対象はヒトである。このような実施形態において、対象は「個体」又は「患者」と呼ばれることが多い。「対象」「個体」及び「患者」という語は特定の年齢を示さないため、新生児、小児、ティーンエイジャ、及び成人を包含する。「患者」という語はより具体的には疾患(例えば、1型糖尿病)を患う個体を指す。
【0028】
「治療」という語は、(1)疾患又は状態(ここでは1型糖尿病)の発症を遅らせるか、又は予防すること;(2)疾患又は状態の症状の進行、重症化又は悪化を遅らせるか、又は止めること;(3)疾患又は状態の症状の改善をもたらすこと;あるいは(4)疾患又は状態を治すこと、を目的とした方法又はプロセスを特徴づけるために本明細書で用いられる。治療効果のため、疾患又は状態の発症後に治療を適用してよい。あるいは、予防又は防止効果のため、疾患又は状態の発症前に治療を適用してよい。この場合、「防止」という語が用いられる。
【0029】
本明細書では、「治療有効量」という語は、細胞、組織、系又は対象における所望の生物的又は医薬の応答など、治療薬又はその組成物のその意図される目的を満たすのに十分な任意の量を指す。例えば、本発明の特定の実施形態において、この目的は1型糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持することでよい。
【0030】
「正常血糖値」及び「正常血糖」という語は本明細書で交換可能に用いられる。その技術分野で理解される意味を有し、正常(すなわち、健康な)血中グルコース濃度を有する状態を指す。「低血糖」という語は正常よりも低い血中グルコース状態を指し、「高血糖」という語は正常より高い血中グルコース状態を指す。
【0031】
数字に関連して本明細書で用いられる「およそ」及び「約」という語は、特に明記しない限り、又は内容から特に明白でない限り、一般的に数字の両方向に10%の範囲(その数字より大きいか又は小さい)に入る数字を含む(該数字が可能性のある値の100%を超える場合を除く)。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】単離後7日間ペトリ皿で培養された非カプセル化新生仔ブタ膵島の動態。(A)培養1日目のIEQにより3日目、5日目及び7日目のIEQの百分率として計算した膵島当量数(平均IEQ(膵島当量)±SEM)。(B)培養の1、3、5又は7日後の基礎培地(黒)、20mMグルコース(灰色)、又は20mMグリコース+10mMテオフィリン(白)で2時間培養した幼若ブタ膵島のインスリン特異産生(平均qインスリン±SEM)(n=8)。*p<0.05。
図2】単離後6週間のヒドロゲルにカプセル化された新生仔ブタ膵島の動態。(A)生存性染色(生膵島はカルセイン(緑)及び死膵島はエチジウムホモダイマー(赤))。(B)Si−HPMC(黒、n=6)又はアルギン酸塩(灰、n=3)にカプセル化した新生仔ブタ膵島の基礎インスリン特異産生(平均qインスリン±SEM)。*p<0.05。Si−HPMCは少なくとも42日間、すなわち6週間(最大試験期間:72日間)の培養において新生仔ブタ膵島の生存力及び機能を持続した。
図3】9ヶ月間マイクロプレートで培養されたSi−HPMCにカプセル化された偽膵島Min6の動態。(A)培養1、3又は6ヶ月後の生存性染色(生膵島はカルセイン(緑)及び死膵島はエチジウムホモダイマー(赤))。(B)基礎インスリン特異産生(平均qインスリン±SEM)(n=3)。Ns:有意差無し。
図4】刺激に応じたインスリン産生。(A)基礎培地、又は20mMグルコース+10mMテオフィリン(G+T)で培養されたSi−HPMC(黒丸)又はアルギン酸塩(黒四角)にカプセル化された2日間培養の新生仔ブタ膵島のインスリン特異産生(qインスリン)。(B)Si−HPMC(黒、n=6)又はアルギン酸塩(灰、n=3)にカプセル化された新生仔ブタ膵島の1時間G+T刺激を含む3時間のインスリン産生の曲線下面積(平均AUC±SEM)。*p<0.05、**p<0.005、ns:有意差無し。
図5】SiHPMCにカプセル化された偽膵島MIN6の刺激に応じたインスリン産生。(A)培養1ヶ月(黒丸)、3ヶ月(黒四角)及び9ヶ月(黒三角)後、基礎培地、又は20mMグルコース+10mMテオフィリン(G+T)におけるインスリン特異産生(qインスリン)。(B)1時間のG+T刺激を含む3時間のインスリン産生の曲線下面積(平均AUC±SEM)(n=3)。Ns:有意差無し。
図6】ストレプトゾトシン誘発糖尿病(A)NOD NSG免疫不全マウス(STZ高用量、n=4)及び(B)免疫応答性C57Bl/6マウス(STZ低用量、n=4)に移植されたSi−HPMCヒドロゲルでのMIN6偽膵島(500IEQ)の皮下マクロカプセル化。矢印は該当マウスのグラフト外植の時間を示す。
図7】(A)単独(黒、n=4)で、Si−HPMC(薄灰、n=4)又はアルギン酸塩(濃灰、n=2)と36時間培養、及び(B)LPS(10ng/mL)と6時間培養(n=4)したマウス全脾臓細胞又はヒトマクロファージの培地培養におけるIL−6分泌(平均IL−6量±SEM)。
図8】36時間、単独で培養(黒)、あるいは非カプセル化新生仔ブタ膵島(白)、Si−HPMC(薄灰)又はアルギン酸塩(濃灰)にカプセル化した新生仔ブタ膵島と共培養した(A)マウス全脾臓細胞(n=3)又は(B)ヒトマクロファージ(n=2)の培地培養におけるIL−6分泌(平均IL−6量±SEM)。*p<0.05、ns:有意差無し。
図9】48時間単独で培養(Ct−、黒)、あるいは非カプセル化幼若ブタ膵島(白)又はSi−HPMCにカプセル化した幼若ブタ膵島(灰)とトランズウェル共培養したマウス全脾臓細胞の培地培養におけるIL−6分泌(平均IL−6百分率/Ct−±SEM)(n=2)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上記のように、Si−HPMCはインスリン産生細胞のカプセル化に有利なポリマーとして本明細書で記載され、本発明は1型糖尿病の管理における、特に1型糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持するためのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の使用に関する。
【0034】
I−インスリン産生細胞カプセル化のためのSi−HPMC
A.シラン化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Si−HPMC)
本発明では、「Si−HPMC」という語はシラン化(すなわち、シリル化(silylate))ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、より具体的にはGuicheux教授及びWeiss教授のチーム(Laboratoire d’Ingenierie Osteo−Articulaire et Dentaire、LIOAD、フランス、ナント)により開発されたシラン化HPMCを指す。
【0035】
このポリマー(Si−HPMC)はすでに生体適合性材料としてのいくつかの応用が見出されている。実際に、軟骨細胞(Vinatier et al.,Biomaterials,2005,26:6643−6651);骨形成原細胞(Trojani et al.,Biomaterials,2005,26:5509−5517);及びヒト脂肪由来間葉系幹細胞(Merceron et al.,Cell Transplant,2011,20:1575−1588;Porton et al.,PLoS One,2013,8(4):e62368)の三次元培養に用いられている。ヒト鼻腔軟骨細胞を基礎とする軟骨工学の適当な骨格(Vinatier et al.,J.Biomed.Mater Res.A,2007,80:66−74)及び関節軟骨欠陥における自己鼻腔軟骨細胞移動に適当な注射ヒドロゲル(Vinatier et al.,Biotechnol.Bioeng.,2009,102:1259−1267)であることが見出された。異所性骨形成のための未分化骨髄間質細胞を充填したリン酸カルシウムと組み合わせた複合材料として用いられている(Trojani et al.,Biomaterials,2006,27:3256−3264)。また、Si−HPMCは骨及び軟骨組織工学のため、グリコサミノグリカン様海産エキソ多糖類と組み合わされた(Rederstorff et al,Acta Biomater.,2011,7(5):2119−2130)。間葉系幹細胞を播種したSi−HPMCヒドロゲルの心筋内送達は心筋梗塞後、心機能を保護し、心室リモデリングを弱めることを示した(Mathieu et al.,PLoS One,2012,7(12):e51991)。
【0036】
