特表2020-510004(P2020-510004A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-510004老化のPETイメージング用放射性標識β−ガラクトシダーゼ基質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-510004(P2020-510004A)
(43)【公表日】2020年4月2日
(54)【発明の名称】老化のPETイメージング用放射性標識β−ガラクトシダーゼ基質
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/203 20060101AFI20200306BHJP
   C07H 17/02 20060101ALI20200306BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20200306BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200306BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20200306BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20200306BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20200306BHJP
【FI】
   C07H15/203CSP
   C07H17/02
   A61K31/7004
   A61P35/00
   A61K51/04 320
   G01N33/48 M
   G01T1/161 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-546037(P2019-546037)
(86)(22)【出願日】2018年2月22日
(85)【翻訳文提出日】2019年10月21日
(86)【国際出願番号】EP2018054356
(87)【国際公開番号】WO2018153966
(87)【国際公開日】20180830
(31)【優先権主張番号】102017103600.8
(32)【優先日】2017年2月22日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518022178
【氏名又は名称】エバーハルト カール ウニヴェルジテート テュービンゲン メディツィニーシェ ファクルテート
【氏名又は名称原語表記】EBERHARD KARLS UNIVERSITAET TUEBINGEN MEDIZINISCHE FAKULTAET
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】コットン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】キューン,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ピヒラー,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】シュルツェ−オストホフ,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】フックス,ケルスティン
(72)【発明者】
【氏名】クリューガー,マルセル アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ツェンダー,ラルス
【テーマコード(参考)】
2G045
4C057
4C085
4C086
4C188
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB01
2G045FB08
4C057AA18
4C057BB02
4C057CC01
4C057DD01
4C057JJ23
4C057KK01
4C085HH03
4C085JJ01
4C085KA29
4C085KB03
4C085KB05
4C085KB07
4C085KB15
4C085KB17
4C085KB18
4C085KB19
4C085KB20
4C085KB56
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA08
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C188EE02
4C188EE25
4C188FF07
4C188KK33
4C188KK35
(57)【要約】
本発明は、インビトロおよびインビボにおける細胞老化の可視化に有用な新規化合物、該化合物の調製ならびにその使用に関する。具体的には、本発明は、インビトロおよびインビボにおいて老化トレーサーとして有用な新規なヘキソース誘導体、特にガラクトース誘導体に関する。特定の一実施形態において、本発明の化合物は、Zが、検出可能な放射性標識、治療用放射性残基、検出可能な放射性標識に配位したキレート剤または治療用放射性残基に配位したキレート剤である式を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:G−S−L
(式中、Gは、
【化1】
(式中、Rは、H、置換または非置換のC〜Cアルキル、置換または非置換のC〜C10シクロアルキル、および置換または非置換のC〜C10ヘテロシクロアルキルから選択され、
*は、GとSの間の結合部位を示す)
であり、
Sは、
【化2】
(式中、Xは、H、ハロゲン、メチルハロゲン、OHおよびSHからなる群から独立して選択され、
Yは、C、S、NおよびOからなる群から独立して選択され、ただし、少なくとも3個の炭素原子が存在し、
#は、SとLの間の結合部位を示す)
からなる群から選択され、
Lは、
【化3】
(式中、R’は、CH、NH、SまたはOであり、
nは、0または1であり、
R’’は、置換または非置換のC〜Cアルキルであり、
Zは、検出可能な放射性標識、治療用放射性残基、検出可能な放射性標識に配位したキレート剤または治療用放射性残基に配位したキレート剤である)である)
で表される化合物またはその塩。
【請求項2】
Gが、
【化4】
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Rが、HまたはCHであり、
Xが、Hおよびメチルハロゲン化物から独立して選択され、
Yが、CおよびNから独立して選択され、ただし、少なくとも5個の炭素原子が存在し、
R’がNHであり、
nが1であり、
R’’が、2〜5個の炭素原子を有する鎖状エーテル類である、
先行する請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項4】
RがHであり、
Sが、
【化5】
からなる群から選択される、先行する請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
【化6】
である、先行する請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記検出可能な放射性標識が、11C、40K、13N、15O、18F、75Br、76Br、82Rb、68Ga、64Cu、62Cu、89Zr、123I、124I、125I、131I、210At、211Atおよび111Inからなる群から選択され、好ましくは11C、18F、68Ga、64Cuおよび124Iであり、より好ましくは18Fである、先行する請求項のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
