特表2020-521040(P2020-521040A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-521040(P2020-521040A)
(43)【公表日】2020年7月16日
(54)【発明の名称】超合金スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20200619BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20200619BHJP
   B22F 3/14 20060101ALN20200619BHJP
【FI】
   C23C14/24 E
   C22C19/00 L
   B22F3/14 101B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-557473(P2019-557473)
(86)(22)【出願日】2018年4月19日
(85)【翻訳文提出日】2019年11月29日
(86)【国際出願番号】EP2018060046
(87)【国際公開番号】WO2018193036
(87)【国際公開日】20181025
(31)【優先権主張番号】00534/17
(32)【優先日】2017年4月21日
(33)【優先権主張国】CH
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】507269681
【氏名又は名称】エーリコン・サーフェス・ソリューションズ・アーゲー・プフェフィコン
(71)【出願人】
【識別番号】515319954
【氏名又は名称】プランゼー コンポジット マテリアルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ポルシク
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン・ラム
【テーマコード(参考)】
4K018
4K029
【Fターム(参考)】
4K018AA09
4K018AA10
4K018BA04
4K018BB04
4K018BD09
4K018EA21
4K018FA24
4K018KA29
4K018KA63
4K029AA07
4K029AA24
4K029BA25
4K029CA01
4K029CA02
4K029CA13
4K029DB04
4K029DD06
4K029FA04
(57)【要約】
本発明は、超合金ターゲットがランダムな結晶粒配向の多結晶構造を有し、構造内の平均粒径が20μm未満であり、構造内の多孔率が10%未満である、超合金ターゲットを含む。更に、本発明は、粉末冶金製造によって超合金ターゲットを製造する方法を含み、粉末冶金製造は、超合金の合金粉末から開始し、合金粉末を放電プラズマ焼結(SPS)する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
−ランダムな結晶粒配向の多結晶構造を有し、
−前記構造内の平均粒径が20μm未満であり、
−前記構造内の多孔率が10%未満である、
超合金ターゲット。
【請求項2】
前記超合金が、コバルトを主要な金属成分とするCo基超合金であることを特徴とする、請求項1に記載の超合金ターゲット。
【請求項3】
前記Co基超合金が、合金元素としてC、Cr、W、Ni、Ti、Al、Ir及びTaのうちの少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする、請求項2に記載の超合金ターゲット。
【請求項4】
前記超合金が、ニッケルを主要な金属成分とするニッケル基超合金であることを特徴とする、請求項1に記載の超合金ターゲット。
【請求項5】
前記Ni基超合金が、合金元素としてCr、Fe、Co、Mo、W、Ta、Al、Ti、Zr、Nb、Re、Y、V、C、B及びHfのうちの少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする、請求項4に記載の超合金ターゲット。
【請求項6】
前記超合金がアルミナイド基合金であることを特徴とする、請求項1に記載の超合金ターゲット。
【請求項7】
前記アルミナイド基超合金が、TiAl基超合金、Ni−アルミナイド、Fe−アルミナイド、Hf−アルミナイド、Cr−アルミナイド、Nb−アルミナイド、Ta−アルミナイド、Pt−アルミナイド又はZr−アルミナイドであることを特徴とする、請求項6に記載の超合金ターゲット。
【請求項8】
結晶学的コヒーレンス及びエピタキシーに関して、前記超合金ターゲットが主に同じ1つの結晶構造を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の超合金ターゲット。
【請求項9】
前記超合金が、Ni基超合金又はCo基超合金であり、fcc結晶構造の割合が80〜99%の範囲であることを特徴とする、請求項8に記載の超合金ターゲット。
【請求項10】
前記超合金ターゲットが、同様の格子定数を有する異なる金属間相を含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の超合金ターゲット。
【請求項11】
前記超合金ターゲットが、析出物を含むことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の超合金ターゲット。
【請求項12】
未使用のターゲットのXRDパターンが、fcc立方としてインデックス付けできる主要なピークを示し、前記操作されたターゲットのXRDパターンが、前記未使用のターゲット表面で観察されたのと同様のfcc立方相を示すことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の超合金ターゲット。
【請求項13】
粉末冶金製造による超合金ターゲットの製造方法であって、前記粉末冶金製造が、超合金の合金粉末から開始し、
−合金粉末を放電プラズマ焼結(SPS)する工程
を含む、製造方法。
【請求項14】
前記放電プラズマ焼結が、液相の形成を伴わずに1000〜1350℃の温度範囲で行われることを特徴とする、請求項13に記載の超合金ターゲットの製造方法。
【請求項15】
