特表2019-512458(P2019-512458A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2019-512458RNAによって誘導された、ヒトJCウイルス及び他のポリオーマウイルスの根絶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-512458(P2019-512458A)
(43)【公表日】2019年5月16日
(54)【発明の名称】RNAによって誘導された、ヒトJCウイルス及び他のポリオーマウイルスの根絶
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20190419BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20190419BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20190419BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20190419BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20190419BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20190419BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20190419BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190419BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20190419BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20190419BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20190419BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20190419BHJP
   C12N 15/863 20060101ALI20190419BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20190419BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20190419BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20190419BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20190419BHJP
   C12N 15/37 20060101ALI20190419BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20190419BHJP
【FI】
   A61K31/713ZNA
   A61P31/12
   A61K31/7105
   A61K48/00
   A61K38/46
   A61K35/761
   A61K35/76
   A61P25/00
   C12N15/09 110
   C12N15/867 Z
   C12N15/861 Z
   C12N15/864 100Z
   C12N15/863 Z
   C12N15/85 Z
   C12Q1/68
   C12Q1/70
   C12N15/113 100Z
   C12N15/37
   C12N9/16 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2018-533914(P2018-533914)
(86)(22)【出願日】2017年1月24日
(85)【翻訳文提出日】2018年8月24日
(86)【国際出願番号】US2017014668
(87)【国際公開番号】WO2018106268
(87)【国際公開日】20180614
(31)【優先権主張番号】62/286,579
(32)【優先日】2016年1月25日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】518153438
【氏名又は名称】エクシジョン バイオセラピューティクス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】518154549
【氏名又は名称】テンプル ユニバーシティー オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202577
【弁理士】
【氏名又は名称】林 浩
(72)【発明者】
【氏名】カリリ カメル
(72)【発明者】
【氏名】マルコルム トーマス
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050LL01
4B050LL03
4B050LL10
4B063QA13
4B063QA19
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QQ34
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR14
4B063QR32
4B063QR35
4B063QS34
4B063QS38
4B063QX01
4C084AA02
4C084AA13
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4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087CA20
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、John Cunninghamウイルス(JVC)などのポリオーマウイルスを宿主細胞から除去し、進行性多巣性白質脳症(PML)などのポリオーマウイルス関連疾患を治療するための方法及び組成物を含む。該組成物は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ及びガイドRNAを含む単離核酸配列を含み、ガイドRNAはポリオーマウイルス中の標的配列に相補的である。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
John Cunninghamウイルス(JCV)をJCVに感染した宿主細胞から除去するのに使用するための組成物であって、
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列、及び
JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)
を含む、組成物。
【請求項2】
JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記少なくとも1個のgRNAが、前記JCV DNAのラージT抗原(T−Ag)コード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAとして更に定義される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記JCV DNAの前記T−Agコード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記少なくとも1個のgRNAが、前記T−Agコード領域のTM1領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、前記T−Agコード領域のTM2領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、前記T−Agコード領域のTM3領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、又は前記gRNAの任意の組合せを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼが、野生型Cas9、ヒト最適化Cas9、ニッカーゼ変異Cas9、SpCas9(K855a)、SpCas9(K810A/K1003A/r1060A)又はSpCas9(K848A/K1003A/R1060A)から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記TM1領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m1であり、前記TM2領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m2であり、前記TM3領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m3である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記gRNA M1の前記スペーサー配列が配列番号1、2、3又は4を含めた標的配列に相補的であり、前記gRNA m2の前記スペーサー配列が配列番号5、6、7又は8を含めた標的配列に相補的であり、前記gRNA m3の前記スペーサー配列が配列番号9、10、11又は12を含めた標的配列に相補的である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼがCpf1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
John Cunninghamウイルス(JCV)をJCVに感染した宿主細胞から除去する方法であって、
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼとJCV DNA中の標的配列に相補的であるスペーサー配列を有する少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)とを含む組成物で前記宿主細胞を処理するステップ、及び
前記JCVを前記宿主細胞から除去するステップ
を含む、方法。
【請求項9】
JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAが、前記JCV DNAのラージT抗原(T−Ag)コード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAとして更に定義され、前記方法が、さらに、前記処理するステップ後に、T−Agのコード領域に位置する前記JCV DNAの少なくとも1個のセグメントを欠失させるステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記JCV DNAの前記T−Agコード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記少なくとも1個のgRNAが、前記T−Agコード領域のTM1領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、前記T−Agコード領域のTM2領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、前記T−Agコード領域のTM3領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、又は前記gRNAの任意の組合せを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼが、野生型Cas9;ヒト最適化Cas9;ニッカーゼ変異Cas9;SpCas9(K855a);SpCas9(K810A/K1003A/r1060A);SpCas9(K848A/K1003A/R1060A);SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A L169A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A Y450A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A M495A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A M694A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A H698A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、L169A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、Y450A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M495A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M698A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、L169A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A Y450A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A M495A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A M694A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A H698A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E L169A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E Y450A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E M495A;又はSpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694Aから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記TM1領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m1であり、前記TM2領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m2であり、前記TM3領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m3である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
gRNA m1の前記スペーサー配列が配列番号1、2、3又は4を含めた標的配列に相補的であり、前記gRNA m2の前記スペーサー配列が配列番号5、6、7又は8を含めた標的配列に相補的であり、前記gRNA m3の前記スペーサー配列が配列番号9、10、11又は12を含めた標的配列に相補的である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼがCpf1である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
John Cunninghamウイルス(JCV)をJCVに感染した宿主細胞から除去するのに使用するためのベクター組成物であって、
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列、及び
JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)
を含み、
前記単離核酸配列が少なくとも1個の発現ベクターに含まれ、
前記少なくとも1個の発現ベクターが、宿主細胞中の前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼ及び前記少なくとも1個のgRNAの発現を誘導する、
ベクター組成物。
【請求項16】
JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記少なくとも1個のgRNAが、前記JCV DNAのラージT抗原(T−Ag)コード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAとして更に定義される、請求項15に記載のベクター組成物。
【請求項17】
前記JCV DNAの前記T−Agコード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記少なくとも1個のgRNAが、前記T−Agコード領域のTM1領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、前記T−Agコード領域のTM2領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、前記T−Agコード領域のTM3領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、又は前記gRNAの任意の組合せを含む、請求項16に記載のベクター組成物。
【請求項18】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼが、野生型Cas9;ヒト最適化Cas9;ニッカーゼ変異Cas9;SpCas9(K855a);SpCas9(K810A/K1003A/r1060A);SpCas9(K848A/K1003A/R1060A);SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A L169A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A Y450A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A M495A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A M694A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A H698A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、L169A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、Y450A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M495A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M698A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、L169A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A Y450A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A M495A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A M694A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A H698A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E L169A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E Y450A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E M495A;又はSpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694Aから選択される、請求項17に記載のベクター組成物。
