特表2019-532169(P2019-532169A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2019-532169極低温特性に優れた中エントロピー合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-532169(P2019-532169A)
(43)【公表日】2019年11月7日
(54)【発明の名称】極低温特性に優れた中エントロピー合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20191011BHJP
   C22C 38/52 20060101ALI20191011BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20191011BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20191011BHJP
【FI】
   C22C38/00 302B
   C22C38/52
   C22C38/58
   C21D9/46 P
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-565038(P2018-565038)
(86)(22)【出願日】2017年8月28日
(85)【翻訳文提出日】2018年12月11日
(86)【国際出願番号】KR2017009364
(87)【国際公開番号】WO2019022283
(87)【国際公開日】20190131
(31)【優先権主張番号】10-2017-0094759
(32)【優先日】2017年7月26日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】516008903
【氏名又は名称】ポステク アカデミー−インダストリー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヒョン−ソプ
(72)【発明者】
【氏名】ムン、 ジョン−ウン
(72)【発明者】
【氏名】ベ、 ジェ−ウン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA07
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA21
4K037EB02
4K037EB05
4K037EB11
4K037FJ05
(57)【要約】
本発明は、従来のFCC系高エントロピー合金の極低温機械的物性をさらに向上させ、価格競争力を確保することができる中エントロピー合金に関する。本発明に係る中エントロピー合金は、Cr:6〜15at%、Fe:50〜64at%、Co:13〜25at%、Ni:13〜25at%を含有し、残部が不可避的不純物からなり、準安定なFCC相を含むため、合金の塑性変形時にFCC相からBCC相への変形誘起相変態が起こって優れた極低温機械的特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr:6〜15at%、Fe:50〜64at%、Co:13〜25at%、Ni:13〜25at%を含有し、残部が不可避的不純物からなる合金であって、塑性変形時にFCC相からBCC相への変形誘起相変態が起こることを特徴とする、中エントロピー合金。
【請求項2】
前記変形誘起相変態は準安定なFCC相で起こることを特徴とする、請求項1に記載の中エントロピー合金。
【請求項3】
前記Crの含有量が7.5〜12.5at%である、請求項1に記載の中エントロピー合金。
【請求項4】
前記Feの含有量が57.5%〜62.5at%である、請求項3に記載の中エントロピー合金。
【請求項5】
前記CoがMo及びAlの中から選択された1種以上で置換可能であることを特徴とする、請求項1に記載の中エントロピー合金。
【請求項6】
前記NiがMnで置換可能であることを特徴とする、請求項1または5に記載の中エントロピー合金。
【請求項7】
前記中エントロピー合金の総at%に対して、C及びNのうちの1種以上を1at%未満で含んで製造された、請求項1または4に記載の中エントロピー合金。
【請求項8】
前記中エントロピー合金の総at%に対して、C及びNのうちの1種以上を1at%未満で含んで製造された、請求項6に記載の中エントロピー合金。
【請求項9】
前記変形が常温(298K)以下の温度で起こることを特徴とする、請求項1に記載の中エントロピー合金。
【請求項10】
前記準安定FCC相の相分率が50%以上である、請求項2に記載の中エントロピー合金。
【請求項11】
前記中エントロピー合金は、BCC相と準安定FCC相との混合相或いは準安定なFCC相のみからなる、請求項1に記載の中エントロピー合金。