前記超合金ターゲットの相の合成が、前記粉末の製造中に行われることを特徴とする、請求項13又は14に記載の超合金ターゲットの製造方法。
【請求項16】
前記粉末組成物が、真空下で2つのグラファイトパンチの間のグラファイトダイで加圧され、DC電流又はパルスDC電流が同時に印加されることを特徴とする、請求項13から15のいずれか一項に記載の超合金ターゲットの製造方法。
【請求項17】
前記合金粉末が、超合金の中実体を粉砕することにより製造されることを特徴とする、請求項13から16のいずれか一項に記載の超合金ターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超合金(SA)材料の分野、特に請求項1に記載の超合金スパッタリングターゲット、及び請求項11に記載の粉末冶金製造による超合金ターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超合金は、優れた機械的強度、熱クリープ変形に対する耐性、良好な表面安定性及び耐腐食性又は耐酸化性等、いくつかの重要な特性を示す。結晶構造は通常、面心立方オーステナイトである。そのような合金の例は、ハステロイ、インコネル、ワスパロイ、ルネ合金、ヘインズ合金、インコロイ、MP98T、TMS合金及びCMSX単結晶合金である。超合金は固溶強化により高温強度が発現する。重要な強化メカニズムは、ガンマプライムやカーバイド等の二次相析出物を形成する析出強化である。耐酸化性又は耐腐食性は、アルミニウムやクロム等の元素によって提供される。基本的に、2種の超合金があり、一方は、コバルトを主要な金属成分とするCo基超合金であり、例えば、合金元素としてC、Cr、W、Ni、Ti、Al、Ir、及びTaを有し、他方は、今日まで最も重要なクラスであり、ニッケルを主要な金属成分とするNi基超合金であり、例えば、Cr、Fe、Co、Mo、W、Ta、Al、Ti、Zr、Nb、Re、Y、V、C、B、又はHfは、この超合金グループで使用される合金添加物のほんの一例である。本発明の1つの焦点は、概して超合金の熱及び摩耗特性を改善することであり、特に、航空及び産業用ガスタービン(IGT)用途用の高圧及び低圧タービン部品等の用途であり、これにより、PWA 1483やCM 247−DS等のNi基超合金でいくつかの実験が成功裏に行われた。更に、γ−TiAlのようなTiAl基超合金としてアルミナイド基合金、又は更に、ラネーニッケルとしても知られるNiAl又はNiAlとしてNi−アルミナナイド、Fe−アルミナイド、Hf−アルミナイド、Cr−アルミナイド、Nb−アルミナイド、例えば、NbAl又はNbAl、Ta−アルミナイド、例えば、TaAl又はTaAl、Pt−アルミナイド、Zr−アルミナイド等を含むアルミナイド形成性高温及び高耐摩耗性合金が、ここでは超合金組成物として理解される。
【0003】
放電プラズマ焼結(SPS)は粉末冶金の製造法であり、これにより、粉末組成物は、好ましくは、例えば真空下で2つのグラファイトパンチの間のグラファイトダイで加圧され、DC電流又は任意にパルスDC電流が同時に2つのパンチ間に印加されて、この場合ターゲットの製造されるワークピースの成形プロセスを支援する。それにより、DC電流又はパルスDC電流は、超合金等の導電性サンプルの場合、グラファイトダイ及び粉末成形体を直接通過する。したがって、外部の発熱体によって熱が提供される従来のホットプレスとは対照的に、発熱は内部で発生する。これにより、従来の焼結技術と比較して低い焼結温度でほぼ理論密度に達し、非常に高い加熱又は冷却速度(最大1000K/分)を促進するため、焼結プロセスは一般に非常に高速である(数分以内)。プロセスの一般的な速度により、標準の高密度化ルートに伴う粗大化を回避しながら、ナノサイズ又はナノ構造の粉末を高密度化できる可能性があることを確実にする。例として、このような手順の場合、最大1500Aの強度及び25Vの低電圧の一連の3ミリ秒のDC電流パルスを、粉末サンプルとプレスツールに直接渡すことができる。
【0004】
高温、酸化及び腐食環境で使用される材料の研究は、航空機、ガスタービン及び燃焼エンジンにおける適用のための継続的な努力である。最終的に異なる利用、設計及び寸法における差異にもかかわらず、これらの業界の傾向は、燃料消費を削減するだけでなく、CO排出に関するより厳格な規制に準拠するためのエンジン効率の継続的な改善という同じ目標に向かっている。これは、より高い温度でエンジンを運転することを意味し、その結果、タービンエンジンの様々なセクションの過酷な環境で動作する、より堅牢で安定した耐性のある基材の必要性が高まっている。超合金や複合材料等の最先端の材料を使用しても、高い動作温度での耐酸化性、耐摩耗性、耐食性、耐腐食性を高めて部材の寿命を改善する場合、コーティング技術を回避することはできない。何十年も前に導入されたコーティング技術は十分に確立されており、新しいプロセス並びに新しいコーティング材料の使用により継続的に改善されているという事実にもかかわらず、エンジン部品で製造されるコーティングシステムは複雑さが増している。したがって、例えば、層間の相互作用、表面製造の方法、熱処理及び拡散の問題は益々重要になっている。更に、次世代エンジンの要件は、これらの既存の技術には限界があり、必要な特性を提供できないため、非常に困難である。ガスタービンの典型的なコーティングシステムは、一般に、ボンドコート、熱成長酸化物及びトップセラミック層からなるいくつかの層で構成されている。タービンを酸化から保護するために使用されるボンドコートは、通常、PtAlの拡散プロセス、MCrAlYの電子ビーム物理蒸着(EB−PVD)又は低圧プラズマ溶射(LPPS)によって生成される。ボンドコート及びトップセラミック層は、いわゆる遮熱コーティング(TBC)を形成する。トップセラミックコーティングは、多孔質コーティングとして大気圧プラズマ溶射(APS)により、又は柱状コーティングとしてEB−PVDにより生成される。ボンドコートの設計は、2つの高機能の境界面:超合金基板に広い温度範囲で機械的安定性を保証する一方の境界面、及び多孔質酸化物に優れた酸素バリアを提供する他方の境界面、を実現する必要があるため困難である。これは、ボンドコートの合理的な設計だけでなく、コーティング系(層のスタック)の製造において高い再現性も必要であることを示唆する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Applied Crystallography 42 (2009) 726−729
