(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-537507(P2018-537507A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(54)【発明の名称】加齢に関連する認知障害及び神経炎症を予防及び/又は治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4184 20060101AFI20181122BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20181122BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20181122BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20181122BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61P25/00
A61P29/00
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-531575(P2018-531575)
(86)(22)【出願日】2016年12月9日
(85)【翻訳文提出日】2018年8月10日
(86)【国際出願番号】US2016065972
(87)【国際公開番号】WO2017106050
(87)【国際公開日】20170622
(31)【優先権主張番号】62/267,437
(32)【優先日】2015年12月15日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】513182787
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】The Board of Trustees of the Leland Stanford Junior University
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】グエン,クォア ディン
(72)【発明者】
【氏名】エングルマン,エドガー ジー.
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC39
4C086MA52
4C086MA57
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA15
4C086ZB11
4C086ZC52
(57)【要約】
本発明は、中枢神経系における加齢に関連する認知障害を予防及び/又は治療するための方法に関する。この方法は、有効量のPpargc1a活性化因子2−(4−tert−ブチルフェニル)−1H−ベンズイミダゾール、(2−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−1H−ベンズイミダゾールを、その予防及び/又は治療を必要とする対象に投与することを含む。好ましい投与経路は、経口投与である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系の加齢に関連する認知障害を予防及び/又は治療する方法であって、
2−(4−tert−ブチルフェニル)−1H−ベンズイミダゾール、2−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−1H−ベンズイミダゾール、又はそれらの薬学的に許容される塩の化合物の有効量を、その予防及び/又は治療を必要とする対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記対象における認知症による行動障害を後退させるか、又は緩和する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象における神経炎症及び/又は全身性炎症を抑制する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記対象における脳内の小膠細胞の代謝異常を抑制する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が全身投与によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が経口投与によって投与される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ppargc1a活性化因子2−(4−tert−ブチルフェニル)−1H−ベンズイミダゾール、2−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−1H−ベンズイミダゾールを対象に投与することによって、加齢に関連する認知障害及び神経炎症を予防及び/又は治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小膠細胞は、CNSにのみ見出される免疫細胞である。