特表2019-504243(P2019-504243A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-504243(P2019-504243A)
(43)【公表日】2019年2月14日
(54)【発明の名称】内燃機関のピストンクラウン
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/06 20060101AFI20190118BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20190118BHJP
   F02B 23/02 20060101ALI20190118BHJP
   F02M 61/14 20060101ALI20190118BHJP
【FI】
   F02B23/06 R
   F02F3/26 C
   F02B23/02 E
   F02B23/06 T
   F02B23/06 S
   F02M61/14 310D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-533116(P2018-533116)
(86)(22)【出願日】2016年12月20日
(85)【翻訳文提出日】2018年8月21日
(86)【国際出願番号】EP2016081993
(87)【国際公開番号】WO2017108837
(87)【国際公開日】20170629
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2015/081011
(32)【優先日】2015年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(72)【発明者】
【氏名】アイスマルク,ヤン
【テーマコード(参考)】
3G023
3G066
【Fターム(参考)】
3G023AA04
3G023AA05
3G023AB05
3G023AC04
3G023AD02
3G023AD09
3G066AA07
3G066AA15
3G066BA24
3G066BA25
3G066BA26
3G066CC34
(57)【要約】
本発明は、シリンダ2を備えた内燃機関のピストン5のためのピストンクラウン3に関し、ピストンクラウン3はシリンダ2内の燃焼室7に面するように構成されたピストンボウル面6を有し、ピストンボウル面は、環状リム部34と、環状リム部34に接続され環状リム部によって囲まれるフロア部31と、環状リム部において周方向に間隔をあけて配置される複数の突出部331と、隣り合う2つの突出部間に配置される少なくとも1つの噴霧衝突部とを含む。噴霧衝突部は、反射面330であって、反射面330に対する各仮想法線Nがピストンの中心軸Aに向かうように方向付けられると共に、各仮想法線Nと中心軸Aとがなす角度β’が一定角度の±10°の範囲内であることにより規定される反射面330を含み、一定角度は少なくとも50°である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(2)を備えた内燃機関(1)のピストン(5)のためのピストンクラウン(3)であって、
前記シリンダ(2)内の燃焼室(7)に面するように構成されたピストンボウル面(6)を有し、
前記ピストンボウル面(6)は、
環状リム部(34)と、
当該環状リム部(34)に接続され前記環状リム部(34)によって囲まれるフロア部(31)と、
前記環状リム部(34)において周方向に間隔をあけて配置される複数の突出部(331)と、
隣り合う2つの前記突出部間に配置される少なくとも1つの噴霧衝突部と、
を含み、
前記噴霧衝突部が、
反射面(330)であって、当該反射面(330)に対する各仮想法線(N)が前記ピストン(5)の中心軸(A)に向かうように方向付けられると共に、前記各仮想法線(N)と前記中心軸(A)とがなす角度(β’)が一定角度の±10°の範囲内であることによって規定される前記反射面(330)を含み、
前記一定角度が少なくとも50°であることを特徴とする、ピストンクラウン(3)。
【請求項2】
前記反射面(330)は、実質的に、好ましくは直円錐である仮想的な円錐(333)の包絡面(332)の一部の形状を有する、請求項1に記載のピストンクラウン(3)。
【請求項3】
前記仮想的な円錐(333)は、円錐頂部(334)及び円錐底部(335)を有し、前記円錐頂部(334)と前記円錐底部(335)とが前記フロア部(31)を挟んで反対側に位置しており、前記フロア部(31)が前記円錐底部(335)に面している、請求項2に記載のピストンクラウン(3)。
【請求項4】
前記環状リム部(34)は、前記中心軸(A)に沿った前記ピストンボウル面(6)の最高位置を規定し、前記フロア部(31)が、前記中心軸(A)に沿った前記ピストンボウル面(6)の最低位置を規定し、前記ピストンボウル(3)が、前記最高位置と前記最低位置と差である、前記中心軸(A)に沿ったピストンボウル長さ(Dmax)を有し、
前記反射面(330)は、前記中心軸(A)に沿った反射面長さ(Da)を有し、
前記反射面長さ(Da)が、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の少なくとも10%、好ましくは、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の少なくとも15%である、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項5】
前記反射面長さ(Da)は、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の15%〜30%、好ましくは、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の20%〜30%、最も好ましくは、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の約25%である、請求項4に記載のピストンクラウン(3)。
【請求項6】
前記反射面長さ(Da)は、前記中心軸(A)に沿って、前記ピストンボウル面(6)の前記最低位置から第1の距離(D1)の位置を始点に延びており、前記第1の距離(D1)が、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の少なくとも15%、好ましくは、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の少なくとも25%、最も好ましくは、少なくとも30%である、請求項4又は請求項5に記載のピストンクラウン(3)。
【請求項7】
