(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-515872(P2019-515872A)
(43)【公表日】2019年6月13日
(54)【発明の名称】尿路の新生物の治療における使用のための多重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20190524BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20190524BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20190524BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20190524BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20190524BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20190524BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20190524BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20190524BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20190524BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20190524BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20190524BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20190524BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20190524BHJP
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C12P 21/08 20060101ALN20190524BHJP
【FI】
C07K16/46
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 121
A61K39/395 E
A61K39/395 G
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61K45/00
A61K35/17 Z
A61K31/337
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A61K31/7068
A61K9/19
A61K9/08
A61K47/12
C07K16/28
C07K16/30
C12P21/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2018-541261(P2018-541261)
(86)(22)【出願日】2017年3月30日
(85)【翻訳文提出日】2018年10月2日
(86)【国際出願番号】EP2017057608
(87)【国際公開番号】WO2017167919
(87)【国際公開日】20171005
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/000531
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
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(71)【出願人】
【識別番号】507355401
【氏名又は名称】リンドホーファー,ホルスト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リンドホファー, ホルスト
(72)【発明者】
【氏名】バウアー, ハルトヴィヒ−ヴィルヘルム
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、尿路の新生物の治療における使用のための、特に膀胱がんの治療のための、多重特異性抗体またはその抗原結合性断片を提供する。さらに、本発明は、このような抗体を含む薬学的組成物およびキットを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿路の新生物の治療における使用のための、
(i)T細胞表面抗原に対する特異性、ならびに
(ii)がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する特異性
を含む単離された多重特異性抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
好ましくは点滴を介して、尿路に全身または局所投与される、請求項1に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
膀胱内投与される、請求項1または2に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
新生物が上皮内新生物または悪性新生物であり、好ましくは新生物が悪性新生物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
尿路の新生物が、尿路上皮の新生物、好ましくは尿路上皮細胞がん腫である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項6】
尿路の新生物が、(i)上皮内がん腫、好ましくは、尿道の上皮内がん腫、膀胱の上皮内がん腫、尿管の上皮内がん腫、および/または腎盂の上皮内がん腫;(ii)好ましくは、腎盂、尿管、尿道、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層非浸潤性尿路上皮がん;ならびに(iii)好ましくは、腎盂、尿管、尿道、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層浸潤性尿路上皮がんからなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項7】
尿路の新生物が、尿路に局在したリンパ腫および/または肉腫である、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項8】
尿路の新生物が、下部尿路の新生物である、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項9】
下部尿路の新生物が、(i)尿道の上皮内がん腫、および/または膀胱の上皮内がん腫;(ii)尿道、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層非浸潤性尿路上皮がん;ならびに(iii)尿道、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層浸潤性尿路上皮がんからなる群から選択される、請求項8に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項10】
下部尿路の新生物が、膀胱の新生物、好ましくは、膀胱の上皮内がん腫、または膀胱の悪性新生物である、請求項8または9に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項11】
膀胱の新生物が、(i)膀胱の上皮内がん腫;(ii)膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層非浸潤性尿路上皮がん;ならびに(iii)膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層浸潤性尿路上皮がんからなる群から選択される、請求項10に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項12】
膀胱の新生物が、移行上皮がん腫、扁平上皮がん腫、腺がん腫、肉腫、小細胞がん腫、および体内の別の場所のがんに由来する二次病巣から選択され、好ましくは、膀胱の新生物が、移行上皮がん腫である、請求項10または11に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項13】
モノクローナル抗体である、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項14】
T細胞表面抗原が、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、およびCD44からなる群から選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項15】
T細胞表面抗原がCD2またはCD3であり、好ましくは、T細胞表面抗原がCD3である、請求項14に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項16】
がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原が、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、プロテオグリカン、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、炭酸脱水酵素、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD47、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GT1b、GT3、GQ1、NY−ESO−1、NFX2、SSX2、SSX4、Trp2、gp100、チロシナーゼ、MUC−1、テロメラーゼ、サバイビン、p53、PD−L1、CA125、Wue抗原、Lewis Y抗原、HSP−27、HSP−70、HSP−72、HSP−90、Pgp、MCSP、EphA2、および細胞表面標的GC182、GT468またはGT512からなる群から選択される、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項17】
がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原が、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、プロテオグリカン、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、炭酸脱水酵素、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD47、CD52、CD133、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GT1b、GT3、GQ1、NY−ESO−1、NFX2、SSX2、SSX4、Trp2、gp100、チロシナーゼ、MUC−1、テロメラーゼ、サバイビン、p53、PD−L1、CA125、Wue抗原、Lewis Y抗原、HSP−27、HSP−70、HSP−72、HSP−90、Pgp、MCSP、EphA2、および細胞表面標的GC182、GT468またはGT512からなる群から選択される、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項18】
がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原が、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PD−L1、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、およびCD33からなる群から選択され、好ましくは、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原が、EpCAM、HER2/neu、CEA、GD2、CD19、CD20、およびCD33からなる群から選択され、より好ましくは、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原が、EpCAM、HER2/neu、GD2、およびCD20からなる群から選択され、なおより好ましくは、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原が、EpCAMである、請求項16または17に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項19】
CD3に対する第1の特異性と、EpCAM、HER2/neu、CEA、GD2、CD19、CD20、およびCD33からなる群から選択されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する第2の特異性とを含む、請求項18に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項20】
抗EpCAM×抗CD3、抗CD20×抗CD3、抗HER2/neu×抗CD3、抗GD2×抗CD3、および抗CD19×抗CD3から選択される2つの特異性を含む、請求項19に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項21】
二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合性断片である、請求項1から20のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項22】
三機能性抗体またはその三機能性抗原結合性断片である、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項23】
Fc受容体に対する結合性部位を含まず、特に、Fc部分を含まない、請求項1から22のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項24】
Fc受容体に対する結合性部位を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項25】
Fc部分を含む、請求項24に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項26】
抗体が、IgG様フォーマットを有する、請求項1から22および24から25のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項27】
カツマキソマブ、リンフォムン、エルツマキソマブ、エクトマブ、ブリナツモマブ、およびソリトマブからなる群から選択され、好ましくはカツマキソマブである、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項28】
1または複数の治療サイクルで投与される、請求項1から27のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項29】
1つの治療サイクルが、(i)1つの単回用量、または(ii)1つの初回用量および1もしくは複数の後続用量を含む、請求項28に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項30】
1つの治療サイクルが、1つの初回用量および1または複数の後続用量を含み、1つの初回用量および1または複数の後続用量が同じであるか、または1または複数の後続用量が初回用量より高用量である、請求項29に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項31】
0.1−5000μg、好ましくは1−1000μgまたは5−500μg、より好ましくは10−300μg、最も好ましくは20−100μgの範囲の用量で投与される、請求項1から30のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項32】
抗体またはその抗原結合性断片の初回用量が、0.5−500μg、好ましくは1−200μg、より好ましくは5−100μg、最も好ましくは10−70μgの範囲である、請求項29から31のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項33】
第1の後続用量が、初回用量として投与された量の好ましくは1.1−10.0倍であり、より好ましくは1.2−5.0倍であり、任意選択的に、第2の後続用量および各後続用量が、初回用量として投与された量の1.1−10.0倍であり、好ましくは1.5−5.0倍である、請求項29から32のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項34】
1つの治療サイクル内で、各後続用量を、前回の用量の1−31日後、好ましくは前回の用量の1−21日後、より好ましくは前回の用量の5−10日後に投与し、なお好ましくは前回の用量の7日後に投与する、請求項29から33のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項35】
単独療法として投与される、請求項1から34のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項36】
自己免疫エフェクター細胞と組み合わせて、好ましくはPBMCと組み合わせて、投与される、請求項1から34のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項37】
抗がん薬と組み合わせて投与される、請求項1から34および36のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項38】
前記抗がん薬が、細胞傷害剤または抗がん抗体である、請求項37に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項39】
細胞傷害剤が、マイトマイシン、バルルビシン、ドセタキセル、チオテパ、シスプラチン、およびゲムシタビンからなる群から選択される、請求項38に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項40】
抗がん抗体が、好ましくは、トラスツズマブ、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ベバシズマブ、ブレンツキシマブベドチン、セツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブ、チウキセタン、イピリムマブ、ニモツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペンブロリズマブ、リツキシマブ、およびトシツモマブからなる群から選択されるモノクローナル単一特異性抗がん抗体である、請求項38または39に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項41】
抗がん抗体が、好ましくは、トラスツズマブ、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ベバシズマブ、ブレンツキシマブベドチン、セツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブ、チウキセタン、イピリムマブ、ニモツズマブ、ニボルマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペンブロリズマブ、リツキシマブ、およびトシツモマブからなる群から選択されるモノクローナル単一特異性抗がん抗体である、請求項38または39に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項42】
抗がん薬と組み合わせるが、免疫エフェクター細胞と組み合わせずに投与する、請求項37から41のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項43】
抗がん薬の投与前、または抗がん薬の投与後に投与される、請求項37から42のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項44】
抗体またはその抗原結合性断片および抗がん薬が、(i)同じ組成物に含まれる、または(ii)個別に投与される、請求項37から43のいずれか一項に記載の使用のための抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項45】
請求項1から44のいずれか一項に記載の、尿路の新生物の治療における使用のための抗体またはその抗原結合性断片を含む薬学的組成物。
【請求項46】
抗体またはその抗原結合性断片が、請求項1から27のいずれか一項に記載の通りである、請求項45に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項47】
薬学的に許容される担体または媒体を含む、請求項45または46に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項48】
緩衝液、好ましくは、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、および酒石酸緩衝液などの有機酸緩衝液を含む、請求項47に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項49】
請求項38から41のいずれか一項に記載の抗がん薬を含む、請求項45から48のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項50】
凍結乾燥粉末の形態、または液体組成物、好ましくは水溶液の形態である、請求項45から49のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項51】
薬学的組成物のpH値が、6.5−8.2、好ましくは7.0−7.8、より好ましくは7.2−7.6、最も好ましくは7.4である、請求項45から50のいずれか一項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項52】
(i)請求項1から27のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合性断片または請求項45から51のいずれか一項に記載の薬学的組成物、および(ii)好ましくは尿路への局所投与により、尿路の新生物を治療するための指示書を伴う添付文書またはラベルを含むキット。
【請求項53】
尿路の新生物の防止および/または治療における使用のための、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
(i)T細胞表面抗原に対する特異性、ならびに
(ii)腫瘍関連細胞表面抗原に対する特異性
を含む多重特異性抗体またはその抗原結合性断片を投与することにより、尿路の新生物を患う対象を治療するための方法。
【請求項55】
抗体またはその抗原結合性断片が、請求項1から27のいずれか一項に記載の通りである、請求項54に記載の治療方法。
【請求項56】
請求項45から51のいずれか一項に記載の薬学的組成物を投与する、請求項54または55に記載の治療方法。
【請求項57】
抗体またはその抗原結合性断片を、請求項28から44のいずれか一項に記載の通りに投与する、請求項54から56のいずれか一項に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿路の新生物の治療、特に膀胱がんの免疫療法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿路に発生する新生物は、特に大半の国々の人口の急速な老齢化のために、全世界において、罹患率が最も急速に上昇しつつある新生物の1つである。膀胱がんは、最も一般的な、尿路の新生物である。米国だけでも、毎年、70,000人を超える人々が、膀胱がんを伴うと診断されており、これらの80%が、非浸潤性膀胱がんを有する。例えば、2016年については、American Cancer Society(http://www.cancer.org/acs/ groups/ content/@research/ documents/ document/acspc-047079.pdf)により、76,960例の症例および関連する16,390人の死亡が推定されている。全世界で、膀胱がんは、430,000例の新たな症例を伴う、がんの9番目の原因であり(World Cancer Report 2014. World Health Organization. 2014. pp. Chapter 1.1. ISBN 9283204298)、毎年約165,000人の死亡が生じている。さらに、膀胱がんは、再発する可能性が高く、したがって、膀胱がんを伴う患者は、長期にわたる監察を受けなければならない。膀胱がんの5年全生存率は、77%であり、この生存率は、過去10年間にわたりさほど変化しておらず、この間、膀胱がんのための新たな薬物は、FDAにより承認されていない。病期ごとに考えると、膀胱の内層に局在した腫瘍を伴う患者、または膀胱に局在した疾患を伴う患者の5年相対生存率は、それぞれ、96%および69%である。生存率は、膀胱を越えて局所的に拡散する疾患を伴う患者について34%に低下し、遠隔転移を伴う患者について6%に低下する。診断されたばかりの膀胱がんは、筋層に浸潤していないが、高悪性度腫瘍を伴う患者は、なおも、それらのがんにより死亡する、著明な危険性を有する。腫瘍の再発もまた、低悪性度疾患を伴う患者についてもなお、主要な懸念であり、長期にわたるフォローアップを必要とする。
【0003】
大半の膀胱がんは、膀胱の内層(尿路上皮(uroepitheliumとしても公知のurothelium))を構成する移行上皮細胞内で始まる。これらの腫瘍は増殖するので、周囲の結合組織および筋肉に浸潤しうる。進行性疾患では、腫瘍は、膀胱を越えて、近傍のリンパ節もしくは骨盤臓器に拡散するか、または肺、肝臓、または骨など、より遠隔の臓器に転移する。「移行上皮」である尿路上皮は、腎盂、尿管、膀胱、および尿道の一部を含む、尿路の大半の内層をなす。一般に、尿路がんであり、特に、膀胱がんの最も一般的な種類は、尿路上皮(urothelium(uroepithelium))に罹患するがんであり、これは、「移行上皮がん腫」(「尿路上皮細胞がん腫」ともまた称するTCC)として公知である。膀胱がん症例のうちの約90%が、TCCとして分類されるのに対し、残りの10%は主に、扁平上皮細胞または腺がん腫である(Fair WR, Fuks ZY, Scher HI. Cancer: Principles & Practice of Oncology, 4th ed. (DeVita VT, Hellman S Rosenberg SA編). J.B. Lippincott Co., Philadelphia, PA. 1993:1052-1072)。初回の診断の時点で、75%の腫瘍が「表在性」である、すなわち、それらは、(まだ)筋層に侵入しておらず、典型的に、「TNM Classification of Malignant Tumors」に従い、pTa、pT1、またはpTISとして分類される。このうちで、50−80%は、1回または数回の再発を招き、15−25%は、浸潤性腫瘍に進行する(Messing EM. Urothelial tumors of the bladder. In: Wein AJら、Campbell-Walsh Urology. Philadelphia, Pa.: Saunders Elsevier; 2007;1445)。
