(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-523092(P2019-523092A)
(43)【公表日】2019年8月22日
(54)【発明の名称】αケースがなく、かつ骨誘導が増強されたチタンインプラント表面
(51)【国際特許分類】
A61F 2/30 20060101AFI20190726BHJP
【FI】
A61F2/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2019-505364(P2019-505364)
(86)(22)【出願日】2017年6月29日
(85)【翻訳文提出日】2019年2月25日
(86)【国際出願番号】US2017039977
(87)【国際公開番号】WO2018026448
(87)【国際公開日】20180208
(31)【優先権主張番号】62/370,459
(32)【優先日】2016年8月3日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518176286
【氏名又は名称】タイタン スパイン インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TITAN SPINE,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ギャラガー、ミシェル ビー.
(72)【発明者】
【氏名】バーグ、マーク イー.
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー、ジェニファー エム.
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA03
4C097BB01
4C097CC03
4C097CC06
4C097DD09
4C097DD10
4C097FF04
4C097MM04
4C097MM05
(57)【要約】
チタンまたはチタン合金本体を有し、複数の表面を有する整形外科用インプラント。本整形外科用インプラントは、(a)整形外科用インプラントを付加構築するステップと、その後、(b)整形外科用インプラントの1つ以上の表面を機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食して、(i)1つ以上の表面からαケースを除去し、かつ(ii)1つ以上の表面に、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するステップとを含むプロセスに従って製作される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金本体を有し、複数の表面を有する整形外科用インプラントにおいて、
(a)前記整形外科用インプラントを付加構築するステップと、その後、
(b)前記整形外科用インプラントの1つ以上の表面を機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食して、(i)前記1つ以上の表面からαケースを除去し、かつ(ii)前記1つ以上の表面に、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するステップと
を備える製造方法に従って製作される、整形外科用インプラント。
【請求項2】
前記1つ以上の表面は、前記整形外科用インプラントの前記本体の内部内の表面を含む、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項3】
前記1つ以上の表面は、骨または骨移植材料に接触する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項4】
前記1つ以上の表面は、自由面である、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項5】
前記ステップ(b)は、前記整形外科用インプラントの前記1つ以上の表面を機械的に侵食し、かつその後、前記1つ以上の表面を化学的に侵食することをさらに備える、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項6】
前記整形外科用インプラントの前記1つ以上の表面の機械的侵食は、マイクロスケール構造を前記1つ以上の表面に付与し、および前記整形外科用インプラントの前記1つ以上の表面の化学的侵食は、ナノスケール構造を前記1つ以上の表面に付与する、請求項5に記載の整形外科用インプラント。
【請求項7】
化学的に侵食された前記ナノスケール構造は、機械的に侵食された前記マイクロスケール構造と重なり合う、請求項6に記載の整形外科用インプラント。
【請求項8】
前記整形外科用インプラントを付加構築する前記ステップ(a)は、前記整形外科用インプラントの移動を抑制するマクロスケールの構造的特徴をもたらし、および前記マクロスケールの構造的特徴と、前記マイクロスケールの構造的特徴と、前記ナノスケールの構造的特徴とは、互いに重なり合う、請求項7に記載の整形外科用インプラント。
【請求項9】
前記製造方法は、前記整形外科用インプラントを、熱間静水圧圧力もしくは熱間一軸圧力で処理するか、または応力を除去するように処理するステップをさらに備える、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項10】
前記処理するステップは、減圧下または不活性ガス中で完了される、請求項9に記載の整形外科用インプラント。
【請求項11】
前記プロセスは、さらに加工される前記1つ以上の表面から炭素、窒素および酸素を遮断するために、さらなる加工前に、前記付加構築された整形外科用インプラントにコーティングを適用するステップをさらに含む、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項12】
前記整形外科用インプラントを付加構築する前記ステップ(a)は、チタンまたはチタン合金の粉末、粒子、顆粒、ワイヤー、断片またはこれらの組合せを溶融して前記整形外科用インプラントの形状にすることによって完了される、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項13】
前記整形外科用インプラントを付加構築する前記ステップ(a)は、チタンまたはチタン合金の粉末、粒子、顆粒、ワイヤー、断片またはこれらの組合せを焼結して前記整形外科用インプラントの形状にすることによって完了される、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項14】
前記整形外科用インプラントを付加構築する前記ステップ(a)は、前記整形外科用インプラントを垂直方向に付加構築することを含む、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項15】
チタンまたはチタン合金本体を有し、複数の表面を有する整形外科用インプラントにおいて、
(a)1つ以上の自由面を有し、かつ骨と接触して配置されるようになされた1つ以上の骨接触面を有する前記整形外科用インプラントを付加構築するステップであって、少なくとも前記1つ以上の骨接触面は、前記骨接触面が骨と接触して配置される場合に前記整形外科用インプラントの移動を抑制するマクロスケールの粗さを有する、ステップと、その後、
(b)前記1つ以上の自由面の1つ以上および前記1つ以上の骨接触面を、順次、機械的および化学的に侵食して、(i)前記1つ以上の自由面の1つ以上および前記1つ以上の骨接触面からαケースを除去し、かつ(ii)前記1つ以上の自由面の1つ以上および前記1つ以上の骨接触面に、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するステップと
を備える製造方法に従って製作される、整形外科用インプラント。
【請求項16】
前記マクロスケールの構造的特徴と、前記マイクロスケールの構造的特徴と、前記ナノスケールの構造的特徴とは、互いに重なり合う、請求項15に記載の整形外科用インプラント。
【請求項17】
前記製造方法は、前記整形外科用インプラントを、熱間静水圧圧力もしくは熱間一軸圧力で処理するか、または応力を除去するように処理するステップをさらに備える、請求項15に記載の整形外科用インプラント。
【請求項18】
前記処理するステップは、減圧下または不活性ガス中で完了される、請求項17に記載の整形外科用インプラント。
【請求項19】
前記プロセスは、さらに加工される前記1つ以上の表面から炭素、窒素および酸素を遮断するために、前記ステップ(a)後およびさらなる加工前に、前記付加構築された整形外科用インプラントにコーティングを適用するステップをさらに備える、請求項15に記載の整形外科用インプラント。
【請求項20】
前記整形外科用インプラントを付加構築する前記ステップ(a)は、チタンまたはチタン合金の粉末、粒子、顆粒、ワイヤー、断片またはこれらの組合せを溶融または焼結して前記整形外科用インプラントの形状にすることによって完了される、請求項15に記載の整形外科用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、整形外科用インプラントの分野に関する。特に、本発明は、体内に埋め込まれると間葉系幹細胞を刺激して前骨芽細胞へ分化させ、かつ前骨芽細胞を刺激して骨芽細胞へ成熟させ、それにより新規な骨成長を促進する、整形外科用インプラントのための金属表面に関する。表面は、付加製造プロセス、それに続く二次加工の組合せによって調製される。その表面にはαケースがない。
【背景技術】
【0002】
特許、公開された出願、技術論文および学術論文をはじめとする種々の刊行物が本明細書を通して引用されている。これらの引用刊行物の各々は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
種々の整形外科用インプラントは、骨格異常を矯正するために使用される。多くの場合、インプラントが近接する骨と結合することが望ましいが、それは容易に実現されない。例えば、整形外科用インプラントによく使用されるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)など、特定のポリマー材料は、骨と結合できないことが知られている。骨と結合することができるチタン合金などの金属の場合でも、平滑表面は、結合が遅く、不十分である。さらに、歯状突起、棘、溝が添えられた整形外科用インプラントの結合表面および他の突出した表面は、事実上、骨結合を妨げるかまたは避け得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
結合が望まれる場合、結合の速度は、患者の全身健康状態に直接的に関連する。結合が速いほど、外科的に修復した部位の治癒が速く、患者は、以前には整形外科の介入が必要な状態によって妨げられていた自らの生活習慣を速く取り戻すことができる。したがって、整形外科用インプラントと、近接する骨との間に結合が生じることが強く望まれる。したがって、当技術分野において、迅速で質の高い骨結合を実現することができる結合表面に対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この必要性および他の必要性に対処するため、かつその目的を考慮して、本発明は、骨接触面および自由面を含む整形外科用インプラントの骨誘導表面を特徴とする。これらの骨誘導表面は、1つ以上の自由面を有し、骨と接触して配置されるようになされた1つ以上の骨接触面を有する整形外科用インプラントを付加製造することと、その後、1つ以上の骨接触面を機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食して、かつ任意選択により1つ以上の自由面の1つ以上を機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食して、αケースを除去し、かつ機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食された表面に、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与することとを含むプロセスに従って製作される。1つ以上の骨接触面および自由面の1つ以上は、マクロスケールの粗さを含み得る。好適な態様において、付加製造後、本プロセスは、1つ以上の骨接触面を機械的に侵食し、かつその後、化学的に侵食することと、任意選択により、1つ以上の自由面の1つ以上を機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食して、骨誘導するための粗さを付与することとを含む。したがって、1つ以上の自由面の1つ以上が侵食される一部の好適な態様において、自由面のいくつかは、侵食され、および自由面のいくつかは、侵食されない。