前記一定角度は、少なくとも60°、好ましくは、少なくとも70°、最も好ましくは、70°〜80°である、請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項8】
前記一定角度は、85°未満、好ましくは、80°未満である、請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項9】
前記反射面(330)は、前記反射面(330)に対する各仮想法線(N)が前記ピストン(5)の中心軸(A)に向かうように方向付けられると共に、前記各仮想法線(N)と前記中心軸(A)とがなす角度(β’)が前記一定角度の±5°の範囲内であり、好ましくは、前記各仮想法線(N)と前記中心軸(A)とがなす角度(β’)が前記一定角度の±2°の範囲内であることにより規定されている、請求項1〜請求項8のいずれか1つに記載のピストンクラウンン(3)。
【請求項10】
前記反射面(330)は、前記中心軸(A)に直角な平面において、前記中心軸(A)周りに少なくとも5°、好ましくは、少なくとも10°、最も好ましくは、10°〜40°の範囲内の角度(δ)に対応する、前記環状リム部(34)の周方向に沿った長さを有する、請求項1〜請求項9のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項11】
前記環状リム部(34)は、少なくとも2個、好ましくは、2個〜10個、より好ましくは4個〜8個、最も好ましくは、5個〜7個の反射面(330)を含む、請求項1〜請求項10のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項12】
前記反射面(330)は、前記中心軸(A)周りで等角度間隔にて配置されている、請求項1〜請求項11のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項13】
前記ピストンクラウン(3)の反射面(330)の全てが同じ形状である、請求項1〜請求項12のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項14】
前記ピストンクラウン(3)の前記突出部(331)の少なくとも幾つかは同じ形状であり、好ましくは、前記ピストンクラウン(3)の前記突出部(331)の全てが同じ形状である、請求項1〜請求項13のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項15】
少なくとも1つの前記突出部(331)の部分であって前記中心軸(A)の最も近くに位置する部分の少なくとも一部が形成する面に対する各仮想法線は、前記反射面(330)についての前記各仮想法線と同じ角度(β’)である、請求項1〜請求項14のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項16】
前記ピストンボウル面(6)は、前記フロア部(31)と前記反射面(330)との間に位置する凹面(337)、及び、前記反射面(330)と前記環状リム部(34)との間に位置する凸面(338)を含む、請求項1〜請求項15のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)。
【請求項17】
請求項1〜請求項16のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)を含むピストン(5)。
【請求項18】
エンジンシリンダ(2)と、
前記エンジンシリンダ(2)内において下死点と上死点との間で中心軸(A)に沿って往復運動するように配置されたピストン(5)であって、請求項1〜請求項16のいずれか1つに記載のピストンクラウン(3)を含む前記ピストン(5)と、
を備えた、内燃機関(1)。
【請求項19】
前記ピストンクラウン(3)は、前記内燃機関(1)のインジェクタ(13)に関連するように配置されており、前記インジェクタ(13)が、少なくとも1つの噴孔(130)を含み、前記噴孔(130)が、燃料を噴霧ベクトルに沿って前記噴霧衝突部(330)に向けて噴射するように構成されている、請求項18に記載の内燃機関(1)。
【請求項20】
前記噴霧ベクトルと前記中心軸(A)とが噴霧角度(β)をなし、前記一定角度が、前記噴霧角度(β)よりも少なくとも2°、好ましくは、少なくとも5°だけ小さい、請求項19に記載の内燃機関(1)。
【請求項21】
前記中心軸(A)を通る平面で視て、前記反射面(330)に対する各仮想法線と、対応するインジェクタの噴孔(130)の噴霧ベクトルとがなす角度(γ)は、10°未満、好ましくは、5°未満、より好ましくは、2°未満、最も好ましくは、略0°である、請求項19又は請求項20に記載の内燃機関(1)。
【請求項22】
請求項1〜請求項16のいずれか1つに記載のピストンクラウン及び請求項17に記載のピストンの少なくとも一方を含む内燃機関、並びに、請求項18〜21のいずれか1つに記載の内燃機関の少なくとも一方を備えた、好ましくは、トラック(100)である車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダを備えた内燃機関のピストンのためのピストンクラウンに関する。このピストンクラウンは、シリンダ内の燃焼室に面するように構成されたピストンボウル面を有する。ピストンボウル面は、環状リム部と、この環状リム部に接続され環状リム部によって囲まれるフロア部と、環状リム部において周方向に間隔をあけて配置される複数の突出部と、隣り合う2つの突出部間に配置される少なくとも1つの噴霧衝突部と、を含む。
【0002】
本発明は、あらゆるタイプの車両用の内燃機関、特に、ディーゼルエンジンに適用可能である。このように、本発明は、ローリー若しくはトラックなどの大型車両、建設機械、水上船又は乗用車のための内燃機関に適用可能である。
【背景技術】
【0003】
内燃機関の技術分野では、副生成物、つまり、一酸化炭素排出物及び炭化水素排出物も当然考慮され得るが、特に、煤粒子及びNOx排出物の観点からも満足できる効率的な燃焼を達成するために多くの努力がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料をシリンダ内に直接噴射してシリンダ内で上昇した温度及び圧力により着火させる燃焼プロセスは、一般にディーゼルプロセスと呼ばれている。シリンダ内で燃料が着火されるとき、シリンダ内に存在する燃焼ガスは、燃焼する燃料と乱流混合し、混合制御された拡散火炎が形成される。シリンダ内の燃料/ガス混合気の燃焼により熱を生じさせ、この熱は、シリンダ内のガスを膨張させ、したがって、シリンダ内でピストンを移動させる。燃料の噴射圧力、シリンダに再循環させる排気の量、燃料の噴射時間及びシリンダ内で優勢となる乱流などの多くのパラメータに応じて、様々なエンジン効率及び排出量レベルが得られる。
【0005】
