特表2020-516299(P2020-516299A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-516299(P2020-516299A)
(43)【公表日】2020年6月11日
(54)【発明の名称】植物成長培地及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/04 20060101AFI20200515BHJP
   A01G 24/20 20180101ALI20200515BHJP
【FI】
   C12P19/04 C
   A01G24/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-556191(P2019-556191)
(86)(22)【出願日】2018年4月11日
(85)【翻訳文提出日】2019年10月9日
(86)【国際出願番号】AU2018050329
(87)【国際公開番号】WO2018187841
(87)【国際公開日】20181018
(31)【優先権主張番号】2017901318
(32)【優先日】2017年4月11日
(33)【優先権主張国】AU
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】519363937
【氏名又は名称】ナノローズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】キャス,ギャリー アンドリュー
【テーマコード(参考)】
2B022
4B064
【Fターム(参考)】
2B022BA11
4B064AF12
4B064CA02
4B064DA11
(57)【要約】
本発明は、植物成長培地の作製方法に関し、この方法は、湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供し、それにより植物成長培地に適するパルプを作製する工程を含む。本発明はさらに、微生物セルロース材料から作製された植物成長培地に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物成長培地を作製する方法であって、
湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供すること、
により、植物成長培地に適するパルプを作製することを含む、方法。
【請求項2】
前記微生物セルロースが、サルシーナ属(Sarcina sp.)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium sp.)及びアセトバクター属(Acetobacter sp.)を含む群から選択される細菌種により産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記均質化工程が、機械的又は圧力的均質化工程のいずれか1つから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
均質化工程が均質化装置により行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記均質化装置がブレンダーである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記パルプの粒度分布としては、D90が750〜1500μmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記パルプの粒度分布としては、D50が330〜800μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記パルプの粒度分布としては、D10が40〜150μmである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記D10は少なくとも40μmであり、前記D90は1500μm未満である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供する前に、
成長培地から微生物セルロースを分離して、湿潤微生物セルロースを作製する工程
を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供する前に、
水溶液を乾燥微生物セルロースに適用して、前記湿潤微生物セルロースを作製する工程
を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶液を乾燥微生物セルロースに適用して、湿潤微生物セルロースを作製する工程の前に、前記乾燥微生物セルロースの大きさを小さくする工程に供される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記湿潤微生物セルロースの水分含有量を制御する工程をさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記微生物セルロースの濃度が、0.1〜2.5wt/wt%である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記パルプの粘度が、0.0030〜0.088Pa.sである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供する工程の前に、
前記湿潤微生物セルロースの洗浄工程
を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記湿潤微生物セルロースを洗浄する工程が、前記湿潤微生物セルロースを水中で60℃〜100℃の温度で加熱することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記パルプは、注水可能(pourable)である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
微生物セルロースのパルプを含む植物成長培地であって、前記パルプは、0.1〜2.5wt/wt%の微生物セルロースを含み、D90が750〜1500μmとなるような粒度分布である、植物成長培地。
【請求項20】
前記微生物セルロースの濃度が0.2〜2.0wt/wt%である、請求項19に記載の植物成長培地。
【請求項21】
