特表2019-537674(P2019-537674A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2019-537674化学パルプ工場内でのスラッジの水熱炭化のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2019-537674(P2019-537674A)
(43)【公表日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】化学パルプ工場内でのスラッジの水熱炭化のための方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 11/04 20060101AFI20191129BHJP
   C10L 9/08 20060101ALI20191129BHJP
   C10L 5/44 20060101ALI20191129BHJP
   C02F 11/10 20060101ALI20191129BHJP
   C02F 11/08 20060101ALI20191129BHJP
【FI】
   D21C11/04 AZAB
   C10L9/08
   C10L5/44
   C02F11/10 Z
   C02F11/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-518213(P2019-518213)
(86)(22)【出願日】2017年9月26日
(85)【翻訳文提出日】2019年5月22日
(86)【国際出願番号】SE2017050932
(87)【国際公開番号】WO2018067055
(87)【国際公開日】20180412
(31)【優先権主張番号】1651305-3
(32)【優先日】2016年10月5日
(33)【優先権主張国】SE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】517456923
【氏名又は名称】シー − グリーン テクノロジー エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルンドクヴィスト、フレドリク
(72)【発明者】
【氏名】オーデン、エリク
(72)【発明者】
【氏名】エーマン、フレドリク
【テーマコード(参考)】
4D059
4H015
4L055
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059AA30
4D059BB03
4D059BC03
4D059CA09
4D059CA21
4D059EB05
4H015AA04
4H015AB01
4H015BB04
4H015BB05
4H015CA03
4H015CB01
4L055BC04
4L055EA22
(57)【要約】
スラッジ流の水熱炭化HTCのステップを含む、化学パルプ工場内でのスラッジの処理のための方法及びシステムであって、上記スラッジ流が、HTC設備内へ供給され、昇温及び圧力を受け、少なくとも1つの固体留分、少なくとも1つの液体留分、及び少なくとも1つのガス留分を生成し、上記固体留分が、上記パルプ工場の発電ボイラに供給され、蒸気を発生させるために燃やされ、上記液体留分が、パルプ工場からの淡黒液と組み合わされ、上記パルプ工場の黒液蒸発器に供給され、結果として生じる濃縮黒液が、上記パルプ工場の回収ボイラ内で燃やされる、方法及びシステム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラッジ流の水熱炭化(HTC)のステップを含む、化学パルプ工場内でのスラッジの処理のための方法であって、
前記スラッジ流が、HTC反応器を備えるHTC設備内へ供給され、昇温及び圧力を受け、少なくとも1つの固体留分、少なくとも1つの液体留分、及び少なくとも1つのガス留分を生成し、
前記少なくとも1つの固体留分が、前記パルプ工場の発電ボイラに供給され、蒸気を発生させるために燃やされ、
前記少なくとも1つの液体留分が、前記パルプ工場からの淡黒液と組み合わされ、前記パルプ工場の黒液蒸発器に供給され、
