(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-512559(P2020-512559A)
(43)【公表日】2020年4月23日
(54)【発明の名称】包括的および定量的な脂質およびトコフェロールの分析
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20200331BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20200331BHJP
G01N 33/92 20060101ALI20200331BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20200331BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20200331BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/50 D
G01N33/92 C
G01N30/88 G
G01N30/72 A
G01N27/62 102
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2019-553367(P2019-553367)
(86)(22)【出願日】2018年3月28日
(85)【翻訳文提出日】2019年11月27日
(86)【国際出願番号】US2018024767
(87)【国際公開番号】WO2018183448
(87)【国際公開日】20181004
(31)【優先権主張番号】62/558,415
(32)【優先日】2017年9月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/592,639
(32)【優先日】2017年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/479,534
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/512,776
(32)【優先日】2017年5月31日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】519219977
【氏名又は名称】メタボロン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フラインクマン、エリザベータ
(72)【発明者】
【氏名】エバンス、アン、エム.
(72)【発明者】
【氏名】グッドマン、ケリー
(72)【発明者】
【氏名】ロビンソン、リチャード、ジェイ.
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041DA05
2G041DA18
2G041EA04
2G041EA06
2G041EA12
2G041FA09
2G041FA10
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA08
2G041GA09
2G041HA01
2G041HA03
2G041LA07
2G045AA25
2G045CB10
2G045DA02
2G045DA60
2G045DA70
2G045FA33
(57)【要約】
1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を質量分析によってサンプル中で決定する方法が、本明細書において記載される。1つまたは複数の脂質クラスが、ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステリルエステル(CE)、コレステロール(CH)およびその組み合わせからなる群から選択される。方法は、a)脂質種のうちの1つまたは複数の各々から質量分析によって検出可能な1つまたは複数のイオンを産生するのに好適な条件下で、イオン化源へサンプルをかけること;b)1つまたは複数の脂質種の各々からの1つまたは複数のイオンの量を質量分析によって測定すること;およびc)1つまたは複数のイオンの測定された量を使用して、サンプル中の1つまたは複数の脂質種の各々の存在、非存在または量を決定することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルにおいて、質量分析によって、1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を決定する方法であって、
前記1つまたは複数の脂質クラスが、ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステリルエステル(CE)、コレステロール(CH)およびその組み合わせからなる群から選択され、
a)前記1つまたは複数の脂質種の各々から質量分析によって検出可能な1つまたは複数のイオンを産生するのに好適な条件下で、イオン化源へ前記サンプルをかけること;
b)前記1つまたは複数の脂質種の各々からの前記1つまたは複数のイオンの量を質量分析によって測定すること;および
c)前記1つまたは複数のイオンの前記測定された量を使用して、前記サンプル中の前記1つまたは複数の脂質種の各々の存在、非存在または量を決定すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステリルエステル(CE)、コレステロール(CH)およびその組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種、ならびに
α−トコフェロール、β−トコフェロール、γトコフェロールおよびδ−トコフェロール、ならびにその組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数のトコフェロール
の存在、非存在または量を質量分析によってサンプル中で決定する方法であって、
a)前記1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数のトコフェロールの各々から質量分析によって検出可能な1つまたは複数のイオンを産生するのに好適な条件下で、イオン化源へ前記サンプルをかけること;
b)前記1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数のトコフェロールの各々からの前記1つまたは複数のイオンの量を質量分析によって測定すること;ならびに
c)前記1つまたは複数のイオンの前記測定された量を使用して、前記サンプル中の前記1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数のトコフェロールの各々の存在、非存在または量を決定すること、
を含む、前記方法。
【請求項3】
前記1つまたは複数の脂質クラスが、ワックスエステル(WE)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、コレステリルエステル(CE)またはその組み合わせを含み、前記方法が、前記1つまたは複数の脂質種の1つまたは複数の脂肪酸の炭素および二重結合の数を決定することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプルが、皮脂サンプルまたは脂腺細胞サンプルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記1つまたは複数の脂質クラスからの前記1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量が、単一インジェクションから決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1つまたは複数の脂質クラスからの前記1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量、および前記1つまたは複数のトコフェロールの存在、非存在または量が、単一インジェクションから決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種がワックスエステルを含み、前記方法が前記ワックスエステルの脂肪アルコール組成を決定することをさらに含む、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1つまたは複数の脂質クラスからの前記1つまたは複数の脂質種がジアシルグリセロールを含み、前記方法が前記ジアシルグリセロールの2つの脂肪酸についての炭素および二重結合の数を決定することをさらに含む、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2つの脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の量が決定される、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、スクワレンおよびワックスエステルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、スクワレンおよびジアシルグリセロールエステルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、スクワレンおよびトリアシルグリセロールエステルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、スクワレンおよび遊離脂肪酸を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、スクワレンおよびコレステリルエステルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、スクワレンおよびコレステロールを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、ワックスエステルおよびトリアシルグリセロールエステルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、ワックスエステルおよびジアシルグリセロールエステルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、ワックスエステルおよび遊離脂肪酸を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、ワックスエステルおよびコレステリルエステルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも2つの脂質クラスが、ワックスエステルおよびコレステロールを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
