(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2020-525125(P2020-525125A)
(43)【公表日】2020年8月27日
(54)【発明の名称】歯列矯正アライナーの設計及び保持向上のためのシステムと方法
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20200731BHJP
【FI】
A61C7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-571467(P2019-571467)
(86)(22)【出願日】2018年6月15日
(85)【翻訳文提出日】2020年2月4日
(86)【国際出願番号】US2018037894
(87)【国際公開番号】WO2019009992
(87)【国際公開日】20190110
(31)【優先権主張番号】15/640,941
(32)【優先日】2017年7月3日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518413114
【氏名又は名称】クリアコレクト・オペレイティング・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ClearCorrect Operating, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ・マー
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA20
4C052JJ10
4C052NN02
4C052NN03
4C052NN04
4C052NN12
4C052NN16
(57)【要約】
熱形成される着脱可能な歯列矯正アライナーの設計、及び患者の歯に対するこのようなアライナーの保持の向上のためのシステムと方法が開示されている。本システムは通常、患者の歯列のデジタルイメージを得るように構成されているデジタルスキャナーと、デジタルイメージのコピーを受け取り;デジタルイメージ内で特徴付けられた1つ以上の歯に対して基準面を作成し;基準面から垂直に延び、1つ以上の各歯の最大豊隆部高さに対して接線方向に延びるラインを配置し;このような垂直ラインと1つ以上の各歯の外側表面との間のアンダーカット域を測定し;1つ以上の各歯の周囲に沿って、多数の点で前述の方法を繰り返して行い;及び1つ以上の各歯についてのアンダーカット域の3次元モデルを作成するように構成されている演算環境とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯列のデジタルイメージと、中央処理装置、メモリー、イメージングソフトウェア、及びグラフィックユーザーインターフェースを備える演算環境とを含むように構成されているデジタルスキャナーを備える、着脱可能な歯列矯正アライナーを設計するためのシステムであって、
(a)前記デジタルイメージのコピーを受け取り、
(b)前記デジタルイメージで特徴付けられた1つ以上の歯に関連する基準面を作成し、
(c)前記基準面から垂直に延び、かつ前記1つ以上の各歯の最大豊隆部高さに対して接線方向に延びるラインを配置し、
(d)このような垂直ラインと前記1つ以上の各歯の外側表面との間の領域から成るアンダーカット域を測定し、
(e)前記1つ以上の各歯の周囲に沿った多数の点で手順(a)〜(d)を繰り返して行い、
(f)前記1つ以上の各歯について、前記システムによって計算された各アンダーカット域の集まりを示す3次元モデルを作成するように、
構成されている前記システム。
【請求項2】
前記3次元モデルを、着脱可能な歯列矯正アライナーの好ましい内側寸法に関連している一式の寸法に換算するように、さらに構成されている、請求項1に記載の前記システム。
【請求項3】
前記着脱可能な歯列矯正アライナーが、前記1つ以上の各歯に対して、アンダーカット域に一致するように、及びアンダーカット域に隣接して保持力がある状態で位置するように、前記着脱可能な歯列矯正アライナーの好ましい内側寸法が構成されている、請求項2に記載の前記システム。
