特表2019-532991(P2019-532991A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2019-532991バイオフィルムの制御のための材料および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-532991(P2019-532991A)
(43)【公表日】2019年11月14日
(54)【発明の名称】バイオフィルムの制御のための材料および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/155 20060101AFI20191018BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20191018BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20191018BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20191018BHJP
【FI】
   A61K31/155
   A61K9/12
   A61K9/107
   A61K9/08
   A61K9/06
   A61K9/20
   A61K9/50
   A61K9/72
   A61K45/00
   A61P35/00
   A61P27/02
   A61P29/00
   A61P31/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-523058(P2019-523058)
(86)(22)【出願日】2017年10月26日
(85)【翻訳文提出日】2019年6月10日
(86)【国際出願番号】US2017058510
(87)【国際公開番号】WO2018081411
(87)【国際公開日】20180503
(31)【優先権主張番号】62/413,116
(32)【優先日】2016年10月26日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】516173810
【氏名又は名称】イノベーション テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】トゥーミー キャロライン エル.
(72)【発明者】
【氏名】クラーク ガレス
(72)【発明者】
【氏名】ズェイドスパイナー サミュエル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA11
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA24
4C076AA30
4C076AA36
4C076AA61
4C076AA67
4C076AA93
4C076AA94
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB22
4C076BB24
4C076BB32
4C076CC01
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC18
4C076CC19
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC32
4C076CC35
4C076DD01
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA28
4C084MA35
4C084MA38
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA57
4C084MA58
4C084MA66
4C084MA67
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA12
4C084ZA042
4C084ZA212
4C084ZA532
4C084ZB111
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB332
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC751
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4C206AA02
4C206HA31
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4C206KA15
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA33
4C206MA37
4C206MA42
4C206MA48
4C206MA55
4C206MA58
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA78
4C206MA85
4C206MA86
4C206MA87
4C206NA05
4C206NA10
4C206NA12
4C206ZA33
4C206ZA82
4C206ZB11
4C206ZB26
4C206ZB35
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、対象におけるバイオフィルム形成およびバイオフィルム感染を予防する、抑制する、または減少させるための材料および方法を提供する。該材料および方法はクロルヘキシジンを利用する。これは驚くべきことに非毒性であることが見出された。毒性がないことは、以前は可能であると考えられていなかった状況下でのクロルヘキシジンの使用を容易にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における部位でバイオフィルムを崩壊させるための方法であって、該方法がバイオフィルム感染を同定する段階、および1%以下の濃度でクロルヘキシジンを含む水溶液を該バイオフィルムに投与する段階を含み、かつ該部位が、
a) 血液、
b) 尿生殖路、
c) 気道、
d) 腹腔内部位、
e) 眼球部位、
f) 結腸、
g) 副鼻洞、
h) 関節内部位、
i) 縦隔部位、
j) 脳脊髄部位、
k) 頭蓋内部位、
l) 胸部位、
m) 皮膚および/または軟組織、
n) 大腸または小腸、
o) 火傷、ならびに
p) 末端部位
から選択される、前記方法。
【請求項2】
クロルヘキシジンの濃度が約0.05%以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
クロルヘキシジンがクロルヘキシジングルコネートである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、抗菌剤、抗ウイルス剤、殺真菌剤、化学療法薬剤、麻酔薬、出血を減少させる剤、および診断用剤から選択される第2の剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記部位に吸引を適用する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
クロルヘキシジンが、クロルヘキシジンを含有する持続放出性材料を介して前記部位に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、静脈注射を介して血液に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
慢性の炎症性病態を処置する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、蒸気および/またはエアゾールの吸入を介して気道に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、乳液、溶液、懸濁液、または軟膏として眼球部位に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、生物界面活性剤と共に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、関節内注射を介して関節内部位に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、脳脊髄注射または脳脊髄潅注システムを介して脳脊髄部位に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、経口摂取用錠剤、マイクロカプセル球、ナノ粒子、時間制御送達システム、凍結ブロック、単純な(plain)水溶液、等張液、または埋め込み型の徐放性送達システムとして投与される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記対象がバイオフィルム感染と診断されている、請求項1記載の方法。
【請求項16】
少なくとも7 psiの圧力のもとで、前記溶液がバイオフィルムに適用される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
抗生物質耐性微生物によって生じる感染を処置するために使用される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
抗生物質の投与をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
プレバイオティクスまたはプロバイオティクスの投与をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
結腸がんを処置するまたは結腸がんの進行を抑制するために使用される、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連技術の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる2016年10月26日に出願した米国仮出願番号第62/413,116号の優先権の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細菌論の以前の知識は、自由に浮遊する(浮遊性)状態の細菌に対する細菌処置に向けられている。感染の処置における主要な手段である抗生物質は、単細胞として機能する、自由に浮遊する(浮遊性)状態で調査された、微生物を死滅させる効率に基づいている。抗生物質の効力の定量化は、例えば従来の最小発育阻止濃度(MIC)アッセイにおいてなされる。しかしながらいまや、ヒト(および他の動物)の特定の感染は、微生物コロニー全体の、協調した集団での挙動によるものであると理解されている。これらのコロニーは、バイオフィルム状態において共同して働く微生物から多くの場合構成される。バイオフィルムの構成成分はコロニー全体を取り囲み、そして抗生物質および健全な免疫系による攻撃から保護する。
【0003】
バイオフィルムは、生物学的なまたは留置医療装置などの不活性な表面に、自由に浮遊する浮遊性細菌が固着するときに生じる。接着した細菌は繁殖し、そして単層の状態からミクロコロニーへと、そしてその後細菌のクロストークが引き起こされる臨界質量へと進行し、バイオフィルム表現型にさせる、クオラムセンシングとして公知の現象を開始させる。クオラムセンシングは、非固着性細菌では発現も産生もされないバイオフィルム産生遺伝子を始動させる。細菌は、集団的に応答してバイオフィルム表現型に特異的な因子を発現し、この因子は、バイオフィルムを決定づける菌体外多糖(EPS)マトリックスの分泌を引き起こす。このバイオフィルム表現型は、水路が間にある、埋め込まれた生きた細菌の層から構成される微生物の塔の形成によって、形態的に特徴付けられる。都合の良い環境条件下では、自由に浮遊する細菌がバイオフィルムから放出され、そしてこのサイクルが他の表面で続く。
【0004】
病原性バイオフィルムは、自由に浮遊する非バイオフィルム産生型の、まったく同一の細菌とは、完全に異なる挙動を示す。異なるゲノム発現に起因して、バイオフィルムに関係する感染は、浮遊性タイプの感染とは異なる臨床経過および抗生物質応答を有する。さらに、コロニーによって作り出されたEPSマトリックスは、もし自由に浮遊する型であればこれらの微生物を通常死滅させ得る抗生物質に対して1000倍の耐性をコロニーに付与するので、浮遊性感染と「同一」にバイオフィルムに関連する感染を処置することは、抗生物質耐性細菌を生み出す。
