特表2019-527350(P2019-527350A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2019-527350タバコ試料を風味カテゴリーの既定セットの1つに分類するための装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-527350(P2019-527350A)
(43)【公表日】2019年9月26日
(54)【発明の名称】タバコ試料を風味カテゴリーの既定セットの1つに分類するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20190830BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20190830BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20190830BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20190830BHJP
   G01N 30/16 20060101ALI20190830BHJP
【FI】
   G01N27/62 101
   G01N27/62 V
   G01N27/62 X
   G01N30/72 C
   G01N30/86 J
   G01N30/88 C
   G01N30/16 C
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2019-500249(P2019-500249)
(86)(22)【出願日】2017年6月27日
(85)【翻訳文提出日】2019年2月26日
(86)【国際出願番号】GB2017051870
(87)【国際公開番号】WO2018007789
(87)【国際公開日】20180111
(31)【優先権主張番号】1611596.6
(32)【優先日】2016年7月4日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】505105693
【氏名又は名称】ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・(インベストメンツ)・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】フランシスコ スウェンソン ポンテス オスカー
(72)【発明者】
【氏名】ポスト サビン ギリェルメ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト ぺレイラ ダ シルバ ホセ
(72)【発明者】
【氏名】カルドーゾ ディアス ジャイウソン
(72)【発明者】
【氏名】カイザー サムエル
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA02
2G041EA04
2G041FA07
2G041HA01
2G041LA06
2G041LA08
(57)【要約】
特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つに分類するための方法及び装置が提供される。その方法は、タバコ試料から質量分析データを取得するステップと、取得された質量分析データから、タバコ試料中の複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを特定するステップと、化学成分と風味カテゴリーとの関係を示す統計多変量回帰モデルを用いて、タバコ試料中で特定された、複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルに基づいて、タバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つに割り当てるステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類する方法であって、
前記タバコ試料から質量分析(MS)データを取得するステップと、
前記取得されたMSデータから、前記タバコ試料中の複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを特定するステップと、
前記化学成分と前記風味カテゴリーとの関係を示す統計多変量回帰モデルを用いて、前記タバコ試料中で特定された、前記複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルに基づいて、前記タバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの前記既定セットの1つの風味カテゴリーに割り当てるステップと
を含む、前記方法。
【請求項2】
タバコ試料が、タバコ葉に由来する固体材料を含み、MSデータが前記固体材料から取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固体材料が粒子状である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
タバコ試料が、タバコ葉の熱分解に由来する煙、又はヒートノットバーンデバイスのタバコ材料に由来する蒸気を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
MSデータを取得するために、タバコ試料に高解像度質量分析を実施するステップをさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
MSデータが、高解像度又は高分解能の質量分析データ(HDMS、HRMS)を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
取得されたMSデータが、前駆体イオン及び生成物イオンそれぞれを調べるために、低エネルギー衝突誘起解離と高エネルギー衝突誘起解離の両方を用いたHDMSデータを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高解像度質量分析に先行して、タバコ試料に超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)を施すステップをさらに含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
高分解能質量分析検出システムと連結した、フローインジェクション分析(FIA)システムを用いて、ハイスループットスクリーニング(HTS)(HTS−FIA−HRMS)を実施するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
水性溶媒と有機溶媒との組合せを用いて、タバコ試料に多相抽出を実施するステップをさらに含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
多相抽出が、非極性方法、半極性方法、及び極性方法の使用を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
非標的手法を用いて、タバコ試料中で、複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを特定する、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを、1又は2以上のライブラリーと比較することによって特定する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
統計多変量回帰モデルが、直交部分最小二乗(OPLS)回帰及び判別分析を備えたOPLS(OPLS−DA)に基づいた、1又は2以上の統計モデルを含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
統計多変量回帰モデル統計モデルが、主成分分析(PCA)、階層的クラスター分析(HCA)、主成分回帰(PCR)、サポートベクターマシン(SVM)、人工ニューラルネットワーク(ANN)、ランダムフォレスト(RF)、及び/又は遺伝的アルゴリズム(GA)などの、多変量の、教師あり及び/又は教師なし方法を1又は2以上含むモデリングを利用する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
統計モデルが、クロスバリデーション係数R>0.9を有する、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
統計モデルが、ポリフェノール、炭水化物、及び脂質の少なくとも1種の含有量に基づいて、風味カテゴリーの既定セットの間で異なる、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
統計モデルが窒素化合物並びにアルデヒド、エステル、ケトン及びアルコールの少なくとも1種の含有量に基づいて、風味カテゴリーの既定セットの間で異なる、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
風味カテゴリーの既定セットが、ポリフェノール、炭水化物、及び脂質の少なくとも1種の、増加する含有量が、窒素化合物並びにアルデヒド、エステル、ケトン及びアルコールの少なくとも1種の、減少する含有量に対応する、線形シーケンスとして考えることができる、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
風味カテゴリーの既定セットを、成熟に関連した線形シーケンスとして考えることができる、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
統計モデルが、タバコ煙試料中の、複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルと、タバコ葉試料中の、複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルとの間の相関を取り入れる、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
タバコ試料の品質を特定するステップをさらに含む、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
タバコ試料の種類を特定するステップをさらに含む、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類するための装置であって、
前記タバコ試料から質量分析(MS)データを取得し、
前記取得されたMSデータから、前記タバコ試料中の複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルを特定し、
前記化学成分と前記風味カテゴリーとの関係を示す統計多変量回帰モデルを用いて、前記タバコ試料中で特定された、前記複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルに基づいて、前記タバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの前記既定セットの1つの風味カテゴリーに割り当てる
ように構成される、前記装置。
【請求項25】
タバコ試料から取得されたMSデータを用いて、前記タバコ試料の風味カテゴリーを予測するための、請求項24に記載の装置の使用。
【請求項26】
特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類するための統計多変量回帰モデルを作成するための方法であって、
複数のタバコ試料のセットであり、前記セットの前記複数のタバコ試料のそれぞれが既知の風味カテゴリーを有するセットから質量分析(MS)データを取得するステップと、
前記取得されたMSデータから、各タバコ試料中の複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを特定するステップと、
(i)各タバコ試料の前記既知の風味カテゴリー、並びに(ii)各タバコ試料の前記複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルに関して部分最小二乗分析を実施することによって、前記統計多変量回帰モデルを作成するステップと
を含む、前記方法。
【請求項27】
特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類するための統計多変量回帰モデルを作成するための装置であって、
複数のタバコ試料のセットであり、前記セットの前記複数のタバコ試料のそれぞれが既知の風味カテゴリーを有するセットから質量分析(MS)データを取得し、
前記取得されたMSデータから、各タバコ試料中の複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを特定し、
(i)各タバコ試料の前記既知の風味カテゴリー、並びに(ii)各タバコ試料の前記複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルに関して部分最小二乗分析を実施することによって、前記統計多変量回帰モデルを作成する
ように構成される、前記装置。
【請求項28】
タバコ試料の少なくとも1つの特性を見積もる方法であって、
