特表2019-518775(P2019-518775A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-518775(P2019-518775A)
(43)【公表日】2019年7月4日
(54)【発明の名称】カナバン病の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/30 20150101AFI20190614BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20190614BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190614BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20190614BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20190614BHJP
   C12N 9/80 20060101ALN20190614BHJP
【FI】
   A61K35/30
   C12N5/10ZNA
   A61P25/00 101
   C12N15/09 Z
   C12N15/113 Z
   C12N9/80 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2018-567237(P2018-567237)
(86)(22)【出願日】2017年6月22日
(85)【翻訳文提出日】2019年2月8日
(86)【国際出願番号】US2017038853
(87)【国際公開番号】WO2017223373
(87)【国際公開日】20171228
(31)【優先権主張番号】62/353,515
(32)【優先日】2016年6月22日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】598004424
【氏名又は名称】シティ・オブ・ホープ
【氏名又は名称原語表記】City of Hope
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】シ,ヤンホン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ,ジャンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウェンドン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD11
4B050LL01
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA03
4B065BB12
4B065BB25
4B065BB31
4B065BB34
4B065BC46
4B065BD18
4B065CA31
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB45
4C087NA14
4C087ZA02
(57)【要約】
対象者の脳において外因性の野生型ASPA遺伝子を発現させることによって対象者のASPA酵素活性を回復させることを通じて対象者のカナバン病を治療する方法がここに開示される。また、外因性の野生型ASPA遺伝子を発現する、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、神経前駆細胞を作製するプロセス、並びに、このプロセスによって作製された神経前駆細胞が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者のカナバン病を治療するための方法であって、
前記対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、
野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、
前記遺伝的に修正されたiPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、及び
前記神経前駆細胞を前記対象者の脳に移植するステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記リプログラムするステップは、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28及びMYCを含む一つ又はそれ以上のリプログラミング因子の存在下で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リプログラムするステップは、エピソーマルなリプログラミング又はウイルス形質導入を介して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記リプログラムされたiPSCsのASPA遺伝子は、一つ又はそれ以上の変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ASPA遺伝子の変異はヘテロ接合性の変異である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ASPA遺伝子の変異はホモ接合性の変異である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ASPA遺伝子の変異は、527G>A、914C>A、又は854A>Cである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記体細胞は、線維芽細胞、血球、泌尿器細胞、脂肪細胞、角化細胞、歯髄細胞、又は他の容易にアクセス可能な体細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記野生型ASPA遺伝子は、前記野生型ASPA遺伝子を含むベクターを用いて前記リプログラム又は転換されたiPSCsに形質導入することによって、又は遺伝子編集技術によって、導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ベクターはレンチウイルスである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記神経前駆細胞は、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
対象者のカナバン病を治療する方法であって、前記対象者の脳において外因性の野生型ASPA遺伝子を発現させることによって前記対象者のASPA酵素活性を回復させることを含む、方法。
【請求項13】
前記ASPA酵素活性は、前記対象者の脳にASPA神経前駆細胞を移植することによって回復させられる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ASPA神経前駆細胞を作製する方法であって、
カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、
野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び
前記遺伝的に修正されたiPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、
を含む、方法。
【請求項15】
前記リプログラムするステップは、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28及びMYCを含む一つ又はそれ以上のリプログラミング因子の存在下で実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記リプログラムするステップは、エピソーマルなリプログラミング又はウイルス形質導入を介して実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記体細胞は、線維芽細胞、血球、泌尿器細胞、脂肪細胞、角化細胞、歯髄細胞、又は他の容易にアクセス可能な体細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記野生型ASPA遺伝子は、前記野生型ASPA遺伝子を含むベクターを用いて前記リプログラム又は転換されたiPSCsに形質導入することによって、又は遺伝子編集技術を使用してASPA遺伝子の変異を修正することによって、導入される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記ベクターはレンチウイルスである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記神経前駆細胞は、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
外因性の野生型ASPA遺伝子を発現する神経前駆細胞であって、
カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、
野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び
前記遺伝的に修正されたiPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、
を含むプロセスによって作製された、神経前駆細胞。
【請求項22】
前記体細胞は、線維芽細胞、血球、泌尿器細胞、脂肪細胞、角化細胞、歯髄細胞、又は他の容易にアクセス可能な体細胞である、請求項21に記載の神経前駆細胞。
【請求項23】
対象者のカナバン病を治療するための方法であって、
前記対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、
前記iPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、
野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、前記神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び
遺伝的に修正された神経前駆細胞を前記対象者の脳に移植するステップ、
を含む、方法。
【請求項24】
前記神経前駆細胞は、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ASPA神経前駆細胞を作製する方法であって、
カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、
前記iPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、及び
野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、前記神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、
を含む、方法。
【請求項26】
前記神経前駆細胞は、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
外因性の野生型ASPA遺伝子を発現する神経前駆細胞であって、
カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、
前記iPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、及び
野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、前記神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、
を含むプロセスによって作製された、神経前駆細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権の主張]
本出願は、2016年6月22日に出願された“カナバン病の治療(Treatment of Canavan Disease)”と表題が付けられた米国仮特許出願第62/353,515号への優先権を主張し、当該米国仮特許出願は、本明細書において完全に述べられているかの如く、その全体について参照により本明細書に取り込まれる。
PRIORITY CLAIM
【0002】
[政府出資の陳述]
本発明は、カリフォルニア再生医療機構(California Institute for Regenerative Medicine)によって与えられた認可番号TR2−01832及びRB4−06277の下で政府の支援を受けてなされた。
【背景技術】
【0003】
カナバン病(Canavan disease)(CD)は、幼児期(early infancy)に現れて急速に進行する症状を伴う破壊的な神経疾患である。起こり得る症状は、精神遅滞、獲得された運動技能の喪失、摂食困難、異常な筋緊張、異常に大きな頭、麻痺、盲目及び聴力損失を含む。カナバン病は、脳内のオリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)によって合成される代謝酵素をコードする、アスパルトアシラーゼ(aspartoacylase)(ASPA)遺伝子の遺伝子変異によって引き起こされる15。ASPAは、脳内に非常に豊富に存在するアミノ酸誘導体である、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)を分解する。NAAの産生と分解のサイクルは、ミエリンによって覆われる神経線維から成る脳の白質を維持するために、決定的に重要であると思われる。カナバン病の兆候は、ASPA活性の欠如、脳内のNAAの蓄積、並びに脳の海綿状変性及び脱髄(demyelination)を含む。
