(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
樹脂などの素材を用いてロッドが配列した構造を作り、その表面にメッキ層を形成して導電性を付与する。この際、ロッド間の部位のメッキ層に欠陥が生ずる事を抑制するために、ロッドを先細り形状としてロッド間の間隙を上端に向かって広がる形状として、表面張力の作用によってロッド間の気泡が排出されやすくする。ロッド列と併せて導波部材となるリッジを形成してもよい。ロッドを先細り形状としておくことで、リッジとロッド間の間隙も同様にロッド上端に向かって広がる形状となり、リッジとロッドの間からの気泡の排出も促進される。
前記曲線部に最も近い前記ロッドの側面と、前記リッジの側面との距離は、前記距離が最短になる前記ロッドの一部分から前記ロッドの周方向に沿って離れるに従って、単調に増加する、
請求項11に記載の高周波部材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の製造方法によって製造される高周波部材を用いて構成された導波路装置の、基本的な構成例と動作とを説明する。
【0013】
なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0014】
1.高周波部材の製造方法
<導波路装置の構成と高周波部材の形状>
図1Aは、このような導波路装置が備える基本構成の限定的ではない例を模式的に示斜視図である。
図1Aでは、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。図示されている導波路装置100は、対向して平行に配置されたプレート状の第1の導電部材110および第2の導電部材120を備えている。第2の導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。この第2の導電部材120は、本開示の実施形態による製造方法によって製造される高周波部材の一例である。以下、第2の導電部材120を、高周波部材120と呼ぶことがある。
【0015】
本明細書において、「高周波部材」とは、主に高周波(radio frequency)の電磁波を扱う用途で使用される部材を意味する。本明細書おける「高周波」は、およそ3kHz以上300GHz以下の周波数を意味する。WRGで用いられる高周波部材は、例えばミリ波の帯域(およそ30GHz以上300GHz以下)の電磁波の伝搬に用いられ得る。本開示における高周波部材が扱う周波数帯域は、ミリ波よりも周波数が低い帯域であってもよいし、ミリ波よりも周波数が更に高い帯域であってもよい。高周波部材は、例えば、テラヘルツ波の帯域(およそ300GHz以上3THz以下)の電磁波の伝搬に用いられてもよい。高周波部材は、WRGの用途に限定されず、複数の導電性ロッドが配列された構造を持つ人工磁気導体を利用する用途に広く用いられ得る。本明細書において、「ワッフルアイアン(Waffle Iron)構造」とは、導電部材上に複数の導電性ロッドが配列され、高周波の閉じ込め機能を有する構造を意味する。
【0016】
図1Bは、わかりやすさのため、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波路装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波路装置100では、
図1Aに示すように、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔は狭い。第1の導電部材110は、第2の導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。ここで示す例では、片側に2列ずつ並ぶ導電性ロッド124の列の間に、導波部材122が配置されているが、列の数は片側2列に限られない。導電性ロッド124の列は、3列以上であってもよいし、1列のみで済ませる場合もある。
【0017】
図2Aは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。
図2Aに示されるように、第1の導電部材110は、第2の導電部材120に対向する側に導電性表面110aを有している。導電性表面110aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110aは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110aは平面である必要はない。
【0018】
第2の導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも表面(上面および側面)が導電性を有していればよい。この例では、複数のロッド124を有する樹脂製の中間部材120mの表面(「主表面」と呼ぶことがある)にメッキ層301が形成され、各ロッド124の表面に導電性が付与されている。
【0019】
本開示におけるロッドは、典型的には中実の柱状または棒状の構造を有する。ただしそのような構造に限定されない。各ロッドは、幅よりも高さの方が小さいブロック形状を有していてもよい。
【0020】
本明細書において「中間部材」とは、高周波部材の製造工程の途中で作製される部材を意味する。本開示の実施形態における高周波部材の製造方法は、中間部材を用意する工程と、当該中間部材の少なくとも一部をメッキ液に浸漬して、導電性のメッキ層を形成する工程とを含む。中間部材は、平面または曲面形状の主表面と、当該主表面から離れる方に延びる複数のロッドとを有する。メッキ層を形成する工程においては、中間部材の主表面および複数のロッドの表面に導電性のメッキ層が形成される。中間部材は、板形状またはブロック形状を有する。本実施形態では、複数のロッドの内の何れか1つのロッドの側面と、当該1つのロッドに隣接する他のロッドの側面との間隔が、当該主表面から離れるに従って単調に拡大する。このような構造により、後述するように、メッキ層を形成する工程において、気泡が除去され易くなるという効果を奏する。
【0021】
この例において、中間部材120mを構成する樹脂は、PC/ABS樹脂である。ここで、PC/ABS樹脂とは、PolycarbonateとAcrylonitrile butadiene styreneの混合物を意味する。例えば射出成形法を利用し、PC/ABS樹脂を中間部材120mの形状に成形することができる。
【0022】
中間部材の素材はPC/ABS樹脂に限定されない。メッキ処理が可能な様々な樹脂を使用する事ができる。また、Acrylonitrile butadiene styrene と混合しない、Polycarbonate 主体の樹脂を用いる事もできる。他にも、ポリフェニレンサルファイド樹脂(Polyphenylene sulfide)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(Polybutylene Terephthalate)、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(syndiotactic polystyrene、或いはSPS樹脂)等のエンジニアリングプラスチック等、メッキ処理が可能な樹脂を広く素材とする事ができる。また、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用いてもよい。
【0023】
成形法としては、射出成形法が量産に向くが、板状またはブロック状の素材に、切削加工を加えて中間部材の各部の形状を作り出してもよい。
【0024】
第2の導電部材120は、中間部材120mとメッキ層301とを含む。この例では、メッキ層301は第2の導電部材120の第1の導電部材110側の面120aのみに広がっている。但し、全面に亘って広がっていてもよい。隣接する複数の導電性ロッド124の表面は導体で接続されている。
図2Aの例では、メッキ層301が面120a全体に広がっているため、このメッキ層301によって導電性ロッド124の表面は接続される。メッキ層301が形成された面120aも導電性表面と呼ぶ事ができる。第1の導電部材110の導電性表面110aと区別する必要がある場合は、面120aを第2の導電性表面120aと呼ぶことがある。面120aを主表面120aと呼ぶこともある。導電性表面110aは第1の導電性表面110aと呼ぶことがある。なお、第2の導電性表面120aは、第2の導電部材120のメッキ層301が形成された面の内、第1の導電性表面110aに対向する部分を指す。導電性ロッド124および導波部材122のそれぞれの側面および上面は、第2の導電性表面120aには含めない。
【0025】
第2の導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側にそれぞれ人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図1Bからわかるように、この例における導波部材122は、第2の導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅とほぼ同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なっていてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110aに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要はなく、第1の導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。この例において、導波部材122は、中間部材120mの一部である凸条の表面に、メッキ層301が形成されたものである。
【0026】
このように、本実施形態における中間部材は、主表面に沿って延びるリッジを有してる。リッジは、頂部に平坦なストライプ形状の上面を有している。複数のロッドの内の少なくとも一部はリッジの側面を囲んでいる。リッジの側面と、複数のロッドの内の少なくとも一部のロッドの側面との間の距離は、主表面から離れるに従って単調に拡大する。
【0027】
本明細書において「ストライプ形状」とは、縞(stripes)の形状を意味するのではく、単一のストライプ(a stripe)の形状を意味する。一方向に直線的に延びる形状だけでなく、途中で曲がったり、分岐したりする形状も「ストライプ形状」に含まれる。導波面122aが高さまたは幅の変化する部分を有している場合も、導波面122aの法線方向から見て一方向に沿って延びる部分を有していれば、「ストライプ形状」に該当する。
