(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2018-537813(P2018-537813A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(54)【発明の名称】全固体リチウム再充電可能セル
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20181122BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20181122BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20181122BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20181122BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20181122BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20181122BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20181122BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/136
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M10/0565
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-523457(P2018-523457)
(86)(22)【出願日】2015年11月9日
(85)【翻訳文提出日】2018年5月8日
(86)【国際出願番号】CN2015094126
(87)【国際公開番号】WO2017079873
(87)【国際公開日】20170518
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シャオシオン シュイ
(72)【発明者】
【氏名】シアイン ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ガン ポン
(72)【発明者】
【氏名】ロンジエ ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】ユンフア チェン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029AM16
5H029BJ12
5H029CJ06
5H029CJ14
5H029CJ15
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029DJ12
5H029DJ16
5H029EJ03
5H029EJ04
5H029EJ07
5H029EJ12
5H029HJ01
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA15
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA02
5H050FA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA08
5H050GA15
5H050GA16
5H050HA01
(57)【要約】
全固体リチウム再充電可能セルを提供する。
a)正極であって、a1)VS4およびグラフェンの複合物と、a2)固体カソライトとを含む正極と、b)リチウムベースの負極とを含む全固体リチウム再充電可能セルが提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)正極であって、
a1)VS4およびグラフェンの複合物と、
a2)固体カソライトと
を含む正極と、
b)リチウムベースの負極と
を含む全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項2】
前記VS4およびグラフェンの複合物が、VS4粒子がグラフェンシートと化学結合しているかまたはグラフェンシート中に物理的に埋まっている構造を有する、請求項1に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項3】
前記グラフェンがグラフェン酸化物の還元生成物である、請求項1または2に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項4】
前記カソライトが、ポリ酸化エチレン、リチウムイオン伝導性硫化物、リチウムイオン伝導性塩化物およびこれらの組み合わせから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項5】
前記リチウムベースの負極が、リチウム金属、リチウム合金、事前リチウム挿入黒鉛、事前リチウム挿入ケイ素、リチウム金属の層および他の金属の1つ以上の層からなる積層体、ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項6】