小膠細胞は、卵黄嚢造血前駆体に由来し、胚形成の間において脳に存在する(Ginhoux et al Science 2009)。小膠細胞は、恒常性状態において修復プロセス(例えば、残存物除去)を行う。また、それは炎症メディエータの蓄積を生み出し、この炎症メディエータは、病理学的刺激を受けると即座に放出され、神経炎症を開始し維持する。他の免疫細胞と同様に、小膠細胞の活性化は、生物学的なエネルギーを要するプロセスである。現在理解されていない点は、小膠細胞の代謝がどのように不適応になり、これらの細胞の炎症性の変化にどのように寄与するかである。
【0003】
炎症誘発性分子の存在によって及び小膠細胞の特性の変化によって示されることがある、脳内での炎症反応が、ヒト神経変性疾患の一般的な特徴である(Alzheimer’s Res Ther.,7(1):56.doi:10.1186/s13195−015−0139−9,2015)。Yongは、中枢神経系(CNS)の炎症(神経炎症)がすべての神経障害の特徴であり、小膠細胞の活性化がCNS内の多くの炎症性メディエータの上昇をもたらすことを報告している(The Neuroscientist,16:408−420,2010)。
【0004】
加齢は、組織機能の進行性の喪失と関連しており、加齢関連の障害への感受性を増加させる結果となる。生理学的な加齢の結果は、免疫攻撃(例えば、感染、外科手術、又は外傷性脳損傷)後の記憶障害に対する感受性をより高くする。これらの攻撃によって生み出される神経炎症反応は、他の健康な加齢脳において、炎症誘発性サイトカインの生成の増加及び持続をもたらす。感作された小膠細胞は、この過大な神経炎症反応の主な原因であり、老化する脳の特徴であると思われる。加齢を誘発する小膠細胞感作の原因及び結果は、神経内分泌系の調節不全、免疫攻撃後の神経炎症反応の増強、及び記憶障害を含む(Barrientos et al,Neuroscience 309:84−99,2015)。加齢は認知能力の低下に関連し、アルツハイマー病(AD)を発症の最大の危険因子である。Mosherら(Biochem Pharmacol 88:594−604,2014)は、脳の老化及びアルツハイマー病における小膠細胞の機能不全を報告している。それにもかかわらず、こうした現象における小膠細胞中の内因性調節経路の役割は未だ解明されていないままである。
【0005】
高齢者の人口は急速に拡大しており、そして、神経炎症は中年期(40〜60歳)に発症し高齢(60歳を超える)で加速する、長期にわたる過程であるので、加齢に関連する障害の治療及び予防のための新規な治療の標的を特定することが重要である。小膠細胞介在性の神経炎症及びその(加齢における)病理学的結果を抑制する療法が必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1〜4において、ビヒクル(Veh)は、0.5%メチルセルロースの経口強制投与であり、ZLNは、ビヒクル中のZLN005である。
【
図1】若年(Young)動物、ビヒクルで処理された高齢動物、又はZLNで処理された高齢動物における、グルコース輸送体Slc2a1を発現する小膠細胞の%、又はグルコース蛍光アナログ2−NBDGを取り込んだ小膠細胞の%を示す図である。n=1条件あたり6匹の動物。
【
図2】若年動物、ビヒクルで処理された高齢動物、又はZLNで処理された高齢動物における、CCL2又はTNF−αを発現する小膠細胞の%を示す図である。n=1条件あたり6匹の動物。
【
図3】若年動物、ビヒクルで処理した高齢動物、又はZLNで処理された高齢動物の血清中におけるTNF−αの濃度を示す図である。n=1条件あたり6匹の動物。
【
図4】若年動物、ビヒクルで処理した高齢動物、又はZLNで処理された高齢動物におけるビー玉埋め点数を示す図である。n=1条件あたり8〜9匹の動物。
【0007】
本発明者らは、Ppargc1a、すなわち、小膠細胞を含めた多くの細胞種における細胞代謝の多面発現制御因子(pleotropic regulator)が、加齢に関連する神経障害の重要な調節因子であることを発見した。本発明者らは、小膠細胞におけるPparg1活性化と、生物全体の認知機能及び運動機能に対するその影響との間における関連性を発見した。本発明者らは、ZLN005などの化合物でPpargc1aを活性化することによって、小膠細胞の機能不全が改善され、高齢動物における認知能力が改善されることを発見した。
【0008】
