(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液に、ヒト神経細胞又はグリア細胞により生産された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を送達するための組成物及び方法を記載する。
ポリアクリルアミドゲル電気泳動により約90kDaと測定され、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、請求項1記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
前記ヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌するように遺伝子操作された中枢神経系内の細胞のデポーから分泌される、請求項1〜3のいずれか一項記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
前記グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、請求項1〜6のいずれか一項記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
前記グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により約90kDaと測定され、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、請求項8記載の方法。
前記グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、該グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体を分泌するように遺伝子操作された中枢神経系内の細胞のデポーから分泌される、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
前記ヒト対象のCSFへ、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果デポーが、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により約90kDaと測定され、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するヒト中枢神経系内に形成されることを含む、MPS IIと診断されたヒト対象の治療方法。
前記グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、細胞培養中の該組換えヌクレオチド発現ベクターによるヒト神経細胞株の形質導入により確認される、請求項16記載の方法。
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト神経細胞におけるグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御する神経細胞-特異的プロモーター、又はヒトグリア細胞におけるグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御するグリア細胞-特異的プロモーターを含む、請求項15〜19のいずれか一項記載の方法。
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞におけるグリコシル化されたヒトIDS前駆体の適切な翻訳中(co-translational)及び翻訳後プロセシングを確実にするリーダーペプチドをコードしている、請求項15〜20のいずれか一項記載の方法。
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、髄腔内、脳室内、腰椎穿刺又は鼻腔内投与により、ヒト対象のCSFへ送達される、請求項15〜24のいずれか一項記載の方法。
【発明の概要】
【0011】
(3. 発明の概要)
本発明は、ハンター症候群と診断された患者を含むが、これに限定されないムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞又はグリア細胞により生産された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(rhIDS)を送達することに関する。
【0012】
好ましい実施態様において、治療は遺伝子治療を介して―例えば、ヒトIDS(hIDS)又はhIDSの誘導体をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを、MPS IIと診断された患者(ヒト対象)のCSFに投与して、絶えず導入遺伝子産物をCNSに供給する形質導入された神経細胞及び/又はグリア細胞の永続的なデポーを作製することにより―達成される。神経細胞/グリア細胞デポーからCSFに分泌されるrhIDSは、CNS中の細胞によってエンドサイトーシスされて、レシピエント細胞における酵素欠損を「横断修正(cross-correction)」する。更に予想外に、CNS中の形質導入された神経細胞及びグリア細胞のデポーは、この組換え酵素を、CNSと全身の両方に送達することができ、このことは、例えばこの酵素の週1回の静脈内注射など、全身治療の必要性を低下又は排除することができることがわかった。
【0013】
代替の実施態様において、hIDSを細胞培養(例えば、バイオリアクター)でヒト神経細胞又はグリア細胞により生産して、酵素補充療法(「ERT」)として、例えば酵素を−CSFへ、CNSへ直接、及び/又は全身的に注入することにより投与することができる。しかしながら、遺伝子治療アプローチは、ERTを上回るいくつかの利点を提供する―酵素は血液脳関門を通過することができないため、酵素の全身送達によってはCNSは治療されず;かつ本発明の遺伝子治療アプローチとは異なり、CSF及び/又はCNSへの酵素の直接の送達には、大きな負担となるだけでなく感染のリスクを生む反復注入が必要となるであろう。
【0014】
導入遺伝子によってコードされるhIDSは、これらに限定はされないが、配列番号:1のアミノ酸配列を有するヒトIDS(hIDS)(
図1に示す)、並びにアミノ酸の置換、欠失、又は付加を有するhIDSの誘導体、例えばこれらに限定はされないが、
図2に示すIDSのオルソログ中の対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含むhIDSの誘導体であって、ただし、そのような突然変異が、酵素活性に必要とされる位置84のシステイン残基(C84)の交換を含まないことを条件とするもの(Millatらの文献、1997, Biochem J 326: 243-247);又は、例えば、
図3に示すか、もしくはその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているSukegawa-Hayasakaらの文献、2006、J Inhert Metab Dis 29: 755-761(「減弱型」突然変異体R48P、A85T、W337R、及び切断型突然変異体Q531X;並びに「重度」突然変異体P86L、S333L、S349I、R468Q、R468Lを報告している);Millatらの文献、1998、BBA 1406: 214-218(「減弱型」突然変異体P480L及びP480Q;並びに、「重度」突然変異体P86Lを報告している);並びに、Bonucelliらの文献、2001、BBA 1537:233-238によって報告された、重度、重度−中等度、中等度、又は減弱型MPS II表現形において同定された突然変異を含む。
【0015】
例えば、hIDSの特定位置でのアミノ酸置換は、
図2においてアラインされたIDSオルソログにおけるその位置に見出される対応する非保存的アミノ酸残基であって、ただしそのような置換が、
図3に示されるか、もしくはその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているSukegawa-Hayasakaらの文献、2006、前掲;Millatらの文献、1998、前掲;又は、Bonucelliらの文献、2001、前掲により報告された欠失突然変異を含まないことを条件とするものから選択することができる。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養又は試験動物で、突然変異がIDS機能を損なわないことを保証するためのインビトロでの従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、欠失又は付加は、細胞培養又はMPS II動物モデルにおけるインビトロでの従来のアッセイによって試験されるIDSの酵素活性、安定性、又は半減期を維持するか、又は増加させるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は、基質として4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロン酸 2-スルフェート又は4-メチルウンベリフェリルスルフェートを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDS酵素アッセイについては、例えばその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Leeらの文献、2015, Clin. Biochem. 48(18):1350-1353、Deanらの文献、2006, Clin. Chem. 52(4):643-649を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS II表現形を修正する能力は;例えば、培養中でMPS II細胞に、hIDS又は誘導体をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより;培養中のMPS II細胞に、この導入遺伝子産物又は誘導体を加えることにより;あるいは、MPS II細胞を、rhIDS又は誘導体を発現及び分泌するように操作したヒト神経/グリア宿主細胞と共培養して、MPS II培養細胞の欠損の修正を決定することにより、例えば培養中のMPS II細胞におけるIDS酵素活性及び/又はGAG貯蔵量の低下を検出することにより:細胞培養中で評価することができる(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Stroncekらの文献、1999, Transfusion 39(4):343-350を参照されたい)。
【0016】
本明細書記載の治療薬を評価するために使用することができるMPS II動物モデルが、記載されている。例えば、MPS IIのノックアウトマウスモデル(IDS-ノックアウト)は、IDS遺伝子のエキソン4及び5の、ネオマイシン耐性遺伝子による置き換えにより操作された(Garciaらの文献、2007、J Inherit Metab Dis 30: 924-34)。このIDS-ノックアウトマウスは、骨格異常、肝脾腫、上昇した尿及び組織GAG、並びに脳貯蔵病変を含む、多くのMPS IIの特徴を発揮し(Muenzerらの文献、2001、Acta Paediatr Suppl 91:98-99)、かつERTに関する臨床試験を支援する上でMPS IIにおける酵素補充療法の効果を評価するために、使用された。従ってこのマウスモデルは、MPS IIの治療として神経細胞又はグリア細胞により生産されたrIDSを送達する遺伝子治療の効果を試験するための関連モデルである(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Polito及びCosmaの文献、2009、Am. J. Hum. Genet. 85(2):296-301を参照されたい)。
【0017】
好ましくは、ヒト神経細胞/グリア細胞により生産されるhIDS導入遺伝子は、神経細胞及び/又はグリア細胞において機能する発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサー)によって制御されるべきであり、かつベクターによって駆動される導入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができる。hIDS導入遺伝子のためのcDNAコンストラクトには、形質導入されたCNS細胞による適切な翻訳中(co-translational)及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞によって使用されるそのようなシグナルペプチドには:
・希突起膠細胞-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
【化1】
・E1A刺激を受けた遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
【化2】
・V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:
【化3】
・プロトカドヘリンα-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
【化4】
・FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
【化5】
・インターロイキン-2シグナルペプチド:
【化6】
があり得るが、これらに限定されない。シグナルペプチドは本明細書において、リーダー配列又はリーダーペプチドとも呼ぶことができる。
【0018】
導入遺伝子を送達するために使用される組換えベクターは、神経細胞及び/又はグリア細胞を含むがこれらに限定される、CNSの細胞への向性を有するべきである。そのようなベクターは、非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特にAAV9又はAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,906,111号においてWilsonによって記載されたものを含むが、これらに限定されないAAVバリアントキャプシド、特に好ましくはAAV/hu.31、及びAAV/hu.32を有するキャプシド;並びにその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,628,966号、米国特許第8,927,514号においてChatterjeeにより、及びSmithらの文献、2014、Mol Ther 22:1625-1634において記載された、AAVバリアントキャプシドを、使用することができる。しかしながら、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又は「ネイキッドDNA」コンストラクトと呼ばれる非ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに限定されない、他のウイルスベクターを使用することができる。
【0019】
一実施態様において、コンストラクト1は、導入遺伝子を送達するために使用することができる。コンストラクト1は、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシドであり、ここで発現は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー及びニワトリβ-アクチンプロモーターのハイブリッド(CB7)により駆動され、ここでIDS発現カセットは、逆位末端反復配列(ITR)により隣接され、導入遺伝子は、ニワトリβ-アクチンイントロン及びウサギβグロビンポリアデニル化(polyA)シグナルを含む。
【0020】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む製剤化緩衝液中のrhIDSベクターの懸濁液を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、髄腔内投与に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、槽内投与(大槽への注入)に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、C1-2穿刺を介するクモ膜下空間への注入に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、脳室内投与に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、腰椎穿刺を介する投与に好適である。
【0021】
組換えベクターの治療有効用量は、髄腔内投与を介して(すなわち、クモ膜下空間に注入して、組換えベクターがCSFを通じて分布され、CNSの細胞が形質導入されるようにする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法で―例えば、頭蓋内(大槽又は脳室)注入、又は腰椎槽への注入によって―達成することができる。例えば、槽内(IC)(大槽への)注入は、CTによって導かれる後頭下穿刺によって実施することができ;又は、患者に実行できそうな場合は、C1-2穿刺を介したクモ膜下空間への注入を実施することができ;又は、腰椎穿刺(典型的にCSFの試料を収集するために実施される診断手順)を、CSFにアクセスするために使用することができる。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない、抗感染症薬又は抗癌剤の導入に使用されるより侵襲的な技術)を使用して、組換えベクターを直接脳室内に点滴することができる。あるいは、鼻腔内投与を使用して、CNSに組換えベクターを送達してもよい。
【0022】
CSF濃度は、後頭部又は腰椎穿刺から得られるCSF流体中のrhIDSの濃度を直接測定することによってモニタリングするか、又は患者の血清において検出されたrhIDSの濃度からの外挿によって推定することができる。
【0023】
背景として、ヒトIDSは、550アミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、
図1において表される8つの可能性のあるN-グリコシル化部位(N
31、N
115、N
144、N
246、N
280、N
325、N
513及びN
537)を含み、かつプロセシング時に切断される25のアミノ酸シグナル配列を含む。最初の76kDaの細胞内前駆体は、ゴルジ装置中のそのオリゴ糖鎖の修飾後に、リン酸化された90kDa前駆体へ転換される。この前駆体は、様々な細胞内中間体を通じて、グリコシル化修飾及びタンパク質分解性切断により、主要な55kDa形態へ、プロセッシングされる。まとめると、25のアミノ酸シグナル配列の除去後、タンパク質分解性プロセシングは、8つのアミノ酸(残基26-33)のプロペプチドを取り除く、N
31の下流のN-末端のタンパク質分解性切断、及び18kDaポリペプチドを放出するN
513の上流のC-末端タンパク質分解性切断に関与し、かつ62kDa中間体を作製し、これは55kDa成熟形に転換される。更なるタンパク質分解性切断は、リソソームコンパートメントに配置される45kDa成熟形を生じる。(その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Millatらの文献、1997、Exp Cell Res 230: 362-367(“Millat 1997”);Millatらの文献、1997、Biochem J. 326: 243-247(“Millat 1997a”);及び、Froissartらの文献、1995、Biochem J. 309:425-430から作製された略図に関しては、
図4を参照されたい)。
【0024】
C
84(
図1において太字で示している)のホルミルグリシン修飾は、おそらくほとんどは小胞体において、早期の翻訳後又は翻訳中の事象として起こる可能性のある酵素活性に必要とされる。(Schmidtらの文献、1995、Cell 82: 271-278を引用している、Millatの文献、1997aを参照されたい)。翻訳後プロセシングは、ゴルジにおいて続き、複合シアル酸-含有グリカンの付加、及びリソソームコンパートメントへの送達のための酵素をタグ付けするマンノース-6-リン酸残基の獲得を含む。(簡潔な総説について、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Clarkeの文献、2008、Expert Opin Pharmacother 9: 311-317を参照されたい)。単独のグリコシル化部位は、IDS安定性について必須でないが、位置N
280でのグリコシル化は、細胞のインターナリゼーション及びマンノース-6-リン酸(M6P)受容体を介したリソソーム標的化にとって重要である。(Chungらの文献、2014、Glycoconj J 31:309-315の310頁第1段)。正常な生理的状態において、IDSは、非常に低いレベルで生成され、もしあるとしても、非常に少ない酵素が細胞から分泌される。(Clarkeの文献、2008、前掲)。
【0025】
本発明は部分的に、以下の原理に基づく:
(i)CNSの神経細胞及びグリア細胞は、CNSにおける頑強なプロセスであるグリコシル化、マンノース-6-リン酸化及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である。ヒトCNS細胞が行う翻訳後修飾についての、その各々の全体が参照により組み込まれている、例えばヒト脳マンノース-6-リン酸(M6P)グリコプロテオームについて記載し、脳が他の組織に見出されるよりはるかに多くの個々のアイソフォームを有するより多くのタンパク質及びマンノース-6-リン酸化タンパク質を含むことを注記した、Sleatらの文献、2005、Proteomics 5: 1520-1532、及びSleatの文献、1996、J Biol Chem 271:19191-98;並びに、神経細胞によって分泌されたチロシン硫酸化糖タンパク質の生成を報告している、Kananらの文献、2009、Exp. Eye Res. 89: 559-567、並びにKanan及びAl-Ubaidiの文献、2015 Exp. Eye Res. 133: 126-131を参照されたい。
(ii)ヒト脳は、天然/未変性のIDSの複数のアイソフォームを生成する。特に、ヒト脳マンノース-6-リン酸化された糖タンパク質のN-末端配列決定は、hIDSの成熟42kDa鎖のN-末端配列は、脳において変動し、以下のように位置34又は36から始まる:
【化7】
ことを明らかにした。(Sleatの文献、2005、Proteomics 5: 1520-1532、表S2)。8つのN-結合型グリコシル化部位のうちの2つ、すなわちN
280及びN
116は、ヒト脳から得られたIDSにおいてマンノース-6-リン酸化されることがわかった。(Sleatらの文献、2006、Mol & Cell Proeomics 5.4: 686-701、表Vに報告)。
(iii)hIDSのプロセシング時に、76kDa及び90kDaの2つのポリペプチドは、神経細胞及びグリア細胞から分泌されるが、90kDaポリペプチドのみがマンノース-6-リン酸化され、このことは横断修正を達成するために酵素の分泌型に必要である。(Millatの文献、1997(
図1は、形質導入されたリンパ芽球様細胞に関する結果である)、及びFroissartの文献、1995(
図4は、培養培地中、90kDa形態のみリン酸化されるという、形質導入された線維芽細胞に関する類似の結果を示す)を参照されたい)。興味深いことに、神経細胞及びグリア細胞により生成された組換えIDSは、腎臓などの他の細胞により生成された組換えIDSよりも、レシピエントCNS細胞により、より貪欲に(avidly)エンドサイトーシスされることが明らかになった。Danieleの文献、2002(Biochimica et Biophysica Acta 1588(3):203-9)は、M6P-受容体は、形質導入されない神経細胞及びグリア細胞のレシピエント集団による、形質導入された神経細胞及びグリア細胞培養の順化培地由来の組換えIDSのエンドサイトーシスを媒介し、これは恐らくこの前駆体を45kDa成熟活性型へプロセッシングすることを明らかにした。神経細胞株及びグリア細胞株により生成された組換えIDSの取込み(74%エンドサイトーシス)は、腎細胞株により生成された酵素の取込み(5.6%エンドサイトーシス)よりも、はるかに多い。各場合において、取込みは、M6Pにより阻害され、このことは、組換えIDSの取込みは、M6P-受容体により媒介されることを指摘している。(Danieleの文献、2002参照、表2及び4並びに205-206頁の「結果」に付随する説明は、下記表1にまとめている)。
表1. Danieleの文献、2002に報告された結果の要約
【表1】
(iv)本明細書記載の遺伝子治療アプローチは、酵素活性がある、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により約90kDaと測定された(使用されたアッセイによって左右される)、hIDS糖タンパク質前駆体の連続分泌を生じなければならない。第一に、IDS活性に必要であるC
84のホルミルグリシン修飾に寄与する酵素は、FGly-生成酵素(FGE、aka SUMF1)であり、これはヒト脳の大脳皮質において発現される(SUMF1に関する遺伝子発現データは、例えば、http://www.genecards.orgでアクセス可能なGeneCardsで認めることができる)。第二に、インサイチュで形質導入された神経細胞及びグリア細胞により生成された分泌型グリコシル化/リン酸化されたrIDSは、取込まれ、かつCNS中の形質導入されない神経細胞及びグリア細胞により正確にプロセッシングされなければならない。いずれかの理論に結びつけられるものではないが、遺伝子治療によりインサイチュで生成された分泌型rhIDS前駆体は、ERTに使用される従来の組換え酵素よりも、CNSへ投与される場合、CNS中のレシピエント細胞により、より貪欲にエンドサイトーシスされることは、明らかである。例えば、Elaprase(登録商標)(線維肉腫細胞株HT1080で作製)は、精製されたタンパク質であり、分子量約76kDaを有し−より多くリン酸化されるように見える神経細胞及びグリア細胞により分泌される90kDa種ではないことが報告されている。8つのN-結合型グリコシル化部位は、Elaprase(登録商標)で完全に占拠されることが報告されており、かつ2つのビス-マンノース-6-リン酸で終結したグリカン並びに複合の高度にシアル酸付加されたグリカンを含むが、酵素活性に絶対必要であるC
84のFGlyへの翻訳後修飾は、わずかに約50%である。(Clarkeの文献、2008、Expert Opin Pharmacother 9:311-317;「Elaprase(登録商標)完全処方情報及びEMA充填(Elaprase Full Prescribing Information and EMA filing)」)。別の組換え製品であるHunterase(登録商標)は、CHO細胞において作製される。Elaprase(登録商標)よりもより高いFGly及び活性を有することが報告されているが、マンノース-6-リン酸化及び取込みには差がない。(Chungの文献、2014、Glycoconj J 31:309-315)。
(v)インビボにおける細胞外IDS有効性は、M6P及びホルミルグリシン-生成酵素による翻訳後修飾を通じC
84から転換されるその活性部位ホルミルグリシン(FGly)を介した、取込み(細胞及びリソソームインターナリゼーション)によって左右される。先の表1に示したように、脳細胞(神経細胞及びグリア細胞)は、形質導入された神経細胞及びグリア細胞により分泌されるIDS前駆体培地と共にインキュベーションされた場合に、遺伝子操作された腎細胞により分泌されたIDS前駆体培地と共にインキュベーションされるよりも、より高い酵素活性を示す。生じる5倍の活性の増加は、恐らくIDSの効率的取込みに起因し得る。(Danieleの文献、2002、表2及び4参照)。IDSの市販型は、CHO細胞又はHT-1080細胞により製造され、これはFGly含有量約50%〜70%を有し、これが酵素活性を決定している。しかし、神経細胞及びグリア細胞は、IDS取込みが改善したために、この活性を向上することができる。
(vi)IDSを含むリソソームタンパク質の細胞性及び細胞内の輸送/取込みは、M6Pを介する。Danieleの文献、2002、及びSleatの文献、Proteomics、2005(ヒト脳は、他の組織よりも、より多くのMan6-P糖タンパク質を含む(定量的及び定性的の両方の意味で)ことを指摘している)において報告されたように、脳細胞由来のIDSは、より高いM6P含有量を含む。Danieleの文献、2002において行われたように、IDS前駆体のM6P含有量を測定することは、可能である。抑制性M6P(例えば、5mM)の存在下では、非神経細胞又は非グリア細胞、例えばDanieleの文献、2002の遺伝子操作された腎細胞によって生成されたIDS前駆体の取込みは、Danieleの文献、2002に示されたように、対照細胞のレベルに近いレベルまで減少すると予測される。抑制性M6Pの存在下であっても、脳細胞、例えば神経細胞及びグリア細胞によって生成されるIDS前駆体の取込みは、Danieleの文献、2002(その取込み量は対照細胞より4倍高く、かつ抑制性M6Pの非存在下で遺伝子操作された腎細胞などによって生成されたIDS前駆体のIDS活性(又は取込み)のレベルと同等であった)に示されたように高レベルを維持すると予測される。このアッセイを用いると、脳細胞によって生成されるIDS前駆体のM6P含有量を予測し、特に異なる種類の細胞によって生成されるIDS前駆体中のM6P含有量を比較することが可能となる。本明細書に記載の遺伝子治療アプローチは、そのようなアッセイにおいて抑制性M6Pの存在下、高レベルで神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得る、hIDS前駆体の継続的分泌をもたらすべきである。
