特表2020-515264(P2020-515264A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-515264早期膵がんを診断するための方法およびキット
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  • 特表2020515264-早期膵がんを診断するための方法およびキット 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-515264(P2020-515264A)
(43)【公表日】2020年5月28日
(54)【発明の名称】早期膵がんを診断するための方法およびキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20200501BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20200501BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20200501BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20200501BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20200501BHJP
   C12N 15/25 20060101ALN20200501BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20200501BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20200501BHJP
   C12N 15/61 20060101ALN20200501BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20200501BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20200501BHJP
【FI】
   C12Q1/686 Z
   C12Q1/6886 ZZNA
   G01N33/50 P
   G01N33/68
   G01N33/574 A
   C12N15/25
   C12N15/113 Z
   C12N15/53
   C12N15/61
   C12N15/12
   C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-553455(P2019-553455)
(86)(22)【出願日】2018年3月29日
(85)【翻訳文提出日】2019年11月26日
(86)【国際出願番号】US2018025027
(87)【国際公開番号】WO2018183603
(87)【国際公開日】20181004
(31)【優先権主張番号】62/478,860
(32)【優先日】2017年3月30日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】513016884
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ イリノイ
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF ILLINOIS
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】メーカー,アジャイ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA14
2G045DA36
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR14
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
膵嚢胞液の核酸ベースアッセイが、高度および低度膵管内乳頭粘液性腫瘍を識別するために提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高リスクおよび低リスク膵管内乳頭粘液性腫瘍ならびに嚢胞性異形成のレベルを識別する方法であって、
a)膵嚢胞液のサンプル中の1以上のバイオマーカーメッセンジャーRNA(mRNA)または1以上のバイオマーカーマイクロRNA(miRNA)の発現レベルを決定すること;
b)1以上のバイオマーカーmRNAまたは1以上のバイオマーカーmiRNAの発現レベルを、嚢胞液対照サンプル中の1以上のバイオマーカーの発現レベルと比較すること;および
c)高リスクまたは低リスク膵管内乳頭粘液性腫瘍としてサンプルを分類することを含む、前記方法。
【請求項2】
1以上のmRNAが、ERBB2、GAPDH、GNAS、IL1B、KRAS、MUC−1、MUC−2、MUC−4、MUC−5AC、MUC−7、PGE2−R、PTGER2、PTGES2、PTGS1およびTP63の群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1以上のmiRNAが、hsa−miR−101、hsa−miR−106b、hsa−miR−10a、hsa−miR−142−3p、hsa−miR−155、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−18a、hsa−miR−21、hsa−miR−217、hsa−miR−24、hsa−miR−30a−3p、hsa−miR−342−3p、hsa−miR−532−3p、hsa−miR−92aおよびhsa−miR−99bの群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1以上のバイオマーカーmRNAまたはバイオマーカーmiRNAが、
hsa−miR−21、hsa−miR−142−3p、hsa−miR−342−3p、IL1B、KRAS、MUC4、MUC7、PTGER、TP63およびPTGES2の群から選択される3つのバイオマーカーである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1以上のバイオマーカーmRNAが、IL1B、MUC4、およびPTGES2である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程a)が、1以上のバイオマーカータンパク質の発現を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1以上のタンパク質が、ERRB2、GAPDH、GNAS、IL1B、KRAS、MUC−1、MUC−2、MUC−4、MUC−5AC、MUC−7、PGE2−RおよびPTGER2の群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1以上のバイオマーカーmiRNAおよびmRNAの相対発現レベルを参照mRNAに対して正規化する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
参照mRNAがRPLP0である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
高リスクおよび低リスク膵管内乳頭粘液性腫瘍ならびに嚢胞性異形成のレベルを識別するためのキットであって、
a)ERBB2、GAPDH、GNAS、IL1B、KRAS、MUC−1、MUC−2、MUC−4、MUC−5AC、MUC−7、PGE2−R、PTGER2、PTGES2、PTGS1およびTP63の群から選択されるバイオマーカーメッセンジャーRNA、または
b)hsa−miR−101、hsa−miR−106b、hsa−miR−10a、hsa−miR−142−3p、hsa−miR−155、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−18a、hsa−miR−21、hsa−miR−217、hsa−miR−24、hsa−miR−30a−3p、hsa−miR−342−3p、hsa−miR−532−3p、hsa−miR−92aおよびhsa−miR−99bの群から選択されるバイオマーカーマイクロRNA
を増幅するための1以上のプライマーセットを含む、前記キット。
【請求項11】
キットが、ERRB2、GAPDH、GNAS、IL1B、KRAS、MUC−1、MUC−2、MUC−4、MUC−5AC、MUC−7、PGE2−RおよびPTGER2の群から選択されるバイオマーカータンパク質に結合する1以上の結合剤をさらに含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
キットが、hsa−miR−21、hsa−miR−142−3p、hsa−miR−342−3p、IL1B、KRAS、MUC4、MUC7、PTGER、TP63およびPTGES2の群から選択される3つのバイオマーカーを増幅するためのプライマーセットを含む、請求項10に記載のキット。
【請求項13】
キットが、IL1B、MUC4、およびPTGES2を増幅するためのプライマーセットを含む、請求項10に記載のキット。
【請求項14】
参照mRNAを増幅するためのプライマーセットをさらに含む、請求項10に記載のキット。
【請求項15】
参照mRNAがRPLP0である、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
緒言
この特許出願は、2017年3月30日に提出された米国仮特許出願第62/478,860号の優先権の利益を主張し、その内容は、その全体において参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
