(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-523475(P2020-523475A)
(43)【公表日】2020年8月6日
(54)【発明の名称】偏晶アルミニウム滑り軸受合金、およびこれを製造する方法、およびこれによって製造された滑り軸受
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20200710BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20200710BHJP
F16C 33/14 20060101ALI20200710BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20200710BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20200710BHJP
【FI】
C22C21/00 B
C22F1/04 Z
F16C33/14 Z
F16C33/12 A
C22F1/04 A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 627
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-566589(P2019-566589)
(86)(22)【出願日】2018年5月24日
(85)【翻訳文提出日】2020年1月27日
(86)【国際出願番号】DE2018100501
(87)【国際公開番号】WO2018228640
(87)【国際公開日】20181220
(31)【優先権主張番号】102017113216.3
(32)【優先日】2017年6月15日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】509115410
【氏名又は名称】ツォレルン・ベーハーベー・グライトラガー・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・カーゲー
【氏名又は名称原語表記】Zollern BHW Gleitlager GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】グスト、エドガー
(72)【発明者】
【氏名】グゾブスキー、コスティアンティン
【テーマコード(参考)】
3J011
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011MA02
3J011SB03
3J011SB04
3J011SB20
3J011SE01
(57)【要約】
1から20重量%のビスマスと、主要合金元素としての、0.05から7重量%の銅、0.05から15重量%のケイ素、0.05から3重量%のマンガン、0.05から5重量%の亜鉛から選択される少なくとも1つの元素と、組み合わせにおける追加合金元素としての、0.005から0.4重量%のチタン、0.005から0.7重量%のジルコニウム、0.001から0.1重量%のホウ素と、任意選択としての1つまたは複数の別の追加元素と、残りのアルミニウムとからなる、可塑変形のために適しているビスマス介在物を有する偏晶アルミニウム滑り軸受合金。この滑り軸受合金は超微細粒子状であり、超可塑性に類似する特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1から20重量%のビスマスと、
主要合金元素としての、
0.05から7重量%の銅
0.05から15重量%のケイ素
0.05から3重量%のマンガン
0.05から5重量%の亜鉛から選択される少なくとも1つの元素と、
組み合わせにおける追加合金元素としての、
0.005から0.4重量%のチタン
0.005から0.7重量%のジルコニウム
0.001から0.1重量%のホウ素と、
任意選択としての1つまたは複数の別の追加元素と、
残りのアルミニウムとからなる、可塑変形のために適している、ビスマス介在物を有する偏晶アルミニウム滑り軸受合金。
【請求項2】
次の各グループ、
グループ1:
最大0.5重量%の総割合のタンタル、ニオブ、ハフニウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、アンチモン、スカンジウム、セリウム、カルシウム
グループ2:
最大1重量%の総割合のニッケル、コバルト、鉄、クロム
グループ3:
最大0.1重量%の総割合の炭素、窒素
グループ4:
最大1.0重量%の総割合の銀、ゲルマニウム、リチウム
グループ5:
最大0.5重量%の総割合の錫、鉛
に属する1つまたは複数の追加合金元素が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の滑り軸受合金。
【請求項3】
ビスマスの割合は4.5から15.5重量%であり、好ましくは5から8重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の滑り軸受合金。
【請求項4】
マンガンおよび/または銅および/またはケイ素および/または亜鉛の割合は0.5から2.8重量%であり、好ましくは0.7から1.5重量%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の滑り軸受合金。
【請求項5】
前記合金は最大で3重量%のAl−Ti−BまたはAl−Ti−C粒子微細化剤を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の滑り軸受合金。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の組成を有するアルミニウム滑り軸受合金を製造する方法において、前記合金元素が、冷却速度が5から300K/sの間である鋳造法で合金を与えるように組み合わされることを特徴とする方法。