【0004】
尿路の新生物、特に膀胱がんの治療は、新生物が、どれほど深く尿路壁に浸潤するのかに依存する。
【0005】
筋層浸潤性膀胱がんを伴う患者のための標準治療は、シスプラチンベースの化学療法に続く、手術による膀胱の除去、または放射線療法、および共時的な化学療法を含む。再発性膀胱がんは、シスプラチンを加えたゲムシタビン(GC)、またはメトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、およびシスプラチン(MVAC)を含む組合せ化学療法レジメンで治療する。
【0006】
筋層非浸潤性膀胱がんを伴う患者のための標準治療は、手術による膀胱の除去に続く、1用量の化学療法、通例、膀胱内投与されるマイトマイシンC(膀胱内化学療法)を含む。がんの切除は、一部の早期患者では、治癒をもたらしうる。しかし、切除は、全ての患者に適用可能ではないか、またはがんを、十分早期に検出することはできない。代替的に、または加えて、化学療法の局所投与を、実施する場合もある。表在性腫瘍(約75%のTCC)は、その場合は、切除用内視鏡と呼ばれる、膀胱鏡に取り付けられた電気焼灼デバイスを使用して、「削ぎ落とす」ことができる。手順は、経尿道的切除術(TUR)と呼ばれ、主に、病理学的病期分類に用いられる。筋層非浸潤性膀胱がんの症例では、経尿道的切除術は、それ自体が治療である場合もあるが、筋層浸潤性がんなど、多くの症例では、手順は、最終的な治療には不十分である("European Association of Urology (EAU)-Guidelines-Online Guidelines". Uroweb.org. Retrieved 2015-05-07)。
【0007】
手術からの回復の後、疾患進行の危険性が低い患者は、監察またはさらなる膀胱内化学療法を受ける場合がある。しかし、早期においてもまた、上皮内がん腫(CIS)などの膀胱がんは、浸潤性でありうる。CISは、筋層非浸潤性膀胱がんのうちの、最も浸潤性の大きな段階であり、現在利用可能な治療に対して、しばしば、不応性であることが観察される。中悪性度から高悪性度の疾患を患う患者は、弱毒化された生存細菌である、カルメット−ゲラン桿菌(BCG)による膀胱内免疫療法を施されることが多い。
【0008】
BCGは、最初のFDA承認免疫療法であり、細菌ならびに任意の膀胱がん細胞を標的とする免疫応答を刺激することにより、膀胱がん再発の危険性を低減する一助となる。よって、カルメット−ゲラン桿菌(BCG)点滴の形態にある免疫療法が、TCCのための代替的治療および表在性腫瘍の再発の防止として登場した(Boehle. Recent knowledge on BCG’s mechanism of action in the treatment of superficial bladder cancer. Braz J Urol 26:488 (2000);Burgerら、The application of adjuvant autologous intravesical macrophage cell therapy vs. BCG in non-muscle invasive bladder cancer: a multicenter randomized trial. J Transl Med 8:54 (2010))。TCCなどの表在性膀胱がんのために、BCGは、さらに、局所療法、例えば、膀胱内療法のために最も一般に使用される薬剤となり、現在、このような表在性膀胱がんのための、最も効果的な薬剤であることが実証されている。BCG療法は、いっそうの進行期への腫瘍の進行を遅延させ(必ずしも防止するわけではないが)、後続の膀胱切除術に対する必要を減少させ、全生存を改善することを示した。現在のところ、BCGは、膀胱の上皮内がん腫の一次療法として、FDAにより承認されている、唯一の薬剤である。BCGによる、63%の15年疾患特異的生存率は、それらの疾患の経過の早期において、膀胱切除術で治療された患者と比肩する。BCGワクチンが有効であるためには、宿主は、免疫コンピテントでなければならず、腫瘍負荷は小さくなければならず、腫瘍との直接的な接触が生じなければならず、用量は、抗腫瘍応答を誘導するのに十分でなければならない。研究は、一貫して、BCG療法が、上皮内がん腫を伴う患者であって、これらの基準を満たす患者のうちの70%において、このがんを根絶しうることを示した。がんの再発を防止するためには、誘導期に続く、長期にわたる維持療法が必要である。
【0009】
典型的に、BCGは、毎週6週間にわたり投与される。膀胱鏡検査の反復が、腫瘍の遷延または再発を明らかにする場合は、さらに6週間にわたるコースを投与することができる。近年の証拠は、3週間にわたる毎週の治療を、6カ月ごとに、1−3年間にわたって行う維持療法が、より持続的な結果をもたらしうることを指し示す。応答を評価するには通例、定期的な膀胱生検が必要である。BCGの効能は、一般に、十分であると考えられているが、危険性が低度である患者および中等度である患者におけるその制限因子は毒性であるので、その使用には、熟慮がなされている(Babjuk Mら、EAU Guidelines on Non-Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma of the Bladder. Eur Urol 54(2):303 (2008);Denzinger Sら、Versus deferred cystectomy for initial high-risk pT1G3 urothelial carcinoma of the bladder: do risk factors define feasibility of bladdersparing approach? Eur Urol 53(1):146 (2008);Witjes. Management of BCG failures in superficial bladder cancer: a review. Eur Urol 49(5):790 (2006))。
【0010】
BCGの有害事象は、その作用方式と関連する。BCGが免疫反応を刺激すると、局所炎症反応および全身炎症反応が生じる。免疫療法と連関する、最も高頻度の有害事象は、多様なインフルエンザ様症状および膀胱炎様症状を含む。全身毒性、すなわち、発熱は、最大で20%の患者において生じる。有害事象のために、患者のうちのかなりの部分が、BCGを中断することが報告されており、多くの泌尿器科医は、適用を低減する(Herr. Is maintenance Bacillus Calmette-Guerin really necessary? Eur Urol 54(5):971-3 (2008))。BCGは、多様なサイトカインを通して、T細胞媒介性局所免疫応答を刺激することにより、複雑かつ多様な機構を介して作用する(Zlotta ARら、What are the immunologically active components of bacille Calmette-Guerin in therapy of superficial bladder cancer? Int J Cancer 87(6):844 (2000);Luo Yら、Role of Th1-stimulating cytokines in bacillus Calmette-Guerin (BCG)-induced macrophage cytotoxicity against mouse bladder cancer MBT-2 cells. Clin Exp Immunol 146(1):181 (2006))。したがって、BCGは、顆粒球に関連する抗腫瘍作用と、マクロファージによる細胞傷害作用とを誘発する(Ayari Cら、Bladder tumour infiltrating mature dendritic cells and macrophages as predictors of response to bacillus Calmette- Guerin immunotherapy. Eur Urol 55(6):1386 (2009);de Reijke. Editorial comment on: Bladder tumour infiltrating mature dendritic cells and macrophages as predictors of response to bacillus Calmette-Guerin immunotherapy. Eur Urol 55(6):1395 (2009);Takayama Hら、Increased infiltration of tumor associated macrophages is associated with poor prognosis of bladder carcinoma in situ after intravesical bacillus Calmette-Guerin instillation. J Urol 181(4):1894 (2009);Brandau. Tumour-associated macrophages: predicting bacillus Calmette-Guerin immunotherapy outcomes. J Urol 181(4):1532 (2009);Siracusano Sら、The role of granulocytes following intravesical BCG prophylaxis. Eur Urol 51(6):1589 (2007);Brandau Sら、The role of granulocytes following intravesical BCG prophylaxis. Eur Urol 51:1589-99 (2007))。
【0011】
要約すると、BCG液は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の弱毒化形態から構成された、特徴付けのなされていない生成物であり、したがって、良好な安全性プロファイルを呈示しない。加えて、BCGベースの免疫療法は、この非浸潤性腫瘍段階にある、最大で30%の症例に限り有効である。その腫瘍が、BCGによる治療の後で再発した患者は、治療がより困難となる。多くの医師は、これらの患者に、膀胱切除術を推奨する。この推奨は、European Association of Urologists、およびAmerican Urological Associationの公式ガイドラインと合致する。しかし、多くの患者は、この人生を変える手術を受けることを拒否し、この最後の根治的手段を選択する前に、新規の控えめな治療選択肢を試みることを好む。
【0012】
治療しないと、表在性がんは、徐々に、膀胱または尿路の他の部分の筋層壁に浸潤し始める。結果として、例えば、膀胱に浸潤するがんは、より根治的な手術を要する。この場合、例えば、膀胱の一部または全部を、膀胱切除術で除去し、尿流を、別個の腸ループに迂回させる。放射線療法と化学療法との過酷な組合せもまた、例えば、治療が不十分な非浸潤性形態から生じる浸潤性疾患形態を治療するのに必要とされうる。このような化学療法は、重度の副作用と関連し、可能な場合は、回避すべきである。さらに、膀胱がんに由来する微小転移性疾患であって、長期にわたる生存に影響を及ぼす微小転移性疾患も生じうる。よって、また、後者のさらなる問題に取り組むためにも、表在性膀胱がんの早期治療を伴う、新たな治療選択肢が必要とされている。早期における、このような新規の治療選択肢は、手術および化学療法を回避するのに有益であろう。したがって、膀胱の新生物性疾患、とりわけ、現行の限定的な選択肢が、主に、BCGおよび手術である、尿路上皮膀胱がんの非浸潤性形態など、尿路の新生物の治療に適する活性薬剤を提供することが、火急に必要とされている。
【0013】
このように、BCG療法以外の膀胱がん免疫療法に対する必要は満たされていない。このことに関する有望な手法は、膀胱がんの治療のための、免疫チェックポイント阻害剤の使用である。阻害性分子を遮断するか、代替的に、刺激性分子を活性化させることにより、既存の抗がん免疫応答を、解放または増強するように、これらの治療は、デザインされる。例えば、PD−1リガンドであるPD−L1は、上皮内がん腫内において、膀胱腫瘍細胞の12%、腫瘍浸潤免疫細胞の27%によって、かつ悪性尿路上皮細胞の最大50%で発現される。加えて、膀胱腫瘍に浸潤するリンパ球のうちの95%も、PD−1受容体を発現する。尿路上皮におけるPD−L1の発現はまた、臓器限定的疾患を伴う患者における、膀胱切除術後の死亡率の予兆ともなった。それゆえに、PDL1/PD−1経路は、腎細胞がん、肺がん、および黒色腫など、他の上皮腫瘍における所見と同様、膀胱がんの治療のための、魅力的な治療標的として同定された。進行中のフェーズII試験は、MPDL3280Aを、シスプラチン含有レジメンの候補者ではない患者における、進行性膀胱がんのための第1選択治療または第2選択肢として調査中である(NCT02108652)。CTLA−4の遮断もまた、尿路上皮がんにおける別の免疫療法戦略として、活発な探索下にある。CTLA−4は、腫瘍細胞媒介性免疫抑制において重要な役割を果たし、抗CTLA−4モノクローナル抗体であるイピリムマブによるその遮断は、Tリンパ球機能を増強する結果として、黒色腫、腎細胞がん腫、および非小細胞肺がんにおいて、有意義な腫瘍応答をもたらす。膀胱切除術の前における、限局性膀胱がんを伴う患者の、イピリムマブによる治療は、この手法の実現可能性および安全性を裏付けた(Carthon BC, Wolchok JD, Yuan J, Kamat A, Ng Tang DS, Sun J, et al.: Preoperative CTLA-4 blockade: tolerability and immune monitoring in the setting of a presurgical clinical trial. Clin Cancer Res 2010;16(10):2861-71)。これらの結果に裏打ちされて、進行中のフェーズII試験は、ゲムシタビン、シスプラチン、およびイピリムマブの組合せを、転移性尿路上皮がん腫の第1選択治療として評価しつつある(NCT01524991)。さらに、抗腫瘍活性免疫療法の組合せ(例えば、抗PD−1、抗CTLA−4、およびワクチン)を増強する潜在的可能性を示す前臨床的証拠に基づき、進行中の臨床試験は、膀胱がんを含む、進行性充実性腫瘍における、抗PD−L1、抗CTLA−4、およびOX−40アゴニストを含む組合せの安全性および効能について探索し始めている(NCT02205333)。
【0014】
しかし、重要な臨床的利益にも関わらず、免疫応答「を解放する」チェックポイント阻害は、免疫関連有害事象(irAEs)と称する、特有の範囲における重度の副作用、または、場合によって、特別に注意すべき有害事象と関連する(Naidoo J, Page DB, Li BT, Connell LC, Schindler K, Lacouture ME, Postow MA, Wolchok JD: Toxicities of the anti-PD-1 and anti-PD-L1 immune checkpoint antibodies. Ann Oncol. 2015;26(12):2375;Champiat S, Lambotte O, Barreau E, Belkhir R, Berdelou A, Carbonnel F, Cauquil C, Chanson P, Collins M, Durrbach A, Ederhy S, Feuillet S, Francois H, Lazarovici J, Le Pavec J, De Martin E, Mateus C, Michot JM, Samuel D, Soria JC, Robert C, Eggermont A, Marabelle A: Management of immune checkpoint blockade dysimmune toxicities: a collaborative position paper. Ann Oncol. 2015 Dec 28. pii: mdv623. [Epub ahead of print])。
【0015】
別の選択肢は、標的治療法において、腫瘍関連抗原に対する単一特異性抗体を使用することである。このような一例は、HLA−A
*0201と関連してがん細胞上に提示されたヒトp53抗原(p53+/HLA−A
*0201)のペプチドエピトープ(アミノ酸264−272)を認識する、可溶性の一本鎖T細胞受容体ドメインに連結されたインターロイキン2(IL−2)を含む、二機能性融合タンパク質である、ALT−801(Altor Bioscience Corporation)である。これにより、IL−2を、がん細胞に標的化し、免疫系の活性を増強する。BCG療法が奏効しなかった筋層非浸潤性膀胱がんを伴う患者における、ゲムシタビンと組み合わせたALT−801について(NCT01625260)、および筋層浸潤性膀胱がんを伴う患者における、ゲムシタビンおよびシスプラチンと組み合わせたALT−801について、2つのフェーズI/II試験が進行中である(NCT01326871)。しかし、この標的化免疫療法は、特異的HLA型を伴う患者に限定されることが示唆されている。
【0016】
別の標的療法では、シュードモナス(Pseudomonas)属外毒素Aに連結された、腫瘍関連抗原であるEpCAMに対する抗体(VB4−845としてもまた公知の「オポルツズマブ・モナトクス」)(Kowalskiら、2012: A phase II study of oportuzumab monatox: an immunotoxin therapy for patients with noninvasive urothelial carcinoma in situ previously treated with bacillus Calmette-Guerin. J Urol 188: 1712)を使用する。有効な治療を達成するためには、患者1人当たり、およそ100mgという高用量の抗体薬物が必要とされる。このような高用量の抗体は一般に、免疫学的副作用の危険性を有し、実際、93.5%の患者において、副作用を惹起し、これらのうちの少なくとも65%は、高用量で投薬されたオポルツズマブ・モナトクスと直接関連した。よって、以下で、オポルツズマブ・モナトクスをさらに追求することはなかった。
【発明の概要】
【0017】
以上の見地から、尿路の新生物の治療における使用のための、改善された免疫療法が必要である。したがって、上記で概括した、膀胱がんのための現行の免疫療法の欠点を克服し、尿路の新生物の治療における使用のための新規の化合物であって、尿路の新生物、特に膀胱がんを患う患者の生存を改善し、副作用の危険性が低い化合物を提供することが、本発明の目的である。
【0018】
以下では、付属の図についての簡潔な記載を行う。図は、本発明を、より詳細に例示することを意図する。しかし、図は、いかなる形であれ、本発明の対象物を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1について、(A)100%尿中のCD3発現Jurkat細胞への、カツマキソマブの結合(5×10
5個の標的細胞を、2−8℃、表示のカツマキソマブ濃度で、60分間にわたりインキュベートした)、および(B)100%尿中のEpCAM陽性HCT−8細胞への、カツマキソマブの結合(5×10
5個の標的細胞を、2−8℃、表示のカツマキソマブ濃度で、60分間にわたりインキュベートした)を示す図である。
【
図2】実施例2について、同種細胞傷害作用アッセイを適用することによる、10%尿環境内のカツマキソマブの生物学的活性を示す図である。1×10
5個の末梢血単核細胞(PBMC)を、表示量の抗体の存在下で、1×10
4個のEpCAM+ HCT−8腫瘍細胞と混合した。腫瘍細胞殺滅を計算し、[%]単位でプロットした。
【
図3】実施例3について、カツマキソマブの膀胱内適用の約2週間前における、患者1の膀胱の内視鏡イメージングを示す図である。パネルFの矢印は、表在性膀胱がんに典型的な、増殖性乳頭構造を指し示す。
【
図4】実施例3について、カツマキソマブの最終回適用の約2週間後における、患者1の膀胱の内視鏡イメージングを示す図である。粘膜は、治療前に解析された領域内で、再度完全に正常であった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この目的は、下記および付属の特許請求の範囲に明示される対象物により達成される。
【0021】
本発明について、下記で詳細に記載するが、本発明は、それらは、変動しうるので、本明細書で記載される特定の方法、プロトコール、および試薬に限定されるものでないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語法は、付属の請求項によってのみ限定されるであろう本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されたい。そうでないことが規定されない限りにおいて、本明細書で使用される、全ての技術用語および科学用語は、当業者により一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0022】
以下では、本発明の要素について記載する。これらの要素を、具体的な実施態様と共に列挙するが、それらを、任意の形および任意の数で組み合わせて、さらなる実施態様を創出しうることを理解されたい。様々に記載される例および好ましい実施態様は、本発明を、明示的に記載された実施態様だけに限定するようには解釈されないものとする。この記載は、明示的に記載された実施態様を、任意の数の、開示された要素および/または好ましい要素と組み合わせる実施態様を裏書きし、包摂するように理解されるものとする。さらに、本出願で記載される全ての要素の、任意の順列および組合せは、文脈によりそうでないことが指し示されない限りにおいて、本出願の記載により開示されると考えられるものとする。
【0023】
以下の本明細書および特許請求の範囲を通して、文脈によりそうでないことが要請されない限りにおいて、「〜を含む(comprise)」という用語、ならびに「〜を含む(comprises)」および「〜を含むこと(comprising)」などの変化形は、言明されたメンバー、整数、またはステップの含有を含意するが、他の任意の、言明されていないメンバー、整数、またはステップの除外を含意するわけではないように理解される。「〜からなる」という用語は、「〜を含む(comprise)」という用語の特定の実施態様であり、この場合、他の任意の言明されていないメンバー、整数、またはステップは除外される。本発明の文脈では、「〜を含む(comprise)」という用語は、「〜からなる」という用語を包摂する。したがって、「〜を含むこと(comprising)」という用語は、「〜を含むこと(including)」のほか、「〜からなること」も包摂し、例えば、X「を含む」組成物は、もっぱら、Xからなる場合もあり、さらなる何ものか、例えば、X+Yを含む場合もある。
【0024】
「ある(a)」および「ある(an)」および「その」、ならびに本発明について記載する文脈で(とりわけ、特許請求の範囲の文脈で)使用される類似の言及は、本明細書でそうでないことが指し示されないか、または文脈により明確に否定されない限りにおいて単数および複数の療法を対象とするように解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の列挙は、範囲内に収まる各個別の値に、個々に言及することの縮約法として用いられることだけを意図するものである。本明細書でそうでないことが指し示されない限りにおいて、各個別の値は、本明細書で個別に列挙された場合と同様に、本明細書で援用される。本明細書におけるいかなる表現も、本発明の実施に不可欠な、任意の、特許請求されていない要素を指し示すとは解釈されないものとする。
【0025】
「実質的に」という語は、「完全に」という語を除外せず、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない場合もある。必要な場合、「実質的に」という語を、本発明の定義から省くことができる。
【0026】
数値xとの関連における「約」という用語は、x±10%を意味する。
【0027】
尿路の新生物の治療のための多重特異性抗体
第1の態様では、本発明は、
尿路の新生物の治療における使用のための、
(i)T細胞表面抗原に対する特異性、ならびに
(ii)がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する特異性
を含む単離された多重特異性抗体またはその抗原結合性断片を提供する。
【0028】
T細胞表面抗原に対する特異性、ならびにがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する特異性の両方を提供することにより、本発明に従う多重特異性抗体、またはその抗原結合性断片は、T細胞を、がん細胞にリダイレクトすることが可能である。これにより、「T細胞表面抗原に対する特異性」とは、特に、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、T細胞表面抗原のエピトープを認識するパラトープを含むことを意味する。言い換えると、「T細胞表面抗原に対する特異性」という語句は、特に、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、T細胞表面抗原に対する結合性部位を含むことを意味する。したがって、「がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する特異性」とは、特に、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原のエピトープを認識するパラトープを含むことを意味する。言い換えると、「がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する特異性」という語句は、特に、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する結合性部位を含むことを意味する。
【0029】
重要なことに、単一の特異性だけを呈示する従来の(「通常の」)抗体とは異なり、多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープ、すなわち、がん/腫瘍細胞上の1つのエピトープと、T細胞上の1つのエピトープに結合し、これにより、T細胞を、がん/腫瘍細胞に「リダイレクトする」結果として、T細胞媒介性細胞殺滅をもたらすことが可能である。したがって、本発明に従う多重特異性抗体は、T細胞リダイレクト特性を呈示する、すなわち、抗体は、典型的に、アネルギー状態にある腫瘍特異的T細胞を再活性化させ、かつ/またはT細胞を、所望の抗原に方向付けることが可能である(抗体のがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する特異性によりもたらされる)。