【0006】
このプロセスに従って製作された骨接触面および自由面は、骨誘導、骨形成、間葉系幹細胞のアルカリホスファターゼ発現、前骨芽細胞のオステリクス発現および骨芽細胞のオステオカルシン発現の1つ以上を、その速度および程度を含めて大幅に増強し、促進し、および/または上方制御する。このような増強、促進および/または上方制御は、このような表面が骨に接触される場合または間葉系幹細胞に接触される場合に発生する。このような接触は、インビトロ、またはインビボ、またはインサイチューであり得る。このプロセスに従って製作された表面によって達成される、骨誘導、骨形成、間葉系幹細胞のアルカリホスファターゼ発現、前骨芽細胞のオステリクス発現および骨芽細胞のオステオカルシン発現の1つ以上における増強は、整形外科用インプラントの他のタイプの表面により、このような他のタイプの表面が骨に接触される場合または間葉系幹細胞に接触される場合(これらの接触は、インビトロ、またはインビボ、またはインサイチューであり得る)に達成される、骨誘導、骨形成、間葉系幹細胞のアルカリホスファターゼ発現、前骨芽細胞のオステリクス発現および/または骨芽細胞のオステオカルシン発現より大幅に大きい。一部の態様において、このような他のタイプの表面は、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを欠いており、例えば、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するために機械的および/または化学的侵食によって処理されていない表面である。
【0007】
一部の態様において、本プロセスに従って製作された1つ以上の骨接触面は、骨と接触して配置されると、比較のための骨接触面であって、マクロスケールの粗さを含み、かつバルク基材を機械的および化学的に侵食することによって製作されたマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを含む、比較のための骨接触面が骨と接触して配置される場合のこの比較のための骨接触面からの骨誘導と比較して骨誘導を大幅に増強する。一部の態様において、本プロセスに従って製作された1つ以上の骨接触面は、骨と接触して配置されると、比較のための骨接触面であって、マクロスケールの粗さを含み、かつバルク基材を機械的および化学的に侵食することによって製作されたマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを含む、比較のための骨接触面が骨と接触して配置される場合のこの比較のための骨接触面からの骨形成と比較して骨形成を大幅に増強する。一部の態様において、本プロセスに従って製作された1つ以上の骨接触面は、骨と接触して配置されると、比較のための骨接触面であって、マクロスケールの粗さを含み、かつバルク基材を機械的および化学的に侵食することによって製作されたマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを含む、比較のための骨接触面が骨と接触して配置される場合のこの比較のための骨接触面からの間葉系幹細胞によるアルカリホスファターゼの発現レベルと比較して、間葉系幹細胞によるアルカリホスファターゼの発現レベルを大幅に増強する。一部の態様において、本プロセスに従って製作された1つ以上の骨接触面は、骨と接触して配置されると、比較のための骨接触面であって、マクロスケールの粗さを含み、かつバルク基材を機械的および化学的に侵食することによって製作されたマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを含む、比較のための骨接触面が骨と接触して配置される場合のこの比較のための骨接触面からの前骨芽細胞によるオステリクスの発現レベルと比較して、前骨芽細胞によるオステリクスの発現レベルを大幅に増強する。一部の態様において、本プロセスに従って製作された1つ以上の骨接触面は、骨と接触して配置されると、比較のための骨接触面であって、マクロスケールの粗さを含み、かつバルク基材を機械的および化学的に侵食することによって製作されたマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを含む、比較のための骨接触面が骨と接触して配置される場合のこの比較のための骨接触面からの骨芽細胞によるオステオカルシンの発現レベルと比較して、骨芽細胞によるオステオカルシンの発現レベルを大幅に増強する。
【0008】
整形外科用インプラントを付加製造するステップは、整形外科用インプラントを電子ビーム溶解法(EBM:electron beam melting)で付加製造することを含み得る。整形外科用インプラントを付加製造するステップは、整形外科用インプラントを、例えば直接金属レーザ焼結法(DMLS:direct metal laser sintering)を含む選択的レーザ焼結法で付加製造することを含み得る。整形外科用インプラントを付加製造するステップは、整形外科用インプラントを、例えばレーザキュージングTM(laserCUSINGTM)を含む選択的レーザ溶融法で付加製造することを含み得る。整形外科用インプラントを付加製造するステップは、整形外科用インプラントを熱溶解積層法(FDM:fused deposition modeling)、直接金属堆積法、レーザ操作によるネットシェイプ法(LENS:laser Engineered Net Shaping)、ワイヤーによる指向性エネルギー堆積法またはエネルギー源を使用して溶融する任意の他の方法で付加製造することを含み得る。付加製造プロセスは、整形外科用インプラントを付加製造するステップ後、熱間静水圧加圧法(HIP:hot isostatic pressing)または整形外科用インプラントの応力除去をさらに含み得る。
【0009】
整形外科用インプラントは、金属またはセラミックを含むことが好適である。金属は、コバルトクロム合金、チタンの合金、チタンと、アルミニウムと、バナジウムとの合金、チタンとニッケルとの合金であるニチノール、またはステンレス鋼を含み得る。
【0010】
本発明は、本明細書に記載されているかまたは例示されているプロセスのいずれかに従って製作される、1つ以上の骨接触面および1つ以上の自由面を含む整形外科用インプラントも特徴とする。機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって加工されるこれらのインプラントの表面は、このような表面が骨に接触される場合または間葉系幹細胞に接触される場合、例えばインプラントが体内に埋め込まれた後、骨誘導を、その速度および程度を含めて大幅に増強し、促進し、および/または上方制御する、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを含む。
【0011】
本発明は、チタンまたはチタン合金本体を有し、複数の表面を有する整形外科用インプラントをさらに特徴とする。整形外科用インプラントは、(a)整形外科用インプラントを付加構築するステップと、その後、(b)整形外科用インプラントの1つ以上の表面を機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食して、(i)1つ以上の表面からαケースを除去し、かつ(ii)1つ以上の表面に、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するステップとを含むプロセスに従って製作される。代替として、本プロセスは、(a)1つ以上の自由面を有し、かつ骨と接触して配置されるようになされた1つ以上の骨接触面を有する整形外科用インプラントを付加構築するステップであって、少なくとも1つ以上の骨接触面は、骨接触面が骨と接触して配置される場合に整形外科用インプラントの移動を抑制するマクロスケールの粗さを有する、ステップと、その後、(b)1つ以上の自由面の1つ以上および1つ以上の骨接触面を、順次、機械的および化学的に侵食して、(i)1つ以上の自由面の1つ以上および1つ以上の骨接触面からαケースを除去し、かつ(ii)1つ以上の自由面の1つ以上および1つ以上の骨接触面に、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するステップとを含む。
【0012】
上述の概要および以下に続く詳細な説明の両方は、例示的なものであり、本発明を限定するものではないことが理解されるべきである。
本発明は、添付の図面と関連付けて読まれると、以下の詳細な説明から最良に理解される。図面に含まれているものは、下記に要約しているとおり、いくつかの図である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】DMLSで製作した表面であり、応力除去を施したが、侵食を施されていない表面20Aと、DMLSで製作した表面であり、応力除去ならびに機械的および化学的侵食を施した表面22Aとを含む、付加製造された表面の走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)画像を示す。
【
図1B】EBMで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法(HIP)を施したが、侵食を施されていない表面20Bと、EBMで製作した表面であり、HIPならびに機械的および化学的侵食を施した表面22Bとを含む、付加製造された表面のSEM画像を示す。
【
図1C】DMLSで製作した表面であり、HIPを施したが、侵食を施されていない表面20Cと、DMLSで製作した表面であり、HIPならびに機械的および化学的侵食を施した表面22Cとを含む、付加製造された表面のSEM画像を示す。
【
図1D】レーザで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法および炭酸水素ナトリウムブラストを使用した機械的侵食を施した表面16Eと、レーザで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法およびチタンブラストを使用した機械的侵食を施した表面16Fとを含む、付加製造された表面のSEM画像を示す。
【
図1E】付加製造された表面29DのSEM画像を示し、この表面は、マクロテクスチャーが本来備わった、レーザで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法ならびに機械的および化学的侵食が施されている。
【
図2A】付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したMG63細胞によって発現したアルカリホスファターゼのレベルを示す(表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22Cは、
図1A、1Bおよび1Cで説明したものと同じ表面である)。
【
図2B】付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したMG63細胞によって発現したオステオポンチンのレベルを示す(表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22Cは、
図1A、1Bおよび1Cで説明したものと同じ表面である)。
【
図2C】付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したMG63細胞によって発現したRunX2のレベルを示す(表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22Cは、
図1A、1Bおよび1Cで説明したものと同じ表面である)。
【