【請求項4】
前記1つ以上の歯に添付されるためのアタッチメントの望ましい位置、サイズ、及び形状が特定されるようにさらに構成され、前記アタッチメントが、前記着脱可能な歯列矯正アライナーの前記1つ以上の歯に対する保持を向上させるように構成されている、請求項3に記載の前記システム。
【請求項5】
1つ以上の抗後戻り機構と共に、前記着脱可能な歯列矯正アライナーの好ましい内側寸法を設計し、前記着脱可能な歯列矯正アライナーの生産モデルに組み入れるようにさらに構成され、前記生産モデルが、前記着脱可能な歯列矯正アライナーを製作するために用いられるように構成されている、請求項3に記載の前記システム。
【請求項6】
抗後戻り機構が、下にある歯の後戻り移動を妨げる、又は防止するように構成されている、請求項5に記載の前記システム。
【請求項7】
形状を示し、下にある歯の後戻り移動を妨げる、又は防止するように前記アライナー内に配置されている前記抗後戻り機構が、1つ以上のバンプ、ドット、ディンプル、ディボット、ディプレッション、リッジ、又はこれらの組み合わせを備える、請求項6に記載の前記システム。
【請求項8】
患者の歯列のデジタルイメージを得るためのデジタルスキャナーを操作し、中央処理装置、メモリー、イメージングソフトウェア、及びグラフィックユーザーインターフェースを備える演算環境を操作する、着脱可能な歯列矯正アライナーを設計するための方法であって、
(a)前記デジタルイメージのコピーを受け取り、
(b)前記デジタルイメージに特徴付けられた1つ以上の歯に関連する基準面を作成し、
(c)前記基準面から垂直に延び、かつ前記1つ以上の各歯の最大豊隆高さに対して接線方向に延びるラインを配置し、
(d)このような垂直ラインと前記1つ以上の各歯の外側表面との間のアンダーカット域を測定し、
(e)前記1つ以上の各歯の周囲に沿った多数の点で、手順(a)〜(d)を繰り返して行い、
(f)前記1つ以上の各歯について、前記システムによって計算された各アンダーカット域の集まりを示す3次元モデルを作成する、
前記着脱可能な歯列矯正アライナーを設計するための前記方法。
【請求項9】
前記3次元モデルを、前記着脱可能な歯列矯正アライナーの好ましい内側寸法に関連している寸法の一式に換算することをさらに備える、請求項8に記載の前記方法。
【請求項10】
前記着脱可能な歯列矯正アライナーが、前記1つ以上の各歯に対して、アンダーカット域に一致するように、及びアンダーカット域に隣接して保持力がある状態で位置するように、前記着脱可能な歯列矯正アライナーの前記好ましい内側寸法が構成されている、請求項9に記載の前記方法。
【請求項11】
歯冠修復(tooth restoration)を1つ以上の患者の歯に適用することをさらに備え、前記歯冠修復は望ましい、所定のアンダーカットを示す、請求項10に記載の前記方法。
【請求項12】
前記歯冠修復はクラウンである、請求項11に記載の前記方法。
【請求項13】
前記1つ以上の歯に添付されるためのアタッチメントの望ましい位置、サイズ、及び形状を特定することをさらに備え、前記アタッチメントが、前記1つ以上の歯に対する前記着脱可能な歯列矯正アライナーの保持を向上させるように構成されている、請求項10に記載の前記方法。
【請求項14】
患者の1つ以上の各歯のアンダーカット域に一致するように、及びアンダーカット域に隣接して保持力がある状態で位置するように構成された着脱可能な歯列矯正アライナーであって、
(a)前記患者の歯列のデジタルイメージを得るためのデジタルスキャナーを操作し、
(b)(i)前記デジタルイメージのコピーを受け取り、
(ii)前記デジタルイメージで1つ以上の歯に関連する基準面を作成し、
(iii)前記基準面から垂直に延び、前記1つ以上の各歯の最大豊隆高さに対して接線方向に延びるラインを配置し、
(iv)このような垂直ラインと、前記1つ以上の各歯の外側表面との間のアンダーカット域を測定し、
(v)前記1つ以上の各歯の周囲に沿った多数の点で、手順(i)〜(iv)を繰り返して行い、
(vi)前記1つ以上の各歯について、前記システムによって計算された各アンダーカット域の集まりを示す3次元モデルを作成するために、
