特表2019-507458(P2019-507458A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2019-507458集電体上のセラミックカソード層の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-507458(P2019-507458A)
(43)【公表日】2019年3月14日
(54)【発明の名称】集電体上のセラミックカソード層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1391 20100101AFI20190215BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190215BHJP
【FI】
   H01M4/1391
   H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-529211(P2018-529211)
(86)(22)【出願日】2016年12月9日
(85)【翻訳文提出日】2018年6月6日
(86)【国際出願番号】EP2016002084
(87)【国際公開番号】WO2017129209
(87)【国際公開日】20170803
(31)【優先権主張番号】102016000799.0
(32)【優先日】2016年1月27日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
(71)【出願人】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ドルンザイファー・ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ゲールケ・ハンス−グレーゴル
(72)【発明者】
【氏名】クロット・マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ギヨン・オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ウーレンブルック・スヴェン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA13
5H050DA18
5H050EA11
5H050FA14
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA15
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、導電性基材上にセラミックカソード層を製造する方法であって、最初に、少なくとも一つの懸濁化剤および少なくとも一つのセラミック材料を含む懸濁液の形態のコーティングをこの導電性基材上に設ける方法に関する。これに続いて、セラミック材料の全部または一部が溶融可能な反応生成物に還元されるように、コーティングを還元性雰囲気中で加熱する。続いて、コーティングを還元性雰囲気中で反応生成物の融点より高い温度に加熱して、溶融物を存在させる。これに続いて、反応生成物の融点よりも100℃高い温度で、還元性雰囲気中でコーティングの圧縮または焼結が行われる。続いて、400℃〜1200℃の温度範囲の酸化雰囲気中で、圧縮または焼結されたコーティングの再酸化が行われ、ここで、反応生成物は再び酸化され、使用されたセラミック材料の元の組成物へと再び反応する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材上にセラミックカソード層を製造する方法であって、
a)この導電性基材上に、少なくとも一つの懸濁化剤および少なくとも一つのセラミック材料を含む懸濁液の形態のコーティングを適用する工程、
b)該セラミック材料の全部または一部が溶融可能な反応生成物に還元されるように、還元性雰囲気中で該コーティングを加熱する工程、
c)溶融物が存在するように、還元雰囲気中で該コーティングを該反応生成物の融点より高い温度に加熱する工程、
d)該反応生成物の融点よりも100℃高い温度で、還元性雰囲気中で該コーティングを圧縮または焼結する工程、
e)400℃〜1200℃の温度範囲で、酸化雰囲気中において、該圧縮されたまたは焼結されたコーティングを再酸化する工程であって、ここで該反応生成物が再び酸化され、そして、使用されるセラミック材料の元の組成物へと、再び反応する、工程、
