(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-509998(P2020-509998A)
(43)【公表日】2020年4月2日
(54)【発明の名称】特に、ヒトおよび動物の代謝障害の予防および治療のための医薬有効成分およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20200306BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20200306BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20200306BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20200306BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20200306BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20200306BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20200306BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20200306BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20200306BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20200306BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20200306BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20200306BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20200306BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20200306BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K31/7048
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/08
A61P43/00 121
A61P3/10
A61P1/16
A61P9/00
A61P3/06
A61P3/04
A61P3/00
A61P7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-541135(P2019-541135)
(86)(22)【出願日】2018年2月13日
(85)【翻訳文提出日】2019年9月13日
(86)【国際出願番号】EP2018053520
(87)【国際公開番号】WO2018149812
(87)【国際公開日】20180823
(31)【優先権主張番号】1770144
(32)【優先日】2017年2月16日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】519269905
【氏名又は名称】バルビオティス
(71)【出願人】
【識別番号】517343911
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クレルモン オーベルニュ
(71)【出願人】
【識別番号】519269916
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ラ ロシェル
(71)【出願人】
【識別番号】508157749
【氏名又は名称】シーエヌアールエス
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ペルティエ,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シャバネル,ヴィヴィアン
(72)【発明者】
【氏名】ル ジュビョ,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】シルヴェント,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】モガード,ティエリー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA29
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4C076CC16
4C076CC21
4C076FF67
4C086AA01
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4C206ZA70
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4C206ZC21
4C206ZC33
4C206ZC35
