(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-530167(P2019-530167A)
(43)【公表日】2019年10月17日
(54)【発明の名称】活性金属のコーティングのための組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20190920BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20190920BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20190920BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20190920BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20190920BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/06 X
H01M10/0585
H01M6/16 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-515509(P2019-515509)
(86)(22)【出願日】2017年9月12日
(85)【翻訳文提出日】2019年5月10日
(86)【国際出願番号】EP2017072791
(87)【国際公開番号】WO2018054715
(87)【国際公開日】20180329
(31)【優先権主張番号】16190156.6
(32)【優先日】2016年9月22日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】メルロ, ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ハモン, クリスティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】オルダーニ, クラウディオ
【テーマコード(参考)】
5H024
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H024AA12
5H024CC03
5H024CC07
5H024CC20
5H024EE09
5H024HH01
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ03
5H029BJ13
5H029CJ12
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029EJ12
5H029HJ02
5H029HJ11
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA06
5H050BA16
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA24
5H050FA04
5H050GA12
5H050GA22
5H050HA02
5H050HA11
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの側においてポリマー組成物でコーティングされる金属層を含む多層アセンブリ、前記アセンブリの調製方法および前記多層アセンブリを含む電気化学セルを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層アセンブリであって、
− 金属元素であって、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛または前記金属元素とケイ素およびスズの少なくとも1つとの合金からなる群から選択される、そのゼロ酸化状態における金属元素から実質的になる、2つの表面を有する金属層(a)と;
− (a)の少なくとも1つの表面に接着するコーティング層(b)であって、−SO
3Y官能基(式中、Yは、H、アルカリ金属およびNH
4からなる群から選択される)を有する少なくとも1つのフルオロポリマー(F)を含み、(F)は、
− 少なくとも1つの−SO
2X官能基(式中、Xは、X’およびOM(ここで、X’は、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択され、およびMは、H、アルカリ金属およびNH
4からなる群から選択される)から選択される)を有する少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(A)と、
− 少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(B)であって、
− テトラフルオロエチレンなどのC
2〜C
8パーフルオロオレフィン;
− フッ化ビニリデン(VDF)および1,2−ジフルオロエチレンなどのC
2〜C
8水素化フルオロオレフィン;
− クロロトリフルオロエチレン(CTFE)およびブロモトリフルオロエチレンなどのC
2〜C
8クロロ−、および/またはブロモ−、および/またはヨード−フルオロオレフィン;
− 式CF
2=CFOR
f1(式中、R
f1は、C
1〜C
6フルオロアルキル、例えば−CF
3、−C
2F
5、−C
3F
7である)のフルオロアルキルビニルエーテル;
− 式CF
2=CFOR
O1(式中、R
O1は、1つ以上のエーテル基を有するC
1〜C
12フルオロ−オキシアルキル基、例えばパーフルオロ−2−プロポキシ−プロピル基である)のフルオロ−オキシアルキルビニルエーテル;
− 式CF
2=CFOCF
2OR
f2(式中、R
f2は、C
1〜C
6フルオロアルキル基、例えば−CF
3、−C
2F
5、−C
3F
7または1つ以上のエーテル基を有するC
1〜C
6フルオロオキシアルキル基、例えば−C
2F
5−O−CF
3である)のフルオロアルキル−メトキシ−ビニルエーテル;
− 式:
(式中、互いに等しいかまたは異なるR
f3、R
f4、R
f5、R
f6の各々は、独立して、フッ素原子、1つ以上のエーテル酸素原子を任意選択的に含むC
1〜C
6フルオロアルキル基、例えば−CF
3、−C
2F
5、−C
3F
7、−OCF
3、−OCF
2CF
2OCF
3である)
のフルオロジオキソール(MDO)
からなる群から選択される少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(B)と
から誘導される繰り返し単位を含む、コーティング層(b)と
を含む多層アセンブリ。
【請求項2】
フルオロポリマー(F)は、
式:CF2=CF(CF2)pSO2X’(式中、pは、0〜10、好ましくは1〜6の整数であり、より好ましくは、pは、2または3に等しく、好ましくは、X’=Fである)のスルホニルハライドフルオロオレフィン;