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、目的は、現況技術の方法の欠点、例えば、PtAlのような高価なコーティング材料の使用、及び蒸気圧の異なる元素で構成されるコーティングを付与する必要がある場合には複雑で扱いにくいEB−PVDのようなプロセスの使用等を回避することにより、超合金の既知のコーティングプロセスを改善及び簡素化することである。更なる目的は、例えば、現況技術のコーティングシステムの限界及び不可能性を克服するために、全体的な性能に関して既存のコーティングを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、目的は、
−PVDコーティングユニットに超合金(SA)基板を提供する工程と、
−コーティングユニットのアーク蒸発源のカソードとして超合金ターゲットを提供する工程と、
−基板に基板バイアスをかける工程と、
−超合金ターゲットからの真空アーク蒸着により、基板の表面に超合金の境界面層(IF−1)を蒸着する工程と、
−酸素を含む反応性ガス供給物をコーティングユニットに提供する工程と、
−真空アーク蒸着により、同じ超合金又は異なる金属組成物の遷移層(TL)を蒸着し、ここで、プロセス雰囲気中で反応ガスの分圧を変化させることによって層の酸素含有量を(IF−1)から表面に向かって、例えば、反応性ガスの分圧を上昇及び/又は変化させることにより、層の酸素含有量を(IF−1)から表面に向かって増加させることによって変化させる工程と、
−遷移層(TL)の蒸着と同様に、反応性ガスをより高濃度で含むプロセス雰囲気中での真空アーク蒸着により、遷移層に続いて、遷移層内よりも多量の超合金酸化物又は異なる金属酸化物組成物を含むバリア層(IF−2)を蒸着する工程と、
を含む、コーティング方法を開示することである。
【0008】
遷移層内の酸素含有量の変化は、酸素含有反応性ガスの流れを段階的又はランプ状に増加/変化させることにより、及び/又はアーク源の出力を変化させることにより行うことができる。通常、酸素(O)ガスが反応性ガスとして使用されるが、オゾン(O)等の任意の他の揮発性酸素含有化合物を使用することもできる。
【0009】
そのようなコーティングプロセスは、超合金と本質的に同じ組成を有する超合金ターゲットを使用することにより実行できる。それにより、ターゲット生成のための粉末組成物は、コーティングされる超合金の組成に従って選択され、超合金自体と本質的に同じ組成のターゲットを生成する。この場合のターゲットに関する本質的に同じ組成とは、SPS又は他の粉末冶金法により製造された場合、製造、及び/又は例えばEDX測定の効果によって、例としてPWA1483ではNi、Co、Crのような、粉末混合物の約9%以上の重量パーセントを構成する主な元素が、元の粉末組成物に対して±20%以下、好ましくは±10%以下の差しかないことを意味する。同様のことが、反応性又は非反応性プロセスで使用されるターゲットにも該当し、これにより、元の粉末組成物との差は、単一の主成分に対してわずかに大きくなる場合がある。同じことが、境界面層(IF−1)の組成と本質的に同じ組成という語の意味にも適用される。とりわけ、Ni−、Al−、C−、Co−、Cr−、Mo−、Ta−、Ti−、及びW粉末を使用して、以下に説明するカソード真空アークコーティングのターゲットを生成した。
【0010】
或いはまた、超合金の中実体を粉砕して適切な粉末を生成し、その後、SPS又は別の粉末冶金法でターゲットを形成することもできる。
【0011】
最も基本的なプロセスでは、ボンドコートの全ての層を蒸着させるために同じ超合金ターゲットが使用され、プロセスガスとしてのみ酸素が使用される。
【0012】
更に、プロセス安定性の点から、例えば、液滴の低い形成、完全に適合するIF−1層の構築により、例えば、結晶学的コヒーレンス及び基板へのエピタキシーに関して、主に同じ結晶構造を有するターゲットを提供することが有益であることが証明され、これは、Ni又はCo基超合金の場合、約80〜99%のfcc結晶ターゲット構造を意味する。
【0013】
更なる実施形態では、異なる金属組成物の遷移層及び/又は異なる金属酸化物組成物のバリア層(IF−2)を蒸着させるために、更なる金属組成物を有する少なくとも1つの更なるターゲットが提供される。これは、追加の元素ターゲット又は複合ターゲットをコーティングユニットに提供することで実行できる。これは、超合金ターゲットとの同時アーク放電、及び/又は、更に別の金属組成物のターゲットの少なくとも1つのスタンドアロンアーク放電のいずれかによって行うことができ、それにより、それぞれのコーティングを蒸着させるために、両方のタイプのターゲットを使用する遷移相が好ましい。それにより、更なる金属組成物のターゲットの組成は、異なる金属組成物及び/又は異なる金属酸化物組成物の層が、更なる金属組成物のターゲットから単独で、又は超合金ターゲットとの同時アーク放電によって蒸着できるように選択される。
【0014】
或いは、又は前述の更なる金属組成物のターゲットの使用と組み合わせて、異なる金属組成物の遷移層及び/又は異なる金属酸化物組成物のバリア層(IF−2)を蒸着させるために、超合金ターゲットの真空アーク蒸着と並行して、蒸着する更なる金属を含むガス状前駆体をPVDコーティングユニットに導入することができる。このような前駆体は、不活性ガス又は反応性ガスの供給ラインを使用するか、別のラインでコーティング装置に導入できる。
【0015】
通常、少なくとも遷移層内の主要な金属成分及びIF−2内の主要な金属成分の比率がほぼ同じであるという事実にもかかわらず、例えば、異なる金属組成物の2つ以上のターゲットを同時アーク放電し、1つ又は両方のターゲットのそれぞれのパワーインプットを変化させることにより、又は1つ又は複数のガス状前駆体の流量を変化させることにより、又は前述のそれぞれの方法を組み合わせて適用することにより、任意の金属の比率を、各層の間又は各層内でも段階的又はランプ状に変化させることができることに留意すべきである。このような金属含有量の変動は、特に酸化バリア特性を有する酸化物を形成するときに適用でき、これは、多孔質酸化物の蒸着前に、高アルミニウム含有表面の高温酸化によって形成された標準のTBC設計である。ここで説明する新しいPVDボンドコート設計の目標の1つは、高温酸化をPVDインサイチュプロセスでの酸化物形成に置き換えることである。