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、特に、糖および/または脂質代謝の病理学的障害の予防および/または治療における、薬物または獣医学製品として使用するための、(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸およびメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートの組み合わせのみからなる医薬有効成分に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物または獣医学製品としての使用のための、次記の組み合わせのみにより構成される医薬有効成分:
−(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、および
−メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレート。
【請求項2】
2型糖尿病、非アルコール性脂肪性肝疾患、心臓血管病態、脂質異常症、肥満症および代謝症候群から選択される少なくとも1つの疾患の予防および/または治療における、請求項1に記載の使用のための医薬有効成分。
【請求項3】
前記心臓血管病態が、冠状動脈性心疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患および深部静脈血栓症から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の使用のための医薬有効成分。
【請求項4】
前記非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患であることを特徴とする、請求項2に記載の使用のための医薬有効成分。
【請求項5】
メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートに対する(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸の重量比率が、1/40〜1/1であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用のための医薬有効成分。
【請求項6】
前記(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸およびメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートの分子が、天然の分子であるかまたは化学的および/または生物工学的方法による合成分子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用のための医薬有効成分。
【請求項7】
液体形態であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用のための医薬有効成分。
【請求項8】
経口、経腸、非経口または皮下による、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用のための医薬有効成分。
【請求項9】
医薬組成物中の、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用のための医薬有効成分。
【請求項10】
錠剤、カプセル、ジェルカプセル、粉末、アンプル、ドロッパー用溶液または注射溶液の形態であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用のための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬有効成分を含む医薬組成物。
【請求項11】
0.5〜100重量%の医薬有効成分の乾燥物を含むことを特徴とする、請求項10に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種の分子からなる医薬有効成分、および特に、糖および/または脂質代謝の病理学的障害の予防および/または治療における、その薬物としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性代謝障害および疾患は、ますますよく見られるようになっている。これは2型糖尿病の場合に言えることであり、2型糖尿病は、世界中で大きな医学的難題になっている(非特許文献1)。国際糖尿病連合(IDF)によると、2型糖尿病の患者の数は、2015年には、4億1500万人で、2040年までに55%増加し、6億4200万人に達すると予想される(非特許文献2)。2015年では、糖尿病は、500万人の死亡を引き起こし、これは、すなわち、6秒毎に1人の死亡であり、この疾患による世界医療支出は6730億ドルであった。
【0003】
2型糖尿病は、異常に高い血糖値および炭水化物不耐性を特徴とする。この慢性高血糖の主な原因は、インスリン抵抗性ならびに所与の代謝状態に応答した不適切な分泌である(非特許文献3)。この病態を治療するには、主に、血糖レベルを減らし、成人で7.0%以下の比率まで糖化ヘモグロビン(HbA1c)を減らすことが必要である(妊婦を除く、非特許文献4)。診断された大多数の患者は、人生の残りの期間、薬物治療を受ける(非特許文献5)。さらに、現在の治療法は、2型糖尿病の原因、特に、インスリン抵抗性および増加した血糖に対してインスリンを分泌する膵臓の能力の低下を治すのに効果的でなない(非特許文献6)。したがって、ほとんどの患者は、現在の治療薬に対し抵抗性になる(非特許文献7;非特許文献8)。新規薬物開発、特に、増加した血糖に応答したインスリン分泌をより良好に維持できる薬物の開発は、2型糖尿病およびその合併症の発症との闘いにおける優先課題である。これらの効果により、このような薬物は、インスリン療法の実施を遅らせる、というよりその実施を回避することになるであろう。
