(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
本発明は、支持体又は基板を備えるマイクロ流体キット又はデバイスであって、該支持体又は基板が少なくとも1つのチャネルを基板内に備え、チャネルが入口と、出口と、入口及び出口を接続する流路とを備え、入口及び出口が共に中央平面を画定し、流路の一部が中央平面を横方向に走り、中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を検出する認識部位又はセンシング領域を含む、マイクロ流体キット又はデバイスの、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱により分析物を検出するためのin vitroにおける使用に関する。
前記キット又はデバイスが、赤外線カメラ又はサーモパイルからなるリストから選択される、前記外部光源を照射した場合に前記金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイスを更に備える、請求項4〜6のいずれか一項に記載の使用。
基板を備えるキット又はデバイスであって、該基板が該基板内に少なくとも1つのチャネルを備え、該チャネルが入口と、出口と、該入口及び出口を接続する流路とを備え、該入口及び出口が共に中央平面を画定し、該流路の一部が該中央平面を横方向に走り、該中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を検出する認識部位を含み、
認識部位を含む、前記中央平面を横方向に走る流路の一部が、請求項1で規定される式IIによって表される、1つ以上のカルボン酸基を含有する前記ジアゾニウムアリール化合物で機能化され、上述の機能化によって生じるカルボン酸基がNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩又はニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩からなるリストから選択されるキレート剤に共有結合で連結し、該金属(II)塩がCu2+の塩として理解される、キット又はデバイス。
前記基板がポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)又は環状オレフィンコポリマー等の熱可塑性材料で構成され、前記認識部位又はセンシング領域に固定化された、前記標的分析物を認識することが可能な抗体を備える、請求項8に記載のキット又はデバイス。
赤外線カメラ又はサーモパイルからなるリストから選択される、前記外部光源を照射した場合に前記金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイスを更に備える、請求項8〜14のいずれか一項に記載のキット又はデバイス。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本発明の目的上、以下の定義が下記に含まれる。
【0012】
「含む(comprising)」という用語は、「含む」という語の前にある(follows)ものを含み、これに限定されないことを意味する。このため、「含む」という用語の使用は、列挙される要素が所要又は必須であるが、他の要素が任意であり、存在していても又は存在していなくてもよいことを示す。
【0013】
「のみからなる(consisting of)」は、「のみからなる」という句の前にあるものを含み、これに限定されることを意味する。このため、「のみからなる」という句は、列挙される要素が所要又は必須であり、他の要素が存在し得ないことを示す。
【0014】
本明細書で使用される「キット」又は「デバイス」という用語が任意の特定のデバイスに限定されず、本発明の実施に好適な任意のデバイスを含むことにも留意されたい。
【0015】
本明細書で使用される場合、「マイクロ流体力学」は、マイクロメートルサイズのチャネル内の液体の流れを取り扱う科学である。マイクロ流体力学とみなされるには、チャネルの少なくとも1つの寸法がマイクロメートル又は数十マイクロメートルの範囲でなくてはならない。マイクロ流体力学は、科学(マイクロチャネル内の流体の挙動の研究)及び技術(分析物を同定及び定量化する本明細書に開示されるデバイスのような様々な用途のためのマイクロ流体デバイスの製造)の両方としてみなすことができる。
【0016】
本明細書で使用される場合、「マイクロ流体チップ又はデバイス」は、材料(例えばガラス、シリコン、熱可塑性材料、又はポリジメチルシロキサン(PDMS)等のポリマー)にエッチング又は成形された一連のマイクロチャネルを指す。マイクロ流体チップを形成するマイクロチャネルは、所望の特徴(生化学的環境の混合、圧送、選別、制御)を達成するために互いに接続される。マイクロ流体チップ内に封じ込められた、このマイクロチャネルのネットワークは、マクロの世界とミクロの世界との境界面としてチップを貫通する入力口及び出力口によって外部と接続する。これらの孔を介して、液体(又は気体)が、外部能動システム(圧力調節器、プッシュシリンジ(push-syringe)又は蠕動ポンプ)によって又は受動的な方法(例えば静水圧)で、(チューブ、シリンジアダプタ又は更にはチップの単純な孔を介して)マイクロ流体チップに注入され、マイクロ流体チップから除去される。好ましくは、本明細書で使用される場合、「マイクロ流体チップ又はデバイス」は、サンドイッチ免疫測定法等の免疫測定法を行い、分析物を検出するのに特に好適な、支持体又は基板を備えるチップ又はデバイスであって、該支持体又は基板が基板内に少なくとも1つのチャネルを備え、チャネルが入口と、出口と、入口及び出口を接続する流路とを備え、入口及び出口が共に中央平面を画定し、流路の一部が中央平面を横方向に走り、中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を検出する認識部位又はセンシング領域を含む、チップ又はデバイスとして理解される。
【0017】
本明細書で使用される場合、「Heatsens方法論又は技術」という用語は、シグナル伝達系として金属ナノ粒子の光熱変換特性を用いる任意の方法論として理解される。バイオセンサーにおけるタグとしてこのシステムを使用する根拠は、表面プラズモン吸収バンドの存在による。これらの吸収バンドは、ナノ粒子に衝突する光の周波数が粒子伝導帯の電子の集団振動周波数と共鳴し、励起を引き起こす場合に生じる。この現象は、「局在表面プラズモン共鳴」(LSPR)として知られる。共鳴バンドのスペクトルにおける位置は粒子の形状、サイズ及び構造(中空又は中実)、並びに粒子が存在する誘電体媒質に応じて大きく異なる。LSPRは、高いモル吸光係数(約3×10
11M
−1cm
−1)をもたらし、10
6個のフルオロフォア分子に等しい効率及びナノ粒子に近接した局所電場の顕著な増大を伴う。金、銀又は銅ナノ粒子等の金属ナノ粒子が、この表面プラズモン共鳴効果を有する。好適な周波数のレーザー等の高強度外部光源を照射することで、これらの粒子は、吸収したエネルギーの一部を熱の形で放出することが可能であり、表面の周辺で局部的な温度の上昇を生じる。
【0018】
本明細書で使用される場合、「金属ナノ粒子」という用語は、標準電子顕微鏡法(electro-microscopy)を用いて測定可能な全ての幾何学的寸法が1nm〜1000nm、好ましくは1nm〜200nmであり、フォトニック特性を有する、酸化状態のいずれか又は合金のいずれかの金属原子の任意の単結晶又は多結晶クラスターとして理解される。本明細書に開示される金属ナノ粒子は、対称であっても又は非対称であってもよく、棒、角柱、星形又はナノケージ(nanocages)等の様々な形状を有する。本明細書に開示される金属粒子は、効率的な形で光を吸収し、熱を発生する能力を有する必要がある。「効率的な形」という用語は、当業者によって十分に理解され、効率的な形は、標準手段によって測定される温度対照射時間のプロットの傾きから得られる値である0.03℃/秒として理解することができるが、その値に限定されない。本発明の好ましい実施形態では、上記金属原子は貴金属である。本発明のより好ましい実施形態では、上記金属原子は金、銀又は銅原子である。本発明の更により好ましい実施形態では、これらは管状又は三角形の金又は銀原子である。
【0019】
本明細書で使用される場合、「カルボン酸官能基」又は「エポキシ官能基」又は「アミン官能基」又は「チオール官能基」又は「アジド官能基」又は「ハロゲン化物」又は「マレイミド官能基」又は「ヒドラジド官能基」又は「アルデヒド基」又は「アルキン基」という用語は、本明細書で共通一般知識によって理解されるように使用される。
【0020】
本発明において、外部光源は、380nm〜1100nmのエネルギーを有し、金、銀、銅、又はそれらの合金若しくは酸化状態のいずれかをベースとする金属粒子のLSPRバンドの励起を、好ましくは近赤外範囲(750nm〜1100nm)で(スペクトルの可視範囲で吸収する、サンプル中に存在する干渉生体分子(ヘモグロビン等)によるエネルギー吸収が、そのエネルギー範囲で起こらないため)生じる能力を有する任意の電磁放射源として理解される。
【0021】
本発明において、認識分子又は捕捉生体分子は、任意のタイプの化学的又は生物学的相互作用により特定の分析物を特異的に認識することが可能な任意の分子として理解される。
【0022】
本発明において、第2の認識分子又は検出生体分子は、任意のタイプの化学的又は生物学的相互作用により特定の分析物を特異的に認識することが可能な任意の分子として理解される。
【0023】
本発明のバイオセンサーに認識要素として使用される分子は、長期にわたって安定し、支持体及びナノ粒子の表面上に固定化した後もその構造及び生物活性を保存することに加え、特定の分析物を他の化合物の存在下で認識するのに十分に選択的な親和性を有する必要がある。抗体、ペプチド、酵素、タンパク質、多糖、核酸(DNA)、アプタマー又はペプチド核酸(PNA)を、開発されたシステムにおいて認識分子として使用することができる。
【0024】
説明
本発明は多種多様の分析物、例えばサルモネラ、大腸菌若しくはカンピロバクターのような食品病原体、Ara H 1等のアレルゲン、又はコラーゲン若しくはアルブミン等の他の分析物を迅速かつ効率的な形で同定する高度に特異的な高感度の方法を提供することの解決法を与える。
【0025】
この目的で、本発明の著者らは、Heatsens技術(定義を参照されたい)を用いて標的分析物を検出することが可能な抗体による多数の機能化表面を併用した。したがって、抗体による機能化表面と組み合わせた熱発生の制御が、本発明において開発された新世代の検出システムの基礎として選ばれた。本明細書で用いられる分析物を検出するプロトコルの段階を、3つの主要段階:サンプル前処理、処理及び検出に分けられる
図24に示すフローチャートにまとめる。
【0026】
この技術を実行するために、初めにサルモネラ・ティフィムリウムに特異的な抗体の適切なカップリングを、ELISA法及びドットブロットアッセイフォーマットを用いて試験した。分析物として、BacTRaceからの弱毒化サルモネラ・ティフィムリウム(https://www.kpl.com/catalog/productdetail.cfm?catalog_ID=17&Category_ID=415&Product_ID=952)を、アッセイを実行及び最適化するためのモデルとして使用した。
【0027】
分析物の存在の標識として酵素を使用する、この標準方法論(ELISA)を用いたサルモネラの検出では、
図25に示されるようにELISAアッセイの場合に1400CFU、ドットブロットアッセイフォーマットによる検出の場合に3125CFUの検出限界(LOD)が達成された。抗体が標的分析物(サルモネラ・ティフィムリウム)に結合することが実証された後、検出を行うための幾つかの表面を、センシングプラットホームの開発のためにHeatsens技術と組み合わせて試験した。特に、以下の表面:ニトロセルロース、PVDF、シクロオレフィンポリマー(COP)及びパターン化TiO
2フィルムが選ばれた。
【0028】
上述の表面を、抗体による機能化及び本明細書で下記に報告する熱伝導率についてのそれらの異なる能力から選択した:
ニトロセルロース 0.12W/(m K)〜0.21W/(m K)。
PVDF 0.17W/m−K〜0.19W/m−K。
シクロオレフィンポリマー(COP)(マイクロ流体チップ) 0.12W/(m K〜0.15W/(m K)。
パターン化TiO
2フィルム 11.8W/m.K。
【0029】
本発明全体を通して示されるように、検出表面として使用するのに理想的な表面は、i)配向結合を確実にする機能化方法論の使用を可能とし、ii)高い熱伝導率を有する必要がある。HEATSENSに使用される検出支持体の熱伝導率を増大することで、分析物と相互作用する金属ナノ粒子により放出される熱がより迅速かつより正確な形で熱検出器から測定されることから、分析物の免疫検出の感度が改善する。
【0030】
ここで、本明細書で試験した種々の表面の機能化を下記に説明する:
ニトロセルロース/PVDF:適正なバッファー中で適当な濃度の捕捉抗体を1ドット当たり15μl〜25μl(ニトロセルロース又はPVDFの中央近くに注意して液滴を添加する)、ドットブロットシステムを用いて700mbarの真空で堆積させ、700mbarの真空で10分間乾燥させた。その後、抗体で機能化された膜を、4mlの洗浄溶液(0.5%BSA及び0.5%Tweenを含むPBSバッファー)を添加することで2回洗浄し、撹拌しながら室温で10分間インキュベートした後、溶液を捨てた。次いで、膜を5mlのブロッキング溶液(5%BSA及び0.5%Tweenを含むPBSバッファー)と撹拌しながら37℃で60分間インキュベートし、先に述べた条件で更に2回洗浄した。これによりニトロセルロース膜は分析物とのインキュベーションが可能な状態となった。
パターン化TiO
2フィルム:5μg/mlの捕捉抗体を吸着させた後、表面をブロッキングした。
マイクロ流体チップ:シクロオレフィンポリマー及びPMMAで構成されるチップを、5μg/mlの捕捉抗体でポリマー表面への物理的吸着により機能化した。サンドイッチアッセイだけでなく、直接免疫測定法も試験するために、同様に種々のCFUのサルモネラもチップ表面上に直接吸着させた。
【0031】
ニトロセルロース又はPVDF膜及びパターン化TiO
2フィルムの分析物とのインキュベーションを行うために、バッファー(それぞれリン酸バッファー、ペプトン培養培地及び実サンプル)中の種々の濃度の分析物200μlと撹拌しながら37℃で30分間インキュベートした。インキュベートした支持体を、400μlの洗浄溶液(0.5%BSA及び0.5%Tweenを含むPBSバッファー)を添加することで2回洗浄し、撹拌しながら室温で5分間インキュベートした。この洗浄工程が完了したら、400μlの10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)を添加することで2回の付加的な洗浄工程を行い、表面を撹拌しながら室温で5分間インキュベートした。最終検出工程は、支持体とブロッキングバッファー(5%BSA及び0.5%Tweenを含むPBSバッファー)で希釈した20μg/mlのストレプトアビジン@nanoprismとの37℃で30分間のインキュベーションとした。次いで、表面を37℃で15分間乾燥させた。
図26に免疫測定法を行う検証手順の概要スキームを示す。
【0032】
各実験について、以下の対照:
捕捉抗体の非存在、
分析物の非存在、
ビオチン化検出抗体の非存在、
ストレプトアビジン@Nanoprismの非存在、
を導入して抗体とサルモネラとの特異的相互作用を検証した。
【0033】
サルモネラの検出を、初めに機能化膜/支持体と組み合わせた感熱紙を使用する半定量的な方法で行い、感熱紙の焼け(burning)として示した。使用した支持体は、捕捉抗体で機能化されたPVDFとし、200マイクロリットルのサンプル中150CFU〜6000CFUの範囲の種々の希釈率のサルモネラの捕捉、及び当然ながら検出を試験した。検出抗体で機能化されたnanoprismとのインキュベーション後の膜の照射により、200マイクロリットルのサンプル中150CFUのサルモネラの視覚的検出が達成され、検出を
図27に示す。
【0034】
