特表2019-534834(P2019-534834A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-534834(P2019-534834A)
(43)【公表日】2019年12月5日
(54)【発明の名称】二成分モルタル塊およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C04B 26/04 20060101AFI20191108BHJP
   C08L 57/00 20060101ALI20191108BHJP
   C04B 14/30 20060101ALI20191108BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20191108BHJP
   C04B 14/06 20060101ALI20191108BHJP
   C04B 28/06 20060101ALI20191108BHJP
   C04B 7/32 20060101ALI20191108BHJP
【FI】
   C04B26/04 Z
   C08L57/00
   C04B14/30
   C04B18/14 Z
   C04B14/06 Z
   C04B28/06
   C04B7/32
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2019-514317(P2019-514317)
(86)(22)【出願日】2017年9月20日
(85)【翻訳文提出日】2019年3月14日
(86)【国際出願番号】EP2017073705
(87)【国際公開番号】WO2018054935
(87)【国際公開日】20180329
(31)【優先権主張番号】16190553.4
(32)【優先日】2016年9月26日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】クムル, メメット−エミン
(72)【発明者】
【氏名】ブルーゲル, トマス
(72)【発明者】
【氏名】ライトナー, ベルンハルト
【テーマコード(参考)】
4G112
4J002
【Fターム(参考)】
4G112PA04
4G112PA14
4G112PB04
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG061
4J002BG071
(57)【要約】
本発明は硬化性成分として少なくとも1つのラジカル硬化性樹脂を含有する樹脂成分(A)と、樹脂成分(A)のラジカル硬化性樹脂のための硬化剤を含有する硬化成分(B)とを含み、硬化成分(A)および/または硬化成分(B)がさらなる成分として少なくとも1つの無機添加剤を含有する、2成分モルタル塊に関する。
本発明によれば、無機添加剤は、少なくとも7.0μmの平均粒径d50および4.0nm〜30.0nmの細孔径を有する遷移酸化アルミニウムを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性成分として少なくともフリーラジカル硬化性樹脂を含有する樹脂成分(A)と、樹脂成分(A)のフリーラジカル硬化性樹脂用の硬化剤を含有する硬化剤成分(B)とを有し、樹脂成分(A)および/または硬化剤成分(B)がさらなる成分として少なくとも1種の無機添加剤を含有する2成分モルタル化合物であって、無機添加剤が少なくとも7.0μmの平均粒径d50および4nm〜30nmの細孔径を有する遷移アルミナを含むことを特徴とする2成分モルタル化合物。
【請求項2】
無機添加剤が、少なくとも遷移アルミナ、ならびに無機充填剤、水圧結合性または重縮合性無機化合物、改質剤およびそれらの混合物からなる群から選択される1種以上のさらなる物質を含むことを特徴とする、請求項1に記載のモルタル化合物。
【請求項3】
前記無機添加剤が、充填剤を含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のモルタル化合物。
【請求項4】
前記無機添加剤が、水圧結合性または重縮合性無機化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項5】
無機添加剤が、さらなる無機改質剤を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項6】
遷移アルミナがモルタル化合物中に0.5〜10体積%の割合で存在することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項7】
遷移アルミナの平均粒径d50が、少なくとも12.0μmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項8】
モルタル化合物の重合収縮が3.1%未満であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項9】
遷移アルミナが120μmまでの平均粒径d50を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項10】
遷移アルミナが4.5nm〜20nmの範囲の細孔径を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項11】
遷移アルミナを含む無機添加剤が、モルタル化合物の全重量に対して50〜80重量%の割合でモルタル化合物中に存在することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項12】
前記フリーラジカル硬化樹脂が、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂および/または(メタ)アクリレート変性エポキシ樹脂を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項13】
樹脂成分(A)が、フェノール化合物の群からの少なくとも1つの重合阻害剤、ならびに安定なフリーラジカルおよび/またはフェノチアジンの群からの任意選択で非フェノール化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項14】
重合阻害剤が、遷移アルミナに結合することができるフェノール化合物を含むことを特徴とする、請求項13に記載のモルタル化合物。
【請求項15】
硬化剤成分(B)が無水であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載のモルタル化合物。
【請求項16】
前記樹脂成分(A)が、
5〜45重量%の割合のフリーラジカル硬化樹脂と、
0〜25重量%の割合の反応性希釈剤と、
0〜3重量%の割合の促進剤と、
0〜5重量%の割合の重合阻害剤と、および
50〜80重量%の割合の少なくとも1種の無機添加剤と、
を含むことを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のモルタル化合物であって、
全ての割合の合計は100重量%までであり、無機添加剤は少なくとも7μmの平均粒径d50および4nm〜30nmの細孔径を有する少なくとも1つの遷移アルミナを含む、
モルタル化合物。
【請求項17】
前記樹脂成分(A)と前記硬化剤成分(B)とを混合して得られるモルタル化合物が、
5〜50重量%の割合のフリーラジカル硬化樹脂と、
0〜25重量%の割合の反応性希釈剤と、
0.5〜5重量%の有機過酸化物、
0〜0.5重量%の重合促進剤と、
少なくとも1種の遷移アルミナ2〜20重量%の割合と、
10〜78重量%の割合のさらなる無機添加剤と、
0〜10重量%の割合の水と、
を含むことを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載のモルタル化合物であって、
化合物の全ての割合の合計は100重量%までである、
モルタル化合物。
【請求項18】
鉱物基材中に存在する、ねじ山付きアンカーロッド、鉄筋、ねじ山付きスリーブ、およびドリル穴中のねじなどの構造部品の化学的固定のための、請求項1〜17のいずれか一項に記載の2成分モルタル化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのフリーラジカル硬化性樹脂を含む樹脂成分(A)と、樹脂成分(A)の樹脂のための硬化剤成分(B)とを有する2成分モルタル化合物に関する。
【0002】
本発明の主題はさらに、鉱物基材に作られたねじ山付きアンカーロッド、鉄筋、ねじ山付きスリーブ、およびドリル穴内のねじなどの構造部品を化学的に固定するためのモルタル化合物の使用である。
【背景技術】
【0003】