本発明は、加齢に関連する認知障害又は神経炎症を予防又は治療するための方法に関する。この方法は、加齢に関連する症状の発症を予防(prevent)、阻止(arrest)、又は後退(reverse)させるのに有効な量でPpargc1a活性化因子をそれを必要とする対象に投与する工程を含む。本明細書において「予防する」とは、加齢に関連する認知障害又は神経炎症の進行を阻止するか、又は遅延(slowing)させることをいう。本明細書において「治療する」とは、加齢に関連する認知機能障害又は神経炎症を後退させるか、和らげ(alleviate)るか、又は減少(reduce)させることをいう。対象は、加齢対象(45〜60歳)又は高齢対象(60歳を超える)である。
【0009】
ZLN005として既知でもある2−(4−tert−ブチルフェニル)−1H−ベンズイミダゾール、2−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−1H−ベンズイミダゾール(CAS番号49671−76−3)は、加齢の治療に有用な有効なPpargc1a活性化因子である。ZLN005の化学構造を以下に示す。
【化1】
【0010】
本発明者らは、高齢マウスにおける小膠細胞が、より糖分解性(glycolytic)になることを証明しており、それらのエネルギー基質としてグルコースの利用が増加すること、及びグルコース輸送体Slc2a1のアップレギュレーションによって実証した。こうした高齢の動物をZLN005で処理すると、グルコース取り込みの著しい抑制並びに小膠細胞におけるSlc2a1発現の抑制がもたらされた。
【0011】
本発明者らは、高齢マウスにおける小膠細胞が炎症表現型を表すことを示しており、CCL2及びTNF−α産生の顕著な増加によって実証した。腫瘍壊死因子(TNF又はTNFα)は、局所及び全身の炎症に関与する細胞シグナル伝達タンパク質(サイトカイン)であり、そして急性期反応を形成するサイトカインの1つである。ケモカイン(C−Cモチーフ)リガンド2(CCL2)は、小さなサイトカインであり、単球、記憶T細胞、及び樹状細胞を、組織損傷又は感染のいずれかによって生じる炎症部位に補充する。ZLN005を高齢の動物に投与することによって、小膠細胞におけるCCL2及びTNF−α産生が減少し、神経炎症が抑制された。さらに、ZLN005処理は、高齢マウスにおける全身性炎症を抑制し、血清TNF−αレベルに対するその抑制効果によって実証した。
【0012】
本発明者らは、ZLN005を用いる処理によって、ビー玉埋め法(認知能力を評価するための機能アッセイ)における高齢のマウスによる行動機能障害(すなわち、認知機能障害)が減少するか又は後退させたことの証拠を提供している。
【0013】
≪医薬組成物≫
本発明は、1つ又は複数の薬学的に許容される担体及び2−(4−tert−ブチルフェニル)−1H−ベンズイミダゾール、2−[4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル]−1H−ベンズイミダゾール(ZLN005)の活性化合物、又は薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物中の活性化合物又は薬学的に許容される塩又は溶媒和物は、一般に、局所製剤については、約0.01〜20%(w/w)の量であり;注射可能な製剤については、約0.1〜5%の量であり、パッチ製剤については、0.1〜5%であり、錠剤製剤については、1〜90%であり、及びカプセル製剤については、1〜100%である。
【0014】
一実施形態では、医薬組成物は、剤形(例えば、錠剤、カプセル、顆粒、細粒、パウダー、シロップ、座薬、注射用溶液、パッチ)とすることができる。別の実施形態では、医薬組成物は、活性化合物を含む吸入可能な粒子のエアロゾル懸濁液とすることができ、これは、対象が吸入する。吸入可能な粒子は、吸入の際に口及び喉頭を通過するのに十分小さい粒径を有する、液体又は固体とすることができる。一般に、約1〜10ミクロン、好ましくは1〜5ミクロンの大きさを有する粒子は、吸入可能であると考えられる。
【0015】
別の実施形態では、活性化合物は、クリーム、ゲル、ローション、又は活性化合物を安定化させることができ、更に局所に塗布することによって患部に送達することができる他のタイプの懸濁液を含む、任意の許容可能な担体に組み込まれる。上記医薬組成物は、従来の方法によって調製することができる。
【0016】
不活性成分である薬学的に許容される担体は、従来の基準を用いて、当業者によって選択することができる。