(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
本発明は、遺伝性、変性、中毒性、外傷性、虚血性、感染性、腫瘍性及び炎症性疾患、並びに老化、並びにその症状及び徴候によって引き起こされる細胞機能障害及び細胞死を処置又は予防する方法であって、そのエナンチオマーから単離されるか又はde novo合成されるかにかかわらず、重水素化及びトリチウム類似体を含めた、d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、l-モラミド、レボプロポキシフェン、薬学的に許容可能な塩、又はその混合物を投与することを含む、方法に関する。
神経系障害、内分泌代謝障害、心血管障害、加齢性障害、眼疾患、皮膚疾患、又はその症状及び徴候を処置若しくは予防するため、又は認知機能を改善するための方法であって、
d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、2-エチリデン-1,5-ジメチル-3,3-フェニルピロリジン(「EDDP」)、2-エチル-5-メチル-3,3-ジフェニルピラリン(「EMDP」)、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、l-モラミド、その薬学的に許容可能な塩、及びその混合物から選択される物質を対象に投与する工程
を含み、
前記物質が、そのエナンチオマーから単離される、又はde novo合成され、
前記物質の投与が、前記物質が、
(a)対象内の脳由来神経栄養因子(BDNF)若しくはテストステロンのレベルを調節する、
(b)対象のNMDA受容体、NET、又はSERTに結合する、又は
(c)対象の細胞のK+、Ca2++、又はNa+電流を調節する
のに有効な条件下で行われる、方法。
d-メサドンの投与が、経口的に、頬側に、舌下に、直腸内に、腟内に、経鼻的に、エアロゾルを介して、経皮的に、非経口的に、硬膜外に、くも膜下腔内に、耳介内に、眼内に、又は局所的に、例えば点眼薬及び他の眼科製剤により、又は例えばイオン導入及び皮膚科製剤により行われる、請求項2に記載の方法。
d-メサドンと組み合わせる第2の物質が、メマンチン、デキストロメトルファン、及びアマンタジン;ケタミン;(±)-5-(アミノカルボニル)-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン-5,10-イミン・塩酸塩(ADCI HCl);CGS19755 (セルフォテル)から選択されるNMDAチャネル遮断薬;7-クロロ-4-ヒドロキシ-3-(-3-フェノキシフェニル)-2(1H)キノリン(L 701,324);(+)-((R)-3-アミノ-1-ヒドロキシピロリジン-2-オン[(+)-(R)-HA-966]から選択されるグリシン/NMDA受容体アンタゴニスト;(±)-3-アミノ-1-ヒドロキシピロリジン-2-オン[(±)-HA-966];コリンエステラーゼ阻害剤;気分安定薬;抗精神病薬;クロザピン;CNS興奮薬;アンフェタミン;抗うつ薬;抗不安薬;リチウム;マグネシウム;亜鉛;グルタミン;グルタミン酸塩;アスパルテーム;アスパラギン酸塩;鎮痛薬;オピオイド性薬物;ナルトレキソン、ナルメフェン、ナロキソン、1-ナルトレキソール、デキストロナルトレキソン、ノシセプチンオピオイド受容体(NOP)アンタゴニスト、及び選択的κオピオイド受容体アンタゴニスから選択されるオピオイドアンタゴニスト;ニコチン受容体アゴニスト及びニコチン;タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA);他の胆汁酸、オベチコール酸、イデベノン、フェニル酪酸(PBA)、他の芳香族脂肪酸、カルシウムチャネル遮断薬、一酸化窒素合成酵素阻害剤、レボドパ、ブロモクリプチン、他の抗パーキンソン病薬、リルゾール、エダラボン、抗てんかん薬、プロスタグランジン、β遮断薬、αアドレナリン受容体作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、副交感神経刺激薬、エピネフリン、高浸透圧剤、血糖降下薬、降圧薬、抗虚血薬、抗肥満薬、コルチコステロイド、免疫抑制薬、並びに非ステロイド性抗炎症薬から選択される、請求項4に記載の方法。
第2の物質及びd-メサドンの投与が、経口的に、頬側に、舌下に、直腸内に、腟内に、経鼻的に、エアロゾルを介して、経皮的に、非経口的に、硬膜外に、くも膜下腔内に、耳介内に、眼内に、例えば埋込みデポ製剤により、又は局所的に、例えば点眼薬及び他の眼科製剤により、例えばイオン導入及び皮膚科製剤により、行われる、請求項4に記載の方法。
d-メサドンの投与と組み合わせて、次の化合物:メサドン、l-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、イソメサドン、l-イソメサドン、d-イソメサドン、ノルメサドン及びN-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、アンチピリン、l-アンチピリン、d-アンチピリン;ジアンプロミド、l-ジアンプロミド及びd-ジアンプロミド;モラミド、d-モラミド及びl-モラミド、レボプロポキシフェンの少なくとも1つを投与する工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
神経系障害が、アルツハイマー病;初老期認知症;老年認知症;血管性認知症;レビー小体病;認知障害;パーキンソン病;パーキンソン病関連障害;βアミロイドタンパク質の蓄積と関連する障害;タウタンパク質及びその代謝物の蓄積又は破壊と関連する障害、前頭葉型、原発性進行性失語、意味性認知症、進行性非流暢性失語症、大脳皮質基底核変性症、核上性麻痺;てんかん;NS外傷;NS感染症;NS炎症、毒素による細胞病理;脳卒中;多発性硬化症;ハンチントン病;ミトコンドリア障害;リー症候群;LHON;脆弱X症候群;アンジェルマン症候群;遺伝性運動失調症;神経耳科学的及び眼球運動障害;網膜の神経変性疾患;筋萎縮性側索硬化症;遅発性ジスキネジア;多動性障害;注意欠陥多動障害;注意欠陥障害;下肢静止不能症候群;トゥレット症候群;統合失調症;自閉症スペクトラム症;結節性硬化症;レット症候群;脳性麻痺;報酬系の障害;過食性障害;抜毛癖;自傷性皮膚症;爪かみ;片頭痛;線維筋痛症;及び任意の病因の末梢性ニューロパチーから選択される、請求項1に記載の方法。
神経系障害の症状又は徴候が、実行機能、注意、認知速度、記憶、言語機能、空間的時間的位置づけ、実行、行為を遂行する能力、顔又は物体を認識する能力、集中、及び覚醒から選択される認知能力の低下、機能障害、又は異常;アカシジア、動作緩慢、チック、ミオクローヌス、ジスキネジア、ジストニア、振戦、及び下肢静止不能症候群から選択される異常運動;睡眠時随伴症;不眠症;睡眠パターンの混乱;精神病;せん妄;激越;頭痛;運動麻痺;痙攣;持久力の低下;知覚機能障害;異常感覚;自律神経障害;運動失調;平衡感覚又は協調運動の障害;耳鳴;神経耳科学的及び眼球運動障害;せん妄、頭痛、振戦、及び幻覚から選択されるアルコール離脱の神経症状及び徴候;社会能力の低下、過換気;無呼吸;手もみ行動;脊柱側弯症;小頭症;並びに抜毛癖、自傷性皮膚症、爪かみ;及びそう痒から選択される自傷行動から選択される、請求項1に記載の方法。
内分泌代謝障害が、メタボリックシンドローム、肥満、高血糖、2型糖尿病、高血圧、心筋梗塞、アンギナ、及び不安定狭心症から選択される冠動脈疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、性腺機能低下、テストステロン欠乏症、視床下部下垂体軸障害、WAGR症候群、11p欠失、及び11p逆位から選択されるBDNF欠乏症、プラダー・ウィリー症候群、スミス・マゲニス症候群、及びROHHAD症候群から選択される、請求項1に記載の方法。
生理的老化又は加速した老化及びその症状及び徴候と関連する障害が、認知障害、筋肉減少症、骨粗鬆症、性機能低下、持久力の低下、知覚機能障害、及び聴覚、嗅覚、味覚、平衡、又は視覚の障害から選択される、請求項1に記載の方法。
皮膚疾患又は症状が、自己免疫疾患及び物理的原因又は放射線療法から選択される複数の原因による乾癬、湿疹、白斑、皮膚炎;並びに抜毛癖、自傷性皮膚症、爪かみ;及びそう痒から選択される自傷行動から選択される、請求項1に記載の方法。
前記物質がd-メサドンであり、d-メサドンと組み合わせて、ナルトレキソンを投与する工程を更に含む、請求項13、14、15、16、17、又は18に記載の方法。
d-メサドンとナルトレキソンの組合せが、咳;疼痛;神経障害性疼痛;アルコール離脱;抑うつ、不安、情動調節障害、疲労、及び強迫性障害から選択される精神障害;抜毛癖、自傷性皮膚症、及び爪かみから選択される自傷行動;離人症性障害;処方薬、違法薬物、又はアルコール嗜癖;及び行動嗜癖の1つ又は複数を処置又は予防するために更に投与される、請求項19に記載の方法。
前記物質がd-メサドンであり、前記方法が、d-メサドンと組み合わせて、第2の物質を投与する工程を更に含み、第2の物質が、マグネシウム、トレオン酸マグネシウム、亜鉛、及びその薬学的に許容可能な塩から選択される、請求項13、14、15、16、17、又は18に記載の方法。
d-メサドンと前記第2の物質の組合せが、咳;疼痛;神経障害性疼痛;アルコール離脱;処方薬、違法薬物、又はアルコール嗜癖;及び行動嗜癖の1つ又は複数を処置するために更に投与される、請求項21に記載の方法。
神経系障害、内分泌代謝障害、心血管障害、加齢性障害、眼疾患、皮膚疾患を含む状態、又はその症状及び徴候を処置若しくは予防するため、又は認知機能を改善するための方法であって、
メサドン、l-メサドン、d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、イソメサドン、l-イソメサドン、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、アンチピリン、l-アンチピリン、d-アンチピリン;ジアンプロミド、l-ジアンプロミド、d-ジアンプロミド、モラミド、d-モラミド、l-モラミド、ラセモルファン様の薬物、デキストロメトルファン、ラセモルファン、デキストロルファン、3-メトキシモルフィナン、3-ヒドロキシモルフィナン、レボルファノール、レバロルファン、ブプレノルフィン、トラマドール、メペリジン、ペチジン、ノルメペリジン、ノルペチジン、プロポキシフェン、ノルプロポキシフェン、デキストロプロポキシフェン、レボプロポキシフェン、フェンタニル、ノルフェンタニル、モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォン、及びその代謝物から選択される少なくとも1つの物質と組み合わせてナルトレキソンを対象に投与する工程
を含み、
前記物質が、そのエナンチオマーから単離される、又はde novo合成され、
前記物質の投与が、前記物質が、
(a)対象内の脳由来神経栄養因子(BDNF)又はテストステロンのレベルを調節する、
(b)対象のNMDA受容体、NET、又はSERTに結合する、又は
(c)対象の細胞のK+、Ca2+、又はNa+電流を調節する
のに有効な条件下で行われる、方法。
神経系障害、内分泌代謝障害、心血管障害、加齢性障害、眼疾患、皮膚疾患を含む状態、又はその症状及び徴候を処置若しくは予防するため、又は認知機能を改善するための方法であって、
d-イソメサドン、l-モラミド、レボプロポキシフェン、その代謝物、及びそれらの組合せから選択される物質を対象に投与する工程
を含み、
前記物質が、そのエナンチオマーから単離される又はde novo合成され、
前記物質の投与が、前記物質が、
(a)対象内の脳由来神経栄養因子(BDNF)又はテストステロンのレベルを調節する,
(b)対象のNMDA受容体、NET、又はSERTに結合する、又は
(c)対象の細胞のK+、Ca2+、又はNa+電流を調節する
のに有効な条件下で行われる、方法。
神経系障害、内分泌代謝障害、心血管障害、加齢性障害、眼疾患、皮膚疾患、又はその症状及び徴候を処置又は予防するため、又は認知機能を改善するための方法であって、
d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、2-エチリデン-1,5-ジメチル-3,3-フェニルピロリジン(「EDDP」)、2-エチル-5-メチル-3,3-ジフェニルピラリン(「EMDP」)、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、l-モラミド、及びレボプロポキシフェンの重水素化又はトリチウム類似体から選択される物質を対象に投与する工程
を含み、
前記物質が、そのエナンチオマーから単離される、又はde novo合成され、
前記物質の投与が、前記物質が、
(a)対象内の脳由来神経栄養因子(BDNF)又はテストステロンのレベルを調節する,
(b)対象のNMDA受容体、NET、又はSERTに結合する、又は
(c)対象の細胞のK+、Ca2+、又はNa+電流を調節する
のに有効な条件下で行われる、方法。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本発明の1又は複数の特定の実施形態を下に記載する。これらの実施形態の正確な記述を提供しようと努めているが、実際の実践の全ての特徴が本明細書に記載されていない可能性もある。そのようないかなる実際の実践の開発においても、いかなるエンジニアリング又は設計プロジェクトでもそうであるように、システム関連及びビジネス関連の制約への適合等、実践ごとに異なる可能性がある開発者特異的な目標を達成するために、多数の実線特異的な決定を行わなければならないことを理解されたい。更に、そのような開発努力は、複雑で時間がかかるである可能性があるが、それにもかかわらず、この開示の恩恵を受ける当業者にとっては、設計、製作、及び製造の日常的な実施であろうことを理解されたい。
【0070】
上記の欠点を考慮して、NS障害並びに/又はその神経症状及び徴候を予防及び/又は治療する安全で有効な化合物、組成物、薬物、及び方法等の大きな需要がある。代謝疾患並びに眼疾患及び症状を予防及び/又は治療する安全で有効な化合物、組成物、薬物、及び方法等についても大きな需要がある。そのため、本発明は、本発明者らによってここに提示された新規データの欠如及び特定の物質の多くの認知された欠点(背景技術に記載のもの)により今まで使用されておらず、実際、当業者によって考慮されていない化合物、組成物、薬物、及び方法等による、様々な神経系(NS)障害[中枢神経系(CNS)及び末梢神経系(PNS)の障害を含める]並びにその神経症状及び徴候、並びに代謝内分泌疾患並びに細胞の老化並びにその症状及び徴候並びに眼疾患及び症状を処置及び予防することに関する。更に、本発明は、遺伝性疾患、変性疾患、中毒性疾患、外傷性疾患、虚血性疾患、感染性疾患、腫瘍性疾患、及び炎症性疾患並びに加齢及び関連疾患、症状及び徴候によって引き起こされる細胞機能障害及び細胞死を処置及び予防することに関する。
【0071】
その目的で、NMDA受容体以外にも、NET系、SERT系、及び脳由来神経栄養因子(「BDNF」)等の神経栄養因子及びテストステロン、並びにNa
+、Ca
+、K
+イオンチャネル及び電流、も多数のNS及び代謝過程並びに眼疾患及び症状において重要な役割を有する。そして、NMDA受容体複合体における異常に加えて、NET系、SERT系と関連する異常、並びにBDNF及びテストステロン、並びにNa
+、Ca
+、K
+イオンチャネル及び電流の異常も、背景技術に記載のNS障害及び代謝-内分泌障害並びに眼疾患及び症状を含めた多くの障害の発病及び悪化に関連づけられている。例えば、BDNFレベルの低下は、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、及びハンチントン病等の神経機能障害を有する神経変性疾患と関連する[Binder, D.K.ら、Brain-derived neurotrophic factor. Growth Factors. 2004 Sep;22(3):123-31]。BDNFレベル及び神経成長因子(NGF)の顕著な低下が、パーキンソン病患者の黒質線条体ドパミン領域及びアルツハイマー病患者の海馬で観察されている。
【0072】
その上、上記の通り、NMDA受容体における異常は、ADHDの発症に関連づけられている。ニューロトロフィンファミリーに属するBDNF遺伝子及びNGFR(神経成長因子受容体)遺伝子は、ニューロンの発生、可塑性、及び生存に関与し、学習及び記憶だけでなく認知機能に関する重要な役割も果たしている可能性がある。ADHDの発症に対するグルタミン酸作動性システム及びNMDA受容体の影響に加えて、BDNF系並びにNET系及びSERT系のエピジェネティックな調節は、最近、ADHDの発症に関連していることが見出されている[Banaschewski, T.ら、Molecular genetics of attention-deficit/hyperactivity disorder: an overview. Eur. Child Adolesc. Psychiatry 19, 237-257 (2010); Heinrich, H.ら、Attention, cognitive control and motivation in ADHD: Linking event-related brain potentials and DNA methylation patterns in boys at early school age. Scientific Reports 7, Article number: 3823 (2017)]。したがって、再び、NET系、SERT系、BDNF、及びテストステロンにおける異常は、NMDA受容体における異常が影響を与えているものと同じNS障害の多くに負の影響を与えるようだ。
【0073】
NETは、細胞外モノアミントランスポーターである。このトランスポーターを遮断する化合物は、神経伝達物質ノルエピネフリンの濃度の持続的増加を引き起こす。これは、一般に、交感神経系の刺激及び気分及び記憶への影響(下記参照)をもたらすことになる。
【0074】
SERTは、細胞外モノアミントランスポーターである。このトランスポーターを遮断する化合物は、神経伝達物質セロトニン濃度の持続的増加を引き起こす。SERTは、SSRI及び三環系抗うつ薬クラス(下記参照)の多くの抗うつ薬薬物療法の標的である。
【0075】
NE及びセロトニンは、気分障害に対するそれらの既知の作用に加えて、記憶及び学習にも関与している(Zhang G and Stackman RS Jr. The role of serotonin 5-HT2A receptors in memory and cognition. Front. Pharmacol., October 2015 Volume 6, article 225)。本発明者らが提示する(実施例の間)in vitro受容体研究は、NET及びSERTの阻害に対する特有のd-メサドン親和性値を示す;選択された脳領域にけるこれらの神経伝達物質の利用可能性の増大は、本発明者らが明らかにしたd-メサドンによる認知改善の一部を説明するのに寄与しうる。
【0076】
BDNFは、ヒトでは、BDNF遺伝子によってコードされているタンパク質である。BDNFは、成長因子のニューロトロフィンファミリーのメンバーである。神経栄養因子は、脳内及び末梢で見出されている。BDNFは、中枢神経系及び末梢神経系の特定のニューロンに作用し、既存のニューロンの生存を支持する助けとなり、新しいニューロン及びニューロン間のシナプスの成長及び分化を促進する。脳内では、それは、学習、記憶、及び高次の思考に極めて重要な領域である海馬、皮質、及び前脳基底部で特に活性である。BDNFは、この成長因子に応答できる受容体(TrkA、TrkB、p75NTR)に結合する。
【0077】
テストステロンは、生体で重要な役割を果たすよく知られたホルモンである。このホルモンは、性的欲求(性欲)、骨量、体脂肪分布、筋量及び強度、持久力、並びに赤血球及び精子の生成を調節する。小量の循環テストステロンは、エストロゲンの一形態であるエストラジオールに変換される。加齢性認知機能障害、メタボリックシンドローム(高血圧、高血糖、体脂肪過剰、並びにコレステロール又はトリグリセリドレベルの異常)、2型糖尿病、てんかん、以下のものを含めた組織の老化、すなわちニューロン、神経、筋肉(筋肉減少症及び持久力の低下を含める)、骨(骨粗鬆症を含める)、しわを含めた皮膚の老化、生殖腺(性機能障害及び性的欲求の低下を含める)、角膜(ドライアイ症候群を含める)、網膜(網膜の変性疾患を含める)、加齢性の難聴及び平衡障害を含めた認知機能障害。正常な老化並びにその症状及び徴候、並びに疾患によって引き起こされる加速した老化並びにその処置(例えば、がんに対する治療、例えば、化学療法と関連する持久力の低下)を含めた、上記の状態の全てが内因性テストステロンレベルを上方制御するによって改善されうる。別の適応は、任意の原因による低テストステロン症である。更にオピオイド療法及び他の薬物又は医療処置による医原性低テストステロン症は、d-メサドンによって予防又は治療される可能性がある。
【0078】
したがって、NMDA受容体、NET系、及び/又はSERT系を調節し、BDNF及びテストステロンレベルを上方制御する薬物は、異なった複数の機構を介して、興奮毒性を低減し、潜在的にミトコンドリアをCa
2+過負荷から保護し、潜在的に認知並びに他の神経疾患及び症状並びに代謝疾患及び眼疾患並びに症状を改善する可能性がある。その上、この薬物がヒトにおける有効性の証拠を示し、精神異常発現性又はオピオイド性の副作用がなく、安全であることが見出される場合、それは、NS障害並びにその神経症状及び徴候並びに代謝-内分泌疾患及び眼疾患並びに症状を治療するための大きな潜在力をもつものでありうる。更に、BDNFレベルを増加させる薬物は、糖尿病性末梢性ニューロパチーを含めた様々な病因の末梢性ニューロパチー等の末梢神経障害にも有用でありうる。
【0079】
その上、神経可塑性は、生命の発生段階と結びつけられるが、構造的及び機能的再構築が生涯にわたって起こり、CNS及びPNSのほとんどの疾患の発症、臨床経過、及び回復に影響を与えうることを確認する証拠が増えていることが知られている(Ksiazek-Winiarek, D.J.ら、Neural Plasticity in Multiple Sclerosis: The Functional and Molecular Background. Neural Plast. 2015:307175)。上記の通り、BDNFは、中枢神経系及び末梢神経系の特定のニューロンに作用し、既存のニューロンの生存を支持する助けとなり、新しいニューロン及びシナプスの成長及び分化を促進する。そのため、BDNFは、神経可塑性に影響を与えることによって、多くのNS障害の症状及び徴候を予防する、経過を変える、及び/又は治療するための潜在的な治療標的である。
【0080】
BDNFは、活性依存的なシナプス可塑性に関与しているようであるので、学習及び記憶におけるその役割に対する大きな関心がある[Binder, D.K.ら、Brain-derived neurotrophic factor. Growth Factors. 2004 Sep; 22(3):123-31]。海馬は、ヒト及び動物における多くの形態の長期記憶に必要とされ、BDNFの重要な作用部位であるようである。文脈学習中の海馬におけるBDNF発現の迅速で選択的な誘導が実証されている(Hall, J.ら、Rapid and selective induction of BDNF expression in the hippocampus during contextual learning. Nat Neurosci. 2000; 3:533-535)。別の研究は、道具使用学習と関連するサル頭頂葉皮質におけるBDNFの上方制御を実証した(Ishibashi, H.ら、Tool-use learning induces BDNF expression in a selective portion of monkey anterior parietal cortex. Brain Res Mol Brain Res. 2002; 102:110-112)。ヒトでは、ヒトBDNFタンパク質の5'プロ領域におけるバリンからメチオニンの多型が、エピソード記憶が弱いことと関連していることが見出されており、in vitroでは、met-BDNF-GFPで形質移入されたニューロンが脱分極誘発性BDNF分泌の低減を示した(Egan, M.F.ら、The BDNF val66met polymorphism affects activity-dependent secretion of BDNF and human memory and hippocampal function. Cell. 2003; 112:257-269)。
【0081】
BDNFは、ドパミン作動性ニューロン及び他の神経系に対する栄養及び保護作用を発揮することが知られている。したがって、認知機能の機能障害は、BDNFの低減によって起こる、又は悪化する可能性がある。しかし、上記の通り、Falkoらは、メマンチン(アルツハイマー病を処置するのに使用されるNMDA受容体アンタゴニスト)が、サルにおけるBDNFのmRNA及びタンパク質発現を特異的に上方制御することを見出した。これは、ドパミン機能に対するメマンチンの保護効果は、NMDA受容体アンタゴニズムとは機構的にかけ離れたものである可能性があり、BDNFに関係している可能性があることを示唆する。更に、Marvanova M.ら、The Neuroprotective Agent Memantine Induces Brain-Derived Neurotrophic Factor and trkB Receptor Expression in Rat Brain. Molecular and Cellular Neuroscience 2001; 18, 247-258は、メマンチンがラット脳におけるBDNFの産生を増加させたことを報告した。そのため、BDNFは、多くのNS疾患を処置するための治療候補である可能性が示唆されている(Kandel, E.R.ら、Principles of Neural Science, Fifth Edition, 2013)。
【0082】
そのような背景のもと、l-メサドンがメサドン維持(MMT)患者におけるBDNFの血液レベルを低減することが報告されている(Schuster R.ら、Elevated methylation and decreased serum concentrations of BDNF in patients in levomethadone compared to diamorphine maintenance treatment Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci 2017; 267:33-40を参照)。しかし、上記の通り、Tsaiら、2016は、ラセミ体のメサドンが、類似のグループのヘロイン依存性MMT患者におけるBDNFレベルを増加させることを見出した。したがって、本発明者らは、これらの研究により見出れた知見は、総合すれば、l-メサドンではなく、d-メサドンが、BDNFレベルの増加の主要な原因であり、d-メサドンは、ラセミ体のメサドン(l-メサドンを50%含有し、Schusterらによる記載の通り、BDNFレベルを低減し、d-メサドンの作用を相殺できる可能性があるだけでなく、強力なオピオイド作用も有する)よりBDNFレベルを増加させる活性が高い可能性が高いというアイデアを間接的に支持するものでありうるという新規な結論に達した。この結論は、当業者が以前に到達していないものであり、今までは、ラセミ体のメサドン、d-メサドン、及びI-メサドンの使用には多数の欠点があると考えられてきた。
【0083】
更に、Tsaiらに論じられている作用は、Falkoらによって示唆されているように、NMDA及び/若しくはNET系における調節によって、又はmRNAの上方制御を介して媒介される可能性があり、したがって、本発明者らが発見し、実施例に詳述されている、BDNFレベルに対するd-メサドンの作用によって示唆されるように、ラセミ体のメサドンだけでなく、d-メサドンにも本来あるものである可能性がある。したがって、本発明者らは、このmRNA媒介のBDNFの増加は、NMDA受容体、NET系、及びSERT系への作用に加えて、本発明者らが発見したd-メサドンによる認知改善についての別の可能性の高い説明を提供するという、別の新規な結論(更に当業者がこれまで考慮しなかったもの)に達した。更に、Tsaiが報告した、ラセミ体のメサドンの投与によって起こるこのMMT患者におけるBDNFの増加が、本発明者らによって試験されたd-メサドンの安全で有効な用量に匹敵する用量で見られた。
【0084】
知られているように、l-メサドンは、主に、オピオイドアゴニストであるが、d-メサドンは、非常に弱いオピオイドアゴニストであり、オピオイド受容体におけるこの活性は、NMDA受容体、NET系、及びSERT系における作用を調節する臨床作用を示し、(3)潜在的にBDNFを上方制御することが本発明者らにより予期されている用量では、不在であることが本発明者らにより見出されている。そのため、本発明者らは、(1)安全で高認容性であり、(2)NMDA受容体、NET系、及びSERT系に対する調節作用を維持することが予期される用量でオピオイド活性及び精神異常発現性の作用が無く、(3)潜在的にBDNFを上方制御する、d-メサドン様の薬物は、認知能力を改善することができ、負のオピオイド様作用も、精神異常発現性の作用も無いことを初めて決定した。したがって、Santiago-Palmaらによる2001年の研究を含めた本発明者らにより実施及び再分析された研究におけるもの等、他のオピオイドをメサドンで置換する場合、メサドン及び先行オピオイド(メサドンで置換されたオピオイド)のオピオイド作用が、それら自体を中和する、並びにメサドンの他の作用(NMDA受容体、NET系、及びSERT系の調節並びにBDNFの増加)の効果が明らかになり、臨床的に測定可能となる。本発明者らが示したこれらの他の作用(NMDA受容体、NET系、及びSERT系の調節並びにBDNFの増加)、は、d-メサドン異性体では、オピオイド作用を伴わずに存在するが、ラセミ体のメサドン及びl-メサドンでは、それらが、強力なオピオイド作用と共存するままである(したがって、臨床使用が制限される)。
【0085】
これらのNMDA、NET、SERT、BDNF、テストステロン作用、並びにK
+、Ca
2+、及びNa
+電流の調節も、何故、ベースライン認知障害を有する老齢虚弱患者は、本発明者であるManfredi及び他の著者が示した通り[Vuら、Use of Methadone as an Adjuvant Medication to Low-Dose Opioids for Neuropathic Pain in the Frail Elderly: A Case Series. J Palliat Med. 2016 Dec; 19(12):1351-1355を参照]、他のオピオイドではなくメサドンで処置されている間に認知機能がよりよいかを説明しうる。認知機能のこの改善は、メサドン又はその異性体の直接作用に原因があるとはこれまで考えられておらず、先行オピオイド(メサドンが導入されるときに中断されるオピオイド)によるオピオイド性の副作用の消失に原因があると常に考えられていた。更に、嗜癖を有する患者におけるメサドンの使用が認知改善と関連していたが、これらの作用は、本発明者らがここに教示するように、NMDA受容体、NET系、SERT系における調節又はBDNF若しくはテストステロンの増加又はK
+、Ca
2+、及びNa
+電流に対する作用の調節に媒介されたd-メサドンの直接作用に原因があるとは考えられていなかった。
【0086】
大半の研究は、メサドン維持療法(MMT)及びオピオイド一般が認知機能障害と関連すること、並びに欠損がある範囲の複数の領域にまたがって広がっていたことを示唆する。しかし、多くの研究は、健常対照とメサドン摂取の患者における認知障害を比較した。これらの研究は、これらが比較可能な群ではなく、オピオイド嗜癖を有する患者は、先行認知障害(ADHDの罹患率が高い)、不正薬物使用によって引き起こされる認知障害、並びに認知障害を起こすことが知られているHIV及びHCV等の併存症を有することが多いという事実を見過ごしていた。
【0087】
実際、多くの研究は、メサドンが、認知機能に対する負の作用の原因であるとしている[Wangら、Methadone maintenance treatment and cognitive function: a systematic review. Curr Drug Abuse Rev. 2013 Sep; 6(3):220-30を参照]が、メサドン摂取の患者の認知能力を不正オピオイド使用の患者の認知能力と比べた場合には、反対の結果が見出される。Wangら、Soykaら、及びGruberらは、MMTを受けている患者における認知機能又は感覚情報処理が、不正オピエート使用の患者のものに比べて改善されていることを見出した[Wangら、Neuropsychological performance of methadone-maintained opiate users. J Psychopharmacol. 2014 Aug; 28 (8):789-99; Soykaら、Better cognitive function in patients treated with methadone than in patients treated with heroin: A comparison of cognitive function in patients under maintenance treatment with heroin, methadone, or buprenorphine and healthy controls: an open pilot study. Am J Drug Alcohol Abuse. 2011 Nov; 37(6): 497-508; Gruber ら、Methadone maintenance improves cognitive performance after two months of treatment. Exp Clin Psychopharmacol. 2006 May; 14 (2):157-64及びWangら、Auditory event-related potentials in methadone substituted opiate users. J Psychopharmacol. 2015 Sep; 29 (9):983-95を参照]。そしてGrevertらは、levo-α-アセチルメタドールであるLAAMが記憶に影響を与えないことを見出した(LAAMのような強力なオピオイドは、記憶処理障害を引き起こすことが予期される)[Grevertら、Failure of methadone and levomethadyl acetate (levo-alpha-acetylmethadol, LAAM) maintenance to affect memory.Arch Gen Psychiatry. 1977 Jul; 34(7):849-53を参照]。Grevertら1977によるこの予想外の発見並びにWangら、2014、Soykaら、2011、Gruberら2006、並びにWangら、2015が指摘した改善は、オピオイド活性が無いd-メサドンで試験した場合、患者は、認知及び感覚情報処理に対するプラス効果を有する可能性があることをここで本発明者らに示す。
【0088】
更に、知られているように、ADHDを有する患者は、違法薬物への依存症を発症する可能性が更に高く(Biedermanら、Young adult outcome of attention deficit hyperactivity disorder: a controlled 10-year follow-up study. Psychological Medicine. 2006, 36(167-179)、メサドン維持患者は、ADHDの有病率が母集団より高い。違法薬物の使用者に比べた場合、MMT中の患者は認知機能が改善されており[Wangら、Neuropsychological performance of methadone-maintained opiate users. J Psychopharmacol. 2014 Aug; 28 (8):789-99; Soykaら、Better cognitive function in patients treated with methadone than in patients treated with heroin: A comparison of cognitive function in patients under maintenance treatment with heroin, methadone, or buprenorphine and healthy controls: an open pilot study. Am J Drug Alcohol Abuse. 2011 Nov; 37(6): 497-508;及びGruberら、Methadone maintenance improves cognitive performance after two months of treatment. Exp Clin Psychopharmacol. 2006 May; 14 (2):157-64]、感覚処理も改善されていることが見出された[Wangら、Auditory event-related potentials in methadone substituted opiate users. J Psychopharmacol. 2015 Sep; 29(9):983-95]。メマンチンは、ADHDを有する患者の認知機能を改善し[Mohammadiら、Memantine versus Methylphenidate in Children and Adolescents with Attention Deficit Hyperactivity Disorder: A Double-Blind, Randomized Clinical Trial. Iran J Psychiatry. 2015 Apr; 10(2):106-14]、NMDA受容体系は、学習、認知機能、及び記憶に極めて重要な役割を有することが見出されている(Kandel, E.R.ら、Principles of Neural Science, Fifth Edition, 2013)。オピオイドは鎮静作用を及ぼすことがよく知られており、したがって、いかなる認知改善もメサドンのオピオイド作用とは独立したものであるである可能性が高い。他方、本明細書に記載の本発明者らの研究に基づいて、オピオイド活性が無くNMDA、NET、SERT、及びBDNF系に有効な、d-メサドン様の薬物は、情報処理の欠損を改善し、MMT中の患者並びにHIV疾患及びてんかん等の他の障害で多く見られるADHD等の状態及び病因不明の軽度認知障害で有用である可能性がある。
【0089】
本発明者らの知見を併せたものに照らして、認知及び記憶についてのこれらの予想外の新知見は、NMDA、NET、SERT系、及び/又はBDNFの調節に対するメサドンの直接作用であり、したがって、メサドンに本来あるものであって、オピオイド関連のものでも、不正オピオイド使用の低減によるものでもない可能性がある。したがって、d-メサドン様の薬物は、情報処理の欠損を改善する可能性があり、不正薬物使用者及び病因不明の認知障害と関連する他の状態で頻度が高いADHD等の状態に有用である可能性がある。本発明者らのこの発見の前には、d-メサドン様の薬物を用いるこの種の処置、方法等は考慮されていなかった。
【0090】
その目的で、本発明者らは、d-メサドンがBDNF及びテストステロン血清レベルを上方制御し、潜在的に血圧及び糖血症を調節することを示す新しいヒトデータをここで本明細書に提供する。本発明者らは、ヒト研究におけるヒトでの認知機能を改善する有効性、線形薬物動態の新しい証拠、並びに潜在的に治療できる用量でオピオイド認知副作用及び精神異常発現性の副作用が無いことを実証する新しい薬力学データ並びに新しい総合安全性データの新しい証拠も発見した(したがって本発明者らが発見した、認知障害を改善するd-メサドンの潜在力を確認する)。本発明者らは、マイクロモル範囲におけるd-メサドンとのNMDA受容体の相互作用の特徴付けについての新しいデータも本明細書に提供し、全身投与後における予想より高いd-メサドンのCNレベルを示す新しい実験データを提供する。本発明者らは、NET及びSERTの阻害に対する特有のd-メサドン親和性値を示す、受容体研究の新しいin vitroデータも提供する。
【0091】
メマンチンは、中等度から重度ステージのアルツハイマー病治療用にFDA認可されている。しかし、本発明者らが言及したように、d-メサドンは、メマンチンよりよいNMDA受容体親和性を有し、アルツハイマー病で破壊されているNMDA系の調節に有効である可能性がある。NMDAアンタゴニスト活性に加えて、d-メサドンは、本発明者らが確認したように、NE及びSER再取り込みを阻害し[Coddら、Serotonin and Norepinephrine activity of centrally acting analgesics: Structural determinants and role in antinociception. IPET 1995; 274:(3)1263-1269]、本明細書に本発明者らが初めて示すように、潜在的に、BDNFレベルを増加させる。d-メサドンのこれらの作用も、アルツハイマー病に加えて多くのNS障害に対するその治療作用に寄与しうる(Kandel, E.R. ら、Principles of Neural Science, Fifth Edition, 2013)。そのため、NET[Coddら、Serotonin and Norepinephrine activity of centrally acting analgesics: Structural determinants and role in antinociception. IPET 1995; 274:(3)1263-1269]及びBDNFにおけるd-メサドンの作用は、アルツハイマー病の症状に対するさらなる利点を提供する可能性がある。増え続ける証拠は、ノルアドレナリン作動性神経支配の機能障害が、ADの発病及び進行を大きく悪化させることを示す(Gannon, M.ら、Noradrenergic dysfunction in Alzheimer's disease. Front Neurosci. 2015; 9:220)。
【0092】
本発明者らによる試験(本明細書に記載のもの)では、d-メサドンは、NS障害、又はその症状若しくは徴候の処置又は予防の大きな見込みがあることを示している。d-メサドンは、3回の異なる第1相試験(実施例に詳細に記載されている)において優れた安全性プロファイルをこれまでに実証している。更に、その予測可能な半減期及びその肝代謝は、特に腎機能障害を有する患者にとって、メマンチンに優る明らかな利点を提供する。その好ましい薬物動態のため(本発明者らが明らかにした)d-メサドンは、キニジン又は他の薬物による追加のリスク無しに、1日1回又は2回投与することができる。更に、d-メサドンの第1相研究(上で参照している)から得られたデータは、それが、心リスク及び血液学的リスク並びにNeudexta(登録商標)等の併用薬物による他の潜在的副作用が無く、安全であり、高い認容性を有することを示している。
【0093】
最近の証拠は、NMDAアンタゴニストが所与の領域内で作用を及ぼす程度が、その領域内の刺激の程度に関係することを示唆している。この特定の作用様式は、NS障害、内分泌代謝障害並びに目の障害並びに視床下部ニューロン、したがって視床下部下垂体軸の障害を含めたいくつかの障害で起こりうるように、患者のNMDA受容体が人体の限局した部位で異常に刺激される場合に重要であるである可能性がある。言い換えれば、d-メサドンは、グルタミン酸作動性活性を、この活性が異常に促進されるところでのみ選択的に調節できる可能性がある[Krystal J.H.ら、NMDA agonists and antagonists as probes of glutamatergic dysfunction and pharmacotherapies in neuropsychiatric disorders (Harv Rev Psychiatry. 1999 September-October; 7(3) 125-43]。
【0094】
