特表2020-514760(P2020-514760A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-514760自立型ナノ粒子複合材料の機械特性の変化の検出に基づいて分析物を検出するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-514760(P2020-514760A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(54)【発明の名称】自立型ナノ粒子複合材料の機械特性の変化の検出に基づいて分析物を検出するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/22 20060101AFI20200424BHJP
【FI】
   G01N27/22 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2019-552037(P2019-552037)
(86)(22)【出願日】2018年3月22日
(85)【翻訳文提出日】2019年11月15日
(86)【国際出願番号】EP2018057280
(87)【国際公開番号】WO2018172450
(87)【国際公開日】20180927
(31)【優先権主張番号】1704749.9
(32)【優先日】2017年3月24日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】500242786
【氏名又は名称】フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリク・シュリケ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・フォスマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】マルテ・ベーレンス
(72)【発明者】
【氏名】ソフィア・カロリーネ・ビッティンガー
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA08
2G060AD04
2G060AF10
2G060AG03
2G060BB07
(57)【要約】
本発明は、透過性の自立型ナノ粒子複合材の機械特性の変化により生じる信号の検出に基づく、分析物を検出するための方法に関する。本発明はまた、分析物の濃度を決定するための、且つ/又は分析物を認識するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学センサーで分析物を検出するための方法であって、
(i)透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを分析物に曝露する工程と、
(ii)自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号を検出手段により測定する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
化学センサーが、
− 基板と、
− 任意選択で前記基板の少なくとも片面上の1つ又は複数の絶縁層と、
− 任意選択で2つ以上の電極と
を備え、
基板及び/又は絶縁層が、好ましくは、1つ又は複数のマイクロキャビティを備え、その上に自立型ナノ粒子複合材料が懸垂されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
自立型ナノ粒子複合材料が、カンチレバー、単一若しくは複数の固定梁、糸、プレート又は膜として、好ましくは膜として懸垂されており、
膜が、好ましくは、1000nm未満、より好ましくは500nm未満、より好ましくは200nm未満の厚さを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
自立型ナノ粒子複合材料が、
(a)金属、好ましくはAu、Pt、Ag、Pd等の貴金属、Cu、Ni、Co、Mn、Fe等の貨幣金属、及びそれらの合金、
(b)鉄酸化物、SnO、TiO及びインジウムスズ酸化物等の金属酸化物、
(c)半導体、好ましくはCdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe等のII/VI半導体、及び/又はGaAs、InP等のIII/V半導体、
(d)炭素、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、単層状又は多層状二次元炭素材料、例えば、グラフェン、酸化グラフェン若しくは還元された酸化グラフェンのフレーク、
(e)金属カルコゲナイド、特に遷移金属カルコゲナイド、例えば、MoS、単層状又は多層状二次元金属カルコゲナイド材料、例えば、遷移金属カルコゲナイドのフレーク、或いは
コア−シェルナノ粒子、コア−シェル−シェルナノ粒子又はヤヌス型ナノ粒子等のそれらの任意の組合せ
から形成されたナノ粒子を含み、
自立型ナノ粒子複合材料が、そのようなナノ粒子の組合せを含んでもよい、請求項1、2及び3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ナノ粒子が、球形、多面体、星状、又は細長、例えば、ロッド状、管状若しくは繊維状、プレート又はシート状であり、好ましくは、少なくとも1つの次元において、100nm未満、より好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満の長さを有し、
ナノ粒子が、好ましくは、100nm未満、好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満のそれぞれの平均径若しくは少なくとも1つの次元における長さを有する本質的に球形又は多面体の粒子である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ナノ粒子が分散且つ/又は互いに相互接続したマトリックスを自立型ナノ粒子複合材料が含み、
マトリックスが、
A)有機ポリマー、
B)ポリシロキサン、
C)少なくとも1つの官能基を有するナノ粒子の表面に付着することができる有機配位子、特に、単官能性、二官能性又は多官能性有機配位子であって、そのような官能基が、好ましくは、硫黄含有官能基又は窒素含有官能基又はリン含有官能基又は酸素含有官能基を含む群から選択される、有機配位子、
D)少なくとも2つの官能基を有するナノ粒子の表面に付着することができる有機架橋剤、特に、二官能性又は多官能性有機架橋剤であって、そのような官能基が、好ましくは、硫黄含有官能基又は窒素含有官能基又はリン含有官能基又は酸素含有官能基を含む群から選択される、有機架橋剤、
及びこれらの組合せ
からなる群から選択される材料を含む、請求項1、2、3、4及び5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
マトリックスが、共有結合、イオン結合、配位共有(双極子)結合及び/又は複数の双極子相互作用によりナノ粒子の表面に付着されており、
マトリックスが、好ましくは、炭素−金属結合若しくは炭素−炭素結合等の炭素−ナノ粒子結合により、又は1つ若しくは複数の官能基によりナノ粒子の表面に付着されており、そのような官能基が、好ましくは、チオール基、ジスルフィド基、カルバメート基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、アミノ基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、ポリエーテル基、イソシアニド基、ジヒドロキシフェニル基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基及びホスホン酸基から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ナノ粒子が、ナノ粒子の表面に付着することができるチオール基、ジスルフィド基、アミノ基、カルボン酸基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、ヒドロキシル基、イソシアニド基、ジヒドロキシフェニル基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基及びホスホン酸基等の官能基を有する二官能性又は多官能性有機架橋剤により架橋されている、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号が、複合材料の構造及び/又はトポグラフィ及び/又は形状及び/又はサイズの変化を測定することにより検出され、
複合材料の前記構造及び/又はトポグラフィ及び/又は形状及び/又はサイズの変化が、好ましくは、複合材料から反射及び/若しくは放出された光並びに/又は複合材料により散乱された光を検出することにより検出される、請求項1、2、3、4、5、6、7及び8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号が、
− 静電力、圧電力又は磁力等の準静的作動力を複合材料に加えることにより、且つ
− 作動力に対する複合材料の応答を測定することにより
検出される、請求項1、2、3、4、5、6、7及び8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号が、
− 動的作動力、例えば、動的静電力、例えば、好ましくは1kHz〜10GHzの間の周波数を有する交番(AC)電界により誘導される静電力を加えて、複合材料がその共振周波数のうちの1つで振動するようにすることにより、且つ
− 共振周波数のシフト並びに/又は振幅及び/若しくは位相の何らかの変化を測定することにより
検出される、請求項1、2、3、4、5、6、7及び8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号が、
− 作動力を加えずに検出することができる物理特性の変化、例えば、抵抗/インピーダンス等の電気特性の変化、並びに/又は分光吸光度、放出及び/若しくは反射率等の光学特性の変化を測定することにより、且つ/或いは
− 準静的作動力及び/又は動的作動力に対する複合材料の応答の変化を測定することにより
検出される、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10及び11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
その上に加えられた作動力に対する自立型ナノ粒子複合材料の応答が、
(α)複合材料から反射及び/若しくは放出された光並びに/又は複合材料により散乱された光を検出することにより、且つ/或いは
(β)複合材料の電気抵抗/インピーダンスの変化を測定することにより、且つ/或いは
(γ)1つ又は複数の近接する電極と共に配置された複合材料の静電容量の変化を測定することにより、且つ/或いは
(δ)複合材料の近傍の磁界を測定することにより
測定される、請求項10、11及び12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
分析物の濃度を決定するために使用され、
(iii)様々な既知濃度の分析物の参照サンプルに化学センサーを曝露するときにセンサー信号を測定することにより、透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを校正する工程と、
(iv)試験サンプル中の分析物濃度を決定するために、分析物の試験サンプルに化学センサーを曝露することにより測定されたセンサー信号を、工程(iii)において測定された校正データと比較する工程と
を更に含む、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
分析物を認識するために使用され、
(v)(i)化学センサーを分析物に曝露する工程の前に、認識されるべき分析物に合わせて自立型ナノ粒子複合材料の化学選択性を任意選択で調節する工程と、
(vi)既知の分析物の参照サンプルに化学センサーを曝露するときにセンサー信号を測定することにより、透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを校正する工程と、
(vii)試験サンプル中の分析物を認識するために、分析物の試験サンプルに化学センサーを曝露することにより測定された信号形状等のセンサー信号を、工程(vi)において測定された校正データと比較する工程と
を更に含む、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
分析物が、流体相中、好ましくは気相中にある、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14及び15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも2つの化学センサー、好ましくは複数の化学センサーを含む化学センサーのアレイを分析物に曝露し、したがって、分析物の認識を可能にする信号パターンを与える工程を含み、
個々の化学センサーが、透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含み、並びにナノ粒子のタイプ及び/又はそれらのそれぞれの自立型ナノ粒子複合材料中のマトリックスの化学組成、及び/又はそれらのそれぞれの自立型ナノ粒子複合材料の厚さ、幾何形状若しくは幾何学的配置において互いに異なり、且つ/或いはそれらのそれぞれの検出モードにおいて互いに異なる、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15及び16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサー又はそのような化学センサーのアレイが、異なる信号伝達機構を有する少なくとも1つの他の化学センサー又は物理センサーと組み合わせられている、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過性の自立型ナノ粒子複合材料の機械特性の変化により生じるセンサー信号の検出に基づく、分析物を検出するための方法に関する。本発明はまた、分析物を定量化及び/又は認識するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分析物、特に、気相中の分析物の高感度且つ高選択性の検出は、様々な活動分野において極めて重要な役割を果たす。例えば、分析物の高感度且つ高選択性の検出は、環境分析において、例えば、望ましくない溢流及び漏洩の場合の汚染物質又は毒性種の検出のために不可欠である。更に、分析物の検出はまた、セキュリティー/公安の分野において、例えば、有害物質又は爆発物を検出するために、ヘルスケア又は医学において、例えば、呼気分析及び他の診断目的のために、品質管理において、例えば、食料品又は医薬品等の品物の品質を監視するために不可欠である。したがって、光学的機構、電気的機構又は電気機械的機構等の様々な信号伝達機構に基づく小さいセンサー(「検知デバイス」とも呼ばれる)が開発されてきた。