3以上の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の量が決定される、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
4以上の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の量が決定される、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
5以上の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の量が決定される、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
6以上の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の量が決定される、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記脂質クラスCH、CE、WE、SQ、TAG、DAGおよびFFAの各々からの1つまたは複数の脂質種の量が決定される、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
CH、CE、WE、SQ、TAG、DAGおよびFFAからなる群から選択される1つまたは複数の脂質種の量が決定され、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γトコフェロールおよびδ−トコフェロールからなる群から選択される1つまたは複数のTOC種の量が決定される、請求項2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
20以上の脂質種の量が決定される、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
1つまたは複数の内部標準を使用して、前記サンプル中の前記1つまたは複数の脂質種の量を決定する、請求項1〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記1つまたは複数の内部標準が、ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリクリド(triacylglycride)(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステリルエステル(CE)およびその組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の脂質クラスから選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記1つまたは複数の内部標準がワックスエステル(WE)の前記脂質クラスから選択され、前記内部標準がWE(FA19:1/OH8:0)およびWE(FA17:1/OH8:0)からなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリクリド(triacylglycride)(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステロール(CH)、コレステリルエステル(CE)およびその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数の脂質クラスの各々についての1つまたは複数の内部標準、ならびにパッケージ材料およびキットの使用のための指示を含む、キット。
【請求項32】
ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリクリド(triacylglycride)(TAG)およびジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステロール(CH)、コレステリルエステル(CE)およびその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数の脂質クラスの各々についての、ならびにα−トコフェロール、β−トコフェロール、γトコフェロールおよびδ−トコフェロールならびにその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数のトコフェロール(TOC)の各々についての、1つまたは複数の内部標準、ならびにパッケージ材料およびキットの使用のための指示を含む、キット。
【請求項33】
前記サンプルが皮脂サンプルであり、皮脂テープ、スワブまたは濾紙を使用して収集される、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
コレステロールの量を決定することをさらに含む、請求項1、2、3、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
サンプルにおて、質量分析によって、スクワレン(SQ)、遊離脂肪酸(FFA)、複合脂質およびその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を決定する方法であって、
a)前記1つまたは複数の脂質種の各々から質量分析によって検出可能な1つまたは複数のイオンを産生するのに好適な条件下で、イオン化源へ前記サンプルをかけること;
b)前記1つまたは複数の脂質種の各々からの前記1つまたは複数のイオンの量を質量分析によって測定すること;および
(c)前記1つまたは複数のイオンの前記測定された量を使用して、前記サンプル中の前記1つまたは複数の脂質種の各々の量を決定すること、
を含む、前記方法。
【請求項36】
前記1つまたは複数の複合脂質が、WE、TAG、DAGおよびCEからなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記1つまたは複数の複合脂質種の1つまたは複数の脂肪酸の炭素および二重結合の数を決定することをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記サンプルが皮脂サンプルまたは脂腺細胞サンプルである、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記1つまたは複数の脂質クラスからの前記1つまたは複数の脂質種の量が、単一インジェクションから決定される、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記サンプルが皮脂サンプルであり、皮脂テープ、スワブまたは濾紙を使用して収集される、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
コレステロールの量を決定することをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
サンプル中の1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を検出する方法であって、前記脂質種が、SQ、WE、DAG、TAG、FFA、コレステロールおよびCEからなる脂質クラスの群から選択され、
事前の分離ステップまたは精製ステップ無しに抽出物サンプルの単一インジェクションを質量分析装置の中へ注入すること;ならびに
前記質量分析装置を使用して、前記サンプル中の前記1つまたは複数の脂質種を同定し、前記1つまたは複数の脂質種の濃度を決定すること、
を含む、前記方法。
【請求項43】
サンプル中の1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数のTOCの存在、非存在または量を検出する方法であって、前記脂質種が、SQ、WE、DAG、TAG、FFA、コレステロールおよびCEからなる脂質クラスの群から選択され、前記1つまたは複数のTOCが、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γトコフェロールおよびδ−トコフェロールからなる群から選択され、
事前の分離ステップまたは精製ステップ無しに抽出物サンプルの単一インジェクションを質量分析装置の中へ注入すること;ならびに
前記質量分析装置を使用して、前記サンプル中の前記1つまたは複数の脂質種を同定し、前記1つまたは複数のTOCを同定し、前記1つまたは複数の脂質種の濃度および前記1つまたは複数のTOCの濃度を決定すること、
を含む、前記方法。
【請求項44】
前記サンプル中の1つまたは複数の脂肪酸異性体の存在、非存在または量を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項45】
前記サンプル中の前記1つまたは複数の脂肪酸異性体の存在、非存在または量が、GC−FAME(ガスクロマトグラフィー脂肪酸メチルエステル)分析を使用して決定される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記サンプルが、事前の分離ステップまたは精製ステップ無しに前記質量分析装置の中へ直接注入される、請求項1、2または35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記1つまたは複数の内部標準のうちの少なくとも1つは同位体標識される、請求項28に記載の方法。