【請求項12】
前記中エントロピー合金は、常温(298K)での引張強度が226MPa以上であり、延伸率が67%以上である、請求項1に記載の中エントロピー合金。
【請求項13】
前記中エントロピー合金は、極低温(77K)での引張強度が1024MPa以上であり、延伸率が47%以上である、請求項1に記載の中エントロピー合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温機械的物性に優れた中エントロピー合金(medium−entropy alloys、MEAs)に関し、より詳細には、低価格のFe元素を50at%以上含むため優れた価格競争力を有するとともに、合金元素の調節によるFCCおよびBCC相の安定性を調節して極低温変形中に変形誘起相変態を誘導することにより優れた極低温機械的物性を実現することができる中エントロピー合金に関する。
【背景技術】
【0002】
高エントロピー合金(high−entropy alloys、HEAs)は、合金を構成する主な元素(major element)の代わりに、5種類以上の構成元素を同様の割合で合金化して得られる多元素合金である。高エントロピー合金は、合金内の混合エントロピーが高いため、金属間化合物または中間相が形成されず、面心立方格子(face−centered cubic、FCC)または体心立方格子(body−centered cubic、BCC)などの単相(single phase)組織を持つ金属素材である。
【0003】
特に、Co−Cr−Fe−Mn−Ni系の高エントロピー合金は、優れた極低温物性、高い破壊靭性及び高い耐食性を有するため、極限環境に適用することができる素材として脚光を浴びている。
【0004】
このような高エントロピー合金を設計する上で重要な二つの要素は、合金を構成する元素の組成割合と合金系の構成エントロピーである。
【0005】
その中でも、一つ目は、高エントロピー合金の組成割合である。高エントロピー合金は少なくとも5種の元素で合金を構成していなければならず、それぞれの合金構成元素の組成割合は5〜35at%と定義される。また、高エントロピー合金の製造の際に主要合金構成元素の他に他の元素を添加する場合、その添加量は5at%以下でなければならない。
【0006】
通常の合金は、合金元素の組成による構成エントロピー(△Sconf)によって高エントロピー合金、中エントロピー合金(medium−entropy alloys、MEAs)、低エントロピー合金(low−entropy alloys、LEAs)に分けられ、下記[式1]で求められる構成エントロピー値によって下記[式2]の条件に区分される。
【0007】
【数1】
【0008】
(R:気体定数(Gas constant)、X:i元素のモル分率、n:構成元素の数)
【0009】
【数2】
【0010】
代表的な極低温用FCC系高エントロピー合金であるCo20Cr20Fe20Mn20Ni20(at%)合金の場合は、添加された合金元素の価格が高いため、価格競争力が低い。よって、優れた極低温物性にも拘らず、従来の鉄鋼素材を代替して、海洋プラント、LNG素材、極低温タンク、船舶/海洋素材などとして使用するには限界がある。
【0011】
したがって、高エントロピー合金の産業化のためには合金元素の調節によって価格競争力を確保するとともに、優れた極低温特性を実現することが必須的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国公開特許公報第2002/0159914号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】B. Gludovatz, et al., "A fracture-resistant high-entropy alloy for cryogenic applications", Science, 345 (2014) 1153-1158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、従来のCo−Cr−Fe−Mn−Ni系合金の代わりに、相対的に高価な合金元素の含有量を下げる合金を開発して価格競争力を確保するとともに、極低温で変形誘起相変態を誘導して優れた機械的性質を実現することができる中エントロピー合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、Cr:6〜15at%、Fe:50〜64at%、Co:13〜25at%、Ni:13〜25at%を含有し、残部が不可避的不純物からなる中エントロピー合金を提供する。
【0016】