D90が1000〜1400μmである、請求項19又は20に記載の植物成長培地。
【請求項22】
パルプの粒度分布としては、D50が330〜800μmである、請求項19〜21のいずれか一項に記載の植物成長培地。
【請求項23】
前記パルプの粒度分布としては、D10が40〜150μmである、請求項19〜22のいずれか一項に記載の植物成長培地。
【請求項24】
D10が少なくとも40μmであり、D90が1500μm未満である、請求項19〜23のいずれか一項に記載の植物成長培地。
【請求項25】
前記微生物セルロースのかさ密度が0.005〜0.015g/cmである、請求項19〜24のいずれか一項に記載の植物成長培地。
【請求項26】
パルプの重量水容量(gravimetric water capacity;θg)が71.6〜76.5g HO/乾燥微生物セルロースgである、請求項19〜25のいずれか一項に記載の植物成長培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物成長培地(medium及びmedia)及びその作製方法に関する。より具体的には、本発明は、微生物セルロースを処理して植物成長培地を作製する方法及び微生物セルロースに由来する植物成長培地を提供する。
【背景技術】
【0002】
以下の背景技術の説明は、本発明の理解を容易にすることのみを意図する。以下の説明は、言及された資料のいずれかが、本出願の優先日における技術常識の一部であるか又はその一部であったことを確認又は承認するものでない。
【0003】
園芸産業では、種子発芽と植物成長用の無土壌培地が益々一般的になってきているが、これは水分及び栄養分の供給を制御でき、かつ、土壌伝染病の抑制しうるためである。残念ながら、これらの基質(substrates)の大部分は、合成及び/又は非生分解性であり、植替え及び廃棄の場合、又は食用植物に用いられる場合には問題となる。
【0004】
非合成基質の使用も知られているが、これらは主として植物ベースのセルロース材料に限定されている。しかしながら、当該材料の保水能は、いくつかの他のタイプの基質と比較して好ましいものの、連続的ではないとしても、なお頻繁に給水しなければならない。
【0005】
微生物セルロースはある種の細菌により産生される有機化合物である。微生物セルロースの分子式は、植物セルロースと同じであるが、その高分子の特質及び特性は著しく異なる。高い保水能は植物の成長基質として魅力的である。しかし、このように微生物セルロースの構造の保水能は良好にもかかわらず、密度が高すぎて根が浸透できない。
【0006】
本明細書では、特段の場合を除き、用語「含む(comprise)」又は「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」等のバリエーションは、記載された整数又は整数群を含むが、他の整数又は整数群は除外しないことを意味すると理解されるであろう。
【0007】
本明細書に記載される本発明は、(例えば、大きさ、変位及び電界強度等の)値の1又はそれ以上の範囲を含んでよい。値の範囲は、範囲を定義する値、及び当該範囲に隣接して、当該範囲の境界を定義する値に近接する値として、同一又は実質的に同一の結果をもたらす範囲に隣接する値を含む、範囲内の全ての値を含むと理解されるであろう。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、植物成長培地を作製する方法であって、
湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供すること、
により、植物成長培地に適するパルプを作製することを含む、方法である。
【0009】
本明細書では、特段の場合を除き、用語「植物成長培地として適する」又はそのバリエーションは、植物成長の支持体としての土壌を置換するものとして用いられうる培地をいうと理解されるであろう。そのような培地は、種子を発芽させる物質を提供し、植物の根を支持する。
【0010】
本明細書では、特段の場合を除き、用語「湿潤微生物セルロース」又はそのバリエーションは、水分を含有する微生物セルロースの材料をいうと理解されるであろう。
【0011】
本発明の一実施形態では、微生物セルロース材料は、サルシーナ属(Sarcina sp.)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium sp.)及びアセトバクター属(Acetobacter sp.)を含む群から選択される細菌種により生産される。
【0012】
当業者であれば、微生物セルロースは、細菌により産生されるβ−1,4−D−グルコースサブユニットの有機ポリマーであることを理解するであろう。有利には、微生物セルロースは有機物であり、完全に生分解性である。
【0013】
本明細書では、特段の場合を除き、用語「均質化工程」又はそのバリエーションは、少なくとも2の異なる画分を含む混合物の少なくとも1の画分の粒径(particle size)を小さくする方法をいうと理解されるであろう。本発明では、均質化工程は、微生物セルロースの平均粒径を小さくする。均質化工程により必ずしも完全に均質な混合物が生じるわけではない。
【0014】
湿潤微生物セルロースは、微生物のセルロース原線維の三次元基質として細菌により生成される。当該基質は密なマットとして形成され、ゼラチン状の膜様形態となる。本発明者らは、種子は未加工の湿潤微生物セルロース上でも発芽しうるものの、発芽後に根が繊維の密な網状組織を貫通できないことを見出した。すなわち、根は微生物セルロース構造内に保持された水分を十分に利用できない。本発明者らは、微生物セルロースの粒径を小さくすることで、植物の根を当該セルロースに浸透させ、かつ、適切な植物成長培地に必要な保水特性が保持されることを見出した。理論に束縛されるものではないが、本発明で粒径を小さくすると、微生物セルロース原繊維の密な三次元基質が少なくとも部分的に破壊されることが理解される。有利には、未加工の微生物セルロースの密な網状組織とは異なり、本発明のセルロースでは植物種子の根がパルプに浸透して、根を構造的に支持して適当に発達させうる。湿潤微生物セルロースを均質化工程に供すると、微生物セルロースの粒径を特定の狭い範囲内にまで小さくしうることが見出されている。本発明者により、このように粒径を小さくすることで、当該微生物セルロースパルプが植物成長培地として適するようになったことが見いだされたことが理解される。
【0015】
