(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-515035(P2019-515035A)
(43)【公表日】2019年6月6日
(54)【発明の名称】KRASバリアントがん患者の免疫ベースの処置
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20190517BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20190517BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20190517BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20190517BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20190517BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20190517BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20190517BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20190517BHJP
【FI】
A61K45/06
G01N33/50 P
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P37/04
A61K39/395 T
C12Q1/68ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2019-508162(P2019-508162)
(86)(22)【出願日】2017年4月27日
(85)【翻訳文提出日】2018年12月20日
(86)【国際出願番号】US2017029938
(87)【国際公開番号】WO2017189906
(87)【国際公開日】20171102
(31)【優先権主張番号】62/328,548
(32)【優先日】2016年4月27日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】518381008
【氏名又は名称】ミラ ディーエックス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ウェイドハース, ジョアン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
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2G045DA13
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4C085GG02
4C085GG04
4C085GG08
4C085GG10
(57)【要約】
本発明は、免疫療法を、他の従来のがん処置と組み合わせてがん患者に投与する方法を対象とし、前記投与は、KRASバリアントの存在に依存する。本発明は、がん患者が免疫療法に応答する尤度の増大を、KRASバリアントの存在に基づいて決定するための診断方法をさらに提供する。本発明は、KRASバリアントを有する被験体は、免疫系を変化させているという発見に関する。具体的には、本明細書に記載されるように、KRASバリアント被験体は、成功したがんの処置について利用される、弱化した免疫系を有することが示されている。本明細書に記載されるように、そのような免疫系は、適当な免疫調節剤の投与により、強化または刺激することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん被験体を処置する方法であって、免疫療法を、1種または複数の従来のがん処置と組み合わせて前記被験体に投与することを含み、前記投与はKRASバリアントの存在に依存する、方法。
【請求項2】
前記被験体が、1種または複数の従来のがん処置で処置されているかまたは前に処置されたことがある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種または複数の従来のがん処置が、化学療法、放射線療法、または手術を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記がんが、乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、結腸直腸がんまたは頭頸部がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在が、前記被験体のための免疫療法の有益な効果の増大を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫療法が免疫賦活分子の投与を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫賦活分子が、T細胞活性化因子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫賦活分子が、樹状細胞活性化/成熟因子である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫療法が、モノクローナル抗体またはその断片の投与を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体が、がん細胞の表面に発現された抗原に特異的である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫療法が抗EGFR抗体療法である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫療法がセツキシマブである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記一塩基多型が、配列番号13の4位におけるGである、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
KRASバリアントがん被験体のための免疫療法の有益な効果の増大を予測する方法であって、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在が免疫療法から生ずる有益な効果の増大を示す、方法。
【請求項15】
前記がんが、乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、結腸直腸がんまたは頭頸部がんである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
免疫系を刺激または強化するようにデザインされた薬物の投与または処置を伴う臨床試験のデザインに適した標的患者または患者の標的亜集団を同定するための方法であって、患者試料または患者試料の集団中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在が、適した標的患者または患者の亜集団の同定を示す、方法。
【請求項17】
チェックポイント阻害剤として機能する薬物の投与または処置を伴う臨床試験のデザインに適さない標的患者または患者の標的亜集団を同定するための方法であって、患者試料または患者試料の集団中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在が、適さない標的患者または患者の亜集団の同定を示す、方法。
【請求項18】
試験薬物の効力が免疫療法の共投与により強化される前記薬物の投与または処置を伴う臨床試験のデザインに適した標的患者または患者の標的亜集団を同定するための方法であって、患者試料または患者試料の集団中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在が、適した標的患者または患者の亜集団の同定を示す、方法。
【請求項19】
試験薬物の効力がチェックポイント阻害剤として機能する薬物または処置の共投与により強化される前記試験薬物の投与または処置を伴う臨床試験のデザインに適さない標的患者または患者の標的亜集団を同定するための方法であって、患者試料または患者試料の集団中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在が、適さない標的患者または患者の亜集団の同定を示す、方法。
【請求項20】
患者における処方された薬物の効力の増大の尤度を検出するための方法であって、前記効力が、KRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)の存在に依存し、前記方法が、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含む、方法。
【請求項21】
KRASバリアントの存在について患者を試験することが、薬物処置に先立って、医師により開始される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
使用の条件として、診断試験と組み合わせて使用されなければならない薬物の使用に言及する組み合わせ薬物の表示であって、前記診断試験が、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出するようにデザインされている、組み合わせ薬物の表示。
【請求項23】
がんを処置する低毒性の方法であって、KRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を有すると決定されたがん被験体に、免疫調節がん療法を投与することを含む、方法。
【請求項24】
被験体において、免疫調節がん療法の毒性を予測する方法であって、前記被験体からの核酸中におけるKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)の存在または不在を検出することを含み、前記多型の存在が、前記被験体における毒性の尤度の低下を示す、方法。
【請求項25】
前記免疫調節がん療法が、放射線療法を含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記免疫調節がん療法がチェックポイント阻害剤を含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項27】
前記チェックポイント阻害剤が、PD−1またはPD−L1に対する抗体である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記一塩基多型が、配列番号13の4位におけるGである、請求項23または24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2016年4月27日に出願された米国仮特許出願第62/328,548号(この全体は、参考として本明細書に援用される)に対する優先権およびその利益を主張する。
【0002】
本発明は、免疫調節剤を、それを必要とする患者に投与する方法を対象とし、免疫調節剤の選択は、KRASバリアントの存在に依存する。本発明の一態様では、免疫系を強化するようにデザインされた免疫調節剤を、他の従来のがん処置と組み合わせてがん患者に投与する方法が提供される。好ましい実施形態では、薬剤は、放射線処置と組み合わせてがん患者に投与される。本発明は、がん患者、または自己免疫患者が、特定の免疫療法に応答する尤度の増大を、KRASバリアントの存在に基づいて決定するための診断方法をさらに提供する。
【背景技術】
【0003】
KRASバリアントは、がんリスクの増大を予測する、KRASがん遺伝子における生物学的に機能性のあるマイクロRNA結合部位のバリアントである。重要な成長および生存遺伝子の3’非翻訳領域(3’UTR)におけるマイクロRNA(miRNA)結合部位バリアントは、生殖細胞系変異の最近発見された新規なクラスであり、それは、がんリスクおよび処置応答の強力なバイオマーカーである(Cipolliniら(2014年)PHARMGENOMICS PERS MED7巻:173〜191頁)。
【0004】
このクラスで最初に発見された変異の1つが、KRASバリアント、KRASがん遺伝子の3’UTR中のlet−7結合部位変異である(Chinら、(2008年)CANCER RES 68巻:8535〜40頁)。この変異により、非小細胞肺がん(同誌)、閉経期前の女性におけるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)(Paranjapeら(2011年)THE LANCET ONCOLOGY 12巻(4号):377〜386頁)および卵巣がん(Ratnerら(2010年)CANCER RESEARCH 15巻:6509〜15頁;Ratnerら(2012年)ONCOGENE 31巻(42号):4559〜66頁;Pilarskiら(2012年)PLOS ONE 7巻(5号):e37891頁)を含む数種のがんのリスクの増大が予測される。KRASバリアントにより、KRASに依存するシグネチャーならびにエストロゲン陰性、基底細胞様遺伝子の発現パターン(Ratner、2012年、前出;Paranjape、前出)を示すKRASバリアント患者における腫瘍に伴う独特の腫瘍生物学が予測されることも示された。KRASバリアントを有する女性は、乳房および卵巣がん、ならびに第3の独立のがんを含む複数の原発性のがんを、同じ個体で発生させる有意に増大したリスクにあることも見出された(Pilarski、前出)。
【0005】
KRASバリアントが、治療に対する応答のがんバイオマーカーとして作用する実質的な証拠も存在する。これは、卵巣のまたは頭頸部のがんを有するKRASバリアント患者におけるシスプラチン耐性(Ratner、2012年、前出;Chungら(2014年)ANN ONCOL、7月31日[印刷前のEpub])、結腸がん(Saridakiら(2014年)CLIN CANCER RES 20巻(17号):4499〜510頁)または頭頸部がん(Chung、前出)を有するKRASバリアント患者におけるセツキシマブ感受性、および非小細胞肺がんを有するKRASバリアント患者におけるエルロチニブ(erlotonib)耐性、ただしソラフェニブ感受性(NSCLC)(Weidhaasら(2014年)J CLIN ONCOL 32巻(52号):補遺;要約8135頁)を含む。細胞系統のデータは、化学療法への曝露に対するKRASバリアントの独特の応答をさらに支持する(Saridaki、前出)。
【0006】
がんの処置に対する免疫療法の手法は、以前に実施されたことがある。例えば、がん処置において、がん自体に対する免疫応答を引き出すための試みは、行われている。そのような処置は、例えば、がん細胞を特異的に認識してがん細胞の破壊を標的とするモノクローナル抗体およびそれらの断片を含む抗体の投与、免疫系を刺激するようにデザインされた免疫サイトカインまたはチェックポイント阻害剤の投与、および幾つかの場合には、遺伝子操作され、それらの免疫機能を強化され、がん細胞に対する好首尾の免疫応答を引き出すと予想される自家または同種の免疫細胞の投与を、典型的には含む。したがって、当技術分野では、KRASバリアントを有する被験体におけるがんを予防および処置する方法に対する必要性がある。それに加えて、当技術分野では、正しい処置が適当に投与されるような特定の免疫療法に対して応答する可能性があるこれらのがん被験体を予測する方法が必要である。そのような処置を適当に管理または指示するために、そのような処置から毒性を経験するかまたは経験しない患者を同定する必要性もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cipolliniら、PHARMGENOMICS PERS MED(2014年)7巻:173〜191頁
【非特許文献2】Chinら、CANCER RES(2008年)68巻:8535〜40頁
【非特許文献3】Paranjapeら(2011年)THE LANCET ONCOLOGY 12巻(4号):377〜386頁
【非特許文献4】Ratnerら(2010年)CANCER RESEARCH 15巻:6509〜15頁
【非特許文献5】Ratnerら(2012年)ONCOGENE 31巻(42号):4559〜66頁
【非特許文献6】Pilarskiら(2012年)PLOS ONE 7巻(5号):e37891頁
【非特許文献7】Chungら(2014年)ANN ONCOL、7月31日[印刷前のEpub]