まとめると、本発明者らが発見した増え続ける証拠は、d-メサドンが安全な薬剤であることだけでなく、それが、認知機能、並びに内分泌-代謝機能及び目の機能に対する臨床的に測定可能な作用を及ぼしうることを示唆する。これらの新しい知見は、d-メサドンを、NMDAアンタゴニスト及びNE再取り込み阻害剤、BDNF及びテストステロンの増加が潜在的に役立ちうる神経障害、内分泌代謝障害、目の機能障害と関連する疾患、例えば以下のもの等の治療の開発に適したものにする。アルツハイマー病;初老期認知症;老年認知症;血管性認知症;レビー小体病;認知障害[老化及び慢性疾患と関連する軽度認知障害(MCI)及びその処置を含める];パーキンソン病及び限定されるものではないが、パーキンソン認知症を含めたパーキンソン病関連障害;βアミロイドタンパク質の蓄積と関連する障害(限定されるものではないが、脳血管アミロイド血管症、後部皮質萎縮症を含める);限定されるものではないが、前頭側頭型認知症及びその異形、前頭葉型、原発性進行性失語(意味性認知症及び進行性非流暢性失語症)、大脳皮質基底核変性症、核上性麻痺を含めたタウタンパク質及びその代謝物の蓄積又は破壊と関連する障害;てんかん;NS外傷;NS感染症;NS炎症[NMDAR脳炎及び毒素による細胞病理(微生物毒素、重金属、駆除薬等を含める)を含めた自己免疫障害による炎症;脳卒中;多発性硬化症;ハンチントン病;ミトコンドリア障害;脆弱X症候群;アンジェルマン症候群;遺伝性運動失調症;神経耳科学的及び眼球運動障害;緑内障等の網膜の神経変性疾患、糖尿病網膜症並びに加齢黄斑変性;筋萎縮性側索硬化症;遅発性ジスキネジア;多動性障害;注意欠陥多動障害(「ADHD」)並びに注意欠陥障害;下肢静止不能症候群;トゥレット症候群;統合失調症;自閉症スペクトラム症;結節性硬化症;レット症候群;脳性麻痺;摂食障害[神経性食欲不振症(「AN」)及び神経性大食症(「BN」)及び過食性障害(「BED」)、抜毛癖、自傷性皮膚症、爪かみ、並びに物質乱用及びアルコール乱用並びに依存症を含める];片頭痛;線維筋痛症;並びに任意の病因の末梢性ニューロパチー。加えて本発明は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病並びに体脂肪及び肝脂肪の増加、高血圧、肥満を含めた内分泌代謝疾患、並びに網膜症、硝子体疾患、角膜疾
患、緑内障、及びドライアイ症候群を含めた目の疾患の処置及び/又は予防に関する。並びに、本発明者らは、病因不明の極めて軽度の認知障害を有する患者でさえ、NMDAアンタゴニズムと、NE及びセロトニン再取り込みの阻害とを組み合わせ、同時にBDNF及びテストステロンを増加させる、単独又は標準的治療と組み合わせた、d-メサドン様の薬物に応答しうることを発見した。
【0095】
そのため、本発明の一態様は、NMDA受容体を有する対象における、NS障害並びにその神経症状及び徴候、内分泌-代謝疾患、目の疾患、並びに老化並びにその症状及び徴候を処置する方法を提供する。この方法は、NMDA受容体アンタゴニスト物質(d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、l-モラミド、その薬学的に許容可能な塩、又はその混合物等)を対象に、その物質が対象のNMDA受容体に結合するのに有効な条件下で投与し、それによってNS障害並びにその神経症状及び徴候、内分泌-代謝疾患、目の疾患並びに老化を改善する工程を含む。この物質は、そのエナンチオマーから分離されたものでも、de novo合成されたものでもよい。
【0096】
本発明の更に別の態様は、NET及び/又はSERTを有する対象における、NS障害並びにその神経症状及び徴候、内分泌-代謝疾患、目の疾患並びに老化並びにその症状及び徴候を処置する方法を提供する。この方法は、物質(d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、l-モラミド、その薬学的に許容可能な塩、又はその混合物等)を対象に、その物質が対象のNET(及び/又はSERT)に結合するのに有効な条件下で投与し、それによってNS障害並びにその神経症状及び徴候、代謝疾患、目の疾患並びに老化を改善する工程を含む。この物質は、そのエナンチオマーから分離されたものでも、de novo合成されたものでもよい。
【0097】
本発明の更に別の態様は、BDNF受容体を有する対象における、NS障害並びにその神経症状及び徴候、内分泌-代謝疾患、目の疾患並びに老化並びにその症状及び徴候を処置する方法を提供する。この方法は、物質(d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、l-モラミド、その薬学的に許容可能な塩、又はその混合物等)を対象に、その物質が対象のBDNFレベルを増大させるのに有効な条件下で投与し、それによってNS障害並びにその神経症状及び徴候、代謝疾患、目の疾患並びに老化を改善する工程を含む。この物質は、そのエナンチオマーから分離されたものでも、de novo合成されたものでもよい。
【0098】
本発明の更に別の態様は、テストステロン受容体を有する対象における、NS障害並びにその神経症状及び徴候、内分泌-代謝疾患、目の疾患並びに老化並びにその症状及び徴候を処置する方法を提供する。この方法は、物質(d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、l-モラミド、その薬学的に許容可能な塩、又はその混合物等)を対象に、その物質が対象のテストステロンレベルを増大させるのに有効な条件下で投与し、それによってNS障害並びにその神経症状及び徴候、代謝疾患、目の疾患並びに加齢を改善する工程を含む。この物質は、そのエナンチオマーから分離されたものでも、de novo合成されたものでもよい。
【0099】
本発明の更に別の態様は、視床下部下垂体軸を有する対象における、NS障害並びにその神経症状及び徴候、内分泌-代謝疾患、目の疾患並びに老化並びにその症状及び徴候を処置する方法を提供する。この方法は、物質(d-メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、d-イソメサドン、ノルメサドン、N-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン、l-モラミド、その薬学的に許容可能な塩、又はその混合物等)を対象に、その物質が対象の視床下部下垂体軸を調節するのに有効な条件下で投与し、それによってNS障害並びにその神経症状及び徴候、内分泌並びに代謝疾患、目の疾患並びに老化を改善する工程を含む。この物質は、そのエナンチオマーから分離されたものでも、de novo合成されたものでもよい。
【0100】
本発明の様々な態様の実施形態は、上記のもの等のNS障害を治療するためのd-メサドンの使用を含むことができる。更に、本発明の様々な態様の実施形態には、メタボリックシンドローム、2型糖尿病並びに体脂肪及び肝脂肪の増加、高血圧、肥満を含めた内分泌-代謝疾患、並びに網膜症、硝子体疾患、角膜疾患、緑内障、及びドライアイ症候群を含めた目の疾患の処置及び/又は予防に加えて、(1)実行機能、注意、認知速度、記憶、言語機能(発話、理解、読字、及び書字)、空間的時間的位置づけ、実行、行為を遂行する能力、顔又は物体を認識する能力、集中、及び覚醒を含めた認知能力の低下、機能障害、又は異常;(2)アカシジア、動作緩慢、チック、ミオクローヌス、ジスキネジア(ハンチントン病関連のジスキネジア、レボドパ誘発ジスキネジア並びに神経遮断薬誘発ジスキネジアを含める)、ジストニア、振戦(本態性振戦を含める)、並びに下肢静止不能症候群を含めた異常運動;(3)睡眠時随伴症、不眠症、並びに睡眠パターンの混乱;(4)精神病;(5)せん妄;(6)激越;(7)頭痛;(8)運動麻痺;痙攣;持久力の低下(9)知覚機能障害(視覚及び視野、臭覚、味覚、並びに聴覚の機能障害を含める)並びに異常感覚;(10)自律神経障害;並びに/又は(11)運動失調、平衡感覚若しくは協調運動の障害、耳鳴、並びに神経耳科学的及び眼球運動障害等のNS障害の神経症状又は徴候を治療するためのd-メサドンの使用を含めることができる。
【0101】
様々な実施形態で、d-メサドンは、対象のNS障害並びにその症状及び徴候、代謝疾患並びに目の疾患を処置するために単独で、又は上記の障害を治療するのに潜在的に有用な他の薬物及び若しくは他のNMDAアンタゴニストと組み合わせて使用することができる。そのため、本発明の別の実施形態では、この方法は、1を超える数の物質を対象に投与する工程を含むことができる。例えば、この方法は、NS障害を治療するのに使用される薬物を、d-メサドンの投与と組み合わせて、対象に投与する工程を更に含むことができる。様々な実施形態で、このNS薬物は、コリンエステラーゼ阻害剤;メマンチン、デキストロメトルファン、及びアマンタジンを含めた他のNMDAアンタゴニスト;気分安定薬;クロザピンを含めた抗精神病薬;CNS興奮薬;アンフェタミン;抗うつ薬;抗不安薬;リチウム;マグネシウム;亜鉛;オピオイドを含めた鎮痛薬;ナルトレキソン、ナルメフェン、ナロキソン、1-ナルトレキソール、デキストロナルトレキソンを含め、NOPアンタゴニスト及び選択的kオピオイド受容体アンタゴニストを含めたオピオイドアンタゴニスト;ニコチン受容体アンタゴニスト並びにニコチン;タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)並びに他の胆汁酸、オベチコール酸、イデベノン、フェニル酪酸(PBA)並びに他の芳香族脂肪酸、カルシウムチャネル遮断薬並びに一酸化窒素合成酵素阻害剤、レボドパ、ブロモクリプチン並びに他の抗パーキンソン病薬、リルゾール、エダラボン、抗てんかん薬、プロスタグランジン、β遮断薬、αアドレナリン受容体作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、副交感神経刺激薬、エピネフリン、高浸透圧剤から選択することができる。
【0102】
更に、上記適応症の全てに対するd-メサドンの作用は、他の薬物との併用によって増強される可能性がある。NMDAアンタゴニストは、アルツハイマー病(メマンチン)及びパーキンソン病(アマンタジン)を治療するために使用されている。マグネシウムはNMDAR遮断薬であり、マグネシウム補給は、高血圧、インスリン感受性、高血糖、糖尿病、左室肥大、及び脂質異常症を改善する潜在力を有することが示されており、加えて、それは、特定のタイプのてんかん発作、例えば、子癇の一部として発症するものを治療でき(Euser AG. Cipolla MJ. Magnesium sulfate for the treatment of eclampsia: a brief review. Stroke. 2009 Apr; 40(4):1169-75)、トルサードドポアント等の不整脈に用いることができる。[Houston M. The role of magnesium in hypertension and cardiovascular disease. J Clin Hypertens (Greenwich). 2011 Nov; 13(11):843-7]; [Rosanoff A. Magnesium and hypertension. Clin Calcium. 2005 Feb; 15(2):255-60]。マグネシウムは、頭痛、CNS外傷、パーキンソン病及びアルツハイマー病の発病又は治療と関連づけられている(Vink R1. Magnesium in the CNS: recent advances and developments. Magnes Res. 2016 Mar 1; 29(3):95-101)。
【0103】
d-メサドンの作用を増強し及び又はその副作用を低減しうる薬物には、コリンエステラーゼ阻害剤;メマンチン、デキストロメトルファン、及びアマンタジンを含めた他のNMDAアンタゴニスト;気分安定薬;クロザピンを含めた抗精神病薬;CNS興奮薬;アンフェタミン;抗うつ薬;抗不安薬;リチウム;マグネシウム;亜鉛;オピオイドを含めた鎮痛薬;ナルトレキソン、ナルメフェン、ナロキソン、1-ナルトレキソール、デキストロナルトレキソンを含め、NOPアンタゴニスト及び選択的kオピオイド受容体アンタゴニストを含めたオピオイドアンタゴニスト;ニコチン受容体アンタゴニスト及びニコチン;タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)及び他の胆汁酸、オベチコール酸、イデベノン、フェニル酪酸(PBA)及び他の芳香族脂肪酸、カルシウムチャネル遮断薬及び一酸化窒素合成酵素阻害剤、レボドパ、ブロモクリプチン及び他の抗パーキンソン病薬、リルゾール、エダラボン、抗てんかん薬、プロスタグランジン、β遮断薬、αアドレナリン受容体作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、副交感神経刺激薬、エピネフリン、高浸透圧剤が含まれる。
【0104】
ナルトレキソン等のオピオイドアンタゴニストは、離人症性障害、抑うつ、及び不安等の精神障害に対する活性を有する可能性があり、他の抗うつ薬の作用を増強させる可能性があり、抑うつを改善し(Mischoulon Dら、Randomized, proof-of-concept trial of low dose naltrexone for patients with breakthrough symptoms of major depressive disorder on antidepressants. J Affect Disord. 2017 Jan 15; 208:6-14)、行動嗜癖、肥満を含めた嗜癖の治療に使用され、線維筋痛症、持久力の低下、及び多発性硬化症に適応外使用(FDA又はEMEA認可されていない使用)される。特に、ナルトレキソン等のオピオイドアンタゴニストとd-メサドンの組合せは、神経障害性疼痛を含めた慢性疼痛、線維筋痛症、片頭痛及び他の頭痛の治療のために投与された場合、相乗的であり、副作用及びリスクを低減する可能性があり;抑うつ、不安、強迫性障害、抜毛癖、自傷性皮膚症、爪かみ等の自傷行動、情動調節障害、離人症性障害、アルコール、オピオイド、ニコチン、ベンゾジアゼピン、刺激物質及び他のレクリエーショナルドラッグを含めた様々な物質に対する嗜癖、行動嗜癖を含めた精神症状及び疾患の治療のために投与された場合、相乗的であり、副作用が低減する可能性があり、本願で列挙する適応症(疾患及び症状)の全て並びに肥満及び咳の全てに対して投与された場合、相乗的であり、副作用が低減する可能性がある。
【0105】
選択的kオピオイド受容体アンタゴニストは、精神病の治療用に使用されており、調査中であり(Carroll FI and Carlezon WA. Development of Kappa Opioid Receptor Antagonists. Journal of medicinal chemistry. 2013; 56(6):2178-2195.)、d-メサドンと選択的k-アンタゴニストの組合せは、抑うつ並びに薬物に対する嗜癖及び病的行動、並びに以下に列挙する状態を含めた他の精神医学的状態の治療に相乗的である可能性がある。オピオイドアンタゴニストとd-メサドンの組合せによって改善される可能性のある疾患及び状態には、以下のものが含まれる:アルツハイマー病;初老期認知症;老年認知症;血管性認知症;レビー小体病;認知障害[老化及び慢性疾患と関連する軽度認知障害(MCI)及びその処置を含める];パーキンソン病及び限定されるものではないが、パーキンソン認知症を含めたパーキンソン病関連障害;βアミロイドタンパク質の蓄積と関連する障害(限定されるものではないが、脳血管アミロイド血管症、後部皮質萎縮症を含める);限定されるものではないが、前頭側頭型認知症及びその異形、前頭葉型、原発性進行性失語(意味性認知症及び進行性非流暢性失語症)、大脳皮質基底核変性症、核上性麻痺を含めたタウタンパク質及びその代謝物の蓄積又は破壊と関連する障害;てんかん;NS外傷;NS感染症;NS炎症[NMDAR脳炎、及び毒素(微生物毒素、重金属、駆除薬等を含める)による細胞病理を含めた自己免疫障害による炎症;脳卒中;多発性硬化症;ハンチントン病;ミトコンドリア障害;脆弱X症候群;アンジェルマン症候群;遺伝性運動失調症;神経耳科学的及び眼球運動障害;緑内障等の網膜の神経変性疾患、糖尿病網膜症及び加齢黄斑変性;筋萎縮性側索硬化症;遅発性ジスキネジア;多動性障害;注意欠陥多動障害(「ADHD」)及び注意欠陥障害;下肢静止不能症候群;トゥレット症候群;統合失調症;自閉症スペクトラム症;結節性硬化症;レット症候群;脳性麻痺;摂食障害[神経性食欲不振症(「AN」)及び神経性大食症(「BN」)及び過食性障害(「BED」)、抜毛癖、自傷性皮膚症、爪かみ、並びに物質乱用及びアルコール乱用並びに依存症を含める];片頭痛;線維筋痛症;及び任意の病因の末梢性ニューロパチー、代謝疾患及び目の疾患。
【0106】
これら及び他のNS障害と関連し、オピオイドアンタゴニストとd-メサドンの組合せによって改善される可能性のある神経症状及び徴候の一部の例には、(1)実行機能、注意、認知速度、記憶、言語機能(発話、理解、読字、及び書字)、空間的時間的位置づけ、実行、行為を遂行する能力、顔又は物体を認識する能力、集中、及び覚醒を含めた認知能力の低下、機能障害、又は異常;(2)アカシジア、動作緩慢、チック、ミオクローヌス、ジスキネジア(ハンチントン病関連のジスキネジア、レボドパ誘発ジスキネジア並びに神経遮断薬誘発ジスキネジアを含める)、ジストニア、振戦(本態性振戦を含める)、並びに下肢静止不能症候群を含めた異常運動;(3)睡眠時随伴症、不眠症、及び睡眠パターンの混乱;(4)精神病;(5)せん妄;(6)激越;(7)頭痛;(8)運動麻痺;痙攣;持久力の低下(9)知覚機能障害(視覚及び視野、臭覚、味覚、並びに聴覚の機能障害を含める)及び異常感覚;(10)自律神経障害;並びに/又は(11)運動失調、平衡感覚若しくは協調運動の障害、耳鳴、及び神経耳科学的及び眼球運動障害を含めることができる。代謝疾患及び眼疾患の一部の例には、メタボリックシンドローム、2型糖尿病及び体脂肪及び肝脂肪の増加、高血圧、肥満、及び網膜症、硝子体疾患、角膜疾患、緑内障及びドライアイ症候群及び散瞳が含まれる。
【0107】
咳も、オピオイドアンタゴニストとd-メサドン(又は他のオピオイド、例えば、コデイン、オピオイド異性体並びにオピオイド同類物及び代謝物、例えば、デキストロメトルファン、ラセモルファン、デキストロルファン、3-メトキシモルフィナン、3-ヒドロキシモルフィナン)の組合せによって緩和される可能性がある。オピオイドとオピオイドアンタゴニストの組合せは、望ましくないオピオイド性の副作用及びリスクを低減又は消失させながら、NMDA、NA/SERT、BDNF、mTOR系、テストステロンレベルに対する作用等の非オピオイド作用を保持する(これらの組合せも、オピオイド薬物並びにオピオイド受容体及びその異性体に結合する、オピオイド活性がほとんどない、又は全くない薬物と定義されるオピオイド薬物の同類物の乱用防止製剤となる)。このオピオイドアゴニスト/アンタゴニストの組合せは、オピオイド作用無しで、追加のオピオイド防止特性と共に、上に列挙した非オピオイド作用の利点を有するであろう。特に、この組合せ薬物は、意図されている適応症に更に有効であるか、同様に有効である可能性があるが、オピオイド作用(例えば、鎮静作用)及びリスク(例えば、誤用及び嗜癖のリスク)が大幅に低減されているか、全く無く、他のオピオイドの使用を防止する。
【0108】
一例として、コデイン及び/又はd-メサドン及び/又はデキストロメトルファンをナルトレキソンと組み合わせた咳シロップは、製剤中にナルトレキソン等のオピオイドアンタゴニストを含まず、したがって、乱用、嗜癖、及び他のオピオイド性の副作用のリスクを有する現在の市販品(とりわけ、Benylin(登録商標)、Robitussin(登録商標))に比べて、鎮静作用並びに嗜癖の可能性が小さく、咳に対して同等に有効である可能性がある。オピオイド薬物とナルトレキソンの組合せは、このオピオイドを、副作用が無いものにするだけでなく、オピオイド乱用防止薬物にもする。この組合せは、例えば咳治療薬として使用される場合におけるオピオイド又はオピオイド組合せについてのFDA及びDEAスケジュールを変えることができるかもしれない。今まで、オピオイドを、オピオイド受容体アゴニスト作用に媒介される作用の全て又は大半を相殺するのに十分な用量で、ナルトレキソン等のオピオイドアンタゴニストと組み合わせることは、当業者にとって反直感的なことであった。しかし、本明細書に記載の本発明者らの研究は、様々な疾患、症状、及び状態の処置又は予防に有用でありうる、オピオイド受容体に及ぼす作用以外の特定のオピオイドのいくつかの作用がどのようにして存在するのかをここで明らかにした。
【0109】
ラセミ体のメサドンが、咳の治療(Molassiotisら、Clinical expert guidelines for the management of cough in lung cancer: report of a UK task group on cough. Cough. 2010 Oct 6; 6:9)及び難治性のしゃっくりに使用されてきた。新規なd-メサドン様薬物は、NMDAアンタゴニスト活性とNE再取り込み阻害を組み合わせ、潜在的にBDNFレベルを増加させるが、オピオイド活性が無く、安全で高認容性であり、単独で、又はナルトレキソンと組み合わせて、これらの難治性の症状を治療する上での特有の利点を提供し、ラセミ体のメサドンより臨床的に有用でありうる。
【0110】
ナルトレキソンとd-メサドンの可能な組合せの例には、(1)細胞の、遺伝性疾患、変性疾患、中毒性疾患、外傷性疾患、虚血性疾患、感染性疾患、腫瘍性疾患、及び炎症性疾患に対する細胞保護並びにそれらの症状の予防及び処置、(2)疼痛及びオピオイド耐性の処置、(3)薬物、アルコール、ニコチンに対する嗜癖及び行動嗜癖を含めた精神病及び症状の処置、(4)咳、(5)肥満(6)代謝疾患及び老化並びにその症状及び徴候(7)眼疾患(8)NSの疾患並びにその症状及び徴候のための用量1〜5000mgのd-メサドン及び用量1〜5000mgのナルトレキソン(例えば、d-メサドン1〜250mgとナルトレキソン1〜50mgの組合せ)が含まれる。d-メサドン/ナルトレキソンの組合せは、d-メサドンの誤用も予防し、より高用量のd-メサドンによって一部の患者で潜在的に引き起こされる可能性がある、覚醒の低下、集中の低下、短期記憶及び集中時間の低下、嗜眠、傾眠、呼吸抑うつ、悪心及び嘔吐、便秘、めまい及び回転性めまい、そう痒、鼻閉及びうっ血、喘息の悪化、咳の抑制、身体依存、嗜癖、縮瞳等の軽度のオピオイド作用さえ消失させるか又は削減する可能性がある。
【0111】
列挙した可能性のあるオピオイド関連の副作用を削減するので、ナルトレキソン又はナルメフェンの組合せは、メサドン様の薬物(d-メサドン、l-メサドン、メサドン、β-d-メタドール、α-l-メタドール、β-l-メタドール、α-d-メタドール、アセチルメタドール、d-α-アセチルメタドール、l-α-アセチルメタドール、β-d-アセチルメタドール、β-l-アセチルメタドール、d-α-ノルメタドール、l-αノルメタドール、ノルアセチルメタドール、ジノルアセチルメタドール、メタドール、ノルメタドール、ジノルメタドール、EDDP、EMDP、イソメサドン、l-イソメサドン、d-イソメサドン、ノルメサドン及びN-メチル-メサドン、N-メチル-d-メサドン、N-メチル-l-メサドン);アンチピリン、l-アンチピリン、d-アンチピリン;ジアンプロミド、l-ジアンプロミド及びd-ジアンプロミド;モラミド、d-モラミド及びl-モラミド等の、NMDARカテコールアミン作動性若しくはセロトニン作動性の系又はBDNF若しくはテストステロン系における作用を有する任意のオピオイドと共に使用した場合、並びにラセモルファン様の薬物(デキストロメトルファン、ラセモルファン、デキストロルファン、3-メトキシモルフィナン、3-ヒドロキシモルフィナン、レボルファノール、レバロルファン)又はブプレノルフィン、トラマドール、及びメペリジン(ペチジン)、その代謝物ノルメペリジン(ノルペチジン)、及びプロポキシフェン、その代謝物ノルプロポキシフェン、デキストロプロポキシフェン、レボプロポキシフェン、フェンタニル、その代謝物ノルフェンタニル、モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォン及びその代謝物等の他のオピオイド、並びに上に列挙した全薬物の重水素化類似体及びトリチウム類似体と共に使用した場合にも、相乗作用及び副作用の低下をもたらす可能性がある。まとめると、このナルトレキソン/オピオイドの組合せは、オピオイド作用を遮断し、それ故他の作用(NMDA、NET、SERT、BDNF、テストステロン媒介の作用)が臨床的に有用な作用を及ぼす(オピオイド性作用無しに)のを可能にすることによって、1)遺伝性疾患、変性疾患、中毒性疾患、外傷性疾患、虚血性疾患、感染性疾患、腫瘍性疾患、及び炎症性疾患並びに細胞の老化に対する細胞保護並びにそれらの
症状の予防及び処置2)疼痛の処置3)精神病及び症状の処置、(4)咳、(5)肥満(6)内分泌及び代謝疾患並びに老化並びにその症状及び徴候(7)眼疾患(8)NSの疾患並びにその症状及び徴候に有用である可能性がある。
【0112】
本発明の別の態様には、がん疼痛を含めた慢性疼痛及びその処置と関連する認知症状の治療のためのd-メサドンの使用が含まれる。
【0113】
本発明の別の態様には、d-メサドンがん、並びに化学療法、放射性同位体、免疫療法、及び脳放射線療法を含めた放射線療法を含めたその治療と関連する認知症状を治療するための、d-メサドンの使用が含まれる。
【0114】
本発明の別の態様には、オピオイド療法と関連する認知症状を治療するためのd-メサドンの使用が含まれる。
【0115】
本発明の別の態様には、脳卒中の発生後及び他のNS障害の発生後のNS機能障害を治療又は予防するため及び/又は関連の認知症状を処置又は予防するためのd-メサドンの使用が含まれる。NMDARアンタゴニズム及び本願で概要が示されている他の機構を介して、d-メサドンは、脳卒中を含めた急性NS傷害後に神経保護を与え、それによってNS機能障害を制限する潜在力を有する。
【0116】
上記の通り、本発明の諸態様は、物質を対象に投与して、神経伝達物質の存在に影響を与えること(受容体及び/若しくは神経伝達物質の再取り込みを遮断することによって又はBDNF若しくはテストステロンを増加させることによって)を対象とする。したがって、NMDA受容体は、生物学的作用が可能である、及び本発明におけるこの物質の投与は、NMDA受容体の生物学的作用を遮断するのに有効である。NMDA受容体は、対象の神経系に位置するものでありうる。
【0117】
代替として、又は追加に、対象は、生物学的作用が可能であるNET及び/又はSERTを有するものでもよく、本発明におけるこの物質の投与は、NETにおけるNE再取り込み及び/又はSERTにおけるセロトニンの取り込みを阻害するのに有効である。NET及び/又はSERTは、対象の神経系に位置するものでありうる。
【0118】
代替として、又は追加に、対象は、生物学的作用が可能であるBDNF受容体を有するものでものでもよく、本発明におけるこの物質の投与は、BDNF受容体におけるBDNFを増加させるのに有効である。BDNF受容体は、対象の神経系に位置するものでありうる。
【0119】
代替として、又は追加に、対象は、生物学的作用が可能であるテストステロン受容体を有するものでものでもよく、本発明におけるこの物質の投与は、テストステロン受容体におけるテストステロンを増加させるのに有効である。テストステロン受容体は、対象の神経系又は他の器官に位置するものでありうる。
【0120】
本発明の様々な態様及び実施形態において、NS薬物及びd-メサドンの投与が経口的に、頬側に、舌下に、直腸内に、腟内に、経鼻的に、エアロゾルを介して、経皮的に、非経口的に(例えば、静脈内、皮内、皮下、及び筋肉内注射)、硬膜外に、くも膜下腔内に、眼内に、耳介内に、例えば埋込みデポ製剤により、又は局所的に、例えば点眼薬により行われる。更に、対象は、ヒト等の哺乳動物である可能性がある。
【0121】
様々な態様及び実施形態において、本発明は、d-メサドンの投与と組み合わせて、d-メサドンの類似体の少なくとも1つのd-異性体を投与することを更に含むことができる。
【0122】
特定の一実施形態では、投与される物質がd-メサドンでありうる。このd-メサドンは、薬学的に許容可能な塩の形態のものあってもよい。更に、d-メサドンは、1日総用量約0.01mg〜約5,000mgで送達されてもよい。
【0123】
本発明の別の態様は、d-メサドンの投与と組み合わせて、別の薬物を対象に投与することを含むことができる。様々な実施形態で、この薬物は、コリンエステラーゼ阻害剤;メマンチン、デキストロメトルファン、及びアマンタジンを含めた他のNMDAアンタゴニスト;気分安定薬;クロザピンを含めた抗精神病薬;CNS興奮薬;アンフェタミン;抗うつ薬;抗不安薬;リチウム;マグネシウム;亜鉛;オピオイドを含めた鎮痛薬;ナルトレキソン、ナルメフェン、ナロキソン、1-ナルトレキソール、デキストロナルトレキソンを含め、NOPアンタゴニスト及び選択的kオピオイド受容体アンタゴニストを含めたオピオイドアンタゴニスト;ニコチン受容体アゴニスト及びニコチン;タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)及び他の胆汁酸、オベチコール酸、イデベノン、フェニル酪酸(PBA)及び他の芳香族脂肪酸、カルシウムチャネル遮断薬及び一酸化窒素合成酵素阻害剤、レボドパ、ブロモクリプチン及び他の抗パーキンソン病薬、リルゾール、エダラボン、抗てんかん薬、プロスタグランジン、β遮断薬、αアドレナリン受容体作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、副交感神経刺激薬、エピネフリン、高浸透圧剤から選択することができる。
【0124】
次に、NS障害(並びに/又はその症状及び徴候)の処置又は予防のためのd-メサドン等の物質の使用についての本発明者らの発見について述べると、d-メサドンの安全性及び鎮痛能力を確立するための臨床研究(本発明者らによって設計された)がMemorial Sloan Ketteringの研究者によって実施された。この試験の結果は、2016年に公表された(Moryl, N.ら、A phase I study of d-methadone in patients with chronic pain. Journal of Opioid Management 2016: 12:1; 47-55, incorporated by reference herein in its entirety)。この第I-2a相研究は、慢性がん疼痛を有する患者に用量40mgで12時間ごとに12日間投与されたd-メサドンの影響を調査した。この研究から得られたデータの新規な解析において、本発明者らは、d-メサドン摂取の患者において、d-メサドンによる処置の第12日目に、Modified Mini Mental State (3MS)スコアが、ベースライン前処理スコアと比較して改善していたことを発見した。(当業者に知られているように、Modified Mini Mental State(3MS)は、その人の注意力、集中、時間及び場所の見当識、長期及び短期記憶、言語能力、構造実行、抽象思考、並びにリスト作成頻度を評価するように設計されている。)
【0125】
特に、評価可能な6人の患者のうち5人で、少なくとも1ポイント改善され、1人の患者は、6ポイントも改善した(平均1.8ポイントの改善)。第12日目に、d-メサドンによる前処理に比べて悪化していた患者は1人のみであった。この患者は、2ポイント悪化していた。これらの患者は全て、ベースライン3MSスコアが高い患者であった(平均96.7)。そのため本発明者らは、(1)d-メサドンは、例えば、メマンチン(中等度又は重度の認知症を有する患者に対してのみFDA認可されている)とは反対に、軽度の神経障害を有する患者にさえ潜在的に有益でありえ、(2)データは、NS障害においてd-メサドンが利益をもたらしている可能性を示唆しており、その場合、NMDA、NET、及び/又はSERT系、BDNF又はテストステロンレベルの異常がd-メサドン様薬物によって調節できる可能性がある(上記のNS障害等)と判断した。
【0126】
注目すべきことに、この研究の時点で、研究者らは、単に、d-メサドンは認知副作用が無いと結論しており、可能性のあるいかなる直接的治療効果も見過ごしていた。研究プロトコールからの抜粋は、この薬物の直接作用からではなく、オピオイドの減量の場合にのみに認知的利益がある可能性があると研究者らが仮定していたことを示しており、以下のように述べている:「他のNMDAアンタゴニストは、認知副作用を引き起こすことが示されている(23、24、30)。d-メサドンがそのような作用を有するかどうか、又はオピオイド必要量を低減することによって、それがむしろ認知機能を改善するかどうかは明らかではない」(Moryl, N. ら、A Phase I/II Study of D-Methadone in Patients with Chronic Pain - THERAPEUTIC/DIAGNOSTIC PROTOCOL, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (2008) IRB#: 01-017A(12):1-28のp.15を参照)。
【0127】
実際、注目すべきことに、Morylの2016年の研究の考察/結論全体にわたって、認知機能に与えるd-メサドンの直接的利益の可能性についての言及が無い。むしろ、この研究では、多数の臨床報告が、メサドンの鎮痛効果が他のオピオイドに比べて優れていること及びモルヒネと比べてメサドンの用量漸増が小さく、これはメサドンの鎮痛作用に対する耐性が小さいことを意味していることを強調していると研究者らは述べている。そのため、研究者らは、メサドンのこれらの特有の利点(コントロール困難な疼痛におけるメサドンの有効性及びメサドンに対する耐性が小さいこと等)は、d-メサドン異性体のNMDAアンタゴニズムに原因があると通常は考えられていると述べている。更に、研究者らは、d-メサドンが、1日あたり80mgの用量を2回の分割投与で与えた場合に、慢性疼痛を有する患者で安全で高認容性であることをその研究が示したと結論した。
【0128】
がん関連疼痛を有する患者におけるd-メサドンの唯一の前向きヒト試験から得られたデータに基づく本発明者らの新しい観察は、2016年のMoryl論文が結論したように、d-メサドンが安全であるだけでなく、認知能力への直接的作用を有しうるというものである。本発明者らの発見は、認知システム、特に学習、記憶、及び神経可塑性に対する他のNMDAアンタゴニスト、NE及びSER再取り込み阻害剤、並びにBDNF及びテストステロンの既知の作用によって実証される。これらの患者で記載された認知改善は、特に本発明者らが発見したd-メサドンの新しい作用、特に新しく発見されたBDNF及びテストステロンの上方制御に関する作用に照らした多くのNS障害におけるd-メサドンの治療効果の可能性を示す。
【0129】
d-メサドンが認知を直接的に改善できるというこの新知見は、本発明者らが発見した第2の系統の証拠によって、また、メサドン及びd-メサドンについての本発明者らの知見を併せたものに基づいても示される。疼痛のためのメサドン使用の専門家である、Manfredi(本発明者らの1人)及び他の著者は、ラセミ体のメサドンの投与は鎮痛を改善し、他のオピオイドに比べて、関連するオピオイド認知副作用が小さいことを示す研究及び症例シリーズを長年にわたって公開している[Morley, J.S.ら、Methadone in pain uncontrolled by morphine. Lancet. 1993 Nov 13; 342(8881):1243; Manfredi, P.L.ら、Intravenous methadone for cancer pain unrelieved by morphine and hydromorphone. Pain 1997; 70: 99-101; De Conno, F.ら、Clinical experience with oral methadone administration in the treatment of pain in 196 advanced cancer patients. C.J Clin Oncol. 1996 Oct; 14 (10): 2836-42; Santiago-Palma, J.ら、Intravenous methadone in the management of chronic cancer pain: safe and effective starting doses when substituting methadone for fentanyl. Cancer 2001; 92 (7):1919-1925; Moryl, N.ら、Pitfalls of opioid rotation: substituting another opioid for methadone in the treatment of cancer pain. Pain 2002; 96(3):325-328]。当該発明者Manfrediを含めたこれらの著者は、以前には、別のオピオイドからメサドンへの切り換えの後に起こる認知及び
覚醒の改善の原因が、オピオイド耐性が低下し、それによって対応するオピオイド用量が低下し、オピオイド性の副作用が軽減することにあると常に考えていた。これが当業者の一般通念であった。当業者は、認知機能及び覚醒に対するメサドンの直接的なプラス効果について熟考することはなかった、及びしたがっては、NSの疾患でd-メサドンが有しうる治療上の意味を考えなかった。
【0130】
特に、Manfredi(本発明者らの1人)がその上級責任著者である、Santiago-Palmaらによる2001年の前向き臨床研究(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)では、18人の患者が、鎮静又は錯乱を理由に、フェンタニルからメサドンに切り替えられた。これらの患者において、鎮静は、1.5から0.16に減少した(P=0.001)。18人の患者のうち6人は、切り替えの直前に錯乱していた。切り替えの後、これら6人の患者のうち5人は、自覚的に(頭がさえている感じがし、意識が錯乱していない)及び客観的に(見当識、簡単な計算及び短期記憶の試験)改善した。本発明者らは、この研究及び他の同様な研究から得られたデータを見直した後、これらの患者において見られた認知改善並びに鎮静及び錯乱の解消は、以前に考えられていたように、フェンタニルのオピオイド性副作用の急激な欠如によるものではなく、NMDA、NET、及びSERT系、並びに/又はBDNFレベル及び/若しくはテストステロンレベルに対するラセミ体のメサドンの直接作用によって決定される可能性があると新たに結論することができた。それ故本発明者らによって、オピオイド活性及び精神異常発現性の作用が無いと示されているd-メサドン、は、NMDA、NET、及びSERT系、並びにBDNF及びテストステロンレベルにおける、様々な原因による認知障害を有する患者に恩恵を与えるであろう作用を有しうる。
【0131】
その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Manfrediがその上級責任著者である、Moryl N, Santiago-Palma J, Kornick C, Derby S, Fischberg D, Payne R, Manfredi P. Pitfalls of opioid rotation: substituting another opioid for methadone in patients with cancer pain. Pain 96 (2002) 325-328では、13人の患者が、メサドンから別のオピオイドに前向きに切り替えられた。これら13人の患者のうち12人は、錯乱(4人の患者)、鎮静(3人の患者)、不機嫌(4人の患者)及びミオクローヌス(1人の患者)等の副作用のためメサドンに切り替え戻さなければならなかった。本発明者らは、この研究及び他の同様な研究から得られたデータを見直した後、ここで、メサドンが中断された際のこれらの患者で見られた認知の悪化は、以前に考えられていたように、第2のオピオイドの中毒作用によって引き起こされるのではなく、NMDA、NET、及びSERT系、並びに/又はBDNFレベル及び/若しくはテストステロンレベルに対するラセミ体のメサドンの直接作用の急激な欠如によって決定される可能性があると結論することができる。したがって、メサドン中断後の認知症状の急激な出現は、d-メサドンが、本発明者らが示した(下記実施例の研究で示される通り)、ラセミ体のメサドン及びl-メサドンを含めたオピオイドの副作用及びリスク(オピオイド性の副作用には認知機能の悪化が含まれる)無しに、NMDA、NET、及びSERT系、並びに/又はBDNFレベル及び/若しくはテストステロンレベルにおける、認知障害を有する患者に直接的に恩恵を与える作用を有しうることの間接的だが強力な証拠となる。
【0132】
更に、軽度のものから極めて重度のものまでに及ぶ認知障害を有する患者における疼痛を治療するために、オピオイド、特にラセミ体のメサドンの使用により、本願の発明者Manfrediが長年にわたって行った臨床業務[Manfredi, P.L.ら、Opioid Treatment for Agitation in Patients with Advanced Dementia. Int J Ger Psy 2003; 18:694-699; Manfredi, P.L.ら、Pain Assessment in Elderly Patients with Severe Dementia. J Pain Sympt Manag 2003; 25(1):48-52; Manfredi, P.L., Opioids versus antidepressants in postherpetic neuralgia: A randomized placebo-controlled trial. [Letter]. Neurology. Neurology. 2003 Mar 25; 60(6):1052-3]は、ラセミ体のメサドンで処置された患者における認知能力が、他のオピオイドで処置された患者に比べて改善されていることを示唆している。この新知見も、以前には、オピオイド耐性及び疼痛に対するNMDA作用が低下し、それによって、対応するオピオイド用量を低下させることに原因があると常に考えられていた。本発明者らの共同研究によって、本発明者らは、オピオイドと関係の無いベースライン認知障害を有する患者を含めた、他のオピオイドの代わりに、ラセミ体のメサドンで処置された患者における認知及び機能的能力の改善は、NMDAアンタゴニスト活性及び/又はNE若しくはセロトニン再取り込み阻害の治療上の直接的役割を示すものであり、及び/又はBDNFの増加に関係しており、かつ/又はテストステロンの増加に関係しており、したがってこれらの患者においてd-メサドンによって直接的に誘導され、以前に信じられていたように、オピオイド耐性の低下、対応するオピオイド用量の減少、及びオピオイド性の副作用の減弱の間接的な影響ではない可能性があることを共同で発見することができた。
【0133】
この発見の重要な意味は、d-メサドン様薬物が、多くのNS障害並びにその症状及び徴候に潜在的に有効であることである。本発明者らが観測したように:(1)メサドンで処置された患者は、他のオピオイドで処置された患者より、認知副作用を患う可能性が低かった[Santiago-Palma, J.ら、Intravenous methadone in the management of chronic cancer pain: safe and effective starting doses when substituting methadone for fentanyl. Cancer 2001; 92 (7):1919-1925; Moryl, N.ら、Pitfalls of opioid rotation: substituting another opioid for methadone in the treatment of cancer pain. Pain 2002; 96(3):325-328];(2)他のオピオイドからメサドンに切り替えた患者は、錯乱の解消と共に認知障害の急速な改善を有した(Santiago-Palma, J.ら、Intravenous methadone in the management of chronic cancer pain: safe and effective starting doses when substituting methadone for fentanyl. Cancer 2001);(3)CNS障害によって引き起こされる認知障害を有する老齢患者は、メサドンを摂取しているときに、他のオピオイドに比べて認知機能がよりよい[Manfredi, P.L., Opioids versus antidepressants in postherpetic neuralgia: A randomized placebo-controlled trial. [Letter]. Neurology. Neurology. 2003 Mar 25; 60(6):1052-3];(4)興奮して不穏な患者は、別のオピオイドからメサドンに切り替えた直後に不穏状態から解放された;これらの患者において、ミオクローヌス等の異常運も改善された[San
