(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-509072(P2020-509072A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(54)【発明の名称】アルツハイマー病を予防し、治療し、又は遅延させるための薬物の調製におけるビタミン組成物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20200303BHJP
A61K 31/51 20060101ALI20200303BHJP
A61K 31/525 20060101ALI20200303BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20200303BHJP
A61K 31/14 20060101ALI20200303BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20200303BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20200303BHJP
A61K 31/4415 20060101ALI20200303BHJP
A61K 31/714 20060101ALI20200303BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20200303BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/51
A61K31/525
A61K31/375
A61K31/14
A61K31/455
A61K31/197
A61K31/4415
A61K31/714
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-548652(P2019-548652)
(86)(22)【出願日】2018年2月24日
(85)【翻訳文提出日】2019年10月30日
(86)【国際出願番号】CN2018077107
(87)【国際公開番号】WO2018161808
(87)【国際公開日】20180913
(31)【優先権主張番号】201710131111.X
(32)【優先日】2017年3月7日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】504274712
【氏名又は名称】ゼンサン (シャンハイ) サイエンス アンド テクノロジー,シーオー.,エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ミングドング ズホウ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA161
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA18
4C086BC18
4C086BC19
4C086CB09
4C086DA39
4C086MA02
4C086MA03
4C086NA05
4C086ZA16
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA42
4C206GA05
4C206GA36
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZA16
(57)【要約】
アルツハイマー病を予防し、治療し、又は遅延させるための薬物の調製におけるビタミン組成物の使用。当該組成物は、ビタミンB組成物又はそのアナログ若しくは誘導体、ビタミンC又はそのアナログ若しくは誘導体、又はビタミンB組成物又はそのアナログ若しくは誘導体と、ビタミンC又はそのアナログ若しくは誘導体との組合せを含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病を予防し、治療し又は遅延させるための医薬物の調製のための、ビタミンの組成物の使用。
【請求項2】
前記ビタミンの組成物が、ビタミンB組成物又はそのアナログ若しくは誘導体を含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記ビタミンの組成物が、ビタミンC又はそのアナログ若しくは誘導体を含む、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記ビタミンの組成物が、ビタミンB組成物又はそのアナログ若しくは誘導体と、ビタミンC又はそのアナログ若しくは誘導体とを含む、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記ビタミンの組成物が、さらに酒石酸水素コリンを含む、請求項1又は2記載の使用。
【請求項6】
前記医薬物が、有効量のビタミンB組成物、ビタミンC組成物及び薬学的に許容され得る担体を含む、請求項1又は2記載の使用。
【請求項7】
前記医薬物が、有効量のビタミンB組成物、ビタミンC組成物及びアルツハイマー病を予防し、治療し又は遅延させるための有効量の薬物(複数可)を含む、請求項1又は2記載の使用。
【請求項8】
前記医薬物が、有効量のビタミンB組成物、ビタミンC組成物及び有効量の他のビタミンを含む、請求項1又は2記載の使用。
【請求項9】
前記医薬物が、有効量のビタミンB組成物、ビタミンC組成物及び有効量の微量元素(複数可)を含む、請求項1又は2記載の使用。
【請求項10】