【非特許文献8】Saridakiら(2014年)CLIN CANCER RES 20巻(17号):4499〜510頁
【非特許文献9】Weidhaasら(2014年)J CLIN ONCOL 32巻(52号):補遺;要約8135頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、KRASバリアントを有する被験体は、免疫系を変化させているという発見に関する。具体的には、本明細書に記載されるように、KRASバリアント被験体は、成功したがんの処置について利用される、弱化した免疫系を有することが示されている。本明細書に記載されるように、そのような免疫系は、適当な免疫調節剤の投与により、強化または刺激することができる。
【0009】
したがって、一態様では、本発明は、KRASバリアントの存在下で、特定の免疫調節剤をがん患者に投与する方法を対象とする。特定の実施形態では、免疫調節剤は、他の従来のがん処置と組み合わせて投与される。そのような場合、KRASバリアント被験体は、例えば、化学療法、放射線療法、または手術を含む1種または複数の従来のがん処置で、処置されているか、処置されるか、または前に処置されたことがある。より具体的には、本発明は、KRASのlet−7相補性部位6の4位に一塩基多型(SNP)を有するKRASバリアントがん被験体を処置する、免疫調節剤の投与を含む方法を提供するが、ここで、前記被験体は、化学療法、放射線療法、または手術を含む1種または複数の療法で処置されているか、処置されるか、または前に処置されたことがある。
【0010】
本発明の特定の実施形態では、放射線処置は、免疫調節剤でさらに処置するための増感剤として機能することができ、セツキシマブなどの免疫調節剤の投与は、がん細胞に向けられた免疫応答のさらなる強化に結びつくことができる。したがって、本発明の特定の実施形態では、放射線療法は、例えば、セツキシマブまたはパニツミマブ(panitumumab)などの抗がん抗体とともに、KRASバリアントがん被験体に共投与される。他の選択肢は、T細胞療法、または他の免疫強化療法を含むこともできる。
【0011】
方法は、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することをさらに含み、前記SNPの存在は、前記被験体のための特定の免疫調節剤の投与と関連する有益な効果の増大を示す。さらに、KRASバリアントの存在は、正常組織における放射線療法に対する感受性を増大させるが、転移性疾患の発生を生じさせる全身的免疫応答のないことを示し、放射線療法と免疫強化の共投与の有用性を示す。本発明の実施形態では、がんは、例えば、乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がんおよび小細胞肺がん、結腸直腸がん、膵がん、脳がん、胃がん、子宮がん、精巣がん、肉腫、前立腺がん、リンパ腫および頭頸部がんを含む放射線で処置される任意のがんを含むが、これらに限定されない。本発明は、がん被験体が、特定の免疫調節剤の投与に応答する可能性があるか否かをKRASバリアントの存在に基づいて、決定する方法も提供する。具体的には、本発明は、それを必要とする患者に対する特定の免疫調節剤を選択する方法を対象とし、ここで、投与されるべき免疫調節剤の選択は、KRASバリアントの存在に依存する。KRASバリアントの存在下で、弱化した免疫系を最初に刺激するように機能する免疫調節剤は、それらの利益について十分に機能性のある免疫系を利用する薬剤よりも好ましい。KRASバリアント患者に投与されるべき免疫調節剤は、例えば、抗体、サイトカイン、養子細胞移入を含み、それに対してチェックポイント阻害剤などの薬剤は、それほど好ましくない。より具体的には、本発明は、KRASバリアントがん被験体に対するそのような投与の有益な効果の増大を予測する、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含む方法を提供し、前記SNPの存在は、免疫療法から生ずる有益な効果の増大を示す。それに加えて、KRASバリアントの存在は、免疫調節剤および放射線療法の共投与と関連する有益な効果の増大を示すこともできる。本発明は、方法が、がん被験体が免疫調節剤の投与に応答する可能性があるかどうかを同定する手段を提供するので、顕著な臨床的価値を有する。KRASバリアントを有すると同定された患者は、免疫療法に応答する可能性が高いと同定され、KRASバリアントを有しない患者は、免疫調節剤の投与に応答する可能性が低いと同定される。したがって、患者がKRASバリアントに対して陽性であれば、医師は、最適の処置を選択し、一方無効な処置を回避する手段を提供される。
【0012】
それに加えて、本発明は、臨床試験のデザインに適した標的患者または患者の標的亜集団を同定するための手段を提供する。本発明の特定の実施形態では、KRASバリアントの存在は、ある標的集団が、1つのタイプの免疫療法を別のタイプと比較して受けるべきであることを示す。したがって、KRASのバリアントを有する被験体は、前記処置が免疫系を刺激または強化するようにデザインされた薬物の投与または処置を伴う臨床試験に選択され得るが、それらの利益について十分に機能性のある免疫系を利用する薬剤はそれほど好ましくない。あるいは、KRASバリアントを有する被験体は、試験薬物の効力が、免疫調節剤の共投与により強化される臨床試験に選択されてもよい。試験被験体のそのような標的とされる選択は、試験のサイズおよび数の低下により薬物承認プロセスを能率化するのに役立つことができ、それにより迅速な規制当局承認および薬物の上市への前進を容易にする。
【0013】
KRASバリアントの存在が、試験薬物または処置の効力の増大と関連することが見出された場合には、本発明は、試験/承認された薬物の医師による処方の前に、KRASバリアントの存在について患者を試験する方法をさらに提供する。そのような場合に、薬物の表示は、患者は、薬物または処置の投与の前に、KRASバリアントの存在について試験されるべきであるという指示を含有することができる。したがって、本発明は、組み合わせ薬物の表示も対象とし、前記表示は、使用の条件として、診断試験と組み合わせて使用されなければならない薬物の使用に言及し、前記診断試験は、前記被験体におけるKRASバリアントの存在を検出するようにデザインされている。より具体的には、本発明は、薬物の処方の前に、患者を試験するための診断方法および組み合わせ薬物の表示を提供し、診断試験は、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在は、免疫調節剤の投与から生ずる有益な効果の増大を示す。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、がんを処置する低毒性の方法を提供し、免疫調節がん療法が、KRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を有すると決定されたがん被験体に投与される。本発明によれば、免疫調節がん療法は、放射線であるが、別の実施形態では、免疫調節がん療法は、チェックポイント阻害剤、例えば、抗PDL1または抗PD1抗体療法である。
【0015】
本発明は、被験体における免疫調節がん療法の毒性を予測する方法も提供する。この方法では、被験体からの核酸中におけるKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)の存在または不在を検出する。多型が患者で検出されれば、それは、被験体における免疫調節がん療法の毒性の尤度の低下を示す。本発明の一実施形態によれば、免疫調節がん療法は、放射線であってもよいが、別の実施形態では、免疫調節がん療法は、チェックポイント阻害剤、例えば、抗PDL1または抗PD1抗体療法であってもよい。
【0016】
本出願のファイルは、色で描かれた少なくとも1つの図面を含有する。色付き図面(複数可)付きの本特許または特許出願公開のコピーは、請求および必要な料金の支払いがあれば当局により提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1A〜Dは、HNSCC患者について、KRASバリアント状態および割り当てられた処置による無増悪生存(PFS)、局所領域不全(LRF)、遠隔転移(DM)および全生存(OS)を表す図である。合計で、413名の患者のうち179名がPFS不全を経験した(
図1A):セツキシマブで処置していないKRASバリアント群では38名のうち19名、セツキシマブで処置されたKRASバリアント群では32名のうち13名、セツキシマブで処置していない非バリアント群では169名のうち74名、およびセツキシマブで処置された非バリアント群では174名のうち73名である。合計で、413名の患者のうち97名が局所領域不全を経験した(
図1B):セツキシマブで処置していないKRASバリアント群の38名のうち8名、セツキシマブで処置されたKRASバリアント群では32名のうち6名、非バリアントのセツキシマブで処置していない群では169名のうち39名、および非バリアントのセツキシマブで処置された群では174名のうち44名である。合計で、413名の患者のうち51名が遠隔転移を経験していた(
図1C):セツキシマブで処置していないKRASバリアント群では38名のうち8名、セツキシマブで処置されたKRASバリアント群では32名のうち3名、非バリアントのセツキシマブで処置していない169名のうち21名、および非バリアントのセツキシマブで処置された群では174名のうち19名である。合計で、413名の患者のうち134名が、関係する時間枠内で死亡した(
図1D):セツキシマブで処置していないKRASバリアント群では38名のうち14名、セツキシマブで処置されたKRASバリアント群では32名のうち8名、非バリアントのセツキシマブで処置していない群では169名のうち58名、および非バリアントのセツキシマブで処置された群では174名のうち54名である。
【0018】
【
図1E】
図1Eは、p16状態およびセツキシマブ処置によるKRASバリアント患者についての局所不全を表す図である。HPV陽性(実線)対陰性(破線)。黒色の線はセツキシマブ処置を表す。赤線(中実円でマークした)は、セツキシマブなしを表す。より高いLRFはHPV陽性患者について観察され(赤実線対破線)、セツキシマブの利益はなかった。p16陰性患者についてより良い局所制御が、セツキシマブの利益とともに観察され、LRFはなかった(黒点線)。
【0019】
【
図1F】
図1Fは、p16状態およびセツキシマブ処置によるKRASバリアント患者についての遠隔転移を表す図である。HPV陽性(実線)対陰性(破線)。黒色の線は、セツキシマブ処置を表す。赤線(中実円でマークした)は、セツキシマブなしを表す。より高い遠隔転移が、HPV陽性(赤実線)およびHPV陰性(赤点線)の両方についてセツキシマブなしで観察された。p16陰性について、セツキシマブの影響は時間により左右される。
【0020】
【
図2A】
図2A〜Bは、セツキシマブで処置されなかったかまたは処置された患者について、KRAS遺伝子型およびp16状態による無増悪生存を表す図である。実線は、KRASバリアント患者、点線は非バリアントであり、黒色の線はp16陽性を表し、赤線(中実円でマークした)はp16陰性を表す。(
図2A)セツキシマブなしのPFS。KRASバリアント/p16陽性患者(黒実線)は、非バリアントp16陽性患者と比較して劣り(ブロック点線)、KRASバリアントでp16陰性の患者(赤実線)は、非バリアント/p16陰性患者と比較して改善された転帰を有する(赤点線)。(
図2B)セツキシマブの8週間によるPFS。KRASバリアント/p16陽性患者(黒実線)は、非バリアントp16陽性患者(黒点線)と同様なPFSを有し、それが5年の追跡期間を通して持続する。KRASバリアント/p16陰性患者は、初めは改善されたPFSを有するが、3年後に低下する。
【
図2B】
図2A〜Bは、セツキシマブで処置されなかったかまたは処置された患者について、KRAS遺伝子型およびp16状態による無増悪生存を表す図である。実線は、KRASバリアント患者、点線は非バリアントであり、黒色の線はp16陽性を表し、赤線(中実円でマークした)はp16陰性を表す。(
図2A)セツキシマブなしのPFS。KRASバリアント/p16陽性患者(黒実線)は、非バリアントp16陽性患者と比較して劣り(ブロック点線)、KRASバリアントでp16陰性の患者(赤実線)は、非バリアント/p16陰性患者と比較して改善された転帰を有する(赤点線)。(
図2B)セツキシマブの8週間によるPFS。KRASバリアント/p16陽性患者(黒実線)は、非バリアントp16陽性患者(黒点線)と同様なPFSを有し、それが5年の追跡期間を通して持続する。KRASバリアント/p16陰性患者は、初めは改善されたPFSを有するが、3年後に低下する。
【0021】
【
図3】
図3A〜Bは、セツキシマブで処置されなかったかまたは処置された患者について、KRAS遺伝子型およびp16状態による全生存を表す図である。実線はKRASバリアント患者、点線は非バリアント患者であり、黒色はp16陽性であり、赤(中実円でマークした)はp16陰性である。(
図3A)セツキシマブなしのOS。KRASバリアント/p16陽性患者(黒実線)は、非バリアント/p16陽性患者(ブロック点線)と比較して劣り、KRASバリアント/p16陰性患者(赤実線)は、非バリアント/p16陰性患者(赤点線)と比較して改善された転帰を有する。(
図3B)セツキシマブの8週間によるOS。KRASバリアント/p16陽性患者(黒実線)は、5年の追跡期間を通して持続する改善されたOSを有する。KRASバリアント/p16陰性患者は、初めは改善されたOSを有するが、3年後に低下する。
【0022】
【
図4A】
図4A〜Bは、KRASバリアント対非バリアントHPV陽性のHNSCC患者の免疫プロファイリングを表す図である。(
図4A)評価されたリンパおよび骨髄のサブセット、さらにCD4およびCD8サブセットの免疫プロファイリングを示す。有意差がKRASバリアント患者で見出され(赤 2番と表示された)、CD4+細胞、主としてエフェクター細胞はより高く、PD1+CD8細胞は境界線でやや低め、CD4/CD8比は変化して、NK細胞はより低い。骨髄のサブセットも有意に変化する。(
図4B)KRASバリアント(実線)患者と非バリアント(点線)患者の間の差のグラフによる描写。
【
図4B】
図4A〜Bは、KRASバリアント対非バリアントHPV陽性のHNSCC患者の免疫プロファイリングを表す図である。(
図4A)評価されたリンパおよび骨髄のサブセット、さらにCD4およびCD8サブセットの免疫プロファイリングを示す。有意差がKRASバリアント患者で見出され(赤 2番と表示された)、CD4+細胞、主としてエフェクター細胞はより高く、PD1+CD8細胞は境界線でやや低め、CD4/CD8比は変化して、NK細胞はより低い。骨髄のサブセットも有意に変化する。(
図4B)KRASバリアント(実線)患者と非バリアント(点線)患者の間の差のグラフによる描写。
【0023】
【
図5】
図5は、二本鎖切断修復およびKRASバリアントを表す図である。正常組織細胞系統(MCF10A、P=親、M=KRASバリアント)で、バリアントは、照射後のより高いベースラインDS損傷およびより遅い修復と関連する。腫瘍細胞系統(H1299、P=親、M=KRASバリアント)で、バリアントは、照射後のより小さいベースラインDS損傷およびより速い修復と関連する。これらの知見は、KRASバリアント患者の正常組織は、放射線に対して感受性であるが、それらの腫瘍組織は抵抗性であり得ることを示す。
【0024】
【
図6】
図6は、KRASバリアント細胞系統の放射線感受性を表す図である。試験管内腫瘍細胞感受性試験を実施して、同質遺伝子細胞系統、MCF10AおよびH1299の2対で放射線感受性を評価した。バリアント=KRASバリアント、および非バリアント=親系統。誤差バーは、百分率で示された複製間の標準偏差を表す。正常組織のKRASバリアント系統はより感受性である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
序論
本明細書では「LCS6 SNP」または「KRASバリアント」と称するKRASバリアント、KRASの3’非翻訳領域(UTR)中のSNPは、生殖細胞系で、KRASがん遺伝子中の動的に調節されたマイクロRNA結合部位の変異であり、それにより、免疫調節剤の投与に応答するがん患者の尤度の増大が予測される。本発明は、KRASバリアントを有する被験体が、免疫系を変化させているという予想外の発見に基づく。具体的には、本明細書に記載されるように、KRASバリアント被験体は、正常ではがん細胞の破壊に利用される、弱化した免疫系を有することが示され、これは、がんを処置するための免疫調節剤の投与により、強化されまたは刺激され得る。