tiago-Palma, J.ら、Intravenous methadone in the management of chronic cancer pain: safe and effective starting doses when substituting methadone for fentanyl. Cancer 2001];(5)メサドンで処置された患者は、睡眠の改善を有した[この新知見も、De Conno, F.ら、Clinical experience with oral methadone administration in the treatment of pain in 196 advanced cancer patients. C.J Clin Oncol. 1996 Oct; 14 (10): 2836-42によって指摘され、公開された];及び(6)別のオピオイドに切り替えられたメサドン摂取の患者は、錯乱、鎮静、不穏状態、ミオクローヌスを発症した[Moryl, N.ら、Pitfalls of opioid rotation: substituting another opioid for methadone in the treatment of cancer pain. Pain 2002; 96(3):325-328]。
【0134】
その共同研究に照らして、本発明者らは、上記ポイント1〜5で概要が示される認知及び激越及び睡眠の改善の原因をここで、以前に考えられていたようなオピオイド性の副作用の減弱ではなくNMDA受容体並びにNET、SERT、並びに/又はBDNF及び若しくはテストステロンにおける直接的作用とすることができる。
【0135】
認知に対するその直接的作用のため、d-メサドンは、対応するオピオイド用量の減量を可能にすることによって、オピオイドによる認知障害のある患者に恩恵を与えるだけではない可能性がある。代わりに、認知機能を直接的に改善することによって、オピオイド処置とは独立して、それは、NMDA、NET、及び/若しくはSERT系の調節並びに/又はBDNFレベル及び/若しくはテストステロンレベルの増加による改善に感受性の任意のCNS状態による認知障害を有する患者に対する潜在的治療適応を有する。
【0136】
本発明者らの共同研究は、d-メサドンは、これまで専門家が認めていたように、単に他のオピオイドの副作用を低減するのではなく、CNS症状に対する測定可能な直接的治療効果を有しうるという発見をもたらした。この発見に基づいて、d-メサドンは、鎮痛を必要とする又は精神症状を患っている患者にだけではなく、NS疾患並びにその症状及び徴候を患っている患者にも恩恵を与える。更に、2016年のMorylの第I相研究から得られたデータの見直し、並びに自身のd-メサドン及びラセミ体のメサドン研究の見直し後に本発明者らが発見したように、d-メサドンは、神経症状及び徴候に対する直接的作用も有し、以前に考えられていたように、単に他のオピオイドの副作用を低減するのではない。
【0137】
患者における3MSスコアの改善及び他の認知改善(Manfredi及び他の著者によって行われた研究で記載されている)は、当業者によってさえ見過ごされ、誤って解釈されたが、数十年にわたるd-メサドン及びメサドンについての実験研究及び臨床研究に基づいた本発明者ら共同の独特な展望から、d-メサドン及びラセミ体のメサドンで処置された患者で見られた認知改善は、他の薬物又は他の疾患による最小限又は軽度の認知障害を有する患者を含めた、CNS障害並びにその神経症状及び徴候を患っている患者にとって有益なd-メサドンの直接的効果の可能性を示す。オピオイド、カンナビノイド、コカイン、LSD、アンフェタミン、及び3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)等の他のものを含めたレクリエーショナルドラッグに続発性の記憶及び学習異常並びに他の認知障害もd-メサドン処置によって改善される可能性がある。
【0138】
以下は、本明細書に記載の処置の候補である疾患及び状態の一部の例である。
【0139】
アルツハイマー病及びパーキンソン病
アルツハイマー病は、記憶、実行機能、視空間機能、及び言語、及び行動変化の障害の原因となる進行性神経変性障害である。アセチルコリン等の神経伝達物質を産生するニューロンである、患部ニューロンは、他の神経細胞との接続を絶ち、最終的に死滅する。例えば、アルツハイマー病が最初に海馬の神経細胞を破壊すると、短期記憶が機能しなくなり、ニューロンが大脳皮質で死滅すると、言語技能及び判断力が低下する。アルツハイマー病は、65歳以上の人の中で最も一般的な、認知症すなわち知的機能の喪失の原因である。
【0140】
パーキンソン病(PD)は、運動症状(動作緩慢、静止時振戦、強剛性、及び姿勢動揺)及び非運動症状(レム行動障害[RBD]、嗅覚減弱、便秘、抑うつ及び、認知障害)の両方を特徴とする多面的な神経変性障害である。PDの初期ステージでさえ、実行機能、注意/作業記憶、及び視空間機能の問題を含めたある範囲の複数の小領域で認知障害があるのが一般的である。Wangは、認知障害の小領域と運動機能障害の間の有意な相関を報告している。注目すべきことに、実行機能及び注意は、動作緩慢及び強剛性と有意に関連し、一方、視空間機能は、動作緩慢及び振戦と関連していた(Wang Yら、Associations between cognitive impairment and motor dysfunction in Parkinson's disease. Brain and Behavior. 2017; 7(6))。PDにおける運動機能障害と認知機能低下の間の関連は、共有されている神経化学経路によって表される欠損を強調している可能性がある。この共有されている神経化学経路が、d-メサドンの潜在的な標的となっている可能性がある。
【0141】
興奮性アミノ酸であるグルタメートによる中枢神経系NMDA受容体の機能障害は、アルツハイマー病、並びにパーキンソン病、並びに、限定されるものではないが、パーキンソン認知症を含めたパーキンソン病関連障害;βアミロイドタンパク質の蓄積と関連する障害(限定されるものではないが、脳血管アミロイド血管症、後部皮質萎縮症を含める);限定されるものではないが、前頭側頭型認知症及びその異形、前頭葉型、原発性進行性失語(意味性認知症及び進行性非流暢性失語症)、大脳皮質基底核変性症、核上性麻痺を含めたタウタンパク質及びその代謝物の蓄積又は破壊と関連する障害等の関連障害(Paoletti Pら、NMDA receptor subunit diversity: impact on receptor properties, synaptic plasticity and disease. Nature Reviews Neuroscience 14, 383-400 (2013)を含めた他のCNS障害の症候学に寄与する。
【0142】
更に、脳のノルアドレナリン作動系は、広範に広がった遠心性突起を介して、神経伝達物質であるNE(ノルエピネフリン)を脳全体に供給し、皮質における認知活性の調節において重要な役割を果たす。アルツハイマー病(AD)患者における著明なノルアドレナリン作動性変性は何十年も前から観測されているが、最近の研究は、青斑核(ノルアドレナリン作動性ニューロンが主に位置するところ)が、AD関連病態が始まる優勢な部位であることを示唆している。増え続ける証拠は、ノルアドレナリン作動性神経支配の喪失が、ADの発病及び進行を大きく悪化させることを示す(Gannon, M.ら、Noradrenergic dysfunction in Alzheimer's disease. Front Neurosci. 2015; 9: 220)。注目すべきことに認知機能の悪化及びアルツハイマー病は、テストステロンを含めた生殖ホルモンの低下と関連している(Gregory CW and Bowen RL. Novel therapeutic strategies for Alzheimer's disease based on the forgotten reproductive hormones. Cell Mol Life Sci. 2005 Feb; 62(3):313-9)。
【0143】
現在、アルツハイマー病の治療オプションは限られている(Eleti S.Drugs in Alzheimer's disease Dementia: An overview of current pharmacological management and future directions. Psychiatr Danub. 2016 Sep; 28(Suppl-1):136-140)。アルツハイマー病のFDA認可薬は5つしかなく、これら薬物のうち、NMDAアンタゴニストは1つのみ、メマンチン(パーキンソン病で有益な効果を有することも示されている)である。上に記載されているように、NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体アンタゴニストは、学習及び記憶に関与する重要な脳内神経伝達物質であるグルタメートの活性を調節する。グルタメートが、NMDA受容体と呼ばれる細胞表面の「ドッキング部位」に結合すると、カルシウムの細胞への流入が可能になる。このプロセスは、細胞シグナル伝達並びに学習及び記憶に重要である。
【0144】
アルツハイマー病では、過剰なグルタメートが損傷細胞から放出され、これがカルシウムへの慢性的過剰曝露を引き起こすことがある。これは、細胞損傷を加速させうる。メマンチン等のNMDAアンタゴニストは、NMDA受容体を部分的に遮断することによって、この破壊的連鎖を防ぐに役立ちうる。より詳細には、メマンチンは、その低親和性から中程度親和性の不競合的(開口チャネル)NMDA受容体アンタゴニスト(これはNMDA受容体作動性陽イオンチャネルに優先的に結合する)としての作用を介して、その治療効果を示すと仮定されている。臨床試験において、グルタミン酸作動性修飾薬であるメマンチンが、中等度から重度のアルツハイマー病を患っている患者に、プラセボを超える改善をもたらし、機能的能力及び認知能力を改善することが見出された。しかし、多くの患者は、メマンチンに対する応答がない、又は応答が乏しく、一部には、この薬物の使用を中止させる副作用がある。メマンチンは、腎臓によって除去され、腎機能障害は、蓄積及び副作用を引き起こす。
【0145】
NS障害並びにその神経症状及び徴候は、メマンチンに応答せず、代わりに、d-メサドン様薬物に応答する可能性がある。d-メサドン様薬物は、単独で、又は標準的治療と組み合わせて、NMDAアンタゴニズムを、NET及びSERT及びセロトニンの阻害並びにBDNF及びテストステロンの上方制御と組み合わせる。上記の通り、NMDAアンタゴニスト活性に加えて、d-メサドンは、NE及びセロトニン再取り込みの阻害剤であり[Codd, E.E.ら、Serotonin and Norepinephrine activity of centrally acting analgesics: Structural determinants and role in antinociception. IPET 1995; 274 (3)1263-1269]、この組み合わされた調節活性は、神経変性障害の認知症状、特にアルツハイマー病を有する患者の認知症状の軽減に独特の寄与をもたらしうる。
【0146】
そのため、d-メサドン様薬物は、NMDAアンタゴニスト活性とNE及びセロトニン再取り込み阻害を組み合わせ、BDNF及びテストステロンレベルを潜在的に増大させ、したがって、アルツハイマー病及びパーキンソン病並びに他のCNS疾患並びにその症状及び徴候を治療するための特有の利点を提供することができる。d-メサドンが認知機能を改善し、ラセミ体のメサドンは、その強力なオピオイド作用にかかわらず、一部の患者で鎮静、錯乱、及び激越を低減することができるという本発明者らによる発見は、d-メサドン(本発明者らが示したように、オピオイド作用及び精神異常発現性の副作用が無く、潜在的治療用量で認知機能を改善する)は、アルツハイマー病及びパーキンソン病を含めた多くのCNS障害の管理に有効である可能性があることを示唆する。
【0147】
その処置による神経学的副作用を含めた統合失調症
NMDA[Coyle, J.T., NMDA Receptor and Schizophrenia: A Brief History. Schizophrenia Bulletin vol. 38 no. 5 pp. 920-926, 2012; Paoletti, P.ら、NMDA receptor subunit diversity: impact on receptor properties, synaptic plasticity and disease. Nature Reviews Neuroscience 14, 383-400 (2013)]及びNE(Shafti SSら、Amelioration of deficit syndrome of schizophrenia by norepinephrine reuptake inhibitor. Ther Adv Psychopharmacol 2015, Vol. 5(5) 263-270.)系における破壊は、統合失調症及びその徴候の病態生理に関連づけられている。
【0148】
d-メサドンと同様にマイクロモル範囲の親和性を有するNMDAアンタゴニストであるメマンチンは、本発明者らが実施例で示すように、オランザピンで維持されている患者の陽性症状及び陰性症状を、6週間後に、オランザピン単独に比べて有意に改善していた(P<0.001)[Fakhri, A.ら、Memantine Enhances the Effect of Olanzapine in Patients With Schizophrenia: A Randomized, Placebo-Controlled Study. Acta Med Iran. 2016 Nov; 54(11):696-703]。Mazinaniによる別の研究(Mazinani Rら、Effects of memantine added to risperidone on the symptoms of schizophrenia: A randomized double-blind, placebo-controlled clinical trial. Psychiatry Res. 2017 Jan; 247:291-295)ではメマンチン処置は、陽性及び一般精神病理症状について改善を示すことができなかったが、陰性症状は、介入群で有意に改善した。認知機能も介入群で有意に改善した。
【0149】
メサドンによる統合失調症患者における症状の寛解のいくつかの報告がある[Brizer, D.A.ら、Effect of methadone plus neuroleptics on treatment-resistant chronic paranoid schizophrenia. Am J Psychiatry. 1985 Sep; 142(9):1106-7]。より詳細に上で論じたSantiago Palmaらによる2001年の前向き研究では、6人の譫妄性患者のうち5人がメサドン開始の2日以内に改善した。
【0150】
しかし、メサドンの中断後における急性精神病の報告がいくつかある[Berken, GHら、Methadone in schizophrenic rage: a case study. Am J Psychiatry. 1978 Feb; 135(2):248-9; Judd, L.L.ら、Behavioral effects of methadone in schizophrenic patients. Am J Psychiatry. 1981 Feb; 138(2):243-5; Levinson, I.ら、Methadone withdrawal psychosis. J Clin Psychiatry. 1995 Feb; 56(2):73-6; Sutter, M.ら、Psychosis after Switch in Opioid Maintenance Agonist and Risperidone-Induced Pisa Syndrome: Two Critical Incidents in the Treatment of a Patient with Dual Diagnosis. J Dual Diagn. 2016 Dec 9:0]。Williらの2016年の研究では、陽性精神病症状の重度の増大が、メサドン離脱に有意に関係していた(Willi TSら、Factors affecting severity of positive and negative symptoms of psychosis in a polysubstance using population with psychostimulant dependence. Psychiatry Res. 2016 Jun 30; 240:336-42)。本発明者らの1人、Manfredi、は、メサドン中断後の、疼痛を有する患者において、重度の不機嫌、激越及び妄想的観念を観察した(Moryl Nら、Pitfalls of opioid rotation: substituting another opioid for methadone in patients with cancer pain. Pain 96 (2002) 325-328)。
【0151】
本発明者らの共同研究(下の実施例の項に、より詳細に記載されている)に照らして注意深く見直すと、上記の論文公表及び観察は、統合失調症及びその症状の管理におけるd-メサドンの治療上の役割を示唆する。d-メサドン様薬物は、NMDA、NET、及び/又はSERT系を調節することによって統合失調症陽性症状の陽性症状及び陰性症状の両方並びに関連認知障害に役立ちうる、かつ/又はBDNFレベル及び/又はテストステロンレベルを潜在的に増大させる。注目すべきことに、上述の機構から得られる可能性のある利益に加えて、K
+電流に対するd-メサドンの調節作用は、統合失調症及びその症状を改善するための追加の作用を提供する可能性がある[Wulff Hら、Voltage-gated potassium channels as therapeutic targets. Nat Rev Drug Discov. 2009 Dec; 8(12): 982-1001]。
【0152】
本発明者らが明らかにした、d-メサドンにおけるオピオイド作用及び精神異常発現性の作用の欠如は、ラセミ体のメサドンの臨床上の有用性を限定する嗜癖及び認知副作用を含めたオピオイド副作用と関連するリスクを避けるために決定的に重要である。
【0153】
自閉症スペクトラム症及び社会的相互作用の障害
自閉症スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難及び限定的な繰り返しパターンの行動、関心、又は活動を特徴とする。The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed.は、以前にはいくつかの別々の状態とされた、自閉症性障害、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害、及び他に特定されない広汎性発達障害を含めた包括的な診断を作った[Sanchack, K.E.ら、Autism Spectrum Disorder: Primary Care Principles. Am Fam Physician. 2016 Dec 15; 94(12):972-979]。
【0154】
自閉症スペクトラム症(ASD)と統合失調症(SCZ)には共通の機能障害がある(Morrison KEら、Distinct profiles of social skill in adults with autism spectrum disorder and schizophrenia. Autism Res. 2017 May; 10(5):878-887)。したがって、d-メサドン様薬物は、SCZを有する患者を治療するその潜在力に加えて、単独で又は標準的治療の補助として、ASDを有する患者にも有用である。
【0155】
NMDA及びNET系を調節すること並びに潜在的にBDNFレベルを増大させることによって、d-メサドンは、ASDに潜在的に有用である。本発明者らが発見した、認知機能の改善に対するその作用は、ASDを有する患者に対する潜在的有用性も示唆する。実施例の項に詳述されているように本発明者らがd-メサドンについて示した、臨床的に有意なオピオイド性の副作用及び精神異常発現性の作用の欠如は、臨床上の有用性を制限するであろう嗜癖及び認知副作用を含めたオピオイド副作用と関連するリスクを避けるために決定的に重要である。オピオイド受容体は、ASD及び社会的相互作用の障害に関連づけられている(Pellissier LPら、μ opioid receptor, social behaviour and autism spectrum disorder: reward matters. Br J Pharmacol. 2017 Apr 3 doi: 10.1111/bph. 13808. [Epub ahead of print]。更に、MMT患者の家族関係は、MMTの後経時的に一貫して改善した。MMT介入を受ける前には、家族と良好な関係を有すると報告されている薬物使用者は37.9%のみであったが、この割合は、処置6カ月後には59.6%、12カ月後には75.0%及び12カ月超後に83.2%に有意に増加した[Sun HMら、Methadone maintenance treatment program reduces criminal activity and improves social well-being of drug users in China: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2015 Jan 8; 5(1)]。この改善は、違法薬物からの離脱及びオピオイド受容体における作用に原因があると考えられてきたが、その共同研究に基づいて、本発明者らは、立体化学的に特異的なメサドン作用(オピオイド性作用)ではなく、NMDAR、SERT、NET、並びにK、Na及びCaイオンチャネル並びにBDNFへの非立体化学的な作用(これら全ての作用はラセミ体のメサドンに限定されず、d-メサドンにも共有されている)に媒介されたニューロンレベルでの有益な効果の可能性を示唆する。ラセミ体のメサドンのオピオイド作用が無く、オピオイド嗜癖の精神医学的併存症の交絡効果も無い、特定の患者集団におけるd-メサドンの臨床試験により、ASD及びそれに関連する社会能力の障害を含めたd-メサドンの特定の精神神経適応症についてのさらなる理解が可能となる。したがって、d-メサドン様薬物は、オピオイド受容体との低親和性相互作用、NMDA、NET、及び/又はSERT系、K、Na、及びCaイオンチャネルを調節することを含めた複数の機構を介してASD並びに社会的相互作用及び社会能力の障害を有する個体を改善できる可能性があり、及び/又はBDNFレベル及び/又は性腺ホルモンレベルを潜在的に調節する。
【0156】
mTORシグナリングの機能障害は、ASDの罹患率が高い、特徴がはっきりしたいくつかの症候群に存在する分子異常を表すものでありうる。ASDは、とりわけ、結節性硬化症、脆弱X症候群、レット症候群、アンジェルマン症候群、ホスファターゼテンシンホモログ(PTEN)関連症候群、神経線維腫症1型、チモシー症候群、22q13.3欠失症候群等、特徴がはっきりした遺伝的症候群の臨床症状の一部である可能性がある。これらのASD関連症候群は、全てのASD症例の5%〜10%にしか相当しないが、ASD発病についての本発明者らの理解に大きく貢献した(Magdalon Jら、“Dysfunctional mTORC1 Signaling: A Convergent Mechanism between Syndromic and Nonsyndromic Forms of Autism Spectrum Disorder?” Ed. Merlin G. Butler. International Journal of Molecular Sciences 18.3 (2017): 659. PMC. Web. 21 Aug. 2017)。BDNFは、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)を活性化することによってその作用の一部を発揮する(Smith DEら、Rapamycin and Interleukin-1β Impair Brain-derived Neurotrophic Factor-dependent Neuron Survival by Modulating Autophagy. July 25, 2014 The Journal of Biological Chemistry 289, 20615-20629)。mTORの活性化を、ニューロン樹状突起中のBDNFによって誘導することができる、したがって、BDNFによって誘導されるいくつかの種類のシナプス可塑性は、ニューロン樹状突起におけるmTOR依存的な調節された局所的翻訳に媒介されている可能性がある(Takei Nら、Brain-Derived Neurotrophic Factor Induces Mammalian Target of Rapamycin-Dependent Local Activation of Translation Machinery and Protein Synthesis in Neuronal Dendrites. The Journal of Neuroscience, November 3, 2004 ・ 24(44):9760 -9769)。これらの研究者らは、ニューロン樹状突起中のBDNFが、mTOR及びキャップ依存性翻訳の鍵となるステップである4EBPリン酸化を活性化することを実証した。これが翻訳機構のmTOR依存的な局所的活性化の分子的基盤であり、この活性化が、BDNFに暴露された後の皮質ニューロンの樹状突起における局所的タンパク質合成をもたらす。したがって、Takeiらの研究によると、BDNFによって誘導されるいくつかの種類のシナプス可塑性は、ニューロン樹状突起におけるmTOR依存的な調節された局所的翻訳に媒介されている可能性がある。したがって、d-メサドンのようなBDNFを増加させる薬物は、mTORシグナリングの機能障害を調節することによって神経保護を行うことができ、NSの障害並びにその症状及び徴候の新しい治療アプローチを潜在的にもたらす可能性がある。
【0157】
結節性硬化症
結節性硬化症(TSC)は、脳内並びに腎臓、心臓、肝臓、眼、肺、及び皮膚等の他の必須器官で成長する良性腫瘍を引き起こす希少な多システム遺伝性疾患である。症状の組合せは、てんかん発作、知的障害、発育遅延、問題行動、皮膚異常、並びに肺疾患及び腎疾患を含むことができる。TSCは、それぞれハマルチン及びツベリンタンパク質をコードするTSC1及びTSC2の2遺伝子のいずれかの突然変異によって引き起こされる。これらのタンパク質は、細胞増殖及び分化を調節する作用物質である腫瘍成長抑制因子として働く。結節性硬化症(TSC)に罹患した患者の生活の質は、脳内の過剰なグルタミン酸作動性活性によって部分的に媒介された知的障害及び神経学的障害に影響される。興味深いことに、結節性硬化症における知的障害の重度は、皮質結節の密度よりも代謝障害(過剰なグルタミン酸作動性活性、mTORシグナリングの過剰活性及びBDNFレベルの低下等)に関係している可能性がある(Burket JAら、(2015). NMDA receptor activation regulates sociability by its effect on mTOR signaling activity. Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry, 60, 60-65)。
【0158】
d-メサドン様薬物は、NMDAR及びNET系を遮断し、潜在的にBDNFレベルを増大させること、及びそれによりmTORシグナリングを調節することによって、結節性硬化症を有する患者における生活の質、社交性及び認知機能に潜在的に有用である。
【0159】
レット症候群
その異形を含めたレット症候群は、女性における障害の重要な原因である。症状の発現は、言語及び運動マイルストーンの発達退行と共に、6カ月と18カ月の間に起こり、目的のある手の使用が喪失し、頭部成長速度の後天的な減速(一部で小頭症の原因となる)が見られる。手の常同行動は典型的であり、過換気及び憤怒痙攣等の不規則な呼吸が頻繁に見られる。自閉症的行動も見られる。原因は遺伝的であるが、神経伝達物質、受容体、及び神経栄養因子の様々な異常がこれらの患者において観察されている。伝統的なレット症候群は、遺伝子発現を調節するクロマチンタンパク質(MeCP2)をコードするX連鎖遺伝子(MECP2)によるde novo変異による。
【0160】
ノルエピネフリンの脳レベルが、レット症候群を有する患者で低下している[Zoghbi HYら、Cerebrospinal fluid biogenic amines and biopterin in Rett syndrome. Annals of Neurology. 25 (1): 56-60]。研究者らは、レット症候群を有する患者の脳内でグルタメートの髄液レベルの増大及びNMDA受容体の増加を見出した[Blue MEら、Development of amino acid receptors in frontal cortex from girls with Rett syndrome. Annals of Neurology 1999; 45(4): 541-5]。実験的研究で、ケタミンの慢性的投与は、MecP2ヌルマウスにおけるレット症候群表現型を改善することが示されている(Patrizi Aら、Chronic Administration of the N-Methyl-D-Aspartate Receptor Antagonist Ketamine Improves Rett Syndrome Phenotype. Biol Psychiatry. 2016 May 1; 79(9):755-64)。レット症候群を有する患者は、デキストロメトルファン及びケタミンで処置されており、一部で成功を収めている。
【0161】
d-メサドンは、下記実施例の項に詳細に記載されている強制水泳試験(FST)、雌性尿におい嗅ぎ試験(FUST)及び新奇環境摂食抑制試験(NSFT)から得られた新しいデータに基づいて、ケタミンと同程度に強力又はケタミンより強力な臨床作用を有している可能性がある。これらの試験の全てにおいて、Patriziによってレットマウスモデルで使用された有効ケタミン用量[Patrizi Aら、Chronic Administration of the N-Methyl-D-Aspartate Receptor Antagonist Ketamine Improves Rett Syndrome Phenotype. Biol Psychiatry. 2016 May 1; 79(9):755-64]に匹敵する用量のd-メサドンがケタミンによって引き起こされた応答に匹敵する強い行動応答を引き起こした。その上、d-メサドンは、本発明者らが実施例の項に示す新規な第I相データが示す通り、ケタミンで典型的に見られる精神異常発現性の作用が無い。また、d-メサドンのPKデータは、良好な血液レベルを得るために、潜在的に催不整脈性の薬物であるキニジンの添加を必要とするデキストロメトルファンとは異なり、1日1回投与に適合性であることが本発明者らによって(実施例で)示されている。加えて、デキストロメトルファンには、活性代謝物があり、集団内の薬物動態及び反応を可変的にするCYP2D6遺伝子多型の影響を受けやすいが、これはd-メサドンに比べて明らかな不利益である[Zhou SF. Polymorphism of human cytochrome P450 2D6 and its clinical significance: part II. Clin Pharmacokinet. 48:761-804, 2009]。
【0162】
レット症候群では、BDNFが調節解除されており、これは、BDNF機能を改善することに基づく治療介入は、この疾患の症状及び徴候を治療又は緩和するのに有効である可能性があることを示唆する(Li W. and Pozzo-Miller L. BDNF deregulation in Rett syndrome. Neuropharmacology 2014 :76)。d-メサドン様薬物、NMDA及びNET系を調節することによって及びBDNFレベルを上方制御することによって本発明者らが実施例の項で明らかにしたように、は、呼吸異常を含めた、レット症候群の症状及び徴候を緩和する治療可能性を有する。d-メサドンを投与することによってレット表現型を改善する強い潜在力が、実験の項に概要を示すFST、FUST、NSFT実験モデルにおける行動に対するd-メサドンの、ケタミン様の作用によって示されている。
【0163】
摂食障害
摂食障害(これには神経性食欲不振症(「AN」)及び神経性大食症(「BN」)が含まれる)及び過食性障害(「BED」)は、異常なパターンの体重調節及び摂食行動並びに体重及び体形に対する態度及び認識の障害を特徴とする障害である。
【0164】
脳由来神経栄養因子(BDNF)は、脳内で、神経の生存、発生、機能、及び可塑性の調節において極めて重要な役割を果たしている。ヘテロ接合性のBDNF(+/-)ノックアウト(BDNFレベルが低減している)マウスを用いた最近の新知見により、BDNFが摂食行動の調節において役割を果たしていることの証拠が得られた。Hashimotoら、2005は、摂食障害を有する患者におけるBDNFの血清レベルが正常対照に比べて有意に低減したことを見出した。加えて、BDNF遺伝子多型と摂食障害の間の関連が実証されており、更に、Hashimotoは、摂食障害の病態生理におけるBDNFの役割及び摂食障害の感受性遺伝子としてのBDNF遺伝子の役割を再検討した。BDNF遺伝子が摂食障害の真の感受性遺伝子であることの確認を提供することにより、これらの障害の治療における治療上の急速な進歩を起こすことができる可能性がある。加えて、p75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)及びTrkB受容体を介したシグナル伝達経路についてのより完全な理解は、摂食障害を治療するための新しい展望をもたらすであろう(Hashimoto Kら、Role of brain-derived neurotrophic factor in eating disorders: recent findings and its pathophysiological implications. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2005 May; 29(4):499-504)。
【0165】
メマンチンと同様に、マイクロモル範囲のNMDA受容体親和性を有すること、ラットでケタミンより強力に行動に影響を及ぼすこと(同時に精神異常発現性の副作用が無い)、及びおそらくより重要なことに、血清BDNFレベルを潜在的に増大させることを本発明者らが示したd-メサドン様の新規薬物は、AN、BN及びBEDを含めた摂食障害を治療するのに有用でありうる。
【0166】
ヒト肥満及び希少な症候群及び脳由来神経栄養因子遺伝子の一般的な変異及びメタボリックシンドローム
WAGR症候群、11p欠失、及び11p逆位等のBDNFハプロ不全を引き起こす希少遺伝障害は、ヒトのエネルギー収支及び神経認知におけるBDNFの役割を理解するためのモデルとして役立つ。BDNFハプロ不全又はBDNF受容体の不活性化変異を有する患者は、過食症、小児期発症肥満、知的障害、及び侵害受容障害を示す。プラダー・ウィリー症候群、スミス・マギニス症候群、及びROHHAD症候群は別々の遺伝障害であるBDNF遺伝子座に直接的に影響を与えないが、BDNFハプロ不全と多くの類似の臨床的特徴を共有する、及びBDNF欠乏症は、これらの状態のそれぞれの病態生理に寄与している可能性があると考えられている。一般集団では、BDNF遺伝子発現又はBDNFタンパク質プロセシングに影響を与えるBDNFの一般的な変異も、エネルギー収支及び認識機能の中程度の変化と関連づけられている。したがって、様々な程度のBDNF欠乏症が、表現型の重度が異なる様々な過剰な体重増加及び認知障害に寄与すると思われる(Han JC. Rare Syndromes and Common Variants of the Brain-Derived Neurotrophic Factor Gene in Human Obesity. Prog Mol Biol Transl Sci. 2016)。更に、本発明者らが実施例の項の実施例8に詳述するように、d-メサドンの投与は、ラットで用量依存的な体重増加の低減をもたらす、これは、体重調節に効果がある可能性を示している。
【0167】
認知能力を改善すること、及びBDNFレベルを増強し、テストステロンを上方制御することを本発明者らが見出したd-メサドン様の新規薬物は、肥満、並びにWAGR症候群、11p欠失、及び11p逆位を含めたBDNF欠乏症、並びにプラダー・ウィリー症候群(実施例の項に記載のd-メサドンによる体重増加の低減並びに血清グルコース及び血圧の調節は、プラダー・ウィリー症候群の症状を寛解させるのにも寄与しうる)、スミス・マギニス症候群及びROHHAD症候群、並びに視床下部下垂体軸障害を含めた神経発達障害を治療するのに有用でありうる。
【0168】
食欲の調節には、弓状核を含めた視床下部神経回路が関与している。グルタメートが過剰な場合、弓状核ニューロンは、興奮毒性に対して脆弱でありうる。NMDARアンタゴニストであるメマンチンは、肥満患者で食欲を低下させ、気晴らし食いを抑制する可能性があることの臨床エビデンスがある[Hermanussen, M.ら、A new anti-obesity drug treatment: first clinical evidence that, antagonising glutamate-gated Ca
2+ ion channels with memantine normalizes binge-eating disorders. Econ Hum Biol. 2005 Jul; 3(2):329-37; Brennan, B.P.ら、Memantine in the treatment of binge eating disorder: an open-label, prospective trial. Int J Eat Disord. 2008 41(6):520-6]。
【0169】
メサドンは、血糖降下薬として作用することが見出されており、メサドンによって引き起こされる低血糖は文献に記載されている。Flory、J.H.ら[Methadone Use and the Risk of Hypoglycemia for Inpatients with Cancer Pain. Journal of pain and symptom management. 2016; 51(1):79-87]による研究では、メサドンが5.7mg/dlの平均最小1日血糖の低下(95%CI -7.3、-4.1、mmol/l0.31に相当する)と有意に関連しており、用量の増量が効果の増大と関連することが、線形多変量回帰により示された。この研究は、メサドンによる低血糖のリスクに対して警告するものであり、メサドンが、その臨床使用を制限する既知のリスクがある強力なオピオイドであるため、血糖降下薬としてのその使用を示唆するものではない。
【0170】
Bathina Sらによる最近の研究[Bathina Sら、BDNF protects pancreatic β cells (RIN5F) against cytotoxic action of alloxan, streptozotocin, doxorubicin and benzo(a)pyrene in vitro. Metabolism. 2016 May; 65(5):667-84]は、BDNFが、強力な細胞保護作用を有し、抗酸化防御を正常に回復させ、したがって、アポトーシスを阻止し、膵臓β細胞のインスリン分泌能を維持することを示唆する。加えて、BDNFは、RIN 5Fの生存能をin vitroで強化した。したがって、BDNFは、抗糖尿病作用を有するだけでなく、膵臓β細胞の完全性の維持及びその生存能の強化も行う。これらの結果は、BDNFが内因性細胞保護分子として機能することを意味し、これは、一部の神経状態におけるその有益な作用も説明しうる。
【0171】
更に、メタボリックシンドローム及びその個々の特徴(高血圧、高血糖、体脂肪過剰、及びコレステロール又はトリグリセリドレベルの異常)も、テストステロン及びBDNFを上方制御することができるd-メサドン様薬物によって処置されうる。テストステロンは、性的欲求及び機能に対する既知の作用に加えて、メタボリックシンドロームの主要な特徴を逆戻りさせることが示されている。アメリカ人成人集団の4分の1が罹患していることを踏まえて、メタボリックシンドローム及び2型糖尿病は、21世紀の最も重大な公衆衛生上の脅威と言われている。テストステロン補給のリスク便益は、明確に確立されていない(Kovac JRら、Testosterone supplementation therapy in the treatment of patients with metabolic syndrome. Postgrad Med. 2014 Nov; 126(7):149-56)。最近のメタアナリシスは、テストステロンが体組成に対して、並びにグルコース及び脂質代謝に対してプラスの効果を有するという見解を支持する。加えて、体組成に対する有意な効果を観察した。これは、肥満の治療及び予防におけるテストステロン補給の役割を示唆する(Corona Gら、Testosterone supplementation and body composition: results from a meta-analysis of observational studies. J Endocrinol Invest. 2016 Sep; 39(9):967-81)。メタボリックシンドロームに加えて、d-メサドンによるテストステロン/BDNFの上方制御は、筋肉減少症、骨粗鬆症、持久力の低下及び貧血等の老化並びにその症状及び徴候の他の医学的合併症も改善する。筋肉減少症は、機能低下(歩行速度若しくは距離又は握力のいずれか)と結びついた筋量の減少と臨床的に定義される。筋肉減少症は、高齢者における虚弱、股関節骨折、身体障害、及び死亡率の主要な予測因子であるので、それを予防し、それを治療する薬剤の開発は熱望されている(Morley JE. Pharmacologic Options for the Treatment of Sarcopenia. Calcif Tissue Int. 2016 Apr; 98(4):319-3)。注目すべきことに、テストステロン及びBDNFの上方制御による便益の可能性に加えて、K
+電流に対するd-メサドンの調節作用は、筋消耗を改善するための治療作用を提供する可能性がある[Wulff Hら、Voltage-gated potassium channels as therapeutic targets. Nat Rev Drug Discov. 2009 Dec; 8(12): 982-1001]。骨粗鬆症及びメタボリックシンドロームも、テストステロン及びBDNFを上方制御するd-メサドン様薬物によって治療されうる。外因性テストステロン補充療法には潜在的なリスクがあるので(Gabrielsen JSら、Trends in Testosterone Prescription and Public Health Concerns. Urol Clin North Am. 2016 May; 43(2):261-71)、内因性のテストステロン及びBDNFのレベルを上方制御するd-メサドン様薬物は、外因性テストステロンの副作用及びリスク無しで有益である可能性が高い。
【0172】
下肢静止不能症候群
下肢静止不能症候群(RLS)は、睡眠中の周期性下肢運動と一般に関連する休息誘発性、運動応答性であり、主に夜間に起こる、足を動かそうとする衝動である。不眠が、中等度から重度のRLSの病的状態のほとんどを生む主因である。ドパミン作動系は、この症候群の病態生理に主に関係づけられているが、グルタミン酸作動系の異常も関係づけられている(Allen, R.P.ら、Thalamic glutamate/glutamine in restless legs syndrome. Neurology 2013; 80:2028-2034)。
【0173】
第二世代抗うつ薬(フルオキセチン、パロキセチン、シタロプラム、セルトラリン、エスシタロプラム、ベンラファキシン、デュロキセチン、レボキセチン、及びミルタザピン)の役割についてのRottach、K.G.ら[Restless legs syndrome as side effect of second generation antidepressants. J Psychiatr Res. 2008 Nov; 43(1):70-5]による研究では、選択的NE再取り込み阻害剤であるレボキセチンのみがRSLを誘発も悪化もさせなかった。