【0028】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と第1の導電部材110の導電性表面110aとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。本開示に関わる導波路装置において人工磁気導体は、配列した複数の導電性ロッド124と、その導電性ロッド124の先端部と間隙を介して対向する導電性表面110aによって実現される。人工磁気導体は、導波路装置100内を伝搬する信号波の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の幅、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の間隙の大きさによって調整され得る。
【0029】
以上の構造により、第1の導電部材110の導電性表面110aと導波面122aとの間の導波路(リッジ導波路)に沿って、信号波を伝搬させることができる。このようなリッジ導波路を、前述のように、WRGと称することがある。
【0030】
図2Aに示す例において、各導電性ロッド124は、基部124bから先端部124aに向かうに従って、幅または径が縮小して行く、先細りの形状を有する。このため、隣り合う2つの導電性ロッド124の間の空間である間隙129aは、逆に基部124bから先端部124aに向かうに従って、すなわち主表面120aから離れるに従って拡大して行く。この例において、導波部材122の幅(X方向における寸法)は一定である。しかし、導波部材122の隣に位置する導電性ロッド124が先細りの形状を有するため、導波部材122とその導電性ロッド124との間の間隙129bも、導電性ロッド124の基部124bから先端部124aに向かうに従って拡大する。
【0031】
図2Bは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の他の構成例を模式的に示す図である。この例においては、導電性ロッド124だけでなく導波部材122も先細りの断面形状を有する。隣り合う2つの導電性ロッド124の間の間隙129a、および導波部材122とこれに隣接する導電性ロッド124との間の間隙129bの何れも、導電性ロッド124の基部124bから先端部124aに向かうに従って拡大している。導電性ロッド124の基部124bの側面は、曲面を介して第2の導電性表面120aに接続している。導波部材122も、基部124bの側面は、曲面を介して第2の導電性表面120aに接続している。この曲面は、隣接する導電性ロッド124または導波部材122の基部の曲面と接続している。このため、隣接する導電性ロッド124の間、および導波部材122と隣接する導電性ロッド124の間は凹面となっており、平坦部は無い。しかし、この凹面は第1の導電性表面110aと対向しており、この部分は主表面120a(第2の導電性表面)の一部である。導電性ロッド124の基部124bをこのような形状とする事により、後述するメッキ工程において、中間部材120mに形成されるメッキ層301の品質が向上する。
【0032】
図2Bの例において、導電性ロッド124の先端の面と側面は、曲面を介して接続さている。しかし、その曲面の曲率半径は、基部124bと主表面120aを接続する曲面の曲率半径よりも小さい。この部分は、
図2Aまたは後述する
図2Cの例のように、曲面では無く角になっていてもよい。
【0033】
図2Cは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の更に他の構成例を模式的に示す図である。この例において、導電性ロッド124の基部124bの側面は、曲面を介して第2の導電性表面120aに接続している。導波部材122も、基部124bの側面は、曲面を介して第2の導電性表面120aに接続している。しかし、
図2Bの例と異なり、隣接する導電性ロッド124の間、および導波部材122と隣接する導電性ロッド124の間には平坦部がある。
図2Bの例では、隣り合う導電性ロッド124の基部124bの間隔を基準にして、基部の曲面の曲率半径は、間隔の半分である。これに対して、
図2Cの例では、当該曲率半径は、隣り合う導電性ロッド124の基部124bの間隔の半分よりも小さい。他の形状、例えば、導電性ロッド124の先端部124aの形状、および導波部材122の形状の形状は、
図2Aの例と同一である。また、隣り合う導電性ロッド124の間の間隙129a、および導波部材122と隣接する導電性ロッド124の間の間隙129bは、何れも導電性ロッド124の基部124bから先端部124aに向かうに従って拡大して行く。この点も、
図2Aの例と同一である。
【0034】
図2Bおよび
図2Cの例では、中間部材120mにおける複数のロッドの各々は平坦な上面を有するが、各ロッドの側面は、各々の基部において第1の曲面を介して主表面に接続されている。第1の曲面の曲率半径は、複数のロッドの各々の上面が側面と接続する部分の曲率半径よりも大きい。さらに、中間部材120mにおけるリッジの側面は、基部において第2の曲面を介して主表面に接続する。第2の曲面の曲率半径は、リッジの上面とリッジの側面が接続する部分の曲率半径よりも大きい。
【0035】
本開示に関わる第2の導電部材120において、導電性ロッド124の高さ、導電性ロッド124の配置ピッチ(すなわち隣接する導電性ロッドの中心間の距離)、および導波部材122の高さは、用途に応じて適切な値に設定される。例えば、導電性ロッド124の高さは1mm、導電性ロッド124の配置ピッチも1mm、導波部材122の高さも1mmに設定され得る。このようなサイズの構造を持つ高周波部材120を用いてWRG導波装置、またはWaffle Iron構造による高周波の閉じ込め装置を構成する場合、そのような装置が扱う高周波の周波数は、例えば70GHz以上80GHz未満である。用途によっては、この周波数帯域から大きく外れた周波数が用いられる場合もある。
【0036】
70GHzを超える周波数の電波によって導電体に誘起される電流は、導体表面から0.5μm未満の範囲にしか存在しない。よって、メッキ層301の厚さも0.5μm以上あればよい。但し、そのような薄いメッキ層は、部材の表面に僅かに傷がつくだけで分断されてしまう。導波部材122の上面である導波面122aは、電流が集中する部分であり、この部分のメッキ層301aが分断されると、WRG導波路として機能しなくなる。他方、導波部材122の基部と隣接する導電性ロッド124の基部124bとの間のメッキ層301bには、殆ど電流は流れない上に、構造的にも凹部になっている。このため、他の部材等との衝突によってメッキ層301bに傷がつく可能性は低い。よって、導波部材122の上面を覆うメッキ層301aの厚さは、導波部材122の基部と隣接する導電性ロッドの基部124bとの間のメッキ層301bよりも厚くしてもよい。メッキ層301の厚さは、例えば10μm以上にしてもよい。メッキ層301がそのように厚い場合であっても、高周波部材として機能させる事ができる。しかし、メッキ層を厚くするほど製造コストが高まる。このため、特に必要がない場合はメッキ層の厚さは例えば10μm以下に設定され得る。
【0037】
このように、メッキ層301を形成する工程は、中間部材におけるリッジの側面およ上面に導電性のメッキ層301を形成することを含み得る。なお、このリッジの上面を覆うメッキ層301aは、WRG導波路を電磁波が導波する際に最も高密度の電流が流れる部位であるため、メッキの欠陥が生じることは好ましくない。中間部材の主表面を覆うメッキ層301bの欠陥も好ましくはないが、リッジの上面を覆うメッキ層301aの方が、欠陥はより大きい影響を与える。そこで、リッジの上面のメッキ層301aを厚くすることで、そのような事態を発生しにくくすることができる。なお、リッジおよび導電性ロッドの形状として先細りの形状を選択しない場合でも、このような効果は得られる。よって、リッジおよび導電性ロッドの幅を一定にした構造を採用する場合でも、リッジの上面のメッキ層を中間部材の主表面を覆うメッキ層よりも厚くしてもよい。
【0038】
図1A、
図1B、
図2A、
図2B、および
図2Cを参照して示した、本開示の実施形態における高周波部材(第2の導電部材120)では、中間部材120mの表面にメッキ層301が形成されている。各部の典型的な寸法は上述した通りであり、その表面に形成されるメッキ層301の厚さは、例えば10μm以下である。上述した形態を有する高周波部材を得るために、上述した形態と同様の形状を備える中間部材が用意される。即ち、先細り形状の複数の導電性ロッドを形成するために、中間部材は先細り形状の複数のロッドを備える。リッジ状の導波部材を形成するために、中間部材はリッジを備える。また、導電性ロッドの基部が曲面を介して導電性表面と繋がっている場合は、中間部材のロッドも同様の形態を備える。
【0039】
公知の文献において、このようなリッジ導波路を構成する導電性ロッドの幅、または径は、各ロッドの基部から先端部まで一定である。或いは、基部から先端部に向かうに従って、幅または径が拡大する形状、或いはマッシュルーム形状を有する(WO2013/189919、または、E. Rajo-Iglesias and P.-S. Kildal, "Numerical studies of bandwidth of parallel-plate cut-off realised by a bed of nails, corrugations and mushroom-type electromagnetic bandgap for use in gap waveguides", IET Microw. Antennas Propag., 2011, Vol. 5, Iss. 3, pp. 282-289)。これに対して、
図2A、
図2B、
図2Cを用いて示したように、本開示に関わる高周波部材においては、導電性ロッドの幅、または径は、基部から先端部に向かうに従って縮小して行く。リッジ状の導波部材は、基部から上端面に至るまで幅は一定であってよいが、導電性ロッド同様に基部から上端面に向かうに従って幅が縮小して行く形状であってもよい。
【0040】
以上の各例では、高周波部材は導波部材122を有しているが、導波部材122を有しない高周波部材を構成してもよい。そのような高周波部材は、例えば複数の導電性ロッド124の配列を含む人工磁気導体を実現する部材であり得る。そのような高周波部材の製造に用いられる中間部材は、複数のロッドを有するが、リッジを有しない。このように、中間部材において、リッジは必須の構成要素ではない。
【0041】
<メッキ工程>
本開示の実施形態による導電部材の製造方法は、前述した形状を備えた中間部材を用意する工程と、中間部材にメッキ処理を行い、表面に導電体の層を形成する工程とを含む。以下、本開示に関わるメッキ処理工程の例を説明する。
