【実施例】
【0068】
全般的な事項
最適化された放射合成は、TRACERlab FX N Pro(GE)を使用して行う。
18Fは、PETtraceサイクロトロン(GE)を使用してフッ化水素酸(HF)として作製する。
18Fによる標識は、芳香族ニトロ基の求核置換により行った。合成経路は、反応スキームIに示すとおりである。
【0069】
以下の皮下移植動物モデルを使用してトレーサーの評価を行う。
【0070】
結腸直腸癌細胞株(HCT116)の異種移植モデルに、化学療法薬としてドキソルビシンを使用して老化誘導処置を行う。ドキソルビシン(10mg/kg)を静脈内(i.v.)投与することにより、HCT116異種移植腫瘍において老化を誘導する。5日後に、化合物9をマウスの尾静脈に投与して、動的PET/MRTスキャン(1時間)を行う。
【0071】
第2のモデルとして、トランスジェニック肝前駆細胞株(Hras)を同種移植片としてヌードマウスの皮下に移植した。この細胞株は、ドキシサイクリン(doxy)の存在下でHras
G12Vおよびp53shRNAを発現する。ドキシサイクリンを取り除くと、p53 mRNAが回復し、p53タンパク質が翻訳可能となる。大量のp53によって老化が誘導される。Hras腫瘍を有する動物に、ドキシサイクリン(0.2mg/ml)を加えた水を与えて腫瘍を発生させた。ドキシサイクリン含有水を取り除いてから14日後に、化合物9を使用してPET/MRTスキャンを行う。
【0072】
実施例1
反応スキームIによる化合物の合成を実施例1において開示する。
【0073】
化合物4の合成
(2R,3S,4S,5R,6S)−2−(アセトキシメチル)−6−((2−フルオロピリジン−3−イル)オキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン−3,4,5−トリイルトリアセテート(4)
2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトピラノシルブロミド(3)(1.0g、2.4mmol)、Ag
2CO
3(0.74g、2.7mmol)、モレキュラーシーブ(MS)4Å(5g)および2−フルオロピリジン−3−オール(5)(0.33g、2.9mmol)を含む無水DCM(15mL)溶液をアルゴン雰囲気下、暗所室温で一晩攪拌する。TLC分析により、出発物質である臭化物の完全な消費と新たな非極性生成物の形成が示された。セライトで溶液を濾過し、DCMでリンスした(3回×10mL)。減圧下で溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して、PE中のEtOAcの濃度勾配を上げながら粗残渣を直接精製する。生成物が無色の固体(0.51g、51%)として得られる。
【0074】
TLC: R
f = 0.5 (EtOAc: PE = 1: 1);
1H NMR (600 MHz, Chloroform-d) δ 7.94 (d, J = 4.6 Hz, 1H, ArH), 7.58 (t, J = 7.8 Hz, 1H, ArH), 7.13 (dd, J = 7.8, 4.8 Hz, 1H, ArH), 5.50 (dd, J = 10.5, 7.9 Hz, 1H), 5.45 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 5.10 (dd, J = 10.5, 3.4 Hz, 1H), 4.96 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 4.22 (dd, J = 11.4, 6.8 Hz, 1H), 4.15 (dd, J = 11.4, 6.3 Hz, 1H), 4.01 (td, J = 6.8, 1.1 Hz, 1H), 2.19 (s, 3H, OAc), 2.11 (s, 3H, OAc), 2.04 (s, 3H, OAc), 2.02 (s, 3H, OAc);
13C NMR (151 MHz, CDCl
3) δ 170.26 (CO
quart), 170.13 (CO
quart), 170.04 (CO
quart), 169.44 (CO
quart), 154.75 (d, J = 239.9 Hz), 141.59 (d, J = 13.4 Hz, ArC), 139.49 (d, J = 25.5 Hz, ArC), 130.22 (d, J = 3.5 Hz, ArC), 121.85 (d, J = 4.3 Hz, ArC), 121.23 (CH), 101.12 (CH), 71.38 (CH), 70.5 (CH), 68.29 (CH), 66.70 (CH), 61.17 (CH
2), 21.03 (OAc), 20.63 (OAc), 20.61 (OAc), 20.55 (OAc).