【請求項19】
前記TM1領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m1であり、前記TM2領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m2であり、前記TM3領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m3である、請求項18に記載のベクター組成物。
【請求項20】
前記gRNA m1の前記スペーサー配列が配列番号1、2、3又は4を含めた標的配列に相補的であり、前記gRNA m2の前記スペーサー配列が配列番号5、6、7又は8を含めた標的配列に相補的であり、前記gRNA m3の前記スペーサー配列が配列番号9、10、11又は12を含めた標的配列に相補的である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼCas9がCpf1である、請求項15に記載の組成物。
【請求項22】
前記発現ベクターが、レンチウイルス発現ベクター、薬剤誘発性レンチウイルス発現ベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ポックスウイルスベクター及びプラスミドベクターからなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項23】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼ及び前記少なくとも1個のgRNAが単一の発現ベクターに組み込まれる、請求項15に記載の発現ベクター組成物。
【請求項24】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼと前記少なくとも1個のgRNAが別々のレンチウイルス発現ベクターに組み込まれる、請求項15に記載の発現ベクター組成物。
【請求項25】
John Cunninghamウイルス(JCV)感染のリスクがある患者の細胞のJCV感染を予防する方法であって、
患者がJCV感染のリスクがあることを判定するステップ、
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼをコードする単離核酸と、JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を含む少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)をコードする少なくとも1個の単離核酸とを含む、有効量の発現ベクター組成物に、JCV感染のリスクがある前記患者の細胞を曝露するステップ、
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼ及び前記少なくとも1個のgRNAを前記患者の前記細胞中で安定に発現させるステップ、及び
前記患者の前記細胞のJCV感染を予防するステップ
を含む、方法。
【請求項26】
JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を含む前記少なくとも1個のgRNAが、前記JCV DNAのラージT抗原(T−Ag)コード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を含む少なくとも1個のgRNAとして更に定義される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列、及び
John Cunninghamウイルス(JCV)ゲノム中の標的配列に相補的であるスペーサー配列を有する少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)をコードする少なくとも1個の単離核酸配列
を含み、
前記単離核酸配列が少なくとも1個の発現ベクターに含まれる、医薬組成物。
【請求項28】
JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記少なくとも1個のgRNAが、前記JCV DNAのラージT抗原(T−Ag)コード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAとして更に定義される、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記JCV DNAの前記T−Agコード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記少なくとも1個のgRNAが、前記T−Agコード領域のTM1領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、前記T−Agコード領域のTM2領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、前記T−Agコード領域のTM3領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有するgRNA、又は前記gRNAの任意の組合せを含む、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼが、野生型Cas9;ヒト最適化Cas9;ニッカーゼ変異Cas9;SpCas9(K855a);SpCas9(K810A/K1003A/r1060A);SpCas9(K848A/K1003A/R1060A);SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A L169A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A Y450A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A M495A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A M694A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A H698A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、L169A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、Y450A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M495A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M698A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、L169A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A Y450A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A M495A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A M694A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A H698A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E L169A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E Y450A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E M495A;又はSpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694Aから選択される、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記TM1領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m1であり、前記TM2領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m2であり、前記TM3領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記gRNAがgRNA m3である、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記gRNA M1の前記スペーサー配列が配列番号1、2、3又は4を含めた標的配列に相補的であり、前記gRNA m2の前記スペーサー配列が配列番号5、6、7又は8を含めた標的配列に相補的であり、前記gRNA m3の前記スペーサー配列が配列番号9、10、11又は12を含めた標的配列に相補的である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記CRISPR関連エンドヌクレアーゼCas9がCpf1である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記発現ベクターが、レンチウイルス発現ベクター、薬剤誘発性レンチウイルス発現ベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ポックスウイルスベクター及びプラスミドベクターからなる群から選択される、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項35】
John Cunninghamウイルス(JCV)関連障害を有する対象を治療する方法であって、前記対象に有効量の請求項27に記載の医薬組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項36】
前記JCV関連障害が進行性多巣性白質脳症(PML)である、請求項36に記載の方法。
【請求項37】
John Cunninghamウイルス(JCV)感染の治療又は予防用キットであって、
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列と1個以上のガイドRNA(gRNA)をコードする少なくとも1個の核酸配列とを含む測定量の組成物であって、前記1個以上のgRNAの各々がJCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を含む組成物、及び
包装材料、使用説明書を含む添付文書、無菌流体、シリンジ及び無菌容器からなる群から選択される1個以上の物品
を含む、キット。
【請求項38】
前記発現ベクターがレンチウイルス発現ベクターである、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
ポリオーマウイルスに感染した宿主細胞からポリオーマウイルスを除去する方法であって、
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼとポリオーマウイルスDNA中の標的配列に相補的であるスペーサー配列を有する少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)とを含む組成物で前記宿主細胞を処理するステップ、及び
前記ポリオーマウイルスを前記宿主細胞から除去するステップ
を含む、方法。
【請求項40】
ポリオーマウイルスDNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する前記少なくとも1個のgRNAが、前記ポリオーマウイルスDNAのラージT抗原(T−Ag)コード領域中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAとして更に定義される、請求項39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究に関する記載
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金番号R01MH093271、R01NS087971及びP30MH092177の米国政府支援によって成された。米国政府は、本発明における一定の権利を有し得る。
【0002】
技術分野
本発明は、ポリオーマウイルス、例えば、John Cunninghamウイルスなどのヒト向神経性ポリオーマウイルス中の標的配列を特異的に切断する組成物に関する。こうした組成物は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR:Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)関連エンドヌクレアーゼ及び1種以上の特定のガイドRNA配列を含むことができ、向神経性ポリオーマウイルス感染対象に投与することができる。
【背景技術】
【0003】
ヒト向神経性ポリオーマウイルス、John Cunninghamウイルス(JCV)は、致死的な脱髄疾患、進行性多巣性白質脳症(PML:progressive multifocal leukoencephalopathy)の病原体である。中枢神経系(CNS:central nervous system)のグリア細胞におけるJCVの溶解感染は、脳において髄鞘の産生を担う細胞である乏突起膠細胞の死を招く。これは、広範な中度から重度の神経障害をもたらし、最終的に死に至る(Berger、2011)。PMLには幾つかの病因があるが、すべてがあるレベルの免疫系の障害を含む。
【0004】
該疾患は、最初、主にリンパ球増殖性及び骨髄増殖性疾患患者に見られるまれな障害と認識されたが(Astroem他、1958)、AIDSの大流行の発生によってPMLの発生率が大きく増加した。HIV−1感染症及びAIDSは、依然としてJCVの再活性化に対して最も多い免疫不全状況であり、PML症例の約80%を占める(Tavazzi他、2012)。免疫抑制療法は、活性なJCV感染症のもう一つの引き金になっている。ナタリズマブ(Chakley及びBerger、2013)、エファリツマブ(Schwab他、2102)及びリツキシマブ(Clifford他、2011)を含めて、新しい治療用免疫調節モノクローナル抗体を用いた多発性硬化症、関節リウマチなどの自己免疫異常の治療は、PMLの病因と認識されている(Nagayama他、2013)。
【0005】
JCVは、ウイルスのポリオーマウイルス科の一つであり、そのゲノムは、サイズ5.1kbの二本鎖環状DNAで構成され、該ウイルスは、ウイルス感染の初期、すなわちDNA複製前、及び感染サイクルの後期に、2クラスのタンパク質を産生する(DeCaprio他、2013)。初期遺伝子と後期遺伝子の間に位置する双方向コード配列は、ウイルス遺伝子発現を担い、ウイルスDNA複製の起点を含む。ウイルス初期タンパク質、ラージT抗原(T−Ag)、及びより小型のT−Agタンパク質ファミリーは、選択的スプライシングによって産生され、その複製サイクル中にウイルスを組織化する調節的役割を果たす。特に、ラージT抗原は、ウイルスDNA複製の開始、及びウイルス後期遺伝子転写の刺激を担い、したがって、ウイルス生活環のすべての側面に重要である。さらに、JCV T−Agは、細胞培養において形質転換能力を示し、動物モデルにおけるその発現は、他のウイルスタンパク質の非存在下で、神経起源の腫瘍を誘発する(総説については、White及びKhalili、2004を参照されたい)。Tagは、p53、pRbなどの幾つかの細胞タンパク質に結合し、細胞増殖を調節不全にし、したがって幾つかの動物モデルにおいて潜在的に細胞の形質転換及び腫瘍の形成をもたらす。後期タンパク質は、ウイルスカプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3並びにアグノプロテインとして知られる小型調節タンパク質である(Khalili他、2005)。血清疫学的研究によれば、JCV感染症は、世界中の個体群で極めて一般的であり、初感染は、通常、小児期に起こる(White及びKhalili、2011)。JCV感染症の血清有病率が高く、PMLが珍しいことは、免疫系が、ウイルスを持続的な無症候状態で維持できることを示唆している。というのは、免疫機能の変化は、PMLの素因になるすべての状況の根底にあると思われるからである。
【0006】
幾つかの治療選択肢がPMLに適用されたが、ほとんど成功しなかった(Tavazzi他、2012)。種々の手法が、ウイルス生活環における侵入、複製などの様々なポイントを標的にしている。JCVとセロトニン2A受容体(5−HT2AR)の相互作用がウイルス侵入に必要であることが報告されたので(Elphick他、2004)、5HT2ARに結合するリスペリドンが研究されたが、効果のないことが判明した(Chapagain他、2008)。シドフォビルなどのウイルス複製の小分子阻害剤が生体外及び生体内で試験されたが、相反する結果が得られた(Andrei他、1997、Hou及びMajor、1998)。代わりの戦略の選択肢がこの致死的脱髄疾患の治療に至急必要であることは明らかである。
【0007】
根絶のためにJCVウイルスゲノムを標的にする新しい戦略は、特に魅力的である。この戦略は、活発に複製するウイルスと、ウイルスが休眠状態か、又はウイルスタンパク質が発現されず、若しくは極めて低レベルで産生される、持続性ウイルスの両方を効果的に標的にすることができる。加工ヌクレアーゼ技術の最近の進歩によって、この治療戦略が臨床ですぐに可能になるという見通しが立った。例としては、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN:zinc−finger nucleases)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN:transcription activator−like effector nucleases)、及びより最近では、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR:clustered regulatory interspaced short palindromic repeat)関連9(Cas9)が挙げられる(Gaj他、2013)。
【0008】
特に、CRISPR/Cas9DNA編集系に基づくツール及び技術によって、ゲノム編集をこれまでになく制御することができる(Mali他、2013、Hsu他、2014)。CRISPR/Cas9系は、細菌及び古細菌の適応免疫系から開発され、短いガイドRNA(gRNA)を使用して、Cas9エンドヌクレアーゼによる特定の核酸の切断を誘導する(Bhaya他、2011)。切断、通常、平滑末端二本鎖切断は、通常、不完全なDNA修復に起因する、ひと続きのDNAの欠失、挿入及び切除を引き起こす。
【0009】
