(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-532046(P2019-532046A)
(43)【公表日】2019年11月7日
(54)【発明の名称】糖尿病に関連する神経障害の改善
(51)【国際特許分類】
C07D 213/81 20060101AFI20191011BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20191011BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20191011BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20191011BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20191011BHJP
【FI】
C07D213/81CSP
A61K31/496
A61K31/444
A61P25/02
A61P25/02 101
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-513949(P2019-513949)
(86)(22)【出願日】2017年9月6日
(85)【翻訳文提出日】2019年5月7日
(86)【国際出願番号】US2017050312
(87)【国際公開番号】WO2018048927
(87)【国際公開日】20180315
(31)【優先権主張番号】62/393,514
(32)【優先日】2016年9月12日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】507161466
【氏名又は名称】ニューラルステム・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】ジョー、カール、ケー
【テーマコード(参考)】
4C055
4C086
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA52
4C055BB02
4C055BB03
4C055BB04
4C055CA58
4C055CB02
4C055CB04
4C055CB10
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4C086AA01
4C086AA02
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4C086GA08
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4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA20
4C086ZA21
(57)【要約】
2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩を用いて、糖尿病に関連する非全身性障害を治療する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
I型および/またはII型糖尿病に関連する非全身性障害を改善する方法において使用するための、2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記非全身性障害が、MNCVの低下、接触性アロディニア、熱痛覚鈍麻、小径線維病理、または短期もしくは長期の記憶喪失である、請求項1に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
2−アミノ置換ニコチンアミドが、次式:
【化1】
[式中、R
1は、3〜8Cのアルキルであり、環Aは、置換されていないもしくは追加の窒素原子含有置換基で置換された追加の窒素原子を含んでもよい、5員もしくは6員の飽和環またはその開環形態である]
で表される、請求項1に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
2−アミノ置換ニコチンアミドが、次式:
【化2】
または
【化3】
[式中、R
1は、式(2)または(3)では3〜5Cの分岐アルキル基であり、式(4)では5員または6員の飽和環を含むアルキル基である]
で表される、請求項3に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
2−アミノ置換ニコチンアミドが、次式:
【化4】
または
【化5】
で表される、請求項4に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