【0004】
近年、カナバン病に対する潜在的な治療法の開発に向けられたより多くの研究が開始されている。ヒトASPA発現非ウイルスベクター又はAAVベクターを使用したカナバン病に対する遺伝子療法は、カナバン病動物モデル、及びカナバン病患者に対する臨床試験の両方において、報告されている16−22。これらの研究は、ASPAベクターが動物とヒトの対象者の両方において十分に耐容性を示し(well-tolerated)、様々な生化学的及び臨床的な改善が観察されていることを実証している16−22。修飾されたASPAタンパク質(Modified ASPA protein)は、カナバン病マウスモデルにおいて酵素補充療法としての潜在的な使用について試験されている23。治療を受けたマウスの脳において、高められたASPA活性及び低下させられたNAAレベルが観察された23。それが海綿状の変性、脱髄及び運動機能障害を改善することができるかどうかは、なお試験されるべきである。リチウムは、カナバン病動物モデル及び患者において評価されており、NAAレベルを低下させ、CD様ラット及びCD患者において正常なミエリン発達に向かう傾向を誘発することが示されている。しかしながら、それはカナバン患者の運動機能を改善することはできない。食事性のグリセリルトリアセテート及びトリヘプタノインは、カナバン病動物モデルにおいて試験されており、治療されたマウスにおいて髄鞘形成(myelination)及び運動能力の改善が観察されている。しかしながら、NAAレベルの低下は観察されず、病理学的特質(pathological features)の部分的な寛解(partial amelioration)のみが観察された。現在まで、これらの手法のいずれも、疾患表現型の完全な救済を結果としてもたらしていない。この病気に対する治癒法(cure)も標準治療もまだ存在しない。
【0005】
それゆえに、当分野において、カナバン病に対して効果的な治療法を提供することの必要性が存在する。本明細書において開示される発明は、この必要性を満たす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの態様において、本開示は、対象者のカナバン病を治療する方法に関連する。本方法は、対象者の脳において外因性の野生型ASPA遺伝子を発現させることによって対象者のASPA酵素活性を回復させることを伴う。いくつかの実施形態において、ASPA酵素活性は、対象者の脳に、神経前駆細胞(NPCs)、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、野生型ASPA発現神経前駆細胞を提供することによって回復させられる。
【0007】
一つの関連する態様において、本開示は、外因性の野生型ASPA遺伝子を発現する、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、神経前駆細胞(neural precursor cells)であって、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ(reprogramming or converting)、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCs(genetically corrected iPSCs)を得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ(introducing)、並びに、遺伝的に修正されたiPSCsを、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、神経前駆細胞に分化させるステップ(differentiating)、を含むプロセスによって作製された、神経前駆細胞、に関連する。代替的に、外因性の野生型ASPAを発現する、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、神経前駆細胞は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、リプログラムされたiPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、及び、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、を含むプロセスによって作製される。
【0008】
一つの他の態様において、本開示は、対象者のカナバン病を治療する方法に関連する。本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、遺伝的に修正されたiPSCsを、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む神経前駆細胞に分化させるステップ、並びに、神経前駆細胞を対象者の脳に移植するステップ(transplanting)、を伴う。代替的に、本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、iPSCsを、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む神経前駆細胞に分化させるステップ、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び、遺伝的に修正された神経前駆細胞を対象者の脳に移植するステップ、を伴う。
【0009】
いくつかの実施形態において、体細胞は、線維芽細胞、血球、泌尿器細胞(urinary cells)、脂肪細胞、角化細胞(keratinocytes)、歯髄細胞(dental pulp cells)、及び他の容易にアクセス可能な体細胞を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞は、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28、p53 shRNA、並びに(c‐MYC及びL‐MYCのような)MYCを含む一つ又はそれ以上のリプログラミング因子の存在下でiPSCsに転換される。いくつかの実施形態において、リプログラムするステップは、エピソーマルなリプログラミング(episomal reprogramming)又はウイルス形質導入(viral transduction)を介して実行される。
【0010】
一つの他の態様において、本開示は、カナバン病を治療するための、ASPA酵素の供給源、並びに、WT ASPA発現(WT ASPA-expressing)オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)及びオリゴデンドロサイトを生じさせるための神経前駆体(neural precursors)として働く、野生型ASPA発現神経前駆細胞を作製する方法、に関連する。本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び、遺伝的に修正されたiPSCsを、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む神経前駆細胞に分化させるステップ、を含む。代替的に、本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、iPSCsを、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む神経前駆細胞に分化させるステップ、並びに、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された前駆細胞を得るために、前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本出願は、カラーで制作された少なくとも一つの図面を包含する。カラーの(複数の)図面を含む本出願の写しは、請求及び必要な手数料の支払いにより、官庁によって提供されるであろう。
【0012】
図1図1は、WT及びCD患者の線維芽細胞に由来するiPSCsの特徴付け(characterization)を説明する。CD iPSCsにおけるヒトESCマーカーの発現。三人の患者、CD患者1、CD患者2及びCD患者3に由来するCD iPSCsは、ヒト多能性因子(human pluripotency factors)OCT4及びNANOG、並びにヒトESC細胞表面マーカーSSEA4、TRA‐1‐60及びTRA‐1‐81を発現した。IMR90細胞に由来するWT iPSCsは、WT対照として含められた。スケールバー:100μm。
【0013】
図2図2A‐2Dは、CD患者iPSCs及びASPA iPSCsがヒトESCマーカーを発現することを説明する。図2Aは、WT、CD及びASPA iPSCsにおける内因性(endo)OCT4、SOX2及びNANOG発現のRT‐PCR解析を示す。CD患者線維芽細胞(fib)は、陰性対照(negative control)として含められた。アクチンは、ローディング対照(loading control)として含められた。図2B及び2Cは、WT、CD及びASPA iPSCsにおける外因性(exo)リプログラミング因子のRT‐PCR解析を示す。ヒトESCsは陰性対照として含められ、個々の因子を発現するプラスミドDNAsは陽性対照(positive control)として含められた。図2Dは、対照及びCD iPSCの核型を示す。
【0014】
図3A-B】図3A‐3Fは、CD iPSCsにおける変異の特徴付け及びiPSCsの多能性の検証を説明する。図3Aは、CD iPSCsが患者固有のASPA変異を包含していたことを示す。図3Bは、生体外(in vitro)でのiPSC多能性の検証を示す。CD1、CD2及びCD3 iPSCsは、EB形成アッセイにおいて、3つの胚葉全て、SOX17陽性内胚葉、SMA陽性中胚葉及びTUJ1陽性外胚葉に分化することができた。IMR90細胞に由来するWT iPS細胞は、対照として含められた。
図3C-F】図3C及び図3Dは、生体内(in vivo)でのiPSC多能性の検証を示す。免疫不全NSGマウスへの注射の後に、CD1 iPSCs(3C)、並びにCD2 iPSCs及びCD3 iPSCs(3D)は、3つの胚葉の各々に特徴的な組織を包含する奇形腫(teratomas)を形成することができた。スケールバー:図3B‐3Dについては100μm。図3E及び3Fは、親の(parental)CD1線維芽細胞(fib)及びCD1 iPSCsにおけるOCT4及びNANOGプロモーター領域のバイサルファイト配列解析(bisulfite sequencing analysis)を示す。白丸及び黒丸は、それぞれ、非メチル化及びメチル化CpGsを指し示す。
【0015】
図4A-I】図4A‐4Mは、ASPA iPSCsがWT ASPA遺伝子を包含し、多能性因子を発現することを説明する。図4A、4D及び4Gは、ゲノムDNA配列決定が、ASPA1、ASPA2及びASPA3 iPSCsにおけるWT ASPA配列の存在を確認することを示す。図4B、4E及び4Hは、ASPA1、ASPA2及びASPA3 iPSCsにおけるヒト多能性因子OCT4及びNANOGの発現を示す。核Dapi染色(Nuclei Dapi staining)は、青色で示されている。スケールバー:100μm。図4C、4F及び4Iは、ASPA iPSCsにおけるヒトESC細胞表面マーカーSSEA4、TRA‐1‐60及びTRA‐1‐8の発現を示す。核Dapi染色は、青色で示されている。
図4J-M】図4Jは、ゲノムDNA配列決定が、ASPA1、ASPA2 iPSCsにおけるWT ASPA配列の存在を確認することを示す。図4K及び4Lは、RT‐PCR(4K)及びウエスタンブロット解析(4L)によって明らかにされた、ASPA1 iPSCsにおける形質導入されたASPAの発現を示す。GAPDH及びチューブリンは、ローディング対照として含められた。図4Mは、生体内でのASPA1 iPSCs、ASPA2 iPSCs及びASPA3 iPSCsの発達的潜在能力(developmental potential)の検証を示す。免疫不全NSGマウスへの注射の後に、ASPA1 iPSCs、ASPA2 iPSCs及びASPA3 iPSCsは、3つの胚葉の各々に特徴的な組織を包含する奇形腫を形成することができた。スケールバー:100μm。
【0016】