を含む、上記の方法。
【請求項2】
セラミック材料としてカルシウムまたはアルカリ金属含有鉄、ニッケルおよびコバルトベースの酸化物セラミックを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
0.1ppm未満の酸素含有量を有するアルゴンが、還元性雰囲気として使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
100,000ppm超の酸素含有量を有するアルゴンが、酸化雰囲気として使用される、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
工程b)、工程c)および工程d)が、同じ還元雰囲気中で遂行される、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
工程b)、工程c)、工程d)および工程e)が、一つの反応器中で遂行される、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記還元性雰囲気にCOが追加的に供給される、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
リチウム−二酸化コバルトを含む、請求項1〜7のいずれか一つに記載のセラミックカソード層を製造する方法であって、
a)少なくとも一つの懸濁化剤およびセラミック材料として二酸化コバルトを含む懸濁液の形態のコーティングを導電性基材上に適用する工程、
b)前記リチウム−二酸化コバルトからのコバルトを、金属コバルトに少なくとも部分的に還元し、かつ、リチウムから炭酸リチウムを形成するように、還元性雰囲気中で前記セラミックコーティングを加熱する工程、
c)金属コバルトおよび液状リチウム炭酸塩を含む溶融物が存在するように、還元性雰囲気中で前記コーティングを720℃超の温度に加熱する工程、
d)1000℃未満の温度で還元性雰囲気中において前記コーティングを圧縮または焼結する工程、
e)400〜1000℃の温度範囲において酸化雰囲気中で、前記圧縮または焼結されたコーティングを再酸化し、前記金属コバルトを酸化コバルトに酸化し、これを、前記炭酸リチウムと反応させて酸化リチウム−コバルトにする工程、
を有する、上記の方法。
【請求項9】
前記コーティング懸濁液が、粉末状のリチウム−二酸化コバルトを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記焼結が、850℃未満、および、有利には、約800℃の温度で、還元雰囲気中で遂行される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
1μm未満のD50値を有する粒度分布を有する粉末状のリチウム−二酸化コバルトが使用される、請求項8〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
使用される懸濁剤溶液中に可溶性の、リチウム化合物およびコバルト化合物またはそれらの塩が、前記コーティング懸濁液に追加的に供給される、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記コーティング懸濁液に、前記可溶性のリチウム化合物およびコバルト化合物またはそれらの塩が、セラミック材料の全質量に基づいて、最大30重量%の質量割合で、有利には、20重量%の質量割合で、特に有利には、10重量%の質量割合で添加される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
リチウムおよびコバルトが、可溶性の硝酸塩、カルボン酸塩またはプロピオン酸塩の形態で添加される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記焼結プロセス中のリチウム損失を補償するために、前記コーティング懸濁液に、リチウム化合物およびコバルト化合物が超化学量論比で加えられる、請求項12〜14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
前記コーティング懸濁液に、固体電解質が追加的に添加される、請求項1〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
