特表2019-525046(P2019-525046A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2019-525046地下水源から汲み上げ可能な水の最大許容量を経時的に決定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-525046(P2019-525046A)
(43)【公表日】2019年9月5日
(54)【発明の名称】地下水源から汲み上げ可能な水の最大許容量を経時的に決定する方法
(51)【国際特許分類】
   E03B 3/15 20060101AFI20190809BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20190809BHJP
【FI】
   E03B3/15
   E21B43/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-526379(P2019-526379)
(86)(22)【出願日】2017年7月27日
(85)【翻訳文提出日】2019年3月28日
(86)【国際出願番号】FR2017052124
(87)【国際公開番号】WO2018020181
(87)【国際公開日】20180201
(31)【優先権主張番号】1657370
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】FR
(31)【優先権主張番号】1662916
(32)【優先日】2016年12月20日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】519031900
【氏名又は名称】ベオリア アンビロンヌマン−ベウ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ケシュ
(72)【発明者】
【氏名】バンサン マルタン
(72)【発明者】
【氏名】マガリ ドシュヌ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール マンデル
(57)【要約】
本発明は、地下水源から汲み上げられる水の最大許容量を経時的に決定する方法であって、汲み上げ場所で汲み上げられる水の最大許容量と地下水源の水文地質学的状態とが基準ピエゾメーターによる地下水面水位の計測によって決定され、特に、過去の所定の期間について利用可能な第1のデータ記録を有する第1のレベルセンサにより、汲み上げ場所で継続的に地下水面水位を計測することと、過去の所定の期間について利用可能な第2のデータ記録を有する、基準ピエゾメーター上の第2のレベルセンサにより、継続的にもう一つの計測を行うこと、とを含むことを特徴とし、さらに計算機によって実行される後続のステップを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水源から汲み上げ可能な水の最大許容量を経時的に決定する方法であって、
汲み上げ場所で汲み上げられる水の最大許容量と地下水源の水文地質学的状態とが、基準ピエゾメーターによる地下水面水位の計測によって決定され、
(a)過去の所定の期間について利用可能な第1のデータ記録を有する第1のレベルセンサにより、汲み上げ場所で継続的に地下水面水位を計測するステップと、
(b)過去の所定の期間について利用可能な第2のデータ記録を有する、基準ピエゾメーター上の第2のレベルセンサにより、継続的に地下水面水位を計測するステップと、
を含むことを特徴とし、
更に、コンピュータにより実行される以下のステップ、すなわち、
(c)第1のレベルセンサからのデータを処理し、過去の所定の期間の見掛け静的地下水面水位の記録と動的地下水面水位の記録を生成するステップと、
(d)過去の所定の期間の汲み上げ場所における水位低下の記録を決定するステップであって、水位低下は与えられた瞬間における見掛け静的地下水面水位と動的地下水面水位の差として定義されるステップと、
(e)過去の所定の期間について決定された水位低下の可能な限り最良の記録を再現するために、汲み上げ場所における見掛け透水量係数を決定し、クーパー・ジェイコブの解析関係式を用いて、見掛け透水量係数を異なる種類の見掛け静的地下水面水位と関係付け、その関係を第1の関係式とするステップと、
(f)前記汲み上げ場所における臨界使用水位を決定するステップと、
(g)過去の所定の期間の地下水面水位の計測値を有する基準ピエゾメーターを選ぶステップと、