膵臓の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は、様々な程度の細胞学的異型性を有する新生物粘液性細胞の管内増殖により特徴づけられる腫瘍であり、これは通常乳頭を形成し、膵管の嚢胞性拡張を導き、臨床的に検出可能な塊を形成する。巨視的には、IPMNは、膵管系の差次的な関与に基づいて、主管型、複合型、および分枝管型に分類される。主管型および複合型IPMNは、分枝管型と比較して浸潤性癌腫を有する可能性が高く(48%および42%対11%)、続いて、主管型および複合型IPMNの5年疾患特異的生存率は、分枝管型のそれよりも有意に低い(65%および77%対91%)ことが示されている。組織学的には、IPMNは、低度異形成(腺腫)から高度異形成(上皮内癌腫)および浸潤性癌腫へと進行すると考えられている。非浸潤性IPMNが切除された患者の5年生存率は77〜94%と高い一方で、浸潤性IPMNは33〜43%の非常に低い生存率を有する。浸潤性IPMNと非浸潤性IPMNとの間、および主管IPMNと分岐管IPMNとの間の生存率の有意差を考慮して、臨床ガイドラインは、病変が外科的に切除されるべき時期の決定において、臨床医を支援するために採択されている。しかしながら、高感度(sensitive)(97〜100%)である一方で、特に分枝管IPMNの中で、これらのガイドラインは非常に非特異的(23〜30%)であることが証明されている。併存疾患を有する傾向がある高齢者集団における無症候性嚢胞の有病率を考慮すると、高リスクおよび悪性腫瘍と、低リスク病変とを分離することができるより具体的なツールが求められている。診断の精度を改善する試みにおいて、遺伝子変化についての嚢胞液の分析が使用されており、GNAS(グアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)、アルファ)、KRAS(GTPase KRASがん原遺伝子)、IL1B、ムチンおよびマイクロRNAを含むいくつかのバイオマーカーが提案されている。米国特許出願第2017/0022571号;Maker, et al. (2011) Ann. Surg. Oncol. 18(1):199;Maker, et al. (2011) Clin. Cancer Res. 17(6):1502-8;Maker, et al. (2015) J. Am. Coll. Surg. 220(2):243-253を参照のこと。しかしながら、臨床的に高リスクの病変の特定のマーカーの組み合わせは、IPMNを有する患者の術前診断とリスク層別化を助けるために必要である。
【発明の概要】
【0003】
発明の概要
本発明は、膵嚢胞液のサンプル中の1以上のバイオマーカーメッセンジャーRNA(mRNA)または1以上のバイオマーカーマイクロRNA(miRNA)の発現レベルを決定すること;1以上のバイオマーカーmRNAまたは1以上のバイオマーカーmiRNAの発現レベルを、嚢胞液対照サンプル中の1以上のバイオマーカーの発現レベルと比較すること;および高リスクまたは低リスク膵管内乳頭粘液性腫瘍としてサンプルを分類することにより、高リスクおよび低リスク膵管内乳頭粘液性腫瘍ならびに嚢胞性異形成のレベルを識別する方法を提供する。1つの態様において、mRNAは、ERBB2、GAPDH、GNAS、IL1B、KRAS、MUC−1、MUC−2、MUC−4、MUC−5AC、MUC−7、PGE2−R、PTGER2、PTGES2、PTGS1およびTP63の群から選択される。別の態様において、miRNAは、hsa−miR−101、hsa−miR−106b、hsa−miR−10a、hsa−miR−142−3p、hsa−miR−155、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−18a、hsa−miR−21、hsa−miR−217、hsa−miR−24、hsa−miR−30a−3p、hsa−miR−342−3p、hsa−miR−532−3p、hsa−miR−92aおよびhsa−miR−99bの群から選択される。さらなる態様において、mRNAまたはバイオマーカーmiRNAは、hsa−miR−21、hsa−miR−342−3p、IL1B、KRAS、MUC−4、およびPTGES2の群から選択される3つのバイオマーカーである。特別な態様において、バイオマーカーmRNAは、IL1B、MUC4、およびPTGES2である。なおさらなる態様において、方法は、1以上のバイオマーカータンパク質、例えば、ERRB2、GAPDH、GNAS、IL1B、KRAS、MUC−1、MUC−2、MUC−4、MUC−5AC、MUC−7、PGE2−RおよびPTGER2の発現を測定することを含む。加えて、方法は、1以上のバイオマーカーmiRNAおよびmRNAの相対発現レベルを参照mRNA、例えば、RPLP0に対して正規化する工程を含み得る。高リスクおよび低リスク膵管内乳頭粘液性腫瘍ならびに嚢胞性異形成のレベルを識別するためのキットもまた提供され、それは、膵嚢胞液のサンプル中の1以上のバイオマーカーmRNAまたは1以上のバイオマーカーmiRNAを増幅するためのプライマーセットを含む。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図面の簡単な説明
図1図1は、交差検証によるLassoペナルティ付きロジスティック回帰を示し、これは、IPMNにおける膵臓悪性腫瘍のリスクを予測するための、最適な精度を有する3つの遺伝子嚢胞液シグネチャーを同定した。このモデルにおいて、低リスク(低度および中程度異形成)は、高リスク(高度異形成および浸潤性がん)嚢胞に対して、86%のAUCにより測定されるような精度で予測される;y=0.36+(−0.06IL1B)+(−0.17MUC4)+(−0.50PTGES2);AUC=0.86、p値=0.002。
【発明を実施するための形態】
【0005】
発明の詳細な説明
膵嚢胞液のアッセイは、現在、悪性腫瘍への進行について高リスクである膵臓の前悪性嚢胞を有する患者を同定する診断ツールとして開発されている。本アッセイは、差次的に発現されたmRNAおよびmiRNA、および任意でタンパク質を、病理学的に証明された低リスクおよび高リスク(高度異形成)IPMNを有する患者からの嚢胞液に対して行われ得る、迅速かつ簡単なアッセイに組み込み、膵がんのリスクを決定する。この発明のアッセイは、86%の精度で高リスク嚢胞と低リスク嚢胞とを正確に区別し、それにより病変が外科的に切除されるべきである時期の決定において臨床医を支援する。
【0006】
したがって、この発明は、膵嚢胞液のサンプル中の1以上のバイオマーカーmRNAおよび1以上のバイオマーカーmiRNAの発現レベルを決定すること;1以上のバイオマーカーmRNAおよび1以上のバイオマーカーmiRNAの発現レベルを漿液性嚢胞液参照サンプル中の1以上のバイオマーカーの発現レベルと比較すること;および参照と比較して、バイオマーカーの発現レベルに基づいて、高リスクまたは低リスク膵管内乳頭粘液性腫瘍としてサンプルを分類すること;により、高リスク(浸潤性および高度異形成)と低リスク(低度および中程度異形成)膵管内乳頭粘液性腫瘍とを識別する方法である。
【0007】
「膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal papillary mucinous neoplasms of the pancreas)」または「IPMN」は、膵管内(管内)で成長し、腫瘍細胞(粘液性)による濃厚な液の産生により特徴付けられる、腫瘍(新生物)の種類を指す。膵管内乳頭粘液性腫瘍は、それらが未処置のまま残された場合、それらの一部が浸潤性がんに進行(良性腫瘍から悪性腫瘍へ転換)するため、重要である。IPMNの組織学的グレードは、病変中に存在する異形成の最高レベルに基づく。これは、EUS−FNAまたはコア生検の間に、嚢胞液または壁から得られた細胞学的サンプルによって決定され得る。細胞学的異型性についての基準は、以下の少なくとも1つを含んだ:核−細胞質比の増加、核サイズの増加、核密集、または過染。最終的に、これは恒久的に調製された外科的膵臓標本の病理学的分析によって決定される。組織学的グレードは以下のように定義される:腺腫(粘液性上皮が並ぶ拡張膵管、低度異形成について<1の基準;管拡張症とも呼ばれる)、中程度(>2の以下の基準:上皮タフティング、核偽重層化、核異型、および有糸分裂像;境界線とも呼ばれる)、高度異形成(通常、高度の核異型に関連する篩状(cribiform)または固体の成長;非浸潤性管内癌腫または上皮内癌腫とも呼ばれる)、および浸潤性(管基底膜の破壊およびリンパ管浸潤を伴うまたは伴わない異形成細胞の膵臓組織への拡大)。
【0008】
現在外科的技術において実施されている、膵嚢胞を含む膵臓病変の同定、カテゴリー分類、および特徴付けに関する追加情報は、John L. Cameronにより編集されたCurrent Surgical Therapy(9th ed, 1397 pp, Philadelphia, PA, Mosby/Elsevier, 2008)などの論文(treatises)、および当技術分野で知られている同様の文章、総説、マニュアルおよび論文(papers)に見出すことができる。この発明の方法において使用のサンプルは、超音波内視鏡下穿刺液吸引、十二指腸液回収、膵管吸引、または手術中の嚢胞液の直接回収によって得てもよい。
【0009】
この発明の目的のために、「高リスクIPMN」は、浸潤性および高度異形成IPMNを指し、一方で、「低リスクIPMN」は、低度および中程度の異形成を指す。理想的には、この発明の方法は、高リスクIPMNと低リスクIPMNとを区別し、悪性腫瘍へ進行する高いリスクにある患者を同定する。
【0010】