【請求項48】
前記1つまたは複数の内部標準のうちの少なくとも1つは同位体標識される、請求項31または32に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年3月31日に出願された米国仮特許出願第61/970,737号、2017年5月31日に出願された米国仮特許出願第62/512,776号、2017年9月14日に出願された米国仮特許出願第62/558,415号、および2017年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/592,639号の利益を主張し、その各々の内容全体は参照として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景を記載する以下の情報は本発明の理解を支援するために提供され、本発明の先行技術を構成または記載するという承認ではない。
【0003】
皮脂は、脂腺細胞(脂線の特殊化された細胞)によって産生される脂質の多い分泌物である。ヒトにおいて、皮脂は、皮膚の表面をコーティングし、抗微生物防御、水分保持、光防護および創傷治癒に寄与する。皮脂リピドームは脂質の複雑な混合物から構成される。皮脂脂質組成は種間で異なり、様々な機能的要求の結果である可能性が高い。ヒト皮脂脂質は、遊離脂肪酸(FFA)、コレステロール(CH)、コレステリル/コレステロールエステル(CE)、ならびにジアシルグリセロールおよびトリアシルグリセロール(DAGおよびTAG)だけではなく、ワックスエステル(WE)およびスクワレン(SQ)(それらは皮脂に固有である)もまた含む。これらの脂質に加えて、皮脂は脂溶性分子(トコフェロール等)を含有する。皮脂の特徴づけは、脂質クラスを分離する薄層クロマトグラフィーに続いて、個別の脂質種の同定無しに各々のクラス内でバルクで脂肪酸組成を決定することを包含する(Stewart et al.,J Invest Dermatol.1986;87(6):733−6)。より最近では、液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)を組み合わせる方法を使用して、皮脂脂質が特徴づけられている(Camera et al,J Lipid Res.2010;51(11);3377−88)が、これらの方法は総計の組成のみを報告し、脂質種の脂肪酸組成を同定しない。さらに、これらの方法は相対的定量のみを提供し、皮脂リピドームの脂肪酸組成は脂質クラスにわたって定量化することができない。加えて、これらの方法は事前の分離ステップまたは精製ステップを要求する。本明細書において、皮脂中の主要な脂質種の脂肪酸組成を同時に同定し、これらの分子および脂溶性トコフェロールの絶対濃度を測定する方法を提示する。
【0004】
皮脂サンプル中の脂質およびトコフェロールの検出および定量のための方法およびアッセイが、本明細書において記載される。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様において、サンプルにおいて質量分析によって、ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステリルエステル(CE)、コレステロール(CH)およびその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を決定する方法は、複数のステップを含む。ステップは、脂質種のうちの1つまたは複数の各々から質量分析によって検出可能な1つまたは複数のイオンを産生するのに好適な条件下で、イオン化源へサンプルをかけること;1つまたは複数の脂質種の各々からの1つまたは複数のイオンの量を質量分析によって測定すること;および1つまたは複数のイオンの測定された量を使用して、サンプル中の1つまたは複数の脂質種の各々の存在、非存在または量を決定することを含む。
【0006】
本発明の第2の態様において、1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数のトコフェロールの存在または非存在または量を質量分析によってサンプル中で決定する方法は、複数のステップを含む。1つまたは複数の脂質種は、1つまたは複数の脂質クラスからであり、それは、ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステリルエステル(CE)、コレステロール(CH)、トコフェロール(TOC)およびその組み合わせからなる群から選択される。1つまたは複数のトコフェロールは、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γトコフェロールおよびδ−トコフェロール、ならびにその組み合わせからなる群から選択される。ステップは、脂質種のうちの1つまたは複数および1つまたは複数のトコフェロールの各々から質量分析によって検出可能な1つまたは複数のイオンを産生するのに好適な条件下で、イオン化源へサンプルをかけること;1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数のトコフェロールの各々からの1つまたは複数のイオンの量を質量分析によって測定すること;ならびに1つまたは複数のイオンの測定された量を使用して、サンプル中の1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数のトコフェロールの各々の存在、非存在または量を決定することを含む。
【0007】
第1の態様および第2の態様の特徴において、1つまたは複数の脂質クラスは、ワックスエステル(WE)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、コレステリルエステル(CE)またはその組み合わせを含み、方法は、1つまたは複数の脂質種の1つまたは複数の脂肪酸の炭素および二重結合の数を決定することをさらに含む。
【0008】
別の特徴において、サンプルは皮脂サンプルまたは脂腺細胞サンプルである。さらに別の特徴において、1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量は、単一インジェクションから決定される。さらなる特徴において、1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種はワックスエステルを含み、方法はワックスエステルの脂肪アルコール組成を決定することをさらに含む。なおさらなる特徴において、1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種はジアシルグリセロールを含み、方法はジアシルグリセロールの2つの脂肪酸についての炭素および二重結合の数を決定することをさらに含む。
【0009】
追加の特徴において、少なくとも2つの脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の量が決定される。この特徴に関して、少なくとも2つの脂質クラスは、スクワレンおよびワックスエステルを含む。この特徴をさらに考慮すると、少なくとも2つの脂質クラスはスクワレンおよびジアシルグリセロールを含む。さらに、この特徴に関して、少なくとも2つの脂質クラスは、スクワレンおよびトリアシルグリセロール、スクワレンおよび遊離脂肪酸、スクワレンおよびコレステリルエステル、スクワレンおよびコレステロール、ワックスエステルおよびトリアシルグリセロール、ワックスエステルおよびジアシルグリセロール、ワックスエステルおよび遊離脂肪酸、ワックスエステルおよびコレステロールエステル、またはワックスエステルおよびコレステロールを含む。
【0010】
さらなる特徴において、3以上、4以上、5以上、または6以上の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の量が決定される。別の特徴において、脂質クラスCH、CE、WE、SQ、TAG、DAGおよびFFAの各々からの1つまたは複数の脂質種の量が決定される。さらに別の特徴において、CH、CE、WE、SQ、TAG、DAGおよびFFAからなる群から選択される1つまたは複数の脂質種の量は決定され、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γトコフェロールおよびδ−トコフェロールからなる群から選択される1つまたは複数のTOC種の量は決定される。なおさらなる特徴において、20以上の脂質種の量が決定される。
【0011】
別の特徴において、1つまたは複数の内部標準を使用して、サンプル中の1つまたは複数の脂質種の量を決定する。この特徴に関して、1つまたは複数の内部標準は、ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリクリド(triacylglycride)(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステリルエステル(CE)およびその組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数の脂質クラスから選択される。この特徴をさらに考慮すると、1つまたは複数の内部標準はワックスエステル(WE)の脂質クラスから選択され、内部標準はWE(FA19:1/OH8:0)およびWE(FA17:1/OH8:0)からなる群から選択される。加えて、この特徴に関して、1つまたは複数の内部標準のうちの少なくとも1つは同位体標識される。
【0012】
追加の特徴において、サンプルは皮脂サンプルであり、皮脂テープ、スワブまたは濾紙を使用して収集される。さらなる特徴において、方法は、コレステロールの量を決定することをさらに含む。別の特徴において、方法は、サンプル中の1つまたは複数の脂肪酸異性体の存在、非存在または量を決定することをさらに含む。さらに別の特徴において、サンプルは、事前の分離ステップまたは精製ステップ無しに質量分析装置の中へ直接注入される。