燃焼中に煤粒子は複雑なプロセスで生成され、煤粒子の正味量は、形成された煤と酸化した煤との差である。一般に、燃料リッチな燃料/ガス混合気を不十分な混合状態且つ高温で燃焼することで多量の煤が生成される。しかし、煤の酸化が促進されれば煤粒子の形成を抑制することができる。
【0006】
燃焼中、窒素酸化物(NOx)は、強い温度依存性を有する熱プロセスにおいて空気中の含有窒素から生成され、とりわけ、加熱される体積のサイズ及びプロセスの時間に依存する。
【0007】
また、特に、未燃燃料が、シリンダ壁の近く又はピストンとシリンダライニングとの間の凹部などの燃焼室の比較的低温の領域で生じると、一酸化炭素排出物(CO)及び炭化水素排出物(HC)が排出されるおそれがあった。
【0008】
内燃機関において燃焼プロセスによる排出物をコントロールするために、特に、低減するために、燃焼室に向かって開口するピストンボウル面の形状を活用することが提案されてきた。ピストンボウル面は、シリンダ内の往復ピストンのピストンクラウンの一部である。この目的を達成するために、ピストンボウル面を、火炎伝搬、混合エネルギー、運動エネルギー分布及び/又はスワールなど、燃焼室内の様々なパラメータに影響を与えるように設計することができる。一般に、燃焼室内のよどみ領域(stagnation zone)の発生を抑制することが望まれている。
【0009】
特定の用途のために、燃焼室内のコンディションに影響を与えるための、周方向に配置された複数の突出部又は複数の隆起部を備えたピストンクラウンを使用することが提案されている。
【0010】
例えば、国際公開2011/101154号には、内燃機関のシリンダ内で往復運動するように構成されたピストンにおいて、燃焼室に向かって突出する複数の突出部又は隆起部が火炎柱の衝突領域(flame plume impingement areas)間の中間部、且つ、往復運動方向に直交する平面に配置されていることが記載されている。
【0011】
米国特許第8499735号には、上記ピストンとは別のピストンにおいて、燃焼室に向かって突出する第1形式の複数の突出部が、噴霧/火炎柱の衝突領域間、且つ、ピストンの往復運動方向に略直交する平面に配置されており、この突出部が、火炎の運動エネルギーを保存するように、且つ、周方向に進む火炎のほとんどを火炎と火炎の相互作用が最も少ないピストンの中心軸に向かわせるように滑らかな形状を有していることが記載されている。また、第2形式の複数の突出部が衝突領域内に設けられており、この突出部は、火炎を周方向の火炎発達(flame progress)方向に向かわせるように構成されている。
【0012】
内燃機関における燃焼プロセスのコントロールを更に改善するか、又は、有用な代替案を提供する必要がある。
【0013】
本発明は、上述の必要性を満たすピストンクラウンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、請求項1に記載のピストンクラウンによって達成される。
【0015】
すなわち、内燃機関のピストン用のピストンクラウンであって、シリンダ内の燃焼室に面するように構成されたピストンボウル面を有し、ピストンボウル面が、環状リム部(circumferential rim portion)と、環状リム部に接続され環状リム部によって囲まれるフロア部と、環状リム部において周方向に間隔をあけて配置される複数の突出部と、隣り合う2つの突出部間に配置される少なくとも1つの噴霧衝突部と、を含む、ピストンクラウンが提供される。
【0016】
噴霧衝突部は、反射面であって、反射面に対する各仮想法線(possible normal)がピストンの中心軸Aに向かうように方向付けられると共に、各仮想法線と中心軸Aとがなす角度が一定角度(constant angle)の±10°の範囲内であることによって規定されている、反射面を含む。
【0017】
さらに、一定角度は少なくとも50°である。
【0018】
上述の定義から理解できるように、反射面は、一定角度周りに±10°のばらつきを有する環状リム部の一部として規定されている。また、「面」という用語により、反射面が、中心軸に沿った少なくともある程度の長さと、中心軸周りの周方向に沿った少なくともある程度の長さを有するべきであるということが理解される。
【0019】
噴霧衝突部における反射面は、インジェクタの噴孔から噴射された噴霧が衝突する面であって、この噴霧を反射させる面である。噴霧が反射するように作用させることで、反射面の形状が燃焼室内の運動エネルギーの分散に影響を与えることになる。
【0020】
噴霧衝突部において上述したように規定される反射面は、ピストンクラウンの構成において、少なくとも1つの噴霧ベクトルに沿った噴霧を噴射するためのインジェクタと共に提供される。したがって、噴霧ベクトルは中心軸と角度を形成することになる。反射面は、反射面の一定角度が噴霧ベクトルと中心軸とがなす角度に一致するように、所望の噴霧ベクトルと関係付けられて設計されるべきである。
【0021】
この場合、反射面は、噴霧ベクトルに対して略直角となり、衝突した噴霧を噴霧ベクトルの逆方向に向かって戻るように反射させる。したがって、反射面に衝突する噴霧ベクトルと、反射した噴霧の方向のほとんどとの間で規定される反射角度は、約0°ということになる。
【0022】
これは、以上で説明した突出部に隣接する噴霧衝突領域と組み合わせて特に有利であると考えられる。
【0023】
実際に、このようなピストンクラウンを内燃機関に用いれば、内燃機関の圧縮比との関係で有利な燃費特性が達成された。また、このような内燃機関では、煤排出量の観点で有利であるということが示された。
【0024】
一定角度が少なくとも50°であることは、噴霧ベクトルと中心軸とがなす角度が少なくとも50°であってもよいことを意味している。
【0025】
したがって、中心軸と噴射される噴霧ベクトルとの間に比較的大きな角度を用いているとみなされる。これは、突出部と本明細書に記載の噴霧衝突領域とを組み合わせて、好適な燃焼条件を可能にする点で特に有利であると考えられる。
【0026】
選択的に、反射面は、実質的に、好ましくは直円錐(right circular cone)である仮想的な円錐(imaginary cone)の包絡面(envelope surface)の一部の形状を有する。反射面のこのような形状は、衝突する噴霧を所望の方向に反射させることが可能であることを意味している。
【0027】
選択的に、仮想的な円錐は、円錐頂部及び円錐底部を有する。円錐頂部と円錐底部とは、フロア部を挟んで反対側に位置しており、フロア部は円錐底部に面している。
【0028】
選択的に、一定角度は、少なくとも60°、好ましくは、少なくとも70°、最も好ましくは、70°〜80°であってもよい。
【0029】
選択的に、一定角度は、85°未満、好ましくは、80°未満であってもよい。
【0030】