【0016】
更なる実施形態では、境界面層(IF−1)は、超合金基板の結晶構造と整合性のある結晶構造で蒸着される。それにより、超合金SAのそれぞれの表面位置の結晶構造を反映するエピタキシャル成長構造でさえ蒸着させることができた。多結晶、一方向凝固(DS)又は単結晶(SX)SA表面に付与される、このような整合性のある、特にエピタキシャル成長した結晶構造は、耐酸化性及び接着性に関してコーティング全体の優れた特性を与えることが証明されている。
【0017】
好ましくは、バリア層(IF−2)の超合金酸化物及び/又は異なる金属組成物の酸化物は、反応性ガス雰囲気中で酸素過剰で蒸着される。金属原子に対する酸素原子の比(=過剰)は、バリア層(IF−2)の蒸着中に蒸発した超合金金属及び/又は異なる金属組成物から、熱力学的に安定な酸化物、特に最も安定な酸化物を形成するために、少なくとも1.5、又は更には少なくとも5であってもよい。それにより、特に、ほとんど又は全ての金属元素及び/又は超合金又は異なる金属組成物の合金に対して、熱力学的に最も安定な相で、本質的に化学量論的な酸化物を含むバリア層を形成できる。このようなバリア層(IF−2)は、例えば、多結晶SAの表面に蒸着した境界面層(IF−1)のほぼランダムな結晶粒配向の多結晶構造とは非常に異なる密な柱状構造を示す。
【0018】
バリア層とは対照的に、境界面層は、プロセスガスなしで純粋な金属蒸気で蒸着できる。
【0019】
或いは、不活性ガス供給物をコーティングユニットに提供して、不活性ガス含有プロセス雰囲気中で境界面層(IF−1)、遷移層及びバリア層(IF−2)のうちの少なくとも1つを蒸着させることができる。
【0020】
プロセス圧力、アーク電流及び基板バイアス等の重要なコーティングパラメータに関して、次のことに留意すべきである。
【0021】
境界面(IF−1)の蒸着に使用されるプロセス圧力範囲は、不活性ガスを使用しない場合、0.1mPa〜100mPaであった。不活性ガスの添加により、圧力は約0.1Pa〜5Paに増加した。境界面層の更なるプロセスパラメータは以下の通りであった:
超合金をターゲットとしたアーク電流:80A〜250A、
基板バイアス:−20V〜−800VDC及びバイポーラパルスバイアス
【0022】
酸素反応性ガス中に遷移層(TL)を蒸着させるために使用されるプロセス圧力範囲は、不活性ガスを添加してもしなくても0.1Pa〜5Paであった。通常、遷移層の蒸着中のプロセス圧力は、境界面(IF−1、上記参照)の蒸着に使用される、反応性ガスのない非常に低いプロセス圧力から、大量の反応性ガスでバリア層(IF−2)を蒸着するプロセス圧力まで、増加した(以下を参照)。
遷移層の更なるプロセスパラメータは以下の通りであった:
超合金をターゲットとしたアーク電流:80A〜200A、
更なる金属組成物をターゲットとしたアーク電流:60A〜200A、
基板バイアス:−20V〜−800DC、及びユニポーラ及びバイポーラパルス。
【0023】
バリア層(IF−2)の蒸着に使用されるプロセス圧力範囲は、不活性ガスを使用しない場合、0.1Pa〜8Paであった。不活性ガスの添加により、圧力は約0.2Pa〜10Paに増加した。
境界面層の更なるプロセスパラメータは以下の通りであった:
超合金をターゲットとしたアーク電流:60A〜200A;
更なる金属組成物をターゲットとしたアーク電流:60A〜220A;
基板バイアス:−20V〜−600VDC、好ましくはユニポーラ又はバイポーラパルス。
【0024】
更なる金属組成物のターゲットの組成は、異なる金属組成物及び/又は異なる金属酸化物組成物の層が、更なる金属組成物の少なくとも1つのターゲットから単独で、又は少なくとも1つの超合金ターゲットとの同時アーク放電によって蒸着できるように選択される。或いは、又は追加として、遷移層及び/又はバリア層に蒸着される更なる金属の少なくとも1つを含む前駆体を使用することができる。
【0025】
本方法にとって、粉末冶金プロセスにより製造された超合金ターゲットを使用することが有益であることが証明された。そのようなプロセスの例は、ホットプレス、熱間等静圧圧縮成形(HIP)、特に放電プラズマ焼結(SPS)である。
【0026】
本発明は、
−超合金ターゲットが、ランダムな結晶粒配向の多結晶構造を有し、
−構造内の平均粒径が20μm未満であり、
−構造内の多孔率が10%未満である、
超合金ターゲットの製造に関する。
【0027】
本発明の更なる実施形態において、超合金ターゲットは、超合金が、コバルトを主要な金属成分とするCo基超合金であることを特徴とする。
【0028】
本発明の更なる実施形態において、超合金ターゲットは、合金元素としてC、Cr、W、Ni、Ti、Al、Ir及びTaのうちの少なくとも1つの元素を含むCo基超合金から作製される。
【0029】
本発明の更なる実施形態において、超合金ターゲットは、超合金が、ニッケルを主要な金属成分とするNi基超合金であること特徴とする。
【0030】
本発明の更なる実施形態において、超合金ターゲットは、合金元素としてCr、Fe、Co、Mo、W、Ta、Al、Ti、Zr、Nb、Re、Y、V、C、B及びHfのうちの少なくとも1つの元素を含むNi基超合金から作製される。
【0031】
本発明の更なる実施形態では、超合金ターゲットは、超合金がアルミナイド基合金であることを特徴とする。
【0032】
本発明の更なる実施形態では、超合金ターゲットは、アルミナイド基超合金、TiAl基超合金、Ni−アルミナイド、Fe−アルミナイド、Hf−アルミナイド、Cr−アルミナイド、Nb−アルミナイド、Ta−アルミナイド、Pt−アルミナイド又はZr−アルミナイドから作製される。
【0033】
本発明の更なる実施形態では、超合金ターゲットは、結晶学的コヒーレンス及びエピタキシーに関して、主に同じ結晶構造を有する。
【0034】
本発明の更なる実施形態では、超合金ターゲットは、Ni基超合金又はCo基超合金であり、fcc結晶構造の割合は80〜99%の範囲である。
【0035】
