【実施例】
【0061】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含められる。以下の実施例に開示されている手法は、本発明の実施において十分に機能すると本発明者が発見した手法であり、ゆえに、それを実施するための好ましい様式を構成するとみなされ得ることが、当業者によって認識されるはずである。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みて、開示される具体的な実施形態において多くの変更を行うことができること、およびなおも本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を得ることができることを認識するはずである。
実施例1
材料および方法の例
【0062】
すべての参加者からインフォームドコンセントを得た。成人健常志願者(18歳以上)を募集した。以下を有する個体は、本研究から除外した:1)食事性蛋白不耐症の病歴、2)肝疾患の病歴、3)規定食に従うことができないか、または同位体注入を受けることができない、4)高アンモニア血症(>100μmol/Lの血漿中アンモニアと定義される)の病歴の記録、5)Common Terminology Criteria for Adverse Events v.4.0(CTCAE)に記載のグレード3またはそれ以上の臨床上の異常または検査所見の異常、および6)CTCAEが網羅しないが、研究者の所見において重篤な症状を構成する任意の症状。妊娠中または授乳中の女性は、登録されなかった。
【0063】
研究デザイン
【0064】
本研究は、ランダム化3群比較クロスオーバー研究であった。各群は、4日間の期間で完了し、任意の2つの処置群の間に、少なくとも7日間のウォッシュアウト期間をもうけた(
図1)。処置の順序を非盲検様式でランダム化した。使用した薬剤の処置および用量は、以下のとおりであった:1)NaPB群:フェニル酪酸塩7.15g・m
−2体表面積(BSA)・日
−1;最高用量、20g・日
−1、2)NaBz群:安息香酸塩5.5g・m
−2BSA・日
−1;最高用量、12g・日
−1、および3)MIX群:フェニル酪酸塩および安息香酸塩、それぞれ3.575および2.75g・m
−2BSA・日
−1(NaPB群およびNaBz群において使用された用量の半分)。これらの処置は、等モル量の薬物を提供するようにデザインされ、総1日量を、等しい3分割量で投与した。本研究において使用された薬剤の用量は、成人のUCDの管理において使用される典型的な用量の代表である(Haberle et al.,2012)。
【0065】
試験群1の1日目に、詳細な病歴の再調査および理学的検査を行った。全血球計算値、総合代謝パネル、血漿中アンモニアおよび尿検査(安全性臨床検査(safety laboratory measurements))を行った。すべての女性に対して尿妊娠検査を行った。0.8g・kg
−1・日
−1のタンパク質および32kcal・kg
−1・日
−1が提供されるようにCNRCにおいて調製された食事を、次の3日間にわたって与えた。標準化されたタンパク質およびカロリー摂取によって、3群間での窒素排泄の比較が可能になった。被験体を所定の処置順序にランダム化し、第1の用量の適切な薬剤を監督下で投与した。被験体は、3日間にわたって試験薬を食事とともに服用した(08:00の朝食;13:00の昼食;19:00の夕食)(
図1)。本発明者らは、少なくともフェニル酪酸塩の場合、個体が3日間にわたる薬物治療中であるとき、未処置被験体における単回投与と薬物動態が異なることを以前に示したので(Darmaun et al.,1998;Marini et al.,2011b)、試験薬に対する代謝的適応を可能にするために、3日間の処置期間を選択した。前日からの代謝産物コンジュゲートによる4日目の解析の干渉を防ぐために、3日目に被験体は、19:00における薬剤投与を省いた。4日目に、血漿中のアミノ酸および尿素の濃度、バックグラウンド同位体濃縮、基礎代謝プロファイル、全血球計算値、ならびにフェニル酪酸、安息香酸、PAGNおよびHAの血漿中濃度の測定のために、空腹時血液サンプルを得た。尿素、フェニル酪酸、安息香酸、PAGNおよびHAの計測のために、尿を回収した。0時間において、タンパク質の1日の栄養所要量の半分(0.4g・kg