図5図5A‐5Gは、ASPA1 NPCsの特徴付けを説明する。図5Aは、WT、CD1及びASPA1 iPSCsに由来するNPCにおける、NPCマーカーPAX6、SOX2、NCAD、SOX1及びNESTINについての免疫染色を示す。核Dapi染色は、青色で示されている。スケールバー:50μm。図5Bは、RT‐PCRによって明らかにされた、ASPA1 NPCにおけるASPA及びNPCマーカーの発現を示す。WT及びCD1 NPCsは、対照として含められた。GAPDHは、ローディング対照として含められた。図5Cは、RT‐PCRによって明らかにされた、WT、CD1及びASPA1 NPCsにおける多能性因子の発現の欠如を示す。WT iPSCs及びCD1線維芽細胞は、それぞれ陽性対照及び陰性対照として含められた。図5Dは、ASPA NPCsが、CD1 NPCsに比べて、強い(potent)ASPA酵素活性を発揮したことを示す。エラーバーは、平均値の標準偏差(s.d.)(n=5反復)である。*p<0.05、スチューデントのt検定による。図5E及び5Fは、OLIG2及びNKX2.2を使用した、CD1 NPCs若しくはASPA1 NPCsに由来するpre‐OPCsの免疫染色(5E)、又は、O4を使用した、CD1 NPCs若しくはASPA1 NPCsに由来するOPCsの生体染色(live staining)(5F)を示す。スケールバー:5Eについては100μm、5Fについては50μm。図5Gは、CD1 NPCs及びASPA1 NPCsのFACS解析を示す。
【0017】
図6図6A及び6Bは、移植されたCDマウス脳においてASPA1 NPCsが生き残り(survived)、OLIG2を発現したことを説明する。図6Aは、ASPA1 NPCsが新生仔CDマウスに移植されたことを示す。移植の1ヶ月後に、マウスの脳は採取され、ヒト核抗原及びOLIG2に対する抗体を用いて免疫染色された。スケールバー:100μm。図6Bは、移植の1ヶ月後のロータロッド試験において明らかにされた、ASPA‐CD1 NPCsの移植がCDマウスの運動機能障害を救済したことを示す。エラーバーは、平均値の標準誤差(s.e.)である(n=6マウス)。***p<0.001、スチューデントのt検定による。
【0018】
図7図7A‐7Cは、移植されたCDマウス脳においてASPA1 NPCsがOLIG2+細胞を生じさせたことを説明する。図7Aは、ASPA1 NPCsが新生仔CDマウスに移植されたことを示す。移植の3ヶ月後に、マウスの脳は採取され、ヒト核抗原(緑色)及びOLIG2(赤色)に対する抗体を用いて免疫染色された。図7Bは、移植の3ヶ月後に、マウスの脳が採取され、ヒト核抗原(緑色)及びMBP(赤色)に対する抗体を用いて免疫染色されたことを示す。矢印によって指し示されたヒト核抗原(緑色)及びMBP(赤色)‐二重陽性細胞の拡大画像は、下方のパネルに示された。図7Cは、生着ヒト細胞(engrafted human cells)が、GFAP+(赤)グリア細胞に分化したことを示す。スケールバー:パネルAについては100μm、パネルBの上方のパネルについては63μm、下方のパネルについては10μm、パネルCについては63μm。
【0019】
図8図8A‐8Eは、CDマウスにおいてASPA1 NPCsがNAAレベル及び空胞化(vacuolation)を減少させたことを説明する。図8Aは、ASPA1 NPC移植の3ヶ月後のCDマウスにおける高められたASPA酵素活性を示す。エラーバーは、平均値の標準偏差(n=5マウス)である。図8B及び8Cは、NMRを使用して測定された、ASPA1 NPCを移植されたCDマウス脳における低下させられたNAAレベルを示す。エラーバーは、平均値の標準誤差である(n=5マウス)。図8D及び8Eは、ASPA1 NPCを移植されたCDマウス脳における、減少させられた空胞化を示す。対照CDマウス及びASPA1 NPCを移植されたCDマウスにおける視床、小脳及び脳幹のヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色はパネル8Dに示され、百分率空胞化の定量化(quantification of percent vacuolation)はパネル8Eに示される。スケールバー:100μm。エラーバーは、平均値の標準誤差(s.e.)である(n=6マウス)。**p<0.01、***p<0.001、全ての定量化についてスチューデントのt検定による。
【0020】
図9図9A‐9Eは、CDマウスにおいてASPA1 NPCsが髄鞘形成及び運動機能を改善したことを示す。図9A及び9Bは、ASPA1 NPCを移植されたCDマウスにおける救済された髄鞘形成を示す。3月齢の野生型(WT)マウスの脳において無傷(Intact)で厚い(thick)髄鞘(myelin sheaths)が検出されたことに対し、同腹仔のCDマウスの脳においては分裂した、より薄い髄鞘が見られた。3ヶ月間にわたってASPA1 NPCsを移植されたCDマウスにおける髄鞘は、より無傷でより厚いように見えた。脳幹領域の画像が示されている。スケールバー:1μm。矢印は髄鞘を指し示す。図9Cは、ASPA1 NPCsの移植がCDマウスにおける体重減少を救済したことを示す。図9D及び9Eは、ロータロッド(9D)又はワイヤ懸垂(hanging wire)(9E)試験において明らかにされた、ASPA1 NPCsの移植がCDマウスの運動機能障害を救済したことを示す。エラーバーは、平均値の標準誤差(s.e.)である(n=6マウス)。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、図9B‐9Eについてスチューデントのt検定による。
【0021】
図10図10A‐10Dは、ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsが生体外で強いASPA酵素活性を呈したことを説明する。図10Aは、免疫染色によって、ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsにおけるNPCマーカーNESTIN及びSOX1の発現を示す。核Dapi染色は、合成画像において青色で示されている。スケールバー:100μm。図10Bは、RT‐PCRによって明らかにされた、ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsにおける多能性因子OCT4及びNANOGの発現の欠如を示す。ESCs及びCD2、CD3線維芽細胞(Fib)は、それぞれ陽性対照及び陰性対照として含められた。図10Cは、ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsのFACS解析を示す。図10Dは、ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsが、CD2 NPCs及びCD3 NPCsに比べて、有意に上昇したASPA酵素活性を発揮したことを示す。エラーバーは、平均値の標準誤差(s.e.)である(n=6反復)。***p<0.001、スチューデントのt検定による。
【0022】
図11図11A‐11Cは、Aspanur7/nur7/Rag2−/−(Aspanur7/Rag2−/−)マウスが、親のAspanur7/nur7(Aspanur7)マウスと同様の病理学的特質を呈したことを実証する。図11Aは、Aspanur7/Rag2−/−マウス及び親のAspanur7マウスの脳における同様のASPA酵素活性を示す。エラーバーは、平均値の標準偏差(n=5マウス)である。***p<0.001、スチューデントのt検定による。図11B及び11Cは、Aspanur7/Rag2−/−マウス及び親のAspanur7マウスの脳における同様の空胞化を示す。対照CDマウス及びASPA‐CD1 NPCを移植されたCDマウスにおける視床、小脳及び脳幹のヘマトキシリン・エオシン染色は11Bに示され、定量化は11Cに示される。スケールバー:100μm。エラーバーは、平均値の標準誤差である(n=6マウス)。
【0023】
図12図12A‐12Bは、CDマウス脳においてASPA1 NPCsがOLIG2+オリゴデンドログリア系統細胞(oligodendroglial lineage cells)及びMBP+オリゴデンドロサイトを生じさせたことを実証する。図12Aは、生着の3ヶ月後の、ASPA1 NPCを移植されたCD脳における全ての生着ヒト細胞からのヒト核抗原(hNu)+及びOLIG2+細胞の百分率の定量化を示す。ASPA1 NPCsは、新生仔CDマウスに移植された。移植の3ヶ月後に、マウスの脳は採取され、ヒト核抗原(緑色)及びMBP(赤色)に対する抗体を用いて免疫染色された。全てのhNu+細胞のうちのhNu+及びOLIG2+細胞の百分率が、示されている。エラーバーは、平均値の標準誤差である(n=6マウス)。図12Bは、ASPA1 NPCを移植されたCDマウス脳におけるヒト核抗原及びMBPに対する共染色を示す、直交図(orthogonal view)である。スケールバー:10μm。
【0024】
図13図13は、移植されたCDマウス脳においてASPA1 NPCsがGFAP+細胞に分化し得ることを示す。ASPA1 NPCsは、新生仔CDマウスに移植された。移植の3ヶ月後に、マウスの脳は採取され、ヒト核抗原(緑色)及びGFAP(赤色)に対する抗体を用いて免疫染色された。スケールバー:63μm。
【0025】
図14図14A及び14Bは、移植されたCDマウス脳においてASPA2及びASPA3 NPCsが生き残り、OLIG2及びGFAPを発現したことを示す。ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsは、新生仔CDマウスに移植された。図14Aは、移植の3ヶ月後に、マウスの脳が採取され、ヒト核抗原(緑色)及びOLIG2(赤色)に対する抗体を用いて免疫染色されたことを示す。スケールバー:25μm。 図14Bは、移植の3ヶ月後に、マウスの脳が採取され、ヒト核抗原(緑色)及びGFAP(赤色)に対する抗体を用いて免疫染色されたことを示す。スケールバー:50μm。
【0026】
図15図15A‐15Gは、CDマウスにおいてASPA2及びASPA3 NPCsが空胞化を減少させ、運動機能を改善したことを示す。図15Aは、ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCsを移植されたCDマウスが、ヒト核抗原(緑色)及びMBP(赤色)について免疫染色されたことを示す。矢印によって指し示されたヒト核抗原(緑色)及びMBP(赤色)‐二重陽性細胞の拡大画像は、下方のパネルに示された。スケールバー:上方のパネルについては50μm、下方のパネルについては10μm。図15Bは、ASPA2 NPC又はASPA3 NPCを移植されたCDマウス脳におけるヒト核抗原及びMBPに対する共染色を示す、直交図である。スケールバー:10μm。図15Cは、ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCsを用いた移植の3ヶ月後のCDマウスの視床、小脳及び脳幹における高められたASPA活性を実証する。エラーバーは、平均値の標準誤差である(n=6マウス)。*p<0.05、スチューデントのt検定による。図15D及び15Eは、ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCを移植されたCDマウス脳における減少させられた空胞化を示す。百分率空胞化の定量化は、15Dに示される。エラーバーは、平均値の標準誤差である(n=6マウス)。**p<0.01、***p<0.001、スチューデントのt検定による。対照CDマウス又はASPA2 NPCs若しくはASPA3 NPCsを移植されたCDマウスにおける視床、小脳及び脳幹のヘマトキシリン・エオシン染色は、15Eに示される。スケールバー:100μm。図15F及び15Gは、ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCsが、ロータロッド(15F)又はワイヤ懸垂(15G)試験において、移植されたCDマウスの運動機能障害を救済したことを示す。エラーバーは、平均値の標準誤差(s.e.)である(n=6マウス)。**p<0.01、***p<0.001、スチューデントのt検定による。
【0027】
図16図16A図16Bは、ASPA1 NPCを移植されたCDマウスの脳内に腫瘍形成がないことを実証する。腫瘍は、ASPA1 NPCsを用いた移植の10ヶ月後に、ヘマトキシリン・エオシン染色を通じて解析された。ASPA1 NPCを移植されたCDマウス脳内に、典型的な腫瘍組織は発見されなかった。スケールバー:100μm。
【0028】
図17図17A‐17Bは、移植の3ヶ月後での、ヒト生着細胞(human engrafted cells)の低いKi67指数を示す。図17Aは、ASPA‐CD1 NPCsがCDマウス脳に移植されたことを示す。移植の3ヶ月後に、生着された脳は、ヒト核抗原(緑色)及びKi67(赤色)について免疫染色された。スケールバー:50μm。図17Bは、ASPA1 NPCを移植されたCDマウス脳における、全てのhNu+細胞のうちのヒト核抗原(hNu)+及びKi67+細胞の百分率の定量化を示す。エラーバーは、平均値の標準誤差である(n=6マウス)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下の本発明の記述は、単に本発明の様々な実施形態を例示するように意図されている。そのため、論じられる具体的な改変は、本発明の範囲に対する限定として解釈されるべきではない。本発明の範囲から逸脱することなく様々な均等物、変更及び改変がなされ得ることが、当業者にとって明らかであろう。また、そのような均等な実施形態が本明細書に含まれることが理解される。
【0030】