前記正極がa3)導電性添加剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項7】
前記正極がa4)結合剤をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項8】
c)前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質をさらに含み、前記固体電解質および前記固体カソライトが同一のまたは異なる材料から形成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項9】
前記正極が、
a1)20〜95重量部の前記VS4およびグラフェンの複合物と、
a2)5〜80重量部の前記固体カソライトと、
a3)0〜40重量部の導電性添加剤と、
a4)0〜20重量部の結合剤と
を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【請求項10】
前記VS4およびグラフェンの複合物の総重量に基づいて、前記グラフェンの含有量が0重量%超であるが20重量%以下である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の全固体リチウム再充電可能セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「全固体リチウム再充電可能電池」(以下では「ASSLRB」と略記される)とも呼ばれる、全固体リチウム再充電可能セルに関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウム再充電可能電池は、固体材料、および特に固体電解質を専ら含有する。しかし、従来の酸化物材料(LiCoO
2など)を正極として有するASSLRBは、多くの場合、低い理論的容量ならびに高い界面抵抗および低いエネルギー密度という問題を抱える。したがって、エネルギー蓄積システムおよび/または電気自動車のための要求を満たすように材料レベルで高いエネルギー密度を有する、ASSLRBのための新しい正極材料を開発することが不可欠である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
徹底的な研究後、本発明者らは、驚くべきことに、VS
4およびグラフェンの複合物(以下では「VS
4/グラフェン複合物」と略記される)が全固体リチウム再充電可能電池のための新規な正極を提供するために使用され得ることを見出した。
【0004】
このような発見に基づいて、
a)正極であって、
a1)VS
4およびグラフェンの複合物と、
a2)固体カソライトと
を含む正極と、
b)リチウムベースの負極と
を含む全固体リチウム再充電可能セルが提供される。
【0005】
任意選択的に、正極は、a3)導電性添加剤および/またはa4)結合剤をさらに含み得る。
【0006】
任意選択的に、セルは、正極と負極との間に配置された固体電解質をさらに含み得る。
【0007】
本発明者らは、初めて、VS
4/グラフェン複合物がASSLRBの正極において使用され得ることを提案する。具体的には、本発明者らは、VS
4/グラフェン複合物を固体カソライトと組み合わせて正極として利用し、リチウムベース材料を負極として利用することにより、新規なASSLRBを提供する。驚くべきことに、本開示のASSLRBは、高い初期放電容量、高い初期クーロン効率、良好な可逆容量、優れたサイクル安定性、高いエネルギー密度、および優れた安全性を呈することが見出された。
【0008】
本開示のこれらおよび他の特徴、態様および利点は、添付の図面と併せて、様々な実施例の以下の説明から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1(a)】本開示の一実施例に従って調製されたVS
4/グラフェン複合物の透過電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図1(b)】本開示の一実施例に従って調製されたVS
4/グラフェン複合物の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)画像である。
【
図2】本開示の一実施例に従って調製されたVS
4/グラフェン複合物のX線回折(XRD)パターンである。
【
図3】本開示の一実施例に従って調製されたASSLRBのサイクリックボルタモグラムプロファイルを示す。
【
図4】本開示の一実施例に従って調製されたASSLRBの放電/充電プロファイルを示す。
【
図5】本開示の一実施例に従って調製されたASSLRBのサイクル性能を示す。
【
図6】本開示の一実施例に従って調製されたASSLRBの放電/充電プロファイルを示す。
【
図7】本開示の一実施例に従って調製されたASSLRBの放電/充電プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、これらの図面は、本開示の様々な実施例の例示を補助するために示されており、したがって必ずしも原寸に比例して描かれていない。
【0011】