−1)を含む試験食を、市販の流動食代替品(Ensure Plus,Abbott,Abbot Park,IL)および
15N標識スピルリナ(40mg・kg
−1;ISOTEC,Miamisburg,OH)によって提供した。スピルリナは、約50%の純タンパク質およびすべての必須アミノ酸を含むシアノバクテリア由来のタンパク質の自然源である(Becker,2007)。40mg・kg
−1という用量の標識された
15N標識スピルリナが、約5モルパーセント過剰な食事性濃縮をもたらすと推定された。約10分で摂取された朝食に続いて、ある用量の試験薬および静脈内ボーラス用量の尿素トレーサーである[
13C
18O]尿素(6mmol/被験体;ISOTEC,Miamisburg,OH)を投与した。薬物およびそれらのコンジュゲート生成物、ならびにアミノ酸および尿素の濃度および同位体濃縮を測定するための血液サンプルを、最初の4時間にわたって30分ごとに、次いで、4時間後から8時間後までは1時間ごとに回収した(
図1)。8時間の入院期間中、2時間のバッチ期間で4回、尿を回収した。次いで、被験体を退院させ、次の16時間にわたって、合計24時間の回収期間にわたって、自宅で採尿を続けた。試験群2および3に対する手順は、群1において行われた手順と同一であった。
【0066】
サンプル解析
【0067】
血漿中および尿中の薬物およびそれらのコンジュゲート生成物ならびに尿素およびアミノ酸を、質量分析によって測定し、標識された内部標準の希釈度に基づいて定量化した。総尿中窒素を、ミクロケルダール法を用いて測定した。
【0068】
血漿中および尿中のフェニル酪酸、PAAおよび安息香酸を、NCI−GC−MSによって、それらのペンタフルオロベンジル誘導体として測定した;[
2H
5]安息香酸(99.2%D)および[
2H
11]4−フェニル酪酸(C/D/N Isotopes,Quebec,Canada)を内部標準として使用した。誘導体化されていないPAGNおよびHAを、HESI LC−MS/MSによって計測した;[
2H
5]PAGNおよび[
2H
5]HA(C/D/N Isotopes,Quebec,Canada)を内部標準として使用した。
【0069】
血漿中アミノ酸の濃度および濃縮を、HESI LC−MS/MSによって測定した。無細胞U−[
13C
15N]アミノ酸混合物を内部標準として使用した。総尿中窒素を、ミクロケルダール法を用いて測定した。
【0070】
血漿中および尿中の尿素の濃縮および濃度を、以前に公開されたように(Beylot et al.,1994)、EI GC−MSを用いて計測した。
【0071】
計算
【0072】
薬物動態パラメータ、薬物およびそれらのコンジュゲート生成物の濃度がピークに達するまでの時間(Tmax)、ピーク濃度(Cmax)、および薬物経口摂取後の8時間の曲線下面積(AUC
0−8)を、以前に公開された方法(Urso et al.,2002)を用いて測定した。尿素産生を、双指数関数モデルを[
13C
18O]尿素濃縮データ(Matthews and Downey,1984;Marini et al.,2006)に当てはめた後、ノンコンパートメント解析によって測定した。
【0073】
薬物によってコンジュゲートされた窒素の総量を、24時間の尿の重量と、目的の代謝産物の濃度と、その代謝産物の窒素含有量とを乗算することによって計算した。PAGNおよびHAは、それぞれフェニル酪酸塩または安息香酸塩を投与されていない処置群の被験体の尿中に検出された。したがって、これらのバックグラウンド値を、フェニル酪酸塩および安息香酸塩による処置中に得られた値から減算した。コンジュゲートされた窒素の総量は、試験食の総窒素含有量で除算することによって、試験食に対する割合として表現された。食事性窒素のコンジュゲートは、コンジュゲートされた窒素の総量にそれぞれの