【0042】
図3Aは、中間部材120mをメッキ液に浸漬した状態を模式的に示す図である。
図3Bは、
図3Aにおける中間部材120mを、Z方向から見た図である。この例における中間部材120mはPC/ABS樹脂製である。中間部材120mは、洗浄およびエッチングを行った後、例えばパラジウム(Pd)からなる触媒粒子を樹脂表面に付与する処理が行われる。その後、中間部材120mは無電解メッキ液に浸漬される。前処理によって、中間部材120mの表面には微細な凹部が多数形成されているが、微細であるので図では表現していない。前処理によって中間部材120mの表面は活性化され、メッキ液の濡性(wettability)も向上している。
【0043】
一般に樹脂材料に対しては、水または水溶液はあまり高い濡れ性を示さない。メッキの対象となる部材が樹脂製である場合には、メッキ液に浸漬しても、部材の表面に気泡が残りやすい。濡れ性を改善するために、メッキ液あるいは前処理等で使用される溶液には、界面活性剤を加えることが一般的である。また、一般にメッキ処理は水溶液中における還元反応を伴うため、処理中には水素ガスが発生しやすい。すなわち、一旦はメッキ液が部材の表面を覆った状態が実現されても、その後のメッキ処理の途中において発生する水素ガスなどの気泡が付着することにより、メッキ液が部材表面と接触していない部位が作られる事もある。気泡が空気であるか水素であるかに関わらず、気泡が付着した部位にはメッキ層が形成されにくく、メッキ層の欠陥の原因となる。部材の表面に対するメッキ液の濡れ性が高ければ、そのような欠陥は発生しにくくなる。しかしながら本開示で扱う中間部材120mは、部材表面に複数のロッド124mが配置された形態を有するため、濡れ性を改善していたとしても、ロッド124mの間に気泡310が残存する可能性がある。
図3Aはそのような状態を示している。しかしながら、以下で説明するように、本開示で扱う中間部材120mの形状上の特長により、この気泡は排出されやすい。なお、
図3Aの例において、中間部材120mの全体は板形状であり、その一方の面にロッド124mが配置されている。そして、その板形状の中間部材120mは、板面が鉛直方向に広がる姿勢でメッキ液300に浸漬されている。
【0044】
隣接するロッド124mの間の間隙129aは、ロッド124mの基部124bから先端部124aに向かうに従って拡大する形態を有する。
図3A中のαは、その角度の大きさを表す。ロッド間の間隙129aがこのような形態を有するため、その間隙129aに捕らえられた気泡310は、ロッド124mの基部124bの側と先端部124aの側とで、異なる幅を持つ。気泡310は、他の部材または他の気泡と接触していない部分においては、メッキ液300の表面張力によって球面形状に近づこうとしてメニスカス(meniscus)を形成する。気泡310の幅が異なるため、ロッド124mの基部124b側におけるメニスカス311の半径r1は、ロッド124mの先端部124a側におけるメニスカス312の半径r2よりも小さい。
【0045】
表面張力の大きさをσとするとき、半径rの気泡の内圧は、周囲よりも2σ/rだけ高まる事が知られている。これは、表面張力によって気泡内部の気体が圧縮されるためである。
図3Aの例において、メニスカス311の半径r1はメニスカス312の半径r2よりも小さいので、メニスカスが生み出す周囲との圧力差は、基部124b側のメニスカス311の方が大きい。このため、先端部124a側のメニスカス312には、ロッド間の間隙129aの外側に向けて押される力が働く。メニスカス312が外側に向けて移動すれば、それにつれてメニスカス311も外側に移動する。移動後も、メニスカスが生み出す圧力は内側のメニスカス311の方が大きい状態は変わらない。この状態は、気泡310全体がロッド間の間隙129aから押し出されるまで続く。こうして、メッキ液300に中間部材120mを浸漬する際、または浸漬後に何らかの理由によって、気泡310がロッド間の間隙129aの間に捕らえられる事があっても、表面張力の効果によって気泡310は排出されやすい。これは、ロッド間の間隙129aが角度αでロッド先端部124a側に向けて拡大する形状を有しているためである。
【0046】
図3Aにおける中間部材120mは、射出成形によって成形される際に、パーティングラインがロッド124mの側面と先端面の間のエッジ124cに位置する。この場合、エッジ124cは微視的に見てより尖った形状を持つ。このような尖った形状の部位には、メッキ液300中の気泡は付着しにくい。このため、ロッド124mの先端部近傍のメッキ層に欠陥が生じにくくなる。
図2A等に示した導波部材122(以下、リッジ122と称することもある。)に関しても、同様の効果が得られる。即ち、リッジ122の上面側面の間のエッジにパーティングラインを位置させる事により、リッジの上面近傍のメッキ層に欠陥が生じにくくなる。
【0047】
図4は、ロッド124nの幅が一定な中間部材120nを、メッキ液300に浸漬した状態を模式的に示す図である。このような中間部材120nにメッキを施して得られる高周波部材は、形状において従来公知のものである。従来公知の形状を有する高周波部材を製造するために、同様の形状を有する中間部材120nにメッキを施す場合、メッキ液300に浸漬された中間部材120nでは、この図に示すような状況が生ずると考えられる。
図3Aの場合と同様に、中間部材120nは全体として板形状を有し、板面が鉛直方向に広がる姿勢でメッキ液300に浸漬されている。
図4において、隣接するロッド124n間の間隙129cは、ロッドの基部124bから先端部124aにかけて一定である。すなわち、メニスカス311の半径r1’とメニスカス312の半径r2’の半径は等しい。このため、それぞれのメニスカスが生み出す圧力差も等しい。よって、
図3Aに示す実施形態とは異なり、気泡310を間隙129cから排出する力は働かない。このため、中間部材にメッキを施して、従来公知の形状の高周波部材を得ようとする場合、メッキ層に欠陥が生じやすい。
【0048】
図3Aおよび
図4に示す例では、ロッド124m、124n間の間隙129a、129cは、何れも水平方向であるZ方向に開口している。この状態では、メッキ液300から気泡310に働く浮力は、気泡310を間隙129a、129cの外部に排出する方向には働かない。仮に、中間部材120nを90度回転させて配置し、間隙129cを鉛直方向上方(図の−X方向)に向けて開口させた場合、気泡310に働く浮力は、気泡310を間隙129cから排出する方向を向く。しかし、このような状態でも、間隙129cに捕らえられた気泡310は排出されない事が多い。
図4の場合、間隙129cの幅は0.5mmであるが、このような小さな間隙に気泡が捕らえられる場合、気泡自体も小さい。気泡が小さいほど、気泡の振る舞いに与える、表面張力または部材表面との吸着力の影響は大きくなる。狭い間隙に気泡が捕らえられるのは、既に表面張力または吸着力の影響が優越していることを示唆しており、そのような状態で浮力を働かせても、気泡は必ずしも排出されない。
図3Aに示す実施形態のように、中間部材120mのロッド形状を先細り形状とすることで、表面張力を利用して気泡の排出を図る事が有効である。
【0049】
表面張力による気泡排出の効果が有効に得られる条件は、メッキ液の組成および温度、中間部材の材質、ならびにエッチング等の前処理の方法に大きく影響される。しかし、ロッド間の間隙が2mm以下の領域では、表面張力を利用した気泡排出が有効になる事が多い。また、
図3Aにおける角度αは、1度以上であれば効果が得られる事が多い。
図3Aを参照して、隣接する2つのロッド間の間隙に気泡が捕らえられた場合について説明したが、リッジ状の導波部材とこれに隣接する導電性ロッドとの間についても同様の効果が期待できる。
図2A、
図2B、
図2Cに示したように、リッジ状の導波部材122と導電性ロッド124の間の間隙129bも、導電性ロッド124の基部124bから先端部124aに向かうに従って拡大する形状を有するからである。各々の例において、中間部材120mにおいてもリッジとロッドとの間の間隙は同様の形態を取り、メッキ処理時においては、
図3Aを参照して説明した効果と同様の気泡排出効果を奏する。
【0050】
中間部材120mにおける複数のロッドの内の何れか1つのロッドの側面と、そのロッドに隣接する他のロッドの側面との間の間隔は、例えば2mm未満であり得る。ここで、2つのロッドの間隔は、間隔が最も広い先端部における間隔を意味する。気泡の排出効果を高めるために、中間部材120mは、メッキ液300に浸漬された際に、主表面の広がる方向が、重力の方向に平行、または重力の方向と45度以下の大きさの角を成す姿勢に配置され得る。
【0051】
なお、本開示に関わる製造方法において、メッキの方法としては、用途に応じて様々な方法が選択できる。例えば、無電解メッキとしては、無電解銅メッキを選択できる。一例として、そのような無電解銅メッキを行うためのメッキ液は、硫酸銅、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム、ホルムアルデヒド、ポリオキシエチレンドデシルチオエ−テルを適量含有する。また、メッキ処理を行う際には、メッキ液の温度は75℃前後に維持される。他の組成を有するメッキ液を用いて、無電解メッキを行ってもよい。また、無電解メッキ等の方法で中間部材の表面に導電性を付与した後では、電解ニッケルメッキ等の、電解メッキを行う事もできる。一例として、電解ニッケルメッキを行うためのメッキ液は、硫酸ニッケル、ホウ酸、および塩化アンモニウムを適量含有する。メッキ処理においては、メッキ液の温度は20〜30℃に維持される。また、メッキ対象物である中間部材の上での電流密度は、例えば0.8〜1.0A/dm
2の値に調節される。なお、電解メッキを行う際においても、
図3Aを参照して説明した気泡排出機能は有効に作用する。よって、本開示で説明する形態を備えた中間部材を元に高周波部材を製造する場合、電解メッキによって得られるメッキ層においても、欠陥の発生が抑制される。
【0052】
<ガラス繊維を添加した樹脂素材を用いる場合>
一般に、樹脂は様々な添加物が添加された状態で成形される。例えば、製品の剛性を高める目的で、ガラス繊維あるいは炭素繊維などが添加される。また、高価な樹脂の使用量を減らす目的で、シリカまたは雲母などの鉱物、あるいは炭酸カルシウムなどの炭酸塩などの添加物が添加される。本開示に関わる製造方法においても、素材となる樹脂には、これらの添加物(Filler)を含有させることができる。特に、ガラス繊維は、製品となる高周波部材の剛性を高める効果があるため、樹脂素材に添加され得る。しかしながら、ガラス繊維を樹脂素材に添加した場合は、メッキ層を形成する前の下処理において工夫を要する。
【0053】
