(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
ヒト血管内皮増殖因子(「hVEGF」)に対する完全ヒト翻訳後修飾(HuPTM)モノクローナル抗体(「mAb」)又はmAbの抗原結合断片―例えば、完全ヒトグリコシル化(HuGly)抗hVEGF抗原結合断片など―を、血管新生の増加によって引き起こされる眼疾患、例えば、「滲出型」加齢黄斑変性症(「WAMD」)としても知られる血管新生加齢黄斑変性症(「nAMD」)、加齢黄斑変性症(「AMD」)、及び糖尿病網膜症と診断されたヒト対象の眼(複数可)の中の網膜/硝子体液へと送達するための組成物及び方法を記載する。
血管新生加齢黄斑変性症(nAMD)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の網膜へ、治療有効量のヒト網膜細胞によって生産された抗ヒト血管内皮増殖因子(hVEGF)抗原結合断片を送達することを含む、前記方法。
nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の網膜へ、治療有効量のヒト視細胞によって生産された抗hVEGF抗原結合断片を送達することを含む、前記方法。
前記抗原結合断片が、配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖、並びに配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、請求項1又は2記載の方法。
前記抗原結合断片が、配列番号14〜16の軽鎖CDR1〜3、並びに配列番号17〜19又は配列番号20、18、及び21の重鎖CDR1〜3を含む、請求項1又は2記載の方法。
【発明の概要】
【0009】
(3. 発明の概要)
VEGFに対する翻訳後修飾された完全ヒト(HuPTM)モノクローナル抗体(mAb)の抗原結合断片(「HuPTMFabVEGFi」)、例えば抗VEGF mAbの完全ヒトグリコシル化抗VEGF抗原結合断片(「HuGlyFabVEGFi」)を、血管新生の増加によって引き起こされる眼の疾患、例えば「滲出型」AMDとしても知られるnAMDと診断された患者(ヒト対象)の眼(複数可)の網膜/硝子体液に送達するための組成物及び方法を記載する。そのような抗原結合断片には、抗VEGF mAbのFab、F(ab')
2、又はscFv(単鎖可変断片)(本明細書ではまとめて「抗原結合断片」と呼ぶ)がある。代替の実施態様において、全長mAbを使用することができる。遺伝子治療―例えば、抗VEGF抗原結合断片又はmAb(又は過剰グリコシル化(hyperglycosylated)誘導体)をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトをnAMDと診断された患者(ヒト対象)の眼(複数可)内の網膜下及び/又は網膜内空間へと投与して、眼に継続的にヒトPTM、例えばヒトグリコシル化導入遺伝子産物を供給する永久デポーを作り出すことにより、送達を達成することができる。また、本明細書で提供する方法は、AMD又は糖尿病網膜症と診断された患者(ヒト対象)において使用することもできる。
【0010】
本明細書では、ヒト網膜細胞によって生産された抗ヒト血管内皮増殖因子(hVEGF)抗体、例えば抗hVEGF抗原結合断片を記載する。ヒトVEGF(hVEGF)は、VEGFA遺伝子によってコードされたヒトタンパク質である。hVEGFの例示的アミノ酸配列は、GenBank受託番号AAA35789.1.に見出すことができる。hVEGFの例示的核酸配列は、GenBank受託番号M32977.1.に見出すことができる。
【0011】
ある態様において、本明細書では、血管新生加齢黄斑変性症(nAMD)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の網膜へ、治療有効量のヒト網膜細胞によって生産された抗hVEGF抗原結合断片を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0012】
ある態様において、本明細書では、nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の網膜へ、治療有効量のヒト視細胞によって生産された抗hVEGF抗原結合断片を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0013】
ある態様において、本明細書では、nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼へ、治療有効量のヒト網膜細胞によって生産された抗hVEGF抗原結合断片を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0014】
ある態様において、本明細書では、nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼へ、治療有効量のヒト視細胞によって生産された抗hVEGF抗原結合断片を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0015】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗原結合断片は、配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖、並びに配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0016】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗原結合断片は、配列番号14〜16の軽鎖CDR1〜3、並びに配列番号17〜19又は配列番号20、18、及び21の重鎖CDR1〜3を含む。
【0017】
ある態様において、本明細書では、血管新生加齢黄斑変性症nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼へ、治療有効量のヒト網膜細胞によって生産された抗hVEGF抗体を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0018】
ある態様において、本明細書ではnAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼へ、治療有効量のヒト視細胞で生産された抗hVEGF抗体を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0019】
ある態様において、本明細書ではnAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の網膜へ、治療有効量のヒト網膜細胞で生産された抗hVEGF抗体を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0020】
ある態様において、本明細書ではnAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の網膜へ、治療有効量のヒト視細胞で生産された抗hVEGF抗体を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0021】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗体は、配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖、並びに配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0022】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗体は、配列番号14〜16の軽鎖CDR1〜3、並びに配列番号17〜19又は配列番号20、18、及び21の重鎖CDR1〜3を含む。
【0023】
ある態様において、本明細書では、血管新生加齢黄斑変性症(nAMD)と診断されたヒト対象の治療方法であって:該ヒト対象の眼へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの、α2,6-シアル酸付加グリカンを含む抗原結合断片を送達することを含む、前記方法を記載する。
【0024】
ある態様において、本明細書では、nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって:該ヒト対象の眼へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの、グリコシル化抗原結合断片を送達することを含み、ここで該抗原結合断片はNeuGcを含まない、前記方法を記載する。
【0025】
ある態様において、本明細書では、nAMD又は加齢黄斑変性症(AMD)又は糖尿病網膜症と診断されたヒト対象の治療方法であって:該ヒト対象の眼の網膜下空間へhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする発現ベクターを投与することを含み、ここで該抗原結合断片の発現が、ヒト不死化網膜由来細胞における該発現ベクターからの発現に際しα2,6-シアル酸付加されている、前記方法を記載する。
【0026】
ある態様において、本明細書では、nAMD又はAMD又は糖尿病網膜症と診断されたヒト対象の治療方法であって:該ヒト対象の眼内の網膜下空間へ、hVEGFに対する抗原結合断片をコードする発現ベクターを投与することを含み、ここで該抗原結合断片の発現はヒト不死化網膜由来細胞における該発現ベクターからの発現に際し、α2,6-シアル酸付加されており、該抗原結合断片はNeuGcを含まない、前記方法を記載する。
【0027】
ある態様において、本明細書では、nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって:該ヒト対象の眼内の網膜下空間へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該抗原結合断片を放出するデポーを形成させることを含む、前記方法を記載する。
【0028】
ある態様において、本明細書では、nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼内の網膜下空間へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果該抗原結合断片を放出するデポーを形成させることを含み、ここで該抗原結合断片がグリコシル化されているが、NeuGcを含まない、前記方法を記載する。
【0029】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗原結合断片は、配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖、並びに配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0030】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗原結合断片は、チロシン硫酸化をさらに含む。
【0031】
本明細書に記載の方法のある態様において、α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該抗原結合断片の生産は、細胞培養中でPER.C6又はRPE細胞株に該組換えヌクレオチド発現ベクターを形質導入することにより確認される。
【0032】
本明細書に記載の方法のある態様において、チロシン硫酸化を含む該抗原結合断片の生産は、細胞培養中でPER.C6又はRPE細胞株に該組換えヌクレオチド発現ベクターを形質導入することにより確認される。
【0033】
本明細書に記載の方法のある態様において、ベクターは、低酸素誘導性プロモーターを有する。
【0034】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗原結合断片は、配列番号14〜16の軽鎖CDR1〜3、並びに配列番号17〜19又は配列番号20、18、及び21の重鎖CDR1〜3を含む。
【0035】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗原結合断片の導入遺伝子はリーダーペプチドをコードする。リーダーペプチドは本明細書においてシグナルペプチド又はリーダー配列とも呼ぶ場合がある。
【0036】
ある態様において、本明細書では、nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって:該ヒト対象の眼内の網膜下空間へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該抗原結合断片を放出するデポーを形成させることを含み;ここで該組換えベクターは、培養中でPER.C6又はRPE細胞に形質導入するために使用する場合、該細胞培養中でα2,6-シアル酸付加グリカンを含む該抗原結合断片の産生をもたらす、前記方法を記載する。
【0037】
ある態様において、本明細書では、nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼内の網膜下空間へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果グリコシル化されているがNeuGcを含まない該抗原結合断片を放出するデポーを形成させることを含み;ここで該組換えベクターが、培養中でPER.C6又はRPE細胞に形質導入するために使用する場合、該細胞培養中でグリコシル化されているが、NeuGcを含まない該抗原結合断片の産生をもたらす、前記方法を記載する。
【0038】
本明細書に記載の方法のある態様において、眼への送達は、眼の網膜、脈絡膜、及び/又は硝子体液へ送達することを含む。
【0039】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗原結合断片は、C末端に1、2、3、又は4つの追加のアミノ酸を含む重鎖を含む。
【0040】
本明細書に記載の方法のある態様において、抗原結合断片は、C末端に追加のアミノ酸を含まない重鎖を含む。
【0041】
本明細書に記載の方法のある態様においては、抗原結合断片分子集団が生産され、ここで抗原結合断片分子は重鎖を含み、かつ抗原結合断片分子集団の5%、10%、又は20%は重鎖のC末端に1、2、3、又は4つの追加のアミノ酸を含む。
【0042】
そのような遺伝子治療が施される対象は、抗VEGF治療に反応性である対象であるべきである。特定の実施態様において、方法はnAMDと診断され、抗VEGF抗体による治療に反応性であると特定された患者を治療することを含む。より具体的な実施態様において、患者は抗VEGF抗原結合断片による治療に反応性である。ある実施態様において、患者は遺伝子治療の処置の前に抗VEGF抗原結合断片の硝子体内注射による治療に反応することが示されている。具体的な実施態様において、患者は過去にLUCENTIS(登録商標)(ラニビズマブ)、EYLEA(登録商標)(アフリベルセプト)、及び/又はAVASTIN(登録商標)(ベバシズマブ)で治療されており、該LUCENTIS(登録商標)(ラニビズマブ)、EYLEA(登録商標)(アフリベルセプト)、及び/又はAVASTIN(登録商標)(ベバシズマブ)の1以上に対して反応することが見出されている。
【0043】
そのようなウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを送達する対象は、ウイルスベクター又は発現コンストラクト中の導入遺伝子によってコードされた抗hVEGF抗原結合断片に反応するべきである。反応性を決定するため、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子産物(例えば、細胞培養、バイオリアクタなどで生産された)を例えば硝子体内注射により、対象に直接投与することができる。
【0044】
導入遺伝子によってコードされたHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiには、これらに限定されないが、hVEGFと結合する抗体の抗原結合断片、例えばベバシズマブ;抗hVEGF Fab部分、例えばラニビズマブ;又はFabドメインに追加されたグリコシル化部位を含むように操作されたそのようなベバシズマブ又はラニビズマブのFab部分を含み得る(例えば、全長抗体のFabドメイン上の過剰グリコシル化されたベバシズマブの誘導体の記載については、その全体が参照により本明細書に組み込まれているCourtoisらの文献、2016, mAbs 8: 99-112を参照されたい)。
【0045】
導入遺伝子の送達に使用される組換えベクターは、ヒト網膜細胞又は視細胞への親和性を有するべきである。そのようなベクターには非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特にAAV8キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。しかしながら、限定はされないが、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、又は「ネイキッドDNA」コンストラクトと呼ばれる非ウイルス発現ベクターを含む他のウイルスベクターを使用することができる。好ましくは、HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFi導入遺伝子は、適切な発現制御エレメント、数例挙げると、例えばCB7プロモーター(ニワトリβアクチンプロモーター及びCMVエンハンサー)、RPE65プロモーター、又はオプシンプロモーターによって制御されるべきであり、ベクターによって駆動される導入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβアクチンイントロン、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン、ヒト第IX因子イントロン(例えば、FIX末端切断(truncated)イントロン1)、βグロビンスプライスドナー/免疫グロブリン重鎖スプライスアクセプターイントロン、アデノウイルススプライスドナー/免疫グロブリンスプライスアクセプターイントロン、SV40後期スプライスドナー/スプライスアクセプター(19S/16S)イントロン、及びハイブリッドアデノウイルススプライスドナー/IgGスプライスアクセプターイントロンなどのイントロン、並びにポリAシグナル、例えばウサギβグロビンポリAシグナル、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリAシグナル、SV40後期ポリAシグナル、合成ポリA(SPA)シグナル、及びウシ成長ホルモン(bGH)ポリAシグナル)を含み得る。例えば、Powell及びRivera-Sotoの文献、2015, Discov. Med., 19(102):49-57を参照されたい。
【0046】
遺伝子治療のコンストラクトは重鎖及び軽鎖の両方が発現されるように設計する。より具体的には、重鎖及び軽鎖は概ね等しい量発現させるべきであり、言い換えれば、重鎖及び軽鎖は軽鎖に対する重鎖をおよそ1:1の比として発現させる。重鎖及び軽鎖についてのコード配列は、分離した重鎖及び軽鎖ポリペプチドが発現するように重鎖及び軽鎖が切断可能なリンカー又はIRESによって隔てられている単一のコンストラクト中で操作することができる。例えば、本明細書で提供する方法及び組成物で使用することができる具体的なリーダー配列については第5.2.4節、及び具体的なIRES、2A、及び他のリンカー配列については第5.2.5節を参照されたい。
【0047】
網膜下及び/又は網膜内投与に好適な医薬組成物は、生理的に相溶性の水性緩衝液、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む製剤化緩衝液中の組換え(例えばrHuGlyFabVEGFi)ベクターの懸濁液を含む。
【0048】
治療有効用量の組換えベクターは、≧0.1 mL〜≦0.5 mL、好ましくは0.1〜0.30 mL (100〜300 μl)の範囲の注射分量で、かつ最も好ましくは、0.25 mL(250 μl)の分量で、網膜下及び/又は網膜内投与するべきである。網膜下投与は局所麻酔下の対象への部分的硝子体切除及び網膜への遺伝子治療の注射を伴う熟練した網膜外科医によって実施される外科処置である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれているCampochiaroらの文献、2016, Hum Gen Ther Sep 26 epub:doi:10.1089/hum.2016.117を参照されたい)。網膜下及び/又は網膜内投与により、可溶性導入遺伝子産物は網膜、硝子体液、及び/又は房水へと送達されるべきである。導入遺伝子産物(例えば、コードされている抗VEGF抗体)の網膜細胞、例えば桿体細胞、錐体細胞、網膜色素上皮細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、及び/又はミュラー細胞による発現により、網膜、硝子体液、及び/又は房水中で導入遺伝子産物が送達され、かつ維持される。硝子体液中で少なくとも0.330 μg/mL、又は房水(眼の前室)中で0.110 μg/mLのC
minでの導入遺伝子産物濃度を3カ月にわたり維持する用量が望まれる;その後、1.70〜6.60 μg/mLの範囲の導入遺伝子産物の硝子体C
min濃度、及び/又は0.567〜2.20 μg/mLの範囲の眼房C
min濃度が維持されるべきである。しかしながら、導入遺伝子産物は継続的に生産されるため、より低濃度に維持することは効果的となり得る。導入遺伝子産物の濃度を治療した眼の硝子体液及び/又は前室の患者試料中で測定することができる。あるいは、硝子体液濃度は導入遺伝子産物の患者血清濃度の測定によって推定し、かつ/又はモニタリングすることもできる―導入遺伝子産物への全身曝露の硝子体曝露に対する比は、約1:90,000である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれているXu Lらの文献、2013, Invest. Opthal. Vis. Sci. 54: 1616-1624, p. 1621及びp. 1623の表5において報告された硝子体液及び血清のラニビズマブ濃度を参照されたい)。
【0049】
本発明は時間とともに散逸し、ピークとトラフのレベルを生じる反復的なVEGF阻害剤の高用量ボーラスの眼注射を伴う標準の看護処置を上回るいくつかの利点を有する。導入遺伝子産物抗体の持続的発現は、反復的に抗体を注射することとは対照的に、作用の場により安定したレベルの抗体が存在することを可能とし、行う必要がある注射がより少なくなり、通院がより少なくなるため、患者にとってよりリスクが低く、より便利となる。さらに、導入遺伝子から発現される抗体は、翻訳中及び翻訳後に異なる微小環境が存在するために、直接注射した抗体とは異なる様式で翻訳後修飾を受ける。あらゆる特定の理論に束縛されることなく、このことにより、抗体は異なる拡散、生物活性、分布、親和性、薬物動態、及び免疫原性特性を有することとなり、その結果作用の場へ送達される抗体は直接注射される抗体と比較して「生物学的に優れ(biobetter)」ている。
【0050】
さらに、インビボの導入遺伝子から発現される抗体は組換え技術によって生産された抗体に関連する分解産物、例えばタンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む見込みが低い。タンパク質濃度が高いこと、製造装置及び容器との表面相互作用、並びに特定の緩衝液系による精製に起因する凝集は、タンパク質の生産及び保存と関連付けられる問題である。これらの条件は凝集を促進するが、遺伝子治療における導入遺伝子発現においては存在しない。酸化、例えばメチオニン、トリプトファン、及びヒスチジン酸化もまたタンパク質の生産及び保存と関連付けられ、ストレスの大きい細胞培養条件、金属及び空気との接触、並びに緩衝液及び賦形剤中の不純物によって引き起こされる。インビボで導入遺伝子から発現されるタンパク質もまたストレスの大きい条件で酸化し得る。しかしながら、ヒト及び多くの他の生物は抗酸化防御システムを備えており、このシステムは酸化ストレスを低下させるだけでなく、時に酸化を修復し、かつ/又は逆行させもする。従って、インビボで生産されるタンパク質は酸化形態である見込みは低い。凝集及び酸化は両方とも、効力、薬物動態(クリアランス)、及び免疫原性に影響を及ぼし得る。
