(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-517730(P2020-517730A)
(43)【公表日】2020年6月18日
(54)【発明の名称】心的外傷後ストレス障害を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/485 20060101AFI20200522BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20200522BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20200522BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20200522BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20200522BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20200522BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20200522BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20200522BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20200522BHJP
【FI】
A61K31/485
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/18
A61K9/08
A61K9/06
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2019-559072(P2019-559072)
(86)(22)【出願日】2018年4月25日
(85)【翻訳文提出日】2019年11月28日
(86)【国際出願番号】US2018029257
(87)【国際公開番号】WO2018200607
(87)【国際公開日】20181101
(31)【優先権主張番号】62/489,501
(32)【優先日】2017年4月25日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】519381780
【氏名又は名称】ヒレル グラバー
【氏名又は名称原語表記】Hillel GLOVER
(71)【出願人】
【識別番号】519381791
【氏名又は名称】エリオット ハーン
【氏名又は名称原語表記】Elliot HAHN
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100217412
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 亜子
(72)【発明者】
【氏名】ヒレル グラバー
(72)【発明者】
【氏名】エリオット ハーン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA16
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA72
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB31
4C076CC01
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB23
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZA02
4C086ZA12
4C086ZA18
(57)【要約】
オピオイド拮抗薬のナルメフェンを、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された患者に投与するための、新規な用量漸増手法が開示され記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された患者を治療するための方法であって、前記方法が、
a)1日当たり100mgの開始用量を、PTSDと診断されたか、又はPTSDの症状を有する患者に投与することと、
b)1日当たり100mgまでの用量を、2〜5日間毎に、最大1日当たり1000mgまで増加させることと、を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、工程a)の前記初期用量が、50mgで1日2回を含む分割用量で投与される方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、工程b)の前記増加用量が、50mgで1日2回の分割用量スケジュールで投与される方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記用量が、3〜4日毎に増加される方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記PTSDと診断された患者が、前記患者によって体験される前記PTSDの症状を軽減又は逆転させる方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記軽減又は逆転される症状が、感情的麻痺、ポジティブな感情を体験することが持続的にできないこと(例えば、幸福、満足、又は愛情を体験することができないこと)、重要な活動への関心又は参加の著しい減退、及び他者から孤立しているか、又は疎外になっている感覚からなる群から選択される方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記患者が、ナルメフェンの投与後に、オピオイド離脱症状を体験しない方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、ナルメフェンの前記投与が、変動する気分状態の発生の回避をもたらす方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記気分状態が、不安、敵意並びに怒り、うつ、及び妄想症からなる群から選択される方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記投与されるナルメフェンが、静脈内注射製剤、筋肉内注射製剤、皮下注射製剤、局所製剤、経皮製剤、及び経口剤形製剤からなる群から選択される剤形で製剤化される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オピオイド拮抗薬であるナルメフェンを心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された患者に投与するための新規な用量漸増手法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナルメフェンは、主として、アルコール依存症の管理で使用されている。これはまた、ギャンブル依存症などの他の依存症状の治療についても研究されている。
