(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
本発明は、電子デバイスに集積された素子等を熱から保護するための熱伝導性薄膜、およびそれを含む物品に関する。熱伝導性薄膜シートは、複合フィラーを有する熱伝導性接着フィルムの両面に熱伝導性フィラー層が形成されているので、熱伝導性薄膜シートは、引張強度および可撓性に優れ、そのため、取り扱いが容易であると共に、熱伝導性フィラーの充填率が高い。したがって、LED、OLED等の発光源が採用された又はICチップが高度に集積された電子デバイス、照明器具等の種々の物品に熱伝導性薄膜シートを適用することにより、使用時に発生する熱を効果的に除去することができる。
前記金属フィラーは、デンドライト構造を有し且つ少なくとも1種の金属成分を含有する金属粒子であり、前記カーボン系フィラーはキッシュ黒鉛粉末である、請求項1に記載の熱伝導性薄シート。
前記金属フィラーは、前記カーボン系フィラー100重量部あたり20〜400重量部の量が用いられ、前記溶媒混合物は、前記カーボン系フィラーおよび前記金属フィラーの合計100重量部あたり300〜500重量部の量が用いられ、前記バインダー樹脂は、前記複合フィラー100重量部あたり25〜500重量部の量が用いられ、前記溶媒混合物は、アセテート溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂環式ケトン溶媒を1:1〜2:3〜7の重量比で混合したものである、請求項6に記載の熱伝導性薄シートの製造方法。
前記電子デバイスが、携帯電話、デスクトップPC、ノートPC、タブレットPC、バーチャルリアリティ(VR)デバイス、セットトップ・ボックス、携帯ゲーム機、外付けハードディスクドライブ、MP3プレーヤー、ビーム・プロジェクター、テレビ、モニター、車両用ブラック・ボックス、車両用ナビゲーター、通信デバイス、電力変換機、電力供給機または医療用電子デバイスであり、前記照明デバイスは、LED照明デバイスまたは電球である、請求項12に記載の物品。
前記物品は、熱源を含むバッテリー、電子デバイスまたは照明デバイスであり、前記熱伝導性薄シートは、前記熱源の表面、前記熱源に密接するヒートシンクの表面、または前記熱源に隣接する物品のケーシングに直接取り付けられる、請求項14に記載の物品から熱を放散させる方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
熱伝導性薄シート
本発明の一の実施形態は、(A)(a)カーボン系フィラーおよび金属フィラーを含む複合フィラー、(b)バインダー樹脂、ならびに(c)接着剤を含む熱伝導性接着フィルムと、(B)熱伝導性接着フィルムの両側に形成された熱伝導性フィラー層とを含む熱伝導性薄シートであって、熱伝導性フィラー層は、接着剤またはバインダー樹脂を含まない固体粉末状の少なくとも1種の熱伝導性フィラーを押圧することで形成され、熱伝導性薄シートは、20〜50kg/mm
2の引張強度および40〜90重量%のフィラー充填率を有し、フィラー充填率は、熱伝導性薄シートの総重量に対する、熱伝導性薄シートに含まれる複合フィラーおよび熱伝導性フィラーの合計重量の割合で表される比率である、熱伝導性薄シートを提供する。
【0022】
以下、熱伝導性薄シートの構成要素を詳細に説明する。
【0023】
(A)熱伝導性接着フィルム
熱伝導性接着フィルムは、(a)カーボン系フィラーおよび金属フィラーを含む複合フィラー、(b)バインダー樹脂、ならびに(c)接着剤を含む。熱伝導性接着フィルムは、(d)分散剤をさらに含んでよい。
【0024】
熱伝導性接着フィルムは、熱伝導性フィラー層の基層としてはたらき、シートに可撓性を与えると共に、複合フィラーを含有するので熱伝導性を示す。
【0025】
成分(a)〜(d)それぞれの混合比は以下のとおりである。
【0026】
バインダー樹脂(b)は、複合フィラー(a)100重量部あたり25〜500重量部の量が含まれてよい。バインダー樹脂を上記範囲より少ない量で用いた場合、複合フィラーの比表面積が大きいことにより、熱伝達が妨げられることがある。上記範囲を超えてバインダー樹脂を用いた場合、複合フィラーの含有量が少なくなりすぎることがあり、それにより熱的特性を示すのが困難になることがある。バインダー樹脂(b)は、複合フィラー(a)100重量部あたり25〜400重量部、60〜200重量部、300〜500重量部、または400〜500重量部の量が含まれてもよい。
【0027】
接着剤(c)は、熱伝導性接着フィルムの重量を基準として5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%の量を混合してよい。
【0028】
分散剤(d)は、複合フィラー(a)100重量部あたり0.1〜10重量部の量が含まれてよい。具体的には、分散剤(d)は、複合フィラー(a)100重量部あたり1〜5重量部の量が含まれてよい。
【0029】
熱伝導性接着フィルムは、アセテート系溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂環式ケトン溶媒の溶媒混合物に複合フィラーを分散させる工程を経て作製してよい。すなわち、アセテート系溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂環式ケトン溶媒の溶媒混合物に複合フィラーを分散させてよい。これにより、複合フィラーは接着層内で十分に分散することができる。例えば、接着層は、溶媒混合物に複合フィラーおよびバインダー樹脂を分散させることにより得られる分散溶液に接着剤を混合し、次いで分散溶液をシート状に成形することにより作製してよい。
【0030】
(a)複合フィラー
複合フィラーは、カーボン系フィラーおよび金属フィラーを含む。複合フィラーは、非金属フィラーをさらに含んでよい。
【0031】
金属フィラーは、カーボン系フィラー100重量部あたり20〜400重量部の量が含まれてよい。具体的には、金属フィラーは、カーボン系フィラー100重量部あたり20〜80重量部、または40〜60重量部の量が含まれてよい。別法として、金属フィラーは、カーボン系フィラー100重量部あたり150〜400重量部の量が含まれてよい。さらに、非金属フィラーは、金属フィラーの量と同様または同じ量で複合フィラーに含まれてよい。それぞれのフィラーを上述の好ましい範囲の量で用いる場合、バインダー樹脂との分散性に優れ、それによってより好都合な硬化およびより優れた熱伝導性がもたらされる。
【0032】
(a1)カーボン系フィラー
熱伝導性組成物は、カーボン系フィラーを含む。例えば、カーボン系フィラーは、天然黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、キッシュ黒鉛(kish graphite)粉末および人造黒鉛(または合成黒鉛)粉末の少なくとも1種であってよい。
【0033】
純度99.7%以上の天然黒鉛粉末を天然黒鉛粉末として用いてよい。さらに、結晶性天然黒鉛であるフレーク状の黒鉛粉末を天然黒鉛粉末として用いてよい。
【0034】
さらに、膨張黒鉛粉末は、フレーク状の黒鉛粉末を酸処理して加熱することにより調製してよい。
【0035】
また、キッシュ黒鉛粉末は、キッシュ粉末から黒鉛成分のみを精製することで得てよく、このキッシュ粉末は、溶融した銑鉄または鋳鉄から分離されたスラグと黒鉛との混合物であって、鉄の冷却時に銑鉄または鋳鉄の表面に浮かんでいる(または浮遊している)ものである。キッシュ黒鉛粉末は一般にフレーク状または板状の形状であってよい。キッシュ黒鉛粉末は、熱伝導性組成物に高い熱伝導性を付与し得る。
【0036】
人造黒鉛粉末は、ポリイミド(PI)の炭素化および黒鉛化によって得てよい。具体的には、人造黒鉛粉末は、ポリイミド・シートを炭素化および黒鉛化して得られる黒鉛シートを粉砕することで調製してよい。ここで、人造黒鉛シートは、水平方向の熱伝導率が800〜1000W/mK、伸び強度(elongation strength)が25MPa以上、密度が1.5〜2.1g/cm