【請求項7】
鋳造法として連続鋳造法が適用されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記合金が、半製品の準備のために少なくとも1つの支持層を付与されることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記合金が、その後の成形プロセスの過程で200℃から400℃の温度のもとで少なくとも1つの熱処理にかけられることを特徴とする、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記熱処理は圧延工程および/または圧延クラッディング工程において行われることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
支持層と、その上に装着された請求項1から5のいずれか1項に記載の滑り軸受合金とを有している滑り軸受部材。
【請求項12】
請求項11に記載の少なくとも1つの滑り軸受部材を用いて構成されている滑り軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑変形のために適している、ビスマス介在物を有する偏晶アルミニウム滑り軸受合金に関する。
【0002】
さらに本発明は、ビスマス介在物を有する偏晶アルミニウム滑り軸受合金を製造する方法に関する。
【0003】
さらに本発明は、この滑り軸受合金で製造された滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0004】
高負荷を受ける滑り軸受は、軸受に対して課せられる、部分的には相反する多様な要求事項を満たすために、複数の層で構成される。鋼材・アルミニウム複合素材がしばしば利用される。
【0005】
鋼材支持シェルは機械的な負荷の受け止めと固着性を保証するのに対して、滑り軸受素材はトライボロジーに関わる多彩な負荷に耐えなければならず、耐疲労性でなければならない。これらの要求事項を満たすために、滑り軸受素材はアルミニウムマトリクスの中に、一方においてケイ素や金属間析出物などの硬質相を含むとともに、他方においてたとえば鉛や錫などの軟質相を含んでいる。高耐久性の多層滑り軸受は、機能層の上に電解塗布可能な摺動層をしばしば有する。このような軟質の摺動層は、軸受の良好な不具合発生時特性のために作用する。この摺動層は摩耗粒子を埋め込むことができ、そのようにしてそれらを摺動面から取り除く。
【0006】
鉛含有のアルミニウム滑り軸受合金に代わる環境適合的な1つの代替案は、追加の摺動層なしで利用されるアルミニウム・錫をベースとする滑り軸受である。しかしこの合金の機械的な特性、たとえば耐疲労性や耐熱性には限界がある。比較的高い錫含有率は鋳造時に、特に温度が高いときにこの合金の耐久性を低下させる、粒界でつながった網状錫が形成されることにつながる。
【0007】
錫と比較したとき、アルミニウムマトリクスの中の軟質相としてビスマスはいくつかの利点を有する。たとえばビスマスのほうが高い融点を有し、高い温度で使用することができる。これに加えて、特別な鋳造・熱処理方策により、滑り軸受合金の粒界でのビスマスの塊状の沈積を回避し、十分に均一で微細なビスマス液滴の分布を組織内で得ることが可能であり、このことは最終的な効果として、アルミニウム・錫合金と比較したときに耐久性とトライボロジー特性の改善につながる。
【0008】
たとえば独国特許出願公開第4003018A1号明細書では、アルミニウム合金が、1から50重量%の、好ましくは5から30重量%の鉛、3から50重量%の、好ましくは5から30重量%のビスマス、および15から50重量%のインジウムの各成分のうち1つまたは複数を含むことができ、ならびに追加的に0.1から20重量%のケイ素、0.1から20重量%の錫、0.1から10重量%の亜鉛、0.1から5重量%のマグネシウム、0.1から5重量%の銅、0.05から3重量%の鉄、0.05から3重量%のマンガン、0.05から3重量%のニッケル、および0.001から0.30重量%のチタンの各成分のうち1つまたは複数を含むことができることが提案されている。独国特許出願公開第4003018A1号明細書から公知のこの合金は連続鋳造で垂直方向に5から20mmの厚さないし直径のストリップまたはワイヤをなすように鋳造され、このとき融液が300から1500k/sの冷却速度で注型される。迅速な冷却速度により、分離温度を下回るときと、マトリクス材料が完全に凝固するときとの間の時間中に、大容積の少数相の析出物が形成されるのを防止することが意図される。しかしアルミニウム合金の連続鋳造の実際の作業からは、非常に高速の冷却温度の結果として亀裂形成の著しい危険があり、大量生産のために必要なプロセス安定性を確保するのが非常に難しいことが知られている。
【0009】
欧州特許出願公開第0940474A1号明細書に記載されている方法によって、最大で15重量%のビスマスと、ケイ素、錫、鉛の群に属する合計で0.5から15重量%の少なくとも1つの元素と、銅、マンガン、マグネシウム、ニッケル、クロム、亜鉛、アンチモンの群に属する合計で最大3%程度の可能な追加材とを有する、鋳造技術的に取り扱うのが難しい偏晶アルミニウム滑り軸受合金をストリップ鋳造により再現可能な品質で鋳造することができる。少数相の均一な分布は、このケースでは、電磁場の中での融液の集中的な撹拌によって実現される。これに加えて粒子微細化剤により、この合金の組織が微細化される。このことは特に、鋳造状態で最大40μmの直径を有する液滴状のビスマス析出物のサイズに対しても有利に作用する。粒子微細化剤の添加量は、欧州特許出願公開第0940474A1号明細書によれば、融液中のビスマス含有率を考慮する式によって計算される。この発明は、同特許に記載されている結果をもたらすような、使用される粒子微細化添加剤の種類に関わる示唆を含んでいない。