前記コーティング懸濁液に、ニオブ酸リチウムおよび/またはランタンジルコニウム酸リチウムが固体電解質として添加される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記コーティング懸濁液中の固体電解質の質量割合が、セラミック材料の質量に基づいて50重量%未満で含む、請求項16または17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体上の、特に、リチウムイオン電池のためのセラミックカソード層の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信技術およびコンピュータ技術の進歩的な開発と普及には、高度な特別な記憶容量を有する、安全で高性能かつ低コストのバッテリーが本質的に必要とされる。したがって、これらの要求を満たすバッテリーを開発するために、世界中で大きな努力がなされている。これに関する最大の成功の見込みは、リチウムイオン技術による電池システムに帰す。
【0003】
市販のリチウムイオン電池において最も一般的に使用されているカソード材料の一つは、その高い容量並びに良好な電気化学的挙動のために、現在、コバルト酸リチウム(LCO)と短く呼ばれる二酸化リチウム−コバルトである。Liイオン電池の製造では、この材料を、最初に、とりわけ、活物質の充放電操作中の体積変化の補償に寄与するグラファイトまたはカーボンブラックのような導電性炭素およびポリビニリデンフルオリドのようなポリマーバインダーと一緒に粉末状に混ぜ合わせ、そして、集電体として利用される金属箔上にペーストの形で圧延する。次のステップでは、カソード支持セル構造体において、有機液状の(例えば、エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネート中のヘキサフルオロリン酸リチウム)またはポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド中のリチウム塩)ベースの電解質が規則的に適用され、続いてアノード層が適用される。
【0004】
このような構造の欠点は、サイクル安定性の欠如、すなわち、充放電ごとのゆっくりとした容量損失(劣化)だけでなく、有機材料の含有量が高いために技術的な欠陥または不適切な使用の場合に電池の発火を招きかねない不十分な温度安定性である。
【0005】
これらの欠点を解決する一つのアプローチは、例えば、固体リチウムイオン電池の概念のような、これらの電池の製造における炭素系の機能性材料の完全な排除であろう。このような電池タイプの有望な変形では、カソードおよび電解質はセラミック固体からなり、金属リチウムまたは元素のケイ素のようなリチウム吸収固体からなるアノードと組み合わせて、高度の操作安全性および著しく改善されたサイクル安定性が保証される。この種の電池の製造のための前提条件は、機能層の充分な圧縮だけでなく、層の内側および層境界にわたる良好なイオン性および場合により電子伝導性の結びつきをも可能にするプロセスステップである。
【0006】
リチウムイオン電池を構成するための炭素不含の酸化リチウムコバルト−カソード層の製造を記載している文献において、現在ほとんど知られていない方法はほとんどない。例えば、Ohta等(Journal of Power Sources, 238 (2013) 53−56)(非特許文献1)は、ニオブがドープされたジルコン酸リチウムランタン−電解質上にLCO/ホウ酸リチウム−カソード層を堆積させる方法に関して報告している。
【0007】
しかしながら、基礎研究のために、例えば、原子層堆積(ALD)、イオンビーム層堆積および物理的または化学的気相堆積PVD、CVDなどの蒸着法およびスパッタリング法は、様々な基材上に純粋なLCOを適用するために記載された。したがって、Kumar等(Materials Chemistry and Physics 143(2014)536−544)(非特許文献2)は、ラジオ周波数のマグネトロンスパッタリングプロセスによってテクスチャー加工したAu/Ti/SiO基材上にサブミクロン(d<1μm)のエピタキシャルLCO膜を成長させることができた。Stockhoff等(Thin Solid Films 520(2012)3668−3674)(非特許文献3)には、例えば、200nmの厚さのLCO膜をイオンビームスパッタ堆積によってシリコンウェハ上に適用できる方法が記載されている。
【0008】