中央処理装置、メモリー、イメージングソフトウェア、及びグラフィックインターフェースを備える演算環境を操作し、
(c)前記1つ以上の各歯に対して、アンダーカット域に一致するように、及びアンダーカット域に隣接して保持力がある状態で位置するように構成されている内側寸法を示すような着脱可能な歯列矯正アライナーを作成すること、
によって製作された前記着脱可能な歯列矯正アライナー。
【請求項15】
(a)前記1つ以上の歯に添付され、(b)前記1つ以上の歯に対する前記着脱可能な歯列矯正アライナーの保持を向上させるために、構成されているアタッチメントをさらに備える、請求項14に記載の前記着脱可能な歯列矯正アライナー。
【請求項16】
前記アタッチメントのサイズと形状が、前記システムによって最適化された、請求項15に記載の前記着脱可能な歯列矯正アライナー。
【請求項17】
前記アタッチメントが、前記システムによって最適化された位置で、1つ以上の歯に添付されるように構成されている、請求項14に記載の前記着脱可能な歯列矯正アライナー。
【請求項18】
1つ以上の抗後戻り機構をさらに備え、前記抗後戻り機構が、下にある歯の後戻り移動を妨げる、又は防止するように構成されている、請求項14に記載の前記着脱可能な歯列矯正アライナー。
【請求項19】
形状を示し、下にある歯の後戻り移動を妨げる、又は防止するように前記アライナー内に配置されている前記抗後戻り機構が、1つ以上のバンプ、ドット、ディンプル、ディボット、ディプレッション、リッジ、又はこれらの組み合わせを備える、請求項18に記載の前記着脱可能な歯列矯正アライナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年7月3日に出願された、米国特許出願第15/640,941号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明の分野は、熱成形の着脱可能な歯列矯正アライナーの設計、及びこのようなアライナーの患者の歯に対する保持を向上させるための(さらにはこのような治療の効率性を向上させるための)システムと方法に関する。
【背景技術】
【0003】
着脱可能な歯列矯正アライナーは、(歯列矯正治療の実施要綱に関しての)歯列矯正の歯の移動を与えるために、益々用いられている。このような歯列矯正アライナーは、様々な理由、すなわち(例えば金属矯正ブレースである、従来の歯列矯正用器具と比べて)着脱可能な歯列矯正アライナーはより視覚的に望ましく、快適で、使用がより容易であると認識されていることで、従来の歯列矯正用器具よりもしばしば好まれる。着脱可能な歯列矯正アライナーは、望ましい歯の動きを与える点において効率的であることが明らかにされているが、患者の歯におけるこのようなアライナーの保持に関連する挑戦は持続している。歯列矯正アライナーの保持は多因子によって否定的に影響を受け得ることが示されている。具体的には、患者内の歯牙形態(tooth morphology)における変形形態が、しばしば不十分なアライナーの保持の要因になっていることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第15/640,941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、歯牙形態と位置における患者特有の変形形態に適応した方法で、歯列矯正アライナーを設計すること、及び製作することに用いられ得るシステムと方法の継続した要求が存在する。加えて、患者の歯に対する歯列矯正アライナーの向上された保持を促進するために、カスタムアタッチメント(係合子(engager))が必要、又は望まれている際に、このようなアタッチメントを設計し、歯に対して配置するためのシステムと方法に対する継続した要求が存在する。このようなカスタム形成されたアタッチメントは望ましい歯の移動をさらに促進するだろう(つまり、歯列矯正治療計画の効率性を向上させるだろう)。
【課題を解決するための手段】
【0006】
次に説明する通り、ここで説明される本発明は(他も同様に)このような継続した要求を扱う。
【0007】