しかしながら、上記の視覚的方法では、病原体が90CFU/ml未満の量のように僅か数CFU/mlと殆ど存在しない食品汚染サンプルへの使用に十分な検出限界は達成されなかった。
【0035】
この問題を解決するために、本発明の著者らは市販のサーモパイルを用いる定量的検出の使用を試みる。この意味で、IR照射時にnanoprismによって放出される熱を、MelexisによるMlX90620等のIRサーモパイルを使用して測定することができることに留意されたい。このサーモパイルはサンプルと接触させることなく熱放射を検出し、温度を測定するのに好適である。
【0036】
MlX90620サーモパイルは、専用の低雑音チョッパ安定化増幅器及び高速ADCが組み込まれた64個のIRピクセルを有する。PTAT(絶対温度比例;Proportional to Absolute Temperature)センサーが、チップの周囲温度を測定するために組み込まれる。これには3V単電源(±0.6V)が必要とされるが、デバイスは較正され、VDD=2.6Vで最高の性能を発揮する。MLX90620は、工場で広範な温度範囲:周囲温度センサーについては−40℃〜85℃、サンプル温度については−50℃〜300℃較正されている。アレイの各ピクセルが、独自の視野内の全ての物体の平均温度を測定する(nFOVと呼ばれる)。
【0037】
定量的検出のために、サルモネラを200マイクロリットルのサンプル中375CFU〜6000CFUの範囲の種々のCFU希釈率でPVDF支持体上に直接固定化し、特に375CFUを含有する希釈率及び700CFUを含有する希釈率を使用した。検出を、
図28に示されるように、分析物と相互作用するnanoprismの存在によって生じる温度の増分を測定することによって定量的に行った。
【0038】
陰性対照として、同じ検出プロトコルに従うが、サルモネラとはインキュベートしないこれらの膜の温度の上昇を測定した。期待されるように、サルモネラの非存在下でnanoprismは膜と相互作用せず、この対照の温度の増分の増大は観察されなかった。
【0039】
リン酸バッファーで予め希釈し、表面上に直接吸着させたサルモネラの存在下で、375CFUの温度の増分はおよそ19℃であり、一方で700CFUのサルモネラはおよそ27℃の増分を生じた。しかしながら、視覚的方法と同様、病原体が90CFU/ml未満の量のように僅か数CFU/mlと殆ど存在しない食品汚染サンプルへの使用に十分な検出限界は達成されなかった。
【0040】
この問題を解決するために、TiO
2パターン化支持体等のPVDF及びニトロセルロース以外の支持体の使用を試みた。しかし、これまでに示した視覚的検出方法及び定量的検出方法と同様、この場合も確実な形での十分な検出限界は達成されなかった。
【0041】
この問題を解決するために、マイクロ流体技術とHeatsens技術との組合せを試み、確実な形での十分な検出限界により標的分析物を検出することが可能な一連の免疫測定法を行った。この目的で、実施例の材料及び方法に示される製作された非修飾マイクロ流体チップを、2つの希釈率のサルモネラの直接固定化の試験に使用した。この目的で、60000CFU/ml及び20000CFU/mlのサルモネラT.を10μl(それぞれ表面上に合計で600CFU及び200CFU)、検出表面に吸着させた。病原体の直接固定化後に表面をBSAでブロッキングし、ビオチン化検出抗体と反応させた。最後に、これらを洗浄し、ストレプトアビジン−AuNanoprism溶液と更に反応させた。
【0042】
図2に、ビオチン化検出抗体による認識及びストレプトアビジン−Nanoprismとの更なる相互作用の後のサルモネラの存在に起因する、表面のNIR照射時に測定された温度の増分を示す。ビオチン化検出抗体の非存在下(NC2)では、ストレプトアビジン@AuNPrismの非存在下(NC3)と同様、有意でない温度の増分が見られる。温度の増分は、サルモネラのCFU量に比例していた。これらの結果から、マイクロ流体チップの製作及びそのHEATSENSへの応用についてのこの材料の適合性が示される。さらに、結果により種々のCFU希釈率のサルモネラをマイクロ流体チップ上に直接固定化し、検量線を作成する可能性が予想される。
【0043】
これらの結果を考慮して、次に0CFU/ml〜240000CFU/mlの範囲の種々の濃度(CFU/ml)のサルモネラTを10μl使用した。これらをマイクロ流体チップ上に直接吸着させ、抗サルモネラビオチン化抗体で検出して、種々の濃度のサルモネラの存在に起因する温度の増分を測定した。次いで、ストレプトアビジン@AuNprismを抗体と相互作用させ、全ての単一センシング領域にIRレーザーを照射した。各チャンバの温度を測定し、温度の増分を算出した。
図3にサルモネラのCFU/ml量に応じて算出された温度の増分を示す。
【0044】
測定された温度の上昇は、マイクロ流体チップの表面上に直接吸着させたCFU量の増大によるものであった。
【0045】
マイクロ流体チップがHEATSENS技術への応用に好適であることが示されたため、マイクロ流体チップを使用することにより選択病原体を検出するサンドイッチ型免疫測定法を行った。この目的で、マイクロチップの各マイクロチャンバを、5μg/mlの抗サルモネラ捕捉抗体(5μL)の表面への直接吸着により抗サルモネラ捕捉抗体で機能化した。次いで、サルモネラの捕捉事象、並びにストレプトアビジン−AuNprismでの検出及びストレプトアビジン−AuNprismとの相互作用を、1mlのサンプルを各チャネルに注入して流体モードで行った。アッセイは、リン酸バッファーで希釈したサルモネラの2つの異なるCFU/ml濃度、200000CFU/ml及び240000CFU/mlでそれぞれ行った。
図4にサルモネラTの存在に起因する温度の増分の傾向を説明する。検量線の傾向は線形でなく、分析物と相互作用する多量のnanoprismの存在に起因するシグナルの飽和が示された。2つの未知濃度のサルモネラの検出は、自由度調整済み決定係数(adj. R-Square)が0.98843に等しい曲線と値が一致する指数方程式から算出した。
【0046】
サンドイッチフォーマットでの免疫測定法の有効性が示されたため、ドープバッファー中の病原体の濃度を減少させることによってサルモネラt.の検出限界の改善を試みた。この意味で、1×PBS中1500CFU/mlのサルモネラT.が第1の試験で検出された最低(first lower)濃度であった。この目的で、1mlのサンプルを200μl/mlの流量でチャネルに注入した。サンプルを注入した後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)で洗浄した。次いで、200μl/mlを用いて2分間、検出抗体をその抗原と相互作用させた。300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)ですすいだ。ストレプトアビジン@AuNPrをチャネルに注入した。流量は200μl/mlで2分間とした。300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)ですすぎ、乾燥させた。
【0047】
図5に陰性対照に関する1500CFU/mlのサルモネラの温度の増分を示す。サルモネラの存在下でのマイクロチャンバの温度の増分は、サルモネラの非存在下(NC1)、検出抗体の非存在下(NC2)及びストレプトアビジン−AuNPrismの非存在下(NC3)のそれぞれの対照の温度増分よりも高かった。サルモネラの存在に起因する温度の増分は、予想値とは異なるにも関わらず、全ての陰性対照よりも高かった。陰性対照の温度の増分の正の値は、免疫測定法における試薬間の非特異的相互作用を示していた。非特異的相互作用は、表面の不完全な機能化及びブロッキング又は免疫測定法における不適切な流量に関連付けることができる。このようにして、表面抗体機能化を一定に保ち、免疫測定法における流量を変更することにより、
図6に示されるようにサルモネラの検出限界及びバックグラウンドに起因するシグナルを改善することが可能であった。
【0048】
同じ実験を、実食品サンプルである、種々のCFUのサルモネラをドープした225mlのペプトン事前富化培養培地中の25gの鶏肉を使用して行った。捕捉抗体をマイクロ流体チップ上に吸着させ、表面を1×PBS中の5%BSA−01%Tweenで150ml/分の流量を用いてブロッキングした。
【0049】
次いで、洗浄バッファーを使用することにより250μl/分の流量を用いて洗浄を行った。
【0050】
1mlの実サンプル中のサルモネラの捕捉、並びにビオチン化検出抗体による検出、及びストレプトアビジン@nanoprismとの相互作用を、15μl/分の流量での流れを用いて行った。
【0051】
マイクロ流体チップ内で行った免疫分析の結果を
図7に示す。検量線を作成した後、既知の種々の濃度のサルモネラに起因する温度の増分を測定することで、実サンプル中の病原体の未知濃度を検量線から決定した(
図8)。
【0052】
サルモネラをドープしたサンプルのより高い温度の増分から、マイクロ流体技術と組み合わせたHEATSENSが、225mlのペプトン中25gの鶏肉のような複雑なマトリックスについての数CFUの細菌の超高感度検出に好適であることが明らかに示される。
【0053】
実サンプル中のサルモネラの存在に起因する温度の増分は、細菌と抗体との特異的相互作用に影響を及ぼす多量の肉タンパク質の存在のために、リン酸バッファー中のものと僅かに異なる。
【0054】
HEATSENSとマイクロ流体技術との組合せが数CFUの分析物の超高感度検出に好適であることが示されたため、EDC/sulfo−NHS反応による第一級アミンとの安定したアミド結合の形成により、捕捉抗体を共有結合で固定化するのに使用されるマイクロ流体チップ表面をカルボン酸末端基で修飾することによって、この技術の改善を試みた。
【0055】
この意味で、10mM EDC及び20mM sulfo−NHSで予め活性化した各マイクロチャンバの表面を20μlの5μg/mlの捕捉抗体で機能化した。捕捉抗体の共有結合での固定化、及び37℃で1時間の1×PBS中の5%BSA/0.1%Tweenによる表面のブロッキングの後に、チップを蠕動ポンプに接続し、300μl/分の流量を用いて4分間洗浄バッファーで洗浄した。30CFU/mlのサルモネラT.を1ml、マイクロ流体チャネル内に150μl/分の流量で1分間流した後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルをバッファー溶液で洗浄した。次いで、400μlのビオチン化検出抗体をチャネル内に流した。
【0056】
図9に示す結果から、30CFU/mlのサルモネラをドープしたサンプルにおける温度増分が種々の対照と比較して高いことが示される。このタイプの固定化では、抗体は主に「フラットオン(flat-on)」配向をとり、Fc及び2つのFabフラグメントが表面上に横たわる。
【0057】
次いで、金属キレート化による抗体の配向固定化を試みた。固定化は、抗体の重鎖(Fc)中のヒスチジンに富む金属結合部位又はタンパク質に融合したポリHisタグ配列への金属キレート化によって達成した。金属結合部位がC末端又はN末端のいずれかにあることから、このように表面に結合する抗体及びHisタグ付きタンパク質は、結合部位が表面から離れた方向に向かって配向し、最大の抗原結合又は好都合なタンパク質配向が可能となる。さらに、金属キレート化による配向固定化は、金属キレート化固定化の結合定数が、ヒスチジン結合のキレート効果と複数の金属キレート基の標的結合との組合せのために非常に高いことから、安定した抗体固定化ももたらす。解離定数は10
−7M
−1〜10
−13M
−1と推定される。多くの用途について、これにより抗原−抗体相互作用と同等の結合強度がもたらされる。一方、金属キレート化による抗体の配向固定化のための抗体付着の実験条件は、共有結合での配向固定化手順に用いられるものよりも穏やかである。利点として、キレートへの抗体結合を便宜上、可逆的又は不可逆的に調整することもできる。加えて、hisタグ付き組み換えタンパク質の固定化に用いることもできることから、より多用途である。
【0058】
捕捉抗体の配向固定化を達成するために、マイクロ流体チャンバチップを表面の段階的修飾において金属−キレート錯体で機能化した。初めに、表面を例えば3−(4−アミノフェニル)プロピオン酸、3−アミノフェニル酢酸、4−アミノフェニル酢酸又は4−(4−ニトロフェニル)酪酸等のカルボン酸基を含有するアリールアミン化合物で機能化した。この具体例について、異なる生体分子の固定化であってもPhButを使用したが、炭素数2〜16の範囲の種々の長さのn−アルキルカルボン酸を有するアリールアミン化合物の使用がより適切であり得る。
【0059】
ジアゾ化(diazotated)PhButのアリールラジカルの共有結合グラフト化によって導入したカルボン酸基(スキームII)を、EDCによって触媒されるSNHSによるエステル化によって活性化し、遊離アミノ基を介したANTA−M(II)(Cu
2+、Ni
2+、Co
2+)錯体の共有結合を促進した(スキームIII)。次いで、これらを5μg/mlの捕捉抗体20μlとインキュベートした。得られるNTA−M(II)錯体の末端は、水分子によって占められる2つの遊離配位部位を含有し、捕捉抗体のヒスチジン残基に置き換えられて配向固定化が生じる。その後、チップを蠕動ポンプに接続し、300μl/分の流量を用いて4分間洗浄バッファーで洗浄した。1mlの30CFU/mlのサルモネラT.をマイクロ流体チャネル内に150μl/分の流量で1分間流した後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルをバッファーで洗浄した。次いで、400μlのビオチン化検出抗体をチャネル内に流した。
【0060】
図10に、配向した形の捕捉抗体で機能化されたマイクロ流体チップ上でのサルモネラの検出を示す。
【0061】
興味深いことに、このタイプの固定化についてのサルモネラの存在に起因する温度増分は、それぞれの対照について得られるものよりも高く、更には直接吸着及び共有結合での固定化についての先の結果で得られるものよりも更に高かった。この意味で、種々の固定化方法の比較研究を行った。種々の抗体表面機能化の戦略の比較を
図11に示すが、この例に示される表面機能化戦略の各々についての生成するバックグラウンドシグナルと比較した、検出されるサルモネラに起因する温度の増分が示される。
【0062】
図11に、金属キレート化による捕捉抗体の配向固定化が、サルモネラの存在に起因する温度増分の増大を生じるだけでなく、非特異的相互作用(バックグラウンド)によって生成するシグナルの減少を生じることにより最良の結果をもたらすことを示す。これらの結果から、チップの表面の正確な機能化戦略が、HEATSENS標識(金nanoprism等)の非特異的吸着を回避しながら最適な抗体付着を好都合な配向で得るのに極めて重要であることが示される。この方法が共有結合での配向固定化に優る利点を示すことも注目に値する。どちらの方法論も結合のための配向抗体付着が得られるという利点を有するが、抗体が主に「フラットオン」配向をとり、Fc及び2つのFabフラグメントが表面上に横たわる共有結合での固定化とは対照的に、金属キレート化固定化の場合、抗体は表面に垂直に配向した「エンドオン(end-on)」配向で配置される。
【0063】
次いで、実施例6に示される有利な抗体の配向固定化を、実サンプル中のサルモネラの検出について試験した。結果を
図12に報告するが、陰性対照によって生成するシグナルと比較した、既知のサルモネラCFU数をドープした実サンプル中のサルモネラに起因する温度の増分が示される。
【0064】
マイクロ流体チップ表面上に固定化された配向抗体上での実サンプル中のサルモネラの存在に起因する温度増分も、それぞれの対照について得られるものよりも高かった。検量線を作成した後、実サンプル中の既知の種々の濃度のサルモネラ及び未知濃度の病原体に起因する温度の増分の測定値を、
図13に報告されるように決定した。実サンプルにドープするのに使用される理論数のCFU/mlの存在に起因する温度の増分は、検量線のCFU数と一致する。
【0065】
したがって、マイクロ流体技術が、分析物検出のためのHEATSENSプロトコルを行うのに必要とされる好ましくは使い捨てのカートリッジの製作に最良のアプローチとして選択された。さらに、捕捉生体分子(抗体等)の配向配置と組み合わせたマイクロ流体技術が、分析物検出のためのHEATSENSプロトコルを行うのに必要とされる好ましくは使い捨てのカートリッジの製作に優れたアプローチとして本明細書で示された。