Guicheux教授及びWeiss教授のチームにより開発され、本発明の実施で用いられるSi−HPMCは、シラン基がグラフトされたヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる注射可能な自己硬化(又は自己固化)ポリマーである。シラン基はpHが低下するとHPMC鎖間に共有結合を形成する(下記参照)。Si−HPMCは、例えば国際公開第2005/044326号、米国特許出願番号第US2007/021289、米国特許出願第2010/080836号、及び米国特許出願第US2014/016775号)に記載されている。そのレオロジー及びゲル化性質が研究されている(Fatimi et al.,Biomaterials,2008,29(5):533−543;Fatimi et al.,Acta Biomateriala,2009,5(9):3423−3432,Mathieu et al.,PLoS One,2012,7(12):e51991)。
【0037】
より具体的には、本発明の実施に用いられるSi−HPMCは、簡易式:(HPMC)−O−X−Si(OZ)のポリマーからなり、式X−Si(OZ)の化合物とHPMCの反応により得ることができる。式中、Xはエポキシ機能を含むハロゲン原子または炭化水素基、特にC−C20炭化水素基を示し、Zは水素原子、アルカリ金属及びアルキル基、特にC−Cアルキル基からなる群から選択される。
【0038】
特定の好ましい実施形態において、式X−Si(OZ)の化合物は(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシランであり、以下の式:
【化1】
を有する。
塩基性媒体において、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランはエポキシドの開環によりHPMCにグラフトされ、メトキシシラン基は加水分解されて、簡易式(I):
(HPMC)−O−CH−CH(OH)−CH−O−(CH−Si(ONa (I)
のSi−HPMCを作製する。
【0039】
本発明の実施において、Si−HPMCは任意の適当な方法を用いて調製することができる。しかし、特定の好ましい実施形態において、Si−HPMCは簡易式(I)を有し、前に記載されたように調製される(Fatimi et al.,Biematerials,2008,29:533−543;Vinatier et al.,Biomaterials,2005,26:6643−6651)。簡潔に述べると、開始HPMCはメトセル(登録商標)EA4プレミアム(ダウ・ケミカル製、M=290,000g/mol、メトキシ含有量は29%、ヒドロキシプロピル含有量は9.7%、平均置換度(DS)1.9及び平均モル置換度(MS)0.23に相当する)である。HPMCへのシラングラフトは、HPMCのヒドロキシ機能及びシランのエポキシド基間のウィリアムソン反応を含む。Vinatierら(Biomaterials,2005,26:6643−6651)により記載されたように、Si−HPMCは異種媒体中で14.24%の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランをHPMC(メトセル(登録商標)EA4プレミアム)にグラフトすることにより合成される。
【0040】
本発明による治療に用いられる前に、Si−HPMCは粉末状で保管することができる。あるいは、Si−HPMCはおよそ12.4より大きいか等しいpHの水溶液中で安定しており、アルカリ性の水酸化ナトリウム溶液(pH≧12.4)で保管することができる。
【0041】
B.インスリン産生細胞
本明細書では、「インスリン産生細胞」という語はインスリンを産生することができる任意の細胞を指す。
【0042】
特定の実施形態において、本発明の実施で用いられるべきインスリン産生細胞は単離された膵島細胞である。ヒト膵臓の体積のおよそ1%は、外分泌性の膵臓中に散在するランゲルハンス島(又は「膵島」)からできている。各膵島はインスリン産生β細胞、並びにグルカゴン含有α細胞、ソマトスタチン分泌デルタ細胞、及び膵臓ポリペプチド含有細胞(PP細胞)を含む。膵島細胞の大部分はインスリン産生β細胞である。特異的表面抗原の発現は、ある細胞が膵β細胞であるかどうかを決定するために用いられる。例えば、膵β細胞はグルコース輸送体であるGlut−1及び/又はGlut−2を発現する。あるいは、特異的転写因子の発現は、ある細胞が膵β細胞であるかどうかを決定するために用いられる。例えば、β細胞は転写因子であるPdx1、Nkx6.1、MafA及びPaxAを高く発現する。最後に、電子顕微鏡観察は非定型β細胞微細構造を確認するために用いることができる。
【0043】
本発明の実施に使用するための膵島細胞は同種膵島細胞又は異種膵島細胞でよい。本明細書では、「同種」及び「異種」という語は当技術分野で理解される意味を有する。細胞に関して用いられる場合、「同種」という語は送達される対象からではなく、治療される患者と同じ種のドナーから得られる細胞を指す。細胞に関して用いられる場合、「異種」という語は細胞が送達される患者の種とは異なる種のドナーから得られた細胞を指す。
【0044】
当技術分野で公知のように、ヒト膵島の代替物としてブタから得られる膵島が浮上しており、これは優れた利用可能性と、糖尿病患者におけるブタインスリンの長年の使用を含むヒト膵島との生理的類似点と、ドナーソースを遺伝子的に修飾する能力と、のためである。非ヒト霊長類における糖尿病の好転を実現する際に、多くの研究がブタ膵島の使用を証明することに成功している(Van der Windt et al.,Deabetes,2012,61:3046−3055により考察された)。今日まで、結果は主として成功していないが、ヒトにおけるブタ膵島注入はいくつかのグループにより報告されている(Groth et al.,Lancet,1994,344:1402−1404;Elliott et al.,Xenotransplantation,2007,14:157−161;Valdes−Conzales et al.,Clin.Exp.Immnol.2010,162:537−542;Elliot,Curr.Opin.Organ Transplant,2011,16:195−200;Elliot et al.,Xenotransplantation,2013,20:49)。移植片生着を改善する様々な技術、例えばマイクロカプセル化(Dufrane et al.,Transplantation,2010,90:1054−1062)及びセルトリ細胞との共培養(Isaac et al.,Transplant.Proc.,2005,37:487−488)が試験されている。様々な遺伝子組み換えを行ったブタは膵島移植片の免疫介在性拒絶に抵抗するように作製され(Van der Windt et al.,Deabetes,2012,61:3046−3055;Phelps et al.,Science,2003,299:411−414;Yares et al.,Xenotransplantation,2007,14:428;Van der Windt et al.,Am.J.Transplant.,2009,9:2716−2726;Thompson et al.,Am.J.Transplant,2011,11:2593−2602)、いくつかの免疫抑制レジメンが膵島移植片拒絶を低減するために調査されている(Van der Windt et al.,Am.J.Transplant.,2009,9:2716−2726;Hering et al.,Nature Med.,2006,12:301−303;Cardona et al.,Nature Med.,2006,12:304−306;Cardona et al.,Am.J.Transplant.,2007,7:2260−2268;Thompson et al.,Am.J.Transplant,2011,11:947−957)。従って、膵島異種移植の分野における研究は、日常の臨床診療となるかもしれないことを証明している。
【0045】
本発明の実施における使用のための膵島は、任意の適当な方法を用いて単離することができる。生膵島細胞を単離する方法は当技術分野で公知である(例えば、Field et al.,Transplantation,1996,61:1554;Linetsky et al.,Deabetes,1997,46:1120を参照のこと)。例えば、ブタ膵島又は膵島細胞は、当技術分野で公知の方法により、成体ブタ膵臓、新生仔ブタ膵臓又はブタ胎児膵臓から採取することができる(例えば、Swanson et al.,Human Immunology,2011,62:739−749;Casu et al.,Diabetologia,2008,51:120−129;Cantorovich et al.,Xenotransplantation,2002,9:25−35;Groth et al.,J.Mol.Med.,1999,77:153−154;Korbutt et al.,J.Clin.Invest.,1996,97:2119−2129を参照のこと)。例えば、ヒト膵島は当技術分野で公知の方法により、ヒト死体膵臓から単離することができる(例えば、Shapiro et al.,N.Engl.J.Med.,2000,343:230−238;Lablanche et al.,Diabetes Care,2015,38:1714−1722を参照のこと)。