幹細胞技術は、神経障害の治療のために大いに有望である。しかしながら、幹細胞の増殖可能な供給源(expandable sources)の利用可能性は、幹細胞技術をベッドサイドに移行させる上で決定的に重要な問題である。成人のヒト線維芽細胞をリプログラミングすることによって引き出されたヒトiPSCsは、個々の患者からの特定の体細胞型及び組織の生成(generation)のための、継続的且つ自己由来のドナー供給源を提供し得る1−4。患者固有の(Patient-specific)iPSCsは、そうでなければ利用可能でないであろう、疾患細胞型の無限の貯蔵庫を提供し得る。さらに、患者固有のiPSCsは特定の個人に合わせられており、従って免疫拒絶反応の可能性を減少させ得る。そのうえ、最近の研究は、野生型(WT)遺伝子のウイルス形質導入又は部位特異的な遺伝子編集によって、マウス及びヒトの両方から遺伝的に修正されたiPSCsを生じさせることの実現可能性を実証している。これらのiPSCsは、細胞療法(cell therapy)のため及び疾患メカニズムを研究するために、興奮させるような展望を提供し得る。
【0031】
遺伝子療法の細胞療法との組み合わせは、様々な遺伝性障害に対してとてつもない希望を提供する。患者固有のiPSCsの遺伝子療法との治療的組み合わせは、生体外で遺伝子欠損を修正する機会を提供し、次いでこれらの遺伝的に修復された(genetically-repaired)iPSCsは、遺伝子修正が正確であることを確かにするために適切に特徴付けられてもよく、それにより、ランダムな遺伝子挿入のような、直接的な遺伝子療法と関連する安全性への懸念を低減する5,6
【0032】
iPSC技術の画期的な開発以来、神経変性疾患の患者からiPSCsを生じさせることにかなりの関心が喚起されている。これらの患者固有のiPSCsは、疾患モデリング、創薬及び細胞置換(補充)療法(cell replacement therapy)のために多くの機会を提供する。他方では、多能性幹細胞を異なる複数の神経系統に分化させる方法を開発及び最適化するために、広範囲にわたる努力がなされてきた。これらの方法は、細胞置換療法のために遺伝的に修正されたiPSCsからの神経細胞型の生成を可能にする。
【0033】
脱髄疾患は、髄鞘再生(再ミエリン化)(remyelination)が単一細胞型を用いて達成されることができ、移植されたミエリン形成性細胞(myelinogenic cells)は複雑な神経回路網に統合する必要がないため、中枢神経系障害の細胞ベースの治療に関する特に有望な標的として際立っている。実際に、げっ歯類及びヒトの多能性幹細胞派生株(derivatives)のミエリン形成能(myelinogenic potential)は、様々な動物モデルにおいて詳細に記録されている8‐14。動物モデルにおいて観察され得る広範な髄鞘形成は、細胞治療が髄鞘形成不全及び脱髄の疾患における潜在的な治療的手法を提供するという考えを支持する。
【0034】
本明細書において開示されるように、iPSCベースの細胞療法手法は、野生型ASPA遺伝子を発現する、遺伝的に修正された患者iPSCs(ASPA iPSCs)を生じさせるために、遺伝子療法手法と組み合わされる。続いて、ASPA iPSCsは、NPCs、グリア前駆細胞、オリゴデンドログリア前駆細胞を含む、神経前駆細胞に分化させられ、それらの治療的な潜在能力は免疫不全カナバン病マウスモデルにおいて評価される。
【0035】
したがって、本明細書において開示されているのは、対象者のカナバン病を治療する方法である。本方法は、WT ASPA遺伝子を発現する遺伝的に修正された患者iPSCsを開発するために、患者固有のiPSCsを遺伝子療法と組み合わせる。ASPA iPSCsは、NPCsに分化した。代替的に、遺伝子修正は、神経前駆細胞レベルで起こってもよく、すなわち、遺伝的に修正された神経前駆細胞を生じさせるために、患者に由来するリプログラムされたiPSCsが神経前駆細胞に分化させられ、次いで野生型ASPA遺伝子が神経前駆細胞に導入される。CD疾患表現型を緩和するこれらの神経前駆体の能力は、実施例において実証されるように、CDマウスモデルにおいて試験された。また、CDに対する治療上の候補(therapeutic candidate)として働く、遺伝的に修正された患者iPSCsに由来する神経前駆細胞についての前臨床の効能(preclinical efficacy)は、実施例において実証される。
【0036】
CDはASPA遺伝子の遺伝子変異によって引き起こされるので、CD患者のiPSCs又は神経前駆細胞は、レンチウイルス形質導入を通じてWT ASPA遺伝子を導入することによって遺伝的に修正される。結果として生じるASPA iPSCsは、神経前駆細胞に分化させられる。検出可能なASPA活性をほとんど呈しないCD iPSC由来のCD NPCsとは対照的に、ASPA神経前駆細胞は強いASPA活性を呈する。ASPA神経前駆細胞は、ASPA活性の喪失、高められたNAAレベル及び様々な脳領域における広範囲にわたる海綿変性を含むCDの主要な病理学的表現型を呈する、CDマウスモデルに移植される。移植されたASPA神経前駆細胞は、移植後に生き残り、オリゴデンドログリア系統細胞に分化することができる。そのうえ、移植された細胞は、強いASPA酵素活性を呈し、移植されたCDマウスの脳内のNAAレベル及び海綿変性を減少させることができる。ASPA‐CD神経前駆細胞の移植はまた、CDマウスの体重減少及び行動障害を救済し得る。重要なことに、移植されたマウスにおいて腫瘍発生又は他の有害作用は観察されない。これらの結果は、ASPA‐CD神経前駆細胞がCDに対する潜在的な細胞置換治療上の候補として働き得ることを示す。
【0037】
CDに対する治癒法は存在せず、CDに対する治療は対症療法のみである。細胞療法の適用は、それが広い治療的影響を有し得るので、大きな勢いを得ている。生着細胞は、欠けている酵素の持続的な供給源として働くだけでなく、宿主において喪失された細胞の置換を提供し得る。本明細書において開示されるように、神経前駆細胞は、CDにおいて失われたオリゴデンドログリア系統細胞に分化する能力を有するので、iPSC由来の神経前駆細胞はCDに対する細胞療法候補となり得る。具体的には、遺伝的に修正された、WT ASPA発現CD iPSCsに由来する神経前駆細胞が使用されてもよい。なぜなら、ASPA‐CD神経前駆細胞は失われたオリゴデンドログリア系統細胞に置き換わるだけでなく、欠けているASPA酵素を再構成することができるからである。細胞療法をヒトに移行させるための主な妨げは、患者への移植のために十分な細胞を入手することである。iPSCsは、それらの容易なアクセス可能性及び広範囲にわたる増殖可能性(extensive expandability)のために、そうでなければ細胞置換療法のために得ることが可能でない、細胞の無限の供給源を提供し得る。そのうえ、患者固有のiPSCは、同種異系の(allogeneic)細胞移植と関連する免疫原性を回避し得る、自己由来の細胞の供給源を提供することができ、従って、細胞置換療法を使用するヒト疾患の治療のための選択肢を提供する。
【0038】
iPSCsの分化させられた産物は、奇形腫を形成することが示されていない。潜在的な奇形腫の発達と関連する安全性への懸念に対処するために、最終的なiPSC由来の製品が未分化細胞を含まないことを確かめることが重要である。本明細書において開示される方法は、非常に高い効率でヒトiPSCsを神経前駆細胞に分化させる。実施例において実証されるように、ASPA1 NPCsのFACS解析は、98%を超える細胞が、ヒトNPCsの細胞表面マーカーであるCD133に対して陽性であることを示した。対照的に、0.054%の細胞のみが、ヒトESC表面マーカーであるSSEA4に対して陽性である。ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsについては、高率のCD133陽性細胞も検出された。そのうえ、多能性幹細胞の混入がないことを確かにするために、ASPA2及びASPA3 NPC移植のために、CD133についての正の選択及びSSEA4についての負の選択の両方を通じて選別された細胞が使用された。
【0039】
遺伝子療法は、CDに対する有望な臨床的な選択肢である。前臨床及び臨床の遺伝子療法研究の両方が、野生型ヒトASPA遺伝子をCD動物モデル又はCD患者に送達することによって行われており、進歩を助長することがなされてきた16‐22。しかしながら、おそらく瀕死の(dying)オリゴデンドロサイトは遺伝子療法によって置き換えられ得ないため、病理学的特質の部分的な寛解のみが達成されている。オリゴデンドロサイトの前駆体へのWT ASPAの標的化送達は、おそらくWT ASPAがオリゴデンドログリア系統細胞において再構成されたため、改善された成果につながり、CDに対する治療的デザインにおいてオリゴデンドロサイトを標的とすることの重要性を支持する。それにもかかわらず、遺伝子療法だけでは、失われた宿主細胞を置き換える能力を持たず、疾患の進行を妨げ、快復を促進することを助け得る潜在的な栄養的支持(trophic supports)を提供し得ない。遺伝子療法の他に、最近の研究は、NAAシンターゼNat8L(N‐アセチルトランスフェラーゼ‐8様)遺伝子をノックアウトすることは、それらのNAAを生成する能力を消失させることによって、ASPAnur7/nur7マウスがCDのある一定の病理学的態様を発達させることを妨げることを実証した。
【0040】
CDは脳のASPA酵素及びオリゴデンドロサイトの両方に欠乏(deficiency)を有するので、CDの治療のための理想的な戦略は、組み合わされた細胞療法及び遺伝子治療を使用して、脳のASPA活性を回復させ、瀕死のオリゴデンドロサイトを置き換えることであろう。回復させられたASPA活性は、今度はNAAレベルを低下させ得る。WTヒトASPA遺伝子を発現し、OPCs及びオリゴデンドロサイトに分化する能力を所持するNPCsの移植は、欠けているASPA酵素及び失われたオリゴデンドログリア系統細胞の両方を再構成することによって、CDに対する魅力的な治療的手法を提供する。実際に、WT ASPA遺伝子を用いて形質導入されたマウス神経前駆細胞は、生き残り、オリゴデンドロサイトに分化することができ、CDマウスの脳の中への移植の後に、検出可能なASPA活性を呈した41。このことは、神経前駆細胞がCDに対する細胞療法の潜在的な供給源として使用され得ることを示唆している。しかしながら、この以前の研究はマウス細胞を使用しており、これは臨床的に適用可能ではない41。そのうえ、おそらくレトロウイルスベクターからの短期間の生体内の遺伝子発現のために、上昇したASPA酵素活性は移植後3週間で検出されたのみであり、ASPA活性は移植後5週間で検出不能になった41。さらに、CDの病理学的表現型に対する移植されたマウスNPCsの効果は、以前の研究では研究されなかった41。実施形態において詳述されるように、CD患者iPSCsは、WT ASPA遺伝子を発現するレンチウイルスを用いてCD iPSCsに形質導入することによって、遺伝的に修正されたヒトASPA iPSCsを生じさせるために、遺伝子療法手法と組み合わされる。これらのiPSCsは、続いてASPA神経前駆細胞に分化させられる。代替的に、CD患者iPSCsが神経前駆細胞に分化させられ、次いでWT ASPA遺伝子が神経前駆細胞に導入される。結果として生じるASPA神経前駆細胞は、ASPA酵素の供給源として、そしてWT ASPA発現オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)及びオリゴデンドロサイトを生じさせるための神経前駆細胞として働いた。移植の3ヶ月後でさえ、移植されたCDマウス脳における強健な(robust)ASPA酵素活性が検出された。より重要なことには、実質的に高められたASPA活性、低下させられたNAAレベル及び空胞形成、増加させられた髄鞘形成、増加した体重並びに改善された運動機能を含む、CDマウスにおける主な病理学的表現型及び行動障害の実質的な救済が検出された。したがって、これらの患者固有の且つ遺伝的に修正されたASPA神経前駆細胞は、CD患者にとって一つの理想的な細胞置換療法として働く。
【0041】
カナバン病に対する既存の療法は、ある程度まで機能回復の改善をもたらした;しかしながら、本疾患と関連する病理学的特質の完全な修正を結果としてもたらしたものはない。本明細書において開示される方法は、細胞療法を遺伝子療法と組み合わせて酵素補充及び細胞置換を提供することによって、はるかに改善された臨床的な成果を呈する、カナバン病に対する新規療法を提供する。
【0042】
本明細書に開示されるようなCDの免疫学的に欠陥のあるマウスのモデルの使用は、免疫拒絶反応なしにヒト神経前駆細胞の移植を可能にした。WTとASPAのCD変異体との間には、最小限のアミノ酸の違いしかない。WT ASPA遺伝子を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを使用したCDに対する遺伝子療法の臨床試験において、CD患者に長期の有害事象は観察されなかった。したがって、追加的な利点は、ASPA‐CD神経前駆細胞におけるWT ASPA遺伝子の発現から免疫拒絶反応が結果としてもたらされないことである。
【0043】