エッチング工程では、酸等の薬品で中間部材の表面をエッチングして表面粗度を高める。表面粗度を高める事で、後の工程で形成されるメッキ層と樹脂部分との密着力が高まる。しかし、樹脂にガラス繊維が添加されている場合、エッチング処理後に、ガラス繊維が溶解せず中間部材の表面に残存する。ガラスの表面ではメッキ液の濡れ性が低い。このため、ガラス繊維が中間部材の表面に多く残存している状態では、中間部材をメッキ液に浸漬してもメッキ液が中間部材の表面を濡らしにくい。特にロッド間には気泡が残存しやすい。また、メッキ層そのものがガラス表面には形成されにくい。これらの理由により、ガラス繊維を含有する樹脂を選択した場合は、均質なメッキ層が形成されにくくなる。
【0054】
ガラス繊維を含有した樹脂のエッチング方法として、フッ化水素酸を利用する方法がある。薬品に対する腐食に対して高い耐性を有するポリフェニレンサルファイド樹脂を用いる場合は、フッ化水素酸と硝酸を併用する方法が特に有効である。フッ化水素酸がガラス繊維を溶解するため、エッチング後の中間部材の表面に、ガラス繊維が残存することを抑制できる。この場合、例えば、先ずフッ化水素酸でエッチングした後、硝酸でエッチングする方法を利用することができる。他にも、フッ化水素酸と硝酸の混合液でエッチングする方法、あるいは、硝酸とフッ化水素酸塩の混合物を用いる方法、などを利用することができる。この様なエッチング方法を用いることで、表面の粗さを増しつつ、中間部材の表面へのガラス繊維の残留を抑制し、メッキ層の密着を強固にできる。また、ガラス繊維に加えて、酸に溶解する塩を樹脂に加えておいても良い。そのような塩は、酸でのエッチング時に溶解し、表面粗度を高めることに寄与する。酸に可溶な塩としては、例えばアルカリ土類金属炭酸塩を用いることが可能であり、代表的な物質としては炭酸カルシウムがある。フッ化水素酸を用いたエッチング方法については、例えば米国特許第4532015号明細書、および日本公開特許公報H2−217477号などに開示されている。
【0055】
なお、フッ化水素酸と硝酸を併用するエッチング方法は、高周波回路を構成するため従来用いられてきた、マイクロストリップラインを製造する方法としては、必ずしも好適ではない。フッ化水素酸と硝酸を併用するエッチング処理は過酷な処理であり、メッキを施す樹脂部材の表面の凹凸が過度に大きくなり易い。そのような表面にメッキ層を形成した場合、外から見えるメッキ層の表面は比較的平滑ではあるが、メッキ層の樹脂の側の面は、樹脂部材の表面の粗さを反映して、激しい凹凸を有することになる。マイクロストリップラインにおいては、メッキ層に流れる電流は、主としてメッキ層の樹脂の側の面を流れる。その面が上記のように激しい凹凸を有する場合、必然的に電気抵抗が増し、マイクロストリップラインを伝搬する高周波信号の減衰が大きくなる。
【0056】
しかし、このようなメッキ層の樹脂の側の面の電気抵抗は、本開示の製造方法によって製造される高周波部材が用いられる装置、例えば、WRG導波装置、または複数の導電性ロッドによって人工磁気導体としての機能を果たす装置においては大きな問題にはならない。これらの装置においては、動作の原理上、電流が流れるのは、メッキ層の樹脂の側の面ではなく、その逆側の、高周波部材の表面の側の比較的平滑なメッキ層の面だからである。よって、WRG等を構成するための高周波部材においては、エッチング処理においてフッ化水素酸を利用することによる、高周波部材としての性能低下はわずかである。他方で、メッキ層は強固に樹脂部材に密着する。このため、温度変化を経てもメッキ層がはがれにくい、耐久性の高い高周波部材を得ることが可能である。なお、高周波部材としての性能と耐久性との両立を実現する上で、ロッドまたはリッジの形状は前述の形状に限定されない。すなわち、隣接するロッド間の間隙が基部から先端に向けて拡大する形態となっていなくとも、性能と耐久性との両立を実現することができる。何らかの方法でメッキ液をロッド間に行き渡らせることができれば、フッ化水素酸を用いるエッチング処理を利用して得られたメッキ層を有する高周波部材は、高い耐久性を示し得る。
【0057】
<射出成形による中間部材の製造>
中間部材120mは、様々の方法で製造する事ができる。一例として、中間部材120mを射出成形によって製造する場合の例を説明する。
【0058】
図5は、中間部材120mを成形するための金型の一例を模式的に示す図である。4つの金型131、132、133、134を組み合わせて作られる空洞130に、流動状態の樹脂素材を注入して固化させることにより、中間部材120mが得られる。樹脂の種類としては、既に説明したように、PC/ABS樹脂等を使用できる。樹脂素材を注入するためのゲートは、
図5には図示されていない。外周を規定する外枠金型134の内側に側面金型132と底面金型133が配置される。側面金型132は、ロッドの側面を形成するための複数の貫通孔およびリッジの側面を形成するための溝を有するブロック形状を有する。各貫通孔および溝の内側の幅は、底面金型133から離れるに従って単調に減少する。側面金型132は、ロッドの上面およびリッジの先端面を形成する部位は含んでいない。各ロッドに相当する空洞の部分124e、およびリッジに相当する空洞の部分122eの上側は開口している。この開口は、端面金型131によって閉塞される。リッジに相当する空洞の部分122eの側面の上端122cは端面金型131に接触している。このような空洞130に樹脂を注入して成形することによって得られる中間部材120mでは、リッジの側面とリッジの上面とが交わる部分に、パーティングラインと呼ばれる微小な凸条がしばしば生じる。
【0059】
このような金型を用いて中間部材120mを製造する場合、得られる中間部材120mは、リッジ122の上面と側面が交わるエッジ部分に、明瞭な角形状を有する。このような中間部材120mを用いて作製される高周波部材120でも、エッジ部分は比較的明瞭な角形状が保たれる。このように、導波部材の上面が平坦で、かつエッジが明瞭である場合、そのような高周波部材を用いて構成されるWRG導波装置は、コンピュータシミュレーションによる性能推定を迅速に行う事ができる。このため、様々の用途に応じたWRG導波装置を開発する際に、その設計を迅速に進められるだけでなく、開発コストを低減する事ができる。量産時の製品コストには、必ず設計コストも含まれるため、導波部材の面のエッジが明瞭な高周波部材を採用する事は、製品コストの低減にも寄与する。
【0060】
このように、本実施形態における高周波部材の製造方法における中間部材を用意する工程は、射出成形を利用して樹脂製の中間部材を得ることを含む。射出成形において使用される金型は、リッジの側面と同じ形状の内周面を有する空隙を構成する一つまたは複数の側面金型と、リッジの上面と同じ形状の面を有する一つまたは複数の端面金型とを含み得る。端面金型が側面金型の上記空隙の一端を閉塞した状態で、射出成形が行われる。
【0061】
<メッキ処理に適したロッドの他の形状>
図6Aは、本開示の他の実施形態におけるロッド124p1の軸方向(Z方向)を含む平面における中間部材の断面図である。
図6Bは、
図6Aに示すロッド124p1の軸方向(Z方向)から見た中間部材の上面図である。
図6Cは、
図6Aに示す中間部材をメッキ液に浸漬したときのロッド間の気泡の状況をZ方向からみた図である。この実施形態では、ロッド124p1の4つの側面は傾斜していない。しかし、ロッド124p1が有する4つの角は、何れの角も除去され(以下、「面取りされている」と表現する)、曲面状になっている。このような面取りは、メッキ処理されるときに、ロッド間に捕らえられた気泡の排出を促進する効果をもたらす。
図6Cに示すように、気泡310が、隣り合う2つのロッド124p1の間隙129dに捕らえられた場合、面取りが存在するために、気泡310の左右のメニスカスの半径に差が生じる。このため、気泡310に対して、
図3Aで説明した作用と同様の作用が水平方向に生じる。その結果、
図6Dに示すように、気泡310は4つのロッド124p1の間の、比較的広い空間に押し出され、排出されやすくなる。
【0062】
図6Eは、ロッドの角に面取りがない比較例における気泡310の状況を示した図である。この場合、気泡310の左右のメニスカスの半径は同一である。このため、
図6Cおよび
図6Dに示す実施形態とは異なり、気泡310を4つのロッドの間の空間に押し出す作用は働きにくい。
【0063】
図7は、本開示のさらに他の実施形態におけるロッド124p2、124p3、124p4、124p5と、それらのロッドに囲まれたリッジ122pが、メッキ液に浸漬された状態を示す上面図である。リッジ122pは、直線状に延びる部位(「直線部」と称する。)と、曲線を描く部位(「曲線部」と称する。)の両方を含む。曲線部は、2つの直線部を繋ぐ部分である。
図7の例において、リッジ122pの直線部分に隣接するロッド124p1は、角柱の角が面取りされた形状を有する。この場合、ロッド124p1とリッジ122pの側面との間に捕らえられた気泡310は、
図6Cに示す場合に比して、やや排出されにくくなる。リッジ122pの側面が直線状になっており、間隙の拡大量が小さいからである。このような場合には、ロッドの形状を、例えば円柱形状(124p2)、六角柱形状(124p3)、または三角柱形状(124p4)等の、四角柱以外の角柱形状とすることが効果的である。ロッドの形状をそのような形状にすることにより、気泡310の排出が促進される。また、ロッドの形状を四角柱とした場合でも、
図7に示すロッド124p5のように、平面内で角柱をZ方向の周りにやや回転させることにより、気泡310の排出が促進され得る。ロッド124p5の側面とリッジ122pの側面との間に、一方に向けて間隙が拡大する領域を作ることできるからである。
【0064】
ロッド124p2、124p3、124p4、124p5のような形状のロッドは、リッジ122pが曲線を描いて延びる部位に隣接して配置された場合でも、気泡310の排出を促進する効果を有する。但し、ロッドの側面とリッジ122pの側面との間隔が、所定の条件を満たす必要がある。すなわち、ロッドの側面とリッジ122pの側面とが対向する部分において、ロッドの側面とリッジ122pの側面との間隔が最短となる部分から、ロッドの周方向に沿って離れるに従って、当該間隔が単調に増加している必要がある。つまり、
図7において、d1<d2、d3である。また、ロッドの側面の曲率は、リッ122pの側面の曲率よりも大きい。これらの条件が満足されれば、メッキ処理において、気泡は排出されやすくなる。
【0065】
図6Bから6D、および
図7において、角柱型のロッド124p1の側面の角は、曲面で面取りされている(丸みがつけられている)が、面取りはこの形状に限られるものではない。例えば