3であってよい。
【0037】
さらに、石炭系または石油系の材料であって黒鉛化し得るものである人造黒鉛粉末を用いてもよい。
【0038】
上述のカーボン系フィラーの粒径は、1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは1〜10μmであってよい。具体的には、天然黒鉛粉末および膨張黒鉛粉末はそれぞれ、平均粒径が3〜10μmであってよく、人造黒鉛粉末の平均粒径は5〜10μmであってよい。
【0039】
また、カーボン系フィラー中の天然黒鉛粉末および膨張黒鉛粉末の総量は、99重量%以上であってよく、好ましくは99.5重量%以上、より好ましくは99.7重量%以上である。
【0040】
カーボン系フィラーは、天然黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末および人造黒鉛粉末に加えて、グラフェン、カーボンナノチューブおよびカーボンブラック等のカーボン系フィラーをさらに含んでよい。なかでも、カーボンブラックは、微粉末(約1μm)状であってよく、熱伝導性を向上させ着色効果を与えることを目的として0.001〜10重量%の量でカーボン系フィラーに含まれてよい。
【0041】
(a2)金属フィラー
さらに、熱伝導性組成物は、金属フィラーを含む。
【0042】
金属フィラーは、ニッケル、銅、金、銀、錫、コバルトおよびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属成分を含んでよい。
【0043】
別法として、金属フィラーは、Bi、Ga、In、Snまたはこれらの合金を含む溶融性フィラーを含んでよい。溶融性フィラーは、オプションとしてAg、Au、Cd、Cu、Pb、Sb、Znまたはこれらの組合せをさらに含んでよい。適切な溶融性フィラーの具体的例としては、Ga、In−Bi−Sn合金、Sn−In−Zn合金、Sn−In−Ag合金、Sn−Ag−Bi合金、Sn−Bi−Cu−Ag合金、Sn−Ag−Cu−Sb合金、Sn−Ag−Cu合金、Sn−Ag合金、Sn−Ag−Cu−Zn合金およびこれらの組合せが挙げられる。
【0044】
金属フィラーは、先に例示した成分の1種、2種またはそれより多くを含んでよい。
【0045】
ある例によれば、金属フィラーは、コーティング層を有する金属粒子、例えば、銀コート銅粒子、銀コートニッケル粒子、銀コートアルミニウム粒子、錫コート銅粉末等を含んでよい。
【0046】
別の例によれば、金属フィラーは、デンドライト構造を有し且つ少なくとも1種の金属成分を含有する金属粒子を含んでよい。
【0047】
より具体的には、金属フィラーは、デンドライト構造を有する銅粒子、デンドライト構造を有する銀コートアルミニウム粒子、またはデンドライト構造を有する銀コート銅粒子を含んでよい。
【0048】
デンドライト構造を有する金属粒子は、比表面積が大きく多数の官能基を有するので、熱伝導における隙間(またはギャップ)を埋める。そのため、デンドライト構造を有する金属粒子は、従来のフレーク状または球状の金属粒子よりも良好な熱伝導性および電気伝導性を有し得る。
【0049】
デンドライト構造を有する銀コート銅粒子の場合、3〜10重量%の量の銀ナノ粒子が銅粒子をコーティングしてよい。
【0050】
好ましい例によれば、金属フィラーは、デンドライト構造を有し且つ少なくとも1種の金属成分を含有する金属粒子であってよく、カーボン系フィラーはキッシュ黒鉛粉末であってよい。
【0051】
金属フィラーは平均粒径が1〜5μmであってよい。
【0052】
(a3)非金属フィラー
熱伝導性組成物は、カーボン系フィラーおよび金属フィラーに加えて、熱伝導性を有する非金属フィラーをさらに含んでよい。
【0053】
非金属フィラーは、カーボン系でない非金属フィラーであってよく、この非金属フィラーは炭素が主成分でないものである。例えば、非金属フィラーは、窒化ホウ素、窒化ケイ素および窒化チタン等の金属窒化物成分を含んでよい。別法として、非金属フィラーは、酸化アルミニウム(つまりアルミナ)、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウムおよび酸化ベリリウム等の金属酸化物成分を含んでよい。
【0054】
非金属フィラーは、平均粒径が1〜5μmであってよい。
【0055】
(b)バインダー樹脂
熱伝導性組成物はバインダー樹脂を含む。バインダー樹脂は、黒鉛粉末のバインダーとしてはたらくことができるポリマー樹脂であれば特に限定されるものではない。バインダー樹脂は、例えば硬化性バインダー樹脂であってよい。
【0056】
バインダー樹脂の具体例として、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ビニル樹脂およびシリコン樹脂が挙げることができる。なかでも、熱硬化性ウレタン樹脂、アクリル樹脂またはこれらの組合せが好ましい。
【0057】
アクリル樹脂として、ポリメチルメタクリレートを主成分として含有するアクリル共重合体樹脂を用いてよい。
【0058】
(c)接着剤
熱伝導性薄シートは接着剤を含む。接着剤は、感圧接着樹脂および可撓性樹脂を含んでよい。
【0059】
感圧接着樹脂として、アクリル接着樹脂、フェノキシ接着樹脂、シリコン接着樹脂およびエポキシ接着樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を用いてよい。
【0060】
好ましくは、感圧接着樹脂は、モノマーとしてアクリル化合物を含んでよい。アクリル化合物の具体例として、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクタデシルメタクリレートおよびこれらの組合せを挙げることができる。
【0061】
さらに、可撓性樹脂は、モノマーとしてオレフィン化合物を含んでよい。オレフィン化合物の具体例として、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびこれらの組合せを挙げることができる。用いることができる他のモノマー化合物の例として、スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニルおよびアクリロニトリル等を挙げることができる。
【0062】
例として、接着剤は、アクリル化合物およびオレフィン化合物を100:10〜100:50の重量比で含んでよい。このとき、アクリル化合物は、同量のn−ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルメタクリレートを含んでよい。
【0063】
接着剤は、希釈剤として、キシレンまたはシクロヘキサノン等の有機溶媒をさらに含んでよい。
【0064】
接着剤は、熱伝導性接着フィルム100重量%あたり5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%の量を混合してよい。
【0065】
(d)分散剤
熱伝導性組成物は、分散剤をさらに含んでよい。分散剤は、熱伝導性組成物におけるフィラーの分散性をさらに向上させるはたらきをする。
【0066】
具体的には、分散剤は、ぬれ性を有し得、フィラー粒子の表面をコーティングして分子同士を反発させることができ、それにより分子間距離を増大させることができる。
【0067】