本発明のある種の態様によると、熱形成の着脱可能な歯列矯正アライナーを設計するためと、患者の歯に対するこのようなアライナーの保持の向上のためのシステムが開示される。ある種の実施形態では、患者の歯列のデジタルイメージと、デジタルイメージのコピーを受け取り(及び分析する)ように構成された(グラフィックユーザーインターフェースを有する)演算環境とを得るように構成されたデジタルスキャナーを、本システムは含む。より詳細には、演算環境と、これに関連したグラフィックユーザーフェース内で、本システムはデジタルイメージ内で特徴付けられた1つ以上の歯に関連した基準面を作成する(及び基準面から垂直に延びるラインであって、さらに本システムによって分析されている1つ以上の各歯の最大豊隆部高さ(height of maximum convexity)に対して接線方向に延びるラインを配置する)ようにさらに構成されている。加えて、演算環境(及びグラフィックユーザーインターフェース)内で、このような垂直ラインと、分析されている1つ以上の各歯の外側の表面との間のアンダーカット域を測定するように、本システムは構成されている。1つ以上の各歯の周囲に沿った多数の点で前述の手順を繰り返して行うように、及び次いで分析されている1つ以上の歯に対して、アンダーカット域の3次元モデルを作成するように、本システムは好ましくは構成されている。アンダーカット域の3次元モデルは、着脱可能な歯列矯正アライナーの内側領域を設計するために用いられ得るので、着脱可能な歯列矯正アライナーの内側寸法は、1つ以上の各歯に対して、アンダーカット域に一致するように、及びアンダーカット域に隣接して保持力がある状態で位置するように構成されている。
【0008】
本発明のさらなる態様によると、(熱形成の着脱可能な歯列矯正アライナーを設計すること、及び患者の歯に対するこのようなアライナーの保持を向上させることのために)ここで説明されているシステムを用いる方法は、ここで説明されているシステムと方法を用いて設計され、作成された脱着可能な歯列矯正アライナーと共に、本発明によって包含されている。
【0009】
本発明の追加的な態様によると、促進されたアライナーの保持と治療のための望ましい歯冠修復(restoration)のアンダーカットを提供するようにカスタマイズされた、一時的か恒久的かどちらかの(例えば歯科用クラウン(dental crown)である)歯科修復(dental restoration)を設計し、作成することのために、システムと方法は提供されている。
【0010】
本発明のさらなる実施形態によると、ディンプル(dimple)、リッジ(ridge)、ディプレッション(depression)、及びその他のような、一体化された抗後戻り機構(anti-relapse feature)を示すようにカスタマイズされたアライナー及び歯冠修復を設計し、作成することのために、システムと方法は提供されている。
【0011】
本発明の上述の、及び追加的な特徴は、ここで含まれている発明を実施するための形態でさらに説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】切歯(incisor)、犬歯(canine)、小臼歯(premolar)、及び大臼歯(molar)のような様々な種類の歯に共通して見られる、歯牙形態の変形形態を説明する図。
【
図2】中切歯(central incisor)で一般に存在する変形形態のような、1つの種類の歯に見られる、歯牙形態の変形形態を示す図。
【
図3】歯の輪郭高さ(height of contour)(又は第1接触点)に沿った、一時的な(カーボンの)マーク又はラインを加えるための歯科用サベヤーの使用を示す図。
【
図4】(1)基準面を作成し(2)基準面に垂直で、歯の最大豊隆部高さに接してもいる(又は最大豊隆部高さに対して接線方向に延びてもいる)ラインを設置し、及び(3)このような垂直ラインと歯の表面との間のアンダーカット域を測定するために用いられている、本発明のシステムを説明する図。
【
図6】歯列矯正アライナーと下にある歯との間の保持をさらに向上させるために用いられ得るアタッチメントであって、歯に添付されたアタッチメント(係合子)を示す図。
【