図8に示すように、平面的に面取りをした(角がそがれた)形状を有するロッド124p6を採用してもよい。その場合でも、前述の気泡排出効果が得られる。
【0066】
このように、中間部材は、直線的に延びる2つの直線部と、当該2つの直線部を繋ぎ曲線的に曲がる曲線部とを含み得る。複数のロッドは、リッジの両側に分布する。複数のロッドの内、リッジの曲線部の内側において曲線部に最も近いロッドは、例えば、角が面取りされた角柱形状、円柱形状、または四角柱以外の角柱形状を有していてもよい。リッジの曲線部に最も近いロッドの側面と、リッジの側面との距離は、当該距離が最短になる当該ロッドの一部分から当該ロッドの周に沿って離れるに従って、単調に増加する。また、リッジの曲線部に最も近いロッドの側面の曲率は、リッジの曲線部の曲率よりも大きい。
【0067】
図9Aは、本開示の更に他の実施形態におけるロッド124p7を示す上面図である。
図9Bは、ロッド124p7の側面図である。ロッド124p7は、ロッド124p1と同様に四つの角が曲面で面取りされている。また、ロッド124p7は基部から先端に向かうに従って幅または径が縮小して行く、先細りの形状を有する。このような形状のロッド124p7を有する中間部材をメッキ液に浸漬した際には、
図3Aを参照して説明した効果と
図6Cを参照して説明した効果の両方が、気泡に対して働き得る。よって、この例でも、ロッド間に捕らえられた気泡は排出されやすい。
【0068】
図10は、本開示のさらに他の実施形態によるロッド124p8を示す上面図である。
図10は、ロッド124p8がメッキ液に浸漬された状態を示す。この例において、ロッド124p8は側面に凹部を備える。この凹部があるため、隣り合う2つのロッド間の空間の幅が大きくなる。このため、気泡310はロッド間の領域に捕らえられにくくなる。すなわち、この例においても、気泡310がロッド間の領域に捕らえられることによって、メッキに欠陥が生じる事態は生じにくくなる。ただし、その機構は、
図3Aおよび
図6Cを参照して説明した機構とは異なる。
図3Aおよび
図6Cに示す例では、表面張力の不均一性を利用して気泡を排出させる効果を利用していた。それに対して、
図10の例では、ロッドの配置周期を広げることなく、ロッド間の間隙を拡大することにより、気泡がロッド間に捕らえられにくくしている。
【0069】
ロッド124p8のように、側面に複数の凹部または窪みを有し、凹部と凹部との間が外方に向けて突出する凸部となる形状を有する導電性ロッドは、高周波信号を遮断する優れた特性を示す場合がある。そのような特性は、製造方法によらず得ることができる。よって、このような形状の導電性ロッドは、製造時にメッキ工程を伴わない製造方法で製造される製品においても、採用され得る。例えば、ダイキャスト、チクソモールディング(Thixomolding)、または切削加工によってそのような製品が製造されることがある。
【0070】
図11Aは、本開示の更に他の実施形態によるロッド124p9を模式的に示す斜視図である。ロッド124p9は導電性表面120aに接続する基部の側に、幅または直径が拡大する拡径部124p9wを有する。
【0071】
図11Bは、ロッド124p9を、X方向から見た際の模式的な側面図である。拡径部124p9wの側面は、ロッド124p9が延びる方向であるZ方向に対して傾斜している。また拡径部124p9wの径は、導電性表面120aに近づくに従って拡大している。
図11Aおよび
図11Bの例において、ロッド124p9の側面のうち、垂直部と拡部124p9wとの間には明瞭な境界がある。しかし、明瞭な境界がなく、垂直部と拡径部124p9wとがなめらかな曲面を介して接続していても良い。
【0072】
図11Cは、ロッド124p9を模式的に示す平面図である。導電性表面120aに垂直な方向からロッド124p9を見た場合、ロッド124p9の方形の上面と、その周囲の拡径部124p9wの側面とが見える。
【0073】
この変形例におけるロッド124p9の様に、基部に拡径部124p9wを有するロッド形状を選択することにより、メッキ工程において、特にロッド124p9の基部が導電性表面120aに接続する部分に気泡が捕らえられにくくなる。あるいは、複数のロッド124p9の間に捕らえられた気泡が排出されやすくなる。拡径部124p9wが無い場合、ロッド124p9の側面が導電性表面120aに接続する部分は、垂直面と水平面が交わってできる窪んだ角になる。メッキ液に浸漬した際に、このような形状の部分には気泡が捕らえられやすい。ロッド124p92の基部側を拡径部124p9wとすることにより、窪んだ角の形状が無くなり、気泡が捕らえられにくくなる。
【0074】
図11Aから
図11Cに示す例において、ロッド124p9の拡径部124p9wおよびその他の部分における水平断面形状は、方形である。しかし、これに限られない。水平断面形状は円形であっても良いし、角の丸い方形であっても良い。水平断面形状が円形である場合の例を
図11Dに示す。この例において、ロッド124p92の水平断面形状は、拡径部124p9wおよびその他の部位の何れも円形である。
【0075】
図11Eおよび
図11Fは、水平断面形状が円形であるロッドの更に他の例を示している。この例において、拡径部124p9wはロッド124p93の基部側に段差を与えている。
【0076】
図11Aから
図11Fに示した例において、ロッドの拡径部124p9w以外の部分は、幅が一定である。このため、拡径部124p9w以外の部分においては、ロッド間の間隙の大きさも一定である。しかし、ロッドが拡径部124p9wを有する場合でも、ロッドの拡径部124p9w以外の部分に先細りの形態を採用することも出来る。このような形状となっている場合、ロッドの基部から離れた部分でも、隣り合うロッドの間の間隙が基部側から先端側に向けて拡大しているため、メッキ時の気泡の排出は更に促進される。
【0077】
図11Aから
図11Fで例示的に示した基部側に拡径部を有するロッドを含むロッド列は、人工磁気導体として正常に機能する。また、ロッドの拡径部以外の部分が先細りの形状を有する場合も、そのようなロッドを含むロッド列は、人工磁気導体として正常に機能する。
【0078】
なお、
図11Aから
図11Fで例示的に示した、基部側に拡径部124p9wを有するロッドは、ダイキャスト法などの鋳造によって、金属を素材として成形された場合でも、高周波部材として正常に機能する。よって、ロッドが拡径部124p9wを有する高周波部材は、金型を用いる鋳造によって製造されても良い。
【0079】
図4に示したロッドの様に、基部に拡径部を持たないロッドを、鋳造によって製造する場合、ロッドが正しく成形されない不良がしばしば発生する。しかし、ロッドの基部に拡径部を設けておくことで、そのような不良の発生を抑制できる。これは、拡径部があるために、金型内のロッドに相当する空洞の入り口部分が広がった形状となり、ロッドの空洞内に流動状態にある金属が流れ込むことが容易になることが、理由の一つであると考えられる。また、鋳造された部材と金型を分離する際には、ロッドに強いストレスがかかり、ロッドの基部付近で破断することがある。しかし、ロッドの基部が拡径部となっている場合は、この部分においてロッドの幅が広く機械的ストレスにも強いため、そのような破断が起きにくい。
【0080】
本開示の実施形態における中間部材は、樹脂材料のみを素材とするものに限られない。中間部材は、樹脂材料を素材とする部分と金属材料を素材とする部分とから構成されてよい。そのような中間部材は、例えば、金属部材を金型内部に配置し、次いで流動状態の樹脂を金型内に注入する、インサート成形の手法を用いて製造することができる。他に、金属部材に樹脂成形品をねじ等で固定する方法を選択してもよい。中間部材が、樹脂材料および金属材料の双方を素材とする場合は、必要に応じて導電性を付与したい箇所にメッキ処理が行われる。ある実施形態では、樹脂部分のみにメッキ処理が行われ得る。樹脂部分と金属部分との境界部分にも導電性が必要である場合は、樹脂部分および金属部分の両方にメッキ処理が行われ得る。その場合、中間部材全体にメッキ処理を施してもよい。
【0081】
2.導電性ロッドが先細り形状である場合の高周波部材の特性
上述したように、高周波部材の導電性ロッドを先細り形状としておく事、或いは、導電性ロッドの側面の角を面取りする事により、メッキ層に欠陥が生じにくくなる。しかし、メッキ層の欠陥が少なかったとしても、そのような形状を持つ導電性ロッドを持つ高周波部材が、主たる用途であるWRG導波路を構成した場合に正常に機能しないのならば、本開示で解説する製造方法には技術的価値は無い。
【0082】
実際、既に述べたように、従来公知の文献において、導電性ロッドは、基部から先端部まで一定の形状であるか、或いは基部から先端部に向かうに従って幅または径が拡大する形状、或いはマッシュルーム形状を有している。特に、径が拡大する形状、およびマッシュルーム形状と比較した場合、先細り形状は全く逆の形状である。
【0083】
しかし、本発明者らは、導電性ロッドの形状として、角柱の側面の角を面取りした形状を選択した場合、或いは断面が円形形状を選択した場合でも、それら導電性ロッドと導波部材(リッジ)とを用いて構成されたWRG導波路は、正常に動作することを確認している。また、先細りの導電性ロッドを有する高周波部材を用いてWRG導波路を構成した場合には、特性が改善する場合もある事を見出している。
【0084】
以下、そのようなWRG導波路について説明する。
【0085】
<導波路装置の基本構成>
まず、
図12Aおよび
図12Bを参照する。
図12Aは、本実施形態における導波路装置の構成例を模式的に示す斜視図である。
図12Aでは、わかりやすさのため、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔を離した状態を示している。
図12Bは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。
【0086】
図12Aおよび
図12Bに示すように、本実施形態における導波路装置100は、平面形状の導電性表面110aを有する第1の導電部材110と、各々が導電性表面110aに対向する先端部124aを持つ複数の導電性ロッド124が配列された第2の導電部材120と、第1の導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有する導波部材122とを備える。導波部材122は、複数の導電性ロッド124の間に配置され、導電性表面110aに沿って延びている。導波部材122の両側のそれぞれには、複数の導電性ロッド124からなる人工磁気導体が拡がって位置しており、導波部材122を両側から挟んでいる。本実施形態において、導波部材122は、延びる方向が二つ以上に分かれる分岐部136を有している。この例における分岐部136は、分岐した2本の導波部材の角度が180度であり、アルファベットの文字「T」に似た形状を持つため、「T−ブランチ」とも呼ばれる。分岐部136には、この他に、分岐した2本の導波部材の方向がなす角度が180度よりも小さい「Y−ブランチ」がある。
