特表2019-534974(P2019-534974A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-534974(P2019-534974A)
(43)【公表日】2019年12月5日
(54)【発明の名称】火花点火内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/00 20060101AFI20191108BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20191108BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20191108BHJP
   F02D 23/02 20060101ALI20191108BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20191108BHJP
【FI】
   F02B37/00 301H
   F02D13/02 A
   F02D13/02 B
   F02D13/02 Z
   F02D23/00 H
   F02D23/00 K
   F02D23/02 A
   F02B19/12 E
   F02B19/12 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-517787(P2019-517787)
(86)(22)【出願日】2017年9月19日
(85)【翻訳文提出日】2019年5月21日
(86)【国際出願番号】GB2017052784
(87)【国際公開番号】WO2018065751
(87)【国際公開日】20180412
(31)【優先権主張番号】1616876.7
(32)【優先日】2016年10月4日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1618891.4
(32)【優先日】2016年11月9日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1713507.0
(32)【優先日】2017年8月23日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518172945
【氏名又は名称】モトダン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】メリット,ダン
【テーマコード(参考)】
3G005
3G023
3G092
【Fターム(参考)】
3G005DA04
3G005EA04
3G005EA16
3G005FA35
3G005FA37
3G005GB17
3G005GB24
3G005HA01
3G005HA05
3G005HA09
3G023AA05
3G023AB01
3G023AC03
3G023AC04
3G023AD21
3G023AF02
3G092AA01
3G092AA03
3G092AA07
3G092AA11
3G092AA13
3G092BA08
3G092BB01
3G092DA02
3G092DA03
3G092DB03
3G092DE01S
3G092DF10
3G092FA17
3G092FA24
(57)【要約】
複数のシリンダを含み、少なくとも1つのシリンダ(102)が使用中に2ストロークサイクルで動作するように作製されており、少なくとも1つのシリンダ(104)が4ストロークサイクルで動作するように作製されている、国際特許公報WO/2007/080366で説明されるメリットエンジン型の火花点火内燃機関であり、この内燃機関は、各シリンダに関して、作動時に燃焼が開始される、それぞれのシリンダから離れているが連通する燃焼室(6)を含み、この内燃機関は、使用中に2ストロークシリンダに吸気空気を与えるために4ストロークシリンダの排気により動力を与えられるターボチャージャ(106)を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダを備え、少なくとも1つのシリンダ(102)が使用中に2ストロークサイクルで動作するように作製され、少なくとも1つのシリンダ(104)が4ストロークサイクルで動作するように作製されている、火花点火内燃機関であって、
前記内燃機関が、各シリンダに関して、
そのそれぞれのシリンダ(102)から離れている、シリンダヘッド内の燃焼室(6)と、
前記それぞれのシリンダ(102)と前記燃焼室(6)との間の連通をもたらす遷移オリフィス(7)と、
使用中に前記燃焼室に液体燃料スプレーを送達するように構成された燃料噴射器(8)と、
前記燃焼室内に配置された火花点火器(9)と、
を含み、
前記内燃機関が、
前記シリンダのそれぞれ及びすべてを一端で閉鎖するためのシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッド内に配置され、排気ダクト又は排気マニホルドにつながる、各シリンダのための排気弁(5)と、
その内部で往復運動するために各シリンダ内に配置されたピストン(1)と、
を含み、前記内燃機関は、前記それぞれのピストンがその膨張行程の終わりに達するときに前記シリンダへの空気の流入を可能にする、2ストロークシリンダの又はそのそれぞれのための1つ以上の吸気ポートを画定し、
前記内燃機関が、
前記シリンダヘッドに存在し、このようなシリンダと連通する、前記4ストロークシリンダの又はそのそれぞれのための吸気弁と、
カムシャフト又は回転弁などのすべてのシリンダのシリンダヘッドに存在するすべての弁を作動させるための装置と、
前記2ストロークシリンダの吸気ポートと連通する圧縮機インペラ(13)及び前記4ストロークシリンダの排気弁と連通するタービン(10)を含む、ターボチャージャと、
を含み、前記4ストロークサイクルで動作する内燃機関の少なくとも1つのシリンダが前記ターボチャージャのタービンインペラ(10)に排気ガスを供給し、前記ターボチャージャの圧縮機インペラ(13)が前記2ストロークシリンダの又はそれぞれの吸気ポートに空気を供給する、
火花点火内燃機関。
【請求項2】