【0003】
「ケミレジスター」(「化学抵抗センサー」とも呼ばれる)は、例えば、導電性薄皮膜の電気抵抗の変化を測定することにより、分析物、例えば、気相中の分析物を検出することができる。金属酸化物の薄皮膜、又は、更に最近では、配位子キャップされた金属ナノ粒子若しくは分子的に架橋された金属ナノ粒子等の導電性ナノ材料を使用するケミレジスターが、それらの感度及び調整可能な化学選択性のために大きな関心を集めてきた(Ibanez FJ等、Chemiresistive Sensing with Chemically Modified Metal and Alloy Nanoparticles Small 2012、vol. 8(2)、174〜202頁参照)。
【0004】
更に、電気機械化学センサーは、対向電極と共に配置された導電性薄皮膜の静電容量の変化に基づいて分析物を検出することができ、同じく、微小電子機械システム(MEMS)の分野において注目を集めてきた。
【0005】
欧州特許第1215485(B1)号には、基板と、その上に形成されたナノ粒子皮膜とを含むセンサーが開示されており、ナノ粒子皮膜は、互いに相互連結したナノ粒子のネットワークを含む。このセンサーは、例えば、ナノ粒子皮膜の電気抵抗の変化を測定することにより、分析物を検出するための方法において使用することができる。
【0006】
米国特許出願公開第2004/0211251(A1)号には、薄膜トランスデューサー、例えば、エラストマー材料の薄膜を含むセンサーが開示されており、この薄膜は、その外面が、分析物の結合部位を与える特定の反応剤で被覆されている。膜の表面の反応剤との分析物の相互作用により誘導された表面応力の結果、膜はたわむことができる。そして、膜のたわみは静電容量を変化させ、これは、検出手段により測定することができる。
【0007】
米国特許出願公開第2010/0317124(A1)号には、少なくとも1つの開口部(アパーチャー)を有する基板と、開口部に関連する金属含有薄膜と、少なくとも1つの電極とを含むセンサーが開示されている。膜の表面は、分析物と相互作用し、且つ分析物を検出するように構成されている。具体的には、膜の表面との分析物の相互作用、例えば、吸着は、膜をたわませ、膜と電極との間の距離を変化させる。膜と電極との間の距離の変化は静電容量を変化させ、したがって、分析物の検出が可能になる。同様の機構に基づくセンサーが、米国特許出願公開第2011/0031566(A1)号にも記載されている。
【0008】
他のタイプの電気機械化学センサーも開発された。そのようなセンサーの1つの顕著な例は周知であり、一般に使用される「水晶振動子マイクロバランス」(QCM)であり、これは、分析物、例えば、気相中の分析物を検出するための標準的なツールに発展した。QCMセンサーは、水晶振動子の共振周波数の変化を測定することにより、単位面積あたりの質量変動を測定する。更に、分析物を選択的に吸収することができる特定の材料で被覆されたマイクロカンチレバー又は梁を含む電気機械センサーも記載されている。マイクロカンチレバーに基づくセンサーは、分析物の収着に起因する被覆材料の体積変化(膨潤又は収縮)に関連するカンチレバーの静的たわみに基づいて分析物を検出することができる。また、振動するカンチレバーは、分析物の収着時のその共振周波数の変化を検出することにより、重量センサーとして使用することができる。
【0009】
しかし、先行技術に記載されたセンサー及びセンサーアレイ(すなわち、ケミレジスター、電気機械センサー及びそれらのアレイを含む化学センサー)は、多くの場合、感度が限られており、したがって、非常に低濃度の分析物、例えば、気相中の分析物の検出が困難になる。更に、先行技術に記載されたセンサーは、多くの場合、特定の分析物の検出及び/又は認識に関しては化学選択性がなく、ほとんど調整できない。
【0010】
本明細書において先に論じた個々のセンサータイプに加えて、「センサーアレイ」内の異なる化学選択性を有するセンサー(化学抵抗センサー又は電気機械センサーを含む化学センサー)の組合せも重要である。例えば、異なる選択性を有するセンサーが、特定の(標的)分析物を同定するために使用することができる特徴的な信号パターンを形成する「電子鼻」を形成するように、アレイ内で組み合わせられる。
【0011】
原理的に、センサーの感度及び化学選択性は、その検知機構、信号伝達のために使用された方法、及び分析物と相互作用するために使用された材料の化学的性質に依存する。特定の分析物又は分析物の特定の混合物、例えば、ガス混合物を認識する目的で、異なる検知機構及び選択性を有する個々のセンサーを組み合わせることが更に有利である。
【0012】
したがって、異なる分析物に対して高感度且つ/又は調整可能な化学選択性を有するセンサー及びセンサーアレイを実現するために使用することができる新規の検知機構及び伝達原理が必要とされている。更に、分析物、特に、気相中の分析物を検出、定量化及び/又は認識するための、これらの新規の検知機構及び伝達原理を使用する新規の方法も必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第1215485(B1)号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0211251(A1)号
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/0317124(A1)号
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0031566(A1)号
【特許文献5】米国特許第6,458,327号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Ibanez FJ等、Chemiresistive Sensing with Chemically Modified Metal and Alloy Nanoparticles Small 2012、vol. 8(2)、174〜202頁
【非特許文献2】Schlicke等、Nanotechnology 2011、22、305303
【非特許文献3】He等、Small 2010、6、1449〜1456頁
【非特許文献4】Kanjanaboos等、Nano Lett. 2013、13、2158〜2162頁
【非特許文献5】Leff等、Langmuir 1996、12、4723〜4730頁
【非特許文献6】Schlicke等、ACS Appl. Mater. Interfaces 2015、7、15123〜15128頁
【非特許文献7】Schlicke等、Nanoscale 2016、8、15880〜15887頁
【非特許文献8】Olichwer等、ACS Appl. Mater. Interfaces 2012、4、6151〜6161頁
【非特許文献9】Briglin等、Langmuir 2004、20、299〜305頁
【非特許文献10】Joseph等、Sens. Actuators B 2004、98、188〜195頁
【非特許文献11】Holthoff等、Anal. Chim. Acta 2007、594、147〜161頁
【非特許文献12】Adiga等、Appl. Phys. Lett. 2011、99、253103
【非特許文献13】Vlassak等、J. Mater. Res. 1992、7、3242
【非特許文献14】Zhang等、Appl. Phys. Lett. 2015、106、063107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、分析物又は分析物の群、例えば、気相中の分析物の検出を(個々の分析物又は分析物の特定の混合物に対して)高感度及び/又は化学選択性で可能にする方法を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、分析物又は分析物の群の定量化を十分な正確さ及び/又は化学選択性で可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの更に好ましい態様によれば、本方法は、個々のセンサーのアレイを使用して信号パターンを生成し、未知の分析物又は分析物の群の同定及び任意選択で定量化を可能にする。アレイはまた、湿度、圧力及び温度等の環境データを取得するセンサーを備えてもよい。湿度、圧力及び温度のデータは、例えば、未知の分析物又は分析物の群の同定の正確さ及び任意選択で定量化の正確さを向上させるために使用されてもよい。
【0018】
本発明は、化学センサーで分析物を検出するための方法であって、
(i)透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを分析物、例えば、気相中の分析物に曝露する工程と、
(ii)自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号を検出手段により測定する工程と
を含む、方法に関する。
【0019】
本発明はまた、分析物の濃度を決定するための、本明細書において前述の方法の使用であって、方法が、
(iii)様々な既知濃度の分析物の参照サンプルに化学センサーを曝露するときにセンサー信号を測定することにより、透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを校正する工程と、
(iv)試験サンプル中の分析物濃度を決定するために、分析物の試験サンプルに化学センサーを曝露することにより測定されたセンサー信号を、工程(iii)において測定された校正データと比較する工程と
を更に含む、使用に関する。
【0020】
本発明はまた、分析物を認識するための、本明細書において前述の方法の使用であって、方法が、
(v)(i)化学センサーを分析物に曝露する工程の前に、認識されるべき分析物に合わせて自立型ナノ粒子複合材料の化学選択性を任意選択で調節する工程と、
(vi)既知の分析物の参照サンプルに化学センサーを曝露するときにセンサー信号を測定することにより、化学センサーを校正する工程と、
(vii)試験サンプル中の分析物を認識するために、分析物の試験サンプルに化学センサーを曝露することにより測定された信号形状(応答動態)等のセンサー信号を、工程(vi)において測定された校正データと比較する工程と
を更に含む、使用に関する。
【0021】
本発明はまた、分析物を認識するための方法であって、自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサー及び/又は異なる信号伝達機構を有する化学センサー若しくは物理センサーと組み合わせたそのようなセンサーのアレイを曝露する工程を含む、方法に関する。
【0022】
本発明は以下の実施形態(「項目」)を含む:
【0023】
1.化学センサーで分析物を検出するための方法であって、
(i)透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを分析物に曝露する工程と、
(ii)自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号を検出手段により測定する工程と
を含む、方法。
【0024】
2.化学センサーが、
− 基板と、
− 任意選択で前記基板の少なくとも片面上の1つ又は複数の絶縁層と、
− 任意選択で2つ以上の電極と
を備え、
基板及び/又は絶縁層が、好ましくは、1つ又は複数のマイクロキャビティを備え、その上に自立型ナノ粒子複合材料が懸垂されている、項目1に記載の方法。
【0025】
3.自立型ナノ粒子複合材料が、カンチレバー、単一若しくは複数の固定梁、糸、プレート又は膜として、好ましくは膜として懸垂されており、
膜が、好ましくは、1000nm未満、より好ましくは500nm未満、より好ましくは200nm未満の厚さを有する、項目1又は2に記載の方法。
【0026】
4.自立型ナノ粒子複合材料が、
(a)金属、好ましくはAu、Pt、Ag、Pd等の貴金属、Cu、Ni、Co、Mn、Fe等の貨幣金属、及びそれらの合金、
(b)鉄酸化物(Fe及びFeを含む)、SnO、TiO及びインジウムスズ酸化物等の金属酸化物、
(c)半導体、好ましくはCdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe等のII/VI半導体、及び/又はGaAs、InP等のIII/V半導体、
(d)炭素、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、単層状又は多層状二次元炭素材料、例えば、グラフェン、酸化グラフェン若しくは還元された酸化グラフェンのフレーク、
(e)金属カルコゲナイド、特に遷移金属カルコゲナイド、例えば、MoS、単層状又は多層状二次元金属カルコゲナイド材料、例えば、遷移金属カルコゲナイドのフレーク、或いは
コア−シェルナノ粒子、コア−シェル−シェルナノ粒子又はヤヌス型ナノ粒子等のそれらの任意の組合せ
から形成されたナノ粒子を含み、
自立型ナノ粒子複合材料が、そのようなナノ粒子の組合せを含んでもよい、項目1、2及び3のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
5.ナノ粒子が、球形、多面体、星状、又は細長、例えば、ロッド状、管状若しくは繊維状、プレート又はシート状であり、好ましくは、少なくとも1つの次元において、100nm未満、より好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満の長さを有し、
ナノ粒子が、好ましくは、100nm未満、好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満のそれぞれの平均径若しくは少なくとも1つの次元における長さを有する本質的に球形又は多面体の粒子である、項目4に記載の方法。
【0028】
6.ナノ粒子が分散且つ/又は互いに相互接続したマトリックスを自立型ナノ粒子複合材料が含み、
マトリックスが、
A)有機ポリマー、
B)ポリシロキサン、
C)少なくとも1つの官能基を有するナノ粒子の表面に付着することができる有機配位子、特に、単官能性、二官能性又は多官能性有機配位子であって、そのような官能基が、好ましくは、硫黄含有官能基又は窒素含有官能基又はリン含有官能基又は酸素含有官能基を含む群から選択される、有機配位子、
