(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-503842(P2020-503842A)
(43)【公表日】2020年2月6日
(54)【発明の名称】GDF15様生物活性の調節因子をスクリーニングするための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20200110BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20200110BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20200110BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20200110BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20200110BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20200110BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20200110BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20200110BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20200110BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20200110BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20200110BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20200110BHJP
【FI】
C12Q1/02ZNA
C12N5/10
A61K45/00
A61P3/06
A61P3/10
A61P3/04
A61P13/12
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2019-519691(P2019-519691)
(86)(22)【出願日】2017年10月11日
(85)【翻訳文提出日】2019年4月25日
(86)【国際出願番号】US2017056069
(87)【国際公開番号】WO2018071493
(87)【国際公開日】20180419
(31)【優先権主張番号】62/407,046
(32)【優先日】2016年10月12日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】アームストロング,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ベック,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】チャベス,ホセ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】チン,チェン−ニ
(72)【発明者】
【氏名】ディン,サイ
(72)【発明者】
【氏名】ファーマン,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】フソブスキ,マット
(72)【発明者】
【氏名】リン−シュミット,シエファン
(72)【発明者】
【氏名】マリカン,シャノン
(72)【発明者】
【氏名】ラングワラ,シャミナ
(72)【発明者】
【氏名】サウス,ビッキー
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045DA36
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ27
4B063QR07
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4B065AA90X
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4B065BA02
4B065BD39
4B065CA44
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA70
4C084ZA81
4C084ZC33
4C084ZC35
(57)【要約】
GDF15の新規受容体(GFRAL)、並びにGDF15のアゴニスト又はアンタゴニストの同定又はスクリーニングにおけるこの受容体の使用を特定した。これらのアゴニスト又はアンタゴニスト化合物は、それぞれ細胞及び生体レベルでGDF15様効果を増強するか又は抑制するのいずれかのために使用され得、肥満症、2型糖尿病、高血糖症、高インスリン血症、脂質異常症、糖尿病性腎症、又は食欲不振を含む代謝性疾患の治療に使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GDF15アゴニスト活性を有する化合物をスクリーニングする方法であって、前記化合物が、GFRAL媒介シグナル伝達を誘導する能力を有する、前記方法。
【請求項2】
GDF15アンタゴニスト活性を有する化合物をスクリーニングする方法であって、前記化合物が、GFRAL媒介シグナル伝達を減少させる能力を有する、前記方法。
【請求項3】
前記方法が、
(a)GFRALを含む細胞を試験化合物と接触させる工程と、
(b)GFRALタンパク質の発現を欠く対照細胞を前記試験化合物と接触させる工程と、
(c)前記試験細胞及び前記対照細胞におけるGDF15生物活性のレベルを測定する工程と、
(d)前記試験細胞及び前記対照細胞において、前記試験化合物の存在下で、GDF15生物活性の前記レベルを比較する工程と
を含み、
前記対照細胞と比較した前記試験細胞における前記GDF15生物活性の前記レベルの増加が、前記試験化合物がGDF15アゴニスト活性を有することを示し、
前記対照細胞と比較した前記試験細胞における前記GDF15生物活性の前記レベルの低下が、前記試験化合物がGDF15アンタゴニスト活性を有することを示す、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、
(a)GFRALタンパク質を発現する試験動物を試験化合物と接触させる工程と、
(b)GFRALタンパク質の発現を欠く対照動物を前記試験化合物と接触させる工程と、
(c)前記試験動物及び前記対照動物における体重又は食物摂取量を測定する工程と、
(d)前記試験動物及び前記対照動物において、前記試験化合物の存在下で、体重又は食物摂取量を比較する工程と、を含み、
前記対照動物と比較した前記試験動物における前記体重又は食物摂取量の減少が、前記試験化合物がGDF15アゴニスト活性を有することを示し、
前記対照動物と比較した前記試験動物における前記体重又は食物摂取量の増加が、前記試験化合物がGDF15アンタゴニスト活性を有することを示す、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記GDF15生物活性が、チロシンのリン酸化を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記GDF15生物活性が、Aktのリン酸化を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記GDF15生物活性が、Erk1/2のリン酸化を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記GDF15生物活性が、PLCγ1のリン酸化を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記GDF15生物活性の前記レベルを測定することが、レポーターシグナルのレベルを測定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、化合物のライブラリーの一部である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物が、組成物である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が、融合タンパク質である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項13】
GFRALが、ヒトGFRAL細胞外ドメイン配列に対して少なくとも94%の同一性を有する配列を含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項14】
GDF15アゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするためのキットであって、GFRALタンパク質を発現することができる細胞と、GDF15アゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするための方法で前記キットを使用するための説明書とを含む、前記キット。
【請求項15】
前記GFRALタンパク質を発現することができる細胞が、安定的又は一過性にトランスフェクトされた細胞である、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
GDF15アンタゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするためのキットであって、GFRALタンパク質を発現することができる細胞と、GDF15アンタゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするための方法で前記キットを使用するための説明書とを含む、前記キット。
【請求項17】
前記GFRALタンパク質を発現することができる細胞が、安定的又は一過性にトランスフェクトされた細胞である、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
請求項1又は2に記載の方法によって同定された化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、代謝障害を治療する方法。
【請求項19】
前記代謝障害が、2型糖尿病、高血糖症、高インスリン血症、肥満症、脂質異常症、及び糖尿病性腎症からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、代謝障害の薬物の研究分野に関する。より具体的には、本発明は、GDF15に作動又は拮抗することができる化合物を同定するための方法、及びこれらの方法を実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
GDF15は、TGFβファミリーのメンバーであり、25kDaのホモダイマーとして血漿中を循環する分泌タンパク質である。GDF15の血漿中濃度は、多くの個体で150〜1150pg/mLの範囲である(Tsai et al.,J Cachexia Sarcopenia Muscle.2012,3:239〜243)。GDF15の血漿中濃度は、怪我、心血管系疾患、及びある種のがんの条件下で上昇する。この上昇は、細胞保護的な機構であると考えられている。GDF15の高い血漿中濃度は、がんにおける食欲不振及び悪液質による体重減少、また腎不全及び心不全における体重減少と関連している。臨床試験では、GDF15の濃度は、肥満で非糖尿病の対象におけるインスリン抵抗性の独立予測因子であった(Kempf et al.,Eur.J.Endo.2012,167:671〜678)。双子における研究により、双子のペアにおけるGDF15の濃度の差が、そのペアにおけるBMIの差に相関していることが示され、これはGDF15がエネルギーホメオスタシスの長期的な調節因子として機能していることを示唆している(Tsai et al.,PLoS One.2015,10(7):e0133362)。
【0003】