前記治療用放射性残基が、32P、60Co、64Cu、89Sr、90Y、177Lu、186Reおよび153Smからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
外科手術において使用するための、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
医薬品として使用するための、請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
細胞老化を検出する方法において使用するための、請求項1〜7に記載の化合物。
【請求項11】
がん療法の効率を測定する方法において使用するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物に細胞を接触させることを含む、細胞老化を検出する方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物に細胞を接触させることを含む、がん療法の効率を測定する方法。
【請求項14】
インビボで実施される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
インビトロで実施される、請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロおよびインビボにおける細胞老化の可視化に有用な化合物、該化合物の調製ならびにその使用に関する。具体的には、本発明は、インビトロおよびインビボにおいて老化トレーサーとして有用な新規ヘキソース誘導体、特にガラクトース誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の老化は、細胞が増殖周期から外れた生物学的プロセスである。細胞の老化は、増殖が永久的に停止するまでに限られた回数しか継代できないと見られた線維芽細胞において最初に特性評価がなされた。この現象はヘイフリック限界と呼ばれ、老化の生理学的な過程を説明することができる。細胞老化では代謝経路に明らかな変化が見られる(Roninson, E.B., Tumor Cell Senescence in Cancer Treatment, Cancer Res., 2003, 63:2705-2715)。
【0003】
老化細胞は、老化に関連した分泌表現型を示し、これには炎症促進性サイトカインおよび成長因子が含まれる。特定の状況下では、患者から老化組織を取り除くことによって、大きなベネフィットを付与することができる。また、老化は、がん療法や治療抵抗性に重要な役割を果たすことが認識されている。治療法により老化を誘導することによって、安定した臨床的エンドポイントを設定することができ、したがって、化学療法の成功の基準となる場合がある。さらに、診断検査において老化細胞を検出することによって前腫瘍性病変を検出することが可能になると考えられる(Roninson, E.B., Tumor Cell Senescence in Cancer Treatment, Cancer Res., 2003, 63:2705-2715;およびCampisi, J. and d’Adda di Fagagna, F., Cellular Senescence: when bad things happen to good cells, Nature Reviews Molecular Cell Biology, 2007, 8:729-740)。
【0004】
老化細胞用のサロゲートマーカーとして最も広く用いられているものは、老化関連β−ガラクトシダーゼである(Roninson, E.B., Tumor Cell Senescence in Cancer Treatment, Cancer Res., 2003, 63:2705-2715)。しかしながら、このようなβ−ガラクトシダーゼ基質は、エクスビボおよびインビトロにおいてβ−ガラクトシダーゼの発現の追跡にしか使用できないという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、先行技術による化合物に関連した前記問題を解決しようとするものである。
【0006】
したがって、インビトロおよびインビボにおいて同時に使用してもよく、細胞老化のトレーサーとして作用可能な新規化合物が必要とされているが、このニーズは未だ満たされていない。また、細胞老化に関連した障害(たとえば、がん)の治療において、改良された方法の開発が必要とされている。また、本発明は、インビボにおいて老化細胞を選択的に排除するための新規方法を提供することを別の目的とする。さらに、本発明は、がん療法の効率を測定するための新たな手段を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、放射性標識されたヘキソース誘導体、好ましくは放射性標識されたガラクトシド誘導体、より好ましくは放射性標識されたβ−ガラクトシド誘導体が老化細胞において蓄積することから、これを使用してインビトロおよびインビボにおいて老化細胞を確実に標識し、検出することができるという知見に基づく。インビボにおいて老化細胞を検出できれば、外科手術または治療法において老化細胞へのアクセスを向上することができる。
【0008】
したがって、本発明は、
式:G−S−L
(式中、Gは、
【化1】
(式中、Rは、H、置換または非置換のC〜Cアルキル、置換または非置換のC〜C10シクロアルキル、および置換または非置換のC〜C10ヘテロシクロアルキルから選択され、
*は、GとSの間の結合部位を示す)
であり、
Sは、
【化2】
(式中、Xは、H、ハロゲン、メチルハロゲン、OHおよびSHからなる群から独立して選択され、
Yは、C、S、NおよびOからなる群から独立して選択され、ただし、少なくとも3個の炭素原子が存在し、
#は、SとLの間の結合部位を示す)
からなる群から選択され、
Lは、
【化3】
(式中、R’は、CH、NH、SまたはOであり、
nは、0または1であり、
R’’は、置換または非置換のC〜Cアルキルであり、
Zは、検出可能な放射性標識、治療用放射性残基、検出可能な放射性標識に配位したキレート剤または治療用放射性残基に配位したキレート剤である)である)
で表される化合物またはその塩を提供する。
【0009】
驚くべきことに、本発明の化合物は、老化細胞において選択的かつ高度に濃縮されることが分かった。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの分子量の大きな酵素や、分子量の大きい色素化合物の検出が利用されることが多い従来の非放射性標識と比べて、小さなサイズの検出可能な放射性標識を使用することによって、本発明の化合物が細胞およびβ−ガラクトシダーゼ結合部位に到達しやすくなったと推測される。さらに、放射性標識を使用することによって、従来の標識方法と比べて感受性が大幅に向上するという利点が得られる。これは、放射性標識から放出されるγ光子の組織透過性が高いことと、使用する放射線検出器の感度が非常に高いことに一部起因する。また、放射性標識を使用していることから、標識された化合物がインビボにおいて変換可能となり、この点からも非放射性標識よりも優れている。これらのことから、本発明の化合物を使用することによって、インビボで定量的、選択的かつ鋭敏に老化細胞(特に腫瘍)を検出することが可能となる。検出可能な放射性標識または治療用放射性残基を使用した本発明の化合物が老化細胞において高選択的に濃縮されることを利用して、老化関連疾患を診断または治療できると考えられる。