CRISPR/Cas9DNA編集系は、頚癌細胞における発癌性ヒト乳頭腫遺伝子E6及びE7を不活性化するのに使用され(Kennedy他、2014)、肝内B型肝炎ゲノムテンプレートの排出を生体内で促進するのに使用された(Lin他、2014)。より最近では、CRISPR/Cas9を使用して、HIV−1プロウイルスを潜伏感染細胞から除去し、新しいHIV−1感染を予防できることが報告された(Hu他、2014)。残念ながら、gRNA誘導型エンドヌクレアーゼ攻撃によるJCVを標的にした系はまだ開発されていない。JCV遺伝子中の特定の標的を切断し、JCVゲノムの完全性を破壊し、したがってJCVを宿主細胞から除去するCRISPR/エンドヌクレアーゼ組成物及び方法が大いに必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、JCVに感染した宿主細胞からJCVを除去するのに使用するための組成物を提供する。該組成物は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列、及びJCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)を含む。gRNAの好ましい標的配列は、JCV DNAのラージT抗原(T−Ag)遺伝子、特にT−AgのTM1、TM2及びTM3領域にある。
【0011】
本発明は、JCVに感染した宿主細胞からJCVを除去する方法も提供する。該方法は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼとJCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAとを含む組成物で宿主細胞を処理するステップ、及びJCVを宿主細胞から除去するステップを含む。
【0012】
本発明は、さらに、JCVに感染した宿主細胞からJCVを除去するのに使用するためのベクター組成物も提供する。ベクター組成物は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列、及びJCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAを含む。単離核酸配列は、宿主細胞中のCRISPR関連エンドヌクレアーゼ及び少なくとも1個のgRNAの発現を誘導する少なくとも1個の発現ベクターに含まれる。
【0013】
本発明は、さらに、JCV感染のリスクがある患者の細胞のJCV感染を予防する方法も提供する。該方法は、患者がJCV感染のリスクがあることを判定するステップ、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする単離核酸と、JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を含む少なくとも1個のgRNAをコードする少なくとも1個の単離核酸とを含む有効量の発現ベクター組成物に患者細胞を曝露するステップ、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ及びgRNAを患者の細胞中で安定に発現させるステップ、並びに患者の細胞のJCV感染を予防するステップを含む。
【0014】
本発明は、JCVを哺乳動物対象の細胞から除去するための医薬組成物も提供する。医薬組成物は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列、及びJCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAをコードする少なくとも1個の単離核酸配列を含む。好ましい一実施形態においては、単離核酸配列は、少なくとも1個の発現ベクターに含まれる。
【0015】
本発明は、さらに、対象に有効量の上記医薬組成物を投与するステップを含む、進行性多巣性白質脳症などのLCV関連障害を有する対象を治療する方法も提供する。
【0016】
本発明は、さらに、CRISPR関連エンドヌクレアーゼとJCV DNA中の標的配列に相補的なgRNAとを含む測定量の1種以上の上記組成物を含む、JCV感染症の治療又は予防用キットも提供する。キットは、使用説明書、無菌容器、シリンジなどの1個以上の物品も含む。
【0017】
本発明は、JCV以外のポリオーマウイルスをウイルスの宿主細胞から除去する方法も提供する。該方法は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼとポリオーマウイルスDNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAとを含む組成物で宿主細胞を処理するステップ、及びポリオーマウイルスを宿主細胞から除去するステップを含む。好ましくは、標的配列は、特定のポリオーマウイルスのラージT抗原をコードする領域に位置する。
【0018】
好ましい実施形態においては、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、野生型Cas9;ヒト最適化Cas9;ニッカーゼ変異Cas9;SpCas9(K855A);SpCas9(K810A/K1003A/R1060A);SpCas9(K848A/K1003A/R1060A);CPF1;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A L169A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A Y450A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A M495A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A M694A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A H698A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、L169A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、Y450A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M495A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694A;SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M698A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、L169A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A Y450A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A M495A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A M694A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A H698A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E L169A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E Y450A;SpCas9 R661A、Q695A、Q926A D1135E M495A;又はSpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694Aから選択される。
【0019】
本特許又は出願ファイルは、少なくとも1つのカラー図面を含む。カラー図面(単数又は複数)を含むこの特許又は特許出願の複製は、請求次第、かつ必要な手数料の支払い次第、米国特許商標庁によって提供される。
【0020】
本発明の他の効果は、容易に認識され、添付図面に関連して考察すると、以下の詳細な説明を参照してより良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A図1Aは、JCVのCRISPR/Cas9ターゲティング用ガイドRNAの設計を示す図である。図1Aは、示したJCV T−Ag(T)のコード領域内の異なる位置で設計された3種のgRNA(TM1、TM2及びTM3)を示す。T−Agコード領域は、5130nt環状Mad−1 JCVゲノム(NCBI参照配列:NC_001699.1;Frisqueら、1984)のヌクレオチド(nt)5013から始まり、反時計回りにnt2603に進む。
図1B図1Bは、JCVのCRISPR/Cas9ターゲティング用ガイドRNAの設計を示す図である。図1Bは、3個の標的部位(太字及び赤で強調)の各々におけるJCVゲノムの配列が与えられたことを示す。最上部の鎖の配列は、時計回りであり、T−Agのコード領域に対してアンチセンスであることに留意されたい。というのは、T−Agが反時計回りに転記され、最下部に示されている(センス鎖)からである。プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM:protospacer adjacent motif)配列の位置を青色イタリックで示す。
図2図2A〜2Cは、gRNA m1及びm2の発現が、T−Ag及びCas9を導入したTC620細胞において、T−Ag発現及びT−Ag誘導JCV後期遺伝子発現を減少させたことを示す図である。図2A:TC620細胞にJCVL−LUCレポータープラスミド及びCas9用発現プラスミドを、T−Ag及び示したように単独又は組み合わせの図1に示したgRNAの各々の発現プラスミドと一緒に、又は発現プラスミドなしで、導入した。細胞を収集し、ルシフェラーゼ活性を実施例1に記載のように分析した。レポータープラスミドのみを導入した細胞(レーン1)に対して活性を規準化した。図2B図2Aで言及した細胞抽出物をウエスタンブロットによってT−Ag、Cas9及びα−チューブリン(添加対照)の発現について分析した。図2C図2Bに示したウエスタンブロットをBio−Rad Quantity Oneソフトウェアによって定量化し、T−Ag単体(レーン2)に対して規準化されたヒストグラムとして示した。
図3図3A〜3Dは、Cas9及びgRNA m1を発現するSVGAのクローン誘導体は、JCV感染を支援する能力が低下していることを示す図である。図3A:SVGA細胞にCas9又はCas9+gRNA m1を導入し、安定なクローン細胞系を選択した。3種のクローンを選択し、JCV感染について分析した(moi=1、7日間):親SVGA細胞に対してCas9単体を有する1種のクローン及びCas9+gRNA m1を有する2種のクローン(クローン8及び10)。ウイルス感染をウエスタンブロットによってVP1及びアグノプロテインについてα−チューブリンを添加対照として評価した。図3B図3Aにおける実験からの培養上清中のウイルスをQPCRによって定量化した。図3C:SVGACas9及びSVGACas9m1c8のCas9発現をウエスタンブロットによってβ−チューブリンを添加対照として分析した。図3D:TC620細胞にFLAG標識Cas9用発現プラスミドを導入し、免疫細胞化学を「材料及び方法」に記載のように抗FLAG抗体を用いて実施した。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で標識した。
図4図4A〜4Cは、Cas9及びJCV特異的gRNAの一過性導入後のT−Ag遺伝子切断の直接証明を示す図である。組み込まれたTAg遺伝子を共に含むマウスBsB8とハムスターHJC−2細胞に、Cas9及び示した様々な組合せのgRNA用の発現プラスミドを導入した。ゲノムDNAをJCV特異的プライマーを用いて増幅した。図4Aは、T−Ag遺伝子の図であり、PCRプライマーの位置、予想切断ポイント、及びT−Ag遺伝子の生成領域の予想長さを示す。図4B:導入BsB8細胞からのT−Ag遺伝子をPCRによって増幅し、アガロースゲル上で電気泳動し、臭化エチジウムで標識した。画像を見やすいように反転した。図4C:導入HJC−2細胞からのT−Ag遺伝子をPCRによって増幅し、アガロースゲル上で電気泳動し、臭化エチジウムで標識した。画像を見やすいように反転した。
図5】T抗原の3個の異なるモチーフを標的にするためのプライマーを示す図である。
図6図6A及び6Bは、ドキシサイクリン誘導性Cas9を発現するHJC−2細胞の安定誘導体が、JCV特異的gRNAを発現するレンチウイルスの導入及びドキシサイクリン誘導によってT−Ag遺伝子のインデル変異を生じることを示す図である。図6A:実施例1に記載のように、ドキシサイクリン誘導性Cas9を発現するHJC−2細胞に、JCV特異的gRNAを発現するレンチウイルスを導入し、ドキシサイクリンで、又はドキシサイクリンなしで、処理した。ゲノムDNA全体を抽出し、T−Agの領域をPCRによって増幅し、pCR4−TOPOTAベクター中にクローン化し、配列を決定した。図6B:Surveyorアッセイを使用して、Cas9を発現しgRNA(m1、m2及びm3)の各々のレンチウイルスベクターによって導入されたHJC−2細胞に由来するPCR産物における変異の存在を検出した。実施例1に記載のように、PCR産物を変性し、徐冷してハイブリッド形成した。ハイブリッド形成DNAをSURVEYORヌクレアーゼで消化して、ヘテロ二重鎖DNAを切断し、試料を等量の対照試料と一緒に2%アガロースゲル上で分離した。対照試料は並行して処理され、Cas9を発現するHJC−2細胞から誘導されたが、gRNAをコードするレンチウイルスベクターによって導入されなかった(m1 Con、m2 Con、m3 Con)。
図7図7A及び7Bは、ドキシサイクリン誘導性Cas9を発現するHJC−2細胞の安定誘導体は、JCV特異的gRNAを発現するレンチウイルスの導入及びドキシサイクリン誘導によってT−Ag発現が消失することを示す図である。図7A:Cas9及びT−Agの発現を示すウエスタンブロット。実施例1に記載のように、ドキシサイクリン誘導性Cas9を発現するJC−2安定細胞クローンに、3種のgRNAの各々のレンチウイルスベクターを導入した。24時間後、導入細胞を2μg/mlドキシサイクリンで、又はドキシサイクリンなしで処理し、更に48時間後に収集し、T−Ag及びCas9の発現をウエスタンブロットによってα−チューブリンを添加対照として分析した。図7Bは、ウエスタンブロットの定量化を示す。
図8図8A〜8Eは、ドキシサイクリン誘導性Cas9を発現するHJC−2細胞の安定誘導体は、JCV特異的gRNAを発現するレンチウイルスの導入及びドキシサイクリン誘導によってコロニー形成が減少することを示す図である。ドキシサイクリン誘導性Cas9を発現するHJC−2細胞に、示した様々な組合せでm1、m2及びm3 gRNAを発現するレンチウイルスを導入し、培養し、ドキシサイクリンで、又はドキシサイクリンなしで処理し、コロニー形成を評価した。結果を、得られたコロニーの総数のヒストグラムとして示す。エラーバーは、複製コロニー数から計算された1標準偏差である。図8Aは組合せm1+m2の結果であり、図8Bは組合せm1+m3の結果であり、図8Cは組合せm2+m3の結果であり、図8Dは組合せm1+m2+m3の結果である。図8Eは、代表的実験の写真であり、図8Aに要約した実験からの2個のメチレンブルー染色皿を示す。
図9図9A〜9Cは、Cas9及びgRNAを発現するSVG−A細胞の安定誘導体がオフターゲット遺伝子においてインデル変異を示さないことを示す図である。SURVEYORアッセイを使用して、Cas9及びgRNA m1(配列番号1に相補的、図9A)、m2(配列番号5に相補的、図9B)及びm3(配列番号9に相補的、図9C)を発現するSVG−A細胞に由来するPCR産物における変異の存在を検出した。各モチーフとの相同性が最も高いヒト細胞遺伝子を、NCBIウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)におけるBLAST検索によって特定した。各モチーフについて、実施例1に記載のように、PCR産物を相同性が最も高い上位3つの遺伝子から増幅し、SURVEYORアッセイによってインデル変異を調べた。T−Agの増幅が各図における正の対照であった。図9A:モチーフm1の場合、増幅は、M12(NM_017821、ヒトRHBDL2ロンボイド、小翅脈様2(rhomboid, veinlet−like 2)(ショウジョウバエ)、遺伝子ID:54933、NCBI参照配列:NC_000001.11、>gi|568815597:c38941830〜38885806)、M17(NM_001243540、ヒトKIAA1731NL,遺伝子ID:100653515、NCBI参照配列:NC_000017.11、>gi|568815581:78887721〜78903217)、及びM19(NM_016252、ヒトBIRC6バキュロウイルスIAPリピート含有6(baculoviral IAP repeat containing 6)、遺伝子ID:57448、NCBI参照配列:NC_000002.12)のものであった。図9B:モチーフm2の場合、増幅は、M21(NM_012090、ヒトMACF1微小管−アクチン架橋因子1(microtubule−actin crosslinking factor 1)、遺伝子ID:23499、NCBI参照配列:NC_000001.11、>gi|568815597:39084167〜39487138)、M23(NM_005898、ヒトCAPRIN1細胞周期関連タンパク質1(cell cycle associated protein 1)、遺伝子ID:4076、NCBI参照配列:NC_000011.10、>gi|568815587:34051683〜34102610)、M24(NM_024562、ヒトTANGO6輸送及びゴルジ機構6ホモログ(transport and Golgi organization 6 homolog)(ショウジョウバエ)、遺伝子ID:79613、NCBI参照配列:NC_000016.10、>gi|568815582:68843553〜69085482)のものであった。図9C:モチーフm3の場合、増幅は、M31(NM_001048194、ヒトRCC1染色体凝縮制御因子1(regulator of chromosome condensation 1)、遺伝子ID:1104、NCBI参照配列:NC_000001.11、>gi|568815597:28505943〜28539196)、M32(NM_004673、ヒトANGPTL1アンジオポエチン様1(angiopoietin−like 1)、遺伝子ID:9068、NCBI参照配列:NC_000001.11、>gi|568815597:c178871353〜178849535)、M33(NM_174944、ヒトTSSK4精巣特異的セリンキナーゼ4(testis−specific serine kinase 4)、遺伝子ID:283629、NCBI参照配列:NC_000014.9、>gi|568815584:24205530〜24208248)のものであった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、CRISPR技術をJCVによる活動性、潜伏、潜在的感染の問題に適用した最初のものである。CRISPR技術は、先行技術の別のZFN及びTALEN技術とは異なり、特定の標的に容易に合わせられ、多重化可能である。本発明のCRISPR組成物及び方法は、JCV感染を宿主細胞から除去し、宿主細胞を将来の感染から保護するのに有効である。
【0023】
ポリオーマウイルス除去及び感染予防のための組成物及び方法。