分散剤として用いることができる市販製品の具体例として、BYKが提供するDisperbyk−103、Disperbyk−110、Disperbyk−111、Disperbyk−180、Disperbyk−130、Disperbyk−115、Disperbyk−160、Disperbyk−161、Disperbyk−162、Disperbyk−163、Disperbyk−164、Disperbyk−166、Disperbyk−167、Disperbyk−169、Disperbyk−182、Disperbyk−170、Disperbyk−171、Disperbyk−174、Disperbyk−116、Disperbyk−140、Disperbyk−101、Disperbyk−107、Disperbyk−108、Disperbyk−183、Disperbyk−184、Disperbyk−185、Disperbyk−190、Anti−terra−203、Anti−terra−204、Anti−terra−205、Anti−terra−206、Anti−terra−U、Anti−terra−U80、Bykumenを挙げることができる。好ましくはDisperbyk−160を用いてよい。
【0068】
分散剤は、pHの範囲が約6〜約8であってよい。
【0069】
分散剤は、ポリマー接着樹脂上に熱伝導性フィラーを分散させるはたらきをし、表面状態の向上に役立つ。しかし、熱伝導性接着フィルムは平坦でない表面を有することがあるので、本発明において分散剤は大きな役割を果たすものではない。
【0070】
熱伝導性接着フィルムの特性
熱伝導性接着フィルムの厚さは、1〜2000μmの範囲、より具体的には1〜1000μm、1〜500μm、1〜200μm、1〜100μm、1〜50μmまたは1〜20μmの範囲であってよく、用途に応じて種々の範囲に調整してよい。
【0071】
熱伝導性接着フィルムは、その表面に接着性を有する。例えば、熱伝導性接着フィルムは、接着強度が100〜2000gf/25mm
2、より具体的には200〜1000gf/25mm
2であってよい。接着強度が大きくなりすぎて上述の好ましい範囲を超えると、熱伝導性能が低下することがある。反対に、接着強度が小さくなりすぎて上述の好ましい範囲を下回ると、熱伝導性フィラー層との接着力が低下することがある。
【0072】
熱伝導性接着フィルムは単一の層からなるものであってよい。
【0073】
別法として、熱伝導性接着フィルムは、2以上の層からなるものであってよい。例えば、熱伝導性接着フィルムは、ポリマー樹脂層をコア層として備え、ポリマー樹脂層の両側に熱伝導性接着層が形成された構造を有してよい。すなわち、熱伝導性接着フィルムは、熱伝導性接着層/ポリマー樹脂層/熱伝導性接着層からなるものであり、引張強度および取り扱いの利便性をさらに向上させることができる。このとき、それぞれの熱伝導性接着層は、カーボン系フィラーおよび金属フィラーを含む複合フィラー、バインダー樹脂ならびに接着剤を含む。
【0074】
さらに、ポリマー樹脂層は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミド−イミド(PAI)、ポリエチレンイミン(PEI)およびこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種を含んでよい。
【0075】
(B)熱伝導性フィラー層
熱伝導性フィラー層は、熱伝導性接着フィルムの両側に形成される。
【0076】
熱伝導性フィラー層は、熱伝導性薄シートのフィラー充填率を高め、それにより種々の電子デバイスで発生する熱を素早く放散させる。
【0077】
図2aおよび2bは、熱伝導性接着フィルムの表面および熱伝導性フィラー層の表面のそれぞれを示す電子顕微鏡写真である。これらの写真は、熱伝導性フィラー層が熱伝導性接着フィルムよりもかなり高い熱伝導性フィラー充填率を有することを示している。
【0078】
熱伝導性フィラー層を用いることなく熱伝導性接着フィルムを単独で用いる場合、熱伝導性接着フィルムのフィラー充填率が制限されるので、熱伝導率の面で優れた性能を期待するのは困難である。
【0079】
熱伝導性フィラー層は、熱伝導性フィラーを含む。ここで用いることができる熱伝導性フィラーは、カーボン系フィラー、金属フィラーまたは熱伝導性非金属粉末を含んでよい。例えば、熱伝導性フィラーとして、熱伝導性接着フィルムに用いられるカーボン系フィラー、金属フィラーおよび非金属フィラーの少なくとも1種を用いてよい。このとき、各フィラーの混合比は、熱伝導性接着フィルムについて先に例示したとおりである。
【0080】
熱伝導性フィラー層は、接着剤またはバインダーを含まない。具体的には、熱伝導性フィラー層は、接着剤またはバインダー樹脂を含まない少なくとも1種の熱伝導性フィラーからなる。より具体的には、熱伝導性フィラー層は、接着剤またはバインダー樹脂を含まない固体粉末状の少なくとも1種の熱伝導性フィラーを押圧(または圧縮)することで形成される。
【0081】
熱伝導性フィラー層は、厚さが10〜2000μm、具体的には20〜1000μmまたは25〜500μmであってよい。
【0082】
熱伝導性フィラー層を単独で用いる場合、引張強度が低く、それにより取り扱いの利便性が妨げられることがある。しかし、本発明においては熱伝導性接着フィルムの両側に熱伝導性フィラー層を形成するので、引張強度はさらに向上し得る。
【0083】
その結果、熱伝導性薄シートは高いフィラー充填率と優れた引張強度を有し得る。
【0084】
熱伝導性薄シートの特性
熱伝導性薄シートは、フィラー充填率の高い可撓性の薄膜からなる。
【0085】
熱伝導性薄シートは、フィラー充填率が40〜90重量%、具体的には50〜90重量%、40〜80重量%、50〜80重量%または60〜80重量%であってよい。
【0086】
ここで、フィラー充填率は、熱伝導性薄シートの総重量に対する、熱伝導性薄シートに含まれる全てのフィラー(複合フィラーおよび熱伝導性フィラー)の合計重量の割合で表される比率を意味する。
【0087】
さらに、熱伝導性薄シートは総厚さが10〜2000μm、具体的には15〜1500μm、20〜1000μmまたは25〜500μmであってよい。
【0088】
その結果、熱伝導性薄シートは、20〜50kg/mm
2、25〜50kg/mm
2または30〜50kg/mm
2の優れた引張強度、例えば、25〜45kg/mm
2、25〜40kg/mm
2または25〜35kg/mm
2の範囲、より具体的には28〜32kg/mm
2の範囲の引張強度を有してよい。
【0089】
好ましい例によれば、熱伝導性薄シートは、20〜1000μmの総厚さ、50〜90重量%のフィラー充填率および25〜50kg/mm
2の引張強度を有する。
【0090】
別の好ましい例によれば、熱伝導性薄シートは、25〜500μmの総厚さ、60〜90重量%のフィラー充填率および30〜50kg/mm
2の引張強度を有する。
【0091】
熱伝導性薄シートの製造方法
本発明の別の実施形態は、熱伝導性薄シートの製造方法であって、(1)(a)カーボン系フィラーおよび金属フィラーを含む複合フィラー、ならびに(b)バインダー樹脂を含む熱伝導性組成物を調製することと、(2)熱伝導性組成物に接着剤を混合し、次いで熱伝導性組成物をシート状に成形し、成形したシートを乾燥させて、熱伝導性接着フィルムを得ることと、(3)接着剤またはバインダー樹脂を含まない固体粉末状の少なくとも1種の熱伝導性フィラーをコーティングすることにより、熱伝導性接着フィルムの両側に熱伝導性フィラー層を形成してシートを得ることと、(4)得られたシートを圧延することで、熱伝導性フィラーの固体粒子を押圧して互いに結合させることとを含む、熱伝導性薄シートの製造方法を提供する。
【0092】
図1は、本発明の熱伝導性薄シートの製造方法の例を示す。
【0093】
以下、上述の製造方法を工程ごとに詳細に説明する。
【0094】
(1)熱伝導性組成物の調製
上述の工程(1)では、(a)カーボン系粉末および金属フィラーを含む複合フィラー、ならびに(b)バインダー樹脂を含む熱伝導性組成物を調製する。
【0095】