【0004】
糖尿病患者ではまた、50〜70%の範囲の大きなNAFLDの有病率が存在する(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。NAFLDまたは非アルコール性脂肪性肝疾患は、単純な脂肪性肝疾患から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および肝硬変までの範囲の領域を含む(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15)。NAFLDは、脂肪の過剰肝内蓄積(脂肪症)を特徴とし、これは、非特異的肝炎とは孤立する場合、または、関連する場合がある。NASHは、進行型のNAFLDであり、肝細胞の5%超の脂肪症と、小葉炎症および肝細胞障害(バルーン化)が組み合わさったものと定義される(非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18)。肝細胞の1〜5%に影響を与える単純な脂肪症は、生理学的なものであると考えられ、良性の進展であり、一方、NASHは、肝細胞損傷、炎症および/または線維化により定義され、これは、肝硬変、肝不全および肝細胞癌に繋がる場合がある(非特許文献19)。
【0005】
さらに、2型糖尿病の患者は、心臓血管系の罹患率および死亡率のリスクが高い。したがって、血中脂質および体重の管理などの従来の心臓血管系のリスク因子を管理することも必要となる。この必要性のため、現時点では、異なる薬効分類にあるいくつかの薬物を同時に摂取することになる。薬物の組み合わせは、例えば、筋疾患のリスクを高めるフィブラート系薬剤およびスタチン系薬剤の同時投与などの深刻な副反応を招くことが起こり得る(非特許文献20)。
【0006】
したがって、服薬遵守、耐性および効率の面で有利な「マルチターゲット」の作用機序を有する薬物に対する差し迫った必要性がある。このような薬物であれば、心血管代謝疾患の全体的リスクを減らし、それぞれの機能障害および/またはその結果を単独で予防および治療可能になるであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Boyle JP et al., Popul Health Metr 2010; 8. 29
【非特許文献2】IDF Diabetes Atlas, 7th edition
【非特許文献3】Beigi FI, N Eng J Med 2012; 366: 1319-27
【非特許文献4】ADA, Diabetes Care 2015; 38 (1): S33-S40
【非特許文献5】Qaseem A et al., Ann Intern Med 2012;156:218-31
【非特許文献6】Tao H et al., Nat Med 2014;20 (11):1263-69
【非特許文献7】Qaseem A et al., Ann Intern Med 2012;156:218-31
【非特許文献8】D Nathan et al., Diabetes Care 2009; 32:193-203)
【非特許文献9】Anstee Q et al., Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2013;10:330-44
【非特許文献10】Targher G et al., Diabetes Care 2007;30:1212-8
【非特許文献11】Williamson R et al., Diabetes Care 2011;34:1139-44
【非特許文献12】Angulo PN Eng J Med 2002;346:1221-31
【非特許文献13】Neuschwander-Tetri B et al., Hepatology 2003;37:1202-19
【非特許文献14】Adams L et al., Gastroenterology 2005;129:113-21
【非特許文献15】Kotronen A et al. J Clin Endocrinol Metab 2007; 92: 3490-7
【非特許文献16】Adams L et al., Cmaj 2005;172:899-905
【非特許文献17】Kleiner D et al., Hepatology 2005;41:1313-21
【非特許文献18】Brunt E Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2010;7:195-203
【非特許文献19】Vanni E et al Dig liver Dis 2010;42:320-30
【非特許文献20】Denke MJ Manag Care Pharm 2003;9:17-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目標は、これらの未充足の医療ニーズに対応する有効成分を提供することであり、特に、この有効成分は2型糖尿病の発症時の血糖の増加に応答して十分なインスリン分泌を維持できる。
【0009】
成人の患者の大部分の症例で、NAFLDおよびNASHはインスリン抵抗性およびその表現型の合併症、主として代謝症候群:2型糖尿病、肥満症、動脈性高血圧症、高コレステロール血症および高トリグリセリド血症の一部である状態に関連していることに留意することは重要である(Marchesini G et al.,Diabetes 2001;50:1844−50;Ratziu V et al.,J Hepatol 2010;53:372−84;Neuschwander−Tetri BA and Hepatology 2003;37:1202−19)。