好ましくは、均質化工程は、機械的、加圧的均質化工程のいずれか、又はそれらの組み合わせから選択される。より好ましくは、均質化工程は機械的均質化工程である。
【0016】
当業者であれば、機械的均質化工程とは、機械力が加えられたストレス下で湿潤微生物セルロースを変形及び/又は破壊することを理解するであろう。当該機械力は、引張応力、曲げ応力、圧縮応力、ねじり応力、衝撃応力及び剪断応力のうちの1又はそれ以上から選択されてよい。好ましくは、機械力は、圧縮応力、衝撃応力、及び剪断応力のうちのいずれか1又はそれ以上である。
【0017】
当業者であれば、加圧的均質化工程とは、湿潤微生物セルロースのストリームが、湿潤微生物セルロース中のいかなる成分の粒径をも小さくすることを意図する力のうちのいかなる1のシステムに曝露されることによっても強制的に処理されることを理解するであろう。典型的には、試料は、極めて狭いスリットがある弁又は膜を通過させられる。実際、特定のシステムの設定に応じて、高圧的均質化装置は、剪断力、衝撃、及びキャビテーションのいかなる組み合わせでも作動しうる。
【0018】
本発明者らは、高速回転刃を用いた機械的均質化が微生物セルロースの均質化に特に有用であることを見出した。このような処理では、機械力は、主として、回転刃と微生物セルロースとの衝突から生じる衝撃力及び培地中の速度の差により生じる剪断力からなることが理解される。
【0019】
本発明の一の実施形態では、均質化工程は、均質化装置で行われる。当業者であれば、微生物セルロースに機械力を加えることができるいかなる装置も適切であろうことを理解するであろう。好ましくは、装置はブレンダーである。
【0020】
当業者であれば、粒度分布(particle size distribution)は、レーザ回折分析により測定され、D値を用いて表されることが多いことを理解するであろう。各D値の意味は以下の通りである。
D10:粒子の体積の10%以下の粒径(size)がD10で示される値より小さい
D50:粒子の体積の50%以下の粒径(size)がD50で示される値より小さい
D90:粒子の体積の90%以下の粒径(size)がD90で示される値より小さい
【0021】
本明細書では、粒度分布特性とは、レーザ回折分析で測定された特性をいう。
【0022】
好ましくは、パルプの粒度分布としてはD90が750〜1500μmである。より好ましくは、D90は、1000〜1400μmである。
【0023】
好ましくは、パルプの粒度分布としてはD50が330〜800μmである。より好ましくは、D50は400〜700μmである。さらに好ましくは、D50は500〜650μmである。
【0024】
好ましくは、パルプの粒度分布としてはD10が40〜150μmである。より好ましくは、D10は60〜120μmである。さらに好ましくは、D10は80〜105μmである。
【0025】
本発明の一の実施形態では、D10は少なくとも40μmであり、D90は1500μm未満である。好ましくは、D10は少なくとも60μmであり、D90は1400μm未満である。より好ましくは、D10は少なくとも80μmであり、D90は1300μm未満である。さらに好ましくは、D10は少なくとも100μmであり、D90は1200μm未満である。
【0026】
本発明の方法の好ましい実施形態では、本発明の方法は、湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供する前に、
成長培地から微生物セルロースを分離して、湿潤微生物セルロースを作製する工程
を含む。
【0027】
本発明の方法の他の実施形態では、本発明の方法は、湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供する前に、
水溶液を乾燥微生物セルロースに適用して、当該湿潤微生物セルロースを作製する工程
を含む。
【0028】
有利には、本発明者らは、再構成された乾燥微生物セルロースに本発明の方法を適用することにより、この乾燥微生物セルロースをその作製場所からさらに本発明の方法により処理されうる場所まで費用対効果が高い輸送に供しうることを見出した。本発明者らは、この微生物セルロースを乾燥させると基質の構造が変形し、微生物セルロースを元の状態に再構成するのが難しくなりうることを理解している。したがって、湿潤微生物セルロースは成長培地から分離されたものを用いるのが好ましい。さらに、パルプを乾燥させないことが好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態では、水溶液を乾燥微生物セルロースに適用して、当該湿潤微生物セルロースを作製する工程の前に、当該乾燥微生物セルロースの大きさを小さくする工程に供してよい。
【0030】
本発明の一の実施形態では、本方法は、当該湿潤微生物セルロースの水分含有量を制御する工程をさらに含む。好ましくは、パルプの水分含有量を制御する工程としては、より具体的には、湿潤微生物セルロースの給水又は排水があげられる。
【0031】
本発明の一の実施形態では、当該微生物セルロースの濃度は、湿潤微生物セルロース中の0.1〜2.5wt/wt%(質量パーセント濃度)である。当業者であれば、wt/wt%は、100gのパルプに対する微生物セルロース質量の比率であることを理解するであろう。例えば、10wt/wt%は、10gの微生物セルロースに水を加えて100gにしたことをいう。
【0032】
当業者であれば、湿潤微生物セルロース中の水分が少ないほど、湿潤微生物セルロースは厚くなることを理解するであろう。本発明者らは、湿潤微生物セルロースの濃度が2.5wt/wt%に近づくにつれて、湿潤微生物セルロースは肥厚になり、植物成長培地に適するパルプを作製する均質化工程を効果的に行うことができなくなることを見出した。
【0033】
好ましくは、微生物セルロースの濃度は0.2〜2.0wt/wt%である。より好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.2〜1.5wt/wt%である。さらに好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.5〜1.2wt/wt%である。さらに好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.5〜1.0wt/wt%である。さらに好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.6〜0.9wt/wt%である。さらに好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.7〜0.8wt/wt%である。
