特表2020-522996(P2020-522996A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2020-522996薬剤前処理による間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-522996(P2020-522996A)
(43)【公表日】2020年8月6日
(54)【発明の名称】薬剤前処理による間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20200710BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200710BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20200710BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20200710BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   A61P43/00 105
   A61P9/10
   A61P9/10 103
   A61K35/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-554538(P2019-554538)
(86)(22)【出願日】2018年6月19日
(85)【翻訳文提出日】2019年9月27日
(86)【国際出願番号】CN2018091843
(87)【国際公開番号】WO2019241910
(87)【国際公開日】20191226
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】519351141
【氏名又は名称】フーワイ ホスピタル, チャイニーズ アカデミー オブ メディカル サイエンシズ アンド ペキン ユニオン メディカル カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユェジン
(72)【発明者】
【氏名】ファン, ペイセン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ガイハオ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BB40
4B065BD04
4B065BD15
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA05
4C087ZA36
4C087ZA40
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、薬剤前処理による間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法を提供する。本発明の間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法は、スタチン系薬剤で間葉系幹細胞を前処理し、分泌されたエクソソームを収集するように処理された間葉系幹細胞を培養することを含む。また、本発明は、間葉系幹細胞の抗アポトーシス能及び/又はホーミング促進能を向上させる製剤の調製のためのスタチン系薬剤の使用、及び間葉系幹細胞による心筋梗塞微小環境改善作用及び/又は心筋修復能力を有するエクソソームの分泌を促進する製剤の調製のためのスタチン系薬剤の使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタチン系薬剤で間葉系幹細胞を前処理し、分泌されたエクソソームを採取するように処理された間葉系幹細胞を培養することを含む、間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法。
【請求項2】
間葉系幹細胞の培地にスタチン系薬剤を加え、12〜24時間前処理した後、細胞の培地を無エクソソームの完全培地に変更して引き続き培養し、48時間後に馴化培地を収集し、スタチン系薬剤で前処理した間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームを超遠心により分離して得ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記超遠心は、
馴化培地を収集し、300gで10分遠心することにより、細胞を除去する工程と、
2000gで20分遠心することにより、細胞破片を除去する工程と、
16500gで30分高速遠心することにより、大型小胞を除去する工程と、
120000gで70分超遠心することにより沈殿を回収し、再懸濁後に、再度120000gで70分超遠心し、エクソソームを得る工程とを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記スタチン系薬剤は、アトルバスタチンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞又は脂肪間葉系幹細胞を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法により調製したエクソソームである。
【請求項7】
間葉系幹細胞の抗アポトーシス能及び/又はホーミング促進能を向上させる製剤の調製のためのスタチン系薬剤の使用。
【請求項8】
間葉系幹細胞による心筋梗塞微小環境改善作用及び/又は心筋修復能力を有するエクソソームの分泌を促進する製剤の調製のためのスタチン系薬剤の使用。
【請求項9】
前記スタチン系薬剤は、アトルバスタチンを含み、