コンクリート、天然岩石またはプラスターなどの鉱物基材におけるねじ山付きアンカーロッド、鉄筋、ねじ山付きスリーブおよびねじなどの構造部品のより確実な固定のために、固定すべき構造部品を受け入れるための穿孔された穴が、最初に鉱物基材に適切な寸法で穿孔される。次いで、穿孔された孔から穿孔ダストが除去され、樹脂成分が硬化剤成分と混合された後、2成分モルタル化合物が穿孔された孔に導入される。その後、締結されるべき構造部品は、モルタル化合物で満たされたドリル穴に導入され、調整される。樹脂成分と硬化剤成分との反応によりモルタル化合物が硬化した後、鉱物基材の構造部品のしっかりした把持が確立される。
【0004】
このように固定された構造部品の荷重支持能力は、通常は内部変数および外部変数として分類されるいくつかの影響変数に依存する。内部影響変数はモルタル化合物の化学組成、モルタル化合物が製造されるプロセス、およびモルタル化合物のパッケージングを含み、モルタル化合物のパッケージングは、典型的には2つの別個の容器に存在する成分を含む。
【0005】
外部の影響変数は、とりわけ、穿孔された穴が洗浄される方法、鉱物基材、例えばコンクリートの品質、その湿り度および温度、ならびに穿孔された穴が生成される方法を含む。
【0006】
特許文献1および特許文献2から、フリーラジカル重合により硬化するウレタン(メタ)アクリレート樹脂をベースとする2成分モルタル化合物が知られている。
【0007】
フリーラジカル硬化反応性樹脂をベースとするモルタル化合物は先行技術で知られており、化学結合アンカーとして使用され、乾燥および湿式ドリル穴においてすでに良好な荷重定格を示す。しかし、反応性樹脂の硬化中に生じる重合収縮は、モルタル体積の減少をもたらす。それにより、接合されたアンカーの性能の低下が起こり得る。
【0008】
それ故、公知の先行技術と比較して、穿孔された穴において良好な接着性を有し、加工が容易であり、かつ改善された機械的特性を有する2成分モルタル化合物に対するさらなる必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0432087号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0589831号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特に、本発明の目的は化学結合アンカーとして使用でき、耐久性に優れた荷重定格を有する、フリーラジカル硬化反応性樹脂をベースとするモルタル化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、この目的は、請求項1に記載の2成分モルタル化合物によって解決されることが見出された。
【0012】
本発明のモルタル化合物の好ましい実施形態は、任意に互いに組み合わせることができる従属請求項に明記されている。
【0013】
本発明の主題はさらに、鉱物基材、好ましくはコンクリートに存在する、ねじ山付きアンカーロッド、鉄筋、ねじ山付きスリーブ、およびドリル穴内のねじなどの構造部品を化学的に固定するための化合物の使用である。
【0014】
その一般的な形態において、本発明は硬化性成分としてフリーラジカル硬化樹脂を含有する樹脂成分(A)と、樹脂成分(A)のフリーラジカル硬化樹脂のための硬化剤を含有する硬化剤成分(B)とを有する2成分モルタル化合物を含み、樹脂成分(A)および/または硬化剤成分(B)は、さらなる成分として少なくとも1つの無機添加剤を含有する。本発明によれば、無機添加剤は、少なくとも7.0μmの平均粒径d50および4.0nm〜30nmの範囲の細孔径を有する遷移アルミナを含む。
【0015】
乾燥、清浄ドリル穴、および半清浄および/または湿式ドリル穴の両方において、本発明の2成分モルタルコンパウンドを使用する構造部品の固定は高い荷重定格をもたらし、これは、従来のコンパウンドと比較して有意に増加し、さらに、長期間にわたって安定なままである。
【0016】
驚くべきことに、遷移アルミナの使用は、選択された範囲の細孔径と組み合わせた特定の平均粒径から出発して、コランダムなどの他のアルミナ、または多孔質シリカゲルなどの高比表面積を有する充填剤では達成されない重合収縮の有意な減少をもたらす。重合収縮を低減する遷移アルミナを用いた場合、化合物の硬化曲線は変化しない。唯一の違いは、硬化の開始までの時間が短いことである。
【0017】
本発明の意味において、「2成分モルタル化合物」は硬化性樹脂成分および樹脂成分のための硬化剤成分からなるモルタル化合物として理解され、ここで、樹脂成分および硬化剤成分は互いから分離されて貯蔵され、その結果、貯蔵の間に硬化剤成分と樹脂成分との反応は起こらない。反応性樹脂の硬化は、モルタル化合物の使用直前に硬化剤成分を反応性樹脂と混合することによって開始される。
【0018】
遷移アルミナは、熱力学的に安定なコランダム相(αアルミナ)には存在しないアルミナである。α−アルミナは、バイエライトのベーマイトのような水酸化アルミニウムを1000℃を超える高温に加熱することによって形成される。他方、より低い焼成温度では、いわゆる遷移アルミナが形成され、その結晶相は焼成温度および出発材料に依存して変化し得る。遷移アルミナは、高い多孔性および高い比表面積を有する。さらに、遷移アルミナは触媒特性を有し、化学吸着によって分子を吸着することができるので、遷移アルミナも活性であると記載されている。
【0019】
平均粒径d50は、調べた試料中の全粒子の50%が表示されたd50値より小さい粒径分布の中央値として理解される。
【0020】
「細孔径」は、窒素吸着および脱着によって試料中で測定される最も頻度の高い細孔径を意味する。
【0021】
好ましくは、無機添加剤が少なくとも1つの遷移アルミナ、ならびに無機充填剤、水圧結合性または重縮合性無機化合物、改質剤およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる物質を含む。
【0022】
特に好ましくは、無機添加剤が樹脂成分(A)および/または硬化剤成分(B)に含有され得る充填剤を含む。適切な充填剤の例は、石英、ガラス、コランダム、磁器、石器類、重桁(heavy spar)、軽桁(light spar)、石膏、タルクおよび/またはチョーク、ならびに砂、小麦粉または成形体の剤形の、好ましくは繊維またはビーズの剤形の、それらの混合物である。
【0023】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、無機添加剤は、水硬性または重縮合性の無機化合物、例えばセメントまたは石膏、好ましくは酸化鉄を含まないセメントまたは酸化鉄を含まないセメント、例えばアルミン酸セメントをさらに含む。水硬性または重縮合性無機化合物は、硬化剤成分(A)に含まれることが好ましい。この場合、硬化剤成分(B)は、硬化剤および硬化剤の可塑化のために任意に含有される水だけでなく、水圧結合性または重縮合性無機化合物の硬化のための追加の水も含む。
【0024】
最後に、樹脂成分(A)および/または硬化剤成分(B)中の無機添加剤は、増粘剤、可塑剤およびチキソトロープ剤、例えば沈降またはヒュームドシリカ、ベントナイトおよび/またはカオリンなどのなおさらなる無機改質剤を含有することができる。
【0025】
好ましい実施形態によれば、遷移アルミナは、モルタル化合物中に0.5〜10体積%、好ましくは1〜8体積%の割合で存在する。遷移アルミナの割合が0.5体積%より小さい場合、重合収縮の顕著な減少は達成されない。遷移アルミナの割合が10体積%より高い場合、モルタル化合物の重合収縮が再び増加し、化合物の加工がより困難になることがある。
【0026】
遷移アルミナの平均粒径d50は、好ましくは少なくとも12.0μm、好ましくは少なくとも14.0μm、さらに好ましくは少なくとも25.0μm、特に好ましくは少なくとも35μmである。示された平均粒径d50を有する遷移アルミナの使用によって、モルタル化合物の重合収縮は、3%未満、好ましくは2.5%未満、さらに好ましくは2%未満、またはさらには1%未満まで減少させることができる。
ここで、以下において、重合収縮とは、硬化前後のモルタル床の厚さ変化率を意味する。平均粒径のさらなる増加は、もはや重合収縮に実質的に影響を及ぼさないように思われる。したがって、平均粒径d50の上限は、易流動性およびモルタル化合物の処理の観点から自由に選択され得る。
【0027】
好ましくは、120μmまでの平均粒径d50を有する遷移アルミナが使用される。
【0028】
さらなる好ましい実施形態によれば、本発明のモルタル化合物に使用される遷移アルミナは、4nm〜15nmの範囲の細孔径を有する。非多孔性α−アルミナは、重合収縮の減少を示さない。同様に、30nmより大きい細孔径を有する遷移アルミナは匹敵する平均粒径d50を有するが、より小さい細孔径を有するものよりも、重合収縮のより弱い減少を示す。