【0174】
興味深いことに、メサドンは、下肢静止不能症候群の二次、適応外、FDA認可外の治療である(Ondo WG1. Methadone for refractory restless legs syndrome. Mov Disord. 2005 Mar; 20(3):345-8. Trenkwalder, C.ら、Treatment of restless legs syndrome: an evidence-based review and implications for clinical practice. Mov Disord. 2008 Dec 15; 23(16):22)。NMDA並びにNET及びSERT系における調節活性を組み合わせ、BDNFレベルを潜在的に増大させるが、オピオイド活性が無いd-メサドンは、実施例の項に詳述されている2回の新規な第1相試験で本発明者らが示したように、オピオイドのリスク及び副作用無しで、メサドンと同程度に有効又はメサドンより有効である可能性がある。
【0175】
不眠症、睡眠、覚醒睡眠障害-睡眠時随伴症
メマンチンは、アルツハイマー病を有する患者における睡眠を改善することが最近見出された[Ishikawa, I.ら、The effect of memantine on sleep architecture and psychiatric symptoms in patients with Alzheimer's disease. Acta Neuropsychiatr. 2016 Jun; 28(3):157-64]。更に、物質乱用が睡眠障害と関連する。メサドンは、オピオイド使用障害を有する患者を処置するのに使用される強力なオピオイドである。アヘンで処置された患者に比べて、メサドンで処置された患者は、睡眠が改善されていることが見出された。これは、睡眠障害の緩和におけるメサドンの役割を示唆する[Khazaie, H.ら、Sleep Disorders in Methadone Maintenance Treatment Volunteers and Opium-dependent Patients. 2016 Apr; 8(2):84-89]。また、他の研究者らも、他のオピオイドからメサドンに切り替えた患者における睡眠の改善を見出した[DeConno Fら、Clinical experience with oral methadone administration in the treatment of pain in 196 advanced cancer patients. C.J Clin Oncol. 1996 Oct; 14 (10):2836-42]。
【0176】
自身の実験及び臨床研究に基づいて、本発明者らは、睡眠障害に対するラセミ体のメサドンのこの好ましい活性は、メサドンに本来あるものではない可能性があり(実際、オピオイド使用は睡眠障害と関連することが知られている)、代わりにd-メサドンにもあてはまる可能性もあると推論する。不眠を含みうるその既知のオピオイド作用のため、メサドンは睡眠障害に使用するべきではないが、d-メサドン様薬物は、NMDA及びNE調節活性を保持し、本発明者らが実施例で詳述するように、BDNFレベルを増加させるが、オピオイド活性が無く、睡眠障害に有用である可能性がある。そのため、De Connoらがメサドンのオピオイド作用に原因があるとした睡眠改善効果は、本発明者らの研究によると、代わりに、オピオイド作用が無いことを本発明者らが示したd-メサドンに固有のNMDA及びNEの平衡を保つ活性による可能性がある。NMDA及びNET系並びにBDNFは全て、睡眠障害の病態生理における役割を潜在的に果たしている。
【0177】
感染性及び自己免疫性脳損傷を含めた、脳卒中並びに外傷性及び炎症性脳損傷
NMDAグルタメート受容体の過剰な活性化は、感染症、外傷及び脳卒中を含めた様々な病因の急性損傷後におけるニューロン死に寄与することが知られている(Wang Yら、Network-Based Approach to Identify Potential Targets and Drugs that Promote Neuroprotection and Neurorepair in Acute Ischemic Stroke, Nature Scientific Reports, Jan 2017; Martin, H.G.S.ら、Blocking the Deadly Effects of the NMDA Receptor in Stroke. Cell 140, January 22, 2010)。メマンチンは、脳卒中からの回復を増強することが報告されている[Lopez-Valdes, H.E.ら、Memantine enhances recovery from stroke. Stroke. 2014 July; 45(7):2093-2100]。
【0178】
更に、BDNFは、脳可塑性及び修復における重要な役割を果たし、動物モデルにおける脳卒中帰結に影響を与える。循環BDNF濃度が、外傷性脳損傷を有する患者で低下しており、低濃度のBDNFは、この損傷の後の回復が悪いことを予測する。BDNFタンパク質の循環濃度が、虚血性脳卒中の急性期で低下しており、低レベルは、長期の機能的帰結が悪いこと関連する[Stanne, T.M.ら、Low Circulating Acute Brain-Derived Neurotrophic Factor Levels Are Associated With Poor Long-Term Functional Outcome After Ischemic Stroke. Stroke. 2016 Jul; 47(7):1943-5]。
【0179】
したがって、d-メサドンは、本発明者らが発見したように興奮毒性障害を低減すること及びBDNFレベルを増加させることによって、1又は複数回の脳卒中並びに外傷性及び炎症性脳損傷の後にしばしば生じる認知障害から回復するのに役立ちうるだけでなく、脳卒中急性期並びに外傷性及び炎症性脳損傷中のニューロン損傷も削減しうる。
【0180】
(NMDAR)脳炎
メマンチンは、抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)脳炎からの回復を速めることが見出されている。この希少な脳炎は、抗NMDAR自己抗体によって引き起こされる。興奮毒性及びNMDAR機能障害は、抗NMDAR脳炎の中心的役割を果たし、精神病から、不随意運動、意識障害、及び自律神経障害に及ぶ症状を引き起こす。NMDA及びNETにおける調節活性を組合せ、BDNFレベルを潜在的に増大させるが、オピオイド活性が無いd-メサドン様薬物は、メマンチンと同程度に有効又はメマンチンより有効である可能性がある。
【0181】
てんかん発作、てんかん及び発達障害
かなりの量の研究が、NMDA受容体は、様々な病因のてんかんを含めたいくつかの神経疾患の病態生理における重要な役割を果たしている可能性があることを示している。てんかんの動物モデル及び臨床研究は、NMDA受容体活性及び発現は、てんかん、特にてんかん発作のいくつかの特定のタイプのものと関連して変化しうることを示している。NMDA受容体における突然変異は、てんかん性失語症スペクトラム内のものを含めたいくつかの小児期発症てんかん症候群/発達障害と関連している。これらの症候群には、中心側頭部に棘波をもつ良性てんかん(BECTS)、ランドウ・クレフナー症候群(LKS)、及び徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症(CSWSS)が含まれる。更に、他の突然変異は、表現型の範囲を、てんかん性失語症スペクトラムの障害を超えて、重度の乳児発症てんかん及び発達障害を特徴とする早期発症型てんかん性脳症を含むものまで広げる。ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群、結節性硬化症、及びてんかん性失語症スペクトラム内のものと関連するものを含めた希少なてんかん及び発達障害には、NMDA受容体アンタゴニスト、特にメマンチンが助けとなる可能性がある[Hani, A.J.ら、Genetics of pediatric epilepsy. Pediatr Clin North Am. 2015 Jun; 62(3):703-22; Tyler, M.P.ら、GRIN2A mutation and early-onset epileptic encephalopathy: personalized therapy with memantine. Annals of Clinical and Translational Neurology 2014; 1(3):190-198]。メマンチンは、Tylerら、2014によって、てんかん発作の管理を改善することが示されている。
【0182】
NMDA受容体アンタゴニストは、臨床研究と前臨床研究の両方で抗てんかん作用を有することが示されている[Ghasemi, M.ら、The NMDA receptor complex as a therapeutic target in epilepsy: a review. Epilepsy Behav. 2011 Dec; 22(4): 617-40]。ある実験モデルは、メマンチンがてんかん重積状態後の認知障害を予防できることを示している(Kalemenev SVら、Memantine attenuates cognitive impairments after status epilepticus induced in a lithium-pilocarpine model. Dokl Biol Sci. 2016 Sep; 470(1):224-227)。Berman、E.F.ら[Opioids reduce tonic component of seizures, not naloxone dependent mechanism: The anticonvulsant effect of opioids and opioid peptides against maximal electroshock seizures in rats. Neuropharmacology. 1984 Mar; 23(3):367-71]は、オピオイドの中でもとりわけ、メサドンが、てんかん発作に至る閾値に影響を与えるだけでなく[Cowan, A.ら、Differential effects of opioids on flurothyl seizure thresholds in rats. NIDA Res Monogr 1979; 27:198-204]てんかん発作の強直成分の軽減ももたらすことを観察した。注目すべきことに、メマンチンは、てんかん患者における認知障害を有意に改善した[Marimuthu, P.ら、Evaluating the efficacy of memantine on improving cognitive functions in epileptic patients receiving anti-epileptic drugs: A double-blind placebo-controlled clinical trial (Phase IIIb pilot study). Ann Indian Acad Neurol. 2016 Jul-Sep; 19(3): 344-50]。
【0183】
テストステロンは、抗てんかん発作活性を有する可能性があり、テストステロン派生物3α-アンドロスタンジオールは、脳内で内因性の保護的神経ステロイドであることが示されている[Reddy DS. Anticonvulsant activity of the testosterone-derived neurosteroid 3alpha-androstanediol. Neuroreport. 2004 Mar 1; 15(3):515-8]。テストステロンはヒトにおけるてんかん発作を低減しうる[Herzog AG. Psychoneuroendocrine aspects of temporolimbic epilepsy. Part II: Epilepsy and reproductive steroids. Psychosomatics. 1999 Mar-Apr;40(2):102-8]。テストステロンの上方制御は、てんかん患者におけるてんかん発作頻度を低減しうる[Tauboll Eら、Interactions between hormones and epilepsy. Seizure. 2015 May; 28:3-11. Frye CA. Effects and mechanisms of progestogens and androgens in ictal activity. Epilepsia. 2010 Jul; 51 Suppl 3:135-40]。
【0184】
本発明者らは、d-メサドンのin vitro作用を、下記実施例により詳細に記載されているスクリーンパッチアッセイでメマンチンと比較して調査した。HEK293細胞で発現されたクローニングされたヒトNMDA受容体NR1/NR2 A及びNR1/NR2 Bの電気生理学的応答に対するd-メサドンのアンタゴニスト作用は、ヒトにおいて低μM範囲にあり、したがって、潜在的に臨床作用を発揮し、神経保護的である可能性があることが証明された。
【0185】
本発明者らによって実施例の項に提示されたこの研究は、NMDA受容体のサブユニットをコードする遺伝子の突然変異と関連する発達障害及び発作性障害を含めたてんかん発作及びてんかんを治療するためのd-メサドンの潜在力を確認する。
【0186】
したがって、NMDA及びNETにおける調節活性を組合せ、BDNF及びテストステロンレベルを潜在的に増大させ、K
+、Ca
+及びNa
+細胞電流を調節するが、オピオイド活性が無いd-メサドン様薬物は、てんかん症候群のてんかん発作を含めた様々な病因のてんかん発作を予防又は短縮するのに、メマンチン若しくはメサドンと同程度に有効又はメマンチン若しくはメサドンより有効である可能性がある。最後に、本願の全体にわたって記載されているように、d-メサドンは、単独で又は他の抗てんかん薬又は他のNMDAアンタゴニストと共に、オピオイドリスク及び副作用又はケタミン様の精神異常発現性の作用無しに、頻回又は遷延性のてんかん発作(てんかん発作媒介の興奮毒性を含める)、並びに発作性障害及びその処置と関連する認知障害によって引き起こされる認知障害をそれ故含めた認知障害を予防又は治療するのに有用でありうる。
【0187】
トゥレット症及び強迫性障害及び自傷行動
NMDA受容体系及びNETは、トゥレット症候群(TS)並びに強迫性障害(OCD)及び抜毛癖、自傷性皮膚症、爪かみ等の自傷行動等のOCD関連障害の発病に関係づけることができるという証拠がある。Liu、S.ら[Do obsessive-compulsive disorder and Tourette syndrome share a common susceptibility gene? An association study of the BDNF Val66Met polymorphism in the Chinese Han population. World J Biol Psychiatry. 2015; 16(8):602-9]による研究は、OCD及びトゥレット症候群の共通の遺伝子感受性としてのBDNFのVal66Met多型の関与を支持する。これらの障害を治療するためのメサドンを含めた非定型オピオイドの使用について報告されている[Meuldijk, R.ら、Methadone treatment of Tourette's disorder. Am J Psychiatry. 1992 Jan; 149(1):139-40; Rojas-Corrales, M.O.ら、Role of atypical opiates in OCD. Experimental approach through the study of 5-HT(2A/C) receptor-mediated behavior. Psychopharmacology (Berl). 2007 Feb; 190(2):221-31]。TS及びOCDに加えて、NMDARアンタゴニストは、抜毛癖、自傷性皮膚症、皮膚むしり症及び爪かみを含めた自傷行動の治療に有用である可能性がある[Grados, Mら、A selective review of glutamate pharmacological therapy in obsessive-compulsive and related disorders. Psychol Res Behav Manag. 2015; 8: 115-131; Muehlmann AM, Devine DP. Glutamate-mediated neuroplasticity in an animal model of self-injurious behaviour. Behav Brain Res. 2008 May 16; 189(1):32-40]。自傷行動は、孤立した徴候としても起こりうるが、レッシュ・ナイハン症候群、プラダー・ウィリー症候群及びレット症候群等の症候群及び疾患の一部としても起こり、これらも、本願の複数の異なる項に記載されているように、d-メサドン様薬物によって改善される可能性がある。
【0188】
しかし、オピオイドには、よく知られているリスク及び副作用があり、したがって、これらの障害を治療するための候補となる可能性が低い。更に、オピオイド活性は、それ自体、これらの障害に有害でありうる。したがって、NMDAアンタゴニスト活性並びにNE及びセロトニン再取り込み阻害を組み合わせ、BDNFレベルを潜在的に増大させるが、オピオイド活性が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様薬物は、これらのNS障害及びその症状を治療するための特有の利点を提供する可能性がある。
【0189】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、脳内の神経細胞の絶縁被覆及び脊髄が損傷される脱髄性疾患である。この損傷は、神経系の一部の通信能力を破壊し、これは、身体的、精神的、及び精神医学的問題を含めたある範囲の徴候及び症状の原因となる。具体的な症状には、複視、盲目、平衡異常、筋力低下、感覚不全及び協調運動障害が含まれる。発作の間、症状は、完全に消失しうるが、特に疾患が進行するにつれて、持続的な神経学的問題が残ることが多い[Compston, A.ら、"Multiple sclerosis". (April 2002) Lancet. 359(9313):1221-31]。
【0190】
BDNFは、多発性硬化症における脱髄性損傷部位の結果として起こる軸索欠損及びオリゴデンドログリア欠損を改善する可能性がある[Huang, Y.ら、The role of growth factors as a therapeutic approach to demyelinating disease. Exp Neurol. 2016 Sep; 283(Pt B):531-40]。認知機能障害は、MSを有する患者におけるBDNFの減少と関連している[Prokopova, B.ら、Early cognitive impairment along with decreased stress-induced BDNF in male and female patients with newly diagnosed multiple sclerosis. J Neuroimmunol. 2017 Jan 15; 302:34-40]。
【0191】
したがって、NMDAアンタゴニスト活性並びにNE及びセロトニン再取り込み阻害を組み合わせ、BDNFレベルを潜在的に増大させるが、オピオイド活性が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様薬物は、その治療並びにMS並びにその神経症状及び徴候並びに急性脳炎、脳脊髄炎、視神経炎、視神経脊髄炎スペクトラム障害及び横断性脊髄炎等の疾患に特有の利点を提供しうる。注目すべきことに上述の機構から得られる可能性のある利益に加えて、K
+電流に対するd-メサドンの調節作用は、多発性硬化症を改善するための追加の作用を提供する可能性がある(Wulff Hら、Voltage-gated potassium channels as therapeutic targets. Nat Rev Drug Discov. 2009 Dec; 8(12): 982-1001)。
【0192】
筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンの進行性喪失、運動麻痺並びに通常は疾患発症から3〜5年以内の死をもたらす破壊的な神経変性疾患である。治療オプションは今でも限定されている。これまで、ALS治療用にFDA認可されている薬物は2種のみである。最初の薬物リルゾールは、TTX感受性ナトリウムチャネルを優先的に阻止する薬物であり、様々な仮定上の機構により興奮毒性を予防する可能性がある[Doble. The pharmacology and mechanism of action of riluzole. Neurology. 1996 Dec; 47(6 Suppl 4):S233-41]。第2の薬物エダラボンは、フリーラジカルスカベンジャーであり、ALSの治療で役割を果たすことが示された(Abe, Kojiら、 Confirmatory Double-Blind, Parallel-Group, Placebo-Controlled Study of Efficacy and Safety of Edaravone (MCI-186) in Amyotrophic Lateral Sclerosis Patients.” Amyotrophic Lateral Sclerosis & Frontotemporal Degeneration 15.7-8 (2014): 610-6)。エダラボンは、リルゾールの認可の何年も後、2017年5月22日にFDA認可された(Traynor K. FDA approves edaravone for amyotrophic lateral sclerosis. Am J Health Syst Pharm. 2017 Jun 15; 74(12):868)。両認可薬とも、中程度の疾患修飾有効性しか示していない。有効性が向上した治療が必要とされている。神経栄養成長因子は、ニューロンの生存を促進し、中枢神経系における再生を促すことが知られており、ALSに対するそれらの有効性への期待が改めて生じている(Henriques, A. ら、Neurotrophic growth factors for the treatment of amyotrophic lateral sclerosis: where do we stand? Frontiers in Neuroscience, June 2010 Vol 4 Art 32)。β2-アゴニストがALSに有効である可能性があるという仮定を支持する証拠もいくつかある[Bartus, R.T.ら、β2-Adrenoceptor agonists as novel, safe and potentially effective therapies for Amyotrophic lateral sclerosis (ALS) Neurobiology of Disease 85 (2016) 11-24]。より重要なことに、グルタメート誘発性興奮毒性は、ALSにおける神経変性細胞死に至る、ミトコンドリア機能不全、酸化ストレス、及びタンパク質凝集を含めた悪循環の背後にある理論の中核にある(Blasco Hら、The glutamate hypothesis in ALS: pathophysiology and drug development. Curr Med Chem. 2014; 21(31):3551-75)。
【0193】
NMDAアンタゴニスト活性を組み合わせ、したがってグルタメート経路を調節し、興奮毒性を潜在的に予防し、同時にBDNFレベルを増加させ、NE再取り込みを調節し、安全かつ高認容性であるd-メサドン様の新規薬物は、本発明者らが実施例の項で示すように、ALSを治療するのに特有の利点を提供する可能性がある。d-メサドンは、単独で又はリルゾール若しくはエダラボンと組み合わせて、ALSに対する有効性を示す可能性がある。
【0194】
ハンチントン病
ハンチントン病(HD)は、常染色体優性遺伝を有する致死的な進行性神経変性障害である。ヒトでは、変異型ハンチンチン(htt)が線条体の中型有棘ニューロン(MSN)の優先的な喪失を誘導し、運動、認知及び情動欠損を引き起こす。中型有棘ニューロン変性の根底にある提唱された細胞機構の1つは、グルタメート受容体に媒介された興奮毒性経路である(Anitha Mら、Targeting glutamate mediated excitotoxicity in Huntington's disease: neural progenitors and partial glutamate antagonist--memantine. Med Hypotheses. 2011 Jan; 76(1):138-40)。機能亢進性NMDA開口イオンチャネルを遮断するd-メサドン様薬物は、ニューロン内への過剰なカルシウム流入を防止する潜在力を有し、グルタメート媒介の興奮毒性に対する中型有棘ニューロンの脆弱性を低減する。更に、神経栄養成長因子は、ニューロンの生存を促進することが知られており、中枢神経系における再生を促す。
【0195】
したがって、NMDAアンタゴニスト活性を組み合わせ、したがってグルタメート経路及びNE再取り込み阻害を調節し、BDNFレベルを潜在的に増大させるが、オピオイド活性が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様薬物は、ハンチントン病及びその徴候を治療するための特有の利点を提供する可能性がある。
【0196】
ミトコンドリア障害
NSは、ミトコンドリア障害、特に呼吸鎖疾患(RCD)に高い頻度で罹患する。RCDのNS徴候は、脳卒中様のエピソード、てんかん、片頭痛、運動失調、痙攣、運動障害、ニューロパチー、精神障害、認知機能低下、網膜の病態、及び認知症(ミトコンドリア認知症)さえも含む。特に、ミトコンドリア認知症が、MELAS、MERRF、LHON、CPEO、KSS、MNGIE、NARP、リー症候群、及びアルパーズフッテンロッハー病で報告されている。フリートライヒ運動失調症は、FXN遺伝子が、増幅されたイントロンGAAを含有し、フラタキシンタンパク質の欠乏及びミトコンドリア機能不全をもたらす場合に起こる常染色体劣性遺伝疾患である。ミトコンドリア病の治療は、症状管理及びさらなるミトコンドリア機能不全の予防に限定されている。
【0197】
更に、ミトコンドリア機能の破壊は、CNS疾患の病態生理で決定的な役割を果たしている可能性があり、NMDA駆動の行動機能、シナプス機能、及び脳振動機能がUCP2ノックアウトマウスで障害されていることが見出された[Hermes, G.ら、Role of mitochondrial uncoupling protein-2 (UCP2) in higher brain functions, neuronal plasticity and network oscillation. Mol Metab. 2016 Apr 9; 5(6):415-21]。慢性的NMDA投与は、ラットでミトコンドリア機能不全を引き起こす[Kim, H.K.ら、Mitochondrial dysfunction and lipid peroxidation in rat frontal cortex by chronic NMDA administration can be partially prevented by lithium treatment. J Psychiatr Res. 2016 May; 76:59-65]。過剰な細胞外グルタメートが、興奮毒性として知られる毒性過程であるニューロンの制御されない持続的脱分極をもたらす。興奮毒性については、より多い量のCa
2+イオンが、NMDARを通して移動できるので、NMDARが最も重要な役割を果たす。Ca
2+細胞内濃度のこの異常な上昇がミトコンドリア機能不全を引き起こす[Kritis, A.A.ら、Researching glutamate-induced cytotoxicity in different cell lines: a comparative/collective analysis/study. Front Cell Neurosci. 2015 Mar 17; 9:91; Prentice, H.ら、Mechanisms of Neuronal Protection against Excitotoxicity, Endoplasmic Reticulum Stress, and Mitochondrial Dysfunction in Stroke and Neurodegenerative Diseases. Oxi
d Med Cell Longev. 2015; Dunchen, M.R., Mitochondria, calcium-dependent neuronal death and neurodegenerative disease. Pflugers Arch.2012: 464(1):111-121]。N-メチル-D-アスパラギン酸への直接的暴露は、ミトコンドリア機能を改変する[Korde, A.S.ら、Direct exposure to N-methyl-d-aspartate alters mitochondrial function. Neurosci Lett. 2016 Jun 3; 623:47-51]。
【0198】
ミトコンドリア病は、ひとたび罹患しているミトコンドリアの数が特定のレベルに達すると臨床的に明らかになりうる;この現象は、「閾値発現」と呼ばれる。ミトコンドリア機能不全を引き起こすミトコンドリアCa
2+の蓄積が、グルタメート興奮毒性の鍵となるイベントである。ミトコンドリア膜電位の非存在下で解糖によって維持されている細胞は、ミトコンドリア内にCa2
+を取り入れないので、グルタメート興奮毒性に高度に耐性である[Nicholls, D.G.ら、Neuronal excitotoxicity: the role of mitochondria. Biofactors. 1998; 8(3-4):287-99]。興奮毒性損傷は、レーベル遺伝性視神経症(Howell N. Leber hereditary optic neuropathy: respiratory chain dysfunction and degeneration of the optic nerve. 1988 Vis Res 38:1495-1504)及びリー病(Lake NJら、Leigh syndrome: neuropathology and pathogenesis. J Neuropathol Exp Neurol. 2015 Jun; 74(6):482-92)における併用病原因子と仮定されている。
【0199】
認知障害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの特徴でもある。本来はミトコンドリア病ではないが、ミトコンドリアは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーで損傷を受けており、この項の全体にわたって記載されているように、d-メサドンは、ミトコンドリア機能不全を潜在的に予防し、したがって、この疾患の徴候及び症状を寛解できる可能性がある。
【0200】
ミトコンドリア病の安全かつ有効な治療が欠けている。単身患者のみ、コリンエステラーゼ阻害剤又はメマンチン、抗酸化薬、ビタミン、コエンザイムQ、又は他の代用薬の便益を受ける[Finsterer, J., Mitochondrial disorders, cognitive impairment and dementia. J Neurol Sci. 2009 Aug 15; 283(1-2):143-8]。
【0201】
NMDAアンタゴニスト活性を組み合わせ、したがってグルタメート経路を調節すること、ミトコンドリアを潜在的に興奮毒性から保護すること、並びにNE及びセロトニン再取り込み阻害、BDNFレベルを潜在的に増大させ、K
+、Ca
+及びNa細胞電流を調節するが、臨床的に有意なオピオイド活性及び精神異常発現性の副作用が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様の新規薬物は、単独で又はコリンエステラーゼ阻害剤、抗酸化薬、ビタミン、イデベノン、コエンザイムQ若しくは他の代用薬、メマンチン又は他のNMDAR遮断薬と組み合わせて、ミトコンドリアに影響を与えるもの並びにその症状及び徴候という特有の利点を提供する可能性があり、それらの進行を遅延させる可能性がある。
【0202】
脆弱X症候群及び脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS)
細胞神経病理学的研究は、脆弱X遺伝子(FMR1)前突然変異における、グルタメートに対する異常な神経応答を示した。前突然変異を保持するヒト人工多能性幹細胞(iPSC)由来のニューロンにおいて、Liuらは、グルタメートに対する応答の増大、並びにカルシウムスパイク活性の振幅の増大及び頻度の増加を記載した[Liu, J.ら、Signaling Defects in iPSC-Derived Fragile X Premutation Neurons. Hum Mol Genet (2012) 21, 3795-3805]。
【0203】
メマンチンが、脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS)における中核認知欠損を含むと考えられる、実行機能/機能障害の基本成分である注意過程に恩恵を与えることが見出された[Yang, J.C.ら、Memantine Improves Attentional Processes in Fragile X-Associated Tremor/Ataxia Syndrome: Electrophysiological Evidence from a Randomized Controlled Trial. Sci Rep. 2016; 6: 217-19]。FMRPは、学習及び記憶の機構を含めた神経可塑性を制御するグルタミン酸作動性経路に関係づけられている(McLennan Yら、Fragile X Syndrome. Curr Genomics. 2011 May; 12(3): 216-224)。精神異常発現性作用又はオピオイド作用無しに認知機能を改善すること、メマンチンと同様にマイクロモル濃度範囲のNMDAR親和性を有すること、及び本願の実施例の項に提示する実験でケタミンと同様な行動作用を示すこと、及び血清BDNFレベルを潜在的に増大させること、それによって神経可塑性に影響を与えることをここで本発明者らが示したd-メサドン様薬物は、脆弱X症候群、レット症候群、プラダー・ウィリー症候群、アンジェルマン症候群を含めた神経発達障害並びに肥満を含めたその神経症状及び徴候を含めた、グルタメート興奮毒性が役割を果たしている多くの神経学的状態の悪化を予防する可能性が高い。
【0204】
興味深いことに、FMRP欠乏が脆弱X症候群の原因であるが、1本の報告は、FMR1変異を有していない、精神神経障害を有する個体の脳におけるFMRPの欠乏を示している。対照の外側小脳半球から得た死後の脳組織と、精神障害を有する対象との比較は、統合失調症を有する対象の脳におけるFMRPが、対照脳に比べて78%低減したことを明らかにした。これは、この適応症に対するd-メサドン有効性のさらなる証拠を示唆する。(Napoli I.ら、The fragile X syndrome protein represses activity-dependent translation through CYFIP1, a new 4E-BP. Cell, 2008, 134 (6),1042-1054)。
【0205】
アンジェルマン症候群
アンジェルマン症候群は、15番染色体の様々な異常によって引き起こされうるUBE3A遺伝子発現の欠損による、発育遅延、重度知的障害、発語不足、幸福感のある振る舞いを伴った熱狂的な行動、運動障害、及びてんかんを特徴とする神経原性障害である。アンジェルマン症候群では、NMDA媒介のシナプス伝達が変化しているようであり、この異常がこの症候群の症状に寄与している可能性が高い(Dan B. Angelman syndrome: Current understanding and research prospects. Epilepsia, 2009 50: 2331-2339.)。その症状の一部又は全てが、d-メサドン様薬物によって寛解する可能性があり、ここで、d-メサドン様薬物は、精神異常発現性作用又はオピオイド作用無しに認知機能を改善すること、及びメマンチンと同様にマイクロモル濃度範囲のNMDAR親和性を有すること、及び血清BDNFレベルを潜在的に増大させることが本発明者らにより示されている。d-メサドンは、アンジェルマン症候群、その神経症状及び徴候を含めたグルタメート興奮毒性が役割を果たしている多くの神経学的状態の悪化を予防する可能性が高い。
【0206】
フリートライヒ運動失調症、オリーブ橋小脳萎縮症並びにその神経症状及び徴候、並びに前庭障害並びに眼振、全身硬直症候群を含めた遺伝性運動失調症
フリートライヒ運動失調症は、FXN遺伝子が、増幅されたイントロンGAAを含有し、フラタキシンタンパク質の欠乏及びミトコンドリア機能不全をもたらす場合に起こる常染色体劣性遺伝疾患である。メマンチンが、フリートライヒ運動失調症における急性視神経萎縮症の潜在的な治療であることが見出された[Peter, S.ら、Memantine for optic nerve atrophy in Friedreich's Ataxia. Article in German. Ophthalmologe. 2016 Aug; 113(8):704-7]。Iizuka、A.ら[Long-term oral administration of the NMDA receptor antagonist memantine extends life span in spinocerebellar ataxia type 1 knock-in mice. Neurosci Lett. 2015 Apr 10; 592:37-41]は、脊髄小脳失調症1SCA1型KIマウスにおける神経細胞死に対するシナプス外NMDARの異常な活性化の寄与を記載している。KIマウスでは、ataxin 1遺伝子のエクソンが、異常に伸長した154CAG反復で置き換えられている。SCA1 KIマウスに4週齢から死亡までメマンチンが経口投与された。この処置は、有意に、体重減少を減弱し、SCA1 KIマウスの寿命を延長した。更に、メマンチンは、それぞれ運動機能及び副交感機能に決定的に重要である小脳中のプルキンエ細胞及び迷走神経の背側運動核中の運動ニューロンの喪失を有意に抑制した。
【0207】
これらの結果は、メマンチンがヒトSCA1患者における治療効果も有することを示唆している。Rosini、F.ら[Ocular-motor profile and effects of memantine in a familial form of adult cerebellar ataxia with slow saccades and square wave saccadic intrusions]. PLoS One. 2013 Jul 22; 8(7)]によると、メマンチンが、マクロサッケード眼振(MSO)を低減し、サッケード混入のある脊髄小脳失調症(SCASI)及び他の形態の遺伝性運動失調症を有する患者における固視を改善することが見出された。メマンチンは、矩形波混入(SWI)及びMSOの両方を含めたサッケード混入に対するいくらかの一般抑制作用を有し、それによって、サッケード混入が顕著であるフリートライヒ運動失調症を含めた、これら及び他の劣性形態の失調における読取り能力及び視覚的注意を回復させうる。
【0208】
脊髄小脳失調症2型(SCA2)及び3型(SCA3)は常染色体優性神経変性障害である。SCA2は、主に、小脳のプルキンエニューロンを冒す。SCA3は、主に、歯状核及び橋核並びに黒質を冒す。両障害とも、ポリグルタミン(polyQ)伸長障害のクラスに属する。SCA2は、細胞質タンパク質ataxin-2(Atxn2)のアミノ末端領域におけるpolyQ伸長によって引き起こされる。SCA3は、細胞質タンパク質ataxin-3(Atxn3)のカルボキシ末端部分におけるpolyQ伸長によって引き起こされる。両障害とも世界中で見られ、SCA2、SCA3、又はいずれの他のpolyQ伸長障害にも有効な治療は存在しない。
【0209】
SCA2及びSCA3遺伝子マウスモデルを用いた最近の前臨床研究は、ニューロンのカルシウム(Ca
2+)シグナリングの異常が、SCA2及びSCA3病態で重要な役割を果たしている可能性があることを示唆した。これらの研究は、Ca
2+シグナリング阻害剤及びメマンチンのような安定剤、並びに、したがって、潜在的にd-メサドンは、SCA2及びSCA3を治療するための治療価値を有しうることも示唆した(Bezprozvanny I and Klockgether T. Therapeutic prospects for spinocerebellar ataxia type 2 and 3. Drugs Future. 2009 Dec; 34(12)。Botezら、1996、は、小脳の顆粒細胞におけるグルタメート媒介の神経毒性にN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)が直接的に関与することによる、オリーブ橋小脳萎縮症及び他の遺伝性神経変性失調におけるアマンタジン及びメマンチン使用の理論的根拠を記載している(Botez MIら、Amantadine hydrochloride treatment in heredodegenerative ataxias: a double blind study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1996 Sep; 61(3):259-64)。
【0210】
グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)に対する抗体が、全身硬直症候群を有する多くの患者に存在し、失調、強剛性及びミオクローヌス(PERM)を伴う進行性脳脊髄炎、辺縁系脳炎、並びにてんかん等の中枢神経系(CNS)機能障害を示す他の症状を有する患者で漸増的に見出されている。GADに対する抗体がGABAの産生を障害すると推定されているが、GAD抗体関連神経障害の正確な発症機構は不確かである[Dayalu P and Teener JW. Stiff Person syndrome and other anti-GAD-associated neurologic disorders. Semin Neurol. 2012 Nov; 32(5):544-9]。過剰又は不均衡なグルタメート刺激も、これらの障害に寄与する可能性がある。免疫調節療法による治療に応答する患者は極めて少ない。ベンゾジアゼピン及びバクロフェン等、GABA活性を促進する対症療法薬はいくらかの助けになる。
【0211】
その上、NMDAアンタゴニスト及びメマンチンは、振子様眼振及び新生児眼振、メニエール病、前庭性発作症、前庭性片頭痛を含めた、前庭障害及び眼振を改善する可能性がある[Strupp, M.ら、Pharmacotherapy of vestibular disorders and nystagmus. Semin Neurol. 2013 Jul; 33(3):286-96]。
【0212】
精神異常発現性作用又はオピオイド作用無しに認知機能を改善すること及びメマンチンと同様にマイクロモル範囲におけるNMDAR親和性を有すること、及び血清BDNFレベルを潜在的に増大させることを本発明者らがここで示したd-メサドン様の新規薬物は、フリートライヒ運動失調症、オリーブ橋小脳萎縮症並びにその神経症状及び徴候、急性視神経萎縮症及び前庭障害及び眼振を含めた振子様眼振及び新生児眼振、メニエール病、前庭性発作症、前庭性片頭痛、及び全身硬直症候群及びGAD抗体と関連する他の神経障害を含めた遺伝性運動失調症を含めたグルタメート興奮毒性が役割を果たしている多くの神経学的状態の悪化を予防する可能性が高い。
【0213】
緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、網膜色素変性、視神経炎並びにLHON。ドライアイ症候群を含めた眼球前区の疾患及び症状