【0010】
欧州特許出願公開第0190691A1号明細書より、4から7重量%のビスマスと、1から4.5重量%のケイ素と、0から1.7重量%の銅と、0から2.5重量%の鉛と、ニッケル、マンガン、クロムの群に属する合計で最大1%の程度の少なくとも1つの元素と、追加的に、錫、亜鉛、アンチモンの群に属する合計で最大5重量%の少なくとも1つの元素とを有する合金が公知である。高いケイ素割合はアルミニウムマトリクスを強化するものの、少数相に対してはマイナスの影響があり、ストリップ中の液滴分布の明らかな劣化をもたらす。このような鋳造組織が圧延されると、当初の球形の鉛相ないしビスマス相が非常に厚みのあるファイバへと変形し、これが素材の機械的な耐久性とトライボロジー特性を大幅に引き下げる。
【0011】
所望の素材特性を調整するための1つの考えられる解決法は、少数相の長く伸長された析出物を、後続する熱処理によってコンパクトな組織形態に成形することにある。たとえば独国特許出願公開第4014430A1号明細書では、圧延後のプレート状に伸長されたビスマス相の微細な分布を実現するために、偏晶アルミニウム・ケイ素・ビスマス合金が575℃から585℃の温度で熱処理される。
【0012】
熱処理はさらに別の利点として、アルミニウム滑り軸受合金の強度値を硬化現象によって改善するという可能性を提供する。
【0013】
可能な硬化現象を実現するのに適した元素は、たとえばケイ素、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウムである。銅の添加は硬化速度を高め、これらの元素との組み合わせで適用することができる。米国特許第5,286,445号明細書より、2から15重量%のビスマス含有率と、0.05から1重量%のジルコニウムと、最大で1.5%の銅含有率および/またはマグネシウム含有率とを有するアルミニウム滑り軸受合金が公知である。追加的にこの合金は、錫、鉛、インジウム群に属する合計で0.05から2重量%の少なくとも1つの元素を含み、または、ケイ素、マンガン、バナジウム、アンチモン、ニオブ、モリブデン、コバルト、鉄、チタン、クロムの群に属する合計で0.05から5重量%の少なくとも1つの元素を含んでいる。亜鉛、鉛、インジウムの追加は、伸長したビスマス液滴が200℃から350℃の温度のもとでさらに微細な析出物へと再凝固するのを補助する。ジルコニウム、ケイ素、マグネシウムの各元素は、米国特許第5,286,445号明細書によれば圧延クラッド工程の直前に行われる480℃から525℃の温度領域での焼きなまし後に、本来の硬化現象を引き起こす。遷移元素は、素材の機械的な耐久性の追加的な向上を保証するとされている。
【0014】
少数相のサイズと分布に対するケイ素の不都合な作用がすでに言及されている。マグネシウムの添加は、マグネシウムがビスマスとともに金属間化合物Mg
3Bi
2を優先的に形成するという欠点を追加的にもたらす。この金属間化合物はビスマス液滴中に沈積し、摩耗粒子に対するビスマス液滴の埋め込み能力を明らかに低下させる。錫添加によって、滑り軸受素材の機械的な耐久性が高い温度のときに損なわれる。さらに、独国特許出願公開第4014430A1号明細書および米国特許第5,286,445号明細書で提案されている480℃を超える熱処理の温度は、鋼材支持シェルとアルミニウムの間での脆い金属間相の形成につながる。
【0015】
以上に説明したビスマス含有の合金は、これまで総体的には実用上の意義を獲得していない。連続鋳造とこれに後続する滑り軸受シェルへの二次加工とによる製造時に進行する複雑なプロセスが、現在のところ十分な程度まで管理されていないからである。アルミニウム滑り軸受合金の最善の特性プロフィルのための前提条件とみなされるのは、鋳造状態のときの少数相の微細な分布のほか、特に、必要な成形・圧延クラッド工程の後でも少数相の微細な分布を維持できる可能性である。さらに別の要求事項は、高い強度、機械的な耐久性−とりわけ高い温度のときも含む−、アルミニウムマトリクスの耐摩耗性、ならびに成形可能性である。
【発明の概要】
【0016】
したがって本発明の課題は、合金元素の相応の組み合わせによって、小さなビスマス介在物を有する特別に超微細粒子の組織を有することを特徴とし、ビスマス相の均等で微細な分布を実現するとともに、たとえば滑り軸受シェルへの製作段階での後続するストリップの二次加工中にこれを維持することを可能にする合金を形成することにある。
【0017】
この課題は、1から20重量%のビスマスと、主要合金元素としての、0.05から7重量%の銅、0.05から15重量%のケイ素、0.05から3重量%のマンガン、および0.05から5重量%の亜鉛から選択される少なくとも1つの元素と、追加元素としての、0.005から0.4重量%のチタン、0.005から0.7重量%のジルコニウム、0.001から0.1重量%のホウ素と、任意選択としての1つまたは複数の別の追加元素と、残りのアルミニウムとからなる、ビスマス介在物を有する偏晶アルミニウム滑り軸受合金によって解決される。
【0018】
