(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-511898(P2019-511898A)
(43)【公表日】2019年4月25日
(54)【発明の名称】自動車の電動機の電流モード制御を診断するプロセス
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20190329BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-554083(P2018-554083)
(86)(22)【出願日】2017年4月10日
(85)【翻訳文提出日】2018年12月12日
(86)【国際出願番号】FR2017050856
(87)【国際公開番号】WO2017178744
(87)【国際公開日】20171019
(31)【優先権主張番号】1653344
(32)【優先日】2016年4月15日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】398050939
【氏名又は名称】コンティネンタル オートモーティヴ フランス
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive France
(71)【出願人】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル パレット
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770GA03
5H770GA04
5H770HA02Y
5H770LB02
5H770LB05
(57)【要約】
本発明の対象は、制御信号によって制御される三相電動機の電流モードの制御における障害を診断する方法である。この方法によれば、電動機の各相について補償された時間的オフセットと、電動機の3つの相に共通する事前に求められた測定誤差と、所定の時点に3つのトランジスタペアのトランジスタを介して流れる電流の振幅値とに基づき、前述の所定の時点に3つの制御信号各々に存在する実際のデッドタイムを計算することができるようになり(E5)、このようにすることで、計算された差の絶対値が予め定められた検出閾値よりも大きければ、電動機の制御における障害を検出できるようになる(E10)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相電動機(2)の制御における障害を診断する方法であって、
前記電動機(2)の各相は、制御信号(U,V,W)により制御される電流モードであり、
前記制御信号(U,V,W)はパルス幅変調されており、乗物のバッテリに接続された「ハイステージ」トランジスタと、アースに接続された「ローステージ」トランジスタとにより形成されたアセンブリの中点において、前記ハイステージトランジスタが受け取ったハイステージ信号(SEH1)と、前記ローステージトランジスタが受け取ったローステージ信号(SEB1)とに基づき生成され、
前記ハイステージ信号(SEH1)および前記ローステージ信号(SEB1)は、他方の信号に対して反転されたパルス幅変調信号であり、該パルス幅変調信号のうち前記ハイステージ信号(SEH1)のハイ状態各々は、前記ローステージ信号(SEB1)の1つのロー状態においてセンタリングされており、
当該方法は、
・前記電動機(2)の1つの相を制御するための制御信号(U,V,W)各々について、
−前記ハイステージ信号(SEH1)と前記ローステージ信号(SEB1)とを生成するステップ(E1)であって、前記ハイステージ信号のハイ状態の始点(t2)を、前記ローステージ信号の対応するロー状態の始点(t2)に対し、「挿入デッドタイム」と称する期間(MotPwmDiffTheo)だけ時間的にオフセットさせるステップ(E1)と、
−生成された前記ハイステージ信号(SEH1)と前記ローステージ信号(SEB1)とに基づき前記制御信号(U,V,W)を生成するステップ(E3)と、
−前記制御信号を測定し成形するステップ(E4)と、
−生成された前記ハイステージ信号の1つのハイ状態を前記挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)の値に加算した期間(MotPwmExpected)と、成形済み制御信号(MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW)の期間(MotPwmFbk)との差(MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffW)を計算するステップ(E5)であって、前記差(MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffW)は時間(t)と共に正弦波状に変化する、ステップと、
−計算された前記差(MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffW)を、該差がゼロ値を中心に時間(t)と共に振動するように補償するステップ(E6)と、
・前記電動機(2)の各相について補償された時間的オフセット(MotPwmDiffCorrU, MotPwmDiffCorrV, MotPwmDiffCorrW)と、前記電動機(2)の3つの相に共通する事前に求められた測定誤差(MotPwmDiffInitial)と、所定の時点に3つのトランジスタペアの前記トランジスタを介して流れる電流(I)の振幅値とに基づき、前記所定の時点に3つの前記制御信号各々に存在する実際のデッドタイム(MotPwmDiffCalc)を計算するステップ(E8)と、
・計算された前記デッドタイム(MotPwmDiffCalc)と前記挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)との差(D)を計算するステップ(E9)と、
・計算された前記差(D)の絶対値が予め定められた検出閾値(SD)よりも大きければ、前記電動機(2)の制御における障害を検出するステップ(E10)と、
を含む、
三相電動機(2)の制御における障害を診断する方法。
【請求項2】