バイオマーカーは、有機生体分子であり、膵液サンプル中のその存在は、悪性腫瘍へ進行の高リスクIPMNまたは低リスクIPMNとしてサンプルを分類するために示される。好ましい態様において、バイオマーカーは、別の表現型ステータス(例えば、低リスクIPMNを有する)と比較して、ある表現型ステータス(例えば、高リスクIPMNを有する)の対象から採取されたサンプルにおいて差次的に発現される。組み合わせて査定される場合、この発明のバイオマーカーは、対象が1つの表現型ステータスまたは別の表現型ステータスに属するかどうかを決定するために提供される。それゆえ、それらは、疾患(診断)、薬物の治療効果(セラノスティクス)、薬物毒性、および対象への適切な処置(例えば、外科的介入)の選択のためのマーカーとして有用である。
【0011】
mRNAバイオマーカー
当該技術分野において慣習的であるように、mRNAまたはメッセンジャーRNAは、タンパク質のアミノ酸配列をコードするRNAのサブタイプである。本発明の方法はERBB2、GAPDH、GNAS、IL1B、KRAS、MUC−1、MUC−2、MUC−4、MUC−5AC、MUC−7、PGE2−R、PTGER2、PTGES2、PTGS1および/またはTP63の群から選択される、1、2、3、4、5、6、7、8、9、またはそれより多い、バイオマーカーmRNAの発現レベルを、患者からのサンプルにおいて決定または測定することを含む。これらのmRNAは、表1に示されるGENBANKアクセッション番号の下で当該技術分野において知られている。
【表1】
【0012】
いくつかの態様において、mRNAのレベルは、それが、参照または対照レベルよりも少なくとも20、30、40、50、60、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、または1000%高いまたは低い(またはそれらにおいて導出可能な任意の範囲)場合、参照または対照レベルと比較して増加または減少する。これは、増加または減少が存在するかどうかの決定において、標準化または正規化された発現のレベルを用いることを含んでも含まなくてもよい。
【0013】
miRNAバイオマーカー
マイクロRNA(miRNA)は、標的遺伝子発現を、それらの転写を干渉することにより、または翻訳を阻害することにより制御する、おおよそ21〜23ヌクレオチド長のノンコーディングRNA分子である。本発明の方法は、hsa−miR−101、hsa−miR−106b、hsa−miR−10a、hsa−miR−142−3p、hsa−miR−155、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−18a、hsa−miR−21、hsa−miR−217、hsa−miR−24、hsa−miR−30a−3p、hsa−miR−342−3p、hsa−miR−532−3p、hsa−miR−92aおよび/またはhsa−miR−99bの群から選択される、1、2、3、4、5、6、7、8、9、またはそれより多い、バイオマーカーmiRNAの発現レベルを、患者からのサンプルにおいて決定または測定することをさらに含む。これらのmiRNAは、表2に示されるアクセッション番号の下で当該技術分野において知られている。
【表2】
【0014】
いくつかの態様において、miRNAのレベルは、それが、参照または対照レベルよりも少なくとも20、30、40、50、60、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、または1000%高いまたは低い(またはそれらにおいて導出可能な任意の範囲)場合、参照または対照レベルと比較して増加または減少する。これは、増加または減少が存在するかどうかの決定において、標準化または正規化された発現のレベルを用いることを含んでも含まなくてもよい。
【0015】
タンパク質バイオマーカー
いくつかの態様において、本発明の方法は、ERRB2、GAPDH、GNAS、IL1B、KRAS、MUC−1、MUC−2、MUC−4、MUC−5AC、MUC−7、PGE2−Rおよび/またはPTGER2の群から選択される、1、2、3、4、5、6、7、8、9、またはそれより多い、バイオマーカータンパク質の発現レベルを、患者からのサンプルにおいて決定または測定することをさらに含む。これらのタンパク質は、表3に示されるGENBANKアクセッション番号の下で当該技術分野において知られている。
【表3】
【0016】
本明細書に記載のバイオマーカーを使用して、本発明は、膵嚢胞液のサンプル中の1以上のバイオマーカーmRNAおよび/または1以上のバイオマーカーmiRNAおよび任意で1以上のバイオマーカータンパク質の発現レベルを測定することにより、高リスクIPMNを識別、診断および処置するための方法を提供する。理想的には、膵嚢胞液のサンプル中のバイオマーカーmRNAおよびmiRNAの発現レベルは測定され、これにより核酸の発現を測定することからなる(すなわち、核酸ベース)アッセイを提供する。本発明の文脈において用いられるように、膵嚢胞液のサンプルは、細胞、核酸、タンパク質、および/または細胞の膜抽出物を含み、標準的な臨床診療に従って、対象(例えば、ヒト、家畜または愛玩動物)から得てもよい。
【0017】
サンプル中のバイオマーカーmRNAおよびmiRNAのレベルまたは量は、これらの核酸分子のレベルまたは量を測定することにより決定される。核酸バイオマーカーは、これらに限定されないが、ノーザンブロット分析、ヌクレアーゼ保護アッセイ(NPA)、遺伝子発現の連鎖解析(SAGE)、RNA Seq、in situハイブリダイゼーション、逆転写酵素PCR(RT−PCR)、PCR、定量的RT−PCR(qRT−PCR)、マイクロアレイ、タイリングアレイなどを含む任意の利用可能な方法を用いて検出され得る。使用の容易さにより、一般的に、PCRベースアプローチを用いて核酸分子を検出することが望ましい。一般に、これは、バイオマーカーの核酸と特異的にハイブリダイズする2以上のPCRプライマーとサンプルとを接触させること、サンプルをPCR増幅の複数の工程に供すること、および増幅された配列の量を(例えば、ゲル分析、ブロッティング法、蛍光標識プローブおよび/またはSYBR Greenなどの二本鎖DNAにインターカレートする蛍光染料の取り込みを用いて)検出することを含む。あるいは、バイオマーカー核酸の少なくとも一部に相互作用するオリゴヌクレオチド、アプタマー、cDNA、抗体またはその断片は、チップまたはウエハー(wafer)上でアレイに構成され、バイオマーカー核酸を検出するために用いられる。簡単に言えば、これらの技術は、多数の遺伝子を迅速かつ正確に分析する方法を含む。オリゴヌクレオチドで遺伝子にタグを付けること、または固定プローブアレイを使用することにより、チップテクノロジーを採用して、標的分子を高密度アレイとして分離し、ハイブリダイゼーションに基づいてこれらの分子をスクリーニングすることができる。(例えば、Pease, et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91(11):5022-6; Fodor, et al. (1991) Science 251(4995):767-73を参照のこと)。
【0018】
この態様において使用するための、(例えば、PCRベースアプローチのための)プライマー、(例えば、ハイブリダイゼーションベースアプローチのための)プローブまたは(例えば、マイクロアレイベースアプローチのための)オリゴヌクレオチドは、バイオマーカー核酸(表1および2を参照のこと)の任意の領域から選択され得、一般的に、バイオマーカー核酸分子の少なくとも一部を特異的にアニーリングおよび増幅するが、密接に関連する分子をコードする他の核酸分子をアニーリングも増幅もしない。バイオマーカー核酸分子の増幅のための好適なプライマーは、本明細書に開示の配列により提供される配列を分析することにより選択され得る。
【0019】
一般に、好適なプライマーは、12〜30bpの長さであり、50、100、200、400、600、1000bpまたはそれを超える長さのPCR増幅産物を生成する。この方法に従って、幾何的に増幅される産物は、第1および第2のヌクレオチド配列が同じバイオマーカー核酸分子内で生じる場合にのみ得られる。非変性PCRの基本は、当業者に知られている、例えば、McPherson, et al., PCR, A Practical Approach, IRL Press, Oxford, Eng. (1991)を参照のこと。
【0020】
mRNA発現を査定するための例示的なオリゴヌクレオチド、フォワードおよびリバースプライマー、またはプローブは、表4に提供される。しかしながら、他の好適なオリゴヌクレオチド/プライマー/プローブは、当該技術分野においてよく知られており、Sino Biological、Bio-Rad、OriGene、R&D Systemsなどの商業的供給源から入手可能である。
【表4-1】
【表4-2】
【0021】
miRNA発現を査定するための例示的なオリゴヌクレオチド、フォワードおよびリバースプライマー、またはプローブは、表5に提供される。しかしながら、他の好適なオリゴヌクレオチド/プライマー/プローブは、当該技術分野においてよく知られており、Sino Biological、Bio-Rad、OriGene、R&D Systemsなどの商業的供給源から入手可能である。
【表5-1】
【表5-2】
【0022】
バイオマーカータンパク質の発現は、バイオマーカータンパク質に特異的に結合するが、他のタンパク質には結合しない、結合剤を用いたアッセイにおいて測定される。この態様において、サンプルは、バイオマーカータンパク質に結合する結合剤(例えば、抗体)と接触させられ、得られるバイオマーカー−結合剤複合体は、標準的なアッセイ(例えば、イムノアッセイ)を用いて検出される。結合剤が、例えば、ペプチドアプタマーである場合、バイオマーカー−結合剤複合体は、例えば、アプタマーに融合した検出可能なマーカータンパク質(例えば、β−ガラクトシダーゼ、GFPまたはルシフェラーゼ)により直接的に検出され得る。続いて、バイオマーカー−結合剤複合体のレベルまたは量は、サンプル中のバイオマーカータンパク質の発現のレベルと関連付けられる。