結果として生じる濃縮黒液が、前記パルプ工場の回収ボイラ内で燃やされる、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記HTC設備からの前記少なくとも1つのガス留分が、空気と組み合わされ、結果として生じる混合ガスが、前記発電ボイラに供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発電ボイラによって生成される前記蒸気の一部が、前記HTC反応器、又は前記反応器へのスラッジの流入物を加熱するために使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記HTCステップにおける昇温が、180〜350℃、好ましくは180〜300℃、最も好ましくは180〜230℃の区間の温度である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記化学パルプ工場が、クラフト法(硫酸塩法)に従って運転し、前記スラッジが、前記パルプ工場からの廃水の処理からの生物スラッジを含む、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水熱炭化(HTC)反応器を備える、化学パルプ工場からのスラッジの処理のためのシステムであって、前記システムが、
前記スラッジを前記HTC反応器内に取り込むための設備と、
前記スラッジを加熱するための加熱器と、
少なくとも1つの固体留分、少なくとも1つの液体留分、及び少なくとも1つのガス留分を生成するための、前記HTC反応器内又は前記HTC反応器の下流の分離設備と、
前記少なくとも1つの固体留分を前記パルプ工場の発電ボイラに供給するための供給設備と、
前記少なくとも1つの液体留分を前記パルプ工場の黒液蒸発器に供給するための供給設備と、をさらに備えることを特徴とする、システム。
【請求項7】
前記システムが、前記少なくとも1つのガス留分を空気と組み合わせ、結果として生じる混合ガスを前記発電ボイラ内に供給するための設備を備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記システムが、前記発電ボイラからの蒸気を受け取るように配置される加熱器を備え、前記加熱器が、前記HTC反応器を加熱するように、又は前記反応器へのスラッジの流入物を加熱するように適合される、請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
前記化学パルプ工場が、クラフト法(硫酸塩法)に従って運転し、前記スラッジが、前記パルプ工場からの廃水の処理からの生物スラッジを含む、請求項6から8までのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記システム又は前記システムの部分が、移動式ユニット内、好ましくは輸送コンテナ内に収容される、請求項6から9までのいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、化学パルプ工場内で発生するスラッジの処理に関し、具体的には、上記スラッジの水熱炭化のステップを伴い、結果として生じる固体及び液体留分を発電ボイラ及び回収ボイラにそれぞれ供給し、このようにしてパルプ工場のための水蒸気発生におけるスラッジ取り扱いを統合する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶解物質を含む、固体及び水のスラリであるスラッジは、都市及び産業廃水処理プラント内での廃水処理後に残るものである。産業廃水処理プラントは、例えば、紙パルプ工場、産業用食料生産施設などの異なる産業プロセスからの水廃物を処理する。使用中のすべての廃水処理プラントは、何らかの方法で取り扱われる必要のあるスラッジを発生させる。スラッジは、脱水後にプラントから直接回収されるか(好気性スラッジ)、又は、バイオガス製造のためにまず嫌気的に処理されるかのいずれかであり、バイオガス製造では、スラッジの一部は消化され、残りは生物スラッジとも呼ばれる嫌気性スラッジとして回収される。
【0003】
紙パルプの製造においては、大量の廃水が発生する。これらは、深刻な環境汚染を回避するために、適切に取り扱われなければならない。紙パルプ工場における現在の廃水処理は、沈降、化学沈殿、浮揚、及び生物処理を組み合わせており、ここでは、技術の特定の組み合わせが地域状況によって決定される。不可避的に、廃水処理は、大量のスラッジを発生させる。
【0004】
化学紙パルプ工場内でのスラッジ、特に、生物スラッジとも呼ばれる、液体排出物の生物処理からの過剰スラッジの取り扱いは、大きな問題であり、トンあたりのスラッジの処理には膨大な個別費がかかる。今日では、使用されている主な解決策は3つあり、これらすべてが、特定の欠点と関連付けられる。
【0005】