本開示全体を通じて、全ての科学用語および技術用語は、別途記載のない限り、当業者に知られているものと同じ意味を有するものとする。不一致がある場合、本開示において提供される定義が採用されるべきである。
【0012】
全ての材料、プロセス、実施例および図面の詳細な説明は例示の目的のために提示されており、したがって、別途明示的に定めのない限り、本開示の限定とは解釈されないことを理解されたい。
【0013】
本明細書において、用語「セル」および「電池」は交換可能に用いられ得る。用語「全固体リチウム再充電可能セル(または電池)」は、「セル」、「電池」または「ASSLRB」と略記される場合もある。
【0014】
本明細書において、用語「含む」は、最終効果に影響を与えない他の成分または他のステップが含まれ得ることを意味する。この用語は、用語「からなる」および「から本質的になる」を包含する。本開示に係る生成物およびプロセスは、本明細書において説明されている本開示の本質的な技術的特徴および/または限定、ならびに本明細書において説明されている任意の追加的なおよび/または任意選択的な成分、構成要素、ステップ、または限定を含み、それらからなり、およびそれらから本質的になることができる。
【0015】
本出願の主題の説明に関連して(特に添付の請求項に関連して)、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」ならびに同様の指示対象の使用は、本明細書において別途記載がないかまたは文脈によって明確に否定されない限り、単数形および複数形の両方を包括すると解釈されるべきである。
【0016】
用語「電解質」は、正極と負極との間に配置された電解質を意味する。用語「カソライト」は、正極内に含有された電解質を具体的に意味する。同じセル内の「カソライト」および「電解質」は、同じまたは異なる材料から形成され得る。
【0017】
別途定めのない限り、これに関連して、全ての数値範囲は、両端点ならびに前記数値範囲内に含まれるあらゆる数および部分範囲を含むことを意図する。
【0018】
特に指示のない限り、本開示において用いられる全ての材料および薬剤は市販のものである。
【0019】
本開示の実施例が以下のように詳細に説明される。
【0020】
a):正極
正極は、
a1)VS
4およびグラフェンの複合物と、
a2)固体カソライトと
を含み得る。
【0021】
任意選択的に、正極は、a3)導電性添加剤および/またはa4)結合剤をさらに含み得る。
【0022】
本開示のいくつかの実施例によれば、正極は、
a1)20〜95重量部のVS
4およびグラフェンの複合物と、
a2)5〜80重量部の固体カソライトと、
a3)0〜40重量部の導電性添加剤と、
a4)0〜20重量部の結合剤と
を含む。
【0023】
本開示のいくつかの実施例によれば、正極は、
a1)20〜80重量部のVS
4およびグラフェンの複合物と、
a2)20〜80重量部の固体カソライトと、
a3)0〜40重量部の導電性添加剤と、
a4)0〜20重量部の結合剤と
を含む。
【0024】
a1):VS
4/グラフェン複合物
本開示のいくつかの実施例によれば、正極は構成要素a1):VS
4/グラフェン複合物を正極活物質として含み得る。VS
4の高い理論的容量およびグラフェンの高い伝導率のために、VS
4/グラフェン複合物は高いエネルギー密度を呈する。
【0025】
好ましくは、VS
4/グラフェン複合物は、VS
4粒子がグラフェンシートと化学結合しているかまたはグラフェンシート中に物理的に埋まっている構造を有し得る。好ましくは、VS
4粒子はグラフェンシート上に均一に分布している。好ましくは、VS
4はパトロナイト形態の硫化バナジウムである。
【0026】
本開示のいくつかの実施例によれば、グラフェンはグラフェン酸化物の還元生成物である。
【0027】
好ましくは、VS
4/グラフェン複合物は粉末の形態である。
【0028】
本開示のいくつかの実施例によれば、VS
4/グラフェン複合物の総重量に基づいて、グラフェンの含有量は0重量%超であるが20重量%以下であり得、およびVS
4粒子の含有量は80重量%以上であるが100重量%未満であり得る。
【0029】
a2):固体カソライト
本開示のいくつかの実施例によれば、正極は構成要素a2):固体カソライトを含み得る。固体カソライトは、上述のVS
4/グラフェン複合物を通した、およびまた正極全体を通したリチウムイオンの輸送を有利に改善し得る。
【0030】
固体カソライトに対する限定は特になく、リチウムイオン伝導性材料である限り、リチウム再充電可能電池用に知られているものが用いられ得る。例えば、固体カソライトは、ポリ酸化エチレン(PEO)、リチウムイオン伝導性硫化物、リチウムイオン伝導性塩化物、またはこれらの組み合わせであってもよい。いくつかの実施例では、リチウムイオン伝導性硫化物は、硫化リチウムおよび硫化リンを含む複合物であってもよく、複合物は、Li
10GeP
2S
12、Li
3PS
4、Li
7P
3S
11、Li
8P
2S
9、Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4、Li
10GeP
2S
12、70Li
2S−29P
2S