【0010】
したがって、本発明の別の目的は、以下を可能とする有効成分を提供することである:
・インスリン抵抗性を低減すること;
・酸化ストレスおよび炎症を減少させること;
・脂肪細胞の発生を制限すること;
・血中トリグリセリドのレベルを低下させること。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的を達成するために、本発明は、下記の組み合わせのみからなる医薬有効成分の使用を提供する:
−(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、および
−メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレート)。
【0012】
これらの分子を含む植物抽出物は、栄養製品および医薬組成物への用途として、文献に既に記載されているが、驚くべきことに、本発明による有効成分を用いて得られた結果は、これらの2種の分子を含む植物抽出物で得られると思われる結果とは異なっている。有効成分は、特に、空腹時血糖を減らし、血糖の増加に伴う膵臓のインスリン分泌能力の低下を制限するように、相乗的に作用するこれら2種の分子のみからなる。好都合にも、本発明による有効成分はまた、もっと後でのインスリン療法の導入を想定することができ、これにより、患者の生活の質のかなりの向上がもたらされる(インスリン注射を遅らせるまたはさらには回避される)。
【0013】
好都合にも、このような有効成分は、2型糖尿病発症の重要な機序であるインスリン抵抗性を制限、あるいは回避することを可能とする。
【0014】
さらに、本発明による有効成分は、特に、脂肪細胞および血清トリグリセリドの発生を低減することにより、酸化ストレス、炎症、および脂質代謝に作用することができる。
【0015】
したがって、本発明は、特に、ヒトまたは動物の糖および/または脂質代謝の病理学的障害を予防および/または治療用の薬物または獣医学製品として使用するための、(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸およびメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートの組み合わせのみからなる医薬有効成分に関する。
【0016】
本発明はまた、上述と同じ使用のための、(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸およびメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートの組み合わせのみからなる有効成分を含む医薬組成物に関する。
【0017】
本発明は、以降で、以下に説明する添付図を参照して詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】マウスにおける2型糖尿病の発症の説明図である。
【
図2】ポイントIIで示された、5週間の治療後の食物摂取量に関連する試験の結果(平均値)であり、これらの結果は、表1の結果に対応する。
【
図3】6週間の治療後の空腹時血糖(平均値)に関連するポイントIIでの試験の結果であり、これらの結果は、表2の結果に対応する。
【
図4】6週間の治療後で相乗効果係数に関連する、ポイントIIで示された試験の結果である。
【
図5】セクションIIの、6週間の治療後の空腹時血中インスリンに関連する試験の結果(中央値)であり、これらの結果は、表3の結果に対応する。
【
図6】セクションIIの、6週間の治療後の空腹時血清トリグリセリドに関連する試験の結果(平均値)であり、これらの結果は、表4の結果に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明はまた、薬物または獣医学製品として使用するための、(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸およびメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートの組み合わせのみからなる医薬有効成分に関する。
【0020】
(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸は、次の化学式に対応する。
【0022】
これは、本出願で提供される実施例および試験では、「V63X35」と呼ばれることもある。
【0023】
メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートは、次の式に対応する。
【0025】
これは、本出願で提供される実施例および試験では、「V63X54」と呼ばれることもある。
【0026】
本発明による有効成分を構成するこれらの2種の分子は、天然の分子または化学的および/または生物工学的合成分子である。天然の分子は、80%〜100%の純度を有する植物性原料から抽出された分子を意味する。
【0027】
有効成分は、これらの2種の分子のみからなり、植物性原料から抽出時に生じ得る不純物を除き、他のものを含まない。
【0028】