R1がイソアミルである、請求項5に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
2−アミノ置換ニコチンアミドが、次式:
【化6】
で表される、請求項4に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
R1がイソアミルである、請求項7に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項9】
2−アミノ置換ニコチンアミドがリン酸塩の形態である、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項10】
前記方法が、それに続いて、前記障害の改善について前記対象者を試験することをさらに含む、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年9月12日に出願された米国仮特許出願第62/393,514号からの優先権を主張するものである。当該出願の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、糖尿病に関連する非全身性障害(non−systemic deficits)を改善する化合物を用いて、糖尿病患者を治療することに関する。さらに特定すると、本発明は、この目的のために、2−アミノ置換ニコチンアミドを使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
糖尿病は、工業化社会において子供と大人の両方で増加しつつある。I型糖尿病は、子供に最も高い頻度で起こり、インスリン産生細胞に対する免疫系の攻撃の結果として、インスリンを供給する膵臓の能力が失われることに関係している。II型糖尿病は、成人に最も高い頻度で起こり、グルコース代謝の機構を提供するのに十分なインスリンを膵臓が産生できないようなインスリン抵抗性と関連している。糖尿病は、高血糖および糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベル増加の直接的な生理学的結果に加えて、ネガティブな結果の複雑なパターンに関連している。糖尿病のこうした全身的指標は、さらなる障害、例えば、熱痛覚鈍麻、小径線維の病理(例えば、角膜神経および真皮の感覚線維に関連するもの)、および神経損傷による精神障害を伴うことが多い。
【0004】
例えば、米国特許第8,362,262号に代表される、一群の米国登録特許は、ニューロンの成長を刺激することができる低分子量化合物を開示している。その後、ある種の2−アミノ置換ニコチンアミドは、うつ病の治療に、特に、PCT公開WO2015/195567に記載されるようなヒトにおける大うつ病性障害の治療に、有用であることが見出された。しかしながら、糖尿病に関連した障害、特に神経異常に関連するものは、これらの特許文書では扱われていない。
【発明の概要】
【0005】
発明の開示
今回、ある種の2−アミノ置換ニコチンアミドが、I型糖尿病とII型糖尿病の両方の続発性障害の様々な様相を予防または治療するのに特に有用であることが見出された。
【0006】
したがって、一態様では、本発明は、糖尿病に関連する非全身性障害を改善する方法であって、活性成分が2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩である医薬組成物を、そのような改善を必要とする対象者に投与することによる方法に関する。特に、2−アミノ置換ニコチンアミドは、次式:
【0007】
【化1】
[式中、R
1は、3〜8Cのアルキルであり、環Aは、置換されていないかもしくは追加の窒素原子含有置換基で置換された追加の窒素原子を含んでもよい、5員もしくは6員の飽和環であるか、またはその開環形態である]
のものである。
【0008】
特定の例示化合物には、式(2)の化合物:
【0010】
【化3】
[式中、R
1は、3〜5Cの分岐アルキル基である]または式(4)の化合物:
【0011】
【化4】
[式中、R
1は、5員または6員環を含むアルキル基である]
が含まれる。
【0012】
本発明はまた、本発明の化合物の医薬組成物、および本発明の化合物の薬学的に許容される塩、特にそれらのリン酸塩を含む。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、I型糖尿病またはII型糖尿病のいずれかに関連する非全身性障害を改善することに向けられる。本明細書で定義される「糖尿病の非全身性障害」(non−systemic deficiencies of diabetes)とは、原発性の高血糖症、糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベルの上昇、および糖尿病に伴う体重減少を除いた症状である。こうした非全身性障害には、とりわけ、大径運動線維機能の尺度である運動神経伝導速度(motor nerve conduction velocity:MNCV)の低下、接触性アロディニア(tactile allodynia)、小径感覚線維が関係する熱反応潜時、学習と記憶を測定するバーンズ迷路(Barnes maze)の劣った成績、および物体認識テストの成績不振が含まれる。