【0066】
最後に、実施例8、9及び10に明らかに示されるように、マイクロ流体技術とHeatsens技術との組合せは、多種多様の分析物、例えば、限定されるものではないが、微生物、添加剤、薬物、食品病原体等の病原微生物、食品成分、環境汚染物質、殺虫剤、ヌクレオチド、医療バイオマーカー等のバイオマーカー、又は毒性化合物等の検出及び定量化に好適であることに留意することが重要である。したがって、本明細書に記載されるセンサーシステムは任意の特異的な分析物に限定されない。
【0067】
Heatsens技術と組み合わせたマイクロ流体技術の使用
本明細書に開示されるように、様々な例示的な実施形態において、マイクロ流体チップが、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱により分析物を検出する多数の免疫測定法への使用に特に好適であることを示す。
【0068】
これらのデバイスは、1つ以上のサンプル流体中の1つ以上の標的分析物の存在を検出するのに有用である。かかるデバイスを作製及び使用する方法及びプロセスも実施例に開示される。
【0069】
したがって、本発明の第1の態様は、支持体又は基板を備えるマイクロ流体キット又はデバイスであって、該支持体又は基板が基板内に少なくとも1つのチャネルを備え、チャネルが入口と、出口と、入口及び出口を接続する流路とを備え、入口及び出口が共に中央平面を画定し、流路の一部が中央平面を横方向に走り、中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を検出する認識部位又はセンシング領域を含む、マイクロ流体キット又はデバイスの、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱により分析物を検出するためのin vitroにおける使用に関する。
【0070】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、流路の一部は中央平面を複数回横方向に走る。本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、流路の一部が中央平面を実質的に垂直に走っていてもよい。本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、流路の一部が入口から出口に向かって連続的に走っていてもよい。本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、デバイスは複数のチャネルを有する。本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態では、デバイスは、1つ以上のチャネルの各々に認識部位を有する複数のマイクロチャンバを有する。本発明の第1の態様のまた別の好ましい実施形態では、各チャネルの入口は、共通ローディングチャネルに接続される。本発明の第1の態様の更に別の好ましい実施形態では、デバイスは、実施例の材料及び方法のセクションに記載のマイクロチップ又はデバイスの特徴を含む。
【0071】
加えて、本発明の第1の態様のデバイスの基板又は表面は、熱可塑性材料、シリコン、金属又は炭素等の様々な材料から構成されていてもよいことに留意されたい。好ましくは、これはポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカーボネート、環状オレフィンコポリマー、シリコン、ガラス等により構成され得る。
【0072】
実施例において説明されるように(実施例6〜9を参照されたい)、マイクロチップの表面のセンシング領域の機能化は、捕捉生体分子の共有結合又は配向配置をもたらすことによってセンサーの特徴を改善する。
【0073】
このため、本発明の第1の態様又はその好ましい実施形態のいずれかの別の好ましい実施形態では、認識部位又はセンシング領域を含む中央平面を横方向に走る流路の一部を、1つ以上のカルボン酸官能基又はエポキシ官能基又はアミン官能基又はチオール官能基又はアジド官能基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基で機能化する。
【0074】
これらのタイプの表面を上述の官能基で機能化する種々の方法を実施例に示す。いずれにせよ、概して、
a. 支持体又は基板がコオレフィンポリマー等の熱可塑性材料で構成される場合、機能化は、1つ以上のカルボン酸基又はエポキシ基又はアミン基又はチオール基又はアジド基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基を含有するジアゾニウムアリール化合物を使用して行われ、
b. 支持体又は基板がポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコン材料又はガラスで構成される場合、機能化は、1つ以上のカルボン酸基又はエポキシ基又はアミン基又はチオール基又はアジド基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基を保有する有機官能性アルコキシシラン分子を用いた自己集合により行われ、
c. 支持体又は基板が鉄、コバルト、ニッケル、白金、パラジウム、亜鉛、銀、銅又は金等の金属で構成される場合、機能化は、1つ以上のカルボン酸基又はエポキシ基又はアミン基又はチオール基又はアジド基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基(例えば、金及び銀の場合はチオール基)を保有する金属と相互作用することが可能な分子を用いた自己集合により行われ、
d. 支持体又は基板がグラフェン等の炭素材料で構成される場合、機能化は、上記工程a)において確立されるように、又はアルデヒド及びカルボン酸官能基を生成する酸化により、又は1つ以上のカルボン酸基若しくはエポキシ基若しくはアミン基若しくはチオール基若しくはアジド基若しくはハロゲン化物若しくはマレイミド官能基若しくはヒドラジド官能基若しくはアルデヒド若しくはアルキン基を有する機能化ポリマーの疎水性結合により行われる。
【0075】
上記の表面のいずれかをカルボン酸官能基で機能化するのが好ましい。より好ましくは、支持体又はマイクロ流体チップ若しくはデバイスは熱可塑性材料で構成され、ジアゾニウムアリール化合物は下記式I又はIIによって表される:
【化1】
(式中、Rは1個〜15個の炭素原子を有するアルキル基又はエチレン基であり、
Zはカルボン酸基、エポキシ基、アミン基、チオール基、アジド基、ハロゲン化物、マレイミド官能基、ヒドラジド官能基、アルデヒド基又はアルキン基、好ましくはカルボン酸基又はエポキシ基である)、又は、
【化2】
(式中、Rは1個〜15個の炭素原子を有するアルキル基である)。
【0076】
上記式I又はIIのジアゾニウム成分は、これらの式のいずれかのアルキル又はエチレン成分に対してパラ位又はメタ位に配置する又は位置付けるのが好ましい。上記式I又はIIのいずれかのジアゾニウムアリール化合物の作製に好適なアリールアミン化合物の例は、3−(4−アミノフェニル)プロピオン酸、3−アミノフェニル酢酸、4−アミノフェニル酢酸、4−(4−ニトロフェニル)酪酸又は4−(4−アミノフェニル)酪酸である(実施例を参照されたい)。
【0077】
本発明の第1の態様の更に好ましい実施形態では、マイクロチップ又はデバイスの表面を、好ましくはNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩、ニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩、イミノ二酢酸(IDA)金属(II)塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)金属(II)塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)金属(II)塩からなるリストから選択されるキレート剤で更に修飾又は機能化し、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等の二価金属の塩として理解される。これは、キレート剤と上記で言及される活性化官能基のいずれか(キレート剤と直接反応させるために活性化する必要がないエポキシ基のような基を除く)との直接反応によって達成され、ここで、
カルボン酸基は、EDC/SNHS媒介アミド化(スキームIII)により活性化することができ、
アミン基はカルボニル基で活性化することができ、
チオール基は、スルフヒドリル反応性架橋剤を形成することによって活性化することができ、ここで、スルフヒドリルはマレイミド、ハロアセチル又はピリジルジスルフィドから選択することができ、
アルキン又はアジド基はクリック化学により活性化することができ、
アルデヒド基はシッフ塩基形成により活性化することができる。
【0078】
好ましくは、支持体は熱可塑性材料で構成され、アリールアミン化合物は、(N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)によって触媒される、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド塩(Sulfo−NHS)でのエステル化により活性化されたカルボン酸基を含有する。
【0079】
より好ましくは、支持体は熱可塑性材料で構成され、アリールアミン化合物は、(N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)によって触媒される、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド塩(Sulfo−NHS)でのエステル化により活性化されたカルボン酸基を含有し、キレート剤はNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩であり、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等の二価金属の塩として理解される。
【0080】
実施例において説明されるように、ANTA金属(II)塩等のキレート剤によるマイクロチップの表面の活性化は、改善されたセンシングプラットホームをもたらす抗体の配向配置を達成するのに特に有利である。
【0081】
本発明の第1の態様又はその好ましい実施形態のいずれかの更に好ましい実施形態では、認識部位又はセンシング領域を含む中央平面を横方向に走る流路の一部が、
a. 認識部位若しくはセンシング領域上に固定化された標的分析物を認識することが可能な認識分子、又は、
b. 認識部位若しくはセンシング領域上に固定化された分析物、
を備えていてもよい。
【0082】
好ましくは、上記認識分子は、限定されるものではないが、ペプチド、多糖、毒素、タンパク質受容体、レクチン、酵素、抗体、抗体フラグメント、組み換え抗体、抗体デンドリマー錯体、核酸(DNA、RNA)、ペプチド核酸(PNA)、分子インプリントからなるリストから選択することができる。上記認識分子は抗体、そのフラグメント又は組み換え抗体であるのが好ましい。
【0083】
本発明の第2の態様では、本発明の第1の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源、
b. 標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子、又は、
c. フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
d. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0084】
本発明の第3の態様では、本発明の第1の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源、又は、
b. 標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子で機能化された、フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
c. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0085】
本発明の第4の態様では、本発明の第1の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源、
b. 任意に標識分子に結合した、標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子(検出生体分子)、又は、
c. 検出生体分子若しくは検出生体分子を修飾する標識を特異的に認識する生体分子で機能化された、フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
d. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0086】
本発明の第2〜第4の態様のいずれかのキット又はデバイスは、赤外線カメラ又はサーモパイルからなるリストから選択される、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイスを更に備えるのが好ましい。
【0087】
本発明の第5の態様は、分析物が微生物、添加剤、薬物、食品病原体等の病原微生物、食品成分、環境汚染物質、殺虫剤、ヌクレオチド、医療バイオマーカー等のバイオマーカー、又は毒性化合物である、先の本発明の態様のいずれかによるデバイスの使用に関する。標的分析物は、サルモネラ、カンピロバクター、コラーゲン、アルブミン及びAra H1からなるリストから選択されるのが好ましい。
【0088】
抗体の配向固定化のために機能化されたセンシング領域を有するマイクロ流体デバイス又はチップ
実施例6〜9において確立されるように、抗体等の捕捉生体分子が配向配置を有するようにマイクロチップ又はデバイスのセンシング領域を機能化することにより、マイクロチップ技術とHeatsens技術とを組み合わせたセンサーシステムにおける分析物の検出について明らかな利点がもたらされる。
【0089】
このため、本発明の第6の態様は、支持体又は基板を備えるキット又はデバイスであって、該支持体又は基板が基板内に少なくとも1つのチャネルを備え、チャネルが入口と、出口と、入口及び出口を接続する流路とを備え、入口及び出口が共に中央平面を画定し、流路の一部が中央平面を横方向に走り、中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を検出する認識部位又はセンシング領域を含み、
認識部位又はセンシング領域を含む中央平面を横方向に走る流路の一部がキレート剤で機能化された、
キット又はデバイスに関する。
【0090】
本発明の第6の態様の好ましい実施形態では、キレート剤はNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩、ニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩、イミノ二酢酸(IDA)金属(II)塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)金属(II)塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)金属(II)塩からなるリストから選択されるのが好ましく、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等、好ましくはCu
2+の二価金属の塩として理解される。キレート剤はNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩又はニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩からなるリストから選択されるのが好ましく、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等、好ましくはCu