スラッジは、パルプ工場の発電ボイラ内で焼却処分され得、紙パルプ作製プロセスに必要な蒸気の生成に貢献する。これは、スラッジの無機含有物が、クローズドのパルプ工場サイクル内に取り込まれることを回避するという利点を有する。排煙及び灰の好適な処理により、有害な化学物質及び重金属は、中和され得るか、又は回収さえされ得る。しかしながら、高濃度の有機及び/又は生体成分を有するスラッジは、一般的には、脱水するのが非常に困難である。含水量がしばしば非常に高いため、発電所内で焼却処理された場合の正味発熱量は、非常に低いか、又はマイナスのことさえある。したがって、スラッジの燃焼は、発電ボイラに対する負荷を増大させるだけでなく、補助燃料を必要とする。
【0006】
さらには、湿潤スラッジの取り扱いは、病原体への曝露、臭い、及び有毒な硫化水素ガスの形成に起因して問題がある。スラッジの熱乾燥は、スラッジ内の潜熱とほぼ同じ量の熱を消費する。したがって、これは、経済的に魅力のある代替案ではない。したがって、現在、スラッジは、その高含水量に起因する低品質の生物燃料と見なされていると言ってもよく、結果として、一部のパルプ工場は、スラッジを単に廃棄問題として取り扱う。
【0007】
別の代替案は、回収ボイラ内での燃焼である。スラッジは、まず、熱及びアルカリで加水分解され、次いで、黒液と混合され、その後、この混合物を蒸発器に供給して、回収ボイラ内での燃焼の前にその乾燥固体含有量を増加させる。この代替案の利点は、多重効用蒸発プラントが、回収ボイラ内での燃焼の前にスラッジを脱水するために使用され得、スラッジのエネルギー含量が利用されるということである。しかしながら、これは、多くの場合、アルカリが充填される前加水分解処理を必要とする。スラッジからの灰は、リン及びシリカなどの不活性成分を含有し、この不活性成分は、石灰サイクル内で蓄積し、石灰作製需要の増大のもとになる。加えて、取り扱われるべき使用済み石灰の量が増大する。したがって、最終的にこの代替案は、トンあたりのスラッジの処理の膨大な固定取扱費と関連付けられる。
【0008】
加えて、スラッジは、腐食、汚染、緑液かす及び石灰泥のより劣悪な脱水特性など、パルプ工場内で問題を引き起こし得るアルミニウム、カルシウム、鉄、カリウム、及び塩化物などの、膨大な量の他の非プロセス元素(NPE:Non−Process Element)を含有する。これらの各々が、パルプ工場の運転費及び保守要件を大幅に増大させるのは必至である。
【0009】
最後に、スラッジは、例えば、埋め立て若しくは埋め立て覆材として、肥料として、又は土壌代替品として、外用に指定され得る。しかしながら、これは、大量の高含水率物質の輸送を含むことから、費用的及び環境的にあまり魅力のある処理を意味しない。加えて、スラッジが腐敗すると、大気への亜酸化窒素及びメタンの高排出がある。メタンは温室効果ガスであり、二酸化炭素ほどは大気内に存在しないが、メタンがいかに効果的に熱を吸収するかが理由で、最初に、気候に対してはるかに破壊的である。要するに、メタン排出は最小限にされなければならないということである。
【0010】
湿潤焙焼としても知られる水熱炭化(HTC:Hydrothermal Carbonization)は、組成が石炭に類似している炭化した物質の製造において使用される熱化学プロセスである。それは、スラッジなどの、湿潤の炭水化物原料を、クローズドシステム内で昇温(180℃〜350℃)及び圧力(最大2〜5MPa)に曝すことを伴う。結果として生じる生成物は、砕けやすく、疎水性であり、且つ出発物質と比較して著しく増大したエネルギー密度を有する生成物である、バイオ炭としばしば称される。
【0011】
WO2015/025076(Valmet Technologies Oy)は、パルプ工場におけるHTCプロセスの応用に関する。本応用によると、リグニンは、パルプ工場黒液などのリグニンを含有する液体培地から分離され、さらなる処理を受ける。本方法は、少なくとも以下のステップ:a)リグニンを沈殿させるためにpH低下剤がリグニン含有スラリに添加される、沈殿ステージ、b)沈殿されたリグニンがリグニン含有スラリの残りの液相からリグニンケークとして分離される、続く第1の分離ステージ、c)リグニン懸濁液を得るためにリグニンケークが懸濁される、懸濁ステージ、d)炭素含有物質のスラリを得るためにリグニン懸濁液が処理される、水熱炭化ステージ、及びe)炭素含有物質がスラリから分離される、第2の分離ステージを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2015/025076