好ましくは、スタチン系薬剤1μMで間葉系幹細胞を24時間前処理する、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞又は脂肪間葉系幹細胞を含む、請求項7又は8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤前処理による間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法に関し、具体的には、スタチン系薬剤前処理による間葉系幹細胞由来エクソソームの効率的な調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)の統計データにより、心血管疾患は、世界中で2016年の死因の1位となり(凡そ1760万人、32.2%を占める)、そのうちの948万人は、虚血性心疾患(17.3%を占める)で死亡した(Collaborators GM. Global, regional, and national under−5 mortality, adult mortality, age−specific mortality, and life expectancy, 1970−2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. The Lancet 2017;390(10100):1084−1150; Collaborators GCOD. Global, regional, and national age−sex specific mortality for 264 causes of death, 1980−2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. The Lancet 2017;390(10100):1151−1210)。急性心筋梗塞(acute myocardial infarction、AMI)では、多数の心筋が虚血によって壊死し、そして瘢痕組織に代替され、心不全、さらには死亡を誘発する。従来の治療手段では、心筋の再生及び修復に非効果的である。近年、AMIの治療には、幹細胞移植療法、特に例えば骨髄間葉系幹細胞(bone marrow−mesenchymal stem cells、BM−MSCs)のような間葉系幹細胞(MSCs、mesenchymal stem cells)の移植療法が強く期待されてきた(Orlic D, Kajstura J, Chimenti S, Jakoniuk I, Anderson SM, Li B, Pickel J, McKay R, Nadal−Ginard B, Bodine DM and others. Bone marrow cells regenerate infarcted myocardium. Nature 2001;410(6829):701−705; Fisher SA, Doree C, Mathur A, Martin−Rendon E. Meta−Analysis of Cell Therapy Trials for Patients With Heart Failure. Circulation Research 2015;116(8):1361−1377; Afzal MR, Samanta A, Shah ZI, Jeevanantham V, Abdel−Latif A, Zuba−Surma EK, Dawn B. Adult Bone Marrow Cell Therapy for Ischemic Heart Disease: Evidence and Insights From Randomized Controlled Trials. Circ Res 2015;117(6):558−575)。しかしながら、臨床研究によれば、間葉系幹細胞はパラ分泌による保護効果に基づき梗塞後の心機能をある程度に改善するものの、その効果が著明ではない。更に研究した結果、間葉系幹細胞は、パラ分泌により保護効果を発生するマカニズムは主に細胞外小胞構造体であるエクソソーム(exosome)の分泌により達成されることが明らかとなった(Makridakis M, Roubelakis MG, Vlahou A. Stem cells: insights into the secretome. Biochim Biophys Acta 2013;1834(11):2380−2384;Huang P, Tian X, Li Q, Yang Y. New strategies for improving stem cell therapy in ischemic heart disease. Heart Fail Rev 2016;21(6):737−752;Lai RC, Arslan F, Lee MM, Sze NS, Choo A, Chen TS, Salto−Tellez M, Timmers L, Lee CN, El OR and others. Exosome secreted by MSC reduces myocardial ischemia/reperfusion injury. Stem Cell Res 2010;4(3):214−222)。エクソソームは、供給源の豊富さ、安定、免疫原性なしなどの利点を有し、またBM−MSCs由来のエクソソーム (MSC−Exo)は、心筋梗塞微小環境を改善することができるため、新世代の心筋修復製品として期待されている(Lamichhane TN, Sokic S, Schardt JS, Raiker RS, Lin JW, Jay SM. Emerging Roles for Extracellular Vesicles in Tissue Engineering and Regenerative Medicine. Tissue Engineering Part B: Reviews 2015;21(1):45−54)。
【0003】
発明内容
本発明は、効率的な間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法を提供することを目的とするものである。
【0004】