【0034】
微生物セルロースの濃度が0.1〜1.0wt/wt%の場合、D10、D50及びD90はレーザ回折分析により測定される。
【0035】
微生物セルロースの濃度が1.0〜2.5wt/wt%の場合、D10、D50及びD90は一連の入れ子式試験ふるいにより測定する。
【0036】
本発明の一の実施形態では、パルプの濃度は、2.5wt/vol%(質量/体積%)未満である。当業者であれば、wt/vol%は、100mlのパルプに対する微生物セルロースの質量比率をいうことを理解するであろう。例えば、10wt/vol%は、100mlのパルプ中に10gの微生物セルロースが存在することをいう。
【0037】
本発明の一の実施形態では、パルプの密度は、0.025g/cm未満である。当業者であれば、密度は、パルプ1立方センチメートル当たりのパルプの質量をいうことを理解するであろう。
【0038】
本発明の一の実施形態では、パルプの粘度は、0.0030〜0.088Pa.sであり、好ましくは、パルプの粘度は、0.0030〜0.065Pa.sである。より好ましくは、パルプの粘度は、0.0035〜0.0275Pa.sである。さらに好ましくは、パルプの粘度は、0.006〜0.0275Pa.sである。さらに好ましくは、パルプの粘度は0.008〜0.0275Pa.sである。さらに好ましくは、パルプの粘度は0.01〜0.018Pa.sである。
【0039】
上記のように、本発明の均質化工程により、植物成長培地として用いるのに適するパルプが作製される。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、パルプ中の微生物セルロースの濃度及び微生物セルロースの粒径がともに、植物成長培地としてのパルプの適合性に直接影響することを理解する。上記のように、非均質化湿潤微生物セルロースのように密に充填された繊維では、根が浸透できない。均質化工程は、微生物セルロースの粒径を小さくし、繊維充填物を破壊し、根が浸透できるようになると理解される。本発明者らは、パルプ中の微生物セルロースのwt/wt%濃度及び/又はその粒径があまりにも低くなると、パルプが発育中の苗又は芽の質量を担持できなくなるであろうと判断した。さらに、パルプの保水能が低下し、植物の成長に好ましくない。
【0040】
本発明の一の実施形態では、本発明の方法は、湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供する前に、
当該湿潤微生物セルロースの洗浄工程
を含む。
【0041】
本発明の好ましい形態では、当該湿潤微生物セルロースを洗浄する工程は、当該湿潤微生物セルロースを水中で60℃〜100℃の温度で加熱することを含む。
【0042】
より好ましくは、当該湿潤微生物セルロースを洗浄する工程は、当該湿潤微生物セルロースを水中で煮沸することを含む。
【0043】
本発明の一の実施形態では、本発明の方法は、湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供する前に、
当該湿潤微生物セルロースの精製工程
を含む。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、当該湿潤微生物セルロースを精製する工程は、当該湿潤微生物セルロースを水中で煮沸することを含む。
【0045】
本発明の一実施形態では、パルプは注水可能(pourable)である。
【0046】
本発明のさらなる実施形態では、上記の方法により作製される植物成長培地が提供される。
【0047】
本発明のさらなる実施形態では、微生物セルロースのパルプを含む植物成長培地が提供されるが、ここで当該パルプは、0.1〜2.5wt/wt%の微生物セルロースを含み、D90が750〜1500μmとなるような粒度分布である。
【0048】
好ましくは、当該微生物セルロースの濃度は0.2〜2.0wt/wt%である。より好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.2〜1.5wt/wt%である。さらに好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.5〜1.2wt/wt%である。さらに好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.5〜1.0wt/wt%である。さらに好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.6〜0.9wt/wt%である。さらに好ましくは、微生物セルロースの濃度は、0.7〜0.8wt/wt%である。
【0049】
好ましくは、D90は、1000〜1400μmである。
【0050】
好ましくは、D50が330〜800μmとなるような粒度分布である。より好ましくは、D50は400〜700μmである。さらに好ましくは、D50は500〜650μmである。
【0051】
好ましくは、D10が40〜150μmとなるような粒度分布である。より好ましくは、D10は60〜120μmである。さらに好ましくは、D10は80〜105μmである。
【0052】
本発明の一の実施形態では、D10は少なくとも40μmであり、D90は1500μm未満である。好ましくは、D10は少なくとも60μmであり、D90は1400μm未満である。より好ましくは、D10は少なくとも80μmであり、D90は1300μm未満である。さらに好ましくは、D10は少なくとも100μmであり、D90は1200μm未満である。
【0053】
本発明のさらなる実施形態では、微生物セルロースのパルプを含む植物成長培地が提供されるが、ここで、当該パルプは、2.5wt/vol%未満の微生物セルロースを含み、D90が750〜1500μmとなるような粒度分布である。
【0054】
本発明のさらなる実施形態では、微生物セルロースのパルプを含む植物成長培地が提供されるが、ここで、当該パルプの密度は0.025g/cm未満であり、その粒度分布としては、D90が750〜1500μmである。
【0055】