【0013】
本発明の他の態様において、キットは、ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリクリド(triacylglycride)(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステロール(CH)、コレステリルエステル(CE)およびその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数の脂質クラスの各々についての1つまたは複数の内部標準、ならびにパッケージ材料およびキットの使用のための指示を含む。この態様の特徴において、1つまたは複数の内部標準のうちの少なくとも1つは同位体標識される。
【0014】
本発明のさらなる態様において、キットは、ワックスエステル(WE)、スクワレン(SQ)、トリアシルグリクリド(triacylglycride)(TAG)およびジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、コレステロール(CH)、コレステリルエステル(CE)およびその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数の脂質クラスの各々についての、ならびにα−トコフェロール、β−トコフェロール、γトコフェロールおよびδ−トコフェロールならびにその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数のトコフェロール(TOC)の各々についての、1つまたは複数の内部標準、ならびにパッケージ材料およびキットの使用のための指示を含む。この態様の特徴において、1つまたは複数の内部標準のうちの少なくとも1つは同位体標識される。
【0015】
本発明の追加の態様において、サンプルにおいて質量分析によって、スクワレン(SQ)、遊離脂肪酸(FFA)、複合脂質およびその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を決定する方法は、複数のステップを含む。ステップは、脂質種のうちの1つまたは複数の各々から質量分析によって検出可能な1つまたは複数のイオンを産生するのに好適な条件下で、イオン化源へサンプルをかけること;1つまたは複数の脂質種の各々からの1つまたは複数のイオンの量を質量分析によって測定すること;および1つまたは複数のイオンの測定された量を使用して、サンプル中の1つまたは複数の脂質種の各々の量を決定することを含む。
【0016】
この態様の特徴において、1つまたは複数の複合脂質は、WE、TAG、DAGおよびCEからなる群から選択される。さらなる特徴において、方法は、1つまたは複数の複合脂質種の1つまたは複数の脂肪酸の炭素および二重結合の数を決定することをさらに含む。追加の特徴において、サンプルは皮脂サンプルまたは脂腺細胞サンプルである。サンプルが皮脂サンプルである場合に、それは皮脂テープ、スワブまたは濾紙を使用して収集され得る。別の特徴において、1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の量は、単一インジェクションから決定される。なおさらなる特徴において、方法は、コレステロールの量を決定することをさらに含む。別の特徴において、サンプルは、事前の分離ステップまたは精製ステップ無しに質量分析装置の中へ直接注入される。
【0017】
本発明の追加の態様において、サンプル中のSQ、WE、DAG、TAG、FFA、コレステロールおよびCEからなる脂質クラスに分類される1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を検出する方法は、事前の分離ステップまたは精製ステップ無しに抽出物サンプルの単一インジェクションを質量分析装置の中へ注入すること;ならびに質量分析装置を使用して、サンプル中の1つまたは複数の脂質種を同定し、1つまたは複数の脂質種の濃度を決定することを含む。
【0018】
本発明のさらなる態様において、サンプル中の1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数のTOCの存在、非存在または量を検出する方法(脂質種は、SQ、WE、DAG、TAG、FFA、コレステロールおよびCEからなる脂質クラスから選択され、1つまたは複数のTOCは、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γトコフェロールおよびδ−トコフェロールからなる群から選択される)は、事前の分離ステップまたは精製ステップ無しに抽出物サンプルの単一インジェクションを質量分析装置の中へ注入すること、ならびに質量分析装置を使用して、サンプル中の1つまたは複数の脂質種を同定し、1つまたは複数のTOCを同定し、1つまたは複数の脂質種の濃度および1つまたは複数のTOCの濃度を決定することを含む。
【0019】
この態様の特徴において、サンプル中の1つまたは複数の脂肪酸異性体の存在、非存在または量は、GC−FAME(ガスクロマトグラフィー脂肪酸メチルエステル)分析を使用して決定される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】指示された脂質クラス内の脂質種の直線性の研究からのR
2値を示すチャートである。
【
図2】スタンダードな分析方法(FAME−GC/MSの分析)に比較した、実施例1中で記載される方法により分析された皮脂サンプルについてのパーセント脂肪酸組成(すべての脂質クラスにわたる)を示すチャートである。
【
図3】本明細書において記載される方法を使用して測定された、皮脂サンプル中の298のWE脂質種の濃度を示すグラフである。種はX軸上であり、濃度(nmol/テープで)はY軸上で示される。
【
図4】本明細書において記載される方法を使用して測定された、皮脂サンプル中の575のTAG脂質種の濃度を示すグラフである。種はX軸上であり、濃度(nmol/テープで)はY軸上で示される。
【
図5】本明細書において記載される方法を使用して測定された、皮脂サンプル中の47のDAG脂質種の濃度のマトリックスを示す表である。1つの脂肪酸が縦列でおよび第2の脂肪酸が横列でリストされて、2つの脂肪酸の理論上の組み合わせの各々が示される。サンプル中の測定された脂質種の量は、対応するボックス中のDAG脂質種の濃度(nmol/テープで)により示される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
サンプル中の1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を質量分析によって測定するための方法が、記載される。いくつかの実施形態において、脂質種は、スクワレン(SQ)、ワックスエステル(WE)、遊離脂肪酸(FFA)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、コレステリルエステル(CE)、コレステロール(CH)およびその組み合わせからなる脂質クラスから選択され得る。単一インジェクション方法を使用して、サンプル中の1つまたは複数の脂質クラスからの脂質種を定量化するための質量分析方法が、記載される。加えて、記載される方法を使用して、1つまたは複数の脂質種の1つまたは複数の構成脂肪酸(すなわち脂肪酸組成)中の炭素および二重結合の数を決定することができる。方法は事前の分離ステップまたは精製ステップ無しに遂行され得る。一例において、方法は、クロマトグラフィーステップ無しに遂行され得る。
【0022】
他の実施形態において、サンプル中のスクワレン(SQ)、ワックスエステル(WE)、遊離脂肪酸(FFA)、トリアシルグリセロール(TAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、コレステリルエステル(CE)、コレステロール(CH)および1つまたは複数のトコフェロール(TOC)からなる脂質クラスから選択される、1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種の存在、非存在または量を質量分析によって測定するための方法が、記載される。トコフェロールは、α−トコフェロール、β\γ−トコフェロール、δ−トコフェロールおよびその組み合わせから選択され得る。
【0023】
記載される方法は、皮脂の主要な脂質クラスの分子構成を同時に定量化および分離することができる。より完全に以下に記載されるように、健康なボランティアから収集された皮脂サンプルは、有機溶媒抽出へかけられ、続いて、多重反応モニタリング(MRM)モードで操作される質量分析装置(フローインジェクション分析−質量分析またはFIA−MSと本明細書において称される)の中へ自動フローインジェクションされる。2,500を超える分子種の広範囲のコンビナトリアルリストからスタートして、およそ1,000の特異的な脂質種が同定された。同定された種は、再現性良く各々の脂質クラス中の全シグナルの大部分を占める。さらに、1つのクラスあたり少なくとも1つ内部標準が含まれていた。アッセイの分析再現性、回収率および直線性が検証された。総合すると、これらの至適化されたハイスループット方法は、皮脂のリピドーム組成への先例がない洞察を提供する。
【0024】
記載される方法を使用して、複数の脂質クラスからの2,500を上回る脂質種(皮脂サンプル中の、スクワレンおよびワックスエステルに加えて、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロール、コレステリルエステル、コレステロール、遊離脂肪酸および1つまたは複数の脂溶性トコフェロールまたは全トコフェロールを包含する)は、事前の精製ステップの使用無しに(例えばクロマトグラフ分離無しに)、質量分析の分析単独によって決定することができる。様々な組み合わせにおける、複数の脂質分子および全トコフェロールまたは1つまたは複数のトコフェロールを、単一インジェクションでおよびクロマトグラフィーまたは精製無しで測定する能力は、解析結果を得るのに要求される時間を低減し、研究室の使い捨て製品(例えば有機溶媒、チューブ、ピペットチップ、試薬)、研究室器機および人的資源に関してより少ない資源を使用する。これらの改善は、アッセイの費用を減少させ、サンプル分析のための器機および研究室能力を増加させることによって、節約を導く。
