(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-514915(P2019-514915A)
(43)【公表日】2019年6月6日
(54)【発明の名称】組成物、クロシン系活性成分及びその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7024 20060101AFI20190517BHJP
A61K 36/744 20060101ALI20190517BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20190517BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20190517BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20190517BHJP
C07H 1/08 20060101ALI20190517BHJP
C07H 13/04 20060101ALI20190517BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20190517BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20190517BHJP
【FI】
A61K31/7024
A61K36/744
A61P25/28
A61K45/00
A61P43/00 121
C07H1/08CSP
C07H13/04
A23L33/10
A23L33/105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-556347(P2018-556347)
(86)(22)【出願日】2017年3月16日
(85)【翻訳文提出日】2018年10月25日
(86)【国際出願番号】CN2017076910
(87)【国際公開番号】WO2017185899
(87)【国際公開日】20171102
(31)【優先権主張番号】201610284549.7
(32)【優先日】2016年4月29日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】512000260
【氏名又は名称】ジナン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Jinan University
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】シンシェン ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ダン チャン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユ
(72)【発明者】
【氏名】シウチ バオ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ニ
(72)【発明者】
【氏名】ツァイシア チャン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C057
4C084
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD42
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4C057AA06
4C057BB02
4C057BB03
4C057DD02
4C057HH02
4C084AA22
4C084NA05
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA161
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA03
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA05
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC75
4C088AB14
4C088AC04
4C088BA09
4C088BA10
4C088BA11
4C088CA06
4C088CA12
4C088CA14
4C088MA02
4C088NA14
4C088ZA15
4C088ZA16
4C088ZC75
(57)【要約】
組成物及びクチナシから抽出したクロシン系活性成分であって、クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチンジ−β−D−ピラノグルコシド、13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシド、neocrocin B、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシド、13Z−クロセチン−8−O−β−D−ゲンチオビオシド、13Z−クロセチン−8’−O−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチンモノ−β−D−ピラノグルコシドを主に含む。薬理学的実験結果によると、前記クロシン系活性成分がスコポラミンとβ アミロイドによるマウスの学習・記憶の障害を効果的に改善することができることを示した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式を有するneocrocin B及びクロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシドを含む、ことを特徴とする組成物。
【化1】
【請求項2】
クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシドをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシドをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
クロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシドをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
クロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチンジ−β−D−ピラノグルコシド、13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシド、13Z−クロセチン−8−O−β−D−ゲンチオビオシド、13Z−クロセチン−8′−O−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチンモノ−β−D−ピラノグルコシドをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の各成分の含有量がそれぞれ以下に示すとおりである請求項5に記載の組成物。
クロセチンジ-β-D-ゲンチオビオシド 8.0%−12.0%
クロセチン-β-D-ピラノグルコシル-β-D-ゲンチオビオシド(2) 3.5%−5.5%
クロセチンジ-β-D-ピラノグルコシド(3) 0.5%−2.5%
13Z-クロセチンジ-β-D-ゲンチオビオシド(4) 6.0%−8.0%
neocrocin B(5) 5.5%−7.5%
クロセチンモノ-β-D-ゲンチオビオシド(6) 40.0%−50.0%
13Z-クロセチン-8-O-β-D-ゲンチオビオシド(7) 4.0%−5.0%
13Z-クロセチン-8'-O-β-D-ゲンチオビオシド(8) 8.0%−10.0%
クロセチンモノ-β-D-ピラノグルコシド(9) 1.0%−3.0%
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を含む、ことを特徴とするクロシン系活性成分。
【請求項8】
前記クロシン系活性成分がクチナシから抽出して得られる、ことを特徴とする請求項7に記載のクロシン系活性成分。
【請求項9】
前記クロシン系活性成分のUPLC特性グラフに主に9個のクロマトグラフィーピークを含み、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間を1として、各クロマトグラフィーピークの相対的保留時間をそれぞれ求めると、クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が0.38±0.02、クロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が0.48±0.02、クロセチンジ−β−D−ピラノグルコシドの保留時間が0.60±0.02、13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が0.78±0.02、neocrocin Bの保留時間が0.89±0.02、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が1.00、13Z−クロセチン−8−O−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が1.13±0.02、13Z−クロセチン−8′−O−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が1.14±0.02、クロセチンモノ−β−D−ピラノグルコシドの保留時間が1.19±0.02である、ことを特徴とする請求項7に記載のクロシン系活性成分。
