特表2020-516314(P2020-516314A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-516314(P2020-516314A)
(43)【公表日】2020年6月11日
(54)【発明の名称】ペプチドリガーゼ及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20200515BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20200515BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20200515BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20200515BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20200515BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20200515BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200515BHJP
   C07K 14/315 20060101ALI20200515BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20200515BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20200515BHJP
【FI】
   C12N15/60
   C12N15/31ZNA
   C12N15/63 Z
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C07K14/315
   C12N9/88
   C07K7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2020-504454(P2020-504454)
(86)(22)【出願日】2018年4月10日
(85)【翻訳文提出日】2019年11月26日
(86)【国際出願番号】GB2018050943
(87)【国際公開番号】WO2018189517
(87)【国際公開日】20181018
(31)【優先権主張番号】1705750.6
(32)【優先日】2017年4月10日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ハワース マーク
(72)【発明者】
【氏名】ブルドゥン キャン エム
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050LL01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA50
4H045BA72
4H045CA11
4H045EA20
4H045EA61
4H045FA72
4H045FA74
4H045FA82
(57)【要約】
本発明は、2つのペプチドタグ又はリンカーの共有結合性のコンジュゲーションを促進することができるポリペプチドに、特に:a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;又はb)配列番号1に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、前記アミノ酸配列は、位置61にグルタミン酸を、そして以下の1つ以上:1)位置66にプロリン;2)位置95にプロリン;3)位置96にグリシン;及び4)位置97にバリンを含み、指定したアミノ酸残基は、配列番号1内の位置に等価の位置にあり、前記ポリペプチドは、配列番号2の位置9のリシン残基と、配列番号3の位置17のアスパラギン残基との間でのイソペプチド結合の形成を促進することができる、ポリペプチドに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;又は
b)配列番号1に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含むポリペプチドであって、前記アミノ酸配列は、位置61にグルタミン酸を、そして以下の1つ以上:
1)位置66にプロリン;
2)位置95にプロリン;
3)位置96にグリシン;及び
4)位置97にバリン
を含み、
指定したアミノ酸残基は、配列番号1内の位置に等価の位置にあり、前記ポリペプチドは、配列番号2の位置9のリシン残基と、配列番号3の位置17のアスパラギン残基との間でのイソペプチド結合の形成を促進することができる、ポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドは、配列番号1に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、位置61にグルタミン酸を、そして以下の2つ以上:
1)位置66にプロリン;
2)位置95にプロリン;
3)位置96にグリシン;及び
4)位置97にバリン
を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドは、配列番号1に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、位置61にグルタミン酸を、そして以下の3つ以上:
1)位置66にプロリン;
2)位置95にプロリン;
3)位置96にグリシン;及び
4)位置97にバリン
を含む、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドは、配列番号1に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列は、位置61にグルタミン酸を、そして以下の全て:
1)位置66にプロリン;
2)位置95にプロリン;
3)位置96にグリシン;及び
4)位置97にバリン
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドは、位置100にトレオニンを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
配列番号2又は配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むペプチドタグ。
【請求項7】
前記ポリペプチド又は前記ペプチドタグは、核酸分子、タンパク質、ペプチド、小分子有機化合物、フルオロフォア、金属−リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、又はそれらの組合せにコンジュゲートしている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリペプチド又は請求項6に記載のペプチドタグ。
【請求項8】
前記ポリペプチド又は前記ペプチドタグは、固体基質上に固定されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリペプチド又は請求項6に記載のペプチドタグ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリペプチド又はペプチドタグをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項11】
請求項9に記載の核酸又は請求項10に記載のベクターを含む細胞。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリペプチド及び/又はペプチドタグを生成又は発現するプロセスであって:
a)請求項10で定義されるベクターで宿主細胞を形質転換又は宿主細胞に形質移入する工程と;
b)前記ポリペプチド及び/又は前記ペプチドタグの発現を可能にする条件下で前記宿主細胞を培養する工程と;場合によっては
c)前記ポリペプチド及び/又は前記ペプチドタグを単離する工程と
を含むプロセス。
【請求項13】
請求項1〜5、7、及び8のいずれか一項で定義されるポリペプチドの:
(1)イソペプチド結合を介して2つの分子若しくは構成要素をコンジュゲートさせるため;又は
(2)3つの分子若しくは構成要素間で複合体を生成するため
の使用であって、前記複合体中の前記分子又は前記構成要素の2つは、イソペプチド結合を介してコンジュゲートし、
イソペプチド結合を介してコンジュゲートする前記分子又は前記構成要素は:
a):
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号2の位置9と等価の位置にリシン残基を含むペプチドタグを含む第1の分子又は構成要素;及び
b):
(i)配列番号3に示されるアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号3に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号3の位置17と等価の位置にアスパラギン残基を含むペプチドタグを含む第2の分子
を含み、
(2)における前記複合体中の第3の分子又は構成要素は、請求項1〜5、7、及び8のいずれか一項で定義されるポリペプチドを含む、使用。
【請求項14】
前記第1の分子は、核酸分子、タンパク質、ペプチド、小分子有機化合物、フルオロフォア、金属−リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、又はそれらの組合せにコンジュゲートした、a)で定義されるペプチドタグを含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記第2の分子は、核酸分子、タンパク質、ペプチド、小分子有機化合物、フルオロフォア、金属−リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、又はそれらの組合せにコンジュゲートした、b)で定義されるペプチドタグを含む、請求項13又は14に記載の使用。
【請求項16】
イソペプチド結合を介して2つの分子又は構成要素をコンジュゲートさせるプロセスであって:
a):
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号2の位置9に等価の位置にリシン残基を含むペプチドタグを含む第1の分子又は構成要素を用意することと;
b):
(i)配列番号3に示されるアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号3に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号3の位置17に等価の位置にアスパラギン残基を含むペプチドタグを含む第2の分子又は構成要素を用意することと;
c)前記第1及び第2の分子又は構成要素を、請求項1〜5及び7のいずれか一項に記載のポリペプチドと接触させることと
を含み、好ましくは、前記ポリペプチドは、固体基質上に固定されることによって、配列番号2の位置9に等価の位置の前記リシン残基と、配列番号3の位置17に等価の位置の前記アスパラギン残基との間のイソペプチド結合の形成を可能にする条件下で、前記第1の分子を、前記第2の分子に、イソペプチドを介してコンジュゲートさせて、複合体を形成する、プロセス。
【請求項17】
前記ポリペプチドが固体基質上に固定されている場合、前記プロセスは、前記複合体を前記固体基質から分離する更なる工程を含み、前記工程は、前記複合体を、低いpHのバッファと、好ましくは4.0以下のpHと、接触させることを含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記ポリペプチドが固体基質上に固定されている場合、前記プロセスは、前記複合体を前記固体基質から分離する更なる工程を含み、前記工程は、前記複合体を、好ましくは少なくとも1Mの濃度にて、イミダゾールを含む溶液と、接触させることを含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項19】
前記ポリペプチドが固体基質上に固定されている場合、前記プロセスは、前記複合体を前記固体基質から分離する更なる工程を含み、前記工程は、前記複合体を、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するペプチドにライゲートされた、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するペプチドを含むコンペティタ反応生成物を含む溶液と、接触させることを含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項20】
前記複合体を前記固体基質から分離する前に、前記固体基質をバッファで洗浄する工程をさらに含む、請求項17〜19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記第1の分子は、核酸分子、タンパク質、ペプチド、小分子有機化合物、フルオロフォア、金属−リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、又はそれらの組合せにコンジュゲートした、a)で定義されるアミノ酸配列を含むペプチドタグを含む、請求項16〜20のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記第2の分子は、核酸分子、タンパク質、ペプチド、小分子有機化合物、フルオロフォア、金属−リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、又はそれらの組合せにコンジュゲートした、b)で定義されるアミノ酸配列を含むペプチドタグを含む、請求項16〜21のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
好ましくは請求項13〜15のいずれか一項に記載の使用又は請求項16〜22のいずれか一項に記載のプロセスに用いられる、キットであって、前記キットは:
(a)請求項1〜5、7、及び8のいずれか一項で定義されるペプチドリガーゼ;並びに
(b):
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列;
(ii)配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、配列番号2の位置9に等価の位置にリシン残基を含むアミノ酸配列、
(iii)配列番号3に示されるアミノ酸配列;若しくは
(iv)配列番号3に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、配列番号3の位置17に等価の位置にアスパラギン残基を含むアミノ酸配列
を含むペプチドタグであって、
分子若しくは構成要素にコンジュゲート若しくは融合するペプチドタグ;及び/又は
(c)(a)で定義されるペプチドリガーゼをコードする核酸分子、特にベクター;並びに
(d)(b)で定義されるペプチドタグをコードする核酸分子、特にベクター
を含むキット。
【請求項24】
分子又は構成要素にコンジュゲート又は融合する第2のペプチドタグをさらに含み、前記第2のペプチドタグは、イソペプチド結合の形成に適した条件下で、(a)のペプチドリガーゼと接触する場合に、(b)における前記ペプチドタグとのイソペプチド結合を形成することができる、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記分子又は前記構成要素は、核酸分子、タンパク質、ペプチド、小分子有機化合物、フルオロフォア、金属−リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、又はそれらの組合せである、請求項23又は24に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのペプチドタグ又はリンカーの共有結合性のコンジュゲーションを促進することができるポリペプチドに関する。特に、本発明のポリペプチドは、2つの特定のペプチドタグ又はリンカー間のイソペプチド結合の形成を促進することができる。すなわち、本発明のポリペプチドは、ペプチドリガーゼとして見ることができる。本発明はまた、本発明のペプチドリガーゼによって効率的に、コンジュゲート(すなわち、イソペプチド結合を介して、共有結合的に連結又は結合)し得るペプチドタグ又はリンカーを提供する。前記ポリペプチド(ペプチドリガーゼ)及びペプチドタグをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、並びに前記ベクター及び核酸分子を含む宿主細胞もまた提供される。前記ペプチドタグ、ポリペプチド、及び/又は核酸分子/ベクターを含むキットもまた提供される。前記ポリペプチド(ペプチドリガーゼ)及び/又はペプチドタグを生成する方法、及び本発明のポリペプチド及びペプチドタグの使用もまた提供される。
【背景技術】
【0002】
生物学的事象は通常、複数のタンパク質の協働的活性によって決まり、複合体中のタンパク質の正確な配置は、その機能に影響を与え、且つその機能を決定する。ゆえに、複合体中の個々のタンパク質を、制御して配置する能力は、タンパク質機能の特性を表す際の有用なツールを表す。さらに、いわゆる「融合タンパク質」を形成するような複数のタンパク質のコンジュゲーションは、有用な特性を有する分子を生じさせ得る。例えば、単一種類のタンパク質をクラスタリングすると、多くの場合、生体シグナル、例えばワクチン上の繰返し抗原構造を大いに増強する。活性が異なるクラスタリングタンパク質もまた、活性、例えば酵素による基質チャネリングが向上した複合体を生じさせ得る。
【0003】
ペプチドタグは、タンパク質の分析及び修飾に便利なツールである。なぜなら、そのサイズが小さいことで、タンパク質の機能に対するパータベーションが最小になるからである。ペプチドタグは、遺伝的にコードするのが簡単であり、そしてそのサイズの小ささは、他の相互作用に対する干渉、生合成のコスト、及び免疫原性の導入を引き下げる。しかしながら、ペプチドタグ間の相互作用の親和性が高いことは稀であり、このことが、安定した複合体の形成におけるその有用性を制限している。
【0004】
自然発生的なイソペプチド結合の形成ができるタンパク質は、有利には、互いに共有結合し、且つ不可逆性の相互作用を提供するペプチドタグ/結合パートナ対を開発するのに用いられてきた(例えば、国際公開第2011/098772号パンフレット及び国際公開第2016/193746号パンフレット、これらは双方とも参照によって本明細書に組み込まれる)。この点において、自然発生的なイソペプチド結合の形成ができるタンパク質は、別々のフラグメントとして発現されて、ペプチドタグ及びペプチドタグ用の結合パートナを与えることができる。そこでは、2つのフラグメントは、イソペプチド結合の形成によって、共有結合的に再構成することができる。ペプチドタグ及び結合パートナ対によって形成されるイソペプチド結合は、非共有結合性の相互作用が、例えば、長い期間(例えば週)にわたって、高温(少なくとも95℃)にて、高い力で、又は厳しい化学処理(例えば、pH2〜11、有機溶媒、洗剤、又は変性剤)により急速に解離することとなる条件下で、安定している。
【0005】
イソペプチド結合は、カルボキシル/カルボキサミド基とアミノ基との間で形成されるアミド結合であり、そこでは、カルボキシル基又はアミノ基の少なくとも1つが、タンパク質の主鎖(タンパク質の骨格)の外側にある。そのような結合は、典型的な生物学的条件下で化学的に不可逆性であり、そしてほとんどのプロテアーゼに対して耐性を示す。イソペプチド結合は、事実上共有結合であるので、最も強い規則的なタンパク質相互作用をもたらす。