【0046】
新鮮膵臓組織は、刻む、ほぐす、粉砕及び/又は酵素消化(例えば、コラゲナーゼ消化)により分割することができる。その後、膵島は洗浄、ろ過、遠心分離及び/又は処置を選ぶことにより汚染細胞及び材料から単離される。膵島細胞を単離、精製する方法及び装置は米国特許第5,447,863号、5,322,790号、5,273,904号及び4,868,121号に記載されている。単離された膵臓細胞は当技術分野で公知のように、膵島細胞を培養する任意の適当な方法を用いて、カプセル化前に任意に培養してよい(例えば、米国特許第5,821,121号を参照のこと)。単離細胞は抗原性成分の除去を促進する条件下、培地で培養してよい。
【0047】
カプセル化前に単離した膵島を培養してよい。この膵島は公知の細胞培養技術により少なくとも3時間、又はより好ましくは例えば18〜24時間など12〜36時間、抗酸化物質(例えば、グルタチオン又はグルタチオン類縁体、グルタチオンモノエステル、並びにN−アセチルシステイン及び/又はスーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、ビタミンE、トロロックス、リポ酸、ラザロイド、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ビタミンKなど)、抗サイトカイン(例えば、ジメチルチオ尿素、シチオロン、プラバスタチンナトリウム、L−N−モノメチルアルギニン、ラクトフェリン、4−メチルプレドニゾロンなど)、抗エンドトキシン(例えば、L−N−モノメチルアルギニン、ラクトフェリン、N−アセチルシステイン、バミフィリン(テオフィリン)などのアデノシン受容体アンタゴニスト、及びエキノマイシンなどの抗リポ多糖化合物など)、並びに抗生物質(例えば、ペニシリン、テトラサイクリン、セファロスポリン、マクロライド、βラクタム及びアミノグリコシド;このような適当な抗生物質の例としてはストレプトマイシン及びアンフォテリシンBが挙げられる)など、グルコース刺激インスリン分泌を向上する薬剤を含有する培養培地で培養してよい。
【0048】
単離した膵β細胞の生存力及び機能性はカプセル化前に評価してよい。例えば、ブタ膵島細胞を、静置インキュベーション試験により膵島機能について評価することができる(例えば、Cantarovich et al.,Xenotransplantation,2002,9:23−35を参照のこと)。
【0049】
本明細書では、「インスリン産生細胞」という語はまた、インスリンを分泌する膵前駆細胞又はその前駆体から分化した細胞を指す。インスリン産生細胞としては、膵β細胞及び膵β様細胞(すなわち、インスリン陽性内分泌細胞)が挙げられ、合成し(すなわち、インスリン遺伝子を転写し、プロインスリンmRNAを翻訳し、プロインスリンmRNAをインスリンタンパクに修飾する)、発現し(すなわち、インスリン遺伝子によりもたらされる表現型形質を表す)、あるいは構造的又は誘導的にインスリンを分泌する(すなわち、インスリンを細胞外空間に放出する)。「膵β様細胞」は膵前駆細胞又はその前駆体から分化により作製される細胞として定義される。内因性機能膵β細胞によるインスリン発現量の少なくとも15%、あるいは少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%又は100%超、例えば内因性膵β細胞により分泌されるインスリン量の少なくとも約1.5倍、あるいは少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍又は約5倍超の量を発現する。あるいは内因性膵β細胞の少なくとも一つ、又は少なくとも二つの特性を示し、例えばグルコース応答性インスリン分泌、並びに例えばcペプチド、Pdx1、Glut−1及び/又はGlut−2などのβ細胞マーカの発現が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
従って、特定の実施形態において、本発明の実施で用いられるべきインスリン産生細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞又は多能性間葉系間質細胞由来の膵β細胞又は膵β様細胞である。
【0051】
胚性幹細胞(ESC)は現在容易に利用でき、非常に増殖させることができ、β細胞に分化させることができる(Mfopou et al.,Diabetes,2010,59:2094−2101)ため、他の潜在的なソースに対するいくつかの利点がある。多くの研究はECSからのPdx1+又は内分泌細胞の誘導を証明しており、いくつかのグループはインスリン又はCペプチド分泌細胞を発生させている(Soria et al.,Diabetes,2000,49:157−162;Mao et al.,Biomaterials,2009,30:1706−1714;Zhang et al.,Cell Res.,2009,19:429−438)。
【0052】
人工多能性幹細胞(iPSC)は膵島移植における使用に関して研究されている幹細胞の別の重要なソースである。治療に有用な可能性がある自家細胞を生じる独特の性質を有する(Takahashi,Cell.2007,131:861−872)。iPSCのβ細胞分化の可能性は、部分グルコース反応性Cペプチド放出の証明によりin vitroで示されている(Zhang et al.,Cell Res.,2009,19:429−438;Tateishi et al.,J Biol Chem.,2008,283:31601−31607;Maehr et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2009,106:15768−15773)。さらに、最近の研究は、糖尿病マウスモデルにおけるin vitroでの分化及び移植後、高血糖を好転するマウス(Alipio et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2010,107:13426−13431)及びアカゲザル(Zhu et al.,Diabetologia,2011,54:2325−2336)iPSCの可能性を強調している。糖尿病の好転はヒト多能性幹細胞にin vitroで由来するインスリン産生細胞を用いて、マウスでも観察された(Rezania et al.,Nature Biotechnology,2014,32:1121−1133)。
【0053】
多能性間葉系間質細胞(MSC)は多くの組織ソースから容易に単離され、in vitroで非常に増殖させることができ、凍結保存に耐性があり、多くの異なる系統に分化する可能性を有する。糖尿病の好転はSTZ糖尿病ラットへの移植後、免疫抑制無く、インスリン細胞に分化されるヒトMSCを用いて報告されている(Chao et al.,PloS One,2008,3:e1451)。臍帯血、脂肪組織、及び骨髄など異なるMSCソースがインスリン産生細胞を生じるために用いられている(Chao et al.,PloS One,2008,3:e1451;Kajiyama et al.,Int.J.Dev.Biol.,2010,54:699−705;Xie et al.,Differentiation,2009,77:483−491;Allahverdi et al.,Cell J.,2015,17:231−242)。
【0054】
上記すべての細胞型に加えて、導管細胞などの膵上皮細胞(Seaberg et al.,Nature Biotechnol.,2004,22:1115−1124;Bonner−Weir et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2000,97:7999−8004;Gao et al.,Diabetes,2003,52:2007−2015,Hao et al.,Nature Med,2006,12:310−316)、肝細胞(Ferber et al.,Nature Med.,2000,6:568−572;Sapir et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2005,102:7964−7969;Kaneto et al.,Diabetes,2005,54:1009−1022)、及びさらにα細胞(Collombat et al.,Cell,2009,138:449−462;Thorel et al.,Nature,2010,464:1149−1154;Gianani et al.,Semin Immunopathol.,2011,33:23−27)は、適切な条件下で膵β細胞に分化することができることが証明されている(Lysy et al.,Stem Cells Transl.Med.,2012,1:150−159)。
【0055】
C.Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の調製
