(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-514948(P2020-514948A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン蓄電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20200424BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20200424BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20200424BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20200424BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20200424BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-527197(P2019-527197)
(86)(22)【出願日】2017年11月18日
(85)【翻訳文提出日】2019年6月14日
(86)【国際出願番号】DE2017000391
(87)【国際公開番号】WO2018113807
(87)【国際公開日】20180628
(31)【優先権主張番号】102016015191.9
(32)【優先日】2016年12月21日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】テンペル・ヘアマン
(72)【発明者】
【氏名】ユ・シーチャン
(72)【発明者】
【氏名】クングル・ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ガオ・シン
(72)【発明者】
【氏名】シーアホルツ・ローラント
(72)【発明者】
【氏名】メルテンス・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】メルテンス・ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】デ・ハールト・ランベルトゥス・ゲー・ヨット
(72)【発明者】
【氏名】アイヒェル・リュディガー−アー
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ01
5H029AK01
5H029AK03
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5H029AL03
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5H050HA04
5H050HA05
5H050HA09
(57)【要約】
本発明は、固体電解質が、100μm〜800μmの間、好ましくは200μm〜500μmの間、特に有利には200μm〜300μmの間の層厚を有する、アノード、カソード、および固体電解質を含む全固体リチウムイオン蓄電池に関する。全固体リチウムイオン蓄電池は、リン酸バナジウムリチウム(LVP)、リン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)、およびリン酸チタンリチウム(LTP)から成る混合物を含む。本発明による全固体リチウムイオン蓄電池を製造するため、前か焼した電解質粉末が加圧され、電解質層へと焼結される。次いで両面に電極が施され、焼結される。任意選択で、電極層を施す前に、固体電解質への電極層の結合を改善するための少なくとも1つの中間層を固体電解質上に施すことができる。これらの層を施すために、好ましくはすべての一般に行われている標準的な印刷プロセス、例えばスクリーン印刷、オフセット印刷、またはインクジェットを用い得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 前か焼した電解質粉末が加圧され、電解質層へと焼結されること、
− 焼結した電解質層の第1の表面に第1の電極が施され、焼結されること、ならびに
− 焼結した電解質層の第2の、第1のとは反対側の表面に第2の電極が施され、焼結されることを特徴とする、アノード、カソード、および固体電解質を含む全固体リチウムイオン蓄電池の製造方法。
【請求項2】
少なくとも1種のリン酸塩化合物、少なくとも1種のシリサイド化合物、または少なくとも1種の硫化リンを含む電解質粉末が用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電解質粉末として、リン酸バナジウムリチウム(LVP)、リン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)、およびリン酸チタンリチウム(LTP)を含む混合物が用いられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