前記電動機(2)の3つの相に共通する前記測定誤差(MotPwmDiffInitial)を求めるステップ(E7)を含んでおり、該求めるステップの動作を、前記電動機(2)の各相について、前記ハイステージトランジスタおよび前記ローステージトランジスタを介してゼロ電流が流れるときに計算された前記時間的オフセットの平均をとることにより実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
所定の時点に3つの前記成形済み制御信号(MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW)各々における前記実際のデッドタイムを計算する動作は、
電流(I)に対する前記デッドタイム(TM)の変化を表す直線の勾配(A)を計算することと、
事前に求められた前記測定誤差(MotPwmDiffInitial)について補正された前記挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)の値と、計算された前記勾配(A)の値に基づく所定の電流(I)の振幅のときの前記デッドタイムの値との差を計算することと、
を含む、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
電流に対する前記デッドタイムの変化を表す前記直線の勾配(A)を、次式
【数1】
に従って計算し、
ただし、MotPwmDiffLinInitは電流閾値IphAmpLinThrに相当する前記デッドタイムの値であり、該電流閾値IphAmpLinThrから前記デッドタイムは電流と共に線形に変化し、IphAmpMaxは電流の最大振幅値である、
請求項3記載の方法。
【請求項5】
事前に求められた前記測定誤差(MotPwmDiffInitial)の半分について補正された前記挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)の値と、所定の電流(I)の振幅のときの前記デッドタイム(TM(I))の値との差(MotPwmDiffIphCorr)を、次式
【数2】
に従って計算する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記実際のデッドタイム(MotPwmDiffCalc)を、次式
【数3】
に従って計算し、
ただし、
【数4】
である、
請求項4記載の方法。
【請求項7】
三相電動機(2)の制御における障害を診断する装置(1)であって、
前記電動機(2)の各相は、制御信号(U,V,W)により制御される電流モードであり、
前記制御信号(U,V,W)はパルス幅変調されており、乗物のバッテリ(B)に接続された「ハイステージ」トランジスタと、アースに接続された「ローステージ」トランジスタとにより形成されたアセンブリの中点において、前記ハイステージトランジスタが受け取ったハイステージ信号(SEH1)と、前記ローステージトランジスタが受け取ったローステージ信号(SEB1)とに基づき生成され、
前記ハイステージ信号(SEH1)および前記ローステージ信号(SEB1)は、他方の信号に対して反転されたパルス幅変調信号であり、該パルス幅変調信号のうち前記ハイステージ信号(SEH1)のハイ状態各々は、前記ローステージ信号(SEB1)の1つのロー状態においてセンタリングされており、
当該装置(1)は、
・前記電動機(2)の1つの相を制御するための各制御信号(U,V,W)について、ハイステージ信号(SEH1)とローステージ信号(SEB1)とを生成するように構成されたマイクロコントローラ(100)であって、ハイステージ信号のハイ状態の始点(t2)は、前記ローステージ信号(SEB1)の対応するロー状態の始点(t2)に対し、「挿入デッドタイム」(MotPwmDiffTheo)と称する期間だけ時間的にオフセットされる、マイクロコントローラ(100)と、
・前記ハイステージ信号(SEH1)と前記ローステージ信号(SEB1)とを増幅するように構成された増幅器(200)と、
・増幅されたハイステージ信号(SEH1)とローステージ信号(SEB1)とから成るペアに基づき、前記電動機(2)の各位相について制御信号(U,V,W)を生成するように構成されたインバータ(300)と、
・生成された前記制御信号(U,V,W)を測定および成形するように構成された測定モジュール(400)と、
を備え、
前記マイクロコントローラ(100)はさらに、
・前記電動機(2)の1つの相を制御するための制御信号(U,V,W)各々について、生成された前記ハイステージ信号(SEH1)の1つのハイ状態を前記挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)の値に加算した期間と、成形済み制御信号(MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW)の期間(MotPwmFbk)との差(MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffW)を計算し、ただし前記差(MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffW)は、時間(t)と共に正弦波状に変化し、
・前記電動機(2)の1つの相を制御するための制御信号(U,V,W)各々について、計算された前記差(MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffW)を、該差がゼロ値を中心に時間(t)と共に振動するように補償し、
・前記電動機(2)の各相について補償された時間的オフセット(MotPwmDiffCorrU, MotPwmDiffCorrV, MotPwmDiffCorrW)と、前記電動機(2)の3つの相に共通する事前に求められた測定誤差(MotPwmDiffInitial)と、所定の時点に3つのトランジスタペアの前記トランジスタを介して流れる電流(I)の振幅値とに基づき、前記所定の時点に3つの前記制御信号各々に存在する実際のデッドタイム(MotPwmDiffCalc)を計算し、
・計算された前記デッドタイム(MotPwmDiffCalc)と前記挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)との差(D)を計算し、
・計算された前記差(D)の絶対値が予め定められた検出閾値(SD)よりも大きければ、前記電動機(2)の制御における障害を検出する
ように構成されている、
