(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-524794(P2020-524794A)
(43)【公表日】2020年8月20日
(54)【発明の名称】最適な癌療法のためのSLFN11タンパク質の定量
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20200727BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20200727BHJP
C12P 21/06 20060101ALN20200727BHJP
【FI】
G01N27/62 V
C07K7/06ZNA
C12P21/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-570468(P2019-570468)
(86)(22)【出願日】2018年6月20日
(85)【翻訳文提出日】2020年2月19日
(86)【国際出願番号】US2018038546
(87)【国際公開番号】WO2018237034
(87)【国際公開日】20181227
(31)【優先権主張番号】62/522,670
(32)【優先日】2017年6月20日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】517069284
【氏名又は名称】ナントオミックス, エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ファビオラ、チェッキ
(72)【発明者】
【氏名】サリット、シュワルツ
(72)【発明者】
【氏名】トッド、ヘンブロー
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ、マイケル、ルディン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、トーマス、ポワリエ
【テーマコード(参考)】
2G041
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041FA22
2G041FA23
2G041FA24
2G041FA25
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA05
2G041LA09
4B064AG01
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4B064DA14
4H045AA10
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4H045CA41
4H045EA20
4H045EA50
4H045EA51
4H045GA01
(57)【要約】
腫瘍、特に肺腫瘍が、シスプラチン等の白金ベースの薬剤を含み、場合によりタキサンを含む治療計画による処置に応答するかどうかを識別する方法が提供される。特定のシュラーフェンファミリーメンバー11(SLFN11)フラグメントペプチドを、癌患者から得られた肺腫瘍組織から回収された肺癌細胞において直接的に質量分析によって正確に検出、定量する。基準レベルとの比較により、癌患者が化学療法剤タキサン及びシスプラチン等の白金ベースの薬剤による処置に肯定的又は否定的に応答するかどうかを決定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺癌に罹患している患者を処置する方法であって、
(a)前記患者から得られた腫瘍試料から調製されたタンパク質消化物における特定のSLFN11フラグメントペプチドのレベルを定量し、質量分析によって前記試料における前記SLFN11フラグメントペプチドのレベルを計算すること、
(b)前記SLFN11フラグメントペプチドのレベルを基準レベルと比較すること、並びに
(c)前記SLFN11フラグメントペプチドのレベルが前記基準レベルを上回る場合、有効量の白金ベースの薬剤を含む治療計画で前記患者を処置すること、及び
(d)前記SLFN11フラグメントペプチドのレベルが前記基準レベルを下回る場合、有効量の白金ベースの薬剤を含まない治療計画で前記患者を処置すること