図7】最小のアンダーカットを有する歯冠形成(tooth crown preparation)を示す図。
【
図8】歯に対するアライナーの保持を向上させるために、(
図7のアンダーカットと比較して)十分なアンダーカットを示すように、特に設計された他のクラウン(crown)を示す図。
【
図9】転位歯(malpositioned tooth)(捻転転位(rotationally malpositioned));矯正する方向に回転させられた(counter-rotated)、ないし矯正された位置の転位歯;回転性の後戻り力の方向;抗後戻り(anti-relapse)の高められたリッジ(elevated ridge)の位置を説明する図。
【
図10】他の転位歯(舌側傾斜転位(retrocline malposition));矯正された位置での転位歯;矯正歯に及ぼされている後戻り力の方向;抗後戻りの高められたリッジの位置を説明する図。
【
図11】さらに他の転位歯(低位歯(intruded tooth));矯正された位置での転位歯;矯正歯に及ぼされている後戻り力の方向;クラウンとアライナーの抗後戻りの(抗挺出の(anti-extrusive))機構ないし隆起の位置を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の複数の好ましい実施形態を詳細に説明する。これらの実施形態は説明のためにのみ提供されるものであって、本発明の範囲を不適当に制限するべきものではない。実際、当業者は本明細書を読み、本図を見ることで、本発明が多くの変形形態と変更形態を示していること、及び本発明の多くの変形形態が本発明の範囲と精神から外れることなく採用され、用いられ、及び作られているであろうことを理解するだろう。
【0014】
次に
図1,2を参照すると、(1つの歯の形態を他の歯と比べた際に)患者の歯が著しく異なる形態を示すことは広く知られている。例えば
図1に示すように、形態の違いは歯の歯冠部10の間で存在する。加えて
図2に示すように、中切歯12の間でしばしば存在する変形形態など、著しい変形形態が1つのタイプの歯の中にも存在する。歯牙形態におけるこのような変形形態は、歯列矯正アライナーの保持能力をしばしば損なうことになる。従って上述の通り、本発明の目的は歯牙形態(及び1群の歯の中の各歯に関連したアンダーカット)における、このような変形形態を定量化するために用いられ得るシステムと方法を提供することであるので、歯列矯正アライナーの内側寸法は、患者の歯の間でのこのような形態の違いをより精密に収容するように、設計、製作されるであろう(それにより、歯列矯正アライナーの嵌合、保持、及び効果が向上する)。
【0015】
次に
図3を参照すると、歯牙形態におけるこのような違いは、伝統的にいわゆる歯科用サベヤー14を用いて測定されてきた。より詳細には、歯科用サベヤー14は個々の歯のアンダーカット量をマーク、特定、及び測定するために用いられてきた。特に、従来の歯科用サベヤー14は、このような役割で部分義歯の設計を支援するために用いられてきたが、着脱可能な歯列矯正アライナーなどの歯列矯正器具の設計には用いられてこなかった。例えば
図3を参照すると、例えばジェレンコ・カーボン・マーカー(Jelenko carbon marker)である、このような歯科用サベヤー14は、(一時的なカーボンライン16によって)1つ以上の歯をマークするために、異なる歯の間で最大豊隆線(又は第1接触点)を続けて測定するために用いられ得る。
図3に示されているように、歯科用サベヤー14は、歯の周囲に沿って単一平面内で歯科用サベヤー14を動かすことによって用いられ得るので、歯科用サベヤー14は、最大豊隆線(または第1接触点)に沿って、一時的な(カーボン)マークないしライン16を加えるように構成されている。このようなマーク手法は、臨床医によって特定の歯についてのアンダーカット量(歯牙形態)を特定するために用いられてきた(繰り返すと、このような手法は部分義歯の設計に伝統的に用いられている)。
【0016】