三相電動機(2)の制御における障害を診断する装置(1)。
【請求項8】
前記電動機(2)の3つの相に共通する前記測定誤差(MotPwmDiffInitial)を求めるように構成されており、該求める動作は、前記電動機(2)の各相について、前記ハイステージトランジスタおよび前記ローステージトランジスタを介してゼロ電流が流れるときに計算された時間的オフセットの平均をとることにより実施される、請求項7記載の装置(1)。
【請求項9】
所定の時点に3つの前記成形済み制御信号(MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW)各々における前記実際のデッドタイム(MotPwmDiffCalc)を計算するために、電流(I)に対する前記デッドタイムの変化を表す直線の勾配(A)を計算し、さらに事前に求められた前記測定誤差(MotPwmDiffInitial)について補正された前記挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)の値と、計算された前記勾配(A)の値に基づく所定の電流(I)の振幅のときの前記デッドタイムの値との差を計算するように構成されている、請求項7および8のいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項10】
電流(I)に対する前記デッドタイムの変化を表す前記直線の勾配(A)は、次式
【数5】
に従って計算され、
ただし、MotPwmDiffLinInitは電流閾値IphAmpLinThrに相当する前記デッドタイムの値であり、該電流閾値IphAmpLinThrから前記デッドタイムは電流と共に線形に変化し、IphAmpMaxは電流の最大振幅値であり、
事前に求められた前記測定誤差(MotPwmDiffInitial)の半分について補正された前記挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)の値と、所定の電流(I)の振幅のときの前記デッドタイム(TM(I))の値との差(MotPwmDiffIphCorr)を、次式
【数6】
に従って計算し、
監視される前記デッドタイム(MotPwmDiffCalc)を、次式
【数7】
に従って計算し、
ただし、
【数8】
である、
請求項9記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の分野に関するものであり、さらに詳しくは自動車の電動機の電流モード制御を診断する方法に関する。本発明は特に、三相電動機の電流モード制御に適用される。
【背景技術】
【0002】
三相電動機を備えた自動車の場合、電動機は、周知のように制御装置により供給される三相交流電流モード制御信号を用いることで制御される。
【0003】
図1に示した1つの既存の解決手段によれば、装置1Aは、マイクロコントローラ10と、増幅器20と、インバータ30の形態をとる電力段とを備えており、これによって電動機2を制御する電流モードのためにこれら3つの信号U,V,Wを生成することができる。
【0004】
より具体的には、マイクロコントローラ10は最初に、6つの低振幅のパルス幅変調(PWM)された交流基本信号(電動機2の相ごとに2つ)を発生し、これらの信号の振幅は、マイクロコントローラ10の電力供給信号の振幅、例えば5Vのオーダの振幅に相当する。これらの信号各々は、ハイ状態(またはアクティブ状態)とロー状態(または非アクティブ状態)との間で交番する。
【0005】
これらの信号は、次に増幅器20によって、(車両のバッテリ電圧Bが例えば10Vのオーダのものであれば)例えば20Vのオーダの振幅に達するように増幅され、その後、インバータ30に伝達される。インバータ30は、電動機2を制御する電流モードのために3つの信号U,V,Wを出力として供給し、これらの信号もハイ状態とロー状態との間で交番する。次いで、電動機2の各相は、周知のように、2つ1組で3つの制御信号U,V,Wのうち2つの制御信号間に存在するオフセットによって制御される。
【0006】
この目的で、インバータ30は、3つのMOSFETトランジスタペアを有しており、これら各々は、電動機2を制御する電流モードのために3つの信号U,V,Wのうち1つの信号を生成する。各トランジスタペアのトランジスタのうち一方のトランジスタ(ハイステージトランジスタ)は、車両のバッテリBの正の端子と接続されているのに対し、他方のトランジスタ(ローステージトランジスタ)はアースMと接続されている。1つのペアにおける2つのトランジスタは各々、増幅された基本信号を受け取り、これら2つの増幅された基本信号はセンタリングされている(すなわちパルスの中心が一致している)が反転されている。特に、これらの増幅された基本信号のパルスは、矩形ではなく、立ち上がり縁の勾配と立ち下がり縁の勾配とを有する。
【0007】
同じペアの2つのトランジスタが同時に電流を流すことができてしまうと、それによってバッテリ電圧がアースと接続されてしまい(短絡)、制御装置1Aをまたはそれどころか電動機2を損傷させてしまうおそれがあり、これを防止するために、マイクロコントローラ10は、所定のトランジスタペアのハイステージ向けの基本信号のパルスと、このペアのローステージ向けの基本信号に対応づけられたパルスとの間のデッドタイムを監視する。実際の運用においては、
図2に挙げた例に示すように、2つの信号SEH1とSEB1とが同時にアクティブ状態となるのを防止するために、2つのハイステージ信号SEH1とローステージ信号SEB1とがセンタリングされたままであるが、これら2つの基本信号のうち一方の信号(この例ではハイステージ信号SEH1)の幅が低減される。
【0008】
図3〜
図6には、(1つのPWM信号サイクルに関して示された)制御装置1Aの信号の例が示されている。より具体的には、
図3には、1つのトランジスタペアのうちハイステージトランジスタ向けにマイクロコントローラ10によって生成されたハイステージ信号SEH1が示されており、
図4には、このハイステージトランジスタの出力信号SEH2が示されており、
図5には、このトランジスタペアのうちローステージトランジスタ向けにマイクロコントローラ10によって生成されたローステージ信号SEB1が示されており、さらに
図6には、このローステージトランジスタの出力信号SEB2が示されている。したがって、
図3および