(h)過去の所定の期間の前記見掛け静的地下水面水位の経時的平均と前記基準ピエゾメーターで計測した前記地下水面水位の経時的平均とを計算するステップと、
(i)所定の期間の前記見掛け静的地下水面水位の経時的平均と前記基準ピエゾメーターで計測した前記地下水面水位の経時的平均の間の第2の関係式を決定するステップと、
(j)それぞれの見掛け静的地下水面水位のための最大許容水位低下を決定するステップであって、該最大許容水位低下は前記見掛け静的地下水面水位と前記臨界使用水位との差として定義されるステップと、
(k)前記汲み上げ場所における前記地下水源の最大許容汲み上げ可能量をクーパー・ジェイコブの前記解析関係式、前記第1の関係式、及び前記第2の関係式を用いて決定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記経時的平均は月平均である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コンピュータ上で実行されるときに、請求項1又は2に記載の方法のステップのそれぞれを実行するための指示を含むコンピュータプログラム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法のステップのそれぞれを実行するための手段を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水源から汲み上げ可能な水の最大許容量を経時的に決定する方法に関し、汲み上げ場所で汲み上げられる水の最大許容量と地下水源の水文地質学的状態とが、基準ピエゾメーターによる地下水面水位の計測によって決定される。
【背景技術】
【0002】
今日、水の使用を制限する法律は、乾季に地下水資源、特に帯水層を巡って繰り返される緊迫性を示している。これら緊迫性は、農業灌漑のための季節的な水需要や旅行者の流入による飲料水供給への影響によって悪化している。水の生産システム上、これら緊迫性は、水の購入、汲み上げ費、又は処理費に関する運営費の増加につながるおそれがある。中期的には気候変動がこれら緊迫性を高める可能性がある。
【0003】
地下水資源から汲み上げ可能な水量は、例えば、地下水資源が帯水層の中で層をなしている場合など、水系が複雑であることからしばしば推定が難しい。
【0004】
地下水資源全体の汲み上げ可能量を決定するには多くの方法がある。しかし、地下水源の汲み上げ構造、即ち、地下水集水施設(汲み上げ場所)又は井戸区域を構成する一組の集水施設(複数の汲み上げ場所)からなる水生産システムにおいて実際に利用可能な水量を評価することが難しい。この推定汲み上げ可能量は、集水施設自体の特徴及び当該地下水源の局地的な流体力学上の特徴に依存する。
【0005】
1以上の地下水集水施設を活用する水生産システム全体の汲み上げ可能量の推定は、地下水資源の汲み上げ可能水量と集水施設自体の構成の双方に依存する。理論上は、2D又は3Dの空間モデルによってのみ、そのようなシミュレーションを実行することができ、地下水源に関し与えられた地点における一連の圧度測定予測データをシミュレートすることが可能になる。この種のツールの実装は複雑であるが、与えられた掘削孔における汲み上げ可能量を推定するためのより単純な図形的、統計的、及び/又は分析的な処理方法もある。
【0006】
現在用いられている諸方法では、資源又は生産システムの限界を定めるため、いくつかの用語、即ち、水文地質学的限界、潜在的限界、資源/システムの限界、及び「利用可能産出量」が区別される。
【0007】
なお、「利用可能出力」は、1又は複数の資源から処理後に配水が可能になる原水の量であって、特定の水需要のために、以下を考慮するものである。
・水文地質学的限界
・物理的及び運用上の制約(揚水インフラ、輸送、水処理の物理的能力、維持すべき水位又は最小/最大水圧に関する水力学的制約によるもの)
・水質上の制約(水質低下に関連する期間、又は帯水層の失水を招かないための目標レベル等)
・規制による制約(汲み上げ許可)
なお、これらのパラメータのそれぞれが「利用可能出力」を制限する要素となり得る。「利用可能出力」が決定されると、水の損失と流出を差し引き、入る水を加えて配水可能量が得られる。しかし、この方法は、非常に控えめな最大汲み上げ可能量を単一値として得られるだけであるため不充分である。
【0008】
他の方法は掘削孔の長期の使用限界の推定に基づくものである。例えば、被圧帯水層について、安全に使用できる理論上の限界を計算できるいくつかの方法がある。概してこの限界は、水使用が可能な範囲の水位低下を超えることなく長期に維持できる取水量である。なお、水使用が可能な範囲の水位低下は、非揚水時水位と被圧帯水層の上面の高さとの差に相当する。この限界は、信頼に足る限界ではなく、一つの指標と考えられる。