【0087】
前述したように、第2の導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、導電性ロッド124の先端部124aは、ほぼ同一平面上にあり、人工磁導体の表面125を形成している。
【0088】
<導電性ロッドの基本構造>
・分岐部
本実施形態では、
図12Bに示すように、各導電性ロッド124の側面を傾斜させることにより、各導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に垂直な断面の外形の寸法を基部124bから先端部124aに向かって単調に減少させている。これにより、導波部材122の分岐部136におけるインピーダンスの整合度を高めることができることが、電磁界シミュレーションの結果、明らかになった。
【0089】
図13Aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)を含む平面における断面図である。
図13Bは、
図13Aの導電性ロッド124の軸方向(Z方向)からみた上面図である。この例における導電性ロッド124は、軸方向(Z方向)に垂直な断面が正方形の錐台(Frustum)形状を有しており、導電性ロッド124の4個の側面124sが軸方向(Z方向)に対して傾斜している。導電性ロッドの各側面124sの傾斜角度は、
図13Aに示すように、側面124sの法線n1が、軸方向(Z方向)に直交する任意の平面Pzに対して形成する角度θによって定義される。
【0090】
「導電性ロッドの軸方向に垂直な断面の外形の寸法」は、「断面の外形」を内部に含むことができる最小の円の直径によって定義される。このような円は、断面の外形が三角形、長方形(正方形を含む)、または正多角形の場合、外接円に相当する。「断面の外形」が円または楕円の場合、「断面の外形の寸法」は、円の直径または楕円の長軸長さである。本開示における導電性ロッドの「断面の外形」は、外接円が存在する形状には限定されない。
図13Aおよび
図13Bに示される例では、導電性ロッド124の軸方向に垂直な断面の外形の寸法が、導電性ロッド124の基部124bから先端部124aに向かって減少している。
【0091】
図13Aおよび
図13Bに示される例では、導電性ロッド124の軸方向に垂直な断面の面積は、基部124bよりも先端部124aにおいて小さい。前述したように、導電性ロッド124は、全体が導電性を有している必要はなく、その表面が導電性を有していればよい。このため、導電性ロッド124は、中空構造を有していてもよいし、内部に誘電体の芯が存在していてもよい。「導電性ロッドの軸方向に垂直な断面の面積」とは、導電性ロッドの軸方向に垂直な断面の「外形」の輪郭線によって外部から区画される領域の面積を意味するものとする。その領域内に導電性を有しない部分が含まれていても、「断面の面積」には無関係である。
【0092】
以下、このような導電性ロッド124を用いることがインピーダンスの整合度を向上させることを説明する。
【0093】
本発明者らは、本実施形態の構成においては、各導電性ロッド124の側面が傾斜していない従来の構成と比較して、インピーダンス整合度が向上することをシミュレーションによって明らかにした。ここで、インピーダンス整合度は、入力反射係数によって表される。入力反射係数が低いほど、インピーダンス整合度が高い。入力反射係数は、高周波線路または素子への入力波の強度に対する反射波の強度の比を表す係数である。
【0094】
図14Aから
図14Dは、本シミュレーションにおいて用いられた導波路装置の構成を示す図である。
図14Aは、各導電性ロッド124の側面が傾斜していない従来の構成を模式的に示す斜視図である。
図14Bは、
図14Aに示す導波路装置の上面図である。
図14Cは、各導電性ロッド124の側面が傾斜している本実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
図14Dは、
図14Cに示す導波路装置の上面図である。
【0095】
本シミュレーションでは、各導電性ロッド124の4つの側面の傾斜角度が異なる複数の構成について、分岐部における入力反射係数Sを測定した。本シミュレーションでは、74.9475GHzの周波数をFoとし、Foを中心とする周波数帯域の電磁波(入力波とも称する)について測定した。Foに対応する自由空間中の波長をλoとして、各導電性ロッドの平均幅、ロッド間の隙間の平均幅、および導波部材(リッジ)の幅をλo/8とし、各ロッドおよびリッジの高さをλo/4とした。入力波は、
図14Bおよび
図14Dに示す矢印の向きに入射させた。
【0096】
図15は、本シミュレーションの結果を示すグラフである。
図15のグラフは、傾斜角θが0°、1°、2°、3°、4°、5°の各場合における0.967Fo、1.000Fo、1.033Foの周波数の入力波に対する入力反射係数S(dB)を示している。
【0097】
図15から、入力波の周波数に関わらず、各導電性ロッド124の側面を傾斜させると、入力反射係数Sが低下することがわかる。すなわち、本実施形態の構成により、インピーダンス整合度が向上することが確認された。
【0098】
・屈曲部
上記の効果は、導波部材122が屈曲部を有する場合にも得られる。屈曲部とは、導波部材122の延びる方向が変化する部分である。屈曲部は、導波部材122の延びる方向が急峻に変化する部分、緩やかに変化する部分、蛇行する部分を含む。
【0099】
図16を参照する。
図16は、本実施形態における導波路装置の他の構成例を模式的に示す斜視図である。
図16では、わかりやすさのため、第1の導電部材110の記載を省略している。
【0100】
図示される導波路装置では、2本の導波部材122を備えており、一方の導波部材122が屈曲部138を有している。
【0101】
側面が傾斜した導電性ロッド124を用いることにより、屈曲部138におけるインピーダンスの整合度を向上させることもできる。以下、このことを説明する。
【0102】
本発明者らは、屈曲部を有する構成においても、各導電性ロッド124の側面が傾斜していない従来の構成と比較してインピーダンス整合度が向上することをシミュレーションによって明らかにした。以下、このシミュレーションの結果を説明する。
【0103】
図17Aから
図17Dは、本シミュレーションにおいて用いられた導波路装置の構成を示す図である。
図17Aは、各導電性ロッド124の側面が傾斜していない従来の構成を模式的に示す斜視図である。
図17Bは、
図17Aに示す導波路装置の上面図である。
図17Cは、各導電性ロッド124の側面が傾斜している本実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
図17Dは、
図17Cに示す導波路装置の上面図である。本シミュレーションでは、入力波を、
図17Bおよび
図17Dに示す矢印の向きに入射させ、屈曲部での入力反射係数を測定した。その他のシミュレーション条件は、前述のシミュレーションにおける条件と同じである。
【0104】
図18は、本シミュレーションの結果を示すグラフである。
図18のグラフは、傾斜角θが0°、1°、2°、3°、4°、5°の各場合における0.967Fo、1.000Fo、1.033Foの周波数の入力波に対する入力反射係数S(dB)を示している。
【0105】
図18から、入力波の周波数に関わらず、各導電性ロッド124の側面を傾斜させる、入力反射係数Sが低下することがわかる。すなわち、本実施形態の構成により、インピーダンス整合度が向上することが確認された。
【0106】
なお、1つの導波部材122が分岐部および屈曲部の両方を有してもよい。例えば、導波部材122は分岐部と屈曲部とを組み合わせた構造を有していてもよい。また、導波部材122の形状(例えば、高さまたは幅)が、分岐部または屈曲部の近傍において、従来どおりに局所的に変化していてもよい。このように導波部材122の形状を局所的に変化させれば、本開示における導波路装置の導電性ロッド124が有する効果と合わせてさらにインピーダンス整合度が向上し得る。
【0107】
<導電性ロッドの他の構造>
次に、本開示の効果を得ることができる導電性ロッドの他の形状の例を説明する。
【0108】
まず、
図19Aおよび
図19Bを参照する。
図19Aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に垂直な断面の外形の寸法Dを、導電性ロッド124の基部124bからの距離zの関数D(z)として表現した例を示すグラフである。距離zは、導電性ロッド124の基部124bから、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に平行に測定される。
【0109】
図19Aは、前述した導電性ロッド124に関する関数D(z)の例を示している。
図19Aの符号「h」は導電性ロッドの高さ(軸方向サイズ)を意味する。D(z)は、導電性ロッド124の側面124sの傾斜に対応する勾配を有している。前述した実施形態における導電性ロッド124では、D(z)の勾配は一様であったが、本開示の導波路装置は、そのような例に限定されない。D(z)がzの増加に応じて単調に減少すれば、前述した効果が得られる。
【0110】
本願において、「導電性ロッドの軸方向に垂直な断面の外形の寸法は、第2の導電部材に接する基部から先端部に向かって単調に減少している」という事項は、0<z1<z2<hを満足する任意のz1およびz2について、D(z1)≧D(z2)が成立し、かつ、D(0)>D(h)が成立することを言う。ここで、記号「≧」は不等号と等号とを含む。したがって、導電性ロッドは、zが増加してもD(z)の大きさが変化しない部分を有していてもよい。
図19Bは、zの特定範囲内において、zが増加してもD(z)の大きさが変化しない例を示している。このような外形寸法を有する導電性ロッドによっても前述の効果を得ることが可能である。
【0111】
図20Aは、他の例における導電性ロッド124の軸方向(Z方向)を含む平面における断面図である。
図20Bは、
図20Aの導電性ロッド124の軸方向(Z方向)からみた上面図である。この例では、導電性ロッド124の軸方向に垂直な断面の外形は円である。この「断面の外形」は、楕円であってもよい。断面の外形が円である場合、「導電性ロッドの軸方向に垂直な断面の外形の寸法」は、円の直径に一致する。断面の外形が楕円である場合、「導電性ロッドの軸方向に垂直な断面の外形の寸法」は、楕円の長軸長さに等しい。
【0112】