【0026】
したがって、本発明は、がん被験体が特定の免疫調節剤の投与に有利に応答する可能性があるかどうかを決定する、KRASバリアントの存在に基づく方法を提供する。具体的には、本発明は、それを必要とする患者に投与されるべき特定の免疫調節剤を選択する方法を対象とし、投与されるべき免疫調節剤の選択はKRASバリアントの存在に依存する。KRASバリアントの存在下で、弱化した免疫系を最初に刺激するように機能する免疫調節剤は、それらの利益について十分に機能性のある免疫系を利用する薬剤よりも好ましい。KRAS患者に投与されるべき免疫調節剤は、例えば、抗体、サイトカイン、養子細胞移入を含むが、チェックポイント阻害剤などの薬物は、それほど好ましくはない。より具体的には、本発明は、KRASバリアントがん被験体のための免疫療法の有益な効果の増大を予測する、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在が、免疫療法から生ずる有益な効果の増大を示す方法を提供する。本発明は、顕著な臨床的価値を有する。なぜなら方法により、がん被験体が、1つの特定の免疫調節剤の投与に対して、別の免疫調節剤よりも応答する可能性があるかどうかを同定する手段が提供されるからである。KRASバリアントを有すると同定された患者は、免疫療法に応答する可能性が高いと同定され、KRASバリアントを有しない患者は、免疫療法に応答する可能性が低いと同定される(例えば、腫瘍に対する免疫応答の開始に役立つ補助的な治療レジメンがない場合)。ある免疫調節剤、例えばチェックポイント阻害剤などについて、KRASバリアントを有すると同定されたがん患者は、KRASバリアントを有しない患者よりも、治療に応答する可能性は低い(例えば、腫瘍に対する免疫応答の開始に役立つ補助的な治療レジメンがない場合)。したがって、患者がKRASバリアントについて試験されれば、医師は、最適の処置を選択し、一方無効の処置を回避する手段を提供される。
【0027】
それに加えて、本発明は、臨床試験のデザインに適した標的患者または患者の標的亜集団を同定するための方法を提供する。したがって、KRASバリアントを有する被験体は、前記処置が免疫系を刺激するようにデザインされた薬物の投与または処置を伴う臨床試験に選択され得る。あるいは、KRASバリアントを有する被験体は、試験薬物の効力が免疫療法の共投与により強化され得る臨床試験に選択され得る。そのような標的とされる試験被験体の選択は、試験のサイズおよび数の低下により承認プロセスを能率化するのに役立つことができ、それにより迅速な規制当局承認および薬物の上市への前進を容易にする。
【0028】
KRASバリアントの存在が、試験薬物の効力の増大と関連することが見出される場合、本発明は、試験/承認された薬物の医師による処方の前に、KRASバリアントの存在について患者を試験する方法をさらに提供する。そのような場合に、薬物の表示は、患者は、薬物の投与の前に、KRASバリアントの存在について試験されるべきであるという指示を含有することができる。したがって、本発明は、薬品の表示に関し、前記表示は、使用の条件として、診断試験と組み合わせて使用されなければならない薬物の使用または処置方法に言及し、前記診断試験はKRASバリアントの存在を検出するようにデザインされている。そのような場合、KRASバリアントの存在は、前記薬物の用法または処置を示す。
【0029】
HRAS、KRAS、およびNRASを含む3種のヒトRAS遺伝子がある。各遺伝子は、それらのmRNA転写物の3’UTRに複数のmiRNA相補性部位を含む。具体的には、各ヒトRAS遺伝子は、複数のlet−7相補性部位(LCS)を含む。マイクロRNA(miRNA)のlet−7ファミリーは、それらの標的メッセンジャーRNA(mRNA)の3’UTR(非翻訳領域)に結合することによりがん遺伝子の発現を制御するのに重要な包括的な遺伝調節因子である。
【0030】
具体的には、用語「let−7相補性部位」は、let−7ファミリーメンバーが、in vivoで遺伝子または遺伝子転写物のその領域に結合することができてもできなくても、またはしてもしなくても、let−7ファミリーのmiRNAの配列に相補性の遺伝子または遺伝子転写物の任意の領域を説明することを意図している。用語「相補性」は、各配列中におけるヌクレオチドの大部分が他の配列内のヌクレオチドの大部分に配列をトランスで結合することができる、2つの配列間の結合の閾値を表す。
【0031】
ヒトKRAS3’UTRは、それぞれLCS1〜LCS8と名付けられた8種のLCSを含む。以下の配列について、チミン(T)が、ウラシル(U)の代わりに使用されてもよい。LCS1は、配列GACAGUGGAAGUUUUUUUUUCCUCG(配列番号1)を含む。LCS2は、配列AUUAGUGUCAUCUUGCCUC(配列番号2)を含む。LCS3は、配列AAUGCCCUACAUCUUAUUUUCCUCA(配列番号3)を含む。LCS4は、配列GGUUCAAGCGAUUCUCGUGCCUCG(配列番号4)を含む。LCS5は、配列GGCUGGUCCGAACUCCUGACCUCA(配列番号5)を含む。LCS6は、配列GAUUCACCCACCUUGGCCUCA(配列番号6)を含む。LCS7は、配列GGGUGUUAAGACUUGACACAGUACCUCG(配列番号7)を含む。LCS8は、配列AGUGCUUAUGAGGGGAUAUUUAGGCCUC(配列番号8)を含む。
【0032】
ヒトKRASは、転写物aおよびbによりコードされる2種の野生型形態を有し、それらは、以下それぞれ配列番号9および10として提供される。LCS6 SNP(KRASバリアント)を含有する各ヒトKRAS転写物の配列は、以下配列番号11および12として提供される。
【0033】
ヒトKRASの転写物バリアントaは、以下のmRNA配列(NCBI受託番号NM_033360および配列番号9)(非翻訳領域を太字にしてあり、LCS6には下線を引いてある)によりコードされる。
【化1】
【化2】
【化3】
【0034】
ヒトKRAS、転写物バリアントbは、以下のmRNA配列(NCBI受入番号NM_004985および配列番号10)(非翻訳領域を太字にしてある、LCS6には下線を引いてある)によりコードされる。
【化4】
【化5】
【化6】
【0035】
LCS6 SNP(KRASバリアント)を含むヒトKRAS、転写物バリアントaは、以下のmRNA配列(配列番号11)(非翻訳領域を太字にしてあり、LCS6には下線を引いてある、SNPは大文字にしてある)によりコードされる。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0036】
LCS6 SNP(KRASバリアント)を含むヒトKRAS、転写物バリアントbは、以下のmRNA配列(配列番号12)(非翻訳領域を太字にしてあり、LCS6には下線を引いてあり、SNPは大文字にしてある)によりコードされる。
【化11】
【化12】
【化13】
【0037】
本発明は、KRASの3’UTR内にSNPを包含する。具体的には、このSNPは、LCS6の配列番号6の4位においてUの代わりにGを置換した結果である。このLCS6 SNP(KRASバリアント)は、配列
【化14】
(SNPを強調のために太字にしてある)(配列番号13)を含む。
【0038】
KRASバリアントは、KRASのmiRNA調節を乱すことにより、変化したKRAS発現を導く。KRASバリアントの同定および特徴付けは、国際出願第PCT/US08/65302号(WO2008/151004)にさらに記載されており、その内容は参照によりその全体で組み込まれる。
【0039】
がんを処置する方法
本発明者らは、KRASバリアントの存在が、がん患者において、別のタイプよりも、1つの特定のタイプの免疫調節剤の投与に対する応答の相対的尤度を増大させることを発見した。具体的には、本発明は、それを必要とする患者に投与されるべき特定の免疫調節剤を選択する方法を対象とし、投与されるべき免疫調節剤の選択は、KRASバリアントの存在に依存する。KRASバリアントの存在下で、弱化した免疫系を最初に刺激するように機能する免疫調節剤は、それらの利益について十分に機能性のある免疫系を利用する薬剤よりも好ましい。KRASバリアント患者に投与されるべき免疫調節剤は、例えば、抗体、サイトカイン、養子細胞移入を含むが、チェックポイント阻害剤などの薬剤はそれほど好ましくはない。
【0040】
したがって、本発明は、免疫調節剤を、それを必要とするがん患者に投与する方法に関し、前記投与は、前記患者におけるKRASバリアントの存在に依存する。本発明の実施形態では、方法は、KRASバリアント被験体に免疫調節剤を、手術、化学療法または放射線療法などの別のがん処置と組み合わせて投与することを含むこともできる。好ましい実施形態では、免疫調節剤は、放射線療法とともに投与される。
【0041】
本発明者らは、KRASバリアントの存在が、免疫療法に対して毒性応答を有するがん患者の尤度を低下させることも発見した。具体的には、本発明は、がんを処置する低毒性の方法を対象とし、免疫調節剤が、それを必要とする患者に投与され、免疫調節剤の投与は、KRASバリアントの存在に依存する。別の実施形態では、本発明は、患者において免疫調節剤の毒性を予測する方法を対象とし、方法は、KRASバリアントの存在を検出することを必要とし、KRASバリアントが検出されれば、KRASバリアントの存在は被験体における免疫調節剤の毒性の尤度の低下を示すので、免疫調節剤が患者に投与される。
【0042】
本明細書において使用する用語「免疫療法」は、がん細胞の阻害または破壊のために、免疫系を刺激するようにデザインされた任意の免疫に基づく治療に関する。本発明の一態様では、免疫療法は、自然免疫ならびに適応免疫を患者で強化する免疫調節剤の投与を含む。
【0043】
本明細書において使用する、用語「毒性」または「毒性応答」は、患者が、がん治療、および最も一般的にはがん免疫療法に対する応答で経験することがある、1種または複数の免疫応答の有害な反応(複数可)(irAE)、特定のクラスの有害な反応の発生を指す。irAEは、がん治療による免疫系の刺激の結果として起こると考えられており、これらの治療の投与により誘発される自己免疫の異なる形態、例えば、肺炎、肝炎、膵炎、および大腸炎などを含む。例えば、irAEは、チェックポイント阻害剤療法で処置されている患者で特に観察される。irAEは、例えば、Abdel−Wahabら、PLOS ONE、11巻(7号):e0160221頁(2016年)で、さらに十分に論じられている。
【0044】
本発明の一態様では、がん細胞を認識してがん細胞の破壊を標的とするようにデザインされた免疫グロブリン分子、またはその断片が投与され得る。そのような免疫グロブリン分子には、例えば、セツキシマブ、パニツムマブ、ベバシズマブ、リツキシマブおよびトラスツズマブなどのモノクローナル抗体が含まれる。例えばアバスチンなどのVEGFを認識する抗体も使用することができる。がん細胞の生理学に関与する抗原を標的とすることに加えて、投与された抗体は、免疫サーベイランスにとって重要な免疫学的経路を調節するように機能することもできる。
【0045】
本発明の別の態様では、免疫系を刺激することが公知であるかまたは免疫系を利用する化学療法剤の投与は、KRASバリアントを有するがん患者を処置するために特に有用であることもあり有用でないこともある。そのような薬剤には、エルロチニブ、バンデタニブ、シスプラチン、イリノテカン、エトポシド、タキソール、raf阻害剤、例えば、ソラフェニブ、セレコキシブ、セツキシマブおよびパニツミマブが含まれるが、これらに限定されない。薬剤の組み合わせおよび免疫系に対するそれらの影響は、KRASバリアント患者にとって重要であり、免疫を一緒に強化する、ある組み合わせは有用であり、および免疫を妨げ得る他の組み合わせは、有害であるかまたは有用でない。そのような薬剤は、例えば、以下の免疫賦活特性の1つまたは複数を有することができる:NK(ナチュラルキラー)に対するがん細胞の感受性および/または細胞傷害性Tリンパ球(CTL)に媒介される細胞溶解の強化、成熟樹状細胞(DC)およびCD8T細胞数の刺激、DCおよび腫瘍細胞による免疫抑制の低下、DC、NKおよび腫瘍特異的CTLの誘発された活性化、Thl細胞免疫の増強、TYRO3の刺激、AXLおよびMER(TAM)受容体タンパク質チロシンキナーゼに媒介される細胞障害性、Tリンパ球による認識を可能にするがん細胞抗原の発現の強化、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)および補体に依存する細胞傷害性(CDC)の強化ならびに自然免疫および養子免疫の一般的強化。
【0046】
あるいは、免疫系の細胞を活性化するように機能するサイトカインなどの免疫賦活分子を投与することができる。そのような因子には、例えば、T細胞活性化因子または樹状細胞活性化/成熟因子が含まれる。それに加えて、患者のがんに対する天然のまたは遺伝子操作による反応性を有するT細胞が、in vitroで発生され、がん患者に移入で戻される養子細胞移入を使用することもできる。それに加えて、患者のT細胞を取り出して、腫瘍抗原を認識するように特化されたT細胞受容体(TCR)遺伝子を発現するように遺伝子操作することもできる。細胞は、次に、がん細胞の標的とされた破壊のために、患者に移入で戻される。
【0047】
別の態様では、本発明は、KRASバリアントがん被験体が、特定の処置のプロトコール中の特定の時に、1つの免疫療法に、別の免疫療法に対するよりも良く応答できることをさらに提供する。例えば、刺激された免疫系の下流で機能するチェックポイント阻害剤は、初期の免疫系刺激に続いて投与することができる。チェックポイント阻害剤は、T細胞に、がん細胞を含む身体中の他の細胞を攻撃させないことを補助するあるタイプの「オフスイッチ」として通常は作用する。幾つかの場合に、チェックポイント阻害剤は、がん被験体に投与されて「オフスイッチ」を除去し、それによりがん被験体のT細胞のがん細胞に対する応答を強化することができる。そのようなチェックポイント阻害剤は、例えば、CTLA−4、PD−1またはPD−L1を標的として阻害して、がん細胞に対する免疫応答を高める処置を含む。PD−1を標的とする処置の例は、ペンブロリズマブ(Keytruda(登録商標))およびニボルマブ(Opdivo(登録商標))を含む。PD−L1を標的とする処置の例は、BMS−936559(MDX−1105)、Tecentriq(登録商標)(アテゾリズマブ)、デュルバルマブ(MEDI4736)、およびBavencio(登録商標)(アベルマブ)である。イピリムマブ(Yervoy(登録商標))は、CTLA−4を標的とするモノクローナル抗体であり、タンパク質が細胞傷害性Tリンパ球を阻害することを防止する。これは、がん細胞に対する身体の免疫応答を高めることができる。
【0048】
それに加えて、本発明は、臨床試験のデザインに適した標的患者または患者の標的亜集団を同定するための手段を提供する。したがって、KRASバリアントを有する被験体は、前記処置が免疫系を刺激または強化するようにデザインされた薬物の投与または処置を伴う臨床試験に選択されてもよいが、そのような被験体は、チェックポイント阻害剤を伴う試験から排除される。あるいは、KRASバリアントを有する被験体は、試験薬物の効力が免疫療法の共投与により強化される臨床試験に選択されてもよい。標的とされる試験被験体のそのような選択は、試験のサイズおよび数の低下により薬物承認プロセスを能率化するのに役立つことができ、それにより迅速な規制当局承認および薬物の上市への前進を容易にする。
【0049】
KRASバリアントの存在が、試験薬物の効力の増大と関連することが見出された場合、本発明は、試験/承認された薬物の医師による処方の前に、KRASバリアントの存在について患者を試験する方法をさらに提供する。そのような場合に、薬物の表示は、患者は、薬物の投与の前に、KRASバリアントの存在について試験されるべきであるという指示を含有することができる。したがって、本発明は、組み合わせ薬物の表示も対象とし、前記表示は、使用の条件として、診断試験と組み合わせて使用されなければならない薬物の使用に言及し、前記診断試験は、前記被験体におけるKRASバリアントの存在を検出するようにデザインされている。より具体的には、本発明は、薬物の処方の前に、患者を試験するための診断方法および組み合わせ薬物の表示を提供し、診断試験は、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在は、免疫療法から生ずる有益な効果の増大を示す。
【0050】