2+の二価金属の塩として理解される。これは、キレート剤と活性化官能基との直接反応によって達成され、ここで、
カルボン酸基は、EDC/SNHS媒介アミド化(スキームIII)により活性化することができ、
アミン基はカルボニル基で活性化することができ、
チオール基は、スルフヒドリル反応性架橋剤を形成することによって活性化することができ、ここで、スルフヒドリルはマレイミド、ハロアセチル又はピリジルジスルフィドから選択することができ、
アルキン又はアジド基はクリック化学により活性化することができ、
アルデヒド基はシッフ塩基形成により活性化することができる。
【0091】
好ましくは、支持体は熱可塑性材料で構成され、アリールアミン化合物は、(N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)によって触媒される、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド塩(Sulfo−NHS)でのエステル化により活性化されたカルボン酸基を含有する。
【0092】
より好ましくは、支持体は熱可塑性材料で構成され、アリールアミン化合物は、(N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)によって触媒される、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド塩(Sulfo−NHS)でのエステル化により活性化されたカルボン酸基を含有し、キレート剤はNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩又はニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩からなるリストから選択され、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等、好ましくはCu
2+の二価金属の塩として理解される。
【0093】
本発明の第6の態様又はその好ましい実施形態のいずれかの更に好ましい実施形態では、認識部位又はセンシング領域を含む中央平面を横方向に走る流路の一部が、
a. 認識部位若しくはセンシング領域上に固定化された標的分析物を認識することが可能な認識分子、又は、
b. 認識部位若しくはセンシング領域上に固定化された分析物、
を備えていてもよい。
【0094】
好ましくは、上記認識分子は、限定されるものではないが、ペプチド、多糖、毒素、タンパク質受容体、レクチン、酵素、抗体、抗体フラグメント、組み換え抗体、抗体デンドリマー錯体、核酸(DNA、RNA)、ペプチド核酸(PNA)、分子インプリントからなるリストから選択することができる。上記認識分子は抗体、そのフラグメント又は組み換え抗体であるのが好ましい。
【0095】
本発明の第7の態様では、本発明の第6の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源、
b. 標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子、又は、
c. フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
d. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0096】
本発明の第8の態様では、本発明の第6の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源(好ましくは、外部光源は発光ダイオード(LED)からなり、該光源は600nm〜1100nmで発光するのが好ましい)、又は、
b. 標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子で機能化された、フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
c. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0097】
本発明の第9の態様では、本発明の第6の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源、
b. 任意に標識分子に結合した、標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子(検出生体分子)、又は、
c. 検出生体分子若しくは検出生体分子を修飾する標識を特異的に認識する生体分子で機能化された、フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
d. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0098】
本発明の第7又は第8の態様のいずれかのキット又はデバイスは、赤外線カメラ又はサーモパイルからなるリストから選択される、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイスを更に備えるのが好ましい。
【0099】
サンプル流体中の分析物の存在の検出に好適なマイクロチップ技術とHeatsens技術とを組み合わせたセンサーシステム
本発明の付加的な態様は、マイクロチップ技術とHeatsens技術とを組み合わせた完全センサーシステムに関する。
【0100】
したがって、本発明の第10の態様は、サンプル流体中の分析物の存在を検出するデバイス又はシステムであって、
a. 支持体又は基板と、
b. 基板内のチャネルであって、チャネルが入口と、出口と、入口及び出口を接続する流路とを備え、入口及び出口が共に中央平面を画定し、流路の一部が中央平面を横方向に走り、中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を認識することが可能な認識分子(捕捉生体分子)が上に固定化されたセンシング領域を含む、チャネルと、
c. レーザー又はLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源と、
d. 標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子(検出生体分子)と、
e. フォトニック特性を有する金属ナノ粒子と、
f. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイスと、
を備える、デバイス又はシステムに関する。
【0101】
本発明の第11の態様は、サンプル流体中の分析物の存在を検出するデバイス又はシステムであって、
a. 基板と、
b. 基板内のチャネルであって、チャネルが入口と、出口と、入口及び出口を接続する流路とを備え、入口及び出口が共に中央平面を画定し、流路の一部が中央平面を横方向に走り、中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を認識することが可能な認識分子(捕捉生体分子)が上に固定化されたセンシング領域を含む、チャネルと、
g. レーザー又はLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源と、
c. 標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子(検出生体分子)で機能化された、フォトニック特性を有する金属ナノ粒子と、
d. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイスと、
を備える、デバイス又はシステムに関する。
【0102】
本発明の第12の態様は、サンプル流体中の分析物の存在を検出するデバイス又はシステムであって、
a. 基板と、
b. 基板内のチャネルであって、チャネルが入口と、出口と、入口及び出口を接続する流路とを備え、入口及び出口が共に中央平面を画定し、流路の一部が中央平面を横方向に走り、中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を認識することが可能な認識分子(捕捉生体分子)が上に固定化されたセンシング領域を含む、チャネルと、
c. レーザー又はLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源と、
d. 任意に標識分子に結合した、標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子(検出生体分子)と、
e. 検出生体分子又は検出生体分子を修飾した標識を特異的に認識する生体分子で機能化された、フォトニック特性を有する金属ナノ粒子と、
f. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイスと、
を備える、デバイス又はシステムに関する。
【0103】
本発明の第10〜第12の態様のいずれかのシステム又はデバイスのセンシング領域を、「Heatsens技術と組み合わせたマイクロ流体技術の使用」と題するセクションに記載される技法のいずれかに従い、該セクションに記載される官能基のいずれかを用いて機能化することができることに留意されたい。用いられる機能化は認識分子、好ましくは抗体の配向配置を可能とするのが好ましい。
【0104】
加えて、本発明の第10〜第12の態様のいずれかの完全センサーシステムの構成要素の1つとして言及されるマイクロチップ又はデバイスを、「Heatsens技術と組み合わせたマイクロ流体技術の使用」と題するセクションに記載の実施形態のいずれかに記載されるように更に特徴付けることができることに更に留意されたい。
【0105】
Heatsens技術を用いて分析物を検出することによって免疫測定法を行うのに好適なマイクロチップ又はデバイスのセンシング領域を機能化するプロセス
実施例において説明されるように(実施例6〜9を参照されたい)、マイクロチップの表面のセンシング領域の機能化は、捕捉生体分子の共有結合又は配向配置をもたらすことによってセンサーの特徴を改善する。
【0106】
「Heatsens技術と組み合わせたマイクロ流体技術の使用」と題するセクション又は「抗体の配向固定化のために機能化されたセンシング領域を有するマイクロ流体デバイス又はチップ」と題するセクションにおいて既に確立されているように、Heatsens技術を用いて分析物を検出することによって免疫測定法を行う際に使用されるマイクロチップ又はデバイスのセンシング領域は、多数の異なる方法で機能化することができる。マイクロチップ又はデバイスを機能化する種々の方法は、本発明全体を通して示される、機能化すべき材料のタイプ及びマイクロチップ又はデバイスのいずれかのセンシング領域を機能化することが望まれる有機官能基(カルボン酸官能基又はエポキシ官能基又はアミン官能基又はチオール官能基又はアジド官能基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基等)のタイプに応じて異なる。
【0107】
この意味で、マイクロチップ又はデバイスの基板又は表面が熱可塑性材料、シリコン、金属又は炭素等の様々な材料から構成されていてもよいことに留意されたい。好ましくは、これはポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカーボネート、環状オレフィンコポリマー、シリコン、ガラス等により構成することができる。
【0108】
これらのタイプの表面を上述の官能基で機能化する種々の方法が実施例に示される。この意味で、本発明の第13の態様は、支持体又は基板を備えるマイクロチップ又はデバイスであって、該支持体又は基板が基板内に少なくとも1つのチャネルを備え、チャネルが入口と、出口と、入口及び出口を接続する流路とを備え、入口及び出口が共に中央平面を画定し、流路の一部が中央平面を横方向に走り、中央平面を横方向に走る流路の一部が、標的分析物を検出する認識部位又はセンシング領域を含む、マイクロチップ又はデバイスのセンシング領域を機能化する方法に関し、
ここで、
a. 支持体又は基板がコオレフィンポリマー等の熱可塑性材料で構成される場合、機能化は、1つ以上のカルボン酸基又はエポキシ基又はアミン基又はチオール基又はアジド基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基を含有するジアゾニウムアリール化合物を使用して行われ、
b. 支持体又は基板がポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコン材料又はガラスで構成される場合、機能化は、1つ以上のカルボン酸基又はエポキシ基又はアミン基又はチオール基又はアジド基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基を保有する有機官能性アルコキシシラン分子を用いた自己集合により行われ、
c. 支持体又は基板が鉄、コバルト、ニッケル、白金、パラジウム、亜鉛、銀、銅又は金等の金属で構成される場合、機能化は、1つ以上のカルボン酸基又はエポキシ基又はアミン基又はチオール基又はアジド基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基(例えば、金及び銀の場合はチオール基)を保有する金属と相互作用することが可能な分子を用いた自己集合により行われ、
d. 支持体又は基板がグラフェン等の炭素材料で構成される場合、機能化は、上記工程a)において確立されるように、又はアルデヒド及びカルボン酸官能基を生成する酸化により、又は1つ以上のカルボン酸基若しくはエポキシ基若しくはアミン基若しくはチオール基若しくはアジド基若しくはハロゲン化物若しくはマレイミド官能基若しくはヒドラジド官能基若しくはアルデヒド若しくはアルキン基を有する機能化ポリマーの疎水性結合により行われる。
【0109】
好ましくは、マイクロ流体チップ又はデバイスの支持体が熱可塑性材料で構成される場合、ジアゾニウムアリール化合物は下記式I又はIIによって表される:
【化3】
(式中、Rは1個〜15個の炭素原子を有するアルキル基又はエチレンであり、
Zはカルボン酸基、エポキシ基、アミン基、チオール基、アジド基、ハロゲン化物、マレイミド官能基、ヒドラジド官能基、アルデヒド基又はアルキン基、好ましくはカルボン酸基又はエポキシ基である)、又は、
【化4】
(式中、Rは1個〜15個の炭素原子を有するアルキル基である)。
【0110】
上記式I又はIIのジアゾニウム成分は、これらの式のいずれかのアルキル又はエチレン成分に対してパラ位又はメタ位に配置する又は位置付けるのが好ましい。上記式I又はIIのいずれかのジアゾニウムアリール化合物の作製に好適なアリールアミン化合物の例は、3−(4−アミノフェニル)プロピオン酸、3−アミノフェニル酢酸、4−アミノフェニル酢酸、4−(4−ニトロフェニル)酪酸又は4−(4−アミノフェニル)酪酸である。
【0111】
本発明の第13の態様の更に好ましい実施形態では、マイクロチップ又はデバイスの表面を、好ましくはNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩、ニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩、イミノ二酢酸(IDA)金属(II)塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)金属(II)塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)金属(II)塩からなるリストから選択されるキレート剤で更に修飾又は機能化し、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等の二価金属の塩として理解される。これは、キレート剤と上記で言及される活性化官能基のいずれかとの直接反応によって達成され、ここで、
カルボン酸基は、EDC/SNHS媒介アミド化(スキームIII)により活性化することができ、
アミン基はカルボニル基で活性化することができ、
チオール基は、スルフヒドリル反応性架橋剤を形成することによって活性化することができ、ここで、スルフヒドリルはマレイミド、ハロアセチル又はピリジルジスルフィドから選択することができ、
アルキン又はアジド基はクリック化学により活性化することができ、
