【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の課題は、主請求項に基づく少なくとも一つの構造化されたマヨラナ材料、その上に構造化されて配置された少なくとも一つの超伝導材料及び構造化されたマヨラナ材料の自由な表面上に配置された不活性化層から成るマヨラナ材料と超伝導体の構造(以下において、ハイブリッド構造と略称する)の製作方法によって解決される。
【0028】
更に、本課題は、副請求項に基づく少なくとも一つの構造化されたマヨラナ材料、特に、横方向に成長させた(準)一次元ナノワイヤーの形の少なくとも一つの構造化されたマヨラナ材料又は横方向に成長させた(準)一次元ナノワイヤーと、その上に構造化されて配置された少なくとも一つの超伝導材料と、構造化されたマヨラナ材料の自由な表面上に配置された不活性化層とから成るハイブリッド構造、並びに別の副請求項に基づくそのようなハイブリッド構造の使用方法によって解決される。
【0029】
本方法、本デバイス及び本使用方法の有利な実施形態は、それぞれ主請求項及び副請求項を引用する請求項から明らかになる。
【0030】
本発明は、表面付近のマスクを用いて、(ハイブリッド構造と略称する)マヨラナ材料と超伝導体の構造を製造できる方法に関する。このハイブリッド構造は、本発明の範囲内において、横方向に成長させた(準)一次元ナノワイヤー又は横方向に成長させた(準)一次元ナノ構造として定義され、後者は、例えば、構造化されたトポロジカル薄膜の形で存在できる少なくとも一つの構造化されたマヨラナ材料を有する。このハイブリッド構造は、構造化されたマヨラナ材料以外に、その構造化されたマヨラナ材料の上に配置された構造化された少なくとも一つの超伝導材料と、この超伝導材料と接触しない、構造化されたマヨラナ材料の自由な表面の上に配置された不活性化層とを有する。
【0031】
本発明による構造では、二つの層のインサイチュによる成長、有利には、エピタキシャル成長によって、例えば、トポロジカル絶縁体と超伝導金属の間の界面の特別な品質が保証される。
【0032】
更に、本発明による方法を用いて、有利には、製造時に、マヨラナ材料の表面状態の破壊も変化も引き起こさないようにする保護用不活性化層を構造化されたマヨラナ材料の開放領域の上に直に作成することもできる。トポロジカル絶縁体の表面状態は、ディラック状態とも呼ばれる。
【0033】
本発明による方法では、有利には、マヨラナ材料の上に少なくとも一つの超伝導材料を構造化して塗布するための従来技術により周知のマスク(シャドウマスク、ハードマスク、「ステンシルマスク」)以外に、マヨラナ材料を所定の幾何学形状で基材の上に析出させる役割を果たす別のマスク(予備構造、「選択エリア」を作成するためのマスク)が事前に基材の上に直に作成される。ハイブリッド構造の製造時に、基材の上に二つのマスクを作成することは、有利には、それに続いて、析出される構造化されたマヨラナ材料と、その後の少なくとも一つの超伝導構造との両方が、有利には、製造中に早くも互いに相対的に精密に方向付けることができるとの作用を奏する。更に、本発明では、処理工程が不活性雰囲気内、有利には、UHV内において継続して実行されることによって、ハイブリッド構造の界面の非常に良好な品質及び特性を保証することができる。
【0034】
本発明による方法によって、有利には、品質が高く、精密に方向付けらた超伝導材料とマヨラナ材料から成る横方向に成長させたヘテロ構造を作成することができる。様々な幾何学形状と寸法は、トポロジカルジョセフソン接合を初めとして、拡張可能なトポロジカルQubit及びトポロジカル量子レジスタで使用するための複雑な網構造までの機能デバイスの構造された定義を可能にする。
【0035】
本発明では、構造化されたマヨラナ材料と超伝導材料の両方を横方向に成長させる。本発明による方法では、これらの処理を蒸着に基づき実施する必要無しに、構造化されたマヨラナ材料と超伝導材料の両方が構造化されて互いに相対的に塗布される。従来から周知のインサイチュによる構造化方法と異なり、本発明による方法は、界面の凹凸性及び個々の機能層の実現可能な寸法において特別な利点を提供する。
【0036】
そのような本発明により製造された、高品質のハイブリッド構造は、有利には、トポロジカル材料の良好に定義された遷移域及び超伝導体に対して最小単位としての役割を果たす、トポロジカルジョセフソン接点でも、トポロジカルSQUID(超伝導量子干渉デバイスの略称)、トポロジカルQubit(量子ビットの略称)及びトポロジカル量子レジスタなどの複雑な部品でも使用することができる。
【0037】