図3A】付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したSAOS−2細胞によって発現したアルカリホスファターゼのレベルを示す(表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22Cは、
図1A、1Bおよび1Cで説明したものと同じ表面である)。
【
図3B】付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したSAOS−2細胞によって発現したオステリクスのレベルを示す(表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22Cは、
図1A、1Bおよび1Cで説明したものと同じ表面である)。
【
図3C】付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したSAOS−2細胞によって発現したオステオカルシンのレベルを示す(表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22Cは、
図1A、1Bおよび1Cで説明したものと同じ表面である)。
【
図3D】付加製造された表面16E、16Fおよび29D上で培養したSAOS−2細胞によって発現したアルカリホスファターゼ(左端の棒)、オステリクス(中央の棒)およびオステオカルシン(右端の棒)の各レベルをそれぞれ示す(表面16E、16Fおよび29Dは、
図1Dおよび1Eで説明したものと同じ表面である)。
【
図4】チタンの微細構造を示し、チタンの異なる合金相を図示する。
【
図6】加熱プロセス中に空気がチタンと反応するときの、表面からの距離の関数としての炭素、窒素および酸素の濃度を表すグラフである。
【
図7A】EBM機から取り外し、HIPを施したチタンディスクの金属組織断面の光学顕微鏡写真である。
【
図7B】EBM機から取り外し、HIPと従来のブラスト加工との両方を施したチタンディスクの金属組織断面の光学顕微鏡写真である。
【
図7C】EBM機から取り外し、HIPと機械的および化学的侵食との両方を施したチタンディスクの金属組織断面の光学顕微鏡写真である。
【
図8】機械的侵食および機械的侵食と化学的侵食との組合せは、未焼結の粉末または部分的に焼結した粉末を付加構築物からどのように除去することができるかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の態様に関する種々の用語が、本明細書および特許請求の範囲を通して使用される。このような用語は、別段の指示のない限り、当技術分野におけるそれらの通常の意味を付与されるものとする。他の具体的に定義された用語は、本明細書に記載の定義と一致するように解釈されるべきである。
【0015】
本明細書で使用する場合、明示的に別段の定めがある場合を除き、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、複数の指示対象を含む。
「対象」または「患者」という用語は、互換的に使用される。対象は、伴侶動物、実験動物および非ヒト霊長類などの哺乳動物を含む任意の動物とすることができる。ヒトが好適である。
【0016】
整形外科用インプラントを「垂直方向に」付加製造することは、付加製造プロセス中、構築が、骨に接触しないインプラントの表面(例えば、自由面)で開始され、骨接触面が、付加的に据えられた層の1つ以上の縁から生じるようにすることを意味する。例として、以下に限定されるものではないが、整形外科用インプラントの上面または底面が骨に接触するように意図されているが、インプラントの側面が骨に接触するように意図されていない場合、構築は、インプラントの側面の1つで開始され、骨に接触する上面または底面は、層が堆積するにつれて現れる。垂直方向の付加製造は、構築が骨接触面で開始されるより従来の水平方向の付加製造プロセスと対照的である。例として、以下に限定されるものではないが、整形外科用インプラントの上面または底面が骨に接触するように意図されているが、インプラントの側面が骨に接触するように意図されていない場合、水平方向の付加製造では、構築は、骨に接触する上面または底面の層のいずれかで開始される。
【0017】
本明細書で使用する場合、「バルク基材」は、付加製造なしに作製される整形外科用インプラントまたは整形外科用インプラントの前駆体、見本もしくは原型、例えば予備成形物、ブランク、固形物、金属鋳造物、鍛錬用金属、金属ブロック金属インゴットまたはバルク金属などを意味する。
【0018】
本明細書で使用する場合、「骨誘導」および「骨誘導すること」は、骨形成の誘導または開始を指し、整形外科用インプラントの、加工された(例えば、機械的および/または化学的に侵食された)骨接触面へのおよび/または加工された(例えば、機械的および/または化学的に侵食された)自由面への未熟な間葉系幹細胞の動員、その後のこれらの幹細胞の前骨芽細胞への表現型の進行および分化、ならびに前骨芽細胞の骨芽細胞へのさらなる表現型の進行および分化を含む。このような表現型の進行および分化は、間葉系幹細胞によるアルカリホスファターゼ発現の上方制御、間葉系幹細胞が前骨芽細胞に分化する際のオステリクスのその後の上方制御、および前骨芽細胞が骨芽細胞へ成熟する際のオステオカルシンのその後の上方制御を特徴とする。
【0019】
「骨形成」は、骨基質の形成および発生を含む。
本明細書で使用する場合、「自由面」は、インプラントが体内に埋め込まれる時点では骨に直接接触しない整形外科用インプラントの表面である。しかしながら、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するために加工される自由面は、新規の骨成長を刺激することができ、埋め込まれて自由面からの付帯的な骨成長が現れてから一定期間を経ると、自由面は、骨に接触する。一部の態様において、整形外科用インプラントの自由面の1つ以上は、例えば、インプラントが体内に埋め込まれる場合に骨移植材料(例えば、人工、同種移植または自家移植の材料)に接触することができる。開業医は、骨移植材料を自由面の1つ以上に接触して配置し得る。
【0020】
本発明によれば、整形外科用インプラントを付加製造し、その後、付加製造された表面に機械的侵食と化学的侵食との組合せを施すと、その結果、このような表面は、前骨芽細胞を刺激して骨芽細胞へ成熟され得、前骨芽細胞および骨芽細胞を刺激して、骨の産生を増進しかつ支援するタンパク質の発現を上方制御できることが観察されている。少なくともこのようなタンパク質の量は、これらの表面によって大幅に増大したことがわかり、このようなタンパク質の発現の速度も増大したと考えられる。これらの表面はまた、間葉系幹細胞を刺激して前骨芽細胞へ分化させることができ、骨の産生を増進しかつ支援するタンパク質の発現を上方制御できると考えられる。
【0021】
整形外科用インプラントの、近接する骨との結合(例えば、骨結合)が望ましい結果である場合、このようなタンパク質の上方制御は、体内での(例えば、このような表面と近接する骨との間の)結合プロセスが迅速かつ頑強に進行するであろうことを意味する。したがって、本発明は、整形外科用インプラントのための骨誘導するための骨接触面を特徴とし、これは、整形外科用インプラントの付加製造から開始して、その後、付加製作されたインプラントの表面を処理するプロセスに従って製作され、その表面は、その表面の骨誘導するための構造的特徴を製作および/または増強する侵食技術により、新規の骨成長を促進するように意図されている。
【0022】
一般に、骨誘導を増強する骨接触面を製作するプロセスは、最初に、整形外科用インプラント、例えば、インプラントが埋め込まれる体内の特定の位置のためおよびインプラントに意図された特定の矯正用途のために、所望される基本の形状、構成および構造的方向性を有するインプラント本体を付加製造することと、その後、インプラントの1つ以上の表面(例えば、骨接触面および自由面のいずれかまたは両方)を処理して、αケースを除去し、骨成長を増強する生理活性のある表面の微細構成を製作することとを含む。一部の好適な態様において、順次に行われる付加製造およびサブトラクティブ侵食プロセスによって製作される1つ以上の骨接触面は、重なり合うマクロスケールの粗さ、マイクロスケールの粗さおよびナノスケールの粗さを含む。一部の好適な態様において、順次に行われる付加製造およびサブトラクティブ侵食プロセスによって製作される1つ以上の自由面は、重なり合うマイクロスケールの粗さおよびナノスケールの粗さを含む。それぞれの粗さは、規則的な構造的特徴、不規則な構造的特徴または規則的および不規則な構造的特徴の組合せを含み得、例えば、マクロスケールの粗さ、マイクロスケールの粗さおよびナノスケールの粗さは、独立に、表面の構造配置に関して規則的であるか、不規則であるか、または規則的および不規則の両方であり得る。
【0023】
付加製造プロセスは、顕微鏡的に略平滑な表面を製作する。したがって、整形外科用インプラントを製作するために使用される付加製造技術は、少なくとも骨接触面にマクロスケールの粗さを付与することが好適であるが、付加プロセスによって製作される自由面は、触感が粗いかまたは滑らかであることができる。マクロスケールの粗さは、マクロスケールの構造的特徴を含み、これは、体内に埋め込まれると骨を掴み、インプラントの移動を抑制するように機能する。マクロスケールの特徴の形状、構成、方向性、サイズ、設計および配置は、付加製造ソフトウェアにプログラムされ得る。
【0024】
したがって、一部の態様において、整形外科用インプラントの付加製造は、付加製造によるインプラント本体の幾何学的形状、寸法および構造的特徴のエンジニアリングおよび設計を含む。インプラント本体は、任意の好適な形状または幾何学的形状、ならびに任意の好適な数の側面および表面(骨接触面を含み、自由面を含む)を含むことができ、これらは、例えば、体内の埋め込み部位の特定の形状および位置によって決まり得る。インプラントは、平坦な、丸い、規則的な、および/または不規則な表面を含むことができる。例として、以下に限定されるものではないが、整形外科用インプラントは、関節置換物(例えば、股関節、膝関節、肩関節、肘関節、足関節、手関節、顎関節など)、長骨もしくは短骨(もしくはその部分)の置換物、頭蓋骨もしくは顎骨の置換物、離れた骨(例えば、指関節、足関節、椎骨もしくは脊椎の運動分節)の癒合もしくは物理的接合が意図されたインプラント、別のインプラントを骨に固定することが意図されたインプラント(例えば、骨スクリュー、椎弓根スクリューおよび固定用部品)、骨スクリュー、髄内釘、ロッドおよびプレートなどを含む、骨折の応答を促進するためのインプラント、または体内の任意の骨を置換、修復、固定もしくは補完するための任意のインプラントを含み得る。一部の態様において、インプラントは、椎間板を置換するかまたは脊椎の運動分節を置換するためのインプラントを含む。きわめて好適な態様において、インプラントは、周囲の骨との結合を目的とする。インプラントのエンジニアリングおよび設計は、コンピュータ支援によるものであり得る。
【0025】
さらに、付加製造は、インプラントの骨接触面に付与されるマクロスケールの構造的特徴または粗さの幾何学的形状、寸法および構造的特徴のエンジニアリングおよび設計も含む。エンジニアリングは、バルク基材を積極的に酸エッチングすることによって製作された表面からマクロスケールの粗さを画像化/光走査し、画像化した情報を付加製造プログラムモデルにインポートすることから得られるものであり得る。
【0026】