アルデヒド基はシッフ塩基形成により活性化することができる。
【0112】
好ましくは、支持体は熱可塑性材料で構成され、アリールアミン化合物は、(N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)によって触媒される、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド塩(Sulfo−NHS)でのエステル化により活性化されたカルボン酸基を含有する。
【0113】
より好ましくは、支持体は熱可塑性材料で構成され、アリールアミン化合物は、(N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)によって触媒される、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド塩(Sulfo−NHS)でのエステル化により活性化されたカルボン酸基を含有し、キレート剤はNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩又はニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩からなるリストから選択され、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等、好ましくはCu
2+の二価金属の塩として理解される。
【0114】
実施例において説明されるように、ANTA金属(II)塩等のキレート剤によるマイクロチップの表面の活性化は、改善されたセンシングプラットホームをもたらす抗体の配向配置を達成するのに特に有利である。
【0115】
抗体の配向固定化のために機能化されたセンシング領域を有するキット又はデバイス
最後に、実施例に示されるように、抗体等の捕捉生体分子が配向配置を有するように任意の支持体(ガラス等のマイクロチップ又はデバイスの支持体でなくてもよい)のセンシング領域を機能化することによって、Heatsens技術を用いたセンサーシステムにおける分析物の検出について明らかな利点がもたらされることに留意されたい。
【0116】
このため、本発明の第14の態様は、支持体又は基板を備えるキット又はデバイスであって、該基板又は表面が熱可塑性材料、シリコン、金属又は炭素等の様々な材料から構成されていてもよく、上記支持体又は基板が標的分析物を検出する認識部位又はセンシング領域を含み、該認識部位又はセンシング領域がキレート剤で機能化される、キット又はデバイスに関する。
【0117】
本発明の第14の態様の好ましい実施形態では、キレート剤は、好ましくはNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩、ニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩、イミノ二酢酸(IDA)金属(II)塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)金属(II)塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)金属(II)塩からなるリストから選択され、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等の二価金属の塩として理解される。キレート剤は、キレート剤と活性化官能基との直接反応により支持体を機能化し、ここで、
カルボン酸基は、EDC/SNHS媒介アミド化(スキームIII)により活性化することができ、
アミン基はカルボニル基で活性化することができ、
チオール基は、スルフヒドリル反応性架橋剤を形成することによって活性化することができ、ここで、スルフヒドリルはマレイミド、ハロアセチル又はピリジルジスルフィドから選択することができ、
アルキン又はアジド基はクリック化学により活性化することができ、
アルデヒド基はシッフ塩基形成により活性化することができる。
【0118】
「Heatsens技術を用いて分析物を検出することによって免疫測定法を行うのに好適なマイクロチップ又はデバイスのセンシング領域を機能化するプロセス」と題するセクションでは、本発明全体を通して言及される有機官能基のいずれかを用いて種々の支持体又は表面を機能化する方法を説明していることに留意されたい。
【0119】
支持体は、1つ以上のカルボン酸基又はエポキシ基又はアミン基又はチオール基又はアジド基又はハロゲン化物又はマレイミド官能基又はヒドラジド官能基又はアルデヒド又はアルキン基を保有する有機官能性アルコキシシラン分子を用いた自己集合により機能化されたガラスで構成されるのが好ましく、上記官能基は任意に活性化されており、キレート剤、好ましくはNα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)金属(II)塩又はニトリロ三酢酸(NTA)金属(II)塩からなるリストから選択されるキレート剤と直接反応し、ここで、金属(II)塩はCu
2+、Ni
2+又はCo
2+等、好ましくはCu
2+の二価金属の塩として理解される。
【0120】
本発明の第14の態様又はその好ましい実施形態のいずれかの更に好ましい実施形態では、認識部位又はセンシング領域は、
a. 認識部位若しくはセンシング領域上に固定化された標的分析物を認識することが可能な認識分子、又は、
b. 認識部位若しくはセンシング領域上に固定化された標的分析物、
を備えていてもよい。
【0121】
好ましくは、上記認識分子は、限定されるものではないが、ペプチド、多糖、毒素、タンパク質受容体、レクチン、酵素、抗体、抗体フラグメント、組み換え抗体、抗体デンドリマー錯体、核酸(DNA、RNA)、ペプチド核酸(PNA)、分子インプリントからなるリストから選択することができる。上記認識分子は抗体、そのフラグメント又は組み換え抗体であるのが好ましい。
【0122】
本発明の第15の態様では、本発明の第14の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源、
b. 標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子、又は、
c. フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
d. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0123】
本発明の第16の態様では、本発明の第14の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源、又は、
b. フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
c. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0124】
本発明の第17の態様では、本発明の第6の態様又はその好ましい実施形態のいずれかのキット又はデバイスは、以下の要素:
a. レーザー若しくはLED光等のHeatsens技術への使用に好適な外部光源、
b. 任意に標識分子に結合した、標的分析物を認識することが可能な第2の認識分子(検出生体分子)、又は、
c. 検出生体分子若しくは検出生体分子を修飾する標識を特異的に認識する生体分子で機能化された、フォトニック特性を有する金属ナノ粒子、及び、
d. 任意に、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイス、
の少なくとも1つを更に備えていてもよい。
【0125】
本発明の第15〜第17の態様のいずれかのキット又はデバイスは、赤外線カメラ又はサーモパイルからなるリストから選択される、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱を検出することが可能なデバイスを更に備えるのが好ましい。
【0126】
最後に、本発明の第18の態様は、本発明の第14〜第17の態様のいずれかのキット又はデバイスの、外部光源を照射した場合に金属ナノ粒子によって発生する熱により分析物を検出するためのin vitroにおける使用に関する。
【0127】
本明細書において本発明を広く一般的に記載した。一般的開示に含まれるより狭い種及び亜属集団(sub-generic groupings)の各々も本発明の一部をなす。これには、削除される事柄が本明細書で具体的に挙げられているか否かに関わらず、その属から任意の対象を除く条件又は否定的限定を伴う本発明の一般的記載が含まれる。
【0128】
他の実施形態が以下の特許請求の範囲及び非限定的な例に含まれる。加えて、本発明の特徴又は態様が群に関して記載される場合、それにより本発明が群の任意の個々の成員又は成員の亜群に関しても記載されることが当業者には認識される。
【実施例】
【0129】
材料及び方法
マイクロチップの製作
病原体、例えばサルモネラ及びカンピロバクター、Ara h1等のアレルゲン、並びにアルブミン及びコラーゲン等の他のタンパク質分子の検出のためのサンドイッチ免疫測定法を、本発明のマイクロ流体チップにおいて実行した。これらを
図1に示されるように、以下の目標仕様を満たすように適切にスケッチし、製作した:
1. マイクロ流体チップの製作への熱可塑性材料(コオレフィンポリマー)の使用、特に50μm〜150μmの範囲の厚さを有するフィルムの使用。本実施例に使用したマイクロチップは、温度をモニタリングする側に約100μmの厚さを有する熱可塑性材料を使用することによって構成した。
2. おおよその寸法が5mm×3mm、深さが0.1mm、総容量が1μl〜3μlのマイクロチャンバの組込み。マイクロ流体チャンバの容量は1μlである。
3. 各マイクロチャンバは、更に互いに少なくとも10mm離れるものとする。
4. 少なくとも3つの異なる液体の挿入が可能な使い勝手の良い設計。
5. 5つの異なる検出チャネルの組込み
1×対照(検量線も含む):
検出チャネル1つ当たり一列の5つのマイクロチャンバを含む。各マイクロチャンバに専用の入口及び出口を含む、全てのマイクロチャンバが一列に配置される。
4×検出:
検出チャネル1つ当たり一列の3つのマイクロチャンバを含む。
各検出チャネルが専用の出口を有する。
【0130】
最終チップ設計は、試薬の直接的挿入を可能にする3つの専用の入口を含む(
図1を参照されたい)。次いで、検出アッセイが5つの異なるマイクロチャネルに分けられる。カートリッジの最上部に配置されたマイクロチャネルは、較正プロトコルを行うのに専用のものである。これは既知の濃度の分析物を含む5つの異なるマイクロチャンバを含む。他の4つのマイクロチャネルがアッセイ自体に使用され、異なるサンプル及び内部対照の使用が可能となる。汚染問題を回避するために、専用の入口を用いて各サンプルを注入する。加えて、各サンプルマイクロチャネルは、統計的に関連したアッセイの反復試験を行うための3つの等しいマイクロチャンバを含むように設計した。
【0131】
マイクロ流体チップのレイアウトは当初、家禽区域に存在する病原体の特異的検出のために概念的に設計されたが、本明細書で言及するマイクロチップはAra h1、コラーゲン及びアルブミン等の他の生体分子の検出にも首尾よく適用された。この意味で、本発明は本明細書に記載されるマイクロ流体チップの特定のレイアウトに限定されない。
【0132】
マイクロチップの種々の機能化のための試薬
4−(4−アミノフェニル)酪酸(PhBut)、亜硝酸ナトリウム(NaNO
2)、次亜リン酸(H
3PO
2、H
2O中50wt%)、(N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム塩(Sulfo−NHS)、Nα,Nα−ビス(カルボキシメチル)−L−リシン水和物(ANTA)、硫酸銅(II)、20mM HEPESバッファー(pH8.0)、2.5N NaOH溶液、1N HCl溶液、無水エタノール(EtOH)、蒸留I型(Type-I)水(18.2Mohm
−1超)。ストレプトアビジンRef 7100−05 Lot(Lote) A2805−PA05H。乾燥トルエン中の3−(2,3−エポキシプロポキシ)プロピルトリメトキシシランの2%溶液。10mM炭酸バッファー(pH10.8)。10mM MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)バッファー(pH5)。ピラニア溶液(H
2SO
4:H
2O
2 3:1)。
【0133】
サルモネラ・ティフィムリウムの検出のための試薬
a. 捕捉抗体:抗サルモネラ・ティフィムリウム0−4抗体[1E6] ab8274−Abcam 2mg/mL。
b. 5μg/mL、1×PBSに溶解(disuelto en)。
c. ブロッキング:TBS−T 0.1%+BSA 5%。
d. 抗原:BacTraceのサルモネラ・ティフィムリウム陽性対照 Ref 50−74−01−KPL。細胞数:3×10
9CFU/mL。
e. 検出抗体:抗サルモネラ抗体(ビオチン)ab69255−Abcam 4mg/mL
f. 希釈率1/5000、TBS−T 0.1%+BSA 5%に溶解。
【0134】
カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)の検出のための試薬
a. 捕捉抗体:抗カンピロバクター・ジェジュニ抗体ab155855 Lot:GR146930−4 0.1mg/mL。
b. 希釈率1/20=5.0μg/mL 1×PBS。
c. 抗原:BacTraceのカンピロバクター・ジェジュニ陽性対照 Ref 50−92−93。Lot 140513−KPL 細胞数:4.64×10
8CFU/mL。
d. 検出抗体:抗カンピロバクター・ジェジュニ抗体−ビオチン ab53909 Lot GR93260−3。
e. 希釈率1/1000 TBS−T 0.1%+BSA 5%。
【0135】
Ara h1の検出のための試薬
a. 捕捉抗体:モノクローナル抗体2C12マウスIgG1 Lot:30083 2.7mg/mL
b. 希釈率1/500=5.4μg/mL 1×PBS。
c. アレルゲン標準nArah1 Ref EL−AH1−Standard。Lot 38018 20000ng/mL。
d. 検出抗体:モノクローナル抗体2F7マウスIgG1−ビオチン化 Lot 36069。
e. 希釈率1/1000 PBS−T 0.1%+BSA 5%。
f. 希釈率1/2000 PBS−T 0.1%+BSA 5%。
【0136】
アルブミン及びコラーゲンの検出のための試薬
a. OVAポリクローナル抗体:ヤギ抗ウサギIgG H&L(ビオチン)、Abcam ref:ab6720
b. マウスにおいて産生されるモノクローナル抗鶏卵アルブミン(オボアルブミン)抗体、Sigma ref:A6075
c. I型コラーゲンに対するマウスモノクローナル抗体、GeneTex ref:GTX26308
d. I型コラーゲンに対するウサギポリクローナル抗体(ビオチン)、Genetex ref:GTX26577
【0137】
実施例1. ジアゾ化PhButの共有結合グラフト化によるカルボン酸基でのマイクロ流体チップ表面機能化
カルボン酸基での表面機能化は、化学還元(H
3PO
2)及びUV放射の両方によって生成する、チャンバチップの表面に結合するジアゾ化PhBut(スキームI)のアリールラジカルの共有結合グラフト化によって得られる(スキームII)。
【0138】
手順
1. PhButのジアゾ化
ジアゾ化PhButを、0.3Mの最終濃度を達成する量のNaNO
2を0.5M HCl中で調製した0.1M PhBut溶液に溶解することにより、氷浴内で使用する前にin situで得る。この混合物を表面修飾に使用する前に4℃に10分間保持する。
【0139】
【化5】
【0140】
2. ジアゾ化PhButの共有結合グラフト化
表面修飾の前にチップをエタノールですすぎ、乾燥させる。次いで、365nmの波長でUVランプ(8W)下に曝露することによって、これらに紫外(305nm〜395nmの範囲のUV)光を15分間照射する。上記のように調製されたばかりのジアゾ化PhBut溶液を、0.16Mの最終濃度が達成されるようにH
3PO
2酸溶液と混合し、チップのチャンバ上に滴下キャスティングする(drop casted)。これらを再びUVランプ下に置き、365nmの波長で30分間照射する。最後に、修飾されたチップをランプから取り出し、無水EtOHで十分にすすぐ。