【0005】
人体においてバイオフィルムに包まれた場合、細菌は抗生物質に対して感受性が1000倍低くなり、その結果、肺炎などの特定の感染を処置困難なものにし、かつ潜在的に致死性にする。
【0006】
抗生物質は、EPSに保護されたこれらの微生物群落を根絶できないので、抗生物質の使用は問題を悪化させ得る。なぜなら抗生物質は、抗生物質耐性細菌を選択し、かつますます永続させるからである。これらの細菌は、世界で上位の院内感染原因であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)および現在一般社会に広く蔓延した細菌を含む。
【0007】
MRSA感染は、「ブドウ球菌」としばしば呼ばれる、黄色ブドウ球菌という細菌により引き起こされる。広域抗生物質に対して耐性のブドウ球菌株は、病院において初めて出現した。これらの抗生物質には、メチシリン、ならびにオキサシリン、ペニシリン、およびアモキシシリンなどの、他のより一般的な抗生物質が含まれる。MRSAは、最も強力な薬物を除くすべてに対して耐性である最初の病原菌のうちの一つであった。
【0008】
ブドウ球菌という細菌は、切創または他の創傷を通して身体に侵入しない限り、一般に無害である。高齢者、および疾病を有するかまたは免疫系が弱まっている人々においては、普通のブドウ球菌感染が、重篤な疾病状態を引き起こし得る。数十年前、MRSAを含むブドウ球菌感染は、病院、ならびに養護ホームおよび透析センターなどの保健施設に入所中の、免疫系が弱まっている人々の間で、最も高頻度に起こっていた;しかしながら1990年代に、ある型のMRSAが、より広い地域に出現し始めた。今日、その型の、市中感染型MRSAまたはCA-MRSAとして公知のブドウ球菌は、多くの重篤な皮膚および軟組織の感染、ならびに重篤な型の肺炎の原因となっている。適切に処置されない場合、MRSA感染は致命的になり得る。
【0009】
地域でのMRSA感染は、通常、面皰(pimple)および腫れ物(boil)などの皮膚感染として現われる。これらのCA-MRSA感染は、その他の点では健康な人々において起こり、かつ用具またはタオルおよびカミソリを含む私物を共有する運動選手の間で好発する。高校またはプロの運動チームに影響したCA-MRSAの大流行が、多数報告されている。これらの感染に対する運動選手の感受性は、体育館および体育館ロッカールームなどの温暖で湿度の高い区域においてMRSAが極めて急速に増殖するという事実により、助長される。フットボールおよび野球において高頻度に起こるものなどの一般的な切創および擦過創が、MRSA感染の可能性のため現在大きな脅威となっている。加えて最近の研究は、集団の30〜50%が常に身体上にMRSAコロニーを保持しており、感染の蔓延を促進するのを助長していることを示唆している。
【0010】
派生した国内のおよび世界的な問題にもかかわらず、現代医学は病原性バイオフィルムに関連する感染に対する処置法をほとんど有さない。さらに、抗生物質耐性細菌の永続化を避けるために、そのような処置法は抗バイオフィルム活性だけでなく、広いスペクトルを有さなければならないので、この問題の解決法は、単に別の新しい抗生物質の開発ではない。これは、MIC試験で効果的であると「立証」された抗生物質の、繰り返しの延長されたコースでさえしばしば不成功となる実際の患者において、何度も再現されている。
【0011】
バンコマイシンは、MRSAの院内株に対して依然として効果的である数少ない抗生物質のうちの一つであるが、この薬物ももはやすべての症例において効果的なわけではない。CA-MRSAに対しては、いくつかの薬物が有効であり続けているが、CA-MRSAは急速に進化している細菌であり、これも大部分の抗生物質に対して耐性になるのは時間の問題であるかもしれない。
【0012】
バイオフィルムは、医学のすべての領域において幅広い臨床的関連性を有する。一般的にシュードモナス(Pseudomonas)およびブドウ球菌(Staphylococcus)に関連するものなどの細菌バイオフィルムは、慢性の軽度の炎症だけでなく、難治性の感染の原因となることが公知である。細菌バイオフィルム中の細菌コロニーは、抗生物質処置だけでなく、宿主の天然の防御に対しても非常に耐性であるようである。バイオフィルムは、それらのコロニーが付着できる人体上のまたは人体中のいかなる表面でも、事実上コロニー形成する。それらはしばしば、導尿カテーテル、経皮静脈ライン、および人工心臓弁などの生体材料にコロニー形成する。
【0013】
生活環境で、バイオフィルムは排水管、パイプ等においてヘドロ、詰まり、および悪臭を生じさせ得る。場合によっては、食品加工のために必要な用具の表面に形成されたバイオフィルムは、加工後の食品への微生物の付着が原因で、食中毒等を生じさせる。
【0014】
宿主の局所の自然免疫を上方制御することだけでなく、細菌バイオフィルムマトリックスを攻撃する、溶解する、またはそうでなければ弱体化すること、細菌群落を維持するクオラム機構を妨げることは、そうしなければ不治の慢性感染、または慢性のバイオフィルムに関連する炎症性疾患となり得るものを、治療し得る。細菌バイオフィルムの「鎧」の貫通または消散は、バイオフィルムに誘導される慢性炎症、特に抗生物質耐性細菌が関与する炎症の戦いにおいて、重大である。
【0015】
バイオフィルム状態の細菌は、抗生物質に対して強固に耐性であるのみならず、それらはまた、アルコール、酸、およびヨード溶液などの他の抗菌剤および殺生物剤に対しても耐性である。実際、今日の抗生物質は、バイオフィルムに関連する感染を処置することの全面的な失敗を、明確にかつ繰り返し実証する。さらに、周知の抗バイオフィルム処置法それ自体も、立証された抗バイオフィルム処置法それ自体も、一切無い。二次的な病原性バイオフィルム形成が推測される、感染を処置するための試みは、繰り返しのおよび長期の抗生物質療法、バイオフィルムの物理的除去(すなわち、手術または創面切除)、ならびに手指洗浄に使用される、アルコールに基づく泡もしくはゲルなどの局所滅菌剤を含む。これらの処置は正常な生理機能を復活させることができないのみならず、これらは自然免疫の恒常性を妨害する − 抗生物質は耐性細菌をますます生み出し、手術または創面切除は、感染の別の潜在的部位を生じる解剖学的な創傷をもたらし、かつ局所殺菌剤は、病原体だけでなく正常な共生生物を根絶することによって、病原性バイオフィルムの発生および増殖を助長し得る。それゆえ、バイオフィルムの分離、および/またはバイオフィルム分泌の予防を誘導する方法ならびに材料の開発は、研究が増えている領域である。
【0016】
ヒト粘膜ならびに角質化したおよび角質化していない上皮ならびに留置医療装置などの表面を含む、病原性バイオフィルムによって影響を受けた領域に、処置が直接的に適用されることも望ましいであろう。そのような投与技術は全身毒性を回避し得る。なぜならそれらは、定義上、局所的な(皮膚薬、鼻腔スプレー、経口吸入器または噴霧器、点眼剤、口内トローチ等)送達システムを介して投与されるからである。また、例えば処置が、天然の一般に安全と考えられる(GRAS)誘導体/非薬学的な構成要素を含むのであれば、安価かつ安全なものとすることも、処置にとって望ましいであろう。最後に、一般社会においてだけでなく病院/臨床環境において病原性バイオフィルムの蔓延/存在を制限するために、抗バイオフィルム組成物が不活性の表面(すなわち病院の用具、航空機のトレイテーブル、学校の机)に適用可能であれば、有用であり得る。
【0017】
クロルヘキシジンは、歯垢および他の口内細菌を死滅させるために設計される口腔洗浄剤中の成分としてしばしば使用される化学的な消毒薬である。クロルヘキシジンは非歯科用途も有する。例えばそれは、一般的な皮膚洗浄のため、手術時手洗い用薬剤として、および術前の皮膚前処置剤として、使用される。クロルヘキシジンは典型的に、単独でまたはセトリミドなどの他の消毒薬と組み合わせて、酢酸塩、グルコン酸塩、または塩酸塩の形態で使用される。
【0018】
創傷の洗浄の適用におけるクロルヘキシジンの使用は、以前に説明されている。例えば、いずれも参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2011-0288507A号(特許文献1)および米国特許出願公開第2011-0097372A号(特許文献2)を参照すること。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011-0288507A号
【特許文献2】米国特許出願公開第2011-0097372A号
【発明の概要】
【0020】
発明の簡単な概要
本発明は、感染部位または潜在的な感染の部位に、クロルヘキシジンを含む殺菌組成物を直接的または間接的のいずれかで投与することにより、バイオフィルムに関連する感染を予防する、処置する、または妨害するための材料および方法を提供する。
【0021】
本発明はまた、バイオフィルムの部位または潜在的なバイオフィルム形成の部位に、クロルヘキシジンを含む殺菌組成物を直接的または間接的のいずれかで投与することにより、バイオフィルムを崩壊させる、分離する、貫通するための、および/またはバイオフィルム分泌を予防するための、材料ならびに方法も提供する。
【0022】
好ましい態様において、抗バイオフィルム組成物は滅菌され、そしてバイオフィルムを崩壊させるのに十分な圧力のもとで、バイオフィルムに直接的に投与される。
【0023】
本発明の組成物は、直接適用によって、患部組織に送達されることができ、有意に効力が増加する。好ましい態様において、クロルヘキシジン溶液は少なくとも7 psi、より好ましくは10 psi以上、および最も好ましくは12 psi以上の圧力のもとで、バイオフィルムに投与される。好ましい態様において、圧力は25 psi未満、および好ましくは20 psi未満である。
【0024】
有利に、クロルヘキシジン含有溶液が、溶血、または血液、血液細胞、もしくは血管系への他の悪影響を引き起こすことなく、本発明に従って対象に投与され得るということが見出された。さらに、本発明の手順に従って投与する場合、本発明のクロルヘキシジン含有溶液は、クロルヘキシジンの有害な吸収も全身毒性も線維症ももたらさない。さらに、本発明の組成物は、悪影響を生じることなく、中枢神経系(CNS)の組織を含む神経系の組織に適用され得る。最後に、本発明に従って、クロルヘキシジン含有溶液は毒性なしに関節組織/軟骨細胞の存在下で適用され得る。
【0025】
これらの知見に基づけば、対象の広範囲な組織および場所においてバイオフィルム、および/またはバイオフィルムに関連する感染を効果的に処置するおよび/もしくは予防する、または妨害するために、本明細書に説明されている新規かつ有利な方法でクロルヘキシジン含有溶液を使用することが、いまや可能である。
【0026】
有利に、本発明の抗バイオフィルム組成物は、MRSAが形成するバイオフィルムを含む、薬物耐性を有するまたは薬物耐性に関連するバイオフィルムを排除するために、有用である。さらに、微生物は本発明の処置に対する耐性を容易に獲得することはない。
【0027】
好ましい態様において、本発明に従って適用される活性剤はクロルヘキシジングルコネートであり、好ましくは約1.0%以下、より好ましくは約0.1%以下、より好ましくは0.08%未満、およびさらにより好ましくは約0.05%以下の濃度であり、かついくつかの使用に関しては0.02%以下である。クロルヘキシジンの滅菌水溶液は、本発明に従って使用され得る。
【0028】
ある態様において、クロルヘキシジン含有溶液の投与後に、例えば生理的食塩水でのリンスが続く。データは、組織または細菌生物に結合したCHGの、生理的食塩水リンスを用いた除去が、最小限であることを実証する。別の態様においては、このようなリンスは適用されない。手術および/または体腔の洗浄の場合といったある態様では、クロルヘキシジンの投与の後に、吸引、または滅菌したレイテック(ray tech)もしくはスポンジを用いた吸い取りなどの代替の除去方法を、続けることができる。吸引は、クロルヘキシジンが投与された後、例えば、30秒、1分、2分、5分、またはより長く経過した後に適用されてよい。
【0029】
クロルヘキシジンを含有する水溶液または他の材料は、例えばpH調整剤、バッファー、局所麻酔剤、創傷治癒促進剤、バイオフィルムの分解を助ける作用物質、止血剤および/または血餅形成促進剤、ならびに他の治療的および非治療的構成成分を含む他の構成成分を有してもよい。