マクロスケールの粗さのエンジニアリングは、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)によって規定された粗さパラメータ(例えば、ISO 468:1982年)の1つ以上の特定の値の合理的設計を考慮に入れ得る。このようなパラメータとしては、以下に限定されるものではないが、Rp(輪郭曲線の最大山高さ)、Rv(輪郭曲線の最大谷深さ)、Rz(輪郭曲線の最大高さ)、Rc(輪郭曲線の平均高さ)、Rt(輪郭曲線の最大断面高さ)、Ra(輪郭曲線の算術平均高さ)、Rq(輪郭曲線の二乗平均平方根高さ)、Rsk(輪郭曲線のスキューネス)、Rku(輪郭曲線のクルトシス)、RSm(輪郭曲線の平均長さ)、RΔq(輪郭曲線の二乗平均平方根傾斜)、Rmr(輪郭曲線の負荷長さ率)、Rδc(輪郭曲線の切断レベル差)、Ip(基準長さ−断面曲線)、Iw(基準長さ−うねり曲線)、Ir(基準長さ−粗さ曲線)、In(評価長さ)、Z(x)(縦座標値)、dZ/dX(局部傾斜)、Zp(輪郭曲線の山高さ)、Zv(輪郭曲線の谷深さ)、Zt(輪郭曲線要素の高さ)、Xs(輪郭曲線要素の長さ)およびMl(輪郭曲線の負荷長さ)が挙げられる。他のパラメータとしては、Rsa(表面積増加)、Rpc(ピークカウント)、H(スウェーデンの高さ)、ISO平坦度(面の平坦度偏差)、Pt ISO(輪郭曲線の山から谷高さ)、Rtm(平均山から谷粗さ)、Rv(最低値)、Rvm(輪郭曲線の平均谷深さ)、Ry(最大山から谷粗さ)、Rpm(平均山領域高さ)、S(局部山間の平均間隔)、SM(平均線の山間の平均間隔)、頂点数、頂点密度、頂点間隔、谷数、谷密度および谷間隔を挙げ得る。さらに、特に付加製造装置の性能が進展して、より細密でより微妙な差違のある細部を製造することが可能になっているため、付加製造は、インプラントの骨接触面または自由面に付与されるマイクロスケールの粗さおよび/またはナノスケールの粗さの幾何学的形状、寸法および構造的特徴のエンジニアリングおよび設計をさらに含み得ることが考えられる。
【0027】
整形外科用インプラントは、金属、セラミック、骨を含む任意の好適な材料またはこれらの任意の組合せもしくは複合材から付加製造することができる。金属がきわめて好適である。金属は、合金を含むことができる。好適な金属としては、チタンおよびチタン合金、例えばニッケル−チタン合金(例えば、ニチノール)およびアルミニウムとバナジウムとの(例えば、6−4)チタン合金、コバルトクロム合金ならびに外科グレード鋼(例えば、ステンレス鋼)が挙げられる。整形外科用インプラントは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリマーから製造されない方が好適である。
【0028】
付加製造は、基材上に固体材料を堆積することにより、連続的に積層し、次に堆積した固体材料を焼結または溶融して整形外科用インプラントの層にし、次にさらなる固体材料を以前の層上に堆積し、次に新たに堆積した層を焼結または溶融して以前の層との融合および次の層の確立の両方を行い、インプラントが完成するまでこれらのステップを反復することを含み得る。堆積される固体材料は、ワイヤー、粉末、粒子、顆粒、断片またはこれらの組合せの形態であり得、これらは、エネルギー源によって焼結または溶融される。粉末、粒子、顆粒、断片またはこれらの組合せは、好適には、略球形の形状である。粉末、粒子、顆粒、断片またはこれらの組合せは、不規則な形状、または不規則な縁、またはギザギザの縁を含まないことが好適である。球は、異なるサイズを含み得るかまたは略同じサイズであり得る。
【0029】
付加製造は、粉末、粒子、顆粒、ワイヤー、断片またはこれらの組合せを焼結および/または溶融することを含み得る。焼結および/または溶融は、堆積された層が、実質的に完全に溶融した材料で構成されるように、粉末、粒子、顆粒、断片またはこれらの組合せを実質的に完全に溶融することを実現するのが好ましく、その材料は、好適には、金属である。好適な付加製造技術としては、以下に限定されるものではないが、選択的レーザ焼結法、例えば直接金属レーザ焼結法(DMLS)(DMLS(登録商標)は、EOS有限責任会社(EOS GmbH)の役務商標である)、選択的レーザ溶融法、例えばレーザキュージング(laserCUSING)(商標)(コンセプトレーザ・シュッツレヒツフェアヴァルトゥングス有限責任会社(Concept Laser Schutzrechtsverwaltungs GmbH))、電子ビーム溶解法(EBM)、熱溶解積層法(FDM)、直接金属堆積法、レーザ操作によるネットシェイプ法(LENS)およびワイヤーによる指向性エネルギー堆積法が挙げられる。このように、エネルギー源は、レーザビームまたは電子ビームを含むことができるが、材料を溶融するための任意の好適な技術を使用し得る。
【0030】
堆積および/または焼結もしくは溶融は、不活性環境、例えば低酸素でかつ/または窒素および/もしくはアルゴンの存在下で行うことができる。一部の態様において、先行する層(形成されたばかりの層)は、それに続く層がその上に堆積される前に実質的に凝固していない。一部の態様において、先行する層(形成されたばかりの層)は、それに続く層がその上に堆積される前に少なくとも部分的に凝固している。
【0031】
一部の態様において、インプラントは、垂直方向に付加製造される。垂直方向の付加製造は、製造されるインプラントの骨接触面以外の表面(例えば、自由面)を構成することになる層を作製することによって開始され、それに続く層は、反対の表面が完成するまで堆積され、焼結または溶融される。それにより、骨接触面は、垂直方向の構築スキームで据えられた層の縁から現れる。
【0032】
付加プロセスによるインプラント本体の構築の完了に続いて、形成されたインプラント本体の再加熱を含む応力除去加工がインプラント本体に施され得る。応力除去は、減圧下および/または不活性ガス下で行うことができる。加熱は、金属内に拡散を引き起こす温度で行うことができ、次に冷却ステップが行われる。一部の態様において、再加熱は、圧力も伴い得る。圧力は、一軸性(例えば、一方向から加圧;熱間一軸加圧法またはHUP)または静水圧性(例えば、全方向から均等に加圧)のいずれかであり得る。熱間静水圧加圧法(HIP)がきわめて好適である。
【0033】
HIPは、加熱およびガスを添加および除去することで圧力制御ができる密封容器内にインプラント本体を配置することによって行われる。通常、インプラント本体が密封容器内に配置されると、容器は、排気されて、いかなる汚染ガスも除去される。次いで、容器は、不活性ガス(例えば、アルゴン)をチャンバー内に導入して圧力を増加しながら加熱される。次いで、容器は、一定時間にわたって高温および高圧に維持され、その後、容器は、急速に冷却および減圧される。
【0034】
HIPは、インプラント本体が作製される材料の融点より低温であるが、拡散およびインプラント本体の塑性変形が起こるのに十分に高い温度で行われる。温度は、通常、溶融温度の80%未満である。例えば、6%アルミニウムおよび4%バナジウムを含むチタン合金の場合、インプラント本体は、ASTM標準規格(ASTM Standard Specification)F3001に従って、少なくとも100MPa(14,504PSI)の圧力において、180±60分間にわたって895℃(1,643°F)〜955℃(1,751°F)±15℃(59°F)の範囲の温度まで加熱し、次いで425℃(797°F)未満まで冷却することができる。他の材料について、類似の規格、例えばASTMの他の規格が当業者に知られている。
【0035】
HIPは、インプラント本体に変化をもたらすと考えられる。例えば、温度と圧力との組合せにより、インプラント本体中に存在する任意の包含物の崩壊が生じる。一部の態様において、インプラント本体の密度は、HIP後に略100%に近いかまたは100%に等しくなり得、これは、インプラントが包含物体(内部孔)を実質的に含まない可能性があることを意味する。層間境界を除去し、包含物を除去すると、インプラント本体の機械的強度が向上し、埋め込まれると破損の可能性が低くなる。金属拡散も、上記の付加製造プロセスから生じる金属層間の境界を縮小または除去することができる。
【0036】
さらに、HIPによる高温および高圧は、粒界全域にわたって金属拡散を促進し、その結果、粒状構造、粒径、粒度組成、粒度分布またはこれらの任意の組合せが改良される。一部の態様において、HIPは、特に電子ビーム溶解付加構築と組み合わされると、少なくとも粒径を増大させることができる。HIPは、インプラントの表面上の粒状構造および粒間境界の両方を変化させることができる。
【0037】
付加製造ステップ後、およびさらに応力除去処理、HUP処理またはHIP処理がプロセス中に使用される場合にはこのような処理後、プロセスは、付加製作された骨接触面、自由面または骨接触面および自由面の両方を侵食して、骨誘導するための構造的特徴をこれらの表面に付与することをさらに含む。骨誘導するための構造的特徴は、骨誘導を増進または増強するマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む。付加製造されたインプラントの骨接触面の1つ以上は、機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食されて、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さが骨接触面に付与される。一部の態様において、付加製造されたインプラントの自由面の1つ以上は、機械的に、化学的に、または機械的および化学的に侵食されて、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さが自由面に付与される。このように、付加製造されたインプラントの骨接触面および自由面のいずれかまたは両方は、骨誘導するためのマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含むように加工することができる。実質的に、このような加工は、付加製造されたマクロスケール構造と、侵食によって製作されたマイクロスケール構造およびナノスケール構造との重なりを確立することができる。
【0038】
機械的および/または化学的な処理は、サブトラクティブプロセス、例えば侵食またはエッチングの役割を果たす。機械的侵食としては、以下に限定されるものではないが、整形外科用インプラントの骨接触面をフォトエッチング、エネルギー照射、プラズマエッチング、レーザエッチング、電気化学エッチング、マシニング、掘削、研削、ピーニング、研磨剤ブラスト(例えば、アルミニウム粒子もしくは酸化チタン粒子のブラストを含むサンドブラストまたはグリットブラスト)またはこのようなプロセスの任意の組合せに曝露することが挙げられる。化学的侵食は、例えば、選択表面またはインプラント全体を酸または塩基などの化学物質に曝露し、酸または塩基に接触する骨接触面を酸エッチングまたは塩基エッチングすることを含み得る。化学的侵食としては、以下に限定されるものではないが、化学的、電気化学的、光化学的、光電気化学的もしくは他のタイプの化学的なミリング、エッチングまたは基材の一部を除去するために使用される他の処理を挙げることができる。エッチング剤は、湿式または乾式であり得、いずれの状態(液体、気体または固体)でもあり得る。好適な態様において、機械的侵食および化学的(例えば、酸)侵食は、付加製造後に連続して使用される。機械的侵食が化学的侵食に先行することが好適である。機械的侵食も化学的侵食も骨接触面に孔を導入しない方が好適である。
【0039】
骨誘導するための特徴をインプラント表面に付与するためにこのような表面の侵食をする前に、骨誘導または別に骨成長の誘導を意図されていないインプラントの他の表面または平滑面として付加製造されているインプラントの他の表面は、マスキングによって保護され得る。一部の態様において、自由面は、マスキングによって保護され得る。むき出しでマスキングをしていないインプラントの表面は、その後、機械的および化学的に侵食することができる。
【0040】
機械的侵食は、粒子を使用してブラストすることによって実現されることが好適である。粒子は、有機または無機の媒体を含み得る。好適な粒子としては、例えば、酸化アルミニウム粒子、および/もしくは酸化チタン粒子、および/もしくはガラスビーズ粒子、および/もしくは軽石粒子、および/もしくは炭化ケイ素粒子、および/もしくはヒドロキシアパタイト粒子、もしくは他の好適な金属粒子、またはセラミック粒子が挙げられる。クルミ殻などの有機粒子または炭酸水素ナトリウムなどの溶解可能な粒子も好適である。
【0041】
化学的侵食は、酸を使用して実現するのが好適であるが、インプラント材料の骨接触面を侵食することができる任意の化学物質を使用することができる。好適な酸は、HF、HNO
3、H
2SO
4、HCl、HBr、HI、HClO
4、クエン酸などの強酸およびこれらの任意の組合せであるが、使用される特定の酸が重要であるわけではない。酸は、骨接触面または自由面の骨誘導を増強する性質を増強するように粒状構造および粒界をエッチングすると考えられる。化学的侵食は、機械的侵食後に行うことがきわめて好適である。化学的侵食は、単一の化学的処理で完了させ得るが、骨接触面にナノスケール構造を追加または増強するために複数の処理を使用し得る。化学的侵食性の強度、侵食が発生する温度、侵食プロセスに充てられる時間を制御すると、侵食によって製作されて得られる表面に対して微調整が可能になる。