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記工程(c)における治療計画がタキサンをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SLFN11フラグメントペプチドの前記基準レベルが、分析された生体試料タンパク質1μg当たり100amol±95amolである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基準レベルが、分析された生体試料タンパク質1μg当たり100amol±75amolである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基準レベルが、分析された生体試料タンパク質1μg当たり100amol±50amolである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記基準レベルが、分析された生体試料タンパク質1μg当たり100amol±25amolである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生体試料の前記タンパク質消化物が、Liquid Tissueプロトコルにより調製される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質消化物がプロテアーゼ消化物を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質消化物がトリプシン消化物を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
質量分析が、タンデム質量分析、イオントラップ質量分析、トリプル四重極型質量分析、MALDI−TOF質量分析、MALDI質量分析、ハイブリッドイオントラップ/四重極型質量分析、及び/又は飛行時間型質量分析を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
使用される質量分析のモードが、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、並列反応モニタリング(PRM)、インテリジェント選択反応モニタリング(iSRM)、及び/又は多重選択反応モニタリング(mSRM)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記特定のSLFN11ペプチドが、YTPESLWR(配列番号1)として記載のアミノ酸配列を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記腫瘍試料が、細胞、細胞群、又は固形組織である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記腫瘍試料がホルマリン固定された固形組織である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組織がパラフィン包埋された組織である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記特定のSLFN11フラグメントペプチドの定量が、既知量のスパイクされた内部標準ペプチドと比較することにより、前記試料における前記SLFN11ペプチドの量を決定することを含み、前記生体試料における天然のペプチド及び内部標準ペプチドの両方が、SLFN11フラグメントペプチドYTPESLWR(配列番号1)と同一のアミノ酸配列に対応する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記内部標準ペプチドが同位体標識されたペプチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記同位体標識された内部標準ペプチドが、18O、17O、15N、13C、2H又はそれらの組合せから選択された1種以上の重安定同位体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
処置に使用される1種以上の薬剤の選択に関する処置決定が、前記生体試料における他のペプチド/タンパク質と組み合わせられた前記特定のSLFN11フラグメントペプチドの特定のレベルに基づくように、前記SLFN11フラグメントペプチドの検出及び定量が、マルチプレックスにおいて他のタンパク質からの他のペプチドの検出及び定量と組み合わせられる、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2017年6月20日に出願された「最適な癌療法のためのSLFN11タンパク質の定量」という名称の米国仮出願第62/522,670号に基づく優先権を主張し、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
癌患者を処置するための改良された方法が提供される。患者の腫瘍組織を分析し、その分析結果を使用し、患者に投与される改良された処置計画又は最適な処置計画を選択する。
【背景技術】
【0003】
現在、標準的な化学療法による癌患者の処置の転帰を示唆する予測バイオマーカーは承認されていない。シュラーフェンファミリーメンバー11(SLFN11)タンパク質は、DNA損傷化学療法剤に対する感受性に必要であると広範に報告されている。SLFN11のエピジェネティックに調節された抑制は、卵巣癌及び肺癌の患者における白金ベースの薬剤に対する応答不良と関連している。さらに、前臨床の肺癌モデルによって、SLFN11の発現がシスプラチン、PARP阻害剤及びトポイソメラーゼ阻害剤に対する応答の有用なバイオマーカーであり得ることが示唆されている。