一つの態様において、本開示は、対象者のカナバン病を治療する方法に関連する。本方法は、対象者の脳において外因性の野生型ASPA遺伝子を発現させることによって対象者のASPA酵素活性を回復させることを伴う。いくつかの実施形態において、ASPA酵素活性は、対象者の脳にASPA神経前駆細胞を移植することによって回復させられる。これらのASPA神経前駆細胞は、ASPA酵素の供給源として、並びにWT ASPA発現オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)及びオリゴデンドロサイトを生じさせるための神経前駆細胞として働く。本開示において詳述されるように、ASPA神経前駆細胞は、患者固有のiPSCsに由来してもよい。例えば、本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び、遺伝的に修正されたiPSCsを、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、神経前駆細胞に分化させるステップ、を更に含む。代替的に、本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、iPSCsを、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む、神経前駆細胞に分化させるステップ、並びに、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、を更に含む。
【0044】
いくつかの実施形態において、体細胞は、線維芽細胞、血球、泌尿器細胞、脂肪細胞、角化細胞、歯髄細胞、及び他の容易にアクセス可能な体細胞を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞は、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28、p53 shRNA、並びに(c‐MYC及びL‐MYCのような)MYCを含む一つ又はそれ以上のリプログラミング因子の存在下でiPSCsに転換される。いくつかの実施形態において、リプログラムするステップは、エピソーマルなリプログラミング又はウイルス形質導入を介して実行される。患者の体細胞をiPSCsに転換するためのリプログラミング技術を選択することは、当業者の知識の範囲内である。いくつかの実施形態において、野生型ASPA遺伝子は、外因性の野生型ASPA遺伝子を含むベクターを用いてリプログラムされたiPSCsに形質導入することによって、リプログラムされたiPSCsに導入される。形質導入後に野生型ASPA遺伝子を発現させるための適切なベクター及びプロモーターを選択することは、当業者の知識の範囲内である。いくつかの実施形態において、野生型ASPA遺伝子は、(CRISPR/Cas9技術のような)遺伝子編集技術によって、導入される。
【0045】
一つの他の態様において、本開示は、対象者のカナバン病を治療する方法に関連する。本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、遺伝的に修正されたiPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、及び、神経前駆細胞を対象者の脳に移植するステップ、を伴う。いくつかの実施形態において、本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、iPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び、遺伝的に修正された神経前駆細胞を対象者の脳に移植するステップ、を伴う。
【0046】
いくつかの実施形態において、体細胞は、線維芽細胞、血球、泌尿器細胞、脂肪細胞、角化細胞、歯髄細胞、及び他の容易にアクセス可能な体細胞を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞は、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28、p53 shRNA、並びに(c‐MYC及びL‐MYCのような)MYCを含む一つ又はそれ以上のリプログラミング因子の存在下でiPSCsに転換される。
【0047】
いくつかの実施形態において、リプログラムするステップは、エピソーマルなリプログラミング又はウイルス形質導入を介して実行される。患者の体細胞をiPSCsに転換するためのリプログラミング技術を選択することは、当業者の知識の範囲内である。患者の体細胞から転換されたiPSCsは、ASPAタンパク質に一つ又はそれ以上の変異を包含する。例えば、カナバン病を患っている一部の患者は、それぞれ914C>A、854A>C及び527G>Aのコドン変化から結果として生じる、A305E、E285A又はG176E変異のように、ASPAタンパク質に一つ又はそれ以上の変異を保持している。一部のカナバン病患者は、ASPAタンパク質の異なる領域に他の変異を保持しているかも知れない。野生型ASPA遺伝子を患者iPSCsに導入すると、これらのiPSCsは、外因性の野生型ASPAタンパク質を発現し、ASPA酵素活性を呈するように遺伝的に修正される。
【0048】
いくつかの実施形態において、野生型ASPA遺伝子は、外因性の野生型ASPA遺伝子を含むベクターを用いてリプログラムされたiPSCsに形質導入することによって、リプログラムされたiPSCsに導入される。形質導入後に野生型ASPA遺伝子を発現させるための適切なベクター及びプロモーターを選択することは、当業者の知識の範囲内である。例えば、外因性の野生型ASPA遺伝子は、野生型ASPA遺伝子を含むレンチウイルスを用いて患者iPSCsに形質導入することによって、導入されてもよい。カナバン病患者iPSCsにおけるASPA遺伝子変異はまた、CRISPR/Cas9技術のような、遺伝子編集技術によって修正されてもよい。遺伝的に修正されたiPSCsは生体外で神経前駆細胞に分化させられ、それもまた野生型ASPA遺伝子を発現する。カナバン病を患っている対象者の脳にこれらのASPA NPCsを移植した後に、ASPA神経前駆細胞が生体内でオリゴデンドログリア系統細胞に分化し、それにより正常なASPA酵素活性を回復させることによって疾患を治療してもよい。いくつかの実施形態において、遺伝的修正は、神経前駆細胞レベルで同様に起こる。CD患者iPSCsが神経前駆細胞に分化させられ、次いで野生型ASPA遺伝子が、当技術分野において既知の技術である、形質導入又は遺伝子編集によって神経前駆細胞に導入される。
【0049】
一つの他の態様において、本開示は、カナバン病を治療するために、ASPA酵素の供給源並びにWT ASPA発現オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)及びオリゴデンドロサイトを生じさせるための神経前駆細胞として働く、ASPA神経前駆細胞を作製する(producing)方法に関連する。ASPA神経前駆細胞は、患者固有のiPSCsに由来する。本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び、遺伝的に修正されたiPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、を含む。代替的に、本方法は、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、iPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、及び、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、を含む。
【0050】
一つの関連する態様において、本開示は、外因性の野生型ASPA遺伝子を発現する神経前駆細胞であって、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正されたiPSCsを得るために、リプログラム又は転換されたiPSCsに野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、及び、遺伝的に修正されたiPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、を含むプロセスによって作製された神経前駆細胞、に関連する。代替的に、プロセスは、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞を、誘導多能性幹細胞(iPSCs)にリプログラム又は転換するステップ、iPSCsを神経前駆細胞に分化させるステップ、及び、野生型ASPAを発現する遺伝的に修正された神経前駆細胞を得るために、神経前駆細胞に野生型ASPA遺伝子を導入するステップ、を含む。本明細書において使用される場合、神経前駆細胞は、NPCs、グリア前駆細胞及びオリゴデンドログリア前駆細胞を含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、体細胞は、線維芽細胞、血球、泌尿器細胞、脂肪細胞、角化細胞、歯髄細胞、及び他の容易にアクセス可能な体細胞を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、カナバン病を患っている対象者から分離された体細胞は、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28、p53 shRNA、並びに(c‐MYC及びL‐MYCのような)MYCを含む一つ又はそれ以上のリプログラミング因子の存在下でiPSCsに転換される。いくつかの実施形態において、リプログラムするステップは、エピソーマルなリプログラミング又はウイルス形質導入を介して実行される。患者の体細胞をiPSCsに転換するためのリプログラミング技術を選択することは、当業者の知識の範囲内である。いくつかの実施形態において、野生型ASPA遺伝子は、外因性の野生型ASPA遺伝子を含むベクターを用いてリプログラムされたiPSCsに形質導入することによって、又は遺伝子編集技術によって、リプログラムされたiPSCsに導入される。形質導入後に野生型ASPA遺伝子を発現させるための適切なベクター及びプロモーターを選択することは、当業者の知識の範囲内である。
【0052】
状態に関して本明細書において使用される場合、用語“治療する(treat)”、“治療すること”及び“治療”は、その状態を予防すること、その状態の発症又は進展の速度を遅くすること、その状態が進展するリスクを低減すること、その状態と関連する症状の進展を予防又は遅延させること、その状態と関連する症状を軽減又は終了させること、その状態の完全又は部分的な回帰を生じさせること、又はいつくかのそれらの組み合わせを指す。いくつかの実施形態において、状態を治療することは、状態が再発することなく治癒することを意味する。
【0053】
用語“対象者”及び“患者”は、本開示において互換的に使用される。いくつかの実施形態において、対象者又は患者はカナバン病を患っている。いくつかの実施形態において、対象者又は患者は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、対象者又は患者はヒトである。
【0054】
以下の実施例は、本開示の様々な実施形態を更に説明する。実施例が本発明の範囲を限定することは決してない。
【実施例1】
【0055】
材料及び方法
[iPSCs生成] エピソーマルなiPSC誘導(episomal iPSC derivation)のために、IMR90線維芽細胞(Coriell、I90‐10)及びCD患者線維芽細胞(Coriell、GM04268)は、記載されているように、Oct4、Sox2、Klf4、L‐Myc、Lin28及びp53 shRNAを発現するエピソーマルベクターを使用してリプログラムされた32。簡単に言えば、5×10個の線維芽細胞は、1.25μgの各エピソーマルベクターを用いて電気穿孔され(electroporated)、この日が0日目と呼ばれた。トランスフェクトされた細胞は、線維芽細胞培地(NEAAを含むMEM、15%非熱失活ウシ胎仔血清)中で培養され、培地は一日おきに交換された。細胞は5日目に解離させられ(dissociated)、6日目にEssential 8(E8)培地(Gibco、A15169−01)に切り替えられた。iPSCクローンは20日目前後にピックされ、E8培地中で増殖させられた(expanded)。ウイルス性のiPSC誘導のために、IMR90線維芽細胞又はCD患者線維芽細胞(Coriell、GM00059、GM00060及びGM04268)は、線維芽細胞培地中、ウェルあたり1×10細胞で6ウェルプレート上に播種された。翌日、iPSCsは、記載されているように、新たに調製されたOct4、Sox2、Klf4及びcMycのウイルスを用いて形質導入され、この日が0日目と呼ばれた。ウイルス形質導入の第2ラウンドは、1日目に実行された。5日目に、細胞は解離させられ、1から5で分けられた(split at 1 to 5)。6日目に、細胞はE8培地に切り替えられ、その後培地は毎日交換された。iPSCクローンは20日目前後にピックされ、E8培地中で増殖させられた。
【0056】
[胚様体(EB)形成] EBsを形成するために、iPSCsは、0.05mMのEDTAを使用して小さなクラスターに解離させられ、T25フラスコ中のE8培地に移された。E8培地中で2日間培養した後に、EB球(EB spheres)は、DMEM/F12、20%ノックアウト血清、1mM L−グルタミンを包含するがbFGFを含まないヒトESC培地に切り替えられた。2週間後に、EBsは、ゼラチンコートされた12ウェルプレート上にプレーティングされ、免疫染色解析の前に更に2週間培養された。