【0025】
記載される方法は、GC−FAME分析(それは脂肪酸の異性体種(同じ脂肪酸の直鎖異性体および分岐鎖異性体等)を識別することができる)と組み合わせて使用され得る。GC−FAMEを使用して検出された脂肪酸は、キャリブレーションカーブを使用して定量化される。脂質はGC−FAME分析の前に破壊され、そのため、アッセイは個別の複合脂質種を測定しないか、または各々の脂肪酸が各々の脂質クラスの組成にどれくらい寄与したかを示さない。その代りに、GC−FAME分析は、皮脂の全脂肪酸組成を報告する。一緒に使用された場合に、FIA−MSアッセイおよびGC−FAMEアッセイは、皮脂リピドームの包括的な特徴づけを可能にする相補的な情報を提供する。
【0026】
本発明をさらに詳細に記載する前に、以下の用語が定義される。
【0027】
定義:
「脂質」または「脂質分子」は、水または他の極性溶媒中で不溶性であるが、無極性溶媒(例えばエーテル)中で可溶性の有機小分子を指す。脂質は、細胞シグナリング、エネルギー貯蔵、および細胞膜の構造構成要素の提供を含む、生物学的機能を有する構造的に多様な分子である。脂質の非限定例としては、スクワレン(SQ)、脂肪酸(FA)、ワックスエステル(WE)、コレステロール(CH)、コレステロールエステル(CE)、トリアシルグリセロール(TAG)、およびジアシルグリセロール(DAG)が挙げられる。いくつかの脂質は単一構造(すなわち1つの構造構成要素のみからなる)から構成され、本明細書において「単純脂質」と称される。いわゆる単純脂質の非限定例はSQおよびCHである。いくつかの脂質は、1つまたは複数の脂肪酸を含む複数の構造構成要素から構成され、本明細書において「複合脂質」(CL)と称される。DAG、TAG、CEおよびWEは複合脂質の非限定例である。本明細書において使用される時、「脂質種」は、化学式(例えばSQ、CH、FFA(16:0))のレベルで定義されるか、または、1つもしくは複数の脂肪酸もしくは脂肪酸の組み合わせから構成される複合脂質(CL)については、少なくとも1つの構成脂肪酸中の炭素および二重結合の数(例えばWE(FA19:1/OH8:0)、DAG(16:0/16:0)、DAG(18:0/18:4)、TAG(39:0−FA12:0)など)を同定して定義される、個別の脂質分子を指す。
【0028】
「脂質クラス」は、本明細書において使用される時、構造類似性を有しており、したがって、クラスとしてグループ化される脂質分子を指す。本明細書において使用される時、脂質クラスの非限定例としては、スクワレン(SQ)、ワックスエステル(WE)、コレステロール(CH)、遊離脂肪酸(FFA)、コレストリル(cholestryl)/コレステロールエステル(CE)、トリアシルグリセロール(TAG)およびジアシルグリセロール(DAG)が挙げられる。いくつかのクラスは単一の脂質種のみを包含する。例えば、スクワレン(SQ)はSQクラス中の単一の脂質種である。他のクラスは複数の脂質種を包含する。例えば、遊離脂肪酸クラス(FFA)は、複数の脂質種(例えばFFA(14:0)、FFA(16:0)、FFA(16:1)およびFFA(18:0))を包含する。さらに他の脂質クラスは、複合脂質を含む複数の脂質種を包含する。サンプルとしては、1つまたは複数のクラスの複合脂質(CL)にわたる各々の脂肪酸の濃度は、その脂肪酸を含有する各々の複合脂質の濃度を総計することによって決定され得る。この値は「CL脂肪酸濃度」と称される。加えて、1つまたは複数のクラスの複合脂質にわたる各々の脂肪酸のパーセント寄与率が決定され得る。この値は「CL脂肪酸組成」と称される。
【0029】
「リピドーム」は、細胞、組織、生物学的液または生物体内の完全な脂質プロファイルを指す。脂質プロファイルは、複数の別個の構造の脂質クラス中の脂質から構成される。本明細書において使用される時、「皮脂リピドーム」は、皮脂または皮脂サンプル中に存在する複数の脂質クラス中の脂質を指す。
【0030】
「クロマトグラフィー」という用語は、2つの相(そのうちの1つ(静止相)は静止しているが他のもの(移動相)は一定方向で動く)の間で分離される構成要素(すなわち化学物質構成物)が分配される、分離の物理的方法を指す。移動相は、気体(「ガスクロマトグラフィー」、「GC」)または液体(「液体クロマトグラフィー」、「LC」;「薄層クロマトグラフィー」、「TLC」)であり得る。
【0031】
「質量分析」(MS)という用語は、標的分子をイオン化するかまたはイオン化およびフラグメント化し、次いでイオンをそれらの質量/電荷比に基づいて分析して、「分子指紋」として供される質量スペクトルを産生することを伴う、分子の測定および分析のための技法を指す。イオンの質量対電荷比を決定する複数の共通して使用される方法があり、あるものは電磁波とイオン軌道の相互作用を測定し、他のものはイオンが所与の距離を移動するのにかかる時間を測定し、または両方の組み合わせがある。これらの断片質量測定からのデータはデータベースに対して検索されて、標的分子を同定することができる。
【0032】
「負モードでの操作」または「負イオン化モードでの操作」という用語は、負イオンが生成され検出される質量分析方法を指す。「正モードでの操作」または「正イオン化モードでの操作」という用語は、正イオンが生成され検出される質量分析方法を指す。
【0033】
「質量分析器」という用語は、イオンの混合物を、それらの質量対電荷(「m/z」)比によって分離する質量分析装置中のデバイスを指す。
【0034】
「m/z」という用語は、電荷数によってイオンの質量数を割ることによって形成される無次元量を指す。それは「質量対電荷」比と長らく呼ばれていた。
【0035】
本明細書において使用される時、「源」または「イオン化源」という用語は、分析されるサンプルをイオン化する質量分析装置中のデバイスを指す。イオン化源の例としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)、大気圧光イオン化(APPI)、フレームイオン化検出器(FID)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)などが挙げられる。
【0036】
本明細書において使用される時、「検出器」という用語は、イオンを検出する質量分析装置中のデバイスを指す。
【0037】
「イオン」という用語は、例えば、物体への電子の付加または物体からの電子の除去によって形成することができる、電荷を含有する任意の物体を指す。
【0038】
「質量スペクトル」という用語は、典型的にはX軸上のm/z値およびY軸上の強度値を含有する、質量分析装置によって産生されたデータのプロットを指す。
【0039】
「タンデムMS」という用語は、MS選択の複数のステージが関与し、断片化がステージ間で起こる操作を指す。第1のMSのステージにおいて、イオンは源において形成される。特定の質量電荷比のイオン(各々は1つの(およびおそらく1を超える)化学物質構成物を表す)が選択され、フラグメントイオンが生成される。次いでもたらされたイオンは分離され、質量分析の第2のステージにおいて検出される。第1のMSのステージにおける対象となるイオンは「親」イオンまたは前駆イオンに対応する一方で、第2のMSのステージ(複数可)の間に生成されたイオンは、親イオンのサブコンポーネントに対応し、本明細書において「娘」イオンまたは「生成」イオンと称される。
【0040】
したがって、タンデムMSは、複雑な混合物中の化学物質構成物の親−娘の関係性を表わすデータ構造の生成を可能にする。この関係性は、互いの親イオンおよび娘イオンの関係性を説明する樹状構造(そこでは、娘イオンは、親イオンのサブコンポーネントを表わす)によって提示され得る。例えば、タンデムMSを娘イオンに対して反復して、「孫娘」イオンを決定することができる。したがって、タンデムMSは2レベルの断片化に限定されないが、マルチレベルMS(「MS
n」とも称される)を指すように総称的に使用される。「MS/MS」という用語は「MS
2」についての同義語である。単純化のために、「娘イオン」という用語は、二次または高次の(すなわち第1のものではない)MSによって生成された任意のイオンを以後指す。
【0041】
1つまたは複数の脂質分子の「量」は、サンプル中の測定された脂質分子の化学濃度または質量濃度を意味する。例えば、量または濃度は、モル濃度、質量分率、モル分率、重量モル濃度、パーセンテージとして表現され得る。
【0042】
「サンプル」または「生物学的サンプル」は、被験体から単離された生物学的材料を意味する。生物学的サンプルは所望されるバイオマーカーの検出に好適な任意の生物学的材料を含有し、被験体からの細胞材料および/または非細胞材料を含み得る。サンプルは、任意の好適な生物学的液または組織(例えば皮脂、細胞(例えば脂腺細胞細胞)、血液、血液血漿(血漿)、血液血清(血清)、尿、脳脊髄液(CSF)または組織等)から単離され得る。
【0043】
「被験体」は任意の動物を意味するが、好ましくは哺乳動物(例えばヒト、サル、マウス、ウサギまたはラット等)である。
【0044】
I.サンプル調製および品質管理(QC)