前記2ストロークサイクルで動作するシリンダ(102)の又はそのうちの1つ又はそのそれぞれの排気弁も、前記ターボチャージャのタービン(10)に排気ガスを供給する、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記内燃機関が、少なくとも燃料注入プロセス、点火プロセス、並びに吸気及び排気プロセスを制御するためのコントローラを含む、請求項1又は請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記コントローラが、前記内燃機関を、前記4ストロークシリンダの又はそのそれぞれにのみ燃料が与えられ、且つ前記ターボチャージャのタービンインペラが前記4ストロークシリンダからの排気ガスによってのみ駆動される、始動/アイドリング状態と、前記シリンダのすべてに燃料が与えられ、前記ターボチャージャのタービンインペラが前記シリンダのすべてからの排気ガスによって駆動される、ドライビング状態との間で移行させる、請求項2に従属するときの請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記4ストロークサイクルで動作するシリンダの又はそのうちの1つ又はそのそれぞれの吸気弁も、前記ターボチャージャ圧縮機(13)から空気を受け入れる、前記請求項のすべてに記載の内燃機関。
【請求項6】
前記4ストロークシリンダと前記2ストロークシリンダが同じクランクシャフト(19)を共有する、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項7】
前記4ストロークシリンダと前記2ストロークシリンダが同じカムシャフトを共有する、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項8】
一方が4ストロークサイクルで動作するシリンダを備え、他方が2ストロークサイクルで動作するシリンダを備える、2つの別個のクランクケースを備える、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項9】
少なくとも1つのシリンダが、その内部で燃焼する燃料の量を増加させることにより又はこのシリンダの排気弁(5)を開くタイミングを早めることにより又はこの両方の方法の組み合わせにより、前記ターボチャージャのタービン(10)に送達する排気ガスエネルギーを増加させるべく動作するように構成される、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項10】
前記排気弁駆動機構が、前記内燃機関が運転している間に可変バルブタイミング動作を行うことが可能となる、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項11】
前記又は各2ストロークシリンダが吸気弁を有さない、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項12】
前記2ストロークシリンダの又はそのそれぞれのための1つ以上の吸気ポートが、前記それぞれのピストンにより覆われないときに前記それぞれのシリンダに空気を入れるように配置され、前記それぞれのピストンがその膨張行程の終わりに達するときに全開に開かれる、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項13】
各燃焼室(6)が前記シリンダに対して近端及び遠端を有し、前記遷移オリフィス(7)が、前記ピストンの圧縮行程中に接線速度成分で空気のジェットを燃焼室へ送達するように配置される、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項14】
前記2ストロークシリンダのうちの1つ以上が、クランクシャフトの2回転おきにのみ燃料を受け入れる、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項15】
前記又は各シリンダの前記又は各燃料噴射器が前記点火器の方に向けられる、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項16】
前記又は各4ストロークシリンダの前記又は各燃料噴射器が前記点火器の方に向けられ、前記又は各2ストロークシリンダの前記又は各燃料噴射器が前記遷移オリフィスの方に向けられる、前記請求項のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項17】
回転エネルギーをもたらす方法であって、複数のシリンダを備え、少なくとも1つのシリンダ(102)が使用中に2ストロークサイクルで動作するように作製されており、少なくとも1つのシリンダ(104)が4ストロークサイクルで動作するように作製されている、火花点火内燃機関を提供することを含み、
前記内燃機関が、各シリンダに関して、
そのそれぞれのシリンダ(102)から離れている、前記シリンダヘッド内の燃焼室(6)と、
前記それぞれのシリンダ(102)と前記燃焼室(6)との間の連通をもたらす遷移オリフィス(7)と、
使用中に前記燃焼室に液体燃料スプレーを送達するように構成された燃料噴射器(8)と、
前記燃焼室内に配置された火花点火器(9)と、
を含み、
前記内燃機関が、
前記シリンダのそれぞれ及びすべてを一端で閉鎖するためのシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッド内に配置され、排気ダクト又は排気マニホルドにつながる、各シリンダのための排気弁(5)と、
その内部で往復運動するために各シリンダ内に配置されたピストン(1)と、
を含み、前記内燃機関は、前記それぞれのピストンがその膨張行程の終わりに達するときに前記シリンダへの空気の流入を可能にする、2ストロークシリンダの又はそのそれぞれのための1つ以上の吸気ポートを画定し、
前記内燃機関が、
前記シリンダヘッドに存在し、このようなシリンダと連通する、前記4ストロークシリンダの又はそのそれぞれのための吸気弁と、
カムシャフト又は回転弁などのすべてのシリンダのシリンダヘッドに存在するすべての弁を作動させるための装置と、
前記2ストロークシリンダの吸気ポートと連通する圧縮機インペラ(13)及び前記4ストロークシリンダの排気弁と連通するタービン(10)を含む、ターボチャージャと、