ゾル−ゲル法によって製造されたコーティング溶液によるLCO層の堆積のためのスピンコーティング法(Aufschleuderverfahren)もまた文献から知られている。例えば、Gunagfen等(Applied Surface Science 258(2012)7612−7616)(非特許文献4)は、ポリビニルピロリドン−キレート化剤の使用下におけるゾル−ゲル法により、スピンコート法によって、シリコンウェハ上にサブミクロン(d<1μm)のLCO膜を成長させることを記載している。
【0009】
従来技術によれば、電子伝導性およびイオン伝導性を改善するための炭素系添加剤を含まない、完全セラミックの酸化リチウムコバルト−カソード層は、現在のところ、技術的に煩雑な蒸着法またはスパッタリング法によってのみ、またはゾル−ゲルベースのコーティング溶液によるスピンコート法を使って、サブミクロン(d<1μm)の範囲の層の厚さで集電体上に堆積できる。酸化リチウムコバルトの、その層の構造に起因する異方性イオン伝導性、およびそれに伴うカソードにおけるLCO−微結晶の不規則な配向による層の厚さの増大を伴う電流密度の低下により、純粋なLCO層の成長は原理的に数マイクロメーターに制限されている。基本的に、エピタキシャル成長した純粋なLCO層は、蒸着法またはスパッタリング法によって集電体上に好ましい配向で得ることができるが、低い成長速度のために、生成された層の厚さは、マイクロメーターの範囲に規則的に制限される。
【0010】
しかしながら、リチウムイオン電池において必要とされる高い貯蔵容量を達成するためには、著しく高い厚さのカソード層が必要とされ、これは、固体電解質を混合することにより達成可能な電流密度の増加と同時にのみ達成することができる。このような複合電極の製造は、蒸着法およびスパッタリング法では原則的に不可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Ohta等(Journal of Power Sources, 238 (2013) 53−56)
【非特許文献2】Kumar等(Materials Chemistry and Physics 143(2014)536−544)
【非特許文献3】Stockhoff等(Thin Solid Films 520(2012)3668−3674)
【非特許文献4】Gunagfen等(Applied Surface Science 258(2012)7612−7616)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、リチウムイオン電池の構造のための、電子伝導性およびイオン伝導性を改善するための炭素系添加剤を含まない完全セラミックカソード層を製造する簡単な方法を提供することである。
【0013】
また、本発明による方法は、導電性基材上に適用できる、製造されたカソード層の可変の厚さを、有利に可能にするはずである。
【0014】
さらに、本発明による方法は、導電性基材を機能的に損傷する該材の変化をまねくことなく、カソード層を有利に製造できることを可能にするはずである。
【0015】
さらに、本方法は、カソード層が、達成可能な電流密度を向上させるために固体電解質と混ぜ合わせることができ、それにより、複合電極として堆積できることを可能にするはずである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題は、主請求項に記載のコバルト酸リチウムをベースとするカソード層を製造する方法によって解決される。該製造方法の有利な実施形態は、従属請求項に見出すことができる。
【0017】
本発明によれば、上記課題は、異なる反応器雰囲気を有する二段階プロセスにおける、セラミック材料の反応性低温焼結によって達成される。最初に、セラミック材料を含むスラリーまたはペーストの形態のコーティング懸濁液による導電性支持体材料のコーティングが行われる。200℃未満で乾燥させることによって溶媒を除去した後、焼結せずに、場合によっては依然として有機バインダー成分を含有する層が、いわゆるグリーン層として得られる。
【0018】
第一のプロセスステップにおいて、このグリーン層を引き続き還元性雰囲気中で加熱する。この場合、セラミック材料は、完全にまたは部分的に少なくとも一つの反応生成物に変換され、これは1200℃までのさらなる温度上昇によって融解でき、それによりコーティング層の圧縮を引き起こす。
【0019】
有利な実施形態では、さらなる反応生成物の熱分解または導電性基材の不可逆的変化を防止するために、この圧密工程または圧縮工程において、温度はこの反応生成物の融点よりも100℃以上高くする必要がある。