このように「導電性ロッドの軸方向に垂直な断面」が正方形以外の形状を有していても、側面を傾斜させることにより、分岐部および屈曲部でのインピーダンス整合度を高めることができる。
【0113】
なお、導電性ロッド124の先端部124aは、平面である必要はなく、
図21Aおよび
図21Bに示す例のように、曲面であってもよい。
【0114】
図22A、
図22Bおよび
図22Cは、導電性ロッド124が有する形状の他の例をす図である。
図22Aは導電性ロッド124のXZ面に平行な断面を、
図22Bは導電性ロッド124のYZ面に平行な断面、
図22Cは導電性ロッド124のXY面に平行な断面を示している。この例において、導電性ロッド124の軸方向に垂直な断面の外形は、
図22Cに示されるように、長方形である。
図22Aおよび
図22Bに示されるように、この例における導電性ロッド124が有する4つの側面124sa、124sb、124sc、124sdのうち、側面124sa、124sbは傾斜しておらず、他の側面124sc、124sdのみが傾斜している。
【0115】
図23Aは、さらに他の例における導電性ロッド124の軸方向(Z方向)を含む平面における断面図である。
図23Bは、
図23Aの導電性ロッド124の軸方向(Z方向)からみた上面図である。この例おける導電性ロッド124は、段差を有している。「導電性ロッドの軸方向に垂直な断面」の寸法が局所的に急峻に変化している。本願では、このような形状も、「導電性ロッドの軸方向に垂直な断面の外形の寸法は、第2の導電部材に接する基部から先端部に向かって単調に減少している」という事項を満たしている。
【0116】
上記の実施形態では、それぞれの第2の導電部材120上に配列されている複数の導電性ロッド124が同一の形状を有している。しかし、本開示の導波路装置は、そのような例に限定されない。人工磁気導体を構成する複数の導電性ロッド124が相互に異なる形状および/またはサイズを有していてもよい。また、
図24に示すように、導波部材122に隣接する導電性ロッド124のみについて、前述した特殊な形状を付与してもよい。また、導波部材122の分岐部または屈曲部でのインピーダンス整合度には影響を与えない位置にある導電性ロッドについて、従来の導電性ロッドと同じ形状を与え、分岐部または屈曲部でのインピーダンス整合度に影響を与える位置にある導電性ロッドについてのみ、上述した特殊な形状を付与してもよい。具体的には、導波部材122の「分岐部または屈曲部に隣接する導電性ロッド」の軸方向に垂直な断面の外形の寸法が、基部から先端部に向かって単調に減少していればよい。ここで、「分岐部または屈曲部に隣接する導電性ロッド」とは、着目する導電性ロッドと「分岐部または屈曲部」との間に、着目する導電性ロッド以外の導電性ロッドが存在しない場合の、当該「着目する導電性ロッド」であると定義する。
【0117】
<各部材の寸法等の例>
次に、各部材の寸法、形状、配置などの例を説明する。
【0118】
本実施形態における導波路装置は、所定の帯域(「動作周波数帯域」と称する。)の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。本明細書において、第1の導電部材110の導電性表面110aと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。
【0119】
各部材の寸法、形状、配置などの例は、以下のとおりである。
【0120】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の先端部における上面の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの上面の幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0121】
(2)導電性ロッドの基部から第1の導電部材の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから第1の導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0122】
導電性ロッド124の基部124bから第1の導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8934mmから3.9446mmの範囲内である。したがって、この場合、λmは3.8934mmとなるので、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔は、3.8934mmの半分よりも小さい。第1の導電部材110と第2の導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、第1の導電部材110と第2の導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、第1の導電部材110および/または第2の導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していてもよい。他方、第1および第2の導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
【0123】
(3)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。本実施形態のように、隣接する2つのロッド124が先細の形状を有する場合、この隙間の幅が最大になる先端部において、λm/2未満であればよい。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0124】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要はなく、行および列は90度以外の角度で交差していてもよい。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要はなく、単純な規則性を示さずに分散して配置されていてもよい。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、第2の導電部材120上の位置に応じて変化していてよい。
【0125】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要はなく、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0126】
さらに、導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波路装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0127】
(4)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλo/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0128】
(5)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(Z方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの距離がλm/2以上となるからである。同様に、導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さについても、λm/2未満に設定される。
【0129】
(6)導波面と導電性表面との間の距離
導波部材122の導波面122aと導電性表面110aとの間の距離については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110aとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
【0130】
導電性表面110aと導波面122aとの距離の下限、および導電性表面110aとロッド124の先端部124aとの距離の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)技術を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
【0131】
上記の構成を有する導波路装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と第1の導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと第1の導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、第1の導電部材110と第2の導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって接続する必要もない。
【0132】
3.アンテナ装置
以下、本開示の製造方法により製造された高周波部材を用いた導波路装置の応用例を説明する。一例として、そのような導波路装置を備えたアンテナ装置の、限定的ではない例示的な実施形態を説明する。
【0133】
図25Aは、16個のスロット(開口部)112が4行4列に配列されたアンテナ装置(アレーアンテナ)のZ方向からみた上面図である。
図25Bは、
図25AのB−B線断面図である。図示されるアンテナ装置においては、放射素子(アンテナ素子)として機能するスロット112に直接的に結合する導波部材122Uを備える第1の導波路装置100aと、第1の導波路装置100aの導波部材122Uに結合する他の導波部材122Lを備える第2の導波路装置100bとが積層されている。第2の導波路装置100bの導波部材122Lおよび導電性ロッド124Lは、第3の導電部材140上に配置されている。第2の導波路装置100bは、基本的には、第1の導波路装置100aの構成と同様の構成を備えている。
【0134】
第1の導波路装置100aにおける第1の導電部材110には、各スロット112を囲む側壁114が設けられている。側壁114は、スロット112の指向性を調整するホーンを形成している。この例におけるスロット112の個数および配列は、例示的なものに過ぎない。スロット112の向きおよび形状も、図示される例に限定されない。ホーンの側壁114の傾斜の有無および角度、ならびにホーンの形状も、図示されている例に限定されない。
【0135】
図26は、第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uの平面レイアウトを示す図である。