【請求項10】
前記クロシン系活性成分のUPLC特性グラフは、逆相超高速液体クロマトグラフィーによるものであり、クロマトグラフィー条件として、流速0.6mL/分、検出波長440nm、カラム温度35℃であり、オクタデシルシラン結合とシリカゲルを固定相とし、0.1%ギ酸含有アセトニトリル−水溶液を移動相として、勾配溶出する、ことを特徴とする請求項9に記載のクロシン系活性成分。
【請求項11】
(1)クチナシの乾燥果実を適度に粉砕した後、エタノール、メタノール又は水を用いて、異なる抽出回数及び時間で、熱抽出又は超音波抽出によって抽出し、抽出物を減圧濃縮してクチナシの全抽出物を得る工程と、
(2)前記クチナシの全抽出物を適量の水で溶解し、遠心分離し、上清をマクロポーラス吸着樹脂オープンカラムクロマトグラフィーによって、水及び/又は30%〜95%エタノールで適量のベッド容量を溶出して、溶出液を回収し、70%エタノール溶出液を減圧濃縮し、クロシン系活性成分を得る工程によって製造されることを特徴とするクロシン系活性成分。
【請求項12】
(1)クチナシの乾燥果実を適度に粉砕した後、エタノール、メタノール又は水を用いて、異なる抽出回数及び時間で、熱抽出又は超音波抽出によって抽出し、抽出物を減圧濃縮してクチナシの全抽出物を得る工程と、
(2)前記クチナシの全抽出物を適量の水で溶解し、遠心分離し、上清をマクロポーラス吸着樹脂オープンカラムクロマトグラフィーによって、水及び/又は30%〜95%エタノールで適量のベッド容量を溶出して、溶出液を回収し、減圧濃縮し、クロシン系活性成分を得る工程を含む、ことを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載のクロシン系活性成分の製造方法。
【請求項13】
前記工程(1)において、4倍量の60%エタノールで、2時間/回に3回加熱還流し、前記工程(2)において、水、30%エタノール、50%エタノール、70%エタノール、95%エタノールで順に溶出し、各勾配で4つのベッド容量で溶出し、70%エタノール溶出液を減圧濃縮してクロシン系活性成分を得ることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項7〜11のいずれか一項に記載のクロシン系活性成分の学習記憶能力を改善するための医薬品の製造への応用。
【請求項15】
請求項7〜11のいずれか一項に記載のクロシン系活性成分のアルツハイマー病を予防・治療するための医薬品の製造への応用。
【請求項16】
請求項7〜11のいずれか一項に記載のクロシン系活性成分、一種又は複数種の他の中枢神経保護作用を有する医薬品及び適当な医薬品佐剤を含む、ことを特徴とする医薬品組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の医薬品組成物の中枢神経退行性疾患を予防・治療するための医薬品の製造への応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組成物に関し、さらに漢方薬抽出物に関する。具体的に、クチナシから抽出したクロシン系活性成分及びそれのアルツハイマー病などの疾患への予防・治療の応用に関し、さらに、クチナシクロシン系活性成分及びそれが含む活性成分のアルツハイマー病などの老人性認知症関連疾患を予防・治療する医薬品又はヘルスケア製品の製造応用に関する。
【背景技術】
【0002】
クロシンは構造が特別な水溶性のカロテノイドであり、クロセチン及びその異なるグリコシル基と結合してなる糖エステルを含み、サフラン及びクチナシにおける共有色素成分である。それの良好な水溶性のため、クロシンはアルコール、料理及びペストリーの着色剤として広く使用されている。サフラン粗抽出液、クチナシ黄色色素及びモノマー成分であるクロシンビスゲンチオビオシド、クロセチンが中枢神経系保護(非特許文献1〜4を参照)、心血管系・脳血管系保護(非特許文献5〜6を参照)、及び悪性腫瘍の拮抗(非特許文献7〜9を参照)などの面で高効率、低毒性の薬理学的活性を示すことが、多くの研究により表明された。
【0003】
サフランは南ヨーロッパ、地中海、イランで原産され、イランのサフラン生産量は世界全体の95%を占め、中国の浙江省、江蘇省、山東省、北京などで少ない量で栽培される。サフランはスティグマで薬品として使用され、その収量は非常に低く(1muあたり1kg未満)、高価($2,000/kg)であるので「プラントゴールド」と呼ばれる。クロシン系成分の薬用及び食用の要求が増加していくにつれて、クロシン系成分が豊富な他の植物を探して発見することが重要な意義を持っている。
【0004】
ガーデニアジャスミノイデスなどとも呼ばれるクチナシは、中国の中部及び南部の地域に広く分布するヘメロカリス(Hemerocallis)属の属である。クチナシは、『シェン・ノンのハーブ・クラシック(Sheng Nong’s herbal classic)』に初めて記載され、中国の歴代の薬局方とマテリア・メディカにいずれも記載され、保健省によって公布された食品と医療のための二重使用の最初のリソースである。クチナシは、服用したら病原性の怒り・焦りを除き、熱を除いて利尿し、血液を冷却し、解毒する効果があり、外部使用は捻挫や挫傷を治療することができる。工業では天然色素を抽出する良好な原材料である。現代の化学及び薬理学的な検討によれば、クチナシに、イリドイド、クロシン、トリテルペン、フラボン及びキナ酸などの化学成分を含有することを見出した。そのうち、イリドイド及びクロシンは、代表的な成分である(非特許文献10〜11を参照)。クチナシの薬理学的作用は主に、抗炎・鎮痛、利胆・肝臓保護、抗酸化及び抗腫瘍などとして現れる(非特許文献10〜11を参照)。
【0005】
クチナシは常用の漢方薬材として、植付けの分布が広く、生産量が高く(クチナシ乾燥果実の1muの生産量が200kgに達し、中国での年間生産量が5000tに達する)、安価であり(販売価額が15元/kg)、それに含まれるクロシン系成分の相対的含有量が高く、類型が豊かであるので、クチナシはサフランを補助してクロシンを抽出する理想的な植物になる望みである。
【0006】
アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease、AD)は記憶障害、認知障害、及び人格変化を特徴とする老化に伴う進行性の神経変性疾患である。ADは、老人性認知症の最も一般的なタイプであり、AD患者の初期症状は記憶喪失であり、方向力、理解力、判断力及び記憶力の低下に進展し、患者の後期は全面的な衰退状態になり、知能は完全に失われ、運動や言語の障害がますます明らかになり、一日中ベッドにいて、自身を世話できなく、最終的に二次感染と不全で死亡することが多い。
【0007】
世界的な老年化の激化につれて、ADの発生率が年々急速に増加され、各国、特に発展途上国の社会及び人々に重い経済的、家族的な負担をもたらす。1906年、ドイツの医者Alzheimerが始めてこの疾患を記述してから今までの100年以上にわたって、ADはやはり不可逆的疾患であり、国際的にはこの疾患を治療する方法と医薬品がないと認めている。ここから分かるように、理想的な治療薬が存在しない場合、抗アルツハイマー薬のスクリーニング及び研究開発は、非常に広い市場の見通しと深い社会的意義を有する。
【0008】
また、特許文献CN104491075Aに、マクロポーラス樹脂カラム及びデキストランゲルカラムを併用して、クチナシから富化されたクロシン成分を抽出し、ストレス抑うつ実験によりうつ病の治療におけるその効果を検証する方法が報告されている。しかしながら、この特許文献は50%エタノール部位に注目し、また、マクロポーラス樹脂カラムとデキストランゲルカラム併用の併用もそのプロセスが複雑である。さらに、この特許文献の富化されたクロシン成分の組成及び含有量は不明であり、実施例での有効用量も高く(100〜400mg)、これは恐らく富化されたクロシン成分の純度が低いためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Karakani A.−M.、Riazi G.、Mahmood G.−S.、et al.Inhibitoryeffect of corcin on aggregation of 1N/4R human tau protein in vitro[J].Iranianjournal of basic medical sciences.2015、18(5)、485−92.