【0042】
機械的侵食加工ステップおよび化学的侵食加工ステップの一方または両方は、望ましくない汚染物質を除去する可能性がある。一部の用途では、金属表面上に形成される傾向がある酸化物は、除去され得る。しかし、別の用途では、酸化物は、望ましい場合があり、したがって酸化物の除去を回避するように加工ステップを設計するべきである。より具体的には、チタン表面上の一部の酸化物は、有益であり得る。例えば、グレッツァー(Gretzer)らによって出願された米国特許出願公開第2010/0174382号明細書を参照されたい。グレッツァー(Gretzer)らは、インプラント表面を有する骨組織インプラントを開示している。その表面は、ストロンチウムイオンを含む酸化物層で覆われている。本出願人らは、酸化物層中のストロンチウムイオンが望ましい骨誘導効果を有することを擁護する。
【0043】
他の用途では、チタン表面上の酸化物は、回避または除去されなければならない。チタンまたはチタン合金で形成されたインプラント上の「αケース」と呼ばれる特定の酸素を多く含む表面相を回避または除去することが特に望ましい。上記の機械的侵食加工ステップおよび化学的侵食加工ステップの一方またはそれらの組合せは、αケースが存在する場合、これをチタンインプラントの侵食された表面から実質的に除去することができる。このような除去の説明が以下に続く。
A.αケースおよびそのチタン基材
チタンは、1791年および1795年にそれぞれ発見され、命名された。その不純形態は、1887に最初に調製されたが、純粋な金属(99.9%)は、1910年まで作製されなかった。チタンは、隕石、鉱物、鉄鉱石、石炭灰、植物および人体を含む複数の供給源中に見出される。チタンを商業用に製作するために現在も広く使用されている方法は、1946年に発見されたものであり、マグネシウムを使用して四塩化チタンを還元し、純粋な金属を単離する。
【0044】
純粋なチタンは、光沢のある白色の金属である。それは、約1,720℃(3,140°F)の比較的高い融点、4.5の低比重、低密度、良好な強度を有し、約425〜540℃(800〜l,000°F)未満の温度で腐食に対する耐性が優れている。チタンの弾性率は、1103.16×10
8Pa(16×10
6lb/in
2)であり、これは、多くのアルミニウム合金より剛性が高いことを意味する。チタンは、容易に製造される。これらの性質のため、チタンおよびその合金の使用は、きわめて魅力的であり、チタンは、他の金属との合金材として重要である。チタンの合金は、例えば、医療用インプラントに使用される。
【0045】
チタン金属およびその合金は、約425℃(800°F)を超える温度で他の元素と反応するという不都合を有し、これは、高温でのその使用を制限する。チタンの高温での反応特性は、加工作業およびその初期製作でかなりの困難を引き起こす。
【0046】
チタンは、2つの同素形で存在する。すなわち、885℃(1,625°F)までの温度ではαおよびその温度を超えるとβである。αチタンは、六方最密充填(HCP:hexagonal close packed)結晶構造を有し、βは、体心立方体(BCC:body−centered cubic)である。多くの合金元素は、αからβへの変形温度を低下させる。酸素、窒素およびアルミニウムは、変形温度を高くする。酸素および窒素は、硬度および強度を高めるが、延性を低下させ、したがって成形性が低下する。α相のアルミニウムの安定効果は、高温での安定性を増進し、このため、多くのチタン合金においてアルミニウムが重要な元素になっている。
【0047】
合金元素である鉄、マンガン、クロム、モリブデン、バナジウム、コロンビウムおよびタンタルは、β相を安定化させ、したがってαからβへの変形温度を低下させる。コロンビウムおよびタンタルを添加すると、強度が向上し、チタンとアルミニウムとの化合物の存在によって生じる脆化を防ぐのに役立つ。元素の中で、ニッケル、銅およびケイ素は、共析晶を活発に形成するが、マンガン、クロムおよび鉄は、共析晶の形成が緩慢である。元素の中で、スズおよびジルコニウムは、α構造およびβ構造の両方において可溶性である。
【0048】
チタン合金は、その構造に応じて3つの一般的カテゴリーに分類することができる。すなわち、(1)全α合金は、中性合金元素および/またはα安定化元素のみを含有し、熱処理に対して反応性がなく、したがって他の合金で可能な強度を進展させない。(2)α−β合金は、α安定化元素とβ安定化元素との組合せを含有し、様々な程度まで熱処理可能であり、良好な延性を有する。および(3)全β合金は、準安定性であり、延性が比較的低く、十分なβ安定化元素を含有して加工時にβ相を完全に維持し、溶体化処理およびエージングされて強度の大幅な増加を実現することができる。
【0049】
図4は、チタンの微細構造の例を示し、チタンの異なる合金相を図示する。安定化元素は、金属中の溶解度が高い元素であり、通常、合金に使用される。安定化元素をチタンに添加する目的は、特定の相の変形温度を変化させて、2元系α−β相を作り出すことである。α安定化元素(通常はアルミニウム)は、α相の変形温度を高くするために添加される。同形のβ安定化元素であるバナジウムは、β相において完全に可溶性である。鉄などの他のβ安定化元素は、完全には可溶性でなく、共析晶相を生じさせる。安定化元素は、その元素周期表記号による名称および重量パーセントで表される。例えば、Ti−6Al−4Vは、6%アルミニウムおよび4%バナジウムである。
【0050】
Ti−6Al−4Vは、最も一般的なチタン合金であり、チタンの総使用量の50%より多くを占める。それは、α−β合金であり、強度の適度な増加を実現するための熱処理が可能である。Ti−6Al−4Vは、高強度で、軽量で、延性および腐食耐性があるため、多くの用途において世界標準となっている。この合金の最も一般的な用途の1つは、医療用デバイスである。
【0051】
ELIは、特別に低い侵入型の略語であり、鉄ならびに侵入型元素である炭素および酸素が下限であるTi−6Al−4Vの高純度の型である。Ti−6Al−4Vと同様に、ELIもα−β合金である。TI−6Al−4V ELIは、生体適合性に優れ、したがって多くの医療用途に選択される材料となっている。ELIは、標準的なTi−6Al−4Vと比較して極低温度で損傷許容性(破壊靱性、疲労亀裂進展速度)に優れ、機械的性質に優れている。TI−6−4 ELIの一般的な用途としては、関節置換物、骨固定デバイス、止血鉗子および極低温タンクが挙げられる。
B.αケース
チタンは、高温で酸素を敏速に吸収する。チタンおよびその合金が、加熱した空気または酸素に曝露されると、αケースと呼ばれる酸素を多く含む表面相の形成が発生し得る。αケース層は、チタン表面への酸素拡散によって生じる。より一般的には、αケースは、加熱後にチタンに存在する、炭素、窒素または特に酸素を多く含むα安定型表面である。
【0052】
図5は、チタン−酸素の状態図を表す。HCP相は、α相を表し、BCCは、β相である。α−β相は、HCPとBCCとの間の領域である。2元系相をHCP相から分割している線は、αケースを形成するために必要な酸素の濃度である。多くの場合、熱処理プロセスは、このシナリオが可能な状態図上で複数の温度に到達する。
【0053】
図6は、加熱プロセス中にチタン表面で空気がチタンと反応するときの炭素、窒素および酸素の濃度を表すグラフである。予測したとおり、炭素および窒素の濃度は、低く安定している。酸素は、チタン中で可溶性が一層高く、したがって、その濃度勾配は、表面で一層高い。
図6のグラフに示されている値は、加熱条件の影響下にあるが、酸素、窒素および炭素の一般的な振る舞いは、チタンについて典型的である。酸素濃度勾配は、上記のαケース相を表している。αケースの厚さは、曝露時間、雰囲気および温度に依存する。
【0054】
αケースは、硬く、脆性があるため、望ましくない。さらに、αケースは、チタン金属の性能および特にその疲労強度性を低下させる一連の微小亀裂を作り出す傾向がある。さらに、αケースは、腐食耐性に悪影響を及ぼし得るため、チタンの使用に対して欠点を呈し、機械的性質の点でチタンの高温性能を制限する。
C.αケースのない表面の形成
αケースの不利点を考慮すると、αケースのないチタンインプラントの表面を形成することが望ましい場合が多い。一般に、このような表面を実現するために2つの方法がある。1つの方法は、最初の段階で(すなわちチタンの加工中に)αケースの形成を回避するかまたは少なくとも最小限にすることである。αケースの形成は、チタンが酸素の非存在下で加熱される真空冶金または不活性ガスを使用することにより、最小限にすることができる。このように、αケースは、きわめて高い真空レベルまたは不活性環境でチタンを加工することにより、最小限にするかまたは回避することができる。しかし、様々な理由により、酸素の非存在下でチタンを加工することは、実際的でないかまたは望ましくない場合がある。
【0055】
また、加熱されるチタン表面から炭素、窒素および酸素を遮断するためにコーティングを適用して、αケースの形成を制御することも可能である。A.O.スミス・コーポレーション(A.O.Smith Corporation)から入手可能なセラム−ガード(Ceram−Guard)(登録商標)コーティング商品系が好適であり得る。セラム−ガード(Ceram−Guard)(登録商標)コーティングは、加熱中に金属を一時的にコーティングし、保護するための高温セラミックフリットである。αケースは、チタン表面に形成されなければ除去する必要がない。
【0056】
しかし、αケースがチタンの表面に存在すると、αケースがないチタンインプラントの表面を形成するための第2の方法は、αケースを除去することである。αケースは、熱処理後、機械的または化学的に除去することができる。例えば、2012年5月23日に公開され、ユナイテッド・テクノロジーズ・コーポレーション(United Technologies Corporation)に譲渡された「β相チタン合金からαケースチタン層を除去する方法(Method of removing an alpha−case titanium layer from a beta−phase titanium alloy)」という名称の欧州特許出願公開欧州特許第1947217B1号明細書を参照されたい。公開されたこの出願は、チタン合金α相を有する表面層を化学的に除去するステップを含む、チタン品の表面処理方法を開示している。開示されている一例では、化学的除去は、硝酸およびフッ化水素酸を有する第1の溶液および硝酸を有する第2の溶液を使用することを含む。
【0057】
新興技術は、塩化カルシウムまたは塩化リチウムなどの溶融塩中での電気化学処理をチタン金属に高温で施すというものである。この方法は、少なくとも実験室環境では、αケースからの溶存酸素の除去およびしたがって金属の回収において有効である。しかし、残念ながら、高温処理の不所望な結果は、金属中の結晶粒の成長である。結晶粒成長は、溶融塩温度の低下によって制限することができる。あるいは、大きい結晶粒を破壊してそれより小さい結晶粒にするために、金属をさらに加工することができる。
【0058】
本発明に従いかつインプラントがチタンで形成される場合、骨誘導を増強するインプラント表面を形成するために使用されるプロセスの重要な態様は、いかなるαケースも除去することである。αケースは、機械的侵食(例えば、マシニング)、化学的侵食(例えば、エッチングもしくはミリング)またはその両方のサブトラクティブ加工ステップによって除去される。これらのステップは、上述されている。αケースの除去におけるこのようなサブトラクティブ加工ステップの有効性は、
図7A、7Bおよび7Cに図示されている。
【0059】
αケースは、研磨されかつエッチングされた検鏡用切片中において、光学金属顕微鏡では白色層として、または走査型電子顕微鏡(SEM)では後方散乱モードで暗色層として見える(SEMは、集束電子ビームで試料を走査することにより、その画像を生成する顕微鏡の種類である)。αケースは、切片の表面に垂直に微小硬度計を押し込むことによって検出することもできる。
【0060】
チタンディスクは、電子ビーム溶解法(EBM)を使用して付加製造した。次いで、これらのディスクに熱間静水圧加圧法(HIP)を施した。ディスクの1つは、さらなる加工を施さず(
図7A)、別のディスクは、従来のプロセスを使用してブラストし(