また、本発明の一実施形態による中エントロピー合金は、常温では準安定FCC相を含み、極低温変形時に前記準安定FCC相からBCC相への変形誘起相変態が発生して合金の機械的特性が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る中エントロピー合金は、低価格の合金元素であるFeの含有量を50〜64at%まで増加させて、高価の元素であるCo、Cr、Niなどの添加量を減らして価格競争力を確保することができる。また、本発明に係る中エントロピー合金は、極低温(77K)での引張強度1024MPa以上、延伸率47%以上と優れた特性を有する。
【0018】
また、本発明の一実施形態に係る中エントロピー合金は、常温(298K)で準安定(metastable)FCC相を含み、この準安定FCC相が極低温での変形時にBCC相へ変わる変形誘起相変態(deformation−induced phase transformation)による強化効果が発生し、さらに向上した極低温機械的特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の比較例1、比較例2、実施例1〜4によるCo−Cr−Fe−Ni系中エントロピー合金のXRD(X−ray diffraction)測定結果を示す。
図2】本発明の比較例1、比較例2、実施例1〜4によるCo−Cr−Fe−Ni系中エントロピー合金の常温(298K)での引張試験結果を示す。
図3】本発明の比較例1、比較例2、実施例1〜4によるCo−Cr−Fe−Ni系中エントロピー合金の極低温(77K)での引張試験結果を示す。
図4】本発明の実施例3によるCo−Cr−Fe−Ni系中エントロピー合金の常温及び低温変形時の相変化に対するEBSD(Electron Backscatter Diffraction)分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例による方法について詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。したがって、当該分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想から外れない範囲内で本発明を多様に変更することができるのは自明である。
【0021】
本発明者らは、極低温環境で機械的特性に優れた高エントロピー合金の価格競争力を高め且つ優れた極低温環境での機械的特性を得るために研究した結果、低価格元素であるFeの含有量を50〜64at%へと従来の高エントロピー合金に比べて著しく高め、Fe以外の合金元素の含有量を調節する場合には、FCCおよびBCC相の安定性が変化しながら、変形時に変形誘起相変態が誘導されて優れた極低温機械的特性を得ることができることを解明した。
【0022】
特に、常温で準安定状態のFCC相を含むように合金設計を行う場合、この準安定状態のFCC相が極低温環境での変形過程でBCC相への変形誘起相変態を起こして極低温機械的特性がさらに向上できることを解明し、本発明に至った。
【0023】
このように、本発明において、準安定状態の相が塑性変形過程で変形誘起相変態を起こし、当該温度で安定した状態の相へ相変態されることを準安定な相と判断した。これらの相をすべて準安定相と定義した。
【0024】
本発明に係る中エントロピー合金は、Cr:6〜15at%、Fe:50〜64at%、Co:13〜25at%、Ni:13〜25at%を含有し、残部が不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る中エントロピー合金は、常温で準安定FCC相を含み、変形の際に前記準安定FCC相からBCC相への変形誘起相変態が起こるものであり得る。
【0026】
クロム(Cr)は、6at%未満である場合にはFCC相が安定化され、15at%を超える場合にはBCC相が安定化されるので、6〜15at%が好ましい。また、準安定FCC相を形成することが極低温機械的特性の向上面においてさらに有利なので、より好ましいクロム(Cr)の含有量は7.5〜12.5at%である。
【0027】
鉄(Fe)は、50at%未満である場合にはFCC相が安定化され、64at%を超える場合にはBCC相が安定化されるので、50〜64at%が好ましい。準安定相としてFCC相を形成することが極低温機械的特性の向上面においてさらに有利なので、より好ましい鉄(Fe)の含有量は55〜62.5at%である。
【0028】
コバルト(Co)は、13at%未満である場合にはFCC相が安定化され、25at%を超える場合にはBCC相が安定化されるので、13〜25at%が好ましい。
【0029】
ニッケル(Ni)は、13at%未満である場合にはBCC相が安定化され、25at%を超える場合にはFCC相が安定化されるので、13〜25at%が好ましい。