所与のタバコ試料から質量分析(MS)データを取得するステップと、
前記取得されたMSデータから、前記所与のタバコ試料中の複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルを特定するステップと、
前記化学成分と、タバコ試料の個体群からの前記少なくとも1つの特性との関係を示す統計多変量回帰モデルを用いて、前記所与のタバコ試料の、前記少なくとも1つの特性を見積もるステップと
を含む、前記方法。
【請求項29】
少なくとも1つの特性が風味を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
統計多変量回帰モデルをさらに用いて、所与のタバコ試料が革新的な風味及び/又は増強された風味を含むかどうか識別する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
少なくとも1つの特性が、甘味、苦味、辛さ、バランス、刺激、奥深さ、ピッチ、インパクト、及びえぐみの、1又は2以上を含む、請求項28〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの特性が、品質作物指数を含む、請求項28〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
少なくとも1つの特性が、全糖含有量及び/又はアルカロイド含有量(例えば、ニコチン)を含む、請求項28〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
タバコ試料の少なくとも1つの特性を見積もるための装置であって、
所与のタバコ試料から質量分析(MS)データを取得し、
前記取得されたMSデータから、前記所与のタバコ試料中の複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルを特定し、
前記化学成分と、タバコ試料の個体群からの前記少なくとも1つの特性との関係を示す統計多変量回帰モデルを用いて、前記所与のタバコ試料の、前記少なくとも1つの特性を見積もる
ように構成される、前記装置。
【請求項35】
添付の図面を参照して、特定のタバコの種類のタバコ試料を、実質的に本明細書において定められた、風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類する方法。
【請求項36】
添付の図面を参照して、特定のタバコの種類のタバコ試料を、実質的に本明細書において定められた、風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類するための装置。
【請求項37】
添付の図面を参照して、タバコ試料を、実質的に本明細書において定められた、風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類するための統計多変量回帰モデルを作成するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タバコ試料中の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルに基づいて、タバコ試料を、風味カテゴリーの既定セットの1つに分類するための方法及び装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
タバコは、紙巻タバコ、葉巻タバコ、及び他のこうした製品の製造に主に用いられる、極めて経済的に重要な農作物である。タバコは、100を超える国(大部分は熱帯)で栽培され、例えば、ブラジル、イタリア、トルコ、パキスタン、USA、及びタンザニアを含む、北アメリカ及び南アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、並びにアジアへ広まった。タバコの様々な種類(品種)があり、3つの最も一般的な種類は、ブラジル、中国、インド、タンザニア、及びUSなどの国でよく栽培されるバージニア、ブラジル、イタリア、及びUSなどの国でよく栽培されるバレー、並びにギリシャ及びトルコなどの国でよく栽培されるオリエンタルである。バージニアタバコは、一般に熱した納屋で乾燥され(そのため、ときに「鉄管乾燥(flue-cured)タバコ」と称される)、バレーは、一般に納屋で空気乾燥され、一方でオリエンタルは、一般に屋外で日干乾燥される。ただ1つの品種のタバコ、例えばバージニア、又は複数の品種のタバコのブレンドを含む紙巻タバコが製造されることもある。
【0003】
タバコの消費者経験は、典型的には、紙巻タバコ又は葉巻タバコを喫煙することによって起こり、香味、風味、アロマなどに関する、様々な官能的インプットによって特徴付けられる。所与の香味又は風味を、いくつかの因子又はパラメーター、例えば、苦味、辛さなどに分解する多くの試みが行われてきた。次いで、その因子により、消費者の観点からタバコの風味を査定する多次元測定システムが形成される。しかし、こうした因子は、本質的に、準定性的であるために、一般にタバコを喫煙する人によって査定され、再現性を得ることがより難しい。
【0004】
紙巻タバコ製造者は、一般的には、消費者に、上記の様々な官能的因子について含む、一貫した、信頼できる製品を提供することを望む。タバコが天然産物であることを考慮すると、こうした一貫性を成し遂げることは困難であり得る。したがって、タバコは、栽培場所、土壌などの違いによって生じる、追加的な差異と組み合わさって、個々の植物間の固有の差異を受けやすい。確かに、1つの場所で栽培されたタバコでさえも、例えば、天候の変化(例えば、栽培期間が比較的に暑く、乾燥していたか、若しくは寒く、湿気ていたかどうか)、及び/又はタバコの後続の処理(例えば、乾燥)の詳細に基づいて特性が変動する場合がある。一方でブレンドは、しばしば、こうした差異を補うことを試みて、実施されるものの、これらの難点は、タバコブレンドに、複数の異なる品種を含むことによって、より難しくなるかもしれない。
【0005】
実際に、タバコ製品の製造者は、紙巻タバコの所与の銘柄(又は他のタバコ製品)の所望される官能特徴を生み出すことになる、タバコ葉を採り、ブレンドを製造する、人間の技能及び経験に頼ることが多い。通常、この手順には、得られる紙巻たばこを試験的に喫煙することによって、得られる製品が、所望される官能特徴を確実に有することを確かめるステップが含まれ、そうでない場合、ブレンドのさらなる改良が実施されなければならない場合がある。
【0006】
タバコ材料(その誘導体を含む)を加熱して蒸気を生じる(従来の紙巻タバコのように、燃やして煙を生じるのとは対照的な)、新世代デバイスでタバコ材料を今では用いることがさらに考えられる。ベイピングデバイス(vaping device)とも称される、こうした新世代デバイスには、典型的にはバッテリー電源を用いてタバコ材料を加熱する、様々な種類の電子タバコ(e-cigarette)が含まれる。従来の紙巻タバコと比較して、こうしたベイピングデバイスは、比較的新しく、広範囲のデザインを有し、ペースト、乾燥粉末、液体抽出物、乾燥葉、新葉などとして含む、多様な形態のタバコ材料を利用することができる。したがって、こうしたデバイスのタバコ材料の、任意の、所与の選択から得られる官能の結果を予測することは、相対的に難しくなり得る。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、添付の特許請求の範囲において定められる。
【0008】
本発明の様々な実施形態は、特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類するための、装置及び対応する方法を提供する。その方法は、タバコ試料から質量分析データを取得するステップと、取得された質量分析データから、タバコ試料中の複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルを特定するステップと、化学成分と風味カテゴリーとの関係を示す統計多変量回帰モデルを用いて、タバコ試料中で特定された、複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルに基づいて、タバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに割り当てるステップとを含む。本発明の様々な実施形態は、こうした統計多変量回帰モデルを作成するための方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明の様々な実施形態は、ここで、以下の図面と関連して、例としてのみ詳細に説明されることになる。
図1】本明細書に記載のメタボロミクス分析の典型的な国際的ワークフローを示す概略図である。
図2】本明細書に記載の非標的分析に用いられる、抽出手順及びLC分析手順の概要を示す概略図である。
図3】バージニアタバコのメタボロミクス分析で用いられるUPLC−HDMSパラメーターを示す表である。
図4】本明細書に記載の半極性UPLC−HDMS方法の使用により、ブレンド(A−左)及び煙(B−右)の分析から得られた、代表的なイオンマップを提供する図である(それぞれの場合の、下方のプロットは、完全なデータセットを示し、上方のプロットは、完全なデータセットのサブセットに対応する、イオンマップの特定の領域の拡大を示す)。
図5A】ある標準の風味を有する、様々な風味ブレンドのOPLS−DAモデルの結果を示すプロットである。
図5B】葉の様々な内部等級のOPLS−DAモデルの結果を示すプロットである。
図6図5Bと同様のプロットであるが、(図5Bと同様にして、風味よりもむしろ)葉の色に基づいて、異なる内部等級がプロットで色付けされている。
図7】本明細書に記載の、3種の風味ブレンドの分析からのブレンド結果のOPLS−DAモデルによって見積もられた、主な結果の概要をもたらす表である。
図8】ブレンド結果の3種の風味のそれぞれの、様々な化学族の含有量レベルを示す図であり、主要な化学成分を示すプロットA(左)、及びより少量の化学成分を示すプロット(B)である。
図9】3種の風味T1、T2、及びT3のそれぞれについて、メイラード反応生成物及び遊離炭水化物の含有量レベルを示すプロットである。
図10A】標準の煙分析からの様々な風味ブレントのOPLS−DAモデルの結果を示すプロットである。
図10B】様々な内部等級のOPLS−DAモデルの結果を示すプロットである。
図11図10Bと同様のプロットであるが、(図10Bと同様にして、風味よりもむしろ)葉の色に基づいて、異なる内部等級がプロットで色付けされている。
図12】本明細書に記載の、3種の風味ブレンドの分析からの煙結果のOPLS−DAモデルによって見積もられた、主な結果の概要をもたらす表である。
図13】煙結果の3種の風味のそれぞれの、様々な化学族の含有量レベルを示す図であり、主要な化学成分を示すプロットA(左)、及びより少量の化学成分を示すプロット(B)である。
図14】バージニアタバコの内部等級のブレンド試料(A−左)及び煙試料(B−右)の分離表現(separate representation)を作成するために、O2PLSモデルを適用した結果を示す図である。
図15】O2PLSモデルを用いて実施した、図14Aのブレンド結果と図14Bの煙結果との相関を示す図である。
図16】バージニアタバコの内部等級の、UPLC−HDMS方法論(A−左)及びHTS−FIA−HRMS方法論(B−右)によるブレンド分析からの分離表現を作成するために、O2PLSモデルを適用した結果を示す図である。
図17】O2PLSモデルを用いて実施された、図16AのUPLC−HDMS結果と図16BのHTS−FIA−HRMS結果との相関を示す図である。
図18】本明細書に記載の多変量モデルを発展させるための、1つの手法を示す、詳細なフローチャートである。
図19】本明細書に記載の、タバコを等級分けするのに用いられる階層ディシジョンツリーを図示する図である。
図20】HTS−FIA−HRMS分析から発展させたタバコ等級分けツールのブラインドバリデーションからの結果の表である。
図21】純粋なタバコからの煙の、理論的官能属性(青色)と予測された官能属性(赤色)との比較を図示するプロットであり、予測された官能属性はHTS−FIA−HRMS分析から発展させたツールより得られる。
図21A】特定の紙巻タバコ銘柄の煙の、理論的官能属性(青色)と予測された官能属性(赤色)との比較を図示するプロットであり、予測された官能属性は、HTS−FIA−HRMS分析から発展させたツールより得られる。
図21B】ヒートノットバーンデバイス(heat-not-burn device)の蒸気の、理論的官能属性(青色)と予測された官能属性(赤色)との比較を図示するプロットであり、予測された官能属性は、HTS−FIA−HRMS分析から発展させたツールより得られる。
図22】本明細書に記載のHTS−FIA−HRMS方法論より、試料を、革新的な風味及び/又は増強された風味で認識するのに用いられた、Y軸(垂直)が革新的な風味の点数を示し、X軸(水平)が増強された風味の点数を示す、プロットを図示する図である。
図23】HTS−FIA−HRMS分析によって決定された、その国際的化学組成に従って、クラスター化された試料を示す系統樹を示す図である。
図24】HTS−FIA−HRMS分析より品質作物指数(QCI,quality crop index)を見積もるための、多変量モデルのフィッティングを図示する図である。