を含み、前記4ストロークサイクルで動作する前記内燃機関の少なくとも1つのシリンダが前記ターボチャージャのタービンインペラ(10)に排気ガスを供給し、前記ターボチャージャの圧縮機インペラ(13)が前記2ストロークシリンダの又はそれぞれの吸気ポートに空気を供給する、
方法。
【請求項18】
前記内燃機関が請求項1〜請求項16のいずれかで定義された特徴のいずれかを含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、4ストローク又は2ストロークエンジンサイクルのいずれかに適用することができる、国際特許公報WO2005/0523355及びWO/2007/080366に記載のメリットエンジン燃焼システムの改良である。本発明は、メリットエンジン燃焼システムを、いくつかは2ストロークサイクルで動作し、他は4ストロークサイクルで動作する、相互に依存するシリンダの混合したアセンブリと、1つのエンジンで組み合わせる。シリンダは、同じクランクケース、同じクランクシャフト、及び同じカムシャフトを共有することができる。2ストロークシリンダは、機械的摩擦を低減させ、且つエンジンの出力密度を増加させるために用いられる。すべてのシリンダは、非常に効率的なメリット燃焼システムを用いる。メリットエンジンの主な特徴は、その内部のガス移動をより良好に制御できるようにシリンダから分離されている、ボルテックスチューブ状に形状設定された燃焼室の使用である。このような構造は、ディーゼル又はオットー(従来のガソリンエンジン)のいずれとも異なる全く新しい燃焼管理システムを可能にした。ガス移動の制御が非常に制限されている場所である、ピストンよりも上での燃料の燃焼を回避することにより、メリットエンジンは、オットーエンジンサイクルで運転し、火花点火を用い、ゆえに絞り弁の必要性をなくしながら、全運転範囲にわたって成層を達成した。これは、完全燃焼のための酸素を提供するのに必要とされる量を超える空気の存在下で燃焼する、ガソリン及びアルコールなどの揮発性燃料を用いる。メリットエンジンは、エンジンの排気からの二酸化炭素排出量の低減につながる、熱効率の実質的な増加を達成した。高い熱効率は、燃えるガスと過剰空気との迅速な混合が温度及び輻射を低減するので、輻射による燃えるガスからの熱損失を大いに低減できることに起因する。オットーはどの運転条件でも過剰空気を可能にしないので、過剰空気での燃焼は、オットーを超える効率の利点をディーゼル機関に与える。排気の中に遊離した酸素を残さずにyグラムの燃料を燃焼させるのにxグラムの空気が必要とされる場合、yグラムの燃料を燃焼させながら2xグラムの空気を有するエンジンは、100%過剰空気で運転すると考えられる。
【0003】
メリットエンジンは、自動車用途での使用を意図されており、したがって、規定された排ガス制限を満たし、且つ信頼できる始動及びアイドリングが可能である必要がある。
【0004】
100%を超える過剰空気での部分負荷で運転するとき、メリットエンジンは、ディーゼルエンジンと従来のガソリンエンジンとの両方では対処が難しいことが判っている有害な窒素酸化物の生成を回避することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メリットエンジンに唯一残された効率向上の余地は、機械的摩擦の大きな低減であろう。これが本発明の目的である。このような低減は、摩擦損失が効率に悪影響を及ぼし始める部分負荷で特に有益である。このような摩擦の低減を達成する最良の方法は、エンジンを2ストロークのブリージングサイクルで運転することである。本発明は、メリットエンジンの熱効率を、熱力学第二法則により課される限界へ向けてさらに向上させる。過剰空気での低い摩擦と非常に速い燃焼との組み合わせは、本発明に係るエンジンの効率を、典型的な都市走行を平均したときの既存のオットーエンジンの効率のほぼ2倍に引き上げることができ、地球温暖化の緩和への大きな寄与をもたらすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、火花内燃機関に多くの利点を与える。これらは、2ストロークシリンダと4ストロークシリンダを1つのエンジンシリンダアセンブリに組み合わせることにより達成され、この場合、すべてのシリンダはメリットエンジン燃焼管理システムも用いる。これらの利点は以下のようにまとめることができる。
1.ノンスロットル運転は、都市走行でのガソリン車からのCO排出量の大きな低減、もしかすると半減につながる。これは、地球温暖化目標を満たすことに寄与する。
2.2ストロークサイクルで動作するシリンダからの摩擦を低減することにより効率をさらに高める。
3.効率分布を再編成すること。パワー出力の下限に最高の効率を置くこと。(オットーエンジンがすることとは正反対に)。
4.いくつかのシリンダを2ストロークサイクルで動作させることによりエンジンアセンブリの出力密度を増加させる。
5.NOx排出量閾値よりも低くとどまるようにエンジンを十分に過剰の空気で運転するためのオプションとして増加した出力密度を用いることと、それを同じサイズの典型的な4ストロークエンジンの出力密度を維持しながら行うこと。
6.過剰空気での運転を選ぶときに、完全燃焼を保証し、その結果、排気後処理の必要なしにCO以外の有害な排ガスがないことを保証すること。
7.2ストロークシリンダに関してでさえもクランクシャフト及びピストンに関する従来の潤滑を保持することと、同様の車に用いられる4ストロークエンジンに典型的な同様のエンジン構造及びサイズも保持すること。
【0007】
2ストロークのブリージングサイクルで動作するシリンダを、4ストロークシリンダを収容するクランクケースに導入するために、クランクケースを空気ポンプとして用い、且つ排気汚染を引き起こすオイルミスト潤滑を必要とする、多気筒2ストロークエンジンのクランクケースの複雑な構造を回避する必要がある。本発明に係るメリットエンジンでの2ストロークシリンダの好ましい構造は、このようなシリンダに空気を送り込むのにターボチャージャを用い、また、シリンダヘッドに排気弁を必要とするユニフロー掃気方法を用いるものである。
【0008】