(vii)M6P含有量及びIDS前駆体の取込みはまた、90kDa及び76kDaゲルバンド(例えば、SDS-PAGEゲルバンド)によっても明らかになる。90kDaは、高度にグリコシル化/リン酸化され、M6Pを含むことが報告されているが、76kDaについては報告されていない。76kDaから95kDaの範囲で、平均MWの80-85kDaの非常に広幅のゲルバンドは、遺伝子操作された腎細胞から作製されたIDS前駆体ゲルバンドに類似しており(Danieleの文献、2002、
図1)、これは脳細胞から作製されたIDS前駆体のゲルバンドとは対照的である。Danieleの文献、2002においては、このゲルバンドは、IDS前駆体の免疫沈降が巧くいかなかったために得ることができない。本明細書記載の遺伝子治療アプローチは、遺伝子操作された腎細胞から作製されたIDS前駆体ゲルバンドとは異なるhIDS前駆体の継続的分泌をもたらすべきである。
(viii)市販のIDS前駆体のM6P含有量は、2〜2.5mol/molであり、その大部分は二-リン酸化型グリカンの形である。平均して、各IDS前駆体はリン酸化されるが、グリカンの正常な分布は、二-リン酸化型M6Pグリカンを2、1及び0伴うIDS前駆体を有し、これは複数のリン酸化部位を推定している。取込み率は、複数のリン酸化により有意により高くなければならない。
(ix)CNSのヒト細胞によるhIDSのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加される。大事なことに、本発明のhIDSに付加されるグリカンは、2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)は組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」又は「Neu5Gc」)は組み込まない。そのようなグリカンは、CHO細胞において製造されたHunterase(登録商標)などの、組換えIDS産物中には存在せず、その理由は、CHO細胞は、この翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアル酸転移酵素を有さず;CHO細胞は、二分岐GlcNAcも生産しないが、これらはNeu5Ac(NANA)の代わりにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(NGNA)を付加するからである。例えば、Dumontらの文献、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122(早期オンラインpp. 1-13、5頁);及びHagueらの文献、1998、Electrophor 19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアル酸転移酵素の欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限されている』と考えられている」)を参照されたい。さらに、CHO細胞は、大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカンであるα-Gal抗原も生産し得る。例えば、Bosquesの文献、2010、Nat Biotech 28: 1153-1156を参照されたい。本発明のrhIDSのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
(x)導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入されたタンパク質薬物の構造及び特徴、投与経路、及び治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導され得る。プロセス関連不純物、例えば宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、及び化学的残留物など、並びに生産物関連不純物、例えばタンパク質分解物など、並びに構造特徴、例えばグリコシル化、酸化及び凝集(肉眼不可視粒子)などは、免疫反応を増強するアジュバントとしての機能を果たすことによって免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び生産物関連不純物の量は、製造プロセス;商業的に製造されるIDS産物に影響を及ぼし得る細胞培養、精製、製剤化、貯蔵、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タンパク質はインビボで生産され、その結果プロセス関連不純物は存在せず、タンパク質産物は組換え技術によって生産されるタンパク質と関連した生産物関連不純物/分解物、例えばタンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例えばタンパク質生産及び貯蔵と関連づけられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器との表面相互作用、並びに特定の緩衝液システムを用いた精製プロセスに起因する。しかし、導入遺伝子をインビボで発現させる場合、凝集を促進するこれらの条件は存在しない。また、酸化、例えばメチオニン、トリプトファン、及びヒスチジンの酸化は、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、例えばストレス負荷された細胞培養条件、金属及び空気との接触、並びに緩衝液及び賦形剤中の不純物によって引き起こされる。インビボで発現されるタンパク質は、ストレス負荷された条件下で酸化され得るが、ヒトは多くの生物と同様に、抗酸化防衛システムを備えており、それにより酸化ストレスが低下するだけでなく、酸化を修復し、かつ/又は逆行させもする。従って、インビボで生産されるタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝集及び酸化は両方とも、効力、PK(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を大きくし得る。本明細書に記載の遺伝子治療アプローチは、商業的に製造された産物と比較して免疫原性の低下したhIDS前駆体の継続的分泌を生じるべきである。
(xi)N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDSは、チロシン(「Y」)硫酸化部位を含む
【化8】
。(例えば、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り巻くアミノ酸の解析について、その全体が参照により組み込まれている、Yangらの文献、2015、Molecules 20:2138-2164、特に2154頁を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約することができる:Y残基がYから+5〜-5位の範囲内にE又はDを有し、かつYの-1位が中性又は酸性荷電アミノ酸であるが―硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、又はHではない)。いかなる理論に束縛されることも意図するものではないが、hIDSのこの部位の硫酸化は、酵素の安定性及び基質との結合親和性を向上し得る。hIDSのチロシン硫酸化は、ヒトCNS細胞における頑強な翻訳後プロセスであり、これは改善されたプロセシング及び導入遺伝子産物の活性を生じるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は解明されていないが:他のタンパク質において、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体と受容体)の結合力を増大し、かつタンパク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)を促進することが示されている。(Mooreの文献、2003、J Biol. Chem. 278: 24243-46;及び、Bundegaardらの文献、1995、The EMBO J 14: 3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(これはIDSプロセシングの最終工程で起こり得る)に寄与するチロシルタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、脳において明らかにより高いレベルで(mRNAを基に)発現される(TPST1に関する遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeでアクセス可能なEMBL-EBI発現アトラスで認めることができる)。そのような翻訳後修飾は、最良でも、CHO細胞産物において下方提示(under-represented)される。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後チロシン硫酸化の限定された能力を有する。(例えば、Mikkelsen及びEzbanの文献、1991、Biochemistry 30: 1533-1537、特に1537頁の考察を参照されたい)。
【0026】
前述の理由のために、ヒト神経細胞及び/又はグリア細胞によるrhIDSの生産は―例えば、MPS II疾患(ハンターを含むが、これらに限定はされない)と診断される患者(ヒト対象)のCSFにrhIDSをコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを投与して、形質導入されたCNS細胞によって分泌される完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン酸化、硫酸化された導入遺伝子産物を絶えず供給するCNS中の永続的なデポーを作製することによる―遺伝子治療によって達成されるMPS IIの治療のための「バイオベター(biobetter)」分子をもたらすべきである。デポーからCSF中に分泌されるhIDS導入遺伝子産物は、CNS中の細胞によりエンドサイトーシスされ、MPS IIレシピエント細胞における酵素欠損の「横断修正」をもたらす。
【0027】
遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチのいずれかにおいて生産されるすべてのrhIDS分子が完全にグリコシル化され、リン酸化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生じる糖タンパク質の集団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加及びマンノース-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子治療処置の目的は、疾患の進行を減速させ、又は停止させることである。有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止もしくは減少);CSF及び/もしくは血清中の疾患バイオマーカー(例えばGAG)の減少;並びに/又は、CSF及び/もしくは血清中のIDS酵素活性の増加を測定することによって、モニタリングすることができる。炎症の徴候及び他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0028】
遺伝子治療に対する代替又は追加治療として、rhIDS糖タンパク質は組換えDNA技術によってヒト神経細胞又はグリア細胞の細胞株で生産することができ、糖タンパク質は全身的に及び/又はERTのためのCSFにMPS IIと診断された患者に投与することができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株は、これらに限定されないが、少し例を挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、又はReNcell VMを含む(例えば、rHuGlyIDS糖タンパク質の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説について、その全体が参照により組み込まれている、Dumontらの文献、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122の「生物医薬製造のためのヒト細胞株:歴史、現状、及び将来の展望(Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing: history, status, and future perspectives)」を参照されたい)。完全なグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株を、α-2,6-シアル酸転移酵素(又はα-2,3-及びα-2,6-シアル酸転移酵素の両方)並びに/又はチロシン-O-硫酸化を担うTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を操作することによって強化することができる。
【0029】
rhIDSの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子治療に関する毒性の最も明白な潜在的源は、遺伝的にIDSを欠損しており、従ってタンパク質及び/又は導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容しないヒト対象において発現されたrhIDSタンパク質に対する免疫が発生することである。
【0030】
従って好ましい実施態様において、患者を免疫抑制治療で共治療することは―特にIDSのレベルが0に近い重度の疾患を有する患者を治療する場合に―適切である。タクロリムス又はラパマイシン(シロリムス)を、例えばミコフェノール酸と組合わせたレジメン、又は組織移植手順において使用される他の免疫抑制レジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治療は、遺伝子治療の過程で投与することができ、ある実施態様において、免疫抑制治療による前処理が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、治療医師の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後も継続することができ、その後免疫寛容が誘発された場合:例えば、180日後に、中止することができる。
【0031】
他の利用可能な治療の送達により達成されるCSFへのrhIDSの送達の組合せは、本発明の方法に包含される。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、又はその後に投与することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS IIのための利用可能な治療には、これらに限定はされないが、全身的に、もしくはCSFに投与されるElaprase(登録商標)を使用する酵素補充療法;及び/又はHSCT療法がある。
(3.1例示的実施態様)
(3.1.1 セット1)
1. ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞により生産された、グリコシル化された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体。
2. ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)である、段落1記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
3. ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、段落1記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
4. 該ヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌するよう遺伝子操作された中枢神経系中の細胞のデポーから分泌される、段落1〜3のいずれか一つ記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
5. デポーが、ヒト対象の脳中に形成される、段落4記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
6. ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞が、IDS活性を欠損している、段落1〜5のいずれか一つ記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
7. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落1〜6のいずれか一つ記載のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
8.ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターであって、ここで該組換えヌクレオチド発現ベクターが、培養物中の初代ヒト神経細胞を形質導入するために使用される場合、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、分泌されたグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を導く、ベクター。
9. ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターであって、この組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト脳の脳脊髄液(CSF)への投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系中に形成される、ベクター。
10. 該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、細胞培養における、ヒト神経細胞株の、該組換えヌクレオチド発現ベクターによる形質導入により確認される、段落9記載の組換えヌクレオチド発現ベクター。
11. 該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、マンノース-6-リン酸の存在及び非存在下で確認される、段落9又は10記載の組換えヌクレオチド発現ベクター。
12. ヒトIDSが、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落8〜11のいずれか一つ記載の組換えヌクレオチド発現ベクター。
13. ヒト神経細胞においてグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御する神経細胞-特異的プロモーター、又はヒトグリア細胞においてグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御するグリア細胞-特異的プロモーターを含む、段落8〜12のいずれか一つ記載の組換えヌクレオチド発現ベクター。
14. ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞におけるグリコシル化されたヒトIDS前駆体の翻訳中及び翻訳後プロセシングを確実にするリーダーペプチドをコードしている、段落8〜13のいずれか一つ記載の組換えヌクレオチド発現ベクター。
15. AAVベクターである、段落8〜14のいずれか一つ記載の組換えヌクレオチド発現ベクター。
16. 複製欠損AAVベクターである、段落15記載の組換えヌクレオチド発現ベクター。
17. AAV9又はAAVrh10ベクターである、段落15又は16記載の組換えヌクレオチド発現ベクター。
18. ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを含有する製剤であって、ここでこの製剤が、ヒト脳のCSFへの投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系に形成される、製剤。
19. ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクター及び医薬として許容し得る担体を含むキットであって、ここで組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト脳の脳脊髄液(CSF)への投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系に形成される、キット。
20. ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを含有する製剤を含むキットであって、ここで製剤が、ヒト脳のCSFへの投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系に形成される、キット。
(3.1.2 セット2)
1. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療において使用するためのグリコシル化された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体であって、ここでグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞により生産され、かつここで治療は、該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、治療有効量のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体を送達することを含む、前駆体。
2. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)である、段落1記載の使用のためのグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
3. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、段落1記載の使用のためのグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
4. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、該グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体を分泌するよう遺伝子操作された中枢神経系中の細胞のデポーから分泌される、段落1〜3のいずれか一つ記載の使用のためのグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
5. デポーが、ヒト対象の脳中に形成される、段落4記載の使用のためのグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
6. ヒト対象が、IDS活性を欠損している、段落1〜5のいずれか一つ記載の使用のためのグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
7. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落1〜6のいずれか一つ記載の使用のためのグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体。
8. MPS IIと診断されたヒト対象の治療において使用するためのヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターであって、ここで該組換えヌクレオチド発現ベクターが、培養物中の初代ヒト神経細胞を形質導入するために使用される場合、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、分泌されたグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を導き、かつここで治療が、該ヒト対象のCSFへ、組換えヌクレオチド発現ベクターを投与することを含む、ベクター。
9. MPS IIと診断されたヒト対象の治療において使用するためのヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターであって、ここでこの組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト脳の脳脊髄液への投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系中に形成され、かつここで治療が、該ヒト対象のCSFへ、組換えヌクレオチド発現ベクターを投与することを含む、ベクター。
10. 該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、細胞培養における、ヒト神経細胞株の、該組換えヌクレオチド発現ベクターによる形質導入により、確認される、段落9記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
11. 該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、マンノース-6-リン酸の存在及び非存在下で確認される、段落9又は10記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
12. ヒトIDSが、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落8〜11のいずれか一つ記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
13. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト神経細胞においてグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御する神経細胞-特異的プロモーター、又はヒトグリア細胞においてグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御するグリア細胞-特異的プロモーターを含む、段落8〜12のいずれか一つ記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
14. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞におけるグリコシル化されたヒトIDS前駆体の翻訳中及び翻訳後プロセシングを確実にするリーダーペプチドをコードしている、段落8〜13のいずれか一つ記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
15. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAVベクターである、段落8〜14のいずれか一つ記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
16. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、複製欠損AAVベクターである、段落15記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
17. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAV9又はAAVrh10ベクターである、段落15又は16記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
18. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、髄腔内、脳室内、腰椎穿刺又は鼻腔内投与により、ヒト対象のCSFへ送達される、段落8〜17のいずれか一つ記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
19. ヒト対象が、IDS活性を欠損している、段落8〜18のいずれか一つ記載の使用のための組換えヌクレオチド発現ベクター。
20. ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを含有する、MPS IIと診断されたヒト対象の治療における使用のための製剤であって、ここでこの製剤が、ヒト脳のCSFへの投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系に形成される、製剤。
(3.1.3. セット3)
1. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療のための医薬品の製造のためのグリコシル化された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の使用であって、ここでグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞により生産され、かつここで治療は、該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、治療有効量のグリコシル化された組換えヒトIDS前駆体を送達することを含む、使用。
2. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)である、段落1記載の使用。
3. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、段落1記載の使用。
4. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、該グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体を分泌するよう遺伝子操作された中枢神経系中の細胞のデポーから分泌される、段落1〜3のいずれか一つ記載の使用。
5. デポーが、ヒト対象の脳中に形成される、段落4記載の使用。
6. ヒト対象が、IDS活性を欠損している、段落1〜5のいずれか一つ記載の使用。
7. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落1〜6のいずれか一つ記載の使用。
8. MPS IIと診断されたヒト対象の治療のための医薬品の製造のためのヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターの使用であって、ここで該組換えヌクレオチド発現ベクターが、培養物中の初代ヒト神経細胞を形質導入するために使用される場合、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、分泌されたグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を導き、かつここで治療が、該ヒト対象のCSFへ、組換えヌクレオチド発現ベクターを投与することを含む、使用。
9. MPS IIと診断されたヒト対象の治療のための医薬品の製造のためのヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターの使用であって、ここでこの組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト脳の脳脊髄液への投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系中に形成され、かつここで治療が、該ヒト対象のCSFへ、組換えヌクレオチド発現ベクターを投与することを含む、使用。
10. 該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、細胞培養における、ヒト神経細胞株の、該組換えヌクレオチド発現ベクターによる形質導入により、確認される、段落9記載の使用。
11. 該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、マンノース-6-リン酸の存在及び非存在下で確認される、段落9又は10記載の使用。
12. ヒトIDSが、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落8〜11のいずれか一つ記載の使用。
13. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト神経細胞においてグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御する神経細胞-特異的プロモーター、又はヒトグリア細胞においてグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御するグリア細胞-特異的プロモーターを含む、段落8〜12のいずれか一つ記載の使用。
14. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞におけるグリコシル化されたヒトIDS前駆体の翻訳中及び翻訳後プロセシングを確実にするリーダーペプチドをコードしている、段落8〜13のいずれか一つ記載の使用。
15. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAVベクターである、段落8〜14のいずれか一つ記載の使用。
16. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、複製欠損AAVベクターである、段落15記載の使用。
17. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAV9又はAAVrh10ベクターである、段落15又は16記載の使用。
18. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、髄腔内、脳室内、腰椎穿刺又は鼻腔内投与により、ヒト対象のCSFへ送達される、段落8〜17のいずれか一つ記載の使用。
19. ヒト対象が、IDS活性を欠損している、段落8〜18のいずれか一つ記載の使用。
20. MPS IIと診断されたヒト対象の治療のための医薬品の製造のための製剤の使用であって、ここでこの製剤が、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを含有し、ここでこの製剤は、ヒト脳のCSFへの投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系に形成される、使用。
(3.1.4. セット4)
1. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞により生産されたグリコシル化された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含む、方法。
2. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)である、段落1記載の方法。
3. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、段落1記載の方法。
4. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、該グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体を分泌するよう遺伝子操作された中枢神経系中の細胞のデポーから分泌される、段落1〜3のいずれか一つ記載の方法。
5. デポーが、ヒト対象の脳中に形成される、段落4記載の方法。
6. ヒト対象が、IDS活性を欠損している、段落1〜5のいずれか一つ記載の方法。
7. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落1〜6のいずれか一つ記載の方法。
8. MPS IIと診断されたヒト対象の治療方法であって、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを、該ヒト対象のCSFへ投与することを含み、ここで該組換えヌクレオチド発現ベクターは、培養物中の初代ヒト神経細胞を形質導入するために使用される場合、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、分泌されたグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を導く、方法。
9. MPS IIと診断されたヒト対象の治療方法であって、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを、該ヒト対象のCSFへ投与することを含み、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化され、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系中に形成される、方法。
10. 該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、細胞培養における、ヒト神経細胞株の、該組換えヌクレオチド発現ベクターによる形質導入により、確認される、段落9記載の方法。
11. 該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、マンノース-6-リン酸の存在及び非存在下で確認される、段落9又は10記載の方法。
12. ヒトIDSが、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落8〜11のいずれか一つ記載の方法。
13. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト神経細胞においてグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御する神経細胞-特異的プロモーター、又はヒトグリア細胞においてグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を制御するグリア細胞-特異的プロモーターを含む、段落8〜12のいずれか一つ記載の方法。
14. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞におけるグリコシル化されたヒトIDS前駆体の翻訳中及び翻訳後プロセシングを確実にするリーダーペプチドをコードしている、段落8〜13のいずれか一つ記載の方法。
15. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAVベクターである、段落8〜14のいずれか一つ記載の方法。
16. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、複製欠損AAVベクターである、段落15記載の方法。
17. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAV9又はAAVrh10ベクターである、段落15又は16記載の方法。
18. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、髄腔内、脳室内、腰椎穿刺又は鼻腔内投与により、ヒト対象のCSFへ送達される、段落8〜17のいずれか一つ記載の方法。
19. ヒト対象が、IDS活性を欠損している、段落8〜18のいずれか一つ記載の方法。
20. MPS IIと診断されたヒト対象の治療方法であって、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを含有する製剤を、該ヒト対象のCSFへ投与することを含み、ここでこの製剤が、ヒト脳のCSFへの投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を含まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系に形成される、方法。
(3.1.5 セット5)
1. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞により生産されたグリコシル化された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含む、方法。
2. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、C
84にホルミルグリシン残基を有し(
図1)、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、及びマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含む、方法。
3. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、C
84にホルミルグリシン残基を有し(
図1)、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まず、及びマンノース-6-リン酸化されている、グリコシル化された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含む、方法。
4. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、CSFへ該グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体を分泌するよう遺伝子操作された中枢神経系中の細胞のデポーからCSFへ送達される、段落1〜3のいずれか一つ記載の方法。
5. デポーが、ヒト対象の脳中に形成される、段落4記載の方法。
6. ヒト対象が、IDS活性を欠損している、段落1〜5のいずれか一つ記載の方法。
7. グリコシル化された組換えヒトIDS前駆体が、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落1〜6のいずれか一つ記載の方法。
8. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)をコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを、該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)へ投与することを含み、ここで該組換えヌクレオチド発現ベクターが、培養物中の初代ヒト神経細胞を形質導入するために使用される場合、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、C
84にホルミルグリシン残基を含み(
図1)、α2,6-シアル酸付加され、及びマンノース-6-リン酸化されている、分泌されたグリコシル化されたヒトIDS前駆体の発現を導く、方法。
9. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターの治療有効量を、該ヒト対象の脳の脳脊髄液へ投与し、その結果α2,6-シアル酸付加され、かつマンノース-6-リン酸化されたグリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが、対象の中枢神経系中に形成される、方法。
10. α2,6-シアル酸付加された該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、細胞培養における、ヒト神経細胞株の、該組換えヌクレオチド発現ベクターによる形質導入により、確認される、段落9記載の方法。
11. マンノース-6-リン酸化された該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌が、細胞培養における、ヒト神経細胞株の、該組換えヌクレオチド発現ベクターによる形質導入により、確認される、段落9記載の方法。
12. 分泌が、マンノース-6-リン酸の存在及び非存在下で確認される、段落10又は11記載の方法。
13. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターの治療有効量を、該ヒト対象の脳の脳脊髄液へ投与し、その結果α2,6-シアル酸付加されたグリカンを含むグリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが形成され;
ここで該組換えヌクレオチド発現ベクターが、培養中のヒト神経細胞を形質導入するために使用される場合、該細胞培養において、α2,6-シアル酸付加されたグリカンを含む該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌を生じることを含む、方法。
14. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターの治療有効量を、該ヒト対象の脳の脳脊髄液へ投与し、その結果マンノース-6-リン酸を含むグリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが形成され;
ここで該組換えヌクレオチド発現ベクターが、培養中のヒト神経細胞を形質導入するために使用される場合、該細胞培養において、マンノース-6-リン酸化されている該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌を生じることを含む、方法。
15. ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターの治療有効量を、該ヒト対象の脳の脳脊髄液へ投与し、その結果ホルミルグリシンを含むグリコシル化されたヒトIDS前駆体を分泌するデポーが形成され;
ここで該組換えヌクレオチド発現ベクターが、培養中のヒト神経細胞を形質導入するために使用される場合、該細胞培養において、ホルミルグリシンを含む該グリコシル化されたヒトIDS前駆体の分泌を生じることを含む、方法。
16. ヒトIDSが、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落8〜15のいずれか一つ記載の方法。
17. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、リーダーペプチドをコードしている、段落8〜15のいずれか一つ記載の方法。
18. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、複製欠損AAVベクターである、段落8〜15のいずれか一つ記載の方法。
19. 組換えヌクレオチド発現ベクターが、髄腔内、脳室内、腰椎穿刺又は鼻腔内投与により、ヒト対象のCSFへ送達される、段落8〜15のいずれか一つ記載の方法。
20. ヒト対象が、IDS活性を欠損している、段落8〜15のいずれか一つ記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(5. 発明の詳細な説明)
本発明は、ヒト神経細胞又はグリア細胞により生産された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(rhIDS)の、非限定的にハンター症候群と診断された患者を含む、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液(CSF)への送達に関する。同じく、本明細書記載の発明に従い使用することができる組成物及び方法に関しては、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、2017年4月14日に出願された国際特許出願第PCT/US2017/027770号(2017年10月19日にWO/2017/181113として公開)も参照されたい。
【0039】
好ましい実施態様において、治療は遺伝子治療を介して―例えば、ヒトIDS(hIDS)又はhIDSの誘導体をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを、MPS IIと診断された患者(ヒト対象)のCSFに投与して、その結果絶えず導入遺伝子産物をCNSに供給する形質導入された神経細胞及び/又はグリア細胞の永続的なデポーを生成することにより―達成される。神経細胞/グリア細胞デポーからCSFに分泌されるrhIDSは、CNS中の細胞によってエンドサイトーシスされて、レシピエント細胞における酵素欠損を「横断修正」する。更に、予想外に、CNS中の形質導入された神経細胞及びグリア細胞のデポーは、この組換え酵素を、CNSと全身の両方に送達することができ、このことは、例えばこの酵素の週1回の静脈内注射などの、全身治療の必要性を低下又は排除することができることがわかった。
【0040】
代替の実施態様において、hIDSを細胞培養(例えば、バイオリアクター)でヒト神経細胞又はグリア細胞により生産して、酵素補充療法(「ERT」)として、例えば酵素を−CSFへ、CNSへ直接、及び/又は全身的に注入することにより投与することができる。しかしながら、遺伝子治療アプローチはERTを上回るいくつかの利点を提供し酵素は血液脳関門を通過することができないため、酵素の全身送達によってはCNSは治療されず;かつ本発明の遺伝子治療アプローチとは異なり、CSF及び/又はCNSへの酵素の直接の送達には、大きな負担となるだけでなく感染のリスクを生む反復注入が必要となるであろう。
【0041】
導入遺伝子によってコードされるhIDSは、これらに限定はされないが、配列番号:1のアミノ酸配列を有するヒトIDS(hIDS)(
図1に示す)、並びにアミノ酸の置換、欠失、又は付加を有するhIDSの誘導体、例えばこれらに限定はされないが、
図2に示すIDSのオルソログ中の対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含むhIDSの誘導体であって、ただし、そのような突然変異が、酵素活性に必要とされる位置84のシステイン残基(C84)の交換を含まないことを条件とするもの(Millatらの文献、1997, Biochem J 326: 243-247);又は、例えば、
図3に示すか、もしくはその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているSukegawa-Hayasakaらの文献、2006、J Inhert Metab Dis 29: 755-761(「減弱型」突然変異体R48P、A85T、W337R、及び切断型突然変異体Q531X;並びに「重度」突然変異体P86L、S333L、S349I、R468Q、R468Lを報告している);Millatらの文献、1998、BBA 1406: 214-218(「減弱型」突然変異体P480L及びP480Q;並びに、「重度」突然変異体P86Lを報告している);並びに、Bonucelliらの文献、2001、BBA 1537:233-238によって報告された重度、重度−中等度、中等度、又は減弱型MPS II表現形において同定された突然変異を含む。
【0042】
例えば、hIDSの特定位置でのアミノ酸置換は、
図2においてアラインされたIDSオルソログにおけるその位置に見出される対応する非保存的アミノ酸残基であって、ただしそのような置換が、
図3に示されるか、もしくはその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているSukegawa-Hayasakaらの文献、2006、前掲;Millatらの文献、1998、前掲;又は、Bonucelliらの文献、2001、前掲により報告された欠失突然変異を含まないことを条件とするものから選択することができる。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養又は試験動物で、突然変異がIDS機能を損なわないことを保証するためのインビトロでの従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、欠失又は付加は、細胞培養又はMPS IIの動物モデルにおけるインビトロでの従来のアッセイによって試験されるIDSの酵素活性、安定性、又は半減期を維持するか、又は増加させるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は、基質として4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロン酸 2-スルフェート又は4-メチルウンベリフェリルスルフェートを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDS酵素アッセイについては、例えばその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Leeらの文献、2015, Clin. Biochem. 48(18):1350-1353、Deanらの文献、2006, Clin. Chem. 52(4):643-649を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS II表現形を修正する能力は;例えば、培養中でMPS II細胞に、hIDS又は誘導体をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより;培養中のMPS II細胞に、この導入遺伝子産物又は誘導体を加えることにより;あるいは、MPS II細胞を、rhIDS又は誘導体を発現及び分泌するように操作したヒト神経/グリア宿主細胞と共培養して、MPS II培養細胞の欠損の修正を決定することにより、例えば培養中のMPS II細胞におけるIDS酵素活性及び/又はGAG貯蔵量の低下を検出することにより:細胞培養中で評価することができる(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Stroncekらの文献、1999, Transfusion 39(4):343-350を参照されたい)。
【0043】
本明細書記載の治療薬を評価するために使用することができるMPS II動物モデルは、記載されている。例えば、MPS IIのノックアウトマウスモデル(IDS-ノックアウト)は、IDS遺伝子のエキソン4及び5の、ネオマイシン耐性遺伝子による置き換えにより操作された(Garciaらの文献、2007、J Inherit Metab Dis 30: 924-34)。このIDS-ノックアウトマウスは、骨格異常、肝脾腫、上昇した尿及び組織GAG、並びに脳貯蔵病変を含む、多くのMPS IIの特徴を発揮し(Muenzerらの文献、2001、Acta Paediatr Suppl 91:98-99)、かつERTに関する臨床試験を支援する上でMPS IIにおける酵素補充療法の効果を評価するために、使用された。従ってこのマウスモデルは、MPS IIの治療として神経細胞又はグリア細胞により生産されたrIDSを送達する遺伝子治療の効果を試験するための関連モデルである(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Polito及びCosmaの文献、2009、Am. J. Hum. Genet. 85(2):296-301を参照されたい)。
【0044】
好ましくは、ヒト神経細胞/グリア細胞により生産されるhIDS導入遺伝子は、神経細胞及び/又はグリア細胞において機能する発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサー)によって制御されるべきであり、かつベクターによって駆動される導入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができる。hIDS導入遺伝子のためのcDNAコンストラクトには、形質導入されたCNS細胞による適切な翻訳中及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞によって使用されるそのようなシグナルペプチドには:
・希突起膠細胞-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
【化11】
・E1A刺激を受けた遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
【化12】
・V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:
【化13】
・プロトカドヘリンα-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
【化14】
・FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
【化15】
・インターロイキン-2シグナルペプチド:
【化16】
があり得るが、これらに限定されない。シグナルペプチドは本明細書において、リーダー配列又はリーダーペプチドとも呼ぶことができる。
【0045】
導入遺伝子を送達するために使用される組換えベクターは、神経細胞及び/又はグリア細胞を含むがこれらに限定される、CNSの細胞への向性を有するべきである。そのようなベクターは、非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特にAAV9又はAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,906,111号においてWilsonによって記載されたものを含むが、これらに限定されないAAVバリアントキャプシド、特に好ましくはAAV/hu.31、及びAAV/hu.32を有するキャプシド;並びにその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,628,966号、米国特許第8,927,514号においてChatterjeeにより、及びSmithらの文献、2014、Mol Ther 22:1625-1634において記載された、AAVバリアントキャプシドを、使用することができる。しかしながら、「ネイキッドDNA」コンストラクトと呼ばれるレンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又は非ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに限定されない、他のウイルスベクターを使用することができる。
【0046】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む製剤化緩衝液中のrhIDSベクターの懸濁液を含む。ある実施態様において、医薬組成物は、髄腔内投与に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、槽内投与(大槽への注入)に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、C1-2穿刺を介するクモ膜下空間への注入に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、脳室内投与に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、腰椎穿刺を介する投与に好適である。
【0047】