【非特許文献2】Papandreou M.−A.、Kanakis C.−D.、Polissiou M.−G.、etal.Inhibitory Activity on Amyloid−βAggregation and Antioxidant Properties of Crocussativus Stigmas Extract and Its Crocin Constituents[J].Journal of Agriculture andFood Chemistry.2006、54(23)、8762−8768.
【非特許文献3】Akhondzadeh S.、Sabet M.−S.、Harirchian M.−H.、et al.A22−week、multicenter、randomized、double−blind controlled trial of Crocus sativus inthe treatment of mild−to−moderate Alzheimer’s disease[J].Psychopharmacology.2010、207(4)、637−643.
【非特許文献4】Farokhnia M.、Shafiee S.−M.、Iranpour N.、et al.Comparingthe efficacy and safety of Crocus sativus L.With memantine in patients with moderateto severe Alzheimer’s disease:a double−blind randomized clinical trial[J].HumanPsychopharmacology.2014、29(4)、351−359.
【非特許文献5】Zheng Y.−Q.、Liu J.−X.、Wang J.−N.、et al.Effects ofcrocin on reperfusion−induced oxidative_nitrative injury to cerebral microvesselsafter global cerebral ischemia[J].Brain Research.2007、1138、86−94.
【非特許文献6】Higashino S.、Sasaki Y.、Giddings J.−C.、et al.Crocetin、aCarotenoid from Gardenia jasminoides Ellis、Protects against Hypertension and CerebralThrombogenesis in Stroke−prone Spontaneously Hypertensive Rats[J].Phytotherapy Research.2014、28(9)、1315−1319.
【非特許文献7】Shengyu DONG、 Fumei LIU、 Xiangyong LI;CNE2細胞の増殖と移動に対するクロシンの阻害作用[J];湖北民族学院刊行物・医学版;2013、30(2)、6〜12.
【非特許文献8】Xinxing WANG、Zhenghong YU、 Shulu SHIなど;クロシンのヒト肺腺癌SPC−A1細胞への増殖抑制効果及びメカニズムの研究[J];臨床腫瘍学会雑誌.2013、18(4)、295−299.
【非特許文献9】Fuxiong CHEN、Jia TAO、Sui HUANGなど;EBウイルス感染の小児におけるIM及びEBV−AHSの臨床研究及びウイルス感染特性[A];中国医師会、中国医師会小児科会;第17回全国医学会全国小児科学会編集(第1巻)[C];中国医師会、中国医師会小児科会;2012:1.
【非特許文献10】Xiangle MENG、 Hongwei LI、 Yan LIなど;クチナシの化学成分及びその薬理的作用に関する研究の進展[J]。中国新薬雑誌.2011、20(11)、959−967
【非特許文献11】Yang YU; クチナシの抗老化認知症の活性成分に関する研究。瀋陽製薬大学、2010
【非特許文献12】Calsteren M.−R.−V.、Bissonnette M.C.、Cormier F.、et al.Spectroscopic Characterization of Crocetin Derivatives from Crocus sativus and Gardenia jasminoides[J].Journal of Agriculture and Food Chemistry.1997、45(4)、1055−1061.
【非特許文献13】Haibo LI、Yang YU、Zhenzhong WANGなど;Reduning注射液の化学成分に関する研究(II)(J)、Chinese Herbal Medicine、2015、46(11)、1597−1602
【非特許文献14】Hong CHEN、Yongqing XIAO、Li LIなど;クチナシの化学成分に関する研究[J]。中国漢方薬雑誌.2007,32(11)、1041−1043。
【発明の概要】
【0010】
上記の従来技術に存在する問題を鑑みて、本発明は、新規構造のクロシン系化合物を含む組成物を提供することを1つの目的とする。
【0011】
また、本発明は、クチナシから抽出した成分と含有量が明確なクロシン系活性成分及びそれのアルツハイマー病などに関連する認知性疾患を予防・治療するための医薬品、食品又は食品添加剤の製造への応用を提供する。
【0012】
さらに、本発明の別の目的は、クチナシのクロシン系活性成分及び中枢神経保護作用を有する医薬品、伝統漢方薬、天然物を含む組成物、及びこの組成物がアルツハイマー病などの老人性認知症関連疾患を予防・治療するための医薬品又はヘルスケア製品の製造への応用を提供する。
【0013】
上記の目的に達成するために、本発明は以下の技術案を採用する。
【0014】
[1]neocrocin B(5)及びクロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシド(1)を含む、ことを特徴とする組成物。
【0015】
[2]項[1]に記載の組成物であって、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシド(6)をさらに含むことを特徴とする組成物。
【0016】
[3]項[1]に記載の組成物であって、13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシド(4)をさらに含むことを特徴とする組成物。
【0017】
[4]項[1]に記載の組成物であって、クロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシド(2)をさらに含むことを特徴とする組成物。
【0018】
