特表2020-515621(P2020-515621A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-515621Pt(II)錯体を合成する方法;Pt(II)錯体;ヒドロシリル化反応における光活性化可能な触媒としてのそのような錯体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-515621(P2020-515621A)
(43)【公表日】2020年5月28日
(54)【発明の名称】Pt(II)錯体を合成する方法;Pt(II)錯体;ヒドロシリル化反応における光活性化可能な触媒としてのそのような錯体の使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 47/565 20060101AFI20200501BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20200501BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20200501BHJP
   C30B 7/08 20060101ALI20200501BHJP
   C30B 29/54 20060101ALI20200501BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20200501BHJP
   C07C 47/57 20060101ALI20200501BHJP
   C08G 77/50 20060101ALI20200501BHJP
   A61K 6/90 20200101ALI20200501BHJP
【FI】
   C07C47/565
   B01J35/02 J
   B01J31/02 101Z
   C30B7/08
   C30B29/54
   C07F15/00 FCSP
   C07C47/57
   C08G77/50
   A61K6/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2019-554340(P2019-554340)
(86)(22)【出願日】2018年3月29日
(85)【翻訳文提出日】2019年11月29日
(86)【国際出願番号】GB2018050876
(87)【国際公開番号】WO2018185472
(87)【国際公開日】20181011
(31)【優先権主張番号】1705330.7
(32)【優先日】2017年4月3日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アシュフィールド, ローラ
(72)【発明者】
【氏名】キープ, アン
【テーマコード(参考)】
4C089
4G077
4G169
4H006
4H050
4J246
【Fターム(参考)】
4C089AA14
4C089BA10
4C089BC02
4C089BC20
4C089CA03
4C089CA06
4C089CA07
4C089CA08
4G077AA01
4G077AA04
4G077BF10
4G077CB01
4G077CB02
4G077HA20
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA48A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD08A
4G169BD12A
4G169BD13A
4G169BD15A
4G169BE01A
4G169BE06A
4G169BE06B
4G169BE07A
4G169BE08A
4G169BE09A
4G169BE10A
4G169BE16A
4G169BE18A
4G169BE19A
4G169BE22A
4G169BE33A
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169CB25
4G169CB80
4G169DA02
4G169EC22Y
4G169HA01
4G169HB10
4G169HC18
4G169HD06
4G169HE10
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB40
4H006AB82
4H006BB14
4H006BB31
4H006BC10
4H050AA01
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB40
4H050BB14
4H050BB31
4H050BC10
4H050WB13
4H050WB21
4J246AA11
4J246AB15
4J246BB020
4J246BB021
4J246BB02X
4J246BB140
4J246BB142
4J246BB14X
4J246CA010
4J246CA01X
4J246CA240
4J246CA24X
4J246CA340
4J246CA34X
4J246FA221
4J246FA571
4J246FC161
4J246FD02
4J246HA12
4J246HA22
4J246HA32
4J246HA45
4J246HA46
4J246HA52
(57)【要約】
Pt(II)錯体を合成する方法は、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物またはその塩を含む反応混合物を調製し、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物を反応させる第1の工程、およびさらなる量の式I’に従う化合物またはその塩を反応混合物に添加する第2の工程を含む。この方法の生成物は、式Iに従うPt(II)錯体である。Pt(II)錯体は、ヒドロシリル化反応における触媒として有用である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物またはその塩を含む反応混合物を調製し、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物を反応させる第1の工程
[式中、
XはOH、SHおよびNHから選択され、
YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族またはヘテロ芳香族基を形成し、
は、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
NH、NHR、NR、NO
NHCOH、NHCOR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、CONRおよび
SO
から独立して選択され、
はF、Cl、BrおよびOHから独立して選択され、
各R、RおよびRは独立して、直鎖または分岐状の無置換C1−6アルキルから選択される]、および
(ii)さらなる量の式I’に従う化合物またはその塩を反応混合物に添加する第2の工程
を含む、Pt(II)錯体を合成する方法。
【請求項2】
第1の工程の後であるが第2の工程の前に、反応混合物に還元剤を添加する中間工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の工程において、式I’に従う化合物が化学量論的に過剰に使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の工程において、反応混合物が、アルコールと混合されていてもよい水から選択される溶媒をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アルコールがエタノールまたはイソプロパノールを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第1の工程において、反応混合物が塩基をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
塩基がNaHCOである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
水溶性ヘキサクロロ白金酸塩がNa[PtCl]および塩化白金酸から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第1の工程が、さらなる工程が実施される前に、反応混合物を少なくとも10分間反応させておくことをさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第1の工程が、反応混合物を20〜30℃の温度で反応させることを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
式I’に従う化合物および水溶性ヘキサクロロ白金酸塩が、少なくとも2:1、好ましくは少なくとも3:1、好ましくは少なくとも4:1のモル比で、第1の工程において反応混合物に添加される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
中間工程において添加される還元剤が、例えばエタノールおよびイソプロピルアルコールから選択される、アルコール性還元剤である、請求項2から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
中間工程が、反応混合物を少なくとも50℃の温度に加熱し、混合物をこの温度に少なくとも2時間維持することを含む、請求項2から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第2の工程の後に、反応混合物から生成物を単離し、場合により生成物を精製する、第3の工程をさらに含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
XがOHである、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
YおよびZが、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜8員の芳香族または複素芳香族基を形成する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
YおよびZが、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、無置換の4〜8員の芳香族またはヘテロ芳香族基を形成する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
YおよびZが、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、無置換の6員芳香族基を形成する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
式I’に従う化合物がサリチルアルデヒドである、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
式I
[式中、
X’はO、SおよびNHから選択され、
YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族基、または少なくとも1つのR基で置換された4〜12員のヘテロ芳香族基を形成し、
は、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
NH、NHR、NR、NO
NHCOH、NHCOR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、CONR
SO