D)少なくとも2つの官能基を有するナノ粒子の表面に付着することができる有機架橋剤、特に、二官能性又は多官能性有機架橋剤であって、そのような官能基が、好ましくは、硫黄含有官能基又は窒素含有官能基又はリン含有官能基又は酸素含有官能基を含む群から選択される、有機架橋剤、
及びこれらの組合せ
からなる群から選択される材料を含む、項目1、2、3、4及び5のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
7.マトリックスが、共有結合、イオン結合、配位共有(双極子)結合及び/又は複数の双極子相互作用によりナノ粒子の表面に付着されており、
マトリックスが、好ましくは、炭素−金属結合若しくは炭素−炭素結合等の炭素−ナノ粒子結合により、又は1つ若しくは複数の官能基によりナノ粒子の表面に付着されており、そのような官能基が、好ましくは、チオール基、ジスルフィド基、カルバメート基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、アミノ基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、ポリエーテル基、イソシアニド基、ジヒドロキシフェニル基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基及びホスホン酸基から選択される、項目6に記載の方法。
【0030】
8.ナノ粒子が、ナノ粒子の表面に付着することができる官能基、例えば、チオール基、ジスルフィド基、アミノ基、カルボン酸基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、ヒドロキシル基、イソシアニド基、ジヒドロキシフェニル基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基及びホスホン酸基を有する二官能性又は多官能性有機架橋剤により架橋されている、項目6又は7に記載の方法。
【0031】
9.自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号が、複合材料の構造及び/又はトポグラフィ及び/又は形状及び/又はサイズの変化を測定することにより検出され、
複合材料の構造及び/又はトポグラフィ及び/又は形状及び/又はサイズの変化が、好ましくは、複合材料から反射及び/若しくは放出された光並びに/又は複合材料により散乱された光を検出することにより検出される、項目1、2、3、4、5、6、7及び8のいずれか一項に記載の方法。
【0032】
10.自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号が、
− 静電力、圧電力又は磁力等の準静的作動力を複合材料に加えることにより、且つ
− 作動力に対する複合材料の応答を測定することにより
検出される、項目1、2、3、4、5、6、7及び8のいずれか一項に記載の方法。
【0033】
11.自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号が、
− 複合材料がその共振周波数のうちの1つで振動するように、動的作動力、例えば、好ましくは1kHz〜10GHzの間の周波数を有する交番(AC)電界により誘導される静電力を加えることにより、且つ
− 所与の周波数で共振周波数のシフト並びに/又は振幅及び/若しくは位相の何らかの変化を測定することにより
検出される、項目1、2、3、4、5、6、7及び8のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
12.自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号が、
− 作動力を加えずに検出することができる物理特性の変化を測定することにより、且つ/或いは
− 準静的作動力及び/又は動的作動力に対する複合材料の応答の変化を測定することにより
検出される、項目1、2、3、4、5、6、7、8、9、10及び11のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
13.その上に加えられた作動力に対する自立型ナノ粒子複合材料の応答が、
(α)複合材料から反射及び/若しくは放出された光並びに/又は複合材料により散乱された光を検出することにより、且つ/或いは
(β)複合材料の電気抵抗/インピーダンスの変化を測定することにより、且つ/或いは
(γ)1つ又は複数の近接する電極と共に配置された複合材料の静電容量の変化を測定することにより、且つ/或いは
(δ)複合材料の近傍の磁界を測定することにより
測定される、項目10、11及び12のいずれか一項に記載の方法。
【0036】
14.分析物の濃度を決定するために使用され、
(iii)様々な既知濃度の分析物の参照サンプルに化学センサーを曝露するときにセンサー信号を測定することにより、透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを校正する工程と、
(iv)試験サンプル中の分析物濃度を決定するために、分析物の試験サンプルに化学センサーを曝露することにより測定されたセンサー信号を、工程(iii)において測定された校正データと比較する工程と
を更に含む、項目1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13のいずれか一項に記載の方法。
【0037】
15.分析物を認識するために使用され、
(v)(i)化学センサーを分析物に曝露する工程の前に、認識されるべき分析物に合わせて自立型ナノ粒子複合材料の化学選択性を任意選択で調節する工程と、
(vi)既知の分析物の参照サンプルに化学センサーを曝露するときにセンサー信号を測定することにより、透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを校正する工程と、
(vii)試験サンプル中の分析物を認識するために、分析物の試験サンプルに化学センサーを曝露することにより測定されたセンサー信号を、工程(vi)において測定された校正データと比較する工程と
を更に含む、項目1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13及び14のいずれか一項に記載の方法。
【0038】
16.分析物が、流体相中、好ましくは気相中にある、項目1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14及び15のいずれか一項に記載の方法。
【0039】
17.少なくとも2つの化学センサー、好ましくは複数の化学センサーを含む化学センサーのアレイを分析物に曝露し、したがって、分析物の認識を可能にする信号パターンを与える工程を含み、
個々の化学センサーが、透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含み、並びにナノ粒子のタイプ及び/又はそれらのそれぞれの自立型ナノ粒子複合材料中のマトリックスの化学組成、及び/又はそれらのそれぞれの自立型ナノ粒子複合材料の厚さ、幾何形状若しくは幾何学的配置において互いに異なり、且つ/或いはそれらのそれぞれの検出モードにおいて互いに異なる、項目1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15及び16のいずれか一項に記載の方法。
【0040】
18.透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサー又はそのような化学センサーのアレイが、異なる信号伝達機構を有する少なくとも1つの他の化学センサー又は物理センサーと組み合わせられている、項目1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16及び17のいずれか一項に記載の方法。
【0041】
本明細書において「好ましい」実施形態/フィーチャーが言及される場合、「好ましい」実施形態/フィーチャーのこの組合せが技術的に意味がある限り、これらの「好ましい」実施形態/フィーチャーの組合せも開示されているとみなされるものとする。
【0042】
以下、本発明の本説明及び特許請求の範囲において、「を含む」という用語の使用は、これが技術的に意味がある限り、より限定された実施形態として、「からなる」という用語の使用も同様に開示するものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】(a)センサーCS1の作製のために使用されたナノ粒子複合材料を調製するために使用された金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。(b)図1aに示したナノ粒子サンプルのサイズヒストグラムである。(c)センサーCS2の作製のために使用されたナノ粒子複合材料を調製するために使用された金ナノ粒子のTEM像である。(d)図1cに示したナノ粒子サンプルのサイズヒストグラムである。
図2】本発明の方法の1つの実施形態による架橋ナノ粒子複合材料の構造を示す概略図である。
図3】本発明の方法の1つの実施形態による自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを示す概略図である。 図2及び図3は、本発明の方法において使用される化学センサーに関して使用される専門用語の概略を示す。図2及び図3において、以下の参照番号は、 (1)ナノ粒子 (2)架橋剤 (3)自立型ナノ粒子複合材料 (4)基板 (5)絶縁層 (6)マイクロキャビティ (7)電極 を表す。
図4】本発明による自立型ナノ粒子複合材料の例を示す図である。(a)自立型カンチレバーを形成するナノ粒子複合材料を示す図である。ナノ粒子複合材料は電極Aが接触しており、カンチレバーは電極Bの近傍(上)に位置している。(b)マイクロキャビティの一部のみを覆う自立型膜(ブリッジ)を形成するナノ粒子複合材料を示す図である。ナノ粒子複合材料は電極A及びCが接触しており、ブリッジは電極Bの近傍(上)に位置している。(c)マイクロキャビティを完全に覆う円形自立型膜を形成するナノ粒子複合材料を示す図である。ナノ粒子複合材料は、電極Aが接触しており、電極Bの近傍(上)に位置している。
図5】全圧20mbarの窒素ガス下(×印)及び10000ppm(分圧:20Pa)のトルエンが濃縮された窒素ガス下(点)の自立型金ナノ粒子複合材料(膜)の基本共振周波数を示す振幅スペクトルである。
図6】20mbarの窒素ガス雰囲気下の自立型金ナノ粒子複合材料(膜)の基本共振周波数のシフトΔf(t)を示す周波数−時間トレースを示す図である。観察された過渡現象は、濃度(分圧)が漸増するトルエン、すなわち、1000ppm(2Pa)、4000ppm(8Pa)、7000ppm(14Pa)及び10000ppm(20Pa)のトルエンが濃縮された窒素ガスの8分のパルスを膜に与えることにより誘導された周波数シフトである。分析物/窒素混合物をそれぞれ与えた後、全圧20mbarを維持しながらセンサーセルを純窒素でパージした。
図7】窒素ガス下(破線)及び10000ppmのトルエンが濃縮された窒素ガス下(実線)、漸増する直流(DC)電圧(すなわち、20V、40V、60V、80V及び100V)の1秒のパルスを使用して作動させた自立型金ナノ粒子複合材料(膜)のたわみを示すたわみ−時間トレースを示す図である。セル内の全圧は〜1barであった。
図8】窒素ガス下、準静的作動力(すなわち、漸増するDC電圧:20V、40V、60V、80V及び100Vの1秒のパルスの群;破線)及び動的作動力(すなわち、周波数f掃引した正弦駆動信号;実線)を使用して測定された自立型金ナノ粒子複合材料(膜)のプレストレスを示すプレストレス−時間トレースを示す図である。濃度(分圧)が漸増するトルエン、すなわち、1000ppm(2Pa)、4000ppm(8Pa)、7000ppm(14Pa)及び10000ppm(20Pa)のトルエンが濃縮された窒素を膜に与えたとき、プレストレスの可逆的減少を明らかにする過渡現象が観察された。セル内の全圧は20mbarであり、実験中、一定に保たれた。
図9】それぞれの適した読取電子機器にそれぞれ接続された(I)干渉計によるたわみ読取り(interferometric deflection readout)を伴う自立型ナノ粒子複合材料(膜)を含む化学センサー(本発明による)、(II)ナノ粒子複合材料を含むケミレジスター(先行技術)及び(III)ナノ粒子複合材料で被覆された水晶振動子マイクロバランス(先行技術)が取り付けられたプリント回路板を含む実験セットアップの概略図である。3つの化学センサーを備えたプリント回路板を、別の圧力センサー及び温度センサーを備えたセンサー試験セル内に置いた。真空ポンプと、規定濃度の溶媒蒸気と混合された窒素ガスの導入を可能にする周辺のガス校正システムとにセンサー試験セルを接続した。
図10】濃度(分圧)が漸増するトルエン、すなわち、1000ppm(2Pa)、4000ppm(8Pa)、7000ppm(14Pa)及び10000ppm(20Pa)のトルエンが濃縮された窒素ガスの8分のパルスを与えた窒素ガス下の自立型ナノ粒子複合材料(膜)を含む本発明による化学センサーの基本共振周波数f(トレース(a))、fからベースライン((a)の破線)を引くことにより得られた、化学センサーの対応する基本共振周波数シフトΔf(トレース(b))、ナノ粒子複合材料を含むケミレジスターの電気抵抗R(トレース(c)−先行技術)、対応する相対的な電気抵抗変化ΔR/R(式中、ΔR = R − R、Rは(c)の破線で表されたベースライン抵抗である)(トレース(d)−先行技術)、及びナノ粒子複合材料で被覆された水晶振動子マイクロバランスの基本共振周波数シフトΔfQCM(トレース(e)−先行技術)を示す時間トレースを示す図である。トレース(f)及びトレース(g)は、センサー試験セル内で測定された全圧P絶対及び温度Tをそれぞれ示す。
図11】濃度(分圧)が漸増する水、すなわち、1000ppm(2Pa)、4000ppm(8Pa)、7000ppm(14Pa)及び10000ppm(20Pa)の水が濃縮された窒素ガスの8分のパルスを与えた窒素ガス下の自立型ナノ粒子複合材料(膜)を含む本発明による化学センサーの基本共振周波数f(トレース(a))、fからベースライン((a)の破線)を引くことにより得られた、化学センサーの対応する基本共振周波数シフトΔf(トレース(b))、ナノ粒子複合材料を含むケミレジスターの電気抵抗R(トレース(c)−先行技術)、対応する相対的な電気抵抗変化ΔR/R(式中、ΔR = R − R、Rは(c)の破線で表されたベースライン抵抗である)(トレース(d)−先行技術)、及びナノ粒子複合材料で被覆された水晶振動子マイクロバランスの基本共振周波数シフトΔfQCM(トレース(e)−先行技術)を示す時間トレースを示す図である。トレース(f)及びトレース(g)は、センサー試験セル内で測定された全圧P絶対及び温度Tをそれぞれ示す。