図5からわかるように、マイクロコントローラ10は、ローステージ信号SEB1のアクティブ状態の終点t
1とハイステージ信号SEH1のアクティブ状態の始点t
2との間のデッドタイムMotPwmDiffTheoを監視する。
図4からわかるように、ハイステージトランジスタは、このトランジスタの出力信号SEH2がアクティブ状態に達するまでに、開始遅延d
1およびこれに続く立ち上がり時間d
2を必要とし、次いでこのトランジスタが非アクティブ状態に切り替わるまでに、このトランジスタの非アクティブ化遅延d
3およびこれに続く出力信号SEH2の立ち下がり時間d
4を必要とする。同様に、
図6からわかるように、ローステージトランジスタは、このトランジスタの出力信号SEB2が非アクティブ状態に達するまでに、非アクティブ化遅延d
5およびこれに続く立ち下がり時間d
6を必要とし、次いでこのトランジスタがアクティブ状態に切り替わるまでに、このトランジスタの開始遅延d
7およびこれに続く出力信号SEB2の立ち上がり時間d
8を必要とする。
【0009】
1つのトランジスタペア向けの2つの基本信号間でマイクロコントローラ10により監視されるデッドタイムMotPwmDiffTheoを、以下では挿入デッドタイムと称するが、これは電動機2のパフォーマンスに悪影響を及ぼさないように500nsまでに制限される。具体的にいえば、デッドタイムMotPwmDiffTheoの期間が長くなると、その結果として電動機2を制御するための信号U,V,Wのハイ状態SEH1の幅が短くなり、このため電動機2の電流モード制御の効力が、特に500nsを超えるデッドタイムであると、小さくなる。
【0010】
電動機2の制御における障害を診断するために、制御信号中に存在する実際のデッドタイムを測定する実践手法が知られている。第1の既存の解決手段によれば、マイクロコントローラ10によって生成された6つの基本信号SEH1,SEB1が測定される。ただし、かかる解決手段によっても、マイクロコントローラ10によって挿入されたデッドタイムにおける障害、つまりマイクロコントローラ10自体の障害しか診断できない。しかしながら、マイクロコントローラ10によって基本信号SEH1,SEB1に挿入されたデッドタイムの期間が、増幅器20またはインバータ30によって変更される場合もあることが判明している。具体的にいえば、車両で使用する場合にはインバータ30のトランジスタが加熱する場合もあり、インバータ30によって出力された制御信号U,V,Wのデッドタイムの期間が変更されるかもしれず、これによって電動機2の電流モード制御に悪影響が及ぼされるおそれがある。したがって、第2の既存の解決手段によれば、装置1Aは測定モジュール40を有しており、この測定モジュール40が制御信号U,V,Wの立ち上がり時間を特定して、それらをマイクロコントローラ10によって生成された基本信号SEH1,SEB1の立ち上がり時間と比較する。しかしながらかかる解決手段によっても、マイクロコントローラ10における障害を検出することはできない。しかも、この種の計算にかかるレイテンシタイムによって、1マイクロ秒のオーダでしか、つまりデッドタイムの最大期間(500ns)の2倍でしか精度が得られず、その理由は特に、トランジスタを流れる電流、測定モジュール40に起因する測定誤差、電子フィルタによって入り込む遅延、ならびに基本信号SEH1,SEB1および制御信号U,V,Wの立ち上がり時間および立ち下がり時間の作用によって、デッドタイムに影響が及ぼされるからであり、これによって方法が不正確になり、またはそれどころかいい加減になり、したがってこれは大きな欠点となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、電動機を制御するための制御信号中に挿入されたデッドタイムを測定するための単純かつ信頼性のある効果的な解決手段を提供することによって、少なくとも部分的に上述の欠点を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的で、本発明の第1の対象は、三相電動機の制御における障害を診断する方法であって、この場合、前述の電動機の各相は、制御信号により制御される電流モードであり、前述の制御信号はパルス幅変調されており、乗物のバッテリに接続された「ハイステージ」トランジスタと、アースに接続された「ローステージ」トランジスタとにより形成されたアセンブリの中点において、ハイステージトランジスタが受け取ったハイステージ信号と、ローステージトランジスタが受け取ったローステージ信号とに基づき生成され、これらのハイステージ信号およびローステージ信号は、他方の信号に対して反転されたパルス幅変調信号であり、これらのパルス幅変調信号のうちハイステージ信号のハイ状態各々は、ローステージ信号の1つのロー状態においてセンタリングされており、
この方法は
・電動機の1つの相を制御するための制御信号各々について、
−ハイステージ信号とローステージ信号とを生成するステップであって、ハイステージ信号のハイ状態の始点を、ローステージ信号の対応するロー状態の始点に対し、「挿入デッドタイム」と称する期間だけ時間的にオフセットさせるステップと、
−生成されたハイステージ信号とローステージ信号とに基づき制御信号を生成するステップと、
−制御信号を測定し成形するステップと、
−生成されたハイステージ信号の1つのハイ状態を挿入デッドタイムの値に加算した期間と、成形済み制御信号の期間との差を計算するステップであって、前述の差は時間と共に正弦波状に変化する、ステップと、
−計算された差を、この差がゼロ値を中心に時間と共に振動するように補償するステップと、
・電動機の各相について補償された時間的オフセットと、電動機の3つの相に共通する事前に求められた測定誤差と、所定の時点に3つのトランジスタペアのトランジスタを介して流れる電流の振幅値とに基づき、前述の所定の時点に3つの制御信号各々に存在する実際のデッドタイムを計算するステップと、
・計算されたデッドタイムと挿入デッドタイムとの差を計算するステップと、
・計算された差の絶対値が予め定められた検出閾値よりも大きければ、電動機の制御における障害を検出するステップと、
を含む。
【0013】
本発明による方法によれば、挿入デッドタイムに対するトランジスタおよびフィルタの悪影響を考慮する目的で、実際のデッドタイムをリアルタイムに計算できるようになる。測定され成形された制御信号に基づき、実際のデッドタイムが正確に計算される。かくして、この方法によれば、制御信号における障害を効果的に検出する目的で、制御信号中に存在する実際のデッドタイムを、250nsのオーダの精度で測定できるようになる。