【0006】
手短に言えば、ペプチドタグ/結合パートナ対は、イソペプチド結合(イソペプチドタンパク質)を自発的に形成することができるタンパク質に由来し得、そこでは、タンパク質のドメインは、別々に発現されて、イソペプチド結合に関与する残基の1つ(例えばリシン)を含むペプチドタグ、並びにイソペプチド結合に関与する他の残基(例えば、アスパラギン又はアスパルタート)及びイソペプチド結合を形成するのに必要とされる少なくとも1つの他の残基(例えばグルタマート)を含むペプチド結合パートナ(又は「キャッチャ」)が生じる。ペプチドタグ及び結合パートナを混合すると、タグと結合パートナ間にイソペプチド結合が自然発生的に形成される。ゆえに、ペプチドタグ及び結合パートナを別々に、異なる分子、例えばタンパク質に融合させることによって、前記分子を、ペプチドタグと結合パートナ間に形成されたイソペプチド結合を介して一緒に共有結合的に結合することができる。
【0007】
イソペプチドタンパク質(タグ/キャッチャ系、例えばSpyTag及びSpyCatcherとしても知られている)由来のペプチドタグ/結合パートナ対が世界中で多様に用いられていることが見出されるが、その有用性は、融合パートナとしての結合パートナ(「キャッチャ」)のサイズによって制限されてきた。イソペプチドタンパク質由来のペプチドタグ結合パートナ(「キャッチャ」)は典型的に、80個を超えるアミノ酸、例えば少なくとも90又は100個のアミノ酸を含み、これによりいくつかの問題が生じる。
【0008】
例えば、タグ/キャッチャ系は、ウイルス様粒子を抗原でデコレートすることの有用性が認められることが示されており(例えば、Brune et al.2016,Scientific Reports,6:19234参照)、そこでは、ウイルス様粒子が、キャッチャに融合して、タグに融合するあらゆる抗原を提示するのに用いられ得るワクチン系プラットフォームが生じる。しかしながら、「キャッチャ」のサイズが大きいことは、免疫原性が高い傾向があることを意味し、これにより、ワクチン系プラットフォームの生成へのタグ/キャッチャ系の使用が阻まれ得る。そのようなプラットフォームを用いて生じるワクチンは、標的抗原ではなくキャッチャに抗体又はT細胞を誘導する場合がある。そのような免疫原性はまた、2つの別々の疾患に対するシーケンシャルワクチン接種について、同じワクチン系プラットフォームの使用を禁止する場合がある。
【0009】
タグ/キャッチャ系におけるキャッチャのサイズが大きいことはまた、融合分子、例えば融合タンパク質内でのキャッチャの位置に制限を与える。キャッチャは、通常、タンパク質折畳みに対する干渉を回避するようにタンパク質末端にて融合する必要がある。さらに、キャッチャは、部分的に折り畳まれたタンパク質のように見え、その結果、発現収率を引き下げる場合がある。
【0010】
キャッチャのサイズによって引き起こされるタグ/キャッチャ系のさらに重要な制限は、タグとキャッチャ間の反応の誘導性に関係する。典型的には、タグ及びキャッチャのタンパク質融合は、細胞内で発現される場合、自発的に反応し、そして一部の状況において、そのような反応を回避又は制御することが有利であろう。
【0011】
したがって、イソペプチドタンパク質由来のタグ/キャッチャ系と関連する有利な特性を有するペプチドタグ系、すなわち、先で考察したような安定且つロバストな共有結合を形成する一方で、ペプチド結合パートナ(キャッチャ)の大きなサイズと関連する問題を回避するペプチドタグを開発することが所望される。
【0012】
イソペプチド結合の形成に別々に、すなわち、3つの別個のフラグメント、すなわち2つのペプチド及びポリペプチドとして関係する残基を含むイソペプチドタンパク質のドメインを発現することができることが見出された(例えば、Fierer et al.2014,PNAS E1176−E1181参照)。手短に言えば、一ペプチドタグ(KTag)は、イソペプチド結合に関係する残基の1つ(例えばリシン)を含み、第2のペプチドタグ(SpyTag)は、イソペプチド結合に関係する他の残基(例えばアスパルタート)を含み、そしてポリペプチド(SpyLigase)は、イソペプチド結合の形成を媒介する際に関係する残基(例えばグルタマート)を含む。3つ全てのフラグメント、すなわち双方のペプチド及びポリペプチドを混合することで、イソペプチド結合を形成するように反応する残基を含む2つのペプチド、すなわちSpyTag及びKTag間でイソペプチド結合が形成される。ゆえに、ポリペプチド(SpyLigase)は、ペプチドタグのコンジュゲーションを媒介するが、結果として生じる構造の部分を形成しない、すなわちポリペプチドは、ペプチドタグに共有結合的に結合されない。したがって、ポリペプチドは、タンパク質リガーゼ又はペプチドリガーゼとして見られ得る。
【0013】
先で記載されるSpyLigase系は、理論的には、分子、例えば注目するタンパク質に融合することが必要とされるペプチドタグのサイズを最小にすることによって、先で考察したペプチドタグ結合パートナ(キャッチャ)の添加によって引き起こされる不所望の相互作用、例えば誤った折畳みの可能性を引き下げるので、特に有用である。しかしながら、SpyLigase系は、ペプチドパートナ間のコンジュゲーションの不十分な収率(典型的には50%以下)を示し、そして4℃超での活性が低い。さらに、SpyLigaseの有用性は、広い範囲の条件、例えばバッファにおいて機能できないその不能、及びゆっくりとした、典型的には約24時間の反応速度によって、制限される(前掲のFierer et al.2014)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、リシンとアスパラギンとの間に、そばにあるグルタミン酸によって促進される自然発生的なイソペプチド結合を生まれつき含有する肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)アドヘジン、RrgA(配列番号4)のC末端ドメインから、ペプチドリガーゼ系、すなわちペプチドリガーゼ及び一対のペプチドタグを開発した。以下で、そして実施例において詳細に考察されるように、本発明のペプチドリガーゼ系を生成するには、いくつかの工程が必要とされた。
【0015】
第1に、発明者らは、適切なイソペプチドタンパク質を、広範な修飾候補から選択してから、タンパク質を分割する適切な位置を決定しなければならなかった。この点において、RrgAのC末端ドメインは、8つのβ−鎖を含有し、そしてイソペプチド結合の形成の促進を担うグルタミン酸残基を含むドメインの、反応残基を含有するドメインからの単離は、3つのβ−鎖の除去をもたらした(図1A参照)。小タンパク質ドメインからの3つのβ−鎖の除去は、大きな修飾であり、切断型(truncated)ポリペプチド(すなわち、RrgALigaseとしても知られている推定上のペプチドリガーゼ)は、安定性が不十分であると思われた。特に、切断型ポリペプチドは、(特に、NaClを含む溶液、例えばリン酸緩衝生理食塩水中で)低い溶解度を示し、そして低いリガーゼ活性を示した。実際に、切断型ポリペプチド(RrgALigase)は、マルトース結合タンパク質(MBP)に融合して、RrgALigaseの溶解度を向上させて、タンパク質の特性評価及び修飾を促進した。
【0016】
ゆえに、本発明のペプチドリガーゼ系の開発における第2の態様は、イソペプチドタンパク質、特に推定上のペプチドリガーゼに由来する別個の構成要素への種々の修飾(すなわち突然変異)の設計及び導入を必要とした。修飾が、2つのペプチドタグ間でのイソペプチド結合の形成を促進することができる、活性のあるペプチドリガーゼをもたらしただけでなく、驚くべきことに、ペプチドリガーゼドメインの溶解度及び活性を向上させること、すなわち、修飾されたペプチドリガーゼがMBPに結合されない場合に、修飾されたペプチドリガーゼは、広範な条件において可溶性であり、且つ活性であることも確定された。さらに、本発明のペプチドリガーゼ系は、先で考察されたSpyLigase系と比較して、特性の向上、例えば、より高い収率(すなわち95%)、広い範囲の反応条件(温度、例えば最大37℃、広範なバッファ、その他)、より高速な反応速度(すなわち、約4時間での高収率)、及びTMAO(トリメチルアミンN−オキシド)等の化学シャペロンの不在下で機能する能力を示す。
【0017】
特に、本発明のペプチドリガーゼ系は、長期間にわたって自然に進化したペプチドリガーゼ系、例えばソルターゼ及びトランスグルタミナーゼに勝る向上を表す。例えば、ソルターゼ酵素は、20億年以上前に分岐した多様なグラム陽性菌中に存在する(Antos et al.,J.Am.Chem.Soc.2009,vol.131(31),pp.10800−10801)。実際、発明者らは、予想外にも、本発明のペプチドリガーゼ系の収率が、ペプチドタグの濃度が比較的低いときでさえ高いことを見出した。比較として、本発明のペプチドリガーゼ系は、ソルターゼに典型的に用いられるオリゴグリシン−反応パートナの濃度よりも10倍低いペプチドタグ濃度にて、有効である(Chen et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,2011,vol.108(28),pp.11399−11404)。
【0018】
したがって、一態様において、本発明は:
a)配列番号1に示されるアミノ酸配列;又は
b)配列番号1に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含むポリペプチドであって、前記アミノ酸配列は、位置61にグルタミン酸を、そして以下の1つ以上:
1)位置66にプロリン;
2)位置95にプロリン;
3)位置96にグリシン;及び
4)位置97にバリン
を含み、
指定したアミノ酸残基は、配列番号1内の位置に等価の位置にあり、前記ポリペプチドは、配列番号2の位置9のリシン残基と、配列番号3の位置17のアスパラギン残基との間でのイソペプチド結合の形成を促進することができる、ポリペプチドを提供する。
【0019】
本発明のポリペプチドは、本発明のペプチドタグ(以下で考察される、配列番号2及び3)の共有結合性のコンジュゲーションを媒介するので、ペプチドリガーゼとして見ることができる。加えて、又は代わりに、本発明のポリペプチドは、本発明のペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成を促進する触媒として見ることができる。この点において、触媒は、それ自体の組成を変えることなく反応を起こさせることを可能にする分子として定義することができ、そして本発明のペプチドタグとの相互作用、及び前記ペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成の以降の促進後の、本発明のポリペプチドの構造は、相互作用前の構造と正確に同じであると考えられる。ゆえに、本発明のポリペプチドは、本発明のペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成を触媒するペプチドリガーゼとして見ることができる。
【0020】
実施例において示されるように、ポリペプチドのリガーゼ活性に及ぼす影響を判定するために、多数の修飾が巧みに設計されて、切断型RrgA C末端ドメインポリペプチド(推定上のリガーゼ又はRrgALigase)中に導入されて、試験された。発明者らは、選択された修飾のみが、リガーゼ活性の活性向上をもたらすと確定した(図2A参照)。さらに、選択された各修飾が、独立して、リガーゼの活性を向上させることが判明した。
【0021】
したがって、一部の実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号1に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでよく、前記アミノ酸配列は、位置61にグルタミン酸を、そして以下の2、3、又は4つ:
1)位置66にプロリン;
2)位置95にプロリン;
3)位置96にグリシン;及び
4)位置97にバリン
を含む。
【0022】
ゆえに、例えば、本発明のポリペプチド変異体は、位置66及び95に少なくともプロリン残基を含んでよい。一部の実施形態において、本発明のポリペプチド変異体は、位置66及び/又は95に少なくともプロリン残基を、そして位置96にグリシン残基を含んでよい。更なる実施形態において、本発明のポリペプチド変異体は、位置66及び/又は95に少なくともプロリン残基を、そして位置97にバリン残基を含んでよい。特に好ましい実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号1に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び以下の全てを含む:
1)位置61にグルタミン酸;
2)位置66にプロリン;
3)位置95にプロリン;
4)位置96にグリシン;及び
5)位置97にバリン。
【0023】
更なる実施形態において、本発明のポリペプチド変異体は、位置100にトレオニン残基を含んでもよい。
【0024】
ゆえに、本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)は、特に、配列番号1に記載される例示の配列と少なくとも80%同一であってよく、より詳細には、配列番号1と少なくとも85、90、95、96、97、98、又は99%同一であり、ポリペプチド変異体は、位置61(又は等価の位置)にグルタミン酸残基を、そして:
1)位置66にプロリン;
2)位置95にプロリン;
3)位置96にグリシン;及び
4)位置97にバリン
の1つ以上を、又は以下で定義されるそれらの等価の位置を含む。
【0025】
次に、本発明を、以下の非限定的な実施例において、以下の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(A)は、RrgAを分割して、本発明のペプチドタグ及びペプチドリガーゼに到達するように修飾した方法の図を示す。RrgA(プロテインデータバンク2WW8)のC末端ドメインを3つの部分に分割して、反応性LysをSnoopTagJr上に、反応性AsnをDogTag上に、そして触媒性のGluをSnoopLigase上に位置決めするように操作した。(B)は、RrgA内のイソペプチド結合形成のための分子基礎を示しており、Glu 803は、Lys 742とAsn 854間のイソペプチド結合の形成を触媒して、アンモニアを取り除く(PDBファイルの残基番号)。(C)は、ペプチド−ペプチドライゲーションのためのDogTag及びSnoopTagJrの使用の図を示す。
図2】(A)は、様々なRrgALigase突然変異体の反応性を示すグラフであり、RrgALigaseは、配列番号8に示される配列を含むポリペプチドを指し、A808Pは、配列番号8に示される配列を含むポリペプチドを指し、残基66は、プロリンであり、A808P Q837Pは、配列番号8に示される配列を含むポリペプチドを指し、残基66及び95は、双方ともプロリンであり、A808P Q837P D838Gは、配列番号8に示される配列を含むポリペプチドを指し、残基66及び95は、双方ともプロリンであり、残基96はグリシンであり、SnoopLigaseは、配列番号1に示される配列を含むポリペプチドを指す。(B)SnoopTagJrの反応性Lys(KA)及びDogTagの反応性Asn(NA)のアラニン突然変異、並びにSnoopLigaseの反応性Glu(EQ)のグルタミン突然変異を有する、SnoopLigase、SnoopTagJr、及びDogTagの反応性の特性を、対照と一緒に表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEゲルの写真であり、SnoopTagJrは、HER2に対するアフィボディとの融合タンパク質として発現され、そしてDogTagは、SUMOとの融合タンパク質として発現された。
図3】実施例4に記載する固相ライゲーション反応由来の生成物の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEゲルの写真を示す。
図4】SnoopTagJr−AffiHER2及びSUMO−DogTagをライゲートするSnoopLigaseの活性に及ぼす(A)pH及び(B)温度の影響を実証するグラフを示す。
図5】SnoopTagJr−AffiHER2及びSUMO−DogTagをライゲートするSnoopLigaseの活性に及ぼす(A)NaCl濃度、(B)洗剤、及び(C)グリセロールの影響を実証するグラフを示す。
図6】低いpH条件を用いた反応生成物の溶出後の、固体基質上に固定されたSnoopLigaseの繰返し反応において形成された生成物の相対量を示す棒グラフを示す。生成物収率を、反応サイクル1からの収率に対して標準化した。n=9、平均+/−1 S.D。
図7】実施例6に記載するIMX−DogTagとSnoopTagJr−MBP間の反応由来の生成物の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEの写真(A)、及び(A)に記載する反応の定量化を示すグラフ(B)を示す(n=3、平均+/−1 S.D)。
図8】実施例6に記載するSnoopTagJr−AffiHER2とSUMO−DogTag間の反応由来の生成物の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEの写真(A)、及び(A)に記載する反応の定量化を示すグラフ(B)を示す(n=3、平均+/−1 S.D)。
図9】実施例7に記載するSnoopLigaseからの生成物の温度依存的溶出の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEの写真を示しており、「コンペティタ」は、AffiHER2−DogTagに共有結合するSnoopTagペプチドを指す。
図10】実施例8に記載するSnoopLigaseからの生成物の添加物依存的溶出の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEの写真を示しており、「対照」は、溶出バッファへの添加物がなく、「反応液」は、樹脂捕捉前の混合物である。
図11】実施例8に記載するSnoopLigaseからの生成物の溶出についての、イミダゾール滴定の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEの写真を示す。「樹脂上に残されたもの」は、溶出後の樹脂上に残ったものを視覚化するための、樹脂の、SDS−ローディングバッファとの沸騰由来のサンプルを指す。この沸騰は、ストレプトアビジン−アガロースからストレプトアビジンサブユニットを放出した。
図12】SnoopLigaseによって触媒されて、SUMO−DogTagと、SnoopTag−AffiHER2又はSnoopTagJr−AffiHER2のいずれかとの間で形成された反応生成物の量を示すグラフを示す(n=3、平均+/−1 S.D)。
図13】TMAOの種々の濃度にてSnoopLigaseによって触媒されて、SUMO−DogTagとSnoopTagJr−AffiHER2との間で形成された反応生成物の量を示すグラフを示す(n=3、平均+/−1 S.D)。
図14】実施例11に記載するSnoopLigaseによって触媒される、SnoopTagJr−AffiHER2とのDogTag−MBP内部融合タンパク質の反応性の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEの写真を示す。