【0075】
化合物5の合成
(2S,3R,4S,5R,6R)−2−((2−フルオロピリジン−3−イル)オキシ)−6−(ヒドロキシルメチル)テトラヒドロ−2H−ピラン−3,4,5−トリオール(5)
化合物4(0.5g、1.1mmol)の無水メタノール(5mL)溶液にナトリウムメトキシド触媒を加える。アセチル化糖の完全な加水分解がTLC分析で確認されるまで、溶液を室温で攪拌する。酢酸(0.2mL)を加え、減圧下で溶媒を除去する。残った固体の純度は高く、メタノールから再結晶させると、高純度の結晶固体(225mg、73%)として化合物6が得られた。
【0076】
TLC: R
f = 0.25 (EtOAc: MeOH = 9: 1);
1H NMR (600 MHz, Deuterium Oxide) δ 7.79 (dd, J = 8.1, 5.0 Hz, 1H, ArH), 7.72 (t, J = 8.9, 8.1 Hz, 1H, ArH), 7.26 (dd, J = 8.0, 5.0 Hz, 1H, ArH), 5.06 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 3.95 (dd, J = 3.4, 1.8 Hz, 1H), 3.84 - 3.78 (m, 2H), 3.75 - 3.70 (m, 3H), 1.85 (dd, J = 2.3, 1.1 Hz, 1H);
13C NMR (151 MHz, Deuterium Oxide) δ 153.70 (d, J = 238.5 Hz, CF), 141.49, 139.72 (d, J = 23.9 Hz, ArC), 139.29 (d, J = 11.6 Hz, ArC), 128.11 (d, J = 3.7 Hz, ArC), 122.75 (d, J = 4.2 Hz, ArC), 101.24 (CH), 75.68 (CH), 72.41 (CH), 70.31 (CH), 68.36 (CH), 60.68 (CH
2); HRMS (ESI): [M + Na ]
+ (theor.) = 298,06974, measured = 298,06998
【0077】
化合物7の合成
(2R,3S,4S,5R,6S)−2−(アセトキシメチル)−6−((2−ニトロピリジン−3−イル)オキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン−3,4,5−トリイルトリアセテート(7)
2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトピラノシルブロミド(3)(1.0g、2.4mmol)、Ag
2CO
3(1.3g、4.8mmol)、モレキュラーシーブ(MS)4Å(5g)および2−ニトロピリジン−3−オール(6)(1.4g、9.7mmol)を含む無水DCM(10mL)溶液をアルゴン雰囲気下、暗所室温で一晩攪拌する。TLC分析により、出発物質である臭化物の完全な消費と新たな非極性生成物の形成が示される。セライトで溶液を濾過し、DCMでリンスする(3回×10mL)。減圧下で溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して、PE中のEtOAcの濃度勾配を上げながら粗残渣を直接精製する。生成物7が無色の固体(0.7g、63%)として得られる。
【0078】
TLC: R
f = 0.65 (EtOAc: PE = 4: 1);
1H NMR (600 MHz, Chloroform-d) δ 8.26 (dd, J = 4.6, 1.4 Hz, 1H, ArH), 7.82 (dd, J = 8.4, 1.4 Hz, 1H, ArH), 7.54 (dd, J = 8.4, 4.6 Hz, 1H, ArH), 5.51 (dd, J = 10.5, 7.9 Hz, 1H), 5.47 (dd, J = 3.4, 1.2 Hz, 1H), 5.10 (dd, J = 10.5, 3.4 Hz, 1H), 5.06 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 4.25 (dd, J = 11.4, 6.1 Hz, 1H), 4.16 (dd, J = 11.4, 6.1 Hz, 1H), 4.06 (ddd, J = 6.1, 6.1, 1.3 Hz, 1H), 2.19 (s, 3H, OAc), 2.14 (s, 3H, OAc), 2.06 (s, 3H, OAc), 2.01 (s, 3H, OAc);
13C NMR (151 MHz, CDCl
3) δ 170.21 (CO
quart), 170.04 (CO
quart), 170.01 (CO
quart), 169.32 (CO
quart), 150.42 (ArC
quart), 144.25 (ArC
quart), 142.91 (ArC), 129.86 (ArC), 128.29 (ArC), 100.94 (CH), 71.65 (CH), 70.31 (CH), 67.64 (CH), 66.58 (CH), 61.26 (CH
2), 20.62 (OAc), 20.60 (OAc), 20.56 (OAc), 20.51 (OAc); HRMS (ESI): [M + Na]
+ (theor.) = 493,10649 measured = 493,10686.