好ましい例によれば、工程(1)は、(1a)カーボン系フィラーを準備することと、(1b)アセテート溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂環式ケトン溶媒の溶媒混合物にカーボン系フィラーを加え、これらを撹拌して、第1分散溶液を得ることと、(1c)第1分散溶液に金属フィラーを加え、これらを撹拌して、第2分散溶液を得ることと、(1d)第2分散溶液にバインダー樹脂を加え、これらを撹拌して、液状組成物を得ることとを含んでよい。
【0096】
好ましい例において、金属フィラーは、カーボン系フィラー100重量部あたり20〜400重量部の量が用いられ、溶媒混合物は、カーボン系フィラーおよび金属フィラーの合計100重量部あたり300〜500重量部の量が用いられ、バインダー樹脂は、複合フィラー100重量部あたり25〜500重量部の量が用いられ、このとき、溶媒混合物は、アセテート溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂環式ケトン溶媒を1:1〜2:3〜7の重量比で混合したものであってよい。
【0097】
さらに、製造方法は、非金属フィラーを準備することと、第1分散溶液または第2分散溶液に非金属フィラーを加えてこれらを撹拌することとをさらに含んでよい。非金属フィラーの具体的な種類および混合量は先に例示したとおりである。
【0098】
(1a)カーボン系フィラーの準備
上述の工程(1a)において、カーボン系フィラーを準備する。例えば、カーボン系フィラーとして、天然黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、キッシュ黒鉛粉末および人造黒鉛粉末の少なくとも1種を準備してよい。
【0099】
純度99.7%以上の天然黒鉛粉末を天然黒鉛粉末として用いてよい。例えば、結晶性天然黒鉛であるフレーク状の黒鉛粉末を天然黒鉛粉末として用いてよい。
【0100】
さらに、天然黒鉛粉末として膨張黒鉛粉末を用いてよい。膨張黒鉛粉末は、(i)天然のフレーク状黒鉛をメッシュ(mesh)で分級して取り出すこと、(ii)取り出した黒鉛を酸化剤と混合し、次いでこの黒鉛に電流を印加することによって黒鉛のインターカレーション(または挿入、intercalation)を行うこと、および(iii)インターカレーションした黒鉛を加熱して膨張させることによって調製してよい。
【0101】
これらの黒鉛材料は、例えば、200以上、さらには300以上のサイズのメッシュを用いて所望のサイズの粒子に分級する。黒鉛粉末の製造には、400以上、例えば約400〜500のサイズのメッシュを用いることが好ましい。
【0102】
メッシュの形状として、格子状メッシュ(またはグレーティングメッシュ、grating mesh)を用いてよい。メッシュの具体的形状として、
図3a〜3cを参照して、(i)長方形の孔を有する格子状メッシュ、(ii)正方形の孔および長方形の孔を共に有する格子状メッシュ、または(iii)正方形の孔を有する格子状メッシュを用いてよい。これらのメッシュの1つまたはこれらの組合せを用いて黒鉛粒子の分級を行ってよい。
【0103】
分級工程を行った黒鉛粒子のサイズは、1〜30μm、好ましくは10〜20μmであってよい。
【0104】
分級した黒鉛は、インターカレーションのために酸化剤による処理を行う。酸化剤は、硫酸、硝酸およびこれらの混合物からなる群から選択される第1の酸化剤であってよい。ここで、5%未満の濃度、例えば0.1%以上5%未満の濃度の硫酸または硝酸を用いてよい。
【0105】
第1の酸化剤を単独で用いる場合、硫酸のSO
3等の、水分子と強く結合するイオンが存在し得、これによりインターカレーションを行うのが困難になることがある。したがって、第1の酸化剤による処理において、第2の補助酸化剤をさらに用いてよい。例えば、過塩素酸、過酸化水素、クロム酸、ホウ酸、ナトリウム系材料、テトラヒドロフラン、ZnCl
2およびこれらの組合せからなる群から選択される第2の補助酸化剤を用いてよい。
【0106】
第1の酸化剤と第2の補助酸化剤の重量比は1:100〜50:100、具体的には1:100〜20:100、より具体的には1:100〜10:100であってよい。
【0107】
上述の方法は、大量の酸化剤を高濃度で用いる従来の方法と比較して、インターカレーション材料として少量の酸化剤を低濃度で用いるので、環境により優しい方法である。
【0108】
酸化剤処理の間、反応物質に電流を印加してよい。電流の印加により、低濃度で少量の酸化剤で黒鉛を処理した場合であってもインターカレーションが促進される。すなわち、酸化剤処理において電気分解と同様の方法で電流を印加した場合、低濃度で少量の酸化剤を用いてもインターカレーションを行うことができる。
【0109】
電流の印加は、1〜20A/dm
2の電流密度、具体的には4〜10A/dm
2の電流密度で行ってよい。より具体的には、電流の印加は、4〜6A/dm
2の電流密度または6〜10A/dm
2の電流密度で行ってよい。さらに、電流の印加は、1〜30秒間、具体的には5〜10秒間行ってよい。
【0110】
上述したようにインターカレーションを行った黒鉛は、次の工程で用いるために、洗浄および乾燥を繰り返し行う。従来は、酸化剤処理の後に洗浄を行うと廃酸および種々の酸化剤が発生し、これらの廃棄物を処理することの困難を伴う。しかし、上述の方法は、廃酸がほとんど発生せず、溶媒を加えることによって行うことができる。
【0111】
洗浄および乾燥を行った黒鉛を高温で加熱して膨張黒鉛を製造する。その結果、黒鉛は、最初の体積の約80〜400倍、例えば最初の体積の200〜400倍に膨張する。好ましくは、黒鉛は、最初の体積の約300〜400倍に膨張する。膨張体積が大きいほど黒鉛薄膜の製造が容易であり、均一性がより向上する。
【0112】
その結果、平均粒径が約10〜20μmの均一な黒鉛粉末を製造することができる。
【0113】
別法として、粉末状の原料を、黒鉛シートを形成するプロセスを行わずに熱処理するプロセスによって天然黒鉛粉末を調製してもよい。
【0114】
また、大部分が過共晶の鋳鉄の溶融物から直接結晶化した一次黒鉛を粉砕することによりキッシュ黒鉛粉末を調製してよい。具体的には、キッシュ黒鉛粉末は、改良された溶融法が用いられ得るプロセス成分の過剰量の炭素が存在している場合に溶融した鋳鉄の表面に浮かんでいる(または浮遊している)黒鉛を分離することによって得てよい。さらに、キッシュ黒鉛粉末は、エアージェットミルを用いて球形の微粉末に粉砕して用いてよい。
【0115】
人造黒鉛粉末は、ポリイミド(PI)シートを焼成して得られる人造黒鉛シートを微粉砕することで調製してよい。さらに、石油系または石炭系材料から得られる人造黒鉛粉末(グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維またはカーボンナノチューブ等)をエアージェットミルで微粉砕して用いてよい。
【0116】
焼成は、2段階、具体的には、少なくとも約400℃の温度で行ってポリイミド・シートを炭素化する第1の焼成、および少なくとも2000℃の温度で行って炭素化されたシートを黒鉛化する第2の焼成で行ってよい。
【0117】
このようにして得られた人造黒鉛シートは、800〜1000W/mKまたはそれより大きい水平方向の熱伝導率、25MPa以上の伸び強度、および1.5〜2.1g/cm
3またはそれより大きい密度を有してよい。
【0118】
次いで、黒鉛シートを粉砕して平均粒径が約3〜10μmの均一な黒鉛粉末を得る。
【0119】
このようにして調製した少なくとも1種のカーボン系フィラーは、室温で混合および撹拌して用いてよい。1種以上のカーボン系フィラーの混合比は、先に例示したとおりである。
【0120】
(1b)第1分散溶液の調製
工程(1b)において、カーボン系フィラーを溶媒混合物に加え、これを撹拌して第1分散溶液を得る。
【0121】
溶媒混合物は、アセテート溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂環式ケトン溶媒の混合物である。上述の溶媒を組み合わせた溶媒混合物は、フィラーの溶媒としてはたらくだけでなく、フィラーの分散性に優れた熱伝導性組成物を提供する。