本発明によるアルミニウム滑り軸受合金は超微細粒子状であり、ビスマス相の均一で微細な分布を有する。このアルミニウム滑り軸受合金は圧延可能性、鋼材との溶接可能性、滑り軸受金属の耐疲労性などの改善されたテクノロジー上の特性を有する。これらの特性は、アルミニウムと、マンガン、ケイ素、亜鉛、および/または銅との、ならびにチタン、ジルコニウム、ホウ素の組み合わせとの、液体の状態での、および結晶化のプロセスでの相互作用の特殊性によって実現される。追加元素であるチタン、ジルコニウム、ホウ素の組み合わせは、驚くべきことに、引き続いての後加工のときにも維持される超微細粒子状の構造を惹起する。上記の追加合金元素の組み合わせは、アルミニウム・ビスマス・マンガン(銅、ケイ素、または亜鉛)合金において、50から1μmの小さなビスマス介在物を有する、約100から20μmの固有の超微細粒子状の組織の形成をもたらす。この組織は、高度の可塑的な成形のために適している。このような種類の成形の後、本発明による合金は超可塑的な挙動に類似する、いっそう高い機械的、トライボロジー的な特性を保証する挙動を示し、すなわち良好な疲労挙動、低い腐食限界、低い相対的摩耗、高い固有の支持能力を示す。チタン、ジルコニウム、ホウ素の組み合わせは、銅、亜鉛、ケイ素、またはマンガン、もしくはこれらの元素の組み合わせを主要合金元素として含むアルミニウム合金の粒子微細化を惹起する。本発明による滑り軸受合金は超可塑的な特性を有する。アルミニウム合金の超可塑的な特性は、基本的には周知である。
【0019】
T.Ruspaev、U.Dragelates、およびB.Bouaifi著;「AlCuMn合金の超可塑性に対するAl
2Cu層の影響」、Mat−wiss.u.Werkstofftech.34,219−224,2003)により、超可塑的な成形可能性を有する合金が知られている。例として次のものが挙げられている:AlZn5.7Mg1.6Zr0.4;AlZn6.1Mg3.1Cu1.5MnCrTi;AlCu6Zr0.5;AlCu6Mn0.4Zr0.2。
【0020】
米国特許出願公開第3、841、919A号明細書により、点A(89.8%のAl、9.7%のSi、0.5%のMg)、点B(78.6%のAl、14.1%のSi、7.3%のMg)、点C(78.5%のAl、16.6%のSi、4.9%のMg)、点D(86.3%のAl、13.2%のSi、0.5%のMg)の限られた濃度範囲で、合金組成が超可塑性を示すことが公知である。
【0021】
欧州特許第0297035B1号明細書により、0.8−2.5%のSi、3.5−6.0%のMg、0.1−0.6%のMn、0.05−0.5%のZr、最大6.0%のZn、最大3.0%のCu、0.3%のSi、0.05%のTi、0.05%のCr、残りアルミニウムを有する合金が、超可塑的な成形可能性のために適していることが公知である。
【0022】
国際公開第1983/001629号明細書は、1.5から9.0%のマグネシウム、0.5から5.0%のケイ素、0.05から1.2%のマンガン、0.05から0.3%のクロム、アルミニウムからなる残りを含む超可塑的なアルミニウム合金プレート、および、1.5から9.0%のマグネシウム、0.5から5.0%のケイ素、0.05から1.2%のマンガン、0.05から0.3%のクロムを含む溶融したアルミニウム合金の連続鋳造によって超可塑的なアルミニウム合金プレートを製造する方法を示しており、それにより3から20mmの厚さの帯材を形成し、その際にこれに均一化が施される。430℃から550℃での加工と、60%またはそれ以上の圧延比率での冷間圧延である。
【0023】
材料工学の科目の教員資格を取得するための工学博士・物理学士Ralph Joerg Hellmigの論文「Equal Channel Angular Pressing(ECAP)による高度の可塑的な成形」により、超可塑的な成形可能性を有する合金は固有の超微細粒子状の組織を有するという特徴があり、次のような特性を有することが知られている:
−従来の素材に比べたときの明らかな強度の向上
−熱処理との適切な組み合わせによる高い強度と延性の調整可能な状態
−極端な超可塑性
−改善された疲労挙動
超可塑性の金属物理学的な原因には次のものがあることが知られている:
−粒界すべり(粒子形状は維持される(モデル:油を含んだ砂)、個々の粒子の回転と変位)
−転位クリープ(熱で活性化するプロセスにより、空孔や中間格子原子などの障害物が克服される)
−拡散クリープ(空孔が結晶格子を通して拡散する)
−動的回復(回復プロセス、たとえばらせん転位の交差すべり)
本発明が依拠する知見は、追加元素であるチタン、ジルコニウム、ホウ素の組み合わせが、小さなビスマス介在物を有する、超可塑に類似する超微細粒子状の偏晶アルミニウム滑り軸受合金をもたらし、これが高度に可塑的な成形に適しているというものである。ただし、銅または亜鉛についての7重量%を超える元素濃度の上昇、ケイ素についての15重量%を超える上昇、およびマンガンについての3重量%を超える上昇は、構造の粗大化と合金特性の劣化につながる。亜鉛の含有率は2.5重量%までであるのが好ましく、好ましくは0.5から2重量%の間である。ケイ素の含有率は1.2から15重量%の間であるのが好ましく、1.5から5重量%の割合と10から15重量%の割合が特別に好ましい。
【0024】
本発明による滑り軸受合金の超微細粒子状の構造についての説明は、充填密度の高い特別なクラスタの形成からもたらされる。
【0025】
マンガンは、アルミニウム(Al
Atomradius=143pm)よりわずかに小さい原子半径(Mn
Atomradius=127pm)を有する。原子半径の比率は、Mn
Atomradius/Al
Atomradius=0.8881である[D.B.Miracle, Candidate Atomic Cluster Configurations in Metallic Glass Structures. Materials Transactions,Vol.47,No.7(2006)pp.1737 to 1742]。
【0026】
これは、配位数−12を有する正二十面体クラスタを形成するための0.9の原子半径の最善の比率に非常に近い。
【0027】
ケイ素は、アルミニウム(Al
Atomradius=143pm)よりわずかに小さい原子半径(Si
Atomradius=110pm)を有する。原子半径の比率は、Si
Atomradius/Al