組換えベクターの治療有効用量は、髄腔内投与を介して(すなわち、クモ膜下空間に注入して、組換えベクターがCSFを通じて分布され、CNSの細胞が形質導入されるようにする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法で―例えば、頭蓋内(大槽又は脳室)注入、又は腰椎槽への注入によって―達成することができる。例えば、槽内(IC)(大槽への)注入は、CTによって導かれる後頭下穿刺によって実施することができ;又は、患者に実行できそうな場合は、C1-2穿刺を介したクモ膜下空間への注入を実施することができ;又は、腰椎穿刺(典型的にCSFの試料を収集するために実施される診断手順)を、CSFにアクセスするために使用することができる。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない、抗感染症薬又は抗癌剤の導入に使用されるより侵襲的な技術)を使用して、組換えベクターを直接脳室内に点滴することができる。あるいは、鼻腔内投与を使用して、CNSに組換えベクターを送達してもよい。
【0048】
発育中の小児において早期に生じるかなり急速な脳の成長のために、IC投与されるAAV9.hIDSの総投与量は、異なる年齢階層にわたり推定される脳質量によって決まる。被験対象に関する年齢別の脳質量については、例えばAS Dekabanの文献、Ann Neurol, 1978 Oct; 4(4): 345-56を参照されたい。
【0049】
表:年齢別投与される総投与量
【表2】
【0050】
CSF濃度は、後頭部又は腰椎穿刺から得られるCSF流体中のrhIDSの濃度を直接測定することによってモニタリングするか、又は患者の血清において検出されたrhIDSの濃度からの外挿によって推定することができる。
【0051】
背景として、ヒトIDSは、550アミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、
図1において表される8つの可能性のあるN-グリコシル化部位(N
31、N
115、N
144、N
246、N
280、N
325、N
513及びN
537)を含み、かつプロセシング時に切断される25のアミノ酸シグナル配列を含む。最初の76kDaの細胞内前駆体は、ゴルジ装置中のそのオリゴ糖鎖の修飾後に、リン酸化された90kDa前駆体へ転換される。この前駆体は、様々な細胞内中間体を通じて、グリコシル化修飾及びタンパク質分解性切断により、主要な55kDa形態へ、プロセッシングされる。まとめると、25のアミノ酸シグナル配列の除去後、タンパク質プロセシングは、8つのアミノ酸(残基26-33)のプロペプチドを取り除く、N
31の下流のN-末端のタンパク質分解性切断、及び18kDaポリペプチドを放出するN
513の上流のC-末端タンパク質分解性切断に関与し、かつ62kDa中間体を作製し、これは55kDa成熟型に転換される。更なるタンパク質分解性切断は、リソソームコンパートメントに配置される45kDa成熟型を生じる。(その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Millatらの文献、1997、Exp Cell Res 230: 362-367(“Millat 1997”);Millatらの文献、1997、Biochem J. 326: 243-247(“Millat 1997a”);及び、Froissartらの文献、1995、Biochem J. 309:425-430から作製された略図に関しては、
図4を参照されたい)。
【0052】
C
84(
図1において太字で示している)のホルミルグリシン修飾は、おそらくほとんどは小胞体において、早期の翻訳後又は翻訳中の事象として起こる可能性のある酵素活性に必要とされる。(Schmidtらの文献、1995、Cell 82: 271-278を引用している、Millatの文献、1997aを参照されたい)。翻訳後プロセシングは、ゴルジにおいて続き、複合のシアル酸-含有グリカンの付加、及びリソソームコンパートメントへの送達に関する酵素をタグ付けするマンノース-6-リン酸残基の獲得を含む。(簡潔な総説について、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Clarkeの文献、2008、Expert Opin Pharmacother 9: 311-317を参照されたい)。単独のグリコシル化部位は、IDS安定性について必須でないが、位置N
280でのグリコシル化は、細胞のインターナリゼーション及びマンノース-6-リン酸(M6P)受容体を介したリソソーム標的化にとって重要である。(Chungらの文献、2014、Glycoconj J 31:309-315の310頁第1段)。正常な生理的状態において、IDSは、非常に低いレベルで生成され、もしあるとしても、非常に少ない酵素が細胞から分泌される。(Clarkeの文献、2008、前掲)。
【0053】
本発明は部分的に、以下の原理に基づく:
(i)CNSの神経細胞及びグリア細胞は、CNSにおける頑強なプロセスであるグリコシル化、マンノース-6-リン酸化及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である。ヒトCNS細胞が行う翻訳後修飾についての、その各々の全体が参照により組み込まれている、例えばヒト脳マンノース-6-リン酸(M6P)グリコプロテオームについて記載し、脳が他の組織に見出されるよりはるかに多くの個々のアイソフォームを有するより多くのタンパク質及びマンノース-6-リン酸化タンパク質を含むことを注記した、Sleatらの文献、2005、Proteomics 5: 1520-1532、及びSleatの文献、1996、J Biol Chem 271:19191-98;並びに、神経細胞によって分泌されたチロシン硫酸化糖タンパク質の生成を報告している、Kananらの文献、2009、Exp. Eye Res. 89: 559-567、並びにKanan及びAl-Ubaidiの文献、2015 Exp. Eye Res. 133: 126-131を参照されたい。
(ii)ヒト脳は、天然/未変性のIDSの複数のアイソフォームを生成する。特に、ヒト脳マンノース-6-リン酸化された糖タンパク質のN-末端配列決定は、hIDSの成熟42kDa鎖のN-末端配列は、脳において変動し、以下のように位置34又は36から始まる:
【化17】
ことを明らかにした。(Sleatの文献、2005、Proteomics 5: 1520-1532、表S2)。8つのN-結合型グリコシル化部位のうちの2つ、すなわちN
280及びN
116は、ヒト脳から得られたIDSにおいてマンノース-6-リン酸化されることがわかった。(Sleatらの文献、2006、Mol & Cell Proeomics 5.4: 686-701、表Vに報告)。
(iii) hIDSのプロセシング時に、76kDa及び90kDaの2つのポリペプチドは、神経細胞及びグリア細胞から分泌されるが、90kDaポリペプチドのみが、マンノース-6-リン酸化され、このことは横断修正を達成するために酵素の分泌型に必要である。(Millatの文献、1997(
図1は、形質導入されたリンパ芽球様細胞に関する結果である)、及びFroissartの文献、1995(
図4は、培養培地中、90kDa形態のみリン酸化されるという、形質導入された線維芽細胞に関する類似の結果を示す)を参照されたい)。興味深いことに、神経細胞及びグリア細胞により生成された組換えIDSは、腎臓などの他の細胞により生成された組換えIDSよりも、レシピエントCNS細胞により、より貪欲にエンドサイトーシスされることが明らかになった。Danieleの文献、2002は、M6P-受容体は、形質導入されない神経細胞及びグリア細胞のレシピエント集団による、形質導入された神経細胞及びグリア細胞培養の順化培地由来の組換えIDSのエンドサイトーシスを媒介し、恐らくこの前駆体を45kDa成熟活性型へプロセッシングすることを明らかにした。神経細胞株及びグリア細胞株により生成された組換えIDSの取込み(74%エンドサイトーシス)は、腎細胞株により生成された酵素の取込み(5.6%エンドサイトーシス)よりも、はるかに多い。各場合において、取込みは、M6Pにより阻害され、このことは、組換えIDSの取込みは、M6P-受容体により媒介されることを指摘している。(Danieleの文献、2002参照、表2及び4並びに205-206頁の「結果」に付随する説明は、下記表1にまとめている)。
表1. Danieleの文献、2002に報告された結果の要約
【表3】
(iv)本明細書記載の遺伝子治療アプローチは、酵素活性がある、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により約90kDaと測定された(使用されたアッセイによって左右される)、hIDS糖タンパク質前駆体の連続分泌を生じなければならない。第一に、IDS活性に必要であるC
84のホルミルグリシン修飾に寄与する酵素は、FGly-生成酵素(FGE、aka SUMF1)であり、これはヒト脳の大脳皮質において発現される(SUMF1に関する遺伝子発現データは、例えば、http://www.genecards.orgでアクセス可能なGeneCardsで認めることができる)。第二に、インサイチュで形質導入された神経細胞及びグリア細胞により生成された、分泌型グリコシル化/リン酸化されたrIDSは、取込まれ、かつCNS中の形質導入されない神経細胞及びグリア細胞により正確にプロセッシングされなければならない。いずれかの理論に結びつけられるものではないが、遺伝子治療によりインサイチュで生成された分泌型rhIDS前駆体は、ERTに使用される従来の組換え酵素よりも、CNSへ投与される場合、CNS中のレシピエント細胞により、より貪欲にエンドサイトーシスされることは、明らかである。例えば、Elaprase(登録商標)(線維肉腫細胞株HT1080で作製)は、精製されたタンパク質であり、分子量約76kDaを有し−より多くリン酸化されるように見える神経細胞及びグリア細胞により分泌される90kDa種ではないことが報告されている。8つのN-結合型グリコシル化部位は、Elaprase(登録商標)で完全に占拠されることが報告されており、かつ2つのビス-マンノース-6-リン酸で終結したグリカン並びに複合の高度にシアル酸付加されたグリカンを含むが、酵素活性に絶対必要であるC
84のFGlyへの翻訳後修飾は、わずかに約50%である。(Clarkeの文献、2008、Expert Opin Pharmacother 9:311-317;「Elaprase(登録商標)完全処方情報及びEMA充填」)。別の組換え製品であるHunterase(登録商標)は、CHO細胞において作製される。Elaprase(登録商標)よりもより高いFGly及び活性を有することが報告されているが、マンノース-6-リン酸化及び取込みには差がない。(Chungの文献、2014、Glycoconj J 31:309-315)。
(v)インビボにおける細胞外IDS有効性は、マンノース-6-リン酸(M6P)及びホルミルグリシン-生成酵素による翻訳後修飾を通じたC
84から転換されるその活性部位ホルミルグリシン(FGly)を介した、取込み(細胞及びリソソームインターナリゼーション)によって左右される。先の表1に示したように、脳細胞(神経細胞及びグリア細胞)は、形質導入された神経細胞及びグリア細胞により分泌されるIDS前駆体培地と共にインキュベーションされた場合に、遺伝子操作された腎細胞により分泌されたIDS前駆体培地と共にインキュベーションされるよりも、より高い酵素活性を示す。生じる5倍の活性の増加は、恐らくIDSの効率的取込みに起因し得る。(Danieleの文献、2002、表2及び4参照)。IDSの市販型は、CHO細胞又はHT-1080細胞により製造され、これはFGly含有量約50%〜70%を有し、これが酵素活性を決定する。しかし、神経細胞及びグリア細胞は、IDS取込みが改善したために、この活性を向上することができる。
(vi)IDSを含むリソソームタンパク質の細胞性及び細胞内の輸送/取込みは、M6Pを介する。Danieleの文献、2002、及びSleatの文献、Proteomics、2005(ヒト脳は、他の組織よりも、より多くのMan6-P糖タンパク質を含む(定量的及び定性的の両方の意味で)ことを指摘している)において報告されたように、脳細胞由来のIDSは、より高いM6P含有量を含む。Danieleの文献、2002において行われたように、IDS前駆体のM6P含有量を測定することは、可能である。抑制性M6P(例えば、5mM)の存在下では、非神経細胞又は非グリア細胞、例えばDanieleの文献、2002の遺伝子操作された腎細胞などによって生成されたIDS前駆体の取込みは、Danieleの文献、2002に示されたように、対照細胞のレベルに近いレベルまで減少すると予測される。抑制性M6Pの存在下であっても、脳細胞、例えば神経細胞及びグリア細胞によって生成されるIDS前駆体の取込みは、Danieleの文献、2002(その取込み量は、対照細胞より4倍高く、かつ抑制性M6Pの非存在下で遺伝子操作された腎細胞によって生成されたIDS前駆体のIDS活性(又は取込み)のレベルと同等であった)に示されたように、高レベルを維持すると予測される。このアッセイを用いると、脳細胞によって生成されるIDS前駆体のM6P含有量を予測し、特に異なる種類の細胞によって生成されるIDS前駆体中のM6P含有量を比較することが可能となる。本明細書に記載の遺伝子治療アプローチは、そのようなアッセイにおいて抑制性M6Pの存在下、高レベルで神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得る、hIDS前駆体の継続的分泌をもたらすべきである。
(vii)M6P含有量及びIDS前駆体の取込みはまた、90kDa及び76kDaゲルバンド(例えば、SDS-PAGEゲルバンド)によっても明らかになる。90kDaは、高度にグリコシル化/リン酸化され、M6Pを含むことを報告するが、76kDaはこれを報告しない。76kDaから95kDaの範囲で、平均MWの80-85kDaの非常に広幅のゲルバンドは、遺伝子操作された腎細胞から作製されたIDS前駆体ゲルバンドに類似しており(Danieleの文献、2002、
図1)、これは脳細胞から作製されたIDS前駆体のゲルバンドとは対照的である。Danieleの文献、2002においては、このゲルバンドは、IDS前駆体の免疫沈降が巧くいかなかったために得ることができない。本明細書記載の遺伝子治療アプローチは、遺伝子操作された腎細胞から作製されたIDS前駆体ゲルバンドとは異なるhIDS前駆体の継続的分泌をもたらすべきである。
(viii)市販のIDS前駆体のM6P含有量は、2〜2.5mol/molであり、その大部分は二-リン酸化型グリカンの形態である。平均して、各IDS前駆体はリン酸化されるが、グリカンの正常な分布は、二-リン酸化型M6Pグリカンの2、1及び0を伴うIDS前駆体を有し、これは複数のリン酸化部位を推定している。取込み率は、複数のリン酸化により有意により高くなければならない。
(ix)CNSのヒト細胞によるhIDSのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加される。大事なことに、本発明のhIDSに付加されるグリカンは、2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)は組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」又は「Neu5Gc」)は組み込まない。そのようなグリカンは、CHO細胞において製造されたHunterase(登録商標)などの、組換えIDS産物中には存在せず、その理由は、CHO細胞は、この翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアル酸転移酵素を有さず;CHO細胞は、二分岐GlcNAcも生産しないが、これらはNeu5Ac(NANA)の代わりにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(NGNA)を付加するからである。例えば、Dumontらの文献、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122(早期オンラインpp. 1-13、5頁);及びHagueらの文献、1998、Electrophor 19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアル酸転移酵素の欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限されている』と考えられている」)を参照されたい。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカンであるα-Gal抗原も生産し得る。例えば、Bosquesの文献、2010、Nat Biotech 28: 1153-1156を参照されたい。本発明のrhIDSのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
(x)導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入されたタンパク質薬物の構造及び特徴、投与経路、及び治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導され得る。プロセス関連不純物、例えば宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、及び化学的残留物など、並びに生産物関連不純物、例えばタンパク質分解物など、並びに構造特徴、例えばグリコシル化、酸化及び凝集(肉眼不可視粒子)などは、免疫反応を増強するアジュバントとしての機能を果たすことによって免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び生産物関連不純物の量は、製造プロセス;商業的に製造されるIDS産物に影響を及ぼし得る細胞培養、精製、製剤化、貯蔵、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タンパク質はインビボで生産され、その結果プロセス関連不純物は存在せず、タンパク質産物は組換え技術によって生産されるタンパク質と関連した生産物関連不純物/分解物、例えばタンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例えばタンパク質生産及び貯蔵と関連づけられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器との表面相互作用、並びに特定の緩衝液システムを用いた精製プロセスに起因する。しかし、導入遺伝子をインビボで発現させる場合、凝集を促進するこれらの条件は存在しない。また、酸化、例えばメチオニン、トリプトファン、及びヒスチジンの酸化は、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、例えばストレス負荷された細胞培養条件、金属及び空気との接触、並びに緩衝液及び賦形剤中の不純物によって引き起こされる。インビボで発現されるタンパク質は、ストレス負荷された条件下で酸化され得るが、ヒトは多くの生物と同様に、抗酸化防衛システムを備えており、それにより酸化ストレスが低下するだけでなく、酸化を修復し、かつ/又は逆行させもする。従って、インビボで生産されるタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝集及び酸化は両方とも、効力、薬物動態(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を大きくし得る。本明細書に記載の遺伝子治療アプローチは、商業的に製造された産物と比較して免疫原性の低下したhIDS前駆体の継続的分泌を生じるべきである。
(xi) N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDSは、チロシン(「Y」)硫酸化部位を含む
【化18】
。(例えば、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り巻くアミノ酸の解析について、その全体が参照により組み込まれている、Yangらの文献、2015、Molecules 20:2138-2164、特に2154頁を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約することができる:Y残基がYから+5〜-5位の範囲内にE又はDを有し、かつYの-1位が中性又は酸性荷電アミノ酸であるが―硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、又はHではない)。いかなる理論に束縛されることも意図するものではないが、hIDSのこの部位の硫酸化は、酵素の安定性及び基質との結合親和性を向上し得る。hIDSのチロシン硫酸化は、ヒトCNS細胞における頑強な翻訳後プロセスであり、これは改善されたプロセシング及び導入遺伝子産物の活性を生じるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は、解明されていないが:他のタンパク質において、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体と受容体)の結合力を増大し、かつタンパク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)を促進することが示されている。(Mooreの文献、2003、J Biol. Chem. 278: 24243-46;及び、Bundegaardらの文献、1995、The EMBO J 14: 3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(これはIDSプロセシングの最終工程で起こり得る)に寄与するチロシルタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、脳において明らかにより高いレベルで(mRNAを基に)発現される(TPST1に関する遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeでアクセス可能なEMBL-EBI発現アトラスで認めることができる)。そのような翻訳後修飾は、最良でも、CHO細胞産物において下方提示される。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後チロシン硫酸化の限定された能力を有する。(例えば、Mikkelsen及びEzbanの文献、1991、Biochemistry 30: 1533-1537、特に1537頁の考察を参照されたい)。
【0054】
前述の理由のために、ヒト神経細胞及び/又はグリア細胞によるrhIDSの生産は―例えば、MPS II疾患(ハンターを含むが、これらに限定はされない)と診断される患者(ヒト対象)のCSFにrhIDSをコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを投与して、形質導入されたCNS細胞によって分泌される完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン酸化、硫酸化された導入遺伝子産物を絶えず供給するCNS中の永続的なデポーを作製することによる―遺伝子治療によって達成されるMPS IIの治療のための「バイオベター」分子をもたらすべきである。デポーからCSF中に分泌されるhIDS導入遺伝子産物は、CNS中の細胞によりエンドサイトーシスされ、MPS IIレシピエント細胞における酵素欠損の「横断修正」をもたらす。
【0055】
遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチのいずれかにおいて生産されるすべてのrhIDS分子が完全にグリコシル化され、リン酸化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生じる糖タンパク質の集団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加及びマンノース-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子治療処置の目的は、疾患の進行を減速させ、又は停止させることである。有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止もしくは減少);CSF及び/もしくは血清中の疾患バイオマーカー(例えばGAG)の減少;並びに/又は、CSF及び/もしくは血清中のIDS酵素活性の増加を測定することによって、モニタリングすることができる。炎症の徴候及び他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0056】
遺伝子治療に対する代替又は追加治療として、rhIDS糖タンパク質は組換えDNA技術によってヒト神経細胞又はグリア細胞の細胞株で生産することができ、糖タンパク質は全身的に及び/又はERTのためのCSFにMPS IIと診断された患者に投与することができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株は、これらに限定されないが、少し例を挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、又はReNcell VMを含む(例えば、rHuGlyIDS糖タンパク質の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説について、その全体が参照により組み込まれている、Dumontらの文献、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122の「生物医薬製造のためのヒト細胞株:歴史、現状、及び将来の展望」を参照されたい)。完全なグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株を、α-2,6-シアル酸転移酵素(又はα-2,3-及びα-2,6-シアル酸転移酵素の両方)並びに/又はチロシン-O-硫酸化を担うTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を操作することによって強化することができる。
【0057】
rhIDSの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子治療に関する毒性の最も明白な潜在的源は、遺伝的にIDSを欠損しており、従ってタンパク質及び/又は導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容しないヒト対象において発現されたrhIDSタンパク質に対する免疫が発生することである。
【0058】
従って、好ましい実施態様において、患者を免疫抑制治療で共治療することは―特にIDSのレベルが0に近い重度の疾患を有する患者を治療する場合に―適切である。タクロリムス又はラパマイシン(シロリムス)を、例えばミコフェノール酸と組合わせたレジメン、又は組織移植手順において使用される他の免疫抑制レジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治療は、遺伝子治療の過程で投与することができ、ある実施態様において、免疫抑制治療による前処理が好ましい場合がある。免疫抑制治療は治療医師の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後も継続することができ、その後免疫寛容が誘発された場合:例えば、180日後に、中止することができる。
【0059】
他の利用可能な治療の送達により達成されるCSFへのrhIDSの送達の組合せは、本発明の方法に包含される。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、又はその後に投与することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS IIのための利用可能な治療には、これらに限定はされないが、全身的に、もしくはCSFに投与されるElaprase(登録商標)を使用する酵素補充療法;及び/又はHSCT療法がある。
【0060】
ある実施態様において、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象を治療する方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞又はヒトグリア細胞によって生産された組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含む、前記方法を本明細書に記載する。
【0061】
ある実施態様において、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象を治療する方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液(CSF)に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、C
84にホルミルグリシン残基を有し(
図1)、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、及びマンノース-6-リン酸化されている、組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)糖タンパク質前駆体の治療有効量を送達することを含む、前記方法を本明細書に記載する。
【0062】
ある実施態様において、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象を治療する方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液(CSF)に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、C
84にホルミルグリシン残基を含み(
図1)、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まず、並びにマンノース-6-リン酸化されている、組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)糖タンパク質前駆体の治療有効量を送達することを含む、前記方法を本明細書に記載する。