【0030】
一つの態様において、該組成物は、CHGの水溶液「から本質的になる」。これは、該溶液が、クロルヘキシジングルコネート以外に、バイオフィルムの増殖を制御する溶液の能力を実質的に変化させる他の活性剤を含まないことを意味する。
【0031】
本発明の殺菌組成物は、バイオフィルムに関係する感染の予防および/または処置に指向する様々な適用に使用され得る。処置は、例えば、手術部位、皮膚の外科的切開、血液、尿生殖路、インプラント、関節、気道、腹腔内部位、眼球部位、結腸、副鼻洞、関節内部位、縦隔部位、回復中の組織部位、頭蓋内もしくは脳脊髄部位、または他の神経系組織に適用され得る。
【0032】
また、関する解剖学的な領域に基づき、本発明は、例えば、病的なバイオフィルムを減少させるための第1の組成物の局所適用と、それに続く、正常な共生細菌の恒常性の復活を促進するための第2の組成物の適用という、2以上の段階の適用プロセスを使用してもよい。抗生物質を適用する段階もまた、使用され得る。
【0033】
本発明の組成物はまた、不活性の表面(例えば病院の用具、航空機のトレイテーブル、学校の机、配管、およびパイプ)に適用されて、該環境および一般社会において、病原性バイオフィルムの蔓延/存在を制限することもできる。
【0034】
一つの態様において、本発明は、バイオフィルムもしくは抗生物質耐性微生物によって引き起こされる、もしくはこれらに関連する疾患の、予防および/または処置のための方法を提供する。一つの態様において、方法は、そのような処置を必要とする対象に、本発明の組成物の有効量を投与する段階を含む。
【0035】
ある態様において、クロルヘキシジン処置は、バイオフィルム感染を有すると診断されている対象、および/またはバイオフィルム感染をこうむるリスクがあると診断されている対象を処置するために使用される。
【0036】
本発明はまた、抗バイオフィルム組成物と、該抗バイオフィルム組成物の対象への投与のための機器または装置とを含む、キットおよびトレイを提供する。好ましい態様において、組成物、キット、およびトレイは滅菌される。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明は、バイオフィルムの増殖を妨害するおよび/または抑制するための材料および方法を提供する。
【0038】
好ましい態様において、本発明は、対象の部位で、バイオフィルムに関係する感染の発生を予防するおよび/もしくは減少させるための、または現存のバイオフィルムに関係する感染を処置するための、材料および方法を提供する。対象は、例えばヒトまたは他の動物であってもよい。処置は、無生物の表面にも適用されることができる。
【0039】
本発明はまた、バイオフィルムの部位または潜在的なバイオフィルムの部位に、クロルヘキシジンを含む殺菌組成物を直接的または間接的のいずれかで投与することにより、バイオフィルムを排除する、崩壊させる、分離する、貫通するための、および/またはバイオフィルム分泌を予防するための、材料ならびに方法を提供する。好ましい態様において、殺菌組成物は滅菌される。
【0040】
本発明の組成物は、直接適用によって、患部組織(または他の部位)に送達されることができ、その結果、有意に効力が増加する。組成物は、ヒトの粘膜ならびに角質化しているおよび角質化していない上皮などの表面を含む、バイオフィルムによって影響を受けた領域に直接的に適用され得る。それはまた、限定するものではないが、手術用メッシュ、人工血管、乳房インプラント、または他の埋め込み型の医療装置などの、別の医療装置に対して直接的に適用されてもよい。
【0041】
そのような局所に指向する療法の例は、皮膚薬、鼻腔スプレーおよび洗浄剤、点耳剤、直腸投与、経口吸入器および噴霧器、点眼剤、コンタクトレンズ、コンタクトレンズ液、口内トローチ、口腔洗浄剤、練り歯磨き、フロスおよび歯周処置剤などの歯磨き剤を含む。それぞれの場合において、解剖学的な投与の領域に基づき、その組成物が生理学的に適しているビヒクルによって、本発明の組成物は投与される。
【0042】
ある態様において、クロルヘキシジン処置は、バイオフィルム感染を有すると診断されている対象、および/またはバイオフィルム感染をこうむるリスクがあると診断されている対象を処置するために使用される。
【0043】
また、関する解剖学的な領域に基づき、本発明は、例えば、病的なバイオフィルムを減少させるための第1の組成物の局所適用と、それ続く、正常な共生細菌の恒常性の復活、および/または、例えば浮遊性状態の微生物に対する抗生物質剤の効果を促進するための第2の組成物の適用という、2以上の段階の適用プロセスを使用してもよい。
【0044】
クロルヘキシジン含有組成物は、本発明に従って、溶血、または血液、血液細胞、もしくは血管系への他の悪影響を生じることなく対象に投与することができる。さらに、本発明の手順に従って投与する場合、本発明のクロルヘキシジン含有溶液は、クロルヘキシジンの有害な吸収も全身毒性も線維症ももたらさない。加えて本発明の組成物は、悪影響を生じることなく、中枢神経系(CNS)の組織を含む神経系の組織に適用され得る。
【0045】
これらの知見に基づけば、対象中のもしくは対象上の広範囲な組織および場所においてバイオフィルムに関係する感染を効果的に処置する、妨害する、および/または予防するために、本明細書に説明されている新規かつ有利な方法でクロルヘキシジン含有組成物を使用することが、いまや可能である。
【0046】
一つの態様において、本発明は、対象における部位でバイオフィルム形成またはバイオフィルム感染を予防する、抑制する、または減少させるための方法を提供し、ここで該方法は、該部位へ1%以下(好ましくは0.05%以下)の濃度のクロルヘキシジンを含む水溶液を投与する段階を含み、かつ該部位は、a)血液、b)尿生殖路、c)気道、d)腹腔内部位、e)眼球部位、f)結腸、g)副鼻洞、h)関節内部位、i)縦隔部位、およびj)脳脊髄部位から選択される。
【0047】
有利に、本発明の抗バイオフィルム組成物は、薬物耐性に逆らって、MRSAが形成するバイオフィルムを含むバイオフィルムを排除するために、またはバイオフィルムの形成を減少させるために、有用である。
【0048】
一つの態様において、本発明の方法は以下の段階を含む:
(a) 約1%以下、0.08%以下、0.05%以下、または0.02%以下の濃度でクロルヘキシジンを含む活性剤を含む滅菌した組成物を提供する段階、および
(b) 該滅菌した組成物を、直接的または間接的に対象における部位に投与する段階。
【0049】
特定の態様において、患者は初めてバイオフィルム感染と診断される。さらなる特定の態様において、感染は、抗生物質などの異なる抗微生物剤で以前に処置されている。さらなる特定の態様において、感染は、異なる抗微生物剤で以前に処置されており、かつ感染は、以前に用いられた抗微生物剤に対して耐性であることが決定されている。以前に用いられた抗生物質は、例えば、メチシリン、バンコマイシン、オキサシリン、ペニシリン、およびアモキシシリンであってもよい。
【0050】
クロルヘキシジンが適用される部位は、バイオフィルムに関連する感染が発生するリスクがある任意の部位、またはバイオフィルムの形成に関連する現存の感染を有する部位であり得る。本発明の方法の実施に適した部位の非限定的な例には、手術部位、皮膚の手術切開、血液、尿生殖路、インプラント、気道、腹腔内部位、眼球部位、結腸、副鼻洞、鼻道、関節内部位、縦隔部位、頭蓋内、脳脊髄部位、または他の神経系組織が含まれる。
【0051】
有利に、(血液、組織、ならびに/または排泄物および壊死組織片を含む)有機物が存在している場合であっても、本発明の組成物は感染、特に抗生物質耐性感染およびバイオフィルムに関連する感染と戦うのに有効である。
【0052】
さらなる態様において、本発明の抗バイオフィルム組成物は、少なくとも1日、2日、5日、1週間、2週間、3週間、もしくは1か月、またはより長い間形成されたバイオフィルムなどの時間の経過したバイオフィルムだけでなく、新しく形成されたバイオフィルムを消散させるおよび排除するのに、効果的である。
【0053】
特定の態様において、抗バイオフィルム組成物は、バイオフィルム中の微生物の、差異のある増殖を刺激する。差異のある増殖は、バイオフィルムの完全性を妨害することができ、そして組成物のさらなる処置に対して、バイオフィルムの感受性を増強させ、このことは最終的にバイオフィルムの除去をもたらす。
【0054】
本発明の滅菌した抗バイオフィルム組成物は、約1%未満、0.08%未満、約0.1%以下、約0.05%未満、約0.025%未満、または約0.02%未満の濃度のクロルヘキシジンを好ましくは含む(または、それからなる、もしくは本質的にそれからなる)活性剤を含有する。クロルヘキシジンは、例えば、クロルヘキシジングルコネート(CHG)、クロルヘキシジンアセテート、クロルヘキシジンハイドロクロライド、またはそれらの組み合わせであり得る。また、効力を増強させ、耐性微生物が発生する可能性をさらに減少させるため、クロルヘキシジンは例えばリン酸基で修飾してもよい。殺菌組成物は、一つまたは複数の追加の活性剤をさらに含有することができる。ある態様において、該組成物は、アルコールを含有しない、または0.1%、1%、5%、10%、25%、もしくは50%未満のアルコールを含有する。
【0055】
ある態様において、クロルヘキシジンは、留置医療装置自体におよび/またはこのような装置に適用され得るコーティングに組み入れることができる。必要に応じて、例えば適切なハイドロゲルまたは他のポリマーの使用を通じて、クロルヘキシジンを徐々に放出することができる。特定の態様において、クロルヘキシジンは、感染があるところに優先的に放出され得る。このことは、例えば、細菌の存在に関係するpH変化が起きるときにクロルヘキシジンを放出する材料にクロルヘキシジンを組み入れることにより、達成され得る。
【0056】
本発明のさらなる態様には、バイオフィルムによって、および/またはMRSAなどの抗生物質耐性微生物によって生じる感染を含む感染を処置するために鼻潅注を促進する鼻腔スプレーもしくは他の形態の鼻潅注溶液が含まれる。一つの態様において、本発明は、バイオフィルムまたはMRSAの鼻感染と診断された対象にクロルヘキシジンの抗感染量を含有する溶液を投与することによって、バイオフィルムに関連する鼻感染を処置するための方法を提供する。一つの態様において、クロルヘキシジンはCHGである。別の特定の態様において、感染はMRSA感染である。
【0057】
一つの態様において、本発明の組成物は、例えば、外科用のインプラント、ステント、カテーテル、およびその他の留置医療装置との関連で、バイオフィルムの形成を予防または減少させるために使用される。クロルヘキシジン含有溶液は、例えば副鼻腔感染症および伝染性結膜炎に関連するバイオフィルムを含め、同様に他の状況下でのバイオフィルムの形成を減少させるために使用される。
【0058】
さらなる態様において、本発明の組成物は、目の感染を予防するまたは減少させるために、およびドライアイ症候群に関連する根本的な炎症プロセスの処置のために、使用され得る。眼球表面の上または近くの病原性バイオフィルムの後遺症は、ドライアイ症候群を含む、慢性の、眼球の軽度の炎症性病態をもたらし得る。本発明は、ドライアイおよび「流動的な」症候群の症状および原因を処置するための組成物を提供する。具体的には、これらの組成物は、病原性バイオフィルムの増殖を抑制し、かつ眼球/付属器の表面での全体的な抗炎症効果をもたらす。好ましい態様において、患者はドライアイと初めて診断され、そしてその後クロルヘキシジン溶液が患者に投与され、それによってドライアイ症候群を処置する。
【0059】
眼球および隣接表面のそのような処置は、眼球−付属器領域の病原性のミクロフローラおよび有益なミクロフローラの間の恒常性を改善する。非病原性もしくは有益でさえある生物に対して病原性生物を再均衡させること、または調整することは、慢性的に乾燥した、刺激を受けた、充血した、または炎症を起こした目の症状を、改善する。加えて、L-テアニン、ビタミンD3、プレバイオティクス多糖、および海洋生物スピルリナ(Spirulina)などの他の化合物が、病的なバイオフィルムに関連する病態を処置するために、本発明による組成物に補給され得る。
【0060】