本発明の更なる実施形態では、超合金ターゲットは、同様の格子定数を有する異なる金属間相を含む。
【0036】
本発明の更なる実施形態では、超合金ターゲットは析出物を含む。
【0037】
本発明の更なる実施形態において、超合金ターゲットは、未使用のターゲットのXRDパターンが、fcc立方としてインデックス付けできる主要なピークを示し、操作されたターゲットのXRDパターンが、未使用のターゲット表面で観察されたのと同様のfcc立方相を示すことを特徴とする。
【0038】
本発明は、更に、粉末冶金製造による超合金ターゲットの製造方法であって、粉末冶金製造が、超合金の合金粉末から開始し、
−合金粉末を放電プラズマ焼結(SPS)する工程
を含む、製造方法に関する。
【0039】
本発明の更なる実施形態において、超合金ターゲットを製造する方法は、放電プラズマ焼結が、液相の形成を伴わずに1000〜1350℃の温度範囲で行われることを特徴とする。
【0040】
本発明の更なる実施形態では、超合金ターゲットの製造方法は、超合金ターゲットの相の合成が、粉末の製造中に行われることを特徴とする。
【0041】
本発明の更なる実施形態において、超合金ターゲットの製造方法は、粉末組成物が、真空下で2つのグラファイトパンチの間のグラファイトダイで加圧され、DC電流又はパルスDC電流が同時に印加されることを特徴とする。
【0042】
本発明の更なる実施形態において、超合金ターゲットを製造する方法は、合金粉末が超合金の中実体を粉砕することにより製造されることを特徴とする。
【0043】
更なる変形では、更なるプロセス工程において、バリア層(IF−2)の表面に更なる好適な多孔質セラミックトップ層が付与される。
【0044】
そのようなトップ層は、例えば、爆発溶射、ワイヤアーク溶射、火炎溶射、高速酸素燃料コーティング溶射(HVOF)、高速空気燃料(HVAF)、温水溶射、冷溶射、及び好ましくはプラズマ溶射又は真空プラズマ溶射等の溶射技術によって付与することができる。
【0045】
更に開示されているのは、上記のコーティング方法を含む、コーティングされた超合金ワークピースを製造する方法である。そのようなワークピースは、例えば、産業用ガスタービン又はタービンブレード、ベーン等の航空機エンジンの高温領域で使用される任意の部品であり得る。
【0046】
更に開示されているのは、
−超合金基板と、
−超合金基板の表面の直接上にある、本質的に同じ超合金組成物の境界面層(IF−1)と、それに続く、
−本質的に同じ超合金及び超合金の酸化物、又は異なる金属組成物及び異なる金属酸化物の遷移層(TL)であって、遷移層の酸素含有量は、IF−1からバリア層に向かって増加している、遷移層と、
−超合金酸化物又は異なる金属酸化物のバリア層(IF−2)と、
を含む、超合金ワークピースである。
【0047】
それにより、IF−1は、超合金基板の表面の結晶構造の整合性のある、又はエピタキシャルでさえある結晶構造を有することができる。
【0048】
遷移層の酸素含有量は、IF−1からIF−2に段階的又は徐々に増加し得る。
【0049】
遷移層中の異なる金属組成物は、本質的に同じ超合金組成物とは、少なくとも1つの更なる元素が異なり得る。同様に、バリア層の異なる金属酸化物の金属組成物は、酸化物の形態で存在する少なくとも1つの更なる金属が異なり得る。
【0050】
少なくとも1つの更なる元素は、ポーリングに従って1.4以下の電気陰性度を有することができる。このような低い電気陰性度は、通常、酸素と結合する可能性が高い金属の場合、例えば、そのような金属が酸化物を形成する傾向が少ない固体金属のマトリックスに分散している場合である。そのような更なる元素は、ランタニド、好ましくはLa、Er、又はYbの少なくとも1つであり得る。
【0051】
或いは、異なる金属組成物は、超合金組成物とは、少なくとも1つの元素の濃度、又は以下の更なる元素:Mg、Al、Cr、Er、Y、Zr、La、Hf、Siのうちの少なくとも1つの濃度及び/又は添加において異なり得る。
【0052】
更なる元素の少なくとも一部が酸化され、固溶体(SS)として結晶粒内に、並びに/又は分散強化酸化物(ODS)として遷移層(TL)及び/若しくはバリア層(IF−2)の粒界に沿って蒸着していることが可能である。
【0053】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド、アクチニド、及び元素の周期表の第3族及び第4族(遷移金属)のいくつかの金属のような電気陰性度の低い金属は、そのような金属が多結晶固体の粒界に沿って配置され、酸素原子の拡散により酸化される場合、固体メインマトリックスの結晶粒内で固溶体(SS)を形成する、又は酸化物分散強化(ODS)中実体を形成する傾向があることが知られている。このような熱力学的に安定な材料(SS及び/又はODS)の使用は、酸化物分散硬化プロセスから、少量の酸化物形成元素(約2体積%)のみを添加することで、そのような合金、例えば超合金を強化することが知られている。しかしながら、本発明によるコーティングが蒸着された場合、コーティングで同様の効果が証明されたのは初めてである。遷移層における部分酸化超合金によるSS及び/又はODS強化の効果を示すことができた。
【0054】
遷移層中の金属元素又はケイ素の少なくとも一方の濃度は、IF−1からIF−2まで、段階的又は徐々に調節又は増加させることができる。
【0055】
異なる金属酸化物は、以下の酸化物:
酸化アルミニウム、酸化アルミニウム−クロム、酸化エルビウム、酸化イットリウム、酸化イットリウム−アルミニウム、酸化マグネシウム−アルミニウム、酸化アルミニウム−ケイ素、酸化ハフニウム−ケイ素
のうちの少なくとも1つ又はそれらの混合物を含んでもよい。
【0056】
それにより、酸化アルミニウム又は酸化アルミニウム−クロムは、コランダム結晶構造を含むAl又は(AlCr)であり得、酸化エルビウム又は酸化イットリウムは、立方晶構造を含むEr又はYであり得、且つ、それぞれの結晶構造の55%超、好ましくは75%超がそれぞれのコランダム又は立方晶構造であり得る。
【0057】
異なる金属酸化物は、アルミニウム含有酸化物を含んでもよく、TL及び/又はIF−2層は、アルミニウム液滴又は金属アルミニウムの含有量が高い液滴を含んでもよい。
【0058】