抽出物サンプルは、サンプル中に存在し得る他の分子(例えばタンパク質、核酸、他の小分子代謝物質)から脂質を隔離することによって調製される。一実施例において、サンプルは皮脂サンプルであり、サンプルは、皮脂テープ(例えばsebutape)、スワブ(例えばコットンスワブ)または濾紙を使用して収集される。別の例において、サンプルは脂腺細胞である。脂質分子は、当業者に既知の方法を使用して(例えばメタノールの使用によって)、サンプルから抽出され得る。サンプル中のいくつかまたはすべての脂質分子は、タンパク質に結合され得る。様々な方法を使用して、MSの分析の前に脂質分子とタンパク質との間の相互作用を破壊することができる。例えば、脂質分子をサンプルから抽出して液体抽出物を産生することができる一方で、存在するタンパク質は沈殿させることができる。タンパク質は、例えばメタノール溶液または酢酸エチル溶液を使用して沈殿させることができる。例示的な方法において、サンプル中のタンパク質を沈殿させるために、メタノールまたは酢酸エチルの溶液がサンプルに添加され、次いで混合物は遠心分離機中で遠心されるかまたは遠心濾過されて、沈殿させたタンパク質と液体上清(それは抽出された脂質分子を含有する)が分離され得る。
【0045】
他の実施形態において、脂質分子はタンパク質を沈殿させずに、タンパク質から遊離され得る。例えば、蟻酸溶液をサンプルに添加して、タンパク質と脂質分子との間の相互作用を破壊することができる。あるいは、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、エタノール中の蟻酸の溶液、またはメタノール中の蟻酸の溶液を、サンプルへ添加して、タンパク質を沈殿させずに、タンパク質と脂質分子との間のイオン相互作用を破壊することができる。
【0046】
いくつかの実施形態において、抽出物サンプルを、クロマトグラフィー(液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーまたは薄層クロマトグラフィー等)の事前の使用無しに質量分析装置の中へ直接注入して、脂質分子の量を精製またはエンリッチすることができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、抽出されたサンプルは、一部がFIA−MS分析のために使用されるように分けられ、別の一部はGC−FAME分析のために使用される。
【0048】
例えば脂質分子を検出および定量化する方法の精度、正確性、キャリブレーション範囲または分析感度を査定するために、品質管理(QC)サンプルが使用され得る。かかるQCサンプルは実験サンプルと同じ抽出方法にかけられる。
【0049】
II.質量分析および定量
1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種は、質量分析によって検出され得る。質量分析は、サンプルのイオン化およびさらなる分析のための荷電分子の生成のためのイオン源を含む質量分析装置を使用して遂行される。サンプルのイオン化は、例えばエレクトロスプレーイオン化(ESI)によって遂行され得る。他のイオン源としては、例えば、大気圧化学イオン化(APCI)、加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)、大気圧光イオン化(APPI)、フレームイオン化検出器(FID)、またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)が挙げられ得る。イオン化方法の選択は多くの考慮で基づいて決定され得る。例示的な考慮としては、測定される脂質分子、サンプルのタイプ、検出器のタイプ、および正モードまたは負モードの選択が挙げられる。
【0050】
サンプルがイオン化された後に、正にまたは負に荷電したイオンを分析して質量対電荷比を決定することができる。質量対電荷比の決定に好適な例示的な分析器としては、四重極分析器、イオントラップ分析器、および飛行時間型分析器が挙げられる。イオンは、例えば選択的モードまたは走査モードを使用して検出され得る。例示的な走査モードとしては、多重反応モニタリング(MRM)および選択反応モニタリング(SRM)が挙げられる。
【0051】
抽出物サンプルは、質量分析装置のイオン化源の中へ直接注入され得る。サンプルは、約5μl/分〜約10μl/分の流速で注入され得る。ランタイムは7分間未満であり得、サンプルインジェクション間の全時間は14分間未満であり得る。
【0052】
1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種および1つまたは複数の脂溶性トコフェロールは、1つまたは複数のイオンを生成する正モードまたは負モードでイオン化され得る。例えば、スクワレン、ワックスエステル、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールおよびコレステリルエステルの脂質クラスからの脂質種、ならびに1つまたは複数のトコフェロールは、正モードでイオン化され得る。別の例において、遊離脂肪酸の脂質クラスからの脂質種は、負モードでイオン化され得る。正モードでイオン化された脂質種およびTOC、および負モードでイオン化された脂質種は、抽出物サンプルの単一インジェクションで測定され得る。
【0053】
一実施例において、質量分析はタンデムMSであり得、例えばAB Sciex QTrap 5500タンデム型質量分析計を使用して遂行され得る。タンデムMSは、複雑な混合物中の化学物質構成物の親−娘の関係性を表わすデータ構造の生成を可能にする。この関係性は、互いの親イオンおよび娘イオンの関係性を説明する樹状構造(そこでは、娘イオンは、親イオンのサブコンポーネントを表わす)によって提示され得る。
【0054】
質量分析装置の器機設定は、所与の方法について、および/または使用される特定の質量分析装置について至適化され得る。器機は、様々な気体(例えば窒素、ヘリウム、アルゴンまたはゼロエア)を使用し得る。一実施例において、質量分析装置は正イオン化モードで操作され得る。イオンスプレーの電圧設定は約0.5kV〜約5.0kVの範囲であり得る。一実施形態において、電圧は4.1kVで設定され得る。源の温度は約100℃〜約600℃の範囲であり得る。一実施形態において、源の温度は250℃で設定され得る。カーテンガスは約10〜約55psiの範囲であり得る。一実施形態において、カーテンガスは17psiで設定される。ネブライザーガス流速および脱溶媒ガス流速は約0〜約90psiの範囲であり得る。一実施形態において、ネブライザーガスは17.0psiで設定され得、脱溶媒ガスは25.0psiで設定され得る。衝突活性化解離(CAD)ガスの設定は高いものから低いものの範囲であり得る。一実施形態において、CADガスは中庸で設定される。デクラスタリング電位は約15V〜約170Vの範囲であり得る。衝突エネルギー(CE)は約10eV〜約100eVの範囲であり得る。入口電位(EP)設定は約5V〜約30Vの範囲であり得る。衝突セル出口電位(CXP)設定は約8V〜約16Vの範囲であり得る。
【0055】
別の例において、器機は負イオン化モードで操作され得る。イオンスプレーの電圧設定は約−0.5kV〜約−5.5kVの範囲であり得る。一実施形態において、電圧は−2.5kVで設定され得る。源の温度は約100℃〜約600℃の範囲であり得る。一実施形態において、源の温度は250℃で設定され得る。カーテンガスは約10〜約55psiの範囲であり得る。一実施形態において、カーテンガスは17.0psiで設定され得る。ネブライザーガス流速および脱溶媒ガス流速は約0〜約90psiの範囲であり得る。一実施形態において、ネブライザーガスは17.0psiで設定され得、脱溶媒ガスは25.0psiで設定され得る。CAD気体は低いものから高いものの範囲であり得る。一例において、CADは例えば中庸で設定され得る。デクラスタリング電位は約−30V〜約−10Vの範囲であり得る。衝突エネルギー(CE)は約−30eV〜約−5eVの範囲であり得る。入口電位は約−30V〜約−5Vの範囲であり得る。衝突セル出口電位(CXP)設定は約−20V〜約−8Vの範囲であり得る。
【0056】
一実施例において、MSは精密質量MSであり得る。例えば、精密質量の質量分析は四極子−飛行時間型(Q−TOF)分析器を使用し得る。例示的な実施形態において、精密質量MSは精密質量タンデムMSであり得る。
【0057】
質量分析装置は、典型的にはイオンスキャンを使用者に提供する(すなわち所与のタイムポイントの範囲にわたる特定の質量/電荷を備えた各々のイオンの相対的な存在量)。質量分析データは、多くの方法によって、もとのサンプル中の脂質分子またはTOC分子の量に関係づけられ得る。一実施例において、内部標準(IS)が使用され得る。内部標準は、試験サンプル、および個別のTOCまたは脂質種の定量のための品質管理サンプルへ添加され得る。測定される各々の脂質クラスについて少なくとも1つの内部標準が使用され得る。サンプル中の内部標準イオン強度へのTOCまたは脂質の分子イオン強度の比は、内部標準の既知の濃度と一緒に、定量のために使用され得る。1つまたは複数のTOCならびにTAG、DAG、FFA、SQ、WE、CEおよびCHから選択される1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の内部標準は、定量のために使用され得る。いくつかの実施形態において、内部標準は、例えば重水素(
2H、「d」と表示される)、
13Cまたは