式:CF2=CF−O−(CF2)mSO2X’(式中、mは、1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは2〜4の整数であり、さらにより好ましくは、mは、2に等しく、好ましくは、X’=Fである)のスルホニルハライドフルオロビニルエーテル;
式:CF2=CF−(OCF2CF(RF1))w−O−CF2(CF(RF2))ySO2X’(式中、wは、0〜2の整数であり、互いに等しいかまたは異なるRF1およびRF2は、独立して、F、Clまたは1つ以上のエーテル酸素原子で任意選択的に置換されたC1〜C10フルオロアルキル基であり、yは、0〜6の整数であり、好ましくは、wは、1であり、RF1は、−CF3であり、yは、1であり、およびRF2は、Fであり、好ましくは、X’=Fである)のスルホニルハライドフルオロアルコキシビニルエーテル;
式CF2=CF−Ar−SO2X’またはCF2=CF−O−Ar−SO2X’(式中、Arは、C5〜C15芳香族またはヘテロ芳香族置換基であり、好ましくは、X’=Fである)のスルホニルハライド芳香族フルオロオレフィン
から選択される少なくとも1つのモノマー(A)から誘導される繰り返し単位を含む、請求項1に記載の多層アセンブリ。
【請求項3】
フルオロポリマー(F)は、
− 式CF2=CF−O−(CF2)m−SO2F(式中、mは、1〜6、好ましくは2〜4の整数である)のフルオロビニルエーテルの群から選択される少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(A)と、
− 少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(B)であって、
− C3〜C8フルオロオレフィン、好ましくはフッ化ビニリデン(VDF);
クロロトリフルオロエチレンおよび/またはブロモトリフルオロエチレンなどのクロロ−、および/またはブロモ−、および/またはヨード−C2〜C6フルオロオレフィン;
− 式CF2=CFORf1(式中、Rf1は、C1〜C6フルオロアルキル、例えば−CF3、−C2F5、−C3F7である)のフルオロアルキルビニルエーテル;
− 式CF2=CFORO1(式中、RO1は、1つ以上のエーテル基を有するC1〜C12フルオロオキシアルキル、好ましくはパーフルオロ−2−プロポキシ−プロピルである)のフロオロ−オキシアルキル−ビニルエーテル
の中から選択される少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(B)と
から誘導される繰り返し単位を含む、請求項2に記載の多層アセンブリ。
【請求項4】
フッ素化オレフィンモノマー(A)は、CF2=CFOCF2CF2−SO2F(パーフルオロ−5−スルホニルフルオリド−3−オキサ−1−ペンテン)であり、かつ/またはフッ素化オレフィンモノマー(B)は、フッ化ビニリデン(VDF)および/もしくはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)である、請求項3に記載の多層アセンブリ。
【請求項5】
フルオロポリマー(F)の当量は、340〜1800g/eqである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多層アセンブリ。
【請求項6】
フルオロポリマー(F)中の全モル数に基づいて(F)中の5〜50モル%の繰り返し単位は、上記のような−SO2Xを含む少なくとも1つのフッ素化モノマーから誘導される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多層アセンブリ。
【請求項7】
(a)は、金属リチウムであって、そのゼロ酸化状態における金属リチウムまたは金属リチウムとケイ素もしくはスズとの合金である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層アセンブリ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層アセンブリを調製するためのプロセスであって、
i.金属元素であって、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛または前記金属元素とケイ素およびスズの少なくとも1つとの合金からなる群から選択される、そのゼロ酸化状態における金属元素から実質的になる、2つの表面を有する金属層(a)を提供する工程と;
ii.任意選択的に、非水性溶媒を含む液体媒体(L1)との混合物において、フルオロポリマー(F)を含む組成物(C)を提供する工程と;
iii.工程ii.の組成物(C)で層(a)の少なくとも1つの表面をコーティングする工程と;
iv.任意選択的に、液体媒体(L1)中に含まれる非水性溶媒の少なくとも一部を除去して多層アセンブリを得る工程と
を含むプロセス。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層アセンブリを調製するためのプロセスであって、
I.金属元素であって、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛または前記金属元素とケイ素およびスズの少なくとも1つとの合金からなる群から選択される、そのゼロ酸化状態における金属元素から実質的になる、2つの表面を有する金属層(a)を提供する工程と;
II.フルオロポリマー(F)を含む組成物(C)を提供する工程と;
III.工程II.で得られた組成物(C)からフルオロポリマーフィルムを加工する工程と;
IV.工程III.のフィルムを金属層(a)の少なくとも1つの表面上に積層して多層アセンブリを得る工程と
を含むプロセス。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の多層アセンブリを含む電気化学セル。
【請求項11】
充電式または一次リチウム金属電池の形態における、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項12】
リチウム金属またはリチウム硫黄電池の形態における、請求項10に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年9月22日に出願された欧州特許出願公開第16190156.6号に対する優先権を主張し、この出願の全内容は、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、少なくとも1つの側においてポリマー組成物でコーティングされる金属層を含む多層アセンブリ、前記アセンブリの調製方法および前記多層アセンブリを含む電気化学セルを提供する。
【背景技術】
【0003】
アノードとしてリチウム金属またはリチウム化合物を含む一次(非充電式)電池は、非常に有用なエネルギー貯蔵装置であり、多くの携帯電子デバイスから電気自動車までの範囲にわたる様々な用途を見出し得る。
【0004】