【0030】
さらに、多重特異性抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、腫瘍反応性の補体結合性抗体を誘導し、したがって、体液性免疫応答を誘導することが可能である。これにより、T細胞媒介性細胞傷害性活性およびさらなる免疫が促進され、標的のがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原を保有する細胞に対して特異的な治療効果がもたらされる。結果として、尿路の新生物の効果的な治療における使用のための強力な手段がもたらされる。
【0031】
本発明に従う、このような抗体またはその抗原結合性断片は、従来の単一特異性抗体と比較して、極めて低量で投薬しても、十分に強力である。実際、例で示される通り、極めて低量の、本発明に従う抗体でも、膀胱がんを伴う患者において、すなわち、例えば、血液中と全く異なる悪環境内で、治療効果を達成するのに十分である。これが驚きべきことであるのは、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体、またはこれらの抗原結合性断片が、従来の単一特異性抗体と比較して、例えば、悪pH条件または悪電解質条件のために、機能性を喪失する傾向にあると一般に考えられているからである。その理由は、従来の単一特異性抗体とは対照的に、多重特異性抗体は、好ましくは、各特異性に関して、単一のパラトープ(すなわち、各特異性に対して、厳密に1つのパラトープ)を有するということであろう。例えば、二価抗体(すなわち、2つのパラトープを有する抗体)を考えると、従来の単一特異性抗体は、同じ特異性を伴う、2つのパラトープを有し、これにより、冗長性をもたらすのに対し、二重特異性の二価抗体は、各特異性に対して、1つのパラトープだけを有する。したがって、1つのパラトープの機能性が失われた場合(例えば、尿環境内の、悪pH条件または悪電解質条件のために)、単一特異性抗体は、なおも、別のパラトープを有するのに対し、二重特異性抗体は、その全機能性(T細胞をがん細胞にリダイレクトする機能性など)を失う。また、単一特異性抗体、およびそれらの抗原結合性断片の一般的な投薬量と比較した、多重特異性抗体、またはその抗原結合性断片の、はるかに低量の投薬量を考慮すると、尿中の希釈効果が、尿路内の十分な治療濃度を損なわないことは、さらに驚くべきことである。
【0032】
他方、低量の投薬は、副作用に対する危険性を大幅に軽減する。したがって、本発明に従う、多重特異性抗体またはその抗原結合性断片は、炎症促進性サイトカインの放出の低減に寄与する。炎症促進性サイトカインの放出が、がんおよび/または腫瘍の環境内で、しばしば観察されることは、注目に値する。したがって、がんおよび/または腫瘍の環境内で観察されることが多い慢性炎症は、本発明の抗体の投与経過中に軽減されうるであろう。特に、本発明に従う多重特異性抗体またはその抗原結合性断片を使用することによる治療は、例で示される通り、尿中で検出可能な白血球の低減をもたらす。これは、この治療によらなければ、尿路の新生物、特に、膀胱がんに典型的である、炎症性徴候が、低減または根絶されることを実証する(これは、本発明に従う抗体の治癒効力を裏付ける)。
【0033】
さらに、本発明に従う抗体の治療効果は、少なくとも数カ月間にわたり持続し、所望されない再発症の例でも、本多重特異性抗体またはその抗原結合性断片による、後続の治療サイクルは、BCG治療下の再発について、一般にそうであるような、手術を、または化学療法さえ必要とすることなく、前記再発生を回復することが可能である。
【0034】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、本発明に従う特徴的な特性が保持されている限りにおいて、全抗体、抗体断片、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、および遺伝子操作抗体(バリアント抗体または突然変異体抗体)を含むがこれらに限定されない、多様な形態の抗体、好ましくは、モノクローナル抗体を包含する。ヒト抗体またはヒト化モノクローナル抗体および組換え抗体、特に、組換えモノクローナル抗体が好ましい。したがって、本発明に従う抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である。さらに、また、抗体は、多鎖抗体、すなわち、1つを超える鎖を含む抗体であり、したがって、単鎖抗体と異なる抗体であってもよい。
【0035】
本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。ヒト抗体は、当技術分野の最先端において周知である(van Dijk, M. A.およびvan de Winkel, J. G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体はまた、免疫化されると、内因性免疫グロブリン産生の非存在下で、ヒト抗体の完全なレパートリーまたは選択をもたらすことが可能な、トランスジェニック動物(例えば、マウス)においても作製することができる。このような生殖細胞系列突然変異体マウスへの、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリンの遺伝子アレイの移入は、抗原投与時におけるヒト抗体の産生を結果としてもたらすであろう(例えば、Jakobovits, A.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555;Jakobovits, A.ら、Nature 362 (1993) 255-258;Bruggemann, M.ら、Year Immunol. 7 (1993) 3340を参照)。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーにおいても作製することができる(Hoogenboom, H. R.およびWinter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388;Marks, J. D.ら、J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。ColeらおよびBoernerらの技法もまた、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である(Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);およびBoerner, P.ら、J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語はまた、例えば、本発明に従う特性を生じるように、可変領域内で修飾された抗体も含む。
【0036】
本明細書で使用される「組換え抗体」という用語は、天然では生じない全ての抗体、特に、例えば、CHO細胞などの宿主細胞、もしくは動物(例えば、マウス)から単離された抗体、または宿主細胞にトランスフェクトした組換え発現ベクターを使用して発現させた抗体など、組換え手段により調製するか、発現させるか、創出されるか、または単離された抗体を含むことを意図する。このような組換え抗体は、自然発生の抗体と比較して再配列された形態にある、可変領域および定常領域を有する。
【0037】
本明細書で使用される「抗原結合性断片」、「断片」、および「抗体断片」という用語は、本発明に従う使用のための抗体の特異的結合活性、特に、T細胞表面抗原に対する特異性と、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する特異性とを保持する、本発明の抗体の任意の断片を指すように、互換的に使用される。抗体断片の例は、単鎖抗体、Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fv、またはscFvを含むが、これらに限定されない。本発明の抗体の断片は、ペプシンもしくはパパインなどの酵素による消化、および/または化学的還元によるジスルフィド結合の切断を含む方法により、抗体から得ることができる。代替的に、抗体の断片は、重鎖および/または軽鎖の配列の一部のクローニングおよび発現により得ることもできる。「断片」は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、およびFv断片を含むが、これらに限定されない。本発明はまた、本発明の抗体の重鎖および軽鎖に由来する一本鎖Fv断片(scFv)も包摂する。例えば、本発明は、本発明の抗体に由来するCDRを含むscFvを含む。また、重鎖または軽鎖の単量体および二量体、単一ドメイン重鎖抗体、単一ドメイン軽鎖抗体のほか、単鎖抗体、例えば、重鎖可変ドメインと、軽鎖可変ドメインとを、ペプチドリンカーにより結合した単鎖Fvも含まれる。本発明の抗体断片は、一価または多価の相互作用を付与し、上記で記載した様々な構造内に含有されうる。例えば、scFv分子は、三価「トリアボディー」または四価「テトラボディー」を創出するように合成することができる。scFv分子は、二価ミニボディーを結果としてもたらす、Fc領域のドメインを含みうる。加えて、本発明の配列は、本発明の配列が、本発明のエピトープを標的とし、分子の他の領域が、他の標的に結合する、多重特異性分子の構成要素でありうる。例示的な分子は、二重特異性Fab2、三重特異性Fab3、二重特異性scFv、およびダイアボディー(HolligerおよびHudson, 2005, Nature Biotechnology 9: 1126-1136)を含むが、これらに限定されない。特許請求の範囲を含む明細書は、一部の箇所で、抗体の、抗原結合性断片(1または複数)、抗体断片(1または複数)、バリアント(1または複数)、および/または誘導体(1または複数)に明示的に言及する場合があるが、「抗体」または「本発明の抗体」という用語は、抗体の全ての類型、すなわち、抗体の、抗原結合性断片、抗体断片、バリアント、および誘導体を含むことが理解される。
【0038】
本明細書で使用される「多重特異性」という用語は、例えば、T細胞表面抗原、およびがん/腫瘍抗原など、異なる抗原上の、少なくとも2つの異なるエピトープに結合する能力を指す。したがって、「二重特異性」、「三重特異性」、「四重特異性」などの用語は、抗体が結合しうる、異なるエピトープの数を指す。例えば、従来の単一特異性IgG型抗体は、2つの同一なエピトープ結合性部位(パラトープ)を有し、したがって、同一なエピトープだけに結合しうる(異なるエピトープには結合しない)。これに対し、多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる種類のパラトープを有し、したがって、少なくとも2つの異なるエピトープに結合しうる。本明細書で使用される「パラトープ」とは、抗体のエピトープ結合性部位を指す。さらに、単一「特異性」は、単一の抗体内の、1つ、2つの、3つ、またはこれを超える同一なパラトープ(「価数」と称する、単一の抗体分子内のパラトープの実際の数)を指す場合がある。例えば、単一の天然のIgG抗体は、2つの同一なパラトープを有するので、単一特異性であり、二価である。したがって、多重特異性抗体は、少なくとも2つの(異なる)パラトープを含む。したがって、「多重特異性抗体」という用語は、1つを超えるパラトープと、2つまたはこれを超える異なるエピトープに結合する能力とを有する抗体を指す。「多重特異性抗体」という用語は、特に、上記で規定した二重特異性抗体を含むが、典型的にまた、タンパク質、例えば、特に、3つまたはこれを超える異なるエピトープに結合する抗体、足場、すなわち、3つまたはこれを超えるパラトープを伴う抗体も含む。
【0039】
特に、多重特異性抗体またはその抗原結合性断片は、2つまたはこれを超えるパラトープを含むことが可能であり、この場合、抗体の全てのパラトープが、少なくとも2つの異なる種類のパラトープに属するように、一部のパラトープは、同一であることが可能であり、よって、抗体は、少なくとも2つの特異性を有する。例えば、本発明に従う多重特異性抗体またはその抗原結合性断片は、4つのパラトープを含むことが可能であり、この場合、2つずつのパラトープは、同一であり(すなわち、同じ特異性を有し)、したがって、抗体またはその断片は、二重特異性であり、四価(2つの特異性の各々について、2つずつの同一なパラトープ)である。したがって、「1つの特異性」とは、特に、同じ特異性(典型的に、このような1または複数のパラトープが同一であることを意味する)を呈示する、1または複数のパラトープを指し、したがって、「2つの特異性」とは、それらが、2つだけの特異性を指す限りにおいて、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、またはこれを超えるパラトープでありうる。最も好ましくは、多重特異性抗体は、各特異性(少なくとも2つの特異性の各々)について、単一のパラトープを含む、すなわち、多重特異性抗体は、合計で、少なくとも2つのパラトープを含む。例えば、二重特異性抗体は、2つの特異性の各々について、単一のパラトープを含む、すなわち、抗体は、合計で、2つのパラトープを含む。また、抗体が、2つの特異性の各々について、2つの(同一な)パラトープを含む、すなわち、抗体が、合計で、4つのパラトープを含むことも好ましい。好ましくは、抗体は、2つの特異性の各々について、3つの(同一な)パラトープを含む、すなわち、抗体が、合計で、6つのパラトープを含む。
【0040】
本明細書で使用される「抗原」という用語は、適応免疫応答の受容体の標的、特に、抗体、T細胞受容体、および/またはB細胞受容体の標的として用いられる、任意の構造物質を指す。「抗原決定基」としてもまた公知の「エピトープ」とは、免疫系、特に、抗体、T細胞受容体、および/またはB細胞受容体により認識される抗原の一部(または断片)である。したがって、1つの抗原は、少なくとも1つのエピトープを有する、すなわち、単一の抗原は、1または複数のエピトープを有する。抗原は、(i)ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質、(ii)多糖、(iii)脂質、(iv)リポタンパク質もしくはリポペプチド、(v)糖脂質、(vi)核酸、または(vii)低分子薬物もしくは毒素でありうる。したがって、抗原は、リポタンパク質および糖脂質、核酸(例えば、DNA、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイDNA、プラスミド)、もしくは低分子薬物(例えば、シクロスポリンA、パクリタキセル、ドキソルビシン、メトトレキサート、5−アミノレブリン酸)、またはこれらの任意の組合せを含む、ペプチド、タンパク質、多糖、脂質、これらの組合せでありうる。好ましくは、抗原は、(i)ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質、(ii)多糖、(iii)脂質、(iv)リポタンパク質またはリポペプチド、および(v)糖脂質から選択され、より好ましくは、抗原は、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である。
【0041】
本明細書で使用される「がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(のエピトープ)」とは、がん関連抗原、がん特異的抗原、腫瘍関連抗原、および/または腫瘍特異的抗原(のエピトープ)を指す。このようなエピトープ/抗原は、典型的に、ある特定の種類のがん/腫瘍に特異的であるか、またはこれらと関連する。適切ながん/腫瘍エピトープおよび抗原は、例えば、がん/腫瘍エピトープデータベース、例えば、ヒト腫瘍抗原を、それらの発現パターンに基づき、4つの主要な群に分類した、van der Bruggen P,Stroobant V,Vigneron N,Van den Eynde B.Peptide database−T cell−defined tumor antigens.Cancer Immun 2013;URL:http://www.cancerimmunity.org/peptide/から検索することもでき、「Tantigen」データベース(Bioinformatics Core at Cancer Vaccine Center,Dana−Farber Cancer Institute;URL:http://cvc.dfci.harvard.edu/tadb/により開発された、TANTIGEN version 1.0、2009年12月1日)から検索することもできる。本発明の文脈で有用な、がん関連抗原、特に、腫瘍関連抗原、または組織特異的抗原の具体例は、以下の抗原:Epha2、Epha4、PCDGF、HAAH、メソテリン;EPCAM;NY−ESO−1、糖タンパク質MUC1、およびNIUC10 ムチンp5(とりわけ、突然変異形)、EGFR;がん抗原125(CA125)、上皮糖タンパク質40(EGP40)(Kievitら、1997, Int. J. Cancer 71: 237-245)、扁平上皮がん腫抗原(SCC)(Lozzaら、1997 Anticancer Res. 17: 525-529)、カテプシンE(Motaら、1997, Am. J Pathol. 150: 1223-1229)、CDC27(タンパク質の突然変異形態を含む)、トリオースリン酸イソメラーゼ抗原、707−AP、A60マイコバクテリア抗原(Macsら、1996, J. Cancer Res. Clin. Oncol. 122: 296-300)、AFP、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、ART−4、ASC、BAGE、β−カテニン/m、BCL−2、bcr−abl、bcr−abl p190、bcr−abl p210、BRCA−1、BRCA−2、CA19−9(TolliverおよびO’Brien, 1997, South Med. J. 90: 89-90;Tsurutaら、1997 Urol. Int. 58: 20-24)、CA125、CALLA、CAMEL、炭酸脱水酵素、CAP−1、CASP−8、CDC27/m、CDK−4/m、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD44v3、CD44v6、CD47、CD52、CEA(Huangら、Exper Rev. Vaccines (2002)1:49-63)、c−erb−2、CT9、CT10、Cyp−B、Dek−cain、DAM−6(MAGE−B2)、DAM−10(MAGE−B1)、EphA2(Zantekら、Cell Growth Differ. (1999) 10:629-38;Carles-Kinchら、Cancer Res. (2002) 62:2840-7)、EphA4(Chengら、2002, Cytokine Growth Factor Rev. 13:75-85)、腫瘍関連トムセン−フリーデンライヒ抗原(Dahlenborgら、1997, Int. J Cancer 70: 63-71)、ELF2M、ETV6−AML1、G250、GAGE−1、GAGE−2、GAGE−3、GAGE−4、GAGE−5、GAGE−6、GAGE−7B、GAGE−8、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GnT−V、GM1、GM2、GM3、gp100(Zajacら、1997, Int. J Cancer 71: 491-496)、GT1b、GT3、GQ1、HAGE、HER2/neu、HLA、HLA−DR、HLA−A
*0201−R170I、HPV−E7、HSP−27、HSP−70、HSP70−2M、HSP−72、HSP−90、HST−2、hTERT、hTRT、iCE、サバイビンなどのアポトーシス阻害剤、KH−1腺がん腫抗原(DeshpandeおよびDanishefsky, 1997, Nature 387: 164-166)、KIAA0205、K−ras、LAGE、LAGE−1、LDLR/FUT、Lewis Y抗原、MAGE−1、MAGE−2、MAGE−3、MAGE−6、MAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A6、MAGE−A10、MAGE−A12、MAGE−B5、MAGE−B6、MAGE−C2、MAGE−C3、MAGED、MART−1、MART−1/Melan−A(KawakamiおよびRosenberg, 1997, Int. Rev. Immunol. 14: 173-192)、MC1R、MCSP、MDM−2、MHCII、mTOR、Myosin/m、MUC1、MUC2、MUM−1、MUM−2、MUM−3、ネオポリAポリメラーゼ、NA88−A、NFX2、NY−ESO−1、NY−ESO−1a(CAG−3)、PAGE−4、PAP、プロテイナーゼ3(Molldremら、Blood (1996) 88:2450-7; Molldremら、Blood (1997) 90:2529-34)、P15、p53、p97、p190、PD−L1、Pgp、PIK3CA、Pm1/RARα、PRAME、プロテオグリカン、PSA、PSM、PSMA、RAGE、RAS、RCAS1、RU1、RU2、SAGE、SART−1、SART−2、SART−3、SP17、SPAS−1、SSX2、SSX4TEL/AML1、TPI/m、チロシナーゼ、TARP、テロメラーゼ、TRP−1(gp75)、TRP−2、TRP−2/INT2、VEGF、WT−1、Wue抗原、細胞表面標的GC182、GT468またはGT512、ならびに代替的に、NY−ESO−1遺伝子およびLAGE−1遺伝子に由来する、翻訳されたNY−ESO−ORF2タンパク質およびCAMELタンパク質を含むがこれらに限定されない。本発明の文脈で有用な、がん関連、特に、腫瘍関連、または組織特異的抗原のさらなる具体例は、CD133である。
【0042】
TCCなどの膀胱がんの関連では、Jonesら、1997,Anticancer Res.17:685−687において記載されている抗原が、特に、好ましい。当技術分野では、他の多数のがん抗原が周知である。特に、尿路上皮細胞は、新生物内で過剰発現する、いくつかの(表面)構造を含むことが可能であり、がん特異的抗原および/または腫瘍特異的抗原として用いられうる。したがって、尿路上皮の新生物細胞と関連する、このような抗原が好ましい。
【0043】
本明細書で使用される「T細胞表面抗原(のエピトープ)」とは、T細胞表面関連抗原またはT細胞表面特異的抗原(「T細胞表面マーカー」としてもまた公知である)(に由来するエピトープ)を指す。これらは特に、T細胞に特異的な「CD」(分化抗原)分子である。CD分子は、白血球の同定および特徴付けに有用な細胞表面マーカーである。CD命名法は、1982年に始まったHLDA(ヒト白血球分化抗原)ワークショップにより開発され、維持されている。ある特定のCD分子が、T細胞上で見出される(したがって、本発明の文脈における、T細胞表面抗原を表す)のかどうかは、例えば、http://www.ebioscience.com/resources/human−cd−chart.htm、BD Bioscience’s “Human and Mouse CD Marker Handbook”(https://www.bdbiosciences.com/documents/cd_marker_handbook.pdfにおいて検索可能である)またはwww.hcdm.orgなど、当業者に公知の様々な出典から検索することができる。したがって、T細胞表面抗原の例は、例えば、BD Bioscience’s “Human and Mouse CD Marker Handbook”(https://www.bdbiosciences.com/documents/cd_marker_handbook.pdfにおいて検索可能である)または「CDマーカーチャート」の他の出典において、T細胞について陽性で指し示された(ヒト)CDマーカーを含む。
【0044】
本発明に従う、抗体またはその抗原結合性断片は、尿路の新生物の治療において使用される。
【0045】
本明細書で使用される「新生物」という用語は、組織の任意の異常な増殖を指す。このような異常な増殖(新生物)は通例、常に塊を形成するわけではない。新生物が塊を形成する場合、これを「腫瘍」と称する。特に、腫瘍は、新生物性細胞の異常な増殖により形成される場合もあり、形成されない場合もあり、サイズが肥大して見える、固形病変または体液が充溢する嚢胞性病変である。本発明の文脈における新生物は、腫瘍を形成する場合もあり、形成しない場合もある。特に、白血病および上皮内がん腫(CIS)の大半の形態は、腫瘍を形成しない。腫瘍はまた、がんと同義でもない。がんは、定義上、悪性であるが、腫瘍は、良性の場合もあり、前がん性の場合もあり、悪性の場合もある。
【0046】
一般に、新生物は、4つの主要な群:良性新生物、上皮内新生物、悪性新生物、および挙動が不確定または未知である新生物に分類される。悪性新生物はまた、「がん」として公知でもある。特に、新生物は、良性の場合もあり、潜在的に悪性(前がん)の場合もあり、悪性(がん)の場合もある。良性腫瘍は、子宮筋腫および色素細胞性母斑(皮膚のほくろ)を含む。これらは、限局性および局在性であり、がんに形質転換しない。潜在的に悪性の新生物は、上皮内がん腫を含む。これらは、局在性であり、浸潤および破壊しないが、場合によって、がんに形質転換しうる。悪性新生物は、一般にがんと呼ばれる。これらは、周囲の組織を浸潤および破壊し、転移を形成する場合があり、治療されないか、または治療に応答しない場合、致死性となるであろう。続発新生物とは、化学療法または放射線療法など、ある特定のがん治療に従い、頻度が増大する、原発腫瘍の転移性派生物、または見かけ上非類縁である腫瘍である、がん性腫瘍のクラスのうちのいずれかを指す。まれに、原発がんの既知の部位を伴わない転移性新生物が存在し、原発由来が未知のがんとして分類される。
【0047】
本発明の文脈では、新生物は、好ましくは、上皮内がん腫など、潜在的に悪性(前がん)または悪性(がん)である。
【0048】
本明細書で使用される「尿路」という用語(また、「泌尿器系」としても公知である)は、腎臓、尿管、膀胱、および尿道を含むように理解される。尿路は典型的に、尿を産生し、排出点に導く構造を指す。
【0049】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは点滴を介して、尿路に全身または局所投与される。
【0050】
本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、多様な投与経路、例えば、全身経路または局所経路により投与することができる。全身投与のための経路は一般に、例えば、経皮経路、経口経路、ならびに皮下経路、静脈内経路、筋内経路、動脈内経路、皮内経路、および腹腔内経路、ならびに/または鼻腔内投与経路を含む非経口経路を含む。局所投与のための経路は一般に、例えば、局所投与経路を含むが、また、腫瘍内投与など、罹患部位における直接的な投与も含む。本発明の文脈では、「局所投与」が好ましく、特に、膀胱内投与など、尿路への直接的な局所投与を指す。