実施形態によれば、反射面は、反射面に対する各仮想法線がピストンの中心軸に向かうように方向付けられると共に、各仮想法線と中心軸とがなす角度が一定角度の±5°、好ましくは、±2°の範囲内であることによって規定されてもよい。
【0031】
このようなピストンクラウンが、中心軸と一定角度をなす噴霧ベクトルを提供するインジェクタと共に設けられることは、反射面に衝突する噴霧ベクトルと、反射した噴霧の方向のほとんどとの間で規定される反射角が、反射面全体を考えると、それぞれ、5°又は2°に制限されることを意味している。
【0032】
特に、反射面は、反射面に対する各仮想法線の角度が一定角度をなすことにより規定されてもよい。この場合、これと同様に中心軸と一定角度をなす噴霧ベクトルと組み合わせることで、反射角を反射面全体に亘って約0°とすることが可能である。
【0033】
第2の側面では、上述した目的は、エンジンのシリンダと、シリンダ内の燃焼室に面するピストンボウル面を有するピストンクラウンと、少なくとも1つの噴孔を含むインジェクタと、を備えた内燃機関であって、ピストンボウル面が、環状リム部と、環状リム部に接続され環状リム部によって囲まれるフロア部と、環状リム部において周方向に間隔をあけて配置される複数の突出部と、隣り合う2つの突出部間に配置される少なくとも1つの噴霧衝突部と、を含み、噴孔が、燃料を噴霧ベクトルに沿って噴霧衝突部に向かうように噴射するように構成された、内燃機関によって達成される。
【0034】
この内燃機関では、噴霧衝突部は、反射面を含み、反射面は、中心軸を通る平面で視て、反射面に対する各仮想法線と、対応するインジェクタの噴孔の噴霧ベクトルとが10°未満の角度γをなすことによって規定されている。
【0035】
したがって、反射面に向けて噴射される噴霧ベクトルと、衝突後に反射面から反射する噴霧との差である理論上の反射角は、10°未満であるべきである。
【0036】
有利には、反射面に対する各仮想法線と、対応するインジェクタの噴孔の噴霧ベクトルとの間の角度は、中心軸を通る平面で視て、5°未満、好ましくは、2°未満である。
【0037】
特に、反射面に対する各仮想法線と、対応するインジェクタの噴孔の噴霧ベクトルとの間の角度は、中心軸を通る平面で視て、略0°であってもよい。この場合、反射面は、仮想法線の全てが噴霧ベクトルに平行な円錐面の一部として形成されることになる。
【0038】
代替として、噴霧ベクトルと中心軸とが噴霧角度をなし、一定角度は、噴霧角度よりも少なくとも2°、好ましくは、少なくとも5°だけ小さい。このことは、燃料が、噴孔の上方の位置に向かって反射することを意味し、その結果、燃焼中の燃焼火炎と中心軸とがやや鋭角をなすことになり、これにより、内燃機関の効率を向上させることができる。
【0039】
本発明の2つの側面では、ピストンクラウンのみを考慮しても、内燃機関を考慮しても、以下の特徴を提供することができる。
【0040】
一般に、環状リム部が中心軸に沿ったピストンボウル面の最高位置(maximum level)を規定しており、フロア部が中心軸に沿ったピストンボウル面の最低位置(minimum level)を規定しており、ピストンボウルは、最高位置と最低位置との差である、中心軸に沿ったピストンボウル長さを有し、反射面は、中心軸に沿った反射面長さを有する。
【0041】
実施形態によれば、反射面長さは、ピストンボウル長さの少なくとも10%、好ましくは、ピストンボウル長さの少なくとも15%である。
【0042】
実施形態によれば、反射面長さは、ピストンボウル長さの15%〜30%、好ましくは、20%〜30%、最も好ましくは、約25%である。
【0043】
反射面の軸方向長さ(反射面長さ)は、好ましくは、噴射期間の少なくとも主要な期間中に噴霧ベクトルが反射面に衝突するようになっているべきである。好ましくは、噴霧ベクトルは、全噴射期間中に反射面に衝突するようになっている。したがって、反射面の適切な軸方向長さを、噴射期間と、噴射期間中にピストンクラウンがインジェクタの噴孔に対して移動する中心軸に沿った距離とを考慮することで選択することができる。
【0044】
実施形態によれば、反射面長さは、中心軸に沿って、ピストンボウルの最低位置から第1の距離の位置を始点に延びており、第1の距離は、ピストンボウル長さの少なくとも15%、好ましくは、ピストンボウル長さの少なくとも25%、より好ましくは、少なくとも30%である。有利には、第1の距離は、ピストンボウル長さの50%未満、好ましくは、40%未満であってもよい。
【0045】
反射面は、また、環状リム部の周方向に沿った長さを有することになる。この周方向に沿った長さは、中心軸に直交する平面において、中心軸周りの角度を用いて表現される。
【0046】
反射面の周方向長さは、概して、ジェット噴霧の全てが反射面により提供される噴霧衝突領域に十分に衝突するように選択されるべきである。
【0047】
実施形態では、反射面は、中心軸と直交する平面で、中心軸周りに少なくとも5°の周方向長さを有してもよい。好ましくは、周方向長さは、少なくとも10°であり、最も好ましくは、10°〜40°の範囲である。選択的に、周方向長さは、50°未満、好ましくは、40°未満である。
【0048】
実施形態では、環状リム部は、少なくとも2個の反射面、好ましくは、2〜10個の反射面、より好ましくは、4〜8個の反射面、最も好ましくは、5〜7個の反射面を含む。反射面の数は、ジェット噴霧の数、すなわち、対応するインジェクタの噴孔の数に応じて必然的に決めることが可能である。
【0049】
実施形態では、複数の反射面は、中心軸周りに等角度間隔で配置されている。また、複数の反射面は、対応するインジェクタの噴孔の配置に対応して配置されるように構成されている。
【0050】
実施形態では、ピストンクラウンの反射面の全ては同じ形状である。
【0051】
実施形態では、突出部の少なくとも幾つかは同じ形状であり、好ましくは、ピストンクラウンの突出部の全ては同じ形状である。
【0052】
実施形態では、少なくとも1つの突出部の部分であって中心軸の最も近くに位置する部分の少なくとも一部が形成する面に対する各仮想法線は、反射面についての各仮想法線と同じ角度である。
【0053】
有利には、ピストンボウルの内側形状は、反射面と突出部とが滑らかに結合するように設計されている。例えば、反射面は、周方向に延在する帯状部上にある部位とみなすことができる。この帯状部は、軸方向長さDaを有すると共にピストンボウルの内縁の一部を規定するように構成されており、その周縁周りに延在している。したがって、このような帯状部は、突出部間にある反射面と同様、突出部の外形を形成するように適用されることになる。
【0054】
突出部は、反射面から少なくとも距離Ddiffだけ中心軸Aに向かって延びている。例えば、距離Ddiffは、ピストンボウル面の最大内径の少なくとも10%、有利には、少なくとも20%であってもよい。好ましくは、距離Ddiffは、ピストンボウル面の最大内径の50%未満であってもよい。