GDF15は、いくつかの心血管疾患及び他の疾病状態のバイオマーカーとして広く研究されてきたが、GDF15の保護的役割もまた、心筋肥大及び虚血性損傷において記載されている(Collinson,Curr.Opin.Cardiol.2014,29,366〜371;Kempf et al.,Nat.Med.2011,17:581〜589;Xu et al.,Circ Res.2006,98:342〜50)。GDF15は、1型及び2型糖尿病のマウスモデルにおいて、腎尿細管及び腸への傷害からの保護において重要な役割を果たすことが示されている(Mazagova et al.,Am.J.Physiol.Renal Physiol.2013;305:F1249〜F1264)。GDF15は、加齢に伴う感覚及び運動ニューロンの喪失に対する保護作用を有することが示されており、末梢神経傷害後の回復を改善する(Strelau et al.,J.Neurosci.2009,29:13640〜13648;Mensching et al.,Cell Tissue Res.2012,350:225〜238)。実際、GDF15トランスジェニックマウスは、その同腹のコントロールよりも長い寿命を有することが示されており、これは、この分子が長期生存因子として提供され、有利であることを示唆し得る(Wang et al.,Aging.2014,6:690〜700)。
【0004】
多くの報告で、GDF15タンパク質による処理によりマウスモデルにおいて耐糖能及びインスリン感受性の改善が示されている。GDF15を過剰発現するトランスジェニックマウスの2つの独立した系統は、体重及び体脂肪量の減少、並びに耐糖能の改善を示した(Johnen et al.,Nat.Med.2007,13:1333〜1340;Macia et al.,PLoS One.2012,7:e34868;Chrysovergis et al.,Int.J.Obesity.2014,38:1555〜1564)。GDF15マウスにおいて全身のエネルギー消費量及び酸化的代謝量の増加が報告されている(Chrysovergis et al.,2014、同上)。これらは、褐色脂肪組織における熱発生遺伝子の発現の増加、及び白色脂肪組織における脂肪分解遺伝子の増加を伴う。GDF15遺伝子を欠損したマウスでは、体重及び体脂肪量が増加した(Tsai et al.,PLoS One.2013,8(2):e55174)。GDF15のFc融合タンパク質は、肥満カニクイザルモデルにおいて週1回、6週にわたって投与した場合に体重を減少させ、耐糖能及びインスリン感受性を改善することが示されている(国際公開第2013/113008号)。
【0005】
体重に対するGDF15の効果は、食物の摂取量の低減及びエネルギー消費の増加を介して媒介されると考えられている。GDF15は、体重依存性及び非依存性の機構によって血糖コントロールを改善する。
【0006】
これらの観察を考え合わせると、GDF15の濃度を増加させること、又はGDF15のシグナル伝達を調節することは、代謝性疾患の治療法として有用であり得ると考えられる。
【0007】
以前の報告では、TGF−β RII及びALK−5を含む、GDF15の潜在的受容体が記載されている(Johnen et al.,Nat Med.2007,13:1333〜1340;Artz et al.,Blood 2016,128:529〜41)が、これらの報告は、GDF15と受容体複合体の構成要素との間の直接的相互作用を示す生化学的証拠を欠いている。したがって、GDF15により利用される受容体複合体及び関連するシグナル伝達カスケードは、未知のままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
当該技術分野において、GDF15の生物学的作用を媒介する細胞標的の同定の必要性が存在する。GDF15受容体及び下流シグナル伝達標的の同定は、代謝性疾患、障害、又は状態のための新しい治療及び予防戦略を開発するのに役立ち得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、GDF15の新規受容体、GDNF family receptor alpha like(GFRAL)を提供することによってこの必要性を満たす。GFRALは、GDNFファミリーの受容体の遠縁のメンバーである。本発明は、それがGDF15と結合し、結果として生じる下流のシグナル伝達、及びインビボ活性を示す。
【0010】
本発明はまた、GDF15アゴニスト活性を有する化合物をスクリーニングする方法であって、その化合物が、GFRAL媒介シグナル伝達を誘導する能力を有する、方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、GDF15アンタゴニスト活性を有する化合物をスクリーニングする方法であって、当該化合物が、GFRAL媒介シグナル伝達を減少させる能力を有する、方法を提供する。
【0012】
一実施形態では、この方法は、以下の工程:(a)GFRAL又はそのフラグメントを含む細胞を試験化合物と接触させる工程と、(b)GFRALタンパク質又はそのフラグメントの発現を欠く対照細胞を試験化合物と接触させる工程と、(c)試験細胞及び対照細胞におけるGDF15生物活性のレベルを測定する工程と、(d)試験細胞及び対照細胞において、試験化合物の存在下で、GDF15生物活性のレベルを比較する工程と、を含み、対照細胞と比較した試験細胞におけるGDF15生物活性のレベルの増加が、試験化合物がGDF15アゴニスト活性を有することを示し、対照細胞と比較した試験細胞におけるGDF15生物活性のレベルの低下が、試験化合物がGDF15アンタゴニスト活性を有することを示す。更なる実施形態では、GDF15生物活性は、チロシンのリン酸化、Aktのリン酸化、Erk1/2のリン酸化、又はPLCγ1のリン酸化を含む。別の実施形態では、GDF15生物活性のレベルを測定する方法は、レポーターシグナルのレベルを測定することを含む。別の実施形態では、試験化合物は、化合物のライブラリーの一部である。別の実施形態では、化合物は組成物である。別の実施形態では、化合物は融合タンパク質である。
【0013】
別の実施形態では、この方法は、以下の工程:(a)GFRALタンパク質を発現する試験動物を試験化合物と接触させる工程と、(b)GFRALタンパク質又はそのフラグメントの発現を欠く対照動物を試験化合物と接触させる工程と、(c)試験動物及び対照動物における体重又は食物摂取量を測定する工程と、(d)試験動物及び対照動物において、試験化合物の存在下で、体重又は食物摂取量を比較する工程と、を含み、対照動物と比較した試験動物における体重又は食物摂取量の減少が、試験化合物がGDF15アゴニスト活性を有することを示し、対照動物と比較した試験動物における体重又は食物摂取量の増加が、試験化合物がGDF15アンタゴニスト活性を有することを示す。別の実施形態では、試験化合物は、化合物のライブラリーの一部である。別の実施形態では、化合物は組成物である。別の実施形態では、化合物は融合タンパク質である。
【0014】
本発明はまた、GDF15アゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするためのキットであって、GFRALタンパク質を発現することができる細胞と、GDF15アゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするための方法でキットを使用するための説明書と、を含む、キットを提供する。一実施形態では、GFRALタンパク質を発現することができる細胞は、安定的又は一過性にトランスフェクトされた細胞である。
【0015】
本発明はまた、GDF15アンタゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするためのキットであって、GFRALタンパク質を発現することができる細胞と、GDF15アンタゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするための方法でキットを使用するための説明書と、を含む、キットを提供する。一実施形態では、GFRALタンパク質を発現することができる細胞は、安定的又は一過性にトランスフェクトされた細胞である。
【0016】
本発明はまた、スクリーニングの方法によって同定された化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、代謝障害を治療する方法を提供する。一実施形態では、代謝障害は、2型糖尿病、高血糖症、高インスリン血症、肥満症、脂質異常症、糖尿病性腎症、又は食欲不振からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって測定された、Fc−GDF15融合分子又はFc単独のいずれかのGFRAL過剰発現HEK293F細胞への結合を示す。灰色線は、無染色細胞を表し、黒色線はFc対照を表し、点線はFc−GDF15融合を表す。最大カウント%は、蛍光光度計によって収集された最大イベントカウントの割合を表し、蛍光強度は、対数スケールを用いて相対蛍光単位で測定されたAlexa Fluor 647の蛍光を表す。
【
図2】Fc−GDF15融合分子のGFRAL過剰発現HEK293F細胞への用量依存的結合曲線を示すFACSデータを示す。
【
図3】HSA−GDF15リガンドの、GFRALの細胞外ドメイン(ECD)への用量依存的結合を示す。ログECL信号は、任意の単位で測定された、電気化学発光(ECL)信号のベース10対数を表す。
【
図4】非融合GDF15及びHSA−GDF15のGFRAL ECDへの結合に関する用量依存性競合を示す。ログECL信号は、任意の単位で測定された、電気化学発光(ECL)信号のベース10対数を表す。
【
図5】Meso Scale Discoveryプラットフォームを使用して測定した、野生型又は変異HSA−GDF15のGFRAL ECD−Fcへの結合についての無細胞アッセイを示す。ログECL信号は、任意の単位で測定された、電気化学発光(ECL)信号のベース10対数を表す。
【
図6】野生型又は変異型HSA−GDF15のいずれかのGFRALを過剰発現しているSK−N−AS細胞への結合を示す。相対蛍光単位で測定した蛍光を3つの3つの3連ウェルの幾何平均として測定した。
【
図7】GFRALを過剰発現しているSK−N−AS細胞におけるタンパク質レベルに対するGDF15の効果を示す。
【
図8】GFRALを過剰発現しているSK−N−AS細胞におけるタンパク質レベルに対するいずれかの野生型の変異体GDF15の効果を示す。
【
図9】GFRALを過剰発現しているNG108−15細胞におけるタンパク質レベルに対するGDF15の効果を示す。
【
図10】gfralを欠くマウスにおけるgfral発現のレベルを示す。Gfral+/+:野生型gfralを有するマウス、gfral+/−:gfral欠失についてヘテロ接合性のマウス、gfral−/−:gfral欠失についてホモ接合性のマウス。
【
図11】gfralホモ接合型ノックアウトマウス(B6;129S5−Gfraltm1Lex)又は野生型同腹仔対照マウスのいずれかにおける12時間にわたる食物摂取量に対するGDF15処置の効果を示す。
*:p<0.05(一元配置分散分析及びTukey試験を使用してPBSで処理した野生型マウスと比較した場合)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
開示される内容は、本開示の一部を形成する、添付の図面に関連してなされる以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。開示される内容は、本明細書に記載及び/又は表示の内容に限定されないこと、更に、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を例によって説明することのみを目的とし、請求項に記載の内容に限定することを意図しないことを理解されたい。
【0019】
特別な記述がない限り、動作に関する可能なメカニズム又は形態、あるいは改善の理由についての説明は、説明のみを意図したものである。本開示の内容は、提案されている動作に関するメカニズム又は形態、あるいは改善の理由の是非によって制限されない。
【0020】