【0009】
しかし、今日、地下水汲み上げ場所の長期の最大汲み上げ可能量の推定にもっぱら用いられている諸方法は、概して集水施設は休みなく使用されるものではなく、並行して帯水層に涵養があることを考えると、非常に安全な推定値を与えるものである。例えば20年といった長期間これらの方法を適用することは、かかる長期のうちに適用条件が合わなくなってしまうため、非現実的である。しかも、これらの方法は、この長期にわたって汲み上げ流量が一定であることを前提としているが、それも非現実的である。即ち、現在使用されている諸方法は、水文地質学的状況を反映して更新されることのない単一値の最大汲み上げ可能量を与えるものであって、求められる目的を達成するものでない。
【0010】
このため、先行技術にかかる欠点、問題、障壁を克服できる方法を提供することが真に求められている。特に、以下を含むすべての期待に対応する方法を提供することが求められる。すなわち、
地下水の、単に安全な量ではなく現実的な汲み上げ可能量の評価すること、
種々の制約下で経時的に変化する地下水の汲み上げ可能量の推定すること、
多数の集水施設に適用可能な簡潔なアプローチを提供することが求められる。
【発明の概要】
【0011】
上述した一つ以上の課題を解決するため、本発明は、
地下水源から汲み上げ可能な水の最大許容量を経時的に決定する方法であって、
汲み上げ場所で汲み上げられる水の最大許容量と地下水源の水文地質学的状態とが、基準ピエゾメーターによる地下水面水位の計測によって決定され、
(a)過去の所定の期間について利用可能な第1のデータ記録を有する第1のレベルセンサにより、汲み上げ場所で継続的に地下水面水位を計測するステップと、
(b)過去の所定の期間について利用可能な第2のデータ記録を有する、基準ピエゾメーター上の第2のレベルセンサにより、継続的に地下水面水位を計測するステップと、
を含むことを特徴とし、
更に、コンピュータにより実行される以下のステップ、すなわち、
(c)第1のレベルセンサからのデータを処理し、過去の所定の期間の見掛け静的地下水面水位の記録と動的地下水面水位の記録を生成するステップと、
(d)過去の所定の期間の汲み上げ場所における水位低下の記録を決定するステップであって、水位低下は与えられた瞬間における見掛け静的地下水面水位と動的地下水面水位の差として定義されるステップと、
(e)過去の所定の期間について決定された水位低下の可能な限り最良の記録を再現するために、汲み上げ場所における見掛け透水量係数を決定し、クーパー・ジェイコブ(Cooper−Jacob)の解析関係式を用いて見掛け透水量係数を異なる種類の見掛け静的地下水面水位と関係付け、その関係を第1の関係式とするステップと、
(f)汲み上げ場所における臨界使用水位を決定するステップと、
(g)過去の所定の期間の地下水面水位の計測値を有する基準ピエゾメーターを選ぶステップと、
(h)過去の所定の期間の前記見掛け静的地下水面水位の経時的平均と基準ピエゾメーターで計測した地下水面水位の経時的平均とを計算するステップと、
(i)所定の期間の見掛け静的地下水面水位の経時的平均と基準ピエゾメーターで計測した地下水面水位の経時的平均の間の第2の関係式を決定するステップと、
(j)それぞれの見掛け静的地下水面水位のための最大許容水位低下を決定するステップであって、最大許容水位低下は、見掛け静的地下水面水位と臨界使用水位との差として定義されるステップと、
(k)汲み上げ場所における地下水源の最大許容汲み上げ可能量をクーパー・ジェイコブの関係式、第1の関係式、及び第2の関係式を用いて決定するステップと、
をさらに含む方法に関する。
【0012】
水資源は、1以上の集水施設を介して集水される、湧泉、帯水層、カルスト等の地下原水資源でもよい。好ましくは、水資源は、汲み上げ可能水量が地下水面水位に基づいて決定される帯水層である。なお、水資源は処理プラント等の1以上の水生産体に接続されていてもよい。
【0013】
本発明において、臨界使用水位とは、それより下まで取水をすると当該資源の水の適切な再生に、及び/又は、再生により得られる原水に影響が生じる水位を意味すると理解される。
【0014】
有利には、経時的平均は月平均である。
【0015】
また本発明は、コンピュータ上で実行されるときに、上記の方法のステップのそれぞれを実行するように構成される指示を含むコンピュータプログラムに関する。
【0016】
また本発明は、上記の方法のステップのそれぞれを実行するように構成される手段を備えるシステムに関する。