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Dahlbom,J.、Effekter av PFG vid indunstning och forbranning av bioslam i ett massabruks sodapanna(英語訳:Effects of Non Process Elements in the chemical recovery system of a kraft pulp mill from the incineration in the recovery boiler of biological sludge)、Rapport 798、Varmeforsk Service AB、S2−226、2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
化学紙パルプ工場スラッジ、特に、生物スラッジの水熱炭化は、プロセスのいくつかの非直感的な適合が実施されることを前提として化学紙パルプ工場内に効果的に統合され得ることが分かっている。結果として生じるシステムは、エネルギー効率が良く、紙パルプ作製プロセスのための蒸気の生成に好ましく貢献し、スラッジ体積が著しく低減される、又は除去さえされるという点で、大きな問題を除去する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様は、スラッジ流の水熱炭化(HTC)のステップを含む、化学パルプ工場内でのスラッジの処理のための方法に関し、
−上記スラッジ流が、HTC反応器を備えるHTC設備内へ供給され、昇温及び圧力を受け、少なくとも1つの固体留分、少なくとも1つの液体留分、及び少なくとも1つのガス留分を生成し、
−上記少なくとも1つの固体留分が、上記パルプ工場の発電ボイラに供給され、蒸気を発生させるために燃やされ、
−上記少なくとも1つの液体留分が、パルプ工場からの淡黒液と組み合わされ、上記パルプ工場の黒液蒸発器に供給され、
−結果として生じる濃縮黒液が、上記パルプ工場の回収ボイラ内で燃やされる。
【0016】
上記第1の態様の実施例によると、上記HTC設備からの上記少なくとも1つのガス留分は、空気と組み合わされ、結果として生じる混合ガスは、発電ボイラに供給される。
【0017】
上記第1の態様の別の実施例によると、上記と自由に組み合わせ可能に、液体留分は、黒液と組み合わされる前に、酸化を受ける。
【0018】
上記第1の態様の別の実施例によると、上記と自由に組み合わせ可能に、発電ボイラによって生成される蒸気の一部は、HTC設備、HTC反応器、又は上記反応器及び/若しくは設備へのスラッジの流入物のうちの1つ又は複数を加熱するために使用される。
【0019】
上の実施例において、上記HTCステップにおける昇温は、180〜350℃、好ましくは180〜300℃、最も好ましくは180〜230℃の区間の温度である。
【0020】
実施例によると、固体生成物内のNPEの富化を確実にする、又は最適化するために、水熱炭化反応におけるpHは、最も好ましくは5超のpHまで、制御される。
【0021】
別の実施例によると、上記実施例と自由に組み合わせ可能に、化学パルプ工場は、クラフト法(硫酸塩法)に従って運転する。好ましくは、問題のスラッジは、上記パルプ工場からの廃水の処理からの生物スラッジである。スラッジはまた、パルプ工場からのスラッジ、及び他のソースからの、例えば都市廃水処理からのスラッジの組み合わせであり得る。
【0022】
第2の態様は、HTC反応器を備える水熱炭化(HTC)設備を備える、化学パルプ工場からのスラッジの処理のためのシステムに関し、上記システムは、
−上記スラッジを上記反応器内に取り込むための設備と、
−上記スラッジを加熱するための加熱器と、
−少なくとも1つの固体留分、少なくとも1つの液体留分、及び少なくとも1つのガス留分を生成するための、上記HTC反応器内又は上記HTC反応器の下流の少なくとも1つの分離設備と、
−上記少なくとも1つの固体留分を上記パルプ工場の発電ボイラに供給するための供給設備と、
−上記少なくとも1つの液体留分を上記パルプ工場の黒液蒸発器に供給するための供給設備と、をさらに備える。
【0023】
上記第2の態様の実施例によると、本システムは、上記少なくとも1つのガス留分を空気と組み合わせ、結果として生じる混合ガスを上記発電ボイラ内に供給するための設備を備える。
【0024】
上記第2の態様の別の実施例によると、上記と自由に組み合わせ可能に、本システムは、上記発電ボイラから蒸気を受け取るように配置される加熱器を備える。好ましくは、上記加熱器は、上記HTC反応器を加熱するように、又は上記反応器へのスラッジの流入物を加熱するように適合される。
【0025】
上記第2の態様の別の実施例によると、他の実施例と自由に組み合わせ可能に、本システムは、液体留分の酸化のための反応器、並びに上記反応器内に酸化剤を供給するための補助装置、及び上記酸化において発生した熱を回収するための装置を備える。