そのようなハイブリッド構造をマヨラナ物理現象及びその上に構築されるトポロジカル量子に対して前述した通り使用するには、製造すべき部品又は界面が、本発明による構造を提供するような高い品質を有することが必要である。
【0038】
例えば、そのような本発明による構造を有するジョセフソン接点とは、超伝導性ではない薄い領域によって互いに分離された二つの超伝導材料であると理解する。以下において、ジョセフソン接点において二つの超伝導体を互いに分離する、定義により超伝導性ではない領域が弱結合部であると理解する。
【0039】
以下において、本発明によるハイブリッド構造に関する一例としてのトポロジカルジョセフソン接点の例に基づき本発明を詳しく説明するが、それに限定されるものではない。この場合、トポロジカルジョセフソン接点は、互いに横方向に配置された二つの超伝導材料と、超伝導性ではない領域(弱結合部)を表す構造化されたマヨラナ材料とを有する。
【0040】
従来技術により、トポロジカル材料を有する二つの超伝導体の間の中間領域としての弱結合部が、超伝導体の間の間隔が十分に短い場合に同じく超伝導性となれることが知られている。十分に短い間隔とは、トポロジカル材料内の対を成す電子状態の可干渉距離よりも短い間隔である。アルミニウムを超伝導材料とする場合の可干渉距離は、結晶材料及び超伝導体とトポロジカル材料の間の境界層の両方の品質に応じて、周知の通り100〜400nmである。ニオブを使用する場合、この可干渉距離の特性値は、より高い転移温度のために若干低下して、50〜250nmの範囲内である。
【0041】
ジョセフソン接点の場合の品質保証は、一方において、弱結合部の領域における良好な移動が保証され、そのために、インサイチュによる密閉(キャッピング)が必要であることと、この接点が、他方において、超伝導体と構造化されたマヨラナ材料の間にクリーンな鋭い界面を有することとを意味する。このことは、特に、インサイチュによる成長により、有利には、両方の層のエピタキシャル成長により実現することができる。構造化するマヨラナ材料を構造化して互いに相対的に方向付けて成長させることであるインサイチュによるキャッピングと、有利には、エピタキシャルによる超伝導接点のインサイチュによる塗布との両方が本発明による方法により可能であり、その際、不活性雰囲気及び/又は超高真空を断念する必要はない。
【0042】
この場合、本発明は、そのようなハイブリッド構造を作成するために、既に周知のステンシルマスク(シャドウマスク)以外に、構造化するマヨラナ材料の幾何学形状を定義できる、同じく基材と固く結合された別のマスクを用いると規定する。
【0043】
以下において、本発明によるハイブリッド構造の製造方法をトポロジカル絶縁体と超伝導金属を用いたジョセフソン接点の例に基づき記述するが、そのような具体的な実施形態に限定されない。
【0044】
本発明による方法の個々の工程は、
図1〜6に基づく本発明によるハイブリッド構造としてのジョセフソン結合(ジョセフソン接点)の製造例により理解できる。この場合、以下における処理工程において例示する材料又は層情報は、明らかに本発明を限定するものではないと理解されたい。この場合、当業者は、そこでは如何なる情報が特にジョセフソン結合に関連して、別のハイブリッド構造を製造する際に相応に修正すべきであるのかを容易に認識できる。
【0045】
ここで説明するジョセフソン接点の製造例は、本発明を限定するものではなく、トポロジカルQubitの最小単位であると同時に、その後の実施例を説明する役割を果たす例であると理解されたい。この場合、個々のトポロジカルジョセフソン接点を製造する処理工程の符号は
図1〜6の符号に対応する。そのような個々のジョセフソン接点の上に構築される複雑なデバイスを製造する更なる実施例は
図7〜8に見ることができる。
【0046】
本発明による方法は、全体として、次の三つの部分処理に分けられる。
I.基材の上に第一の機能性マスクを作成することによる、マヨラナ材料を構造化して析出するための基材の前処理(処理工程I「選択エリア」)。
II.同じく基材の上に少なくとも一つの超伝導材料を定義して塗布するための表面付近のシャドウマスク(ステンシルマスク)の作成(処理工程II「ステンシルマスク」)。
III.機能層を方向付けて構造化して塗布するための真空室内における積層中の方法(処理工程III「コーティング方法」)。
【0047】
作成されたマスクを用いて機能構造を積層するための異なる手法を区別するために、この第三の部分処理は、更に、次の二つの異なる変化形態から構成される。
【0048】
[部分処理I:「選択エリア」]