図15】SnoopTagJr−AffiHER2とのSUMO−DogTagタンパク質の反応生成物をSnoopLigaseから分離する様々な溶出法の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEの写真を示す。「ペプチドによる溶出」は、実施例12に記載するSnoopTagJr:DogTagコンペティタペプチドを用いた溶出を指す。
図16】実施例11に記載されるSnoopLigaseによって触媒される、SnoopTagJr−AffiHER2とHaloTag7SS−DogTag内部融合タンパク質間の反応由来の生成物の分析の特性を表す、クーマシー染色によるSDS−PAGEの写真を示す。
図17】実施例14に記載する非凍結乾燥サンプルの活性と比較した、指定された日数間の37℃での貯蔵後の凍結乾燥SnoopLigaseの活性を示す棒グラフ(A)、及び実施例14に記載する還元剤なしのSnoopLigaseと比較した、還元剤ありのSnoopLigaseの活性を示す棒グラフ(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のポリペプチドは、配列番号2の位置9のリシン残基と、配列番号3の位置17のアスパラギン残基との間のイソペプチド結合の形成を、前記ペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成に適した、且つ/又は本発明のポリペプチドのリガーゼ活性に適した条件下で、促進することができる。以下の実施例から、本発明のポリペプチドは、広範な条件の下で活性であることが明らかである。例えば、6.0〜9.0、例えば7.0〜9.0、7.25〜8.75、例えば約7.5〜8.5のpHの、広範な温度、例えば0〜40℃、例えば5〜39、10〜38、15〜37℃、例えば1、2、3、4、5、10、12、15、18、20、22、25、27、29、31、33、35、又は37℃、好ましくは約15℃のトリスホウ酸(TB)バッファにおいて、活性である。ポリペプチドは、細胞外濃度のNaCl、例えば約150mM NaCl又はそれ未満の存在下で、機能的である。しかしながら、一部の実施形態において、NaClの不在化でライゲーション反応を実行することが好まれてもよい。本発明のポリペプチドはまた、一般的に用いられる洗剤、例えばTween 20及びTriton X−100の存在下で、約2%(v/v)の濃度まで活性である。さらに、ポリペプチドは、少なくとも最大約40%(v/v)の濃度のグリセロールの存在下で活性である。ゆえに、一部の実施形態において、例えば約5〜50%、10〜40%、好ましくは約15〜30%(v/v)のグリセロールの存在下で、ライゲーション反応を実行することが好まれてもよい。当業者であれば、他の適切な条件を容易に決定することができるであろう。
【0028】
ゆえに、一部の実施形態において、前記ペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成に適し、且つ/又は本発明のポリペプチドのリガーゼ活性に適した条件として、本発明のポリペプチドを、本明細書中で定義されるペプチドタグと接触させることで、前記ペプチドタグ間の、特に配列番号2の位置9のリシン残基と配列番号3の位置17のアスパラギン残基との間でイソペプチド結合を形成するあらゆる条件が挙げられる。例えば、前記ポリペプチド及びペプチドタグは、緩衝条件において、例えば、トリスホウ酸バッファ等のバッファで平衡化された緩衝溶液中又は固形相(例えばカラム)上で、接触させられる。接触させる工程は、適切なあらゆるpH、例えばpH6.0〜9.0、例えば6.5〜9.0、例えばpH6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、又は8.8であってよい。加えて、又は代わりに、接触させる工程は、適切なあらゆる温度、例えば約0〜40℃、例えば、約1〜39、2〜38、3〜37、4〜36、5〜35、6〜34、7〜33、8〜32、9〜31、又は10〜30℃、例えば、約10、12、15、18、20、22、又は25℃、好ましくは約15℃であってよい。一部の実施形態において、接触させる工程は、NaClが不在であってもよい。一部の実施形態において、接触させる工程は、例えば約5〜50%、10〜40%、好ましくは約15〜30%(v/v)のグリセロールの存在下でなされてもよい。
【0029】
一部の実施形態において、本明細書中で定義されるポリペプチド及びペプチドタグを「イソペプチド結合の形成に適した条件下で」接触させることとして、前記ポリペプチド及びペプチドタグを、化学シャペロン、例えば、ポリペプチド及び/又はペプチドタグの反応性を増強又は向上させる分子の存在下で接触させることが挙げられる。一部の実施形態において、化学シャペロンは、TMAO(トリメチルアミンN−オキシド)である。一部の実施形態において、化学シャペロン、例えばTMAOは、少なくとも約0.2M、例えば少なくとも0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、又は2.5M、例えば約0.2〜3.0M、0.5〜2.0M、1.0〜1.5Mの濃度で、反応中に存在する。
【0030】
ゆえに、本発明のポリペプチドは、配列番号1に示される例示のポリペプチドと構造的に類似しており、且つペプチドリガーゼとして機能することができる、特に、先で定義された適切な条件下で本発明のペプチドタグ(配列番号2及び3に記載するアミノ酸配列を含むペプチド)間のイソペプチド結合の形成を促進することができるポリペプチドの突然変異形態(すなわち、本明細書中では、相同体、変異体、又は誘導体と呼ぶ)を包含する。ポリペプチド変異体が、配列番号1に対して突然変異、例えば欠失又は挿入を含む場合、先で明記される残基は、変異ポリペプチド配列内で等しいアミノ酸位置に存在する。好ましい実施形態において、本発明のポリペプチド変異体内の欠失は、N末端及び/又はC末端の切断ではない。
【0031】
ゆえに、一部の実施形態において、本発明のポリペプチド変異体は、配列番号1と、例えば、1〜20、1〜15、1〜10、1〜8、1〜6、1〜5、1〜4、例えば、1〜3個のアミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失、好ましくは置換によって、異なってよい。一部の実施形態において、本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)中に存在する他のあらゆる突然変異は、保存的アミノ酸置換であってよい。保存的アミノ酸置換は、ポリペプチドの物理化学的性質を保存する別のものによるアミノ酸の置換を指す(例えば、DがEによって(又はその逆も同じ)、NがQによって、又はL若しくはIがVによって(又はその逆も同じ)置換され得る)。ゆえに、通常、置換アミノ酸は、置換されることとなるアミノ酸と類似の特性、例えば疎水性、親水性、電気陰性、嵩高い(bulky)側鎖を有する。天然のL−アミノ酸の異性体、例えばD−アミノ酸が組み込まれてもよい。
【0032】
配列同一性は、当該技術において知られているあらゆる適切な手段によって、例えば、可変pam因子(pamfactor)、並びに12.0に設定されたギャップ作成ペナルティ(gap creation penalty)及び4.0に設定されたギャップ伸長ペナルティ(gap extension penalty)、並びに2アミノ酸のウィンドウによるFASTA pep−cmpを用いるSWISS−PROTタンパク質配列データバンクを用いて判定されてよい。アミノ酸配列同一性を判定するための他のプログラムとして、University of WisconsinのGenetics Computer Group(GCG)Version 10 SoftwareパッケージのBestFitプログラムが挙げられる。プログラムは、デフォルト値:ギャップ作成ペナルティ−8、ギャップ伸長ペナルティ=2、平均マッチ=2.912、平均ミスマッチ=−2.003によるSmith及びWatermanの局所相同性アルゴリズムを用いる。
【0033】
好ましくは、前記比較は、配列の全長にわたってなされるが、より小さな比較ウィンドウ、例えば、100、80、又は50未満の隣接するアミノ酸にわたってなされてもよい。
【0034】
好ましくは、そのような配列同一性関連タンパク質(ポリペプチド変異体)は、示される配列番号に記載されるポリペプチドに対して、機能的に等価である。本明細書中で呼ぶ「機能的等価」は、親分子(すなわち、ポリペプチドの変異体が配列相同性を示す分子)に対する、ライゲーション反応において幾分引き下げられた効力(例えば、反応条件の制限された範囲(例えば、より狭い温度範囲、例えば10〜30℃)における、反応のより低い収率、より低い反応速度又は活性)を示す場合があるが、好ましくは、効率的である、又はより効率的である、先で考察した本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)の変異体を指す。
【0035】
リガーゼ又は触媒活性が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性と「等価」である本発明の突然変異ポリペプチド又は変異ポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性に類似する(すなわち匹敵する)、すなわち、ペプチドリガーゼの実用的な用途が、大きな影響を受ない(例えば、実験誤差の限界内である)ような、リガーゼ又は触媒活性を有し得る。ゆえに、等価のリガーゼ又は触媒活性は、本発明の突然変異ポリペプチド又は変異ポリペプチドが、本発明のペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成を、同じ条件下で、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるポリペプチドと類似の反応速度及び/又は反応収率で促進することができることを意味する。
【0036】
先で例示されるのと同じ反応条件、例えば温度、基質(すなわちペプチドタグ配列)、及びその濃度、バッファ、塩その他の下で測定した、異なるペプチドリガーゼポリペプチド(例えば、配列番号1対突然変異体)のリガーゼ又は触媒活性は、容易に比較されて、各タンパク質についてのリガーゼ又は触媒活性が、より高いか、より低いか、等価であるかを判定することができる。
【0037】
ゆえに、変異(例えば突然変異)ポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性の少なくとも60%、例えば、少なくとも70、75、80、85、又は90%、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%であり得る。代わりに見て、突然変異ポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性の40%以下、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性の35、30、25、又は20%以下、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性の10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1%以下であり得る。
【0038】
一部の実施形態において、変異(例えば突然変異)ポリペプチドのリガーゼ又は触媒活性は、ペプチドタグの反応収率を測定することによって評価され得る。反応収率は、ペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成に適した、且つ/又は本発明のポリペプチドのリガーゼ活性に適した条件下での、本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)とのペプチドタグの接触後の未反応構成要素に対する、そのパートナーペプチドタグ(例えば配列番号3)との共有結合性の複合体内のタグ(例えば配列番号2)の割合を判定することによって、測定される。ゆえに、反応収率は、以下を指す:パートナーペプチドタグ(例えば配列番号3)との共有結合性の複合体内のタグ(例えば配列番号2)の割合/(そのパートナーペプチドタグ(例えば配列番号3)との共有結合性の複合体内のタグ(例えば配列番号2の割合+そのパートナーペプチドタグ(例えば配列番号3)との共有結合性の複合体内にないタグ(例えば配列番号2)の割合))×100。
【0039】
先に述べたように、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むペプチドリガーゼは、配列番号2と配列番号3の反応を、約95%の反応収率で触媒することができる。ゆえに、一部の実施形態において、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドに機能的に等価である本発明の変異ポリペプチドは、配列番号2と配列番号3の反応(すなわち、配列番号2と配列番号3間のイソペプチド結合の形成)を、少なくとも約57%の反応収率、例えば、少なくとも約67、71、76、81、又は86%、例えば、少なくとも86.5、87.4、88.4、89.3、90.3、91.2、92.2、93.1、又は94%の反応収率で触媒することができる。
【0040】
それゆえに、あらゆる修飾又は修飾の組合せが、配列番号1になされて、本発明の変異ポリペプチド(ペプチドリガーゼ)が生成されてもよいが、変異ポリペプチドは、配列番号1の位置61に等価の位置にグルタミン酸残基、並びに定義される配列番号1の位置66、95、96、及び97に等価の位置に少なくとも1つ(好ましくは2、3、又は4つ)の他のアミノ酸残基を含み、先で定義される官能特性を保持し、すなわち、本発明のペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成を促進することができるペプチドリガーゼをもたらし、そして、場合によっては、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して、反応収率、反応速度、温度、及び/又はバッファ範囲が等価である、又はより高い場合に限る。
【0041】
等価の位置は、配列番号1のアミノ酸配列への参照によって決定される。相同な位置又は対応する位置は、例えばBLASTアルゴリズムを用いて、配列間の相同性又は同一性に基づいて、相同(突然変異、変異、又は誘導)ポリペプチドの配列及び配列番号1の配列を並べる(lining up)ことによって、容易に導き出され得る。
【0042】
先で考察したように、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)接着タンパク質、RrgAのC末端ドメインを、3つのドメインに分割した。次に、それぞれを修飾して、本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)及び2つのペプチドタグを生じさせた。ゆえに、本発明のペプチドタグは、本発明のペプチドリガーゼと組み合わせて、特定の有用性が見出される。したがって、本発明のペプチドタグは、ペプチドライゲーション又はコンジュゲーション反応における、本発明のペプチドリガーゼの基質として見ることができる。特に、本発明のポリペプチドリガーゼは、配列番号2の位置9のリシン残基と、配列番号3の位置17のアスパラギン残基との間の特定のアミド基転移を導くことができる。ゆえに、本発明のペプチドタグは、アミド基転移反応における、本発明のペプチドリガーゼの基質として見ることができる。
【0043】
したがって、更なる態様において、本発明は、配列番号2又は配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むペプチドタグを提供する。
【0044】
本明細書中で用いられる用語「ペプチドタグ」又は「ペプチドリンカー」は、通常、ペプチド又はオリゴペプチドを指す。ペプチド又はオリゴペプチドによって意味されるものの間でサイズ境界に関する標準的な定義はないが、典型的に、ペプチドは2〜20個のアミノ酸を含み、オリゴペプチドは21〜39個のアミノ酸を含むと見ることができる。したがって、ポリペプチドは、少なくとも40個のアミノ酸、好ましくは少なくとも50、60、70、又は80個のアミノ酸を含むと見ることができる。ゆえに、本明細書中で定義されるペプチドタグ又はリンカーは、少なくとも12個のアミノ酸、例えば12〜39個のアミノ酸、例えば13〜35、14〜34、15〜33、16〜31、17〜30個のアミノ酸長を含むと見ることができ、例えば、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、又は23個のアミノ酸を含んでもよいし、それからなってもよい。
【0045】
先で示されるように、ペプチドタグは、多数の有用性を有し、そして本発明のペプチドタグ及びペプチドリガーゼは、イソペプチド結合を介して2つの分子又は構成要素をコンジュゲートさせる(すなわち、結合又は連結させる)際の特定の有用性を認める。例えば、ペプチドタグは、注目する分子又は構成要素に、別々にコンジュゲート又は融合してから、ペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成を可能にするのに適した条件下で、ペプチドリガーゼの存在下で一緒に接触することによって、イソペプチド結合を介して分子又は構成要素を結合させる(すなわち、連結又はコンジュゲートさせる)。
【0046】
以下の実施例に示すように、発明者らは、本発明のペプチドリガーゼが、その反応生成物と強く結合すること、すなわち、本発明の2つのペプチドタグが、イソペプチド結合によって結合すること、そしてあらゆる分子又は構成要素が、前記ペプチドタグに融合又はコンジュゲートすることを確定した。しかしながら、強い相互作用は、種々の選択された条件、例えば、低いpH、温度の上昇(例えば45℃以上)、イミダゾール若しくはペプチドコンペティタの添加、又はそれらの組合せを用いて、崩壊し得る。ゆえに、一部の実施形態において、ペプチドリガーゼとその反応生成物間の強い相互作用は、有利には、反応生成物の効率的な精製を容易にする。
【0047】
一例として、本発明のペプチドリガーゼは、固体担持体又は固相上に、以下でより詳細に考察される便利なあらゆる手段によって、例えば、ペプチドリガーゼをタグ、例えばビオチンで標識して、タグ付けされたリガーゼを、タグの結合パートナに結合した固体担持体、例えばストレプトアビジンアガロースと接触させることによって、固定され得る。次に、固体担持体又は固相は、ペプチドタグに融合又はコンジュゲートした分子又は構成要素と、ペプチドタグ間のイソペプチド結合のペプチドリガーゼ媒介形成を可能にする条件下で接触することによって、分子又は構成要素間で共有結合性の複合体を形成する。固定されたペプチドリガーゼと反応生成物間の強い相互作用に起因して、固相は、未反応構成要素の除去を促進するようなストリンジェントな条件下で洗浄され得る。次に、固相は、固定されたペプチドリガーゼと反応生成物間の相互作用を崩壊させる条件に曝されることによって、反応生成物の分離が可能となる。
【0048】
例えば、固相を、低pHの溶液、例えば低pHのバッファ、例えばpH4.0以下のバッファと接触させて、固定されたペプチドリガーゼと反応生成物間の相互作用を崩壊させることによって、反応生成物の分離を可能にすることができる。例えば、固相は、カラムであってよく、そしてカラムを低pHの溶液と接触させることで、実質的に純粋な反応生成物が溶出される。
【0049】
以下で考察されるように、本発明のペプチドタグを介してコンジュゲートすることとなる分子又は構成要素の1つ以上が、タンパク質であってよい。しかしながら、全てのタンパク質が、低いpHでの処理を許容するわけではない。したがって、発明者らは、中性pH(すなわち6.5〜7.5)にてペプチドリガーゼ及びその反応生成物の分離を可能にする他の条件を同定しようと試みた。
【0050】