薬学的に許容される担体としては、非水性系の溶液、懸濁液、エマルジョン、マイクロエマルジョン、ミセル溶液、ゲル、及び軟膏が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容される担体は、また、食塩水及び水性電解質溶液;イオン性及び非イオン性の浸透圧剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセロール、及びデキストロース);pH調整剤及び緩衝剤(例えば、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、及びトロラミン);抗酸化剤(例えば、塩、重亜硫酸塩の酸及び/又は塩基、亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、チオ亜硫酸塩、アスコルビン酸、アセチルシステイン、システイン、グルタチオン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、トコフェロール、及びパルミチン酸アスコルビル);界面活性剤(例えば、レシチン、(ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルイノシトールを含むが、これらに限定されない)リン脂質);ポロキサマー及びポロキサミン、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート60、及びポリソルベート20)、ポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール)、ポリビニル(例えば、ポリビニルアルコール及びポビドン);セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース及びそれらの塩);石油誘導体(例えば、鉱油及び白色ワセリン);脂肪(例えば、ラノリン、ピーナッツ油、パーム油、大豆油);モノ−、ジ−、及びトリグリセリド;アクリル酸のポリマー(例えば、カルボキシポリメチレンゲル)、及び疎水性に修飾された架橋性アクリレートコポリマー;多糖類(例えば、デキストラン)、及びグリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)を含む(なお、これらに限定されない)成分を含有することができる。このような薬学的に許容される担体は、周知の防腐剤を用いて細菌汚染を防ぎながら保存することができ、この防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、メチルパラベン、チメロサール及びフェニルエチルアルコールが含まれるが、これらに限定されず、又は、1回又は複数回の使用のための非保存性の製剤(non−preserved formulation)として調製することができる。
【0017】
例えば、活性化合物の錠剤製剤又はカプセル製剤は、生物活性を有さず、活性化合物と反応しない他の賦形剤を含有することがある。錠剤又はカプセルの賦形剤は、充填剤、結合剤、潤滑剤及び滑剤、崩壊剤、湿潤剤及び放出速度調節剤を含むことができる。結合剤は、製剤の粒子の接着を促進し、錠剤製剤にとって重要である。錠剤又はカプセルの賦形剤としては、カルボキシメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カラヤゴム、デンプン、トラガカントゴム、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、ポリ(アクリル酸)、及びポリビニルピロリドンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、錠剤製剤は、不活性成分(例えば、コロイド状二酸化ケイ素、クロスポビドン、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶性セルロース、ポリエチレングリコール、デンプングリコール酸ナトリウム、及び/又は二酸化チタン)を含有することができる。カプセル製剤は、不活性成分(例えば、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、及び/又は二酸化チタン)を含有することができる。
【0018】
例えば、活性化合物のパッチ製剤は、いくつかの不活性成分(例えば、1,3−ブチレングリコール、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、エデト酸二ナトリウム、D−ソルビトール、ゼラチン、カオリン、メチルパラベン、ポリソルベート80、ポビドン、プロピレングリコール、プロピルパラベン、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、酒石酸、二酸化チタン、及び精製水)を含むことができる。パッチ製剤は、皮膚浸透促進剤(例えば、乳酸エステル(例えば、乳酸ラウリル)又はジエチレングリコールモノエチルエーテルである。
【0019】
活性化合物を含む局所製剤は、ゲル、クリーム、ローション、液体、エマルジョン、軟膏、スプレー、溶液、及び懸濁液の形態とすることができる。局所製剤中の不活性成分は、これらに限定されるものではないが、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(皮膚軟化剤/浸透促進剤)、DMSO(溶解度促進剤)、シリコーンエラストマー(レオロジー/テクスチャー調整剤)、カプリル/カプリン酸トリグリセリド、(皮膚軟化剤)、オクチサレート、(皮膚軟化剤/UVフィルタ)、シリコーン流体(皮膚軟化剤/希釈剤)、スクアレン(皮膚軟化剤)、ヒマワリ油(皮膚軟化剤)、及び二酸化ケイ素(増粘剤)を含む。