【0014】
上記リストは網羅的なものではないが、糖尿病の一次徴候ではない測定可能な障害の典型である。非全身性障害は、視力の低下、運動制御の喪失、ならびに例えば腎障害、脳卒中、心疾患、高血圧などの他の影響および重篤な合併症を含む、様々な症状として現れることがある。他の合併症には、ニューロパシー、胃不全麻痺、および足と皮膚の合併症が含まれる。これらの合併症は糖尿病の初期結果ではなく、二次的な続発障害であり、本発明の方法はこれらを改善するように設計された。
【0015】
本発明の方法で有用な活性薬剤は、上記の一般式(1)を有し、ここで、R
1が3〜8Cのアルキルであり、環Aが追加の窒素原子を含んでもよい5員もしくは6員の飽和環またはその開環形態であるものである。式(1)におけるR
1は、少なくとも3Cの直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、例えば、イソプロピル、sec−ブチル、n−ブチル、イソアミル、sec−アミル、ヘキシル、イソヘキシルなどであり得、または飽和環を含んでもよい。好ましくは、式(2)または(3)において、R
1は3〜5Cの分岐アルキル、特にイソアミルであり、式(4)において、R
1は5または6員の飽和環を含む。環Aの好ましい実施形態は、ピペリジンもしくはピペラジン環、またはそれらの開環形態、またはピロリジン環である。典型的には、環Aは、少なくとも追加の窒素含有置換基で置換されており、該置換基は、例えばピリジルメチルもしくはピリジルエチルなどの追加のピリジン環を含む置換基であるか、またはカルボキサミドなどのより単純な置換基である。環Aの好ましい形態は、適切な置換基と共に上記の式(2)、(3)および(4)に示されている。
【0016】
本発明の化合物は、
Remington’s Pharmaceutical Sciences, 最新版, Mack Publishing Co., Easton, Pennsylvaniaに見られる製剤などの、標準的な医薬製剤に製剤化され、経口投与用および非経口投与用の製剤が含まれる。典型的には、該化合物は、錠剤、カプセル剤の形態で、あるいはシロップ剤として投与される製剤、または他のいずれかの標準的な製剤で、経口的に投与される。場合によっては、該製剤は遅延放出用に設計されてもよく、またはより瞬間的な送達用に設計されてもよい。本発明の化合物に好適であると考えられる様々な製剤が当技術分野において公知であり、投与経路に関しては医師の決定に従うことになる。
【0017】
投与量レベルもまた医師の判断に左右されるが、一般的には0.01mg/kgから1〜2g/kgの範囲である。
【0018】
一般に、治療の対象はヒトであるが、適切な投与量、投与経路および製剤を評価するために実験動物を使用することも有用である。したがって、本発明の対象には、ヒトだけでなく、ウサギ、ラット、マウスなどの実験室研究用の動物も含まれる。場合によっては、他の哺乳動物対象も獣医学的に適切であり得、その場合の対象はヒツジ、ウシまたはウマや、イヌまたはネコなどのコンパニオン動物であり得る。
【0019】
本発明の化合物は、それらの薬学的に許容される塩、例えばハロゲン化物、マレイン酸塩、コハク酸塩、硝酸塩などの形態で投与することができる。特に好ましいのはリン酸塩である。
【0020】
投与頻度および投与スケジュールもまた医師に依存しており、服用は長期にわたって、毎日、毎週、若しくはより高頻度であり得、または単回投与で十分であり得る。本発明の化合物はまた、他の活性薬剤と組み合わせて、同じ組成物中でまたは逐次的に投与することもできる。
【0021】
以下の実施例は、本発明を例示するものであって、限定するものではない。
【実施例】
【0022】
実施例1
I型糖尿病モデルに対する試験化合物の効果
雌の成体Swiss Websterマウス(20〜25グラム)を試験に使用した。それらを65〜82°Fおよび相対湿度30〜70%の室内に維持し、12時間の明/暗サイクルで蛍光灯を用いて照らした。動物をケージあたり2〜3匹で飼育し、固形飼料と水道水を自由に摂取できるようにした。一晩の絶食後に、2日間連続してストレプトゾトシン(STZ)を注射(0.9%無菌食塩水で90mg/kgを腹腔内(ip)投与)することにより糖尿病を誘発させた。4日後に、尾穿刺(tail prick)によって得られた血液のサンプルについて、ストリップ操作型反射率計を用いて高血糖を確認した。試験期間中は動物を毎日観察し、体重を毎週測定した。