【0122】
具体的には、アセテート溶媒の例として、酢酸エチル、ブチルアセテートおよびプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
【0123】
さらに、芳香族炭化水素溶媒の例として、トルエン、ピリジン、キノリン、アニソール、メシチレンおよびキシレン等を挙げることができる。
【0124】
さらに、脂環式ケトン系溶媒の例として、1−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキサノンおよびイソホロン等を挙げることができる。
【0125】
溶媒混合物として、アセテート溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂環式ケトン溶媒を、1:1〜2:3〜7の重量比で混合してよい。好ましい溶媒を上述の好ましい範囲の量で混合した場合、フィラーの分散性をさらに向上させることができる。
【0126】
この工程において、分散剤をさらに用いてよく、ここで用いられる分散剤の具体例は、先に例示したとおりである。好ましくは、この工程における撹拌は、真空下での撹拌を含む。より好ましくは、撹拌は、真空下において20〜60rpmで1〜5時間の撹拌を含む。より一層好ましくは、撹拌は、真空下において30〜40rpmで1〜3時間の撹拌を含む。
【0127】
(1c)第2分散溶液の調製
上述の工程(1c)において、第1分散溶液に金属フィラーを加え、これを撹拌して第2分散溶液を得る。好ましくは、この工程における撹拌は、大気圧下で順方向に撹拌した後に逆方向に撹拌することを含む。
【0128】
具体的には、順方向の撹拌は、大気圧下で10〜50rpmおよび5〜30分の条件で行ってよい。より好ましくは、順方向の撹拌は、大気圧下で20〜40rpmおよび10〜20分の条件で行ってよい。
【0129】
具体的には、逆方向の撹拌は、大気圧下で1〜20rpmおよび10〜30分の条件で行ってよい。より好ましくは、逆方向の撹拌は、大気圧下で5〜15rpmおよび15〜25分の条件で行ってよい。
【0130】
(1d)熱伝導性組成物の調製
上述の工程(1d)において、第2分散溶液にバインダー樹脂を加え、これを撹拌して組成物を得る。好ましくは、この工程における撹拌は、真空下で順方向に撹拌した後に大気圧下で逆方向に撹拌することを含む。
【0131】
具体的には、順方向の撹拌は、真空下で10〜40rpmおよび30分〜3時間の条件で行ってよい。より好ましくは、順方向の撹拌は、真空下で20〜30rpmおよび1〜2時間の条件で行ってよい。
【0132】
具体的には、逆方向の撹拌は、大気圧下で1〜10rpmおよび1〜20分の条件で行ってよい。より好ましくは、逆方向の撹拌は、大気圧下で3〜7rpmおよび5〜15分の条件で行ってよい。
【0133】
撹拌の後、組成物は、さらに超音波処理にかけてよい。好ましくは、超音波処理は80〜200kHzの周波数で10〜30分間行ってよい。このような超音波処理によりフィラー間の分散性が増大し、それにより分子間の配置がさらに向上する。
【0134】
上述の工程(1)で調製した熱伝導性組成物は液状の組成物であってよい。
【0135】
例として、熱伝導性組成物は、(a)カーボン系フィラーおよび金属フィラーを含む複合フィラー、(b)バインダー樹脂、ならびに(e)アセテート溶媒、芳香族炭化水素溶媒および脂環式ケトン溶媒の溶媒混合物を含む。
【0136】
この場合、溶媒混合物(e)は、複合フィラー(a)100重量部あたり300〜500重量部の量が含まれてよい。より具体的には、溶媒混合物(e)は、複合フィラー(a)100重量部あたり350〜450重量部の量が含まれてよい。
【0137】
熱伝導性組成物は、複合フィラーが液状組成物中に均一に分散しているという特徴を有する。好ましくは、熱伝導性組成物は、pH5〜8においてゼータ電位が20〜100mV、より好ましくは70〜100mVの範囲である分散分布(dispersion distribution)を有してよい。
【0138】
黒鉛粉末は、ぬれ性が低く、機械的特性に優れ、かつ導電性が高いのに対し、分子間力であるファンデルワールス力による凝集への親和性に起因して、分散性が低く、再凝集性が高く、かつ粘度が高いため、均一な複合材料を製造するのが困難である。そのため、コーティング組成物を提供するために黒鉛粉末をバインダー樹脂と共に有機溶媒に分散させる場合、黒鉛粒子の特性に起因して、黒鉛粒子が均一に分散することなく互いに凝集するという困難が存在する。一方、本発明によれば、熱伝導性組成物は、上述の溶媒の組合せにより、黒鉛粉末の分散性が向上し得る。
【0139】
加えて、本発明においては、フィラーを分散させるための分散剤の添加および種々の分散工程(超音波処理および撹拌等)の採用によって分散性をさらに向上させることができる。
【0140】
(2)熱伝導性接着フィルムの作製
上述の工程(2)において、接着剤を熱伝導性組成物に混合し、これをシート状に成形し乾燥させて、熱伝導性接着フィルムを得る。
【0141】
(2a)接着組成物の調製
好ましい例によれば、工程(2)は、(2a)先の工程で得られた熱伝導性組成物に接着剤を混合して接着組成物を調製すること、および(2b)接着組成物をシート状に成形し、それを乾燥させて熱伝導性接着フィルムを製造することを含む。
【0142】
上述の工程(2a)において、先の工程で得られた組成物に接着剤を混合して接着組成物を調製する。
【0143】
例として、接着剤は、モノマーとしてのアクリル化合物を重合させることにより調製してよい。このとき、最終的に重合されるアクリルポリマーのガラス転移温度(Tg)、架橋度および重合の均一性を適切に調節することが重要である。
【0144】
別法として、接着剤は、モノマーとしてのオレフィン化合物を重合させることにより調製してよい。
【0145】
アクリル化合物、オレフィン化合物、および追加で入手可能な他のモノマー化合物の具体例は、先に例示したとおりである。さらに、好ましい接着剤の組成(接着剤に含まれる化合物の具体的な種類およびそれらの混合比)は、先に例示したとおりである。
【0146】
接着剤を熱伝導性組成物と混合するときの温度は、好ましくは20〜50℃、より具体的には20〜30℃である。接着剤と熱伝導性組成物との混合は、好ましくは、この温度条件で2〜4時間、より具体的には2〜3時間おこなわれる。混合が上述の好ましい温度範囲内で行われる場合、加熱により分子がメソフェーズ化(meso−phased)し得、それにより分子の配置がより優れたものとなり得る。
【0147】
さらに、加えるべき接着剤の量は先に例示したとおりである。
【0148】
このようにして調製した組成物は、好ましくは、適切な量の有機溶媒を用いることにより粘度が100〜400cPsとなるように調節する。
【0149】
(2b)熱伝導性接着フィルムの調製
上述の工程(2b)において、先の工程で得られた接着組成物をシート状に成形し、乾燥させて熱伝導性接着フィルムを得る。
【0150】
熱伝導性接着フィルムは、単一の層で作製してよい。
【0151】
別法として、熱伝導性接着フィルムは、2以上の層で作製してもよい。例えば、熱伝導性接着フィルムは、ポリマー樹脂層を備えてよい。
【0152】
例として、先の工程で得られた接着組成物をポリマー樹脂層にコーティングして、それによりポリマー樹脂層を一方の側に有する熱伝導性接着フィルムを提供する。
【0153】
別の例として、先の工程で得られた接着組成物をポリマー樹脂層の両側にコーティングして、それにより、ポリマー樹脂層をコア層として有する熱伝導性接着フィルムを提供する。
【0154】
ポリマー樹脂層はポリマー樹脂を含んでよく、このポリマー樹脂の具体例は、熱伝導性接着フィルムに関する説明において先に例示したとおりである。
【0155】
別法として、熱伝導性接着フィルムは、ポリマー樹脂層を用いずに作製してもよい。