値の範囲が表されている場合、別の実施形態においては、ある特定の値から、及び/又は他の特定の値までが含まれる。更に、範囲で記述される値に関する言及は、その範囲内のあらゆる値を含む。範囲はいずれも包括的であり、組み合わせであってもよい。値が、先行詞「約」を用いて近似値として表現される場合、その特定の値は、別の実施形態を形成することが理解される。特定の数値に関する言及は、文脈上他に明記されない限り、少なくともその特定の値を含むものとする。
【0021】
本明細書において、明確性のために、別々の実施形態の文脈において記載される、開示された内容の複数の特徴はまた、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことを理解されたい。逆に、簡潔のために単一の実施形態として記載された開示される内容の様々な特徴はまた、別個に、又は任意の下位の組み合わせで提供されてもよい。
【0022】
定義
本明細書で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は複数を含むものとする。
【0023】
本明細書及び特許請求の範囲を通して本明細書の諸態様に関する様々な用語が使用される。別途記載のない限り、そのような用語には、当該技術分野におけるそれらの通常の意味が与えられるものとする。その他の具体的に定義される用語は、本明細書に提供される定義と一致する様式で解釈されるものとする。
【0024】
数値範囲、カットオフ、又は特定の値に言及するときに用いる場合、「約」という用語は、引用した値が、記載値から最大10%変動し得ることを示すために用いる。したがって、「約」という用語は、規定値からの±10%以下の変動、±5%以下の変動、±1%以下の変動、±0.5%以下の変動、又は±0.1%以下の変動を包含するために使用する。
【0025】
本明細書で使用する場合、「アゴニスト」は、例えば、受容体のリガンドを模倣することによって、受容体シグナル伝達経路の活性化を誘導する物質、並びに受容体のリガンドに対する感受性を増強する、例えば、受容体依存性シグナル伝達の特定のレベルを誘導するのに必要なリガンドの濃度を低下させる物質を指す。
【0026】
用語「アンタゴニスト」は、受容体シグナル伝達経路の活性化を阻害又は減少させる物質を指す。
【0027】
大まかに言えば、用語「糖尿病」及び「糖尿病性」は、高血糖症及び糖尿によってしばしば特徴付けられる、インスリンの不十分な産生又は利用を伴う炭水化物代謝の進行性疾患を指す。
【0028】
「有効量」は、必要な投薬量及び期間で所望の結果を得るための有効量を指す。GFRALに結合するリガンドの有効量は、個体の病態、年齢、性別、及び体重、並びに個体における所望の応答を引き出す抗体の能力などの要因に従って変動し得る。有効量はまた、有益な効果が、薬剤の任意の毒性又は有害効果を上回る量でもある。
【0029】
本明細書で使用するところの「融合タンパク質」なる用語は、それぞれの部分が異なるタンパク質に由来する、互いに共有結合された2つ以上の部分を有するタンパク質を指す。
【0030】
本明細書で使用する場合、「GFRAL」は、配列番号3に示されるポリペプチド配列に対して少なくとも94%の同一性を有し、GFRAL機能を有する受容体ポリペプチド、又は配列番号3に示されるポリペプチド配列のフラグメントを指す。いくつかの実施形態では、該GFRALは、配列番号3に示されるポリペプチド配列に対して少なくとも95%の同一性を有し、GFRAL機能を有するか、又は配列番号3に示されるポリペプチド配列のフラグメントを有する。いくつかの実施形態では、該GFRALは、配列番号3に示されるポリペプチド配列である。他の実施形態では、該GFRALは、配列番号30に示されるポリペプチド配列である。いくつかの実施形態では、該GFRALは、配列番号19又は配列番号27などの細胞外ドメインである。本発明の方法で使用されるGFRAL受容体ポリペプチドは、好ましくは哺乳動物である。いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用されるGFRAL受容体ポリペプチドは、ヒトである。他の実施形態では、本発明の方法で使用されるGFRAL受容体ポリペプチドは、カニクイザルである。GFRALはまた、本明細書に開示されるスクリーニング又は合理的薬物設計方法において有用な受容体の誘導体を指す。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「高血糖症」は、健康な個体と比較して、増加した量のグルコースが対象の血漿中で循環する状態を指す。高血糖症は、本明細書に記載される空腹時の血糖値の測定を含む、当該技術分野において周知の方法を使用して診断することができる。
【0032】
本明細書で使用する場合、用語「高インスリン血症」は、同時に血糖値が上昇又は正常のいずれかである場合に、循環インスリンのレベルが上昇した状態を指す。高インスリン血症は、高トリグリセリド、高コレステロール、高低比重リポタンパク質(LDL)及び低高密度リポタンパク質(HDL)などの脂質異常症、高尿酸濃度、多嚢胞性卵巣症候群、2型糖尿病、及び肥満症に関連するインスリン抵抗性によって引き起こされ得る。高インスリン血症は、約2μU/mLよりも高い血漿インスリン濃度を有すると診断され得る。
【0033】
「代謝性疾患、障害又は状態」とは、異常代謝に関連するあらゆる障害を指す。本発明の方法に従って治療することができる代謝性疾患、障害又は状態の例としては、限定されるものではないが、2型糖尿病、血糖値の上昇、インスリン濃度の上昇、肥満症、脂質異常症、又は糖尿病性腎症が挙げられる。
【0034】
本明細書で使用する場合、「組換え」は、組換え法によって調製、発現、作製、又は単離される抗体及び他のタンパク質を含む。
【0035】
「対象」という用語は、ヒト及び非ヒト動物を意味し、全ての脊椎動物、例えば、哺乳類及び非哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、マウス、ウサギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、及び爬虫類を意味する。記載された内容の多くの実施形態では、対象はヒトである。
【0036】
「治療すること」又は「治療」は、損傷、病態、又は病状の減弱又は改善における、何らかの成功又は成功の兆候を指し、これには、症状の寛解、緩解、減少、病状を患者にとってより許容できるものにすること、変性又は減退速度を遅くすること、変性による最終的な衰弱を和らげること、対象の肉体的又は精神的健康を改善すること、あるいは生存期間の長さを延ばすこと等の、何らかの客観的又は主観的パラメータを含む。治療は、身体検査、神経学的検査、又は精神医学的評価の結果等客観的又は主観的パラメータに基づいて評価されてよい。
【0037】
GFRALを使用して、GDF15のアゴニスト及びアンタゴニストをスクリーニングするための方法。
GDF15のアゴニスト又はアンタゴニストいずれかの特性を有するものとしてスクリーニングすることができる化合物の例としては、抗体、抗原結合タンパク質、ポリペプチド、多糖類、リン脂質、ホルモン、プロスタグランジン、ステロイド、芳香族化合物、複素環式化合物、ベンゾジアゼピン、オリゴマーN−置換グリシン及びオリゴカルバメートが挙げられる。化合物の大規模なコンビナトリアルライブラリーを、国際公開第95/12608号、国際公開第93/06121号、国際公開第94/08051号、国際公開第95/35503号、国際公開第95/30642号に記載されたコード化合成ライブラリー(ESL)法によって構築することができる。ペプチドライブラリーを、ファージディスプレイ法により生成することもできる。例えば、米国特許第5,432,018号を参照されたい。
【0038】
GDF15のアゴニスト又はアンタゴニストいずれかの特性を有するものとしてスクリーニングすることができる化合物としては、GFRALのリガンド結合部位に結合する物質、アロステリックな活性を有する物質、並びにリガンド結合部位に関して非競合的に作用する物質が挙げられる。
【0039】
細胞アッセイは、一般に、GFRALを発現する細胞(又は、より典型的にはそのような細胞の培養物)を試験化合物と接触させることと、細胞の特性が変化するかどうかを判定することと、を含む。変化は、細胞を化合物と接触させる前及び後の特性のレベルから評価するか、又は対照細胞若しくはGFRALが欠損した細胞集団に対して対照実験を行うことによって評価することができる。測定される特性は、RNA発現レベル、タンパク質のレベル、タンパク質の修飾レベル、好ましくはリン酸化、又はレポーターシグナルのレベルであってもよい。
【0040】
一実施形態では、GDF15のアゴニスト又はアンタゴニストは、受容体GFRALを表面上に発現する細胞を接触させることによって同定されてもよく、該受容体は、該受容体への化合物の結合に応答して検出可能なシグナルを提供することができる第2の構成要素と関連しており、受容体への結合を可能にする条件下で化合物がスクリーニングされ、任意選択的に標識又は非標識リガンドの存在下で、化合物と受容体の相互作用から生成されるシグナルの存在又は不在を検出することによって、化合物が受容体に結合し、活性化するか、又は阻害するかどうかを決定する。
【0041】
一般に、そのようなスクリーニング方法は、表面上にGFRALを発現する適切な細胞を提供することを含む。そのような細胞としては、哺乳動物からの細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HEK(ヒト胎児腎臓)、SK−N−AS、及びショウジョウバエ又は大腸菌の細胞)が挙げられる。具体的には、GFRALをコードするポリヌクレオチドを使用して、細胞をトランスフェクトし、それによって該受容体を発現させる。GFRALをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの構築及び該GFRAL発現ベクターでの細胞のトランスフェクションは、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)に記載されている標準的な方法を使用して達成され得る。受容体の発現は、一過性であっても安定的であってもよい。好ましくは、発現は安定的である。より好ましくは、哺乳動物の細胞株は、GFRAL受容体をコードする核酸配列、例えば配列番号3のポリヌクレオチド、又はそのフラグメント若しくは変異体をコードする核酸配列を含む発現ベクターでトランスフェクトされ、次いで細胞株は、細胞の表面上に受容体が安定的に発現されるように培養培地中で培養される。次いで、発現した受容体を試験化合物と接触させて、リガンドの存在下又は非存在下で、機能応答の結合、刺激又は阻害を観察する。
【0042】
本明細書に記載されるアッセイは、当該技術分野において知られているとおり、機能性GFRALを発現する無傷細胞、又はその受容体を含有する細胞膜を利用してもよい。
【0043】
あるいは、リガンド結合ドメインを含むGFRAL受容体の可溶性部分(すなわち膜結合していない)は、細胞内区画内に可溶性画分で発現されてもよいし、細胞から培地中に分泌されてもよい。発現した可溶性受容体の単離及び精製のための技術は、当該技術分野において周知である。
【0044】
類似の実験を動物で行うことができる。観察することができる適切な生物活性としては、限定されるものではないが、体重、食物摂取量、経口耐糖能試験、血糖値の測定、インスリン抵抗性の分析、薬物動態分析、毒物動態分析、完全長の融合タンパク質のレベル及び安定性のイムノアッセイ及び質量分析、並びに血漿中でのエクスビボ安定性分析が挙げられる。
【0045】
本発明の別の実施形態では、GFRALの薬理学的に活性なリガンドを同定するためのスクリーニングアッセイが提供される。リガンドは、多くの化学的な分類を包含し得るが、典型的には、これらは有機分子である。そのようなリガンドは、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含み得、典型的には、少なくともアミノ、カルボニル、ヒドロキシル又はカルボキシル基、好ましくは少なくとも2つの官能性化学基を含む。リガンドは、多くの場合、環状炭素若しくは複素環構造、及び/又は上記官能基のうちの1つ以上で置換された芳香族若しくは多芳香族構造を含む。リガンドはまた、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体、又はこれらの組み合わせを含む生体分子も含み得る。