【0020】
酸化雰囲気中、例えば、酸素を添加することによる第二のプロセスステップにおいて、第一のプロセスステップで最初に溶融して圧縮された反応生成物は、再び、セラミック材料の出発組成物に変換される。この再酸化工程は、第一のプロセスステップと同じ温度における還元から酸化への単純な雰囲気の変化によって、または400℃〜1200℃の温度範囲における別のプロセスステップによって直接行うことができる。
【0021】
好ましくは、二つのプロセスステップは一つの反応器中で遂行できる。
【0022】
コーティング懸濁液に使用されるセラミック粉末の粒度は原則的に限定されない。しかし、本発明の範囲において、D50値が1μm未満である狭い粒度分布を有する粉末が、カソード層の可能な限り高い圧縮を得るために使用される。
【0023】
金属支持体上に均一な層の厚さのセラミック層を設けるためのコーティング方法として、原理的に、これらのコーティング懸濁液の金属集電体上への、例えば、流注、引き延ばし(Ziehen)、スピンコート、ディッピング、インクジェット印刷またはオフセット印刷のような公知の方法を用いることができる。この場合に達成できる層の厚さは基本的に制限されない。
【0024】
カソード層のためのセラミック材料としては、酸化リチウムコバルトのような、例えば、カルシウムまたはアルカリ金属を含有する、鉄、ニッケルおよびコバルト系酸化物セラミックスのような従来の全てのカソード材料を用いることができる。
【0025】
本発明の方法は、原理的に、導電性の金属基材またはセラミック基材上のカソード層の焼結に限定されず、セラミック成形体の圧縮にも利用できる。
【0026】
さらに、焼結されたセラミック材料は、還元性の第一のプロセスステップにおけるセラミック材料の少なくとも一部が、固化および焼結に必要な、溶融可能な反応生成物に変換され得るという条件で、複合体の形態の不均質な組成を有することもできる。
【0027】
特定の一実施形態では、スラリーまたはペーストの形態のコーティング懸濁液による金属支持体材料のコーティングは、主に粉末状の市販のリチウム−二酸化コバルト(LiCoO)をセラミック材料として含み、以後、酸化リチウムコバルトまたはLCOと呼ばれる。200℃未満で乾燥させることによって溶媒を除去した後、焼成されていない、場合によっては依然として有機バインダー部分を含量する層、いわゆるグリーン層が得られる。
【0028】
第一のプロセスステップでは、このグリーン層を、引き続いて、二酸化炭素を任意に含む還元雰囲気中で約700℃の温度に加熱する。この場合、反応器内のこれらの還元雰囲気条件において、酸化リチウムコバルト中の3価のコバルトは、完全に、または、粉末粒子の表面だけが金属コバルトに還元される。副生成物は酸化リチウムであり、これは反応器の雰囲気と混合されているか、またはコーティング懸濁液中に混合されたバインダー部分のその場での熱分解に由来する二酸化炭素により炭酸リチウムに変換される。
【0029】
この反応生成物を同じ還元性雰囲気中で、約720℃である炭酸リチウムの融点を超える温度にさらに加熱することによって層の圧縮が起こり、場合によっては、炭酸リチウム及び金属コバルトに加えて、該溶融物は、場合によっては、固体の酸化リチウムを含むことができる。
【0030】
引き続いて設定される焼結温度は、炭酸リチウムの過度の熱分解を抑制し、その時に形成される酸化リチウムの蒸発を抑制するために、しばしば、さらに高いが、1000℃未満であるべきである。さもなければ、結果として生じる層のリチウムが乏しくなる。したがって、850℃未満の焼結温度が好ましく、特に好ましくは、約800℃の焼結温度に設定される。
【0031】
焼結されたLCO−カソード層を形成するために、第二の工程において、好ましくは、反応器雰囲気中へ酸素を添加することによって金属コバルを酸化コバルトに酸化し、これは、固体反応において、二酸化炭素の放出下で炭酸リチウムと反応して酸化リチウムコバルトになる。この最終的な再酸化工程は、第一のプロセスステップと同じ温度において、還元から酸化へ反応器雰囲気を単純に変えることによって、または400℃〜1000℃の温度範囲における別個のプロセスステップによって直接行うことができる。
【0032】
コーティング懸濁液に使用される酸化リチウムコバルト粉末の粒度は原則的に制限されない。しかしながら、本発明の範囲においては、カソード層の可能な限り高い圧縮を得るために、D50値が1μm未満の狭い粒度分布を有する粉末が、使用される。