【0156】
このようにして作製した熱伝導性接着フィルムを熱乾燥してよい。熱乾燥は、例えば40〜60℃の温度で行ってよい。熱乾燥は、12〜96時間または24〜72時間おこなってよい。
【0157】
(3)熱伝導性フィラー層の形成
工程(3)において、先の工程で作製した熱伝導性接着フィルムの両側に、接着剤またはバインダー樹脂を用いることなく固体粉末状の少なくとも1種の熱伝導性フィラーをコーティングすることにより、熱伝導性フィラー層を形成する。
【0158】
熱伝導性フィラー層を形成するのに用いられる熱伝導性フィラーは、カーボン系フィラー、金属フィラーまたは非金属フィラー等を含んでよい。
【0159】
例えば、熱伝導性接着フィルムを作製するのに用いられるカーボン系フィラー、金属フィラーおよび非金属フィラーの少なくとも1種を熱伝導性フィラーとして用いてよい。この場合、熱伝導性フィラーは、上述したカーボン系フィラー、金属フィラーおよび非金属フィラーの準備と同様の方法で準備してよい。
【0160】
より具体的には、上述の熱伝導性接着フィルムに用いられる複合フィラーを熱伝導性フィラーとして用いてよい。
【0161】
固体粉末状の熱伝導性フィラーは、コーティング工程の前に、所望の粒径を有する粒子を選択するための分級を行ってよい。例えば、フィラーは、例えば300以上または500以上のサイズのメッシュを用いて、所望のサイズの粒子に分級してよい。より具体的には、300〜10000のサイズのメッシュを用いることが好ましい。例えば、粒子の分級は、500〜2000のサイズのメッシュを用いて3〜10回行ってよい。
【0162】
メッシュの形状として、格子状メッシュを用いてよい。具体的なメッシュ形状として、(i)長方形の孔を有する格子状メッシュ(
図3aを参照のこと)、(ii)正方形の孔および長方形の孔を共に有する格子状メッシュ(
図3bを参照のこと)、または(iii)正方形の孔を有する格子状メッシュ(
図3cを参照のこと)を用いてよい。
【0163】
本発明に係る熱伝導性フィラー粒子の分級は、これらのメッシュの1つまたはこれらの組合せを用いて行ってよい。
【0164】
一の例によれば、熱伝導性フィラー粒子の分級は、(3a)長方形の孔を有する格子状メッシュによる第1のふるいがけ(またはスクリーニング)、(3b)長方形の孔および正方形の孔を共に有する格子状メッシュによる第2のふるいがけ、ならびに(3c)正方形の孔を有する格子状メッシュによる第3のふるいがけを順番に含んでよい。このとき、長方形の孔は、長さが15〜30μm、幅が5〜10μmであってよい。また、正方形の孔は、長さおよび幅が5〜10μmであってよい。その結果、第1のふるいがけをした熱伝導性フィラーの粒径は0.5〜30μmであってよく、第3のふるいがけをしたフィラーの粒径は0.5〜5μmであってよい。
【0165】
別法として、円形状、三角形状、菱形状、平行四辺形状またはこれらの組合せの形状のメッシュを用いることができる。熱伝導性フィラーの形状(球状、板状、混合型等)のメッシュを用いることも可能である。
【0166】
メッシュの材料として、スチール、ステンレススチール(SUS)、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)またはこれらの組合せを用いてよい。特に、なかでも、不飽和ポリエステル樹脂とガラス繊維を混合して調製したFRP材料が、軽量性、硬度、耐久性および経済性の観点から好ましい。
【0167】
次いで、このように分級した固体粉末状の熱伝導性フィラーを、熱伝導性接着フィルムの両側にコーティングして熱伝導性フィラー層を形成する。
【0168】
このとき、熱伝導性接着フィルムは表面が接着性を有するので、熱伝導性フィラーをコーティングのための接着剤、バインダーまたは溶媒と混合しなくても、固体粉末状の熱伝導性フィラーを、熱伝導性接着フィルムの表面に容易にコーティングして熱伝導性フィラー層を形成することができる。また、熱伝導性フィラーはフィラー粒子間の静電気引力によりそれ自体が凝集力を有するので、熱伝導性フィラーは、接着剤またはバインダー樹脂がなくても均一な層を形成することができる。
【0169】
好ましくは、コーティングの間に熱伝導性接着フィルムに電流を印加した場合、熱伝導性フィラーのコーティングをより円滑に行うことができる。例えば、熱伝導性接着フィルムに電流を印加した場合、熱伝導性接着フィルムは、内部に分散した熱伝導性フィラーにより帯電し、その結果、熱伝導性接着フィルムの表面に熱伝導性フィラーをより効果的にコーティングすることができる。電流の印加は、1〜20A/dm
2、より具体的には1〜10A/dm
2の電流密度で行ってよい。
【0170】
(4)圧延工程(フィラーの高密度化)
上述の工程(4)において、先の工程で製造したシートを圧延して、熱伝導性フィラーの固体粒子を押圧して互いに結合させる。
【0171】
ここで、熱伝導性接着フィルムの表面にコーティングされた、圧延前には単に表面に接着している熱伝導性フィラーは、圧延により押圧され、その結果、熱伝導性フィラー粒子間の結合力が増大し、それにより均一な薄膜層が形成される。
【0172】
圧延は、例えば、押圧のためにプレスローラー(または押圧ローラー)に1〜5回通すことにより行ってよい。圧延の押圧条件および繰り返し回数は、所望のシート厚さを考慮して決定してよい。
【0173】
圧延によりシート全体を薄くすることができ、熱伝導性接着フィルムと熱伝導性フィラー層との間の接着力およびフィラー密度がさらに向上し得る。さらに、圧延により、熱伝導性接着フィルムの特性(引張強度および熱伝導性)と熱伝導性フィラー層の特性(高熱伝導性)とをあわせもつことができ、それにより性能がより向上した熱伝導性薄シートを提供することができる。
【0174】
物品および熱を放散させる方法
本発明の別の実施形態は、熱伝導性薄シートを含む物品を提供する。
【0175】
本発明のさらに別の実施形態は、熱伝導性薄シートを用いて物品から熱を放散させる方法を提供する。
【0176】
本発明が適用される物品は、電子デバイス、電子デバイスのケース、照明デバイス、バッテリーまたはバッテリーケースであってよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0177】
電子デバイスは、携帯電話、デスクトップPC、ノートPC、タブレットPC、バーチャルリアリティ(VR)デバイス、セットトップ・ボックス、携帯ゲーム機、外付けハードディスクドライブ、MP3プレーヤー、ビーム・プロジェクター、テレビ、モニター、車両用ブラック・ボックス、車両用ナビゲーター、通信デバイス、電力変換機、電力供給機または医療用電子デバイスであってよい。
【0178】
さらに、照明デバイスは、LED照明デバイスまたは電球であってよい。
【0179】
好ましくは、物品は、電気的、電子的または化学的作用により熱を発生する熱源を有してよい。例えば、電子デバイスは、電子素子、回路基板または光源を含んでよい。
【0180】
熱伝導性薄シートは、熱源の表面、熱源に密接するヒートシンクの表面、または熱源に隣接する物品のケーシングに直接取り付けてよい。
【0181】
好ましい例として、物品は、熱源を含むバッテリー、電子デバイスまたは照明デバイスであり、熱伝導性薄シートは、熱源の表面、熱源に密接するヒートシンクの表面、または熱源に隣接する物品のケーシングに直接取り付けてよい。
【0182】
図6〜
図12は、熱伝導性薄シートを種々の物品に採用した例を示す。具体的には、
図6は、熱伝導性薄シートが適用された携帯電話の分解図を示し、
図7a〜7cは、熱伝導性薄シートが適用された電子デバイスの断面図を示し、
図8a〜8bは、熱伝導性薄シートが適用されたダイレクト型(または直下型)およびエッジ型のフラットパネル照明デバイスの平面図を示し、
図9a〜9bは、熱伝導性薄シートが適用されたダイレクト型およびエッジ型のフラットパネル照明デバイスの断面図を示し、