【0023】
糖尿病の発症直後(パートA)に、またはパートBでは7〜8週間の糖尿病後に治療を開始することにより、試験化合物を評価した。各群10匹の動物を用いて開始し、対照マウスと糖尿病マウスとの間の神経伝導、足熱反応潜時(paw thermal latency)および表皮内神経線維(intra−epidermal nerve fiber:IENF)密度の差を確認し、日常的に観察される群間の差を20〜40%、測定変動係数を10〜20%と仮定した。
パートA(発症)
対照+ビヒクル
糖尿病+ビヒクル
糖尿病+インスリン(移植したペレットによる)
糖尿病+NSI−158
糖尿病+NSI−189
糖尿病+NSI−190
パートB(7〜8週間)
対照+ビヒクル
糖尿病+ビヒクル
糖尿病+NSI−150
糖尿病+NSI−182
糖尿病+NSI−183
糖尿病+NSI−189
【0024】
移植したインスリンペレット(LinBit(商標),LinShin社,カナダ)によってインスリンを供給し、必要に応じて該ペレットを毎月交換した。試験化合物は経口胃管栄養法によって供給した。試験化合物の送達の24時間後に以下の測定を行った:
・体重:糖尿病発症から毎週;
・血糖値:糖尿病発症時とその後は毎月;
・MNCV(大径運動線維機能):糖尿病発症前とその後は毎月;
・手動式von Freyフィラメントによる足触覚反応閾値(大径感覚線維機能):糖尿病の発症から毎月;
・足熱反応潜時(小径感覚繊維):糖尿病の発症から毎月;
・角膜神経密度(小径感覚線維構造):糖尿病発症前とその後は毎月画像を集めた;
・バーンズ迷路の成績(学習と記憶):糖尿病10週間後と試験終了時;および
・物体認識テスト(記憶):糖尿病10週間後と試験終了時。
【0025】
いくつかの場合には、足の皮膚組織をIENF密度について評価した。
【0026】
上記の様々な手法は、以下のように当技術分野で記載されたものである:
Jolivalt, C. G., et al., Exp. Neurol. (2010) 223:422 431;
Jolivalt, C. G., et al., Diabetes Obes. Metab. (2011) 13:990 1000;
Jolivalt, C. G., et al., Neuroscience (2012) 202:405 412;および
Chen, D. K., et al., J. Peripher. Nerv. Syst. (2013) 18:306 315。
【0027】
予想通り、STZ注射は、I型糖尿病の指標として、体重増加を少なくし、高血糖を誘導し、かつ末端HbA1cレベルを上昇させた。パートAで発症当初から投与されたインスリン治療は、体重増加を部分的に回復させ、高血糖を軽減し、かつHbA1cレベルを低下させた。これらの全身性指標はいずれも、どの試験化合物を処置しても変化しなかった。
【0028】
試験した薬剤は次のとおりである:
【化5】
【0029】
結果は以下のとおりであった:
【0030】
MNCV:この非全身性指標では、糖尿病マウスは、示されたパートAおよびBの方で進行性のMNCVの低下を発症し、これはパートAではインスリンの投与により予防された。パートAにおいて、薬剤NSI−158、NSI−189およびNSI−190は、試験期間の終わりにMNCV低下の緩やかな減衰を生じたものの、試験薬剤NSI−150、NSI−182およびNSI−183ではこのような減衰は生じなかった。パートBでは、NSI−189がMNCV低下を部分的に逆転させた。
【0031】
足接触性アロディニア:糖尿病マウスは、予想通り、糖尿病発症から4週間以内に接触性アロディニアを発症し、これはインスリン治療によって減弱された。パートAにおける試験薬剤NSI 158、NSI 189およびNSI 190は、最後の処置から24時間後に測定したとき、接触性アロディニアを軽減したが、パートBにおける試験薬剤NSI 150、NSI 182およびNSI 183は軽減しなかった。パートBでは、NSI−189が足接触性アロディニアを部分的に逆転させた。
【0032】
熱に対する足の反応:糖尿病マウスは、糖尿病の発症から8〜12週間後に足熱痛覚鈍麻を発症するが、予想通り、インスリンはこれを予防する。パートAでは、試験薬剤NSI 158、NSI 189およびNSI 190は足熱痛覚鈍麻を予防したが、パートBでは、試験薬剤NSI 150、NSI 182およびNSI 183は予防しなかった。パートBでは、NSI−189が足熱痛覚鈍麻の進行を予防した。
【0033】