【0055】
また、突出部は、ピストンボウルの周方向に沿った長さを有することになる。この長さは、少なくとも5°、好ましくは、少なくとも10°、最も好ましくは、10°〜30°であってもよい。
【0056】
実施形態では、ピストンボウルの内周壁は、複数の突出部及び複数の反射面で構成されてもよい。
【0057】
選択的に、ピストンボウル面は、フロア部と反射面との間に位置する凹面、及び、反射面と環状リム部との間に位置する凸面を含んでもよい。
【0058】
他の側面において、本開示は、以上の説明に従ったピストンクラウンを備えたピストンに関する。
【0059】
他の側面において、本開示は、エンジンのシリンダ、及び、このシリンダ内において下死点と上死点との間で中心軸Aに沿って往復運動するように配置されるピストンを備えた内燃機関に関する。この内燃機関において、ピストンは、以上説明したピストンクラウンを含む。
【0060】
好ましくは、ピストンクラウンは、内燃機関のインジェクタに関連するように配置されており、インジェクタは、少なくとも1つの噴孔を含み、この噴孔は、中心軸を通る平面で視て、反射面に対する各仮想法線と、対応するインジェクタの噴孔の噴霧ベクトルとがなす角度が、10°未満、好ましくは、5°未満、好ましくは、2°未満、最も好ましくは、略0°となるように、燃料を噴霧ベクトルに沿って噴霧衝突部に向けて噴射するように構成されている。
【0061】
以上で説明したように、反射面に対する法線(normal)と、対応するインジェクタの噴孔の噴霧ベクトルとがなす角度が10°未満、好ましくは、5°未満、好ましくは、2°未満、最も好ましくは、略0°である内燃機関は、場合によっては選択的に、一定角度が50°以上であるピストンを使用することで達成することができる。
【0062】
他の側面において、以上説明したピストンクラウンを含む内燃機関、及び/又は、以上説明した内燃機関を備えた、好ましくは、トラックである車両が提供される。本開示は、例えば、バス、掘削機、ローダ若しくは他の車両のエンジン、又は、海洋用途やバックアップ電源用のエンジンなど、トラックにおける車両エンジン以外の他のエンジンにも適用可能であることは勿論である。
【0063】
本発明の更なる利点及び有利な特徴は以下の説明及び従属請求項に開示される。
【0064】
以下、本開示を例示する実施形態について添付図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】本発明の一実施形態によるピストンクラウンを含むピストンを備えた内燃機関の概略的な断面図である。
図2a】本発明の一実施形態によるピストンクラウンの一例を示す平面図である。
図2b図2aのピストンクラウンを示す斜視図である。
図3a図2aのピストンクラウンを長手方向の断面から視た側面図である。
図3b図3aの実施形態に追加した特徴を示す図である。
図3c】ピストンクラウンを通って延びる仮想的な円錐を更に示す、ピストンクラウンの他の実施形態を示す図である。
図4a図2aのピストンクラウンの一部を示す他の概略的な断面図であって、突出部における断面が噴霧衝突領域における断面と比較される、断面図である。
図4b】他の実施形態によるピストンクラウンの一部を示す他の概略的な断面図であって、突出部における断面が噴霧衝突領域における断面と比較される、断面図である。
図5図2aのピストンクラウンの一部を示す概略的な断面図である。
図6図1の内燃機関を配置可能な車両を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図6は、以下で説明するピストンクラウン3を含む内燃機関1を備えたエンジン101を配置可能なトラック100などの車両を示している。
【0067】
図1は、エンジン用の内燃機関を概略的に示している。
【0068】
内燃機関1は、シリンダ2を備え、シリンダ2では、ピストン5が中心軸Aに沿って往復運動するように構成されている。ピストン5は、シリンダ2内において上死点と下死点との間で移動可能となるように、エンジンのクランクシャフト4に機械的に接続されている。
【0069】
シリンダキャビティの一端はエンジンのシリンダヘッド14によって閉じられている。
【0070】
ピストン5の燃焼室に面する部分は、ピストンクラウン3を含み、ピストンクラウン3は、燃焼室に面するピストンボウル面6を有する。
【0071】
したがって、図1では、ピストンボウル面6は、シリンダヘッド14の内面及びシリンダ2の側壁と共に燃焼室7を形成している。
【0072】
シリンダヘッド14には、1以上の吸気ポート9がこれに対応する吸気バルブ10と共に設けられている。また、シリンダヘッド14には、1以上の排気ポート11がこれに対応する排気バルブ12と共に設けられている。
【0073】
また、シリンダヘッド14には、少なくとも1つの燃料インジェクタ13が設けられており、これにより燃料がシリンダ2内に噴霧として噴射される。燃料は、好ましくは、600bar〜3000barの範囲の圧力にて噴射される。一般に、EGRを用いるエンジンシステムでは約1000bar〜約2500barの範囲であることが好ましく、EGRを用いないものでは約800bar〜1400barの範囲であることが好ましい。
【0074】
着火した噴霧は、燃焼室7内で火炎柱を形成する。
【0075】
燃料インジェクタ13は、加圧した燃料を燃焼室に流入させることができる、少なくとも1つ、好ましくは、複数の噴孔を備えている。これにより、噴射した燃料は、燃料と燃焼室7に含まれる空気との完全な混合を誘導するように燃焼室7に運動エネルギーを提供する。
【0076】
燃料インジェクタ13は、燃料噴射が可能なあらゆるタイプのインジェクタであってもよい。
【0077】
燃料インジェクタ13は、燃料インジェクタ13の幾何学上の中心軸Aと、ピストン3の往復運動の軸でもある、シリンダの幾何学上の中心軸Aとが一致するように、好ましくは、シリンダヘッドの中央に配置される。
【0078】
内燃機関は、有利には、それぞれピストン5と共に設けられた複数のシリンダ2を備えた4ストロークエンジンであってもよい。各ピストン5は、例えば、共通のクランクシャフト4に接続されてもよい。
【0079】
図示の実施形態では、ピストンクラウン3は、ピストン5の一部と一体形成されている。但し、ピストンクラウン3は、1以上のピストン本体に取り付けられることで完全なピストン5を形成するように、別体に設けられてもよい。
【0080】
図2a、図2b及び図3は、ピストンクラウン3の詳細を示している。図1で例示した内燃機関1において燃焼室7に面するピストンボウル面6は、環状リム部34と、環状リム部34に接続され環状リム部34によって囲まれるフロア部31と、を含む。
【0081】