【0004】
腫瘍のSLFN11発現は、現在、免疫組織化学、RNA発現又はDNAメチル化により評価される。しかしながら、患者の腫瘍細胞におけるSLFN11タンパク質の量を効果的に測定するための標準化された方法は存在しない。タキサン及び白金(TP)により処置された初期肺癌患者の保存試料におけるSLFN11タンパク質を正確に定量し、SLFN11タンパク質の定量レベルを患者の全生存期間と相関させる質量分析ベースのアッセイの方法が提供される。
【0005】
肺癌は男性の癌関連死の最も多い原因であり、女性では乳癌に次いで二番目に多い癌関連死の原因である。全体として、肺癌と診断された米国の人々の17.4%は診断後5年生存するが、発展途上国では平均して転帰は悪化する。白金ベースのDNA損傷化学療法剤は、肺癌患者の生存期間を延長することができる。化学療法剤シスプラチンは、肺癌を含む多くの異なる種類の癌の患者の標準処置である。タキソールベースの微小管阻害化学療法剤も、肺癌患者の生存期間を延長することができる。パクリタキセルは微小管阻害剤であり、一般に肺癌を含む多くの異なる種類の癌に対して最も一般的に使用される化学療法剤の1つと考えられる。
【0006】
白金ベースの化学療法剤は、モノアダクト(monoadduct)、鎖間架橋、鎖内架橋、又はDNAタンパク質架橋等のDNAの架橋を引き起こす。これらの薬剤は主にグアニンの隣接するN−7位に作用し、1,2−鎖内架橋を形成する。結果として生じる架橋は、癌細胞におけるDNA修復及び/又はDNA合成を阻害する。
【0007】
SLFN11タンパク質は、複数の機能を有する。1つは、tRNAに結合し、隔離することで、転写後プロセシングによるtRNAの成熟を阻害し、tRNAの脱アシル化を促進することで、タンパク質合成を阻害する。SLFN11は、逆転写、組込み又は産生、及びウイルスRNAの核外輸送を阻害しない。さらに、SLFN11は、外因的に誘発されたDNA損傷に応答して、細胞周期の停止及び/又はアポトーシスの誘導に役割を果たす可能性がある。したがって、腫瘍細胞におけるより高いレベルのSLFN11タンパク質は、白金ベースの化学療法剤等の化学療法剤によって誘発されるDNA損傷後のタンパク質合成の阻害及び腫瘍細胞のアポトーシスの促進に役立つことができる。
【発明の概要】
【0008】
肺癌に罹患している患者を処置する方法であって、(a)前記患者から得られた腫瘍試料から調製されたタンパク質消化物(例えば、プロテアーゼ消化物)における特定のSLFN11フラグメントペプチドのレベルを質量分析によって定量し、前記試料における前記SLFN11フラグメントペプチドのレベルを計算すること、(b)前記SLFN11フラグメントペプチドのレベルを基準レベルと比較すること、及び(c)前記SLFN11フラグメントペプチドのレベルが前記基準レベルを上回る場合、タキサン化学療法剤と白金ベースの薬剤との有効量の組合せを含む治療計画で前記患者を処置すること、又は(d)前記SLFN11フラグメントペプチドのレベルが前記基準レベルを下回る場合、タキサン化学療法剤と白金ベースの薬剤との有効量の組合せを含まない治療計画で前記患者を処置すること、を含んでなる方法が提供される。基準レベルは、分析された生体試料タンパク質1μg当たり100amol±95amol、±75amol、±50amol、又は±25amolである。タンパク質消化物は、トリプシン消化物であってもよい。腫瘍試料は、細胞、細胞群、又は固形組織であってもよく、ホルマリン固定され、場合によりパラフィン包埋されていてもよい。
【0009】
質量分析は、タンデム質量分析、イオントラップ質量分析、トリプル四重極型質量分析、MALDI−TOF質量分析、MALDI質量分析、ハイブリッドイオントラップ/四重極型質量分析(hybrid ion trap/quadrupole mass spectrometry)及び/又は飛行時間型質量分析であってもよく、使用する質量分析のモードは、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、並列反応モニタリング(PRM)、インテリジェント選択反応モニタリング(iSRM)、及び/又は多重選択反応モニタリング(mSRM)であってもよい。
【0010】
有利には、特定のSLFN11ペプチドは、アミノ酸配列YTPESLWR(配列番号1)を有し、既知量のスパイクされた(spiked)内部標準ペプチドと比較することにより定量される。ここで、生体試料における天然の(native)ペプチド及び内部標準ペプチドの両方が、アミノ酸配列YTPESLWR(配列番号1)を有する。有利には、内部標準ペプチドは、例えば、
18O、
17O、
15N、
13C、
2H及びこれらの同位体の組合せ等の1種以上の重安定同位体で同位体標識される。