I.A 洗浄された基材1の上に、第一の追加層2が、真空の下で、有利には、UHVの下で平面的に塗布される。この基材は、例えば、任意の大きさのシリコンウェーハ又はシリコンウェーハの一部であるとすることができる。洗浄された基材とは、基材表面の汚れを除去するための基材に関して典型的な当業者に周知の標準的な方法により処理された基材であると理解する。そのようにして、基材特有の化合物だけを有する基材表面が準備される。
【0049】
基材の材料は、その上にトポロジカル絶縁体を成長可能とするのに適した材料でなければならない。第一の層2に関して、有利には、基材及び第二の層3に対して、選択的にエッチング可能な材料を使用することができる。例えば、二酸化珪素(SiO
2)がそれに適しており、それは、有利には、高い品質を有し、例えば、シリコン表面の熱変換方法により作成できる。有利には、このSiO
2は、基材1及び第二の追加層3のシリコンと比べて非常に良好なエッチング選択性を有する。
【0050】
このSiO
2層は、例えば、フッ化水素酸により、等方に除去することができ、基材の上に、好適な表面を成長させるための原子の面が作成される。有利には、SiO
2層は、更に、漏れ電流を抑制できる誘電特性を有する。従来技術により、1〜10nmの薄いSiO
2層は、第二の追加層3として化学量論的な窒化珪素(Si
3N
4)を使用した場合に、Si
3N
4がシリコン表面に加える可能性の有る応力を効果的に緩和又は防止することが知られている。シリコン基材内の応力は、第一の機能層6による基材の密閉に対して不利に作用する可能性が有る。
【0051】
第一の層2の選定された層厚は、基材に対して起こり得る応力を相殺する。第一の層2の層厚としては、1〜20nmの実現可能な範囲、有利には、1〜5nmの範囲が選定される。
【0052】
I.B 第一の追加層2の上に、第二の追加層3が、真空の下で平面的に塗布される。この層3は、第一の追加層2に対して選択的に除去できることを特徴とする。この第二の層は、ここで述べた実施例では、HFに対して安定しており、特に、応力を持たない。前述した例では、例えば、薄い厚さの寄生酸素化合物を有する化学量論的な窒化珪素(Si
3N
4)が使用される。この場合、好適な方法は、低圧の下での気相の窒化物の析出(英語で、low pressure chemical vapour deposition:LP−CVD)が有効である。有利には、湿式化学エッチング方法又は乾式エッチング方法におけるマスクとして、透明なSi
3N
4層を使用することができる。この第二の追加層3は、成長中にシリコン基材に対してトポロジカル絶縁体を選択的に積層させない部分領域を定義する役割を果たす。
【0053】
第二の層3の表面は、有利には、処理工程III.Iにおいて、第一の機能層6の表面により密閉される。従って、層厚は、0.2〜250nmの範囲内で、有利には、5〜100nmの範囲内で選定される。
【0054】
I.C 第二の追加層3の塗布後に、有利には、電子線リソグラフィ(electron beam lithography:EBL)により、好適なラッカー又はレジストを用いて、その層の構造化が行なわれる。このレジストにおいて定義される構造は、ラッカーの展開後に、それに続くエッチング方法を用いて、第二の追加層3に転写される。この第二の追加層3は、その限りにおいて、第一の追加層2に対して選択的に構造化されるように、部分的に除去される。
【0055】
有利には、反応性イオンエッチング(英語で、reactive ion etching:RIE)により、第二の追加層3、特に、Si
3N
4層において、所望の構造を精密に作成することができる。特に、この方向性エッチング方法によって、異方性構造が作成される。
【0056】
ここで述べる例では、例えば、反応性ガス成分としてフッ素化合物と純粋な酸素を用いた反応性イオンエッチングが好適である。代替手法は、例えば、フッ化水素酸による窒化珪素の湿式化学除去、或いは、例えば、イオンビーム設備における、加速イオンを用いた窒化珪素の物理的な剥離(英語で、ion beam etching:IBE)である。
【0057】
ここで述べる第二の層3を構造化する方法では、例えば、10〜10,000nm、有利には、30〜200nmの幅による細い溝が第二の層3において定義される。この場合、作成する溝の長さは、有利には、100nm〜100μm、有利には、3〜10μm内で変わる。これらの溝は、同じくリング又は長方形の構造で定義することができる。
【0058】
そのため、本方法のA〜Cの工程によって、第一の機能性マスクが形成され、そのマスクを用いて、本発明により、有利には、構造化されるマヨラナ材料の定義された幾何学形状を実現することが可能である。
【0059】