本明細書において使用する「処置する」は、疾患に冒されたかまたは疾患を発生するリスクにある被験体に、被験体の状態における(例えば、1種または複数の症状における)改善、疾患の増悪の遅延、症状の発症の遅延または症状の増悪の遅延その他を含む利益を与える任意のタイプの処置または予防を指す。したがって、用語「処置」は、症状の発症を予防するための被験体の予防処置も含む。
【0051】
本明細書において使用する、「処置」および「予防」は、症状の治癒または完全な除去を含むことは意図しない。むしろ、これらは、疾患に冒された患者に、患者の状態における(例えば、1種または複数の症状における)改善、疾患の増悪の遅延、その他を含む利益を与える任意のタイプの処置を指す。
【0052】
本明細書において使用する「処置有効量」は、がんに冒された患者に、患者の状態における(例えば、1種または複数の症状における)改善、疾患の増悪における遅延、その他を含む望ましい効果を生じさせるために十分な免疫療法の量を意味する。
【0053】
本明細書に記載された方法による処置を必要とする被験体は、腫瘍およびがん、例えば、例えば、肺、結腸、乳房、脳、肝、前立腺、脾臓、筋肉、卵巣、膵、頭頸部、皮膚(メラノーマを含む)、その他に冒された被験体を含む。腫瘍は、原発性腫瘍、転移性腫瘍、または再発腫瘍であることもある。
【0054】
本明細書において使用する用語「治療剤」、「化学療法剤」、または「薬物」は、がん細胞と相互作用して、それにより細胞の増殖状態を低下させるおよび/または細胞を死滅させることができる化合物またはその誘導体を指す。化学療法剤の例として、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、イホスファミド)、代謝アンタゴニスト(例えば、メトトレキセート(MTX)、5−フルオロウラシルまたはその誘導体)、抗腫瘍抗生物質(例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン)、植物から誘導された抗腫瘍剤(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール)、白金系化学療法剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、トリプラチンテトラナイトレート、フェナントリプラチン(phenanthriplatin)、ピコプラチン、サトラプラチン)、エトポシドなどが含まれるが、これらに限定されない。そのような薬剤は、抗がん剤トリメトトリキセート(TMTX)、テモゾロミド、ラルチトレキセド(realtritrexed)、S−(4−ニトロベンジル)−6−チオイノシン(NBMPR)、6−ベンジルグアニジン(benzyguanidine)(6−BG)、ビス−クロロニトロソウレア(BCNU)およびカンプトテシン、またはその任意の治療薬の誘導体をさらに含むことができるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書において使用する用語「放射線療法」は、腫瘍を収縮させ、およびがん細胞を死滅させる高エネルギー放射線を使用する放射線療法を指す。X線、ガンマ線、光子および荷電粒子は、がん処置のために使用されるタイプの放射線である。放射線は、身体の外側(外部ビーム放射線療法)から送達され得るか、または身体のがん細胞近くに放射性物質を配置することにより送達され得る(内部放射線療法、近接照射療法とも言われる)。全身的放射線療法は、放射性ヨウ素などの放射性物質を使用して、それが血液中を移動してがん細胞を死滅させる。本明細書に記載されるように、KRASバリアント患者は、それらの正常組織において放射線療法に対して増大した感受性を有することが観察されるが、それらのベースラインの免疫抑制が原因で、遠隔疾患には成功せず、それらの免疫強化に対する必要性が示される。
【0056】
本明細書において使用する用語「治療有効量」は、処置される疾患、状態、または障害の症状の1つまたは複数をある程度軽減する、投与される化合物の量を指す。調節されない細胞分裂に関するがんまたは病理に関して、治療有効量は、(1)腫瘍のサイズを縮小させる、(2)異常な細胞分裂、例えばがん細胞分裂を阻害する(即ち、ある程度まで遅延させる、好ましくは停止する)、(3)がん細胞の転移を予防または減少させる、および/または、(4)調節されないかまたは異常な、例えば、がん、または血管新生を含む細胞分裂に関連するかまたは部分的にそれにより引き起こされる病理と関連する1種または複数の症状を、ある程度まで軽減する(または、好ましくは排除する)効果を有する量を指す。
【0057】
疾患(または状態または障害)の「処置すること」または「処置」という本明細書において使用する用語は、疾患に対する素因を有し得るが疾患の症状を未だ経験または示していない動物で疾患が生ずることを予防すること(予防的処置)、疾患を阻害すること(その発生を遅延させるまたは阻止すること)、疾患の症状または副作用からの軽減をもたらすこと(対症的処置を含む)、および疾患を軽減すること(疾患の退行を起こすこと)を指す。がんに関して、これらの用語は、がんに罹った個体の平均余命が増大し得ること、または疾患の症状の1つまたは複数が縮小することも意味する。
【0058】
本明細書において使用する用語「被験体」および「患者」は、ヒト、哺乳動物(例えば、ネコ、イヌ、ウマ、その他)、生きている細胞、および他の生きている生物体を含む。
【0059】
本明細書において使用する用語「がん」は、異常細胞が制御なく分裂する疾患のための一般的用語として、その通常の意味を与えられるものとする。がん細胞は、近くの組織に浸潤し得、血流およびリンパ系を通して身体の他の部分に広がることができる。数種類の主要なタイプのがんがあり、例えば、癌腫は、皮膚または内部器官を裏打ちするかまたは覆う組織で始まるがんである。肉腫は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、または他の結合組織または支持組織で始まるがんである。白血病は、骨髄などの血液形成組織で始まり、多数の異常血液細胞が産生され、それが血流に侵入することを引き起こすがんである。リンパ腫は、免疫系の細胞で始まるがんである。
【0060】
正常細胞が、特殊化された、制御された、および協調する単位として振る舞うそれらの能力を失うときに、腫瘍が形成される。一般的に、固形腫瘍は、嚢胞または液体領域を通常は含有しない組織の異常な塊である(ただし、一部の脳腫瘍は嚢胞を有し、中枢壊死領域は液体で満たされる)。単一の腫瘍は、間違った異なるプロセスで、その中に細胞の異なる集団を有することさえある。固形腫瘍は、良性(がん性でない)であることも、または悪性(がん性)であることもある。異なるタイプの固形腫瘍は、それらを形成する細胞のタイプで命名される。固形腫瘍の例は、肉腫、癌腫、およびリンパ腫である。白血病(血液のがん)は、一般的に固形腫瘍を形成しない。
【0061】
代表的ながんには、とりわけ、膀胱がん、乳がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、頭頸部がん、白血病、肺がん、リンパ腫、メラノーマ、非小細胞肺がん、卵巣がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、子宮頚がん、甲状腺がん、胃がん、脳幹神経膠腫、小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫、膠芽腫、上衣腫、ユーイング肉腫ファミリーの腫瘍、生殖細胞腫瘍、頭蓋外がん、ホジキン病、白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、肝がん、髄芽腫、神経芽細胞腫、一般的に脳腫瘍、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、骨の悪性線維性組織球腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、一般的に軟組織肉腫、テント上未分化神経外胚葉性および松果体腫瘍、視路および視床下部神経膠腫、ウイルムス腫瘍、急性リンパ球性白血病、成人急性骨髄性白血病、成人非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、食道がん、ヘアリーセル白血病、腎臓がん、多発性骨髄腫、口腔がん、膵がん、原発性中枢神経系リンパ腫、皮膚がん、小細胞肺がんが含まれるが、これらに限定されない。
【0062】
製剤
本開示の医薬組成物(例えば、化学療法剤および/または免疫療法剤)は、当技術分野において周知なように、それらの意図される使用に応じて、種々の手段により投与することができる。例えば、本開示の組成物が経口的に投与されるべきであれば、それらは、錠剤、カプセル、顆粒、散剤またはシロップとして製剤化されてもよい。あるいは、本明細書で開示された製剤は、注射(静脈内、筋肉内または皮下)、点滴注入調製物または坐薬として非経口的に投与されることもできる。これらの製剤は、従来の手段により調製することができ、所望であれば、組成物は、任意の従来の添加剤、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭薬、可溶化剤、懸濁助剤、乳化剤またはコーティング剤と混合することもできる。開示された賦形剤は、1つより多い機能で役立つこともある。例えば、充填剤または結合剤は、崩壊剤、流動促進剤(glidant)、抗粘着剤、滑沢剤、甘味料などであってもよい。
【0063】
本開示の製剤において、湿潤剤、乳化剤および滑沢剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなど、ならびに着色剤、放出剤(release agent)、コーティング剤、甘味料、着香料(flavoring)および香料、防腐剤および抗酸化剤は、製剤化された薬剤中に存在してもよい。
【0064】
対象組成物は、経口、経鼻(例えば、乾燥粉末製剤または噴霧製剤を使用する吸入による)、局部(バッカルおよび舌下を含む)、肺(エアロゾル投与を含む)、直腸、膣、エアロゾルおよび/または非経口的(例えば、注射、例えば、静脈内または皮下注射による)投与に適する場合がある。製剤は、単位剤形で提示されると便利であり、薬学分野において周知の任意の方法により調製することができる。単一用量を産生するために担体材料と合わせられ得る組成物の量は、処置される被験体、および投与の特定の様式に依存して変わる。
【0065】
これらの製剤を調製する方法は、本開示の組成物を担体および、任意選択で、1種または複数の補助成分と会合させるステップを含む。一般的に、製剤は、均一におよび緻密に、薬剤を液体担体、または細かく分割された固体担体または両方と会合させ、次に必要であれば、生成物を形作ることにより調製される。
【0066】
経口投与に適した製剤は、活性成分としてそれらの対象組成物の所定の量を各々含有する、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ(香味付けされた基剤、通常スクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカントを使用する)、散剤、顆粒の形態で、または水性もしくは非水性液体中の溶液または懸濁物として、または水中油もしくは油中水液体エマルションとして、またはエリキシル剤もしくはシロップとして、または香錠として(不活性基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴムなどを使用する)であってもよい。本開示の組成物は、ボーラス、舐剤、またはペーストとして投与されてもよい。
【0067】
経口投与のための固体剤形(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒など)では、対象組成物は、1種または複数の薬学的に許容される担体、例えば、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウム、および/または以下のいずれか:(1)充填剤または増量剤、例えばデンプン、デキストロース、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、および/またはケイ酸など;(2)結合剤、例えば、セルロース(例えば、微結晶性セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)およびカルボキシメチルセルロース)、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/またはアラビアゴムなど;(3)保湿剤(humectant)、例えば、グリセリン;(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のシリケート、および炭酸ナトリウムなど;(5)溶解遅延剤、例えば、パラフィン;(6)吸収促進剤、例えば、第四級アンモニウム化合物;(7)湿潤剤、例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなど;(8)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイトクレイなど;(9)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物など;および(10)着色剤と混合される。カプセル、錠剤および丸剤の場合には、組成物は、緩衝剤を含むこともできる。同様なタイプの固体組成物は、ラクトースまたは乳糖類、ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどのような賦形剤を使用する、軟質および硬質の充填されたゼラチンカプセル中の充填剤として使用することもできる。開示された賦形剤は、1つより多い機能で役立つこともある。例えば、充填剤または結合剤は、崩壊剤、流動促進剤、抗粘着剤、滑沢剤、甘味料などであってもよい。
【0068】
製剤および組成物は、開示された化合物の微粒子化された結晶を含むこともできる。微粒子化は、化合物の結晶単独で、または結晶と薬学的賦形剤もしくは担体の一部もしくは全部との混合物で実施することができる。開示された化合物の微粒子化された結晶の平均粒子サイズは、例えば約5から約200ミクロン、または約10から約110ミクロンであってもよい。
【0069】
錠剤は、圧縮または成形により、任意選択で1種または複数の補助成分とともに作製することができる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン、微結晶性セルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、ナトリウムデンプングリコレートまたは架橋されたナトリウムカルボキシメチルセルロース)、表面活性剤または分散剤を使用して、調製することができる。成形された錠剤は、適切な機械で、不活性液体希釈剤で加湿された対象組成物の混合物を成形することにより作製することができる。錠剤、および他の固体剤形、例えば、糖衣錠、カプセル、丸剤および顆粒などは、任意選択でスコアをつけて、コーティングおよびシェル、例えば、薬学的製剤化技術分野で周知の腸溶コーティングおよび他のコーティングなどを用いて調製することができる。開示された賦形剤は、1つより多い機能で役立つこともある。例えば、充填剤または結合剤は、崩壊剤、流動促進剤、抗粘着剤、滑沢剤、甘味料などであってもよい。
【0070】
開示された組成物が、凍結乾燥されたまたはフリーズドライされた、本明細書で開示された化合物を含むことができることは認識されるであろう。例えば、本明細書で開示されるのは、開示された化合物の結晶性および/または非晶質粉末が形成する組成物である。そのような形態は、例えば、水性組成物として使用するために再構成することができる。
【0071】
経口投与のための液体剤形は、薬学的に許容される、エマルション、マイクロエマルション、溶液、懸濁物、シロップおよびエリキシル剤を含む。対象組成物に加えて、液体剤形は、当技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカーボネート、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、胚種油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、シクロデキストリンおよびそれらの混合物などを含有してもよい。
【0072】
懸濁物は、対象組成物に加えて、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、ヒドロキシアルミニウムオキシド、ベントナイト、寒天およびトラガカント、およびそれらの混合物のような懸濁剤を含有することもできる。