【0057】
[奇形腫形成] iPSCsは、PBSで1から2倍希釈したaccutaseを用いて解離させられ、E8培地とMatrigel(1:1)の氷冷混合液に1×10細胞/mlの密度で再懸濁された。100μlの細胞懸濁液(1×10細胞)は、免疫不全Nod Scid Gamma(NSG)マウスの背側腹部に皮下注射された。注射後8から12週間に、奇形腫は解剖され、ホルマリンで固定された。固定された組織は、パラフィンに包埋され、切片にされてヘモトキシリン及びエオシン(H&E)を用いて染色された。
【0058】
[ASPAウイルス調製及び形質導入] ASPA発現ウイルス(ASPA-expressing virus)を作るために、鋳型としてヒトASPA cDNA(ATCC、MGC‐34517)を使用してヒトASPAコード配列がPCR増幅され、PCR産物は、pSIN‐EF2‐Sox2‐purからSox2を除去する(Addgene、#16577)ことによって生成された、レンチウイルスベクターpSIN‐EF2‐purにクローン化された(cloned)。ASPA発現ウイルスをパッケージするために、リン酸カルシウムトランスフェクション法を使用して、15μgのpSIN‐EF2‐hASPA‐pur、5μgのVSV‐G、5μgのREV及び15μgのMDLがHEK 293T細胞にトランスフェクトされた。トランスフェクションの48から72時間後に、ウイルスを含有する培地は採取され、0.45μmフィルターを通して濾過された。ウイルス形質導入のために、新たに採取されたASPA発現ウイルスがCD iPSCsに加えられた。ウイルス形質導入の2日後に、ピューロマイシン選択が開始され、7日間続けられた。選択されたASPA‐iPSCクローンは、増殖させられ、特徴付けられた。
【0059】
[ASPAゲノムDNAのエクソン配列決定] ゲノムDNAsはCD iPSCsから抽出された。各エクソンを配列決定するために使用されたプライマーは、以下の表1に列挙されている。
【表1】
【0060】
[ヒトiPSCsの神経前駆細胞(NPCs)への分化] NPCsは、確立されたプロトコルに従ってヒトiPSCsから得られた33。神経誘導(neural induction)を開始するために、ヒトiPSCsは、0.5mM EDTAを用いて解離させられ、E8培地中20%の集密度でマトリゲルコートされたプレート上に継代された。24時間後、細胞は、50%Advanced DMEM/F12(Life Technologies、11330‐032)、50%Neurobasal(Life Technologies、21103‐049)、N2(Life Technologies、17502‐048)、B27(Life Technologies、12587‐010)、2mM GlutaMAX(Life Technologies、35050‐061)、4μM CHIR99021(D&C Chemicals、DC9703)、3μM SB431542(R&D、1614)及び2μM Dorsomorphin(Sigma、P5499)を含有する、神経誘導培地1(Neural Induction Medium 1)(NIM‐1)に切り替えられた。細胞はNIM‐1で2日間処理され、次いで、更に5日間、50%Advanced DMEM/F12、50%Neurobasal、1×N2、1×B27、2mM GlutaMAX、4μM CHIR99021、3μM SB431542及びLDN‐193189(Stemgent、04‐0074)を含有する、神経誘導培地2(NIM‐2)に切り替えられた。次いで細胞は、Accutase(Sigma、A6964)を用いて解離させられ、50%DMEM/F12、50%Neurobasal、1×N2、1×B27、2mM GlutaMAX、3μM CHIR99021、2μM SB431542、20ng/ml EGF及び20ng/ml FGFを含有する、神経幹細胞維持培地(Neural Stem cell Maintenance Medium)(NSMM)中で維持された。最初の6継代については、NPCsは、解離させられるときに10μM ROCK阻害剤で処理された。NPCsは、14継代以内に新生仔マウスに移植された。
【0061】
[iPSC由来のNPCsのオリゴデンドロサイトへの分化] 生体外でiPSC由来のNPCsをオリゴデンドロサイトに分化させるために、NPCsは、NSMM培地(上記参照)から、DMEM/F12、1×N2、1×NEAA、2mM GlutaMAX、25μg/mL インシュリン、0.1μM RA及び1μM SAGを含有する神経誘導培地3(NIM‐3)に切り替えられ、毎日培地を交換しながら、NIM‐3培地中で4日間培養された。次に細胞は解離させられ、NIM‐3に再懸濁され、NIM‐3中で8日間培養された。その後、細胞は、次の10日間、2日毎に培地を交換しながら、DMEM/F12、1×N2、1×NEAA、2mM GlutaMAX、25μg/mL インシュリン(Sigma、19278)、5ng/mL HGF(R&D Systems、294‐HG‐025)、10ng/mL PDGF‐AA(R&D Systems、221‐AA‐050)、10ng/mL IGF‐1(R&D Systems、291‐G1‐200)、10ng/mL NT3(Millipore、GF031)、60ng/mL T3(Sigma、T2877)、100ng/mL ビオチン(Sigma、4639)及び1μM cAMP(Sigma、D0260)を含有する、PDGF培地に切り替えられた。次いで細胞は、マトリゲルコートされた6ウェルプレート上に付着させられ、DMEM/F12、1×N2、1×NEAA、2mM GlutaMAX、25μg/mL インシュリン、10mM HEPES(Sigma、H4034)、60ng/mL T3、100ng/mL ビオチン、1μM cAMP及び25μg/mL アスコルビン酸(Sigma、A4403)を含有するグリア培地中で、45日間又はそれ以上培養した。
【0062】
[免疫不全CDマウスの生成及び維持] 全ての動物飼育条件及び外科的処置は、City of Hopeの機関内の動物飼育及び使用委員会によって承認され、それに従って実行された。ASPAnur7/+(ASPAnur7/J、008607)及びRag2−/−マウス(B6(Cg)‐Rag2tm1.1Cgn/J、008449)は、Jackson Laboratoryから購入された。ASPAnur7/+マウスは、Rag2−/−マウスと4世代戻し交配され、ASPAnur7/nur7及びRag2−/−変異のホモ接合性についてスクリーニングされた。
【0063】
[定位的な移植] 新生仔マウス(P2‐P4)は、氷上で4分間麻酔され、次いで定位固定装置上に置かれた。細胞懸濁液は、33ゲージ針付きハミルトンシリンジを使用して新生仔マウス脳に注射された。公開された研究42から修正された以下の座標(coordinates)が、移植のために使用された。視床:(−0.5,1,−2.5)、小脳:(−2.0,0.8,−2.5)、及び脳幹(−2.0,0.8,−3.2)。全ての座標は、ラムダを参照して(A,L,V)である。それぞれ、Aは正中線からの前後を表し、Lは正中線からの横側を表し、Vは脳の表面からの腹側(ventral)を表す。14継代以内のNPCsは、1部位あたり200,000細胞、2μL及びマウスあたり6部位で、視床、並びに小脳白質及び脳幹に両側的に(bilaterally)移植された。
【0064】
[ASPA酵素活性アッセイ] ASPA酵素アッセイは、公開されたプロトコルに基づいて開発された43。40マイクロリットルの細胞溶解物又は脳組織タンパク質上清は、250mM Tris‐HCl,pH8.0、250mM NaCl、2.5mM DTT、0.25%非イオン性界面活性剤、5mM CaCl、5mM NAA(Sigma、00920)を含有する、10μlのアッセイ緩衝液に加えられた。反応混合物は37℃で90分間インキュベートされ、次いでチューブを沸騰水中で3分間インキュベートすることにより反応は停止された。反応ブランクは、タンパク質ホモジネートの代わりに40μlのHOを加えることによって作られた。反応混合物は、沈殿物を除去するために13,000rpmで10分間遠心分離された。上清は、50mM Tris‐HCl,pH8.0、50mM NaCl、2mM α‐ケトグルタル酸、0.15mM β‐NADH、1mg/ml BSA並びに各10単位のリンゴ酸デヒドロゲナーゼ及びグルタミン酸‐オキサロ酢酸トランスアミナーゼを含有する、酵素アッセイ緩衝液に加えられた。反応物は、室温(RT)で20分間インキュベートされた。上清は、透明な96ウェル平底プレートに移され、プレートリーダーを使用して340nmで吸光度が測定された。
【0065】
[NAAレベル測定] 水性の代謝産物(Aqueous metabolites)は、記載されているように、過塩素酸(PCA、Sigma、244253)の方法を使用して、指示されたマウスの視床、脳幹及び小脳から抽出された44。簡単に言えば、組織は、迅速に小片に切り刻み、1.5mlエッペンドルフチューブに集められた。5ml/g(湿重量基準)の6%氷冷PCAが各チューブに加えられ、続いて30秒間ボルテックスし、更に10分間氷上でサンプルをインキュベートした。混合物は、4℃、12,000gで10分間遠心分離された。PCA上清は、新しいチューブに移され、2M KCOを用いて中和され、COを逃がすために蓋を開けて氷上に置かれた。各試料は、ボルテックスされ、過塩素酸カリウム塩を沈殿させるために氷上で30分間インキュベートされた。上清pHは7.4±0.2に調整され、次いで4℃、12,000gで10分間遠心分離された。上清はエッペンドルフチューブに移され、ドライアイス上で凍らされた。次いで試料は、City of HopeのNMRコア施設においてNMR解析を受けた。
【0066】
[電子顕微鏡法(EM)] マウスは、イソフルランを用いて深く麻酔され、37℃で、0.9%食塩水、続いて4%パラホルムアルデヒド(PFA)及び2.5%グルタルアルデヒドを含有する0.1M ミロニヒ緩衝液(Millonig’s buffer)を用いて灌流された。脳組織は解剖され、同じ固定液(fixative)中で一晩、後固定された。Mark Ellisman博士のグループによって開発された重金属染色プロトコル45に従った。標的組織は、Leica VT 1000Sビブラトームを使用して約150μm(〜150μm)のビブラトーム切片に切られた。次いでビブラトーム切片は、2.5%グルタルアルデヒド及び2mM 塩化カルシウムを含有する、0.15M カコジル酸緩衝液,pH7.4中で一晩固定された。翌日、組織切片は、2mM 塩化カルシウムを含有する0.15M カコジル酸緩衝液,pH7.4中で5×3分間洗浄され、次いで1.5%フェロシアン化カリウム、2%水性四酸化オスミウム(aqueous osmium tetroxide)及び2mM 塩化カルシウムを含有する0.15Mカコジル酸緩衝液,pH7.4中で1時間固定された。次いで試料は、1%チオカルボヒドラジド(Acros Organics)中に20分間置かれ、続いて2%四酸化オスミウム中で30分間固定した。次いで試料は、4℃で1%水性酢酸ウラニル水溶液中に一晩置かれた。水を用いて5×3分間洗浄した後に、試料は、ウォルトンのアスパラギン酸鉛(Walton’s lead aspartate)を用いて、60℃のオーブン内で30分間、まとめて(en bloc)染色された。更に5×3分間水中ですすいだ後に、試料は脱水され、Durcupan ACM樹脂(Electron Microscopy Sciences)に包埋された。70nm厚の超薄切片は、ダイヤモンドナイフを備えたLeica Ultracut UCTウルトラミクロトームを使用して切られ、200メッシュの銅EMグリッド上にピックアップされた。透過型電子顕微鏡法は、City of HopeのEMコア施設において、Gatan Ultrascan 2K CCDカメラを備えたFEI Tecnai 12透過型電子顕微鏡によって実施された。
【0067】
[ロータロッド試験] マウスの運動能力は、記載されているように、マウスをロータロッドトレッドミル(Columbus Instruments)によって試験された34。指示された細胞を用いて移植された1ヶ月齢又は3ヶ月齢のAspanur7/nur7Rag2−/−マウス(CDマウス)が、評価された。マウスは、5分間の試行期間中にロッドが加速する速度(5‐65rpm)で回転していた場合のロッド上の潜時について試験された。各マウスは、試験あたり3回、潜時についてモニターされた。
【0068】
[ワイヤ懸垂試験] 肢の強さは、記載されているように、四肢の“ワイヤ懸垂”手法を通じて、神経筋機能の指標として評価された46。10cm×15.5cmのフィールドを形成するようにテープがワイヤケージの蓋に設けられ、フィールド中にマウスが置かれた。マウスがワイヤを強く握った後に、蓋は静かに逆さまに回され、クッションを備えた地面の上、およそ20cmに保持された。マウスが落下するまでの潜時が測定された。野生型マウスは通常、少なくとも60秒間蓋を握ることができ、従って60秒がカットオフ潜時として設定された。神経筋の不能は、蓋からの早過ぎる落下を結果としてもたらすであろう。
【0069】