【0023】
本発明に従って使用するための結合剤は、抗体または抗体断片、およびペプチドアプタマーを含む。本発明の特別な態様において、結合剤は、表3に列挙されたバイオマーカータンパク質を特異的に認識する。結合剤が抗体である場合、抗体は、商業的供給源から購入することができる。あるいは、バイオマーカータンパク質と特異的に結合するまたは認識する抗体は、バイオマーカータンパク質の抗原断片に対して作成され得る。好適な抗原領域は、かかる抗原配列を同定するための任意の技術的に確立されたコンピューターアルゴリズムを用いて当業者により容易に同定され得る(例えば、Jamison and Wolf (1988) Bioinformatics 4:181-186; Carmenes, et al. (1989) Biochem Biophys Res Commun. 159(2):687-93)。
【0024】
抗体の産生のための、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、ヒトおよび他のものを含む様々な宿主は、抗原的または免疫原性的特性を有するバイオマーカータンパク質またはその任意の断片もしくはオリゴペプチドを注入されることにより免疫化されてもよい。宿主の種に依存して、様々なアジュバントが免疫応答を増加させるために使用され得る。かかるアジュバントは、これらに限定されないが、フロイント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、およびリゾレシチンなどの表面活性化物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチドおよび油エマルジョンを含む。ヒトで使用されるアジュバントの中では、BCG(カルメット・ゲラン桿菌)およびCorynebacterium parvumが特に好適である。
【0025】
バイオマーカータンパク質に対する抗体は、バイオマーカータンパク質のオリゴペプチド、ペプチド、または断片で動物を免疫化することにより生成され得る。一般的に、かかるオリゴペプチド、ペプチド、または断片は、少なくとも5つのアミノ酸残基、およびより望ましくは少なくとも10アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を有する。バイオマーカータンパク質の断片は、例えば、トリプシン消化および分取SDS−PAGEゲルからの抽出により、または組み換え断片発現および精製により、生成され得る。さらに、バイオマーカー抗原のアミノ酸の短いストレッチは、キーホールリンペットヘモシアニン、およびキメラ分子に対して産生される抗体などの別のタンパク質のものと融合され得る。
【0026】
バイオマーカータンパク質に対するモノクローナル抗体は、培養中の連続的な細胞株による抗体分子の産生を提供する任意の技術を使用して調製され得る。これらは、これらに限定されないが、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、およびEBV−ハイブリドーマ技術(Kohler, et al. (1975) Nature 256:495-497;Kozbor, et al. (1985) J. Immunol. Methods 81:31-42;Cote, et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. 80:2026-2030;Cole, et al. (1984) Mol. Cell Biol. 62:109-120)を含む。
【0027】
さらに、バイオマーカータンパク質に対する抗体は、フォークヘッド関連(FHA)ドメイン、モノボディ、ミニボディ、AFFIBODY分子、アフィリン、アンチカリン、DARPin(すなわち、設計されたアンキリンリピートタンパク質)、およびナノフィチン(アフィチンとも呼ばれる)などの抗体または抗体様分子のライブラリーをスクリーニングすることにより単離され得る。抗体または抗体様分子をスクリーニングするためのライブラリープラットフォームは、これらに限定されないが、ファージディスプレイ(例えば、Benhar & Reiter (2002) Curr. Protoc. Immunol. 48:VI:10.19B:10.19B.1-10.19B.31を参照のこと)、酵母ディスプレイ(例えば、Miller, et al. (2005) Prot. Expr. Purif. 42:255-67を参照のこと)、およびリボソームディスプレイ(例えば、Douthwaite, et al. (2006) Prot. Eng. Des. Sel. 19:85-90を参照のこと)を含む。
【0028】
加えて、ヒト化およびキメラ抗体の産生のために開発された技術である、適切な抗原特異性および生物学的活性を有する分子を得るためのマウス抗体遺伝子のヒト抗体遺伝子へのスプライシングを使用することができる(Morrison, et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 6851-6855;Neuberger, et al. (1984) Nature 312:604-608; Takeda, et al. (1985) Nature 314:452-454)。あるいは、一本鎖抗体の産生のために記載される技術は、当該技術分野において知られている方法を用いて、特別な一本鎖抗体を生産するために適合され得る。関連する特異性を有するが、明確なイディオタイプ組成の抗体は、ランダムなコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリーからチェーンシャッフリング(chain shuffling)することによりにより生成され得る(Burton (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. 88:11120-11123)。
【0029】
抗体はまた、リンパ球集団中でin vivo産生を誘導することにより、または当該技術分野においてよく知られているような高い特異性の結合試薬の免疫グロブリンライブラリーまたはパネルをスクリーニングすることにより産生され得る(Orlandi, et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. 86: 3833-3837;Winter, et al. (1991) Nature 349:293-299)。
【0030】
本明細書に記載の方法において使用の抗体は、これらに限定されないが、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、一本鎖、Fab断片、二重特異性scFv断片、Fd断片およびFab発現ライブラリーにより産生された断片を含む。例えば、断片は、これらに限定されないが、抗体分子のペプシン消化により産生され得るF(ab’)断片およびF(ab’)断片のジスルフィド架橋を還元することにより生成され得るFab断片を含む。あるいは、Fab発現ライブラリーは、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速かつ容易な同定を可能にするように構築され得る(Huse, et al. (1989) Science 254:1275-1281)。
【0031】
ダイアボディもまた企図される。ダイアボディは、結合抗体の結合ドメイン(重鎖および軽鎖の両方)を単離し、および、同じポリペプチド鎖上の重鎖および軽鎖を接合するまたは作動可能に連結し、それにより結合機能を保存する、連結部分を供給することにより調製される操作された抗体構築物を指す(Holliger et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444; Poljak (1994) Structure 2:1121-1123を参照のこと)。これは、本質的に、抗原を結合するために必要な変動ドメインのみを有する、徹底的に省略された抗体を形成する。同じ鎖上の2つのドメイン間をペアリングすることを可能にするには短すぎるリンカーを用いることにより、ドメインは、別の鎖の相補的なドメインとペアリングさせられ、2つの抗原結合部位が作り出される。これらの二量体抗体断片またはダイアボディは、二価であり、二重特異性である。例えば、Holliger, et al. (1993) supra, Poljak (1994) supra, Zhu, et al. (1996) Biotechnology 14:192-196および米国特許第6,492,123号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるように、ダイアボディを生成する任意の方法を使用することができることは明らかであるべきである。
【0032】