RNA誘導型CRISPRバイオテクノロジーは、細菌のゲノム防御機構を採用し、CRISPR/Cas遺伝子座が、可動遺伝因子(ウイルス、転移因子及び接合性プラスミド)に対するRNA誘導型適応免疫系をコードする。
【0024】
CRISPRクラスターは、スペーサー、ウイルス核酸中の標的配列(「プロトスペーサー」)に相補的な配列、又は標的にされる別の核酸をコードする。CRISPRクラスターは、転写され、処理されて、成熟CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)RNA(crRNA)になる。CRISPRクラスターは、DNAエンドヌクレアーゼを含むCRISPR関連(Cas)タンパク質もコードする。crRNAは標的DNA配列に結合し、その結果、Casエンドヌクレアーゼが、標的配列における、又は標的配列に隣接する、標的DNAを切断する。
【0025】
1つの有用なCRISPR系としては、CRISPR関連エンドヌクレアーゼCas9が挙げられる。Cas9は、スペーサーの約20〜30塩基対(bp:base pair)を含む成熟crRNA、及びプレcrRNAのリボヌクレアーゼIII支援プロセシング用ガイドとして働く転写活性化低分子RNA(tracrRNA)によってガイドされる。crRNA:tracrRNA二重鎖は、crRNA上のスペーサーと標的DNA上の標的配列との相補的塩基対合によって、Cas9を標的DNAに誘導する。Cas9は、トリヌクレオチド(NGG)フォトスペーサー隣接モチーフ(PAM:photospacer adjacent motif)を認識して、切断部位(PAMから3番目のヌクレオチド)を決定する。crRNAとtracrRNAは、別々に発現することができ、又は天然crRNA/tracrRNA二重鎖を模倣するように合成ステムループ(AGAAAU)を介して人工キメラ低分子ガイドRNA(sgRNA)中に操作することができる。こうしたsgRNAは、直接RNA導入のために合成することができ、若しくは生体外で転写することができ、又は、例えばU6若しくはH1促進RNA発現ベクターから、その場で発現することができる。「ガイドRNA」(gRNA)という用語は、crRNA:tracrRNA二重鎖又はsgRNAを表すのに使用される。標的配列「に相補的なgRNA」という用語は、そのスペーサー配列が標的配列に相補的であるgRNAを示すことを理解されたい。
【0026】
本発明の組成物は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、例えばCas9及びポリオーマウイルス、例えばJCV中の標的配列に相補的な少なくとも1個のgRNAをコードする核酸を含む。
【0027】
本発明の好ましい実施形態においては、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである。Cas9ヌクレアーゼは、野生型化膿レンサ球菌(Streptococcus pyrogenes)配列と同一のヌクレオチド配列を有し得る。一部の実施形態においては、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、別の種、例えば、サーモフィラス(thermophilus)などの別のストレプトコッカス(Streptococcus)種、緑膿菌(Psuedomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、又は別の配列決定された細菌ゲノム及び古細菌、又は別の原核微生物由来の配列とすることができる。あるいは、野生型化膿レンサ球菌Cas9配列を改変することができる。好ましくは、核酸配列は、哺乳動物細胞における効率的発現に対して最適化された、すなわち「ヒト化」コドンである。ヒト化Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Genbank受託番号KM099231.1 GI:669193757、KM099232.1 GI:669193761、又はKM099233.1 GI:669193765に記載された発現ベクターのいずれかによってコードされるCas9ヌクレアーゼ配列とすることができる。あるいは、Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Addgene(ケンブリッジ、MA)製PX330、PX260などの市販ベクターに含まれる配列とすることができる。一部の実施形態においては、Cas9エンドヌクレアーゼは、Genbank受託番号KM099231.1 GI:669193757、KM099232.1 GI:669193761、若しくはKM099233.1 GI:669193765のCas9エンドヌクレアーゼ配列、又はPX330若しくはPX260(Addgene、ケンブリッジ、MA)のCas9アミノ酸配列のいずれかの変異体又は断片であるアミノ酸配列を有することができる。
【0028】
Cas9ヌクレオチド配列は、Cas9の生物活性変異体をコードするように修飾することができ、これらの変異体は、例えば、1つ以上の変異(例えば、付加、欠失若しくは置換変異又はこうした変異の組合せ)を含むことによって、野生型Cas9とは異なるアミノ酸配列を有する、又は含むことができる。1つ以上の置換変異は、置換(例えば、保存的アミノ酸置換)とすることができる。例えば、Cas9ポリペプチドの生物活性変異体は、野生型Cas9ポリペプチドと少なくとも又は約50%の配列相同性(例えば、少なくとも又は約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%配列相同性)を有するアミノ酸配列を有することができる。保存的アミノ酸置換としては、一般に、以下の群内の置換が挙げられる:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン及びスレオニン;リジン、ヒスチジン及びアルギニン;並びにフェニルアラニン及びチロシン。
【0029】
Cas9アミノ酸配列中のアミノ酸残基は、非天然アミノ酸残基とすることができる。天然アミノ酸残基としては、遺伝コードによって天然にコードされるもの、及び非標準アミノ酸(例えば、L配置の代わりにD配置を有するアミノ酸)が挙げられる。本発明のペプチドは、標準残基の修飾バージョンであるアミノ酸残基を含むこともできる(例えば、ピロールリジンをリジンの代わりに使用することができ、セレノシステインをシステインの代わりに使用することができる)。非天然アミノ酸残基は、天然に見られないが、アミノ酸の基本式に適合し、ペプチドに組み込むことができるものである。これらとしては、D−アロイソロイシン(2R,3S)−2アミノ−3−メチルペンタン酸及びL−シクロペンチルグリシン(S)−2−アミノ−2−シクロペンチル酢酸が挙げられる。他の例については、教科書やワールドワイドウェブを調べることができる(あるサイトは、現在、カリフォルニア工科大学によって維持され、機能タンパク質に組み込むことに成功した非天然アミノ酸の構造を掲載している)。
【0030】
Cas9ヌクレアーゼ配列は、変異配列とすることができる。例えば、Cas9ヌクレアーゼは、鎖特異的切断に関与する保存HNH及びRuvCドメインにおいて変異させることができる。例えば、RuvC触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニン(D10A)への変異によって、Cas9ニッカーゼ変異体(Cas9n)は、DNAを切断するのではなく、DNAに切れ目を入れて、一本鎖切断することができ、HDR22による後続の優先的な修復によって、オフターゲット二本鎖切断からの不要なインデル変異の頻度を潜在的に減少させることができる。
【0031】
一部の実施形態においては、本発明の組成物は、上記核酸配列のいずれかによってコードされるCRISPR関連エンドヌクレアーゼポリペプチドを含むことができる。ポリペプチドは、例えば、組換え技術又は化学合成を含めて、種々の方法によって生成することができる。生成後、ポリペプチドを当該技術分野で周知の手段によって、単離し、任意の所望の程度に精製することができる。例えば、逆相(好ましくは)若しくは順相HPLC、又はセファデックスG−25などの多糖ゲル媒体上のサイズ排除若しくは分配クロマトグラフィ後に、例えば、凍結乾燥を使用することができる。最終ポリペプチドの組成は、標準手段によるペプチドの分解後のアミノ酸分析によって、アミノ酸配列決定によって、又はFAB−MS技術によって、確認することができる。
【0032】
例示的実施形態においては、本発明は、Cas9とJCV T抗原配列に相補的な1種以上のgRNAとを含む加工CRISPR系を含む。例示的なJCVゲノム配列は、Mad−1系統、NCBI参照配列、GenBank番号:NC_001699.1、public GI(Frisqueら、1984)である。Mad1系統においては、T−Agコード領域は、5130nt環状Mad−1 JCVゲノムのヌクレオチド(nt)5013から始まる。例示的なgRNAスペーサー配列は、TM1、TM2又はTM3領域JCV T抗原配列に相補的である。Mad−1 JCVの構造構成を図1Aに示す。TM1、TM2及びTM3に対応するヌクレオチド配列を図1Bに示す。gRNAの標的配列を太字の大文字で示す。標的配列は、約20〜40以上のnt長に及び得る。JCVの異なる系統においては、又は変異体においては、TM1、TM2及びTM3と相同である配列を、周知の配列決定及びゲノム科学技術によって容易に特定できることを理解されたい。
【0033】
TM1における例示的標的配列としては、配列番号1、又は逆平行鎖上のその補体、配列番号2が挙げられる。各鎖中のPAM配列(図1B及び以下で小文字の太字で示す)は、標的配列に含まれる可能性があり、そのため、標的配列は、配列番号3又は逆平行鎖上のその補体、配列番号4を含む可能性がある。したがって、gRNA m1と命名されるTM1に相補的なgRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4に相補的なスペーサー配列を含むことができる。
【0034】
ヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
AAATGCAAAGAACTCCACCCTGATGAAGGTG(配列番号1)
AAATGCAAAGAACTCCACCCTGATGAAGGTGggg(配列番号2)
CACCTTTATCAGGGTGGAGTTCTTTGCATTT(配列番号3)
cccCACCTTTATCAGGGTGGAGTTCTTTGCATTT(配列番号4)
【0035】
TM2における例示的標的配列としては、配列番号5、又は逆平行鎖上のその補体、配列番号6が挙げられる。各鎖中のPAM配列は、標的配列に含まれる可能性があり、そのため、標的配列は、配列番号7又は逆平行鎖上のその補体、配列番号8を含む可能性がある。したがって、gRNA m2と命名されるTM2に相補的なgRNAは、配列番号5、配列番号6、配列番号7又は配列番号8に相補的なスペーサー配列を含むことができる。
【0036】
ヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
GATGAATGGGAATCCTGGTGGAATACATTTAATGAGAAGT(配列番号5)
GATGAATGGGAATCCTGGTGGAATACATTTAATGAGAAGTggg(配列番号6)
ACTTCTCATTAAATGTATTCCACCAGGATTCCCATTCATC(配列番号7)
cccACTTCTCATTAAATGTATTCCACCAGGATTCCCATTCATC(配列番号8)
【0037】
TM3における例示的標的配列としては、配列番号9、又は逆平行鎖上のその補体、配列番号10が挙げられる。各鎖中のPAM配列は、標的配列に含まれる可能性があり、そのため、標的配列は、配列番号11又はその補体配列番号12を含む可能性がある。したがって、m3と命名されるTM3に相補的なgRNAは、配列番号9、配列番号10、配列番号11又は配列番号12に相補的なスペーサー配列を含むことができる。
【0038】
ヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
AAGGTACTGGCTATTCAAGGGGCCAATAGACAG(配列番号9)
AAGGTACTGGCTATTCAAGGGGCCAATAGACAGtgg(配列番号10)
CTGTCTATTGGCCCCTTGAATAGCCAGTACCTT(配列番号11)
ccaCTGTCTATTGGCCCCTTGAATAGCCAGTACCTT(配列番号12)
【0039】
TM1、TM2及びTM3の標的部位を含むひと続きのDNAを図1Aに示し、それらのヌクレオチド配列を図1Bに配列番号13〜18として示す。本発明のgRNAは、標的配列に相補的でも、相補的でなくともよい、追加の5’及び/又は3’配列を含むこともできることを理解されたい。各gRNAのスペーサーは、その標的配列に対する相補性100%未満、例えば相補性95%とすることができる。
【0040】
実施例2、4及び5においては、Cas9及びgRNA m1、m2及び/又はm3を含むCRISPR系が、宿主細胞におけるJCV複製及びT−Ag発現を阻害し、JCVゲノムの完全性を損なうことが判明した。これらの作用によって、遊離エピソームウイルスと宿主ゲノムに組み込まれたウイルスの両方が除去される。健常な遺伝子に対する有害なオフターゲット作用は生じなかった。したがって、本発明は、JCVに感染した宿主細胞からJCVを除去するのに使用するための組成物を包含する。該組成物は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列、及びJCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAを含む。本発明は、JCVに感染した宿主細胞からJCVを除去する方法も包含する。該方法は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼとJCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAとを含む組成物で宿主細胞を処理するステップ、及びJCVを宿主細胞から除去するステップを含む。
【0041】
実施例3の実験においては、本発明のCRISPR系の安定発現によって、JCVによる新たな感染に対して宿主細胞を抵抗性にすることができることが判明した。したがって、本発明は、JCV感染のリスクがある患者の細胞のJCV感染を予防する方法も包含する。該方法は、患者がJCV感染のリスクがあることを判定するステップ、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする単離核酸と、JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を含む少なくとも1個のガイドgRNAをコードする少なくとも1個の単離核酸とを含む有効量の発現ベクター組成物にJCV感染のリスクがある患者の細胞を曝露するステップ、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ及び少なくとも1個のgRNAを患者の細胞中で安定に発現させるステップ、並びに患者の細胞のJCV感染を予防するステップを含む。
【0042】
本発明のgRNAは、単一配列として構成することができ、又は1個以上の異なる配列の組合せ、例えば、多重構成として構成することができる。多重構成は、2個、3個又はそれ以上の異なるgRNAの組合せを含むことができる。組成物を発現ベクター中で投与するときには、ガイドRNAを単一のベクターによってコードすることができる。あるいは、複数のベクターを操作して、各々が2個以上の異なるガイドRNAを含むようにすることができる。JCVゲノム又はJCVタンパク質発現の消失をもたらす、切断部位間のウイルス配列を切り出すgRNAの組合せが特に有用である。切り出し領域は、サイズが単一ヌクレオチドから数百ヌクレオチドまで変わり得る。
【0043】
RNA分子(例えば、crRNA、tracrRNA、gRNA)は、1個以上の修飾核酸塩基を含むように操作することができる。例えば、RNA分子の公知の修飾は、例えば、Genes VI、9章(「Interpreting the Genetic Code」)、Lewin編(1997、Oxford University Press、ニューヨーク)、並びに「Modification and Editing of RNA」、Grosjean及びBenne編(1998、ASM Press、ワシントン特別区)に見ることができる。修飾RNA成分としては以下が挙げられる:2’−O−メチルシチジン;N−メチルシチジン;N−2’−O−ジメチルシチジン;N−アセチルシチジン;5−メチルシチジン;5,2’−O−ジメチルシチジン;5−ヒドロキシメチルシチジン;5−ホルミルシチジン;2’−O−メチル−5−ホルミルシチジン(formaylcytidine);3−メチルシチジン;2−チオシチジン;ライシジン;2’−O−メチルウリジン;2チオウリジン;2−チオ−2’−O−メチルウリジン;3,2’−O−ジメチルウリジン;3−(3−アミノ−カルボキシプロピル)ウリジン;4−チオウリジン;リボシルチミン;5,2’−O−ジメチルウリジン;5−メチル−2チオウリジン;5−ヒドロキシウリジン;5−メトキシウリジン;ウリジン5−オキシ酢酸;ウリジン5−オキシ酢酸メチルエステル;5−カルボキシメチルウリジン;5−メトキシカルボニルメチルウリジン;5メトキシカルボニルメチル−2’−O−メチルウリジン;5−メトキシカルボニルメチル−2’−チオウリジン;5−カルバモイルメチルウリジン;5−カルバモイルメチル−2’−O−メチルウリジン;5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン;5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジンメチルエステル;5−アミノメチル−2−チオウリジン;5メチルアミノメチルウリジン;5−メチルアミノメチル−2−チオウリジン;5−メチルアミノメチル−2セレノウリジン;5−カルボキシメチルアミノメチルウリジン;5−カルボキシメチルアミノメチル−2’−Oメチル−ウリジン;5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン;ジヒドロウリジン;ジヒドロリボシルチミン;2’−メチルアデノシン;2−メチルアデノシン;N−メチルアデノシン;N,N−ジメチルアデノシン;N,2’−O−トリメチルアデノシン;2−メチルチオ−NN−イソペンテニルアデノシン;N−(シス−ヒドロキシイソペンテニル)−アデノシン;2−メチルチオ−N−(シス−ヒドロキシイソペンテニル)−アデノシン;N−グリシニルカルバモイル)アデノシン;N−スレオニルカルバモイルアデノシン;N−メチル−Nスレオニルカルバモイルアデノシン;2−メチルチオ−N−メチル−N−スレオニルカルバモイルアデノシン;Nヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン;2−メチルチオ−N−ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン;2−O−リボシルアデノシン(ホスファート);イノシン;2’O−メチルイノシン;1−メチルイノシン;1,2’−O−ジメチルイノシン;2’−O−メチルグアノシン;1−メチルグアノシン;N−メチルグアノシン;N2,N2−ジメチルグアノシン;N2,2’−O−ジメチルグアノシン;N,N,2’−O−トリメチルグアノシン;2’−O−リボシルグアノシン(ホスファート);7−メチルグアノシン;N;7−ジメチルグアノシン;N,N,7−トリメチルグアノシン;ウイオシン;メチルウイオシン;不完全修飾(under−modified)ヒドロキシワイブトシン;ワイブトシン;30ヒドロキシワイブトシン;ペルオキシワイブトシン;キューオシン;エポキシキューオシン;ガラクトシル−キューオシン;マンノシル−キューオシン;7−シアノ−7−デアザグアノシン;アルカエオシン[7−ホルムアミド−7−デアザグアノシンとも称する];及び7−アミノメチル−7−デアザグアノシン。本発明の方法又は当該技術分野における他の方法を使用して、更なる修飾RNA分子を特定することができる。