他の態様において、本発明の組成物は、病的なバイオフィルムの予防なおよび/もしくは妨害のために、ならびに/または慢性鼻副鼻腔炎;慢性歯周炎;慢性気管支炎ならびにアスペルギルス症、嚢胞性線維症、および喘息を含む呼吸器系炎症の他の状態;「スイマー耳」、外耳炎、および慢性耳炎などの炎症性の耳の病態;ならびにアトピー性皮膚炎および湿疹などの炎症性の皮膚の病態などの、様々な他の慢性炎症性状態に存在する、これら状態に関連する、もしくはこれら状態を引き起こす、慢性感染の予防ならびに/もしくは妨害のために、使用され得る。これら病態の病態生理は、病原性の種および病原性バイオフィルム形成による、正常な共生細菌集団の妨害を含むようである。本発明は、これら病態に関連する症状、および根底にある炎症状態を改善する。
【0061】
他の使用には、感染やバイオフィルム発生の可能性、およびフォローアップ手術の必要性を低下させるために、乳房インプラントまたはコラーゲンインプラントと関連するクロルヘキシジンの投与が含まれる。
【0062】
本発明のクロルヘキシジン溶液はまた、消毒後身体に挿入され得る鍼灸針、イヤリング、および他の貫通物を消毒するために、細菌数を減少させるために、したがって使用することができる。
【0063】
いっそうさらに、尿生殖路潅注システムは、患者の尿生殖路に、本発明の滅菌した殺菌組成物を投与するために使用され得る。
【0064】
本発明の抗バイオフィルム組成物はまた、対象の呼吸器系に投与され得る。
【0065】
加えて、脳脊髄潅注システムは、対象の神経系にある部位に、滅菌した殺菌組成物を投与するために使用され得る。
【0066】
ある態様において、本発明は、対象における部位でバイオフィルムを崩壊させるための方法を提供し、該方法は、バイオフィルム感染を同定する段階、および1%以下の濃度でクロルヘキシジンを含む水溶液を該バイオフィルムに投与する段階を含み、かつ該部位は、
a) 血液、
b) 尿生殖路、
c) 気道、
d) 腹腔内部位、
e) 眼球部位、
f) 結腸、
g) 副鼻洞、
h) 関節内部位、
i) 縦隔部位、
j) 脳脊髄部位、
k) 頭蓋内部位、
l) 胸部位、
m) 皮膚および/または軟組織、
n) 大腸または小腸、
o) 火傷、ならびに
p) 末端部位
から選択される。
【0067】
ある態様において、本発明の活性成分は、抗生物質と組み合わせることができる。本発明にしたがったクロルヘキシジンの投与は抗バイオフィルム効果を有するので、それは、バイオフィルム処置セッティングにおいて典型的には効果のない抗生物質に対して、根底にあるバイオフィルムに関連する感染を、感受性にする。本発明は、根底にある病原性微生物を、抗生物質の抗微生物機構に「感受性にする」ので、本発明はまた、より少ない量で抗生物質を使用することも可能にし、それにより処置費用だけでなく毒性も減少させる。
【0068】
本発明のこの局面の組成物の、すべてではないが多くの態様に共通のいくつかの成分は、天然物から得られるかまたは天然物に関連する抗生物質組成物を含む。これらは、単独で、または細菌、真菌、およびアルスロスピラ(スピルリナ)・プラテンシス(Arthrospira (Spirulina) platensis)などの藍藻を含む、生菌性もしくは非生菌性の、プロバイオティクスのもしくは他の微生物、ならびに薬学的グレードの蜂蜜との組み合わせで用いられる、微生物代謝物、細胞画分、および/もしくは無細胞画分を含んでもよい。特定の態様において使用され得る他の成分は、限定するものではないが、ラーチガムもしくはアカシアガムなどのプレバイオティクス化合物、ローヤルゼリー、蜂パン、およびプロポリスなどの蜂の巣の他の産物、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)およびL-テアニンなどの緑茶誘導体、イヌラ・ヘレニウム(Inula helenium)、メラセウカ・アルテミフォリア(Melaleuca alternifolia)、およびレプトスペルマム・スコパリウム(Leptospermum scoparium)などに由来する他の植物誘導体、ならびに水溶性および水不溶性ビタミンD3を含む。
【0069】
有利に、好ましい態様において、本発明の組成物の成分は、バイオフィルム形成およびバイオフィルムに関連する感染を抑制するために共同して作用し、同時に、正常な局所の自然免疫応答の改善だけでなく、病原性バイオフィルム消散の増強を通じて、関連する慢性炎症性病態を改善する。
【0070】
本発明の組成物は、ヒト粘膜の、角質化した、および角質化していない上皮表面などの関連する領域に、直接的に適用され得る。この技術は全身毒性を減少させるかまたは排除する。なぜなら投与は局所的(皮膚薬、鼻腔スプレー、経口吸入器または噴霧器、点眼剤、口内トローチ等)であるからである。
【0071】
本発明の組成物を含む、組成物の抗バイオフィルム効力は、MBEC(最小バイオフィルム根絶濃度)の手順を実施するための、バイオフィルム接種のためのFDAクラスI承認装置であるCalgary Biofilm Device(本明細書において参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,599,714号)を用いて、または抗バイオフィルム効力を評価する他の手段を用いて、評価されてもよい。利用され得る他の抗微生物試験は以下を含む:寒天またはディスク拡散技術、キルビー−バウアー試験、および最小発育阻止濃度(MIC)。これらの技術は当業者に周知であるので、本明細書では詳細には言及されない。プロトコルは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、John Lammertによる“Techniques in Microbiology”, Pearson Education, 2007、およびGeorge A. Wistreichによる“Microbiology Laboratory Fundamentals and Applications”, Pearson Education, 2003に見出され得る。
【0072】
抗バイオフィルム効力(バイオフィルム阻止濃度またはBIC)は、同一の抗微生物化合物および試験される微生物について最小発育阻止濃度(MIC)試験を実施することにより、浮遊性での効力と直接的に比較されることができる。加えて、抗バイオフィルム効力は、この場合においては、測定されるものが、蜂蜜などの、化合物の抗微生物物質の死滅させる直径(「阻止域」)ではなく、バイオフィルム増殖の完全な阻止のサイズ(バイオフィルム阻止濃度またはBIC)である点を除き、マヌカファクター(本明細書において参照により本明細書に組み入れられるMolan, Peter, “Method for the assay of antibacterial activity of honey”, 2005)に類似した区分システムを用いて測定され得る。この手順は、グラム陰性細菌、メチシリン感受性およびメチシリン耐性ブドウ球菌等といった細菌群だけでなく、ある範囲の細菌に対する組成物のBIC基準を発展させるために使用されるであろう。
【0073】
ある態様において、細胞もしくは無細胞画分、または生物のもしくはバイオフィルム誘導体それ自体などのそれらの細胞外環境の抽出物は、画分それ自体の源よりもいっそう効果的であり得る、特別な抗バイオフィルム効力および/または抗炎症効力を有し得る。
【0074】
創傷の洗浄の適用におけるCHGの使用は、以前に説明されている。例えば、いずれも参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2011-0288507A号および米国特許出願公開第2011-0097372A号を参照すること。それらの特許出願にはCHG含有溶液の様々な使用が説明されている。ある態様において、本発明の材料および組成物は、米国特許出願公開第2011-0288507A号および第2011-0097372A号に記載されたそれらの使用を特に除外する。
【0075】
「約(about)」、「およそ(approximately)」、「近似の(approximate)」、および「おおよそ(around)」なる用語は、本発明のある量的局面、例えば活性剤の濃度、を説明するために、この特許出願で使用される。本発明が操作されるそれらの局面に関して、絶対精度は要求されないことが理解されるべきである。これらの用語が本発明の量的局面を説明するために使用される場合、意味のある局面は最大±10%まで変化し得る。したがって、「約(about)」「およそ(approximately)」「近似の(approximate)」および「おおよそ(around)」なる用語は、±1%、±2%、±3%、±4%、±5%、±6%、±7%、±8%、±9%、または最大±10%まで、様々な開示された本発明の量的局面の変化を許容する。例えば、約1%の活性剤を含む滅菌した殺菌組成物は、0.9%〜1.1%の活性剤を含有し得る。
【0076】
本明細書において使用される、「処置(treatment)」なる用語、または文法上の任意のその変化形(例えば処置する(treat)、処置する(treating)、および処置(treatment)等)は、限定するものではないが、疾患もしくは病態の症状を改善することまたは緩和すること、病態の進行、深刻性、および/もしくは範囲を減少させること、抑圧すること、抑制すること、軽減すること、または影響を及ぼすことを含む。
【0077】
本明細書において使用される、「予防(prevention)」なる用語、または文法上の任意のその変化形(例えば予防する(prevent)、予防する(preventing)、および予防(prevention)等)は、限定するものではないが、症状の発症を遅らせること、疾患の再発を予防すること、症状に関するエピソード間の潜伏期を増加させること、またはそれらの組み合わせを含む。本明細書において使用されるように、予防は、症状が完全に無いことを必要としない。
【0078】
本明細書において使用される、「有効量」なる用語は、バイオフィルムに関連する病的な状態を予防する、改善する、および/または処置することができる量を意味する。
【0079】
一つの態様において、「そのような処置を必要とする対象」とは、バイオフィルムに関連する病的な状態と診断された対象を意味する。
【0080】
有利に、(血液、組織、ならびに/または排泄物および壊死組織片を含む)有機物が存在している場合であっても、本発明の殺菌組成物は、バイオフィルムに関連する感染と戦うのに有効である。
【0081】
製剤化
本発明の一つの態様において、低濃度のクロルヘキシジンの溶液は、バイオフィルムに関連する感染を効果的に予防または処置するために使用され得る。有利に、クロルヘキシジン含有溶液は、溶血、または血液、血液細胞、もしくは血管系への他の悪影響を生じることなく、本発明に従って対象に投与することができるということが見出された。さらに、本発明の手順に従って投与される場合、本発明のクロルヘキシジン含有溶液は、クロルヘキシジンの有害な吸収、全身毒性、または線維症をもたらさない。さらに、本発明の組成物は、悪影響を生じることなく、中枢神経系(CNS)の組織を含む神経系の組織に適用され得る。
【0082】
これらの知見に基づけば、対象の広範囲な組織および場所においてバイオフィルムに関連する感染を含む感染を効果的に処置するおよび/または予防するために、本明細書に説明されている新規かつ有利な方法でクロルヘキシジン含有溶液を使用することが、いまや可能である。
【0083】
特定の態様において、クロルヘキシジン濃度は、約2%未満、約1%未満、または約0.1%未満である。さらなる態様において、クロルヘキシジン濃度は、約0.05%未満である。なおさらなる態様において、クロルヘキシジン濃度は、0.02%〜0.05%である。CHGの使用が具体的に本明細書に例示されている。
【0084】
特定の態様において、本発明に従って使用されるCHGは、以下の化学構造を有している。
【0085】
殺菌組成物のpHは好ましくは中性またはわずかに酸性である。pHは5.0〜7.5が好ましい。pHは5.5〜7.0がさらに好ましい。
【0086】
好ましい態様において、感染部位への本発明の殺菌組成物の投与は、未処置部位またはクロルヘキシジンを含有しない生理的食塩水または水が投与された部位と比較したとき、該部位での細菌、他の微生物、またはバイオフィルム形成の数の減少をもたらす。有利に、本発明に依る殺菌組成物の投与は、組織損傷を生じることなくバイオフィルムに関連する感染の有効な制御をもたらし得る。
【0087】