図12】4つの異なる分析物:トルエン、4−メチルペンタン−2−オン(4M2P)、1−プロパノール及び水(HO)に対する化学センサーCS1の校正曲線を示す図である。これらの曲線は、全圧20mbarにおいて分圧2〜20Paに対応する分析物(室温の窒素中の分析物)の濃度範囲を対象に含む。これらの曲線は、センサーに分析物を所与の分圧で8分間与えた後に測定された周波数シフトをプロットすることにより得られた。
図13】示した通り濃度10000ppm(分圧:20Pa)の異なる分析物蒸気(トルエン、4−メチルペンタン−2−オン(4m2p)、1−プロパノール及び水(HO)を与えたときの化学センサーCS1の規格化されたベースライン補正された応答過渡現象を示す図である。測定は絶対全圧20mbarで実施された。4つの過渡的な形状を比較することにより、異なる応答動態が明確に認識される。標的分析物を認識するために過渡現象の特定の形状を使用することができる。実験中、センサーセル内のガス/蒸気の流れは、流量〜234mL/sに一定に保たれた。
図14】10000ppm(分圧:20Pa)の異なる分析物蒸気:トルエン、4−メチルペンタン−2−オン(4m2p)、1−プロパノール(1prop)及び水(HO)に8分曝露した後の、同じ金ナノ粒子複合皮膜から作製された化学センサーCS1及び薄皮膜ケミレジスターのピーク応答を示す図である。測定は絶対全圧20mbarで実施された。
【発明を実施するための形態】
【0044】
1.化学センサー
本発明の方法において使用される化学センサーは、基板と、任意選択で基板の少なくとも片面上の1つ又は複数の絶縁層と、任意選択で2つ以上の電極とを備える。
【0045】
本明細書において使用される「基板」という用語は、化学センサーの基礎としての役目を果たす、下にある層に対応する。適した基板の例には、ガラス基板又は水晶基板、インジウムスズ酸化物基板、ポリマー(例えば、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエポキシド、SU−8)等のフレキシブル基板、シリコンウエハ、特に熱酸化シリコンウエハ等のウエハが含まれる。好ましくは、基板は絶縁上層を含む。シリコンウエハの場合、これは、熱酸化若しくは化学蒸着により形成された酸化物層、又は、例えば化学蒸着により成長した窒化シリコン層となりうる。
【0046】
「絶縁層」は、電荷の移動を防ぐ不導体材料の層を指す。本発明の実施形態において、絶縁層は、複合材料の支持層として使用され、例えば、そのような材料を自立型にするためのキャビティ又は穴を備える。更に、絶縁層は、別々の電極の電気絶縁(例えば、下部電極からの上部電極の絶縁)のために使用される。本発明の方法において使用される化学センサーは、基板の少なくとも片面上に堆積した1つ又は複数の絶縁層、例えば、2つ又は3つ又は4つの絶縁層を任意選択で備える。1つの実施形態によれば、基板がその各面上に化学センサーを持つように、1つ又は複数の絶縁層を基板上の両面上に形成することができる。1つの実施形態によれば、基板の片面(又は両面)上に形成された1つ又は複数の絶縁層のうちの少なくとも1つは、基板と、且つ/又は基板と絶縁層との間に形成された電極の少なくとも一部と直接接触している。
【0047】
スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、吹付、化学蒸着若しくは物理蒸着、スパッタリング、又は熱成長プロセスが、適した標準的な被覆技術に属する。一例では、絶縁層はスピンコーティングにより形成される。1つを超える絶縁層が使用される場合、個々の絶縁層の互いに対する配置に関して制限はない。1つの実施形態によれば、個々の絶縁層は、同じ不導体材料から、又は異なる不導体材料から形成することができる。
【0048】
絶縁層を形成するために使用することができる不導体材料に関して特定の制限はない。不導体材料の例は、非導電性ポリマー、樹脂、フォトレジスト(ポジ型又はネガ型)、ポリエポキシド、SU−8、酸化シリコン、窒化シリコン等の非導電性無機材料、及び様々な金属酸化物である。
【0049】
絶縁層は、5nm〜1000μm、好ましくは5nm〜500μm、より好ましくは5nm〜100μmの範囲の厚さを有することができる。
【0050】
電極は、化学センサーの要素との電気的接触を確立する材料の層に対応する。そのような層は、静電力を自立型ナノ粒子複合材料に加えるための対向電極、又はその容量を測定してセンサー信号を与えることができる容量性構造を自立型ナノ粒子複合材と共に確立するための対向電極も形成する。本発明の方法において使用される化学センサーは、2つ以上の電極を備える。例えば、化学センサーは、2つの電極:基板と絶縁層との間に形成された背後電極と、絶縁層の上に形成された上部電極とを備えることができる。しかし、技術的に意味がある限り、化学センサー内の電極の配置(場所)に関する特定の制限はなく、他の配置も本発明の範囲内である。化学センサーを制御し、作動させるのに、並びにセンサーを外部要素、例えば、計算手段等のインターフェースとするのに、電極を使用することができる。
【0051】
電極は導電性材料で形成され、これは当技術分野において周知である。電極に適した材料には、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル等の金属、金、銀、パラジウム、白金等の貴金属、及びそれらの合金、インジウムスズ酸化物等の導電性酸化物、カーボンブラック及びグラフェン又は還元された酸化グラフェン及びカーボンナノチューブ等の炭素系材料が含まれる。電極は、実施例に記載の標準的なフォトリソグラフィーに基づくエッチング及び堆積プロセスを使用して作製することができる。下にある基板とのより良い接着を実現するために、層状電極、例えば、Ti/Au電極又はCr/Au電極を堆積させることができる。更に、コンタクト印刷、又は金属若しくは炭素系粒子を含むインクのインクジェット印刷等のインクベースのプロセスを電着に使用することができる。
【0052】
電極は、5nm〜100μm、好ましくは5nm〜10μm、より好ましくは5nm〜1μmの範囲の厚さを有することができる。
【0053】
好ましい1つの実施形態によれば、基板及び/又は絶縁層は、1つ又は複数のマイクロキャビティ、すなわち、1つのマイクロキャビティ又は複数のマイクロキャビティを含み、その上に自立型ナノ粒子複合材料が懸垂されている。
【0054】
「マイクロキャビティ」という用語は、基板内及び/又は絶縁層内に形成された中空且つ未充填の空間を指す。マイクロキャビティは、自由に懸垂されたナノ粒子複合材料の調製に適している限り、任意の形状を有することができる。1つの実施形態によれば、マイクロキャビティは、円筒形(したがって、円形アパーチャーを形成する)、正方形(したがって、正方形アパーチャーを形成する)又は長方形(長方形アパーチャー)の形状を有する。
【0055】
基板内及び/又は絶縁層内のキャビティの深さは、10nm〜1000μm、好ましくは10nm〜500μm、より好ましくは10nm〜100μmの範囲内にすることができる。しかし、キャビティは、ナノ粒子複合材を支持する基板の全厚を貫通する穴も可能である。
【0056】
1つの実施形態によれば、マイクロキャビティは、絶縁層の厚さにおいて、100nm〜5000μm、好ましくは100nm〜1000μm、より好ましくは100nm〜500μmの範囲の直径を有する円筒形の空洞化された空間を画定する(高さが絶縁層の厚さと定義される)。
【0057】
1つの別の実施形態によれば、マイクロキャビティは、絶縁層の厚さにおいて、100nm〜5000μm、好ましくは100nm〜1000μm、より好ましくは100nm〜500μmの辺長を有する正方形(立方形)の空洞化された空間を画定する(高さが絶縁層の厚さと定義される)。
【0058】
本発明による方法において使用することができる典型的な化学センサーが図3に示されており、この図は、基板(4)と、マイクロキャビティ(6)、例えば、円筒形マイクロキャビティを備えた絶縁層(5)と、2つの電極(7):マイクロキャビティの下部に形成された背後電極、及び例えば、上部キャビティ開口部の縁部の周りに同心円状に絶縁層の上に形成された上部電極(5)と、マイクロキャビティ(6)上に懸垂されている自立型ナノ粒子複合材料(3)、例えば、膜とを備えた化学センサーを示す。
【0059】
化学センサーは、他の化学センサーと組み合わせてセンサーアレイを形成することができ、これは、例えば、電子鼻として使用することができる。例えば、各センサーが異なる化学選択性を有する複数のセンサーを含むアレイを与えるように異なる自立型ナノ粒子複合材料(例えば、異なるナノ粒子、マトリックス、厚さ、幾何形状等)を使用していくつかの化学センサーを作製することができる。センサーアレイを分析物に曝露すると、その分析物の特定の信号パターンが生成され、したがって、分析物を認識すること、すなわち、標的分析物を他の化合物と区別することが可能になる。分析物の認識を可能にする信号パターンを個々のセンサーの特定の応答動態と関連付けることもできる。
【0060】
2.自立型ナノ粒子複合材料
本発明の方法において使用される化学センサーは自立型ナノ粒子複合材料を含む。そのような自立型材料は、例えば、ナノ粒子複合皮膜が基板から(又は基板上の絶縁層から)部分的に剥離されたとき形成される。皮膜の剥離された部分は自立型(自己支持性)であり、これは、それらが皮膜の直接支持された部分により(すなわち、基板又は基板上の絶縁層と直接接触している皮膜の部分により)間接的にのみ基板(又は基板上の絶縁層)に接続されていることを意味する。ナノ粒子皮膜のそのような剥離された部分は、例えば、基板表面から、例えば、基板の縁部から離れて突き出るカンチレバーを形成することができる。
【0061】
好ましくは、自立型ナノ粒子複合材が、上述のマイクロキャビティの少なくとも一部の上に懸垂されている。複合材料は、その中で分析物種の収着(吸着及び/又は吸収)及び/又は拡散を可能にするナノ粒子の透過性のネットワークを形成する。したがって、自立型ナノ粒子複合材料を分析物(例えば、気相中に含まれる分析物)に曝露すると、分析物を複合材料の内部及び表面に収着させたり、且つ/又はナノ粒子の表面に結合させたり、且つ/又はナノ粒子の表面と相互作用(吸着)させたり、且つ/又はナノ粒子内に吸収させたりすることができる。
【0062】
複合材料内及び/又はナノ粒子の表面における分析物の収着は、複合材料の構成成分間の分子間及び/又は分子内相互作用(例えば、水素結合性、イオン性、双極性、誘導双極性(induced dipolar)、共有結合性、配位性、π−π相互作用)に影響し、軟化若しくは硬化(すなわち、弾性率及び/又はプレストレスの変化)又は歪みの変化をもたらし、複合材料のプレストレスを変動させる。更に、ナノ粒子内の分析物の収着は体積増加(膨潤)を引き起こす可能性があり、これは、ナノ粒子複合材料のプレストレスに影響する可能性、例えば、複合材料の張力を減少させたり、又は圧縮を増加させたりする可能性もある。
【0063】
本明細書において使用される「懸垂された」という用語は、自立型ナノ粒子複合材料が、支点を除いてマイクロキャビティ上に自由に吊り下げられ、又は架けられていることを意味する。
【0064】
分析物に対して透過性の自立型ナノ粒子複合材料は、様々な幾何形状を有することができる。例えば、自立型ナノ粒子複合材料は、カンチレバーを形成したり、又は自立型膜を形成したりすることができ、これは、(例えば、ブリッジを形成することにより)マイクロキャビティを完全に覆ったり、又はマイクロキャビティの一部のみを覆ったりすることができる。例示のために、3つの例を図4に示しており、この図は、(a)自立型カンチレバーを形成し、したがって、マイクロキャビティの一部のみを覆うナノ粒子複合材料、(b)自立型ブリッジ(すなわち、二重に固定された膜又は梁)を形成し、したがって、マイクロキャビティの一部のみを覆うナノ粒子複合材料、及び(c)マイクロキャビティを完全に覆う自立型膜を形成するナノ粒子複合材料を示す。これらの例は、本発明において使用される化学センサーのいくつかの態様を、本発明の範囲を限定することなく単に例示するためのものである。
【0065】
1つの実施形態によれば、自立型ナノ粒子複合材料が、カンチレバー、単一若しくは複数の固定梁、糸、プレート又は膜(薄皮膜)として、マイクロキャビティの少なくとも一部の上に懸垂されている。
【0066】
好ましい1つの実施形態によれば、自立型ナノ粒子複合材料が膜としてマイクロキャビティの上に懸垂されており、前記膜は、好ましくは1000nm未満、より好ましくは500nm未満、より好ましくは200nm未満の厚さを有する。
【0067】
基板支持ナノ粒子複合材料(例えば、自立型ナノ粒子複合材を形成するためにキャビティ上に移動させる前)の厚さは、Schlicke等によりNanotechnology 2011、22、305303に記載の通り原子間力顕微鏡(AFM)により決定することができる。
【0068】
1つの実施形態によれば、例えば、自立型膜として配置された自立型ナノ粒子複合材料は張力下にあり、正のプレストレス(残留応力とも呼ばれる)を有する。
【0069】
更に、自立型ナノ粒子複合材料を形成するナノ粒子は、He等によりSmall 2010、6、1449〜1456頁に、Kanjanaboos等によりNano Lett. 2013、13、2158〜2162頁に記載の通り、単層、二層又は多層秩序構造体として配置することができる。自立型ナノ粒子複合材料を形成するナノ粒子は、Schlicke等によりNanotechnology 2011、22、305303に記載の通り、無秩序に配置することもできる。
【0070】
ナノ粒子複合材料、例えば、ナノ粒子複合材料の膜は、Schlicke等によりNanotechnology 2011、22、305303に記載の通り、ディップコーティング、スプレーコーティング、ドロップキャスティング、対流自己集合(convective self−assembly)、インクジェット印刷、自己集合(多層自己集合(layer−by−layer self−assembly)を含む)、ラングミュア−ブロジェット法又はスピンコーティング法等の標準的な技術により作製することができる。スピンコーティング法によれば、ナノ粒子、例えば、配位子キャップされたナノ粒子の溶液、及びマトリックス(存在する場合)、例えば、分子架橋剤の溶液が、回転する基板、例えば、ガラススライド上に交互に塗布される。その後、被覆されたガラススライドを脱塩水上で浮遊させ、数日後、基板を水性相に注意深く浸漬することにより膜を剥離することができ、気液界面で自由に浮遊するナノ粒子複合材料の膜が残る。この製造工程において、例えば、三次元電極マイクロ構造体(すなわち、基板、及び1つ又は複数のマイクロキャビティを備えた任意選択の絶縁層/電極)を備えるリソグラフィー的に構造化された基板を使用して、浮遊している膜をすくい取ることができる。次いで、マイクロキャビティの少なくとも一部を覆うナノ粒子皮膜を備えた得られた化学センサーを乾燥し、最後にはプリント回路板上に取り付けることができる。或いは、スピンコートされたナノ粒子皮膜を、コンタクト印刷によりリソグラフィー的に構造化された基板上に移動させ、自立型ナノ粒子複合材を含む化学センサーを形成することもできる。