発明者らは、固相の温度を55℃に上昇させることが、例えばリン酸緩衝生理食塩水、pH7.4中で、ほとんどのタンパク質によって許容される条件下で、反応生成物を効率的に溶出するのに十分であることを確定した。
【0051】
さらに、発明者らは、コンペティタ反応生成物(例えば、プレライゲートされたタンパク質)を加えて、反応生成物とペプチドリガーゼ間の非共有結合性の相互作用を崩壊させる(打ち負かす)ことによって、効率的な溶出が、より低い温度にて達成され得ることを確定した。コンペティタ反応生成物は、意図される反応生成物から(例えば、透析又はサイズ排除クロマトグラフィによって)容易に分離可能な、本発明のペプチドタグを含むあらゆる生成物であってよい。
【0052】
実施例において示すように、35μMコンペティタ反応生成物(すなわち、ビオチン化されたSnoopLigaseを用いて、AffiHER2−ペプチドタグ(配列番号7)融合体に結合されてから、グリシンバッファ、pH2を用いて固相から溶出によって精製されるペプチドタグ(配列番号9)を含むコンペティタタンパク質)の添加により、55℃の代わりに45℃での反応生成物の効率的な溶出が可能となった。好ましい実施形態において、コンペティタ反応生成物は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するペプチドに(イソペプチド結合を介して)ライゲートされた、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するペプチドを含む、又はそれからなる。一部の実施形態において、コンペティタ反応生成物は、固相と、高い濃度、すなわち、反応に用いられる反応物質(すなわちペプチドタグコンジュゲート)の、少なくとも60%、例えば、少なくとも70、80、90、100、110、120、130、140、150、又は200%の濃度にて接触する。特に好ましい実施形態において、コンペティタ反応生成物は、高温、すなわち、室温超、例えば、少なくとも30、35、40、又は45℃にて、固相と接触する。
【0053】
コンペティタ反応生成物の使用が、本発明のペプチドリガーゼからの一部の反応生成物(例えばタンパク質コンジュゲート)の溶出に適し得る一方、本発明のペプチドリガーゼと反応生成物間の相互作用を、生理的に関連する条件、例えば、生理学的温度及びpHの下で崩壊させることができることが所望される。したがって、実施例で考察されるように、発明者らは巧みに、生理学的条件下で、本発明のペプチドリガーゼと反応生成物間の相互作用を崩壊させるのに有効であり得る一方、SnoopLigaseによってライゲートされて折畳み構造を維持するほとんどのタンパク質となお適合性である広範な添加剤を選択した。
【0054】
試験された12の添加剤のうち、1つの添加剤(1Mイミダゾール)のみが、生理学的条件(pH6.5〜7.0、37℃)下で有効であることが見出された。そして、驚くべきことに、イミダゾールの濃度が高いほど(2M)、低い温度(25℃)での効率的な溶出が可能となることが確定された。イミダゾールは、ほとんどのタンパク質によって十分に許容され、ヒスチジン−タグ付きタンパク質をNi−NTA樹脂から精製するのに最も一般的なタンパク質精製法の1つに用いられる。
【0055】
ゆえに、一部の実施形態において、固相を、イミダゾールを、例えば少なくとも1M、好ましくは約2Mの濃度にて含む溶液と接触させて、固定されたペプチドリガーゼと反応生成物間の相互作用を崩壊させ得る。特に好ましい実施形態において、固相を、pH6.5〜7.5(好ましくは約pH7.0)にて、約20〜30℃(好ましくは約25℃)にて、約2Mイミダゾールを含む溶液と接触させる。
【0056】
本発明のペプチドタグとの接触の前に、固体担持体上にペプチドリガーゼを固定することが有用であり得る一方、これが必須でないことは明らかであろう。例えば、ライゲーション反応は、溶液中で起こってよく、これはその後、固体担持体又は固相、例えばカラムにアプライされて、反応生成物及びペプチドリガーゼが分離される。一部の実施形態において、ペプチドリガーゼ−反応生成物複合体は、反応生成物又はペプチドリガーゼを介して固相上に複合体を固定するのに適した条件下で、固相にアプライされて、適切な条件下で洗浄されて、その後、上記の条件の1つ以上に曝されて、例えば、低pH溶液又はイミダゾールを含む溶液と接触させて、複合体を崩壊させることによって、反応生成物及びペプチドリガーゼが分離され得る。これ以外にも、ペプチドリガーゼ−反応生成物複合体を、溶液中で上記の条件の1つ以上に曝して、例えば、低pH溶液、イミダゾール又はコンペティタ反応生成物を含む溶液と接触させて、その後、適切なあらゆる手段によって、例えば、反応生成物又はペプチドリガーゼに対して親和性がある固相との接触、サイズ排除クロマトグラフィ、透析その他によって、分離することができる。
【0057】
固体担持体又は固相の使用は、実質的に純粋な反応生成物を生成するのに有利である一方、これが必須でないことは明らかであろう。例えば、ライゲーション反応は、溶液中で起こってよく、そしてペプチドリガーゼ−反応生成物複合体は、ペプチドリガーゼの分解によって分離され得る。例えば、本発明のペプチドリガーゼは、例えばプロテアーゼを用いた、切断ドメインの切断が、ペプチドリガーゼと反応生成物間の相互作用を崩壊させるのに十分であるような切断ドメインを挿入するように修飾されてよい。その後、分解ペプチドリガーゼは、当該技術において知られている適切なあらゆる手段を用いて、反応生成物から分離され得る。
【0058】
他の実施形態において、ペプチドリガーゼとその反応生成物間の強い相互作用は、ペプチドタグに融合又はコンジュゲートした分子又は構成要素と、ペプチドリガーゼに融合又はコンジュゲートした分子又は構成要素との間で複合体を生じさせるのに用いられ得る。この点において、ペプチドタグに融合又はコンジュゲートした分子又は構成要素は、イソペプチド結合を介して結合されて、先に記載される反応生成物が生じ、これは、非共有結合的に、ペプチドリガーゼに融合又はコンジュゲートした分子又は構成要素と相互作用することによって、3つの分子又は構成要素の複合体が生じ、そこでは分子又は構成要素の2つが、イソペプチド結合を介して結合されている。
【0059】
ゆえに、一部の実施形態において、本発明は、本明細書中で定義されるポリペプチド(ペプチドリガーゼ)の:
(1)イソペプチド結合を介して2つの分子若しくは構成要素をコンジュゲートさせるため;又は
(2)3つの分子若しくは構成要素間で複合体を生成するため
の使用であって、複合体中の分子又は構成要素の2つは、イソペプチド結合を介してコンジュゲートし、
イソペプチド結合を介してコンジュゲートする前記分子又は構成要素は:
a):
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号2の位置9と等価の位置にリシン残基を含むペプチドタグを含む第1の分子又は構成要素;及び
b):
(i)配列番号3に示されるアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号3に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号3の位置17と等価の位置にアスパラギン残基を含むペプチドタグを含む第2の分子
を含み、
(2)における複合体中の第3の分子又は構成要素は、先で定義される、本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)を含む、使用を提供することが分かり得る。
【0060】
上述のコメントを考慮して、(2)における複合体中の第3の分子又は構成要素は、イソペプチド結合を介してコンジュゲートする複合体中の分子又は構成要素に非共有結合的に相互作用又は結合する。特に、複合体中の第3の分子又は構成要素と、イソペプチド結合を介してコンジュゲートする複合体中の分子又は構成要素との間の非共有結合性の相互作用が、ペプチドリガーゼと、本発明のコンジュゲートしたペプチドタグとの相互作用によって媒介される(当該相互作用から生じる、又は当該相互作用を介する)ことは明らかである。
【0061】
代わりに見て、本発明は、イソペプチド結合を介して2つの分子又は構成要素をコンジュゲートさせるプロセスであって:
a):
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号2の位置9に等価の位置にリシン残基を含むペプチドタグを含む第1の分子又は構成要素を用意することと;
b):
(i)配列番号3に示されるアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号3に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含み、前記アミノ酸配列は、配列番号3の位置17に等価の位置にアスパラギン残基を含むペプチドタグを含む第2の分子又は構成要素を用意することと;
c)前記第1及び第2の分子又は構成要素を、本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)と接触させることと
を含み、好ましくは、前記ポリペプチドは、固体基質上に固定されることによって、配列番号2の位置9に等価の位置のリシン残基と、配列番号3の位置17に等価の位置のアスパラギン残基との間のイソペプチド結合の形成を可能にする条件下で、前記第1の分子を、前記第2の分子に、イソペプチドを介してコンジュゲートさせて、複合体を形成する、プロセスを提供する。
【0062】
一部の実施形態において、本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)は、分子又は構成要素にコンジュゲート又は融合して、第3の分子又は構成要素を提供し、そして工程c)は、3つの分子又は構成要素を含む複合体を形成し、複合体中の第3の分子又は構成要素は、イソペプチド結合を介してコンジュゲートする複合体中の第1及び第2の分子又は構成要素に、非共有結合的に相互作用又は結合する。特に、複合体中の第3の分子又は構成要素と、イソペプチド結合を介してコンジュゲートする複合体中の第1及び第2の分子又は構成要素との間の非共有結合性の相互作用は、ペプチドリガーゼと、本発明のコンジュゲートしたペプチドタグとの相互作用によって媒介される(当該相互作用から生じる、又は当該相互作用を介する)。
【0063】
一部の実施形態において、ポリペプチドが固体基質上に固定されている場合、プロセスは、複合体(イソペプチド結合を介してコンジュゲートする第1及び第2の分子又は構成要素のみを含む)を固体基質から分離する更なる工程を含み、前記工程は、複合体を崩壊させる、すなわち、ポリペプチドと反応生成物間の非共有結合性の相互作用を崩壊させるのに適した条件に複合体を曝すことを含む。
【0064】
一部の実施形態において、上記のように、複合体を崩壊させるのに適した条件は、前記複合体を低pHの溶液又はバッファと接触させることを含む。一部の実施形態において、複合体を崩壊させるのに適した条件は、前記複合体を、高温、例えば少なくとも30、35、40、若しくは45℃、例えば30〜65、35〜60、40〜55℃に曝すこと、及び/又は前記複合体を、イミダゾール(例えば少なくとも1M、例えば、1〜4M、1〜3M、又は1.5〜2.5M、好ましくは約2Mイミダゾール)を含む溶液、若しくはコンペティタ反応生成物(例えば、先で定義される高濃度のコンペティタ反応生成物)を含む溶液と接触させることを含む。
【0065】
更なる実施形態において、プロセスは、前記複合体を固体基質から分離する前に、固体基質をバッファで洗浄する工程を含む。適切なあらゆるバッファが、ペプチドタグに融合する分子又は構成要素に基づいて選択されてよいことが明らかであろう。さらに、固体基質を洗浄する工程は、複数回、例えば、2、3、4、5回以上、繰り返されてよい。代わりに見て、一部の実施形態において、プロセスは、複数の洗浄工程を含み、同じ洗浄条件又は異なる洗浄条件が、各工程に用いられてよい。
【0066】
上記のように、一部の実施形態において、固体基質は、ストリンジェントな洗浄条件に曝される。ストリンジェントな洗浄条件の性質は、ペプチドタグに融合する分子若しくは構成要素、及び/又は固体基質の組成によって決まることとなる。当業者であれば、そのような条件をルーチン事項として選択することができよう。しかしながら、一例として、ストリンジェントな洗浄条件は、50mMグリシン及び300mM NaCl(pH3.0)を含む溶液に続いて、50mMグリシン(pH3.0)を含む溶液で洗浄することを含んでよく、各洗浄は繰り返されてよい。
【0067】
「低pHの溶液又はバッファ」は、本発明のペプチドリガーゼとその反応生成物、すなわち、イソペプチド結合を介してコンジュゲートする本発明のペプチドタグとの間の非共有結合性の相互作用を損なうのに適したあらゆる溶液又はバッファとして見ることができる。一部の実施形態において、低pHの溶液又はバッファは、抗体溶出バッファである。この点において、本発明のペプチドリガーゼとその反応生成物間の相互作用を損なうのに必須の溶液のpHは、溶液中の構成要素によって決まり得ることが明らかである。一例として、抗体溶出バッファは、50mMグリシン、pH2.2〜2.8、又は100mMクエン酸バッファ、pH3.5〜4.0を含んでよく、又はそれからなってよい。ゆえに、一部の実施形態において、低pHの溶液又はバッファは、pHが4.0以下、例えば、3.9、3.8、3.7、3.6、3.5、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0以下、例えば、約1.5〜3.5、1.6〜3.4、1.7〜3.3、1.8〜3.2、1.9〜3.1、又は2.0〜3.0、例えば約2.2〜2.8又は2.5〜2.7である。
【0068】
複合体を形成するための2つ以上の分子又は構成要素の連結に関して、本発明の文脈における用語「コンジュゲート」又は「結合」は、前記分子又は構成要素、例えばタンパク質を、共有結合を介して、特に、前記分子又は構成要素、例えばタンパク質(例えば、前記タンパク質のドメインを形成するペプチドタグ)中に組み込まれる、又はそれに融合するペプチドタグ間に形成されるイソペプチド結合を介して、結合又はコンジュゲートさせることを指す。
【0069】
一部の実施形態において、上述の前記ペプチドタグ配列は、比較される配列(配列番号2又は3)と、少なくとも85、90、95、96、97、98、99、又は100%同一である。
【0070】
好ましくは、そのような配列同一性関連ペプチドタグは、記載される配列番号に示されるペプチドタグと機能的に等価である。先で議論されたように、「機能的に等価」は、例示されるペプチドタグ(すなわち、配列番号2又は3、配列相同性を示す分子)に対して、本発明のペプチドリガーゼによって媒介される、それぞれのパートナとのイソペプチド結合の形成において幾分引き下げられた効力を示す場合があるが、好ましくは、効率的である、又はより効率的である、先で考察されたペプチドタグの相同体を指す。
【0071】
ゆえに、本発明のペプチドリガーゼによって媒介される、そのそれぞれのパートナとイソペプチド結合を形成する突然変異ペプチドタグの能力は、配列番号2又は3に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるペプチドタグの能力の少なくとも60%、例えば、少なくとも70、75、80、85、又は90%、例えば、配列番号2又は3に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるペプチドタグの能力の少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%であり得る。代わりに見て、本発明のペプチドリガーゼによって媒介される、そのそれぞれのパートナとイソペプチド結合を形成する突然変異ペプチドタグの能力は、配列番号2又は3に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるペプチドタグの能力の40%以下、例えば、配列番号2又は3に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるペプチドタグの能力の35、30、25、又は20%以下、例えば、配列番号2又は3に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれからなるペプチドタグの能力の10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1%以下であり得る。
【0072】
ゆえに、例えば、配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドタグ(前記アミノ酸配列は、配列番号2の位置9に等価の位置にリシン残基を含む)は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むペプチドタグとのイソペプチド結合を、好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むペプチドタグとしての反応効力(例えば、収率、反応速度その他)の少なくとも60%を伴って、形成することができなければならない。
【0073】
同様に、配列番号3に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドタグ(前記アミノ酸配列は、配列番号3の位置17に等価の位置にアスパラギン残基を含む)は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むペプチドタグとのイソペプチド結合を、好ましくは、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むペプチドタグとしての反応効力(例えば、収率、反応速度その他)の少なくとも60%を伴って、形成することができなければならない。
【0074】
先に記載される本発明のポリペプチド変異体の定義(すなわち、置換、欠失、及び挿入に関する)は、本発明の使用及びプロセスの文脈において、先に記載されるペプチドタグ変異体に等しく当てはまる。
【0075】
それゆえに、あらゆる修飾又は修飾の組合せが、配列番号2又は3になされて、本発明に用いられる変異ペプチドタグが生成されてよいが、変異ペプチドタグは、配列番号2の位置9に等価の位置にリシン残基、又は配列番号3の位置17に等価の位置にアスパラギン残基を含み、そして先で定義される官能特性を保持する、すなわち、イソペプチド結合を、適切な条件下で本発明のペプチドリガーゼによって媒介されるそれぞれのパートナと形成することができるペプチドタグをもたらす場合に限る。
【0076】
ペプチドタグ内の等価の位置は、配列番号2又は3のアミノ酸配列への参照によって決定される。相同な位置又は対応する位置は、例えばBLASTアルゴリズムを用いて、配列間の相同性又は同一性に基づいて、相同(突然変異、変異、又は誘導)ペプチドタグの配列及び配列番号2又は3の配列を並べることによって、容易に導き出され得る。
【0077】
上記のように、一部の実施形態において、本発明のペプチドタグは、他の分子に、又は他の構成要素若しくは実体に融合又はコンジュゲートする。そのような分子又は構成要素(すなわち実体)は、核酸分子、タンパク質、ペプチド、小分子有機化合物、フルオロフォア、金属−リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、又はこれらのあらゆる組合せであってよい。一部の実施形態において、ペプチドタグが融合又はコンジュゲートする構成要素又は実体は、以下で定義される固体担持体、すなわち固体基質又は固相である。
【0078】