【0030】
前記コバルト(Co)を代替する成分であるモリブデン(Mo)及びアルミニウム(Al)の中から選ばれた1種以上が代替される場合、13at%未満であればFCC相が安定化され、25at%を超えればBCC相が安定化されるので、13〜25at%が好ましい。
【0031】
前記ニッケル(Ni)を代替する成分であるマンガン(Mn)は、13at%未満であればBCC相が安定化され、25at%を超えればFCC相が安定化されるので、13〜25at%が好ましい。
【0032】
一般に、金属合金において、CやNなどの侵入型元素は、金属の基地(matrix)に侵入型として固溶され、金属の変形時に固溶強化効果による合金の強度を高める役割を果たす。しかし、CおよびNのうちの1種以上の元素を総at%に対して1at%以上添加する場合、FCC相が安定化されるので、準安定なFCC相を誘導して変形誘起相変態の効果を利用するためには1at%未満で添加することが好ましい。
【0033】
前記不可避的不純物は、前記合金元素以外の成分であって、原料または製造過程に不可避に混入される不可避的成分である。
【0034】
また、前記中エントロピー合金は、常温で準安定FCC相、または準安定FCC相とBCC相との混合相からなることができ、引張強度及び延伸率の向上の観点から、準安定FCC相の分率が高いことが好ましい。準安定FCC相の分率は50%以上が好ましい。しかし、準安定FCC相の分率は必ずしも50%以上である必要はない。
【0035】
また、前記中エントロピー合金は、常温(298K)での引張強度が500MPa以上であり、延伸率が50%以上であり得る。
【0036】
また、前記中エントロピー合金は、極低温(77K)での引張強度が1000MPa以上であり、延伸率が40%以上であり得る。
【実施例】
【0037】
[実施例1〜4]
中エントロピー合金の製造
まず、純度99.9%以上のCo、Cr、Fe、Ni金属を準備した。
このように準備した金属を、下記表1のような混合割合となるように秤量した。
【0038】
【表1】
【0039】
以上のような割合で準備された原料金属を坩堝に装入した後、1550℃で加熱して溶解し、鋳型を用いて150gの幅33mm、長さ80mm、厚さ7.8mmの直方体形状の合金インゴット(ingot)を鋳造した。
【0040】
鋳造された合金の表面に生成された酸化物を除去するために、表面研磨(grinding)を行った。研磨されたインゴットの厚さは7mmになった。
【0041】
表面研磨された厚さ7mmのインゴットを1100℃の温度で6時間均質化熱処理した後、厚さ7mmから1.5mmまで冷間圧延を行った。
【0042】
また、冷間圧延の各合金板材は、さらに800℃で10分間焼鈍(annealing)処理を施した。
【0043】
[比較例1及び2]
比較例のための合金の製造
実施例と同様の方法で、下記表2の組成に準じて比較例のための合金を製造した。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例と同様の方法で合金インゴットを鋳造した。実施例と同様の方法で1100℃の温度で6時間均質化熱処理を行った後、厚さ7mmから1.5mmまで冷間圧延を行った。
【0046】
また、実施例と同様の方法で、冷間圧延の各合金板材はさらに800℃で10分間焼鈍(annealing)処理を施した。
【0047】
成分分析結果
焼鈍処理した比較例1、比較例2、実施例1〜4によって製造した合金の実際成分をEDSを用いて分析し、下記表3はその結果を示したものである。
【0048】
【表3】
【0049】
表3に示すように、実際の組成は、最初の原料混合割合からやや外れた値を示すが、原料の純度と製造過程で混入できる不純物などを考慮すると、ほぼ同一のレベルであるといえる。すべての実施例の場合、本発明に係る中エントロピー合金の組成範囲であるCr:6〜15at%、Fe:50〜64at%、Co:13〜25at%、Ni:13〜25at%で含まれることを確認することができた。
【0050】
XRD分析結果
図1は焼鈍処理した比較例1、比較例2、実施例1〜4による合金の常温でのXRD測定結果を示すものである。
【0051】
XRD測定は、試験片の研磨時の変形に起因する相変態を最小化するために、紙やすり600番、800番、1200番の順で研磨し、8%過塩素酸(Perchloric acid)で電解エッチングを行った後に実施した。
【0052】
その結果、図1から確認されるように、比較例1の場合はBCC相からなり、実施例1〜4の場合は準安定FCC相が主をなし、比較例2の場合はBCC相が主をなし、FCC相を少量含む相であることが観察された。
【0053】