本発明により、スタチン系薬剤、例えばアトルバスタチン(Atorvastatin、 ATV)で間葉系幹細胞を前処理することにより、間葉系幹細胞の抗アポトーシス能及びホーミング促進能を有意に向上させ、著明な心筋梗塞微小環境改善作用及び効率的な心筋修復能力を有する幹細胞由来エクソソームを調製することができることを発見した。
【0005】
一方、本発明は、スタチン系薬剤で間葉系幹細胞を前処理し、分泌のエクソソームを収集するように処理された間葉系幹細胞を培養することを含む、間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法を提供する。
【0006】
本発明の具体的実施態様によれば、本発明にかかる間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法は、
間葉系幹細胞の培地にスタチン系薬剤を加え、12〜24時間前処理した後、細胞の培地を無エクソソームの完全培地に変更して引き続き培養し、48時間後に馴化培地を収集し、スタチン系薬剤で前処理した間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームを超遠心により分離して得ることを含む。
【0007】
本発明の具体的実施態様によれば、本発明にかかる間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法において、前記超遠心は、
馴化培地を収集した後、遠心により細胞を除去する工程と、遠心により細胞破片を除去する工程と、高速遠心により大型小胞を除去する工程と、そして超遠心により沈殿を回収し、再懸濁後に再度超遠心し、エクソソームを得る工程とをこの順で含む。
【0008】
本発明の一つの好ましい具体的実施態様において、馴化培地を収集した後、300gで10分遠心することにより、細胞を除去する。2000gで20分遠心することにより、細胞破片を除去する。16500gで30分高速遠心することにより、大型小胞を除去する。120000gで70分超遠心することにより沈殿を回収し、再懸濁後に、再度120000gで70分超遠心し、エクソソームを得る。
【0009】
本発明の具体的実施態様によれば、本発明にかかる間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法において、前記スタチン系薬剤は、アトルバスタチンを含む。
【0010】
本発明の具体的実施態様によれば、本発明にかかる間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法において、前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞又は脂肪間葉系幹細胞を含む。
【0011】
一方、本発明は、また、本発明に記載の方法により調製したエクソソームを提供する。
【0012】
もう一方、本発明は、また、間葉系幹細胞の抗アポトーシス能及び/又はホーミング促進能を向上させる製剤の調製のためのスタチン系薬剤の使用を提供する。
【0013】
もう一方、本発明は、また、間葉系幹細胞の心筋梗塞微小環境改善作用及び/又は心筋修復能力を有するエクソソームの分泌を促進する製剤の調製のためのスタチン系薬剤の使用を提供する。
【0014】
本発明の具体的実施態様によれば、本発明において、前記スタチン系薬剤は、アトルバスタチンを含み、好ましくは、スタチン系薬剤1μMで間葉系幹細胞を24時間前処理する。
【0015】
本発明の具体的実施態様によれば、本発明において、前記間葉系幹細胞は、骨髄間葉系幹細胞又は脂肪間葉系幹細胞を含む。
【0016】
本発明の一つの具体的実施態様において、ATV 1μMでBM−MSCを24時間前処理することにより、効率的な心筋修復及び内皮保護機能を有するエクソソームを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1A図1Cは、本発明実施例における間葉系幹細胞由来エクソソームの同定結果を示す。
図1B図1A図1Cは、本発明実施例における間葉系幹細胞由来エクソソームの同定結果を示す。
図1C図1A図1Cは、本発明実施例における間葉系幹細胞由来エクソソームの同定結果を示す。
図2A図2A図2Dは、濃度の異なるATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームの内皮細胞への作用差を示す。
図2B図2A図2Dは、濃度の異なるATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームの内皮細胞への作用差を示す。
図2C図2A図2Dは、濃度の異なるATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームの内皮細胞への作用差を示す。
図2D図2A図2Dは、濃度の異なるATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームの内皮細胞への作用差を示す。
図3A図3A図3Hは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが血管内皮細胞の管形成、遊走及び生存の促進についての測定結果を示す。
図3B図3A図3Hは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが血管内皮細胞の管形成、遊走及び生存の促進についての測定結果を示す。
図3C図3A図3Hは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが血管内皮細胞の管形成、遊走及び生存の促進についての測定結果を示す。
図3D図3A図3Hは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが血管内皮細胞の管形成、遊走及び生存の促進についての測定結果を示す。