【0014】
本発明の1つの態様によれば、この方法は、電動機の3つの相に共通する測定誤差を求めるステップを含んでおり、この求めるステップの動作を、電動機の各相について、ハイステージトランジスタおよびローステージトランジスタを介してゼロ電流が流れるときに計算された時間的オフセットの平均をとることにより実施する。
【0015】
有利には、所定の時点に3つの成形済み制御信号各々における実際のデッドタイムを計算する動作は、
電流に対するデッドタイムの変化を表す直線の勾配を計算することと、
事前に求められた測定誤差について補正された挿入デッドタイムの値と、計算された勾配の値に基づく所定の電流の振幅のときのデッドタイムの値との差を計算することと、
を含む。
【0016】
さらに有利には、電流に対するデッドタイムの変化を表す直線の勾配は、次式に従って計算される。
【数1】
ただし、MotPwmDiffTheoは挿入デッドタイムであり、MotPwmDiffInitialは電動機の3つの相に共通する測定誤差であり、MotPwmDiffLinInitは電流閾値IphAmpLinThrに相当するデッドタイムの値であり、この電流閾値からデッドタイムは電流と共に線形に変化し、IphAmpMaxは電流の最大振幅値である。
【0017】
好ましくは、事前に求められた測定誤差の半分について補正された挿入デッドタイムの値と、所定の電流の振幅のときのデッドタイムの値との差が、次式に従って計算される。
【数2】
ただし、ampl(i)は所定の電流(I)の振幅である。
【0018】
さらに好ましくは、実際のデッドタイムは次式に従って計算される。
【数3】
ただし、
【数4】
である。
【0019】
理論上の直線を使用することによって、デッドタイムの計算を250nsまたはそれよりも短いオーダの精度で計算できるように改善することができる。
【0020】
本発明は、三相電動機の制御における障害を診断する装置にも関する。この場合、前述の電動機の各相は、制御信号により制御される電流モードであり、前述の制御信号はパルス幅変調されており、乗物のバッテリに接続された「ハイステージ」トランジスタと、アースに接続された「ローステージ」トランジスタとにより形成されたアセンブリの中点において、ハイステージトランジスタが受け取ったハイステージ信号と、ローステージトランジスタが受け取ったローステージ信号とに基づき生成され、これらのハイステージ信号およびローステージ信号は、他方の信号に対して反転されたパルス幅変調信号であり、これらのパルス幅変調信号のうちハイステージ信号のハイ状態各々は、ローステージ信号の1つのロー状態においてセンタリングされており、
この装置は、
・電動機の1つの相を制御するための各制御信号について、ハイステージ信号とローステージ信号とを生成するように構成されたマイクロコントローラであって、ハイステージ信号のハイ状態の始点は、ローステージ信号の対応するロー状態の始点に対し、「挿入デッドタイム」と称する期間だけ時間的にオフセットされる、マイクロコントローラと、
・前述のハイステージ信号とローステージ信号とを増幅するように構成された増幅器と、
・増幅されたハイステージ信号とローステージ信号とから成るペアに基づき、電動機の各位相について制御信号を生成するように構成されたインバータと、
・生成された制御信号を測定および成形するように構成された測定モジュールと、
を備え、
マイクロコントローラはさらに、
・電動機の1つの相を制御するための制御信号各々について、生成されたハイステージ信号の1つのハイ状態を挿入デッドタイムの値に加算した期間と、成形済み制御信号の期間との差を計算し、ただしこの差は時間と共に正弦波状に変化し、
・電動機の1つの相を制御するための制御信号各々について、計算された差を、この差がゼロ値を中心に時間と共に振動するように補償し、
・電動機の各相について補償された時間的オフセットと、電動機の3つの相に共通する事前に求められた測定誤差と、所定の時点に3つのトランジスタペアのトランジスタを介して流れる電流の振幅値とに基づき、前述の所定の時点に3つの制御信号各々に存在する実際のデッドタイムを計算し、
・計算されたデッドタイムと挿入デッドタイムとの差を計算し、
・計算された差の絶対値が予め定められた検出閾値よりも大きければ、電動機の制御における障害を検出する
ように構成されている。
【0021】
本発明の1つの特徴によれば、この装置は、電動機の3つの相に共通する測定誤差を求めるように構成されており、この求める動作は、電動機の各相について、ハイステージトランジスタおよびローステージトランジスタを介してゼロ電流が流れるときに計算された時間的オフセットの平均をとることにより実施される。
【0022】
本発明の別の特徴によれば、所定の時点に3つの成形済み制御信号各々における実際のデッドタイムを計算するために、電流に対するデッドタイムの変化を表す直線の勾配を計算し、さらに事前に求められた測定誤差について補正された挿入デッドタイムの値と、計算された勾配の値に基づく所定の電流の振幅のときのデッドタイムの値との差を計算するように構成されている。
【0023】
さらに好ましくは、電流に対するデッドタイムの変化を表す直線の勾配は、次式に従って計算される。
【数5】
ただし、MotPwmDiffTheoは挿入デッドタイムであり、MotPwmDiffInitialは電動機の3つの相に共通する測定誤差であり、MotPwmDiffLinInitは電流閾値IphAmpLinThrに相当するデッドタイムの値であり、この電流閾値からデッドタイムは電流と共に線形に変化し、IphAmpMaxは電流の最大振幅値である。
【0024】
さらに好ましくは、事前に求められた測定誤差(MotPwmDiffInitial)の半分について補正された挿入デッドタイム(MotPwmDiffTheo)の値と、所定の電流Iの振幅のときのデッドタイム(TM(I))の値との差(MotPwmDiffIphCorr)は、次式に従って計算される。
【数6】
【0025】
有利には、監視されるデッドタイム(MotPwmDiffCalc)は次式に従って求められる。
【数7】
ただし、
【数8】
である。
【0026】
本発明は、上述のような装置を含む自動車にも関する。