また、リチウム(Li)金属は、その優れた電気化学的特性のため、充電式(二次)電池のための理想的なアノード材料であろう。残念ながら、充電式電池に固有のリチウムの堆積/剥離中の制御不能なデンドライト成長および限定されたクーロン効率は、過去40年にわたり、Li金属系充電式電池および関連する装置の実用化を妨げてきた(参照文献:XU,W.,et al.“Lithium metal anodes for rechargeable batteries”.Energy Environ.Sci.2014,vol.7,p.513−537およびそれに引用される参考文献)。
【0005】
ポストリチウムイオン電池の出現により、Li金属アノードの安全で効率的な動作は、充電式Li−空気電池、Li−S電池およびカソードとして層間化合物を使用するLi金属電池を含む次世代のエネルギー貯蔵技術の今後を左右し得る有用な技術と見なされている(参照文献:LIANG,Z.,et al.“Polymer Nanofiber−Guided Uniform Lithium Deposition for Battery Electrodes”.Nano Lett.2015,vol.15,p.2910−2916,UMEDA,G.A.,et al.Protection of lithium metal surfaces using tetraethoxysilane.J.Mater.Chem..2011,vol.21,p.1593,LOVE,C.A.,et al.“Observation of Lithium Dendrites at Ambient Temperature”.ECS Electrochemistry Letters.2015,vol.4,no.2,p.A24−A27)。
【0006】
リチウム金属アノードの重大な問題は、それらが高い反応性であることである。リチウム金属は、電池の電解質に使用される有機化学物質のほとんどと反応し、水および空気中で変色し、電池製造中に問題を引き起こす。
【0007】
二次電池におけるLi金属アノードの使用での別の主な問題は、繰り返しの充電/放電サイクル中のリチウムのデンドライトの成長に関連し、これは、最終的に耐用年数が短くし、潜在的な内部短絡につながる。
【0008】
制御されないリチウムのデンドライト成長は、不十分なサイクル性能および重大な安全上の危険をもたらす(参照文献:WU,H.,et al.“Improving battery safety by early detection of internal shorting with a bifunctional separator”.Nat.Commun.2014,vol.5,p.5193)。電気化学サイクル時、リチウムイオンは、欠陥に向かって拡散し、いわゆる「ホットスポット」を生成する。電流密度が局所的に劇的に増加されたこれらのホットスポットでは、Liのデンドライト成長が加速されることがよく認識されている。得られる樹状のリチウム金属のデンドライトは、セパレータを貫通し、過熱、火災および装置の爆発の可能性の危険を伴う内部短絡を引き起こすことになる。
【0009】
リチウムのデンドライト成長は、リチウム金属においてポリマー層を加えることによって防止することができる。この層は、リチウム金属上に均質に接着してリチウムの均質な堆積をもたらし、また性能の損失および界面におけるリチウム濃度の低下を回避するために、デンドライトの成長に耐える良好な機械的特性、長寿命のための適度な膨潤、良好なイオン伝導性を有しなければならない。しかしながら、公知のコーティング組成物(例えば、ビニリデンジフルオリドポリマーに基づく)は、デンドライトの成長を満足のいくレベルまで抑制せず、電気化学セルの全体効率は低い。
【0010】
実際、これらの層の厚さおよび反応性は、制御が困難であることが証明されており、コーティングは、電池の機能を妨害する可能性があり、これは、最終的にこれらの実用的用途を制限する。
【0011】
国際公開第2016/083271号パンフレット(Rhodia Operations and COMMISSARIAT ENERGIE ATOMIQUE)は、金属層と、−SO
3H基を有するフルオロポリマーを含むコーティング層とを含む多層アセンブリを開示しており、特にテトラフルオロエチレン系フルオロポリマーを開示している。
【0012】
特開2014−210929号公報(DAIKIN IND LTD)は、フッ素含有エチレンモノマーをベースとする重合単位と、側鎖に−SO
3Li基を有する重合単位とを含むフルオロコポリマーの製造方法を開示している。
【0013】
国際公開第2012/000851号パンフレット(Solvay Solexis SPA)は、スルホニルフルオリドポリマーをヒドロフルオロエーテルで処理するためのプロセスおよびそれから得られるポリマーを開示している。
【0014】
現在、リチウム金属アノードに基づく、耐久性があり、信頼性があり、安全な充電式電気化学セルへの要求は、依然として満たされていない。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、多層アセンブリであって、
− 金属元素であって、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛または前記金属元素とケイ素およびスズの少なくとも1つとの合金からなる群から選択される、そのゼロ酸化状態における金属元素から実質的になる、2つの表面を有する金属層(a)と;
− (a)の少なくとも1つの表面に接着するコーティング層(b)であって、−SO
3Y官能基(式中、Yは、H、アルカリ金属およびNH
4からなる群から選択される)を有する少なくとも1つのフルオロポリマー(F)を含み、(F)は、
− 少なくとも1つの−SO
2X官能基(式中、Xは、X’およびOM(ここで、X’は、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択され、およびMは、H、アルカリ金属およびNH
4からなる群から選択される)から選択される)を有する少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(A)と、
− 少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(B)であって、
− テトラフルオロエチレンなどのC
2〜C
8パーフルオロオレフィン;
− フッ化ビニリデン(VDF)および1,2−ジフルオロエチレンなどのC
2〜C
8水素化フルオロオレフィン;
− クロロトリフルオロエチレン(CTFE)およびブロモトリフルオロエチレンなどのC
2〜C
8クロロ−、および/またはブロモ−、および/またはヨード−フルオロオレフィン;
− 式CF
2=CFOR
f1(式中、R
f1は、C
1〜C
6フルオロアルキル、例えば−CF
3、−C
2F
5、−C
3F
7である)のフルオロアルキルビニルエーテル;
− 式CF
2=CFOR
O1(式中、R
O1は、1つ以上のエーテル基を有するC
1〜C
12フルオロ−オキシアルキル基、例えばパーフルオロ−2−プロポキシ−プロピル基である)のフルオロ−オキシアルキルビニルエーテル;