【0063】
ある実施態様において、ヒトIDS前駆体は、該IDS前駆体をCSFへ分泌するように遺伝子操作された中枢神経系中の細胞のデポーから、CSFへ送達される。ある実施態様において、デポーは、対象の脳内に形成される。ある実施態様において、ヒト対象は、IDS活性を欠損している。ある実施態様において、ヒトIDSは、配列番号:1のアミノ酸配列を含む。
【0064】
ある実施態様において、該ヒト対象の脳の脳脊髄液(CSF)に、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)をコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを投与することを含む、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象を治療する方法が本明細書に記載され、ここで該発現ベクターは、培養中の初代ヒト神経細胞の形質導入に使用される場合に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、C
84にホルミルグリシン残基を含み(
図1)、α2,6-シアル酸付加され、及びマンノース-6-リン酸化されている、分泌されたヒトIDS糖タンパク質前駆体の発現を導く。
【0065】
ある実施態様において、該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを投与し、その結果α2,6-シアル酸付加され、及びマンノース-6-リン酸化されている組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌する、デポーが、対象の中枢神経系中に形成されることを含む、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象を治療する方法が、本明細書に記載される。
【0066】
ある実施態様において、α2,6-シアル酸付加されている該組換えヒトIDS糖タンパク質の分泌は、細胞培養中の該組換えヌクレオチド発現ベクターによる、ヒト神経細胞株の形質導入により確認される。ある実施態様において、マンノース-6-リン酸化されている該組換えヒトIDS糖タンパク質の分泌は、細胞培養中の該組換えヌクレオチド発現ベクターによる、ヒト神経細胞株の形質導入により確認される。ある実施態様において、分泌は、マンノース-6-リン酸の存在又は非存在下において確認される。
【0067】
ある実施態様において、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象を治療する方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを治療有効量投与し、その結果α2,6-シアル酸グリカンを含むグリコシル化されたIDS前駆体を分泌するデポーが、形成され;ここで該組換えベクターは、培養中のヒト神経細胞の形質導入に使用される場合、該細胞培養中でα2,6-シアル酸グリカンを含む該グリコシル化されたIDS前駆体の分泌を生じることを含む、前記方法を本明細書に記載する。
【0068】
ある実施態様において、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象を治療する方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを治療有効量投与し、その結果マンノース-6-リン酸を含むグリコシル化されたIDS前駆体を分泌するデポーが、形成され;ここで該組換えベクターは、培養中のヒト神経細胞の形質導入に使用される場合、該細胞培養中でマンノース-6-リン酸化される該グリコシル化されたIDS前駆体の分泌を生じることを含む、前記方法を本明細書に記載する。
【0069】
ある実施態様において、ムコ多糖症II型(MPS II)と診断されたヒト対象を治療する方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを治療有効量投与し、その結果ホルミルグリシンを含むグリコシル化されたIDS前駆体を分泌するデポーが、形成され;ここで該組換えベクターは、培養中のヒト神経細胞の形質導入に使用される場合、該細胞培養中でホルミルグリシンを含む該グリコシル化されたIDS前駆体の分泌を生じることを含む、前記方法を本明細書に記載する。
【0070】
ある実施態様において、ヒトIDSは、配列番号:1のアミノ酸配列を含む。ある実施態様において、IDS導入遺伝子は、リーダーペプチドをコードしている。ある実施態様において、発現ベクターは、複製欠損AAVベクターである。ある実施態様において、発現ベクターは、髄腔内(例えば、槽内、患者で実現可能ならばC1-2穿刺、又は腰椎穿刺)、脳室内、又は鼻腔内投与により、対象のCSFへ送達される。ある実施態様において、ヒト対象は、IDS活性欠損である。
【0071】
好ましい実施態様において、グリコシル化IDSは、検出可能なNeuGc及び/又はα-Galを含まない。本明細書で使用するフレーズ「検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal」は、NeuGc及び/又はα-Gal成分が当技術分野において公知の標準アッセイ方法によって検出可能であることを意味する。例えば、NeuGcは、NeuGcを検出する方法について、参照により本明細書に組み込まれているHaraらの文献、1989、「蛍光検出を伴う逆相液体クロマトグラフィーによる、ヒト血清及び尿、並びにラット血清中のN-アセチル及びN-グリコリルノイラミン酸の高感度測定(Highly Sensitive Determination of N-Acetyl-and N-Glycolylneuraminic Acids in Human Serum and Urine and Rat Serum by Reversed-Phase Liquid Chromatography with Fluorescence Detection.)」J. Chromatogr., B: Biomed. 377: 111-119に従ったHPLCによって検出することができる。あるいは、NeuGcは、質量分析によって検出することができる。α-Galは、ELISAを使用して(例えば、Galiliらの文献、1998、「モノクローナル抗Gal抗体によって細胞表面のα-Galエピトープ発現を測定するための高感度アッセイ(A sensitive assay for measuring alpha-Gal epitope expression on cells by a monoclonal anti-Gal antibody.)」、Transplantation. 65(8):1129-32を参照されたい)、又は質量分析により(例えば、Ayoubらの文献、2013、「インタクトな、ミドル-アップ、ミドル-ダウン、及びボトム-アップESI及びMALDI質量分析技術の組合せによる、セツキシマブの修正された一次構造評価及び広範囲のグリコプロファイリング(Correct primary structure assessment and extensive glyco-profiling of cetuximab by a combination of intact, middle-up, middle-down and bottom-up ESI and MALDI mass spectrometry techniques.)」、Landes Bioscience. 5(5): 699-710を参照されたい)、検出することができる。また、Platts-Millsらの文献、2015、「糖側鎖α-galに対するアナフィラキシー(Anaphylaxis to the Carbohydrate Side-Chain Alpha-gal)」Immunol Allergy Clin North Am. 35(2): 247-260において引用されている参考文献も参照されたい。
【0072】
(5.1 プロセシング、N-グリコシル化及びチロシン硫酸化)
(5.1.1 プロセシング)
ヒトIDSは、プロセシング時に切断される25アミノ酸シグナル配列を含む。最初の76kDa細胞内IDS前駆体は、ゴルジ装置におけるそのオリゴ糖鎖の修飾後、リン酸化された90kDaのIDS前駆体へ転換される。この前駆体は、グリコシル化修飾及びタンパク質分解性の切断により、様々な細胞内中間体を介して、主要な55kDa形態へプロセシングされる。まとめると、25アミノ酸シグナル配列の除去後、タンパク質分解性プロセシングは、8つのアミノ酸(残基26-33)のプロペプチドを除去するN
31の下流のN-末端タンパク質分解性の切断、及びN
513の上流のC-末端タンパク質分解性の切断に関与し、これは18kDaポリペプチドを放出し、かつ62kDa中間体を生産し、これは55kDa成熟型へ変換される。更なるタンパク質分解性の切断は、リソソームコンパートメント内に配置された45kDa成熟型を生じる。(その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Millatらの文献、1997、Exp Cell Res 230: 362-367(“Millat 1997”);Millatらの文献、1997、Biochem J. 326: 243-247(“Millat 1997a”);及び、Froissartらの文献、1995、Biochem J. 309:425-430から再現された概略については
図4参照)。
【0073】
C
84(
図1において太字で示している)のホルミルグリシン修飾は、おそらくほとんどは小胞体において、早期の翻訳後又は翻訳中の事象として起こる可能性のある酵素活性に必要とされる。(Schmidtらの文献、1995、Cell 82: 271-278を引用している、Millatの文献、1997aを参照されたい)。翻訳後プロセシングは、ゴルジにおいて続き、複合のシアル酸-含有グリカンの付加、及びリソソームコンパートメントへの送達に関する酵素をタグ付けするマンノース-6-リン酸残基の獲得を含む。(簡潔な総説について、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Clarkeの文献、2008、Expert Opin Pharmacother 9: 311-317を参照されたい)。
【0074】
具体的実施態様において、本明細書記載の方法に従い使用されるHuGlyIDSは、神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、その酵素の90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)でマンノース-6-リン酸化された形態であることができる。Danieleの文献、2002、及びSleatの文献、Proteomics, 2005(ヒト脳は、他の組織よりも、より多くの(両方共定量的及び定性的意味で)M6P糖タンパク質を含むことを指摘している)に報告されたように、神経細胞及びグリア細胞から生産されたIDSは、より高いM6P含有量を含んでよい。Danieleの文献、2002において実施されたように、IDS前駆体のM6P含有量を測定する事は可能である。
【0075】
従って、ある実施態様において、本明細書記載の方法に従い使用されるHuGlyIDSは、神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、神経細胞又はグリア細胞以外で発現されるIDSよりもより高いレベルで、マンノース-6-リン酸化される。特に、本明細書記載の方法に従い使用されるHuGlyIDSは、神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、HT1080又はCHO細胞において発現されるIDSよりもより高いレベルで、マンノース-6-リン酸化される。ある実施態様において、発現されたIDSのマンノース-6-リン酸化レベルは、M6P(例えば5mM M6P)の存在下での、ヒト神経細胞によるIDSの取込みにより測定される。ある実施態様において、神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、本明細書記載の方法に従い使用されるHuGlyIDS分子の10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜100%が、マンノース-6-リン酸化される。
【0076】
(5.1.2 N-グリコシル化)
CNSの神経細胞及びグリア細胞は、グリコシル化及びチロシン-O-硫酸化を含む、分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を備える分泌細胞である。hIDSは、
図1において特定される8つのアスパラギン(「N」)グリコシル化部位(N
31ST;N
115FS;N
144HT;N
246IT;N
280IS;N
325ST;N
513FS;N
537DS)を有する。8つのN-結合型グリコシル化部位中の2つ、すなわちN
280及びN
116は、ヒト脳から得られたIDSにおいてマンノース-6-リン酸化される(Sleatらの文献、2006、Mol & Cell Proeomics 5.4: 686-701、表Vに報告)。単独のグリコシル化部位はIDS安定化には必須ではないが、位置N
280のグリコシル化は、マンノース-6-リン酸(M6P)受容体を介して、細胞のインターナリゼーション及びリソソーム標的化に重要である。(Chungらの文献、2014、Glycoconj J 31:309-315、310頁第一段)。正常な生理的状態において、IDSは、非常に低レベルで生産され、もしあったとしても、非常に少ない酵素が細胞から分泌される(Clarkeの文献、2008、前掲)。
【0077】
遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチのいずれかにおいて生産されるすべての分子が完全にグリコシル化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生じる糖タンパク質の集団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化及び硫酸化を受けるべきである。
【0078】
特定の実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDSは、神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、そのN-グリコシル化部位の100%でグリコシル化され得る。しかしながら、当業者であれば、グリコシル化の利益が達成されるためには、必ずしもすべてのHuGlyIDSのN-グリコシル化部位がN-グリコシル化される必要はないことは明らかであろう。むしろ、グリコシル化の利益はN-グリコシル化部位の一定の割合のみがグリコシル化され、かつ/又は発現されたIDS分子の一定の割合のみがグリコシル化される場合に実現され得る。したがって、ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDSは、神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、その利用可能なN-グリコシル化部位の10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜100%でグリコシル化される。ある実施態様において、神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDS分子の10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%又は90%〜100%は、それらの利用可能なN-グリコシル化部位の少なくとも1つでグリコシル化される。
【0079】
具体的実施態様において、HuGlyIDSを神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDSに存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%は、N-グリコシル化部位に存在するAsn残基(又は他の関連した残基)でグリコシル化される。すなわち、結果として生じるHuGlyIDSのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%は、グリコシル化される。
【0080】
別の具体的実施態様において、HuGlyIDSが神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現された場合、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDS分子に存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%は、N-グリコシル化部位に存在するAsn残基(又は他の関連した残基)に連結される同一の結合されたグリカンによりグリコシル化される。すなわち、結果として生じるHuGlyIDSのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%は、同一の結合されたグリカンを有する。
【0081】
重要なことに、本明細書に記載の方法に従って使用されるIDSタンパク質が神経細胞又はグリア細胞において発現される場合、原核生物宿主細胞(例えば、大腸菌(E. coli))又は真核生物宿主細胞(例えば、CHO細胞)におけるインビトロ生産の必要は回避される。その代わりに、本明細書に記載の方法の結果(例えば、IDSを発現させるための神経細胞又はグリア細胞の使用)、IDSタンパク質のN-グリコシル化部位は、有利なことにヒトの治療に関連及び有益なグリカンで、特に治療の標的位置で、修飾される(decorated)。CHO細胞又は大腸菌がタンパク質生産に利用される場合、そのような利点には到達できず;それは、例えばCHO細胞は、(1)は2,6シアル酸転移酵素を発現せず、従ってN-グリコシル化の間、2,6シアル酸を付加することができず、かつ(2)シアル酸としてNeu5Acの代わりにNeu5Gcを付加することができるためであり;並びに大腸菌は天然にはN-グリコシル化に必要な構成要素を含まないためである。更に、そのような利点は、神経細胞又はグリア細胞ではないヒト細胞が、タンパク質生産に利用される場合には、到達することができない。したがって、一実施態様において、神経細胞又はグリア細胞において発現され、本明細書に記載の治療方法において使用されるHuGlyIDSを生じるIDSタンパク質は、ヒト神経細胞又はグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化される様式でグリコシル化されるが、CHO細胞においてタンパク質がグリコシル化される様式でグリコシル化されるのではない。別の実施態様において、神経細胞又はグリア細胞において発現されて本明細書に記載の治療方法で使用されるHuGlyIDSを生じるIDSタンパク質は、神経細胞又はグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化される様式でグリコシル化され、そのようなグリコシル化は、原核生物宿主細胞を使用して、例えば大腸菌を使用した場合は手を加えずには不可能である。一実施態様において、ヒト神経細胞又はグリア細胞において発現されて本明細書に記載の治療方法で使用されるHuGlyIDSを生じるIDSタンパク質は、ヒト神経細胞又はグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化される様式でグリコシル化されるが、神経細胞又はグリア細胞ではないヒト細胞においてタンパク質がグリコシル化される様式ではグリコシル化されない。
【0082】
タンパク質のグリコシル化パターンを決定するためのアッセイは、当技術分野において公知である。例えば、ヒドラジン分解は、グリカンを分析するために使用することができる。第一に、多糖を、ヒドラジンとのインキュベーションによって、その会合するタンパク質から放出させる(Ludger解放ヒドラジン分解グリカン放出キット、Oxfordshire, UKを使用することができる)。求核剤であるヒドラジンは、多糖とキャリアタンパク質の間のグリコシド結合を攻撃して、結合したグリカンを放出させる。N-アセチル基は、この処理の間、失われて、再N-アセチル化によって再構成されなければならない。遊離グリカンは、炭素カラム上で精製し、続いて蛍光色素分子である2-アミノベンズアミドを用いて還元末端を標識することができる。標識多糖は、Royleらの文献、Anal Biochem 2002, 304(1):70-90.のHPLCプロトコルに従ってGlycoSep-Nカラム(GL Sciences)上で分離することができる。結果として生じる蛍光クロマトグラムは、多糖の長さ及び繰り返し単位の数を示す。構造情報は、個々のピークを収集し、引き続きMS/MS分析を実施することによって集めることができる。それにより、繰り返し単位の単糖の組成及び配列を確認することができ、さらに多糖の組成の均一性を特定することができる。低分子量の特異的ピークは、MALDI-MS/MSによって分析され、その結果はグリカン配列を確認するために使用される。各ピークは、特定の数の繰り返し単位及びその断片からなるポリマーに対応する。従って、クロマトグラムを用いれば、ポリマー長の分布の測定が可能となる。溶出時間はポリマー長の指標である一方、蛍光強度はそれぞれのポリマーのためのモル存在量と相関する。
【0083】
タンパク質と会合するグリカンパターンの均一性は、グリカン長及びグリコシル化部位全体に存在するグリカンの数と関係しているため、この均一性は当技術分野で公知の方法、例えばグリカン長及び流体力学半径を測定する方法を使用して評価することができる。サイズ排除HPLCは、流体力学半径の測定を可能にする。タンパク質中のグリコシル化部位の数が多いほど、グリコシル化部位がより少ないキャリアと比較して、流体力学半径の多様性がより大きくなる。しかしながら、単一のグリカン鎖が分析される場合、それらは長さがより高度に制御されているために、より均一になり得る。グリカン長は、ヒドラジン分解、SDS PAGE、及びキャピラリーゲル電気泳動によって測定することができる。さらに、また、均一であることは、特定のグリコシル化部位の使用パターンがより広い/より狭い範囲に変化することを意味し得る。これらの因子は、糖ペプチドLC-MS/MSで測定することができる。
【0084】
N-グリコシル化は、本明細書に記載の方法で使用されるHuGlyIDSに多くの利益を付与する。そのような利益は大腸菌におけるタンパク質生産によっては到達不能であり、それは、大腸菌は、N-グリコシル化に必要とされる構成要素を天然には有しないためである。さらに、いくつかの利益は例えば、CHO細胞におけるタンパク質生産によっては到達不能であり、それは、CHO細胞が特定のグリカン(例えば、2,6シアル酸)の付加に必要な構成要素を欠いており、かつヒトにとって典型的でないグリカン、例えばNeu5Gc及び大部分の個体において免疫原性であり、かつ高濃度ではアナフィラキシーを誘発し得るα-Gal抗原を付加し得るためである。また更に、一部の利益は、神経細胞又はグリア細胞ではないヒト細胞におけるタンパク質生産を通じて、到達することができない。従って、ヒト神経細胞又はグリア細胞におけるIDSの発現により、そうせずにCHO細胞もしくは、大腸菌において、又は神経細胞又はグリア細胞ではないヒト細胞において生産された場合は、タンパク質と会合していないであろう有益なグリカンを含むHuGlyIDSが生産される。
【0085】
(5.1.3 チロシン硫酸化)
N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDSは、チロシン(「Y」)硫酸化部位を含む
【化19】
。(例えば、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り巻くアミノ酸の解析について、その全体が参照により組み込まれている、Yangらの文献、2015、Molecules 20:2138-2164、特に2154頁を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約することができる: Y残基がYから+5〜-5位の範囲内にE又はDを有し、かつYの-1位が中性又は酸性荷電アミノ酸であるが―硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、又はHではない)。
【0086】
重要なことに、チロシン硫酸化タンパク質は、チロシン硫酸化に要求される酵素を天然には有しない大腸菌では、生産することができない。さらに、CHO細胞は、チロシン硫酸化について欠損がある―この細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後のチロシン硫酸化を行う能力が限定されている。例えば、Mikkelsen及びEzbanの文献、1991、Biochemistry 30: 1533-1537を参照されたい。有利なことに、本明細書で提供する方法は、分泌型であり、かつ実にチロシン硫酸化のための能力を備える、神経細胞又はグリア細胞におけるIDS、例えばHuGlyIDSの発現を必要とする。チロシン硫酸化を検出するためのアッセイは、当技術分野において公知である。例えば、Yangらの文献、2015, Molecules 20:2138-2164を参照されたい。
【0087】
hIDSのチロシン硫酸化―ヒトCNS細胞の頑強な翻訳後プロセスは、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、他のタンパク質では、チロシン硫酸化により、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)の結合力を増加させ、タンパク質分解プロセシング(ペプチドホルモン)を促進することが示されている。(Mooreの文献、2003、J Biol. Chem. 278:24243-46;及びBundegaardらの文献、1995、EMBO J 14: 3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDSのプロセシングの最終ステップとして起こる場合がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明らかに脳(TPST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセス可能なEMBL-EBI発現アトラスに見出すことができる)でより高いレベル(mRNAに基づいて)で発現する。
【0088】
(5.2 コンストラクト及び製剤化)
イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)、例えばヒトIDS(hIDS)をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトは、本明細書において提供する方法における使用のためのものである。本明細書において提供するウイルスベクター及び他のDNA発現コンストラクトは、脳脊髄液(CSF)に、導入遺伝子を送達するための任意の好適な方法を含む。導入遺伝子の送達の手段には、ウイルスベクター、リポソーム、他の脂質を含む複合体、他の高分子複合体、合成修飾mRNA、非修飾mRNA、小分子、非生物活性分子(例えば、金粒子)、重合分子(例えば、デンドリマー)、ネイキッドDNA、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド又はエピソームがある。いくつかの実施態様において、ベクターは、標的化ベクター、例えば神経細胞を標的とするベクターである。
【0089】
いくつかの態様において、本開示はIDS、例えばhIDSをコードする使用のための核酸を提供し、該核酸はサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MMTプロモーター、EF-1αプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリβアクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーター、及びオプシンプロモーターからなる群から選択されるプロモーターと作用可能に連結されている。
【0090】
ある実施態様において、1以上の核酸(例えばポリヌクレオチド)を含む組換えベクターを、本明細書において提供する。核酸は、DNA、RNA又はDNA及びRNAの組合せを含むことができる。ある実施態様において、DNAは、プロモーター配列、関心対象の遺伝子配列(導入遺伝子、例えば、IDS)、非翻訳領域、及び終結配列からなる群から選択される1以上の配列を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、関心対象の遺伝子と作用可能に連結されたプロモーターを含む。
【0091】
ある実施態様において、本明細書において開示する核酸(例えば、ポリヌクレオチド)及び核酸配列は、例えば、当業者に公知の任意のコドン-最適化技術を介して、コドン最適化することができる(例えば、Quaxらによる総説、2015, Mol Cell 59:149-161を参照されたい)。
【0092】
別の態様において、本開示は、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを含有する製剤を提供し、ここでこの製剤は、ヒト脳の脳脊髄液への投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、α-Gal抗原を組まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系中に形成される。例えば、この製剤は、ヒト脳の脳脊髄液への投与に製剤が適するようにする緩衝液(特定のpHを有する緩衝液、又は特定の構成成分を含有する緩衝液など)を含んでよく、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、α-Gal抗原を組まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系中に形成される。具体的実施態様において、緩衝液は、生理的に適合性のある水性緩衝液、界面活性剤及び任意の賦形剤を含む。