車のエンジンは、2ストロークシリンダがターボチャージャを駆動するのに不十分な排気ガスエネルギーを生成するときに、頻繁な始動及びアイドリング運転を経験する。この欠点を克服するために、本発明に係るエンジンは、4ストロークサイクルで動作する少なくとも1つのシリンダと、2ストロークサイクルで動作する少なくとも1つのシリンダを含む。好ましくは、2ストロークと4ストロークとの両方の、すべてのシリンダは、同じクランクケース、同じクランクシャフト、同じカムシャフト、及び同じターボチャージャを共有し、ボア、ストローク、及び弁サイズなどのそれらの物理的形状は、好ましくは、できるだけ同一に近く作製される。ノンスロットル運転は、すべてのエンジンのシリンダを通って流れるガスの量がほぼ一定のままであることを保証し、ターボチャージャの効率的な動作がより低パワー出力へ拡張されることを可能にする。そうであっても、2ストロークシリンダは、それだけではエンジンの始動又はさらにはエンジンのアイドリングを可能にするのに十分な排気エネルギーを生じないであろう。吸気をターボチャージャに依存しない4ストロークシリンダは、支援なしに始動し、支援なしにアイドリングし、ゆえに、2ストロークシリンダが引き継ぐことができるようになるまで、信頼できる排気ガスエネルギーをターボチャージャに与えることができる。
【0009】
空気を送り込むのにターボチャージャを用いることにより、本発明は、2ストロークシリンダが、4ストロークエンジンで通常用いられる潤滑システムを用いることができるようにする。実際に、同じクランクケースアセンブリを保持しながら、典型的な4ストロークの車のエンジンクランクケースを、本発明に係るエンジンに変換することができ、必要とされる唯一の改造は、2ストロークとして動作するシリンダに吸気ポートを設けることである。
【0010】
典型的な4ストロークエンジンの同じクランクケースにおいてメリットエンジンを2ストロークとして運転することにより、このようなエンジンの出力密度を、該エンジンが100%(最大MEPのおよそ半分)以上の、最高800%過剰(アイドリング時)の範囲内の過剰空気で常に運転することを可能にするべく十分に増加させることができる。排気後処理なしにNOx排出量を考慮に入れるだけでなく、40%超に達すると推定されるエンジンの最高効率レベルで完全燃焼を促進することもできるので、このような構造は魅力的である。このようなエンジンは、車からの有害な都市公害を低減する又はさらにはなくすために現在必要とされている。
【0011】
本発明は、改造した内燃機関、これを運転する改善された方法、及びこのようなエンジンを装備した自動車を提供しようとするものである。
【0012】
したがって、本発明は、請求項のうちの請求項1で定義される火花点火内燃機関を提供する。
【0013】
本発明の他の特徴は従属請求項で定義されるとおりである。
【0014】
本発明では、2ストロークとして動作するシリンダのすべてが、ユニフロー掃気システムとして当業者に知られているものを用いる。
【0015】
ターボチャージャという用語は、エンジンと共に普通に用いられる、エンジンにより供給された排気ガスエネルギーを用いて回転タービンを駆動する装置を説明するのに用いられ、この場合、回転タービンは、周囲空気を取り込むように設計されたインペラを駆動することにより、取り込んだ周囲空気の圧力をエンジン吸気口へ送る前に増加させる。
【0016】
2ストロークシリンダと4ストロークシリンダとの両方が、相互の利益のために同じターボチャージャと連通する。2ストロークシリンダと一緒に動作することにより、4ストロークシリンダは、4ストロークシリンダのみを備える同様のサイズのエンジンと比べて、全体的な機械的摩擦を低減させ、且つシリンダアセンブリの出力密度を増加させる。4ストロークシリンダと共に動作することにより、2ストロークシリンダは、始動又はアイドリング又は低パワー出力での動作時に、信頼できるターボチャージャ動作からの恩恵を受ける。2ストロークシリンダに関する最も重要な利点は、4ストロークシリンダと同じ潤滑システムを用いることである。
【0017】
種々のシリンダとターボチャージャとの連通度は、必要なエネルギーバランスをもたらすように選択することができ、用いられる各種のシリンダの数に依存することになる。例えば、4ストロークサイクルで動作するシリンダの吸気弁は、その過給のために十分なエネルギーが利用可能な場合に、圧縮機インペラに接続することができる。本発明に係るエンジンの利点を増加させるために、2ストロークシリンダの数は最大にされるべきであり、4ストロークシリンダの数は最小にされるべきであるが、最低1つは必須である。4ストロークシリンダと2ストロークシリンダは、好ましくは、同じボア及びストロークを有し、同じクランクケース、同じクランクシャフト、そしてまた同じカムシャフトを共有することができる。
【0018】
タービンに送達されるエネルギーを増加させるために、少なくとも1つのシリンダは、その内部で燃焼する燃料の量を増加させることにより又はこのシリンダの排気弁を開くタイミングを早めることにより又はこの両方の方法の組み合わせにより、ターボチャージャのタービンに送達する排気ガスエネルギーを増加させるようにプログラムすることができる。
【0019】
定義
2S又は4Sシリンダは、2ストローク又は4ストロークシリンダを識別するのに用いられることになる。
【0020】
オットーエンジンは、従来のスロットル型火花点火レシプロエンジンを説明する。
【0021】
以下の用語は、当業者によりしばしば用いられるが、以下の説明の明確な理解を確実にするためにここで定義されることになる。
【0022】
掃気という用語は、入ってくる外気が、燃料を伴わずに吸気ポートを通って2Sシリンダに入り、シリンダ内の残留ガスを排気弁から押し出すプロセスを意味する。完全な掃気はすべての残留ガスと置き換わり、不完全な掃気は残留ガスの一部のみと置き換わる。
【0023】
ユニフロー掃気という用語は、膨張行程位置の終わりにあるときに外気を吸気ポートからピストンクラウンの周り及び上に入れ、残留ガスをシリンダの反対端でシリンダヘッドに存在する排気弁から逃がす、掃気プロセスを説明する。
【0024】
過給という用語は、排気弁が閉じられた瞬間にシリンダの圧力が大気圧値を上回るときに終了する掃気プロセスを意味する。
【0025】
ブローダウンという用語は、膨張行程の後期に排気弁を開いた直後に2Sシリンダと4Sシリンダとの両方から加圧された残留ガスが逃げることを説明するのに用いられる。
【0026】