【0141】
【化6】
【0142】
実施例2. ニトリロ三酢酸−Cu(II)によるカルボン酸終端表面のマイクロ流体チャンバチップ修飾
NTA−Cu(II)表面修飾は、EDC/SNHS媒介アミド化(スキームIII)によるカルボン酸基の活性化及びANTAの第一級アミン(−NH
2)との直接反応によって達成される。
【0143】
【化7】
表面修飾チャンバのカルボキシレート基の活性化及びその後のANTA−Cu(II)錯体によるNHS−エステルのアミド化を幾つかの工程で行う。初めに、20mM SNHS及び10mM EDC溶液を、sulfo−NHS試薬を蒸留I型水に溶解することによって調製し、EDC試薬に移す。この試薬を含有する溶液をチップのチャンバ上に滴下キャスティングし、室温で1時間反応させる。その後、チップを蒸留I型水ですすぎ、10mM重炭酸ナトリウム溶液(pH10)中の25mM ANTAの溶液において一晩インキュベートし、キレートを導入する。最後に、過剰な試薬を水で洗浄することによって除去した後、乾燥させ、チップのチャンバを100mM硫酸銅(II)水溶液において3時間インキュベートすることによって、ニトリロ三酢酸−Cu(II)錯体(ANTA−Cu
2+)が表面上に形成される。チップを再び洗浄し、乾燥させることで、抗体固定化が可能な状態となる。
【0144】
実施例3. 他のニトリロ三酢酸−M(II)(Ni
2+、Co
2+)錯体によるカルボン酸終端表面のマイクロ流体チャンバチップ修飾
他のNTA−M
2+錯体による表面修飾は、NTA−Cu(II)と同じ手順に従い、CuSO
4の代わりに対応する金属塩(CoCl
2、NiSO
4又はNiCl
2)を上記と同様の濃度で用いて達成することもできる。ヒスチジンタグ付きタンパク質及び抗体に対するNTAキレート化金属原子の結合親和性は、Cu(II)>Ni(II)>Co(II)の順序に従う。
【0145】
実施例4. ガラス表面の機能化
共有結合非配向及び配向固定化の2つのタイプのガラス表面の生体機能化を行った。ガラス支持体を活性化するために、表面をオービタルシェーカーにおいて室温で1時間、ピラニア溶液で清浄する。続いて、スライドをmilli−Q水ですすぎ、乾燥させる。次いで、乾燥トルエン中の3−(2,3−エポキシプロポキシ)プロピルトリメトキシシランの2%溶液をオービタルシェーカーにおいて室温で一晩、活性化ガラス支持体上に添加する。その後、スライドをトルエン及び10mM炭酸バッファー(pH10.8)で入念に洗浄する。スライドを乾燥させた後、ガラス支持体をオービタルシェーカーにおいて25mM NTAと共に室温で3時間インキュベートする。その後、ガラス支持体をpH10.8の10mM炭酸バッファーで十分に洗浄する。
【0146】
配向固定化を行うために、NTA−表面を錯体化環境のために100mM CuSO
4と共に水溶液中、室温で一晩インキュベートする。次いで、スライドをmilli−Q水で洗浄する。非配向の共有結合での固定化については、更なるカルボキシル基活性化のためにNTA−表面に室温で45分間、10mM MES(pH5)中の50mM EDC及び75mM SNHSをロードする。次いで、表面を10mM MES(pH5)で洗浄する。
【0147】
実施例5. 表面機能化 − 捕捉抗体によるマイクロ流体チャンバチップの修飾
1. 物理的吸収
抗体表面修飾の前に、チップをEtOHですすぎ、乾燥させる。次いで、1×PBS中5μlの5μg/ml捕捉抗体をマイクロ流体チャネル内のマイクロ流体チャンバ(センシング領域)の表面上にのみキャスティングし、37℃で1時間インキュベートする。
【0148】
表面を1×PBSですすぎ、ブロッキングバッファー(1×PBS中の5%BSA、0.1%tween)と共に4℃で一晩インキュベートする。
【0149】
表面を洗浄し、チップを上部(PMMA)と組み合わせ、蠕動ポンプに接続する。
【0150】
2. カルボキシル化により機能化されたマイクロ流体チャンバチップの捕捉抗体による表面修飾:共有結合抗体固定化
表面修飾チャンバのカルボキシレート基の活性化及びその後の捕捉抗体によるNHS−エステルのアミド化を、以下に記載のように2工程プロセスで行う:
1. 10mM MESバッファー(pH6)中10μlの20mM SNHS及び10mM EDCとの10分間のカルボキシル化−マイクロチャンバのインキュベーション。
2. 10mM MES(pH6)による洗浄、及び各マイクロチャンバ上での10μlの5μg/ml捕捉抗体との37℃で1時間のインキュベーション。
【0151】
捕捉抗体の共有結合での固定化、及び37℃で1時間の1×PBS中の5%BSA/0.1%Tweenによる表面のブロッキング後に、チップを蠕動ポンプに接続し、300μl/分の流量を用いて4分間、各チャネルを洗浄バッファーですすぐ。
【0152】
3. ニトリロ三酢酸−M(II)(Cu
2+、Ni
2+、Co
2+)錯体で機能化されたマイクロ流体チャンバチップの捕捉抗体による修飾:配向抗体固定化
NTA−M(II)(Cu
2+、Ni
2+、Co
2+)で機能化されたマイクロ流体チャンバチップへの捕捉抗体による修飾を、以下に記載のように単一工程で行う:5μg/mlの捕捉抗体5μlをマイクロ流体チャネルのセンシング領域の表面上にのみ堆積させ、37℃で1時間インキュベートする。
【0153】
次いで、表面をすすぎ、ブロッキングバッファー(1×PBS中の5%BSA、0.1%tween)と共に4℃で一晩インキュベートする。その後、表面をすすぎ、チップを上部(PMMA)と組み合わせ、蠕動ポンプに接続する。
【0154】
実施例6. マイクロ流体チップを用いた免疫測定法
以下、サルモネラの検出のために材料及び方法において言及したマイクロチップで実行される種々の免疫測定法を説明する。加えて、これらの方法により得られた結果を比較した。
【0155】
1. サルモネラ検出のための直接免疫測定法:2つの異なる希釈率のサルモネラで直接機能化されたチップを用いた第1の試験の温度増分
材料及び方法に示される製作された非修飾マイクロ流体チップを、2つの希釈率のサルモネラの直接固定化の試験に使用した。
【0156】
60000CFU/ml及び20000CFU/mlのサルモネラT.を10μl(それぞれ表面上に合計で600CFU及び200CFU)、検出表面に吸着させた。病原体の直接固定化後に表面をBSAでブロッキングし、ビオチン化検出抗体と反応させた。最後に、これらを洗浄し、ストレプトアビジン−AuNanoprism溶液と更に反応させた。
【0157】
免疫測定法の特異性を試験するために、以下の対照実験を行った:1)NC1=サルモネラの非存在、5%BSAで表面をブロッキングした;2)NC2=ビオチン化検出抗体の非存在;3)NC3=ストレプトアビジン−AuNPrismの非存在。
【0158】
図2に、ビオチン化検出抗体による認識及びストレプトアビジン−Nanoprismとの更なる相互作用の後のサルモネラの存在に起因する、表面のNIR照射時に測定された温度の増分を報告する。
【0159】
ビオチン化検出抗体の非存在下(NC2)では、ストレプトアビジン@AuNPrismの非存在下(NC3)と同様、有意でない温度の増分が見られる。
【0160】
温度の増分は、サルモネラのCFU量に比例する。これらの結果から、マイクロ流体チップの製作及びそのHEATSENSへの応用についてのこの材料の適合性が示される。さらに、結果により種々のCFU希釈率のサルモネラをマイクロ流体チップ上に直接固定化し、検量線を作成する可能性が予想される。
【0161】
2. サルモネラ検出のための直接免疫測定法:サルモネラの直接固定化の第1の試験の温度増分及びマイクロ流体チップ上での2つの異なる希釈率のサルモネラの検出。検量線試験の構築。
0CFU/ml〜240000CFU/mlの範囲の種々の濃度(CFU/ml)のサルモネラTを10μl、マイクロ流体チップ上に直接吸着させ、抗サルモネラビオチン化抗体で検出して、種々の濃度のサルモネラの存在に起因する温度の増分を測定した。次いで、ストレプトアビジン@AuNprismを抗体と相互作用させ、全てのセンシング領域にIRレーザーを照射した。各チャンバの温度を測定し、温度の増分を算出した。
図3にサルモネラのCFU/ml量に応じて算出された温度の増分を示す。
【0162】
測定された温度の上昇は、マイクロ流体チップの表面上に直接吸着させたCFU量の増大によるものであった。
【0163】
3. サルモネラ検出のためのサンドイッチ免疫測定法:サンドイッチ免疫測定法の第1の試験の温度増分、マイクロ流体チップ上での2つの異なる希釈率のサルモネラの検出
マイクロ流体チップがHEATSENS技術への応用に好適であることが示されたため、マイクロ流体チップを使用することにより選択病原体を検出するサンドイッチ型免疫測定法を行った。この目的で、マイクロチップの各マイクロチャンバを、5μg/mlの抗サルモネラ捕捉抗体(5μL)の表面への直接吸着により抗サルモネラ捕捉抗体で機能化した。次いで、サルモネラの捕捉事象、並びにストレプトアビジン−AuNprismでの検出及びストレプトアビジン−AuNprismとの相互作用を、1mlのサンプルを各チャネルに注入して流体モードで行った。
【0164】
アッセイは、リン酸バッファーに希釈した2つの異なるサルモネラのCFU/ml濃度、200000CFU/ml及び240000CFU/mlでそれぞれ行った。
図4にサルモネラTの存在に起因する温度の増分の傾向を説明する。
【0165】
検量線の傾向は線形でなく、分析物と相互作用する多量のnanoprismの存在に起因するシグナルの飽和が示された。2つの未知濃度のサルモネラの検出は、自由度調整済み決定係数が0.98843に等しい曲線と値が一致する指数方程式から算出した。
【0166】
サンドイッチフォーマットでの免疫測定法の有効性が示されたため、ドープバッファー中の病原体の濃度を減少させることによってサルモネラt.の検出限界の改善を試みた。
【0167】
1×PBS中1500CFU/mlのサルモネラT.が第1の試験で検出された最低濃度であった。
【0168】
1mlのサンプルを200μl/mlの流量でチャネルに注入した。サンプルを注入した後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)で洗浄した。次いで、200μl/mlを用いて2分間、検出抗体をその抗原と相互作用させた。300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)ですすいだ。ストレプトアビジン@AuNPrをチャネルに注入した。流量は200μl/mlで2分間とした。300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)ですすぎ、乾燥させた。
【0169】
図5に陰性対照に関する1500CFU/mlのサルモネラの温度の増分を示す。サルモネラの存在下でのマイクロチャンバの温度の増分は、サルモネラの非存在下(NC1)、検出抗体の非存在下(NC2)及びストレプトアビジン−AuNPrismの非存在下(NC3)のそれぞれの対照の温度増分よりも高かった。
【0170】
サルモネラの存在に起因する温度増分は、予想値とは異なるにも関わらず、全ての陰性対照よりも高かった。陰性対照の温度の増分の正の値は、免疫測定法における試薬間の非特異的相互作用を示していた。非特異的相互作用は、表面の不完全な機能化及びブロッキング又は免疫測定法における不適切な流量に関連付けることができる。このようにして、表面抗体機能化を一定に保ち、免疫測定法における流量を変更することにより、
図6に示されるようにサルモネラの検出限界及びバックグラウンドに起因するシグナルを改善することが可能であった。
【0171】
同じ実験を、実食品サンプルである、種々のCFUのサルモネラをドープした225mlのペプトン事前富化培養培地中の25gの鶏肉を使用して行った。捕捉抗体をマイクロ流体チップ上に吸着させ、表面を1×PBS中の5%BSA−01%Tweenで150μl/分の流量を用いてブロッキングした。
【0172】
次いで、洗浄バッファーを使用することにより250μl/分の流量を用いて洗浄を行った。
【0173】
1mlの実サンプル中のサルモネラの捕捉、並びにビオチン化検出抗体による検出、及びストレプトアビジン@nanoprismとの相互作用を、15μl/分の流量での流れを用いて行った。
【0174】
マイクロ流体チップ内で行った免疫分析の結果を
図7に示す。
【0175】
検量線を作成した後、既知の種々の濃度のサルモネラに起因する温度の増分を測定することで、実サンプル中の病原体の未知濃度を検量線から決定した(
図8)。
【0176】
サルモネラをドープしたサンプルのより高い温度の増分から、HEATSENSが、225mlのペプトン中25gの鶏肉のような複雑なマトリックスについての数CFUの細菌の超高感度検出に好適であることが明らかに示される。
【0177】
実サンプル中のサルモネラの存在に起因する温度の増分は、細菌と抗体との特異的相互作用に影響を及ぼす多量の肉タンパク質の存在のために、リン酸バッファー中のものと僅かに異なる。
【0178】
4. サルモネラ検出のためのサンドイッチ免疫測定法:マイクロ流体チップに対する捕捉abの共有結合での固定化の影響
カルボン酸末端基によるマイクロ流体チップ表面の修飾を、EDC/sulfo−NHS反応による第一級アミンとの安定したアミド結合の形成により捕捉抗体を共有結合で固定化するために用いることができる。
【0179】
この意味で、10mM EDC及び20mM sulfo−NHSで予め活性化した各マイクロチャンバの表面を20μlの5μg/mlの捕捉抗体で機能化した。捕捉抗体の共有結合での固定化、及び37℃で1時間の1×PBS中の5%BSA/0.1%Tweenによる表面のブロッキングの後に、チップを蠕動ポンプに接続し、300μl/分の流量を用いて4分間洗浄バッファーで洗浄した。30CFU/mlのサルモネラTを1ml、マイクロ流体チャネル内に150μl/分の流量で1分間流した後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルをバッファー溶液で洗浄した。次いで、400μlのビオチン化検出抗体をチャネル内に流した。
【0180】
図9に示す結果から、30CFU/mlのサルモネラをドープしたサンプルにおける温度増分が種々の対照と比較して高かったことが示される。このタイプの固定化では、抗体は主に「フラットオン」配向をとり、Fc及び2つのFabフラグメントが表面上に横たわる。
【0181】
5. サルモネラ検出のためのサンドイッチ免疫測定法:マイクロ流体チップ上の金属キレート化による捕捉抗体の配向固定化
金属キレート化による抗体の配向固定化は、本明細書に示されるように最適かつ多用途の方法である。固定化は、抗体の重鎖(Fc)中のヒスチジンに富む金属結合部位又はタンパク質に融合したポリHisタグ配列への金属キレート化によって達成される。金属結合部位がC末端又はN末端のいずれかにあることから、このように表面に結合する抗体及びHisタグ付きタンパク質は、結合部位が表面から離れた方向に向かって配向し、最大の抗原結合又は好都合なタンパク質配向が可能となる。さらに、金属キレート化による配向固定化は、金属キレート化固定化の結合定数が、ヒスチジン結合のキレート効果と複数の金属キレート基の標的結合との組合せのために非常に高いことから、安定した抗体固定化ももたらす。解離定数は10
−7M
−1〜10
−13M
−1と推定される。多くの用途について、これにより抗原−抗体相互作用と同等の結合強度がもたらされる。一方、金属キレート化による抗体の配向固定化のための抗体付着の実験条件は、共有結合での配向固定化手順に用いられるものよりも穏やかである。利点として、キレートへの抗体結合を便宜上、可逆的又は不可逆的に調整することもできる。加えて、hisタグ付き組み換えタンパク質の固定化に用いることもできることから、より多用途である。
【0182】
捕捉抗体の配向固定化を達成するために、マイクロ流体チャンバチップを表面の段階的修飾において金属−キレート錯体で機能化した。初めに、表面を例えば3−(4−アミノフェニル)プロピオン酸、3−アミノフェニル酢酸、4−アミノフェニル酢酸又は4−(4−ニトロフェニル)酪酸等のカルボン酸基を含有するアリールアミン化合物で機能化した。この具体例について、異なる生体分子の固定化であってもPhButを使用したが、炭素数2〜16の範囲の種々の長さのn−アルキルカルボン酸を有するアリールアミン化合物の使用がより適切であり得る。