[5]項[1]に記載の組成物であって、クロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシド(2)、クロセチンジ−β−D−ピラノグルコシド(3)、13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシド(4)、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシド(6)、13Z−クロセチン−8−O−β−D−ゲンチオビオシド(7)、13Z−クロセチン−8′−O−β−D−ゲンチオビオシド(8)、クロセチンモノ−β−D−ピラノグルコシド(9)をさらに含むことを特徴とする組成物。
【0019】
[6]項[5]に記載の組成物であって、前記組成物中の各成分の含有量がそれぞれ以下に示すとおりである組成物。
クロセチンジ-β-D-ゲンチオビオシド 8.0%−12.0%
クロセチン-β-D-ピラノグルコシル-β-D-ゲンチオビオシド(2) 3.5%−5.5%
クロセチンジ-β-D-ピラノグルコシド(3) 0.5%−2.5%
13Z-クロセチンジ-β-D-ゲンチオビオシド(4) 6.0%−8.0%
neocrocin B(5) 5.5%−7.5%
クロセチンモノ-β-D-ゲンチオビオシド(6) 40.0%−50.0%
13Z-クロセチン-8-O-β-D-ゲンチオビオシド(7) 4.0%−5.0%
13Z-クロセチン-8'-O-β-D-ゲンチオビオシド(8) 8.0%−10.0%
クロセチンモノ-β-D-ピラノグルコシド(9) 1.0%−3.0%。
【0020】
ここで、上記の各化合物の構造式はそれぞれ以下に示すとおりである。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0021】
[7]請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を含む、ことを特徴とするクロシン系活性成分。
【0022】
[8]項[7]に記載のクロシン系活性成分であって、前記クロシン系活性成分がクチナシから抽出して得られる、ことを特徴とするクロシン系活性成分。
【0023】
[9]項[7]に記載のクロシン系活性成分であって、前記クロシン系活性成分のUPLC特性グラフに主に9個のクロマトグラフィーピークを含み、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間を1として、各クロマトグラフィーピークの相対的保留時間をそれぞれ求めると、クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が0.38±0.02、クロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が0.48±0.02、クロセチンジ−β−D−ピラノグルコシドの保留時間が0.60±0.02、13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が0.78±0.02、neocrocin Bの保留時間が0.89±0.02、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が1.00、13Z−クロセチン−8−O−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が1.13±0.02、13Z−クロセチン−8′−O−β−D−ゲンチオビオシドの保留時間が1.14±0.02、クロセチンモノ−β−D−ピラノグルコシドの保留時間が1.19±0.02である、ことを特徴とするクロシン系活性成分。
【0024】
[10]項[9]に記載のクロシン系活性成分であって、前記クロシン系活性成分のUPLC特性グラフは、逆相超高速液体クロマトグラフィーによるものであり、クロマトグラフィー条件として、流速0.6mL/分、検出波長440nm、カラム温度35℃であり、オクタデシルシラン結合とシリカゲルを固定相とし、0.1%ギ酸含有アセトニトリル−水溶液を移動相として、勾配溶出する、ことを特徴とするクロシン系活性成分。
【0025】
[11](1)クチナシの乾燥果実を適度に粉砕した後、エタノール、メタノール又は水を用いて、異なる抽出回数及び時間で、熱抽出又は超音波抽出によって抽出し、抽出物を減圧濃縮してクチナシの全抽出物を得る工程と、
(2)前記クチナシの全抽出物を適量の水で溶解し、遠心分離し、上清をマクロポーラス吸着樹脂オープンカラムクロマトグラフィーによって、水及び/又は30%〜95%エタノールで適量のベッド容量を溶出して、溶出液を回収し、70%エタノール溶出液を減圧濃縮し、クロシン系活性成分を得る工程によって製造されることを特徴とするクロシン系活性成分。
【0026】
[12](1)クチナシの乾燥果実を適度に粉砕した後、エタノール、メタノール又は水を用いて、異なる抽出回数及び時間で、熱抽出又は超音波抽出によって抽出し、抽出物を減圧濃縮してクチナシの全抽出物を得る工程と、
(2)前記クチナシの全抽出物を適量の水で溶解し、遠心分離し、上清をマクロポーラス吸着樹脂オープンカラムクロマトグラフィーによって、水及び/又は30%〜95%エタノールで適量のベッド容量を溶出して、溶出液を回収し、減圧濃縮し、クロシン系活性成分を得る工程を含む、ことを特徴とする項[7]〜[10]のいずれか一項に記載のクロシン系活性成分の製造方法。
【0027】
[13]工程(1)において、4倍量の60%エタノールで、2時間/回に3回加熱還流し、工程(2)において、水、30%エタノール、50%エタノール、70%エタノール、95%エタノールで順に溶出し、各勾配で4つのベッド容量で溶出し、70%エタノール溶出液を減圧濃縮してクロシン系活性成分を得ることを特徴とする項[12]に記載の方法。
【0028】
[14]項[7]〜[11]のいずれか一項に記載のクロシン系活性成分の学習記憶能力を改善するための医薬品の製造への応用。
【0029】
[15]項[7]〜[11]のいずれか一項に記載のクロシン系活性成分のアルツハイマー病を予防・治療するための医薬品の製造への応用。
【0030】
[16]項[7]〜[11]のいずれか一項に記載のクロシン系活性成分、一種又は複数種の他の中枢神経保護作用を有する医薬品及び適当な医薬品佐剤を含む、ことを特徴とする医薬品組成物。
【0031】
[17]項[16]に記載の医薬品組成物の中枢神経退行性疾患を予防・治療するための医薬品の製造への応用。
【発明の効果】
【0032】
(1)本発明の組成物は、いくつかの新規構造のクロシン系化合物からなる。
【0033】
(2)本発明のクロシン系活性成分は、2つの新規構造のクロシン系化合物をさらに含む。
【0034】