MEPは、図示平均有効圧を意味する。
【0027】
VVTという用語は、エンジンが運転している間に弁を開く時間及び/又は持続時間を変えることを可能にする、可変バルブタイミング装置を説明する。
【0028】
「ガス生成シリンダ」又は「ガス発生シリンダ」という用語は、燃焼する燃料の量と比較的早いタイミングで排気弁を開くこととの組み合わせがタービンに増加した量のエネルギーを与えることにより、前記シリンダからの仕事エネルギー出力量の低減という犠牲を払ってこれがなされる場合であっても適切な掃気を可能にするように動作する、2S又は4Sのいずれかの任意のシリンダを説明するのに用いられることになる。
【0029】
NOx閾値という用語は、メリットエンジンが、その排気の中に排ガス規制により許容されるレベルを上回る窒素酸化物ガスを生成し始めるときのMEPを説明する。典型的なメリットエンジンでは、これは、MEPの上限で、例えば6バールを上回るときに起こる。
【0030】
過剰空気という用語は、混合気中に含まれる燃料をCOと蒸気に完全燃焼するのに必要とされるよりも多くの酸素を含有する、燃料と空気との混合気中の空気を説明する。過剰空気は、最大MEPよりも下で運転するときのディーゼルエンジン及びメリットエンジンなどのノンスロットルエンジンで利用可能である。
【0031】
本発明の目的
1.地球温暖化目標を満たすことへの寄与として、都市走行でのガソリン車からのCO排出量の大きな低減、もしかすると半減につながる、ノンスロットル運転を可能にすること。
2.2Sシリンダからの摩擦を低減することにより、さらにより高いブレーキ熱効率を達成すること。
3.ほとんどの都市走行で車により用いられるMEPの下限に最高の効率範囲を置き、これにより、オットーエンジンの挙動と逆にすること。
4.いくつかのシリンダを2Sシリンダとして動作させることによりエンジンアセンブリの出力密度を増加させること。
5.エンジンを、NOx閾値よりも低くとどまるように過剰空気で、同じサイズの4Sオットーエンジンと同様の出力密度で、且つ後処理の必要なしに運転するために、このような増加した出力密度を用いるオプションを与えること。
6.過剰空気での運転を選ぶときに完全燃焼を保証し、その結果、CO以外の有害な排ガスがないことを保証すること。
7.典型的な4Sオットーエンジンで用いられるクランクシャフト及びピストンに関する従来の潤滑を保持することと、4Sオットーエンジンに典型的な同様のエンジン構造及びサイズも保持すること。
【0032】
本発明の説明
2Sシリンダに関して、ターボチャージャを駆動するのに必要とされるエネルギーのほとんどは、膨張行程の終了時に排気弁を開くときに行われるブローダウンプロセス中でのみ利用可能である。対照的に、4Sシリンダは、ブローダウンプロセスが完了した後でさえもすべての燃焼後ガスをシリンダの外へ強制するのにピストンを用いる。ターボチャージャがその駆動を2Sシリンダにのみ依拠する場合、低MEP運転での完全なユニフロー掃気プロセスのための十分なエネルギーが排ガス中に存在しない場合がある。
【0033】
本発明は、メリットエンジンが、車両に装備されたときに、同じクランクシャフトを駆動する且つ同じカムシャフトを用いる、2Sシリンダと4Sシリンダとの両方で運転することを可能にする。これは、2Sシリンダがそれら自身では十分な排気ガスエネルギーでタービンを駆動することができないときの動作期間中に、4Sシリンダが、2Sシリンダに関する信頼できる掃気動作を保証することを可能にする。好ましくは、最大の利点を与えるために、所与のクランクケースにおける2Sシリンダの数は最大にされるべきであり、例えば、3つのこのようなシリンダが4Sエンジンに用いられ得る。2Sシリンダは、仕事行程あたりの機械的摩擦損失を効果的に半減させ、また、クランクシャフトの回転ごとの「発火」によりエンジンの出力密度を増加させる。
【0034】
車両エンジンが経験する頻繁な始動及びアイドリング状態に対処するために4Sシリンダが必要とされることになる。メリットエンジンに組み込まれた4Sシリンダは、それ自身で吸排気のブリージングプロセスを担う。メリットエンジンにおけるすべてのシリンダは、できるだけ多くの空気がそのシリンダの排気に接続されたタービンを通って流れることを可能にする、部分負荷でのノンスロットル運転が可能である。タービンへのエネルギー供給はまた、その排気行程中に4Sピストンによって発揮される仕事エネルギーにより増加する。
【0035】
本発明に係るエンジンは、そのシリンダのうちの少なくとも1つが4Sとして動作するものでなければならないが、その数は、エンジンに用いられるシリンダの総数に関係するエネルギーバランスに依存する。例えば、8気筒エンジンは、2つを必要とし得る。1つよりも多くシリンダを4Sとして用いることを回避する一助とするべく、本発明に係るエンジンは、4S又は2Sのいずれかであるシリンダのいずれかから追加の排気ガスエネルギーをもたらすことができる。これは、早めにそれらの排気弁を開くこと及び/又はこのようなシリンダに送達される燃料の量を増加させることにより、ガス生成シリンダにおいて達成可能である。
【0036】
本発明に係るエンジンにおけるすべてのシリンダは、それぞれ少なくとも1つの排気弁を有していなければならない。2Sシリンダは、これを、ユニフロー掃気システム中にシリンダの下端の付近に存在する吸気ポートと共に用いることになる。4Sシリンダはまた、そのシリンダヘッドに存在する吸気弁を有していなければならない。
【0037】
ガス生成シリンダは、排気弁の開時間をエンジン速度に合わせて変化させることを可能にする、可変バルブタイミング、すなわちVVTの使用から恩恵を受けることができる。代替的に、他の弁作動機構を有利に用いることができる。エンジンコントローラは、他の2Sシリンダに役立つ燃料噴射器から独立して、各ガス生成シリンダ及び各4Sシリンダに役立つ燃料噴射器に送達される燃料の量を制御できる必要がある。
【0038】
両方のタイプのシリンダからの排気ガスを単一のタービンに送達することができるが、シリンダにより送達される排気ガスパルスの有害な干渉を回避するために注意が必要とされる場合がある。1つのシリンダから別のシリンダへの排気ガスの逆流を回避するためにリード弁又は回転ディストリビュータ弁などの弁を用いることができる。
【0039】