【0029】
遷移アルミナを含む無機添加剤は、化合物の全重量に対して50〜80重量%の割合でモルタル化合物中に存在してもよい。無機添加剤が80重量%より高い割合で存在する場合、高充填化合物の高い粘度のために、均質な混合もはや達成できないので、化合物もはや確実に処理することができない。低充填化合物は実際に原則的に使用できるが、あまり好ましくない。
【0030】
モルタル化合物の成分(A)中のフリーラジカル硬化樹脂は、好ましくはウレタン(メタ)アクリレート樹脂および/または(メタ)アクリレート変性エポキシ樹脂を含む。
【0031】
適当なウレタン(メタ)アクリレート樹脂を製造するために、少なくとも二官能性イソシアネートを1種以上のヒドロキシ官能性エチレン性不飽和化合物、特にヒドロキシ官能性(メタ)アクリル化合物と反応させることができる。
【0032】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を製造するための少なくとも二官能性イソシアネートは、芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、特に脂環式イソシアネートおよびイソシアネート基含有プレポリマーセインであってよく、これらは互いに混合して使用してもよい。
【0033】
適切な脂肪族および芳香族イソシアネートの例には、m−フェニレンジイソシアネート、トルイレン−2,4−ジイソシアネート、トルイレン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、メトキシフェニル−2,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ビフェニルジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニルジイソシアネート、3,3'−ジメチルジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、4,4',4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(PMDI) 、トルイレン−2,4,6−トリイソシアネートおよび4,4'−ジメチルジフェニルメタン−2,2'、5,5'−テトライソシアネートが含まれる。
【0034】
ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネートおよびそれらの混合物は集合的にMDIとして知られており、すべて使用することができる。トルイレン−2,4−ジイソシアネート、トルイレン−2,6−ジイソシアネート及びそれらの混合物は一般にTDIとして知られており、全てを同様に使用することができる。
【0035】
好ましくは、ポリイソシアネートがジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリマージフェニルメタンジイソシアネート(PMDI)、トルイレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0036】
化学量論的過剰の任意の所望のポリイソシアネートと、鎖延長剤としてのイソシアネート反応性化合物との反応によって製造されるイソシアネートプレポリマーも、場合によっては上記の芳香族および脂肪族イソシアネートとの混合物で使用することができる。
【0037】
このような鎖延長剤の例は、二価アルコール、例えばエタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールおよびポリエチレングリコール、プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールおよびポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールおよびジエタノールアミンである。さらに、ビスフェノールAおよびビスフェノールFのような芳香族アルコールまたはそれらのエトキシル化生成物、水素化生成物および/またはハロゲン化生成物、グリセロール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールおよびペンタエリスリトールのような高級アルコール、例えば脂肪族または芳香族オキシランおよび/または高級環状エーテルのオリゴマーのようなヒドロキシル基含有ポリエーテル、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシドおよびフラン、例えばビスフェノールAおよびFのポリエーテルのような芳香族構造単位を主鎖に含むポリエーテル、アジピン酸、フタル酸、テトラ - もしくはヘキサヒドロフタル酸、HET酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびセバシン酸などのそれらの無水物のような、上記のアルコールおよびジカルボン酸とのポリエーテルに基づくヒドロキシル基含有ポリエステルである。
【0038】
芳香族構造単位を有する鎖延長剤は、樹脂の鎖を補強するために使用される。フマル酸などの不飽和構造単位を有するヒドロキシル化合物は、硬化中の架橋密度を増加させるために使用することができる。鎖延長剤としての分岐または星形ヒドロキシル化合物、特に三価および高価アルコール、ならびにそれらの構造単位を含有するポリエーテルおよび/またはポリエステルは、樹脂に低い粘度および反応性希釈剤中での改善された溶解性を付与する分岐または星形ウレタン(メタ)アクリレートを生じる。
【0039】
樹脂成分(A)のウレタン(メタ)アクリレート樹脂を製造するためのヒドロキシ官能性(メタ)アクリル化合物は好ましくは(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、またはペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートおよびネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレートのような多価アルコールのヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルである。
【0040】
本明細書および以下で使用される「(メタ)アクリル」または「(メタ)アクリル」という名称は、アクリル基およびメタクリル基の両方がこの名称によって理解されることを意味する。
【0041】
少なくとも二官能性イソシアネートとヒドロキシ官能性エチレン性不飽和化合物との反応は、こうして得られた樹脂成分(A)のフリーラジカル重合性樹脂が実質的にイソシアネート基を含まないように起こる。ここで、本質的に遊離とは、樹脂が2%未満、好ましくは1%未満、特に好ましくは0.3%未満のNCO含有量を有することを意味する。この目的のために、ヒドロキシ官能性エチレン性不飽和化合物は、イソシアネート基に対して化学量論的に過剰に使用される。
【0042】
さらなるフリーラジカル重合性樹脂の例として、ビニルエステル、エポキシ(メタ)アクリレート、不飽和ポリエステル樹脂およびそれらの混合物を、単独で、または上記の(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレートと一緒に使用することができる。
【0043】
不飽和ポリエステル樹脂は、o−フタル酸および/またはイソフタル酸、マレイン酸およびフマル酸のような不飽和ジカルボン酸を二価アルコールと反応させることによって得られる。
【0044】
エポキシ(メタ)アクリレートとして、通常、(メタ)アシル酸とビスフェノールA、ビスフェノールFまたはノボラックのグリシジルエーテルとの縮合物が使用される。
【0045】
フリーラジカル重合性樹脂は、モルタル化合物中に10〜35重量%の割合で存在することが好ましい。
【0046】
本発明の好ましい実施形態によれば、樹脂成分(A)は、上記のすべての実施形態においてさらなる成分として少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの反応性希釈剤を含有する。適切な反応性希釈剤は、特に(メタ)アクリレート化合物ならびにアリルおよびビニル化合物である。
【0047】
適切な反応性希釈剤は、欧州特許出願公開第1935860号明細書および独国特許出願公開第19531649号明細書に記載されている。好ましくは、樹脂混合物は、反応性希釈剤として(メタ)アクリル酸エステルを含み、ここで脂肪族または芳香族のC5〜C15(メタ)アクリレートが特に好ましく選択される。
【0048】