15N濃縮を乗算することによって、コンジュゲートされた
15Nの量として計算された。PAGNの場合、アミノ基およびアミド基の標識を考慮に入れた。
【0074】
薬物とその効果との技術的関係性である薬物コンジュゲートの有効性(Mackenzie and Dixon,1995)を、コンジュゲートされた窒素の量を、提供された薬物の量で除算することによって求めた(モルおよびグラムベースで)。
【0075】
統計解析
【0076】
SAS(v.9.4;SAS Institute,Cary,NC)のproc mixedの手順を使用し、被験体をランダム変数として用いて、データを解析した。ゆえに、比較は、被験体内で行われた。特定の処置群に対して統計学的に有意な効果が観察された場合(P<0.05)、複数の対ごとの比較のために、事後的なテューキーの手順を行った。データは、平均値±SEMとして表現される。
実施例2
健常志願者における窒素排泄および尿素形成に対するフェニル酪酸塩および安息香酸塩の有効性の比較
【0077】
結果
【0078】
7人の個体(男性5人、女性2人)を登録した。人口統計的特性および処置順序を表1Aに概説する。
【0079】
【表1】
【0080】
NaPB−フェニル酪酸塩群;NaBz−安息香酸塩群;MIX−フェニル酪酸塩と安息香酸塩との併用
【0081】
フェニル酪酸塩、安息香酸塩およびそれらのコンジュゲート生成物の薬物動態
【0082】
3日間の処置適応の後、4日目に、単回の薬物投与後に薬物動態を測定した(表1B、図)。フェニル酪酸および安息香酸のTmaxは、それらの薬物が単独で投与されるのか、または併用して投与されるのかを問わず、異ならなかった(P>0.28)。PAAのTmaxは、フェニル酪酸塩のTmaxより大きく(P<0.001)、MIX群と比べてNaPB群においてより大きい傾向があった(P=0.086)。予想されたとおり、MIX群における半分の用量と比べて、薬物が単独で投与されたとき、CmaxおよびAUC
0−8は、大きかった。被験体が、NaPB群であるとき、フェニル酪酸およびPAAのCmaxおよびAUC
0−8は、MIX群よりも約2〜3倍大きかった。被験体が、NaBz群であるとき、安息香酸塩のCmaxおよびAUC
0−8は、MIX群よりも約4〜5倍大きかった。
【0083】
コンジュゲート生成物の場合、PAGNのTmaxは、HAよりも大きかった(P<0.01)。PAGNの場合、NaPB群とMIX群との間にTmaxの差は観察されなかった(P=0.104)。しかしながら、馬尿酸のTmaxは、NaBz群において、MIX群よりも大きかった(P<0.008)。予想されたとおり、PAGNおよびHAのCmaxおよびAUC
0−8は、NaPB群およびNaBz群においてフェニル酪酸塩および安息香酸塩が単独で投与されたとき、MIX群と比べて高かった(P<0.014)(表1B、
図4)。同様のパターンが、
15N標識試験食の経口摂取に起因する、
15N標識されたグルタミンおよびグリシンによる薬物のコンジュゲートについても検出された。
【0084】
【表2】
【0085】
値は、平均値および(平均値の標準誤差)を表している。PK/PD−薬物動態/薬力学;Cmax−最高血漿中濃度;Tmax−Cmaxに達するまでの時間;AUC
0−8−時間0(投与前)から8時間後までの曲線下面積;PB−フェニル酪酸;PAA−フェニル酢酸;Bz−安息香酸;PAGN−フェニルアセチグルタミン;HA−馬尿酸
【0086】
a区域内の値は、P<0.05で異なる
【0087】
フェニル酪酸対bzおよびコンジュゲートTmax
【0088】
フェニル酪酸、安息香酸およびそれらのコンジュゲート生成物の尿中排泄
【0089】