− 式CF
2=CFOCF
2OR
f2(式中、R
f2は、C
1〜C
6フルオロアルキル基、例えば−CF
3、−C
2F
5、−C
3F
7または1つ以上のエーテル基を有するC
1〜C
6フルオロオキシアルキル基、例えば−C
2F
5−O−CF
3である)のフルオロアルキル−メトキシ−ビニルエーテル;
− 式:
(式中、互いに等しいかまたは異なるR
f3、R
f4、R
f5、R
f6の各々は、独立して、フッ素原子、1つ以上のエーテル酸素原子を任意選択的に含むC
1〜C
6フルオロアルキル基、例えば−CF
3、−C
2F
5、−C
3F
7、−OCF
3、−OCF
2CF
2OCF
3である)
のフルオロジオキソール(MDO)
からなる群から選択される少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(B)と
から誘導される繰り返し単位を含む、コーティング層(b)と
を含む多層アセンブリを含む多層アセンブリを提供する。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、上記のような多層アセンブリを調製するためのプロセスであって、
i.金属元素であって、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛または前記金属元素とケイ素およびスズの少なくとも1つとの合金からなる群から選択される、そのゼロ酸化状態における金属元素から実質的になる、2つの表面を有する金属層(a)を提供する工程と;
ii.任意選択的に、非水性溶媒を含む液体媒体(L1)との混合物において、フルオロポリマー(F)を含む組成物(C)を提供する工程と;
iii.工程ii.の組成物(C)で層(a)の少なくとも1つの表面をコーティングする工程と;
iv.任意選択的に、液体媒体(L1)中に含まれる非水性溶媒を除去して多層アセンブリを得る工程と
を含むプロセスを提供する。
【0017】
さらなる実施形態では、本発明は、上記のような多層アセンブリを調製するためのプロセスであって、
I.金属元素であって、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛または前記金属元素とケイ素およびスズの少なくとも1つとの合金からなる群から選択される、そのゼロ酸化状態における金属元素から実質的になる、2つの表面を有する金属層(a)を提供する工程と;
II.フルオロポリマー(F)を含む組成物(C)を提供する工程と;
III.工程II.で得られた組成物(C)からフルオロポリマーフィルムを加工する工程と;
IV.工程III.のフィルムを金属層(a)の少なくとも1つの表面上に積層して多層アセンブリを得る工程と
を含むプロセスを提供する。
【0018】
なおさらなる実施形態では、本発明は、上記のような多層アセンブリを含む電気化学セルを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、いわゆる「フッ素化イオノマー」のクラスに属する上記のようなフルオロポリマー(F)を含む組成物を用いたリチウム金属電極などの活性金属表面のコーティングが、非常に良好なイオン伝導性を維持しながら、電気化学セルアセンブリにおけるデンドライトの成長を低減するかまたは実質的に抑制することを見出した。特にリチウム金属電極の場合、前記組成物を用いて電極の少なくとも1つの側をコーディングすることにより、ビニリデンジフルオリド(VDF)系ポリマーおよびDu Pontによって製造されたNafion(登録商標)などのテトラフルオロエチレンから誘導される繰り返し単位を含むイオノマーなどの有機材料でのコーティングに関して、イオン伝導性、膨潤およびリチウムのデンドライト成長に対する耐性の点で改良された特性を電極に付与する。
【0020】
好ましくは、本発明の多層アセンブリにおいて、層(a)は、リチウム金属から本質的になる。有利には、導電性表面間に電気的連続性を与えるために、組成物(b)でコーティングされていない側の別の金属層(好ましくは銅)上にリチウム金属層を積層することができる。
【0021】
本発明に関連して、用語「から本質的になる」または「から実質的になる」は、組成物が95重量%超(組成物の総重量に対して)の特定の物質(例えば、リチウム金属)を含むかまたはこのような物質からなることを示すが、但し、それは、このような物質中に一般的にまたは必然的に存在する不純物および微量の他の物質を含み得る。
【0022】
特に断りのない限り、本発明に関連して、組成物の成分の量は、100を乗じた、成分の重量と組成物の総重量との比(同様に「重量%」)として示される。
【0023】
本明細書において使用される場合、用語「接着する」および「接着」は、例えば、ASTM D3359、試験方法Bによるクロスカット試験(cross−cut test)において5B〜3Bに分類される、2つの層がそれらの接触表面を介して互いに永続的に結合することを示す。明確にするために、電極型金属層(a)およびコーティング層について上述したような層(b)が、例えばその2つの層間の接着性なしで(a)と(b)とを一緒にプレスすることによってなどの接触によって組み立てられる多層組成物は、本発明の範囲外である。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「フルオロポリマー」または「フッ素化ポリマー」は、完全または部分的のいずれかでフッ素化されており、すなわち炭化水素構造の水素原子の全てまたは一部のみがフッ素原子で置き換えられている化合物(例えば、ポリマー、モノマーなど)を意味する。好ましくは、用語「過フッ素化」は、水素原子よりも高い割合のフッ素原子を含有する化合物、より好ましくは水素原子をまったく含まず、すなわち水素原子が全てフッ素原子で置き換えられている化合物(パーフルオロ化合物)を意味する。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「フッ素化オレフィンモノマー」は、少なくとも1つの二重結合C=Cを有し、任意選択的に水素、および/または塩素、および/または臭素、および/または酸素を含有し、ラジカル開始剤の存在下で(コ)ポリマーを形成することができるフッ素化生成物を意味する。
【0026】
好適なフッ素化オレフィン系モノマー(A)の非限定的な例は、
式:CF
2=CF(CF
2)
pSO
2X’(式中、pは、0〜10、好ましくは1〜6の整数であり、より好ましくは、pは、2または3に等しく、好ましくは、X’=Fである)のスルホニルハライドフルオロオレフィン;
式:CF
2=CF−O−(CF
2)
mSO
2X’(式中、mは、1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは2〜4の整数であり、さらにより好ましくは、mは、2に等しく、好ましくは、X’=Fである)のスルホニルハライドフルオロビニルエーテル;
式:CF
2=CF−(OCF
2CF(R
F1))
w−O−CF