[RNA調製及びRT‐PCR解析] 全RNAは、TRIazol試薬(Invitrogen、15596018)を使用して、細胞から抽出された。逆転写は、Tetro cDNA合成キット(Bioline、BIO‐65043)を使用して、1μgのRNAを用いて実行された。PCRのために使用されたプライマーは、表2に列挙されている。
表2 プライマーの配列
【表2】
【0070】
[免疫細胞化学] 細胞は、4%PFAを用いて室温で5‐10分間固定された。固定の後に、細胞はPBSを用いて2回洗浄され、0.1%トリトンを含むPBS(PBST)を用いて20分間ブロックされた。固定された細胞は、一次抗体と共に室温で1時間又は4℃で一晩インキュベートされ、PBSを用いて2回洗浄され、次いで二次抗体と共に室温で1時間インキュベートされ、洗浄された。使用された一次抗体は、表3に列挙されている。
表3 一次抗体のリスト
【表3】
【0071】
[免疫組織化学] 免疫組織化学は、パラホルムアルデヒド(PFA)固定組織に対して実行された。動物は深く麻酔され、氷冷0.9%食塩水、続いて4%PFAを用いて経心的に(transcardially)灌流された。灌流された脳が取り出され、4%PFA中で一晩、後固定され、次いで30%スクロースを用いて凍結保護された(cryoprotected)。凍結保護された脳は急速冷凍され、−80℃で保存された。免疫組織化学解析のために、脳切片はPBSTを含むPBS中で20分間透過処理され、PBST中で3×5分間洗浄された。切片は、一次抗体(表3)と共に4℃で一晩インキュベートされた。一次抗体のインキュベーション及び洗浄に続いて、切片は、抗マウスCy3(Jackson ImmunoResearch、715‐165‐150)、抗ウサギAlexa Fluor 488(Invitrogen、A21206)、及び抗マウスDylight 488(JacksonImmunoResearch、715‐487‐003)を含む二次抗体と共に、室温で2時間インキュベートされ、1×PBSを用いて洗浄され、Dapiを用いて対比染色され、4%PVA封入剤を用いて封入された。染色を最適化するために抗原回収(antigen retrieval)又は界面活性剤は要求されなかった。細胞運命及び増殖状態の評価は、抗ヒト核抗原SC101を、OLIG2、MAP2、GFAP又はKi67に対する抗体と共に使用して二重免疫染色することによって実行された。共焦点顕微鏡法(Confocal microscopy)はZeiss LSM 700顕微鏡(Zeiss)によって実行され、結果としてもたらされた画像はZen 2.3 liteソフトウェア(Zeiss)を用いて解析された。脳全体が走査された。全てのマーカーについて染色の全深度を捉えるために、Z‐積み重ね画像化(Z-stack imaging)が実行された。ヒト核抗原+細胞、ヒト核抗原+OLIG2+細胞又はヒト核抗原+Ki67+細胞が計数された。定量化のために、各マウス脳から8切片毎のスライドが選択された。直交図ツールは、二重陽性細胞におけるヒト核抗原及びMBPについての共染色を確認するために使用された。
【0072】
[空胞化解析] 8分の1シリーズの切片(one-in-eight series of sections)は、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)を用いて染色され、視床、小脳及び脳幹を含む脳領域の体積を測定するために使用された。全領域がZeiss共焦点顕微鏡下で走査された。Z‐積み重ね画像が取得された。空胞化した脳領域及び無傷の脳領域の表面積は、全領域の画像を使用して画像Jにおいて追跡された。体積は、表面積の合計にサンプリングされた切片間の距離を掛けることによって計算された。%空胞化(%Vacuolation)=空胞化した脳領域の体積/空胞化した脳領域の体積+無傷の脳領域の体積。
【0073】
[ASPA1 NPCを移植されたマウスにおける腫瘍モニタリング] ASPA1 NPCsは、CDマウスに最大10ヶ月まで移植された。10ヶ月の期間内に、ASPA1 NPCを移植されたCDマウスは毎月モニターされた。移植の10ヶ月後に、ASPA1 NPCを移植されたCDマウスは灌流され、切片にされ、H&E染色又はKi67染色を受けた。
【0074】
[統計解析] 図の説明文に明記されているように、データは、平均値±標準偏差又は平均値±標準誤差として示されている。処置群あたりのマウスの数は、対応する図の説明文において“n”として示されている。除外基準は適用されていない。動物は、無作為に処置群に割り当てられた。本研究は、ブラインドにされていない。各図の説明文において報告されているように、スチューデントのt検定が統計解析のために使用された。p<0.05が、統計学的に有意であるとみなされた。
【実施例2】
【0075】
CD iPSCsの誘導及び特徴付け
一次皮膚線維芽細胞は、3人の臨床的に罹患しているカナバン病患者から得られた(表4)。2人のCanavan病患者(CD1及びCD2)はそれぞれ、ASPA遺伝子のヌクレオチド527(527G>A)及びヌクレオチド914(914C>A)の両方にヘテロ接合性の変異を有し、結果としてコドン176におけるグルタミン酸によるグリシンの置換(G176E)及びコドン305におけるアラニンのグルタミン酸による置換(A305E)をもたらしている。第3のカナバン病患者(CD3)は、ASPA遺伝子のヌクレオチド854にホモ接合性の変異を有し(854A>C)、結果としてコドン285におけるアラニンによるグルタミン酸の置換をもたらしている(E285A)。E285Aは、アシュケナージ系ユダヤ人集団の間で優勢な突然変異(変異の82%以上を占める)であり28,29、一方A305Eは、非ユダヤ人のカナバン病患者において最も一般的な変異(60%)である30。G176Eは、本明細書において開示されるように、カナバン病患者において同定された新しいASPA変異である。正常なヒト線維芽細胞IMR90は、野生型(WT)対照として含められた(表4)。
表4 研究に使用された野生型及びCD細胞
【表4】
【0076】
これらの線維芽細胞は、WT及びCD患者iPSCs(CD iPSCs)を生じさせるために、エピソーマルなリプログラミング31,32又はウイルス形質導入を介して、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28及びMYCを含むリプログラミング因子を使用して、リプログラムされた。正常なヒト線維芽細胞及びCD患者線維芽細胞の両方に由来するiPSC系統は、主要なヒト多能性遺伝子、OCT4及びNANOG、並びにヒト胚性幹細胞(ESC)特異的表面マーカー、SSEA4、TRA‐1‐60及びTRA‐1‐81を発現した(図1)。RT‐PCR解析によって明らかにされるように、内因性OCT4、SOX2及びNANOG遺伝子発現の活性化が、WT及びCD iPSCsの両方において観察された(図2A)。対照的に、外因性リプログラミング因子、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28及びMYCの発現は、これらのiPSCsにおいて検出可能でなかった(図2B及び2C)。細胞遺伝学的解析は、試験された全てのiPSCクローンにおいて正常な核型を確認した(図2D)。
【0077】
配列解析は、CD患者1(CD1)及びCD患者2(CD2)iPSCsがASPA遺伝子のヌクレオチド527(527G>A)及びヌクレオチド914(914C>A)に2つのヘテロ接合性の変異を包含し、一方ではCD患者3(CD3)iPSCsがASPA遺伝子のヌクレオチド854にホモ接合性の変異を抱える(854A>C)ことを確認した(図3A)。胚様体(EB)形成アッセイは、同定されたCD iPSCクローンの多能性の潜在能力を実証するために実行された。WT及びCD iPSCsの両方が、特徴的なSOX17陽性内胚葉細胞、平滑筋アクチン(SMA)陽性中胚葉細胞、及びβIIIチューブリン(TUJ1)陽性外胚葉細胞に分化することができた(図3B)。CD iPSCsの生体内での発達的潜在能力は、奇形腫形成アッセイによって実証された。CD iPSCsは、移植された免疫不全NSGマウスにおいて、3つの胚葉全てを代表する組織を包含する奇形腫を発達させることができた(図3C及び3D)。
【0078】
バイサルファイト配列解析は、内因性Oct4及びNanogプロモーターがCD iPSCsにおいて大部分が脱メチル化されている(largely demethylated)ことを明らかにした。対照的に、親のCD線維芽細胞中のOct4及びNanogプロモーターは高度にメチル化されていた(図3E及び3F)。まとめると、これらの結果は、特徴的な多能性幹細胞であり、且つ患者のASPA変異を包含するCD iPSCsを本発明者らが首尾よく引き出したことを実証する。
【実施例3】
【0079】
遺伝的に修正されたiPSCsの生成
カナバン病はASPA遺伝子における遺伝子変異によって引き起こされるので、CD患者iPSCsを修正するために、CD患者iPSCsは、構成的な(constitutive)ヒトEF1αプロモーター下でヒトWT ASPA遺伝子を発現するレンチウイルスを用いて形質導入された。遺伝的に修正されたCD患者iPSCsは、ASPA iPSCsと名付けられた。ASPA1(又はASPA‐CD1)、ASPA2(又はASPA‐CD2)、及びASPA3(又はASPA‐CD3)iPSCsは、それぞれCD患者1、CD患者2、及びCD患者3のiPSCsに由来した。WT ASPA遺伝子配列の存在は、ASPA1、ASPA2、及びASPA‐3 iPSCsにおいて確認された(図4A、4D、4G及び4J)。
【0080】
免疫染色は、ASPA iPSCsが多能性因子OCT4及びNANOG並びにヒトESC表面マーカーSSEA4、TRA‐1‐60及びTRA‐1‐81を発現し続けていることを明らかにした(図4B、4C、4E、4F、4H、4I)。RT‐PCRは、ASPA iPSCsにおける内因性OCT4、SOX2及びNANOG発現の誘導を確認した(図2A)。対照的に、外因性リプログラミング因子、OCT4、SOX2、KLF4、LIN28及びMYCは、これらのiPSCsにおいて検出可能でなかった(図2B及び2C)。ASPA iPSCsはまた、それらの発達的潜在能力を維持した。免疫不全NSGマウスへの移植の後に、ASPA1、ASPA2及びASPA3 iPSCsは、3つの胚葉全てを包含する奇形腫を発達させることができた(図4M)。
【実施例4】
【0081】
ASPA iPSCsの神経分化
WT、CD1及びASPA1 iPSCsは、公開されたプロトコルに従って、神経前駆細胞(NPCs)に分化させられた33。3つ全てのiPSC系統に由来するNPCsが、PAX6、SOX2、N−カドヘリン、SOX1及びNESTINを含む、典型的なNPCマーカーを発現した(図5A及び5B)。対照的に、多能性因子OCT4及びNANOGの発現は、いずれの種類のNPCsにおいても検出されなかった(図5C)。ASPA1 iPSC由来のNPCs(ASPA1 NPCs)もまた、ASPA遺伝子を発現した(図5B)。
【0082】
そのうえ、ASPA1 NPCsは、検出可能なASPA活性を呈しなかったCD1 iPSC由来のNPCs(CD1 NPCs)に比べて、強いASPA酵素活性を呈した(図5D)。オリゴデンドログリア系統に沿ったASPA1 NPCsの更なる分化は、分化の13日目までにOLIG2+NKX2.2+pre‐OPCを、分化の80日目までにO4+OPCsを得ることを可能にした(図5E及び5F)。同様の結果が、CD1 NPCsから得られた(図5E及び5F)。これらの結果は、ASPA1 NPCsが、強いASPA酵素活性を所持するだけでなく、オリゴデンドログリア系統細胞に分化する能力も有することを実証する。
【0083】
蛍光活性化細胞選別(Fluorescence-activated cell sorting)(FACS)は、CD1 NPCs及びASPA1 NPCsの大多数がCD133陽性NPCsであり、SSEA4陽性細胞のごくわずかな割合によって明らかにされるように、未分化のiPSCsの混入が最小限であることを明らかにした(図5G)。まとめると、これらの結果は、ASPA1 NPCsの同一性、純度及び有効性(potency)を実証する。
【実施例5】
【0084】
ASPA NPCsは移植されたCDマウスにおいて生き残り、機能的救済を提供することができる
Aspanur7/nur7マウスは、ASPA遺伝子にナンセンス変異(Q193X)を包含している34。Aspanur7/nur7マウスは、ASPA酵素活性の喪失、高められたNAAレベル及び様々な脳領域における広範囲にわたる海綿変性を含む、CD患者のものと似た主要な病理学的表現型を呈するので34、それはCDについての信頼のおける(authentic)動物モデルであるとみなされる。したがって、Aspanur7/nur7マウスは、遺伝的に修正されたASPA iPSCsに由来するNPCsの治療的効果を試験するための優れたプラットフォームを提供する。ヒト細胞がCDマウスモデルに移植される必要があるので、Aspanur7//nur7マウスを、成熟B及びTリンパ球を欠く免疫不全Rag2−/−マウスと交配させることによって、免疫不全Aspanur7//nur7マウスモデルが生成された。結果として生じるAspanur7/nur7/Rag2−/−マウスは、親のAspanur7/nur7マウスと大部分が類似しており、それらの両方が、WTマウスと比較して、実質的に低下させられた脳内のASPA酵素活性を呈した(図11A)。ASPA活性の欠乏の他に、空胞化によって明らかにされるような海綿状変性は、CD患者及びマウスモデルの一つの他の特徴的な特質である。視床、小脳及び脳幹を含む、親のAapanur7/nur7及びAapanur7/nur7/Rag2−/−マウスの両方の様々な脳領域において、広範囲にわたる空胞化が観察された(図11B及びC)。これらの結果はまとまって、免疫不全CDマウス又は略してCDマウスと呼ばれるAapanur7/nur7/Rag2−/−マウスが、親のAspanur7//nur7マウスに類似する、典型的なCD表現型を呈することを示す。これらのCDマウスは、以下における、ASPA‐CD NPCsの効果を試験するための移植のために使用された。