フェニル酪酸、PAAおよび安息香酸の尿中排泄は、無視できる程度だった(表2)。フェニル酪酸塩および安息香酸塩がそれぞれ投与されなかったときでさえ、尿は、平均して0.8mmol/dのPAGNおよび2.1mmol/dのHAを含んだ。これらのバックグラウンド値に合わせて調整した後、コンジュゲートの有効性、すなわち、24時間の尿中にPAGNとして回収されたフェニル酪酸の用量に対するパーセントおよびHAとして回収された安息香酸の用量に対するパーセントを求めた。単独処置として投与されたとき、コンジュゲートの有効性(約65%)は、フェニル酪酸塩および安息香酸塩で同様であった(P=0.59)。しかしながら、フェニル酪酸塩のコンジュゲート有効性は、MIX群において投与されたより低い用量を用いたとき、NaPB群と比べて高かった(P<0.044)。同様の傾向が、安息香酸塩についても観察された(P=0.058)。処置の効果(P<0.004)は、コンジュゲート生成物として排泄された窒素の総量に対して観察された。NaPB処置およびMIX処置は、窒素のコンジュゲートおよび排泄において、NaBZ処置よりも効果的だった(表2;
図5)。窒素のコンジュゲートおよび排泄の有効性は、それが、1モルあたりに基づいて表現されるのか(P<0.004)または1グラムあたりに基づいて表現されるのか(P=0.032)に関係なく、NaPB群およびMIX群について、NaBZ群と比べて高かった(表2;
図5)。しかしながら、薬物コンジュゲートとしての窒素排泄は、NaPB群とMIX群との間で同様であり、これは、組み合わせ療法が、NaPBによる治療と同程度に効果的であり得るという事実を示唆している。これは、驚くべきことである。なぜなら、NaPBは、2つの窒素原子を有するグルタミンをコンジュゲートする一方で、安息香酸塩は、1つの窒素しか有しないグリシンをコンジュゲートするので、モルベースで、MIX群が、NaPB群の75%の窒素排泄しかもたらさないと予想されるからである。さらに、資源活用の観点から、これは、治療コストを半分に削減し得る。フェニル酪酸塩(USD24.7/g)および安息香酸塩(USD0.03/g)の推定平均コストを用いると、組み合わせ療法を使用することによって、1USDあたり排泄される窒素のmgが、フェニル酪酸塩での3.7から、安息香酸塩とフェニル酪酸塩との併用での7.1に増加し得る。安息香酸塩による処置の場合、1USDあたり2445.4mgの窒素が排泄された。最後に、フェニル酪酸塩および安息香酸塩のコンジュゲート生成物における
15Nの排泄について、処置の差は無かった(P=0.19)。
【0090】
【表3】
【0091】
3群比較の場合、ある列内で共通の上付き文字を有しない値は、P<0.05で異なる。
【0092】
血漿中アミノ酸に対する安息香酸塩およびフェニル酪酸塩の効果
【0093】
グルタミンおよびグリシンのAUC
0−8に対しては、処置の効果が無かった(P>0.13)。しかしながら、ロイシンのAUC
0−8に対しては処置の効果が検出されたが(P<0.01)、処置にフェニル酪酸塩を含めたことに対応して低下した(P=0.032)。これは、解析された他の分枝鎖アミノ酸および他のアミノ酸に対しては明らかでなかった。この例外は、トリプトファンであり、強い処置効果(P<0.001)、およびフェニル酪酸塩に応答したAUC
0−8の減少(P<0.001)を示した。
15Nで標識された試験食の経口摂取によって、すべての血漿中アミノ酸の
15N濃縮がもたらされ、その濃縮は、およそ3〜4時間後にピークに達した(データ示さず)。試験食摂取の8時間後でも、実質的な
15Nアミノ酸濃縮が観察された(データ示さず)。
【0094】
尿素代謝および総尿中窒素排泄に対するフェニル酪酸塩および安息香酸塩の効果
【0095】
3つの処置群のいずれにおいても、血漿中尿素濃度(P=0.16)および尿素産生(P=0.80)に対して処置の効果は無かった(表3)。同様に、全窒素(P=0.67)または尿素−窒素排泄(P=0.74)に対しても、処置の効果は無かった。総尿中窒素排泄は、食事性窒素の約67%を占め、尿中尿素窒素は、総尿中窒素の約65.5%を占めた。同様に、尿素