図10は、熱伝導性薄シートが適用されたバルブ型ランプを示し、
図11は、熱伝導性薄シートが適用されたLED照明デバイスの断面図を示し、
図12は、熱伝導性薄シートが適用された電気自動車の透視図およびそれに搭載されたバッテリーセルの拡大図を示す。
【0183】
図6に表されるように、熱伝導性薄シート(1)は、携帯電話のディスプレイユニット(113)またはチップセット基板(115)に隣接して配置してよい。
【0184】
さらに、
図7a〜7cに表されるように、熱伝導性薄シート(1)は、電子デバイスのケーシング(13)の熱源(11)に対応する領域(
図7aを参照のこと)、熱源(11)に密接するヒートシンク(12)の表面(
図7bを参照のこと)、または直接熱源(11)の表面(
図7cを参照のこと)に取り付けてよい。
【0185】
また、
図8aおよび9aに表されるように、熱伝導性薄シート(1)は、ダイレクト型フラットパネル照明デバイスのLED素子(20)の背面、またはLED素子に密接するヒートシンク(12)の背面に取り付けてよい。
図8bおよび9bに示すように、熱伝導性薄シート(1)は、エッジ型フラットパネル照明デバイスのLED素子(20)が備えられたエッジに隣接する位置、すなわちケーシングの側方に取り付けてよい。
【0186】
さらに、
図10に表されるように、熱伝導性薄シートは、バルブ型ランプ等のケーシング(13)の内壁に取り付けてよい。
【0187】
さらに、
図11は、一般的なLED照明デバイスの断面図を示す。熱伝導性薄シート(1)は、LED素子(20)が備えられた基板(50)の一の表面およびヒートシンク(12)の一の表面に取り付けてよい。
【0188】
また、
図12に表されるように、熱伝導性薄シート(1)は、バッテリーセル(60)を高温から保護するために、電気自動車に搭載されたバッテリーセル(60)の表面に取り付けてよい。
【0189】
図13a〜15dは、熱伝導性薄シートを種々の物品に適用した例をより詳細に示す。
【0190】
図13aに表されるように、熱伝導性薄シート(1)は、熱の放散を目的として、携帯電話(110)において最も多くの熱が発生する部品の1つであるバッテリー(111)の前側(または前面)(F)もしくは後ろ側(または背面)(B)、または携帯電話(110)のバッテリーカバー(112)の前側(F)もしくは後ろ側(B)に取り付けてよい。
【0191】
また、
図13bに表されるように、熱伝導性薄シート(1)を、携帯電話の本体に加えて携帯電話ケースに取り付けて、携帯電話からの熱を放散させてよい。例えば、熱を放散させるために、熱伝導性薄シート(1)は、オープン型(open−type)携帯電話ケース(120)の前側(F)もしくは後ろ側(B)、折りたたみ式(folder−type)携帯電話ケース(130)のカバーユニット(131)の前側(F)もしくは後ろ側(B)、または折りたたみ式携帯電話ケース(130)に携帯電話(110)を収納するためのハウジングユニット(132)の前側(F)もしくは後ろ側(B)に取り付けてよい。
【0192】
オープン型携帯電話ケース(120)および折りたたみ式携帯電話ケース(130)は、ポリマー樹脂類、天然皮革、合成皮革、金属、ゴム、キュービックジルコニアおよびこれらの組合せからなる群から選択される材料を含んでよい。
【0193】
さらに、熱伝導性薄シート(1)は、携帯電話以外のモバイルデバイスに適用してよい。例えば、熱伝導性薄シート(1)は、熱を放散するために、タブレットPC(200)の後ろ側(B)(
図14aを参照のこと)、ノートPC(300)のディスプレイユニット(301)の後ろ側(B)もしくはキーボードユニット(302)の前側もしくは後ろ側(
図14bを参照のこと)、携帯用ゲーム機(400)の後ろ側(B)(
図14cを参照のこと)、またはMP3プレーヤー(500)の後ろ側(B)(
図14dを参照のこと)に取り付けてよい。
【0194】
さらに、熱伝導性薄シート(1)は、先に例示したもの以外の他の種々の電子デバイスに適用してよく、熱を放散するために、外付けハードディスクドライブ(600)の前側(F)もしくは後ろ側(B)(
図15aを参照のこと)、セットトップ・ボックス(700)の上側(U)、底部側(L)もしくは側方(S)(
図15bを参照のこと)、ビーム・プロジェクター(800)の上側(U)もしくは底部側(L)(
図15cを参照のこと)、または車両用ブラック・ボックス(900)の前側(F)もしくは後ろ側(B)(
図15dを参照のこと)に取り付けてよい。
【0195】
本発明に係る物品は、熱伝導性薄シートを含むことにより、物品の使用中に発生する熱を効果的に放散させる。特に、本発明の物品に適用される熱伝導性薄シートは、複合フィラーを有する熱伝導性接着フィルムの両側に熱伝導性フィラー層を有する。そのため、フィラーの充填率が高く且つ引張強度および可撓性に優れているので、取り扱いが便利である。したがって、LEDまたはOLED等の発光源が採用された又はICチップが高度に集積された電子デバイスおよび照明デバイス等の種々の物品に熱伝導性薄シートを適用して、それにより、使用中に発生する熱を効果的に放散させることができる。
【0196】
[発明の態様]
以下、熱伝導性薄シートを作製してそれを物品に適用する例について、より詳細に説明する。
【0197】
実施例1:熱伝導性薄シートの作製
工程(1):熱伝導性組成物の調製
(1a)第1分散溶液の調製
粒径5〜10μmのフレーク状の黒鉛粉末を、粒径1〜20μmのカーボンブラックと混合してカーボン系フィラーを調製した。ここで、カーボン系フィラー中のカーボンブラックの含有量は5重量%であった。上述のように得られたカーボン系フィラーに有機溶媒および分散剤を加えて第1分散溶液を調製した。プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA:CAS番号108−65−6)、シクロヘキサノン(CAS番号108−94−1)、芳香族炭化水素溶媒(CAS番号64742−95−6)および3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−オン(イソホロン:CAS番号78−59−1)を2:3:3:3の重量比で混合したものを有機溶媒として用いた。分散剤として、pH6.5のDisperbyk−160を用いた。カーボン系フィラー、有機溶媒混合物および分散剤を20:80:5の重量比で撹拌機に入れ、撹拌機の回転数を徐々に増大させてこれらを分散させた。真空下で回転数を40rpmまで上昇させ、混合物を2時間撹拌して第1分散溶液を調製した。
【0198】
(1b)第2分散溶液の調製
工程(1a)で調製した第1分散溶液に金属フィラーおよび非金属フィラーを加えて第2分散溶液を調製した。金属フィラーとして、デンドライト構造を有する粒径1〜5μmの銅粉末(Ronald Britton社)を用いた。さらに、非金属フィラーとして、粒径2〜5μmのアルミナ粉末を用いた。金属フィラーおよび非金属フィラーは、第1分散溶液に含まれるカーボン系フィラー10重量部あたり、それぞれ20重量部の量を第1分散溶液に加えた。具体的には、第1分散溶液が入っている撹拌機にかけられた真空を解除した後、金属フィラーおよび非金属フィラーを加え、混合物を30rpmで15分間さらに撹拌した。次いで、脱泡のために撹拌機の羽根(またはインペラー、impeller)を10rpmで20分間逆方向に回転させて、第2分散溶液を得た。
【0199】
(1c)熱伝導性組成物の調製
上述の工程(1b)で調製した第2分散溶液にバインダー樹脂を加えて、最終的な熱伝導性組成物を得た。バインダー樹脂として、2液型熱硬化性ウレタン樹脂(NFH100、NCC Trade株式会社)を用いた。バインダー樹脂は、最終的な組成物100重量%を基準として約55重量%の量を加えた。具体的には、上述の工程(1c)で得られた第2分散溶液が入っている撹拌機にバインダー樹脂を加え、撹拌機の回転数を徐々に増大させてこれらを分散させた。まず、真空下で回転数を25rpmまで上昇させ、混合物を1時間撹拌し、真空を解除した。次いで、脱泡のために撹拌機の羽根を5rpmで10分間逆方向に回転させた。このようにして得られた組成物を約20分間超音波振動処理することにより、最終的に熱伝導性組成物を得た。