本発明に従って対象に投与し得る追加の活性剤の例には、限定するものではないが、抗菌剤、抗ウイルス剤、殺真菌剤、化学治療剤、局所防腐剤、麻酔剤、含酸素液および/または剤、抗生物質、診断剤、ホメオパシー剤、プロバイオティクス、プロバイオティクスの代謝産物または抽出物、止血剤、および市販の薬/剤が含まれる。一つの態様において追加の剤は抗微生物ペプチド(AMP)であり得る。AMPは当技術分野で周知である。
【0088】
ある態様において、追加の剤は診断剤である。診断剤は、例えば、標的生体分子に結合する抗体、タンパク質、またはポリヌクレオチドであってもよい。任意のこのような結合は、次に、当業者に既知の技術を使って可視化してもよい。
【0089】
この発明の目的のために、活性剤の単純な(plain)水溶液は、水の溶液にオスモル濃度を提供する溶質、例えば塩または砂糖、を本質的に欠く水の溶液中に活性剤および/または第2の剤を含む。この発明の目的のために、等張液は、血液と同じ浸透圧を有する溶液を意味する。典型的に、等張液は、水に約0.85%のNaClを含有する。
【0090】
本発明の様々な態様はまた、点眼剤、ゲル、軟膏、クリーム、または適用の領域に適した組成物の送達の他のビヒクル、眼球周囲用ローション、ゲル、軟膏、クリーム、または適用の当該領域に適した送達の他のビヒクル、鼻腔内用の水性または非水性スプレー、鼻腔用生理的食塩水リンス、皮膚用せっけん、ローション、クリーム、軟化剤、ならびにコンタクトレンズ洗浄および保存のためなどの溶液またはスプレーも含み得る。
【0091】
ある態様において、組成物は、成分を少なくとも約1 μg/g、5 μg/g、10 μg/g、20 μg/g、50 μg/g、0.1 mg/g、0.5 mg/g、1 mg/g、5 mg/g,、10 mg/g、50 mg/g、100 mg/g、または500 mg/gの濃度(成分の重量/組成物の重量)でさらに含んでもよく、ここで該成分は、微生物の抽出物、化学的置換物、細胞または無細胞構成成分、プロバイオティクス微生物のプロバイオティクスおよび/または代謝物、蜂蜜、蜂の巣の産物、生物界面活性剤、プレバイオティクス、植物抽出物、ならびにビタミンDからなる群より選択される。
【0092】
プロバイオティクスは、人体に対し何らかの様式で有益であることが立証される微生物である。世界保健機関(World Health Organization)の、プロバイオティクス微生物についての2001年のシンポジウムの一つは、これらの生物を「適切な量で消費された場合に、その宿主の健康における正の影響を有する、生きた微生物」と定義した(World Health Organization, Joint FAO/WHO Expert Consultation on Evaluation of Health and Nutritional Properties of Probiotics in Food Including Powder Milk with Live Lactic Acid Bacteria, October 2001)。
【0093】
一つの態様において、プロバイオティクス微生物は、アエロコッカス(Aerococcus)、大腸菌(E. coli)、バチルス(Bacillus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、フソバクテリウム(Fusobacterium)、ラクトコッカス(Lactococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、メリッソコッカス(Melissacoccus)、ミクロコッカス(Micrococcus)、オエノコッカス(Oenococcus)、スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)、連鎖球菌(Streptococcus)、ブドウ球菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)、プロピオニバクテリウム(Proprionebacterium)、およびワイセラ(Weissella)からなる群より選択される。
【0094】
生物界面活性剤は、微生物によって放出される化合物であって、かつ一般的に非毒性および生物分解性である。一つの態様において、本発明に従って有用な生物界面活性剤は、非乳酸産生細菌および乳酸産生細菌(LAB)を含むプロバイオティクスによって放出される。一つの態様において、本発明に従って有用な生物界面活性剤は、限定するものではないが、バクテロイデス(Bacteroides)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、およびラクトバチルス(Lactobacillus)を含むプロバイオティクスによって放出される。
【0095】
追加の態様において、生物界面活性剤は、アエロコッカス、大腸菌、バチルス、エンテロコッカス、フソバクテリウム、ラクトコッカス、ロイコノストック、メリッソコッカス(Melissacoccus)、ミクロコッカス、オエノコッカス、スポロラクトバチルス、連鎖球菌、ブドウ球菌、サッカロマイセス、ペディオコッカス、ペプトストレプトコッカス、プロピオニバクテリウム(Proprionebacterium)、またはワイセラの特定の株によって放出され得る。
【0096】
本発明に従って有用な生物界面活性剤は、糖脂質またはリポタンパク質であり得る。一つの態様において、生物界面活性剤は、糖脂質、リポペプチド、デプシペプチド、リン脂質、置換脂肪酸、リポ多糖、スルラクチン(surlactin)、スルファクチン、ビスコンシン(visconsin)、スピクリスポール酸、またはラムノリピドであり得る。
【0097】
プレバイオティクスは、大腸によって代謝されてブチラートなどの短鎖脂肪酸を形成する多くの植物中に見出される、非消化性で繊維性のフルクトオリゴ糖またはガラクトオリゴ糖(FOSまたはGOS)である。これらの脂肪酸は、有効な局所の自然免疫応答を引き起こす助けとなるだけでなく、腸でのプロバイオティクスコロニーを代謝的にサポートする。その結果、プレバイオティクスの補給は、プロバイオティクスの補給の効力を増加させ得る。この組み合わせはシンバイオティクス療法として公知である。
【0098】
ある態様において、本発明は、抗バイオフィルム効力を増大させるために、1ミリリットルにつき10 mcg〜100 mgの濃度でローカストビーン(カロブ)ガムなどの特定のプレバイオティクスを使用してもよい。これらは、フルクトオリゴ糖(FOS)、マンノオリゴ糖(MOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、アラビノガラクタン、および他の食物繊維、イヌリン、ラクツロース、難消化性デンプン、イソマルト、オートブラン、ならびにペクチンを含む。ラーチアラビノガラクタンが使用されてもよく、かつラーチアラビノガラクタンは、AG、Ara-6、アラビノガラクタン、アラビノガラクチン、食物繊維、ラーチ、ラーチガム、ラーチの木、カラマツ属、モンゴリアンラーチ(Mongolian Larch)、モンゴリアンラーチウッド(Mongolian Larchwood)、可溶性繊維、ストラクタン(Stractan)、ウエスタンラーチ、ウエスタンラーチアラビノガラクタン、木質ゴム、キシロース、ラリックス・デシデュア(Larix decidua)、ラリックス・ユーロパエア(Larix europaea)、ピヌス・ラリックス(Pinus Larix)、ラリックス・オシデンタリス(Larix occidentalis)、ラリックス・グメリニイ変種グメリニイ(Larix gmelinii var. gmerlinii)、ラリックス・ダフリカ(Larix dahurica)、およびアビエス・グメリニイ(Abies gmelinii)としても知られる。また、以下も使用され得る:コンニャクガム、加水分解コンニャク、加水分解グルコマンナン、非加水分解コンニャク、加水分解グルコマンナン、マンナ、コンニャク(Konjac)、コンニャク繊維、コンニャク(Devil’s Tongue)、およびゾウコンニャクとしても知られる、コンニャクグルコマンナン。また、以下も使用され得る:穀物粒のふすま、植物セルロース、菌類構成成分、キノコ構成成分、海藻構成成分、カードラン、ラミナリン、クリソラミナリン、レンチナン、多糖-K、リケニン、プレウラン(pleuran)、キサンタン、およびザイモサンとしても知られる、可溶性または不溶性ベータグルカン。
【0099】
植物抽出物は、抗炎症および抗微生物の特質を有していることが公知である。本発明のいくつかの態様において用いられる植物抽出物は、ホースヒール(horseheal)(イヌラ・ヘレニウム(Inula helenium, L.)、オオグルマ)、バラ(ロサ・ダマスケナ(Rosa damascena L.)、バラ科)、ラベンダー(ラバンデュラ・アングスティフォリア(Lavandula angustifolia L.)、シソ科)、カモミール(マトリカリア・レキュティカ(Matricaria recutica L.)、キク科)、オレンジ(ミカン科)、ユーカリ(ユーカリプトゥス・グロブルス(Eucalyptus globulus L.)、フトモモ科)、フウロソウ(ゲラニウム・ロベルチアヌム(Geranium robertianum L.)、フウロソウ科)、ビャクシン(ユニペルス・コムニス(Juniperus communis L.)、ヒノキ科)、柑橘類(シトラス・シネンシス(Citrus sinensis L.)、ミカン科)、ティーツリー(メラセウカ・アルテミフォリアMelaceuca alternifolia))、ギョリュウバイ(レプトスペルマム・スコパリウム(Leptospermum scoparium))、インドセンダン(アザディラクタ・インディカ(Azadirachta indica, A. Juss))、チャノキ(カメリア・シネンシス(Camellia sinensis))およびローズマリー(ロスマリヌス・オフィシナリス(Rosmarinus officinalis L.)、シソ科)の油を含む。上述の植物性物質の精油またはウォーターディスティレート(water distillate)が使用されてもよい。例えば、1〜10%体積/体積(植物抽出物/本発明)の間の濃度のマヌカ油が使用されてもよい。
【0100】
ビタミンDは、骨代謝におけるその周知の効果のほかにも、自然免疫系における、最近発見された効果を有する。ビタミンD3は、皮膚および目など体表上で、カテリシジン(LL37)などの抗微生物ペプチド(AMP)の産生を誘導する。ビタミンD3は、追加の活性成分として製剤に加えられてもよい。より具体的には、ビタミンDの活性型は、1 mcg〜1 mg/mlの範囲の量で使用されてもよい。
【0101】
抗菌スペクトル
本発明の組成物は、好気的または嫌気的条件下で増殖するバイオフィルムに適する。
【0102】
本発明の特定の組成物は、病原性バイオフィルムの形成を予防または抑制することができる。加えて、本発明の特定の組成物は、現存の病原性バイオフィルムを減少させる、制御する、または排除することができる。
【0103】
クロルヘキシジンを含む組成物は、バイオフィルムもしくは病原性微生物の生物学的もしくは非生物学的表面への沈着、付着、および/もしくは固着を予防する、抑制する、ならびに/もしくは妨害すること;菌体外多糖(EPS)マトリックスなどの細胞外因子の分泌および/もしくは放出を予防する、抑制する、ならびに/もしくは妨害すること;ならびに/もしくはクオラムセンシング機構を予防する、抑制する、ならびに/もしくは妨害することを含む様々な機構を介して、病原性バイオフィルムの形成を予防する、もしくは抑制することができ、ならびに/または現存の病原性バイオフィルムを減少させる、制御する、もしくは排除することができる。これらの病原体には好気性のおよび嫌気性のグラム陽性およびグラム陰性細菌が含まれる。クロルヘキシジンはまた、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、特定の真菌、および特定のウイルスに対して活性も有する。
【0104】