【0046】
リガンドとしては、例えば、1)Igテール融合ペプチド及びランダムペプチドライブラリーのメンバーを含む可溶性ペプチドなどのペプチド(例えば、Lam et al.,1991,Nature 354:82〜84;Houghten et al.,1991,Nature 354:84〜86を参照)及びD−及び/又はL−配置アミノ酸からなるコンビナトリアルケミストリー由来分子ライブラリー、2)ホスホペプチド(例えば、ランダム及び部分的に縮退した、指向性ホスホペプチドのライブラリーのメンバー、例えば、Songyang et al.,1993,Cell 72:767〜778を参照)、3)抗体(例えば、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、抗イディオタイプ、キメラ、及び単鎖抗体、並びにFab、F(ab’)
2、Fab発現ライブラリーフラグメント、及び抗体のエピトープ結合フラグメント)、並びに4)低有機分子及び低無機分子が挙げられ得る。
【0047】
リガンドは、合成又は天然化合物のライブラリーを含む多種多様な供給源から得ることができる。合成化合物ライブラリーは、例えば、Maybridge Chemical Co.(Trevivilet,Cornwall,UK)、Comgenex(Princeton,N.J.)、Brandon Associates(Merrimack,N.H.)、及びMicrosource(New Milford,Conn.)から市販されている。希少化学ライブラリーは、Aldrich Chemical Company,Inc.(Milwaukee,Wis.)から市販されている。細菌、真菌、植物又は動物の抽出物を含む天然化合物ライブラリーは、例えば、Pan Laboratories(Bothell,Wash.)から市販されている。更に、ランダム化オリゴヌクレオチドの発現を含む、多種多様な有機化合物及び生体分子のランダムかつ指向性の合成のための多数の手段が利用可能である。
【0048】
あるいは、細菌、真菌、植物、及び動物の抽出物の形態である天然化合物のライブラリーを容易に生成することができる。分子ライブラリーの合成のための方法は、容易に入手可能である(例えば、DeWitt et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6909、Erb et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422、Zuckermann et al.,1994,J.Med.Chem.37:2678、Cho et al.,1993,Science 261:1303、Carell et al.,1994,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059、Carell et al.,1994,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061、及びin Gallop et al.,1994,J.Med.Chem.37:1233を参照)。更に、天然又は合成化合物ライブラリー及び化合物は、従来の化学的、物理的及び生化学的手段によって容易に修飾することができる(例えば、Blondelle et al.,1996,Trends in Biotech.14:60を参照)、コンビナトリアルライブラリーを生成するために使用されてもよい。別のアプローチでは、以前に同定された薬理学的物質は、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指向性又はランダムな化学修飾を受けることができ、類似体は、GFRAL調節活性についてスクリーニングすることができる。
【0049】
コンビナトリアルライブラリーを生成するための多数の方法が当該技術分野において周知であり、生物学的ライブラリー、空間的に指定可能なパラレル固相又は液相ライブラリー、デコンボリューションを要する合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及びアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法に関するものを含む。生物学的ライブラリー法は、ポリペプチド又はペプチドライブラリーに限定されるが、他の4種類の方法は、ポリペプチド、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の低分子ライブラリーに適用できる(K.S.Lam,1997,Anticancer Drug Des.12:145)。
【0050】
ライブラリーは、リガンドが結合部位において競合的又は非競合的に結合するかどうかを決定するために、当該技術分野において一般的に知られている方法によって、溶液中でスクリーニングされてもよい。そのような方法としては、溶液中(例えば、Houghten,1992,Biotechniques 13:412〜421)、又はビーズ上(Lam,1991,Nature 354:82〜84)、チップ上(Fodor,1993,Nature 364:555〜556)、細菌若しくは胞子上(Ladner U.S.Pat.No.5,223,409)、プラスミド上(Cull et al.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865〜1869)、若しくはファージ上(Scott and Smith,1990,Science 249:386〜390;Devlin,1990,Science 249:404〜406;Cwirla et al.,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:6378〜6382;Felici,1991,J.Mol.Biol.222:301〜310;Ladner,上記)のライブラリーのスクリーニングが挙げられ得る。
【0051】
スクリーニングアッセイが結合アッセイである場合、GFRAL、又はGFRAL結合リガンドのうちの1つは、標識に結合されてもよく、標識は、検出可能なシグナルを直接的又は間接的に提供することができる。様々な標識としては、放射性同位体、蛍光分子、化学発光分子、酵素、特異的結合分子、粒子、例えば、磁性粒子などが挙げられる。特定の結合分子としては、ビオチン及びストレプトアビジン、ジゴキシン及び抗ジゴキシンなどの対が挙げられる。特定の結合メンバーに関して、相補的なメンバーは、通常、周知の手順に従って、検出を提供する分子で標識されるであろう。
【0052】
様々な他の試薬が、スクリーニングアッセイに含まれてもよい。これらには、最適なタンパク質タンパク質結合を促すため、かつ/又は非特異反応若しくはバックグラウンド相互作用を低下させるために使用される、塩、例えばアルブミンなどの中性タンパク質、界面活性剤などのような試薬が含まれる。プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤などのアッセイの効率を改善する試薬を使用してもよい。成分は、必要な結合を生成する任意の順序で添加される。インキュベーションは、最適な活性を促す任意の温度、典型的には4℃〜40℃で行う。インキュベーション期間は、最適な活性のために選択されるが、迅速なハイスループットスクリーニングを促すように最適化されてもよい。通常、0.1〜1時間が十分であろう。一般に、複数のアッセイ混合物は、異なる試験物質濃度と並行して実行されて、これらの濃度に対する差動応答を得る。典型的には、これらの濃度のうちの1つは、陰性対照、すなわち、ゼロ濃度又は検出レベル未満である。
【0053】
本発明に従って提供されるスクリーニングアッセイは、本明細書に全体が組み込まれる国際出願第96/04557号に開示されているものに基づく。簡潔に述べると、国際公開第96/04557号は、標的上の活性部位に結合し、標的においてアゴニスト又はアンタゴニスト活性を有するレポーターペプチドの使用を開示している。これらのレポーターは、組換えライブラリーから同定され、ランダムなアミノ酸配列を有するペプチド、又はランダム化された少なくとも1つのCDR領域を有する可変抗体領域のいずれかである。レポーターペプチドは、細胞組換え発現系、例えば、大腸菌において又はファージディスプレイによって発現されてもよい(国際公開第96/04557号及びKay et al.1996,Mol.Divers.1(2):139〜40を参照、この両方が参照により本明細書に組み込まれる)。次いで、ライブラリーから同定されたレポーターを、本発明に従って、治療薬自体としてか、又はレポーターと同様の性質を有し、アゴニスト又はアンタゴニスト活性を提供するための薬物候補として開発され得る他の分子、好ましくは低活性分子をスクリーニングするための競合結合アッセイのいずれかで使用してもよい。好ましくは、これらの低有機分子は、経口活性である。
【0054】
上記のとおり、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、及び哺乳類ディスプレイライブラリーもまた、GFRALに結合するリガンドについてスクリーニングすることができる。これらのライブラリーの構築及び分析の詳細、並びに結合剤の生検及び選択の基本的手順が公開されている(例えば、国際公開第96/04557号;Mandecki et al.,1997,Display Technologies−−Novel Targets and Strategies,P.Guttry(ed),International Business Communications,Inc.Southborogh,Mass.,pp.231〜254;Ravera et al.,1998,Oncogene 16:1993〜1999、Scott and Smith,1990,Science 249:386〜390、Grihalde et al.,1995,Gene 166:187〜195、Chen et al.,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:1997〜2001、Kay et al.,1993,Gene128:59〜65、Carcamo et al.,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:11146〜11151、Hoogenboom,1997,Trends Biotechnol.15:62〜70、Rader and Barbas,1997,Curr.Opin.Biotechnol.8:503〜508、を参照、これらの全てが参照により本明細書に組み込まれる)。
【0055】
周知の薬学的に活性な化合物に対する模倣体の設計は、「リード」化合物に基づく医薬の開発への周知のアプローチである。これは、活性化合物が、合成するのが困難であるか、若しくは高価である場合、又は特定の投与方法に適していない場合(例えば、ペプチドは、一般に、消化管中のプロテアーゼによって急速に分解される傾向があるので、経口組成物のための活性物質として不適切である)に望ましい場合がある。模倣体の設計、合成、及び試験は、一般に、標的特性についての分子の大規模なスクリーニングを避けるために使用される。
【0056】
所与の標的特性を有する化合物からの模倣体の設計で一般的に取られるいくつかの工程が存在する。最初に、標的特性の決定において重大かつ/又は重要な化合物の特定部分を決定する。ペプチドの場合には、これは、ペプチド中のアミノ酸残基を系統的に変化させることによって(例えば、順次各残基を置換することによって)行うことができる。化合物の活性領域を構成するこれらの部分又は残基は、「ファルマコフォア」として知られている。
【0057】
ファルマコフォアが見出されると、その構造は、一連の原料からのデータ(例えば、分光技術データ、X線回折データ、及びNMR)を使用して、その物性(例えば、立体化学、結合、大きさ、及び/又は電荷)に従ってモデル化される。このモデル化プロセスでは、コンピューターによる分析、類似性マッピング(原子間の結合ではなく、ファルマコフォアの電荷及び/又は容量をモデル化するもの)、及び他の技術を使用することができる。