前記医薬物が、次の成分を、100部のビタミンBl、100部のビタミンB2、100部のビタミンB3、100部のビタミンB5、100部のビタミンB6、0.1部のビタミンB7、0.4部のビタミンB9、0.1部のビタミンB12、及び150部のビタミンCの重量比に基づいて含む、請求項2記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ビタミン組成物、特に、エネルギー代謝を促進することによる、アルツハイマー病の治療のためのビタミンB組成物及びビタミンC組成物を含む組成物に関する。本発明の組成物は、アルツハイマー病の予防、治療又は遅延化に適しており、当該組成物は、学習及び記憶能力並びに認知機能障害を改善できる。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
アルツハイマー病(AD)は、通常は65才超の人々に生じる中枢神経系の神経変性疾患であり、それは、進行性の認知機能の減退及び行動障害によって特徴付けられており、且つ老年性認知症の最も一般的なタイプである。現在、アルツハイマー病の病因は完全には明らかではなく、代謝障害がアルツハイマー病の理由の一つであり得る。糖は、体における代謝の主たる源であり、且つ、異常なグルコース代謝は、組織機能の一連の障害を引き起こすであろう。ここにおいて、グルコースを主たるエネルギー源とする脳組織は、異常なグルコース代謝に著しく影響を受けやすい。多数の研究が、ADを伴う患者には代謝機能障害が存在し、同時に、脳の代謝速度の低下もADの最も初期の症状の一つであり、何らかの機能的障害よりも早期に生じる変化は、神経精神試験によって検出され得ることを示している。画像学的検査は、ADを伴う患者において、脳萎縮、代謝障害及び他の生理的異常が同時に見られ、且つ代謝異常は、当該疾患の進行に伴って悪化したことを示した。異常なグルコース代謝の潜在的機序が、高血糖の直接の毒性、高血糖によって引き起こされた脳における不十分なエネルギー供給、インシュリン抵抗性、インシュリンシグナル変換の異常及びインシュリン分解酵素遺伝子の異常に関連付けられ得ることもまた、見いだされている。FDG-PETグルコース代謝画像による認知症の数年前に、グルコース代謝速度が前頭葉及び側頭葉並びに頭頂の帯状皮質において低下することが観察され得ることが確認されており、これは、脳のグルコース代謝障害がADに密接に関連しており、且つ代謝障害は、ADの原因及び発症の一つの根拠であるらしく、それゆえ、脳のエネルギー代謝を改善することによってADの発生を予防及び低減することが可能であることを示唆している。
【0003】
グルコース解糖及びトリカルボン酸回路は、体内におけるグルコース産生能(ATP)の主たる代謝経路である。これらの二つのエネルギー代謝経路の完全な反応は、様々な代謝酵素の関与を要求し、且つこれらの代謝酵素の活性は、補酵素の関与に依存している。ピルビン酸デヒドロゲナーゼは、ミトコンドリアマトリックス中の多酵素複合体である。この酵素は、ピルビン酸塩の酸化的脱炭酸に触媒作用を及ぼしてアセチルCoAとする、鍵となる酵素である。PDHによって触媒作用が及ぼされる反応プロセスは、解糖、トリカルボン酸回路及びATP形成と関連付けられている。ミトコンドリアのクエン酸デヒドロゲナーゼは、トリカルボン酸回路において律速酵素であり、イソクエン酸塩の酸化的脱炭酸に触媒作用を及ぼしてα−ケトグルタル酸とする。触媒反応中に除去されたH
+は、NAD
+をNADHに還元する。それは、トリカルボン酸回路中においてCO
2を生じさせる第一工程であり且つ不可逆反応でもあり、並びにそれは、トリカルボン酸回路における重要な律速工程である。ミトコンドリアマトリックス中に存在しているα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(α-KGDH)は、トリカルボン酸回路に含まれる律速酵素である。それは、脳組織の一定の酸化還元を維持するために重要であり、且つα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性切替体(activity changer)は、神経変性性疾患に密接に関係している。コハク酸デヒドロゲナーゼは、トリカルボン酸回路中における第六の酵素であり、それは、電子伝達鎖に直接付着されている。コハク酸デヒドロゲナーゼ、フラビン・アデニン・ジヌクレオチド、チトクローム及び3 Fe-Sタンパク質は、糖代謝及び酸化的呼吸鎖において重要な役割を果たす、ミトコンドリアの複合体IIを構成する重要な成分である。SDHは、ミトコンドリアの内膜中に存在し且つミトコンドリアの内膜のマーカーである。その活性は、組織の代謝状態及びミトコンドリアの機能を示す。SDHAは、フラビンタンパク質をコード化し且つコハク酸デヒドロゲナーゼのサブユニットである。トリカルボン酸回路に含まれる鍵となる酵素として、コハク酸デヒドロゲナーゼは、ミトコンドリアの機能を示すマーカー酵素の一つであり、且つその活性は、トリカルボン酸回路の稼働状態を評価するための指標として一般的に使用されている。ATP5Bは、ATP合成酵素のサブユニットをコード化しており、且つ、ミトコンドリア中において、水素イオン輸送に包含されている。ATP合成酵素は、ミトコンドリア中の合成酵素の一タイプであり且つ生命体においてエネルギー代謝の鍵となる酵素である。
【0004】
ビタミンは、一連のヒトの代謝において必須の有機化合物であり、主として、体の正常な代謝を維持し且つ調節する責任を負う。それらは、生きている生命体によって必要とされている微量栄養素である。それらは、一般的に、生命体それ自体によっては産生されず且つ食事という手段によって得る必要がある。ビタミンは、エネルギーを産生することも糖、タンパク質及び脂肪のように細胞を構成することもできないが、それらは、生命体の代謝を調節し且つ体の健康を維持する。
【0005】