【0051】
理論によって束縛されることなく、本明細書で提供する方法及び組成物は部分的に、以下の原理に基づく:
(i) ヒト網膜細胞は分泌タンパク質のグリコシル化及び網膜細胞の堅牢なプロセスであるチロシン-O-硫酸化を含む翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である(例えば、網膜細胞による糖タンパク質の生産を報告するWangらの文献、2013, Analytical Biochem. 427: 20-28及びAdamisらの文献、1993, BBRC 193: 631-638;並びに網膜細胞によって分泌されたチロシン硫酸化糖タンパク質の生産を報告するKananらの文献、2009, Exp. Eye Res. 89: 559-567並びにKanan及びAl-Ubaidiの文献、2015, Exp. Eye Res. 133: 126-131を参照されたい。これらの各々はヒト網膜細胞によって行われる翻訳後修飾についてその全体が参照により組み込まれている)。
(ii) 最新の理解とは対照的に、抗VEGF抗原結合断片、例えば、ラニビズマブ(及びベバシズマブなどの全長抗VEGF mAbのFabドメイン)は実にN結合型グリコシル化部位を有する。例えば、ラニビズマブのC
Hドメイン(TVSWN
165SGAL)及びC
Lドメイン(QSGN
158SQE)中の非コンセンサスアスパラギン(「N」)グリコシル化部位、並びにV
Hドメイン(Q
115GT)及びV
Lドメイン(TFQ
100GT)中のグリコシル化部位であるグルタミン(「Q」)残基(及びベバシズマブのFab中の対応する部分)を特定している
図1を参照されたい(例えば、Valliere-Douglassらの文献、2009, J. Biol. Chem. 284: 32493-32506、及びValliere-Douglassらの文献、2010, J. Biol. Chem. 285: 16012-16022を参照されたい。これらの各々が抗体中のN結合型グリコシル化部位の特定についてその全体が参照により組み込まれている)。
(iii) そのような標準的でない部位は通常抗体集団の低レベルのグリコシル化(例えば、約1〜5%)しかもたらさないが、免疫特権を有する(immunoprivileged)器官、例えば眼において機能的利点は顕著となり得る(例えば、van de Bovenkampらの文献、2016, J. Immunol. 196:1435-1441)を参照されたい)。例えば、Fabのグリコシル化は抗体の安定性、半減期、及び結合特性に影響を及ぼし得る。その標的についての抗体の親和性へのFabグリコシル化の影響を決定するために、当業者に公知の任意の技術、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、又は表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することができる。抗体の半減期へのFabグリコシル化の影響を決定するために、当業者に公知の任意の技術を、例えば放射性標識抗体を投与された対象における血液又は器官(例えば、眼)における放射線活性のレベルの測定によって使用することができる。Fabグリコシル化の安定性、例えば抗体の凝集又はタンパク質アンフォールディングのレベルへの影響を決定するために、当業者に公知の任意の技術、例えば、示差走査熱量測定(DSC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)、キャピラリー電気泳動、質量分析、又は濁度測定を使用することができる。本明細書で提供するHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFi導入遺伝子は、標準的でない部位で0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%又はそれ以上グリコシル化されたFabの生産をもたらす。ある実施態様において、Fab集団からの0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%又はそれ以上のFabが標準的でない部位でグリコシル化されている。ある実施態様において、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%又はそれ以上の標準的でない部位がグリコシル化されている。ある実施態様において、これらの標準的でない部位でのFabのグリコシル化は、HEK293細胞中で生産されたFab中のこれらの標準的でない部位のグリコシル化の量よりも25%、50%、100%、200%、300%、400%、500%、又はそれ以上大きい。
(iv) グリコシル化部位に加え、ラニビズマブなどの抗VEGF Fab(及びベバシズマブのFab)は、CDRの内部又は近傍にチロシン(「Y」)硫酸化部位を含む;ラニビズマブのV
H(EDTAVY
94Y
95)及びV
L(EDFATY
86)ドメイン中のチロシン-O-硫酸化部位(及びベバシズマブのFab中の対応する部位)を特定する
図1を参照されたい(例えば、タンパク質チロシン硫酸化を受けたチロシン残基の周囲のアミノ酸の解析について、その全体が参照により組み込まれているYangらの文献、2015, Molecules 20:2138-2164, 特にp. 2154を参照されたい。「規則」を以下のように要約できる:Yの位置から+5〜-5以内にE又はDを有するY残基、Yの-1位が中性又は酸性に荷電したアミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、又はHではない場合)。ヒトIgG抗体は多くの他の翻訳後修飾、例えばN末端修飾、C末端修飾、アミノ酸残基の分解又は酸化、システイン関連バリアント、及びグリコシル化を表し得る(例えば、Liuらの文献、2014, mAbs 6(5):1145-1154を参照されたい)。
(v) ヒト網膜細胞による抗VEGF Fab、例えばラニビズマブ又はベバシズマブのFab断片のグリコシル化は、安定性、半減期を向上させ、望ましくない導入遺伝子産物の凝集及び/又は免疫原性を低下させ得るグリカンの追加をもたらす(例えば、Fabグリコシル化の新たな重要性の総説についてBovenkampらの文献、2016, J. Immunol. 196: 1435-1441を参照されたい)。重要なことに、本明細書で提供するHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiに追加され得るグリカンは2,6-シアル酸を含む高度にプロセシングされた複合体型バイアンテナリーNグリカン(biantennary N-glycans)(例えば、HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiに組み込まれ得るグリカンを示す
図2を参照されたい)及びバイセクティングGlcNAcであり、NGNAではない。そのようなグリカンはラニビズマブ(大腸菌で作製され、一切グリコシル化されていない)にもベバシズマブ(この翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアリルトランスフェラーゼも、CHO細胞の生産するバイセクティングGlcNacも有さないが、これらの細胞はまさに免疫原性のNGNAを生産するCHO細胞で作製される)にも存在しない。例えば、Dumontらの文献、2015, Crit. Rev. Biotechnol. (早期オンライン、2015年9月18日オンライン公開、pp. 1-13, p. 5)を参照されたい。本明細書で提供するHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、有効性を向上させるはずである。
(vi) 抗VEGF Fab、例えばラニビズマブ又はベバシズマブのFab断片の、ヒト網膜細胞における堅牢な翻訳後プロセスであるチロシン硫酸化は、VEGFへの親和性が増加した導入遺伝子産物をもたらし得る。実に、他の標的に対する治療抗体のFabのチロシン硫酸化により、抗原への親和性及び活性が劇的に増加することが示されている(例えば、Loosらの文献、2015, PNAS 112: 12675-12680、及びChoeらの文献、2003, Cell 114: 161-170を参照されたい)。そのような翻訳後修飾はラニビズマブ(チロシン硫酸化に要求される酵素を有さない宿主、大腸菌で作製される)には存在せず、CHO細胞で生産されたベバシズマブにおいてせいぜい少数派である。ヒト網膜細胞とは異なり、CHO細胞は分泌細胞ではなく、翻訳後のチロシン硫酸化能は限定されている(例えば、Mikkelsen及びEzbanの文献、1991, Biochemistry 30: 1533-1537, 特に、p. 1537の考察を参照されたい)。
【0052】
先の理由から、HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiの生産は、遺伝子治療―例えば、nAMDと診断された患者(ヒト対象)の眼(複数可)内の網膜下空間へ、HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiをコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを投与して、眼に継続的に、形質導入された網膜細胞によって生産された翻訳後修飾された、例えば、ヒトグリコシル化され、硫酸化された完全ヒト導入遺伝子産物を供給する永久デポーを作り出すことによって達成されるnAMDの治療のために「生物学的に優れ」た分子をもたらすはずである。Fab VEGFiのためのcDNAコンストラクトは形質導入された網膜細胞による適正な共翻訳及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドを含むべきである。網膜細胞によって使用されるそのようなシグナル配列は、これらに限定はされないが:
【化1】
を含み得る(使用可能なシグナルペプチドについて、例えば、各々その全体が参照により本明細書に組み込まれているSternらの文献、2007, Trends Cell. Mol. Biol., 2:1-17並びにDalton及びBartonの文献、2014, Protein Sci, 23: 517-525を参照されたい)。
【0053】
代替として、又は遺伝子治療への追加の治療として、HuPTMFabVEGFi生産物、例えばHuGlyFabVEGFiの糖タンパク質を組換えDNA技術によってヒト細胞株中で生産し、硝子体内注射によりnAMDと診断された患者に投与することができる。HuPTMFabVEGFi生産物、例えば糖タンパク質はまた、AMD又は糖尿病網膜症を有する患者へ投与することができる。そのような組換え糖タンパク質の生産に使用することができるヒト細胞株をいくつか挙げると、これらに限定はされないが、ヒト胎児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、HuH-7、及び網膜細胞株PER.C6又はRPEがある(例えば、HuPTMFabVEGFi生産物、例えばHuGlyFabVEGFi糖タンパク質の組換え生産について使用することができるヒト細胞株の総説について、その全体が参照により組み込まれているDumontらの文献、2015, Crit. Rev. Biotechnol. (早期オンライン、2015年9月18日にオンライン公開, pp. 1-13)「生物医薬の製造のためのヒト細胞株:歴史、状態、及び将来の展望(Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing: history, status, and future perspectives)」を参照されたい。確実にグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を完了するために、生産のために使用された細胞株をα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(又はα-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)並びに/又は網膜細胞中でチロシン-O-硫酸化に寄与するTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を操作することにより増強することができる。
【0054】
他の利用可能な治療薬の送達に伴う眼/網膜へのHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiの送達の組合わせは、本明細書で提供する方法に包含される。追加の治療を遺伝子治療処置の前、それと同時に、又はその後に施すことができる。本明細書で提供する遺伝子治療と組み合わせることができる利用可能なnAMDの治療には、これらに限定はされないが、レーザー光凝固法、ベルテポルフィンによる光力学的治療、及びこれらに限定はされないが、ペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、又はベバシズマブを含む抗VEGF薬剤の硝子体内(「IVT」)注射がある。抗VEGF薬剤との追加の治療、例えば生物製剤は、「レスキュー」治療と呼ぶ場合がある。
【0055】
低分子薬物とは異なり、生物製剤は通常、異なる効力、薬物動態、及び安全性プロファイルを有する異なる修飾又は形態を有する多くのバリアントの混合物を含む。遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチにおいて生産される全ての分子が完全にグリコシル化され、かつ硫酸化されていることは必須ではない。むしろ、生産される糖タンパク質の集団は、有効性を示すのに十分な2,6-シアル酸付加を含むグリコシル化(集団の約1%〜約10%)及び硫酸化を受けるべきである。本明細書で提供する遺伝子治療処置の目的は、網膜変性症の進行を減速させ、又は停止させること、及び最小限の介入/侵襲的手順で視力喪失を減速させ又は予防することである。有効性は、BCVA(最高矯正視力)の測定、眼圧、スリットランプ生体顕微鏡検査、間接的検眼鏡検査、SD-OCT (SD-光干渉断層撮影)、網膜電位図記録法(ERG)によってモニタリングすることができる。網膜剥離を含む視力喪失、感染症、炎症、及び他の安全性事象の徴候も、モニタリングすることができる。本明細書で提供する治療の有効性を決定するために、網膜厚をモニタリングしてもよい。あらゆる特定の理論に束縛されることなく、網膜の厚さを臨床読取値として使用することができ、ここで網膜厚の低下が大きいほど、又は網膜厚の増加までの期間が長いほど、治療がより有効となる。網膜厚は、例えば、SD-OCTによって決定できる。SD-OCTは低コヒーレンス干渉測定を使用してエコー時間の遅延及び対象の物体から反射される後方散乱光の振幅を決定する3次元画像化技術である。OCTを使用して軸方向分解能が3〜15 μmである組織試料(例えば、網膜)の層をスキャンすることができ、SD-OCTは過去の形態の技術よりも軸方向分解能及びスキャン速度を向上させる(Schumanの文献、2008, Trans. Am. Opthamol. Soc. 106:426-458)。例えば、網膜機能をERGにより決定することができる。ERGはヒトにおいて使用することがFDAによって承認された網膜機能の非侵襲的電気生理的検査であり、眼の光感受性細胞(桿体及び錐体)及びそれらが連絡している神経節細胞、特にそれらの閃光刺激への反応を調べる。
【0056】
本発明の予想外の利益を、網膜下空間に注射されたrAAV8.抗hVEGF FabベクターからのHuPTMFabVEGFiの発現により、(i) ヒト対象におけるnAMDのモデルであるトランスジェニックマウスの網膜下血管新生が低下し;かつ(ii) 驚くべきことに眼でのVEGFの産生によって引き起こされる重度の増殖性網膜症及び網膜剥離を発症する眼の血管新生疾患のトランスジェニックマウスモデルにおける網膜剥離が予防されたことを実証する以下の実施例に例示する。
(例示的実施態様)
1. nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の網膜へ、治療有効量のヒト網膜細胞によって生産された抗hVEGF抗原結合断片を送達することを含む、前記方法。
2. nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の網膜へ治療有効量のヒト視細胞によって生産された抗hVEGF抗原結合断片を送達することを含む、前記方法。
3. 抗原結合断片がFabである、段落1又は2記載の方法。
4. 抗原結合断片がF(ab')
2である、段落1又は2記載の方法。
5. 抗原結合断片が単鎖可変ドメイン(scFv)である、段落1又は2記載の方法。
6. 抗原結合断片が、配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、段落1又は2記載の方法。
7. 抗原結合断片が、配列番号14〜16の軽鎖CDR1〜3及び配列番号17〜19又は配列番号20、18、及び21の重鎖CDR1〜3を含む、段落1又は2記載の方法。
8. 血管新生加齢黄斑変性症(nAMD)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbのα2,6-シアル酸付加グリカンを含む抗原結合断片(Fab、F(ab')
2、又はscFv、本明細書ではまとめて「抗原結合断片」と呼ぶ)を送達することを含む、前記方法。
9. nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbのグリコシル化抗原結合断片を送達することを含み、ここで該抗原結合断片はNeuGcを含まない、前記方法。
10. nAMD又はAMD又は糖尿病網膜症と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼内の網膜下空間へhVEGFに対する抗原結合断片をコードする発現ベクターを投与することを含み、ここで該抗原結合断片の発現は、ヒト不死化網膜由来細胞における該発現ベクターからの発現に際し、α2,6-シアル酸付加される、前記方法。
11. nAMD又はAMD又は糖尿病網膜症と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼内の網膜下空間へhVEGFに対する抗原結合断片をコードする発現ベクターを投与することを含み、ここで該抗原結合断片の発現は、ヒト不死化網膜由来細胞における該発現ベクターからの発現に際し、α2,6-シアル酸付加され、該抗原結合断片はNeuGcを含まない、前記方法。
12. nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼内の網膜下空間に、治療有効量のhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該抗原結合断片を放出するデポーを形成させることを含む、前記方法。
13. nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼内の網膜下空間へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果該抗原結合断片を放出するデポーを形成させることを含み、ここで該抗原結合断片はグリコシル化されているが、NeuGcを含まない、前記方法。
14. 該抗原結合断片が、配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖、及び配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む、段落8〜13のいずれか1つ記載の方法。
15. 該抗原結合断片がチロシン硫酸化をさらに含む、段落8〜14のいずれか1つ記載の方法。
16. α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該抗原結合断片の生産を、細胞培養中で該組換えヌクレオチド発現ベクターをPER.C6又はRPE細胞株に形質導入することによって確認する、段落8〜15のいずれか1つ記載の方法。
17. チロシン硫酸化を含む該抗原結合断片の生産を、細胞培養中で該組換えヌクレオチド発現ベクターをPER.C6又はRPE細胞株に形質導入することによって確認する、段落8〜15のいずれか1つ記載の方法。
18. ベクターが、低酸素誘導性プロモーターを有する、段落8〜17のいずれか1つ記載の方法。
19. 抗原結合断片が、配列番号14〜16の軽鎖CDR1〜3、並びに配列番号17〜19又は配列番号20、18、及び21の重鎖CDR1〜3を含む、段落8〜18のいずれか1つ記載の方法。
20. 抗原結合断片導入遺伝子がリーダーペプチドをコードする、段落8〜19のいずれか1つ記載の方法。
21. nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼内の網膜下空間へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該抗原結合断片を放出するデポーを形成させることを含み;ここで該組換えベクターは、培養中でPER.C6又はRPE細胞に形質導入するのに使用する際に、該細胞培養中でα2,6-シアル酸付加グリカンを含む該抗原結合断片の産生をもたらす、前記方法。
22. nAMDと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の眼内の網膜下空間へ、治療有効量のhVEGFに対するmAbの抗原結合断片をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果該抗原結合断片を放出するデポーを形成させることを含み、ここで該抗原結合断片はグリコシル化されているがNeuGcを含まず;該組換えベクターは、培養中でPER.C6又はRPE細胞に形質導入するのに使用する際に、該細胞培養中でグリコシル化されているがNeuGcを含まない該抗原結合断片の産生をもたらす、前記方法。
23. 眼への送達が、眼の網膜、脈絡膜、及び/又は硝子体液への送達を含む、段落1又は2記載の方法。
24. 抗原結合断片が、C末端に1つ、2つ、3つ、又は4つの追加のアミノ酸を含む重鎖を含む、段落1〜23のいずれか1つ記載の方法。
25. 抗原結合断片がC末端に追加のアミノ酸を含まない重鎖を含む、段落1〜23のいずれか1つ記載の方法。
26. 抗原結合断片分子の集団を生産し、ここで該抗原結合断片分子が重鎖を含み、かつ抗原結合断片分子の集団の5%、10%、又は20%が重鎖のC末端に1つ、2つ、3つ、又は4つの追加のアミノ酸を含む、段落1〜23のいずれか1つ記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0062】
(5. 発明の詳細な説明)
VEGFに対するモノクローナル抗体(mAb)の完全ヒト翻訳後修飾(HuPTM)抗原結合断片(「HuPTMFabVEGFi」)、例えば抗VEGF mAbの完全ヒトグリコシル化抗原結合断片(「HuGlyFabVEGFi」)の、血管新生の増加によって引き起こされる眼疾患、例えば「滲出型」AMDとしても知られるnAMDと診断された患者(ヒト対象)の眼(複数可)内の網膜/硝子体液への送達のための組成物及び方法を記載する。そのような抗原結合断片は、抗VEGF mAbのFab、F(ab')
2、又はscFv(単鎖可変断片)(本明細書ではまとめて「抗原結合断片」と呼ぶ)を含む。代替の実施態様において、全長mAbを使用することができる。送達は、遺伝子治療―例えば、nAMDと診断された患者(ヒト対象)の眼(複数可)内の網膜下及び/又は網膜内空間へ、抗VEGF抗原結合断片又はmAb(又は過剰グリコシル化誘導体)をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを投与して、眼に継続的にヒトPTM、例えばヒトグリコシル化導入遺伝子産物を供給する永久デポーを作り出すことによって達成することができる。また、本明細書で提供する方法を、AMD又は糖尿病網膜症と診断された患者(ヒト対象)において使用することができる。