【0200】
工程(2):熱伝導性接着フィルムの作製
(2a)接着組成物の調製
上述の工程(1)で得られた熱伝導性組成物に接着剤を混合して接着組成物を調製した。具体的には、接着剤および熱伝導性組成物を20〜50℃で2〜4時間混合した。ここで、接着剤として用いるために、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートおよびエチレンをキシレンおよびシクロヘキサノンで希釈した。n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、エチレン、キシレンおよびシクロヘキサノンの重量比は20:20:10:10:5であった。
【0201】
(2b)熱伝導性接着フィルムの作製
上述の工程(2a)で得られた接着組成物を、ポリマー樹脂層(ポリエステルフィルム)の両側にコーティングした。コーティング層を乾燥させて、ポリマー樹脂層の上側および下側に熱伝導性接着層が形成された熱伝導性接着フィルムを作製した。作製した熱伝導性接着フィルムの表面を電子顕微鏡で観察した。これを
図2aに示す。
【0202】
工程(3):熱伝導性フィラー層の形成
膨張黒鉛粉末、銅粉末およびアルミナ粉末を60:20:20の重量比で混合して、熱伝導性フィラー粉末の混合物を得た。
【0203】
熱伝導性フィラー粉末の混合物を、FRP材料の格子状メッシュで分級した。ここで、混合物について、長方形(19×6μm)の孔を有するメッシュによる第1のふるいがけ、長方形(19×6μm)の孔および正方形(6×6μm)の孔を共に有するメッシュによる第2のふるいがけ、ならびに正方形(6×6μm)の孔を有するメッシュによる第3のふるいがけを行った。その結果、最終的に分級された熱伝導性フィラー粉末の混合物の粒径は0.5〜5μmであった。
【0204】
このように分級した粉末を、上述の工程(2)で作製した熱伝導性接着フィルムの両側にコーティングした。このとき、熱伝導性接着フィルムに電流を6〜10A/dm
2の電流密度で5〜10秒間印加しながらコーティングを行った。
【0205】
その結果、熱伝導性接着フィルムの両側に熱伝導性フィラー層が形成されたシートが得られた。
図2bは、工程(3)で作製した熱伝導性フィラー層の表面を観察した電子顕微鏡写真である。
【0206】
工程(4):圧延
先の工程で形成された熱伝導性フィラー層を有するシートをローラーで1〜5回圧延して、熱伝導性薄シートを得た。
【0207】
最終的に得られた熱伝導性薄シートの総厚さは約30μmであり、このうち熱伝導性接着フィルムの厚さは約5μmであり、熱伝導性フィラー層の厚さは約25μmであった。
【0208】
実施例2:熱伝導性薄シートを備える物品
実施例1で得られた熱伝導性薄シートを携帯電話に適用した。具体的には、携帯電話(ギャラクシーノートIII、サムスン電子)の本体を取り外した後の熱源(LCDパネル)に、熱伝導性薄シートを取り付けた。次いで、携帯電話を使用している間に熱源から発生した熱を放散させた。
【0209】
試験例1:熱拡散率の測定
種々の条件の下で、実施例1で作製した熱伝導性薄シートの熱拡散率を銅箔シートの熱拡散率と比較した。
【0210】
(1)放熱材料
・銅箔シート:市販の通常の銅シート(STN2050C、Solueta)を用いた。
・熱伝導性薄シート:実施例1の熱伝導性薄シートを用いた。
・通常の両面テープ:市販の両面テープ(CT−010、Chemuco株式会社)を用いた。
・熱伝導性両面テープ:市販の熱伝導性両面テープ(INP−TDT10、Innopole株式会社)を用いた。
【0211】
(2)サンプル(かっこ内の数字は厚さを表す)
・サンプルA1:熱伝導性薄シート(30μm)
・サンプルA2:熱伝導性薄シート(40μm)/熱伝導性両面テープ(10μm)の積層シート
・サンプルA3:通常の両面テープ(10μm)/熱伝導性薄シート(50μm)/通常の両面テープ(10μm)の積層シート
・サンプルB1:銅箔シート(16μm)
・サンプルB2:銅箔シート(20μm)/熱伝導性両面テープ(10μm)の積層シート
・サンプルB3:通常の両面テープ(10μm)/銅箔シート(50μm)/通常の両面テープ(10μm)の積層シート
【0212】
(3)試験方法
先に作製したサンプルの熱拡散率を、NETZSCH(独国)のLFA447 Nanoflashを用いて、ASTM E 1416の下でレーザーフラッシュ分析(laser flash analysis、LFA)法に従って測定した。
【0213】
(4)試験結果および評価
サンプルについて測定した水平方向(面方向)の熱拡散率を以下の表1にまとめる。
【0215】
上記表1に示すように、同じ積層構成において、実施例1の熱伝導性薄シートを用いたサンプル(サンプルA1〜A3)は、銅箔シートを用いたサンプル(サンプルB1〜サンプルB3)よりも著しく高い熱拡散率を示した。
【0216】
試験例2:引張強度の測定
実施例1の工程(1)〜(4)により作製した厚さ30μmの熱伝導性薄シートの引張強度を測定し、また、厚さ30μmの天然黒鉛シートの引張強度も測定した。結果を以下の表2に示す。引張強度は、2回の測定の平均値として得た。
【0218】
表2に示すように、実施例1の熱伝導性薄シートは、天然黒鉛シートよりも約10倍大きい引張強度を有していた。
【0219】
試験例3:携帯電話からの放熱の評価
実施例1で作製した熱伝導性薄シートを携帯電話に適用して、種々の条件下での放熱性能を評価した。
【0220】
(1)放熱材料
・銅箔シート:市販の銅シート(STN2050C、Solueta)を用いた。
・熱伝導性薄シート:実施例1の熱伝導性薄シートを用いた。
・通常の両面テープ:市販の両面テープ(CT−010、Chemco株式会社)を用いた。
・熱伝導性両面テープ:市販の熱伝導性両面テープ(INP−TDT10、Innopole株式会社)を用いた。
【0221】
(2)サンプル(かっこ内の数字は厚さを表す)
・サンプルC1:熱伝導性薄シート(30μm)/通常の両面テープ(10μm)の積層シート
・サンプルC2:熱伝導性薄シート(30μm)/熱伝導性両面テープ(10μm)の積層シート
・サンプルD1:銅箔シート(30μm)/通常の両面テープ(10μm)の積層シート
・サンプルD2:銅箔シート(30μm)/熱伝導性両面テープ(10μm)の積層シート
【0222】
(3)試験方法
携帯電話(ギャラクシーノートIII、サムスン電子)の本体を取り外した後の熱源(LCDパネル)に各サンプルを取り付けた。携帯電話の全ての機能を終了させた(初期温度:24±0.5℃)。携帯電話のビデオ録画機能を作動させて15分間温度を上昇させた後、ビデオ録画機能を停止し、15分間温度を低下させた。温度は、赤外線カメラ(TH9100PWV、NEC)を用いて、熱源に固定した2つの測定ポイントにおいて5分ごとに測定した。
【0223】
(4)試験結果および評価
それぞれ測定したサンプルの各ポイントにおける温度を以下の表3〜6にまとめる。さらに、
図4a〜5bに測定結果をグラフで示す。
【0228】
上記表3〜6および
図4a〜5bに示すように、実施例1の熱伝導性薄シートを用いたサンプル(サンプルC1およびC2)は、携帯電話の熱源の各ポイントにおいて、銅箔シートを用いたサンプル(サンプルD1およびD2)よりも低い温度を示した。
【0229】
特に、熱伝導性薄シートの一方の側に取り付けられた熱伝導性両面テープを採用したサンプル(サンプルC2)は、携帯電話の熱源の各ポイントにおいて、熱伝導性薄シートの一方の側に取り付けられた通常の両面テープを採用したサンプル(サンプルC1)よりも低い温度を示した。