多くのビタミンが代謝プロセスに包含されていることが知られており、且つそれらは、体の生化学反応に必須の成分である。ビタミンBは、体内において代謝を促進し、且つ、糖、脂肪、タンパク質等を熱に変換する必須の物質である。それらの大部分は、補酵素の形態において代謝プロセス中に加わっている。一旦、体内においてビタミンBの欠乏が生じると、細胞の機能は直ちに低下し、代謝障害を生じるであろう。ビタミンB1のようなビタミンB・メンバーのいくつかは、神経組織及び心理状態に対するそれらの良好な効果のために、向精神薬物ビタミンと呼ばれてさえいる。B1、B2、B3、B5、B6、B7及びB12を包含するビタミンB・メンバーは、グルコース代謝の間、解糖及びトリカルボン酸回路に直接的に取り込まれる。一旦、これらのビタミンが欠乏すると、この代謝経路は抑制され、代謝障害と関連付けられた一連の疾患を引き起こす。研究は、ビタミンB1、B2、B3、B5、B6、B7及びB12がエネルギー代謝プロセスに直接的に取り込まれていることも示している。それらは、アミロイド(Aβ)の産生低減、ホモシステイン(Hcy)の代謝の促進、腫瘍壊死因子(TNF-α)レベルの低減及び神経伝達物質の合成の補助のように、ADの発症にも関与している。それ故、これらのビタミンB・メンバーは、脳内におけるエネルギー代謝のレベルを調節することにより、ADの発生、発症及び病的進行に影響を与え得、且つADの潜在的治療方法の一つであり得る。
【0006】
ビタミンBに加え、ビタミンD、E及びKのようないくつかの脂溶性ビタミンの補充がメタボリック・シンドロームのリスクを低減でき、空腹時血糖レベルを低減させ、インシュリン分泌を誘導し且つ脳内においてグルコース代謝を増加させることを、臨床研究が示してもいる。加えて、それらは、ADの動物の脳内においてAβ及びTNF-αのレベルを低減させ、且つAD患者において認知機能を改善させもした。それは、この種のビタミンが、エネルギー代謝と神経機能の両者に同時にそれらの効果を発揮することができることを示し、且つそれは、それらの間に何らかの関連があり得ることを示唆してもいる。それゆえ、これらのビタミンを摂取することにより、AD患者の脳内においてエネルギー代謝を調節し、ADの症状を改善することが可能である。微量元素は、体内における必須成分の一つであり、且ついくつかの微量元素は、エネルギー代謝及びAD進行に関与していることと報告されてもいる。臨床研究は、AD患者の脳内におけるマグネシウム・レベルが著しく低く、且つより多くのマグネシウムの摂取がADのリスクを低減させることを示している。動物での研究は、ラットにおいて10分間の低酸素状態の後には、CA1領域におけるATPレベルが正常状態のわずか16%であり、一方、マグネシウム・イオンで処理した脳薄片のATPレベルは正常脳薄片の32%であり、且つ低酸素状態によるCA1領域におけるATPレベルの低下を、マグネシウムが著しく改善したと考えられたことを示している。それゆえ、脳内におけるマグネシウム・レベルの調節は、脳内におけるエネルギー代謝産物のATPの欠乏を予防し得、それにより、脳内における神経機能を改善する。
【0007】
従前の基礎研究を通して、ビタミンは健康の維持及び疾患の予防に利益があるということが、徐々に確認されてきた。臨床適用において、一次又は術後補助療法としてのみならず、健康を促進し且つ疾患を予防するための栄養補助食品としても、様々なビタミンが使用され得る。神経疾患に関し、ビタミンB1、B3、B6、B9、B12、C及びEのようなビタミンは、神経発達及びホモシステイン代謝(高ホモシステインは、ADのリスク因子の一つである)を促進し得、神経伝達物質合成を調節し得、悪性貧血によって引き起こされる神経障害を予防し得、且つ神経障害を改善し得る。それらは、神経組織の健康を維持するために特に重要である。臨床適用において、これらのビタミンは、神経系の疾患(乾性脚気)、抹消神経炎の疾患、及び酸化的ストレス(ADの潜在的病因)の低減に著しい治療効果を有している。
【0008】
エネルギー代謝の観点からいうと、ビタミンB1、B2、B3、B5、B7、B6、B9、及びB12は、生体酸化及び体の炭水化物、脂肪、及びタンパク質の生理的代謝に関与しており、それにより、エネルギーの代謝及び形成を促進している。臨床的適用において、これらのビタミンは、血糖調節の改善及び脂肪代謝の促進のような、代謝関連疾患の症状及び原因の治療を補助するために使用され得る。これを考慮して、ビタミン薬物は、著しく高い臨床的価値を有し、且つエネルギー代謝疾患の予防及び治療、神経系の調節及びADの発生の遅延化においてさえ、著しく重要な役割を果たすことが理解され得る。臨床適用と基礎研究の結果を組み合わせると、ビタミン薬物は、エネルギー代謝及びADの治療に潜在的価値を有することに疑いの余地はない。脳内におけるエネルギー代謝の調節のためのビタミンに関する研究は、ADの発生を予防し且つ低減するために、社会的及び臨床的影響を有する。
【0009】
近時、第三相臨床研究(NCT00235716)は、ビタミンEが、長期の摂取(6-48月)のために、軽度の認知機能障害(MCI)の患者の認知機能を効果的に改善し得ることを示した。他の第二相臨床研究(NCT01320527)も、マルチビタミン(B9、B12、E、及び他の栄養素)が、MCI患者において、認知及び情緒調節に有益であることをも示し、これは、認知障害の早期段階において、ビタミン治療がADにある種の治療効果を有していることを示唆している。
【0010】
要約すると、基礎及び臨床研究は、(1)ビタミンB(B1、B2、B3、B5、B6、B7及びB12)、(2)脂溶性ビタミン(D、E、K)及び(3)微量元素(複数可)(マグネシウム・イオン)はすべて、代謝を調節し且つ神経機能の保護に寄与する効果を有し、並びに早期のビタミン治療はADの改善にも有益であったことを示している。しかしながら、今までのところ、ADを治療するために、臨床においてビタミン薬物は使用されていない。
【0011】