【0026】
上記第2の態様の別の実施例によると、上記実施例と自由に組み合わせ可能に、化学パルプ工場は、クラフト法(硫酸塩法)に従って運転する。好ましくは、問題のスラッジは、上記パルプ工場からの廃水の処理からの生物スラッジである。スラッジはまた、パルプ工場からのスラッジ、及び他のソースからの、例えば都市廃水処理からのスラッジの組み合わせであり得る。
【0027】
さらに別の実施例によると、上記実施例と自由に組み合わせ可能に、本システムは、移動式ユニット内、好ましくは輸送コンテナ内に収容される。
【0028】
本発明の実施例は、説明、実例、及び添付の特許請求の範囲において、並びに図面において、以下にさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】HTCプロセスがどのようにして化学パルプ工場内に統合され得るかを概略的に例証する図である。
図2】HTC設備の構成要素、HTC反応器、及び補助装置を概略的に例証する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を説明する前に、本明細書で用いられる用語は、特定の実施例を説明するという目的のためだけに使用され、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲及びその等価物によってのみ制限されることから、制限することは意図されないということを理解されたい。
【0031】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈により別途明確に示されない限り、複数形を含むということに留意すべきである。
【0032】
背景技術のセクションで説明されるように、紙パルプの製造は、大量の廃水を発生させる。不可避的に、廃水処理は、大量のスラッジを発生させる。
【0033】
スラッジ、及び特に生物スラッジは、プロセス内で望ましくない、比較的高い濃度の無機化合物(非プロセス元素、NPE)を含有する。生物スラッジが、例えばパルプ工場への木材流入と比較すると、小さい流れであるとしても、高濃度のNPEは、パルプ工場への著しい総流入をもたらす。2003年に発行されたレポート内で、Johan Dahlbomは、クラフトパルプ工場の化学物質回収システムにおけるNPEの影響について論じている(Dahlbom,J.、Effekter av PFG vid indunstning och forbranning av bioslam i ett massabruks sodapanna(英語訳:Effects of Non Process Elements in the chemical recovery system of a kraft pulp mill from the incineration in the recovery boiler of biological sludge)、Rapport 798、Varmeforsk Service AB、S2−226、2003)。
【0034】
Dahlbomは、スウェーデンのパルプ工場内の総流入への生物スラッジ内のNPEの相対的な寄与について調査した。その結果が表1に示される。
【0035】
【表1】
【0036】
生物スラッジからの寄与が調査されたすべてのNPEについて著しいことは明白である。本発明者らは、本明細書に開示される方法及びシステムによって、この問題及び他の関連する問題に対処することに成功した。水熱炭化(HTC)が化学パルプ工場からのスラッジを処理するために適用されて、P及びSiなどの望ましくない無機化合物の大半を含有する、乾燥固体含有量の高い高エネルギーの固体生成物を生成することができ、この生成物が、蒸気及び工場の電力を生成するために工場発電ボイラ内で効率的に燃焼され得る、というのは驚くべき発見である。生成された蒸気の一部は、水熱炭化プロセスに燃料供給するために使用され得る。必要な場合、HTCオフガスが燃焼用空気と一緒に発電ボイラ内に取り込まれて、可能性のある有機残渣を破壊し、HTCプラント内のガス処理の費用を最小限にし得る。
【0037】
統合の可能性に起因して、本明細書に開示されるシステムは、好ましくは、発電ボイラにごく接近して構築される。既存のパルプ工場を改築するとき、又は新しい工場を計画及び建築するとき、本システムの統合は、本明細書において得られる助言を基に、当業者によって最適化され得る。既存のパルプ工場の場合、本明細書に開示されるようなシステムは、発電バーナの近くに置かれ、またそれに接続されることになる移動式ユニット内に提供されることが想起される。