ゆえに、代わりに見て、本発明は、本発明のペプチドタグに融合又はコンジュゲートした核酸分子、タンパク質、ペプチド、小分子有機化合物、フルオロフォア、金属−リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、若しくはそれらのあらゆる組合せ、又は固体担持体を提供する。
【0079】
細胞は、原核生物細胞であっても真核生物細胞であってもよい。一部の実施形態において、細胞は、原核生物細胞、例えば、細菌細胞である。
【0080】
一部の実施形態において、ペプチドタグは、治療的作用又は予防的作用を有する化合物又は分子、例えば、抗生物質、抗ウイルス剤、ワクチン、抗腫瘍剤、例えば、放射性化合物又は放射性同位体、サイトカイン、毒物、遺伝子又は核酸ワクチンをコードするオリゴヌクレオチド及び核酸にコンジュゲート又は融合していてよい。
【0081】
一部の実施形態において、ペプチドタグは、標識、例えば、放射性標識、蛍光標識、発光標識、発色団標識、並びに、検出可能な基質、例えば、ウマハツカダイコンペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、又はアルカリホスファターゼを生成する物質及び酵素にコンジュゲート又は融合していてよい。この検出は、抗体が従来通り用いられる多数のアッセイに用いられ得、これらとして、ウェスタンブロッティング/イムノブロッティング、組織化学、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、又はフローサイトメトリ(FACS)フォーマットが挙げられる。磁気共鳴画像法用の標識、陽電子放射断層撮影プローブ、及び中性子捕獲治療用のホウ素10もまた、本発明のペプチドタグにコンジュゲートしていてよい。特に、ペプチドタグは、別のペプチド、例えばHis6タグと融合していてもよいし、これにより生成されてもよく、且つ/又は、例えば、マルトース結合タンパク質に融合することによって組換えタンパク質発現を増強する目的で、別のタンパク質と融合していてもよいし、これにより生成されてもよい。
【0082】
特に有用な実施形態において、ペプチドタグ及び/又はペプチドリガーゼは、別のペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドと融合又はコンジュゲートする。例えば、ペプチドタグは、以下で考察される組換え技術を用いて、別のペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドの一部として、すなわち組換えタンパク質若しくはポリペプチド又は合成タンパク質若しくはポリペプチドとして生成されてもよい。
【0083】
基礎を形成する本発明のペプチドタグ及び/又はペプチドリガーゼが、いかなるタンパク質又はポリペプチドにも融合することは、明らかであろう。タンパク質は、適切ないかなる源から由来してもよいし、得られてもよい。例えば、タンパク質は、生体サンプル及び臨床サンプル、例えば生物(真核生物、原核生物)のあらゆる細胞サンプル若しくは組織サンプル、又はそれらに由来するあらゆる体液若しくは調製物、並びに細胞培養体、細胞調製物、細胞溶解液等のサンプルから、インビトロで翻訳されても精製されてもよい。また、例えば、環境サンプル(例えば土壌サンプル及び水サンプル、又は食品サンプルも挙げられる)から精製されたタンパク質が由来してもよいし、得られてもよい。サンプルは、新たに調製されてもよいし、例えば貯蔵用に、便利なあらゆる方法で前処理されていてもよい。
【0084】
先で注目されるように、好ましい実施形態において、タンパク質は、組換えによって生成され得るので、前記タンパク質をコードする核酸分子は、適切なあらゆる源、例えば、あらゆるウイルス材料又は細胞材料(全ての原核生物細胞又は真核生物細胞、ウイルス、バクテリオファージ、マイコプラズマ、プロトプラスト、及び細胞小器官が挙げられる)から由来してもよいし、得られてもよい。ゆえに、そのような生体材料は、全てのタイプの哺乳類及び非哺乳類の動物細胞、植物細胞、藍藻類を含む藻類、菌類、細菌、原生動物、ウイルスその他を含んでよい。一部の実施形態において、タンパク質は、合成タンパク質であってよい。例えば、本明細書中で開示されるペプチド及びポリペプチド(タンパク質)は、化学合成、例えば固相ペプチド合成によって生成されてよい。
【0085】
組換えタンパク質内のペプチドタグの位置は、特に重要でない。ゆえに、一部の実施形態において、ペプチドタグは、組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドのN末端又はC末端に位置決めされてもよい。一部の実施形態において、ペプチドタグは、組換えポリペプチド又は合成ポリペプチド内で、内部に位置決めされてもよい。ゆえに、一部の実施形態において、ペプチドタグは、組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドのN末端、C末端、又は内部のドメインとして見ることができる。
【0086】
ペプチドリガーゼは、好ましくは、組換ポリペプチド又は合成ポリペプチドのN末端又はC末端に位置決めされる。一部の実施形態において、ペプチドリガーゼは、組換えポリペプチド又は合成ポリペプチド内の内部に位置決めされてもよい。ゆえに、一部の実施形態において、ペプチドリガーゼは、組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドのN末端、C末端、又は内部のドメインとして見ることができる。
【0087】
一部の実施形態において、ペプチドタグ及び/又はペプチドリガーゼと結合又はコンジュゲートすることとなるペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチド間に、1つ以上のスペーサ、例えばペプチドスペーサを含むことが有用であり得る。ゆえに、ペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチド、並びにペプチドタグ及び/又はペプチドリガーゼは、互いに直接的に結合されていてもよいし、1つ以上のスペーサ配列によって間接的に結合されていてもよい。ゆえに、スペーサ配列は、組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドの2つ以上の個々の部分の間を占め得、又はこれらを分離し得る。一部の実施形態において、スペーサは、ペプチドタグ及び/又はペプチドリガーゼのN末端にあっても、C末端にあってもよい。一部の実施形態において、スペーサは、ペプチドタグ及び/又はペプチドリガーゼの両側にあってもよい。
【0088】
スペーサ配列の正確な性質は重大でなく、長さ及び/又は配列が可変であり得、例えば、1〜40、より詳細には2〜20、1〜15、1〜12、1〜10、1〜8、又は1〜6個の残基、例えば、6、7、8、9、又は10個以上の残基を有してよい。代表的な例として、スペーサ配列は、存在するならば、1〜15、1〜12、1〜10、1〜8、又は1〜6個等の残基を有してよい。残基の性質は重大でなく、例えば、あらゆるアミノ酸、例えば中性アミノ酸であっても脂肪族アミノ酸であってもよく、又は代わりに、疎水性であっても、極性であっても、帯電していても、構造形成性(structure−forming)であってもよく、例えばプロリンがある。一部の好ましい実施形態において、リンカーは、セリンリッチ配列及び/又はグリシンリッチ配列であり、好ましくは、少なくとも6個のアミノ酸残基、例えば6、7、又は8個の残基を含む。
【0089】
ゆえに、例示的なスペーサ配列は、あらゆる単一アミノ酸残基、例えば、S、G、L、V、P、R、H、M、A、若しくはE、又はそのような残基の1つ以上で構成されるジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、若しくはヘキサ−ペプチドを含む。
【0090】
ゆえに、一部の実施形態において、本発明は、先で定義された本発明のペプチドタグ又はペプチドリガーゼを含む組換えポリペプチド又は合成ポリペプチド、すなわち、本発明のペプチドタグ又はペプチドリガーゼに融合するペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドを含む組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドを提供する。組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドは、場合によっては、先で定義されたスペーサを含む。
【0091】
本発明の組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドはまた、(例えば、以下で考察される本発明の方法及び用途での使用よりも前に)精製を促進するための精製部分又はタグを含んでもよい。適切なあらゆる精製部分又はタグが、ポリペプチド中に組み込まれてよく、そのような部分は、当該技術において周知である。例えば、一部の実施形態において、組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドは、ペプチド精製タグ又は部分、例えばHis−タグ配列を含んでよい。そのような精製部分又はタグは、ポリペプチド内のいかなる位置に組み込まれてもよい。一部の好ましい実施形態において、精製部分は、ポリペプチドのN末端又はC末端に、又はそこに向かって(すなわち、当該末端の5、10、15、20アミノ酸の範囲内に)位置決めされる。
【0092】
上記したように、本発明の利点は、ペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチド(例えば、本発明の組換えポリペプチド又は合成ポリペプチド)内に組み込まれるペプチドタグ及び/又はペプチドリガーゼが、完全に遺伝的にコードされ得るという事実から生じる。ゆえに、更なる態様において、本発明は、先で定義されたペプチドタグ、ペプチドリガーゼ、又は組換えポリペプチド若しくは合成ポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。
【0093】
一部の実施形態において、先で定義されたペプチドタグをコードする核酸分子は、配列番号6〜7のいずれか1つに記載されるヌクレオチド配列、又は配列番号6〜7のいずれか1つに示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0094】
一部の実施形態において、先で定義されたペプチドリガーゼをコードする核酸分子は、配列番号5に記載されるヌクレオチド配列、又は配列番号5に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0095】
好ましくは、先の核酸分子は、比較される配列と少なくとも85、90、95、96、97、98、99、又は100%同一である。
【0096】
核酸配列同一性は、例えば、GCGパッケージ(デフォルトの値及び可変pam因子、並びに12.0に設定されたギャップ作成ペナルティ及び4.0に設定されたギャップ伸長ペナルティ、6ヌクレオチドのウィンドウによる)を用いるFASTA Searchによって判定されてよい。好ましくは、前記比較は、配列の全長にわたってなされるが、より小さな比較ウィンドウ、例えば、600、500、400、300、200、100、又は50個未満の隣接するヌクレオチドにわたってなされてもよい。
【0097】
本発明の核酸分子は、リボヌクレオチド及び/又はデオキシリボヌクレオチド、並びに合成残基、例えば合成ヌクレオチドで構成されてよく、これらは、ワトソン−クリックタイプ又は類似の塩基対相互作用を担うことができる。好ましくは、核酸分子は、DNA又はRNAである。
【0098】
先に記載される核酸分子は、発現制御配列と作動的に連結されていてよく、又はそのような組換えDNA分子を含有する組換えDNAクローニングビヒクル若しくはベクターであってよい。これにより、遺伝子産物としての本発明のペプチド及びポリペプチドの細胞内発現が可能となる。当該発現は、注目する細胞中に導入された遺伝子によって導かれる。遺伝子発現は、注目する細胞内で活性のあるプロモータから導かれる。そして、ゲノム内への組込み用の、又は独立した複製又は一過性の形質移入/発現用の、あらゆる形態の直鎖状又は環状の核酸(例えばDNA)ベクター内に挿入されてよい。適切な形質転換又は形質移入の技術が、文献中で十分に説明されている。これ以外にも、裸の核酸(例えば、1つ以上の合成残基、例えば塩基類似体を含んでもよい、DNA又はRNA)分子が、本発明のペプチド及びポリペプチドの生成のために細胞中に直接導入されてもよい。これ以外にも、核酸は、インビトロ転写によってmRNAに変換されてもよいし、関連したタンパク質は、インビトロ翻訳によって生成されてもよい。
【0099】
適切な発現ベクターとして、適切な制御配列、例えば、本発明の核酸分子とマッチするリーディングフレーム内で連結した翻訳制御要素(例えば、開始コドン及び終止コドン、リボソーム結合部位)及び転写制御要素(例えば、プロモータ−オペレータ領域、終止停止配列)が挙げられる。適切なベクターとして、プラスミド及びウイルス(バクテリオファージ及び真核生物ウイルスの双方が挙げられる)が挙げられ得る。適切なウイルスベクターとして、バキュロウイルス、そしてまたアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペス及びワクシニア/水痘ウイルスが挙げられる。他の多くのウイルスベクターが、当該技術において記載されている。適切なベクターの例として、細菌及び哺乳類の発現ベクターpGEX−KG、pEF−neo、及びpEF−HAが挙げられる。
【0100】
上記したように、本発明の組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドは、追加の配列(例えば、ポリペプチドの精製を促進するペプチド/ポリペプチドタグ)を含んでもよいので、核酸分子は、好都合にも、追加のペプチド又はポリペプチド、例えば、His−タグ、マルトース結合タンパク質をコードするDNAと融合して、発現と同時に融合タンパク質を生成することができる。
【0101】
ゆえに、更なる態様から見て、本発明は、先で定義された核酸分子を含むベクター、好ましくは発現ベクターを提供する。
【0102】
本発明の他の態様は、本発明に従う組換え核酸分子を調製する方法であって、本発明のペプチドタグ及び/又はポリペプチドをコードする本発明の核酸分子をベクター核酸中に挿入することを含む方法を含む。
【0103】
好ましくはベクター内に含有される、本発明の核酸分子は、適切なあらゆる手段によって細胞中に導入されてよい。適切な形質転換又は形質移入の技術が、文献中で十分に説明されている。多数の技術が知られており、そのようなベクターを、発現用の原核生物細胞又は真核生物細胞中に導入するのに用いることができる。この目的に好ましい宿主細胞として、昆虫細胞株、酵母、哺乳類細胞株、又は大腸菌(E.coli)、例えばBL21/DE3株が挙げられる。本発明はまた、核酸分子、特に、先で定義されるベクターを含有する、形質転換又は形質移入される原核生物又は真核生物の宿主細胞に及ぶ。
【0104】
ゆえに、別の態様において、先で定義される核酸分子及び/又はベクターを含有する組換え宿主細胞が提供される。
【0105】
「組換え」は、核酸分子及び/又はベクターが、宿主細胞中に導入されていることを意味する。宿主細胞は、核酸分子の内因性コピーを生まれつき含有していても含有していなくてもよいが、核酸分子及び/又はベクターの外因性コピー又は更なる内因性コピーが導入されているという点で、宿主細胞は組換え型である。
【0106】
本発明の更なる態様が、先で定義された本発明のペプチドタグ及び/又はポリペプチドを調製する方法を提供し、これは、先で定義された核酸分子を含有する宿主細胞を、前記ペプチドタグ及び/又はポリペプチドをコードする前記核酸分子が発現される条件下で培養することと、このように生成された前記分子(ペプチドタグ及び/又はポリペプチド)を回収することとを含む。発現されたペプチドタグ及び/又はポリペプチドは、本発明の更なる態様を形成する。
【0107】
一部の実施形態において、本発明のペプチドタグ及び/若しくはポリペプチド、又は本発明の方法及び用途に用いられるペプチドタグ及び/若しくはポリペプチドは、例えば、アミノ酸若しくはより小さな、合成的に生成されたペプチドのライゲーションによって、又は、より好都合には、先に記載される前記ポリペプチドをコードする核酸分子の組換え発現によって、合成的に生成されてよい。
【0108】
本発明の核酸分子は、当該技術において知られている適切なあらゆる手段によって、合成的に生成されてよい。
【0109】
ゆえに、本発明のペプチドタグ及び/又はポリペプチドは、単離された、精製された、組み換えられた、又は合成されたペプチドタグ又はポリペプチドであってよい。
【0110】
用語「ポリペプチド」は、本明細書中で、用語「タンパク質」と互換的に用いられる。上記したように、用語ポリペプチド又はタンパク質は、典型的に、少なくとも40個の連続したアミノ酸残基、例えば少なくとも50、60、70、80、90、100、150個のアミノ酸、例えば40〜1,000、50〜900、60〜800、70〜700、80〜600、90〜500、100〜400個のアミノ酸を含むあらゆるアミノ酸配列を含む。
【0111】
同様に、本発明の核酸分子は、単離された、精製された、組み換えられた、又は合成された核酸分子であってよい。
【0112】
ゆえに、代わりに見て、本発明のペプチドタグ、ポリペプチド、及び核酸分子は、好ましくは、非天然の、すなわち天然に存在しない分子である。
【0113】
標準的なアミノ酸命名法が、本明細書中で用いられる。ゆえに、アミノ酸残基のフルネームは、1文字コード又は3文字略号と互換的に用いられる場合がある。例えば、リシンは、K又はLysで代用される場合があり、イソロイシンは、I又はIleで代用される場合がある等である。さらに、用語アスパルタート及びアスパラギン酸、並びにグルタマート及びグルタミン酸は、本明細書中で互換的に用いられ、それぞれAsp若しくはD、又はGlu若しくはEで代用される場合がある。
【0114】
本発明の、そして本発明に用いられるペプチドタグ及びポリペプチドは、組換えにより生成されてよく、そしてこれが本発明の好ましい実施形態であることを想定しているが、本発明のペプチドタグが、他の手段よって、先で定義されるタンパク質又は他の実体、例えば分子にコンジュゲートし得ることは明らかであろう。言い換えると、ペプチドタグ、及び他の分子、構成要素、又は実体、例えばタンパク質は、適切なあらゆる手段によって、例えば組換えにより、別々に生成されてから、コンジュゲート(結合)して、本発明の方法及び使用に用いられ得るペプチドタグ−他の構成要素コンジュゲートが形成され得る。例えば、本発明のペプチドタグは、先で記載されるように、合成的に、又は組換えにより生成されてよく、そして別の構成要素に、例えばタンパク質に、非ペプチドリンカー又はスペーサ、例えば化学リンカー又はスペーサを介してコンジュゲートしてよい。
【0115】
ゆえに、一部の実施形態において、ペプチドタグ及び他の構成要素、例えばタンパク質は、結合により直接的に、又は連結基を介して間接的に、一緒に結合され得る。連結基が使用される場合、そのような基は、ペプチドタグ及び他の実体、例えばタンパク質の、連結基を介した共有結合を提供するように選択されてよい。注目する連結基は、他の実体、例えばタンパク質の性質に応じて、広く変わり得る。連結基は、存在する場合、多くの実施形態において、生物学的に不活性である。
【0116】