電解質粉末混合物中のリン酸バナジウムリチウム(LVP)の割合が60〜80質量%の間、リン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)の割合が5〜30質量%の間、およびリン酸チタンリチウム(LTP)の割合が60〜80質量%の間である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
平均粒径が1〜2000nmの間、とりわけ10〜200nmの間の電解質粉末が用いられる、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの電極が、スクリーン印刷、オフセット、ロールツーロール、浸漬床(Tauchbett)、またはインクジェット印刷によって施される、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
焼結により、密度が理論密度の85%超または気孔率が20体積%未満、有利には15体積%未満の電解質層が製造される、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
層厚が100μm〜800μmの間、有利には200μm〜500μmの間、とりわけ200μm〜300μmの間の電解質層が製造される、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
焼結した電解質層の一方の表面に少なくとも1つの電極層を施す前に、最初に少なくとも1つの中間層が、次いで前記中間層上に電極層が施される、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
焼結した電解質層の両方の表面に両方の電極層を施す前に、最初にそれぞれ中間層が、次いで前記中間層上にそれぞれの電極層が施される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
リン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)およびアノード材料またはカソード材料を含む少なくとも1つの中間層が施される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
層厚が1〜10μmの間、とりわけ1μm〜5μmの間の少なくとも1つの中間層が施される、請求項9〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
固体電解質が、100μm〜800μmの間、好ましくは200μm〜500μmの間、特に有利には200μm〜300μmの間の層厚を有することを特徴とする、アノード、カソード、および固体電解質を含む請求項1〜12のいずれか一つによって製造可能な全固体リチウムイオン蓄電池。
【請求項14】
固体電解質が、リン酸バナジウムリチウム(LVP)、リン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)、およびリン酸チタンリチウム(LTP)から成る混合物を含む、請求項13に記載の全固体リチウムイオン蓄電池。
【請求項15】
固体電解質が、60〜80質量%の間のリン酸バナジウムリチウム(LVP)の割合、5〜30質量%の間のリン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)の割合、および60〜80質量%の間のリン酸チタンリチウム(LTP)の割合を有する、請求項13または14に記載の全固体リチウムイオン蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池技術、とりわけ全固体リチウムイオン電池または全固体リチウムイオン蓄電池の分野に関し、特にその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能なリチウムイオン電池(以下に、リチウムイオン蓄電池とも言う)は、近年、大躍進を開始した。とりわけ全固体電池または固体電解質電池は大きな関心を引いている。このことは、対応する蓄電池にも同じ程度に当てはまる。この場合、通常は液体の、またはポリマーによって安定化された(ゲル)電解質の代わりに、イオン伝導性の固体が用いられる。この固体電解質は、一般的には無機物(セラミックス、ガラスなど)で形成されている。
【0003】
この場合、固体電解質の機能性にとって決定的なのは、低い電子伝導性と同時に高いイオン伝導性、ならびにアノード材料およびカソード材料に対する十分に高い電気化学的安定性である。イオンに対する高い伝導性が、有利には、蓄電池の内部電気抵抗を最小限に抑え、高い出力密度を生じさせると同時に、高い電気抵抗が、蓄電池の自己放電率を最小限に抑え、これにより蓄電池の耐用期間または貯蔵寿命を長くする。