(3)本発明の製造プロセスは簡単であり、また本発明は国際的に認められているAD薬理学評価モデルを採用して、本発明のクロシン系活性成分が低用量で優れたAD治療効果を有することを証明している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】液相のUPLC分析によって確定されたクロシン系活性成分の特性グラフである。
【
図2】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物1のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図3】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物2のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図4】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物3のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図5】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物4のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図6】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物5のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図7】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物6のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図8】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物7のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図9】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物8のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図10】同じUPLC条件下でクロシン系活性成分の活性部分から分離された化合物9のクロマトグラフィーピークの識別グラフである。
【
図11】クチナシクロシン活性成分GJ−4のスコポラミンによるマウスの学習と記憶の障害への保護作用を示す図である。
【
図12】クチナシクロシン活性成分GJ−4のAβ
25−35脳室内注射によるマウスの学習と記憶の障害への保護作用(プラットフォームテスト)を示す図である。
【
図13】クチナシクロシン活性成分GJ−4のAβ
25−35脳室内注射によるマウスの学習と記憶の障害への保護作用(モリス水迷路)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明の技術案をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1:クチナシクロシン系活性成分の製造方法
クチナシの乾燥・成熟した果実40.0kgを採取し、適切な粉砕の後、4倍量の60%エタノールで加熱還流して3回抽出した。毎回は2時間であった。抽出液を合わせて減圧下で溶媒を蒸留して、クチナシ全部抽出物として6.2kgを得た。抽出物を適量の水に溶解して遠心分離し、マクロポーラス樹脂オープンカラムのクロマトグラフィー(20.0×90cm)を行った。4倍のベッド容量の水、30%、50%、70%、95%のエタノールで勾配溶出し、各溶出液を回収し、それぞれ減圧下で溶媒を回収して、約4.5kgの水の溶出と30%エタノールの溶出を組合わせたものを得、710.0gの50%エタノール溶出されたものを得、150.0gの70%エタノール溶出されたものを得、112.0gの95%エタノール溶出されたものを得た。70%エタノール溶出されたものがクチナシクロシン活性成分GJ−4であった。
【0038】
実施例2:クチナシクロシン系活性成分における主要成分の分離及び検定
実施例1で製造されたクチナシクロシン系活性成分のUPLC特性グラフは
図1に示すようである。特性グラフの教示で、ODSカラムクロマトグラフィー、RP−HPLC製造液相等の分離手段により、UV、MS、NMR等の分析検定方法を利用して、クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチンジ−β−D−ピラノグルコシド、13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシド、neocrocin B、クロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシド、13Z−クロセチン−8−O−β−D−ゲンチオビオシド、13Z−クロセチン−8′−O−β−D−ゲンチオビオシド、クロセチンモノ−β−D−ピラノグルコシドの9つの化合物の構造を検定した。
【0039】
クチナシクロシン系活性成分UPLC特性グラフと同じUPLC条件下で、分離された化合物を識別した。具体的な識別過程は
図2〜
図10に示す。
【0040】
2.1分離過程
得られたクチナシクロシン系活性成分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離し、クロロホルム−メタノール−水8:2:0.2で溶出して化合物6(約7.0g)を得、クロロホルム−メタノール−水9:1:0.1で溶出して化合物9(136.5mg)を得た。ODSオープンカラムクロマトグラフィー分離で、50%メタノール−水で溶出して化合物1(545.1mg)を得、55%メタノール−水で溶出して化合物2(143.7mg)を得、50%メタノール−水で溶出して化合物3(315.7mg)を得た。製造型高速液相ODSカラムクロマトグラフィー分離で、60%メタノール−水で溶出して化合物4(265.7mg、t
R=16.6min)を得、68%メタノール−酸水(0.1%CH
3COOH)で溶出して化合物5(520.9mg、t
R=9.5min)を得、42%アセトニトリル−酸水(0.1%CH
3COOH)で分離して化合物7(8.0mg、t
R=17.9min)及び化合物8(16.0mg、t
R=21.5min)を得た。
【0041】
2.2化合物構造解析
2.2.1化合物1
赤色アモルファス粉末である。HR−ESI−MSがm/z999.3680[M+Na]
+(算出値999.3685)を示し、分子式がC
44H
64O