図7B)、さらに別のディスクは、上記のプロセスステップに従って機械的および化学的侵食を施した。各ディスクの光学顕微鏡写真が得られた。これらを
図7A、7Bおよび7Cに示す。
【0061】
図7Aは、EBM機から取り外し、HIPを施したチタンディスクの金属組織断面の光学顕微鏡写真である。このディスクは、およそ0.09mmの深さのαケースの存在と一致する明るめのエッチング相(2つの矢印間の領域)を示した。
図7Bは、EBM機から取り外し、HIPと従来のブラスト加工との両方を施したチタンディスクの金属組織断面の光学顕微鏡写真である。このディスクは、およそ0.015mmの深さのαケースの存在と一致する明るめのエッチング相(2つの矢印間の領域)を示した。
図7Cは、EBM機から取り外し、HIPと、上記のプロセスステップによる機械的および化学的侵食との両方を施したチタンディスクの金属組織断面の光学顕微鏡写真である。このディスクは、明るめのエッチング相を何ら示さず、いかなるαケースも存在しないことを示した。
【0062】
機械的侵食、化学的侵食および機械的侵食と化学的侵食との組合せは、αケースが存在する場合、これをチタンインプラントの侵食された表面から実質的に除去する。この侵食の組合せは、αケースを十分に除去すると考えられる。したがって、一部の態様において、インプラントの骨接触面および自由面は、好適には、αケースが実質的にないかまたは完全にない。
【0063】
より一般的には、機械的侵食、化学的侵食および機械的侵食と化学的侵食との組合せは、他の(αケースの他に)望ましくない汚染物質(またはデブリ)をインプラント表面から除去することができる。
図8は、機械的侵食および機械的侵食と化学的侵食との組合せが未焼結の粉末または部分的に焼結した粉末を付加構築物からどのように除去できるかを示す。
図8は、拡大率250×(上段)および拡大率1,500×(下段)での焼結したチタン合金の表面のSEM画像を示す。左欄の画像は、機械(付加構築された際の)から外し、後に続く侵食加工を何ら行わない表面の拡大を示す。中央欄の画像は、付加構築後に機械的侵食を行った表面の拡大を示す。右欄の画像は、付加構築後に順次に行われる機械的侵食および化学的侵食を行った表面の拡大を示す。
【0064】
機械的侵食は、マイクロスケールの構造的特徴を付与することに加えて、インプラント表面からデブリを除去するかまたは減少させることもできる。酸侵食も、ナノスケール構造的特徴をインプラント表面に付与することに加えて、インプラント表面からデブリを除去するかまたは減少させることができる。デブリは、汚れまたは取り扱いによる他の人工物などの外部のデブリを含み得る。外部のデブリは、機械的侵食/ブラストステップに由来する媒体の粒子または成分も含み得、その粒子は、インプラント表面に留まった可能性がある。デブリは、付加構築プロセスの人工物などの内因性のデブリ、例えば付加構築中に完全に溶融しなかったまたは完全に焼結されなかった粉末、粒子、顆粒などを含み得る。
【0065】
例えば、
図8は、付加構築によって作り出されたチタン表面のSEM画像を示し、左欄の画像(2つの異なる拡大率における)は、付加構築によって一部の粒子が十分に融合されていないことを示す。したがって、インプラント上のこのような粒子が埋め込み後に外れる恐れがあり、患者にとって局所的または全身的にマイナスの結果をもたらすリスクがある。したがって、侵食プロセスは、未焼結/未溶融の粒子または焼結が不完全であるかもしくは溶融が不完全である粒子を表面から除去し、それにより、粒子が外れるリスクを低減するために使用することができる。
【0066】
図8の中央欄に示すように、機械的侵食は、融合していないかまたは部分的に融合した粒子の量を付加構築された構造の表面から大幅に低減することができる。
図8の右欄に示すように、化学的侵食を(機械的侵食後に)加えると、融合していないかまたは部分的に融合した粒子の量を付加構築された構造の表面からさらに低減することができる。
【0067】
1つ以上の侵食プロセスステップ後、いずれの保護マスキングもインプラントから除去され得、侵食された表面および侵食されていない表面は、清浄にされ得る。表面はまた、例えば、硝酸を含む水溶液を使用して不動態化され得る。表面は、清浄にされ得、かつ水で洗浄され得る。
【0068】
好適な態様において、いかなる材料も骨接触面に添加されず、含浸されず、埋め込まれず、被覆されず、噴霧されず、または他に配置されない。好適な態様において、いかなる材料も自由面に添加されず、含浸されず、埋め込まれず、被覆されず、噴霧されず、または他に配置されない(実際には、望ましくない汚染物質を除去するために侵食プロセスが使用され得る)。
【0069】
付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された骨接触面および自由面は、マクロスケール構造、マイクロスケール構造およびナノスケール構造の組合せを含む骨誘導するための粗さを含む。付加製造プロセスは、好適には、製造中に製作される骨接触面に特にエンジニアリングされるマクロスケールの特徴を主に製作し、付加製造プロセスによって製作される自由面は、実質的に平滑であり、これらのマクロスケールの構造を有さない。しかしながら、一部の態様において、自由面の1つ以上は、特に、必ずしもではないが、埋め込まれるときにこのような表面が骨移植材料に接触して配置される場合にマクロスケールの特徴を含み得る。機械的および化学的侵食により、マイクロスケール構造およびナノスケール構造は、加工された骨接触面および加工された自由面にそれぞれ加えられる。好適な態様において、機械的侵食は、加工された表面に主にマイクロスケール構造を付与し、機械的侵食に続く化学的侵食は、主にナノスケール構造を付与する。したがって、付加製造ならびに機械的および/または化学的侵食から得られる骨接触面および自由面は、マクロスケールの粗さ、マイクロスケールの粗さおよびナノスケールの粗さを含み、これらの粗さは、少なくとも部分的に重なり合うことができ、または実質的に重なり合うことができ、または完全に重なり合うことができる。全体として、これらの3つのスケールの構造的特徴は、幹細胞分化、前骨芽細胞成熟、骨芽細胞発生、骨誘導および骨形成の1つ以上を大幅に増強する。
【0070】
マクロスケールの構造的特徴は、比較的大きい寸法、例えばミリメートル(mm)で測定される寸法、例えば1mm以上を含む。マイクロスケールの構造的特徴は、ミクロン(μm)で測定される寸法、例えば1ミクロン以上であるが、1mm未満を含む。ナノスケールの構造的特徴は、ナノメートル(nm)で測定される寸法、例えば1ナノメートル以上であるが、1ミクロン未満を含む。マクロの構造的特徴、マイクロの構造的特徴および/またはナノの構造的特徴のパターンは、規則的なおよび/または反復するパターンで構成することができ、かつ任意選択により互いに重なり合うことができ、またはこのような特徴は、不規則なもしくはランダムなパターンまたは反復する不規則なパターン(例えば、不規則なパターンのグリッド)であり得る。
【0071】
付加製造ならびに本明細書に記載の機械的および化学的侵食ステップは、特定のインプラント用途に好適な、深さ、高さ、長さ、幅、直径、特徴のサイズおよび他の形状寸法の組合せを作り出すために調節することができる。特徴のパターンの方向性も調整することができる。特に、骨誘導を増強する表面の最終的なパターンは、埋め込み時にインプラントに対して適用され得る生物学的な力および埋め込み方向と反対の向きにされ得るため、このような柔軟性は、望ましい。
【0072】
マクロスケールの構造的特徴、マイクロスケールの構造的特徴およびナノスケールの構造的特徴は、骨に接触するインプラントの表面に通常存在する歯状突起、棘、畝および他の骨を掴む超マクロスケールの構造と異なる。このような歯状突起、棘および畝は、骨に食い込むかまたは骨を引っ掻くように意図されている。それとは対照的に、本明細書に記載または例示しているマクロ構造を含む骨接触面は、付加製造によって製作されるものであるが、歯状突起、棘、畝および他の骨を掴む超マクロスケールの構造のように骨を損傷したりまたは骨に食い込んだりしない。そうではなく、本発明の骨接触面は、体内に埋め込まれると骨表面を摩擦式に掴むように支持し、インプラントの移動を抑制する。
【0073】
付加製造後の機械的侵食および化学的侵食によって製作された骨接触面および自由面上の骨誘導するためのマイクロスケール構造およびナノスケール構造は、骨誘導を増強および/または促進する。付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方は、このような侵食で加工される骨接触面および自由面に、骨誘導するための粗さを作り出すかまたは付与する。骨誘導するための粗さは、一緒になって骨誘導の速度および/または量を増進、増強または促進するマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む。この骨誘導するための粗さがあるため、新規な骨成長は、このような整形外科用インプラントの加工された表面から始まり、その表面上でおよびその表面から成長する。整形外科用インプラントの骨接触面上のマクロスケール構造は、骨を掴み、体内でインプラントの移動を抑制し、したがって、これは、骨誘導の速度および/または量をさらに増進、増強または促進する。なぜなら、移動を抑制すると、新規な骨成長が進行する際に初発の骨組織の破壊が抑制されるからである(例えば、意図しない移動は、新たに形成された骨基質および組織を破壊することにより、骨成長の進行を中断させ得る)。
【0074】
骨誘導するための粗さを付与するために、付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された骨接触面および自由面からの骨誘導の増強および/または促進は、機械的侵食および化学的侵食のいずれかまたは両方が施されていない表面によって達成される骨誘導または骨誘導の増強および/または促進のレベルより大幅に大きい。機械的侵食および化学的侵食のいずれかまたは両方が施されていない骨接触面および/または自由面は、マイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを欠いている場合がある。一部の態様において、本プロセス(付加製造、それに続く機械的および/または化学的侵食)に従って製作された1つ以上の骨接触面は、骨と接触して配置されると、未処理の骨接触面(機械的および/または化学的侵食で処理されていない)が骨と接触して配置される場合の、未処理の表面からの骨誘導、骨形成、間葉系幹細胞によるアルカリホスファターゼ発現、前骨芽細胞によるオステリクス発現および/または骨芽細胞によるオステオカルシン発現と比較して、骨誘導、骨形成、間葉系幹細胞によるアルカリホスファターゼ発現、前骨芽細胞によるオステリクス発現および骨芽細胞によるオステオカルシン発現の1つ以上を大幅に増強する。
【0075】
骨誘導するための粗さを付与するために、付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された骨接触面および自由面からの骨誘導の増強および/または促進は、バルク基材(すなわち付加製造によって製作されていない基材)の機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作されたマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを含む比較のための表面によって達成される、骨誘導または骨誘導の増強および/または促進のレベルより大幅に大きい。このように、インプラントが付加製造され、その表面が加工/侵食される場合および比較のためのインプラントがバルク基材から製造され、その表面が加工/侵食される場合、加工済みの付加製造されたインプラントからの骨誘導は、加工済みのバルク基材からの骨誘導より大幅に増強することができる。
【0076】