【0044】
本発明のgRNAは、JCV T抗原のTM1、TM2又はTM3領域内に見られる配列に相補的なものに限定されない。JCVの別の領域、及び別のポリオーマウイルスも、適切に設計されたgRNAを用いたCRISPR系によって標的にすることができる。化膿レンサ球菌Cas9を使用するCRISPR系の場合、PAM配列をAGG、TGG、CGG又はGGGとすることができる。候補標的配列は、AGG、TGG、CGG、GGGなどの5’PAMへの近さによって特定することができる。別のCas9オルソログは、異なるPAM特異性を有し得る。例えば、S.サーモフィラス由来のCas9は、CRISPR1に5’−NNAGAA及びCRISPR3に5’−NGGNG)を必要とし、髄膜炎菌(Neiseria menigiditis)は5’−NNNNGATT)を必要とする。gRNAの特定の配列は変わり得るが、有用なgRNA配列は、オフターゲット作用を最小限に抑えながら、JCVを高効率で完全に除去するものである。候補gRNAの効率及びオフターゲット作用は、実施例1〜5に開示されたアッセイによって求めることができる。
【0045】
前述の野生型及び変異Cas9エンドヌクレアーゼに加えて、本発明は、オフターゲット切断を劇的に減少させる新規開発「高特異性」化膿レンサ球菌Cas9変異体(eSpCas9)を含むCRISPR系も包含する。これらの変異体は、アラニン置換によって操作されて、DNAの非標的鎖と相互作用する溝における正電荷部位を中和する。この修飾のこの目的は、Cas9と非標的鎖の相互作用を弱め、それによって標的鎖と非標的鎖の再ハイブリダイゼーションを促進することである。この修飾の効果は、オフターゲット切断を制限する、gRNAと標的DNA鎖のより厳密なワトソン−クリック対形成の一要件である(Slaymakerら、2015)。
【0046】
特に好ましいのは、最高の切断効率及び最少のオフターゲット作用を有することが判明した3種の変異体である:SpCas9(K855A)、SpCas9(K810A/K1003A/R1060A)(別名eSpCas9 1.0)及びSpCas9(K848A/K1003A/R1060A)(別名eSPCas9 1.1)。これらの高特異性変異体をクローン化し、その細胞発現を誘導する技術は、その全体を本明細書に援用するSlaymakerら(2015)に見つけることができる。本発明は、これらの変異体に決して限定されず、Slaymakerら(2015)によって開示されたすべてのCas9変異体も包含する。
【0047】
本発明は、別のタイプの高特異性Cas9変異体である、Joung及び同僚によって開示された原理に従って設計された「高忠実度」spCas9変異体(HF−Cas9)も含む(その全体を本明細書に援用するKleinstiverら、2016)。HF−Cas9変異体の幾つかは、Kleinstiverら(2009)によって開示された。本発明は、ウイルスDNAを不活性化し、ウイルス感染をなくす目的で、これらの変異体を初めて利用するものである。本発明は、これまで開示されなかったHF−Cas9変異体も含む。
【0048】
Cas9と標的DNAのgRNA媒介性複合体は、水素結合及び疎水性塩基スタッキングを含めて、Cas9と標的DNAの多数の接触を含む。本発明のHF−Cas9変異体は、Cas9によるDNA切断のために複合体を安定化するのに必要なエネルギーよりも高いエネルギーをこれらの接触が有するという概念から生まれる。これによって、ミスマッチがgRNAとその標的配列の結合を部分的に妨げるときでも、安定な複合体を形成することができる。HF−Cas9変異体は、Cas9と標的DNAの接触の一部を撹乱するアミノ酸置換を含む。撹乱は、安定な複合体がgRNAとその標的配列の完全又はほぼ完全な一致からのみ得られるという点まで、接触エネルギーを減少させる。
【0049】
Kleinstiverらによって開示されたHF−Cas9変異体の1種は、4つのアラニン置換、N497A、R661A、Q695A及びQ926Aを含む。これらの置換はすべて残基と塩基の水素結合を弱め、N497Aは、ペプチド骨格を介した水素結合にも影響を及ぼす。この変異体は、培養ヒト骨肉腫細胞を用いた実験において、野生型Cas9に匹敵するオンターゲット切断活性を有することが判明したが、計画的ミスマッチ部位におけるオフターゲット切断を著しく減少させた。この変異体は、本発明においては、変異体1(表1のSpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926Aとして含まれる。3種の追加の変異体を試験した。それらはすべて、spCas9−HF−1の上記4つの置換N497A、R661A、Q695A及びQ926Aを含み、さらに、第5の置換D1135E、L169A又はY450Aを含んだ。追加の置換は、塩基対スタッキングに関与するアミノ酸のすべてであった。これらの変異体は、野生型Cas9に匹敵するオンターゲット活性を示し、オフターゲット切断は、変異体1で認められたレベルよりもさらに低いレベルに減少した。本発明は、抗ウイルスCRISPR/Cas系に関連してこれらの変異体を含む。表1においては、これらを変異体2(SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E)、変異体3(SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、L169A)及び変異体4(SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、Y450A)と称する。
【0050】
Kleinstiverらは、変異体1の置換の3つ、すなわちR661A、Q695A及びQ926Aのみを含む変異体も開示した。この変異体は、野生型Cas9に見られるものに匹敵するオンターゲット切断を生じたが、オフターゲット作用については試験されなかった。オフターゲット作用を抑制することが予測されるので、この3置換変異体は、表1の変異体13(SpCas9 R661A、Q695A、Q926A)として本発明に含まれる。
【0051】
本発明は、Kleinstiverらによって開示されていないCas9変異体も含む。これらの変異体はすべて、野生型Cas9に匹敵するオンターゲット活性を有し、野生型Cas9に比べてオフターゲット活性が低下すると予測される。
【0052】
これまで開示されていない変異体の3種14、15及び16は、第4の置換を変異体13に追加したものである。変異体14は、D113E置換を含み、SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135Eと命名される。変異体15は、L169A置換を含み、SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、L169Aと命名される。L169A変異は、疎水性塩基対スタッキングに影響を及ぼす。変異体16は、Y450A置換を含み、SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、Y450Aと命名される。Y540A置換は、疎水性塩基対スタッキングに影響を及ぼす。
【0053】
2種の変異体5及び17は、置換M495Aをそれぞれ変異体1及び13に追加したものである。したがって、変異体5はSpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、M495Aと命名され、変異体17はSpCas9 R661A、Q695A、Q926A、M495Aと命名される。M495A置換は、残基−塩基水素結合、及びペプチド骨格を介した水素結合に影響を及ぼす。
【0054】
2種の変異体6及び18は、置換M695Aをそれぞれ変異体1及び13に追加したものである。したがって、変異体6はSpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、M695Aと命名され、変異体18はSpCas9 R661A、Q695A、Q926A、M694Aと命名される。M694A置換は、疎水性塩基対スタッキングに影響を及ぼす。
【0055】
2種の変異体7及び19は、置換H698Aをそれぞれ変異体1及び13に追加したものである。したがって、変異体7はSpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、H698Aと命名され、変異体19はSpCas9 R661A、Q695A、Q926A、H698Aと命名される。H698A置換は、疎水性塩基対スタッキングに影響を及ぼす。
【0056】
5種の変異体8〜12は、第6の置換を5置換変異体2に追加したものである。追加された置換は、それぞれ、L169A、Y450A、M495A、M694A及びM698Aである。したがって、変異体8は、SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、L169Aと命名され、変異体9は、SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、Y450Aと命名され、変異体10は、SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、Y495Aと命名され、変異体11は、SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694Aと命名され、変異体12は、SpCas9 N497A、R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M698Aと命名される。
【0057】
4種の変異体20〜23は、第5の置換を4置換変異体13に追加したものである。追加された置換は、それぞれ、L169A、Y450A、M495A及びM694Aである。したがって、変異体20は、SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E、L169Aと命名され、変異体21は、SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E、Y450Aと命名され、変異体22は、SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M495Aと命名され、変異体23は、SpCas9 R661A、Q695A、Q926A、D1135E、M694Aと命名される。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示した変異体は、それ自体、更なるアミノ酸置換、及びそれらの機能を更に変更する別の変異を含み得ることを理解されたい。例えば、Cas9配列は、DNAを切断するのではなく、DNAに切れ目を入れて、一本鎖切断する「ニッカーゼ」として挙動するように変異させることができる。Cas9においては、ニッカーゼ活性は、鎖特異的切断に関与する保存HNH及びRuvCドメインにおける変異によって得られる。例えば、RuvC触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニン(D10A)への変異によって、Cas9ニッカーゼ変異体(Cas9n)は、DNAを切断するのではなく、DNAに切れ目を入れて、一本鎖切断することができる(Sander及びJoung、2014)。HF−Cas9のいずれか又はすべての核酸配列は、哺乳動物細胞における効率的発現に対して最適化された、すなわち「ヒト化」コドンとすることができる。
【0060】
本発明は、Cas9エンドヌクレアーゼに限定されない。それは、gRNAによるPAM部位への誘導後にウイルスゲノムを切断することができる任意のCRISPR関連エンドヌクレアーゼの使用を必要とする組成物及び方法も包含する。例としては、Cpf1ファミリーのエンドヌクレアーゼ(プレボテラ(Prevotella)及びフランシセラ(Francisella)1由来のCRISPR)が挙げられる(Zetscheら、2015)。2種のCpf1エンドヌクレアーゼ、アシダミノコッカス(Acidaminococcus)種BV3L6 Cpf1及びラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌ND2006 Cpf1が、培養ヒト腎細胞系における遺伝子編集に有効であることがこれまでに示された。
【0061】
Cpf1エンドヌクレアーゼは、Cas9によって認識されるシトシンリッチPAMとは異なるPAMを認識するので、JCV及び他のポリオーマウイルスにおける可能な標的の範囲を拡大する。Cpf1は、コンセンサス配列TTNを有するチミンリッチPAMを認識し、そのPAMは、標的配列の5’末端に位置する。Cpf1は、Cas9系よりも小さく単純なgRNAによって誘導される。crRNA及びtracrRNAを含む2ユニットgRNA、又はcrRNAとtracrRNAの改変キメラハイブリッドの代わりに、Cpf1は、gRNAと呼ばれる単一ガイドRNAによって誘導される。Cpf1分子もCas9分子より小さい。この単純性の増加及びサイズの減少によって、CRISPR/Cpf1系の設計及び使用と、宿主細胞の核へのエンドヌクレアーゼ成分の送達の両方が促進される。
【0062】
gRNAの配列は、編集に選択された特定の標的部位の配列に依存する。好ましい標的部位は、JCV又は別のポリオーマウイルスのT−Ag領域に位置する。一般に、gRNAは、配列5’TTNのチミンリッチPAMのすぐ3’側にある標的DNA配列に相補的であると予測される。gRNA配列は、センス又はアンチセンス配列に相補的とすることができる。gRNA配列は、PAM配列の相補配列(complement)を含んでも、含まなくてもよい。gRNA配列は、標的配列に相補的でなくてもよい追加の5’及び/又は3’配列を含むことができる。gRNA配列は、標的配列に対する相補性100%未満、例えば相補性95%とすることができる。gRNAは、コード又は非コード標的配列に相補的な配列を有する。gRNA配列は、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の異なるgRNAの組合せを含めて、多重構成で使用することができる。
【0063】
本発明の組成物及び方法は、T−Ag遺伝子に対するgRNA誘導攻撃によってJCVを除去するのに有効であることが証明された。したがって、本発明は、SV40などの他のポリオーマウイルスに対する有効な処置として役立つように容易に改変可能である可能性がある。改変は、主に、特定のポリオーマウイルスのT−Ag遺伝子又は他の重要な遺伝子中のCas9又は別の適切なエンドヌクレアーゼに対するPAM配列を特定することに関わる問題である。そこで、PAM配列に隣接する配列に相補的なgRNAが生成され、実施例1〜5に開示された方法によって試験される。
【0064】
したがって、本発明は、ポリオーマウイルスに感染した宿主細胞からポリオーマウイルスを除去する方法を包含する。該方法は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼとポリオーマウイルスDNA中の標的配列に相補的であるスペーサー配列を有する少なくとも1個のガイドgRNAで宿主細胞を処理するステップ、及びポリオーマウイルスを宿主細胞から除去するステップを含む。好ましい実施形態においては、gRNAスペーサー配列は、ポリオーマウイルスDNAのラージT抗原(T−Ag)コード領域中の標的配列に相補的である。
【0065】
ベクター。本発明は、1個以上のgRNA、Cas9などのCasエンドヌクレアーゼなどのCRISPR成分の発現用の1個以上のカセットを含むベクターを含む。ベクターは、当該技術分野で公知であり所望の発現カセットを発現するのに適切である任意のベクターとすることができる。当該技術分野で知られているとおり、また、本明細書に記載のとおり、幾つかのベクターは、遺伝子産物を哺乳動物細胞に移すのを媒介する能力のあることが知られている。「ベクター」(遺伝子送達又は遺伝子移入「ビヒクル」と時折称される)とは、生体外又は生体内で宿主細胞に送達されるポリヌクレオチドを含む巨大分子又は分子複合体を指す。送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子療法における目的コード配列を含むことができる。
【0066】
好ましいベクターは、レンチウイルスベクターである。レンチウイルスベクターは、増殖細胞と休止細胞の両方の効率的導入の提供、宿主クロマチンへの組み込みによる送達遺伝子の安定発現、及び既存ウイルス免疫からの干渉がないという利点を有する。実施例5に開示された実験においては、Cas9/gRNA成分の薬剤誘発性レンチウイルス発現ベクターは、感染細胞におけるJCV T−Ag発現の消失に有効であることが示された。一例示的構成においては、宿主細胞に、ドキシサイクリン誘導性レンチウイルスベクター中のCas9又は別の適切なCRISPRエンドヌクレアーゼが安定に導入された。JCVの除去が望まれるときには、宿主細胞に1個以上のgRNAを導入し、宿主細胞をドキシサイクリンで処理して、Cas9の発現を活性化し、JCVゲノムの誘導切断及びウイルスの不活性化を引き起こした。あるいは、1個以上のgRNAを薬剤誘発様式で安定に導入することができ、又はCRISPR関連エンドヌクレアーゼとgRNAの両方をそのように導入することができる。臨床状況においては、この処置をJCV感染のリスクがある患者に使用することができ、CRISPR成分が感染によって活性化される。
【0067】
したがって、本発明は、JCVを宿主細胞から除去するのに使用するためのベクター組成物を包含する。ベクター組成物は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1個の単離核酸配列、及びJCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を有する少なくとも1個のgRNAを含む。単離核酸配列は、宿主細胞中のCRISPR関連エンドヌクレアーゼ及び少なくとも1個のgRNAの発現を誘導する少なくとも1個の発現ベクターに含まれる。
【0068】
本発明は、実施例1〜5に記載のプラスミド及びレンチウイルスベクターに決して限定されない。別の好ましいベクターとしては、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。これらは、宿主細胞DNAに組み込まれないという利点がある。水疱性口内炎ウイルス(VSV:vesicular stomatitis virus)ベクター、ポックスウイルスベクター及びレトロウイルスベクターを含めて、ただしそれらに限定されない多数の他の組換えウイルスベクターも適切である。
【0069】
「組換えウイルスベクター」とは、1種以上の異種遺伝子産物又は配列を含むウイルスベクターを指す。多くのウイルスベクターは、パッケージングに関連したサイズの制約があるので、異種遺伝子産物又は配列は、一般に、ウイルスゲノムの1個以上の部分を置換することによって導入される。こうしたウイルスは、複製欠損になることがあり、(例えば、複製及び/又はカプシド形成に必要な遺伝子産物を保有するヘルパーウイルス又はパッケージング細胞系を使用することによって)失われた機能(単数又は複数)をウイルス複製及びカプシド形成中に途中で付与する必要がある。送達されるポリヌクレオチドをウイルス粒子の外側に保有する改変ウイルスベクターも記述された。