から独立して選択され、
はF、Cl、BrおよびOHから独立して選択され、
各R、RおよびRは独立して、直鎖または分岐状の無置換C1−6アルキルから選択される]
に従うPt(II)錯体。
【請求項21】
X’がOである、請求項20に記載のPt(II)錯体。
【請求項22】
YおよびZが、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜8員の芳香族基を形成する、請求項20または21に記載のPt(II)錯体。
【請求項23】
YおよびZが、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、無置換の4〜8員芳香族基を形成する、請求項22に記載のPt(II)錯体。
【請求項24】
YおよびZが、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、無置換の6員芳香族基を形成する、請求項23に記載のPt(II)錯体。
【請求項25】
YおよびZが、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、少なくとも1つのR基で置換された4〜8員のヘテロ芳香族基を形成する、請求項20または21に記載のPt(II)錯体。
【請求項26】
式I:
[式中、
X’はO、SおよびNHから選択され、
YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族またはヘテロ芳香族基を形成し、
は、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
NH、NHR、NR、NO
NHCOH、NHCOR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、CONR
SO
から独立して選択され、
はF、Cl、BrおよびOHから独立して選択され、
各R、RおよびRは独立して、直鎖または分岐状の無置換C1−6アルキルから選択される]
に従うPt(II)錯体によって触媒されるヒドロシリル化反応を行う方法。
【請求項27】
ヒドロシリル化反応が光活性化される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ヒドロシリル化反応がUV活性化される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
シロキサンポリマーまたは共重合体の架橋を含む、請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
式I:
[式中、
X’はO、SおよびNHから選択され、
YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族またはヘテロ芳香族基を形成し、
は、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
NH、NHR、NR、NO
NHCOH、NHCOR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、CONR
SO
から独立して選択され、
はF、Cl、BrおよびOHから独立して選択され、
各R、RおよびRは独立して、直鎖または分岐状の無置換C1−6アルキルから選択される]
に従うPt(II)錯体の、ヒドロシリル化反応における光活性化触媒としての使用。
【請求項31】
式I:
[式中、
X’はO、SおよびNHから選択され、
YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族またはヘテロ芳香族基を形成し、
は、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
NH、NHR、NR、NO
NHCOH、NHCOR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、CONR
SO
から独立して選択され、
はF、Cl、BrおよびOHから独立して選択され、
各R、RおよびRは独立して、直鎖または分岐状の無置換C1−6アルキルから選択される]
に従うPt(II)錯体を含む硬化性組成物。
【請求項32】
硬化性シリコーン組成物、好ましくは接着剤または剥離ライナーである、請求項31に記載の硬化性組成物。
【請求項33】
請求項31または32に記載の硬化性組成物を硬化させることにより形成される硬化シリコーン生成物。
【請求項34】
エラストマー、レンズ、コーティングもしくは電子部品、硬化接着剤または歯科印象である、請求項33に記載の硬化シリコーン生成物。
【請求項35】
請求項1から19のいずれか一項に記載の方法によって作製されるPt(II)錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、白金(IV)出発物質から白金(II)錯体を合成する方法、そのような合成に従って作製される白金(II)錯体、およびそのような白金(II)錯体の、ヒドロシリル化反応における触媒としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロシリル化は、ケイ素に結合した水素を含む化合物と脂肪族不飽和を含む化合物との間の工業的に重要な付加反応である。ヒドロシリル化の結果は、不飽和結合へのSi−H結合の付加である。
【0003】
反応は、Co、Rh、Ni、PdまたはPtなどの遷移金属の錯体によって触媒されることが多い。これらの触媒は通常、熱エネルギーまたは紫外線照射によって活性化される。
【0004】
ヒドロシリル化反応の有用な生成物の1つは、Pt硬化シリコーン、すなわち白金触媒ヒドロシリル化反応により硬化されたシリコーンである。シリコーンは一般にシーラントやオイルなどの製品に使用され、Pt硬化シリコーンは一般に2つの主要な領域、すなわち剥離ライナーとエラストマーに使用される。剥離ライナーはしばしば、ラベルの裏打ちのため、または製パンにおいて食品業界で使用される。エラストマーは、医学的な創傷治癒からエアバッグコーティングまで、さまざまな用途を有する。白金硬化シリコーンは典型的に、最終製品が食品と接触する場合や、医療用途に使用される場合に使用される。過酸化物硬化などの代替的方法では透明度が得られないため、白金硬化シリコーンは透明なチューブや他の物体の製造にも使用される。これは、時間とともに表面に移動する過酸化物が透明度を低下させる「ブルーム」効果を引き起こすためである。白金硬化シリコーンは、例えば、プロトタイプモデルにおいて、高度なディテールが要求される場合にも使用され得る。白金硬化は、過酸化物やスズなどの他の技術よりもはるかに高速であり、後者は業界ではもはや好まれず、一般に次第に姿を消しつつある。
【0005】
ヒドロシリル化硬化触媒として使用される白金錯体は、光活性化可能であり得る。この点で、UVまたは可視電磁放射線の照射により、活性触媒として作用することができるか、または活性触媒に変換される場合、白金錯体は光活性化可能である。
【0006】
光活性化可能な白金錯体は、エラストマー、剥離ライナー、接着剤などのシリコーンの調製(US2010256300)、電子チップのコーティングまたはカプセル化、歯科印象(EP0398701)、またはLEDレンズの調製(EP2617791)に使用され得る。積層造形(ALM)または「3D印刷」が、硬化シリコーン生成物を調製するために使用されるのも可能である。一般に、Pt触媒を含む未硬化材料の層が印刷され、各層の印刷後にUV硬化に供される(WO2016/044547A1)。この方法は、複雑な形状を有する生成物を含む、任意のシリコーン生成物の調製に使用され得る。
【0007】
UV活性化ヒドロシリル化で使用するための多くの白金ベースの錯体が当該技術分野で知られている。(MeCp)PtMeは、UV活性化の下で高い活性を有し、UV活性化なしでは低い活性を有する、利用可能な触媒の1つである(EP0146307A2およびEP2617791A1を参照)。ヒドロシリル化触媒のこれらの特性は、反応の開始が適切にコントロールされ得ることを確実にするために望ましい。しかしながら、(MeCp)PtMeは、揮発性、毒性、高価であり、製造が非常に困難である(Z Xue,M J Strouse,D K Shuh,C B Knobler,H D Kaesz,R F Hicks,R S Williams,Journal of the American Chemical Society,111,8779(1989))。それはECHA(欧州化学物質庁)のウェブサイトにおいて、飲み込んだ場合に致命的、皮膚と接触すると致命的、水生生物にとって非常に有毒、重度の眼刺激性を引き起こす、アレルギー性皮膚反応を引き起こすおそれがある、皮膚刺激性を引き起こす、および呼吸器刺激性を引き起こし得ると分類されている。その揮発性は、使用中における有害な曝露のリスクが高いことを意味する。
【0008】
UV活性化ヒドロシリル化における使用のための別の既知の白金錯体はPt(acac)である(US2003/235383A1およびEP0398701A2を参照)。これは(MeCp)PtMeの安価で揮発性の低い代替手段として使用されるが、しかし、シロキサン基質にそれほど可溶性でなく、UV活性化時の活性が低く、UV光への曝露なしでの活性が高い。
【0009】
したがって、光活性化ヒドロシリル化反応の触媒としての用途を有する、さらなる白金ベースの触媒が必要とされている。そのような触媒は、所望の触媒特性(例えば、UVに曝露されると活性が大幅に増加する)を提供するだけでなく、シロキサン基質への溶解度、低揮発性、および低毒性などといった他の特性における改善も提供することが望ましいであろう。そのような触媒が低コストで容易に調製できることも望ましいであろう。
【0010】
さらに、シンプルな合成経路により生成物の収率が良好となり得る、これらの白金ベースの触媒の調製のための改善された合成方法に対するニーズがある。
【0011】
本明細書中の小見出しは、便宜上のためにのみ含まれており、いかなる意味においても開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0012】
本明細書において引用される全ての参考文献の開示は、本発明を実施するために当業者により使用され得る程度にまで、相互参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【発明の概要】
【0013】
本発明の第1の態様は、
(i)水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物またはその塩を含む反応混合物を調製し、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物を反応させる第1の工程
[式中、
XはOH、SHおよびNHから選択され、
YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族またはヘテロ芳香族基を形成し、
は、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
NH、NHR、NR、NO
NHCOH、NHCOR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、CONRおよび
SO
から独立して選択され、
はF、Cl、BrおよびOHから独立して選択され、
各R、RおよびRは独立して、直鎖または分岐状の無置換C1−6アルキルから選択される];および
(ii)さらなる量の式I’に従う化合物またはその塩を反応混合物に添加する第2の工程
を含む、Pt(II)錯体を合成する方法である。