種々の連結基が、当業者に知られており、そして本発明に用いられる。代表的な実施形態において、連結基は、通常、少なくとも約50ダルトン、通常、少なくとも約100ダルトンであり、そして、連結基がスペーサを含有するならば、1000ダルトン以上、例えば最大1000000ダルトンもの大きさであってよいが、通常、約500ダルトンを超えることはなく、そして通常、約300ダルトンを超えることはない。通常、そのようなリンカーは、いずれかの末端位置にて終端した、ペプチドタグ及び他の分子又は構成要素、例えばタンパク質に共有結合することができる反応性官能基を有するスペーサ基を備えることとなる。
【0117】
注目するスペーサ基として、脂肪族炭化水素鎖及び不飽和炭化水素鎖、ヘテロ原子、例えば酸素(エーテル、例えばポリエチレングリコール)又は窒素(ポリアミン)を含有するスペーサ、ペプチド、炭水化物、ヘテロ原子を含有する可能性がある環式系又は非環式系が挙げられ得る。スペーサ基はまた、金属イオンの存在が、2つ以上のリガンドを配位して、錯体を形成するように金属に結合するリガンドで構成されてもよい。具体的なスペーサ要素として、以下が挙げられる:1,4−ジアミノヘキサン、キシリレンジアミン、テレフタル酸、3,6−ジオキサオクタン二酸、エチレンジアミン−N,N−二酢酸、1,1’−エチレンビス(5−オキソ−3−ピロリジンカルボン酸)、4,4’−エチレンジピペリジン、オリゴエチレングリコール、及びポリエチレングリコール。潜在的な反応性官能基として、求核官能基(アミン、アルコール、チオール、ヒドラジド)、求電子官能基(アルデヒド、エステル、ビニルケトン、エポキシド、イソシアナート、マレイミド)、付加環化反応し、ジスルフィド結合を形成し、又は金属に結合することができる官能基が挙げられる。具体的な例として、第一級アミン及び第二級アミン、ヒドロキサム酸、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルカーボナート、オキシカルボニルイミダゾール、ニトロフェニルエステル、トリフルオロエチルエステル、グリシジルエーテル、ビニルスルホン、及びマレイミドが挙げられる。対象のブロッキング試薬に用いられ得る具体的なリンカー基として、ヘテロ官能化合物、例えば、アジドベンゾイルヒドラジド、N−[4−(p−アジドサリシルアミノ)ブチル]3’−[2’−ピリジルジチオ]プロピオンアミド、ビス−スルホスクシンイミジルスベラート、ジメチルアジピミダート、ジスクシンイミジルタルトラート、N−マレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル、N−ヒドロキシスルホスクシンイミジル−4−アジドベンゾアート、N−スクシンイミジル[4−アジドフェニル]−1,3’−ジチオプロピオナート、N−スクシンイミジル[4−ヨードアセチル]アミノベンゾアート、グルタルアルデヒド、並びにスクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシラート、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP)、4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)が挙げられる。例えば、スペーサは、アルキンと反応するアジド、又はトランス−シクロオクテン若しくはノルボルネンと反応するテトラジンで形成されてよい。
【0118】
一部の実施形態において、ペプチドタグ及び/又はポリペプチド内の1つ以上の残基を修飾して、これらの分子のコンジュゲーションを促進すること、且つ/又はペプチドタグ及び/若しくはポリペプチドの安定性を向上させることが有用であり得る。ゆえに、一部の実施形態において、本発明の、又は本発明に用いられるペプチドタグ又はポリペプチドは、非天然の、又は非標準的なアミノ酸を含んでよい。
【0119】
一部の実施形態において、本発明の、又は本発明に用いられるペプチドタグ又はポリペプチドは、1つ以上、例えば、少なくとも1、2、3、4、5個、例えば10、15、20個以上の非従来的なアミノ酸、すなわち、標準的な遺伝暗号によってコードされない側鎖を有するアミノ酸(本明細書中で「コードされないアミノ酸」と呼ばれる)を含んでもよい(例えば表1参照)。これらは、代謝プロセスを通して形成されるアミノ酸、例えばオルニチン若しくはタウリン、及び/又は人工的に修飾されたアミノ酸、例えば、9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニル(Fmoc)、(tert)−ブチルオキシカルボニル(Boc)、2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル(Pmc)で保護されたアミノ酸、又はベンジルオキシ−カルボニル(Z)基を有するアミノ酸から選択されてもよい。
【0120】
本発明の、そして本発明に用いられるペプチドリンカー又はポリペプチドに用いられ得る非標準的なアミノ酸又は構造的類似型のアミノ酸の例として、Dアミノ酸、アミドイソスター(例えば、N−メチルアミド、レトロインバースアミド、チオアミド、チオエステル、ホスホナート、ケトメチレン、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル、(E)−ビニル、メチレンアミノ、メチレンチオ、又はアルカン)、L−Nメチルアミノ酸、D−αメチルアミノ酸、D−N−メチルアミノ酸がある。非従来的な、すなわちコードされないアミノ酸の例が、表1に一覧にされている。
【0121】
【表1】
【0122】
先で考察されるように、一部の実施形態において、本発明のペプチドタグ及び/又はポリペプチド(ペプチドリガーゼ)を、固体基質(すなわち、固相又は固体担持体)に融合又はコンジュゲートさせることは、有用であり得、そしてこれは、便利なあらゆる方法で達成されてよいことが明らかであろう。ゆえに、固定化の様式又は手段、及び固体担持体は、選択肢に従って、当該技術において広く知られており、且つ文献に記載されている、任意の数の固定化手段及び固体担持体から選択されてよい。ゆえに、ペプチドタグ及び/又はポリペプチドは、例えばペプチドタグ又はポリペプチドのドメイン又は部分を介して、担持体に直接的に結合(例えば化学的に架橋)されてよい。一部の実施形態において、ペプチドタグ又はポリペプチドは、リンカー基によって、又は中間の結合基によって(例えば、ビオチン−ストレプトアビジン相互作用によって)間接的に結合されてもよい。ゆえに、ペプチドタグ又はポリペプチドは、固体担持体に、共有結合的に結合されても、非共有結合的に結合されてもよい。結合は、可逆的(例えば切断可能)な結合であっても、不可逆性の結合であってもよい。ゆえに、一部の実施形態において、結合は、酵素によって、化学的に、又は光で切断されてもよく、例えば、結合は、感光性結合(light−sensitive linkage)であってよい。
【0123】
ゆえに、一部の実施形態において、ペプチドタグ又はポリペプチドは、固定化手段(例えば、その結合パートナ、すなわち同種の結合パートナ、例えばストレプトアビジン又は抗体に結合することができる、親和性結合パートナ、例えばビオチン又はハプテン)が担持体上に提供されてもよい。一部の実施形態において、ペプチドタグ又はポリペプチドと固体担持体間の相互作用は、洗浄工程を許容するほど十分にロバストでなければならない、すなわち、ペプチドタグ又はポリペプチドと固体担持体間の相互作用は、先に記載した洗浄工程によって崩壊(大きく崩壊)しない。例えば、各洗浄工程で、ペプチドタグ又はポリペプチドの5%未満、好ましくは4、3、2、1、0.5、又は0.1%未満しか、固相から除去又は溶出されないことが好ましい。
【0124】
固体担持体(相又は基質)は、固定化、分離その他に現在広く用いられている、又は提唱されている周知のあらゆる担持体又はマトリックスであってよい。これらは、粒子(例えば、磁性であってもよいし、常磁性であってもよいし、磁性がなくてもよいビーズ)、シート、ゲル、フィルタ、膜、繊維、キャピラリ、スライド、アレイ若しくはマイクロタイターストリップ、チューブ、プレート、又はウェルその他の形態をとってよい。
【0125】
担持体は、ガラス、シリカ、ラテックス、又はポリマー材料から製造されてよい。適切なのは、融合タンパク質の結合用に高い表面積を示す材料である。そのような担持体は、不規則な表面を有してもよく、例えば、多孔性であってもよいし、微粒子であってもよく、例えば、粒子、繊維、ウェブ、焼結物、又は篩がある。微粒子の材料、例えばビーズ、特にポリマービーズは、結合能がより大きいことに起因して、有用である。
【0126】
好都合にも、本発明に従って用いられる微粒子の固体担持体は、球形のビーズを含むこととなる。ビーズのサイズは重大でないが、例えば、直径のオーダーが、少なくとも1μm、好ましくは少なくとも2μmであってよく、そして最大直径が、好ましくは10μm以下、例えば6μm以下であってよい。
【0127】
粒子サイズが実質的に均一である(例えば、サイズの直径の標準偏差は5%未満である)単分散粒子は、反応の非常に均一な再現性を実現する利点がある。代表的な単分散ポリマー粒子が、米国特許第4336173号に記載される技術によって生成され得る。
【0128】
しかしながら、操作及び分離を補助するには、磁気ビーズが有利である。本明細書中で用いられる用語「磁性、磁気」は、磁場内に配置された場合に磁性モーメントが担持体に与えられ得るので、担持体が当該場の作用下で置換可能であることを意味する。言い換えると、磁性粒子を含む担持体は、イソペプチド結合形成工程後に、粒子を迅速に、簡潔に、且つ効率的に分離する磁性凝集(magnetic aggregation)によって容易に取り出され得る。
【0129】
一部の実施形態において、固体担持体は、アガロース樹脂である。
【0130】
実施例において考察されるように、発明者らは、驚くべきことに、本発明のペプチドリガーゼが、活性の大きな損失なしに凍結乾燥され得ることを確定した。これは、周囲温度での、すなわち冷却の必要のない、ポリペプチドの長期的貯蔵及び/又は出荷にとって、特に有利であり得る。ゆえに、一部の実施形態において、本発明のポリペプチド(ペプチドリガーゼ)及びペプチドタグは、凍結乾燥した状態にあってよい。代わりに見て、本発明は、定義される凍結乾燥したポリペプチド(ペプチドリガーゼ)を提供する。本発明はまた、先で定義された凍結乾燥したペプチドタグを提供してもよい。凍結乾燥は、当該技術において知られている適切なあらゆる手段を用いて達成されてよい。
【0131】
更なる実施形態において、本発明は、キット、特に、本発明のプロセス及び使用に用いられる、すなわち、イソペプチド結合を介して2つの分子若しくは構成要素をコンジュゲートさせるための、又は3つの分子若しくは構成要素間で複合体を生成するためのキットを提供し、複合体内の分子又は構成要素の2つが、イソペプチド結合を介してコンジュゲートし、前記キットは:
(a)場合によっては分子又は構成要素、例えばタンパク質にコンジュゲート又は融合する、先で定義されたペプチドリガーゼ;及び
(b):
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列;
(ii)配列番号2に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、配列番号2の位置9に等価の位置にリシン残基を含むアミノ酸配列、
(iii)配列番号3に示されるアミノ酸配列;若しくは
(iv)配列番号3に示される配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、配列番号3の位置17に等価の位置にアスパラギン残基を含むアミノ酸配列
を含むペプチドタグであって、
分子若しくは構成要素、例えばタンパク質、例えば、先で定義されるペプチドタグを含む組換えポリペプチド若しくは合成ポリペプチドにコンジュゲート若しくは融合するペプチドタグ;及び/又は
(c)(a)で定義されるペプチドリガーゼをコードする核酸分子、特にベクター;及び
(d)(b)で定義されるペプチドタグをコードする核酸分子、特にベクター
を含む。
【0132】
一部の実施形態において、キットはさらに、分子又は構成要素、例えばタンパク質、例えば、先で定義されたペプチドタグを含む組換えポリペプチド又は合成ポリペプチドにコンジュゲート又は融合する第2のペプチドタグを含んでもよく、第2のペプチドタグは、先で定義されたイソペプチド結合の形成に適した条件下で、(a)のペプチドリガーゼと接触する場合に、(b)におけるペプチドタグとのイソペプチド結合を形成することができる。ゆえに、一部の実施形態において、キットは、分子又は構成要素にコンジュゲート又は融合する、配列番号2(又はその変異体)に示されるアミノ酸配列を含むペプチドタグ、及び分子又は構成要素にコンジュゲート又は融合する配列番号3(又はその変異体)に示されるアミノ酸配列を含む。
【0133】
本発明のペプチドリガーゼ及びペプチドタグは、広範な有用性があることは明らかであろう。代わりに見て、本発明のペプチドリガーゼ及びペプチドタグは、種々の産業において使用され得る。
【0134】
例えば、一部の実施形態において、本発明のペプチドリガーゼ及びペプチドタグは、特定のタンパク質に向けて蛍光プローブ若しくは標識、又は他の生物物理学的プローブ若しくは標識を標的とすることの有用性を見出すことができる。この点において、注目するタンパク質は、先で考察された第1のペプチドタグ(例えば配列番号2)を組み込むように修飾されてよく、そして蛍光プローブ若しくは標識又は他の生物物理学的プローブ若しくは標識は、第2のペプチドタグ(例えば配列番号3)に融合又はコンジュゲートしてもよい。修飾されたタンパク質及びプローブ又は標識は、ペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成を可能にする適切な条件下でのペプチドリガーゼの存在下で、共に接触することによって、タンパク質を、イソペプチド結合を介して、標識又はプローブで標識することができる。
【0135】
一部の実施形態において、本発明のペプチドリガーゼ及びペプチドタグは、プロテオミクスのためのタンパク質の固定化の有用性を見出すことができる。この点において、注目するタンパク質は、第1のペプチドタグ(例えば配列番号2)を組み込むように修飾されてもよく、そして固体基質は、第2のペプチドタグ(例えば配列番号3)に融合又はコンジュゲートしてもよい。修飾されたタンパク質及び固体基質は、ペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成を可能にする適切な条件下でのペプチドリガーゼの存在下で、共に接触することによって、タンパク質を、イソペプチド結合を介して、固体基質上に固定することができる。本発明のペプチドタグ及びリガーゼが、固相/固体基質上に複数のタンパク質を同時に固定するのに用いられ得ることは明らかであろう。
【0136】
更なる実施形態において、本発明のペプチドリガーゼ及びペプチドタグは、ワクチン接種のための、ウイルス様粒子、ウイルス、細菌、又は多量体化スカフォールドへの抗原のコンジュゲーションの有用性を見出すことができる。例えば、表面上に第1のペプチドタグを提示するウイルス様粒子、ウイルス、又は細菌の生成は、イソペプチド結合の形成を媒介するのに本発明のペプチドリガーゼを用いて、第2のペプチドタグを含む抗原の、イソペプチド結合を介した表面へのコンジュゲーションを促進するであろう。この点において、抗原多量体化は、大いに増強された免疫応答を生じさせる。ゆえに、一部の実施形態において、本発明の第1のペプチドに融合する分子若しくは構成要素は、ウイルスのカプシドタンパク質であり、そして/又は本発明の第2のペプチドタグに融合する分子若しくは構成要素は、抗原、例えば、特定の疾患、例えば感染症と関連する抗原である。
【0137】
他の実施形態において、ペプチドタグは、例えば、ペプチドタグを、タンパク質の各末端に融合させてから、タンパク質を本発明のペプチドリガーゼと接触させることで、ペプチドタグ間のイソペプチド結合の形成を媒介又は促進することによって、タンパク質を環化するのに用いられてもよい。この点において、タンパク質の環化は、例えば熱、有機溶媒、極端なpH、又はタンパク質分解に対する、タンパク質レジリエンスを増大させることが示された。
【0138】
特に、酵素又は酵素ポリマー(融合タンパク質)の環化は、酵素ポリマーにおけるタンパク質又はタンパク質ユニットの熱安定性を向上させ得る。この点において、酵素は、多くプロセスにおいて価値があるツールであるが、不安定であり、回復するのが難しい。酵素ポリマーは、温度、pH、及び有機溶媒に対する安定性がより大きく、工業プロセスにおいて酵素ポリマーを用いたいという願望が増している。しかしながら、酵素ポリマーの生成は一般的に、グルタルアルデヒド非特異的反応を用いており、これが、多くの潜在的に有用な酵素を損なう、又は変性させる(すなわち、酵素活性を引き下げる)こととなる。本発明のペプチドタグ及びペプチドリガーゼを用いた、イソペプチド結合による、鎖(ポリマー)中へのタンパク質の部位特異的結合は、例えば診断法又は飼料に加えられる酵素において、酵素レジリエンスを増強すると予想される。特に好ましい実施形態において、酵素は、先で考察されたように、環化によって安定し得る。
【0139】
本発明のペプチドリガーゼ及びペプチドタグはまた、国際公開第2016/193746号パンフレットに記載されるように、複数の酵素を経路中にリンクさせて代謝効率を促進するのに用いられ得る。この点において、酵素は、多くの場合、細胞内部の経路内で一緒になって機能し、そして伝統的に、細胞の外側(インビトロ)で複数の酵素を一緒に連結することは困難であった。ゆえに、本発明のペプチドタグ及びペプチドリガーゼは、酵素を結合又はコンジュゲートさせて、融合タンパク質を生成することで、多段階酵素経路の活性を増強するのに用いられ得、これは、広範な産業転換において、そして診断法にとって、有用であり得る。例えば、融合タンパク質は、例えば分化又は治療において、細胞応答を誘導するためのシグナル伝達チーム(signalling team)を生じさせることができる。
【0140】
本発明のペプチドタグ及びペプチドリガーゼはまた、抗体ポリマーの生成の有用性を見出すであろう。この点において、抗体は、医薬の最も重要なクラスの1つであり、そして多くの場合、表面に付着されて用いられる。しかしながら、サンプルにおける抗原ミキシング、そして従って、前記サンプルにおける前記抗原の捕捉は、表面の近くで効率が悪い。抗体の鎖を延ばすことによって、捕捉効率が向上するであろうと予想される。これはとりわけ、現在、初期の癌診断を可能にする最も見込みのある方法の1つである循環腫瘍細胞単離(circulating tumour cell isolation)において、価値があろう。特異性が様々な抗体もまた、所望されるあらゆるオーダーで組み合わされ得る。
【0141】
更なる実施形態において、本発明のペプチドタグ及びペプチドリガーゼは、細胞シグナル伝達を活性化するための薬物の生成の有用性を見出すことができる。この点において、細胞機能を活性化させる最も有効な方法の多くが、タンパク質リガンドによるものである。しかしながら、本来は、タンパク質リガンドは通常、単独で作動しないが、他のシグナル伝達分子の特定の組合せにより作動することとなる。ゆえに、本発明のペプチドタグ及びペプチドリガーゼは、調整された融合タンパク質(すなわちタンパク質チーム)の生成を可能にし、これが細胞シグナル伝達の最適な活性化を付与し得る。この融合タンパク質(タンパク質チーム)は、細胞の生存、分裂、又は分化を制御するのに用いられ得る。
【0142】
更なる実施形態において、本発明のペプチドタグ及びペプチドリガーゼは、幹細胞の増殖、生体材料の調製、色素又は酵素による抗体機能付与、及び環化による酵素の安定化のためのヒドロゲルの生成の有用性を見出すことができる。
【実施例】
【0143】
実施例1−ペプチドリガーゼ(SnoopLigase)及びペプチドタグの開発