緑内障、糖尿病網膜症及び加齢黄斑変性等の網膜の疾患では、代謝ストレス中、グルタメートが放出され、網膜神経節細胞及び特定のタイプのアマクリン細胞等のイオンチャネル型のNMDA受容体を含有するニューロンの機能障害及び死滅が開始する。NMDA受容体の活性化に続く細胞死の主要な原因は、細胞内へのカルシウムの流入、糖化最終産物(AGE)及び/又は脂質過酸化最終産物(ALE)の形成に結びついたフリーラジカルの発生、並びにミトコンドリア呼吸鎖における欠損である。黄斑浮腫は、多数の血管疾患、炎症性疾患、代謝疾患及び他の疾患における複数の病態生理学経路の末期を表す。神経成長因子及びNMDAアンタゴニストのような神経保護薬等の新規な治療は、網膜における神経細胞死を抑制しうる[Wolfensberger TJ. Macular Edema - Rationale for Therapy. Dev Ophthalmol. 2017; 58:74-86]。緑内障及び視神経炎では、NMDA誘発性の神経細胞損傷が起こりうる。d-メサドンと同様にNMDAR遮断薬に対してマイクロモル濃度範囲の親和性を有することを本発明者らが示したNMDAアンタゴニストであるメマンチンは、緑内障に潜在的に恩恵を与えることが実験的研究で見出されている[Celiker Hら、Neuroprotective Effects of Memantine in the Retina of Glaucomatous Rats: An Electron Microscopic Study. J Ophthalmic Vis Res. 2016 Apr-Jun; 11(2):174-82]。著者らは、緑内障プロセスの初期相で開始された場合、メマンチンは、実験的に誘発された緑内障において、網膜の超微細構造を保ち、それによってニューロン損傷を予防するのに役立ちうると結論した。メマンチンは、視神経炎を有する患者において、視覚を改善しなかったが、網膜神経線維層(RNFL)菲薄化の軽減に有効であることも見出された(Esfahani MRら、Memantine for axonal loss of optic neuritis. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2012 Jun; 250(6):863-9)。
【0214】
興奮細胞毒性イベントを防止する物質は、潜在的に神経保護性あると考えられる。実験的研究は、いくつかの薬物が、栄養分が欠乏した網膜ニューロンの死を低減又は防止することを示している。これらの作用物質は、一般に、NMDA受容体を遮断して、グルタメートの過剰な作用を防止し、細胞死をもたらすその後の病態生理学的サイクルを止める[Schmidt KGら、Neurodegenerative diseases of the retina and potential for protection and recovery. Curr Neuropharmacol. 2008 Jun; 6(2):164-78]。グルタメート誘発性の視神経萎縮は、BDNF発現の変化と関連することも見出されている[Ito Yら、 Degenerative alterations in the visual pathway after NMDA-induced retinal damage in mice. Brain Res. 2008 May 30; 1212:89-101]。興奮毒性損傷は、レーベル遺伝性視神経症における併用病原因子と仮定されている[Howell N. Leber hereditary optic neuropathy: respiratory chain dysfunction and degeneration of the optic nerve. 1988 Vis Res 38:1495-1504; Sala G. Antioxidants Partially Restore Glutamate Transport Defect in Leber Hereditary Optic Neuropathy Cybrids. Journal of Neuroscience Research 2008 86:3331-3337]。グルタメート代謝の変化が網膜色素変性の様々なモデルで記載されており、グルタメート媒介の興奮毒性機構は、網膜変性マウスモデルにおける杆体視細胞の死に寄与することが見出された(Delyfer MNら、Evidence for glutamate-mediated excitotoxic mechanisms during photoreceptor degenera
tion in the rd1 mouse retina. Mol Vis. 2005 Sep 1; 11:688-96)。
【0215】
精神異常発現性作用又はオピオイド作用が無いこと、並びにメマンチンと同様にマイクロモル範囲におけるNMDAR親和性を有すること、並びに血清BDNF及びテストステロンレベルを潜在的に増大させ、代謝パラメーターを調節することが本発明者らによってここで示されているd-メサドン様の新規薬物は、全身投与、点眼薬若しくは軟膏を介した投与を含めた局所投与、並びに/又はデポ製剤を含めた硝子体内注射及びイオン泳動を介した投与を含めた眼内投与で投与された場合、視細胞、双極細胞、神経節細胞、水平細胞及びアマクリン細胞及びミュラー細胞を含めた網膜神経節細胞並びに視神経の疾患を含めた、グルタメート興奮毒性が役割を果たしておりBDNFが神経可塑性を調節する状態を治療及び防止する可能性が高い。実施例の項に詳述されているように、d-メサドンは、BDNFレベルを増加させる。網膜細胞及び角膜細胞を含めた眼の細胞に対するBDNFの作用は、NMDARに対する作用と関連した、又はそれとは独立した、網膜及び角膜を含めた、網膜及び眼の神経変性疾患、毒性疾患、代謝疾患及び炎症性疾患を防止又は治療しうる。更に、緑内障及びその合併症の進行の主要因の1つは眼圧(IOP)の増大である。オピオイドは、眼内(末梢)オピオイド受容体に作用することによってIOPを低減することが見出されている[Drago Fら、Effects of opiates and opioids on intraocular pressure of rabbits and humans. 1985 Clin Exp Pharmacol Physiol. 1985 Mar-Apr; 12(2):107-13]。モルヒネ等のオピオイドアゴニストは既知の副作用及びリスクを有するが、局所投与された場合でさえ(点眼薬を介して投与された薬物の最大50%までが潜在的に鼻腔内で吸収され、急速な全身作用、並びにモルヒネ、ラセミ体のメサドン、I-メサドン等のオピオイド性薬物の場合、オピオイド関連作用をもたらす)、オピオイド性の中枢認知副作用が無いこと及び精神異常発現性の作用が無いことを本発明者らが見出したd-メサドン様薬物は、単独で又はプロスタグランジン、β遮断薬、αアドレナリン受容体作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、副交感神経刺激薬、エピネフリン、高浸透圧剤を含めたIOPを低下させる他の薬物と組み合わせて局所投与又は全身投与された場合、IOPを低下させるのに潜在的に有用でありうる。d-メサドンに類似した、NMDAアンタゴニスト活性を有するオピオイドであるデキストロメトルファンも類似の作用を及ぼしうる。しかし、デキストロメトルファンは、非常に短い半減寿命、並びに活性代謝物、並びに集団内の薬物動態及び反応を可変的にするCYP2D6遺伝子多型の影響を受けやすいことを含めた多くの欠点を有する(Zhou SF. Polymorphism of human cytochrome P450 2D6 and its clinical significance: part II. Clin Pharmacokinet. 48:761-804, 2009)が、これらは、d-メサドンに比べて、明らかに不利益である。
【0216】
実施例の項に詳述されている研究では、本発明者らは、縮瞳した健常志願者に1日1回10日間経口投与した25mg、50mg及び75mgのd-メサドンの作用を解析した。総合すると、投与期間第1日目から第10日目までの間の平均縮瞳(MPC)値は、プラセボ群で最小のマグニチュード(収縮が最小)、25mg及び50mg d-メサドン群で中間、75mg d-メサドン群で最大のマグニチュード(収縮が最大)であった。75mg d-メサドン群は、投与期間中の最も早い時点に最大の平均縮瞳を示した:25mg群の平均(SD)MPCは、第9日目に-1.32(0.553)mmであり、50mg群については、第6日目に-1.43(0.175)mmであり、75mg群については、第5日目に-2.24(0.619)mmであった。縮瞳を引き起こす用量でのオピオイド性の中枢認知副作用の欠如は、眼内の末梢オピオイド受容体が、経口投与したd-メサドンによって、オピオイドの中枢副作用無しで活性化される可能性があることを間接的に確認する。それ故、経口又は局所d-メサドンは、オピオイド性薬物の全身性オピオイド作用無しの縮瞳が有利である場合、例えば、緑内障用及び眼検査目的の瞳孔散大の後の場合も有用である可能性がある。本発明者らによる第1相MAD研究及び実施例に記載されている経口投与によるd-メサドン誘発性の縮瞳も、この薬物が、全身性吸収及び中枢作用ではなく、点眼薬を介して末梢オピオイド受容体に対する活性により局所投与される場合、潜在的に介入する可能性がある。
【0217】
ドライアイ症候群を含めた眼球前区の疾患は、老齢者集団の40〜70%にものぼる多くの人が罹患している、漸増的に一般化している健康上の懸念であり、老化が進むにつれ、汚染の進んでいる都市部に居住する集団ほど、有病率が増大している。実験的研究は、オピオイドアンタゴニストであるナルトレキソンが、内因性オピオイドを遮断することによって、角膜の上皮再形成を容易にすることを見出している[Zagon ISら、Naltrexone, an opioid antagonist, facilitates reepithelialization of the cornea in diabetic rat. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2000 Jan; 41(1):73-81]が、モルヒネの局所投与が、角膜治癒を妨害せずに、鎮痛をもたらすことが見出された[Peyman GAら、Effects of morphine on corneal sensitivity and epithelial wound healing: implications for topical ophthalmic analgesia. Br J Ophthalmol. 1994 Feb; 78(2): 138-141]。
【0218】
d-メサドンは、グルタメートの過剰な存在による細胞損傷を防止すること(非競合的NMDA開口チャネル遮断薬)に加えて、BDNF及びテストステロン血清レベルを増大させることを著者らは見出した。角膜は、平方ミリメートルあたり最大7000という非常に高い密度の神経終末を有し、BDNF等の神経分泌因子は、上皮再生に決定的に重要である[Bikbova Gら、Neuronal Changes in the Diabetic Cornea: Perspectives for Neuroprotection. Biomed Res Int. 2016; Article ID:5140823]。角膜における神経線維の喪失は、糖尿病及びドライアイ症候群の主要な合併症であり、重度の合併症は、角膜潰瘍から視覚の機能障害及び盲目にまで及ぶ。d-メサドンによって誘導されるBDNFの増加は、糖尿病及びドライアイ症候群を含めた様々な因子によって誘導される角膜の除神経を予防及び治療しうる。同じく本発明者らが発見したテストステロンの上方制御に対するd-メサドンの作用は、ドライアイ症候群の経過を更に改善し[Sullivan DAら、Androgen deficiency, Meibomian gland dysfunction, and evaporative dry eye. Ann N Y Acad Sci. 2002 Jun; 966:211-22]、BDNFとの相乗作用で、角膜に栄養性作用を及ぼす。更に、末梢オピオイド受容体に対するd-メサドンの弱い活性は、IOPの低減に加えて、神経因性そう痒、不快感及び局所炎症、並びに過敏症等の症状の軽減を提供しうるが、これら全ての症状は、ドライアイ症候群を有する患者にとってかなりの負担であることが知られている。NE及びセロトニン再取り込みのd-メサドン阻害も、ドライアイ症候群の局所症状を改善できる可能性があり、気分に対するその作用は、不快感の感受を寛解できる可能性がある。
【0219】
まとめると、NMDAR、BDNF、テストステロン、末梢オピオイド受容体、IOPに対するものを含めた上に概要を示した様々な作用により、d-メサドンは、多くの眼の疾患を潜在的に治療できる可能性があり、それを、点眼薬若しくは軟膏の形態のもの及び硝子体への浸透を増大させるイオン泳動によるもの、若しくは硝子体内デポー形態のものを含めた眼内注射によるものを含めた局所投与によって投与することも、上記の眼疾患及び適応症の全てに対してそれを全身投与することもできる。
【0220】
本発明者らは、d-メサドンの点眼液の製剤化を開始しており、また、本発明者らは、眼の疾患の症状及び徴候を緩和するために局所投与されたd-メサドンの作用を確かめるための点眼薬を用いた研究を計画している。
【0221】
皮膚疾患及び症状
複数の作用様式を介して、d-メサドンは、乾癬[Brunoni ARら、Decreased brain-derived neurotrophic factor plasma levels in psoriasis patients. Braz J Med Biol Res. 2015 Aug; 48(8):711-4]、白斑[Kuala Mら、Reduced serum brain-derived neurotrophic factor in patients with first onset vitiligo. Neuropsychiatr Dis Treat. 2014 Dec 12; 10:2361-7]等の多くの皮膚疾患及び状態における皮膚炎及びそう痒を緩和するための潜在力を有し、それ故、全身投与された場合又はクリーム、ローション、ゲル及び軟膏の形態で皮膚上に局所投与された場合でさえ、皮膚の抗老化作用及び再生作用も発揮できる可能性がある。BDNFに対するその調節作用に加えて、d-メサドンは、多くの皮膚疾患に見られる皮膚炎を、ケラチノサイト上に存在するオピオイド受容体を介して[Slominski AT. On the Role of the Endogenous Opioid System in Regulating Epidermal Homeostasis. Journal of Investigative Dermatology. 2015; 135,333-334]及び末梢NMDARを遮断することによって[Fuziwara Sら、NMDA-type glutamate receptor is associated with cutaneous barrier homeostasis. J Invest Dermatol. 2003 Jun; 120(6):1023-9]緩和できる可能性がある。上に概要を示した機構を介して、皮膚並びに毛髪を含めた皮膚付属器の老化、外部放射線療法を含めたがん治療による加速した皮膚老化も、全身性又は局所性のd-メサドンによって治療できる可能性がある。
【0222】
そう痒は、皮膚疾患の一般的な症状であり、場合によっては、疾患過程それ自体を維持するのにも寄与しうる。d-メサドンは、その中枢及び末梢NMDA遮断作用[Haddadi NSら、Peripheral NMDA Receptor/NO System Blockage Inhibits Itch Responses Induced by Chloroquine in Mice. Acta Derm Venereol. 2017 May 8; 97(5):571-577]及び末梢オピオイド受容体結合を介して局所投与された場合(Iwaszkiewicz KSら、Targeting peripheral opioid receptors to promote analgesic and anti-inflammatory actions. Front Pharmacol 2013; 4: 132-137)、皮膚炎、そう痒及び関連する皮膚病態に対する緩和を提供できる可能性がある。自己免疫障害の湿疹及び皮膚徴候も、それ故、局所投与又は全身投与されたd-メサドンによって改善できる可能性がある。
【0223】
ジスキネジア
ジスキネジアは、ハンチントン病(HD)で自然発症的に、また、パーキンソン病(レボドパ誘発性ジスキネジア;LID)又は統合失調症(遅発性ジスキネジア、TD)の長期治療の後に起こる不随意筋運動である。遅発性ジスキネジアは、長期の神経遮断薬療法の合併症として起こる異常な不随意運動の症候群である。ジスキネジアの病態生理の解明はまだ不完全なままであるが、過剰なグルタミン酸作動性活性による線条体のエンケファリン作動性ニューロンの変化を関係づけることができる。
【0224】
最近の研究(Konitsiotis Sら、Effects of N-methyl-D-aspartate receptor antagonism on neuroleptic-induced orofacial dyskinesias. Psychopharmacology (Berl). 2006 Apr; 185(3):369-77)によると、NMDA受容体遮断薬、特にNR2Bサブユニットを含有するNMDA受容体に対する選択性を示すものが、遅発性ジスキネジアの治療に特に有効でありうる。
【0225】
一研究において、Andreassen、O.A.ら[Inhibition by memantine of the development of persistent oral dyskinesias induced by long-term haloperidol treatment of rats. British Journal of Phamacology. 1996; 119,751-757]は、ハロペリドールによって誘導される、持続性遅発性ジスキネジアのアナログである咀嚼様顎運動(VCM)が、メマンチンによって予防されることを見出した。この新知見は、過剰なNMDA受容体刺激が、ラットにおける遷延性VCM、したがって、同様にヒト対象におけるTDの発症の根底にある機構である可能性があるという理論を支持する。
【0226】
別の研究[Andreassen, O.A.ら、Memantine attenuates the increase in striatal preproenkephalin mRNA expression and development of haloperidol-induced persistent oral dyskinesias in rats. Brain Res. 2003; 24; 994(2):188-92]では、メマンチンが、20週間のハロペリドール投与によって誘導された、ハロペリドール誘発性遷延性咀嚼様顎運動(VCM)の発症を抑制した。
【0227】
Naidu、P.S.I.ら[Excitatory mechanisms in neuroleptic-induced vacuous chewing movements (VCMs): possible involvement of calcium and nitric oxide. Behav. Pharmacol. 2001 Jun; 12(3):209-16]は、NMDA受容体の関与をハロペリドール誘発性VCMに関係づけ、カルシウム及び一酸化窒素経路を標的にする可能性も示唆した。これらもNMDAアンタゴニストによって調節される。
【0228】
d-メサドンは、本発明者らが示したように、機能亢進性NMDA受容体を遮断し、ニューロン内への過剰なカルシウム流入、ミトコンドリアの毒性及びNO生成を潜在的に阻止し、それによってグルタメート媒介の興奮毒性に対するニューロンの脆弱性を低減し、BDNF生成を誘導することができる。神経栄養成長因子は、ニューロンの生存を促進し、中枢神経系における再生を促すことが知られている。NMDAアンタゴニスト活性と、したがってグルタメート経路を調節することと、NE再取り込み阻害性とを組み合わせ、BDNFレベルを潜在的に増大させるが、オピオイド活性が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様の新規薬物は、ハンチントン病、PD及び統合失調症の治療と関連するジスキネジアを含めたジスキネジア及び様々な病因のジストニアを治療するための特有の利点を提供する可能性がある。
【0229】
本態性振戦
本態性振戦(ET)は、成人の中で最も一般的な運動障害の1つである及び障害を引き起こすものでありうる。疾患経過は良性であるが、アルコール摂取によるその寛解は、エタノール乱用に関係する合併症を一部の患者で引き起こしうる。満足できるETの薬物処置はまだない。反応が十分でない又は現在認可されている治療による副作用が耐えられないものである患者には、追加の療法が必要である。
【0230】
メマンチンは、小脳及び下オリーブニューロンに対する神経保護作用を発揮し、抗振戦効果を有することが動物モデルで示された(Iseri PKら、The effect of memantine in harmaline-induced tremor and neurodegeneration. Neuropharmacology. 2011 Sep; 61(4):715-23)。
【0231】
それによってグルタメート経路を調節するNMDAアンタゴニスト活性とNE再取り込み阻害を組み合わせ、BDNFレベルを潜在的に増大させるが、オピオイド活性が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様の新規薬物は、本態性振戦及び他の振戦並びに運動障害を治療するための特有の利点を提供する可能性がある。
【0232】
難聴
感覚神経性難聴は、らせん神経節ニューロン(SGN)の障害と関連する。SGNは、耳から脳に聴覚情報を伝達する双極ニューロンである。SGNは、正常な聴覚の維持に不可欠であり、その生存は、遺伝的相互作用及び環境的相互作用に主に依存している。SGNが関与する騒音性疾患、中毒性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、及び神経変性疾患は、感覚神経性難聴の原因である可能性がある。騒音暴露に加えて、聴覚毒性の薬物療法、他の毒素、携帯電話/スマートフォンの過使用及び遺伝的因子等の遺伝的及び環境的な他の因子は、SGNの喪失を潜在的に引き起こし、それ故、感覚神経性難聴を引き起こす可能性がある。
【0233】
損傷の1つの可能な機構は、グルタメート興奮毒性が関与しているものと考えられる。NMDARアンタゴニストは、暴露後の処置及びさらなる損傷の予防に有用である可能性がある[Imam, Lら、Noise-induced hearing loss: a modern epidemic? Br J Hosp Med (Lond). 2017 May 2; 78(5):286-290]。グルタメートは哺乳動物脳における重要な興奮性神経伝達物質であるが、過剰な量のグルタメートは、「興奮毒性」を引き起こし、脳虚血、外傷性脳損傷、HIV、及び神経変性障害等の一部の傷害及び疾患でニューロン死をもたらす可能性があることが広く認められている。ラットにおける過剰なグルタメートへの暴露は、高周波聴力消失を引き起こす。また、らせん神経節の基底側高周波関連部分におけるニューロンの劇的かつ選択的な減少があったが、有毛細胞の喪失は見られなかった。外傷性騒音暴露、アミノグリコシド系抗生物質、蝸牛虚血、又は外傷性/感染症、自己免疫疾患の全ては、内有毛細胞からシナプス間隙へのグルタメートの過剰な放出をもたらす。グルタメート興奮毒性は、主にグルタメート受容体の過剰な活性化を通じて神経細胞死を引き起こし、これは、ニューロンへの大量のCa
2+の流入を誘発する。Ca
2+が充填されたミトコンドリアは、スーパーオキシド及び一酸化窒素を含む活性酸素種(ROS)を生成する[Bai, X.I.ら、Protective Effect of Edaravone on Glutamate-Induced Neurotoxicity in Spiral Ganglion Neurons. Neural Plast 2016; 2016:4034218]。
【0234】
メマンチンと同様にマイクロモル濃度範囲のNMDAR親和性を有すること及び血清BDNFレベルを潜在的に増大させることを本発明者らが示したd-メサドン様の新規薬物は、感覚神経性難聴の予防、治療又は減弱を含めたグルタメート興奮毒性が役割を果たしている多くの神経学的状態の悪化を予防する可能性が高い。更に、d-メサドンは、耳鳴にも有用でありえ、これは、低レベルのBDNFと関連していることが見出されている[Coskunoglu, A.ら、Evidence of associations between brain-derived neurotrophic factor (BDNF) serum levels and gene polymorphisms with tinnitus. Noise Health. 2017 May-Jun; 19(88):140-148]。
【0235】
嗅覚及び味覚障害
遺伝的、変性、毒性、感染性、腫瘍性炎症性及び外傷性の原因により嗅覚(及び結果的に味覚)の障害が起こりうる。成体神経新生は、神経幹細胞の増殖及び分化によってもたらされる。嗅上皮は、生涯を通して嗅覚受容神経を持続的に再生する能力を有する。Frontera、J.L.ら[Brain-derived neurotrophic factor (BDNF) expression in normal and regenerating olfactory epithelium of Xenopus laevis. Ann Anat. 2015 Mar; 198:41-8]は、嗅上皮及び嗅球におけるBDNFの発現及び存在を確認した。すなわち、正常生理条件で、嗅上皮におけるグリア細胞及び幹細胞並びに嗅球における顆粒細胞がBDNFを発現する。更に同じ論文で、大量再生中、Fronteraらは、BDNFを発現する基底細胞の劇的な増加並びに嗅球及び嗅覚神経におけるBDNFの増加も実証した。あわせると、これらの結果は、嗅覚系の維持及び再生におけるBDNFの重要な役割を示唆する。
【0236】
McDole, B.ら[BDNF over-expression increases olfactory bulb granule cell dendritic spine density in vivo. Neuroscience. 2015 Sep 24; 304:146-60]による研究の結果は、内因性BDNFレベルの増大が、嗅球顆粒細胞上の樹状突起スパインの成熟及び/又は維持を促進できることを示している。健忘型軽度認知障害(AMCI)は、アルツハイマー病に進行することが多い。Turana、Y.ら[Combination of Olfactory Test, Pupillary Response Test, BDNF Plasma Level, and APOE Genotype. Int J Alzheimers Dis. 2014; 2014:912586]による研究では、低BDNF血漿レベルが、嗅覚障害及びaMCIと有意に関係している(P<0.05)。脳由来神経栄養因子(BDNF)は、しばしば嗅覚障害を特徴とする神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病及びパーキンソン病)と結びついている。
【0237】
BDNF遺伝子の特定の一塩基多型Val66Metは、そのBDNFタンパク質の細胞内輸送及び活動依存性分泌が嗅覚障害と関連していることがTonacci、A.らによって見出された。これは、嗅覚機能に対するBDNFの神経保護効果を強調している[Tonacciら、Brain-derived neurotrophic factor (Val66Met) polymorphism and olfactory ability in young adults. J Biomed Sci. 2013 Aug 7; 20:57]。
【0238】
最近の研究(Uranagase Aら、BDNF expression in olfactory bulb and epithelium during regeneration of olfactory epithelium. Neurosci Lett. 2012 May 10; 516(1):45-9)は、嗅上皮内のBDNFが嗅覚受容神経の再生の初期に寄与し、嗅球内のBDNFが再生の後期にその役割を有することを示唆する。Ortiz-Lopez、L.ら[Human neural stem/progenitor cells derived from the olfactory epithelium express the TrkB receptor and migrate in response to BDNF. Neuroscience. 2017 Jul 4; 355:84-100]による2017年の研究は、嗅上皮由来のヒト神経幹細胞/前駆細胞がTrkB受容体を発現し、BDNFに応答して移動することを示している。
【0239】
嗅覚機能障害は、肉体的に健康な状態、生活の質、栄養状態及び毎日の安全に有意に影響を与え、死亡率の増大と関連している(Attems Jら、Olfaction and Aging: A Mini-Review. Gerontology. 2015; 61(6):485-90)。BDNFレベルを増大させることができるd-メサドン様薬物は、様々な病因、疾患、及びがん治療を含めたその処置によって引き起こされる、嗅覚減弱及び嗅覚異常を含めた嗅覚障害の進行を遅らせ、予防し、逆行させることができる可能性がある。
【0240】
味覚機能障害も、肉体的に健康な状態、生活の質、栄養状態及び毎日の安全に有意に影響を与えることができる。味覚ニューロンは、生存するのにBDNFに依存している;これらのニューロンの50%が、Bdnf(-/-)マウスで死滅する(Patel AVら、Lingual and palatal gustatory afferents each depend on both BDNF and NT-4, but the dependence is greater for lingual than palatal afferents (J Comp Neurol. 2010 Aug 15; 518(16):3290-301)。d-メサドン様薬物は、BDNFレベルを増大させることができ、様々な病因、疾患及びがん治療を含めたその処置によって引き起こされる、味覚減退及び味覚異常を含めた味覚障害の進行を遅らせ、予防し、逆行させることができる可能性がある。
【0241】
片頭痛、群発頭痛及び他の頭痛
NMDA受容体系及びNETは、発病片頭痛、群発頭痛及び他の頭痛に関係づけることができるという証拠がある[Nicolodi, M.ら、Exploration of NMDA receptors in migraine: therapeutic and theoretic implications. Int J Clin Pharmacol Res. 1995; 15(5-6):181-9; Nicolodi, M.ら、Modulation of excitatory amino acids pathway: a possible therapeutic approach to chronic daily headache associated with analgesic drugs abuse. Int J Clin Pharmacol Res. 1997; 17(2-3):97-100; Roffey, P.ら、NMDA receptor blockade prevents nitroglycerin-induced headaches. Headache. 2001 Jul-Aug; 41(7):733; Farinelli, I.ら、Future drugs for migraine. Intern Emerg Med. 2009 Oct; 4(5):367-73]。NMDAアンタゴニストであるメマンチンは、頭痛の治療及び予防に良好に使用されている[Lindelof, K.I.ら、Memantine for prophylaxis of chronic tension-type headache--a double-blind, randomized, crossover clinical trial. Cephalalgia. 2009 Mar; 29(3):314-21; Huang, L.ら、Memantine for the prevention of primary headache disorders. Ann Pharmacother. 2014 Nov; 48(11):1507-11; Noruzzadeh Rら、Memantine for Prophylactic Treatment of Migraine Without Aura: A Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Study. Headache. 2016 Jan; 56(1):95-103)。
【0242】
片頭痛、非定型頭痛症候群、連日性頭痛、群発頭痛を含めた難治性及び再発性頭痛を有する患者が、l-メサドンによる治療に成功している[Sprenger, T.ら、Successful prophylactic treatment of chronic cluster headache with low-dose levomethadone. J Neurol. 2008 Nov; 255(11):1832-3]及びラセミ体のメサドン(Ribeiro, S.ら、Opioids for treating nonmalignant chronic pain: the role of methadone. Rev Bras Anestesiol. 2002 Sep; 52(5):644-51]。
【0243】
メサドンからモルヒネに切り替えた患者についての最近の研究[Glue, P.ら、Switching Opioid-Dependent Patients From Methadone to Morphine: Safety, Tolerability, and Methadone Pharmacokinetics. Clin Pharmacol. 2016 Aug; 56(8):960-5]では、最も頻発する副作用は、頭痛、悪心及び頚部痛であった。これは、片頭痛に典型的であるこれらの症状に対するメサドンの保護作用の急激な欠如を示唆する。最近のメタアナリシスは、BDNFrs6265及びrs2049046多型が普通型片頭痛と関連することを示唆する[Cai, X.ら、The association between brain-derived neurotrophic factor gene polymorphism and migraine: a meta-analysis. J Headache Pain. 2017 18(1):13]。慢性片頭痛を有する患者は、BDNFのレベルが低いことが見出された[Martins, L.B.ら、Migraine is associated with altered levels of neurotrophins. Neurosci Lett. 2015 Feb 5; 587:6-10]。低レベルのテストステロンは、片頭痛及び群発頭痛に関係づけられている(Glaser R,ら、Testosterone pellet implants and migraine headaches: a pilot study. Maturitas. 2012 Apr; 71(4):385-8. Stillman MJ. Testosterone replacement therapy for treatment refractory cluster headache. Headache. 2006 Jun; 46(6):925-33)。
【0244】
NMDAアンタゴニスト活性とNE再取り込み阻害を組み合わせ、潜在的にBDNFレベルを増加させ、テストステロンレベルを上方制御するが、オピオイド活性が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様の新規薬物は、片頭痛及び他の頭痛の治療及び予防に特有の利点を提供しうる。
【0245】
急性アルコール離脱によって引き起こされる神経症状
興奮性神経伝達物質の蓄積は、振戦せん妄、頭痛、発汗、せん妄,振戦、てんかん発作及び幻覚等の、アルコール離脱で見られる様々な神経症状を部分的に媒介しうる。テストステロン及びBDNFは、急性アルコール離脱中に、有意に減少させた(p<0.001)( A. Heberleinら、Association of testosterone and BDNF serum levels with craving during alcohol withdrawal. Alcohol 54 (2016) 67e72)。上記新知見は、NMDAアンタゴニスト作用を有し、テストステロン及びBDNFレベルを増加させることをこれまでに本発明者らが示しているd-メサドンの、頭痛、せん妄、振戦、てんかん発作及び幻覚等のアルコール離脱の急性神経症状及び徴候の治療における役割を示唆する。ETOH離脱が引き起こし、興奮毒性に媒介される可能性のある高血圧も、下記実施例及び血圧の項に示すように、d-メサドンによって治療されうる。
【0246】
線維筋痛症
NMDA受容体系及びNET及び異常のレベルBDNFは、線維筋痛症の発病に関係づけることができるという証拠がある。メマンチンは、線維筋痛症に良好に使用されている[Olivan-Blazquez, B.ら、Efficacy of memantine in the treatment of fibromyalgia: A double-blind, randomised, controlled trial with 6-month follow-up. Pain. 2014 Dec; 155(12):2517-25]。メサドンは、報告によれば、線維筋痛症に良好に使用されている[Ribeiro, S.ら、Opioids for treating nonmalignant chronic pain: the role of methadone. Rev Bras Anestesiol. 2002 Sep; 52(5):644-51]。
【0247】
本発明者らの一連の研究に基づいて、オピオイド嗜癖に対してメサドンで処置された患者のサブセットで観察された持続的な身体痛及び又はメサドンを漸減する際の疼痛は、以前に考えられていたように、長期の退薬の症状ではなく不顕性の線維筋痛症が明らかになったものを表している可能性がある。更に、低テストステロンレベルは、線維筋痛症の発症に関連づけられている(White HDら、Treatment of pain in fibromyalgia patients with testosterone gel: Pharmacokinetics and clinical response. Int Immunopharmacol. 2015 Aug; 27(2):249-56。
【0248】
NMDAアンタゴニスト活性とNE再取り込み阻害を組み合わせ、潜在的にBDNFレベル及びテストステロンレベルを増加させ、神経外グルタメート受容体を潜在的に調節するが、オピオイド活性及び精神異常発現性の作用が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様の新規薬物は、線維筋痛症の治療及び予防に特有の利点を提供しうる。
【0249】
末梢神経系(PNS)の疾患及び自律神経障害
BDNFは、末梢神経損傷後の感覚ニューロンで上方制御されている唯一のニューロトロフィンである。BDNFは、損傷した感覚ニューロンの細胞体応答を誘導し、神経突起を伸ばすその能力を増強することが見出された(Geremia NMら、Endogenous BDNF regulates induction of intrinsic neuronal growth programs in injured sensory neurons. Exp Neurol. 2010 May; 223(1): 128-42.)。より高いレベルのBDNFは、ニューロパチーの順位和スコアにおける低スコアに関係していることが見出された(NRSS)[Andreassen, C.S.I.ら、Expression of neurotrophic factors in diabetic muscle--relation to neuropathy and muscle strength. Brain. 2009 Oct; 132(Pt 10):2724-33]。研究者らは、BDNFが、末梢神経再生の加速を刺激することを見出した(Vogelin Eら、Effects of local continuous release of brain derived neurotrophic factor (BDNF) on peripheral nerve regeneration in a rat model. Exp Neurol. 2006 Jun; 199(2): 348-53)。
【0250】
NMDAアンタゴニスト活性とNE再取り込み阻害を組み合わせ、BDNFレベルを潜在的に増大させるが、オピオイド活性が無く、安全かつ高認容性であるd-メサドン様の新規薬物は、そのCNS及びPNS神経症状並びに徴候を含めた、様々な病因の末梢性ニューロパチー及び糖尿病を治療するための特有の利点を提供する可能性がある。末梢性ニューロパチーは、糖尿病並びにメタボリックシンドローム、炎症性疾患及び自己免疫疾患、感染症、血管病、外傷並びに薬物を含めた神経毒、放射線療法、並びに遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチーを含めた遺伝性疾患を含めた代謝障害によって引き起こされうる。末梢性ニューロパチーは、感覚消失及び運動障害に加えて、自律神経障害も起こしうる。PNS機能障害によって引き起こされる自律神経障害に加えて、自律神経障害は、CNS機能障害(パーキンソン病及び多系統萎縮症を含める)によっても、家族性自律神経失調症のようにPNSとCNSの両方の機能障害によっても引き起こされうる(Axelrod FB. Familial dysautonomia. Muscle & Nerve 2004; 29 (3):352-363)。
【0251】
内分泌障害及び代謝障害並びに視床下部下垂体軸の障害
実施例に記載されているように、本発明者らは、d-メサドンがテストステロンの血清レベルを上方制御することを発見した。注目すべきことに3人の被験患者のうち2人ベースラインで低テストステロンレベルを有した(血清テストステロン<7.6nMol/Lとして定義される)。また、治療ガイドラインによると、3人の患者全員が、特定の症状及び徴候の存在下でのテストステロン補給の候補になりえた(Isidori AM, Balercia G, Calogero AE, Corona G, Ferlin A, Francavilla S, Santi D, Maggi M. Outcomes of androgen replacement therapy in adult male hypogonadism: recommendations from the Italian society of endocrinology. J Endocrinol Invest. 2015 Jan; 38(1):103-12)。
【0252】
ベースラインにおけるこの低テストステロンレベルは、被験対象が、低テストステロンレベルをもたらす視床下部-下垂体-生殖腺軸(HPG軸)における異常を有していたことを示唆するので特に重要である。
【0253】
本願のいくつかの項で指摘しているように、d-メサドンは、予想より高い濃度でCNSに達する潜在力を有する非競合的低親和性開口チャネルNMDARアンタゴニストであり、したがって視床下部ニューロンに到達し、その作用を該ニューロンにある病的に開いたNMDARに選択的に及ぼす。d-メサドンがヒトにおけるテストステロン血清レベルを上方制御するという発見は、被験対象3人中3人という少数の対象に基づいているが、この結果は、同じ患者におけるBDNFレベルとも相関しており、この相関について統計的に有意になっている。これらの結果は、特にテストステロンを低下させるオピオイドの既知作用(Vuong Cら、The effects of opioids and opioid analogs on animal and human endocrine systems. Endocr Rev. 2010 Feb; 31(1):98-132)に照らして、当業者にとって予想外のものであろう。予想外だが、これらの結果は、当該開口NMDARにおける、d-メサドンと同じ部位に作用するNMDAアンタゴニストであるケタミンが、成熟雄でテストステロンレベルを増加させる潜在力を有することを示すin vitro(Mahachoklertwattana Pら、N-methyl-D-aspartate (NMDA) receptors mediate the release of gonadotropin-releasing hormone (GnRH) by NMDA in a hypothalamic GnRH neuronal cell line (GT1-1). Endocrinology. 1994 Mar; 134(3):1023-30)及びin vivo(Estienne MJ1, Barb CR. Modulation of growth hormone, luteinizing hormone, and testosterone secretion by excitatory amino acids in boars. Reprod Biol. 2002 Mar; 2(1):13-24)の実験的研究によって間接的に支持されている。