クロルヘキシジンは、連鎖球菌突然変異体、化膿連鎖球菌(S. pyogenes)(A群β溶血連鎖球菌)、ストレプトコッカス・サリバリウス(S. salivarius)、およびストレプトコッカス・サンギス(S. sanguis)を含む様々なグラム陽性好気性細菌に対して高い活性がある。クロルヘキシジンは、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(S. haemolyticus)、スタフィロコッカス・ホミニス(S. hominis)、およびスタフィロコッカス・シムランス(S. simulans)に対して活性がある。クロルヘキシジンは、オキサシリン耐性のブドウ球菌(ORSA)およびオキサシリン感受性のブドウ球菌(メチシリン耐性[MRSA]またはメチシリン感受性のブドウ球菌としても知られる)の両方に対して活性がある。クロルヘキシジンは、エンテロコッカス・フェカリス(E. faecalis)およびエンテロコッカス・フェシウム(E. faecium)を含むエンテロコッカスに対して活性があり、かつバンコマイシン感受性およびバンコマイシン耐性菌株の両方に対して活性がある。
【0105】
クロルヘキシジンはまた、いくつかの嫌気性細菌に対しても活性がある。クロルヘキシジンは、バクテロイデス、プロピオニバクテリウム、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、およびセレノモナス(Selenomonas)のいくつかの株に対して活性があるが、ベイヨネラ(Veillonella)に対しては活性が低い。
【0106】
クロルヘキシジンは、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・デュブリニエンシス(C. dubliniensis)、カンジダ・グラブラータ(C. glabrata)(旧トルロプシス・グラブラータ(Torulopsis glabrata))、カンジダ・ギリエルモンジイ(C. guillermondii)、カンジダ・ケフィール(C. kefyr)(旧カンジダ・シュードトロピカリス(C. pseudotropicalis))、カンジダ・クルーセイ(C. krusei)、カンジダ・ルシタニアエ(C. lusitaniae)、およびカンジダ・トロピカリス(C. tropicalis)(旧カンジダ・パラプシローシス(C. parapsilosis))に対して活性を有する。クロルヘキシジンはまた、エピデルモフィトン・フロッコースム(Epidermophyton floccosum)、ミクロスポルム・ギプセウム(Microsporum gypseum)、ミクロスポルム・カニス(M. canis)、およびトリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)を含む皮膚糸状菌(dermatophytes)に対しても活性を有する。
【0107】
バイオフィルムの形成を排除する、予防する、または抑制することに加えて、本発明の滅菌した殺菌組成物はまた、例えば、大腸菌(Escherichia coli)およびクレブシエラ・エロゲネス(Klebsiella aerogenes)を含む、バイオフィルムを形成する特定の細菌の「病原性を除去(depathogenize)」して、これらのバクテリアの、感染を生じる能力を弱めることができる。
【0108】
好ましい態様において、感染部位への本発明の殺菌組成物の投与は、未処置部位またはクロルヘキシジンを含有しない生理的食塩水もしくは水を投与された部位と比較したとき、該部位でのバイオフィルムの形成の減少をもたらす。有利にかつ予想外に、本発明に依る殺菌組成物の投与は、組織損傷を生じることなく、バイオフィルムが関係する感染の有効な制御をもたらし得る。
【0109】
バイオフィルム感染に関連する疾患の診断および処置
一つの態様において、本発明は、バイオフィルムによって生じる、またはバイオフィルムに関連する疾患の予防および/または処置のための方法を提供する。一つの態様において、方法は、そのような処置を必要とする対象に、本発明の組成物の有効量を投与する段階を含む。
【0110】
特定の態様において、本発明は、対象がバイオフィルム感染を有するかどうかを診断する段階を含み、本発明の組成物が、バイオフィルム感染と診断された対象にその後投与される。対象はまた、処置の効力を評価するためにその後モニターされてもよい。
【0111】
バイオフィルム感染の診断は、例えば米国特許出願公開第2010/0285496号において説明される臨床技術によって達成され得る。病原性バイオフィルム感染の場所は、例えばX線およびCTスキャンなどの画像技術によって判定され得る。
【0112】
一つの態様において、バイオフィルム感染は、以下によって検出され得る:
a) 対象から生物学的試料を得ること;ならびに
b) 自由に浮遊する(浮遊性)状態ではなく、バイオフィルム状態にある微生物に関連する、および/もしくはそれら微生物によって選択的に発現される、一つまたは複数のバイオマーカー(例えば、菌体外多糖、タンパク質、mRNA)の存在を測定すること。
【0113】
したがって、バイオフィルム感染は、自由に浮遊する(浮遊性)状態でのレベルと比べて、上昇したレベルでバイオフィルム状態の微生物によって発現される、一つまたは複数のバイオマーカーの存在を測定することによって、検出され得る。別の態様において、バイオフィルム感染は、細菌の細胞外多糖(EPS)マトリックス、またはEPSに含まれる化学物質の存在によって検出され得る。
【0114】
さらに、バイオフィルムを形成する薬物耐性微生物および/または病原性微生物の種は、例えば、病原性微生物の存在に関連する抗原もしくはペプチドを認識する抗体を用いることによって、または病原性微生物の核酸分子を認識するプローブを用いることによって、決定され得る。
【0115】
本明細書において使用される、「生物学的試料」なる用語は、限定するものではないが、対象から単離された組織、細胞、および/または体液を含有する試料を含む。生物学的試料の例は、限定するものではないが、組織、細胞、バイオプシー、血液、リンパ液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、唾液、および涙を含む。ある特定の態様において、生物学的試料は、涙、鼻汁、および唾液を含む。
【0116】
本発明に従って有用なバイオマーカーの存在および/またはレベルは、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、ノーザンブロット、免疫学的アッセイ、免疫蛍光法、および核酸ハイブリダイゼーション技術などの、当技術分野において公知の技術によって決定され得る。
【0117】
バイオフィルム感染に関連する疾患
ある態様において、本発明は、限定するものではないが、皮膚炎、ざ瘡、慢性気管支炎、嚢胞性線維症、慢性歯肉炎、慢性炎症性腸疾患、がん、慢性湿疹、慢性非治癒性創傷、慢性膀胱炎、およびコンタクトレンズなどの医療装置に関係する炎症を含む、バイオフィルム感染によって生じる、もしくはそのようなバイオフィルム感染に関連する疾患を予防する、処置する、または改善するために使用され得る。本発明者らはまた、バイオフィルム感染が、例えば、慢性眼瞼炎、ならびにドライアイ症候群、マイボーム腺炎、および酒さなどの、眼球の、眼球周囲の、ならびに皮膚上皮の他の慢性炎症性病態などの疾患を生じる、またはこれら疾患に関連することを発見した。
【0118】
一つの態様において、本発明の方法は、バイオフィルム感染に関連する、結腸がんなどのがんを処置するために使用され得る。この態様において、CHG組成物は、化学療法剤および/または他のがん療法と併用して投与され得る。
【0119】
一つの態様において、本発明は、中耳炎、慢性副鼻腔炎、慢性扁桃炎、アデノイド咽頭炎、ならびに蝸牛のおよび中耳のインプラント装置の機能不全を含む、バイオフィルムに関係する病態を予防する、処置する、または改善するために、耳鼻咽喉学上の行為において使用され得る。改善された処置方法の必要性にもかかわらず、機械的な妨害(すなわち、感染した材料の除去もしくは外科的切除)または長期間の抗生物質処置などの先行技術の方法が、バイオフィルムに起因する慢性炎症状態のための処置の主力のままである。
【0120】
本発明者らは、眼球および眼球周囲の特定の感染は、バイオフィルムに関連する慢性炎症状態に起因することを発見した。例えば、眼科の分野では、白内障手術後の眼内炎において、網膜剥離手術後の強膜バックル術、涙点プラグ、人工鼻涙管チューブ術において、およびソフトコンタクトレンズに関連する角膜炎において、バイオフィルムの存在が報告されている。実際、殺生物剤の使用にもかかわらず、微生物汚染はすべてのコンタクトレンズ容器の最大で81%、コンタクトレンズの50%、およびすべてのタイプのコンタクトレンズ液の30%において生じる。細菌バイオフィルム形成に関連する感染は持続性の傾向があり、かつバイオフィルムから最も高頻度で単離される生物は、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)である。ドライアイの眼球表面、および慢性眼瞼炎の眼瞼縁、およびコンタクトレンズ装着者には、正常な目に典型的に見出されるグラム陽性共生細菌よりも有意により多い細菌、および有意により多いグラム陰性型細菌が、コロニー形成している。
【0121】
一つの態様において、本発明は、慢性鼻副鼻腔炎、病原性バイオフィルムの形成に関連する慢性炎症状態の別の例を予防する、処置する、または改善するために使用され得る。慢性鼻副鼻腔炎の病態生理は、病原性バイオフィルム形成がその後に続く、病原体による正常な共生細菌集団の妨害を含むようである。結果的に生じる典型的な症状は、鼻漏、副鼻洞の圧迫感、再発性頭痛、後鼻漏、および咳を含む。
【0122】
ある態様において、本発明は、限定するものではないが、喘息、アスペルギルス症、「スイマー耳」、外耳炎、慢性耳炎、アトピー性皮膚炎、慢性鼻副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、慢性気管支炎、慢性歯肉炎、慢性副鼻腔炎、および慢性歯周炎を含む、バイオフィルム感染によって生じる、もしくはバイオフィルム感染に関連する疾患を予防する、処置する、または改善するために使用され得る。
【0123】
投与の様式
本発明の方法は、クロルヘキシジン含有溶液の多くのルートによる送達と併用して使用され得る。皮膚の、腹腔内、頭蓋内、病巣内、胸腔内(手術の間)、鼻の、外耳道内、経口腸管前処置(oral bowel prep)として、胃洗浄、洗眼剤として、歯周、直腸、柔組織、皮下、および膣の経路が特に関心が高い。
【0124】
本発明のクロルヘキシジン溶液は広範囲の現在利用可能な送達装置、システム、および方法のいずれかを用いて投与され得る。これらは、限定するものではないが、尿路感染、血流感染、頭蓋内感染、および関節感染を含む、ある範囲の病原性バイオフィルムまたは潜在的な病原性バイオフィルムに起因する感染を処置するためのカテーテルを介した送達を含む。ある態様において、クロルヘキシジン溶液は、限定するものではないが、例えば、髄膜炎を含む脊髄感染を処置および/または予防するために、シリンジを介して投与され得る。
【0125】
本発明のクロルヘキシジン溶液はまた、慢性創傷および火傷などの適切な部位を処置するために、または鼻腔投与のために、スプレーまたはミストとして製剤化され得る。
【0126】
さらなる態様において、本発明は、例えば生物兵器になどに関連する病的な作用物質にさらされた、またはそれが疑われる対象を消毒するために、全身または局所のシャワーを提供する。
【0127】
本発明のクロルヘキシジン溶液はまた、例えば、肺炎、または他の気道感染に罹患した人々による吸入のために製剤化され得る。特定の態様において、クロルヘキシジン溶液は、肺感染を生じているかもしくはそのような感染を生じるリスクのある嚢胞性線維(CF)患者による吸入のために製剤化される。特定の態様において、対象は(CF)と診断されている。
【0128】
さらなる態様において、クロルヘキシジンは、皮膚、および例えば、外耳道を含む他の身体表面を消毒するために使用され得る材料に組み入れることができる。該材料は、例えば、ティッシュ、布、または綿棒であってもよい。好ましくは、ティッシュ、布、綿棒、または他のクロルヘキシジン含有材料が、乳児または高齢者の皮膚などの敏感な皮膚に対してさえ使用するために製剤化され得る。このようなティッシュ、布、綿棒、および他の材料はさらに、シャワーまたは入浴が容易にできない個人のために、シャワーまたは風呂の代わりに、使用され得る。特定の態様において、クロルヘキシジンが組み入れられた材料は、アルコールを含まない、または1%未満もしくは4%未満のアルコールを含む。
【0129】