【0063】
そのような遺伝子治療が施される対象は、抗VEGF治療に反応性である対象であるべきである。特定の実施態様において、方法はnAMDと診断され、抗VEGF抗体による治療に反応性であると特定された患者を治療することを含む。より具体的な実施態様において、患者は抗VEGF抗原結合断片による治療に反応性である。ある実施態様において、患者は遺伝子治療の処置の前に抗VEGF抗原結合断片の硝子体内注射による治療に反応することが示されている。具体的な実施態様において、患者は過去にLUCENTIS(登録商標)(ラニビズマブ)、EYLEA(登録商標)(アフリベルセプト)、及び/又はAVASTIN(登録商標)(ベバシズマブ)で治療されており、該LUCENTIS(登録商標)(ラニビズマブ)、EYLEA(登録商標)(アフリベルセプト)、及び/又はAVASTIN(登録商標)(ベバシズマブ)の1以上に対して反応することが見出されている。
【0064】
そのようなウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを送達する対象は、ウイルスベクター又は発現コンストラクト中の導入遺伝子によってコードされた抗VEGF抗原結合断片に反応するべきである。反応性を決定するため、抗hVEGF抗原結合断片導入遺伝子産物(例えば、細胞培養、バイオリアクタなどで生産された)を例えば硝子体内注射により、対象に直接投与することができる。
【0065】
導入遺伝子によってコードされたHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiには、これらに限定されないが、hVEGFと結合する抗体の抗原結合断片、例えばベバシズマブ;抗hVEGF Fab部分、例えばラニビズマブ;又はFabドメインに追加されたグリコシル化部位を含むように操作されたそのようなベバシズマブ又はラニビズマブのFab部分を含み得る(例えば、全長抗体のFabドメイン上の過剰グリコシル化されたベバシズマブの誘導体の記載については、その全体が参照により本明細書に組み込まれているCourtoisらの文献、2016, mAbs 8: 99-112を参照されたい)。
【0066】
導入遺伝子の送達のために使用する組換えベクターは、ヒト網膜細胞又は視細胞への親和性を有するべきである。そのようなベクターは、非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特にAAV8キャプシドを有するベクターが好ましい。しかしながら、これらに限定はされないが、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、又は「ネイキッドDNA」コンストラクトと呼ばれる非ウイルス性発現ベクターを含む他のウイルスベクターを使用することができる。好ましくは、HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFi導入遺伝子は、適切な発現制御エレメント、例えばいくつか挙げると、CB7プロモーター(ニワトリβアクチンプロモーター及びCMVエンハンサー)、RPE65プロモーター、又はオプシンプロモーターによって制御されるべきであり、かつベクターによって駆動される導入遺伝子の発現を高める他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβアクチンイントロン、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン、ヒト第IX因子イントロン(例えば、FIX末端切断イントロン1)、βグロビンスプライスドナー/免疫グロブリン重鎖スプライスアクセプターイントロン、アデノウイルススプライスドナー/免疫グロブリンスプライスアクセプターイントロン、SV40後期スプライスドナー/スプライスアクセプター(19S/16S)イントロン、及びハイブリッドアデノウイルススプライスドナー/IgGスプライスアクセプターイントロンなどのイントロン、並びにポリAシグナル、例えばウサギβグロビンポリAシグナル、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリAシグナル、SV40後期ポリAシグナル、合成ポリA(SPA)シグナル、及びウシ成長ホルモン(bGH)ポリAシグナル)を含むことができる。例えば、Powell及びRivera-Sotoの文献、2015, Discov. Med., 19(102):49-57を参照されたい。
【0067】
遺伝子治療のコンストラクトは重鎖及び軽鎖の両方が発現されるように設計する。より具体的には、重鎖及び軽鎖は概ね等しい量発現させるべきであり、言い換えれば、重鎖及び軽鎖は軽鎖に対する重鎖をおよそ1:1の比として発現させる。重鎖及び軽鎖についてのコード配列は、分離した重鎖及び軽鎖ポリペプチドが発現するように重鎖及び軽鎖が切断可能なリンカー又はIRESによって隔てられている単一のコンストラクト中で操作することができる。例えば、本明細書で提供する方法及び組成物で使用することができる具体的なリーダー配列については第5.2.4節、及び具体的なIRES、2A、及び他のリンカー配列については第5.2.5節を参照されたい。
【0068】
網膜下及び/又は網膜内投与に好適な医薬組成物は、生理的に相溶性の水性緩衝液、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む製剤化緩衝液中の組換え(例えばrHuGlyFabVEGFi)ベクターの懸濁液を含む。
【0069】
治療有効用量の組換えベクターは、≧0.1 mL〜≦0.5 mL、好ましくは0.1〜0.30 mL (100〜300 μl)の範囲の注射分量で、かつ最も好ましくは、0.25 mL(250 μl)の分量で、網膜下及び/又は網膜内投与するべきである。網膜下投与は局所麻酔下の対象への部分的硝子体切除及び網膜への遺伝子治療の注射を伴う熟練した網膜外科医によって実施される外科処置である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれているCampochiaroらの文献、2016, Hum Gen Ther Sep 26 epub:doi:10.1089/hum.2016.117を参照されたい)。網膜下及び/又は網膜内投与により、可溶性導入遺伝子産物は網膜、硝子体液、及び/又は房水へと送達されるべきである。導入遺伝子産物(例えば、コードされている抗VEGF抗体)の網膜細胞、例えば桿体細胞、錐体細胞、網膜色素上皮細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、及び/又はミュラー細胞による発現により、網膜、硝子体液、及び/又は房水中で導入遺伝子産物が送達され、かつ維持される。硝子体液中で少なくとも0.330 μg/mL、又は房水(眼の前室)中で0.110 μg/mLのC
minでの導入遺伝子産物濃度を3カ月にわたり維持する用量が望まれる;その後、1.70〜6.60 μg/mLの範囲の導入遺伝子産物の硝子体C
min濃度、及び/又は0.567〜2.20 μg/mLの範囲の眼房C
min濃度が維持されるべきである。しかしながら、導入遺伝子産物は継続的に生産されるため、より低濃度に維持することは効果的となり得る。導入遺伝子産物の濃度を治療した眼の硝子体液及び/又は前室の患者試料中で測定することができる。あるいは、硝子体液濃度は導入遺伝子産物の患者血清濃度の測定によって推定し、かつ/又はモニタリングすることもできる―導入遺伝子産物への全身曝露の硝子体曝露に対する比は、約1:90,000である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれているXu Lらの文献、2013, Invest. Opthal. Vis. Sci. 54: 1616-1624, p. 1621及びp. 1623の表5において報告された硝子体液及び血清のラニビズマブ濃度を参照されたい)。
【0070】
本発明は時間とともに散逸し、ピークとトラフのレベルを生じる反復的なVEGF阻害剤の高用量ボーラスの眼注射を伴う標準の看護処置を上回るいくつかの利点を有する。導入遺伝子産物抗体の持続的発現は、反復的に抗体を注射することとは対照的に、作用の場により安定したレベルの抗体が存在することを可能とし、行う必要がある注射がより少なくなり、通院がより少なくなるため、患者にとってよりリスクが低く、より便利となる。さらに、導入遺伝子から発現される抗体は、翻訳中及び翻訳後に異なる微小環境が存在するために、直接注射した抗体とは異なる様式で翻訳後修飾を受ける。あらゆる特定の理論に束縛されることなく、このことにより、抗体は異なる拡散、生物活性、分布、親和性、薬物動態、及び免疫原性特性を有することとなり、その結果作用の場へ送達される抗体は直接注射される抗体と比較して「生物学的に優れ」ている。
【0071】
さらに、インビボの導入遺伝子から発現される抗体は組換え技術によって生産された抗体に関連する分解産物、例えばタンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む見込みが低い。タンパク質濃度が高いこと、製造装置及び容器との表面相互作用、並びに特定の緩衝液系による精製に起因する凝集は、タンパク質の生産及び保存と関連付けられる問題である。これらの条件は凝集を促進するが、遺伝子治療における導入遺伝子発現においては存在しない。酸化、例えばメチオニン、トリプトファン、及びヒスチジン酸化もまたタンパク質の生産及び保存と関連付けられ、ストレスの大きい細胞培養条件、金属及び空気との接触、並びに緩衝液及び賦形剤中の不純物によって引き起こされる。インビボで導入遺伝子から発現されるタンパク質もまたストレスの大きい条件で酸化し得る。しかしながら、ヒト及び多くの他の生物は抗酸化防御システムを備えており、このシステムは酸化ストレスを低下させるだけでなく、時に酸化を修復し、かつ/又は逆行させもする。従って、インビボで生産されるタンパク質は酸化形態である見込みは低い。凝集及び酸化は効力、薬物動態(クリアランス)、及び免疫原性に影響を及ぼし得る。
【0072】
理論によって束縛されることなく、本明細書で提供する方法及び組成物は部分的に、以下の原理に基づく:
(i) ヒト網膜細胞は分泌タンパク質のグリコシル化及び網膜細胞の堅牢なプロセスであるチロシン-O-硫酸化を含む翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である(例えば、網膜細胞による糖タンパク質の生産を報告するWangらの文献、2013, Analytical Biochem. 427: 20-28及びAdamisらの文献、1993, BBRC 193: 631-638;並びに網膜細胞によって分泌されたチロシン硫酸化糖タンパク質の生産を報告するKananらの文献、2009, Exp. Eye Res. 89: 559-567並びにKanan及びAl-Ubaidiの文献、2015, Exp. Eye Res. 133: 126-131を参照されたい。これらの各々はヒト網膜細胞によって行われる翻訳後修飾についてその全体が参照により組み込まれている)。
(ii) 最新の理解とは対照的に、抗VEGF抗原結合断片、例えば、ラニビズマブ(及びベバシズマブなどの全長抗VEGF mAbのFabドメイン)は実にN結合型グリコシル化部位を有する。例えば、ラニビズマブのC
Hドメイン(TVSWN
165SGAL)及びC
Lドメイン(QSGN
158SQE)中の非コンセンサスアスパラギン(「N」)グリコシル化部位、並びにV
Hドメイン(Q
115GT)及びV
Lドメイン(TFQ
100GT)中のグリコシル化部位であるグルタミン(「Q」)残基(及びベバシズマブのFab中の対応する部分)を特定している
図1を参照されたい(例えば、Valliere-Douglassらの文献、2009, J. Biol. Chem. 284: 32493-32506、及びValliere-Douglassらの文献、2010, J. Biol. Chem. 285: 16012-16022を参照されたい。これらの各々が抗体中のN結合型グリコシル化部位の特定についてその全体が参照により組み込まれている)。
(iii) そのような標準的でない部位は通常抗体集団の低レベルのグリコシル化(例えば、約1〜5%)しかもたらさないが、免疫特権を有する器官、例えば眼において機能的利点は顕著となり得る(例えば、van de Bovenkampらの文献、2016, J. Immunol. 196:1435-1441)を参照されたい)。例えば、Fabのグリコシル化は抗体の安定性、半減期、及び結合特性に影響を及ぼし得る。その標的についての抗体の親和性へのFabグリコシル化の影響を決定するために、当業者に公知の任意の技術、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、又は表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することができる。抗体の半減期へのFabグリコシル化の影響を決定するために、当業者に公知の任意の技術を、例えば放射性標識抗体を投与された対象における血液又は器官(例えば、眼)における放射線活性のレベルの測定によって使用することができる。Fabグリコシル化の安定性、例えば抗体の凝集又はタンパク質アンフォールディングのレベルへの影響を決定するために、当業者に公知の任意の技術、例えば、示差走査熱量測定(DSC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)、キャピラリー電気泳動、質量分析、又は濁度測定を使用することができる。本明細書で提供するHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFi導入遺伝子は、標準的でない部位で0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%又はそれ以上グリコシル化されたFabの生産をもたらす。ある実施態様において、Fab集団からの0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%又はそれ以上のFabが標準的でない部位でグリコシル化されている。ある実施態様において、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%又はそれ以上の標準的でない部位がグリコシル化されている。ある実施態様において、これらの標準的でない部位でのFabのグリコシル化は、HEK293細胞中で生産されたFab中のこれらの標準的でない部位のグリコシル化の量よりも25%、50%、100%、200%、300%、400%、500%、又はそれ以上大きい。
(iv) グリコシル化部位に加え、ラニビズマブなどの抗VEGF Fab(及びベバシズマブのFab)は、CDRの内部又は近傍にチロシン(「Y」)硫酸化部位を含む;ラニビズマブのV
H(EDTAVY
94Y
95)及びV
L(EDFATY
86)ドメイン中のチロシン-O-硫酸化部位(及びベバシズマブのFab中の対応する部位)を特定する
図1を参照されたい(例えば、タンパク質チロシン硫酸化を受けたチロシン残基の周囲のアミノ酸の解析について、その全体が参照により組み込まれているYangらの文献、2015, Molecules 20:2138-2164, 特にp. 2154を参照されたい。「規則」を以下のように要約できる:Yの位置から+5〜-5以内にE又はDを有するY残基、Yの-1位が中性又は酸性に荷電したアミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、又はHではない場合)。ヒトIgG抗体は多くの他の翻訳後修飾、例えばN末端修飾、C末端修飾、アミノ酸残基の分解又は酸化、システイン関連バリアント、及びグリコシル化を表し得る(例えば、Liuらの文献、2014, mAbs 6(5):1145-1154を参照されたい)。
(v) ヒト網膜細胞による抗VEGF Fab、例えばラニビズマブ又はベバシズマブのFab断片のグリコシル化は、安定性、半減期を向上させ、望ましくない導入遺伝子産物の凝集及び/又は免疫原性を低下させるグリカンの追加をもたらす(例えば、Fabグリコシル化の新たな重要性の総説についてBovenkampらの文献、2016, J. Immunol. 196: 1435-1441を参照されたい)。重要なことに、本明細書で提供するHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiに追加され得るグリカンは2,6-シアル酸を含む高度にプロセシングされた複合体型バイアンテナリーNグリカン(例えば、HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiに組み込まれ得るグリカンを示す
図2を参照されたい)及びバイセクティングGlcNAcであり、NGNAではない。そのようなグリカンはラニビズマブ(大腸菌で作製され、一切グリコシル化されていない)にもベバシズマブ(この翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアリルトランスフェラーゼも、CHO細胞の生産するバイセクティングGlcNacも有さないが、これらの細胞はまさに免疫原性のNGNAを生産するCHO細胞において作製される)にも存在しない。例えば、Dumontらの文献、2015, Crit. Rev. Biotechnol. (早期オンライン、2015年9月18日オンライン公開、pp. 1-13, p. 5)を参照されたい。本明細書で提供するHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、有効性を向上させるはずである。
(vi) 抗VEGF Fab、例えばラニビズマブ又はベバシズマブのFab断片の、ヒト網膜細胞における堅牢な翻訳後プロセスであるチロシン硫酸化は、VEGFへの親和性が増加した導入遺伝子産物をもたらし得る。実に、他の標的に対する治療抗体のFabのチロシン硫酸化により、抗原への親和性及び活性が劇的に増加することが示されている(例えば、Loosらの文献、2015, PNAS 112: 12675-12680、及びChoeらの文献、2003, Cell 114: 161-170を参照されたい)。そのような翻訳後修飾はラニビズマブ(チロシン硫酸化に要求される酵素を有さない宿主、大腸菌で作製される)には存在せず、CHO細胞で生産されたベバシズマブにおいてせいぜい少数派である。ヒト網膜細胞とは異なり、CHO細胞は分泌細胞ではなく、翻訳後のチロシン硫酸化能は限定されている(例えば、Mikkelsen及びEzbanの文献、1991, Biochemistry 30: 1533-1537, 特に、p. 1537の考察を参照されたい)。
【0073】
先の理由から、HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiの生産は、遺伝子治療―例えば、nAMDと診断された患者(ヒト対象)の眼(複数可)内の網膜下空間へ、HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiをコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを投与して、眼に継続的に、形質導入された網膜細胞によって生産された翻訳後修飾された、例えば、ヒトグリコシル化され、硫酸化された完全ヒト導入遺伝子産物を供給する永久デポーを作り出すことによって達成されるnAMDの治療のために「生物学的に優れ」た分子をもたらすはずである。Fab VEGFiのためのcDNAコンストラクトは形質導入された網膜細胞による適正な共翻訳及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドを含むべきである。網膜細胞によって使用されるそのようなシグナル配列は、これらに限定はされないが:
【化2】
を含み得る(使用可能なシグナルペプチドについて、例えば、各々その全体が参照により本明細書に組み込まれているSternらの文献、2007, Trends Cell. Mol. Biol., 2:1-17並びにDalton及びBartonの文献、2014, Protein Sci, 23: 517-525を参照されたい)。
【0074】
代替として、又は遺伝子治療への追加の治療として、HuPTMFabVEGFi生産物、例えばHuGlyFabVEGFiの糖タンパク質を組換えDNA技術によってヒト細胞株中で生産し、硝子体内注射によりnAMDと診断された患者に投与することができる。HuPTMFabVEGFi生産物、例えば糖タンパク質はまた、AMD又は糖尿病網膜症を有する患者へ投与することができる。そのような組換え糖タンパク質の生産に使用することができるヒト細胞株をいくつか挙げると、これらに限定はされないが、ヒト胎児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、HuH-7、及び網膜細胞株PER.C6又はRPEがある(例えば、HuPTMFabVEGFi生産物、例えばHuGlyFabVEGFi糖タンパク質の組換え生産について使用することができるヒト細胞株の総説について、その全体が参照により組み込まれているDumontらの文献、2015, Crit. Rev. Biotechnol. (早期オンライン、2015年9月18日にオンライン公開, pp. 1-13)「生物医薬の製造のためのヒト細胞株:歴史、状態、及び将来の展望(Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing: history, status, and future perspectives)」を参照されたい。確実にグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を完了するために、生産のために使用された細胞株をα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(又はα-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)並びに/又は網膜細胞中でチロシン-O-硫酸化に寄与するTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を操作することにより増強することができる。
【0075】
他の利用可能な治療薬の送達に伴う眼/網膜へのHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiの送達の組合わせは、本明細書で提供する方法に包含される。追加の治療を遺伝子治療処置の前、それと同時に、又はその後に施すことができる。本明細書で提供する遺伝子治療と組み合わせることができる利用可能なnAMDの治療には、これらに限定はされないが、レーザー光凝固法、ベルテポルフィンによる光力学的治療、及びこれらに限定はされないが、ペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、又はベバシズマブを含む抗VEGF薬剤の硝子体内(「IVT」)注射がある。抗VEGF薬剤との追加の治療、例えば生物製剤は、「レスキュー」治療と呼ぶ場合がある。
【0076】