Si−HPMCへのインスリン産生細胞のカプセル化は、(Uludag et al.,Drug Delivery Reviews,2000,42:29−64により考察された)当技術分野で公知の任意の適当なマクロカプセル化又はマイクロカプセル化技術を用いて行うことができる。カプセル化は移植されたカプセル化細胞を宿主の免疫拒絶から保護するため、物質的バリアでインスリン産生細胞又はインスリン産生細胞群を取り囲むことを目的とする。患者に導入されたときに細胞を生存させ、正確に機能させさえすれば、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の調製方法は限定因子ではない。
【0056】
Si−HPMCを用いるカプセル化は、pHの機能として、Si−HPMCのゲル性を利用する。
【0057】
上記のように、Si−HPMCはpHが低下するとHPMC鎖間に共有結合を形成するシラン基をグラフトしたヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる自己固化(又は自己硬化)ポリマーである(下記参照)。Si−HPMCは12.4より大きいか又は等しいpHの水溶液中で安定であるが、この溶液の酸性化は漸次粘度を増し、ヒドロゲルを形成させる。ゲル化pHは所望の架橋率に応じて7〜12である。この物理現象は(i)シラノラート基(−Si(ONa)のシラノール基(−Si(OH))への変化と、その後の(ii)一つのSi−HPMC分子上の第1シラノール基の異なるSi−HPMC分子上の第2シラノール基との縮合、及び/又は一つのSi−HPMC分子上のシラノール基の異なるSi−HPMC分子上のHPMC鎖のヒドロキシ基との縮合による三次元網状構造の形成と、によるSi−HPMCの架橋を伴う。条件(特にpH及び温度)をSi−HPMCの架橋率を制御するように選択することができる(Bourges et al.,Adv.Colloid Interface Sci.2002,99:215−228)。
【0058】
一般に、Si−HPMCへのインスリン産生細胞のミクロ及びマクロカプセル化は、細胞が粘性液体状のSi−HPMC溶液に取り込まれる工程を含む。このようなSi−HPMC粘性液体は前に記載された通りに得ることができる(Fatimi et al.,Biomaterials,2008,29:553−543;Vinatier et al.,Biomaterials,2005,26:6654−6651)。簡潔に述べると、Si−HPMC粉末(3%w/v)を室温で48時間常に撹拌しながら0.2MのNaOH(3%)に可溶化することができる。その後、この溶液を例えば蒸気(121℃、20分)により滅菌することができる。最後に、網状ヒドロゲルを形成させるため、この溶液を0.5体積の0.26MのHEPESバッファと混合する。最終生成物は細胞を取り込むpH7.4の粘性液体である。当業者に認識されるように、この方法の変形体を容易に設計することができる。
【0059】
例えば、Si−HPMC粘性液体を前に記載されたように、又は以下の実施例に記載されるように得ることができる。簡潔に述べると、Si−HPMCを0.2MのNaOH水溶液(30.9mg/mL、pH>12.5)に溶解した後、分子量カットオフ6〜8kDaの透析2回を0.09MのNaOH水溶液で行い、Si−HPMC粉末から任意の非グラフト3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを除去する。その後、一つのルアーロックシリンジに含まれる1体積のSi−HPMC塩基性溶液を別のルアーロックシリンジの0.5体積の酸性バッファ溶液と、両方のシリンジを相互に接続することにより混合して、ヒドロゲル前駆体溶液が得られる。pH3.2の酸性バッファ溶液を6.2gの4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES≧99.5%)、1.8gのNaCl(≧99%)、及び60mLの0.1MのHCl水溶液(37wt%HCl)を混合することにより調製することができる。容量は最終pH7.4に達するように脱イオン水で100mLに調節する。その後、この混合物はゲル点に達するまで30〜40分間注射可能である。本明細書に記載のように、同じプロセスを用いて、膵島又は細胞膵島の懸濁液を(i)架橋前に第3ルアーロックシリンジで添加し、Si−HPMCの最終粘性溶液と連結させるか、あるいは(ii)架橋前にSi−HPMCの最終粘性溶液に導入してよい。
【0060】
特定の実施形態において、インスリン産生細胞はSi−HPMCにマイクロカプセル化される。マイクロカプセル化は球状液滴/ビーズ又は多層システムを介して宿主系から単一のインスリン産生細胞(例えば、膵島)又は細胞群を免疫単離させる。このカプセル化形状は作製し易さ、機械的安定性、大きい表面積対体積比、及び最適な拡散性のため、過去30年に渡って最も熱心に研究されている。初期の研究におけるマイクロスフェアの大きさは600〜800μmであったが、最近の製造技術では350〜500μmのマイクロスフェアを作製することができる。しかし、マイクロスフェア、マイクロカプセル又はマイクロビーズは350μmより小さく、800μmより大きくてよい。
【0061】
インスリン産生細胞のSi−HPMCへのマイクロカプセル化は一般的に、インスリン産生細胞のSi−HPMC粘性溶液(プレゲル状)内への取り込みと;細胞の小さい液滴への分散によるマイクロカプセルの作製と;適切なpHの生物バッファを用いたSi−HPMCの架橋(又は自己網状化)による液滴の安定化と、の三工程を含む。適当な生物バッファの例としては、リン酸バッファ(PBS、リン酸緩衝生理食塩水)、HEPES及びTRISバッファが挙げられる。当業者に公知の任意の生物培地、例えばDMEM培地又はアルファMEM培地(アルファ最小必須媒体)を用いても良い。その後、インスリン産生細胞を含有するSi−HPMCマイクロカプセルを37℃、5%COのインキュベータで定期的に培養培地を交換する培養条件下、短くて数時間、長くて数日、(生理的pH(7.4)及び温度(37℃)で)保管してよい。
【0062】
ゲル化可能な媒体(すなわちSi−HPMC)に懸濁した細胞は、これらに限定されないが、乳化(例えば、米国特許第4,352,883号)、針からの押出(例えば、米国特許第4,407,957号;Nigam et al.,Biotechnology Techniques,1988,2:271−276)、スプレー針の使用(Plunkett et al.,Laboratory Investigation,1990,62:510−517)、又は針及びパルス電気静電圧の使用(例えば、米国特許第4,789,550号及び5,656,468号)を含む当技術分野で公知の任意の適当な方法を用いて液滴に形成することができる。
【0063】
特定の実施形態において、インスリン産生細胞はSi−HPMCにマクロカプセル化される。マイクロカプセル化とは対照的に、マクロカプセル化は肉眼で扱うことができるより大きいデバイス又はヒドロゲルに、より大量のインスリン産生細胞を包含する。マクロカプセル化膵島は有害事象(感染など)が起これば回収し易く、機能が経時的に低下すれば交換し易い。
【0064】
特定の実施形態において、インスリン産生細胞を含有するヒドロゲルはin vitro(ex vivo)で調製された後、それ自体が患者体内に導入される。インスリン産生細胞のSi−HPMCヒドロゲルへのカプセル化は、インスリン産生細胞をSi−HPMCの粘性溶液(プレゲル状)と混合し、又は粘性溶液に取り込み;Si−HPMCの架橋を引き起こす(上記のような)生物バッファを用いてpHの低下を誘導することにより実施することができ、これによりインスリン産生細胞が捕捉されたヒドロゲルを形成する。
【0065】
他の実施形態において、インスリン産生細胞を含有する最終ヒドロゲルはin vivo(すなわち、患者体内で)作製される。より具体的には、インスリン産生細胞がin vitro(ex vivo)でSi−HPMC粘性溶液(プレゲル状)と混合され、又は粘性溶液に取り込まれ、この粘性溶液が患者に注射され、生理的pHでSi−HPMCが自己網状化し、これによりインスリン産生細胞を含有するヒドロゲルを形成する。
【0066】
D.付加的治療化合物
特定の実施形態において、インスリン産生細胞はSi−HPMCカプセル又はヒドロゲルにおける唯一の「治療活性」成分である。
【0067】
他の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は少なくとも一つの治療化合物をさらに含む。
【0068】