様々なイムノアッセイは、バイオマーカータンパク質に対する結合剤の結合を測定するために、およびしたがって、バイオマーカータンパク質の発現を決定するために用いられ得る。競合的結合(例えば、ELISA)、ラテックス凝集アッセイ、サンドイッチイムノアッセイ、ゲル拡散反応、in situイムノアッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、ウェスタンブロット分析、スロットブロットアッセイ、および、ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、またはそれらの断片のいずれかを用いた動力学(例えば、BIACORE(商標)解析)のための多数のプロトコールは、当該技術分野においてよく知られている。かかるイムノアッセイは、典型的に、特異的抗体とその同種抗原との間の複合体形成の測定を含む。2つの非干渉エピトープに反応性であるモノクローナル抗体を利用する2部位モノクローナルベースイムノアッセイは好適であるが、競合的結合アッセイもまた採用され得る。一般的なイムノアッセイの総説については、Methods in cell Biology: Antibodies in Cell Biology (1993) Asai, ed. volume 37;Basic and Clinical Immunology (1991) Stites & Teff, eds. 7th ed.)もまた参照のこと。
【0033】
1つの態様において、タンパク質マーカー分析は、マーカータンパク質に特異的に結合する一次抗体の使用を含む。ある態様において、抗体結合は、一次抗体上の標識を検出することにより検出される。別の態様において、一次抗体は、一次抗体に対する二次抗体または試薬の結合を検出することにより検出される。さらなる態様において、二次抗体は標識される。
【0034】
いくつかの態様において、自動化された検出アッセイが用いられる。イムノアッセイの自動化のための方法は、当該技術分野においてよく知られており、この発明に採用されてもよい。いくつかの態様において、結果の分析および提示はまた、自動化される。例えば、いくつかの態様において、がんマーカーに対応する一連のタンパク質の存在または不在に基づく予後を生成するソフトウェアが用いられる。
【0035】
バイオマーカータンパク質に特異的に結合するペプチドアプタマーは、合理的に設計されるか、またはアプタマーのライブラリー(例えば、Aptanomics SA, Lyon, Franceにより提供される)においてスクリーニングされ得る。一般に、ペプチドアプタマーは、抗体の構造に基づいて設計される合成認識分子である。ペプチドアプタマーは、タンパク質スキャホールドの両端に取り付けられた可変ペプチドループから構成される。この二重構造の制約は、ペプチドアプタマーの結合親和性を、抗体の結合親和性(ナノモル範囲)に匹敵するレベルまでに大幅に増加させる。同様に、バイオマーカータンパク質をコードする核酸配列に結合するアプタマーもまた、ライブラリースクリーニングにおいて同定され得る。
【0036】
本発明の方法を用いて、mRNAおよびmiRNAバイオマーカーの発現レベルは、膵がんを有する対象からのサンプルにおいて決定される。サンプルとサンプルの間の変動の影響を最小限にするために、方法は、通常、内部標準、または1以上の参照miRNAを用いて行われる。理想的な内部標準は、異なる組織の間で一定のレベルで発現し、実験的処置により影響を受けない。発現のパターンを正規化するために用いられ得るRNAは、例えば、参照遺伝子であるβ−アクチン、GUSB、RPLP0およびTFRCについてのmRNAを含む。追加の好適な参照遺伝子のリストについては、例えば、Eisenberg and Levanon (2003) Trends in Genetics 19:362を参照のこと。ある態様において、患者からのサンプル中のバイオマーカーmRNAおよびmiRNAのレベルは、定量的な方法によりアッセイされ、前記レベルは、その後、1以上の参照mRNAのmRNAの発現のレベルに対して「正規化」され、これによりバイオマーカーの正規化された発現レベルが生成される。ある態様において、参照mRNAは、RPLP0(リボソームタンパク質ラテラルスタークサブユニットP0(Ribosomal Protein Lateral Stalk Subunit P0);GENBANKアクセッション番号 NM_001002)である。
【0037】
例として、TaqMan(登録商標)RT−PCRによって測定されるmRNAまたはmiRNAのレベルは、サイクル閾値(Ct)値と称される。Ctが低いほど、サンプル中に存在するRNAの量は多くなる。サンプル中のmRNAまたはmiRNAの発現値は、例えば、サンプル中の指定された参照mRNAのCtにおける平均発現値(CtRef)を最初に決定することにより正規化される。バイオマーカーについての正規化された発現値(Ctバイオマーカー)は、したがって、Ctバイオマーカー=(C)(CtRef)として計算される。任意で、すべてのバイオマーカーについて正規化された発現値は、例えば、すべての、調整され、正規化されたCtが>0の値を有するように、調整され得る。ある態様において、バイオマーカー発現レベルは、z変換され、log2変換され、基準化(X平均/標準偏差)された相対定量(RQ)値を得るために、処理される。例えば、Cheadle, et al. (2003) J. Mol. Diagn. 5:73-81を参照のこと。加えて、バイオマーカーのそれぞれの発現は、高リスクIPMNまたは低リスクIPMNを予測するバイオマーカーの能力に基づいて重み付けされてもよい。
【0038】
正規化されたバイオマーカー発現レベルが決定された後、それは、漿液性嚢胞液対照サンプル中の同じバイオマーカーの発現レベルと比較される。これらの比較に基づいて、表1および2の1以上のmRNAおよびmiRNAの発現が、対照サンプル中の同じバイオマーカーの発現レベルと比較して、(例えば、少なくとも2倍以上)増加または減少する場合、サンプルは、高リスクIPMNとして分類される。さらに、表1および2の1以上のmRNAおよびmiRNAの発現が、対照サンプル中の同じバイオマーカーの発現レベルと比較して、比較的同様である場合、サンプルは、低リスクIPMNとして分類される。いくつかの態様において、本発明の方法はまた、本方法の精度を査定するために、陽性および/または陰性対照を含むだろう。
【0039】
あるいは、正規化されたバイオマーカー発現レベルが得られた後、それらは、既定の発現カットポイントと比較される。ある態様において、カットポイントは、(a)高リスクIPMNである正規化された発現レベルおよび不確かな発現レベル(すなわち、「上の(upper)」カットポイント)と、(b)低リスクIPMNである正規化された発現レベルおよび不確かな発現レベル(すなわち、「下の(lower)」カットポイント)との間の数値的境界を規定する。正規化されたバイオマーカー発現レベルが不確かでない場合、正規化されたバイオマーカー発現レベルは、高リスクIPMN発現レベルまたは低リスクIPMN発現レベルのいずれかとして明確に指定される。したがって、それから正規化されたバイオマーカー発現レベルが得られたサンプルは、それが不確かでない場合、高リスクIPMNサンプルまたは低リスクIPMNサンプルとして指定され得る。
【0040】
上記のように、カットポイントは、それらが、高リスクIPMNまたは低リスクIPMNのいずれかであることが(他の「検証済み」方法を介して)知られている、先行するサンプルで「トレーニング」されているという点で統計的に検証される。あるいは、アッセイについて規定されたカットポイントは、qRT−PCRまたは当技術分野において知られている様々な統計学的検定を使用した他の試験アッセイに基づき得る。かかる統計的検定は、これらに限定されないが、ピアソンの相関関数、T検定、マン・ホイットニーのU検定、二項検定、ウィルコクソンの符号順位検定、分散分析および多くの他のものを含んでもよい。
【0041】
一度カットポイントがトレーニングサンプルを用いて決定されたならば、試験サンプルを用いて得られる結果が、試験サンプルのステータスを決定するためのカットポイントと直接的に比較され得るように、試験サンプルは、トレーニングサンプルと同じアッセイパラメーター(例えば、同じプライマー、増幅条件、正規化対照、データ処理方法等)を用いてアッセイされることが重要である。
【0042】
この発明の方法は、前悪性嚢胞から悪性腫瘍への転換の予測に役立ち、それによりIPMNを有する患者を処置するために必要な情報を臨床医に提供する。例えば、低リスク病変を有する患者は、手術の必要がないかもしれず、それゆえ、膵切除の身体的、感情的および経済的コストを免れるだろう。比較すると、臨床医は、高リスク病変を有する患者に、膵がんの発症前に手術を受けるよう助言することができる。したがって、この発明はまた、膵がんの発症または進行を予防、遅延、寛解、緩徐にまたは逆転させるための、膵がんについて高リスクIPMNを有するとして同定された対象を予防的または治療的に処置する追加の工程も提供する。予防または処置は、薬学的に有効量の膵がん治療剤を投与すること、または、膵がんの処置および/または予防に向けられる、1以上の他の治療(例えば、放射線療法、化学療法、免疫療法、別の種類の抗がん剤、手術または上記の2以上の組み合わせ)を施すことを含む。本明細書に用いられるように、用語「予防すること」は、がんの進行を回避することおよびがんの発症を遅延させることを包含する。ある態様において、膵がんの処置に向けられる2以上の治療の組み合わせが対象に施される。ある態様において、対象は、キナーゼインヒビターで処置される。
【0043】
加えて、本発明の方法は、薬物の投与後または治療を施した後に、様々な回数においてバイオマーカー発現を決定することを含み得る。2回目(例えば、薬物または治療の提供後)において採取される同じ対象からの比較可能な生物学的サンプルにおいて検出されるバイオマーカーレベルよりも高い、1回目(例えば、薬物または治療の提供前)における対象からの生物学的サンプルにおいて検出されるバイオマーカーレベルは、対象の膵がんが退行していることを指し示す。
【0044】