【0254】
本発明者らは、テストステロン及びBDNFがd-メサドンによって潜在的に上方制御されていることを示しており、また、この上方制御が、機能障害性の視床下部ニューロンにおけるNMDARアンタゴニズムに媒介されていると推論するが、本発明者らは、この同じ機構に、視床下部及び同様に調節されている下垂体の主要軸の全てが関与している可能性があるとも推論する。そのような軸には、視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)、視床下部-下垂体-甲状腺軸(HPT)、及び視床下部-下垂体-生殖腺軸(HPG)並びに下垂体後葉によるオキシトシン及びバソプレシンの分泌が含まれ、これら全てが、それ故、d-メサドン様薬物によって潜在的に調節されている可能性がある。視床下部ニューロンに対するこの作用機構は、NMDAR媒介の興奮毒性に続発する機能異常がある視床下部ニューロンの影響を受けている可能性のある多くの身体機能の調節についての重要な意味を有する。したがって視床下部ニューロンにおける病的に開いたNMDARに対するd-メサドンの作用は、本願に示されている研究の対象で示されるように、テストステロン/BDNFに影響する可能性があるだけでなく、視床下部ニューロンによって分泌される全ての他の因子(コルチコトロピン放出ホルモン、ドパミン、成長ホルモン放出ホルモン、ソマトスタチン、ゴナドトロピン放出ホルモン及び甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、オキシトシン及びバソプレシンを含める)及びその結果脳下垂体によって放出される因子(副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン卵胞刺激ホルモン、黄体ホルモン、プロラクチンを含める)並びにこれらの因子によって活性化及び調節される腺、ホルモン、及び機能(副腎、甲状腺、生殖腺、性機能、骨量及び筋量、血圧、糖血症、心臓及び腎機能、赤血球産生、免疫系等)によって支配される身体機能を調節する潜在力も有する。
【0255】
最後に、CNS及び視床下部における興奮毒性の原因を標的にすることが論理的な治療ストラテジーかもしれないが、多くの場合、このストラテジーは、非実用的又は不可能であると判明し、d-メサドン様薬物による機能に異常があるNMDARの調節が、次いで、NS疾患に対してだけでなく、本願に記載のものを含めた内分泌-代謝機能障害及び疾患に対しても、潜在的な治療標的となる可能性がある。
【0256】
まとめると、機能亢進性NMDARによって引き起こされる視床下部ニューロンの調節解除は、例えば、過剰量の、グルタメート等の神経伝達物質によって、それらが病的に過刺激されている場合にのみ、NMDARを遮断する潜在力を有するd-メサドン様薬物によってリセットされうる。
【0257】
したがって、d-メサドンは、視床下部ニューロン上のNMDARの機能亢進が寄与因子である多くの疾患及び状態における治療標的となる可能性を有する。
【0258】
摂食障害も、視床下部ニューロンでNMDARを潜在的に調節できるd-メサドン様薬物によって良好に治療される可能性がある(Stanley BGら、Lateral hypothalamic NMDA receptors and glutamate as physiological mediators of eating and weight control. Am J Physiol. 1996 Feb; 270(2 Pt 2):R443-9)。
【0259】
よく知られている代謝作用並びに性的欲求及び性的機能に対する作用に加えて、テストステロンは、酸化ストレスに対する神経保護を誘導すると思われる(Chisu V, Manca P, Lepore G, Gadau S, Zedda M, Farina V. Testosterone induces neuroprotection from oxidative stress. Effects on catalase activity and 3-nitro-L-tyrosine incorporation into alpha-tubulin in a mouse neuroblastoma cell line. Arch Ital Biol. 2006 May; 144(2):63-73)。この研究から得られた結果は、正常な老化及び疾患によって引き起こされる加速した老化並びにその処置によって引き起こされる酸化的損傷を予防又は逆行させることにおけるテストステロンの潜在的な役割を示唆する。
【0260】
実験結果は、神経可塑性及びニューロンの置換に対するテストステロンの作用の少なくともいくつかは、BDNFによって媒介されていることを示している(Rasika S, Alvarez-Buylla A, Nottebohm F. BDNF Mediates the Effects of Testosterone on the Survival of New Neurons in an Adult Brain. Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Aug 16; 91(17):7854-8)。示唆されたこの機構は、1日あたり25mgのd-メサドンで処置された、本発明者らのヒト対象で見られたBDNF及びテストステロンの増加と相関する;組み合わされたテストステロン及びBDNFの上方制御は、正常な老化及び加速した老化、目の疾患並びに高血圧、高血糖、肝脂肪を含めた体脂肪過剰を含めた肥満及びメタボリックシンドロームの適応症、並びにコレステロール又はトリグリセリドレベルの異常によって引き起こされる神経学的増悪の予防に加えて、本願で主張されている神経疾患及び他の状態の全てに対するd-メサドンの有効性のさらなる支持を提供する。Wickramatilake CMらによって、テストステロンとHDL-コレステロールの間に有意な正の関連(r=0.623、P=0.001)が見出され、一方、LDL-コレステロールとの間に負の関連(r=-0.579、P=0.001)が見出された。テストステロンとHDL-コレステロールの間におけるこの観察された関連は、心血管疾患に対するこのホルモンの保護作用を示唆する(Wickramatilake CMら、Association of serum testosterone with lipid abnormalities in patients with angiographically proven coronary artery disease. Indian J Endocrinol Metab. 2013 Nov-Dec; 17(6): 1061-1065)。低テストステロンは、脂質プロファイルに対する有害作用を有し、それ故、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高LDL-C、及び低HDL-Cのリスク因子となると思われる。これは、男性において適切なテストステロンレベルを維持することの重要性を支持する(Zhang Nら、The relationship between endogenous testosterone and lipid profile in middle-aged and elderly Chinese men. European Journal of Endocrinology. (2014) 170, 487-494.)。最後に、性腺機能低下男性及び高齢男性におけるテストステロン補充療法は、HDL-コレステロールレベルにも、そのHDL2-C及びHDL3-Cサブフラクションにも有意な変化を与えずに、総コレステロール及びLDL-コレステロールのアテローム原性フラクションを低減することを介した脂質代謝に対する有益な効果を有しうる(Zgliczynski Sら、Effect of testosterone replacement therapy on lipids and lipoproteins in hypogonadal and elderly men. Atherosclerosis. 1996 Mar; 121(1):35-43)。
【0261】
脂質代謝に対する上記作用は、アルコール性肝疾患及び非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)並びにアルコール性及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)も改善する。NAFLD及びNASHは、メタボリックシンドローム(den Boer Mら、Hepatic steatosis: a mediator of the metabolic syndrome. Lessons from animal models. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2004 Apr; 24(4):644-9. Epub 2004)及び低テストステロン状態で見られるものに類似した変化した脂質プロファイルと関連する。統計解析において、脂肪肝のグレードの増大は、総コレステロール値(P値-0.001)、LDL(P値-0.000)及びVLDL(P値-0.003)の増大並びにHDLの低減(P値-0.000)と有意に関連していた(Mahaling DUら、Comparison of lipid profile in different grades of non-alcoholic fatty liver disease diagnosed on ultrasound. Asian Pac J Trop Biomed. 2013 Nov; 3(11): 907-912)。
【0262】
まとめると、安全かつ認容性が高く、NMDA受容体、NET系、及びSERT系に対する調節作用を維持することが予期される用量でオピオイド活性及び精神異常発現性の作用が無く、BDNF及びテストステロンを潜在的に上方制御するd-メサドン様薬物は、高血圧、高血清グルコースレベル、脂質プロファイル異常、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)等の体脂肪の増加及び肝臓脂肪の増加等のメタボリックシンドロームと関連する異常の1つ又は複数を治療するのに有用である可能性がある。d-メサドンのこれらの作用は、冠動脈疾患、脳血管疾患及び末梢血管疾患を含めた心血管疾患の発症及び進行も予防しうる。注目すべきことに、認知悪化及びアルツハイマー病は、テストステロンを含めた生殖ホルモンの低下と関連している(Gregory CW and Bowen RL. Novel therapeutic strategies for Alzheimer's disease based on the forgotten reproductive hormones. Cell Mol Life Sci. 2005 Feb; 62(3):313-9)。
【0263】
老齢男性におけるテストステロン補給のリスク便益には議論の余地があるが、テストステロンレベルの低下と認知機能の低下の間には明らかな関連がある(Yeap BB. Hormonal changes and their impact on cognition and mental health of ageing men. Maturitas. 2014 Oct; 79(2):227-35)。
【0264】
神経疾患及び加齢性認知機能低下に加えて、d-メサドンによるテストステロン/BDNFの上方制御は、筋肉減少症等の老化の他の医学的合併症も改善する。筋肉減少症は、機能低下(歩行速度若しくは距離又は握力のいずれか)と結びついた筋量の減少と臨床的に定義される。筋肉減少症は、高齢者における虚弱、股関節骨折、身体障害、及び死亡率の主要な予測因子であるので、それを予防し、それを治療する薬剤の開発は熱望されている(Morley JE. Pharmacologic Options for the Treatment of Sarcopenia. Calcif Tissue Int. 2016 Apr; 98(4):319-3)。筋量低下を防止すること及び体脂肪を低減することによってd-メサドンは、老化が進むにつれて見られる強度及び持久力の進行性喪失を予防する可能性が高い。
【0265】
骨粗鬆症及びメタボリックシンドロームも、テストステロン及びBDNFを上方制御するd-メサドン様薬物によって治療されうる。
【0266】
テストステロンは、性的欲求及び機能並びに総エネルギーレベルに対する既知の作用に加えて、メタボリックシンドロームの主要な特徴を逆戻りさせることが示されている。アメリカ人成人集団の4分の1が罹患していることを考えると、メタボリックシンドローム及び2型糖尿病は、21世紀の最も重大な公衆衛生上の脅威と言われている。外因性テストステロン補給のリスク便益は、明確に確立されていない(Kovac JR, Pastuszak AW, Lamb DJ, Lipshultz LI. Testosterone supplementation therapy in the treatment of patients with metabolic syndrome. Postgrad Med. 2014 Nov; 126(7):149-56)。最近のメタアナリシスは、テストステロンが体組成に対して、並びにグルコース及び脂質代謝に対してプラスの効果を有するという見解を支持する。加えて、体組成に対する有意な効果を観察した。これは、肥満の治療及び予防におけるテストステロン補給の役割を示唆する(Corona G, Giagulli VA, Maseroli E, Vignozzi L, Aversa A, Zitzmann M, Saad F, Mannucci E, Maggi M. Testosterone supplementation and body composition: results from a meta-analysis of observational studies. J Endocrinol Invest. 2016 Sep; 39(9):967-81)。
【0267】
てんかん及びテストステロン
テストステロンは、抗てんかん発作活性を有する可能性があり、テストステロン派生物3α-アンドロスタンジオールは、脳内で内因性の保護的神経ステロイドであることが示されている(Reddy DS. Anticonvulsant activity of the testosterone-derived neurosteroid 3alpha-androstanediol. Neuroreport. 2004 Mar 1; 15(3):515-8)。テストステロンは、てんかんを有する男性におけるてんかん発作を低減する可能性がある。Herzog AG. Psychoneuroendocrine aspects of temporolimbic epilepsy. Part II: Epilepsy and reproductive steroids. Herzog AG1. Psychosomatics. 1999 Mar-Apr; 40(2):102-8。テストステロンの上方制御は、てんかん患者におけるてんかん発作頻度を低減しうる(Tauboll Eら、Interactions between hormones and epilepsy. Seizure. 2015 May; 28:3-11. Frye CA. Effects and mechanisms of progestogens and androgens in ictal activity. Epilepsia. 2010 Jul; 51 Suppl 3:135-40)。性腺機能低下及び低テストステロン又はエストロゲンレベルは、てんかん、失調、髄鞘形成異常、神経筋疾患、運動障害、精神遅滞及び聴覚消失等の多くの神経障害とも著しく関連している。これは、因果関係又は反因果関係の可能性を示唆する。(Alsemari A. Hypogonadism and neurological diseases. Neurol Sci. 2013 May; 34(5):629-38)。外因性テストステロン補充療法には潜在的なリスクがあるので(Gabrielsen JS, Najari BB, Alukal JP, Eisenberg ML. Trends in Testosterone Prescription and Public H
ealth Concerns. Urol Clin North Am. 2016 May; 43(2):261-71)、視床下部ニューロンにある、機能に異常があるNMDARに潜在的に作用することによって内因性のテストステロン及びBDNFのレベルを上方制御するd-メサドン様薬物は、外因性テストステロンの副作用及びリスク無しで有益である可能性が高い。
【0268】
性腺機能低下は、オピオイド療法及び他の薬物の副作用である。何百万人もの患者が、中等度から重度の慢性疼痛を管理するために、オピオイド鎮痛薬を必要とし続けている。オピオイド処置の一結果は、オピオイド誘発性のアンドロゲン欠乏(OPIAD)である。慢性的オピオイド使用は、視床下部-下垂体-生殖腺軸及び視床下部-下垂体-副腎軸の変化を介して性腺機能低下の素因になりうる。その結果起こる性腺機能低下及び低テストステロン症は、性機能障害、性欲減退、不妊、及び骨粗鬆症に寄与しうる(Gudin JA, Laitman A, Nalamachu S. Opioid Related Endocrinopathy. Pain Med. 2015 Oct; 16 Suppl 1:S9-15)。これらの症状及び状態並びにメタボリックシンドローム及び高血圧のリスクの全ては、テストステロン産生を上方制御するd-メサドン様薬物によって予防することができる。
【0269】
テストステロン及びBDNFレベルの上方制御に対するその作用に照らして、d-メサドンは、加齢性認知機能障害及びアルツハイマー病を含めた認知機能障害;メタボリックシンドローム;高血圧;内分泌疾患並びに視床下部下垂体軸の調節解除による疾患;てんかん;ニューロン、神経、筋肉(筋肉減少症を含める)、骨(骨粗鬆症を含める)、皮膚、生殖腺(性機能障害及び性的欲求の低下を含める)、角膜(ドライアイ症候群を含める)、網膜(網膜の変性疾患を含める)を含めた組織の老化、加齢性の難聴及び平衡障害を有する患者に対する適応を有しうる。正常な老化及び疾患によって引き起こされる加速した老化並びにその処置(例えば、がんに対する治療)並びにその症状及び徴候を含めた上記状態の全ては、内因性テストステロンレベル及びBDNFを上方制御すること、並びに興奮毒性を低減することによって改善される可能性がある。
【0270】
別の適応は、抑うつ及び不安等の精神的苦痛又は合併症及びその処置によって引き起こされる低テストステロンを含めた任意の原因による低テストステロン症である。更に、オピオイド療法及び他の薬物又は医療処置による医原性低テストステロン症は、d-メサドンによって予防又は治療される可能性がある。
【0271】
血圧に対するd-メサドンの作用
高血圧は、心血管疾患及び脳血管疾患の主要なリスク因子である。抗高血圧作用を有する多数のクラスの薬物があるが、既存の療法にはいくつかの欠点があり、改善された副作用プロフィルを有する新しい薬物が必要とされている。
【0272】
血圧に対するd-メサドンの作用について更に理解するために、本発明者らは、第1相複数用量漸増d-メサドン二重盲検試験から得られたデータを解析した。この解析の結果は、本願の実施例の項に提示される。本発明者らは、d-メサドン処置対象における統計的に有意な血圧低下を認めた。この血圧低下効果は、酸素飽和度の増大を伴う。
【0273】
平均収縮期血圧及び拡張期血圧のこの低下は安全性パラメーター内に留まるが、これは、高血圧及びメタボリックシンドロームを治療するのに潜在的に有用な調節作用を示している。これらの対象で見られる血圧の低下は、視床下部下垂体軸の調節と共に、視床下部ニューロンにおけるNMDAアンタゴニスト作用に媒介されている可能性がある(Goren MZら、F. Cardiovascular responses to NMDA injected into nuclei of hypothalamus or amygdala in conscious rats. Pharmacology. 2000 Nov; 61(4):257-62):Gorenによる研究は、視床下部の背内側核内に位置するNMDA受容体を介した、及び比較的低い程度で、室傍核内に位置するものを介した血圧及び心拍数に対する持続性のグルタミン酸作動性作用の強力な証拠を提供する。Glass MJら、(Glass MJら、NMDA Receptor Plasticity in the Hypothalamic Paraventricular Nucleus Contributes to the Elevated Blood Pressure Produced by Angiotensin II. Journal of Neuroscience, 2015, 35(26) 9558-9567)による別の研究は、PVNニューロンにおけるNMDA受容体可塑性は、アンジオテンシンIIに媒介された高血圧に有意に寄与することを示す。d-メサドンのこの潜在的な作用機構は、d-メサドンが、機能障害性の視床下部ニューロンを調節することによって、一般的に使用される降圧薬で見られる副作用を有しないと予期されるので、新規な降圧薬としての多くの利点を有する可能性があることを示唆する。観察された血圧低下作用の他の可能な機構には、おそらく、L型カルシウムチャネルの遮断を介した直接的血管拡張作用が含まれる[Tung KHら、Contrasting cardiovascular properties of the μ-opioid agonists morphine and methadone in the rat. Eur J Pharmacol 2015 Sep 5; 762:372-81]。高血圧を患っている多くの患者が、良好な血圧調節に複数種の薬物を必要としているので、d-メサドンは、非常に有用なアドオン治療でもある可能性がある。
【0274】
最後に、カテコラミン再取り込み及びセロトニン再取り込みに影響を与え、NMDARアンタゴニズムを発揮し、BDNF及びテストステロンレベルを上方制御し、血圧を低減するd-メサドン様薬物、CNS及び末梢神経におけるPNS NMDA受容体に対するその活性、並びに、それ故、胃腸管、心血管、呼吸及び腎臓系の神経因性機能障害(発達障害又は変性障害又は中毒性障害)及び興奮毒性機能障害を改善する活性に加えて、NMDARを有する非ニューロン細胞における興奮毒性を低減する潜在力も有する。例えば、胃腸管(膵臓細胞、したがってグルコース調節等の代謝作用の発揮を含み;GI細胞の興奮毒性も、悪心等のGI症状を起こしうる)、心血管(したがって抗不整脈作用及び抗虚血作用を含めた心臓病態に影響を与える)、呼吸(喘息及び他の呼吸症状に影響を与える)、生殖器系及び腎臓系及び皮膚系[Gill SS. and Pulido OM. Glutamate Receptors in Peripheral Tissues: Current Knowledge, Future Research and Implications for Toxicology. Toxicologic Pathology 2001: 29 (2) 208-223]における非ニューロン細胞。末梢細胞に対するこれらのNMDAR遮断作用は、ドーモイ酸及び食品添加物又は相乗剤(グルタメート及びアスパラギン酸塩様の生成物)等の食物を汚染しうる毒素への急性及び慢性的暴露の治療で特に重要でありうる。更に、上に概略を示したニューロン及び非ニューロン細胞の両方の上のCNS NMDA受容体のレベル及び末梢NMDA受容体に潜在的に作用するのに加えて、d-メサドンは、視床下部ニューロンのレベルでNMDA受容体を調節することによってもその薬理作用を発揮しうる。したがって、d-メサドンは、本発明者らが上記の項及び実施例の項に詳述した、テストステロンの上方制御及び血圧の低下に対するd-メサドンの作用によって例示されるように、視床下部下垂体軸を潜在的に調節し、その影響下の全ての器官に影響を与えることができる。
【0275】
メサドン類似体及び他のオピオイドの立体特異性
メサドン類似体及びオピオイドと分類される他の薬物の中には、オピオイド受容体へのその立体化学親和性が、メサドン及びその異性体が示す立体化学親和性に類似するものがいくらかあり、異性体の1つは、ラセミ体又はその化学的対応物よりもはるかに低い、オピオイド受容体への親和性を有する。臨床上無視できるオピオイド性作用を有するこれらの異性体は、記載されているように、メサドンに対して、NMDAR、SERT、NET等の他の系における臨床的に有意な非立体特異的作用、又はK、Na、Caチャネルにおける作用を代わりに有する可能性が高い。オピオイド性作用の非存在下で、これらのオピオイド薬物異性体の非オピオイド作用は、d-メサドンについて、特にd-イソメサドンについて、及びl-モラミドについて、本願で概要が示されているように、同じ疾患及び状態並びにその症状及び徴候に対して潜在的に治療的である可能性がある。これらの薬物も、疼痛の治療及び抑うつを含めた精神症状の治療に適応することができる可能性がある。したがって、これらの化合物の一部の例には、以下のものが含まれる。
【0276】
1)イソメサドン及びその異性体、d-イソメサドン及びl-イソメサドン:d-イソメサドンは、l-イソメサドンに比べて50倍弱い;
【0277】
2)モラミド及びその異性体、d-モラミド及びl-モラミド:d-モラミドは、そのオピオイド性効力が高く、その乱用潜在力が高く、その多幸性作用が高いため、米国におけるスケジュールI薬物である;しかし、d-モラミドは、欧州の特定の国で鎮痛剤として臨床使用されている;代わりに、l-モラミドは、無視できるオピオイド結合活性を有する(d-モラミドは、マウスホットプレート試験で、l-モラミドの700倍強力である);したがって、l-モラミドは、上に概略を示したように、オピオイド性作用を妨害せずに、NMDA受容体系、SERT、NET等の他の系における臨床的に有意な作用又はK、Na、Caチャネルに対する作用を有する可能性がある;更にd-モラミドの大きな多幸性作用は、NMDAR、SERT、NETにおける作用又はK、Na、Caチャネルに対する作用等の、立体化学的に特異的でない他の作用と組み合わされたオピオイド作用によるものである可能性がある、又はもっぱらこれらの非オピオイド機構によるものである可能性があり、これは、d-メサドンに関して本願で概要が示されている、同じ疾患及び状態並びにその症状及び徴候を治療するため、加えて疼痛を治療するため、及び抑うつ、気分に対する作用が特に重要である状態を含み、d-メサドンに関して既に開示されているが、d-イソメサドン若しくはl-モラミドに関して開示されていない精神障害を治療するためのl-モラミドの追加の潜在力を示している。アンチピリン及びその異性体並びにジアンプロミド及びその異性体についても類似の相違がある[The steric factor in medicinal chemistry; dissymetric probes of pharmacological receptors (Opioid ligands part 2): A. F. Casy. 503-543 pp. 1993. Plenum Press]。プロポキシフェンは、そのようなオピオイド性薬物の別のそのような例である。ラセミ体及びデキストロプロポキシフェンは、そのオピオイド性作用のため鎮痛薬として使用されているが、levoキラル対応物、レボプロキシフェンは、臨床的に意味のあるオピオイド作用を有しない(National Center for Biotechnology Information. PubChem Compound Database; CID=200742, https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/200742 (accessed Jan. 30, 2018)及びしたがって代わりに、NMDAR、SERT、NET等の他の系における臨床的に有意な非立体特異的作用又はK、Na、Caチャネルにおける作用を有しうる。これは、本願で概要が示されている適応症に有用でありうる。
【0278】
本発明の様々な態様は、下記実施例に関連して、より詳細に記載されている。
【実施例】
【0279】
その実験研究及び臨床研究並びにその共同の経験に基づいて、本発明者らは、d-メサドン等の物質は、疼痛及び精神症状に有効であるだけでなく、NMDA、NET、及び/又はSERT系を調節すること並びに潜在的にBDNFレベル及びテストステロンレベルを増大させることによって、並びに細胞のK
+、Ca
2+、及びNa
+流を調節することによって、NS障害並びにその神経症状及び徴候を治療又は予防すること、及び認知機能を改善することにも役割を有することを発見した。更に、本発明者らは、どのように、これらの作用が治療的でありうるのか特に障害、症状、又は徴候が、興奮毒性、低BDNFレベル及び低テストステロンレベル又はNET及び若しくはSERTの異常並びに/又は細胞K
+、Ca
2+及びNa+電流と関連しているかどうかを発見した。
【0280】
ヒトにおけるNS障害及びその神経症状若しくは徴候を治療若しくは予防することにおける、又は認知機能、内分泌代謝障害、眼疾患、老化と関連する障害を改善することにおけるd-メサドンの臨床有効性を示すために、本発明者らは、新規な臨床及び前臨床研究を行った(下に記載されている)。まとめると、上記研究は、以下のことを示す。(1)d-メサドンは、特定の用量で(例えば、200mgまでの用量で)精神異常発現性の作用が無い。(2)d-メサドンは、安全かつ潜在的に有効な用量で、認知副作用を含めたオピオイド作用が無い。(3)d-メサドンは、臨床的に有意なQTc延長を引き起こすこと無く、対象のNMDA受容体及びNETに結合するのに有効であり、BDNF及びテストステロンレベルを増大させるのに有効であることが予期される用量で、線形薬物動態(「PK」)に従う。(4)皮下投与の後、d-メサドンは、全身性濃度(ng/ml血漿濃度)より3.5倍(10mg/kg)〜4.2倍(20mg/kg)高い濃度でCNS(ng/g脳内濃度)に到達する。これは、予期されたものより低い(かつ安全な)用量での有効性を示唆する。(5)HEK293細胞で発現されたクローニングされたヒトNMDA受容体NR1/NR2 A及びNR1/NR2 Bの電気生理学的応答に対するd-メサドンのアンタゴニスト作用が低μM範囲にあり、したがって、臨床作用を潜在的に発揮し、ヒトにおける神経保護を提供する可能性がある。(6)d-メサドンは、ヒトにおける血清BDNFを増大させる(1日あたり25mgの用量で10日間にわたる)。(7)d-メサドンは、ヒトにおける血清テストステロンを増大させる(1日あたり25mgの用量で10日間);(8)d-メサドン(ヒト用量5mg d-メサドン単回による)によるヒトにおける認知機能の改善のしるし。(9)d-メサドンの投与(1日あたり25mgのd-メサドン10日間の投与による)によるヒトにおける血中グルコース低下のしるし、及びd-メサドンによるラットにおける用量依存的な体重増加の低減のしるし。(10)d-メサドンは、ヒトにおける臨床効果、したがっておそらく神経保護を発揮するのに十分な、ケタミンで見られたものに匹敵するかそれより強力なin vivo行動作用がある。(11)NMDARで並びにNE及びセロトニン再取り込みの両方でd-メサドンが発揮する阻害活性の確認及び特徴付け並びに重水素化d-メサドン類似体のNMDAR作用の特徴付け。これらの結果に至る研究は、下に詳細に記載されている。
【0281】
(実施例1)
d-メサドンは精神異常発現性の作用を示さず、オピオイド作用を示さず、QTc間隔に対する臨床的に有意な作用を示さず、線形薬物動態に従い、血圧調節作用を有する。
上記の研究結果の第1のもの、-精神異常発現性の作用の欠如の実証は、NMDA受容体を有効に遮断する薬物(ケタミン及びMK801のように)が、それらの臨床使用(特に認知機能を改善するためのそれらの使用)を制限又は妨害する精神異常発現性の作用と関連するので、重要な態様である。上記の研究結果の第2のもの--中枢オピオイド作用の欠如(及びそれ故オピオイドの認知副作用の欠如)-も、非オピオイド機構によって媒介されるいかなる認知改善も、オピオイド作用によって、減弱し、不明瞭になる可能性が高いので、重要である。潜在的に精神異常発現性の作用又は中枢オピオイド作用を有する薬物を投与することは、認知機能を改善するためには有用でないであろう。d-メサドンが臨床的に有意でない様式でQTcを延長することを示す研究結果も、不整脈誘発作用を及ぼす薬物は臨床開発の非力な候補であるので、重要である。また、d-メサドンが線形薬物動態に従うという新知見(上記第4の研究結果)は、メサドンが、遅延性過剰摂取のリスクを伴う長くて予測不可能な半減期を有する薬物であると当業者によって考えられており、したがってd-メサドンも同じリスクを共有すると予期されているので、重要である。
【0282】
本発明者らは、d-メサドンが、ヒト対象へのin vivo投与後にl-メサドン(オピオイド関連の副作用を有する強力なオピオイド)に変わらないことを実証できた実験を行った。また、この実験は、d-メサドンが急激な中断の際に禁断を誘発しないことを実証した。それ故、本発明者らの研究まで、先行技術にあった、その臨床上の有用性に関する別の懸念を解消する。
【0283】
これらのポイントを証明するデータを得るために、本発明者らは、66人の健常志願者で2回の新規な連続的な第1相研究及び2回の前臨床研究を行って、それらを解析した。これらの研究は、d-メサドンの薬物動態及び薬動力学パラメーターを特徴付け、対象のNMDA受容体及びNETを調節し、ヒト対象におけるBDNFレベルを潜在的に増大させることができる可能性のある高認容の用量を特定するために行った。第I相研究[単一用量漸増用量研究(SAD) 及び複数用量漸増研究(MAD)]をここに記載する。
【0284】
健常志願者(42人の対象)におけるd-メサドンの単一用量漸増(SAD)研究:SAD研究のために、対象を以下のコホートに割り当てた:5mg、20mg、60mg、100mg、150mg、200mg。200mgコホート以外の各コホート(n=8)で、プラセボ(2人の対象) 又はd-メサドン(6人の対象)を投与される対象をランダムに割り当てた。200mgコホート(n=2)には、センチネル対象のみが含まれる。各コホートには、センチネル対象2人と、d-メサドン投与対象1人と、プラセボ投与対象1人とが含まれる。コホートの残り6人の対象は、そのうち1人はプラセボ投与され、センチネル対象後少なくとも48時間投与された。
【0285】
健常志願者(24人の対象)におけるd-メサドンの複数用量漸増(MAD)研究:MAD研究には、3つのコホート:25mg、50mg、及び75mgが含まれる。各コホート(n=8)で、プラセボ(2人の対象)又はd-メサドン(6人の対象)を投与される対象をランダムに割り当てた。連続した10日間、対象は、d-メサドンの単回経口投与を受けた。対象は、最終投与の後少なくとも72時間診療所に残り、最終薬物投与の後9日以内に3回のフォローアップ来診のため来診した。
【0286】
SAD及びMAD研究の概要及び結果:これらの2回の新規な第1相、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照、連続的SAD及びMAD研究(健常な男性対象及び女性対象の連続コホートで、d-メサドンの安全性、忍容性、及びPKを調査するために実施された)は、d-メサドンが、本発明者らの研究に基づいて、この物質がNMDA受容体及びNET/SERTに結合し、対象のK
+、Ca
+及びNa電流を調節し、BDNF及びテストステロンレベルを増大させるのに有効であることが予期される用量で安全であることを確認した。安全性評価には、治療下で発現した有害事象の評価(TEAE)が含まれ、検査値には、テストステロンレベル、バイタルサイン及び心電図(EKG)、テレメトリー及びホルター心電図を含めた心モニタリングが含まれた。バイタルサインは、血圧、心拍数、呼吸数、酸素飽和度からなった。
【0287】
最大150mgまでの単回投与及び最大75mgまでの多回投与(1日1回10日間)が高認容であった。記録されたTEAはどれも、臨床的に意味のあるものとはみなされなかった。これらの用量(25〜50及び75mg)は、本発明者らの研究に基づいて、NMDA受容体及びNET/SERTに結合し、対象のK
+、Ca
+及びNa電流を調節し、BDNF及びテストステロンレベルを増大させると予期される。SAD研究で見られた約30時間の排出半減期から予期されたように、MAD研究では、6〜7回の投与の後に定常状態が得られた。この研究のMAD部分で、PKの線形性が実証された。
【0288】
PK研究用のPK血液試料は、遠心処理し、分注し、生化学分析検査室に送るまで20℃(±5℃)で保存した。血漿試料のd-メサドン及びl-メサドンは、確認されている方法を用いて、NWT、Inc.社(Salt Lake City、UT)が解析した。定量化の下限(LLOQ)は、5 ng/mLであった。in vivoにおけるd-メサドンからl-メサドンへの変換の可能性は、キラル生化学分析アッセイを用いて試験した。全てのl-メサドン濃度は、全ての用量について、定量化の下限より低かった。したがって、d-メサドンを投与された対象において、l-メサドンへの変換は起こらなかった。l-異性体の作用(認知機能に対するオピオイドの副作用が含まれる)の回避は、d-メサドンによる認知改善を最大限に活用するために決定的に重要であるので、この新知見は重要である。
【0289】
Tables 1-5(表1〜6)(下記)は、これらの第1相SAD及びMAD研究の結果を示す。
【0290】
【表1】
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【0291】
【表2A】
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【0292】
【表2B】
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【0293】
【表3】
[この文献は図面を表示できません]
【0294】
【表4】
[この文献は図面を表示できません]
【0295】
【表5】
[この文献は図面を表示できません]
【0296】
【表6】
[この文献は図面を表示できません]
【0297】
バイタルサイン:評価されたバイタルサインパラメーターの平均値はいずれも、どの時点でも、その正常範囲外にあった。
【0298】
下記Table 6(表7)は、血圧及び心拍数における、ベースラインからの平均変化の概要を示す。第1日目及び第10日目における全ての評価時点が含まれる。しかし、第2日目から第9日目まで、投与後2時間の値(すなわち、T
max)のみ表に要約されている。収縮期血圧及び拡張期血圧の投与後低減が、プラセボも含めて、全ての処置群で観察されたが、ベースラインからの変化は、50mg群及び75mg群については、この研究を通して一貫して負の値であった。全体では、変化のマグニチュードは、75mg d-メサドン群で最大であった。心拍数の微かな変動が、全ての処置群で生じたが、血圧に関する類似のパターンが観察された-全体では、75mg群は、ベースラインからの、最大の負の変化を示した。
【0299】
【表7A】
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【0300】
【表7B】
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【0301】
【表7C】
[この文献は図面を表示できません]
【0302】
【表7D】
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【0303】
【表7E】
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【0304】
全ての平均呼吸数及び酸素飽和度値は、この研究中全ての時点で正常であった。この研究の経過中、呼吸数又は酸素飽和度の変動はほとんど無かった。ベースラインからの平均変化データは、Table 7(表8)に要約されている。全体的に、呼吸数のほとんどの変化が正であり、用量反応関係はなかった。酸素飽和度については、ベースラインからの全ての変化のマグニチュードが小さく(すなわち、≦1%)、プラセボ群は、この研究の経過中最も負の変化を示した。呼吸数又は酸素飽和度レベルが基準範囲より低くなった対象はいなかった。
【0305】
【表8A】
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【0306】
【表8B】
[この文献は図面を表示できません]
【0307】
血圧に対するd-メサドンの作用:血圧測定値についてのデータは上記の表に示されている。これらのデータは、d-メサドンで処置された対象における血圧の低下を示す。収縮期血圧及び拡張期血圧のこの低下は、安全性のパラメーターの範囲内に留まっていたが、これは、高血圧及びメタボリックシンドローム並びに不安定狭心症を含めた冠動脈疾患を治療するのに潜在的に有用な調節作用を示している。実際、この実施例の項で詳述する血圧低下作用、及び実証されている、心臓及びその伝導系を含めた神経外組織上のNMDA受容体の存在[Gill SS. and Pulido OM. Glutamate Receptors in Peripheral Tissues: Current Knowledge, Future Research and Implications for Toxicology. Toxicologic Pathology 2001: 29 (2) 208-223]は、d-メサドンが、不整脈及び虚血性心疾患の両方に対して、心保護的でありうることを示唆している。アンギナの処置のために認可された薬物であるラノラジンは、心筋における持続性又は遅発性内向きナトリウム電流を電位開口型ナトリウムチャネルで阻害し、それによって細胞内カルシウムレベルを低下させ、d-メサドンは、ヤリイカニューロン上だけでなく、ヒヨコ筋芽細胞上でも、イオン電流に対して類似の調節活性を有し[Horrigan FT and Gilly WF: Methadone block of K
+ current in squid giant fiber lobe neurons. J Gen Physiol. 1996 Feb 1; 107(2): 243-260]、これは、ラノラジンのものに類似の作用を示唆し、更に、NMDARを調節することによって、d-メサドンは、細胞内カルシウム過負荷の低減も引き起こす。ラノラジンは、Na+K+電流に影響を与え、Qtc間隔の延長を引き起こすが、心保護的ではなく、催不整脈性であるようである[Scirica BM et al., Effect of ranolazine, an antianginal agent with novel electrophysiological properties, on the incidence of arrhythmias in patients with non ST-segment elevation acute coronary syndrome: results from the Metabolic Efficiency with Ranolazine for Less Ischemia in Non ST Elevation ST Elevation Acute Coronary Syndrome Thrombolysis in Myocardial Infarction36 (MERLIN-TIMI 36) randomized controlled trial. Circulation. 2007;116:1647-1652]。神経系の外のイオン電流及びNMDA受容体に対する直接的作用に加えて、これらの対象で見られる血圧の低下も、視床下部下垂体軸の調節と共に、視床下部ニューロンにおけるNMDAアンタゴニスト作用によって媒介されている可能性がある[Glass MJ et al., NMDA Receptor Plasticity in the Hypothalamic Paraventricular Nucleus Contributes to the Elevated Blood Pressure Produced by Angiotensin II. The Journal of Neuroscience, 2015 35(26):9558 -9567]。Glassらによる実験研究は、PVNニューロンにおけるNMDA受容体可塑性が、アンジオテンシンIIに媒介された高血圧に有意に寄与することを示す。