本発明のシステムと方法は、1つ以上の歯に対して、アンダーカット量(歯牙形態)をより正確、並びに効率的に特定、及び測定するために、(より原始的な歯科用サベヤー14を用いる代わりに)ある種のデジタル技術の使用を好ましくは採用する。より詳細には、本発明は、1つ以上の歯のアンダーカット及び保持性を有する形態を定量化するためのコンピューター、ないしデジタルシステムを利用する。次に
図4を参照すると、本発明のシステムは、少なくとも1つの基準面18を作成、及び利用するように構成されている。本発明は、例えばこのような基準面18は水平の基準面でもよいことを提供する。しかし、基準面18は必ずしも水平方向である必要はない(垂直または他の方向が採用されてもよい)。
【0017】
本システムが、基準面18から垂直に延びている少なくとも1つのライン20を配置するように構成されており、一方で垂直ライン20は、各歯の最も隆起した位置22(歯の最も隆起した位置は「最大豊隆部高さ」としても知られている)で各歯に接する(及び各歯に対して接線方向に延びる)ように同時に配置されていることを、本発明は提供する。次いで垂直ライン20は、垂直ライン20と可変ないし外側の歯の表面との間に存在する領域24を特定し定量化するために、本システムによって用いられる。本発明は、基準面18、及び基準面18から垂直に延びた少なくとも1つのライン20が、本システムのグラフィカルユーザーインターフェース内で本システムの使用者によって視覚化されることを提供する。
【0018】
重要なことに、ある種の実施形態では、(例えば、特定の歯の周囲26に沿った多数の点である)特定の歯の周囲26全体に沿って、このような手法と分析を実行するように、本発明のシステムは好ましくは構成されている。つまり、歯の周囲に沿った様々な点で垂直ライン20を配置するように、及び垂直ライン20と可変ないし外側の歯の表面との間の領域24を続けて定量化するように、本発明のシステムは好ましくは構成される。次いで多数の領域24の値は、各歯のアンダーカットないし保持の機構の3次元モデルを計算、及び作成するために本システムによって用いられ、次いでその3次元モデルは(アライナーの内側寸法が、各歯の正確な3次元のアンダーカット形態と適切に一致し、収容するように好ましくは構成されている)歯列矯正アライナーを設計、及び製作するために用いられ得ることを、本発明は提供する。本システムが、患者の歯列弓(又は、例えば歯の石膏モデル、又は患者の歯列弓のデジタルイメージである歯列弓の複製)の各歯に対して、上述の測定と分析を実行するように、好ましくは構成されていることを、本発明は提供する。
【0019】
上述の通り、本発明のシステムと方法は、より正確、及び効率的に1つ以上の歯に対してアンダーカット量(歯牙形態)を特定、及び測定するために、ある種のデジタル技術の使用を好ましくは採用する。デジタル技術の様々なタイプが、このような役割において採用されてもよいことを、本発明は提供する。例えばある種の好ましい実施形態では、例えばデジタルスキャン(カメラ)技術を用いることで、患者の歯列の3次元のデジタルイメージが得られてもよい。次いで3次元のデジタルイメージが例えば中央処理装置、メモリー、イメージングソフトウェア、及びグラフィックユーザーインターフェースを含むコンピューターシステムである演算環境に取り込まれてもよいことを、本発明は提供する。次いで演算環境内で、患者の歯列弓内の各歯に対して(又は歯列矯正アライナーにより覆われることになる歯に対して)上述の測定、及び分析を実施するための3次元のデジタルイメージを用いるように、本システムは運用され得る。
【0020】
より詳細には、(1)分析されるべき各歯に対して、少なくとも1つのデジタル基準面18が作成、及び配置され(2)最も隆起した位置22で(つまり「最大豊隆部の高さ」で)歯に接する(及び歯に対して接線方向に延びる)ようにさらに方向付けされており、基準面18から垂直に延びる、少なくとも1つのデジタルライン20を配置し(3)垂直ライン20と可変ないし外側の歯の表面との間のエリア24を定量化し、及び(4)分析されている特定の歯の周囲26に沿った多数の位置に対して、手順(1)〜(3)を繰り返して行うように構成されているイメージングソフトウェアが、演算環境内で使われ得る。
【0021】