【0071】
2.1 ナノ粒子
自立型ナノ粒子複合材料はナノ粒子を含む。「ナノ粒子」という用語は、原子の単層(例えば、グラフェン、MoS)の厚さに対応する長さから数百nmの間に限定された少なくとも1つの次元における最大サイズを有する様々な形状の小さい粒子を指す。空間の3つすべての次元においてほぼ同じサイズを有する既知のナノ粒子、並びに空間の1つの次元においてより大きいサイズを有するナノワイヤ、ナノファイバー及びナノチューブ、並びに空間の2つの次元においてより大きいサイズを有するナノシートが存在する。それらすべてのナノ粒子を、本発明の方法において使用される化学センサーのアセンブリにおいて使用することができる。
【0072】
1つの実施形態によれば、ナノ粒子は、球形、多面体、星状、又は細長、例えば、ロッド状、管状若しくは繊維状、プレート又はシート状であり、好ましくは、少なくとも1つの次元において、100nm未満、より好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満の長さを有する。
【0073】
好ましい1つの実施形態によれば、ナノ粒子は、100nm未満、好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満の平均径を有する本質的に球形の粒子である(したがって、空間の3つすべての次元においてほぼ同じサイズを有する)。「本質的に球形の粒子」は球体又は楕円体の幾何形状を有し、後者は、1〜2の短軸に対する長軸のアスペクト比を有する。しかし、結晶性ナノ粒子はファセット面を形成する傾向があり、表面エネルギーがより低いファセットが、表面エネルギーがより高いファセットよりも多いことに留意すべきである。したがって、当業者には、「本質的に球形の粒子」という用語が、そのようなファセット面の形成のために球体又は楕円体の完全な幾何形状から幾分外れうるナノ粒子を含むことが明らかである。
【0074】
1つの更に好ましい実施形態によれば、ナノ粒子は、少なくとも1つの次元において、100nm未満、好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満の長さを有する多面体の粒子である。
【0075】
ナノ粒子は、当技術分野において既知の手法、例えば、透過型電子顕微鏡法(TEM)、動的光散乱法(DLS)、紫外/可視及び蛍光分光法等を使用することにより特徴付けることができる。
【0076】
本発明による自立型ナノ粒子複合材料において使用されるナノ粒子は以下で形成することができる:(a)金属、特にAu、Pt、Ag、Pd等の貴金属、Cu、Ni、Co、Mn、Fe等の貨幣金属、及びそれらの合金;(b)鉄酸化物(例えば、Fe、Fe)、SnO、TiO及びインジウムスズ酸化物等の金属酸化物;(c)半導体、特にCdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe等のII/VI半導体、及び/又はGaAs、InP等のIII/V半導体;(d)炭素、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、単層状又は多層状二次元炭素材料、例えば、グラフェン、酸化グラフェン若しくは還元された酸化グラフェンのフレーク;(e)金属カルコゲナイド、特に遷移金属カルコゲナイド、単層状又は多層状二次元金属カルコゲナイド材料、例えば、遷移金属カルコゲナイドのフレーク、例えば、MoSシート;或いは、例えば、コア−シェルナノ粒子、コア−シェル−シェルナノ粒子又はヤヌス型ナノ粒子を形成するようなこれらの材料の任意の組合せ(すなわち、コア/シェルが異なる材料で形成されたナノ粒子、又は、外面部分及び/若しくは体積部分が2つ以上の異なる材料で形成されたナノ粒子)。自立型ナノ粒子複合材料は、本明細書において上述の材料から形成されたナノ粒子の任意の組合せ(異なる種類)を含むこともできる。
【0077】
好ましい1つの実施形態によれば、自立型ナノ粒子複合材料は、Au、Pt、Ag、Pd等の貴金属、好ましくはAuで形成されたナノ粒子、すなわち、金ナノ粒子(GNP)を含む。
【0078】
ナノ粒子の合成は当技術分野において周知である。本明細書において使用される金ナノ粒子は、例えば、Leff等によりLangmuir 1996、12、4723〜4730頁に記載の手順に従って合成することができる。合成されたナノ粒子は、それらの合成のために使用された反応混合物に加えられた配位子により安定化(キャップ)される。これらの元の配位子は、ナノ粒子複合材料を形成するための他の配位子及び/又は架橋剤で後で置き換えられてもよい。ナノ粒子(例えば、GNP)のキャッピングに適した配位子には、多くの例のうち、有機アミン、チオール、チオカルバメート、ジチオカルバメート、イソシアニド、カルボン酸、ジヒドロキシフェニル誘導体、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスホン酸、ハロゲン化物又は他のイオン性化合物が含まれる。
【0079】
2.2 マトリックス
自立型ナノ粒子複合材料は、ナノ粒子が分散且つ/又は互いに相互接続したマトリックスを含むことができる。本明細書において使用される「マトリックス」という用語は、ナノ粒子が埋め込まれている材料を指す。本明細書において使用される「分散した」という用語は、ナノ粒子がマトリックス内に分布していることを意味する。本明細書において使用される「相互接続した」という用語は、各ナノ粒子が、ナノ粒子のネットワークを形成するように、少なくとも1つの他のナノ粒子、好ましくは更に多くのナノ粒子と接続(連結)していることを意味する。粒子を相互接続する相互作用は、任意の種類の非共有結合相互作用並びに共有結合の形成を含むことができる。
【0080】
本発明の1つの実施形態によれば、マトリックスは、(A)有機ポリマー、(B)ポリシロキサン、(C)少なくとも1つの官能基を有するナノ粒子の表面に付着することができる有機配位子、特に、単官能性、二官能性又は多官能性有機配位子であって、そのような官能基が、好ましくは、硫黄含有官能基又は窒素含有官能基又はリン含有官能基又は酸素含有官能基を含む群から選択される、有機配位子、(D)少なくとも2つの官能基を有するナノ粒子の表面に付着することができる有機架橋剤、特に、二官能性又は多官能性有機架橋剤であって、そのような官能基が、好ましくは、硫黄含有官能基又は窒素含有官能基又はリン含有官能基又は酸素含有官能基を含む群から選択される、有機架橋剤、及びこれらの材料の組合せからなる群から選択される材料を含む。
【0081】
1つの別の実施形態によれば、マトリックスが、共有結合、イオン結合、配位共有(双極子)結合及び/又は複数の双極子相互作用によりナノ粒子の表面に付着されている。好ましくは、マトリックスは、炭素−金属結合若しくは炭素−炭素結合等の炭素−ナノ粒子結合により、又は1つ若しくは複数の官能基によりナノ粒子の表面に付着されており、そのような官能基は、好ましくは、チオール基、ジスルフィド基、カルバメート基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、アミノ基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、ポリエーテル基、イソシアニド基、ジヒドロキシフェニル基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、ホスホン酸基から選択される。
【0082】
好ましい1つの実施形態によれば、ナノ粒子は、ナノ粒子の表面に付着(結合)することができる官能基、例えば、チオール基、ジスルフィド基、アミノ基、カルボン酸基、ヒドロキシル基、イソシアニド基、ジヒドロキシフェニル基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基及びホスホン酸基を有する二官能性又は多官能性有機架橋剤により架橋されている。本発明において使用することができる適した架橋剤の例が、参照により本明細書に組み込まれている欧州特許第1215485(B1)号に記載されている。
【0083】
1つのより好ましい実施形態によれば、ナノ粒子、特に、Au、Ag、Pt、Pd等の金属ナノ粒子、及びPt/Co又はPt/Ni合金ナノ粒子が、α,ω−アルカンジチオール、チオール若しくはジスルフィド多官能化オリゴマー、ポリマー及びデンドリマー、又はアミン多官能化オリゴマー、ポリマー若しくはデンドリマー、例えば、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマー等、チオール基、ジチオカルバメート基、ジスルフィド基若しくはアミノ基を有する直鎖状又は分岐鎖状の二官能性或いは多官能性架橋剤を使用して架橋されている。
【0084】
3.自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーで分析物を検出するための方法
本発明により分析物を検出するための方法は、
(i)本明細書において上述の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを分析物に曝露する工程と、
(ii)自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号を検出手段により測定する工程と
を含む。
【0085】
本明細書において使用される「分析物」という用語は、関心のある任意の化合物又は化学的実体を指す。分析物は流体相中に存在しうる。好ましくは、分析物は気相中に存在する。
【0086】
本明細書において前述の通り、複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化は、分析物が、複合材料の内部及び複合材料の上に収着されたり、且つ/又はナノ粒子の表面に結合したり、且つ/又はナノ粒子の表面と相互作用したり、且つ/又はナノ粒子内に吸収されたりしたときに起こりうる。自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号は、自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサー及び/又は自立型ナノ粒子複合材料自体に関連する物理特性の何らかの測定可能な変化、例えば、電気抵抗/インピーダンス、静電容量又は磁界の変化、或いは自立型ナノ粒子複合材により散乱された光、又は自立型ナノ粒子複合材から反射若しくは放出された光の変化に対応する。
【0087】
ナノ粒子複合材料との分析物の相互作用は可逆的又は不可逆的になる可能性があり、可逆的又は不可逆的なセンサー信号を可能にする。可逆的相互作用の例には、複合材料の上及び内部における溶媒分子の可逆的物理吸着が含まれる。不可逆的相互作用の例には、分析物と複合材料との間の、例えば、分析物とマトリックス及び/又はナノ粒子の表面との間の強い化学結合の形成が関与する化学吸着が含まれる。例えば、チオールは、共有結合の形成により金ナノ粒子の表面に実質的に不可逆的に結合することが公知である。
【0088】
理論によって制限されることなく、プレストレス及び/又は弾性率の変化は、複合材料の(歪みの変化に対応する)膨潤又は圧縮により、且つ/或いはマトリックス内若しくはマトリックスとナノ粒子との間の化学結合/相互作用の切断/脆弱化又は形成/強化により引き起こされると考えられる。例えば、トルエン等の多くの揮発性有機化合物は、疎水性有機マトリックス内で可逆的に物理吸着され、したがって、マトリックスを可逆的に膨潤させる。(歪みの低減に対応する)この膨潤は、材料のプレストレスを減少させる。しかし、分析物が例えばチオールであり、且つ複合材料が金ナノ粒子を含む場合、分析物は金表面で化学吸着される。結果として、分析物のそのような化学吸着は、ナノ粒子にあらかじめ付着していたマトリックスの官能基を置き換えることができ、架橋度が低下し、すなわち、複合材料は剛性が低下する(弾性率の低下)。
【0089】
「検出手段」により、本発明者らは、化学センサー及び/又は自立型ナノ粒子複合材料に関連する物理特性の変化を(例えば、光学的に、電気的に、磁気的に)検出及び/又は測定するために使用することができる任意のデバイス又は装置と理解する。
【0090】
1つの実施形態によれば、自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号は、複合材料の構造及び/又はトポグラフィ及び/又は形状及び/又はサイズの変化を光学的に測定することにより検出される(光学的検出モード)。例えば、弾性率及び/又はプレストレスの変化が、自立型ナノ粒子複合材の構造及び/又はトポグラフィ、形状又は幾何学的寸法に影響する場合、そのような変化は、光学的手段により、例えば、自立型複合材料の表面から反射された光及び/又はナノ粒子複合材料により散乱された光及び/又はナノ粒子複合材料から放出された光の検出により検出することができる。
【0091】
別の実施形態によれば、センサー信号は、複合材料の電気抵抗/インピーダンスの変化を測定することにより、1つ若しくは複数の近接する電極と共に配置された複合材料の静電容量の変化を測定することにより、且つ/又は複合材料の近傍の磁界を測定することにより検出することもできる。
【0092】
光学的検出は、複合材料から反射された光又は複合材料により散乱された光の強度の測定を含むことができ、位相情報の解析も含むことができる。光源は、レーザー、レーザーダイオード、発光素子が可能であるが、これらの例に限定されない。更に、複合材料から反射された光又は複合材料により散乱された光を検出するために使用されるデバイスは、光検出器、位置敏感光検出器、4プレート又はマルチプレート光検出器、カメラ、CCD/CMOSカメラ、CCD/CMOSチップ、干渉計、顕微鏡が可能であるが、これらの例に限定されない。
【0093】
ナノ粒子複合材料が、フォト又はエレクトロルミネセンスナノ粒子、例えば、半導体粒子を含む場合、それらの発光を励起し、粒子から放出された光の何らかの変化を使用して、トポグラフィ、形状、サイズ及び構造の何らかの生じる変化を測定することにより、複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化を検出することが可能である。原理的に、自立型ナノ粒子複合材料から反射された光又は自立型ナノ粒子複合材料により散乱された光を検出するための上述の同じ光源及び検出システムを使用することができる。
【0094】