図25】HTS−FIA−HRMS分析よりニコチン含有量(A−上方)及び全糖含有量(B−下方)を見積もるための、多変量モデルのフィッティングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1)概要
先進の分析技術が年々改良されているものの、高度に複雑な天然産物中の化合物の特徴付けには、課題が残されている。これに関連して、タバコの複雑性並びにその物理的特性及び化学的特性は、得られる煙(又は蒸気)の官能特性と比較して、煙(又は蒸気)に含まれる、多くの種類の化学類、ブレンドの生成、ブレンド中に含まれる化合物間の関係に由来する。タバコ化学多様性は、とりわけ、極性、溶解性、揮発性、及び熱安定性を含む因子によって影響される。
【0011】
メタボロミクス分析の戦略は、Nature Protocolsに掲載された報告書(De Vos R. C., Moco S., Lommen A., Keurentjes J. J., Bino R. J., Hall R .D. Untargeted large-scale plant metabolomics using liquid chromatography coupled to mass spectrometry. Nat Protoc 2, 778-791 (2007))によれば、一般に4つのステップを含むことが多い。
ステップ1−抽出:非標的手法は、いくつかの手順−典型的には化合物の化学極性を考慮した3つの手順、例えば、極性の抽出手順、半極性の他の抽出手順、及び非極性の他の抽出手順を用いて実施される。
ステップ2−機器分析:化合物のカテゴリーの全ての種類を対象として含むことができる、現在利用可能な単一の分離テクノロジーはない。したがって、ステップ1について、複数の異なる分離手順を利用することができる。
ステップ3−データ分析:分析情報が非標的分析から取得される場合、処理するのにそれ相応に長時間を要することになる、かなり大量のデータが生じる可能性がある。
ステップ4−モデリング:非標的分析について、これは、情報の内容が非常に複雑であるかもしれないだけでなく、構造に関して、部分的に、又は完全に未知であることが多いために、恐らく最も重要なステップである。したがって、適切なモデルを導出するために、元のデータで、構築し、最適化し、繰り返し実行するのに、長い時間を要することがある。
【0012】
上記の手法は、抽出手順(ステップ1)で始まり、化学分析の機器的手法の定義(ステップ2)、機器の結果のデータ処理(ステップ3)及びモデル(複数可)の作成/査定(ステップ4)の、メタボロミクス分析の典型的な国際的ワークフローを示す図1に図示される。こうしたワークフローは、メタボロミクス分析の様々な参考手順及び万国のプロトコルに示される(Fiehn O., Kopka J., Dormann P., Altmann T., Trethewey R. N., Willmitzer L. Metabolite profiling for plant functional genomics. Nat Biotechnol 18, 1157-1161 (2000)、Kim H. K. & Verpoorte R. Sample Preparation for Plant Metabolomics. Phytochem Anal 21, 4-13 (2010)、Villas-Boas S. G., Mas S., Akesson M., Smedsgaard J., Nielsen J. Mass spectrometry in metabolome analysis. Mass Spectrom Metabolome Anal 24, 613-646 (2005)、De Vos R. C., Moco S., Lommen A., Keurentjes J. J., Bino R. J., Hall R .D. Untargeted large-scale plant metabolomics using liquid chromatography coupled to mass spectrometry. Nat Protoc 2, 778-791 (2007))。
【0013】
液固抽出(LSE,liquid-solid extraction)は、基質(タバコ葉など)から溶媒へ化合物を移すのに、最も広く用いられる技術である(図1のステップ1)。抽出物は、物理的相互作用が生じ、大部分が液相へ移るように、固相を1又は2以上の溶媒で混合し、且つ振盪することによって(拡散、溶解、脱着などの異なるメカニズムによって)得られる。溶媒系(二成分、三成分、及びpH)の選択は重要であり、その結果、基質の差異(湿気、平均粒径など)にもかかわらず、多くの化合物を高い再現性で抽出できる。しばしば、最も完全な抽出プロファイルを得るために、異なる溶媒系への分割を利用する。
【0014】
タバコブレンド及び煙で見出される化合物は、高分子量、例えば、脂肪酸、トリアシルグリセロール、エステル、リン脂質、炭水化物、又は低分子量、例えば、アミノ酸、有機酸、及びピラジンを含むことができる。質量分析(MS,mass spectrometry)と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC,liquid chromatography)は、単一の基質における、広範囲の分子量及び極性を有する化合物の分析に適した機器的手法である(図1のステップ2)(Villas-Boas S. G., Mas S., Akesson M., Smedsgaard J., Nielsen J. Mass spectrometry in metabolome analysis. Mass Spectrom Metabolome Anal 24, 613-646 (2005)、De Vos R. C., Moco S., Lommen A., Keurentjes J. J., Bino R. J., Hall R .D. Untargeted large-scale plant metabolomics using liquid chromatography coupled to mass spectrometry. Nat Protoc 2, 778-791 (2007)、Theodoridis G., Gika H., Franceschi P., Caputi L. LC-MS based global metabolite profiling of grapes: Solvent extraction protocol optimisation. Metabolomics 8, 175-185 (2011))。
【0015】
クロマトグラフィーにおいて、通常、親水性相から逆相の範囲を用いて、固定相を変化させ、それぞれの抽出プロトコルスコープを可能にする(Gama M. R., da Costa Silva R. G., Collins C. H., Bottoli C. B. G. Hydrophilic interaction chromatography. TrAC Trends Anal Chem 37, 48-60 (2012)、McCalley D. V. Study of the selectivity, retention mechanisms and performance of alternative silica-based stationary phases for separation of ionised solutes in hydrophilic interaction chromatography. J Chromatogr A 1217, 3408-17 (2010)、De Vos R. C., Moco S., Lommen A., Keurentjes J. J., Bino R. J., Hall R .D. Untargeted large-scale plant metabolomics using liquid chromatography coupled to mass spectrometry. Nat Protoc 2, 778-791 (2007))。クロマトグラフィーの他に、有意な利点が示された、質量分析の、新規の一テクノロジーは、イオン移動度分光法(IMS,ion mobility spectrometry)である。このテクノロジーは、電場の影響の下、ガス体のチャンバ内のイオンの移動度をモニターすることによって、異なる衝突断面積(CCS,collision cross-section)及び/又は荷電状態を有するが、同じm/z比(質量分析で検出される、従来の測定パラメーター)のイオンを分離する能力を有する。したがって、IMSによって、等価のm/zを有する、化合物の立体配座集合体に対する追加的な分析機会がもたらされる。IMSの利点には、異性体、同重体、及び配座異性体の分離、化学ノイズの低減、またイオンサイズの測定が挙げられる。IMSの適用は、様々な「オミクス」場(例えば、ゲノミクス、プロテオミクス、又はメタボロミクス)の調査から、無機、有機金属、及びさらにインタクトなタンパク質についてを含む定量分析にまで及ぶ(Shvartsburg A. A., Tang K., Smith R. D. Modeling the Resolution and Sensitivity of FAIMS Analyses. J Am Soc Mass Spectr 15, 1487-1498 (2004)、Viehland L. A., Guevremont R., Purves R. W., Barnett D. A. Comparison of high-field ion mobility obtained from drift tubes and a FAIMS apparatus. Int. J. Mass Spectrom 197, 123-130 (2000))。
【0016】
図1の手法のタバコ分析への適用は、タバコメタボロミクスの非標的分析を実施することによってを含む、この分野の従来の研究を発展させる。言い換えれば、予め特定された化合物のセットで開始し、次いでこうした予め特定された化合物をとりわけ標的にした技術又は測定戦略を用いるよりもむしろ、本明細書に記載の手法は、所与のタバコ試料に存在し、タバコメタボロームの代表的な範囲を形成する化合物の、調査、測定、及び分析を試みる。調査のこのより広範な領域は、タバコの官能特性を予測するのに用いられるより強力なモデル(図1のステップ4のとおり)をもたらし、(次いで、こうしたモデルの利用をサポートする)ことが明らかになった。
【0017】
本明細書に記載の研究の一部として、バージニアタバコのブレンド分析及び煙分析が、UPLC−HDMS(超高速液体クロマトグラフィー、高解像度質量分析(ultra performance liquid chromatography, high definition mass spectrometry))を用いて実施された(HDMSに続く「」は、前駆体イオン及び生成物イオンそれぞれの正確な質量を得るために用いられる、低エネルギー衝突誘起解離と高エネルギー衝突誘起解離の両方を用いたタンデム質量分析データ取得の形態を示すのに用いられる)。分析データは、LC−MSデータ用分子探索分析ソフトウェアを提供する、Nonlinear Dynamics社製のProgenesis QIソフトウェア製品(http://www.nonlinear.com/progenesis/qi/参照)、及び分光データと共に用いることを含む、多変量データ分析ツールである、MKS Data Analytics Solutions社製のSIMCAソフトウェア(http://umetrics.com/products/simca参照)を用いることによって処理された(図1のステップ3)。ケモメトリックスモデリング(図1のステップ4)は、様々なケモメトリックス多変量分析ツールを提供し、MathWorks社製のMATLABコンピューター環境(http://uk.mathworks.com/products/matlab/参照)と組み合わせて用いられる、Eigenvector Research Incorporated社製のPLS toolbox(PLS=部分最小二乗法(partial least squares))(http://www.eigenvector.com/software/pls_toolbox.htm参照)で作成されたソフトウェアを用いて実施された。(これらの様々な分析技術及び製品並びにコンピューター技術及び製品は、例としてのみ提供され、他の対応する機能を適宜使用してもよいことを認識されたい)。
【0018】
本明細書に記載の手法は、ハイスループットスクリーニング(HTS,High Throughput Screening)分析に集約することができる。こうした集約により、本明細書に記載の分析能力を高めることが促され、用途の広い範囲にわたって、このテクノロジーの使用がサポートされる(以下により詳細に説明する)。
【0019】
2)実験手順
LC−MS等級メタノール(MeOH)、アセトニトリル(ACN,acetonitrile)、クロロホルム、及びギ酸(FA,formic acid)をMerck社(Darmstadt、Germany)から得、超純水をMilli-Q装置(Millipore(登録商標)、Billerica、MA、USA)によって製造した。用いられた全ての材料を、LC等級溶媒及び/又はMilli-Q装置で製造した超純水を用いて、丁寧に洗浄した。質量分析機の高い感度を考慮して、機器の損傷を防ぐために、また(特に)機器間の交叉汚染を防ぐために、界面活性剤及び同様の製品を洗浄手順で用いなかった。同様の理由で、試薬及び試料を耐薬品性の粉末フリーグローブを用いて取り扱った。Waters Reference Solutions社(USA)から得られた、ポリアラニン(1μg/mL)、ギ酸ナトリウム(0.5mmol/L)、及びロイシンエンケファリン(1μg/mL)を、衝突断面積較正、質量較正、及びロックマス(すなわち既知のm/z)補正、それぞれに用いた。全ての溶液を手順の日に調製した。