【0308】
収縮期血圧及び拡張期血圧並びにMAD研究対象のO
2飽和度の統計的な解析:これらの解析は、GraphPadPrism 5.0ソフトウェアによって行った。データ(各実験群の対象の平均)は、臨床研究報告「A Phase 1 Study to Investigate the Safety, Tolerability, and Pharmacokinetic Profile of Multiple Ascending Doses of d-Methadone in Healthy Subjects」から得た。以下の評価を行うために、d-メサドン処置対象の3群をプラセボと比較する片側ANOVA及び続いてDunnettの事後検定を行った。(1)日及び時点とは関係の無い、収縮期血圧及び拡張期血圧の低下並びにO
2飽和度の増加に対する処置の影響;(2)1日から10日の投与後2時間における処置の影響;及び(3)2日から11日の投与後24時間における処置の影響。
【0309】
ここで、
図46を参照すると、d-メサドン処置は、全ての測定時点が考慮された場合に3つの実験群で収縮期血圧を有意に低減しており、一方、投与後2時間及び24時間における収縮期血圧の平均変化は、50-mg群及び75-mg群においてのみプラセボと有意に異なることを見ることができる。
【0310】
ここで、
図47を参照すると、d-メサドンで処置された対象の3群における平均変化は、プラセボとは有意に異なるので、d-メサドン処置は、3つの実験群で拡張期血圧を有意に低減することを見ることができる。
【0311】
ここで、
図48を参照すると、酸素飽和度に対するd-メサドンの作用を見ることができる。25mg群及び50mg群における平均変化は、>0であり(したがって、これらの群におけるO
2飽和度の平均は増加している)、同じ傾向を、75-mg群で観察することができ、ここで、平均変化は<0に留まるが、プラセボと比較した有意差を観察することができる。
【0312】
更に、SAD及びMAD研究の健常対象において、d-メサドンは、臨床的に有意な認知障害又は精神異常発現性の作用を引き起こさなかった(下記実施例6により詳細に示すようにBond-Lader視覚的アナログスケールにおけるもの)。d-メサドンは、臨床オピオイド離脱症状尺度(COWS-当業者によく知られている試験)で試験された場合、連続した10日間の処置の後の急激な中断の際に禁断症状を引き起こさなかった。これは、潜在的にd-メサドンに対する認知された耽溺性を否定するものである。オピオイド及び他のNMDAアンタゴニスト(例えば、ケタミン及びMK-801)で見られる潜在的治療用量における有意なオピオイド作用の欠如及び精神異常発現性の作用の欠如及びd-メサドンの急激な中断の際の禁断症状の欠如は、d-メサドンを認知改善に使用できる可能性があることを示唆している。この実施例で提供される新しいデータ(及び他の実施例(下記)がなければ、推定上のオピオイド様作用及び推定上の精神異常発現性のケタミン様作用を有する薬物、耽溺性の可能性を有する薬物として当業者に認知されているd-メサドン様薬物は、患者の認知機能を改善するのには、ほとんど臨床使用されないであろう。本発明者らは、健常ヒト対象に投与されるd-メサドンは、これらの作用が無く、それ故ヒトにおける認知機能を改善するのに良好に使用できる可能性があることを初めて示した。
【0313】
心臓安全性:QTc延長に対するd-メサドンの作用、及び治療下で発現した有害事象(TEAE)、MAD研究:心電図(ECG)は、投与前及び第1日目から第10日目までの投与後2、4、6、及び8時間及び最終投与の24時間に行われた。ECGは、対象が仰臥位又は準仰臥位で少なくとも5分間休息した後に行った。ECGを電気的に測定し、心室心拍数並びにPR、QRS、QT、及びQTc間隔を計算した。QTc補正には、Fridericia式を用いた。
【0314】
治験医師の慎重さにより、通常のリード配置の標準12誘導ECGがこの研究中の任意の時点で行われている可能性がある(例えば、潜在的虚血又は任意心異常が観察された場合)。
【0315】
持続的心モニタリング(心テレメトリー)は、第1日目から第10日目の投与前から投与後少なくとも8時間まで行い、これには、心拍数及び心律のリアルタイム測定が含まれる。
【0316】
ホルターモニターを用いて持続的ECGデータを収集した。ホルターモニターは、身体の手入れ及びモニターを外す必要がある他の活動に許可されたときを除いて身につけたままにした。ホルターモニターECGデータは、解析のため、iCardiac Technologies社に送った。持続的ホルター記録は、第1日目から第7日目まで、及び第10日目から第12日目まで行った。12-誘導ECGは、持続的記録から以下の時点(全ての場合で、対応する名目時間)に抽出し、PK採血と対にした(先行させた)。
第1日目:投与前45、30、及び15分並びに投与後0.5、1、2、4、6、8、及び12時間
第2日目から第6日目:投与前1時間並びに投与後2、4、6、及び8時間
第7日目:投与前1時間
第10日目:投与前1時間並びに投与後2、4、6、8、及び12時間
第11日目:最終投与後24及び36時間
第12日目:最終投与後約48時間
【0317】
12誘導ホルター及びECG機器は、iCardiac Technologies社によって供給及び保守された。全てのECGデータは、Global Instrumentation社(Manlius、NY、USA)M12R ECG持続的12誘導デジタルレコーダーを用いて収集された。持続的12誘導デジタルECGデータは、SDメモリカードに収納した。解析に用いるECGは、iCardiac Technologies社により一施設で読取られた。
【0318】
iCardiac社のコアラボラトリーでは以下のことを原則としている。
(1)ECG分析者は、対象、来診、及び処置割り付けについて盲検化された。
(2)特定の対象に対するベースライン及び治療中ECGは同じリードで読み取り、同じ読取り機で解析した。
(3)主要解析リードはリードIIとした。リードIIが解析可能でなかった場合、解析の主要リードは別のリードに変え、その対象の全データセットを用いた。
【0319】
治験医師による、臨床的に有意ではない異常なECGの解釈は、Table 8(表9)の下に処置群及び時点で提示した。この研究中、スケジュールされた臨床的に有意な異常なECGはなかった。
【0320】
【表9】
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【0321】
この研究中、以下に示すECG関連のAEがいくつかあったが、全てが臨床的に有意ではなかった。
【0322】
対象9005は、第5日目の25mg d-メサドン投与後約6時間30分に心室性期外収縮(すなわち収縮期外の心室の収縮)を起こした。このAEは軽度であり、試験薬とは無関係であると評価された。
【0323】
対象9007は、第7日目の25mg d-メサドン投与後約1時間30分に心室性期外収縮(すなわち、二段脈を伴う収縮期外の心室の収縮)を起こした。このAEは軽度であり、試験薬に関係がある可能性があると評価された。
【0324】
対象9011は、第4日目の25mg d-メサドン投与後2時間に洞頻脈を起こした。このAEは軽度であり、試験薬に関係がある可能性があると評価された。
【0325】
対象9018は、第1日目の75mg d-メサドン投与後22時間12分に徐脈を起こした。このAEは軽度であり、試験薬と関係がある可能性があると評価された。
【0326】
対象9027は、第6日目の50mg d-メサドン投与後約1時間20分に心室性期外収縮(すなわち、収縮期外の心室の収縮)を起こした。このAEは軽度であり、試験薬と無関係であると評価された。この対象は、第10日目の投与後1時間35分に期外収縮(すなわち、二段脈)も起こし、第10日目の投与後23時間15分に心室性期外収縮(すなわち、心室異所性興奮)も起こした。第10日目のAEは、共に、は軽度であり、試験薬と関係がある可能性があると評価された。対象9027は、進行中の心室性期外収縮の病歴所見を有したが、この対象は、心臓病専門医の先行評価により安定の心状態にあるとされことに留意すべきである。
【0327】
ラセミ体のメサドンにはQTc延長の懸念があったので、d-メサドンについてもこのECG異常にとりわけの関心があった。この研究では、女性における>450ms又は男性における>430msのQTcF間隔が延長とされた。全員が75mgd-メサドン群に属する、3人の対象が、上に定義されているQTcF延長のECG異常をこの研究中に起こしたが、どれも臨床的に有意ではなかった。
【0328】
対象9019(女性)は、4回のQTc延長を第6日目の投与後4時間(455msec)、第7日目の投与後8時間(458msec)並びに第9日目(452msec)、及び第10日目の投与後6時間(452msec)に起こした。
【0329】
対象9035(女性)は、4回のQTc延長を第6日目の投与後2時間(454msec)、第9日目の投与後2時間及び8時間(各453msec)、並びに第10日目の投与後6時間(462msec)に起こした。
【0330】
対象9036(男性)は、1回のQTc延長を第6日目の投与後2時間(434msec)に起こした。
【0331】
下記Table 9(表10)は、異常(NCS)心電図の全体的解釈結果(安全性の集団)の概要を示す。
【0332】
【表10A】
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【0333】
【表10B】
[この文献は図面を表示できません]
【0334】
【表10C】
[この文献は図面を表示できません]
【0335】
d-メサドン処置群では、研究期間を通して、QTcF間隔が増加した。第1日目に、QTcF(ΔΔQTcF)の平均プラセボ補正CFB値の最大値は、投与後2時間における、それぞれ25mg、50mg、及び75mg d-メサドン群の6.8msec、15.2msec、及び16.0msecであった。第10日目に、これらの値は、12.4msec(投与後12時間)、26.8msec(投与後2時間)、及び28.8msec(投与後8時間)に増加した。25mg、50mg、及び75mg d-メサドン群における、それぞれ、1、2、及び3人の対象が30msec超のCFB値を有した。60msec超のCFB値を有した対象も、480msec超のQTcFを有した対象もいなかった。この研究で観察されたQTcF間隔の最大値は462msであった。
【0336】
暴露-応答解析において、データの初期調査は、ΔΔQTcFと血漿濃度の間に非線形関係があることを示した。したがって、二次項が適合し、統計的に有意であると判明し、非線モデルへの調査を行った。調査の結果は、濃度のlog-変換Conc=log(Conc/C0)を用いることによって、ΔΔQTcFと血漿濃度の関係が正確にモデル化できると判定した。更に、50mg処置群の幾何平均C
maxが75mg群のそれより大きいこと、及び50mg群における3人の対象が75mg群より高い濃度を有したことが示された。そのため、これらの3人の対象を集団から除外して、追加の感度解析を行った。このモデルは、データへの適合性が向上していた。3つのモデル全てにおいて、d-メサドンのQTc延長効果が確認され、血漿濃度とΔΔQTcFの関係(下記
図1を参照)には統計的に有意な勾配があった(log-変換モデルについて)。最も高い2つの用量について観察された幾何平均d-メサドン血漿濃度(50mg:587ng/mL;75mg:563ng/mL)における予測ΔΔQT作用は、16.0msecと21.0msecの間で変動し、注目すべきことにこれは観察された作用より小さかった。したがって、QT作用のサイズを患者に外挿する際には注意が必要である。
【0337】
図50を参照すると、d-メサドン血漿濃度の10分位にまたがる、モデルによって予測及び観察されたΔΔQTcFを見ることができる。
【0338】
まとめると、MAD研究における心臓力学ECG解析は、QTcF間隔がd-メサドン濃度依存的に増大することを示した。これらの増加は、臨床的有意性に達しなかった。また、この研究のどの対象も、ベースラインからの変化>60msec又は絶対QTcF>480msecとして定義される明白なQTcF延長を示さなかった。
【0339】
心臓安全性:QTc延長に対するd-メサドンの作用、SAD:全体的なECG解釈を処置群及び時点で下記Table 10(表11)に示す。この研究中、臨床的に有意な、異常なスケジュールされたECGはなかった。全体的に、異常ECG(臨床的に有意ではない)の発生率はプラセボ群で最も高かった(N=1の200mg d-メサドン群における100%発生率は除外する)。
【0340】
【表11】
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【0341】
この研究中、テレメトリー中に観察された3件の心連TEAEがあった。
【0342】
まず、対象9005は、プラセボの投与後約3時間40分に上室頻拍を起こし、この持続時間は1分未満であった。このTEAEは、治験医師によって、試験薬に関係する可能性があると評価された。この対象の全てのスケジュールECGは、正常であった。
【0343】
第2の、対象9036は、60mg d-メサドンの投与後約1時間14分に洞徐脈を起こした。このTEAEは、約2時間47分間持続した。このTEAEは、治験医師によって、おそらく試験薬に関係すると評価された。この対象には、スクリーニング及びアドミッションを含めたこの研究中に、洞徐脈を示したスケジュールECGがいくつかあったが、どれも臨床的に有意ではなかったことに注目すべきである。
【0344】
第3の対象9058は、プラセボの投与後約3時間39分に心室性期外収縮を起こし、この持続時間は1分未満であった。このTEAEは、治験医師によって試験薬に関係する可能性があると評価された。この対象にはスクリーニング及びアドミッションを含めたこの研究中に、異常を示したスケジュールECGがいくつかあったが、どれも臨床的に有意とはされなかった。
【0345】
3件のTEAE全てが、治験医師によって、軽度であると評価され3人の対象全員が介入無しに回復した。
【0346】
この研究中に観察されたQTcF延長の発生率の概要を処置群及び時点により下記Table 11(表12)に示した。
【0347】
【表12】
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【0348】
この研究中に発生したQTcF延長を対象により下記Table 12(表13)に示す。各時点の3読取り全て及び平均を提供する。投与前の値をベースライン比較として示す(延長の値は太字)。この研究中に観察されたQTcF延長の中に、治験医師によって臨床的に有意であるとされたものはなかった。
【0349】
【表13】
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【0350】
投与後に単回QTcF延長を起こした女性対象が1人あった。しかしそれは450ms閾値より1ms長いだけであった。したがって、この対象の平均QTcF値は正常であった。この研究中、少なくとも1回のQTcF延長(>430ms)を起こした9人の男性対象がいた。しかし、これら9人の対象のうち上記閾値より高い平均QTcF値を有したものは4人のみであった。対象9056は、この研究中最大の延長を起こし、457msというこの研究中の最大QTcF間隔が観察された。しかし、延長は投与前から投与後48時間まで観察されたので、この対象の延長のパターンは薬物関連ではないと思われる。
【0351】
SAD研究におけるQTcF延長の全体的発生率は低かった(10人の対象、23.8%)。また用量関連の作用も観察されなかった。観察されたQTcF延長のうち、治験医師により臨床的に有意とされたものはない。
【0352】
d-メサドンの心臓安全性についてのMAD及びSAD研究から得られたこれらの新規なデータ、特に臨床的に有意な異常EKGの欠如は、は、Bart[Bart Gら、Methadone and the QTc Interval: Paucity of Clinically Significant Factors in a Retrospective Cohort. Journal of Addiction Medicine 2017. 11(6):489-493; Marmor M ら、Coronary artery disease and opioid use. Am J Cardiol. 2004 May 15; 93(10):1295-7]によるラセミ体のメサドンについての新知見と合致しており、現在の適用について概要が示されている多数の臨床的適応についてのd-メサドンのさらなる開発を支持する。
【0353】
(実施例2)
d-メサドン全身投与はNMDA受容体、NET、及びSERTに結合するのに、BDNFレベルを潜在的に増大させるのに十分なCNS内レベルに達する。
ヒトに投与されるd-メサドンがl-メサドンに変わらないこと、認知機能改善に対するd-メサドンの仮定上の直接作用を妨害する可能性のある、他のオピオイド(例えばメサドン)で一般的に見られる作用及び他のNMDA受容体アンタゴニスト(例えばケタミン)に見られる副作用が無いことを確立した(上に示した)後、d-メサドンの全身投与(皮下)によって、前記物質が、NMDA受容体、NET、及びSERTに結合するのに、BDNFレベル及びテストステロンレベルを潜在的に増大させるのに十分なCNS内レベルに達することを示すために、ラットにおける別々の前臨床研究を本発明者らは行った。
【0354】
物質及び方法:この研究ではHarlan(Indianapolis、IN)から取得した雄性Sprague Dawleyラット(150g到着時)を用いた。受領時、ラットをユニークな同定番号に割り当て、マイクロ分離フィルターの天井を有するポリカーボネートケージで、1ケージあたりラット3匹でグループ飼育した。この研究を開始する前に、十分な健康と適切さを保証するために、全てのラットを検査し、取り扱い、計量した。研究期間中、食餌及び水を自由摂取させた。研究期間中、動物は、個別に飼育した。試験化合物は、1日1回15日間慢性的に投与した。試験化合物:d-メサドン(10、20、及び40mg/kg;Relmada Therapeutics)は、食塩水に溶解させ、用量体積1ml/kgで皮下(S.C.)投与した。ビヒクル対照:食塩水を用量体積1ml/kgで皮下(S.C.)投与した。血漿及び脳採取。血漿及び脳は試験化合物群及びビヒクル群から収集した。ラットを断頭し、体幹血液を収集し、K2EDTAを含有するマイクロ遠心管に移し、短期保存用に氷上においた。15分以内に管を1,500〜2,000xgで10〜15分間遠心処理した。遠心処理には、2℃〜8℃を維持するようにセットした冷蔵機能付きの遠心機を用いた。血漿は、遠心処理の後20(±10)分以内に試料から分離し、マイクロ遠心管に移し、ドライアイス上においた。試料は、7th wave検査室に出荷するまで-80°C冷凍庫中に保存した。脳は、ポリプロピレンスナップキャップバイアル中のドライアイス上で摘出し、冷凍した。全ての試料は、7th wave検査室に出荷するまで-80°C冷凍庫中に保存した。
【0355】
この研究から得られた以下のデータ(Table 13(表14)、下記、及び
図2を参照)は、d-メサドンが、血液脳関門を横切って容易に輸送され、d-メサドンの脳内レベルが血清レベルより3〜4倍高いことを示す。
【0356】
【表14】
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【0357】
このデータが示した新知見は、NS障害及びその徴候の処置における、d-メサドンの潜在力を確認し、血清薬物動態のみに基づいて予期された用量より低い用量で潜在的に有効であり、それ故CNSの外の器官に対する毒性の可能性を低下させる可能性があることを示唆する。より高いCNSレベルのNMDA受容体アンタゴニストが必要とされている疾患用には、この予想より高いCNS濃度により、d-メサドンが、例えば、メマンチンよりよい候補にもなりうる。
【0358】
(実施例3)
d-メサドンのNMDAアンタゴニスト作用はin vitroでメマンチンに匹敵する
d-メサドンがNMDARアンタゴニスト活性を発揮できることは、以前に本発明者らの1人によって見出されている(Gorman, A.L. Elliott KJ, Inturrisi CE). The d-and l-isomers of methadone bind to the non-competitive site on the N-methyl-D-aspartate(NMDA) receptor in rat forebrain and spinal cord, Nerurosci Lett 1997: 223:5-8)。上に記載されているように、メマンチンは、中等度から重度のアルツハイマー病(商品名Namenda(登録商標))用に認可されているNMDA受容体アンタゴニストである。メマンチンは、ラット脳における脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生を増大させることが見出されており、それによりその神経保護作用の可能な説明が提供されている(Marvanova M.ら、The Neuroprotective Agent Memantine InducesBrain-Derived Neurotrophic Factor and trkB Receptor Expression in Rat Brain. Molecular and Cellular Neuroscience 2001; 18, 247-258)。そのため、本発明者らは、HEK293細胞で発現されたクローニングされたヒトNMDA NR1/NR2 A及びNR1/NR2 B受容体の電気生理学的応答に対するd-メサドン及びメマンチンのアンタゴニスト作用を検査した。
【0359】
そのため、この研究は、10種の被験物質のin vitro作用を、以下のスクリーンパッチアッセイで検査した(Table 14(表15)に示される):(1)HEK293細胞で発現されるヒトGRIN1及びGRIN2A遺伝子によってコードされるNMDAグルタメート受容体NR1/NR2A;及び(2)HEK293細胞で発現されるヒトGRIN1及びGRIN2B遺伝子によってコードされるNMDAグルタメート受容体NR1/NR2B。この研究におけるプレートのローディングをTable 15(表16)に示す。
【0360】
【表15】
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【0361】
【表16】
[この文献は図面を表示できません]
【0362】
物質及び方法
クローン試験系:この研究で使用された細胞はHEK293細胞(ヒト胚性腎細胞;ソース-株:ATCC、Manassas、VA;ソース-サブストレイン:Charles River Corporation、Cleveland、OH)であった。細胞は、Charles River標準的操作手順に従って組織培養インキュベーター中で維持した。ストックは、低温貯蔵保存で維持した。電気生理学に使用される細胞は、150mmプラスチック培養皿にプレーティングした。細胞は、アデノウイルス5 DNAで形質転換し;イオンチャネル又は受容体cDNAで形質移入した。
【0363】
HEK293培養手順:HEK293細胞は、NR1及びNR2A又はNR2Bをコードする適切なイオンチャネル又は受容体cDNAで形質移入した。安定な形質移入体を、発現プラスミドに組み込まれたG418及びZeocin耐性遺伝子を用いて選択した。選択圧は、培地中のG418及びZeocinで維持した。細胞は、10%ウシ胎仔血清、100U/mLペニシリンGナトリウム、100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩、100μg/mL Zeocin、5μg/mLブラストサイジン及び500μg/mL G418で補充したダルベッコ改変イーグル培地/栄養素混合物F-12(D-MEM/F-12)中で培養した。
【0364】
被験物質作用は、8点濃度-応答フォーマット(8反復ウェル/濃度)で評価した。全ての試験及び対照溶液は、0.3%DMSOを含有した。被験物質製剤を、自動化液体操作システム(SciClone ALH3000、Caliper LifeScienses)を用いて384ウェル化合物プレートにロードした。
【0365】
アッセイ感度を検証するために、アンタゴニスト陽性対照物質(メマンチン)を8つの濃度で増幅させた。
【0366】
ScreenPatch手順(NR1/NR2A及びNR1/NR2B受容体アンタゴニストアッセイ用):上記の通り、試験系は、HEK293細胞で発現されたNR1/NR2A及びNR1/NR2Bイオンチャネル型グルタメート受容体を含む。
【0367】
電気生理学手順:用いた細胞内溶液(mM)は、50mM CsCl、90mM CsF、2mM MgCl
2、5mMエチレングリコールビス-2-アミノエチルエーテル四酢酸、10mM HEPESであった。これを、CsOHでpH7.2に調整した。この溶液は、バッチで調製し、冷蔵保存した。記録セッションの準備で、細胞内溶液を、PPC平面電極の細胞内コンパートメントにロードした。細胞外溶液、HB-PS(mMの組成)は、NaCl、137;KCl、1.0;CaCl
2、2;HEPES、10;グルコース、10であった。そのpHを、NaOHで7.4に調整した(溶液は、使用まで冷蔵した)。(保持電位:-100mV、アンタゴニスト適用中の電位:-45mV)。
【0368】
記録手順:細胞外バッファーを、PPCプレートウェルにロードした(1ウェルあたり11μL)。細胞懸濁液をPPC平面電極のウェル(1ウェルあたり9μL)にピペットで入れた。ホールセル記録配置を、パッチ穿孔を介して確立し、膜電流を搭載パッチクランプ増幅器によって記録した。2回の記録(走査)を行った:(1)被験物質適用中(少なくとも15秒の間)及び(2)被験物質のアンタゴニスト作用を検出するためのアゴニスト(約EC
80 10μM L-グルタメート)と被験物質の同時適用。
【0369】
被験物質投与:適用は、第1適用中の20μLの2×濃縮被験物質溶液の添加からなった。アゴニスト(10μMグルタメート及び50μMグリシン)を1×濃度の被験物質と混合した。添加速度は、10μL/s(2秒全体適用時間)。
【0370】
陽性対照は、メマンチン塩酸塩:0.1〜300μMグリシン(8濃度用量-応答)であった。陽性対照アゴニストは、0〜100μM L-グルタメート(8濃度用量-応答、片対数目盛り)であった。
【0371】
データ解析:活性化を以下の測定値に基づいて3通りに計算した:(1)ピーク電流振幅、及び(2)アゴニスト添加後2秒の電流振幅。
【0372】
阻害濃度-応答データを次の状態式に適合させた:%阻害=%VC+{(%PC-%VC)/[1+([試験]/IC
50)
N]}。式中、[試験]は被験物質の濃度であり、IC
50は最大半量の阻害を引き起こす被験物質濃度であり、NはHill係数であり、%阻害は各被験物質濃度で阻害されるイオンチャネル流の百分率であった。非線形最小二乗適合をExcel(Microsoft、Redmond、WA)用のXLfitアドインで解いた。
【0373】
結果
NR1/NR2A及びNR1/NR2Bの被験物質IC
50及びヒルスロープ値をTable 16(表17)及びTable 17(表18)に示す。Table 16(表17)は、ピーク電流振幅の測定値を表し、Table 17(表18)は、化合物適用2秒後の定常状態電流の測定値を表す。
図3A-3L、4A-4L、5A-5L、及び6A-6Lは、両測定の概要データファイル(数値情報及び濃度応答曲線)を表す。
【0374】
【表17】
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【0375】
【表18】
[この文献は図面を表示できません]
【0376】
この研究の結果(下記Table 18(表19)を参照)から、低μM範囲の両方の化合物についてのピーク電流のほぼ同等のアンタゴニスト作用が示された。
【0377】
【表19】
[この文献は図面を表示できません]
【0378】
これらの結果は、d-メサドンが、アルツハイマー病患者に対するメマンチンの作用に類似する作用を有する可能性があることを示唆している。更に、認知機能についての本発明者らの新知見に基づいて、d-メサドンは、軽度認知障害の治療に有効である可能性があり、それ故d-メサドンは、メマンチンに優る改善をもたらす可能性がある。メマンチンが中等度又は重度の認知症にのみ有用であるが、d-メサドンは、極めて軽度の認知障害を有する患者における認知機能を改善する可能性があることを本発明者らが見出した。更に、d-メサドンは、腎機能障害(d-メサドンは肝臓によって排出される)を含めた様々な理由でメマンチンを耐容できない患者に代替オプションも提供しうる。d-メサドンの別の利点は、予想より高いそのCNS浸透性にあり、これは、より低い全身性用量でのよりよい有効性を示唆する。
【0379】
(実施例4)
d-メサドンは、ヒトにおける血清BDNFを増大させる
方法
次に、8人の健常対象のランダム化二重盲検プラセボ対照研究において、本発明者らは、d-メサドンの投与(1日25mg10日間)の前及び4時間後のBDNFレベルを試験した[PK及びBDNFレベルの試験は、処理の前、並びに2〜6及び10日目における25mg用量のd-メサドン(6人の患者)又はプラセボ(2人の患者)の投与の4時間後に行った)]。解析は、当業者に知られている方法であるELISAキットによって行った。BDNFの定量的測定は、0.066から16 ng/ml(n=7)の範囲の濃度のヒト組換体BDNFを用いて得られた標準較正曲線によって行った。これは、血漿試料と全く同じようにプロセスされた。この較正曲線はアロステリックシグモイド式(r2≧0.99)に適合した。各濃度は、3回の独立した測定の結果である。データは、平均及びSDとして示されている。
【0380】
結果
d-メサドン処置群では、6人中6人の対象(100%)は、処置前BDNFレベルに比べてd-メサドン処置後にBDNFレベルの増大を示し、処置後10日目BDNF血清レベルは処置前BDNFレベルの2倍から17倍の範囲であり;最小増大は、第10日目(処置前レベルの2倍)に対象1008で見られた。この対象は、他の処置対象より低いd-メサドン薬物動態処分と一貫して、全6人の処置対象中で最小の10日目d-メサドンレベル、C
max及びAUC並びに最長のT
maxを有した。対照的に、d-メサドンレベルが0のプラセボ対象(1006及び1007)では、BDNF血清レベルは減少したか、又は変わらなかった(下記Table 19(表20)及び
図7A-7Hを参照)。
【0381】
【表20】
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【0382】
これらの結果の有意性は、対象数が小さいことによって限定されうるが、100%であった6人のd-メサドン処置対象におけるBDNFレベルとd-メサドンレベルの相関は統計的に強く有意である。同じ群に属する2人のプラセボ対象における類似の増大の欠如と比較すると、この結果は、更に大きな統計的有意性を得る(p<0.0001)。これらの結果は、潜在的にストレスの大きい事象(10日間の入院患者臨床試験)を経験している用量1日25mgで健常対象に経口投与したd-メサドンがBDNF血清レベルを有意に上方制御すること及びこの増大が血清d-メサドン濃度の測定値と相関することを示している(第2日目はp=0.028、第6日目はp=0.043、及び第10日目はp=0.028、全て処置前のBDNF血清レベルに対するもの)。BDNFの増加は、6人のd-メサドン処置対象全てで第2日目から存在したが、プラセボ処置対象では存在しなかった。この増大は、再度プラセボ対象ではなく、d-メサドン処置対象のみで、10日間の研究全体を通して維持された。これは、BDNFレベルに対するd-メサドンの作用が迅速に開始し、持続することを示唆する。
【0383】
結果の統計的な解析
解析を、GraphPad Prism 5.0及びSPSSソフトウェアによって行った。各時点のBDNFレベル(ng/ml)及び血清d-メサドン(ng/ml)の記述統計量が、Table 20(表21)に報告されている。
【0384】
【表21】
[この文献は図面を表示できません]
【0385】
相関:本発明者らは、最初に全てのデータを併せて試験した(BDNFの血漿レベルvs PK)。次いで本発明者らは、プラセボ対象を除いた全ての処置対象のデータを試験した。次いで本発明者らは、ベースラインデータを除いた全ての処置対象のデータを試験した。全てのスピアマン相関は有意であった(p<0.0001)。その後、本発明者らは、対象を各時点で分けたデータセットを用意し、BDNF濃度がD2、6及び10のPKと相関していたかどうかを解析した。この場合、相関は、プラセボ対象が考慮された場合、D2(p=0.040、r=0.73)及びD10(p=0.017、r=0.80)に有意であった。結果は、Table 21(表22)(下記)に示す。
【0386】
【表22】
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【0387】
比較:本発明者らは、次いで、ベースライン(T0)及びD2、D6及びD10のBDNF濃度を比較するためのウィルコクソン符号順位検定を行った。全ての差は統計的に有意であった。特に、8人の対象(処置+プラセボ)を考慮した場合:T0-D2 p=0.036、T0-D6 p=0.043、T0-D10 p=0.025;6人の対象(プラセボ無し)を考慮した場合:T0-D2 p=0.028、T0-D6 p=0.043、T0-D10 p=0.028(下記Table 22(表23及び24)を参照)。
【0388】
【表23】
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【0389】
【表24】
[この文献は図面を表示できません]
【0390】
注目すべきことに、50mg及び75mgの用量のd-メサドンを投与された対象は、処置前の値に比べて、処置の後一貫してBDNFレベルの増大を示した。しかし、この増大はプラセボに対して統計的有意に至らなかった。
【0391】
結論:これらの結果に基づいて、本発明者らは、25mg d-メサドンの投与は、健常志願者におけるBDNF血清レベルを有意に増大させると結論した。血漿BDNF濃度は、同じ時点で測定された薬物の濃度と強く相関しなかった(厳密な統計的手法が提案するように、プラセボ対象が、相関について解析されるデータから除外された場合)。これらの対象における、NMDARサブタイプに対するd-メサドンの差次的作用による興奮性ニューロン発火頻度の調節は、上記実施例3のTable 18(表19)で示されるように、決定されているBDNFの活性依存性放出を有しうる[Kuczewski Nら、Activity-dependent dendritic secretion of brain-derived neurotrophic factor modulates synaptic plasticity. Eur J Neurosci 32:1239-1244]。d-メサドンの投与は、本願で主張されている神経系障害、内分泌代謝障害、心血管障害、加齢性障害、眼疾患、皮膚疾患、若しくはその症状及び徴候を含めた多くの疾患に見られるBDNFの下方調節を逆行させうる。
【0392】
(実施例5)
d-メサドンはヒトにおける血清テストステロンレベルを増加させる
BDNFの上方制御作用に関して上述した同じ二重盲検研究において、10日にわたり1日1回投与されたd-メサドン25mgが、試験された3人の男性対象の全てにおいてテストステロンレベルを増加させた;更に、テストステロン血清レベルは、第16日目、すなわちd-メサドン処置の中断から6日後に、ベースラインレベル、すなわちd-メサドン処置前のテストステロンレベルに向かう傾向がみられ、これは、テストステロンの上方制御に対するd-メサドンの直接的な作用を実証する。投与スケジュール及び得られたデータを以下のTable 23(表25)3及び
図8に示す。これらの同じ患者において、テストステロンの上方制御は、上記の項に記載した血清BDNFレベルにおけるd-メサドンによって媒介される増加と相関する。テストステロンにおける増加は、本発明者らの男性対象で見られるBDNFの増加と関連している可能性がある。また女性におけるBDNFの増加もホルモンが媒介している可能性があるが、ホルモンレベルは女性において測定されなかった。
【0393】
【表25】
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【0394】
統計的分析
この分析は、GraphPad Prism 5.0ソフトウェアによって行った。
【0395】
データ(男性25mg対象グループのテストステロン及びBDNFレベル)を線形回帰分析によって試験した。以下の
図49及び以下のTable 24(表26)で示されるように、r
2=0.997は、第12日目のテストステロンの血漿濃度と第10日目のBDNFの血漿濃度との間で観察することができた)。スピアマン相関を行ったが、対象の数が限られているため、有意な結果は得られなかった。
【0396】
【表26】
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【0397】
上記の発見は、メサドンを含めたオピオイドは、低いテストステロンレベルと関連することを当業者はわかっているため、重要である。d-メサドンはその代わりにテストステロンレベルを増加させるという予想外の発見は、本出願にわたり特許請求の範囲により示されるもののためにその開発を支援し、更に別の認識された欠点を払拭する。
【0398】
(実施例6)
ヒトへのd-メサドンの投与は認知機能の改善をもたらすことができる
発明者らが健常志願者におけるd-メサドンの薬力学を考察したところ、その志願者は、より高い用量でも精神異常発現性の症状が無いことを確認することができた。健常対象のベースラインの認知機能は、処置の前及び後におけるBond-Lader視覚的アナログスケールの認知領域における変化を検出するには全般的に高すぎた。しかしながら、この研究のSAD 5mg d-メサドン群をプラセボ群と比較したところ(二重盲検ランダム化設計、d-メサドン群における6人の患者及びプラセボ群における11人の患者)、精神覚醒状態及び認知機能に関して、Bond-Lader視覚的アナログスケールによって調査した領域の全てにおいてスコアが改善されたことが見出された。5mg d-メサドン処置グループにおける中央値T
maxは2.5時間(2〜3の範囲)であり、平均C
maxは53.3(最小値29.6、中央値48.40及び最大値83.9)であった。投与(プラセボ又はd-メサドン5mg)の後、2-3-5時間で、各患者のBond-Lader VASスコアを決定した。
【0399】
以下のTable 25(表27)に結果を要約する。それによれば、健常対象では5mgもの低い用量でもd-メサドンにより正の認知作用を得ることができ、d-メサドン5mgを受ける対象は、より覚醒し、より頭がさえ、より頭の回転がよくなり、より注意力が高くなり、より手慣れた状態になることが示唆される。更に全対象(5mg d-メサドンの1回の用量を受ける6人の対象)にわたるこれらの発見は、Bond-Lader視覚的アナログスケールの認知領域の全てにわたり整合性がとれていた。本出願において、発明者らはこれまで、Morylら(Moryl, N.ら、A phase I study of d-methadone in patients with chronic pain. Journal of Opioid Management 2016: 12:1; 47-55)による研究からのデータの新規の分析を論じてきた。発明者らは、d-メサドンを摂取した患者は、自身のModified Mini Mental Stateスコアを改善させたことを発見することができた。これらの発見は、総合すると、長期間にわたり投与されるより多くの用量のd-メサドンは、その代わりに、たとえわずかでも正常に機能する神経回路の崩壊及び正常な神経可塑性の変化があり、NMDA受容体系及びNET系等の選択された神経経路の制御及び神経可塑性の制御が必要な疾患、並びにいずれもd-メサドンの影響を受けた、BDNF及びテストステロンレベルの上方制御、並びにK
+、Ca
+及びNa
+電流の調節に役立つ可能性があることを示唆する。
【0400】
【表27】
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【0401】
発明者らによって明らかになった転移がんを有するがわかっているNS障害が無い対象で見られる認知機能に対するその臨床的な作用(Moryl Nら、A phase I study of d-methadone in patients with chronic pain. Journal of Opioid Management 2016: 12:1; 47-55)、及び正常な対象のBond-Laderスケールの全ての試験した認知領域における認知の改善における本発明者らによってなされた発見のために、上述したように、非常に低い5mgの単回用量のd-メサドンによって、NSの疾患におけるその可能性のある治療的役割とは別に、d-メサドンは、老化と共に生じる生理学上の全体的な劣化にも利益をもたらす可能性がある。BDNFは、ニューロトロフィン増殖因子ファミリーのメンバーであり、神経形成の誘導及びニューロンの分化を生理学的に媒介し、ニューロンの成長及び生存を促進し、シナプスの可塑性及びニューロンの相互連結を維持する。BDNFレベルは、老化と共に組織中で減少することが示されている[Tapia-Arancibia, L.ら、New insights into brain BDNF function in normal aging and Alzheimer disease. Brain Research Reviews 2008. 59(1):201-20]。ヒト対象を使用した研究から、BDNFの血漿濃度が減少するにつれ海馬の体積が減少することが見出された[Erickson, K.I.ら、Brain-derived neurotrophic factor is associated with age-related decline in hippocampal volume. The Journal of Neuroscience 2010. 30(15):5368-75]。
【0402】
したがって、非常習性であり、認知に関するオピオイド様及び精神異常発現性の作用が無く、高いCNS浸透性を有し、NMDA受容体系並びにSERT及びNET系等の重要なNS経路を制御する、場合によってはBDNF及びテストステロンレベルを増加させる可能性を有する安全な十分に許容される薬物、例えばd-メサドンは、それ故に、CNS障害並びにその神経学な症状及び徴候のための現在承認された薬物の狭い範囲内で現在選択肢が無い多数の患者に利益をもたらす可能性がある。更に、発明者らによって示された通り、正常な対象において認知機能を臨床的に改善する、及びBDNFレベルを増加させることが発明者らにより示されたd-メサドンのような薬物は、正常な老化又は加速した老化若しくは老衰において生じる軽度認知機能障害及び他の様々なNSの劣化を軽減又は予防する可能性があり、更にこれは、より高いレベルのBDNF及び/又はテストステロンによって、更にNMDAR活性を制御することによって回復させたり又は予防したりすることができる。ニューロンもまた栄養的機能を発揮し、筋肉、骨、皮膚及び実質的に全ての臓器を維持するのにも必須であるため、d-メサドンは、細胞(アポトーシス促進性の)において低下した過剰なカルシウム流入と共に、NMDA受容体の拮抗作用によって媒介される抗アポトーシス作用を介してニューロンの老化を防ぐこと、及びBDNF及びテストステロンを含む性腺ステロイドを介してニューロンの生存強化を促進することによって、正常に老化した対象において、及び遺伝学的原因(プロジェリア症候群、例えば、ハッチンソン-ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)及び早老性症候群、並びに「加速老化疾患」(例えばウェルナー症候群、コケーン症候群又は色素性乾皮症))、並びに毒素、外傷、虚血、感染、新生物及び炎症性疾患、並びに化学療法及び放射線療法(脳放射線療法を含む)を含むそれらの処置等の外部的原因による加速した老化等の多数の原因により誘発された老化が促進された対象において、強い抗老衰能を保持する。
【0403】