【0058】
このアプローチの変形においては、リガンドの三次元構造とその結合パートナーをモデル化する。リガンド及び/又は結合パートナーが結合の構造を変化させ、模倣体の設計においてモデルがこのことを考慮できる場合、これは特に有用となり得る。
【0059】
次いで、テンプレート分子が選択され、ファルマコフォアを模倣する化学基をそのテンプレートにグラフト化することができる。テンプレート分子及びそれにグラフト化される化学基は、模倣体の合成が容易であり、薬理学的に許容される可能性があり、インビボで分解されず、かつリード化合物の生物活性を維持するように好都合に選択することができる。次いで、見出された模倣体をスクリーニングして、これらが標的特性を示す程度、又はこれらがそれをどの程度阻害するのかを確かめる。次いで、更なる最適化又は改変を行って、インビボ試験又は臨床試験のための1つ以上の最終模倣体に達することができる。
【0060】
実施形態
実施形態1は、GDF15アゴニスト活性を有する化合物をスクリーニングする方法であって、該化合物が、GFRAL媒介シグナル伝達を誘導する能力を有する、方法である。
【0061】
実施形態2は、GDF15アンタゴニスト活性を有する化合物をスクリーニングする方法であって、該化合物が、GFRAL媒介シグナル伝達を減少させる能力を有する、方法である。
【0062】
実施形態3は、方法が、以下の工程:
(a)GFRAL又はそのフラグメントを含む細胞を試験化合物と接触させる工程と、
(b)GFRALタンパク質又はそのフラグメントの発現を欠く対照細胞を試験化合物と接触させる工程と、
(c)試験細胞及び対照細胞におけるGDF15生物活性のレベルを測定する工程と、
(d)試験細胞及び対照細胞において、試験化合物の存在下で、GDF15生物活性のレベルを比較する工程と、を含み、
対照細胞と比較した試験細胞におけるGDF15生物活性のレベルの増加が、試験化合物がGDF15アゴニスト活性を有することを示し、
対照細胞と比較した試験細胞におけるGDF15生物活性のレベルの低下が、試験化合物がGDF15アンタゴニスト活性を有することを示す、実施形態1又は2に記載の方法である。
【0063】
実施形態4は、方法が、以下の工程:
(a)GFRALタンパク質を発現する試験動物を試験化合物と接触させる工程と、
(b)GFRALタンパク質又はそのフラグメントの発現を欠く対照動物を試験化合物と接触させる工程と、
(c)試験動物及び対照動物における体重又は食物摂取量を測定する工程と、
(d)試験動物及び対照動物において、試験化合物の存在下で、体重又は食物摂取量を比較する工程と、を含み、
対照動物と比較した試験動物における体重又は食物摂取量の減少が、試験化合物がGDF15アゴニスト活性を有することを示し、
対照動物と比較した試験動物における体重又は食物摂取量の増加が、試験化合物がGDF15アンタゴニスト活性を有することを示す、実施形態1又は2に記載の方法である。
【0064】
実施形態5は、GDF15生物活性が、チロシンのリン酸化を含む、実施形態3に記載の方法である。
【0065】
実施形態6は、GDF15生物活性が、Aktのリン酸化を含む、実施形態3に記載の方法である。
【0066】
実施形態7は、GDF15生物活性が、Erk1/2のリン酸化を含む、実施形態3に記載の方法である。
【0067】
実施形態8は、GDF15生物活性が、PLCγ1のリン酸化を含む、実施形態3に記載の方法である。
【0068】
実施形態9は、GDF15生物活性のレベルを測定することが、レポーターシグナルのレベルを測定することを含む、実施形態3に記載の方法である。
【0069】
実施形態10は、化合物が、化合物のライブラリーの一部である、実施形態3又は4に記載の方法である。
【0070】
実施形態11は、化合物が、組成物である、実施形態3又は4に記載の方法である。
【0071】
実施形態12は、化合物が、融合タンパク質である、実施形態3又は4に記載の方法である。
【0072】
実施形態13は、GFRALが、ヒトGFRAL細胞外ドメイン配列に対して少なくとも94%の同一性を有する配列を含む、実施形態3又は4に記載の方法である。
【0073】
実施形態14は、GDF15アゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするためのキットであって、GFRALタンパク質を発現することができる細胞と、GDF15アゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするための方法でキットを使用するための説明書と、を含む、キットである。
【0074】
実施形態15は、GFRALタンパク質を発現することができる細胞が、安定的又は一過性にトランスフェクトされた細胞である、実施形態14に記載のキットである。
【0075】
実施形態16は、GDF15アンタゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするためのキットであって、GFRALタンパク質を発現することができる細胞と、GDF15アンタゴニスト活性を有する試験化合物をスクリーニングするための方法でキットを使用するための説明書と、を含む、キットである。
【0076】
実施形態17は、GFRALタンパク質を発現することができる細胞が、安定的又は一過性にトランスフェクトされた細胞である、実施形態16に記載のキットである。
【0077】
実施形態18は、実施形態1又は2に記載の方法によって同定された化合物の治療有効量を対象に投与することを含む、代謝障害を治療する方法である。
【0078】
実施形態19は、代謝障害が、2型糖尿病、高血糖症、高インスリン血症、肥満症、脂質異常症、糖尿病性腎症、又は食欲不振からなる群から選択される、実施形態18に記載の方法である。
【0079】
以下の例は、本発明を例示する。これらの例は本発明の範囲を制限するとして解釈されてはならない。例は図示の目的のために含まれ、本発明は請求項によってのみ限定される。
【0080】
実施例1.GDF15の結合パートナーの同定
DNAライブラリーをスクリーニングする2つのアプローチを使用して、GDF15の受容体を同定した。細胞表面の発現及びFc単独鎖(配列番号2)と二量体化されたFc−GDF15融合鎖(配列番号1)からなるヘテロ二量体Fc−GDF15融合分子に対する結合パートナーのスクリーニングのために、3048細胞表面受容体をコードするcDNAからなるJanssen内部ライブラリーを使用した。Janssen膜ライブラリーのDNAをトランスフェクトするために、HEK293F細胞を、透明な底部96ウェルプレート(Perkin Elmer)上に、増殖培地(100μL DMEM、10% FBS及び250μg/mL Geneticin、3つの試薬全てThermo Fisher Scientificによる)中、1ウェルあたり30,000細胞の密度で播種した。翌日、Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific)とあらかじめ混合した100ngのDNAを、細胞プレートの各ウェルに添加した。24時間後、培地を吸引し、2μg/mLのFc−GDF15リガンド(Janssen)、2μg/mLのR−Phycoerythrin標識抗ヒトFc抗体(Jackson Immuno Research)及び10μMのHoechst(Jackson Immuno Research)を含有する50μLの検出試薬を各ウェルに添加した。4℃で少なくとも3時間プレートをインキュベートした後、プレートを、適切なフィルターチャネルを使用してImageXpress(Molecular Devices)で撮像した。一次スクリーニングでは、各プレートは、トランスフェクション及び結合の陽性対照としてFcγR1Aをトランスフェクトしたウェル、並びにバックグラウンド結合シグナルの対照としてトランスフェクトされていない細胞のウェルを有した。各ウェルを4つの視野で撮像した。画像は、任意の結合が存在するかどうかを判定するために目視検査によって評価された。一次ヒットをスケールアップし、確認スクリーニングのために配列を確認した。確認スクリーニングは一次スクリーニングと同じプロトコルで実施し、別の試験リガンドHisTagged−HSA−GDF15(Janssen)並びに2つの陰性対照リガンド:Fc分子(Janssen)及びHisTagged−HSA(Janssen)分子を添加して、ヒットの特異性を評価した。HSA融合体の検出は、HisTag及びマウス抗His抗体(Genscript)、並びにR−Phycoerythrin標識抗マウス抗体(Jackson Immuno Research)の結合を通して行われ、両方とも検出試薬中2μg/mLであった。
【0081】
3048受容体から、一次スクリーニングは、Fc−GDF15リガンドに結合した41ヒットを同定し、そのうち6個がFc受容体であった。残りの35ヒットを確認スクリーニングで試験し、非再現性かつ非特異的なヒットをろ過した。1つのヒット、Neuropilin 2(NRP2)のみ、Fc分子単独ではなくFc−GDF15リガンドに結合することが二次スクリーニングにおいて確認された。
【0082】
並行して、2つの試験を、Retrogenix Ltd(Whaley Bridge,High Peak,Derbyshire,UK)で、Retrogenix’Cell Microarray技術を使用して行って、Fc−GDF15融合分子の結合パートナーをスクリーニングした。2つの試験を実施して、Retrogenixの原形質膜タンパク質ライブラリーをスクリーニングし、最初に3500のタンパク質、次に追加の993のタンパク質で、スクリーニングされたタンパク質の総数が4493であった。一次スクリーニングの前にバックグラウンドスクリーニングを行って、2、5、及び20ug/mLの試験リガンドFc−GDF15の結合のバックグラウンドレベルを検出し、生HEK293細胞でコーティングされたブランクスライドを用いて、AlexaFluor647抗Fc抗体を使用して検出された。一次スクリーニングでは、ライブラリー内の各完全長ヒト血漿膜タンパク質をコードするベクターを、Retrogenixの細胞マイクロアレイスライド上に複製して配列した(「スライドセット」と呼ばれる)。3つの複製スライドセットを一次スクリーンで使用した。対照発現ベクター(pIRES−hEGFR−IRES−ZsGreen1)を、全てのスライド上で四重にスポットして、トランスフェクション効率の最小閾値が全てのスライド上で達成又は超過されることを確実にした。HEK293細胞を、生状態での逆トランスフェクションに使用した。試験リガンドFc−GDF15を、各スライドセットに20ug/mLの濃度で添加した。試験リガンドの添加後、細胞固定を行い、AlexaFluor647抗Fc抗体を結合の検出に使用した。ImageQuantソフトウェア(GE)を使用して蛍光画像を分析し、タンパク質の「ヒット」は、ImageQuantソフトウェア上にグリッドされた画像を使用して目視検査により、バックグラウンドレベルと比較して上昇シグナルを示す複製スポットとして定義される。一次スクリーニングで同定されたヒットを確認スクリーニングで試験し、3つの複製一次スクリーニングスライドセットのうちの少なくとも1つにおけるヒットをコードする全てのベクターを新しいスライド上に配列した。結合Fcのための対照サンプルを添加して、一次スクリーニングと同様に確認スクリーニングを行った。ヒトFcに融合したヒトCTLA4に対するCD86を過剰発現する細胞の結合は、陽性対照として機能し、Fcのみに対する結合は陰性対照として機能した。
【0083】
3500タンパク質を含む第1の試験では、59ヒットは、「ヒット」を分類するための強度のストリンジェンシーが低い一次スクリーニングから同定された。これらの59の一次ヒットは、確認スクリーニングにおいて更に調査され、ヒットの31が再現可能ではなく、一次ヒットの15は、少なくとも1つの陰性対照との相互作用によって示されるとおり、非特異的であった。残りの13ヒットは、再現可能かつ特異的であり、非常に弱い又は弱いヒットのいずれかとして分類した。追加の993タンパク質を含む第2の試験では、10の一次ヒットが同定され、それらのうちの9つは、確認スクリーニングにおいて非特異的であることが見出され、1つの残りのヒットは、再現可能かつ特異的であり、弱/中の結合強度を有することが見出された。