【0051】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、非経口投与経路により投与される。より好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、静脈内経路、腫瘍内経路、皮内経路、筋内経路、鼻腔内経路、またはリンパ節内経路を介して投与される。例えば、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、静脈内投与される。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、皮下投与されない。
【0052】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、点滴を介して投与される、例えば、膀胱内点滴などの点滴により、尿路に局所投与される。点滴は、当業者に公知の任意の投与手段により、例えば、尿道または膀胱の各内腔へのカテーテル挿入により、容易とすることができる。
【0053】
最も好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、膀胱内投与される。
【0054】
膀胱内投与とは、特に、好ましくは、尿道カテーテルなどのカテーテルを使用することによる、膀胱への直接の投与を意味する。Lidocaine Jelly(2%)Urojetを使用する場合もあり、使用しない場合もある。膀胱内投与は、好ましくは、点滴による投与である。好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片が空の膀胱に投与されるように、膀胱内治療の直前に、膀胱は空にする。膀胱内投与の後で、患者には、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも2時間にわたり治療を保持するように指示する。言い換えると、患者には、好ましくは、投与後、膀胱を空にする前に、少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも2時間にわたり待機するように指示する。
【0055】
膀胱内投与の標的領域は、例えば、膀胱の空隙または尿路上皮への送達を含む、膀胱の任意の内部でありうる。通例、本明細書で使用される「膀胱内投与」という用語は、膀胱の空隙への送達を指す。その中で、点滴された液体は、存在する場合、尿中に分散する場合もあり、膀胱の内壁を直接被覆する場合もある。本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、典型的に、少なくとも、膀胱内の薬理学的作用の所望の部位に作用するのに要請される時間にわたり、尿環境内で機能的である。
【0056】
驚くべきことに、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、尿環境という悪環境内でもなお機能的であり、したがって、膀胱内投与されると、好ましい標的組織内、例えば、尿路上皮内の特異的抗原に結合することが可能である。さらに、EpCAMなど、尿路のがんおよび/または腫瘍と関連するある特定の抗原は、例えば、尿路上皮の基底膜上、またはこの近傍に局在するとも考えられる。生理学的条件下で、これらの抗原は、一般に、過剰発現せず、狭小な尿路上皮細胞は、これらへの接近を困難とする。しかし、TCCなど、特に、悪性新生物内または上皮内新生物内の新生物性条件下では、罹患細胞は典型的に、透過性を増大させ、これは、基底膜への接近可能性を増大させる。これにより、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片の効力および効果は、好ましくは、増強される。
【0057】
さらに、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片の膀胱内投与は、好ましくは、局所に限り作用し、したがって、全身への影響は回避される。特に、全身投与時に生じる可能性が高い、有害な副作用が回避される。特に、IL−6、IL−8、IFN−γ、およびTNF−αなどの炎症促進性サイトカインの全身放出は、大幅に軽減され、これにより、発熱、悪心、頭痛、および発赤、掻痒、および、さらに、アナフィラキシーショックなど、所望されない全般的免疫反応の症状など、所望されない副作用を回避する。さらに、所望されないHAMA(ヒト抗マウス抗体)またはADA(抗薬物抗体)反応も、回避することが好ましい。さらに、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片、例えば、カツマキソマブは、腹腔内投与されると、免疫原性となることが公知である(Heissら、The trifunctional antibody catumaxomab for the treatment of malignant ascites due to epithelial cancer: results of a prospective randomized phase II/III trial. Int. J Cancer 127: 2209-2221 (2010);Ottら、Humoral response to catumaxomab correlates with clinical outcome: results of the pivotal phase II/III study in patients with malignant ascites. Int. J Cancer 130:2195-2203 (2012))。しかし、本明細書で記載される、それらの抗原結合性断片、例えば、カツマキソマブの膀胱内投与は、典型的に、免疫原性ではない(薬物が全身性とならなかったことのためである可能性が最も高い)。
【0058】
全身投与時に生じる可能性が高い副作用を回避するために、必要に応じて、なおより高量の、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を、膀胱内投与することができる。他方、膀胱内投与は、所望の作用部位上における、活性の薬剤の直接の存在のために、必要とされる投与量の低減も可能としうる。したがって、低量から極めて低量の、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片でも、治療効果を確保するのに十分である(尿に起因する、膀胱内の高希釈率の可能性にもかかわらず)。
【0059】
加えて、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、膀胱内投与に適用可能な錯体製剤を必要としない。言い換えると、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、特に局所投与、例えば、膀胱内投与時に、尿環境という悪環境において安定的である。
【0060】
好ましくは、本明細書で記載されるその抗原結合性断片で治療される新生物は上皮内新生物または悪性新生物であり、より好ましくは、新生物は悪性新生物である。
【0061】
本発明の文脈では、「悪性新生物」という用語(また、悪性腫瘍とも称する)は一般に、がんを指す。良性新生物とは異なり、悪性新生物は典型的に、その成長が自己限定的ではなく、典型的に、隣接組織に浸潤することが可能であり、遠隔組織に拡散することが可能でありうる。
【0062】
上皮内新生物はまた、「上皮内がん腫」(CIS)とも称する。上皮内新生物は、潜在的に悪性である。悪性新生物とは異なり、上皮内新生物は、局在し、浸潤および破壊しないが、最終的にがんに形質転換しうる。典型的に、上皮内がん腫は、好ましくは、それらの正常な場所において増殖する(したがって、「in situ」である)、異常細胞の群である。したがって、悪性腫瘍は典型的に、退生、浸潤性、および転移のうちの一または複数を特徴とする。
【0063】
尿路の関連では、特に、尿路上皮CISが好ましい。尿路上皮CISは、高悪性度の新生物であり、特異的治療を要請する再発および進行の指標である。特に、尿路上皮CISは、平面状で、非浸潤性で、高悪性度の、尿路上皮新生物である。上皮内がん腫には、高悪性度の異形成および重度の異形成のほか、一部の中等度の異形成も含まれる。技術的には、非浸潤性乳頭状尿路上皮新生物もまた、上皮内であるが、上皮内がん腫とは称さない。CISが、典型的に、膀胱内化学療法または膀胱切除術を正当化することは、重要なことである。
【0064】
「悪性腫瘍の分類(Classification of Malignant Tumors)」(TNM)では、CISは、典型的に、TisN0M0(病期0)として報告される。TNMとは、その由来が充実性腫瘍を伴う場合の、病者のがんの病期について記載する、がん病期分類の表記システムである。「T」は、元の(原発)腫瘍のサイズと、それが、近傍の組織により浸潤されているのかどうかとについて記載し、「N」は、関与する、近傍の(領域内の)リンパ節について記載し、「M」は、遠隔転移(がんの、体内の1つの部分から、別の部分への拡散)について記載する。さらに病期は、原発腫瘍のサイズおよび/または拡大に応じて、T1、T2、T3、T4である。
【0065】
例えば、膀胱がんでは、TNM病期分類システムは、原発腫瘍についての以下の病期(「T」病期):TX:原発腫瘍を評価することができない、T0:原発腫瘍の証拠が見られない、Ta:非浸潤性乳頭状がん腫、Tis:上皮内がん腫(「平面状腫瘍」)、T1:腫瘍が、上皮下結合組織に浸潤する、T2a:腫瘍が、浅層筋(内側の半層)に浸潤する、T2b:腫瘍が、深層筋(外側の半層)に浸潤する、T3:腫瘍が、膀胱周囲組織:T3a:顕微鏡的であるに浸潤する、T3b:目視的(膀胱外塊)である、T4a:腫瘍が、前立腺、子宮、または膣に浸潤する、およびT4b:腫瘍が、骨盤壁または腹壁に浸潤する;リンパ節についての病期(「N」病期)によれば:NX:所属リンパ節を評価することができない、N0:所属リンパ節転移が見られない、N1:最大径が2cmまたはこれ未満の、単一のリンパ節内の転移、N2:最大径が2cmを超えるが、5cmを超えない、単一のリンパ節内、または複数のリンパ節内の転移、最大径が5cmを超える転移が見られない、およびN3:最大径が5cmを超える、リンパ節内の転移;ならびに遠隔転移についての以下の病期(「M」病期):MX:遠隔転移を評価することができない、M0:遠隔転移が見られない、およびM1:遠隔転移(Longe, Jacqueline L. (2005). Gale Encyclopedia Of Cancer: A Guide To Cancer And Its Treatments. Detroit: Thomson Gale. p. 137)を含む。この病期は、膀胱がんについての、以下の数値病期分類:病期0a:Ta、N0、M0;病期0is:Tis、N0、M0;病期I:T1、N0、M0;病期II:T2aまたはT2b、N0、M0;病期III:T3a、T3b、またはT4a、N0、M0;および病期IV:以下:T4b、N0、M0;任意のT、N1−N3、M0;または任意のT、任意のN、M1のうちのいずれかに組み込むことができる。
【0066】
好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片を、尿路上皮の新生物の治療において使用する。
【0067】
尿路上皮とは、「移行上皮」であり、腎盂、尿管、膀胱、および尿道の一部を含む、尿路の大半の内層をなす。尿路上皮組織は、尿路に対して、高度に特異的であり、高度な弾力性をおよび経上皮電気抵抗を有する。尿路上皮は、典型的に、その管腔側(頂端側)表面における、防御性糖タンパク質プラークの厚い層を伴う、約3つ−5つの細胞層からなる。
【0068】
尿路上皮は、新生物、特に、がん腫に対して感受性であることが一般に理解される。「がん腫」とは、尿路上皮細胞など、上皮細胞から発生するがんの種類を指す。一般に、がん腫とは、典型的に、体内の内部表面または外部表面の内層をなし、一般に、胚発生時の内胚葉または外胚葉に由来する細胞から生じる組織内に始まるがんである。
【0069】
特に好ましい尿路上皮の新生物は、移行上皮がん腫(TCC;尿路上皮細胞がん腫:UCCとしてもまた公知である)である。したがって、抗体またはその抗原結合性断片を、好ましくは、尿路上皮細胞がん腫(移行上皮がん腫)の治療において使用する。「移行」とは、顕微鏡下で見られる、がん性細胞の組織学的亜型を指す。TCCは、典型的に、泌尿器系:腎臓、膀胱、および副器官において生じる。TCCは、膀胱がんの最も一般的な種類であり、尿管、尿道、および尿膜管のがんである。TCCは、腎臓がんの、2番目に一般的な種類である。TCCは、尿路の内部表面の内層をなす組織である尿路上皮から生じ、腎臓集合系から、膀胱に拡張しうる(「クリーピング腫瘍」)。TCCは、30−40%の患者が、診断時に、1つを超える腫瘍を有する、多巣性であることが多い。TCCの増殖パターンは、乳頭状がん腫の場合もあり、無茎性(平面状)がん腫の場合もあり、上皮内がん腫の場合もある。TCCのための、1973年版WHO評定システム(乳頭腫、G1、G2、またはG3)は、2004年版WHO評定法(PNLMP[papillary neoplasm of low malignant potential]、低悪性度、および高悪性度乳頭がん腫)で代替されているが、最も一般に使用されている。
【0070】
好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、(i)上皮内がん腫、好ましくは、尿道の上皮内がん腫、膀胱の上皮内がん腫、尿管の上皮内がん腫、および/または腎盂の上皮内がん腫;(ii)好ましくは、腎盂、尿管、尿道、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層非浸潤性尿路上皮がん;ならびに(iii)好ましくは、腎盂、尿管、尿道、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層浸潤性尿路上皮がんからなる群から選択される、尿路の新生物の治療のために使用される。
【0071】
また、抗体またはその抗原結合性断片は、尿路に局在したリンパ腫および/または肉腫の治療のために使用されることも好ましい。
【0072】
特に、抗体またはその抗原結合性断片は、尿路内の、移行上皮がん腫、扁平上皮がん腫、腺がん腫、肉腫、小細胞がん腫、および体内の別の場所のがんに由来する二次病巣の治療のために使用されることが好ましい。TCCが特に好ましい。
【0073】
好ましくは、尿路の新生物は、下部尿路の新生物である。下部尿路は、特に、その構造機能的な副部分および尿道の全てを伴う膀胱を含む(が、上部尿路を形成する、腎臓および尿管は含まない)。下部尿路は、特に、膀胱内投与により接近可能である。
【0074】
したがって、下部尿路の新生物の治療のために使用される、抗体またはその抗原結合性断片は、(i)尿道の上皮内がん腫、および/または膀胱の上皮内がん腫;(ii)尿道、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層非浸潤性尿路上皮がん;ならびに(iii)尿道、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層浸潤性尿路上皮がんからなる群から選択されることが好ましい。
【0075】
最も好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、膀胱の新生物、好ましくは、膀胱の上皮内がん腫、または膀胱の悪性新生物の治療のために使用される。特に、抗体またはその抗原結合性断片を、膀胱がんの治療のために使用する。「がん」という用語にもかかわらず、膀胱がんは、上記で記載した、全ての数値病期を含み、したがって、膀胱がんの好ましい病期は、(i)病期0a:Ta、N0、M0(がんは、非浸潤性乳頭がん腫(Ta)であり、膀胱の中空中心部に増殖しているが、膀胱壁の結合組織または筋肉へは増殖していない;近傍のリンパ節(N0)または遠隔部位(M0)へは拡散していない);(ii)病期0is:Tis、N0、M0(がんは、平面状上皮内がん腫(CIS)としてもまた公知の、平面状非浸潤性がん腫(Tis)であり、膀胱の内層だけにおいて増殖し;膀胱の中空部に増殖することも、膀胱壁の結合組織または筋肉に浸潤することもなく;近傍のリンパ節(N0)または遠隔部位(M0)へは拡散していない);(iii)病期I:T1、N0、M0(がんは、膀胱の内層下で、結合組織の層に増殖しているが、膀胱壁(T1)内の筋肉層には達していない;がんは、近傍のリンパ節(N0)または遠隔部位(M0)へは拡散していない);(iv)病期II:T2aまたはT2b、N0、M0(がんは、膀胱壁の厚い筋肉層に増殖しているが、筋肉を完全に貫通して、膀胱を取り囲む脂肪組織の層に達してはいない(T2);がんは、近傍のリンパ節(N0)または遠隔部位(M0)へは拡散していない);(v)病期III:T3a、T3b、またはT4a、N0、M0(がんは、膀胱を取り囲む脂肪組織の層に増殖している(T3aまたはT3b);がんは、前立腺、子宮、または膣に拡散している場合もあるが、骨盤壁または腹壁へは増殖していない(T4a);がんは、近傍のリンパ節(N0)または遠隔部位(M0)へは拡散していない);および(vi)病期IV:以下:T4b、N0、M0のうちのいずれか(がんは、膀胱壁を経て、骨盤壁または腹壁に増殖している(T4b);がんは、近傍のリンパ節(N0)または遠隔部位(M0)には拡散していない);任意のT、N1−N3、M0(がんは、近傍のリンパ節(N1−N3)には拡散しているが、遠隔部位(M0)へは拡散していない)、または任意のT、任意のN、M1(がんは、遠隔リンパ節または骨、肝臓、または肺などの部位に拡散している(M1))からなる群から選択することができる。より好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、病期0a、病期0is、病期I、または病期IIのうちのいずれかの治療、特に、病期0a、病期0is、病期I、または病期IIのうちのいずれかの膀胱がんの治療において使用される。特に、好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、病期0aの治療、特に、病期0aの膀胱がんの治療において使用される。特に、好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、病期0isの治療、特に、病期0isの膀胱がんの治療において使用される。特に、好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、病期Iの治療、特に、病期Iの膀胱がんの治療において使用する。特に、好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片を、病期IIの治療、特に、病期IIの膀胱がんの治療において使用される。
【0076】
膀胱がんの好ましい例は、膀胱の上皮内がん腫、膀胱の非浸潤性移行上皮がん腫、浸潤性移行上皮がん腫、および転移性移行上皮がん腫、ならびに非移行上皮がん腫を含む。したがって、膀胱の新生物は、移行上皮がん腫、扁平上皮がん腫、腺がん腫、肉腫、小細胞がん腫、および体内の別の場所のがんに由来する二次病巣から選択され、好ましくは、膀胱の新生物は、移行上皮がん腫である。膀胱CISは、悪性がはるかに大きな過程であり、膀胱壁を通して浸潤し始めた、一部の大型低悪性度腫瘍より大きな転移能を伴う。
【0077】
移行上皮腫瘍の浸潤性を決定するために、固有層は、有用なランドマークである。固有層とは、移行細胞層(尿路上皮)と筋線維との間の膀胱壁内の、結合組織および細胞の層である。異常な細胞は、繁殖し続けるので、それらの遺伝子機構では、より多くの突然変異が生じる傾向にある。通常、これらの突然変異は、修復されうるが、これらの細胞内では、この能力は、限定されている。最終的に、遺伝子は、変化し、さらなる増殖は、基底をなす固有層を破壊し、透過する細胞の能力を結果としてもたらす。これは、浸潤性移行上皮腫瘍の開始である。したがって、「表在性」(非浸潤性)TCCと、「(筋層)浸潤性」TCCとの差違は、重要な区別である。本質的に、筋層に浸潤しなかった任意の腫瘍は、表在性(非浸潤性)と考えられる。しかし、筋層が突破されたら、診断は、筋層浸潤性TCCとなる。これらの腫瘍の自然史を予知させるため、この区別は、極めて重要である。表在性TCCは、再発する傾向にあるが、再発は、ほとんど常に、局所切除に良好に応答する、表在性腫瘍である。表在性腫瘍のうちの15%だけが、高悪性度の浸潤性病変として、形質転換または再発する。他方、再発性CIS病変または高悪性度/浸潤性腫瘍は、コントロールがより困難であり、転移性拡散を結果としてもたらす可能性が大きい。
【0078】
TCC以外のいくつかの腫瘍もまた、膀胱内で発生し、したがって、本発明の文脈では、これらもまた好ましい。これらは、扁平上皮がん腫(SCC)を含む。感染作用物質または外来体による、長期にわたる膀胱の刺激は、移行上皮を、扁平上皮細胞または「平面状」細胞として公知の、異なる細胞型に変化させうる。さらに、膀胱内の、多様な異なる細胞型のうちのいずれも、理論的には、がん:筋細胞(横紋筋肉腫)、腺細胞(腺がん腫)、神経細胞(神経細胞腫瘍)、および、さらに、免疫型細胞(リンパ腫)に発生しうる。隣接する臓器から生じる腫瘍もまた、膀胱に浸潤し、「膀胱腫瘍」(例えば、子宮頸がん腫または結腸がん)として出現しうる。したがって、上記膀胱がんのいずれも、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片で治療することができる。
【0079】
好ましくは、膀胱の新生物内で使用される、抗体またはその抗原結合性断片は、(i)膀胱の上皮内がん腫;(ii)膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層非浸潤性尿路上皮がん;ならびに(iii)膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、膀胱頸部、尿管口、および/または尿膜管に局在した、筋層浸潤性尿路上皮がんからなる群から選択される。
【0080】
したがって、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、膀胱の上皮内がん腫、特に、尿路上皮の上皮内がん腫の治療のために用いられうる。さらに、好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、膀胱、特に、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、尿管口、尿膜管、および/または内部尿道口を含む膀胱頸部に局在した筋層非浸潤性尿路上皮がんの、任意の悪性新生物の治療のためにも用いられうる。加えて、抗体またはその抗原結合性断片は、膀胱、特に、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、尿管口、尿膜管、および/または内部尿道口を含む膀胱頸部に局在した筋層浸潤性尿路上皮がんの、任意の悪性新生物の治療のためにも用いられうる。
【0081】
本発明の文脈では、特に、膀胱三角、膀胱頂部、膀胱側壁、膀胱前壁、膀胱後壁、尿管口、および尿膜管、または内部尿道口を含む膀胱頸部に局在した、膀胱の上皮内がん腫および筋層非浸潤性尿路上皮がんが好ましい。
【0082】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、モノクローナル抗体である。
【0083】
本明細書では、モノクローナル抗体(mAbまたはmoAb)とは、いくつかの異なる免疫細胞から作り出されるポリクローナル抗体と異なり、固有の親細胞の全てのクローンである、同一な免疫細胞により作り出される抗体と理解される。一般に、特異的物質に特異的に結合するモノクローナル抗体を作製することが可能である。
【0084】
好ましくは、T細胞表面抗原は、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、およびCD44からなる群から選択される。これは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、好ましくは、CD3、CD2、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、および/またはCD44からなる群から選択される、T細胞表面抗原のエピトープを認識する(これらに結合することが可能な)パラトープを含むことを意味する。前記特異性は、好ましくは、T細胞の動員を容易とする。ここで、CDとは、上記で記載した通り、「分化抗原(cluster of differentiation)」(cluster of designationまたはclassification determinant)の略号である。一般に、これは、細胞の免疫表現型解析のための標的をもたらす細胞表面分子の同定および探索のために使用されるプロトコールとして公知である。生理学との関係では、CD分子は、多数の様式で作用することが可能であり、細胞に重要な受容体またはリガンド(受容体を活性化させる分子)として作用することが多い。シグナルカスケードは、通例、誘発されると、細胞の挙動を変更する(細胞シグナル伝達を参照)。一部のCDタンパク質は、細胞シグナル伝達において役割を果たさないが、細胞接着など、他の機能を有する。現在のところ、ヒトのCDは、364まで番号付けされている。本発明は、T細胞と関連するCD分子を指す。
【0085】
より好ましくは、T細胞表面抗原は、CD2またはCD3であり、最も好ましくは、T細胞表面抗原は、CD3である。これは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、より好ましくは、CD2またはCD3のエピトープを認識するパラトープを含み、最も好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、CD3のエピトープを認識するパラトープを含むことを意味する。
【0086】
本発明の文脈ではまた、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原が、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、プロテオグリカン、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、炭酸脱水酵素、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD47、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GT1b、GT3、GQ1、NY−ESO−1、NFX2、SSX2、SSX4、Trp2、gp100、チロシナーゼ、MUC−1、テロメラーゼ、サバイビン、p53、PD−L1、CA125、Wue抗原、Lewis Y抗原、HSP−27、HSP−70、HSP−72、HSP−90、Pgp、MCSP、EphA2、および細胞表面標的GC182、GT468またはGT512からなる群から選択されることも好ましい。これは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、好ましくは、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、プロテオグリカン、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、炭酸脱水酵素、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD47、CD52、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GT1b、GT3、GQ1、NY−ESO−1、NFX2、SSX2、SSX4、Trp2、gp100、チロシナーゼ、MUC−1、テロメラーゼ、サバイビン、p53、PD−L1、CA125、Wue抗原、Lewis Y抗原、HSP−27、HSP−70、HSP−72、HSP−90、Pgp、MCSP、EphA2、および細胞表面標的GC182、GT468またはGT512からなる群から選択される、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原のエピトープを認識する(これらに結合することが可能である)パラトープを含むことを意味する。