治療化合物はインスリン感受性増強薬、糖吸収阻害薬、ビグアニド、インスリン分泌促進薬、インスリン製剤、グルカゴン受容体アンタゴニスト、インスリン受容体キナーゼ刺激薬、トリペプチジルペプチダーゼII阻害薬、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害薬、タンパク質チロシンホスファターゼ−IB阻害薬、グリコーゲンホスホリラーゼ阻害薬、グルコース−6−ホスファターゼ阻害薬、フルクトースビスホスファターゼ阻害薬、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ阻害薬、肝糖新生阻害薬、D−カイロイノシトール、グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害薬、グルカゴン様ペプチド−1、グルカゴン様ペプチド−1類縁体、グルカゴン様ペプチド−1アゴニスト、アミリン、アミリン類縁体、アミリンアゴニスト、アルドース還元酵素阻害薬、終末糖化産物生成阻害薬、タンパク質キナーゼC阻害薬、γ−アミノ酪酸受容体アンタゴニスト、ナトリウムチャネルアンタゴニスト、転写因子NF−κΒ阻害薬、脂質過酸化酵素阻害薬、N−アセチル化−α−リンクト−アシッド−ジペプチダーゼ阻害薬、インスリン様成長因子−I、血小板由来成長因子、血小板由来成長因子類縁体、上皮成長因子、神経成長因子、カルニチン誘導体、ウリジン、5−ヒドロキシ−1−メチルヒダントイン、EGB−761、ビモクロモル、スロデキシド、Y−128、ヒドロキシメチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害薬、フィブリン酸誘導体、β3−アドレナリン受容体アゴニスト、アシルコエンザイムAコレステロールアシル基転移酵素阻害薬、プロブコール、甲状腺ホルモン受容体アゴニスト、コレステロール吸収阻害薬、リパーゼ阻害薬、ミクロソームトリグリセリドトランスファープロテイン阻害薬、リポキシゲナーゼ阻害薬、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ阻害薬、スクアレン合成酵素阻害薬、低比重リポ蛋白受容体増強薬、ニコチン酸誘導体、胆汁酸封鎖剤、ナトリウム共役胆汁酸トランスポーター阻害薬、コレステロールエステル転送タンパク阻害薬、食欲抑制薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、中性エンドペプチダーゼ阻害薬、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、エンドセリン変換酵素阻害薬、エンドセリン受容体アンタゴニスト、利尿薬、カルシウムアンタゴニスト、血管拡張性降圧薬、交換神経遮断薬、中枢性降圧薬、α2−アドレナリン受容体アゴニスト、抗血小板薬、尿酸生成阻害薬、尿排泄薬、尿アルカリ化薬、酸素担体、又はその任意の組み合わせでよい。
【0069】
II−Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の使用
A.指標
Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は1型糖尿病と診断された患者を治療するために用いることができる。患者は好ましくはヒトであり、子供、ティーンエイジャ、又は成人でよい。
【0070】
1型糖尿病は1型糖尿病を診断するために臨床的に用いられるいずれかの方法を用いて診断することができる。世界保健機関は真性糖尿病について空腹時血糖値7.0mmol/l(126mg/dl)超(全血6.1mmol/l又は110mg/dl)、あるいは2時間血糖値11.1mmol/L以上(200mg/dL以上)の診断値を定義している。他の真性糖尿病を示唆する又は示す値としては、動脈圧上昇140/90mmHg以上;血漿トリグリセリド上昇(1.7mmol/L;150mg/dL)及び/又は低HDLコレステロール(男性0.9mmol/L、35mg/dl未満;女性1.0mmol/L、39mg/dL未満);中心性肥満(男性:ヒップとウエストの比率0.90超;女性:ヒップとウエストの比率0.85超)、及び/又は30kg/mを超える肥満度指数;尿中アルブミン排泄率20μg/分以上である微量アルブミン尿、又はアルブミンクレアチニン比30mg/g以上が挙げられる。
【0071】
特定の実施形態において、患者はブリットル型1型真性糖尿病と診断されている。「ブリットル型1型真性糖尿病」「ブリットル型1型糖尿病」及び「不安定型1型糖尿病」という語は本明細書で交換可能に用いられる。1型糖尿病を制御するのが特に難しい疾患を指す。ほぼすべての糖尿病患者は非糖尿病患者よりも大きく、予測しにくい血中グルコース値の変動を経験する。これらの変動が過度になり、患者の生活の乱れ及び/又は長期入院を引き起こすと、そのヒトは不安定型又はブリットル型糖尿病を有するとして分類される。
【0072】
あるいは、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は、1型前糖尿病(すなわち、1型糖尿病発症前)と診断された患者を治療するために、特にブドウ糖負荷試験が無調節の開始を示すときに、用いて良い。
【0073】
B.Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の投与
本発明による治療方法は1型糖尿病患者にSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞を投与することを含む。「投与する」「導入する」及び「移植する」という語は本明細書で交換可能に用いられる。カプセル化細胞を所望部位に位置させ、埋め込んだカプセル化細胞の少なくとも一部が生存する方法又は経路による、対象へのSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の配置を指す。患者の投与後の生存期間は短ければ数時間(例えば、12時間、24時間)から数日(例えば、2日、3日、5日、10日、20日、30日又は30日超)から、長ければ数ヶ月(例えば、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月)あるいは数年(例えば、2年、3年、4年、5年、又は5年超)であることができる。
【0074】
Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は患者の身体の任意の適切な部位に導入してよい。理想的には、移植及び血管再生間の虚血期間をできる限り短くするため、移植部位では組織の素早い血管新生を行うべきである。潜在的な膵島移植部位として見なされている血管外部位としては、これらに限定されないが、膵臓(Stagner et al.,Journal of the Pancreas,2007,8:628−636)、胃粘膜下組織(Caiazzo et al.,Transplant Proc,2007,39:2620−2623)、横紋筋(Svensson et al.,Cell Transplant,2011,20:783−788)、腹膜(Fritschy et al.,Transplantation,1991,52:777−783)、網(Ao et al.,Transplantation,1993,56:524−529)、骨髄(Cantarelli et al.,Blood,2009,114:4566−4574)、腎臓被膜(Carlsson et al.,Transplantation,2000,69:761−766)、リンパ節(Komori et al.,Nature Biotechnol.,2012,30:976−983)、脾臓(Kaufman et al.,Transplantation,1990,50:385−391)、並びに前眼房、精巣及び胸腺)などいくつかの免疫特権部位(Cantarelli et al.,Curr.Diab.Rep.,2011,11:364−374)が挙げられる。
【0075】
本発明の特定の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は1型糖尿病患者に皮下注射により投与される。糖尿病マウス及び非ヒト霊長類における正常血糖は、皮下組織へのカプセル化膵島の移植により証明されている(Dufrane et al.,Transplantation,2010,90:1054−1062;Kawakami et al.,Pancreas,2001,23:375−381;Wang et al.,Transplantation,2002,73:122−129;Wang et al.,Transplantation,2003,76:29−296)。1型糖尿病患者に皮下移植されたカプセル化膵島の臨床試験が報告されている(Sharp et al.,Diabetes,1994,43:1167−1170;及びSernovaのセルパウチを用いた臨床膵島移植プログラム)。
【0076】
本発明の特定の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は1型糖尿病患者に筋肉内投与される。筋肉内移植は膵島自家移植においてすでに臨床段階に達している(Christoffersson et al.,Diabetes,2010,59:2569−2578)。
【0077】