【0020】
≪使用方法≫
本発明は、加齢に関連する認知障害及び/又は神経炎症を予防及び/又は治療する方法に関する。この方法は、中枢神経系の加齢に関連する認知障害及び神経炎症を予防し、及び/又はこれらの症状が一旦発症した場合にはこれらの症状を軽減又は後退させる。前記方法は、まずそれを必要とする対象を特定する段階、及び加齢に関連する症状を治療するのに有効な量のZLN005の活性化合物を対象に投与する工程を含む。本明細書における「有効量」は、加齢に関連する状態をその症状を軽減することによって治療するのに有効な量である。
【0021】
一実施形態では、本方法は、高齢患者又は加齢患者における行動機能障害を後退させるか、又は減少させる。一実施形態では、本方法は、対象の全身性炎症並びに神経炎症を抑制する。一実施形態では、本方法は、対象の脳における小膠細胞の代謝異常を抑制する。
【0022】
本発明の医薬組成物は、局所投与及び全身投与によって与えることができる。局部の投与には、局所投与が含まれる。全身投与には、経口、非経口(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、又は直腸)及び吸入投与が含まれるが、これらに限定されない。全身投与によって、活性化合物はまず血漿に達し、次いで標的組織に分配される。経口投与は、本発明の好ましい投与経路である。
【0023】
組成物の投与は、損傷の程度及び各患者の個々の応答に基づいて変化させることができる。全身投与の場合には、送達される活性化合物の血漿濃度を変化させることができる。しかしながら、通常は、1×10
−10〜1×10
−4モル/リットル、好ましくは1×10
−8〜1×10
−5モル/リットルである。
【0024】
一実施形態では、医薬組成物は、対象に経口投与される。経口投与の用量は、通常、1〜100、好ましくは1〜50、又は1〜25mg/kg/日である。例えば、活性化合物は、患者の状態及び体重に応じて、50〜1000mg/投与量、又は100〜600mg/投与量、1日1〜4回、成人に経口投与することができる。
【0025】
一実施形態では、医薬組成物は、対象に皮下投与される。皮下投与の用量は、一般に、0.3〜20mg、好ましくは0.3〜3mg/kg/日である。
【0026】
一実施形態では、組成物は、患部に局所的に塗布され、患部に擦り込まれる。組成物は、医学的な問題及び疾患病状に応じて、1日に少なくとも1又は2回、又は1日に3〜4回、局所的に与えられる。一般に、局所組成物は、約0.01〜20%、又は0.05〜20%、又は0.1〜20%、又は0.2〜15%、0.5〜10、又は1〜5%(w/w)の活性化合物を含む。通常は、1回の投与につき0.2〜10mLの局所組成物を個々に与える。活性化合物は皮膚を通過し、不快な症状の部位に送達される。
【0027】
当業者は、多種多様な送達機構も本発明に適していることを認識するであろう。
【0028】
本発明は、哺乳動物の対象(例えば、ヒト、ウマ、イヌ、及びネコ)の治療に有用である。本発明は、特に、ヒトの治療に有用である。
【0029】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するものである。これらの実施例は、本発明を単に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
全ての動物研究は、スタンフォード大学のAPLACによって承認されたプロトコールの下で行われた。C57BL6系統の高齢の動物及び若年動物はTaconicから購入した。高齢動物は、マウスにおいて生理学的加齢プロセスが加速する、36週齢を超える動物として定義され、若年動物は20週齢である。データは、平均±SEMとして示す。両側スチューデントのt検定と2要因の分散分析を統計分析に使用した。<0.05であるp値は、統計的に有意であると考えられる。
【0031】
実施例1:Ppargc1a活性化因子ZLN005は、高齢マウスにおける小膠細胞の代謝機能障害を抑制する
高齢動物は、0.5%メチルセルロース(ビヒクル)、又はビヒクル中における25mg/kgのZLN005(Sigma)によって、週3回で15週間、経口的に処理され、37週齢から開始した。薬物処理及び脳組織収集後に、処理された高齢動物(n=6)、未治療の高齢動物(n=6)、及び若年動物(20週齢、n=6)を犠牲にした。犠牲した動物のPBS灌流脳組織をコラゲナーゼIで消化し、フローサイトメトリーのために処理した(Ginhouxら、Science、330:841−5、2010)。フローサイトメトリー取得(LSRII、BD)及び分析(FlowJo)用の、2−NBDG(2−(N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ)−2−デオキシグルコース、Invitrogen)、及び抗Slc2a1抗体(RnD)を用いて、脳小膠細胞を表現型の解析を行った。