適切な例としては、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,2−エタンジオールジ−(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート(BDDMA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチルトリグリコール(メタ)アクリレート、N、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジメチルアミノメチル(N)(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートおよび/またはトリシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、ノボラックエポキシジ(メタ)アクリレート、ジ−[(メタ)アクリロイル−マレオイル]−トリシクロ−5.2.1.02,6−デカン、ジシクロペンテニルオキシエチルクロトネート、3−(メタ)アクリロイル−オキシメチル−トリシロ−5.2.1.0.2.6−デカン、3−(メタ)シクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートおよびデカリル−2−(メタ)アクリレート、PEG200ジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ソルケタール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどのPEGジ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレートおよびノルボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0049】
原則として、他の慣用のフリーラジカル重合性化合物、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、アルキル化スチレン、例えば、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼンおよびアリル化合物を単独で、または(メタ)アクリル酸エステルとの混合物で使用することもでき、標識しないそれらの代表物が好ましい。
【0050】
特に好ましい反応性希釈剤は、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートおよびブタンジオール−1,2−ジ(メタ)アクリレートである。
【0051】
反応性希釈剤は一方ではフリーラジカル重合性樹脂のための溶媒として、他方では樹脂成分のフリーラジカル重合に関与するコモノマーとして使用される。反応性希釈剤の使用は、硬化モルタル化合物の鉱物基材および/または固定すべき構造部品の表面への接着のさらなる改善をもたらす。
【0052】
反応性希釈剤はモルタル化合物中に、好ましくは0〜25重量%、特に好ましくは4〜25重量%の割合で存在する。全てのフリーラジカル重合性化合物はモルタル化合物中に、好ましくは多くとも50重量%までの割合で存在する。反応性希釈剤対フリーラジカル硬化樹脂の重量比は、好ましくは2:1〜1:5、好ましくは2:1〜1:2の範囲であり得る。
【0053】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、樹脂成分(A)は、硬化剤のための少なくとも1つの促進剤を含有する。樹脂混合物に通常添加される好適な促進剤は、当業者に知られている。これらは、例えば、アミン、好ましくは第三級アミンおよび/または金属塩である。
【0054】
適切なアミンは以下の化合物の中から選択され、例えば、米国特許出願公開第2011071234号明細書に記載されている:ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、tert−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミントリ−イソブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ジイソプロピルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、アミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノヘキサノール、エトキシアミノエタン、ジメチル−(2−クロロエチル)アミン、2−エチルヘキシルアミン、ビス−(2−クロロエチル)アミン、2−エチルヘキシルアミン、ビス−(2−エチルヘキシル)アミン、N−メチルステアリルアミン、ジアルキルアミン、エチレンジアミン、N.N’−ジメチルエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、パーメチルジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、1,2−ジアミノプロパン、ジ−プロピレントリアミン、トリプロピレントリアミン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、4−アミノ−1−ジエチルアミノペンタン、2,5−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、2−(2−ジエチルアミノエトキシ)エタノール、ビス−(2−ヒドロキシエチル)−オレイルアミン、トリス−[2−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−エチル]アミン、3−アミノ−1−プロパノール、メチル−(3−アミノプロピル)エーテル、エチル−(3−アミノプロピル)エーテル、1,4−ブタンジオール−ビス(3−アミノプロピルエーテル)、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、1−ジエチルアミノ−2−プロパノール、ジイソプロパノールアミン、メチル−ビス−(2−ヒドロキシプロピル)アミン、トリス−(2−ヒドロキシプロピル)アミン、4−アミノ−2−ブタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、2−アミノ−2−メチル−プロパンジオール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチルプロパンジオール、5−ジエチルアミノ−2−ペンタノン、3−メチルアミノ−プロピオン酸ニトリル、6−アミノヘキサン酸、11−アミノウンデカン酸、6−アミノヘキサン酸エチルエステル、11−アミノヘキサン酸イソプロピルエステル、シクロヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキシルアミン、N,N−ビス−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキシルアミン、N−(3−アミノプロピル)シクロヘキシルアミン、アミノメチルシクロヘキサン、ヘキサヒドロトルイジン、ヘキサヒドロベンジルアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジプロピルアニリン、イソブチルアニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ヒドロキシエチルアニリン、ビス−(ヒドロキシエチル)アニリン、クロロアニリン、アミノフェノール、アミノ安息香酸およびそのエステル、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、トリベンジルアミン、メチルジベンジルアミン、α−フェニルエチルアミン、キシリジン、ジイソプロピルアニリン、ドデシルアニリン、アミノナフタレン、N,N−ジメチルアミノナフタレン、N,N−ジベンジルナフタレン、ジアミノシクロヘキサン、4,4−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、ジアミノ−ジメチル−ジシクロヘキシルメタン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノビフェニル、ナフタレンジアミン、トルイジン、ベンジジン、2,2−ビス−(アミノフェニル)プロパン、アミノアニソール、アミノチオフェノール、アミノジフェニルエーテル、アミノクレゾール、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−フェニルモルホリン、ヒドロキシエチルモルホリン、N−メチルピロリジン、ピロリジン、ピペリジン、ヒドロキシエチルピペリジン、ピロール、ピリジン、キノリン、インドール、インドレニン、カルバゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、ピリミジン、キノキサリン、アミノモルホリン、ジモルホリンエタン、[2,2,2]−ジアザビシクロオクタンおよびN,N−ジメチル−p−トルイジンである。