RrgA(配列番号4)は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)(ヒトにおいて敗血症、肺炎、及び髄膜炎を引き起こす虞があるグラム陽性菌)由来のアドヘジンである。自然発生的なイソペプチド結合が、RrgAのD4免疫グロブリン様ドメイン内で、残基Lys742とAsn854との間に形成される。
【0144】
発明者らは、D4ドメインを3つの部分、SnoopTag(RrgAの残基734〜745、配列番号9)及びRrgATag2(RrgAの残基838〜860、配列番号10)と呼ばれる一対のペプチドタグ、並びにRrgALigase(残基743〜846、配列番号8)と命名したタンパク質に「分割した」。特に、RrgATag2のN末端と、RrgALigaseのC末端との間に、9個のアミノ酸の重複部分がある。同様に、SnoopTagのC末端と、RrgALigaseのN末端との間に、3個のアミノ酸の重複部分がある。さらに、RrgALigase及びRrgATag2の配列は、イソペプチド結合形成の反応速度を促進するのに重要であることが知られている修飾を、天然のRrgA配列に対して組み込んでいる。特に、RrgAの位置842のグリシンを、RrgALigase及びRrgATag2内の対応する(等価の)位置にて、トレオニンで置換した。さらに、RrgAの位置848のアスパラギン酸を、RrgATag2内の対応する位置にて、グリシンで置換した。
【0145】
RrgA D4ドメインを「分割する」部位の選択は、ペプチドリガーゼ及びペプチドタグの活性にとって重要であることが見出された。この点において、一緒に連結されることとなる分子又は構成要素、例えばタンパク質中に組み込む場合の不所望のいかなる相互作用も制限するために、ペプチドタグはできるだけ短くあるべきであることが、ペプチドタグの設計における一般的な原理である。したがって、ペプチドリガーゼと重複するペプチドタグ内の配列を包含することは、標準的な設計原理と一貫しない。しかしながら、重複する配列が、リガーゼ及びペプチドタグの活性にとって必須であることが確定された。というのも、タグ又はリガーゼからの当該配列の除去が、ライゲーション反応の効力を大いに崩壊させることが見出されたからである。理論によって拘束されることを望むものではないが、重複した配列の存在が、ペプチドタグと、RrgAのD4ドメインのリガーゼ部分との間で、相互作用の安定性を向上させると仮定される。
【0146】
RrgALigaseタンパク質について選択したN末端及びC末端の部位は、3つのβ鎖の除去をもたらした。これは、特に小タンパク質、すなわちRrgAのD4ドメインについて、主要な修飾である。この点において、RrgALigaseは、溶解度が不十分であり、且つリガーゼ活性が制限されることが示された(図2参照)。実際に、RrgALigaseは、NaClを含む溶液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に不溶性であることが示された。これは、その有用性を、特に生物の細胞環境において、厳しく制限する。さらに、多くのインビトロバイオアッセイは、NaClの存在を必要とする。
【0147】
RrgALigaseは4℃にて最も活性があったので、分割したドメインの安定化が、リガーゼ性能を増強するのに重要であろうと仮定した。この安定化を達成するために、発明者らは、適切な残基をプロリンで置換することによって、タンパク質ドメインのβ−ターンを操作しようと試みた。β−ターンは、可撓性のあるタンパク質要素である。プロリンは、−60°の固定φ−角度を有することによって、タンパク質立体配座自由度を制限する。
【0148】
RrgALigase配列を、結晶構造に基づいて、プロリンへの突然変異に適した部位の有無に関して、手動でスクリーニングした。20個の部位を同定して、6個を修飾のために選択した。しかしながら、2個のプロリン置換(A66P及びQ95P、配列番号8におけるナンバリングに基づく)しか、活性を向上させることが示されなかった(図2参照)。
【0149】
タンパク質をさらに安定化させることによって、ライゲーション反応速度を向上させることができると仮定した。したがって、発明者らは、Protein Repair One Stop Shop(PROSS)を用いて、RrgA C末端ドメインを分析した。PROSSは、タンパク質配列相同性及び原子論的Rosettaモデリングに基づいて、タンパク質を分析する。しかしながら、PROSSによって用いた複数の配列アラインメント(MSA)は、35個の相同配列しか同定しなかった。これは、意味がある結果を提供するには不十分である。したがって、発明者らは、PROSS中にインプットするために、RrgAについて別個のMSAを手動で作成した。
【0150】
PROSS分析は、RrgA C末端ドメインの安定性を向上させ得る15個の突然変異を示唆し、そして、新たに導入したアミノ酸側鎖によってもたらされる潜在的接触の構造ベースの精査に基づいて、5個を、更なる分析用に選択した(D737S、A820E、D830N、D838G、及びI839V、RrgA(配列番号4)におけるナンバリングに基づく)。特に、PROSS分析において同定された突然変異の1つ、D737Sは、SnoopTag配列中にあった。上述の突然変異を組み込んでいるSnoopTag及びRrgALigaseの操作したバージョンを、それぞれSnoopTagJr(配列番号2)及びSnoopLigase(配列番号1)と命名した。RrgATag2の切断研究に基づいて、発明者らはまた、アスパラギン酸へのRrgAの位置847(RrgATag2、配列番号10の位置10)でのアスパラギン残基の突然変異もまた、ペプチドタグタンパク質の異質性を軽減するであろうと仮定した。RrgATag2の修飾されたバージョンを、DogTagと呼んだ。
【0151】
RrgALigase内のPROSS突然変異の一部は、反応収率及び速度を実質的に向上させた(図2)が、A820E及びD830Nは、リガーゼの活性を向上させなかった。同様に、SnoopTag内のD737S突然変異(すなわち、SnoopTagJrを生じさせた)もまた、DogTagとの反応を非常に首尾良く向上させた。
【0152】
RrgALigaseの不十分な溶解度からみれば、タンパク質は最初に、発現後の凝集を引き下げて、分析を促進する、マルトース結合タンパク質(MBP)融合タンパク質として発現された。しかしながら、驚くべきことに、MBP融合なしにSnoopLigaseが生じた場合、SnoopLigaseの溶解度は、RrgALigaseと比較して向上することが見出された。SnoopLigaseは、大腸菌(E.coli)中で効率的に発現され(培養1リットルあたり>10mg)、そして高度に可溶性であった(>500μM)。以下の実施例3において考察されるように、SnoopLigaseは、NaClの生理学的細胞外濃度が挙げられる種々の条件において、活性である。ゆえに、SnoopLigase(配列番号1)を生じさせるRrgALigase(配列番号8)の突然変異もまた、タンパク質の溶解度を向上させた。
【0153】
提唱される反応機構及び残基ライゲーションの特異性をSnoopLigaseによって確認するために、主要な各突然変異残基のSDS−PAGEによって、反応を分析した。SnoopLigaseは、SnoopTagJrと融合したアフィボディを、DogTagに融合したSUMOドメインに効率的にライゲートした。しかしながら、SnoopTagJr内のLys 9、DogTag内のAsn 17、又はSnoopLigase内のGlu 61の突然変異は、生成物の形成を無効にした(図2B)。
【0154】
実施例2−SnoopLigase媒介ペプチド−ペプチドライゲーション
提唱される反応機構及び残基ライゲーションの特異性をSnoopLigaseによって確認するために、SnoopTagJr及びDogTagを、モデルタンパク質に融合させた。DogTagを、小ユビキチン様修飾因子(SUMO)に融合させた一方、SnoopTagJrを、HER2に対するアフィボディに融合させた。SnoopLigaseとのSUMO−DogTag及びSnoopTagJr−AffiHER2の混合により、共有結合したライゲーション生成物を表す、新しい、より高分子量のバンドが出現した。バンドは、予想される分子量を有しており、SDSローディングバッファ内での沸騰に耐性を示した。3つの反応性の三つ組(triad)残基(SnoopTagJr内の位置9のリシン、DogTag内の位置17のアスパラギン、及びSnoopLigase内の位置61のグルタミン酸)のいずれの突然変異も、ライゲーション生成物バンドの出現を妨げた(図2B)。質量分析は、ペプチド基質の反応の後に、予想される分子量変化を与えた。
【0155】
実施例3−SnoopLigase反応条件
SnoopLigase反応は、およそ中性のpHで十分に機能し、7.25から8.75まで差異はほとんどなかった(図4A)。効率的なライゲーションが、広範な温度(4〜37℃)にわたって起こり、最適条件は15℃であった(図4B)。SnoopLigaseは、NaClの細胞外濃度の存在下で機能的であったが、反応は、NaClの不在下のトリスホウ酸バッファで、最も効率的に進む(図5A)。SnoopLigaseは、一般的に用いられる洗剤Tween 20及びTriton X−100の最大2%の存在下で、十分に反応したが、SDSは反応を阻害した(図5B)。タンパク質安定化剤グリセロールを15〜30%(v/v)にて加えると、反応速度が増した(図5C)。
【0156】
SnoopLigaseは、DSCから、溶融温度が45℃であり、そして最大70℃の熱処理後に完全な活性を取り戻した。部分的な活性が、99℃での加熱後に回復した。
【0157】
実施例4−SnoopLigase反応生成物の精製
反応して直ぐに、SnoopLigaseは、反応生成物と強く結合して、ライゲーション反応生成物の効率的な精製が可能となった(図3A)。ビオチン化したSnoopLigaseを用いて、SnoopTagJr−AffiHER2をSUMO−DogTagと反応させた後に、リガーゼを、ストレプトアビジン−アガロースによって捕捉した。ビオチン−ストレプトアビジンとSnoopLigase−反応生成物間の強い相互作用は、未反応タンパク質を除去するようなストリンジェントな洗浄を可能にする。抗体溶出バッファとの樹脂のインキュベーションは、ビオチン−ストレプトアビジン相互作用に影響を与えなかったが、SnoopLigase−反応生成物相互作用を損ない、且つライゲートされた高純度の生成物を産出し(図3A)、未反応生成物及びSnoopLigaseを除去した。この手順は、サイズ排除クロマトグラフィ又は透析による以降の、時間を浪費する精製の必要を除外する。さらに、溶出容量を調整することによって、反応中に用いられる反応物質の濃度に拘らず、高度に濃縮したライゲーション生成物を溶出することができた。
【0158】
実施例5−SnoopLigase固相反応
酵素を固相上に固定することで、反応効率を向上させることができ、且つ精製した酵素の対費用効果の高い再利用を促進することができる。抗体溶出バッファ処理後にSnoopLigaseを「リサイクル」することができるかを試験するために、発明者らは、ビオチン化したSnoopLigaseを、ストレプトアビジンアガロース上に固定して、SnoopTagJr−AffiHER2及びSUMO−DogTagの添加によって、ライゲーション反応を実行した。反応生成物の洗浄及び溶出の直後に、SnoopLigase結合アガロース樹脂を、別のライゲーション反応に用いた。形成された生成物の量は、少なくとも8反応サイクルについて、一定のままであった。このことは、SnoopLigaseが、複数のターンオーバーを実行することができること、そして低pHでのSnoopLigaseの処理が、酵素を不可逆的に変性させないことを示している(図6)。
【0159】
実施例6−反応のSnoopLigase収率
10μMのIMX−DogTagを、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール(v/v)中それぞれ20μMのSnoopLigase及びSnoopTagJr−MBPと、15分から48時間の種々の期間、4℃にてインキュベートすることによって、SnoopLigaseによって触媒されたDogTagとSnoopTagJr間の反応収率を判定した。クーマシー染色による還元条件下でのSDS−PAGEを用いて、サンプルを分析した。図7A及び図7Bは、SnoopLigaseが、IMX−DogTag融合タンパク質のほぼ全ての結合を促進することを示している。特に、IMX−DogTagについての96%の反応収率が、48時間後に達成された。
【0160】
同様に、図8A及び図8Bは、5μMのSnoopTagJr−AffiHER2を、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール(v/v)中それぞれ10μMのSnoopLigase及びSUMO−DogTagと、4℃にてインキュベートすることで、24時間後にSnoopTagJr−AffiHER2融合タンパク質のほぼ全ての結合が促進される、すなわち、SnoopTagJr−AffiHER2について、99%の反応収率が、24時間後に達成されたことを示している。
【0161】
実施例7−固相からの反応生成物の溶出についての代替条件
固相からの反応生成物の溶出に及ぼす温度及び競合の影響を、SnoopTagJr−AffiHER2及びSUMO−DogTag融合タンパク質、並びに実施例5に記載したビオチン化したSnoopLigaseを用いて調査した。融合タンパク質及びSnoopLigase(それぞれ50μM)を、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール(v/v)中で4℃にて5時間インキュベートした。ビオチン−SnoopLigaseを、ストレプトアビジンアガロースを用いて下方に引き下げて、樹脂を、PBSの5樹脂容量で5回洗浄した。35μMのコンペティタタンパク質(AffiHER2−DogTagに共有結合するSnoopTagペプチド)が入った、又は入っていない10μl PBSによる溶出を、2回実行した。それぞれ、25〜55℃に及ぶ温度にて5分間であった。図9は、効率的な溶出が、55℃の温度にて達成されたこと、そしてコンペティタタンパク質の添加が、45℃での効率的な溶出を可能にしたことを示している。
【0162】
実施例8−SnoopLigaseからの生成物の添加物依存的溶出
12個の添加物(図10に示す)を選択して、SnoopLigaseとその反応生成物間の非共有結合性の相互作用を損なうことができるかを判定した。
【0163】
ビオチン化したSnoopLigaseを、それぞれ50μMのSUMO−DogTag及びSnoopTagJr−AffiHER2と4℃にて24時間インキュベートした。ビオチン−SnoopLigaseを、ストレプトアビジンアガロースで下方に引っ張って、樹脂を、PTバッファ(10mMトリスリン酸、pH6.5)の5樹脂容量で25℃にて5回洗浄した。16μM AffiHER2−DogTag:SnoopTagタンパク質コンペティタ(実施例7に記載)、及び図10に示す12個の選択した添加物の1つを含有するPTバッファ、pH6.5の4樹脂容量による溶出を、37℃にて5分間、2回実行した。溶出バッファ中に添加物のない対照反応を用いた。
【0164】
図10は、1Mイミダゾール及びタンパク質コンペティタを含む溶液が、固相からの反応生成物(共有結合コンジュゲート)の効率的な溶出をもたらしたことを示している。
【0165】
タンパク質コンペティタの不在下での様々な濃度のイミダゾールの影響を調査した。SnoopTagJr−AffiHER2及びSUMO−DogTagを、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール(v/v)中50μMのビオチン−SnoopLigaseと、4℃にて24時間インキュベートした。ビオチン−SnoopLigaseを、ストレプトアビジンアガロース樹脂で下方に引き下げて、この樹脂を、PTバッファ(25mMトリスリン酸、pH7.0)の5樹脂容量で25℃にて4回洗浄した。溶出を、PTバッファ中0.5〜4Mに及ぶ濃度のイミダゾール、pH7.0で、25℃にて5分間実行した。
【0166】
図11は、2Mイミダゾールを含む溶液が、生理的に関連する条件下で、すなわちpH7.0且つ25℃にて反応生成物を固相から効率的に溶出するのに十分であることを示している。特に、イミダゾールの濃度が高いほど、SnoopLigase及びストレプトアビジンが固相から溶出した。
【0167】
実施例9−SnoopTag(配列番号9)及びSnoopTagJr(配列番号2)活性の比較
SnoopTag(配列番号9)配列を修飾してSnoopTagJr(配列番号2)を生じさせることによってもたらした活性の差異を測定する比較アッセイを実行した。
【0168】
それぞれ10μMのSnoopLigase及びSUMO−DogTagを、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール(v/v)中10μMのSnoopTag−AffiHER2又はSnoopTagJr−AffiHER2と、15分〜24時間、4℃にてインキュベートした。
【0169】
図12は、形成された反応生成物の総量によって測定して、SnoopTagJrが全ての時点にてSnoopTagよりも効率的に反応したことを示している。
【0170】
実施例10−SnoopLigase活性に及ぼす化学シャペロンの影響
先に述べたように、SpyLigaseは、そのペプチドタグ基質(SpyTag及びKTag)を、化学シャペロンTMAO(トリメチルアミンN−オキシド)の存在下でのみライゲートすることができる。したがって、TMAOの存在下でのSnoopLigaseの活性を評価した。
【0171】
それぞれ10μMのSnoopLigase、SnoopTagJr−AffiHER2、及びSUMO−DogTagを、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール+広範な濃度のTMAO(0〜1.5M)中で4℃にて1.5時間インキュベートした。SnoopLigaseの活性を、形成された反応生成物の量を測定することによって評価した。図13は、反応へのTMAOの添加が、TMAOの不在下で機能することができるSnoopLigase活性に対して、向上をもたらさなかったことを示している。
【0172】
実施例11−融合タンパク質内の内部部位でのDogTag(配列番号3)反応性の評価
少なくとも1つのタグがタンパク質内で位置決めされる場合(すなわち、タグがタンパク質の内部ドメインを形成する場合)にペプチドタグが互いと反応することができるかを判定するために、DogTag(配列番号3)を、マルトース結合タンパク質(MBP)及びHaloTag7中に挿入した。特に、DogTag配列のいずれかの側部に、異なる長さのリンカー配列(2〜8個のアミノ酸)をフランキングさせ、そしてDogTag配列を、残基317の後ろ且つ残基319の前のMBP中に挿入して、残基318を欠失させた。ペプチドタグにフランキングするリンカー配列は、Gly−Serの繰返しであった。いずれかの側部に3つのGly−Ser繰返しがフランキングするDogTag配列を、残基D139とE140間のHaloTag7SS中に挿入した。HaloTag7SSは、位置61及び261のシステイン残基をセリン残基で置換するように修飾されたHaloTag7を指す。
【0173】
それぞれ10μMのDogTag−MBP融合タンパク質、SnoopTagJr−AffiHER2及びSnoopLigaseを、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール中で4℃にて4時間インキュベートして、クーマシー染色によるSDS−PAGEを用いて分析した。図14は、4つのMBP−DogTag挿入構築体が全て反応性であったことを示しており、最も高い反応性は、6又は8個の残基のリンカー長によって示された。