【0011】
これらの方法を使用して、癌患者の処置に使用される1種以上の化学療法剤の選択に関する処置決定に情報を与えることができる。さらに、処置に使用される1種以上の薬剤の選択に関する処置決定が、生体試料における他のペプチド/タンパク質と組み合わせられた特定のSLFN11フラグメントペプチド又はSLFN11タンパク質の特定のレベルに基づくように、これらの方法をマルチプレックスフォーマットにおいて他のタンパク質からの他のペプチドの検出及び定量と組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、患者の無増悪生存期間(PFS)曲線を示す図であり、タキサン及び白金ベースの薬剤で処置された場合、腫瘍組織が腫瘍細胞タンパク質1μg当たり100amolを上回るレベルのSLFN11タンパク質を発現する患者は、腫瘍細胞が腫瘍細胞タンパク質1μg当たり100amolを下回るレベルのSLFN11タンパク質を発現する患者よりも、統計的に有意に長いPFSを有する。結果は、治療開始後の日数における全生存期間の確率(0〜100%)として示される。マンテル・コックスログランク検定(p=0.0295)及びゲーハン・ブレスロウ・ウィルコクソン検定(p=0.0281)は生存期間の比較に使用され、両方とも統計的有意性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
癌、特に肺癌を処置する改良された治療方法が提供される。腫瘍組織内の細胞におけるSLFN11タンパク質発現の存在及び/又は定量レベルを決定し、測定レベルを使用して、処置された患者に改善された転帰を提供する処置計画を導く。より具体的には、全長SLFN11タンパク質の部分配列(subsequence)に由来する特定のペプチドを、患者からの腫瘍組織(例えば、ホルマリン固定された組織)のタンパク質消化物において測定する。SLFN11タンパク質の発現が特定の定量レベルを上回る場合、患者は、シスプラチン等の白金ベースの化学療法剤、及び/又は白金ベースの薬剤と同様に機能する他の薬剤を含む治療計画で処置される。治療計画は、場合によりタキサン剤を含んでもよい。あるいは、SLFN11タンパク質レベルが特定の定量レベルを下回る場合、患者は、シスプラチン等の白金ベースの化学療法剤、又はシスプラチン等の白金ベースの化学療法剤と同様に機能する他の薬剤を含まない代替治療計画で処置される。
【0014】
SLFN11ペプチドは、有利には、質量分析ベースの選択反応モニタリング(SRM)(多重反応モニタリング(MRM)とも呼ばれ、本明細書ではSRM/MRMアッセイと呼ばれる)を使用して検出される。SRM/MRMアッセイを使用して、癌患者組織(例えば、ホルマリン固定された癌組織)から得られた細胞において、直接的に特定のSLFN11フラグメントペプチドの存在を検出し、定量的に測定する。SLFN11フラグメントペプチドの各分子は一分子のSLFN11タンパク質に由来し、したがって、特定のペプチドの量を測定すると、腫瘍試料における完全なSLFN11タンパク質の量を定量することができる。特定の最適化された治療剤及び処置戦略を使用して、癌細胞において検出されたSLFN11タンパク質の量に基づいて個々の癌患者の疾患を処置することができる。
【0015】
より具体的には、癌患者が癌治療剤タキサン及び白金(TP)に対して好ましい様態で臨床的に応答するかどうかを決定する方法が提供される。患者からの1つの腫瘍試料又は複数の試料におけるSLFN11タンパク質の定量レベルを測定する。試料は有利にはホルマリン固定されており、パラフィン包埋されていてもよい。SRM/MRMアッセイは、有利には、特定のSLFN11ペプチドフラグメント、及びペプチドに関する特定の特性を測定し、好ましいペプチドは配列YTPESLWR(配列番号1)を有する。驚くことに、このペプチドはホルマリン固定され、パラフィン包埋された(「FFPE」)腫瘍組織の試料から調製された消化物において確実に検出及び定量可能であることが見出された。米国特許出願第13,993,045号を参照。その内容の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0016】
SRM/MRMアッセイを使用して、患者組織試料(例えば、ホルマリン固定された癌患者組織)から得られた細胞から調製された複雑なタンパク質溶解液試料におけるこれらのペプチドを直接的に測定することができる。ホルマリン固定された組織からタンパク質試料を調製する方法は、米国特許第7,473,532号に記載されており、その内容の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第7,473,532号に記載されている方法は、Expression Pathology Inc.(Rockville,Md.)から市販されているLiquid Tissue試薬及びプロトコルを使用して簡便に実行することができる。