Atomradius=0.769である[D.B.Miracle, Candidate Atomic Cluster Configurations in Metallic Glass Structures. Materials Transactions,Vol.47,No.7(2006)pp.1737 to 1742]。
【0028】
銅と亜鉛も、同じくアルミニウム(Al
Atomradius=143pm)よりわずかに小さい原子半径(Cu(Zn)
Atomradius=135pm)を有する。原子半径の比率は、Cu(Zn)
Atomradius/Al
Atomradius=0.94である[D.B.Miracle, Candidate Atomic Cluster Configurations in Metallic Glass Structures. Materials Transactions,Vol.47,No.7(2006)pp.1737 to 1742]。
【0029】
これは、配位数−12を有する正二十面体クラスタを形成するための0.9の原子半径の最善の比率に非常に近い。
【0030】
チタンは、アルミニウム(Al
Atomradius=143pm)よりわずかに小さい原子半径(Ti
Atomradius=140pm)を有する。原子半径の比率は、Ti
Atomradius/Al
Atomradius=0.979である[D.B.Miracle, Candidate Atomic Cluster Configurations in Metallic Glass Structures. Materials Transactions,Vol.47,No.7(2006)pp.1737 to 1742]。
【0031】
これは、配位数−12を有する八面体クラスタ、FCC(面心立方)クラスタ、または立方八面体クラスタを形成するための1.0の原子半径の最善の比率に非常に近い。
【0032】
ジルコニウムは、アルミニウム(Al
Atomradius=143pm)よりわずかに大きい原子半径(Zr
Atomradius=155pm)を有する。原子半径の比率は、Ti
Atomradius/Al
Atomradius=1.08である[D.B.Miracle, Candidate Atomic Cluster Configurations in Metallic Glass Structures. Materials Transactions,Vol.47,No.7(2006)pp.1737 to 1742]。
【0033】
ホウ素は、アルミニウム(Al
Atomradius=143pm)よりはるかに小さい原子半径(B
Atomradius=85pm)を有する。原子半径の比率は、Ti
Atomradius/Al
Atomradius=0.594である[D.B.Miracle, Candidate Atomic Cluster Configurations in Metallic Glass Structures. Materials Transactions,Vol.47,No.7(2006)pp.1737 to 1742]。
【0034】
これは、配位数−7を有する正二十面体クラスタを形成するための0.591の原子半径の最善の比率に非常に近い。
【0035】
結晶化中に合金の構造の形成にあたっておそらく重要な1つの役割を果たすのは、チタンおよび/またはアルミニウムとの関連におけるホウ素である。
【0036】
特に配位数−7を有する正二十面体クラスタまたは十面体クラスタは、融液が強く過冷却する特別な傾向を有することが知られている。過冷却状態では正二十面体または十面体の短距離秩序が生じ、充填密度の高いクラスタが生じる。一方における正二十面体の短距離秩序、および他方における固体は明らかに相違する充填を有する。強い過冷却での充填密度の上昇は、結晶化のための、およびその他の相転換のための原子の拡散を阻害する。過冷却が大きいケースでは融液が大きな過剰の自由エネルギーを有し、平衡の範囲から大きく外れる多彩な準安定相での多様な凝固形式のために系がこれを利用することができる。このように、過飽和の混合相、粒子微細化された合金、無秩序の超格子構造、準安定な結晶相からなり得る準安定な固体を生じることができる。このことは合金の著しい強化につながる。
【0037】
このような計算を踏まえたうえで、マンガン、銅と亜鉛、ジルコンとチタンはアルミニウムとともに配位数12で特別に稠密で安定したクラスタの形成をもたらし、その特徴は十面体、二十面体または八面体、FCC(面心立方)または立方八面体であり得る。このことは、アルミニウムと銅と亜鉛、ジルコン、チタン、マンガンの原子の間での特別に有効な相互作用につながり、銅と亜鉛、ジルコン、チタンとマンガンは、液体の状態でも固体の状態でも稠密な充填のための開始剤となる。
【0038】
一方における十面体または二十面体の充填、および他方における固体は明らかに相違する充填を有する。強い過冷却での充填密度の上昇は、結晶化のための、およびその他の相転換のための原子の拡散を阻害する。過冷却が大きいケースでは融液が大きな過剰の自由エネルギーを有し、平衡の範囲から大きく外れる多彩な準安定相での多様な凝固形式のために系がこれを利用することができる。このように、過飽和の混合相、粒子微細化された合金、無秩序の超格子構造、準安定な結晶相からなり得る準安定な固体を生じることができる。クラスタ形成によって実現される粒子微細化は、粗粒子状の樹状組織から、典型的には100マイクロメートルよりも小さい粒度を有する、等軸の粒子微細化された組織へのモルフォロジーの変化につながる。このことは、20マイクロメートルの平均サイズまでのビスマス相の大幅な微細化にもつながる。
【0039】
過剰に多量の追加の合金元素は結晶化インターバルを拡大して、アルミニウムと銅、ケイ素、マンガン、亜鉛、チタン、ジルコン、ホウ素の間の最善の相互作用を妨げることがある。このことはビスマス介在物の増加と拡大が生じることを促進し、そのために合金の特性が劣化する。銅と亜鉛、ジルコン、チタン、マンガンのプラスの影響を確保するために、追加の元素の量は1.0重量%よりも少ないのが有意義である。