低分子薬物とは異なり、生物製剤は通常、異なる効力、薬物動態、及び安全性プロファイルを有する異なる修飾又は形態を有する多くのバリアントの混合物を含む。遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチにおいて生産される全ての分子が完全にグリコシル化され、かつ硫酸化されていることは必須ではない。むしろ、生産される糖タンパク質の集団は、有効性を示すのに十分な2,6-シアル酸付加を含むグリコシル化(集団の約1%〜約10%)及び硫酸化を受けるべきである。本明細書で提供する遺伝子治療処置の目的は、網膜変性症の進行を減速させ、又は停止させること、及び最小限の介入/侵襲的手順で視力喪失を減速させ又は予防することである。有効性は、BCVA(最高矯正視力)の測定、眼圧、スリットランプ生体顕微鏡検査、間接的検眼鏡検査、SD-OCT (SD-光干渉断層撮影)、網膜電位図記録法(ERG)によってモニタリングすることができる。網膜剥離を含む視力喪失、感染症、炎症、及び他の安全性事象の徴候も、モニタリングすることができる。本明細書で提供する治療の有効性を決定するために、網膜厚をモニタリングしてもよい。あらゆる特定の理論に束縛されることなく、網膜の厚さを臨床読取値として使用することができ、ここで網膜厚の低下が大きいほど、又は網膜厚の増加までの期間が長いほど、治療がより有効となる。網膜厚は、例えば、SD-OCTによって決定できる。SD-OCTは低コヒーレンス干渉測定を使用してエコー時間の遅延及び対象の物体から反射される後方散乱光の振幅を決定する3次元画像化技術である。OCTを使用して軸方向分解能が3〜15 μmである組織試料(例えば、網膜)の層をスキャンすることができ、SD-OCTは過去の形態の技術よりも軸方向分解能及びスキャン速度を向上させる(Schumanの文献、2008, Trans. Am. Opthamol. Soc. 106:426-458)。例えば、網膜機能をERGにより決定することができる。ERGはヒトにおいて使用することがFDAによって承認された網膜機能の非侵襲的電気生理的検査であり、眼の光感受性細胞(桿体及び錐体)及びそれらが連絡している神経節細胞、特にそれらの閃光刺激への反応を調べる。
【0077】
(5.1 N-グリコシル化、チロシン硫酸化、及びO-グリコシル化)
本明細書に記載の方法において使用するHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiの抗VEGF抗原結合断片のアミノ酸配列(一次配列)は、N-グリコシル化又はチロシン硫酸化が起こる部位を少なくとも1つ含む。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片のアミノ酸配列は、少なくとも1つのN-グリコシル化部位及び少なくとも1つのチロシン硫酸化部位を含む。そのような部位を以下詳細に記載する。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片のアミノ酸配列は少なくとも1つのO-グリコシル化部位を含み、これは該アミノ酸配列中に存在する1以上のN-グリコシル化部位及び/又はチロシン硫酸化部位に追加され得る。
【0078】
(5.1.1 N-グリコシル化)
(逆グリコシル化部位)
標準的N-グリコシル化配列は、当技術分野においてAsn-X-Ser(又はThr)(ここでXはProを除く任意のアミノ酸であり得る)であることが公知である。しかしながら、最近ヒト抗体のアスパラギン(Asn)残基が逆コンセンサスモチーフSer(又はThr)-X-Asn(ここでXはProを除く任意のアミノ酸であり得る)の状況でグリコシル化され得ることが実証された。Valliere-Douglassらの文献、2009, J. Biol. Chem. 284:32493-32506; 及びValliere-Douglassらの文献、2010, J. Biol. Chem. 285:16012-16022を参照されたい。本明細書で開示するように、最新の理解とは対照的に、本明細書に記載の方法に従って使用するための抗VEGF抗原結合断片、例えばラニビズマブは、そのような逆コンセンサス配列のいくつかを含む。従って、本明細書に記載の方法は、配列Ser(又はThr)-X-Asn(ここで、XはProを除く任意のアミノ酸とし得る(本明細書において「逆N-グリコシル化部位」とも呼ぶ))を含む少なくとも1つのN-グリコシル化部位を含む抗VEGF抗原結合断片の使用を含む。
【0079】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法は、配列Ser(又はThr)-X-Asn(ここで、XはProを除く任意のアミノ酸とし得る)を含む1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10超のN-グリコシル化部位を含む抗VEGF抗原結合断片の使用を含む。ある実施態様において、本明細書に記載の方法は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10超の逆N-グリコシル化部位、並びに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10超の非コンセンサスN-グリコシル化部位(以下本明細書で定義する)を含む抗VEGF抗原結合断片の使用を含む。
【0080】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法において使用する1以上の逆N-グリコシル化部位を含む抗VEGF抗原結合断片は、ラニビズマブであり、それぞれ配列番号1及び2の軽鎖及び重鎖を含む。別の具体的な実施態様において、本方法で使用する1以上の逆N-グリコシル化部位を含む抗VEGF抗原結合断片は、ベバシズマブのFabを含み、それぞれ配列番号3及び4の軽鎖及び重鎖を含む。
【0081】
(非コンセンサスグリコシル化部位)
逆N-グリコシル化部位に加え、ヒト抗体のグルタミン(Gln)残基を、非コンセンサスモチーフGln-Gly-Thrの状況においてグリコシル化することができることが、最近実証された。Valliere-Douglassらの文献、2010, J. Biol. Chem. 285:16012-16022を参照されたい。驚くべきことに、本明細書に記載の方法による使用のための抗VEGF抗原結合断片、例えばラニビズマブは、いくつかのそのような非コンセンサス配列を含む。従って、本明細書に記載の方法は、配列Gln-Gly-Thr(本明細書において「非コンセンサスN-グリコシル化部位」とも呼ぶ)を含む少なくとも1つのN-グリコシル化部位を含む抗VEGF抗原結合断片の使用を含む。
【0082】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法は、配列Gln-Gly-Thrを含む1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10超のN-グリコシル化部位を含む抗VEGF抗原結合断片の使用を含む。
【0083】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法において使用する1以上の非コンセンサスN-グリコシル化部位を含む抗VEGF抗原結合断片は、ラニビズマブ(それぞれ配列番号1及び2の軽鎖及び重鎖を含む)である。別の具体的な実施態様において、方法において使用する1以上の非コンセンサスN-グリコシル化部位を含む抗VEGF抗原結合断片は、ベバシズマブのFab(それぞれ配列番号3及び4の軽鎖及び重鎖を含む)を含む。
【0084】
(N-グリコシル化部位の操作)
ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片をコードする核酸を、通常HuGlyFabVEGFiと関連するよりも(例えば、その非改変状態における抗VEGF抗原結合断片と関連するN-グリコシル化部位の数に対して相対的に)1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上のN-グリコシル化部位(標準のN-グリコシル化コンセンサス配列、逆N-グリコシル化部位、及び非コンセンサスN-グリコシル化部位を含む)を含むように改変する。具体的な実施態様において、グリコシル化部位の導入は、該導入によりその抗原、VEGFへの抗原結合断片の結合に影響を来さない限り、抗原結合断片の一次構造のいずれかの位置へのN-グリコシル化部位(標準のN-グリコシル化コンセンサス配列、逆N-グリコシル化部位、及び非コンセンサスN-グリコシル化部位を含む)の挿入によって達成される。グリコシル化部位の導入は、N-グリコシル化部位を生成させる(すなわち、アミノ酸を抗原結合断片/抗体に付加するのではなく、抗原結合断片/抗体のアミノ酸を選択されたN-グリコシル化部位を形成させるように突然変異させる)ために、例えば、抗原結合断片若しくは抗原結合断片がそれに由来する抗体の一次構造に新しいアミノ酸を付加すること(すなわち、グリコシル化部位を完全に、若しくは部分的に付加する)、又は抗原結合断片若しくは抗原結合断片がそれに由来する抗体中の既存のアミノ酸を突然変異させることにより、達成することができる。当業者であれば、タンパク質のアミノ酸配列を当技術分野において公知のアプローチを、例えばタンパク質をコードする核酸配列の改変を含む組換えアプローチを使用して、容易に改変することができることを認識するであろう。
【0085】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法において使用する抗VEGF抗原結合断片は、網膜細胞で発現させた場合、過剰グリコシル化され得るように改変する。その全体が参照により本明細書に組み込まれているCourtoisらの文献、2016, mAbs 8:99-112を参照されたい。具体的な実施態様において、該抗VEGF抗原結合断片は、ラニビズマブ(それぞれ配列番号1及び2の軽鎖及び重鎖を含む)である。別の具体的な実施態様において、該抗VEGF抗原結合断片は、ベバシズマブのFabを含む(それぞれ配列番号3及び4の軽鎖及び重鎖を含む)。
【0086】
(抗VEGF抗原結合断片のN-グリコシル化)
低分子薬物と異なり、生物製剤は通常異なる効能、薬物動態、及び安全性プロファイルを有する異なる修飾又は形態を有する多くのバリアントの混合物を含む。遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチにおいて生産される全ての分子が完全にグリコシル化され、かつ硫酸化されることは必須ではない。むしろ、生産される糖タンパク質の集団は有効性を実証するのに十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本明細書で提供する遺伝子治療処置の目的は、網膜変性症の進行を減速又は停止させること、及び最小の介入/侵襲的手順により視力喪失を減速又は予防することである。
【0087】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用する抗VEGF抗原結合断片、例えば、ラニビズマブは、網膜細胞で発現させる場合にそのN-グリコシル化部位の100%でグリコシル化させることができる。しかしながら、当業者であれば、グリコシル化の利益を得るために、抗VEGF抗原結合断片のN-グリコシル化部位の全てがN-グリコシル化される必要があるわけではないことが認識されよう。むしろ、グリコシル化の利益はあるパーセンテージのN-グリコシル化部位のみがグリコシル化された場合、及び/又はあるパーセンテージの発現された抗原結合断片のみがグリコシル化された場合に実現され得る。従って、ある実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用する抗VEGF抗原結合断片は、網膜細胞において発現させる場合、その利用可能なN-グリコシル化部位の10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜100%でグリコシル化される。ある実施態様において、網膜細胞において発現させる場合、本明細書に記載の方法によって使用する抗VEGF抗原結合断片の10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜100%は、それらの利用可能なN-グリコシル化部位のうちの少なくとも1つでグリコシル化される。
【0088】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用する抗VEGF抗原結合断片中に存在するN-グリコシル化部位のうちの少なくとも10%、20% 30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%は抗VEGF抗原結合断片を網膜細胞中で発現させた場合、N-グリコシル化部位に存在するAsn残基(又は他の関係する残基)でグリコシル化される。すなわち、結果として生じるHuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%がグリコシル化される。
【0089】
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用する抗VEGF抗原結合断片に存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%が、網膜細胞において抗VEGF抗原結合断片を発現させた場合にN-グリコシル化部位に存在するAsn残基(又は他の関係する残基)と連結した同一の結合グリカンによりグリコシル化されている。すなわち、結果として生じるHuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%は、同一の結合グリカン。
【0090】
本明細書に記載の方法によって使用する抗VEGF抗原結合断片、例えばラニビズマブを網膜細胞において発現させる場合、抗原結合断片のN-グリコシル化部位は、様々な異なるグリカンでグリコシル化することができる。抗原結合断片のN-グリカンは当技術分野において特徴づけられている。例えば、Bondtらの文献、2014, Mol. & Cell. Proteomics 13.11:3029-3039(そのFabと関連するN-グリカンの開示についてその全体が参照により本明細書に組み込まれている)では、Fabと関連するグリカンが特徴づけられ、抗体のFab及びFc部分は異なるグリコシル化パターンを含んでおり、Fabグリカンがガラクトシル化、シアル酸付加、及びバイセクション(bisection)(例えば、バイセクティングGlcNac(bisecting GlcNAc)を有する)において高いが、Fcグリカンと比較してフコシル化において低いことを実証する。Bondtの文献のように、Huangらの文献、2006, Anal. Biochem. 349:197-207(そのFabと関連するN-グリカンの開示についてその全体が参照により本明細書に組み込まれている)では、Fabの大部分のグリカンがシアル酸付加されていることが見出された。しかしながら、Huangの調べた抗体のFab(マウス細胞の背景において生産された)において、特定されたシアル残基(sialic residues)は、N-アセチルノイラミン酸(「Neu5Ac」、優勢なヒトシアル酸)ではなく、N-グリコリルノイラミン酸(「Neu5Gc」又は「NeuGc」)(ヒトにとって自然のものではない)であった。さらに、Songらの文献、2014, Anal. Chem. 86:5661-5666(そのFabと関連するN-グリカンの開示についてその全体が参照により本明細書に組み込まれている)には、市販抗体と関連するN-グリカンのライブラリが記載されている。
【0091】
重要なことに、本明細書に記載の方法によって使用する抗VEGF抗原結合断片、例えばラニビズマブをヒト網膜細胞で発現させる場合、原核生物宿主細胞(例えば、大腸菌)又は真核生物宿主細胞(例えば、CHO細胞)におけるインビトロ生産の必要性が迂回される。代わりに、本明細書に記載の方法(例えば、抗hVEGF抗原結合断片を発現させるための網膜細胞の使用)の結果として、抗VEGF抗原結合断片のN-グリコシル化部位は、有利にはヒトの治療と関係し、該治療に有益であるグリカンで修飾される(decorated)。そのような利点は抗体/抗原結合断片の生産においてCHO細胞又は大腸菌を利用する場合、達成できない。それは、例えば、CHO細胞は(1) 2,6シアリルトランスフェラーゼを発現しないため、N-グリコシル化の間に2,6シアル酸を付加できず、かつ(2) シアル酸としてNeu5AcではなくNeu5Gcを付加し得るためであり;かつ大腸菌は天然にはN-グリコシル化に必要な構成要素を含まないためである。従って、一実施態様において、網膜細胞に発現して本明細書に記載の治療方法において使用するHuGlyFabVEGFiを生じる抗VEGF抗原結合断片は、タンパク質がヒト網膜細胞、例えば網膜色素細胞においてN-グリコシル化される様式でグリコシル化されるが、タンパク質がCHO細胞においてグリコシル化される様式ではグリコシル化されない。別の実施態様において、網膜細胞に発現して本明細書に記載の治療方法において使用するHuGlyFabVEGFiを生じる抗VEGF抗原結合断片は、タンパク質がヒト網膜細胞、例えば網膜色素細胞においてN-グリコシル化される様式でグリコシル化され、ここでそのようなグリコシル化は原核細胞宿主細胞を使用する、例えば大腸菌を使用するのでは自然には不可能である。
【0092】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブは、ヒト抗体のFabと関連する1、2、3、4、5、又はそれ以上の異なるN-グリカンを含む。具体的な実施態様において、ヒト抗体のFabと関連する該N-グリカンは、Bondtらの文献、2014, Mol. & Cell. Proteomics 13.11:3029-3039, Huangらの文献、2006, Anal. Biochem. 349:197-207、及び/又はSongらの文献、2014, Anal. Chem. 86:5661-5666に記載のN-グリカンである。ある実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブは、NeuGcを含まない。
【0093】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブは、優勢には2,6-結合型シアル酸を含むグリカンでグリコシル化されている。ある実施態様において、2,6-結合型シアル酸を含むHuGlyFabVEGFiはポリシアル酸付加されており、すなわち、2以上のシアル酸を含む。ある実施態様において、該HuGlyFabVEGFiの各N-グリコシル化部位は、2,6-結合型シアル酸を含むグリカンを含む。すなわち、該HuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位の100%が2,6-結合型シアル酸を含むグリカンを含む。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%が2,6-結合型シアル酸を含むグリカンでグリコシル化される。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位の少なくとも10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜99%は2,6-結合型シアル酸を含むグリカンでグリコシル化されている。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法による網膜細胞において発現する抗原結合断片(すなわち、HuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブを生じる抗原結合断片)の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%は、2,6-結合型シアル酸を含むグリカンでグリコシル化されている。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法により網膜細胞において発現する抗原結合断片(すなわち、HuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブを生じるFab)の少なくとも10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜99%は、2,6-結合型シアル酸を含むグリカンでグリコシル化されている。別の具体的な実施態様において、該シアル酸はNeu5Acである。そのような実施態様によると、HuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位のあるパーセンテージのみが2,6-シアル酸付加され、又はポリシアル酸付加され、残りのN-グリコシル化は異なるN-グリカンを含み得るか、N-グリカンを全く含み得ない(すなわち、非グリコシル化されたままである)。
【0094】
HuGlyFabVEGFiが2,6-ポリシアル酸付加された場合、それは複数のシアル酸残基、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10超のシアル酸残基を含む。ある実施態様において、HuGlyFabVEGFiがポリシアル酸付加される場合、それは2〜5、5〜10、10〜20、20〜30、30〜40、又は40〜50のシアル酸残基を含む。ある実施態様において、HuGlyFabVEGFiがポリシアル酸付加される場合、それは2,6-結合型(シアル酸)
nを含む(ここで、nは1〜100の任意の数とし得る)。
【0095】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブは、優勢にはバイセクティングGlcNAcを含むグリカンでグリコシル化される。ある実施態様において、該HuGlyFabVEGFiの各N-グリコシル化部位はバイセクティングGlcNAcを含むグリカンを含む、すなわち、該HuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位の100%はバイセクティングGlcNAcを含むグリカンを含む。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%は、バイセクティングGlcNAcを含むグリカンでグリコシル化されている。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化部位の少なくとも10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜99%は、バイセクティングGlcNAcを含むグリカンでグリコシル化されている。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法による網膜細胞において発現する抗原結合断片(すなわち、HuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブを生じる抗原結合断片)の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%は、バイセクティングGlcNAcを含むグリカンでグリコシル化されている。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法による網膜細胞において発現する抗原結合断片(すなわち、HuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブを生じる抗原結合断片)の少なくとも10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜99%は、バイセクティングGlcNAcを含むグリカンでグリコシル化されている。
【0096】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブは、過剰グリコシル化されている、すなわち、天然のN-グリコシル化部位から生じるN-グリコシル化に加え、該HuGlyFabVEGFiは、HuGlyFabVEGFiに生じる抗原結合断片のアミノ酸配列中に存在するように操作されたN-グリコシル化部位にグリカンを含む。ある実施態様において、本明細書に記載の方法によって使用するHuGlyFabVEGFi、例えばラニビズマブは、過剰グリコシル化されているが、NeuGcを含まない。
【0097】