【0079】
化合物8および化合物9の合成
化合物7の放射性標識は、150℃のDMSO中で速やかに進行する。共沸乾燥させた[K.(2.2.2)]
+ 18F
−フッ化物錯体を使用して、
18F標識アセチル化中間体を生成させ、セミ分取HPLCで精製する。C
18-SPE用カートリッジに捕捉してトレーサーを濃縮し、NaOH(185μL、2.0M)で脱保護してトレーサー9を生成させ、10%エタノール水溶液(3mL)で溶出した。HCl(195μL、2.0M)、NaHCO
3(500μL、1.0M)および水(5mL)でトレーサーを適切に調製して、ほぼ等張のナトリウム濃度(0.1M)とし、生物学的忍容性のある最終pH(7.5)とした。トレーサーは、98%を超える放射化学的純度、18.6±2.5%の壊変補正収率(n=10)および18.8±3.5GBq・μmol
-1のモル比放射能(n=5)で生成される。
【0080】
実施例2
トレーサー9がβ−ガラクトシダーゼの基質であるかどうかを評価するため、市販のβ−ガラクトシダーゼ(シグマ)を含むpH5.5のクエン酸緩衝液中でトレーサー9を30℃で30分間インキュベートする。2倍量のアセトニトリルを加えて反応を停止させ、5分間遠心分離する。ラジオHPLCを使用して上清を直接分析する。前記反応の結果、非放射性2−フルオロピリジノールと同じ保持時間の放射性代謝産物が生成される。予想された放射性代謝産物を、信頼性のある非放射性標準物質と比較する(
図2)。具体的には、化合物10は放射性2−フルオロピリジノールであり(
図2a)、化合物9はトレーサー9であり(
図2b)、化合物1および化合物2は、反応スキームIにおけるその他の化合物である(
図2c)。化合物11はガラクトースである。
【0081】
トレーサー9の安定性を評価するため、マウス血清中でトレーサー9を37℃でインキュベートする。1時間後、2倍量のアセトニトリルを加え、混合物を5分間遠心分離する。ラジオHPLCを使用して上清を直接分析する。
図3から、未処理のトレーサー9(
図3b)と比較することによって、血清中で1時間経過後のトレーサー9の安定性(
図3a)を推定することができる。この実験から、微量の放射性代謝産物が生成されるものの、トレーサーはその大部分が無傷のまま完全に保持されていることが示されている。
【0082】
インビトロにおける化合物9の評価を
図4に示す。HCT116細胞(
図4a)およびHras細胞(
図4b)を100〜200μCiのトレーサーで処理し、50分間インキュベートする。ガンマカウンターで細胞を測定し、使用した細胞数に対して放射能を正規化する。いずれの細胞を使用した場合でも、老化細胞はコントロールよりも取り込み量が有意に多いことが示されている。
【0083】
実施例3
インビトロにおいて2種のモデルを使用して前記PETトレーサーを試験する。HCT116細胞にドキソルビシンを加えて一晩インキュベートし、通常条件で4日間培養することによって老化を誘導する。ドキシサイクリンで調節可能なp53特異的shRNAを有するHRas誘導型肝前駆細胞株の老化を誘導する。老化の誘導後、両方の細胞株に3.7〜7.4MBqのトレーサーを加えて50分間インキュベートする。次いで細胞を洗浄し、計数し、ガンマカウンターで測定する。細胞が取り込んだ放射能を分析し、細胞100万個に対して正規化する。
【0084】