平滑であるか、または歯状突起、畝、溝および加工/侵食されていない超マクロ構造を含むか、またはコールドスプレーされたか、熱溶射されたかもしくは接着剤で付着された粒子、繊維もしくは粉末を含むか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するための機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方が行われていないか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを欠いている整形外科用インプラント表面は、骨誘導を大幅に増強せず、骨誘導せず、および/またはその骨誘導能力において、本発明に従って骨誘導するための粗さを付与するための、付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された整形外科用インプラント表面と比較して劣ると考えられる。関連して、平滑であるか、または歯状突起、畝、溝および加工/侵食されていない超マクロ構造を含むか、またはコールドスプレーされたか、熱溶射されたかもしくは接着剤で付着された粒子、繊維もしくは粉末を含むか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するための機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方が行われていないか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを欠いている整形外科用インプラント表面は、骨誘導を大幅に増強せず、骨誘導せず、および/またはその骨誘導能力において、バルク基材の機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された整形外科用インプラント表面と比較して劣る。
【0077】
付加製造後の機械的侵食および化学的侵食によって製作された骨接触面および自由面上の骨誘導するためのマイクロスケール構造およびナノスケール構造は、骨形成を増強および/または促進する。付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方は、このような侵食で加工される骨接触面および自由面に、骨誘導するための粗さを作り出すかまたは付与する。骨誘導するための粗さは、一緒になって骨形成の速度および/または量を増進、増強または促進するマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む。この骨誘導するための粗さがあるため、新規な骨成長は、このような整形外科用インプラントの加工された表面から始まり、その表面上でおよびその表面から成長する。整形外科用インプラントの骨接触面上のマクロスケール構造は、骨を掴み、体内でインプラントの移動を抑制し、したがって、これは、骨形成の速度および/または量をさらに増進、増強または促進する。なぜなら、移動を抑制すると、新規な骨成長が進行する際に初発の骨組織の破壊が抑制されるからである(例えば、意図しない移動は、新たに形成された骨基質および組織を破壊することにより、骨成長の進行を中断させ得る)。
【0078】
骨誘導するための粗さを付与するために、付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された骨接触面および自由面からの骨形成の増強および/または促進は、バルク基材の機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作されたマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを含む比較のための表面によって達成される、骨形成または骨形成の増強および/または促進のレベルより大幅に大きい。このように、インプラントが付加製造され、その表面が加工/侵食される場合および比較のためのインプラントがバルク基材から製造され、その表面が加工/侵食される場合、加工済みの付加製造されたインプラントからの骨形成は、加工済みのバルク基材からの骨形成より大幅に増強することができる。
【0079】
平滑であるか、または歯状突起、畝、溝および加工/侵食されていない超マクロ構造を含むか、またはコールドスプレーされたか、熱溶射されたかもしくは接着剤で付着された粒子、繊維もしくは粉末を含むか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するための機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方が行われていないか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを欠いている整形外科用インプラント表面は、骨形成を大幅に増強せず、骨形成せず、および/またはその骨形成能力において、本発明に従って骨誘導するための粗さを付与するための、付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された整形外科用インプラント表面と比較して劣ると考えられる。関連して、平滑であるか、または歯状突起、畝、溝および加工/侵食されていない超マクロ構造を含むか、またはコールドスプレーされたか、熱溶射されたかもしくは接着剤で付着された粒子、繊維もしくは粉末を含むか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するための機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方が行われていないか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを欠いている整形外科用インプラント表面は、骨形成を大幅に増強せず、骨形成せず、および/またはその骨形成能力において、バルク基材の機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された整形外科用インプラント表面と比較して劣る。
【0080】
骨誘導は、アルカリホスファターゼ(ALP)発現、オステリクス(OSX)発現およびオステオカルシン(OXN)発現の1つ以上のレベルに応じて測定することができる。これらのマーカは、骨誘導が発生していることを裏付ける表現型の進行を示す。ALPは、前骨芽細胞への幹細胞分化の初期マーカを表す。オステリクスは、最初の骨に特異的な転写因子発現を表す(Runx2が、骨芽細胞分化プロセスの一部として発現する最初の転写因子と考えられることが多いが、この転写因子は、骨に対して特異的ではなく、細胞内の他の生化学的プロセスに影響を与える)。オステオカルシンは、成熟骨芽細胞マーカを表す。好適な態様において、付加製造、機械的侵食および化学的侵食から得られる骨接触面および自由面は、幹細胞が分化して前骨芽細胞になり、成熟して骨芽細胞になる際に幹細胞からのALP発現、次にオステリクス発現および次にオステオカルシン発現を大幅に増強および/または促進する。
【0081】
したがって、インプラントが付加製造され、その表面が加工/侵食された場合、および比較のためのインプラントがバルク基材から製造され、その表面が加工/侵食された場合、加工済みの付加製造されたインプラント表面に接触している間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現は、加工済みのバルク基材表面に接触している間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現より大幅に増強され得る。
【0082】
表面が、機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作されるマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを有さない整形外科用インプラントは、間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現の誘導が最小限であるか、または間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現を全く誘導しないと考えられる。したがって、平滑であるか、または歯状突起、畝、溝および加工/侵食されていない超マクロ構造を含むか、またはコールドスプレーされたか、熱溶射されたかもしくは接着剤で付着された粒子、繊維もしくは粉末を含むか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するための機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方が行われていないか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを欠いている整形外科用インプラント表面は、間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現を大幅に増強せず、間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現を誘導せず、および/または間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現を誘導するその能力において、本発明に従って骨誘導するための粗さを付与するための、付加製造、それに続く機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された整形外科用インプラント表面と比較して劣る。関連して、平滑であるか、または歯状突起、畝、溝および加工/侵食されていない超マクロ構造を含む溝、および、またはコールドスプレーされた溝、および、熱溶射された溝、およびもしくは接着剤で付着された粒子、繊維もしくは粉末を含むか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを付与するための機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方が行われていないか、または他にマイクロスケール構造およびナノスケール構造を含む骨誘導するための粗さを欠いている整形外科用インプラント表面は、間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現を大幅に増強せず、間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現を誘導せず、および/または間葉系幹細胞、前骨芽細胞および骨芽細胞にそれぞれ由来するALP、OSXおよびOCNの1つ以上の発現を誘導するその能力において、バルク基材の機械的侵食、化学的侵食または機械的侵食と化学的侵食との両方によって製作された整形外科用インプラント表面と比較して劣る。
【0083】
以下の実施例は、本発明の全体的な性質をより明確に示すために含められる。これらの実施例は、例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
(実施例)
実施例1
付加製造されたチタン表面のSEM画像
チタンディスクは、レーザ溶融法/焼結法(例えば、直接金属レーザ焼結法(DMLS))または電子ビーム溶解法(EBM)のいずれかを使用して付加製造した。次いで、これらのディスクに応力除去または熱間静水圧加圧法を施し、表1に要約した機械的および化学的侵食を施した。ディスクの走査型電子顕微鏡(SEM)画像が得られ、
図1A、1B、1C、1Dおよび1Eに示されている(SEMは、試料の表面が、反射する電子ビームによって走査されて、画像が形成される電子顕微鏡である)。
【0084】
表面20Aは、DMLSで製作した表面であり、応力除去を施したが、侵食を施さなかった。表面20Bは、EBMで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法を施したが、侵食を施さなかった。表面20Cは、DMLSで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法を施したが、侵食を施さなかった。表面22Aは、DMLSで製作した表面であり、応力除去ならびに機械的および化学的侵食を施した。表面22Bは、EBMで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法ならびに機械的および化学的侵食を施した。表面22Cは、DMLSで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法ならびに機械的および化学的侵食を施した。
【0085】