24であることを確定し、算出による不飽和度が13である。
【0042】
1H−NMR(600MHz、in DMSO−d
6)は、特性となるクロセチンのアルケン水素シグナル[δ7.35(2H、d、J=10.8Hz)、6.87(2H、dd、J=7.8、2.4Hz)、6.82(2H、d、J=15.0Hz)、6.67(2H、dd、J=15.0、12.6Hz)、6.53(2H、br.d、J=9.6Hz)、]、4対の2つ毎に重ねた糖末端基シグナル[δ5.42(2H、d、J=8.4Hz)、4.17(2H、d、J=7.8Hz)]及び4対の2つ毎に重ねたメチル水素シグナル[δ2.00(6H、s)、1.97(6H、s)]を示した。
【0043】
非特許文献[11]との対比により、化合物1がクロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシドであることを確定し、化合物1の
13C−NMRは表1に示す。
【0044】
2.2.2化合物2
赤色アモルファス粉末である。HR−ESI−MSがm/z837.3166[M+Na]
+(算出値837.3157)を示し、分子式がC
38H
54O
19であることを確定し、算出による不飽和度が12である。
【0045】
1H−NMR(600MHz、in DMSO−d
6)は、特性となるクロセチンのアルケン水素シグナル[δ7.35(2H、d、J=11.4Hz)、6.86(2H、dd、J=8.4、3.0Hz)、6.82(1H、d、J=14.4Hz)、6.81(1H、d、J=15.0Hz)、6.66(2H、dd、J=15.0、12.0Hz)、6.54(2H、br.d、J=8.4Hz)]、4つのメチル水素シグナル[δ1.99(6H、s)、1.97(6H、s)]及び3つの糖末端基プロトンシグナル[δ5.42(2H、d、J=7.8Hz)、4.17(1H、d、J=7.8Hz)]を示した。
【0046】
非特許文献[11]との対比により、化合物2がクロセチン−β−D−ピラノグルコシル−β−D−ゲンチオビオシドであることを確定し、化合物2の
13C−NMRは表1に示す。
【0047】
2.2.3化合物3
赤色アモルファス粉末である。ESI−MS(positive)がm/z675[M+Na]
+、1327[2M+Na]
+を示し、その分子量が652であると推定する。
【0048】
1H−NMR(600MHz、in DMSO−d
6)は、特性となるクロセチンのアルケン水素シグナル[δ7.35(2H、d、J=11.4Hz)、6.86(2H、dd、J=8.4、3.0Hz)、6.81(2H、d、J=15.0Hz)、6.67(2H、dd、J=15.0、11.4Hz)、6.54(2H、br.d、J=9.6Hz)];2つの重ねた糖末端基シグナル[δ5.42(2H、d、J=7.8Hz)]及び4対の2つ毎に重ねたメチル水素シグナル[δ2.00(6H、s)、1.97(6H、s)]を示した。
【0049】
非特許文献[12]との対比により、化合物3がクロセチンジ−β−D−ピラノグルコシドであることを確定し、化合物3の
13C−NMRは表1に示す。
【0050】
2.2.4化合物4
赤色アモルファス粉末である。HR−ESI−MSがm/z999.3665[M+Na]
+(算出値999.3685)を示し、分子式がC
44H
64O
24であることを確定し、算出による不飽和度が13である。
【0051】
化合物4と化合物1は異性体であり、両者を対比すると1H−NMR(600MHz、in DMSO−d
6)であり、化合物4のアルケン水素領域での変化が大きく、他のシグナルは化合物1とほぼ一致されている。化合物4の
13C−NMR(150MHz、in
DMSO−d
6)において、13位二重結合の立体配置の変化によって化合物の高度の対称構造が破壊され、複数の重ねたオレフィン炭素シグナルが2つのシグナルになり、且つ20位のメチル炭素シグナルが低磁場にδ20.0まで変位し、8位の炭素と連結した糖の末端基の水素シグナルが5.42から5.44に変化する。
【0052】
非特許文献[11]との対比により、化合物4が13Z−クロセチンジ−β−D−ゲンチオビオシドであることを確定し、化合物4の
13C−NMRは表1に示す。
【0053】
2.2.5化合物5
赤色アモルファス粉末である。ESI−MS(positive)がm/z1011[M+Na]
+を示し、化合物の分子量が988であることを示した。HR−ESI−MSが989.3642[M+H]
+(算出値が989.3654)を示し、化合物の分子式がC
48H
60O
22であることを確定し、算出による不飽和度が19である。
【0054】
化合物5の
1H−NMR(600MHz、in DMSO−d
6)グラフは、低磁場領域で一組のトランスアルケン水素シグナル[δ7.44(1H、d、J=15.6Hz、H−3″′)、6.16(1H、d、J=16.2Hz、H−2″′)];一組の相互結合した芳香プロトンシグナル[δ7.03(1H、d、J=1.8Hz、H−5″′)、6.98(1H、dd、J=8.4、1.8Hz、H−9″′)、6.74(1H、d、J=7.8Hz、H−8″′)]を示し、
13C−NMR(150MHz、in
DMSO−d
6)シグナル:δ148.5(C−7″′)、145.6(C−6″′)、125.2(C−4″′)、121.6(C−9″′)、115.7(C−8″′)及び114.9(C−5″′)と組合わせると、構造に1、3、4−トリ置換ベンゼン環が存在することを示す。アルケン水素プロトンシグナルH−3″′/C−4″′、C−5″′、C−9″′、C−1″′;H−2″′/C−1″′、C−4″′のHMBC遠距離相関は、1つのC
6−C
3カフェオイル基のフラグメントを含有することを示す。
【0055】
糖末端基プロトンシグナル[δ5.42(1H、d、J=7.8Hz、H−1)及び4.17(1H、d、J=7.8Hz、H−1′)]は、2つのグルコース残基の立体配置がいずれもβ型を示す。HMBCグラフにおいて、関連ピークH−6/C−1′、H−1′/C−6は、2つのグルコシルが1→6接続であり、1つのゲンチオビオース基を形成することを示す。糖加水分解誘導体化実験によれば、グルコースの絶対立体配置がD配置であることを示す。
【0056】
2つのグルコース残基、1つのC
6−C
3カフェオイルフラグメントの他に、既知の文献と対比すると、その構造における特性のクロセチンシグナルを帰属することができる。
【0057】
1H−
1H COSY、HSQC及びHMBCグラフにより構造に3−カフェオイルキナ酸の構造フラグメントが存在することが検定され、HMBCグラフによりこのカフェイン酸の4位がクロセチンと接続されている[非特許文献13を参照]ことを推定する。
【0058】
検索によると、化合物5は報告されていない新規化合物であり、neocrocin Bと命名する。化合物5の