身体洗浄のための洗浄用タオルの例は、いずれもその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,725,311号、第5,906,278号、第5,956,794号、第6,029,809号、および第8,221,365号を含む。好ましい態様において、材料は1%以下および好ましくは0.05%以下でクロルヘキシジンを含む溶液を含浸される。例えば、保湿剤を含む他の成分を加えることもできる。
【0130】
本発明の一つの態様において、滅菌した殺菌組成物は、内部の手術部位(または、感染のもしくは潜在的な感染の他の部位)に一定期間にわたり活性剤を放出する活性剤を含有する多孔質材料を沈着させることにより、該部位に投与され得る。該部位にとその周りにおける活性剤の存在は、感染を予防および/または処置し得る。手術が実施されるときに、活性剤を含有する多孔質材料を、手術部位に投与することができる。発明のある態様において、多孔質材料は、円盤、球、または部位にフィットするように設計された形である。
【0131】
活性剤を含有する多孔質材料は、約1時間〜約6ケ月、約2ケ月〜約5ケ月、約3ケ月から約4ケ月、約1週間〜約4週間、約2週間〜約3週間の期間、またはこれらの期間を並べ替えた他の任意の期間にわたって、活性剤を放出することができる。
【0132】
多孔質なインプラントを産出するために使用され得る材料の非限定的な例には、ケイ酸塩長石マトリックス、ヒドロキシアパタイト、多孔性のチタン、またはスポンジが含まれる。持続放出性のインプラントを産出するのに適切な材料の別の例は、当業者に周知であり、かつこのような材料は、本発明の範囲内である。例えば、クロルヘキシジンをそれに組み入れるハイドロゲルまたは他のこのようなコーティングも用いることができる。
【0133】
本発明の好ましい態様において、殺菌組成物は治癒過程にある組織の部位に投与される。この発明の目的のために、治癒過程にある組織部位とは、創傷または病気を患いかつ該創傷または病気の処置の後に回復している組織の領域である。治癒過程にある組織部位は、皮膚の表面または内部であり得る。
【0134】
本発明のある態様において、抗バイオフィルム組成物は、クロルヘキシジンを含有するパッチ、救急絆、または包帯;クロルヘキシジンを含有する粘度の高い粘性溶液;生分解性ゲル;あるいはクロルヘキシジンを含有する縫合糸を介して、治癒過程にある組織部位に投与される。
【0135】
有利に、クロルヘキシジンは治癒過程にある組織、例えば、皮膚の皮下層に結合し、抗生物質および/または治癒効果を提供する。したがって、本発明の滅菌した殺菌組成物は、治癒過程にある組織の回復を促し、感染を予防し、および/または現存の感染を治療するために、治癒過程にある組織に結合できる活性剤を提供する。
【0136】
本発明の別の態様において、滅菌した抗バイオフィルム組成物は、経口摂取用錠剤、マイクロカプセル送達球、ナノ粒子、標的ナノ粒子(例えば、受容体介在性の標的ナノ粒子)、時間制御送達システム、滅菌した殺菌組成物の凍結ブロック、活性剤の単純な水溶液、活性剤の等張液、または埋め込み型の徐放性送達システム、として部位に投与され得る。ある態様において、殺菌組成物は、投与された後、該部位に残る。
【0137】
本発明のさらなる態様において、本発明の抗バイオフィルム組成物が、部位または組織に投与された後、該部位または該組織は、例えば活性剤を含まない滅菌した溶液でリンスされる。活性剤を含まない溶液の例には、限定するものではないが、活性剤を含まない淡水、生理的食塩水、および等張液が含まれる。リンスは、活性剤を含まない溶液を該部位に投与し、かつ、例えば吸引によって、結果として生じた該溶液を該部位または該組織から取り除くことによって実施され得る。ある態様において、リンスは、対象の部位に滅菌した殺菌組成物を投与した時点から約1分〜約10分、約2分〜約5分、または約3分以内で実施される。他の態様において、リンスの有無にかかわらず吸引は実施される。
【0138】
最適な環境の下で、本発明の方法は、熟練の医療技術者によって利用されるが、本発明が単純かつ簡便であることから、洗浄を実施する操作者の訓練水準に関わらず、本方法を用いて、抗バイオフィルム組成物の投与の効果を顕著に高めることができる。
【0139】
対象は哺乳動物であってもよい。本発明の方法に従って処置され得る哺乳動物の非制限的な例には、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、およびブタが含まれる。
【0140】
以下は、本発明を実施するための手順を例示する実施例である。これらの実施例は、限定的なものとして解釈されるべきでない。
【実施例】
【0141】
実施例1 手術適用
本発明の一つの態様において、滅菌した抗バイオフィルム組成物は、手術部位でのバイオフィルムの形成を予防またはバイオフィルムに関連する感染を処置するために、手術部位に投与される。手術部位は、例えば、関節置換術、開腹手術、脳外科手術、および口腔/歯周手術の部位を含んでもよい。
【0142】
手術部位で起きたバイオフィルムに関連する感染は、本明細書では「手術部位感染」または「SSI」と記載される。手術部位には、例えば、オペ室からの不適切に処理された手術器具または空中感染性因子から、SSIが起きる危険性がある。SSIは、患者に抗生物質を投与することにより処置され得るが、しばしば第2の手術が該SSIを処置するために必要とされる。SSIを処置するための追加の手術は、いくつかの理由から望ましくない:例えば、患者への繰り返される手術の外傷、繰り返される感染のリスク、手術部位の不適切な治癒、およびさらなる費用。
【0143】
本発明は、SSIを処置するための第2の手術に対し、簡単かつ費用のかからない選択肢を提供する。本発明の方法は、SSIを処置するために適用されるので、約1%以下、約0.05%以下、または約0.02%以下の濃度でクロルヘキシジンを含む活性剤を含む滅菌した抗バイオフィルム組成物を手術部位に投与する段階を含む。
【0144】
滅菌した抗バイオフィルム組成物は、活性剤の単純な水溶液として手術部位に投与され得る。一つの態様において、活性剤がバイオフィルムを除去するためにおよび/またはバイオフィルムの形成を抑制するために十分な期間の後、該手術部位は、活性剤を含まない滅菌した溶液でリンスされ得る。代替としてまたは追加で、該部位に吸引を適用することができる。活性剤がバイオフィルムを除去するためにおよび/またはバイオフィルムの形成を抑制するために十分な時間は、約1分〜約60分、約2分〜約50分、約3分〜約40分、約4分〜約30分、または約5分であり得る。
【0145】
一つの態様において、クロルヘキシジン溶液は、感染のリスクを低下させるために、ロボットによる手術または他の低侵襲手術(MIS)と併用して投与される。このような状況において、クロルヘキシジン溶液を送達するチューブが、手術部位に材料を送達するまたは手術部位から材料を取り除く他のチューブ(例えば、光学部品を有するチューブ、送達のためのまたは取り除かれたもしくは他の液体もしくは組織のためのチューブ、および装置を操作するためのチューブ)、あるいは他の方法で手順を支援するチューブと共に、含まれ得る。
【0146】
したがって、一つの態様において、本発明は、一つの構成要素として、クロルヘキシジン含有溶液がそのチューブの遠位端で放出されるチューブを有するMISシステムを提供する。チューブの近位端は、例えばバッグ、ボトル、または他の適切な入れ物であり得る容器から、クロルヘキシジン含有溶液を受け取るように構成されてもよい。システムは滅菌されているのが好ましい。システムはさらにMIS手順を実施するために有用なさらなるチューブまたは他の要素を有し得る。
【0147】
MISシステムは、例えば、冠動脈手術、血管手術、前立腺手術、腹腔鏡手術、脊椎手術、および神経の手術を含む手術のために適合され得る。
【0148】
実施例2 血管内投与
本発明の別の態様において、抗バイオフィルム組成物は血管注入法により対象の血液に投与され得る。
【0149】
注射は静脈内が好ましい。抗バイオフィルム組成物は、クロルヘキシジンを含有する単純な水溶液、等張液、または他の塩含有溶液であり得る。
【0150】
本発明のある態様において、クロルヘキシジンを含有する等張液は、対象に投与される直前に調製される。例えば、活性剤を含有する等張液は、血管注入法の前、1分未満、2分未満、約1分〜約30分、約5分〜約20分、約10分〜約15分、またはこれらの時間を並べ替えた任意の他の時間で、調製され得る。
【0151】
ある態様において、クロルヘキシジンを含有する等張液は、適切な量の水に、塩溶液およびクロルヘキシジンを混合することにより調製される。ある態様において、対象の血液に投与するのに適切なクロルヘキシジンの等張液を調製するために、最終の希釈標準溶液中の所望される濃度のクロルヘキシジンと比較して2倍の濃度のクロルヘキシジンを含有するクロルヘキシジンの単純な水溶液の量が、等張液の2倍の等張性を有する等量の溶液と混合される。
【0152】
実施例3 尿生殖路適用
本発明のさらなる態様において、滅菌した抗バイオフィルム組成物は、尿生殖路潅注システムを介して対象の尿生殖路に投与され得る。
【0153】
尿生殖路潅注システムは、尿生殖路の一つまたは複数の器官を洗い流すために有用な機器を意味する。尿生殖路潅注システムの非限定的な例には、膀胱内潅注システムおよび尿道潅注システムが含まれる。
【0154】
尿生殖路潅注システムに使用される滅菌した殺菌溶液は、例えば、活性剤の単純な水溶液または活性剤の等張液であってもよい。
【0155】
実施例4 関節内適用および留置装置
本発明のなおさらなる態様において、滅菌した抗バイオフィルム組成物は関節内注射によって関節内部位に投与される。本発明の方法に従って注射され得る関節内部位は、これらに制限されるものではないが、肘、肩、手首、股関節、膝、足首、および椎骨の部位を含む。
【0156】
本発明のなおさらなる態様において、抗バイオフィルム組成物は、インプラントまたは他の留置装置の部位に、該インプラントまたは該他の装置の中にまたはその上に、滅菌した殺菌組成物を組み入れることによって、投与され得る。
【0157】
この発明の目的のために、インプラントは、長期間、体に残るように設計された医療装置を意味する。該長期間は、例えば、5分超、1時間超、12時間超、一日超、一週間超、一ケ月超、および/または1年超であってもよい。
【0158】
インプラントは、例えば、失った生物学的構造に取って代わるために、損傷した生物学的構造をサポートするために、または現存の生物学的構造の機能を増強するために、設計されてもよい。インプラントは、移植された生物医学組織であるトランスプラントとは対照的に、人工装置である。
【0159】
対象の組織に接触するインプラントの表面は、チタン、シリコン、ハイドロゲル(または他のポリマー)、またはアパタイトなどの生物医学材料で作られ得る。場合によっては、インプラントは、電子機器、例えば、人工ペースメーカおよび人工内耳を含有する。
【0160】
活性剤をインプラントに組み込むことができ、これが次に一定期間にわたり活性剤を放出する。感染の処置に使用される多孔質材料に関する上述の材料および持続時間はまた、本発明のこの態様に適用可能である。
【0161】
実施例5 呼吸器系適用
本発明のクロルヘキシジン溶液はまた、例えば、肺炎または他の気道感染に罹患した人々による吸入のために製剤化され得る。特定の態様において、クロルヘキシジン溶液は、バイオフィルムに関連する肺感染を生じているかもしくはこのような感染を生じるリスクのある嚢胞性線維(CF)患者による吸入のために製剤化される。特定の態様において、対象は(CF)と診断されている。
【0162】
抗バイオフィルム組成物は、例えば、活性剤を含有する蒸気、粒子および/またはエアロゾルの吸入を介し、対象の気道に投与され得る。活性剤の吸入のための、蒸気、粒子および/またはエアロゾルを産出するのに適した装置の非制限的な例には、吸入器およびパッファが含まれる。吸入可能な蒸気、粒子および/またはエアロゾルを産出するために使用できる装置の別の例は、当業者に周知であり、このような態様は、本発明の範囲内にある。
【0163】
本発明の組成物は、病的なバイオフィルムの予防および/もしくは妨害のために、ならびに/または慢性鼻副鼻腔炎;慢性歯周炎;慢性気管支炎、ならびにアスペルギルス症、嚢胞性線維症、および喘息を含む呼吸器系炎症の他の状態;「スイマー耳」、外耳炎、および慢性耳炎などの炎症性の耳の病態;ならびにアトピー性皮膚炎および湿疹などの炎症性の皮膚の病態などの、様々な他の慢性炎症性状態に存在する、これら状態に関連する、もしくはこれら状態を引き起こす、慢性感染の予防および/もしくは妨害のために、使用され得る。これら病態の病態生理は、病原性の種および病原性バイオフィルム形成による、正常な共生細菌集団の妨害を含むようである。本発明は、これら病態に関連する症状、および根底にある炎症状態を改善する。