【0033】
金属支持体上に均一な膜の厚さで酸化リチウムコバルトをベースとする層を設けるためのコーティング方法としては、例えば、流注、引き延ばし(Ziehen)、スピンコート、ディッピング、インクジェット印刷またはオフセット印刷のような公知の方法全てを、金属集電体に対して使用できる。ここで達成可能な層の厚さは、基本的にいかなる制約も受けない。
【0034】
本発明のさらに好ましい一実施形態では、使用される懸濁化剤に可溶なリチウム化合物およびコバルト化合物、またはそれの塩がコーティング懸濁液に追加的に混合される。この添加により、第一のプロセスステップでLCO層を固化させるのに必要な炭酸リチウムおよび金属コバルトの融解物は、主としてこれらの化合物から形成されるため、層を固化するためにLCO粉末粒子を過剰にまたは完全に融解する必要はない。
【0035】
さらに、コーティング懸濁液中のこれらの金属化合物は、通常、バインダーとして機能し、グリーン層の必要な圧縮を提供し、それ故、有機バインダー系の添加を不要にする。
【0036】
この場合、原則的に、これらの金属の可溶性の塩の全て、例えば、硝酸塩を使用することができるが、好ましくは、カルボン酸塩、特に好ましくは、プロピオン酸塩が使用され、これらは、還元性雰囲気下で熱分解して二酸化炭素を生成して炭酸リチウムを生成することができる。この場合、還元性雰囲気に二酸化炭素を添加する必要はない。
【0037】
熱分解の間に二酸化炭素を生成しない化合物および塩を使用する場合、あるいは、焼結を低減する第一のサブプロセスにおいて、溶融炭酸リチウムの形成を確実にするために、還元性雰囲気、例えば、反応器ガスに、好ましくは二酸化炭素を混ぜ合わせることができる。
【0038】
コーティング懸濁液中に混合されたリチウム化合物およびコバルト化合物の割合は、この場合、第二のプロセスステップでの再酸化の後に可能な限り最も相純粋な生成物を得るために、LCOの化学量論的リチウム対コバルト比に対応するべきである。しかしながら、リチウムの損失を補うために、使用される金属集電体のリチウムについての容量に依存して、コーティング懸濁液を、使用されるリチウム化合物の形態のリチウムと過剰の化学量論的量で混合することもできる。異なる金属は、一般に、Liについて異なる容量を有する。これは、集電体としての非金属にも当てはまる。使用される焼結条件に依存して、高温(800℃以上かつ長い焼結時間)においては、層からリチウムチオ酸化物が蒸発してしまい、これもまたリチウム損失を招く。
【0039】
これらの可溶性のリチウム化合物およびコバルト化合物、またはコーティング懸濁液中のそれらの塩の質量割合は、基本的には限定されないが、典型的には5〜30重量%である。好ましくは、LCOの全質量に基づいて約20質量%の、リチウム化合物およびコバルト化合物の形態のコーティングスリラー中へ混合され、ここで、この固形分の割合は、これらの前駆体の還元分解およびその後の再酸化の後のLCO質量当量として計算される。第一の工程においてグリーン層が固化する際に、焼結層にクラックを生じさせ得る過剰なガスが発生するのを防ぐために、約10重量%の質量割合を使用することが特に好ましい。
【0040】
本発明による方法において使用される懸濁化剤は、好ましくは、例えば、メタノールまたはエタノールのような低級アルコールであり、金属集電体フィルム上におけるコーティング懸濁液の良好な濡れ性を保証する。しかしながら、選択されたリチウム化合物およびコバルト化合物について十分な溶解性を有する他の溶媒を使用することもできる。
【0041】
本発明のさらなる実施形態では、リチウム化合物およびコバルト化合物またはその塩に加えて、あるいはその代わりに、固体電解質、例えば、ニオブ酸リチウムまたはジルコン酸リチウムランタンをコーティング懸濁液に混合し、これは、焼結カソード層内のリチウムイオン伝導性を改善し、したがって、このカソードを備えた電池の達成可能な電流密度を同程度に増加させる。LCO質量に基づく固体電解質の重量割合は基本的に限定されない。しかし、得られるカソード層の十分に高い容量を確保するためには50重量%以下でなければならない。
【0042】
可能な限り高い分布、およびそれによるカソード層における有効性を得るために、使用される固体電解質の粒径は原理的には限定されないが、D50値が1μm未満の狭い粒度分布を有する粉末が好ましい。しかしながら、この理由から、分散液の形態で特に簡単な方法でコーティング懸濁液と混合できるこの化合物のナノ粒子を使用することが特に好ましい。