13C−NMRは表1に示す。
【0059】
2.2.6化合物6
赤色アモルファス粉末である。HR−ESI−MSが675.2625の[M+Na]
+(算出値が675.2629)を示し、分子式がC
32H
44O
14であることを確定し、算出による不飽和度が11である。
【0060】
1H−NMR(600MHz、in DMSO−d
6)は、特性となるクロセチンのアルケン水素シグナル、2つの糖末端基シグナル及び4つのメチル水素シグナルを示した。
【0061】
非特許文献[14]との対比により、化合物6がクロセチンモノ−β−D−ゲンチオビオシドであることを確定し、化合物6の
13C−NMRは表1に示す。
【0062】
2.2.7化合物7
赤色アモルファス粉末である。ESI−MS(positive)がm/z675[M+Na]
+、m/z1327[2M+Na]
+を示し、分子量が652であることを示した。HR−ESI−MSが675.2617の[M+Na]
+(算出値が675.2629)を示し、分子式がC
32H
44O
14であることを確定し、算出による不飽和度が11である。
【0063】
化合物7は化合物6のシス−幾何異性体であり、異なるのは、化合物6の構造自体が非対称であるため、そのシス−幾何異性体が2つの場合がある。
1H、
13C−NMR及び二次元核磁気のデータ解析により、化合物7が13Z−クロセチン−8−O−β−D−ゲンチオビオシドであることを確定し、化合物7の
13C−NMRは表1に示す。
【0064】
2.2.8化合物8
赤色アモルファス粉末である。ESI−MS(positive)がm/z675[M+Na]
+、m/z1327[2M+Na]
+を示し、分子量が652を示す。HR−ESI−MSが675.2617の[M+Na
+](算出値が675.2629)を示し、分子式がC
32H
44O
14であることを確定し、算出による不飽和度が11である。
【0065】
化合物8は化合物6の他の幾何異性体である。一次元及び二次元核磁気のデータ解析により、化合物8が13Z−クロセチン−8′−O−β−D−ゲンチオビオシドであると検定され、検索によると、化合物8は報告されていない新規化合物であり、その
13C−NMRは表1に示す。
【0066】
2.2.9化合物9
赤色アモルファス粉末である。HR−ESI−MSが513.2095[M+Na]
+(算出値が513.2101)、1003.4303[2M+Na]
+を示し、分子式がC
26H
34O
9であることを確定し、算出による不飽和度が10である。
【0067】
1H−NMR(600MHz、in DMSO−d
6)は、特性となるクロセチンのアルケン水素シグナル、1つの糖末端基シグナル及び4つのメチル水素シグナルを示した。
【0068】
非特許文献[11]との対比により、化合物9がクロセチンモノ−β−D−ピラノグルコシドであることを確定し、化合物9の
13C−NMRは表1に示す。
【0069】
2.3クチナシクロシン系活性成分のUPLC−Q/TOF−MS分析
2.3.1クロマトグラフィー条件
BEH C18(3.0mm×150mm、1.7μm);移動相:溶剤A(水、0.1%ギ酸)及び溶剤B(アセトニトリル、0.1%ギ酸)、勾配溶出(0min−20%B、0.5min−20%B、19min−50%B、20min−100%B、23min−100%B、24min−20%B)、流速:0.6mL/min、カラム温度:35℃、検出波長:440nm。
【0070】
2.3.2質量分析条件
エレクトロスプレー陽イオンモードであり、毛細管電圧:2.0kV;脱溶剤気流:N
2、流速600L/h、脱溶剤温度300℃;コーンホール気流:N
2、流速50L/h;イオン源温度:100℃;Extractor:4.00V;衝突ガス:アルゴン。9つの主要クロマトグラフィーピークの質量分析は表2に示す。
【0073】
実施例3:クチナシクロシン系活性成分GJ−4のスコポラミンによるマウスの学習および記憶障害の改善(ステップダウン実験)
【0074】
3.1ステップダウン実験のメカニズム
ステップダウン実験設備は長方形反射ボックスであり、サイズ:10cm×10cm×60cm、黒いプラスティック板で5つの部屋に分かれ、底面に0.5cm間隔で銅グリッドを敷設し、通電でき、電圧強度は変圧器によって制御される。部屋ごとに右隅に高度と直径がいずれも4.5cmの木製プラットフォームを置き、実験に36V ACを使用した。マウスがショックを受けた後、正常の反応は、傷害的刺激を避けるために安全プラットフォームにジャンピングする。最初の日は通電しなく、マウスを反射ボックスに入れ5分間自由活動して、環境を熟知する。24時間後、銅グリッド電源(36V AC)をオンにし、各組のマウスのショックから安全プラットフォームへ始めてジャンピングするまでの時間(反応時間)および5分以内に安全プラットフォームから飛び跳したエラーの数(基本エラー数)を学習テストスコアとして記録する。翌日、上記の手順を繰り返し、各組のマウスが初めて安全プラットフォームに飛び跳した時間(レーテントピリオド)および5分間のショックの数(エラー数)を記憶テストスコアとして記録する。実験中、マウスが安全プラットフォーム上に5分超え留まっていた場合、レーテントピリオドを5分として算出する。
【0075】
3.2ステップダウン実験の方案
雄性のICRマウス160匹を20匹/組毎に対照組、モデル組、ドネペジル(5mg/kg)組、メマンチン(5mg/kg)組、GJ−4(12.5mg/kg)組、GJ−4(25mg/kg)組、GJ−4(50mg/kg)組、およびGJ−4(100mg/kg)組の8組に分ける。マウスに事前に7日間連続して投与し、5日目および6日目にマウスをステップダウン実験の訓練を行い、7日目にモデル組および各投与組にスコポラミン(2mg/kg)を腹腔内注射し、30分後、ステップダウン法により行動テストを行って、マウスの最初の飛び跳した時間(レーテントピリオド)と5分間の飛び跳した数(エラーの数)を記録する。データは
図11に示す。
【0076】
実験結果によれば、クチナシクロシン系活性成分GJ−4が良好なスコポラミンによる動物の認知への改善作用を表した。GJ−4は、マウスのステップダウンのレーテントピリオドを明らかに延長し、且つステップダウンエラーの数を減少させることができる。ここで、25mg/kg、50mg/kgおよび100mg/kg用量組は、一定の用量効果関係を示した。中量組および大量組の有効性は、陽性対照医薬品ドネペジルの効力に匹敵し、実験結果は再現性があり、実験では、すべての投与組で投与に伴う毒性反応は観察されなかった。
【0077】
実施例4:クチナシクロシン系活性成分GJ−4の側脳室へのAβ
25−35注射によるマウスの学習及び記憶障害の改善(ステップダウン実験及びモリス水迷路実験)