【0027】
本発明のその他の特徴および利点は、添付の図面を参照した以下の説明を通じて明らかになるであろう。それらの図面は非限定的な例として挙げられたものであり、同様の対象には同じ参照符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】電動機を制御する電流モードのための信号を制御および診断するための従来技術による装置を概略的に示す図である。
【
図2】マイクロコントローラによって生成された初期ハイステージ信号および初期ローステージ信号の一例である。
【
図3】マイクロコントローラによって生成された初期ハイステージ信号の一例である。
【
図4】
図3の信号を受け取ったハイステージトランジスタの出力信号の一例である。
【
図5】マイクロコントローラによって生成された初期ローステージ信号の一例である。
【
図6】
図5の信号を受け取ったローステージトランジスタの出力信号の一例である。
【
図7】測定モジュールにより成形された制御信号の一例である。
【
図8】電動機を制御する電流モードのための信号を制御および診断するための本発明による装置を概略的に示す図である。
【
図9】電動機の3つの相のための初期信号の予想期間とハイ状態の期間との差における時間的変化を概略的に示す図である。
【
図10】ゼロを中心に変化するようにセンタリングされた、
図9の差を概略的に示す図である。
【
図11】電流に対する実際のデッドタイムの変化を概略的に示す図である。
【
図12】本発明による方法の1つの実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明による装置は、電動機を備えた自動車において、この電動機を制御する電流モードおよびこの電動機の制御における障害の診断のために取り付けられることが意図されている。
【0030】
図8を参照すると、電動機2は、3つの相U,V,Wを有する電動機または三相電動機であるが、いうまでもなく本発明を自動車のための任意の電動機に適用することができる。
【0031】
電動機2の各相U,V,Wは、制御装置1Bにより生成される個々の制御信号U,V,Wによって制御される電流モードである。
【0032】
この目的で、制御装置1Bは、マイクロコントローラ100と、増幅器200と、インバータ300の形態をとる電力段とを有する。
【0033】
マイクロコントローラ100は、初期信号と称するパルス幅変調(PWM)された電圧信号の3つのペアを生成するように構成されており、見やすくするため、
図3および
図5には、これらのペアのうちただ1つのペアだけを示した。これら3つのペアのハイステージ信号は同一であるが、三相電動機2を制御できるように、互いに位相がシフトされており、それらのローステージ信号も同様である。より具体的には、電動機2は、初期信号SEH1,SEB1の3つのペアに基づき、インバータ300により生成された3つの電流モード制御信号U,V,W間の位相差によって制御される。
【0034】
初期信号の各ペアは、ハイステージ信号SEH1(
図3)とローステージ信号SEB1(
図5)とを有しており、これらの信号各々は、パルス幅変調され他方の信号に対し反転されており、かつこれらのペアのうちハイステージ信号SEH1のハイ状態各々は、ローステージ信号SEB1のロー状態においてセンタリングされている。
図3および
図5に示されているように、ハイステージ信号SEH1のハイ状態の始点t
2は、ローステージ信号SEB1の対応するロー状態の始点t
1に対し、「挿入デッドタイム」と称する期間MotPwmDiffTheoだけ時間的にオフセットされている。
【0035】
ただし、マイクロコントローラ100の能力では、低振幅の信号しか発生させることができない(マイクロコントローラ100は、5Vのオーダの電力供給信号に基づき動作する)ので、電動機2を制御するための制御信号U,V,Wを生成する目的でそれらの初期信号をインバータ300に供給する前に、それらを増幅する必要がある。
【0036】
増幅器200の役割は、マイクロコントローラ100により生成された初期信号SEH1,SEB1の3つのペアを、電動機2の制御のためにそれらの振幅が十分なものとなるよう、それらの信号をインバータ300に供給する前に増幅することにある。
【0037】
インバータ300は、増幅器200により供給された初期信号SEH1,SEB1の増幅された3つのペアに基づき、電動機2を制御するための3つの制御信号U,V,Wを生成するように構成されている。この目的で、
図8に示されているように、インバータ300は3つのトランジスタペアを有しており、これらのトランジスタペア各々の中点において電流モード制御信号U,V,Wが生成される。
【0038】
各制御信号U,V,Wは、パルス幅変調され、車両のバッテリBに接続された「ハイステージ」トランジスタとアースMに接続された「ローステージ」トランジスタとにより形成されたアセンブリの中点において、ハイステージトランジスタが受け取った増幅されたハイステージ信号SEH1とローステージトランジスタが受け取った増幅されたローステージ信号SEB1とに基づき生成される。
【0039】
制御信号中に存在する実際のデッドタイムは、マイクロコントローラ100により挿入されたデッドタイムとは異なっている。その理由は、制御装置1Bの電子部品特にインバータ300の電子部品によって、例えばインバータ300のトランジスタが加熱した場合などに、デッドタイムの実際の期間が変えられてしまうことによる。
【0040】
図3〜
図6には、(PWM信号サイクルに関して示された)制御装置の信号の例が示されている。より具体的には、
図3には、1つのトランジスタペアのうちハイステージトランジスタ向けにマイクロコントローラ100によって生成されたハイステージ信号SEH1が示されており、
図4には、このハイステージトランジスタの出力信号SEH2が示されており、
図5には、このトランジスタペアのうちローステージトランジスタ向けにマイクロコントローラ100によって生成されたローステージ信号SEB1が示されており、さらに
図6には、このローステージトランジスタの出力信号SEB2が示されている。したがって、
図3および
図5からわかるように、マイクロコントローラ100は、ローステージ信号SEB1のアクティブ状態の終点t
1とハイステージ信号SEH1のアクティブ状態の始点t