【0038】
第1の態様は、スラッジ流の水熱炭化(HTC)のステップを含む、化学パルプ工場内でのスラッジの処理のための方法に関し、
−上記スラッジ流が、HTC反応器を備えるHTC設備内へ供給され、昇温及び圧力を受け、少なくとも1つの固体留分、少なくとも1つの液体留分、及び少なくとも1つのガス留分を生成し、
−上記少なくとも1つの固体留分が、上記パルプ工場の発電ボイラに供給され、蒸気を発生させるために燃やされ、
−上記少なくとも1つの液体留分が、パルプ工場からの淡黒液と組み合わされ、上記パルプ工場の黒液蒸発器に供給され、
−結果として生じる濃縮黒液が、上記パルプ工場の回収ボイラ内で燃やされる。
【0039】
化学パルプ工場内でのHTCプロセスの統合の一般的な実施例は、図1に例証され、ここでは、スラッジ流(A)がHTC設備(HTC)に供給され、そこから、結果として生じる液体留分(B)が、パルプ工場の黒液蒸発器に供給され、時には淡黒液とも称される薄黒液と混合される。結果として生じる固体留分は、次いで、回収ボイラ内で燃焼される。結果として生じる蒸気は、蒸発器を加熱するため、及びさらにはパルプ工場内の他のエネルギー需要のために使用され得る。結果として生じる固体留分(C)は、好ましくはHTCオフガス(D)と一緒に、パルプ工場の発電ボイラに供給される。発電ボイラによって生成される蒸気の留分(E)は、HTC設備、HTC反応器、又は入ってくるスラッジを加熱するために使用され得る。
【0040】
HTC設備は、好ましくは、図2に概略的に例証されるようないくつかの構成要素を備える。ここでは、破線は、図1では「HTCボックス」として単に示されるHTC設備の範囲を定める。HTC反応器(10)は、HTC設備の中心構成要素として示される。スラッジ(A)は、スラッジを受け取って希釈するための装置(50)、例えば、ミキサ付きタンク内のHTC設備内へ供給される。次いで、スラッジは、二重管式又はシェルアンドチューブ型の熱交換器など、任意の好適なタイプの熱交換器であり得る余熱器(60)内で余熱され得る。余熱器(60)は、好ましくは、1つ又は複数のフラッシュ回収ステップ(30)からの蒸気(E)によって加熱される。最終加熱器(70)は、好ましくは、HTC反応器(10)の直前に提供される。最終加熱器(70)は、好ましくは、発電ボイラからの蒸気(F)によって加熱される。余熱器及び最終加熱器のタイプ、構成、及び寸法の選択は、当業者によって行われ得る。
【0041】
1つの実施例によると、固体留分及び液体留分は、HTC反応器から直接採取される(図示されない)。図2に示される実施例においては、単一の液体HTC生成物が、HTC反応器(10)から採取され、1つ又は複数のステップにおいて分離を受ける。ここでは、この生成物は、まず、フラッシュ蒸気回収とも称されるフラッシュ蒸発(30)のステップ、続いて、固体/液体分離(40)の別のステップを受ける。フラッシュ蒸発ステップは、入ってくるスラッジを予熱するために使用され得る蒸気(E)を生成する。固体/液体分離(40)の第2のステップは、沈降ステップ、ろ過ステップ、フィルタプレス、固体/液体分離機スクリュー若しくは圧縮機、又は同様のものから選択され得る。1つの実施例において、例えば、フィルタプレスを使用するとき、固体留分は、60〜75%DSの区分まで濃縮され、液体留分は、10%DS未満を含有することになる。
【0042】
上記HTC反応器(10)はまた、水であり得る冷却液(G)が提供される凝縮器(20)に好ましくは供給されるオフガスを生成する。凝縮物は、スラッジ受け取り及び希釈ステップ(50)へ再循環され、オフガス(D)は、好ましくは、発電ボイラに供給されて燃焼される。任意選択的に、オフガスは、発電ボイラに供給する前に、空気、好ましくは圧縮空気と混合され得る。
【0043】
図2の破線内に示されるHTC設備は、HTCステップがどのようにしてパルプ工場内に統合されるかの例にすぎない。
【0044】
上記実施例において、言及されるスラッジ流は、化学パルプ工場内で発生するスラッジ流、又は、少なくとも一部が化学パルプ工場内で発生する異なるスラッジ流の組み合わせである。したがって、スラッジは、パルプ工場からのスラッジ、及び他のソースからの、例えば都市廃水処理からのスラッジの組み合わせであり得る。本方法及びシステムにおいて、化学パルプ工場からのスラッジは、工場の発電ボイラ内で効率的に燃焼され、蒸気及び工場の電力を生成するために使用され得る乾燥固体含有量の高い高エネルギーの固体生成物を生成するために使用される。興味深いことに、P及びSiなどの不活性成分の大半が、固体生成物内に含有される。
【0045】