【0040】
本発明による滑り軸受合金では、ビスマスは唯一の軟質相形成剤としての役目を果たし、すなわち、この目的のためにビスマスと鉛および/または錫との組み合わせは存在しない。鉛および/または錫は本発明による滑り軸受合金では存在せず、もしくは多くとも0.5重量%未満の総割合の少量で存在する。
【0041】
さらに別の追加合金元素によって、本発明による合金の特性を特定の使用目的に合わせて固有に適合化することが可能である。
【0042】
考慮の対象となる追加合金元素は次の5つのグループに分類される:
グループ1:
最大0.5重量%の総割合のタンタル、ニオブ、ハフニウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、アンチモン、スカンジウム、セリウム、カルシウム
グループ2:
最大1重量%の総割合のニッケル、コバルト、鉄、クロム
グループ3:
最大0.1重量%の総割合の炭素、窒素
グループ4:
最大1.0重量%の総割合の銀、ゲルマニウム、リチウム
グループ5:
最大0.5重量%の総割合の錫、鉛
個々のグループにおいて下限はそれぞれ0.001重量%であり、すなわち、実質的に検証可能限界である。
【0043】
グループ1の追加合金元素は2通りの作用メカニズムを示す。これらのメカニズムは一般には同時に作用するが、いくつかのケースでは一方が他方に支配される。
【0044】
作用メカニズム1:
タンタル、ニオブ、ハフニウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、アンチモン、スカンジウム、セリウムの各元素はアルミニウムよりも大きい、もしくは少なくともわずかにしか小さくない原子半径を有し、特別に稠密で安定した配位数12の十面体クラスタまたは八面体クラスタおよび立体八面体クラスタの形成をもたらす。一方における十面体充填、および他方における固体は明らかに相違する充填を有する。強い過冷却での充填密度の上昇は、結晶化のための、およびその他の相転換のための原子の拡散を阻害する。過冷却が大きいケースでは融液が大きな過剰の自由エネルギーを有し、平衡の範囲から大きく外れる多彩な準安定相での多様な凝固形式のために系がこれを利用することができる。このように、過飽和の混合相、粒子微細化された合金、無秩序の超格子構造、準安定な結晶相からなり得る準安定な固体を生じることができる。クラスタ形成によって実現される粒子微細化は、粗粒子状の樹状組織から、典型的には100マイクロメートルよりも小さい粒度を有する、等軸の粒子微細化された組織へのモルフォロジーの変化につながる。このことは、20マイクロメートルの平均サイズまでのビスマス相の大幅な微細化にもつながる。八面体クラスタおよび立体八面体クラスタの形成中は結晶成長が優位となる。一方における八面体クラスタおよび立体八面体クラスタの充填と、他方における固体とは類似性を有する。このケースでは、凝固先端の前での非常にわずかな過冷却のみが生じ、トランス結晶粒子の内部に最大10マイクロメートルの平均サイズのビスマスの小さな介在物を含む、典型的には500マイクロメートルよりも小さい粒度を有するトランス結晶組織が形成される。
【0045】
作用メカニズム2:
タンタル、ニオブ、ハフニウム、バナジウム、タングステン、モリブデン、スカンジウムの各元素はアルミニウムと包晶反応し、Al
xM1相からなる追加の結晶核の形成につながり、ここでM1は上記の金属のうちの1つである。追加の結晶核はマトリクス(αAl)の微細化につながる。このことは、40マイクロメートルの平均粒度までのビスマス相の微細化にもつながる。追加の結晶核はAl
3V、Al
3Nb、Al
3Ta相の種類のものであり得る。核形成による粒子微細化は、粗粒子状の樹状組織から、典型的には100マイクロメートルよりも大きい粒度を有する、等軸の粒子微細化された組織へのモルフォロジーの変化につながる。グループ1の追加合金元素の高い濃度が粗い金属間相を形成する場合にしばしば該当するように、第2のメカニズムが強く支配的であるケースでは、ビスマス相は100マイクロメートルの粒度まで粗くなる。この場合にもAl
xM1相の増大が可塑性の低下とビスマス相の拡大につながり得るので、合計割合(総割合)は0.5重量%をもって上限とすべきである。
【0046】
Sc、Hf、Nb、Zr、Ti、V、Mnは、特に凝固速度が高いとき、過飽和したα混合結晶を形成する。引き続いての熱処理により、溶解したSc、Zr、Ti、V、Mnが的確に二次Al
3XYZとなり、ここでXYZ−Sc、Hf、Nb、Zr、Ti、Vであり、たとえばAl
3(Sc、Zr)またはAl
3(Ti、Zr)Al
12Mn
2CUナノ相となる。このナノ構造化された相の高い密度は、有意な強度向上を同時に高い靭性で惹起する。このナノ構造化された相は再結晶化プロセスの阻害を惹起し、超微細粒子状の粒子構造の形成と維持をもたらす。これは最終的に、小さなビスマス介在物を有する、超微細粒子状の超可塑性に類似する偏晶アルミニウム滑り軸受合金の特別な特性をもたらし、この特性は硬度の可塑的な成形のために適している。
【0047】
アルミニウムよりも大幅に小さい原子半径を有するグループ2の追加合金元素すなわちニッケル、コバルト、鉄、クロムは、アルミニウムとともに共晶変換を示す、二十面体クラスタ型式の配位数12,11,10,9の特別に稠密で安定したクラスタの形成をもたらす。グループ2の追加合金元素、すなわちケイ素、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄、クロムはアルミニウムとともに共晶体e(αAl+Al
xM2