表面16Eは、レーザで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法および炭酸水素ナトリウムブラストを使用した機械的侵食を施した。表面16Fは、レーザで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法およびチタンブラストを使用した機械的侵食を施した。表面29Dは、マクロテクスチャーが本来備わった、レーザで製作した表面であり、熱間静水圧加圧法ならびに機械的および化学的侵食を施した。
【0086】
図1A、
図1B、
図1C、
図1D、及び
図1EのSEM画像は、付加製造された表面の連続的な機械的および化学的侵食により、マイクロスケール構造およびナノスケール構造がどのようにチタン表面に付与されるかを示す。
【0088】
実施例2
骨芽細胞の発生および骨誘導の既知マーカとしてのアルカリホスファターゼ、オステリクスおよびオステオカルシン
骨形成分化は、数種のタンパク質の増減を特徴とする連続プロセスである。本明細書において分析されるタンパク質は、初期(ALP)、中期(OSX)および後期(OCN)の各骨芽細胞マーカの特徴を表すものである。骨芽細胞分化のプロセスは、間葉系幹細胞が、骨形成または軟骨形成を行う能力およびALPを発現する能力がある中間的な前駆細胞へ進行することから開始される。骨形成系列を担うこれらの中間的な前駆細胞は、ここで、前骨芽細胞と称され、ALPの発現を増加させる。前骨芽細胞が骨芽細胞へ進行するにつれて、OSXの発現が増加し、最終的に前骨芽細胞が骨芽細胞になると、OCNの発現が増加する。
【0089】
骨芽細胞は、最終的にさらに成熟し、骨細胞に移行し始めるかまたはアポトーシスを受け入れ始める。成熟した骨芽細胞の状態は、ALPの減少を特徴とし、骨芽細胞が骨細胞へ分化すると、OSXおよびOCNの両方の発現も減少する(ベクW−Y(Baek W−Y)ら著、ジャーナル・オブ・ボーン・アンド・ミネラル・リサーチ(J.Bone Miner.Res.)、第24巻、p.1055〜65(2009年);ツァンC.(Zhang C.)著、ジャーナル・オブ・オルソピーディック・サージェリ・アンド・リサーチ(J.Orthopaedic Surg,and Res.)、第5巻、p.1(2010年);およびトゥQ(Tu Q)ら著、ティッシュ・エンジニアリング(Tissue Eng’g)、第1巻、p.2431〜40(2007年))。インビボでの評価により、ALPおよびOCNの両方が骨折治癒中に存在することが明らかになった。これらの評価では、ALPおよびOCNの両方の産生は、骨折の治癒において骨折から8週間後に最高となる(レウンKS(Leung KS)ら、ボーン・アンド・ジョイント・ジャーナル(Bone&Joint Journal)、第75巻、p.288〜92(1993年);およびハーマンM.(Herrmann M.)ら著、クリニカル・ケミストリー(Clin.Chemistry)、第48巻、p.2263〜66(2002年))。さらに、ALPおよびOCNは、インビボでの骨形成を増進するための合成材料の可能性のインビトロ評価のために使用されてきた。インビトロでのALPおよびOCNの増加は、インビボで人工血管移植の成功に結び付くことがさらに立証された(ボーデンM.(Borden M.)ら著、ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(J.Biomed.Mater.Res.)、第61巻、p.421〜29(2002年);ボーデンM.(Borden M.)ら著、バイオマテリアルズ(Biomaterials)、第23巻、p.551〜59(2002年);およびボーデンM.(Borden M.)ら著、ジャーナル・オブ・ボーン・アンド・ジョイント・サージェリ・ブリティッシュ・ボリューム(J.Bone Joint Surg.Br.)、第86巻、p.1200〜08(2004年))。チタンメッシュを使用した類似の評価により、インビトロでのALPおよびオステオポンチン(分化においてOCNより早期に分泌される基質タンパク質)がインビボでの成功と相互に関連付けられた(ダットN.(Datta N.)著、バイオマテリアルズ(Biomaterials)、第26巻、p.971〜77(2005年);バンクロフトG.N.(Bancroft G.N.)著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)、第99巻、p.12600〜05(2002年);およびシカビスタスVI(Sikavitsas VI)ら著、ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ(J.Biomed.Mater.)、第67巻A、p.944〜51(2003年))。
実施例3
骨誘導表面上で成長したMG63細胞の骨形成マーカの評価
MG63細胞は、前骨芽細胞株である。MG63細胞は、10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、50μg/mLアスコルビン酸および10mMβ−グリセロリン酸を添加したEMEM中で培養し、10,000細胞/cm
2でディスク上に播種した。7日間培養した後、ピアース哺乳動物タンパク質抽出試薬(Pierce Mammalian Protein Extraction Reagent)とプロテアーゼ阻害剤とで細胞を溶解し、溶解物のアルカリホスファターゼ(ALP)、オステオポンチン(OPN)およびRunX2の発現を評価した。アルカリホスファターゼ(ALP)は、初期の骨芽細胞分化マーカであり、ALPの存在下でp−ニトロフェニルリン酸がp−ニトロフェノールに変換されることを利用する酵素アッセイによって測定し、次いでp−ニトロフェノールの吸光度を測定した。ALPは、試料中に存在するDNAの量を基準として正規化した。DNAは、標準的なピコグリーン(PicoGreen)アッセイで測定した。オステオポンチン(OPN)は、分化にわたり、骨芽細胞によって発現するタンパク質であり、定量的なウエスタンブロッティングによって測定し、チューブリンを基準として正規化した。結果は、
図2A、2Bおよび2Cに示されている。
図2A〜2Cの表面の内容は、表1に示されている。
【0090】
図2Aは、付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したMG63細胞によって発現したアルカリホスファターゼのレベルを示す。
図2Bは、付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したMG63細胞によって発現したオステオポンチンのレベルを示す。
図2Cは、付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したMG63細胞によって発現したRunX2のレベルを示す。表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22Cは、
図1A、1Bおよび1Cで説明したものと同じ表面である。
【0091】
これらが示すように、付加製造され(DMLSおよびEBM)、加工された(機械的および化学的に侵食された)表面は、付加製造されたが、加工されていない表面よりALP、RunX2およびOPNの発現に関して大幅に良好であった。
実施例4
骨誘導表面上で成長したSaOS−2細胞の骨形成マーカの評価
SAOS−2細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(ヴァージニア州マナサス)から入手し、ピコグリーン(PicoGreen)アッセイ、マッコイ5A培地およびペニシリン/ストレプトマイシンは、すべてライフ・テクノロジーズ(Life Technologies)(カリフォルニア州カールスバッド)から入手し、ウシ胎仔血清は、アトランタ・バイオロジカルズ(Atlanta Biologicals)(ジョージア州アトランタ)から入手し、アルカリホスファターゼアッセイは、バイオ・ラッド(Bio−Rad)(カリフォルニア州ハーキュリーズ)から入手し、オステリクスELISAは、ライフスパン・バイオサイエンシーズ(Lifespan Biosciences)(ワシントン州シアトル)から入手し、オステオカルシンELSIAは、R&Dシステムズ(R&D Systems)(ミネソタ州ミネアポリス)から入手した。
【0092】
SAOS−2細胞は、15%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したマッコイ5Aからなる基本成長培地中で維持した。培地中で細胞が適切な数に到達すると、各チタンディスク表面(表1)にSAOS−2細胞を10,000細胞/cm
2の密度で播種した。各タイプの表面上でSAOS−2細胞を7日間培養し、培地は、2日毎に取り替えた。7日目にさらなる分析のために培地を凍結し、SAOS−2細胞を放射性免疫沈降(RIPA)バッファ(150mM塩化ナトリウム、1%v/vトリトン(TRITON)(登録商標)X−100非イオン性界面活性剤、0.5%w/vデオキシコール酸ナトリウム、0.1%w/vドデシル硫酸ナトリウム、50mMトリズマ(Trizma)塩基、pH8.0)中で溶解した。
【0093】
細胞DNAは、ピコグリーン(PicoGreen)アッセイを使用し、製造元のプロトコルに従って定量した。アルカリホスファターゼ(ALP)は、製造元のプロトコルに従って、p−ニトロフェニルリン酸からp−ニトロフェノールへのALPが触媒する変換によってアッセイした。オステリクス(OSX)およびオステオカルシン(OCN)の両方とも、ELISAアッセイを使用し、製造元のプロトコルに従って定量した。Runx2およびOPNもアッセイを行ったが、いずれも実質的な傾向も有意なデータも何ら示さなかった(データは示さず)。これらの両方は、きわめて初期の骨芽細胞マーカである。結果は、
図3A、3B、3Cおよび3Dに示されている。
図3A〜3Dの表面の内容は、表1に示されている。
【0094】
図3Aは、付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したSAOS−2細胞によって発現したアルカリホスファターゼのレベルを示す。
図3Bは、付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したSAOS−2細胞によって発現したオステリクスのレベルを示す。
図3Cは、付加製造された表面20A、20Bおよび20Cならびに22A、22Bおよび22C上で培養したSAOS−2細胞によって発現したオステオカルシンのレベルを示す。
図3Dは、付加製造された表面16E、16Fおよび29D上で培養したSAOS−2細胞によって発現したアルカリホスファターゼ(左端の棒)、オステリクス(中央の棒)およびオステオカルシン(右端の棒)の各レベルをそれぞれ示す。表面20A、20B、20C、22A、22B、22C、16E、16Fおよび29Dは、
図1A、1B、1C、1Dおよび1Eで説明したものと同じ表面である。
【0095】
図3A、3Bおよび3Cに示すように、付加製造され、加工された(機械的および化学的に侵食された)表面は、すべて付加製造され、加工(機械的および化学的に侵食)されていない表面と比較してALP、OSXおよびOCNの各マーカの発現の改善を示した。付加製造された表面の加工は、ALP、OSXおよびOCNの各マーカによって立証されたとおり、付加製造されたが、侵食されていない表面と比較して骨芽細胞分化を大幅に増強した。
図3Dに示すように、付加製造され、加工された(機械的および化学的に侵食された)表面29Dは、付加製造され、機械的侵食のみで加工されたが、化学的侵食をされていない表面16Eおよび16Fと比較してALP、OSXおよびOCNの各マーカの発現の改善を示した。
【0096】
本発明は、特定の実施形態および実施例に関して上記に例示および説明されているが、それにも関わらず、本発明は、示された詳細に限定されるものではない。むしろ、特許請求の範囲の均等物の目的および範囲内において、本発明の趣旨から逸脱することなく、その詳細に対する種々の変更形態がなされ得る。例えば、本明細書に広く記載されているすべての範囲は、その範囲内に、より広い範囲内に該当するすべてのより狭い範囲を含むことが明確に意図されている。上に開示されている種々のデバイスを製造するプロセスの各ステップは、具体的なおよび異なる記載がない限り、いかなる特定の順序にも限定されないことも明確に意図されている。
【国際調査報告】