図3a及び図4から理解できるように、フロア部31は、ピストン3の中心軸と一致した中央頂部を有する略ドーム形状となっている。フロア部31は、このドーム形状の周方向に延びるドーム側面32を形成し、ドーム側面32は角度αの2倍であるドーム角度を形成している。角度αは、有利には、60°〜85°であってもよい。図示の実施形態では、角度αは約75°である。
【0082】
環状リム部34は、周方向に間隔をあけて配置された複数の突出部331を含んでもよい。各突出部331は、環状リム部34の向かい合う側面からピストンクラウン3の中心軸Aに向かって延びており、中心軸Aに向かう頂部を形成している。
【0083】
図示の実施形態では、環状リム部34は、ピストンクラウン3の周方向において等間隔に分布する合計6個の突出部331を含む。但し、上述したように、突出部331の数はこれに限るものではない。
【0084】
図2に示すように、環状リム部34は、噴霧衝突領域を構成するための反射面330であって、突出部331と交互に配置される反射面330を形成している。したがって、図示の実施形態では、6個の噴霧衝突領域が形成されている。
【0085】
一般に、突出部331と反射面330とを交互に配置することで、突出部331の数と反射面330の数が同数であることが好ましい。
【0086】
但し、反射面330は、環状リム部34に形成された考えられる一対の突出部331間に設けられてもよい。例えば、6個の突出部331に対して反射面330を3個だけ配置してもよい。
【0087】
反射面330の適切な数及び配置を、ピストンクラウン3と組み合わせて用いられる燃料インジェクタ13の噴孔130の数及び配置に対応させるように決定可能であることはもちろんである。
【0088】
上述したように、流れを突出部331に向かわせることで燃焼室(i.. al.)における運動エネルギーの分散を促進することである、反射面330の目的は、各反射面330が2個の突出部331間に配置されるべきであることを意味する。
【0089】
図4aは、ピストンクラウン3を反射面330にて切断した部分断面図であり、反射面330の詳細を示している。反射面330は、その定義によれば、環状リム部34の一部であり、反射面330に対する全ての法線Nと中心軸Aとがなす全ての角度β’は、選択した一定角度から±10°の範囲にある。ここで、選択した一定角度は、少なくとも50°である。
【0090】
インジェクタの噴孔130から噴射される噴霧の方向を示す噴霧ベクトルvを考えた場合、このような噴霧ベクトルvは、環状リム部34に衝突することになる。反射面330に対する全ての法線Nは、噴霧ベクトルvと基本的に同じ角度(±10°)であるので、噴霧ベクトルvは、環状リム部34との衝突が実質的な円錐部(essentially conical portion)に沿ってどの位置で起こるかに関わらず同じように反射されることになる。
【0091】
図3bは、ピストンボウル面6が、フロア部31と反射面330との間に位置する凹面337、及び、反射面330と環状リム部34との間に位置する凸面338を含んでもよいことを示している。一例として、凹面337及び/又は凸面338は、反射面330に衝突しない燃料を適切な方向に向けるのに適している。
【0092】
図3bは、中心軸Aが平面の1つの軸を構成している平面におけるピストンクラウン3の断面図である。この平面の他の軸は、半径方向の軸Rである。
【0093】
上記平面で視られるように、また、図3bに例示するように、凹面337は、凹面337上の2点を結ぶ直線(図示省略)がピストンクラウン3の外側に位置するようになっていてもよい。また、他の限定されない例のように、凸面338は、凸面338上の2点を結ぶ直線(図示省略)がピストンクラウン3の内側に位置するようになっていてもよい。
【0094】
限定されない例のように、また、図3bに示すように、凹面337は、反射面330に隣接してもよい。また、反射面330は凸面338に隣接してもよい。
【0095】
好ましくは、実質的な円錐部30の中心軸Aに沿った長さDaは、噴孔130を通って噴射された噴霧が噴射期間全体で実質的な円錐部30に沿ったいずれかの場所に衝突するようになっている。
【0096】
この目的を達成するために、図3cは、反射面330が、好ましくは直円錐である仮想的な円錐333の包絡面332の一部の形状を実質的に有している、ピストンクラウンの実施形態を示している。
【0097】
本明細書で用いられる「直円錐」とは、円形状の底面と、底面の中心を底面に直角に通る円錐軸とを有する円錐を意味する。
【0098】
例えば、また、図3cに示すように、仮想的な円錐333は、円錐頂部334と、円錐底部335と、を有し、図3cの例では、円錐底部335は円形である。円錐頂部334と円錐底部335とは、フロア部31を挟んで反対側に位置しており、フロア部31は、円錐底部335に面している。また、仮想的な円錐333は、円錐底部335の中心から円錐頂部334に向かって直角に延びる円錐軸336を有する。図3cの例では、円錐軸336は中心軸Aに一致している。
【0099】
図4aに示すように、噴霧ベクトルvと中心軸Aとは、噴霧衝突角度βをなしている。この噴霧衝突角度βは噴孔130によって決まるものである。一定角度は、噴霧衝突角度βと等しくなるように調整されるべきである。本実施形態では、一定角度と噴霧衝突角度βとの間に形成される角度である反射角度γは、比較的小さく、好ましくは、±5°の範囲内であり、最も好ましくは、略0°であるべきである。
【0100】
例えば、反射角度0°は、ピストンクラウン3の環状リム部24に衝突した後に噴霧ベクトルの方向と逆向きに戻ってくる噴霧に対応している。これにより、運動エネルギーの分散が促進され、特に、燃焼室における乱流を促進する効果が引き起こされる。
【0101】
図4bは、内燃機関1の他の実施形態を示す。図4bにおいても、噴霧ベクトルは、中心軸Aと共に噴霧衝突角度βを形成している。しかし、図4bの実施形態では、一定角度β’は、噴霧衝突角度βよりも、少なくとも2°、好ましくは、少なくとも5°だけ小さい。このように、また、図4bに示すように、図4bの反射面330で反射した燃料は、図4bで視られるように、噴霧ベクトルの方向と逆向きの方向と比較して、やや上方に向いている。
【0102】
用語「反射面」から判断すれば、この部位は、中心軸Aに沿った特定の軸方向長さDaと、中心軸A周りの周方向に沿った特定の周方向長さDcと、を有する必要があるということになり、さもないとどのような反射面も存在しないことになる。
【0103】
これらの長さの値は、内燃機関の意図した運転を考慮して、すなわち、ピストンがインジェクタに対して移動している間、インジェクタから噴射された噴霧が少なくとも噴射期間中に反射面に衝突可能となるように決定される。
【0104】
したがって、反射面の適切な軸方向長さDaは、噴射期間、噴射の開始、燃料噴射中のインジェクタに対するピストンの位置及び移動速度を考慮して決定されてもよい。