I.D 第一の追加層2の開放された部分領域が、第二の追加層3及び基材1に対して選択的に除去される。この場合、有利には、基材1の化学的変化及び/又は基材表面の損傷を引き起こさないプロセスが使用される。例えば、前記の材料を用いて、二酸化珪素を選択的にエッチングするとともに、シリコン基材の表面を変化させずに開放する希釈されたフッ化水素酸が使用される。
【0060】
希釈されたフッ化水素酸内における二酸化珪素の等方性エッチング処理によって、
図1に図示された処理工程Dに近いエッチング輪郭が形成される。
[部分処理II「ステンシルマスク」]
【0061】
II.E 第一の工程において、部分処理Iで作成された構造の上に、第三の追加層4が真空の下で平面的に析出される。この層は、基材1と第一及び第二の追加層2,3に対して選択的に除去される。この場合、例えば、第一の二酸化珪素層2に比べて低い品質の二酸化珪素が使用されるとともに、低圧において気相から(low pressure chemical vapour deposition:LP−CVD)析出することができる。この第二の二酸化珪素層4は、希釈されたフッ化水素酸内で明らかにより速くエッチングされ、その結果、エッチング時間の選定によって、この層を第一の二酸化珪素層2に対して選択的に除去することができる。
【0062】
第三の追加層4の選定された層厚は、基材1の表面からの表面付近のマスク(シャドウマスク)の間隔を定義する。部分処理IIIにおいて、四つまでの機能層が基材表面の上に析出される。従って、第三の追加層4の層厚としては、5〜500nmの範囲、有利には、10〜150nmの範囲が選定される。
【0063】
II.F 第三の追加層4の上に、第四の追加層5が真空の下で平面的に塗布される。この層は、第三の追加層4に対して選択的に除去される。窒化珪素を新たに使用する場合、処理工程I.Cで述べた方法を用いることができる。
【0064】
II.G 第四の追加層5は、第三の追加層4に対して選択的に部分的に除去される。作成すべき構造は所望のデバイスに応じて変わる。例えば、断面に関して、構造の異なる実施形態を実施例により説明する。この場合、これらの構造は、大きな面と小さく狭い遷移域の両方を含み、これらの両方は、第一の追加層2内に作成された構造に対して相対的に方向付けられる。最終的にジョセフソン接点を定義する前記の遷移域は、少なくとも、事前に処理工程I.Cで作成された構造の幅と、10〜500nm、有利には、10〜200nmの横方向の相互間隔とを有する。この狭い領域は、以下において、ナノブリッジと称する。
【0065】
II.H 第三の追加層4は、基材1と第一、第二及び第四の追加層2,3,5の両方に対して少なくとも部分的に選択的に除去される。この場合、工程II.Gで開放された領域が除去される。本発明による方法のためには、第三の追加層4を全ての方向に等方に除去することが必要である。その結果、工程II.Gで定義されたナノブリッジの下の第三の追加層4の如何なる材料も除去される。更に、本方法の部分Iで定義された構造は、部分的に開放される。これらのナノブリッジは、この時点以降、基材1の上方に部分的に自由に浮かぶように定義される。
【0066】
本発明の工程D〜Fによって、その限りにおいて、多くの場合、シャドウマスクとも呼ばれる第二の機能マスクが形成される。
【0067】
二つの部分処理I及びIIは、その限りにおいて、基材の上におけるハイブリッド構造の機能層の本来の析出又は作成に対する前処理の役割を果たす。
【0068】
以下における本方法の工程I〜Kは、真空、ここでは、特に、超高真空(p≦1×10
−7mbar、有利には、p≦1×10
−8mbar)を中断すること無く、不活性雰囲気内で順番に実施される。不活性雰囲気としては、例えば、純粋なN
2ガスが考えられる。
【0069】
[部分処理III「コーティング方法」の変化形態A]
III.I ナノブリッジと基材1の部分的に開放された面を有する試料は、機能層/機能構造を析出させるために、真空室、例えば、分子線エピタキシー設備内を移送される。しかし、本方法のこの工程は、成長が部分的に方向付けられて実施される別のコーティング設備で実行することもできる。この場合、例えば、化学気相析出設備(英語で、chemical vapor deposition:CVD)におけるIII/V族ナノワイヤーの成長を参照する。第一の機能層6が析出される。この層は、基板1の開放された表面の上に選択的に成長させなければならない一方、追加層2,3の開放された表面の上に、必ず材料を析出させるとともに、追加層4,5の表面の上には、有利には、材料を析出させない。第一の機能層6はマヨラナ材料から成る。
【0070】
例えば、(Bi
xSb
1−x)
2(Te
ySe
1−y)