2との間のデッドタイムMotPwmDiffTheoを監視する。
図4からわかるように、ハイステージトランジスタは、このトランジスタの出力信号SEH2がアクティブ状態に達するまでに、開始遅延d
1およびこれに続く立ち上がり時間d
2を必要とし、次いでこのトランジスタが非アクティブ状態に切り替わるまでに、このトランジスタの非アクティブ化遅延d
3およびこれに続く出力信号SEH2の立ち下がり時間d
4を必要とする。同様に、
図6からわかるように、ローステージトランジスタは、このトランジスタの出力信号SEB2が非アクティブ状態に達するまでに、非アクティブ化遅延d
5およびこれに続く立ち下がり時間d
6を必要とし、次いで、このトランジスタがアクティブ状態に切り替わるまでに、このトランジスタの開始遅延d
7およびこれに続く出力信号SEB2の立ち上がり時間d
8を必要とする。
図7を参照すると、ハイステージ信号SEH1のハイ状態を(理論上の)挿入デッドタイムの期間に加算した期間が、MotPwmExpectedによって表されており、これを予想期間と称する。
【0041】
測定モジュール400は、インバータ300によって生成された制御信号U,V,Wを測定し、それらの信号を(それ自体周知であるように)マイクロコントローラ100が読み出して分析できる信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkWとして成形し、かつそれらの信号をフィードバックループ内でマイクロコントローラ100に供給するように構成されている。なお、制御信号U,V,Wおよび成形済み制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkWは、(測定モジュール400のフィルタに起因する僅かな遅延の範囲内で)デッドタイムと時間的オフセットの点でほぼ同一の特性を有する、ということを述べておきたい。
【0042】
図7には、
図3〜
図6の信号に関連づけられて成形された制御信号が示されている。この信号のハイ状態の期間MotPwmFbkは、信号値が最大閾値S
maxと交差した第1の時点と、信号値が最小閾値S
minと交差した第2の時点との間に規定されている。
【0043】
電動機2の1つの相の成形済み制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW各々について、マイクロコントローラ100は、予想期間MotPwmExpectedと成形済み制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkWのハイ状態の期間MotPwmFbkとの差MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffWを計算するように構成されており、この差MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffWは、時間と共に正弦波状に変化する。
【0044】
図9に示されているように、これらの差MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffWは、非ゼロ中央値を中心に時間と共に振動しており、この中央値は、特にインバータ300のトランジスタの加熱に起因する測定誤差に相当する。
【0045】
次に、電動機2の1つの相の成形済み制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW各々について、マイクロコントローラ100は、計算された差MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffWを、この差がゼロ値を中心に時間tと共に振動するよう補償するように構成されている。
図10に示されているように、マイクロコントローラ100は、電動機2を制御するための信号中に存在する実際のデッドタイムを表す信号を、時間と共にゼロを中心にセンタリングすることによって、このドリフトを補正する。
【0046】
マイクロコントローラ100は次に、所定の時点に3つの成形済み制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW各々に存在する実際のデッドタイムMotPwmDiffCalcを、以下に基づき計算するように構成されている。すなわち、
・電動機2の各相U,V,Wについて補償された時間的オフセットMotPwmDiffCorrU, MotPwmDiffCorrV, MotPwmDiffCorrW、
・電動機2の3つの相U,V,Wに共通する事前に求められた測定誤差、および
・前述の所定の時点に3つのトランジスタペアのトランジスタを介して流れる電流Iの振幅値。
【0047】
測定誤差は、電動機2の3つの相に共通する誤差である。これはマイクロコントローラ100によって、電動機2の各相のためのハイステージトランジスタおよびローステージトランジスタを介してゼロ電流が流れるときに計算された時間的オフセットの平均をとることにより求められる。
【0048】
マイクロコントローラ100は、到達可能な最大デッドタイムがマイクロコントローラ100によって理論的に挿入されたデッドタイムと等しいと仮定することにより、実際のデッドタイムを計算し、このデッドタイムから、ゼロ電流のときの3つの制御信号に共通する測定誤差の半分が減算される。
【0049】
インバータ300のトランジスタを介して流れる電流の振幅が、マイクロコントローラ100によって決定された最小電流閾値よりも大きいときに、実際のデッドタイムを計算することができる。具体的には、このケースでは、デッドタイムの補正値を、測定された電流振幅と、最大電流振幅と、電流に対するデッドタイムの変化勾配とに基づき計算することができる。
【0050】
所定の時点に3つの成形済み制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW各々における実際のデッドタイムMotPwmDiffCalcを求めるために、マイクロコントローラ100は、電流Iに対するデッドタイムTMの変化を表す直線の勾配Aを計算するように構成されている。
【0051】
図11を参照すると、このことを実現するために、マイクロコントローラ100は、電流Iに対するデッドタイムTMの変化を表す直線の勾配Aを、次式に従って計算するように構成されている。
【数9】