y)を形成し、ここでM2はこのグループに属する元素のうちの1つである。このように、この共晶体は2つの相すなわちαAl混合結晶と金属間相Al
xM2
yからなる。αAl混合結晶に溶解している合金元素はいわゆる混合結晶硬化を惹起する。マトリクスの中で微細に分散して沈積された粒子Al
xM2
yが転位による移動にとっての障害物となり、粒子硬化を惹起する。共晶性の合金は、強い過冷却をする特別な傾向を有することが知られている。過冷却状態では正二十面体の短距離秩序が生じ、充填密度の高いクラスタが生じる。一方における正二十面体の短距離秩序、および他方における固体は明らかに相違する充填を有する。強い過冷却での充填密度の上昇は、結晶化のための、およびその他の相転換のための原子の拡散を阻害する。過冷却が大きいケースでは融液が大きな過剰の自由エネルギーを有し、平衡の範囲から大きく外れる多彩な準安定相での多様な凝固形式のために系がこれを利用することができる。このように、過飽和の混合相、粒子微細化された合金、無秩序の超格子構造、準安定な結晶相からなり得る準安定な固体を生じることができる。このことは合金の著しい強化につながる。高い割合の共晶体は可塑性の低下に寄与し得るので、総割合は1.0重量%をもって上限とすべきである。
【0048】
グループ3の炭素および窒素の各元素によって、または炭素、窒素とチタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、バナジウムとの組み合わせによって、主として追加の結晶核が形成される。このような追加の結晶核はAlTiC、AlTiB、TaC、TiC相であり得る。上記の相の増加は可塑性の低下に寄与し得るので、これらの合金元素の総割合は0.1重量%をもって上限とする。
【0049】
グループ4の追加合金元素すなわち銀、ゲルマニウム、リチウムは、アルミニウムマトリクス中で溶解性であり、αAl混合結晶を形成する。それにより混合結晶硬化が惹起される。合計割合は1.0重量%をもって限度とすべきである。
【0050】
チタンとホウ素の添加は、市販の粒子微細化剤AlTi5B1やAlTi3C0.15を適用することで、約0.3から2重量%の添加量で行うこともできることが確認されている。それにより、強い粒子微細化作用が本発明による合金に対して及ぼされ、さまざまに異なる冷却速度での連続鋳造の際の高温亀裂の形成が確実に防止される。これに加えて、上述した粒子微細化剤の添加は、少数相のサイズの明らかな低減を惹起する。ビスマス液滴の最大直径を、鋳造状態での粒子微細化添加剤の使用によって、約5K/sの比較的低い冷却速度の場合でさえ30マイクロメートル未満に低減することができる。
【0051】
さらに本発明は、上に説明したような本発明による組成を適用してアルミニウム滑り軸受合金を製造する方法を含む。冷却速度が5から300K/sである鋳造法で、合金成分が合金をなすように組み合わせるのが好ましい。この冷却速度は、上に述べた粒子微細化剤を添加すれば、1000K/sまで引き上げることができる。それ以外の点では、別の通常の生産方法で、特に別の鋳造法によって合金を製造することもできる。現在のところ連続鋳造による製造が好ましい。その場合、好ましくは液滴状のビスマス沈積物が生じるように諸条件が適合化される。連続鋳造では、排出速度は好ましくは2から15mm/sである。鋳造によって得られる合金は、本発明の好ましい実施形態に基づき、後続の成形プロセスの過程で約230から400℃の間の温度のもとでの少なくとも1つの熱処理が施される。このような熱処理は圧延工程および/または圧延クラッド工程に続いて行われるのが好ましく、製造プロセスの内部で合金の鋳造と最終製品との間に複数の圧延工程および/またはクラッド工程を実行することができ、少なくとも1つの熱処理が最後の圧延工程および/または圧延クラッド工程に引き続いて、あるいはこのような工程のうちの複数もしくは全部に引き続いて行われる。
【0052】
半製品の準備のために、または特に滑り軸受などの製品の生産の過程で、鋳造された合金に少なくとも1つの支持層を付与することができる。支持層は、特に鋼材層であってよい。それ以外の層、たとえば付着媒介層やコーティングなども付け加えることができる。
【0053】
さらに本発明は、使用される材料のうちの1つとして本発明による合金を含む、または当該合金からなる滑り軸受シェルを含む。最後に本発明は、このような滑り軸受シェルを有する滑り軸受、ないしは滑り軸受での本発明による合金の利用法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1a】
図1aは、AlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005とAlBi7Mn2.3Cu1.6Cr0.35Ti0.15Zr0.15B0.003の各合金の組織を、鋳造の後と鋼材ストリップへのクラッディング後に示している。暗く写っているのがビスマス相である。
【
図1b】
図1bは、AlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005とAlBi7Mn2.3Cu1.6Cr0.35Ti0.15Zr0.15B0.003の各合金の組織を、鋳造の後と鋼材ストリップへのクラッディング後に示している。暗く写っているのがビスマス相である。
【
図2a】
図2aは、AlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005とAlBi7Mn2.3Cu1.6Cr0.35Ti0.15Zr0.15B0.003の各合金の組織を、鋳造の後と鋼材ストリップへのクラッディング後に示している。暗く写っているのがビスマス相である。
【
図2b】