【0087】
好ましくは、本発明の文脈では、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原は、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、プロテオグリカン、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、炭酸脱水酵素、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD47、CD52、CD133、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GT1b、GT3、GQ1、NY−ESO−1、NFX2、SSX2、SSX4、Trp2、gp100、チロシナーゼ、MUC−1、テロメラーゼ、サバイビン、p53、PD−L1、CA125、Wue抗原、Lewis Y抗原、HSP−27、HSP−70、HSP−72、HSP−90、Pgp、MCSP、EphA2、および細胞表面標的GC182、GT468またはGT512からなる群から選択される。これは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、プロテオグリカン、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、炭酸脱水酵素、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD47、CD52、CD133、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GT1b、GT3、GQ1、NY−ESO−1、NFX2、SSX2、SSX4、Trp2、gp100、チロシナーゼ、MUC−1、テロメラーゼ、サバイビン、p53、PD−L1、CA125、Wue抗原、Lewis Y抗原、HSP−27、HSP−70、HSP−72、HSP−90、Pgp、MCSP、EphA2、および細胞表面標的GC182、GT468またはGT512からなる群から選択される、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原のエピトープを認識する(これらに結合することが可能である)パラトープを含むことを意味する。
【0088】
特に、好ましくは、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原は、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PD−L1、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、およびCD33からなる群から選択され、より好ましくは、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原は、EpCAM、HER2/neu、CEA、GD2、CD19、CD20、およびCD33からなる群から選択され、なおより好ましくは、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原は、EpCAM、HER2/neu、GD2、およびCD20からなる群から選択され、最も好ましくは、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原は、EpCAMである。これは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、好ましくは、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PD−L1、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、またはCD33のエピトープを認識するパラトープを含み、より好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、EpCAM、HER2/neu、CEA、GD2、CD19、CD20、またはCD33のエピトープを認識するパラトープを含み、なおより好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、EpCAM、HER2/neu、GD2、またはCD20のエピトープを認識するパラトープを含み、最も好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、EpCAMのエピトープを認識するパラトープを含むことを意味する。EpCAMは、膀胱の高グレードおよび進行期の尿路上皮がん腫内で主に発現する(Brunnerら、EpCAM is predominantly expressed in high grade and advanced stage urothelial carcinoma of the bladder. J Clin Pathol 61(3):307 (2008))。したがって、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片により認識されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(またはこれらの、それぞれの上のエピトープ)は、EpCAMであることが好ましい。
【0089】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片により認識されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(またはこれらの、それぞれの上のエピトープ)は、Her2/neuである。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片により認識されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(またはこれらの、それぞれの上のエピトープ)は、GD2である。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片により認識されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(またはこれらの、それぞれの上のエピトープ)は、GD3である。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片により認識されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(またはこれらの、それぞれの上のエピトープ)は、CD20である。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片により認識されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(またはこれらの、それぞれの上のエピトープ)は、CD19である。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片により認識されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(またはこれらの、それぞれの上のエピトープ)は、CD30である。代替的に、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片により認識されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原(またはこれらの、それぞれの上のエピトープ)は、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PD−L1、PIK3CA、またはRASである。
【0090】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、(i)その第1の特異性、例えば、その第1のパラトープにより、T細胞表面抗原からなる群から選択された、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、およびCD44、好ましくは、CD2またはCD3、より好ましくは、CD3のエピトープに結合し、(ii)その第2の特異性、例えば、その第2のパラトープにより、好ましくは、腫瘍抗原である、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PD−L1、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、およびCD33からなる群から選択される、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に結合する。
【0091】
より好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、(i)その第1の特異性、例えば、その第1のパラトープにより、T細胞表面抗原からなる群から選択された、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L、およびCD44、好ましくは、CD2またはCD3、より好ましくは、CD3のエピトープに結合し、(ii)その第2の特異性、例えば、その第2のパラトープにより、好ましくは、腫瘍抗原である、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PD−L1、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、およびCD20からなる群から選択される、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に結合する。
【0092】
本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、その第1の特異性、例えば、その第1のパラトープにより、T細胞表面抗原のエピトープ、好ましくは、CD3に結合し、その第2の特異性、例えば、その第2のパラトープにより、好ましくは、腫瘍抗原である、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PD−L1、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、およびCD20、またはガングリオシドである、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD3、GT1b、GT3、またはGQ1からなる群から選択される、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に結合する。
【0093】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する第1の特異性と、EpCAM、HER2/neu、CEA、GD2、CD19、CD20、およびCD33からなる群から選択されるがん関連抗原および/または腫瘍関連抗原に対する第2の特異性とを含む。
【0094】
したがって、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する、1つの特異性、好ましくは、1つのパラトープ、およびEpCAMに対する、1つの特異性、好ましくは、1つのパラトープ(抗CD3×抗EpCAM)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびHer2/neuに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗Her2/neu)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびGD2に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗GD2)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびGD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗GD3)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびCD20に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗CD20)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびCD19に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗CD19)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびCEAに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗CEA)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびMAGEに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗MAGE)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびVEGFに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗VEGF)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびEGFRに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗EGFR)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびmTORに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗mTOR)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびPD−L1に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗PD−L1)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびPIK3CAに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗PIK3CA)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびRASに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗RAS)を含みうる。
【0095】
代替的に、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびCD30に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗CD30)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびCD33に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗CD33)を含みうる。好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CD3に対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ、およびアルボウイルスEタンパク質のエピトープに対する1つの特異性、好ましくは1つのパラトープ(抗CD3×抗アルボウイルスEタンパク質)を含みうる。
【0096】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、抗EpCAM×抗CD3、抗CD20×抗CD3、抗HER2/neu×抗CD3、抗GD2×抗CD3、および抗CD19×抗CD3から選択される2つの特異性を含む。
【0097】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、二重特異性抗体またはその二重特異性抗原結合性断片である。
【0098】
本発明の文脈では、二重特異性抗体(BiAb)は、(正確に)2つの特異性を含む。BiAbは、最も好ましい種類の、多重特異性抗体、およびそれらの抗原結合性断片である。本発明の文脈における二重特異性抗体は、例えば、Spiess C.,Zhai Q.,およびCarter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95−106において記載されている、任意の二重特異性抗体フォーマットの二重特異性抗体でありうる。例えば、BiAbは、全IgG様分子などの全抗体、または全抗体ではないが、抗体特性を保持するその断片でありうる。これらは、小型の組換えフォーマット、例えば、タンデム単鎖可変断片分子(taFv)、ダイアボディー(Db)、単鎖ダイアボディー(scDb)、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTe)、およびこれらの多様な他の誘導体(例えば、多様な二重特異性抗体フォーマットを示す
図2を伴うByrne H.ら(2013) Trends Biotech, 31 (11): 621-632を参照)でありうる。いくつかのBiAbフォーマットは、疾患過程において、鍵となる役割を果たす、標的細胞に対するエフェクター細胞をリダイレクトしうる。例えば、いくつかのBiAbフォーマットは、エフェクター細胞を、腫瘍細胞に再標的化することが可能であり、例えば、エフェクター細胞の表面上のFc受容体に結合し、これを誘発することにより、またはT細胞受容体(TCR)複合体に結合することにより、免疫系の細胞を再標的化するように、様々なBiAb構築物をデザインした。
【0099】
好ましくは、多重特異性、特に、二重特異性の抗体またはその抗原結合性断片は、少なくとも二価である、すなわち、少なくとも2つのパラトープを有する。より好ましくは、多重特異性、特に、二重特異性の抗体またはその抗原結合性断片は、二価、三価、四価、または六価である。なおより好ましくは、多重特異性、特に、二重特異性の抗体またはその抗原結合性断片は、二価または四価である。最も好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、二重特異性、二価抗体、すなわち、2つのパラトープ:T細胞表面抗原を認識する一方のパラトープと、がん関連抗原および/または腫瘍関連抗原を認識する他方のパラトープとを有する抗体である。
【0100】
また、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、二機能性抗体もしくは三機能性抗体またはこれらの抗原結合性断片である、すなわち、好ましくは異なる、2つまたは3つの結合性部位と同時に相互作用することが可能であることも好ましい。より好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、三機能性抗体またはその三機能性抗原結合性断片、特に、二重特異性三機能性抗体またはその二重特異性三機能性抗原結合性断片である。
【0101】
本発明の文脈では、「二機能性」抗体またはその抗原結合性断片とは、典型的にまた、二重特異性でもあるような化合物を指す。通常、このような化合物は、2つの「特異性」(パラトープ)に加えて、さらなる結合性部位を有さず、非特異的結合性部位でさえ有さない。これに対し、本発明の文脈では、「三機能性」抗体(trAb)とは、例えば、それらのFc受容体結合性部位により、標的がん/腫瘍において、同時に、T細胞と、特に、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、および他のFc受容体発現細胞などのアクセサリー免疫細胞とを動員し、活性化させる、二重特異性抗体の特異的クラスと理解される。したがって、三機能性二重特異性抗体は、2つの抗原結合性部位(すなわち、2つのパラトープ)を有する。典型的に、これらの2つの抗原結合性部位(パラトープ)は、抗体が、がん/腫瘍細胞(がん/腫瘍細胞表面抗原)およびT細胞(T細胞表面抗原)に結合することを可能とする。例えば、それらのFc部分、特に、それらのFcγ受容体結合性部位を介して、同時に、陽性アクセサリー細胞、例えば、単球/マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、または他のFcγ受容体発現細胞を動員する。これらの異なるクラスのエフェクター細胞の同時的な活性化は、食作用およびパーフォリンに媒介される細胞傷害作用など、多様な機構により、腫瘍細胞の効果的な殺滅を結果としてもたらす。典型的に、三機能性抗体の正味の効果は、T細胞およびFc受容体陽性アクセサリー細胞を、腫瘍細胞に連結し、腫瘍細胞の破壊をもたらすことである。
【0102】
三機能性抗体は、特に、(i)抗体依存性細胞に媒介される細胞傷害作用、(ii)T細胞媒介性細胞殺滅、および(iii)抗腫瘍免疫の誘導による腫瘍細胞の除去を惹起する。これに対し、従来の抗体(モノクローナル抗体および単一特異性抗体)により実際に実行されるのは、第1の作用方式だけである。さらに、従来の抗体と異なり、二重特異性抗体と、特に、三機能性抗体とは、高度な細胞傷害可能性を有し、比較的弱く発現する抗原であってもなお、結合する。したがって、二重特異性抗体と、特に、三機能性抗体とは、同等の用量で、腫瘍細胞を消失させるのに、従来の抗体と比較して、より強力である(1000倍を超える)。
【0103】
本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、任意の抗体フォーマットのものでありうる。特に、多重特異性抗体は、好ましくは、全IgG様分子またはIgG様分子などの「全」抗体を包摂するが、本発明の文脈では、抗原結合性断片は、好ましくは、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTe)、タンデム単鎖可変断片分子(taFv)、ダイアボディー(Db)、単鎖ダイアボディー(scDb)、およびこれらの多様な他の誘導体など、小型の組換えフォーマット(多様な二重特異性抗体フォーマットを示す
図2を伴う、Byrne H.ら(2013) Trends Biotech, 31 (11): 621-632;Weidle U.H.ら(2013) Cancer Genomics and Proteomics 10: 1-18、特に、多様な二重特異性抗体フォーマットを示す
図1;ならびに多様な二重特異性抗体フォーマットを示す
図3を伴う、Chan, A.C.およびCarter, P.J. (2010) Nat Rev Immu 10: 301-316により記載されている、二重特異性抗体フォーマットを参照)を指す。二重特異性抗体フォーマットの例は、クァドローマ、化学カップリングFab(断片抗原結合)、およびBiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャー)を含むがこれらに限定されない。一実施態様では、使用される本発明の抗体は、好ましくは、BiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャー)である。
【0104】
したがって、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、Triomab、ハイブリッドハイブリドーマ(quadroma);多重特異的アンチカリンプラットフォーム(Pieris);ダイアボディー;単鎖ダイアボディー;タンデム単鎖Fv断片;TandAb、三重特異性Ab(Affimed)(105−110kDa);Dart(dual affinity retargeting;Macrogenics);二重特異性Xmab(Xencor);二重特異性T細胞エンゲージャー(Bites;Amgen;55kDa);トリプルボディー;トリボディー=Fab−scFv融合タンパク質(CreativeBiolabs)多機能性組換え抗体誘導体(110kDa);デュオボディープラットフォーム(Genmab);DNL(dock and lock)プラットフォーム;KIH(Knob into hole)プラットフォーム;ヒト化二重特異性IgG抗体(REGN1979)(Regeneron);Mab2二重特異性抗体(F−Star);DVD−Ig=二重可変ドメイン免疫グロブリン(Abbvie);カッパ−ラムダボディー;TBTI=四価二重特異性タンデムIg;およびCrossMabを含む群から選択することができる。
【0105】
本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、CrossMab;DAF(ツーインワン);DAF(フォーインワン);DutaMab;DT−IgG;KIH(Knob into hole)用の共通LC;KIH(Knob into hole)アセンブリー;Charge pair;Fabアーム交換;SEEDボディー;Triomab;LUZ−Y;Fcab;klボディー;および直交性Fabを含む二重特異性IgG様抗体(BsIgG)から選択することができる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C.,Zhai Q.,およびCarter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95−106、特に、
図1および対応する記載、例えば、p.95−101において示され、記載されている。
【0106】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、さらなる抗原結合性部分を伴うIgG付加抗体であって、DVD−IgG;IgG(H)−scFv;scFv−(H)IgG;IgG(L)−scFv;scFV−(L)IgG;IgG(L,H)−Fv;IgG(H)−V;V(H)−IgG;IgG(L)−V;V(L)−IgG;KIH IgG−scFab;2scFv−IgG;IgG−2scFv;scFv4−Ig;scFv4−Ig;Zybody;およびDVI−IgG(フォーインワン)を含むIgG付加抗体から選択することができる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C.,Zhai Q.,およびCarter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95−106、特に、
図1および対応する記載、例えば、p.95−101において示され、記載されている。