【0017】
本発明は、以下の記述を読むことにより良くよく理解されるであろうが、以下の記述は例として示されているにすぎず、情報提供のみを目的としており、なんら制限を加えるものでない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、汲み上げ可能な水の最大許容量の経時的決定方法は、帯水層に適用される。この場合、その水の最大許容量が汲み上げられるのは、例えば、先行技術として利用され、また知られている何らかの取水装置を備えた汲み上げ場所においてである。そして帯水層の水文地質学的状態が基準ピエゾメーターによる地下水面水位の計測によって決定される。
【0019】
水資源が帯水層であるので、そこに含まれる汲み上げ可能水量は地下水面水位によって決定される。この構成においては、地下水面水位を決定する方法によって、帯水層の水文地質学的状況、並びに帯水層の量的状態に影響する自然現象及び人的現象を間接的に考慮に入れることが可能となっている。本方法は、簡潔、頑健で連続帯水層、即ち、非カルスト及び非裂罅型の帯水層に適用可能であり、例えば、掘削孔、集水井、井戸区域等の多様な構成の取水装置に対応できるが、湧水の集水施設は対象外である。
【0020】
帯水層に含まれる水の量的管理及び帯水層からの汲み上げ可能量を定めるには、当該区域の空間的限界を先に定めなければならない。これらの限界は局地的な地質学的・水文地質学的特徴に基づいて定められる。
【0021】
例えば、地域の地下水面水位、透水量係数、及び貯留係数に関する地質学的・水文地質学的データ並びに水使用データ(例えば、水位測定値及び使用される基準地下水面水位、汲み上げ量、1又は複数のポンプの公称流量)が概して利用可能である。
【0022】
帯水層からの地下水の汲み上げ可能量を定めるには、帯水層の水文地質学的状態に関する充分な知識、水系へのすべての(自然又は人工の)流出入の記録、及び本来の貯蔵能力の評価もまた必要である。
【0023】
例えば、取水に関する一般的特徴として、連続的な地質形成を垂直断面に図示した地質断面図上に関連の地下水面水位を示したもの、又は、地下構造物の特徴と規模を例えば垂直断面に図示した設備断面図が利用できる。例として、裸孔、プレケーシング及びケーシングの特徴、充填砂利、セメンテーション、及び井戸蓋が挙げられる。
【0024】
このように帯水層の量的管理には、その状態、涵養、取水量、及び必要量に関する知識が必要である。
【0025】
毎日の揚水時間及び日平均瞬間流量等の他の水使用データも考慮することができる。
【0026】
本発明の方法は、過去の所定の期間について利用可能な第1のデータ記録を有する第1のセンサを用いて、汲み上げ場所で継続的に地下水面水位を計測することからなるステップ(a)を含む。例えば少なくとも2年といった所定の期間にわたって帯水層の地下水面水位を有することが必要である。第1のセンサは、汲み上げ場所での汲み上げの影響のない帯水層の状態を定義する見掛け静的地下水面水位、及び汲み上げ場所での揚水段階における帯水層の状態を定義する動的地下水面水位を後で提供できるよう他のセンサと協働してもよい。これら地下水面水位は本発明にかかる方法を実施するために必要な入力値である。
【0027】
また本方法は、ステップ(a)の後に実行されるステップ(b)を含み、このステップは、過去の所定の期間について利用可能な第2のデータ記録を有する、基準ピエゾメーター上の第2のレベルセンサにより、継続的に地下水面水位を計測することからなる。このステップにより、取水する帯水層に関係する適切な基準ピエゾメーターを後に選ぶことができる。即ち、このステップにより、汲み上げ場所における帯水層の挙動と基準ピエゾメーターにおける帯水層の挙動を関係づけることができる。本明細書において後に説明するが、この関係付けは汲み上げ場所における見掛け静的地下水面水位の経時的平均と基準ピエゾメーターにおける地下水面水位の経時的平均を所定の過去の同一期間について比較することによって可能になる。
【0028】
本方法はステップ(b)の後にコンピュータにより実行されるステップ(c)を含み、このステップでは、第1のレベルセンサからのデータを処理し前記過去の所定の期間の見掛け静的地下水面水位の記録と動的地下水面水位の記録を生成する。
【0029】
そのために、取水に関する毎日の水使用データを2年分回収してもよい。この水使用データは、例えば、以下の情報を与えるものでもよい。
・調査対象の帯水層の見掛け静的地下水面(日毎の最大深さ値、単位:m)
・動的地下水面(日毎最小値、単位:m)
・日毎揚水時間(単位:時間)