好ましくは、4Sシリンダは、エンジンにおけるすべての他のシリンダと同一のサイズであり、且つすべての他のシリンダと同一の又は同様の燃焼室の幾何学的形状を用いることになるが、4Sシリンダは、吸気弁と排気弁との2つのブリージング弁を用いることになる。弁を作動させるのにカムシャフトが用いられる場合、2Sシリンダの単一の排気弁と4Sシリンダの2つの弁を半分のエンジン速度で動作させる同じカムシャフトにより作動させることができ、2Sシリンダに関するカムローブは、180度離れており、カムシャフトの1回転につき2つの弁の開放をもたらすことになる。2つの弁を有する4Sシリンダは、ロッカーを用いる必要があり得る。
【0040】
4Sに及びガス生成シリンダに燃料供給するタイミング及び量は、他のシリンダに送達される燃料供給とは異なることがあり、エンジンコントローラは、適宜プログラムされる必要があるであろう。
【0041】
メリットエンジンは、掃気プロセスが不完全であるとき及び火花点火時に燃焼室内にいくらかの残留ガスが残るときでさえも部分負荷で満足に運転することができる。これは、エンジンの運転への別の或る程度の融通性を可能にする。
【0042】
再循環される残留ガス中に残っている未使用の酸素の量は、エンジンが低MEPで低い燃料供給率で運転するときに多大であり得る。
【0043】
メリットエンジンは、ノンスロットル運転が可能であることから、エンジンサイクルにつき同量の掃気空気が、使用される燃料の量に関係なく必要とされることになる。
【0044】
すべての燃料がシリンダの外部に存在する燃焼室内へ送達され燃焼するので、開いた排気弁を通って掃気空気の一部が逃げる場合に燃料の損失はないであろう。
【0045】
エタノールなどのアルコールは、圧縮行程中に熱気のジェットへ噴射され、エンジンシリンダの内部を濡らさないので、メリットシステムにおいて燃料として単独で又はガソリンと混合して用いるのに特に適している。
【0046】
4Sシリンダは、それ自身の空気を吸入するのに支援を必要とせず、2Sシリンダに燃料が与えられないときのエンジンの始動及びエンジンのアイドリングに用いることができる。エンジン速度が増加するのに伴い、速度及びMEPが、ターボチャージャがガス生成シリンダを用いずに効果的な掃気を提供できるときに達するまで、2Sシリンダに燃料が与えられることになる。
【0047】
クランクシャフト半径の2倍である幾何学的膨張行程に比べて膨張行程の有効長が短くなるように、その膨張行程位置の終わりに近づく際にピストンの始動の前に排気弁を開いて吸気ポートの覆いを取らなければならない。しかしながら、膨張行程の最後の部分は、最初の部分よりもはるかに小さい仕事を生じる。ブローダウンプロセスはまた、ターボチャージャが付いていないエンジンでは普通は無駄になるアトキンソンエネルギーと呼ぶことができるエネルギーを利用する。これは、レシプロエンジンの膨張行程の長さがガスを大気圧に下がるように膨張させるのに十分なだけ長くないので、ブローダウンガスがシリンダから逃げた後で大気圧に膨張するときに有しているエネルギーである。ターボチャージャの使用によるこのエネルギーの一部の抽出は、エンジンの効率を増加させる。より高いMEP値で、ブローダウンエネルギーは、少なくとも4Sシリンダに関する、さらには適切なVVTの設定がなされる場合に2Sシリンダに関する過給を促進するのに十分なレベルに達することができる。
【0048】
より高いMEPで、排気の中に過剰のNOxを生成するとき、メリットエンジンは、触媒コンバータが違反するNOxを除去することを可能にするべく、その排気からすべての遊離した酸素を除去するために化学量論的燃焼運転に戻る。これは、メリットエンジンに関する別の発明を説明する国際特許公報番号:WO2017/085440A1で説明されるように、より高いMEPで部分的に絞ることによりなされる。
【0049】
本発明は、4つの添付の概略図により本明細書でさらに説明される。これらは、正確な縮尺率ではなく、単に例示する目的で提示される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】掃気空気をシリンダに送達するのにターボチャージャ(106)を用いる本発明に係る多気筒エンジンの一部を構成する1つの典型的な2Sシリンダ(102)の線図である。
図2図2A及び図2Bは、3つのシリンダのうちの1つが4Sサイクルで動作しており、他の2つが2Sサイクルで動作している、本発明に係る3気筒メリットエンジンのシリンダヘッドに関する可能な設計の互いに90°をなす線図である。1つの典型的な例では、図3の図は、平面図の上に側面図を示す。
図3図1と類似しているが、エンジンの仕様に応じて2Sシリンダの掃気を支援するのに用いられ得る様々な付加的な装置も示す図である。
図4】ターボチャージャと図2の2S及び4Sシリンダとのガス交換を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
すべての以前から知られているメリットエンジンは、異なるシリンダヘッド及び燃焼室の構造を有することだけが従来のオットーエンジンと異なることを指摘することが重要である。しかしながら、本発明はまた、すべての2Sシリンダの下端にあるクランクケースに吸気ポート3を設けることを必要とする。
【0052】
本発明のエンジンでは、図1図4に示すように、エンジンは、
少なくとも1つのシリンダ(102)が2ストロークサイクルで動作するようにプログラムされ、且つ少なくとも1つのシリンダが4ストロークサイクルで動作するようにプログラムされる、いくつかのシリンダの組み合わせと、
各及びすべてのシリンダを一端で閉鎖するためのシリンダヘッドと、
4ストローク及び2ストロークのすべてのシリンダよりも上のシリンダヘッドに存在し、排気ダクト又は排気マニホルドにつながる、排気弁手段(5)と、
その内部で往復運動するために各シリンダ内に配置されたピストン(1)と、
それぞれのピストンがその膨張行程の終わりに達するときにシリンダへの空気流入を可能にする、2ストロークシリンダのための吸気ポートと、
シリンダヘッドに存在し、このようなシリンダと連通する、4ストロークシリンダのための吸気弁と、
カムシャフト又は回転弁などのすべてのシリンダのシリンダヘッドに存在するすべての弁を作動させるための装置と、
その圧縮機インペラ(13)が吸気手段と連通する、ターボチャージャと、