抗原結合断片を含む抗体のグリコシル化パターンを決定するためのアッセイは当技術分野で公知である。例えば、ヒドラジン分解はグリカンを解析するために使用することができる。第一に、ヒドラジンとのインキュベーションにより多糖がその関連するタンパク質から放出される(Ludger遊離ヒドラジン分解グリカン放出キット, Oxfordshire, UKを使用することができる)。求核剤であるヒドラジンは多糖及びキャリアタンパク質の間のグリコシド結合を攻撃し、結合したグリカンを放出させる。この処理の間にN-アセチル基は失われ、再度N-アセチル化によって再構成しなくてはならない。また、グリカンはグリコシダーゼ又はエンドグリコシダーゼなどの酵素、例えばPNGase F及びEndo Hを使用して放出させることができ、これらの酵素は完全に、ヒドラジンよりも副反応をより少なくして切断する。遊離グリカンを炭素カラム上で精製し、引き続き蛍光物質2-アミノベンズアミドで還元末端を標識することができる。標識した多糖をRoyleらの文献、Anal Biochem 2002, 304(1):70-90のHPLCプロトコルに従ってGlycoSep-Nカラム(GL Sciences)上で分離することができる。結果として得られる蛍光クロマトグラムは、多糖の長さ及び反復単位の数を示す。構造情報は個別のピークを収集し、続いてMS/MS解析を実施することによって集めることができる。それにより単糖の組成及び反復単位の連なりを確認することができ、さらに多糖の組成の均一性を特定することができる。低分子量又は高分子量の特異的ピークをMALDI-MS/MSによって解析することができ、その結果はグリカンの配列を確認するために使用することができる。クロマトグラム中の各ピークはポリマー、例えばグリカンに対応し、特定の数の反復単位及びその断片、例えば糖残基からなる。このように、クロマトグラムにより、ポリマー、例えばグリカンの長さ分布の測定が可能となる。溶出時間はポリマー長の指標であり、一方蛍光強度はそれぞれのポリマー、例えばグリカンのモル存在量と相関する。抗原結合断片と関連するグリカンを評価するための他の方法には、Bondtらの文献、2014, Mol. & Cell. Proteomics 13.11:3029-3039, Huangらの文献、2006, Anal. Biochem. 349:197-207, 及び/又はSongらの文献、2014, Anal. Chem. 86:5661-5666に記載された方法がある。
【0098】
抗体と関連するグリカンのパターンの均一性又は不均一性(抗原結合断片を含む)は、グリカンの長さ又は大きさ、及びグリコシル化部位にわたって存在するグリカンの数の両方に関係するため、当技術分野で公知の方法、例えば、グリカンの長さ又は大きさ、及び流体力学半径を測定する方法を使用して評価することができる。HPLC、例えばサイズ排除、順相、逆相、及び陰イオン交換HPLC、並びにキャピラリー電気泳動により、流体力学半径の測定が可能となる。タンパク質中のグリコシル化部位の数が多いと、グリコシル化部位がより少ないキャリアと比較して、流体力学半径のばらつきが大きくなる。しかしながら、単一グリカン鎖を解析すると、これらの鎖はより制御された長さのためにより均一となり得る。グリカンの長さは、ヒドラジン分解、SDS PAGE、及びキャピラリーゲル電気泳動によって測定することができる。さらにまた、均一性は特定のグリコシル化部位の使用パターンがより広い/より狭い範囲へと変化することを意味し得る。これらの因子は糖ペプチドLC-MS/MSによって測定することができる。
【0099】
(N-グリコシル化の利点)
N-グリコシル化は本明細書に記載の方法において使用するHuGlyFabVEGFiに多大なる利点を付与する。そのような利点は大腸菌が天然にはN-グリコシル化に必要な構成要素を有さないために、大腸菌における抗原結合断片の生産によっては達成できない。さらに、いくつかの利点は例えばCHO細胞における抗体生産を通じては達成できず、それはCHO細胞が特定のグリカン(例えば、2,6-シアル酸及びバイセクティングGlcNAc)の付加に必要な構成要素を欠いており、かつCHO細胞がヒトにとって典型的でないグリカン、例えばNeu5Gcを付加し得るためである。例えば、Songらの文献、2014, Anal. Chem. 86:5661-5666を参照されたい。従って、本明細書に記載の抗VEGF抗原結合断片、例えばラニビズマブが標準的でないN-グリコシル化部位(逆及び非コンセンサスグリコシル化部位の両方を含む)を含むという発見のおかげで、そのような抗VEGF抗原結合断片をそれらのグリコシル化(及び従って抗原結合断片に関連する利点の向上)をもたらす様式で発現する方法が実現された。特に、ヒト網膜細胞における抗VEGF抗原結合断片の発現は、そうでなければ抗原結合断片にもそれらの親抗体にも関連しないであろう有益なグリカンを含むHuGlyFabVEGFi(例えば、ラニビズマブ)の生産をもたらす。
【0100】
標準的でないグリコシル化部位は通常抗体集団の低レベルのグリコシル化(例えば、1〜5%)をもたらす一方、機能的利点は免疫特権を有する器官、例えば眼において顕著となり得る(例えば、van de Bovenkampらの文献、2016, J. Immunol. 196:1435-1441を参照されたい)。例えば、Fabグリコシル化は抗体の安定性、半減期、及び結合特性に影響を及ぼし得る。抗体のその標的に対する親和性へのFabグリコシル化の影響を決定するために、当業者に公知の任意の技術、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、又は表面プラズモン共鳴(SPR)を使用することができる。抗体の半減期へのFabグリコシル化の影響を決定するため、例えば、放射性標識された抗体を投与された対象における血液又は器官(例えば、眼)中の放射線活性のレベルを測定することにより、当業者に公知の任意の技術を使用することができる。抗体の安定性、例えば凝集又はタンパク質アンフォールディングのレベルへのFabグリコシル化の影響を決定するために、当業者に公知の任意の技術、例えば示差走査熱量測定(DSC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、例えばサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)、キャピラリー電気泳動、質量分析、又は濁度測定を使用することができる。本明細書では、標準的でない部位で0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%以上グリコシル化された抗原結合断片の生産をもたらすHuGlyFabVEGFi導入遺伝子を提供する。ある実施態様において、抗原結合断片の集団からの0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%以上の抗原結合断片が、標準的でない部位でグリコシル化されている。ある実施態様において、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、又は10%以上の標準的でない部位がグリコシル化されている。ある実施態様において、これらの標準的でない部位での抗原結合断片のグリコシル化はHEK293細胞において生産された抗原結合断片におけるこれらの標準的でない部位のグリコシル化の量よりも25%、50%、100%、200%、300%、400%、500%以上大きい。
【0101】
本明細書に記載の方法において使用するHuGlyFabVEGFi上のシアル酸の存在は、HuGlyFabVEGFiのクリアランス速度、例えば硝子体液からのクリアランス速度に影響を及ぼし得る。従って、HuGlyFabVEGFiのシアル酸パターンを使用して、最適なクリアランス速度を有する治療薬を生成することができる。抗原結合断片のクリアランス速度を評価する方法は、当技術分野において公知である。例えば、Huangらの文献、2006, Anal. Biochem. 349:197-207を参照されたい。
【0102】
別の具体的な実施態様において、N-グリコシル化によって付与される利点は、凝集の低下である。占有されたN-グリコシル化部位は凝集しやすいアミノ酸残基をマスクして、凝集を減少させることができる。そのようなN-グリコシル化部位は、本明細書で使用する抗原結合断片に固有であるか、又は本明細書で使用する抗原結合断片へと操作され得るものであり、発現された、例えば網膜細胞において発現された場合により凝集しにくいHuGlyFabVEGFiをもたらす。抗体の凝集を評価する方法は、当技術分野において公知である。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれているCourtoisらの文献、2016, mAbs 8:99-112を参照されたい。
【0103】
別の具体的な実施態様において、N-グリコシル化によって付与される利点は、免疫原性の低下である。そのようなN-グリコシル化部位は、本明細書で使用する抗原結合断片に固有であり得るか、又は本明細書で使用する抗原結合断片へと操作され得るものであり、発現された、例えば網膜細胞において発現された場合により免疫原性を生じにくいHuGlyFabVEGFiをもたらす。
【0104】
別の具体的な実施態様において、N-グリコシル化によって付与される利点はタンパク質安定性である。タンパク質のN-グリコシル化は該タンパク質に安定性を付与することが周知されており、N-グリコシル化に起因するタンパク質の安定性を評価する方法が、当技術分野において公知である。例えば、Sola及びGriebenowの文献、2009, J Pharm Sci., 98(4): 1223-1245を参照されたい。
【0105】
別の具体的な実施態様において、N-グリコシル化によって付与される利点は、結合親和性の変化である。抗体の可変ドメイン中のN-グリコシル化部位の存在により、その抗原への抗体の親和性が増大し得ることが当技術分野において公知である。例えば、Bovenkampらの文献、2016, J. Immunol. 196:1435-1441を参照されたい。抗体の結合親和性を測定するためのアッセイは、当技術分野において公知である。例えば、Wrightらの文献、1991, EMBO J. 10:2717-2723; 及びLeibigerらの文献、1999, Biochem. J. 338:529-538を参照されたい。
【0106】
(5.1.2 チロシン硫酸化)
チロシン硫酸化はチロシン(Y)の位置から+5〜-5以内にグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)を有し、Yの-1位が中性又は酸性に荷電したアミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばアルギニン(R)、リシン(K)、又はヒスチジン(H)ではないY残基で起こる。驚くべきことに、本明細書に記載の方法に従って使用するための抗VEGF抗原結合断片、例えばラニビズマブは、チロシン硫酸化部位を含む(
図1を参照されたい)。従って、本明細書に記載の方法は、少なくとも1つのチロシン硫酸化部位を含む抗VEGF抗原結合断片、例えばHuPTMFabVEGFiの使用を含み、そのような抗VEGF抗原結合断片は、網膜細胞において発現された場合、チロシン硫酸化され得る。
【0107】
重要なことに、チロシン硫酸化された抗原結合断片、例えばラニビズマブは、天然にはチロシン硫酸化に要求される酵素を有さない大腸菌においては生産できない。さらに、CHO細胞はチロシン硫酸化に不十分である―該細胞は分泌細胞ではなく、翻訳後チロシン硫酸化のための能力が限定されている。例えば、Mikkelsen及びEzbanの文献、1991, Biochemistry 30: 1533-1537を参照されたい。有利なことに、本明細書で提供する方法には、分泌性であり、かつチロシン硫酸化の能力をまさに有する網膜細胞において抗VEGF抗原結合断片、例えばHuPTMFabVEGFi、例えばラニビズマブを発現させることが必要となる。網膜細胞によって分泌されるチロシン硫酸化糖タンパク質の生産を報告するKananらの文献、2009, Exp. Eye Res. 89: 559-567並びにKanan及びAl-Ubaidiの文献、2015, Exp. Eye Res. 133: 126-131を参照されたい。
【0108】
チロシン硫酸化はいくつかの理由から有利である。例えば、標的に対する治療抗体の抗原結合断片のチロシン硫酸化は、抗原に対する親和性及び活性を劇的に増加させることが示されている。例えば、Loosらの文献、2015, PNAS 112: 12675-12680、及びChoeらの文献、2003, Cell 114: 161-170を参照されたい。チロシン硫酸化を検出するためのアッセイは、当技術分野において公知である。例えば、Yangらの文献、2015, Molecules 20:2138-2164を参照されたい。
【0109】
(5.1.3 O-グリコシル化)
O-グリコシル化はセリン又はスレオニン残基への酵素によるN-アセチル-ガラクトサミンの付加を含む。抗体のヒンジ領域に存在するアミノ酸残基は、O-グリコシル化され得ることが示されている。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用する抗VEGF抗原結合断片、例えばラニビズマブは、そのヒンジ領域の全て又は一部を含み、従ってヒト網膜細胞において発現される際にO-グリコシル化され得る。O-グリコシル化の可能性は、例えば大腸菌で生産された抗原結合断片と比較して、本明細書で提供するHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiにもう1つの利点を付与する。というのも、重ねて大腸菌は天然にはヒトO-グリコシル化において使用されるものに相当する機構を含まないためである(代わりに、大腸菌におけるO-グリコシル化は、細菌が特定のO-グリコシル化機構を含むように改変された場合にのみ示されている。例えば、Faridmoayerらの文献、2007, J. Bacteriol. 189:8088-8098.を参照されたい)。グリカンを有するために、O-グリコシル化HuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiは、N-グリコシル化HuGlyFabVEGFiと共通の有利な特性を有する(先に論じた通り)。
【0110】
(5.2 コンストラクト及び製剤)
方法における使用のために、本明細書では、抗VEGF抗原結合断片又は抗VEGF抗原結合断片の過剰グリコシル化誘導体をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを提供する。本明細書で提供するウイルスベクター及び他のDNA発現コンストラクトには、標的細胞(例えば、網膜色素上皮細胞)への導入遺伝子の送達に好適な任意の方法を含む。導入遺伝子の送達手段には、ウイルスベクター、リポソーム、他の脂質含有複合体、他の高分子複合体、合成修飾mRNA、非修飾mRNA、低分子、非生物学的活性分子(例えば、金粒子)、重合分子(例えば、デンドリマー)、ネイキッドDNA、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、又はエピソームがある。いくつかの実施態様において、ベクターは標的化ベクター、例えば網膜色素上皮細胞へと標的化されたベクターである。
【0111】
いくつかの態様において、開示により使用のための核酸が提供され、ここで核酸は:サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MMTプロモーター、EF-1αプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーター、及びオプシンプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作用可能に連結されたHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiをコードする。
【0112】
ある実施態様において、本明細書では、1以上の核酸(例えば、ポリヌクレオチド)を含む組換えベクターを提供する。核酸は、DNA、RNA、又はDNA及びRNAの組合わせを含み得る。ある実施態様において、DNAは、プロモーター配列、対象遺伝子の配列(導入遺伝子、例えば抗VEGF抗原結合断片)、非翻訳領域、及び終結配列からなる群から選択される1以上の配列を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、対象遺伝子に作用可能に連結されたプロモーターを含む。
【0113】
ある実施態様において、本明細書で開示する核酸(例えば、ポリヌクレオチド)及び核酸配列は、例えば当業者に公知の任意のコドン最適化技術によってコドン最適化され得る(例えば、Quaxらの文献、2015, Mol Cell 59:149-161による総説を参照されたい)。
【0114】
具体的な実施態様において、本明細書に記載のコンストラクトは、以下の構成要素:(1) 発現カセットに隣接するAAV2逆位末端反復;(2) a) CMVエンハンサ―/ニワトリβ-アクチンプロモーターを含むCB7プロモーター、b) ニワトリβ-アクチンイントロン、及びc) ウサギβ-グロビンポリAシグナルを含む制御エレメント;並びに(3) 重鎖及び軽鎖ポリペプチドの等量の発現を保証する自己切断フーリン(F)/F2Aリンカーによって隔てられた、抗VEGF抗原結合断片の重鎖及び軽鎖をコードする核酸配列を含む。
【0115】
(5.2.1 mRNA)
ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、対象遺伝子をコードする改変mRNAである(例えば、導入遺伝子、例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)。網膜色素上皮細胞への導入遺伝子の送達のための改変及び非改変mRNAの合成は、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれているHanssonらの文献、J. Biol. Chem., 2015, 290(9):5661-5672で教示されている。ある実施態様において、本明細書では、抗VEGF抗原結合断片部分をコードする改変mRNAを提供する。
【0116】
(5.2.2 ウイルスベクター)
ウイルスベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV、例えばAAV8)、レンチウイルス、ヘルパー依存性アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、日本型赤血球凝集素ウイルス(hemagglutinin virus of Japan)(HVJ)、アルファウイルス、ワクシニアウイルス、及びレトロウイルスのベクターがある。レトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MLV)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)ベースのベクターがある。アルファウイルスベクターには、セムリキ森林ウイルス(SFV)及びシンドビスウイルス(SIN)がある。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、組換えウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、ヒトにおいて複製欠損となるように改変される。ある実施態様において、ウイルスベクターはハイブリッドベクター、例えば「無力(helpless)」アデノウイルスベクター中に配置されたAAVベクターである。ある実施態様において、本明細書では、第1のウイルスからのウイルスキャプシド及び第2のウイルスからのウイルスエンベロープタンパク質を含むウイルスベクターを提供する。具体的な実施態様において、第2のウイルスは水疱性口内炎ウイルス(VSV)である。より具体的な実施態様において、エンベロープタンパク質は、VSV-Gタンパク質である。
【0117】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、HIVベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書で提供するHIVベースのベクターは、少なくとも2つのポリヌクレオチドを含み、ここでgag及びpol遺伝子はHIVゲノムに由来し、env遺伝子は別のウイルスに由来する。
【0118】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、単純ヘルペスウイルスベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書で提供する単純ヘルペスウイルスベースのベクターは、1以上の前初期(IE)遺伝子を含まず、その結果非細胞傷害性となるように改変される。
【0119】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、MLVベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書で提供するMLVベースのベクターは、ウイルス遺伝子に代えて最大8 kbの異種DNAを含む。
【0120】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、レンチウイルスベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、ヒトレンチウイルスに由来する。ある実施態様において、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、非ヒトレンチウイルスに由来する。ある実施態様において、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、レンチウイルスキャプシド中にパッケージングされる。ある実施態様において、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、1以上の以下のエレメント:長鎖末端反復配列、プライマー結合部位、ポリプリン配列(polypurine tract)、att部位、及びキャプシド封入部位を含む。
【0121】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、アルファウイルスベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書で提供するアルファウイルスベクターは、組換え複製欠損アルファウイルスである。ある実施態様において、本明細書で提供するアルファウイルスベクター中のアルファウイルスレプリコンは、そのビリオン表面上に機能的異種リガンドを提示することによって特定の細胞種へと標的化される。
【0122】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、AAVベースのウイルスベクターである。好ましい実施態様において、本明細書で提供されるウイルスベクターは、AAV8ベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書で提供するAAV8ベースのウイルスベクターは、網膜細胞への親和性を保持する。ある実施態様において、本明細書で提供するAAVベースのベクターは、AAV rep遺伝子(複製に必要とされる)及び/又はAAV cap遺伝子(キャプシドタンパク質の合成に必要とされる)をコードする。複数のAAV血清型を特定した。ある実施態様において、本明細書で提供するAAVベースのベクターは、AAVの1以上の血清型に由来する構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するAAVベースのベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAVrh10のうちの1以上に由来するキャプシド構成要素を含む。好ましい実施態様において、本明細書で提供するAAVベースのベクターは、AAV8、AAV9、AAV10、 AAV11、又はAAVrh10血清型の1以上に由来する構成要素を含む。