【0084】
Janssen及びRetrogenixライブラリーから同定された全ての結合ヒットを表1に列挙する。これらは、真のバインダーであることについて更に調査された。具体的には、NRP2のFc−GDF15リガンドへの結合は、NRP2を内因的に発現した細胞株、COLO829細胞を使用した場合には再現しなかった(データは示されない)。Retrogenixスクリーニングの確認によって同定されたヒットを、Fc−GDF15リガンドへの結合について再試験した。更に、これらのヒットを、GDF15との潜在的な生物学的関連性について注意深く調べた。これまでほとんど研究されていないオーファン受容体であるGFRALを、Retrogenixスクリーニングで同定した(表1)。それはGDNF受容体ファミリーと密接に関連している(Li et al.,Journal of Neurochemistry 2005;361〜376)。更に、GDNFファミリーのリガンド及びGDF15は、同じファミリーのTFGβに属し、構造的相同性を有する(Shi et al.,Nature 2011;474,343〜349)。したがって、GFRALのGDF15への結合を十分に調査した。
【0086】
実施例2.GFRALを過剰発現する細胞を使用したGDF15結合パートナーの確認
自社設計のGFRAL発現構築物を使用して、結合の確認を繰り返し、続いてFACS分析を行った。GDNF受容体ファミリーの最も近いメンバーと並列した全長GFRALのDNAをHEK293F細胞に一過性にトランスフェクトした。
【0087】
発現構築物の設計
CMVプロモーターによって駆動される、pUnder系発現ベクターを使用して、GFRAL及びGFRαファミリーメンバーの発現構築物を作製した。構築物のコード領域は、強いタンパク質発現及び分泌を駆動することが知られている組換えシグナルペプチド(配列番号11)、フラグタグ(配列番号12)及びGFRALの、予測される内因性シグナルペプチドを除いた全長タンパク質(配列番号13)、GFRα1(配列番号14)、GFRα2(配列番号15)、GFRα3(配列番号16)及びGFRα4(配列番号17)からなる。Kozak配列(配列番号18)を開始コドンの前に配置した。コード領域は、哺乳類の発現のために最適化されたコドンであり、遺伝子合成及び分子クローニングによって構築物を作製した。同じpUnder系ベクターを使用して、GFRAL−ECD構築物を作製した。予測されたGFRALの細胞外ドメイン(ECD)(配列番号19)の前に、前述の組換えシグナルペプチドが先行し、その後にC末端タンパク質タグが続いた。2つの構築物設計を作製し、1つはC末端に6xHis−tag及びAvi−tag(配列番号20)を有し、他方はC末端にヒトIgG1 Fc、6xHis−tag及びAvi−tagを有するものである(GFRAL ECD−Fc)。コード領域は、哺乳類の発現のために最適化されたコドンであり、標準的な遺伝子合成及び分子クローニング法を使用して構築物を作製した。
【0088】
GFRAL ECDタンパク質を、製造者のプロトコルに従ってExpiFectamine(商標)293トランスフェクションキットを使用した一過性トランスフェクションによってExpi293(商標)細胞で発現させ、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。簡潔に述べると、各タンパク質について、清澄化した細胞上清をHisTrap HPカラムに適用し、続いてイミダゾール濃度を増加させた段階的溶出(10〜500mM)を行った。GFRAL ECDを含有する画分をSDS−PAGEにより同定し、プールした。1x DPBS、pH7.2で平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pgカラム(GE Healthcare)に充填する前に、タンパク質を0.2μm膜を使用してろ過し、適切な容量に濃縮した。高純度でSECカラムから溶出したタンパク質画分(SDS−PAGEにより測定)をプールし、4℃で保存した。タンパク質濃度は、NanoDrop(登録商標)分光光度計(Thermo Fisher Scientific)の280nmでの吸光度によって測定された。精製されたタンパク質の量を、SDS−PAGE、及び解析サイズ排除HPLC(Tosoh TSKgel BioAssist G3SW
XL)によって評価した。内毒素レベルを、LALアッセイ(Associates of Cape Cod,Inc.)を使用して測定した。精製されたタンパク質を、1x DPBS、pH7.2、4℃で保存した。
【0089】
一過性トランスフェクション
Free Style(商標)293−F細胞(HEK293F,Invitrogen)を、293fectin Transfection Reagent(Invitrogen)を使用して、製造業者のプロトコルに従ってトランスフェクトした。簡潔に述べると、DNA/293fectin混合物は、3μlの100ng/μlのDNAを17μlの希釈した293fectin(1mLのOptiMEMに対して35μlの293fectin)を添加することによって作製された。300ngのDNAと0.6μlの293fectinとを含有する合計容量20μlの得られたDNA/293fectin混合物を、室温で20〜30分間インキュベートした。次いで、200μlの2e6細胞/mLをDNA/293fectin混合物に添加し、混合し、次いで蓋をしたディープウェルプレートに移し、CO
2インキュベーター内で、745rpmで2日間振盪した。細胞を回収し、トランスフェクションの2日後にFACS染色を行った。
【0090】
FACS結合実験
GFRALに対するGDF15の特異的結合の確認のために、N−末端フラグ標識GFRAL、GFRα1、GFRα2、GFRα3又はGFRα4を発現するHEK293F細胞を、Fc−GDF15と共にインキュベートし、FACSにより結合を分析した。簡潔に述べると、一過性にトランスフェクトした細胞をトランスフェクションの2日後にスピンダウンし、1x BD染色緩衝液(BD Pharmingen)で洗浄し、5μg/mLのFc−GDF15と共に、1x BD染色緩衝液(BD Pharmingen)中で4℃で1時間インキュベートすることによって処理した。続いて、細胞を洗浄し、Fc−GDF15結合の検出のために、4℃で30分間、二次抗体の、Alexa Fluor 647(AF647、Life Technologies)とコンジュゲートしたヤギ抗ヒトIgGを用いて染色した。同じバッチのトランスフェクションからの細胞もまた、細胞表面発現の検出のために、Fcアイソタイプネガティブコントロール、及びFITC標識抗フラッグ抗体(Sigma)、及び生死染色のためのDAPIで染色した。染色した細胞をBD Fortessa LSRで分析した。
【0091】
GDF15、HSA−GDF15、及びFc−GDF15の設計、発現、及び精製
GDF15ホモ二量体は、完全長タンパク質(配列番号21)として設計され、EcoRI部位及びFLAGタグ(配列番号22)は、前述したようにArg196−Ala197の間の天然のフリン開裂部位の後に挿入された(Bauskin A.R.et al.(2000)EMBO J.19(10):2212〜20)。CMVプロモーターの制御下で、この発現遺伝子を、哺乳類発現ベクターに挿入した。成熟したGDF15ホモ二量体を生成するために、完全長タンパク質を、製造元のプロトコルに従って、ExpiFectamine(商標)293トランスフェクションキット(Thermo Fisher Scientific)を使用して、細胞内処理のために、Expi293(商標)(Thermo Fisher Scientific)細胞中で一時的に共発現させた。分泌された成熟型GDF15ホモ二量体を、4℃で16〜24時間、抗FLAG(登録商標)M2親和性樹脂(Sigma Aldrich)にバッチ結合し、続いて0.1Mグリシン、pH3.5で溶出することによって、清澄化細胞上清から単離した。対象タンパク質を含有するためにSDS−PAGEにより同定された画分をプールし、1xDPBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)、pH7.2に対して透析し、4℃で保存した。
【0092】
HSA−GDF15は、リンカー(配列番号24)を介して成熟GDF15(AA 197−308)のN末端に融合したHSA(配列番号23)として設計された。更に、EcoRI部位及び6xHis融合物をHSAのN末端に添加して、それぞれクローニング及び精製を促進した。最終遺伝子を、マウスIg重鎖分泌タグを有する哺乳類発現ベクターに、CMVプロモーターの制御下で挿入した。HSA−GDF15ホモ二量体を、製造者のプロトコルに従ってExpiFectamine(商標)293トランスフェクションキットを使用した一過性トランスフェクションによってExpi293(商標)細胞で発現させ、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。簡潔に述べると、清澄化した細胞上清をHisTrap HPカラムに適用し、続いてイミダゾール濃度を増加させた段階的溶出(10〜500mM)を行った。HSA−GDF15二量体を含有する画分をSDS−PAGEにより同定し、プールした。1x DPBS、pH7.2で平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pgカラム(GE Healthcare)に充填する前に、タンパク質を0.2μm膜を使用してろ過し、適切な容量に濃縮した。高純度でSECカラムから溶出したタンパク質画分(SDS−PAGEにより測定)をプールし、4℃で保存した。
【0093】
Fc−GDF15を生成するために、「ノブ−イン−ホール」戦略を利用し、「ノブ」FcはT366W変異を有し、「ホール」Fcは、選択的ヘテロ二量体形成のためのT366S/L368A/Y407V変異を有する。具体的には、GDF15(AA 197−308)を、リンカー(配列番号25)を介して、「ホール」変異でヒトIgG4 FcのC末端に融合させた(「ホール」Fc−GDF15)。「ノブ」変異を有する相補的ヒトIgG4(「ノブ」Fc)は、融合パートナーなしで設計され、「ホール」Fc−GDF15と組み合わされると、最終的には、各N末端にFcノブ−イン−ホールヘテロ二量体融合を有するGDF15ホモ二量体を形成する必要がある。2つの発現遺伝子、「ホール」Fc−GDF15及び「ノブ」Fcは、別々の哺乳類発現ベクターに、それぞれマウスIg重鎖分泌タグを有し、CMVプロモーターの制御下で挿入される。タンパク質を、製造者のプロトコルに従って、ExpiFectamine(商標)293トランスフェクションキットを使用した一過性トランスフェクションによってExpi293(商標)細胞で発現させ、プロテインA親和性カラム、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して精製した。簡潔に述べると、清澄化した細胞上清をHiTrap MabSelect SuReカラム(GE Healthcare)に適用し、続いて0.1M Na−アセテート、pH3.5で溶出した。Fc−GDF15二量体を含有する画分を、SDS−PAGEにより同定し、プールした。1x DPBS、pH7.2で平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pgカラムに充填する前に、タンパク質を0.2μm膜を使用してろ過し、適切な容量に濃縮した。高純度でSECカラムから溶出したタンパク質画分(SDS−PAGEにより測定)をプールし、4℃で保存した。
【0094】
全タンパク質濃度は、NanoDrop(登録商標)分光光度計(Thermo Fisher Scientific)の280nmでの吸光度によって測定された。精製されたタンパク質の量を、SDS−PAGE、及び解析サイズ排除HPLC(Tosoh TSKgel BioAssist G3SW