【0093】
別の態様において、本開示は、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクター及び医薬として許容し得る担体を含むキットを提供し、ここで組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト脳の脳脊髄液(CSF)への投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を組まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系中に形成される。別の態様において、本開示は、ヒトIDSをコードしている組換えヌクレオチド発現ベクターを含有する製剤を含むキットを提供し、ここで製剤は、ヒト脳のCSFへの投与に適し、その結果ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定して、約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、又は95kDa)であり、ホルミルグリシンを含み、α2,6-シアル酸付加され、検出可能なNeuGcを含まず、検出可能なα-Gal抗原を組まず、及び/又はマンノース-6-リン酸化されている、組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌するデポーが、ヒト中枢神経系中に形成される。本明細書記載のキットは、1以上の容器中の組換えヌクレオチド発現ベクター又は製剤を含む。任意にそのような1以上の容器に、医薬品又は生物製剤の製造、使用又は販売を規制する政府監督機関により規定された形式の注意書きを付随させることができ、この注意書きは、ヒト投与に関する製造、使用又は販売の監督機関による承認を反映している。
【0094】
本明細書に包含された製剤及びキットは、本開示において提供されるようにヒト患者の治療方法に従い使用することができる。
【0095】
(5.2.1. mRNA)
ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、関心対象の遺伝子(例えば、導入遺伝子、例えば、IDS)をコードしている修飾mRNAである。CSFへの導入遺伝子の送達のための修飾及び非修飾mRNAの合成は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれているHocquemillerらの文献、2016、Human Gene Therapy 27(7):478-496 において教示される。ある実施態様において、IDS、例えば、hIDSをコードしている修飾mRNAを、本明細書において提供する。
【0096】
(5.2.2 ウイルスベクター)
ウイルスベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV、例えば、AAV9、AAVrh10)、レンチウイルス、ヘルパー依存的アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、センダイウイルス(hemagglutinin virus of Japan)(HVJ)、アルファウイルス、ワクシニアウイルス、及びレトロウイルスベクターがある。レトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MLV)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)ベースのベクターがある。アルファウイルスベクターには、セムリキ森林ウイルス(SFV)及びシンドビスウイルス(SIN)がある。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、組換えウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、ヒトにおいて複製欠損型となるように、改変される。ある実施態様において、ウイルスベクターは、ハイブリッドベクター、例えば、「ヘルプレス」アデノウイルスベクターに配置されるAAVベクターである。ある実施態様において、第1のウイルスからのウイルスキャプシド及び第2のウイルスからのウイルスエンベロープタンパク質を含むウイルスベクターを、本明細書において提供する。具体的実施態様において、第2のウイルスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)である。より具体的実施態様において、エンベロープタンパク質は、VSV-Gタンパク質である。
【0097】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、HIVベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するHIVベースのベクターは少なくとも2つのポリヌクレオチドを含み、ここでgag及びpol遺伝子はHIVゲノム由来のものとし、env遺伝子は別のウイルス由来のものとする。
【0098】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、単純ヘルペスウイルスベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供する単純ヘルペスウイルスベースのベクターは、1以上の前初期(IE)遺伝子を含まず、そのために細胞傷害性がなくなるように改変する。
【0099】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、MLVベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するMLVベースのベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに最高8kbの異種DNAを含む。
【0100】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、レンチウイルスベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するレンチウイルスベクターは、ヒトレンチウイルスに由来する。ある実施態様において、本明細書において提供するレンチウイルスベクターは、非ヒトレンチウイルスに由来する。ある実施態様において、本明細書において提供するレンチウイルスベクターは、レンチウイルスキャプシドにパッケージングされる。ある実施態様において、本明細書において提供するレンチウイルスベクターは、以下のエレメント:長鎖末端反復配列、プライマー結合部位、ポリプリントラクト、att部位、及びキャプシド化部位の1以上を含む。
【0101】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、アルファウイルスベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するアルファウイルスベクターは、組換え、複製欠損アルファウイルスである。ある実施態様において、本明細書において提供するアルファウイルスベクターのアルファウイルスレプリコンは、それらのビリオン表面に機能的な異種リガンドを提示することによって、特定の細胞種に標的化される。
【0102】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、AAVベースのウイルスベクターである。好ましい実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、AAV9又はAAVrh10ベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するAAV9又はAAVrh10ベースのウイルスベクターは、CNS細胞への向性を保持する。複数のAAV血清型が特定されている。ある実施態様において、本明細書において提供するAAVベースのベクターは、AAVの1以上の血清型に由来する成分を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するAAVベースのベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV10又はAAV11の1以上に由来する成分を含む。好ましい実施態様において、本明細書において提供するAAVベースのベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV10又はAAV11血清型の1以上に由来する成分を含む。AAV9ベースのウイルスベクターは、本明細書に記載の方法で使用する。AAVベースのウイルスベクターの核酸配列並びに組換えAAV及びAAVキャプシドの作製方法は、例えばその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号及び国際特許出願第PCT/EP2014/076466号において教示される。一態様において、ただし、導入遺伝子(例えば、IDS)をコードするAAV(例えば、AAV9又はAAVrh10)-ベースのウイルスベクターを本明細書において提供する。具体的実施態様において、IDSをコードするAAV9ベースのウイルスベクターを、本明細書において提供する。より具体的実施態様において、hIDSをコードしているAAV9ベースのウイルスベクターを、本明細書において提供する。
【0103】
(i) 調節エレメントの制御下にあり、ITRと隣接している導入遺伝子を含む発現カセット;及び(ii) AAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列を有するか、又はAAV9キャプシドタンパク質(配列番号:26)のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、又は99.9%同一であり、同時にAAV9キャプシドの生物学的機能を保持するウイルスキャプシド:を含む人工ゲノムを含むAAV9ベクターを、特定の実施態様において提供する。ある実施態様において、コードされたAAV9キャプシドは、配列番号:26の配列に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30個のアミノ酸置換を有し、かつAAV9キャプシドの生物学的機能を保持する。
図6は、SUBSと表示された列における比較に基づくアラインされた配列の特定の位置で置換され得る潜在的アミノ酸を有する異なるAAV血清型のキャプシドタンパク質のアミノ酸配列の比較アラインメントを提供する。従って、具体的実施態様で、AAV9ベクターは、ネイティブAAV9配列中のその位置に存在しない
図6のSUBS列において特定される1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30個のアミノ酸置換を有するAAV9キャプシドバリアントを含む。
【0104】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、その全体が参照により組み込まれているZinnらの文献、2015, Cell Rep. 12(6): 1056-1068に記載の通り、Anc80又はAnc80L65である。ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用されるAAVは、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第9,193,956号、第9458517号;及び第9,587,282号、並びに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載の通り、以下のアミノ酸挿入:
【化20】
のうちの1つを含む。ある実施態様において、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第9,193,956号;第9,458,517号;及び第9,587,282号、並びに米国特許出願公開第2016/0376323号にて説明したように、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、AAV.7m8である。ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、米国特許第9,585,971号において開示される任意のAAV(例えばAAV-PHP.B)である。ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている以下の特許及び特許出願:米国特許第7,906,111号; 第8,524,446号; 第8,999,678号; 第8,628,966号; 第8,927,514号; 第8,734,809号; 米国第9,284,357号; 第9,409,953号; 第9,169,299号; 第9,193,956号; 第9458517号;及び第9,587,282号、米国特許出願公開第2015/0374803号; 第2015/0126588号; 第2017/0067908号; 第2013/0224836号; 第2016/0215024号; 第2017/0051257号;及び国際特許出願番号PCT/US2015/034799; PCT/EP2015/053335のいずれかにおいて開示されるAAVである。
【0105】
ある実施態様において、一本鎖AAV(ssAAV)は、上記の通り使用することができる。ある実施態様において、自己相補的ベクター、例えば、scAAVを使用することができる(例えば、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているWuの文献、2007、Human Gene Therapy、18(2):171-82、McCartyらの文献、2001、Gene Therapy、Vol 8、Number 16、1248-1254頁;及び米国特許第6,596,535号; 第7,125,717号;及び第7,456,683号を参照されたい)。
【0106】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するウイルスベクターは、アデノウイルスベースのウイルスベクターである。組換えアデノウイルスベクターは、IDSの導入に使用することができる。組換えアデノウイルスは、E1欠失を有し、E3欠失を有していてもいなくてもよく、かつ発現カセットがいずれかの欠失した領域に挿入されている第一世代のベクターとし得る。組換えアデノウイルスは、E2及びE4領域の完全又は部分的欠失を含む第二世代のベクターとし得る。ヘルパー依存的アデノウイルスは、アデノウイルス逆位末端反復配列及びパッケージングシグナル(φ)のみを保持する。導入遺伝子は、パッケージングシグナル及び3'ITRの間に挿入され、およそ36kbの野生型のサイズの近くに人工ゲノムを維持するかさ増し配列(stuffer sequences)があってもなくてもよい。アデノウイルスベクターの生産のための例示的なプロトコルは、その全体が参照により本明細書に組み込まれているAlbaらの文献、2005、「弱体化アデノウイルス:遺伝子治療のための最新世代アデノウイルス(Gutless adenovirus: last generation adenovirus for gene therapy)」、Gene Therapy 12:S18-S27に見出すことができる。
【0107】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するウイルスベクターは、レンチウイルスベースのウイルスベクターである。組換えレンチウイルスベクターは、IDSの導入に使用することができる。4つのプラスミドを、コンストラクト:Gag/pol配列を含むプラスミド、Rev配列を含むプラスミド、エンベロープタンパク質を含むプラスミド(すなわちVSV-G)、並びにパッケージングエレメント及びIDS遺伝子を有するCisプラスミドを作製するために使用する。
【0108】
レンチウイルスベクター作製のため、とりわけポリエチレンイミン又はリン酸カルシウムをトランスフェクション薬剤として使用し得ることにより、4つのプラスミドを細胞(すなわち、HEK293ベースの細胞)に共トランスフェクションする。続いて上清中のレンチウイルスを採取する(レンチウイルスは、活性を示すために細胞から出芽する必要があるため、細胞からの採取は行う必要がないし、するべきではない)。上清を濾過し(0.45 μm)、続いて塩化マグネシウム及びベンゾナーゼを加える。さらに下流のプロセスは、非常に様々なものがあり得、TFF及びカラムクロマトグラフィーの使用が最もGMPに適合するプロセスである。他のプロセスでは、超遠心分離が使用され、カラムクロマトグラフィーを伴ってもよいし、伴わなくてもよい。レンチウイルスベクターの作製のための例示的なプロトコルは、その両方とも全体が参照により本明細書に組み込まれている、Leschらの文献、2011、「バキュロウイルスベクターを用いて293T懸濁細胞中に生成されたレンチウイルスベクターの生産及び精製(Production and purification of lentiviral vector generated in 293T suspension cells with baculoviral vectors)」、Gene Therapy 18:531-538及びAusubelらの文献、2012、「CGMP-等級のレンチウイルスベクターの生産(Production of CGMP-Grade Lentiviral Vectors)」、Bioprocess Int. 10(2):32-43に見出すことができる。
【0109】
具体的実施態様において、本明細書に記載の方法に用いられるベクターは、IDS(例えばhIDS)をコードするベクターであり、CNSの細胞又は関連した細胞(例えば、インビボ又はインビトロの神経細胞)に形質導入した際に、IDSのグリコシル化バリアントが形質導入された細胞によって発現されるようになっている。具体的実施態様において、本明細書に記載の方法に用いられるベクターは、IDS(例えばhIDS)をコードするベクターであり、CNSの細胞又は関連した細胞(例えば、インビボ又はインビトロの神経細胞)に形質導入した際に、IDSの硫酸化バリアントが細胞によって発現されるようになっている。
【0110】
(5.2.3 遺伝子発現のプロモーター及び調節配列(modifier))
ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、遺伝子送達又は遺伝子発現を調節する構成要素(例えば、「発現制御エレメント」)を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、遺伝子発現を調節する構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、細胞との結合に影響を及ぼすか又は細胞を標的とする構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、取込みの後細胞内でのポリヌクレオチド(例えば、導入遺伝子)の局在化に影響を及ぼす構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、例えば、ポリヌクレオチドを取込んだ細胞を検出するか、又は選択するための検出可能な、又は選択可能なマーカーとして使用することができる構成要素を含む。
【0111】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上のプロモーターを含む。ある実施態様において、プロモーターは、構成的プロモーターである。代替の実施例において、プロモーターは、誘導性プロモーターである。ネイティブのIDS遺伝子は、大部分のハウスキーピング遺伝子と同様に、主にGCリッチプロモーターを使用する。好ましい実施態様において、hIDSの持続的な発現を提供する強力な構成的プロモーターを使用する。そのようなプロモーターには、「CAG」合成プロモーターがあり:これは、「C」―サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサーエレメント;「A」―ニワトリβアクチン遺伝子のプロモーター並びに第一エキソン及びイントロン;並びに「G」−ウサギβ-グロビン遺伝子のスプライスアクセプターを含む(Miyazakiらの文献、1989、Gene 79: 269-277;及びNiwaらの文献、Gene 108: 193-199を参照されたい)。
【0112】
ある実施態様において、プロモーターはCB7プロモーターである(その全体が参照により本明細書に組み込まれているDinculescuらの文献、2005、Hum Gene Ther 16:649-663を参照されたい)。一部の実施態様において、CB7プロモーターは、ベクターによって駆動される導入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメントを含む。ある実施態様において、他の発現制御エレメントには、ニワトリβ-アクチンイントロン及び/又はウサギβ-グロビンpolAシグナルがある。ある実施態様において、プロモーターは、TATAボックスを含む。ある実施態様において、プロモーターは、1以上のエレメントを含む。ある実施態様において、1以上のプロモーターエレメントは、互いに対して逆向きにしても、位置を変えてもよい。ある実施態様において、プロモーターのエレメントは、協働的に機能するように配置する。ある実施態様において、プロモーターのエレメントは、独立して機能するように配置する。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、ヒトCMV前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RS)長鎖末端反復配列、及びラットインスリンプロモーターからなる群から選択される1以上のプロモーターを含む。ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、AAV、MLV、MMTV、SV40、RSV、HIV-1、及びHIV-2 LTRからなる群から選択される1以上の長鎖末端反復配列(LTR)プロモーターを含む。ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、1以上の組織特異的プロモーター(例えば、神経細胞特異的なプロモーター)を含む。
【0113】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上のプロモーター以外の調節エレメントを含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、エンハンサーを含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、リプレッサーを含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、イントロン又はキメライントロンを含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、ポリアデニル化配列を含む。
【0114】
(5.2.4 シグナルペプチド)
ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、タンパク質送達を調節する構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上のシグナルペプチドを含む。ある実施態様において、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDS)の細胞内での適切なパッケージング(例えばグリコシル化)を達成することを可能にする。ある実施態様において、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDS)が細胞内で適切な局在化を達成することを可能にする。ある実施態様において、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDS)が細胞からの分泌を達成することを可能にする。ベクターに関連して使用されるシグナルペプチドの例及び本明細書において提供する導入遺伝子は、表1に見出すことができる。シグナルペプチドは、本明細書において、リーダー配列又はリーダーペプチドと呼んでもよい。
表2. 本明細書において提供するベクターとともに使用するためのシグナルペプチド。
【表4】
【0115】
(5.2.5 非翻訳領域)
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上の非翻訳領域(UTR) (例えば、3'及び/又は5’ UTR)を含む。ある実施態様において、UTRは、タンパク質発現の所望のレベルのために最適化される。ある実施態様において、UTRは、導入遺伝子のmRNA半減期の間最適化される。ある実施態様において、UTRは、導入遺伝子のmRNAの安定性のために最適化される。ある実施態様において、UTRは、導入遺伝子のmRNAの二次構造のために最適化される。
【0116】
(5.2.6 逆位末端反復配列)
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上の逆位末端反復(ITR)配列を含む。ITR配列は、ウイルスベクターのビリオンに組換え遺伝子発現カセットをパッケージングするために使用することができる。ある実施態様において、ITRは、AAV(例えば、AAV9)に由来するものである(その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、例えばYanらの文献、2005, J. Virol., 79(1):364-379;米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号及び国際特許出願番号PCT/EP2014/076466を参照されたい)。
【0117】
(5.2.7 導入遺伝子)
ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、IDS導入遺伝子をコードする。具体的実施態様において、IDSは、神経細胞における発現に適当な発現制御エレメントによって制御される:ある実施態様において、IDS(例えば、hIDS)導入遺伝子は、配列番号:1のアミノ酸配列を含む。ある実施態様において、IDS(例えば、hIDS)導入遺伝子は、配列番号:1に記載の配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一のアミノ酸配列を含む。
【0118】
導入遺伝子によってコードされるHuGlyIDSは、これらに限定はされないが、配列番号:1のアミノ酸配列を有するヒトIDS(hIDS)(
図1に示す)、及びアミノ酸の置換、欠失、又は付加を有する、例えばこれらに限定はされないが、
図2に示すIDSのオルソログ中に対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含むhIDSの誘導体(ただし、そのような突然変異は、酵素活性に必要な位置84のシステイン残基(C84)の置換は含まない(Millatらの文献、1997、Biochem J 326: 243-247);あるいは、
図3に示すか、又はその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Sukegawa-Hayasakaらの文献、 2006, J Inhert Metab Dis 29: 755-761(「減弱型」突然変異体R48P、A85T、W337R、及び切断型突然変異体Q531X;並びに、「重度」の突然変異体P86L、S333L、S349I、R468Q、R468Lについて報告する);Millatらの文献、1998, BBA 1406: 214-218(「減弱型」突然変異体P480L及びP480Q;並びに「重度」の突然変異体P86Lについて報告する);並びに、Bonucelliらの文献、2001, BBA 1537:233-238に報告された重度、重度-中等度、中等度又は減弱型MPS II表現形において同定された突然変異を含み得る。
【0119】
例えば、hIDSの特定位置でのアミノ酸置換は
図2にアラインされたIDSオルソログにおけるその位置に見出される対応する非保存的アミノ酸残基から選択することができる(ただし、そのような置換は