好ましくは、複合材料の構造及び/又はトポグラフィ、形状又はサイズの変化は、複合材料から反射及び/若しくは放出された光並びに/又は複合材料により散乱された光を検出することにより検出される。
【0095】
自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサー及び/又は検出システムは、例えば、カメラ及び移動電話の光源を含む移動電話等のハンドヘルド電子デバイスの一部が可能であり、又は何らかの機能を持って移動電話に取り付けることができる。
【0096】
自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化は、力を加えることによりナノ粒子複合材料を作動させ、複合材料の応答を監視することにより調査することもできる。
【0097】
作動は、例えば、圧電アクチュエーターを使用することにより、カンチレバーを使用してナノ粒子複合材料をたわませたり、又はナノ粒子複合材料に押し込んだりすることにより、熱励起により、レーザーパルスにより、又は磁界により実施することができる。ナノ粒子複合材が、材料に十分な電気伝導率を与える導電性ナノ粒子を含む場合、Schlicke等によりACS Appl. Mater. Interfaces 2015、7、15123〜15128頁及びNanoscale 2016、8、15880〜15887頁に記載の通り、DC又はAC電界を加えることにより、すなわち、対向電極に対して自立型ナノコンポジット材料を帯電させることにより自立型ナノ粒子複合材を作動させることができる。自立型ナノ粒子複合材料の作動は、準静的に(準静的モード)(Schlicke等、ACS Appl. Mater. Interfaces 2015、7、15123〜15128頁)又は動的に(動的モード)(Schlicke等、Nanoscale 2016、8、15880〜15887頁)実施することができる。
【0098】
1つの実施形態によれば、自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号は、
− 静電力、圧電力又は磁力等の準静的作動力(準静的モード)を複合材料に加えることにより、且つ
− 作動力に対する複合材料の応答を測定することにより
検出される。
【0099】
1つの他の実施形態によれば、自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号は、
− 動的作動力(動的モード)、例えば、動的静電力、例えば、好ましくは1kHz〜10GHzの間の周波数を有する交番(AC)電界により誘導される静電力、又は例えば、交番磁界により誘導される磁力、又は例えば、入射パルスレーザービームにより加えられる、光子により誘起された力、又はAC電圧により駆動される圧電アクチュエーターにより引き起こされる力を加えて、複合材料がその共振周波数のうちの1つで振動するようにすることにより、且つ
− 所与の駆動周波数で自立型ナノ粒子複合材の共振周波数のシフト並びに/又は振幅及び/若しくは位相の何らかの変化を測定することにより
検出される。
【0100】
自立型複合材料を動的モードで作動させるとき、化学センサーは、好ましくは、振動子として操作され、これは、自立型ナノ粒子複合材料が、その基本モードの周波数又はより高次のモード周波数で振動することを意味する。本発明の文脈において、「その基本モードの周波数又はより高次のモード周波数で」という表現は、基本又はより高次のモード共振周波数を包含し、更に、基本又はより高次のモード共振周波数に近い周波数、すなわち、共振周波数を中心とし、振動振幅が振幅スペクトルのノイズレベルまで減衰する周波数によって限定される周波数範囲を包含する。
【0101】
1つの別の実施形態によれば、準静的作動モード及び/又は動的作動モードは、互いに、且つ他の非作動検出モード(マルチモード)と組み合わせることができる。すなわち、自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号は、
− 作動力を加えずに検出することができる物理特性の変化、例えば、抵抗/インピーダンス等の電気特性の変化、並びに/又は分光吸光度、放出及び/若しくは反射率等の光学特性の変化をセンサー信号として測定することにより、且つ/或いは
− 準静的作動力及び/又は動的作動力に対する複合材料の応答の変化をセンサー信号として測定することにより
検出される。
【0102】
(α)作動力(準静的及び/又は動的作動力)に対する自立型ナノ粒子複合材料の応答、すなわち、そのたわみ及び動きを光学的手段により監視することができる。例えば、複合材料から反射若しくは放出された光、又は複合材料により散乱された光を、例えば、位置敏感光検出器、干渉計、共焦点顕微鏡、CCD/CMOSカメラ等を使用して検出することができる。或いは、自立型ナノ粒子複合材の動きを、例えば、原子間力顕微鏡において使用されるようにカンチレバープローブにより監視することができる。
【0103】
(β)自立型ナノ粒子複合材料が導電性ナノ粒子を含む場合、その感歪電気抵抗/インピーダンスを使用して、複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により引き起こされるそのたわみ/動きの挙動における何らかの変動を監視することができる。
【0104】
(γ)自立型ナノ粒子複合材料を対向電極と共に配置して、コンデンサを形成することができる。次いで、この配置の静電容量を監視することにより材料の位置の変化を検出することができる。
【0105】
(δ)更に、自立型ナノ粒子複合材料が磁性粒子を含む場合、複合材料の近傍の磁界の何らかの変化を測定することにより、自立型複合材の動きを検出することができる。
【0106】
準静的力を加えることにより材料をたわませ、たわみの大きさを測定することにより、複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化を検出することもできる。同じ力を連続的に、又は繰り返し加えるとき、分析物の収着により引き起こされる複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化は、自立型ナノ粒子複合材料のたわみの測定可能な変化をもたらすことができる。分析物の収着により引き起こされる自立型ナノコンポジットの機械特性の変化を検出するためのこのモードは、好ましくはセンサーを周囲圧力で適用するとき使用されるが、センサーを減圧下で適用するとき使用することもできる。
【0107】
4.分析物の濃度を決定するための、且つ/又は分析物を認識するための方法
1つの実施形態によれば、本発明の方法は、分析物の濃度を決定するために使用することができ、方法は、以下の逐次工程:
(1)様々な既知濃度の分析物、例えば、気相中の分析物の参照サンプルに化学センサーを曝露するときに、自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号を検出手段により測定することにより、本明細書において上述の化学センサーを校正する工程(工程(iii))と、
(2)未知濃度の分析物を含む試験サンプルに化学センサーを曝露する工程(工程(i))と、
(3)自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号を検出手段により測定する工程(工程(ii))と、
(4)試験サンプル中の分析物濃度を決定するために、分析物の試験サンプルに化学センサーを曝露することにより測定されたセンサー信号を、(1)において測定された校正データと比較する工程(工程(vi))と
を含む。
【0108】
上述の校正データは、自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサーを様々な既知濃度の分析物の参照サンプルに曝露することにより容易に得ることができる。図12は、4つの分析物:トルエン、4−メチルペンタン−2−オン、1−プロパノール及び水に対して得られた校正曲線の例−すなわち、分析物の分圧(濃度)に応じて光学的に測定された基本振動共振周波数シフト−を示す。図12を見て分かる通り、分析物の分圧(濃度)と観察された周波数シフトとの間には直線関係がある。その結果、化学センサーが分析物の試験サンプルに曝露されたとき、測定された周波数シフトを校正データと比較することにより、試験サンプル中の分析物の濃度を容易に決定することができる。試験サンプル中の分析物が、化学センサーを校正するために使用された濃度の範囲外の濃度で存在する場合、試験サンプル中の分析物の濃度は、校正データからの外挿により近似したり、又は校正手順の濃度範囲を広げた後に決定したりすることができる。
【0109】
1つの別の実施形態によれば、本発明の方法は、分析物を認識するために使用することができ、方法は、以下の逐次工程:
(1)認識されるべき分析物に合わせて、以下で説明するように、化学センサーの自立型ナノ粒子複合材料の化学選択性を任意選択で調節する工程(工程(v))と、
(2)既知の分析物の参照サンプルに化学センサーを曝露するときにセンサー信号を測定することにより、化学センサーを校正する工程(工程(vi))と、
(3)(未知の)分析物を含む試験サンプルに化学センサーを曝露する工程(工程(i))と、
(4)自立型ナノ粒子複合材料の弾性率及び/又はプレストレスの変化により生じるセンサー信号を検出手段により測定する工程(工程(ii))と、
(5)試験サンプル中の分析物を認識するために、分析物の試験サンプルに化学センサーを曝露することにより測定された信号形状(応答動態)等のセンサー信号を、(2)において測定された校正データと比較する工程(工程(vii))と
を含む。
【0110】
本明細書に記載の方法を使用して、参照(校正信号)工程に化学センサーを曝露することにより測定された校正データとセンサー信号を比較することにより、分析物を認識することができる。この実施形態はまた、自立型ナノ粒子複合材料が、異なる分析物に対して異なる応答動態を示すことができるという原理に基づいている。この応答動態は、分析物に特徴的でありうるため、標的分析物、例えば、気相中の分析物の認識を可能にする。
【0111】
図13は、濃度10000ppm(分圧:20Pa)の4つの異なる分析物−すなわち、トルエン、4−メチルペンタン−2−オン、1−プロパノール及び水−に対して測定された自立型ナノ粒子複合材(膜)のセンサー信号(すなわち、共振周波数シフト)を示す。図13を見て分かる通り、化学センサーは、異なる分析物に対して異なる応答動態(例えば、過渡的な形状)を示す。関心のある分析物に特徴的な信号応答の特定の形状を、その分析物を認識するために使用することができる。
【0112】
更に、本明細書において前述の実施形態は組み合わせることができる。すなわち、本発明の方法は、分析物を認識するために、且つその濃度を同時に決定するために使用することができる。
【0113】
自立型ナノ粒子複合材料の化学選択性は、化学センサーが特定の(標的)分析物又は分析物の一クラス(例えば、非極性の疎水性分析物又は極性の親水性分析物)の認識に適するように調節/調整することができる。複合材料の化学選択性は、例えば、欧州特許第1215485(B1)号に記載の通り、及び例えば、Olichwer等によりACS Appl. Mater. Interfaces 2012、4、6151〜6161頁に記載の通り、自立型ナノ粒子複合材料の化学組成を変更することにより調節することができる。
【0114】
例えば、ナノ粒子を含むマトリックスが親水性/極性である場合、複合材料は、親水性且つ/又は極性の分析物を好ましく収着し、したがって、化学センサーの感度は、疎水性の非極性分析物に対してよりも、そのような親水性の極性分析物に対してより高くなる。逆に、マトリックスが疎水性且つ/又は非極性である場合、複合材料は、疎水性/非極性の分析物を好ましく収着し、したがって、化学センサーの感度は、疎水性分析物に対して高くなる。別の例において、マトリックスを、水素結合受容体/供与体として働く基で官能化することができる。これにより、水素結合供与体/受容体である分析物の収着を向上させることが可能となり、したがって、そのような分析物に対する化学センサーの感度を向上させることができる。
【0115】
また、ナノ粒子の化学的性質を利用して、化学選択性を調節/調整することができる。自立型ナノ粒子複合材料が、例えば、金、銀又は白金のナノ粒子を使用して形成される場合、自立型ナノ粒子複合材料は、硫黄含有分析物(例えば、チオール、HS、CS)と、又はアミン、NH及びCOと強く相互作用し、その理由は、そのような化合物が、例えば、Briglin等によりLangmuir 2004、20、299〜305頁に記載の通り、及びJoseph等によりSens. Actuators B 2004、98、188〜195頁に記載の通り、金属表面と強く結合するからである。その結果、自立型複合材料内にそのようなナノ粒子を含む化学センサーは、硫黄含有分析物、アミン、NH及びCOに対して向上した感度を示すことが予想される。更に、パラジウムナノ粒子を含む自立型ナノ粒子複合材料を使用すると、水素を収着し、したがって、ナノ粒子の体積を増加させるパラジウムの能力のために、水素ガスに対する化学センサーの感度を向上させることができる。
【0116】
更に、自立型ナノ粒子複合材料の化学選択性は、複合材料の透過性を改変することにより、例えば、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,458,327号に記載されている同じ方法でナノ粒子を相互接続するために使用される架橋剤の構造(例えば、長さ及び/又は化学的性質)を改変することにより調節することができる。これらの改変は、分析物が複合材料に浸透し、その中で収着されるために利用できる細孔及び経路のサイズの変更を可能にする。その結果、サイズ選択的な感度を有する化学センサーを実現することができる。更に、ナノ粒子を結合/相互接続するマトリックスとしてポリマーを使用するとき、Holthoff等によりAnal. Chim. Acta 2007、594、147〜161頁に記載の通り、分子インプリンティングにより化学選択性を実現することができる。
【0117】
1つの実施形態によれば、化学センサーは、他の化学センサーと組み合わせてセンサーアレイを形成することができ、これは、例えば、電子鼻として使用することができる。例えば、各センサーが異なる化学選択性を有する複数のセンサーを含むアレイを与えるように異なる自立型ナノ粒子複合材料(例えば、異なるナノ粒子、マトリックス、厚さ、幾何形状等)を使用していくつかの化学センサーを作製することができる。センサーアレイを分析物に曝露すると、その分析物の特定の信号パターンが生成され、したがって、分析物を認識すること、すなわち、標的分析物を他の化合物と区別することが可能になる。分析物の認識を可能にする信号パターンを、センサーアレイを形成する1つの、一部の、又はすべての化学センサーの特定の応答動態と関連付けることもできる。