本発明の一の実施形態では、パルプのかさ密度は、0.005〜0.015g/cmである。好ましくは、パルプのかさ密度は0.006〜0.010g/cmである。好ましくは、パルプのかさ密度は0.007〜0.009g/cmである。当業者であれば、本発明の物質のかさ密度は、パルプの単位体積当たりの微生物セルロースの乾燥質量をいうことを理解するであろう。総体積は、固形分と水分の合計体積である。それゆえ、かさ密度は、乾燥材料の単位当たりのパルプの保水能を示す。
【0056】
上記のように、本発明の均質化工程は、微生物セルロースの繊維の密な網状組織を破壊して、当該繊維を通過する水相を分散しやすくする。当業者であれば、均質化工程を行う前の湿潤微生物セルロースのかさ密度は、0.025〜0.045g/cmであることを理解するであろう。これは、未加工微生物セルロースと比較して、当該パルプの保水能が高まっていることを示す。保水能が高いと、特に植物の成長を支持することができる点で有利である。さらに、本発明の植物成長培地のかさ密度は、かさ密度が0.25〜0.75g/cmであるポッティングミックス等の市販の無土壌培地よりも著しくはるかに低い。バーミキュライトのかさ密度は0.7〜1.1g/cmである。本発明の植物成長培地のかさ密度が低いことは、保水能が極めて高いことを示す。また、かさ密度が極めて低いということは軽量であるため、安価で簡易な輸送につながることを示す。発芽種子と植物成長培地の輸送コストは高額なのである。
【0057】
本明細書では、特段の場合を除き、用語「圃場容水量」又はそのバリエーションは、過剰な水が重力によりのみ排水された後、それ以上排水されなくなるまでの一定期間、土壌/媒体中に残存する水分量をいうと理解される。
【0058】
本発明の一の実施形態では、圃場容水量でのパルプの重量水容量(gravimetric water capacity;θg)は、71.6〜76.5g HO/乾燥微生物セルロースg(〜7405%)である。これをθgが〜0.03g/g(3%)である砂質土壌及びθgが〜0.4g/g(40%)である粘土質土壌と比較する。この高いθgから、本発明の植物成長培地が、種子発芽及び植物成長に利用しうる著しい水分量及び/又は栄養溶液を保持することがわかる。
【0059】
本発明の一の実施形態では、当該植物成長培地は食用である。有利には、本発明者らは、ヒトが本発明の植物成長培地を飲食しても安全であることを見出した。当業者であれば、ほとんどの土壌及び土壌代替物は、ヒトが飲食するのには安全ではないことを理解するであろう。さらに、土壌媒介性病原体も健康上のリスクをもたらす。当該問題に対処するため、土壌又は典型的な土壌代替物中で栽培された食品は、厳格な洗浄プロセスを経なければならない。本発明者らは、本発明のパルプ中で生育した食品は、ヒトが飲食する場合であってもそのような洗浄プロセスが必要ないことを見出した。
【0060】
本発明のさらなる特徴は、以下のいくつかの非限定的な実施形態の説明により詳細に説明される。当該説明は、本発明を例示する目的のためにのみ含まれる。これは、上記発明の概要、開示又は説明を制限するものとして理解されるべきではない。本明細書は、以下の添付の図面を参照して作成される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】本発明の植物成長培地における様々な植物の成長を他の植物成長培地と比較した一連の写真である。
図2】本発明の植物成長培地で試みた細菌増殖の顕微鏡写真である。
図3】実施例3で調製した様々なパルプ濃度の植物成長基質の差異を示す一連の写真である。
図4図3の植物成長基質上の植物成長の違いを示す一連の写真である。
図5図3の各植物成長基質上の植物の成長をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は、植物成長培地に適するパルプの作製に関する。その広範な実施形態では、本発明の方法は、湿潤微生物セルロース材料を均質化工程に供して、植物成長培地に適するパルプを作製することを含む。
【0063】
〔湿潤微生物セルロースの調製〕
Acetobacter xylinum株はワインを空気に曝露すると自然に獲得しうる。ワインにA.xylinumを接種した兆候は、数週間後にワイン表面に形成された微生物セルロースの固形ぺリクルであった。この微生物セルロースペリクルを、一般に600mlのビーカー又はそれと同様の大きさの容器中で生育させて、さらに、より大量培養の調製のための培養開始物として用いた。他の微生物による出発培養物の汚染を最小限にするために、容器の頂部をゴムバンドで固定した多孔性ペーパータオル片で容器を密封した。これにより、培養開始物が呼吸できるようになる。
【0064】
(A.xylinumを含む)数個の微生物セルロースペリクルを培養開始物から取り出し、必要な微生物セルロース量に適したより大きい容器に加えた。これらの大型プラスチック容器の大きさは5〜20Lであった。液体培地として用いたワインは、水で希釈してもとの濃度の2/3に調製した。これにより、ワインのアルコール含量は約7〜8%に低下した。希釈したワインをこのより大きい容器に注ぎ、微生物セルロースのペリクルが確実に覆われるように薄層を形成させた。培養物が確実に呼吸できるように、この容器の上に密閉しないで蓋を置いた。培養物を曝露した温度に応じて1〜2週間後、新たに形成された微生物セルロースペリクルを除去して、その後の処理に供した。
【0065】
この微生物セルロースペリクルを除去した時点で、さらに希釈ワインを培養物に添加して微生物セルロースをさらに多量形成させて連続培養を行った。
【0066】
この湿潤微生物セルロースペリクルを水分含有量が5%未満になるまで乾燥させる。
【0067】
この微生物セルロースはまた、(ココナッツ水にAcetobacter xylinumを用いて作製された)乾燥ナタデココの形態で獲得してもよい。
【0068】
〔湿潤微生物セルロースの洗浄及び精製〕
本発明の好ましい実施形態では、湿潤微生物セルロースを洗浄する工程は、10〜15gの界面活性剤を含む3〜4リットルの水中で30分間、30〜40グラムの乾燥微生物セルロースを沸騰させることを含む。良好な結果が得られた1の洗剤は、陰イオン性及び非イオン性界面活性剤、アルミノケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、土壌懸濁剤、蛍光剤、消泡剤、酵素、香料を含む「バイオゼットアタック+軟化剤」であった。酵素はプロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼである。その後、熱湯(各々3〜4リットル、15分間を2回)及び微温湯(各々3〜4リットル、15分間を2回)でさらに洗浄する。