【0123】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するAAVはAnc80又はAnc80L65であり、これはその全体が参照により組み込まれているZinnらの文献、2015, Cell Rep. 12(6): 1056-1068に記載された通りである。ある実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するAAVは、以下のアミノ酸の挿入:LGETTRP又はLALGETTRPのうちの1つを含み、これは各々その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第9,193,956号; 第9458517号; 及び第9,587,282号、並びに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載された通りである。ある実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するAAVは、AAV.7m8であり、これは各々その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第9,193,956号; 第9,458,517号; 及び第9,587,282号、並びに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載された通りである。ある実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するAAVは、米国特許第9,585,971号に開示された任意のAAV、例えばAAV-PHP.Bである。ある実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するAAVは、各々その全体が参照により本明細書に組み込まれている以下の特許及び特許出願:米国特許第7,906,111号; 第8,524,446号; 第8,999,678号; 第8,628,966号; 第8,927,514号; 第8,734,809号; US第9,284,357号; 第9,409,953号; 第9,169,299号; 第9,193,956号; 第9458517号; 及び第9,587,282号、米国特許出願公開第2015/0374803号; 第2015/0126588号; 第2017/0067908号; 第2013/0224836号; 第2016/0215024号; 第2017/0051257号; 及び国際特許出願PCT/US2015/034799; PCT/EP2015/053335のいずれかにおいて開示されたAAVである。
【0124】
AAV8ベースのウイルスベクターは、本明細書に記載のいくつかの方法において使用する。AAVベースのウイルスベクターの核酸配列並びに組換えAAV及びAAVキャプシドを作製する方法は、例えば各々その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号、及び国際特許出願PCT/EP2014/076466において教示されている。一態様において、本明細書では、導入遺伝子(例えば、抗VEGF抗原結合断片)をコードするAAV(例えば、AAV8)ベースのウイルスベクターを提供する。具体的な実施態様において、本明細書では、抗VEGF抗原結合断片をコードするAAV8ベースのウイルスベクターを提供する。より具体的な実施態様において、本明細書では、ラニビズマブをコードするAAV8ベースのウイルスベクターを提供する。
【0125】
ある実施態様において、一本鎖AAV(ssAAV)を上記のように使用することができる。ある実施態様において、自己相補的ベクター、例えばscAAVを使用することができる(例えば、各々その全体が参照により本明細書に組み込まれているWuの文献、2007, Human Gene Therapy, 18(2):171-82, McCartyらの文献、2001, Gene Therapy, Vol 8, Number 16, Pages 1248-1254; 並びに米国特許第6,596,535号; 第7,125,717号; 及び第7,456,683号を参照されたい)。
【0126】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するウイルスベクターは、アデノウイルスベースのウイルスベクターである。組換えアデノウイルスベクターは、抗VEGF抗原結合断片の導入に使用することができる。組換えアデノウイルスは、E1の欠失を有し、E3の欠失を有していてもいなくてもよく、かついずれかの欠失領域に発現カセットが挿入されている第1世代ベクターとすることができる。組換えアデノウイルスは、E2及びE4領域の完全欠失又は部分的欠失を含む第2世代ベクターとすることができる。ヘルパー依存性アデノウイルスは、アデノウイルス逆位末端反復及びパッケージングシグナル(φ)のみを保持する。導入遺伝子はパッケージングシグナル及び3' ITRの間に挿入され、ゲノムをおよそ36 kbという野生型の大きさの近くに維持するための増量配列を有していてもいなくてもよい。アデノウイルスベクターを生産するための例示的なプロトコルは、その全体が参照により本明細書に組み込まれているAlbaらの文献、2005, 「中身のないアデノウイルス:遺伝子治療のための最新世代アデノウイルス(Gutless adenovirus: last generation adenovirus for gene therapy)」、 Gene Therapy 12:S18-S27に見出すことができる。
【0127】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するウイルスベクターは、レンチウイルスベースのベクターである。組換えレンチウイルスベクターは、抗VEGF抗原結合断片中の導入に使用することができる。コンストラクトを作製するために、4つのプラスミド:Gag/pol配列を含むプラスミド、Rev配列を含むプラスミド、エンベロープタンパク質を含むプラスミド(すなわち、VSV-G)、並びにパッケージングエレメント及び抗VEGF抗原結合断片遺伝子を含むCisプラスミドを使用する。
【0128】
レンチウイルスベクターの生産について、4つのプラスミドを細胞(すなわち、HEK293ベースの細胞)に共トランスフェクションする。ここで、トランスフェクション剤として、特にポリエチレンイミン又はリン酸カルシウムを使用することができる。続いて上清中のレンチウイルスを採取する(レンチウイルスは活性を示すのに細胞から出芽する必要があるため、細胞の採取を行う必要はなく、それをすべきでもない)。上清を濾過(0.45 μm)し、続いて塩化マグネシウム及びベンゾナーゼを加える。さらに下流のプロセスは多様なものとすることができ、TFF及びカラムクロマトグラフィーの使用が最もGMPに適合するプロセスである。他のプロセスでは、超遠心分離が使用され、カラムクロマトグラフィーを伴っても伴わなくてもよい。レンチウイルスベクターの生産のための例示的なプロトコルは、両方につきその全体が参照により本明細書に組み込まれているLeschらの文献、2011, 「バキュロウイルスベクターを含む293T懸濁細胞において生成されたレンチウイルスベクターの生産及び精製(Production and purification of lentiviral vector generated in 293T suspension cells with baculoviral vectors)」、Gene Therapy 18:531-538, 及びAusubelらの文献、2012, 「CGMPグレードのレンチウイルスベクターの生産(Production of CGMP-Grade Lentiviral Vectors)」、Bioprocess Int. 10(2):32-43に見出すことができる。
【0129】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するベクターは、関係する細胞(例えば、インビボまたはインビトロの網膜細胞)へとベクターを導入する際に、その細胞によってグリコシル化され、かつ/又はチロシン硫酸化された抗VEGF抗原結合断片のバリアントが発現されるように、抗VEGF抗原結合断片(例えば、ラニビズマブ)をコードするベクターである。具体的な実施態様において、発現された抗VEGF抗原結合断片は、上記第5.1節に記載のグリコシル化及び/又はチロシン硫酸化のパターンを含む。
【0130】
(5.2.3 遺伝子発現のプロモーター及び修飾因子)
ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、遺伝子送達又は遺伝子発現を調節する構成要素(例えば、「発現制御エレメント」)を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、遺伝子発現を調節する構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、細胞への結合又は標的化に影響を及ぼす構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、取り込まれた後に細胞内でのポリヌクレオチド(例えば、導入遺伝子)の局在に影響を及ぼす構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、例えばポリヌクレオチドを取り込んだ細胞を検出し、又は選択するための検出可能又は選択可能なマーカーとして使用することができる構成要素を含む。
【0131】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、1以上のプロモーターを含む。ある実施態様において、プロモーターは、構成的プロモーターである。ある実施態様において、プロモーターは、誘導性プロモーターである。ある実施態様において、プロモーターは低酸素誘導性プロモーターである。ある実施態様において、プロモーターは、低酸素誘導性因子(HIF)結合部位を含む。ある実施態様において、プロモーターは、HIF-1α結合部位を含む。ある実施態様において、プロモーターは、HIF-2α結合部位を含む。ある実施態様において、HIF結合部位は、RCGTGモチーフを含む。HIF結合部位の位置及び配列に関する詳細については、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれているSchodelらの文献、Blood, 2011, 117(23):e207-e217を参照されたい。ある実施態様において、プロモーターは、HIF転写調節因子以外の低酸素誘導性転写調節因子の結合部位を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、低酸素において優先的に翻訳される1以上のIRES部位を含む。低酸素誘導性遺伝子発現に関する教示及びそれに関与する因子については、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれているKenneth及びRochaの文献、Biochem J., 2008, 414:19-29を参照されたい。
【0132】
ある実施態様において、プロモーターは、CB7プロモーターである(その全体が参照により本明細書に組み込まれているDinculescuらの文献、2005, Hum Gene Ther 16: 649-663を参照されたい)。いくつかの実施態様において、CB7プロモーターはベクターによって駆動される導入遺伝子の発現を増強する、他の発現制御エレメントを含む。ある実施態様において、他の発現制御エレメントには、ニワトリβ-アクチンイントロン及び/又はウサギβ-グロビンポリAシグナルがある。ある実施態様において、プロモーターはTATAボックスを含む。ある実施態様において、プロモーターは1以上のエレメントを含む。ある実施態様において、1以上のプロモーターエレメントは、互いに対し相対的に逆向きであるか、位置を変え得る。ある実施態様において、プロモーターのエレメントを協調的に機能するように配置する。ある実施態様において、プロモーターのエレメントを独立に機能するように配置する。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、CMV前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RS)長鎖末端反復配列、及びラットインスリンプロモーターからなる群から選択される1以上のプロモーターを含む。ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、AAV、MLV、MMTV、SV40、RSV、HIV-1、及びHIV-2 LTRからなる群から選択される1以上の長鎖末端反復配列(LTR)プロモーターを含む。ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、1以上の組織特異的プロモーター(例えば、網膜色素上皮細胞特異的プロモーター)を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、RPE65プロモーターを含む。ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、VMD2プロモーターを含む。
【0133】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、プロモーター以外の1以上の調節エレメントを含む。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、エンハンサーを含む。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、リプレッサーを含む。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、イントロン又はキメライントロンを含む。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、ポリアデニル化配列を含む。
【0134】
(5.2.4 シグナルペプチド)
ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、タンパク質の送達を調節する構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、1以上のシグナルペプチドを含む。また、シグナルペプチドは、本明細書において「リーダー配列」又は「リーダーペプチド」と呼ぶ場合がある。ある実施態様において、シグナルペプチドにより、導入遺伝子産物(例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)が細胞中で適正なパッケージング(例えば、グリコシル化)を達成することが可能となる。ある実施態様において、シグナルペプチドにより、導入遺伝子産物(例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)が細胞中で適正な局在を達成することが可能となる。ある実施態様において、シグナルペプチドにより、導入遺伝子産物(例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)が細胞からの選択を達成することが可能となる。本明細書で提供するベクター及び導入遺伝子と関連して使用されるシグナルペプチドの例は、表1に見出すことができる。
表1. 本明細書で提供するベクターとともに使用するシグナルペプチド
【表1】
【0135】
(5.2.5 ポリシストロン性メッセージ―IRES及びF2Aリンカー)
内部リボソーム進入部位。単一のコンストラクトを、切断可能なリンカー又はIRESによって隔てられた重鎖及び軽鎖の両方をコードするように操作して、形質導入された細胞により分離した重鎖及び軽鎖ポリペプチドが発現されるようにすることができる。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、ポリシストロン性(例えば、バイシストロン性)メッセージを提供する。例えば、ウイルスコンストラクトは内部リボソーム進入部位(IRES)エレメントによって隔てられた重鎖及び軽鎖をコードし得る(IRESエレメントのバイシストロニックベクターを作製するための使用の例については、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれているGurtuらの文献、1996, Biochem. Biophys. Res. Comm. 229(1):295-8を参照されたい)。IRESエレメントはリボソーム走査モデルを迂回し、内部部位で翻訳を開始する。AAVにおけるIRESの使用は、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれているFurlingらの文献、2001, Gene Ther 8(11): 854-73に記載されている。ある実施態様において、バイシストロン性のメッセージがその中のポリヌクレオチド(複数可)の大きさに関して制限があるウイルスベクター内に含められる。ある実施態様において、バイシストロン性のメッセージはAAVウイルスベースのベクター(例えば、AAV8ベースのベクター)内に含められる。
【0136】
フーリン-F2Aリンカー。他の実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、切断可能リンカー、例えば自己切断フーリン/F2A(F/F2A)リンカー(各々その全体が参照により本明細書に組み込まれているFangらの文献、2005, Nature Biotechnology 23: 584-590, 及びFangの文献、2007, Mol Ther 15: 1153-9)によって隔てられている重鎖及び軽鎖をコードする。
【0137】
例えば、フーリン-F2Aリンカーは、重鎖及び軽鎖コード配列を隔てる発現カセット中に組み込んで、構造:
リーダー-重鎖-フーリン部位-F2A部位-リーダー-軽鎖-ポリA
を有するコンストラクトを生じることができる。
【0138】
アミノ酸配列
【化3】
を含むF2A部位は自己プロセシングを行い、最後のG及びPアミノ酸残基の間での「切断」をもたらす。使用可能な追加のリンカーには、これらに限定はされないが:
【化4】
がある。
【0139】
オープンリーディングフレーム中でリボソームがF2A配列と遭遇すると、ペプチド結合がスキップされ、翻訳の終結又は下流の配列(軽鎖)の継続的な翻訳がもたらされる。この自己プロセシング配列は重鎖のC末端の末尾に追加のアミノ酸の鎖をもたらす。しかしながら、そのような追加のアミノ酸は、続いて宿主細胞のフーリンによって、F2A部位の直前かつ重鎖配列の後ろに位置するフーリン部位で切断され、カルボキシペプチダーゼによりさらに切断される。結果として得られる重鎖は、使用されたフーリンリンカーの配列及びインビボでリンカーを切断するカルボキシペプチダーゼに応じて、C末端に1、2、3、又はそれ以上の追加のアミノ酸配列を含められ得るか、又はそのような追加のアミノ酸を有し得ない(例えば、Fangらの文献、17 April 2005, Nature Biotechnol. 先行オンライン公開; Fangらの文献、2007, Molecular Therapy 15(6):1153-1159; Lukeの文献、2012, Innovations in Biotechnology, Ch. 8, 161-186を参照されたい)。使用され得るフーリンリンカーは、一続きの4つの塩基性アミノ酸、例えば、RKRR、RRRR、RRKR、又はRKKRを含む。一度このリンカーがカルボキシペプチダーゼにより切断されると、追加の0、1、2、3、又は4つのアミノ酸、例えばR、RR、RK、RKR、RRR、RRK、RKK、RKRR、RRRR、RRKR、又はRKKRが重鎖のC末端上に残り得るように、追加のアミノ酸が残る場合がある。ある実施態様において、一度リンカーがカルボキシペプチダーゼにより切断されると、追加のアミノ酸は残らない。ある実施態様において、本明細書に記載の方法において使用するためのコンストラクトによって生産された抗体、例えば抗原結合断片の5%、10%、15%、又は20%の集団は、切断後重鎖のC末端上に残る1、2、3、又は4つのアミノ酸を有する。ある実施態様において、フーリンリンカーは配列R-X-K/R-Rを有し、その結果重鎖のC末端上の追加のアミノ酸はR、RX、RXK、RXR、RXKR、又はRXRRとなり、ここでXは任意のアミノ酸、例えばアラニン(A)である。ある実施態様において、追加のアミノ酸は重鎖のC末端上に残り得ない。
【0140】
ある実施態様において、本明細書に記載の発現カセットは、その中のポリヌクレオチド(複数可)の大きさに関して制限があるウイルスベクター内に含められる。ある実施態様において、発現カセットはAAVウイルスベースのベクター(例えば、AAV8ベースのベクター)内に含められる。
【0141】
(5.2.6 非翻訳領域)
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、1以上の非翻訳領域(UTR)、例えば3'及び/又は5' UTRを含む。ある実施態様において、UTRはタンパク質発現の所望のレベルについて最適化される。ある実施態様において、UTRは導入遺伝子のmRNAの半減期について最適化される。ある実施態様において、UTRは導入遺伝子のmRNAの安定性について最適化される。ある実施態様において、UTRは導入遺伝子のmRNAの2次構造について最適化される。
【0142】
(5.2.7 逆位末端反復)
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは1以上の逆位末端反復(ITR)配列を含む。ITR配列は、ウイルスベクターのビリオンを組換え遺伝子発現カセットにパッケージングするために使用することができる。ある実施態様において、ITRはAAV、例えばAAV8又はAAV2に由来する(例えば、各々その全体が参照により本明細書に組み込まれているYanらの文献、2005, J. Virol., 79(1):364-379; 米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号、及び国際特許出願PCT/EP2014/076466を参照されたい)。
【0143】
(5.2.8 導入遺伝子)
導入遺伝子によってコードされるHuPTMFabVEGFi、例えばHuGlyFabVEGFiは、これらに限定はされないが、VEGFに結合する抗体の抗原結合断片、例えばベバシズマブ;抗VEGF Fab部分、例えばラニビズマブ;又はそのようなベバシズマブ若しくはラニビズマブのFabドメイン上に追加のグリコシル化部位を含むように操作されたFab部分を含むことができる(例えば、全長抗体のFabドメイン上の過剰グリコシル化されたベバシズマブの誘導体の記載については、その全体が参照により本明細書に組み込まれているCourtoisらの文献、2016, mAbs 8: 99-112を参照されたい。
【0144】
ある実施態様において、本明細書で提供するベクターは、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子をコードする。具体的な実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、網膜細胞における発現のための適切な発現制御エレメントによって制御される:ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、ベバシズマブ軽鎖及び重鎖cDNA配列(それぞれ配列番号10及び11)のFab部分を含む。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、ラニビズマブ軽鎖及び重鎖cDNA配列(それぞれ配列番号12及び13)を含む。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、それぞれ配列番号3及び4の軽鎖及び重鎖を含むベバシズマブFabをコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、配列番号3に記載された配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、配列番号4に記載された配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、配列番号3に記載された配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖、及び配列番号4に記載された配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、それぞれ配列番号1及び2の軽鎖及び重鎖を含む過剰グリコシル化されたラニビズマブをコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、配列番号1に記載された配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、配列番号2に記載された配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、配列番号1に記載された配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖、及び配列番号2に記載された配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖を含む抗原結合断片をコードする。