現在、ADの治療のために使用されている薬物は、主に、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤及びNMDA受容体拮抗薬である。上記の薬物は、脳内の神経伝達物質のレベルを変化させることによって認知機能の低下を阻害するが、これらの薬物は、症状の悪化を6-12か月遅延させ得るのみであることが知られていた。
【0012】
本発明は、上記元素の一部又は全てを含むマルチビタミン薬物を調製し、且つ初期段階において、脳内のエネルギー代謝を調節し且つ当該代謝を遅らせることによってADを改善及び予防することを目的とする。本発明のエネルギーを代謝させる薬物は、根源から、脳内のエネルギー代謝を改善することにより、神経及び認知機能を改善することを試み、且つその作用機構は、従来の神経伝達物質改善薬物とは異なり、且つ明らかな利点を有する。従来の薬物は、疾患ではなく、症状を治療し得るのみである。同時に、本発明によって開示された薬物は、相対的に安全であり、並びにそれは、脳内においてエネルギー代謝を改善しつつ、体に明らかな副作用を有さず、且つ穏やかな治療方法とみなされ得る。それゆえ、本発明のエネルギー代謝薬物は、ADの治療のための革新的な薬物を提供して、ADの治療において重要な役割を果たし得る。
【0013】
アルツハイマー病は、21世紀において、家族及び社会に膨大な経済的負担をもたらす世界規模の難題となっている。報告によると、2016年にアメリカ合衆国において、アルツハイマー病によって生じた経済的損失は、およそ2360億ドルであった。現在ADの治療のために使用されている薬物は、主に、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤及びNMDA受容体拮抗薬である。上記の薬物は、脳内の神経伝達物質のレベルを変化させることによって認知機能の低下を阻害するが、これらの薬物によって、症状の悪化が6-12か月遅延され得るのみであったことが知られていた。そして、これらの薬物は、ADの進行を完全に阻むことはできず、それは、AD治療の最大の問題である。本発明に包含されるエネルギー代謝薬物は、新規のAD治療薬物である。動物実験において、我々は、当該薬物が動物の認知レベルを効果的に改善すること、及びその機構は、市場における現在の薬物とは完全に異なり、エネルギー代謝に関連し得ることを見出した。その薬物が承認された後においては、その薬物がAD患者の多数をカバーし、且つ市場の可能性は広大となるであろうということが期待される。
【発明の概要】
【0014】
(A. 発明の開示)
本発明は、エネルギー代謝を促進することによってアルツハイマー病を治療するためのある種のビタミン組成物、特にマルチビタミンB,C組成物に関する。当該組成物は、アルツハイマー病を予防し、治療し又は遅延させ、学習及び記憶能力並びに認知機能障害を改善するのに適する。本発明において言及されたビタミンは、それらの対応アナログ又は誘導体を含み、例えば、ビタミンB1は、チアミン並びにそのアナログ又は誘導体を意味し;ビタミンB2は、リボフラビン並びにそのアナログ又は誘導体を示し;ビタミンB3は、ニコチン酸並びにそのアナログ又は誘導体を指し;ビタミンB5は、パントテン酸並びにそのアナログ又は誘導体を意味し;ビタミンB6は、ピリドキシン並びにそのアナログ又は誘導体を意味し;ビタミンB7は、ビオチン並びにそのアナログ又は誘導体であり;ビタミンB9は、葉酸並びにそのアナログ又は誘導体を意味し;ビタミンB12は、シアノコバラミン並びにそのアナログ又は誘導体を意味し;ビタミンCは、アスコルビン酸並びにそのアナログ又は誘導体を意味する等である。一の好ましい実施態様において、ビタミンB組成物及びビタミンC組成物を含む当該組成物は、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB7(ビオチン)、及びビタミンCを含む組成物である。一のさらに好ましい実施態様において、ビタミンB組成物及びビタミンC組成物を含む当該組成物は、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、及びイノシトールを含む組成物である。他のさらに好ましい実施態様において、ビタミンB組成物及びビタミンC組成物を含む当該組成物は、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、及びp-アミノ安息香酸を含む組成物である。
【0015】
他の側面において、本発明は、有効量のビタミンB組成物とビタミンC組成物との組合せ、及び薬学的に許容され得る担体を含む組成物を提供する。一の好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB7、ビタミンC、及び薬学的に許容され得る担体を含む。一のさらに好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、及び薬学的に許容され得る担体を含む。他のさらに好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、p-アミノ安息香酸、及び薬学的に許容され得る担体を含む。
【0016】
さらに他の側面において、本発明は、有効量のビタミンB組成物とビタミンC組成物との組合せ、及び有効量のアルツハイマー病を予防し、治療し又は遅延させるための薬物(複数可)を含む組成物に関する。一の好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、及び有効量のアルツハイマー病を予防し、治療し又は遅延させるための薬物(複数可)を含む。一のさらに好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、及び有効量のアルツハイマー病を予防し、治療し又は遅延させるための薬物(複数可)を含む。他のさらに好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、p-アミノ安息香酸、及び有効量のアルツハイマー病を予防し、治療し又は遅延させるための薬物(複数可)を含む。