例えば、コランダム構造の、及び/又は遷移層及び/又はバリア層にSS又はODSとして分散する、酸化アルミニウム−クロムを含む酸化物の場合、層は金属クロムの含有量が高い液滴を含んでもよい。
【0059】
例として、IGTでの使用及び航空用途の場合、ボンドコートの最上部のバリア層(IF−2)の表面上に終端層としてセラミックトップ層を設けることができる。そのようなトップ層は、高温用途での熱膨張をよりよく適応させるために、多孔質構造で製造できる。
【0060】
次の
−境界面層(IF−1)
−遷移層(TL)及び
−バリア層(IF−2)
の連続した層からなるボンドコートに関して、
以下のコーティング厚のいずれをも選択できる。
1μm≦dbond≦200μm
境界面層の層厚(IF−1):
0.01μm≦dIF−1≦20μm
遷移層(TL)の層厚:
0.1μm≦dTL≦100μm
バリア層(IF−2)の層厚:
1μm≦dIF−2≦50μm
【0061】
航空又はIGT用途用の次の溶射セラミックトップ層の厚さは、10μm〜3mmで選択され、優れた接着性と耐摩耗性を示した。
【0062】
以下において、実施例及び図面が提供される。本発明の実施形態、変更又は実施例のいずれの組み合わせも、本明細書又は特許請求の範囲で明示的に言及されていない場合でも、機能不全であると当業者が直ちに認識できない限り、本発明の一部であると当業者に想定されることに留意されたい。
【0063】
以下では、実験の詳細及び図の助けを借りて、本発明を例示的な方法で説明する。図1図8は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】層の概念及びボンドコートの例を示す図である。
図2】未使用の及び操作されたターゲットのXRDパターンを示す図である。
図3】SA−T表面の顕微鏡写真とEBSDを示す図である。
図4】SA−T表面のTEM画像である。
図5】EDXマッピングを示す図である。
図6】明視野及び暗視野顕微鏡写真、ライン走査を示す図である。
図7】サファイア上の図2に類似したXRDを示す図である。
図8】層のスタック:STEM明視野、TKD、品質マップを示す図である。
図9】TEM顕微鏡写真境界面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本開示では、図1aに描かれている層の概念が導入される。このアプローチは、以下の層の形成に基づく:バルク超合金基板(SA−S)に対して、「基板と同一」の境界面層(IF−1)、及びそれに続く、IF−1から部分的又は完全に酸化されたコーティングへの遷移層(勾配層)であり、第2の境界面層(ここではバリア層ともいう)(IF−2)で終端する。このIF−2は、TBCの設計に利用されるため、多孔質酸化物の酸素拡散バリア及び/又は核形成層となる可能性がある。IF−2はまた、ODSコーティング又は超合金蒸気の酸化中に形成される酸化物の混合物でもよい。層のスタック全体は、物理蒸着(PVD)に典型的な真空条件下で1つのプロセスで合成される。非反応性及び反応性アーク蒸発を利用して、インサイチュ処理によりこのコーティング設計を生成する。
【0066】
多結晶超合金上の基本的なボンドコートの例を図1bに示しており、このボンドコートは、超合金ベースと非常に類似した又は同一の境界面、及び酸素濃度に関して勾配のある遷移層を含み、ここで勾配のあるとは、酸素含有量が、境界面から、本実施例による酸化超合金であるバリア層に向かって増加することを意味する。
【0067】
基板及びターゲットは、表1の2列目にリストされている化学組成の粉末から製造した。この組成は、超合金PWA1483の仕様に対応している。しかしながら、基板とターゲットは、約1200℃及び30MPaの放電プラズマ焼結によって製造した(PLANSEE Composite Materials GmbH社)。したがって、この材料は、溶融及びキャストによって製造される工業的に利用されるバルク材料とは異なる可能性がある。この点で、次のことに注意することが重要である。
−構造物の平均結晶粒径は50μm未満、好ましくは20μm未満である。
−粉末冶金製造は、元素粉末の混合物ではなく、合金粉末から開始することが好ましい。
−これにより、SPSプロセスではなく、粉末の製造中に相の合成が行われる。
−そのような製造されたターゲットには組織がない、つまり、それらはランダムな粒子配向によって特徴付けられ(例えば、EBSDで測定)、これは、溶融冶金によって製造されたターゲットとは大きく異なる。
−SPSプロセスによって生成された構造の多孔度は、10%未満、又は好ましくは5%未満に調整される。
−SPSプロセスは、1000〜1350℃の温度範囲、好ましくは1100〜1300℃の温度範囲で液相の形成を伴うことなく行われる。
【0068】
このことを考慮して、この材料を、基板として使用する場合は超合金基板(SA−S)、蒸発のターゲットとして使用する場合は超合金ターゲット(SA−T)と更に命名する。この材料から小さなディスク(φ60mm)を製造し、サイズ(30mm×10mm×5mm)に機械加工してSA−Sとした。同一のプロセスで、SA−Tディスク(φ150mm)を製造した。
【0069】
表2に、以下で説明する例でカソードとしてSA−Tを使用するカソードアーク蒸発で利用される主なプロセスパラメータを示す。蒸着の前に、プロセスチャンバを0.02Pa未満に排気し、標準の加熱及びエッチング工程を実行して、基板への十分なコーティング接着を確実にした。非反応性プロセス(金属蒸気のみ)には45分の正味蒸着時間を選択し、酸素中での反応性プロセスでは240分に延長した。これは、純粋な酸素反応性ガス中でのSA−Tの蒸発速度の低下に起因するものであり、得られたコーティングの厚さはそれぞれ1.5μm(反応性)及び2.2μm(非反応性)である。カソードは、Oerlikon Surface Solutions AG社のINNOVAバッチ型製造システムを使用して、金属蒸気のみ、又は800sccm酸素のガス流(反応プロセス)で、140AのDCアーク電流で操作した。SA−Sとサファイア基板は、約550℃の基板温度でコーティングした。蒸着には1つのアーク源のみを使用した。周波数25kHzによる対称性バイポーラバイアス電圧40V及び負のパルス長36μ秒及び正のパルス長4μ秒を、酸素処理中に基板に印加した。
【0070】