5−1P
2O
5、Li
2S−P
2S
5、およびこれらの任意の組み合わせなど、いくつかの酸化物を改質のために任意選択的にドープされていてもよい。Li
7La
3Zr
2O
12が固体カソライトの別の例である。
【0031】
好ましくは、固体カソライトは粉末の形態であるか、または粉末に粉砕される。
【0032】
a3):導電性添加剤
任意選択的に、本開示に係る正極は構成要素a3):導電性添加剤を含み得る。導電性添加剤は正極の導電率および/または容量を増大させ得る。
【0033】
導電性添加剤に対する限定は特になく、リチウム再充電可能電池用に知られているものが用いられ得る。好ましくは、導電性添加剤は、カーボンブラック、super P、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF)およびこれらの組み合わせから選択され得る。ここで、super Pがより好ましい。例えば、super Pは、Timicalから市販されているものが入手可能である。
【0034】
好ましくは、導電性添加剤は粉末の形態であるか、または粉末に粉砕される。
【0035】
a4):結合剤
任意選択的に、本開示に係る正極は構成要素a4):結合剤を含み得る。結合剤の補助により、正極の構成要素が互いに確実に結合されるだけでなく、正極全体も負極または固体電解質(存在する場合)と接着接合される。このような接着は、繰り返される充電/放電サイクル中に正極およびASSLRB全体の体積変化を抑制し得、したがってASSLRBの電気化学特性、特にサイクル性能を改善する。
【0036】
好ましくは、結合剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)およびこれらの組み合わせから選択され得る。好ましくは、本開示のために適した結合剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)を含有しない。なぜなら、CMCは、多くの場合、水溶液の形態で用いられるからである。
【0037】
b):負極
本開示のために適した負極材料に対する限定は特になく、本開示に係る正極の効果と両立し、それに悪影響を与えない限り、リチウム再充電可能電池用に知られているリチウムベースの電極材料が用いられ得る。有用なリチウムベースの負極の例としては、限定するものではないが、リチウム金属、Li−In合金などのリチウム合金、Li−In積層体などのリチウム金属の層および他の金属の1つ以上の層からなる積層体、事前リチウム挿入黒鉛、例えば、内部にインターカレートまたは吸収された所望の量のリチウムを含有する黒鉛、事前リチウム挿入ケイ素、例えば、内部にインターカレートまたは吸収された所望の量のリチウムを含有するケイ素が挙げられる。
【0038】
例えば、Li金属が負極として用いられる場合、放電容量および放電プラットフォームが増大され得、したがってエネルギー密度が改善され得る。
【0039】
c):固体電解質
任意選択的に、本開示に係るASSLRBは、正極と負極との間に配置された固体電解質を含み得る。固体電解質および上述の固体カソライトは、同一のまたは異なる材料から形成され得る。
【0040】
液体電解質と比較して、固体電解質はいくつかの利点をASSLRBに付与する。例えば、少なくとも30vol.%〜35vol.%の細孔を不可避的に含有する液体電解質リチウムイオン再充電可能電池と比較して、ASSLRBは100%の密度になり得るため、ASSLRBは、より高い容積エネルギー密度の可能性を示す。ASSLRBは、高エネルギーのリチウムベースの負極の利用が可能であるため、より高い質量エネルギー密度も示すことができるであろう。ASSLRBの高い動作温度、例えば約80〜約100℃は、さらにより高いエネルギー密度に追加的に寄与する。加えて、より高い安全性は、液体電解質リチウムイオン再充電可能電池を上回るASSLRBの別の重要な利点である。
【0041】
加えて、固体電解質は、正極と負極との間のセパレータの役割も果たし得る。固体電解質は、正極と負極との間のリチウムイオンの輸送も改善し得る。
【0042】
さらに、本開示のASSLRBは液体電解質を含有しないため、したがって液体電解質と正極および/または負極との間の望ましくない反応が回避され得、より高い安全性レベルが確実にされる。
【0043】
固体電解質に対する限定は特になく、リチウムイオン伝導性材料である限り、リチウム再充電可能電池用に知られているものが用いられ得る。例えば、固体カソライトは、ポリ酸化エチレン(PEO)、リチウムイオン伝導性硫化物、リチウムイオン伝導性塩化物、またはこれらの組み合わせであってもよい。固体カソライトのために上述された例は固体電解質にも適用される。
【0044】
好ましくは、固体電解質c)は単層の形態であり得る。固体電解質c)はまた、2層積層体または3つ以上の層を包含する多層積層体の形態であり得る。これらの層は、同一のまたは異なる層、好ましくは異なる層から形成され得る。例えば、固体電解質は、Li
10GeP
2S
12の層および硫化リチウム−硫化リン−酸化リン(Li
2S−P
2S
5−P
2O
5)の層からなる2層積層体であり得る。好ましくは、硫化リチウム−硫化リン−酸化リンは70Li