・日毎平均瞬時流量(単位:m3/時)
・日毎汲み上げ量(単位:m3/日)
【0030】
次いで、ステップ(d)が実行され、このステップは、前記過去の所定の期間の汲み上げ場所における水位低下の記録を決定することからなり、水位低下は、与えられた瞬間における見掛け静的地下水面水位と動的地下水面水位の差として定義される。
【0031】
ステップ(d)の後にステップ(e)が適用され、このステップは、前記過去の所定の期間について決定された水位低下の可能な限り最良の記録を再現するために、汲み上げ場所における見掛け透水量係数を決定し、クーパー・ジェイコブの解析関係式を用いて見掛け透水量係数を異なる種類の見掛け静的地下水面水位と関係付け、その関係を第1の関係式とすることからなる。
【0032】
この第1の関係式は、下記のクーパー・ジェイコブの解析関係式により決定することができる。
【0033】
【数1】
【0034】
この関係式は量的水文地質学で一般に使われるものである。これにより地下水の最大汲み上げ可能量を水位低下の関数として推定することが可能である。水位低下は帯水層の静的地下水面水位に依存する。
【0035】
特に、クーパー・ジェイコブの関係式は、理論上の水位低下s(r,t)を計算するのに用いられ、この関係式を適用するために必要なパラメータ、即ち、透水量係数(T)、貯留係数(S)、汲み上げ場所のラジアル距離(r)、日毎汲み上げ時間(t)、及び日毎平均瞬時流量(Q)が設定される。
【0036】
日毎平均流量に近い値を求めるために水位低下/日毎の見掛け静的地下水面水位の対をグラフに表すことができる。グラフによって、数種類の日毎の見掛け静的地下水面水位で観察される水位低下を視覚的に分割することが可能になる。それぞれ種類に応じて、観察された水位低下とクーパー・ジェイコブの関係式によりシミュレートされた水位低下との間の偏差指標の値(一般にRMSEと呼ばれる)が最小になるように見掛けの透水量係数を調整することができる。
【0037】
次のステップ(f)で、汲み上げ場所における臨界使用水位が決定される。なお、井戸や掘削孔のような集水施設の臨界使用水位は以下の要因に影響されることがある。
・ケーシングのスクリーン部分の上端の高さ
・帯水層の地下水位の局地的使用限度
これは、以下のものであり得る。
帯水層の被圧維持のための地下水位
塩水くさびの侵入を起こさないための地下水位
生産地域の水不足を起こさないための地下水位
規制上の地下水位(目標圧度、警戒閾値...)
・ポンプの吸込ストレーナの高さ又はポンプを停止させる安全機能
【0038】
最も高い地下水面水位、即ち最も厳しい地下水面水位が当該構造の臨界使用水位として採用され、これをzNCと表記する。したがって、臨界レベルの決定には当該構造の設備断面図及び地質断面図を利用できること、並びに、それがある場合には、帯水層管理上の規制上の地下水位を知っていることが必要である。なお、井戸区域の場合には、最も厳しい臨界水位が選ばれ、井戸区域を一つの汲み上げ場所として捉えた概念上の集水施設にその臨界水位が適用される。また、臨界使用水位は前もって設定してもよく、警戒閾値を表すこととしてもよい。
【0039】
次に、基準ピエゾメーターを選ぶステップ(g)に進む。なお、基準ピエゾメーターは、概して地域の基準ピエゾメーターであり、その選択には、調査対象の地下水塊から集水しているすべてのピエゾメーターをリストアップすることが必要である。これらピエゾメーターは、データベースで水塊ごとの水位調査ステーションを検索することにより容易に特定できる。これらのピエゾメーターの中から、現に作動しており、過去の所定の期間(理想的には10年以上)の充分な履歴があるもののみが検討される。この履歴は第2のセンサによって得られた測定値から知ることができる。
【0040】
次に、ステップ(h)において、前記過去の所定の期間の前記見掛け静的地下水面水位の経時的平均と基準ピエゾメーターで計測した地下水面水位の経時的平均とが計算される。
【0041】
好ましくは、経時的平均は月平均である。基準ピエゾメーターは、集水施設における見掛け静的地下水面水位の月平均と、ピエゾメーターで計測された静的地下水面水位の月平均を共通の観察期間に基づいて変換したものとの間のRMSEが最小になるように決定される。
【0042】
この転換(hsptで示される)は、ピエゾメーターの静的月間履歴の夫々の値(hsp)に、集水施設における見掛け静的地下水面水位の月平均、
【0043】
【数2】
【0044】
と、ピエゾメーターにおける静的地下水面水位の月平均、
【0045】
【数3】
【0046】
との相対差を、以下に示すように、加えることで得られる。