本発明の診断および処置方法に合わせて、本明細書で開示される1以上のバイオマーカーの発現を測定するためのキットもまた提供される。本発明のキットは、ハイブリダイゼーションのための好適なオリゴヌクレオチドまたはプローブを含有する容器、または表1の1以上のバイオマーカーmRNAおよび表2の1以上のバイオマーカーmiRNAをコードする核酸を増幅するためのプライマーセットを含む。1つの態様において、キットは、表4および5において提供されるオリゴヌクレオチドまたはプライマーを含む。いくつかの態様において、キットは、表3に列挙されるバイオマーカータンパク質に結合する1以上の結合剤をさらに含み得る。理想的には、以下のマーカー:IL1B、KRAS、PTGER2、PTGES2、hsa−miR−101、hsa−miR−18a、hsa−miR−217、およびhsa−miR−342−3pの少なくとも3つの発現を測定するためのプローブまたはプライマーを少なくとも含む。さらに他の態様において、キットは、参照mRNAを増幅するためのプライマーのセットを含み得る。ある態様において、参照mRNAは、RPLP0である。RPLP0 mRNAの増幅に使用する例示的なプライマーは、フォワードプライマー、5’−TGGTCATCCAGCAGGTGTTCGA−3’(配列番号58)およびリバースプライマー 5’−ACAGACACTGGCAACATTGCGG−3’(配列番号59)である。
【0045】
キットはまた、本発明を実施するために必要な、または便利な、他の溶液および対照も含有し得る。容器は、ガラス、プラスチックまたはホイルでできていてもよく、バイアル、ボトル、ポーチ、チューブ、バッグ等であってもよい。キットはまた、本発明を実施するための手順などの記載された情報、または、第1の容器手段に含有される試薬の量などの分析情報、ならびに結果の分析および提示のためのソフトウェアを含有していてもよい。容器は、記載された情報とともに、別の容器、例えばボックスまたはバッグ中に存在し得る。
【0046】
1つの態様において、キットは、チップ、マイクロタイタープレートもしくはビーズなどの固体支持体、またはそれに付着する捕捉試薬(例えば、抗体またはオリゴヌクレオチド)を有するレジン、ここで捕捉試薬は、本発明のバイオマーカー、またはそれをコードする核酸に結合する、を含む。キットはまた、続く検出のための固体支持体上のバイオマーカーまたはバイオマーカー核酸の捕捉を可能にする、捕捉試薬と洗浄溶液との組み合わせにおける、洗浄溶液または洗浄溶液を作製するための指示を含み得る。キットは、異なる固体支持体上にそれぞれ存在する、1超の種類の吸着剤を含んでいてもよい。
【0047】
いくつかの態様において、本発明は、膵がんを有する個体のサンプル中に差次的に発現する分子のプロファイルに属するmRNAおよびmiRNAの発現を定量するための、バーコードベース(例えば、NanoString(商標)ベース)アッセイを行うためのキットを提供する。NanoString(商標)ベースアッセイは、米国特許第8,415,102号、米国特許第8,519,115号、および米国特許第7,919,237号に記載されている。
【0048】
本発明のキットおよび方法を用いて、相対遺伝子発現値は、正規化および変換されてもよく、その後、悪性腫瘍の高リスク(高度異形成または浸潤性がん)または悪性腫瘍の低リスク(低度または中程度の異形成)を有するとして、患者の膵臓IPMN嚢胞を特徴づけるために予測モデルにおいて評価される。モデルは、各遺伝子の発現が転帰を予測するその能力に基づいて重み付けされるアルゴリズムに基づいてもよい。転帰に寄与しない遺伝子は、アルゴリズム中の変動を減少または最小化するために排除されてもよく、それによりモデルの複雑さと偏りは低下する。
【0049】
例として、予測アルゴリズムにおけるバイオマーカーの数は、6つのバイオマーカー、例えば、miR21、miR342、ILlB、KRAS、MUC4、およびPTGES2を含んでいてもよい。式:y=0.44+(−0.llmiR217)+(0.03miR342)+(−0.08ILlB)+(0.23KRAS)+(−0.25MUC4)+(−0.85PTGES2)を用いて、モデルは、0.82(p=0.003)のAUCを有し、高リスク嚢胞と低リスク嚢胞とを識別する。
【0050】
GnasおよびKrasの両方において突然変異が存在する別の例として、予測アルゴリズムにおけるバイオマーカーの数は、8つのバイオマーカー、例えば、miR342、IL1B、KRAS、MUC4、MUC7、PTGER2、PTGES2およびTP63を含んでいてもよい。式:y=0.49+(0.l7miR342)+(−0.l7ILlB)+(0.l8KRAS)+(−0.27MUC4)+(0.02MUC7)+(0.07PTGER2)+(−0.95PTGES2)+(0.02TP63)を用いて、モデルは、0.82(p=0.003)のAUCを有する。
【0051】
GnasまたはKRASのいずれかにおいて突然変異が存在するさらなる例として、予測アルゴリズムにおけるバイオマーカーの数は、3つのバイオマーカー、IL1B、MUC4およびPTGES2を含んでいてもよい。式:y=0.37+(−0.06IL1B)+(−0.01MUC4)+(−0.50PTGES2)を用いて、モデルは、0.86(p=0.002)のAUCを有し、IPMNが高リスクになることを予測する。
【0052】
GnasまたはKrasのいずれかにおいて1超の突然変異が存在するなおさらなる例として、予測アルゴリズムにおけるバイオマーカーの数は、9つのバイオマーカー、miR142、miR342、IL1B、KRAS、MUC4、MUC7、PTGER、TP63およびPTGES2を含んでいてもよい。式:y=0.5l+(0.01miR142)+(0.21miR342)+(−0.l8ILlB)+(0.20KRAS)+(−0.37MUC4)+(0.09MUC7)+(0.16PTGER2)+(−1.09PTGES2)+(0.07TP63)を用いて、モデルは、AUC=0.86(p=0.002)のAUCを有し、IPMNが高リスクになることを予測する。
【0053】
特別な態様において、予測アルゴリズムにおけるバイオマーカーの数は、3つの遺伝子、すなわち、IL1B、MUC4およびPTGES2のみを含む。式:y=0.37+(−0.06IL1B)+(−0.01MUC4)+(−0.50PTGES2)を用いて、モデルは、0.86(p=0.002)のAUCを有し、yが0.5よりも大きい場合、IPMNが高リスクになることを予測する。
【0054】
したがって、ある態様において、この発明の方法およびキットに用いられるバイオマーカーは、hsa−miR−21、hsa−miR−142−3p、hsa−miR−342−3p、IL1B、KRAS、MUC4、MUC7、PTGER、TP63およびPTGES2を含む。他の態様において、この発明の方法およびキットに用いられるバイオマーカーは、IL1B、MUC4、およびPTGES2を含む。さらに他の態様において、この発明の方法およびキットに用いられるバイオマーカーは、IL1B、MUC4、およびPTGES2からなる。さらなる態様において、この発明の方法およびキットに用いられるバイオマーカーは、最も少なくともIL1B、MUC4、およびPTGES2を含み、表1〜3中の1以上のマーカーを含んでいてもよい。
【0055】
この発明はまた、膵臓IPMN嚢胞液のサンプルおよび1以上の試験化合物を提供すること;および膵臓IPMN嚢胞液サンプルを試験化合物と接触させること;および試験化合物の不在と比較して、試験化合物の存在において膵臓細胞サンプル中で本明細書に開示される1以上のバイオマーカーmiRNA、mRNAまたはタンパク質の発現の変化を検出することにより、膵がんの処置において使用するための化合物をスクリーニングする方法に関する。いくつかの態様において、細胞は、in vitroまたはin vivoである。他の態様において、候補化合物は、本発明のバイオマーカーmiRNAまたはmRNAに対して向けられるアンチセンス剤(例えば、アンチセンスまたはRNAi分子)である。他の態様において、候補化合物は、本発明のバイオマーカータンパク質に特異的に結合する抗体である。
【0056】
具体的には、本発明は、モジュレーター、すなわち、本発明のバイオマーカーに結合する、例えば、バイオマーカー発現もしくはバイオマーカー活性に対する阻害(または刺激)効果を有する、または、例えば、バイオマーカー基質の発現もしくは活性に対する刺激もしくは阻害効果を有する、候補または試験化合物または剤(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチド摸倣物、ペプトイド、小分子または他の薬物)を同定するためのスクリーニング方法を提供する。
【0057】
そのようにして同定される化合物は、治療プロトコールにおいて直接的に、または間接的に、のいずれかで標的遺伝子産物(例えば、バイオマーカー遺伝子)の活性を調節するために、標的遺伝子産物の生物学的機能を生み出すために、または正常な標的遺伝子相互作用を妨害する化合物を同定するために用いられ得る。バイオマーカーの活性または発現を阻害する化合物は、増殖性障害、例えば、がんの処置に有用である。
【0058】
本発明の試験化合物は、生物学的ライブラリー;ペプトイドライブラリー(酵素分解には耐性を有し、それでも生物活性を維持する新規の非ペプチド骨格を有するが、ペプチドの機能性を有する分子のライブラリー);空間的にアドレス可能な並列固体相または溶液相ライブラリー;デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法;「ワンビーズ・ワン化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法;およびアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法を含む、当該技術分野において知られているコンビナトリアルライブラリー法において任意の多数のアプローチを用いて得られ得る。生物学的ライブラリーおよびペプトイドライブラリーアプローチは、ペプチドライブラリーとの使用に好ましい一方で、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは化合物の小分子ライブラリーに適用可能である。