HCT116細胞またはHRas誘導型肝前駆細胞を皮下移植したヌードマウスにおいてインビボ試験を行う。HCT116腫瘍を有するマウスは、ドキソルビシン(10mg/kg体重)で処置して、老化発症の4日後にイメージングを行う。Hras誘導性腫瘍を有するマウスには、ドキシサイクリンを加えた飲料水を与え、その後、ドキシサイクリンを含む飲料水を取り除いて老化を誘導する。老化の誘導後、トレーサーを静脈内投与し、PETスキャンを行う。PETデータを定量分析して%ID/ccと腫瘍/筋肉比(TMR)を求め、トレーサーを評価する。
【0085】
インビトロにおいて老化を誘導したHCT116細胞では、細胞100万個あたり11kBqの取り込みが示され、これに対して、非老化コントロール細胞での取り込み量は、細胞100万個あたりわずか4kBqである。HRas誘導型肝前駆細胞モデルの老化細胞では、細胞100万個あたり192kBqの取り込みが示され、非老化細胞(細胞100万個あたり63kBq)と比べて有意に増加している。
【0086】
インビボでの老化HCT116腫瘍におけるトレーサーの取り込み量は1.7±0.7%ID/cc(n=7)であり、これに対して、非老化HCT116腫瘍におけるトレーサーの取り込み量は1.1±0.4%ID/cc(n=5)である(
図5)。これに対応するTMR値はそれぞれ1.7および1.1である。特に、
図5では、トレーサー9の取り込み量が、コントロールHCT116腫瘍よりも老化HCT116腫瘍において高いことが示されている。また、老化腫瘍では、%ID/ccおよびTMRがいずれもコントロール腫瘍よりも高くなっている。さらに、摘出した腫瘍のエクスビボ分析を行う。オートラジオグラフィーでもこの結果が確認され、トレーサーの取り込み量が、コントロールよりも老化腫瘍切片において高いことが示されている。また、X-Gal染色を行ったところ、老化腫瘍の切片は、コントロール切片よりも強く染まった。
【0087】
HRas誘導性モデルでは(
図6)、老化腫瘍におけるトレーサーの取り込み量は、コントロール腫瘍よりも有意に増加しており(コントロール腫瘍0.9±0.3%ID/cc(n=11)に対して老化腫瘍1.5±0.3%ID/cc(n=16))、TMRでも類似の傾向が示され、コントロール腫瘍のTMRは1.2であるのに対して老化腫瘍のTMRは2.1である。
図6は、トレーサー9の取り込み量が、コントロールHRas腫瘍よりも老化HRas腫瘍で高いことを示す。老化腫瘍では、%ID/ccおよびTMRがいずれもコントロール腫瘍よりも高くなっている。また、摘出した腫瘍をエクスビボ分析する。オートラジオグラフィーでもこの結果が確認され、トレーサーの取り込み量が、コントロールよりも老化腫瘍切片において高いことが示されている。さらに、老化腫瘍切片は、X-Gal染色においてコントロール切片よりも強く染まることが示されている。非老化腫瘍はGFPを発現し、これは光学イメージングで可視化することができる。
【0088】
老化の誘導は、エクスビボにおけるKi67、カスパーゼ3、HP1γ、p53およびp16のβ-gal染色および免疫組織学的試験で確認する(
図7)。
図7は、HCT116誘導性腫瘍モデル(
図7a)およびHRas誘導性腫瘍モデル(
図7b)の免疫組織化学染色を示す。いずれのモデルに対しても免疫組織化学的分析を行うことにより、予想される老化マーカーHP1γおよびp53の増加について調べる。Hras誘導性腫瘍はki67の高発現も示す。いずれの腫瘍モデルにおいてもカスパーゼ3の存在量は少なかったことから、アポトーシスが腫瘍の状態に大きく寄与しているわけではないことが示唆され、老化の表現型が確認されている。