【0043】
原則的に、選択された焼結温度または還元性雰囲気において十分な安定性を有し、かつ、カソード材料と機能を低下させる反応生成物を形成しない全ての化合物を固体電解質として使用することができる。
【0044】
第一のプロセスステップにおける還元焼結における反応器雰囲気中の酸素分圧は、1000ppm未満、好ましくは、1ppm未満、特に好ましくは、0.1ppm未満でなければならない。逆に、第二のプロセスステップにおける固化した層の再酸化において、炉ガス中の酸素含有量は、1000ppm超、好ましくは10000ppm超、特に好ましくは100000ppm超でなければならない。
【0045】
原則的に、焼結プロセス中に機能を低下させる反応生成物を形成せず、かつ、リチウムの吸収能力がほとんどまたは全くない金属およびそれらの合金の全てが、集電体の基材として使用することができる。例えば、材料番号1.4767のAluchrom HFまたは金属クロム、特に好ましくは、サブミクロンのクロム層で被覆された1.4767からなる薄膜のような、耐熱性かつ耐酸化性ステンレス鋼が好ましい。
【0046】
本発明によれば、この方法は、金属支持体フィルム上における焼結されたLCO層の製造に限定されず、材料の圧縮に使用され、その後の再酸化で元の組成に再形成される可溶性反応生成物が、セラミック材料の還元的変換によって形成される場合にはいつでも使用することができる。
【0047】
この場合、焼結された材料は、セラミック成形体、あるいは金属由来またはセラミック由来の基材上の層であってもよい。不均一の組成を有する複合材料の焼結も可能であり、その場合、少なくとも一つの成分が、還元性のプロセスステップにおいて固化に必要な溶融可能な反応生成物を提供する。当然ながら、これらの複合材料は、コーティング懸濁液中の可溶性金属前駆体を使用することによって製造することもでき、第二のプロセスステップでの熱分解およびその後の酸化の後に、これは、第二の元の粉末成分とは異なる組成を有する。
【0048】
本発明の本質的な特徴は、還元性の反応器雰囲気を前提とする、第一のプロセスステップにおける、堆積されたグリーン層の反応性の固化である。このため、このプロセスステップでは、慎重に調節し、かつ、場合によっては、反応器ガスの酸素分圧を監視する必要がある。また、焼結された酸化リチウムコバルト層は吸湿性であるため、それらは保護ガス雰囲気下で輸送または貯蔵されるべきであることにも留意すべきである。
【0049】
特に有利な実施形態では、製造されるリチウムイオン電池において達成可能な電流密度を高めるために、電解質ナノ粒子の形態で固体電解質がLCO層に混合される。これらのナノ粒子の合成は、湿気に感応性の前駆体が使用されるゾル−ゲル法によって特に簡単な方法で実施することができる。したがって、当業者は、保護ガスの下でこれらのナノ粒子の製造を可能にする利用可能な設備を有するべきである。
【0050】
本発明による方法では、焼結されたセラミック材料は、セラミック成形体、およびその基材が金属由来またはセラミック由来の層のいずれとすることもできる。さらに、本発明による方法では、焼結されたセラミック材料は、複合材料の形態で不均質な組成を有することができ、ここで、少なくとも一つの成分は、還元性の第一のプロセスステップにおける固化および焼結に必要な溶融可能な反応生成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、走査電子顕微鏡写真における、Aluchrom集電体上の焼結されたLCO/LNO複合カソード層の多孔質形態の横断面の写真を示している。
図2図2は、100サイクル後に16%の容量損失が観察され得るサイクル数の関数としての具体的な容量の推移を示している。
【発明を実施するための形態】
【0052】
達成可能な電流密度を高めるためにニオブ酸リチウムの形態の固体電解質を依然として含む金属集電体フィルム上に強固に接着した焼結された酸化リチウムコバルトをベースとするカソード層の本発明による製造は、主として市販のLCO粉末を含有するコーティング懸濁液に、厚さ50μmの材料番号1.4767のAluchrom HFステンレス鋼シートのスプレーコーティングによって簡単な方法で行うことができる。これに続いて、還元性雰囲気下で800℃で反応性固化させ、続いて同じ温度で酸素で再酸化する。ここで得られる複合材料の電気化学的特性を改善するために、Aluchrom HFシートを、前もって無線周波数のマグネトロンスパッタリングプロセスにより、最初に200nmの厚さの窒化クロム層で、次に約50nmの厚さのクロム層でスパッタリングした。