3(ここで、0≦x≦1及び0≦y≦1)の形のトポロジカル絶縁体をシリコン111の表面の上に二酸化珪素2.4及び窒化珪素3.5に対して選択的に成長させる。
【0071】
この析出は、基材の1〜500回転/分の回転により行なわれ、それによって、トポロジカル絶縁体がナノブリッジの下の開放された部分領域の上に同様に成長することが保証される。
【0072】
この場合、本方法の工程A〜Cにより作成される第一の機能マスクは、マヨラナ材料の構造を定義する。
【0073】
この場合、層厚は、特に、トポロジカル薄膜6の表面が、有利には、第二の層3の開放された表面により密閉されるように設定される。
【0074】
III.J 同様に、基板を回転させて、固有の酸化層を形成する、例えば、アルミニウム、ニオブ、タングステン、チタン、ハフニウム又はプラチナの第二の機能層7が、平面を覆うように塗布される。有利には、超伝導材料、例えば、アルミニウム又はニオブが使用される。この層は、同じく基材の回転に基づきナノブリッジの下に積層される。
【0075】
ここで述べた実施形態では、その後の工程において、トポロジカル絶縁体のための不活性化層を形成できるように、第二の機能層7の層厚は、それぞれ選定された材料の固有の酸化物の厚さを上回ってはならない。
【0076】
本方法の一つの実施形態では、有利には、アルミニウムにより、不活性化層を目的通り形成することができるので、アルミニウムから成る薄膜が塗布される。例えば、層厚が最大3nmである、アルミニウムから成る薄膜を塗布することができ、その理由は、この層厚では、その後の酸化時に、アルミニウム層が、空気と接触した場合に、第二の機能層7として酸素を完全に通さなくなるからである。
【0077】
III.K 超伝導材料、例えば、アルミニウム又はニオブから成る第三の機能層8が、基材を回転させずに、第二の機能層7の部分領域の上に構造化されて塗布される。第四の追加層5において定義されたナノブリッジは、電子/分子の流れを部分的に遮蔽する。この電子/分子の流れの部分的な遮蔽によって、第二の機能層7が完全に平面的にコーティングされるのではなく、部分領域においてのみコーティングされる。
【0078】
ここで積層される材料8の層厚は、一方において、少なくともその材料の超伝導特性の取得に関して重要な厚さであるが、他方において、使用する材料のその後の工程で形成される固有の酸化部の厚さを下回らない。
【0079】
更に、第三の機能層8の層厚は、さもないと、生成されたハイブリッド構造とシャドウマスクの望ましくない接触を排除できなくなるので、第二の機能層7の表面と第四の追加層5の下端の間の間隔を上回らない。
【0080】
積層される部分領域8の層厚は、その限りにおいて、第一の追加層2の選定された層厚に応じて、通常は5〜500nmである。有利には、大抵の超伝導金属の超伝導特性を保証する30〜100nmの層厚が選定され、その際、酸化物層のその後の形成も一緒に考慮すべきである。
【0081】
第二の機能層7の材料は、第三の機能層8の材料と同じもの、即ち、超伝導材料を選定することができる。しかし、第二の機能層の機能に関して、超伝導性を必ずしも必要とせず、不活性化層としての固有の酸化物層の形成が優先されるので、これらの二つの材料を異なるように選定することもできる。相互拡散バリアとして非超伝導材料を選定した場合、定義された弱結合部を介する近接誘導超伝導性が保証されるように、そのバリアが十分に薄く選定されることに留意されたい。
【0082】
そのように、本発明による方法では、例えば、チタンは、第一の機能層6と第三の機能層8の間の相互拡散バリアとしての役割を果たすことができるので、第二の機能層7として、チタンを選定するのが有利であるが、別の超伝導材料を、例えば、アルミニウムやニオブの金属は、チタンと比べて特に有利な超伝導特性を有するので、第三の機能層8として、アルミニウム又はニオブを選定するのが有利である。
【0083】
[本方法の部分III「コーティング方法」の変化形態B]
III.I 本方法のこの工程は、変化形態Aと同じである。
【0084】
III.J’ 超伝導材料、例えば、アルミニウム又はニオブから成る第二の機能層9が、基材を回転させずに、第一の機能層(構造化されたマヨラナ材料)6の部分領域の上に塗布される。この場合、第四の追加層5において定義されたナノブリッジは、原子/分子の流れを部分的に遮蔽する。III.Kと同様に、この原子/分子の流れの部分的な遮蔽によって、構造化されたマヨラナ材料6が完全に平面的にコーティングされるのではなく、部分領域においてのみ第二の機能層9の超伝導材料により構造化されてコーティングされる。
【0085】