実施例によると、固体生成物内のNPEの富化を確実にする、又は最適化するために、水熱炭化反応におけるpHは、好適なアルカリ化合物(例えば、黒液、使用済み石灰泥)によって、最も好ましくは5超のpHまで、制御される。Ca及びPなど、すでにpH5の元素は、プロセス水中でかなりの程度まで溶解し始める。さらなるpH調整、例えば、pHを中性又はアルカリpHまで増大させることは、好ましくは、HTC液体留分とHTC固体留分との間のNPEの分布に影響を与えるために実施される。
【0046】
第1の態様の実施例によると、通常は約15〜30%の有機物質を含有する、水熱炭化からの液体は、パルプ工場蒸発プラントに送られ、そこで、黒液と一緒に蒸発されて燃焼されることになる。そのエネルギー含量が、蒸発を駆動するのに少なくとも十分な蒸気を発生させ、さらにはパルププロセスのために余剰分も発生させる可能性が高いというのが利点である。水熱炭化プロセスにおいて、溶液は、最大およそ90℃まで加熱されることになり、したがって、それが蒸発器列内に取り込まれるときに余熱をほとんど必要としない。
【0047】
別の実施例によると、他の態様及び実施例と自由に組み合わせ可能に、水熱炭化からの液体は、黒液と組み合わされる前に酸化を受ける。酸化ステップは、上記第1の留分内への酸化剤の注入によって、180〜300℃、好ましくは230〜300℃の区間の温度で実施される。上記酸化剤は、好ましくは、酸素、過酸化水素、過炭酸塩、及び過炭酸、並びに好ましくは、空気、最も好ましくは圧縮空気などのガスを含有する酸素から選択される。
【0048】
上記第1の態様の別の実施例によると、HTC反応器からの上記少なくとも1つのガス留分は、空気と組み合わされ、発電ボイラに供給される。これは、ボイラに燃料を添加する、HTCガス内の可能性のある有機残渣の破壊を確実にする、及びHTCプラント内のガス処理のための費用を最小限にするという利点を有する。
【0049】
別の実施例によると、上記と自由に組み合わせ可能に、発電ボイラによって生成される蒸気の一部は、HTC反応器、又は上記反応器へのスラッジの流入物を加熱するために使用される。
【0050】
上の実施例において、上記HTCステップにおける昇温は、180〜350℃、好ましくは180〜300℃、最も好ましくは180〜230℃の区間の温度である。
【0051】
別の実施例によると、上記実施例と自由に組み合わせ可能に、化学パルプ工場は、クラフト法(硫酸塩法)に従って運転する。好ましくは、上記スラッジは、上記パルプ工場からの廃水の処理からの生物スラッジである。スラッジはまた、パルプ工場からのスラッジ、及び他のソースからの、例えば都市廃水処理からのスラッジの組み合わせであり得る。
【0052】
第2の態様は、水熱炭化(HTC)反応器を備える、化学パルプ工場からのスラッジの処理のためのシステムに関し、上記システムは、
−上記スラッジを上記反応器内に取り込むための設備と、
−上記スラッジを加熱するための加熱器と、
−少なくとも1つの固体留分、少なくとも1つの液体留分、及び少なくとも1つのガス留分を生成するための、上記HTC反応器の下流の分離設備と、
−上記少なくとも1つの固体留分を上記パルプ工場の発電ボイラに供給するための供給設備と、
−上記少なくとも1つの液体留分を上記パルプ工場の黒液蒸発器に供給するための供給設備と、をさらに備える。
【0053】
上記第2の態様の実施例によると、本システムは、上記少なくとも1つのガス留分を空気と組み合わせ、結果として生じる混合ガスを上記発電ボイラに供給するための設備を備える。上で述べたように、これは、可能性のある有機残渣が破壊され、それによりHTCプラント内のガス処理のための要件及び費用を最小限にするという利点を有する。
【0054】
上記第2の態様の別の実施例によると、他の実施例と自由に組み合わせ可能に、本システムは、液体留分の酸化のための反応器、並びに上記反応器内に酸化剤を供給するための補助装置、及び上記酸化において発生した熱を回収するための装置を備える。そのような装置は、圧縮空気を液体留分内に注入するための圧縮器を備え得る。気液分離器又は酸化液を冷却するためのフラッシング設備も含まれ得る。
【0055】
別の実施例によると、上記と自由に組み合わせ可能に、本システムは、上記発電ボイラから蒸気を受け取るように配置される加熱器を備える。好ましくは、上記加熱器は、上記HTC反応器を加熱するように、又は上記反応器へのスラッジの流入物を加熱するように適合される。
【0056】
別の実施例によると、上記実施例と自由に組み合わせ可能に、化学パルプ工場は、クラフト法(硫酸塩法)に従って運転する。好ましくは、上記スラッジは、上記パルプ工場からの廃水の処理からの生物スラッジである。スラッジはまた、パルプ工場からのスラッジ、及び他のソースからの、例えば都市廃水処理からのスラッジの組み合わせであり得る。