【0069】
本発明の一実施形態では、培養容器から取り出した微生物セルロースペリクルを洗剤溶液中で煮沸して、色素及び他の不純物を除去した。沸騰水を数回取り替えた後、今や白色となった微生物セルロースシートをWaring(登録商標)ラボラトリーブレンダーに入れて、最高速度で3分間柔らかくして、水を加えて最終濃度にする。得られたパルプの繊維成分は微細である。最終濃度は0.75wt/wt%であり、平均粘度は0.013Pa.sであった
【0070】
注入溶液としての植物成長培地はいかなる形状にも成形でき、土壌表面の改良のために噴霧することもできる。植物種子を注入溶液に混合すると、この新しい播種微生物セルロース溶液は、種子発芽と植物成長を開始し、かつ保持しつつ、土壌表面を安定化させる方法として、不安定な地形に噴霧するのに理想的である。
【0071】
〔植物成長培地のセット〕
上記の植物成長培地注入溶液は、底部に直径2mmのドレイン孔がある容器に注ぐことができる。注入溶液は、全ての注入溶液が排出されるまで、自由に排出されうる。この注入溶液はその段階で圃場容水量(FC)にあり、植物成長培地という。
この時点で種子はパルプで発芽することができ、植物の成長も保持されうる。
【実施例1】
【0072】
本発明の植物成長培地を他の成長基質と比較するために一連の増殖試験を実施した。試験に供した基質は以下の通りであった。
(上記のように調製した)植物成長培地
Biostrate(登録商標)Matting−種子の発芽に用いられるトウモロコシから作製される繊維状のマット
バーミキュライト−水和フィロシリケート粘土鉱物
【0073】
以下の植物種が播種された4つのトレイを各基質上に調製した。
Eruca sativa(ロケット)
Brassica oleracea(赤キャベツ)
Raphanus raphanistrum(赤茎大根)
Brassica juncea(水菜)
【0074】
試験の物理的条件は以下のとおりであった。
温度範囲:最高20−28℃/最低12−16℃
照光:75%シェードクロス
【0075】
最初の2日間、トレイをプラスチックラップで覆い、スプレーボトルを介して給水し、1日2回排水した。3日目に覆いを取り除き、植物に十分な日光をあてて生育させた。
【0076】
3日目以降、各試料にスプレーボトルを用いて1日3回給水し、排水した。
【0077】
図1(a)〜(g)は、7日間の3つの異なる基質上での各品種の成長過程を示す。各画像は(右から左に)、Biostrate(登録商標)Mattingの4つのトレイ、バーミキュライトの4つのトレイ、及び植物成長培地の4つのトレイを示す。(左上から時計回りに)Eruca sativa(ロケット)、Brassica oleracea(赤キャベツ)、Raphanus raphanistrum(赤茎大根)、Brassica juncea(水菜)が栽培された一連の4つのトレイである。
【表1】
*高さとは、各処理での成長培地の頂部から葉の頂部までの苗の高さの平均を記載するものである。
【0078】
7日後、試料には十分に日光にあてたが、給水を止めた。マット及びバーミキュライトで生育させた4つのマイクロハーブと比較すると、植物成長培地で生育させた4つのミクロハーブは、しおれておらず、構造的にも完全な状態を保持できていた。
【0079】
図1は、7日間の試験期間中に採取した試料の一連の写真を示す。
【0080】
上の表の結果から分かるように、本発明の植物成長培地は、他の無土壌基質と同様に種子発芽に適する。有利には、本発明の植物成長培地の保水率は、他の基質よりもはるかに高く、給水を停止しても、しおれを防止しうる。
【0081】
本発明のさらなる利点は、植物成長培地が完全に有機的であるため、移植の際に苗から除去しなくてよいことである。これは、植物成長基質の除去に起因する根の損傷がおこらないことを意味する。当業者であれば、合成植物基質は、移植前、又は当該植物を食品として用いる前に、完全に除去されなければならないことを理解するであろう。根を人工素材で生育させた場合、移植前に根が損傷をうける場合が多い。
【実施例2】
【0082】
本発明の植物成長培地上で真菌増殖分析を行った。予備試験の結果、ペニシリンプラグ(plug)は植物成長培地上で増殖しないことが示された。3日目の顕微鏡写真を図2に示す。顕微鏡写真では、緑色パッチ上に植物成長培地上では増殖しなかったペニシリンの子実体が示されている。
【実施例3】
【0083】
均質化が異なる濃度のパルプの粒径にいかなる影響を及ぼすのかを検討するために一連の試験を行った。様々な濃度の一連のパルプを、Waring(登録商標)ラボラトリーブレンダーを用いて最高速度で2分間処理した。次いで、各試料の粒径分析を行った。その結果を以下に示す。
【表2】
【0084】
当業者であれば、D10は、試料の体積の10%の粒子の粒径が示された数字より小さいことをいうと理解するであろう。すなわち、D10=122.38umは、試料の10%の粒子の粒径が122.38μm以下であることを意味する。化合物の粒径を表す命名法は、本明細書では一般に「D90」、「D50」又は「D10」のいずれかである。
【0085】
D90は、試料の質量の90%の粒子の粒径が、示された数字より小さいことを示す。例えば、D90が40(又はD90=40)の場合、試料の体積の少なくとも90%の粒子の粒径が40ミクロン未満であることを意味する。同様に、D10は、試料の体積の10%の粒子の粒径が示された数字より小さいことをいう。
【0086】
D50の値は、粒径の中央値を表す。中央値は、試料の質量の半分の粒子の粒径が当該値より上にあり、かつ試料の体積の半分の粒子の粒径が当該値より下にある値として定義される。D50は、この直径の上半分と下半分にその分布を分割するミクロン単位の大きさである。
【0087】
この湿潤微生物セルロースを均質化工程に供すると、粒径を特定の狭い範囲内にそろえられうることが見出された。このように粒径を特定の狭い範囲にすることで、微生物セルロースパルプが植物成長培地として適することが見出された。
【0088】