【0010】
別の利点として、非侵襲的な手法により腫瘍を治療可能であることが挙げられ、すなわち、治療用放射性残基を有する本発明の化合物を投与すると、この化合物はそのほとんどすべてが腫瘍組織に取り込まれることから腫瘍を治療することができる。本発明の化合物を使用することによる別の利点としては、本発明の化合物は、様々な種類の検出可能な放射性標識または治療用放射性残基を付加して容易に提供することができるため、臨床分野における様々な要望の変化に容易に対応できる点が挙げられる。
【0011】
本発明の化合物は、その構造に依存して、立体異性体(エナンチオマー、ジアステレオマー)の形態で存在していてもよい。したがって、本発明は、エナンチオマーまたはジアステレオマー、およびそれぞれの混合物も包含する。立体異性的に均一な成分は、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーの混合物から公知の方法で単離することができる。
【0012】
本発明の目的に好適な塩は、本発明の化合物の薬学的に許容される塩であることは言うまでもない。しかし、医薬用途には適していないが、たとえば本発明の化合物の単離や精製などに使用することが可能な塩も本発明に包含される。
【0013】
一般に、塩は、特定の数のカチオンとそれに応じた数のアニオンから構成されているため、電気的に中性である。特定の塩の調製方法において、この塩に対応する対イオンが使用され、このような対イオンに関してはここで明確に述べる必要は特にないと認められる。
【0014】
薬学的に許容される塩およびその調製は、当技術分野でよく知られている。このような薬学的に許容される塩の種類およびその調製は、Stahl, P.H. and Wermuth, C.G., Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use, Weinheim/Zurich: Wiley-VCH/VHCA, 2002に記載されているものであってもよい。
【0015】
本発明の化合物の薬学的に許容される塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機物の塩;有機物の塩;または塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。さらに、無機酸との塩または酸性アミノ酸との塩も挙げられる。薬学的に許容される好ましい塩も包含される。
【0016】
本発明の化合物およびその塩は、溶媒和物の形態で存在していてもよいと認められる。このような場合、本発明の化合物またはその塩(特に薬学的に許容される塩)は、溶媒分子が配位して錯体を形成した固体または液体の状態を形成している。水和物とは、水が配位した特定の形態の溶媒和物である。
【0017】
本発明の化合物が互変異性体の形態で生成される場合、本発明はあらゆる互変異性体を包含する。
【0018】
「C〜Cアルキル」は、通常、分岐状または直鎖状のアルキルを指し、(C〜C)アルキルであることが好ましく、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチルなどが挙げられる。
【0019】
「C〜C10シクロアルキル」は、通常、炭素原子および水素原子を含む飽和または部分不飽和の単環または多環を指す。
【0020】
「C〜C10ヘテロシクロアルキル」は、炭素原子および水素原子と、少なくとも1個のヘテロ原子、好ましくは窒素、酸素および硫黄から選択される1〜4個のヘテロ原子とを含む非芳香族の単環または多環を意味する。ヘテロシクロアルキル基は、その環に1つ以上の炭素−炭素二重結合または炭素−ヘテロ原子二重結合を有していてもよいが、ただし、これらの二重結合の存在によって該環が芳香族に変化しない場合に限られる。ヘテロシクロアルキル基としては、アジリジニル、ピロリジニル、ピロリジノ、ピペリジニル、ピペリジノ、ピペラジニル、ピペラジノ、モルホリニル、モルホリノ、チオモルホリニル、チオモルホリノ、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフラニル、テトラヒドロピラニルおよびピラニルが挙げられる。ヘテロシクロアルキル基は、2〜6個の炭素原子と1〜3個のヘテロ原子を含む単環式または二環式の環であることが好ましく、単環であることがより好ましい。ヘテロシクロアルキル残基の分子量は200g/mol以下、たとえば150g/mol以下、120g/mol以下または100g/mol以下であることがより好ましい。
【0021】
本明細書において「置換」とは、1つ以上の残基がC〜Cアルキル、C〜C10シクロアルキルもしくはC〜C10ヘテロシクロアルキルに結合すること、および/または1個以上のヘテロ原子(たとえばN、SまたはO)の導入によりこれらの炭素鎖が修飾されることを指す。さらに、結合または導入される残基は、ハロゲン、メチル、エチルまたは官能基(たとえばヒドロキシル基、アミノ基またはカルボキシル基)からなる群から選択してもよい。特定のC〜Cアルキル、C〜C10シクロアルキルまたはC〜C10ヘテロシクロアルキルに結合した残基の総分子量は、250g/mol以下であることが好ましく、150g/mol以下または100g/mol以下であることがより好ましい。C〜Cアルキル残基の置換基として好ましいものとしては、CH−O−CH、C−O−CH、CH−O−CH−O−CH、CH−O−CH−O−CH、C−O−CH−O−CH、CH−O−C−O−CH、C−O−C−O−CH、C−O−CH−O−C、CH−O−CH−O−CH−O−CH、C−O−CH−O−CH−O−CH、CH−O−C−O−CH−O−CHなどの化合物が挙げられる。
【0022】
「ハロゲン」または「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を指し、フッ素、塩素または臭素であることが好ましい。いくつかの実施形態において、「ハロゲン」または「ハロ」は、76Br、75Br、19Fおよび18Fを指すことが好ましい。
【0023】
「メチルハロゲン」は、1個のフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を有するメチル基、またはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素から独立して選択される2個もしくは3個のハロゲンを有するメチル基を指す。いくつかの実施形態において、メチルハロゲンは、76Br、75Br、19Fまたは18Fを有することが好ましい。
【0024】
「検出可能な放射性標識」は、たとえば、11C、40K、13N、15O、18F、75Br、76Br、82Rb、68Ga、64Cu、62Cu、123I、124I、125I、131I、210At、211Atおよび111Inを包含する。検出可能な放射性標識としては、11C、18F、68Ga、64Cuおよび124Iが好ましい。より好ましくは18Fである。検出可能な放射性標識は、特にインビボにおいて、老化細胞の定量的評価および/または定性的評価ならびに老化細胞の局在の同定を可能とする。これによって、老化組織の正確な同定が可能となると考えられ、たとえば、老化組織を高い選択性で外科的に除去することができると考えられる。
【0025】