【0020】
抽出物の品質に影響を及ぼす主要パラメーターは、原材料として用いられる植物部位、バルク材料の物理的特性(例えば、粒径、湿気)、抽出に用いられる溶媒系、並びに抽出テクノロジー(操作及び装置)である。この実験に適用される手順は、タバコ基質、タバコ試料の種類(煙及びブレンド)、費用対効果に関連した特定の特徴を含む、様々な他の因子も考えられる、メタボロミクス非標的分析の万国の参考方法論に基づいた(De Vos R. C., Moco S., Lommen A., Keurentjes J. J., Bino R. J., Hall R .D. Untargeted large-scale plant metabolomics using liquid chromatography coupled to mass spectrometry. Nat Protoc 2, 778-791 (2007)、Theodoridis G., Gika H., Franceschi P., Caputi L. LC-MS based global metabolite profiling of grapes: Solvent extraction protocol optimisation. Metabolomics 8, 175-185 (2011))。さらなる目的は、抽出の一部分から決定することができる化合物の数を最大化し、それによって得られるケモメトリックスモデルを可能な限り、特定の、代表的なものにすることであった。実験的プロトコルには、偏りのない選択を利用し、それによって、抽出手順の実験ユニットの順序の選択、及びUPLC−HDMS実行がランダム化された。抽出手順の多様性を制御するために、3個の試料が所与の材料から抽出され、抽出対照(EC1、EC2、及びEC3)として名付けられた。さらに、試料セット全体にわたるシステムパフォーマンスを、煙とブレンドの両方の20回の分析の後、同じ試料を再度分析することによって、モニターした。
【0021】
図2は、(タバコ葉)ブレンド及び煙の両方について、本明細書に記載の非標的分析で用いられた抽出手順及びLC分析手順の概要を示す。実質的に、3種の溶媒(水、メタノール、及びクロロホルム)の組合せを用いて実施された多相抽出である。次いでこれによって、LCの非極性方法が次いで施される有機相(下方層)、並びにLCの極性方法及び半極性方法のそれぞれが次いで施される水性相(上方層)が生成される。
【0022】
ブレンド抽出手順について、官能的に特徴付けられたバージニアタバコ(収穫2013)の様々な粉末化試料200mgの一定分量を用いた。合わせて142個の試料を用い、それぞれの試料は、風味特徴の3種のセット(本明細書では便宜上T1、T2、及びT3と示す)の1つに分類された。試料の110個に、風味セットの割り当てを含む詳細な内部等級分けを施した:T1の27個の試料、T2の52個の試料、及びT3の33個の試料。残りの30個の試料は、こうした内部等級分けを施さなかったが、それでも、同じ、3種の風味セットの1つにブレンドした:T1、T2、及びT3のそれぞれに10個の試料。
【0023】
試料を、20mLの遠心分離管に移し、メタノール:水(1:1、v/v、水性相)溶液5mL及びクロロホルム(有機相)5mLで抽出し、超音波破砕機に15分間設置し、続いて、250rpmで15分間振盪した。次いで、遠心分離を2500rpmで5分間実施した。水性相(上方層)及び有機相(下方層)2mLの一定分量を0.22μmフィルター(Millipore、USA)でろ過し、希釈し(20倍)、UPLC−HDMS分析用にそれぞれのバイアルへ移した。
【0024】
紙巻タバコを、上記のように、粉末化試料の同じ試料セットに基づいて、バージニアタバコ(収穫2013)を用いて製造した。内部等級分け(T1を27個、T2を52個、及びT3を33個)によって類別された112個の紙巻タバコ試料、並びに等級分けされないが、T1、T2、又はT3(それぞれ10個)として類別された風味ブレンドで構成される、30個の試料。紙巻タバコは、その物理的平衡を維持するように、喫煙する前に、22±1℃及び相対湿度60±3%で48時間調節した。5個の紙巻タバコのセットそれぞれを、標準的な喫煙形態、1分あたり1パフ、2秒パフ期間、パフ容量35mL(ISO 3308:2012. Routine analytical cigarette-smoking machine - Definitions and standard conditions (2012))の下、Cerulean SM 450喫煙装置(http://www.cerulean.com/product-services/tobacco/smoking-machines参照)を用いて喫煙した。5個の紙巻タバコのセットの粒子状相煙を、44mmのCambridgeフィルターパッド(http://www.cambridgefilterusa.com/参照)で集めて、50mLの三角フラスコに移し、メタノール:水(1:1、v/v、水性相)溶液10mL及びクロロホルム(有機相)10mLで、250rpmで30分間振盪することによって抽出した。水性相(上方層)及び有機相(下方層)2mLの一定分量を、0.22μmフィルター(Millipore、USA)でろ過し、希釈し(水性相について2倍、及び有機相について20倍)、UPLC−HDMS分析用のそれぞれのバイアルへ移した。
【0025】
図2に示すように、3つの独立したUPLC方法、すなわち非極性方法、半極性方法、及び極性方法を、タバコメタボロミクス分析に用いた(図1も参照)。全ての分析を、SYNAPT G2-Si HDMSに連結したACQUITY I-CLASS UPLCモジュール(共にWaters社、USA、http://www.waters.com/参照)を用いて実施した。妥当なシステムチェック(検出器セットアップ、質量較正、及び衝突断面積較正)を、各分析バッチの前に実施した。データの取得は、イオン移動度を用いた陽性MS分解能モード(HDMS)で実施した。MSモードによって、識別又はイオンの予備選択をすることなく、同じ実行から、低エネルギースペクトル及び高エネルギースペクトルの両方を得ることができる。窒素を、イオン移動度の、ネブライザーガス、コーンガス、脱溶媒和ガス、及びドリフトガスとして用いた。アルゴンを衝突ガスとして用いた。バージニアタバコのメタボロミクス分析に用いられたUPLC−HDMSパラメーターを図3の表に示す。
【0026】
3)データ処理及びケモメトリックス戦略
T1、T2、及びT3の風味の違い(ブレンド及び煙の両方について)に相当する、可能な化学マーカーを調べるために、新規のケモメトリックス戦略を開発し、適用した。UPLC−HDMS分析からの全ての生データを、Progenesis QIソフトウェア(前述のとおり)を用いて、以下のワークフローに従って処理した:生データのインポート;m/z及び時間のアラインメント;実験デザインの選択(この場合対象物から);ピーク選別及び正規化;並びにデコンボリューション(これらの操作のより詳細については、http://storage.nonlinear.com/webfiles/progenesis/qi/v1.0/user-guide/Progenesis_QI_User_Guide_1.0.pdfで利用可能なProgenesis QIユーザーガイド1.0参照)。得られるX及びYのマトリクス(ブレンド及び煙それぞれについて)をCSVファイル(コンマで区切られた変数(comma separated variable))としてエクスポートし、高性能コンピューター(RAM 192GB)を用いて、高水準の技術的コンピューター言語(前述したようにMATLAB)で処理した。先進の自動ケモメトリックスシステム(ACS,automated chemometric system)を確立し、高分解能MSデータセットに適用した。
【0027】
データ較正ステップ及び予測ステップを、パレートスケーリング方法(標準偏差の平方根によるスケーリング)及び中心化前処理(mean center preprocessing)方法を用いて、直交部分最小二乗判別分析(OPLS−DA,Orthogonal Partial Least Squares Discriminant Analysis)に基づいた多変量回帰モデルを用いて実施した。クロスバリデーションについて、ベネチアンブラインド方法を、1ブラインドあたり10個のデータスプリット及び1個の試料を有する20個の試料の較正セットに用いた。この手法は、モデルのクロスバリデーションの二乗平均平方根誤差(RMSECV,Root Mean Square Error of Cross-Validation)を決定するために、ランダムに選択されたデータブロックを再度割り当てる。予測の二乗平均平方根誤差(RMSEP,Root Mean Square Error of Prediction)を見積もるために、21個の試料を較正セットに用い、9個の試料を予測セットに用いた(共にランダムに選択された)。
【0028】
ブレンドと煙との全相関を決定するために、内部等級分けされた試料の分析から得られたXマトリクス(ブレンド)及びYマトリクス(煙)は、上記のようにProgenesis QIで処理した後、SIMCAソフトウェア(Umetrics社、Sweden)にエクスポートした。相関は、パレートスケーリング及び中心化前処理を再度用いて、O2PLSモデル(2方向直交PLS)に基づいて導出された。これらの結果は、内部バリデーション(クロスバリデーション)、外部バリデーションに基づいて検証され、応答並べ替え検定が実施された。2より高い、モデルへの距離(DModX)を有する観測値は、外れ値として定められた。
【0029】
3種の風味群(T1、T2、及びT3)の違いの原因となる化合物の化学的性質を特定するために、OPLS−DAモデルより得られた化学マーカーの、正確な質量パターン及び同位体パターンを、高分解能質量ライブラリーと比較した。この比較は、前述のProgenesis QIソフトウェア用のMetaScopeプラグイン(再びNonlinear Dynamics社製)を用いて実施された。さらに、ヒットから得られる理論的断片化パターンを、実験データ(高エネルギースペクトル)と比較した。正確な質量について誤差10ppm及び同位体パターン類似性について80%の閾値を、ライブラリーの検索に設定した。利用可能であれば、構造確認のために、標準化合物と未知の化合物で、保持と質量スペクトル(高エネルギースペクトル)とを比較することによって、標準化合物を分析した。
【0030】
4)結果
a)UPLC−HDMS分析
ブレンド及び煙の分析から得られた、代表的なイオンマップを図4に示す。左側のマップは、ブレンド(A)に関連し、右側のマップは煙(B)に関連し、両方の場合とも半極性UPLC−HDMS方法から得られた(図2参照)。(A)と(B)の両方について、下方のプロットは、保持時間(分)に対するドリフト時間(ビン)の完全なデータセットを示し、上方のプロットは同じデータセットの一部の(すなわち、ドリフト時間及び保持時間の範囲のサブセットの)より高い分解能の図である。Progenesis QIソフトウェアでのデータ処理の後、各データ基質(ブレンド及び煙)について20000個を超えるイオンが検出され、UPLC−HDMS方法(非極性、半極性、及び極性)により、タバコに含まれる、広範囲の全代謝産物を検出することができると示される。様々な制御手順によって、試料セットの分析を通して、システム実施の抽出手順の多様性又は不安定性により、得られた結果が有意な影響を受けることはないと確認された。
【0031】
b)ブレンド分析
OPLS−DAモデルからの結果を図5A(標準の風味ブレンド試料について)及び図5B(内部等級分けされた試料について)に示す。図5Aに示すように、標準の風味ブレンドは、下方左の四分円に位置するT3風味を有する全ての試料(赤色で示される)、上方右の四分円に位置するT2風味を有する全ての試料(緑色で示される)、及び下方右の四分円に位置するT1風味を有する全ての試料(青色で示される)で明確に分けられる。風味を示す、同じ着色スキームで(各等級がまた内部分類指標で印付けされた)内部等級分けされた試料を図5Bに示す。図5Aのブレンドに示すように、各風味の様々な内部等級は、(それらは、タバコの個々の、異なる等級であるので、予想されていたように)より散乱し、クラスターの端で、風味間でいくらか重なるものの、およそ同じ中心位置についてクラスター化される。実質的に、図5Bは、下方左の四分円で始まり、図の上方の中心部分に上昇し、下方右の四分円まで引き下がる連続体を示す。
【0032】
化学組成に基づく違いは、バージニアタバコの内部等級分けに用いられる、最も重要な官能特徴の1つである、ブレンドの色に強く相関することが明らかになった。したがって、各等級は、レモン(L)→レモン−オレンジ(D)→オレンジ(O)→オレンジ−マホガニー(E)→マホガニー(R)を含むスペクトルから色を割り当てられる。図6は、図5Bと同じプロットであるが、各等級の円が、(図5Bの風味分類よりもむしろ)上記スペクトルから割り当てられた色を示すように色分けされている。下方左から、上方中心を通って、下方右へ引き下がる連続体を通ることは、下方左の暗色(マホガニー)から上方中心の中間色(オレンジ)、次いで下方右の明色(レモン)へ、葉の色の明るさを増すことに対応すると明らかに示される。