2S−29P
2S
5−1P
2O
5であり得る。2層または多層積層体が固体電解質のために採用される場合、分極現象が効果的に解決され得る。
【0045】
全固体リチウム再充電可能電池
a)正極であって、
a1)VS
4およびグラフェンの複合物と、
a2)固体カソライトと
を含む正極と、
b)リチウムベースの負極と
を含む全固体リチウム再充電可能セルが提供される。
【0046】
任意選択的に、セルは、正極と負極との間に配置された固体電解質をさらに含み得る。
【0047】
加えて、本開示のASSLRBは、電池の電気化学特性に悪影響を与えない限り、さらなる添加剤を任意選択的に含有し得る。さらなる添加剤は、正極、負極および固体電解質(存在する場合)のうちの任意のものの中またはそれらの間に含有され得る。
【0048】
本開示に係るASSLRBは、エネルギー蓄積システムおよび電気自動車において用いられ得る。
【実施例】
【0049】
グラフェン酸化物溶液の合成
1.5gの黒鉛粉末(SP−1、Bay carbon)および1.5gのKNO
3(Sigma Aldrich、≧99.0%)を0℃における69mlのH
2SO
4(Sigma Aldrich、98.0%)中に取り、9gのKMnO
4(Sigma Aldrich、≧99.0%)を徐々に添加した。次に、混合物を35℃において6時間にわたって攪拌し、120mlの脱イオン(DI)水を添加した。15分後、300mlの脱イオン水および9mlのH
2O
2(SAMCHUN pure chemical、34.5%特級)の溶液の添加によって反応を終了させ、混合物の色が黄色に変化した。混合物を濾過し、500mlのHCl(SAMCHUN pure chemical、10重量%)溶液を用いて洗浄した。結果として生じた酸化黒鉛を200mlの蒸溜水中で再び懸濁し、その後、透析(透析膜:Spectrum Laboratories、MWCO−21−14,000)を行い、余分なHClを除去した。酸化黒鉛を剥離させ、15,000psiにおける高圧ホモジナイザーによって約2.15mg/mLのグラフェン酸化物溶液を与えた。剥離後、溶液を400rpmで10分間にわたって遠心分離し、剥離されていない酸化黒鉛を除去し、上部の上澄みグラフェン酸化物溶液をVS
4/グラフェン複合物の合成のために用いた。
【0050】
VS
4/グラフェン複合物の合成
1.1gのオルトバナジン酸ナトリウム(Na
3VO
4、Sigma−Aldrich、≧90%)および2.25gのチオアセトアミド(C
2H
5NS、aladdin、≧99%)を20mlの脱イオン水中に溶解させた。次に、37mlのグラフェン酸化物溶液(2.15mg/ml)を混合物に添加し、溶液の総体積を80mlに調整した。その後、溶液を100mlのテフロンライニング加工したステンレス鋼オートクレーブへ移し、24時間にわたって160℃に加熱した。自然冷却後、生成物を濾過し、DI水を用いて洗浄し、真空中において110℃で24時間にわたって乾燥させた。
【0051】
VS
4/グラフェン複合物の構造の決定および特徴付け
得られたサンプルを検出し、その構造を実証し、特徴付けた。検出結果を以下に要約する。
【0052】
図1(a)に示されるように、透過電子顕微鏡(TEM)画像は、グラフェンがシートの形状のものであり、VS
4粒子がグラフェンシート上に均一に分布しており、VS
4粒子の横方向の長さが25〜50nmであり、VS
4粒子の縦方向の長さが50〜200nmであることを指示する。TEM画像は、FEI Tecnai G
2 F20透過電子顕微鏡上で200kVの加速電圧において得た。
【0053】
図1(b)に示される高分解能TEM(HRTEM)画像では、既知の単斜晶VS
4[PDF No.072−1294]のd(110)間隔によく一致する0.56nm前後の面間距離が観察された。HRTEM画像もFEI Tecnai G
2 F20透過電子顕微鏡上で200kVの加速電圧において得た。
【0054】
図2に示されるように、全てのピークは既知の単斜晶VS
4[JCPDS No.072−1294]に指数付けすることができるため、VS
4/グラフェン複合物のXRDパターンは単斜晶VS
4相の形成をさらに確証する。さらに、(110)面に対応する回折ピークが、0.56nmの距離に対応する15.8°に存在し、これも
図1(b)に示されるHRTEMの結果と矛盾しない。XRDパターンは、40kVの電圧で動作され、10°〜80°で走査するD8−Advance(Bruker AXS、Germany)粉末回折計上で得た。
【0055】
図2では、VS
4/グラフェン複合物サンプルにおいて不純物または他の相は検出されなかった。グラフェンについて特徴的回折ピークは観察されなかった。それは、おそらく最終的なVS
4/グラフェン複合物内における低いグラフェン含有量に帰せられる。グラフェンの低い回折強度もグラフェンのピークの欠如の原因となる。
【0056】
したがって、
図1(a)、
図1(b)および
図2の組み合わせはVS
4/グラフェン複合物の構造を明白に実証し、それを特徴付けている。
【0057】
実施例1
正極の調製
45mgのVS
4/グラフェン、50mgの固体電解質Li
10GeP
2S