【0017】
さらになお他の側面において、本発明は、有効量のビタミンB組成物とビタミンC組成物との組合せ、及び有効量の他のビタミン化合物を含む組成物に関する。一の好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、及び有効量の他のビタミン化合物を含む。一のさらに好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、及び有効量の他のビタミン化合物を含む。他のさらに好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、p-アミノ安息香酸、及び有効量の他のビタミン化合物を含む。他のビタミン化合物は、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK化合物等を包含する。
【0018】
さらになお他の側面において、本発明は、有効量のビタミンB組成物とビタミンC組成物との組合せ、及び有効量の微量元素(複数可)を含む組成物に関する。一の好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、及び有効量の他のビタミン化合物を含む。一のさらに好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、及び有効量の他のビタミン化合物を含む。他のさらに好ましい実施態様において、当該組成物は、有効量のビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンC、酒石酸水素コリン、イノシトール、p-アミノ安息香酸、及び有効量の他のビタミン化合物を含む。微量元素は、鉄、マグネシウム、亜鉛等を包含する。
【0019】
本発明のビタミンB組成物及びビタミンC組成物を含む組成物の剤形は、これに限定されないが、咀嚼錠とすることができ;崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、錯化剤、及び他の調剤用担体のような種々の剤形を調製するために必要とされる様々な従来のアジュバントが、従来の調製方法によって、分散性錠剤、顆粒剤、カプセル剤、経口液剤、及び他の剤形のような一般的に使用される経口剤形のいずれかを調製するために、本発明の組成物に添加され得もする。
【0020】
本発明におけるビタミンB組成物とビタミンC組成物を含む組成物の各成分の重量比は、複数の選択肢を有し得、それらの全てがエネルギー代謝を促進し得且つアルツハイマー病を予防し、治療し又は遅延させるために使用され得る。ある種の実施態様において、それは、次の成分を、重量比:30-300部のビタミンB1、30-300部のビタミンB2、30-300部のビタミンB3、30-300部のビタミンB5、30-300部のビタミンB6、0.01-1部のビタミンB7(ビオチン)、0.01-2部のビタミンB9(葉酸)、0.01-1部のビタミンB12、及び50-500部のビタミンCに基づいて含み得る。一の好ましい実施態様において、ビタミンB組成物は、次の成分を、重量比:100部のビタミンBl、100部のビタミンB2、100部のビタミンB3、100部のビタミンB5、100部のビタミンB6、0.1部のビオチン、0.4部の葉酸、0.1部のビタミンB12、及び150部のビタミンCに基づいて含む。一の好ましい実施態様において、ビタミンB組成物は、次の成分を、重量比:10部のビタミンBl、15部のビタミンB2、25部のビタミンB3、110部のビタミンB5、10部のビタミンB6、0.1部のビオチン、及び150部のビタミンCに基づいて含む。一のより好ましい実施態様において、ビタミンB組成物は、次の成分を、重量比:10部のビタミンBl、15部のビタミンB2、25部のビタミンB3、110部のビタミンB5、10部のビタミンB6、0.1部のビオチン、0.4部の葉酸、250部の酒石酸水素コリン、250部のイノシトール、及び150部のビタミンCに基づいて含む。一のより好ましい実施態様において、ビタミンB組成物は、次の成分を、重量比:10部のビタミンBl、15部のビタミンB2、25部のビタミンB3、110部のビタミンB5、10部のビタミンB6、0.1部のビオチン、0.4部の葉酸、250部の酒石酸水素コリン、0.025部のビタミンB12、及び150部のビタミンCに基づいて含む。他のより好ましい実施態様において、ビタミンB組成物は、次の成分を、重量比:10部のビタミンBl、15部のビタミンB2、25部のビタミンB3、110部のビタミンB5、10部のビタミンB6、0.1部のビオチン、0.4部の葉酸、250部の酒石酸水素コリン、250部のイノシトール、0.025部のビタミンB12、50部のp-アミノ安息香酸、及び150部のビタミンCに基づいて含む。
【0021】
(B. 定義)
他に定義されない限り、本明細書において使用されている全ての技術的且つ科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書において参照されたすべての特許、出願、発行された出願及び他の刊行物は、参照により、それらの全体が組み込まれている。この節において明記された定義が、参照により、本明細書に組み込まれた特許、出願、発行された出願及び他の刊行物において明記された定義に反するか又はむしろ食い違うならば、この節において明記された定義が、参照により、本明細書に組み込まれた定義に優先する。
【0022】