【0017】
癌患者からの組織及び癌組織の最も広範かつ有利に利用可能な形態は、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織である。外科的に切除された組織のホルムアルデヒド/ホルマリン固定は、世界中で最も一般的な癌組織試料を保存する方法であり、標準的な病理プラクティス(pathology practice)で許容される慣例である。ホルムアルデヒドの水溶液はホルマリンと呼ばれる。「100%」ホルマリンは、酸化及び重合度を制限するための少量の安定剤(通常はメタノール)を含むホルムアルデヒドの飽和水溶液(体積基準で約40%又は質量基準で37%)からなる。組織を保存する最も一般的な方法は、組織全体を長時間(8時間〜48時間)、ホルムアルデヒド水溶液(一般的に10%中性緩衝ホルマリンと呼ばれる)に浸漬し、次いで、室温での長期間保存のために、固定された組織全体をパラフィンワックスに包埋する。このようなホルマリン固定された癌組織を分析するための分子分析法は、癌患者の組織の分析のために最も受け入れられ、頻繁に利用される方法である。
【0018】
SRM/MRMアッセイからの結果は、SLFN11タンパク質の精密かつ正確な定量レベルを、肺癌組織、結腸癌組織、皮膚癌組織及び脳癌組織等の組織が回収され、保存された患者の特定の癌と相関させるために使用することができる。有利には、SLFN11タンパク質のレベルは、肺癌からの腫瘍試料で測定される。これにより、癌に関する診断情報が提供されるだけでなく、医師又は他の医療専門家が患者に対する好適な治療を決定することもできる。この場合、このアッセイを利用すると、癌組織における特定のレベルのSLFN11タンパク質発現に関する情報と、癌組織が得られた患者が、シスプラチン等の白金ベースの薬剤及び/又は腫瘍細胞のDNAを特異的に損傷するように設計された潜在的な他の類似の薬剤を含む抗癌治療剤による治療に好ましい様態で応答するかどうかに関する情報とを提供することができる。
【0019】
癌患者をシスプラチン等の白金ベースの薬剤で処置することは、癌の増殖を防ぎ、その結果、癌患者、特に肺癌患者の寿命を延ばすための最も一般的かつ効果的な戦略の一つである。SLFN11タンパク質は、DNA損傷後に細胞のアポトーシスを促進するタンパク質である。より具体的には、SLFN11タンパク質は、シスプラチン等の白金ベースの治療剤及び他の類似のDNA損傷剤によって引き起こされるタイプのDNA損傷後にアポトーシスを誘導する。このため、シスプラチン及び/又は他の類似の薬剤で処置されている腫瘍細胞にSLFN11タンパク質が存在する場合、DNA損傷の存在は、SLFN11タンパク質の活性を高め、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し、これにより、腫瘍細胞を死滅させる。したがって、臨床医が、SLFN11タンパク質が患者の癌細胞に存在するかどうかを知ることは有用である。なぜなら、シスプラチン等の白金ベースの化学療法剤の効果が増強され、癌患者がシスプラチン等の白金ベースの化学療法剤及び/又は他の類似のDNA損傷剤に対してより好ましく応答する可能性が高いからである。
【0020】
現在、癌患者の組織、特にFFPE組織におけるタンパク質の存在を決定するために最も広範に使用され、適用される方法論は、免疫組織化学(IHC)である。IHC方法論では、抗体を利用して目的のタンパク質を検出する。IHC試験の結果は、ほとんどの場合、病理医又は病理検査技師によって解釈される。この解釈は主観的なものであり、タキサン及び白金(TP)に対する感受性又は耐性を予測することができる定量的なデータを提供するものではない。
【0021】
他のIHCアッセイ(例えば、Her2のIHC試験)からの調査は、そのような試験から得られた結果が誤っている可能性があることを示唆している。これは、おそらく、異なる研究室が、陽性及び陰性のIHC状態を分類するための異なるルールを有するためである。試験を行う各病理医も、異なる基準を使用して、結果が陽性か陰性かを判断する可能性もある。ほとんどの場合、これは試験結果が境界線である場合、すなわち、結果が強い陽性でも強い陰性でもない場合に起こる。他の場合では、癌組織のある領域の組織が陽性と判定することができる一方、該癌の異なる領域の組織が陰性と判定される。不精密なIHC試験結果は、癌を有すると診断された患者が最善の可能なケアを受けないことを意味し得る。癌の全体又は一部が特定の標的癌タンパク質(oncoprotein)に対して陽性であるが、試験結果が癌を陰性と分類する場合、患者がそれらの薬剤から利益を得る見込みがあるとしても、医師が正しい治療処置を推奨する可能性は低い。癌が標的癌タンパク質陰性であるが、試験結果が癌を陽性と分類する場合、患者が利益を受ける見込みがなく、薬剤の二次リスクに曝露される場合でも、医師は特定の治療処置を推奨する可能性がある。
【0022】