新規のNMDA受容体アンタゴニストの臨床有用性及び適用は、それらの副作用のために(MK-801、ケタミン)、又はin vivoでの作用が弱すぎるために(メマンティン、アマンタジン、デキストロメトルファン)限定的であった。本発明者らはここで、d-メサドンは安全であること(上記の実施例1を参照)、及び場合により多数の臨床的適応に有効であることを示した。
【0404】
(実施例7)
d-メサドンの投与はヒトにおいて血中グルコースの低下をもたらす
発明者らはまた、d-メサドンの投与により血糖を低下させる可能性に関する徴候も発見した。この研究において、血糖の低下は、ヒトにおいて10日間の25mg d-メサドン1日用量により生じた:正常血糖の健常志願者において、血清グルコース濃度は、10日間のd-メサドン25mg/日での処置後の第10日目及び第12日目に低下させることができる。分析は比色キットを用いて行われた。グルコースの定量的な決定は、0から10nmoleの範囲のグルコース量(n=6)を用いて構築された標準的な検量線によって行われた。検量線は、グルコース量に対して線形従属性を示した(r2≧0.992)。Table 26(表28)(下記)にデータを示す。
【0405】
【表28】
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【0406】
結果
平均グルコースレベルは、第10日目に、ベースラインと比較して、プラセボグループの2人の患者1006及び1007において+0.95mmol/l増加した。平均グルコースレベルは、第10日目に、ベースラインと比較して、6人のd-メサドンで処置した患者において-0.08mmol/l減少した。平均グルコースレベルは、第12日目に、ベースラインと比較して、プラセボグループの2人の患者において+0.2mmol/l増加した。更に平均グルコースレベルは、第12日目に、ベースラインと比較して、6人のd-メサドンで処置した患者において-0.43mmol/l減少した。
【0407】
この前向き二重盲検のプラセボ対照の正常血糖の8人の対象の研究において、プラセボグループ(2人の患者)と比較して、処置グループ(6人の患者)で血清グルコースにおける減少が記録された;この減少は、d-メサドンレベル又はBDNFレベルと関連しているようではなく、10日のd-メサドン処置期間の中断後少なくとも2日間にわたり持続した。
【0408】
この研究において、正常グルコースレベルが登録の必要条件であったことから、データを調査するときに平均への回帰を考慮すべきである。またd-メサドンは、NMDA、BDNF及び/若しくはテストステロン制御又は他のメカニズムを介した異常なレベル(高血糖レベル)の制御因子としても作用する可能性があるため、この研究を、正常血糖対象よりむしろ高血糖患者のコホートで繰り返した場合に、その結果が、より有意義になり、統計的有意に達する可能性が高い。
【0409】
まとめると、上記の結果は、d-メサドンが血中グルコースを低下させる作用を有する可能性があることを示す。これらのグルコースを低下させる作用は、高血糖症(糖尿病及び代謝症候群)を有する患者で試験を行えば、より明白になる可能性が高い。これまでに、高用量のラセミ体のメサドンの低血糖作用は記載されているが[Flory JHら、Methadone Use and the Risk of Hypoglycemia for Inpatients with Cancer Pain. Journal of pain and symptom management.2016;51(1):79-87]、同じ作用がd-メサドンで示されたのは、これが初めてである。
【0410】
(実施例8)
d-メサドンの投与はラットにおいて用量依存性の体重増加の減少をもたらす
上述したようなヒトにおける血中グルコースを低下させる可能性に加えて、発明者らはまた、神経因性疼痛の慢性的な圧迫性神経損傷モデルへの実験中に、ラットへのd-メサドン投与による用量依存性の体重増加の減少に関する徴候も明らかにした。材料及び方法:この研究には、Harlan(Indianapolis、IN)からの雄性Sprague Dawleyラット(150g到着時)を使用した。受領時、ラットをユニークな同定番号に割り当て、マイクロ分離フィルターの天井を有するポリカーボネートケージで、1ケージあたりラット3匹でグループ飼育した。この研究を開始する前に、十分な健康と適切さを保証するために、全てのラットを検査し、取り扱い、計量した。研究期間中、固形飼料及び水を自由摂取させた。研究期間中、動物を個別に飼育した。試験化合物は、1日1回15日間慢性的に投与した。試験化合物:d-メサドン(10、20、及び40mg/kg;Relmada Therapeutics)を食塩水に溶解させ、用量体積1ml/kgで皮下(S.C.)投与した。ビヒクル対照:食塩水を用量体積1ml/kgで皮下(S.C.)投与した。ラットに食物及び水を自由摂取させ、3つの用量のうち1つで15日間にわたりd-メサドンを投与し、以下のTable 27(表29)で示されるように、ラット体重におけるベースラインからの変動を、ビヒクルが投与されたラットの体重と比較した。
【0411】
【表29】
[この文献は図面を表示できません]
【0412】
より高い用量のd-メサドンが投与された場合、ラットの体重減少はより少ないようであったことから、代謝及び/又は食物摂取に対して作用を有する可能性が示唆される。分散分析(ANOVA)とそれに続くFisherのLSD事後比較によってデータを分析した。p<0.05の場合、作用を有意とみなした。データは、平均±標準誤差(S.E.M.)として提示される。処置と体重との有意な相互作用(p<0.001)が観察された。研究中に全てのラットの体重が増加したが、d-メサドン(40mg/kg)で処置したラットは、ビヒクル処置した動物と比較してより低い体重増加を示した。そのため、d-メサドンのNMDAアンタゴニストとしての作用、及びそのBDNF及びテストステロンレベルを増加させる可能性は、d-メサドンは、メサドンのオピオイド副作用が無く、DM又は代謝症候群又は過体重を有する患者や太った患者等の耐糖能が変化した患者における代謝パラメーターを制御するのに使用できることを示唆する。したがって、BDNF及びテストステロンレベル、NMDAR、並びにNET及びSERTへのその作用を介して、認知機能、挙動、及びエネルギーバランスに影響を与えることによって、d-メサドンは、それ故に、体重増加、肥満症、DM及び代謝症候群並びに老化の処置及び予防に有用でありうる。
【0413】
(実施例9)
d-メサドンはin vivoにおいて臨床的作用及び神経防護作用を発揮するのに十分な行動に関する作用を示す
本発明者らはラットで強制水泳試験も実行した。強制水泳試験はこれまで、抗うつ作用の可能性に関して薬物を評価するためにうまく使用されてきたが、発明者らは、この実施例において、ケタミンと比較して、in vivoにおけるd-メサドンの実際の行動に関する作用をより具体的に研究した。
【0414】
ケタミンは、麻酔のために臨床的に承認された周知のNMDA受容体アンタゴニストである。麻酔薬としての使用以外のケタミンの臨床有用性は、その精神異常発現性の作用のために限定的である。しかしながら、d-メサドンは、ここで本発明者らにより、認知並びに他の神経疾患及び徴候を改善する可能性を有する用量で、精神異常発現性の作用及び他の臨床的に有意なオピオイド副作用が無いことが示された(上記の実施例1を参照)。
【0415】
材料及び方法
この研究では、雄性Sprague Dawleyラット(Envigo;Indianapolis、INから得た)を使用した。受領時、ラットをユニークな同定番号に割り当てた(尾部を標識した)。マイクロ分離フィルターの天井を有するポリカーボネートケージで、1ケージあたり3匹で動物を飼育し、7日間順応させた。この研究の前に、十分な健康と適切さを保証するために、全てのラットを検査し、取り扱い、計量した。12/12の光/暗サイクルでラットを維持した。室温を、相対湿度約50%で、20℃から23℃の間に維持した。研究期間中、標準的なげっ歯類用の固形飼料及び水を自由摂取させた。動物を、処置グループに、1つの処置グループ10匹のラットでランダムに割り当てた。
【0416】
上述したように、この実施例で試験される化合物はd-メサドンであった。特定には、この実施例は、滅菌水中に溶解させたd-メサドン(Mallinckrodt、St. Louis、MOから入手、ロット番号1410000367)を使用した。特定には、測定した体積の滅菌注射用水中に計量した量のd-メサドンを溶解させて10、20、及び40mg/mLの濃度を達成することによって、d-メサドン投与製剤を調製した。
【0417】
更に、この実施例の参照化合物は、食塩水に溶解させたケタミン(Patterson Veterinary、 Chicago、ILから入手、ロット番号AH013JC)であった。100mg/mLのケタミンのストック溶液を10mg/mLの望ましい用量に希釈することによって、ケタミン投与製剤を調製した。
【0418】
d-メサドン及びケタミン両方の投与製剤を、使用の少し前に調製した。次いで強制水泳及び歩行活動試験の24時間前に、ラットにビヒクル、ケタミン、又はd-メサドンを投与した。ケタミンを用量体積1mL/kgで腹腔内(「IP」)投与した。更にd-メサドン及びビヒクルを用量体積1mL/kgで皮下(「SC」)投与した。
【0419】
強制水泳手順:そこから逃げることが不可能な小さい円柱の中でラットを強制水泳させると、ラットは直ちに特徴的な不動の姿勢を取り、自身が溺れないようにするのに必要な小さい運動を除いて、それ以上逃げようとする試みは行わない。この手順により誘導された不動状態は、多種多様の抗うつ薬によって回復するか又は大幅に減少させることができ、これは、この試験が、抗うつ様作用に対して感受性であることを示唆している。しかしながら、この試験は多くの偽陽性もピックアップすることから(例えば、神経興奮薬及び抗ヒスタミン作動性薬)、活動過多を除外するために自発運動活性も実行した。
【0420】
ラットの光サイクルの間、全ての実験は、周囲温度、人工照明下で行われた。各強制水泳チャンバーを、透明なアクリル(高さ=40cm;直径=20.3cm)で構築した。化合物投与の前に、全てのラットに水泳試験(「慣らし」)を受けさせた。この投与前の水泳試験は、23±1℃の水を含有する個々の円柱での1回の15分のセッションと、それに続き24時間後に5分の実験的試験を行うことからなっていた。水のレベルは、慣らしの間は16cmの深さとし、試験の間は30cmの深さとした。不動状態、よじ登り、及び水泳の挙動を、5秒毎に合計60カウント/対象で記録した。動物がその鼻を水より上にする姿勢を維持できない事象で、動物を即座に水から取り出し、それ故に研究から除外した。
【0421】
第1日目に(慣らしの後;強制水泳試験の24時間前)、ラットにビヒクル、ケタミン、又はd-メサドンを投与した。処置盲検のオブザーバーによって試験のビデオファイルの試験及び分析を行った。データは、5分の試験にわたる全挙動の頻度を表する。
【0422】
自発運動活性評価:自発運動活性を、当業者公知のHamilton Kinder装置(Kinder Scientific、San Diego、CAから市販されている)を使用して評価した。試験チャンバーは、古い標準的なラットケージであったが、これは、現在の囲い(24×45cm)とは異なり、内部に2つの鋼フレーム(24×46cm)がはめ込まれ、水平及び垂直の自発運動活性をモニターするための2次元の4×8ビームグリッドを備えた。光電セルビームの中断を、60分にわたり5分のビンで、コンピューターシステムにより自動的に記録した。チャンバーの開放面を中心及び外縁ゾーンに分けるように分析を設計した。垂直のビーム破断からの距離を測定した。
【0423】
試験開始の前に、少なくとも1時間の実験室への順化のために、ラットを実験室に入れた。試験のために各ラットにつき清潔なケージを使用した。自発運動活性試験の24時間前に、ラットにビヒクル、ケタミン、又はd-メサドンを投与した。
【0424】
統計的分析:適切な場合(有意な主要な作用又は相互作用の後)、分散分析(ANOVA)とそれに続くFisherの検定を用いた事後比較によってデータを分析した。p<0.05の場合、作用を有意とみなした。平均から2標準偏差を超えるか又はそれ未満の個々の測定値を示した全てのラットを分析から除外した。
【0425】
強制水泳試験の結果
上述したように、強制水泳試験手順の間、不動状態、よじ登り、及び水泳の挙動を、5秒毎に合計60カウント/対象で(結果として5分の試験/対象になる)記録した。データを試験中の各挙動の頻度として表した。
図9に、不動状態、よじ登り及び水泳の挙動の頻度に対するケタミン及びd-メサドンの作用を示す[この場合、データは平均±標準誤差(SEM)を表し;ビヒクルグループと比較して、*p<0.05である]。
【0426】
不動状態:
図9からわかるように、d-メサドン(10、20及び40mg/kg)及びケタミンは、ビヒクルで処置した動物と比較して、不動状態の頻度を有意に減少させた。d-メサドン(20及び40mg/kg)の作用のマグニチュードは、ケタミンの作用より有意に大きかった。不動状態に関する強制水泳試験の統計データは、下記Tables 28-30(表30〜32)で見ることができる。
【0427】
【表30】
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【0428】
【表31】
[この文献は図面を表示できません]
【0429】
【表32】
[この文献は図面を表示できません]
【0430】
よじ登り:
図9からわかるように、d-メサドン(40mg/kg)は、ビヒクルで処置した動物と比較して、よじ登りの頻度を有意に増加させた。よじ登りに関する強制水泳試験の統計データは、下記Tables 31-33(表33〜35)で見ることができる。
【0431】
【表33】
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【0432】
【表34】
[この文献は図面を表示できません]
【0433】
【表35】
[この文献は図面を表示できません]
【0434】
水泳:
図9からわかるように、d-メサドン(10、20、及び40mg/kg)及びケタミンは、ビヒクルで処置した動物と比較して、水泳の頻度を有意に増加させた。ケタミンと比較して、d-メサドン(20mg/kg)で処置したラットは、水泳の挙動の増加を示した。水泳に関する強制水泳試験の統計データは、下記Tables 34-36(表36〜38)で見ることができる。
【0435】
【表36】
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【0436】
【表37】
[この文献は図面を表示できません]
【0437】
【表38】
[この文献は図面を表示できません]
【0438】
自発運動活性評価の結果
上述したように、研究の自発運動活性部分の間、水平自発運動活性(移動の総距離)と垂直自発運動活性(立ち上がり)の両方を検査した。これらのタイプの活動のそれぞれの結果を以下で論じる。
【0439】
移動の総距離:
図10に、ケタミン及びd-メサドンの自発運動活性に対する作用の時間経過を示す(データは平均±SEMを表す)。二元配置反復測定ANOVAによれば、有意な処置の作用も有意な処置×時間の相互作用も見出されなかった。移動の総距離を60分の試験中のデータを合計することによって計算した。
図11にそれを示す(データは平均±SEMを表す)。一元配置ANOVAによれば、この測定で、ケタミン又はd-メサドンの有意な作用は見出されなかった。加えて、
図11に、強制水泳試験時間に対応する試験の最初の5分間の移動距離を示す。一元配置ANOVAによれば、有意な処置の作用は見出されなかった。移動距離に関する自発運動活性の統計データは、下記Tables 37-41(表39〜43)で見ることができる。
【0440】
【表39】
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【0441】
【表40】
[この文献は図面を表示できません]
【0442】
【表41】
[この文献は図面を表示できません]
【0443】
【表42】
[この文献は図面を表示できません]
【0444】
【表43】
[この文献は図面を表示できません]
【0445】
立ち上がり:
図12に、ケタミン及びd-メサドンの立ち上がり活動に対する作用の時間経過を示す(データは平均±SEMを表す)。二元配置反復測定ANOVAによれば、有意な処置の作用も有意な処置×時間の相互作用も見出されなかった。60分の試験中の総立ち上がり頻度をまとめたものを、
図13に示す。一元配置ANOVAによれば、この測定で、ケタミン及びd-メサドンの有意な作用は見出されなかった。加えて、
図13に、強制水泳試験時間に対応する試験の最初の5分間の立ち上がりを示す(データは平均±SEMを表す)。一元配置ANOVAによれば、有意な処置の作用は見出されなかった。移動距離に関する自発運動活性の統計データは、下記Tables 42-46(表44〜48)で見ることができる。
【0446】
【表44】
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【0447】
【表45】
[この文献は図面を表示できません]
【0448】
【表46】
[この文献は図面を表示できません]
【0449】
【表47】
[この文献は図面を表示できません]
【0450】
【表48】
[この文献は図面を表示できません]
【0451】
結論
この実施例に記載した研究は、試験の24時間前における単回投与によるd-メサドンの行動に関する作用(10、20、及び40mg/kg)を評価した。強制水泳試験に関して:試験された全ての用量で、d-メサドンは、ビヒクルと比較してラットの不動状態を有意に減少させたことから、NMDAによって媒介される行動に関する作用が示唆される。加えて、d-メサドン(20及び40mg/kg)の不動状態に対する作用は、ケタミン(10mg/kg)で見られた作用より大きかった。更に、d-メサドン(40mg/kg)は、ビヒクルで処置した動物と比較して、よじ登りの頻度を有意に増加させた。d-メサドン(10、20、及び40mg/kg)及びケタミンは、ビヒクルで処置した動物と比較して、水泳の頻度を有意に増加させた。ケタミンと比較して、d-メサドン(20mg/kg)で処置したラットは、水泳の挙動の増加を示した。注目すべきことに、強制水泳試験におけるd-メサドン(10、20、及び40mg/kg)の作用は、ラットの自発運動活性におけるいかなる変化によっても混乱は起こらなかった。総合すると、ラットにおけるこの強制水泳試験の結果は、d-メサドンのin vivoにおける行動に関する作用は、ケタミンで見られる作用に匹敵するか又はそれより強いこと、及びNMDAR、NET、SERT系に対する作用、及びヒトにおけるニューロトロフィン及び又はテストステロンの調節に関する可能性がある臨床的な作用を発揮するには十分であることを示唆する。
【0452】
d-メサドンは、可能性のある治療用量で精神異常発現性の作用又は他の制限的な副作用の証拠を示さなかったことから(実施例1)、強制水泳ラット試験の結果から、d-メサドンは、NMDAR、興奮毒性、BDNF、テストステロン及びニューロン可塑性の調節の制御が関与する多数の神経疾患及び症状に関して示される可能性がある、臨床的に有用なin vivoのNMDARアンタゴニスト作用を有する可能性があることが示唆される。
【0453】
(実施例10)
メスの尿においかぎ試験(FUST)及び新規抑制性飼育試験(NSFT)は、d-メサドンが、臨床効果及び神経保護を発揮するのに十分なインビボ行動的影響を示すことを示す。
FUSTは、抗うつ薬の急性効果を感知する一方、NSFTは、抗不安薬の急性投与及び慢性的抗うつ薬処置を感知し、それらの両方がまた、記憶及び学習に依存し、それ故、上で考察した結果はまた、気分又は不安に対する効果とは独立した、記憶及び学習に対するd-メサドンの効果を示唆し得る。
【0454】
この実施例の研究の目的は、NMDA受容体アンタゴニストケタミンと比較した、ラット行動に対してNMDA競合的アンタゴニスト特性を有する、d-メサドンの影響を調べることであった。
【0455】
行動試験:最初の研究は、FUST及びNSFTにおける行動に対するd-メサドン又はケタミンの影響を調べるものであった。抗うつ薬の急性投与を感知する、げっ歯類における褒美を求める活動性をモニターする、メス尿においかぎ試験(FUST)を設計した。新規抑制性飼育試験(NSFT)は、げっ歯類が新規の環境において摂食を嫌悪することを測定する。この試験は、動物が、嫌悪環境において慣れ親しんだ飼料にアプローチし、摂取する待ち時間を評価する。試験は、抗不安薬の急性投与及び慢性的抗うつ薬処置を感知するが、急性抗うつ薬を感知しない。
【0456】
公開された手法(当業者に公知である)に従い、FUSTを行った。ラットを、それらの生育ケージに入れた水道水に浸した先端がコットンのアプリケータに60分間慣らした。試験のため、ラットを、水道水に浸したコットンチップに5分間まず暴露し、45分後、新鮮なメス尿を注入した別のコットンに暴露した。オスの行動を、ビデオで記録し、先端がコットンのアプリケータのにおいをかぐのに費やした合計時間を決定する。NSFTのため、ラットを、24時間絶食状態にし、次に、中央に飼料ペレットのある開放空間に入れ、摂食するまでの待ち時間を、秒単位で記録する。対照として、生育ケージにおける飼料消費を定量する。
【0457】
薬物投与:ラットに、ビークル、ケタミン(10mg/kg、ip)、又はd-メサドン(20mg/kg、sc)を投与した。FUSTにおいて24時間行動させ、投与の72時間後にNSFTを行った(投与の一般的なスケジュールを、
図14に示す)。
【0458】
結果
FUSTの結果を
図15A及び15Bに示し、これは、ケタミンの投与が、ビークル群と比較して、メスの尿のにおいをかぐのにかかる、オスのラットが費やした時間を増大させることを示す(
図15B)。同様に、一回用量のd-メサドンは、ビークルと比較して、メスの尿のにおいをかぐのに費やした時間を増大させた。対照的に、ケタミン又はd-メサドンは、水のにおいをかぐ時間に対する効果を有さず、これは、薬物処置の効果が、メスの尿の褒美効果に特異的であったことを示している(
図15A)。したがって、両方の化合物が、げっ歯類行動において統計上有意な変化をもたらし、これは、d-メサドンが、ヒトにおいて、急性及び慢性抗うつ薬作用、抗不安薬作用と同等に作用し、気分又は不安と独立して、記憶及び学習をおそらく改善することを示唆している。
【0459】
NSFTの結果を、
図15C及び15Dに示し、これは、一回用量のケタミンが、新規の開放空間における摂食するまでの待ち時間を有意に減少することを示す。同様に、一回用量のd-メサドンはまた、新規の餌付けにおいて参加し、摂食するまでの待ち時間を有意に減少した。対照的に、ケタミン又はメサドンのいずれも、生育ケージにおける摂食するまでの待ち時間に影響しなかった。これらの知見は、ケタミン及びd-メサドンが、SSRI抗うつ薬の慢性投与後にのみ観察される効果である、NSFTにおける迅速な抗うつ薬様作用を生じることを示す。したがって、両方の化合物は、げっ歯類行動において統計上有意な変化をもたらし、これは、d-メサドンが、ヒトにおいて、急性及び慢性抗うつ薬作用、抗不安薬作用と同等に作用し、気分又は不安と独立して、記憶及び学習をおそらく改善することを示唆している。d-メサドンは、可能性のある治療用量にて精神異常発現性効果又は他の制限副作用の証拠を示さなかった(実施例1)ので、FUST及びNSFTの結果は、d-メサドンが、NMDARの制御、興奮毒性、BDNF、テストステロン及び神経の柔軟性調節が関与する、神経性疾患並びに症状の並びについて示され得る、臨床上有用なインビボNMDARアンタゴニスト効果を潜在的に有することを示唆する。
【0460】
(実施例11)
d-メサドンは、NEとセロトニンの両方の再取り込みを示す。
ノルエピネフリン及びセロトニン取り込みに対するd-メサドンの阻害性活性は、Coddら、(1995年)により報告され、本実施例において本発明者らが提示する2つの新たなインビトロ研究(研究1及び研究2)を用いて確認し、拡大した。
【0461】
手短に言うと、本インビトロでの試験結果は、塩酸(S)-メサドン(d-メサドン)が、セロトニン輸送体(SERT又は5-HT)によるセロトニンの取り込み及びノルエピネフリン輸送体(NET)によるノルエピネフリンの取り込みの有意な阻害(試験基準の範囲内)を示したことを明らかにした。SERTとNETの両方が、多くの抗うつ薬薬物療法の標的であり、これらの輸送体が、多くの精神学的及び神経学的状態に関与する。
【0462】
研究1
この研究の目的は、結合アッセイにおいて、並びに酵素及び取り込みアッセイにおいて7種の化合物を試験することであった。具体的には、7種の化合物[塩酸オキシモルフォン一水和物、塩酸(S)-メサドン、塩酸(R)-メサドン、塩酸タペンタドール、並びに本明細書においてd-メサドン「D9」、「D10」、及び「D16」として言及する3種の重水素化d-メサドン化合物]を、1.0E-05Mにて試験した。D9、D10、及びD16のそれぞれについての式は、以下の通りである:
【0463】
【化1】
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【0464】
化合物結合を、それぞれの標的に特異的な放射性標識リガンドの結合の%阻害として計算した。更に、化合物酵素阻害効果を、対照酵素活性の%阻害として計算した。
【0465】
50%より高い阻害又は刺激を示す結果は、試験化合物の有意な効果を表すとみなした。更に、かかる効果をここで観察し、次のTables 47-53(表49〜55)において列挙する。
【0466】
【表49】
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【0467】
【表50】
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【0468】
【表51】
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【0469】
【表52】
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【0470】
【表53】
[この文献は図面を表示できません]
【0471】
【表54】
[この文献は図面を表示できません]
【0472】
【表55】
[この文献は図面を表示できません]
【0473】
化合物:この研究の実験は、試験化合物(以下のTable 54(表56)に示す)と参照化合物の両方を含むものであった。試験化合物は、Relmada Therapeutics社(New York、NY)が製造した。
【0474】
【表56】
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【0475】
参照化合物:それぞれの実験において、妥当な場合、それぞれの参照化合物を、試験化合物と同時に試験し、データを、Eurofins Cerep社(Celle l’Evescault、France)にて決定した歴史的値と比較した。実験は、Eurofins社の検証の標準的操作手法に準拠したものであった。
【0476】
材料及び方法
実験条件:実験の条件及びプロトコールを、以下のTable 55(表57)及びTable 56(表58)において概説する。Table 55(表57)は、具体的には、結合アッセイについての条件及びプロトコールである。更に、Table 56(表58)は、具体的には、酵素及び取り込みアッセイについての条件及びプロトコールである。これらの表に記載した実験のプロトコールに対する軽微な変更が、試験中に生じたかもしれないが、それらは、得られた結果の質に影響しない。
【0477】
【表57】
[この文献は図面を表示できません]
【0478】
【表58】
[この文献は図面を表示できません]
【0479】
結果
実施例のこの研究1のアッセイの結果を、以下のTables 57-60(表59〜62)、及び
図16〜21に示す。Table 57(表59)及びTable 58(表60)は、それぞれ、試験化合物及び参照化合物についてのインビトロ薬理学結合アッセイの結果を示す。更に、
図16〜19は、試験化合物についての結合アッセイの結果を示す。Table 59(表61)及びTable 60(表62)は、それぞれ、試験化合物及び参照化合物についてのインビトロ薬理学酵素及び取り込みアッセイの結果を示す。更に、
図20及び21は、試験化合物についての酵素及び取り込みアッセイの結果を示す。
【0480】
【表59】
[この文献は図面を表示できません]
【0481】
【表60】
[この文献は図面を表示できません]
【0482】
【表61】
[この文献は図面を表示できません]
【0483】
【表62】
[この文献は図面を表示できません]
【0484】
50%より高い阻害(又は基本条件下で実行したアッセイについての刺激)を示す結果は、試験化合物の有意な効果を表すとみなす。50%は、本発明者らが推奨するさらなる調査(濃度応答曲線からのIC
50又はEC
50値の決定)の最も一般的なカットオフ値である。
【0485】
25%〜50%の阻害(又は刺激)を示す結果は、弱から中程度の効果を示す(大部分のアッセイにおいて、これらは、より実験間のばらつきが生じ得る範囲内にあるので、さらなる試験により、これらを確認すべきである)。
【0486】
25%未満の阻害(又は刺激)を示す結果は、有意でないとみなし、大抵、対照レベル辺りのシグナルのばらつきに起因するとみなす。
【0487】
低から中程度の負の値は、実質的な意味を有さず、対照レベル辺りのシグナルのばらつきに起因する。高濃度の試験化合物で時に得られる高い負の値(≧50%)は、一般に、アッセイにおける試験化合物の非特異的効果に起因する。希に、これらは、試験化合物のアロステリック効果を示唆し得る。
【0488】
結果(インビトロ薬理学:結合アッセイ)の分析及び表示:
対照の特異的結合のパーセント
【0489】
【数1】
[この文献は図面を表示できません]
【0490】
として、及び試験化合物の存在下で得られた対照の特異的結合のパーセント阻害
【0491】
【数2】
[この文献は図面を表示できません]
【0492】
として、結果を表す。
【0493】
IC
50値(対照の特異的結合の最大半分の阻害を生じる濃度)及びヒル係数(nH)を、ヒル方程式曲線フィッティング
【0494】
【数3】
[この文献は図面を表示できません]
【0495】
(式中、Y=特異的結合、A=曲線の左漸近線、D=曲線の右漸近線、C=化合物濃度、C
50=IC
50、及びnH=傾斜係数)を使用して、平均複製値で得た競合曲線の非線形回帰解析により決定した。この分析を、Cerep社において開発されたソフトウェア(ヒルソフトウェア)を使用して行い、Windows(登録商標)用の市販のソフトウェアSigmaPlot(登録商標)4.0(SPSS Inc社による(C)1997年)により得られたデータとの比較により検証した。
【0496】
阻害定数(K
i)を、チェン・プルソフの方程式
【0497】
【数4】
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【0498】
(式中、L=アッセイにおける放射性リガンドの濃度、及びK
D=受容体に対する放射性リガンドの親和性)を使用して計算した。スキャッチャードプロットを使用して、K
Dを決定する。
【0499】
結果(インビトロ薬理学:酵素及び取り込みアッセイ)の分析及び表示:対照の特異的活性のパーセント
【0500】
【数5】
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【0501】
として、及び試験化合物の存在下で得られた対照の特異的活性のパーセント阻害
【0502】
【数6】
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【0503】
として、結果を表す。
【0504】
IC
50値(対照の特異的活性の最大半分の阻害を生じる濃度)、EC
50値(対照の基本活性における最大半分の増大を生む濃度)、及びヒル係数(nH)を、ヒル方程式曲線フィッティング
【0505】
【数7】
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【0506】
(式中、Y=特異的活性、A=曲線の左漸近線、D=曲線の右漸近線、C=化合物濃度、C
50=IC
50又はEC
50、及びnH=傾斜係数)を使用して、平均複製値で得た阻害/濃度応答曲線の非線形回帰解析により決定した。
【0507】
この分析を、Cerep社において開発されたソフトウェア(ヒルソフトウェア)を使用して行い、Windows(登録商標)用の市販のソフトウェアSigmaPlot(登録商標)4.0(SPSS Inc社による(C)1997年)により得られたデータとの比較により検証した。
【0508】
研究2
この研究の目的は、結合アッセイにおいて、並びに酵素及び取り込みアッセイにおいて7種の化合物を試験することであった。具体的には、7種の化合物[塩酸オキシモルフォン一水和物、塩酸(S)-メサドン、塩酸(R)-メサドン、塩酸タペンタドール、D9、D10、及びD6]を、IC
50又はEC
50決定のためいくつかの濃度にて試験した。それぞれの標的に対する特異的放射性標識リガンドの結合の%阻害として、化合物結合を計算した。更に、対照の酵素活性の%阻害として、化合物酵素阻害効果を計算した。
【0509】
50%より高い阻害又は刺激を示す結果は、試験化合物の有意な効果を表すとみなす。更に、かかる効果をここで観察し、次のTables 61-67(表63〜69)において列挙する。計算可能なIC
50及びEC
50のみを、以下で報告する。
【0510】
【表63】
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【0511】
【表64】
[この文献は図面を表示できません]
【0512】
【表65】
[この文献は図面を表示できません]
【0513】
【表66】
[この文献は図面を表示できません]
【0514】
【表67】
[この文献は図面を表示できません]
【0515】
【表68】
[この文献は図面を表示できません]
【0516】
【表69】
[この文献は図面を表示できません]
【0517】
化合物:この研究の実験は、試験化合物(以下のTable 68(表70)に示す)と参照化合物の両方を含むものであった。試験化合物は、Relmada Therapeutics社(New York、NY)が製造した。
【0518】
【表70】
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【0519】
参照化合物:それぞれの実験において、妥当な場合、それぞれの参照化合物を、試験化合物と同時に試験し、データを、Eurofins Cerep社(Celle l’Evescault、France)にて決定した歴史的値と比較した。実験は、Eurofins社の検証の標準的操作手法に準拠したものであった。
【0520】
材料及び方法
実験条件:実験の条件及びプロトコールを、以下のTable 69(表71)及びTable 70(表72)において概説する。Table 69(表71)は、具体的には、結合アッセイについての条件及びプロトコールである。更に、Table 70(表72)は、具体的には、酵素及び取り込みアッセイについての条件及びプロトコールである。以下に記載した実験のプロトコールに対する軽微な変更が、試験中に生じたかもしれないが、それらは、得られた結果の質に影響しない。
【0521】
【表71】
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【0522】
【表72】
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【0523】
結果
実施例のこの研究2のアッセイの結果を、
図22〜45及び51〜68、並びにTable 71(表73)及びTable 72(表74)(以下)に示す。
【0524】
インビトロ薬理学:結合アッセイ(IC
50決定:試験化合物結果):インビトロ薬理学結合アッセイにおける試験化合物中のIC
50の決定の結果を、
図22〜37及び51〜62に示す。
【0525】
【表73】
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【0526】
インビトロ薬理学:酵素及び取り込みアッセイ(IC
50決定:試験化合物結果):インビトロ薬理学及び取り込みアッセイにおける試験化合物中のIC
50の決定の結果を、
図38〜45及び63〜68に示す。
【0527】
【表74】
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【0528】
50%より高い阻害(又は基本条件下で実行したアッセイについての刺激)を示す結果は、試験化合物の有意な効果を表すとみなす。50%は、本発明者らが推奨するさらなる調査(濃度応答曲線からのIC
50又はEC
50値の決定)の最も一般的なカットオフ値である。
【0529】
25%〜50%の阻害(又は刺激)を示す結果は、弱から中程度の効果を示す(大部分のアッセイにおいて、これらは、より実験間のばらつきが生じ得る範囲内にあるので、さらなる試験により、これらを確認すべきである)。
【0530】
25%未満の阻害(又は刺激)を示す結果は、有意でないとみなし、大抵、対照レベル辺りのシグナルのばらつきに起因するとみなす。
【0531】
低から中程度の負の値は、実質的な意味を有さず、対照レベル辺りのシグナルのばらつきに起因する。高濃度の試験化合物で時に得られる高い負の値(≧50%)は、一般に、アッセイにおける試験化合物の非特異的効果に起因する。希に、これらは、試験化合物のアロステリック効果を示唆し得る。
【0532】
結果(インビトロ薬理学:結合アッセイ)の分析及び表示:
対照の特異的結合のパーセント
【0533】
【数8】
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【0534】
として、及び試験化合物の存在下で得られた対照の特異的結合のパーセント阻害
【0535】
【数9】
[この文献は図面を表示できません]
【0536】
として、結果を表す。
【0537】
IC
50値(対照の特異的結合の最大半分の阻害を生じる濃度)及びヒル係数(nH)を、ヒル方程式曲線フィッティング
【0538】
【数10】
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【0539】
(式中、Y=特異的結合、A=曲線の左漸近線、D=曲線の右漸近線、C=化合物濃度、C
50=IC
50、及びnH=傾斜係数)を使用して、平均複製値で得た競合曲線の非線形回帰解析により決定した。この分析を、Cerep社において開発されたソフトウェア(ヒルソフトウェア)を使用して行い、Windows(登録商標)用の市販のソフトウェアSigmaPlot(登録商標)4.0(SPSS Inc社による(C)1997年)により得られたデータとの比較により検証した。
【0540】
阻害定数(K
i)を、チェン・プルソフの方程式
【0541】
【数11】
[この文献は図面を表示できません]
【0542】
(式中、L=アッセイにおける放射性リガンドの濃度、及びK
D=受容体に対する放射性リガンドの親和性)を使用して計算した。スキャッチャードプロットを使用して、K
Dを決定する。
【0543】
結果(インビトロ薬理学:酵素及び取り込みアッセイ)の分析及び表示:対照の特異的活性のパーセント
【0544】
【数12】
[この文献は図面を表示できません]
【0545】
として、及び試験化合物の存在下で得られた対照の特異的活性のパーセント阻害
【0546】
【数13】
[この文献は図面を表示できません]
【0547】
として、結果を表す。
【0548】
IC
50値(対照の特異的活性の最大半分の阻害を生じる濃度)、EC
50値(対照の基本活性における最大半分の増大を生む濃度)、及びヒル係数(nH)を、ヒル方程式曲線フィッティング
【0549】
【数14】
[この文献は図面を表示できません]
【0550】
(式中、Y=特異的活性、A=曲線の左漸近線、D=曲線の右漸近線、C=化合物濃度、C50=IC
50又はEC
50、及びnH=傾斜係数)を使用して、平均複製値で得た阻害/濃度応答曲線の非線形回帰解析により決定した。
【0551】
この分析を、Cerep社において開発されたソフトウェア(ヒルソフトウェア)を使用して行い、Windows(登録商標)用の市販のソフトウェアSigmaPlot(登録商標)4.0(SPSS Inc社による(C)1997年)により得られたデータとの比較により検証した。
【0552】
重水素化及びトリチウムd-メサドン並びにd-メサドン類似体
本出願を通じて提示する通り、本発明者らが提示し、分析し、解釈した実験上並びに臨床上の証拠は、多くの臨床的適応のd-メサドンの使用を支持する。本発明者らが分析した実験研究の1つは、重水素結合が、d-メサドンのNMDAアンタゴニスト親和性を増大させることを示唆する。d-メサドンの重水素化後のNMDA受容体でのアンタゴニスト活性におけるこの変化が、異なる研究において再現可能であるか、及びそれが、d-メサドンの臨床効果を潜在的に変更するかは、分かっていない。しかしながら、NMDARアンタゴニスト活性における変化は、d-メサドンの臨床効果を変化させ得るので、本発明者らは、より高いアンタゴニスト親和性をもたらした重水素メサドンの構造特性を調査し、これらの特性をd-メサドン及びd-メサドン類似体に取り込み、d-メサドンについて提案されるのと同じ臨床的適応について、重水素化d-メサドン及び重水素化d-メサドン類似体を更に評価することを計画する。増大したNMDA親和性を示す重水素化d-メサドンの例を、本明細書において提示する。重水素化d-メサドン類似体化合物の例は、(-)-[アセチル-2H3]α-アセチルメタドール塩酸塩;及び(-)-[2,2,3-2H3]α-アセチルメタドール塩酸塩を含む。トリチウム(水素-3)は、水素と同様の方法で他の物質と反応する一方、それらの質量における違いが、化合物の化学的特性における違いを時に引き起こす。可能性のある臨床上有用なNMDA阻害活性を有するトリチウムd-メサドン類似体化合物の例は、(-)-[1,2-3H]α-アセチルメタドール塩酸塩;(-)-[1,1,1,2,2,3-2H6]α-アセチルメタドール塩酸塩;(-)-[1,2-3H2]α-アセチルメタドール塩酸塩を含む[DRUG SUPPLY PROGRAM CATALOG 25TH EDITION MAY 2016 (The National Institute on Drug Abuse (NIDA) Drug Supply Program (DSP)を参照]。
【0553】
上記の通り、NS障害並びにそれらの神経学的症状及び兆候の処置のため利用可能な薬物は、わずかであり、しばしば、それらの使用を制限する副作用を有する。眼疾患、内分泌代謝疾患、及び血圧の制御のため、さらなる治療ストラテジーが必要とされる。実施例のセクションにおける科学的研究、及び本発明者らの臨床経験を含む、本出願を通じて記載した科学的研究に基づき、d-メサドンは、これらの障害を有する患者の大部分が十分に許容すると予想し、全ての細胞において作用するよりむしろ、限られた領域の変化した機能における神経伝達及び神経可塑性のモジュレーターとして作用する可能性を有する。具体的には、d-メサドンは、正常に機能する細胞に有意に影響することなく、NMDA系が慢性的及び病的にアップレギュレーションされ、並びに/或いはNET及びSERT系がダウンレギュレーションされるか、又はBDNF若しくはテストステロンレベルが不十分である限られた領域においてその制御機能を発揮すると予想する。故に、d-メサドンは、おそらく、(1)様々なNS障害(例えば、初期のアルツハイマー病)に有効であり、十分に許容され;(2)様々なNS障害(例えば、中程度及び重篤なアルツハイマー病)について、メマンチンより有効であり、より良好に許容され;(3)腎機能障害又は他の理由のためメマンチンを許容することができない患者に代替物を提供し;(4)ADHD並びに学習及び記憶の認知機能の他の障害について、刺激物質を含む、利用可能な薬物より良好に許容され;(5)下肢静止不能症候群、てんかん、線維筋痛症、片頭痛及び他の頭痛並びに異なる病因の末梢神経障害について、メサドンより有効であり、良好に許容され;(6)非常にわずかな利用可能なオプションが存在するか、又は存在しないCNS疾患及び症状のための治療オプションを提供し;並びに(7)眼疾患及び症状、内分泌代謝疾患並びに血圧の制御に有効である。
【0554】
本明細書において挙げられる本発明の実施形態は、単に例示であることが意図され、当業者は、本発明の精神から逸脱することなく、これに多数のバリエーション及び変更を成すことができる。上記にも関わらず、ある特定のバリエーション及び変更は、最適な結果に満たない結果を生じながらも、依然として満足する結果を生じ得る。全てのかかるバリエーション及び変更は、本出願に添付される請求の範囲により定義される本発明の範囲内であることが意図される。