本発明の特定の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は1型糖尿病患者の腹膜腔に埋め込まれる。「腹膜腔」という語は、腹壁から腹腔中の臓器を分離する2つの膜である壁側腹膜及び臓側腹膜間の空間を指す。1型糖尿病患者に皮下移植されたカプセル化膵島の臨床試験が報告されている(Soon−Shiong et al.,The Lancet,1994,343:950−951;Scharp et al.,Diabetes,1994,43:1167−1170;Calafiore et al.,Diabetes Care,2006,29:137−138;Tuch et al.,Diabetes Care,2009,32:1887−1889;並びにAmcyte,Inc.、Novocell,Inc.(ViaCyte,Inc.)及びLiving Cell Technologies(LCT)により現在実施される臨床試験)。
【0078】
本発明の特定の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は1型糖尿病患者の腸間膜に埋め込まれる。本明細書では、「腸間膜」という語は腹腔後壁から腸管につながる膜質組織のひだを指す。糖尿病マウスにおける正常血糖は腸間膜へのカプセル化膵島の移植により証明されている(Vernon et al.,Cell Transplant,2012,21(10):10.3727/096368912X636786;Rogers et al.,Am.J.Pathol.,2010,177:854−864)。
【0079】
本発明の特定の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は1型糖尿病患者の網、例えば上腸間膜動脈分岐に隣接する網、又は大網内に埋め込まれる。本明細書では、「網」という語は腹部臓器を取り囲む腹膜の層を指す。糖尿病マウスの正常血糖は網へのカプセル化膵島の移植により証明されている(Kobayashi et al.,Cell Transplant,2006,15:359−365)。
【0080】
本発明の特定の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は1型糖尿病患者の腎臓被膜下に埋め込まれる。「腎臓被膜」及び「腎被膜」という語は本明細書で交換可能に用いられ、腎臓を取り囲み、腎周囲脂肪組織の厚い層で覆われた丈夫な線維層を指す。糖尿病マウスの正常血糖は腎被膜へのカプセル化膵島の移植により証明されている(Dufrane et al.,Transplantation,2006,81:1345−1353)。
【0081】
特定の好ましい実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は皮下又は筋肉内に埋め込まれる。筋肉及び皮下組織はいくつかの利点を示し、腹腔内臓器など他の部位と比較して扱い易い。そのため、カプセル化細胞は必要又は所望であれば容易に移植及び除去することができる。
【0082】
患者の身体の部位により、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の投与は注射、局所注入、カテーテル、外科的移植などを含むが、これらに限定されない様々な方法のいずれかを用いて行われる。
【0083】
一般的に、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は治療有効量、すなわち1型糖尿病患者における正常血糖値を回復及び/又は維持するという意図された目的を満たすのに十分な量で投与される。国際膵移植登録機構は、正常血糖値を達成するため、レシピエント体重1キログラムあたり少なくとも6,000膵島当量の移植を推奨している。2000年には、エドモントンプロトコールは移植手順にいくつかの変更を行い、レシピエントの体重1キログラムあたり11,000膵島当量の平均膵島塊の移植を推奨した。しかし、移植されるべきSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の量は、グルコース刺激に反応してin vivoでインスリンを生じるカプセル化細胞の能力に依存することは当業者に明らかである。従って、投与されるべきSi−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の正確な量は、年齢、性別、体重、及び患者が患う血中グルコース値変動の重症度に応じて対象ごとに変わるだけでなく、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞の有効性、併用療法(例えば、外因性インスリン療法)の使用(又は未使用)、及び他の臨床的因子によっても変わる。これらの因子は治療過程で主治医により容易に決定される。
【0084】
本発明による治療効果は1型糖尿病の診断のために当技術分野で公知のアッセイ及び試験のいずれか、特に血中グルコース濃度を評価することにより監視することができる。
【0085】
C.治療の併用
特定の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は、血糖を調節するために1型糖尿病患者に投与される唯一の治療薬である。他の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞はインスリン療法と併用される。この併用は、より軽いインスリン療法の適用、並びに(高及び/又は低)血糖のより優れた調節を行うことができる。
【0086】
特定の実施形態において、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞は免疫抑制治療と併用適用される。しかし、他の実施形態において、移植を受けた1型糖尿病患者は免疫抑制治療を併用適用されない。
【0087】
III−キット
他の態様において、本発明は本発明による治療方法を実施するために有用な材料を含むキットを提供する。本発明の治療方法を実施するための材料及び試薬はキットに一緒にまとめられてよい。特定の実施形態において、発明に関するキットは、Si−HPMC(例えば粉末状、又はpH>12.4の水溶液状)及びインスリン産生細胞、並びにインスリン産生細胞をSi−HPMCにカプセル化する使用説明書、及び1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者にカプセル化細胞を投与する使用説明書を含む。他の実施形態において、発明に関するキットは、Si−HPMCカプセル化インスリン産生細胞及び1型糖尿病患者又は1型前糖尿病患者への投与のための使用説明書を含む。
【0088】
その手順に応じて、このキットは洗浄バッファ及び/又は試薬、溶解バッファ及び/又は試薬、ゲルバッファ及び/又は試薬などの1つ又は複数をさらに含んでよい。手順における異なる工程を実施するためのこれらのバッファ及び試薬を使用するプロトコールが、このキットに含まれていてよい。
【0089】
これらの試薬は固体状(例えば、凍結乾燥状)又は液体状で供給されてよい。本発明のキットは任意に個々のバッファ及び/又は試薬用の異なる容器(例えば、バイアル、アンプル、試験管、フラスコ又は瓶)を含んでよい。各成分は一般的にそのそれぞれの容器に分注されるのが適当であり、又は濃縮状で提供される。他の開示された方法の特定の工程を実施するのに適当な容器が提供されてもよい。このキットの個々の容器は市販用に厳重な密閉状態で維持されることが好ましい。
【0090】
本発明に記載のキットは本発明の方法によるキットを使用するための使用説明書をさらに含んでよい。本発明の方法によるキットを使用するための使用説明書はマクロカプセル化を実施するための使用説明書、マイクロカプセル化を実施するための使用説明書、1型糖尿病患者に投与/注射/移植するための使用説明書などを含んでよい。
【0091】
特定の実施形態において、本発明によるキットは患者にカプセル化細胞を投与するためのデバイス(例えば、シリンジ及びニードルシステム)を含んでよい。
【0092】
医薬又はバイオ製品の製造、使用又は販売を規制する行政機関により規定された形式の通知又は添付文書が容器に任意に含まれていてよく、この通知はヒトへの投与のための製造、使用又は販売の機関による承認を示す。
【0093】
識別子、例えばバーコード、無線周波数、IDタグなどが、キット中又は上に存在してよい。例えば、品質管理、在庫管理、ワークステーション間の動作追跡などの目的でキットを独自に識別するために、この識別子を用いることができる。
【0094】
本発明を以下の図及び実施例によりさらに説明する。しかし、これらの実施例及び図は本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0095】
下記実施例は本発明をなし、実施する一部の好ましい形態を説明する。しかし、実施例は説明のためだけのものであり、本発明の範囲を限定しないことを理解すべきである。さらに、実施例の記述が過去形で表されていなければ、本明細書の残りのように、この文章は実験が実際に実施された、又はデータが実際に得られたと示すことを意図しない。
【0096】
材料及び方法
倫理
動物の世話及び実験はすべて、関連するフランスのガイドライン(2001年5月29日のDecret2001〜464及び2013年2月1日のDecret2013〜118)に準拠して行った。特定病原体の無い環境のONIRIS齧歯類設備(承諾番号:44 266)で滅菌水道水及び食餌を用いてマウスを飼育した。すべての実験動物は動物実験の倫理に関して、Pays de la Loire Regional Committeeにより承認された(承認番号:01074.01/02)。苦しみを最小限に抑えるように努力した。