次いで、このような測定、及びシステムは、1つ以上の各歯に対して、アンダーカット域24の3次元モデル(つまり1つ以上の各歯に対して、本システムによって計算されたアンダーカットの各領域24の集まりとなっている3次元モデル)を作成するために用いられ得ることを、本発明は提供する。本システムは、1つ以上の各歯に対して、アンダーカット域24の3次元モデルを、着脱可能な歯列矯正アライナーの好ましい内側寸法に関連している一式の寸法に換算するように、好ましくは構成されていることを、本発明は提供する。このような実施形態において、着脱可能な歯列矯正アライナーの好ましい内側寸法は、1つ以上の各歯のアンダーカット域に一致するように、及びアンダーカット域に隣接して保持力がある状態で位置するように構成されている。ここに記載されたシステムを用いるこのような手順と方法は、
図5に要約されているように、本発明によってさらに包含されることを、本発明は提供する。
【0022】
次に
図6を参照すると、本発明のシステムが治療計画、及び歯列矯正アライナーの設計のために用いられる際に、臨床医は、効率的な歯の移動のための十分な保持を容易にするために、歯科用修復材、アタッチメントないしブラケット28、又は他の材料を歯に添付することで、(本システムによって特定、及び定量化された)アンダーカット域を補うことを選択してもよい。より詳細には、1つ以上の各歯についてのアンダーカット域24の3次元モデルは、歯列矯正アライナーと患者の歯との間の一層の保持を提供するために、このような歯に添付され得る(係合子としても知られる)アタッチメンチ28の望ましい位置(と大きさと形状)を特定するために用いられてよいことを、本発明は提供する。このような実施形態において、アタッチメント28は追加的な歯牙形態を提供することになるので、歯列矯正アライナーは下にある歯をより強く保持し得る。このようなアタッチメント28は、捻転(rotation)、圧下(intrusion)、挺出(extrusion)、転位(translation)、傾斜(tipping)、及びトルク(torqueing)のような様々な歯の移動を促進するためにさらに用いられ得ることを、本発明は提供する。
【0023】
次に
図7〜8を参照すると、他の実施形態によると、向上されたアライナーの保持と治療のための、望ましい歯冠修復のアンダーカット32を提供するようにカスタマイズされている、一時的か恒久的かどちらかの、例えば歯科用クラウンである歯科修復を作成(及び/又は利用)するように、本発明のシステムと方法はさらに構成される。(例えば、将来いつか患者がアライナー治療を選ぶかもしれないという単なる可能性のために、望ましい歯冠修復のアンダーカット32が歯冠修復30に構築されてもよいのだが、)アライナーが用いられることになるかどうかに関わらず、望ましい歯冠修復のアンダーカット32は歯冠修復30に構築されてもよいことを、本発明は提供する。
【0024】
より詳細には、
図7を参照すると、側面が比較的平らな歯、又は(例えばクラウンである)歯冠修復30は、(アライナーの保持がより難しくなる)小さなアンダーカット量34を示すであろうが、
図8を参照すると、球状の側面を有する歯,又は(例えばクラウンである)歯冠修復30はより望ましいアンダーカット量32を示すことになる。上述の通り、より大きな、ないし望ましい歯冠修復のアンダーカット32(
図8)は、着脱可能な歯列矯正アライナーの好ましい内側寸法に関連している一式の寸法を計算するように、本システムによって用いられる。このような実施形態において、着脱可能な歯列矯正アライナーの好ましい内側寸法は、1つ以上の各歯冠修復30の望ましいアンダーカット域32に一致するように、及びアンダーカット域32に隣接して保持力がある状態で位置するように構成されている。このような実施形態では、各歯についての望ましいアンダーカット域の具体的な量は、臨床医とシステムの技師によって調整されてよい。好ましくは、このような実施形態では、歯冠修復30は、ポーセレンやコンポジットレジンのような、審美歯科材料で製作されている。
【0025】