あるいは、前記原子に配位した錯体が包含される。この場合、この錯体を、検出可能な放射性標識に配位したキレート剤と呼んでもよい。(配位)錯体は、原子またはイオン(通常、金属原子または金属イオン)を中心とし、その周囲に配位子または錯化剤が配置されたものである。中心の原子またはイオンは、通常、検出可能な放射性標識である。したがって、Z残基は、中心の原子またはイオン、およびその周囲に配置される配位子または錯化剤を包含する。このような検出可能な放射性標識に配位したキレート剤の具体例は当業者によく知られている。このようなキレート剤はアミノ酸であることが好ましく、タンパク質を構成するアミノ酸/天然のアミノ酸(たとえばヒスチジン)であることが好ましい。好適なキレート剤のその他の例としては、DOTA、NOTA、NODAGAおよびデスフェリオキサミン(たとえばデスフェリオキサミンB)が挙げられる。
【0026】
本明細書において「治療用放射性残基」は、32P、60Co、89Sr、186Re、153Smなどの原子を指す。治療用放射性残基のその他の例としては、検出可能な放射性標識の例として前述した125Iおよび131Iが挙げられ、他にも、86Y、111In、177Luおよび67Cuが挙げられる。あるいは、このような原子に配位した錯体が包含される。この場合、この錯体を、治療用放射性残基に配位したキレート剤と呼んでもよい。細胞の老化に伴う障害(特にがん)の治療において、治療用残基を有する本発明の化合物を使用することにより、本発明の化合物の標的選択性という利点と、化学療法のような全身性の効果とを組み合わせることができ、治癒または疾患の制御および緩和を目的とした治療戦略の一環として利用することができる。
【0027】
治療用放射性残基をそれぞれ作製し、検出可能な放射性標識と同様にして本発明の化合物に結合してもよいと認められる。治療用残基と検出可能な標識は同一のものであることが好ましく、これによって、細胞の老化に伴う障害(特にがん)の診断と治療が可能となる。
【0028】
前記式において、Gで示される基の*を付した結合手の末端は、炭素原子やCH基ではなく、Gが結合する原子への結合を構成する部分である。
【0029】
最も広い形態において、以下の式:
【化4】
を有するG基は、ヘキソース誘導体と呼んでもよく、これには、それぞれR残基を有するアロース誘導体、アルトロース誘導体、グルコース誘導体、マンノース誘導体、グロース誘導体、イドース誘導体、ガラクトース誘導体またはタロース誘導体が含まれる。ヘキソース誘導体はD異性体であることが好ましい。ヘキソース誘導体はβ−D−ガラクトピラノシドであることが最も好ましい。
【0030】
前述したように、Rは、H、置換または非置換のC〜Cアルキル、置換または非置換のC〜C10シクロアルキル、および置換または非置換のC〜C10ヘテロシクロアルキルから選択される。Rが、置換または非置換のC〜Cアルキル、好ましくは非置換のC〜Cアルキル、より好ましくはメチルである場合、酵素による切断が妨害されることから、本発明の化合物の保持時間は、RがHである場合と比べて延長すると予想されてもよい。したがって、この化合物は、より高濃度で老化細胞内に局在する可能性があると考えられる。
【0031】
前記式において、Sで示される基の*または#を付した結合手の末端は、炭素原子やCH基ではなく、Sが結合する原子への結合を構成する部分である。
【0032】
前記式において、Lで示される基の#を付した結合手の末端は、炭素原子やCH基ではなく、Lが結合する原子への結合を構成する部分である。L残基はZであってもよく、ここで、Zは、検出可能な放射性標識、治療用放射性残基、検出可能な放射性標識に配位したキレート剤または治療用放射性残基に配位したキレート剤である。この場合、ZはSに直接結合している。あるいは、Z残基はスペーサーを介してSに結合されている。この場合、スペーサーは式:
【化5】
を有する。
【0033】
本発明において、「有する/含む」または「有している/含んでいる」という用語は、オープンエンドな用語であり、明確に記載された要素以外のその他の要素を排除するものではない。
【0034】
本発明において、「からなる」または「からなっている」という用語はクローズドエンドな用語であり、明確に記載された要素以外のその他の要素を排除するものである。
【0035】
本発明において、「実質的に〜からなる」または「実質的に〜からなっている」という用語は、部分的にクローズドエンドな用語であり、記載された成分以外にも、本発明による調製物の特性を大きく変化させない範囲でさらなる成分を有する調製物を指す。
【0036】
本発明において、「有する」または「有している」という用語を使用して調製物が説明されている場合、前記成分からなる調製物、または実質的に前記成分からなる調製物が明確に含まれている。
【0037】
本明細書において、放射線医療とは、本発明のZ残基、すなわち検出可能な放射性標識、治療用放射性残基、検出可能な放射性標識に配位したキレート剤または治療用放射性残基に配位したキレート剤を検出して視覚信号または画像を作製することができるあらゆる種類の機器または装置を指す。前記装置は、哺乳動物の体内のZ残基の局在を同定できるものであることが好ましい。放射線医療の具体例としては、体内の機能プロセスの三次元画像または三次元マップを作製することができる陽電子放射断層撮影法(PET)が挙げられるが、これに限定されない。このシステムは、代謝活性分子(すなわちβ−ガラクトシダーゼの基質)に結合させて体内に導入された、陽電子を放出する放射性同位体から間接的に放出されたガンマ線ペアを検出する。次に、コンピュータ分析によって、代謝活性の空間的位置が画像として再構築され、この画像を、1回の同じ検査で、好ましくは同時に同じ装置で患者に実施されたCT X線スキャンで補うことにより、プロドラッグが濃縮された組織の局在を同定することが可能な三次元画像を得てもよい。陽電子放射において、陽子は、弱い力により、中性子、陽電子およびニュートリノに変換される。いわゆるこのβ崩壊を経た同位体は、陽電子を放出する。この目的に適した陽電子放出核種としては、11C、40K、13N、15O、18F、75Br、76Br、89Zr、82Rb、68Ga、62Cuおよび64Cuが挙げられ、この中でも11Cおよび18Fが好ましい。その他の有用な放射性核種としては、123I、124I、125I、131I、210At、211Atおよび111Inが挙げられる。また、本発明の化合物は、公知のキレート錯体を使用して、テクネチウム同位体およびレニウム同位体で標識してもよい。放射性核種を作製する方法および化合物を放射性標識する方法は、当業者によく知られている。米国特許公開第2007/0273308号明細書およびWO2007/122488は、たとえば、放射性核種の作製に関する。放射性標識は、たとえばWO2007/148089およびWO2007/148083に概説されている。
【0038】
PETは、コンピュータ断層撮影装置(CT)と接続されていることが好ましい。このようなPET/CT装置は、シグナルの定量的な検出を可能とし、検出されたシグナルを特定の組織に帰属させること、すなわち、使用された放射性核種、つまりこれに結合したプロドラッグの局在を同定することができる。PET/CTの機能およびその手技ならびにその装置は、当業者によく知られている。その他の適切な手法としては、シングルフォトンエミッションコンピュータ断層撮影法(SPECT)、および原子核の量子力学的な磁気特性を検出する核磁気共鳴(NMR)に基づいた手法が挙げられる。
【0039】
使用される放射線医療機器としては、PET装置が好ましく、PET/CT装置またはPET/MR装置がより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】放射性標識されたヘキソース基質の機能性について説明するモチーフを示す。
図2】市販のβ−ガラクトシダーゼの基質としてのトレーサー9を示す。