【0014】
方法の第1の工程は、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物との反応であり、第2の工程は、Pt(II)錯体生成物の高い収率へと反応を至らせるための、式I’に従う化合物のさらなる量の添加である。
【0015】
この合成方法に従うと、白金(II)錯体が、非常に高い収率で、反応工程の少ないシンプルで効率的な方法により調製される。本発明に従う方法を使用することにより、50%までの優れた生成物の収率が可能となる。
【0016】
いくつかの実施形態では、生成物錯体の収率は、少なくとも10%、例えば少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%または少なくとも40%である。
【0017】
さらに、本発明の方法により調製される結果として生じる白金(II)錯体は、光化学放射線に曝露された時に高い活性、そのような放射線に曝露されていない時に低い活性、低い毒性、低い揮発性および良好なシロキサン基質への溶解性を有する光活性化可能なヒドロシリル化触媒として有用である。触媒の活性は、Pt(acac)などの既知のPt触媒よりも改善されており、したがって、同様な硬化結果を得るのに必要な触媒の量は少ない。
【0018】
また、本発明のPt触媒を調製するために使用される方法は、他の方法で生成され得る望ましくない副生成物の量を減らすこともできる。
【0019】
本発明の第2の態様は、式I:
[式中、
X’はO、SおよびNHから選択され、
YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族またはヘテロ芳香族基を形成し;
は、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
NH、NHR、NR、NO
NHCOH、NHCOR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、CONR
SO
から独立して選択され、
はF、Cl、BrおよびOHから独立して選択され、
各R、RおよびRは独立して、直鎖または分岐状の無置換C1−6アルキルから選択される]
に従うPt(II)錯体である。
【0020】
本発明者らは、このような錯体を初めて成功裏に調製したと考えている。
【0021】
第2の態様に従う白金(II)錯体は、光化学放射線に曝露された時に高い活性、そのような放射線に曝露されていない時に低い活性、低い毒性、低い揮発性および良好なシロキサン基質への溶解性を有する光活性化可能なヒドロシリル化触媒として有用である。それは、本明細書に記載されているように、シンプルな合成法により容易に高収率で調製され得る。それは、したがって、上記の既知の白金ベースの錯体に改善をもたらす。
【0022】
本発明の第3の態様は、第2の態様に従うPt(II)錯体により触媒されるヒドロシリル化反応を行う方法である。本発明のPt(II)錯体を触媒として使用するこのようなヒドロシリル化反応は、迅速に進行し、硬化時間を短縮し、ライン速度を増加させる。また、これは最終硬化生成物の形状を適切にコントロールすることも可能とする。さらに、本方法はPt(II)錯体の低い揮発性と低い毒性のために安全である。
【0023】
本発明の第4の態様は、第2の態様に従うPt(II)錯体の、ヒドロシリル化反応における光活性化可能な触媒としての使用である。
【0024】
本発明の第5の態様は、第2の態様に従うPt(II)錯体を含む硬化性組成物である。
【0025】
本発明の第6の態様は、第5の態様に従う硬化性組成物を硬化させることにより形成される硬化シリコーン生成物である。
【0026】
本発明の第7の態様は、第1の態様に従う合成方法によって作製されるPt(II)錯体である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例1の生成物から得られた赤外線スペクトルのプロットである。
図2】実施例1の生成物から得られたX線光電子スペクトルのプロットである。
図3】実施例3の生成物の結晶構造を示す。
図4】実施例3の生成物から得られたUV/Visスペクトルを示す。
図5】さまざまな試料から得られたUV/Visスペクトルを示す。
図6】シロキサンポリマーの蛍光スペクトルを示す。
図7】アセトンおよびシロキサン中の実施例3の生成物の蛍光スペクトルを示す。
図8】アセトンおよびシロキサン中のPt(acac)の蛍光スペクトルを示す。
図9】実施例3の生成物のTGAトレースを示す。
図10】実施例2の生成物のH NMRスペクトルを示す。
図11図10と同じスペクトルを異なるスケールで示す。
図12】実施例2の生成物の13C NMRスペクトルを示す。
図13】実施例2の生成物の195Pt NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
Pt(II)錯体の調製方法
本発明の第1の態様は、Pt(II)錯体を調製する方法である。
【0029】
この方法は、2つの別個の工程:水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物またはその塩を含む反応混合物を調製し、反応させる第1の工程;およびさらなる量の式I’に従う化合物またはその塩を反応混合物に添加する第2の工程を含む。
【0030】
水溶性であれば、ヘキサクロロ白金酸(PtCl2−)イオンの任意の塩が工程(i)において使用され得る。これに関連して、「水溶性」という用語は、25℃で少なくとも1g/100ml、例えば少なくとも2g/100ml、例えば少なくとも5g/100ml、例えば少なくとも10g/100ml、例えば少なくとも20g/100ml、例えば少なくとも30g/100mlの水への可溶性を指す。
【0031】
いくつかの実施形態において、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩は、塩化白金酸およびヘキサクロロ白金酸ナトリウムから選択される。いくつかの実施形態では、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩は塩化白金酸である。
【0032】
塩化白金酸は、しばしば略記の「HPtCl」を用いて特定される化合物[HO][PtCl]である。
【0033】
水溶性ヘキサクロロ白金酸塩は、任意の適切な形態で反応混合物に添加され得る。これは、例えば、固体形態の水溶性ヘキサクロロ白金酸塩の直接的な添加とそれに続く反応混合物中への溶解、または水溶性ヘキサクロロ白金酸塩の予め調製された水溶液の添加であり得る。
【0034】
規定の水溶性ヘキサクロロ白金酸塩が、Pt含有出発物質として使用されなければならない。他のPt含有化合物は、満足のいく結果をもたらさない。例えば、Pt(II)含有化合物のKPtClとKPt(NOはどちらも、加水分解して、不明確な不溶性のPtヒドロキシ生成物を生成する。ヘキサヒドロキシ白金酸および硝酸Pt(IV)などの他のPt(IV)化合物は、正しい生成物をもたらさない。KPtClも水に溶けないため不適当である。
【0035】
いくつかの実施形態では、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩は、水溶液として反応混合物に添加される。いくつかの実施形態において、水溶液は、総溶液重量に対して少なくとも10重量%、例えば少なくとも15重量%または少なくとも20重量%の水溶性ヘキサクロロ白金酸塩を含有する。いくつかの実施形態では、水溶液は、最大40重量%、例えば最大35重量%または最大30重量%の水溶性ヘキサクロロ白金酸塩を含有する。
【0036】
式I’に従う化合物は、中性または塩の形態で反応混合物に添加され得る。化合物が塩として添加される場合、これは金属カチオンMの塩であり得る。いくつかの実施形態では、Mはアルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオンまたは遷移金属カチオンである。いくつかの実施形態では、Mはアルカリ金属カチオンである。いくつかの実施形態では、MはNaである。式I’に従う化合物に関する本明細書中の議論は、その化合物のそのような塩を含むことが理解されるであろう。
【0037】
式I’に従う化合物の物理的形態は、その化学構造にある程度依存するであろうが、例えば、反応混合物に直接添加されるか、または予め調製された溶液として添加される固体または油であり得る。式I’に従う化合物がサリチルアルデヒドである実施形態では、この化合物は、室温で油性の液体の形態を取り、反応混合物に直接添加され得る。
【0038】
いくつかの実施形態において、反応混合物は、第1の工程において、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物またはその塩を混合すること、場合により適切な量の溶媒中に混合することにより調製されるが、これは周知の混合方法により実施され得る。
【0039】
したがって、いくつかの実施形態では、反応混合物は、単一の溶媒または2つ以上の溶媒の適切な混合物であり得る溶媒を含む。溶媒または溶媒の混合物は、水(好ましくは脱イオン水)、エタノール、プロパノール、イソプロパノールおよびTHFから選択され得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、溶媒は主成分として水を含む(すなわち、溶媒の50重量%超が水である)。このようにして、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩出発物質は容易に溶解され得る。いくつかの実施形態では、溶媒は、主成分としての水と共に、式I’に従う化合物を溶解することができ、また水とある程度の混和性を有する任意の溶媒または溶媒の混合物であり得る微量な成分も含む。式I’に従う化合物は一般に不溶性であるか、水単独には溶解性が低いため、これは重要である。いくつかの実施形態では、この微量溶媒成分は、任意のC1−6芳香族、脂環式または脂肪族有機化合物から選択される。この文脈において、「C1−6」は1〜6個の炭素原子を含み、場合によりN、OおよびSから選択される1または2個のヘテロ原子も含む化合物を意味する。
【0041】
いくつかの実施形態では、この微量溶媒成分は、C1−6アルコール化合物、好ましくはC1−3アルコール化合物および/またはC1−6複素環化合物、好ましくはC1−5複素環化合物を含む。いくつかの実施形態では、この微量溶媒成分は、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびTHFのうちの1つまたは複数を含むか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、微量溶媒成分はエタノールである。
【0042】
いくつかの実施形態では、溶媒は水、好ましくは脱イオン水と、エタノールとの混合物を含む。いくつかの実施形態では、水とエタノールは、1:1〜20:1、例えば3:1〜15:1、例えば5:1〜15:1、例えば10:1〜14:1の重量比で混合される。
【0043】
いくつかの実施形態では、溶媒は主成分と副成分からなる。
【0044】
いくつかの実施形態において、第1の工程では、化学式I’に従う化合物が化学量論的に過剰に使用される。言い換えれば、反応混合物中に存在するヘキサクロロ白金酸塩との完全な反応に理論的に必要となるであろうよりも多くの量の式I’に従う化合物が使用される。
【0045】