小径線維病理(small fiber pathology):ボーマン膜(Bowman’s layer)および角膜実質(stroma)における角膜神経密度を含む、糖尿病マウスで顕著に減少する小径線維病理の多くの様相が研究されている;糖尿病マウスでは、三叉神経由来の小径感覚線維の遠位領域の喪失が、より近位の領域における喪失と同様に、インスリンによって防止された。パートAでは、NSI−189のみがボーマン膜におけるその喪失を軽減し、NSI−189およびNSI−190は角膜実質におけるその喪失を軽減した。しかし、パートAでは、NSI 158およびNSI 190によるボーマン膜の保護効果はなかった。パートBでは、NSI−189はボーマン膜と角膜実質の両方で保護作用を有したが、パートBにおけるNSI−150、NSI−182またはNSI−183による角膜実質の保護効果はなかった。しかし、パートBでは、NSI 182およびNSI 183はボーマン膜において保護的であった。
【0034】
表皮下神経叢における神経密度:これは糖尿病マウスでは減少し、インスリン処置によって予防された。パートAでは、NSI 158、NSI 189およびNSI 190によって軽減し、パートBではNSI 189のみが保護的であった。
【0035】
摘出組織におけるIENF密度:糖尿病マウスにおけるこの密度の減少は、インスリン処置によって予防され、パートAではNSI−189およびNSI−158によってのみ軽減され、パートBではNSI−189によってのみ逆転された。
【0036】
物体認識:糖尿病マウスは10週目と16週目に短期記憶障害を示したが、これは全身性インスリンによって予防されなかった。パートAでは、NSI−190のみがこの記憶喪失を予防し、パートBの薬剤はどれも成功しなかった。
【0037】
バーンズ迷路テスト:糖尿病マウスは初期習得障害を示したが、強化学習と短期記憶保持は完全に正常であり、長期記憶保持は損なわれた。インスリンによる処置はこれを全て予防した。パートAにおける全ての試験薬剤NSI−158、NSI−189およびNSI−190は、他のパラメータを変更することなく長期記憶保持を改善したが、パートBで試験した薬剤は成功しなかった。
【0038】
実施例2
II型糖尿病
II型糖尿病は、db/db(BKS.Cg−Dock7
m+/+Lepr
db/J)マウスによってモデル化された。これらのマウスを実施例1に記載したのと同様の方法で維持した。MNCVの低下、接触性アロディニアおよび熱痛覚鈍麻の漸進的発症は、NSI−189によって17〜22週間の処置後にかなり逆転された。
【手続補正書】
【提出日】2019年6月14日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
I型および/またはII型糖尿病に関連する非全身性障害を改善する方法において使用するための、2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩
であって、ここで、前記2−アミノ置換ニコチンアミドが、下記式
【化1】
または一般式(3)
【化2】
[式中、R1は、3〜5Cの分岐アルキル基である]で表される、2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記非全身性障害が、MNCVの低下、接触性アロディニア、熱痛覚鈍麻、小径線維病理、または短期もしくは長期の記憶喪失である、請求項1に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
R1がイソアミルである、請求項1に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
2−アミノ置換ニコチンアミドが、次式:
【化3】
で表される、請求項1に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
2−アミノ置換ニコチンアミドがリン酸塩の形態である、請求項1に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記方法が、それに続いて、前記障害の改善について前記対象者を試験することをさらに含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年9月12日に出願された米国仮特許出願第62/393,514号からの優先権を主張するものである。当該出願の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、糖尿病に関連する非全身性障害(non−systemic deficits)を改善する化合物を用いて、糖尿病患者を治療することに関する。さらに特定すると、本発明は、この目的のために、2−アミノ置換ニコチンアミドを使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