代替実施形態では、第二の機能層9は、薄い相互拡散バリアと厚い超伝導層から成る層システムとして塗布することもできる。相互拡散バリアのための材料として、有利には、金属又は超伝導体を選定することができる。超伝導層の層厚に関しては、超伝導性を取得するために重要な厚さに新ためて留意されたい。文献からは、相互拡散バリアとして、例えば、プラチナ、タングステン又はチタンから成る薄い層が知られている。相互拡散バリアとして非超伝導材料を選定した場合、定義された弱結合部を介する近接誘導超伝導性が保証されるように、そのバリアが十分に薄く選定されることに留意されたい。
【0086】
第二の機能層9の積層される材料の厚さは、少なくともその材料の超伝導特性を取得するために重要な厚さであり、その際、更に、固有の酸化物の層厚を考慮しなければならない。この層は、使用する材料が、析出後に空気中の酸素又は任意の別の形の酸素と接触した時に形成される。
【0087】
従って、有利には、第二の機能層9の部分領域の厚さは、50〜100nmであり、材料の厚さは、第一の機能層6と第四の追加層5の表面の間の間隔を上回らない。
【0088】
III.K’ 電気絶縁材料から成る第三の機能層10が、第二の機能層9/層システム及び第一の機能層6の開放された領域の上に平面を覆うように塗布される。この定義は、処理工程III.Jで述べたような酸化する金属を含む。
【0089】
しかし、有利には、本方法の部分IIIのこの実施形態では、処理工程III.J’で作成された部分領域における構造化されたマヨラナ材料の表面及び表面状態を保護するために別の材料を使用することもできる。この場合、使用する材料は、技術的に関連する温度範囲において、実際の電子温度を考慮して、選定された材料における荷電粒子のコヒーレントなトンネリングが起こり得ないような十分に大きなエネルギーバンドギャップを有する。この技術的に関連する範囲は、使用する超伝導体の特徴的な臨界温度により定義される。
【0090】
有利には、この第三の機能層10は、第一の機能層6とも、第二の機能層9とも反応/相互拡散しない。例えば、第三の機能層10として、窒化珪素を使用することができる。
【0091】
更に、例えば、Al
xO
y、Nb
xO
y、Ti
xO
y(ここで、0≦x,y≦1)などの不活性金属酸化物の化合物も、或いは硫黄、テルルやセレンなどの別のVI族の元素を有する不活性金属化合物も好適である。同様に、トポロジカル表面状態の一時的な保護層として、純粋なテルルやセレンから成る層を析出させることができる。
【0092】
本発明による方法によって、有利には、品質が高く、精密に方向付けられ(配列され)た、構造化された超伝導材料と構造化されたマヨラナ材料から成る横方向に成長させたヘテロ構造を作成することができる。このことは、例えば、トポロジカル材料の超伝導特性の特徴付けに関して重要であるが、最終的には拡張可能なトポロジカルQubitと量子レジスタの両方での使用に関しても重要である。
【0093】
本発明による方法によって、有利には、クリーンルームにおいて従来技術で用いられている全てのエクスサイチュによる工程を回避して、デバイス全体をインサイチュにより製造する、例えば、成長させることができる。当業者に周知の成長前の基材の前処理によって、接点パッド、ノコギリマーカー、横方向の超伝導構造及び構造化されたトポロジカル薄膜を提供するデバイスを成長させることができる。そのため、特に、クリーンルームにおいてトポロジカルジョセフソン接点を製造する際に従来技術で生じる全ての問題が回避される。周囲環境、例えば、空気中の酸素との相互作用によって、表面が、そのため、トポロジカル特性が変化するか、それどころか破壊される可能性が有るので、このことは、トポロジカル材料において特に有利である。
【0094】
特に、有利には、コスト及び時間の負担の少ない高い拡張可能性が本発明による方法と関連する。従来技術によるナノワイヤーQubitを製造する従来からの方法と異なり、本発明による方法では、各ナノワイヤー又は各ナノ構造を手動で位置決めして接触させる必要が無く、好適に前処理された基材の上に構造化されたマヨラナ材料を目的通り選択的に析出させて定義することができる。Qubitや量子レジスタなどの所望のデバイスの大きさ及び複雑さが増大するにつれて、本発明による方法は、拡張可能性に関する利点を提供する。
【0095】
この場合、本発明による方法のための層を塗布する好適な手法として、物理的な気相析出(PVD)以外に、特に、低圧での化学的な気相析出(lower pressure−chemical vapour deposition:LP−CVD)及び分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy:MBE)が挙げられる。