XL)によって評価した。内毒素レベルを、LALアッセイ(Associates of Cape Cod,Inc.)を使用して測定した。全ての精製されたタンパク質を、1x DPBS、pH7.2、4℃で保存した。
【0095】
結果
結果としては、GFRAL発現細胞のみが、Fc−GDF15リガンドに結合するが、Fc分子単独には結合しないことが示された(
図1)。他のGDNFファミリーメンバー(GFRα1−4)でトランスフェクトされた細胞は、Fc−GDF15(データ不掲載)に結合せず、GDF15の結合がGFRALに特異的であることを示す。更に、受容体GFRα1−4は、レトロゲニックスライブラリーに含まれ、最初のスクリーニングにおいて、これらの受容体に対するGDF15の結合が検出されなかった。Fc−GDF15のGFRAL発現細胞への結合は、用量依存的であり、EC50=0.2577nMであった(
図2)。
【0096】
実施例3.細胞を含まないシステムを使用したGDF15結合パートナーの確認
GFRAL細胞外ドメイン(ECD)−Fc融合体のタンパク質を組換えにより作製し、無細胞のプレートベースのフォーマットでHSA−GDF15リガンドへの結合について試験した。
【0097】
Meso Scale Discovery結合アッセイ
細胞を含まないシステムにおけるGDF15−GFRAL ECDの結合を試験するために、プレートベースのアッセイを開発した。簡潔に述べると、GFRAL ECD−Fc分子を、PBS中4μg/mLで4℃で一晩MSD標準プレート(Meso Scale Discovery)でコーティングした。翌日、プレートを0.05% Tween 20を含むPBS中で3回洗浄し、StartingBlockブロッキング緩衝液(Thermo Fisher Scientific)によって30分間ブロッキングした。結合実験のために、0.02pM〜100nMの範囲の濃度でHSA−GDF15リガンドを1ウェルあたり25μLでプレートに加え、1時間インキュベートした。HSA−GDF15リガンドとの非融合GDF15の競合実験については、6.25nMでのHSA−GDF15の固定濃度を、各ウェルに25μLの混合物を添加する前に、100nMから開始して異なる濃度の非融合GDF15と30分間あらかじめ混合した。PBS−tweenで更に3回の洗浄後、1μg/mLマウス抗HSA抗体(Kerafast Inc)及び1μg/mLのSulfoTag抗マウス抗体を含有する25μLの検出試薬を各ウェルに加え、更に1時間インキュベートした。次いで、プレートをPBS−Tweenで3回洗浄し、プレートリーダー(Meso Scale Discovery Sector機器)で読み取る前に、150μlの読み取り緩衝液(Meso Scale Discovery)を添加した。各条件を2つのウェルで試験し、平均をプロットし、GraphPad Prismソフトウェアで分析した。用量反応曲線に対して、4パラメータ最小二乗法を実施した。
【0098】
HSA−GDF15のGFRAL ECD−Fcへの結合の用量依存曲線はまた、この結合フォーマットにおけるサブnM EC50(0.02nM)を示した(
図3)。
【0099】
次に、6.25nMでのHSA−GDF15の固定濃度及び100nMまでの非融合GDF15の濃度の範囲を使用して競合アッセイを実施した。結果は、非融合GDF15濃度が6.25nMのHSA−GDF15濃度以上である場合、シグナルの減少によって示される、明確な競合を示した(
図4)。最後に、GFRAL ECD−FcとGDF15及びHSA−GDF15リガンドとの間で表面プラズモン共鳴(SPR)測定を行った。4つの複製を有する3つの独立した実験からの測定された親和性は、GDF15が19.6±5.08pMのKDを有し、HSA−GDF15が318±69pMのKDを有することを示した(表2)。非融合とHSA−融合GDF15との間のKDの16倍の差は、主により遅いkdよりもはるかに速いkaによって寄与され、HSA融合分子は、いくつかの立体障害をGFRAL受容体に引き起こし得ることを示唆している。
【0101】
実施例4.生物学的に不活性な変異体のGFRALへの結合
GRFALはGDNF受容体ファミリーに属し、最も近いファミリーメンバーGFRα1−4は全て共受容体としてRETを有しているので、GDF15に結合するGFRALの潜在的な共受容体についてRETを研究した。GDF15:GFRAL:RETの相同性モデルに基づく構造を、相互作用するであろうGDF15、GFRAL、及びRETの潜在的エピトープについて試験した(データは示さない)。モデルによると、カノニカルII型受容体のそれらの係合においていくつかのTGF−βスーパーファミリーメンバーによって採用されるものに近いGDF15上の表面が、GFRAL ECDのD2ドメインと相互作用する可能性が高い。GFRALとRETとの間の相互作用は、複数のドメインにわたって分散される可能性が高い。
【0102】
HSA融合プラットフォーム上のGDF15の表面アミノ酸のいくつかの点変異体は、GDF15上の受容体相互作用エピトープの調査のためにGDF15生物活性を排除する目的で設計及び生成された(出願番号62/333,886を参照)。これらの変異体の分子一体性を、SDS−PAGE、HPLC、及び抗GDF15抗体への結合によって調べた。SDS−PAGEにおける同様のサイズバンド、HPLCによる同様の保持時間及びピーク形状、並びに野生型GDF15(出願番号62/333,886)と比較した複数の抗GDF15抗体に対する同様の結合曲線は、全体的な分子立体配座が点突然変異によって実質的に中断されないことを示唆した。
【0103】
次いで、HSA−GDF15点突然変異体、1つの生物活性(Q60W)及び2つの生物学的不活性(I89R及びW32A)を、無細胞プレートベースの結合アッセイにおけるGFRAL ECD−Fcへの結合について試験した。簡潔に述べると、GFRAL ECD−Fc分子を、PBS中4μg/mLで、4℃で一晩MSD標準プレート(Meso Scale Discovery)でコーティングした。翌日、プレートを0.05% Tween 20を有するPBS中で3回洗浄し、StartingBlockブロッキング緩衝液(Thermo Fisher Scientific)によって30分間ブロッキングした。HSA−GDF15リガンド及び異なる濃度のその変異体を、ウェル当たり25μlでプレートに添加し、1時間インキュベートした。PBS−tweenで更に3回の洗浄後、1μg/mLのマウス抗HSA抗体(Kerafast Inc)及び1μg/mLのSulfoTag抗マウス抗体を含有する25μLの検出試薬を各ウェルに加え、更に1時間インキュベートした。次いで、プレートをPBS−Tweenで3回洗浄し、プレートリーダー(Meso Scale Discovery Sector機器)で読み取る前に、150μlの読み取り緩衝液(Meso Scale Discovery)を添加した。各条件は2つのウェルを有し、平均をプロットし、GraphPad Prismソフトウェアで分析した。用量反応曲線に対して、4パラメータ最小二乗法を実施した。
【0104】
結果は、生物活性変異体(Q60W)が野生型HSA−GDF15と同様の結合プロファイルを有していたが、2つの生物学的に不活性な突然変異体は、それらの結合において拡散した。I89R変異体は、GFRAL ECD−Fcへの結合を完全に喪失し、一方、W32A変異体は、野生型とのオーバーラップ結合曲線を有することを示した(
図5)。これらの点変異体の結合は、完全長GFRALでトランスフェクトされた細胞においても特徴付けられた。GFRAL発現細胞上のFACSによる結合結果は、プラトー系ECD:2つの生物学的に不活性な突然変異体の外、W32A変異体のみであるが、I89R変異体ではない結合結果は、野生型と比較して、蛍光強度の同様の幾何平均を有する(
図6)。
【0105】
I89R及びW32A変異体の両方が生物学的に不活性であるということを発見すると、I89R変異体のみがGFRALに結合していたことを発見することは、構造モデルと一致する。インシリコ分析は、I89残基がGFRAL相互作用エピトープに存在することを示唆しているが、RET共受容体がW32残基の周囲でGDF15と有効に相互作用し得ることも示している。これは、W32変異体が依然としてGFRALに結合するが、共受容体相互作用の欠如により、それはインビボで生物活性を有さない実験データと一致する。
【0106】
実施例5.GFRAL過剰発現細胞におけるGDF15誘導性インビトロシグナル伝達
GDNFファミリーリガンドは、特異的GFRα受容体に結合し、RET受容体チロシンキナーゼの活性化を通じてシグナル伝達する。活性化の際、RETは、セリン/トレオニンキナーゼAkt、マイトジェン活性化プロテインキナーゼErk1/2、及びホスホイノシチド特異的ホスホリパーゼCγ1(PLCγ1)のリン酸化を含む、複数のシグナル伝達経路を引き起こす複数のチロシン残基上でリン酸化される(Mulligan,Nature Reviews Cancer 2014,14,p.173〜186に掲載されている)。したがって、GDF15のGFRALへの結合を通じたRET媒介シグナル伝達経路の活性化を十分に調査した。
【0107】
GFRALを過剰発現するSK−N−AS及びNG108−15細胞を使用して、GDF15刺激のシグナル伝達経路を調査した。細胞としてSK−N−AS細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)及び0.1mM非必須アミノ酸(NEAA)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中に維持した。NG108−15は、神経芽腫(N18TG−2)及びラット神経膠腫(C6BU−1)のハイブリッドマウス細胞株である。NG108−15細胞を、4.5g/Lグルコースを用いてDMEMに維持し、10% FBS、10mMヒポキサンチン、0.1mMアミノプテリン、及び1.6mMチミジンを添加した。一過性トランスフェクションの場合、細胞を30%コンフルエンスで6ウェルプレートに播種し、細胞が約75〜80%コンフルエンスに達するまでインキュベートした。製造元の推奨に従って、Opti−MEMにおいてLipofectamine 2000を使用して、SK−N−AS及びNG108−15細胞の一過性トランスフェクションを実施した。細胞を6ウェルプレートで培養し、使用したDNA対リポフェクタミン2000の比は、4μgのDNA:10μlのリポフェクタミン2000であった。トランスフェクションの約40時間後に、ホスホシグナル伝達評価を行った。
【0108】
タンパク質の発現レベル、又はシグナル伝達タンパク質のリン酸化状態をアッセイするために、ウェスタンブロットを行った。イムノブロット分析のために、細胞を16時間血清飢餓状態にし、特に明記しない限り、50ng/mLの組換えNRTN又はGDF15で15分間刺激した。刺激後、細胞を、90μLの細胞シグナリングバッファー(Cell Signaling Technologies)を添加する前に、氷冷PBSで2回洗浄した。細胞を、細胞スクレーパを使用して皿から掻き取り、エッペンドルフチューブに移し、氷上で20分間維持した。試料を3回、10秒間超音波処理し、次いで4℃で10分間16,000×gで遠心分離した。上清を新鮮なチューブに移し、−80℃で保存した。
【0109】
タンパク質濃度を、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイキット(Pierce製)によって測定した。試料緩衝液を溶解物に添加し、95℃で5分間加熱した後、冷却した。等量のタンパク質をNuPAGE 4−12% Bis−Trisゲル(Invitrogen)上に充填し、NuPAGE MES−SDSランニング緩衝液中で、150ボルトで50分間稼働させ、その後、iBlot転写システム(ThermoFisher)を使用してニトロセルロース膜に移した。LI−CORブロッキング緩衝液を用いて膜を60分間ブロッキングした。異なる抗体について異なる最適希釈で一次抗体インキュベートを実施した。一次抗体の全てのインキュベートを4℃で一晩実施した後、二次抗体(LI−CORからのAlexa Fluor 680又はAlexa Fluor 800)インキュベートを、1:10000希釈で1時間室温で実施した。3回洗浄後、膜を、Odygsey Infrared Imaging System(LI−COR)で走査した。