【0004】
しかし再充電可能な全固体電池(蓄電池)は、液体電解質を用いた蓄電池に比べて、これまでは一般的に出力密度が低かった。しかしながら、これらの全固体電池はセルから液体が流出する可能性がないので、確実で環境にやさしい稼働を保証する。これにより、液体電解質で潜在的に生じる問題、例えば流出、過熱、燃焼、および有毒性を有利に克服することができる。この特性は一般的には特に長い耐用期間ももたらす。
【0005】
固体電解質を用いた再充電可能なリチウム空気蓄電池の多くでは、リチウムを含む正極と、負極としての多孔質グラファイトまたはアモルファスシリコンとが用いられる。固体電解質としては、リチウムイオンに対して透過性のセラミックスまたはガラスまたはさらにはガラスセラミックス複合体を使用している。
【0006】
固体電解質と電極との間には、ポリマーセラミックス複合材料を含む層がしばしば配置され、これらの層が、一方ではアノードへの電荷移動を改善し、他方ではカソードを固体電解質に結合する。加えてこれらの層は決まって抵抗を低下させる。
【0007】
これまでに良好に機能しているリチウムイオン蓄電池は、薄層電解質を一般的に有する。電解質の役割は、放電中にリチウムイオンをアノードからカソードへ伝導すると同時に両極を電気絶縁することである。これに適した固体材料は、それらの原子の格子構造において空孔を有する。リチウムイオンは、これらの空孔に入り込むことができ、および空孔から空孔へと、固体を通って移動することができる。しかしながらこのメカニズムは、液体電解質中の拡散過程より少し遅く進行する。これにより、イオン輸送に対する抵抗が液体電解質に比べて少し大きくなる。しかしこの欠点は、電解質を薄層として実施することで原理的には取り除き得る。不利なのは、このような薄層蓄電池の容量が、それらの制限された層厚により、不適切にのみスケーリング可能であることである。
【0008】
Katoら、「High−power all−solid−state batteries using sulfide superionic conductors」nature energy、DOI: 10.1038/nenergy.2016.30(非特許文献1)からは、例えば、固体電解質としてLi
9.54Si
1.74P
1.44S
11.7Cl
0.3を用いたリチウムイオン蓄電池が公知である。
【0009】
これまでに公知のたいていは酸化物セラミックスの、ただしさらには硫化物系の固体電解質の電気化学的安定窓は約2Vであり、したがってリチウムイオン蓄電池に一般的に使用される3.5V超の電圧より低い。
【0010】
薄層蓄電池の商業生産は、必然的に、例えば物理蒸着(英語physical vapor deposition,PVD)のような非常に手間のかかる処理技術を必要とする。しかしながらこのためには、これらのセルのカプセル化が完璧でなければならない。というのも少量の欠損が、これらの蓄電池の機能障害を既に引き起こすからである。
【0011】
純粋な気相プロセスの場合、関与する固体界面の機能化および適合はさらに困難なものになる。
【0012】
リチウムベースの市販の固体薄層セルは、例えば「Infinite Power Solutions」社により名称「Thinergy(登録商標)MEC200」で商品化されている。この場合、セルの各コンポーネントは手間のかかる気相法によって製造されている。しかしこの方式では薄い電極のみ実現することができ、これもまたセルの全容量を大きく低下させている。
【0013】
この関連では、典型的には10〜50μmの間の層厚を薄層と見なしている。
【0014】
インターカレーション材料の体積膨張は、材料のそれぞれのアニオン構造に依存するので、個々のセルコンポーネント内で異なるアニオンを使用することにより、固体電極と固体電解質との間の界面での接触がしばしば最適には形成されていないことが分かった。
【0015】
全固体蓄電池の充電および放電の際の異なる膨張に基づき、しばしば不利には、電極層の間の接触がさらに失われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Katoら、「High−power all−solid−state batteries using sulfide superionic conductors」nature energy、DOI: 10.1038/nenergy.2016.30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、現況技術からのこれまでの欠点を克服する効果的で安価な全固体リチウムイオン蓄電池を提供することである。
【0018】