【0073】
直腸または膣投与のための製剤は、坐薬として提示されてもよく、それは、対象組成物と例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、坐薬ワックスまたはサリチレートを含む1種または複数の適切な非刺激性の賦形剤または担体とを混合することにより調製することができ、それは、室温では固体であるが、体温で液体であり、それ故、体腔で溶解して活性作用物を放出するであろう。膣投与に適した製剤には、適当であることが当技術分野において公知であるような担体を含有するペッサリー、タンポン、クリーム剤、ゲル、ペースト、フォームまたは噴霧製剤も含まれる。
【0074】
対象組成物の経皮投与のための剤形は、散剤、噴霧、軟膏、ペースト、クリーム剤、ローション剤、ゲル、溶液、およびパッチを含む。活性構成要素は、滅菌条件下で、薬学的に許容される担体、および必要とされることがある任意の防腐剤、緩衝液、または噴霧体と混合することができる。
【0075】
軟膏、ペースト、クリーム剤およびゲルは、対象組成物に加えて、賦形剤、例えば、動物および植物の脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクおよび酸化亜鉛、またはその混合物を含有することができる。
【0076】
散剤および噴霧は、対象組成物に加えて、賦形剤、例えば、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物などを含有することができる。さらに、噴霧は、通例の噴霧体、例えば、クロロフルオロ炭化水素および揮発性非置換炭化水素、例えば、ブタンおよびプロパンなどを含有することもできる。
【0077】
本開示の組成物および化合物は、あるいは、エアロゾルにより投与することもできる。これは、化合物を含有する水性エアロゾル、リポソーム調製物または固体粒子を調製することにより達成される。非水性(例えば、フルオロカーボン噴霧体)懸濁物を使用することができる。超音波ネブライザーは、対象組成物に含有される化合物の分解を生じ得る剪断への薬剤の曝露を最小化するので、使用することができる。
【0078】
通常、水性エアロゾルは、対象組成物の水溶液または懸濁物を従来の薬学的に許容される担体および安定剤と一緒に製剤化することにより作製される。担体および安定剤は、特定の対象組成物の要件により変化するが、典型的には、非イオン性界面活性剤(Tweens、pluronics、またはポリエチレングリコール)、血清アルブミンのような無害なタンパク質、ソルビタンエステル、オレイン酸、レシチン、グリシンなどのアミノ酸、緩衝液、塩、糖類または糖アルコールを含む。エアロゾルは、一般的に、等張溶液から調製される。
【0079】
例として挙げられた賦形剤は、1つより多い機能を有することがあることは注目されるべきである。例えば、充填剤または結合剤は、崩壊剤、流動促進剤、抗粘着剤、滑沢剤、甘味料などであってもよい。
【0080】
非経口的投与に適した本開示の医薬組成物は、1種または複数の薬学的に許容される滅菌等張の水溶液または非水溶液、分散物、懸濁物またはエマルション、または滅菌粉末と組み合わされた対象組成物を含み、それは、使用直前に、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質、または懸濁剤もしくは増粘剤を含有していてもよい、滅菌注射用溶液または分散物に再構成することができる。例えば、開示された化合物を含み、例えば、デキストロース(例えば、水中約1から約10重量パーセントのデキストロース、または約5重量パーセントのデキストロース(D5W))をさらに含んでいてもよい水性組成物が、本明細書で提供される。
【0081】
本開示の医薬組成物で使用され得る適切な水性および非水性担体の例は、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、および適切なそれらの混合物、植物油、例えばオリーブ油など、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステル、およびシクロデキストリンを含む。適度の流動性は、例えば、コーティング材料、例えばレシチンの使用により、分散物の場合には必要とされる粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により維持され得る。
【0082】
企図された製剤、例えば、経口製剤(例えば、丸剤または錠剤)は、制御された放出の製剤、例えば、即時放出性製剤、遅延放出性製剤、またはその組み合わせとして製剤化され得ることは認識されるであろう。
【0083】
ある特定の実施形態では、被験体化合物は、錠剤、丸剤、カプセルまたは他の適当な摂取可能な製剤(以後「錠剤」と総称する)として製剤化することができる。ある特定の実施形態では、治療用量は、10錠剤またはそれより少数で提供されてもよい。別の例では、治療用量は、50、40、30、20、15、10、5または3錠で提供される。
【0084】
本発明の目的のために、免疫調節剤の量または用量は、例えば、被験体または動物で、妥当な時間枠で、治療または予防的応答をもたらすために十分であるべきである。例えば、免疫調節剤の用量は、被験体において、がん抗原に結合するか、またはがんを検出、処置または予防するために十分であるべきである。用量は、薬剤の効力および処置されるべき被験体(例えばヒト)の状態、ならびに被験体(例えばヒト)の体重により決定されるであろう。投与量を決定するためのアッセイは、当技術分野において周知である。
【0085】
免疫調節剤を含有する組成物の用量は、特定の薬剤の投与に伴うことのある何らかの有害な副作用の存在、性質および程度により決定することもできる。典型的には、主治医が、各患者個人を処置するための薬剤の投与量を、種々の要因、例えば、年齢、体重、一般的健康、食事、性別、投与経路、および処置される状態の重症度を考慮に入れて決定するであろう。
【0086】
免疫療法の投与
記載された免疫療法は、抗体に基づく治療であってもよい。一般的に、抗体の治療有効量は、0.1mg/kgから100mg/kg、例えば、1mg/kgから100mg/kg、例えば、1mg/kgから10mg/kgの範囲内である。投与される量は、疾患のタイプおよび程度または処置されるべき適応症、患者の全体的健康、抗体のin vivoにおける有効性、薬学的製剤、および投与の経路などの変数に依存するであろう。初期投与量は、所望の血液レベルまたは組織レベルに急速に達する目的で、上方(upper)のレベルを超えて増大することができる。あるいは、初期投与量は、最適より少なくすることもでき、投与量を、処置の過程中に漸進的に増大させてもよい。最適の用量は、日常的実験により決定することができる。非経口的投与のためには、0.1mg/kgと100mg/kgの間、あるいは0.5mg/kgと50mg/kgの間、あるいは、1mg/kgと25mg/kgの間、あるいは2mg/kgと10mg/kgの間、あるいは5mg/kgと10mg/kgの間の用量が投与され、例えば、1処置サイクル当たり1週間に1回、隔週に1回、3週間毎に1回、または1ヵ月に1回与えられてもよい。一実施形態では、用量は、3週間毎に静脈内投与により200mgであり、それに対して別の実施形態では、用量は、3週間毎に静脈内投与により2mg/kgである。別の実施形態では、用量は、2週間毎に静脈内投与により240mgであるが、さらに別の実施形態では、用量は、2週間毎に静脈内投与により3mg/kgである。さらに別の実施形態では、用量は、3週間毎に静脈内投与により1200mgである。
【0087】
免疫療法に対する応答の尤度または免疫療法に対する毒性応答の尤度を予測する方法
本発明は、単独の、または1種または複数の従来のがん処置との組み合わせのいずれかにおける、免疫療法に対する応答の尤度の増大を予測する方法も特徴とする。方法は、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在は、がん被験体における免疫療法に対する応答の尤度の増大を示す。具体的には、検出される変異は、KRASのLCS6の4位におけるSNPであり、それは、ウラシル(U)またはチミン(T)のグアニン(G)への変換を生ずる。ある特定の非限定的な実施形態では、がんは、乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、結腸直腸がん、メラノーマ、または頭頸部がんである。変異の同定は、免疫療法に対する応答の尤度の増大を示す。
【0088】
「尤度の増大」は、KRASバリアントを保有している個体が、KRASバリアントを保有していない個体と比較して免疫療法に応答する確率の増大を説明することが意図される。ある特定の実施形態では、KRASバリアント保有者は、KRASバリアントを保有していない個体よりも、1.5×、2×、2.5×、3×、3.5×、4×、4.5×、5×、5.5×、6×、6.5×、7×、7.5×、8×、8.5×、9×、9.5×、10×、20×、30×、40×、50×、60×、70×、80×、90×、または100×高く免疫療法に応答する可能性がある。
【0089】
被験体は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシであり得るが、これらの例に限定されない。被験体は、雄であることも雌であることもできる。
【0090】
本発明は、免疫療法に対して毒性応答を有する尤度の低下を予測する方法も特徴とする。方法は、患者試料中のKRASのlet−7相補性部位6の4位における一塩基多型(SNP)を検出することを含み、前記SNPの存在は免疫療法に対する毒性応答を有する患者の尤度の低下を示す。具体的には、検出される変異は、ウラシル(U)またはチミン(T)のグアニン(G)への変換を生ずる、KRASのLCS6の4位におけるSNPである。ある特定の非限定的な実施形態では、がんは、乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、結腸直腸がん、メラノーマ、または頭頸部がんである。変異の同定は、免疫療法に対する毒性応答を有する尤度の低下を示す。
【0091】
「尤度の低下」は、KRASバリアントを保有している個体が、KRASバリアントを保有していない個体と比較して、免疫療法に対する毒性応答を有する確率が減少していることを説明することが意図される。ある特定の実施形態では、KRASバリアント保有者は、KRASバリアントを保有していない個体よりも、免疫療法に対する毒性応答を有する可能性が、1.5×、2×、2.5×、3×、3.5×、4×、4.5×、5×、5.5×、6×、6.5×、7×、7.5×、8×、8.5×、9×、9.5×、10×、20×、30×、40×、50×、60×、70×、80×、90×、または100×低い。
【0092】
本発明の関係における「尤度」は、事象が特定の期間にわたって起こるであろう確率に関し、被験体の「絶対」尤度または「相対」尤度を意味する場合がある。絶対尤度は、関係する時間コホートについて測定後の実際の観察に関してか、または関係する期間の間に追跡された統計的に妥当な過去のコホートから生じた指標の値に関してのいずれかで測定することができる。相対尤度は、被験体の絶対尤度を、低尤度のコホートの絶対尤度または臨床尤度因子がどのように査定されたかにより変化し得る平均集団尤度のいずれかと比較した比を指す。オッズ比、即ち、所与の試験結果についての陰性事象に対する陽性事象の比率も、一般的に変換されずに使用される(オッズは、式p/(1−p)にしたがい、ここでpは事象の確率であり、(1−p)は事象が起こらない確率である)。
【0093】
本発明の関係における「尤度評価」または「尤度の評価」は、がん被験体が免疫療法に応答するかまたは免疫療法に対する毒性応答を有する確率、オッズ、または尤度の予測をすることを包含する。そのような評価は、前に測定された集団に関して、絶対的または相対的のいずれかの観点で、未来の臨床パラメーター、伝統的実験室リスク因子の値、またはがんの他の指標の予測を含むこともできる。
【0094】
連鎖不平衡(LD)とは、所与の集団における各対立遺伝子の発生の別々の頻度から予想されるよりも大きい頻度の、2箇所またはそれよりも多い異なるSNP部位における対立遺伝子の共遺伝(例えば、代替的ヌクレオチド)を指す。独立に遺伝された2つの対立遺伝子の共発生の予想される頻度は、第1の対立遺伝子の頻度に第2の対立遺伝子の頻度を乗じた積である。予想される頻度で共発生する対立遺伝子は、「連鎖平衡」にあると言われる。対照的に、LDとは、2箇所またはそれよりも多い異なるSNP部位における対立遺伝子(複数可)間の任意の非ランダム遺伝的関連を指し、それは、染色体に沿った2つの遺伝子座の物理的近接に一般的に基づく。LDは、2箇所またはそれよりも多いSNP部位が、所与の染色体上で互いに物理的に非常に近接している場合に起こり得、それ故、これらのSNP部位にある対立遺伝子は、複数の世代を通して分離されないままである傾向があり、その結果、1つのSNP部位にある特定のヌクレオチド(対立遺伝子)が、近くに位置する異なるSNP部位にある特定のヌクレオチド(対立遺伝子)との非ランダム関連を示すであろう。それ故、SNP部位の1つの遺伝子型を決定すると、LDにある他のSNP部位の遺伝子型決定と殆ど同じ情報が得られるであろう。
【0095】
個体を遺伝的障害について(例えば、予後のまたはリスク)スクリーニングする目的で、特定のSNP部位が障害をスクリーニングするために有用であることが見出されれば、当業者は、このSNP部位とLDにある他のSNP部位も、状態をスクリーニングするために有用であろうと認識するであろう。種々の程度のLDが、2箇所またはそれよりも多いSNP間で遭遇され得る結果、幾つかのSNPは他のものより密接に関連する(即ち、より強いLDで)。さらに、LDが染色体に沿って広がる物理的距離は、ゲノムの異なる領域の間で異なり、それ故、LDが起こるために必要な、2箇所またはそれよりも多いSNP部位の間の物理的分離の程度は、ゲノムの異なる領域の間で異なり得る。
【0096】
実際に疾患を惹起する(原因となる)多型ではないが、そのような原因となる多型とLDにある多型(例えば、SNPおよび/またはハプロタイプ)も、スクリーニングに適用するために有用である。そのような場合に、原因となる多型とLDにある多型(複数可)の遺伝子型により、原因となる多型の遺伝子型が予測され、その結果として、原因となるSNP(複数可)により影響される表現型(例えば、疾患)が予測される。したがって、原因となる多型とLDにある多型のマーカーは、マーカーとして有用であり、実際の原因となる多型(複数可)が未知である場合に特に有用である。
【0097】
ヒトゲノムにおける連鎖不平衡は:Wallら(2003年) NAT REV GENET.4巻(8号):587〜97頁;Gamerら(2003年)GENET EPIDEMIOL.24巻(1号):57〜67頁;Ardlieら(2002年)NAT REV GENET.3巻(4号):299〜309頁((2002年)NAT REV GENET 3巻(7号):566頁に正誤表);およびRemmら(2002年)CURR OPIN CHEM BIOL.6巻(1号):24〜30頁で概説されている。
【0098】
本発明のスクリーニング技法は、試験被験体が、検出可能な形質を発生するリスクの増大または減少と関連するSNPまたはSNPパターンを有するかどうか、または個体が、特定の多型/変異の結果として検出可能な形質に罹患するかどうかを決定する、例えば、ハプロタイプを決定するための個体の染色体の分析、家族の研究、単一精子のDNA分析、または体細胞ハイブリッドを可能にする方法を含む種々の方法を使用することができる。本発明の診断を使用して分析される形質は、病理および障害で一般的に観察される任意の検出可能な形質であってもよい。
【0099】
SNP遺伝子型決定方法
どの特定のヌクレオチド(即ち、対立遺伝子)が、1箇所または複数のSNP位置の各々、例えば、配列番号11、12または13で開示された核酸分子中のSNPの位置などに存在するかを決定するプロセスは、SNP遺伝子型決定と称される。本発明は、例えば、種々の障害についてのスクリーニング、またはその素因の決定、または処置の形態に対する応答性または予後の決定において、またはゲノムマッピングまたはSNP関連の分析、その他において、使用するためのSNP遺伝子型決定の方法を提供する。
【0100】