【0110】
SK−N−AS細胞は、別のGDNFファミリーリガンドのNeurturin(NRTN)の天然受容体である、GFRα2及びRETを内因的に発現する。GFRALのトランスフェクションなし(
図7、左半分)では、NRTNを添加するが、GDF15は、ホスホ−Tyr、ホスホ−Akt、ホスホ−Erk1/2及びホスホ−PLCγ1に強いバンドを誘導しない。GFRALをトランスフェクトしたとき(
図7、右半分)、非融合GDF15の添加はまた、ホスホ−Tyr、ホスホ−Akt、ホスホ−Erk1/2及びホスホ−PLCγ1においてシグナル伝達を誘導する(
図7、レーン6とレーン4との比較)。HSA−GDF15分子でホスホシグナル伝達を確認した(
図8、レーン10)。しかしながら、W32位及びI89位における2つの生物学的に不活性なGDF15点突然変異体のHSA融合は、SK−N−AS細胞内の、ホスホチロシン、ホスホ−Akt、ホスホ−Erk1/2、及びホスホ−PLCγ1のシグナル伝達を誘発しなかった(
図8、レーン11及び12)。
【0111】
NG108−15細胞は、リガンドGDNFの天然受容体であるGFRα1及びRETを内因的に発現する。GFRALのトランスフェクションなし(
図9、左半分)では、GDNFを添加するが、GDF15は、ホスホ−Tyr、ホスホ−Akt、ホスホ−Erk1/2、及びホスホ−PLCγ1に強いバンドを誘導しない。GFRALをトランスフェクトしたとき(
図9、右半分)、非融合GDF15の添加はまた、ホスホ−Tyr、ホスホ−Akt、ホスホ−Erk1/2及びホスホ−PLCγ1においてシグナル伝達を誘導する(
図9、レーン6とレーン4との比較)。
【0112】
実施例6.GFRAL受容体はインビボでGDF15の効果を媒介する。
B6のコホート;129S5−Gfraltm1Lex(Gfral−/−)構成的ノックアウト(KO)マウス、並びに野生型リタテメート対照(Gfral+/+)マウスを、Taconic Biosciences Model TF3754からの繁殖コロニーから得、Taconic Biosciences,USAで維持した。TF3754モデルは、元々、相同組換えを介してGfral(NM_205844)のlacZ/Neoカセット標的化エクソン2〜3の挿入を通して、Lexicon Pharmaceuticals(The Woodlands,TX,USA)で元々生成された。記載の試験で使用した動物は、少なくとも1回C57Bl/6NTacマウスに戻し交配した129S5:C57Bl/6NTacの混合バックグラウンドであった(〜N2 B6)。成人マウスは、Taconic BiosciencesからJanssen R&D、Spring House,PAに輸送され、これらは、少なくとも1週間の順応性を許容した。本研究で使用された全ての動物は、Institutional Animal Care & Use Committee(IACUC)(Janssen R&D,Spring House,PA)によって承認されたプロトコルに従って維持した。12時間の光/暗サイクル及びプラスチックの豊富化を有する温度及び湿度制御された室内のペーパビーディングにマウスを収容した。マウスを水に自由にアクセスさせ、Laboratory Rodent Diet #5001(LabDiet,USA)上に維持した。食物摂取量は、BioDAQ食品摂取監視システム(Research Diets,NJ,USA)を使用して測定した。マウスを単独で紙の寝具の上に収容し、4mL/kgのPBS又は組換えヒトGDF15(PBS中4nmol/mL)(Janssen BioTherapeuticsによって生成)のいずれかの皮下投与の72時間以上前にBioDAQケージに順応させた。
【0113】
遺伝子型解析
尾部スニップDNAを使用して、マウスの遺伝子型を決定した。以下のプライマー配列:TF3754−16(配列番号4)、TF3754−15(配列番号5)、及びNeo3b(配列番号6)を使用して、REDExtract−N−Amp(商標)組織PCRキットプロトコル(Sigma−Aldrich)に従ってDNA抽出及び増幅を行った。PCR産物を2%アガロースゲル上での電気泳動により分離した。野生型対立遺伝子(TF3754−16及びTF3754−15)の増幅は133塩基対の産物をもたらし、一方標的Gfral対立遺伝子(Neo3b及びTF3754−15)の増幅は330塩基対の産物をもたらした。
【0114】
遺伝子発現
Gfralの発現パターンを決定するために、組織を、Taconic Biosciences,USAから入手した5ヶ月齢の雄型C57Bl/6Nマウスから単離し、小脳、後脳、中脳、視床下部、海馬、皮質、下垂体、白色脂肪死、褐色脂肪、膵臓、肝臓、骨格筋、脾臓、腎臓、心臓、肺、精巣、胃、小腸領域、結腸、胸腺、副腎、腸間膜リンパ節、骨髄、精嚢、及びエピディジスミスの領域。5mmステンレス鋼ビーズ(Qiagen)を有するTissueLyserを使用して実施した組織ホモジナイズを用いて、RNeasy Lipid Tissue Mini Kit(Qiagen)で抽出した。マウスGfral及び18S用のTaqMan(登録商標)遺伝子発現マスターミックス及びTaqMan(登録商標)遺伝子発現を用いて、ViiA(商標)7リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)で定量的PCRを完了した。遺伝子発現の相対量は、対象とする全ての標的遺伝子を含有するプールされたマウス脳cDNAの連続希釈から生成された各遺伝子の増幅の標準曲線に基づいて決定した。Gfralの相対量を18Sの相対量に正規化した。
【0115】
Gfral発現を、グリトメート対照と比較して、Gfralノックアウトマウスの脳組織から得られたRNAに対して定量PCRを用いて解析した。RNEASY Lipid Tissue Mini Kit(Qiagen)でRNAを抽出し、5mmステンレス鋼ビーズ(Qiagen)を有するTissueLyserを用いて実施した。cDNAは、高容量cDNAキット(Applied Biosystems)を使用して調製した。SYBR(登録商標)遺伝子発現マスターミックス及びエクソン2と3の間の接合部を特異的に標的とする以下のプライマー配列を使用して、ViiA(商標)7リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)で定量的PCRを完了した。MGfral Forward(配列番号7)、mGfral Reverse(配列番号8)、及びmARBP順方向(配列番号9)及びmARBP逆方向(配列番号10)。
【0116】
結果
マウスにおけるgfral発現の検出は脳に限定され、そして後脳において特異的に濃縮された(
図10)。受容体を欠くマウスを使用してインビボでのGFRALの機能を調査した。受容体の欠失は定量的PCRによって確認された(
図10)。インビボでのGFRALに対するGDF15シグナル伝達の依存性を評価するために、組換えヒトGDF15での処置後に、オスのGFRAL KOマウス及び野生型同腹仔における食物摂取量を測定した。16nmol/kgでのGDF15の単回皮下投与は、その後の12時間の食物摂取量を野生型マウスにおいて40%以上減少させ、この効果はGFRAL KOマウスにおいては見られなかった(
図11)。
【0117】
実施例7.HSA−GDF15のカニクイザルGFRALへの結合
HSA−GDF15は、リンカー(配列番号26)を介して成熟GDF15(AA 197−308)のN末端に融合したHSA(配列番号23)として設計された。HSA−GDF15を一過性トランスフェクションによってExpi293TM細胞で発現させ、CaptureSelect樹脂により精製した後、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。簡潔に述べると、細胞上清を、あらかじめ平衡化した(PBS、pH7.2)HSA CaptureSelectカラム(CaptureSelect Human Albumin Affinity Matrix,ThermoFisher Scientific)に充填した。充填後、未結合タンパク質をカラム容量(CV)の10倍量のPBS(pH7.2)でカラムを洗浄することによって除去した。カラムに結合したHSA−GDF15を10CVの20mM Tris中の2M MgCl2(pH7.0)で溶出した。ピーク画分をプールし、ろ過(0.2μm)し、4℃のPBS(pH7.2)に対して透析した。透析後、タンパク質を再びろ過し(0.2μm)、適当な体積にまで濃縮した後、26/60 Superdex 200カラム(GE Healthcare社)にロードした。高い純度でSECカラムから溶出したタンパク質画分(SDS−PAGEにより測定された)をプールした。
【0118】
可溶性組換えGFRALを作製するために、ヒトGFRAL(配列番号19)又はカニクイザルGFRAL(配列番号27)のいずれかの細胞外ドメイン(ECD)を、6×HisタグでヒトIgG1 Fcに融合するように設計した。C末端(ヒトについては配列番号28、カニクイザル融合については配列番号29を参照)。GFRAL ECDタンパク質を、製造者のプロトコルに従ってExpiFectamine(商標)293トランスフェクションキットを使用した一過性トランスフェクションによってExpi293(商標)細胞で発現させ、固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。簡潔に述べると、各タンパク質について、清澄化した細胞上清をHisTrap HPカラムに適用し、続いてイミダゾール濃度を増加させた段階的溶出(10〜500mM)を行った。GFRAL ECDを含有する画分をSDS−PAGEにより同定し、プールした。1x DPBS、pH7.2で平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pgカラム(GE Healthcare)に充填する前に、タンパク質を0.2μm膜を使用してろ過し、適切な容量に濃縮した。高純度でSECカラムから溶出したタンパク質画分(SDS−PAGEにより測定)をプールし、4℃で保存した。
【0119】
ProteOn XPR36システム(Bio−Rad,Hercules,CA)使用して表面プラズモン共鳴(SPR)を用い、親和性測定を実施した。アミンカップリング化学反応についての製造元の説明書を使用し、抗ヒトIgG Fc(Jackson Immuno Research Labs,West Grove,PA)を、GLCチップ(BioRad)の加工アルギン酸ポリマー層にカップリングさせて、バイオセンサ表面を調製した。約5000RU(応答単位)のmAbを固定化した。ランニング緩衝液(DPBS+0.01% P20+100μg/mL BSA)中にて25℃で速度実験を実施した。HSA−GDF15、GFRAL ECD−Fc、又はアイソタイプ対照の結合速度論的実験を行うために、リガンドを5つの濃度(4倍連続希釈)で注射した。50μL/分で3分間会合段階をモニタした後、15分間緩衝液を流した(解離段階)。100μL/分で100mM H3PO4(Sigma,St.Louis,MO)を18秒間ずつ2回流してチップ表面を再生した。回収したデータをProteOn Managerソフトウェアを用いて処理した。まず、インタースポットを用いてバックグラウンドについてデータを補正した。次いで、分析物注入用の緩衝液注入を使用して、データのダブルリファレンスサブトラクション(double reference subtraction)を行った。ラングミュア型の1:1結合モデルを用い、データの速度論的分析を実施した。結果を、ka(会合速度)、kd(解離速度)、及びKD(平衡解離定数)の形で報告した。
【0120】
ヒトに対するHSA−GDF15とヒトIgG1 Fcに融合したカニクイザルGFRAL受容体細胞外ドメイン(GFRAL ECD−Fc)との間の相互作用を決定するために、結合速度論についてProteOn SPRアッセイにより試験した。表4は、カニクイザルGFRALに対するHSA−GDF15分子の結合親和性が、ヒトGFRAL(表3)と比較して2倍以内の差があることを示した。
【国際調査報告】