【0118】
1つの別の実施形態によれば、透過性の自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサー又はそのような化学センサーのアレイは、標的分析物の認識を可能にする信号パターンを生成し、且つ圧力及び温度等の物理特性を検出するために、QCM又はケミレジスター等、異なる化学選択性及び/又は異なる信号伝達機構を有する少なくとも1つの他の化学センサー及び/又は物理センサーと組み合わせることができる。
【0119】
図14は、濃度10000ppm(分圧:20Pa)の4つの異なる分析物−すなわち、トルエン、4−メチルペンタン−2−オン、1−プロパノール及び水−に対する、自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサー(左)及び同じナノ粒子複合材料で形成されたケミレジスター(右)の応答を示す。図14を見て分かる通り、異なる信号伝達機構は、異なる分析物に対して異なる信号強度を与える。標的分析物を認識するためにこの情報を使用することができる。
【実施例】
【0120】
5.実施例
以下のセンサー及び試験方法を使用して本発明の方法を評価した。
【0121】
5.1 金ナノ粒子の合成
本発明の実施例における自立型ナノ粒子複合材(膜)の作製のために、1−ドデシルアミンキャップされた金ナノ粒子(GNP)の異なるバッチを使用した。Leff等により記載の手順に従って、すべてのGNPバッチを合成した(Langmuir 1996、vol. 12、4723〜4730頁参照)。得られたGNPを、紫外/可視分光法及び透過型電子顕微鏡法(TEM)を使用して特徴付けた。以前にSchlicke等により観察されたように(Nanotechnology 2011、22、305303参照)、ドデシルアミンキャップされたGNPはTEM条件下で安定していなかった。したがって、TEM測定のために、TEM測定を実施する前にドデシルアミン配位子を1−ドデカンチオール配位子と交換することによりGNPを安定化した。
【0122】
TEMにより画像化された数百個の粒子の投影面積を測定することにより平均粒径を推定した。球形の粒子を仮定して、それぞれの面積から粒子径を計算し、平均した。直径1nm未満の粒子をサイジング統計(sizing statistics)から除外した。平均径が3〜4nmの範囲内、且つ相対的なサイズ分散度(標準偏差)が典型的には10〜30%の間の粒子を、架橋金ナノ粒子皮膜の作製のために使用した(図1に示したTEM像参照)。
【0123】
5.2 架橋GNP皮膜の調製
Schlicke等によりNanotechnology 2011、22、305303に記載の手順と同様の手順に従って、1,6−ヘキサンジチオール(6DT)架橋GNP皮膜を作製した。皮膜堆積の前に基板を酸素プラズマ中で処理した。その後、基板をスピンコーター上に置き、3000rpmの一定速度で回転させた。最初に、トルエン中の6DTの7.4mM溶液100μLを回転する基板に2回塗布した。この前処理の後、n−ヘプタン中のGNP原液10μLを基板に加えることにより、GNP層を堆積させた。GNP溶液の濃度は、波長450nmにおいて吸光度0.2〜0.4に対応した(希釈係数:1/600、光路長10mm)。その後、GNPを架橋するために、メタノール中の6DTの7.4mM溶液10μLを2回塗布した。GNPの堆積工程及び架橋工程は1つの堆積サイクルとなる。20〜80nmの間の厚さを有する皮膜を与えるいくつかの逐次堆積サイクルを適用することにより、本実施例において使用されるセンサーの自立型ナノ粒子複合材(膜)を形成するために使用されるGNP皮膜を作製した。溶液のすべての塗布の間で、約〜30秒の遅れを維持した。最後に、GNP皮膜を6DTのメタノール性溶液(7.4mM)に終夜浸漬し、続いて、アセトンですすぎ、窒素流中で乾燥した。
【0124】
Schlicke等によりNanotechnology 2011、22、305303に記載の手順に従って、架橋GNP膜の厚さを測定した。簡潔には、基板支持GNP皮膜の一区画をカニューレを使用して引っかき、かき傷の縁部の異なる位置で2つの原子間力顕微鏡(AFM)像を取得した。各画像から、いくつかのステッププロファイルを抽出し、ステップ高さを平均して、GNP皮膜厚を得た。
【0125】
本実施例の枠内において、上述の手順に従って、2つの架橋GNP皮膜(以下、皮膜(A)及び(B))を作製した。皮膜(A)及び(B)が、それぞれ(上述の手順に従って測定された)(44±1)nm及び(39±1)nmの厚さを有することが明らかになった。
【0126】
5.3 電極マイクロ構造体の作製
参照により本明細書に組み込まれているNanoscale 2016、8(35)、15880〜15887頁にSchlicke等により記載のものと同様の3層フォトリソグラフィープロセスにおいて、自立型GNP複合材料(膜)の支持体としての役目を果たす三次元電極マイクロ構造体を作製した。
【0127】
最初に、Ti/Au背後電極層を酸化シリコンウエハ上に堆積させた。その後、自立型膜の支持体としての役目を果たす(1つ又は複数の)円筒形又は正方形マイクロキャビティを含む絶縁層(SU−8フォトレジスト)を作製した。第3の工程において、自立型膜を電子的に接触させるために、SU−8層の上に金電極を堆積させた。
【0128】
背後電極の作製:最初に、チタンの層及び金の層(それぞれ約10nm及び約40nm)を熱蒸発(oerlikon leybold UNIVEX 350G)により熱酸化シリコンウエハ上に堆積させた。その後、AZ ECI 3012ポジ型フォトレジストの層をスピンコーティング(3000rpm)により堆積させた。次いで、被覆されたウエハを90℃で90秒間ソフトベークし、Karl Suss MJB−3マスクアライナー及びフォトマスクを使用して露光し、背後電極構造体を得た。レジスト層を110℃で90秒間露光後ベークし、AZ 726 MIF現像液を使用して1分間現像した。サンプルを脱塩水中ですすぎ、窒素流中で乾燥した。次いで、金層の露光させた区画を、KI:I:HO混合物(4:1:200、m:m:m)を使用してエッチングした。その後、ウエハを42℃の濃塩酸(37%)に60分間浸漬することによりチタン接着層を除去した。N−メチル−2−ピロリドン又はアセトン及び水を使用して残留フォトレジストを除去した。
【0129】
SU−8マイクロキャビティの作製:作製した背後電極構造体を支持するウエハを、スピンコーティング(3000rpm)によりSU−8 2015ネガ型フォトレジストで被覆し、ソフトベークした。Karl Suss MJB−3マスクアライナーを使用してキャビティ構造(例えば、円筒形構造又はその他)を与えるフォトマスクをそれぞれの背後電極構造体と位置合わせし、光学360nmロングパスフィルタを適用した後、レジスト層の露光を実施した。ウエハを露光後ベークした。mr−dev600現像溶液を使用してSU−8層の現像を実施し、イソプロピルアルコール及び水中で構造体をすすぐことにより停止した。その後、サンプルを酸素プラズマで処理して、SU−8表面を清浄にした。最後に、サンプル温度を120℃から200℃まで上げ、20分間保持することにより、レジスト層をハードベークした。
【0130】
上述の手順を使用して、深さ約10μmを有する円筒形マイクロキャビティの4×4アレイ、又は辺長約100μm及び深さ約10μmを有する1つの正方形マイクロキャビティのいずれかを有するSU−8構造体を形成した。この例示的な構造体において、マイクロキャビティの深さは、SU−8層厚により制御される。
【0131】
上部電極の作製:リフトオフプロセスに従って金上部電極を作製した。最初に、背後電極とSU−8マイクロキャビティ構造体とを含むウエハ上にAZ 2035ネガ型フォトレジストの層をスピンコーティング(2000rpm)により堆積させ、次いで、ソフトベークした。堆積工程を繰り返して、三次元構造体をフォトレジストで完全に覆った。2回目の堆積の後、サンプルを再びソフトベークした。次いで、Karl Suss MJB−3マスクアライナーを使用して上部電極構造体を与えるフォトマスクをそれぞれの背後電極構造体位置合わせ後、レジスト層の露光を実施した。120℃で60秒間の露光後ベークの後、AZ 726 MIF現像液を使用してレジスト層を120秒間現像し、脱塩水を使用してすすいだ。任意選択で、露光したSU−8領域を酸素プラズマ中で清浄にした。金層(厚さ〜40nm)を熱蒸発(oerlikon leybold UNIVEX 350G)によりウエハ上に堆積させ、60℃のTechniStrip NI555中でAZ 2035フォトレジストを60分間溶解させることにより金層をAZ 2035フォトレジストで被覆されたサンプル区画から除去するリフトオフプロセスにより構造化した。仕上げたマイクロ構造体を脱塩水ですすぎ、窒素流中で乾燥した。
【0132】
5.4 センサーの作製及び実験セットアップ
化学センサーの作製:本発明の方法を評価するために2つの別個の化学センサー(CS1及びCS2)を作製した。それぞれの化学センサーは以下を含んでいた:
− CS1:4×4マイクロキャビティアレイ(円形アパーチャー;直径〜120μm、深さ〜10μm)の一部として円筒形マイクロキャビティ上に懸垂された6DT架橋自立型GNP膜(皮膜(A)、厚さ=(44±1)nm);
− CS2:1つの正方形マイクロキャビティ(正方形アパーチャー;辺長〜100μm、深さ〜10μm)上に懸垂された自立型GNP膜(皮膜(B)、厚さ=(39±1)nm)。
【0133】
上述の電極マイクロ構造体を使用して化学センサーを作製した。架橋GNP皮膜をスピンコーティングによりガラス基板上に堆積させた後(セクション5.2参照)、6DT架橋GNP皮膜A及びBで被覆されたガラススライドをいくつかの片に切断した。脱塩水上に浮遊させることにより、その最初のガラス基板から各GNP皮膜の片をリフトオフした。皮膜を備えた基板を水面上に数日間浮遊させたままにした後、水性相に浸漬することによりその基板から皮膜を剥離し、気液界面で自由に浮遊する皮膜を得ることができた。続いて、電極マイクロ構造体を使用して皮膜をすくい取り、乾燥させた。或いは、気液界面で浮遊している皮膜を、ラングミュア−シェーファー法を使用して3D構造化電極上に移動させることもできた。最後に、架橋GNP皮膜で被覆されたマイクロ電極を支持する基板をカスタム設計のプリント回路板(PCB)上に固定し、ワイヤボンディング(背後電極)及び銀ペースト(上部電極)により接続した。
【0134】
ケミレジスターの作製:Schlicke等によりNanotechnology 2011、22、305303に記載の手順に従って、スピンコートされたGNP皮膜(A)の第2のガラス基板支持片上に、約〜100nmの厚さを有する金電極を熱蒸発により堆積させた。蒸発中、シャドウマスクを適用し、400μmの長さ及び11mmの幅を有する架橋GNPの導電性チャネルを得た。Agilent 4156C半導体パラメーターアナライザーを使用してケミレジスターの電流−電圧データを取得した。デバイスは〜0.1S/cmの導電率を示し、これは、測定されたコンダクタンスから、チャネルの幾何形状を考慮することにより計算した。
【0135】
QCMセンサーの作製:いくつかの被覆されたガラススライド片のうちの1つからGNP皮膜Aの一区画を剥離し、3D構造化マイクロ電極上へのGNP皮膜の移動のために上述の同じ移動法を使用して、QCMセンサー(ATカット水晶、基本共振周波数10MHz、電極面積〜28mm)の片面上の作用領域上に堆積させた。
【0136】
実験セットアップ:作製した化学センサーを、カスタム設計のプリント回路板(PCB)上に取り付けた。上部電極及び背後電極との電気接点は、それぞれ銀塗料又はワイヤボンディングを使用して作った。4×4化学センサーのアレイが取り付けられたPCBに、その背面上に(上述の通り作製された)QCM及びケミレジスターを置く(addressing)のに適した接点を備え付けた。センサー試験セル内のソケットに取り付けるのに適したピンもPCBに備え付けた。
【0137】
(I)化学センサー、(II)ケミレジスター及び(III)QCM(実施例1、実施例5及び実施例6において使用、下記参照)を備えたセンサー試験セルの概略図を図9に示した。
【0138】
図9に関連して、それぞれの適した読取電子機器にそれぞれ接続された(I)干渉計によるたわみ読取りを伴う自立型ナノ粒子複合材料を含む化学センサー(本発明による)、(II)ナノ粒子複合材料を含む化学抵抗センサー(先行技術)及び(III)ナノ粒子複合材料で被覆された水晶振動子マイクロバランス(QCM)(先行技術)を、圧力センサー及び温度センサーと、窒素ガス又は規定濃度の溶媒蒸気と混合された窒素ガスの導入を可能にし、セルの内圧を制御する周辺システムとを備えたセンサー試験セル内に置いた。試験セルは、センサーを外部測定ハードウェアに接続するためのフィードスルーを含む。
【0139】
関数発生器(Keysight 33521B)により供給され、高電圧アンプ(Falco Systems WMA−300)により増幅された駆動信号を化学センサーに供給した。レーザー干渉計(Nanovibration Analyzer NA、SIOS GmbH社)を使用して、膜の動きを監視した。これらの測定では、ガラス窓を通してレーザーを化学センサーの自立型GNP膜の中心に向けた(センサーCS1の場合、化学センサーのうちの1つが、4×4化学センサーのアレイの一部である)。
【0140】
ケミレジスターをKeithley 2601A sourcemeterに接続して、一定のバイアス1Vを印加し、架橋GNPのチャネルを通る生じた電流を測定することによりその抵抗を連続的に監視した。
【0141】
水晶結晶の共振スペクトルを監視するために、QCMをAgilent E5100Aネットワークアナライザーに接続した。ネットワークアナライザーを位相信号の立ち下がりエッジにロックして、共振周波数のシフトを検出した。
【0142】
センサー試験セルにデジタル温度センサー(DS18b20)及び圧力センサー(oerlikon leybold TTR 101N)を備え付けた。これは、MEMSピラニゲージ及びピエゾ膜圧力センサーを含む。後者は、存在するガスのタイプとは無関係に所与の圧力範囲内のセルの絶対圧力を測定するのに適している。
【0143】
減圧下の測定の場合、センサー試験セルの出口をロータリーベーンポンプに液体窒素冷却トラップを介して接続した。窒素ゼロガス(ZG)、又は分析物のモル分率x分析物が調節可能な分析物を加えた分析物濃縮窒素ガス混合物(AG)を、市販のガス校正システム(MCZ Umwelttechnik CGM2000)により、ほぼ大気圧で供給した。このガスの一部をニードル弁によりセンサーセルの入口に供給し、これを調節して、センサーセル内を一定の絶対圧力P絶対=20mbarにした。分析物のモル分率がx分析物=1000、4000、7000及び10000ppmのAGを8分、間にZGを8分適用して交互に供給するように校正システムを設定した。これにより、真空セル内のp分析物=x分析物絶対の交互の分析物の分圧過渡現象(partial pressure transients)がもたらされる。周囲圧力下の測定の場合、排出ポンプシステム(流量400mL/min)をその出口に接続することにより、ガス校正システムからセンサー試験セルにZG及びAGガスを供給した。