さらに本発明の課題は、そのような全固体蓄電池、とりわけ全固体リチウムイオン蓄電池の簡単で安価な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の課題は、請求項1の特徴を有する全固体リチウムイオン蓄電池の製造方法および別の独立請求項の特徴を有するそのような全固体リチウムイオン蓄電池の製造方法によって解決される。
【0020】
蓄電池および製造方法の有利な形態は、それぞれに従属する請求項から明らかである。
【0021】
発明の対象
本発明の枠内で発見されたのは、全固体蓄電池の製造、とりわけ全固体リチウムイオン蓄電池の製造を、有利には固体電解質を基礎として、およびこれまでのように電極側の一方からではなく行えるということである。したがって固体電解質は、電気化学セルの製造時に機械的支持の役割を担う。
【0022】
これが意味するのは、本発明により製造される全固体蓄電池の形成を、電解質側から、つまり、ほぼ緻密に焼結した電解質の製造から始まるように行い、次いで電解質の両面で、両方の電極を配置することができるということである。
【0023】
以下では、蓄電池の概念を、再充電可能な電池のために使用する。
【0024】
本発明によれば、最初に相応の粉末材料を緻密な電解質層へと加圧し、次いで焼結させる。電解質はその後、ほぼ緻密に焼結した電解質として存在する。ほぼ緻密とは、電解質が、理論密度の85超に相当する密度を有することであると理解される。同時に電解質は、気孔率が20体積%以下、好ましくは15体積%以下であることが望ましい。電解質が必要な機械的安定性を有するために、本発明による電解質層の層厚は少なくとも100μmである。
【0025】
この場合、本発明による電解質は、液相合成(ゾルゲルまたは水熱)によっても、いわゆる「固体酸化物」合成によっても製造することができる。「固体酸化物」合成では、酸化物前駆体をよく粉砕し、次いでか焼する。次いで、電解質を電解質ペレットの形態で、一軸で10kN超で前加圧し、次いで等方圧で1200kN超で緻密化し、焼結させる。
【0026】
これに適した電解質粉末は、一方では酸化物、リン酸塩、またはさらにはケイ酸塩のような化合物を、しかし他方では硫化リンも含む。これらの化合物または硫化リンの1種も、数種のそのような化合物または硫化リンの混合物も、用いることができる。
【0027】
以下では、前述の意味における電解質粉末として適している幾つかの具体的な化合物を例として挙げるが、これらの化合物に限定する意図はない:
− 酸化物、例えばLi
7−xLa
3Zr
2Al
xO
12、ここでx=0〜0.5、またはLi
7La
3Zr
2−xTa
xO
12、ここでx=0〜0.5、
− リン酸リチウムアルミニウムチタン、例えばLi
1+xM
xTi
2−x(PO
4)
3、ここでx=0〜7およびM=Al(LATP)、Fe、Y、またはGe、
− ジルコン酸リチウムランタン、この場合、追加的にタンタル、アルミニウム、および鉄のドーピングを用いることができる、
− 硫化リンリチウム、この場合、ゲルマニウムおよびセレンをドーピングすることができ、例えばLi
7P
3S
11、Li
10P
3S
12、Li
10M
xP
3−xS
12、ここでM=Ge、Seおよびx=0〜1、ここでM=A
yB
z、これに関しA=Si、GeおよびB=Sn、Siならびにここでy=0〜0.5およびz=1−y。
【0028】
本発明の好ましい一形態では、本発明による方法の場合に、好ましくは数種のリン酸塩化合物の混合物を用いる。
【0029】
これに関し、本発明による固体電解質を製造するための特に有利な粉末混合物は、例えばリン酸バナジウムリチウム(LVP)、リン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)、およびリン酸チタンリチウム(LTP)を含む。LATPは、本来のイオン伝導性電解質材料なので過剰に存在しており、より良好な伝導性を達成するため、一般的にはアノードにもカソードにも添加される。
【0030】
この好ましい電解質粉末中のLVPとLTPの比率は、例えば1.2:1である。これはカソード側で制限されるセルであり、このセルの場合、カソードが、アノードが吸蔵し得るより多くのリチウムを活性成分として有する。
【0031】
固体電解質を製造するための粉末は、緻密化および焼結により、理論密度の少なくとも85%の密度を可能にするため、平均粒径が100nm〜800nmの間、好ましくは200nm〜650nmの間であることが望ましい。
【0032】
用いる電解質粉末の粒径の、前述の重要な範囲にわたる二峰性のまたは広い分布が、高い理論密度を達成するために有利で将来性のあることが分かった。イオン伝導を制限する要因が粒界伝導性なので、低すぎる密度は固体電解質にとってわずかに有益である。
【0033】
これに関し、用いる粉末の平均粒径(d50)は、一つには走査電子顕微鏡(REM)を使って、もう一つには静的光散乱測定法によっても確定した。
【0034】