【0047】
【数4】
【0048】
RMSEが近い複数のピエゾメーターがある場合は、理想的には、履歴の最も長いものを採用する。
【0049】
次いで、さらなるステップ(i)において、所定の期間について見掛け静的地下水面水位と基準ピエゾメーターで計測した地下水面水位の経時的平均の間の第2の関係式を決定する。帯水層の水文地質学的状態に関する将来予測において、このステップは、基準ピエゾメーターによる地下水面水位の経時的平均から、第2の関係式を用いて、集水施設における見掛け静的地下水面水位の経時的平均を決定することを可能にする。
【0050】
第2の関係式は、通常は線形で、さもなくば複数の線形区間からなるが、この第2の関係式が決定されて、集水施設における理論上の見掛け静的地下水面水位の月平均を基準ピエゾメーターによる地下水面水位の月平均の関数として表す。この経験的な関係は、散布図上で1又は複数の線形回帰又は他の相関関数を用いることにより求められる。
【0051】
その後、ステップ(j)が実行され、このステップは、それぞれの見掛け静的地下水面水位のための最大許容水位低下を決定することからなり、最大許容水位低下は、見掛け静的地下水面水位と前記臨界使用水位との差として定義される。なお、最大許容水位低下は、見掛け静的地下水面水位と臨界使用水位、即ち警戒閾値との差であると考えることができる。最大許容水位低下が大きいほど汲み上げ可能量が大きくなる。時間tに伴い変化する最大許容水位低下smaxは、見掛け静的地下水面水位hpsと臨界使用水位zncの差として定義される。
【0052】
【数5】
【0053】
最大許容水位低下は、帯水層からの汲み上げと自然の涵養・流出現象とを間接的に反映している。これらは見掛け静的地下水面水位に影響を与える。
【0054】
そして最後にステップ(k)が実行され、このステップは、汲み上げ場所における地下水源の最大許容汲み上げ量をクーパー・ジェイコブの関係式、第1の関係式、及び第2の関係式を用いて決定することからなる。
【0055】
最大汲み上げ可能量Vmaxはシミュレーションの各瞬間にクーパー・ジェイコブ(1946)の関係式及び前のステップで得た関係式T=f(hps)を用いて計算される。それは最大許容水位低下smaxに依存する。
【0056】
【数6】
【0057】
ここで、texpは最大使用時間である。
【0058】
最大汲み上げ可能量の計算において、texpの値は初期設定で20時間/日である。井戸区域の場合、最大汲み上げ可能量は当該井戸区域にあるすべての集水施設の汲み上げ可能量である。
【0059】
このように、このプロセスは、集水施設で計測される見掛け静的地下水面水位に影響を与える水文地質学的状況、帯水層の涵養/流出の効果、及び自然現象を間接的に考慮に入れる。また、汲み上げ全般による帯水層への影響、及び集水施設において計測される見掛け静的地下水面水位に影響する人間の活動を間接的に考慮に入れる。
【0060】
こうして、本発明のこの好ましい方法によれば、水資源、特に帯水層の将来の利用可能量を以下に基づいて予測することができる。すなわち、
・日々認められる水の傾向と、
・中長期的予測に変数として気候変動を組み入れること、から予測することができる。
【0061】
本発明の好ましい実施形態によれば、帯水層の地下水面水位の変動を監視することによって、地下水量調査の監視が行われる。しかしながら、この水量調査は、集水施設の種類に応じて流出点(湧泉)での流量計測によっても監視できる。
【0062】
なお、このプロセスによれば、見掛け静的地下水面水位と集水施設の臨界使用水位とに基づいて、理論上の最大汲み上げ可能量を計算することが可能になる。この理論上の最大汲み上げ可能量は必ずしも運用条件下で達成できるとは限らない。
【0063】
(コンピュータプログラム)
なお、上記の方法のステップのそれぞれを実行ように構成される指示を含むコンピュータプログラムを開発してもよい。このように、効率とスピードを向上させるために、コンピュータでこのコンピュータプログラムを実行することができる。
【0064】
(システム)
さらに、上記ステップのそれぞれを実行するための手段を備えるシステムを実現することができる。
【0065】
これまで上記において本発明を例示し詳細に説明した。この記述は、例証であり、例を挙げるものであって、本発明をこの記述のみに限定するものではないと考えなければならない。多くの変形が可能である。
【0066】
特許請求の範囲において、「含む」「備える」という語は他の要素を除くことを意味せず、不定冠詞は複数の場合を除くことを意味しない。
【国際調査報告】