図3】インビボ条件下でのトレーサー9の安定性を示す。
図4】HCT116細胞およびHras細胞におけるインビトロでのトレーサーの検証を示す。
図5】老化HCT116腫瘍とコントロールHCT116腫瘍におけるトレーサー9の取り込み量の比較を示す。
図6】老化Hras腫瘍とコントロールHras腫瘍におけるトレーサー9の取り込み量の比較を示す。
図7】(a)HCT116誘導性腫瘍モデルおよび(b)HRas誘導性腫瘍モデルの免疫組織化学染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の好ましい一実施形態によれば、Gは、
【化6】
である。Rは前述のとおりである。RはHであることが好ましく、この場合、Gは、β−D−ガラクトース残基、特にβ−D−ガラクトピラノシドであると定義され、これはβ−ガラクトシダーゼによって切断される糖部分として最も好適である。
【0042】
本発明の別の好ましい一実施形態によれば、RはHまたはCHであり、Xは、Hおよびメチルハロゲン化物から独立して選択され、Yは、CおよびNから独立して選択され、ただし、少なくとも5個の炭素原子が存在し、R’はNHであり、nは1であり、R’’は、2〜5個の炭素原子を有する鎖状エーテル類である。
【0043】
本発明のさらに別の好ましい一実施形態によれば、RはHであり、Sは、
【化7】
からなる群から選択される。
この化合物において、Lは、前述のように、
【化8】
であってもよい。
Lが、
【化9】
である場合、R’’は、CH−O−CH、C−O−CH、CH−O−CH−O−CH、CH−O−CH−O−CH、C−O−CH−O−CH、CH−O−C−O−CH、C−O−C−O−CH、C−O−CH−O−C、CH−O−CH−O−CH−O−CH、C−O−CH−O−CH−O−CH、およびCH−O−C−O−CH−O−CHからなる群から選択されることが好ましい。R’はCH、NHまたはOであり、好ましくはNHである。Zは18Fであることがさらに好ましい。R’がCHである場合、nが0であり、かつR’’が非置換のC〜Cアルキルであることが好ましい。Zは18Fであることがより好ましい。
Lが、
【化10】
である場合、Zは18Fであることが好ましい。
【0044】
本発明の特定の好ましい化合物において、RはHであり、Sは、
【化11】
からなる群から選択される。
この化合物において、Gは、
【化12】
であり、式中、RはHである。
Lは、
【化13】
である。Zは18Fであることがより好ましい。
【0045】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記化合物は、
【化14】
である。スペーサー分子を使用した上記の2番目の構造は、123I、124I、125I、131I、210At、211At、111Inなどの比較的大きな放射性標識および89Sr、186Re、153Smなどの比較的大きな治療用放射性残基に特に適している。ここでも、Zは18Fであることが好ましい。
【0046】
本発明の別の好ましい一実施形態によれば、前記検出可能な放射性標識は、11C、40K、13N、15O、18F、75Br、76Br、82Rb、68Ga、64Cu、62Cu、89Zr、123I、124I、125I、131I、210At、211Atおよび111Inからなる群から選択され、好ましくは11C、18F、68Ga、64Cuおよび124Iであり、より好ましくは18Fである。
【0047】
本発明のさらに別の好ましい一実施形態によれば、前記治療用放射性残基は、32P、60Co、64Cu、89Sr、90Y、177Lu、186Reおよび153Smからなる群から選択される。
【0048】
本発明の好ましい一実施形態によれば、本発明の化合物は外科手術において使用するためのものである。本発明の化合物は、少なくとも1種の不活性かつ無毒な薬学的に適切な添加剤と組み合わせて使用することが好ましい。
【0049】
本発明の好ましい一実施形態によれば、本発明の化合物は医薬品として使用するためのものである。本発明の化合物は、少なくとも1種の不活性かつ無毒な薬学的に適切な添加剤と組み合わせて使用することが好ましい。
【0050】
本発明の別の好ましい一実施形態によれば、本発明の化合物は、細胞老化を検出する方法において使用するためのものである。
【0051】
本発明の別の好ましい一実施形態によれば、本発明の化合物は、がん療法の効率を測定する方法において使用するためのものである。
【0052】
本発明の化合物を使用して診断および/または治療が行われるがんは、前立腺癌、結腸直腸癌、乳癌、肺腫瘍、男性または女性の泌尿生殖器系腫瘍、悪性黒色腫、咽頭頸部腫瘍/頸部腫瘍、悪性リンパ腫、造血器腫瘍および筋骨格腫瘍から選択してもよい。
【0053】
本発明のさらに別の好ましい一実施形態によれば、細胞老化を検出する前記方法は、本発明の化合物に細胞を接触させることを含む。
【0054】
本発明のさらに別の好ましい一実施形態によれば、がん療法の効率を測定する前記方法は、本発明の化合物に細胞を接触させることを含む。
【0055】
本発明のさらに別の好ましい一実施形態によれば、前記方法はインビボで実施される。
【0056】
本発明のさらに別の好ましい一実施形態によれば、前記方法はインビトロで実施される。
【0057】
前記の方法は、インビボでもインビトロでも実施することができ、インビボで実施する場合の具体例として、たとえば、ヒト患者におけるがん療法の効率のモニタリングが挙げられ、インビトロで実施する場合の具体例として、新たな医薬品のスクリーニングが挙げられる。
【0058】
本発明の化合物は、非経口投与することが好ましい。
【0059】
非経口投与経路において、本発明の化合物は適切な投与形態で投与してもよい。非経口投与は、吸収過程を伴わない方法(たとえば、静脈内投与、動脈内投与、心臓内投与、脊髄内投与もしくは腰内投与)で行うことができ、または吸収過程を伴う方法(たとえば、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経皮投与もしくは腹腔内投与)で行うことができる。非経口投与に適した投与形態としては、特に、溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥品または滅菌散剤の形態の、注射用製剤および点滴用製剤が挙げられる。
【0060】
本発明の化合物は、前記投与形態に製剤化してもよい。この製剤化は、自体公知の方法により、不活性かつ無毒な薬学的に許容される添加剤と混合することによって行うことができる。このような添加剤としては、特に、担体(たとえば微結晶セルロース、ラクトース、マンニトール)、溶媒(たとえば液状ポリエチレングリコール)、乳化剤および分散剤または湿潤剤(たとえばドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシソルビタンオレイン酸エステル)、結合剤(たとえばポリビニルピロリドン)、合成ポリマーおよび天然ポリマー(たとえばアルブミン)、安定化剤(たとえば酸化防止剤、たとえばアスコルビン酸)着色剤(たとえば無機顔料、たとえば酸化鉄)ならびに矯味剤および/または矯臭剤が挙げられる。
【0061】
本発明の基礎をなす原理の概要を図1に示す。放射性標識されたグリコシダーゼ基質、すなわち本発明の化合物は、グリコシダーゼ(具体的にはβ−ガラクトシダーゼ)によって、対応する糖と放射性標識アルコールに変換される。本発明の化合物は、W残基を有し、ヘキソース誘導体、たとえばガラクトース誘導体、好ましくはβ−D−ガラクトースを形成する部分として示されている。グリコシダーゼ(具体的にはβ−ガラクトシダーゼ)は、老化細胞において過剰発現され、蓄積される。一方、放射性標識アルコールは、酸性リソソームに蓄積され、PET/CT装置などの放射線医療機器によって検出してもよい。