【0033】
3種の風味ブレンドT1、T2、及びT3のブレンドの違いに相当する化学マーカーを得るために、9つのOPLS−DAモデルを作成した。図7の表に示すように、クロスバリデーションの高い係数(R CV≧0.97)と組み合わせた、クロスバリデーション(RMSECV)及び予測(RMSEP)から得られる相対的に低い二乗平均平方根誤差(≦0.16)は、実験データが、データに過剰適合する証拠はなく、提案されたOPLS−DAモデルに適切に適合していることを示す。モデルは、適切な並べ替え検定を実施することによっても検証された。
【0034】
ブレンド分析より、96個の化学マーカーを推定上特定した。要するに、T1風味は、ポリフェノール、炭水化物、及び脂質のより高い含有量を示したのに対し、T3風味は、一般に、窒素化合物(アミン、アミド、アミノ酸、及びヌクレオシド)並びにアルデヒド、エステル、ケトン、及びアルコールのより高い含有量を示した。T1風味及びT3風味と比較した場合、T2風味は、中間の化学特徴(例えば、図5BのプロットのT2風味等級の中間位置に対応する)を示した。
【0035】
図8は、3種の風味のそれぞれについて、様々な化学族の含有量レベルを示した、これらの結果を図示する。それぞれの化学族について、T1風味は、左(青色)に示され、T2風味は、中心(緑色)に示され、T3風味は右(赤色)に示される。図8は、2つのプロットに分けられ、左側のプロット(Aと示す)は、主要な化学成分を示し、右側のプロット(Bと示す)は、より少量の化学成分を示す(但し、プロットAと比較して、プロットBは低減した強度スケール)。
【0036】
結果をより詳細に考慮すると、T1風味は、遊離炭水化物、例えば六炭糖類(フルクトース、グルコース、及びガラクトース)、二糖類(ラクトース及びスクロース)、並びにラフィノースなどの三糖類の最も高い含有量を示した。さらに、T1風味は、脂質、例えば脂肪酸(アラキドン酸、5,8,11−エイコサトリエン酸、及びオレアナ−12−エン−29−酸、3−ヒドロキシ−11−オキソ−,(3,20))、並びにトリグリセリド及びジグリセリドの最も高い含有量を示した。T1風味が未成熟なバージニアタバコの鉄管乾燥から得られるので、この挙動は、収穫時のブレンドの成熟度と関連しているようである。一方で、T3風味は、デオキシフルクトサジン(2,5及び2,6)、遊離炭水化物とアンモニアとのメイラード反応の生成物の最も高い含有量を示した。メイラード生成物の増加は、遊離炭水化物の減少に対応した(すなわち、逆相関)。これは、3種の風味T1、T2、及びT3それぞれのメイラード反応生成物及び遊離炭水化物の含有量レベルを示す、図9のプロットによって図示される。
【0037】
対照的に、T1風味で、アマドリ化合物(N−(1−デオキシ−1−フルクトシル)プロリン、N−(1−デオキシ−1−フルクトシル)ヒスチジン、及びN−(1−デオキシ−1−フルクトシル)アラニン)のより高い含有量が見出された。アマドリ化合物は、遊離炭水化物とアミノ酸とのメイラード反応の生成物である(Davis D. L. & Nielsen M. T. Tobacco: Production, Chemistry and Technology (1999)、Shigematsu S., Shibata S., Kurata T., Kato H., Fujimaki M. Thermal degradation products of several Amadori compounds. Agric BioI Chem 41, 2377-2385 (1977)、Rodgman A. & Perfetti T. A. The Chemical Components of Tobacco and Tobacco Smoke (2013))。アマドリ化合物は低温分解を受けやすいことを認識すると、これは、タバコの乾燥及び成熟からのアマドリ化合物の分解に寄与すると考えられる(Davis D. L. & Nielsen M. T. Tobacco: Production, Chemistry and Technology (1999)、Shigematsu S., Shibata S., Kurata T., Kato H., Fujimaki M. Thermal degradation products of several Amadori compounds. Agric BioI Chem 41, 2377-2385 (1977))。恐らく、(T1風味と比較して)T3風味のより長い成熟時間及び乾燥時間によって、デオキシフルクトサジン含有量は増加するが、アマドリ化合物含有量は減少する。
【0038】
T3風味において、バージニアタバコの農作及び乾燥に関連すると考えられる、カフェオイルキナ酸誘導体(クロロゲン酸、ネオクロロゲン酸、グルコカフェ酸、クロロゲノキノン(chlorogenoquinone)、及びtrans−p−クマル酸4−グルコシド)、並びにフラボノイド(ルチン及びケンペロール7−ガラクトシド3−ルチノシド)の有意な減少が明らかになった。同様に、T1風味及びT2風味と比較して、T3風味で見出された窒素化合物のより高い含有量も、バージニアタバコを農作し、乾燥する異なる方法に関連する可能性がある。
【0039】
c)煙分析
ちょうどブレンド分析と同じように、煙分析によって、3種の風味ブレンド(T1、T2、及びT3)間の明確な違い、並びにバージニアタバコの、異なる内部等級間の明確な違いがもたらされた。煙分析のOPLS−DAモデルからの結果を、図10A(風味分類された試料について)及び図10B(内部等級分けされた試料について)に示す。これらの図は、葉抽出物についての図5A及び図5Bと同様である。再び、図10Aに示すように、左側に位置するT3風味を有する全ての試料(赤色で示される)、上方右の四分円に位置するT2風味を有する全ての試料(緑色で示される)、及び下方右の四分円に位置するT1風味を有する全ての試料(青色で示される)で、風味ブレンドが明確に分けられる。同様に、風味を示す、同じ着色スキームで(各等級がまた内部分類指標で印付けされた)内部等級分けされた試料を図10Bに示す。図10Aのブレンドに示すように、各風味の様々な内部等級は、より散乱し、クラスターの端で、風味間でいくらか重なるものの、およそ同じ中心位置についてクラスター化される。実質的に、図10Bは(図5Bと同様に)、下方左の四分円で始まり、図の上方の中心部分に上昇し、下方右の四分円まで引き下がる連続体を示す。
【0040】
再び、化学組成に基づく違いは、ブレンドの色と強く相関することが明らかになった。したがって、各等級は、レモン(L)→レモン−オレンジ(D)→オレンジ(O)→オレンジ−マホガニー(E)→マホガニー(R)を含むスペクトルから色を割り当てられる。図11は、図10Bと同じプロットであるが、各等級の円が、(図10Bの風味分類よりもむしろ)上記スペクトルから割り当てられた色を示すように色分けされている。下方左から、上方中心を通って、下方右へ引き下がる連続体を通ることは、下方左の暗色(マホガニー)から上方中心の中間色(オレンジ)、次いで下方右の明色(レモン)へ、葉の色の明るさを増すことに対応すると明らかに示される。
【0041】
ブレンド分析と同様に、煙の違いに相当する化学マーカーを3種の風味カテゴリーT1、T2、及びT3に特定するために、9つのOPLS−DAモデルを作成した。クロスバリデーションの高い係数(R CV≧0.97)と組み合わせた、クロスバリデーション(RMSECV)及び予測(RMSEP)から得られる相対的に低い二乗平均平方根誤差(≦0.20)は、実験データが、提案されたOPLS−DAモデルに適切に適合していることを示す。図12の表を参照されたい。モデルは、適切な並べ替え検定を実施することによっても検証された。ブレンド分析(図7の表に示すように)と比較して、煙分析から得られた、より高いRMSECV値及びRMSEP値(図12のとおり)は、煙試料調製(喫煙装置ステップの使用、続いてCambridgeフィルターパッドによる粒子状物質の抽出)における、より多くの多様性から生じると考えられる。
【0042】
煙分析より、その多くが重要な香味特徴及び風味特徴を有すると知られている、96個の化学マーカーを推定上特定した。要するに、T1煙は、脂質、有機酸、及び糖の最も高い含有量を示したのに対し、T3煙は、アミン及びアミド並びにアルデヒド、エステル、ケトン、及びアルコールの最も高い含有量を示した。T1風味及びT3風味と比較した場合、T2煙は、化合物の中間レベル(再び、図10BのプロットのT2風味等級の中間位置に対応する)を示した。
【0043】
図13は、3種の風味のそれぞれについて、煙結果の様々な化学族の含有量レベルを示した、これらの結果を図示する。それぞれの化学族について、T1風味は、左(青色)に示され、T2風味は、中心(緑色)に示され、T3風味は右(赤色)に示される。図13は、2つのプロットに分けられ、左側のプロット(Aと示す)は、主要な化学成分を示し、右側のプロット(Bと示す)は、より少量の化学成分を示す(但し、プロットAと比較して、プロットBは低減した強度スケール)。
【0044】
T1煙中の脂質、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、トリグリセリド、及びジグリセリドのより高い含有量は、水蒸気蒸留法により、ブレンドから直接移すことに起因すると考えられる。同様に、ブレンドで見出された僅かな遊離炭水化物も、水蒸気蒸留法により煙中へ移されると考えられる。しかし、T1ブレンドの遊離炭水化物の大部分は、紙巻タバコの燃焼の一部として熱分解され、T1風味煙中に高濃度で見出される、5−ヒドロキシメチル−フルフラール及び他のフェノール化合物を生成する(Rodgman A. & Perfetti T. A. The Chemical Components of Tobacco and Tobacco Smoke (2013))。
【0045】
窒素化合物、主にピラジン、ピリジン、インドール及びイミダゾール及びピロールのより高い含有量が、T1風味の煙で見出され、これらの化合物の多くは、重要な香味特徴又は風味特徴を有すると知られている(Rodgman A. & Perfetti T. A. The Chemical Components of Tobacco and Tobacco Smoke (2013))。これらの化合物は、デオキシフルクトサジンなどのメイラード生成物の熱分解より生成される可能性が高く、FW風味ブレンドでより高い濃度で見出された。
【0046】
d)ブレンドと煙との相関
PLS及びOPLSと対照的に、O2PLSは、双方向分析、すなわち、X⇔Yを実施し、したがって、Xを用いてYを予測することができ、Yを用いてXを予測することができる。O2PLSによって、X及びYの系統的ばらつき(systematic variability)を3つの部分に分けることができる:X/Y結合予測変動(joint predictive variation)、Yに直交するXの変動及びXに関連しないYの変動(Trygg J. O2-PLS for qualitative and quantitative analysis in multivariate calibration. J Chemometr 16, 283-293 (2002))。
【0047】
図14に示すように、O2PLSモデルを、初めに、バージニアタバコの内部等級について、Xマトリクスを示すブレンド試料(A−左)、及びYマトリクスを示す煙試料(B−右)の分離表現を作成するように適用した。図15に示すように、ブレンド結果からのXマトリクス(t[1]軸)と煙結果からのYマトリクス(t[2]軸)との相関を、全ての化学組成に基づいて、O2PLSモデルを用いて実施した。
【0048】
ブレンド結果及び煙結果それぞれについて、図14の個々のO2PLSプロットから、内部等級のT1風味、T2風味、及びT3風味の間の違いをみることが可能であると分かる(再び、T2はT1とT3との間の中間位置にある)。さらに、同じ試料等級(各点の個々の刻字/ラベル付けによって示すように)は、図14A及び図14Bそれぞれの、ブレンド分析及び煙分析において、非常に似た点数を示す。これによれば、既に、ブレンド結果と煙結果との間に適切な相関があると考えられることが示される。この予想は、図15のO2PLS国際的相関プロットで見出された高い係数(R>0.94)によって確認される。結果として、全てのブレンド化学組成は、全ての煙組成を反映する(及び決定する)ことが明らかになり、したがって、ブレンド分析から煙の官能特徴(例えば、香味及び風味)を予測することが可能である(逆も同様である)。
【0049】
e)結論
本明細書に記載のメタボロミクス分析により、タバコブレンド(葉)及び煙(又は蒸気)の非標的化学特徴付けを可能にする、ケモメトリックスに基づいた戦略が提供される。さらに、およそ200個の化学マーカーが、バージニアタバコの3種の異なる風味間の違いに主に相当するものとして特定された。バージニアタバコの範囲内で観測された、主な化学差異は、農作手順及び乾燥手順に関連すると考えられる。例えば、バージニアタバコの2種の異なるブレンドに見出される、炭水化物及び窒素化合物それぞれのより高い含有量に反映される。したがって、農作手順及び乾燥手順の整合化が、バージニアタバコの風味の均質性を高めるために、非常に望ましいと考えられる。