生成物が式I’に従う化合物1分子にそれぞれ由来する2つの二座配位子を含むPt(II)錯体であることから、式I’に従う化合物と水溶性ヘキサクロロ白金酸塩の完全な反応のための理論的なモル比は2:1である。したがって、いくつかの実施形態では、式I’に従う化合物と水溶性ヘキサクロロ白金酸塩が少なくとも2:1、例えば2:1を超えるモル比、少なくとも2.1:1、少なくとも2.2:1、少なくとも2.3:1、少なくとも2.4:1、または少なくとも2.5:1のモル比で、第1の工程において反応混合物に添加される。いくつかの実施形態では、モル比は少なくとも3:1、例えば少なくとも3.5:1または少なくとも4:1である。
【0046】
第1の工程における過剰量の式I’に従う化合物を使用すると、特にモル比が少なくとも3:1、例えば少なくとも4:1である場合、生成物の全収率の向上につながる。
【0047】
いくつかの実施形態では、方法の第1の工程は、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物を上記の溶媒、すなわち単一の溶媒または溶媒の適切な混合物に添加することを含む。好ましくは、方法の第1の工程は、ヘキサクロロ白金酸塩と式I’に従う化合物を、主成分として水、好ましくは脱イオン水、および上記の副成分を含む溶媒に添加することを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、方法の第1の工程は、ヘキサクロロ白金酸塩の水溶液を調製すること、C1−6芳香族、脂環式または脂肪族有機化合物を含む溶媒中の式I’に従う化合物の溶液を調製すること、および2つの溶液を混合して反応混合物を生じることを含む。いくつかの実施形態では、式I’に従う化合物の溶液は、水およびC1−6芳香族、脂環式または脂肪族有機化合物を含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩は、溶液のヘキサクロロ白金酸塩のモル濃度が少なくとも0.01M、例えば少なくとも0.015M、少なくとも0.02M、少なくとも0.025M、少なくとも0.03Mまたは少なくとも0.035Mになるように反応混合物中に存在する。いくつかの実施形態では、モル濃度は、最大0.1M、例えば最大0.9M、最大0.8M、最大0.7M、最大0.6Mまたは最大0.5Mである。
【0050】
いくつかの実施形態では、式I’に従う化合物と水溶性ヘキサクロロ白金酸塩とのモル比が上記で定義されるものとなるように、式I’に従う化合物が溶液に添加される。
【0051】
第1の工程において反応混合物を調製する際、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩および式I’に従う化合物は、任意の順序で添加され得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、第1の工程において、反応混合物は塩基をさらに含む。塩基は、式I’に従う化合物のX基を脱プロトン化するのに十分に強い任意の塩基から選択される。塩基はまた、反応に使用される溶媒に可溶であるべきである。
【0053】
塩基は、式I’に従う化合物のX基を脱プロトン化して、Ptとの反応を促進するように作用する。いくつかの実施形態では、塩基はアミンを含まない。窒素原子はPtへの配位種として式I’に従う化合物のX基と競合するため、アミン塩基は反応に有害となり得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、塩基はナトリウム塩を含む。形成されるヘキサクロロ白金酸ナトリウムが可溶性であり、ヘキサクロロ白金酸が、式I’に従う化合物との反応のために反応混合物中で利用可能なままとなるため、ナトリウム塩が好ましい。カリウム塩を含む塩基は、ヘキサクロロ白金酸カリウムが比較的不溶性の固体であり、ヘキサクロロ白金酸カリウムが溶液から沈殿して、式I’に従う化合物との反応に利用可能なPt種の量を減らすおそれがあるため、あまり適していない。
【0055】
いくつかの実施形態では、塩基はNaHCOである。塩基の他の適切な選択は、当業者には明らかであろう。
【0056】
いくつかの実施形態おいて、塩基は式I’に従う化合物と共に溶液中に存在し、この溶液は次いでヘキサクロロ白金酸塩の水溶液と混合されて、反応混合物を生じる。
【0057】
いくつかの実施形態では、方法の第1の工程は、塩基を反応混合物に添加して、少なくとも0.05M、例えば少なくとも0.055M、例えば少なくとも0.06M、例えば少なくとも0.065M、例えば少なくとも0.07M、例えば少なくとも0.075Mの塩基のモル濃度を有する水溶液を生じることを含む。いくつかの実施形態において、塩基は、最大1M、例えば最大0.95M、例えば最大0.9Mの塩基のモル濃度となるように添加される。
【0058】
いくつかの実施形態では、第1の工程は、(反応混合物の調製後)反応混合物を少なくとも10分間、例えば少なくとも11分間、少なくとも12分間、少なくとも13分間、少なくとも14分間、少なくとも15分間、反応させておくことを含む。場合によっては、さらなる工程が実行される前に反応混合物を温度Tで少なくとも1時間、例えば少なくとも2時間、少なくとも2.5時間、少なくとも3時間、少なくとも3.5時間、少なくとも4時間、少なくとも4.5時間、少なくとも5時間、少なくとも5.5時間、または少なくとも6時間、反応させてもよい。いくつかの実施形態では、Tは20〜30℃、例えば20〜25℃の範囲内である。いくつかの実施形態では、Tは室温である。好ましくは、反応は大気圧で実施される。
【0059】
いくつかの実施形態では、反応混合物は反応中に撹拌される。好ましくは、撹拌は連続的である。
【0060】
いくつかの実施形態では、方法は、還元剤が反応混合物に添加される中間工程(第1の工程の後であるが第2の工程の前に実行される)をさらに含む。これは、Pt(IV)からPt(II)への還元を補助する目的に役立ち、生成物の収率を向上させる。最終生成物の結晶性と活性もまた改善され得る。
【0061】
この中間工程では、工程(i)で形成された中間生成物が穏やかな還元剤で還元される。還元はPt(IV)の部分的な還元であり、それによりPt(0)への完全な還元なしにPt(II)が生じる。
【0062】
中間工程で反応混合物に添加される還元剤は、Pt(0)への完全な還元なしに、Pt(IV)からPt(II)への部分的還元をもたらす任意の還元剤であり得る。いくつかの実施形態では、還元剤はホルムアルデヒドまたはアスコルビン酸ではない。このような化合物は強力な還元剤であり、完全な還元と望ましくないPt(0)の形成を導くであろう。いくつかの実施形態では、還元剤は穏やかな還元剤である。いくつかの実施形態では、還元剤はアルコール性還元剤、すなわち1つまたは複数の−OH官能基を含む化合物である。
【0063】
アルコール性還元剤は、水溶性ヘキサクロロ白金酸塩中のPt(IV)をPt(II)に還元する還元剤として作用し得る1つまたは複数の−OH官能基を含む適切な有機化合物である。いくつかの実施形態では、アルコール性還元剤は、単一の−OH基を含むシンプルなC1−6アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、または任意のブチルアルコール異性体である。いくつかの実施形態では、アルコール還元剤は、エタノールおよびイソプロパノールから選択される。いくつかの実施形態では、アルコール還元剤はエタノールである。
【0064】
いくつかの実施形態では、中間工程において添加される還元剤のモル量と反応混合物中のPtのモル量との比は、少なくとも10:1、例えば少なくとも11:1、少なくとも12:1、少なくとも13:1、少なくとも14:1、または少なくとも15:1である。いくつかの実施形態では、中間工程において添加される還元剤のモル量と反応混合物中のPtのモル量との比は、最大200:1、例えば最大190:1、最大180:1、または最大170:1である。この範囲内のモル比では、良好な収率で高活性な生成物を生じることが観察されている。使用される還元剤が少なすぎると、生成物の触媒活性が乏しくなり、理論に拘束されることは望まないが、これは不活性または活性の乏しい異性体の形成によると考えられる。
【0065】
いくつかの実施形態では、中間工程は、還元剤の添加と同時に式I’に従う化合物のさらなる量を添加することをさらに含む。しかしながら、いくつかの実施形態では、還元剤が式I’に従う化合物の非存在下で添加され、式I’に従う追加の化合物は、その後においてのみ、第2の工程で添加される。このようにして、より高い生成物の収率が達成されるため、これが好ましい。
【0066】
いくつかの実施形態では、中間工程は、介在する工程なしで、最初の工程の直後に続く。
【0067】
いくつかの実施形態では、中間工程は、還元剤の添加後、反応混合物を少なくとも50℃、例えば少なくとも55℃、例えば少なくとも60℃、例えば少なくとも65℃、例えば少なくとも70℃、例えば少なくとも75℃、例えば少なくとも80℃の高い温度Tまで加熱することを含む。いくつかの実施形態では、Tは最高95℃、例えば最高90℃である。
【0068】
いくつかの実施形態では、中間工程は、少なくとも2時間、例えば少なくとも2.5時間、例えば少なくとも3時間、例えば少なくとも3.5時間、例えば少なくとも4時間、例えば少なくとも4.5時間、例えば少なくとも5時間、温度Tを維持することも含む。
【0069】
方法はさらに、中間工程の後に、式I’に従う化合物のさらなる量を反応混合物に添加する第2の工程を含む。第2の工程で添加される式I’に従う化合物は、第1の工程で添加されるものと同じ化合物であってもよく、または式I’に従う異なる化合物であってもよい。しかしながら、反応混合物に最初に添加されるのと同じ化合物が、中間工程の後、第2の工程において再び添加されることが好ましい。したがって、例えば、サリチルアルデヒドが第1の工程で反応混合物に添加される場合、その後、サリチルアルデヒドが再び第2の工程で反応混合物に添加される。
【0070】
正しい活性生成物を良好な収率で形成するためには、工程(ii)における反応混合物への式I’に従うさらなる化合物の添加が必要である。この工程がないと、Pt(0)への完全な還元が生じ、所望の生成物が有用な量で形成されない。
【0071】
いくつかの実施形態では、第2の工程が中間工程の直後に続き、介在する工程はない。
【0072】
いくつかの実施形態では、式I’に従う化合物が、第2の工程において過剰量で添加される。
【0073】
いくつかの実施形態では、第2の工程で添加される式I’に従う化合物の量は、第1の工程で添加される量以上である。
【0074】
いくつかの実施形態において、工程(ii)で添加される式I’に従う化合物のモル量と反応混合物中のPtのモル量との比は、少なくとも1:1、例えば少なくとも1.5:1または少なくとも2:1である。いくつかの実施形態では、工程(ii)で添加される式I’に従う化合物のモル量と反応混合物中のPtのモル量との比は、最大10:1、例えば最大9:1または最大8:1である。このようにして、高触媒活性錯体の良好な収率が達成され得る。
【0075】
中間還元工程の使用に続く、さらなる量の式I’に従う化合物を添加する第2の工程が、生成物のはるかに高い収率の形成を促進する。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、式I’に従う化合物のさらなる量の添加が、所望の生成物に向かう平衡を促進するのを助けると考えている。
【0076】
いくつかの実施形態では、第2の工程は、(さらなる量の式I’に従う化合物の添加後)反応混合物を少なくとも50℃、例えば少なくとも55℃、例えば少なくとも60℃、例えば少なくとも65℃、例えば少なくとも70℃、例えば少なくとも75℃、例えば少なくとも80℃の高い温度Tにまで加熱することを含む。いくつかの実施形態では、Tは最高95℃、例えば最高90℃である。