2(CF(R
F2))
ySO
2X’(式中、wは、0〜2の整数であり、互いに等しいかまたは異なるR
F1およびR
F2は、独立して、F、Clまたは1つ以上のエーテル酸素原子で任意選択的に置換されたC
1〜C
10フルオロアルキル基であり、yは、0〜6の整数であり、好ましくは、wは、1であり、R
F1は、−CF
3であり、yは、1であり、およびR
F2は、Fであり、好ましくは、X’=Fである)のスルホニルハライドフルオロアルコキシビニルエーテル;
式CF
2=CF−Ar−SO
2X’またはCF
2=CF−O−Ar−SO
2X’(式中、Arは、C
5〜C
15芳香族またはヘテロ芳香族置換基であり、好ましくは、X’=Fである)のスルホニルハライド芳香族フルオロオレフィン
である。
【0027】
好ましくは、少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(A)は、スルホニルフルオリド、すなわち式中、X’=Fであるものの群から選択される。より好ましくは、フッ素化オレフィンモノマー(a)は、式CF
2=CF−O−(CF
2)
m−SO
2F(式中、mは、1〜6、好ましくは2〜4の整数である)のフルオロビニルエーテルの群から選択される。さらにより好ましくは、フッ素化オレフィンモノマー(A)は、CF
2=CFOCF
2CF
2−SO
2F(パーフルオロ−5−スルホニルフルオリド−3−オキサ−1−ペンテン、以降ではVEFSと示す)である。
【0028】
少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(B)は、好ましくは、
− フッ化ビニルおよび1,2−ジフルオロエチレンなどのC
2〜C
8水素化フルオロオレフィン;
− クロロ−、および/またはブロモ−、および/またはヨード−C
2〜C
6フルオロオレフィン、例えばクロロトリフルオロエチレン(CTFE)および/またはブロモトリフルオロエチレン
からなる群から選択される。
【0029】
好ましい実施形態では、少なくとも1つのフッ素化オレフィンモノマー(B)は、フッ化ビニル(VDF)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)である。
【0030】
さらなる実施形態では、フルオロポリマー(F)は、少なくとも1つのフルオロポリマーオレフィンモノマー(A)から誘導される繰り返し単位と、フッ化ビニル(VDF)から誘導される繰り返し単位と、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)から誘導される繰り返し単位とを含む。
【0031】
本発明の多層アセンブリは、フッ素化オレフィンモノマー(A)および(B)と異なるモノマーをさらに含み得る。
【0032】
好適なさらなるモノマーは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、CF
2=CFORF
7(式中、R
F7は、任意選択的に少なくとも1つのヘテロ原子を含むC
1〜C
8アルキル、フルオロアルキルまたはパーフルオロアルキルである)、上記に定義されるとおりのMDOおよびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0033】
好ましくは、フルオロポリマー(F)において、(F)中の全モル数に基づいて5〜50モル%、より好ましくは10〜25モル%の繰り返し単位は、少なくとも1つの上記のようなフッ素化オレフィンモノマー(A)から誘導される。
【0034】
好ましくは、フルオロポリマー(F)の当量は、340〜1800、より好ましくは500〜1000g/eqの範囲である。
【0035】
好ましくは、本発明による多層アセンブリにおいて、フルオロポリマー(F)は、フッ素化オレフィンモノマー(B)として、フッ化ビニリデン(VDF)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)から誘導される繰り返し単位を含む。
【0036】
本発明のアセンブリにおいてフルオロポリマー(F)として使用されるのに好適なポリマーは、2012年5月31日に公開された国際公開第2012/069360A号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY)、2005年9月22日に公開された米国特許出願公開第2005/020941A号明細書(ASAHI KASEI KABUSHIKI KAISHA)、2012年1月3日に発行された米国特許第8,088,491B号明細書(HUEY−SHEN WU)に記載の方法に従って調製できる。
【0037】
フッ素化オレフィンモノマー(B)として、VDFまたはCTFEから誘導される繰り返し単位を含むフッ素化イオノマーは、驚くべきことに、リチウムなどの活性金属のコーティング層としてテトラフルオロエチレン(TFE)を含む類似体よりも、それらがセル動作条件下で安定であり、それらのイオン伝導度が、TFE系パーフルオロスルホン酸(PFSA)イオノマーのそれと等しいかまたはそれよりも優れているという点でより好適であることを本発明者らは見出した。
【0038】
特に、コイン型セルを用いた試験では、本発明によるコーティングされたリチウムアセンブリを電極として使用したセルでは、ほとんどまたは全く劣化が観察されないことが示された一方、TFE系PFSAが使用された比較セルでは、電極の全体的な劣化(黒い残留物)が見られる。
【0039】
理論に束縛されるものではないが、これらの結果は、試験電池の動作条件下での本発明によるアセンブリ中のフルオロポリマー(F)の安定性の向上に関連し得る。
【0040】
フルオロポリマー(F)による、金属表面上のデンドリマー成長の抑制の増強も本発明によるアセンブリの利点である。
【0041】
好ましくは、本発明による多層アセンブリにおいて、金属層(a)は、金属リチウムであって、そのゼロ酸化状態における金属リチウムまたは前記金属リチウムとケイ素もしくはスズとの合金である。
【0042】
別の実施形態では、本発明は、上記のような多層アセンブリを調製するためのプロセスであって、
i.金属元素であって、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛または前記金属元素とケイ素およびスズの少なくとも1つとの合金からなる群から選択される、そのゼロ酸化状態における金属元素から実質的になる、2つの表面を有する金属層(a)を提供する工程と;
ii.任意選択的に、非水性溶媒を含む液体媒体(L1)との混合物において、フルオロポリマー(F)を含む組成物(C)を提供する工程と;
iii.工程ii.の組成物(C)で層(a)の少なくとも1つの表面をコーティングする工程と;
iv.任意選択的に、液体媒体(L1)中に含まれる非水性溶媒の少なくとも一部を除去して多層アセンブリを得る工程と
を含むプロセス、または