【0097】
細胞
新生仔ブタ膵島(NPI)。ユカタン新生仔ブタをINRA(フランス、サン=ジル)から購入した。1〜14日齢の雌性又は雄性ユカタン新生仔ブタ(体重1〜2kg)から膵臓を得た。仔ブタをイソフルランを用いて麻酔し、全採血後開腹した。仔ブタの鎮痛はブトルファノール及びミダゾラムの前投薬、並びに術前モルヒネクロロハイドラート投与を含んでいた。その後、膵臓を周辺組織から注意深く切断し、10mMのHepes、100U/mlのペニシリン及び0.1mg/mlストレプトマイシンを添加した冷却HBSS(HBSSバッファ)に入れた。新生仔ブタ膵島の単離及び培養をKorbuttらにより記載された通りに実施した(J.Clin.Invest.,1996,97:2119−2129)。簡潔に述べると、はさみを用いて膵臓を1〜2mmの小片に切断し、洗浄後、2.5mg/mlコラゲナーゼ(シグマアルドリッチ)で消化し、37℃の水浴振とう機で14〜16分間穏やかに撹拌した。消化物を10mMのHepes、100U/mlペニシリン、0.1mg/mlストレプトマイシン及び0.5%BSAを添加したHBSSで4回洗浄したナイロン篩い(500μm)を通してろ過した後、10mMグルコース(シグマアルドリッチ)、50mMのIBMX(シグマアルドリッチ)、5g/LのBSA(シグマアルドリッチ)、2mMのL−グルタミン(Dutsher)、10mMのニコチンアミド(シグマアルドリッチ)、100IU/mlのペニシリン及び100mg/mlのストレプトマイシン(Dutsher)を添加したハムF10(Dutscher)を含有する無細胞培養処理されたペトリ皿(Dutscher)に置いた。単離後一日目及びその後一日おきに培地を交換しながら、培養皿を加湿空気(5%CO、95%空気)中37℃で維持した。ヒドロゲルにカプセル化されると(下記参照)、10mMグルコース、50mMのIBMX、2mMのL−グルタミン、10mMのニコチンアミド、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン及び10%ブタ血清を添加したハムF10でNPIを培養した。
【0098】
MIN6偽膵島(PI)。MIN6マウスインスリン細胞は親切にも宮崎純一教授(日本、大阪大学医学部)により提供された。低継体(5〜10)MIN6細胞を選択してPIを形成した。25mMのグルコースを含有し、10%熱不活化ウシ血清(インビトロジェン、米国、カールスバッド)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン/ネオマイシン混合物(PAA)及び50μMメルカプトフェノール(シグマアルドリッチ)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Dutsher)でMIN6細胞を培養した。50mLチャンバRCCSバイオリアクタ(シンセコン、米国、ヒューストン)において、4日間及び3日間、37℃、加湿空気(5%CO、95%空気)中で、未処置ペトリ皿に10細胞/mLを播種することでMIN6 PIを調製した。
【0099】
膵島当量計算法。膵島当量を決定して、その体積に対する膵島数を標準化した。国際膵膵島移植学会の第二会議(Ricordi et al.,Acta Diabetol.Lat.,1990,27:185−195)で設定された判断基準によれば、1IEQは直径150μmの膵島に等しい。各計数について、50μLの三サンプルを用いた。
【0100】
Si−HPMC及びアルギン酸塩ヒドロゲルへのNPI及びPIのマクロカプセル化
マクロカプセルにおける膵島濃度は2500膵島当量(IEQ)/mLを対象とした。3%(w/v)シラン化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Si−HPMC)はLIOAD(Laboratoire d’Ingenierie Osteo−Articulaire et Dentaire−UMR_S791、フランス、ナント)により提供された。Si−HPMC及び酸バッファをルアーロックにより結合した2つのシリンジを用い、2:1(v:v)比で、それぞれ最終2%(w/v)ヒドロゲルとなるように混合した(Bourges et al.,Adv.Colloid Interface Sci.,2002,99:215−228)。ゲル化(プレゲル)の10分後、膵島(20μL体積)を先の細い0〜200μL円錐体を用いて200μLのヒドロゲル内に滴下した。その後、23ゲージ針を通した押出しにより、膵島をヒドロゲル内に埋め込んだ。200μLのゲル及び膵島混合体を48ウェルTCPSプレートに配置し、in vitroでSi−HPMC膵島マクロカプセルを得た。37℃で60分のインキュベーション後、成長培地を加えた。
【0101】
Novamatrix(ノルウェー、Sandvika)の臨床グレードの低粘度、高グルクロン酸塩のアルギン酸ナトリウム(PRONOVA UP LVG)を用いて、アルギン酸塩マクロカプセルを作製した。アルギン酸ナトリウムを2.2%(w/v)で0.9%NaCl(w/v;シグマアルドリッチ)に、一晩4℃で優しく撹拌することにより可溶化した後、0.2μMのろ過(ミリポア、ドイツ、ダルムシュタット)を用いて滅菌した。NPI及びPIを0.9%NaClで3回洗浄し、アルギン酸カルシウム2.2%溶液に1:8(v:v)で懸濁した。シリンジドライバを用い、23ゲージ針を通して、100mMのCaCl(シグマアルドリッチ)ゲル化浴に10分間押し出すことによりマクロスフェアを得た。その後、マクロスフェアを0.9%NaClの10分浴2回及び培養培地で連続的に洗浄した。得られたマクロスフェアの平均は直径2mmであった。200μLのゲル及び膵島混合体を48ウェルプレートに滴下した後、カプセルを取り囲み、覆う100mMのCaCl溶液と20分インキュベーションし、マクロカプセルを得た。ゲル化後、CaClを除去し、マクロカプセルを0.9%NaCl(20分浴2回)及び培地で連続的に洗浄した。
【0102】
カプセル化NPI又はPIを加湿空気(5%CO、95%空気)中37℃で維持し、培養培地を2〜3日ごとに交換した。
【0103】
NPI及びPIのin vitroでの生存力
カプセル化又は非カプセル化NPI及びPIの生存力をメーカー推奨(ライフテクノロジーズ、米国、カールスバッド)のLIVE/DEADキット(カルセインAM及び臭化エチジウム(EthD−1))を用いて評価した。試験前、非カプセル化細胞をD−PBS(シグマアルドリッチ)で1回洗浄し、カプセル化細胞をD−PBSで3回15分洗浄した。EthD−1及びカルセインAMプローブを30〜60分間、それぞれ4μM及び2μMの濃度でインキュベートした。
【0104】
in vitroでのNPI及びPI機能
グルコース刺激インスリン分泌(GSIR)。急性のグルコース±テオフィリン(インスリン分泌増強剤)に反応してインスリンを放出する非カプセル化又はカプセル化膵島の能力をそれぞれ静的又は静的/動的方法により評価した。2.8mMのグルコース(PAA)、2mMのL−グルタミン及び5g/LのBSA(シグマアルドリッチ)を添加したRPMI(PAA)から基礎培地(B)を構成した。グルコース刺激培地(G)及びグルコースプラステオフィリン培地(G+T)はそれぞれ20mMグルコース及び20mMグルコース±10mMテオフィリン(シグマアルドリッチ)を添加した基礎培地であった。Korbuttら(J.Clin.Invest.,1996,97:2119−2129)に記載されたように、非カプセル化膵島の静的GSIRを2時間、B、G又はG+T培地で50膵島当量(IEQ)(あらかじめ基礎培地で洗浄した)をインキュベートすることにより評価した。その後、組織及び培地を遠心分離により分離し、それぞれのインスリン含有量について分析した。静的/動的方法を用いて、カプセル化膵島(500IEQ/200μlのヒドロゲル)のGSIRを評価した。まず、カプセル化膵島を基礎培地で30分間の5連続インキュベーションにより洗浄した。その後、インスリンの基礎及び刺激産生は、カプセル化膵島を30分間、400μLの基礎培地(2回)、グルコースプラステオフィリン(2回)及び基礎培地(3回)で連続的にインキュベートすることにより評価した。
【0105】
培養下のカプセル化膵島の基礎インスリン分泌。各週、培養培地の上清を最後の培地交換の24時間後、カプセル化膵島から採取して、培養下のカプセル化膵島によるインスリン基礎産生について分析した。
【0106】
インスリンアッセイ及び結果計算。インスリンをELISA(Mercodia、スウェーデン、ウプサラ)により分析した。インスリン(ins)の特異産生率(q)を以下の等式を用いて計算した。XはIEQの数であり、tは産生時間である:
【数1】
【0107】
ヒドロゲルの免疫生体適合性及び免疫保護