図2bは、AlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005とAlBi7Mn2.3Cu1.6Cr0.35Ti0.15Zr0.15B0.003の各合金の組織を、鋳造の後と鋼材ストリップへのクラッディング後に示している。暗く写っているのがビスマス相である。
【
図3】
図3は、鋼材ストリップにクラッディングされたAlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005合金(エッチングしたもの)の組織を示している。
【
図4】
図4は、AlSi11Bi7Cu0.5Ti0.17Zr0.22B0.009合金(エッチングしたもの)の組織を示している。
【発明を実施するための形態】
【0055】
次に、実施例を参照しながら本発明について詳しく説明する。
【0056】
滑り軸受素材の製造するために、連続鋳造設備を取り上げる本例では、10mm×130mmの断面をもつ鋳造ストリップが製作される。ストリップの製造時には排出速度が8mm/sであり、ならびに冷却速度が100K/sである。最初に、ストランドが幅広面で厚さおよそ8mmまで水平フライス加工される。次いで、ブラシ加工されて油取りされたアルミニウム合金からなる付着媒介材が第1の圧延パスにより、同じくブラシ加工されて油取りされた、
AlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005−、
AlBi7Mn2.3Cu1.6Cr0.35Ti0.15Zr0.15B0.003−、
AlBi5Cu1.5Mn0.45Ti0.25Zr0.23B0.004、
AlBi5Cu2.5Zn2Si1Mn0.45Ti0.25Zr0.25B0.002−または
AlSi11Bi7Cu0.5Ti0.17Zr0.22B0.009−合金の上に圧延機スタンドでクラッディングされる。アルミニウム軸受素材ストリップのクラッディング能力を改善するために、これが370℃で回復焼きなましに最大3時間のあいだかけられる。クラッディングされた前材料ストリップの厚みは4mmである。次いで、これがただ1つの圧延パスで1.3mmまで圧延されて、クラッディング圧延機で鋼材ストリップの上に相互に結合される。
【0057】
次いで、製作された複合素材を360℃の温度のもとで3時間の熱処理にかけ、このとき鋼材とアルミニウム合金素材との間の結合が拡散プロセスによって向上し、クラッディング後にアルミニウム・亜鉛・銅マトリクスの中で強力に伸長していたビスマスファイバの大半が、最大20μmのサイズの微細な液滴へと再形成される。同じく熱処理の結果として生じる、少なくとも
AlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005について55HB(2.5/62.5/30)、
AlBi7Mn2.3Cu1.6Cr0.35Ti0.15Zr0.15B0.003について62HB、
AlBi5Cu1.5Mn0.45Ti0.25Zr0.23B0.004について60HB、
AlBi5Cu2.5Zn2Si1Mn0.45Ti0.25Zr0.025B0.002について63HB、および
AlSi11Bi7Cu0.5Ti0.17Zr0.22B0.009について82HB(表1)の高い硬度が好ましい。この熱処理の後、クラッディングされたストリップを分割して軸受シェルに成形することができる。
【0058】
国際公開第2006131129A1号明細書に記載のAlZn5Cu3Bi7−合金と、開発された合金AlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005および
AlBi7Mn2.3Cu1.6Cr0.35Ti0.15Zr0.15B0.003;
AlBi5Cu1.5Mn0.45Ti0.25Zr0.23B0.004;
AlBi5Cu2.5Zn2Si1Mn0.45Ti0.25Zr0.23B0.002、
AlSi11Bi7Cu0.5Ti0.17Zr0.22B0.009との技術的、機械的な特性(表1)の比較は、開発された合金のほうが高い技術的、機械的な特性を備えていることを示す。
【0060】
本発明による滑り軸受合金は連続鋳造されるのが好ましく、排出速度と冷却速度にほぼ依存しないビスマス相の微細な分布を鋳造状態のときすでに有するという特徴がある。その後の処理の過程で圧延や圧延クラッディングのときに生じる長いビスマスプレートを、その後に270℃から400℃の温度での熱処理によって、相応に方法管理がなされれば20μm未満で存在する微細に分布した球状の液滴へと完全に再凝集させることができる。この合金は約7から12重量%のビスマスを含むのが好ましい。マンガンの割合は1から5重量%の間であり、特に約1.3から4.5重量%の間である。さまざまな元素の割合は、与えられている限度の枠内であれば互いに独立して変更可能である。
【0061】
添付の組織写真は各実施例の構造を明示している。
【0062】
図1および2は、AlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005とAlBi7Mn2.3Cu1.6Cr0.35Ti0.15Zr0.15B0.003の各合金の組織を、鋳造の後と鋼材ストリップへのクラッディング後に示している。暗く写っているのがビスマス相である。
【0063】
図3は、鋼材ストリップにクラッディングされたAlBi7Mn1.4Cu0.5Ti0.15Zr0.3B0.005合金(エッチングしたもの)の組織を示している。
【0064】
図4は、AlSi11Bi7Cu0.5Ti0.17Zr0.22B0.009合金(エッチングしたもの)の組織を示している。
【0065】
付言しておくと、各例は図解説明のためのものにすぎず、本発明を限定するものではない。当業者には、滑り軸受と軸受シェルがどのように製造されるかが周知であり、したがって、本発明による合金の製造を通常の軸受製造プロセスへどのように取り入れることができるかもわかる。
【国際調査報告】