【0055】
好ましいアミンは、アニリン誘導体およびN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシアルキル)アリールアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)アニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)トルイジン、N,N−ビス(3−メタクリロイル−2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N,N−ジブトキシヒドロキシプロピル−p−トルイジンおよび4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルメタンなどのN、N−ビスアルキルアリールアミンである。
【0056】
N,N−ビス(ヒドロキシアルキル)アニリンとジカルボン酸との重縮合によって、またはエチレンオキシドおよびこれらのアミンの重付加によって得られるようなポリマーアミンも同様に、促進剤として好適である。
【0057】
適切な金属塩は例えば、オクタン酸コバルトまたはナフテン酸コバルト、ならびにバナジウム、カリウム、カルシウム、銅、マンガンまたはジルコニウムカルボキシレート(カルボン酸)である。
【0058】
樹脂混合物は、特に遷移金属化合物が促進剤として使用される場合、共促進剤をさらに含むことができる。選択された遷移金属化合物に応じて、当業者は、所望の硬化特性を達成するために適切な共促進剤を選択することができる。
【0059】
コバルト化合物が促進剤として使用される場合、共促進剤は、好ましくはアミンおよび/または1,3−ジオキソ化合物である。銅化合物が促進剤として使用される場合、共促進剤は、好ましくはアミン、アセトアミド、カリウム塩、イミダゾールおよび/または没食子酸塩またはそれらの混合物である。マンガン化合物が促進剤として使用される場合、共促進剤は、好ましくは1,3−ジオキソ化合物、チオールおよび/またはカリウムもしくはリチウム塩またはそれらの混合物である。鉄化合物が促進剤として使用される場合、共促進剤は好ましくは1,3−ジオキソ化合物および/またはチオールであり、好ましくはアルカリ金属塩と組み合わせられる。適切な1,3−ジオキソ化合物は、アセチルアセトン、アセトアセテートおよびアセトアセトアミドである。
【0060】
促進剤および/または共促進剤は、好ましくはモルタル化合物中に0〜3重量%、好ましくは0.01〜2重量%の割合で含有される。
【0061】
さらに、樹脂成分(A)は早すぎる重合に対する樹脂混合物の安定化のため、およびゲル化時間の調整のために、好ましくはモルタル化合物の全重量に対して0〜0.5重量%の割合で、1種以上の慣用の重合阻害剤を含有することができる。ラジカル重合性化合物に通常使用される、当業者に知られているような重合阻害剤は、重合阻害剤として好適である。
【0062】
好ましくはモルタル化合物、特に樹脂成分(A)はフェノール化合物の群からの少なくとも1種の重合阻害剤、ならびに場合により非フェノール化合物、例えば安定なフリーラジカルおよび/またはフェノチアジンを含む。
【0063】
2−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6− tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、6,6’−ジ−tert−ブチル−4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2’−メチレン−ジ−p−クレゾール、4−tert−ブチルピロカテコール、4,6−ジ−tert−ブチルピロカテコールのようなピロカテコールおよびブチルピロカテコール、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、2−tert−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2,6−ジメチルヒドロキノン、2,3,5−トリメチルヒドロキノンのようなヒドロキノン、ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン、メチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、ナフトキノン、またはそれらの2種以上の混合物は、しばしば市販のフリーラジカル硬化反応性樹脂の成分であるフェノール重合阻害剤とみなすことができる。
【0064】
フェノチアジン、例えばフェノチアジンおよび/またはその誘導体もしくは組合せ、または安定な有機フリーラジカル、例えばガルビノキシルおよびN−オキシルフリーラジカルは、好ましくは非フェノール性重合阻害剤とみなすことができる。
【0065】
独国特許出願公開第19956509号明細書に記載されているように、適切な安定なN−オキシルフリーラジカル(ニトロキシルフリーラジカル)は、1−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール(TEMPOLとしても知られる)、1−オキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オン(TEMPONとしても知られる)、1−オキシ−2,2,2,6,6−テトラメチル−4−カルボキシル−ピペリジン(同様に4−カルボキシ−TEMPOとして知られる)、1−オキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン、1−オキシ−2,2,5,5−テトラメチル−3−カルボキシピロリジン(3−カルボキシ−PORXYLとしても知られる)、 アルミニウム−N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミンの中から選択することができる。
【0066】
さらに、独国特許第102011077248号明細書に記載されているように、好適なN−オキシル化合物は、アセトアルドキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、サリチルアルドキシム、ベンゾオキシム、グリオキシム、ジメチルグリオキシム、アセトン−O−(ベンジルオキシカルボニル)オキシムなどのオキシムである。さらに、ヒドロキシル基に対してパラ位で置換されたピリミジノールまたはピリジノール化合物を重合阻害剤として使用することができる。
【0067】
所望の特性および樹脂混合物の使用に応じて、重合阻害剤は、単独で、またはそれらの2つ以上の組合せとして用いることができる。
【0068】
特定の実施形態によれば、モルタル化合物は遷移アルミナに結合することができ、したがって、モルタル化合物に含まれる遷移アルミナとの相互作用による重合収縮の減少に有利に働くフェノール重合阻害剤を含む。
【0069】
フェノール化合物が遷移アルミナに結合する能力は、HPLC調査によって決定することができる。この目的のために、フェノール化合物を1,4−ブタンジオールジメタクリレート(BDDMA)に溶解し、0.5%溶液(w/w)を形成する。
この溶液の一部をHPLC測定のための参照試料として使用する。調べるアルミナ6gを溶液25gに加え、スピードミキサーで混合し、1時間放置する。次いで、上清および参照サンプルのほぼ等量を、約1mLのアセトニトリルに取り、水/アセトニトリルを溶離剤として使用して、HPLCカラム(Reprosil−PurTM C−18 AQ、5μm)上で分離する。
【0070】
このようにして得られたクロマトグラムを、BDDMAピークに対して正規化する。フェノール化合物は調べた試料のクロマトグラムにおけるフェノール化合物の最大ピーク高さが、参照試料における最大ピーク高さの最大20%以下、好ましくは最大10%以下であるとき、遷移アルミナに結合することができる。
【0071】
遷移アルミナに結合することができる好ましいフェノール重合阻害剤は特に、2つ以上のヒドロキシ基を有する立体障害のないフェノール、特に好ましくはヒドロキノン、置換ヒドロキノン、例えば4−メトキシフェノール、ベンゾキノンおよびピロカテコール、ならびにtert−ブチルピロカテコール、4−メチルピロカテコール、3,5−自−tert−ブチルピロカテコールおよび3,4ジヒドロキシベンズアルデヒドなどのそれらの誘導体である。
【0072】