核酸の試料は、どの対立遺伝子(複数可)が、任意の所与の目的の遺伝的領域(例えば、SNPの位置)に存在するかを決定するために、当技術分野において周知の方法により遺伝子型を決定することができる。隣接する配列は、オリゴヌクレオチドプローブなどのSNP検出試薬をデザインするために使用することができ、それは、キットのフォーマットで、任意選択で実行されてもよい。例示的なSNP遺伝子型決定方法は、Chenら(2003年)PHARMACOGENOMICS J. 3巻(2号):77〜96頁;Kwokら(2003年)CURR ISSUES MOL. BIOL.5巻(2号):43〜60頁;Shi(2002年)AM J PHARMACOGENOMICS 2巻(3号):197〜205頁;およびKwok(2001年)ANNU REV GENOMICS HUM GENET 2巻:235〜58頁に記載されている。高スループットSNP遺伝子型決定のための例示的技法は、Mamellos(2003年)CURR OPIN DRUG DISCOV DEVEL.6巻(3号):317〜21頁に記載されている。一般的なSNP遺伝子型決定方法は、TaqManアッセイ、分子ビーコンアッセイ、核酸アレイ、対立遺伝子特異的プライマー伸長、対立遺伝子特異的PCR、アレイ型プライマー伸長、ホモジニアスプライマー伸長アッセイ、質量分析法による検出を伴うプライマー伸長、ピロシークエンシング、遺伝子アレイでソーティングされるマルチプレックスプライマー伸長、ローリングサークル増幅を用いるライゲーション、ホモジニアスライゲーション、OLA(米国特許第4,988,167号)、遺伝子アレイでソーティングされるマルチプレックスライゲーション反応、制限断片長多型、単一塩基伸長タグアッセイ、およびインベーダーアッセイを含むが、これらに限定されない。そのような方法は、検出機構、例えば、ルミネッセンスまたは化学発光検出、蛍光検出、時間分解蛍光検出、蛍光共鳴エネルギー移動、蛍光分極、質量分析法、および電気的検出などと組み合わせて使用することもできる。
【0101】
多型を検出するための種々の方法は、切断剤からの保護が、RNA/RNAまたはRNA/DNA二重鎖中におけるミスマッチ塩基を検出するために使用される方法(Myersら(1985年)SCIENCE 230巻:1242頁;Cottonら(1988年)PNAS 85巻:4397頁;およびSaleebaら(1992年)METH. ENZYMOL.217巻:286〜295頁)、バリアントおよび野生型核酸分子の電気泳動移動度の比較(Oritaら(1989年)PNAS 86巻:2766頁;Cottonら(1993年)MUTAT. RES. 285巻:125〜144頁;およびHayashiら(1992年)GENET. ANAL. TECH. APPL.9巻:73〜79頁)、および変性グラジエントゲル電気泳動(DGGE)を使用した、変性剤のグラジエントを含有するポリアクリルアミドゲルにおける多型または野生型断片の移動のアッセイ(Myersら(1985年)、NATURE 313巻:495頁)を含むが、これらに限定されない。特定の位置における配列の変化も、ヌクレアーゼ保護アッセイ、例えばRNアーゼおよびSI保護または化学切断方法により査定することができる。
【0102】
好ましい実施形態では、SNP遺伝子型決定は、5’ヌクレアーゼアッセイとしても公知のTaqManアッセイ(米国特許第5,210,015号および第5,538,848号)を使用して実施される。TaqManアッセイは、PCR中に特定の増幅生成物の蓄積を検出する。TaqManアッセイは、蛍光性レポーター色素およびクエンチャー色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを利用する。レポーター色素は、適当な波長で照射により励起され、エネルギーを、同じプローブ中のクエンチャー色素に、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と呼ばれるプロセスを通して移動させる。プローブに取り付けられたとき、励起されたレポーター色素は、シグナルを放射しない。インタクトなプローブ中のレポーター色素にクエンチャー色素が近づくと、レポーターの蛍光の減少が維持される。レポーター色素およびクエンチャー色素は、それぞれ最も5’側の端および最も3’側の端にあってもよく、または逆の場合も可能である。あるいは、レポーター色素が、最も5’側または最も3’側の端にある場合があり、一方クエンチャー色素は、内部のヌクレオチドに取り付けられているか、または逆の場合もある。さらに別の実施形態では、レポーターおよびクエンチャーの両方が、内部のヌクレオチドに、レポーターの蛍光が減少するような互いからある距離で取り付けられていることもある。
【0103】
PCR中に、DNAポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性がプローブを切断し、それによりレポーター色素とクエンチャー色素を分離して、レポーターの蛍光の増大を生じさせる。PCR生成物の蓄積は、レポーター色素の蛍光の増大をモニターすることにより直接検出される。DNAポリメラーゼは、プローブがPCR中に増幅される標的SNP含有鋳型にハイブリダイズした場合にのみ、レポーター色素とクエンチャー色素の間でプローブを切断して、プローブは、特定のSNP対立遺伝子が存在する場合にのみ、標的SNP部位にハイブリダイズするようにデザインされている。
【0104】
好ましいTaqManプライマーおよびプローブの配列は、本明細書で提供されるSNPおよび関連する核酸配列情報を使用して、容易に決定することができる。Primer Express(Applied Biosystems、Foster City、CA)などの多くのコンピュータプログラムを、最適のプライマー/プローブのセットを迅速に得るために使用することができる。SNPを検出するためのそのような本発明のプライマーおよびプローブは、がんを含む種々の障害について予後のアッセイに有用であり、キットフォーマットに容易に組み込むことができることは、当業者には明らかであろう。本発明は、当技術分野において周知のTaqmanアッセイの改変、例えば、分子ビーコンプローブの使用(米国特許第5,118,801号および第5,312,728号)および他のバリアントフォーマット(米国特許第5,866,336号および第6,117,635号)も含む。
【0105】
多型の正体も、リボプローブ(Winterら(1985年)PNAS 82巻:7575頁;Meyersら(1985年)Science 230巻:1242頁)およびヌクレオチドのミスマッチを認識するタンパク質、例えばE.coli mutSのタンパク質(Modrich(1991年)Ann. Rev. Genet. 25巻:229〜253頁)を使用するRNアーゼ保護方法を含むが、これらに限定されないミスマッチ検出技法を使用して決定することができる。あるいは、バリアントの対立遺伝子は、一本鎖高次構造多型(SSCP)分析(Oritaら(1989年)Genomics 5巻:874〜879頁;Humphriesら、Molecular Diagnosis of Genetic Diseases、R. Elles編、321〜340頁、1996年)または変性グラジエントゲル電気泳動(DGGE)(Wartellら(1990年) Nucl. Acids Res.18巻:2699〜2706頁;Sheffieldら(1989年)PNAS 86巻:232〜236頁)により同定することができる。
【0106】
ポリメラーゼに媒介されるプライマー伸長方法は、多型(複数可)を同定するためにも使用することができる。いくつかのそのような方法は、特許および科学文献に記載されており、「遺伝子ビット分析」方法(WO92/15712)およびリガーゼ/ポリメラーゼに媒介される遺伝子ビット分析(米国特許第5,679,524号)を含む。関連する方法が、WO91/02087、WO90/09455、WO95/17676、米国特許第5,302,509号、および第5,945,283号に開示されている。多型を含有する伸長されたプライマーは、米国特許第5,605,798号に記載されたように質量分析法により検出することができる。別のプライマー伸長方法は、対立遺伝子特異的PCRである(Ruanoら(1989年)NUCL. ACIDS RES.17巻:8392頁;Ruanoら(1991年)NUCL. ACIDS RES.19巻、6877〜6882頁;WO93/22456;Turkiら(1995年)J CLIN. INVEST.95巻:1635〜1641頁)。それに加えて、複数の多型部位を、Wallaceら(WO89/10414)に記載された対立遺伝子特異的プライマーのセットを使用して、核酸の複数の領域を同時に増幅させることにより調べることもできる。
【0107】
本発明のSNPの遺伝子型を決定するための別の好ましい方法は、OLAで2つのオリゴヌクレオチドプローブを使用することである(例えば、米国特許第4,988,617号を参照されたい)。この方法では、1つのプローブが、標的核酸のセグメントにSNP部位と整列した最も3’側の端でハイブリダイズする。第2のプローブが、第1のプローブに対してすぐ3’側で標的核酸分子の隣接するセグメントにハイブリダイズする。2つの並列したプローブは標的核酸分子へハイブリダイズし、第1のプローブの最も3’側のヌクレオチドとSNP部位の間に完全な相補性があれば、リガーゼなどの連結剤の存在でライゲーションされる。ミスマッチがあれば、ライゲーションは起こらないであろう。反応後、ライゲーションされたプローブは標的核酸分子から分離され、SNPの存在の指示薬として検出される。
【0108】
全て参照により本明細書に組み込まれる、以下の特許、特許出願、および公開された国際特許出願は、種々のタイプのOLAを実施するための技法に関係する追加の情報を提供する:米国特許第6,027,889号、第6,268,148号、第5,494,810号、第5,830,711号、および第6,054,564号は、SNP検出を実施するためのOLA戦略を記載している;WO97/31256およびWO00/56927は、zipコード配列がハイブリダイゼーションプローブの1つに導入されてもよく、生じた生成物または増幅生成物が、ユニバーサルzipコードアレイにハイブリダイズする、ユニバーサルアレイを使用してSNP検出を実施するためのOLA戦略を記載している;米国特許出願PCT/US01/17329(および出願番号09/584,905)は、OLA(またはLDR)とそれに続くPCRを記載しており、そこでzipコードはOLAプローブに組み込まれて、増幅されたPCR生成物は、電気泳動またはユニバーサルzipコードアレイの読出しにより決定される;米国特許出願第60/427,818号、第60/445,636号、および第60/445,494号は、SNPlex方法およびOLAとそれに続くPCRを使用するマルチプレックス化SNP検出のためのソフトウェアを記載しており、そこではzipコードがOLAプローブに組み込まれて、増幅されたPCR生成物がzipchute試薬とハイブリダイズされ、SNPの正体がzipchuteの電気泳動読出しから決定される。一部の実施形態では、OLAは、PCR(または核酸増幅の別の方法)に先立って実施される。他の実施形態では、PCR(または核酸増幅の別の方法)は、OLAに先立って実施される。
【0109】
SNP遺伝子型決定のための別の方法は、質量分析法に基づく。質量分析法は、DNAの4種のヌクレオチドの各々の固有の質量を利用する。別のSNP対立遺伝子を有する核酸の質量の差を測定することにより、SNPの遺伝子型を質量分析法により一義的に同定することができる。MALDI−TOF(マトリクス補助レーザー脱離イオン化−飛行時間)質量分析法の技術は、例えばSNPなどの極めて精密な分子量の決定のために好ましい。SNP分析に対する多数の手法が質量分析法に基づいて開発されている。SNP遺伝子型決定の質量分析法に基づく好ましい方法は、プライマー伸長アッセイを含み、その方法も、伝統的なゲルに基づくフォーマットおよびマイクロアレイなどの他の手法と組み合わせて利用することができる。
【0110】
典型的には、プライマー伸長アッセイは、プライマーをデザインして、標的SNPの位置から上流(5’側)の鋳型PCRアンプリコンにアニーリングすることを含む。ジデオキシヌクレオチド三リン酸(ddNTP)および/またはデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)の混合物を、鋳型(例えば、典型的にはPCRなどにより増幅されたSNP含有核酸分子)、プライマー、およびDNAポリメラーゼを含有する反応混合物に加える。プライマーの伸長は、混合物中のddNTPの1つに相補性のヌクレオチドが存在する、鋳型中の最初の位置で停止する。プライマーは、直ぐ隣接する(即ち、プライマーの3’末端にあるヌクレオチドが、標的SNP部位の隣のヌクレオチドにハイブリダイズする)かまたはSNPの位置から2個またはそれよりも多いヌクレオチドだけ隔たった位置のいずれかにあり得る。プライマーが、標的SNPの位置から数ヌクレオチド隔たっている場合、唯一の制限は、プライマーの3’末端とSNPの位置の間の鋳型配列が、検出されるべきものと同じタイプのヌクレオチドを含有することができないこと、またはこのことが、伸長プライマーの早すぎる停止の原因となることである。あるいは、4種全てのddNTPのみが、dNTPなしで、反応混合物に加えられる場合、プライマーは、常に、標的SNPの位置に相当する1ヌクレオチドしか伸長されない。この場合には、プライマーは、SNPの位置から1ヌクレオチド上流に結合するようにデザインされる(即ち、プライマーの3’末端にあるヌクレオチドが、標的SNP部位の5’側で標的SNP部位に直ぐ隣接するヌクレオチドにハイブリダイズする)。ほんの1ヌクレオチドの伸長は、伸長されたプライマーの全体的質量を最小化して、それにより別のSNPヌクレオチドとの間の質量差の分解能を増大させるので、好ましい。さらに、質量タグ付きのddNTPは、プライマー伸長反応で、改変されていないddNTPの代わりに使用することができる。これは、これらのddNTPで伸長されたプライマー間の質量差を増大させて、それにより向上した感度および精度を提供して、ヘテロ接合の塩基位置の型を決定するために特に有用である。質量タグ付けは、集約的な試料調製手順の必要性を緩和して、質量分析計の必要な分解能も減少させる。
【0111】
伸長されたプライマーは、次に精製され、MALDI−TOF質量分析法により分析され、標的SNPの位置に存在するヌクレオチドの正体を決定することができる。分析の1つの方法で、プライマー伸長反応からの生成物は、マトリクスを形成する光を吸収する結晶と組み合わされる。マトリクスは、次に、レーザーなどのエネルギー供給源に衝突され、核酸分子をイオン化して気相中に脱離させる。イオン化された分子は、次に飛行管中に射出され、検出器に向かって管内で加速される。レーザーパルスなどイオン化事象と検出器と分子の衝突との間の時間が、その分子の飛行時間である。飛行時間は、イオン化分子の電荷に対する質量の比(m/z)と精密に相関される。m/zがより小さいイオンは、m/zがより大きいイオンよりも速く管を移動して、それ故、より軽いイオンが、より重いイオンの前に検出器に到達する。次に、飛行時間は、対応するおよび高度に精密なm/zに変換される。この様式で、SNPは、単一の塩基位置に異なるヌクレオチドを有する核酸分子に固有の質量の僅かな差、および対応する飛行時間差に基づいて同定され得る。SNP遺伝子型決定のためのMALDI−TOF質量分析法に関連するプライマー伸長アッセイの使用に関するさらなる情報については、例えば、Wiseら、「A standard protocol for single nucleotide primer extension in the human genome using matrix−assisted laser desorption/ionization time−of−flight mass spectrometry」、RAPID COMMUN MASS SPECTROM.2003年;17巻(11号):1195〜202頁を参照されたい。
【0112】
以下の参照文献は、SNP遺伝子型決定のための質量分析法に基づく方法を記載するさらなる情報を提供する:Bocker(2003年)BIOINFORMATICS 19巻の補遺1巻:144〜153頁;Stormら(2003年)METHODS MOL. BIOL.212巻:241〜62頁;Jurinkeら(2002年)ADV BIOCHEM ENG BIOTECHNOL.77巻:57〜74頁;およびJurinkeら(2002年)METHODS MOL. BIOL.187巻:179〜92頁。
【0113】