糖尿病は、工業化社会において子供と大人の両方で増加しつつある。I型糖尿病は、子供に最も高い頻度で起こり、インスリン産生細胞に対する免疫系の攻撃の結果として、インスリンを供給する膵臓の能力が失われることに関係している。II型糖尿病は、成人に最も高い頻度で起こり、グルコース代謝の機構を提供するのに十分なインスリンを膵臓が産生できないようなインスリン抵抗性と関連している。糖尿病は、高血糖および糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベル増加の直接的な生理学的結果に加えて、ネガティブな結果の複雑なパターンに関連している。糖尿病のこうした全身的指標は、さらなる障害、例えば、熱痛覚鈍麻、小径線維の病理(例えば、角膜神経および真皮の感覚線維に関連するもの)、および神経損傷による精神障害を伴うことが多い。
【0004】
例えば、米国特許第8,362,262号に代表される、一群の米国登録特許は、ニューロンの成長を刺激することができる低分子量化合物を開示している。その後、ある種の2−アミノ置換ニコチンアミドは、うつ病の治療に、特に、PCT公開WO2015/195567に記載されるようなヒトにおける大うつ病性障害の治療に、有用であることが見出された。しかしながら、糖尿病に関連した障害、特に神経異常に関連するものは、これらの特許文書では扱われていない。
【発明の概要】
【0005】
発明の開示
今回、ある種の2−アミノ置換ニコチンアミドが、I型糖尿病とII型糖尿病の両方の続発性障害の様々な様相を予防または治療するのに特に有用であることが見出された。
【0006】
したがって、一態様では、本発明は、糖尿病に関連する非全身性障害を改善する方法であって、活性成分が2−アミノ置換ニコチンアミドまたはその薬学的に許容される塩である医薬組成物を、そのような改善を必要とする対象者に投与することによる方法に関する
。
【0007】
特定の例示化合物には、
下記式の化合物:
【0008】
【化1】
または
一般式(3)の化合物:
【0009】
【化2】
[式中、R1は、3〜5Cの分岐アルキル基である
]が含まれる。
【0010】
本発明はまた、本発明の化合物の医薬組成物、および本発明の化合物の薬学的に許容される塩、特にそれらのリン酸塩を含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法は、I型糖尿病またはII型糖尿病のいずれかに関連する非全身性障害を改善することに向けられる。本明細書で定義される「糖尿病の非全身性障害」(non−systemic deficiencies of diabetes)とは、原発性の高血糖症、糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベルの上昇、および糖尿病に伴う体重減少を除いた症状である。こうした非全身性障害には、とりわけ、大径運動線維機能の尺度である運動神経伝導速度(motor nerve conduction velocity:MNCV)の低下、接触性アロディニア(tactile allodynia)、小径感覚線維が関係する熱反応潜時、学習と記憶を測定するバーンズ迷路(Barnes maze)の劣った成績、および物体認識テストの成績不振が含まれる。
【0012】
上記リストは網羅的なものではないが、糖尿病の一次徴候ではない測定可能な障害の典型である。非全身性障害は、視力の低下、運動制御の喪失、ならびに例えば腎障害、脳卒中、心疾患、高血圧などの他の影響および重篤な合併症を含む、様々な症状として現れることがある。他の合併症には、ニューロパシー、胃不全麻痺、および足と皮膚の合併症が含まれる。これらの合併症は糖尿病の初期結果ではなく、二次的な続発障害であり、本発明の方法はこれらを改善するように設計された。
【0013】
本発明の方法で有用な活性薬剤は、上記の
式又は一般式
(3)を有し、ここで、R1が3〜8Cのアルキルで
ある。R1は、少なくとも3Cの直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、例えば、イソプロピル、sec−ブチル、n−ブチル、イソアミル、sec−アミル、ヘキシル、イソヘキシルなどであり得、または飽和環を含んでもよい。好ましくは、
式(3)において、R1は3〜5Cの分岐アルキル、特にイソアミルであ
る。
【0014】