【0059】
1つの態様において、アッセイは、バイオマーカータンパク質またはその生物学的に活性な部分を発現する細胞を試験化合物と接触させ、バイオマーカー活性を調節する試験化合物の能力が決定される、細胞ベースアッセイである。バイオマーカー活性を調節する試験化合物の能力の決定は、例えば、酵素活性の変化をモニタリングすることにより達成され得る。細胞は、例えば、哺乳動物起源のものであり得る。
【0060】
さらに別の態様において、バイオマーカータンパク質またはその生物学的に活性な部分を試験化合物と接触させ、バイオマーカータンパク質またはその生物学的に活性な部分と結合する試験化合物の能力が評価される、無細胞アッセイが提供される。本発明のアッセイに用いられるバイオマーカータンパク質の、好ましい生物学的に活性な部分は、基質または他のタンパク質との相互作用に関与する断片、例えば高い表面確率スコアを有する断片を含む。
【0061】
無細胞アッセイは、2つの構成成分を相互作用および結合させるに十分な条件下および時間で標的遺伝子タンパク質および試験化合物の反応混合物を調製すること、それゆえ排除および/または検出され得る複合体を形成することを含む。2分子間の相互作用は、例えば、蛍光エネルギー移動(FRET)を用いても検出され得る。あるいは、試験化合物に結合するバイオマーカーのタンパク質能力は、リアルタイム生体分子相互作用解析(BIA)を用いて達成され得る。
【0062】
バイオマーカー発現のモジュレーターもまた、同定され得る。例えば、細胞または無細胞混合物は、候補化合物と接触させられ、バイオマーカーmRNAまたはタンパク質の発現は、候補化合物の不在におけるバイオマーカーmRNAまたはタンパク質の発現のレベルに対して評価される。バイオマーカーmRNAまたはタンパク質の発現が、候補化合物の存在下で、その不在におけるよりも大きい場合、候補化合物は、バイオマーカーmRNAまたはタンパク質発現のスティミュレーターとして同定される。あるいは、バイオマーカーmRNAまたはタンパク質の発現が、候補化合物の存在下で、その不在におけるよりも小さい(すなわち、統計学的に有意に小さい)場合、候補化合物は、バイオマーカーmRNAまたはタンパク質発現のインヒビターとして同定される。バイオマーカーmRNAまたはタンパク質発現のレベルは、バイオマーカーmRNAまたはタンパク質を検出するために、本明細書に記載される方法により決定され得る。
【0063】
以下の非限定的な例は、本発明をさらに例証するために提供される。
【0064】
例1:外科的切除について、高い悪性腫瘍の可能性を有するIPMNを正確に予測するための、シングルプラットフォーム嚢胞液アッセイ
生物学的サンプル。国際的なIPMN嚢胞液の共同研究は、Verona Consensus Conferenceから生まれた、欧州および米国にわたるIPMNの専門知識を有する大容量(high-volume)の膵臓外科センターの群から構成されている(Adsay, et al. (2016) Ann. Surg. 263(1):162-77;Maker, et al. (2015) J. Am. Coll. Surg. 220(2):243-53)。IPMN嚢胞液サンプルは、施設内審査委員会の承認後、将来的に維持される施設内のデータベース/リポジトリから得た。最終病理でIPMNの確認された診断を有し、専門の膵臓病理学者によって決定された異形成の特定のグレードを有するサンプルのみが研究に含まれた。嚢胞中で見出された最も高度の異形成を、低度、中程度、高度、または浸潤性がんとしてその特徴を決定した。分析は、この分野において複数の他のバイオマーカー研究で使用されているように、リスク層別化を目的として、特定のグレード、例えば、低度、中程度、高度、浸潤性により、および「低リスク」(低度および中程度の異形成)または「高リスク」(高度の異形成および浸潤性がん)病理により、サンプルを個別に評価した(Maker, et al. (2011) Ann. Surg. Oncol. 18(1):199-206;Maker, et al. (2011) Clin. Cancer Res. 17(6):1502-8)。
【0065】
mRNAおよびmiRNAの定量分析。自動化された核酸抽出のためのMaxwell16装置に実装されたQuick-RNA(商標)MicroPrep R1050 / R1051(Irvine, CA)を使用して、100〜400μlのIPMN液から全RNAを抽出した。DNAse処理を、製造業者の指示に従って、装置上で行った。続いて、定量PCRを使用したmRNAおよびmiRNA分析のために、全RNAを2つの経路に分割した。
【0066】
mRNAの分析のために、製造業者の指示に従って、ランダムプライマーおよびHigh-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用して、全RNAを逆転写した。Taqman(登録商標)PreAmp Mastermixキット(Thermo Fisher Scientific)を用いて、前増幅工程を使用して定量PCR(qPCR)のためにcDNAを調製した。Taqman(登録商標)遺伝子発現アッセイを、製造業者の指示に従って、前増幅工程のためのプライマーとして機能するようにプールした。アッセイは、IL1B(Hs01555410_m1)、MUC−1(Hs00159357_m1)、MUC−2(Hs00894025_m1)、MUC−4(Hs00366414_m1)、MUC−5ac(Hs01365616_m1)、MUC−7(Hs00379529_m1)、PTGER2(Hs04183523_m1)、PTGS1(Hs00377726_m1)、PGE2−R(Hs00168755_m1)、KRAS(Hs00364282_m1)、GNAS(Hs00255603_m1)、GADPH(Hs99999905_m1)、RPLP0(Hs99999902_m1)、TP63(Hs00978341_m1)、ERBB2(Hs01001580_m1)、PTGES2(Hs00228159_m1)を含んだ。前増幅されたcDNAを、その後、個々のアッセイとともに、qPCR反応のテンプレートとして使用した。ViiA7リアルタイムPCR装置(Life Technologies)を使用して、384ウェルプレートでTaqman(登録商標)Fast Advanced Mastermix(Thermo Fisher Scientific)を使用して反応を行った。すべての反応を、3重に、10μlの容量で行った。リアルタイムデータを、比較C(t)法を使用して処理した(Schmittgen & Livak (2008) Nature Protocols 3(6):1101-8)。選択された内部対照遺伝子は、RPLP0であり、データセット全体にわたるパフォーマンスに基づいた。
【0067】
miRNAの分析は、mRNAと同様の様式において行った。逆転写は、Taqman(登録商標)マイクロRNA逆転写キット(Thermo Fisher Scientific)を使用し、ランダムプライマーの代わりにTaqman(登録商標)miRNAアッセイを用いて行った。この研究のために用いられるアッセイは、miR17−3p(hsa−miR−17−3p)、miR142−3p(hsa−miR−142−3p)、miR532−3p(hsa−miR−532−3p)、miR342−3p(hsa−miR−342−3p)、miR30a−3p(hsa−miR−30a−3p)、miR21(hsa−miR−21−5p)、miR155(hsa−miR−155−5p)、mir101(hsa−miR−101−3p)、mir10a(hsa−miR−10a−5p)、miR106b(hsa−miR−106b−5p)、miR18a(hsa−miR−18a−5p)、miR217(hsa−miR−217)、miR24(hsa−miR−24−3p)、miR92a(hsa−miR−92a−3p)、miR99b(hsa−miR−99b−5p)、および遺伝子RNU6Bを含んだ。個々のTaqman(登録商標)miRNAアッセイを用いて、mRNAアッセイについて上で記載されるように、miRNA qPCRを行った。リアルタイムデータを、内部対照としてRPLP0遺伝子を用い、比較C(t)法を用いて処理した。
【0068】
GNASおよびKRAS突然変異部位のPCR増幅およびサンガー配列決定。Maxwell16 Tissue DNAキット(Promega, Madison, WI)を使用して、Maxwell16装置で100〜400μlのIPMN液からゲノムDNAを抽出した。KRAS中のコドン12と13、およびGNAS中のコドン201の突然変異分析を、PCRに続いてサンガー配列決定によって行った。各50μlのPCR反応物は、1.5mM MgCl、0.5μl HotStarTaq(登録商標)DNAポリメラーゼ(Qiagen, Germantown, MD)、0.2mM dNTPミックス(Sigma-Aldrich Corp., St Louis, MO)、20pmolのフォワードおよびリバースプライマー、ならびに5μlDNAテンプレートとともに1XPCRバッファーを含有した。プライマー配列は、以下:KRAS−F 5’−TGGTGGAGTATTTGATAGTGTATTAACCTTAT−3’(配列番号60)、KRAS−R 5’−AAACAAGATTTACCTCTATTGTTGGATCATA−3’(配列番号61)、GNAS−F 5’−TCTGAGCCCTCTTTCCAAACTAC−3’(配列番号62)、GNAS−R 5’−GGACTGGGGTGAATGTCAAGAA−3’(配列番号63)(Integrated DNA Technologies, Coralville, IA)であった。KRAS PCR反応物は、野生型の増幅を抑制するために、加えて、25pmolのLNAオリゴを含有した(Exiqon, Woburn, MA)。95℃で15分間の初期変性工程の後、40サイクルのPCRを以下のように行った:68℃で10分間の最終伸長工程を含む、95℃で30秒間、52℃で30秒間、68℃で30秒間。増幅産物を精製し、PCRプライマーとBigDye 3.1ターミネーターサイクル配列決定キットを使用して、ABI3130XL遺伝子アナライザーで双方向に配列決定した。配列クロマトグラムを手動で視覚化し、突然変異が存在するかどうかを決定した。分析感度は、KRASコドン12および13については、1%の突然変異配列、GNASコドン201については、15%の突然変異配列である。適切な陽性対照およびコンタミネーション対照は含まれた。突然変異の命名法は標準的なガイドラインに従った。