好ましくは、メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートに対する(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸の重量比率は、1/40と1/1の間、さらにより好ましくは、1/1と1/10の間であるのが有利である。実際に、これらの比率は、糖および/または脂質代謝、特に、2型糖尿病との闘いにおいて障害の予防および/または治療のために最適な有効性を得ることを可能とする。
【0029】
本発明による有効成分は、経口摂取されるように乾燥形態であってよく、乾燥形態は、錠剤またはカプセルなどの固形製剤の作製を可能とする。本発明による有効成分はまた、経口的に、経腸的に、非経口的に、または皮下的に使用するために、液体形態であり得る。
【0030】
本発明による有効成分は、任意の好適な方法により得ることができる。これは、特に、単純に2種の分子を所望の比率で混合することにより得ることができる。本発明による有効成分を構成する分子は、2種の分子の化学的および/または生物工学的合成法で得るのが有利である。
【0031】
(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸の合成は、(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリレートと、(1S,3R,4S,5R)−1,3,4,5−テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸の化学的および/または酵素的カップリングにより達成できる。エステル化反応は、好ましくは、いわゆる特殊な媒体中で、リパーゼ型酵素触媒を用いて、実施できる。
【0032】
(メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートの合成は、4−(2−ヒドロキシエチル)−1,2−ベンゼンジオールと、前もってグルコシル化された、[(2S,3S,4S)−3−ホルミル−5−(メトキシカルボニル)−2−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−4−イル]酢酸の化学および/または酵素カップリングにより達成できる。エステル化反応およびグルコシル化は、好ましくは、いわゆる特殊な媒体中で、それぞれ、リパーゼおよびβ−D−グルコシダーゼの酵素触媒を用いて、実施できる。
【0033】
有利には、本発明による有効成分は、医薬組成物中で使用される。
【0034】
したがって、本発明はまた、薬物または獣医学製品として使用するための、少なくとも1種の上記の有効成分を含む医薬組成物にも関する。このような組成物は、有効成分のために選択される投与経路と形態に応じて、固形または液体の形態であり得る。
【0035】
本発明による有効成分は、好ましくは、最終組成物の乾燥分の0.05重量%(例えば、賦形剤を用いた圧縮形態)〜100重量%(担体を除く、例えば、カプセル中の組成物の100%に達する有効成分)である。
【0036】
最終組成物のパーセンテージとしての有効成分の湿重量は、使用する賦形剤の性質に依存する。
【0037】
組成物は、これが乾燥形態であるかまたは水でもどす乾燥形態である場合、本発明による有効成分に加えて、必要に応じ、例えば、限定されないが、ステアリン酸、コーンスターチ、微結晶セルロース、シトラール、クロスカルメロースナトリウム塩、クロスポビドン、黄色酸化鉄、ゼラチン、ゲラニオール、キサンタンガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、インジゴチン、マクロゴール400、マクロゴール8000、ステアリン酸マグネシウム、マルトデキストリン、オパドライクリアー(opadry clear)、ポビドンK30、プロピレングリコール、コロイド状無水シリカ、ナトリウムカルボキシメチルデンプン、安息香酸ナトリウム、二酸化チタンから選択される少なくとも1種のこの形態に適合する賦形剤を含み得る。
【0038】
組成物は、これが液体形態である場合、本発明による有効成分に加えて、必要に応じ、例えば、限定されないが、ベンジルアルコール、カルメロースナトリウム、塩化セチルピリジニウム、注射用蒸留水(WFI)、グリセロール、メタクレゾール、フェノール、リン酸一ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム十二水和物、プロピレングリコール、ポリソルベート80、大腸菌タンパク質、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化亜鉛から選択される少なくとも1種のこの形態に適合する賦形剤を含み得る。
【0039】
本発明による医薬有効成分および組成物は、特に、ヒトまたは動物の糖および/または脂質代謝の病理学的障害の予防および/または治療に使用され得る。
【0040】
本発明の意味における病理学的代謝障害は、代謝の病態を促進するおよび/または悪化させるおよび/またはその起源での何らかの障害を意味する。代謝異常状態は、多かれ少なかれ、起源、代謝標的または共通機序により関連付けられた多因子障害を集める病理学的環境を形成する。
【0041】
本発明の意味における糖代謝のアンバランスは、病態に繋がり得るおよび/または病態を促進させ得るおよび/または病態を悪化させ得る炭水化物の細胞代謝の何らかの障害を意味する。例えば、2型糖尿病は、特に、増加した肝臓グルコース産生を含む糖代謝のアンバランスに関連する。
【0042】
本発明の意味における脂質代謝のアンバランスは、病態に繋がり得るおよび/または病態に有利に働き得るおよび/または病態を悪化させ得る脂質の細胞代謝の変化を意味する。例えば、NAFLDは、特に、過剰の肝内脂肪蓄積を伴う脂質代謝アンバランスに関連する。