【0183】
ジアゾ化PhButのアリールラジカルの共有結合グラフト化によって導入したカルボン酸基(スキームII)を、EDCによって触媒されるSNHSによるエステル化によって活性化し、遊離アミノ基を介したANTA−M(II)(Cu
2+、Ni
2+、Co
2+)錯体の共有結合を促進した(スキームIII)。次いで、これらを5μg/mlの捕捉抗体20μlとインキュベートした。得られるNTA−M(II)錯体の末端は、水分子によって占められる2つの遊離配位部位を含有し、捕捉抗体のヒスチジン残基に置き換えられて配向固定化が生じる。その後、チップを蠕動ポンプに接続し、300μl/分の流量を用いて4分間洗浄バッファーで洗浄した。1mlの30CFU/mlのサルモネラT.をマイクロ流体チャネル内に150μl/分の流量で1分間流した後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルをバッファーで洗浄した。次いで、400μlのビオチン化検出抗体をチャネル内に流した。
【0184】
図10に、配向するように捕捉抗体で機能化されたマイクロ流体チップ上でのサルモネラの検出を示す。
【0185】
興味深いことに、このタイプの固定化についてのサルモネラの存在に起因する温度増分は、それぞれの対照について得られるものよりも高く、更には直接吸着及び共有結合での固定化についての先の結果で得られるものよりも高かった。この意味で、種々の固定化方法の比較研究を行った。種々の抗体表面機能化の戦略の比較を
図11に示すが、この例に示される表面機能化戦略の各々についての生成するバックグラウンドシグナルと比較した、検出されるサルモネラに起因する温度の増分が示される。
【0186】
図11に、金属キレート化による捕捉抗体の配向固定化が、サルモネラの存在に起因する最高の温度増分を生じ、非特異的相互作用(バックグラウンド)によって生成するシグナルを最小とすることにより最良の結果をもたらすことを示す。これらの結果から、チップの表面の正確な機能化戦略が、HEATSENS標識(金nanoprism)の非特異的吸着を回避しながら最適な抗体付着を好都合な配向で得るのに極めて重要であることが示される。この方法が共有結合での配向固定化に優る利点を示すことも注目に値する。どちらの方法論も結合のための配向抗体付着が得られるという利点を有するが、抗体が主に「フラットオン」配向をとり、Fc及び2つのFabフラグメントが表面上に横たわる共有結合での固定化とは対照的に、金属キレート化固定化の場合、抗体は表面に垂直に配向した「エンドオン」配向で配置される。
【0187】
実施例7. 実食品サンプル中のサルモネラの検出
実施例6に示される有利な抗体の配向固定化を、実サンプル中のサルモネラの検出について試験した。結果を
図12に報告するが、陰性対照によって生成するシグナルと比較した、既知のサルモネラCFU数をドープした実サンプル中のサルモネラに起因する温度の増分が示される。
【0188】
マイクロ流体チップ表面上に固定化された配向抗体上での実サンプル中のサルモネラの存在に起因する温度増分も、それぞれの対照について得られるものよりも高かった。
【0189】
検量線を作成した後、実サンプル中の既知の種々の濃度のサルモネラ及び未知濃度の病原体に起因する温度の増分の測定値を、
図13に報告されるように決定した。
【0190】
実サンプルをドープするのに使用される理論数のCFU/mlの存在に起因する温度の増分は、検量線のCFU数と一致する。
【0191】
実施例8. カンピロバクター・ジェジュニ検出のためのサンドイッチ免疫測定法:マイクロ流体チャンバ表面上への捕捉抗体の配向固定化
マイクロ流体チャンバの捕捉抗体の配向機能化のために確立されたプロトコルをサンドイッチ免疫測定法と共に、この技術の普遍性を実証するためにカンピロバクター・ジェジュニ等のサルモネラとは異なる病原体の検出に用いた。
【0192】
カンピロバクター・ジェジュニはサルモネラ属菌、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes (L. monocytogenes))及び大腸菌(Escherichia coli (E. coli))O157:H7と共に、食物関連死のおよそ67%を占めると推定される4つの細菌性病原体の1つである(Mead et al., 1999)。カンピロバクターのスクリーニングは世界的に培養、顕微鏡検査、計数法及び生化学検査、PCR、免疫測定法等の食料製品中のこの病原体の検出に利用可能な種々の定量化法を用いて日常的に行われる(Yang et al., 2013)。上述の方法の一部は高感度かつ迅速であるが、高コストであり、膨大なサンプルの調製を必要とし、選択性が低く、時間がかかるという支障がある。実際、サルモネラについては、殆どの鶏肉加工品(poultry-based products)が生産日から数日以内に消費されることから、方法が行われている間に集団がカンピロバクターに曝露され、食品由来疾病の大発生につながるために、このことは利用可能な方法の課題となっている(Che et al., 2001)。
【0193】
マイクロ流体チップ内でのHEATSENSを用いたC.ジェジュニの免疫検出は、コスト効率がよく、迅速、容易、高感度かつ信頼性が高い診断アプローチをもたらす。
【0194】
C.ジェジュニは、加熱殺菌及び凍結乾燥の状態で購入した。これらをPBS中に種々の希釈率で再懸濁し、ボルトン培養培地における未知サンプルの更なる検出のための検量線(
図14)を作成するために使用した。
【0195】
HEATSENS技術とマイクロ流体チャンバ表面の抗体の配向機能化との組合せにより、ボルトン培養培地におけるカンピロバクターの低いLOD(検出限界)を達成することができる。
【0196】
150CFU/mlのカンピロバクターを検出する、高感度QCMサンドイッチ免疫測定法の開発を記載しているMasdor et Al.(Masdor et Al. Biosensors and bioelectronics 78, 2016, 328-336)によって報告されたカンピロバクターJのセンシングと比較して、HEATSENSは100CFU/ml未満のこの特定の細菌病原体の検出を可能にする。
【0197】
さらに、この検出限界は、210倍少ない捕捉抗体を表面上に固定化し、バックグラウンドを減少させ、チップの製造コストを低下させても達成される。
【0198】
実施例9. Ara h 1検出のためのサンドイッチ免疫測定法:マイクロ流体チャンバ表面上への捕捉抗体の配向固定化
本方法論の普遍性を更に説明するために、更なる分析物を用いて本実施例を行った。
【0199】
ラッカセイ(アラキス・ヒポゲア(Arachis hypogaea))は、食物が引き起こす致命的なアナフィラキシーを含む重度のアレルギー反応と最もよく関連するアレルゲンの1つである。米国の食品アレルゲン表示・消費者保護法2004年(FALCPA 2004、公法108〜282、タイトルII)、及び欧州連合の指令2003/89/EC及び2007/68/ECによって改訂される指令2000/13/ECに従うと、食料製品中のラッカセイの存在は、そのラベル上に表示する必要がある。
【0200】
食品アレルゲンを検出する現在の参照方法はELISAであるが、HPLC、キャピラリー電気泳動(CE)、レーザー誘起蛍光(LIF)検出による方法、酵素結合免疫親和性クロマトグラフィー(enzyme linked immune affinity chromatography;ELIAC)、サイズ排除クロマトグラフィー及びSPR等の他の分析法も存在する。決定されたELISAのLODを
図15に示す。
【0201】
HEATSENS技術とマイクロ流体チャンバ表面の抗体の配向機能化との組合せにより、同じ捕捉抗体及び検出抗体の組合せを用いて、PBS中でより低いAra h1のLODを達成することができる(
図16)。
【0202】
このため、HEATSENSを、Ara h1を検出するバイオアッセイにおいて、配向機能化マイクロ流体表面と組み合わせて首尾よく用いることができた。
【0203】
Ara h1のバイオセンサー検出限界は、市販のELISAキット(LOD≒10ng/ml)と比較して1桁(LOD<0.4ng/ml)、SPR(J. Pollet et al. / Talanta 83 (2011) 1436-1441)等の他の検出法と比較して数桁改善された。
【0204】
実施例10. 他の分析物に適用されるマイクロ流体力学におけるHEATSENS
歴史的な塗料の結合剤の特性評価は依然として、何十年も前に開発され、新たに出現したナノテクノロジーの世界の利点を生かす、より高感度、特異的、低コストかつ迅速な方法論によって置き換えられた従来の分子生物学の方法論に依存している。
【0205】
HEATSENSをルネサンス前の絵画、装飾写本及び彫刻において最も使用されている結合剤の2つであるコラーゲン及びアルブミンのマイクロ流体チップにおける検出に適用した。本実施例でも本方法論の普遍性を更に説明する。
【0206】
1. マイクロ流体チップチャンバ表面上に吸着させたアルブミンの検出のための直接免疫測定法
アルブミンの検出のための直接免疫測定法を実行した。この目的で、陽性対照(PC1)としてのアルブミンの2つのマイクロサンプル:Zacchi(商標)からの粉末のアルブミン(サンプル4)及びガラス表面に塗布し、1年半空気に曝した卵白からの別のアルブミン(サンプル5)のサンプルをマイクロ流体チャンバ表面上に直接固定化した。固定化後に、3mg/mLのPBS中のミルクでチップ表面を37℃で1時間(少なくとも)覆い、振盪することでチップの表面をブロッキングした。
【0207】
免疫測定法の特異性を試験するために、以下の対照実験を行った:1)NC1=アルブミンの非存在及び2)NC2=検出抗体の非存在。
【0208】
処理(settle)プロトコルに従ってマイクロ流体チップ内で行った直接免疫測定法の結果を
図17に示す。
【0209】
結果から、バイオアッセイにおいて機能化マイクロ流体表面と組み合わせて用いたHEATSENSが、顔料中のアルブミンを検出することが可能であることが実証される。本センシング方法論は、顔料のような複雑なマトリックスにおけるアルブミン定量化の可能性ももたらす。
【0210】
2. マイクロ流体チップ表面上に共有結合で固定化した捕捉抗体を用いたコラーゲンの検出のためのサンドイッチ免疫測定法
コラーゲンの検出を、サンドイッチフォーマットの免疫測定法を用いることによっても実行した。
【0211】
捕捉抗体をマイクロ流体チップ表面上に既述の固定化プロトコルを用いて固定化し、2つのマイクロサンプル:水中の兎膠(rabbit skin glue)(10%(w/w))からのマイクロサンプル(サンプル4)、及び検出抗体によって認識された、40年以上前に塗布された膠+CaCO
3の混合物により作製された塗料からの別のマイクロサンプル(実サンプル)を、マイクロ流体チップ内に流した。
【0212】
免疫測定法の特異性を試験するために、以下の対照実験を行った:1)NC1=コラーゲンの非存在及び2)NC2=検出抗体の非存在。
【0213】
HEATSENS技術とマイクロ流体チャンバ表面の抗体機能化との組合せにより、実サンプル中のコラーゲンを同定することができる。
【0214】
マイクロ流体チップにおいてHEATSENS技術を用いたコラーゲン検出の結果を
図18に示す。
【0215】
結果から、サンドイッチ免疫測定法において機能化マイクロ流体表面と組み合わせて用いたHEATSENSが、顔料中のコラーゲンを検出することが可能であることが実証される。本センシング方法論は、顔料のような複雑なマトリックスにおけるコラーゲン定量化の可能性ももたらす。
【0216】
実施例11. サンドイッチ免疫測定法のプロトコル
以下のプロトコルが、マイクロ流体デバイス及びHeatsens技術を用いたサンドイッチ免疫測定法に特に好適であることが見出された:
1. チャネルを、洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)を150μlmlの流量で5分間圧送することによって平衡化する。
2. 次いで、1mlの分析物サンプルを150μl/mlの流量でチャネルに注入する。
3. サンプルの後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)で洗浄する。
4. 検出抗体をチャネルに注入する。流量は150μlmlで2.5分間とする。
5. 検出抗体の後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)で洗浄する。
6. ストレプトアビジン@AuNPrをチャネルに注入する。流量は150μlmlで2.5分間である。
7. ストレプトアビジン@AuNPrの後、300μl/分の流量を用いて4分間、チャネルを洗浄バッファー(1×PBS中の0.5%BSA、0.1%tween)で洗浄し、乾燥させる。
【0217】
実施例12. 他の材料表面への配向機能化方法論の拡張
マイクロ流体チップ上の金属キレートでの機能化による配向固定化方法論は、金属(鉄、コバルト、ニッケル、白金、パラジウム、亜鉛、銅及び金)、炭素(グラフェン、ダイヤモンド、ナノチューブ、ナノドット)、及びシリコン表面等の他のタイプの表面にまで拡張することができる。カルボン酸基を含有するジアゾニウムアリール誘導体のグラフト化を、金属キレート層による更なる段階的機能化のプラットホームであるこれらの表面上でも達成することができる。
【0218】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)及びガラス等の他の表面を、カルボン酸官能基又はエポキシ基を保有する有機官能性アルコキシシラン分子を用いた自己集合により表面を被覆することによって機能化することも可能である。このようにして、シラン処理及び金属キレート層(NTA−Cu
2+)の更なる導入により、エポキシ基で機能化されたガラス表面において研究を行った。金属キレートにより機能化されたガラス表面を生体分子の配向及び非配向の共有結合での固定化の両方についてアッセイし、分析物を高感度な方法で検出するためにサンドイッチ免疫測定法を用いた。
【0219】
単純なガラス表面の修飾を4工程で行った。第1の工程については、エポキシシランを表面上にグラフト化するためにガラス支持体の活性化を行い、全ての有機残基を除去した。第2の工程では、シランのゲル形成を回避するために乾燥トルエンを用いてエポキシシランによる機能化を行った。表面上のエポキシ基により、pH10.8でのNTAのアミン基との効率的な反応が保証され、NTAのアミンがエポキシ基を高モル比で開環する。最後に、最終工程では、金属イオンをNTA部分にキレート化して分析物を配向させるために支持体を100mMのCuSO
4と共にインキュベートした。
【0220】
スライドガラスをNTA−Cu
2+で機能化した後、HEATSENS技術を用いたサルモネラの検出のための免疫測定法を(配向固定化を用いることにより)行った。比較のために、直接吸着及び共有結合フラットオン抗体固定化等の他の固定化方法もアッセイした。種々の抗体表面機能化の戦略の結果を
図19に示すが、生成したバックグラウンドシグナルと比較した、検出されたサルモネラに起因する温度の増分が各々の表面機能化について示される。
【0221】
この図からも、金属キレート化による捕捉抗体の配向固定化が、サルモネラの存在に起因する高い温度の増分に関してだけでなく、非特異的相互作用(バックグラウンド)に起因するゼロのシグナルを生じることによっても最良の結果をもたらすことが実証される。それにより、HEATSENS標識(金nanoprism)の非特異的吸着を回避した上で、好都合な配向の最適な抗体付着を得るために重大な工程としての正確な機能化戦略が示される。
【0222】
ガラス表面機能化は迅速、容易、単純かつ低コストであり、種々のタイプの生体分子に用いることができる。
【0223】
実施例13. 標的化分析物の存在によって引き起こされる温度の増分の測定に使用される熱センサーの種々の配置の説明
分析物捕捉にマイクロ流体チップを用いたHEATSENSのセンシング設定の重要な利点は、全構成要素が多数の異なる方法で構築及び小型化するのに好適であることであり、これらの1つが