【0069】
統計学的分析。嚢胞液遺伝子発現レベルを処理して、z変換、log2変換、および基準化(X平均/標準偏差)したRQ値を得た。ピアソン相関係数を利用して、0.7のカットオフで高度に相関する変数を排除した。主座標分析をその後行った。KrasおよびGnas突然変異分析からの配列決定データを追加してモデルを実行し、+kras突然変異、+gnas突然変異、+gnas/+kras突然変異、または0、1、もしくは2突然変異として評価した。独立変数としての突然変異分析は、学習用の22個のマーカーとともにデータマトリックスに付加され、サポートベクターマシン(SVM)トレーニングアルゴリズムによる分類および回帰分析に利用した。個々のマーカーを、異形成のレベルとの関連について査定した。Rのglmnetパッケージを、サンプルの分類のためにロジスティック回帰と一緒に使用した。バッチ効果補正を行った。高度に補正されたマーカーを排除した。バイナリ分類と5重交差検証を用いたLassoペナルティ付きロジスティック回帰は、最適なシグネチャーを作成するための評価基準としてAUCを利用した。
【0070】
標的と嚢胞液の選択。本研究は、14個のmRNAマーカー、15個のmiRNA標的、ならびにGNASコドン201およびKRASコドン12と13の点突然変異分析を含む。複数の施設の国際的なIPMN嚢胞液の共同研究が行われ、患者サンプルはこの研究に提供された。包含のために、合計134の嚢胞液サンプルを評価した。特定のIPMN病理および異形成のグレード(低、中程度、高度、浸潤性)を伴うサンプルの十分な液量が、59の嚢胞液サンプルについて確認された。サンプルの95%は、さらなる分析に十分なゲノム材料を含有していた。
【0071】
主成分分析、バッチ効果補正、交絡因子の排除。主成分分析は、バッチ効果がされた最小限の施設によるバイアス/クラスタリングを実証した。高度に補正されたバイオマーカーは、機械学習アルゴリズムにおいてシグネチャーについての個々の特徴の特定を困難にするので、ピアソン相関マトリックスをマーカーの各ペア間で計算した。高度に相関した(ピアソン相関>0.7)マーカーの各群内で、1つの代表的なマーカーは、Rのcaretパッケージを使用したさらなる分析のために保持された。したがって、交絡させるマーカー(すなわち、miR−106B、miR−155、miR−24、miR−532、miR−92AおよびGNAS)を分析から排除した。
【0072】
特定の突然変異分析。GNASコドン201およびKRASコドン12と13を、変異分析のために配列決定した。嚢胞液から採取された、確実に配列決定するのに十分なDNAを有する49個のサンプルのうち、30個がGNASまたはKRASの点突然変異を含有していた。GNASについて、7個のサンプルがp.R201H突然変異を有し、6個がp.R201C突然変異を有しており、一方で、KRASについて、7個がp.G12R突然変異を有し、14個がp.G12V突然変異を有し、8個がp.G12D突然変異を有し、1個がG12F突然変異を有し、1個がp.G12A突然変異を有し、1個がp.G13D突然変異を有していた。3個のサンプルはそれぞれ、2個のKRASコドン12点突然変異を有していた。9個のサンプルはGNASコドン201とKRASコドン12の両方の突然変異を含有し、そのうち1個はKRASコドン13突然変異も含有していた。
【0073】
Lasso回帰の結果。高度に相関するマーカーを排除した後、機械学習アルゴリズムを採用して、異形成のレベル/膵臓悪性腫瘍のリスクに有意に関連するマーカーを同定した特徴選択を行った。Lasso(最小絶対収縮および選択演算子(Least absolute shrinkage and selection operator))回帰分析は、最終モデルにおいて使用のためのIPMNグレードの予測共変量のサブセットのみを選択するようにモデル適合プロセスを変更することにより、回帰モデルの予測精度と解釈可能性を改善した、変数選択と正則化の両方を行った。N患者嚢胞液において、そのそれぞれは、p予測遺伝子および単一転帰として異形成のレベルから構成され;
【数1】
は異形成の分類であり、
【数2】
は、i番目の場合についての(for the ith case)遺伝子発現(共変量ベクター)である。これは、
【数3】
を解くためのlassoの目的関数(objective)をもたらし、ここで、ねらいは、高リスクIPMNと低リスクIPMNとの間の分類エラーを最小化するマーカーの、最小数であるが最適なサブセットを同定することである(Lockhart, et al. (2014) Ann. Statist. 42(2):413-68;Friedman, et al. (2010) J. Statist. Soft. 33(1):1-22)。
【0074】
目的関数として曲線下面積(AUC)を用いる二項ロジスティック回帰モデルにおいて、最大AUCは、miR21、miR342、IL1B、KRAS、MUC4、およびPTGES2で達成され、低リスク嚢胞と高リスク嚢胞とを識別するための、0.82(p=0.003)のAUCをもたらす。GnasおよびKrasの点突然変異分析を含む反復を含むサブセット分析を行って、最も正確な予測バイオシグネチャーを決定した。GnasまたはKrasのいずれかにおける突然変異を検討した場合、IL1B、MUC4、およびPTGES2で最も予測的なシグネチャーが達成され、y=0.37+(−0.06IL1B)+(−0.01MUC4)+(−0.50PTGES2)、AUC=0.86、p値=0.002の正確な式を構築した(図1)。
【0075】
エビデンスは、低度異形成から腺癌腫へのIPMNについての進行モデルを支持するが、しかしながら、この転換についてのタイムフレームは不明である。いくつかの病変はがんに進行する一方で、他の病変は、数十年かけても低リスク病変のままである場合がある。理想的には、悪性腫瘍のリスクは術前に決定されるが、現在、患者の精神的、肉体的、および経済的コストを犠牲にして、悪性転換の低リスクにおいて多くの嚢胞が除去されており、これは約2%の死亡率および約40%の術後罹患率の追加されたリスクを伴う。このリスク対ベネフィット比は、この疾患の外科的意思決定における課題の核心であり、潜在的な膵臓腺癌腫の見逃しの波及、または悪性腫瘍への進行を許容にする切除の遅延は、重大ながんに関連する死亡をもたらす可能性がある。この理由のために、いくつかの群は、低リスクであることが知られている病変の切除さえも擁護する。米国において、現在IPMNのために外科的切除を受けている患者の大多数は、高リスク病変に向けられた患者の選択に対する複数の米国、欧州、および国際的なガイドラインにもかかわらず、最終病理で決定された低リスク嚢胞を有するだろう。高度異形成または浸潤性がんについて高リスクであるとガイドラインにより予測された病変の最大65%は、最終病理で低リスクであることが見出されている一方で、同じガイドラインで悪性腫瘍の低リスクを有すると予測された他の小さなBD−IPMNは、最大25%の時間で高リスクの病理を実証することが実証されている。
【0076】
米国において臨床上の意思決定に最も一般に使用される2つのガイドラインは、改訂されたSendai(Fukuoka)および米国消化器病学会(AGA)のガイドラインである。Fukuokaは、悪性腫瘍に対して21%の特異性を有する高い偽陽性率を有することが見出されている。同じ研究は、AGAガイドラインが、44%の特異性を有する低い偽陽性率を有するが、高い偽陰性率および12%超の悪性腫瘍の見落としを伴うこと見出した。現在のガイドラインの同様の分析は、Fukuokaが高リスク嚢胞を同定するために65〜72%の偽陰性率を有し、一方でAGAが高リスクIPMNの45%を誤認したことを支持した。したがって、この分野において、悪性転換の最小のリスクを有する嚢胞と、高リスク病理または潜在的な悪性腫瘍を有する嚢胞とを識別することができる、新規の信頼性の高いバイオマーカーが必要とされている。
【0077】
このニーズに応えて、最高86%の精度で高リスクを区別する能力を有する、IPMN嚢胞液遺伝子バイオシグネチャーが現在開発された。すべての高リスク嚢胞は、その他の点では健康で医学的に適切である個人において、外科的に切除されるべきであり、低リスク嚢胞は、少なくとも、告知に基づく(informed)外科的意思決定およびインフォームドコンセントに使用され得るこの定量データで特徴付けられ得る。
この研究におけるバイアスは、国際的な多施設コホート、多数の患者嚢胞液サンプル、大規模バッチでのサンプルの実行、候補バイオマーカーの事前選択を含むことにより、および5重交差検証を含む頑強な統計学的方法を通して、可能な限り最小化された。興味深いことに、krasとgnasの突然変異分析がモデルに追加された場合、これらはおそらくIPMN全体でのこれらの突然変異の高い有病率のために、予測値に寄与する特徴として選択されなかった。
図1
【配列表】
2020515264000001.app
【国際調査報告】