ターゲット表面は、LEO 1530走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した。SA−T及びSA−Sの化学組成は、SEMにおけるエネルギー分散型X線分光法(EDX)で測定した。
【0071】
多結晶ターゲット材料の研磨スライスのXRD測定は、平行ビームを生成するためのGoebelミラーとCu−Kα放射線を使用したLynxEye 1D検出器を備えたBruker社のD8 Davinci回折計で実施した。測定は5〜140°の2θ/ωモードで行った。位相解析には、Bruker社のソフトウェアDiffrac.Eva V4.1を、結晶構造のオープンアクセスコレクションであるJournal of Applied Crystallography 42 (2009) 726−729に公開されているCrystal Open Database(COD)と組み合わせて使用した。
【0072】
従来の電子後方散乱回折(EBSD)分析は、Digiview IV EDAXカメラを使用して、Tescan社のデュアルFIB FEG−SEM Lyra3で、SA−T表面に実行した。20kVの加速電圧及び5nAの放出電流を使用した。更に、透過EBSD又はTransmission Kikuchi Diffraction回折(TKD)は、3mmの作動距離でポールピースに対して20°のプレチルト角を有するホルダーに取り付けられた厚さ約100nmのリフトアウト試験片で行った。ビーム条件は30kV及び5nAであった。化学偏析は、30kV及び1.5pAのGaイオンを使用して実行したイオンチャネリングコントラストイメージングによって分析した。リフトアウトラメラは、EDAX EDSシステムを装備したJEOL JEM 2200fsの透過型電子顕微鏡(TEM)で最終的に分析した。
【0073】
未使用のターゲットの分析(カソード)
放電プラズマ焼結によって製造されたSA−Tの化学組成を、EDXによって調査した。分析する元素の数が多く、この方法に対する感度が異なるため、定量分析は困難である。しかしながら、材料の類似性により(Cを除く)定性的な比較が可能である。表1は、製造されたターゲットの製造時の未使用の表面の結果を表しており、全元素の組成に関する数値を3列目に、粉末組成に対する差異(Δ)の数値を4列目に示す。炭素とタンタルを除いて、元の粉末と組成がかなり合致している。XRD分析によって得られた未使用のターゲット表面の結晶構造を、非反応性プロセスにおけるアーク操作後のターゲット表面と比較した。図2に2θ/ωスキャンを示す。
【0074】
未使用のターゲットのXRDパターン(点線)は、a=3.59Åのfcc立方(Fm−3m)としてインデックス付けできるいくつかの主要なピークを示している。超合金を構成する様々な元素で観察される回折パターン(表1)は、この立方格子と一致している。個々の元素に加えて、CrNi、Al2.6Ni10.7Ta0.7、Ni0.9Ta0.1、Ni17、Co0.870.13、Ni3.28Ti0.72、Ni0.850.15又はCrNi等の様々な金属間化合物にインデックス付けすることができ、観察されたfcc相の潜在的な候補と考えることができる。強度が1%未満のピークは、未使用のターゲット表面のXRDパターンにも見られる。それらは、表面酸化の結果として形成される酸化タンタル相のXRDパターンに属する可能性がある。XRDパターンのピークは、操作されたターゲット(実線)について、未使用のターゲット表面で観察されたのと同様のfcc立方(Fm−3m)相を明らかにした。しかしながら、操作されたターゲットのピークは、より高い角度に向かってわずかにシフトしており、単位格子パラメータaが、未使用のターゲットの3.59Åから操作されたターゲットの3.58Åに減少していることを示している。同時に、操作されたターゲットのピークは未使用のターゲットのピークよりも狭く、これはターゲット表面での再結晶プロセスに起因し、その結果、より大きな結晶の形成による可能性がある。X線回折分析からの異なる金属間化合物の存在の仮定は、TEM測定の結果と一致している。これらの超合金材料が実際に異なる金属間化合物で構成されていることが確認されている(以下を参照)。
【0075】
20kVのビーム電圧を使用した後方散乱電子によるSEMから得られたSA−T表面の顕微鏡写真を図3aに示す。後方散乱画像のコントラストは、主に粒子配向によるものである。これは、調査された表面の対応するEBSD結晶配向マップによって検証され、図3bの白黒(bw)バージョンで示されている。EBSD分析では、88%の高角度と12%の低角度の粒界と7%のΣ3双晶((111)で60°)粒界があり、平均粒子サイズは(5.9±3.1)μmである。図3aの後方散乱画像で観察された白い点は、TEMでチタンとタンタルが豊富な析出物として特定された。図4a及び図4bの明視野及び暗視野の走査型透過電子顕微鏡画像にそれぞれ、異なる粒子の拡大断面を示す。この詳細のEDXマッピングを図5に示す。このマッピングは、Cr(下の図5b)、Co(図5c)及びMo(図5g)も粒子内で一緒に偏析していることを示している。Ni(図5a)、Al(図5h)、Ti(図5e)、Ta(図5d)についても同様である。更に、マッピングは、析出物が主にTaとTiからなることを示唆している。
【0076】
前述のように、製造時及び操作されたターゲットの表面から得られたXRDパターンは、fcc相とインデックス付けすることができ、これは異なる金属間化合物が候補となる可能性がある(図2)。この仮定は、粒子内及び粒子間で化学的偏析が観察されたSTEM調査によって裏付けられている。図6は、2つの粒界を横切る遷移の明視野(6a)と暗視野(6b)の顕微鏡写真の例を示している。図6aの矢印は、図6cに示すEDXライン走査が実行された位置を示している。支配的な元素のみの定性的分布がプロットされ、調査対象の2つの粒子間で大きく変化している。Ni/Al及びCo/Crの偏析が観察され、図5に示すマッピングと良好に一致している。これは、多くの類似したライン走査の場合に当てはまり、非常に類似した格子定数を持つ複数のfcc位相の存在を示す。
【0077】
ターゲットの分析は、放電プラズマ焼結プロセスにより、ほぼランダムな粒子配向の多結晶構造を有するターゲット材料が生成されることを示している。更に、分析は、同様の格子定数を有する異なる金属間相の存在と、生成された材料中の析出物の存在を証明している。