これに照らして、患者が、シスプラチン等の白金ベースの薬剤、及び/又は他の類似のDNA損傷剤による処置を含み得るか、又は含み得ないかの正しい化学療法を受ける最大限の機会を有するように、腫瘍、特に肺腫瘍におけるSLFN11タンパク質の精密な定量レベルを正しく評価可能であることには大きな臨床的価値がある。
【0023】
特定のSLFN11フラグメントペプチドの定量レベルの決定を、SRM/MRM方法論を使用する質量分析計で実行することができ、そこでは、ペプチドのSRM/MRMシグネチャ(signature)クロマトグラフィーピーク面積を、Liquid Tissue溶解液に存在する複雑なペプチド混合物内で決定する(上記の米国特許第7,473,532号を参照)。次いで、SLFN11タンパク質の定量レベルは、SRM/MRM方法論によって決定され、そこでは、ある生体試料におけるSLFN11タンパク質からの個々の特定のペプチドのSRM/MRMシグネチャクロマトグラフィーピーク面積が、個々のSLFN11フラグメントペプチドのための既知量「スパイクされた」内部標準のSRM/MRMシグネチャクロマトグラフィーピーク面積と比較される。
【0024】
一実施形態において、内部標準は、正確に同一のSLFN11フラグメントペプチドの合成バージョンであり、合成ペプチドは、1種以上の重同位体で標識された1つ以上のアミノ酸残基を含む。このような同位体標識された内部標準は、質量分析による分析により、天然のSLFN11フラグメントペプチドのクロマトグラフィーシグネチャピークとは異なり、区別可能であり、予測可能かつ一貫性のあるSRM/MRMシグネチャクロマトグラフィーピークを生じ、それを比較ピークとして使用することができるように合成される。内部標準が、生体試料からのタンパク質又はペプチド調製物に既知量でスパイクされ、質量分析によって分析される場合、天然のペプチドのSRM/MRMシグネチャクロマトグラフィーピーク面積は、内部標準ペプチドのSRM/MRMシグネチャクロマトグラフィーピーク面積と比較され、この数値比較は、該生体試料からの元の(original)タンパク質調製物に存在する天然のペプチドの絶対モル濃度及び/又は絶対重量のいずれかを示す。フラグメントペプチドの定量データは、試料当たりの分析されたタンパク質の量に従って表される。
【0025】
ペプチド配列以外に追加情報を使用して、特定のSLFN11フラグメントペプチドのSRM/MRMアッセイを開発してもよい。その追加情報は、質量分析計(例えば、トリプル四重極型質量分析計)を方向付けして、特定のSLFN11フラグメントペプチドの正確かつ重点的な分析を実行するために使用される。SRM/MRMアッセイは、トリプル四重極型質量分析計で有利に実行される。トリプル四重極型質量分析計は、細胞内に含まれる総タンパク質からの数十万から数百万の個々のペプチドからなり得る非常に複雑なタンパク質溶解液内の単一の分離された標的ペプチドを分析するのに最適な機器である。SRM/MRMアッセイの最も有利な機器プラットフォームは、通常、トリプル四重極型機器と考えられるが、MALDI、イオントラップ、イオントラップ/四重極ハイブリッド型又はトリプル四重極型を含む、あらゆるタイプの質量分析計でSRM/MRMアッセイを開発及び実行することができる。一般的な標的ペプチド、特に特定のSLFN11ペプチドに関する追加情報には、各ペプチドのモノアイソトピック質量、その前駆体電荷状態、前駆体m/z値、m/z遷移イオン及び各遷移イオンのイオンタイプの1つ以上が含まれ得る。本明細書に記載の方法で使用されるSLFN11の特定のペプチド配列は、YTPESLWR(配列番号1)である。
【0026】
SLFN11定量の好適な基準レベルを決定するために、腫瘍試料を、癌、この場合は肺癌に罹患している患者のコホートから得る。肺腫瘍試料を、標準的な方法を使用してホルマリン固定し、該試料におけるSLFN11のレベルを、上記の方法を使用して測定する。組織試料を、当技術分野で周知の方法を使用してIHC及びFISHを使用して試験することもできる。コホートの患者を、治療剤タキサン及びシスプラチンの組合せで処置する。患者の応答を、当技術分野で周知の方法を使用して、例えば、処置後に時間間隔で患者の無増悪生存期間及び全生存期間を記録することにより測定する。好適な基準レベルを、当技術分野で周知の統計的方法を使用して、例えば、ログランク検定の最も低いp値を決定することにより、決定することができる。
【0027】
基準レベルが決定されると、それを使用して、患者のSLFN11発現レベルがシスプラチン等の白金ベースの薬剤を含む組合せ治療計画から利益を受ける見込みがあることを示す患者を識別することができる。当業者は、シスプラチンが、追加の薬剤又は薬剤の組合せ(例えば、タキサンとの組合せ)を利用する処置計画の一部としても使用されることを認識するであろう。肺癌を処置するための治療計画は、当技術分野で知られている。
【0028】