【0077】
いくつかの実施形態では、反応混合物は、沈殿物の形成が観察されるまで、温度Tに保持される。いくつかの実施形態では、反応混合物は、少なくとも30分間、例えば少なくとも1時間、温度Tに保持される。
【0078】
いくつかの実施形態では、第2の工程において、式I’に従う化合物が溶媒中の溶液として添加される。いくつかの実施形態では、溶液は、水(好ましくは脱イオン水)とエタノールなどの有機溶媒との混合物である。いくつかの実施形態では、溶液はさらに塩基を含む。いくつかの実施形態では、塩基はNaHCOである。
【0079】
いくつかの実施形態では、方法は、反応混合物から生成物を単離することをさらに含む。生成物の単離は、当業者に周知の任意の適切な方法により達成され得る。そのような方法は、生成物が沈殿物である場合、例えば、濾紙による濾過を含み得る。追加的または代替的に、乾燥による溶媒の除去が、場合により真空および/または熱により補助されて、生成物を単離するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、生成物の乾燥および/または精製などのさらなる工程が単離工程に含まれる。そのような乾燥および精製工程もまた当業者には周知である。次いで、多種多様な光硬化性組成物をもたらすために、以下により詳細に説明されるように、単離された(そして場合により精製された)生成物が、光活性化可能なヒドロシリル化触媒として使用され得る。
【0080】
それにもかかわらず、いくつかの実施形態では、生成物は、単離または精製工程を必要とせずに、生の形で触媒として使用されてもよい。
【0081】
式I’に従う化合物
第1の態様の方法は、塩化白金酸、HPtClなどの水溶性ヘキサクロロ白金酸塩と請求項1で定義される式I’に従う化合物またはその塩との反応を伴う。さらに、追加の量の式I’に従う化合物またはその塩が、方法の第2の工程で反応混合物に添加される。
【0082】
いくつかの実施形態では、XはOHである。
【0083】
いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族基を形成する。いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜10員の芳香族基を形成する。いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜8員の芳香族基を形成する。いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜6員の芳香族基を形成する。
【0084】
この文脈において、「芳香族基」という用語は、炭素環原子のみを含む基を指す(言い換えれば、この用語はヘテロ芳香族基を含まない)。そのような芳香族基の非限定的な例は、シクロブタジエン、ベンゼンおよびシクロオクタテトラエンに由来するものを含む。
【0085】
本明細書において、「芳香族またはヘテロ芳香族基」という用語は、単環式および二環式の両方の環系を包含する。例えば、「4〜12員の芳香族基」という用語は、ベンゼンに由来するものなどの単環式基だけでなく、ナフタレンに由来するものなどの二環式基も包含する。同様に、「4〜12員のヘテロ芳香族基」という用語は、ピロール、フランおよびピリジンに由来するものなどの単環式基を含むが、インドール、ベンゾフラン、キノリンなどに由来するものなどの二環式基も含む。そのような二環系の環のいずれかまたは両方は、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい。
【0086】
いくつかの実施形態では、YおよびZによって形成される芳香族またはヘテロ芳香族基は、少なくとも1つのR基、例えば、1、2、3、または4つのR基で置換されている。
【0087】
いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、少なくとも1つのR基で置換されている4〜12員のヘテロ芳香族基を形成する。いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、少なくとも1つのR基で置換されている4〜10員のヘテロ芳香族基を形成する。いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、少なくとも1つのR基で置換されている4〜8員のヘテロ芳香族基を形成する。いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、少なくとも1つのR基で置換されている4〜6員のヘテロ芳香族基を形成する。
【0088】
いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、無置換の4〜12員の芳香族基、例えば無置換の4〜10員の芳香族基、無置換の4〜8員の芳香族基、または無置換の4〜6員の芳香族基を形成する。
【0089】
いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい6員の芳香族基またはヘテロ芳香族基を形成する。
【0090】
本明細書において、「ヘテロ芳香族基」という用語は、N、OおよびSから選択される少なくとも1つの環ヘテロ原子、例えば、それぞれ独立してN、OおよびSから選択される1〜4個の環ヘテロ原子を含む、環状芳香族基を指すために使用される。
【0091】
いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つ、2つ、または3つのR基で置換されていてもよい6員の芳香族基を形成する。
【0092】
いくつかの実施形態では、YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、無置換の6員芳香族基を形成する。
【0093】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、およびCONR
から独立して選択される。
【0094】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
COH、COH、CO、COR
CONH、CONHR、およびCONR
から独立して選択される。
【0095】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OHおよびOR
から独立して選択される。
【0096】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
OHおよびOR
から独立して選択される。
【0097】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、
OHおよびOR
から独立して選択される。
【0098】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−4アルキル、
F、
OHおよびOR
から独立して選択される。
【0099】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−3アルキル、
F、
OHおよびOR
から独立して選択される。
【0100】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖C1−6アルキル、
F、
OHおよびOR
から独立して選択される。
【0101】
いくつかの実施形態では、各Rは、
1つまたは2つのR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、
OHおよびOR
から独立して選択される。
【0102】
いくつかの実施形態では、各Rは、
メチル、エチル、n−プロピル、
F、
OHおよびOR
から独立して選択される。
【0103】
いくつかの実施形態では、各RはFおよびOHから独立して選択される。
【0104】
いくつかの実施形態では、各R、RおよびRは、直鎖状の無置換C1−6アルキル、例えば直鎖状の無置換C1−4アルキル、例えばメチル、エチルまたはn−プロピルから独立して選択される。
【0105】
いくつかの実施形態では、式I’に従う化合物は、以下の構造を有するサリチルアルデヒド、またはその塩である:
【0106】
いくつかの実施形態では、式I’に従う化合物は、以下の構造を有する2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド、またはその塩である:
【0107】
式Iに従うPt(II)錯体
本発明の第2の態様は、式I:
[式中、
X’はO、SおよびNHから選択され、
YおよびZは、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって、1つまたは複数のR基で置換されていてもよい4〜12員の芳香族またはヘテロ芳香族基を形成し;
は、
1つまたは複数のR基で置換されていてもよい、直鎖または分岐C1−6アルキル、
F、Cl、Br、
CN、
OH、OR
NH、NHR、NR、NO
NHCOH、NHCOR
COH、COH、CO、COR
OCOH、OCOR
CONH、CONHR、CONR
SO
から独立して選択され、
はF、Cl、BrおよびOHから独立して選択され、
各R、RおよびRは独立して、直鎖または分岐状の無置換C1−6アルキルから選択される]
に従うPt(II)錯体である。
【0108】
YおよびZの選好は、式I’に従う化合物の文脈において厳密に上に述べられている通りである。
【0109】
いくつかの実施形態では、X’はOである。
【0110】
いくつかの実施形態では、Pt(II)錯体は以下の構造を有する:
【0111】
式Iに従うPt(II)錯体は、本発明の第1の態様に従う合成方法で形成される。
【0112】
ヒドロシリル化法
本発明の第3の態様は、第2の態様に従うPt(II)錯体により触媒されるヒドロシリル化反応を行う方法である。
【0113】
いくつかの実施形態では、ヒドロシリル化反応は光活性化される。いくつかの実施形態では、ヒドロシリル化反応はUV活性化される。
【0114】
光活性化されるヒドロシリル化を可能にする触媒は、大幅に短縮した硬化時間を保証するが、これは、他の方法による活性化が非常に遅い硬化を導くであろう大きなサイズの製品にとっては不可欠である。光活性化可能な触媒の使用はまた、ポリプロピレンなどの熱に敏感な材料が、例えば熱硬化によって引き起こされ得る悪影響を伴わずに、製品に使用され得ることを意味する。
【0115】
押出製品の場合、光活性化可能な触媒を使用すると、押出に必要なエネルギーが低くなり、ライン速度が速くなる。さらに、シリカなどの充填材と着色剤の使用から生じる一般的な問題が克服され得る。シリカなどの一般的な充填材および着色剤はしばしばUV域において吸収し、これは触媒の活性化を妨げたり、触媒の有効な活性を低下させたりし得る。そのような問題は、本明細書に記載の触媒などの、より活性な触媒の使用により改善される。
【0116】
いくつかの実施形態では、方法はシロキサンポリマーまたは共重合体の架橋を含む。例えば、シロキサンポリマーまたは共重合体を第2の態様に従う適切な量のPt(II)錯体と共に含む組成物が用意されてもよく、シロキサンポリマーを架橋するために組成物が活性化される。
【0117】