I.金属元素であって、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛または前記金属元素とケイ素およびスズの少なくとも1つとの合金からなる群から選択される、そのゼロ酸化状態における金属元素から実質的になる、2つの表面を有する金属層(a)を提供する工程と;
II.フルオロポリマー(F)を含む組成物(C)を提供する工程と;
III.工程II.で得られた組成物(C)からフルオロポリマーフィルムを加工する工程と;
IV.工程III.のフィルムを金属層(a)の少なくとも1つの表面上に積層して多層アセンブリを得る工程と
を含むプロセスを提供する。
【0043】
工程ii.の組成物(C)は、有利には、フルオロポリマー(F)が液体媒体(L1)中に良好に溶解している溶液または懸濁液である。
【0044】
液体媒体(L1)は、典型的には、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)、THF(テトラヒドロフラン)、NEP(N−エチルピロリドン)および有機カーボネートからなる群から選択される1つ以上の非水性溶媒を含む。
【0045】
好適な有機カーボネートの非限定的な例としては、環式および非環式カーボネートが挙げられる。
【0046】
好ましい環式カーボネートとしては、環式アルキレンカーボネート、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびフルオロプロピレンカーボネートが挙げられる。より好ましい不飽和環式カーボネートは、エチレンカーボネートである。
【0047】
好ましい非環式カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルエタン(DME)が挙げられる。
【0048】
好ましい環式カーボネートは、プロピレンカーボネートである。
【0049】
非水性溶媒の除去は、部分的または完全であり得る。
【0050】
任意選択的な工程iv.における非水性溶媒の部分的または完全な除去は、15〜200℃、好ましくは20〜150℃の範囲の温度でオーブン乾燥することにより、または乾燥チャンバー環境にさらすことにより、コーティングした金属層を少なくとも1回の蒸発工程にかけることによって達成することができる。
【0051】
液体混合物からフィルムを加工するための技術は、当技術分野において公知であり、工程II.の組成物(C)は、典型的には、キャスティングまたは押出しによって加工される。
【0052】
組成物(C)がキャスティングによって加工される場合、典型的には、それを、ドクターブレードコーティング、測定棒(またはマイヤーロッド)コーティング、スロットダイコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、すなわち「ギャップコーティング」などの周知の技法に従い、標準的な器具を用いて支持体表面に展開することにより適用する。
【0053】
支持体表面の選択は、特に制限されず、フルオロポリマーフィルムは、単一のアセンブリとして直接製造することができるか、または別の支持体表面上へキャストすることによって製造することができ、表面から前記フルオロポリマーフィルムを取り外し、個別に扱うことができることが理解される。
【0054】
支持体表面は、典型的には、少なくとも180℃、好ましくは少なくとも200℃の融解温度を有する少なくとも1つのフルオロポリマーを含む組成物から作製される。
【0055】
液体媒体(L1)は、任意選択的に、非水性溶媒中に分散されたAl
2O
3、TiO
2、SiO
2などの酸化物微粒子をさらに含み得る。
【0056】
一般的に、酸化物微粒子/フルオロポリマー(F)の重量比は、50/50重量/重量〜1/99重量/重量、好ましくは30/70重量/重量〜10/90重量/重量に含まれる。
【0057】
別の実施形態では、本発明は、好ましくは、充電式または一次リチウム金属電池の形態、より好ましくはリチウム−金属またはリチウム−硫黄電池の形態における、上述のような多層アセンブリを含む電気化学セルを提供する。
【0058】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願および刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0059】
以下の実施例は、その範囲を限定する意図なしに、本発明の実際の実施形態を例証するために提供される。
【実施例】
【0060】
原材料(別段の表示がない場合、Sigma−Aldrichから購入):
− LiCu:銅金属箔付きリチウム(Honjo metal co,LTD)、厚さ30ミクロン(20ミクロンLiおよび10ミクロンCu)
− PC:プロピレンカーボネート、Reagent plus(登録商標)99%
− THF:テトラヒドロフラン、>99.9%
− VC:ビニレンカーボネート
− EC:エチレンカーボネート
− LiPF6:リチウムヘキサフルオロホスフェート
− NMC:リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(Umicore)タイプTX7Ta
− SuperC65(Imerys):炭素含有量>99.5
− PVDF(Solef(登録商標)75130)コポリマー(Solvay Specialty Polymers)
【0061】
方法
実施例で使用される電池の調製
保護されたリチウム金属、セパレータ、電解質および正極から構成されるコインセル試験用電池を調製した。Tonen(登録商標)タイプF20BMUからの微多孔質膜をセパレータとして使用した。真空下において80℃で一晩乾燥させた後、電池に使用した。NMC(正極):95%NMC/3%SuperC65/2%SOLEF(登録商標)5130PVDF;担持量=3.1mAh/cm
2Super C65:炭素粉末。正極を真空下において130℃で一晩乾燥させた。電極およびセパレータをアルゴン雰囲気下(酸素なし、湿度0%)に置いた。200μLの電解質Selectilyte(商標)LP30(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート1:1 LiPF6 1M)を3%VCとともにセパレータに添加した。次いで、セパレータを、コインセルの正極と、コーティングしたリチウム金属層(比較例では非コーティングのリチウム金属層)との間に配置し、これを室温で試験した。
【0062】
実施例1:−SO
3Li形態のVDF−VEFSポリマー粉末(ポリマーF−1)の調製。
5Lのオートクレーブ中に以下の試薬:
− 2.6Lの脱塩水、
− 110gの式:CF
2=CF−O−CF
2CF
2−SO
2F(VEFS)を有するモノマー、
− 160gのF
2ClO(CF
2CF(CF
3)O)
n(CF
2O)
mCF
2COOK(平均MW=521、比n/m=10)の5重量%水溶液