【0043】
本発明による有効成分および組成物は、下記から選択される少なくとも1つの疾患の予防および/または治療に特に効果的である:
−疾患発症中の増大した血糖に応答した十分なインスリン分泌を維持することによる、2型糖尿病;
−インスリン抵抗性、酸化ストレスおよび炎症に作用することによる、非アルコール性脂肪性肝疾患、特に、NAFLDおよびNASH;
−特に、血清トリグリセリドの低減による、脂質異常症;
−脂肪細胞の発生を低減することによる、肥満症;
−代謝症候群;
−心臓血管病態、特に、2型糖尿病および/またはNAFLDまたはNASHおよび/または脂質異常症および/または肥満症および/または代謝症候群の合併症から生じた心臓血管病態、特に、冠状動脈性心疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患および深部静脈血栓症から選択される病態。
【0044】
これらの効果に関し、本発明による有効成分を構成する2種の分子は、相乗的に作用する。
【0045】
ヒト、特に、2型糖尿病に罹患している患者に経口投与する場合、本発明による有効成分は、好ましくは、5〜5000mg/日、さらにより好ましくは100〜3000mg/日の量で投与される。腸内、非経口または腹腔内投与量は、好ましくは、少なくとも5倍少ない。
【0046】
イヌまたはネコ、特に、2型糖尿病に罹患しているイヌまたはネコに経口投与する場合、本発明による有効成分は、好ましくは、1〜5000mg/日、さらにより好ましくは10〜2000mg/日の量で投与される。腸内、非経口または腹腔内投与量は、好ましくは、少なくとも5倍少ない。
【0047】
好都合にも、本発明による有効成分および組成物は、血糖を減らす、2型糖尿病の発症中の血糖の増加に応答した十分なインスリン分泌を維持する、インスリン感受性を改善する、炎症および酸化ストレスを低減する、血清トリグリセリドを低減する、および脂肪細胞の有益な発生を調節することを可能とする。特に、本発明による有効成分のインスリン代謝に対する効果は、2型糖尿病の治療における基準薬物、メトホルミンの効果より大きい(
図5)。
【0048】
さらに、本発明による有効成分および組成物の経口摂取の実現可能性は、注射によってのみ投与可能な多くの抗糖尿病分子(例:デュラグルチド、リラグルチド、インスリングラルギン/リキシセナチドの組み合わせ)に対して、明確な利点である。
【0049】
本発明はここで、有効成分および組成物の実施例、ならびに、本発明の有効性を示す試験結果により例証されるが、これらの実施例および試験は限定を意図するものではない。
【0050】
I.実施例
実施例1:本発明による有効成分の実施例
実施例1の本発明による有効成分は、乾燥形態の(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸およびメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートの1/4.6の比率の組み合わせから構成される。
【0051】
(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸の合成は、(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリレートと、(1S,3R,4S,5R)−1,3,4,5−テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸のカップリングにより達成された。このエステル化反応は、好ましくは、2種の分子の化学的および/または生物工学的カップリング法により実施される。有利には、カップリングは、いわゆる特殊な媒体中で、酵素リパーゼ型触媒により達成される。20g/Lの濃度のカンジダアンタークティカのリパーゼBを用いて、2−メチルブタン−2−オール/n−ヘキサンの40/60(v/v)混合物中、55℃で、150mMの(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリレートと、150mMの1S,3R,4S,5R)−1,3,4,5−テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸とのカップリングを12時間にわたり触媒することが有利である。
【0052】
(メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートの合成は、4−(2−ヒドロキシエチル)−1,2−ベンゼンジオールと、前もってグルコシル化された[(2S,3S,4S)−3−ホルミル−5−(メトキシカルボニル)−2−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−4−イル]酢酸の化学的および/または酵素的カップリングにより達成された。エステル化反応およびグルコシル化は、いわゆる特殊な媒体中で、それぞれ、リパーゼおよびβ−D−グルコシダーゼの酵素触媒を用いて、実施された。
【0053】
20g/Lの濃度のカンジダアンタークティカのリパーゼBを用いて、2−メチルブタン−2−オール/n−ヘキサンの90/10(v/v)混合物中、55℃で、150mMの4−(2−ヒドロキシエチル)−1,2−ベンゼンジオールと、前もってグリコシル化した75mMの[(2S,3S,4S)−3−ホルミル−5−(メトキシカルボニル)−2−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−4−イル]酢酸とのカップリングを24時間にわたり触媒することが有利である。