本明細書において使用されるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそれとは別に定めていない限り、「少なくとも一つ」又は「一つ以上」を意味する。
【0023】
用語「部」は、特にある量を参照するとき、10%以内の正又は負の偏差を伴う量を参照する。
【0024】
本明細書において使用されるとき、用語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「包含する(includes)」、「包含する(including)」、「含有する(contains)」、「含有する(containing)」、及びそれらの何らかの変形は、非排他的な含有に及ぶことが意図されており、その結果、一要素又は要素のリストを含む(comprises)、包含する(includes)、又は含有する(contains)ある事柄のプロセス、方法、プロダクト−バイ−プロセス、又は組成物は、それらの要素のみを包含するのではなく、はっきりとリストされていないか又はそのようなある事柄のプロセス、方法、プロダクト−バイ−プロセス、又は組成物に固有ではない、他の要素を包含できる。
【0025】
本明細書において使用されるとき、用語「ビタミンB組成物」は、全ての種類のビタミンB又はそれらの対応するアナログ若しくは誘導体、例えば、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6等を包含する。
【0026】
本明細書において使用されるとき、用語「アナログ(analogs)」及び「アナログ(analogues)」は、おおよそ同じ構造を有し且つ同じ生物活性を有するが、異なる活性レベルを有し得る、任意の二つ以上の分子又はフラグメントを指す。本明細書において使用されるとき、用語「誘導体」は、化合物中において、水素原子又は原子の基の、他の原子又は原子の基による置換によって誘導されたより複雑な化合物を指す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
(図面の簡単な説明)
【
図1】動物の各群における習得試験(D1-D5)での台への潜時。
【
図2】目標の四半部における各群動物の残留時間(1が、目標四半部である)。
【
図3】目標の四半部における各群動物の水泳距離(1が、目標四半部である)。
【
図5】大脳皮質のエネルギー代謝関連酵素の遺伝子発現。
【実施例】
【0028】
(詳細な説明)
実施例1: ICV-STZで誘発されたADラットにおけるマルチビタミンの治療効果
1. 研究の目的
この研究の目的は、アルツハイマー病と脳内におけるエネルギー代謝との間の関係を評価することであり、且つさらには、ビタミン化合物が、脳内におけるエネルギー代謝を調節することによって、アルツハイマー病の予防及び治療に役割を果たし得るか否かを評価することであった。
【0029】
2. 実験材料
2.1 試薬物
ストレプトゾトシン、以下の成分を以下の重量比:100部のビタミンB1、100部のビタミンB2、100部のビタミンB3、100部のビタミンB5、100部のビタミンB6、0.1部のビタミンB7、0.4部のビタミンB9、0.1部のビタミンB12、150部のビタミンC、液体マグネシウム、ビタミン(D、E、K)で含有するビタミンBC錠剤(ZENSUN)。抱水クロラール。ソーラーバイオのミトコンドリアの酵素活性キット(PDHの商品番号:MS2103、α-KGDHの商品番号:MS2100;ICDHm:MS2104、SDH:MS2102)、タカラSYBR II、全RNA単離キット(TIANGEN)、RT-PCRキット(東洋紡)、プライマー(生工生物によって合成された)。
【0030】
2.2 実験機器及び装置
1. 動物行動試験装置: ラットのモリス水迷路
2. 動物行動のビデオ記録及び解析ソフトウェア
3. ラット/マウスのデジタル式脳立体探知器
4. ラット/マウスの脳定位注入ポンプ
5. ラット/マウスの頭蓋ドリル
6. 自動化された組織均一化装置: 上海チンシン工業開発株式会社 JXFSTPRP-24
7. 超音波細胞粉砕機: 寧波シンチー生物学技術株式会社 JY92-IIDN
8. 温度自動調節水浴: 上海ピングクシュアン科学機器株式会社 DK-8D
9. 卓上遠心分離機: Thermo Scientific FRESCO 17
10. 酵素結合免疫吸着検査法のためのマイクロプレート読み取り装置: Molecular Devices SpectraMax M2
11. PCR機器: BIORAD CFX-結合 TM 即時システム Thermal Cycler Block 5020
【0031】
2.2 実験動物
雄ウィスターラット(250-320g)
【0032】
3. 実験計画及び方法
3.1 ラットにおけるストレプトゾトシンの脳室内注入−ADのモデルの調製(脳内においてグルコース代謝異常を誘発させた)
このモデルは、酸化ストレス、炎症性応答の活性化、コリン作動性経路の異常、タウの過剰リン酸化及びAβの凝集、学習及び記憶機能障害のような、孤発性AD(SAD)(Icv-STZモデル)、側脳室を通じてのストレプトゾトシン(STZ)注入によって引き起こされた大脳内グルコース/エネルギー代謝障害、うまく模倣されたSADの様々な病的徴候を模倣するAD動物モデルであった。モデルは短時間であることを必要とし、且つ2-3週間以内に、ADのいくつかの認知機能障害及び病的特徴が存在した。それは、ADモデルを構築するための、相対的に早く且つ容易な方法であり、それは、ADモデルを伴うAPPIPS1/tauP301Lの三重遺伝子組み換えマウスの時間コストの問題を克服している。それゆえ、この計画は、Icv-STZモデルを構築しつつ、三重遺伝子組み換え動物モデルを繁殖させること、及び同じ治療及び検出方法により、エネルギー代謝におけるビタミンの効果、ADの予防及び治療を立証することを意図している。異なるモデルを通じて、ビタミンの有効性を繰返し示すことが期待されている。