電解質のための粉末化合物またはこれらの化合物の混合物を適切に選択することにより、有利には、電解質の安定窓を十分に活用できるか、または蓄電池の構造全体を電解質にできるだけ適合させ得る。
【0035】
これに関する具体的な例として、LTPおよびLVPの組合せを挙げることができ、この組合せが、電解質の電気化学的安定窓を特に十分に活用する。ただしこれに関しては、欠点として比較的低いセル電圧が判明しており、というのもLi/Li
+に対するアノード(LTP)の電圧は2.5Vであり、よって必然的に、カソードの高い電圧を高いエネルギー密度の達成に完全には利用できないのである。
【0036】
このように製造された固体電解質は、焼結ステップ後に、好ましくは、層厚が100μm〜800μmの間、好ましくは200μm〜500μmの間、特に有利には200μm〜300μmの間である。500μm超の層厚は、セルの内部抵抗を既に制限することができる。100μmの下限は一貫して、層がその機能において機械的に安定な支持体として存在し得る下限を示している。
【0037】
さらなるステップでは、予め焼結した電解質層の両面で、個々の電極層を直接的に施すことができる。これに適した方法として、とりわけスクリーン印刷を挙げることができる。一般的には、すべての印刷方法、例えばオフセット、ロールツーロール、浸漬床(Tauchbett)、またはインクジェット印刷が、このシステムに適している。
【0038】
これに関してはすべての標準的な電極材料を使用することができ、用いる電極材料は、電解質の安定窓に適応していることが望ましい。
【0039】
酸化物の電極材料として、例えばカソードに適しているのは:
LiNiCoAlO
2、LiNiCoMnO
2(NMC)、LiMn
2−xM
xO
4、ここでM=Ni、Fe、Co、またはRu、およびここでx=0〜0.5、ならびにLiCoO
2(LCO)である。
【0040】
アノードとしては、例えば下記の材料:
V
2O
5、LiVO
3、Li
3VO
4、およびLi
4Ti
5O
12(LTP)が適している。
【0041】
リン酸塩を含む化合物も電極材料として適しており、例えばカソードにはLi
3V
2(PO4)
3、もしくはLiMPO
4、ここでM=1/4(Fe、Co、Ni、Mn)が、またはアノードにはLiM
2(PO
4)
3、ここでM=Zr、Ti、Hf、もしくはその混合物が適している。
【0042】
本発明により製造される蓄電池は、アノード、電解質、およびカソードにわたる多価アニオン(PO
4)
3−の均一な構造を、特別な特徴として有する。この構造特徴は、リン酸塩、硫化リン、およびケイ酸塩を使用する際にも生じる。
【0043】
この場合、本発明により製造される全固体蓄電池の安定性は、とりわけ、構造的に互いにふさわしい、つまり分子構造において互いにふさわしい化合物によって達成される。システムの構造的に完全な状態は、互いにふさわしい、結晶構造および体積膨張において互いに合っている電極と電解質の組合せによって保証される。
【0044】
本発明の有利な一形態では、電極と予め製造した固体電解質との間の少なくとも1つの界面を、マイクロ構造化および/またはナノ構造化によって追加的に特別に適合させる。
【0045】
例えば、電解質に対する両方の電極のさらにより良い構造的適合を達成するため、任意選択で、「付着促進」層として、電解質材料およびアノード材料からまたは電解質材料およびカソード材料から成る複合体層を使用することができる。これらの層には、純粋な電解質材料のほかに、さらにはナノ構造化されたアノード粒子またはカソード粒子も活性成分として含有されている。
【0046】
これらの中間層は、一般的には、1〜10μmの間、とりわけ1〜5μmの間の層厚で、固体電解質上に施される。それに次いで、対応する電極層が施される。
【0047】
ナノ構造化は、例えば、適切な界面活性剤、例えばTritonX100(登録商標)を添加して、ソルボサーマル合成を使用することで達成できる。これにより、内在的な粗さの調整および両方の層の材料の互いへの良好な結合を保証することができる。
【0048】
全固体蓄電池のすべてのさらなる層、つまり電極層および任意選択の中間層の処理を、有利には一般に行われている標準的な印刷プロセス、例えばスクリーン印刷、オフセット印刷、またはインクジェットによって行える。
【0049】
以下に、幾つかの例示的実施形態および幾つかの図により、本発明をさらに詳しく説明するが、これによって広い保護範囲を制限する意図はない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】全固体電池を製造するための本発明による電解質を基礎とする方法の有利な一形態のフロー図である。
【
図2】中間層を備えた全固体電池を製造するための本発明による電解質を基礎とする方法の特別な一形態のフロー図である。
【