【0085】
ASPA1 iPSCsから分化させられたASPA1 NPCsは、新生仔CDマウスの脳に移植された。2μL容量中の20万個の細胞は、新生仔CDマウスの脳の6部位に定位的に注射された(方法を参照のこと)。移植の1ヶ月後に、マウスの脳は採取され、移植されたヒト細胞を同定するためのヒト核抗原、及びオリゴデンドログリア系統細胞のためのマーカーであるOLIG2について、免疫染色によって解析された。移植されたASPA1 NPCsは、小脳及び脳幹を含む、調べられた脳領域において生き残り、OLIG2を発現することができた(図6A)。そのうえ、ASPA1 NPCsを受けたCDマウスは、移植なしのCDマウスに比べて、実質的に改善されたロータロッド能力を実証した(図6B)。これらの結果は、ASPA発現NPCsがCDマウスの脳内で生き残り、オリゴデンドログリア系統細胞に分化し、CDマウスの運動機能を改善し得ることを示す。
【0086】
一つの他の組の実験において、ASPA1 NPCsは新生仔CDマウスの脳に移植され、マウスは3ヶ月間生存期間を与えられた。次いで、移植されたマウスの脳は採取され、ヒト核抗原及びオリゴデンドロサイト系統転写因子OLIG2についての共染色によって解析された。移植されたASPA NPCsは、移植後の3ヶ月間を生き残り、オリゴデンドログリア系統細胞に分化することができた(図7A)。ヒト核抗原陽性及びOLIG2陽性細胞の定量化は、CDマウスの視床において60%を超えるヒト生着細胞がOLIG2+細胞に分化し、小脳及び脳幹においてそれぞれ約72%及び45%のヒト細胞がOLIG2+細胞になったことを明らかにした(図12A)。さらに、共焦点顕微鏡解析は、生着ヒト細胞はまた、ASPA1 NPCを移植されたCDマウス脳においてミエリン塩基性タンパク質(MBP)を発現する成熟オリゴデンドロサイトに分化したことを明らかにした(図7B)。生着細胞におけるヒト核抗原及びMBPについての共染色は、共焦点画像の直交図によって確認された(図12B)。生着ヒト細胞の一部分は、GFAP+星状細胞に分化した(図7C及び13)。これらの結果は、ASPA発現NPCsが長期の移植を生き残り、移植された脳においてオリゴデンドログリア系統細胞を生じさせることを示す。
【0087】
ASPA酵素活性の欠乏がCD患者及び動物モデルの両方における疾患表現型の根本的な原因であるので、ASPA酵素活性は、ASPA1 NPC移植の3ヶ月後に採取されたCDマウス脳において決定された。視床、小脳及び脳幹を含む、ASPA1 NPCを移植されたマウスの様々な脳領域において、移植なしのCDマウス脳における活性に比べて、強いASPA酵素活性が検出された(図8A)。
【0088】
ASPA欠乏は、CD患者及びマウスモデルの両方の脳において高められたNAAレベルにつがなることが示されている15,34−36。高められたASPA酵素活性と一貫して、CD1 NPCを移植されたCDマウス脳におけるレベルに比べて、ASPA1 NPCを移植されたCDマウス脳において低下させられたNAAレベルが検出された(図8B,8C)。これらの結果は、ASPA1 NPCsの移植がASPA酵素活性の欠乏を救済し、CD患者及びマウスモデルの両方における主な欠陥である、NAAレベルを低下させることができたことを示す。
【0089】
広範囲にわたる海綿状変性は、CD患者及びマウスモデルの一つの他の主要な病理学的特質であり、これは様々な脳領域における空胞化によって明らかにされる15,34−36。ASPA1 NPCを移植されたCDマウスの脳における高められたASPA酵素活性及び低下させられたNAAレベルの観察と一貫して、視床、小脳及び脳幹を含む、ASPA1 NPCを移植されたCDマウスの様々な脳領域において、実質的に減少させられた程度(reduced extent)の空胞化が検出された(図8D,8E)。
【0090】
空胞化は、CDマウスの脳においてミエリンの破壊に起因することが示唆されている34。CDマウスの脳における広範囲にわたる空胞化と一貫して、WTマウスからの厚さに比べて、CDマウスの脳において実質的に減少させられた厚さの髄鞘が観察された(図9A,9B)。ASPA1 NPCを移植されたCD脳における髄鞘は、未処置のCD脳の髄鞘よりもはるかに厚かったが、WT脳の髄鞘に更に似ていた(図9A,9B)。これらの結果は、CDの病理学的表現型を寛解させるためのそれらの能力について、ASPA1 NPCsの治療的潜在能力を更に支持する。
【0091】
細胞レベルでのCD表現型の改善に加えて、ASPA1 NPCsの移植はまた、CDマウスに対する全身的な効果と関連していた。体重減少は、CDマウスにおいて報告されている22,26,35。移植の3ヶ月後に、ASPA1 NPCs又はWT NPCsを用いて移植されたCDマウスにおいて、CD1 NPCsを用いて移植されたCDマウスにおける体重に比べて、実質的な体重の増加が検出された(図9C)。
【0092】
運動能力における欠陥は、CD患者や動物モデルに典型的である15,34−36。ASPA1 NPCsの移植がCDマウスにおいて欠陥のある運動能力を救済し得るかどうかを決定するために、WT NPCs、CD1 NPCs、又はASPA1 NPCsを用いて移植されたCDマウスは、2つの運動技能行動パラダイムで試験された。移植の3ヶ月後に、様々なNPCsの脳内注射を受けたCDマウスは、運動協調性及びバランスを試験するために設計された、加速するロータロッドトレッドミルを用いて調べられた。WT NPCs及びASPA1 NPCsの両方は、CD1 NPCsに比べて、移植されたCDマウスにおけるロータロッド能力を実質的に改善したが、WT NPCs又はASPA1 NPCsを用いて処置されたマウスの間に有意差は検出されなかった(図9D)。ワイヤ懸垂手法は、肢の強さを神経筋機能の指標として評価するために使用された37。WT NPCs及びASPA1 NPCを移植されたCDマウスの両方において、CD1 NPCを移植されたCDマウスの握力に比べて、握力の実質的な増強(enhancement)が、ワイヤ懸垂試験において検出された(図9E)。これらの結果はまとまって、ASPA1 NPCsを用いた移植がCDマウスにおいて運動機能を改善し得ることを示す。
【実施例6】
【0093】
ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsは、CDマウスにおける疾患表現型を救済し得る
ASPA1 NPCsを用いて移植されたCDマウスにおいて疾患表現型の強健な改善を観察したのち、CD患者2及びCD患者3のiPSCsに由来するASPA NPCsの効果が試験された。CD2 iPSCs及びCD患者3 iPSCsは、ASPA発現レンチウイルスを用いて形質導入され、次いでこれらのiPSCsはNPCsに分化させられた。結果として生じるWT ASPA発現NPCsは、それぞれASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsと名付けられた。ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsの両方が、典型的なNPCマーカーNESTIN及びSOX1を発現した(図10A)。 対照的に、多能性因子OCT4及びNANOGの発現は、ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsにおいて検出されなかった(図10B)。
【0094】
ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsは、NPC表面マーカーCD133を使用した正の選択及びヒトESC表面マーカーSSEA4を使用した負の選択によって選別された。分化細胞の大多数は、CD133陽性及びSSEA4陰性であった(図10C)。CD133陽性及びSSEA4陰性の細胞集団が、移植実験のために採取された。移植前に、ASPA2及びASPA3 NPCsにおけるASPA活性が試験され、ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsの両方がCD2 NPCs及びCD3 NPCsに比べて強いASPA活性を呈したことが見出された(図10D)。要約すると、移植前のASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsの同一性、純度及び有効性が実証されている。
【0095】
選別されたCD133陽性及びSSEA4陰性のASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsは、上記及び方法に記載されたように、新生仔CDマウスの脳に移植された。移植の3ヶ月後に、移植されたCDマウス脳においてヒト核抗原及びOLIG2の両方について陽性である細胞が検出された(図14A)。そのうえ、生着細胞は、MBP陽性の成熟オリゴデンドロサイトを生じさせることができた(図15A)。移植された脳におけるヒト核抗原及びMBPの両方について陽性である生着細胞の存在は、共焦点画像の直交図によって確認された(図15B)。移植された細胞の一部は、ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCsを移植されたCD脳においてGFAP陽性星状細胞を生じさせた(図14B)。
【0096】
ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCsを用いて移植されたCDマウスの脳におけるASPA酵素活性が調べられた。視床、小脳及び脳幹を含む、移植された脳の複数の脳領域において、移植なしのCDマウス脳における活性に比べて、強いASPA酵素活性が検出された(図15C)。ASPA1 NPCを移植されたCDマウスと同様に、視床、小脳及び脳幹を含む、ASPA2 NPC又はASPA3 NPCを移植されたCDマウス脳において、著しく減少させられた空胞化が検出された(図15D及び15E)。
【0097】
次いで、ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCsを受けたCDマウスは、加速するロータロッドトレッドミルを用いて試験された。ASPA2 NPCs及びASPA3 NPCsの両方が、移植なしのCDマウスに比べて、移植されたCDマウスにおけるロータロッド能力を実質的に改善した(図15F)。ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCsのいずれかを用いて移植されたCDマウスのワイヤ懸垂試験においても、移植なしのCDマウスに比べて、握力の実質的な増強が検出された(図15G)。これらの結果はまとまって、ASPA2 NPCs又はASPA3 NPCsのいずれかを用いた移植が、CDのマウスモデルにおいて運動機能を実質的に改善し得ることを示す。これらの結果は、遺伝的に修正されたCD患者iPSCsに由来するNPCsがCDの病理学的表現型を寛解させるための治療的潜在能力を有するという、概念証明(proof-of-concept)を提供する。
【実施例7】
【0098】
ASPA1 NPCを移植されたCDマウスに腫瘍は形成されない
ASPA1 NPCsは、CDマウスの脳に最大で10ヶ月間にわたって移植された。これらの10ヶ月以内に、移植されたマウスは毎月モニターされ、腫瘍形成の徴候は観察されなかった(表5)。10ヶ月目の終わりに、移植されたマウスは採取され、更なる腫瘍解析のためにヘマトキシリン・エオシン染色によって解析された。これらの切片において、典型的な腫瘍組織は発見されなかった(図16A及び16B)。ASPA1 NPCを移植されたマウスにおける腫瘍形成の欠如は、ASPA1 NPCを生着された脳におけるヒト核抗原陽性細胞及びKi67陽性細胞の低い割合によって明らかにされるように、非常に低い有糸分裂指数(mitotic index)と相関していた(図17Aおよび17B)。
表5 ASPA1 NPCを移植されたマウスの安全性モニタリング
【表5】
【0099】
本明細書において引用された全ての刊行物及び特許文献は、参照によって取り込まれている。
【0100】
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図1
図2
図3A-B】
図3C-F】
図4A-I】
図4J-M】
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
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【配列表】
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【国際調査報告】