【0145】
ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、配列番号3及び4の軽鎖及び重鎖を含み、1以上の以下の突然変異:L118N(重鎖)、E195N(軽鎖)、又はQ160N若しくはQ160S(軽鎖)を有する過剰グリコシル化されたベバシズマブFabをコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、配列番号1及び2の軽鎖及び重鎖を含み、1以上の以下の突然変異:L118N(重鎖)、E195N(軽鎖)、又はQ160N若しくはQ160S(軽鎖)を有する過剰グリコシル化されたラニビズマブをコードする。抗原結合断片導入遺伝子のcDNA配列は、例えば表2に見出すことができる。ある実施態様において、抗原結合断片導入遺伝子のcDNA配列は、配列番号10及び11又は配列番号12及び13のシグナル配列を、1以上の表1に列記したシグナル配列で置き換えることにより得られる。
【0146】
ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、抗原結合断片をコードし、かつ6つのベバシズマブCDRのヌクレオチド配列を含む。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、抗原結合断片をコードし、かつ6つのラニビズマブCDRのヌクレオチド配列を含む。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、ラニビズマブの重鎖CDR1〜3(配列番号20、18、及び21)を含む重鎖可変領域を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、ラニビズマブの軽鎖CDR1〜3(配列番号14〜16)を含む軽鎖可変領域を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、ベバシズマブの重鎖CDR1〜3(配列番号17〜19)を含む重鎖可変領域を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、ベバシズマブの軽鎖CDR1〜3(配列番号14〜16)を含む軽鎖可変領域を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、ラニビズマブの重鎖CDR1〜3(配列番号20、18、及び21)を含む重鎖可変領域、及びラニビズマブの軽鎖CDR1〜3(配列番号14〜16)を含む軽鎖可変領域を含む抗原結合断片をコードする。ある実施態様において、抗VEGF抗原結合断片導入遺伝子は、ベバシズマブの重鎖CDR1〜3(配列番号17〜19)を含む重鎖可変領域、及びベバシズマブの軽鎖CDR1〜3(配列番号14〜16)を含む軽鎖可変領域を含む抗原結合断片をコードする。
表2. 例示的な導入遺伝子配列
【表2】
【0147】
(5.2.9 コンストラクト)
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順番で以下のエレメント:a) 構成的又は低酸素誘導性プロモーター配列、及びb) 導入遺伝子をコードする配列(例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)を含む。ある実施態様において、導入遺伝子をコードする配列は、IRESエレメントで隔てられた複数のORFを含む。ある実施態様において、ORFは抗VEGF抗原結合断片の重鎖及び軽鎖ドメインをコードする。ある実施態様において、導入遺伝子をコードする配列は、F/F2A配列によって隔てられた1つのORF中に複数のサブユニットを含む。ある実施態様において、導入遺伝子を含む配列は、F/F2A配列によって隔てられた抗VEGF抗原結合断片の重鎖及び軽鎖ドメインをコードする。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順番で以下のエレメント:a) 構成的又は低酸素誘導性プロモーター配列、及びb) 導入遺伝子をコードする配列(例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)を含み、ここで導入遺伝子はVEGFのシグナルペプチド(配列番号5)を含み、導入遺伝子はIRESエレメントによって隔てられた軽鎖及び重鎖配列をコードする。ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順番で以下のエレメント:a) 構成的又は低酸素誘導性プロモーター配列、及びb) 導入遺伝子をコードする配列(例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)を含み、ここで導入遺伝子はVEGFのシグナルペプチド(配列番号5)を含み、導入遺伝子は切断可能なF/F2A配列によって隔てられた軽鎖及び重鎖配列をコードする。
【0148】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順番で以下のエレメント:a) 第1のITR配列、b) 第1のリンカー配列、c) 構成的又は低酸素誘導性プロモーター配列、d) 第2のリンカー配列、e) イントロン配列、f) 第3のリンカー配列、g) 第1のUTR配列、h) 導入遺伝子をコードする配列(例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)、i) 第2のUTR配列、j) 第4のリンカー配列、k) ポリA配列、l) 第5のリンカー配列、及びm) 第2のITR配列を含む。
【0149】
ある実施態様において、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順番で以下のエレメント:a) 第1のITR配列、b) 第1のリンカー配列、c) 構成的又は低酸素誘導性プロモーター配列、d) 第2のリンカー配列、e) イントロン配列、f) 第3のリンカー配列、g) 第1のUTR配列、h) 導入遺伝子をコードする配列(例えば、抗VEGF抗原結合断片部分)、i) 第2のUTR配列、j) 第4のリンカー配列、k) ポリA配列、l) 第5のリンカー配列、及びm) 第2のITR配列を含み、ここで導入遺伝子はVEGFのシグナルペプチド(配列番号5)を含み、導入遺伝子は切断可能なF/F2A配列によって隔てられた軽鎖及び重鎖配列をコードする。
【0150】
(5.2.10 ベクターの製造及び試験)
本明細書で提供するウイルスベクターは、宿主細胞を使用して製造できる。本明細書で提供するウイルスベクターは、哺乳動物宿主細胞、例えばA549、WEHI、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC 1、BSC 40、BMT 10、VERO、W138、HeLa、293、Saos、C2C12、L、HT1080、HepG2、初代線維芽細胞、肝細胞、及び筋芽細胞を使用して製造することができる。本明細書で提供するウイルスベクターは、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、又はハムスター由来の宿主細胞を使用して製造することができる。
【0151】
宿主細胞を、導入遺伝子及び関連するエレメント(すなわち、ベクターゲノム)、並びに宿主細胞中でウイルスを生産する手段、例えば、複製遺伝子及びキャプシド遺伝子(例えば、AAVのrep及びcap遺伝子)をコードする配列を用いて安定形質転換する。AAV8キャプシドを有する組換えAAVベクターを生産する方法については、その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,282,199 B2号の詳細な説明の第IV節を参照されたい。該ベクターのゲノムコピー力価は、例えばTAQMAN(登録商標)解析により決定することができる。ビリオンは、例えばCsCl
2沈降法によって回収することができる。
【0152】
インビトロアッセイ、例えば細胞培養アッセイを使用して、本明細書に記載のベクターからの導入遺伝子の発現を測定し、従って例えばベクターの効力を示すことができる。例えば、ヒト胎児網膜細胞に由来する細胞株であるPER.C6(登録商標)細胞株(Lonza)、又は網膜色素上皮細胞、例えば網膜色素上皮細胞株hTERT RPE-1(ATCC(登録商標)から入手可能)を使用して導入遺伝子の発現を評価することができる。一度発現させたら、発現した生産物(すなわち、HuGlyFabVEGFi)と関連するグリコシル化及びチロシン硫酸化のパターンの決定を含めて、HuGlyFabVEGFiの特性を決定することができる。グリコシル化のパターン及びその決定方法は第5.1.1節で考察しており、一方チロシン硫酸化のパターン及びその決定方法は第5.1.2節で考察している。さらに、細胞で発現されたHuGlyFabVEGFiのグリコシル化/硫酸化に起因する利益は、当技術分野で公知のアッセイ、例えば第5.1.1節及び第5.1.2節に記載の方法を使用して決定することができる。
【0153】
(5.2.11 組成物)
本明細書に記載の導入遺伝子をコードするベクター、及び好適な担体を含む組成物を記載する。好適な担体(例えば、網膜下及び/又は網膜内投与に)は、当業者によって容易に選択されるだろう。
【0154】
(5.3 遺伝子治療)
血管新生の増加によって引き起こされた眼疾患を有するヒト対象への、治療有効量の導入遺伝子コンストラクトを投与するための方法を記載する。より詳細には、AMDを有する患者に治療有効量の導入遺伝子コンストラクトを投与するための、特に網膜下及び/又は網膜内投与のための方法を記載する。特定の実施態様において、そのような治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの網膜下及び/又は網膜内投与のための方法を使用して、滲出型AMD又は糖尿病網膜症を有する患者を治療することができる。
【0155】
血管新生の増加によって引き起こされる眼疾患と診断された患者への治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの網膜下及び/又は網膜内投与のための方法を記載する。特定の実施態様において、そのような治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの網膜下及び/又は網膜内投与のための方法を使用して、AMD;及び特に、滲出型AMD(血管新生AMD)又は糖尿病網膜症と診断された患者を治療することができる。
【0156】
また、本明細書では治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの網膜下及び/又は網膜内投与のための方法、並びに網膜色素上皮への治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの投与方法を提供する。
【0157】
(5.3.1 標的患者集団)
ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、血管新生の増加によって引き起こされる眼疾患と診断された患者へ投与のためのものである。
【0158】
ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、重度のAMDと診断された患者への投与のためのものである。ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、低減したAMDと診断された患者への投与のためのものである。
【0159】
ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、重度の滲出型AMDと診断された患者への投与のためのものである。ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、低減した滲出型AMDと診断された患者への投与のためのものである。
【0160】
ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、重度の糖尿病網膜症と診断された患者への投与のためのものである。ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、低減した糖尿病網膜症と診断された患者への投与のためのものである。
【0161】
ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、抗VEGF抗体による治療に反応すると特定された、AMDと診断された患者への投与のためのものである。
【0162】
ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、抗VEGF抗原結合断片による治療に反応すると特定された、AMDと診断された患者への投与のためのものである。
【0163】
ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、遺伝子治療による治療の前に硝子体内注射された抗VEGF抗原結合断片による治療に反応すると特定された、AMDと診断された患者への投与のためのものである。
【0164】
ある実施態様において、本明細書で提供する方法は、LUCENTIS(登録商標)(ラニビズマブ)、EYLEA(登録商標)(アフリベルセプト)、及び/又はAVASTIN(登録商標)(ベバシズマブ)による治療に反応すると特定された、AMDと診断された患者への投与のためのものである。
【0165】
(5.3.2 投薬量及び投与様式)
治療有効用量の組換えベクターは、≧0.1 mL〜≦0.5 mLの範囲、好ましくは0.1〜0.30 mL(100〜300 μl)の範囲の注射分量で、かつ最も好ましくは0.25 mL(250 μl)の分量で網膜下に送達するべきである。硝子体液中で少なくとも0.330 μg/mL、又は房水(眼の前室)中で0.110 μg/mLのC
minでの導入遺伝子産物濃度を3カ月にわたり維持する用量が望まれる;その後、1.70〜6.60 μg/mLの範囲の導入遺伝子産物の硝子体C
min濃度、及び/又は0.567〜2.20 μg/mLの範囲の眼房C
min濃度が維持されるべきである。しかしながら、導入遺伝子産物は継続的に生産されるため(構成的プロモーターの制御下で、又は低酸素誘導性プロモーターを使用する場合は低酸素条件により誘導されて)、より低濃度に維持することは効果的となり得る。硝子体液濃度は硝子体液又は前室から収集した流体の患者試料において直接測定することもできるし、導入遺伝子産物の患者血清濃度の測定によって推定し、かつ/又はモニタリングすることもできる―導入遺伝子産物への全身曝露の硝子体曝露に対する比は、約1:90,000である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれているXu Lらの文献、2013, Invest. Opthal. Vis. Sci. 54: 1616-1624, p. 1621及びp. 1623の表5において報告されている、ラニビズマブの硝子体液及び血清濃度を参照されたい)。
【0166】
ある実施態様において、投薬量は、患者の眼に投与された(例えば、網膜下及び/又は網膜内に注射された)ゲノムコピー数によって測定する。ある実施態様において、1×10
9〜1×10
11ゲノムコピーをを投与する。具体的な実施態様において、1×10
9〜5×10
9ゲノムコピーを投与する。具体的な実施態様において、6×10
9〜3×10
10ゲノムコピーを投与する。具体的な実施態様において、4×10
10〜1×10
11ゲノムコピーを投与する。
【0167】
(5.3.3 試料採取及び有効性のモニタリング)
本明細書で提供する治療方法の視覚障害への効果は、BCVA(最高矯正視力)、眼圧、スリットランプ生体顕微鏡検査、及び/又は間接的検眼鏡検査によって測定することができる。
【0168】
本明細書で提供する治療方法の眼/網膜への物理的変化への効果は、SD-OCT(SD-光干渉断層撮影)によって測定することができる。
【0169】
有効性は、電位網膜計(ERG)によって測定しながらモニタリングすることができる。
【0170】
本明細書で提供する治療方法の効果は、視力喪失、感染症、炎症、及び網膜剥離を含む他の安全性事象の徴候を測定することによってモニタリングすることができる。
【0171】
網膜厚をモニタリングして、本明細書で提供する治療の有効性を決定することができる。あらゆる特定の理論に束縛されることなく、網膜の厚さを臨床読取値として使用することができ、ここで網膜厚の低下が大きいほど、又は網膜厚の増加までの期間が長いほど、治療がより有効となる。例えば、網膜機能をERGにより決定することができる。ERGはヒトにおいて使用することがFDAによって承認された網膜機能の非侵襲的電気生理的検査であり、眼の光感受性細胞(桿体及び錐体)及びそれらが連絡している神経節細胞、特にそれらの閃光刺激への反応を調べる。網膜厚は、例えば、SD-OCTによって決定できる。SD-OCTは低コヒーレンス干渉測定を使用してエコー時間の遅延及び対象の物体から反射される後方散乱光の振幅を決定する3次元画像化技術である。OCTを使用して軸方向分解能が3〜15 μmである組織試料(例えば、網膜)の層をスキャンすることができ、SD-OCTは過去の形態の技術よりも軸方向分解能及びスキャン速度を向上させる(Schumanの文献、2008, Trans. Am. Opthamol. Soc. 106:426-458)。
【0172】
(5.4 併用療法)
本明細書で提供する治療方法は、1以上の追加の治療法と併用することができる。一態様において、本明細書で提供する治療方法は、レーザー光凝固術とともに施す。一態様において、本明細書で提供する治療方法は、ベルテポルフィンによる光力学的治療とともに施す。
【0173】
一態様において、本明細書で提供する治療方法は、これらに限定はされないが、HuPTMFabVEGFi、例えばヒト細胞株において生産されたHuGlyFabVEGFi(Dumontらの文献、2015, 前掲)、又は他の抗VEGF薬剤、例えばペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、若しくはベバシズマブを含む抗VEGF薬剤の硝子体内(IVT)注射とともに施す。
【0174】
追加の治療を遺伝子治療処置の前に、それと同時に、それに引き続き施すことができる。
【0175】
遺伝子治療処置の有効性は、標準治療、例えばこれらに限定はされないが、HuPTMFabVEGFi、例えばヒト細胞株において生産されたHuGlyFabVEGFi、又は他の抗VEGF薬剤、例えばペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、若しくはベバシズマブを含む抗VEGF薬剤の硝子体内(IVT)注射を使用するレスキュー治療の排除又はその回数の低下によって示すことができる。
表3. 配列表
【表3】
【0176】
(6. 実施例)
(6.1 実施例1:ベバシズマブFab cDNAベースのベクター)
ベバシズマブ軽鎖及び重鎖cDNA配列(それぞれ配列番号10及び11)のFab部分を含む導入遺伝子を含む、ベバシズマブFab cDNAベースのベクターを構築する。また、導入遺伝子は表1に列記された群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸を含む。軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列は、バイシストロン性ベクターを作製するためのIRESエレメント又は2A切断部位によって隔てられている。任意に、ベクターはさらに、低酸素誘導性プロモーターを含む。
【0177】
(6.2 実施例2:ラニビズマブcDNAベースのベクター)
ラニビズマブFab軽鎖及び重鎖cDNA(それぞれ配列番号12及び13の一部、シグナルペプチドはコードしていない)を含む導入遺伝子を含む、ラニビズマブFab cDNAベースのベクターを構築する。また、導入遺伝子は表1に列記された群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸を含む。軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列は、バイシストロン性ベクターを作製するためのIRESエレメント又は2A切断部位によって隔てられている。任意に、ベクターはさらに、低酸素誘導性プロモーターを含む。
【0178】
(6.3 実施例3:過剰グリコシル化ベバシズマブFab cDNAベースのベクター)
1以上の以下の突然変異:L118N(重鎖)、E195N(軽鎖)、又はQ160N若しくはQ160S(軽鎖)をコードする配列への突然変異を有するベバシズマブ軽鎖及び重鎖cDNA配列(それぞれ配列番号10及び11)のFab部分を含む導入遺伝子を含む、過剰グリコシル化ベバシズマブFab cDNAベースのベクターを構築する。また、導入遺伝子は表1に列記された群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸を含む。軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列は、バイシストロン性ベクターを作製するためのIRESエレメント又は2A切断部位によって隔てられている。任意に、ベクターはさらに、低酸素誘導性プロモーターを含む。
【0179】
(6.4 実施例4:過剰グリコシル化ラニビズマブcDNAベースのベクター)
1以上の以下の突然変異:L118N(重鎖)、E195N(軽鎖)、又はQ160N若しくはQ160S(軽鎖)をコードする配列への突然変異を有するラニビズマブFab軽鎖及び重鎖cDNA(それぞれ配列番号12及び13の一部、シグナルペプチドはコードしていない)を含む導入遺伝子を含む、過剰グリコシル化ラニビズマブFab cDNAベースのベクターを構築する。また、導入遺伝子は表1に列記された群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸を含む。軽鎖及び重鎖をコードするヌクレオチド配列は、バイシストロン性ベクターを作製するためのIRESエレメント又は2A切断部位によって隔てられている。任意に、ベクターはさらに、低酸素誘導性プロモーターを含む。
【0180】
(6.5 実施例5:ラニビズマブベースのHuGlyFabVEGFi)
ラニビズマブFab cDNAベースのベクター(実施例2を参照されたい)を、AAV8を背景とするPER.C6(登録商標)細胞株(Lonza)で発現させる。結果として得られる産物、ラニビズマブベースのHuGlyFabVEGFiが安定に生産されていることを決定する。HuGlyFabVEGFiのN-グリコシル化を、ヒドラジン分解及びMS/MS解析により確認する。例えば、Bondtらの文献、Mol. & Cell. Proteomics 13.11:3029-3039を参照されたい。グリカン解析に基づき、HuGlyFabVEGFiがN-グリコシル化されており、2,6シアル酸が優勢な修飾であることを確認する。N-グリコシル化されたHuGlyFabVEGFiの有利な特性を、当技術分野で公知の方法を使用して決定する。HuGlyFabVEGFiが、高い安定性及びその抗原(VEGF)への高い親和性を有することを見出すことができる。安定性を評価する方法については、Sola及びGriebenowの文献、2009, J Pharm Sci., 98(4): 1223-1245を、親和性を評価する方法についてはWrightらの文献、1991, EMBO J. 10:2717-2723及びLeibigerらの文献、1999, Biochem. J. 338:529-538を参照されたい。