いくつかの実施形態では、硬化性組成物は架橋結合剤も含むが、これは、シロキサンポリマーまたは共重合体が、例えばビニル基による官能基化のために、本質的に架橋可能である場合、必要でないこともある。いくつかの実施形態では、この架橋結合剤は、末端不飽和を含む化合物、例えば1,3−ブタジエンである。いくつかの実施形態において、架橋結合剤は、末端不飽和を含むシロキサンポリマーまたは共重合体、例えばビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)である。ヒドロシリル化中、触媒はシリコーンポリマーまたは共重合体の鎖の架橋を促進するであろう。
【0118】
いくつかの実施形態において、方法は、エラストマー、接着剤、剥離ライナーおよび電子製品(例えば、LEDレンズまたはシリコーン被覆電子チップ)から選択される架橋シリコーンポリマーまたは共重合体製品の製造において使用される。
【0119】
いくつかの実施形態では、方法は積層造形方法を含む。例えば、方法は、硬化性組成物の層を「印刷」し、その後、さらなる層が前の層の上に印刷される前に、組成物が部分的または完全に硬化される繰り返し工程を含み得る。
【0120】
いくつかの実施形態では、方法は、射出成形を含む。例えば、硬化性組成物は、所望の形状およびサイズの型に注入されてもよく、その後、型が取り外される前に、組成物がPt(II)触媒の光活性化により硬化され得る。
【0121】
ヒドロシリル化法は、電子部品の製造に特定の用途を有する。Pt(II)錯体の光活性化による速い硬化速度は、生産速度の上昇と、LEDレンズなどの精密電子製品を提供するために重要となる製品の最終的な硬化形状の良好なコントロールを保証する。さらに、可視光またはUV光による活性化は、特に電子チップのコーティングまたは被包に組成物を使用する場合、熱硬化が回避され、敏感な電子機器が過熱するリスクがないことを意味する。
【0122】
本発明の他の態様
本発明の第4の態様は、第2の態様に従うPt(II)錯体の、ヒドロシリル化反応における光活性化可能な触媒としての使用である。いくつかの実施形態では、このヒドロシリル化反応は、シリコーンポリマーまたは共重合体の架橋である。
【0123】
本発明の第5の態様は、第2の態様に従うPt(II)錯体を含む硬化性組成物である。
【0124】
いくつかの実施形態では、硬化性組成物は硬化性シリコーン組成物である。
【0125】
いくつかの実施形態では、硬化性組成物は硬化性接着剤組成物である。
【0126】
いくつかの実施形態では、硬化性組成物は、シロキサンポリマーまたは共重合体と、第2の態様に従う適切な量のPt(II)錯体とを含む。硬化性組成物はまた、架橋結合剤も含み得るが、これは、シロキサンポリマーまたは共重合体が、例えばビニル基による官能基化のために、本質的に架橋可能である場合、必要でないこともある。組成物はまた、当業者に周知であり、そのような組成物において一般的に使用される充填剤、着色剤、溶媒などのような1つまたは複数の添加物を含んでいてもよい。
【0127】
いくつかの実施形態では、硬化性組成物はUVまたは可視光硬化性の組成物である。このようにして、熱硬化が回避され、ポリプロピレンなどの熱に敏感な成分を使用することが可能となる。さらに、硬化性組成物の近傍にある製品が過熱による損傷を受けない。
【0128】
本発明の第6の態様は、第5の態様に従う組成物の光活性化硬化によって得られるか、または得られ得る硬化シリコーン生成物である。
【0129】
いくつかの実施形態では、第6の態様に従うシリコーン生成物は、剥離ライナー、エラストマー、接着剤または電子製品(LEDレンズ、または電子チップ上のコーティングなど)である。
【0130】
本発明の第7の態様は、第1の態様に従う方法によって作製されるPt(II)錯体である。もちろん、第3から第6の態様の応用は、同様な方法で、第7の態様のPt(II)錯体に適用される。
【0131】
以下の非限定的な図面および実施例を参照して、本発明を以下にさらに説明する。これらに照らして、本発明の他の実施形態が当業者には思い浮かぶであろう。
【実施例】
【0132】
比較例1
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(70mL)に添加し、次に、EtOH(15mL)中のサリチルアルデヒド(2.45mL、2.8g、22.8mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物を添加した。反応混合物を撹拌しながら還流下で1時間加熱した。色が明るいオレンジから赤に変化した。
【0133】
次いで、溶液を自然に室温まで冷却させた。オレンジ色の油がオレンジ色の水層から分離した。少量のオレンジ色の沈殿物が表面に観察された。沈殿物を回収し、生成物を有機層と水層から分離した。沈殿物は、NMR分析により有機材料を含まないことが判明し、おそらく未反応のNaPtClであった。有機層と水層中の生成物をIRで分析したが、所望の生成物が含まれていないことが判明した。
【0134】
比較例2
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(70mL)に添加し、次に、EtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(2.45mL、2.8g、22.8mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物を添加して、少量の白っぽい油を含む明るいオレンジ色の溶液を得た。反応混合物を100℃で5時間、還流下で加熱した後、室温まで冷却した。白金黒への完全な還元が生じ、反応は断念された。
【0135】
比較例3
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(50mL)に添加し、次に、EtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(2.45mL、2.8g、22.8mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物を添加した。反応混合物を撹拌しながら90℃で16時間加熱した。白金は白金黒に完全に還元され、反応は断念された。
【0136】
比較例4
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液をEtOH(50mL)中のサリチルアルデヒド(0.925mL、1.06g、8.68mmol)とNaHCO(1.09g、13.02mmol)の混合物に添加した。反応混合物を撹拌しながら80℃に加熱した。30分後、色はオレンジ色のままであったが、1時間後に白金黒への完全な還元が起こり、反応は断念された。
【0137】
比較例5
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液をEtOH(50mL)中のサリチルアルデヒド(0.925mL、1.06g、8.68mmol)とNaHCO(1.09g、13.02mmol)の混合物に添加した。反応混合物を室温で2日間撹拌した。次いで、反応混合物を濾過し、明るいオレンジ色の溶液から白色沈殿物を除去した。明るいオレンジ色の溶液から溶媒を蒸発させた後、少量の茶色の溶液と明るいオレンジ色の溶液の2つの成分に分離した。
【0138】
明るいオレンジ色の溶液は水と混和性であり、未反応のHPtClであると推測された。
【0139】
茶色の溶液からオレンジ色の油が得られ、それをシロキサンポリマーのゲル化における触媒活性について試験した。触媒活性は観察されなかった。
【0140】
比較例6
硝酸Pt(IV)(2.624g、2.17mmol)の16.13重量%水溶液を脱イオン水(50mL)に添加し、次に、EtOH(15mL)中のサリチルアルデヒド(2.45mL、2.8g、22.8mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物を添加した。反応混合物から気体が発生し、オレンジ色の沈殿物が生じた。撹拌を室温で2時間続けた。次に、反応混合物を濾過し、オレンジ色の沈殿物とオレンジ色の溶液を得た。沈殿物を水およびジエチルエーテルで洗浄した。生成物は、トルエン、ジクロロメタン、MIBKまたはアセトンへの溶解性を示さなかった。生成物を触媒活性について試験したが、何も発見されなかった。XPS分析を行ったところ、白金の還元はほとんど起こらず、所望の生成物は形成されていないことが示された。主要な生成物はPtIV(HCOのようであった。
【0141】
比較例7
塩基(NaHCO)を添加しなかったことを除き、比較例6と同様にして反応を実施した。生成物の特性は、比較例6と同じであった。
【0142】
比較例8
ヘキサヒドロキシ白金酸、HPt(OH)(0.661g、2.17mmol)を脱イオン水(50mL)中で撹拌した。次に、EtOH(15mL)中のサリチルアルデヒド(2.45mL、2.8g、22.8mmol)の混合物をこれに添加した。HPt(OH)出発物質は水に溶けず、淡黄色/白色の懸濁液を形成した。サリチルアルデヒドの添加による変化は生じなかった。NaHCO(0.765g、9.12mmol)を反応混合物に添加したところ、黄色に変わったが、まだ青白い沈殿物を含んでいた。混合物を103℃で30分間加熱した。白金が完全に暗褐色/黒色の沈殿に還元され、反応は断念された。
【0143】
比較例9
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。反応混合物を室温で24時間撹拌した。10mLの水中の37%ホルムアルデヒド水溶液(0.323mL、0.352g、4.34mmol)を反応混合物に添加した。反応混合物を撹拌しながら93℃で5時間加熱した。色が徐々に黄色から赤/オレンジに変化したが、その後、白金がPt(0)に完全に還元された。反応は断念された。
【0144】
比較例10
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。反応混合物を室温で24時間撹拌した。シュウ酸二水和物(0.137g、1.09mmol)を反応混合物に添加し、混合物を93℃に加熱し、6時間撹拌した。色が徐々に黄色からオレンジ、赤へと変化したが、沈殿物は形成されなかった。混合物を室温で3日間放置し、その後、非常に少量のオレンジ色の沈殿物が形成されたように見えた。混合物を再び加熱すると黒くなった。反応は断念された。
【0145】
比較例11
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。撹拌を室温で一晩続けた。
【0146】
EtOH(20mL)中の2−ヒドロキシベンジルアルコール(0.269g、2.17mmol)を添加し、反応混合物を73℃に加熱した。1.5時間後、反応混合物が黄色から濃いオレンジ色に変化したが、沈殿物は生じていなかった。反応は断念された。
【0147】
実施例1
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。
【0148】
EtOH(20mL)中のサリチルアルデヒド(2mL、2.28g、18.62mmol)を添加し、反応混合物を93℃に加熱し、その温度で5時間保持した。次いで、反応混合物を室温まで自然に冷却し、オレンジ色の沈殿物が形成されたことが観察された。沈殿物を濾過により回収したところ、黄色の濾液が残った。
【0149】
収量は57mgの生成物(6%)であった。
【0150】
生成物についてIRおよびXPSスペクトルを取得し、以下の式Aに従う所望の生成物であることが確認された。IRおよびXPSスペクトルをそれぞれ図1および2に示す。
【0151】
XPSの結果に基づき、元素分析は次のように推定された:
【0152】
炭素1sシグナルは2つの主要シグナルを含み、主要シグナルは285eVに現れ(結合エネルギースケール補正に使用)、アルキル官能基に割り当てられる。約291eVの付随的な特徴は芳香族を示す。約287eVのピークは、炭素−酸素官能基によるものである。