【0144】
5.5 品質係数Qの決定
減圧下の測定の場合、Schlicke等によりNanoscale 2016、8、15880〜15887頁に記載の手順によって、膜振動子の品質係数を決定することができた。デバイスCS1については、減圧〜20mbarの窒素雰囲気下、品質係数が45と決定された。
【0145】
5.6 実施例1−基本共振周波数の決定及びトルエン(1000、4000、7000及び10000ppm)の動的検出
化学センサーCS1(及びQCM)が取り付けられたPCBをセンサー試験セル内に置いた。振幅VAC及び線形掃引駆動周波数f及びDC成分VDCを含む正弦関数からなる駆動電圧V(t)(式1)を使用して、静電力により化学センサーを励振した。ここで、正味電圧のゼロ交差、したがって、自立型膜に作用する静電力のゼロ交差を避けるために、DC成分をAC振幅より大きい値に設定した。関心のあるスペクトル範囲内で駆動周波数を連続的に掃引した(「周波数掃引」)。
V(t)=VDC+VACsin(2πft)(1)
【0146】
掃引の期間と同期して、Nanovibration Analyzer NAレーザー干渉計(SIOS GmbH社)を使用して、膜のたわみ時間トレースを連続的に取得した。合計65536データポイントの時間トレースを、サンプリング周波数〜2MHzで繰り返し記録した。励起電圧をVDC=7.5V及びVAC=3.75Vに設定し、駆動周波数掃引範囲を100〜450kHzの間に設定した。たわみ時間トレースの高速フーリエ変換を計算することにより、時系列の振幅スペクトルを得た。スペクトルの最大振幅点において±40kHzの周波数範囲内でローレンツ関数を基本共振ピークにあてはめることにより、共振周波数を抽出した。実験の始めに、基本共振周波数〜215kHzがZG下のセンサーにおいて見られた。絶対圧力P絶対=20mbarを、実験中、センサー試験セル内で維持した。
【0147】
まずZGを8分供給し、次いで、実験の全期間にわたって、トルエンのモル分率(分圧)がxトルエン=1000(2Pa)、4000(8Pa)、7000(14Pa)及び10000ppm(20Pa)のAGを8分、間にZGを8分適用して交互に供給するようにガス校正システムを設定した。
【0148】
トルエンの最大モル分率(分圧)が10000ppm(20Pa)のこの実験中に観察された周波数シフトが図5に示されており、ZG下及びAG下のセンサーの基本共振モードの振幅スペクトルを示している。見て分かる通り、共振周波数の顕著なダウンシフトが観察された。共振周波数の観察されたダウンシフトは、以下で更に示すように、トルエンの収着に起因するGNP膜の張力(プレストレス)及び/又は弾性率の低減に起因する可能性がある。
【0149】
真空中で振動する円形膜については、式(1)により基本共振周波数を決定することができる(Adiga等、Appl. Phys. Lett. 2011、99、253103参照):
【0150】
【数1】
【0151】
式(2)中、aは膜の半径を表し、σは膜のプレストレス、ρはその密度である。水晶振動子マイクロバランス(QCM)を使用する実験全体にわたって別のGNP皮膜断片の質量取込み(mass uptake)を監視することにより、その基本共振周波数に対する膜の質量変化の影響を近似することができた。図10及び図11を見て分かる通り、QCM共振周波数のシフトは2Hz未満であった。QCMの仕様を考慮すると、2Hzのシフトは、QCMセンサー上に堆積させた皮膜の〜2.5ngの質量取込みに対応する。これは、サイズが〜120μmの円形振動子の膜の区画による〜1pgの質量取込みに対応する。膜のこの質量変化(及び〜9.3g/cmと推定された膜の元の密度)のみを考慮すると、式(2)を使用して、わずか数十Hzの周波数シフトが予想される。
【0152】
図6に示した結果は、示した通り、異なる濃度のAGを膜に与えたときの時間に応じたGNP膜の基本共振周波数fのシフトを示す。最大〜10kHzの共振周波数のはるかに強いダウンシフト、すなわち、重量効果により予想されるよりも約3桁大きいダウンシフトが観察される。したがって、この知見は、分析物の収着時の膜のプレストレス及び/又は弾性率の変化が、検知機構において極めて重要な役割を果たすことを明確に示す。
【0153】
特に、トルエンのモル分率がxトルエン=1000ppmのAGを供給したとき、Δf〜1.5kHzのダウンシフトが観察された。全圧20mbarにおいて、このモル分率は、わずか20×10−3mbarの分析物の分圧に対応し、したがって、この結果は、本発明の方法が、優れた感度でトルエンの検出を可能にすることを示す。更に、AGの代わりにZGを供給したとき、共振周波数が急速に増加し、その初期共振周波数に戻った。これらの結果は、本発明の方法により得られる優れた分解能を示し、また、リアルタイムの「現場での(on the spot)」ガスモニタリングへのその適用可能性を示す。
【0154】
5.7 実施例2−トルエン(10000ppm)の準静的検出
化学センサーCS2が取り付けられたPCBをセンサー試験セル内に置いた。分析物のモル分率がxトルエン=10000ppmのAGを8分、間にZGを8分適用して交互に供給するように校正システムを設定した(すべて大気圧下、すなわち、〜1bar)。
【0155】
連続的に、漸増するDC電圧(20、40、60、80及び100V)の1秒のパルスの群を印加して、静電力により化学センサーの架橋GNP膜をたわませた。レーザー干渉計を膜の中心に向けて、自立型膜のたわみhを記録した。
【0156】
漸増するDC電圧のパルス(それぞれ破線及び実線)を使用したZG下及びAG(トルエン=10000ppm)下のGNP膜の記録されたたわみを図7に示した。見て分かる通り、化学センサーをAGに曝露したとき、GNP膜のたわみが著しく増加した。たわみの増加は、分析物の収着に起因するGNP膜の張力(プレストレス及び/又は弾性率)の変化に起因する可能性がある。
【0157】
5.8 実施例3−トルエン(1000、4000、7000及び10000ppm)の準静的検出対動的検出
濃度が漸増するトルエンに対する化学センサーCS2の準静的応答を実施例2と同じ方法で(5つの1秒の電圧パルス:20、40、60、80及び100Vの群により誘起される膜のたわみ過渡現象(deflection transients)を連続的に測定することにより)測定した。但し、ZG並びにトルエン濃度(分圧)xトルエン=1000(2Pa)、4000(8Pa)、7000(14Pa)及び10000ppm(20Pa)のAG過渡現象(AG transient)を一定の絶対圧力P絶対=20mbarで交互に8分供給するようにガス校正システムを設定したことを除く。
【0158】
加えられた圧力の差Pに起因する正方形膜の中心点たわみhは、以下の式(3)により計算することができる(Vlassak等、J. Mater. Res. 1992、7、3242参照):
【0159】
【数2】
【0160】
ここで、σは膜のプレストレスであり、tはその厚さを、bはキャビティの辺長の半分を表し、νはポアソン比、Eは膜の弾性率(ヤング率)である。正方形膜については、c=3.393であり、cは別の定数である。
【0161】
小さいたわみについては、膜と対向電極との間のほぼ一様な電界により誘導される面積あたりの静電力で圧力を置き換えることができる(Schlicke等、ACS Appl. Mater. Interfaces 2015、7、15123参照)。また、小さいたわみについては、式(3)の第2項は無視できる。これは、Vとhとの間の近似の比例関係を与える:
【0162】
【数3】
【0163】
ここで、Vは印加バイアス電圧であり、dは、膜によって覆われたキャビティの深さによってほぼ規定される膜と背後電極(対向電極)との間の距離であり、εはキャビティ容積の誘電率を表す。式(4)を使用して、実験の過程にわたって繰り返し記録したたわみ過渡現象の群を評価した。V(h)データセットに傾きをあてはめることにより、時系列のσ(自立型GNP膜のプレストレスに対応する)を得た。
【0164】
上述の周波数掃引手順(VDC=10V、VAC=5V、周波数範囲:100kHz〜1MHz、データポイント数:65536)を使用し(すなわち、AC電圧により膜を励振することにより)、レーザー干渉法により膜の振動を観察することにより、濃度が漸増するトルエンに対する化学センサーCS2の動的応答も測定した。収着により誘起された膜の質量密度の変化を無視して、真空中に固定された正方形膜の基本共振周波数fを表す式(5)を使用してプレストレスσを計算した(Zhang等、Appl. Phys. Lett. 2015、106、063107参照):
【0165】
【数4】
【0166】
これらの実験の結果は図8に示してあり、準静的作動力(1秒のDC電圧パルスの印加による;破線)及び動的作動力(AC電圧の印加による;実線)により作動させた化学センサーCS2のプレストレス時間トレースを示す。
【0167】
5.9 実施例4−化学センサー、ケミレジスター及びQCMを使用するトルエンの動的検出
実施例1のように、上述の通り作製された化学センサーCS1、ケミレジスター及びQCMが取り付けられたPCBをセンサー試験セル内に置いた。この実験において使用した実験セットアップを図9に示した。実施例1に記載の通り実験を実施した。実施例1のように、一定の絶対圧力P絶対=20mbarをセンサー試験セル内で維持した。
【0168】
この実験の結果は図10に示してあり、時間に応じたセンサーCS1の基本共振周波数f及び共振周波数シフトΔf(それぞれのトレース(a)及びトレース(b))を示す。
【0169】
同時に、ケミレジスター、すなわち、電気抵抗の応答、及びQCMの応答、すなわち、基本共振周波数のシフトも監視した。結果は図10に示してあり、ケミレジスターの測定された電気抵抗R(トレース(c))並びに対応する相対的な抵抗変化ΔR/R(トレース(d))、及びQCMの測定された共振周波数シフトΔfQCM(トレース(e))を示す。トレース(f)及びトレース(g)は、それぞれセンサーセル内で測定された全圧P絶対及び温度Tを示す。
【0170】
これらの結果は、本発明の方法が、優れた感度でトルエンの検出を可能にすることを示す。特に、トルエンのモル分率がxトルエン=1000ppmのAGを供給したとき、Δf=〜1.5kHzの顕著な共振周波数のダウンシフトが観察された。対照的に、ケミレジスターは、弱い信号のみを与え(トレース(c)及びトレース(d)参照)、一方、QCMは、トルエンの存在を明確に検出できなかった(トレース(e)参照)。したがって、これらの結果は、本発明の方法により実現される感度の著しい改善を示す。
【0171】
濃度が漸増するトルエンに対する化学センサーCS1の応答を使用して、図12に示した校正曲線並びに図13に示した過渡応答動態を作成した。
【0172】
5.10 実施例5−化学センサー、ケミレジスター及びQCMを使用する水の動的検出
実施例4と同じ実験を再現した。但し、分析物としてトルエンの代わりに水を使用したことを除く。すなわち、まずZGを8分供給し、続いて、水のモル分率(分圧)がx=1000(2Pa)、4000(8Pa)、7000(14Pa)及び10000ppm(20Pa)のAGを8分適用し、間にZGを8分適用し、続いて、再びZGを適用するようにガス校正システムを設定した。一定の絶対圧力P絶対=20mbarをセンサー試験セル内で維持した。
【0173】
実施例4に記載されている同じ方法で化学センサーCS1、ケミレジスター及びQCMの応答を監視した。結果は図11に示してあり、化学センサーCS1の基本共振周波数f(トレース(a))、対応する基本共振周波数シフトΔf(トレース(b))、ケミレジスターの電気抵抗R(トレース(c))、対応する相対的な抵抗シフトΔR/R(トレース(d))、及びQCMの基本共振周波数シフトΔfQCM(トレース(e))を示す。トレース(f)及びトレース(g)は、それぞれセンサーセル内で測定された全圧P絶対及び温度Tを示す。
【0174】
図11を見て分かる通り、本発明の方法は、優れた感度で水の検出を可能にする(トレース(a)〜(b)参照)。対照的に、ケミレジスター及びQCMは、水が比較的高濃度で存在したときでさえも水を検出できなかった(トレース(c)〜(e)参照)。したがって、これらの結果は、本発明の方法により実現される感度に関する著しい改善を示す。
【0175】
濃度が漸増する水に対する化学センサーCS1の応答を使用して、図12に示した校正曲線並びに図13に示した過渡応答動態を作成した。
【0176】
5.11 実施例6−化学センサー及びケミレジスターを使用するトルエン、4−メチルペンタン−2−オン、1−プロパノール及び水の動的検出
実施例4及び実施例5と同じ実験を再現した。但し、4−メチルペンタン−2−オン(4M2P)及び1−プロパノールを分析物として使用したことを除く。すなわち、まずZGを8分供給し、続いて、4M2P又は1−プロパノールのモル分率(分圧)が1000(2Pa)、4000(8Pa)、7000(14Pa)及び10000ppm(20Pa)のAGを8分適用し、間にZGを8分適用し、続いて、再びZGを適用するようにガス校正システムを設定した。一定の絶対圧力P絶対=20mbarをセンサー試験セル内で維持した。
【0177】
濃度が漸増する4M2P及び1−プロパノール(及び2つの他の分析物)に対する化学センサーCS1のそれぞれの応答を使用して、図12に示した校正曲線並びに図13に示した過渡応答動態を作成した。
【0178】
更に、(同じ架橋ナノ粒子複合材料から調製した)化学センサーCS1及びケミレジスターは異なる化学選択性を有する。これは、図14中に、示した通りセンサーを異なる分析物蒸気に8分間曝露した後に測定された異なる相対的な信号強度により示されている。したがって、同じ試験サンプルに曝露した2つのセンサーの相対的な信号強度は、標的分析物を認識するために使用することができる信号パターンに対応する。更に、上述のように、このセンサーを異なる分析物に曝露したときに観察されたセンサーCS1の別個の応答動態(図13)を分析物の認識のために利用することができる。
【符号の説明】
【0179】
1 ナノ粒子
2 架橋剤
3 自立型ナノ粒子複合材料
4 基板
5 絶縁層
6 マイクロキャビティ
7 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図13
図14
【国際調査報告】