図3E図3A図3Hは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが血管内皮細胞の管形成、遊走及び生存の促進についての測定結果を示す。
図3F図3A図3Hは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが血管内皮細胞の管形成、遊走及び生存の促進についての測定結果を示す。
図3G図3A図3Hは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが血管内皮細胞の管形成、遊走及び生存の促進についての測定結果を示す。
図3H図3A図3Hは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが血管内皮細胞の管形成、遊走及び生存の促進についての測定結果を示す。
図4A図4A図4Fは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが有意なラット心筋梗塞後心機能改善、梗塞面積減小という測定結果を示す。
図4B図4A図4Fは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが有意なラット心筋梗塞後心機能改善、梗塞面積減小という測定結果を示す。
図4C図4A図4Fは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが有意なラット心筋梗塞後心機能改善、梗塞面積減小という測定結果を示す。
図4D図4A図4Fは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが有意なラット心筋梗塞後心機能改善、梗塞面積減小という測定結果を示す。
図4E図4A図4Fは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが有意なラット心筋梗塞後心機能改善、梗塞面積減小という測定結果を示す。
図4F図4A図4Fは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームが有意なラット心筋梗塞後心機能改善、梗塞面積減小という測定結果を示す。
図5A図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5B図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5C図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5D図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5E図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5F図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5G図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5H図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5I図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5J図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
図5K図5A図5Kは、ATVで前処理した間葉系幹細胞由来エクソソームによる保護作用とlncRNAH19の発現上昇との関係を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、具体的な実施例により本発明の特徴及び奏する技術効果についてさらに詳細に説明するが、本発明はそれらによって何ら限定されるものではない。実施例では、各々の出発試薬は、何れも市販されるものであり、具体的条件が記載されていない実験方法について、当分野で周知の一般的方法及び通常の条件、又は機器メーカーの推奨条件に従う。
【実施例】
【0019】
実施例1
間葉系幹細胞由来エクソソームの調製方法
差次接着により初代ラット(SDラット、60〜80g)BM−MSCsを単離し、3〜4代目に拡大継代して使用に備えた。BM−MSCs完全培地(IMDM、Invitrogen、アメリカ)にATVを加え、24時間前処理した後、細胞の培地を無エクソソームの完全培地(18時間の超遠心により得られた10%FBS含有IMDM)に変更して引き続き培養した。48時間後、馴化培地を回収し、超遠心によりATVで前処理したBM−MSCsに分泌されたエクソソーム(MSCATV−Exo)を分離して得た。具体的な超遠心工程は、馴化培地を回収した後、300gで10分遠心することにより、細胞を除去する工程と、2000gで20分遠心することにより、細胞破片を除去する工程と、16500gで30分高速遠心することにより、大型小胞を除去する工程と、120000gで70分超遠心することにより沈殿を回収し、再懸濁後に、再度120000gで70分超遠心し、エクソソームを得る工程とを含む。
【0020】
調製したMSCATV−Exoの同定
電子顕微鏡(HITACHI、H−600IV、日本)で、形態構造を解析観察すること、NTA(Malvern Instruments、NanoSight、イギリス)で、エクソソームの粒径分布を分析すること、及びWestern Blotでエクソソーム蛋白質マーカーを検出することを含む。
【0021】
濃度の異なるATVでの前処理がMSCATV−Exoの機能への影響を比較して、最適なATV前処理濃度を選定した。この最適なATV濃度で前処理したMSCATV−Exoを利用して、血管内皮細胞の管形成、遊走及び抗アポトーシス作用への影響、心筋内注射によるラット心筋梗塞後心機能改善、梗塞面積減小効果を含む機能学的評価を行った。最後に、MSCATV−ExoにおけるlncRNA H19発現レベルを測定する分子生物学的評価を行った。