【0153】
XPSは、Pt(II)への還元が生じたことを示している。残留するClとNaは非常に少量である。Ptに対する炭素と酸素の比率は、予想されるよりもわずかに高く、いくらかの残留HCOの存在を示唆している。
【0154】
Exeter Analytical Inc.のCEE−440元素分析装置を使用してCHN元素分析も実施した。
【0155】
Pt元素分析は、ICPを使用して実施した。マイクロ波分解は、石英容器に入れた10mL逆王水中で実施した。溶液は、内部標準としてイットリウムを添加した100mLのメスフラスコ中で作成された。試料はAgilent ICP−OES 5110 SVDV機器で分析した。
【0156】
結果を以下に示す:
【0157】
C:Hの比は1.4:1であり、これは、単一の脱プロトン化がされたサリチルアルデヒド配位子で予想される通りである。CHN分析は、Ptあたり2つの脱プロトン化サリチルアルデヒド配位子について予想されるものと一致する。
【0158】
実施例2
サリチルアルデヒドの添加後、混合物を73℃のより低い温度でより長い時間(一晩)加熱した点を除き、実施例1の反応を繰り返した。いくらかのオレンジ色の沈殿物が形成され、濾過により回収された。
【0159】
生成物の収量は70mg(7.4%)であった。
【0160】
実施例3
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。
【0161】
EtOH(20mL)を添加し、反応混合物を83℃に加熱し、その温度で6時間保持した。次いで、混合物を室温まで冷却させ、室温で一晩撹拌した。色がオレンジ色に変わり、非常に少量の沈殿物が生じた。
【0162】
脱イオン水(10mL)中のサリチルアルデヒド(1mL、9.3mmol)およびNaHCO(0.78g、9.28mmol)を還元された反応混合物に添加し、温度を再び83℃に上げ、その温度で保持した。1時間後、生成物が沈殿し始めた。2時間後、この生成物を濾過により回収した。
【0163】
生成物の収量は0.305g(32.1%)であった。
【0164】
実施例3の収率を実施例1および2の収率と比較すると、エタノールを用いて中間還元工程を実施し、続いて、サリチルアルデヒドをさらに添加する別個の後続工程を実施すると、より高い収率で生成物の形成が推進されることがわかる。
【0165】
実施例4
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中の過剰なサリチルアルデヒド(1mL、9.3mmol)とNaHCO(0.78g、9.28mmol)の混合物に添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。
【0166】
EtOH(20mL)を添加し、反応混合物を83℃に加熱した。3時間後、反応混合物が明るいオレンジ色に変化したが、沈殿の兆候はなかった。pHが試験され、約7であることが判明した。
【0167】
脱イオン水(10mL)中のサリチルアルデヒド(1mL、9.3mmol)およびNaHCO(0.78g、9.28mmol)を反応混合物に添加し、温度を再び83℃に上げ、その温度で保持した。2時間後、少量の生成物が沈殿し始めた。反応混合物を室温で一晩撹拌したところ、より多くの沈殿物が生じた。温度を4時間で再び83℃に上げ、その後室温まで冷却し、541濾紙で濾過して沈殿物を回収した。
【0168】
生成物の収量は0.406g(42.8%)であった。
【0169】
還元工程でエタノールのみを使用し、その後の工程で過剰なサリチルアルデヒドを添加すると、はるかに高い収率で生成物の形成が推進される。HPtClとの初期反応における大過剰のサリチルアルデヒドの使用もまた、生成物の収率の向上に寄与するようである。
【0170】
実施例5
この実施例では、実施例4の合成方法を2倍の規模で実施して、より大量の生成物を生成し、方法のスケーラビリティを試験した。
【0171】
PtCl(3.38g、4.34mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(200mL)およびEtOH(20mL)中のサリチルアルデヒド(2mL、18.6mmol)とNaHCO(1.56g、18.6mmol)の混合物に添加した。撹拌を室温で一晩続けた。
【0172】
EtOH(40mL)を添加し、反応混合物を83℃で4時間加熱した。
【0173】
脱イオン水(20mL)中のサリチルアルデヒド(2mL、18.6mmol)およびNaHCO(1.56g、18.6mmol)のさらなる溶液を添加し、加熱をさらに2時間続けた。それから、反応混合物を室温で一晩撹拌した。温度をさらに4時間で再び83℃に上げ、反応混合物を室温まで冷却し、541濾紙を通して生成物を濾過することにより回収した。
【0174】
この段階での生成物(「生成物A」と表示)の収量は0.720gであった。
【0175】
濾液をさらに6時間加熱し、より多くの沈殿物を得て、それを同じ方法で回収した。
【0176】
この段階での生成物(「生成物B」と表示)の収量は0.130gであった。
【0177】
生成物AおよびBの総収量は0.850g(44.8%)であった。
【0178】
生成物の収率に悪影響を与えることなく、プロセスをスケールアップして量を2倍にできることが明らかである。
【0179】
実施例6
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。白金出発物質を添加すると、黄色の反応混合物が、さらに明るい色合いの黄色に変化した。サリチルアルデヒドの不混和性の液滴がいくつかまだ存在するように見えたが、沈殿物は生じなかった。
【0180】
次に、EtOH(10mL)を添加した。撹拌を室温で一晩続けた。
【0181】
一晩撹拌した後、白金の加水分解の証拠はなく、色は黄色のままであった。
【0182】
EtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(1mL、1.14g、9.31mmol)を55mLの反応混合物に添加し、反応混合物を5時間、還流下で加熱し、その後、冷却させて、室温で一晩撹拌した。黄色はより濃いオレンジ色になり、赤/オレンジ色の油が溶液から分離された。油はジクロロメタンに可溶性であった。これを60mL使用して、残りの明るいオレンジ色の水層からそれを分離した。有機層を蒸発させると、沈殿物が残った(「生成物6A」)。
【0183】
収率は35%であった。
【0184】
沈殿物は2つの成分、オレンジ色の粉末と茶色の粉末から構成されているように見えた。茶色の粉末は、水と接触したときの加水分解により、または濃縮された場合、多核種の形成から形成される可能性がある。
【0185】
実施例7
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびイソプロパノール(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。撹拌を室温で一晩続けた。
【0186】
イソプロパノール(20mL)を添加し、反応混合物を83℃で4時間加熱した。
【0187】
脱イオン水(10mL)中のサリチルアルデヒド(1mL、9.3mmol)およびNaHCO(0.78g、9.28mmol)の溶液をさらに添加し、さらに3時間加熱を続けた。この間に沈殿物は生じなかったが、室温で一晩放置した後、83℃でさらに6時間加熱を継続し、その後、反応混合物を室温まで冷却し、541濾紙を通した濾過によりオレンジ色の沈殿物を回収した。さらに脱イオン水で洗浄し、40℃の真空オーブンで一晩乾燥させた。
【0188】
収量は0.283g(29.8%)であった。
【0189】
これは、イソプロパノールが、それ以上のワークアップを必要とすることなく、エタノールの代替として還元剤として同等に有用であることを示している。
【0190】
実施例8
この実施例は、反応の第2工程で添加されるサリチルアルデヒドの量を変えることの影響を調査するために実施した。
【0191】
方法A−サリチルアルデヒドの追加なし
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。撹拌を室温で15分間続けた。
【0192】
EtOH(20mL)を添加し、反応混合物を83℃で4時間加熱した。
【0193】
この時点で反応混合物への添加は行わず、加熱をさらに3時間続けた。室温で一晩加熱した後、沈殿物の兆候は見られなかった。基準としてさらに5時間、83℃で加熱を続けた。反応混合物は黒色に変わり、これはPt(0)への完全な還元が起こったことを示している。
【0194】
方法B−さらに0.5mLのサリチルアルデヒドを添加
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。撹拌を室温で15分間続けた。
【0195】
EtOH(20mL)を添加し、反応混合物を83℃で4時間加熱した。
【0196】
NaHCO(0.39g、4.64mmol)を含む脱イオン水(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.5mL、4.65mmol)を還元された反応混合物に添加し、加熱をさらに3時間続けた。室温で一晩放置した後、83℃でさらに5時間加熱を継続し、その後、反応混合物を室温まで冷却し、541濾紙を通した濾過によりオレンジ色の沈殿物を回収した。さらに脱イオン水で洗浄し、40℃の真空オーブンで一晩乾燥させた。
【0197】
収量は0.276g(29.1%)であった。
【0198】
方法C−さらに2mLのサリチルアルデヒドを添加
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。撹拌を室温で15分間続けた。
【0199】
EtOH(20mL)を添加し、反応混合物を83℃で4時間加熱した。
【0200】
NaHCO(1.56g、18.56mmol)を含む脱イオン水(20mL)中のサリチルアルデヒド(2mL、18.6mmol)を還元された反応混合物に添加し、加熱をさらに3時間続けた。室温で一晩放置した後、83℃でさらに5時間加熱を続け、その後、反応混合物を室温まで冷却させた。
【0201】
収量は0.342g(36%)であった。
【0202】
実施例9
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(10mL)中のサリチルアルデヒド(0.49mL、0.56g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。撹拌を室温で60時間続け、黄色の溶液を得た。この時点で、TLC分析のために試料を採取した。
【0203】
EtOH(20mL)中の過剰のサリチルアルデヒド(2mL、2.28g、18.62mmol)を添加し、反応混合物を73℃で一晩加熱した。反応混合物は黄色からオレンジ色に変化し、オレンジ色の沈殿物が形成された。また、濾過による沈殿物の回収をより困難にする油性のオレンジがかった黄色の物質があるようにも見えた。そのため、MeOHで洗浄したが、生成物はごくわずかしか溶解しないようであった。MeOH洗浄液からは、さらなる物質は回収されなかった。
【0204】
収量は83mg(8.75%)であった。
【0205】
TLC分析
第1の室温工程後の反応混合物、CPA、サリチルアルデヒド(EtOH中)およびサリチルアルデヒドのナトリウム塩(EtOH中)に対してTLCを実施した。80:20のDCM:ペンタンの移動相でシリカTLCプレートを使用した。
【0206】
CPA:R=0
サリチルアルデヒド:R=0.85