【0070】
レトロウイルスベクターとしては、モロニーマウス白血病ウイルス及びHIV系ウイルスが挙げられる。1種の好ましいHIV系ウイルスベクターは、少なくとも2種のベクターを含み、gag及びpol遺伝子がHIVゲノムに由来し、env遺伝子が別のウイルスに由来する。DNAウイルスベクターが好ましい。これらのベクターとしては、オルソポックス、トリポックスベクターなどのポックスベクター、単純ヘルペスIウイルス(HSV:herpes simplex I virus)ベクターなどのヘルペスウイルスベクターが挙げられる。
【0071】
ポックスウイルスベクターは、遺伝子を細胞質に導入する。トリポックスウイルスベクターは、核酸の短期発現しかもたらさない。アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及び単純ヘルペスウイルス(HSV:herpes simplex virus)ベクターは、幾つかの発明実施形態のための指標になり得る。アデノウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスよりも短期の発現(例えば、約1か月未満)をもたらし、一部の実施形態においては、はるかに長い発現を示す場合もある。選択される特定のベクターは、標的細胞及び処置される症状に依存する。適切なプロモーターの選択は、容易に行うことができる。一部の実施形態においては、高発現プロモーターを使用することができる。適切なプロモーターの一例は、763塩基対サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターである。ラウス肉腫ウイルス(RSV:Rous sarcoma virus)及びMMTプロモーターを使用することもできる。ある種のタンパク質は、それらの天然プロモーターを用いて発現され得る。tat遺伝子、tarエレメントなどの高レベルの発現をもたらすエンハンサー又は系などの発現を高めることができる別のエレメントを含むこともできる。次いで、このカセットをベクター、例えば、pUC19、pUC118、pBR322などのプラスミドベクター、又は例えば大腸菌複製開始点を含む、別の公知のプラスミドベクターに挿入することができる。プラスミドベクターは、マーカーポリペプチドが処置する生物の代謝に悪影響を及ぼさないという条件で、アンピシリン耐性のためのβ−ラクタマーゼ遺伝子などの選択マーカーを含むこともできる。カセットは、国際公開第95/22618号に開示された系などの合成送達系における核酸結合部分に結合することもできる。
【0072】
別の送達方法は、発現産物を細胞内で産生することができる一本鎖DNA生成ベクターを使用することである。例えば、参照によりその全体を本明細書に援用する、Chenら、BioTechniques、34:167〜171(2003)を参照されたい。
【0073】
発現は、発現のために選択された宿主中で機能し得る当該技術分野で公知の任意のプロモーター/エンハンサーエレメントによって制御することができる。実施例の項に記載のプロモーターに加えて、遺伝子発現に使用することができる他のプロモーターとしては、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40初期プロモーター領域、ラウス肉腫ウイルスの3’長末端反復に含まれるプロモーター、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター、メタロチオネイン遺伝子の制御配列;ベータ−ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物発現ベクター、又はtacプロモーター;Gal4プロモーターなどの酵母又は別の真菌由来のプロモーターエレメント、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADC)プロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター;及び組織特異性を示し、トランスジェニック動物に利用される動物転写制御領域:膵腺房細胞において活性なエラスターゼI遺伝子制御領域、膵ベータ細胞において活性なインスリン遺伝子制御領域、リンパ球様細胞において活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域、精巣、乳房、リンパ球及び肥満細胞において活性なマウス乳癌ウイルス制御領域、肝臓において活性なアルブミン遺伝子制御領域、肝臓において活性なアルファ−フェトプロテイン遺伝子制御領域、肝臓において活性なアルファ1−抗トリプシン遺伝子制御領域、骨髄細胞において活性なベータ−グロビン遺伝子制御領域、脳の乏突起膠細胞において活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域、骨格筋において活性なミオシン軽鎖−2遺伝子制御領域、及び視床下部において活性な性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域が挙げられるが、それらに限定されない。
【0074】
多種多様な宿主/発現ベクターの組合せを、本発明の核酸配列の発現に使用することができる。例えば、有用な発現ベクターは、染色体、非染色体及び合成DNA配列のセグメントからなり得る。適切なベクターとしては、SV40の誘導体及び公知の細菌プラスミド、例えば、大腸菌プラスミドcol E1、pCR1、pBR322、pMal−C2、pET、pGEX、pMB9及びそれらの誘導体、RP4などのプラスミド;ファージDNA、例えば、ファージ1の多数の誘導体、例えば、NM989、及び別のファージDNA、例えば、M13及び糸状一本鎖ファージDNA;2μプラスミド又はその誘導体などの酵母プラスミド、昆虫又は哺乳動物細胞に有用なベクターなどの真核細胞に有用なベクター;ファージDNA又は別の発現制御配列を使用するように修飾されたプラスミドなどのプラスミドとファージDNAとの組合せに由来するベクターなどが挙げられる。
【0075】
酵母発現系を使用することもできる。例えば、ほんの2種を挙げれば、非融合pYES2ベクター(XbaI、SphI、ShoI、NotI、GstXI、EcoRI、BstXI、BamH1、SacI、Kpn1及びHindIIIクローニング部位;Invitrogen)又は融合pYESHisA、B、C(XbaI、SphI、ShoI、NotI、BstXI、EcoRI、BamH1、SacI、KpnI及びHindIIIクローニング部位、ProBond樹脂を用いて精製され、エンテロキナーゼを用いて切断されたN末端ペプチド;Invitrogen)を本発明に従って採用することができる。酵母二重ハイブリッド発現系を本発明に従って調製することができる。
【0076】
追加の適切なベクターとしては、v融合タンパク質及び化学複合物が挙げられる。必要に応じて、本発明のポリヌクレオチドは、カチオン性リポソームなどの微小送達ビヒクル、及び別の脂質含有複合体、及び宿主細胞へのポリヌクレオチドの送達を媒介する能力のある別の巨大分子複合体と一緒に使用することもできる。
【0077】
ベクターは、遺伝子送達及び/又は遺伝子発現を更に調節する、又は有益な性質を標的細胞に付与する、別の成分又は官能基を含むこともできる。こうした別の成分としては、例えば、細胞への結合又はターゲティングに影響する成分(細胞型又は組織特異的結合を媒介する成分を含む)、細胞によるベクター核酸の取り込みに影響する成分、取り込み後に細胞内のポリヌクレオチドの局在化に影響する成分(核局在化を媒介する剤など)、及びポリヌクレオチドの発現に影響する成分が挙げられる。こうした成分は、ベクターによって送達される核酸を取り込み、発現している細胞を検出又は選択するのに使用することができる検出可能及び/又は選択可能なマーカーなどのマーカーを含むこともできる。こうした成分は、ベクターの自然な特徴(結合及び取り込みを媒介する成分又は官能基を有するある種のウイルスベクターの使用など)として付与することができ、又はベクターを修飾して、こうした官能基を付与することができる。別のベクターとしては、Chenら、BioTechniques、534:167〜171(2003)に記載のものが挙げられる。多様なこうしたベクターが当該技術分野で公知であり、一般に利用可能である。
【0078】
ベクターの送達は、エキソソームによって媒介することもできる。エキソソームは、多数の細胞型によって放出される脂質ナノベシクルである。それらは、核酸及びタンパク質を細胞間で輸送することによって、細胞間情報伝達を媒介する。エキソソームは、エンドサイトーシス経路に由来するRNA、miRNA及びタンパク質を含む。それらは、エンドサイトーシス、融合又は両方によって標的細胞に取り込むことができる。一般に、エンドソーム内容物を受け取ると、受け取り細胞の機能が変わる(Leeら、2012)。
【0079】
エキソソームを利用して、核酸を標的細胞に送達することができる。好ましい一方法においては、エキソソームは、産生細胞によってインビトロで産生され、精製され、電気穿孔法によって、又は脂質導入剤によって、核酸カーゴを搭載する(Marcus及びLeonard、2013、Shtamら、2013)。カーゴは、Casエンドヌクレアーゼ及び1個以上のgRNAのための発現構築物を含むことができる。適切な技術は、Kooijmansら(2012)、Leeら(2012)、Marcus及びLeonard(2013)、Shtamら(2013)、又はその中の参考文献に見つけることができる。エキソソームを生成し、エキソソームに搭載するための例示的なキットは、ExoFect(商標)キット(System Biosciences,Inc.、マウンテンビュー、CA)である。
【0080】
エキソソームは、特定の細胞型による優先的な取り込みの標的にすることもできる。本発明に特に有用なターゲティング戦略は、Alvarez−Ervittiら(2011)によって開示されている。その中に開示された技術を使用して、エキソソームに狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG:rabies viral glycoprotein)ペプチドを搭載することができる。RVGを保有するエキソソームは、脳、特にニューロン、乏突起膠細胞及び小膠細胞に特異的に戻り、他の組織に非特異的に蓄積することがほとんどない。
【0081】
本発明の発現構築物は、ナノクリュー(nanoclews)によって送達することもできる。ナノクリューは、繭状のDNAナノコンポジットである(Sunら、2014)。それらは、標的細胞による取り込み及び標的細胞の細胞質における放出のために核酸を搭載することができる。ナノクリューを構築し、それに搭載し、放出分子を設計する方法は、Sunら(2014)及びSunら(2015)に見つけることができる。
【0082】
本発明の遺伝子編集構築物は、宿主細胞による誘導発現ではなく、直接送達、すなわち、Cas9タンパク質などのCasヌクレアーゼタンパク質+1個以上のgRNAの送達によって送達することもできる。エキソソームは、タンパク質とRNAの両方を搭載することができるので、直接送達に好ましいビヒクルである(Alvarez−Ervittiら、2011;Marcus及びLeonard、2013)。エキソソームにタンパク質を搭載する例示的な方法は、エキソソーム産生細胞における、ラクトアドヘリンなどのエンドソームタンパク質との融合物としてのタンパク質の発現による。エキソソームの別の好都合な特徴は、前述のように、脳などの特定の部位をそれらの標的にし得ることである。gRNAは、Casヌクレアーゼタンパク質として、好ましくは、Cas/gRNA複合体の形で、同じエキソソームに搭載することができる。あるいは、CasエンドヌクレアーゼとgRNAは、同時又は段階的送達のために、別々のエキソソームに搭載することができる。
【0083】
遺伝子編集複合体の直接送達は、ナノクリューによって行うこともできる。Sunら(2015)は、受け取り細胞への取り込み及び放出のためにCas9/gRNA複合体をナノクリューに搭載する技術を開示している。
【0084】
直接送達ビヒクルは、i.v.、i.p、直腸、髄腔内、頭蓋内、吸入、及び錠剤を含めた経口を含めて、ただしそれらに限定されない、任意の適切な経路によって投与することができる。
【0085】
医薬組成物
培養細胞からのJCVの除去に有効であることが証明された組成物及び方法(実施例1〜5)は、1個以上の適切な発現ベクターによって送達された場合、生体内で有効である可能性が極めて高い。したがって、本発明は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする単離核酸配列とJCVゲノム中の標的配列に相補的である少なくとも1個のgRNAをコードする少なくとも1個の単離核酸配列とを含む、哺乳動物対象の細胞からJCVを除去するための医薬組成物を包含する。好ましいgRNAは、JCV T−AgのTM1、TM2、TM3又は別の領域に相補的であるスペーサー配列を含む。例えば、gRNA m1、m2及びm3を個々に又は任意の組合せで含むことができる。医薬組成物は、単離核酸配列がコードされた少なくとも1個の発現ベクターも含むことも好ましい。
【0086】
本発明に係る医薬組成物は、当業者に既知の種々の方法で調製することができる。例えば、上記核酸及びベクターは、組織培養において細胞に適用するために、又は患者若しくは対象に投与するために、組成物内で処方することができる。これらの組成物は、医薬品技術分野で周知の様式で調製することができ、局所療法と全身療法のどちらが所望か、及び処置すべき領域に応じて、種々の経路で投与することができる。投与は、局所(眼、並びに鼻腔内、膣及び直腸送達を含めた粘膜)、肺(例えば、噴霧器によるものを含めて、粉体又はエアロゾルの吸入又は吹送、気管内、鼻腔内、表皮及び経皮)、眼球、経口又は非経口とすることができる。眼球送達方法としては、局所投与(点眼剤)、結膜下、眼周囲若しくは硝子体内注射、又はバルーンカテーテルによる導入、又は結膜嚢に手術によって置かれた眼挿入物が挙げられる。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内若しくは筋肉内注射若しくは注入、又は頭蓋内、例えば、髄腔内若しくは脳室内投与が挙げられる。非経口投与は、単一大量瞬時投与の形とすることができ、又は例えば、連続潅流ポンプによることができる。局所投与用医薬組成物及び製剤としては、皮膚貼付剤、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、滴下剤、坐剤、噴霧剤、液剤、散剤などが挙げられる。従来の薬剤担体、水性、粉体又は油性基剤、増粘剤などが必要な場合もあり、又は望ましい場合もある。
【0087】
本発明は、活性成分として本明細書に記載の核酸、ベクター、エキソソーム及びナノクリューを1種以上の薬学的に許容される担体と組み合わせて含む医薬組成物も含む。本発明者らは、「薬学的に許容される」(又は「薬理学的に許容される」)という用語を、動物又はヒトに適宜投与したときに、副作用も、アレルギー反応も、他の有害反応も生じない分子的実体及び組成物を指すのに使用する。本明細書では「薬学的に許容される担体」という用語は、薬学的に許容される物質の媒体として使用することができる、任意及びすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤、緩衝剤、賦形剤、結合剤、潤滑剤、ゲル剤、界面活性剤などを含む。本発明の組成物を製造する際には、活性成分は、一般に、賦形剤と混合され、賦形剤によって希釈され、又は、例えば、カプセル、錠剤、サシェ、紙若しくは別の容器の形でこうした担体内に封入される。賦形剤が希釈剤として働くときには、それは、活性成分のビヒクル、担体又は媒体として作用する、固体、半固体又は液体材料(例えば、生理食塩水)とすることができる。したがって、組成物は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁液剤、乳濁液剤、溶液剤、シロップ剤、エアロゾル剤(固体として、又は液体媒体中の)、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、軟及び硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、無菌注射液剤、並びに無菌包装散剤の形とすることができる。当該技術分野で知られているように、希釈剤のタイプは、意図された投与経路に応じて変わり得る。得られる組成物は、防腐剤などの追加の薬剤を含むことができる。一部の実施形態においては、担体は、脂質ベース若しくはポリマーベースのコロイドとすることができ、又は該コロイドを含むことができる。一部の実施形態においては、担体材料は、リポソーム、ヒドロゲル、微粒子、ナノ粒子、又はブロックコポリマーミセルとして処方されるコロイドとすることができる。上述したように、担体材料はカプセル剤を形成することができ、該材料は、ポリマーベースのコロイドとすることができる。例示的な薬学的に許容される担体及び希釈剤、並びに医薬製剤の更なる記述は、この分野における標準の教科書であるRemington’s Pharmaceutical Sciences及びUSP/NFに見つけることができる。別の物質を組成物に添加して、組成物を安定化及び/又は保存することができる。
【0088】
本発明の核酸配列は、対象の適切な細胞に送達することができる。これは、例えば、マクロファージなどの食細胞による食作用を最適化するサイズのポリマー生分解性微粒子又はマイクロカプセル送達ビヒクルの使用によって行うことができる。例えば、直径約1〜10μmのポリ−ラクト−コ−グリコリド(PLGA:poly−lacto−co−glycolide)微粒子を使用することができる。ポリヌクレオチドは、これらの微粒子に封入され、微粒子は、マクロファージによって取り込まれ、細胞内で徐々に生物分解され、それによってポリヌクレオチドを放出する。放出後、DNAが細胞内で発現される。第2のタイプの微粒子は、細胞によって直接取り込まれることを意図せず、生分解による微粒子からの放出によってのみ細胞に取り込まれる核酸の徐放貯蔵器として主に働くことを意図している。これらのポリマー粒子は、したがって、食作用を予防するのに十分な大きさであるべきである(すなわち、5μmを超え、好ましくは20μmを超える)。核酸を取り込む別の方法は、標準の方法によって調製されたリポソームを使用することである。核酸は、これらの送達ビヒクルに単独で取り込むことができ、又は組織特異抗体、例えば、HIV感染の一般的潜伏感染貯蔵器である細胞型、例えば、脳マクロファージ、小膠細胞、星状細胞及び消化管関連リンパ球様細胞を標的にする抗体と一緒に取り込むことができる。あるいは、静電気力若しくは共有結合力によってポリL−リジンに付着したプラスミド又は別のベクターで構成される分子複合体を調製することができる。ポリL−リジンは、標的細胞の受容体に結合することができるリガンドに結合する。「裸DNA」(すなわち、送達ビヒクルなし)の筋肉内、皮内又は皮下部位への送達は、生体内発現を実現する別の手段である。関連するポリヌクレオチド(例えば、発現ベクター)においては、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする配列とガイドRNAとを含む単離核酸配列をコードする核酸配列は、プロモーター又はエンハンサー−プロモーターの組合せに作用可能に結合する。プロモーター及びエンハンサーについては上述した。
【0089】
一部の実施形態においては、本発明の組成物は、ナノ粒子、例えば、DNAと複合化され、ポリエチレングリコール修飾(PEG化)低分子量LPEIのシェルで包囲された高分子量線状ポリエチレンイミン(LPEI)のコアを含むナノ粒子として処方することができる。