本発明の化合物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 最新版, Mack Publishing Co., Easton, Pennsylvaniaに見られる製剤などの、標準的な医薬製剤に製剤化され、経口投与用および非経口投与用の製剤が含まれる。典型的には、該化合物は、錠剤、カプセル剤の形態で、あるいはシロップ剤として投与される製剤、または他のいずれかの標準的な製剤で、経口的に投与される。場合によっては、該製剤は遅延放出用に設計されてもよく、またはより瞬間的な送達用に設計されてもよい。本発明の化合物に好適であると考えられる様々な製剤が当技術分野において公知であり、投与経路に関しては医師の決定に従うことになる。
【0015】
投与量レベルもまた医師の判断に左右されるが、一般的には0.01mg/kgから1〜2g/kgの範囲である。
【0016】
一般に、治療の対象はヒトであるが、適切な投与量、投与経路および製剤を評価するために実験動物を使用することも有用である。したがって、本発明の対象には、ヒトだけでなく、ウサギ、ラット、マウスなどの実験室研究用の動物も含まれる。場合によっては、他の哺乳動物対象も獣医学的に適切であり得、その場合の対象はヒツジ、ウシまたはウマや、イヌまたはネコなどのコンパニオン動物であり得る。
【0017】
本発明の化合物は、それらの薬学的に許容される塩、例えばハロゲン化物、マレイン酸塩、コハク酸塩、硝酸塩などの形態で投与することができる。特に好ましいのはリン酸塩である。
【0018】
投与頻度および投与スケジュールもまた医師に依存しており、服用は長期にわたって、毎日、毎週、若しくはより高頻度であり得、または単回投与で十分であり得る。本発明の化合物はまた、他の活性薬剤と組み合わせて、同じ組成物中でまたは逐次的に投与することもできる。
【0019】
以下の実施例は、本発明を例示するものであって、限定するものではない。
【実施例】
【0020】
実施例1
I型糖尿病モデルに対する試験化合物の効果
雌の成体Swiss Websterマウス(20〜25グラム)を試験に使用した。それらを65〜82°Fおよび相対湿度30〜70%の室内に維持し、12時間の明/暗サイクルで蛍光灯を用いて照らした。動物をケージあたり2〜3匹で飼育し、固形飼料と水道水を自由に摂取できるようにした。一晩の絶食後に、2日間連続してストレプトゾトシン(STZ)を注射(0.9%無菌食塩水で90mg/kgを腹腔内(ip)投与)することにより糖尿病を誘発させた。4日後に、尾穿刺(tail prick)によって得られた血液のサンプルについて、ストリップ操作型反射率計を用いて高血糖を確認した。試験期間中は動物を毎日観察し、体重を毎週測定した。
【0021】
糖尿病の発症直後(パートA)に、またはパートBでは7〜8週間の糖尿病後に治療を開始することにより、試験化合物を評価した。各群10匹の動物を用いて開始し、対照マウスと糖尿病マウスとの間の神経伝導、足熱反応潜時(paw thermal latency)および表皮内神経線維(intra−epidermal nerve fiber:IENF)密度の差を確認し、日常的に観察される群間の差を20〜40%、測定変動係数を10〜20%と仮定した。
パートA(発症)
対照+ビヒクル
糖尿病+ビヒクル
糖尿病+インスリン(移植したペレットによる)
糖尿病+NSI−158
糖尿病+NSI−189
糖尿病+NSI−190
パートB(7〜8週間)
対照+ビヒクル
糖尿病+ビヒクル
糖尿病+NSI−150
糖尿病+NSI−182
糖尿病+NSI−183
糖尿病+NSI−189
【0022】
移植したインスリンペレット(LinBit(商標),LinShin社,カナダ)によってインスリンを供給し、必要に応じて該ペレットを毎月交換した。試験化合物は経口胃管栄養法によって供給した。試験化合物の送達の24時間後に以下の測定を行った:
・体重:糖尿病発症から毎週;
・血糖値:糖尿病発症時とその後は毎月;
・MNCV(大径運動線維機能):糖尿病発症前とその後は毎月;
・手動式von Freyフィラメントによる足触覚反応閾値(大径感覚線維機能):糖尿病の発症から毎月;
・足熱反応潜時(小径感覚繊維):糖尿病の発症から毎月;
・角膜神経密度(小径感覚線維構造):糖尿病発症前とその後は毎月画像を集めた;
・バーンズ迷路の成績(学習と記憶):糖尿病10週間後と試験終了時;および
・物体認識テスト(記憶):糖尿病10週間後と試験終了時。
【0023】
いくつかの場合には、足の皮膚組織をIENF密度について評価した。
【0024】
上記の様々な手法は、以下のように当技術分野で記載されたものである:
Jolivalt, C. G., et al., Exp. Neurol. (2010) 223:422 431;
Jolivalt, C. G., et al., Diabetes Obes. Metab. (2011) 13:990 1000;
Jolivalt, C. G., et al., Neuroscience (2012) 202:405 412;および