他の実施形態によれば、ディンプル、リッジ、ディプレッション、及びその他のような、一体型の抗後戻り機構を示すようにカスタマイズされたアライナーと歯冠修復を作成するように、本発明のシステムと方法はさらに構成されている。このような実施形態では、抗後戻り機構は、歯の特定の領域において抗後戻り力(anti-relapse force)を発揮するように(若しくは後戻りの移動をより難しくするように)構成されている。例えば、下側の切歯に位置する(つまり、歯のこのような領域に適応されたアライナー又は歯冠修復の部分の中では)舌側の遠心側の辺縁隆線(distal lingual marginal ridge of tooth)における小さな隆起、ないしリッジは、その方向における回転性の後戻り移動を歯が経験することを妨げることになる。
図9〜10はこのような実施形態の他の例を提供する。
【0026】
例えば
図9では、回転性の転位歯36が示され;矯正する方向に回転させられた、ないし矯正歯38が示され(このような矯正は伝統的な歯科矯正手段で達成される);回転性の後戻り力40の方向が示され;及び(矯正歯38に適応されたアライナー又は歯冠修復44の部分に位置する)抗後戻りの高められたリッジ42の位置が示されている。アライナー又は歯冠修復を設計、及び作成するのに用いられる際に、ここで説明された本システムは、(予測される後戻り移動を妨げるための)このタイプの抗後戻り機構を任意に含めてもよいことを、本発明は提供する。
図9に示される例では、下にある矯正歯38の予測される回転性の後戻り力40に(機械的に)抵抗するサイズ、形、及び位置を示すために、高められたリッジ42は、アライナー又は歯冠修復44の一部に一体的に形成されている。
【0027】
同様に
図10は、他の転位歯46(舌側傾斜転位);矯正歯48;矯正歯48に作用する後戻り力50の方向;及びアライナー又は歯冠修復44の抗後戻りの高められたリッジ52の位置を説明する。この例では、下にある矯正歯48の予測される後戻り力50を妨害するサイズと位置を示すように、アライナー44の抗後戻りの高められたリッジ52は構成されている。同様に、
図11はさらに他の転位歯54(低位歯);矯正歯56;矯正歯56に作用する後戻り力58の方向;及びクラウン、ないし歯冠修復62に嵌合する、アライナー66に位置するクラウン、ないし歯冠修復62における抗後戻り、ないし抗挺出の(隆起の)機構60を示す(対応する抗後戻り、ないし抗挺出の機構64も併せて示す)。本発明は、前述の例が全てではないことを提供する。むしろ、ここで説明されているシステムと方法は、下にある歯に望ましい抗後戻り力を作用するための、バンプ(bump)、ドット(dot)、ディンプル、ディボット(divot)、ディプレッション、リッジ(垂直、水平、斜め、及び他の方向)、及びこのような機構の組み合わせのような、多くの異なった抗後戻り機構を利用するかもしれないアライナー及び/又は歯冠修復を設計し、作成することにとって有益である。
【0028】
本発明は、ここで説明されているシステムと方法が、望ましいアライナー(及び/又は歯冠修復)の生産モデルを作成するために好ましくは運用されることを提供する。例えば、1つ以上の各歯に対するアンダーカット域24の3次元モデルが(上述の通りに)作成され、着脱可能な歯列矯正アライナー(及び/又は歯冠修復)の内側寸法に換算され、同様に、一度全ての望ましい抗後戻り機構の形状が定義されれば、本システムは望ましいアライナー(及び/又は歯冠修復)の生産モデルを作成するように構成されている。生産モデルは望ましいアライナー(及び/又は歯冠修復)の、全ての外側と内側の寸法が定義されている、完全なデジタル3次元モデルから成り、生産モデルは、例えば当技術分野で既知である様々なタイプのポリマーや熱成形手法を用いることで、望ましいアライナー(及び/又は歯冠修復)を作成するために使われ得る。
【0029】
本発明の多くの態様や利点が詳細な説明から明らかであり、そのため次の特許請求の範囲が、本発明の範囲と精神に属する発明のこのような態様や利点の全てを網羅することを意図する。加えて、多くの変更形態と変形形態が明らかになり、容易に当業者が発想することとなることから、特許請求の範囲は、ここで説明され述べられた厳密な解釈と運用に、本発明を制限すると解釈すべきではない。従って、全ての適した変更形態と均等物は、ここで請求される本発明の範囲に属すると理解され得る。
【国際調査報告】