【0107】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、ナノボディー;ナノボディー−HAS;BiTE;ダイアボディー;DART;TandAb;scダイアボディー;sc−ダイアボディー−CH3;ダイアボディー−CH3;トリプルボディー;ミニ抗体;ミニボディー;TriBiミニボディー;scFv−CH3KIH;Fab−scFv;scFv−CH−CL−scFv;F(ab’)2;F(ab’)2−scFv2;scFv−KIH;Fab−scFv−Fc;四価HCAb;scダイアボディー−Fc;ダイアボディー−Fc;タンデムscFv−Fc;およびイントラボディーを含む二重特異性抗体断片から選択することができる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C.,Zhai Q.,およびCarter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95−106、特に、
図1および対応する記載、例えば、p.95−101において示され、記載されている。
【0108】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、Fc受容体に対する結合性部位を含まず、特に、抗体またはその抗原結合性断片は、Fc領域などのFc部分を含まない。
【0109】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、DNL(dock and lock);ImmTAC;HSAボディー;scダイアボディー−HAS;およびタンデムscFv−トキシンを含む二重特異性融合タンパク質から選択することができる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C.,Zhai Q.,およびCarter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95−106、特に、
図1および対応する記載、例えば、p.95−101において示され、記載されている。
【0110】
特に、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、IgG−IgG;Cov−X−Body;およびscFv1−PEG−scFv2を含む二重特異性抗体コンジュゲートから選択することができる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C.,Zhai Q.,およびCarter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95−106、特に、
図1および対応する記載、例えば、p.95−101において示され、記載されている。
【0111】
また、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(商標))および二重特異性三機能性抗体からなる群から選択されることも好ましい。
【0112】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、Fc受容体に対する結合性部位を含む。より好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、Fc部分、特にFc領域を含む。
【0113】
本明細書で使用される「Fc部分」という用語は、パパイン切断部位のすぐ上流のヒンジ領域で始まり、免疫グロブリン重鎖のC末端で終わる、免疫グロブリン重鎖の部分に由来する配列を指す。好ましくは、「Fc部分」は、Fc受容体に対する結合性部位を含む。しかし、また、Fc部分が、Fc受容体への結合と異なる機能性、例えば、補体系のタンパク質への結合を媒介しうることも好ましい。したがって、「Fc部分」は、完全Fc領域またはその一部(例えば、ドメイン)でありうる。好ましくは、「Fc部分」は、例えば、Fc受容体への結合と、任意選択的に、補体系に由来するタンパク質への結合とを含む、完全Fc領域の完全な機能性を媒介する。したがって、本発明に従い使用される抗体は、好ましくは、少なくともヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、完全Fc領域を含む。Fc部分はまた、自然発生のFc領域と比べた、1または複数のアミノ酸の挿入、欠失、または置換も含みうる。例えば、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、またはCH3ドメイン(またはこれらの部分)のうちの少なくとも1つを欠失させる。例えば、Fc部分は、(i)CH2ドメイン(またはこれらの部分)に融合させた、ヒンジドメイン(またはこれらの部分)、(ii)CH3ドメイン(またはこれらの部分)に融合させた、ヒンジドメイン(またはこれらの部分)、(iii)CH3ドメイン(またはこれらの部分)に融合させた、CH2ドメイン(またはこれらの部分)、(iv)ヒンジドメイン(またはこれらの部分)、(v)CH2ドメイン(またはこれらの部分)、または(vi)CH3ドメインもしくはその部分を含みうるか、またはこれらからなりうる。
【0114】
多重特異性抗体またはそれらの抗原結合性断片として、とりわけ、三機能性二重特異性抗体は、本発明に従い援用することが可能であり、特に、上記で記載した2つの特異性により、T細胞に結合し(T細胞をリダイレクトし)、かつ、(標的)腫瘍細胞に結合し、(第3の機能として)三機能性抗体は、特に、それらのFc受容体により、例えば、単球、マクロファージ、樹状細胞、「ナチュラルキラー」細胞(NK細胞)、および/または活性化好中球に、特に、結合することが可能であるそれらの能力を含む、3つの機能を呈示するので好ましい。好ましくは、それらのFc部分は、好ましくは、少なくとも1つの種類のFcγ受容体、好ましくは、Fcγ受容体型I、IIa、および/またはIIIを発現させる、Fc受容体陽性細胞に結合する。しかしながら、二重特異性T細胞エンゲージャーなど、前記第3の機能を欠く、二機能性および二重特異性の抗原結合性薬剤もまた、膀胱環境内でもまた、T細胞をリダイレクトするそれらの能力のために好ましい。
【0115】
例えば、本発明に従う使用のための、二重特異性三機能性抗体における「第3の機能性」とは、Fc受容体に対する結合性部位であり、したがって、特に、本発明に従い使用される二重特異性三機能性抗体は、好ましくは、Fc受容体に対する結合性部位を含む。より好ましくは、本発明に従い使用される二重特異性三機能性抗体は、Fc領域(fragment crystallizable region、「Fc部分」とも称する)などのFc部分を含む。本発明に従う使用のための、このような好ましい三機能性二重特異性抗体は、特に、そのFc受容体に対する結合性部位を介して、その細胞表面上に、Fc受容体、特に、Fcγ受容体型I、IIa、および/またはIIIを発現させる免疫細胞を動員する。したがって、三機能性二重特異性抗体は、特に、3つの顕著に異なる細胞型、すなわち、2つの種類の免疫細胞(T細胞およびFc受容体を発現させる免疫細胞)と、標的がん/腫瘍細胞とを凝集させる。これにより、免疫系の多様な作用方式が移動して、動員された標的がん/腫瘍細胞を攻撃する。
【0116】
Fc受容体に対する結合性部位、例えば、Fc領域は、(三機能性)抗体が、加えて、Fcγ受容体陽性アクセサリー細胞、例えば、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、および他のFc受容体発現細胞など、Fc受容体を発現させる細胞を動員することを可能とする。三機能性抗体は、二重特異性(または多重特異性)抗体であるので、それらは、好ましくは、(i)T細胞と、(ii)アクセサリー免疫細胞、例えば、単球/マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、または他のFc受容体発現細胞などのFc受容体発現細胞とを、同時に、(iii)標的がん/腫瘍細胞において動員し、活性化させることが可能である。これらの異なるクラスのエフェクター細胞の同時的な活性化は、例えば、食作用およびパーフォリンに媒介される細胞傷害作用など、多様な機構により、腫瘍細胞の効果的な殺滅を結果としてもたらす。典型的に、Fc受容体を含む、好ましい三機能性抗体の正味の効果は、T細胞およびFc受容体陽性細胞を、標的細胞、例えば、腫瘍細胞に連結し、腫瘍細胞の破壊をもたらすことである。三機能性抗体は、(i)抗体依存性細胞に媒介される細胞傷害作用、(ii)T細胞媒介性細胞殺滅、および(iii)抗腫瘍免疫の誘導による腫瘍細胞の除去を惹起する。
【0117】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、IgG様フォーマットを有する抗体が通例、2つの重鎖および2つの軽鎖を含む、IgG様フォーマット(「IgG型」ともまた称する、IgGに基づく)を有する。一般に、G型免疫グロブリン(IgG)は、抗体の種類として公知である。本明細書では、IgGとは、4つのペプチド鎖(抗体の単量体に典型的なY字型に配置された、2つの同一な重鎖、および2つの同一な軽鎖)から構成されるタンパク質複合体として理解される。各IgGは典型的に、異なる場合もあり、同一な場合もある、2つの抗原結合性部位を有する。ヒト血清中抗体のうちの約75%を表すIgGは、循環中で見出される抗体の、最も一般的な種類である。生理学的に、IgG分子は、血漿中B細胞により、創出および放出される。
【0118】
IgG様フォーマットを有する抗体の例は、好ましくは、2つの異なるハイブリドーマの融合により作出される、クァドローマが好ましい、クァドローマおよび多様なIgG−scFvフォーマット(Byrne H.ら(2013) Trends Biotech, 31 (11): 621-632;
図2A−Eを参照)を含む。IgGクラス内で、抗体は、好ましくは、IgG1(「IgG1型」ともまた称する)に基づく抗体が好ましい、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のサブクラスに基づきうる。本発明に従う使用のための二重特異性抗体などの、多重特異性抗体または抗原結合性断片は、代替的に、任意の免疫グロブリンクラス(例えば、IgA、IgG、IgMなど)、およびサブクラス(例えば、IgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4など)にも基づきうる。
【0119】
一般に、本発明に従う使用のための二重特異性抗体、またはその抗原結合性断片などの多重特異性抗体は、3つの主要な方法:(i)化学的架橋を伴う化学的コンジュゲーション;(ii)2つの異なるハイブリドーマの融合細胞系;または(iii)組換えDNA技術を伴う遺伝子法により作製される。2つの異なるハイブリドーマの融合は、二重特異性分子を含む、不均一な抗体集団を分泌するハイブリッド−ハイブリドーマ(または「クァドローマ」)をもたらす。
【0120】
代替法は、2つの異なるmAbおよび/または小型の抗体断片の化学コンジュゲーションを含んだ。2つの異なる抗体または抗体断片を連結する、酸化的再会合戦略は、複数の天然のジスルフィド結合の再酸化時における副反応の存在のために、効果的でないことが見出された。化学的コンジュゲーションのための現行の方法は、ホモ二機能性架橋試薬またはヘテロ二機能性架橋試薬の使用に焦点を絞っている。組換えDNA技術は、広範にわたるbsAbは、遺伝子の人為的操作をもたらしており、bsAbを作出するための、最も多様な手法を表す(過去20年間で、45のフォーマット;Byrne H.ら(2013) Trends Biotech, 31 (11): 621-632を参照)。
【0121】
特に、このような組換えDNA技術の使用により、近年ではまた、様々な、さらなる多重特異性抗体も出現している。特に、3つまたはこれを超えるパラトープを伴う多重特異的抗体は、特に、組換えDNA法により達成される。本発明の文脈では、本発明に従い、例えば、一方が、標的細胞に対するパラトープであり、他方が、T細胞に対するパラトープである、少なくとも2つのパラトープが要請されるので、抗体は、特に、2つを超える特異性もまた有し、したがって、2つを超えるパラトープもまた有する。したがって、本発明に従う使用のための抗体は、2つのパラトープに加えて、特に、さらなる特異性に関する、さらなるパラトープも有しうる。
【0122】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、Fc受容体、特に、Fc領域に対する結合性部位を含むIgG型抗体である。より好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、異種完全ラット/マウス抗体を含むFc受容体、特に、Fc領域に対する結合性部位である、三機能性二重特異性抗体である。これにより、マウスIgG2aおよびラットIgG2bのサブクラスの組合せを伴う抗体が好ましい。各々がマウスIgG2aおよびラットIgG2bのサブクラスから構成される重鎖が、それらのそれぞれの軽鎖を伴う、異種完全ラット/マウス抗体を含むFc受容体、特に、Fc領域に対する結合性部位は、特に、好ましいである。
【0123】
一般に、本発明に従う使用のための、三機能性二重特異性抗体は、好ましくは、そのFc領域内の、以下:ラットIgG2b/マウスIgG2a、ラットIgG2b/マウスIgG2b、ラットIgG2b/ヒトIgG1、またはマウス[VH−CH1、VL−CL]−ヒトIgG1/ラット[VH−CH1、VL−CL]−ヒトIgG1−[ヒンジ]−ヒトIgG3
*−[CH2−CH3][
*=白人アロタイプG3m(b+g)=プロテインAへの結合なし]のアイソタイプの組合せを呈示する。
【0124】
また、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、少なくとも2つの異なる一本鎖可変断片(scFv)を含むことも好ましい。本明細書では、一本鎖可変断片(scFv)を、短いリンカーペプチドで接続された、免疫グロブリンの重鎖(VH)軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質として理解する。前記ペプチドは典型的に、少なくとも5、好ましくは、少なくとも10、より好ましくは約25アミノ酸を含む。リンカーは通例、可撓性のためにグリシンに富むほか、可溶性のために、セリンまたはトレオニンにも富み、VHのN末端を、VLのC末端と接続する場合もあり、この逆の場合もある。scFvは、定常領域の除去およびリンカーの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持しうる。典型的に、scFvは、ハイブリドーマに由来する、サブクローニングされた重鎖および軽鎖から、直接創出することができる。scFvは一般に、例えば、フローサイトメトリー、免疫組織化学において使用され、人工T細胞受容体の抗原結合性ドメインとして使用される。本発明の文脈では、scFvは、好ましくは、人工T細胞受容体の抗原結合性ドメインとして使用される。
【0125】
好ましい二重特異性IgG様抗体フォーマットは、例えば、Chan,A.C.およびCarter,P.J(2010)Nat Rev Immu 10:301−316の
図3cに示され、前記文献内に記載されている、例えば、ハイブリッドハイブリドーマ(クァドローマ)、共通軽鎖を伴うKIH(Knob into hole)、多様なIgG−scFvフォーマット、多様なscFv−IgGフォーマット、ツーインワンIgG、二重VドメインIgG、IgG−V、およびV−IgGを含む。さらに好ましい二重特異性IgG様抗体フォーマットは、Weidle U.H.ら(2013)Cancer Genomics and Proteomics 10:1−18の
図1Aに示され、前記文献内に記載されている、例えば、DAF、CrossMab、IgG−dsscFv、DVD、IgG−dsFV、IgG−scFab、scFab−dsscFv、およびFv2−Fcを含む。さらに好ましい二重特異性IgG様抗体フォーマットは、例えば、Spiess C.,Zhai Q.,およびCarter P.J.(2015)Molecular Immunology 67:95−106、特に、
図1および対応する記載、例えば、p.95−101に示され、記載されている、DAF(ツーインワン);DAF(フォーインワン);DutaMab;DT−IgG;KIH(Knob into hole)アセンブリー;Charge pair;Fab−アーム交換;SEEDボディー;Triomab;LUZ−Y;Fcab;klボディー;直交性Fab;DVD−IgG;IgG(H)−scFv;scFv−(H)IgG;IgG(L)−scFv;scFV−(L)IgG;IgG(L,H)−Fv;IgG(H)−V;V(H)−IgG;IgG(L)−V;V(L)−IgG;KIH IgG−scFab;2scFv−IgG;IgG−2scFv;scFv4−Ig;scFv4−Ig;Zybody;およびDVI−IgG(フォーインワン)を含む。
【0126】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、カツマキソマブ(抗CD3×抗EpCAM)、FBTA05/リンフォムン(抗CD3×抗CD20)、エルツマキソマブ(抗CD3×抗HER2/neu)、エクトムン(抗CD3×抗GD2)、ブリナツモマブ、およびソリトマブからなる群から選択され、好ましくは、抗体はカツマキソマブである。
【0127】
三機能性二重特異性抗体の最も好ましい例は、カツマキソマブ(Removab(登録商標))(抗EpCAM×抗CD3)である。三機能性二重特異性抗体のさらに好ましい例は、(i)三機能性抗CD3×抗CD20抗体である、FBTA05(また、「リンフォムン」とも呼ばれる)、(ii)三機能性抗CD3×抗HER2抗体である、エルツマキソマブ、および(iii)ヒト黒色腫に特異的な、2つの三機能性抗体である、TRB02/TRB07(Rufら(2004) Int J Cancer, 108: 725-732)を含む。
【0128】
代替的に、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、抗CD19×抗CD3二重特異性T細胞エンゲージャー、および抗EpCAM×抗CD3二重特異性T細胞エンゲージャーからなる群から選択される。
【0129】
治療プロトコールおよび投与量
作用方式の差違に応じて、二重特異性三機能性抗体など、多重特異性抗体、特に、二重特異性抗体のために確立された治療プロトコールは、通例、従来の抗体(モノクローナル抗体および単一特異性抗体)のための治療プロトコールとは大幅に異なる。例えば、カツマキソマブは、0、3、7、および10日目に、用量を、それぞれ、10、20、50、および150μgとする、4回にわたる腹腔内注入のレジメンに従い投与した(Heissら(2010) Int J Cancer, 127: 2209-2221および"Assessment Report for Removab", European Medicines Agency, Doc.Ref.: EMEA/CHMP/100434/2009を参照)。FBTA05/リンフォムンは、例えば、1日目に、10μgで出発して、後続日における用量を増大、例えば、2000μgの最終回用量まで倍増させる、漸増用量によるi.v.注入として投与した(Buhmannら(2009) Bone Marrow Transplant, 43: 383-397:表2)。エルツマキソマブもまた、1日目に、10μgで出発するのに続き、7±1日目および13±1日目の各々において、それぞれ、20、50、100、150、または200μgを施す漸増用量によるi.v.注入として投与した(Kieweら(2006) Clin Cancer Res, 12: 3085-3091)。したがって、臨床的試験における、二重特異性三機能性抗体など、多重特異性抗体、特に、二重特異性抗体のための治療プロトコールは、典型的に、漸増投薬スキームに従った。二重特異性三機能性抗体など、多重特異性抗体、特に、二重特異性抗体の初回用量は、T細胞を活性化させ、炎症促進性サイトカインの放出を誘発し、共刺激因子、例えば、CD28を上方調節する、極めて重要なパラメータであることに注目されたい。
【0130】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片を、1または複数の治療サイクルで投与する。本発明の文脈では、治療サイクルとは、その間に休薬期間を伴う、規則的スケジュールで反復されうる、1または複数の治療(1または複数)のコースである。例えば、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片を、1つの治療サイクル(例えば、1つの単回用量または反復用量)で投与することができ、その後、がんまたは腫瘍が再発するのかどうかを観察することができる。特に、がん/腫瘍が再発する場合は、さらなる治療サイクルを実施することができる。しかし、さらなる治療サイクルはまた、予防措置としても実施することができる。特に、1つの治療サイクル内の、2つの治療(例えば、2つの用量)の間の間隔は、好ましくは、1カ月(31日間)を超えず、より好ましくは3週間を超えないのに対し、1つの治療サイクルの終了と、次の治療サイクルの開始との間の間隔は、好ましくは少なくとも1カ月、好ましくは少なくとも2カ月、より好ましくは少なくとも3カ月、なおより好ましくは少なくとも4カ月であり、最も好ましくは少なくとも6カ月である。
【0131】
好ましくは、1つの治療サイクルは、(i)1つの単回用量、または(ii)1つの初回用量および1もしくは複数の後続用量を含む。本発明に従う治療プロトコールは、典型的に、治療サイクルを形成する、多数の単回投与から構成される。患者を、単一の治療サイクル下または多様な治療サイクル下に置くことができる。各治療サイクルは、典型的に、2−28、好ましくは2−20、より好ましくは3−10、なおより好ましくは5−8、例えば、6または7つの個別の用量から構成される。
【0132】
好ましくは、1つの治療サイクルは、1つの初回用量および1または複数の後続用量を含み、(i)1つの初回用量および1もしくは複数の後続用量は同じであるか、または(ii)1もしくは複数の後続用量は初回用量より高用量である。言い換えると、治療サイクル(初回用量で始め、最終回用量で終わる)内で、各単回投与の用量(初回用量を除く)は、投与された前回の用量より低用量ではない、すなわち、各後続用量は、前回の用量と同等であるか、または高用量であることが好ましい。本明細書では、漸増投薬として理解される、このような投薬の増大は、好ましくは、また、前回の用量と同等の用量も含む。例えば、初回用量だけが低用量であり、全ての後続用量が同じ(かつ、初回用量より高用量)場合もあり、初回用量が低用量であり、第2の用量が、初回用量より高用量であるが、全ての後続用量より低用量であることが可能であり、全ての後続用量が、好ましくは、同じ(かつ、初回用量および第2の用量より高用量)場合もある。したがって、後続用量のうちの1または複数は、漸増用量、すなわち、前回の用量より高用量である用量であることが好ましい。治療サイクルの最終回用量は、典型的に、1つの治療サイクル内で投与される抗体の最高量、すなわち、最大用量を反映する。特に、任意の治療サイクルの終了時に、最大投薬を反映する、1、2、3、4、5回、またはこれを超える投与を予見することができる。一般に、用量漸増の誘導原理は、安全性を保持し、急速な増加を維持しながら、患者を、治療用量未満の用量に曝露することを回避することである。
【0133】
好ましくは、したがって、1つの同じ治療サイクル内では、1つの単回用量は、前回の用量より低用量でない。後続用量が、第2の用量である場合のいずれにおいても、前回の用量は、初回用量(「第1の用量」または「出発用量」)である。後続用量が、第3の用量である場合、前回の用量は、第2の用量である。したがって、本出願の意味の範囲内の「前回の用量」という用語は、現行用量にすぐ先立つ用量であって、少なくとも1つの種類のがんを伴うと診断される患者に投与される用量を指す。
【0134】
典型的に、単一の治療サイクルは、少なくとも初回(第1の)用量および第2の用量を含む。好ましい実施態様では、単一の治療サイクルは、初回(第1の)用量、第2の用量、第3の用量、第4の用量、第5の用量と、好ましくは、加えて、第6の用量とを含みうる。単一の治療サイクル内では、後続用量を、好ましくは、前回の用量の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または21日後に投与することができ、好ましくは後続用量を前回の用量の2−15日後に投与し、より好ましくは後続用量を前回の用量の5−10日後に投与し、なおより好ましくは後続用量を前回の用量の6−8日後に投与し、最も好ましくは後続用量を前回の用量の約7日後に投与する。言い換えると、抗体またはその抗原結合性断片を、例えば、膀胱内経路を介して、毎週、好ましくは、毎週1つの単回用量投与することが、特に、好ましい。前記抗体またはその抗原結合性断片の後続用量の投与は、炎症促進性サイトカインの(過剰な)放出を低減することが示された。炎症促進性サイトカインのレベルの間欠的上昇は、典型的に、治療経過にわたり、検出レベルを下回るように低減される。同時に、前記抗体またはその抗原結合性断片尿路内の新生物に対する細胞傷害性免疫応答を促進する。
【0135】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、0.1−5000μg、好ましくは1−1000μgまたは5−500μg、より好ましくは10−300μg、最も好ましくは20−100μgの範囲の1つの単回用量で投与される。言い換えると、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片の各用量は、0.1−5000μg、好ましくは1−1000μgまたは5−500μg、より好ましくは10−300μg、最も好ましくは20−100μgの範囲である。本発明の文脈では、「1つの単回用量」(または「各用量」)は、1人の患者に、1回の投与で投与される、個別の用量である。
【0136】
治療サイクル1つ当たりの、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片の総用量(治療サイクル内の各1つの単回用量の合計としての)は、好ましくは100μg−1500μg、より好ましくは200μg−1000μgであり、なおより好ましくは300μg−800μgである。
【0137】
好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片の初回用量は、0.5−500μg、好ましくは1−200μg、より好ましくは5−100μg、最も好ましくは10−70μgの範囲である。初回用量は、第1の用量であり、好ましくは1つの治療サイクルの最低用量である。
【0138】
また、投与される多重特異性抗体またはその抗原結合性断片の1つの単回用量は、0.5−1000μg、より好ましくは1−500μg、なおより好ましくは5−200μgの範囲であり、最も好ましくは10−150μgであることも好ましい。
【0139】
好ましくは、第1の後続用量は、初回用量として投与された量の、好ましくは1.1−10.0倍であり、より好ましくは1.2−5.0倍であり、なおより好ましくは1.5−3.0倍であり、任意選択的に、第2の後続用量、およびこれに続く各後続用量は、初回用量として投与された量の1.1−10.0倍であり、好ましくは1.5−5.0倍である。
【0140】