シリンダ(2)から離れているがその近端でシリンダと連通する、シリンダに対して近端及び遠端を有する、シリンダヘッド内の燃焼室(6)と、
その近端でシリンダ(2)及び燃焼室(6)と連通し、ピストンの圧縮行程中に接線速度成分で空気のジェットを燃焼室へ送達するように配置される、遷移オリフィス(7)と、
軸方向速度成分で遠端に向けて燃焼室内で発生する渦を巻く空気の動きへ促進するための手段と、
液体燃料スプレーを燃焼室へ送達するように構成された、燃焼室(6)と連通する燃料噴射器(8)と、
燃焼室の遠端の領域における少なくとも1つの火花点火器(9)と、
少なくとも燃料注入プロセス、点火プロセス、並びに吸気及び排気プロセスを制御するためのコントローラと、
を備え、4ストロークサイクルで動作するエンジンの少なくとも1つのシリンダがターボチャージャのタービンインペラ(10)に排気ガスを供給し、ターボチャージャの圧縮機インペラ(13)が同じエンジンの少なくとも1つの2ストロークシリンダの吸気手段に空気を供給する。
【0053】
図1には、膨張行程の終了時のピストン(1)が示される。吸気ポート(3)は、2Sシリンダにのみ設けられ、シリンダ(102)の下端に存在し、図示したようにピストンがその最外位置に達するときに全開にされる。吸気ポートは、円周方向マニホルド(4)により一緒に接続された状態で示される。多気筒エンジンでは、すべての吸気マニホルドは、組み合わされ、圧縮機13からの出口と接続する。クランクケース(18)は空気ポンプとして用いられないので、クランクシャフト(19)は従来の潤滑及び滑り軸受を用いる。離れた燃焼室(6)につながる遷移オリフィス(7)に隣接するシリンダヘッドに単一の排気弁(5)が示されている。排気弁(5)は、圧縮行程の初期にピストンにより吸気ポート(3)が閉じられた後にすぐに又は同時に閉じるべきである。
【0054】
離れた燃焼室(6)は、一例では、円筒形燃焼室の遠端に存在するスパークプラグなどの火花点火器(9)の方向に向けられる燃料噴射器(8)を収容する。ターボチャージャユニット106は、シャフトにより圧縮機インペラ(13)に接続されるタービンインペラ(10)を有する。エンジンは、燃料を伴わずにポート(3)に到達してユニフロー掃気をもたらすのに比較的低圧の空気を必要とし、より低MEP用に設計されたエンジンでは、インペラ(13)は、遠心圧縮機インペラの代わりに、ファンはタービンからより小さいエネルギーを必要とすることになるので、中程度の圧力上昇を与えるべく、ファンとして設計されてよい。一例では、ロータシャフトは、もしその必要があるときにはその回転慣性モーメントを増加させるために、はずみ車(14)に取り付けることもできる。排気ダクト(11)は、エンジンがNOx閾値を超えるより高いMEP値で運転することを意図されている場合に、図示していない触媒コンバータに接続することもできる。圧縮機インペラへの吸気口が(12)で示され、圧縮機からの出口はすべての2Sシリンダのすべての吸気ポートと接続する。タービン(10)への入口は、2Sシリンダと4Sシリンダとの両方の、すべてのエンジンのシリンダのすべての排気弁出口に接続される。
【0055】
同じエンジンブロックにおいて4Sサイクルで動作するシリンダは図示していないが、図1に示した構成と非常に類似しており、吸気ポート3だけが欠如しており、それらはシリンダにドリル加工される必要はない。クランク半径及びシリンダボアは、好ましくは、両方のタイプのシリンダに関して同じとなる。燃焼室(6)は、非常に類似しており、もしかすると2Sシリンダでのサイズよりも僅かに小さいが、好ましくは同じ幾何学的形状を有する。4Sシリンダは、シリンダヘッドの排気弁(5)の近傍に存在する吸気弁21を有することになる。4Sシリンダの吸気弁は、最大量の空気が2Sシリンダに送達されることを可能にするべく圧縮機(13)出口に接続されない。
【0056】
4Sの吸気口に圧縮機から供給されることを可能にする他の構成が可能であるが、これが望まれる場合、ガス生成シリンダで排気エネルギーを高める必要性が増加し得る。例えば、エンジンは、1つのシリンダが4Sであり、且つ他のシリンダがVVTカムを備えるガス発生2Sである、3つのシリンダを備えることもできる。
【0057】
使用中に、エンジンは、スタータモータを用いて始動され、始動/アイドリング状態では、アイドリングを可能にするべく4Sシリンダにのみ燃料が供給される。メリット4Sエンジンは、100回転/分程度の遅いアイドリングが可能であることがわかっている。ドライブオフするために、より多くの燃料が4Sシリンダに供給され、そのVVTが、ターボチャージャの出力空気圧を増加させるべく排気弁を開くのを早める。切り替えポイントで、その排気弁もVVTを用いて早められる2Sガス発生シリンダのうちの1つに燃料が供給される。次いで、残りの2Sシリンダに燃料を供給することによりパワー出力が増加される。エンジン速度が増加する際に、VVT動作が終わり、すべてのシリンダのMEPができる限り同じに保たれる。
【0058】
始動/アイドリング状態からドライビング状態への切り替えポイントは、4Sシリンダに与えられる燃料の量を監視することにより簡単に決定される。
【0059】
ドライビング状態では、2Sと4Sとの両方の、シリンダのすべてに燃料が供給される。
【0060】
4ストロークシリンダは2ストロークシリンダと交換可能ではないことが本発明の特徴である。しかしながら、クランクシャフトの2回転おきに2ストロークシリンダに燃料を供給し、ゆえに4ピストン行程おきに仕事行程を行うことができる。
【0061】
この例示では、エンジンコントローラは、すべてのシリンダに送達される最大燃料量を、約100%過剰空気で燃焼が起こるときに約6バールのMEP値に制限する。これは、排気がNOxを含有せず、効率が非常に高く、燃焼が完全であり、車の排気から一酸化炭素、煤、又は未燃の燃料などの有害物質が排出されないことを保証する。このようにして制御される車は、触媒コンバータを使用する必要がない。
【0062】
一部の国々では、NOxの排出量は、広々とした土地での高速道路上でより高速で走行するときに許容される場合がある。このような国々では、コントローラは、エンジン速度及びギヤ位置を検出することができ、燃料送達を最大MEPに向けて増加させることを可能にする。
【0063】