図3】集電体(1)、アノード(2)、本発明による固体電解質(3)、カソード(4)、ならびに電気接触部(5)および蓄電池ハウジング(6)を備えた、任意選択の中間層なし(a)およびあり(b)の本発明による全固体蓄電池の概略的な構造を示す図である。
図3bでは、アノード側の中間層(7)およびカソード側の中間層(8)が追加的に描き込まれている。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明による固体電解質の製造および固体電解質のコーティングに関する例示的実施形態:
前か焼したリン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)粉末を、ボールミル内で粉砕した後(粉砕後の平均粒径、d
50<1μm)、一軸ピストンプレス機内で直径11mmのペレットへと加圧する(40kN)。
【0052】
次いでペレットの表面を研磨し、ペレットを粉末床内で1100℃(加熱速度2K/min)、維持時間30時間で焼結させる。焼結した電解質ペレットは、理論密度の約90%の密度および約400μmの厚さを有する。その際、直径は約11.5mmへと、決まってごくわずかにのみ収縮する。
【0053】
電極用のペーストを製造するため、LVP(カソード用)またはLTP(アノード用)、ならびにLATP、炭素粉末(Super−P(登録商標))、およびエチルセルロースを乳鉢内で混ぜ合わせ、次いでNMP(1−メチルピロリドン)と、9:5:3:3(質量%)の比率で、回転混合機内で30分間混合する。これらのペーストをスクリーン印刷により、電解質ペレット上に、1層あたりのウェット層厚70μmで、多層に印刷する。コーティングの間に、ペレットをそれぞれ真空中で、一晩中110℃で乾燥させる。
【0054】
乾燥したアノード層は、容量の釣り合いを取るため、層厚60μm(3回のコーティングに相当)であり、カソード層は厚さ90μm(5回のコーティングに相当)である。次いでこの蓄電池を、電池ハウジング内で約1tの押圧力下で測定する。
【手続補正書】
【提出日】2019年1月28日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 前か焼した電解質粉末が加圧され、電解質層へと焼結され、少なくとも1種のリン酸塩化合物、少なくとも1種のシリサイド化合物、または少なくとも1種の硫化リンを含む電解質粉末が用いられるステップ、
− 電解質層の両面にそれぞれ電極が施され、焼結した電解質層の一方の表面に少なくとも1つの電極層を施す前に、最初に少なくとも1つの中間層が、次いで前記中間層上に電極層が施されるステップ
を有する、アノード、カソード、および固体電解質を含む全固体リチウムイオン蓄電池の製造方法において、
電解質材料およびアノード材料からならびに/または電解質材料およびカソード材料から成る中間層が使用されることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
焼結した電解質層の両方の表面に両方の電極層を施す前に、最初にそれぞれ中間層が、次いで前記中間層上にそれぞれの電極層が施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
平均粒径が1〜2000nmの間、とりわけ10〜200nmの間の電解質粉末が用いられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの電極が、スクリーン印刷、オフセット、ロールツーロール、浸漬床(Tauchbett)、またはインクジェット印刷によって施される、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
層厚が100μm〜800μmの間、有利には200μm〜500μmの間、とりわけ200μm〜300μmの間の電解質層が製造される、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
層厚が1〜10μmの間、とりわけ1μm〜5μmの間の少なくとも1つの中間層が施される、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
アノード、カソード、および固体電解質を含み、
固体電解質が、100μm〜800μmの間、好ましくは200μm〜500μmの間、特に有利には200μm〜300μmの間の層厚を有する、全固体リチウムイオン蓄電池において、
固体電解質とアノードとの間に中間層が配置され、前記中間層が電解質材料およびアノード材料を含むこと、ならびに固体電解質とカソードとの間に中間層が配置され、前記中間層が電解質材料およびカソード材料を含むことを特徴とする、全固体リチウムイオン蓄電池。
【請求項8】
焼結後に、電解質層が、理論密度の85%超の密度または20体積%未満、有利には15体積%未満の気孔率を有する、請求項7に記載の全固体リチウムイオン蓄電池。
【国際調査報告】