図3に示されるか、又はその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Sukegawa-Hayasakaらの文献、2006、前掲;Millatらの文献、1998、前掲;又は、Bonucelliらの文献、2001、前掲において報告される、有害な突然変異のいずれも含まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養又は試験動物で、突然変異がIDS機能を損なわないことを保証するためのインビトロでの従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、欠失又は付加は、細胞培養又はMPS II動物モデルにおけるインビトロでの従来のアッセイによって試験されるIDSの酵素活性、安定性、又は半減期を維持するか、又は増加させるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は、基質として例えば4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシドウロン酸 2-スルフェート又は4-メチルウンベリフェリルスルフェートを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDS酵素アッセイについては、例えば、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Leeらの文献、2015, Clin. Biochem. 48(18):1350-1353、Deanらの文献、2006、Clin. Chem. 52(4):643-649を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS II表現形を修正する能力は;例えば、培養中でMPS II細胞にhIDS又は誘導体をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより;培養中のMPS II細胞に導入遺伝子産物又は誘導体を加えることにより;あるいはMPS II細胞を、rhIDS又は誘導体を発現及び分泌するように操作したヒト神経/グリア宿主細胞と共培養して、MPS II培養細胞の欠陥の修正を決定することにより、例えば培養中のMPS II細胞におけるIDS酵素活性及び/又はGAG貯蔵量の低下を検出することにより、細胞培養中で評価することができる(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Stroncekらの文献、1999、Transfusion 39(4):343-350を参照されたい)。
【0120】
(5.2.8 コンストラクト)
ある実施態様において、本明細書において提供されるウイルスベクターは、以下の順序で以下のエレメント:a) 第1のITR配列、b) 第1のリンカー配列、c) プロモーター配列、d) 第2のリンカー配列、e) イントロン配列、f) 第3のリンカー配列、g) 導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列、h) 第4のリンカー配列、i) ポリA配列、j) 第5のリンカー配列、及びk) 第2のITR配列を含む。
【0121】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、以下の順序で以下のエレメント:a) プロモーター配列、及びb) 導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、以下の順序で以下のエレメント:a) プロモーター配列、及びb) 導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列を含み、ここで導入遺伝子はシグナルペプチドを含む。
【0122】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、以下の順序で以下のエレメント:a)最初のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)第1のUTR配列、h)導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列、i)第2のUTR配列、j)第4のリンカー配列、k)ポリA配列、l)第5のリンカー配列、及びm)第2のITR配列を含む。
【0123】
ある実施態様において、本明細書において提供されるウイルスベクターは、以下の順序で以下のエレメント:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)第1のUTR配列、h)導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列、i)第2のUTR配列、j)第4のリンカー配列、k)ポリA配列、l)第5のリンカー配列、及びm)第2のITR配列を含み、ここで導入遺伝子はシグナルペプチドを含み、かつhIDSをコードする。
【0124】
(5.2.9 ベクターの製造及び試験)
本明細書において提供するウイルスベクターは、宿主細胞を使用して製造することができる。本明細書において提供するウイルスベクターは、哺乳動物の宿主細胞、例えば、A549、WEHI、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC 1、BSC 40、BMT 10、VERO、W138、HeLa、293、Saos、C2C12、L、HT1080、HepG2、初代線維芽細胞、肝細胞及び筋芽細胞を使用して製造することができる。本明細書において提供するウイルスベクターは、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、又はハムスターから宿主細胞を使用して製造することができる。
【0125】
宿主細胞は、導入遺伝子及び関連するエレメント(すなわち、ベクターゲノム)、及びウイルスを宿主細胞で生産する手段、例えば複製及びキャプシド遺伝子(例えば、AAVのrep及びcap遺伝子)をコードする配列を用いて安定的に形質転換する。AAV8キャプシドを有する組換えAAVベクターを生産する方法については、その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第7,282,199 B2号の詳細な説明の第IV節を参照されたい。前記ベクターのゲノムコピー力価は、例えばTAQMAN(登録商標)分析によって決定することができる。ビリオンは、例えばCsCl
2沈降によって回収することができる。
【0126】
インビトロアッセイ、例えば細胞培養アッセイは、本明細書に記載のベクターからの導入遺伝子発現を測定するために使用することができ、従って例えば、ベクターの効力を示すことができる。例えば、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、又はReNcell VM細胞株、あるいは神経細胞もしくはグリア細胞、又は神経細胞もしくはグリア細胞の前駆細胞に由来する他の細胞株を、導入遺伝子発現を評価するために使用することができる。いったん発現されると、HuGlyIDSと関連したグリコシル化及びチロシン硫酸化のパターンの決定を含め、発現された産物(すなわち、HuGlyIDS)の特徴を決定することができる。
【0127】
(5.2.10 組成物)
本明細書に記載の導入遺伝子をコードしているベクター及び好適な担体を含む組成物を記載する。好適な担体(例えば、CSF、及び例えば神経細胞への投与のために)は、当業者によって容易に選択される。
【0128】
(5.3遺伝子治療)
MPS IIを有するヒト対象への、治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの投与のための方法を記載する。より詳細には、MPS IIを有する患者に、治療有効量の導入遺伝子コンストラクトを、投与するため、特にCSFに投与のための方法を記載する。特定の実施態様において、そのような治療有効量の導入遺伝子コンストラクトのCSFへの投与方法は、ハーラー症候群を有する患者を治療するために使用することができる。
【0129】
(5.3.1標的患者集団)
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターをMPS IIと診断された患者に投与する。具体的実施態様において、患者は、軽度MPS IIと診断された。具体的実施態様において、患者は、重度MPS IIと診断された。具体的実施態様において、患者は、ハンター症候群と診断された。
【0130】
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、MPS IIと診断され、IDS、例えばhIDSを用いた治療に反応すると特定された患者に投与する。
【0131】
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、小児患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、3歳未満である患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、2〜4歳である患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、4ヶ月以上であるが5歳未満である患者に投与する。具体的実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、重度のMPS IIを有し、かつ4ヶ月以上であるが5歳未満の患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、18ヶ月以上であるが8歳以下の患者へ投与する。具体的実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、小児男性患者であり、かつ18ヶ月以上であるが8歳以下である患者へ投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、3歳〜8歳の患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、8歳〜16歳の患者へ投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、10歳以下の患者へ投与する。具体的実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、重度のMPS IIを有する、10歳以下の患者へ投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、10歳を超える患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、青年期の患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、成人の患者に投与する。
【0132】
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、MPS IIと診断され、遺伝子治療処置の前にCSFに注入されたIDS、例えばhIDSによる治療に反応すると特定された患者に投与する。
【0133】
(5.3.2 投薬量及び投与様式)
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターは、髄腔内投与を介して、CSFに投与する(すなわち、クモ膜下空間に注入して、組換えベクターがCSFを通じて分布され、CNSの細胞が形質導入されるようにする)。このことは、いくつかの方法で―例えば、頭蓋内(大槽又は脳室)注入、又は腰椎槽への注入によって―達成することができる。ある実施態様において、髄腔内投与は、槽内(IC)注入(例えば、大槽に)により実施する。具体的実施態様において、槽内注入は、CTによって導かれる後頭下穿刺によって実施する。具体的実施態様において、髄腔内注入は、腰椎穿刺によって実施する。具体的実施態様において、患者に実行できそうな場合は、クモ膜下空間への注入はC1-2穿刺によって実施する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターは、鼻腔内投与を介してCNSに投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターは、実質内注入によりCNSに投与する。ある実施態様において、実質内注入は、線条体を標的とする。ある実施態様において、実質内注入は、白質を標的とする。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターは、当該技術において公知の任意の手段、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれているHocquemillerらの文献、2016、Human Gene Therapy 27(7):478-496において開示された任意の手段によって、CSFに投与する。
【0134】
髄腔内投与について、治療有効用量の組換えベクターは、注入容量を好ましくは最高約20mLとしてCSFに投与するべきである。髄腔内注入に好適な担体、例えばElliotts B溶液は、組換えベクターのためのビヒクルとして使用するべきである。Elliots B溶液(一般名:塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、無水デキストロース、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及びリン酸ナトリウム)は、静菌保存剤を含んでいない無菌の、非発熱性の、等張溶液であり、化学療法薬の髄腔内投与のための希釈剤として使用する。
【0135】
一実施態様において、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を発現している非複製組換えAAV9ベクターを、治療用に使用する。ある実施態様において、IDS発現カセットは、逆位末端反復配列(ITR)と隣接され、発現は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー及びニワトリβアクチンプロモーターのハイブリッド(CB7)により駆動される。ある実施態様において、導入遺伝子は、ニワトリβアクチンイントロン及びウサギβグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。
【0136】
rAAV9.hIDSは、約5〜20mlの容量中、1.4×10
13 GC(1.1×10
10 GC/g脳質量)〜7.0×10
13 GC(5.6×10
10 GC/g脳質量)の範囲にわたる単一の一定用量としてICで(後頭下注入によって)投与することができる。この事象において、患者は、AAVに対する中和抗体を有し、高い範囲の用量が使用されてよい。
【0137】
(5.4併用療法)
CSFへのHuGlyIDSの投与及びこれに伴う他の利用可能な治療を施すことの組合わせは、本発明の方法に包含される。追加治療を、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、その後に施すことができる。本発明の遺伝子治療と併用することができる利用可能なMPS IIの治療には、これらに限定はされないが、全身に、又はCSFに投与されるイデュルスルファーゼを用いた酵素補充療法(ERT);及び/又はHSCT療法がある。別の実施態様において、ERTは、組換えDNA技術によってヒト神経及びグリア細胞株で生産されるrHuGlyIDS糖タンパク質を使用して投与することができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト神経及びグリア細胞株は、これらに限定されないが、少し例を挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、又はReNcell VMを含む。完全なグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をα-2,6-シアル酸転移酵素(又はα-2,3-及びα-2,6-シアル酸転移酵素の両方)並びに/又はチロシン-O-硫酸化を担うTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を操作することによって強化することができる。
【0138】
(5.5 バイオマーカー/採取/モニタリング効率)
有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能低下の防止もしくは減少);CSF及び/もしくは血清中の疾患バイオマーカー(例えばGAG)の低下;並びに/又は、CSF及び/もしくは血清中のIDS酵素活性の増加を測定することによってモニタリングすることができる。炎症の徴候及び他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0139】
(5.5.1 疾患マーカー)
ある実施態様において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者における疾患バイオマーカーのレベルを測定することによってモニタリングする。ある実施態様において、疾患バイオマーカーのレベルは、患者のCSFにおいて測定する。ある実施態様において、疾患バイオマーカーのレベルは、患者の血清において測定する。ある実施態様において、疾患バイオマーカーのレベルは、患者の尿において測定する。ある実施態様において、疾患バイオマーカーは、GAGである。ある実施態様において、疾患バイオマーカーは、IDS酵素活性である。ある実施態様において、疾患バイオマーカーは、炎症である。ある実施態様において、疾患バイオマーカーは、安全事象である。
【0140】
(5.5.2 神経認知機能の試験)
ある実施態様において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者の認知機能のレベルを測定することによってモニタリングする。認知機能は、当業者に知られている任意の方法で測定することができる。ある実施態様において、認知機能は、知能指数(IQ)を測定するための認証された計器を介して測定する。具体的実施態様において、IQは、「ベクスラー略式知能スケール(Wechsler Abbreviated Scale of Intelligence)」第2版(WASI-II)によって測定する。ある実施態様において、認知機能は、記憶力を測定するための認証された計器を介して測定する。具体的実施態様において、記憶力は、ホプキンス言語学習試験(HVLT)によって測定する。ある実施態様において、認知機能は、注意力を測定するための認証された計器を介して測定する。具体的実施態様において、注意力は、注意変数試験(TOVA)によって測定する。ある実施態様において、認知機能は、IQ、記憶力、及び注意力の1以上を測定するための認証された計器を介して測定する。
【0141】
(5.5.3身体的変化)
ある実施態様において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者のリソソームの貯蔵欠陥に関連する身体的な特徴を測定することによってモニタリングする。ある実施態様において、身体的な特徴は、貯蔵病変である。ある実施態様において、身体的な特徴は、低身長である。ある実施態様において、身体的な特徴は、顔の特徴の粗雑化である。ある実施態様において、身体的な特徴は、閉塞性睡眠無呼吸である。ある実施態様において、身体的な特徴は、聴覚障害である。ある実施態様において、身体的な特徴は、視覚障害である。具体的実施態様において、視覚障害は、角膜混濁に起因する。ある実施態様において、身体的な特徴は、水頭症である。ある実施態様において、身体的な特徴は、脊髄圧迫症である。ある実施態様において、身体的な特徴は、肝脾腫である。ある実施態様において、身体的な特徴は、骨及び関節の変形である。ある実施態様において、身体的な特徴は、心臓弁膜疾患である。ある実施態様において、身体的な特徴は、再発性上気道感染症である。ある実施態様において、身体的な特徴は、手根管症候群である。ある実施態様において、身体的な特徴は、巨舌症(舌の肥大)である。ある実施態様において、身体的な特徴は、声帯肥大及び/又は変声である。そのような身体的な特徴は、当業者に公知の任意の方法によって測定することができる。
(配列表)
【表5】
【実施例】
【0142】
(6. 実施例)
(6.1 実施例1:hIDS cDNA)
hIDS cDNAベースのベクターは、hIDS(配列番号:1)を含む導入遺伝子を含むように構築する。また、導入遺伝子は、表2に列記される群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸を含む。任意に、ベクターは、さらにプロモーターを含む。
【0143】
(6.2 実施例2:置換hIDS cDNA)
配列番号:1のhIDS配列と比較してアミノ酸置換、欠失、又は付加を有するhIDS、例えば非限定的に、
図2に示すIDSのオルソログ中の対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含むhIDSを含む、導入遺伝子を含むhIDS cDNAベースのベクターを構築し;ただし、そのような突然変異は、酵素活性に必要とされる位置84のシステイン残基(C84)の置換を含まないこととする(Millatらの文献、1997、Biochem J 326: 243-247)か;あるいは、突然変異は、例えば
図3に示したような、又はその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Sukegawa-Hayasakaらの文献、2006、J Inhert Metab Dis 29: 755-761(「減弱型」突然変異体R48P、A85T、W337R、及び切断型突然変異体Q531X;並びに、「重度の」突然変異体P86L、S333L、S349I、R468Q、R468Lを報告);Millatらの文献、1998, BBA 1406: 214-218(「減弱型」突然変異体P480L及びP480Q;並びに、「重度の」突然変異体P86Lを報告);及び、Bonucelliらの文献、2001, BBA 1537:233-238により報告されたような、重度、重度-中等度、中等度、又は減弱型のMPS II表現形において同定されたいずれの突然変異も含まないことを条件とする。また、導入遺伝子は、表2に列記される群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸も含む。任意には、ベクターは、さらにプロモーターを含む。
【0144】
(6.3 実施例3:hIDS又は置換hIDSを用いた動物モデルにおけるMPS IIの治療)
導入遺伝子として発現される場合、hIDS cDNAベースのベクターはMPS IIの治療に有用であると考えられる。MPS II動物モデル、例えばGarciaらの文献、2007、J Inherit Metab Dis 30: 924-34、又はMuenzerらの文献、2001、Acta Paediatr Suppl 91:98-99に記載されるマウスモデルに、導入遺伝子産物を送達し、かつ動物のCSF中で治療有効濃度を維持するのに十分な用量で、髄腔内に、hIDSをコードする組換えベクターを投与する。治療の後、動物を、特定の動物モデルの疾患と一致した症状の改善について評価する。
【0145】
(6.1 実施例4:hIDS又は置換hIDSを用いたMPS IIの治療)
導入遺伝子として発現される場合、hIDS cDNAベースのベクターはMPS IIの治療に有用であると考えられる。MPS IIを呈する対象に、導入遺伝子産物を送達し、かつCSF中で治療的濃度を維持するのに十分な用量で、髄腔内に、hIDSをコードするcDNAベースのベクター(例えば、コンストラクト1(以下参照)など)を投与する。治療の後、対象を、MPS IIの症状の改善について評価する。
【0146】
(6.2 実施例5:MPS II(ハンター症候群)の小児対象におけるコンストラクト1の安全性、忍容性、及び薬力学を評価する第I/II相多施設オープンラベル試験)
(6.2.1 梗概)
(被験製品、用量及び投与経路)
【0147】
コンストラクト1:AAV9.CB7.hIDS(ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシド)。段落[0019]及び
図5を参照されたい。
【0148】
製品は、単回槽内(IC)用量として送達される。
【0149】
2つの用量レベル、1.3×10
10ゲノムコピー(GC)/g脳質量(用量1)及び6.5×10
10GC/g脳質量(用量2)を評価する。投与される総用量は、年齢を基にした被験対象の推定される脳サイズに対処する。投与される製品の総容積は、5mLを超えない。
【0150】
(目的)
【0151】
主要目的:
・重度のMPS IIを有する小児対象へ投与された単回IC用量後、24週間にわたり、コンストラクト1の安全性及び忍容性を評価すること。
【0152】
副次的目的:
・コンストラクト1の長期安全性及び忍容性を評価すること。
・脳脊髄液(CSF)、血漿、及び尿中のバイオマーカーに対する、コンストラクト1の効果を評価すること。
・認知、行動、及び適応機能の神経発達のパラメータに対する、コンストラクト1の効果を評価すること。
・CSF、血漿、及び尿中にシェディングするベクターを評価すること。
【0153】
探索的目的:
・コンストラクト1の免疫原性を評価すること。
・CNSへの生理的変化に対するコンストラクト1の効果を探索すること。
・疾患の全身徴候に対するコンストラクト1の効果を探索すること。
・聴覚能力に対するコンストラクト1の効果を探索すること。
・IV ERT (ELAPRASE(登録商標))を一時的に中断している対象の血漿及び尿中のバイオマーカーに対する、コンストラクト1の効果を探索すること。
・生活の質(QOL)及び睡眠測定に対する、コンストラクト1の効果を探索すること。
【0154】
(試験デザイン及び方法論)
【0155】
これは、コンストラクト1の第I/II相、ファーストインヒューマンの多施設オープンラベル単一アーム用量漸増試験である。対照群は含まない。重度のMPS IIを有するおよそ6名の小児対象を、2つの用量コホート、1.3×10
10 GC/g脳質量(用量1)又は6.5×10
10 GC/g脳質量(用量2)に登録し、IC注入により投与された単一用量のコンストラクト1を受け取る。安全性は、治療後の最初の24週間について主要な焦点(primary focus)とする(主要試験期間)。主要試験期間の完了後、対象は、コンストラクト1による治療後最大合計104週間にわたり、評価(安全性及び有効性)され続ける。試験の最後に、対象は、長期経過観察試験に参加することを招聘される。
【0156】
最初の3名の適格な対象は、用量1コホート(1.3×10
10GC/g脳質量)に登録する。最初の対象へコンストラクト1の投与後、安全性に関する8週間の観察期間をおく。内部安全性委員会(ISC)は、この対象に関して最初の8週間の間に得られた安全性データ(第8週目来院時に得られたデータを含む)を検証し、安全性に関する懸念がない場合は、第二の対象を登録してよい。同じプロセスを、第三の対象の登録に使用する。安全性審査のトリガー(SRT)事象が認められない場合、第三の対象に関して第8週目来院を含む最大8週間までに得られた用量1コホートに関して全ての利用可能な安全性データが、独立データモニタリング委員会(IDMC)により評価される。第二用量(6.5×10
10 GC/g脳質量)へ進むと決定された場合、後続の2名の対象は、最初の用量コホートと同じ投薬スキームに従い、後続の各対象の投薬は、最後に投薬された対象について最初の8週間の間に得られた(第8週目来院時に得られたデータを含む) 全ての安全性データが検証された後に行われる。ISCは、第二の対象の第2週目来院を含む最大2週間に得られた全ての対象の安全性データを検証し、かつこの評価の直後に第三の対象への投薬に進むのに安全であることを決定する。用量2コホートに関する全ての利用可能な安全性データは、用量2コホートの第三の対象の第8週目来院の後に、IDMCにより評価される。
【0157】
可能性のある対象は、本試験への適格性を決定するために、投薬前に最大35日間スクリーニングする。適格性の判定基準に合致するこれらの対象は、第-2日目から第1日目の朝の間、入院し(施設の慣行に従う)、ベースライン評価を、投薬前に行う。対象は、コンストラクト1の単回IC用量を第1日目に受け取り、投薬後およそ30〜36時間は、観察のために院内に留まる。主要試験期間(すなわち第24週目まで)の後続の評価は、第4週目までは毎週、並びに第8、12、16、20、及び24週目に行う。主要試験期間後、第28、32、40、48、52、56、64、78、及び104週目に来院する。第12、40、及び64週目の来院は、訪問看護師により実施されてよい。第20及び28週目の評価は、限定されたものであり、電話により、AE及び併用治療を評価する。
【0158】
全ての対象は、動物において実施された非臨床安全性/毒性試験における可能性のある免疫原性の所見を基に本試験において、最初に免疫抑制剤(IS)を受け取り、これはコルチコステロイド(メチルプレドニゾロン10mg/kg、静脈内[IV]に、第1日目投薬前に1回、及び経口プレドニゾンを第2日目に0.5mg/kg/日で開始し、漸減し、第12週目までに中断する)、タクロリムス(第2日目に経口[PO]で1mgを1日2回[BID]を、第24週目まで、血液レベル4〜8ng/mLを目標とし、第24〜32週目の間に、8週間かけて漸減)、及びシロリムス(第-2日目に、負荷投与量1mg/m
2を、4時間毎に×3投薬;その後第-1日目から、シロリムス0.5mg/m
2/日を、分割してBID投薬し、第48週目までに血液レベル4〜8ng/mlを目標とする)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムスの血液レベルモニタリングを、表3に従い実行する。シロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲内に血液レベルを維持するように調節する。
【0159】
IS療法は、第48週目以降は計画しない。臨床上関連のある免疫応答を管理するためにISが第48週目以降も必要であるならば、臨床上指摘されるように、治験責任医師(PI)が、経過観察者(Medical Monitor)及び治験依頼者と相談して、好適な免疫抑制レジメンを決定する。
【0160】
有効性評価は、神経認知機能、聴覚能力、脳MRI、肝臓及び脾臓のサイズ、並びにCSF、血漿、及び尿中の薬力学(PD)バイオマーカーのレベルの測定を含む。神経認知又は適応のスケールは、対象の標準看護の一部として行う一方で、同じく施設で論議した後治験依頼者により決定されたように、本治験への参加を収集する。
【0161】
(エンドポイント)
【0162】
主要エンドポイント:
・第24週目までの安全性:AE及び重篤有害事象(SAE)。
【0163】
副次的エンドポイント:
・第104週目までの安全性:AE報告、臨床検査評価、バイタルサイン、ECG、身体所見、及び神経学的評価。