【0062】
本発明の化合物は、通常、反応スキームIに示す経路で調製してもよい。
【化15】
【0063】
反応スキームIの上段は、化合物5の生成を示す。化合物5は放射性標識を有しておらず、すなわち、Fは19Fである。反応Iは、HBFおよびNaNOを使用して0℃で行われる。化合物2の収率は63w/w%である。反応IIは、AgCOを使用して0℃で行われる。化合物4の収率は、40〜60w/w%である。反応IIIは、NaOMeおよびMeOHを使用して20〜25℃で行われ、次いで、アンバーライトIR120の存在下で反応IVが行われる。
【0064】
反応スキームIの下段は、本発明の化合物である化合物9(トレーサー9)の生成を示す。反応IIは、AgCOを使用して0℃で行われる。反応VIは、AgCOを使用して0℃で行われる。反応Vは、18およびDMSOを使用して150℃で5分間行われる。反応VIは、NaOMe/MeOHまたはMeOHとEtNとHO(10:1:1)を使用して行われる。
【0065】
本発明の化合物は、予想されなかった有益な薬理学的効果を示す。本発明の化合物は、インビトロおよびインビボにおいて老化細胞を標識することができる。具体的には、インビボにおいて本発明の化合物により老化細胞を標識することによって、外科的処置を行う際に老化細胞を明確に同定することができることから、老化細胞(特にがん細胞)を標的として排除することが可能となる。
【0066】
前述の記載は例示のみを目的としたものであり、これらに限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、前述の記載を精査することによって、数多くの実施形態を容易に実施できるであろう。たとえば、本発明は、トレーサー9の合成およびこれを使用した診断について主に述べている。あらゆる種類の適切な検出標識および治療用残基を合成してもよく、これらを本発明の化合物に結合させてもよいことは言うまでもない。したがって、本発明の範囲は前述の記載によって定義されるものではなく、添付の請求項および請求の範囲と同等の範囲全体によって定義されるべきものである。
【0067】
別段の記載がない限り、以下の試験および実施例において、パーセンテージで示されるデータは重量パーセントで示され、部は重量部で示される。溶媒の比率、希釈率および液体/溶液の濃度は、いずれも体積に基づくものである。「w/v」という記載は「重量/体積」を意味する。したがって、たとえば、「10w/v%」は、100mlの溶液中または懸濁液中に10gの物質を含んでいることを意味する。
【実施例】
【0068】
全般的な事項
最適化された放射合成は、TRACERlab FX N Pro(GE)を使用して行う。18Fは、PETtraceサイクロトロン(GE)を使用してフッ化水素酸(HF)として作製する。18Fによる標識は、芳香族ニトロ基の求核置換により行った。合成経路は、反応スキームIに示すとおりである。
【0069】
以下の皮下移植動物モデルを使用してトレーサーの評価を行う。
【0070】
結腸直腸癌細胞株(HCT116)の異種移植モデルに、化学療法薬としてドキソルビシンを使用して老化誘導処置を行う。ドキソルビシン(10mg/kg)を静脈内(i.v.)投与することにより、HCT116異種移植腫瘍において老化を誘導する。5日後に、化合物9をマウスの尾静脈に投与して、動的PET/MRTスキャン(1時間)を行う。
【0071】
第2のモデルとして、トランスジェニック肝前駆細胞株(Hras)を同種移植片としてヌードマウスの皮下に移植した。この細胞株は、ドキシサイクリン(doxy)の存在下でHrasG12Vおよびp53shRNAを発現する。ドキシサイクリンを取り除くと、p53 mRNAが回復し、p53タンパク質が翻訳可能となる。大量のp53によって老化が誘導される。Hras腫瘍を有する動物に、ドキシサイクリン(0.2mg/ml)を加えた水を与えて腫瘍を発生させた。ドキシサイクリン含有水を取り除いてから14日後に、化合物9を使用してPET/MRTスキャンを行う。
【0072】
実施例1
反応スキームIによる化合物の合成を実施例1において開示する。
【0073】
化合物4の合成
(2R,3S,4S,5R,6S)−2−(アセトキシメチル)−6−((2−フルオロピリジン−3−イル)オキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン−3,4,5−トリイルトリアセテート(4)
2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトピラノシルブロミド(3)(1.0g、2.4mmol)、Ag2CO3(0.74g、2.7mmol)、モレキュラーシーブ(MS)4Å(5g)および2−フルオロピリジン−3−オール(5)(0.33g、2.9mmol)を含む無水DCM(15mL)溶液をアルゴン雰囲気下、暗所室温で一晩攪拌する。TLC分析により、出発物質である臭化物の完全な消費と新たな非極性生成物の形成が示された。セライトで溶液を濾過し、DCMでリンスした(3回×10mL)。減圧下で溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して、PE中のEtOAcの濃度勾配を上げながら粗残渣を直接精製する。生成物が無色の固体(0.51g、51%)として得られる。
【0074】
TLC: Rf = 0.5 (EtOAc: PE = 1: 1); 1H NMR (600 MHz, Chloroform-d) δ 7.94 (d, J = 4.6 Hz, 1H, ArH), 7.58 (t, J = 7.8 Hz, 1H, ArH), 7.13 (dd, J = 7.8, 4.8 Hz, 1H, ArH), 5.50 (dd, J = 10.5, 7.9 Hz, 1H), 5.45 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 5.10 (dd, J = 10.5, 3.4 Hz, 1H), 4.96 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 4.22 (dd, J = 11.4, 6.8 Hz, 1H), 4.15 (dd, J = 11.4, 6.3 Hz, 1H), 4.01 (td, J = 6.8, 1.1 Hz, 1H), 2.19 (s, 3H, OAc), 2.11 (s, 3H, OAc), 2.04 (s, 3H, OAc), 2.02 (s, 3H, OAc); 13C NMR (151 MHz, CDCl3) δ 170.26 (COquart), 170.13 (COquart), 170.04 (COquart), 169.44 (COquart), 154.75 (d, J = 239.9 Hz), 141.59 (d, J = 13.4 Hz, ArC), 139.49 (d, J = 25.5 Hz, ArC), 130.22 (d, J = 3.5 Hz, ArC), 121.85 (d, J = 4.3 Hz, ArC), 121.23 (CH), 101.12 (CH), 71.38 (CH), 70.5 (CH), 68.29 (CH), 66.70 (CH), 61.17 (CH2), 21.03 (OAc), 20.63 (OAc), 20.61 (OAc), 20.55 (OAc).