を充填した。650rpmで攪拌されるオートクレーブを60℃で加熱した。6.0g/Lの過硫酸カリウムの水系溶液を66mLの量で添加した。フッ化ビニリデン(VDF)を供給することによって12.3バール(絶対圧力)の値に圧力を維持した。反応器に33gのフッ化ビニリデンを添加した後、25gのVEFSを添加し、続いて24.5gのVEFSをオートクレーブに供給した33gのフッ化ビニリデン毎に添加した。攪拌を止め、オートクレーブを冷却し、フッ化ビニリデンをガス抜きすることにより内部圧力を低減することにより、74分後に反応を停止し、合計660gのフッ化ビニリデンをオートクレーブへ供給した。次いで、こうして得られたラテックスを凍結および解凍することによって凝固させ、回収されたポリマーを水で洗浄し、80℃で48時間乾燥させた。ポリマーのモル組成は、NMRにより測定され、VDF:VEFS=5,5:1(636g/eq当量に対応する)であった。ポリマーを希アンモニア(5%)溶液中において80℃で10時間処理して加水分解し(乾燥粉末のIRにより確認された残留SO
2Fシグナルがない)、次いで水で洗浄し、周囲温度で20%濃HNO
3と交換した。ポリマー劣化のシグナルなし(ポリマーは、処理後に白色/無色になったため、VDF配列の脱フッ化水素が観察された)。中性に達するまで脱塩水で数回洗浄した後、SO
3H→SO
3Li部分を完全に中和するのに必要な化学量論量に対して過剰な(2倍の)LiOHの希釈溶液を周囲温度で添加した。最後に粉末を脱塩水で洗浄し、オーブン中80℃で48時間乾燥させ、こうして粉末ポリマーF−1を得た。
【0063】
実施例2:−SO
3Li形態のCTFE−VEFSポリマー粉末(ポリマーF−2)の調製。
5リットルのオートクレーブ中に以下の試薬:
− 35gの式CF
2ClO(CF
2CF(CF
3)O)
p(CF
2O)
qCF
2COOK(p/q=10、平均分子量527g/mol)のパーフルオロポリオキシアルキレンを25gパーフルオロポリエーテル油Galden(登録商標)D02(Solvay Specialty Polymers Italy SpAにより供給)および40gの脱塩水と事前に混合することにより得られる100gのパーフルオロポリオキシアルキレンマイクロエマルション、
− 2.5リットルの脱塩水、
− 600gのCF
2=CF−O−(CF
2)
2−SO
2F(VEFS)、
− 425gのCTFE
を導入した。600rpmで攪拌されるオートクレーブを50℃まで加熱した。室温における全圧力は、7.7気圧(絶対圧力)であった。次いで、50g/lの濃度の過硫酸カリウムを有する130mLの水溶液をオートクレーブ中に供給して、反応を開始させた。圧力は、シリンダから液体CTFEを導入することによって7.7気圧(絶対圧力)に保持した。反応の最後に、合計で174gのCTFEを導入した。開始から293分後に反応を止めた。気相が排気される間、反応器を70℃で30分間加熱し、次いでそれを室温に冷却した。生成ラテックスは、16.5重量%の固形分含有率を有した。ポリマーラテックスを凍結および解凍することによって凝固させ、回収されたポリマーを水で洗浄し、80℃で40時間乾燥させた。NMRにより分析されたモル組成は、CTFE:VEFS=5,8:1(952g/eqの当量に対応する)をもたらした。こうして得られた−SO
2F形態のポリマーを80℃においてNaOH溶液(10重量%のNaOH、ポリマー1Kg当たり10リットルの溶液)で10時間処理し、次いで水のpHが<9になるまで脱塩水で数回洗浄した。次いで、ポリマーを−SO
3H形態への完全な交換を得るためにHNO
3(20重量%)で処理した。次いで、ポリマーを水ですすぎ、80℃で20時間にわたり換気オーブン中で乾燥させた。次いで、−SO
3H基を全て−SO
3Li形態へ変換するために、周囲温度での攪拌下において、過剰量のLiカーボネートであるLi
2CO
3を−SO
3H水性分散体に添加した。CO
2泡の発生が見られた。次いで、ポリマー粉末を水ですすぎ、80℃で20時間にわたり換気オーブン中で乾燥させ、こうして粉末F−2を得た。
【0064】
比較例3:−SO
3Li形態のTFE−VEFSポリマー粉末(ポリマーF−3)の調整。
22リットルのオートクレーブ中に以下の試薬:
− 11.5リットルの脱塩水と、
− 980gのCF
2=CF−O−CF
2CF
2−SO
2F(VEFS)と、
− 3100gのCF
2ClO(CF
2CF(CF
3)O)
n(CF
2O)
mCF
2COOK(平均分子量=521、比n/m=10)の5重量%水溶液と
を充填した。470rpmで攪拌されるオートクレーブを60℃の温度まで加熱し、次いで150mLの6g/リットルの過硫酸カリウムを含有する水溶液を添加した。TFEを導入することによって12バール(絶対圧力)の値で圧力を維持した。反応器への1200gのTFEの添加後、220gのVEFSを、オートクレーブに供給される200gのTFE毎に添加した。攪拌を280分後に止め、オートクレーブを冷却し、TFEをガス抜きすることによって内圧を下げた。総量が4000gのTFEを供給した。28.2重量%の濃度のラテックスが得られた。次いで、こうして得られたラテックスを凍結および解凍することによって凝固させ、回収されたポリマーを水で洗浄し、100℃で40時間乾燥させた。好適な量の乾燥ポリマーを使用して、粉末をプレス内で270℃において5分間加熱することによってフィルムを調製した。幅10×10cmの正方形を有するようにフィルムを切断し、KOH水溶液(10重量%)中で24時間処理し、次いで純水で洗浄した後、周囲温度において20重量%HNO
3溶液中で処理した。最後にフィルムを水で洗浄した。この手順を用いて、ポリマーの官能基を−SO
2F形態から−SO
3H形態へ変換した。150℃で真空乾燥させた後、フィルムを希釈したNaOHで滴定した。ポリマーのモル組成はTFE:VEFS=5,1:1(790g/eqに対応するポリマーの当量)をもたらした。次いで、ポリマーの残存量を5Nl/時間のガス流で10時間にわたり80℃および周囲圧力でMONEL反応器において窒素とフッ素ガスとの混合物(50/50)で処理し、次いで80℃で24時間にわたり換気オーブン中で乾燥させた。得られた−SO
2F形態のポリマーを80℃でNaOH溶液(10重量%のNaOH、ポリマー1Kg当たり10リットルの溶液)で10時間処理し、次いで水のpHが<9になるまで脱塩水で数回洗浄した。次いで、ポリマーを−SO
3H形態への完全な交換を得るためにHNO
3(20重量%)で処理した。次いで、ポリマーを水ですすぎ、80℃で20時間にわたり換気オーブン中で乾燥させた。次いで、−SO
3H基を全て−SO
3Li形態へ変換するために、周囲温度での攪拌下において、過剰量のLiカーボネートであるLi
2CO
3を−SO
3H水性分散体に添加した。CO
2泡の発生が見られた。次いで、ポリマー粉末を水ですすぎ、80℃で20時間にわたり換気オーブン中で乾燥させて、比較粉末F−3を得た。
【0065】
実施例4:ポリマー溶液S−1、S−2、S−3、S−4、S−5の調製。