ここで、第3、第4、および第5の後続用量は、第2の後続用量と同じでありうる。好ましくは、第2の後続用量は、第1の後続用量より高用量である。任意選択的に、第3の後続用量およびその後の各用量は、第1の後続用量または第2の後続用量の反復用量でありうる、すなわち、用量は、一定に保持されうる。代替的に、第3の用量およびさらなる各後続用量は、同じ治療サイクル内で、第2の後続用量より高用量である。
【0141】
これに応じて、本明細書で記載される、多重特異性抗体またはその抗原結合性断片はまた、がんと診断された個体を治療するための薬学的組成物の調製にも使用され、前記薬学的組成物は、好ましくは、膀胱内投与され、好ましくは、前記薬学的組成物は、10μg−200μg、好ましくは15μg−100μg、例えば、20μg、または50μg、および/または50−200μg、例えば、100μgの最大用量である、多重特異性抗体またはその抗原結合性断片(溶液中に溶解させた)の初回用量に対応するような容量で投与される。
【0142】
最大用量(治療サイクル内の)は、好ましくは25μg−1000μg、好ましくは50μg−500μg、より好ましくは75μg−150μg、例えば、100μgの範囲から選択される。
【0143】
好ましくは、1つの治療サイクル内で、各後続用量を、前回の用量の1−31日後、好ましくは前回の用量の1−21日後、より好ましくは前回の用量の5−10日後に投与し、なお好ましくは前回の用量の7日後に投与する。この用量は、好ましくは、「後続用量」である。各1つの単回用量は、好ましくは、例えば、7日(毎週)ごとに膀胱内投与する。とりわけ、膀胱の新生物性疾患の最高発生率および有病率を示す老齢患者には、毎週投与またはこれ未満などの低頻度の投与が好ましい。
【0144】
本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、典型的に、尿路の新生物の治療における使用のためのものであり、この場合、前記治療は、好ましくは、単一の治療サイクルまたは反復治療サイクルを包摂する。各治療サイクルは、1回、2回、3回、またはこれを超える頻度で反復することができる。典型的には、例えば、6つ−10の用量を、1−30日ごと、例えば、1−10日ごと、好ましくは、7日ごとに投与する治療サイクルが、30−60日間の間にわたり続くであろう。いくつかの治療サイクルは、典型的に、1−12カ月間の間、好ましくは、少なくとも2カ月間、より好ましくは少なくとも3カ月間、なおより好ましくは少なくとも4カ月間であり、最も好ましくは少なくとも6カ月である無治療期間により中断される。その後、治療は、前回の治療サイクルと本質的に同一(同一な投薬プロトコールおよび投与プロトコール)でありうる、別の治療サイクルにより反復することができる。第2、第3、および任意のさらなる治療サイクルの投薬は、代替的にまた、前回の治療サイクル(前回のサイクルの経過中に観察された効果)と比較して、改変することもできる。典型的に、第2および第3の治療サイクルの各単回投与の投薬は、同じ場合もあり、初回投与を超えて、わずかに(例えば、最大で3.0倍)増大させる場合もある。治療プロトコールの終了時において、例えば、第4、第5、または第6の治療サイクルまでに、各単回投与の投薬を、例えば、第1のサイクルの投薬またはこれ未満を反映するように、再度低減することもできる。
【0145】
好ましい実施態様では、抗体またはその抗原結合性断片の(単一の)用量を、毎週1回、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14週間にわたり投与する。代替的に、抗体またはその抗原結合性断片の(単一の)用量を、例えば、毎週少なくとも2回、例えば、毎日投与する。毎日の投与は、好ましくは、連続2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30日にわたる。患者の生活の質への影響を低減し、服薬遵守を増大させるために、投与は、好ましくは、毎日より低頻度である、例えば、2日、3日、4日、5日、または6日ごとに限られる。最も好ましくは投与頻度は、最多で毎週であり、より好ましくは2週間ごとまたは3週間ごとに限られる。本発明のある特定の実施態様では、投与は、1カ月に限り実施することができる。しかし、本発明の文脈では、そのような時間間隔は、一方の服薬遵守と、他方における、医療従事者による連続的な医療監察とを、良好に均衡させるので、毎週1回の投与が好ましい。
【0146】
組合せ治療
本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片を、単独療法として投与することもでき、1または複数の他の成分と組み合わせて(本明細書ではまた、「組合せ薬剤」とも言及される)投与することもできる。
【0147】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片を、例えば、手術による腫瘍の除去の後で、単独療法として投与する。これにより、「単独療法」という用語は、特に本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片が、本明細書で記載される尿路の新生物を治療するのに投与される、唯一の薬剤であることを意味する。本明細書で記載される尿路の新生物を治療する他の薬剤または薬物(本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片と組み合わせた)を必要としないことが好ましい。
【0148】
本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、特に、全てのがん病期において、単独療法として好ましい。本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、特に、がん病期の早期、特に、病期0aまたは病期0isにおける、好ましい単独療法として好ましい。
【0149】
例えば、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、活性化末梢血リンパ球(PBL)と組み合わせて投与することができない。さらに、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、例えば、IL−2と組み合わせて投与することができない。
【0150】
また、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を、組み合わせて、特に、抗がん薬と組み合わせて、または自己免疫エフェクター細胞と組み合わせて投与することも好ましい。このような組合せ治療は、全てのがん病期において使用することができる。しかし、本明細書で記載される組合せ治療は、特に、がん病期の後期、膀胱がんの病期Iまたは病期IIにおいて、特に好ましい。
【0151】
本明細書で使用される「組合せ治療」または「組合せで投与された」という用語は、特に、組合せ治療の構成要素(薬物)が(少なくともある特定の時点では)、それらの効果を、(ヒト)体内に、同時に及ぼすことを確保する投与を指す。言い換えると、第1の構成要素の投与が、第2の構成要素を投与するときに、第1の構成要素が、(ヒト)体内で、もはや、利用可能および/または有効ではなくなる(例えば、分解過程のために)ほどの長い時間にわたり、第2の構成要素の投与に先行する場合、これは、本発明の意味で、典型的に、「組合せ治療」または「組合せで投与された」とは考えられない。組合せ治療を想定する場合、当業者は、典型的に、構成要素の半減期を考慮に入れる。
【0152】
好ましくは、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を、養子細胞移入と組み合わせて投与する。一般に、移入される細胞は、患者自身に由来し、次いで、移入し戻される前に、変更された場合もあり、別の個体に由来した場合もある。細胞は、最も一般に、免疫系に由来し、細胞と共に、免疫機能性および特徴の改善を、患者に移入し戻すことを目的とする。自己細胞または患者に由来する細胞の移入は、移植片対宿主病(GVHD)を最小化する。したがって、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を、自己免疫エフェクター細胞、好ましくは、PBMC(末梢血単核細胞)と組み合わせて投与することが好ましい。特に本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を、膀胱内投与など、局所投与する場合、自己免疫エフェクター細胞、好ましくは、PBMC(末梢血単核細胞)と併せて投与することが好ましい。これにより、局所的に利用可能な免疫エフェクター細胞集団を増大させる。自己PBMCは、ficoll密度遠心分離など、標準的な方法に従い、患者の末梢血から得ることができる。PBMCは、細胞10
4−10
8個の範囲で適用することができる。
【0153】
また、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を、抗がん薬と組み合わせて投与することも好ましい。抗がん薬は、がん、特に、尿路のがんの治療において、治療的に活性である、任意の低分子もしくは小型化合物または高分子もしくは大型化合物でありうる。当業者には、このような抗がん薬、特に、尿路のがんを治療するための抗がん薬が周知である。さらに、また、異なる抗がん薬の組合せを、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片と組み合わせて投与することもできる。
【0154】
好ましくは、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片と組み合わせて投与される抗がん薬は、細胞傷害剤、抗がん抗体、またはBCG(カルメット−ゲラン桿菌)である。より好ましくは、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片と組み合わせて投与される抗がん薬は、細胞傷害剤または抗がん抗体である。なおより好ましくは、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片と組み合わせて投与される抗がん薬は、細胞傷害剤である。
【0155】
細胞傷害剤は、細胞機能を防止または阻害し、これにより、体内のがん細胞および他の細胞の急速な成長および分裂を防止する。好ましい細胞傷害剤は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗微小管薬剤、トポイソメラーゼ阻害剤、および細胞傷害性抗生剤を含む。好ましくは、細胞傷害剤は、シスプラチン、マイトマイシン(特に、マイトマイシンC)、バルルビシン、ドセタキセル、チオテパ、およびゲムシタビンからなる群から選択される。
【0156】
抗がん抗体は、好ましくは、トラスツズマブ、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ベバシズマブ、ブレンツキシマブベドチン、セツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブ、チウキセタン、イピリムマブ、ニモツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペンブロリズマブ、リツキシマブ、およびトシツモマブからなる群から選択される、好ましくはモノクローナル単一特異性抗がん抗体である。また、抗がん抗体は、トラスツズマブ、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ベバシズマブ、ブレンツキシマブベドチン、セツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブ、チウキセタン、イピリムマブ、ニモツズマブ、ニボルマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペンブロリズマブ、リツキシマブ、およびトシツモマブからなる群から選択されるモノクローナル単一特異性抗がん抗体であることも好ましい。
【0157】
好ましくは、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片を、抗がん薬、特に、本明細書で記載される抗がん抗体と組み合わせるが、例えば、(活性化)末梢血リンパ球など、(自己)免疫エフェクター細胞とは組み合わせずに投与する。これは、好ましくは、本明細書で記載される組合せ治療では、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片および抗がん薬が、本明細書で記載される尿路の新生物を治療するのに投与される、唯一の薬剤であることを意味する。
【0158】
代替的に、また、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片を、本明細書で記載される養子細胞移入と組み合わせるが、本明細書で記載される抗がん薬とは組み合わせずに投与することも好ましい。これは、好ましくは、本明細書で記載される組合せ治療では、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片、および(自己)免疫エフェクター細胞は、本明細書で記載される尿路の新生物を治療するのに投与される、唯一の薬剤であることを意味する。
【0159】
さらに、また、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片を、(i)本明細書で記載される抗がん薬、特に、本明細書で記載される抗がん抗体、および(ii)本明細書で記載される養子細胞移入、特に、本明細書で記載される(自己)免疫エフェクター細胞と組み合わせて投与することも好ましい。
【0160】
好ましくは、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片、および抗がん薬または(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤は、連続的に投与される。例えば、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、抗がん薬または(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤の前に投与される。また、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を、抗がん薬または(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤の後で投与することも好ましい。
【0161】
連続投与では、第1の構成要素の投与と、第2の構成要素の投与との間の時間は、好ましくは1週間を超えず、より好ましくは3日間を超えず、なおより好ましくは2日間を超えず、最も好ましくは第1の構成要素の投与と第2の構成要素の投与との間で24時間を超えない。いずれも、同じ日の、投与される。第1の構成要素の投与と、第2の構成要素の投与との間の時間が、好ましくは6時間を超えず、より好ましくは3時間を超えず、なおより好ましくは2時間を超えず、最も好ましくは1時間を超えないことが、特に、好ましい。
【0162】
代替的に、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片はまた、抗がん薬または(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤と共時的に、すなわち、ほぼ同時に投与することもできる。本明細書で使用される「ほぼ同時に」とは、特に、同時的な投与、あるいは抗がん薬もしくは(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤を投与した直後に、本明細書で記載される抗体もしくはその抗原結合性断片を投与するか、または本明細書で記載される抗体もしくはその抗原結合性断片を投与した直後に、抗がん薬もしくは(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤を投与することを意味する。当業者は、ことを理解する。「〜の直後に」とは、第2の投与を準備するのに必要な時間(特に、第2の投与のための場所を露出させ、消毒するほか、「投与デバイス」(例えば、シリンジ、ポンプなど)の適切な準備に必要な時間)を含む。同時投与はまた、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片の投与時間と、抗がん薬または(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤の投与時間とが重複する場合、または、例えば、1つの構成要素を、例えば、注入により、30分間、1時間、2時間、なおまたはこれを超える時間など、長時間にわたり投与し、他の構成要素を、このような長時間中のある時点で投与する場合も含む。異なる投与経路および/または異なる投与部位を使用する場合、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片、および抗がん薬または(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤の、ほぼ同時の投与が、特に、好ましい。
【0163】
好ましくは、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片、および抗がん薬または(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤は、(i)同じ組成物に含まれる、または(ii)個別に投与される。
【0164】
それらが同じ組成物に含まれる場合、以下で記載される薬学的組成物を使用することができる。
【0165】
異なる投与経路を想定する場合、個別の投与が、特に好ましい。例えば、抗がん薬または(自己)免疫エフェクター細胞などの組合せ剤は、i.v.投与またはp.o.投与など、全身投与することができる。本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、膀胱内投与することができる。
【0166】
尿路の新生物の治療における使用のための薬学的組成物
さらなる態様では、本発明は、本明細書で記載される尿路の新生物の治療における使用のための、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を含む薬学的組成物を提供する。
【0167】
より特定すると、本発明は、例えば、膀胱内投与による、上記で記載した尿路の新生物の治療ための薬学的組成物に関する。薬学的組成物は、上記で記載した、多重特異性抗体またはその抗原結合性断片を含む。好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片のために、上記で記載した用量レジメン、治療スケジュール、および投与経路など、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を投与するのに適切な投薬(投薬レジメン)を適用する。
【0168】
したがって、さらなる態様では、本発明は、尿路の新生物の治療における使用のための薬学的組成物を提供し、この場合、前記薬学的組成物は、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片、特に、二重特異性抗体、例えば、二重特異性三機能性抗体を含む。薬学的組成物についての好ましい実施態様は、本明細書で記載される、本発明に従う使用のための抗体についての、好ましい実施態様を指す。薬学的組成物の好ましい使用は、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片の好ましい使用を指す。
【0169】
好ましくは、薬学的組成物は、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片を、「治療有効量」で含み、これは、個体に対する利益を示すのに十分である。投与される実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、尿路の新生物の性質および重症度に依存するであろう。
【0170】
薬学的組成物はまた、本明細書で記載される、少なくとも2つの異なる抗体、またはその抗原結合性断片の組合せも含みうる。これにより、同じ新生物と関連する異なる標的にも対処することができ、これは、好ましくは、効能を増大させる。こうして、単一の薬物の用量を低減することができる。
【0171】
好ましくは、薬学的組成物は、薬学的に許容される担体および/もしくは媒体、または任意の賦形剤、緩衝液、安定化剤、もしくは当業者に周知の他の材料をさらに含む。
【0172】
さらなる成分として、薬学的組成物は、特に、(適合性の)薬学的に許容される担体および/または媒体を含みうる。本発明の文脈では、薬学的に許容される担体は、典型的に、薬学的組成物の液体基剤または非液体基剤を含む。本明細書で使用される「適合性の」という用語は、上記で規定した通り、典型的な使用条件下で、薬学的組成物の、医薬としての有効性を、実質的に減殺する相互作用が生じないように、薬学的組成物のこれらの構成要素を、抗体またはその抗原結合性断片と混合することが可能であることを意味する。薬学的に許容される担体および媒体は、当然ながら、それらを、治療される対象への投与に適するものとするのに十分な高純度および十分な低毒性を有さなければならない。
【0173】
好ましくは、薬学的組成物は、凍結乾燥粉末の形態、または液体組成物、好ましくは、水溶液の形態である。よって、本発明の薬学的組成物は、乾燥粉末、凍結乾燥粉末として用意することもでき、より好ましくは、溶液(媒体中に溶解させた)により用意することもできる。製造元が、凍結乾燥粉末として用意する場合は、薬学的組成物を、通例、投与の直前に、適切な溶液(水溶液;注射用水または、任意選択的に、PBSなどの緩衝生理食塩液など)中に溶解させる。液体医薬のバイアルは、単回の使用の場合もあり、多数回にわたる使用の場合もある。
【0174】
別の好ましい実施態様では、本発明に従う使用のための抗体および/または薬学的組成物を凍結乾燥させない。したがって、本発明に従う使用のための抗体またはその抗原結合性断片は、凍結乾燥させず、溶液中、好ましくは水溶液中、より好ましくは水性緩衝液中で用意することが好ましい。
【0175】
したがって、薬学的組成物は、液体形態で用意することが、特に好ましい。したがって、薬学的に許容される担体は、典型的に、1または複数の(適合性の)薬学的に許容される液体担体を含むであろう。(適合性の)薬学的に許容される液体担体の例は、発熱物質非含有水、等張性の生理食塩液または緩衝液(水溶液)、例えば、クエン酸緩衝液;例えば、ポリプロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコールなどのポリオール;アルギン酸、好ましくは、本活性薬剤に、持続放出効果をもたらす、PLGAなどの、さらなる無機ポリマーまたは有機ポリマーを含む。好ましくは、液体の薬学的組成物中、担体は、発熱物質非含有水;等張性の生理食塩液または緩衝液(水溶液)、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などでありうる。特に薬学的組成物の注射または点滴のために、水または、好ましくは、緩衝液、より好ましくは、クエン酸緩衝液などの水性緩衝液を使用することができる。
【0176】
したがって、薬学的組成物は、緩衝液、好ましくは、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、および酒石酸緩衝液などの有機酸緩衝液(すなわち、緩衝液に基づく有機酸)を含み、より好ましくは、薬学的組成物は、クエン酸緩衝液を含むことが好ましい。したがって、有機酸緩衝液は、好ましくは、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酒石酸緩衝液、およびリン酸クエン酸緩衝液からなる群から選択され、より好ましくは、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、および酒石酸緩衝液からなる群から選択される。緩衝液は、クエン酸緩衝液であることが、特に好ましい。一般に、緩衝液は、ナトリウム塩、好ましくは、少なくとも30mMのナトリウム塩、カルシウム塩、好ましくは、少なくとも0.05mMのカルシウム塩、および/または、任意選択的に、カリウム塩、好ましくは、少なくとも1mMのカリウム塩を(もまた)含有する。ナトリウム塩、カルシウム塩、および/またはカリウム塩は、それらのハロゲン化物、例えば、塩化物、ヨウ化物、または臭化物の形態、それらの水酸化物、炭酸塩、水素炭酸塩、または硫酸塩形態などで生じうる。これらに限定せずに述べると、ナトリウム塩の例は、例えば、NaCl、NaI、NaBr、Na
2CO
3、NaHCO
3、Na
2SO
4を含み、任意選択のカリウム塩の例は、例えば、KCl、KI、KBr、K
2CO
3、KHCO
3、K
2SO
4を含み、カルシウム塩の例は、例えば、CaCl
2、CaI
2、CaBr
2、CaCO
3、CaSO
4、Ca(OH)
2を含む。さらに、前述のカチオンの有機アニオンは、緩衝液中に含有されうる。
【0177】
薬学的組成物はまた、生理食塩液(0.9%NaCl)、乳酸加リンゲル液、またはPBS(リン酸緩衝生理食塩液)も含みうる。例えば、薬学的組成物は、上記で記載した有機酸緩衝液、好ましくは、クエン酸緩衝液など、適切な緩衝液中の、抗体またはその抗原結合性断片の原液として用意することができ、投与の直前に限り、原液を、生理食塩液(0.9%NaCl)、乳酸加リンゲル液、またはPBSで希釈して、投与される抗体濃度を達成することができる。
【0178】
さらに、1または複数の、適合性の、固体または液体の、充填剤または希釈剤または封入化合物もまた、治療される対象への投与に適する薬学的組成物に使用することができる。薬学的組成物に含まれうる化合物のさらなる例は、例えば、ラクトース、ブドウ糖、およびスクロースなどの糖;例えば、トウモロコシデンプンまたはバレイショデンプンなどのデンプン;例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロースなどの、セルロースおよびその誘導体;粉末トラガント;麦芽;ゼラチン;獣脂;例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム;硫酸カルシウムなど、固体の流動促進剤;例えば、ラッカセイ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、およびカカオ由来の油などの植物油;例えば、ポリプロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコールなどのポリオール;アルギン酸を含む。加えて、保存剤、安定化剤、抗酸化剤、および/または他の添加剤も、必要に応じて含まれうる。したがって、薬学的組成物はまた、Tween(登録商標)80またはTween(登録商標)20などの安定化剤も含みうる。任意選択的に、薬学的組成物にはまた、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片に、持続放出特性を付与する賦形剤も含まれうる。
【0179】
薬学的組成物は、上記で記載した抗がん薬をさらに含みうる。
【0180】