本明細書に記載の方法を使用して測定されたタンパク質発現が、シスプラチン等の白金ベースの薬剤を含む組合せ治療計画による処置が有効である見込みが低いことを示す患者に、代替の治療計画を使用してもよい。その他の治療計画には、手術(くさび状切除、部分切除、肺葉切除及び肺切除を含む)、放射線療法、及び標的薬剤療法(例えば、アファチニブ(ジオトリフ)、ベバシズマブ(アバスチン)、セリチニブ(ジカディア)、クリゾチニブ(ザーコリ)、エルロチニブ(タルセバ)、ニボルマブ(オプジーボ)及びラムシルマブ(サイラムザ)による処置)が挙げられる。
【0029】
患者の腫瘍試料におけるSLFN11タンパク質のレベルは、通常、amol/μgで表されるが、他の単位を使用してもよい。当業者は、基準レベルが中央値の周辺の範囲、例えば、±250、150、100、95、50又は25amol/μgとして表現され得ることを認識するであろう。以下で詳細に記載される特定の実施例において、SLFN11タンパク質の好適な基準レベルは、定量の下限である100amol/μgであることが見出された。しかしながら、当業者は、これらの基準レベルよりも高い又は低いレベルを、臨床結果及び経験に基づいて選択可能であることを認識するであろう。
【0030】
核酸及びタンパク質の両方を、同一のLiquid Tissue生体分子調製物から分析できるため、タンパク質が分析された同一の試料の核酸から疾患診断及び薬剤の処置決定に関する追加情報を生成することができる。例えば、SRMによりアッセイした際に、SLFN11タンパク質が特定の細胞で増加/減少したレベルで発現している場合、データは、細胞の状態、細胞の制御されない増殖の可能性、最適な治療法の選択、及び潜在的な薬剤耐性に関する情報を提供することができる。同時に、遺伝子及び/又はそれらがコードする核酸及びタンパク質の状態(例えば、mRNA分子及びそれらの発現レベル又はスプライス変異)に関する情報を、同一のLiquid Tissue生体分子調製物に存在する核酸から得ることができる。
【0031】
核酸を、SLFN11タンパク質を含むタンパク質のSRM分析と同時に評価することができる。一実施形態において、SLFN11タンパク質及び/又は1種、2種、3種、4種又は5種以上の追加のタンパク質に関する情報を、それらのタンパク質をコードする核酸を試験することにより評価してもよい。それらの核酸を、例えば、配列決定法、ポリメラーゼ連鎖反応法、制限断片多型解析、欠失もしくは挿入の同定、及び/又は一塩基対の多型、転移、塩基転換又はそれらの組合せを含むが、それらに限定されない変異の存在の判定の1種以上、2種以上、又は3種以上によって試験することができる。
【実施例】
【0032】
実施例
肺癌患者集団におけるタキサン及び白金ベースの薬剤を含む組合せ治療のSLFN11タンパク質発現の予測値の決定。
【0033】
腫瘍のSLFN11発現を質量分析により測定し、タキサン及び白金(TP)で処置された初期肺癌患者の保存試料におけるSLFN11タンパク質を定量した。SLFN11発現レベルは、患者の生存期間と相関した。
【0034】
方法
ホルマリン固定され、パラフィン包埋された保存組織切片を、タキサン及び白金ベースの薬剤で処置された複数のサブタイプの肺癌患者(n=594)から得た。委員会認定の病理医が腫瘍領域を印付けし(mark)、顕微解剖し、Liquid Tissueプロトコル及び試薬(Expression Pathology,Inc.,Rockville,MD)を使用して組織を可溶化した。各液化腫瘍試料において、SLFN11を含む60種のタンパク質バイオマーカーを、選択反応モニタリング質量分析により定量した。患者を、プロテオームアッセイの定量限界に基づいて、SLFN11の100amol/μgのカットオフによって層別化した。生存期間結果を、カプラン・マイヤー分析及びマンテル・コックスログランク分析で評価した。
【0035】
結果
TP処置された86人の肺癌患者のうち、カットオフを上回るSLFN11タンパク質レベルの患者(n=51)は、カットオフを下回るSLFN11レベルの患者よりも良好な無増悪生存期間(PFS)を有した(HR:2.26;95%CI:1.08−4.72;p=0.052)。PFSにおける同様の差は、NSCLC患者のサブセット(n=77)において見出された(HR:2.79;95%CI:1.29−6.05;p=0.030)。SLFN11発現による全生存期間における差は、統計的に有意ではなかった。未処置患者のグループ(n=134)において、SLFN11の発現が高い患者と低い患者との間でPFSに差はなかった。
【0036】
結論
SLFN11の質量分析による評価によって、白金を含む化学療法に対する応答者を遡及的に識別し、応答を予測するために使用することができた。マルチプレックスプロテオミクスは、他の治療関連タンパク質(例えば、HER2、ALK、ROS1)と同時にSLFN11を定量し、初期診断時及び再発時に治療法の選択に情報を与えることができる。
【国際調査報告】