15N排泄に対しても、処置の効果は無かった(P=0.94)。平均して、尿素排泄は、試験食の窒素の約15%を占めた(表3)。
【0096】
【表4】
【0097】
PUN−血漿中尿素窒素
【0098】
ある特定の実施形態の意義
【0099】
1980年代初頭に、Saul BrusilowおよびMark Batshawは、窒素を処分するための代替経路を誘発する際に、安息香酸塩およびフェニル酢酸塩の有用性を予期せず発見した(Brusilow et al.,1979;Brusilow et al.,1980;Batshaw et al.,1982)。現在、フェニル酪酸塩および安息香酸塩は、UCDの長期間の管理において広く使用されている。安息香酸塩は、一般的な化合物として入手可能であり、食品保存剤として広く使用されているのに対して、フェニル酪酸塩の生成は、限定的であり、現在、米国において入手可能な一般的な形態は存在しない。過去20年間で、窒素捕捉剤が、UCDを有する個体の処置において標準治療となり、それらの使用は、患者の生存時間の延長に少なくとも部分的に寄与してきた(Batshaw et al.,2001;Enns,2010)。しかしながら、処置コストおよび薬剤入手は、理想からほど遠い(Cederbaum et al.,2010)。薬剤を入手できる患者において、丸薬の数の増加ならびに高用量の投薬に伴う副作用および処置コストの増大は、服薬率に影響し得る(Shchelochkov et al.,2016)。したがって、窒素捕捉剤の相対的な有効性を理解すること、および組み合わせ療法を探索することが、UCDを処置するための、手頃な価格の有効な処置レジメンを考案する際の重要な第一歩であり得る。
【0100】
本研究において、本発明者らは、窒素をコンジュゲートし、排泄するフェニル酪酸の有効性が、安息香酸のそれよりも大きいことを実証した。しかしながら、予想されたとおり、それらの薬物は、それらの標的アミノ酸と完全にコンジュゲートせず、各薬物の最高用量における、薬物とそのアミノ酸とのコンジュゲートの有効性は、約65%であった。興味深いことに、MIX群においてより低用量のフェニル酪酸塩および安息香酸塩を用いたとき、コンジュゲートの有効性がより大きかった。この観察結果に対して考えられる理由は、それらの薬物の薬物動態において線形性が欠けていたことであった。一次速度式の仮定の下では、薬物の用量を2倍にすると、CmaxおよびAUCが2倍になるはずである。しかしながら、フェニル酪酸、PAAおよび安息香酸のCmaxおよびAUCは、MIX群におけるこれらの用量の半分と比べて、フェニル酪酸塩および安息香酸塩が単独処置として投与されたときの予想よりも有意に大きかった。さらに、フェニル酪酸塩と安息香酸塩とは、異なるアミノ酸をコンジュゲートするので、MIX処置によるコンジュゲートのより高い有効性は、基質アミノ酸の利用可能性に起因し得る。本研究の重要な知見は、安息香酸塩およびフェニル酪酸塩を用いる併用療法が、より高用量のフェニル酪酸塩と同程度に有効であり得るということである。その低コストに起因して、MIX群に安息香酸塩を含めることによって、コンジュゲートされ、排泄される窒素1単位あたりのコストが、処置の有効性を下げることなく、NaPB群と比べて実質的に半減した。
【0101】
食事性アミノ酸の流入は、食事のおよそ3〜4時間後にピークに達し(Gaudichon et al.,1999;Bos et al.,2003)、このことは、
15N標識試験食を用いた本発明者らの観察結果と一致する。上記の薬物は、試験食とともに提供されたので、フェニル酪酸塩のより高い有効性は、少なくとも部分的に、その薬物動態と、タンパク質およびアミノ酸の消化、吸収および代謝の動態とがより合致したことにも起因し得る。しかしながら、本発明者らは、薬物間または処置間における
15Nのコンジュゲートおよび排泄の差を検出できなかった。フェニル酪酸塩を投与されたコントロール被験体における本発明者らの以前の研究と同様に、尿素産生、