・CSF中(GAG、I2S活性)、血漿中(GAG、I2S活性)、及び尿中(GAG)のバイオマーカー。
・認知、行動、及び適応機能の神経発達のパラメータ:
○乳幼児の発達のベイリースケール、第3版(BSID-III)(Bayleyの文献、2005)又は小児のカウフマンアセスメントバッテリー、第2版(KABC-II)(Kaufmanの文献、2004)
○Vineland適応行動尺度、第2版、Comprehensive Interview Form (VABS-II)(Sparrowらの文献、2005)。
・コンストラクト1デオキシリボ核酸(DNA)に対する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による、CSF、血漿、及び尿中のベクター濃度。
【0164】
探索的エンドポイント:
・免疫原性測定
○CSF及び血清中の、AAV9に対する中和抗体力価及びI2Sに対する結合抗体力価
○酵素-結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイ:AAV9及びI2Sに対するT-細胞反応
○フローサイトメトリー:AAV-及びI2S-特異的制御性T細胞。
・脳の磁気共鳴画像法(MRI)により評価されたCNS構造異常。
・腹部のMRI及び超音波により評価された肝臓及び脾臓のサイズ。
・聴性脳幹反応(ABR)検査により測定した聴覚能力の変化。
・IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中断している対象における血漿及び尿中GAG。
・PedsQL(バージョン4)。
・睡眠全般印象度スケール。
【0165】
本試験の全期間は、投与後104週間であり、主要安全性評価の時点は24週間である。スクリーニングは、最大35日間行われる。
【0166】
(診断並びに選択及び除外の基準)
【0167】
本試験への参加に適格であるために、対象は、以下の選択基準の全てに合致しなければならない:
1. 対象の法的後見人が、本試験の性質の説明を受けた後、かつ何らかの研究に関連する手順の前に、明文の署名入りのインフォームドコンセントを進んで提供し、かつその能力を有すること。
2. 男性であること。
3. 以下の判定基準の一つに合致すること:
a. MPS IIの文書による診断を有し、
かつ4ヶ月以上5歳未満であり、
かつ神経認知試験スコアが、>55から≦77であるか(BSID-III又はKABC-II)、
又は
b. MPS IIの文書による診断を有し、
かつ4ヶ月以上5歳未満であり、
かつ連続神経認知試験(BSID-III又はKABC-II)について標準偏差≧1の下落及び試験スコア>55を有するか、
又は
c. 対象と同じIDS突然変異を有する重度のMPS IIと診断された親族を有し、
かつ遺伝学者の意見では、重度型MPS IIが遺伝していること。
4. 補助介助の有無を問わず、必要とされるプロトコル試験を完了するのに十分な聴覚能力及び視覚能力を有し、及び試験日に適用可能ならば補助具の着用を遵守すること。
【0168】
以下の除外基準のいずれかに合致する対象は、本試験への参加に適格ではない:
1. 以下のいずれかを含み、IC注入が禁忌であること:
a. 試験に参加する神経放射線学者/神経外科医(1施設1名)のチームによる、ベースラインMRI試験の検証が、IC注入が禁忌であることを示す。
b. 試験に参加する神経放射線学者/神経外科医のチームによる入手可能な情報の検証を基に、IC注入の禁忌を生じるような頭部/頸部手術の既往歴。
c. コンピュータ断層撮影法(CT)、造影剤、又は全身麻酔に何らかの禁忌を有する。
d. MRI又はガドリニウムに対する何らか禁忌を有する。
e. 推算糸球体濾過速度(eGFR)<30mL/分/1.73m
2を有する。
2. プレドニゾン、タクロリムス又はシロリムスによる治療が禁忌である何らかの状態を有する。
3. MPS IIに起因しない何らかの神経認知障害、又はPIの意見で試験結果の解釈を混乱させ得る神経精神医学的状態の診断を有する。
4. 腰椎穿刺に対する何らかの禁忌を有する。
5. 脳室シャントを有する。
6. 造血幹細胞移植(HSCT)を受けている。
7. AAV-ベースの遺伝子治療製品による治療を以前に受けている。
8. 髄腔内(IT)投与によりイデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]を受け取っている。
9. イデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]IVを受け取り、かつイデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]IV投与に関連していると考えられるアナフィラキシーを含む重篤な過敏反応を経験している。
10. インフォームドコンセントフォーム(ICF)への署名前、第1日目から30日以内又は半減期の5倍の期間のどちらか長い期間、任意の治験薬を受け取っている。
11. スクリーニング前少なくとも3ヶ月にわたり完全寛解ではない、リンパ腫の既往歴、又は皮膚の扁平細胞もしくは基底細胞癌以外の、別の癌の既往歴を有する。
12. 血小板カウント<100,000/マイクロリットル(μL)を有する。
13. 対象が、ギルバート症候群の既知の既往歴を有し、並びに抱合型ビリルビンが総ビリルビンの<35%を示す分画されたビリルビンを有する場合を除いて、スクリーニング時に、アミノ基転移酵素(ALT)又はアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)>3×ULN又は総ビリルビン>1.5×ULNを有する。
14. 最大限の医学的治療にもかかわらず、管理されない高血圧(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)。
15. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はB型もしくはC型肝炎ウイルス感染症の既往歴、又はB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、又はC型肝炎もしくはHIV抗体に関するスクリーニング試験陽性を有する。
16. 臨床施設の従業者もしくは試験の実行に関係するその他の個人の一親等家族であるか、又は臨床施設の従業者もしくは試験の実行に関係するその他の個人である。
17. PIの意見において、対象の安全性を損なうような臨床的に意味のあるECG異常を有する。
18. PIの意見において、対象の安全性もしくは本試験における参加の成功もしくは試験結果の解釈を損なうような、重篤又は不安定な医学的もしくは精神的状態を有する。
19. PIの意見において、対象を過度のリスクに曝す管理できない発作を有する。
免疫抑制療法に関連した除外基準:
20. タクロリムス、シロリムス、又はプレドニゾンに対する過敏反応の既往歴を有する。
21. 一次免疫不全(例えば、分類不能型免疫不全症症候群)、脾臓摘出、又は対象を感染症にかかり易くする基礎となる状態の既往歴を有する。
22. スクリーニング前少なくとも12週間完全に消散されない、帯状疱疹(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、又はエプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症を有する。
23. 2回目来院前少なくとも8週間消散されない、入院又は非経口抗感染症薬による治療を必要とする感染症を有する。
24. 2回目来院前10日以内に、経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする、活発な感染症を有する。
25. 活動性結核(TB)の既往歴又はスクリーニング時の陽性クォンティフェロン-TBゴールド試験を有する。
26. ICF署名前8週間以内の生ワクチン接種。
27. ICF署名前8週間以内の大手術、又は試験期間中に計画された大手術。
28. 登録の6ヶ月以内のアデノイド切除術又は扁桃摘出術の必要性の予測。
29. 絶対好中球カウント<1.3×10
3/μLを有する。
30. PIが、免疫抑制療法に適していないと考える、状態又は臨床検査の異常を有する。
【0169】
(統計解析方法)
【0170】
全てのデータは、対象データリストに提示する。カテゴリー変数は、頻度及び割合を用いてまとめ、連続変数は、記述統計を用いてまとめる(n、平均、標準偏差、中央値、最小値、及び最大値)。グラフ表示は、必要に応じて提示する。安全性及びPDエンドポイントは、用量群別に報告し、同じく一緒にした2用量群についても報告する。
【0171】
試料サイズ及び検定力計算:試料サイズを決定するために、正式な計算は行わなかった。
(6.2.2 略号及び用語)
【表6】
【0172】
(6.2.3 試験計画)
(エンドポイント)
【0173】
主要エンドポイント:
・第24週目までの安全性:AE及びSAE。
【0174】
副次的エンドポイント:
・第104週目までの安全性:AE報告、臨床検査評価、バイタルサイン、心電図(ECG)、身体所見、及び神経学的評価。
・CSF中(GAG、I2S活性)、血漿中(GAG、I2S活性)、及び尿中(GAG)のバイオマーカー。
・認知、行動、及び適応機能の神経発達のパラメータ:
○乳幼児の発達のベイリースケール、第3版(BSID-III)(Bayleyの文献、2005)又は小児のカウフマンアセスメントバッテリー、第2版(KABC-II)(Kaufmanの文献、2004)
○Vineland適応行動スケール、第2版、Comprehensive Interview Form (VABS-II)(Sparrowらの文献、2005)。
・コンストラクト1 DNAに対する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による、CSF、血漿、及び尿中のベクター濃度。
【0175】
探索的エンドポイント:
・免疫原性測定
○CSF及び血清中の、AAV9に対する中和抗体力価及びI2Sに対する結合抗体力価
○酵素-結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイ:AAV9及びI2Sに対するT-細胞反応
○フローサイトメトリー:AAV-及びI2S-特異的制御性T細胞。
・脳のMRIにより評価されたCNS構造異常。
・腹部のMRIにより評価された肝臓及び脾臓のサイズ。
・聴性脳幹反応(ABR)検査により測定した聴覚能力の変化。
・IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中断している対象における血漿及び尿中GAG。
・PedsQL(バージョン4)。
・睡眠全般印象度スケール。
【0176】
(試験デザイン)
【0177】
これは、コンストラクト1の第I/II相、ファーストインヒューマンの多施設オープンラベル単一アーム用量漸増試験である。重度のMPS IIを有するおよそ6名の小児対象を、2つの用量コホート、1.3×10
10 GC/g脳質量(用量1)又は6.5×10
10 GC/g脳質量(用量2)に登録し、IC注入により投与された単一用量のコンストラクト1を受け取る。安全性は、治療後の最初の24週間について主要な焦点とする(主要試験期間)。主要試験期間の完了後、対象は、コンストラクト1による治療後最大合計104週間にわたり、評価(安全性及び有効性)され続ける。試験の最後に、対象は、長期経過観察試験に参加することを招聘される。
【0178】
可能性のある対象は、本試験への適格性を決定するために、投薬前に最大35日間スクリーニングする。適格性の判定基準に合致するこれらの対象は、第-2日目から第1日目の朝の間、入院し(施設の慣行に従う)、ベースライン評価を、投薬前に行う。対象は、コンストラクト1の単回IC用量を第1日目に受け取り、投薬後およそ30〜36時間は、観察のために院内に留まる。主要試験期間(すなわち第24週目まで)の後続の評価は、第4週目までは毎週、並びに第8、12、16、20、及び24週目に、行う。主要試験期間後、第28、32、40、48、52、56、64、78、及び104週目に来院する。第12、40、及び64週目の来院は、訪問看護師により実施されてよい。第20及び28週目の評価は、限定されたものであり、電話により、AE及び併用治療を評価する。
【0179】
全ての対象は、非臨床試験における所見を基に本試験において最初にISを受け取る。IS療法は、コルチコステロイド(メチルプレドニゾロン10mg/kg、IVに、第1日目投薬前に1回、及び経口プレドニゾンを第2日目に0.5mg/kg/日で開始し、漸減し、第12週目までに中断する)、タクロリムス(第2日目に経口[PO]で1mgを1日2回[BID]を、第24週目まで、血液レベル4〜8ng/mLを目標とし、第24〜32週目の間に、8週間かけて漸減)、及びシロリムス(第-2日目に、負荷投与量1mg/m
2を、4時間毎に×3投薬、その後第-1日目から:シロリムス0.5mg/m
2/日を、分割して1日2回投薬し、第48週目までに血液レベル4〜8ng/mlを目標とする)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムスの血液レベルモニタリングを、表3に従い実行する。シロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲内に血液レベルを維持するように調節する。
【0180】
IS療法は、第48週目以降は計画しない。臨床上関連のある免疫応答を管理するためにISが第48週目以降も必要であるならば、臨床上指摘されるように、治験責任医師(PI)が、経過観察者及び治験依頼者と相談して、好適な免疫抑制レジメンを決定する。
【0181】
コンストラクト1の安全性及び忍容性は、AE及び重篤有害事象(SAE)、化学、血液学の評価、尿検査、CSF炎症のマーカー、免疫原性、ベクターシェディング(ベクター濃度)、バイタルサイン、心電図(ECG)、及び神経学的評価を含む身体所見を通じてモニタリングする。
【0182】
有効性評価は、神経認知機能及び適応機能、聴覚能力、脳MRI、肝臓及び脾臓のサイズ、並びにCSF、血漿、及び尿中のPDバイオマーカーのレベルの測定を含む。
【0183】
(6.2.4 対象集団及び選択)
(試験集団の選択)
【0184】
MPS IIに起因する神経認知障害が文書化されるか、又は重度のMPS IIの遺伝形態と一致する遺伝子型及び家族歴を有する、4ヶ月以上5歳未満である、およそ6名の小児対象が、治験製品(IP)により治療される。
【0185】
(選択基準)
【0186】
本試験への参加に適格であるために、対象は、以下の参加基準の全てに合致しなければならない:
1. 対象の法的後見人が、本試験の性質の説明を受けた後、かつ何らかの研究に関連する手順の前に、明文の署名入りのインフォームドコンセントを進んで提供し、かつその能力を有すること。
2. 男性であること。
3. 以下の判定基準の一つに合致すること:
a. MPS IIの文書による診断を有し、
かつ4ヶ月以上5歳未満であり、
かつ神経認知試験スコアが、>55から≦77であるか(BSID-III又はKABC-II)、
又は
b. MPS IIの文書による診断を有し、
かつ4ヶ月以上5歳未満であり、かつ連続神経認知試験(BSID-III又はKABC-II)について標準偏差≧1の下落及び試験スコア>55を有するか、
又は
c. 対象と同じIDS突然変異を有する重度のMPS IIと診断された親族を有し、かつ遺伝学者の意見では、重度型MPS IIが遺伝していること。
4. 補助介助の有無を問わず、必要とされるプロトコル試験を完了するのに十分な聴覚能力及び視覚能力を有し、及び試験日に適用可能ならば補助具を着用することを遵守すること。
【0187】
(除外基準)
【0188】
以下の除外基準のいずれかに合致する対象は、本試験への参加に適格ではない:
1. 以下のいずれかを含み、IC注入が禁忌であること:
a. 試験に参加する神経放射線学者/神経外科医(1施設1名)のチームによる、ベースラインMRI試験の検証が、IC注入が禁忌であることを示す。
b. 試験に参加する神経放射線学者/神経外科医のチームによる入手可能な情報の検証を基に、IC注入の禁忌を生じる様な頭部/頸部手術の既往歴。
c. コンピュータ断層撮影法(CT)、造影剤、又は全身麻酔に何らかの禁忌を有する。
d. MRI又はガドリニウムに対する何らか禁忌を有する。
e. 推算糸球体濾過速度(eGFR)<30mL/分/1.73m
2を有する。
2. プレドニゾン、タクロリムス又はシロリムスによる治療が禁忌である何らかの状態を有する。
3. MPS IIに起因しない何らかの神経認知障害、又はPIの意見で試験結果の解釈を混乱させ得る神経精神医学的状態の診断を有する。
4. 腰椎穿刺に対する何らかの禁忌を有する。
5. 脳室シャントを有する。
6. 造血幹細胞移植(HSCT)を受けている。
7. AAV-ベースの遺伝子治療製品による治療を以前に受けている。
8. 髄腔内(IT)投与によりイデュルスルファーゼを受け取っている。
9. イデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]IVを受け取り、かつイデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]IV投与に関連していると考えられるアナフィラキシーを含む重篤な過敏反応を経験している。
10. インフォームドコンセントフォーム(ICF)への署名前、第1日目から30日以内又は半減期の5倍の期間のどちらか長い期間、任意の治験薬を受け取っている患者。
11. スクリーニング前少なくとも3ヶ月にわたり完全寛解ではない、リンパ腫の既往歴、又は皮膚の扁平細胞もしくは基底細胞癌以外の、別の癌の既往歴を有する。
12. 血小板カウント<100,000/マイクロリットル(μL)を有する。
13. 対象が、ギルバート症候群の既往歴を有し、並びに抱合型ビリルビンが総ビリルビンの<35%を示す分画されたビリルビンを有する場合を除いて、スクリーニング時に、アミノ基転移酵素(ALT)又はアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)>3×ULN又は総ビリルビン>1.5×ULNを有する。
14. 最大限の医学的治療にもかかわらず、管理されない高血圧(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)。
15. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はB型もしくはC型肝炎ウイルス感染症の既往歴、又はB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、又はC型肝炎もしくはHIV抗体に関するスクリーニング試験陽性を有する。
16. 臨床施設の従業者もしくは試験の実行に関係するその他の個人の一親等家族であるか、又は臨床施設の従業者もしくは試験の実行に関係するその他の個人である。
17. PIの意見において、対象の安全性を損なうような臨床的に意味のあるECG異常を有する。
18. PIの意見において、対象の安全性もしくは本試験における参加の成功もしくは試験結果の解釈を損なうような、重篤又は不安定な医学的もしくは精神的状態を有する。
19. PIの意見において、対象を過度のリスクに曝す管理できない発作を有する。
免疫抑制療法に関連した除外基準:
20. タクロリムス、シロリムス、又はプレドニゾンに対する過敏反応の既往歴を有する。
21. 一次免疫不全(例えば、分類不能型免疫不全症症候群)、脾臓摘出、又は対象を感染症にかかり易くする基礎となる状態の既往歴を有する。
22. スクリーニング前少なくとも12週間完全に消散されない、帯状疱疹(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、又はエプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症を有する。
23. 2回目来院前少なくとも8週間消散されない、入院又は非経口抗感染症薬による治療を必要とする感染症を有する。
24. 2回目来院前10日以内に、経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする、活発な感染症を有する。
25. 活動性結核(TB)の既往歴又はスクリーニング時の陽性クォンティフェロン-TBゴールド試験を有する。
26. ICF署名前8週間以内の生ワクチン接種。
27. ICF署名前8週間以内の大手術、又は試験期間中に計画された大手術。
28. 登録の6ヶ月以内のアデノイド切除術又は扁桃摘出術の必要性の予測。
29. 絶対好中球カウント<1.3×10
3/μLを有する。
30. PIが、免疫抑制療法に適していないと考える、状態又は臨床検査の異常を有する。
【0189】
(6.2.5 治療)
(治療投与)
【0190】
治験製品(IP)であるコンストラクト1(
図5参照)は、単回用量IC投与として供される。2つの用量レベル:1.3×10
10 GC/g脳質量(用量1)又は6.5×10
10 GC/g 脳質量(用量2)。投与される総用量(総GC)は、年齢別の脳のサイズの差に対処するように調節される。投与される製品の総容積は、5mLを超えない。
【0191】
参照療法は、この試験期間は、投与されない。IS療法は、以下に説明するように、IPに加えて与えられる。
【0192】
(治験製品)
【0193】
コンストラクト1は、hIDS発現カセットを含む、血清型9キャプシドの非複製組換えAAVである。段落[0019]を参照されたい。
【表7】
AAV=アデノ随伴ウイルス;CB=ニワトリベータ-アクチン;hIDS=ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ
【0194】
コンストラクト1は、髄腔内(IT)投与後、中枢神経系(CNS)でヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)製品を効率的に発現することができる、非複製組換えAAV9ベクターである。ベクターゲノムは、AAV2逆位末端反復配列(ITR)に隣接するhIDS発現カセットを含む。カセットからの発現は、サイトメガロウイルス(CMV)最初期エンハンサーとニワトリβ-アクチンプロモーターの間のハイブリッドである、CB7プロモーターによって駆動される。このプロモーターからの転写は、ニワトリβ-アクチンイントロン(CI)の存在により増強される。発現カセットのポリアデニル化シグナルは、ウサギβ-グロビン(RBG)遺伝子に由来する。コンストラクト1の概略的表示は、
図5に例示している。
【0195】
最終IPは、2mLのCRYSTAL ZENITH(登録商標)(CZ)バイアルに充填され、かつラテックスフリーゴム栓及びアルミニウムフリップオフシールにより密封された、0.001%プルロニック(登録商標)F68を含む、改変Elliotts B(登録商標)溶液中のAAVベクター活性成分(AAV9.CB7.hIDS)の凍結溶液として供給される。バイアルは、≦-60℃で貯蔵しなければならない。各IPロットの濃度(GC/mL中)は、分析証明書(CoA)に報告される。製品濃度を基にした、詳細な投薬指示は、投与マニュアルに提供される。
【0196】
(免疫抑制療法)
【0197】
(コルチコステロイド)
・ベクター投与(第1日、前投与)の朝に、対象は、少なくとも30分間にわたるメチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで受け取る。メチルプレドニゾロンは、IPの腰椎穿刺及びIC注入の前に投与するべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン薬による前投薬は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
・第12週目までにプレドニゾンを中断することを目標として、第2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
○第2日目から第2週目の終わりまで:0.5mg/kg/日
○第3週及び4週:0.35mg/kg/日
○第5週〜8週目:0.2mg/kg/日
○第9週〜12週目:0.1mg/kg。
・プレドニゾンは、第12週目の後に中断する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階高めた臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0198】
(シロリムス)
・ベクター投与の2日前(第-2日目):4時間ごとに1mg/m
2×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
・第-1日目から:目標血中レベルを4〜8ng/mlとする、1日2回の投薬に分割した0.5mg/m
2/日のシロリムス。
・シロリムスを、第48週目の受診後に中断する。
【0199】
(タクロリムス)
・第2日目(IP投与の次の日)にタクロリムスを1日2回1mg/kgの用量で開始し、24週間にわたり4〜8ng/mLの血中レベルを達成するように調整した。
・タクロリムスは第24週目来院時から開始し、8週にわたって漸減する。第24週目に、用量をおよそ50%減少させる。第28週目に、用量をさらにおよそ50%減少させる。タクロリムスは、第32週目で中断する。
・タクロリムス及びシロリムスの血液レベルのモニタリングは、表3に従い実行する。用量調節は、段落[0220]−[0222]において考察している。
【0200】
(治療への対象の割り付け法)
【0201】
適格な対象は、登録し、用量コホートへ逐次割り付け、最初の3名の対象は、1.3×10
10 GC/g脳質量を受け取るように割り付け;後続の3対象は、IDMCによる安全性データの検証は未決定のままで、6.5×10
10GC/g脳質量を受け取るように割り付ける。
【0202】
(投薬考察)
【0203】
(治験製品)
【0204】
個々の対象間の、かつ各コホートが任意の用量レベルで投薬された後の、安全性データの検証を含む、逐次投薬対象に対する計画の説明に関しては、段落[0175]から[0186]を参照されたい。
【0205】
(免疫抑制療法)
【0206】
プレドニゾン投薬は、0.5mg/kg/日で開始し、第12週目来院までに、漸減する。
【0207】
タクロリムス用量調節は、最初の24週間にわたり、全血中トラフ濃度を4〜8ng/mL以内に維持するように調整する。第24週目に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週目に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週目に中断する。シロリムス用量調節は、全血中トラフ濃度を4〜8ng/mL以内に維持するように調整する。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらに投薬量を調整する前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7〜14日間にわたり新しい維持用量を継続するべきである。
【0208】
以下の投薬及び手順は、禁止されている:
・IT ERTは、スクリーニングの6ヶ月以内は許可しない。
・ICFへの署名前又は本試験期間中(104週間を通じて)の任意の時点で、30日又は半減期の5倍以内のいずれか長い方での、任意の治験製品。
・シロリムス及び/又はタクロリムス治療時は、生ワクチンは、避けなければならない。
・CYP3A4及び/又はP糖タンパク質(PgP)の強力な阻害剤(ケトコナゾール、ボリコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、エリスロマイシン、テリスロマイシン又はクラリスロマイシンなど)又はCYP3A4及び/又はPgpの強力な誘導剤(リファンピン又はリファブチンなど)は、シロリムス及び/又はタクロリムス治療時は避けなければならない。
・グレープフルーツジュースは、CYP3A-酵素を阻害し、増加したタクロリムス及びシロリムス全血トラフ濃度を生じる。対象は、タクロリムス及び/又はシロリムスによる治療時はグレープフルーツを食べたり、グレープフルーツジュースを飲んだりすることを避けなければならない。
【0209】
(容認された投薬及び手順)
【0210】
対象は、IV ERTの安定したレジメン、並びに任意の支援的測定(例えば、理学的療法)の継続が許可される。地域の病院の標準看護に従い、対象は、MRI時の閉所恐怖症を防ぐために投薬を受け取ること、並びに腰椎穿刺、MRI、及び神経伝導試験(ABR又は感覚誘発電位)のために全身麻酔を受けることが許可される。
【0211】
対象の安全性及び福祉のため(例えば高血圧のため)に必要と考えられる、先に説明したもの以外の投薬は、地域の病院の標準看護に従い、治験担当医の裁量で与えられ、かつCRFの適切な項目に記録される。
【0212】
(等価物)
本発明はその具体的実施態様を参照し詳細に記載されるにもかかわらず、機能的に等価である変形が本発明の範囲内にあることは理解されよう。実際、本明細書において示され、説明される発明に加え、本発明の様々な修正が、上記明細書及び添付される図面から当業者にとって明らかとなるであろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることを意図する。当業者であれば、本明細書に記載の発明の具体的実施態様との多くの等価物を認識するか又は定型的な実験の範囲の域でこれを使用し、確認することが可能である。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されることを意図する。
【0213】
この明細書に言及のある全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各々の個別の刊行物、特許、又は特許出願の全体が参照により本明細書に組み込まれていることが具体的かつ個別的に示されているかのように、同程度明細書中に参照により本明細書中に組み込まれている。