すなわち、Feの含有量が多くなり、Co及びNiの含有量が低くなるほど、FCC相の安定性は低下し、結果として、実施例1〜4の範囲で準安定なFCC相が形成された。比較例1及び2では、Feの含有量が65at%以上添加され、もはやFCC相が準安定な状態ではない不安定な状態になって、相対的にBCC相が安定化される現象が現れていることが分かる。
【0054】
引張試験結果
図2図3及び下記表4は、それぞれ、本発明の比較例1、比較例2、実施例1〜4によって焼鈍処理された合金の常温(298K)及び極低温(77K)での引張試験結果を示すものである。
【0055】
図2および図3はそれぞれ、常温及び極低温で実施した引張試験に対するグラフであって、横軸は公称歪み(Engineering strain)、縦軸は公称応力(Engineering stress)を示している。このような実験結果のグラフから比較例と実施例1〜4の降伏強度、引張強度及び延伸率などの物理的特性について解析した結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
図2図3及び表3から確認されるように、本発明の実施例1〜4によって製造された中エントロピー合金の常温引張特性は、降伏強度226〜280MPa、引張強度534〜787MPa、延伸率67〜98%を示す。
【0058】
一方、極低温での引張特性は、降伏強度526〜620MPa、引張強度1024〜1649MPa、延伸率47〜126%と非常に優れた極低温引張特性を示す。
【0059】
それに反し、比較例1と比較例2によって製造された中エントロピー合金の常温引張特性は、初期結晶構造の大部分がBCC構造からなっており、常温及び極低温引張変形間で変形誘起相変態による強化及び延伸率増加効果がなく、BCC構造により、常温及び極低温引張降伏強度と引張強度が高いが、延伸率が低いため脆性を有する。
【0060】
特に、準安定状態のFCC相を多量に含んでいる実施例3による合金の場合、降伏強度526MPa、引張強度1508MPa、延伸率82%の、従来報告されていない優れた極低温引張特性が示されることを確認した。
【0061】
さらに、本発明の中エントロピー合金において、前記CrとFeの含有量は維持した状態で、Coの代わりにMo及びAlの中から選ばれた1種以上でCoの含有量だけ代替して合金化した場合でも、本発明で期待する効果、すなわち変形時に変形誘起相変態が起こって低温延性と剛性を示すことを確認することができた。
【0062】
また、本発明の中エントロピー合金において、前記CrとFeの含有量は維持した状態で、Niの代わりにMnでNiの含有量だけ代替して合金化した場合でも、本発明で期待する効果、すなわち変形時に変形誘起相変態が起こって低温延性と剛性を示すことを確認することができた。
【0063】
また、本発明の中エントロピー合金において、CおよびNのうちの1種以上を金属の基地(matrix)に侵入型元素として固溶させた場合、固溶強化効果による合金の強度が高まることをさらに確認することができた。
【0064】
変形誘起相変態
図4は本発明の実施例3による中エントロピー合金の常温及び極低温変形時の相変化に対するEBSD分析結果を示すものである。
【0065】
図4に示すように、変形前の実施例3の合金は、極少量のBCC相を含み、ほとんど準安定なFCC相からなり、常温(298K)及び極低温(77K)変形後には、BCC相の相分率が著しく増加することが分かる。特に極低温変形後には、全領域にわたってFCC相からBCC相への相変態が起こり、このような相変態が図3に示すように極低温機械的特性の向上に大きく寄与する。
【0066】
したがって、前記極低温機械的特性は、前記変形前のFCC相の相分率が50%以上であることが好ましい。
【0067】
【表5】
【0068】
表5は本発明の比較例1、比較例2、実施例1〜4によって製造された合金の変形前、常温及び極低温変形後のBCC相分率(vol%)をフェライトスコープ(ferritescope)で測定した結果を示すものである。
【0069】
表5に示すように、実施例1〜3の合金は、変形前、少量のBCC相を含んでおり、常温及び極低温変形間の相変態によりBCC相の分率が増加することを確認することができる。また、実施例4の合金は、BCC相の安定性が実施例1〜3の合金に比べて相対的に高くなり、変形前、BCC相を25.68at%含んでおり、常温及び極低温変形間の相変態によりBCC相の分率が増加することを確認することができる。比較例1及び2の合金は、BCC相の安定性が実施例1〜4よりも著しく高いので、変形前、既にそれぞれ91.26at%、87.81at%のBCC相を含んでおり、常温及び極低温変形間の相変態によりBCC相の分率が増加することを確認することができる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】