【0032】
結果を
図1にまとめる。Y軸は、グルコーストランスポーターSlc2a1を発現するか、又はグルコース蛍光アナログ2−NBDGを取り込んだ小膠細胞の%を表す。統計解析にはANOVAを用いた。この結果は、高齢マウスの小膠細胞が解糖活性化表現型であることを示しており、これは、若年マウスとの比較によって、ビヒクル処理した老齢マウスにおけるSlc2a1発現及び2−NBDG取り込みが有意に増加することによって証明されている(p値<0.01)。この結果は、ZLN005を高齢動物に投与することによって、これらの処理動物の小膠細胞におけるSlc2a1発現及びグルコース取り込みが減少し、これによって、それらの代謝機能不全が緩和されたことを示している。(p値<0.05)
【0033】
実施例2:Ppargc1a活性化因子ZLN005は、高齢マウスにおける小膠細胞における炎症性サイトカイン産生を阻害する
高齢動物は、0.5%メチルセルロース(ビヒクル)、又はビヒクル中の25mg/kgのZLN005(Sigma)を、週3回で15週間、経口投与され、37週齢から開始した。薬物処理後に、処理された高齢動物(n=6)、未処理の高齢動物又は加齢動物(n=6)、及び若年動物(20週齢、n=6)を犠牲にして脳組織を収集した。犠牲動物のPBS灌流脳組織をコラゲナーゼIで消化し、フローサイトメトリーのために処理した(Ginhouxら、Science、330:841−5、2010)。フローサイトメトリーの取得(LSRII、BD)及び分析(FlowJo)のために、CCL2及びTNF−α(Biolegend)に対する蛍光色素標識抗体で脳小膠細胞の表現型を調べた。
【0034】
結果を
図2にまとめる。Y軸は、CCL2又はTNF−αを発現するミクログリアの%を示す。統計解析にはANOVAを用いた。結果は、高齢マウスの小膠細胞が炎症性のフェノタイプを示しており、これは、若年マウスと比較した場合に、ビヒクル処理した高齢マウスにおけるCCL2及びTNF−α産生が有意に増加することによって証明されている。また、この結果は、ZLN005を高齢動物に投与することによって、これらの処理された高齢動物の小膠細胞におけるCCL2及びTNF−α産生が減少し、神経炎症が抑制されたことを示している(TNF−αについてはp値<0.05;CCL2については<0.01)。
【0035】
実施例3:Ppargc1a活性化因子ZLN005は、高齢マウスにおける全身性炎症を抑制する
若年マウス、ビヒクル処理した高齢マウス、及び(実施例2の)ZLN処理した高齢マウスについての血清中のTNF−αレベルをELISAによって測定し、全身性炎症を示すTNF−αレベルを測定した。結果を
図3にまとめる。Y軸は、血清中のTNF−αの濃度を表す。この結果は、高齢動物にZLN005を投与することによって、これらの処理された動物の血清中のTNF−αレベルは、ビヒクル処理した高齢動物と比べて減少し、この結果全身性炎症が抑制されたことを示している(p値<0.05)。統計解析には、非対応のt検定を用いた。
【0036】
実施例4:Ppargc1a活性化因子ZLN005は、高齢のマウスにおける行動機能障害を緩和する
動物は、0.5%メチルセルロース(ビヒクル)又はビヒクル中の25mg/kgのZLN005(Sigma)を用いて、週3回で15週間、経口投与され、37週齢から開始した。52週齢において、高齢動物にビー玉埋めアッセイ(不安の行動試験)を行った(Dekeyne A、Therapie、60:477−84,2005)。各動物は、個々のケージの寝具の上に12個のビー玉が与えられ、30分にわたってケージ内で自由にさせた。この期間の後に、埋められた各ビー玉は、埋められた程度に基づいて数字が割り当てられた(1=90−100%隠された、0.75=60−90%隠された、0.5=30−60%隠された、0=30未満%隠された)、その後、各マウスによって埋められた12個のビー玉の数の合計を、マウスが埋めたビー玉のスコアとして計算する。動物の得点が高いほど、不安指標は高くなる。
図4の結果から明らかなように、ビヒクルで処理した高齢のマウスは、ZLN005で処理したマウスよりも平均スコアが高かった(p値<0.05)ことが明らかとなり、ZLN005が、高齢マウス(n=8−9マウス/群)の不安表現型を低下させ、行動機能障害を是正したことを示している。統計分析のために、非対応のt検定を用いた。
【0037】
本発明、並びにその発明を製造及び使用する方法及びプロセスは、それに関係する当業者がそれを製造及び使用することが可能となるように、こうした完全で明解で簡潔かつ正確な用語で記載されている。前段において本発明の好ましい実施形態が記載されていること、及び、変形が、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることは理解されるはずである。発明と見なされる主題を、特に、指摘し明確に主張するために、以下の特許請求の範囲によって明細書を締めくくる。
【国際調査報告】