【0033】
Icv-STZモデルは、以下のように構築された:
【0034】
ウィスター・ラット(250-320g)を麻酔し、デジタル式脳立体探知器に固定し、頭頂部を脱毛し且つ皮膚を消毒した。頭頂部において、正中切開を行い、前骨をむき出しにし、前頂の後ろ0.9mm、正中線の左側及び右側に1.5mm、表面から垂直に3.6mmにおいて、微量注入器によって注入を行った。5μLのSTZ(3mg/kg)を、左室及び右室にゆっくりと注入し、注入時間は8分であり、且つ針を2分間放置し、その後ゆっくりと引き抜いた。すべての操作を、滅菌条件下で行う。皮膚切開部を、ペニシリンで消毒した。創傷縫合する。偽の群は、通常の生理食塩水の等容量の注入を受けた。
【0035】
3.2 Icv-STZモデル・ラットのグループ分け及び投薬
Icv-STZモデルを構築した後、ラットを1週間飼育し、且つその後、2か月の期間、薬物を胃内に投薬した。実験動物は、4群:正常対照群、モデル群、治療群及び陽性薬物群に分け、各群は20匹の動物を有していた。具体的な群は、以下の表に示されている。
【0036】
表1. Icv-STZモデル・ラットの群(n=20/群)
【表1】
【0037】
3.3 Icv-STZ動物モデルの検証
Icv-STZラット・モデルの安定性及び信頼性を確認するため、正式な投薬実験と同時に、正常対照群(Icv-生理食塩水)及びモデル群(Icv-STZ注入)として、他の2群を設けた。各群は20匹の動物を有していた。モデル化が完成した後1カ月及び2か月、行動試験を行った。
【0038】
I. マルチビタミンBC錠剤のマウス用量への変換=(÷60kg×12.3マウス係数×5回用量)
II. マルチビタミンBC錠剤のラット用量への変換=(÷60kg×6.2ラット係数×5回用量)
III. マウス用量に変換されたラット=1.98×
ラット用量に変換されたマウス=0.5×
IV. 動物皮下用量の胃内投薬量への変換=3×
【0039】
表2. マルチビタミンBC錠剤の組成及び用量
【表2】
【0040】
3.4 試薬の調製
a) 0.5%CMC-Na溶液: 2.0gのCMC-Na粉末を計量し、且つこれに300mlの超純水をゆっくりと加えた;混合物をそれが完全に溶解して400mlの一定体積に達するまで磁気的撹拌に付し、それにより0.5%の透明溶液を調製し、これを後の使用のために4℃で保存した。
マルチビタミンBC錠剤の投薬量:
マウスの用量: マルチビタミンBC錠剤1錠÷60kg×12.3マウス係数×5倍用量=1.025錠/kg
ラットの用量: マルチビタミンBC錠剤1錠÷60kg×6.2ラット係数×5倍用量=0.516錠/kg
【0041】
b) マルチビタミンBC錠剤懸濁液の調製: 適切なマルチビタミンBC錠剤をすりつぶした後、それに0.5%CMC-Naを加え、且つその混合物を振動に付して均一とし、それにより安定な懸濁液を形成させた。マウス1匹当たり1.025錠/kgの及びラット1匹当たり0.516錠/kgの薬物を、朝に1回及び夜に1回投薬した。
陽性対照薬物−塩酸ドネペジルの用量:
マウスの用量: 臨床用量(5mg/日)÷60kg×12.3マウス係数=1.025mg/kg
ラットの用量: 臨床用量(5mg/日)÷60kg×6.2ラット係数=0.516mg/kg
【0042】
c) 塩酸ドネペジル溶液: 適切な塩酸ドネペジル粉末の重量を計量し、それに0.5%CMC-Naを加え、且つその混合物を振動に付して均一とし、それにより安定な懸濁液を形成させた。塩酸ドネペジルを、以下のように投薬した:
1.025mg/kg(マウス)及び0.516mg/kg(ラット)。動物に、1日2回、朝に塩酸ドネペジル溶液、午後に等しい容量の0.5%CMC-Na及びマルチビタミンBC溶液、を投薬した。
【0043】
3.5 投薬方法
マウス及びラットの胃内投薬容量は、それぞれ、20mL/kg及び10mL/kgであった。正常対照及びモデル群には、重量で、0.5%CMC-NaビタミンBC錠剤アジュバント溶液の対応する容量を投薬した。
【0044】
3.6 行動試験
モリスの水迷路
空間の学習及び記憶を研究するための行動試験として、モリスの水迷路を使用した。水中の齧歯動物には、強い脱出動機があり、それらは水環境から逃げようと試みた。水環境から逃げるための学習プロセスは、動物の学習能力を反映している。周囲環境に照らして、水中の安全な場所(台)が空間的に設置されており、且つその台に向かって意図的に泳ぎ、これは、その動物の空間関連性記憶能力を反映し得た。モリスの実験系は、水迷路装置、自動画像取得及びソフトウェア解析システムからなる。モリスの水迷路設備は、主として、プール並びに調整可能な高さ及び移動可能な位置の台からなる。
【0045】
水迷路実験には、二つの部分があった。
【0046】
1) 習得相
プールは、四つの四半部に分けられており、且つ台は、その台の1cm上が液体の高さで、一つの四半部に配置されていた。動物を、プールの壁に向かって水中に配置し、且つその位置は、四つの出発位置の一つにおいて、異なる方向でランダムに選択した。動物の、台を見つけ且つそれに上る時間(逃避潜時)を、動物の学習能力を試験するために記録した。60秒を超えても動物が台を見つけないならば、台へ誘導する必要がある。動物を、10秒間、台の上に立たせ、その後移動させ、遠赤外光の下で乾燥し、且つ次の実験期間までケージ中に戻した。各動物を、1日4回、5日間(又は、モデルの学習状況に応じてより長く、且つモデルの平均潜時20秒未満が、成功であると考えられた)訓練した。
【0047】
2) 探査訓練
習得相の後1.5時間及び1日に、探査訓練を行った。実験の前に台を取り去り、マウスを、元々台のあった四半部の向かい側から水中に配置し、60秒の記録を開始した。空間記憶検出指標は:1)動物が初めて台を横切った時間、2)動物が目標の四半部(台が元々置かれていた四半部)で過ごした時間、3)どれ位多く、動物が目標の四半部に入ったか、を含んでいた。