図20に示すものである。
【0224】
センサーシステムの考え得る2つの配置は下記の通りである:
1. サンプルの後ろの熱センサー、及び、
2. サンプルの前の熱センサー。
【0225】
この意味で、レーザー及びサーモパイル(熱センサー)を、サーモパイルをサンプルに向け、僅かに上に傾けて同じ平面に、又は異なる平面に配置することができる。この傾斜はサーモパイルの飽和による。レーザービームをサーモパイルに直接照射する場合、全ての温度値が最大に達し、測定は有効でない。サーモパイルは10度×40度のFOVを有し、反応が行われるカメラは高さ3mm、幅5mmである。これにより、カメラをカバーするのに最適な17mmというサンプルとサーモパイルとの間の距離がもたらされ、測定を確実にするには、これは20mmに設定される。
【0226】
レーザー及びサーモパイルを同じ平面に配置し、背後から測定する場合、サンプルは、検出される熱が広がらず、全情報を得ることができるようにより薄い幅でサーモパイルに隣接して設置される。
【0227】
図20に示される配置(同じ平面)を用いて記録された結果は、サルモネラCFU数の増分に関連した温度の線形増分を表し、採取されたサンプルは検量線と一致する(
図21を参照されたい)。
【0228】
しかしながら、レーザー及びサーモパイルが異なる平面に配置されていてもよい。この場合も、サーモパイルはサンプルに向けられ、レーザー照射を回避するために垂直に(ほぼ40度)傾けられる(
図22)。サンプルまでの距離は同様に20mmに設定され、サーモパイルは試料の熱増分を検出することができる。
【0229】
サンプルの前での測定では、より薄い幅がサーモパイル及びレーザーの側である必要がある。ここで、レーザーが集束して照射され、光がマイクロ流体チップのより薄い部分を通過し、サンプルに照射される。
【0230】
図23において、得られた曲線は指数曲線であり、値は0.99864に等しい自由度調整済み決定係数で曲線と一致した。測定の飽和が明らかに見てとれる。この特定の場合では、飽和は提示される配置とレーザー照射下のnanoprismの挙動との組合せにより、検出限界が以前の処理と比較して増大し、より少ないCFUについてより高い温度増分が達成されたことから、非常に低濃度のnanoprismの存在下で達成された。
【0231】
提示した結果はVentusレーザーシステムを用いて達成されたが、HEATSENS技術の特徴を考えると、レーザーダイオード及びLED等の他のNIR光源も使用することができる。
【0232】
実施例14. ポリスチレン表面をUV照射(185nm)によって機能化し、カルボン酸基の生成をもたらす手順に対する本発明による抗体固定化方法論 センシング用途については、センシングが行われる支持体上の認識生体分子の固定化は、センシングプラットホームに高い感度をもたらすために可能な限り安定し、配向され、高収率である必要がある。
【0233】
HEATSENSセンシングプラットホームについては、本明細書に報告されるように、センシングプラットホームの実施に使用される特異的な捕捉抗体の配向固定化について化学的性質を変更した。抗体重鎖(Fc)中に存在するヒスチジンに富む金属結合部位に対するNTA−M
2+の金属キレート化による表面上の抗体の配向固定化について2つの主要因が見られる:
1)ヒスチジン残基の配位結合に用いられる金属。
2)抗体の配向固定化の成功のための金属キレート表面密度。
【0234】
HEATSENSセンシングプラットホームの第1の主要因は、用いられるNTA−金属キレートである。この意味で、NTA−金属キレート:NTA−Cu
2+及びNTA−Co
2+で機能化された金ナノ粒子上の抗体の固定化を、抗HRP及び抗CD3をそれぞれ用いてアッセイし、HEATSENSセンシングプラットホームの高感度を達成するために独自の方法論が使用されることを実証した。
【0235】
固定化された抗体の量は、固定化プロセスにおける各工程の前後で上清中に残存するタンパク質を測定することによって算出した。サンプルを取り出し、SDS−PAGEによって分析した。ゲル(12%)を使用し、銀で染色した。
【0236】
SDS−PAGEゲルにおいて見られるように(
図29)、抗体溶液中でのインキュベーション後のNTA−Co
2+で機能化された金ナノ粒子は、両方のゲルのそれぞれについてインプット及び固定化後の上清(レーン1、2)の両方で同様のシグナルを生じ、どちらの抗体についても抗体分子の付着がないことが示された。対照的に、両方のゲルのレーン7においては、固定化後の抗体のシグナルが見られ、ゲル1ではバンドが生じず、ゲル2ではNTA−Cu
2+で機能化された金ナノ粒子への抗体分子の完全付着の結果としてバンドが生じる。
【0237】
NTA−Co
2+及びNTA−Cu
2+で機能化された金ナノ粒子上の抗体固定化を、HRPとのインキュベーション及びその後のその酵素活性の測定によっても評価した。
図30に見られるように、NTA−Cu
2+キレートで修飾された金ナノ粒子のみが抗HRPとのインキュベーション後に酵素活性を示し、抗体固定化が確認された。対照的に、NTA−Co
2+で機能化されたナノ粒子については、ごく僅かな活性しか観察されなかった。
【0238】
他の二価金属と比較した銅に対する抗体の高い親和性は、銅イオン及びニッケルイオンで機能化された平らな表面の市販のストリップ(2Dシステム)を用いることでも実証する。この意味で、HRPに対する抗体分子をこれらの機能化金属キレート表面上に固定化し、捕捉されたHRPの存在を比色免疫測定法によって定量化した。
図31Aに示されるように、NTA−Cu
2+機能化表面は、HRPの活性に関連してより強い黄色を示した。これにより、NTA−Ni
2+機能化表面よりも多量の捕捉されたHRP酵素、ひいては固定化された抗体の存在が示される。このことは、450nmでのHRPの基質に対する吸光度を測定することによって
図31Bに更に明らかに示される。NTA−Cu
2+機能化表面は、NTA−Ni
2+よりも最大5倍高い吸光度を示した。
【0239】
これらの結果から、Niと比較した場合に銅キレートで活性化された表面上に配向固定化された抗体のより高い結合能が明らかとなる。同じ実験を、HEATSENSセンシング検出について非対称金ナノ粒子を標識として用いて行った(
図32を参照されたい)。
【0240】
銅キレート化表面のより高い抗体捕捉効率もHEATSENS検出方法論を用いることで確立される。この意味で、温度の増分は10μg/mLの抗HRPをCuイオン上に固定化した場合にNiイオンと比較してほぼ2倍であった。
【0241】
これら全ての結果から、NTA−M
2+の金属キレート化による表面上の抗体の配向固定化に用いられる金属の重要性が実証される。
【0242】
抗体重鎖(Fc)中に存在するヒスチジンに富む金属結合部位へのNTA−M
2+の金属キレート化による表面上の抗体の配向固定化について強い影響を与える別の主要因は、抗体固定化の収率に影響を及ぼす金属キレート表面密度である。この事実を実証するために、種々の被覆率のNTA−Cu
2+を用いた抗体−HRP固定化研究を、金表面修飾ナノ粒子を3Dシステムとして用いて行った。これらは、触媒としてのEDC/sulfo−NHSのその組込みの濃度を変化させることによって得た。
【0243】
表1に、低い及び高い表面被覆率のNTA−Cu
2+及びNTA−Co
2+でそれぞれ機能化された金ナノ粒子上に固定化された抗HRPの酵素HRP活性を示す。
【0244】
【表1】
【0245】
抗体−HRPとのインキュベーション後の高表面被覆率のNTA−Cu
2+で機能化された金ナノ粒子のみが、抗HRP固定化に関連した実質的に完全な酵素活性をもたらすことが観察される。逆に、低濃度のNTA−Cu
2+又はNTA−Co
2+で修飾された金ナノ粒子について活性は観察されなかった。
【0246】
これにより、抗体固定化が表面上の金属キレートの密度によって大きく影響され、これが制御すべき重要な要因であることが実証される。
【0247】
検出を行う表面上への捕捉抗体の固定化に対する活性基及び金属の密度の影響も2D表面上で評価した。この意味で、2つの異なるプロトコルを比較した。特に、Chiu Wai Kwok et alの論文「モルフォゲンソニックヘッジホッグ(Shh)の調査のためのin vitro細胞培養系(In vitro cell culture systems for the investigation of the morphogen Sonic hedgehog (Shh))」(2011年11月16日)に記載されるプロトコルを用い、マイクロチップ表面をUV照射(185nm)によって機能化し、カルボン酸基の生成をもたらした。次いで、形成されたカルボン酸基とのNi
2+等の二価金属の配位によってキレートを形成した。キレート化は40mM NiSO
2を用いて行い、これをCOOHポリマー表面上にアミノ末端基を介して予め導入したN2−N2−ビス−(カルボキシメチル)−L−リシンと反応させた。次いで、金属修飾表面を用いてポリ(6)ヒスチジン(hystidine)タグ付きタンパク質、この特定の場合ではShhNタンパク質を固定化した。
【0248】
かかるプロトコルをHEATSENS表面機能化と比較したが、上記とは対照的にカルボン酸基の導入は、アリールジアゾニウム塩化学及びUV光(365nm、8W)を用いて有機層をグラフト化することによって達成された。次いで、カルボン酸表面を、10mM及び20mM EDC sulpho−NHSのそれぞれによって触媒されるアミド化により20mM N2−N2−ビス−(カルボキシメチル)−L−リシン−25mM CuSO
4で機能化した。2工程の化学修飾により、高密度の活性基を有する均一な層の作製が保証される。
【0249】
両方の表面についての界面変化の評価をフーリエ変換赤外(FTIR)測定によって特性評価した。これらはUniversal ATR Sampling Accessory(Perkin Elmer)を備えるSpectrum One FT−IR分光計で行った。
【0250】
NIT手順によってNTA−Cu
2+で機能化された修飾サンプルのFTIR研究により、非処理サンプル(
図33)と比較した、NTAのアミドの振動モードと関連する特徴的なバンドの出現(
図33)及びカルボン酸基の振動モードと関連する特徴的なバンドの出現が明らかとなった。3420cm
−1及び3780cm
−1での吸収バンドはアミド基のN−Hストレッチに相当し、1609cm
−1及び1747cm
−1でのバンドはカルボン酸のストレッチC=O基に関連付けられた。対照的に、NTA−Ni
2+で修飾された表面(
図33)はアミド基の吸収バンドを示さなかったが、アミン基と関連するNH吸収及びカルボン酸基のごく小さなバンドを示した。さらに、表面チップ上の金属キレートの密度を、センシングの改善が得られるNTA−Cu
2+のmm
2を知るために定量化した。EDTAを用いてキレート化表面から除去されるCu
2+の濃度を決定することによって定量化を行った。
【0251】
CuSO
4はNTAとキレートを形成して抗体を配向させるが、COOH:Cu
2+比は3:1であるため、1molのCu
2+は3モルのNTAのCOOHに対応する。検量線の5点のUV−Visスペクトルを
図34に示すが、対応するCuSO
4のピークを見るために吸光度を500nm〜900nmで測定する。マイクロ流体チップ表面から除去されるCu
2+−EDTAのスペクトルを
図35Aに示す。4μM Cu
2+の濃度は、吸光度値を
図34Bに示す検量線に外挿することによって求められる。Cu
2+がNTAの3つのCOOH基と配位することを考えると、マイクロ流体チップ表面の9.42mm
2の総表面積では4μMのCuSO
4が12μMのNTAのCOOHと配位する。したがって、平らな表面上で最適な抗体の密度を得るためには、mm
2に対するキレート基の最低濃度が1.3μMのCOOH及び0.43μMのCu
2+であることが見出された。
【0252】
同様の実験を、Chiu Wai Kwok et alにおいて報告された方法論を用いることでNTA−Ni
2+で修飾された表面を用いて行い、ごく僅かな吸光度値、ひいては検出不可能なNi
2+量が得られた。これらの結果から、Chiu Wai Kwok et alの技術を用いた場合にNIT技術よりも低いキレート機能化の収率が更に確認される。
【0253】
表面機能化のプロトコル(NIT及びChiu Wai Kwok et al)に応じた抗体固定化及び修飾表面へのその結合能の差異も分析した。HRPに対する抗体を、NTA−Cu
2+及びNTA−Ni
2+キレート機能化表面上に固定化した。HRPを捕捉する固定化抗体の結合能は、比色方法及びHeatsens検出によって決定される、表面上のHRPの活性を測定することによって実証される。
【0254】
図36にHRPとのインキュベーション後のNTA−Cu
2+(NIT方法論)及びNTA−Ni
2+キレート(Chiu Wai Kwok et alの方法論)機能化表面の酵素活性の結果を示す。両方の表面上での活性の結果から抗体固定化が確認されるが、NTA−Cu
2+キレート修飾表面上で決定されるNTA−Ni
2+表面よりも高い吸光度の強度により、NTA−Cu
2+の高い表面被覆率の結果としてより高い抗体の固定化の収率が実証される。したがって、NIT方法論による表面修飾によって行った場合の抗体の固定化は、Chiu Wai Kwok et alにおいて報告されるものよりもはるかに良好な結果をもたらす。
【0255】
この結果を、HEATSENSアッセイを行うことによって更に確認する。この意味で、2つの金属キレート化表面上に配向固定化された抗体によって捕捉されるビオチン化HRPの存在に起因する温度の増分を
図37に示す。測定される温度の増分は、NTA−Ni
2+表面で測定される温度の増分と比較してNTA−Cu
2+キレート修飾表面上でより高くなり、この場合もNIT方法論を用いることによる抗体固定化のより高い収率が示される。
【0256】
Chiu Wai Kwok et alと比較したNIT方法論のプロトコル及び強度の差異を実証する他のアプローチは、高感度のHEATSENSセンシングプラットホームを用いた病原体サルモネラの検出であった。抗体の固定化を、NTA−金属キレート:NTA−Cu
2+(NITにおいて開発されたプロトコルに従う)及びNTA−Ni
2+(文献Chiu Wai Kwok et alにおいて報告されたプロトコルに従う)で機能化された両方の表面上でアッセイした。総量1000CFUのサルモネラを配向固定化した捕捉抗体と相互作用させた。表面上では、ビオチン化検出抗体によりストレプトアビジン−HRP(比色アッセイ)又はストレプトアビジン−nanoprism(HEATSENSアッセイ)との相互作用が可能な病原体が検出された。
図38に、Chiu Wai Kwok et alにおいて報告されたプロトコルを用いて機能化された表面と比較して、NITによって開発されたプロトコルを用いて機能化された表面上の分析物の存在に対するより高い強度のHRP酵素の吸光度が示される。明らかなように、NTA−Cu
2+で機能化された表面上の1000CFUのサルモネラの検出の吸光度の強度は、NTA−Ni
2+機能化表面上での同じ量の分析物の検出に対して測定された吸光度と比較して3倍超高い。
【0257】
様々に活性化された表面上のサルモネラの検出に対するHEATSENSアッセイの結果を
図39に示す。HEATSENSアッセイの結果から、NTA−Cu
2+キレート表面上で同じ量のサルモネラについてNTA−Ni
2+よりも高い温度の増分が示される。さらに、陽性アッセイと比較してNTA−Ni
2+上で行ったアッセイにおいてより高い陰性対照のシグナルから、Chiu Wai Kwok et alによって報告されたプロトコルを用いた表面機能化の有効性の欠如が実証された。表面上の活性基の不均一な被覆率は、表面との分析物及び検出抗体の非特異的相互作用を引き起こし得る。そのうえ、NTA−Cu
2+表面上で行ったアッセイにおける陰性対照のシグナルは陽性対照より3倍低く、検出が非常に効果的となる。さらに、それらのシグナルはNTA−Ni
2+表面上でのアッセイの陰性対照よりも低く、NTA−Cu
2+表面のより良好な化学機能化が示される。種々の表面機能化プロトコルが表面上の活性基のより高い被覆率及び均一性をもたらし、抗体固定化の能力の改善、及びより高い結合能、及びHEATSENSアッセイのより高い感度がもたらされる。