12および5mgのSuper P(40nm、Timicalから入手可能)を互いに混合した。結果として得られた混合物を、グローブボックス内に配置された乳鉢内においてアルゴン雰囲気下で手作業によって粉砕し、それにより複合正極材料を得た。
【0058】
セルの調製
電気化学測定のための全固体セルを以下のように製作した。以下の2種類の硫化物電解質(SE):Li
10GeP
2S
12および70Li
2S−29P
2S
5−1P
2O
5を用いて二重層SEを形成した。二重SE層は、50mgの70Li
2S−29P
2S
5−1P
2O
5 SEを、100mgの冷間プレスされたLi
10GeP
2S
12上において100MPaで冷間プレスすることによって構築した。Li
10GeP
2S
12層の厚さは0.67mmであり、Li
2S−29P
2S
5−1P
2O
5層の厚さは0.23mmであった。5mgの複合正極材料をLi
10GeP
2S
12 SE層の上に均等に塗布し、100MPaにおける冷間プレスによってペレット化した。次に、リチウム箔を200MPaにおいて70Li
2S−29P
2S
5−1P
2O
5 SE側に適用した。ステンレス鋼プレートを作用電極(すなわち、正極)および対電極(すなわち、負極)の両方のための集電体として用いた。全てのプレスおよび実験作業はグローブボックス内でアルゴン下において行った。このようにしてセルが得られる。
【0059】
電気化学測定
このようにして得たセルを室温において0.5〜3.0V(対Li/Li
+)の電圧範囲内で0.1mAcm
−1の電流密度で定電流サイクルさせた。実施例1におけるセルのサイクリックボルタモグラムプロファイルおよび放電/充電プロファイルを
図3および
図4にそれぞれプロットした。
【0060】
図3は、最初の3サイクル中、0.5〜3.0V(対Li/Li
+)の電圧範囲内において0.1mVs
−1の走査速度で測定した、本開示の実施例1に従って調製したセルのサイクリックボルタモグラム(CV)プロファイルを示す。
【0061】
CV試験結果および後述される放電/充電プロファイルに基づいて、ASSLRBにおけるVS
4/グラフェンの可能な電気化学反応プロセスは以下のように示される。
【0062】
初期放電において(第1の放電曲線を参照されたい)、
【数1】
である。
【0063】
それに続き(第1〜第3の充電曲線ならびに第2および第3の放電曲線を参照されたい)、
【数2】
である。
【0064】
図4は、第1、第2、第5、および第10サイクル中、0.5〜3.0V(対Li/Li
+)の電圧範囲内において0.1mAcm
−1の電流密度で測定した、本開示の実施例1に従って調製したセルの放電/充電プロファイルを示す。ASSLRBは、75.3%の初期クーロン効率(CE)に対応する880.6/662.8mAh/gの初期放電/充電容量を有する。
【0065】
図5は、本開示の実施例1に従って調製されたASSLRBのサイクル性能を示す。
図4および
図5を参照することにより、CEは第1サイクル後に大きく改善されており、第2および第3サイクルについて92%および96%を達成していることが分かる。同時に、第2および第3サイクルについて、放電容量はそれぞれ688.1および642.9mAhg
−1である。0.1mAcm
−2における10サイクル後でさえも、セルは609.7mAhg
−1の高い可逆放電容量を依然として保持している。4〜10回の充電/放電サイクル後、CEはほぼ100%である。
【0066】
実施例2
正極におけるVS
4/グラフェン:Li
10GeP
2S
12:Super Pの重量比が5:5:0であることを除いて、実施例1のために上述したのと同じ方法でASSLiBを調製した。
【0067】
実施例1のために上述したのと同じ方法でASSLiBの電気化学特性を測定した。
図6に測定結果が示されている。
【0068】
図6は、0.1mAcm
−2の電流密度において、セルが77.8%の高い初期CEおよび689.4mAhg
−1の高い放電容量を有することを示す。
【0069】
実施例3
正極におけるVS
4/グラフェン:Li
10GeP
2S
12:Super Pの重量比が3:6:2であることを除いて、実施例1のために上述したのと同じ方法でASSLiBを調製した。
【0070】
実施例1のために上述したのと同じ方法でASSLiBの電気化学特性を測定した。
図7に測定結果が示されている。
【0071】
図7は、0.1mAcm
−2の電流密度において、セルが948.1mAhg
−1の高い初期放電容量および68.7%の高い初期CEを有することを示す。
【0072】
本開示に係るASSLRBは、高い初期CEおよび初期放電容量を達成することが分かる。さらに、本開示に係るASSLRBのサイクル性能も同様に優れている。
【0073】
当業者に明らかになるように、本開示の多くの変更形態および変形形態がその趣旨および範囲から逸脱することなくなされ得る。本明細書に記載されている特定の実施形態は単なる例として提供されているにすぎず、本開示は添付の請求項の条件およびこのような請求項が権利を与えられる均等物の全範囲によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】