Chen, D. K., et al., J. Peripher. Nerv. Syst. (2013) 18:306 315。
【0025】
予想通り、STZ注射は、I型糖尿病の指標として、体重増加を少なくし、高血糖を誘導し、かつ末端HbA1cレベルを上昇させた。パートAで発症当初から投与されたインスリン治療は、体重増加を部分的に回復させ、高血糖を軽減し、かつHbA1cレベルを低下させた。これらの全身性指標はいずれも、どの試験化合物を処置しても変化しなかった。
【0026】
試験した薬剤は次のとおりである:
【化3】
【0027】
結果は以下のとおりであった:
【0028】
MNCV:この非全身性指標では、糖尿病マウスは、示されたパートAおよびBの方で進行性のMNCVの低下を発症し、これはパートAではインスリンの投与により予防された。パートAにおいて、薬剤NSI−158、NSI−189およびNSI−190は、試験期間の終わりにMNCV低下の緩やかな減衰を生じたものの、試験薬剤NSI−150、NSI−182およびNSI−183ではこのような減衰は生じなかった。パートBでは、NSI−189がMNCV低下を部分的に逆転させた。
【0029】
足接触性アロディニア:糖尿病マウスは、予想通り、糖尿病発症から4週間以内に接触性アロディニアを発症し、これはインスリン治療によって減弱された。パートAにおける試験薬剤NSI 158、NSI 189およびNSI 190は、最後の処置から24時間後に測定したとき、接触性アロディニアを軽減したが、パートBにおける試験薬剤NSI 150、NSI 182およびNSI 183は軽減しなかった。パートBでは、NSI−189が足接触性アロディニアを部分的に逆転させた。
【0030】
熱に対する足の反応:糖尿病マウスは、糖尿病の発症から8〜12週間後に足熱痛覚鈍麻を発症するが、予想通り、インスリンはこれを予防する。パートAでは、試験薬剤NSI 158、NSI 189およびNSI 190は足熱痛覚鈍麻を予防したが、パートBでは、試験薬剤NSI 150、NSI 182およびNSI 183は予防しなかった。パートBでは、NSI−189が足熱痛覚鈍麻の進行を予防した。
【0031】
小径線維病理(small fiber pathology):ボーマン膜(Bowman’s layer)および角膜実質(stroma)における角膜神経密度を含む、糖尿病マウスで顕著に減少する小径線維病理の多くの様相が研究されている;糖尿病マウスでは、三叉神経由来の小径感覚線維の遠位領域の喪失が、より近位の領域における喪失と同様に、インスリンによって防止された。パートAでは、NSI−189のみがボーマン膜におけるその喪失を軽減し、NSI−189およびNSI−190は角膜実質におけるその喪失を軽減した。しかし、パートAでは、NSI 158およびNSI 190によるボーマン膜の保護効果はなかった。パートBでは、NSI−189はボーマン膜と角膜実質の両方で保護作用を有したが、パートBにおけるNSI−150、NSI−182またはNSI−183による角膜実質の保護効果はなかった。しかし、パートBでは、NSI 182およびNSI 183はボーマン膜において保護的であった。
【0032】
表皮下神経叢における神経密度:これは糖尿病マウスでは減少し、インスリン処置によって予防された。パートAでは、NSI 158、NSI 189およびNSI 190によって軽減し、パートBではNSI 189のみが保護的であった。
【0033】
摘出組織におけるIENF密度:糖尿病マウスにおけるこの密度の減少は、インスリン処置によって予防され、パートAではNSI−189およびNSI−158によってのみ軽減され、パートBではNSI−189によってのみ逆転された。
【0034】
物体認識:糖尿病マウスは10週目と16週目に短期記憶障害を示したが、これは全身性インスリンによって予防されなかった。パートAでは、NSI−190のみがこの記憶喪失を予防し、パートBの薬剤はどれも成功しなかった。
【0035】
バーンズ迷路テスト:糖尿病マウスは初期習得障害を示したが、強化学習と短期記憶保持は完全に正常であり、長期記憶保持は損なわれた。インスリンによる処置はこれを全て予防した。パートAにおける全ての試験薬剤NSI−158、NSI−189およびNSI−190は、他のパラメータを変更することなく長期記憶保持を改善したが、パートBで試験した薬剤は成功しなかった。
【0036】
実施例2
II型糖尿病
II型糖尿病は、db/db(BKS.Cg−Dock7m+/+Leprdb/J)マウスによってモデル化された。これらのマウスを実施例1に記載したのと同様の方法で維持した。MNCVの低下、接触性アロディニアおよび熱痛覚鈍麻の漸進的発症は、NSI−189によって17〜22週間の処置後にかなり逆転された。
【国際調査報告】