【0057】
本システムは、好ましくは、パルププラント内で統合され、例えば、新しいプラント内に構築されて完全に統合されるか、又は既存のプラントへのアドオンとして統合される。さらに別の実施例によると、上記実施例と自由に組み合わせ可能に、本システムは、移動式ユニット内、好ましくは輸送コンテナ内に収容される。これは、好ましくは、発電ボイラにごく接近して置かれる。
【0058】
現在のところスラッジが黒液と混合され、蒸発され、回収ボイラ内で燃焼される、Dahlbomによって研究されたようなクラフトパルプ工場において、このプロセスの導入は、工場のクローズドサイクルへのNPE流入に対して非常にプラスの影響を有することが想起される。スラッジ流全体ではなくHTC液のみを再生利用することにより、工場のクローズドサイクルへのAl、Si、P、Ca、Cl、及びFeの総流入量をそれぞれ23、17、11、6、6、及び10%減少させる。
【0059】
これは、新たな石灰作製の必要性、及び排出石灰取り扱いの両方を0.4〜1t/t DSスラッジだけ低減する。塩化物の減少は、回収ボイラ熱伝達面の腐食及び汚染に対してプラスの影響を有する。Al、Si、及びCaの減少は、黒液蒸発器表面への汚染に良い影響を及ぼすだけでなく、緑液かす及び石灰泥のろ過特性を向上させる。
【0060】
本明細書に開示されるような方法又はシステムにおいて、HTC生成物は、高い乾燥固体含有量で工場発電ボイラ内で燃焼されて、HTCプロセスを駆動するための蒸気、並びに工場内で使用され得る蒸気余剰分を発生させる。HTC液は、黒液と一緒に蒸発され、溶存有機物は、回収ボイラ内で燃焼されて、蒸発を駆動するのに十分な蒸気を発生させる。このようにして、スラッジのエネルギー含量が効率的に使用されると同時に、化学パルプ工場のクローズドサイクルへのNPE流入に関連する問題を回避する。
【0061】
液体留分の酸化のステップを含むことにより、液体留分から蒸気の形態で熱を取り出すことを可能にし、パルプ工場の加熱要件、又はHTCプロセスの加熱要件に寄与する。酸化ステップはまた、黒液と混合する前に液体体積を減少させることを可能にする。加えて、酸化ステップは、液体留分内に化学反応、例えば、様々な化学物質の分解を生じさせる。
【0062】
他の利点は、実例、特許請求の範囲、及び図面を含む本開示の研究により当業者にとっては明白である。
【0063】
「実例1」
スウェーデンのパルプ工場からの生物スラッジのHTC処理
スウェーデンのパルプ工場からの生物スラッジを、撹拌した0.5lバッチ反応器内で200℃の温度で水熱炭化により処理した。生物スラッジを反応器内に充填し、炭化温度まで加熱した。炭化後、反応器を素早く冷却し、結果として生じるスラリをろ過した。固体生成物及び液体生成物について別個の分析を行い、それぞれの相におけるNPEの分布を決定した。
【0064】
表2を参照すると、結果は、固体HTC生成物内での重要なNPEの著しい富化を示した。したがって、黒液蒸発器へのHTC液の再生利用は、クローズドのパルプ工場サイクル内でのNPE量に対する影響が非常に小さいまま可能である。
【0065】
【表2】
【0066】
炭化前後に、ブフナー漏斗にスラリの試料を注ぐことによって、脱水特性を試験した。ろ過は、kg DS/m2フィルタ表面×hとして測定した。HTC処理したスラリは、元の生物スラッジと比較して著しく改善した(300%超)脱水特性を呈した。これは、最大で65〜75%の乾燥固体含有量までの効率的な機械脱水を可能にする。またこれは、工場の発電ボイラ内の燃焼によりスラッジ内のエネルギー含量の有効利用を可能にし、ここでは、NPEの主な含有量は灰の中に見られる。
【0067】
さらなる詳細化なしに、当業者は、実例を含む本説明を使用して、本発明を最大限に利用することができると考えられる。また、本発明は、発明者らに現在知られている最良の形態を構成するその好ましい実施例に関して本明細書に開示されているが、当業者には明らかであるような様々な変形形態及び修正形態が、添付の特許請求の範囲に明記される本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解されたい。
【0068】
したがって、様々な態様及び実施例が本明細書に開示されているが、他の態様及び実施例が当業者には明白である。本明細書に開示される様々な態様及び実施例は、例証の目的のためであり、制限することは意図されず、真の範囲及び趣旨は、以下の特許請求の範囲によって示される。
図1
図2
【国際調査報告】