【0096】
化学的な気相析出は、特に、本方法の工程I.A、I.B、II.E及びII.Fによる第一及び第二の追加層と第三及び第四の追加層を析出させるためのシリコンを含有する平坦な層の生成に適している。
【0097】
本方法の工程I〜Kによる機能層の塗布には、特に、分子線エピタキシーが適している。
【0098】
エピタキシャル成長とは、特に、成長させる結晶層の少なくとも一つの結晶方向が結晶層又は結晶基材の向きと一致するように、結晶層又は結晶基材の上に別の結晶層を析出させることであると理解する。
【0099】
有利には、エピタキシャル接点のインサイチュによる製造以外に、表面の汚染又は化学的な再構造化からトポロジカル絶縁体(構造化されたマヨラナ材料)を保護する保護用不活性化層の形成がインサイチュにより実行される。この場合、トポロジカル材料は、空気中の酸素又は自然環境の別の構成成分との如何なる相互作用に対しても効果的に保護される。
【0100】
不活性化層として、例えば、2nm、最大3nmの厚さのアルミニウム層をトポロジカル絶縁体の上に成長させることができ、この層は、不活性雰囲気から、場合によっては、超高真空からの試料の取り出し後に、完全に酸化され、そのようにして、その下の構造化されたマヨラナ材料の表面状態を保護する。更に、例えば、Al
xO
y、Nb
xO
y、Ti
xO
y(ここで、0≦x,y≦1)などの不活性金属酸化物の化合物を使用することも、硫黄、テルルやセレンなどの別のVI族の元素を含む不活性金属化合物を使用することも好適である。同様に、純粋なテルルやセレンの層は、トポロジカル表面状態の一時的な保護層として実証されている。
【0101】
この場合、例えば、トポロジカル誘導超伝導体を用いたジョセフソン接点の製造により述べた、本発明による方法は、有利には、界面の特に高い品質を生じさせる、インサイチュによる接点の特別なエピタキシャル製造を可能にする。超伝導体と常伝導体の界面を実現する場合、界面の品質が透過性により規定される。透過性とは、一般的に、更に、アンドレーエフ反射としても知られる、界面を介した対を成す電子状態の相互作用が成功する確率であると理解される。この界面でのアンドレーエフ反射過程には、界面での個々の電子の直接的な後方散乱が対置される。アンドレーエフ反射と通常反射の確率を加算すると、100%になる。
【0102】
そのため、本発明の範囲内には、構造化された超伝導接点の間で電流を搬送するためのトポロジカル材料の表面特性を取得する本発明によるハイブリッド構造のための例として、トポロジカルジョセフソン接点の製造方法が想定され、そこでは、更に、超伝導体と、トポロジカル絶縁体としての構造化されたマヨラナ材料との間の界面が、特別な品質を有し、有利には、それによりマヨラナ物理現象による動作も可能となるように、鋭くかつクリーンに形成される。特に、そのようなハイブリッド構造により、従来のQubitと異なり、理論的にエラー訂正が不要であるトポロジカルQubitを製造することができる。
【0103】
有利には、析出させるマヨラナ材料、インサイチュにより、有利には、エピタキシャルにより成長させる構造化された超伝導接点及び不活性化層の構造化の定義を含む、本発明によるハイブリッド構造の製造は、クリーンルーム設備内において、例えば、分子線エピタキシー設備を用いて、不活性雰囲気を中断すること無く、特に、超高真空内で行なわれる。
【0104】
本発明による方法では、トポロジカル材料、インサイチュにより、有利には、エピタキシャルにより成長させる超伝導接点及び不活性化層は、横方向のサイズが5nm〜10,000μmの大きな領域により十分に定義して析出させることができる。
【0105】
更に、本発明による方法では、電子線リソグラフィを用いた構造の定義によって、2.5nm〜最大20nmの範囲内の偏差による構造の方向付けが行なわれる。この方法により、有利には、絶縁領域、不活性化領域及び(超)伝導領域から成る任意の二次元レイアウトをインサイチュにより定義することができる。
【0106】
本発明は、特に、構造化されたマヨラナ材料を作成するために、シャドウマスク以外に、別のマスク2,3を用いて、それにより、例えば、トポロジカル薄膜の幾何学形状を定義することができると規定する。
【0107】
そのためには、選択的な成長のために、有利には、使用するトポロジカル材料の特性を利用する。例えば、シリコン基材を使用する場合、基材の上に追加層を塗布して、その上に、トポロジカル材料を全く成長させないか、或いは単に異なる成長パラメータを選定して成長させることができる。基材を疎らに開放する場合、それらの定義された領域にのみ、トポロジカル材料を析出させる。そして、成長パラメータの選定に応じて、シリコン基材の開放された部分領域において、マヨラナ材料を追加層に対して選択的に成長させる。