【0022】
評価指標(調査結果)
超遠心により分離して得たMSCATV−Exoは、電子顕微鏡下で球状若しくはディスク状を示し、100nm程度の大きさを有する。NTA分析により、その粒径分布は30〜150nmの範囲にあり、Western Blotアッセイにより、MSCATV−ExoはTSG101、Alix、CD63、CD81などのエクソソーム蛋白質マーカーを高発現していることが明らかとなる。ATVで前処理されたBM−MSCと前処理されていないBM−MSCは、それぞれの分泌されたエクソソームが、形態、粒径分布及び蛋白質マーカーに有意な差が認められていない。具体的な結果として、図1A図1Cに示した。なお、図1Aは、間葉系幹細胞由来エクソソーム(MSC−Exo)の形態構造が電子顕微鏡下で観察されたものであり、球状若しくはディスク状を示し、大きさが100nm程度であり、スタチン系前処理した後、形態が変化しなっかた。図1Bでは、MSC−Exoの粒径分布がNTAにより分析され、スタチン系前処理されたと処理されていないMSC−Exoの粒径分布は、ともに30〜150nmの範囲にある。図1Cでは、エクソソームの蛋白質マーカー同定を示し、スタチン系処理したMSC−Exoは、TSG101、Alix、CD63、CD81などのエクソソーム蛋白質マーカーを高発現している。
【0023】
濃度の異なるATV(0.01、0.1、1、10μM)で前処理されたMSCATV−Exoについて機能学的に分析した結果として、ATV 1μMで前処理されたMSCATV−Exoは、最も強い内皮細胞の管形成及び遊走を促進する作用を示すことを発見した。具体的な結果を、図2A図2Dに示した。なお、図2A図2Bでは、濃度の異なるATV(0.01、0.1、1、10μM)で前処理された間葉系幹細胞から抽出したエクソソームによる内皮細胞管形成への作用差を比較し、ATV 1μMでの前処理した方が最適効果を示した(図2B)。図2C図2Dでは、濃度の異なるATVで前処理された間葉系幹細胞から後抽出したエクソソームによる内皮細胞遊走への作用差を比較し、ATV 1μMでの前処理した方が最適効果を示した(図2D)。
【0024】
MSCATV−Exoは、ATVで前処理されていないMSC−Exoよりも血管内皮細胞の管形成及び遊走を有意に促進するとともに、低酸素・無血清条件下での内皮細胞の生存及び抗アポトーシス作用を促進することができる。具体的には、図3A図3Hに示した。なお、図3A図3Bでは管形成試験により、ATVで前処理された間葉系幹細胞由来エクソソーム(MSCATV−Exo)は、コントロール群より血管内皮細胞管形成を有意に促進することが明らかとなった。図3C図3Dではスクラッチアッセイ(創傷治癒アッセイ)により、MSCATV−Exoは、コントロール群よりも血管内皮細胞遊走を有意に促進することが明らかとなった。図3E図3Fではフローサイトメトリーアッセイにより、MSCATV−Exoは、コントロール群より血管内皮細胞の低酸素・無血清条件下での生存を有意に促進することが明らかとなった。図3G図3HではHoechst 33342染色により、MSCATV−Exoが、コントロール群より血管内皮細胞の低酸素・無血清条件下でのアポトーシスを有意に低減することが明らかとなった。
【0025】
ATVで前処理されていないMSC−Exoと比べ、MSCATV−Exoは、心筋内注射された後にラット心筋梗塞後心機能を有意に改善し、梗塞面積を減小させることができる。具体的には、図4A図4Fに示した。なお、図4A図4Bでは、心筋梗塞ラットの心機能がATVで前処理された間葉系幹細胞由来エクソソーム(MSCATV−Exo)の移植によって有意に改善されることが明らかとなった。図4C図4Dでは、Masson染色により、ラット心筋梗塞面積がMSCATV−Exo移植によって有意に減少されることが明らかとなった。図4E図4Fでは、シリウスレッド染色により、ラット心筋梗塞局所へのコラーゲン沈着がMSCATV−Exo移植によって有意に減少されることが明らかとなった。
【0026】
MSCATV−Exoは、MSC−Exoよりも10倍以上のlncRNA H19を高発現している。ATVで前処理されたMSCにおいて、低分子干渉RNA(small interfering RNA、siRNA)によりlncRNA H19発現レベルをノックダウンし、それにより分泌されたエクソソーム(MSCATV(Si)−Exo)を抽出すると、上記保護作用がなくなることから、lncRNA H19は、MSCATV−Exoによる効率的な内皮細胞保護作用、心機能改善及び梗塞面積縮小作用に関与していることが明らかとなった。具体的には、図5A図5Kに示した。なお、図5A図5Bでは、ATVで前処理された間葉系幹細胞由来エクソソーム(MSCATV−Exo)は、lncRNA H19を高発現しており、siRNAによりノックダウンされたエクソソーム(MSCATV(Si)−Exo)において、lncRNA H19発現レベルは有意に低下することが明らかとなった。図5C図5Hでは、MSCATV(Si)−Exoによる内皮保護作用は、MSCATV−Exoよりも減少することが明らかとなった。図5I図5Kでは、MSCATV(Si)−Exoによる梗塞後心機能改善作用、心筋修復作用は、MSCATV−Exoよりも減弱することが明らかとなった。
【0027】
結論:ATV 1μMでBM−MSC を24時間前処理することにより、効率的な内皮保護及び心筋修復機能を有するエクソソームを取得することができ、そのマカニズムとしては、エクソソームにおけるlncRNAH19発現レベルの上昇と関係する。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
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図5F
図5G
図5H
図5I
図5J
図5K
【国際調査報告】