【0003】
ナルメフェンは、オピイド拮抗薬のナルトレキソンに構造及び活性の両方で類似するオピエート誘導体である。ナルトレキソンに対するナルメフェンの有利性としては、半減期がより長いこと、経口バイオアベイラビリティが向上していること、及び用量依存性肝毒性が観察されないことが挙げられる。この種の他の薬物と同様に、ナルメフェンは、オピオイド薬に依存している患者における急性離脱症状を引き超し得るか、又はより稀には、術後使用される場合、手術で使用された強力なオピオイドの影響を中和し得る。
【0004】
ナルメフェンの静脈内投与は、オピエートの過剰摂取によって生じた呼吸抑制を抑えることで有効であることが示されている。1.5mgを超える用量は、この適用においては、いかなるより大きな利益も与えるようには思われない。
【0005】
1988〜1990年の間に、オープンラベルのパイロット試験において、ナルメフェンが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された18人の退役軍人に投与された。公開されたパイロット試験は、1ミリグラムの1日2回の最低用量で開始し、最大200ミリグラムの1日2回まで漸進的に増加させる低用量の投与を報告した。
【0006】
この試験の仮説は、ナルメフェン(カッパオピエート受容体における活性を有するオピエート拮抗薬)が、PTSDと診断された患者において観察される感情的麻痺の主観的体験を逆転させるであろうということであった。感情的麻痺を患う患者はまた、ポジティブな感情を体験することが持続的にできないこと(例えば、幸福、満足、又は愛情を感じることができないこと)、重要な活動への関心又は参加の著しい減退、及び他者から孤立しているか、又は疎外になっている感覚を有する可能性があることも示し得る。
【0007】
感情的に麻痺している患者によって報告され得る他の関連する主観的体験としては、感情の鈍麻、シャットダウン、空虚及び/又は虚無感を挙げることができる。これらの主観的体験は、自分自身及び他者の幸福への配慮及び関心の不足の程度に関連している。
【0008】
試験結果に基づくと、ナルメフェンは、感情的麻痺の症状を著しく軽減し、場合によっては減退させ、他者に対する共感、愛情、配慮及び関心を含む様々な正常なヒトの反応を体験する退役軍人の能力を容易にすることが観察された。予期せぬことに、この薬物は、悪夢、フラッシュバック、侵入的想起;感情的な苦悩又は行動の回避の症状発現なしに戦闘体験に関連する話題に係ることができないこと;解離性健忘;他者への不信;外傷事象に関連する過覚醒の状態及び反応性を含むPTSDの全ての中核症状を著しく改善することも見出された(Diagnostic Statistical Manual−5,American Psychiatric Association,pub,2013)。パイロット試験の結果は、Israel Journal of Psychiatry,volume 30,issue 4,November 1993に公開されている。
【0009】
改善されたより高い投薬漸増スケジュールは、PTSDを患う患者により大きな利益を予想外にもたらすことができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの目的は、ナルメフェンの投与のためのより高い用量漸増スケジュールを採用することにより、PTSDと診断された患者に改善された利益を提供することである。本発明のナルメフェン投薬漸増スケジュールによれば、ナルメフェンは、パイロット試験で公開された投薬スケジュールよりも高い初期用量で投与され、上述したものと同じ規則的間隔でのより高い用量増分でナルメフェンを投与する。具体的には、本発明は、ナルメフェンを、PTSD患者に、1日当たり100ミリグラムの初期用量で、好ましくは1日2回の50ミリグラムの用量を用いて、1日当たり100mg(50mgを1日2回)を3〜4日毎に増加させるが、1日当たり1000mg(500mgを1日2回)を超えない量で経口投与することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、投薬漸増スケジュールに基づいて、ナルメフェンを、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された患者に、1日当たり100mgの開始用量、好ましくは、50mgの1日2回の分割用量を使用して投与することと、1日当たり100mg〜150mgまでの用量を、2〜5日毎に、最大1日当たり1000mg1日量まで増加させることと、を含む。
【0012】
本投薬漸増スケジュールは、好ましくは、1日当たり100mgの初期用量から3〜4日毎に増加させる。各増加は、好ましくは、50mgの1日2回の分割用量で、1日当たり100mgである。
【0013】
好ましい実施形態では、ナルメフェンは、経口液状又は固形状(例えば、錠剤又はカプセル剤)製剤として投与される。別の実施形態では、ナルメフェンは、静脈内注射、皮下注射、又は筋肉内注射製剤として投与される。更に別の実施形態では、ナルメフェンは、局所製剤として、例えば、クリーム、ゲル、軟膏などとして局所投与され、又は経皮パッチ製剤を用いて経皮投与される。このような製剤のそれぞれにおいて、ナルメフェンは、即時放出性又は徐放性剤形に製剤化することができる。
【0014】
ナルメフェンのより高い用量漸増スケジュールを用いた追加の研究は、限定されないが下記が含まれる、この用量増加投与スケジュールから得られる、いくつかの予想外の臨床的利点を明らかにした。
【0015】
PTSD症状が軽減又は逆転されるナルメフェンの最適用量は、PTSDと診断された個体について、2〜3週間以内に達成することができる。軽減又は逆転されたPTSDの症状は、患者の臨床的観察と、患者による軽減又は逆転された症状の報告との両方に基づく。
【0016】
少なくとも50mgを1日2回のより高い用量でこの薬物を投与することが、オピエート離脱症状の発現を予想外に回避することが発見された。
【0017】
この試験の仮説は、感情的な麻痺が、内因性オピエート媒介現象であるということであった。オピエート拮抗薬を、感情的麻痺の感覚を頻繁に報告していたPTSDと診断された退役軍人の群に投与することが、オピエート離脱の症状に関連するであろうことが十分に予想され、このようなオピエート離脱症状は、自己申告されるように、患者によって予想された。
【0018】
本発明の投薬スケジュールは、用量の増加によって、変動する気分状態(例えば、不安、敵意並びに怒り、うつ、及び妄想症)の発生の回避に成功した。
【0019】
PTSD患者の精神状態は、本発明による用量投与スケジュールを用いて、より短期間で安定化し、この投与スケジュールは、患者の協力を最大限に生かし、及び/又は患者の治療からの中途脱落の可能性を最小限に抑えた。
【0020】
加えて、およそ50ミリグラムの1日2回の用量の3〜4日毎の増加はまた、50ミリグラムの1日2回を大幅に超える用量増分で観察された頻繁且つ激しい気分のむらの発現などの有害反応の可能性を回避するはずである。
【国際調査報告】