【0164】
実施例6 体腔適用
本発明の一つの態様において、抗バイオフィルム組成物は、滅菌した抗バイオフィルム組成物を用いた注射、注入、または潅注により、腹腔内部位などの体腔に投与される。
【0165】
腹腔内部位に注射される抗バイオフィルム組成物は、例えば、クロルヘキシジンの単純な水溶液、クロルヘキシジンを含有するゲルの等張液、乳液、または懸濁液であり得る。
【0166】
実施例7 眼球適用
本発明のある他の態様において、滅菌した抗バイオフィルム組成物は、クロルヘキシジンを含有する眼科用の組成物として眼球部位に投与される。該眼科用の組成物は、例えば、活性剤を含有する溶液、懸濁液、スプレー、クリーム、ローション、ゲル、滴剤、せっけん、もしくは軟膏、または投与部位に適した任意の他の形態であり得る。これらの組成物は、当業者に公知の標準的な方法を用いて調製され得る。
【0167】
特定の態様において、クロルヘキシジン溶液は、目の手術手順と共に目に適用される。目の手術手順は、例えば、白内障手術、網膜手術、レンズ置換手術、または限定するわけではないが、角膜剥離を含む外傷性損傷を矯正する手術であってもよい。クロルヘキシジン溶液は、手術の前、手術中、または手術の後に適用されてもよい。本発明のクロルヘキシジン溶液はまた、伝染性結膜炎を処置するために使用され得る。
【0168】
クロルヘキシジンの濃度は、1%未満、好ましくは0.16%未満、0.05%未満、0.02%未満、または0.01%未満ですらあってもよい。クロルヘキシジン溶液の投与の後、例えば生理的食塩水でリンスしてもよいが、投与後のリンスはしなくてもよい。
【0169】
一つの態様において、本発明は、滅菌したクロルヘキシジン溶液を有する入れ物を提供し、点眼器がこれに含有されるかまたは付随している。該入れ物は、それ自体が手術のセッティングに使用するために滅菌されてもよい。
【0170】
眼球および付属器組織適用の領域において、本発明の組成物は、ドライアイ症候群に関連する根本的な炎症プロセスの処置のために使用され得る。眼球表面の上の、または近くの病原性バイオフィルムの後遺症は、ドライアイ症候群を含む、慢性の、眼球の軽度の炎症性病態をもたらし得る。本発明は、ドライアイ症候群の症状および原因を処置するための組成物を提供する。具体的には、これらの組成物は、病原性バイオフィルムの増殖を抑制し、かつ眼球/付属器の表面での全体的な抗炎症効果をもたらす。
【0171】
眼球および隣接表面のそのような局所処置は、眼球-付属器領域の、病原性のミクロフローラと有益なミクロフローラとの間の恒常性を、改善する。非病原性もしくは有益でさえある生物に対して病原性生物を再均衡させること、または調整することは、慢性的に乾燥した、刺激を受けた、充血した、または炎症を起こした目の症状を、改善する。そのような改善は、抗バイオフィルム効果を有する薬学的グレードの蜂蜜だけでなく、局所的に適用される、生きているもしくは死んでいる微生物の混合物、および/またはそれらの抽出物を含む、本発明の一つの態様によってもたらされる。加えて、L-テアニン、ビタミンD3、プレバイオティクス多糖、および海洋生物スピルリナなどの他の化合物は、病的なバイオフィルムに関連する病態を処置するために、本発明に従って使用され得る。
【0172】
眼球および付属器のマイクロバイオームの機能は、局所の自然免疫系を「高め」ること、およびコロニー形成された表面を保護することである。共生微生物フローラと、眼球の粘膜および免疫上皮細胞との間のクロストークは、眼球表面の恒常性および眼球表面の健全性を維持する助けとなる。眼球表面にコロニー形成する共生生物は、ブドウ球菌(Staphylococci)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、連鎖球菌、およびプロピオニバクテリウム(Proprionibacterium)などの多様な微生物を含む。このマイクロバイオームは、乱されない限りは比較的安定に保たれる。しかしながら、健康な眼球および眼球周囲のマイクロバイオームの均衡を変化させそうな、多くのありふれた状況 − 抗生物質および他の薬、コンタクトレンズ、眼瞼炎、マイボーム腺機能不全、眼型酒さ、または慢性的に刺激された目および/もしくはドライアイの他の原因 − がある。正常な眼球および眼球周囲の微生物集団が、任意の数の、可能性のあるありふれた原因によって乱される場合、眼球表面の刺激状態、炎症、および不快感が生じる。
【0173】
本明細書において説明される局所適用は、眼球の表面および周辺領域の炎症を減少させる。ドライアイ疾患の、多くの異なる原因が、慢性炎症の同一の免疫病因により結び付けられるので、本発明は、慢性的に乾燥した、充血した、刺激を受けた、および/または炎症を起こした目の、症状に関する改善のために、一般の人々全般によって使用され得る。
【0174】
実施例8 慢性創傷および火傷のための使用
別の態様において、本発明のクロルヘキシジン組成物は、急性および/または慢性創傷および火傷を含むバイオフィルムに関連する感染の処置のために使用することができる。これに関連して、クロルヘキシジンは、包帯に組み入れるか、または慢性創傷もしくは火傷部位に塗布した際に不快感を生じさせないペーストもしくはミストに製剤化することができる。
【0175】
実施例9 皮下適用
さらなる態様において、クロルヘキシジン含有組成物は、乳房再建術の部位に生じ得るような皮下感染を処置するために注射され得る。有利に、このような感染は、さらなる侵襲的手技を必要とせずに、本発明に従って処置され得る。
【0176】
本発明によれば、クロルヘキシジンは有利に皮下組織に結合することが発見された。繰り返しの適用により、組織に結合したクロルヘキシジンが増加し、それにより感染に対する防護のバリア層の確立を促す累積効果が生じる。特定の態様において、クロルヘキシジンは繰り返しまたは継続的に適用され、抗菌性の層の確立によって感染に対する増強した防御が達成される。
【0177】
実施例10 ピアスおよび鍼
本発明による組成物はまた、イヤリングおよび他のボディピアス製品、ならびに鍼灸針に組み込まれるかまたは塗布され、ボディピアスおよび鍼に関連する感染の発生を低下させることができる。
【0178】
実施例11 経口投与
さらなる態様において、本発明のクロルヘキシジン含有組成物は、消化管の疾患だけでなく咽頭炎の処置のために、経口送達用に製剤化され得る。これに関連し、本発明の組成物は、胃潰瘍および消化管炎症に関連する食中毒および細菌だけでなく、インフルエンザまたは他のウイルスを処置するために使用され得る。
【0179】
実施例12 鼻の感染の処置
本発明のさらなる態様において、滅菌した抗バイオフィルム組成物は、鼻潅注システム、鼻用綿棒、鼻洗浄、鼻潅水、または鼻うがい(neti pot)を介して、副鼻洞に投与される。鼻潅注システムは、溶液、例えば活性剤の塩溶液、単純な水溶液、または等張液を使って、副鼻洞をリンスして鼻づまりを洗い流すように設計されている。鼻潅注システムの別の態様は、当業者に周知であり、このような態様は本発明の範囲内である。
【0180】
溶液は、保存料、および/もしくは抗酸化剤、および/もしくは増粘剤と共に、または無しで、調製されてもよい。溶液は、0.2ミクロンのフィルター(Millipore)を通じて、滅菌した10 mlの使い捨て容器中にろ過されてもよい。溶液は、250 mlの水が混合されたときに最終溶液が等張であるような適切な張性に到達するための適切な容量の鼻腔リンスボトルに収められてもよく、または収められなくてもよい。
【0181】
実施例13 神経系適用
本発明のある態様において、滅菌した抗バイオフィルム組成物は、脳脊髄の注射また脳脊髄潅注を介して、脳脊髄部位に投与される。
【0182】
実施例14 縫合糸
さらに、クロルヘキシジンを含有する縫合糸は、対象の外科的切開または創傷を縫い合わせるために使用され得る。該縫合糸は、次に、一定期間にわたり、投与の部位にクロルヘキシジンを放出することができる。クロルヘキシジンはまた、本発明に従って、手術用接着剤および液体救急絆に添加され得る。
【0183】
実施例15 歯科および歯周用途
本発明のある態様において、滅菌された抗バイオフィルム組成物は、歯科および歯周用途のために製剤化されてもよい。クロルヘキシジン含有組成物は、練り歯磨きに配合されてもよく、またはデンタルフロスのコーティングとして使用され得るように改良されてもよく、口腔洗浄剤、ガム、もしくはロゼンジ中に組み入れられてもよい。
【0184】
実施例16 キットおよびトレイ
本発明のさらなる態様は、滅菌した抗バイオフィルム組成物と、該滅菌した抗バイオフィルム組成物を対象の部位に投与するための機器または装置とを含むキットを提供する。
【0185】
対象の部位に滅菌した殺菌組成物を投与するための機器および装置には、限定するものではないが、活性剤の単純な水溶液もしくは活性剤の等張液を部位に投与するためのボトル、経皮パッチ、多孔質材料、スポンジ、縫合糸、尿生殖路潅注システム、インプラント、蒸気吸入装置、鼻潅注システム、鼻洗浄、鼻潅水、もしくは鼻うがい(neti pot)、注射システム、または脳脊髄潅注システムが含まれる。これはまた、低侵襲手術トロカールおよび他のこのような装置上のポートを介して達成することができる。
【0186】
本発明の目的のために、注射システムは、シリンジおよび針および/またはカテーテルを含み得る。針とシリンジのサイズは、滅菌した殺菌組成物が投与される部位に依存する。当業者は、シリンジおよび針の適切なサイズを、特定の状況下で決定することができる。
【0187】
本発明に依るキットおよびトレイの非限定的な例には、活性剤の単純な水溶液、活性剤の等張液、最終の希釈標準溶液と比較して2倍の濃度の活性剤の単純な溶液および2倍の等張性を有する活性剤を含まない溶液、固形の活性剤および滅菌した水または滅菌した等張液、活性剤を含有する経皮パッチ、活性剤を含有する多孔質材料、活性剤を含有するスポンジ、活性剤を含有する粘度の高い粘性溶液、活性剤を含有するミストスプレー、活性剤を含有する縫合糸、尿生殖路潅注システムおよび滅菌した殺菌組成物、活性剤を含有するインプラント、蒸気吸入装置および滅菌した殺菌組成物、エアロゾル吸入装置および滅菌した殺菌組成物、活性剤を含有する眼科用の乳液、活性剤を含有する眼科用の溶液、活性剤を含有する眼科用の懸濁液、活性剤を含有する眼科用の軟膏、鼻潅注システムおよび滅菌した抗バイオフィルム組成物、鼻洗浄および滅菌した抗バイオフィルム組成物、鼻潅水および滅菌した抗バイオフィルム組成物、鼻うがいおよび滅菌した抗バイオフィルム組成物、注射および滅菌した抗バイオフィルム組成物、または脳脊髄潅注システムおよび滅菌した抗バイオフィルム組成物が含まれる。
【0188】
キットおよびトレイ(個別のパッケージを含む)は、本発明の方法を実施するために使用され得る。例えば、ユーザは、活性剤の単純な水溶液または活性剤の等張液を含むキットを、対象の部位に活性剤の該溶液を投与することによって、使用することができる。同様に、ユーザは、等しい量の、2倍の濃度の活性剤の単純な水溶液と、2倍の等張性を有する活性剤を含まない溶液とを混合し、活性剤の希釈標準等張液を調製し得る。ユーザはまた固形の活性剤を滅菌した水または滅菌した等張液に溶解し、活性剤の希釈標準等張液を調製し得る。
【0189】
実施例17 環境用途
本発明のさらなる態様は、病原性バイオフィルムのコロニー形成にさらされ得る無生物の表面を浄化するための抗バイオフィルムスプレーへと製剤化され得る抗バイオフィルム組成物の、環境用途を提供する。抗バイオフィルム組成物は、手動ポンプのルームスプレー容器中に収められてもよい;各ポンプは、1 mlの溶液と同等の量のエアゾールを分配してもよい。この特別な形態は、適用された領域に残ってもよく、かつ洗い流しを必要としない。
【0190】
本明細書に説明された実施例および態様は、例示を目的とするものに過ぎず、それらを考慮して、様々な修飾または変化が当業者に示唆されること、そして、それらが、本願の本旨および範囲、ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものであることが理解されるべきである。