好ましくは、薬学的組成物のpH値は、6.5−8.2、好ましくは7.0−7.8、より好ましくは7.2−7.6、最も好ましくは7.4である。このようなpHは、本活性薬剤の、尿路環境および安定性の両方の必要に適応している。したがって、このようなpHを有する薬学的組成物は、例えば、刺激を引き起こさず、かつ、本明細書で記載される抗体または抗原結合性断片の安定性を損なわずに、尿路内の局所投与に適する。
【0181】
好ましい実施態様では、薬学的組成物は、(i)本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片と、(ii)本明細書で記載される緩衝液と、任意選択的に、(iii)注射用水、生理食塩液、および/またはPBSに加えて、さらなる成分を含まない。
【0182】
治療される対象
治療される対象とは、好ましくは、ヒトまたは非ヒト動物、特に、哺乳動物またはヒトである。ヒトでは、上記で記載した抗体またはその抗原結合性断片を投与するための本発明の治療プロトコールは、特に有用でありうる。好ましくは、対象は、膀胱の新生物を有する患者である。例えば、本発明に従い、若齢(15歳未満)の患者を治療することもでき、老齢(60歳を超える)患者を治療することもできる。とりわけ、尿路の新生物の発生率および有病率が最大の人口群である、老齢患者が好ましい。老齢患者には、それにより服薬遵守が確保されるので、医師を要請する経路により薬物を投与することが、特に有利である。同時に、投与は、好ましくは、無痛であるものとする。
【0183】
一般に、尿路の新生物性疾患を有する患者であって、それらの年齢に関わらず、好ましくは、免疫抑制治療下にない患者は、特に、本発明に従う多重特異性抗体またはその抗原結合性断片の使用から利益を得ることができる。
【0184】
多重特異性抗体を含むキット
さらなる態様では、本発明は、本明細書で記載される抗体もしくはその抗原結合性断片または本明細書で記載される薬学的組成物、および好ましくは尿路内の局所投与により、尿路の新生物を治療するための指示書を伴う添付文書または表示を含むキットを提供する。
【0185】
キットは、1または複数の容器内、好ましくは1つの容器内に含まれうる。
【0186】
このようなキットは、好ましくは、本明細書で記載される尿路の新生物の防止および/または治療において使用される。
【0187】
加えて、キットはまた、(i)導尿カテーテル、(ii)導尿カテーテルシリンジ、(iii)上記で記載したさらなる抗がん薬、および/または(vi)薬学的組成物の凍結乾燥粉末を再構成するのに適する溶液、もしくは薬学的組成物の原液を希釈するのに適する溶液も含みうる。
【0188】
尿路の新生物を患う対象を治療するための方法
さらなる態様では、本発明は、
(i)T細胞表面抗原に対する特異性、ならびに
(ii)腫瘍関連細胞表面抗原に対する特異性
を含む多重特異性抗体またはその抗原結合性断片を投与することにより、尿路の新生物を患う対象を治療するための方法を提供する。
【0189】
好ましくは、抗体またはその抗原結合性断片は、上記で記載した通りである。より好ましくは、上記で記載した薬学的組成物が投与される。したがって、前記治療方法のために、多重特異性抗体またはその抗原結合性断片を、典型的には薬学的組成物として用意する。薬学的組成物または抗体は、好ましくは尿路内局所投与、例えば、膀胱内投与される。
【0190】
さらに、本治療方法は、好ましくは、また、本明細書で記載される別の抗がん薬と組み合わされた、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片の投与を可能とする組合せ治療も指す。抗がん薬を、好ましくは、本明細書で記載される抗体の投与とは別個の投与により、任意の適する経路を介して、例えば、全身投与または膀胱内投与することができる。
【0191】
好ましくは、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、上記で記載した投与量レジメン、治療プロトコールで、かつ投与経路を介して、例えば、尿路内の局所投与により、例えば、膀胱内投与により投与される。したがって、本明細書で記載される治療方法では、本明細書で記載される抗体またはその抗原結合性断片は、好ましくは、上記で記載した通りに投与される。
【実施例】
【0192】
以下では、本発明の多様な実施態様および態様を例示する特定の例を提示する。しかし、本発明は、本明細書で記載される、具体的な実施態様による範囲内には限定されないものとする。以下の調製物および例は、当業者が、本発明を、より明確に理解し、実施することを可能とするために示す。しかし、本発明は、本発明の単一の態様の例示だけとして意図される、例示的な実施態様による範囲内に限定されるものではなく、機能的に同等である方法は、本発明の範囲内にある。実際、当業者には、下記の図および実施例を伴う前出の記載から、本明細書で記載される改変に加えて、本発明の多様な改変が、たやすく明らかとなろう。全てのこのような改変は、付属の特許請求の範囲内に収まる。
【0193】
実施例1:尿環境内のカツマキソマブの結合活性
この研究の目標は、尿環境内のカツマキソマブの結合活性について評価することであった。カツマキソマブの結合活性について評価するために、カツマキソマブの特異性に対応する標的抗原を発現させる細胞系を使用する。カツマキソマブの二重特異性結合活性は、CD3+T細胞およびEpCAM+腫瘍細胞への結合を特徴とするので(Cheliusら、Structural and functional characterization of the trifunctional antibody catumaxomab. mAbs 2(3):1-12 (2010))、カツマキソマブの結合活性について、関与性の標的抗原を発現させる細胞系、すなわち、CD3+ Jurkat細胞およびEpCAM+ HCT−8細胞を使用するFACS解析(フローサイトメトリー)により評価した。尿環境内のカツマキソマブの結合活性について評価するため、中性のリン酸緩衝生理食塩液であるPBS(緩衝液コントロール)中の、カツマキソマブの結合を、2例のヒト尿試料(100%尿)中の結合と比較した。
【0194】
5×10
5個の標的細胞(CD3+ Jurkat細胞またはEpCAM+ HCT−8細胞)を、2−8℃で、60分間にわたり、カツマキソマブ濃度を0.0μg/ml、0.01μg/ml、0.02μg/ml、0.04μg/ml、0.08μg/ml、0.15μg/ml、0.30μg/ml、0.60μg/ml、1.20μg/ml、2.40μg/ml、4.80μg/ml、9.60μg/ml、および19.20μg/mlとしてインキュベートした。標的細胞を、PBS緩衝液中、または尿試料(100%の尿)中に再懸濁させた。次いで、細胞を、2回にわたり洗浄し、細胞に結合したカツマキソマブを、蛍光標識(FITC)ラット抗マウスIgG(Jurkat)二次検出抗体(Dianova)または蛍光標識マウス抗ラットIgG(HCT−8)二次検出抗体(Dianova)で検出した。FACS−Calibur血球計算器(Becton Dickinson)を使用して、陽性染色細胞を評価した。
【0195】
結果を、
図1に示す。
図1は、緩衝液コントロール中および100%尿中の、カツマキソマブの、CD3発現Jurkat細胞(
図1A)およびEpCAM陽性HCT−8細胞(
図1B)への結合の成功を示す。特に、尿試料2中の結合には、緩衝液コントロールと比較した差違が見られなかった。尿試料1中のカツマキソマブの結合もまた、高抗体濃度で、緩衝液コントロールに対する差違を示さなかった。尿試料1中では、低抗体濃度で、緩衝液コントロールと比較して、わずかな結合の不全が観察されたが、高抗体濃度では、結合の不全が観察されなかった。したがって、結果は、カツマキソマブが、100%の尿環境内でもなお、不全を伴わずに、その標的抗原であるEpCAMおよびCD3に結合することが可能であることを指し示す。
【0196】
実施例2:尿環境内の、カツマキソマブの生物学的活性
次に、尿環境内の、カツマキソマブの生物学的活性について探索した。二重特異性抗体カツマキソマブは、T細胞およびFcγR+免疫細胞のリダイレクションおよび活性化により、EpCAM+腫瘍細胞の効果的な破壊を誘導する(Lindhofer H, Hess J, Ruf P: Trifunctional Triomab(登録商標) antibodies for cancer therapy. In: Bispecific Antibodies. Kontermann RE (ed.). Springer Heidelberg Dordrecht London New York, 289 (2011))。したがって、カツマキソマブの生物学的活性は、標的化された腫瘍細胞の殺滅を解析する、同種細胞傷害作用アッセイを使用することにより、in vitroにおいて、理想的に評価される(Cheliusら、Structural and functional characterization of the trifunctional antibody catumaxomab. mAbs 2(3):1-12 (2010))。
【0197】
したがって、EpCAM+ HCT−8腫瘍細胞の、カツマキソマブに媒介される殺滅について、同種細胞傷害作用アッセイで評価した。これにより、PBS緩衝液コントロール中の、カツマキソマブの「殺滅活性」を、10%の尿を含有する試料中のその活性と比較した。3例の異なる尿試料について調べた。健常ドナーに由来する末梢血単核細胞(PBMC)(細胞1×10
5個)を、Ficollによる密度遠心分離により単離し、その後、96ウェル平底プレート内の、表示量の抗体の存在下で、EpCAM+ HCT−8腫瘍細胞1×10
4個と混合した。10容量%の尿を、「尿試料1」中、「尿試料2」中、および「尿試料3」中に添加した。37℃および5%CO
2で、4日間にわたる共培養の後、可溶性PBMCを、Ca
2+およびMg
2+を伴わずに、PBSで2回にわたり洗浄した。次いで、接着性腫瘍細胞を、水酸化テトラゾリウム(XTT、細胞増殖キットII、Roche)で染色し、腫瘍細胞コントロール試料のOD
650nm−
490nmが、2.5−3.0に達するまで、増殖を測定した。腫瘍細胞の殺滅(%)は、式:
(OD
腫瘍細胞+PBMC−OD
腫瘍細胞+PBMC+抗体)/(OD
腫瘍細胞+PBMC−OD
培地)×100%
に従い計算した。
各試料は、二連で測定し、平均値を計算した。
【0198】
結果を、
図2に示す。
図2は、尿試料中のカツマキソマブの生物学的活性は、緩衝液コントロールと比較して、損なわれていなかったことを示す。全ての場合に、4ng/mlの低カツマキソマブ濃度まで、腫瘍細胞の100%の殺滅が観察された。技術的解析的な理由だけで、濃度を10%に設定した(高濃度の尿は、尿自体の、腫瘍増殖および腫瘍細胞の殺滅に対する影響のために、このアッセイにおける解析を撹乱する)ことが注目される。しかし、高尿濃度が、カツマキソマブの細胞傷害特性に関して、異なる結果をもたらしたとは予測されず、これは、以下の実施例で示される、肯定的なin vivo結果によりさらに裏付けられる。
【0199】
実施例3−70歳の女性膀胱がん患者に対する、コンパッショネート使用による治療
2004年にまず診断され、尿細胞診により、EpCAM陽性腫瘍細胞が確認された尿路上皮細胞がん腫を伴う70歳の女性患者(「患者1」)を、下記の表1に要約した治療スケジュールに従い膀胱内投与される、6用量のカツマキソマブ抗体で治療した。各抗体用量は、40mlのPBS溶液(pH7.4)中、カテーテルにより、空の膀胱に投与し、抗体の結合を可能とするように、排尿の前に、少なくとも2時間にわたり保持した。
【0200】
したがって、最大で100μgのカツマキソマブ用量を増大させて、患者1に、毎週6回の点滴を施した。適用した抗体の総量は、470μgであった。
【0201】
血漿試料中のサイトカインレベルを、Luminex system 200(Luminex、TX、USA)を、サイトカインである、IL−2、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、IL−17、IFN−γ、およびTNF−αを含む、プレミックス型8−plex fluorokine X−Mapキット(R&D Systems、MN、USA)と併せて使用することにより解析した。表2Aおよび2Bに表示の時点で試料を回収し、−20℃で保存し、バッチ中で測定した。治療日に回収された試料を、抗体の点滴の前に採取した。サイトカインの検出限界は、3.2pg/mlである。全身カツマキソマブ濃度は、ELISAにより、記載される通りに測定した(Rufら、Pharmacokinetics, immunogenicity and bioactivity of the therapeutic antibody catumaxomab intraperitoneally administered to cancer patients. Br J Clin Pharmacol. 69(6): 617-625 (2010))。ELISA法の定量限界は、125pg/mlである。HAMA(ヒト抗マウス抗体)は、製造元の指示書に従い、medac ELISAキット(medac、Hamburg、Germany)を使用することにより定量化した。陰性試料(neg.)は、40ng/mlを下回る値を有する。
【0202】
結果を、下記の表2Aおよび2Bに示す。
【0203】
患者自身の言明および主治医による身体検査に従い、抗体治療は、忍容良好であり、負の副作用の明らかな徴候を伴わなかった。とりわけ、発熱またはインフルエンザ様症状についての報告はなされなかった。したがって、著明な全身サイトカイン放出は、観察されなかった(表2Aおよび2B)。50μgのカツマキソマブの2回目の点滴の後で初めて、13および10pg/mlという、中血漿レベル弱のIL−6を測定した。さらなる治療経過に従い、IL−6値は、検出限界の下方に戻った(3.2pg/ml)。治療の開始前に、低量のIL−8およびTNF−αは、既に検出可能であった(が、これらのサイトカインの、治療に関連する誘導は、観察されなかった)。これに対して、IL−8およびTNF−αのサイトカイン値は、治療経過に従い、検出限界の下方に減少した。この結果は、腫瘍の環境内で観察されることが多い慢性炎症が、治療経過中に低減されうることを示唆する。
【0204】
表2Bに示される通り、カツマキソマブの濃度は、125pg/mlの定量限界を下回り、したがって、患者の血中の全身カツマキソマブ抗体は、検出不可能であった。これは、膀胱の局所抗体治療(すなわち、膀胱内投与)が、薬物の全身放出を結果としてもたらさなかったことを指し示す。この所見によれば、ヒト抗マウス抗体(HAMA)の誘導は生じなかった。毎週6回の薬物の適用を含む、抗体治療終了の14日後、患者は、やはり、HAMAについて陰性であった(表2B)。
【0205】
患者の尿試料を、治療の前および後で、EpCAM+腫瘍細胞について解析した。EpCAM+腫瘍細胞を、確立され、記載された免疫細胞化学プロトコール(Jaegerら、Immunomonitoring Results of a Phase II/III Study of Malignant Ascites Patients Treated with the Trifunctional Antibody Catumaxomab (Anti-EpCAM x anti-CD3). Cancer Res. 72(1):24-32 (2012))であって、尿試料を解析するために改変された免疫細胞化学プロトコールにより検出した。略述すると、サイトスピン上で、30mlの尿中の細胞を遠心分離した。スライドを、EpCAMおよびサイトケラチンについて、二重染色した。EpCAM染色は、Alexa Fluor 594 Texas Redで直接標識した、EpCAM−特異的抗体である、HO−3(Rufら、Characterisation of the new EpCAM-specific antibody HO-3: implications for trifunctional antibody immunotherapy of cancer. Br J Cancer 97 (3):315-321 (2007))により実施した。サイトケラチンの染色には、抗サイトケラチン8、18、19抗体である、A45B−B3(Micromet)を、対応するAlexa Fluor 488標識二次抗マウスIgG1検出抗体(MolecularProbes)と併せて使用した。コンピュータ式画像解析システム(MDS、Applied Imaging)により、二重染色細胞をカウントして、全てのサイトスピンを解析した。CD45+白血球を定量化するために、さらなるサイトスピンを、抗CD45抗体と、その対応する二次抗マウスIgG1抗体Alexa Fluor 488(Molecular Probes)とで染色した。
【0206】
結果を、下記の表3に示す。
【0207】
治療開始の直前(0日目)、30mlの尿中に、23個の腫瘍細胞を検出することができたのに対し、治療完了の1日後(36日目)、腫瘍細胞はもはや検出されなかった(表3)。最も重要なことは、148、211、339、および701日目の追跡試料も、腫瘍細胞について、やはり陰性であったことである。確認のために、703日目(2017年2月17日)に採取した尿試料によるさらなる検査により、細胞学的解析を実施したが、これもまた、腫瘍細胞の証拠を示さなかった。
【0208】
この結果は、治療の効能を示す。腫瘍細胞はとりわけ、進行性膀胱がん患者の尿中に見出されることが多く、尿細胞診は、膀胱の筋層非浸潤性の尿路上皮のがん腫についての追跡ケアにおいて推奨される方法である(Babjukら、EAU guidelines on non-muscle-invasive urothelial carcinoma of the bladder, the 2011 Update. Eur Urol 59:997-1008 (2011))。表3に指し示した日の治療の前および後に、EpCAM+腫瘍細胞に加えて、白血球もまた解析した。治療開始の前(0日目)には、496個のCD45+白血球を検出することができたのに対し、治療完了の1日後(36日目)には、6個の白血球だけを検出することができた。この結果は、(i)免疫エフェクター細胞が、治療開始時に、膀胱内に存在し、これを、三機能性抗体により、腫瘍部位にリダイレクトすることができ、(ii)治療の完了の1日後における白血球の低減は、白血球が、やはり、腫瘍部位に固定化されていることを指し示しうることを示唆する。
【0209】
カツマキソマブの1回目の膀胱内適用の約2週間前に、膀胱内の状況を、腫瘍病変についての内視鏡イメージングにより決定した。結果を、
図3に示す。
図3Fの矢印は、表在性膀胱がんに典型的な、増殖性乳頭構造を指し示す。
【0210】
最終回の膀胱内カツマキソマブ適用の2週間後に、患者1の膀胱内の状況を、内視鏡イメージングにより再評価した。結果を、
図4に示す。最終回の膀胱内カツマキソマブ適用の2週間後における、患者1の膀胱についての、
図4の内視鏡イメージングから、粘膜は、以前に解析された同じ領域内で、再び、完全に正常となった(
図3を参照)。これは、新生物性状態が、多重特異性抗体により治癒したことを示す。
【0211】
実施例4:膀胱がんを伴う72歳の男性患者に対する、コンパッショネート使用による治療
切除後の膀胱がんを伴う、72歳の男性患者(「患者2」)を、下記の表4に要約した治療スケジュールに従い膀胱内投与される、6用量のカツマキソマブ抗体で治療した。各抗体用量は、40mlのPBS溶液(pH7.4)中、カテーテルにより、空の膀胱に投与し、抗体の結合を可能とするように、排尿の前に、少なくとも2時間にわたり保持した。
【0212】
約6カ月後、患者は、再発し(Urovysion test、Abbottによる、尿試料中の非定型細胞の検出)、したがって、表5に表示される、毎週7用量のカツマキソマブを含む、第2の治療サイクルを施した。各抗体用量は、40mlのPBS溶液(pH7.4)中、カテーテルにより、空の膀胱に投与し、抗体の結合を可能とするように、排尿の前に、少なくとも2時間にわたり保持した。
【0213】
血漿試料中のサイトカインレベルを、Luminex system 200(Luminex、TX、USA)を、サイトカインIL−2、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、IL−17、IFN−γ、およびTNF−αを含むプレミックス型8−plex fluorokine X−Mapキット(R&D Systems、MN、USA)と併せて使用することにより解析した。表示の時点で試料を回収し、−20℃で保存し、バッチ中で測定した。治療日に回収された試料を抗体の点滴の前に採取した。サイトカインの検出限界は3.2pg/mlである。catu=カツマキソマブである。全身カツマキソマブ濃度は、ELISAにより既に記載されている通りに測定した(Rufら、Pharmacokinetics, immunogenicity and bioactivity of the therapeutic antibody catumaxomab intraperitoneally administered to cancer patients. Br J Clin Pharmacol. 69(6): 617-625 (2010))。ELISA法の定量限界は125pg/mlである。HAMA(ヒト抗マウス抗体)は、製造元の指示書に従いmedac ELISAキット(medac、Hamburg、Germany)を使用することにより定量化した。陰性試料は、40ng/mlを下回る値を有する。
【0214】
結果を、表6Aおよび6B(第1の治療サイクル)、ならびに表7Aおよび7B(第2の治療サイクル)に示す。
【0215】
患者自身の言明および主治医による身体検査に従い、抗体治療は、忍容良好であり、負の副作用の明らかな徴候を伴わなかった。とりわけ、発熱またはインフルエンザ様症状についての報告はなされなかった。したがって、著明な全身サイトカイン放出は、治療サイクルのいずれについても観察されなかった(表6A/6Bおよび7A/7B)。100μgのカツマキソマブの3回目の点滴の後で初めて、16−13pg/mlという、中血漿レベル弱のIL−6を測定した(表6B)。さらなる治療経過に従い、IL−6値は、3.2pg/mlの検出限界の下方に戻った。治療の開始前に、低量のIL−8およびTNF−αは、既に検出可能であったが、これらのサイトカインの、治療に関連する誘導は、観察されなかった。逆に、サイトカイン値は、治療経過に従い、検出限界の下方に減少した。この結果は、腫瘍の環境内で観察されることが多い慢性炎症が、治療経過中に低減されうることを示唆する。興味深いことに、IL−8およびTNF−α値、および他の全ての測定されたサイトカインは、第2の治療サイクルにわたり、検出限界の下方にとどまった(表7A/7B)。
【0216】
さらに、第1の治療サイクルの2回目の適用および5回目の適用の後で初めて、患者の血液1ml中、pg範囲の、極めて低濃度の全身カツマキソマブ抗体が検出可能であった。測定された、他の全ての濃度は、125pg/mlの定量限界を下回った(表6A/6Bおよび7A/7B)。これは、膀胱の局所抗体治療が、薬物の著明な全身放出を結果としてもたらさなかったことを指し示す。この所見によれば、ヒト抗マウス抗体(HAMA)の、顕著に異なる誘導は生じなかった。患者は、治療開始の前に、既に、40ng/mlというボーダーラインのHAMA値を有した(40ng/mlを下回る値を、陰性と考える)。治療中に、HAMA値は、まず、わずかに増大したが、次いで、減少し、再び、ほぼ初期値(第1の治療サイクル、表6B)に戻った。重要なことは、第2の治療サイクル中もなお、HAMA値は、281ng/mlまで、わずかに増大するに過ぎなかったことである。このような経過は、典型的なカツマキソマブ誘導性HAMA反応を表さない。腹腔内投与されたカツマキソマブによる、かつての研究では、最大104−105ng/mlのHAMA濃度に達した(Rufら、Pharmacokinetics, immunogenicity and bioactivity of the therapeutic antibody catumaxomab intraperitoneally administered to cancer patients. Br J Clin Pharmacol. 69(6): 617-625 (2010))。したがって、記載した実施例においてでは、特に、膀胱内投与されたカツマキソマブは明らかに、弱く免疫原性であるに過ぎなかった。
【0217】
患者の尿試料を、治療前および後で、EpCAM+腫瘍細胞について解析した。EpCAM+腫瘍細胞を、確立され、Jaegerら、Immunomonitoring Results of a Phase II/III Study of Malignant Ascites Patients Treated with the Trifunctional Antibody Catumaxomab(Anti−EpCAM x anti−CD3).Cancer Res.72(1):24−32(2012)において記載された免疫細胞化学プロトコールであって、尿試料を解析するために改変された免疫細胞化学プロトコールにより検出した。略述すると、サイトスピン上で、30mlの尿中の細胞を遠心分離した。スライドを、EpCAMおよびサイトケラチンについて、二重染色した。EpCAM染色は、Alexa Fluor 594 Texas Redで直接標識した、EpCAM特異的抗体である、HO−3(Rufら、Characterisation of the new EpCAM-specific antibody HO-3: implications for trifunctional antibody immunotherapy of cancer. Br J Cancer 97 (3):315-321 (2007))により実施した。サイトケラチンの染色には、抗サイトケラチン8、18、19抗体である、A45B−B3(Micromet)を、対応するAlexa Fluor 488標識二次抗マウスIgG1検出抗体(MolecularProbes)と併せて使用した。コンピュータ式画像解析システム(MDS、Applied Imaging)により、二重染色細胞をカウントして、全てのサイトスピンを解析した。
【0218】
第2の治療サイクル中に得られた結果を、下記の表8に示す。追跡の319日目(2016年1月21日)および463日目(2016年6月15日)得られた結果を、下記の表9に示す。
【0219】
これらの結果は、カツマキソマブの臨床的効能を示す。治療の前には、患者の尿細胞診は、陽性であった。多様な尿路上皮細胞は、肥大した多染色体性細胞核を示し、核/血漿比を、細胞核が多くなるように変化させた。バックグラウンドでは、単一のリンパ球および好中球である顆粒球が観察された。
【0220】
カツマキソマブによる治療の10日後、尿細胞診では、リンパ球が少数しかないこと、および好中性顆粒球が極めて少数しかないことを含む異常な表現型がなく、多様な細胞が観察された。非定型細胞は、観察されなかった。
【0221】
しかし、約6カ月後、患者は、陽性のUroVysion FISH−testで再発した。したがって、患者に、第2の治療サイクルを施した。表8に示される通り、EpCAM+腫瘍細胞の数は、第2の治療サイクル中に、111個から、4個のEpCAM陽性腫瘍細胞に、連続的に減少した。これらの結果は、in vivoにおいて、カツマキソマブに媒介される抗腫瘍応答を示す。261および268日目に由来する試料が、形態学的に異常な細胞および細胞の残骸だけを提示したことは、注目に値する。
【0222】
最も重要なことは、319および463日目に得られた追跡尿試料中では、EpCAM陽性腫瘍細胞が、検出されなかったことである。
【国際調査報告】