このポイントを例示するのに簡略化した数値例を用いることができる。4気筒エンジンの総行程容積が2リットルの場合、1.5リットルが2Sとして動作するので、このエンジンは3.5リットルの4Sエンジンと同等の出力を発揮することができる。4Sエンジンが40kW/リットルを発揮する場合、組み合わせは、このとき、最大MEPで140kW、及び100%過剰空気でNOx閾値を下回る状態で70kWを発揮する能力を有する。ほぼ同一のサイズの4Sエンジンは、燃料からの80/0.24=333kWのエネルギーを必要とする標準的な都市走行で24%の平均効率で80kWを発揮し、それに比べて、本発明に係るエンジンは45%の予測効率で70/0.45=155kWを必要とし、使用される燃料及び排出されるCOの量を半分以下に減少させる。
【0064】
ゆえに、本発明に係るエンジンは、NOxを除去するのに触媒コンバータを必要とせずに、都市走行で半分未満の量のガソリンを用いて、車のボンネットの下で同様のスペースを占める状態で、80kWの代わりに70kWを発揮することができる。
【0065】
有利なことに、本発明のエンジンは、2ストロークエンジンで一般に必要とされる潤滑のための燃料添加剤を必要としない。
【0066】
有利なことに、2ストロークシリンダは吸気弁を有さず、これは構造を簡単にする。
【0067】
図3は、2Sシリンダの効果的な掃気を支援するのに必要であれば用いることができる付加的なツールを例示する。プレナムチャンバ(20)は、円滑な圧力変動のための空気容量を与えることができる。高MEPで排気からNOxを除去するのに触媒コンバータの使用が必要とされる場合に、絞り弁(15)が必要な場合がある。これを達成するのに用いられる方法は、国際特許公報番号:WO2017/085440A1で説明される。排気弁(5)を開くときに吸気ポート(3)を通る排気ガスの流出を止めるのにリード弁などの逆止め弁(16)が必要な場合がある。一部のエンジン用途では、例えばハイブリッド電気車では、補助空気ポンプを用いて追加の吸気空気の流れ(図4に矢印I’で示される)をもたらすことにより始動を支援するのに、弁(17)により作動される補助吸気管が必要とされる場合がある。アイテム(14、15、16、17、及び20)は、エンジンの運転のために不可欠ではないが、特定のエンジン用途で利点を提供し得る。
【0068】
図3はまた、燃料噴射器8に関する代替的な位置及び配向を示す。エンジンの始動を可能にするために、4Sシリンダ104の燃料噴射器8は、燃焼室6の近端に存在し、参照番号8Aで示されるように、燃焼室6の遠端で燃料スプレーをスパークプラグ9の方に送達するように配向される。この位置及び配向は、シリンダ104がエンジンを始動する及び低速でアイドリングすることを可能にする。これはまた、2Sシリンダでの噴射器に関する可能な位置及び配向である。
【0069】
しかしながら、2Sシリンダに関して、噴射器は、代替的に、参照番号8Bで示されるように、燃料を遷移オリフィス7から出てくるエアジェットへ送達するように配置及び配向することができる。図3では、燃料噴射器8Bは、遷移オリフィスの方に向けられ、燃料を遷移オリフィス7から出てくるエアジェットにほぼ沿って遷移オリフィス7へ送達する。
【0070】
図示していない排気弁(5)を動作させるカムシャフトは、図示していない1つ又は複数の4ストロークシリンダにも応えるために、180度離れた、半分のエンジン速度で回転する、2つのローブを有することになる。選択されたカムローブは、もし必要なときには、シリンダをガス発生器として作動させるためにVVT装置を装備してよい。
【0071】
図2は、本発明に係る3気筒メリットエンジンのシリンダヘッド108の例を示し、この場合、1つのシリンダ104は、4Sサイクルで動作し、2つの弁、すなわち排気弁(5)と吸気弁(21)と共に示されており、残りのシリンダ102は、2Sサイクルで動作し、1つだけの弁(5)と共に示されている。ヘッドの下のシリンダが破線で示されている。各燃焼室(6)は、ヘッドに挿入された管として示されており、燃料噴射器(8)とスパークプラグ(9)は、両方の端で管に挿入された円筒形プラグ内に存在する。燃焼室に接線方向に入る遷移オリフィス(7)が示されている。ボルト又はスタッドなどのファスナ22が、シリンダヘッド108をシリンダブロック(図示せず)に固定する。立面図は、弁と燃焼室キャビティ(6)が並んで存在する状態で、設計の簡潔さを例示している。実際の弁及びカムシャフト構成は、多くの4ストロークエンジンに典型的であり、当業者によく知られているので、図示していない。
【0072】
図4は、図2のシリンダがターボチャージャ106とどのように連通するかを例示している。3つのシリンダはすべて、それらの排気ガスを矢印Eで示されるようにタービン(10)の入口へ送り、この排気ガスは、ダクト11を介してタービン10を出る。吸気空気は、吸気口12を介して圧縮機/インペラ13へ吸い込まれ、圧縮機/インペラ13は、この空気を、矢印Iで示されるように2つの2Sシリンダ吸気ポートにのみ送達する。4Sシリンダの空気取入口は、矢印Iで示されるように、圧縮機/インペラ13とは接続されない。他の構成も、その2つに接続し、もしかするとターボチャージャに入力されるエネルギーを増強するのにガス発生シリンダを用いる場合があるが、例示した構成は、2Sシリンダに圧縮機からの最大空気出力を与える。
【0073】
本発明の範囲から逸脱することなく種々の他の修正がなされ得る。例えば、エンジンは、それぞれのうちの1つが存在する限り、2及び4ストロークシリンダの任意の適切な数の組み合わせを備えることもできる。一例では、エンジンは、1つのシリンダ、すなわちフロントシリンダが4Sであり、他の3つのシリンダが2Sである、車に装備される4気筒エンジンを含むことができる。
【0074】
一例では、4ストロークサイクルで動作するシリンダの又はそのうちの1つの又はそれぞれの吸気弁は、ターボチャージャ圧縮機(13)から空気を受け入れることもできる。
【0075】
一例では、本発明のエンジンは、一方が4ストロークサイクルで動作するシリンダを備え、他方が2ストロークサイクルで動作するシリンダを備える、2つの別個のクランクケースを備えることができる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】