15N同位体を使用して、同位体標識され得る。任意の原子、または内部標準の原子の任意の数が、同位体により標識され得る。いくつかの実施形態において、ISはすべて同位体標識され得る。いくつかの実施形態において、ISのどれも同位体標識されない。他の実施形態において、同位体標識されたISおよび非標識ISの組み合わせが使用され得る。一実施例において、内部標準のTAG(16:0−d9/16:0/18:1)、TAG(16:0−d9/18:0/18:1)、TAG(16:0−d9/18:1/18:1)、TAG(16:0−d9/18:2/18:1)、TAG(16:0−d9/18:3/18:1)、TAG(16:0−d9/20:3/18:1)、TAG(16:0−d9/20:4/18:1)、および/もしくはTAG(16:0−d9/22:6/18:1)は、トリアシルグリセロール脂質種の定量のために使用され得る;内部標準のDAG(16:0−d9/16:0)、DAG(16:0−d9/18:0)、DAG(16:0−d9/18:1)、DAG(16:0−d9/18:2)、DAG(16:0−d9/18:3)、DAG(16:0−d9/20:4)、DAG(16:0−d9/20:5)、および/もしくはDAG(16:0−d9/22:6)は、ジアシルグリセロール脂質種の定量のために使用され得る;内部標準のFFA(16:0)−d9、FFA(18:1)−d17、および/もしくはFFA(17:1)は、遊離脂肪酸の定量のために使用され得;内部標準のSQ−d6は、SQの定量のために使用され得る;内部標準のWE(FA19:1/OH8:0)、WE、WE(FA17:1/OH8:0)、FA16:0−d9/OH16:0d37)、および/もしくはWE(FA16:1/OH18:0−d37)は、WE脂質種の定量のために使用され得る;内部標準のCE(16:0)−d7、CE(16:1)−d7、CE(18:1)−d7、CE(18:2)−d7、CE(20:3)−d7、CE(20:4)−d7、CE(20:5)−d7、および/もしくはCE(22:6)−d7は、コレステロールエステル脂質種の定量のために使用され得る;内部標準のコレステロール−d7は、コレステロールの定量のために使用され得る;ならびに/または、内部標準のα−トコフェロール−d6、α−トコフェロール
13C
6、α−トコフェロール
13C
3、α−トコフェロール
13C
9は、トコフェロールの定量のために使用され得る。
【0058】
キャリブレーションスタンダードも定量のために使用され得る。所与のイオンの相対的存在量が検体(TOC分子または脂質分子等)の絶対量に変換され得るように、キャリブレーションスタンダードを使用してスタンダードカーブ(キャリブレーションカーブ)を生成する。内部標準はキャリブレーションスタンダードに添加され得る。別の例において、キャリブレーションスタンダードは外部スタンダードであり、スタンダードカーブがそれらのスタンダードから生成されたイオンに基づいて生成されて、1つ以上のTOC分子または脂質分子の量を計算することができる。さらなる実施例において、外部スタンダードは非標識のTOC分子または脂質分子であり得る。
【0059】
分析データはコンピューターへ送信され、コンピューターソフトウェアを使用してプロセシングされ得る。一実施例において、各々の個別のTOCまたは脂質種は、標的化合物についてのシグナル強度対既知の濃度の割り当てられた内部標準についてのシグナル強度の比に基づいて定量化され得る。全TOCの濃度は、サンプル中で検出される各々のTOCの総計から計算され得る。脂質種組成は、各々の脂質クラス内の個別の脂質種の比率の計算によって決定され得る。脂質クラス濃度は、脂質クラス内のすべての脂質種の総計から計算され、脂質クラス組成はサンプル内の脂質クラスの比率の計算によって決定され得る。脂肪酸濃度は、特異的な脂肪酸を含有する脂質クラス内のすべての脂質種の総計から計算され、脂肪酸組成は、各々の脂質クラス内の個別の脂肪酸の比率の計算によって決定され得る。
【0060】
III.キット
1つもしくは複数のTOC、ならびに/またはWE、SQ、TAG、DAG、FFA、CE、CHおよびその組み合わせからなる群から選択される1つもしくは複数の脂質クラスからの1つもしくは複数の脂質種のアッセイのためのキットが、本明細書において記載される。例えば、キットは、パッケージ材料、1つまたは複数の対照サンプル、サンプル収集レセプタクル、および1つまたは複数のアッセイのために十分な量で測定済みの量の1つまたは複数の内部標準を含み得る。分離したパッケージング中の追加のキット構成要素は、対象となるサンプル中で脂質分子の検出および/または定量化のためのバッファーおよび他の試薬を含み得る。キットは、1つまたは複数の脂質種を測定する試薬を使用するための、有形の形態で(例えば取扱説明書等の例えば紙または電子媒体で)記録された指示も含み得る。
【0061】
他の実施形態において、WE、SQ、TAG、DAG、FFA、CE、CHおよびその組み合わせからなる群から選択される、1つまたは複数の脂質クラスからの1つまたは複数の脂質種、ならびにα−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロールおよびδ−トコフェロールからなる群から選択される、1つまたは複数のTOCのアッセイのためのキットが、本明細書において記載される。
【実施例】
【0062】
試薬
HPLCグレード(99.9%)メタノールは、JT Bakerから得た。HPLCグレード(99.9%)ジクロロメタンは、Honeywell Burdick & Jacksonから得た。酢酸アンモニウム(BioUltra ≧99.0%)。TAG(16:0−d9/16:0/18:1)、TAG(16:0−d9/18:0/18:1)、TAG(16:0−d9/18:1/18:1)、TAG(16:0−d9/18:2/18:1)、TAG(16:0−d9/18:3/18:1)、TAG(16:0−d9/20:3/18:1)、TAG(16:0−d9/20:4/18:1)、TAG(16:0−d9/22:6/18:1)、CE(16:0)−d7、CE(16:1)−d7、CE(18:1)−d7、CE(18:2)−d7、CE(20:3)−d7、CE(20:4)−d7、CE(20:5)−d7およびCE(22:6)−d7は、Avanti Polar LipidsまたはEchelon Biosciencesによって合成された。DAG(16:0−d9/16:0)、DAG(16:0−d9/18:0)、DAG(16:0−d9/18:1)、DAG(16:0−d9/18:2)、DAG(16:0−d9/18:3)、DAG(16:0−d9/20:4)、DAG(16:0−d9/20:5)、DAG(16:0−d9/22:6)は、Avanti Polar Lipidsによって合成された。FFA(16:0)−d9、FFA(17:1は、Avanti Polar Lipidsから得た。SQ−d6は、Toronto Research Chemicalsから得た。α−トコフェロール−d6は、Santa Cruz Biotechnologyから得た。WE(FA19:1/OH8:0)は、インハウスで合成した。
【0063】
GC−FAME分析
表1中で示される32の脂肪酸のメチルエステルの全脂肪酸含有量(nmol/テープで)を、GC−FAMEを使用して決定した。32の脂肪酸のサンプルが提供され、同位体標識された内部標準をサンプルの各々へ添加した。サンプルを窒素気流下で蒸発乾固した。乾燥された脂質抽出物に90℃で1時間メタノール/硫酸によるメチル化を行い、遊離脂肪酸の対応するメチルエステルおよびコンジュゲートされた脂肪酸の形成が起こった。反応混合物を炭酸カリウムにより中和し、ヘキサンにより抽出した。ヘキサン層のアリコートを取り出し、キャリアガスとして水素を使用して、DB−225カラム(Agilent Technologies、CA)を装備した7890A/5975C GC/MSシステム(Agilent Technologies、CA)の上へ注入した。質量分析の分析を、電子イオン化による単イオンモニタリング(SIM)正モードで遂行した。裏付けされたキャリブレーションスタンダードから生成した線形回帰分析または二次回帰分析を使用して、定量を遂行した。
【表1】
【0064】
実施例1:定量的な皮脂の脂質およびTOCのアッセイのための質量分析方法
A.サンプル調製
皮脂テープを使用して、ボランティアの被験体から皮脂サンプルを収集した。サンプル調製を、ガラスサンプルチューブ中で実行した。メタノールを使用して脂質分子を抽出した。3mlのメタノールの添加に続いて、皮脂テープサンプルをボルテックスで撹拌し、次いで室温で10分間インキュベーションした。サンプルをボルテックスで撹拌した後に、アリコートを随意のFAME−GC/MS分析のために取り出し、別のアリコートを各々の研究サンプルから取り、プールして品質管理のために使用する単一プールのサンプルを形成した。各々のサンプルチューブへ、適切な内部標準(複数可)を含有する75μLのジクロロメタン(DCM)/メタノール(50/50)のワーキング内部標準(WIS)溶液を添加した。WIS溶液は、各々の脂質クラスおよびTOCについての1つまたは複数の内部標準を含有していた。内部標準を表2中でリストする。サンプルブランクは、内部標準無しの75μLのDCM/メタノール(50/50)の添加によって抽出した。サンプルをボルテックスで撹拌し、皮脂テープをチューブから取り出した。サンプルを乾燥し、次いで300μLのDCM/メタノール(90/10)+10mMの酢酸アンモニウム中で再構成した。サンプルをボルテックスで撹拌し、遠心濾過し、質量分析の分析のためのバイアルへ移した。脂質クラスおよびTOCの各々のためのWIS濃度を表2中で示す。各々の内部標準についてのパーセンテージは、重量でのパーセントを指す。すべてのWIS溶液をDCM/メタノール(50/50)の溶液中で調製した。
【表2】
【0065】
B.MRMおよび脂質種選択
初期ステップにおいて、皮脂サンプル中におそらく存在し得る脂質種の数を計算した。この計算は、皮脂サンプル中に存在する文献中で記載される脂肪酸および脂質クラスに基づき、SQ、WE、TAG、DAG、FFAおよびCEの脂質クラス内のすべての脂質種のリストを生成した。この分析から、2,500を上回る可能性のある脂質種が皮脂サンプル中にあることが決定された。
【0066】
脂溶性TOC、ならびにWE、TAG、DAG、FFAおよびCEの脂質クラスからの化学スタンダードを、質量分析によって分析して、皮脂サンプル中のTOCおよび2,500を上回る脂質種の各々をモニターするために有用なMRMペアを決定した。この分析に基づいて、各々のTOCおよび各々の脂質種をモニターするのに使用するMRMペアを、選択した。脂質クラスのWE、TAG、DAG、FFAおよびCE中の1つの脂質種につき、1つの例示的な親イオンおよび娘イオンのペア(1つのMRMペアを表す)を選択した。1つの例示的な親イオンおよび娘イオンのペアを、トコフェロールのα−トコフェロール、δ−トコフェロール、ならびにβ−トコフェロールおよびγ−トコフェロール(β/γ−トコフェロール)の組み合わせについても選択した。β−トコフェロールおよびγ−トコフェロールの親イオンおよび主要な娘イオンの両方は、同一のm/zを有し、記載される方法を使用して互いから識別することができないので、1つのMRMをβ/γ−トコフェロールのために使用した。最も豊富なイオンをモニタリングのために選択した。SQの質量分析の分析は1つの親イオンおよび2つの娘イオンをもたらし、最も低いバックグラウンドの娘イオンをモニタリングのために選択した。