SNPは、直接DNA配列決定によりスコアをつけることもできる。質量分析法による配列決定(例えば、PCT国際公開第WO94/16101号;Cohenら(1996年)ADV. CHROMATOGR.36巻:127〜162頁;およびGriffinら(1993年)APPL. BIOCHEM. BIOTECHNOL.38巻:147〜159頁を参照されたい)を含む種々の自動化された配列決定手順を利用することができる((1995年)BIOTECHNIQUES 19巻:448頁)。本発明の核酸配列は、当業者が、そのような自動化された配列決定手順のための配列決定プライマーを容易にデザインすることを可能にする。Applied Biosystems 377、3100、3700、3730、および3730x1 DNA Analyzers(Foster City、Calif)などの市販の計器類が、当技術分野で自動化された配列決定のために一般的に使用される。
【0114】
本発明のSNPの遺伝子型を決定するために使用することができる他の方法は、一本鎖高次構造多型(SSCP)、および変性グラジエントゲル電気泳動(DGGE)(Myersら(1985年)NATURE 313巻:495頁)を含む。SSCPは、Oritaら、PROC. NAT. ACAD.に記載されたように、一本鎖のPCR生成物の電気泳動移動における変化により塩基差を同定する。一本鎖のPCR生成物は、二本鎖のPCR生成物を加熱するかまたは他の方法で変性させることにより発生させることができる。一本鎖の核酸は、塩基配列に部分的に依存する二次構造を再びフォールディングするかまたは形成することができる。一本鎖の増幅生成物の異なる電気泳動移動度は、SNPの位置における塩基−配列差と関連する。DGGEは、異なる配列に依存する安定性および多型DNAに固有の融解特性および変性グラジエントゲルにおける電気泳動移動パターンにおける対応する差に基づいて、SNPの対立遺伝子を識別する(Erlich編、PCR Technology、Principles and Applications for DNA Amplification、W. H. Freeman and Co、New York、1992年、第7章)。
【0115】
配列特異的リボザイム(米国特許第5,498,531号)は、リボザイム切断部位の発生または喪失に基づいて、SNPにスコアをつけることに使用することもできる。完全にマッチした配列は、ヌクレアーゼ切断消化アッセイにより、または融解温度の差により、ミスマッチ配列と区別することができる。SNPが制限酵素切断部位に影響するならば、SNPは、制限酵素消化パターンにおける変化により同定することができ、核酸断片の長さにおける対応する変化はゲル電気泳動により決定される。
【0116】
SNP遺伝子型決定は、例えば、ヒト被験体からの生物学的試料(例えば、組織、細胞、体液、分泌物、その他の試料)を収集するステップ、試料の細胞から核酸(例えば、ゲノムDNA、mRNAまたは両方)を単離するステップ、標的核酸領域のハイブリダイゼーションおよび増幅が起こるような条件下で、核酸を、標的SNPを含有する単離された核酸の領域に特異的にハイブリダイズする1種または複数のプライマーと接触させるステップ、および目的のSNPの位置に存在するヌクレオチドを決定するステップを含むことができ、または、幾つかのアッセイでは、増幅生成物の存在または不在を検出することを含むことができる(アッセイは、ハイブリダイゼーションおよび/または増幅が、特定のSNP対立遺伝子が存在するかまたは存在しない場合にのみ起こるようにデザインすることができる)。幾つかのアッセイでは、増幅生成物のサイズが検出され、対照試料の長さと比較される;例えば、欠失および挿入は、正常遺伝子型と比較した増幅生成物のサイズにおける変化により検出することができる。
【0117】
SNP遺伝子型決定のための生物学的試料は、核酸を含有する任意の組織または流体であってもよい。種々の実施形態は、パラフィン包埋組織、凍結された組織、手術用の細い注射針による吸引物、および乳房、子宮内膜、卵巣、子宮、または子宮頸部の細胞を含む。他の実施形態は、流体試料、例えば、末梢血のリンパ球、リンパ液、腹水、漿液、痰、および糞便または膀胱洗浄液および尿などの泌尿器検体を含む。
【実施例】
【0118】
(実施例1)
KRASバリアント(rs61764370、GG/TG、LCS6)は、KRAS中のlet−7のマイクロRNA結合部位における生殖細胞系変異であり、それは、KRAS経路のシグナル伝達およびlet−7マイクロRNAレベルを変化させる。下で示すように、KRASバリアントは、放射線およびセツキシマブを用いてまたは用いずに化学療法で処置された局所的に進行した頭頸部扁平上皮細胞癌(HNSCC)を有する患者において、変化した応答のバイオマーカーとして作用することができる。ヒトパピローマウイルス(HPV)陽性であった患者における転帰に対するKRASバリアントの影響も調べた。
【0119】
下で詳細に説明するように、試験された413名の患者のうち、70名(16.9%)がKRASバリアントを有した。全体として、セツキシマブで処置されたKRASバリアント患者について、最初の1年の間における無増悪生存(PFS)に(HR0.31、p=0.04)、および1〜2年における全生存(OS)(HR0.19、p=0.03)に有意の改善があったが、非KRASバリアント群におけるセツキシマブ処置には利益がなかった。セツキシマブなしで処置された患者について、KRASバリアントとp16状態との有意の相互作用があった(p=0.04)。KRASバリアントおよびp16陽性であった患者は、非バリアント患者と比較して、より劣るPFS(HR2.59)およびOS(HR2.48)を有したが、それでもKRASバリアントおよびp16陰性であった患者は、非バリアント患者よりも良いPFSおよびOSを有した(それぞれHR0.62および0.61)。セツキシマブの添加は、KRASバリアント/p16陽性患者について、PFS(HR0.60)およびOS(HR0.21)を改善するように思われた。HPV陽性のHNSCC患者の免疫プロファイリングにより、KRASバリアント/p16陽性患者は、免疫が抑制されたベースラインと矛盾しない免疫の変化を有することが示され、それが彼らを非KRASバリアント患者と区別した。
【0120】
プロトコールおよび患者
NRG腫瘍学RTOG0522は、HNSCCが進行した患者について、同時にシスプラチンを含む放射線療法にセツキシマブを加えることを試験する第III相試験であった。2名の適格患者が、病理学的に証明された中咽頭、下咽頭、または喉頭の扁平上皮細胞癌を有し、選択されたステージIIIまたはIV疾患(T2 N2〜3 M0またはT3〜4 任意のN M0)、Zubrodパフォーマンスステータス0〜1、年齢≧18歳、および十分な骨髄、肝、および腎機能を有した。HPV状態は、以前に記載したように
1、2、p16発現により評価した。
【0121】
UCLA CCRO−022は、ヒトパピローマウイルスと関連する局所的に進行したHNSCCについての、2サイクルの誘発パクリタキセルおよびカルボプラチン化学療法とそれに続く放射線およびパクリタキセルの第II相試験であった。適格患者は、中咽頭、下咽頭または喉頭のステージIIIまたはIVのM0扁平上皮がんを有する、p16陽性の患者であった。Zubrodパフォーマンスステータス0〜1、年齢≧18歳、および十分な骨髄、肝、および腎機能も要求された。
【0122】
KRASバリアントの試験
末梢血単核細胞または全血から、ゲノムDNAを、遺伝子型決定について以前に記載されたように
31単離して、100ngをCLIA認証を受けた実験室で、KRASバリアントについて分析した(Mira Dx、New Haven、CT)。これらの分析のために、ホモ接合体の(GG)患者をヘテロ接合の(TG)患者とグループ化した。
【0123】
統計方法
局所領域不全(LRF)、遠隔転移(DM)、無増悪生存(PFS)、および全生存(OS)は、NRG腫瘍学RTOG0522のプロトコールで定義された通りである。LRFおよびDM率は、累積発生率法
32により推定した。PFSおよびOS率は、Kaplan−Meierの方法
33により推定した。ハザード比は、Coxモデル
34により推定した。有害事象は、Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)バージョン3.0により等級づけた。オッズ比は、ロジスティック回帰により推定した。患者の特徴は、フィッシャーの正確検定(カテゴリー的変数)またはウィルコクソン順位和検定(序数または連続変数)により比較した。全ての分析は、SASバージョン9.4を使用して実施した。
【0124】
CCRO HNSCC患者の免疫表現型決定
CCRO研究の一部であった26名のHNSCC患者からの血液試料を分析した。放射線処置前に、40mlまでの血液を採取してヘパリン処理されたBD vacutainer(登録商標)チューブ(BD、Franklin Lakes、NJ)に入れた。末梢血単核細胞(PBMC)を血液採取の3時間以内にFicollグラジエント遠心分離により単離して、アリコートで10%(v/v)DMSOを含有するウシ胎仔血清(FBS)中で、−80℃に制御された速度で凍結した後、アッセイまで液体窒素に移しておいた。
【0125】
患者からのPBMCを、予め加温した、10%(v/v)FBSを含むRPMI−1640培地で希釈することにより解凍し、DNアーゼで処理して洗浄した。各被験体からの4×10
6のアリコートを、固定可能な生存度染色液510(BD Horizon)を用いて、メーカーの指示に従って調製した後、リンパパネルおよび骨髄パネルの部分として表面マーカーについてアッセイした。リンパパネルを、FITC抗ヒトCD4(クローンRPA−T4)、PE抗ヒトCD25(クローンM−A251)、PE−CF594抗ヒトCXCR3(クローンIC6)、PerCP−Cy5.5抗ヒトCD3(クローンUCHT1)、PE−Cy7抗ヒトCD127(クローンHIL−7R−M21)、APC抗ヒトCD45RA(クローンHI100)、Alexa Flour 700抗ヒトCD8(クローンRPA−T8)、BV421抗ヒトPD−1(クローンEH12.2H7)およびBV650抗ヒトCCR6(クローン11A9)を含有するブリリアント染色緩衝液(BD Horizon/BD Biosciences)中で予め混合した。大部分の試料について、1〜2×10
6細胞を、BV605抗ヒトCCR7(クローン3D12)単独の存在下に37℃で、10分予備的に加熱活性化した後、50μlの2%FBS/PBS染色緩衝液(BD Pharmingen、San Diego、CA)中で20分間室温で染色した。細胞を洗浄して300μlのPBSに再懸濁して2時間以内にフローサイトメトリーにより分析した。可能であれば、2×10
5事象を、LSRFortessa(BD Biosciences、San Jose、CA)でUltraComp eBeads compensation(eBioscience,Inc.、San Diego、CA)を用いて累積させた。
【0126】
分析は、FlowJo,LLC(Ashland、OR)で、以下のゲーティング戦略を使用して行なった:1)ダブレット(doublet)を排除するFSC−H/FSC−Aドットプロット;2)生存度ゲートを設定するFVS510−A/FSC−Aドットプロット;3)リンパ球にゲートを設けるSSC−A/FSC−Aドットプロット;4)CD3
+T細胞のためにゲートを設定するCD3/FSC−Aドットプロット;5)CD3
+CD8
+およびCD3
+CD4
+T細胞を選択するCD8/CD4ドットプロット;5)ナイーブ、エフェクター、セントラルメモリーおよびエフェクターメモリーサブセットを詳細に分析するために、CCD7/CD45RA発現
35ならびにそれらのPD1レベルについて個々にチェックされるCD3
+CD8
+およびCD3
+CD4
+T細胞;7)制御性T細胞(Treg)はCD25
hiCD127
lo状態に従ってCD3
+CD4
+T細胞ゲート内で規定され、それに対してCXC3とCCR6の組み合わせは、Tヘルパー系統間の区別を導いた。品質制御は、全ての得られたデータが、生存度≧50%およびCD3
+CD8
+およびCD3
+CD4
+T細胞≧2,000であることを要求した。
【0127】
骨髄パネルは、ブリリアント染色緩衝液中で上記のように予め混合されたFITC抗ヒトHLA−DR(クローンG46−6)、PE抗ヒトCD14(クローンMqP9)、PE−CF594抗ヒトCD56(クローンBI59)、PerCP−Cy5.5抗ヒトCD11b(クローンICRF44)、PE−Cy7抗ヒトCD19(クローンHIB19)、APC抗ヒトCD15(クローンHI98)、Alexa Fluor700抗ヒトCD11c(クローンB−ly6)、APC−H7抗ヒトCD20(クローン2H7)、BV421抗ヒトCD123(クローン7G3)、BV510抗ヒトCD3(クローンUCHT1)、およびBV650抗ヒトCD16(クローン3G8)を含んだ。1〜2×10
6の細胞を、50μlの2%FBS/PBS染色緩衝液中で、30分間室温で染色し、洗浄して上記のように分析した。ゲーティング戦略は以下の通りであった:1)ダブレットをゲートにより排除するFSC−H/FSC−Aドットプロット;2)CD3
+リンパ球および死細胞を排除する510−A/FSC−Aドットプロット;3)生きているCD3
−CD19
−細胞および生きているCD3
−CD19
+細胞をCD20の同時発現に基づいて最終的にB細胞を生じさせるCD19
+サブセットとともに選択するCD19/FSC−Aドットプロット;4)CD19
−サブセットを、HLA−DR
+骨髄系統とHLA−DR
−骨髄系統の間を識別するために使用した;6)DR
+細胞は、古典的、中間および非古典的単球のためのCD14/CD16発現により単球のサブセットに導かれた、7)それと反対にDR
−細胞は、本発明者らをCD11b
+CD14
−/loCD15
hi顆粒球性骨髄から誘導されたサプレッサー細胞(gMDSC)に導いた;8)生きているCD3
−CD19
−細胞を、CD11b
+DR
lo/−CD14
+単球系骨髄から誘導されたサプレッサー細胞(mMDSC)、CD14
−CD56
+CD16
+/−NK細胞ならびに骨髄(CD11c
hi/CD14
−)変種(flavor)の樹状細胞および形質細胞様(CD123
hi/CD14
−)変種の樹状細胞にゲートさせるために使用した
35。
【0128】
全てのデータは、Studentのt−検定を用いて統計有意性について分析した。統計有意性は5%水準であった。
【0129】
結果
KRASバリアントを有するおよび有しない患者の臨床特徴
940名の患者をNRG腫瘍学RTOG0522に登録し、そのうち891名(94.8%)は、プロトコール分析のために適格であり、413名は、KRASバリアントの試験に利用可能な生物学的試料を有した(46.4%)。KRASバリアントについて試験されなかった患者は、KRASバリアントについて試験された患者よりも有意に低年齢(p=0.02)であったが、差の中央値は僅か2年であった(56歳対58歳)(表1)。PFSおよびOSも、KRASバリアントについて試験された患者および試験されなかった患者について同様であった[PFSハザード比0.92(95%CI 0.76から1.13);OSハザード比0.99(95%CI 0.78から1.25)]。
【表1-1】
【表1-2】
【0130】
分析時に、生存患者についての追跡期間の中央値は4.8年であった(範囲は0.2から6.9年)。KRASバリアントについて試験された413名の研究参加者のうち、5名(1.2%)がホモ接合(GG)および65名(15.7%)がヘテロ接合(TG)であり、この患者集団における全体的有病率は16.9%という結果であった。KRASバリアントとp16陽性の関連はなく、KRASバリアントは、p16陰性患者の17.4%およびp16陽性患者の16.0%に見出され、以前の研究と一致した
23。
【0131】
セツキシマブで処置された群 対 処置されなかった群における臨床特徴
KRASバリアントコホート内の、セツキシマブで処置されたサブセットは、セツキシマブを受けなかったサブセットより多くのp16陽性で中咽頭腫瘍を有する患者を有し(86.7%対50.0%、p=0.05)、白色人種の患者はより少なかった(87.5%対100%、p=0.04;表2)。非バリアントコホート内の、セツキシマブで処置されたサブセットは、セツキシマブを受けなかったサブセットよりも有意に年齢が低くかったが、差の中央値は2年に過ぎなかった(59歳対57歳、p=0.05)。
【表2-1】
【表2-2】
【0132】
KRASバリアント状態、セツキシマブおよび無増悪生存