全く特に好ましくは、前述のフェノール重合阻害剤がモルタル化合物の安定化のために、ニトロキシル化合物と一緒に、特にN−オキシルフリーラジカルとしても知られる安定なニトロキシルフリーラジカルと一緒に使用される。独国特許第19531649号明細書に記載されているような、ピペリジニル−N−オキシルまたはテトラヒドロピロール−N−オキシルなどのN−オキシルフリーラジカルが好ましい。
【0073】
特に好ましくは、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(以下、Tempolと称する)がモルタル化合物の安定化のための追加の重合阻害剤として使用される。
【0074】
最後に、モルタル化合物は例えば、欧州特許出願公開第2371782号明細書および国際公開第2011/072789号から当業者に知られているように、シラン化合物に基づくプライマーなどのさらに別の有機添加剤を含有することができる。
【0075】
本発明の2成分モルタル化合物の硬化剤成分(B)に含まれる硬化剤は樹脂成分(A)のフリーラジカル重合性樹脂のために、好ましくは少なくとも1つの有機過酸化物、例えば過酸化ジベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、過安息香酸tert−ブチル、過酸化シクロヘキサノン、過酸化ラウリル、過酸化クメンヒドロペルオキシドおよび/またはt−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートを含む。
【0076】
有機過酸化物は、好ましくは特に可塑化剤としての水および/または溶媒の添加によって、可塑化される。適切な硬化剤成分は当業者に既知であり、市場で入手可能である。
【0077】
適切な粘度の調整のために、硬化剤成分(B)は、ある割合のさらなる無機充填剤および改質剤、例えばチキソトロピー剤を含有する可能性がある。
【0078】
本発明によれば、硬化剤が不活性充填剤によって可塑化される無水硬化剤成分を使用することが好ましい。このような硬化剤成分は例えば、Akzo NobelのPerkadox(登録商標)の商品名で入手可能である。無水硬化剤成分の使用は遷移アルミナとピロカテコールまたはピロカテコール誘導体を重合阻害剤として使用する間の相乗的相互作用のさらなる増強に寄与し、その結果、モルタル化合物の重合収縮は、小さい割合の遷移アルミナで既にさらに減少させることができる。
【0079】
本発明の2成分モルタル化合物は好ましくはケーシング、カートリッジまたはホイルバッグ内に保持され、これらはそれらが互いに分離された2つ以上のチャンバーを含むことを示すように標識され、モルタル化合物の樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)は反応を阻害するために互いに分離されて配置される。
【0080】
本発明の2成分乳鉢化合物の樹脂成分(A)は、好ましくは以下の組成を有することができる:
5〜45重量%の割合のフリーラジカル硬化樹脂;
0〜25重量%の割合の反応性希釈剤;
0〜3重量%の割合の促進剤;
0〜5重量%の割合の重合阻害剤;および
50〜80重量%の割合の少なくとも1つの無機添加剤;
ここで、全ての割合の合計は100重量%までであり、無機添加剤は少なくとも7μmの平均粒径d50を有する少なくとも1種の遷移アルミナを含む。
【0081】
遷移アルミナは好ましくは少なくとも12μm、さらに好ましくは少なくとも14μmまたは少なくとも25μm、特に好ましくは少なくとも35μmの平均粒度を有し、平均粒度の上限は好ましくは120μmまでであり得る。
【0082】
本発明によれば、遷移アルミナの平均細孔径は、4nm〜30nm、好ましくは4.5nm〜20nm、特に好ましくは4.5nm〜15nmの範囲にある。
【0083】
樹脂成分(A)中の遷移アルミナの割合は、好ましくは0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲にある。
【0084】
硬化剤成分(B)は、好ましくは10〜25重量%の割合の硬化剤、45〜90重量%の割合の充填剤および改質剤、および0〜30重量%の割合の水を含む。
【0085】
モルタル化合物の適用のために、樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)は互いに混合され、樹脂成分(A)対硬化剤成分(B)の重量比は、樹脂成分が硬化剤成分と混合された後に確実に硬化するように選択される。樹脂成分(A)中の重合阻害剤および硬化剤成分(B)中のフレグマ化剤の割合によって、混合物のゲル化時間、したがって混合化合物の加工に利用可能な時間を調節することができる。好ましくは、樹脂成分(A)対硬化剤成分(B)の重量比は4:1〜7:1の範囲にあり、フリーラジカル硬化樹脂と反応性希釈剤との重量比は10:1〜15:1の範囲にある。
【0086】
本発明の2成分モルタル化合物は、有利には以下の樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)の全組成を有することができる:
5〜50重量%の割合のフリーラジカル硬化樹脂;
0〜25重量%の割合の反応性希釈剤;
有機過酸化物0.5〜5重量%、
重合促進剤0〜0.5重量%の割合;
2〜20重量%の割合の少なくとも1種の遷移アルミナ;
10〜78重量%の割合のさらなる無機添加剤;および
0〜10重量%の割合の水。
【0087】
化合物の全ての割合の合計は、合計で100重量%までである。
【0088】
本発明によれば、遷移アルミナは、少なくとも7μm、好ましくは少なくとも12μm、さらに好ましくは少なくとも14μmまたは少なくとも25μm、特に好ましくは少なくとも35μmの平均粒径d50を有する。
【0089】
本発明によれば、遷移アルミナの平均細孔径は、4nm〜30nm、好ましくは4.5nm〜20nm、特に好ましくは4.5nm〜15nmの範囲にある。
【0090】
モルタル化合物中の遷移アルミナの割合は、好ましくは0.5〜15重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲にある。
【発明の効果】
【0091】
意図したような適用のために、樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)は別々のチャンバーから空にされ、そして適切な装置(例えば、スタティックミキサー、スピードミキサーまたは溶解機)中で混合される。次いで、樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)との混合物を、公知の射出装置によって、予め清浄にしたドリル穴に導入する。次いで、固定されるべき構造部品は、モルタル化合物に挿入され、調整される。硬化剤成分(B)の硬化剤は樹脂成分(A)のフリーラジカル重合を開始し、その結果、モルタル化合物は、環境条件下で数時間以内に硬化する。
【0092】
したがって、本発明の主題は、鉱物基材、好ましくはコンクリートに存在する構造部品、特にねじ山付きアンカーロッド、鉄筋、ねじ山付きスリーブ、およびドリル穴内のねじの化学固定のための本発明の2成分モルタル化合物の使用でもある。
【0093】
本発明の更なる利点は、添付の図面を参照した好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるのであろう。図面は、以下の通りである:
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1図1は、重合収縮を遷移アルミナの平均粒径の関数として示す図である;
図2図2は、鋼スリーブ試験で測定された、モルタル化合物の結合強度を鋼スリーブのアンダーカット深さの関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
使用アルミナの調査
【0096】
結晶相
使用したアルミナの結晶相をX線回折により測定した。X線はCu X線管を用いて発生させた。結晶相の定性的および定量的分析に必要な構造モデルは、PDFファイル(粉末回折ファイル)およびICSDファイル(無機結晶構造データベース)から得た。
【0097】
粒子径
粒径分析は、レーザー回折法を用いて、Beckman CoulterのLS13320装置を用いて行った。使用した測定機器の検出可能な粒径範囲は、0.017μm〜2000μmであった。測定のために、試料を脱塩水でスラリー化し、30秒間超音波処理した。次いで、懸濁液の一部を機器の測定セルに導入した。d5、d50およびd95値は、体積分布に基づいて決定した。評価に用いたd50値は、分布の中央値を表す。これは、試料中の粒子の50体積%がd50値に対応する粒径よりも小さいことを意味する。
【0098】