粉砕プロセス技術に精通している者であれば、粒子の90%以上が特定の大きさに限定されている本発明のパルプは、粒子の大きさの分布がより広範囲である未加工の微生物セルロースからさらに区別されるという特徴があることを理解する。粉砕プロセスで粒子を小さくすることに関するあらゆる問題に直結するサイズ変動のため、本明細書に記載された方法で粒径の差異を表すことは、当業者に容易に受け入れられる。
【0089】
パルプ中の微生物セルロース粒子の形状は規則的でない。すなわち、例えば、回折光の強度や角度等の性質を測定することにより、厚さや長さ等の実際の大きさとは異なる測定値で粒子を特徴付け、その測定値を同じ特性を有する既知の球形粒子の直径と等しくすることが必要である。従って、粒子には「等価球径」が割り当てられる。多数の「未知の」粒子を特徴付けることから見出される値は、体積対直径としてプロットすることができ、通常、体積がより小さい粒子の値の比率が採用される。これは、試料の粒度分布を表す特性曲線、より小さい粒度の分布曲線の累積的な比率(cumulative percentage undersize distribution curve)をもたらす。値は、曲線から直接読み取ることができるか、あるいは、測定値を対数確率紙にプロットして直線にしてから当該値を読み取ることもできる。このようにして得られたD90の等体積球相当径は、累積度数プロットにおける90%のポイントの統計的表示である。
【0090】
粒度分布は、Mastersizer2000(Malvern、英国)レーザ回折計を用いて測定した。分散ユニット「Hydro2000SM(A)」を用いて測定を行った。Hydro2000SMは、連続可変一軸ポンプ及び撹拌機を有する湿式試料分散ユニットである。各測定では、測定系内に置かれた試料パルプの量は、不明瞭度の値が10〜20%の範囲内に収まるようにした。ポンプ及び撹拌機の速度は、懸濁液の均質化が最大になるように選択された。1.0wt/wt%より大きいパルプでは、厚いゲルという試料の性質のために均質化できず、測定できなかった。測定した他の全ての試料については、撹拌速度を2000rpmに設定した。
【0091】
測定システムの特定の検出器に登録されたレーザ光の強度は、Mie理論又はFraunhofer理論に従って粒度分布に変換しうる。理論の選択は測定者に委ねられる。標準ISO 13320では、50μm未満の粒子にはMie理論を適用することを推奨しており、50μm以上の粒子には両理論で同様の結果が得られている。Fraunhoferモデルは、既知の大きさの固体の不透明ディスクがレーザビームを通過するときに生成される散乱パターンを予測することができる。しかし、試料の性質上、ディスク状で完全に不透明と考えられる粒子は非常に少なく、従って、三重理論がパルプの粒径を測定するために用いられた。Mie理論は、全ての条件下で全ての材料の光散乱挙動を正確に予測した。三重モデルは、光が球形粒子を通って散乱される方法を予測し、光が粒子を通過するか、又は粒子により吸収される方法を検討する。
【0092】
以上のことから、試料の吸収指数及び屈折率の値を求める必要がある。屈折率は1.33(水と同様、分散相が水である)と測定し、吸収は0.01と仮定した(吸収は通常、試料の色の強度に基づくことに注意。明るく、試料の透明度が高くなるほど、吸収値は低くなる。例えば、0.0001)。
【0093】
Mastersizer2000では、試料を三重に測定し、その値を平均として報告する。
【0094】
上の表から分かるように、パルプの濃度が低いほど、D90の粒度分布が大きくなる。
【0095】
各試料の粘度も均質化工程を2分間行った後に測定した。これらを以下に示す。
【表3】
【0096】
動的粘度は、SI単位であるパスカル秒(Pa.s)で測定される。これらは、非標準ながらも用いられているcP(センチポアズ)に関連する。測定はBohlinVisco88粘度計で行った。粘度計はトルク検出システムを備えた定速モータである。試験試料を上下の測定システム間の隙間に置く。当該装置は剪断速度を制御して用いる。すなわち、剪断速度(回転速度)を適用し、剪断速度を保持するのに必要な結果として生じる剪断応力(トルク)を測定する。トルクと運動は、一連の測定システム定数を用いて「レオロジーフォーマット」に変換される。
【0097】
算定した剪断速度、剪断応力及び粘度はニュートン流体特性に基づく。非ニュートン流体を検討する場合には、回転速度とトルク測定値を用いて真の剪断速度等を算定しうる。回転速度及びトルクを剪断速度及び応力に変換するために用いられる測定システム定数は、ニュートン流体に基づく。試料は、アップ及びボブ配置で2つの測定システムの間に置かれる。これは、外部シリンダーの内側で回転する円錐形のベースがある固体の内部シリンダーとこの2つの間に置かれた試料からなる。粘度計の回転速度は572rpmであり、Measuring Combination system2を用いた。この方向では、内部シリンダーの直径は25mmであり、外部シリンダーの直径は27.5mmである。
【0098】
上記の表からわかるように、試料濃度が高まるにつれて粘度も高まる。湿潤微生物セルロースの粘度は約0.12〜0.13Pa.sである。これは均質化工程後に作製されたパルプの粘度よりもはるかに高い。本発明者らは、このことが、均質化工程が未加工の湿潤微生物セルロースの稠密圧縮された繊維網状組織に及ぼす影響を示していると確信する。
【0099】
均質化の程度が粒径に及ぼす影響を測定するために一連の試験を行った。その結果を以下に示す。
【表4】
【0100】
上記の結果からわかるように、混合時間が長くなると、粒径が顕著に減少した。
【実施例4】
【0101】
濃度が1.0wt/wt%を超える微生物セルロースパルプは、パルプが厚すぎて器具を通過できなかったため、Mastersizer2000を用いては測定しなかった。当業者であれば、この問題は、装置に導入する前に分散ユニットを用いて試料をより均一に分散させることで克服されることを理解するであろう。しかしながら、本発明者らは、本発明のパルプは粒子凝集能のために均一に分散しなかったことを見出した。従って、粒径をレーザ回折技術で測定しても、その測定値は真の結果を反映しないであろう。
【0102】
本発明者らは、濃度が1.0wt/wt%を超えるパルプの粒度分布を測定するためにふるい測定技術を用いた。ふるい測定法は、大きさを4.75mm、2mm、1mm、500um、250μmに縮小した一連のネステッド試験ふるい(Endecotts Ltd)を用いる方法である。パルプ試料に穏やか水流を用いてこれらのふるいを通過させて、ふるいを通して粒子を移動させた。ふるい分画に残った粒子の質量を、添加した元の試料の比率として計算した。2.9wt/wt%及び4.8wt/wt%の微生物セルロースの試料を、各々、Waring(登録商標)ラボラトリーブレンダーの最高速度で3分間処理した。次いで、各試料の粒径分析を行った。その結果を下表に示す。