KRASバリアント群において、セツキシマブ処置の有意の陽性効果が、最初の1年にPFSについて見出された(ハザード比0.31、95%CI 0.10から0.94、p=0.04)が、しかし1年後には有意差は見出されなかった(ハザード比1.76、95%CI 0.62から4.95、p=0.28)。KRASバリアント患者について、セツキシマブ処置の効果は、時間をわたり有意に変化した[処置と無増悪生存時間の間の相互作用についてp=0.02(>1年)]。非バリアント群では、セツキシマブのPFSに対する影響はなく、処置効果のハザード比[セツキシマブ/セツキシマブなし]は1.00であった(95%CI 0.72から1.38、p=0.98)。KRASバリアント状態および割り当てられた処置によるPFSを
図1Aに示す。KRASバリアントおよび非バリアント患者の両方を含む多変量解析(表3)で、処置、時間(>1年)およびKRAS群の間で相互作用は依然有意であり(p=0.02)、KRASバリアント群では処置と時間との間に相互作用があるが、非バリアント群ではないことを示す。最初の1年におけるKRASバリアント群についての処置効果は、0.42(p=0.12)であり、その後1.22(p=0.64)であった(相互作用についてp=0.10)。非バリアント群では、処置効果は、最初の1年およびその後に、それぞれ1.20(p=0.39)および0.79(p=0.38)であった(相互作用についてp=0.21)。
【表3】
【0133】
[0124]不全のパターンの多変量解析は、LRFよりもむしろDMが、KRASバリアント患者についてPFSにおける差に貢献している可能性があること:KRASバリアント群では、DMについての処置効果は、0.45であり(95%CI 0.12から1.70)およびLRFについては0.84(95%CI 0.29から2.42)であることを示す。非バリアント群では、DMおよびLRFについての処置効果は、それぞれ、0.90(95%CI 0.48から1.70)および1.24(95%CI 0.80から1.92)である。KRASバリアント状態および割り当てられた処置によるLRFおよびDMを、
図1Bおよび1Cに示す。
【0134】
KRASバリアント状態、セツキシマブおよび全生存
KRASバリアント患者について、OSに対して、最初の2年には8週間のセツキシマブ処置の有意にポジティブな影響もあったが(ハザード比0.19、95%CI 0.04から0.86、p=0.03)、その後はなかった(ハザード比2.34、95%CI 0.58から9.41、p=0.23)。処置効果と生存時間(>2年)の間の相互作用は有意であり(p=0.02)、最初の2年とその後では異なる処置効果を示した。非バリアント群では、セツキシマブ処置の全生存に対する影響はなかった(処置効果ハザード比[セツキシマブ/セツキシマブなし]0.90(95%CI 0.62から1.30、p=0.56)。KRASバリアント状態および割り当てられた処置によるOSを、
図1Dに示す。KRASバリアント患者および非バリアント患者の両方を含む多変量解析(表3)において、処置、時間(>2年)、およびKRAS群の間の相互作用は有意であり(p=0.04)、KRASバリアント群では処置と時間との間に相互作用があるが、非バリアント群ではそれがないことが示された。KRASバリアント群についての最初の2年における処置効果は0.27(p=0.09)であり、その後は1.47(p=0.46)である(相互作用についてp=0.05)。非バリアント群では、処置効果は、最初の2年では0.89(p=0.62)であり、その後0.81(p=0.49)(相互作用についてp=0.80)である。
【0135】
KRASバリアント患者および毒性の転帰
KRASバリアント患者は、セツキシマブを用いなくても用いてもグレード3〜4の同様なレベルの粘膜炎(47.4%対50.0%)を有し、差は有意でないように思われた[OR 1.11(95%CI 0.43から2.85)、p=0.83]。対照的に、セツキシマブの添加は、非バリアント患者におけるグレード3〜4粘膜炎を37.9%から50.6%に増大させ、差は有意であった(OR 1.68[95%CI 1.09から2.58]、p=0.02)(表4A)。しかしながら、KRASバリアントの状態、セツキシマブ処置および粘膜炎の間の相互作用の検定は、有意でなかった(p=0.43)。KRASバリアント患者も、セツキシマブを用いなくても用いても、門脈内側にグレード3〜4の同様なレベルの皮膚反応を有した、18.4%対15.6%(OR 0.82[95%CI 0.23から2.89]、p=0.76)(表4B)。対照的に、非バリアント患者について、セツキシマブの添加は、門脈内側のグレード3〜4の皮膚反応を11.2%から21.8%に増大させ、差は有意であった(OR 2.21[95%CI 1.21から4.01]、p=0.05)が、やはり相互作用の検定は有意でなかった(p=0.16)。非バリアント患者およびKRASバリアント患者の両方とも、セツキシマブで増大した門脈外側の皮膚反応を発生させた(非バリアントのOR 50.15、p<0.001;KRASバリアントのOR 8.54、p=0.05)(表4C)。KRASバリアント患者は、粘膜および門脈内側の皮膚の両方で、非バリアント患者と比較してより高いベースラインの毒性を有するように思われたが、これらの差は、おそらく試料サイズのために、統計的に有意ではなかった。
【表4】
【0136】
KRASバリアント、セツキシマブ、およびp16
セツキシマブで処置された群におけるp16および境界線上の不均衡の既知の予後値のために、p16の状態を考慮して、KRASバリアント患者における転帰を評価した。PFSについては、セツキシマブ処置、KRAS、およびp16(p=0.20)の間に3通りの相互作用について幾つかの証拠がある。セツキシマブを用いずに処置された患者では、KRASとp16の間の2通りの相互作用が有意であった(p=0.04)。KRASバリアント/p16陽性患者は、非バリアント/p16陽性患者と比較してより劣るPFS(HR2.59)を有した。反対の効果が、KRASバリアント/p16陰性患者で見られ、彼らは、非バリアント/p16陰性患者と比較して、改善されたPFSを有した(HR0.62)(
図2A)。
【0137】
対照的に、8週間のセツキシマブ処置は、KRASバリアント患者について、PFSに対するp16の差次的な効果を除くように思われた(p16陽性に対してHR0.89およびp16陰性に対して0.77;p=0.84)(
図2B)。セツキシマブ処置効果は、非バリアント/p16陽性患者の1.74(処置とKRASの間の相互作用についてp=0.14)と比較して、KRASバリアント/p16陽性患者では0.60であるので、セツキシマブのポジティブな影響は、主としてKRASバリアント/p16陽性患者に限定されるように見えた。p16陰性患者では、処置効果は、KRASバリアントおよび非バリアント患者について同様であるが、時間により影響され得る(HR1.10および0.88、相互作用についてp=0.75)。
【0138】
OSについて、セツキシマブ処置、KRASバリアントの状態、およびp16(p=0.02)の間に、有意の3通りの相互作用がある。セツキシマブを用いずに処置された患者(p=0.10)とセツキシマブを用いて処置された患者で(p=0.11)、p16によるKRASの差次的な効果があり得る。セツキシマブを用いずに処置された場合、KRASバリアント/p16陽性患者は、非バリアント/p16陽性患者と比較してより劣ったOS(HR2.48)を有した。反対の効果がKRASバリアント/p16陰性患者で見られ、彼らは、非バリアント/p16陰性患者と比較して改善されたOSを有した(HR0.61)(
図3A)。
【0139】
OSについて、8週間のセツキシマブ処置は、KRASバリアント患者について転帰に影響し続けるように思われ、KRASバリアント/p16陽性患者は、非バリアント/p16陽性患者よりも良いOSを有した(HR0.22)(
図3B)。p16陽性患者では、処置効果は、非バリアント患者の2.36(処置とKRASの間の相互作用についてp=0.05)と比較して、KRASバリアント患者では0.21である。反対の効果が、KRASバリアント/p16陰性患者で見られ、彼らは、セツキシマブ添加(HR1.43)でより劣るOSを有するように思われたが、それらのOSは時間をわたり劇的に減少した。p16陰性患者では、処置効果は、非バリアント患者における0.62と比較して、KRASバリアント患者で1.47である(p=0.24)。
【0140】
セツキシマブが、KRASバリアント患者に対して、PFSおよびOSにどのように有意に影響したかを理解するために、KRASバリアント患者について、局所不全および遠隔不全を、8週間のセツキシマブ処置のみをともなって、またはそれをともなわずに評価した。KRASバリアント/p16陰性患者では、セツキシマブは、これらの患者が局所不全を有しなかったので、局所不全を減少させるように思われる。KRASバリアント/p16陽性患者では、セツキシマブの添加で局所不全にいかなる改善も生じなかったように思われる(
図1E)。セツキシマブは、p16陽性または陰性のいずれであっても、KRASバリアント患者については、遠隔転移性不全の率を減少させるように思われ、それが、p16陽性患者については長く持続したが、p16陰性患者では続かなかった(
図1F)。
【0141】
KRASバリアントおよび免疫学的展望
KRASバリアント/p16陽性患者が、セツキシマブの添加で有意に改善されたOSを有したが、セツキシマブを用いない場合、おそらく遠隔転移性疾患における変化により有意に劣ったという事実は、KRASバリアント患者は、放射線に対して不十分な免疫応答を有し得、セツキシマブは何らかの形でそれを克服することに役立つことを示す。それ故、KRASバリアント患者で、照射前のベースライン免疫における差を評価するために、p16陽性HNSCC患者で免疫系を評価した。
【0142】
p16陽性の進行したHNSCC患者のコホートで、本発明者らは、放射線処置の開始前に、ベースライン免疫のプロファイリングを実施した。男性と女性とは、彼らの免疫学的構成が実質的に異なり得るという事実のために、また被験体の大部分(26名のうち21名;81%)は、この研究において男性であったので、分析は、男性のみを含めて能率化した。このコホート中のKRASバリアントを有する男性(3/21)におけるベースライン免疫は、その残りとは、比較的多くのCD4
+PBMC(p=0.034)ならびより高いCD4/CD8比(p=0.036)を有することにより、有意に異なった。対照的に、ナチュラルキラー細胞(NK、p=0.017)および顆粒球性骨髄から誘導されたサプレッサー細胞(gMDSC、p=0.029)は、KRASバリアント患者で有意に少なかった(
図4A)。CD4系統内で、CD45RA
+CCR7
−エフェクター細胞は、たとえ統計的に有意でなくても、CD45RA
+CCR7
+ナイーブおよびCD45RA
−CCR7
+セントラルメモリーサブセットの利点になることはより頻度が少ない(p=0.006)。それ故、KRASバリアント患者は、リンパおよび骨髄系統の両方に影響する免疫の均衡が大きくシフトしているようであり、そのことはベースライン免疫の欠損と矛盾しないようである(
図4B)。
【0143】
(実施例2)
以下の例は、KRASバリアント患者における増大した放射線感受性を示す。臨床的に変化した放射線感受性の生物学的および機構的根拠を研究するために、一連の正常およびがんのマッチした、同質遺伝子のKRASバリアントを有する細胞系統と有しない細胞系統を、標的化ゲノム編集により創り出した(表5)。
【表5】
【0144】
KRASバリアントの位置的ヘテロ接合の挿入を、各同質遺伝子対で、DNAおよびRNAの配列決定により確認した。対立遺伝子特異的mRNA発現およびウェスタンブロットによるKRASタンパク質発現の分析により、各同質遺伝子対について、KRASの遺伝子座における2対立遺伝子の発現を確認した。最終的に、各同質遺伝子細胞系統の真正性をGenetica LaboratoriesにおけるSTR分析により証明した。
【0145】
二本鎖(DS)切断修復は、KRASバリアント腫瘍組織と比較してKRASバリアント正常組織で非効率的である。ベースライン、ならびに同質遺伝子対で、放射線をともなうおよび放射線をともなわない残存二本鎖切断を評価するために、γH2AXアッセイを実施した。KRASバリアントを有するかまたは有しない正常および腫瘍組織を代表するMCF10AおよびH1299細胞系統を評価した。細胞を5Gyで照射して、ベースライン、放射線後30分および4時間に、FITCコンジュゲートγH2AXの免疫蛍光分析を、フローサイトメトリーによりで実施した(
図5)。正常組織(MCF10A、1番と表示された青のバーおよび2番と表示された赤のバー)では、全ての時点で、KRASバリアント細胞系統においてより多くの二本鎖切断があった(赤対青、2つの別のバリアント系統の平均、標準偏差を含む)ことが見出された。対照的に、腫瘍組織(H1299、3番と表示された緑色のバーおよび4番と表示された紫色)では、ベースラインおよび4時間で、KRASバリアント系統では二本鎖切断がより少なかったことが見出された(紫色対緑色)。これらの知見は、腫瘍組織と比較してKRASバリアント正常組織におけるより劣ったDNA維持および修復を示す。
【0146】
KRASバリアントの同質遺伝子正常組織(MCF10A)および腫瘍(H1299)細胞系統の放射線感受性を、正常および腫瘍両方の同質遺伝子のKRASバリアントを有するかまたは有しない細胞系統におけるクローン原性の細胞生存アッセイを使用して評価した。KRASバリアントの正常組織細胞系統は、その姉妹非バリアント系統と比較して、劇的に放射線感受性であることが観察された。その非バリアント姉妹と比較して、KRASバリアント腫瘍系統における適度な放射線感受性が観察された(
図6)。
【0147】
(実施例3)
以下の例は、KRASバリアント患者が、免疫療法に対する毒性応答、即ち、免疫に関連する有害な事象(irAE)を経験する尤度の統計的に有意な低下を有することを示す。irAEは、例えば、Abdel−Wahabら、PLOS ONE、11巻(7号):e0160221頁(2016年)で論じられている。
【0148】
抗PD1抗体療法Keytruda(登録商標)(ペンブロリズマブ)またはOpdivo(登録商標)(ニボルマブ)で、または抗PDL1抗体療法のTECENTRIQ(登録商標)(アテゾリズマブ)で処置された88名の患者からデータを集めた。表6に示したように、処置を受けた88名の患者のうち、57名の患者は、処置に対する応答で毒性を経験しなかったが、31名の患者が、毒性応答を経験した。毒性を経験しない57名の患者のうち、14名がKRASバリアントを有した。毒性を経験した31名の患者のうち、2名がKRASバリアントを有した。表6に示したこれらのデータのカイ2乗分析に基づいて、4.4268のカイ2乗値および0.035378のp値(p<0.05が有意である)を考慮すると、KRASバリアントを保有している患者は、免疫療法を用いる処置に対して、KRASバリアントを保有していない患者と比較して、毒性応答の尤度の統計的に有意な低下を有することが示された。したがって、KRASバリアントを保有している患者は、免疫療法、例えば、チェックポイント阻害剤療法に対する無毒性応答を有する可能性が非常に高い。
【表6】
【0149】
したがって、この例に基づいて、医師は、患者がKRASバリアントを保有しているかどうかを決定することにより、患者に対して特定の免疫療法を投与するか否かを決定することができる。KRASバリアントの存在は、患者が治療に対する無毒性応答を有している可能性があること、および患者が治療を安全に続けると予想することができることを示すであろう。これは、医師が、患者のがんを処置するのに適した処置レジメンを決定する際に、考慮に入れるための1つの重要な要因である。対照的に、患者中におけるKRASバリアントの不在は、患者の免疫療法に対する予測される毒性を確定するものではない。
【0150】
等価物
本発明は、本発明の精神または必須の特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化することもできる。それ故、前述の実施形態は、本明細書に記載された本発明に対する限定を課すものではなく、全ての点で例示と考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は、前述の記載によらず、添付の特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の等価の意味および範囲内に入る全ての変化は本発明の内に包含されることが意図される。
【0151】
参照による組み込み
本出願で引用された全ての刊行物および特許文献は、恰も、個々の各刊行物または特許文献の内容全体が、本明細書に組み込まれたかの如く、同じ程度で、全ての目的のために、それらの全体で、参照により組み込まれる。
参照文献
【化15】
【化16】
【化17】
【国際調査報告】