ただし、MotPwmDiffLinInitは電流閾値IphAmpLinThrに相当するデッドタイム値であり、この電流閾値IphAmpLinThrからデッドタイムTMは電流と共に線形に変化し、IphAmpMaxは電流の最大振幅値である。
【0052】
マイクロコントローラ100は、事前に求められた測定誤差MotPwmDiffInitialの半分について補正された挿入デッドタイムMotPwmDiffTheoの値と、所定の電流Iの振幅のときのデッドタイムTM(I)の値との差MotPwmDiffIphCorrを計算するように構成されており、これは次式に従って計算される。
【数10】
【0053】
マイクロコントローラ100は、監視されるデッドタイムMotPwmDiffCalcを次式に従って求めるように構成されている。
【数11】
ただし、
【数12】
である。
【0054】
マイクロコントローラ100は次に、事前に求められた測定誤差について補正された挿入デッドタイムMotPwmDiffTheoと、計算された勾配Aの値に基づき所定の電流Iの振幅のときに計算された実際のデッドタイムMotPwmDiffCalcの値との差Dの絶対値を計算するように構成されている。
【0055】
マイクロコントローラ100は最後に、計算された差Dの絶対値が予め定められた検出閾値SDよりも大きければ、電動機2の制御における障害を検出するように構成されている。
【0056】
次に、
図8〜
図12を参照しながら本発明について説明する。
【0057】
最初にステップE1において、マイクロコントローラ100は、3つの相のうちの1つに対応づけられたインバータ300の各トランジスタペアのために、初期ハイステージ信号SEH1と初期ローステージ信号SEB1とを生成する。
【0058】
ステップE2において、増幅器200は、電動機2の各相のために生成された初期ハイステージ信号SEH1と初期ローステージ信号SEB1とを増幅して、それらの信号をインバータ300へ伝達する。
【0059】
ステップE3において、インバータ300は各トランジスタペアのために、受け取って増幅した初期ハイステージ信号SEH1と増幅した初期ローステージ信号SEB1とに基づき、制御信号U,V,Wを生成する。
【0060】
次いでステップE4において、測定モジュール400は、電動機2を制御するためにインバータ300によって生成された電流制御信号U,V,Wを測定し、それらを成形済み制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkWとして成形する。
【0061】
次いでステップE5において、マイクロコントローラ100は、電動機2の各位相について、予想期間MotPwmExpectedと、成形済み制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkWの期間MotPwmFbkとの差MotPwmDiffU MotPwmDiffV, MotPwmDiffWを計算する。
【0062】
次いでステップE6において、マイクロコントローラ100は上述のように電動機2の各相について、計算された差MotPwmDiffU, MotPwmDiffV, MotPwmDiffWを、この差が時間tと共にゼロ値を中心に振動するように補償する。
【0063】
ステップE7において、マイクロコントローラ100は、電動機2の各相についてハイステージトランジスタおよびローステージトランジスタを介してゼロ電流が流れるときに計算された時間的オフセットの平均をとることにより、電動機2の3つの相に共通する測定誤差MotPwmDiffInitialを求める。なお、このステップE7をステップE1〜E6のうちの1つのステップに先立つ任意の時点に実行してよい、ということを述べておきたい。
【0064】
ステップE8において、マイクロコントローラ100は、電動機2の各相について補償された時間的オフセットMotPwmDiffCorrU, MotPwmDiffCorrV, MotPwmDiffCorrWと、電動機2の3つの相に共通する事前に求められた測定誤差MotPwmDiffInitialと、所定の時点に3つのトランジスタペアのトランジスタを介して流れる電流Iの振幅値とに基づき、前述の所定の時点に3つの制御信号各々に存在する実際のデッドタイムMotPwmDiffCalcを求める。
【0065】
所定の時点に3つの制御信号MotPwmFbkU, MotPwmFbkV, MotPwmFbkW各々において監視されるデッドタイムを求めることは、電流に対するデッドタイムの変化を表す直線の勾配Aを計算することを含む。
【0066】
電流に対するデッドタイムの変化を表す直線の勾配Aは、次式に従って計算される。
【数13】
ただし、MotPwmDiffLinInitは電流閾値IphAmpLinThrに相当するデッドタイムの値であり、この電流閾値IphAmpLinThrからデッドタイムは電流と共に線形に変化し、IphAmpMaxは電流の最大振幅値である。
【0067】
マイクロコントローラ100は、監視されるデッドタイムMotPwmDiffCalcを次式に従って求める。
【数14】
ただし、
【数15】
であり、MotPwmDiffIphCorrは、事前に求められた測定誤差MotPwmDiffInitialの半分について補正された挿入デッドタイムMotPwmDiffTheoの値と、所定の電流Iの振幅のときのデッドタイムTM(I)の値との差に相当し、これは次式に従って計算される。
【数16】
【0068】
ステップE9において、マイクロコントローラ100は、求められたデッドタイムMotPwmDiffCalcと、自身が挿入したのでマイクロコントローラ100には既知の値を有する挿入デッドタイムMotPwmDiffTheoとの差Dの絶対値を計算する。
【0069】
かくしてステップE10において、マイクロコントローラ100は、計算された差Dの絶対値が予め定められた検出閾値SDよりも大きければ、電動機2の制御における障害を検出する。
【0070】
本発明による方法によれば、有利には、電動機の電流モード制御における障害を250nsのオーダのハイレベルな精度で確実に診断できるようになり、それによって障害検出が効果的なものとなる。
【0071】
さらに自明のとおり、本発明は上述の例に限定されるものではなく、当業者であれば理解できるように数多くの変形実施形態が可能である。
【国際調査報告】