【0174】
DogTag−HaloTag7SS融合タンパク質(10μM)を、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール中SnoopTagJr−AffiHER2及びSnoopLigase(双方とも20μM)と、4℃にて0.5〜48時間インキュベートして、クーマシー染色によるSDS−PAGEを用いて分析した。図16は、DogTag−HaloTag7SS挿入構築体が反応性であり、24時間後に約90%の反応収率であったことを示している。
【0175】
実施例12−固相からの反応生成物の溶出についての更なる条件
実施例4、7、及び8は、SnoopLigase反応生成物が、固相から、種々の条件下で溶出され得ることを実証している。しかしながら、pH2.0若しくは2Mのイミダゾール中での、又は比較的高い温度でのインキュベーションが、全てのタンパク質について適し得るというわけではない。発明者らは、SnoopTagJr:DogTagペプチドコンジュゲートが、SnoopLigase反応生成物を圧倒することができ、効率が、抗体溶出バッファ(グリシン、pH2.0)及び2Mイミダゾールと等価であることを確認した(図15)。
【0176】
SUMO−DogTag及びSUMOプロテアーゼを介して、SnoopTagJr:DogTagコンペティタペプチドを生成した。HaloTag7を介して固相上に固定したSnoopLigaseを用いて、SUMO−DogTag及びSnoopTagJrペプチドを共有結合的にコンジュゲートした。先で記載したイミダゾールを用いて、反応生成物(SUMO−DogTag:SnoopTagJr)を溶出した。次に、反応生成物を、SUMO−プロテアーゼUlp1とインキュベートした。これは、SUMOからDogTag:SnoopTagJrペプチドを切断する。Ni−NTAとの反応生成物のインキュベーションにより、Hisタグを付けたSUMO及びUlp1タンパク質が枯渇して、精製されたDogTag:SnoopTagJrペプチドが生じた。
【0177】
コンペティタペプチドにより、生理学的条件下、すなわち37℃での、ストレプトアビジン−アガロースカラム上に固定されたビオチン−SnoopLigaseからのSnoopLigase反応生成物(SUMO−DogTag:SnoopTagJrAffiHER2)のクリーンな溶出が可能であった(図15)。固相精製は、時間を浪費し、且つ多くの場合、実質的な損失に至る、サイズ排除クロマトグラフィによるSnoopLigase及び未反応出発材料からの反応生成物の以降の分離の必要を除外した。
【0178】
実施例13−種々のタンパク質におけるN末端融合又はC末端融合としてのDogTag(配列番号3)及びSnoopTagJr(配列番号2)反応性の評価
ペプチドタグをユニバーサルリンカーとして用いることができることを確認するために、タグを、種々のタンパク質(AffiHER2、SUMO、mClover3、MBP、mEGFP、及びHaloTag7SS)に、N末端又はC末端にて融合して、組み合わせて試験した。DogTag結合タンパク質(10μM[表2]又は20μM[表3])を、50mM TB、pH7.25+15%グリセロール中SnoopTagJr結合タンパク質(20μM[表2]又は10μM[表3])及びSnoopLigase(20μM)と、4℃にて24時間インキュベートして、クーマシー染色によるSDS−PAGEを用いて分析した。表2及び表3はそれぞれ、反応したDogTagパートナ及びSnoopTagJrパートナのパーセンテージを示している。N/Aは、バンドの重複が定量化を妨げた反応を指す。以下で一覧にする構成要素のオーダーは、タグがN末端であったかC末端であったかを示す。すなわち、AffiHER2−DogTagは、AffiHER2のC末端に結合されたDogTagを指し、DogTag−mClover3は、mClover3のN末端に結合されたDogTagを指す。
【0179】
結果は、ほとんどの組合せの反応収率が95%を超えたことを示しており、これによって、ペプチドタグは、多様なタンパク質のN末端及びC末端に位置決めされた場合に、効率的に反応することが実証される。
【0180】
【表2】
【0181】
【表3】
【0182】
実施例14−SnoopLigase反応性は、凍結乾燥及び還元剤に耐性がある
SnoopLigaseを凍結乾燥させて、37℃にて0〜120日間貯蔵した。種々の時点にて、凍結乾燥したSnoopLigaseのサンプルを、反応バッファ中に、15%(v/v)グリセロールを有するTB、pH7.25中のSnoopTagJr−AffiHER2及びSUMO−DogTag(各10μM)と共に、4℃にて2時間再構成した。図17Aは、非凍結乾燥対照サンプルに対して、生成物の形成を示しており、活性のほぼ全てが、再構成後に保持されていたことを実証している。
【0183】
システインがSnoopLigase中にもペプチドタグ中にも存在しないので、反応は、還元剤によって影響されないであろうと仮定した。これを、還元剤(100mMβ−メルカプトエタノール(βME)又は20mMジチオスレイトール(DTT))あり、又は還元剤なしで上述の反応を実行することによって、確認した。図17Bは、還元剤なしの対照反応に対して、生成物の形成を示しており、還元剤が、SnoopLigase活性に影響を与えないことを実証している。
【0184】
方法
クローニング
タンパク質発現用のプラスミド構築体を、標準的なPCR手順及びGibson等温アセンブリ(isothermal assembly)を用いてクローニングした。遺伝子挿入物のヌクレオチド配列を、サンガー配列決定法によって確認した。大腸菌(E.coli)中の発現用の構築体は、N末端His6−タグに続いて、フレキシブルGSリッチリンカーを含有した。
【0185】
RrgAの配列は、プロテインデータバンクIDコード2WW8に由来する。
【0186】
タンパク質の発現及び精製
発現プラスミドを、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)−RIPL(Agilent)中に形質転換して、細胞を、50μg/mlカナマイシンを含有するLB−アガープレート上で、37℃にて16時間増殖させた。個々のコロニーを、0.8%(w/v)グルコース、50μg/mlカナマイシンを有する2×YT中で、37℃、200rpmにて16時間増殖させた。種培養を、0.8%(w/v)グルコース、50μg/mLカナマイシン入り1L 2×YT中で1:100に希釈して、37℃、200rpmにて、A600が0.5に達するまで増殖させた。培養体を、0.42mM IPTGで誘導して、30℃、200rpmにて4時間増殖させてから、収穫した。タンパク質を、標準的なNi−NTA法(Qiagen)を用いて精製して、1:1000で3回透析した。透析用のバッファは、AP−SnoopLigase(APは、ピラビオチン化用の基質ペプチドである)及びSnoopTagJr−MBP用のTB(ホウ酸でpHを調整した50mMトリス・HCl)、pH8.0、RrgALigase(及び点突然変異体)、SnoopLigase、SnoopTag−AffiHER2、SnoopTagJr−AffiHER2、及びSUMO−DogTag用の50mMホウ酸、pH10.0であった。
【0187】
SnoopLigaseインビトロ再構成
SnoopLigaseによって媒介されるSnoopTagJrとDogTag間のイソペプチド結合の形成を評価するために、タンパク質を、特に明記しない限り、TB、pH7.25+15%(v/v)グリセロール中10μMにて、4℃にて2時間インキュベートした。反応を止めるために、6×SDSローディングバッファ(0.23Mトリス・HCl、pH6.8、24%(v/v)グリセロール、120μMブロモフェノールブルー、0.23M SDS)を加えて、1×の最終濃度にした。サンプルを、95℃にて3分間加熱して、10分間で25℃に冷却してから、ローディングした。
【0188】
SnoopLigase点突然変異の同定
プロリン置換用の残基を同定するために、RrgA(PDBコード2WW8)内のアミノ酸残基のラマチャンドラン分析を、MolProbityを用いて実行した。φ−角度が−70°〜−50°である残基及びループ領域内の位置を、プロリン置換について考えた。PROSSサーバを用いるために、別個の複数の配列アラインメント(MSA)を生じさせた。RrgA残基734〜860についての相同配列を、Position−Specific Iterative Basic Local Alignment Search Tool(PSI−BLAST)を用いて収集した。Log−Expectation(MUSCLE)によるMultiple Sequence Comparisonを用いて、MSAを生じさせた。Cluster Database at High Identity with Tolerance(CD−HIT)を用いて、配列冗長量(sequence redundancy)を最小にして、データセットのサイズを調整した。修飾MSA、及びRrgA PDB構造2WW8の残基734〜860を、PROSSサーバ中に送った。示唆されたアミノ酸置換を、手動で再検討した。
【0189】
SnoopLigaseビオチン化
220μM AP−SnoopLigaseを、TB、pH8.0中14.7μM GST−BirA、0.5mM MgCl2、3.3mM D−ビオチン、及び1mM ATPと、25℃にて1時間インキュベートすることによって、AP−SnoopLigaseのビオチン化を実行した。GST−BirA及びD−ビオチンの同一量を再度加えて、混合物を、25℃にて1時間インキュベートした。GST−BirAを枯渇させるために、サンプルを、0.1mLのグルタチオン−HiCap樹脂と、サンプルローター上で25℃にて30分間インキュベートして、17,000gにて30秒間遠心分離した。上清を収集して、TB、pH8.0中に1:1000で3回透析した。
【0190】
SnoopLigase反応生成物の精製
総容量200μLの、15%(v/v)グリセロールを有するTB、pH7.25中それぞれ10μMのSUMO−DogTag、SnoopTagJr−AffiHER2、及びビオチン化したSnoopLigaseを、4℃にて20時間インキュベートした。SnoopLigaseを捕捉するために、25μLの洗浄且つ平衡化したHiCapストレプトアビジンアガロース(Thermo Fisher、20357)を加えて、サンプルを、チューブローター上で25℃にて30分間インキュベートした。樹脂を、1mLのpoly−prepカラム(Bio−Rad)内に収集して、300gにて1分間スピンした。300mM NaCl入りの125μLの50mMグリシン、pH3.0で2回、そして125μLの50mMグリシン、pH3.0で3回、樹脂を洗浄した後に、1回余分に、500gにて1分間スピンして、樹脂からの過剰な液体の除去を確実にした。SnoopLigase反応生成物を溶出するために、樹脂を、25μL抗体溶出バッファ(50mMグリシン、pH2.0)と1分間インキュベートしてから、2.5μL 1Mトリス・HClを含有するチューブ中に溶出液を300gにて1分間スピンした。溶出を、もう2回繰り返した。
【0191】
質量分析
75μMのSUMO−DogTag、及び300μMのSnoopTag固相合成ペプチド(GKLGDIEFIKVNKGY、配列番号11、Insight Biotechnology、95%の純度)を、総容量200μLの、TB、pH7.25及び15%(v/v)グリセロール中75μMのビオチン化したSnoopLigaseと、4℃にて36時間インキュベートした。反応生成物を、先のように精製したが、100μL HiCapストレプトアビジンアガロース及び500μL洗浄バッファで行った。分析を、Micromass LCT飛行時間型エレクトロスプレーイオン化質量スペクトロメータ(Micromass)を用いて実行した。分子量プロファイルを、V4.00.00ソフトウェア(Waters)を用いて、最大エントロピーアルゴリズムにより、m/zスペクトルから作成した。ExPASy ProtParamによって、N末端fMetのない、そしてイソペプチド結合形成中のアンモニア(17.0Da)の損失のないアミノ酸配列に基づいて、タンパク質の分子量を予測した。
【0192】
固相ライゲーション反応サイクル
TB、pH8.0中50μMのビオチン化したSnoopLigaseを、50μLの総容量中10μLの洗浄且つ平衡化したHiCapストレプトアビジンアガロース(Thermo Fisher)に、25℃にて30分間、チューブローター上で結合した。樹脂を、1mL poly−prepカラム(Bio−Rad)中に収集して、300gにて1分間スピンしてから、100μL TB、pH8.0で5回洗浄した。50μLの反応ミックス(15%(v/v)グリセロール入りTB、pH7.25中100μM SUMO−DogTag及び100μM SnoopTagJr−AffiHER2)の添加によって反応を始めて、サンプルを、800rpmのサーモミキサ上で25℃にて3時間インキュベートした。反応混合物を、300gにて1分間スピンして、樹脂を、300mM NaCl入り50μL 50mMグリシン、pH3.0で2回、そして50μL 50mMグリシン、pH3.0で3回洗浄した。1回余分に、500gにて1分間スピンして、樹脂からの過剰な液体の除去を確実にした。SnoopLigase反応生成物を溶出するために、樹脂を、10μL抗体溶出バッファと1分間インキュベートしてから、1μL 1Mトリス・HClを含有するチューブ中に、300gにて1分間、溶出液をスピンした。溶出をもう3回繰り返した。樹脂を、100μL 50mMグリシン、pH2.0で2回、そして100μL TB、pH7.25で2回洗浄した。反応サイクルをもう3回繰り返した。
【0193】
SnoopLigase熱安定性試験
15%(v/v)グリセロール入りTB、pH7.25中12.5μMのSnoopLigaseを、示した温度にて15分間インキュベートして、4℃にて5分間冷却した。熱処理したSnoopLigaseを、SnoopTagJr−AffiHER2及びSUMO−DogTagのライゲーションに用いた。
【0194】
SDS−PAGE及び反応の定量化
ゲルを、InstantBlueクーマシー染色剤(Expedeon)で染色して、MilliQ水で脱色して、ChemiDoc XRイメージャを用いて、ImageLabソフトウェア(Bio−Rad)で画像化した。ImageLabを、バンドの定量化にも用いた。反応したタグのパーセンテージを、バンド強度から、[生成物バンド]/([生成物バンド]+[残りの基質バンド])として算出した。相対反応性を、([サンプル]/[対照])の反応したタグパーセントとして算出した。
【0195】
DogTag:SnoopTagJrコンペティタの生成
0.01%(v/v)Tween20入り50mM TB、pH7.25中20μMのHaloTag7−SnoopLigaseの4mL量を、充填HaloLink樹脂(Promega)の500μLと、チューブローター上で25℃にて2時間、インキュベートした。サンプルを、5つのバッファ平衡化1mL polyprepカラム(Bio−Rad)中に分割して、300g、25℃にて1分間スピンした。各樹脂サンプルを、0.01%(v/v)Tween 20入り50mM TB、pH7.25の500μLで2回洗浄した。カラムをキャッピングして、200μLの反応バッファ[15%(v/v)グリセロール入りTB、pH7.25中50μM SUMO−DogTag及び75μM SnoopTagJrペプチド]を、各カラムに加えた。SnoopTagJrペプチドを、Activotecによって>95%の純度にて固相合成した。サーモミキサ上での、25℃、300rpmにて4時間のインキュベーションの後、サンプルを、300g、25℃にて1分間スピンして、各樹脂サンプルを、0.5Mイミダゾール及び0.01%(v/v)Tween 20入りトリス−リン酸、pH7.0の640μLで、5回洗浄した。SnoopLigase反応生成物を溶出するために、各樹脂サンプルを、2.5Mイミダゾール、pH7.0及び0.01%(v/v)Tween20入りトリス−リン酸の100μLと、800rpmのサーモミキサ上で25℃にて2分間インキュベートしてから、300g、25℃にて1分間、溶出液をチューブ中にスピンした。溶出をもう2回繰り返して、各樹脂を、0.01%(v/v)Tween 20入りTB、pH7.25の500μLで、2回洗浄した。次の反応サイクルを始めるために、フレッシュな反応ミックスを樹脂に加えて、反応及び精製手順を繰り返した。合計で6反応サイクルを実行した。全ての溶出液をプールして、TB、pH7.5中に透析して、SUMO−DogTag:SnoopTagJrを、10kDa MWCOスピンフィルタ(Sartorius)を用いて118μMに濃縮した。SUMOプロテアーゼUlp1を、1:50のモル比にて加えて2.4μMの最終濃度にしてから、25℃にて45分間インキュベートした。反応の後、Tween20を加えて、0.01%(v/v)の最終濃度にした。Hisタグを付けたタンパク質(SUMO及びUlp1)を枯渇させるために、600μLのサンプルを、充填Ni−NTAアガロース(Qiagen)の150μLと、チューブローター上で25℃にて1時間インキュベートして、サンプルを、16900g、25℃にて1分間遠心分離して、DogTag:SnoopTagJrコンジュゲートを含有する上清を収集した。濃度を、ExPASy ProtParamのOD280吸光係数を用いて算出した。
【0196】
ペプチド溶出によるSnoopLigase除去
150μLの総容量の、15%(v/v)グリセロール入りTB、pH7.25中それぞれ10μMのSUMO−DogTag、SnoopTagJr−AffiHER2、及びビオチン−SnoopLigaseを、4℃にて16時間インキュベートした。Tween20を加えて、0.01%(v/v)の最終濃度にした。ビオチン−SnoopLigaseを捕捉するために、洗浄且つ平衡化したHiCapstreptavidin−アガロース(Thermo Fisher)の15μLを加えて、サンプルを、チューブローター上で25℃にて30分間インキュベートした。樹脂を、PCRチューブ(StarLab)内に収集して、300g、25℃にて1分間スピンしてから、0.01%(v/v)Tween20入りトリス−リン酸、pH7.0の75μLで5回洗浄した。0.01%(v/v)Tween20入りTB、pH7.5中DogTag:SnoopTagJrの30μL量を加えて、サンプルを、サーモミキサ上で37℃、800rpmにて4時間インキュベートした。サンプルを、16900gにて1分間遠心分離して、上清を収集した。
【0197】
凍結乾燥安定性
TB、pH7.25中10μMのSnoopLigaseの30μLのアリコートを、100μLの薄壁PCRチューブ(StarLab)中に調製した。サンプルを、ドライアイス−エタノール浴中で10分間急速冷凍して、BenchTop 2K凍結乾燥機(VirTis)を用いて、0.14mbar、−72.5℃にて48時間凍結乾燥させた。凍結乾燥させたサンプルを、Drierite(Sigma−Aldrich)のベッド上で、パラフィルム(Sigma−Aldrich)でシールしたガラス製シンチレーションバイアル内に、示した時間、37℃にて貯蔵して、サンプル水和を最小にした。サンプルを、反応バッファ中に再構成して、そこで、SnoopTagJr−AffiHER2及びSUMO−DogTagの作用が、4℃にて2時間及んでから、SDS−PAGE、クーマシー染色、及び濃度測定を続けた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2020516314000001.app
【国際調査報告】