【0054】
30U/mlの濃度の菌核病菌のグルコシダーゼを用いて、30/70(v/v)DMSO/アセトン混合物中、40℃で、50mMの[(2S,3S,4S)−3−ホルミル−5−(メトキシカルボニル)−2−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−4−イル]酢酸と、100mMのpNP−β−D−グルコピラノシドとのグルコシル化を10時間にわたり触媒することが有利である。
【0055】
実施例2:本発明による組成物の実施例
実施例2の本発明による組成物は、1日投与量として乾燥形態の100mgの(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸および460mgのメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートを含む。
【0056】
本発明による組成物は、1200mgの白色分割錠剤の形態である。これは、次の賦形剤:ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、ポビドンK30を含む。したがって、賦形剤は640mgである。本発明による有効成分は、錠剤の総重量の53.3%であり、賦形剤は46.7%である。錠剤は、当業者に既知の方法により作製される。
【0057】
実施例3:本発明による組成物の実施例
本発明による組成物は、1日投与量として液体形態の1mgの(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸および6mgのメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレートを含む。本発明による組成物は、賦形剤として:ベンジルアルコール、カルメロースナトリウム、塩化セチルピリジニウム、WFI、ポリソルベート80、塩化ナトリウムを有する注射可能形態である。注射可能溶液は、当業者に既知の方法により作製される。
【0058】
II.組成物の有効性のインビボ評価
マウスに対するインビボ実験を実施し、本発明による有効成分の、特に、空腹時血糖および空腹時血糖の慢性増加に応答したインスリン分泌能力に対する効果を実証した。組成物はまた、2型糖尿病の治療のために処方される主要な医薬分子の1つであるメトホルミンと比較した。
【0059】
実験は、ヒトの2型糖尿病を模擬するモデルであるdb/dbマウスで実施した(Roesler WJ et al.,Mol Cell Biochem 1990;92(2):99−106)。これらのマウスはインスリン抵抗性、高トリグリセリド血症、およびグルコース不耐性である。それらは、糖尿病前症、2型糖尿病およびその後のNASHを極めて急速に発症する。
【0060】
図1は、このモデルにおける血中インスリンおよび血糖(グルコース)の経時的放出を示す(Joost HG et al.,Animal Models in Diabetes Research,Humana Press)。ヒトと同様に、血糖の上昇は、最初は血中インスリンの増加に付随して起こり(インスリン抵抗性に関連する)、膵臓がまだインスリンを分泌できる証拠であるが、その後、減少し、膵臓の機能的劣化および、そのためにインスリン療法を必要とする2型糖尿病の進行を反映している(Kobayashi K et al.,Metabolism:Clinical and experimental 2000;49:22−31 Tao H et al Nat Med 2014;20(11):1263−1269)。
【0061】
試験の実験時間は、6週間であり、1週間の導入の後6週間の治療が続いた。雄マウスは、治療開始時6週齡であった。(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸単独、メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレート単独、およびこれらの2種の分子の1/4.65の比率の混合物を試験し、メトホルミンと比較した。これらの組成物をげっ歯類の食餌中に混合して、大規模使用を確実にした。注射、例えば、静脈内の注射の場合、それらの投与方法を考慮すると、小さい回数に限定される。
【0062】
体重と空腹時血糖で無作為化した後、動物を次の群に分けた:
・対照(n=15):対照(CONTROL);
・メトホルミン(n=12、食餌の0.2%):MET;
・(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸(n=12、食餌の0.026%):V63X35;
・メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレート(n=11、食餌の0.12%):V63X54;
・((1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸+メチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレート(n=11、それぞれ、餌の0.026%および0.12%):V63000。
【0063】
マウスには、自由に食物を摂取させ、水に対し自由にアクセスさせた。マウスはまた、個別のケージに配置した。異なる評価を行ったため、治療の終わり(6週目)を除いて、食物摂取量を毎週測定した。
【0064】
6週間の治療後の空腹時(6時間目)に実施した実験評価は、特に、下記に関係した:
・体重の測定;
・血糖の測定;
・血中インスリンの測定;
・血清トリグリセリドの測定。
【0065】
食物摂取量の測定結果を表1および
図2に示す。
【0067】
どの組成物も食物摂取量の変化を引き起こさなかったことに注意されたい。得られた結果は、したがって、食物摂取量に無関係である。Reagan−Show Sらの方法(FASEB J 2008;2(3):659−61)によると、げっ歯類により摂取された分子の組み合わせの等価ヒト投与量は、1日当たり、19.4mg/kg体重であった。
【0068】
血糖測定結果を、表2および
図3に示す。
【0070】
これらの結果は、(1S,3R,4R,5R)−3−{[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−2−プロペノイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸単独(V63X35群)およびメチル(2S,3E,4S)−4−{2−[2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エトキシ]−2−オキソエチル}−3−エチリデン−2−(β−D−グルコピラノシルオキシ)−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−5−カルボキシレート単独(V63X54群)では、6週間の治療後に、効果が認められなかったことを示す。2種の分子の組み合わせ(V63000)のみが、空腹時血糖の低下を引き起こした(−26.2%、ANOVA p<0.05、チューキーの多重比較検定:V63000対対照、p<0.05)。メトホルミンは、このパラメーターに対し効果がなかった(対照、481mg/dL対MET、454mg/dL、p=0.56)。
【0071】
空腹時血糖に対する相乗効果を、”Calculation of the synergistic and antagonistic responses of herbicide combinations” Weeds,1967,15:20−22に記載のColby SR法に従って評価した。係数>1は、相乗効果の存在を示す。係数<1は、拮抗物質の存在を示す。
【0072】
実施した計算は以下の通り:
予測効力比=V63X35+V63X54−(V63X35*V63X54/100)
相乗効果係数(FS)=(1*観察効力比(%、V63000))/予測効力比(%)
V63X35は、対照群と比較したV63X35治療群の血糖のパーセント変化を表す。
V63X54は、対照群と比較したV63X54群の血糖のパーセント変化を表す。
観察された効力比は、対照群と比較したV63000群の空腹時血糖の%変化を表す。
【0073】
図4に示す結果は、FS=3.58の組み合わせによる相乗効果を示す。
【0074】
結論として、V63000の組み合わせのみが、空腹時血糖に対し効果を示した。これは相乗効果であり、V63X35およびV63X54は、このパラメーターに対し効果を示さない。さらに、本発明による組成物の効果は、メトホルミンの効果より大きく、より低い投与量にも関わらずこの効果である(食餌の0.2%のMET対0.14%のV63000)。このモデルに対するメトホルミンの効果がないことは、Ohno Tらの研究(メトホルミン300mg/kg/日、PLoSONE 2015;10(4):e0124081)からも明らかなように、既に報告されている。実際に、メトホルミンは、動物では不十分なインスリン分泌であり、効果がないといわないまでも、効果が弱いように思われる(GLUCOPHAGE(登録商標)、メトホルミン、製品モノグラフ2009、Sanofi−Aventis,Canada)。換言すれば、メトホルミンは、特に、膵臓のインスリン分泌機能の障害を特徴とする2型糖尿病の進行状態では、効果がなくなると考えられる。
【0075】
空腹時インスリンの結果を表3および
図5に示す。この結果は、異なる群における6週間の治療後の空腹時血中インスリン中央値を示す。
【0077】
対照群より216%高いV63000群の中央値を除いて、全ての中央値は同じであることが明らかになった(対照、23.03ng/mL対ACHOLE、49.97ng/mL)。これらの結果はまた、分子の組み合わせの相乗効果も示したが、対照、V63X35およびV63X54群の中央値間では、差異が認められない。
【0078】
血糖の慢性的増加に応答した十分なインスリン分泌の維持は、2型糖尿病およびその合併症の治療にとって主要な医学上の課題である。V63000群の中央値の増加は、血糖の増加に応答したより良好なインスリンレベルを示している。
図1を参照すると、本発明による有効成分は、血中インスリンの放出曲線を右にシフトさせ、特に進行期の、2型糖尿病の治療または予防にとって、真の効力を実現する。これらの結果は、2型糖尿病の患者のインスリン療法を減らし、さらには、2型糖尿病の発生をも減らすという想定を可能とする。
【0079】
最後に、血中トリグリセリドに関し得られた結果を表4および
図6に示す。
【0081】
これらの結果は、メトホルミンおよび本発明による有効成分が血中トリグリセリドレベルを、それぞれ、35.6%および40.4%低減したことを示す。
【0082】
メトホルミンの血中トリグリセリドに対する効果は、従来から、この分子を組み込んだ薬物の種々の使用説明書に記載されている。本発明による有効成分はまた、脂質代謝に対し好ましい効果を有し、それにより、心臓血管のリスクに対し、総合的な作用を発揮することを可能にする。
【国際調査報告】