【0067】
次いで選択したMRMを使用し、皮脂サンプルを使用して脂質種およびTOCの量を測定した。抽出物サンプルを質量分析装置の中へ3回インジェクションすることが、これらのMRMを使用してサンプル中の2,500を上回る脂質種の量を測定するのに必要とされた。サンプル中の2,500を超える脂質種の測定された量のデータの分析は、サンプル中の最も豊富な脂質種の選択によって、単一インジェクションにおいて皮脂サンプル中の脂質分子の90%を上回るものを測定できることを示した。したがって、WE、TAGおよびDAG脂質クラスからの最も豊富な脂質種についてのMRMは、SQおよびFFAのためのMRMと一緒に、単一インジェクション分析方法における組み入れのために選択された。CEについては、26の共通の脂質種についてのMRMが選択された。TOCについては、各々のα−トコフェロール、β/γ−トコフェロールおよびδ−トコフェロールについての1つのMRMが選択された。この例において、965の脂質種(2,500を上回るうちの)および3つのTOCについてのMRMが、単一インジェクション分析方法における組み入れのために選択された。MRMは、298のWE種、47のDAG種、575のTAG種、18のFFAおよび26のCEおよびSQに加えて、3つのTOCについて選択された。
【0068】
C.脂質種および脂溶性トコフェロールの定量的検出のための質量分析方法
サンプルの同じ(単一)インジェクション中の、TOC、ならびにWE、SQ、TAG、DAG、FFAおよびCEからなる脂質クラスからの脂質種のレベルを検出するMS/MS方法が、開発された。
【0069】
Turbo V源(ESI)を備えたAB SciEx QTrap 5500質量分析装置を使用して、質量分析を抽出物サンプルで遂行した。抽出物サンプルを、7μl/分の流速で質量分析装置のイオン化源の中へ直接(すなわちクロマトグラフ分離無しに)導入した。器機は、1MRMあたり20.0ミリ秒で16サイクル、50ミリ秒の設定時間、および5ミリ秒の質量範囲間の休止を使用して、多重反応モニタリング(MRM)モードで操作した。器機の各々のサイクルは正イオン化モードおよび負イオン化モードを含んでいた。器機は、4.1kVで設定されたイオンスプレー電圧の正イオン化モード、および−2.5kVで設定されたイオンスプレー電圧の負イオン化モードで操作した。源温度を250℃で、カーテンガス(例えば窒素)を17.0psiで、ネブライザーガス(例えば窒素)を17.0psiで、脱溶媒ガス(例えば窒素)を25.0psiで、および衝突活性化解離(CAD)ガス(例えば窒素)を中庸で設定した。ランタイムは7分間未満であり、1つのサンプルインジェクションから次のものへの全時間は13.25分であった。
【0070】
生のデータを器機から取得し、インハウスのソフトウェアを使用してプロセシングした。定量のために、既知の濃度の内部標準は、各々の脂質種についての単一点のキャリブレーションを提供した。脂質種(検体)を以下のように定量し、値をμMで報告した(ISは内部標準を指す)。
【数1】
【0071】
以下の脂質種:SQ、18のFFA、298のWE、47のDAG、575のTAG、26のCEおよび3のTOCについて、MRMをモニターした。
【0072】
実施例2:方法の検証(5つの脂質クラス)
1つまたは複数の脂質クラス中の1つまたは複数の脂質種を測定する方法の精度を、プールされた皮脂抽出物サンプルを使用して評価した。4つのサンプルを分析し、1サンプルあたり2つの技術的反復測定により全部で8つのサンプルであった。精度は、脂質クラス濃度について5.2%未満の相対標準偏差、脂質種濃度について8.0%未満の相対標準偏差、および脂質種組成について7.3%未満の相対標準偏差であった。結果を表3中で提示する。精度を脂肪酸の濃度および組成についても評価し、結果を表4中で提示する。
【表3】
【表4】
【0073】
直線性を査定するために、プールされた皮脂サンプルを、0.111×、0.222×、0.333×、0.444×および0.667×で希釈した。各々のサンプル希釈における各々の脂質種について、濃度を計算して、各々の脂質種についてのR
2値を得た。各々の脂質クラス内の脂質種についての結果を
図1中で提示する。
【0074】
実施例1(FIA−MS)中で記載される方法を、現在使用されるFAME−GC/MS(FAME)分析に比較した。皮脂テープを使用して20名の被験体から収集された皮脂サンプルを、分析のために使用した。サンプルの全脂肪酸組成は、両方の方法を使用して測定した。全脂肪酸の%として報告された17の脂肪酸の脂肪酸組成の比較を、
図2中で示す。2つの方法を使用して生成されたデータの線形回帰についてのR
2値は、0.936であり、各々の方法により測定された脂肪酸組成が匹敵したとことを指摘した。FAME分析は全脂肪酸組成を報告し、脂質クラス内の脂肪酸組成を決定することができないので、脂質クラス内の脂肪酸組成の比較を行うことができなかった。
【0075】
実施例3:脂質分析(5つの脂質クラス)
6つの皮脂テープ皮脂サンプルを、実施例1中で記載される方法を使用して分析した。脂質クラスのDAG、TAG、WE、SQおよびFFAからの939の脂質種の量を測定し、濃度を皮脂テープあたりの脂質種のnmol(nmol/テープ)で報告した。SQの濃度は、6つの皮脂サンプルの各々中で、それぞれ201.73185、62.15865、36.4587、227.91105、137.26815および128.3403nmol/テープであった。例示的な皮脂サンプルからの298のWE脂質種の濃度を、
図3中でプロットする。例示的な皮脂サンプルからの575のTAG脂質種の濃度を、
図4中でプロットする。例示的な皮脂サンプルからの47のDAG脂質種の濃度を、
図5中で示す。6つの皮脂サンプルからの18のFFAの脂質種の濃度を、表5中で示す。6つのサンプルの各々についての脂質クラス濃度(nmol/テープで報告される)を、表6中で報告する。脂質クラス濃度は、指示された脂質クラス内の脂質種の総計である。6つのサンプルの各々についての脂質クラス組成(%で)を、表7中で報告する。例示的な皮脂サンプルについての脂肪酸濃度(nmol/テープで報告される)を、表8中で示す。脂肪酸濃度は、特異的な脂肪酸を含有する脂質クラス内のすべての脂質種の総計である。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0076】
実施例4:方法の検証(6つの脂質クラス)
別の例において、単一インジェクションにおいて6つまでの脂質クラスについて、方法を検証した。1つまたは複数の脂質クラス中の1つまたは複数の脂質種を測定する方法の精度を、プールされた皮脂抽出物サンプルを使用して評価した。5つの技術的反復測定サンプルを分析した。結果を表9中で提示する。
【表9】
【0077】
実施例5:脂質分析(6つの脂質クラス)
プールされた皮脂抽出物サンプルの5つの反復測定を、実施例1中で記載される方法を使用して分析した。脂質クラスのCE、DAG、TAG、WE、SQおよびFFAからの965の脂質種の量を測定し、濃度を皮脂テープあたりの脂質種のnmol(nmol/テープ)で報告した。5つの皮脂サンプルからの26のCE脂質種の濃度を、表10中で示す。5つのサンプルの各々についての脂質クラス濃度(nmol/テープで報告される)を、表11中で報告する。脂質クラス濃度は、指示された脂質クラス内の脂質種の総計である。5つのサンプルの各々についての脂質クラス組成(%で)を、表12中で報告する。例示的な皮脂サンプルについての脂肪酸濃度(nmol/テープで報告される)を、表13中で示す。脂肪酸濃度は、特異的な脂肪酸を含有する脂質クラス内のすべての脂質種の総計である。
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0078】
実施例6:皮脂分析(6つの脂質クラスおよびTOC)
別の例において、単一インジェクションにおいて脂溶性TOCおよび6つまでの脂質クラスについて、方法を検証した。1つまたは複数の脂質クラス中の1つもしくは複数のTOCおよび/または1つもしくは複数の脂質種を測定する方法の精度を、プールされた皮脂抽出物サンプルを使用して評価した。3つの技術的反復測定サンプルを分析した。TOCおよび6つの脂質クラスについての精度結果を、表14中で提示す。精度を各々のトコフェロールについても査定した。精度は、α−トコフェロール、β/γ−トコフェロールおよびδ−トコフェロールについて、それぞれ17.08%、15.37%および14.57%の相対標準偏差であった。
【表14】
【0079】
プールされた皮脂抽出物サンプルの3つの反復測定を、実施例1中で記載される方法を使用して分析した。脂質クラスのCE、DAG、TAG、WE、SQおよびFFAからの3つの脂溶性TOCおよび965の脂質種の量を測定し、濃度を皮脂テープあたりの検体のnmol(nmol/テープ)で報告した。各々のサンプル中の測定されたトコフェロールは、α−トコフェロール、δ−トコフェロール、ならびにβ−トコフェロールおよびγ−トコフェロールの組み合わせを含む。3つの皮脂サンプルからのトコフェロールの濃度を表15中で示す。3つの重複したサンプルの各々についてのTOCおよび脂質クラスの濃度(nmol/テープ中の報告される)を、表16中で報告する。脂質クラス濃度は、指示された脂質クラス内の脂質種の総計である。3つのサンプルの各々についてのTOCおよび脂質クラス組成(%で)を、表17中で報告する。脂肪酸濃度は、特異的な脂肪酸を含有する脂質クラス内のすべての脂質種の総計である。
【表15】
【表16】
【表17】
【国際調査報告】