【0050】
さらに、ロバストな国際的相関(R>0.94)は、(i)ブレンド及び(ii)煙の全ての化学組成の間で見出され、それによって、この異なる試料間の明確な関係が示される。結果として、バージニアタバコの異なる等級によって製造された煙の、個々の風味特性及び官能特性を、ブレンド分析から予測することができる。特に、煙(又は蒸気)の官能特徴は、ケモメトリックス手法と組み合わせたブレンド化学分析から予測することができ、それによって、植物育種、収穫の一貫性、風味の違い、及びタバコ等級分けに対する、本明細書に記載の手法の重要性が確認される。
【0051】
5)さらなる方法論
(i)化学分析を実施するメカニズムとしてUPLC−HDMSを用いた結果と、(ii)高分解能質量分析検出システムと連結した、フローインジェクション分析(FIA,flow injection analysis)を備えるハイスループットスクリーニング(HTS)方法論(HTS−FIA−HRMS)を代わりに用いた結果とを比較する、さらなる調査を実施した。図16に示すように、バージニアタバコの内部等級について、初めにO2PLSモデルを適用して、Xマトリクスとして示されたUPLC−HDMS分析からの結果(A−左)、及びYマトリクスとして示されたHTS−FIA−HRMS分析からの結果(B−右)の分離表現を作成した。次いで、UPLC−HDMS分析結果からのXマトリクス(tcv[1]軸)とHTS−FIA−HRMS分析からのYマトリクス(ucv[1]軸)との相関を、O2PLSモデルを用いて、全ての化学組成に基づいて実施した。
【0052】
図16A及び図16Bのプロットそれぞれの試料の同様の分布から分かるように、結果の、密接に適合するセットを、2種の異なる方法論、UPLC−HDMS及びHTS−FIA−HRMSを用いて得た。これによれば、図17のO2PLS国際的相関プロットに見出された高い係数(R=0.88)によって確認されるように、UPLC−HDMS方法論とHTS−FIA−HRMS方法論との間に適切な相関があると考えられることが示される。
【0053】
結果として、図16及び図17から、HTS−FIA−HRMS方法論は、UPLC−HDMS方法論から得られるものと同様の化学プロファイルをもたらすことが分かる。さらに、HTS−FIA−HRMSを使用することにより、スループットについて、分析能力が有意に増すことになる(典型的には約25倍)。したがって、HTS−FIA−HRMS方法論から得られる分析スループットの増加は、広い範囲の用途にわたってこのテクノロジーが使用されることをサポートする。
【0054】
図18は、本明細書に記載のケモメトリックス及びメタボロミクスの手法のもう1つの実施の段階的手法を図示する詳細なフローチャートである。上記のHTS−FIA−HRMS方法論を使用する検出システムによって、大量の、複雑なデータセットとして結果が作成される、この手法は、数千の試料からの結果(1つのバッチで)を処理するのに特に適している。図18に示す各ステップについて、手順(複数可)は、MATLABプログラミング言語を用いて実施された。この戦略は、とりわけ、タバコ等級分け、官能属性の予測、革新的な風味及び増強された風味の認識、官能評価の合理的な説明などの、全てのさらなる用途において用いるために、高分解能質量スペクトルを組み合わせ、データをアラインし、結果となるデータベースを構築するのに、速く、有効であることが分かった。
【0055】
上記のように、タバコ抽出において、原材料(葉ブレンド及び/又は煙)から水性相及び有機相の両方の抽出を可能にする、2層手順が用いられた。この原材料は、タバコの各種類(バージニアだけではなく)の範囲から取られた。ハイスループットスクリーニング(HTS)方法論を、高分解能質量分析計(HRMS,high resolution mass spectrometer)と連結した、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)をフローインジェクション分析(FIA)システムとして用いることに基づいて使用した。HTS−FIA−HRMSに基づいた2つの独立した方法を、負極性又は正極性(ESI−及びESI+)のいずれかで両方の抽出物(水性及び有機)に適用し、それによって、1試料あたり、2分の分析で4つの指紋スペクトルを得た。
【0056】
図18に示すように、生データ、例えば、共にWaters社、USAの、SYNAPT G2-Si HDMSと連結したACQUITY UPLCモジュールから前処理をせずに取得されたデータセットの拡張子RAWに、MassLynx Databridgeソフトウェア(MassLynx 4.1 Interfacing Guide、Waters Corporation社に記載されているように、http://www.waters.com/webassets/cms/support/docs/71500123505ra.pdf参照)を用いて実施され得る、データを変換するステップを施す。この変換を実施して、MATLABプラットフォーム(MATLABプラットフォームの一部であるBioinformatics toolboxを含む)と互換性のあるフォーマット(NetCDF)(ネットワーク共通データフォーマット(Network Common Data Format)、装置に依存しない、自己記述型のデータフォーマット)のデータを得る。次いで、データをMATLABプラットフォームにインポートすることができ、そこで、試料の名前を含むリスト(TXTフォーマット)に従って、初めに編成され、前処理される。
【0057】
次に、組み合わさったイオン100%を含む、1試料あたり単一のHRスペクトルを得るために、例えば、1試料あたり短い実行の間に、質量中心によって得られた、100個の異なるスペクトルを含む高分解能(HR,high resolution)質量スペクトルを、所定のデルタm/zに従って、存在する最も高いピークに基づいて組み合わせる。次いで、マスバランスを調べるステップが実施され、実質的に、元のスペクトルに存在する全てのイオンの強度の和が、1試料あたりの最終スペクトルの全ての組み合わさったイオンの強度の和に等しいはずであると検証される。
【0058】
次いで、HRMSからのデータを、試料間でアラインする。特にm/z基準ベクトルを作成し、全ての試料を基準ベクトルに従ってグループ化する。次いで、重複域を削除する。これは、イオン間の差がデルタm/z閾値に近ければ、特定のイオンを、1個の特定の基準イオン又はその隣接イオンのいずれかと組み合わせ得ることを反映する。この特定のイオンと基準イオンのそれぞれ1個との差が最小値である場合、特定のイオンは、1度だけ考えねばならない。次いで、図18の処理は、固有の変数であることが確実な、その最も近い隣接と比較することによって、変数間の等価について試験するステップに進み、任意の等価変数を組み合わせることができる(又は冗長性が除去される)。但し、この、データ重複の削除及び等価性は重要である。さもなければ、ケモメトリックス戦略で用いられる多変量モデルの結果に干渉することがある。
【0059】
次に、バックグラウンド試料(ブランク)に存在する変数の寄与に基づいて、バックグラウンド変数を除去する。初めに、全ての試料を考慮した各変数の平均値を含むベクトルを作成する。次いで、ブランクからのデータと計算された最初のベクトルとの差を含む、もう1つのベクトルを作成し、それによって、正の結果を有する変数がバックグラウンドを表す。このステップは、各ブランクについて逐次的に実施される。バックグラウンド試料(ブランク)それ自体を除去することができる。
【0060】
ここで、この閾値より下の強度で存在する全ての変数を除去するように(ノイズレベルに非常に近づくように)ノイズ変数を閾強度に基づいて除去する。しかし、この除去は変数について全ての試料にその通り(すなわち、全ての試料は、閾値より下の変数を有する)である場合のみ実施され、さもなければ、完全な情報が保存される。次に、データは、所定の因子を用いて正規化され、マトリクスの各行が、全ての変数の強度の和(行毎に)とこの因子との商によって割られる。この正規化は、スペクトルの再現性を改善するために実施される。
【0061】
ここで、図18の処理は、全ての抽出方法からデータを合わせるステップに進む。例えば、2つの抽出物(水性及び有機)が得られ(図2に図示するように)、それぞれ1つを、イオン化の2つのモード(負及び正)で分析して、タバコの化合物の最大数を検出する場合、上記の国際的データ前処理戦略を独立して、全ての4つのデータセットに適用する。このステップで、次いで、これら4つのデータセットは、単一のマトリクスのサイド・バイ・サイドに配置される。
【0062】
ここで、各試料の様々な情報、例えば、名前、優位性、特徴、収穫年、官能属性などを含む、様々な試料の観測値を挿入する。次いで、これによって、多変量モデルで用いる準備が整った、数千の試料を含む、最終のタバコデータベースがもたらされる。これらの試料は、いくつかの作物から、鉄管乾燥(バージニア)、空気乾燥(バレー及び「Galpao Comum」)、並びに日干乾燥(オリエンタル)を含む、非常に広範囲のタバコの種類を表すことができる。
【0063】
ここで、図18のタバコデータベースが作成されると、ケモメトリックス分析を実施することができる。最初に、データを、1又は2以上のフィルター、例えば、収穫年、タバコ等級、タバコの種類などを用いて、分離することができる。ここで、変数は、各変数について、選択比(PLS toolboxで利用可能なパラメーター)に基づいて選択され、これは、(Rajalahti T., Arneberg R., Berven F. S., Myhr K.-M., Ulvik R. J., Kvalheim O. M. Biomarker discovery in mass spectral profiles by means of selectivity ratio plot. Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems 95, 35-48 (2009))によれば、回帰モデル又は分類モデルにおいて、各変数の予測(識別)力を示す。
【0064】
ここで、選択された変数を用いて、選択された変数の各セットに基づいた、いくつかの多変量モデルを構築する。ここで、目的は、判別分析から見出される、誤った分類率に従って、及び回帰モデルの平均平方予測誤差に従って得られる、最適のモデルを見出すことである。次いで、この最適モデルは、(その残差に基づいた)外れ値を特定するために、選択され、評価され、これらは次いでデータセットから除去される。これは、新規のデータセット(外れ値を含まない)を用いて、タバコ等級分け、煙の官能属性の予測などのタスクに適用することが次いで可能な回帰モデル又は分類モデルを構築することによる、多変量モデルの更新を可能にする。
【0065】
タバコ等級分けは、多変量モデルの適用のこうした一例を示す。特定の一実施において、タバコは、タバコの化学組成に基づいて、タバコの種類(4種、K1、K2、K3、K4)、タバコの風味(12種の風味:K1についてT1〜T3、K2についてT4〜T6、K3についてT7〜T9、K4についてT10〜T12)及び品質(Q1:高い、Q2:中間、Q3:低い)に関して等級分けされる。データベースに含まれる、官能特徴(風味など)とタバコ試料の化学組成との関係によって、こうした特徴の決定用の多変量モデル(OPLS−DA)が可能になる。これらのモデルは、図19に図示するような階層ディシジョンツリー図の形態で構築され得る。特に、図19において、風味のモデルカテゴリーは、タバコの種類によって決まり、品質のモデルは、同様にタバコの風味によって決まることが分かるであろう。例えば、図19の右側の部分は、風味T1、T2、及びT2を有する、1つのタバコの種類(K1)を考慮したタバコ等級分けの階層ディシジョンツリー図を示す。次いで、Q1、Q2、及びQ3は、これら3種の風味のそれぞれのタバコの品質の異なるレベルを示す。図19のもう一方の部分は、そのそれぞれが、品質の、3つの異なるレベルをやはり有する、風味T4、T5、及びT6と関連して示される、K2などの、タバコの他の種類のディシジョンツリーを表し、タバコの種類K3及びK4についても同様である。
【0066】
図18に示すタバコデータベースのもう1つの用途は、煙の官能属性の予測である。辛さ、苦味、及び甘味などの、いくつかの官能属性を選択することができる。こうした属性は、一般に、人間の専門家のパネルによって、(例えば)それぞれの属性が0(感覚作用なし)から10(最高強度)までで変わることができる、適切なスケールに従って査定される。したがって、タバコデータベースから、空気乾燥(バレー)タバコ及び鉄管乾燥(バージニア)タバコの化学組成に基づいて、煙の官能属性を予測できる、独立した較正モデル(OPLSに基づく)を構築することができる。
【0067】
本明細書に記載の手法により、多くの試料を処理できるだけでなく、その化学組成に基づいてタバコを特徴付けすることもできる。この原則に基づいて、未知の試料について、タバコの、種類、風味、及び品質、並びに煙の評価に関連する様々な官能属性を予測することが可能になる。この機能の様々な他の用途(現在及び未来において)には以下のものが挙げられる。
購入前に、購入するかどうか決定するタバコの作物を査定すること。例えば、特定の製品について、所望される官能特徴をもたらすかどうか。