【0105】
この目的を達成するために、限定されない例のように、また、このような例を示す図4aを参照すると、反射面の軸方向長さDaは、ピストン5がそのトップポジション、すなわち、上死点となったとき、図4aで視られるように、インジェクタから噴射された噴霧が反射面330の下部に衝突することができるようなものであってもよい。上死点に達した後、ピストンは、インジェクタ13から離れ、インジェクタ13がまさに燃料噴射を停止しようとするとき、インジェクタ13から噴射された燃料の最終部分が反射面330の上部に衝突することになる。ここで、燃料噴射は、例えば、上死点となった後、クランク角度で約20°〜25°にて停止するように設定されている。
【0106】
本明細書で用いられるように、反射面330の下部は、フロア部31に最も近い位置にある反射面330の一部であって、フロア部31から反射面330までのピストンボウル面6に倣った反射面330の一部として規定されてもよい。同様に、反射面330の上部は、フロア部31から最も遠くに位置する反射面330の一部であって、フロア部31から反射面330を超えてピストンボウル面6に倣った反射面330の一部として規定されてもよい。
【0107】
図4aに示すように、ピストンボウル面6のフロア部31は、中心軸Aに沿って視られるように、ピストンボウル面6の最低位置を規定している。また、環状リム部34は、ピストンボウル面6の最高位置を規定している。最高位置と最低位置との間の距離は、ピストンボウル長さDmaxとみなされる。
【0108】
反射面の軸方向長さDaは、ピストンボウル長さDmaxとの関連で表現されてもよく、ピストンボウル長さDmaxの少なくとも10%であってもよい。図示の実施形態では、反射面の軸方向長さDaは、ピストンボウル長さDmaxの約25%である。
【0109】
図4aに示すように、反射面330は、その長さの始点がピストンボウル面6の最低位置から距離D1の位置となるように配置されてもよい。このようにすることは、距離D1により、噴霧が衝突する反射面330と、ピストンボウル面6のフロア部31との間に空間が提供されるので好ましい。このような空間は、噴霧の乱流を生成するのに重要となり得る。
【0110】
この目的を達成するために、反射面330は、その長さの始点がピストンボウル長さDmaxの少なくとも15%である距離D1の位置となるように配置されてもよい。図示の実施形態では、D1は、ピストンボウル長さDmaxの約20%である。
【0111】
同様に、反射面330は、その長さの終点がピストンボウル面6の最高位置からの距離D2の位置となるように配置されてもよい。距離D2は、ピストンボウル長さDmaxの少なくとも10%であってもよく、好ましくは、15%〜60%であってもよい。
【0112】
図2において反射面330の一例を上方から示したように、反射面330は、中心軸A周りの周方向長さDcを有してもよい。周方向長さDcは、中心軸Aと直交する平面で視て、周方向長さの角度δとして表される。
【0113】
周方向長さの角度δは、少なくとも5°、好ましくは、少なくとも10°、最も好ましくは、10°〜40°又は20°〜35°であってもよい。図示の実施形態では、周方向長さの角度δは約30°である。
【0114】
図2に示す実施形態では、複数の反射面330は、中心軸A周りに等角度間隔にて配置されている。反射面330の配置を決定するためには、このような部分の中心、すなわち、軸方向長さDaの中間点と周方向長さDcとの交点を考慮すべきである。
【0115】
反射面330の中心軸A周りの配置は、ピストンクラウン3と共に用いられる燃料インジェクタ13の噴孔130の配置に対応するように決定されるべきであることが理解されよう。
【0116】
図2に示す実施形態では、反射面330は中心軸A周りに60°間隔で分布している。
【0117】
好ましくは、また、図2に示すように、反射面330の全ては同じ形状である。言い換えれば、複数の反射面330は、同じバラツキを有する同じ一定角度β’で表され、同じ軸方向長さDa及び周方向長さDcで表わされている。
【0118】
また、反射面330は、ピストンクラウンの噴霧衝突領域の全てを構成していることが好ましい。言い換えれば、インジェクタ13と共に設ける場合、反射面330には、インジェクタ13から噴射される噴霧の全てが衝突することになる。
【0119】
各突出部331は、既知の技術に従って、中心軸Aに向かう頂部を形成している。突出部331の頂部の少なくとも一部が形成する面に対する法線と中心軸Aとがなす角度が反射面330についての一定角度と同じとなる場合に有利となることが分かっている。
【0120】
図5に示すように、これは、突出部331の頂部に対する法線が反射面330の法線と略平行に延びていることを意味している。
【0121】
突出部331の軸方向長さ及びこのような面の配置は、好ましくは、反射面330の軸方向長さDa及び配置に対応させてもよいし、又は、これらと少なくとも部分的に一致させてもよい。
【0122】
図5にも示すように、突出部331は、反射面330から少なくとも径方向距離Ddiffだけ中心軸Aに向かって延びている。例えば、径方向距離Ddiffは、ピストンボウル面6の最大内径の少なくとも10%、有利には、少なくとも20%であってもよい。好ましくは、径方向距離Ddiffは、ピストンボウル面6の最大内径の50%未満であってもよい。
【0123】
また、突出部331は、ピストンボウルの周方向に沿った長さを有する。この長さは、少なくとも5°、好ましくは、少なくとも10°、最も好ましくは、10°〜30°であってもよい。
【0124】
図示の実施形態では、ピストンボウル面6の内周壁は、突出部331と反射面330とで構成されている。
【0125】
各図面に示すように、ピストンクラウン3の中心軸Aを用いて形成される角度に関する、本明細書に記載の角度α、β、β’の全ては、中心軸Aのピストン5に向かう方向で視て計測されている。
【0126】
本発明は、上述し且つ図示した実施形態に限定されるものではないことを理解すべきであり、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱しない範囲内で多くの変更及び改良が可能であることが認識されるであろう。
【0127】
特に、また、以上で概説したように、反射面及び突出部の数は変更可能である。また、様々な特徴の寸法は、特定の状況に適するように適合可能である。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2018年3月14日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンシリンダ(2)と、
前記エンジンシリンダ(2)内において下死点と上死点との間で中心軸(A)に沿って往復運動するように配置されたピストン(5)と、