図27は、第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図から明らかなように、第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していないが、第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lは分岐部および屈曲部の両方を有している。導波路装置の基本構成として、第2の導波路装置100bにおける「第2の導電部材120」と「第3の導電部材140」との組み合せは、第1の導波路装置100aにおける「第1の導電部材110」と「第2の導電部材120」との組み合せに相当する。
【0136】
図示されているアレーアンテナで特徴的な点は、各導電性ロッド124Lの形状が
図13Aおよび
図13Bに示される形状を有していることにある。このため、導波部材122Lの分岐部および屈曲部でのインピーダンス整合度が向上している。
【0137】
なお、導電性ロッド124Lの形状は、
図13Aおよび
図13Bに示される例に限定されない。前述したように、導電性ロッド124Lの形状、サイズおよび配列パターンは多様であり得る。
【0138】
再び
図26および
図27を参照する。第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uは、第2の導電部材120が有するポート(開口部)145Uを通じて第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lに結合する。言い換えると、第2の導波路装置100bの導波部材122Lを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第1の導波路装置100aの導波部材122Uに達し、第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬することができる。このとき、各スロット112は、導波路を伝搬していきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット112に入射すると、その電磁波はスロット112の直下に位置する第1の導波路装置100aの導波部材122Uに結合し、第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬する。第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第2の導波路装置100bの導波部材122Lに達し、第2の導波路装置100bの導波部材122Lを伝搬することも可能である。第2の導波路装置100bの導波部材122Lは、第3の導電部材140のポート145Lを介して、外部にある導波路装置または高周波回路(電子回路)に結合され得る。
図27には、一例として、ポート145Lに接続された電子回路200が示されている。電子回路200は、特定の位置に限定されず、任意の位置に配置されていてよい。電子回路200は、例えば、第3の導電部材140の背面側(
図25Bにおける下側)の回路基板に配置され得る。このような電子回路は、例えば、ミリ波を生成するMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)であり得る。
【0139】
図25Aに示される第1の導電部材110を「放射層」と呼ぶことができる。また、
図26に示される第2の導電部材120、導波部材122U、および導電性ロッド124Uの全体を「励振層」と呼び、
図27に示される第3の導電部材140、導波部材122L、および導電性ロッド124Lの全体を「分配層」と呼んでもよい。また「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼んでもよい。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。
【0140】
この例におけるアレーアンテナでは、
図25Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現している。例えば、
図25Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下に設定することができる。
【0141】
図27に示される導波部材122Lによれば、第3の導電部材140のポート145Lから第2の導電部材120の各ポート145U(
図26参照)までの、導波路に沿った距離が、すべて、等しい値に設定されている。このため、第3の導電部材140のポート145Lから、導波部材122Lに入力された信号波は、第2の導電部材120の4つのポート145Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、第2の導電部材120上に配置された4個の導波部材122Uは、同位相で励振され得る。
【0142】
なお、アンテナ素子として機能する全てのスロット112が同位相で電磁波を放射する必要はない。励振層および分配層における導波部材122のネットワークパターンは任意であり、各導波部材122が互いに異なる信号を独立して伝搬するように構成されていてもよい。
【0143】
この例における第1の導波路装置100aの導波部材122は分岐部も屈曲部も有していないが、励振層として機能する導波路装置が分岐部および屈曲部の少なくとも一方を有する導波部材を備えていてもよい。前述したように、導波路装置内の全ての導電性ロッドが同様の形状を有している必要はない。
【0144】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の高周波部材の製造方法を含む。
【0145】
[項目1]
ワッフルアイアン構造による高周波の閉じ込め装置を構成するための高周波部材の製造方法であって、
平面または曲面形状の主表面と、前記主表面から離れる方向に延びる複数のロッドと、を有する板形状またはブロック形状の中間部材であって、前記複数のロッドの内の何れか1つのロッドの側面と、前記1つのロッドに隣接する他のロッドの側面との間隔が、前記主表面から離れるに従って単調に拡大する中間部材を用意する工程と、
前記中間部材の少なくとも一部をメッキ液に浸漬して、前記主表面および前記複数のロッドの表面に導電性のメッキ層を形成する工程と、
を含む、高周波部材の製造方法。
【0146】
[項目2]
前記複数のロッドの内の何れか1つのロッドの側面と、前記1つのロッドに隣接する他のロッドの側面との間の間隔は2mm未満である、
項目1に記載の高周波部材の製造方法。
【0147】
[項目3]
前記複数のロッドの各々は平坦な上面を有し、
前記複数のロッドの各々の側面は、各々の基部において第1の曲面を介して前記主表面に接続し、
前記第1の曲面の曲率半径は、前記複数のロッドの各々の上面が側面と接続する部分の曲率半径よりも大きい、
項目1または2に記載の高周波部材の製造方法。
【0148】
[項目4]
前記中間部材の何れかの部分の表面に対する前記メッキ液の接触角は、0度よりも大きく、かつ90度よりも小さい、
項目1から3の何れかに記載の高周波部材の製造方法。
【0149】
[項目5]
前記中間部材は、前記メッキ液に浸漬された際に、前記主表面の広がる方向が、重力の方向に平行、または重力の方向と45度以下の大きさの角を成す姿勢に配置される、
項目1から4の何れかに記載の高周波部材の製造方法。
【0150】
[項目6]
前記中間部材は前記主表面に沿って延びるリッジを有し、
前記リッジは頂部に平坦なストライプ形状の上面を有し、
前記複数のロッドの内の少なくとも一部は前記リッジの側面を囲み、
前記リッジの側面と前記リッジの側面を囲む前記少なくとも一部のロッドの側面との間の距離は、前記主表面から離れるに従って単調に拡大する、
項目1から5の何れかに記載の高周波部材の製造方法。
【0151】
[項目7]
前記リッジの側面は、基部において第2の曲面を介して前記主表面に接続し、
前記第2の曲面の曲率半径は、前記リッジの上面と前記リッジの側面が接続する部分の曲率半径よりも大きい、
項目6に記載の高周波部材の製造方法。
【0152】
[項目8]
前記メッキ層を形成する工程は、前記リッジの側面および上面に導電性のメッキ層を形成することを含み、
前記メッキ層の内、前記リッジの上面を覆う部分の厚さは、前記リッジの基部と前記リッジに隣接する前記ロッドとの間に位置する前記中間部材の前記主表面を覆う部分の厚さよりも厚い、
項目6または7に記載の高周波部材の製造方法。
【0153】
[項目9]
前記中間部材を用意する工程は、射出成形を利用して樹脂製の前記中間部材を得ることを含み、
前記射出成形において使用される金型は、
前記リッジの側面と同じ形状の内周面を有する空隙を構成する一つまたは複数の側面金型と、
前記リッジの上面と同じ形状の面を有する一つまたは複数の端面金型と、
を含み、
前記一つまたは複数の端面金型が前記一つまたは複数の側面金型によって構成される前記空隙の一端を閉塞した状態で、前記射出成形が行われる、
項目6から8の何れかに記載の高周波部材の製造方法。
【0154】
[項目10]
ワッフルアイアン構造による高周波の閉じ込め装置を構成するための高周波部材の製造方法であって、
平面または曲面形状の主表面と、前記主表面から離れる方向に延びる複数のロッドと、
を有する板形状またはブロック形状の中間部材であって、前記複数のロッドの少なくとも1つは、角が面取りされた角柱形状、または円柱形状を有する、中間部材を用意する工程と、
前記中間部材の少なくとも一部をメッキ液に浸漬して、前記主表面および前記複数のロッドの表面に導電性のメッキ層を形成する工程と、
を含む、高周波部材の製造方法。
【0155】
[項目11]
前記中間部材は前記主表面に沿って延びるリッジを有し、
前記複数のロッドは、前記リッジの両側に分布し、
前記リッジは、直線的に延びる2つの直線部と、前記2つの直線部を繋ぎ曲線的に曲がる曲線部とを含み、
前記複数のロッドの内、前記曲線部の内側において前記曲線部に最も近いロッドは、前記角が面取りされた角柱形状または前記円柱形状を有する、
項目10に記載の高周波部材の製造方法。
【0156】
[項目12]
前記曲線部に最も近い前記ロッドの側面と、前記リッジの側面との距離は、前記距離が最短になる前記ロッドの一部分から前記ロッドの周方向に沿って離れるに従って、単調に増加する、
項目11に記載の高周波部材の製造方法。
【0157】
[項目13]
前記曲線部に最も近い前記ロッドの側面の曲率は、前記リッジの前記曲線部の曲率よりも大きい、項目11に記載の高周波部材の製造方法。
前記曲線部に最も近い前記ロッドの側面と、前記リッジの側面との距離は、前記距離が最短になる前記ロッドの一部分から前記ロッドの周方向に沿って離れるに従って、単調に増加する、
請求項11に記載の高周波部材の製造方法。