作物の生育環境及び収穫後の処理を制御すること。例えば、所望される官能特徴に関して、作物にいくつか不足があると分かれば、例えば、いくつかの収穫後処理によって、この不足を正し、又は補うことができる。同様に、分析により、いつ作物が収穫の準備が整っているか示すことができ(その現行の化学構成が所望される官能特徴を付与すると予想されるため)、又は同様にいつ乾燥を終了させるべきか示すことができる。
所望される官能特徴を有するブレンドを得るために、異なるタバコのブレンディングを制御すること。同様に、製品が所望される官能特徴を保持することを確実にするために、製造技術などを制御すること。
所与の植物が所望される官能特徴をもたらすのか決定する、より迅速な、より信頼できる方法を考慮して、革新的な特徴及び/又は増強された特徴(風味など)を特定するための植物育種プログラムを制御すること。
製品品質モニタリング。例えば、同じ紙巻タバコ銘柄の異なる試料を、消費者が一貫した官能特徴を受けることを確実にするために、客観的に比較できる。
官能評価の既存の技術(及びこうした技術から得られる結果)を合理的に説明すること。
品質作物指数を見積もること。
タバコのアルカロイド(例えば、ニコチン)及び/又は全糖含有量(total sugar content)を見積もること。
【0068】
6)さらなる用途
ここで、本発明の手法の、様々な実施及び用途は、例としてのみ、より詳細に説明されることになる。場合によっては、やはり、こうした用途に上記のモデルを使用することの、妥当性及び正確性が査定される。
【0069】
1.タバコ等級分け
上記の分析から決定された、タバコの化学組成に基づいて、図19のディシジョンツリーのとおりに、種類(4種:K1、K2、K3、K4)、風味(12種の風味:K1についてT1〜T3、K2についてT4〜T6、K3についてT7〜T9、K4についてT10〜T12)及び品質(Q1:高い、Q2:中間、Q3:低い)に従って、タバコを等級分けするのに用いられるツールが開発された。データベースに含まれる、タバコ試料の官能特徴と化学組成との関係によって、それぞれの特徴を決定するための分類多変量モデルを構築することが可能である。これらのモデルは、図19のディシジョンツリー図に従って構築された。すなわち、風味のモデルは、タバコの種類によって決まり、品質のモデルは、タバコの風味によって決まる。
【0070】
この手法は、図20の表に示すように実験的に検証され、HTS−FIA−HRMS分析から発展させたタバコ等級分けツールであるブラインドバリデーションの結果を示す。HTS−FIA−HRMS分析から発展させたモデルを用いて実施された、種類、風味、及び品質による、タバコの等級分け又は分類は、人間の専門家の結果と極めて良い一貫性を示すことが分かる。タバコの種類及び風味に関して、タバコ等級分けツールより予測された結果と、理論的結果(人間の専門家から)は100%一致する。さらに、やはり、18個の試料中の14個(78%)について、予測されたタバコ品質と理論的タバコ品質が一致し、品質で不一致である4個の試料でさえも、不一致は、1つのレベルのみである(予測品質と理論的品質が2つのレベル、すなわち、一方がQ1、他方がQ3で異なる場合はない)。
【0071】
2.煙の官能属性の予測
以下のタバコの官能属性、インパクト、ピッチ、奥深さ(amplitude)、刺激、バランス、辛さ(dryness)、苦味、甘味、えぐみ(harshness)は、本明細書に記載のモデルを用いた調査用に選択された。これらの属性は、専門パネリストの官能的記憶に基づいて、ある種のタバコ試料について決定された。それぞれの属性に、0(感覚作用なし)〜10(最高強度)の範囲の値を割り当てた。次いで、これによって、タバコデータベースから構築された、独立の較正モデルを、空気乾燥(バレー)タバコ及び鉄管乾燥(バージニア)タバコの化学組成に基づいて、煙の官能属性を予測するのに用いることが可能になった。
【0072】
図21は、人間の専門家から得られた、純粋なタバコ試料の煙の、理論的(すなわち、測定されたか、又は観測された)官能属性(青色)と、上記のように、HTS−FIA−HRMS分析から発展させたツール(統計モデル)から得られた、予測された官能属性(赤色)との比較を図示する。予測された官能属性と理論的官能属性との間に良好な整合性が示され、それによってこのツールの価値が確認される。
【0073】
同様の手法は、紙巻タバコの特定の種類(銘柄)(可燃性製品)、並びにタバコ加熱式製品(ヒートノットバーン(heat-not-burn))、電子紙巻タバコ(電子タバコ)、及びハイブリッド製品などの新世代製品にも拡張することができる。可燃性製品について、選択された属性は、吸いにくさ(draw effort)、口中の煙の感じ(mouthful of smoke)、インパクト、刺激、口内乾燥、マウスコーティング、風味強度(taste intensity)、タバコアロマ、鮮明さ(brightness)、及び曖昧さ(darkness)であった。ヒートノットバーン製品について、選択された属性は、インパクト、刺激、口内乾燥、タバコアロマ、調理風味(cooked taste)、異風味(off-taste taste)、風味強度、チクチク感(prickling)、マウスコーティング、及び全体の品質であった。両方の場合において、全ての属性は、基準化された官能パネルの専門パネリストによって実施された、それぞれの属性が、1(最低の感覚作用)〜9(最高の感覚作用)の範囲のスケールで格付けされた喫煙試験によって決定された。可燃性製品の煙化学組成に基づいて、及びヒートノットバーン製品の蒸気化学組成に基づいて、官能属性を予測するための高分解能質量分析データベースを用いることにより、独立した、多変量較正モデルが構築された。
【0074】
図21A及び図21Bは、図21と同様のものであり、人間の専門家から得られた、紙巻タバコの煙(図21A)又は蒸気(図21B)の理論的(すなわち、測定されたか、又は観測された)官能属性(青色)と、上記のように、HTS−FIA−HRMS分析から発展させたツール(統計モデル)から得られた、紙巻タバコの種類又は銘柄(図21A)及びヒートノットバーン製品(図21B)の、予測された官能属性(赤色)との比較を図示する。図21に関して、図21A及び図21Bによれば、予測された官能属性と理論的官能属性との間に良好な整合性が示され、それによって官能属性を予測するこのツールの価値が確認されることが分かる。
【0075】
したがって、本明細書に記載の技術は、タバコ材料から煙を生じる、従来の紙巻タバコだけでなく、タバコ材料から蒸気を生じる新世代デバイス、例えば、ベイピングデバイス及び電子タバコの両方の文脈において有用である。例えば、本明細書に記載の手法を用いて、所与のタバコ試料から生じる煙及び/又は蒸気の官能属性を予測することができ、それによって、製品の一貫性、新規の商品の開発(以下を参照)、作物管理、及び選択性の決定などがサポートされる。したがって、本明細書に記載の様々な技術で用いられるタバコ試料には、タバコ植物材料、又は煙若しくは蒸気を含む、その任意の妥当な派生物が含まれることを認識されたい。
【0076】
3.革新的な風味及び増強された風味を認識するステップ
タバコの新規の品種において、革新的及び増強された潜在的可能性のある、試料を認識するのに役立つために、ツールが開発されてきた。初めに、その化学組成に基づいてタバコの種類(K1、K2、K3、K4)を予測する分類多変量モデルを構築した(図19に関する上記のものと同様)。次いで、予測された(新規の)試料の残差分析に基づいて、革新的な風味及び/又は増強された風味を認識することができる。
【0077】
こうした残差分析を、二次元空間にプロットされたタバコ試料を示す図22に図示する。DmodXと示された、このプロットのy軸は、X観測値の残差標準偏差(RSD,residual standard derivation)に比例した、Xモデル面又は超平面への観測値の距離を示す。Dcriticalの2倍の大きさのDmodXを有する試料は、中度の外れ値とみなされる。これによれば、この試料は、その変数(化学組成)の相関構造に関して、タバコの既知の領界[複数の作物からの、鉄管乾燥(バージニア)、空気乾燥(バレー及び「Galpao Comum」)並びに日干乾燥(オリエンタル)を含む]を形成する試料と異なることが示される。DmodXがDcriticalより高い試料は、較正セットに関して異なる化学組成を示し、その結果、革新的な風味としての、より高い潜在的可能性がある。
【0078】
一方で、HotellingのT統計に対応する、このプロットのx軸は、各試料のモデル面の原点からの距離を示す。臨界値よりも大きい、この統計の値は、点数空間の成分の選択された範囲に関して、試料が、較正セットの他の試料よりも離れていることを示す。これらの外れた試料は、較正セットの試料の分布と比較して、相対的に、より高い濃度の、又はより低い濃度の化学化合物を示す。したがって、臨界値より高いHotellingのT統計を有する試料は、較正セットに関して、増強された風味を示すのであろう。
【0079】
さらに、このツールで、これらの試料が含まれる、第1部分(K1〜K4)タバコの種類、及び第2部分(T1〜T12)タバコの風味を決定するための、独立した分類多変量モデルを用いることによって、これらの革新的な試料及び増強された試料における、既知の基本的な風味を認識することもできる(図19のディシジョンツリーと同様)。
【0080】
したがって、図22は、HTS−FIA−HRMS方法論に従って分析された、様々な試料のプロットを示す。このプロットにおいて、Y軸(垂直)は、DmodXパラメーターに基づいた、革新的な風味の点数を示し、X軸(水平)は、HotellingのT統計に基づいた、増強された風味の点数を示す。既存のタバコの種類(K1、K2、K3、及びK4)は、一般に、プロットの「既知の領界」部分に位置する。しかし、いくつかの試料は、Dcritical(水平破線で示される)よりも大きなDmodX値を有する。したがって、これらの試料は、高い点数を得て、革新的な風味を有する。革新的な試料の1つが新規_風味_1に割り当てられるものの、この革新的な試料の大部分は、新規_風味_2に割り当てられる。
【0081】
4.官能評価を合理的に説明するステップ
風味を区別するために、タバコ試料の官能評価をサポートするツールが開発された。試料は、階層的クラスター分析(HCA,hierarchical cluster analysis)を用いた、その化学類似性に準拠したツールによってクラスター化される。HCAは、化学組成結果の主成分分析(PCA,principal component analysis)によって得られた、複数の成分のそれぞれの点数から構築される。
【0082】
図23は、上記のHTS−FIA−HRMS分析によって決定された、その国際的な化学組成に従ってクラスター化された試料により作成された系統樹を示す。この系統樹により、第1のタバコが、第2のタバコと似ているか、又は非常に異なるかの、客観的尺度がもたらされる。例えば、所与のタバコが入手不可能か、又は高価になり(例えば、収穫の問題による)、代替物として用いてもよい、同様のタバコを特定したい場合、これは有用であろう。
【0083】
5.品質作物指数を見積もるステップ
これは、タバコ化学組成に基づいて、品質作物指数(QCI)を見積もるのに用いられるツールである。QCIは、煙の国際的な官能品質を示す、簡約化した点数である。指数は、0(最低品質)と104(最高品質)との間で変化することができる。独立した較正モデルは、空気乾燥(バレー)タバコ及び鉄管乾燥(バージニア)タバコのQCI値を予測するために、本明細書に記載の手法を用いて構築された。
【0084】
図24は、上記のHTS−FIA−HRMS分析から品質作物指数(QCI)を見積もるための多変量モデルを図示する。緑色の点は、クロスバリデーションセットを示し、これらは、上記のHTS−FIA−HRMS分析を施し、多変量モデルから予測された、既知の(人によって格付けされた)QCI値を有する、較正セット(モデル構築で用いられる)からの作物試料を示す。次いで、緑色の点線は、データの、このクロスバリデーションセットについて、これらの予測されたQCI値と、既知の理論的なQCI値との間の直線近似を示す。
【0085】
次いでモデルは、予測用データの、第2の外部セット(青色の点で示される)を用いて試験された。再び、これらは、上記のHTS−FIA−HRMS分析を施した、既知の(人によって格付けされた)QCI値を有する作物試料を示す。しかし、青色の点の試料を用いて、モデル自体を作成しなかった。再び、青色の点は、理論的な(人によって格付けされた)QCI値と比較した、(HTS−FIA−HRMS分析からの化学組成データに基づいた)モデルから予測されたQCI値を図示する。次いで、青色の点線は、データの第2のセットについて、これらの予測されたQCI値と、既知の理論的なQCI値との間の直線近似を示す。
【0086】
予測用のデータの、第2の外部セットから得られた直線近似(青色の線)と比較した、クロスバリデーションデータ用の直線近似(緑色の線)の間の密接な類似性により確認されることは、HTS−FIA−HRMS分析と組み合わせた、このモデル又はツールが、所与のタバコ試料のQCIを見積もるための有用なメカニズムをもたらすことである。
【0087】
6.アルカロイド及び全糖含有量を見積もるステップ
このツールは、タバコ化学組成に基づいて、アルカロイド(例えば、ニコチン)及び全糖含有量を見積もるために開発された。独立した較正モデルは、空気乾燥(バレー)タバコ及び鉄管乾燥(バージニア)タバコの両方についてニコチン濃度(0〜5%)を予測するように構築され、一方で全糖濃度(0〜30%)は、鉄管乾燥(バージニア)タバコについてのみ見積もられる。