【0108】
有利には、分子線エピタキシーが、構造化された超伝導層及び構造化されたマヨラナ材料の塗布に好適であり、その理由は、有利には、本発明による方法では、定義されたマスクを用いて、例えば、定義されたナノワイヤーを用いて、固体相からの蒸着中に、方向付けられた材料の原子/分子の流れを部分的に析出させることができるからである。
【0109】
このコーティング方法では、基材の回転を行なわずに、入射角を変化させることによって、ハードマスクを使用した場合でも、有利には、異なる析出を実現することができる。このことは、マスクの下に異なる領域を成長又は構造化させることを可能にする。
【0110】
本発明による方法は、空気及び/又は周囲環境に敏感な機能層、例えば、トポロジカル絶縁体の表面をインサイチュにより選択的に成長させる、蒸着する、或いはコーティングすることを可能にする。厚い超伝導層がトポロジカル絶縁体の上の選定された場所に塗布される一方、例えば、酸化する材料を使用した場合、空気中に取り出した後、周囲環境と反応して、トポロジカル絶縁体のための絶縁保護層になれる薄い層だけが別の選定された場所に配置される。それによって、有利には、機能層の局所的な接触が保証されると同時に、部品全体を保護する不活性化層が保証される。
【0111】
本出願では、本発明による方法における基材の回転とは、マスク、特に、ナノワイヤーの遮蔽作用にも関わらず、開放された基材表面の上の全ての領域が分子線により捕捉されるように、基材及びマスクを含む、作成する層構造とコーティング源、例えば、分子線との間の相対的な動きであると理解する。そのために、例えば、一方において、分子線を90°に等しくない所定の角度で基材又はマスクに当てることと、他方において、分子線による基板面のコーティング中に基材を回転(自転)させることとの中の一つ以上を実行しなければならない。この場合、1〜500回転/分による基材の回転が典型的である。
【0112】
これらの機能層は、例えば、分子線エピタキシー設備において、不活性雰囲気を中断すること無く、有利には、超高真空内で塗布することができる。所定の構造を有する基材を不活性雰囲気から取り出した後、空気中の酸素の存在により、超伝導材料の表面付近の領域の酸化が起こる。本発明の第一の実施形態(変化形態A)では、その時々の材料の固有の酸化物の層厚を下回る層厚の部分領域のために、不活性化する酸化物層の形成が行なわれる。この二つの超伝導接点の間のトポロジカル絶縁体の表面の上に不活性化層を形成することは、トポロジカル材料の表面及び電流を搬送する表面状態が保護されるとの作用を奏する。
【0113】
任意のハイブリッドシステムの(原子プローブトモグラフィ及び透過型電子顕微鏡を用いて)個々の原子の場所的な配置を分析することは、ここで述べた方法をそれ以外の方法と区別すること、特に、個々の層が真空内で、或いは不活性雰囲気内で塗布されたのか否かを、そのために、酸素の軌跡が界面に検知できないのか否かを区別することを可能にする。
【0114】
層厚が相応の厚さの部分領域のために、同様に、固有の酸化物の厚さに応じて、表面付近の領域に酸化層が形成される。しかし、層厚が固有の酸化物の厚さ及び超伝導特性を取得するための臨界厚を上回る、これらの部分領域では、トポロジカル材料に対する界面における最も上の層の酸化にも関わらず、この材料は、引き続き超伝導特性を有する。
【0115】
本発明による方法の別の実施形態では、不活性化する層を形成するために、酸化する材料だけに頼るのではない。この別の実施形態(変化形態B)では、相変わらず、原子/分子の流れを目的通り遮蔽することによって、超伝導接点が定義される。超伝導接点を構造化して塗布し、超伝導材料とその下に有る構造化されたマヨラナ材料の間の遷移域の品質を保証した後、構造化されたマヨラナ材料の残存する開放された部分領域の上に平面を覆うように不活性化層を析出させることができる。不活性化する層としては、例えば、前記の材料を用いることができる。
【0116】
本発明による方法によって、品質が高く、精密に方向付けられ(配列され)た、超伝導材料とマヨラナ材料から成る横方向に成長させたヘテロ構造を作成することができる。異なる幾何学形状及び寸法は、トポロジカルジョセフソン結合などの機能デバイスから、拡張可能なトポロジカルQubitと量子レジスタの両方で使用するための複雑な網構造までの構造化された定義を可能にする。
【0117】
以下において、二つの実施例と幾つかの図面に基づき本発明の対象を詳しく説明する。これらの例は、本発明を限定すると理解してはならない。