【0090】
核酸及びベクターは、装置(例えば、カテーテル)の表面に適用することもでき、又はポンプ、パッチ若しくは他の薬物送達装置に含むこともできる。本発明の核酸及びベクターは、薬学的に許容される賦形剤若しくは担体(例えば、生理食塩水)の存在下で、単独で、又は混合物で投与することができる。賦形剤又は担体は、投与の方法及び経路に基づいて選択される。適切な薬剤担体、及び医薬製剤に使用される医薬必需品は、この分野で周知の参考文献であるRemington’s Pharmaceutical Sciences(E.W.Martin)、並びに米国薬局方及び国民医薬品集(USP/NF)に記載されている。
【0091】
一部の実施形態においては、組成物は、Cas9又は変異Cas9をコードする核酸及び標的HIVに相補的な少なくとも1個のgRNA配列を封入するナノ粒子として処方することができ、又はこれらの成分をコードするベクターを含むことができる。あるいは、組成物は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼを封入するナノ粒子として、本発明の核酸組成物の1つ以上によってコードされるポリペプチドを処方することができる。
【0092】
治療方法
実施例1〜4に開示された結果によれば、本発明のCRISPR系は、JCVを宿主細胞から除去するのに有効であり、新たな感染に対して宿主細胞を抵抗性にするのに有効である。これらの知見は、CRISPR系の成分をJCVに感染した患者及びJCVのリスクがある患者に、治療及び予防処置として送達できることを示している。好ましい送達方法は、前述の医薬組成物を含む。
【0093】
したがって、本発明は、対象に有効量の上記医薬組成物を投与するステップを含む、進行性多巣性白質脳症などのLCV関連障害を有する対象を治療する方法を包含する。本発明は、JCV感染のリスクがある患者の細胞のJCV感染を予防する方法であって、患者がJCV感染のリスクがあることを判定するステップ、CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする単離核酸と、JCV DNA中の標的配列に相補的なスペーサー配列を含む少なくともgRNAをコードする少なくとも1個の単離核酸とを含む有効量の発現ベクター組成物に患者の細胞を曝露するステップ、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ及び少なくとも1個のgRNAを患者の細胞中で安定に発現させるステップ、並びに患者の細胞のJCV感染を予防するステップを含む方法も包含する。
【0094】
本発明の組成物及び方法は、ポリオーマウイルス媒介性感染症、例えばJCV感染症の対象の治療に一般的に多様に有用である。対象は、臨床的に有益な結果が得られる時はいつでも有効に治療される。これは、例えば、疾患の症状の完全な消散、疾患の症状の重症度の減少、又は疾患の進行の減速を意味し得る。したがって、本発明の方法は、副腎神経芽細胞腫、神経外胚葉性腫瘍、小脳から発生する腫瘍、下垂体腫瘍、末梢神経鞘腫瘍、及び乏突起星細胞腫、黄色星細胞腫、髄芽腫、乏突起膠腫、多形性膠芽腫、膠細胞起源の脳腫瘍、CNSリンパ腫などの脳腫瘍を含めた癌;並びに結腸及び食道の癌;又は二次感染症などのJCV感染症に関連する疾患及び障害の治療に有用であり得る。該方法は、更に、a)JCV感染症の対象(例えば、患者、より具体的にはヒト患者)を特定するステップ、及びb)CRISPR関連エンドヌクレアーゼをコードする核酸とJCV標的配列、例えばT抗原配列に相補的なガイドRNAとを含む組成物を対象に供給するステップも含むことができる。感染症の症状の完全な消散、感染症の症状の重症度の減少、又は感染症の進行の減速をもたらす、対象に供給されたこうした組成物の量は、治療有効量と考えられる。本発明の方法は、投与及び計画の最適化を助け、成果を予測するモニタリングステップを含むこともできる。
【0095】
本発明の幾つかの方法においては、患者がJCV感染症を有するかどうかをまず判定し、次いで本明細書に記載の組成物の1種以上で患者を治療するかどうかを決定することができる。モニタリングは、薬剤耐性の発生を検出し、反応性患者を非反応性患者から迅速に区別するのに使用することもできる。一部の実施形態においては、該方法は、更に、患者が内部に有する特定のJCVの核酸配列を決定するステップと、次いで、これら特定の配列に相補的であるガイドRNAを設計するステップも含むことができる。例えば、対象のTM1、TM2及び/又はTM3領域の核酸配列を決定し、次いで1個以上のgRNAを患者の配列に正確に相補的であるように設計することができる。
【0096】
一部の実施形態においては、組成物を生体外で投与して、一個体から取り出された細胞又は器官を処置し、別の個体に移植することができる。移植用の細胞又は器官に、本発明のCas9組成物を含むベクターを導入することができる。標的JCV配列の除去又は減弱を確認することができ、処置された細胞を患者に注入することができる。
【0097】
本明細書で具体的に例示された方法で特定された組成物又は薬剤は、動物及びヒトを含めた対象に任意の適切な処方で投与することができる。例えば、組成物を生理食塩水、緩衝塩溶液などの薬学的に許容される担体又は希釈剤中で処方することができる。適切な担体及び希釈剤は、投与方法及び投与経路並びに標準薬務に基づいて選択することができる。
【0098】
本発明の組成物は、任意の従来技術によって対象に投与することができる。組成物は、例えば、内部若しくは外部の標的部位への外科的送達によって、又は血管によって到達可能な部位にカテーテルによって、標的部位に直接投与することができる。別の送達方法、例えば、リポソーム送達、又は組成物を含浸させた装置からの拡散が当該技術分野で公知である。組成物は、単一大量瞬時投与、複数回注射又は持続注入(例えば、静脈内)で投与することができる。非経口投与の場合、有用な組成物は、滅菌され発熱物質を含まない形で処方される。
【0099】
組成物は、追加の治療薬、例えば、脱髄疾患治療用薬剤、例えば、ナタリズマブ(Tysabri(登録商標))、フィンゴリモド(Gilenya);B細胞機能不全(リツキシマブ(Rituxan(登録商標)、MabThera(登録商標)及びZytux(登録商標));免疫介在性障害及び移植(アダリムマブ/Humira;ブレンツキシマブベドチン/Adcetris;エファリツマブ/Raptiva;エタネルセプト/Enbrel、インフリキシマブ(Remicade);ミコフェノール酸モフェチル(MMF)/Cell Cept;又はレトロウイルス感染症、例えば、極めて有効な抗レトロウイルス療法(HAART:Highly Effective Antiretroviral Therapy)と一緒に投与することができる。2種以上の治療薬の同時投与は、薬剤がその治療効果を発揮する期間が重複する限り、薬剤が同時に又は同じ経路で投与される必要はない。同時又は逐次的な投与が企図され、異なる日又は週の投与も同様である。治療薬は、規則正しい投薬計画、例えば、連続低用量の治療薬で投与することができる。
【0100】
こうした組成物の投与量、毒性及び治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)及びED50(集団の50%に治療上有効な用量)を求める、細胞培養物又は実験動物における標準の薬学手順によって決定することができる。毒作用と治療効果の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比として表すことができる。高い治療指数を示すCas9/gRNA組成物が好ましい。有毒な副作用を示すCas9/gRNA組成物を使用することもできるが、非感染細胞への潜在的損傷を最小限にし、それによって副作用を軽減するために、患部組織の部位を標的としてこうした組成物を送る送達系の設計には注意しなくてはならない。
【0101】
細胞培養アッセイ及び動物試験から得られるデータは、ヒトに使用されるある範囲の投与量を処方するのに使用することができる。こうした組成物の投与量は、一般に、ほとんど又は全く毒性がない、ED50を含む循環濃度範囲内にある。投与量は、使用剤形及び利用する投与経路に応じてこの範囲内で変動し得る。本発明の方法に使用される任意の組成物では、治療有効量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。用量は、細胞培養で決定されるIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する試験化合物濃度)を含む循環血漿中濃度範囲が得られるように、動物モデルにおいて処方することができる。こうした情報を使用して、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。血漿中レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィによって測定することができる。
【0102】
本明細書に定義したとおり、治療有効量の組成物(すなわち、有効投与量)とは、治療上(例えば、臨床的に)望ましい結果を生じるのに十分な量を意味する。組成物は、隔日1回を含めて、1日1回以上から週1回以上まで投与することができる。当業者は、疾患又は障害の重症度、以前の治療、対象の全般的健康状態及び/又は年齢、並びに存在する他の疾患を含めて、ただしそれらに限定されない、ある種の要因が、対象を有効に治療するのに必要な投与量及びタイミングに影響し得ることを理解されたい。さらに、治療有効量の本発明の組成物を用いた対象の治療は、単一の治療又は一連の治療を含むことができる。
【0103】
本明細書に記載の組成物は、上記種々の薬物送達システムにおける使用に適している。さらに、投与化合物の生体内血清中半減期を延長するために、組成物を封入することができ、リポソームの管腔に導入することができ、コロイドとして調製することができ、又は組成物の血清中半減期を延長する他の従来技術を採用することができる。例えば、その各々を参照により本明細書に援用する、Szokaら、米国特許第4,235,871号、同4,501,728号及び同4,837,028号に記載のように、種々の方法をリポソームの調製に利用することができる。さらに、標的薬物送達システム中で、例えば、組織特異抗体で被覆されたリポソーム中で、薬物を投与することができる。リポソームは、器官を標的にし、器官によって選択的に取り込まれる。
【0104】
組成物の投与製剤としては、直腸、経鼻、経口、局所(頬及び舌下を含む)、膣又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内及び皮内を含む)投与に適切なものが挙げられる。製剤は、好都合には単位剤形、例えば錠剤及び徐放性カプセル剤として提供することができ、薬学の技術分野で周知の任意の方法によって調製することができる。
【0105】
組成物は、1個以上のCas/gRNAベクターを形質転換又は導入された細胞を含むことができる。細胞は、対象の細胞とすることができ、又はそれらは、ハプロタイプが一致したもの、又は細胞系とすることができる。細胞を照射して複製を防止することができる。一部の実施形態においては、細胞は、ヒト白血球抗原(HLA:human leukocyte antigen)が一致した自己の細胞系、又はそれらの組合せである。別の実施形態においては、細胞は、幹細胞、例えば、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞(誘導多能性幹細胞(iPS cell:induced pluripotent stem cell))とすることができる。胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(誘導多能性幹細胞、iPS細胞)は、ヒトを含めた多数の動物種から樹立されている。これらのタイプの多能性幹細胞は、最も有用な再生医療用細胞源であろう。なぜなら、これらの細胞は、それらの分化の適切な誘導によってほぼすべての器官に分化可能であり、それらの多能性を維持しながら、活発に分裂する能力を保持するからである。iPS細胞は、特に、自己由来の体細胞から樹立することができ、したがって胚の破壊によって生成されるES細胞に比べて、倫理的及び社会的問題を引き起こしそうにない。さらに、iPS細胞は、自己由来の細胞であり、再生医療又は移植療法の最大の障壁である拒絶反応を回避することができる。
【0106】
gRNA発現カセットは、当該技術分野で公知の方法によって対象に送達することができる。一部の態様においては、Casは、断片とすることができ、Cas分子の活性なドメインが含まれ、それによって分子のサイズを削減することができる。したがって、Cas9/gRNA分子は、現在の遺伝子療法による手法と同様に、臨床的に使用することができる。特に、細胞移植療法及びポリオーマウイルスワクチン接種用のCas9/多重gRNA安定発現幹細胞又はiPS細胞が、対象における使用のために開発されるであろう。
【0107】
導入細胞は、確立された方法に従って再注入用に調製される。約2〜4週間の培養後、細胞は、数が1×10〜1×1010になり得る。この点で、細胞の増殖特性は、患者ごとに、また、細胞型ごとに異なる。導入細胞の再注入の約72時間前に、表現型、及び治療薬を発現する細胞の割合の分析のために一定分量を採取する。投与する場合、本発明の細胞は、患者の体重及び健康全般に適用して、細胞型のLD50及び種々の濃度における細胞型の副作用で決まる速度で投与することができる。投与は単一又は分割用量で実施することができる。成体幹細胞は、それらの生成を刺激する体外から投与された因子を用いて動員することもでき、骨髄又は脂肪組織を含めて、ただしそれらに限定されない、組織又は空間から出てくる場合もある。
【0108】
製品
本明細書に記載の組成物は、例えば、レトロウイルス感染症、例えばJCV感染症の対象、又はJCV感染症のリスクがある対象を治療する療法として使用するために、標識された適切な容器にパッケージすることができる。容器は、意図した用途に適宜、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9エンドヌクレアーゼと、JCV中の標的配列に相補的なガイドRNAとをコードする核酸配列、又は該核酸をコードするベクター、及び適切な安定剤、担体分子、香味剤などの1種以上を含む組成物を含むことができる。したがって、少なくとも1種の本発明の組成物、例えば、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9エンドヌクレアーゼと、JCV中の標的配列に相補的なガイドRNAとをコードする核酸配列、又は該核酸をコードするベクター、及び使用説明書を含む、パッケージ製品(例えば、本明細書に記載の組成物の1種以上を含み、濃縮又はすぐ使用できる濃度で貯蔵、出荷又は販売のためにパッケージされた、無菌容器)及びキットも本発明の範囲内である。製品は、1種以上の本発明の組成物を含む容器(例えば、バイアル、広口瓶、瓶、袋など)を含むことができる。さらに、製品は、例えば、パッケージング材料、使用説明書、シリンジ、送達装置、緩衝剤、又は予防若しくは治療が必要な症状を治療若しくは監視するための他の管理試薬を更に含むことができる。
【0109】
一部の実施形態においては、キットは、上述したように1種以上の追加の治療薬を含むことができる。追加の薬剤は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9エンドヌクレアーゼと、JCウイルス中の標的配列に相補的なガイドRNAとをコードする核酸配列、若しくは該核酸をコードするベクターと同じ容器に一緒にパッケージすることができ、又はそれらを別々にパッケージすることができる。CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9エンドヌクレアーゼと、JCウイルス中の標的配列に相補的なガイドRNAとをコードする核酸配列、又は該核酸をコードするベクター、及び追加の薬剤は、使用直前に組み合わせることができ、又は別々に投与することができる。
【0110】
製品は、説明文(例えば、印刷したラベル若しくは挿入物、又は製品の使用を述べる他の媒体(例えば、音声テープ又はビデオテープ)を含むこともできる。説明文は、容器に添える(例えば、容器に貼る)ことができ、その中の組成物を投与すべき方法(例えば、投与の回数及び経路)、そのための指示、及び他の用途を記載することができる。組成物は、すぐに投与することができ(例えば、用量の適切な単位で存在)、1種以上の追加の薬学的に許容されるアジュバント、担体若しくは他の希釈剤及び/又は追加の治療薬を含むことができる。あるいは、組成物は、希釈剤及び希釈説明書と一緒に、濃縮形態で提供することができる。
【実施例】
【0111】
実施例1:材料及び方法
T抗原を標的にする際のCas9及びgRNAの効果並びにその機能をCRISPR/Cas9技術を用いて調べた。JCVのCRISPR/Cas9ターゲティングのためのガイドRNAの設計を図1A及び1Bに示す。
【0112】
細胞培養。ヒト乏突起膠腫細胞系TC620(Wolleboら、2011)、及びSV40 T−Agを発現する開始点欠損SV40によって形質転換された初代ヒト胎児グリア細胞に由来する細胞系であるSVG−A(Majorら、1985)を、既報のとおり10%ウシ胎仔血清(FBS:fetal bovine serum)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で維持した(Wolleboら、2011)。HJC−2は、JCV T−Agを発現するJCV誘導ハムスターグリア芽細胞腫細胞系である(Rajら、1995)。BsB8は、JCV初期タンパク質T−Agを発現するトランスジェニックマウスにおいて生じる小脳神経外胚葉起源の腫瘍に由来するマウス細胞系である(Krynskaら、2000)。SVG−A細胞にpX260由来のプラスミド(後述)を導入し、ピューロマイシン含有培地中で選択し、単一クローンを希釈クローニングによって単離することによって、Cas9及びJCV T抗原gRNAを発現するSVG−A細胞の誘導体を発生させた。
【0113】
プラスミド調製。ヒトCas9及びgRNA発現カセットpX260及びpX330(Addgene)を含むベクターを使用して、種々の構築物を作製した。どちらのベクターも、CAGプロモーターによって駆動されるヒト化Cas9コード配列、及びヒトU6プロモーターによって駆動されるgRNA発現カセットを含む(Congら、2013)。ベクターをBbsIで消化し、アンタークティックホスファターゼで処理した。各ターゲティング部位に対する1対のオリゴヌクレオチドをアニールし、リン酸化し、線状化ベクターに連結した。オリゴヌクレオチドを図5に示す(配列番号19〜30)。gRNA発現カセットをGENEWIZにおいてU6配列決定プライマーを用いて配列決定した。pX330ベクターの場合、他のベクターへの直接導入又はサブクローニングのためにgRNA発現カセット(U6−gRNA−crRNA−ステム−tracrRNA)を細片にすることができる、オーバーハング消化部位を有する1対のユニバーサルPCRプライマーを設計した。
【0114】