【0048】
3.7 ミトコンドリアの酵素活性のアッセイ
1) 脳組織のサンプリング
10%抱水クロラールで深く麻酔されたADラットの脳組織を、ラットを断頭した後、速やかにはぎ取った。大脳皮質を、清浄であり且つ予め冷却しておいた2mLの遠心分離管に入れ、迅速に重量を測定し且つ迅速な凍結のために液体窒素に入れ、その後均一に集め、並びに冷凍庫に入れ且つ-80℃で保存した。
【0049】
2) ミトコンドリアの酵素の抽出
実験では、Solarbioのミトコンドリアの酵素活性検出キットを使用した。約0.1gの大脳皮質を計量し、1mLの試薬物1及び10μLの試薬物3を、上記大脳皮質に添加し、且つそれらを氷浴を使用して擂り潰した。4℃での遠心分離により、沈殿を除去した。上清を他の遠心分離管に移し、4℃での遠心分離により、上清を除去した。沈殿に、200μLの試薬物2及び2μLの試薬物3を添加し、超音波破壊し、その後、酵素活性検出アッセイにおいて使用した。
【0050】
3.8 エネルギー代謝に関連したmRNA検出
1) 脳組織のサンプリング
10%抱水クロラールで深く麻酔されたADラットの脳組織を、ラットを断頭した後、速やかにはぎ取った。大脳皮質を、清浄であり且つ予め冷却しておいた2mLの遠心分離管に入れ、迅速に重量を測定し且つ迅速な凍結のために液体窒素に入れ、その後均一に集め、並びに冷凍庫に入れ且つ-80℃で保存した。
【0051】
2) mRNAの発現
実験では、TIANGEN全RNA抽出キットを使用した。約0.1gの大脳皮質の重量を計量し、1mLの溶解物RZを、上記大脳皮質に添加し、その後そのサンプルを均一化した。5分間経たら、沈殿に200μLのクロロホルムを添加し、15秒間激しく振動させ、室温で3分間経たら、4℃にて遠心分離した。水相を新しい管に移し、その管に0.5倍容量の無水アルコールを入れ且つ均一に混合した。CR3吸収筒に移し、4℃での遠心分離により、液状廃棄物を除去した。タンパク質除去溶液を加え、遠心分離により、液状廃棄物を除去した。すすぎ用緩衝液で2回すすぎ、遠心分離により、液状廃棄物を除去した。30-100μlのRNaseを含まない脱イオン−蒸留水を加えた後に、室温で2分間保存し、4℃にて遠心分離した。mRNAの発現は、東洋紡RT-PCRキットによる逆転写の後、リアルタイムPCRによって検出した。
【0052】
4 結果
モリスの水迷路(D1-D5)の習得相において、我々は、動物が隠れた台を見つけるのに要する時間を空間記憶の検出指標とした。台への潜時が短いほど、記憶がよい。
図1に示したように、各群の動物の台への潜時は、訓練時間が増すにつれて、著しく短くなった。それは、学習及び記憶スキルは、繰返しの訓練で改善されることを示唆していた。D1乃至D5のモデル動物の学習及び記憶能力は、正常対照動物の当該能力よりも、著しく悪かった。モデル動物の学習及び記憶能力は、エネルギー代謝薬物(マルチビタミンBC)での治療の後、著しく改善され、これは、マルチビタミンBCが認知症動物の学習及び記憶能力を著しく改善できたことを示している。
【0053】
探査訓練では、動物を、元々台のあった四半部の向かい側から水中に配置した。動物が目標の四半部(隠れた台が元々置かれていた四半部)で過ごした時間及び水泳距離を、空間記憶の試験指標として記録した。動物の記憶能力がよいほど、目標の四半部における時間が長く、且つ水泳距離が長かった。結果を
図2及び
図3に示した。正常対照動物の目標の四半部−四半部1(元々の隠れた台の四半部)における時間及び水泳距離は、他の群よりも著しく高く、これは、それらの記憶レベルが最も良かったことを示していた。ビタミンBC群動物の目標の四半部における時間及び水泳距離は、モデル群よりも高かった。それは、さらに、2カ月間のビタミンBC治療が、認知症動物の記憶能力を効果的に改善し得たことを示唆していた。
【0054】
ミトコンドリアの酵素活性検出アッセイの結果を、
図4に示した。マルチビタミンBCは、大脳皮質中のトリカルボン酸回路に含まれた鍵となる酵素(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、ミトコンドリアのイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(ICDHm)、及びコハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH))の活性を著しく改善し、したがって、ミトコンドリアの代謝活性を改善した。
【0055】
エネルギー代謝関連mRNAアッセイの結果は、
図5に示されたように、モデル動物の大脳皮質におけるSDHA及びATP5B遺伝子の発現が、正常群におけるそれらよりも低かったことを示した。マルチビタミンBC及び組合せ治療は、SDHA及びATP5Bの発現を増加させ、ミトコンドリア代謝を改善し、且つ認知機能を改善した。
【0056】
5 結論
ICV-STZモデル・ラットの学習及び記憶能力は、モリスの水迷路実験において著しく低下していた。ラットの学習及び記憶能力は、2カ月間のマルチビタミンBC治療の後、著しく改善された。トリカルボン酸回路に含まれた鍵となる酵素の活性は増強され、且つエネルギー代謝関連mRNAの発現レベルは、大脳皮質内において改善された。それは、この薬物が、ADの認知機能障害の治療においてある種の治療効果を有し、且つAD患者に新しい薬物を提供することが期待されることを示していた。
【0057】
本発明をより明確に説明し且つ理解するために、我々は、実施例によって本発明を詳細に説明する。当業者には、本発明の範囲及び意図から逸脱することなく、本発明の修飾及び変更が明白であろうことが明らかである。
【国際調査報告】