【0075】
化合物5の合成
(2S,3R,4S,5R,6R)−2−((2−フルオロピリジン−3−イル)オキシ)−6−(ヒドロキシルメチル)テトラヒドロ−2H−ピラン−3,4,5−トリオール(5)
化合物4(0.5g、1.1mmol)の無水メタノール(5mL)溶液にナトリウムメトキシド触媒を加える。アセチル化糖の完全な加水分解がTLC分析で確認されるまで、溶液を室温で攪拌する。酢酸(0.2mL)を加え、減圧下で溶媒を除去する。残った固体の純度は高く、メタノールから再結晶させると、高純度の結晶固体(225mg、73%)として化合物6が得られた。
【0076】
TLC: Rf = 0.25 (EtOAc: MeOH = 9: 1); 1H NMR (600 MHz, Deuterium Oxide) δ 7.79 (dd, J = 8.1, 5.0 Hz, 1H, ArH), 7.72 (t, J = 8.9, 8.1 Hz, 1H, ArH), 7.26 (dd, J = 8.0, 5.0 Hz, 1H, ArH), 5.06 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 3.95 (dd, J = 3.4, 1.8 Hz, 1H), 3.84 - 3.78 (m, 2H), 3.75 - 3.70 (m, 3H), 1.85 (dd, J = 2.3, 1.1 Hz, 1H); 13C NMR (151 MHz, Deuterium Oxide) δ 153.70 (d, J = 238.5 Hz, CF), 141.49, 139.72 (d, J = 23.9 Hz, ArC), 139.29 (d, J = 11.6 Hz, ArC), 128.11 (d, J = 3.7 Hz, ArC), 122.75 (d, J = 4.2 Hz, ArC), 101.24 (CH), 75.68 (CH), 72.41 (CH), 70.31 (CH), 68.36 (CH), 60.68 (CH2); HRMS (ESI): [M + Na ]+ (theor.) = 298,06974, measured = 298,06998
【0077】
化合物7の合成
(2R,3S,4S,5R,6S)−2−(アセトキシメチル)−6−((2−ニトロピリジン−3−イル)オキシ)テトラヒドロ−2H−ピラン−3,4,5−トリイルトリアセテート(7)
2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−α−D−ガラクトピラノシルブロミド(3)(1.0g、2.4mmol)、Ag2CO3(1.3g、4.8mmol)、モレキュラーシーブ(MS)4Å(5g)および2−ニトロピリジン−3−オール(6)(1.4g、9.7mmol)を含む無水DCM(10mL)溶液をアルゴン雰囲気下、暗所室温で一晩攪拌する。TLC分析により、出発物質である臭化物の完全な消費と新たな非極性生成物の形成が示される。セライトで溶液を濾過し、DCMでリンスする(3回×10mL)。減圧下で溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して、PE中のEtOAcの濃度勾配を上げながら粗残渣を直接精製する。生成物7が無色の固体(0.7g、63%)として得られる。
【0078】
TLC: Rf = 0.65 (EtOAc: PE = 4: 1); 1H NMR (600 MHz, Chloroform-d) δ 8.26 (dd, J = 4.6, 1.4 Hz, 1H, ArH), 7.82 (dd, J = 8.4, 1.4 Hz, 1H, ArH), 7.54 (dd, J = 8.4, 4.6 Hz, 1H, ArH), 5.51 (dd, J = 10.5, 7.9 Hz, 1H), 5.47 (dd, J = 3.4, 1.2 Hz, 1H), 5.10 (dd, J = 10.5, 3.4 Hz, 1H), 5.06 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 4.25 (dd, J = 11.4, 6.1 Hz, 1H), 4.16 (dd, J = 11.4, 6.1 Hz, 1H), 4.06 (ddd, J = 6.1, 6.1, 1.3 Hz, 1H), 2.19 (s, 3H, OAc), 2.14 (s, 3H, OAc), 2.06 (s, 3H, OAc), 2.01 (s, 3H, OAc); 13C NMR (151 MHz, CDCl3) δ 170.21 (COquart), 170.04 (COquart), 170.01 (COquart), 169.32 (COquart), 150.42 (ArCquart), 144.25 (ArCquart), 142.91 (ArC), 129.86 (ArC), 128.29 (ArC), 100.94 (CH), 71.65 (CH), 70.31 (CH), 67.64 (CH), 66.58 (CH), 61.26 (CH2), 20.62 (OAc), 20.60 (OAc), 20.56 (OAc), 20.51 (OAc); HRMS (ESI): [M + Na]+ (theor.) = 493,10649 measured = 493,10686.