【0181】
(6.6 実施例6:滲出型AMDのラニビズマブベースのHuGlyFabVEGFiによる治療)
ラニビズマブベースのHuGlyFabVEGFiの有利な特性の決定(実施例5を参照されたい)に基づき、ラニビズマブFab cDNAベースのベクターは、導入遺伝子として発現させた際に、滲出型AMDの治療に有用であると考えられる。滲出型AMDを呈する対象に、3カ月間硝子体液中で少なくとも0.330 μg/mLのCminの導入遺伝子産物の濃度にするのに十分な用量で、ラニビズマブFabをコードするAAV8を投与する。処置に続き、対象を滲出型AMDの症状の改善について評価する。
【0182】
(6.7 実施例7:単一用量の網膜下投与によりトランスジェニックRho/VEGFマウスにおける網膜血管新生が低下する)
本試験は、nAMDを有するヒト網膜における血管新生の変化のモデルである幼若トランスジェニックRho/VEGFマウス(Tobeの文献、1998, IOVS 39(1):180-188)における単一用量の第5.2節に記載のHuPTMFabVEGFiベクターのインビボ有効性を実証する。Rho/VEGFマウスは、ロドプシンプロモーターが視細胞において生後10日から構成的にヒトVEGF165の発現を駆動し始め、新たな血管が網膜の深部毛細血管床から枝分かれし、網膜下の空間へと成長するトランスジェニックマウスである。VEGFの生産は持続され、従って新たな血管は成長及び拡大し続け、網膜下空間内に血管新生加齢黄斑変性症を有するヒトにおいて見られるものと同様の巨大な網を形成する(Tobeの文献、1998、前掲)。
【0183】
本試験で使用するベクター(本明細書において「ベクター1」と呼ぶ)は、AAV2逆位末端反復(ITR)に隣接したヒトVEGFと結合し、これを阻害するヒト化mAb抗原結合断片をコードする遺伝子カセットを含む非複製性AAV8ベクターである。ベクター1における重鎖及び軽鎖の発現はニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサーからなるCB7プロモーターによって制御され、このベクターはまた、ニワトリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナルを含む。ベクター1において、抗VEGF Fabの重鎖及び軽鎖をコードする核酸配列は、自己切断性フーリン(F)/F2Aリンカーによって隔てられている。Rho/VEGFマウスにベクター1又は対照(群当たりn=10〜17)を網膜下に注射し、1週間後に網膜血管新生の量を定量化した。
【0184】
ベクター1を与えられたRho/VEGFマウスにおいては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はヌルAAV8ベクターを与えられたマウスと比較して、網膜血管新生の総面積が用量依存的な様式で有意に低下した(p<0.05)。有効性の基準は、網膜血管新生の面積の統計的に有意な低下として設定した。この基準により、1×10
7 GC/眼のベクター1の最低用量が、ヒト対象におけるnAMDのマウストランスジェニックRho/VEGFモデルにおける網膜血管新生の低下に有効であると決定された(
図4)。
【0185】
(6.8 実施例8:単一用量の網膜下投与により二重トランスジェニックTet/オプシン/VEGFマウスにおける網膜剥離は低下する)
本試験は、VEGFの誘導性発現により重度の網膜症及び網膜剥離が引き起こされるヒト対象における眼血管新生疾患のトランスジェニックマウスモデル―Tet/オプシン/VEGFマウス―(Ohno-Matsuiの文献、2002 Am. J. Pathol. 160(2):711-719)において網膜剥離を予防するベクター1の単一用量のインビボ有効性を実証する。Tet/オプシン/VEGFマウスは視細胞におけるヒトVEGF
165のドキシサイクリン誘導性の発現を有するトランスジェニックマウスである。これらのトランスジェニックマウスは飲用水中にドキシサイクリンが与えられるまでは、表現型上正常である。ドキシサイクリンは視細胞でのVEGFの非常に高い発現を誘導し、その結果多量の血管漏出がもたらされ、ついには誘導から4日以内に80〜90%のマウスで完全な滲出性の網膜剥離となる。
【0186】
Tet/オプシン/VEGFマウス(群当たり10頭)にベクター1又は対照を網膜下に注射した。注射から10日後、ドキシサイクリンを飲用水に追加して、VEGFの発現を誘導した。4日後、それぞれの眼底を画像化し、治療群について知らされていない人物の手で各網膜を無傷、部分的に剥離、又は完全剥離としてスコア化した。
【0187】
これらのデータ(
図5に示す)は、ベクター1での治療によりTet/オプシン/VEGFマウス―ヒト対象における眼血管新生疾患の動物モデルにおける網膜剥離の発生率及び程度が低下したことを実証する。
【0188】
(6.9 実施例9:抗VEGFタンパク質を発現するAAV8遺伝子治療によりマウスモデルにおける網膜下血管新生及び血管漏出が強く抑制される)
本実施例において、実施例7及び8に記載の実験の方法、結果、及び結論を要約する。
【0189】
方法。視細胞においてロドプシンプロモーターによりVEGF
165の発現が駆動されているトランスジェニックマウス(rho/VEGFマウス)に、生後14日(P14)に一方の眼への3×10
6〜1×10
10ゲノムコピー(GC)の範囲の用量のベクター1、1×10
10 GCのヌルベクター、又はPBSの網膜下注射を行った(群当たりn=10)。P21に、眼当たりの網膜下血管新生(SNV)面積を測定した。視細胞におけるVEGF
165のドキシサイクリン(DOX)誘導性発現を有する二重トランスジェニックマウス(Tet/オプシン/VEGFマウス)に、一方の眼への1×10
8〜1×10
10 GCのベクター1の網膜下注射を行い、もう片方の眼には注射をしないか、又は一方の眼に1×10
10 GCのヌルベクターを、もう片方の眼にはPBSの網膜下注射を行った。注射から10日後、2 mg/mlのDOXを飲用水に追加して、4日後に底の写真を完全網膜剥離(RD)、部分的網膜剥離の存在、又は網膜剥離の不存在について等級づけた。成熟マウスにおけるベクター1の1×10
8〜1×10
10 GCの網膜下注射後1週間に、ベクター1の導入遺伝子産物のレベルを眼のホモジネートのELISA解析により測定した。
【0190】
結果。ヌルベクターを注射されたrho/VEGFマウスの眼と比較して、≧1×10
7 GCのベクター1を注射されたマウスはSNVの平均面積の有意な低下を経験し、≦3×10
7を注射された眼では中程度の低下を伴い、≧1×10
8 GCを注射された眼では>50%の低下を経験した。3×10
9又は1×10
10 GCを注射された眼は、ほぼ完全なSNVの排除を経験した。Tet/オプシン/VEGFマウスでは、100%の眼が完全RDを有していたヌルベクター群と比較して、≧3×10
8 GCのベクター1を注射された眼では滲出性RDが有意に低下し、3×10
9又は1×10
10 GCを注射された眼では完全剥離が70〜80%低下した。≦1×10
9 GCのベクター1を注射された眼の大部分は、検出限界未満のタンパク質レベルを有していたが、3×10
9又は1×10
10 GCを注射された眼は全て、検出可能なレベルを有し、眼当たりの平均レベルは342.7 ng及び286.2 ngであった。
【0191】
結論。ベクター1の網膜下注射による遺伝子治療により、rho/VEGFマウスにおけるSNVが用量依存的に抑制され、3×10
9又は1×10
10 GCの用量でほぼ完全に抑制された。これらの同じ用量は、強力なタンパク質産物の発現を示し、Tet/オプシン/VEGFマウスにおける完全滲出性RDを顕著に低下させた。
【0192】
(6.10 実施例10:血管新生AMDの遺伝子治療:血管新生AMD(nAMD)を有する対象におけるベクター1による遺伝子治療の安全性及び忍容性を評価するための用量漸増試験)
試験の簡単な要約。過剰な血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)における血管新生及び浮腫の促進において重要な役割を果たしている。ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標)、Genentech)及びアフリベルセプト(EYLEA(登録商標)、Regeneron)を含むVEGF阻害剤(抗VEGF)は、nAMDの治療に安全で有効であることが示されており、視力を改善することが実証されている。しかしながら、抗VEGF治療はしばしば硝子体内注射によって施され、患者にとって重大な負担となり得る。ベクター1は可溶性抗VEGFタンパク質のコード配列を保持する組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子治療ベクターである。この治療タンパク質の長期安定送達は、以前のnAMDのための遺伝子治療処置に続き、有利なベネフィット:リスクプロファイルで視力を維持しながら、現在利用可能な治療の治療的負担を減らすことができる。
【0193】
試験の詳細な説明。この用量漸増試験は過去にnAMDの治療を受けた対象におけるベクター1遺伝子治療の安全性及び忍容性を評価するために設計される。3つの用量をおよそ18名の対象で試験する。選択/除外基準を満たし、初回の抗VEGFの注射に解剖学的反応を経験する対象に、網膜下送達によって投与される単一用量のベクター1を与える。ベクター1では、VEGFと結合し、その活性を中和するモノクローナル抗体断片をコードする遺伝子を含むAAV8ベクターを使用する。安全性は、ベクター1の投与後の最初の24週間(第1試験期間)の第1の焦点である。第1試験期間の終了後、対象を続いてベクター1による処置後104週まで評価する。
【0194】
投薬。3つの用量:3×10
9 GCのベクター1、1×10
10 GCのベクター1、及び6×10
10 GCのベクター1を使用する。
【0195】
転帰の測定。第1転帰測定は、26週の時間枠にわたる安全性―眼及び眼以外の部位での有害事象(AE)及び重大な有害事象(SAE)の発生率―である。
【0197】
106週の時間枠にわたる安全性―眼及び眼以外の部位でのAE及びSAEの発生率。
【0198】
106週の時間枠にわたる―最高矯正視力(BCVA)の変化。
【0199】
106週の時間枠にわたる―SD-OCTによって測定される中央網膜厚(CRT)の変化。
【0200】
106週の時間枠にわたるレスキュー注射―レスキュー注射の平均の回数。
【0201】
106週の時間枠にわたる―蛍光血管造影法(FA)によって測定される脈絡膜血管新生(CNV)、及び病変部の大きさの変化、並びに漏出領域CNVの変化がある
【0207】
健常ボランティアの受け入れ:なし、を試験に適用する。
【0208】
選択基準:
・試験対象の眼にAMDに続発する中心窩下CNVとの診断を受けた≧50歳の患者であり、過去硝子体内への抗VEGF治療を受けている。
・各コホート中最初の患者についてBCVAが≦20/100〜≧20/400(糖尿病網膜症の早期治療の研究の[ETDRS]文字が≦65かつ≧35)であり、その後コホートの残りについてBCVAが≦20/63〜≧20/400(ETDRS文字が≦75かつ≧35)である。
・抗VEGF治療を必要とし、それに反応したという履歴がある。
・試験参加時に抗VEGFに反応した(第1週にSD-OCTによって評価して)。
・試験対象の眼が偽水晶体(白内障手術後の状態)を有していなくてはならない。
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ(AST/ALT)<2.5×正常値上限(ULN);総ビリルビン(TB)<1.5×ULN;プロトロンビン時間(PT)<1.5×ULN;ヘモグロビン(Hb)>10 g/dL(男性)及び>9 g/dL(女性);血小板>100×10
3/μL;推算糸球体濾過量(eGFR)>30 mL/分/1.73 m
2である。
・成文の署名付きインフォームドコンセントを提供する意思をもち、それが可能でなくてはならない。
【0209】
除外基準
・試験対象の眼にAMD以外の任意の原因に続発するCNV又は黄斑浮腫を有する。
・試験対象の眼における視力の改善を妨げる任意の状態、例えば線維症、委縮症、又は中心窩の中央の網膜上皮裂孔を有する。
・試験対象の眼に進行中の網膜剥離、又はその履歴を有する。
・試験対象の眼に進行した緑内障を有する。
・スクリーニング前6月の内に試験対象の眼に抗VEGF治療以外の硝子体内治療、例えば硝子体内ステロイド注射又は治験製品を受けた履歴がある。
・スクリーニング時に試験対象の眼にインプラント(眼内レンズを除く)が存在する。
・過去6月以内の心筋梗塞、脳血管発作、又は一過性脳虚血発作を有する。
・最大限度の医学的処置にもかかわらず制御の効かない高血圧(収縮期血圧[BP]>180 mmHg、拡張期BP>100 mmHg)を有する。
【0210】
(6.11 実施例11:ヒト対象を治療するためのプロトコル)
本実施例は血管新生(滲出型)加齢黄斑変性症(nAMD)を有する患者の遺伝子治療処置に関する。本実施例は実施例10の更新版である。本実施例において、ベクター1、可溶性抗VEGF Fabタンパク質(実施例7に記載)のコード配列を保持する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター8(AAV8)をnAMDを有する患者に投与する。遺伝子治療処置の目的は、網膜変性症の進行を減速させ、又は停止させ、かつ最小の介入/侵襲的手順により視力喪失を減速させ、又は予防することである。
【0211】
投薬及び投与経路。250 μLの体積のベクター1を、治療を必要とする対象の眼に網膜下送達を介して単一用量として投与する。対象に、3×10
9 GC/眼、1×10
10 GC/眼、又は6×10
10 GC/眼の用量を与える。
【0212】
網膜外科医による局所麻酔下の対象への網膜下送達を行う。手順には、中心部硝子体切除術を伴う標準的な3ポート経扁平部硝子体切除術と、それに続く網膜下カニューレ(38ゲージ)による網膜下空間へのベクター1の網膜下送達を伴う。送達は自動で行い、硝子体切除機械を介して網膜下空間に250 μLを送達する。
【0213】
遺伝子治療は滲出型AMDの治療のための1以上の治療法と併用して施すことができる。例えば、遺伝子治療はレーザー光凝固法、ベルテポルフィンによる光力学的治療、及びこれらに限定はされないが、ペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、又はベバシズマブを含む抗VEGF薬剤の硝子体内と併用して施す。
【0214】
ベクター1の投与から約4週間後から開始し、患者に罹患した眼への硝子体内ラニビズマブレスキュー治療を施すことができる。
【0215】
患者部分集団。好適な患者には:
・nAMDの診断を受けている;
・抗VEGF治療に反応する;
・抗VEGF治療の頻繁な注射を要求する;
・50歳以上の年齢の男性または女性である;
・罹患した眼において≦20/100かつ≧20/400のBCVA(ETDRS文字が≦65及び≧35)を有する;
・≦20/63かつ≧20/400のBCVA(ETDRS文字が≦75かつ≧35)を有する;
・罹患した眼にAMDに続発する中心窩下CNVの文書化された診断を受けている;
・以下のCNV病変特徴:病変サイズ10未満のディスク面積(disc areas)(典型的なディスク面積は2.54 mm
2)、血液及び/又は病変サイズ<50%の瘢痕を有する;
・治療前8月(又はそれ未満)に罹患した眼へのnAMDの治療のための抗VEGF薬剤の少なくとも4回の硝子体内注射を受けており、解剖学的反応がSD-OCTに記録されている;並びに/あるいは
・罹患した眼に存在する網膜下体液又は網膜内体液を有し、SD-OCTに証拠が示されている、
患者を含み得る。
【0216】
治療前に、患者をスクリーニングし、1以上の以下の基準:
・罹患した眼にAMD以外の任意の原因に続発するCNV又は黄斑浮腫を有する;
・罹患した眼において血液がAMD病変部の≧50%を占め、中心窩下部に>1.0 mm
2の血液が存在する;
・罹患した眼においてVAの改善を妨げる任意の状態、例えば線維症、委縮症、又は中心窩の中央の網膜上皮裂孔を有する;
・罹患した眼に進行中の網膜剥離、又はその履歴を有する;
・罹患した眼に進行した緑内障を有する;
・対象へのリスクを増大させ得る罹患した眼の任意の状態は、視力喪失を予防し又は治療し、試験手順又は評価に干渉する医学的又は外科的介入を要求する;
・スクリーニング前12週間以内に罹患した眼に眼内外科手術を受けた履歴がある(イットリウム・アルミニウム・ガーネット嚢切開はスクリーニング通院前>10週間に実施されたのであれば許容され得る);
・スクリーニング前6月の内に罹患した眼における、抗VEGF治療以外の硝子体内治療、例えば硝子体内ステロイド注射又は治験製品を受けた履歴がある;
・スクリーニング時に罹患した眼にインプラント(眼内レンズを除く)が存在する;
・スクリーニング前5年間の化学療法及び/又は放射線を要求する悪性腫瘍の履歴がある(局所基底細胞癌は許容され得る);
・網膜毒性を引き起こしたことが公知の治療、又は視力に影響を及ぼす場合があり、若しくは公知の網膜毒性を有する任意の薬物、例えばクロロキン若しくはヒドロキシクロロキンを用いた同時治療の履歴がある;
・罹患した眼における外科的手順に干渉し得る眼又は眼周囲感染症を有する;
・治療から過去6月以内に心筋梗塞、脳血管発作、又は一過性脳虚血発作を有する;
・最大限度の医学的処置にもかかわらず制御の効かない高血圧(収縮期血圧[BP]>180 mmHg、拡張期BP>100 mmHg)を有する;
・眼の外科的手順又は回復プロセスに干渉し得る任意の同時治療を受けている;
・ラニビズマブ若しくはその構成要素のいずれかへの既知の過敏症又はベクター1のような薬剤への過去の過敏症を有する;
・治験責任医師の意見において、対象の安全性又は試験への参加の成功を損ねるであろう任意の深刻な又は不安定な医学的又は心理学状態。
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)/アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)>2.5×正常値上限(ULN)である
・総ビリルビン>1.5×ULNである。ただし、対象が過去にギルバート症候群及び総ビリルビンのうち<35%が抱合型ビリルビンを示す分別ビリルビンの既知の履歴を有しない場合に限る
・プロトロンビン時間(PT)>1.5×ULNである
・ヘモグロビンが男性対象について<10 g/dL及び女性対象について<9 g/dLである
・血小板<100×10
3/μLである
・推算糸球体濾過量(GFR)<30 mL/分/1.73 m
2である
によりこの治療が患者に適さないことが示され得る。
【0217】
1以上の以下のレスキュー基準:
・スペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT)での網膜体液の蓄積と関連付けられる≧5文字の視力喪失(最高矯正視力[BCVA]に従って)
・脈絡膜血管新生(CNV)に関連する、SD-OCTでの新たな又は持続性の網膜下又は網膜内体液の増加
・新たな眼出血
に該当する場合、遺伝子治療を施してから約4週間後から開始して、患者に疾患の活動に対する罹患した眼における硝子体内ラニビズマブレスキュー治療を施してもよい。以下のセットの知見:
・視力が20/20又はそれより良く、かつSD-OCTによって評価した中央網膜厚が「正常」である、あるいは
・視力及びSD-OCTが2回の連続した注射の後に安定している
のうちの1つが生じる場合、治療する医師の裁量に従ってさらなるレスキュー注射は据え置かれ得る。
【0218】
注射を据え置く場合、上記基準に従って視力又はSD-OCTが悪化する場合は、注射を再開する。
【0219】
臨床目標の測定。主要な臨床目標には、網膜変性の進行を減速させ、又は停止させること、及び視力喪失を減速させ、又は予防することを含む。臨床目標は、標準治療、例えばこれらに限定はされないが、ペガプタニブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、又はベバシズマブを含む抗VEGF薬剤を用いた硝子体内注射を使用するレスキュー治療の排除又はその回数の低下によって示される。また、臨床目標は視力喪失の減少若しくは予防、及び/又は網膜剥離の減少若しくは予防によって示される。
【0220】
臨床目標は、BCVA(最高矯正視力)の測定、眼圧、スリットランプ生体顕微鏡検査、間接的検眼鏡検査、及び/又はSD-OCT(SD-光干渉断層撮影)によって決定する。特に、臨床目標は、経時的なBCVAのベースラインからの変化の平均の測定、BCVAに従いベースラインと比較した≧15文字の増加又は低下の測定、経時的なSD-OCTによって測定したCRTのベースラインからの変化の平均の測定、経時的なラニビズマブのレスキュー注射の回数の平均の測定、初回のレスキューラニビズマブ注射までの時間の測定、経時的なCNV及び病変部の大きさ、並びに漏出面積のベースラインからの変化の平均のFAに基づく測定、経時的な眼房VEGFタンパク質のベースラインからの変化の平均の測定、血清及び尿中のベクター排出解析の実施、並びに/又はベクター1への免疫原性の測定、すなわちAAVへのNabの測定、AAVへの結合抗体の測定、VEGFへの抗体の測定、並びに/又はELISpotの実施によって決定する。
【0221】
また、臨床目標は、底の自己蛍光(FAF)による地図状萎縮の面積の経時的なベースラインからの変化の平均の測定、FAFによる地図状萎縮の新たな領域の発生の測定(ベースラインでは地図状萎縮を有さない対象において)、BCVAによるベースラインと比較して、それぞれ≧5及び≧10文字増加又は低下する対象の比率の測定、前年と比較してレスキュー注射において50%の低下を有する対象の比率の測定、SD-OCTに際し体液を伴わない対象の比率の測定によって決定する。
【0222】
ベクター1の投与による改善/有効性は、ベースラインにおける約4週、12週、6月、12月、24月、36月、又は他の所望の時点での定義された視力の変化の平均として評価することができる。ベクター1による治療により、視力をベースラインから5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、又はそれ以上増加させることができる。改善/有効性はスペクトルドメイン光干渉断層撮影(SD-OCT)によって測定された中央網膜厚(CRT)の4週、12週、6月、12月、24月、及び36月後のベースラインからの変化の平均として評価することができる。ベクター1による治療により、中央網膜厚をベースラインから5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、又はそれ以上増加させることができる。
【0223】
(等価物)
本発明はその具体的な実施態様を参照して詳細に記載されているが、機能的に等価な変形が本発明の範囲内にあることは、理解されよう。実に、本明細書に示され、かつ記載されたものに加え、本発明の様々な改変が、先行する記載及び添付する図面から当業者には明らかとなろう。そのような改変は、添付する特許請求の範囲の範囲内にあることを意図するものである。当業者であれば、本明細書に記載の本発明の具体的な実施態様の多くの等価物を認識し、又はこれを定例の実験を超えることなく用いて確認することができるであろう。そのような等価物が以下の特許請求の範囲に包含されることを意図している。
【0224】
本明細書で言及された全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各々の個別の刊行物、特許、又は特許出願が具体的かつ個別的にそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれていることが示されているかのように、同程度に本明細書中に参照により本明細書に組み込まれている。