【0078】
操作されたターゲットの分析
次の工程では、製造時のターゲットをカソードとして利用し、アークで蒸発させた。蒸発は、表2に記載されている条件下で実施した。非反応性プロセスでは、蒸発中に追加のガスは使用しなかった。このアプローチは、気体原子との多重散乱に起因した、蒸着したコーティングへの液滴の混入を減らす可能性を断念させるものであるが、より高いエネルギーでのコーティングの凝縮を支持する金属蒸気のより高いイオン化度及びより高い運動エネルギーを維持することができる。反応プロセスは酸素のみで行った。酸素流の値は、コーティングのほぼ完全な酸化がもたらされるIF−2(酸化超合金層)が生成されるよう、蒸発する金属原子に対する酸素の比が確実に約4〜5になるように選択した。非反応プロセスA及び反応プロセスB後のターゲットの化学組成をEDXで測定し、元の粉末組成に対する差(Δ)と共に表1に示す(5〜8列目)。ターゲット表面の分析は、非反応性プロセスから反応性プロセスへのAl及びCrのわずかな減少を示しているが、他のターゲット元素の組成に大きな変化はない。非反応モードでのアーク操作後のターゲット表面のXRDパターンを図2(実線)に示す。未使用のターゲット(点線)と比較して、操作されたターゲットのピークはより狭く、より高い角度に向かってシフトしている。ピークはまた、fcc立方相(Fm−3m)に割り当てることもできる。操作されたターゲットの平均単位格子はわずかに小さく、格子定数は3.584Å(操作前)から3.568Å(操作後)に減少し、半値全幅(FWHM)の減少はターゲット表面上の再結晶プロセスを示している。
【0079】
コーティング合成
表2に示すプロセスAのパラメータを使用して、非反応処理によりコーティングを合成し、ターゲットの化学組成もコーティング内で維持できるかどうかを調査した。EDXによって得られた組成を表3に示し、どちらの場合も、コーティングAは境界面層(IF−1)の組成を有する。EDXが十分に高感度でなく、正確ではないCを除き、分析では、コーティング中で、Al濃度のみが減少を示し、Ti濃度はある程度の減少を示している。SA−S基板上のコーティングの初期XRD分析を実施した。コーティングとSA−Sの格子定数は非常に類似しているため、観測されたブラッグ反射をコーティングに明確に割り当てることはできなかった。そのため、サファイア基板上のコーティングについて測定を繰り返した(図7)。
【0080】
a=3.60ÅのM−1(黒色の線、ピークの左側)として示される2つの観測された位相のうち最初の位相は、コーティングされていないSA−Sの位相(a=3.59Å)とほぼ同じである(図7)。2番目の位相のM−2の反射(灰色の線、ピークの右側)は、より高い2θ角度(a=3.56Å)に向かってシフトしている。これは、サファイア基板上の核生成挙動がわずかに異なることを示している。M−2位相の格子定数は約3.56Åであると測定された。ターゲット(及び基板)材料のTEM調査により、複数の金属間相がすでに示されており、EDXマッピングにより、一緒に偏析する析出物に加えて、少なくとも2つの元素グループが存在することが示された。これらの2つのグループは異なる温度で凝縮し、この相分離が生じる可能性がある。
【0081】
追加の実験では、プロセスBに従って層の完全なスタックを調査した。上記のSA−Sの初期の予備処理後、IF−1は非反応モードにおけるアーク蒸発により形成され、約500nmの厚さを有するSA−Sにおいて追加の境界面はなかった。後続の工程では、800sccmの酸素がアーク蒸発プロセスに供給され、非反応モードから反応モードへの短い移行が行われた。基板の二重回転と合わせて、これにより多層構造が形成され、最終的に約1.5μmの酸化物コーティングの核形成が生じる。完全な層スタックのSTEM明視野画像を図8aに示す。基板と境界面層IF−1との間の境界面は、図8b及び図8cに破線で示されている。この境界面は、図8cのTKDと図8bの対応する画質マップにより詳細に調査されており、ここでは白黒である。配向マッピングは、IF−1領域の粒子でのエピタキシャル成長に続いて、任意の配向の多数の非常に小さな粒子の核生成と、最終的にこの遷移領域のより微細な粒子で核化し、層のスタック酸化領域を形成するより大きな粒子の成長を示した。境界面の拡大領域の高解像度(HR)−TEM顕微鏡写真を図9に示す。顕微鏡写真は、ST−A及びコーティングの格子面が、平面間の同じ距離で平行であることを示しており、これは、基板上のコーティングのエピタキシャル成長を再度確認するものである。
【0082】
それにより、インサイチュプロセスシーケンスでのカソードアーク蒸発により、すなわち真空を中断することなく、ボンドコート用の完全な層のスタックを作製する可能性が詳細に示される。化学組成が超合金基板とほぼ同一の粉末からのターゲットを製造し、アーク蒸発のカソードとして利用できることが実証された。ターゲットは、非反応性及び反応性の蒸着プロセスで操作できる。酸素反応性ガスの有無による処理後のターゲット表面の調査では、化学組成及び結晶構造への影響はほとんどないことが明らかになった。非反応性蒸着モードで合成されたコーティングも、ターゲットに関して化学組成及び結晶構造が類似している。1つのプロセスにおいてボンドコートの完全な層のスタックを形成するアプローチにより、反応性酸素ガスの制御された添加、又は同じ又は異なる元素の組成の追加ターゲットの操作により、プロファイルに勾配をつける設計原理が可能となる。更に、基板境界面の多結晶基板の粒子でエピタキシャル成長が観察された。実行中のアーク蒸発プロセスへの酸素の添加により、微粒子遷移領域が形成され、最終的に、層のスタックの完全に酸化された領域でより大きな結晶の核形成が生ずる。提示されたアプローチは、任意の超合金材料でエピタキシャル成長を実現し、異なる化学組成と機能性を有するコーティングへの勾配を実行する可能性がある。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図5(d)】
図5(e)】
図5(f)】
図5(g)】
図5(h)】
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】