比表面積および細孔分析
調べた試料のBET比表面積と細孔径はQuantachrome Co. NitrogenのNOVAtouch(登録商標)LX4装置で測定した。窒素を吸着等温線の測定ガスとして使用した。細孔径分布は、Barret, Joyner and Halenda(BJH法)の方法に従って測定した。これにより、等温線の脱着枝から試料の細孔径分布を算出することができる。試料の脱着枝の最も頻度の高い細孔径を分布の特性値として定義した。従って、「細孔直径」は、試料の最も頻繁な細孔直径であると理解される。
【0099】
モルタル化合物の調査
【0100】
重合収縮
モルタル化合物の収縮挙動は、硬化中のレーザービームによるモルタル床の直線厚さ変化の測定によって決定される。
測定を行うために、スピードミキサー(Speedmixer)中で1000rpmで10秒間混合したモルタル化合物2.5gを鋼板上にスパチュラで塗布し、その左右を2.5mmの高さを有するスペーサーで囲む。
厚さ0.5mmの鋼板を反射体としてモルタル上に置く。
別の鋼板を使用して、モルタルを反射板と一緒に2.5mmの高さまで平らにプレスする。
従って、モルタル床の厚さは正確に2mmである。
測定のために、上部鋼板を再び取り除き、硬化中および硬化後のモルタル床の厚さ変化を、反射板上でのレーザービームの反射によって測定する。
少なくとも5回の測定が行われ、平均値が計算される。
重合収縮は、硬化前のモルタル床の厚さに対する硬化したモルタル床の厚さの百分率変化を示す。
【0101】
重合収縮に関して測定された値は、遷移アルミナを含まないモルタル化合物と比較して達成された収縮の減少に関して評価され、以下の群に細分される。
非常に明白:重合収縮率<1.0%
公表:重合収縮率1.0〜2.3%
軽度:重合収縮率は2.3%〜3.1%
いいえ:重合収縮率>3.1%
【0102】
重合速度
重合反応のエンタルピーおよび速度を決定するために、DSC測定を、Mettler−Toledo測定機器を用いて行った。
DSC測定のために、約100mgのモルタル化合物をコランダムるつぼに導入し、重合反応を21℃で等温的に追跡した。
コランダムるつぼを同様に引用文献照るつぼとして使用した。
発熱反応により、DSC曲線において、使用したモルタル化合物1g当たりのエンタルピーを測定した明瞭なピークが見られた。
さらに、反応速度は、変曲点における反応の転化曲線の傾きに基づいて決定した。
【0103】
結合強さ
2成分モルタル化合物で達成される結合強度を測定するために、モルタルの規定された幾何学的形状および規定された充填高さ(結合深さ)を有する鋼スリーブ中に混合モルタルを導入する。
次いで、センタリング補助具を使用して、アンカーロッドが、モルタルで満たされたスチールスリーブの中央に配置される。
室温で少なくとも12時間モルタルを硬化させた後、試料をねじ付きアダプターによって張力試験機(タイプ:Zwick Roell Z050、50kN)にねじ込む。
試料は、規定された速度で引張力で破損するまで試験される。
対応する力−変位依存性は連続的に記録される。
それぞれ5つの個々の測定が行われ、破損時の最大力の平均値が計算される。
【0104】
測定は、M8ねじ山を有するアンカーロッド、ならびに以下の幾何学的形状を有するスチールスリーブを用いて行った:
アンダーカット深さ:0.35+/−0.02mm
アンダーカット幅:3mm
接合深さ:36mm
内径:14 mm
【0105】
これらの測定から決定される結合強度は、使用したアンカーロッドの剪断面積に対する破損時の最大力の比で定義される(M8アンカーロッド:904.3mm)。
【実施例】
【0106】
実施の形態
以下、本発明を、好ましい実施形態に基づいて説明するが、これらは決して限定的なものとして理解されるべきではない。
【0107】
ウレタンメタクリレート樹脂をベースとする2成分モルタル化合物
実施例1
二成分モルタル化合物の樹脂成分(A)は最初に、真空下で溶解機中で、44.2gの石英砂、18.5gのアルミン酸セメントおよび2.8gのチキソトロピー剤としての疎水性ヒュームドシリカとともに34.5gのアクリレート樹脂混合物を均質化し、気泡のないペースト状の塊にすることによって調製される。
【0108】
アクリレート樹脂混合物の組成を以下の表1に示す。
このようにして得られた樹脂成分(A)をカートリッジに導入する。
【0109】
【表1】
【0110】
石英粉の剤型の充填剤64重量%、ヒュームドシリカ1重量%および過酸化ベンゾイル35重量%を含有する、固形分35重量%の過酸化ベンゾイル水性懸濁液を、2成分モルタル化合物の硬化剤成分(B)として使用する。従って、硬化剤成分(B)中の過酸化ベンゾイルの割合は硬化剤成分(B)の重量に対して12.25重量%であり、水の割合は22.75重量%である。硬化剤成分(B)は第2のカートリッジに充填される。
【0111】
構造部品を固定するための化学モルタル化合物として適用するために、樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)は、カートリッジから絞り出され、スタティックミキサーに通されるか、または溶解機中で混合され、それによって、反応性樹脂の硬化および場合によりセメントの硬化を伴って、これらの成分の反応が開始する。反応化合物は、穿孔された穴に注入され、そこで、固定されるべき構造部品が導入され、調整される。
【0112】
樹脂成分(A)対硬化剤成分(B)の重量比は4.8:1であり、反応性希釈剤と過酸化ベンゾイルとのウレタンメタクリレートの比は13.5:1に調整される。硬化剤に対するフリーラジカル硬化成分のこの比は、全ての例示的な実施形態で同じである。
【0113】
実施例1によるモルタル化合物は、約3.4%の重合収縮を有する。
【0114】
実施例2〜14
実施例1に示したのと同じ方法で、それぞれ5体積%のアルミン酸塩セメントをアルミナで置き換えたモルタル化合物を製造した。従って、樹脂化合物の体積は一定のままであった。配合物の計算は、4g/cmのアルミナ密度に基づいていた。使用した全てのアルミナは市販品である。
【0115】
樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)を混合して得られたモルタル化合物の重合収縮率を測定した。一部のモルタル化合物では、遷移アルミナの添加によりゲル化時間が非常に短くなり、収縮測定は不可能であった。これらの場合において、ゲル化時間は、より大きな割合の重合阻害剤の添加によって延長された。
【0116】
結晶相および使用したアルミナの供給源、ならびにアルミナで製造したモルタル化合物を使用した収縮の減少を以下の表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
*製造者の声明による結晶相
**比較例
***体積でわずか2.3%
【0119】
アルミナAlヒュームドを使用した場合、強力な増粘効果により、モルタル化合物中に約2.3容量%を導入することしかできなかった。表2の例から、重合収縮は、使用されるアルミナのタイプによって著しく影響を受けると推測することができる。重合収縮低減効果を有するアルミナは全て遷移アルミナである。
【0120】
アルミナは、収縮減少の観点から4つのグループに細分することができる。
第1のグループは3つの遷移アルミナ(Al活性化中性、Al−SCCa 5/150およびAl−SCCa 5/90)からなり、これは重合収縮を1%未満に有意に減少させる。
【0121】
次のグループは3つの遷移アルミナ(Al−KNO、Al−SCFa 140およびAl−SBa 90)を含み、これは、収縮を約1.3%〜1.6%に減少させる。
【0122】
これに続いて、約2.3〜2.7%の重合収縮を有する4つのアルミナが続く。
【0123】
第4群のアルミナは、実施例1に係る化合物と比較して、重合収縮に影響を及ぼさない。
【0124】
例示的な実施形態はさらに、重合収縮の減少がアルミナの粒径によっても影響を受けることを示す。使用した遷移アルミナの粒度分布を表3に示す。
【0125】
【表3】
【0126】
図1において、遷移アルミナの平均粒径は、重合収縮に対してプロットされている。この図から、重合収縮の顕著な減少は約25μmの平均粒径から始まって生じ、収縮のわずかな減少は約14μmの平均粒径から始まって達成され得ることが分かる。
【0127】
α−アルミナは、より大きな平均粒径においてさえ、いかなる顕著な収縮減少も示さない。遷移アルミナAl活性化中性物質を用いて実施例4に従って製造されたモルタル化合物はボールミルで約15分間粉砕されたが、7.1μmの平均粒径d50で3%のわずかな収縮減少しか示さない。粉砕時間がわずか5分で、Al活性化中性物質について約12.0μmの平均粒径が得られた場合、収縮減少の約2.6%への改善が観察された。粉砕時間を3分に短縮し、平均粒子径を約20μmとするAl活性化中性体は、約1.8%の重合収縮を有するモルタル化合物を生じる。これらの測定は同様に、モルタル化合物の重合収縮が、使用される遷移アルミナの粒径によって決定的に影響を受けることを示す。