レポーター構築物JCV−LUC(Wolleboら、2011)及びpcDNA3.1−ラージT−Ag発現プラスミドは、以前に記述されている(Changら、1996)。レンチウイルス産生のために、以下のプラスミドをAddgeneから得た:pCW−Cas9(#50661)、psPAX2(#12260)、pCMV−VSV−G(#8454)、pKLV−U6gRNA(BbsI)−PGKpuro2ABFP(#50946)、pMDLg/pRRE(#12251)、pRSV−Rev(#12253)。3個の標的の各々に対してgRNAレンチウイルス発現プラスミドを構築するために、上記3種のpX330gRNAプラスミドの各々からのU6発現カセットを隣接プライマー(5’−tatgggcccacgcgtgagggcctatttcccatgattcc−3’(配列番号42)及び5’−tgtggatcctcgaggcgggccatttaccgtaagttatg−3’)(配列番号43)を用いたPCRによって増幅し、PCR産物をMluI及びBamHIで処理し、MluI及びBamHIで切断されたpKLV−U6gRNA(BbsI)−PGKpuro2ABFP中にクローン化した。pCR4−TOPO TAベクターは、Life Technologies,Inc.、カールズバッド、CA製であった。
【0115】
一過性導入及びレポーターアッセイ。JCV−LUCレポータープラスミドとT−Ag発現プラスミドの同時導入を既報のとおりに行った(Wolleboら、2011、Wolleboら、2012)。手短に述べると、TC620細胞にレポーター構築物を単独で(200ng)又は種々の発現プラスミドと組み合わせて、収集前に48時間導入した。導入DNAの総量を空のベクターDNAを用いて規準化した。ルシフェラーゼアッセイを既報のとおりに行った(Wolleboら、2011、Wolleboら、2012)。
【0116】
Cas9及びgRNAを発現するSVG−Aのクローン誘導体の製造。SVG−A細胞に、3種の前述のgRNAseの各々を発現するpX260又はpX260由来のプラスミドを導入した。3μg/mlピューロマイシンを用いて選択を行い、クローンを希釈クローニングによって単離した。
【0117】
JCV感染症のアッセイ。上記Cas9及びgRNAを発現するSVG−A細胞又はSVG−AのSVG−Aクローン誘導体を用いて感染実験を行った。細胞を既報のとおりにMOI1でMad−1 JCVに感染させ(Radhakrishnanら、2003 Radhakrishnanら、2004)、非感染対照培養物と一緒に7日後に収集し、分析した。細胞全体のタンパク質抽出物中のウイルスタンパク質VP1及びアグノプロテインの発現をウエスタンブロットによって測定した。並行して、細胞の増殖培地も収集して、ウイルス量をQ−PCRによって測定した。
【0118】
免疫細胞化学。TC620細胞にFLAG標識Cas9の発現プラスミドを導入し、免疫細胞化学を既報のとおりにマウス抗Flag M2一次抗体(1:500、Sigma)を用いて行った(Huら、2014)。
【0119】
PCRによるT−Ag遺伝子切断の分析。BsB8又はHJC−2細胞に、上記gRNAを発現するプラスミドpX260又はpX260由来のプラスミドを導入した。全ゲノムDNAを48時間後に抽出した。T−Ag遺伝子をJCV T−Agコード領域(5’−gcttatgccatgccctgaaggt−3’(配列番号44)及び5’−atggacaaagtgctgaataggga−3’(配列番号45)に隣接するプライマーを用いたPCRによって増幅し、PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供した。
【0120】
Cas9用レンチウイルスベクターの製造、及び誘導性Cas9を発現するHJC−2細胞の生成。ドキシサイクリン誘導性Cas9発現の導入用レンチウイルスベクターを製造するために、293T細胞にプラスミドpCW−Cas9、psPAX2及びpCMV−VSV−Gをリン酸カルシウム沈殿法によって導入した(Graham及びvan der Eb、1973)。既述のとおりに、レンチウイルスを上清から48時間後に収集し、遠心分離によって清澄にし、0.45μmフィルタに通した(Wolleboら、2013)。Cas9を誘導発現する安定に導入されたHJC−2クローン細胞誘導体を得るために、レンチウイルスをHJC−2細胞に6μg/mlポリブレンの存在下で添加し、続いて3μg/mlピューロマイシンで選択し、クローンを希釈クローニングによって単離した。生成したクローンにおいてCas9発現を誘導するために、2μg/mlドキシサイクリンを培地に添加した。
【0121】
gRNA用レンチウイルスベクターの製造、及び誘導性Cas9を発現するHJC−2細胞の導入。3種のgRNAを導入するためのレンチウイルスベクターを製造するために、上述したようにpKLV−U6gRNA(BbsI)−PGKpuro2ABFPから構築された、3種のgRNAレンチウイルス発現プラスミド誘導体の各々を、293T細胞に塩化カルシウム沈殿によってパッケージングプラスミドpCMV−VSV−G、pMDLg/pRRE及びpRSV−Revと一緒に導入した。レンチウイルスを上清から48時間後に収集し、遠心分離によって清澄にし、0.45μmフィルタに通し、HJC−2細胞に6μg/mlポリブレンの存在下で添加し、続いて選択した。24時間後、導入細胞を2μg/mlドキシサイクリンで処理して、Cas9発現を誘導し、更に48時間後に収集し、T−Ag変異をPCR/配列決定によって分析し、T−Ag発現をウエスタンブロットによって分析し、クローン原性をコロニー形成アッセイによって分析した。
【0122】
インデル変異の分析。DNAをCas9によって切断すると特徴的な短い挿入/欠失(インデル)変異が残るので、gRNAが導入されたHJC−2細胞からのT−Ag遺伝子の配列をインデルについて分析した。全ゲノムDNAをゲノムDNA精製キットを用いて製造者(5prime Inc.、ゲイサーズバーグMD)の指示に従って細胞から単離し、標的にされたT−Ag遺伝子の領域を隣接プライマーを用いたPCRによって増幅した。TM1及びTM2の場合、使用した以下のプライマーは、5’−ctctggtcatgtggatgctgt−3’(配列番号46)及び5’−atggacaaagtgctgaataggga−3’(配列番号47)であった。プライマー5’−gcttatgccatgccctgaaggt−3’(配列番号48)及び5’−acagcatccacatgaccagag−3’(配列番号49)をTM3に使用した。PCR産物をTAクローニングベクターpCR4−TOPOにクローン化し、コロニーの配列を決定した。
【0123】
SURVEYORアッセイ。Cas9を発現し、gRNA用レンチウイルスベクターによって導入されたHJC−2細胞に由来するPCR産物中の変異の存在を、SURVEYOR変異検出キット(Transgenomic)を用いて製造者の手順に従って調べた。インデル変異分析について記述したものと同じプライマーを使用した。不均一PCR産物を10分間95℃で変性し、次いでサーマルサイクラーを用いて徐々に冷却してハイブリッド形成した。300ナノグラムのハイブリッド形成DNA(9μl)を、ヘテロ二重鎖DNA中の変異を走査するのに使用されるミスマッチ特異的DNAエンドヌクレアーゼであるSURVEYORヌクレアーゼ0.25μl+SURVEYORエンハンサーS0.25μl及び15mM MgCl2を用いて4時間42℃で消化した。停止液を添加し、試料を等量の対照試料と一緒に2%アガロースゲル上で分離した。対照試料は、並行して処理されたが、Cas9を発現するがgRNA用レンチウイルスベクターが導入されないHJC−2細胞に由来した。SURVEYORアッセイも使用して、細胞遺伝子上のオフターゲット変異の存在を、Cas9及びgRNAを発現するSVG−A細胞系の安定誘導体を用いて検出した。
【0124】
コロニー形成アッセイ。誘導性Cas9を発現するHJC−2細胞に、3個の標的の各々に対するgRNA用レンチウイルス発現ベクターを単独で又は組み合わせて導入した。細胞をコロニー形成アッセイ用にドキシサイクリンの存在又は非存在下で培養した。細胞を10〜14日間増殖させ、PBSで洗浄し、40%メタノール及び0.4%メチレンブルーで固定し、染色した。50個を超える細胞を含むコロニーを数えた。
【0125】
実施例2:T−Agを標的にしたgRNAの発現は、T−Ag及びCas9を導入したTC620細胞において、T−Ag発現とT−Ag誘導JCV後期遺伝子発現の両方を抑制する。
第1の実験セットにおいては、Cas9が、TM1、TM2及びTM3を標的にした種々のgRNAと組み合わせて、ヒト乏突起膠細胞の細胞系TC620におけるT抗原の発現を抑制できるかどうか判定した。これらの実験においては、gRNA m1は、TM1標的配列の配列番号1に相補的であり、gRNA m2は、TM2標的配列の配列番号5に相補的であり、gRNA m3は、TM3標的配列の配列番号9に相補的である。
【0126】
T抗原を発現するプラスミドを単独で又はCas9と組み合わせて、及び/又はT−Ag標的gRNA発現プラスミドと組み合わせて導入したTC620細胞のウエスタンブロット分析結果を図2Aに示す。この図に見られるように、m1又はm2 gRNAと一緒にCas9が存在すると、導入細胞におけるT−Ag産生レベルが著しく低下した。しかし、gRNA m3の発現は、T−Ag発現レベルに有意な効果を示さなかった図2Bは、ハウスキーピング遺伝子β−チューブリンに対して規準化された、T抗原に対応するバンドの強度に基づくT抗原産生の定量化の結果を示す。
【0127】
次に、機能的研究を行って、JCV後期プロモーター活性を刺激するT−Agの能力を測定した(Lashgariら、1989]。TC620細胞は、この研究に特に適している。というのは、それらの乏突起膠細胞起源のために、T−Ag発現によって誘導することができるJCVプロモーターの細胞型特異的転写が基底レベルで可能になるからである。レポータールシフェラーゼ遺伝子を駆動するJCV後期プロモーターJCVを用いた転写研究の結果によれば、T−AgによるJCVプロモーター活性化のレベルは、Cas9/gRNA m1又はCas9/gRNA m2を発現する細胞ではかなり低下するが、Cas9/gRNA m3では低下しない(図2C)。総合すると、これらの観察は、gRNA m1とm2が、単独で又は組み合わせて、Cas9と一緒に発現されると、T−Ag発現を抑制し、ウイルス溶解感染に関連した後続のT−Ag誘導事象を阻害することを示している。これらの効果の結果、JCVが宿主細胞から除去される。
【0128】
実施例3:Cas9及びT−Agを標的にしたgRNAを発現するSVGAのクローン誘導体は、JCV感染を支援する能力を低下させた。
JCV感染症に対するgRNA誘導Cas9の効果を調べるために、SVG−A細胞系を用いて実験を行った。この系はウイルス遺伝子発現を支援し、完全な増殖性ウイルス溶解感染も可能にする。まず、安定クローン細胞系を、Cas9又はCas9+gRNA m1を発現するSVG−A細胞から樹立した。これらの実験においては、gRNA m1は、TM1標的配列の配列番号1に相補的であった。3種の別々のクローンを選択し、JCV感染にMOI=1.0で7日間使用した。ウイルス感染をウエスタンブロット分析によってウイルスカプシドタンパク質、VP1及び補助タンパク質、アグノプロテインの存在についてα−チューブリンを添加対照として評価した。並行して、定量的PCR(Q−PCR)を行って、培地のウイルスDNAレベルを、DNA複製の、したがってウイルス産生のマーカーとして測定した。図3Aに示すように、Cas9のみを発現するクローン細胞系(レーン3)は、これらの細胞におけるウイルスカプシドタンパク質、VP1及び補助アグノプロテインの存在によって証明されるように(レーン2)、JCV感染を支援した。それに対して、Cas9とgRNA m1の両方を発現するSVG−Aクローンは、ウイルス複製を支援できなかった。この知見は、培養上清中のウイルスを測定するQ−PCR実験によって裏づけられた(図3B)。クローン細胞の幾つかは、Cas9とgRNA m1の両方が最初に導入され、JCV複製を支援することができたことから、これらの細胞がCas9発現及び/又はgRNA m1生成を維持できなくなったことが示唆される(データ示さず)。JCV感染がCas9発現に影響するかどうかを明らかにするために、Cas9発現をウエスタンブロットによってSVG−A Cas9及びSVG−A Cas9m1c8細胞において確認し(図3C)、FLAG標識Cas9が免疫細胞化学によって核に局在することが分かった(図3D)。
【0129】
結果の示すところによれば、Cas9、及びJCV T−Ag遺伝子を標的にした少なくとも1個のgRNAの安定発現は、JCVによる感染に対して細胞を抵抗性にする。
【0130】
実施例4 Cas9及びJCV T−Ag標的gRNAの一過性導入後のT−Ag遺伝子切断の直接証明
次に、T−Ag遺伝子に対応するJCV DNA配列を編集するCas9及びgRNAの能力を確認した。これらの実験では、BsB8細胞を利用した。BsB8は、取り込まれた導入遺伝子としてJCV初期領域を含みT−Agを発現するマウス細胞系である(Krynskaら、2000)。JCVの脳内注射によって誘導されるグリア芽細胞腫から限界希釈によって単離されたハムスター細胞系である別の細胞系HJC−2も使用した(Rajら、1995)。これらの細胞は、宿主ゲノムに組み込まれたJCV初期遺伝子も保有し、T−Agを発現する。これらの細胞系が実験に選択されたのは、それらの組み込まれたJCVゲノムのコピーがCas9/JCV配列を標的にしたgRNAの編集能力の正確な測定を可能にするからである。細胞にCas9及び種々の組合せのgRNA用の発現プラスミドを導入し、ゲノムDNAをJCV特異的プライマーを用いて増幅した。図4Aに、切断ポイントの位置、及び編集後のT−Ag遺伝子に対応する生成DNA断片の予想長さを示す。
【0131】
図4Bに示すように、BsB8細胞にCas9及びgRNA m1及びm3(レーン1);m1、m2及びm3(レーン2);並びにm2及びm3(レーン3)用発現プラスミドを導入すると、予想された完全な1465塩基対配列に加えてより小さい断片が出現した(レーン4)。図4Cに示すように、HJC−2細胞にCas9及びgRNA m1及びm2又はm1、m2及びm3用発現プラスミドを導入しても、分解産物が出現した。図4B及び4Cは、gRNA m1とm3の組合せを使用してDNAの切断を誘導すると、予想された完全な1465bp配列の代わりに、327bpのより小さい断片が出現することを示している。更なる分析の示唆するところによれば、327bp断片は、標的配列m1とm3標的部位間のDNAのセグメントが切断除去された後の残りのDNA配列(107+220)の再結合に対応する。同様の事象は、多重のm2及びm3を組み合わせて使用したときに認められ、824bp DNA(604+220)が生成する。これらの結果は、ウイルスゲノム内の2個のgRNA標的領域の切断を示し、残りの遺伝子配列は、非相同末端結合(NHEJ:non−homologous end joining)によって再結合する。
【0132】
結果の示すところによれば、本発明に係るgRNAは、単独で、また、組み合わせて、Cas9と組み合わせて発現されると、JCV DNAにおける切断及び大きな欠失を誘発する。このDNA損傷は、JCV T−Ag遺伝子の完全性を破壊し、宿主細胞からウイルスを除去する結果になる。
【0133】
実施例5:Cas9/gRNA系の成分の安定な薬剤誘発性発現は、宿主細胞におけるT−Ag発現の薬剤誘発性消失をもたらす。
JCVを宿主細胞において薬剤誘発的に不活性化できるかどうかを明らかにするために、HJC−2細胞にCas 9をコードするドキシサイクリン誘導性レンチウイルスベクターを導入した。安定誘導体が樹立された。次いで、誘導細胞にJCV T−Agのコード領域中の標的部位に特異的なgRNAをコードするレンチウイルスベクターを導入した。gRNAは、m1、m2及びm3を含んだ(それぞれ、配列番号1、5及び9に相補的なスペーサーを有する。ドキシサイクリン誘導後、全ゲノムDNAを抽出した。T−Agの領域をPCRによって増幅し、TAベクター中にクローン化し、配列を決定した。
【0134】
Surveyorアッセイを使用して、PCR産物中のインデル変異を検出した(図6B)。Surveyorヌクレアーゼ分解産物の存在によって示されるように、m1、m2及びm3 gRNAはすべてインデル変異を生じた(図6B)。
【0135】
PCR増幅産物由来のクローンの配列決定によって、48時間後にこれらの培養物から抽出されたゲノムDNAのT−Ag遺伝子の対応する領域にインデル変異が検出された。欠失又は挿入を含む代表的配列を図6Aに示す(配列番号31〜34、35〜36及び39〜41)。結果の示すところによれば、インデルの大部分は、PAM領域に近く、1又は2個のヌクレオチドの挿入又は欠失からなった。これは、T−Ag翻訳に影響するフレームシフト変異を起こすと予測される。予想どおりに、ドキシサイクリンによるCas9発現の誘導後、T−Ag発現が3種のgRNAの各々を用いて消失したことがウエスタンブロットによって確認された(図7A)。図7Bは、濃度測定定量分析ウエスタンブロット結果を示す。
【0136】
HJC−2細胞のクローン形成能に対するCas9並びに種々の組合せのgRNA m1、m2及びm3の発現の効果も調べた。これらの細胞におけるクローン形成能は、T−Agの発現に依拠する表現型である。gRNA m1、m2及びm3(それぞれ配列番号1、5及び9に相補的)は、種々の組合せで発現された。図8に示すように、gRNAと一緒のドキシサイクリンによるCas9発現の誘導は、これらの細胞によって形成されるコロニーの数を極度に減少させ(図8A〜8D)、細胞中のCas9及びgRNAによるT−Ag抑制を示している。gRNA m1+m2、m1+m3、m2+m3及びm1+m2+m3の組合せすべてがコロニー数を減少させた。図8Eに典型的なコロニー形成アッセイ結果を示す。
【0137】
細胞ゲノムにおいて起こり得るオフターゲット事象を評価するために、安定なCas9及びgRNA発現SVG−A細胞をSURVEYORアッセイによってオフターゲット遺伝子中のインデル変異について分析した。3個のモチーフの各々との相同性が最も高いヒト細胞遺伝子を、NCBIウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov/)におけるBLAST検索によって特定した。各モチーフについて、実施例1に記載のように、PCR産物を相同性が最も高い上位3つの遺伝子から増幅し、SURVEYORアッセイによってインデル変異を調べた。モチーフ1gRNAの分析結果を図9Aに示す。モチーフ2の分析結果を図9Bに示す。モチーフ3の分析結果を図9Cに示す。T−Agの増幅を各実験における正の対照として使用した。SURVEYORヌクレアーゼによる切断に起因する追加のバンドをアステリスクで示す。すべての場合において、オフターゲット遺伝子の切断が検出されず、CRISPR/Cas9の特異性を示した。
【0138】
この実施例に開示された結果によれば、本発明に係る誘導性CRISPR系は、有害なオフターゲット作用を類似の正常遺伝子に起こさずに、JCV T−Agの薬剤誘発性消失を引き起こし、JCV感染症の作用を軽減することができる。総合すると、前述の実施例のすべての結果の示すところによれば、本発明に係るCRISPR系は、PML患者において活発に複製するJCVを除去するのに有用であり、JCVの無症候性宿主から潜伏JCVを除去するのに有用であり、JCVのリスクがある非感染個体がウイルスを取得するのを予防するのに有用である。
【0139】
本発明を説明的に記述したが、使用した用語は、限定の用語ではなく、記述の用語の性質を帯びたものであるように意図されることを理解されたい。言うまでもなく、本発明の多数の改変及び変更が上記教示に照らして可能である。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲内で、具体的に記述したものとは異なる方法で実施できることを理解されたい。
【0140】
【表2-1】
【0141】
【表2-2】
【0142】
【表2-3】
【0143】
【表2-4】
【0144】
【表2-5】
【0145】
【表2-6】
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
【国際調査報告】