【0088】
図25は、HTS−FIA−HRMS分析より、ニコチン含有量(A−上方)及び全糖含有量(B−下方)を見積もるための多変量モデルの、結果として得られる適合を図示する。図24と同様に、緑色の点は、クロスバリデーションセットを示し、ニコチン/糖含有量を予測するモデル構築で用いられた較正セットからの作物試料を示す。特に、このセットについて、タバコ化学組成データは上記のように得られ、次いで、図25のプロットのとおり、実際に測定された(理論的な)ニコチン/糖含有量と比較される。次いで、緑色の点線は、データの、このクロスバリデーションセットについて、これらの予測された含有量値と、既知の、理論的な含有量値との間の直線近似を示す。
【0089】
次いで、モデルは、予測用データの、第2の外部セットを用いて試された(青色の点で示される)。再び、これらは、上記のHTS−FIA−HRMS分析を施した、既知の(測定された)ニコチン/糖含有量を含む試料を示すが、青色の点の試料を用いて、モデル自体を作成しなかった。再び、青色の点は、ニコチン及び糖含有量の、測定された(理論的な)値と比較した、(HTS−FIA−HRMS分析からの化学組成データに基づいた)モデルから予測された含有量値を図示する。次いで、青色の破点線は、データの、第2の外部セットについて、これらの予測された含有量値と、既知の、理論的な含有量値との間の直線近似を示す。
【0090】
予測用のデータの、第2の外部セットから得られた直線近似(青色の線)と比較した、クロスバリデーションデータ用の直線近似(緑色の線)の間の密接な類似性により確認されることは、HTS−FIA−HRMS分析と組み合わせた、このモデル又はツールが、所与のタバコ試料の糖及び/又はニコチン含有量を見積もるための、有用なメカニズムをもたらすことである。
【0091】
上記の様々なツールは、プロセッサー、メモリーなどを備えた、1又は2以上のコンピューターシステムを用いて実施することができる。特に、ツールは、コンピューターシステム(複数可)での1又は2以上のコンピュータープログラム実行を用いて実施することができる。ある場合では、1又は2以上のコンピューターシステムは、一般的用途の装置であってもよく、他の場合では、1又は2以上のコンピューターシステムは、ある特殊な用途のハードウェア、例えば、多くの処理をサポートするグラフィック処理ユニット(GPU,graphical processing unit)を含むことができる。コンピュータープログラムは、非一時的記録媒体、例えば、ハードディスクドライブで提供されるか、及び/又はインターネットなどのコンピューターネットワークでダウンロードされるか、若しくは実行することができる。
【0092】
本明細書に記載のテクノロジーについて、上記で列挙された、これらの潜在的に可能な、使用は、例としてのみ提供され、限定されるものではないことを認識されたい。結論として、様々な問題を正し、当分野を発展させるために、本開示は、請求項に係る発明(複数可)を実施することができる、様々な実施形態を説明することによって示される。本開示の利点及び特徴は、実施形態の代表的な試料のものであり、網羅的及び/又は排他的なものではない。それらは、請求項に係る発明(複数可)の理解を助けるため、及び請求項に係る発明(複数可)を教示するためだけに示される。本開示の、利点、実施形態、例、機能、特徴、構造、及び/又は他の態様は、請求項によって定められた本開示に限定するもの、又は請求項の等価物に限定するものと考えるべきではなく、請求項の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用することができ、改変することができると理解されたい。様々な実施形態は、本明細書に具体的に記載されたもの以外に、開示された、要素、成分、特徴、部分、ステップ、手段などの、様々な組合せを適切に含むか、開示された、要素、成分、特徴、部分、ステップ、手段などの、様々な組合せからなるか、又は本質的に、開示された、要素、成分、特徴、部分、ステップ、手段などの、様々な組合せからなることができる。本開示は、現在は請求されていないが、将来請求される可能性がある、他の発明を含むことができる。
【0093】
(参考文献)
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図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16-1】
図16-2】
図17
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図19
図20
図21
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25-1】
図25-2】
【手続補正書】
【提出日】2019年3月13日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類する方法であって、
前記タバコ試料から質量分析(MS)データを取得するステップと、
前記取得されたMSデータから、前記タバコ試料中の複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを特定するステップと、
前記化学成分と前記風味カテゴリーとの関係を示す統計多変量回帰モデルを用いて、前記タバコ試料中で特定された、前記複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルに基づいて、前記タバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの前記既定セットの1つの風味カテゴリーに割り当てるステップと
を含む、前記方法。
【請求項2】
タバコ試料が、タバコ葉に由来する固体材料を含み、MSデータが前記固体材料から取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固体材料が粒子状である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
タバコ試料が、タバコ葉の熱分解に由来する煙、又はヒートノットバーンデバイスのタバコ材料に由来する蒸気を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
MSデータを取得するために、タバコ試料に高解像度質量分析を実施するステップをさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
MSデータが、高解像度又は高分解能の質量分析データ(HDMS、HRMS)を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
取得されたMSデータが、前駆体イオン及び生成物イオンそれぞれを調べるために、低エネルギー衝突誘起解離と高エネルギー衝突誘起解離の両方を用いたHDMSデータを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高解像度質量分析に先行して、タバコ試料に超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)を施すステップをさらに含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
高分解能質量分析検出システムと連結した、フローインジェクション分析(FIA)システムを用いて、ハイスループットスクリーニング(HTS)(HTS−FIA−HRMS)を実施するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
水性溶媒と有機溶媒との組合せを用いて、タバコ試料に多相抽出を実施するステップをさらに含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
多相抽出が、非極性方法、半極性方法、及び極性方法の使用を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
非標的手法を用いて、タバコ試料中で、複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを特定する、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを、1又は2以上のライブラリーと比較することによって特定する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
統計多変量回帰モデルが、直交部分最小二乗(OPLS)回帰及び判別分析を備えたOPLS(OPLS−DA)に基づいた、1又は2以上の統計モデルを含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
統計多変量回帰モデル統計モデルが、主成分分析(PCA)、階層的クラスター分析(HCA)、主成分回帰(PCR)、サポートベクターマシン(SVM)、人工ニューラルネットワーク(ANN)、ランダムフォレスト(RF)、及び/又は遺伝的アルゴリズム(GA)などの、多変量の、教師あり及び/又は教師なし方法を1又は2以上含むモデリングを利用する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
統計モデルが、クロスバリデーション係数R>0.9を有する、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
統計モデルが、ポリフェノール、炭水化物、及び脂質の少なくとも1種の含有量に基づいて、風味カテゴリーの既定セットの間で異なる、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
統計モデルが窒素化合物並びにアルデヒド、エステル、ケトン及びアルコールの少なくとも1種の含有量に基づいて、風味カテゴリーの既定セットの間で異なる、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
風味カテゴリーの既定セットが、ポリフェノール、炭水化物、及び脂質の少なくとも1種の、増加する含有量が、窒素化合物並びにアルデヒド、エステル、ケトン及びアルコールの少なくとも1種の、減少する含有量に対応する、線形シーケンスとして考えることができる、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
風味カテゴリーの既定セットを、成熟に関連した線形シーケンスとして考えることができる、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
統計モデルが、タバコ煙試料中の、複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルと、タバコ葉試料中の、複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルとの間の相関を取り入れる、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
タバコ試料の品質を特定するステップをさらに含む、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
タバコ試料の種類を特定するステップをさらに含む、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類するための装置であって、前記装置は化学成分と前記風味カテゴリーとの関係を示す統計多変量回帰モデルを含み、
前記タバコ試料から質量分析(MS)データを取得し、
前記取得されたMSデータから、前記タバコ試料中の複数の化学成分及びそれらのそれぞれの含有量レベルを特定し、
前記複数の特定された化学成分と前記風味カテゴリーとの関係を示す前記統計多変量回帰モデルを用いて、前記タバコ試料中で特定された、前記複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルに基づいて、前記タバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの前記既定セットの1つの風味カテゴリーに割り当てる
ように構成される、前記装置。
【請求項25】
タバコ試料から取得されたMSデータを用いて、前記タバコ試料の風味カテゴリーを予測するための、請求項24に記載の装置の使用。
【請求項26】
特定のタバコの種類のタバコ試料を、そのタバコの種類の風味カテゴリーの既定セットの1つの風味カテゴリーに分類するための統計多変量回帰モデルを作成するための方法であって、
複数のタバコ試料のセットであり、前記セットの前記複数のタバコ試料のそれぞれが既知の風味カテゴリーを有するセットから質量分析(MS)データを取得するステップと、
前記取得されたMSデータから、各タバコ試料中の複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルを特定するステップと、
(i)各タバコ試料の前記既知の風味カテゴリー、並びに(ii)各タバコ試料の前記複数の化学成分及びそのそれぞれの含有量レベルに関して部分最小二乗分析を実施することによって、前記統計多変量回帰モデルを作成するステップと
を含む、前記方法。
【国際調査報告】