【0128】
遷移アルミナのBET測定から、比表面積(BET)と重合収縮との間の関係は識別できない。しかしながら、遷移アルミナTH100/90について測定された27.0nmの細孔径は、使用される遷移アルミナの細孔が大きすぎる場合、モルタル化合物の重合収縮が増加することを示唆する。従って、遷移アルミナの好ましい細孔径は、約5〜15nmの範囲にある。
【0129】
平均粒径d50が11〜130μmであり、細孔径が3〜15nmの範囲であり、体積比5%で実施例1によるモルタル化合物における多孔質シリカゲルの使用は驚くべきことに、重合収縮の減少をもたらさない。
【0130】
実施例15〜19
実施例1に示したのと同じ方法で、樹脂成分(A)中のアルミン酸セメントの異なる体積割合を、対応する割合の遷移アルミナAl−KNOで置き換えたモルタル化合物を製造した。従って、樹脂化合物の体積は一定のままであった。重合収縮は、樹脂成分(A)と硬化剤成分(B)をスピードミキサーで混合して得られたモルタル化合物について測定した。得られた結果を以下の表4に示す。
【0131】
【表4】
【0132】
表4に示す結果は、モルタル化合物中の約1体積%の遷移アルミナの割合から開始して、重合収縮の顕著な減少が起こることを示す。約10%から出発して、より高い体積比率では、調べた化合物を処理することは困難であった。
【0133】
実施例16によるモルタル化合物のDSC測定から、反応エンタルピーも硬化速度も遷移アルミナの添加によって影響されないことが明らかである。ゲル化時間の短縮のみを観察することができ、さらなる重合阻害剤の添加によって補償することができる。同様に使用される遷移アルミナのpHは、収縮減少に影響を及ぼさない。
【0134】
実施例20〜24
異なる重合阻害剤を有するモルタル化合物を、実施例1に示したのと同じ方法で製造した。製造された各モルタル化合物の樹脂成分(A)の組成を下記表5に示す。実施例21〜24におけるAl活性化中性物質の割合は、モルタル化合物の1体積%に相当する。
【0135】
表5において、
Tempol:4−ヒドロキシ−2,2−6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを意味する。
BHT tert−ブチルヒドロキシトルエンを意味する。
BK:ピロカテコールを意味する。
tBBK:4−tert−ブチルピロカテコールを意味する
【0136】
【表5】
【0137】
実施例は、ピロカテコールまたはtBBKのような立体障害のないフェノールを含有するモルタル化合物が非常に顕著な収縮減少を達成することを示す。ヒドロキノン、3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド、3,5−ジ−tert−ブチルピロカテコールおよび4−メチルピロカテコールなどの他の二価フェノールでも同様の結果が得られた。しかしながら、フェノール重合阻害剤の不存在下および/または立体障害フェノール、例えばBHTの使用中、実質的な収縮減少は測定されなかった。この結果はフェノール重合阻害剤、特に2個以上のヒドロキシル基を有するものが遷移アルミナと強い相互作用を有し、従ってフェノール性ヒドロキシル基のアルミナ表面への共有結合を示唆するという観察に帰することができる。対照的に、BHTなどの立体障害フェノールは、遷移アルミナに結合することができない。
【0138】
実施例25
無水硬化剤成分を含有する2成分モルタル化合物を製造するために、まず樹脂成分(A)を下記表6に示す組成で調製した。混合物を、溶解機中で真空下で、気泡のないペースト状の塊に均質化した。このようにして得られた樹脂成分(A)をカートリッジに導入した。
【0139】
【表6】
【0140】
Perkadox(登録商標)の商品名で市販されており、不活性充填剤により鈍感化された無水過酸化ベンゾイル混合物を硬化剤成分(B)として使用した。この硬化剤成分には、過酸化ジベンゾイルが19〜22重量%の割合で、充填剤が78〜81重量%の割合で含まれていた。硬化剤成分(B)を第2のカートリッジに充填した。
【0141】
次いで、樹脂成分(A)および硬化剤成分(B)をスピードミキサーで混合し、重合収縮を測定した。硬化剤成分(B)中のフリーラジカル硬化成分(反応性希釈剤と共にメタクリレート樹脂)の硬化剤に対する重量比は13.5:1であった。
【0142】
実施例25によるモルタル化合物は、1.6%の重合収縮を有する。このことは、硬化剤成分(B)中の水が収縮減少のために必要でないこと、および無水硬化剤成分を使用する場合、少量の遷移アルミナが顕著な収縮減少を達成するのに既に十分であることを証明する。
【0143】
実施例26
含水硬化剤成分(B)に導入した遷移アルミナを含有する2成分モルタル化合物を製造するために、実施例1に示す樹脂成分(A)と下記表7に示す硬化剤成分(B)とをスピードミキサーで混合し、重合収縮率を測定した。モルタル化合物に導入される遷移アルミナの量は、1体積%に相当する。
【0144】
【表7】
【0145】
実施例26によるモルタル化合物は、比較例1と比較して重合収縮の減少を示さない。理論に固執するつもりはないが、硬化剤成分(B)中の遷移アルミナはより長い時間持続する水との接触によって不活性化され、および/またはフェノール重合阻害剤との相互作用が妨げられると仮定することができる。
【0146】
実施例27
接着強度の決定
実施例1および16〜18の樹脂組成物を有するモルタル化合物を用いて得られた結合強度を以下の表8にまとめる:
【0147】
【表8】
【0148】
表8に示す結果から分かるように、本発明の2成分モルタル化合物は、比較例1による化合物と比較して、スチールスリーブ試験におけるアンカーロッドの接着に関する荷重定格の劣化を全く示さない。
【0149】
上述の測定は変更された鋼製スリーブを用いて繰り返され、鋼製スリーブのアンダーカット深さは3mmのアンダーカット幅に対して25μm〜350μmの間で変化した。
【0150】
図2は、実施例1による参照化合物および実施例16、17及び18による2成分モルタル化合物についてのアンカーロッドのアンダーカット幅に対する結合強度の依存性を示す。
【0151】
全ての試験したアンダーカット深さについてより小さい収縮により、実施例18によるモルタル化合物は実質的に一定の結合強度を生じるが、より小さいアンダーカット深さを有するより滑らかな表面を有する実施例1による参照化合物はより容易に破損し、200μmから始まるアンダーカット深さを有する粗い表面に対してのみ適切な引抜き強度を有することが分かる。同時に、モルタル化合物の重合収縮が小さいほど、結合アンカーの性能が良好であることを示すことができる。
【0152】
モルタル化合物で達成される結合強度の鋼スリーブのアンダーカット深さへの依存性は、低い重合収縮を有するモルタル化合物よりも高い重合収縮を有するモルタル化合物の方がはるかに強い。
【0153】
実施例28
大きすぎるドリル穴におけるモルタルコンパウンドの荷重定格
2成分モルタルコンパウンドで達成される荷重定格の決定のために、高強度M12またはM24ネジ付きアンカーロッドを、特定の直径および72mmの穿孔深さを有する穿孔穴においてそれぞれの2成分モルタルコンパウンドによって保持されるだぼの形態で使用する。3.4%の重合収縮率を有する実施例1によるモルタル化合物および1.8%の重合収縮率を有する実施例17によるモルタル化合物をこの試験に使用した。穿孔された穴は、ダイヤモンドドリルを用いて湿式で穿孔され、圧縮空気(6バール)を用いて洗浄され、ブラッシングされ(brushed)、次いで圧縮空気で再び吹き飛ばされた(blow out)。室温で24時間の硬化時間の後、ネジ付きアンカーロッドを緊密に配置されたブレース手段に対して中心から引っ張ることによって平均破損荷重を測定し、3つのアンカーの平均破損荷重を測定する。
【0154】
試験は、他の点では同一の条件下で、対応するねじ山付きアンカーロッドの直径の1.5倍の直径を有する大きめのドリル穴について繰り返した。
平均破損荷重についてこのように決定された値を、以下の表9に示す。
【0155】
【表9】
【0156】
実施例1によるモルタル化合物と比較して、樹脂成分(A)への遷移アルミナの添加によって有意に改善され得るのは、湿潤条件下で穿孔された穿孔における平均破損荷重だけではない。また、平均破損荷重は大きすぎるドリル穴ではあまり急速に減少せず、したがって、本発明の化合物は外部の影響に対してより安定であることを示すことができる。
図1
図2
【国際調査報告】