を備えた内燃機関(1)であって、
前記ピストン(5)は、前記エンジンシリンダ(2)内の燃焼室(7)に面するように構成されたピストンボウル面(6)を有するピストンクラウン(3)を含み
前記ピストンクラウン(3)が前記内燃機関(1)のインジェクタ(13)に関連するように配置されており、前記インジェクタ(13)が少なくとも1つの噴孔(130)を含み、前記噴孔(130)が燃料を噴霧ベクトルに沿って噴霧衝突部に向けて噴射するように構成されており、
前記ピストンボウル面(6)は、
環状リム部(34)と、
当該環状リム部(34)に接続され前記環状リム部(34)によって囲まれるフロア部(31)と、
前記環状リム部(34)において周方向に間隔をあけて配置される複数の突出部(331)と、
隣り合う2つの前記突出部間に配置される少なくとも1つの噴霧衝突部と、
を含み、
前記噴霧衝突部が、
仮想的な円錐(333)の包絡面(332)の一部の形状を実質的に有する反射面(330)であって、当該反射面(330)に対する各仮想法線(N)が前記ピストン(5)の中心軸(A)に向かうように方向付けられると共に、前記各仮想法線(N)と前記中心軸(A)とがなす角度(β’)が一定角度の±2°の範囲内であることによって規定される前記反射面(330)を含み、
前記一定角度が少なくとも50°であり、
前記環状リム部(34)は、前記中心軸(A)に沿った前記ピストンボウル面(6)の最高位置を規定し、前記フロア部(31)が、前記中心軸(A)に沿った前記ピストンボウル面(6)の最低位置を規定し、前記ピストンボウル(3)が、前記最高位置と前記最低位置と差である、前記中心軸(A)に沿ったピストンボウル長さ(Dmax)を有しており、
前記反射面(330)は、前記中心軸(A)に沿った反射面長さ(Da)を有し、
前記反射面長さ(Da)が、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の少なくとも10%、好ましくは、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の少なくとも15%であり、
前記噴霧ベクトルと前記中心軸(A)とが噴霧角度(β)をなし、前記一定角度が、前記噴霧角度(β)よりも少なくとも2°、好ましくは、少なくとも5°だけ小さいことを特徴とする、内燃機関(1)
【請求項2】
前記仮想的な円錐(333)は、直円錐である、請求項1に記載の内燃機関(1)
【請求項3】
前記仮想的な円錐(333)は、円錐頂部(334)及び円錐底部(335)を有し、前記円錐頂部(334)と前記円錐底部(335)とが前記フロア部(31)を挟んで反対側に位置しており、前記フロア部(31)が前記円錐底部(335)に面している、請求項2に記載の内燃機関(1)
【請求項4】
前記反射面長さ(Da)は、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の15%〜30%、好ましくは、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の20%〜30%、最も好ましくは、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の約25%である、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項5】
前記反射面長さ(Da)は、前記中心軸(A)に沿って、前記ピストンボウル面(6)の前記最低位置から第1の距離(D1)の位置を始点に延びており、前記第1の距離(D1)が、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の少なくとも15%、好ましくは、前記ピストンボウル長さ(Dmax)の少なくとも25%、最も好ましくは、少なくとも30%である、請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項6】
前記一定角度は、少なくとも60°、好ましくは、少なくとも70°、最も好ましくは、70°〜80°である、請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項7】
前記一定角度は、85°未満、好ましくは、80°未満である、請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項8】
前記反射面(330)は、前記中心軸(A)に直角な平面において、前記中心軸(A)周りに少なくとも5°、好ましくは、少なくとも10°、最も好ましくは、10°〜40°の範囲内の角度(δ)に対応する、前記環状リム部(34)の周方向に沿った長さを有する、請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項9】
前記環状リム部(34)は、少なくとも2個、好ましくは、2個〜10個、より好ましくは4個〜8個、最も好ましくは、5個〜7個の反射面(330)を含む、請求項1〜請求項8のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項10】
前記反射面(330)は、前記中心軸(A)周りで等角度間隔にて配置されている、請求項1〜請求項9のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項11】
前記ピストンクラウン(3)の反射面(330)の全てが同じ形状である、請求項1〜請求項10のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項12】
前記ピストンクラウン(3)の前記突出部(331)の少なくとも幾つかは同じ形状であり、好ましくは、前記ピストンクラウン(3)の前記突出部(331)の全てが同じ形状である、請求項1〜請求項11のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項13】
少なくとも1つの前記突出部(331)の部分であって前記中心軸(A)の最も近くに位置する部分の少なくとも一部が形成する面に対する各仮想法線は、前記反射面(330)についての前記各仮想法線と同じ角度(β’)である、請求項1〜請求項12のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項14】
前記ピストンボウル面(6)は、前記フロア部(31)と前記反射面(330)との間に位置する凹面(337)、及び、前記反射面(330)と前記環状リム部(34)との間に位置する凸面(338)を含む、請求項1〜請求項13のいずれか1つに記載の内燃機関(1)
【請求項15】
請求項1〜請求項14のいずれか1つに記載の内燃機関を含む内燃機関を備えた、好ましくは、トラック(100)である車両。
【国際調査報告】