サリチルアルデヒド+NaHCO3:R=0.85
加熱前の新鮮な反応混合物:R=0;R=0.65
第1の工程後の反応混合物:R=0;R=0.65
【0207】
TLCは、第1の工程を延長することで、その工程がどれだけ完了に近いかに違いが生じることを示唆していないが、しかしながら、第2の工程における反応混合物の還元の容易さは、種形成に違いがあることを示唆している;TLCにおいては見られないが存在する2つのスポットの比率に違いがある可能性がある。
【0208】
実施例10
PtCl(1.69g、2.17mmol)の25重量%水溶液を脱イオン水(100mL)およびEtOH(20mL)中の2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド(0.785g、4.56mmol)とNaHCO(0.765g、9.12mmol)の混合物に添加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。
【0209】
EtOH(10mL)を添加し、反応混合物を83℃に加熱し、その温度で6時間保持した。次いで、混合物を室温まで冷却させ、室温で一晩撹拌した。オレンジ/赤色の沈殿物が観察された。
【0210】
2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド(1.6g、9.3mmol)、EtOH(20mL)およびNaHCO(0.78g、9.28mmol)を還元された反応混合物に添加し、温度を再び83℃に上げ、その温度に5時間保った。反応混合物を室温まで冷却すると、さらなる沈殿が生じた。これを濾過により回収した。
【0211】
沈殿物は、それぞれ所望の生成物と未反応の2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒドである赤とオレンジの種の混合物を含むことが観察された。生成物を脱イオン水およびジエチルエーテルで洗浄して、過剰の配位子を除去した。
【0212】
収量は324mg(27.8%)であった。
【0213】
結晶成長
実施例11
実施例3の生成物の結晶を分析のために単結晶として成長させた。
【0214】
試験に適した結晶を供給するために、以下のさまざまな方法を試みた。
【0215】
1.アセトン/水培地中での成長。これは2つの溶媒の混合と、明るいオレンジ色の生成物の迅速な沈殿をもたらした。
【0216】
2.DCM/ヘキサン中での成長。これは2つの異なる層を形成し、界面でのゆっくりとした混合が生じた。1週間放置した後、上層においてガラス容器に非常に小さな結晶がいくらか沈着しているのが見出されたが、大部分はフラスコの底に堆積しており、より茶色がかった色になったように見える。生成物はジクロロメタン中において完全には安定でないと考えられる。
【0217】
3.クロロホルム/ヘキサン中での成長。これは2つの異なる層を形成し、界面でのゆっくりとした混合が生じた。わずかにより大きな結晶が形成されたが、まだ小さすぎる。生成物が茶色になるまでに、より長く時間がかかった。
【0218】
4.クロロホルム中での成長:生成物を加熱しながらクロロホルムに溶解させ、冷凍庫に保管する前に直ちに濾過した。針のような結晶が形成された
【0219】
5.冷凍庫内におけるクロロホルム/ヘキサン中の成長。針のような結晶が形成された
【0220】
結晶構造が決定され、図3に示されている。空間群P−1の三斜晶系である。結果は、生成物が酸素原子を介して中央のPt原子に配位した2つの二座サリチルアルデヒド配位子の予想される構造を有していることを示している。
【0221】
IRおよびNMR
実施例12
実施例2の生成物について、NMR分光法をCDCl中で実施した。195Ptスペクトルを図13に示す。4371ppmに単一のピークがある。これは単一のPt種が存在することを示している。それは4つの配位酸素を有するPt(II)を表すピークが生じると予想される領域にあり、出発物質(または変形体)の兆候はない。
【0222】
H NMRスペクトル(図10および11に示されている)および13Cスペクトル(図12に示されている)も収集した。
【0223】
UV/可視分光法
実施例13
実施例3で作成した錯体のトルエン中でのUV/Visスペクトルが収集され、図4に示されている。スペクトルは468nm、349nm、283nmの3つの主要なピークを示している。530nmより上では、吸光度は見られなかった。
【0224】
また、他のさまざまな溶媒中の錯体についてもUV/Visスペクトルを収集し、Pt(acac)の結果と比較した。結果が図5に示されている。
【0225】
蛍光
実施例14
Cary Eclipse分光計で蛍光測定を実施した。
【0226】
5つの異なる試料を調査した:
1.ビニル末端ポリジメチルシロキサン100 cSt
2.アセトン中の1mg/mLのPt錯体(実施例1の生成物)(注:飽和溶液、いくぶん沈殿しやすい)
3.ビニル末端ポリジメチルシロキサン中の1mg/mLのPt錯体(実施例1の生成物)(注:溶解性が乏しく、溶液が非常に濁っており、沈殿しやすい)。
4.アセトン中の1mg/mLのPt(acac)(注:完全に溶解性)
5.ビニル末端ポリジメチルシロキサン中の1mg/mLのPt(acac)(注:溶解性が乏しく、溶液が濁っており、沈殿しやすい)。
【0227】
結果が図6〜8に示されている。
【0228】
図6は、シロキサン自体がいくらかの蛍光を示すことを示している。発光波長を300nmの励起でスキャンし、380nmで268の最大発光強度を示した。次に、発光を380nmに保持して励起をスキャンし、316nmで329の最大強度を示した。
【0229】
図7は、Pt(II)錯体が蛍光性であることを示している。励起波長190nmのアセトンでは、540nmに784の強度の鋭い発光ピークがある。540nmで発光を保持し、励起をスキャンすると、190nmにピークが得られる(この波長より下ではスキャンを実施しなかった)。
【0230】
図7は、Pt(II)錯体の発光スペクトルがシロキサン中では異なることも示している。190nmで励起した場合、540nmに742の強度の発光ピークがまだあるが、しかしながら、491nm(強度407)および420nm(強度385)のより低い波長にも発光ピークがある。これらはシロキサンとの相互作用によるものであり得る。(シロキサンのみの試料のように)300nmで励起すると、弱い発光のみが記録される(強度は330〜380nmで約50);これは、シロキサンのみの試料で記録される380nmのピークよりもはるかに弱い。(シロキサンのみの試料のように)発光を380nmに保持すると、励起は190nmと295nm(シロキサンに予想されるよりも低い波長)にピークを示し、ここでも錯体と溶媒間の相互作用がほのめかされる。
【0231】
図8は、アセトン中のPt(acac)については、190nmで励起すると、発光スペクトルが489nmに強度217のピークを示すことを示している。これは、本発明の錯体のピークほどシャープではなく、強度もそれほど高くない。488nmで発光を保持すると、Pt(sal)錯体と同様に190nmに励起ピークが得られる。
【0232】
図8は、シロキサン中のPt(acac)については、190nmの励起により、704のより高い強度の主要なピークが490nmに再び生じることも示している。しかしながら、発光スペクトルは強度541の419nmのピークも示し、これは、この溶媒中のPt(sal)2錯体でも同様である。発光を405nmに保持した場合、励起は328nmにピークを示すが、しかしながら、250nmより下では記録が取られていないため、190nmのピークは観察されていない。328nmでの励起では、370〜410nmの間に約210の強度の幅広い発光ピークが観察される。
【0233】
溶解性
実施例15
実施例3の生成物の溶解度をさまざまな溶媒において試験した。
【0234】
いずれの場合も、10mgの錯体を1mLの各溶媒中、室温で3時間撹拌した。それから、溶媒を濾過した。次に、メトキシプロパノール中への試料の100倍希釈を実施し、Pt含有量をSpectro Ciros Vision ICP−OESを使用してICP−AESにより測定した。イットリウムを5ppmの濃度で内部標準として使用した。
【0235】
結果を以下に示す。
【0236】
触媒試験
実施例16
実施例3の生成物を触媒活性について試験した。
【0237】
5mgの生成物を1mLのジクロロメタンに溶解して、溶液(「溶液A」)を得た。
【0238】
以下の成分をUVグレードのプラスチックキュベットに添加した:
・ビニル末端ポリジメチルシロキサン100 cSt DMS V21(2g);
・(45〜55%メチルヒドロシロキサン)ジメチルシロキサン共重合体10−15 cSt HMS−501(0.108mL);
・溶液A(25μL)。
【0239】
確実に完全に混合させるため、キュベットの内容物をスパチュラで短時間撹拌し、10mmのマグネチックスターラーを入れた後に、パラフィルムで密封した。
【0240】
キュベットをUVランプボックスに入れた。ボックス内の試料の位置は、試験全体を通して同じに保った(地面からキュベットの上部まで154mm;ハウジングの端とキュベットの前面の間が114mm)。
【0241】
300Wのオゾンフリーキセノンランプを使用した(300nmまで可視)。水冷フィルターは、可視スペクトルの一部を除去する。
【0242】
スターラーの速度を12時の位置に設定し、ランプを60秒間だけオンにした。ランプのスイッチを入れてからスターラーが回転を完了できなくなるまでにかかった時間を活性の尺度として記録した。
【0243】
結果を以下の表に示す。「照射」は、60秒間のUV照射に曝露した試料を示す。「暗」は、試料に照射せず暗所中に放置したことを示す。
【0244】
実施例3の触媒を含む組成物は、UV光に曝露すると非常に迅速に硬化し、暗所に保った場合には非常に長期間後にのみゲル化を示したことがわかる。
【0245】
実施例17
実施例7の生成物および実施例6からの生成物6Aを、最初の工程において11mgの生成物を1mLのジクロロメタンに溶解したことを除き、実施例16と同様な方法で触媒活性について試験した。試験の他の態様は全て、実施例16と同じであった。結果は、60秒のUV照射後のゲル化時間を反映している。
【0246】
結果は以下の通りであった:
【0247】
実施例18
この実施例では、実施例3で作製された本発明のPt(II)錯体の触媒活性を、周知の錯体Pt(acac)のものと比較する。
【0248】
試験は、最初の工程で以下の4つの溶液を調製したことを除き、実施例16のようにして行った:
【0249】
以下の表に示すように、異なる量のそれぞれの溶液をキュベットに添加したが、試験の他の態様は全て実施例16と同じであった。結果も以下の表に示す。
【0250】
結果は、本発明の錯体がPt(acac)よりもはるかに触媒的に活性であることを示している。この効果は、DCMよりもトルエン溶媒で顕著である。
【0251】
実施例19
実施例10の生成物を、最初の工程において14mgの生成物を1mLのジクロロメタンに溶解したことを除き、実施例16と同様な方法で触媒活性について試験した。試験の他の態様は全て、実施例16と同じであった。結果は、60秒のUV照射後のゲル化時間を反映している。ゲル化までの時間は23分15秒であった。
【0252】
熱安定性
実施例20
実施例3の生成物の熱重量分析を実施し、結果を図9に示す。結果は、生成物が200℃(これはサリチルアルデヒドの沸点である)まで安定であることを示している。この温度を超えると、配位子が失われ、白金金属が残る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】