【表5】
【実施例5】
【0103】
パルプ中の微生物セルロースの濃度が植物成長培地としてのパルプの適合性に及ぼす影響を検討するために一連の試験を行った。各試料を2分間混合したが、0.5wt/wt%の試料については、それに加えてさらに3及び5分間処理した。次いで、各試料を半透明のプラスチックトレイに移し、トレイの上部を(1.7cm)まで到達させた。次いで、各トレイを圃場容水量に達するまで排水した。得られた残留物の高さを測定した。
【表6】
【0104】
図3は、圃場容水量での各試料の写真を示したもので、異なる濃度のパルプをプラスチックトレイに注ぎ、約1時間放置して圃場容水量に到達させた。プラスチックトレイには、基部に1cmあたり2mmのドリルされた穴があり、パルプの水が排出される。パルプに含まれる微生物セルロースの濃度が低すぎると、水が排出され、種子の成長に必要な微生物セルロース量が減少した。これは0.1wt/wt%及び0.25wt/wt%の処理で見られる。5分間処理した0.5wt/wt%はまた、排出穴を通して水と共に排出される粒度分布の小さな粒子のため、プラスチックトレイ中のパルプが減少したことが示された。0.75wt/wt%、1.0wt/wt%、1.5wt/wt%及び2.0wt/wt%で処理したものは、トレイ中に十分な微生物セルロースパルプが残り、圃場容水量が達成されると、良好な種子発芽及びその後の成長に十分な水を保持していた。2.0wt/wt%の試料のパルプの性質はより固体化しており、注入不能であった。本発明者らは、濃度がより高くなると、処理される微生物セルロース画分はより小さくなるという結果が得られたと考える。稠密網状ナノセルロース繊維が大量に残存すると、パルプもより固体化する。
【0105】
次いで、1.85gのEruca Sativa種子を各トレイに添加し、次いで、トレイを穿孔パラフィルムで覆った。図4に、63時間後の植物の生育を示した。63時間後からは、(約)7時間及び10時間ごとに定期的に植物に給水した。発芽温度は19℃〜32.8℃であった。
【0106】
95時間後にトレイの写真を撮影し、その結果を図5に示す。
【0107】
141時間後にトレイの写真を撮影し、その結果を図6に示す。
【0108】
各試料の成長を定期的に測定した結果を以下に示す。
【表7】
【0109】
比較のために、これらの結果をグラフにプロットし、結果を図7に示す。

トレイに残存する微生物のセルロースパルプが少ない場合には、圃場容水量が達成された後は、トレイの保水量が少なくなるため、種子の発芽及び植物の成長に利用できる水分が少なくなった。この結果から分かるように、5分間均質化した0.5wt/wt%試料の植物成長は不良であった。本発明者らは、この試料の粒径が小さくなったことは、MC培地の大部分がドレイン穴から排出された結果、植物の成長を支えるパルプ及び水が減少したことを意味すると考える。いくつかの、例えば、0.25wt/wt%では95時間後に植物の成長が減退したが、これは、利用可能な水が欠乏したからであった。0.75wt/wt%、1.0wt/wt%、1.5wt/wt%及び2.0wt/wt%で処理した試料は他の試料と比較して水の利用可能性が高いため、植物の成長は優良であった。
【0110】
〔比較例〕
上記のように、(均質化工程前の)湿潤微生物セルロースの形態は、稠密繊維のゼラチン状基質である。このような繊維では根が基質を貫通できない。当該湿潤微生物セルロースの物理的特性を本発明のパルプと比較するため、一連の微生物セルロースペリクルを作製した。直径10.5cmの湿潤微生物セルロースの3つのペリクルを作製した。2つのペリクルの厚さは1cmであり、もう一つのペリクルの厚さは0.5cmであった。湿潤微生物ペリクルを秤量した後、オーブンで2時間乾燥させて水を除去し、その後、再度秤量した。これにより、湿潤微生物ペリクルのwt/vol%及びwt/wt%をともに算定することができた。その結果を以下に示す。
【表8】
【0111】
ペリクル中の微生物セルロース濃度の範囲は2.5〜3.8wt/vol%である。本発明者らは、本発明の均質化工程により、微生物セルロースの粒径が小さくなり、水性培地を通してより広範囲に分散されることを理解する。パルプのwt/vol%が2.5wt/vol%に近づくにつれて、パルプは未加工のペリクルと同じ厚さになる。植物の根はこれに浸透できないため、これは種子の発芽や植物の成長には適さない。
【0112】
上記のように、均質化工程により作製されるパルプのかさ密度は、0.005及び0.015g/cmである。これは、未加工の微生物セルロースについて計算したかさ密度から有意に低下している。これは、未加工の湿潤微生物セルロースよりもパルプの保水能が高まることを示す。当業者であれば、保水能を高めることは、植物の成長を支持するのに特に有利であることを理解するであろう。
【0113】
当業者であれば、本明細書で説明した発明について、特に説明したもの以外のバリエーション及び変更が可能である、ということを理解するであろう。本発明は、そのようなバリエーション及び変更の全てを含む。また、本発明は、個別に又は集合的に、明細書で言及又は示唆された全ての工程、特徴、処方及び化合物、並びにいかなる及び全ての組み合わせ又は2又はそれ以上の工程又は特徴をも含む。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図1(e)】
図1(f)】
図1(g)】
図2
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図3(d)】
図3(e)】
図3(f)】
図3(g)】
図3(h)】
図3(i)】
図4(a)】
図4(b)】
図4(c)】
図4(d)】
図4(e)】
図4(f)】
図4(g)】
図4(h)】
図4(i)】
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図5(d)】
図5(e)】
図5(f)】
図5(g)】
図5(h)】
図5(i)】
図6(a)】
図6(b)】
図6(c)】
図6(d)】
図6(e)】
図6(f)】
図6(g)】
図6(h)】
図6(i)】
図7
【国際調査報告】