溶液S−1、S−2および比較溶液S−3(C.S−3)を、それぞれポリマーF−1、ポリマーF−2および比較ポリマーF−3を80℃で6時間攪拌しながらプロピレンカーボネートに溶解して均質な溶液を得ることにより調製した。溶液を室温まで冷却した。空気の存在を除去するために、気泡がなくなるまで溶液を真空下70℃で脱気した。下記濃度(ポリマー重量%)を有する溶液を得た。
S−1:(ポリマーF−1)6.7%
S−2:ポリマー(F−2)5.0%
C.S−3:比較ポリマー(F−3)5.0%
【0066】
PVDFコポリマー(Solef(登録商標)75130)をTHFに45℃において還流下で溶解させることにより、比較溶液S−4(C.S−4)を調製した。その後、溶液を室温まで冷却した。微量の水を除去するためにモレキュラーシーブを溶液に入れた。溶液C.S−4濃度(重量%ポリマー):PVDF 10.0%。
【0067】
比較溶液S−5(C.S−5):
遠心ミキサー(スピードミキサー)を用いて2500rpmで5分間、アルミナ(BaikowskyからのCR6(登録商標))をプロピレンカーボネート中に分散させた。次いで、遠心ミキサー中において800rpmで5分間、得られた分散体を溶液S−1と混合した。均一溶液を得た。合計固形分含有率(ポリマー(F−1)+アルミナ)は、2重量%であった。ポリマー(F−1)/アルミナ比は、70/30重量%であった。溶液C.S−5濃度(重量%ポリマー+アルミナ):2.0%。
【0068】
実施例5:溶液S−1、S−2、C.S−3、およびC.S−4から得られた自立ポリマー層のイオン伝導性の測定
ドクターブレード技術により溶液S−1、S−2、C.S−3およびC.S−4を用いて不活性PTFE支持体をコーティングし、真空下において100℃で一晩乾燥させることによりポリマー層を得た。PTFEを除去し、このようにして約20μmの厚さを有する自立ポリマーフィルムを得た。フィルムを2枚のステンレス鋼ディスク間のコインセルに入れ(操作は、グローブボックス内で実施された)、イオン伝導度(σ)を以下の式:σ=d/(Rb×S)(式中、dは、フィルムの厚さであり、典型的には10〜50μmに含まれ、Rbは、ポリマー層のバルク抵抗であり、ナイキスト線図(Nyquist plot)を用いてインピーダンス分光法(1MHz〜200mHzの周波数、摂動5mV)によって測定され、Sは、ステンレス鋼電極の面積であり、典型的には16mmの直径を有する円形である)を用いて計算した。結果を表1にまとめる。
【0069】
【0070】
溶液C.S−4(PVDF)から得られたフィルムの導電率値は、低すぎて測定できなかった。
【0071】
実施例6:ポリマー溶液で保護されたLi金属箔で組み立てられた電池のCレート性能試験
溶液S−1、C.S−3、C.S−4およびC.S−5をドクターブレード技術によりリチウム金属箔上にキャストした(この工程は、グローブボックス内で行われた)。コーティングを室温で2時間、次いで105℃で2時間乾燥させた。最終コーティング厚は、8〜10μmの範囲であった。上述したようなコインセルを調製し、2.8V〜4.2Vでサイクルさせた。0.1C−0.1Dで2サイクルの工程後、試験プロトコルは、0.2C−0.2D、0.2C−0.5D、0.2C−1D、0.2C−2D、0.2C−2D、0.2C−5D、0.2C−10Dおよび0.2C−0.2Dで2サイクルの連続した系列に従って実施した。次いで、異なる放電率下でのコインセルの放電容量値を得、いかなるコーティングもしていないLi箔を有する同一のアセンブリ(以下、コーティングなし)と比較した。Cレートは、電池が充電中または放電中のレートの尺度である。それは、電池の公称定格容量を1時間で達成するのに要する理論的な消費電流で割った電流として定義される。結果を表2にまとめる。
【0072】
【0073】
実施例7:ポリマー溶液で保護されたLi金属箔で組み立てられた電池の安定性試験
実施例6のCレート性能試験後、性能低下が初期性能の80%を超えるまでコインセルを1C−1Dで連続的にサイクルさせた。結果を表3にまとめる。
【0074】
【0075】
結果は、本発明の多層アセンブリを使用することによって調製されたコインセル電池の最高の耐久性を示す。
【0076】
実施例8:ポリマー溶液で保護されたLi金属箔で組み立てられた電池のリチウム効率試験
溶液S−1、C.S−3、C.S−4およびC.S−5をドクターブレード技術により薄いリチウム金属箔上にキャストした(この工程は、グローブボックス内で行われた)。コーティングを室温で2時間、次いで105℃で2時間乾燥させた。最終コーティング厚は、8〜10μmの範囲であった。銅上の薄い保護されたリチウム金属、セパレータ、電解質および380μm厚のリチウム金属から構成される電池を調製した。
【0077】
異なるLi量を有する2つの電極:制限電極(作用電極)およびLi過剰電極(対/参照電極)を使用した。
【0078】
セパレータは、260μm厚のガラス繊維膜Whatman(登録商標)であった。セパレータを真空下において250℃で一晩乾燥させた後、組み立てた。200μLの電解質Selectilyte(商標)LP30(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート1:1 LiPF6 1M)を3%VCとともにセパレータに添加した。次いで、膜をコインセル内で厚いリチウム金属と、コーティングしたリチウム金属箔(比較試験の場合には被覆されていない)との間に配置し、24℃で試験した。めっき/剥離の繰り返しサイクル中のLiのサイクル性能を調べた。定電流試験は、3Vのカットオフ電圧の0.8mA/cm
2で行われ、制限電極と同じ量のリチウムを常に除去/堆積させるために190分毎に電流が反転される。電極の消耗を制限するために、電圧がカットオフに達したときに試験を停止した。サイクル数は、式:効率=N/(N+1)(式中、Nは、カットオフ前の充電/放電サイクル数である)を用いてリチウム堆積/除去効率と相関していた。
【0079】
【0080】
試験終了後、コインセルを開放し、コーティングされたリチウムおよびセパレータを水中に浸漬して、いくつかの劣化生成物が形成されたかどうかを観察した。溶液C.S−3で調製したセル中に黒色残留物が存在し、対照的に、溶液S−1、S−2およびC.S−4でLiをコーティングすることによって調製したコインセル、およびコーティングされていないLi箔を含有するコインセル(コーティングなし)では、残留物は観察されなかった。実験結果は、本発明による多層アセンブリが、例えばTFE−VEFSポリマーでコーティングされたLi箔、PVDFでコーティングされたLi箔、またはいかなるコーティングもされていないLi箔と比較して、それらのイオン伝導度、化学的安定性およびCレート性能などの特性の非常に満足できる妥協を示すことを明らかにする。特に、フルオロポリマー(F−1)でコーティングされた多層アセンブリは、PFSAイオノマー(F−3)でコーティングされた金属層、PVDF(F−4)でコーティングされた金属層、またはいかなるポリマーコーティングもない金属層(非コーティングのLi金属)と比較してイオン伝導率、化学安定性およびCレート性能の最良の組み合わせを示す。
【国際調査報告】