【0053】
35重量%の固形分含有量を有する、コーティングに特に適したスラリーは、約1μmのD50値を有する粉砕された市販のLCO粉末およびニオブ酸リチウムナノ粒子に加えて、プロピオン酸リチウムおよびプロピオン酸コバルトの混合物を、80/10/10重量%の質量比で使用し、ここで、該プロピオン酸塩−前駆体の固形分割合は、還元性のか焼きとそれに続く化学量論的混合物の再酸化の後のLCO質量当量で計算した。
【0054】
この目的のために必要とされるニオブ酸リチウム(LNO)−ナノ粒子の製造は、マイクロエマルジョン補助合成によって安定した分散液として直接得ることができ、例えば、次のように記載できる。典型的な固形分含有量が5重量%である100gのニオブ酸リチウム(LiNbO)分散液を合成するために、金属リチウム0.235gおよび新たに蒸留されたニオブペンタエトキシド10.763gを、アルゴン雰囲気下、室温で、70.83gのメタノール中に溶解した。この湿気に感応性の前駆体溶液の、化学量論量の水によるその後の加水分解は、2.72重量%のヘキサデシルアミン、3.57重量%のメトキシ酢酸、10.06重量%の蒸留水、7.76gの1−ペンタノールおよび75.89重量%のシクロヘキサンからなる18.173gのマイクロエマルションをゆっくりと滴下することによって行われる。マイクロエマルションの添加が完了した後、実質的に単分散の粒径分布および平均粒径3nmを有する、光学的に等方性の、ほぼ水で透明なニオブ酸リチウム分散液が直接得られる。
【0055】
35重量%の固形分含有量を有する本発明によるコーティング懸濁液100gを製造するために、ボールミルを用いて約1μmの平均粒径(D50値)に粉砕した市販のLCO粉末28g、プロピオン酸コバルト(II)7.34gおよびプロピオン酸リチウム(焼結プロセス中のリチウム損失を補うために15重量%過剰)3.29gを、約50gのメタノール中に溶解または懸濁した。固形分含有量が5重量%のニオブ酸リチウム分散液70gをこの懸濁液に滴下し、混合物を約24時間撹拌する。
【0056】
均質化後、得られた低粘度スラリーが、90gの質量に達するまで溶媒の一部を蒸発させる。最後に、この混合物を10gの1−ブタノールに添加し、これを増粘剤として作用させて、懸濁液中のLCO粉末の急速な沈降を抑制し、再度2時間撹拌する。得られたわずかに粘性のあるスラリーは、圧縮空気駆動スプレーガンによって金属集電体フィルムをスプレーコーティングするために直接使用することができる。
【0057】
懸濁化剤を完全に除去するために200℃の乾燥オーブンで2時間乾燥させた後、第一のプロセスステップにおけるLCOグリーン層の反応性の固化を、約10cm/分の流速で流れるアルゴン下、かつ、0.1ppmの酸素分圧下において、約20K/秒の加熱速度で気密オーブン中で複合材料を800℃まで急速に加熱することにより行う。
【0058】
800℃で10分間エージング(Auslagerung)した後、第二のプロセスステップで今や圧縮されたカソード層を同じ温度で再酸化するために、反応器ガスが100,000ppmのO濃度を有するまでの量の酸素を添加する。LCO相の形成を完了するために、複合層をこれらの条件でさらに10分間エージングする。
【0059】
同様に約20K/秒の冷却速度で冷却した後に得られた、青−灰色の亀裂のないLCO/LNOカソード層をアルゴン下で、さらに使用するまでに貯蔵する。図1は、走査電子顕微鏡写真における、Aluchrom集電体上の焼結されたLCO/LNO複合カソード層の多孔質形態の横断面の写真を示している。
【0060】
電気化学的活性を検証するために、本発明による複合カソード層を用い、アルゴン下で、エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートからなる混合物中に溶解した液体リチウムヘキサフルオロホスフェート電解質、およびアノードとしての金属リチウムフィルムを用いて半電池を組み立てた。次いで、室温で0.5Cの電流密度で3.0〜4.2Vの電圧範囲で、該電池を100回充放電させた。図2は、この場合の、100サイクル後に16%の容量損失が観察され得るサイクル数の関数としての具体的な容量の推移を示している。
図1
図2
【国際調査報告】