マウス脾細胞及びヒトマクロファージとの膵島インキュベーション。非カプセル化又はカプセル化膵島をヒトマクロファージ又はマウス脾細胞と共培養した。ヒト単球はCIC(Centre d’Investigation Clinique、フランス、ナント)から購入した。ヒトマクロファージは10%FCS(v/v)、2mMのグルタミン、100IU/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン及び10U/mLのrhM−CSF(組み換えマクロファージコロニー刺激因子、R&D Systems、英国、アビンドン)を添加したRPMI1640において、ペトリ皿で6日間培養した(10細胞/cm)単球のin vitroでの分化により得られた。マクロファージをアクターゼ(シグマアルドリッチ)により採取し、500μLの完全培地において、48ウェルプレートに各ウェルあたり4x10細胞で培養した。NOD/ShiLTJマウスから、脾臓を穏やかに機械的破砕し、70μm篩いを通した後、赤血球の溶解により脾細胞を単離した。サイトカイン分泌アッセイのため、10%FCS、2mMのL−グルタミン及び100IU/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシンを添加した500又は1000μLのRPMI1640培地において、脾細胞をそれぞれ48ウェルプレートに各ウェルあたり2x10細胞、又は24ウェルプレートに各ウェルあたり4x10細胞で培養した。
【0108】
サイトカイン分泌。全培地を40±2時間後に集め、−20℃の温度で保管した。CBA試験(ベクトン・ディッキンソン、米国、フランクリンレイクス)又はELISA試験(バイオテクネ、米国、ミネアポリス)をTNFα、IFNγ、IL−1β、IL−6、IL−12又はIL−10定量化のために実施した(FACS Aria、BD Biosiences)。
【0109】
カプセル化MIN6偽膵島(PI)のストレプトゾトシン誘発糖尿病免疫不全NSG及び免疫応答性C57Bl/6マウスへの移植
6〜12週齢の雌性マウスを用いた。NODscidガンマ免疫不全(NSG)マウスをチャールズリバーラボラトリーズ(フランス、リヨン)から購入した。絶食マウスを移植5日前に150mg/体重kgの高用量ストレプトゾトシン(シグマアルドリッチ;クエン酸バッファに新たに溶解した)の単回腹腔内注射により糖尿病にした。C57Bl/6マウスをJanvier Labs(フランス、ル・ジュネスト=サン=ティスル)から得た。C57Bl/6マウスを移植40日前に50mg/体重kgの低用量ストレプトゾトシン(シグマアルドリッチ;クエン酸バッファに新たに溶解した)の腹腔内注射5回(1日1回)により糖尿病にした。血糖をグルコトレンド/アキュチェック(ロシュ・ダイアグノスティックス、ドイツ、マンハイム)を用いて監視した。血液サンプルを尾静脈から得た。2回連続した監視について血糖が13.5mmol/Lよりも高いとき、糖尿病と診断された。注射当日、レシピエント動物はイソフルランを用いて麻酔した。上記のように、500IEQを200μLのSi−HPMCヒドロゲルにカプセル化した。プレゲル化の10分後、Si−HPMCカプセル化膵島を麻酔マウスの右脇腹に皮下注射した。その後、SiHPMCのマクロカプセルを一部のマウスから除去した。そのため、マウスをイソフルランを用いて麻酔し、鎮痛をブプレノルフィンで実施した。
【0110】
統計分析。データを独立観測の平均±SEMとして表す。統計分析をPrism(GraphPad Software,Inc.)及び図の凡例に示す統計的検定を用いて実施した。
【0111】
結果
非カプセル化はin vitroで培養された新生仔ブタ膵島の生存力の急速な減少により特徴付けられる一方(図1(A)を参照のこと)、Si−HPMCカプセル化は42日を超えて新生仔ブタ膵島を生存させる(図2(A)参照のこと、最大試験日数:72日)。同様の結果が9ヶ月までのin vitro培養におけるマウス偽膵島(Min6)でも観察された(図3(A)参照のこと)。
【0112】
カプセル化膵島のin vitroでの機能性について言えば:新生仔ブタ膵島によりin vitroで分泌されるインスリンの基礎量は、アルギン酸塩(臨床グレードGMP Novamatrix)にカプセル化された時よりもSi−HPMCにカプセル化された場合がより高いことが見出された(図2(B)参照のこと、p<0.05)。新生仔ブタ膵島のin vitroでのインスリン分泌はグルコースにより刺激されなかった(図1(B)参照のこと)。新生仔ブタ膵島が機能的に未成熟であることがわかっているため、この結果は予想された。しかし、予期した通り(Korbutt et al.,J.Clin.Invest.,1996,97:2119−2129)、新生仔ブタ膵島のin vitroでのインスリン分泌は相乗剤であるテオフィリンと併用したグルコースにより刺激されることが観察された(図1(B)を参照のこと、p<0.05)。刺激剤(グルコース+テオフィリン)及びアルギン酸塩のようなヒドロゲルを通過したインスリン自体の拡散の遅れはインスリン分泌刺激試験をより困難にする。このカプセル化に固有の技術的問題を解決するため、本発明者は免疫分泌の「動的」試験を開発した(図4(A))。グルコース及びテオフィリンを用いた刺激後に分泌されるインスリンの量が培養初期にSi−HPMCを用いるよりもアルギン酸塩を用いる方が高い(p<0.05)ことが見出されたなら、その反転は後に実際になる(図4(B)を参照のこと)。マウス偽膵島の場合、基礎インスリン分泌(はるかに高い量)がSi−HPMCを用いたカプセル化後のin vitroでの培養全体で維持されることが見出された(図3(B)参照のこと、最大試験期間:9ヶ月)。同様のことが刺激されたインスリン分泌にも当てはまる(図5参照のこと)。
【0113】
生理的pH及び温度で自己網状化(自己架橋)するSi−HPMCの能力は、簡素なシリンジ及びニードルシステム(23Gx1)を用い、重合化前の皮下注射を可能にする。このような投与経路を用いて、本発明者はSi−HPMCにカプセル化されたマウス偽膵島が免疫不全NODマウス(図6(A)を参照のこと)及び免疫応答性C57Bl/6マウス(図6(B)を参照のこと)におけるストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病を治療することができると示している。STZの高用量注射は膵臓の全インスリン産生細胞を化学的に破壊することが見出された。反対に、STZの低用量注射を繰り返すと、膵臓のインスリン産生細胞の部分的及び限定的化学破壊を引き起こし、インスリン細胞による自己抗原の放出によって自己免疫糖尿病を招く(Weide et al.,Diabetes,1991,40:1157−1162;Rossini et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1977,74:2485−2489)。偽膵島を含有するヒドロゲルの外科的除去は血糖の急増を招き、糖尿病調整は実際には他の因子(膵臓のインスリン産生細胞の新生又は皮下ヒドロゲルから出た偽膵島又はMIN6細胞の作用など)によるよりもむしろマクロカプセル化膵島によると示している。
【0114】
バイオ人工膵臓としてのSi−HPMCの生体免疫適合性を試験するため、本発明者はマクロファージ及び樹状細胞により分泌される炎症性サイトカインであるIL−6の分泌を評価している。自身がヒトマクロファージ及びマウス脾細胞によるIL−6分泌を誘導するアルギン酸塩とは対照的に、Si−HPMCはIL−6分泌を誘導する効果を有さないことが見出された(図7(A)を参照のこと)。試験される細胞の機能性を評価する陽性対照としてLPSを用いた(図7(B)を参照のこと)。
【0115】
Si−HPMCは膵島が免疫系細胞により認識されることを防ぎ、従ってカプセル化膵島に効率的な免疫保護を与えることが見出された。実際に、図8に示すように、Si−HPMCはブタ膵島との接触により誘導されるヒトマクロファージ及びマウス脾細胞によるIL−6のin vitro分泌を妨げる。反対に、アルギン酸塩自体はIL−6分泌を誘導する能力を有している(上記参照)。さらに、Si−HPMCはカプセル化膵島による可溶性因子の放出により誘導される免疫細胞によるIL−6分泌を限定する(トランスウェルでの共培養試験、図9を参照のこと)。
【0116】
インスリン産生細胞のSi−HPMCカプセル化の長期耐久性及び有効性はまだ実証されていない。上記報告されたすべての実験は終濃度が2%(w/v)のSi−HPMCを含有する標準処方を用いて実施し、ヒドロゲル)を調製している。当業者に認識されるように、Si−HPMCの終濃度は修正及び最適化して、拡散、生存力、安定性及び耐久性間の最良の妥協点を見出すことができる。より低い濃度のSi−HPMC(例えば、約1.5%、約1%又は約0.5%)及びより高い濃度のSi−HPMC(例えば、約2.5%、約3%、約4%又は約5%をヒドロゲルの密度を調節するため、従ってインスリン及びグルコースをさらに拡散させ、生存力を維持しながらその耐久性を調節するために用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】