【0078】
4.1マウス側脳室注射手術、組分けおよび投与
Aβ
25−35を滅菌蒸留水で5μg/μLに調製する。37℃のインキュベーターに7日間置きて凝集させ、−20℃の冷蔵庫に保存する。ICRマウスを適応的に摂食した2日後、4%クロロアルデヒド水和物(10mg/kg)を腹腔内注射して麻酔した後、立体の位置決め装置に固定し、手術用はさみでマウスの頭皮を中線に沿って切断し、ブレグマとヘリンボーンを露出し、脳膜を損傷しないように、頭骨を電気ドリルで左側脳室で穿孔する。相対的座標はブレグマの後2mm、中線の左側2mm、硬脳膜下1.7mmであった。マウスの左側側脳室にAβ
25−352μL(10μg)/匹で注射し、1分間をかけて注射完了する。針を3分間止めた後、針をゆっくり抜き取り、切開部を手術用縫合線で縫合し、アンピシリン(5mg/kg)を筋肉注射し、マウスをケージに入れた。偽手術組のマウスは、座標:ブレグマの後2mm、中線の左側2mm、硬脳膜下1.7mmで、マウスの左側側脳室に2μL滅菌蒸留水を注射した。手術後、側脳室にAβ
25−35を注射したマウスを15匹/組毎に、ランダムにモデル組、GJ−4(25mg/kg)組、GJ−4(50mg/kg)組、GJ−4(100mg/kg)組、及びドネペジル(5mg/kg)組に分けた。手術後、マウスを3日間休憩させ、各組に胃内投与により相応の用量の医薬品を投与し、偽手術組とモデル組には同一用量の生理食塩水を1日1回12日間連続投与した。
【0079】
4.2 行動学テスト
4.2.1 ステップダウン実験
投与7日目に、マウスの学習および記憶能力をステップダウン実験によって測定した。ステップダウン実験設備は長方形反射ボックスであり、サイズ:10cm×10cm×60cm、黒いプラスティック板で5つの部屋に分かれ、底面に0.5cm間隔で銅グリッドを敷設し、通電でき、電圧強度は変圧器によって制御される。部屋ごとに右隅に高度と直径がいずれも4.5cmの木製プラットフォームを置き、実験に36V ACを使用した。マウスがショックを受けた後、正常の反応は、傷害的刺激を避けるために安全プラットフォームにジャンピングする。5日投与するが通電しなく、マウスを反射ボックスに入れ5分間自由活動して、環境を熟知する。24時間後、銅グリッド電源(36V AC)をオンにし、各組のマウスのショックから安全プラットフォームへ始めてジャンピングするまでの時間(反応時間)および5分間に安全プラットフォームから飛び跳したエラーの数(基本エラー数)を学習テストスコアとして記録する。投与7日目に、上記の手順を繰り返し、各組のマウスが初めて安全プラットフォームに飛び回った時間(レーテントピリオド)および5分間のショックの数(エラー数)を記憶テストスコアとして記録する。実験中、マウスが安全プラットフォーム上に5分超え留まっていた場合、レーテントピリオドを5分として算出する。結果は
図12に示す。
【0080】
4.2.2 モリス水迷路実験
ステップダウン実験の後、翌日に(即ち、投与8日目)にモリス水迷路実験によってさらにマウスの学習及び記憶能力(各組におけるマウスの空間的な位置感覚と方向感覚の学習と記憶の能力のテスト)を測定した。モリス水迷路実験装置は、直径120cm、水深40cmの裏面に黒色テープが貼っている円形のプールであり、水温を23〜25℃に制御し、室内温度を26〜28℃に制御する。水タンクをランダムに4つの象限に分け、実験のときプラットフォームの位置が固定され変化されないように第二象限の中央に置き、水面より1〜2cm低い。マウスがマークに基づいて標記により方向を識別できるように、室内の周りの壁に明らかな標記を付く。実験中、マウスへの干渉を避けるように、室内のすべての物体の配置位置を固定する。実験は5日間続き、1日2回実施した。最初の4日間は位置決め航行実験であり、マウスをプールの壁に面して2つの象限から水中にそっと置き、ストレスとマウスの頭の水入れを避ける。同時に、マウスの1分以内に安全プラットフォームを見付けたレーテントピリオドを記録し、安全プラットフォーム上に30秒間留まった後、取り出してケージに戻れた。マウスが1分以内に安全プラットフォームを見つけられない場合は、30秒間安全プラットフォームに置き、レーテントピリオドを60秒と記録する。マウスが毎日2回安全プラットフォームを見つけたレーテントピリオドの平均値をマウスのこの日の水泳の結果として、統計学分析を行う。結果は
図13に示す。5日目に空間探索実験を行い、安全プラットフォームを取り外し、1つの象限を選択してマウスの頭を池の壁に向けて水に入れ、マウスの1分間のプラットフォームの所在位置を通る回数と、プラットフォームのある象限の水泳時間を記録して、統計分析を行い、
図13に示す。
【0081】
ステップダウン実験において、クチナシクロシン系活性成分GJ−4がマウスのステップダウンのレーテントピリオドを明確に延長し、且つステップダウンのエラー数を減少させる。水迷路実験において、GJ−4は、プラットホームを見つけるためのマウスのレーテントピリオドを大幅に短縮し、プラットフォームを通る回数を増やし、プラットフォームの所在象限での水泳時間を延長する。実験結果によると、GJ−4は良好なマウスの学習及び記憶障害の改善作用を表し、各用量組において、一定の用量-効果関係を示し、大量組の有効性は、陽性対照医薬品ドネペジルの効力に匹敵するばかりでなく、ひいては陽性医薬品より優れ、実験では、すべての用量組で投与に伴う毒性反応は観察されなかった。
【0082】
実施例5:クチナシにおけるクロシン単体のL−グルタミン酸誘発SH−SY5Y細胞傷害モデルにおける神経保護効果
【0083】
5.1 SH−SY5Y神経細胞培養法
SH−SY5Y神経細胞をDMEM培地(5体積%ウシ胎児血清を含む)で培養し、5%CO
2を含むインキュベーター内で37℃で培養し、3〜4日ごとに継代した。実験は、対数増殖期細胞を取って行った。
【0084】
5.2 L−グルタミン酸損傷モデルスクリーニング法
SH−SY5Y細胞を96ウェルプレートに5×10
3の濃度で接種し、24時間続いて培養し、L−グルタミン酸を含む医薬品液体培地100μLを96ウェルプレートに加えて、L−グルタミン酸の最終濃度を160mMにし、医薬品の最終濃度を10μM、1μMおよび0.1μMにして各濃度について平行の3つのウェルを設定し、培養を24時間続けた。24時間後、上清を吸引し、100μLのMTT(0.5mg/mL)を各ウェルに添加し、インキュベーションを4時間続け、上清を吸引した。各ウェルに150μLのDMSOを添加し、10分間振とうし、570nmの波長を選択して、マイクロプレートリーダーで吸光度値[非特許文献13を参照]を測定する。(有効率%=(OD
医薬品−OD
モデル)/(OD
コントラスト−OD
モデル)*100)、スクリーニング結果を表3に示す。
【国際調査報告】