【0079】
化合物8および化合物9の合成
化合物7の放射性標識は、150℃のDMSO中で速やかに進行する。共沸乾燥させた[K.(2.2.2)] 18フッ化物錯体を使用して、18F標識アセチル化中間体を生成させ、セミ分取HPLCで精製する。C18-SPE用カートリッジに捕捉してトレーサーを濃縮し、NaOH(185μL、2.0M)で脱保護してトレーサー9を生成させ、10%エタノール水溶液(3mL)で溶出した。HCl(195μL、2.0M)、NaHCO3(500μL、1.0M)および水(5mL)でトレーサーを適切に調製して、ほぼ等張のナトリウム濃度(0.1M)とし、生物学的忍容性のある最終pH(7.5)とした。トレーサーは、98%を超える放射化学的純度、18.6±2.5%の壊変補正収率(n=10)および18.8±3.5GBq・μmol-1のモル比放射能(n=5)で生成される。
【0080】
実施例2
トレーサー9がβ−ガラクトシダーゼの基質であるかどうかを評価するため、市販のβ−ガラクトシダーゼ(シグマ)を含むpH5.5のクエン酸緩衝液中でトレーサー9を30℃で30分間インキュベートする。2倍量のアセトニトリルを加えて反応を停止させ、5分間遠心分離する。ラジオHPLCを使用して上清を直接分析する。前記反応の結果、非放射性2−フルオロピリジノールと同じ保持時間の放射性代謝産物が生成される。予想された放射性代謝産物を、信頼性のある非放射性標準物質と比較する(図2)。具体的には、化合物10は放射性2−フルオロピリジノールであり(図2a)、化合物9はトレーサー9であり(図2b)、化合物1および化合物2は、反応スキームIにおけるその他の化合物である(図2c)。化合物11はガラクトースである。
【0081】
トレーサー9の安定性を評価するため、マウス血清中でトレーサー9を37℃でインキュベートする。1時間後、2倍量のアセトニトリルを加え、混合物を5分間遠心分離する。ラジオHPLCを使用して上清を直接分析する。図3から、未処理のトレーサー9(図3b)と比較することによって、血清中で1時間経過後のトレーサー9の安定性(図3a)を推定することができる。この実験から、微量の放射性代謝産物が生成されるものの、トレーサーはその大部分が無傷のまま完全に保持されていることが示されている。
【0082】
インビトロにおける化合物9の評価を図4に示す。HCT116細胞(図4a)およびHras細胞(図4b)を100〜200μCiのトレーサーで処理し、50分間インキュベートする。ガンマカウンターで細胞を測定し、使用した細胞数に対して放射能を正規化する。いずれの細胞を使用した場合でも、老化細胞はコントロールよりも取り込み量が有意に多いことが示されている。
【0083】
実施例3
インビトロにおいて2種のモデルを使用して前記PETトレーサーを試験する。HCT116細胞にドキソルビシンを加えて一晩インキュベートし、通常条件で4日間培養することによって老化を誘導する。ドキシサイクリンで調節可能なp53特異的shRNAを有するHRas誘導型肝前駆細胞株の老化を誘導する。老化の誘導後、両方の細胞株に3.7〜7.4MBqのトレーサーを加えて50分間インキュベートする。次いで細胞を洗浄し、計数し、ガンマカウンターで測定する。細胞が取り込んだ放射能を分析し、細胞100万個に対して正規化する。
【0084】
HCT116細胞またはHRas誘導型肝前駆細胞を皮下移植したヌードマウスにおいてインビボ試験を行う。HCT116腫瘍を有するマウスは、ドキソルビシン(10mg/kg体重)で処置して、老化発症の4日後にイメージングを行う。Hras誘導性腫瘍を有するマウスには、ドキシサイクリンを加えた飲料水を与え、その後、ドキシサイクリンを含む飲料水を取り除いて老化を誘導する。老化の誘導後、トレーサーを静脈内投与し、PETスキャンを行う。PETデータを定量分析して%ID/ccと腫瘍/筋肉比(TMR)を求め、トレーサーを評価する。
【0085】
インビトロにおいて老化を誘導したHCT116細胞では、細胞100万個あたり11kBqの取り込みが示され、これに対して、非老化コントロール細胞での取り込み量は、細胞100万個あたりわずか4kBqである。HRas誘導型肝前駆細胞モデルの老化細胞では、細胞100万個あたり192kBqの取り込みが示され、非老化細胞(細胞100万個あたり63kBq)と比べて有意に増加している。
【0086】
インビボでの老化HCT116腫瘍におけるトレーサーの取り込み量は1.7±0.7%ID/cc(n=7)であり、これに対して、非老化HCT116腫瘍におけるトレーサーの取り込み量は1.1±0.4%ID/cc(n=5)である(図5)。これに対応するTMR値はそれぞれ1.7および1.1である。特に、図5では、トレーサー9の取り込み量が、コントロールHCT116腫瘍よりも老化HCT116腫瘍において高いことが示されている。また、老化腫瘍では、%ID/ccおよびTMRがいずれもコントロール腫瘍よりも高くなっている。さらに、摘出した腫瘍のエクスビボ分析を行う。オートラジオグラフィーでもこの結果が確認され、トレーサーの取り込み量が、コントロールよりも老化腫瘍切片において高いことが示されている。また、X-Gal染色を行ったところ、老化腫瘍の切片は、コントロール切片よりも強く染まった。
【0087】
HRas誘導性モデルでは(図6)、老化腫瘍におけるトレーサーの取り込み量は、コントロール腫瘍よりも有意に増加しており(コントロール腫瘍0.9±0.3%ID/cc(n=11)に対して老化腫瘍1.5±0.3%ID/cc(n=16))、TMRでも類似の傾向が示され、コントロール腫瘍のTMRは1.2であるのに対して老化腫瘍のTMRは2.1である。図6は、トレーサー9の取り込み量が、コントロールHRas腫瘍よりも老化HRas腫瘍で高いことを示す。老化腫瘍では、%ID/ccおよびTMRがいずれもコントロール腫瘍よりも高くなっている。また、摘出した腫瘍をエクスビボ分析する。オートラジオグラフィーでもこの結果が確認され、トレーサーの取り込み量が、コントロールよりも老化腫瘍切片において高いことが示されている。さらに、老化腫瘍切片は、X-Gal染色においてコントロール切片よりも強く染まることが示されている。非老化腫瘍はGFPを発現し、これは光学イメージングで可視化することができる。
【0088】
老化の誘導は、エクスビボにおけるKi67、カスパーゼ3、HP1γ、p53およびp16のβ-gal染色および免疫組織学的試験で確認する(図7)。図7は、HCT116誘導性腫瘍モデル(図7a)およびHRas誘導性腫瘍モデル(図7b)の免疫組織化学染色を示す。いずれのモデルに対しても免疫組織化学的分析を行うことにより、予想される老化マーカーHP1γおよびp53の増加について調べる。Hras誘導性腫瘍はki67の高発現も示す。いずれの腫瘍モデルにおいてもカスパーゼ3の存在量は少なかったことから、アポトーシスが腫瘍の状態に大きく寄与しているわけではないことが示唆され、老化の表現型が確認されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】