15N尿素窒素および総窒素尿中排泄に処置の差は無かった(Marini et al.,2011a)。安息香酸塩は、保存剤として食品に広く存在するので、安息香酸塩を投与されていない被験体の尿中にHAが見られることは、驚くべきことではない。しかしながら、PAGNも、フェニル酪酸塩を投与されていない被験体の尿中に存在した。おそらく、フェニルアラニンの処分のマイナーな経路によって産生される内因性のPAAが、この代謝産物が尿中に出現することに関与したのだろう。いずれにしても、今後の研究において薬物コンジュゲートの効率を測定するとき、これらの2つの代謝産物の基礎レベルを考慮に入れる必要がある。
【0102】
本研究の限界は、健常な被験体において行われたことである。UCDの管理における主な目標は、アンモニア血症の管理である(Lee et al.,2015)ので、血漿中アンモニア濃度に対するこれらの薬物の効果は、それらの治療機能の中心をなす。健常な被験体ではアンモニア血症が十分に制御されているという事実に起因して、このエンドポイントを評価しなかった。フェニル酪酸の代謝に関する以前の研究は、絶食した薬物未処置の個体(Darmaun et al.,1998;Comte et al.,2002)または低頻度の食事を与えられた代謝的に適応された被験体(Marini et al.,2011a)において行われた。本研究の強みは、3日間の適応期間の後に食事と同時に薬物を調べたことであり、これは、UCDを有する個体の管理における臨床上のシナリオに十分相当する。本研究のさらなる強みは、食事性窒素のコンジュゲートおよび排泄を測定するために
15Nスピルリナを使用したこと、およびゆえに、窒素処分の代替経路が誘発されたときの外来性窒素の運命を初めて明らかにしたことであった。
【0103】
まとめると、モルベースで、フェニル酪酸塩が、窒素のコンジュゲートおよび処分において安息香酸塩よりも有効であった。両方の薬物を含めることによって、コンジュゲートされる窒素の量を損なわずに、処置コストが低下した。それら2つの薬物間に見られた薬物動態の差は、薬物コンジュゲートの有効性を最大にし、同時にその治療の対費用効果を高める、対費用効果の高い管理ストラテジーを考案するために利用され得る。
【0104】
参考文献
本明細書で言及されるすべての特許および刊行物は、本発明が関係する当業者のレベルを示している。すべての特許および刊行物は、あたかも個々の刊行物が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、その全体が参照により本明細書に援用される。
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【0132】
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【0133】
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【0134】
本開示およびその利点を詳細に説明してきたが、添付の請求項によって定義されるような構想の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換および改変が、本明細書中で行われ得ることが理解されるはずである。さらに、本願の範囲は、本明細書に記載されているプロセス、装置、製造物、組成物、手段、方法および工程の特定の実施形態に限定されないと意図されている。当業者が、本開示から容易に認識するように、本明細書中に記載される対応する実施形態と実質的に同じ機能を発揮するかまたは実質的に同じ結果を達成する、現在既存のまたは今後開発される、プロセス、装置、製造物、組成物、手段、方法または工程が、本開示に従って使用されてもよい。したがって、添付の請求項は、その範囲の中にそのようなプロセス、装置、製造物、組成物、手段、方法または工程を含むと意図されている。